(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-01-30
(54)【発明の名称】イソオレフィンホモポリマーの製造における触媒の音波処理
(51)【国際特許分類】
C08F 2/00 20060101AFI20240123BHJP
C08F 110/10 20060101ALI20240123BHJP
C08F 4/14 20060101ALI20240123BHJP
C07B 61/00 20060101ALN20240123BHJP
【FI】
C08F2/00 A
C08F110/10
C08F4/14
C07B61/00 300
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023537157
(86)(22)【出願日】2021-12-14
(85)【翻訳文提出日】2023-07-11
(86)【国際出願番号】 CA2021051802
(87)【国際公開番号】W WO2022126256
(87)【国際公開日】2022-06-23
(32)【優先日】2020-12-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】516186267
【氏名又は名称】アランセオ・シンガポール・プライヴェート・リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】ジェレミー・ボーク
(72)【発明者】
【氏名】グレゴリー・ジェイ・イー・デイヴィッドソン
(72)【発明者】
【氏名】クルップ・ヤハティッサ
【テーマコード(参考)】
4H039
4J011
4J015
4J100
【Fターム(参考)】
4H039CL10
4J011AA01
4J011BB09
4J011DB01
4J011EA08
4J011EC00
4J011HA04
4J011HB10
4J015DA14
4J015EA10
4J100AA06P
4J100CA01
4J100FA03
4J100FA08
4J100FA19
(57)【要約】
イソオレフィンホモポリマーの製造方法は以下の工程を含む:有機溶媒中の開始剤システムの溶液を音波処理して、音波処理された開始剤溶液を生成する工程であって、開始剤システムは、ルイス酸触媒と、水、アルコール、フェノール、チオール、カルボン酸、又はそれらの組みあわせからなる群から選択されるプロトン源とを含み、音波処理は、開始剤溶液の体積に基づいて100J/mL以上のエネルギー投入で実施される工程;及び、 次に、その音波処理した開始剤溶液を、有機希釈剤中のイソオレフィンモノマーの反応混合物と接触させて、イソオレフィンホモポリマーを製造する工程。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
イソオレフィンホモポリマーの製造方法であって、
有機溶媒中の開始剤システムの溶液を音波処理して、音波処理された開始剤溶液を製造し、ここで、前記開始剤システムは、ルイス酸触媒と、水、アルコール、フェノール、チオール、カルボン酸、又はそれらの任意の混合物からなる群から選択されるプロトン源とを含んでおり、音波処理は、開始剤溶液の体積に基づいて100J/mL以上のエネルギーを投入して行われるステップ;及び、次に
音波処理された開始剤溶液を、有機希釈剤中のイソオレフィンモノマーの反応混合物と接触させて、イソオレフィンホモポリマーを製造するステップ、
を含む製造方法。
【請求項2】
エネルギー投入が200J/mL以上である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
エネルギー投入が100J/mL~1500J/mLの範囲内である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項4】
エネルギー投入が200J/mL~700J/mLの範囲内である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項5】
音波処理を0.5分以上行う、請求項1~4のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項6】
音波処理を1~10分間行う、請求項1~4のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項7】
前記有機溶媒が塩化メチルを含む、請求項1~6のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項8】
