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特表2024-504078神経変性疾患の治療及び予防のためのレクチンタンパク質
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-01-30
(54)【発明の名称】神経変性疾患の治療及び予防のためのレクチンタンパク質
(51)【国際特許分類】
   C07K 14/37 20060101AFI20240123BHJP
   A61P 25/00 20060101ALI20240123BHJP
   A61P 25/16 20060101ALI20240123BHJP
   A61P 25/28 20060101ALI20240123BHJP
   A61K 38/16 20060101ALI20240123BHJP
【FI】
C07K14/37 ZNA
A61P25/00
A61P25/16
A61P25/28
A61K38/16
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023541585
(86)(22)【出願日】2022-01-05
(85)【翻訳文提出日】2023-09-07
(86)【国際出願番号】 IB2022050056
(87)【国際公開番号】W WO2022149068
(87)【国際公開日】2022-07-14
(31)【優先権主張番号】202121000832
(32)【優先日】2021-01-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】IN
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】515259694
【氏名又は名称】ユニケム ラボラトリーズ リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】サルバナクマル・イヤパン
(72)【発明者】
【氏名】ディリップ・パワル
(72)【発明者】
【氏名】ダナンジャイ・サテ
【テーマコード(参考)】
4C084
4H045
【Fターム(参考)】
4C084AA02
4C084AA07
4C084BA01
4C084BA08
4C084BA21
4C084BA23
4C084CA53
4C084DA31
4H045AA10
4H045AA20
4H045AA30
4H045BA10
4H045CA15
4H045DA80
4H045EA21
4H045FA72
4H045FA74
(57)【要約】
本発明は、神経変性疾患の治療及び予防のためのレクチンタンパク質に関する。本発明は、神経変性疾患の治療及び予防のための、配列番号4に60%相同な配列を有する、スクレロティウム・ロルフシーのレクチンに由来する組換えレクチンタンパク質に更に関する。本発明は、パーキンソン病、アルツハイマー病、認知症及び認知症の症状の治療又は予防のための、配列番号4に60%相同な配列を有する、スクレロティウム・ロルフシーのレクチンに由来するレクチンタンパク質及びその変異体に特に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
神経変性疾患の治療又は予防のための、スクレロティウム・ロルフシー(Sclerotium rolfsii)のレクチンに由来する組換えレクチンタンパク質。
【請求項2】
配列番号1、配列番号2、配列番号3、又は配列番号4に対して少なくとも70%の相同性を有するアミノ酸配列から選択される、請求項1に記載の組換えレクチンタンパク質。
【請求項3】
アミノ酸配列が、配列番号4に対して少なくとも75%、80%、90%、95%、96%、97%、98%又は99%の相同性を有する、請求項2に記載の組換えレクチンタンパク質。
【請求項4】
神経変性疾患が、アルツハイマー病、パーキンソン病、認知症、認知障害、認知症に関連する症状、ハンチントン病、プリオン病、例えばクロイツフェルト・ヤコブ病、レビー小体病、びまん性レビー小体病(DLBD)、ポリグルタミン(ポリQ)リピート病、脳変性疾患、球脊髄性筋萎縮症(SBMA)、運動失調、ピック病、原発性進行性失語症、多系統萎縮症、パントテン酸キナーゼ関連神経変性症(PANK)、脊髄変性疾患/運動ニューロン変性疾患、海馬硬化症、皮質基底核変性症、バッテン病、運動ニューロン疾患様筋萎縮性側索硬化症(ALS、ルー・ゲーリック病とも称される)、原発性側索硬化症(PLS)、ALSの変形型である進行性球麻痺(PBP)、仮性球麻痺及び遺伝性痙性対麻痺から選択される、請求項1に記載の組換えレクチンタンパク質。
【請求項5】
神経変性疾患が、アルツハイマー病、パーキンソン病、認知症、認知障害及び認知症に関連する症状から選択される、請求項4に記載の組換えレクチンタンパク質。
【請求項6】
