(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-01-30
(54)【発明の名称】表面複製のためのオキシアニオンテンプレート
(51)【国際特許分類】
C23C 16/455 20060101AFI20240123BHJP
C01B 32/15 20170101ALI20240123BHJP
B82Y 40/00 20110101ALI20240123BHJP
B82Y 30/00 20110101ALI20240123BHJP
【FI】
C23C16/455
C01B32/15
B82Y40/00
B82Y30/00
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023537669
(86)(22)【出願日】2021-12-21
(85)【翻訳文提出日】2023-06-20
(86)【国際出願番号】 US2021064551
(87)【国際公開番号】W WO2022140348
(87)【国際公開日】2022-06-30
(32)【優先日】2020-12-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522486807
【氏名又は名称】ディッキンソン コーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】100114775
【氏名又は名称】高岡 亮一
(74)【代理人】
【識別番号】100121511
【氏名又は名称】小田 直
(74)【代理人】
【識別番号】100202751
【氏名又は名称】岩堀 明代
(74)【代理人】
【識別番号】100208580
【氏名又は名称】三好 玲奈
(74)【代理人】
【識別番号】100191086
【氏名又は名称】高橋 香元
(72)【発明者】
【氏名】ビショップ,マシュー
(72)【発明者】
【氏名】ブリル,デイビッド,アンドリュー
(72)【発明者】
【氏名】トーマス,アバイ,ブイ.
【テーマコード(参考)】
4G146
4K030
【Fターム(参考)】
4G146AA01
4G146AB10
4G146BA12
4G146BA42
4G146BC09
4G146BC23
4G146BC33B
4G146CA16
4G146CB29
4G146CB32
4K030AA09
4K030AA16
4K030BA27
4K030CA05
4K030CA18
4K030DA02
4K030EA03
4K030FA10
4K030HA01
4K030JA05
4K030JA10
4K030JA11
(57)【要約】
オキシアニオンテンプレートの周囲に外包鉱物を化学蒸着し、その後、前記オキシアニオンテンプレートを水またはオキシアニオンを含む弱酸水溶液に溶解させることにより、外包鉱物フレームワークを合成する方法。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ナノ構造化材料を製造する方法であって、前記方法は、
化学蒸気を基材の表面上に流すことであって、前記基材はオキシアニオンを含み、前記基材の表面は1つ以上の反応部位を含む、前記化学蒸気を流すことと、
前記化学蒸気を前記1つ以上の反応部位で前記基材と反応させ、吸着物を堆積させることと、
前記化学蒸気を前記吸着物と反応させ、前記吸着物を成長させることであって、前記成長した吸着物は前記基材表面に適合したナノ構造体を形成する、前記化学蒸気を反応させることと、を含む、前記方法。
【請求項2】
前記基材はテンプレートを含み、前記テンプレートはテンプレート表面とテンプレートバルクを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記化学蒸気を400℃と1,000℃の間の温度に加熱することを更に含む、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記テンプレートは、最大径1cmのオキシアニオンテンプレート粒子を含む、請求項2に記載の方法。
【請求項5】
前記オキシアニオンテンプレートは、ホウ酸塩、臭素酸塩、過臭素酸塩、亜臭素酸塩、次亜臭素酸塩、塩素酸塩、過塩素酸塩、亜塩素酸塩、次亜塩素酸塩、水酸化物、過ヨウ素酸塩、ヨウ素酸塩、亜ヨウ素酸塩、炭酸塩、重炭酸塩、硝酸塩、亜硝酸塩、リン酸塩、重リン酸塩、亜リン酸塩、硫酸塩、チオ硫酸塩、硫酸水素塩、亜硫酸塩、亜硫酸水素塩、クロム酸塩、亜クロム酸塩、二クロム酸塩、ヨウ素酸塩、亜ヨウ素酸塩、マンガン酸塩、過マンガン酸塩、亜マンガン酸塩、ヒ酸塩、亜ヒ酸塩、鉄酸塩、ケイ酸塩、アルミン酸塩、アルミノケイ酸塩、セレン酸塩、亜セレン酸塩、タングステン酸塩、バナジウム酸塩、テルル酸塩、亜テルル酸塩、チタン酸塩、モリブデン酸塩、酢酸塩、クエン酸塩、安息香酸、シュウ酸塩、酒石酸塩及びグルコン酸塩のうちの少なくとも1つを含む、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記オキシアニオンテンプレートは、I族またはII族の金属カチオンを含む、本明細書のいずれかの請求項に記載の方法。
【請求項7】
前記オキシアニオンテンプレートのテンプレート表面は酸素アニオンを含む、請求項4に記載の方法。
【請求項8】
前記オキシアニオンテンプレートは、融点が400℃と800℃の間及び融点が800℃と1200℃の間のうちの少なくとも一方を含む、請求項4に記載の方法。
【請求項9】
前記オキシアニオンテンプレートは、オキシアニオンテンプレート前駆体に由来する、請求項4に記載の方法。
【請求項10】
前記オキシアニオンテンプレートは多孔質構造を含む、請求項4に記載の方法。
【請求項11】
前記オキシアニオンテンプレートは水溶性である、請求項4に記載の方法。
【請求項12】
前記オキシアニオンテンプレートは、水と反応すると可溶性化合物を形成する、請求項4に記載の方法。
【請求項13】
前記吸着物は、フリーラジカル凝縮体を含む、請求項4に記載の方法。
【請求項14】
前記化学蒸気は、フリーラジカル、水素、炭化水素及びハイドロボロンのうちの少なくとも1つを含む、請求項4に記載の方法。
【請求項15】
前記ナノ構造化材料は外包鉱物を含み、前記外包鉱物は前記テンプレートを実質的に取り囲み、前記テンプレートは内包鉱物固体を含む、請求項4に記載の方法。
【請求項16】
前記外包鉱物は、前記テンプレート化表面のサイズ、形状、トポグラフィー及びトポロジーのうちの少なくとも1つを複製する、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記外包鉱物は合成無煙炭ネットワークを含む、請求項15に記載の方法。
【請求項18】
前記合成無煙炭ネットワークは炭素を含む、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記炭素は、sp
xネットワーク、螺旋体状ネットワーク、x炭素、z炭素、格子設計炭素、無秩序炭素のうち少なくとも1つを含む、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記内包鉱物固体を液体抽出剤に曝露して、
溶解によって前記取り囲む外包鉱物から前記内包鉱物固体を抽出し、
前記内包鉱物固体の抽出によって前記外包鉱物内に孔を形成することを更に含み、前記外包鉱物及び前記孔は外包鉱物フレームワークを含む、請求項15に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願
本出願は2020年12月22日に出願された米国仮特許出願第63/129,154号に対する優先権を主張し、その全開示は参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
