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特表2024-504017熱的システムの連動制御を備えた集積回路試験装置
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  • 特表-熱的システムの連動制御を備えた集積回路試験装置 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-01-30
(54)【発明の名称】熱的システムの連動制御を備えた集積回路試験装置
(51)【国際特許分類】
   G01R 31/26 20200101AFI20240123BHJP
   G05D 23/19 20060101ALI20240123BHJP
【FI】
G01R31/26 G
G05D23/19 J
G01R31/26 H
G01R31/26 Z
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023539296
(86)(22)【出願日】2021-12-30
(85)【翻訳文提出日】2023-06-27
(86)【国際出願番号】 US2021065671
(87)【国際公開番号】W WO2022147241
(87)【国際公開日】2022-07-07
(31)【優先権主張番号】63/132,708
(32)【優先日】2020-12-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】503081221
【氏名又は名称】デルタ・デザイン・インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】DELTA DESIGN, INC.
(74)【代理人】
【識別番号】100123788
【弁理士】
【氏名又は名称】宮崎 昭夫
(74)【代理人】
【識別番号】100127454
【弁理士】
【氏名又は名称】緒方 雅昭
(72)【発明者】
【氏名】ツタニウィスキー、 ジェリー イノア
【テーマコード(参考)】
2G003
5H323
【Fターム(参考)】
2G003AA07
2G003AC03
5H323AA38
5H323BB17
5H323CA09
5H323CB02
5H323CB42
5H323GG04
(57)【要約】
システムは、複数の熱的結合領域と、上記複数の領域の内の1つに熱を供給するようにそれぞれを制御可能な複数の加熱器と、上記複数の領域の内の1つの温度を測定するようにそれぞれが構成された複数の温度センサーとを備える台盤を含む。
上記システムは、上記複数の領域のそれぞれについての温度測定値を受信し、実座標系の温度ベクトルから上記温度測定値を収集し、上記温度ベクトルを、複数の非連成方程式を提供する正規座標系に変換するように構成された制御回路を含む。
上記制御回路は、上記複数の非連成方程式及び所望の温度勾配に基づいて、上記正規座標系における所望の電力ベクトルを決定し、上記所望の電力ベクトルを上記実座標系に変換して電力ベクトルを生成し、上記電力ベクトルに従って上記複数の加熱器を制御するように構成される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
それぞれが、複数の熱的結合領域の内の一つの温度を制御するように制御可能な複数の熱制御機器と、
それぞれが、前記複数の熱的結合領域の内の一つの温度を測定するように構成された複数の温度センサーと、
制御回路と、を有し、
前記制御回路は
前記複数の温度センサーから、前記複数の熱的結合領域のそれぞれの温度測定値を受信し、
実座標系の温度ベクトルの温度測定値を収集し、
前記温度ベクトルを複数の非連成方程式を提供する正規座標系に変換し、
前記複数の非連成方程式及び前記複数の熱的結合領域に渡る所望の温度勾配に基づいて、前記正規座標系における所望の電力ベクトルを決定し、
前記正規座標系の所望の電力ベクトルを前記実座標系に変換して電力ベクトルを生成し、
前記電力ベクトルに従って前記複数の熱制御器を制御して、前記複数の熱的結合領域に渡って前記所望の温度勾配を実質的に達成する
ように構成された、
システム。
【請求項2】
前記所望の温度勾配がゼロ勾配である、
請求項1に記載のシステム。
【請求項3】
前記制御回路は、前記温度ベクトルに、モード行列及び熱容量行列の転置の倍数を乗算することによって、前記温度ベクトルを前記正規座標系に変換するように構成される、
請求項1に記載のシステム。
【請求項4】
前記制御回路は、熱容量行列及びモード行列の倍数に前記所望の電力ベクトルを乗算することによって、前記正規座標系の前記所望の電力ベクトルを前記実座標系の電力ベクトルに変換するように構成される、
請求項1に記載のシステム。
【請求項5】
前記複数の領域の内の1つに空気流を提供するようにそれぞれが構成される複数の送風器を更に備え、