神経変性疾患の治療又は予防のために投与される組換えレクチンタンパク質の有効量が0.01mg/kg~1000mg/kg対象体重の範囲内である、請求項1から5のいずれか一項に記載の組換えレクチンタンパク質。
【請求項7】
スクレロティウム・ロルフシー(Sclerotium rolfsii)のレクチンに由来する治療有効量の組換えレクチンタンパク質及び医薬的に許容可能な賦形剤を含む、神経変性疾患の治療又は予防のための医薬組成物。
【請求項8】
神経変性疾患が、アルツハイマー病、パーキンソン病、認知症、認知障害及び認知症に関連する症状から選択される、請求項7に記載の神経変性の治療又は予防のための医薬組成物。
【請求項9】
配列番号1、配列番号2若しくは配列番号3の配列を有するスクレロティウム・ロルフシー(Sclerotium rolfsii)に由来する組換えレクチンタンパク質、又は請求項7に記載の医薬組成物を対象に投与する工程を含む、対象における神経変性疾患の治療又は予防の方法。
【請求項10】
アミノ酸配列が、配列番号4に対して少なくとも75%、80%、90%、95%、96%、97%、98%又は99%の相同性を有する、請求項11に記載の神経変性疾患の治療又は予防の方法。
【請求項11】
神経変性疾患が、アルツハイマー病、パーキンソン病、認知症、認知障害、認知症に関連する症状、ハンチントン病、プリオン病、例えばクロイツフェルト・ヤコブ病、レビー小体病、びまん性レビー小体病(DLBD)、ポリグルタミン(ポリQ)リピート病、脳変性疾患、球脊髄性筋萎縮症(SBMA)、運動失調、ピック病、原発性進行性失語症、多系統萎縮症、パントテン酸キナーゼ関連神経変性症(PANK)、脊髄変性疾患/運動ニューロン変性疾患、海馬硬化症、皮質基底核変性症、バッテン病、運動ニューロン疾患様筋萎縮性側索硬化症(ALS、ルー・ゲーリック病とも称される)、原発性側索硬化症(PLS)、ALSの変形型である進行性球麻痺(PBP)、仮性球麻痺及び遺伝性痙性対麻痺から選択される、請求項11に記載の神経変性疾患の治療又は予防の方法。
【請求項12】
神経変性疾患が、アルツハイマー病、パーキンソン病、認知症、認知障害及び認知症に関連する症状から選択される、請求項11に記載の神経変性疾患の治療又は予防の方法。
【請求項13】
0.01mg/kg~1000mg/kgの用量の組換えレクチンタンパク質を投与する工程を含む、請求項10に記載の神経変性疾患の治療の方法。
【請求項14】
神経変性疾患の治療又は予防のための医薬の製造における、スクレロティウム・ロルフシー(Sclerotium rolfsii)のレクチンに由来する組換えレクチンタンパク質の使用。
【請求項15】
アミノ酸配列が、配列番号4に対して少なくとも75%、80%、90%、95%、96%、97%、98%又は99%の相同性を有する、請求項20に記載の神経変性疾患の治療又は予防で使用するための組換えレクチンタンパク質。
【請求項16】
神経変性疾患が、アルツハイマー病、パーキンソン病、認知症、認知障害、認知症に関連する症状、ハンチントン病、プリオン病、例えばクロイツフェルト・ヤコブ病、レビー小体病、びまん性レビー小体病(DLBD)、ポリグルタミン(ポリQ)リピート病、脳変性疾患、球脊髄性筋萎縮症(SBMA)、運動失調、ピック病、原発性進行性失語症、多系統萎縮症、パントテン酸キナーゼ関連神経変性症(PANK)、脊髄変性疾患/運動ニューロン変性疾患、海馬硬化症、皮質基底核変性症、バッテン病、運動ニューロン疾患様筋萎縮性側索硬化症(ALS、ルー・ゲーリック病とも称される)、原発性側索硬化症(PLS)、ALSの変形型である進行性球麻痺(PBP)、仮性球麻痺及び遺伝性痙性対麻痺から選択される、請求項20に記載の神経変性疾患の治療又は予防で使用するための組換えレクチンタンパク質。
【請求項17】
神経変性疾患が、アルツハイマー病、パーキンソン病、認知症、認知障害及び認知症に関連する症状から選択される、請求項20に記載の神経変性疾患の治療又は予防で使用するための組換えレクチンタンパク質。
【請求項18】
配列番号1、配列番号2又は配列番号3の配列を有する有効量の組換えレクチンタンパク質の対象への投与を含む、神経変性疾患を罹患している対象においてニューロンの増生を誘導するための方法であって、神経変性疾患が、アルツハイマー病、パーキンソン病、認知症、認知障害及び認知症に関連する症状から選択される、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、神経変性疾患の治療及び予防のためのタンパク質に関する。
【背景技術】
【0002】