以下の出願:国際PCT出願/米国第21/53316号(’53316出願)、同第21/49195号(’49195出願)、米国仮特許出願第63/075,918号(’918出願)、同第63/086,760号(’760出願)、同第63/121,308号(’308出願)、米国特許出願第16/758,580号(’580出願)、同第16/493,473号(’473出願)、国際PCT出願/米国第17/17537号(’17537出願)、国際PCT出願/米国第21/37435(’37435出願)、米国仮特許出願第63/129,154号(’154出願)及び米国特許第10,717,843(B2)号(’843B2特許)は、あらゆる目的のためにその全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0003】
以下の開示は、表面複製による外包鉱物材料の合成に用いられる新規のテンプレートに関する。テンプレートは、特定の分子吸着物の分解を触媒し得る反応性表面部位を保有し、また、表面複製手順でしばしば利用される耐火性金属酸化物よりも溶解性の高いバルク相を保有する。
【背景技術】
【0004】
最近、本出願人は、’53316出願において、プロセス材料とプロセス液を保存する方法で「表面複製」手順を実行できることを示した。特に、化学蒸着(「CVD」)を用いて、テンプレート表面-すなわち、テンプレート構造の表面-の周囲に「外包鉱物」材料を吸着させる方法について説明した。外包鉱物材料の形成後、内包鉱物テンプレート構造は、溶解によって抽出され、無溶媒沈殿によって再構成され得る。
【0005】
耐火性酸化物は、化学蒸着中に外包鉱物相の核形成を触媒し得る表面欠陥であり、’53316出願におけるテンプレート材料の重要なクラスである。耐火性酸化物は、高温CVDにおいて優れた熱安定性を有している。このような利点があるにもかかわらず、多くの耐火性酸化物は不溶性または最小限の溶解性であるため、内包鉱物抽出及びテンプレートの再利用が難しくなり得る。
【0006】
CVD手順用テンプレートとしてより溶解度の高いものが求められており、先行技術ではNaClテンプレートを利用することで対応してきた。しかし、酸化物テンプレートとは異なり、NaClテンプレートは、テンプレート表面が少なくとも部分的に溶融していなければ-角または縁で局所的にしか溶融していない場合-外包鉱物相のCVD核生成は触媒されていないように見える。このような溶融部位での核生成には、非弾性衝突や反応性ガス分子の解離が関与していると理論的に考えられている。外包鉱物材料を合成した後、内包鉱物であるNaClテンプレートを水に溶解させて抽出することができる。NaClテンプレートは、金属酸化物よりもテンプレートの溶解度が高いが、溶融したテンプレートは規模の拡大で問題がある可能性がある。例えば、表面が部分的に溶融したNaClテンプレート粒子は腐食性が高く、互いに凝集することが予想される。
【0007】
したがって、’53316出願で示されたテンプレート材料のライブラリには、より高い溶解度及びより容易な拡張性を提供する特定のオキシアニオン含有固体状態塩も含まれている。例えば、エプソマイト(MgSO4・7H2O)テンプレート前駆体材料を用いて塩基性硫酸マグネシウム(MgSO4)テンプレート材料を形成し、次にこれを用いてテンプレート指向性CVD手順で外包鉱物炭素材料を核生成させ成長させた。次いで、水中への溶解によって内包鉱物テンプレートを抽出した。
【発明の概要】
【0008】
’37435出願及び’53316出願では、本出願人は、フリーラジカル凝縮体(free radical condensate、「FRC」)と呼ばれる核生成と成長を伴う特定のタイプのテンプレート指向性化学蒸着について検討した。このFRCから、様々な化学組成との合成「無煙炭ネットワーク」(構造的な転位を介して架橋する無煙炭に似ていることから名付けられた)をテンプレート表面周囲に形成し、その形態を指向することができる。FRCの核形成が可能であれば、低CVD温度で、無煙炭ネットワークのテンプレート指向性FRC成長及び合成を行うことができる。
【0009】
本開示では、本出願人は、外包鉱物材料の合成に利用できる新しいオキシアニオン含有テンプレート材料の拡張ライブラリを示し-特に合成無煙炭ネットワークを含む外包鉱物材料の合成に利用できることを示す。これらのテンプレート材料のいくつかは、耐火性金属酸化物よりも熱的安定性が低い可能性があるが、FRCの核生成と成長が実用的な動力学で起こるテンプレート指向性CVD手順で使用するには十分に安定である。
【0010】
この新しいテンプレート材料のライブラリは、CVDによって外包鉱物材料の核生成と成長を触媒することが示されている。また、それは、塩、特にオキシアニオン含有塩を含み、多くの耐火性酸化物よりも容易に溶解することができる。このため、これらのテンプレート材料は、テンプレート材料とプロセス液が保存される、’53316出願に記載されているような表面複製手順にとって有益である可能性が高い。
【0011】
本明細書で提示するオキシアニオン含有テンプレートは、テンプレートの新規なカテゴリーの例示的な実例を示す。本発明から逸脱することなく、他の多くの変形例が合成され得ることが予想される。同様に、本明細書に提示した外包鉱物材料は、これらのテンプレート上で合成することができる外包鉱物材料の例示的なバージョンを表している。’53316出願で実証されたような他の外包鉱物材料も、本発明から逸脱することなく、これらのテンプレート上で合成することができる。
【0012】
追加の利点及び用途は、以下の詳細な説明から当業者に容易に明らかになるであろう。本明細書の実施例及び説明は、本質的に例示であり、制限的なものではないとみなされる。
【0013】
例示的な実施形態を、添付の図を参照して説明する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】テンプレート表面での欠陥触媒化核生成から始まり、その後、テンプレート表面でのコンフォーマルな成長が続く、表面複製のプロセスを表す図である。
【
図2】K
2SO
4オキシアニオンテンプレート前駆体粉末のSEM画像である。
【
図3】オキシアニオンテンプレート上に外包鉱物炭素を成長させることによって作成された外包鉱物複合体構造のSEM画像である。
【
図4】グラフェン炭素を含むくしゃくしゃの外包鉱物フレームワークのSEM画像である。
【
図5】MgSO
4・7H
2Oテンプレート前駆体結晶の光学顕微鏡写真である。
【
図6】オキシアニオンテンプレート上に外包鉱物炭素を成長させることによって作成された外包鉱物複合体構造のSEM画像である。
【
図7】多孔質オキシアニオンテンプレート上で合成された炭素外包鉱物フレームワークのSEM画像である。
【
図8】実験1~実験5で生成された炭素外包鉱物フレームワークの平均ラマンスペクトルである。
【
図9】実験3で生成された炭素外包鉱物フレームワークの未平滑化及び平滑化平均ラマンスペクトルである。
【
図10】実験3で合成された外包鉱物複合体構造のSEM画像である。
【
図11】Li
2CO
3テンプレート上での成長によって生成されたバッキーペーパー及びシート状のくしゃくしゃの外包鉱物断片のSEM画像である。
【
図12】Li
2CO
3テンプレート上での成長によって生成されたシート状のくしゃくしゃの外包鉱物断片のTEM画像である。外包鉱物壁内の個々のグラフェン格子がトレースされている。
【発明を実施するための形態】
【0015】
用語と概念
