IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ポスコ カンパニー リミテッドの特許一覧

<>
  • 特表-方向性電磁鋼板およびその製造方法 図1
  • 特表-方向性電磁鋼板およびその製造方法 図2
  • 特表-方向性電磁鋼板およびその製造方法 図3
  • 特表-方向性電磁鋼板およびその製造方法 図4
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-01-30
(54)【発明の名称】方向性電磁鋼板およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C22C 38/00 20060101AFI20240123BHJP
   C21D 8/12 20060101ALI20240123BHJP
   C22C 38/60 20060101ALI20240123BHJP
   C23C 22/00 20060101ALI20240123BHJP
   H01F 1/147 20060101ALI20240123BHJP
【FI】
C22C38/00 303U
C21D8/12 B
C22C38/60
C23C22/00 B
H01F1/147 183
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023537560
(86)(22)【出願日】2021-12-17
(85)【翻訳文提出日】2023-08-18
(86)【国際出願番号】 KR2021019327
(87)【国際公開番号】W WO2022139352
(87)【国際公開日】2022-06-30
(31)【優先権主張番号】10-2020-0180132
(32)【優先日】2020-12-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522492576
【氏名又は名称】ポスコ カンパニー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000051
【氏名又は名称】弁理士法人共生国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】クォン, ミンソク
(72)【発明者】
【氏名】ミン, ソンフン
(72)【発明者】
【氏名】チェ, ホンジョ
【テーマコード(参考)】
4K026
4K033
5E041
【Fターム(参考)】
4K026AA03
4K026AA22
4K026BA03
4K026BB05
4K026CA16
4K026CA18
4K026CA23
4K026CA27
4K026DA02
4K033AA02
4K033BA01
4K033BA02
4K033CA03
4K033CA09
4K033DA01
4K033DA02
4K033EA02
4K033FA01
4K033FA13
4K033GA00
4K033HA01
4K033JA04
4K033LA01
4K033MA03
4K033PA09
4K033RA04
4K033RA09
4K033RA10
4K033SA02
4K033SA03
4K033TA02
4K033TA04
5E041AA02
5E041AA19
5E041BC01
5E041BC08
5E041BD10
5E041CA02
5E041NN01
5E041NN05
5E041NN06
(57)【要約】
【課題】亜結晶粒界形成を抑制し、磁性を向上できる方向性電磁鋼板の製造方法に関する。
【解決手段】
本発明の一実施形態による方向性電磁鋼板の製造方法は、重量%で、Si:2.5~4.0%、C:0.03~0.09%、Al:0.015~0.040%、Mn:0.04~0.15%、S:0.01%以下(0%を除く)およびN:0.002~0.012%含み、残部Feおよびその他不可避的に混入される不純物を含み、残部Feおよびその他不可避的に混入される不純物を含むスラブを熱間圧延して熱延板を製造する段階;熱延板を冷間圧延して冷延板を製造する段階;冷延板を1次再結晶焼鈍する段階;および1次再結晶焼鈍が完了した冷延板を2次再結晶焼鈍する段階を含む。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
Si:2.0~7.0重量%、およびSb:0.01~0.07重量%含み、残部がFeおよびその他不可避不純物からなる電磁鋼板基材、及び
前記電磁鋼板基材上に位置する絶縁コーティング層を含み、
前記絶縁コーティング層は粒径10nm以上の気孔を含み、
前記電磁鋼板基材は、前記気孔中心からRD方向に1500μm以内領域(A)および前記電磁鋼板基材表面から前記電磁鋼板基材内部方向に50~100μm領域(B)に亜結晶粒が存在し、
前記亜結晶粒は結晶方位が{110}<001>から1°~15°角度を成し、
ND断面での前記亜結晶粒の面積分率が5%以下であることを特徴とする方向性電磁鋼板。
【請求項2】
前記亜結晶粒は、ND方向の結晶粒長さ(z)に対するTD方向の結晶粒長さ(y)の比率(y/z)が1.5以下であることを特徴とする請求項1に記載の方向性電磁鋼板。
【請求項3】
前記電磁鋼板基材表面から前記電磁鋼板基材内部方向に50~100μm領域(B)に結晶方位が{110}<001>から1°未満であるゴス結晶粒を含み、
ND断面での前記ゴス結晶粒の平均粒径(L)に対する亜結晶粒の平均粒径(L)の比率(L/L)が0.20以下であることを特徴とする請求項1に記載の方向性電磁鋼板。
【請求項4】
前記電磁鋼板表面から前記電磁鋼板基材内部方向に微細粒界面層が存在し、
微細粒界面層は平均結晶粒径が0.1~5μmであることを特徴とする請求項1に記載の方向性電磁鋼板。
【請求項5】
前記微細粒界面層は、RD方向残留応力が-10~-1000MPaであることを特徴とする請求項4に記載の方向性電磁鋼板。
【請求項6】
前記微細粒界面層の厚さは、0.1~5μmであることを特徴とする請求項4に記載の方向性電磁鋼板。
【請求項7】
前記電磁鋼板基材および前記絶縁コーティング層の間にベースコーティング層をさらに含むことを特徴とする請求項1に記載の方向性電磁鋼板。
【請求項8】
前記ベースコーティング層のRD方向残留応力が-50~-1500MPaであることを特徴とする請求項7に記載の方向性電磁鋼板。
【請求項9】