神経変性疾患は、進行性の不可逆的損傷を神経系に引き起こす状態である。この結果として、神経変性疾患は運動失調又は認知症のいずれかをもたらす。神経変性疾患の病態形成は、それぞれ斑及び神経原線維変化をもたらす、アミロイドベータタンパク質(Aβ)ペプチドの細胞外及び細胞間の沈着並びにタウタンパク質の過剰リン酸化を特徴とし、酸化ストレスにつながり、神経炎症をもたらし;α-シヌクレインの翻訳後修飾、例えば、リン酸化、ユビキチン化及びニトロ化は、レビー小体形成及びドーパミンニューロン死につながる、α-シヌクレイン凝集プロセスに広く関与している。これに加えて、以下を含む経路のいずれか1つにおける任意の異常が神経変性疾患を引き起こす:細胞内機構(例えば、アポトーシス、オートファジー、ミトコンドリア機能不全、酸化DNA損傷及び修復、ユビキチン-プロテアソームシステム);局部的組織環境(例えば、細胞接着、エンドサイトーシス、神経伝達、プリオン及び伝達性因子);全身的環境(炎症及び免疫機能不全、脂質、代謝性内分泌因子、血管変化)並びに発達及び加齢(例えば、エピジェネティックな変化、神経栄養因子、テロメア)等。
【0003】
認知症は、著しい意識混濁がない場合に、又は運動障害をともなって、職業上の機能、通常の社会的活動又は人間関係のいずれかを妨げるのに十分な重症度の知能の喪失を特徴とする、1つを超える認知領域における認知機能障害と定義される(Sharma及びSinghら、2010 Indian journal of Pharmacology、第42巻、第3号;164~167頁)。認知症に関与する認知領域は、言語(失語症)、運動(失行症)、失認症(認識不全)及び実行機能(抽象的な推理、判断及び計画)を含む(Parris M. Kidd;Alternative Medicine Review.2008、第13巻、第2号、85~115頁.31p)。アルツハイマー病、血管性認知症及びレビー小体をともなう認知症、前頭側頭型認知症及びパーキンソン病、ハンチントン病と関係がある認知症、水頭症、ウェルニッケ・コルサコフ症候群による認知症並びにクロイツフェルト・ヤコブ病認知症を含めて、多くのタイプの認知症が存在する(Husband, A.及びWorsley, A 2006、The Pharmaceutical Journal.、277(7426).579~582頁)。
【0004】
高齢化社会は、加齢性神経変性疾患の発生率の顕著な増加に直面している(Rasalan及びkee 2013;Genes & Genomics、第35巻、425~440頁)。生活習慣の変更若しくは生活習慣への介入又は適切な食事等の治療的及び非治療的アプローチ(Gurjitら、2019 Front Aging Neurosci.2019;11:369)は、神経変性疾患の治療に利用可能な頼みとする手段(recourses)である。治療的アプローチで、神経変性疾患の治療又は予防のために一般に使用され、承認されている治療剤は、コリンエステラーゼ阻害剤(ガランタミン、ドネペジル、リバスチグミン)、メマンチン、イストラデフィリン、ドーパミンアゴニスト(プラミペキソール、アポモルヒネ)、レボドパ/カルビドパ、モノクローナル抗体、例えば、ダクリズマブ、ナタリズマブ、アレムツズマブ及び免疫調節剤、例えば、テリフルノミドである。これらの医薬は、重度の副作用、例えば、痙攣、悪心、眩暈、徐脈、転倒、更には死亡を引き起こす。
【0005】
したがって、学習及び記憶機能障害を軽減し、且つ神経成長因子(NGF)及びアセチルコリンエステラーゼ(AChE)の正常な発現レベルを回復して、アルツハイマー病及びパーキンソン病等の疾患に対する保護効果を脳に対して発揮するための本質的な特性を有する、新しい強力な治療剤を開発することが急務である。
【0006】
レクチンは炭水化物結合タンパク質であり、植物、動物及び微生物に遍在する。レクチンの凝集特性によって、先端医学研究におけるその用途が高められた。神経変性疾患におけるレクチンの治療的可能性もよく研究されている。
【0007】
米国出願第20200017578号は、アルツハイマー病等の神経変性障害の治療のための、シアル酸に結合特異性を有するレクチン、例えば、キイロナメクジ(Limax flavus)のアグルチニン(LFA)、アメリカカブトガニ(Limulus polyphemus)のアグルチニン(LPA)、パエシロミセスジャポニカ(Paecilomyes japonica)のアグルチニン(PJA)、ロブスターのアグルチニンI又はウシエビ(Penaeus monodin)のレクチンの使用を開示する。
【0008】
米国特許第8916387号は、体液及び組織中のアミロイド-ベータペプチドのグリコシル化パターンに基づいた、アルツハイマー病の予防、治療及び診断のための方法を記載する。ヤドリギ、イヌエンジュ(Maackia amurensis)及びヤナギマツタケ(Agrocybe cylindracea)由来のレクチンは、皮質萎縮、神経細胞の脱落、領域特異的アミロイド沈着、老人斑及び神経原線維変化の予防及び治療のための医薬又は診断剤として有用であると開示されている。レクチンは、アミロイドベータタンパク質斑沈着が関与する疾患を治療する又は予防するために使用されることが更に開示されており、ここでは、疾患は、脳アミロイドアンギオパチー及びアルツハイマー病又はHIV関連神経認知疾患からなる群から選択される。
【0009】