本明細書で定義する「テンプレート」は、その中または上に形成された別の材料に所望の形態を付与する、潜在的に犠牲的な構造体である。表面複製技術に関連するのは、凸に複製されるテンプレートの表面(すなわち「テンプレート表面」)、及び凹に複製されるバルク相(すなわち「テンプレートバルク」)である。テンプレートはまた、外包鉱物材料の形成を触媒するなど他の役割を果たすこともある。「テンプレート化」構造とは、テンプレートのいくつかの特徴を複製したものである。
【0016】
「外包鉱物」または「外包鉱物性」材料は、実質的に固体状態もしくは「ハード」テンプレート材料の中または上に形成される材料である。
【0017】
本明細書で定義する「表面複製」は、テンプレートの表面を使用して、吸着材料の薄い外包鉱物壁の形成を導くテンプレート技法を含み、その壁は、それが形成されるテンプレート化表面を実質的に封入しかつ複製する。その後、移動されると、外包鉱物壁内の多孔内空間によって凹にテンプレートバルクが複製される。表面複製は、テンプレート化された細孔と壁の構造を持つ外包鉱物フレームワークを作成する。
【0018】
本明細書で定義する「外包鉱物フレームワーク」(または「フレームワーク」)は、表面複製中に形成されるナノ構造化外包鉱物のことである。外包鉱物フレームワークは、厚さは1nm未満から100nmの範囲であり得るが、好ましくは0.6nmと5nmの間であるナノ構造化「外包鉱物壁」(または「壁」)を含む。テンプレート表面を実質的に封入して複製する限りは、外包鉱物壁は「正角」として表すことができる。外包鉱物フレームワークは、非多孔質テンプレート上に形成される単純な中空構造から、多孔質テンプレート上に形成される複雑な構造まで多様な構造を有する。それらはまた、異なる化学組成物を含み得る。典型的なフレームワークは炭素から構築され得、「炭素外包鉱物フレームワーク」と呼ばれ得る。
【0019】
本明細書で定義される「内包鉱物」は、実質的に封入された外包鉱物相内に存在するようなテンプレートを含む。したがって、周囲に外包鉱物相が形成された後、テンプレートは内包鉱物、または「内包鉱物性」として表され得る。
【0020】
本明細書で定義する「外包鉱物複合体」または「PC材料」は、内包鉱物及び外包鉱物を含む複合構造体である。PC材料は、x@yと表記することができる。ここで、xは外包鉱物元素または化合物、yは内包鉱物元素または化合物である。例えば、MgO内包鉱物の炭素外包鉱物を含むPC構造は、C@MgOと表記され得る。
【0021】
「多孔質」という用語は、本明細書では、外包鉱物フレームワークに関連する細孔と壁の形態を説明するために使用される。「多孔」または「多孔質サブユニット」は、特定の多孔内細孔及び細孔周囲の外包鉱物壁の領域を含む。
【0022】
「多孔内」という用語は、本明細書では、外包鉱物複合体から内包鉱物への変位によって形成される外包鉱物フレームワーク内の凹な空間を記述するために使用される。それが由来する内包鉱物と同様に、多孔内空間は外包鉱物壁によって実質的に封入される。
【0023】
「多孔外」という用語は、本明細書では、外包鉱物複合体の細孔空間から継承され外包鉱物フレームワーク内の凹な空間を記述するために使用され、それは同様に多孔質テンプレートの細孔空間から継承されたものである。「exo-」接頭辞にもかかわらず、多孔外空間は実質的に外包鉱物フレームワーク内に位置している可能性があることに注意されたい。
【0024】
外包鉱物フレームワークの多孔内空間と多孔外空間は、外包鉱物壁によって実質的に分離されている。ただし、完全に封入された内包鉱物は変位できなかったため、テンプレート複合体から内包鉱物を移動する機能は、壁がどこか開いているか、または不完全な障壁であることを意味する。したがって、本明細書では、外包鉱物がテンプレート表面を実質的に封入するものとして説明されているが、それにもかかわらず、封入は不完全であるか、または破損する可能性がある。
【0025】
「天然」という用語は、本明細書では、外包鉱物複合体における外包鉱物構造の形態学的状態を記述するために使用される。「天然」の特徴は、実質的にその本来の状態にある特徴を含み、構造を「本来の」何らかの特徴(例えば、本来の厚さ1nmの外包鉱物壁)を有するものと呼ぶことができる。外包鉱物複合体からの内包鉱物の変位の後、外包鉱物はその天然の特性を実質的に保持するか、または変化させるかのいずれかであり得る。
【0026】
「非天然」という用語は、本明細書では、天然の形態学的状態(すなわち、外包鉱物複合体の元の状態)から実質的に変更された外包鉱物構造の形態学的状態を記述するために使用される。この変更は、下部構造または上部構造のレベルで生じ得る。例えば、内部液体の蒸発乾燥中に、外包鉱物壁が液体によって内側に引っ張られ、内包鉱物空間の一部を崩壊させることがある。非天然な崩壊形態へのフレームワークの変形は、可逆的であり得る-つまり、フレームワークは、その天然の形態を実質的に回復できる可能性がある。
【0027】
本明細書で定義する場合、「テンプレート前駆体」または「前駆体」とは、分解、粒子成長及び焼結を含み得る何らかの処理によってテンプレートが誘導される材料である。テンプレートは、テンプレート前駆体との疑似形態的類似性を保持し得る。したがって、前駆体を設計することは、テンプレートを設計する方法を提供し得る。
【0028】
「上部構造」という用語は、本明細書では、多孔質テンプレートまたは外包鉱物フレームワークの全体的なサイズ及び形状として定義される。外包鉱物フレームワークの上部構造は、テンプレート前駆体の形態から継承され得る。フレームワークの全体的なサイズ及び形状は、他の粒子との相互作用の方法を含む、その特性に影響を及ぼすため、外包鉱物フレームワークの上部構造は重要である。
【0029】
「下部構造」という用語は、本明細書では、多孔質テンプレートまたは外包鉱物フレームワークの局在形態-すなわち、内部構造-として定義される。特定の多孔質テンプレートまたは外包鉱物フレームワークは、繰り返しの、結合した下部構造単位、または「サブユニット」を含む下部構造を有する。異なる下部構造は、互いに異なる形状、サイズ及び間隔のサブユニットによって特徴付けられ得る。
【0030】
本明細書で定義される「内包鉱物抽出」は、外包鉱物複合体から内包鉱物の一部を選択的に除去することを含む。内包鉱物抽出は、内包鉱物と周囲の外包鉱物から排出される溶媒和イオンを生成する抽出剤溶液との間の反応を含み、内包鉱物の同時変位、抽出剤溶液からの抽出剤の消費、及びストック溶液の生成をもたらす。一般に、内包鉱物の塊の実質的にすべての除去が望まれる。場合によっては、内包鉱物の塊の部分的な除去が所望され得るか、または内包鉱物の塊の部分的な除去のみが達成し得る。
【0031】
本明細書で定義される「内包鉱物分離」は、非外包鉱物保存プロセス材料からの内包鉱物抽出後の外包鉱物生成物の分離を含む。保存された非外包鉱物相は、プロセス液、ストック溶液及びストック溶液の沈殿物を含み得る。外包鉱物分離は、多くの異なる工業的分離技術(例えば、濾過、遠心分離、泡浮選、溶媒系分離など)を含むことができる。
【0032】
「一般的方法」は、’53316出願に記載されている方法の最も基本的な形式である。それは、テンプレート材料及び処理液の実質的な部分が保存され、再利用され得る外包鉱物生成物を合成する方法を含む。そのため、一般的方法は周期的に実行することができる。
【0033】
一般的方法は、説明を簡単にするために、本明細書で提示される一連の工程を4つの段階(すなわち、前駆体段階、テンプレート段階、複製段階及び分離段階)で含む。各段階は、以下で説明するように、1つ以上の工程によって定義される。
前駆体段階:前駆体材料は、無溶媒沈殿によってストック溶液から得られる。プロセス液の一部が保存される。