前記ベースコーティング層の厚さは、0.1~15μmであることを特徴とする請求項7に記載の方向性電磁鋼板。
【請求項10】
前記絶縁コーティング層のRD方向残留応力が-10~-1000MPaであることを特徴とする請求項1に記載の方向性電磁鋼板。
【請求項11】
前記絶縁コーティング層の厚さは、0.1~15μmであることを特徴とする請求項1に記載の方向性電磁鋼板。
【請求項12】
前記電磁鋼板基材は、RD方向残留応力が1~50MPaであることを特徴とする請求項1に記載の方向性電磁鋼板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
方向性電磁鋼板およびその製造方法に関し、具体的には、絶縁コーティング層形成過程で鋼板に付与される張力を制御して亜結晶粒界(Subgrain boundary)形成を抑制し、磁性を向上させた方向性電磁鋼板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、方向性電磁鋼板とは鋼板にSi成分を含有したものであって、結晶粒の方位が{100}<001>方向に整列された集合組織を有していて、圧延方向に極めて優れた磁気的特性を有する電磁鋼板をいう。このような{100}<001>集合組織を得ることは様々な製造工程の組み合わせによって可能であり、特に鋼スラブの成分をはじめとして、これを加熱、熱間圧延、熱延板焼鈍、1次再結晶焼鈍、および2次再結晶焼鈍する一連の過程が非常に厳密に制御されなければならない。
【0003】
具体的に、方向性電磁鋼板は1次再結晶粒の成長を抑制させ、成長が抑制された結晶粒のうちの{100}<001>方位の結晶粒を選択的に成長させて得られた2次再結晶組織によって優れた磁気特性を示すようにするものであるので、1次再結晶粒の成長抑制剤がより重要である。そして、最終焼鈍工程では、成長が抑制された結晶粒のうち、安定的に{100}<001>方位の集合組織を有する結晶粒が優先的に成長できるようにすることが方向性電磁鋼板製造技術において主な事項の一つである。
【0004】
前述の条件が充足でき現在工業的に広く用いられている1次結晶粒の成長抑制剤としては、MnS、AlN、およびMnSeなどがある。具体的に、鋼スラブに含まれているMnS、AlN、およびMnSeなどを高温で長時間再加熱して固溶させた後に熱間圧延し、以後の冷却過程で適正な大きさと分布を有する前記成分が析出物として作られて前記成長抑制剤として使用できるのである。
【0005】
しかし、これは必ず鋼スラブを高温で加熱しなければならないという問題点がある。これに関連して、最近は鋼スラブを低温で加熱する方法で方向性電磁鋼板の磁気的特性を改善するための努力があった。このために、方向性電磁鋼板にアンチモン(Sb)元素を添加する方法が提示されたが、最終高温焼鈍後、結晶粒の大きさが不均一であり粗大であって変圧器騒音品質が劣位になるという問題点が指摘された。
【0006】
一方、方向性電磁鋼板の電力損失を最少化するために、その表面に絶縁被膜(または張力コーティング層)を形成することが一般的であり、この時、絶縁被膜は基本的に電気絶縁性が高く素材との接着性に優れ、外観に欠陥がない均一な色を有しなければならない。これと共に、最近、変圧器騒音に対する国際規格強化および関連業界の競争深化によって、方向性電磁鋼板の絶縁被膜の騒音を低減するために、磁気ひずみ(磁歪)現象に関する研究が必要であるのが実情である。
【0007】
具体的に、変圧器鉄心として使用される電磁鋼板に磁場が印加されると、収縮と膨張を繰り返して震え現象が誘発され、このような震えによって変圧器で振動と騒音が引き起こされる。一般に知られた方向性電磁鋼板の場合、鋼板およびフォルステライト(Forsterite)系ベース被膜の上に絶縁被膜を形成し、このような絶縁被膜の熱膨張係数差を用いて鋼板に引張応力を付与することによって、鉄損を改善し磁気ひずみに起因した騒音減少効果を図っているが、最近要求されている高級方向性電磁鋼板での騒音水準を満足させるのには限界がある。
【0008】
一方、方向性電磁鋼板の90°磁区を減少させる方法として湿式コーティング方式が知られている。ここで、90°磁区とは、磁界印加方向に対して直角に向かっている磁化を有する領域を言い、このような90°磁区の量が少ないほど磁気ひずみが小さくなる。しかし、一般的な湿式コーティング方式では引張応力付与による騒音改善効果が不足し、コーティング厚さが厚い厚膜でコーティングしなければならない短所があって、変圧器占積率と効率が悪くなるという問題点がある。
【0009】
その他に、方向性電磁鋼板の表面に高張力特性を付与する方法として物理的蒸気蒸着法(Physical Vapor Deposition、PVD)および化学的蒸気蒸着法(Chemical Vapor Deposition、CVD)などの真空蒸着を通じたコーティング方式が知られている。しかし、このようなコーティング方式は商業的生産が難しく、この方法によって製造された方向性電磁鋼板は絶縁特性が劣位になるという問題点がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
方向性電磁鋼板の製造方法を提供する。具体的に、絶縁コーティング層形成過程で鋼板に付与される張力を制御して亜結晶粒(Subgrain boundary)形成を抑制し、磁性を向上させた方向性電磁鋼板の製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の一実施形態による方向性電磁鋼板は、Si:2.0~7.0重量%、およびSb:0.01~0.07重量%含み、残部がFeおよびその他不可避不純物からなる電磁鋼板基材、および電磁鋼板基材上に位置する絶縁コーティング層を含み、絶縁コーティング層は、粒径10nm以上の気孔を含み、電磁鋼板基材は気孔中心からRD方向に1500μm以内領域(A)および前記電磁鋼板基材表面から前記電磁鋼板基材内部方向に50~100μm領域(B)に亜結晶粒が存在し、亜結晶粒は結晶方位が{110}<001>から1°~15°角度を成し、ND断面での亜結晶粒の面積分率が5%以下であることを特徴とする。
【0012】
亜結晶粒は、ND方向の結晶粒長さ(z)に対するTD方向の結晶粒長さ(y)の比率(y/z)が1.5以下であってもよい。
【0013】