テトラネクチンは、C型レクチンファミリーに属する、ヒトのホモ三量体21KDタンパク質である。脳脊髄液中のテトラネクチンのレベルが、正常な対照対象と比較してパーキンソン病の患者で劇的に低下し、テトラネクチンは、1-メチル-4-フェニルピリジン誘導性神経毒性において、アポトーシス及びオートファジーを阻害することによって神経保護剤として作用することが見出されている(Qiang Xieら、2018 World Neurosurgery、第122巻、e375~e382頁)。
【0010】
合成薬物又はペプチド等の薬剤を使用する神経変性疾患の治療は、従来技術で十分に確立されており、細胞表面結合剤又は送達剤としてレクチンが使用されている。神経変性疾患の治療及び予防における治療剤としてのレクチンの使用に関して、非常に限られた情報しかない。上記の研究の大部分で、神経疾患の治療又は予防のために、以下のレクチンが探索された:植物レクチン、例えばイヌエンジュ、動物レクチン、例えば、ウシエビ-キイロナメクジ(庭ナメクジ);アメリカカブトガニ及び真菌レクチン、ヤナギマツタケ。
【0011】
医薬品活性薬剤のための結合又は送達剤としてのいくつかの常在性レクチンの使用は既知であり、神経変性疾患の治療についても報告されている(例えば、US20070243132)。しかし、神経変性疾患の治療又は予防における治療剤としてのレクチンの効力は、詳細に研究されていない。したがって、脳認知機能障害を軽減し、神経栄養因子及びコリンエステラーゼの発現レベルを回復し、神経変性疾患に対して高い治療効能を与える、強力なレクチンの探索及び特定が必要である。
【0012】
スクレロティウム・ロルフシー(Sclerotium rolfsii)のレクチン(SRL)は、土壌伝播性の植物病原性真菌S.ロルフシーの菌核体から単離されたレクチンである。SRLは、トムゼン-フリーデンライヒ(TF)抗原及びTn抗原に対して特異性を有する。TF抗原は、様々なヒト癌細胞の細胞表面で過剰発現している二糖(Galβ1→3GalNAc-α-Ser/Thr)である。Tn抗原は単糖(GalNAc-α-Ser/Thr)である。WO2010/095143は、それぞれ3又は5アミノ酸の置換による、ネイティブSRL配列に由来する組換えレクチン変異体Rec-2及びRec-3を開示している。これらの変異体の結晶構造が報告されている(Peppaら、Molecules.2015年6月12日;20(6):10848~65)。WO2014/203261は、12アミノ酸の置換による、ネイティブSRL配列に由来する組換えレクチン変異体を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】米国出願第20200017578号
【特許文献2】米国特許第8916387号
【特許文献3】US20070243132
【特許文献4】WO2010/095143
【特許文献5】WO2014/203261
【特許文献6】WO2020/044296
【特許文献7】WO/2020/074977
【特許文献8】インド出願第201921027358号
【非特許文献】
【0014】
【非特許文献1】Sharma及びSinghら、2010 Indian journal of Pharmacology、第42巻、第3号;164~167頁
【非特許文献2】Parris M. Kidd;Alternative Medicine Review.2008、第13巻、第2号、85~115頁.31p
【非特許文献3】Husband, A.及びWorsley, A 2006、The Pharmaceutical Journal.、277(7426).579~582頁
【非特許文献4】Rasalan及びkee 2013;Genes & Genomics、第35巻、425~440頁
【非特許文献5】Gurjitら、2019 Front Aging Neurosci.2019;11:369
【非特許文献6】Qiang Xieら、2018 World Neurosurgery、第122巻、e375~e382頁
【非特許文献7】Peppaら、Molecules.2015年6月12日;20(6):10848~65
【非特許文献8】Altschuら、Nucleic Acids Res.1997年9月1日;25(17):3389~402
【非特許文献9】URL:https://blast.ncbi.nlm.nih.gov/Blast.cgi
【非特許文献10】URL:https://www.ebi.ac.uk/Tools/psa/emboss_needle/
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明の課題は、神経変性疾患の予防及び治療のための新しい方法を開発することである。新しい方法とは、神経変性疾患の予防及び治療のための新しい治療的に有効な薬剤を含む方法を意味する。したがって、神経変性疾患の治療及び予防の方法で新しい治療剤の使用を確立することが一課題であり、新しい治療剤は組換えレクチンである。
