(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-01-30
(54)【発明の名称】切削工具
(51)【国際特許分類】
B23B 27/20 20060101AFI20240123BHJP
B23B 27/14 20060101ALI20240123BHJP
B23C 5/16 20060101ALI20240123BHJP
B23B 27/18 20060101ALI20240123BHJP
C22C 19/03 20060101ALI20240123BHJP
C22C 9/06 20060101ALI20240123BHJP
C22C 9/00 20060101ALI20240123BHJP
C22C 5/08 20060101ALI20240123BHJP
B23K 35/30 20060101ALI20240123BHJP
B23K 1/00 20060101ALI20240123BHJP
C22C 29/08 20060101ALI20240123BHJP
C22C 1/051 20230101ALN20240123BHJP
B22F 7/06 20060101ALN20240123BHJP
【FI】
B23B27/20
B23B27/14 B
B23C5/16
B23B27/18
C22C19/03 G
C22C9/06
C22C9/00
C22C5/08
B23K35/30 310B
B23K1/00 330B
C22C29/08
C22C1/051 G
C22C1/051 M
B22F7/06 F
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023536987
(86)(22)【出願日】2021-12-20
(85)【翻訳文提出日】2023-08-15
(86)【国際出願番号】 EP2021086777
(87)【国際公開番号】W WO2022136265
(87)【国際公開日】2022-06-30
(32)【優先日】2020-12-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】520333435
【氏名又は名称】エービー サンドビック コロマント
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】ガルシア, ホセ ルイス
(72)【発明者】
【氏名】ダール, レイフ
(72)【発明者】
【氏名】ブルーン, ジョニー
(72)【発明者】
【氏名】ホルムストレーム, エーリク
【テーマコード(参考)】
3C046
4K018
【Fターム(参考)】
3C046FF32
3C046FF35
3C046FF39
3C046FF40
3C046FF41
3C046FF46
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3C046GG03
3C046HH06
4K018AD06
4K018AD15
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4K018BC12
4K018CA11
4K018DA21
4K018JA40
4K018KA15
4K018KA16
(57)【要約】
本発明は、支持体と、cBNまたはPCDの切れ刃チップとを備える切削工具に関し、このcBNまたはPCDの切れ刃チップは、5~150μm厚のろう付け接合部を介して支持体に取り付けられ、支持体は、3~25重量%の金属結合剤、任意で最大25重量%の元素周期律表の第4族、第5族、または第6族のうちの1つ以上の元素の炭化物または炭窒化物、および残部WCを含む超硬合金であり、金属結合剤は、少なくとも40重量%のNiを含み、上記ろう付け接合部は、支持体から順に、支持体に隣接して配置される平均厚さが10~400nmであるTiCの第1層と、平均厚さが0.5~8μmであり、平均で少なくとも5重量%の金属Ni、平均で25~60重量%の金属Cu、および平均で15~45重量%の金属Tiを含む第2層と、平均厚さが4~145μmであり、金属Agおよび金属Cuを含む第3層とを含む。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持体(2)と、cBNまたはPCDの切れ刃チップ(3)を含む切削工具(1)であって、