前記制御回路は、前記複数の熱的結合領域に渡って前記所望の温度勾配を実質的に達成するために前記電力ベクトルに従って1つ以上の前記送風器を制御するように構成される、
請求項1に記載のシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、米国における、2020年12月31日の仮出願63/132708による利益及び優先権を主張し、上記仮出願の全体による開示が参照により本出願に取り込まれる。
【0002】
本開示は、一般に、試験対象の半導体電子機器などの機器の温度を制御するためのシステム及び方法に関する。
【発明の概要】
【0003】
パッケージ化された集積回路チップ及びパッケージ化されていない裸の「チップ」又は他の試験対象の機器(DUT)などの電子機器を、試験し及び取り扱うためのシステムは、従来、機器の試験中に電子機器の温度を、一定の設定温度付近に維持するための温度制御システムを含む場合がある。デジタル論理回路、メモリ回路、アナログ回路など、任意のタイプの回路をDUTに統合できる。又、DUT内の回路は、電界効果トランジスタ又はバイポーラトランジスタなど、任意の種類のトランジスタで構成できる。
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
機器の試験中は、機器の温度を一定に保つことが望ましい。例えば、特定の温度において、各種の集積回路の欠陥の試験を行うことが一般的である。更に、チップ業界では、特定の種類のチップを大量生産し、その後にそれらを高速選別して、より高速に動作するチップをより高い価格で販売することが一般的である。CMОSメモリチップ及びCMОSマイクロプロセッサチップは上記手法で処理される。但し、上記チップの動作速度は温度に依存する可能性があるため、上記チップの速度を適切に決定するには、速度試験の実行中に、各チップの温度をほぼ一定に保つ必要がある。
【0005】
試験中にチップ又はチップの集合の温度を一定に保つ際の1つの課題は、試験される1つ以上のチップに渡る温度勾配を最小限にすることである。例えば、台盤(例えば、板、保持器、格納器など)を1つ以上のチップと熱的に接触させて配置することができ、台盤の温度は、試験中に1つ以上のチップの温度を一定に保つことを試みるように制御される。但し、特に比較的大きな台盤の場合、台盤の或る領域の温度が台盤の別の領域の温度と異なるようになる場合がある。このような場合、結果として生じる、台盤全体に渡る温度勾配によって、試験対象の1つ以上のチップ全体で温度が不均一になり、試験結果が損なわれる可能性がある。従って、試験中に、1つ以上のチップに渡る温度勾配を最小限にするためのシステム及び方法が必要である。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の一実装形態は、複数の熱的結合領域から成るシステムである。複数の熱制御器のそれぞれは、複数の熱的結合領域の内の1つの温度を制御するために制御可能である。システムは複数の温度センサーも含む。複数の温度センサーのそれぞれは、複数の熱的結合領域の内の1つの温度を測定するように構成されている。システムは、複数の温度センサーから、複数の熱的結合領域のそれぞれについての温度測定値を受け取り、実座標系中の温度ベクトルから温度測定値を収集し、温度ベクトルを正規座標系に変換するように構成された制御回路も含む。正規座標系は、複数の非連成方程式を提供する。制御回路はまた、複数の非連成方程式、及び複数の熱的結合領域に渡る所望の温度勾配に基づいて、正規座標系における所望の電力ベクトルを決定するように構成されている。制御回路はまた、正規座標系における所望の電力ベクトルを実座標系に変換して電力ベクトルを生成し、電力ベクトルに従って複数の加熱器を制御して、複数の熱的結合領域の全体に渡り、所望の温度勾配を実質的に達成するように構成されている。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】例示的な一実施形態による、結合した熱的システムの図である。
図2】例示的な一実施形態による、図1の結合した熱的システムのための制御システムのブロック図である。
図3】例示的な一実施形態による、図1の結合した熱的システムの回路様式の図である。
図4】例示的な一実施形態による、図1の結合した熱的システムの回路図である。
図5】例示的な一実施形態による、非対称な結合した熱的システムの固有ベクトルのプロットである。
図6】例示的な一実施形態による、固有ベクトルのプロットである。
【0008】