【0016】
本発明の別の課題は、神経変性疾患の治療及び予防のための組換えレクチンを提供することである。したがって、課題は、認知症を引き起こす疾患の治療及び予防のための組換えレクチンを提供することである、課題はまた、アルツハイマー病及びパーキンソン病の治療及び予防のための組換えレクチンを特に提供することである。
【0017】
本発明の更に別の課題は、神経変性疾患の治療及び予防のための組換えレクチンを含む組成物を提供することである。神経変性疾患の治療及び予防のための組換えレクチンを含む組成物の使用も本発明の一課題である。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明は、神経変性疾患の治療又は予防のための、スクレロティウム・ロルフシーのレクチンに由来する組換えレクチンタンパク質に関する。
【0019】
本発明は、更に、スクレロティウム・ロルフシーのレクチンに由来する治療有効量の組換えレクチンタンパク質及び医薬的に許容可能な賦形剤を含む、神経変性疾患の治療又は予防のための医薬組成物に関する。
【0020】
本発明は、スクレロティウム・ロルフシーのレクチンに由来する有効量の組換えレクチンタンパク質の対象への投与を含む、神経変性疾患の治療又は予防のための方法にも関する。
【0021】
本発明は、神経変性疾患の治療又は予防のための、スクレロティウム・ロルフシーのレクチンに由来する組換えレクチンタンパク質の使用に関する。
【0022】
更に別の態様では、本発明は、対象における神経変性疾患の治療又は予防のための、スクレロティウム・ロルフシーのレクチンに由来する組換えレクチンタンパク質であって、神経変性疾患が、アルツハイマー病、パーキンソン病、認知症、認知障害及び認知症に関連する症状から選択される、組換えレクチンタンパク質に関する。
【0023】
更に別の態様では、本発明は、対象における神経変性疾患の治療又は予防のための、スクレロティウム・ロルフシーのレクチンに由来する組換えレクチンタンパク質であって、神経変性疾患が、ハンチントン病、プリオン病、例えばクロイツフェルト・ヤコブ病、レビー小体病、びまん性レビー小体病(DLBD)、ポリグルタミン(ポリQ)リピート病、脳変性疾患、球脊髄性筋萎縮症(SBMA)、運動失調、ピック病、原発性進行性失語症、多系統萎縮症、パントテン酸キナーゼ関連神経変性症(PANK)、脊髄変性疾患/運動ニューロン変性疾患、海馬硬化症、皮質基底核変性症、バッテン病から選択される、組換えレクチンタンパク質に関する。
【0024】
更に別の態様では、本発明は、スクレロティウム・ロルフシーのレクチンに由来する、対象における神経変性疾患の治療又は予防のための組換えレクチンタンパク質であって、神経変性疾患が、運動ニューロン疾患様筋萎縮性側索硬化症(ALS、ルー・ゲーリック病とも称される)、原発性側索硬化症(PLS)、ALSの変形型である進行性球麻痺(PBP)、仮性球麻痺及び遺伝性痙性対麻痺から選択される、組換えレクチンタンパク質に関する。
【0025】
更に別の態様によれば、本発明は、スクレロティウム・ロルフシーのレクチンに由来する有効量の組換えレクチンタンパク質の対象への投与を含む、対象における神経変性疾患の治療又は予防のための方法であって、神経変性疾患が、アルツハイマー病、パーキンソン病、認知症、認知障害及び認知症に関連する症状から選択される方法を提供する。
【0026】
更に別の態様では、本発明は、スクレロティウム・ロルフシーのレクチンに由来する有効量の組換えレクチンタンパク質の対象への投与を含む、対象における神経変性疾患の治療又は予防のための方法であって、神経変性疾患が、ハンチントン病、プリオン病、例えばクロイツフェルト・ヤコブ病、レビー小体病、びまん性レビー小体病(DLBD)、ポリグルタミン(ポリQ)リピート病、脳変性疾患、球脊髄性筋萎縮症(SBMA)、運動失調、ピック病、原発性進行性失語症、多系統萎縮症、パントテン酸キナーゼ関連神経変性症(PANK)、脊髄変性疾患/運動ニューロン変性疾患、海馬硬化症、皮質基底核変性症、バッテン病から選択される方法を提供する。
【0027】
更に別の態様では、本発明は、スクレロティウム・ロルフシーのレクチンに由来する有効量の組換えレクチンタンパク質の対象への投与を含む、対象における神経変性疾患の治療又は予防のための方法であって、神経変性疾患が、運動ニューロン疾患様筋萎縮性側索硬化症(ALS、ルー・ゲーリック病とも称される)、原発性側索硬化症(PLS)、ALSの変形型である進行性球麻痺(PBP)、仮性球麻痺及び遺伝性痙性対麻痺から選択される方法を提供する。
【0028】
本発明の別の態様によれば、スクレロティウム・ロルフシーのレクチンに由来する治療有効量の組換えレクチンタンパク質及び医薬的に許容可能な賦形剤を含む、神経変性疾患の治療又は予防のための医薬組成物であって、神経変性疾患が、アルツハイマー病、パーキンソン病、認知症、認知障害及び認知症に関連する症状から選択される医薬組成物が提供される。