前記ルイス酸触媒が、開始剤溶液の総質量に基づいて、0.01質量%~0.6質量%の濃度で開始剤溶液中に存在する、請求項1~7のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項9】
前記開始剤システムが、反応混合物の総質量に基づいて、0.0005~0.02質量%の量で反応混合物中に存在する、請求項1~8のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項10】
前記ルイス酸触媒及びプロトン源が、質量比5:1~50:1で開始剤システム中に存在する、請求項1~9のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項11】
前記ルイス酸触媒が三塩化アルミニウムを含む、請求項1~10のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項12】
前記プロトン源が水を含む、請求項1~11のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項13】
前記開始剤システムが反応混合物に可溶である、請求項1~11のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項14】
前記有機希釈剤が塩化メチルを含む、請求項1~13のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項15】
前記イソオレフィンモノマーがイソブテンである、請求項1~14のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項16】
方法がスラリー法であるか、方法が連続法であるか、又は方法がスラリー法と連続法の両方である、請求項1~15のいずれか一項に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連する出願の相互参照
本出願は、2020年12月18日に出願された欧州特許出願第20215406.8に基づく優先権を主張し、その全内容を参照により本明細書に援用する。
【0002】
分野
本出願は、イソオレフィンホモポリマー、例えばポリイソブテンの製造に関する。
【背景技術】
【0003】
イソオレフィンモノマーを重合するためのAlCl3/H2O開始剤システムは、触媒の活性が変動するという欠点がある。これは、活性種と不活性種の比率の違いに起因すると考えられ、なぜなら、三塩化アルミニウム(AlCl3)はそれ自体で及び水と凝集体を形成し、これが重合を開始しない不活性種を生成することが知られているからである。活性種の数の変動は、重合反応器内の開始部位の数を変え、反応器への触媒添加量を減らすことなく急激に開始部位が増えた場合、低分子量の生成物、局所的な温度上昇、及び反応器への付着物が生じうる。活性種の数が減少した場合に、反応器が冷えて反応が停止することを伴う同様の問題もまた発生する可能性がある。ブチルゴムプロセスのための触媒活性の変動を低減させることは、開始剤システムに伴う付着物及びその他の問題を軽減することによって生産能力を向上させることができる。
【0004】
ジイソプロピルエーテルの存在下でルイス酸と酸性イミダゾール系イオン性液体(RmimCI)を含むカチオン開始システムを使用して、ポリイソブチレンへのイソブチレンの重合を開始できることが知られている(I.A. Bereziankoら, Polymer. 145(2018)382-390頁)。このような重合反応においては、開始剤システムを音波処理し、次いで音波処理した開始剤システムにモノマーストリームを添加することで、モノマー転化率が向上するが、AlCl3触媒システムの場合10~20モル%しか向上しないことが分かっている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】I.A. Bereziankoら, Polymer. 145(2018)382-390頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
カルボカチオン重合プロセス、特にポリイソブテンなどのイソオレフィンホモポリマーを製造するプロセスの効率を向上させるために、重合プロセスにおける触媒活性の変動を低減する必要性が依然としてある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
まとめ