前記cBNまたはPCDの切れ刃チップ(3)は、5~150μm厚のろう付け接合部(4)を介して支持体に取り付けられ、前記支持体(2)は、3~25重量%の金属結合剤、任意で最大25重量%の元素周期律表の第4族、第5族、または第6族のうちの1つ以上の元素の炭化物または炭窒化物、および残部WCを含む超硬合金であり、前記金属結合剤は、少なくとも40重量%のNiを含み、前記ろう付け接合部(4)は、支持体から順に、前記支持体に隣接して配置される平均厚さが10~400nmであるTiCの第1層(7)と、平均厚さが0.5~8μmであり、平均で少なくとも5重量%の金属Ni、平均で25~60重量%の金属Cu、および平均で15~45重量%の金属Tiを含む第2層(5)と、平均厚さが4~145μmであり、金属Agおよび金属Cuを含む第3層(6)とを含む、切削工具(1)。
【請求項2】
前記支持体(2)の超硬合金中の金属結合剤は、50~90重量%のNiを含む、請求項1に記載の切削工具(1)。
【請求項3】
前記支持体(2)の超硬合金中の金属結合剤は、10~20重量%のFeを含む、請求項1または2に記載の切削工具(1)。
【請求項4】
前記ろう付け接合部(4)の厚さは10~100μmである、請求項1から3のいずれか一項に記載の切削工具(1)。
【請求項5】
前記TiCの第1層(7)の平均厚さは50~300nmである、請求項1から4のいずれか一項に記載の切削工具(1)。
【請求項6】
前記第2層(5)は、平均で10~40重量%の金属Niを含む、請求項1から5のいずれか一項に記載の切削工具(1)。
【請求項7】
前記第2層(5)は、平均で35~55重量%の金属Cuを含む、請求項1から6のいずれか一項に記載の切削工具(1)。
【請求項8】
前記第2層(5)は、平均で25~40重量%の金属Tiを含む、請求項1から7のいずれか一項に記載の切削工具(1)。
【請求項9】
前記第2層(5)の平均厚さは1~5μmである、請求項1から8のいずれか一項に記載の切削工具(1)。
【請求項10】
前記第2層は、金属Ni、金属Cuおよび金属Tiの合計が平均で70~100重量%である、請求項1から9のいずれか一項に記載の切削工具(1)。
【請求項11】
前記第3層(6)は金属Inを含む、請求項1から10のいずれか一項に記載の切削工具(1)。
【請求項12】
前記第3層は、金属Cuおよび金属Agの合計が平均で60~100重量%である、請求項1から11のいずれか一項に記載の切削工具(1)。
【請求項13】
前記第3層(6)は、平均で60~80重量%の金属Ag、および平均で15~40重量%の金属Cuを含む、請求項1から12のいずれか一項に記載の切削工具(1)。
【請求項14】
前記ろう付け接合部(4)に隣接する前記支持体の最外部にNi欠乏領域があり、前記Ni欠乏領域は0.5~5μmの平均厚さを有する、請求項1から13のいずれか一項に記載の切削工具(1)。
【請求項15】
旋削インサート、転削インサート、またはエンドミルである、請求項1から14のいずれか一項に記載の切削工具(1)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、支持体と、cBNまたはPCDの切れ刃チップとを備える切削工具に関する。
【背景技術】
【0002】
1980年代に切削工具材料として最初に導入されて以来、立方晶窒化ホウ素(cBN)の使用は進化し、一般的な機械加工ソリューションになっている。適用領域としては、硬化鋼、鋳鉄、耐熱超合金(HRSA)および粉末金属が挙げられる。これらの被削材は、一般的に機械加工が困難であると認識されているという共通点を有する。cBN材料の切削工具は、高い切削温度および切削抵抗に耐えることができ、依然としてその切れ刃を保持することができる。これが、cBNが長く、一貫した工具寿命をもたらし、優れた表面仕上げを有する構成要素を製造する理由である。
【0003】
多結晶ダイヤモンド(PCD)は、金属結合剤と共に焼結されたダイヤモンド粒子の複合材料である。ダイヤモンドは、すべての材料の中で最も硬いため、最も耐摩耗性がある。切削工具材料としては、PCDは、耐摩耗性は良好であるが、高温での化学的安定性に欠け、鉄に溶解しやすい。したがって、PCD工具は、高シリコンアルミニウム、金属マトリックス基複合材料(MMC)および炭素繊維強化プラスチック(CFRP)などの非鉄材料に限定される。フラッドクーラントを含むPCDは、チタン超仕上げ用途にも使用することができる。
【0004】