電磁鋼板基材表面から前記電磁鋼板基材内部方向に50~100μm領域(B)に結晶方位が{110}<001>から1°未満であるゴス結晶粒を含み、ND断面での前記ゴス結晶粒の平均粒径(L)に対する亜結晶粒の平均粒径(L)の比率(L/L)が0.20以下であってもよい。
【0014】
粒径10nm以上の気孔は、RD方向に1mm当り1~300個存在していてもよい。
【0015】
電磁鋼板基材表面から電磁鋼板基材内部方向に微細粒界面層が存在し、微細粒界面層は平均結晶粒径が0.1~5μmであってもよい。
【0016】
微細粒界面層は、RD方向残留応力が-10~-1000MPaであってもよい。
【0017】
微細粒界面層の厚さは、0.1~5μmであってもよい。
【0018】
電磁鋼板基材および絶縁コーティング層の間にベースコーティング層をさらに含むことができる。
【0019】
ベースコーティング層のRD方向残留応力が-50~-1500MPaであってもよい。
【0020】
ベースコーティング層の厚さは、0.1~15μmであってもよい。
【0021】
絶縁コーティング層のRD方向残留応力が-10~-1000MPaであってもよい。
【0022】
絶縁コーティング層の厚さは、0.1~15μmであってもよい。
【0023】
電磁鋼板基材は、RD方向残留応力が1~50MPaであってもよい。
【0024】
本発明の一実施形態による方向性電磁鋼板の製造方法は、方向性電磁鋼板を製造する段階;方向性電磁鋼板上に絶縁コーティング層形成組成物を塗布する段階;および方向上電磁鋼板を熱処理して方向性電磁鋼板上に絶縁コーティング層を形成する段階を含み、絶縁コーティング層を形成する段階で鋼板に付与される張力が0.2~0.7kgf/mmであることを特徴とする。
【0025】
鋼板全体長さに対して、張力の最大値(MA)と最小値(MI)が下記式2を満足することができる。
[式2]
[MI]≧0.5×[MA]
絶縁コーティング層を形成する段階は、550~1100℃の温度で熱処理することができる。
【発明の効果】
【0026】
本発明の一実施形態による方向性電磁鋼板は、磁性に悪影響を及ぼす亜結晶粒を抑制して磁性を向上させることができる。
本発明の一実施形態による方向性電磁鋼板は、ベースコーティング層、絶縁コーティング層および微細粒界面層の残留応力が増加して磁性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1】本発明の一実施形態による鋼板TD断面の模式図である。
図2】実施例1で製造した鋼板の電子後方散乱回折(EBSD)写真である。
図3】曲率半径を用いた被膜張力計算法を示した図である。
図4】残留応力の測定において傾きを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
第1、第2および第3などの用語は多様な部分、成分、領域、層および/またはセクションを説明するために使用されるが、これらに限定されない。これら用語はある部分、成分、領域、層またはセクションを他の部分、成分、領域、層またはセクションと区別するためにのみ使用される。したがって、以下で叙述する第1部分、成分、領域、層またはセクションは本発明の範囲を逸脱しない範囲内で第2部分、成分、領域、層またはセクションと言及することができる。
【0029】
ここで使用される専門用語は単に特定実施例を言及するためのものであり、本発明を限定することを意図しない。ここで使用される単数形態は文句がこれと明確に反対の意味を示さない限り複数形態も含む。明細書で使用される“含む”の意味は特定特性、領域、整数、段階、動作、要素および/または成分を具体化し、他の特性、領域、整数、段階、動作、要素および/または成分の存在や付加を除外させるのではない。
ある部分が他の部分の“の上に”または“上に”あると言及する場合、これは直ぐ他の部分の上にまたは上にあるか、またはその間に他の部分が伴われることがある。対照的に、ある部分が他の部分の“真上に”あると言及する場合、その間に他の部分が介されない。
【0030】
異なるように定義してはいないが、ここに使用される技術用語および科学用語を含む全ての用語は、本発明の属する技術分野における通常の知識を有する者が一般に理解する意味と同一な意味を有する。通常使用される辞典に定義された用語は関連技術文献と現在開示された内容に符合する意味を有すると追加解釈され、定義されない限り理想的または非常に公式的な意味として解釈されない。また、特に言及しない限り、%は重量%を意味し、1ppmは0.0001重量%である。
本発明の一実施形態で追加元素をさらに含むことの意味は、追加元素の追加量だけ残部である鉄(Fe)を代替して含むことを意味する。
【0031】
以下、本発明の実施形態について本発明の属する技術分野における通常の知識を有する者が容易に実施することができるように詳しく説明する。しかし、本発明は様々の異なる形態に実現することができ、ここで説明する実施形態に限定されない。
【0032】
図1では、本発明の一実施形態による方向性電磁鋼板のTD断面を模式的に示す。
図1に示されるように、本発明の一実施形態による方向性電磁鋼板100は、電磁鋼板基材10および電磁鋼板基材10上に位置する絶縁コーティング層30を含む。
絶縁コーティング層30は、溶媒を含む絶縁コーティング層形成組成物を鋼板上に塗布した後、熱処理する方式で形成する。この時、溶媒が高温で揮発しながら絶縁コーティング層30内には不可避的に気孔31が一部形成される。
気孔31が10nm以上に大きくなるようになれば、鋼板に付与される応力が気孔31下部に集中して亜結晶粒11が形成される。これは方向性電磁鋼板の主結晶粒であるゴス結晶粒に比べて磁性に不利な影響を与え、最大限抑制することが好ましい。
【0033】
本発明の一実施形態では、気孔31および亜結晶粒11間の位置相関関係および亜結晶粒11形成原因を分析して亜結晶粒11の形成を最大限抑制しようとする。
図1では、気孔31および亜結晶粒11について模式的に表現されている。
図1に示されるように、気孔31下部に亜結晶粒11が存在する。鋼板基材10内の全ての亜結晶粒11は気孔31下部の特定領域に存在する。但し、全ての気孔31下部に亜結晶粒11が存在するのではなく、下部に亜結晶粒11が存在しない気孔31があり得る。
【0034】
以下、本発明の一実施形態による各構成を詳しく説明する。
【0035】
電磁鋼板基材10は、ベースコーティング層20および絶縁コーティング層30を除いた方向性電磁鋼板100の一部分を意味する。