イソオレフィンホモポリマーの製造方法は、有機溶媒中の開始剤システムの溶液を音波処理して、音波処理された開始剤溶液を製造し、ここで、その開始剤システムは、ルイス酸触媒と、水、アルコール、フェノール、チオール、カルボン酸、それらの任意の混合物からなる群から選択されるプロトン源とを含んでおり、その音波処理は、開始剤溶液の体積に基づいて100J/mL以上のエネルギーを投入して行われるステップ;及び、次に、
その音波処理された開始剤溶液を、有機希釈剤中のイソオレフィンモノマーの反応混合物と接触させて、イソオレフィンホモポリマーを製造するステップを含む。
【0008】
開始剤溶液の音波処理は、触媒活性を向上させ、それによってイソオレフィンホモポリマーの製造時のモノマーの転化率を向上させる。触媒活性の変動が低減され、それによって全体として重合反応器の能力を高め、反応器の付着物を減少させ、かつ、開始剤システムに関するその他の問題を軽減する。さらに、より複雑なイオン性液体に基づくシステムではなく、非イオン性プロトン源を含む、より単純な開始剤システムを使用することができる。
【0009】
音波処理の主な利点は、目標とするモノマー転化率値(例:85~95モル%)を達成するために必要とされる反応器全体の長さ(滞留時間)を短くすることであり、このことは、増加した流量が、既存の連続反応器において達成可能であること、又は目的値に近い一貫した高いレベルのモノマー転化率が達成されることを確実にすることによって、向上したプロセス制御が達成可能であることを意味している。実際には、目標とするモノマー転化率を達成するために、反応器を通過させることができる最も高い可能な流量で反応器は運転され、したがって、より活性な開始剤システムを有することは、目標転化率値に到達し、かつ、フィード混合物中の実質的に全てのモノマーが反応することを確実にする。
【0010】
さらなる特徴は、以下の詳細な説明のなかで説明されるか、又はそこで明らかになるであろう。本明細書に記載されている各特徴は、その他の記載されている特徴のうちの任意の1つ又は複数と任意に組み合わせて利用することができ、当業者に明らかな場合を除いて、各特徴は必ずしも別の特徴の存在に依存しないことが理解されるべきである。
【0011】
より明確な理解を得るために、添付の図面を参照しながら、好ましい実施形態を、例を用いて詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】
図1は、重合反応時間(分:秒)対イソブテン(IB)転化率(モル%)のグラフであり、これは、ポリイソブテンを製造するためのイソブテンの単独重合における、3mLの開始剤溶液を用いての5分及び10分の音波処理時間の効果を示している。
【
図2】
図2は、重合反応時間(分:秒)対イソブテン(IB)転化率(モル%)のグラフであり、これは、ポリイソブテンを製造するためのイソブテンの単独重合における、1.5mLの開始剤溶液を用いての5分及び10分の音波処理時間の効果を示している。
【
図3】
図3は、音波エネルギー投入(J/mL)対イソブテン(IB)転化率(モル%)のグラフであり、これは、ポリイソブテンを製造するためのイソブテンの単独重合における、0.8~1.0mLの開始剤溶液を用いての音波処理エネルギー投入の効果を示している。
【発明を実施するための形態】
【0013】
詳細な説明
イソオレフィンホモポリマーの製造には、重合プロセスを開始することができる開始剤システム(ルイス酸触媒及びプロトン源)の存在下で、有機希釈剤中でイソオレフィンモノマーを重合することが含まれる。重合は重合反応器内で起こる。適切な重合反応器としては、例えば、フロー・スルー重合反応器、プラグ・フロー反応器、移動ベルト又はドラム反応器などが挙げられる。このプロセスは連続プロセスあるいはバッチプロセスであることができる。好ましい実施形態では、このプロセスは連続重合プロセスである。このプロセスは、モノマーのスラリー重合又は溶液重合を含むことができる。好ましい実施形態では、このプロセスはスラリー重合プロセスである。
【0014】
イソオレフィンホモポリマーは、イソオレフィンモノマーの重合によって形成される。 したがって、イソオレフィンホモポリマーは、イソオレフィンモノマーに由来する繰り返し単位を含む。適切なイソオレフィンモノマーとしては、4~16個の炭素原子を有する炭化水素モノマーが挙げられる。一実施形態では、イソオレフィンモノマーは4~7個の炭素原子を有する。適切なイソオレフィンの例としては、イソブテン(イソブチレン)、2-メチル-1-ブテン、3-メチル-1-ブテン、2-メチル-2-ブテン、4-メチル-1-ペンテン、4-メチル-1-ペンテン、及びそれらの混合物が挙げられる。好ましいイソオレフィンモノマーはイソブテン(イソブチレン)である。好ましいイソオレフィンホモポリマーはポリイソブテンである。
【0015】