各図面を全体的に参照すると、例示的な実施形態による、多数の熱的結合領域を備えた熱的システムの温度制御を提供するためのシステム及び方法が示されている。本明細書で説明されるシステム及び方法は、集積回路機器など(例として、試験中の機器又はDUT)用の各種の試験及び処理のシステムに適用できる。システムでは、試験中にDUTを所望の温度に実質的に維持することが有利である場合がある。1つの手法は、DUTを台盤又は他の構造と熱的に接触させて配置し、台盤の温度を制御することである。DUTは多数の受け口の中に配置されてもよい。ここで検討されている例示的システムでは、DUT全体に渡りかなり大きな温度勾配が存在し得るようにDUTが互いに対して位置している。例として、台盤上の第1点の温度と台盤上の第2点の温度とは、試験結果を損なうのに十分な程に異なる可能性がある。
【0009】
本開示は、DUTが、異なる温度を有し得る多数の熱的結合領域中に位置する、という概念を導入する。本明細書で詳細に説明するように、台盤全体に渡る温度勾配のより良好な管理を容易にするために、各領域に独立して制御可能な熱制御器を設けることができる。熱制御器は、例として、加熱器を含んでよいが、その他の熱制御器が多数の領域の内の一つの加熱又は冷却のために用いられてよい。上記領域は互いに熱的に結合されているため、各加熱器の動作は全ての領域の温度に影響を与え、従って他の各加熱器から要求される熱量にも影響する。場合によっては、各領域からの熱の除去を促進するために、各領域に送風器が設けられる。従って、以下に詳細に説明するように、領域間の熱的結合を考慮した加熱器及び/又は送風器を制御するためのシステム及び方法は、多数の領域に渡って台盤を所望の温度に維持する、及び/又は、多数の領域に渡って他の所望の温度勾配を提供するのに有利である可能性がある。
【0010】
ここで図1を参照すると、例示的な一実施形態による熱的システム100が示されている。熱的システム100は、4つの熱的結合領域、すなわち領域A104、領域B106、領域C108、領域D110、を有する台盤102を含むように示されている。熱的システム100は、本開示によって企図される多くの可能な熱的システムの内の1つであり、例示のために熱的システム100について言及されていることが理解されるべきである。例えば、様々な実施形態では、様々な数の領域が含まれてよい(例えば、3つの領域、5つの領域、6つの領域、など)。台盤102は、導電性金属(例えば、銅)又は他の適切な導熱材料で作ることができる。台盤102の上面103は、試験のために1つ以上の集積回路機器(例えば、チップ)を保持(搬送、支持、維持)するように構成され得る。
【0011】
図1に示されるように、台盤102は熱交換器112に結合される。熱交換器112は、台盤102からの熱伝達を促進するための板及び/又は他の構造を含んでもよい。熱交換器112は、実質的に一定の周囲温度Ta中にあり得る。本明細書に記載の実施形態では、周囲温度Taは熱的システム100の影響を受けないとされる(すなわち、熱はTaを変えることなく熱的システム100から周囲に伝達されてよい)。
【0012】
熱的システム100は、多数の加熱器(例えば4つの加熱器)、多数の温度センサー(例えば4つの温度センサー)、多数の送風器(例えば4つの送風器)を含むように更に示される。各領域には、1つの加熱器、1つの温度センサー、1つの送風器が配置されてよい。図示の例では、領域A104は、温度センサーA114、加熱器A124、送風器A134を含み、領域B106は、温度センサーB116、加熱器B126、送風器B136を含み、領域C108は、温度センサーC118、加熱器C128、送風器C138を含み、領域D110は、温度センサーD120、加熱器D130、送風器D140を含む。
【0013】
各温度センサー114~120は、対応する領域で台盤102の温度を測定するように構成される。すなわち、温度センサーA114は領域A104の温度(「TA」)を測定し、温度センサーB116は領域B106の温度(「TB」)を測定し、温度センサーC118は領域C108の温度(「TC」)を測定し、温度センサーD120は領域D110の温度(「TD」)を測定する。いくつかの実施形態では、温度センサー114~120は、抵抗熱検出器(RTD)を含む。温度センサー114~120は、図2に示され、以下に詳細に説明する、制御回路200に温度のアナログ及び/又はデジタル表示を提供することができる。温度センサー114~120は、台盤102の上面103又はその近くに配置され、温度センサー114~120は、試験のために台盤102上に位置する1つ以上のチップの位置のすぐ近くの温度を測定する。
【0014】
各加熱器124~130は、対応する領域で台盤102に熱を供給するように構成されている。例えば、加熱器A124は、領域A104の台盤102に熱を供給する。
各加熱器124~130は、台盤102に可変の、熱量又は単位時間当たりの熱を供給するために、可変の電力において動作可能であってもよい。以下に詳細に説明するように、加熱器124~130は、各加熱器A124が加熱器B126とは異なる電力で動作でき、加熱器B126が加熱器C128とは異なる電力で動作できる等にするために、独立して制御可能である。加熱器124~130は、電気抵抗を通じて電気を熱に変換し、及び/又は、何らかの他の方法で熱を生成することができる。