テンプレート段階:前駆体段階で形成された前駆体材料は1つ以上の手順によって処理され、テンプレート材料が形成される。
複製段階:吸着材料はテンプレートのテンプレート表面に吸着され、PC材料が形成される。
分離段階:内包鉱物抽出と外包鉱物分離が行われる。内包鉱物抽出は、ストック溶液を生成する。外包鉱物分離は、保存されたプロセス材料から外包鉱物生成物を分離する。
【0034】
本書で使用する場合、「グラフェン」という用語は、sp2ハイブリッド化原子またはsp3ハイブリッド化原子の二次元多環構造を表す。グラフェンは炭素の一形態を示すが、本明細書では、様々なグラフェン多形体(グラフェン、非晶質グラフェン、ファグラフェン(phagraphene)、ヘッケライトなどの既知または理論上の多形体を含む)を表すために、ならびに他の二次元グラフェン類似体(例えばBN、BCxNなどの原子単層)を表すために「グラフェン」という用語を用いる。したがって、「グラフェン」という用語は、二次元性、多環式構成、及びsp2またはsp3ハイブリッド化という基本的な基準を満たす任意の仮定的な多形体を包含することが意図されている。
【0035】
本明細書において「二次元」とは、原子の単層を含む分子レベルの構造を表す。二次元構造は、この大きなレベルでは三次元と表現され得る、より大きなレベルの構造を形成するために、より高い次元の空間に埋め込まれ得るか、または埋められ得る。例えば、サブナノスケールの厚さのグラフェン格子は、三次元空間内を曲がって、ナノスケールな三次元孔の原子レベルの薄壁を形成し得る。この孔は、分子レベルでは依然として二次元と表現される。
【0036】
本明細書において「spx環」とは、すべてが同じ軌道ハイブリッド化を共有していない原子メンバーを含む環として定義する-例えば、いくつかの原子はsp2ハイブリッド化され得、いくつかの原子はsp3ハイブリッド化され得る。
【0037】
本明細書において「sp2グラフト化」とは、2つの端原子間にsp2-sp2結合ラインを形成することとして定義される。構造界面を越えるsp2グラフト化は、異なるグラフェン構造を環接続させ、かつより大きなグラフェン構造に合体させ得るspことを推測することができるsp2環接続を作成する。
【0038】
本明細書において「sp3グラフト化」とは、2つの横方向に隣接するグラフェン構造の端原子間にsp3-sp3結合を形成することとして定義される。これは、sp2端原子のsp2からsp3への再ハイブリッド化に関与している可能性がある。構造界面を越えるsp3グラフト化は、異なるグラフェン構造を環接続させ、かつより大きなグラフェン構造に合体させ得るspx環を作成する。
【0039】
本明細書において「Y転位」とは、ある層が横方向に隣接する二層に分岐して形成された、環接続したY字型グラフェン領域として定義される。Y字型領域の2つの「分岐」はz隣接spx環を含み、これらは一緒に、横方向に隣接する層と二層との界面に位置するダイヤモンド形状シームを含む。特徴的なY字型形状は、層の断面及びダイヤモンド形状シームの継ぎ目と関連している。Y転位は、’37435出願でより包括的に記載されている。
【0040】
本明細書において「無煙炭ネットワーク」とは、特定の特徴的な構造転位を介して架橋された二次元分子構造を含む層状グラフェンネットワークの一種として定義され、本明細書ではY転位、スクリュー転位ならびにY転位及びスクリュー転位の両方の特徴を有する混合転位を含む「無煙炭転位」として表される。無煙炭ネットワークのZ隣接層はネマチック配列を示す。無煙炭ネットワークは、’37435出願でより包括的に記載されている。
【0041】
本明細書において「ネマチック配列」とは、多層グラフェン系におけるz隣接層間の分子レベルでの一般的なxy配列を表すために使用される。この用語は、通常、液晶層間で観察される一貫性はあるが不完全な一種のxy配列を示すために使用されるが、本明細書では無煙炭ネットワークにおけるz隣接層の不完全なxy配列を説明するのに有用であることを見出した。ネマチック配向は、3.50Åより大きい<002>層間d間隔の顕著な存在によって特徴付けられ得る。
【0042】
本明細書において「spxネットワーク」とは、単一の連続したグラフェン構造を含む合成無煙炭ネットワークの一種として定義され、ネットワークは、ダイヤモンド形状シーム及び混合転位(例えば、キラルカラム)を介して横方向ならびに垂直方向に架橋されている。成熟過程に関連して、spxネットワークは「spx前駆体」として表され得る。spxネットワークは、’37435出願でより包括的に記載されている。
【0043】
本開示において、ラマンスペクトル解析は、未適合スペクトル特徴または適合スペクトル特徴を参照することを含み得る。「未適合」スペクトル特徴とは、プロファイルフィッティングソフトウェアによるデコンボリューションの前に明らかなスペクトルの特徴に関連する。したがって、未適合特徴は、複数の基礎となる特徴のコンボリューションを表し得るが、その位置は主観的ではない。「適合」スペクトル特徴とは、プロファイルフィッティングソフトウェアによって割り当てられるスペクトルの特徴に関連する。不完全なプロファイルフィッティングは、デコンボリューションされていない他の基礎となる特徴が存在する可能性を示している。適合ピークPは、Pfで示される。未適合ピークPは、Puで示される。
【0044】
炭素炭素spxネットワークは、その内部グラフト化の程度に基づいて更に分類することができ、これは成熟前のsp2ハイブリッド化端状態の保有率によって決定することができる。このグラフト化の程度に関して、炭素spxネットワークは次のように記述することができる。
・(a)その平均Du位置が1342cm-1より上に位置し、(b)その平均Dfピーク位置が1342cm-1より下に位置し、及び(c)ポイントスペクトルが1342cm-1より下のDuピーク位置を示さない場合、「最小限でグラフト化」である。
・(a)その平均Duピーク位置が1332cm-1と1342cm-1の間に位置し、及び(b)ポイントスペクトルが1332cm-1より下のDuピーク位置を示さない場合、あるいは(a)その平均Duピーク位置が1342cm-1より上に位置し、及び(b)ポイントスペクトルが1332cm-1と1340cm-1の間のDuピーク位置を示す場合、「部分的にグラフト化」である。
・その平均Duピーク位置が1332cm-1より下に位置する場合、あるいは(a)その平均Duピーク位置が1332cm-1より上に位置し、及び(b)いくつかのポイントスペクトルが1332cm-1より下に位置したDuピーク位置を示す場合、「高度にグラフト化」である。
【0045】
本明細書において「螺旋体状ネットワーク」とは、スクリュー転位を含む合成無煙炭ネットワークの一種として定義される。これらのスクリュー転位は、sp
xネットワークに存在するキラルカラムの成熟を介して形成され得る。したがって、sp
xネットワークは螺旋体状ネットワークの「sp
x前駆体」として表され得る。sp
x前駆体から螺旋体状ネットワークへの誘導は、
図1の分類図で「成熟」とラベル付けされた点線の矢印で示されている。
【0046】
本明細書において「成熟」とは、spx前駆体でのsp3ハイブリッド化状態のsp3からsp2への再ハイブリッド化に伴う構造変換として定義される。spx前駆体が成熟すると、最終的に螺旋体状ネットワークが形成されるが、成熟の程度はsp3からsp2への再ハイブリッド化がどの程度完了したかで決まる。成熟は進行性であるため、spxと螺旋体状ネットワークの両方の特徴を含む中間状態のネットワークが形成され得る。更に、成熟は局所的に行われることもある。例えば、レーザーなどでネットワークの特定の場所を加熱すると、影響を受けた領域が局所的に成熟することがある。