切削工具で使用される場合、cBNまたはPCDは、通常、切削工具の一部、例えば切削インサート、より具体的にはチップ部分などの切削作業に関与する部分のみを構成する。したがって、cBNまたはPCDのチップは、通常、超硬合金の支持体に取り付けられる。
【0005】
ペースト、箔またはワイヤの形態でのろう材は、cBNチップまたはPCDチップを超硬合金の支持体に結合するために使用される。その目的は、支持体とcBNチップまたはPCDチップとの間に強い結合を提供することである。
【0006】
超硬合金支持体は、金属結合剤中でWCの硬質粒子を構成する。結合剤の一種は、Niを主成分とするものである。
【発明の概要】
【0007】
本発明の目的は、少なくとも40重量%のNiを含む金属結合剤を用いて超硬合金の支持体にろう付けされたcBN切れ刃チップまたはPCD切れ刃チップを有する切削工具を提供することであって、この切れ刃チップは、長い工具寿命をもたらす優れた結合強度を提供する新しいろう付け接合部を介してろう付けされている。
【0008】
「切削工具」とは、本明細書では、インサートまたはエンドミルなどの金属切削用途のための切削工具を意味する。金属切削の適用領域は、好適には旋削または転削である。
【0009】
これらの目的の少なくとも1つは、請求項1に記載の切削工具によって達成される。好ましい実施形態は、従属請求項に列挙されている。
【0010】
本発明
本発明に係る切削工具は、支持体と、cBNまたはPCDの切れ刃チップとを備え、このcBNまたはPCDの切れ刃チップは、5~150μm厚のろう付け接合部を介して支持体に取り付けられ、支持体は、3~25重量%の金属結合剤、任意で最大25重量%の元素周期律表の第4族、第5族、または第6族のうちの1つ以上の元素の炭化物または炭窒化物、および残部WCを含む超硬合金であり、金属結合剤は、少なくとも40重量%のNiを含み、上記ろう付け接合部は、支持体から順に、支持体に隣接して配置される平均厚さが10~400nmであるTiCの第1層と、平均厚さが0.5~8μmであり、平均で少なくとも5重量%の金属Ni、平均で25~60重量%の金属Cu、および平均で15~45重量%の金属Tiを含む第2層と、平均厚さが4~145μmであり、金属Agおよび金属Cuを含む第3層とを含む。
【0011】
ろう付け接合部または接合部内の層の厚さは、本明細書では、支持体とろう付け接合部との間の界面に垂直な方向で測定される。
【0012】
ろう付け接合部またはろう付け接合部内の層の平均厚さは、ろう付け接合部の1つ以上の断面画像を使用し、少なくとも30μmの距離にわたって無作為に選択された少なくとも10個の測定点を取得し、平均を計算することによって適切に計算される。
【0013】
「cBN切れ刃チップ」とは、本明細書では、cBN粒子と、例えば1つ以上のアルミニウム化合物を含む金属および/またはセラミック結合相とを含むcBN複合材料の切れ刃チップを意味する。cBN複合材料はまた、例えば、第4族、第5族もしくは第6族遷移金属の窒化物、炭化物もしくは炭窒化物またはそれらの混合物を含み得るセラミック結合相を含み得る。遷移金属は、例えば、チタンであってもよい。成分および成分の相対量を変えることにより、cBN複合材料は、異なる用途、例えば連続または断続切削、および異なる金属の機械加工において最適な性能を得るように設計することができる。金属機械加工用のcBN複合材料を製造するための既知の方法は、従来の粉末冶金技術に基づいており、これは、原材料を混合し、粉砕して粉末混合物にすることと、粉末混合物をグリーン成形体に形成することと、およびそのグリーン成形体を高圧および高温での焼結作業(HPHT焼結)に供してcBN複合材料の焼結体を形成することと、を含む。cBN複合材料の焼結体は、例えば超硬合金の支持体材料上に形成することもできるし、支持体材料なしで形成することもできる。cBN複合材料の焼結体は、超硬合金基材にろう付けすることを意図するチップに切削される。
【0014】
「PCD切れ刃チップ」とは、本明細書では、金属結合剤、通常はCoと共に焼結されたダイヤモンド粒子を含むPCD複合材料の切れ刃チップを意味する。ダイヤモンド粒子の含有量は、好適には少なくとも80体積%である。PCD複合材料の焼結体は、例えば超硬合金の支持体材料上に形成することもできるし、支持体材料なしで形成することもできる。PCD複合材料の焼結体は、超硬合金基材にろう付けすることを意図するチップに切削される。
【0015】