本発明の一実施形態で電磁鋼板基材10の合金成分とは関係なく絶縁コーティング層30内の気孔31および電磁鋼板基材10内の亜結晶粒11によって発現されるのである。補充的に電磁鋼板基材10の合金成分について説明する。
電磁鋼板基材10は、Si:2.0~7.0重量%、Sn:0.01~0.10重量%、Sb:0.01~0.07重量%、Al:0.020~0.040重量%、Mn:0.01~0.20重量%、C:0.005重量%以下、N:0.005重量%以下、およびS:0.005重量%以下含み、残部Feおよびその他不可避不純物を含むことができる。
【0036】
Si:2.0~7.0重量%
シリコン(Si)は鋼の比抵抗を増加させて鉄損を減少させる役割を果たし、Siの含量が過度に少ない場合には鋼の比抵抗が小さくなって鉄損特性が劣化し2次再結晶焼鈍時に相変態区間が存在して2次再結晶が不安定になる問題が発生することがある。Siの含量が過度に多い場合には、脆性が大きくなって冷間圧延が難しくなる問題が発生することがある。したがって、前述の範囲でSiの含量を調節することができる。さらに具体的に、Siは2.5~5.0重量%含まれてもよい。
【0037】
Sn:0.01~0.10重量%
スズ(Sn)は結晶粒界偏析元素であって結晶粒界の移動を妨害する元素であるため結晶粒成長抑制剤として{110}<001>方位のゴス結晶粒の生成を促進して2次再結晶がよく発達するようにするので結晶粒成長抑制力補強に重要な元素である。
もし、Sn含量が過度に少なければその効果が低下し、Sn含量が過度に多ければ結晶粒界偏析が過度に起こって鋼板の脆性が大きくなって、圧延時、板破断が発生するようになる。したがって、前述の範囲でSnの含量を調節することができる。さらに具体的に、Snは0.02~0.08重量%含まれてもよい。
【0038】
Sb:0.01~0.05重量%
アンチモン(Sb)は{110}<001>方位のゴス結晶粒の生成を促進する元素であって、その含量がSb含量が過度に少ない場合にはゴス結晶粒生成促進剤として十分な効果を期待することができなく、Sb含量が過度に多ければ表面に偏析されて酸化層形成を抑制し表面不良が発生するようになる。したがって、前述の範囲でSbの含量を調節することができる。さらに具体的に、Sbは0.02~0.04重量%含まれてもよい。
【0039】
Al:0.020~0.040重量%
アルミニウム(Al)は最終的にAlN、(Al、Si)N、(Al、Si、Mn)N形態の窒化物になって抑制剤として作用する元素である。Al含量が過度に少ない場合には抑制剤として十分な効果を期待することができない。反面、Al含量が過度に多い場合にはAl系統の窒化物が過度に粗大に析出および成長するので抑制剤としての効果が不足になる。したがって、前述の範囲でAlの含量を調節することができる。さらに具体的に、Alは0.020~0.030重量%含まれてもよい。
【0040】
Mn:0.01~0.20重量%
マンガン(Mn)はSiと同様に、比抵抗を増加させて鉄損を減少させる効果があり、Siと共に窒化処理によって導入される窒素と反応して(Al、Si、Mn)Nの析出物を形成することによって1次再結晶粒の成長を抑制して2次再結晶を起こすのに重要な元素である。しかし、Mnの含量が過度に多い場合、熱延の途中でオーステナイト相変態を促進するので1次再結晶粒の大きさを減少させて2次再結晶を不安定にする。また、Mnの含量が過度に少ない場合、オーステナイト形成元素として熱延再加熱時、オーステナイト分率を高めて析出物の固溶量を多くして、再析出時、析出物微細化とMnS形成を通じた1次再結晶粒が過度に過大でないようにする効果が不充分に起こることがある。したがって、前述の範囲でMnの含量を調節することができる。
【0041】
C:0.005重量%以下
炭素(C)は本発明による実施例で方向性電磁鋼板の磁気的特性向上に大きく役に立たない成分であるので、できる限り除去することが好ましい。しかし、一定水準以上含まれている場合、圧延過程では鋼のオーステナイト変態を促進して、熱間圧延時、熱間圧延組織を微細化させて均一な微細組織が形成されることを助ける効果がある。スラブ内C含量は0.04重量%以上で含まれることが好ましい。しかし、C含量が過多であれば、粗大な炭化物が生成され脱炭時に除去が困るようになるので、0.07重量%以下であってもよい。1次再結晶焼鈍過程で脱炭が行われ、脱炭後最終製造される方向性電磁鋼板基材内には0.005重量%以下で含まれる。
【0042】
N:0.005重量%以下
窒素(N)は、Alなどと反応して結晶粒を微細化させる元素である。これら元素が適切に分布する場合には前述のように冷間圧延以後組織を適切に微細なようにして適切な1次再結晶粒度を確保するのに役立つことになる。しかし、その含量が過度であれば1次再結晶粒が過度に微細化され、その結果、微細な結晶粒によって2次再結晶時に結晶粒成長を招く駆動力が大きくなって、好ましくない方位の結晶粒まで成長することがある。また、N含量が過多であれば、最終焼鈍過程で除去することにも多くの時間がかかるので好ましくない。したがって、窒素含量の上限は0.005重量%とすることができる。1次再結晶工程過程で浸窒によって窒素量が増加することがあり、この場合、2次再結晶焼鈍過程で再び除去されるので、スラブおよび最終方向性電磁鋼板基材10内の窒素量が同一であり得る。
【0043】
S:0.005重量%以下、
硫黄(S)含量が0.005重量%超過である場合には、熱間圧延スラブ加熱時、再固溶されて微細に析出するので1次再結晶粒の大きさを減少させて2次再結晶開始温度を低めて磁性を劣化させる。また、最終焼鈍工程の2次均熱区間で固溶状態のSを除去することに多くの時間がかかるので方向性電磁鋼板の生産性を低下させる。一方、S含量が0.005%以下で低い場合には冷間圧延前の初期結晶粒大きさが粗大になる効果があるので1次再結晶工程において変形バンドで核生成される{110}<001>方位を有する結晶粒の数が増加される。したがって、2次再結晶粒の大きさを減少させて最終製品の磁性を向上させるためにS含量は0.005重量%以下であることが好ましい。
【0044】
残りはFeおよび不可避不純物を含む。不可避不純物とは製鋼および方向性電磁鋼板製造工程で不可避的に添加される元素であり、これは広く知られているので、不可避な説明は省略する。
【0045】
本発明の一実施形態で前述の合金成分以外に元素の追加を排除するのではなく、本発明の技術思想を損なわない範囲内で多様に含まれてもよい。追加元素をさらに含む場合、残部のFeを代替して含む。