【0047】
本明細書において「高度に成熟した」炭素螺旋体状ネットワークとは、少なくとも1340cm-1であり、及びそのspx前駆体よりも少なくとも8cm-1高い平均Duピーク位置を有する炭素螺旋体状ネットワークとして定義される。
【0048】
本明細書において「x炭素」とは、グラフェンから構築された合成無煙炭ネットワークのカテゴリーであり、以下のうちの1つを含むものとして定義される。
・本明細書において高度にグラフト化されたspxネットワークとして定義される「x-spxネットワーク」
・x-spx前駆体を中間または高度成熟状態に成熟させることによって形成した「螺旋体状x炭素」
【0049】
本明細書において「z炭素」とは、グラフェンから構築された合成無煙炭ネットワークのカテゴリーであり、以下のうちの1つを含むものとして定義される。
・最小最小限に部分的にグラフト化されたspxネットワークと定義される「z-spxネットワーク」
・z-spx前駆体を中間または高度成熟状態に成熟させることによって形成した「螺旋体状z炭素」
【0050】
本明細書において「オキシアニオンテンプレート」とは、少なくとも1つのオキシアニオン化合物をその組成全体のかなりの部分として含むテンプレートとして定義される。オキシアニオンテンプレートはまた、酸化物部位または相を含み得ることに留意されたい。例えば、それ以外は純粋なオキシアニオンテンプレートは、CVD条件下で、酸化物テンプレートの表面上の酸化物部位の触媒機能と同様の触媒機能を提供する表面的酸化物部位を含んでもよい。しかし、その組成全体が酸化物と異なる限りは、オキシアニオンテンプレートは、そのテンプレート形態が適している特定の用途では他の点で好ましくあり得る。主な違いは、その溶解性、すなわち、テンプレートの内包鉱物抽出中にオキシアニオンテンプレートを水に曝露すると容易に形成され得る化合物の溶解性であり得る。
【0051】
本明細書において「反応部位」とは、CVD中に外包鉱物材料の核生成を触媒することができるテンプレートのテンプレート表面に見られる部位として定義される。反応部位がないと、触媒吸着物を介した播種なしに、CVD中にテンプレート表面で外包鉱物壁を核生成または成長させることができない場合がある。テンプレート表面の反応部位は、高エネルギー欠陥(例えば、金属酸化物テンプレート表面のステップ部位)または他の反応部位を含み得る。
【0052】
理論に束縛されるものではないが、本出願人は、オキシアニオンテンプレートでのCVD成長は、金属酸化物テンプレートでのCVD成長と同様の方法で進行すると仮定する。すなわち、外包鉱物壁は、反応部位での反応性ガス分子の解離吸着を介して核生成し、それは、テンプレート化表面に存在する酸素アニオンを含み得る。次に、これらの核から、’53316出願に記載されかつ
図1に示されているように、外包鉱物壁はテンプレート化表面上でコンフォーマルに成長し、その後、内包鉱物テンプレートを実質的に封入し、表面複製をもたらす。任意選択で、形成された外包鉱物壁は、合成無煙炭ネットワーク-すなわち、グラフェン構造などの二次元分子構造から構築された層状架橋構造を含み得る。次いで、液体中への溶解によって内包鉱物テンプレートを抽出できる。内包鉱物抽出は、外包鉱物フレームワークをもたらし得る。
【0053】
実際には、’53316出願に記載されている例示的なテンプレートと同様に、オキシアニオンテンプレートは、多くの異なる形状及びサイズで合成され得ることが理解されよう。
【0054】
テンプレートの考慮事項
【0055】
CVD表面複製に利用されるテンプレートは、以下のような多くの異なる要件を満たすことが要求され得る。
1.テンプレートは、1つ以上の反応部位で外包鉱物相の核生成を触媒する必要があり得る。得られた核から、テンプレート化表面上にフリーラジカル凝縮体を成長させることができる。このフリーラジカル凝縮体は、下にある表面がその形態を指向することで、それ自体の成長を自己触媒することができる。反応部位の化学的性質、その活性または不活性のレベル、及びテンプレート化表面の面密度は、テンプレートの化学組成、CVD手順で利用される反応ガス、及びCVD条件を含む多数の要因に基づいて変化し得る。
2.テンプレートは、所望の外包鉱物材料の合成に必要なCVD条件下で、テンプレート化表面もしくはバルクが溶融しないか、または最小限の溶融で、実質的に固体状態を維持することが求められ得る。これは、テンプレート材料の形態が多数の個々のテンプレート構造の粉末を含む場合に特に重要であり得る。このような粉末は、溶融すると、個々のテンプレート粒子が互いに接触し凝集するため、取り扱いが困難になることがあり得る。また、溶融したテンプレートはスラグを形成し得るか、またはそれを保持する容器を腐食させ得る。
3.用途の要件によっては、テンプレートは、その上で合成される外包鉱物材料に付与される特定の設計された形態を有することが要求される場合がある。したがって、沈殿物は、特定のテンプレート形態が設計されるのを可能にし得るので、テンプレートが沈殿物(またはその誘導体)を含むことが望ましい場合が多い可能性がある。
4.テンプレートは、適度に水溶性であること、または水またはオキシアニオン含有水溶液(例えば、炭酸)に曝露されたときに適度に水溶性の生成物を形成することが要求され得る。これにより、’53316出願に記載されているように、テンプレート材料の保持と再利用、及びプロセス水の保存が容易になり得る。
【0056】
遭遇する可能性のある多くの用途のそれぞれについて、これらの多くの要件を満たすには、望まれるよりも溶解度が低い傾向にある酸化物、及び望まれるよりも熱安定性が低い傾向にあるハロゲン化物のなかで見出され得るよりも幅広いCVDテンプレートの選択肢のライブラリを頼りにすることが有用である。
【0057】
核生成の多様なメカニズム
【0058】
核生成のメカニズムは、部分的には、CVD反応及び参加する化学種が複雑かつ多様であることもあり、その解明は困難である。本明細書で完全に特徴付けられるかどうかにかかわらず、任意の核生成または成長メカニズムは、本開示の範囲内であるとみなされるべきである。
【0059】
酸化物テンプレート上でのCVD中に、外包鉱物炭素種は、高エネルギー表面欠陥(例えば、ステップ部位)で核生成するというのが一般的な見解であった。他のテンプレート材料では、核生成メカニズムは根本的に異なり得る。例えば、金属テンプレート上での核生成では、炭素をまず金属に溶解してから沈殿させる必要があり得るが、金属ハロゲン化物テンプレート上での核生成では、気体分子との非弾性衝突が発生する溶融表面が必要になり得る。1つのカテゴリーのテンプレートに関連するメカニズムが必ずしも他のカテゴリーに当てはまるとは限らず、例えば、NaClテンプレートの固体状態表面の表面欠陥は触媒的に不活性であることは示されていない。
【0060】
オキシアニオンテンプレートで外包鉱物成長が達成された’53316出願の本出願人の最近の研究以外では、表面欠陥での核生成は酸化物でのみ観察されている。
【0061】
分析技術と炉スキーム
【0062】
熱重量分析(TGA)を使用して、材料の熱安定性と組成を分析した。すべてのTGA特性評価は、TA Instruments Q600 TGA/DSCで実行した。TGA分析中に試料を保持するために、90μLのアルミナパンを使用した。特に明記しない限り、すべての分析用TGA手順は1分あたり20℃で実行した。特に明記しない限り、分析用TGA手順中のキャリアガスとして空気またはAr(アルゴン)のいずれかを使用した。
【0063】