「超硬合金」とは、本明細書では、連続金属結合相に分布した少なくとも75重量%の硬質成分を含む焼結材料を意味する。超硬合金は、少なくとも50重量%のWCと、場合によっては、元素周期律表の第4族、第5族および第6族元素の炭化物および/または炭窒化物などの超硬合金を製造する技術分野で一般的な他の硬質成分と、金属結合剤とを含む。超硬合金の金属結合剤は、WCに由来するWおよびCなど、焼結中に金属結合剤に溶解する元素を含むことができる。
【0016】
「金属Ni」、「金属Cu」、「金属Ag」、「金属Ti」、および「金属In」とは、本明細書では、金属元素Ni、Cu、Ag、Ti、およびInの各々が同じまたは別の金属と金属結合している、すなわち、価電子が金属格子を自由に移動していることを理解されたい。
【0017】
ろう付け接合部とは、本明細書では、ろう材によって充填され、ろう付けプロセス中に形成される、超硬合金部分とcBNまたはPCDの切れ刃チップとの間の面積または質量を意味する。
【0018】
支持体の超硬合金中の金属結合剤は、好適には50~90重量%のNi、好ましくは60~80重量%のNiを含む。
【0019】
1つの実施形態では、支持体の超硬合金中の金属結合剤は、10~20重量%のFeを含む。
【0020】
1つの実施形態では、支持体の超硬合金中の金属結合剤は、最大10重量%のCoを含む。
【0021】
1つの実施形態では、支持体の超硬合金中の金属結合剤は、0.1~5重量%のCoを含む。
【0022】
1つの実施形態では、支持体の超硬合金中の金属結合剤は、1重量%未満のCoを含む。
【0023】
超硬合金の金属結合剤は、焼結中に金属結合剤に溶解するWCに由来するWをさらに含む。金属結合剤に溶解するWの含有量は、超硬合金中の炭素含有量によって異なり、金属結合剤中のWの含有量は、好適には20重量%未満である。
【0024】
1つの実施形態では、Crおよび/またはVは、金属結合剤に溶解して存在する。
【0025】
金属結合剤中には、Feと共にCuおよびMnなどの他の元素が存在してもよい。
【0026】
1つの実施形態では、金属結合相中のNi、Fe、Co、およびWの含有量の合計は、80~100重量%、好適には90~99重量%である。
【0027】
支持体の超硬合金中の金属結合剤の含有量は、好適には4~20重量%、好ましくは5~15重量%である。
【0028】
ろう付け接合部の厚さは、好適には10~100μm、好ましくは10~50μmである。
【0029】
ろう付け中、ろう材からのTiは超硬合金支持体からの炭素と反応し、支持体に隣接するTiC層を形成する。TiCの第1層の平均厚さは、好適には50~300nm、好ましくは100~300nmである。
【0030】
1つの実施形態では、ろう付け接合部は、cBN切れ刃チップに隣接するTiN層を備える。TiN層の平均厚さは、好適には10~400nm、好ましくは50~300nmである。
【0031】
1つの実施形態では、ろう付け接合部は、PCD切れ刃チップに隣接するTiC層を備える。TiC層の平均厚さは、好適には10~400nm、好ましくは50~300nmである。
【0032】
第2層は、好適には、平均で少なくとも10重量%の金属Ni、好ましくは平均で10~40重量%の金属Ni、最も好ましくは平均で15~30重量%の金属Niを含む。
【0033】
第2層は、好適には、平均で35~55重量%の金属Cuを含む。
【0034】
第2層は、好適には、平均で25~40重量%の金属Tiを含む。
【0035】
第2層は、好適には、金属Ni、金属Cuおよび金属Tiの合計が、平均で70~100重量%、好ましくは平均で80~100重量%、最も好ましくは平均で90~100重量%である。
【0036】
第2層の平均厚さは、好適には1~5μmである。
【0037】
1つの実施形態では、ろう付け接合部は、第3層に金属In(インジウム)をさらに含む。
【0038】
第3層は、好適には、金属Cuおよび金属Agの合計が、平均で60~100重量%、好ましくは平均で80~100重量%、最も好ましくは平均で90~100重量%である。
【0039】
金属Agおよび金属Cuを含む第3層は、好適には、平均で60~80重量%の金属Ag、および平均で15~40重量%の金属Cuを含む。
【0040】
1つの実施形態では、Inは、80~95重量%のAgを含む第3層に含まれる相に存在する。
【0041】