【0015】
各送風器134~140は、台盤102に渡る、それぞれが対応する領域に空気を吹き付けて、熱交換器112を介した台盤102からの熱の伝達を促進するように構成され、例えば、台盤102の温度を周囲の気温に向けて引き出す。送風器134~140は、様々な出力(例えば、送風器の羽根の速度、空気流レベルなど)で動作するように独立して制御可能であってよい。
【0016】
次に図2を参照すると、例示的な一実施形態による、制御回路200を備えた図1の熱的システム100のブロック図が示されている。制御回路200は、温度センサーA114、温度センサーB116、温度センサーC118、温度センサーD120に通信可能に接続される。他の様々な実施形態では、制御回路200は、任意の数の温度センサーに通信可能に接続され得る。制御回路200は、温度センサーから温度測定値を受け取ることができる。より具体的には、図示の例では、制御回路200は、温度センサーA114から領域A104の温度TAを、温度センサーB116から領域B106の温度TBを、温度センサーC118から領域C108の温度TCを、温度センサーD120から領域D110の温度TDを、受け取ることができる。
【0017】
制御回路200は、温度測定値TA、TB、TC、TDに基づいて、加熱器124~130及び/又は送風器134~140を制御するように構成されている。図示の例では、制御回路200は、加熱器A124が電力PAで動作するように制御し、加熱器B126が電力PBで動作するように制御し、加熱器C128が電力PCで動作するように制御し、加熱器D130が電力PDで動作するように制御する。図示の例では、制御回路200は、送風器A134が電力PFanAで動作するように制御し、送風器B136が電力PFanBで動作するように制御し、送風器C138が電力PFanCで動作するように制御し、送風器D140が電力PFanDで動作するように制御することもできる。これにより、制御回路200は、熱的結合領域104~110のそれぞれについて、追加及び/又は除去される熱の量を制御することができる。
【数1】
の値を決定するために、制御回路200は、図3に示され、以下で参照されて詳細に説明されるプロセス300に従うことができる。他の様々な実施形態(例えば、領域の数が異なる)では、制御回路200は、様々な数の温度測定値を受信し、様々な数の電力レベルを出力して、様々な数の加熱器及び/又は送風器を制御することができることを理解されたい。
【0018】
制御回路200は、温度測定値Tiに基づいて電力制御Piを生成し、熱的結合領域に渡る温度及び温度勾配を制御して、所望の温度勾配(例えば、ゼロ勾配)を達成するように構成される。換言すれば、本開示において企図される定式化では、制御回路200は、システム方程式
【数2】
によって定義される次数nの多自由度離散系によって近似できる、動的な結合した熱的システムを管理するように構成される。この定式化では、
【数3】
は、J/℃の単位を持つ熱容量(又は熱質量)行列である。
【数4】
は、W/℃の単位を持つ熱伝導率行列である。
【数5】
は、Wの単位を持つ電力ベクトル(例えば、PAからPDまでのベクトル)である。
【数6】
は温度ベクトル(例えば、TAからTDまでのベクトル)である。
【数7】
は、℃/sの単位を持つ、温度ベクトル
【数8】
の時間微分である。すなわち、tを時間として、
【数9】
である。静的解析の場合、すなわち、
【数10】
の場合には、電力ベクトルは、与えられた温度ベクトルに基づいて、
【数11】
の式より計算できる。逆に、静的な場合、温度は与えられた電力ベクトルに基づいて、
【数12】
の式より計算できる。
【0019】
上記の定式化では、ベクトル(一本の下線が付されることにより示される)は長さnであり、行列はn×nの正方行列である。パラメータnは任意の整数であってよく、熱的結合領域の数、及び/又は制御可能な機器(すなわち、加熱器及び/又は送風器)の数に等しくてもよい。例えば、図1の例示的な熱的システム100では、4つの領域104~110及び4つの加熱器114~120を有し、nは4であってよい。場合によっては、4つの送風器134~140を考慮して、nは8であってよい。
【0020】
制御回路200によって管理される、動的な熱的結合システムでは、様々な領域間の熱的結合により、従来の制御手法の上記のシステム方程式への直接適用が妨げられる。従って、図3を参照して詳細に説明したように、制御回路200は、実座標系から正規座標系に変換して正規座標系における一組の非連成方程式を生成することによって制御信号を生成し、その非連成方程式を利用して正規座標系における制御のための入力を決定することができる。制御回路200は更に、実座標系に変換し直して、加熱器124~130及び/又は送風器134~140の制御に使用する電力の入力を決定する。次の段落では、この手法のための数学的基礎の導出を提供する。