適切な有機希釈剤としては、例えば、アルカン、クロロアルカン、シクロアルカン、芳香族化合物、ハイドロフルオロカ-ボン(HFC)、又はそれらの任意の混合物が挙げられる。クロロアルカンとしては、例えば、塩化メチル、ジクロロメタン、又はそれらの任意の混合物が挙げられる。塩化メチルが特に好ましい。アルカン及びシクロアルカンとしては、例えば、イソペンタン、シクロペンタン、2,2-ジメチルブタン、2,3-ジメチルブタン、2-メチルペンタン、3-メチルペンタン、n-ヘキサン、メチルシクロペンタン、2,2-ジメチルペンタン、又はそれらの任意の混合物が挙げられる。アルカン及びシクロアルカンは、好ましくはC6溶媒であり、これには、n-ヘキサン又はヘキサンの異性体、例えば、2-メチルペンタンもしくは3-メチルペンタン、あるいはn-ヘキサン及びそのような異性体の混合物、並びにシクロヘキサンが含まれる。モノマーは一般に、希釈剤中で、-120℃~+20℃、好ましくは-100℃~-50℃、より好ましくは-95℃~-65℃の範囲の温度においてカチオン重合される。温度は好ましくは約-80℃以下である。
【0016】
開始剤システムは、ルイス酸触媒及びプロトン源を含む。触媒は、好ましくは三塩化アルミニウム(AlCl3)を含む。ハロゲン化アルキルアルミニウム触媒もまた、重合反応を触媒するために有用である。ハロゲン化アルキルアルミニウム触媒の例として、二臭化メチルアルミニウム、二塩化メチルアルミニウム、二臭化エチルアルミニウム、二塩化エチルアルミニウム、二臭化ブチルアルミニウム、二塩化ブチルアルミニウム、臭化ジメチルアルミニウム、塩化ジメチルアルミニウム、臭化ジエチルアルミニウム、塩化ジエチルアルミニウム、臭化ジブチルアルミニウム、塩化ジブチルアルミニウム、セスキ臭化メチルアルミニウム、セスキ塩化メチルアルミニウム、セスキ臭化エチルアルミニウム、セスキ塩化エチルアルミニウム、及びそれらの任意の混合物が挙げられる。好ましいハロゲン化アルキルアルミニウム触媒は、塩化ジエチルアルミニウム(Et2AlCl又はDEAC)、セスキ塩化エチルアルミニウム(Et1.5AlCl1.5又はEASC)、二塩化エチルアルミニウム(EtAlCl2又はEDAC)、臭化ジエチルアルミニウム(Et2AlBr又はDEAB)、セスキ臭化エチルアルミニウム(Et1.5AlBr1.5又はEASB)、及び二臭化エチルアルミニウム(EtAlBr2又はEADB)、並びにそれらの任意の混合物が挙げられる。特に好ましいハロゲン化アルキルアルミニウム触媒には、セスキ塩化エチルアルミニウム、好ましくは等モル量の塩化ジエチルアルミニウムと二塩化エチルアルミニウムを混合する、好ましくは希釈剤中で混合することによって生成されるセスキ塩化エチルアルミニウムを含む。希釈剤は、単独重合反応を行うために使用されるものと同じであることが好ましい。
【0017】
プロトンが、触媒とプロトン源との反応によって生成され、プロトンと対応する副生成物が生成される。プロトン源は、好ましくは非イオン性プロトン源、例えば、水(H2O)、アルコール、フェノール、チオール、カルボン酸、又はそれらの任意の混合物である。水、アルコール、フェノール、又はそれらの任意の混合物が好ましい。最も好ましいプロトン源は水である。触媒とプロトン源との好ましい比は、質量で5:1~100:1、又は質量で5:1~50:1である。開始剤システムは、反応混合物の総質量に基づいて、0.0005~0.02質量%の触媒、より好ましくは0.0007~0.008質量%の触媒をもたらす量で、反応混合物中に存在することが好ましい。
【0018】
開始剤システムを有機溶媒中に溶解して開始剤溶液を生成させ、次いでこれを反応混合物と接触させてモノマーの重合を開始させる。有機溶媒は、上述した有機希釈剤のいずれかを含んでいてもよい。好ましくは、有機溶媒は極性有機溶媒を含む。塩化メチルが特に好ましい。触媒は、開始剤溶液の総質量に基づいて、好ましくは0.01質量%~0.6質量%、より好ましくは0.05質量%~0.6質量%、0.07質量%~0.5質量%、又は0.075質量%~0.4質量%の濃度で開始剤溶液中に存在する。開始剤システムは、反応混合物中に可溶であることが好ましい。
【0019】