【0029】
更に別の態様では、本発明は、スクレロティウム・ロルフシーのレクチンに由来する治療有効量の組換えレクチンタンパク質及び医薬的に許容可能な賦形剤を含む、神経変性疾患の治療又は予防のための医薬組成物であって、神経変性疾患が、ハンチントン病、プリオン病、例えばクロイツフェルト・ヤコブ病、レビー小体病、びまん性レビー小体病(DLBD)、ポリグルタミン(ポリQ)リピート病、脳変性疾患、球脊髄性筋萎縮症(SBMA)、運動失調、ピック病、原発性進行性失語症、多系統萎縮症、パントテン酸キナーゼ関連神経変性症(PANK)、脊髄変性疾患/運動ニューロン変性疾患、海馬硬化症、皮質基底核変性症、バッテン病から選択される医薬組成物を提供する。
【0030】
更に別の態様では、本発明は、スクレロティウム・ロルフシーのレクチンに由来する治療有効量の組換えレクチンタンパク質及び医薬的に許容可能な賦形剤を含む、神経変性疾患の治療又は予防のための医薬組成物であって、神経変性疾患が、運動ニューロン疾患様筋萎縮性側索硬化症(ALS、ルー・ゲーリック病とも称される)、原発性側索硬化症(PLS)、ALSの変形型である進行性球麻痺(PBP)、仮性球麻痺及び遺伝性痙性対麻痺から選択される医薬組成物を提供する。
【0031】
本発明の更に別の態様によれば、対象における神経変性疾患の治療又は予防のための、スクレロティウム・ロルフシーのレクチンに由来する組換えレクチンタンパク質の使用であって、神経変性疾患が、アルツハイマー病、パーキンソン病、認知症、認知障害及び認知症に関連する症状から選択される、組換えレクチンタンパク質の使用が提供される。
【0032】
更に別の態様では、対象における神経変性疾患の治療又は予防のための、スクレロティウム・ロルフシーのレクチンに由来する組換えレクチンタンパク質の使用であって、神経変性疾患が、ハンチントン病、プリオン病、例えばクロイツフェルト・ヤコブ病、レビー小体病、びまん性レビー小体病(DLBD)、ポリグルタミン(ポリQ)リピート病、脳変性疾患、球脊髄性筋萎縮症(SBMA)、運動失調、ピック病、原発性進行性失語症、多系統萎縮症、パントテン酸キナーゼ関連神経変性症(PANK)、脊髄変性疾患/運動ニューロン変性疾患、海馬硬化症、皮質基底核変性症、バッテン病から選択される、組換えレクチンタンパク質の使用が提供される。
【0033】
更に別の態様では、対象における神経変性疾患の治療又は予防のための、スクレロティウム・ロルフシーのレクチンに由来する組換えレクチンタンパク質の使用であって、神経変性疾患が、運動ニューロン疾患様筋萎縮性側索硬化症(ALS、ルー・ゲーリック病とも称される)、原発性側索硬化症(PLS)、ALSの変形型である進行性球麻痺(PBP)、仮性球麻痺及び遺伝性痙性対麻痺から選択される、組換えレクチンタンパク質の使用が提供される。
【0034】
本発明の一態様によれば、スクレロティウム・ロルフシーのレクチンに由来する有効量の組換えレクチンタンパク質の対象への投与を含む、ニューロンの増生(outgrowth)を誘導するための方法が提供される。
【0035】
本発明の前述の態様によれば、組換えレクチンタンパク質は、
i)配列番号4、又は
ii)配列番号4に対して少なくとも70%の同一性を有するアミノ酸配列
から選択されるアミノ酸配列を含む。
【0036】
本発明の前述の態様によれば、組換えレクチンタンパク質は、配列番号4に対して少なくとも70%、75%、80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%の同一性を有するアミノ酸配列を含む。
【0037】
本発明の前述の態様によれば、神経変性疾患の治療又は予防のために投与される有効量の組換えレクチンタンパク質は、0.01mg/kg~1000mg/kg対象体重の範囲内である。
【0038】
本発明の特定の一態様によれば、神経変性疾患の治療又は予防のための、配列番号1、配列番号2、配列番号3又は配列番号4の配列を有する組換えレクチンタンパク質が提供される。
【0039】
本発明の別の特定の態様によれば、配列番号1、配列番号2、配列番号3又は配列番号4の配列を有する有効量の組換えレクチンタンパク質の対象への投与を含む、神経変性疾患の治療又は予防の方法が提供される。
【0040】
本発明の更に別の特定の態様によれば、配列番号1、配列番号2、配列番号3又は配列番号4の配列を有する治療有効量の組換えレクチンタンパク質を含む、対象における神経変性疾患の治療又は予防のための組成物が提供される。
【0041】
本発明の別の特定の態様によれば、対象における神経変性疾患の治療又は予防のための、配列番号1、配列番号2、配列番号3又は配列番号4の配列を有する組換えレクチンタンパク質の使用が提供される。
【0042】
本発明の更に別の特定の態様によれば、対象における神経変性疾患の治療又は予防のための、配列番号1、配列番号2、配列番号3又は配列番号4の配列を有する治療有効の量組換えレクチンタンパク質を含む組成物の使用が提供される。