1つの実施形態では、第3層は2つの相を含み、そのうちの1つの相は、平均で30~50重量%の金属Cuおよび平均で50~70重量%の金属Agを含有し、もう1つの相は、平均で5~20重量%の金属Cuおよび平均で80~95重量%の金属Agを含有する。
【0042】
第3層の平均厚さは、好適には8~100μm、好ましくは12~50μmである。
【0043】
1つの実施形態では、ろう付け接合部に隣接する支持体の最外部にNi欠乏領域があり、このNi欠乏領域は、好ましくは0.5~5μmの平均厚さを有する。
【0044】
1つの実施形態では、cBN切れ刃チップは、下部に超硬合金、および上部にcBN複合材料を備える。
【0045】
1つの実施形態では、cBN切れ刃チップは、全体としてcBN複合材料を含む。
【0046】
1つの実施形態では、PCD切れ刃チップは、下部に超硬合金、および上部にPCD複合材料を備える。
【0047】
1つの実施形態では、PCD切れ刃チップは、全体としてPCD複合材料を含む。
【0048】
切削工具は、旋削インサート、転削インサート、またはエンドミルであってもよい。
【0049】
本発明の切削工具は、切削インサートまたはエンドミルの形態の超硬合金焼結体(「ブランク」)を提供するとともに、cBNまたはPCDの切れ刃チップを提供することによって好適に作製される。超硬合金ブランクは、cBNまたはPCDの切れ刃チップが接合されることが意図されている凹部を有する。
【0050】
Ag、Cu、およびTiを含むペースト形態のろう材を、超硬合金ブランクの凹部とcBNまたはPCD切れ刃チップの一方または両方に塗布し、次にろう材が2つの部分の間に位置するようにして、超硬合金ブランクとcBNまたはPCD切れ刃チップを組み合わせる。これにより、接合切削工具本体が形成される。インジウム(In)はろう材の溶融温度を下げるため、特にろう付けが780℃よりも低い温度で実行される場合には、ろう材にインジウム(In)が含まれてもよい。
【0051】
次いで、接合切削工具本体を、アルゴンなどの不活性雰囲気下または真空下で熱処理する。cBN切れ刃チップをろう付けする場合、温度は約800℃に保持され、PCD切れ刃チップをろう付けする場合、典型的には約700℃に保持される。
【0052】
熱処理の持続時間は、約5~約15分である。この処理によって、超硬合金ブランクとcBNまたはPCDの切れ刃チップとの間に強いろう付け接合部を有する切削工具が形成される。
【0053】
ろう付けプロセスでは、超硬合金支持体と本発明のcBNまたはPCDの切れ刃チップとの間に特定のろう付け接合部を提供するために、特定の温度範囲が必要である。ろう付け中、ろう材からのTiは超硬合金部分内の炭素と反応し、ろう付け接合部と超硬合金部分との間の界面にTiC層を形成する。使用する温度が低すぎると、超硬合金本体に隣接するTiC層が形成されず、Niを含んで形成される層も非常に不規則になる。これにより、超硬合金本体とcBNまたはPCDの切れ刃チップとの間の接合部の強度が低くなる。一方、ろう付けプロセスで使用する温度が高すぎると、TiC層が過度に厚くなり、それによってTiC層が脆くなりすぎて、結合層としての機能が低下する。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【
図1】支持体部分とcBN/PCD切れ刃チップとを有する旋削インサートである切削工具の全体図である。
【
図2】支持体とcBN切れ刃チップとを接合するろう付け接合部を備えた切削工具の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0055】
図1は、支持体(2)とcBN/PCD切れ刃チップ(3)とを有する旋削インサートである切削工具(1)の全体図を示す。
【0056】
図2は、超硬合金支持体(2)とcBN切れ刃チップ(3)とを接合するろう付け接合部(4)を有する本発明の切削工具の1つの実施形態の断面のSEM画像を示す。ろう付け接合部(4)は、Ni、CuおよびTiを含む層(5)と、AgおよびCuを含む層(6)とを備える。
【0057】
図3は、
図2の拡大断面であるSEM画像を示しており、超硬合金支持体(2)と、超硬合金支持体(2)に隣接するTiCの最下層の第1層(7)が見られるろう付け接合部の下部とを示す。さらに、Ni、CuおよびTiを含む第2層(5)、およびAgおよびCuを含む第3層(6)の下部が見られる。
【実施例】
【0058】
ここで、本発明の例示的な実施形態をより詳細に開示する。金属切削作業において、切削工具(インサート)を調製し、分析し、試験した。