【0046】
図1に示すように、電磁鋼板基材10内に亜結晶粒11が存在する。
亜結晶粒11は結晶方位が{110}<001>から1°~15°角度を成す点から、亜結晶粒を除いた残りのゴス結晶粒と区分される。具体的に、ゴス結晶粒は結晶方位が{110}<001>から1°未満である。結晶方位はミラー指数(Miller index)によって表示される。
【0047】
本発明の一実施形態で、亜結晶粒11は気孔31下部に位置する。具体的に、気孔中心からRD方向に1500μm以内領域(A)および前記電磁鋼板基材表面から電磁鋼板基材内部方向に50~100μm領域(B)に亜結晶粒11が存在する。図1にA領域およびB領域と定義される位置を点線四角形で表わした。具体的に、亜結晶粒11の全ての領域がA領域およびB領域と定義される位置に含まれてもよい。本発明の一実施形態で、前述の領域にのみ亜結晶粒11が存在し、残り部分には亜結晶粒11が存在しない。
【0048】
本発明の一実施形態で、このような亜結晶粒11を抑制することによって磁性を向上させることができる。具体的に、ND断面での亜結晶粒の面積分率が5%以下であってもよい。亜結晶粒11の面積分率が過度に大きければ、これによって磁性が劣化するようになる。さらに具体的に、ND断面での亜結晶粒の面積分率が0.1~5%であってもよい。さらに具体的に、1~3%であってもよい。ND断面とは、ND方向と垂直な面を意味する。
【0049】
亜結晶粒11の粒径は1~500nmであって、粒径でも残りゴス結晶粒と区分が可能である。具体的に、亜結晶粒を除いたゴス結晶粒の平均粒径は5~100mmであってもよい。この時、結晶粒ND断面での粒径である。さらに具体的に、亜結晶粒11の粒径は10~250nmであり、亜結晶粒を除いたゴス結晶粒の平均粒径は10~50mmであってもよい。
【0050】
ND面でのゴス結晶粒の平均粒径(L)に対する亜結晶粒の平均粒径(L)の比率(L/L)が0.20以下であってもよい。さらに具体的に、0.10以下であってもよい。
【0051】
本発明の一実施形態で、粒径は当該面積と同一な面積を有する仮想の円の直径を意味する。本発明の一実施形態で、電磁鋼板基材10は、RD方向残留応力が1~50MPaであってもよい。このような範囲の残留応力が存在する理由は、電磁鋼板基材10上部に存在するベースコーティング層20と絶縁コーティング層30のためである。前述の範囲の残留応力が存在することによって、素地鉄に被膜張力を付与して磁性が向上する。具体的に、電磁鋼板基材10は、RD方向残留応力が16.0~30.0MPaであってもよい。電磁鋼板基材10の残留応力は、後述の微細粒界面層12、ベースコーティング層20および絶縁コーティング層30との残留応力の合計を0にする値として求めることができる。
【0052】
【数1】
【0053】
:各層の厚さ
σ:各層の残留応力
i:ベースコーティング層/微細粒界面層/基地鋼板
【0054】
図1に示すように、電磁鋼板基材10表面から電磁鋼板基材内部方向に微細粒界面層12が存在していてもよい。この微細粒界面層12は、平均結晶粒径が0.1~5μmであってもよい。微細粒界面層12は、表面エネルギー不均一による影響が原因で形成される。
微細粒界面層12の厚さは0.1~5μmであってもよい。微細粒結晶層12が過度に厚ければ、磁性を劣化させてその厚さを薄くすることが有利である。さらに具体的に、微細粒界面層12の厚さは0.5~3μmであってもよい。
【0055】
微細粒界面層12は、RD方向残留応力が-10~-1000MPaであってもよい。この時、負の符号は、微細粒界面層12が電磁鋼板基材10に付与する応力を意味する。さらに具体的に、微細粒界面層12は、RD方向残留応力が-100~-500MPaであってもよい。さらに具体的に、微細粒界面層12は、RD方向残留応力が-400~-500MPaであってもよい。
【0056】
図1に示すように、本発明の一実施形態による方向性電磁鋼板100は電磁鋼板基材10および絶縁コーティング層30の間に位置するベースコーティング層20をさらに含むことができる。
ベースコーティング層20は、1次再結晶過程で形成された酸化層が焼鈍分離剤内の成分と反応してコーティング層を成す。ベースコーティング層20は、絶縁コーティング層30と電磁鋼板基材10間の密着性を向上させ、また、絶縁コーティング層30と共に方向性電磁鋼板100に絶縁性を付与する。
【0057】
ベースコーティング層20成分に対して特に制限されるのではないが、焼鈍分離剤成分にMgOが含まれている場合、フォルステライト(MgSiO)を含むことができる。ベースコーティング層20は必要によって省略できる。即ち、電磁鋼板基材10と絶縁コーティング層30が直接当接していてもよい。
ベースコーティング層20の厚さは0.1~15μmであってもよい。ベースコーティング層20の厚さが過度に薄ければ、前述の絶縁の役割および絶縁コーティング層30との密着性向上の役割を十分に行うことができない。ベースコーティング層20が過度に厚ければ、占積率が低まり、また絶縁コーティング層30との密着性が低下することがある。さらに具体的に、ベースコーティング層20の厚さは0.5~3μmであってもよい。ベースコーティング層20のRD方向残留応力が-50~-1500MPaであってもよい。さらに具体的に、-500~-1000MPaであってもよい。さらに具体的に、-760~-1000MPaであってもよい。
【0058】
図1に示すように、絶縁コーティング層30は電磁鋼板基材10上に位置する。電磁鋼板基材10上にベースコーティング層20が位置する場合、ベースコーティング層20上に絶縁コーティング層30が位置する。絶縁コーティング層30は、方向性電磁鋼板100に絶縁性を付与し、同時に電磁鋼板基材10に張力を付与して鉄損を向上させる役割を果たす。
絶縁コーティング層30は、電磁鋼板100表面に絶縁性を付与することができる物質を使用することができる。具体的に、リン酸塩(HPO)を含むことができる。
【0059】
絶縁コーティング層30は、溶媒を含む絶縁コーティング層形成組成物を鋼板上に塗布した後、熱処理する方式で形成する。この時、溶媒が高温で揮発しながら絶縁コーティング層30内には不可避的に気孔31が一部形成される。気孔31は当該部分に何も存在しない状態即ち、空の空間を意味する。