ラマン分光法は、532nm励起レーザーを備えたThermoFisher DXRラマン顕微鏡を使用して実施された。分析された各試料について、4×4ポイントの長方形グリッドで取得された測定値を使用して、16ポイントのスペクトルが生成された。次に、正規化されたポイントスペクトルを平均化し、平均スペクトルを作成し、信号が弱いことを示すポイントスペクトルは平均から除外される。各試料について報告されたラマンピーク強度比とラマンピーク位置はすべて、試料の平均スペクトルに由来する。プロファイル適合ソフトウェアは使用されていないため、報告されたピーク強度比とピーク位置は、全体的なラマンプロファイルに付随する未適合ピークに関連している。すべての試料は、内包鉱物抽出とすすぎから得られる、乾燥した炭素質粉末を含んだ。
【0064】
すべての実験に使用した炉のスキームは以下のとおりである。使用した炉は、プログラム可能な最大温度が1200℃のMTI回転式管状炉であった。炉は、ガス供給入口を備えた60mmの石英反応管を有した。管の反対側の端は空気に開放したままにした。炉は沈着中ずっと水平に保たれた。粉末状の実験材料をセラミックボートに入れ、ボートを石英管の中央(炉の加熱ゾーン)に置いた。沈着中、石英管は回転しなかった。
【0065】
実験と分析
【0066】
5つの実験を以下に説明する。これらの実験のそれぞれには、固有のテンプレート前駆体材料、テンプレート材料、外包鉱物複合材料、及び外包鉱物材料がある。
【0067】
例示の目的で、実験のそれぞれでは、テンプレート上に外包鉱物炭素を形成した。しかし、本発明から逸脱することなく、他の外包鉱物材料を核生成して成長させる可能性がある。
【0068】
テンプレート前駆体材料には、炭酸カリウム(実験1及び実験2)、硫酸カリウム(実験3)、硫酸リチウム(実験4)、及び硫酸マグネシウム(実験5)が含まれる。これらの前駆体材料を生成するために、市販の炭酸カリウム、硫酸カリウム、硫酸リチウム及び硫酸マグネシウムの粉末をほぼ室温にて最初にH
2Oに溶解させた。次に、撹拌しながらイソプロパノールまたはアセトンを滴下し、溶質の沈殿を誘導した。沈殿物を濾過し、その後、乾燥させ、粉末を形成した。以下の表1は、各テンプレート前駆体沈殿物の具体的な詳細を示す。
【表1】
【0069】
実験1及び実験2のテンプレート前駆体材料は、同じ化合物(K2SO4)を含む。これらの前駆体試料は、バッチサイズに関してのみ異なり、実験2のバッチサイズは実験1のバッチサイズの約5倍である。
【0070】
以下の表2にまとめた実験の次の段階では、テンプレート前駆体試料のそれぞれを、先に説明した管状炉に入れた。次いで、各テンプレート前駆体粉末を、1100sccmのArガス流下でCVD温度まで加熱し、その後、プロピレン(C3H6)ガス流を開始した。この温度及びAr流及びC3H6流の雰囲気下での粉末は、各実験でテンプレート材料を含んだ。
【0071】
CVD中、外包鉱物複合体材料は、テンプレート化表面上で外包鉱物炭素を核生成及び成長させることによって形成された。同様のCVD表面複製手順が’53316出願に記載されている。本明細書に提示する各実験では、CVD温度はテンプレート前駆体材料の融点より少なくとも279℃低かった。CVD手順後を含め、顕微鏡的にも肉眼でも溶融の兆候は観察されなかった。CVD中の実験パラメータを以下の表2に示す。
【表2】
【0072】
表2に示すように、CVDパラメータは、実験1(K2SO4)を除くすべての実験で同じであった。実験1では、C3H6の流量が実験2~実験5よりも大幅に高くなっていた(1270sccm)。流量を変更し、様々な化学環境及び様々な曝露下で沈着条件を試験した。実験1はまた高温(650℃)で実行されたが、実行時間は短かった(つまり、120分ではなく、30分)。実験2~実験5は、1100sccmのC3H6流量を使用して、580℃で120分間実行された。内包鉱物テンプレート相と外包鉱物炭素相の両方を含む、得られた外包鉱物複合体粉末を、加熱前のテンプレート前駆体粉末の初期質量と比較するために秤量した。最終的な質量は、外包鉱物複合体の質量であり、内包鉱物テンプレートと外包鉱物炭素の両方を含む。
【0073】
各実験で、炉から回収された粉末は、炭素質外包鉱物壁を核生成及び成長させた。テンプレート化表面で発生した核が溶融と無関係であることを示す兆候はなかった。NaCl粒子の溶融縁や角などテンプレート化表面の溶融領域での核生成は、SEM及びラマン分析介して識別できる不均一な外包鉱物組成を生成する。このような粒子では、テンプレート化表面が溶融していた領域とテンプレート化表面が固化していた領域とで、異なる外包鉱物炭素組成が観察され得る。これらの非金属テンプレートでの炭素の吸収または溶解による核生成も除外できる。したがって、核生成は、金属酸化物テンプレートで観察されたように、テンプレート化表面の反応部位での解離吸着が主因であると考えられる。
【0074】
これらのオキシアニオンテンプレートの表面上の反応部位の正確な性質は不明であり、テンプレートは化学組成で純粋なオキシアニオンであったのか、または微量の分解によって表面に酸素アニオンも含まれ得たのかは不明である。ただし、実験1、実験2及び実験4の無水硫酸塩試料で記録された質量損失が非常に小さいことを考えると、その一部は吸着水に起因する可能性があり、更に、これらの硫酸塩の一部が熱分解する前に融解することも考えられ(例えば、Li2SO4)、最後に、外包鉱物炭素(少数のグラフェン層のみを含む外包鉱物壁)が寄与する追加の質量がほとんど無視できることを考えると、分解の程度は小さいと結論付けることができる。例えば、K2SO4は、炭素質還元剤の存在下で約750℃で熱分解する。580℃で若干の分解が起こった可能性はあるものの、実験1及び実験2のテンプレートは、化学組成に関して実質的にK2SO4だった。
【0075】
外包鉱物複合体構造からのオキシアニオンテンプレートの内包鉱物抽出は、テンプレートを水に溶解することによって各実験で実行された。これは、少量の水で簡単に達成され、オキシアニオンテンプレートの溶解性を更に裏付けた。次いで、得られた外包鉱物フレームワークをすすぎ、乾燥時の残留イオンを最小限に抑えた。この段階で、’53316出願に記載されているように、すすぎの必要性を低減または排除するために、酢酸エチルなどの非混和性溶媒を使用し、プロセス水溶液から外包鉱物炭素を分離することもできる。
【0076】
テンプレートと外包鉱物炭素材料の一般的な理解を提供するために、SEM分析を実行した。具体的には、実験1及び実験5からのテンプレート前駆体材料、PC材料及び外包鉱物フレームワークを分析する。簡潔にするために、及び本開示が各テンプレートの特定の形態学的特徴(それを作製するために利用した沈殿プロセスに基づいて大幅に変化する)よりも、テンプレート上で外包鉱物材料を合成する能力に焦点を当てているため、すべての試料のSEM分析を報告するわけではない。
【0077】
図2には、実験1で使用されたテンプレート前駆体粉末を示すSEM顕微鏡写真が含まれる。粉末は多様な形態を含み、ほとんどの結晶は厚いスラブ状の形態をとっている。粒子の多くは多結晶凝集体である。
【0078】
図3のフレームIは、内包鉱物抽出前の実験1からの壊れたPC構造のSEM顕微鏡写真を含む。粒子の多くは、フレームIIの拡大した顕微鏡写真に示すように、CVD処理後に接合部で壊れたように見える。下にあるオキシアニオンテンプレートが炭素外包鉱物壁で覆われていないこれらの領域では、テンプレートの絶縁挙動により、電子ビームの下でより多くの帯電が発生する。壊れた接合部で下にあるテンプレートの露出した領域は、その平坦な帯電表面により、周囲の領域と区別できる。この露出した領域の周りの暗い領域は、テンプレートが外包鉱物壁で覆われている領域を表す。可撓性外包鉱物壁の存在はまた、フレームIIでしわによって区別することもでき、これは、冷却中の下にあるテンプレートの収縮に起因し得る。より高い倍率では、外包鉱物壁の下のテンプレートはビームに敏感になり、長時間露光によるこの感受性は、フレームIIIとフレームIVのSEM画像で見ることができる。このビーム感受性は、金属酸化物テンプレートで観察されたことはなく、テンプレート化表面上またはその近くでの分解に起因し得る。