【0043】
本発明の特定の態様では、対象における神経変性疾患の治療又は予防のための、配列番号1、配列番号2、配列番号3又は配列番号4の配列を有する組換えレクチンタンパク質であって、神経変性疾患が、アルツハイマー病、パーキンソン病、認知症、認知障害及び認知症に関連する症状から選択される、組換えレクチンタンパク質が提供される。
【0044】
本発明の別の特定の態様では、配列番号1、配列番号2、配列番号3又は配列番号4の配列を有する有効量の組換えレクチンタンパク質の対象への投与を含む、対象における神経変性疾患の治療又は予防のための方法であって、神経変性疾患が、アルツハイマー病、パーキンソン病、認知症、認知障害及び認知症に関連する症状から選択される方法が提供される。
【0045】
本発明の更に別の特定の態様では、配列番号1、配列番号2、配列番号3又は配列番号4の配列を有する治療有効量の組換えレクチンタンパク質及び医薬的に許容可能な賦形剤を含む、神経変性疾患の治療又は予防のための医薬組成物であって、神経変性疾患が、アルツハイマー病、パーキンソン病、認知症、認知障害及び認知症に関連する症状から選択される医薬組成物が提供される。
【0046】
本発明の更に別の特定の態様では、対象における神経変性疾患の治療又は予防のための、配列番号1、配列番号2、配列番号3又は配列番号4の配列を有する組換えレクチンタンパク質の使用であって、神経変性疾患が、アルツハイマー病、パーキンソン病、認知症、認知障害及び認知症に関連する症状から選択される、組換えレクチンタンパク質の使用が提供される。
【0047】
本発明の一態様では、配列番号1、配列番号2、配列番号3又は配列番号4の配列を有する有効量の組換えレクチンタンパク質の投与を含む、ニューロンの増生を誘導するための方法が提供される。
【0048】
定義
本明細書で使用する場合、用語「レクチン」は炭水化物結合タンパク質を指す。
【0049】
本明細書で使用する場合、用語「タンパク質」はアミノ酸残基のポリマーを指す。
【0050】
本明細書で使用する場合、用語「アミノ酸」は、天然に存在するアミノ酸及び合成アミノ酸並びに天然に存在するアミノ酸同様の機能を有するアミノ酸類似体及びアミノ酸模倣体を指す。天然に存在するアミノ酸は遺伝暗号にコードされるものであり、タンパク質を構成するアミノ酸を含む。天然に存在するアミノ酸は、細胞で翻訳後に修飾されたものも含む。合成アミノ酸は、非標準アミノ酸、例えば、セレノシステイン及びピロリジンを含む。典型的には、合成アミノ酸はタンパク質を構成するアミノ酸ではない。
【0051】
用語「神経の」又は「神経細胞」は、限定されないが、神経細胞、グリア細胞、乏突起膠細胞、ミクログリア細胞又は神経幹細胞を含めた、脳、中枢神経系及び末梢神経系に存在する細胞である。
【0052】
疾患又は障害という用語は、別段言及されない限り互換的に使用される。「疾患」は、恒常性を維持することができない動物の健康状況であり、疾患が改善しない場合、動物の健康は悪化し続ける。動物における「障害」は、動物が、恒常性を維持することができるが、動物の健康状況が、障害がない場合よりも好ましくない健康状況である。用語「疾患」又は「障害」は互換的に使用され、機能の実行を妨害する若しくは乱す、並びに/又は苦しんでいる人若しくはその人と接触しているものに不快感、機能不全、苦痛若しくは更に死亡等の症状を引き起こす、身体又は一部の器官の状況の任意の変化も指すことができる。疾患又は障害は、ジステンパー、不調(ailing)、軽いが慢性の病気(ailment)、疾病、障害、病的状態、病気、愁訴、インダーディスポジオン(inder-disposion)又は見せかけ(affectation)に関する可能性もある。
【0053】
用語「神経変性疾患」は、神経変性の疾患又は障害の両方を含み、神経組織の機能若しくは構造及び/又は神経組織機能の段階的且つ進行的欠損と定義される。これは、神経細胞の機能障害、更には神経細胞死の増加につながる。この疾患又は障害の確からしい原因は、加齢、遺伝子異常又は毒素、化学物質若しくはウイルスへの暴露でありうる。時には、原因は、アルコール依存症、腫瘍又は卒中等の医学的状態でありうる。通常、神経変性疾患は、身体活動、例えば、運動(運動失調と呼ばれる)、精神機能(認知症と呼ばれる)、バランス維持、会話及び呼吸に関する問題を引き起こす。ある特定の場合では、これは心臓機能にも影響を及ぼす可能性がある。本発明による神経変性疾患としては、限定はされないが、ニューロンが機能不全である及び/又は変性している状態を挙げることができる。