[実施例1]
切削工具サンプルの製造
【0059】
4.89重量%のNi、0.83重量%のFe、および残部WCの組成を有する粉末混合物から、超硬合金切削インサートブランクを製造した。WC-Co系超硬合金の粉砕体を使用して粉末混合物を粉砕し、乾燥させ、インサート幾何形状DCGW11T308にプレスし、1410℃で焼結した。
【0060】
超硬合金中の結合剤含有量は約6.1重量%であることが確認された。焼結超硬合金は、約4.9重量%のNi、0.8重量%のFeおよび0.4重量%のCoを含み、金属結合相の一部であった。金属結合相自体は、約75重量%のNi、13重量%のFe、3重量%のCoおよび9重量%のWを含んでいた。溶解したWは、WC粒子に由来するものであった。Coは、主に、原料粉末混合物の粉砕中に摩耗したWC-Co系超硬合金の粉砕体に由来する。超硬合金基材の断面のSEM顕微鏡写真には、遊離黒鉛またはイータ相は見られなかった。
【0061】
切削インサートブランクのチップ部分に、cBNチップ用の凹部を作製した。切削インサートブランクは、ここで、cBN切削チップ用の支持体を形成する。
【0062】
2つのタイプのcBNの切れ刃チップを用意した。第1のタイプ(cBN1)を、cBNおよびTiNの粉末混合物から製造し、幾何形状S01020の切れ刃チップにプレスし、焼結した。焼結ブランクは、TiNと少量の反応生成物で平衡化した47体積%のcBNを含んでいた。第2のタイプ(cBN2)を、cBNおよびTiCNの粉末混合物から製造し、幾何形状S01020の切れ刃チップにプレスし、焼結した。焼結ブランクは、TiCNと少量の反応生成物で平衡化した65体積%のcBNを含んでいた。cBN1およびcBN2の切れ刃チップは市販されているものであった。
【0063】
次に、超硬合金支持体上の切削インサートブランクの凹部の表面にろう付けペーストを塗布することにより、cBNの切れ刃チップと切削インサートブランクとの接合を行った。2つの異なるろう付けペーストをそれぞれ使用した。第1のろう付けペースト(東京ブレイズ株式会社製「TB629」)は、Ag59Cu27In13Ti1)の組成を有し、第2のろう付けペースト(東京ブレイズ株式会社製「TB608」)はAg70Cu28Ti2の組成を有していた。
【0064】
ろう付けは、740℃、820℃および900℃の3つの異なる温度で炉内で行った。740℃および820℃でのろう付けプロセスは、真空下で、Ipsen株式会社のVFC-124バッチ炉で行い、900℃のろう付けプロセスは、保護ガスとしてアルゴンを用いて、東京ブレイズ株式会社の連続ベルト式炉で行った。740℃および900℃ろう付けプロセスでは、第1のろう付けペーストを使用し、820℃のろう付けプロセスでは、第2のろう付けペーストを使用した。また、740℃および820℃でのプロセスと、900℃でのプロセスとの間には、プロセス時間にわずかな差があった。
【0065】
したがって、3つの異なるろう付けプロセスが定義される。
表1
【0066】
最終的な切削インサートの幾何学形状は、DCGW11T308S01020であった。ろう付けプロセスが完了した後、支持体とcBN切削チップとの接合アセンブリの最終研削を行う。
【0067】
支持体および第2のタイプのcBN切れ刃チップのアセンブリのいくつかを、切削工具の分野で使用される一般的なPVDプロセスに従って厚さ2~4μmのTiN層でコーティングした。TiNの堆積温度は十分に低い(約450℃)ため、TiNコーティングの堆積はろう付け接合部の特性にいかなる影響も及ぼさなかった。
【0068】
表2は、試料の構成およびそれらを製造するときに使用されるろう付けプロセスをまとめたものである。
表2
[実施例2]
ろう付け接合部の分析
【0069】
ろう付け接合部は、電子プローブマイクロアナライザー(EPMA)を使用して分析した。
図2~
図3は、後方散乱電子(BSE)検出器が使用されたSEM画像を示す。この検出器は原子量によって元素を分解し、軽い物質は暗く表示され、重い物質は明るく表示される。例えば、AgはCuに対して非常に明るく見える。
【0070】
ろう付け接合部の層状構造は、EPMAを使用して波長分散分光法(WDS)によっても分析した。使用したEPMA機器は、JEOL社のJXA-8530 F Hyperprobeであった。これにより、異なる元素に対して異なる画像が提供されるため、ろう付け接合部の特定の位置に特定の元素(Ni、Ti、Cu、Ag、In、Cなど)が存在することが可視化されるとともに、信号の強度によってその含有量のレベルが示され得る。