【0021】
システム方程式
【数13】
を扱うために、固有値を利用した手法を使用して同次方程式
【数14】
を解くことができる。ここで、
【数15】
と仮定する。これは、
【数16】
及び、
【数17】
を意味する。非自明な解、すなわち、
【数18】
には、
【数19】
が必要である。上記の式には、n個の解、すなわち、固有値λi , i=1, … , nがある。各固有値λiは、
【数20】
を満たす大きさを持つ、対応する固有ベクトル
【数21】
を持つ。ここで、
【数22】
は、ベクトル
【数23】
の転置である。直交性を持つことは、
【数24】
及び、
【数25】
を提供する。
【0022】
特定の場合には、物理的な熱的システムについての固有値λi及び固有ベクトル
【数26】
の数値を見つけるために様々な方法が使用され得る。固有ベクトル
【数27】
を使用して、モード行列
【数28】
を、
【数29】
と定義できる。ここで、
【数30】
は、
【数31】
の転置を表す。次に、ベクトル
【数32】
は、
【数33】
と定義できる。ここで、
【数34】
は要素θiを持つ、長さnのベクトルである。
【数35】
は、正規座標系での温度ベクトル
【数36】
の表現として特徴付けることができる(一方、
【数37】
は実座標系で温度値を定義する)。これらの定義が与えられると、システム方程式
【数38】

【数39】
と書き直すことができる。ここで、
【数40】
は正規座標系での電力ベクトル
【数41】
の表現として特徴付けられ得る要素Fiを持つベクトルである(一方、
【数42】
は実座標系での電力値を定義する)。
【0023】
上記の直交性という基本的性質は、
【数43】
が単位行列であるときに
【数44】
であり、
【数45】
が固有値λiを含む対角行列であるときに
【数46】
であることを意味する。従って、上記システム方程式
【数47】
は、
【数48】
に、又は等価である、n個の
【数49】
の形をした、非連成方程式に短縮することができる。これにより、前の段落で概説した手法は、実座標系において、動的な結合した熱的システムを記述する連成方程式系を、正規座標系における非連成方程式の集まりに変換する。
【0024】
オンライン制御では、制御回路200は、
【数50】
に基づいて、測定された(実座標での)温度値Tiからθiの値を計算することができる。次に、θiの値を使用して、様々な既知の制御手法の内の1つ以上を適用して、非連成方程式
【数51】
に基づいて、正規座標系におけるFiの値を生成することができる。次いで、制御回路200は、Fiを実座標系に変換し直して、次式
【数52】
に従うPiの値を決定することができ、Piの値を加熱器124~130及び/又は送風器134~140を制御するために直接使用することができる。
【0025】
次に図3を参照すると、例示的な一実施形態による、加熱器124~130及び/又は送風器134~140を制御するためのプロセス300のフローチャートが示されている。図4~6は、プロセス300を説明するのに役立つ例示的な図を提供しており、以下の説明で参照する。プロセス300は、図2の制御回路200によって実行することができる。
【0026】
ステップ302で、制御回路200は、実座標系と正規座標系との間の変換に使用される行列
【数53】
及び、
【数54】
を同定する。より具体的には、
【数55】
及び、
【数56】
のように、制御回路200は、ステップ302で、
【数57】
及び、
【数58】
の各要素の数値を同定することができる。場合によっては、上記の値は制御回路200によって自動的に導出されてもよい。他の場合には、上記の値は技術者によって導出され、制御回路200上で事前に決定されていてもよい。
【0027】
例えば、行列
【数59】
及び、
【数60】
の要素の値は、回路形式の略図、例えば図4の略図400に基づいて解析的に導出することができる。図4の略図400は、図1の熱的システム100に対応する。略図400に示すように、領域A104は温度TAにあり、熱容量CAを有し、電力PAを受け取る。領域A104は、抵抗RA-aを介して周囲の空気(温度Ta)に熱的に結合されると共に、抵抗RA-Bを介して領域B106にも熱的に結合されるように示されている。領域B106は、温度TBにあり、熱容量CBを有し、電力PBを受け取る。領域B106は、抵抗RB-aを介して周囲の空気(温度Ta)に熱的に結合されると共に、抵抗RA-Bを介して領域A104に、抵抗RB-Cを介して領域C108に熱的に結合されるように示されている。領域C108は、温度TCにあり、熱容量CCを有し、電力PCを受け取る。領域C108は、抵抗RC-aを介して周囲の空気(温度Ta)に熱的に結合されると共に、抵抗RB-Cを介して領域B106に、抵抗RC-Dを介して領域D110に熱的に結合されるように示されている。領域D110は温度TDにあり、熱容量CDを有し、電力PDを受け取る。領域D104は、抵抗RD-aを介して周囲の空気(温度TD)に熱的に結合されると共に、抵抗RC-Dを介して領域C108に熱的に結合されるように示されている。