【0079】
図4は、内包鉱物抽出、すすぎ及び乾燥後の実験1からの外包鉱物フレームワークのSEM顕微鏡写真を含む。
図3のフレームIIに示される炭素外包鉱物壁のしわに見られる可撓性と一致して、外包鉱物フレームワークは、内包鉱物抽出後にくしゃくしゃになり、非天然形態を採用したように見える。ただし、フレームワークの多くは実質的に壊れていないように見え、広範な断片化を示していないことに注意されたい。したがって、それらは「収縮した」外包鉱物フレームワークである可能性がある。多数の実験を通じて、このような変形したフレームワークの多くが弾性的に変形し、液体で満たされると元の「膨張した」形態に跳ね返り得ることを観察した。これは、多くの用途(例えば、吸収)に役立つ属性である。あるいは、これらの構造をミリングまたは高剪断にかけて、ナノ小板に似た大きなシート状の断片を生成することもできる。
【0080】
図5は、光学顕微鏡下での実験5で生成された沈殿したテンプレート前駆体構造を示す。これらはまた、’918出願でも報告されている。形態は縦長で、結晶である。粒子の多くは多結晶凝集体である。
【0081】
図6は、内包鉱物抽出前の実験5からのPC材料を示すSEM顕微鏡写真である。破片は、外包鉱物複合体粒子の表面に見られ得る。これは、脱水中に粉々になった結果であり得る。エプソマイトの脱水は、結晶水が排出されるときに破砕を引き起こすことが示される。このPC材料のSEM分析に基づいて、実験5で沈殿したエプソマイトテンプレート前駆体(MgSO
4・7H
2O)粒子は、脱水中に破壊された。ほとんどの粒子はある程度破砕されていたが、一部の粒子は他の粒子よりも破砕されているように見えた。
【0082】
図7には、内包鉱物抽出、すすぎ及び乾燥後の実験5からの外包鉱物フレームワークを示すSEM画像が含まれる。実験1で生成されたフレームワークとは異なり、これらのフレームワークの多くは、天然形態を実質的に保持し、テンプレート形状から継承された上部構造と下部構造を有する。これは、
図7のフレームIに示される縦長の炭素構造で見わけることができる。
【0083】
図7のフレームIの挿入図は、フレームIIの高倍率で示される。ここでは、2つの相が明らかである。第1相は外包鉱物炭素で、その多孔質はフレームIIIの高倍率で確認できる。外包鉱物壁の半透明の外観は、数ナノメートル以下の厚さを示している。
【0084】
図7のフレームIVの高倍率で見ることができる第2相は、外包鉱物フレームワークの表面に残留するMgSO
4である。MgSO
4残留物は電子ビームの下で帯電する。この残留物の存在は、高溶解性オキシアニオンテンプレートの内包鉱物抽出中に作成された水溶液の溶質濃度が高いこと、及び三次元の外包鉱物フレームワークに大量の水が保持されていることによって説明できる。すすいだ後でも、フレームワークはかなりの量の溶解MgSO
4を含んでおり、乾燥すると偏在する残留物が残った。この残留物は、実験1では観察されなかった。これは、外包鉱物フレームワーク内の多量の細孔が崩壊し、そこに保持される水が少なくなったためである。
【0085】
実験5で生成された外包鉱物フレームワークは、壁の厚さがわずか数ナノメートルである一方で、実験1で生成されたフレームワークと比べて天然形態を保持する優れた能力を示した。これは、実験5で生成されたフレームワークの多孔下部構造のコンパクト性とそれに伴う剛性に起因している。つまり、非多孔質テンプレートまたはナノスケールの細孔を持たないテンプレートを利用する表面複製技術は、より微細な細孔構造を持つテンプレートを利用する表面複製技術よりもコンパクト性に劣る構造をもたらす。実験5の場合、MgSO4テンプレートは、加熱中にエプソマイトテンプレート前駆体粒子から結晶水が逃げるため、より微細な内部細孔構造を有していた。これは、表2に示されるように、熱曝露後に観察される実質的な質量損失に反映される。実験1の場合、K2SO4は無水であり、熱曝露中に内部細孔構造は変化しなかった。
【0086】
図8は、実験Aのオキシアニオンテンプレートを用いて合成された外包鉱物炭素材料のそれぞれの平均ラマンスペクトルを示す。各試料は、まず、炭素質外包鉱物フレームワークのみが分析されるように、内包鉱物抽出及びすすぎによって精製した。
図8のスペクトルは、それらが関連する実験(すなわち、実験1~実験5)に従って、1~5のラベルが付けられている。このスペクトルから、試料のそれぞれには無秩序なsp
2ハイブリッド化炭素が存在し、実験1、2、4及び5では合成無煙炭ネットワークが存在することが確認された。スペクトルのピーク比と位置は、以下の表3にまとめられている。
【表3】
【0087】
sp2ハイブリッド化炭素は、Guピーク(1580cm-1と1610cm-1の間の範囲のポイントスペクトル)及びDuピーク(1320cm-1と1360cm-1の間の範囲のポイントスペクトル)の存在によって示される。2Duピークがない、Duピークの幅が広くピーク強度が低い、DバンドとGバンドの間のトラフの高さを含む、様々なスペクトルの特徴によって無秩序は示される。Duピーク強度自体は無秩序を示すものではないが、低強度Duピークは結晶性グラファイト炭素にも見られるため、これらの他のスペクトル特徴との関連で、高度の無秩序を示す。本明細書においてGuピークの赤方偏移モードに起因するトラフは、不秩序格子におけるC(sp2)-C(sp2)結合の伸張及び捻じれを反映する。多くの環不秩序は低周波の歪み状態の広い分布を引き起こし、Gピーク位置は歪みに依存することが知られている。ITr/IGは比較的欠陥のないグラファイトではゼロに近いため、この結果は、各試料が比較的高い欠陥濃度を有することを更に示唆している。
【0088】
実験1、2、4及び5のスペクトル-特にDuピークの赤方偏移位置の-は、これらの試料の外包鉱物炭素は、sp2ハイブリッド化及びsp3ハイブリッド化の両方の状態を含む合成無煙炭ネットワークの一種であるspxネットワークであることを示す。このタイプの無煙炭ネットワーク、及びそれに付随するスペクトルのシグネチャーについてのより包括的な説明は、’37435出願に記載されている。sp2炭素のDバンドは分散性であり、Dピーク位置は励起に基づいて変化し得るが、実験1、2、4及び5で観察した平均Duピーク位置は、532nm励起下でsp2炭素に通常関連するDuピーク位置(約1350cm-1)よりも著しく低い。この赤方偏移は、sp2振動状態密度(vibrational density of states、VDOS)とsp3VDOSに見られる低周波バンドとの間に基礎となる補間があることを示している。
【0089】
合金構造のVDOSの補間は、相間が強く結合している場合に起こる。Dバンド(sp2ハイブリッド化に関連する)と低周波のバンドの間の補間は、sp3状態とその直近傍のsp2状態が強く結合していることを示す。これらの強い結合領域は、グラフェン系のsp2環構造全体に見られる動径呼吸モード(radial breathing mode、「RBM」)フォノンを活性化させる。したがって、sp3炭素状態が微量の存在であっても、より大きなsp2成分全体に見られるRBMフォノンの活性化により、ラマンスペクトルに見出すことができる。