【0071】
EPMAに備えられたエネルギー分散型X線分光法(EDS)を用いて、層中の特定の元素(金属Ni、Ti、Cu、Ag、およびIn)の含有量を分析した。使用したEPMA機器は、JEOL社のJXA-8530 F Hyperprobeであった。信頼できる平均値を得るために、無作為に選択した多くの測定点を選択した。
【0072】
試料の試料1、試料2、および試料3のろう付け接合部について分析を行った。透明な層1、2および3が見出された。表3に、各層の元素含有量、および各層の平均厚さを示す。
【0073】
TiC層の厚さは、TiNの存在と組み合わせて、超硬合金支持体に隣接するCの濃度の厚さを考慮することによって好適に測定される。しかしながら、これは、TiC層が明確に見える上記のようにして得られるSEM-BSE画像と組み合わせて好適に行われる。
【0074】
740℃でろう付けされた試料1において、分析から以下のことが分かる。
Tiと同様、超硬合金に隣接するCが見られない。しかしながら、元素Tiを含む非常に薄い層が見られる。SEM-BSE画像に透明な薄層が見られる。したがって、非常に薄いTiCの第1層が存在する。
第2層は、相当量のNi、CuおよびTiを含有する。しかしながら、層は非常に不均一であり、いくつかの相を含み、画定が不十分である。
超硬合金の最上部にNi欠乏領域が見られない。
【0075】
820℃でろう付けされた試料2において、分析から以下のことが分かる。
Tiと同様、超硬合金に隣接するCが明確に見える。SEM-BSE画像に透明な層が見られる。したがって、TiCの第1層が存在する。
第2層は、相当量のNi、CuおよびTiを含有し、十分に画定される。
超硬合金の最上部に約1μmのNi欠乏領域が見られる。
【0076】
900℃でろう付けされた試料3において、分析から以下のことが分かる。
Tiと同様、超硬合金に隣接するCが明確に見える。SEM-BSE画像に透明な層が見られる。したがって、TiCの第1層が存在する。
第2層は、相当量のNi、CuおよびTiを含有し、十分に画定される。
超硬合金の最上部に約2μmのNi欠乏領域が見られる。
【0077】
表3は、分析からのさらなる結果を示す。
表3
*いくつかの相、画定が不十分な層、平均金属元素含有量および層の厚さの測定が困難である
**金属元素が存在するが、いくつかの相中にあり、平均含有量を測定することが困難である
[実施例3]
試料による切削試験
【0078】
金属切削作業において切削工具を試験した。試験された試料は、試料5および試料8、すなわち、異なる組成のcBN切れ刃チップ、ろう付けペースト2であり、820℃の温度で10分間真空下でろう付けした。試験方法は、硬化鋼の断続切削を含んでいた。断続切削を提供するために、軟らかい段階で調製された溝を有する貫通硬化鋼SS2258のリングを用意する。試験方法は、縁部の破損まで、溝付き部に対向する切り込みを入れることによる旋削作業を含む。切削パラメータは、増分負荷を与えるために切削ごとに段階的に増加する。この試験方法は、ろう付け接合部の堅牢性の判定を含む、過酷な切削における切削工具性能をよく見ることができる。
【0079】
使用した切削データを表4に示す。送り(fn)と切り込み深さ(ap)は、同じ値に設定されている。fnおよびapの推奨される開始値は、試験するインサートの型およびグレードによって異なる。切削速度(vc)は、120m/分であった。
表4
【0080】
刃が破損するまで試験を行い(各パス後に光学顕微鏡で確認する)、試験結果は、刃が破損したときの送り/切り込み深さ(またはパス数)として報告する。
【0081】
各パスについて、fnおよびapの値を0.02ずつ増分させた。
【0082】
信頼できる結果を得るために、多くの刃を試験した。
表5
【0083】
試料について、結果は、すべての破損が予想される破損サイズのcBN材料で発生したことを示した。ろう付けが最も弱い結合になるという兆候はなかった。したがって、本発明のろう付け接合部は非常に良好に機能すると結論付けられる。さらに、この試験方法で使用された荷重は、硬化鋼の通常の金属機械加工作業に関連する用途よりも大幅に高かったため、試験されたすべてのサンプルが業界の用途で非常に良好に機能することに注意すべきである。
【国際調査報告】