モノマーからポリマーへの転化を向上させ、それによって重合反応の効率を高めるために、開始剤溶液を反応混合物と接触させる前に、開始剤溶液を音波処理する。開始剤溶液の音波処理は、触媒活性を向上させて、それによってイソオレフィンホモポリマーの製造時のイソオレフィンモノマーの転化率を向上させる。特に、音波処理によるエネルギー投入が、開始剤溶液の体積に基づいて100J/mL以上、好ましくは200J/mL以上、又は300J/mL以上、又は400J/mL以上、又は500J/mL以上である場合に、向上した転化率が達成される。好ましくは、音波処理によるエネルギー投入は、100J/mL~1500J/mL、又は200J/mL~1200J/mL、300J/mL~1000J/mL、200J/mL~700J/mL、400J/mL~900J/mL、又は500J/mL~800J/mLの範囲内である。音波処理は、触媒活性を向上させるために十分な時間、実施される。好ましくは、開始剤溶液は、0.5分間以上、又は1分間以上、又は0.5~30分間、又は1~30分間、又は1~20分間、又は1~10分間、又は0.5~10分間、又は0.5~20分間、音波処理される。
【0020】
音波処理は開始剤システムに全く悪影響を及ぼさず、かつ、イソオレフィンホモポリマーの分子量にも全く悪影響を及ぼさないことが判明している。さらに、音波処理は、標準的な撹拌技術を使用した場合よりも高濃度で触媒を有機溶媒中に溶解することを可能にする。音波処理はさらに、標準的な撹拌技術を使用する場合よりも低い温度(例えば、-80℃以下)において触媒を有機溶媒中に溶解することを可能にする。
【0021】
開始剤溶液の音波処理は、開始剤溶液を音波処理しなかった重合反応と比較して、重合反応におけるモノマーの転化率を少なくとも2倍向上させることができる。いくつかの実施形態において、モノマーの転化率は、20モル%以上、又は40モル%以上、又は、例えば50モル%にも改善される。モノマー転化率は、したがって、開始剤溶液の音波処理なしで達成されるモノマー転化率と比較して、最大4倍あるいはそれより大きく向上させることができる。さらに、音波処理は、重合反応において生成されるイソオレフィンホモポリマーの観察される分子量に影響を与えない。音波処理した開始剤溶液は、好ましくは音波処理後できるだけ早く反応混合物と接触させる。
【0022】
音波処理は、音響エネルギーを適用して、粒子を撹拌する。音波周波数(≧20kHz)が通常は使用されるので、音波処理は超音波処理としても知られている。音波処理装置は一般によく知られており、任意の適切な強力な音波処理装置を使用して開始剤溶液を音波処理することができる。音波処理装置の出力及び音波処理装置によって生成される音波の振幅は、所望するモノマー転化を達成する一方で、上述した範囲のエネルギー投入及び適切に短い音波処理時間となるように適切に選択することができる。より低い振幅が望ましい場合は、より長い音波処理時間とすることができる一方で、音波処理時間はより大きな振幅の音波を使用することによって短縮できる。
【0023】
音波処理は、開始剤システムの性能を向上させる他の方法と組み合わせて使用することができる。例えば、開始剤溶液中での、第三級エーテル(例えば、メチルt-ブチルエーテル(MTBE)、エチルt-ブチルエーテル(ETBE)、メチルt-アミルエーテル(MTAE)、及びフェニルt-ブチルエーテル(PTBE)、又はそれらの混合物、特にMTBE)の追加使用が、重合反応効率向上させることにおいて、音波処理との相加効果を有することができる。開始剤システムを改善するための第三級エーテルの使用は、2020年6月25日に刊行された国際公開第2020/124212号に記載されており、その全内容を参照により本明細書に援用する。
【0024】
重合が完了した後、イソオレフィンホモポリマーを既知の方法によって反応混合物から回収しうる。例えば、有機希釈剤、有機溶媒、及び残留モノマーは、加熱された有機溶媒又は蒸気(スチーム)を使用するフラッシュ分離によってイソオレフィンホモポリマーから分離することができる。次いで、イソオレフィンホモポリマーを乾燥させ、さらなる使用、保管、又は輸送のために、セメント、クラム、ベールなどに加工することができる。
【実施例】
【0025】
<開始剤溶液の調製>
0.15gのAlCl3(純度99.99%)を、125mLのエーレンマイヤーフラスコ中で-30℃において100mLの液体MeClに添加したが、全てを、液体窒素で冷却したペンタン浴を備え、窒素で満たされたMBraun(登録商標)グローブボックスの内部で行った。この混合物を、オーバーヘッドスターラーを使用して45分間、約300rpmで撹拌した。次いで、この溶液を-95℃に冷却し、45/50ジョイントを備えた250mLの丸底フラスコに移した。この溶液はプロトン源として少量の水を含み、その水はMeCl中に不純物として約15~50ppmvの量で存在していた。
【0026】
音波処理した開始剤溶液を調製するために、上記のようにして調製した開始剤溶液を、ホーン音波処理装置(QSonica(商標)、500ワット、20KHz)を使用して、所望の時間(5分間及び10分間)及びフルホーン運動の50%の振幅レベルで音波処理して、音波処理された開始剤溶液を作った。