【0028】
図400から、熱容量、及び熱伝導率行列は、
【数61】
と定義できる。図4の例では、
【数62】
である。ここで、Cpは台盤102の材料の比熱[J/kg]、mは台盤102の質量である。
【0029】
更に、図4の略図400から、熱伝導率行列は、
【数63】
と定義できる。
【0030】
図4の例では、RA-a =RB-a =RC-a =RD-a 、及び、
【数64】
である。ここで、
【数65】
は台盤102の長さであり、
【数66】
は台盤102の断面積であり、
【数67】
は台盤の材料の熱伝導率である。
【0031】
図4の略図400に基づくこれらの定義から、行列
【数68】
及び、
【数69】
の各要素について数値を計算することができる。これにより、ステップ312で行列
【数70】
を同定することができる。
【数71】
の要素の値を決定するために、
【数72】
及び、
【数73】
の実際の値をシステム方程式
【数74】
に代入してもよい。図4の略図400に関連付けられた一組の例示的な値が与えられると、
【数75】
のようになり得る。
【0032】
上記システム方程式の上記表示から、図3のステップ302のために行列
【数76】
を構築する際に使用するための固有値及び固有ベクトルを見つけることができる。上記固有ベクトルは
【数77】
の複数の列として収集され、この例に関しては
【数78】
が得られる。これらの固有ベクトルは、図5のグラフ500にプロットされている。熱伝導率、熱容量、質量などについての他の様々な値を有する様々な代替例では、固有値及び固有ベクトルは異なる値を取る。例えば、図6は、一例として、固有ベクトルのグラフ600を示す。ここで、
【数79】
である。このような例では、領域B104の熱容量の増加により、行列
【数80】
中に反映される(そしてグラフ600上に見える)非対称性が生じるが、それ以外には、上記非対称性は本明細書に示される分析には影響を及ぼさない可能性がある。
【0033】
更に、図3及びプロセス300のステップ302を参照すると、行列
【数81】
及び、行列
【数82】
は、そこにおいて、オンライン制御中に制御回路200によって使用されるために同定され得る。いくつかの実施形態では、制御回路200は、ステップ302で行列
【数83】
及び、
【数84】
を直接同定する。前述の例を完全にするために、上に示した例では、これらの行列は次のように同定できる。
【数85】
ここで、
【数86】

【数87】
の転置に等しい。
【0034】
更に図3を参照すると、ステップ304で、温度センサー114~120は、領域104~110のそれぞれで温度測定値を収集し、温度測定値(例えば、TA 、… 、TD)を制御回路200に提供する。温度測定値は、実座標系で、例えば摂氏の単位で制御回路200によって受信される。
【0035】
ステップ306において、(実座標系における)実際の温度測定値のベクトル
【数88】
は、フィードバックθiを決定するために正規座標系に変換される。つまり、
【数89】

【数90】
と計算され、ここで、
【数91】
は、θiの各値で構成される。この変換により、温度センサー114~120からの実際の温度測定値を正規座標系におけるフィードバックとして使用できるようになる。ステップ308では、正規座標系の値θiが非連成方程式
【数92】
に適用されて、スカラーの一次微分方程式が形成される。
【0036】
ステップ310では、非連成方程式を使用して、Fiの所望の値を決定する。上記の値は、正規座標系における所望の電力として記述することができる。様々な最適化、制御手法などが、様々な状況において適用されてよい。例えば、台盤102に対する温度設定値に基づいて、台盤102全体に渡る温度勾配を最小化するために(例えば、温度測定値TA 、TB 、TC 、TDの差を最小化するために)、及び/又は、加熱器114~120を動作させる経済的コストを最適化するためにである。値Fiはベクトル
【数93】
中に収集される。
【0037】
ステップ312では、正規座標系中の電力ベクトル
【数94】
が実座標系中に変換されて、実座標での電力ベクトル
【数95】
が決定される。すなわち、制御回路200は、
【数96】

【数97】
と計算する。これにより、制御回路200は、図4に示す例では、実座標での電力PA ~PDから成る
【数98】
を算出する。ステップ314で、制御回路は、加熱器124~130及び/又は送風器134~140を制御して、