粒径10nm以上の気孔はRD方向に1mm当り1~300個存在していてもよい。さらに具体的に、1mm当り1~30個存在していてもよい。この時、気孔の粒径はND面、またはTD面基準で測定することができる。気孔の個数はTD面を基準にして測定することができる。
【0060】
粒径10nm以上の気孔1個当り1~30個の亜結晶粒が存在する。前述のように、気孔31下部の領域(A、B)に亜結晶粒11が存在しなくてもよく、2つ以上の亜結晶粒11が存在することも可能である。しかし、気孔31下部の領域(A、B)以外に亜結晶粒11は存在しなくてもよい。
絶縁コーティング層30の厚さは0.1~15μmであってもよい。絶縁コーティング層30の厚さが過度に薄ければ、前述の絶縁の役割を十分に果たすことができない。絶縁コーティング層30が過度に厚ければ、占積率が低まり、また鋼板基材10との密着性が低下することがある。さらに具体的に、絶縁コーティング層30の厚さは1.0~5.0μmであってもよい。
【0061】
絶縁コーティング層30のRD方向残留応力が-10~-1000MPaであってもよい。さらに具体的に、-70~-500MPaであってもよい。
本発明の一実施形態による方向性電磁鋼板の製造方法は、方向性電磁鋼板を製造する段階;方向性電磁鋼板上に絶縁コーティング層形成組成物を塗布する段階;および方向性電磁鋼板を熱処理して方向性電磁鋼板上に絶縁コーティング層形成組成物を形成する段階を含む。
【0062】
以下、各段階別に具体的に説明する。
まず、方向性電磁鋼板を製造する。この時、方向性電磁鋼板はベースコーティング層20が形成されるかまたは形成されず、電磁鋼板基材10のみが存在する方向性電磁鋼板を使用することができる。
【0063】
ベースコーティング層20が形成されていない方向性電磁鋼板は多様な方法で製造でき、例えば、焼鈍分離剤成分を調節するか、またはベースコーティング層20を形成した後、これを物理的または化学的方法で除去する方法を使用することができる。
【0064】
本発明の一実施形態では絶縁コーティング層を形成する段階で鋼板に付与される張力を調節することに技術的特徴があり、方向性電磁鋼板の製造方法は既に知られた多様な方法を使用することができる。
【0065】
以下、絶縁コーティング層を形成する前の方向性電磁鋼板の製造方法の一例を説明する。
方向性電磁鋼板の製造方法は、スラブを熱間圧延して熱延板を製造する段階;熱延板を冷間圧延して冷延板を製造する段階;冷延板を1次再結晶焼鈍する段階;および1次再結晶焼鈍が完了した冷延板を2次再結晶焼鈍する段階をさらに含むことができる。
【0066】
スラブは、Si:2.0~7.0重量%、Sn:0.01~0.10重量%、Sb:0.01~0.07重量%、Al:0.020~0.040重量%、Mn:0.01~0.20重量%、C:0.04~0.07重量%、N:10~50重量ppm、S:0.001~0.005重量%、残りFeおよびその他の不可避不純物を含むことができる。
まず、スラブを熱間圧延して熱延板を製造する。
【0067】
以下では、スラブ合金成分についてはCの含量を除いては電磁鋼板基材10の合金成分と同一なので、重複する説明は省略する。
【0068】
熱延板を製造する段階以前にスラブを1230℃以下に加熱する段階をさらに含むことができる。この段階を通じて析出物を部分溶体化することができる。また、スラブの柱状晶組織が粗大に成長することが防止されて後続熱間圧延工程で板の幅方向にクラックが発生することを防止することができて実収率が向上する。スラブ加熱温度が過度に高ければ、スラブの表面部溶融で加熱炉を補修し加熱炉寿命が短縮されることがある。さらに具体的に、1130~1200℃でスラブを加熱することができる。スラブを加熱せず、連続鋳造されるスラブをそのまま熱間圧延することも可能である。
熱延板を製造する段階で、熱間圧延によって厚さ1.8~2.3mmの熱延板を製造することができる。
【0069】
熱延板を製造した以後、熱延板を熱延板焼鈍する段階をさらに含むことができる。熱延板焼鈍する段階は、950~1,100℃温度まで加熱した後、850~1,000℃温度で均熱した後に冷却する過程によって行うことができる。
その次に、熱延板を冷間圧延して冷延板を製造する。
冷間圧延は、1回強冷間圧延を通じて行われるか、複数のパスを通じて行うことができる。圧延中1回以上200~300℃の温度で温間圧延を通じてパスエイジング効果を与え、最終厚さ0.14~0.25mmで製造できる。冷間圧延された冷延板は1次再結晶焼鈍過程で脱炭と変形された組織の再結晶および浸窒ガスを通じた浸窒処理を行うようになる。
【0070】
その次に、冷延板を1次再結晶焼鈍する。
1次再結晶焼鈍過程で脱炭または浸窒することができる。
1次再結晶焼鈍段階は、800~900℃の温度で行うことができる。温度が過度に低ければ、1次再結晶が行われないか、浸窒が円滑に行われないことがある。温度が過度に高ければ、1次再結晶が過度に大きく成長して、磁性を劣位になるようにする原因になることがある。
【0071】
脱炭のために酸化能(PHO/PH)が0.5~0.7である雰囲気で行うことができる。脱炭によって鋼板は炭素を0.005重量%以下、さらに具体的には0.003重量%以下に含むことができる。
【0072】
その次に、1次再結晶焼鈍が完了した冷延板に焼鈍分離剤を塗布し、2次再結晶焼鈍する。焼鈍分離剤としては、多様な分離剤を使用することができる。一例として、MgOを主成分とする焼鈍分離剤を塗布することができる。この時、2次再結晶焼鈍後、フォルステライトを含むベースコーティング層20が形成される。
【0073】
2次再結晶焼鈍の目的は大きく見れば、2次再結晶による{110}<001>集合組織形成、磁気特性を損なう不純物の除去にある。2次再結晶焼鈍の方法としては、2次再結晶が起こる前の昇温区間では窒素と水素の混合ガスとして維持して粒子成長抑制剤である窒化物を保護することによって2次再結晶がよく発達するようにし、2次再結晶完了後には100%水素雰囲気で長時間維持して不純物を除去するようにすることができる。
【0074】
2次再結晶焼鈍段階以後、平坦化焼鈍工程を含むことができる。
再び本発明の一実施形態による方向性電磁鋼板の製造工程に関する説明に戻れば、方向性電磁鋼板上に絶縁コーティング層形成組成物を塗布する。本発明の一実施形態で絶縁コーティング層形成組成物は多様に使用することができ、特別に制限されない。一例として、リン酸塩を含む絶縁コーティング層形成組成物を使用することができる。