【0027】
<重合反応>
次に、音波処理していない開始剤溶液と音波処理した開始剤溶液を使用して、以下のように、音波処理した開始剤溶液を塩化メチル中のイソブテンの混合物に添加することによってポリイソブテンを調製した。
【0028】
-96℃にある塩化メチル(MeCl)及びイソブテン(IB)を、-96℃に冷却した反応器に添加した。次に、その反応混合物を800rpmで撹拌しながら約-91℃に冷却した。次いで、反応混合物を大きく温度上昇させることなく、良好な開始をもたらすやり方で、所望の量の開始剤溶液を添加した。
【0029】
重合中、浸漬ラマン分光計を使用して反応を監視して、イソブテンの転化率を測定した。
【0030】
次に、エタノール中1質量%のNaOHの溶液1mLをその反応混合物に添加することによって、5分後に重合反応を停止させた。5分の終了前に反応混合物の温度が20℃を超えて上昇した場合は、反応を終了した。次に、反応器をグロ-ブボックスから取り出し、1mLの希薄な酸化防止剤の溶液(ヘキサン中1質量%のIrganox(商標)1076)を、反応混合物を希釈するためのさらなるヘキサンとともに添加した。塩化メチルを夜通し蒸発させて、ヘキサン中のポリイソブテンセメントを形成した。次いで、エタノールを使用してヘキサンセメントからポリイソブテンを凝固させ、真空下、60℃において夜通し乾燥させた。
【0031】
<例1:対照>
音波処理しなかった又は同じ音波エネルギー投入で5分間もしくは10分間音波処理した3mLの開始剤溶液を使用して、上述したようにポリイソブテンを製造するための重合反応を実施した。開始剤溶液の量は重合反応に対して過剰である。したがって、開始剤溶液に対して音波処理が行われたか否かに関係なく、イソブテン(IB)の転化率は100モル%であることが予想される。
【0032】
図1に見られるように、IB転化率は、音波処理されていない開始剤溶液並びに5分間及び10分間音波処理された開始剤溶液について約100モル%であった。
【0033】
<例2:モノマー添加についての音波処理時間の影響>
ポリイソブテンを製造するための重合反応は、3mL及び1.5mLの音波処理していない開始剤溶液を使用する対照(コントロール)を用いて上記のように実施した。音波処理の効果をみるために、ポリイソブテンを製造するための重合反応を実施し、そのとき開始剤溶液を5分間又は10分間、上と同じ音波エネルギー投入で音波処理した。
【0034】
図2は、1.5mLの三塩化アルミニウム開始剤システムを使用した5分及び10分の音波処理時間のイソブテン(IB)転化に対する影響を示している。その結果を、1.5mL及び3mLの音波処理されていない開始剤溶液を使用した対照重合反応で得られたイソブテン(IB)転化率と比較した。1.5mLの対照では約22モル%のIB転化率が得られたが、5分間音波処理した1.5mLの開始剤溶液は約35モル%のIB転化率をもたらし、かつ、10分間の音波処理では約40モル%のIB転化率が得られた。したがって、開始剤溶液を音波処理することは、IB転化率を向上させ、かつ、より少ない開始剤溶液の使用を可能にする。
【0035】
<例3:モノマー転化に対する音波処理エネルギー投入の影響>
ポリイソブテンを製造するための重合反応を、上述したようにして、100J/mLずつ増分する100~400J/mLの範囲の音波エネルギー投入を達成するように音波処理された開始剤溶液を使用して実施し、これを、開始剤溶液が音波処理されていない(すなわち0J/mL)重合反応と比較した。音波処理エネルギー投入は、音波処理エネルギーがモノマー転化に影響を与えるかどうかの指標とするために、開始剤溶液1mL当たりのジュール数に正規化した。
【0036】
図3に見られるように、音波処理エネルギー投入が増加するにつれて、イソブテン (IB)転化率は、最大転化率に達するまで、音波処理されていない開始剤溶液によってもたらされるIB転化率を超えて増加する。したがって、音波処理は、音波処理エネルギー投入に応じてモノマー転化率を向上させることができる。100J/mLの音波処理エネルギー投入では、音波処理を使用しない場合のIB転化率12モル%から14モル%へ増加した。35モル%へのIB転化率の非常に大きな向上が、200J/mLの音波エネルギー投入で実現している。音波エネルギー投入が300J/mLに達すると、IB転化率は47モル%で一定になる。
【0037】
新規な特徴は、明細書の記載を検討することで当業者には明らかになるであろう。しかしながら、特許請求の範囲は上記の実施形態によって限定されるべきではなく、特許請求の範囲及び明細書全体の語法と整合する最も広い解釈が与えられるべきであることを理解されたい。
【国際調査報告】