【数99】
によって示される電力を達成する。例えば、図2に示すように、制御回路200は、電力PAを示す制御信号を加熱器A124に送信し、電力PBを示す制御信号を加熱器B126に送信し、電力PCを示す制御信号を加熱器C128に送信し、電力PDを示す制御信号を加熱器D130に送信することができる。これにより、制御回路200は、領域104~110間の熱的結合に関連する課題を克服することができる。
【0038】
いくつかの代替的実施形態では、8チャネル制御システムを使用して、4つの加熱器124~130及び4つの送風器134~140の制御に貢献することができる。いくつかの実施形態では、4つの送風器134~140の制御は、この例においては、測定され、制御回路200に提供され得る、加熱器の電力である各送風器へのフィードバックとは結合されていないと仮定され得る。このような例では、エラー信号は
【数100】
と定義され得る。ここで、i=A、B、C、Dであり、Tspiは温度設定値、Pspiは加熱器電力の設定値であり、下位の4行は送風器134~140の制御に対応する。上記で導出されたように、正規座標系に変換するには、
【数101】
を得るために
【数102】
を乗算する必要がある。上記行列
【数103】
は、下位の4つの行が非連成であるという事実を反映している。上記の例で計算された値の例を使用すると、
【数104】
の8チャネル版は
【数105】
と定義されてよく、(送風器134~140に対応する)
【数106】
の非連成の(下位の4行の)要素が上記座標変換の影響を受けなくなる。注意すべきは、
【数107】
も同様の形式であるため、非連成の要素も
【数108】
の下で実座標に戻す座標変換の影響を受けないことである。上記事項は、非連成の自由度が連成の自由度の間に散在するような行/要素がある場合にも当てはまる(例えば、
【数109】
の位置1、3、5、7に配置されている場合)。
【0039】
他の実施形態では、制御回路200は、いくつかのチャネルの出力を他のチャネルへの入力として使用することができる。例えば、場合によっては、チャネルの内の1つからの推定加熱器電力は、送風器(例えば、送風器134~140の内の1つ)などの冷却源に対するフィードバックとして使用することができる。これにより、送風器の回転を制御することによって加熱器の出力を最小化することが可能になり得る。このような場合、上記で定義したベクトル
【数110】
を使用して、最初の4行からの加熱器の出力をそれぞれ5、6、7、8を変更するための入力として使用できる。次に、正規座標は
【数111】
と定義できる。ここで、
【数112】
である。
【0040】
他の場合には、行列
【数113】
は、固定出力(例えば、固定PWM)を提供するために使用され得る。このような場合、上記の例では、行列
【数114】
は、
【数115】
と定義できる。
【0041】
制御回路200によって管理される熱的システムの様々な特徴を考慮するため、及び/又は様々な所望のパラメータの最適化を容易にするために、多数の上記のような変形及び定式化が本開示によって企図されることが理解されるべきである。
【0042】
図では方法のステップの特定の順序を示しているが、ステップの順序は図示のものと異なる場合がある。又、2つ以上のステップを同時に、または部分的に同時に実行することもできる。このような変形は、選択したソフトウェア及びハードウェアシステム、及び設計者による選択によって異なる。このような変形は全て本開示の範囲内にある。同様に、ソフトウェアの実装は、様々な接続ステップ、計算ステップ、処理ステップ、比較ステップ、決定ステップを実行するための、ルールベースの論理及びその他の論理を備えた標準的なプログラミング技術を使用して実現され得る。
【0043】
様々な例示的実施形態に示される、システム及び方法に関する構成及び配置は、単なる例示に過ぎない。本開示では少数の実施形態のみが詳細に説明されているが、多くの修正が可能である(例えば、様々な要素の、大きさ、寸法、構造、形状、及び比率、パラメータの値、取り付け配置、材料の使用、色、向き、などの変更)。例えば、要素の位置を逆転又は他の方法で変更することができ、個別の要素又は位置の、性質又は数を改変又は変更することができる。従って、上記のような変形は全て本開示の範囲内に含まれることが意図されている。任意のプロセス、又は方法のステップの順序又は連続は、代替的実施形態に従って変更又は再順序付けすることができる。本開示の範囲から逸脱することなく、例示的実施形態の設計、動作条件、配置において他の置換、変形、変更、省略を行うことができる。
【0044】