【0075】
その次に、方向性電磁鋼板を熱処理して方向性電磁鋼板上に絶縁コーティング層を形成する。
この時、熱処理過程で溶媒が高温で揮発しながら絶縁コーティング層30内には不可避的に気孔31が一部形成される。この時、鋼板に付与される応力が気孔31下部に集中して亜結晶粒11が形成される。本発明の一実施形態では、絶縁コーティング層を形成する過程で鋼板に付与される張力を調節することによって、亜結晶粒11の形成を最大限抑制する。
【0076】
具体的に、絶縁コーティング層を形成する段階で鋼板に付与される張力が0.20~0.70kgf/mmである。
この時、鋼板に付与される張力が過度に小さければ、表面にスクラッチが発生して耐食性が劣位になって問題が発生することがある。鋼板に付与される張力が過度に大きければ、亜結晶粒11が多量形成されて、磁性に不利な影響を及ぼすことがある。さらに具体的に、0.20~0.50kgf/mmであってもよい。さらに具体的に、0.3~0.47kgf/mmであってもよい。この時、張力は、熱処理工程出側で測定した鋼板長さ方向への平均張力である。
【0077】
絶縁コーティング層を形成する段階で鋼板の長さ方向(RD方向)によって付与される張力が異なってもよい。本発明の一実施形態では鋼板全体長さに対して、張力の最大値(MA)と最小値(MI)の差を最小化して各層に適用される残留応力が適切に調節され、亜結晶粒11の形成を抑制することができる。
具体的に、鋼板全体長さに対して、張力の最大値(MA)と最小値(MI)が下記式2を満足する。
【0078】
[式2]
[MI]≧0.5×[MA]
式2を満足せず、鋼板の長さ方向(RD方向)によって張力の偏差が大きく存在する場合、局部的に不均一性が増加して残留応力が適切に調節されず、亜結晶粒11が多量形成される。
【0079】
従来の場合、平坦化焼鈍工程でラインスピード(Line Speed)の変化幅が大きいため鋼板の長さ方向(RD方向)によって張力の偏差が大きく存在して局部的に不均一性が増加する問題がある。詳しくは、平坦化焼鈍入側で先行コイルTail部と後行コイルTop部を接合するためにラインスピードを最少化してレーザ溶接を実施する。溶接が完了すると、最終製品の生産性向上のためにラインスピードを引き上げて高速で作業するため張力偏差が大きく存在する。
【0080】
より詳しくは、ラインスピード変化によってブライドルロール(Bridle Roll)とハースロール(Hearth Roll)の速度変化幅が大きくなるようになって、平坦化焼鈍時必然的に伴われる高温で鋼板の長さ方向(RD方向)によって張力偏差が大きく存在し、局部的な不均一性が増加して残留応力が適切に調節されないという問題点があるため、張力の最小値(MI)が0.5×[MA]未満であるしかなかった。
【0081】
張力の最大値(MA)と最小値(MI)の差を減らす方法は多様であるが、本発明の一実施形態では、例えば、ブライドルロール(Bridle Roll)制御とハースロール(Hearth Roll)の速度を制御する方法を使用することができる。詳しくは、ブライドルロール制御は、張力計(Tension Meter)値に追従してフィードバック張力(Feedback Tension)を制御する方法である。より詳しくは、張力の最大値と最小値の差を減らすためにブライドルロールの速度を制御する方法である。
【0082】
また詳しくは、ハースロール制御は、ブライドルロール速度追従フィードフォワード(Feedforward Tension)制御する方法である。より詳しくは、張力の最大値と最小値の差を減らすためにハースロールの速度が高まるにつれて張力を低める制御する方法で調節することができる。本発明の一実施形態で、平坦化焼鈍工程でラインスピードが変動しても張力を特定範囲で調節しながら同時に最大値(MA)と最小値(MI)の差を減らすことができる。
【0083】
絶縁コーティング層を形成する段階で、熱処理温度は550~1100℃であってもよい。前述の温度で気孔31が少なく発生し、絶縁コーティング層30の残留応力が適切に付与できる。以下、本発明の好ましい実施例および比較例を記載する。しかし、下記実施例は本発明の好ましい一実施形態に過ぎず、本発明が下記実施例に限定されるのではない。
【実施例
【0084】
Si:3.4重量%、Sn:0.05重量%、Sb:0.02重量%、Al:0.02重量%、Mn:0.10重量%、C:0.05重量%、N:0.002重量%、およびS:0.001重量%含み、残り成分は残部Feとその他の可避的に含まれている不純物を含有する鋼材を真空溶解した後にインゴットを作り、その次に1150℃温度で210分加熱した後に熱間圧延して2.0mm厚さの熱延板を製造した。酸洗した後、0.220mm厚さに冷間圧延した。
冷間圧延された板は約800~900℃の温度で50v%水素および50v%窒素の湿潤雰囲気とアンモニア混合ガス雰囲気中で維持して、炭素含量が30ppm以下、総窒素含量が130ppm以上増加されるように脱炭、窒化焼鈍熱処理した。
【0085】
この鋼板に焼鈍分離剤であるMgOを塗布してコイル状に最終焼鈍した。最終焼鈍は1200℃までは25v%窒素および75v%水素の混合雰囲気中で行い、1200℃到達後には100%水素雰囲気で10時間以上維持した後に炉冷した。
【0086】
この鋼板にリン酸塩およびシリカを含む絶縁コーティング層形成組成物を塗布し、約820℃温度で2時間熱処理して絶縁コーティング層を形成した。
絶縁コーティング層形成時、出側平均張力を下記表1のように調節した。
製造された方向性電磁鋼板の気孔、亜結晶粒、その他の結晶粒特性を表1に整理し、界面層、ベースコーティング層および絶縁コーティング層の特性および鉄損を表2に整理した。
【0087】
亜結晶粒の位置は全て気孔下部の特定領域にのみ存在することを確認した。
気孔個数は10nm以上粒径の気孔のみ測定した。
亜結晶粒分率は、単位面積当り体積に対して電子後方散乱回折(EBSD)方式で測定した。
【0088】
鉄損および磁束密度は、絶縁コーティング層形成直後および応力除去焼鈍を仮定した820℃温度で2時間熱処理した以後鉄損(W17/50)および磁束密度(B8)を測定した。Single sheet測定法を用いて1.7Tesla、50Hz条件で鉄損を測定した。また、800A/mの磁場で誘導される磁束密度を測定した。