【0090】
実験3では、D
uピークは低周波のsp
3バンドで補間されていない。これは、ラマン分析で特徴付けられた領域に構造遭遇がないためと考えられる。隣接する核の間に構造遭遇がなく、その結果、構造界面でのsp
3グラフト化がない領域では、C(sp
3)-C(sp
3)結合はあったとしてもほとんど期待されない。しかし、構造遭遇が多数あり、sp
3グラフト化が豊富な領域と比較すると、存在するとしても、他の欠陥との関係で少ない。したがって、実験3でD
uピークの補間が観測されないのは、核生成が少ないまたはない領域-反応部位が少ないまたはない領域-に起因している可能性がある。これは、K
2CO
3テンプレート化表面の特徴である大きく原子的に平坦な小面を考えると理に適っており、酸化物表面と同様に表面欠陥が核生成の反応部位であることを示唆している。平坦なK
2CO
3小面は、実験3で生成されたPC材料のSEM画像である
図10に見ることができる。
【0091】
実験3の試料の他のスペクトルとの違いは、スペクトルのノイズが多いことと、トラフが著しく高いことである。トラフが高いのは、構造遭遇があまりない大きな小面でのFRC成長を介して生成された多くの環不秩序に起因している。’37435出願では、横方向に隣接するグラフェン領域間の構造遭遇がいかにグラフト化及び合体を引き起こし、それが層内圧縮歪みをもたらすことをより詳細に説明している。層内圧縮歪みにより、Guピークの青方偏移が生じ、それは1600cm-1以上にシフトし得、トラフは伸長したC(sp2)-C(sp2)結合に起因するため、トラフの高さが減少する。したがって、実験3で観測された高いトラフは、補間されていないDuのピーク位置と良好に一致し、実験3ではテンプレート表面を支配する大きな無欠陥小面に沿った環不秩序の存在とsp3グラフト化の不在を裏付けている。
【0092】
実験1~実験5は、オキシアニオンテンプレート上に、合成無煙炭ネットワーク-様々なグラフト化度を備えるspxネットワークを含む-を含む外包鉱物フレームワークが形成されることを示す。これらのフレームワークは、’37435出願に記載されているようなアニールプロセスを用いて、螺旋体状ネットワークに成熟させることができる。これらのアニールプロセスは、用途の要件に基づいて、PC材料上または内包鉱物抽出後に実行することができる。オキシアニオンテンプレートは、水または炭酸などのオキシアニオン含有水溶液に容易に溶解することができる。
【0093】
実験1~実験5の例示的なテンプレートに加え、多数の他のオキシアニオン種及びオキシアニオンテンプレート構造を利用することができる。実験1~実験5に記載されているものと同様のCVD法(例えば、C3H6とArを750℃で流す)を用いて、アルミン酸ナトリウム(NaAlO2、融点1650℃)とメタケイ酸ナトリウム(NaSiO3、融点1088℃)をテンプレートに外包鉱物炭素を合成した。テンプレート前駆体材料を噴霧乾燥することにより、様々な化学組成のオキシアニオンテンプレートは、球状または中空の形態的特徴を持つように設計されることができる。’53316出願では、中空球状形態を有するP18型外包鉱物炭素は、580℃にてLi2CO3テンプレート上で、CVD後に融解の兆候がなく、最小限の質量損失(1.5%未満)でCVDを介して成長した。このことは、オキシアニオンテンプレートが、多様な特性を持つ潜在的なテンプレート材料の豊富なライブラリであることを示している。
【0094】
CVD成長時間を制限することにより外包鉱物壁を薄く保てば、くしゃくしゃのシート状構造も形成され得、これらを濾過するか、または基材(例えば、スライドガラス)上で乾燥させ、ファンデルワールス力を介して結合した薄板状バッキーペーパー様マクロフォームを形成することができる。しかし、一般的にバッキーペーパーの形成に利用される酸化グラフェンまたは炭素ナノチューブなどの他のナノ構造化炭素とは異なり、これらのグラフェン外包鉱物構造は、濾過または乾燥の前に、酸化させるか、または化学分散剤で処理して分散させて凝集を防止する必要はない。
【0095】
例えば、実験1~実験5と同様の例示的な手順(例えば、球状のLi
2CO
3テンプレート前駆体粒子の噴霧乾燥粉末をCVD温度580℃に加熱し、C
3H
6とArガス流に180分間曝露する)を用いて、C@Li
2CO
3PC材料を形成した。Li
2CO
3テンプレートの水性内包鉱物抽出後、酸化剤または分散剤を使用せずに、無煙炭外包鉱物フレームワークを濾過し、バッキーペーパー様薄板状マクロフォームを形成した。そのようなマクロフォームの1つの平面図及び水平図が、
図11のフレームI及びフレームIIにそれぞれ示される。
【0096】
このようなバッキーペーパー様マクロフォームを形成する能力は、化学官能化または分散剤の使用による粒子の表面化学と液体マトリックスの相溶化に依存しない、液体中での形態分散性に起因している。その代わりに、可撓性外包鉱物ネットワークによって半封入された大きな孔を含むその形態によって、フレームワークは自己分散する。この内部孔に外部の液体を含浸させると、液体が同伴され、液体充填フレームワークはバルク相の粒子のように挙動する。これは、同伴された液体の質量を含む全有効質量に対する外表面積の比率が、ナノ構造化外包鉱物壁にもかかわらず、バルク相の材料と同様であるためである。
【0097】
液体充填外包鉱物フレームワークの形態分散性により、液体中で高密度で安定した凝集体を形成することができない。薄板状バッキーペーパー様マクロフォームの合成及びコーティングを促進することに加え、液体充填外包鉱物フレームワークの形態分散性により、これらのナノ構造化材料はナノ流体として魅力的になる。更に、この性質は、炭素質外包鉱物フレームワークに限ったことではない。形態分散性は形態に応じるため、他のナノ構造化外包鉱物材料-例えば、’53316出願で実証されたBNまたはBCxNフレームワーク-もまた、ナノ流体またはバッキーペーパー様マクロフォームの合成に最適であり得る。
【0098】
図12は、Li
2CO
3上で成長した外包鉱物フレームワークのシート状断片のTEM顕微鏡写真を含む。外包鉱物炭素は、フレームIの白色の輪郭で示された半透明のくしゃくしゃの膜である。外包鉱物炭素にはいくつかのしわが見られ、その薄さと可撓性-どちらも薄板状バッキーペーパーを構築するのに望ましい性質を示す。高解像度のTEM顕微鏡写真であるフレームIIは、厚さ数ナノメートルの外包鉱物壁の層状構造を示す。一部が白色の点線でトレースされているグラフェン層は、テンプレート化表面上でコンフォーマルに成長するため、ネマチックに配列しているが、層は明らかに非平面でネットワーク化されている。この層状の接続したネットワーク構造は、高解像度TEMで特徴付けると、無煙炭ネットワークに典型的なものである。
【0099】
本出願は、本文及び図においていくつかの数値範囲を開示している。開示された数値範囲は、開示された数値範囲内の範囲または値を支持するが、本開示は開示された数値範囲全体にわたって実施できるため、本明細書では正確な範囲限定が逐語的には述べられていない。
【0100】
上述の説明は、当業者が本開示を作成または使用することを可能にするために提供される。諸実施形態に対する様々な修正は、当業者にとって容易に明らかであり、本明細書で定義された一般的な原理は、本開示の精神または範囲から逸脱することなく他の実施形態及び用途に適用されることができる。したがって、本開示は、示される実施形態に限定されることを意図しないが、本明細書に説明される原理及び特徴と一致する最も広い範囲を許容されることとなる。最後に、本明細書に示される本特許及び刊行物の開示全体は、参照により本明細書に組み込まれる。
【国際調査報告】