本明細書で使用する場合、「制御回路」という用語は、本明細書で説明する機能を実行するように構成されたハードウェアを含むことができる。いくつかの実施形態では、「制御回路」は、本明細書で説明される機能を実行するようにハードウェアを構成するための機械可読媒体を含み得る。制御回路は、処理回路、ネットワークインターフェース、周辺機器、入力機器、出力機器、センサーなどを含むがこれらに限定されない、1つ以上の回路構成要素として具体化され得る。いくつかの実施形態では、制御回路は、1つ以上のアナログ回路、電子回路(例えば、集積回路(IC)、個別回路、システムオンチップ(SOC)回路など)、電気通信回路、ハイブリッド回路、及び任意のその他のタイプの「回路」の形態をとってもよい。これに関して、「制御回路」は、本明細書に記載の動作を達成する、又は達成を容易にするための任意の種類の構成要素を含むことができる。例えば、本明細書で説明される制御回路は、1つ以上のトランジスタ、論理ゲート(例えば、NAND、AND、NOR、OR、XOR、NOT、XNORなど)、抵抗器、マルチプレクサ、レジスタ、コンデンサ、インダクタ、ダイオード、配線など)を含み得る。
【0045】
「制御回路」はまた、1つ以上の、記憶媒体又は記憶機器に、通信可能に結合された1つ以上のプロセッサも含み得る。これに関して、上記1つ以上のプロセッサは、上記記憶媒体に格納された命令を実行することができ、或いは上記1つ以上のプロセッサに他の方法でアクセス可能な命令を実行することもできる。いくつかの実施形態では、1つ以上のプロセッサは様々な方法で具現化され得る。1つ以上のプロセッサは、少なくとも本明細書で説明される動作を実行するのに十分な様式で構築され得る。いくつかの実施形態では、1つ以上のプロセッサは、多数の回路によって共有されてもよい(例えば、回路A及び回路Bは、いくつかの例示的実施形態では、異なる記憶媒体の領域を介して、格納された又は他の方法でアクセスされる命令を実行することができる、同じプロセッサを備えるか、又は共有することができる)。代替的に又は追加的に、1つ以上のプロセッサは、1つ以上の補助的プロセッサから独立して、特定の動作を実現又は他の方法で実行するように構成されてもよい。他の例示的実施形態では、2つ以上のプロセッサがバスを介して結合され、独立、並列、パイプライン、マルチスレッドの命令実行を可能にすることができる。各プロセッサは、1つ以上の汎用プロセッサ、特定用途向け集積回路(ASIC)、フィールド・プログラマブル・ゲート・アレイ(FPGA)、デジタル・シグナル・プロセッサ(DSP)、又は、記憶媒体によって提供される命令を実行するように構成された他の適切な電子データ処理部品として実装できる。1つ以上のプロセッサは、シングルコアプロセッサ、マルチコアプロセッサ(例えば、デュアルコアプロセッサ、トリプルコアプロセッサ、クアッドコアプロセッサなど)、マイクロプロセッサなどの形態をとってもよい。いくつかの実施形態では、1つ以上のプロセッサは装置の外部にあってもよく、例えば1つ以上のプロセッサは遠隔のプロセッサ(例えばクラウドベースのプロセッサ)であってもよい。代替的に又は追加的に、1つ以上のプロセッサは、装置の内部及び/又は近傍にあってもよい。この点に関して、所与の回路(制御回路)又はその構成要素は、ローカルに(例えば、ローカルサーバ、ローカルコンピューティングシステムなどの一部として)又はリモートに(例えば、クラウドベースのサーバー等のリモートサーバの一部として)配置され得る。そのために、本明細書で説明する「制御回路」は、1つ以上の場所に分散された構成要素を含むことができる。本開示は、様々な操作を達成するための方法、システム、任意の機械可読媒体上のプログラム製品を企図する。本開示の実施形態は、既存のコンピュータプロセッサを使用して、又は、この目的又は別の目的のために組み込まれた適切なシステム用の専用コンピュータプロセッサによって、又は、配線システムによって、実装することができる。本開示の範囲内の実施形態には、機械実行可能な命令又はデータ構造を、移動又は記憶させるための機械可読媒体を含むプログラム製品が含まれる。このような機械可読媒体は、汎用又は専用コンピュータ、又はプロセッサを備えた他の機械によってアクセスできる任意の利用可能な媒体であり得る。例として、そのような機械可読媒体は、RAM、ROM、EPROM、EEPROM、CD-ROM又は他の光ディスク記憶装置、磁気ディスク記憶装置、又は他の磁気記憶装置を含むことができる。又、所望のプログラム・コードを、汎用又は専用のコンピュータ、又はプロセッサを備えた他の機械によってアクセスできる、機械実行可能な命令又はデータ構造の形式で、持ち運び又は保管するために使用できる他の任意の媒体を含むことができる。上記の物品の組み合わせも機械可読媒体の範囲内に含まれる。機械実行可能命令には、例えば、汎用コンピュータ、専用コンピュータ、又は専用処理機械に、特定の機能又は機能の組を実行させる命令及びデータが含まれる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
【国際調査報告】