絶縁コーティング層の残留応力は、3D曲率測定装備(ATOS core 45)を用いて測定した。一側の側面の絶縁コーティング層のみを除去し、鋼板の曲がる量を測定する方式で測定した。
【0089】
絶縁性は、ASTM A717国際規格によってFranklin測定器を活用してコーティング上部を測定した。
【0090】
耐食性は、JIS Z2371国際規格によって35℃、5% NaCL、8時間条件で表面に生成されたさび発生面積を示す。下記図式は、曲率半径を用いた被膜張力計算法である(参考文献:M. Bielawski et all., Surf. & Coat. Techno., 200(2006)2987)。3Dスキャナー専用ソフトウェアを用いて測定されたイメージから被膜張力を計算することができる。リン酸塩コーティング層除去前(R2)と除去後(R1)試片に対するR値を測定することができる。
【数2】
1. σ:皮膜張力
2. E: 基地層ヤング率(電気鋼板:176900Mpa)
3. U: 基地層ポアソン比 (電気鋼板:0.3)
4. t: 皮膜厚さ(mm)
5. t: 基地試片厚さ(mm)
6. R: 皮膜コーティング後基地層曲率半径(mm)
7. R: 皮膜コーティング前基地層曲率半径(mm)
【0091】
ベースコーティング層および微細粒界面層の残留応力は、放射光XRD装備を用いて測定した。X線残留応力測定方法は、結晶粒の格子面間距離を変形率ゲ-ジとして用いる方法である。試料が応力状態にあると、応力方向と結晶面の相対角度によって格子面間距離に変化が発生する。引張方向に平行な格子面、即ち、ψ=0°である格子面間距離はポアソン効果で応力がzeroである時より小さく、引張方向に傾いたψ角度を有する格子面間距離は応力がzero時より大きいと言える。X線残留応力は、Tilting角度Ψによるpeak shiftを測定する。したがって、X線残留応力計算はsin2Ψ法に従い、下記の数式2のように表現することができる。
【0092】
【数3】
【0093】
ψ: 格子面方向がψ方向に置かれた格子面のd-spacing
: 格子面方向が試料表面に垂直な方向に置かれた格子面のd-spacing
: Stress-free格子面のd-spacing
【0094】
【表1】
【0095】
【表2】
【0096】
【表3】
【0097】
表1~表3に示されるように、絶縁コーティング層形成過程で張力を適切に制御した場合、亜結晶粒が抑制され、微細粒界面層、ベースコーティング層および絶縁コーティング層の残留応力が増加し、磁性、絶縁性および耐食性が向上するのを確認することができる。反面、絶縁コーティング層形成過程で張力を適切に制御できなかった場合、亜結晶粒が多量形成され、磁性、絶縁性または耐食性が劣位になるのを確認することができる。
【0098】
本発明は前記実施例に限定されるわけではなく、互いに異なる多様な形態に製造でき、本発明の属する技術分野における通常の知識を有する者は本発明の技術的な思想や必須の特徴を変更せずに他の具体的な形態に実施できるというのを理解することができるはずである。したがって、以上で記述した実施例は全ての面で例示的なものであり限定的ではないと理解しなければならない。
【符号の説明】
【0099】
100:方向性電磁鋼板
10:電磁鋼板基材
11:亜結晶粒
12:微細粒界面層、
20:ベースコーティング層
30:絶縁コーティング層、
31:気孔
図1
図2
図3
図4
【手続補正書】
【提出日】2023-08-18
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
Si:2.0~7.0重量%、およびSb:0.01~0.07重量%含み、残部がFeおよびその他不可避不純物からなる電磁鋼板基材、及び
前記電磁鋼板基材上に位置する絶縁コーティング層を含み、
前記絶縁コーティング層は粒径10nm以上の気孔を含み、
前記電磁鋼板基材は、前記気孔中心からRD方向に1500μm以内領域(A)および前記電磁鋼板基材表面から前記電磁鋼板基材内部方向に50~100μm領域(B)に亜結晶粒が存在し、
前記亜結晶粒は結晶方位が{110}<001>から1°~15°角度を成し、
ND断面での前記亜結晶粒の面積分率が5%以下であることを特徴とする方向性電磁鋼板。
【請求項2】
前記亜結晶粒は、ND方向の結晶粒長さ(z)に対するTD方向の結晶粒長さ(y)の比率(y/z)が1.5以下であることを特徴とする請求項1に記載の方向性電磁鋼板。
【請求項3】
前記電磁鋼板基材表面から前記電磁鋼板基材内部方向に50~100μm領域(B)に結晶方位が{110}<001>から1°未満であるゴス結晶粒を含み、
ND断面での前記ゴス結晶粒の平均粒径(L)に対する亜結晶粒の平均粒径(L)の比率(L/L)が0.20以下であることを特徴とする請求項1又は2に記載の方向性電磁鋼板。
【請求項4】
前記電磁鋼板表面から前記電磁鋼板基材内部方向に微細粒界面層が存在し、
微細粒界面層は平均結晶粒径が0.1~5μmであることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載の方向性電磁鋼板。
【請求項5】
前記微細粒界面層は、RD方向残留応力が-10~-1000MPaであることを特徴とする請求項4に記載の方向性電磁鋼板。
【請求項6】
前記微細粒界面層の厚さは、0.1~5μmであることを特徴とする請求項4又は5に記載の方向性電磁鋼板。
【請求項7】
前記電磁鋼板基材および前記絶縁コーティング層の間にベースコーティング層をさらに含むことを特徴とする請求項1乃至6のいずれか一項に記載の方向性電磁鋼板。
【請求項8】
前記ベースコーティング層のRD方向残留応力が-50~-1500MPaであることを特徴とする請求項7に記載の方向性電磁鋼板。
【請求項9】
前記ベースコーティング層の厚さは、0.1~15μmであることを特徴とする請求項7又は8に記載の方向性電磁鋼板。
【請求項10】
前記絶縁コーティング層のRD方向残留応力が-10~-1000MPaであることを特徴とする請求項1乃至9のいずれか一項に記載の方向性電磁鋼板。
【請求項11】
前記絶縁コーティング層の厚さは、0.1~15μmであることを特徴とする請求項1乃至10のいずれか一項に記載の方向性電磁鋼板。
【請求項12】
前記電磁鋼板基材は、RD方向残留応力が1~50MPaであることを特徴とする請求項1乃至11のいずれか一項に記載の方向性電磁鋼板。

【国際調査報告】