そうした疾患の非限定的な例は、アルツハイマー病(AD)、パーキンソン病(PD)、ハンチントン病、認知症又は本明細書に列挙される1つより多い神経変性疾患を引き起こす認知症の症状、前頭側頭型認知症(FTD)、プログラニュリンタンパク質又はタウタンパク質中の突然変異によって引き起こされるFTD{例えば、プログラニュリン欠乏FTLD)、封入体ミオパチーをともなう前頭側頭型認知症(IBMPFD)、運動ニューロン疾患をともなう前頭側頭型認知症、筋萎縮性側索硬化症(ALS、ルー・ゲーリック病とも称される)、認知症をともなう筋萎縮性側索硬化症(ALSD)、原発性側索硬化症(PLS)、脊髄性筋萎縮症(SMA)、多発性硬化症(MS)、プリオン病、例えばクロイツフェルト・ヤコブ病、レビー小体病、びまん性レビー小体病(DLBD)、ポリグルタミン(ポリQ)リピート病、トリヌクレオチドリピート病、脳変性疾患、初老期認知症、老年認知症、第17染色体に連鎖するパーキンソニズム(FTDP-17)、進行性核上性麻痺(PSP)、進行性球麻痺(PBP)、仮性球麻痺、球脊髄性筋萎縮症(SBMA)、フリートライヒ運動失調症、小脳運動失調、ピック病、原発性進行性失語症、皮質基底核認知症、HIV関連認知症、認知症をともなうパーキンソン病、レビー小体をともなう認知症、多系統萎縮症、脊髄性筋萎縮症、例えば、ウェルドニッヒ・ホフマン病、クーゲルベルク・ヴェランダー病又は関節拘縮症をともなう先天性SMA、進行性球脊髄性筋萎縮症、例えば、ケネディ病、脊髄小脳失調症、パントテン酸キナーゼ関連神経変性症(PANK)、脊髄変性疾患/運動ニューロン変性疾患、上位運動ニューロン障害、下位運動ニューロン障害、ハラーホルデン・スパッツ症候群、筋萎縮性側索硬化症-パーキンソニズム-認知症、グアムのパーキンソニズム認知症、海馬硬化症、皮質基底核変性症、アレキサンダー病、アルパース病、クラッベ病、神経ボレリア症、神経梅毒、サンドホフ病、シルダー病、バッテン病、コケーン症候群、カーンズ・セイヤー症候群、ゲルストマン・シュトロイスラー・シャインカー症候群、遺伝性痙性対麻痺、リー症候群、脱髄性疾患、他の脳障害、例えば、双極性障害、てんかん、統合失調症、うつ病、躁病、自閉症、ADHD、脳外傷傷害及び卒中である。
【0054】
上に列挙した「神経変性疾患」は、非常に広い意味で、例えば、アルツハイマー病、前頭側頭型認知症(ピック病)、レビー小体型認知症、神経原線維変化認知症及び認知症に関連する症状、クロイツフェルト・ヤコブ病(アルツハイマーと同様の臨床症状を有する)、海馬硬化症、シルダー病、血管性(多発脳梗塞性)認知症、ハンチントン、ADと関係があるパーキンソン病、びまん性レビー小体病(DLBD)等の疾患を含む「認知症」;「パーキンソン病及びパーキンソン様疾患」、例えば、進行性核上性麻痺(PSP)、多系統萎縮症(MSA)及び皮質基底核変性症(CBD)としてカテゴリー化することができることが、当業者によってよく理解されており;「運動ニューロン疾患」は、上位/下位運動ニューロン領域に影響を及ぼす疾患、例えば、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、原発性側索硬化症(PLS)及びALSの変形型である進行性球麻痺(PBP)、仮性球麻痺及び遺伝性痙性対麻痺等を含むことができる。これらのカテゴリーは、疾患の原因若しくは機構、これらの疾患に影響を受ける器官若しくは身体部位若しくは身体機能、又は2つの疾患間の関係に基づいてもよい。
【0055】
用語「神経保護の」又は「細胞保護の」は互換的に使用され、加齢、遺伝子異常及び外部因子、例えば神経毒によって引き起こされる異常からの神経細胞の保護又は予防、並びにニューロンの通常又は正常機能の回復を指す。
【0056】
本明細書において互換的に使用される治療剤又は治療的に有効な薬剤は、疾患又は障害の1つ又は複数の症状を低減又は消失させるために対象に投与される薬剤を意味し、本発明による薬剤は組換えレクチンであり、疾患又は障害は神経変性疾患である。
【0057】
本明細書において互換的に使用される「ニューロンの増生」又は「神経突起」は、例えば、軸索又は樹状突起を含めた、ニューロンの細胞体からの突起を意味する。
【0058】
本明細書で使用する場合、用語「モジュレーション」は、オルガネラの生理機構(例えば:膜電位)を変化させる又は調節することを指す。
【0059】
本明細書で使用する場合、用語「治療有効量」は、所望の治療的利益をもたらすのに十分である量であり、治療的利益は、1種又は複数の神経変性疾患(neurodegenerative disease or diseases)の治療又は予防における効果を意味する。効果は、対象が、1種又は複数の疾患(disease or diseases)が存在しないか、又は1種又は複数の疾患の症状が制御されているか若しくは低減しているか、又は1種又は複数の疾患の発症又は進行の遅延があるかのいずれかであるようなものである。治療有効量は、1回又は複数回の投与で投与することができる。本発明において、組換えタンパク質の治療有効量は、病態の進行を緩和する、改善する、安定化する、逆戻りさせる、予防する、緩徐化する又は遅延させるのに十分な量である。
【0060】
本明細書で使用する場合、用語「相同性」又は「相同な」は、所与の領域又は部分にわたって少なくとも部分的な同一性を共有する2つ以上の参照される実体を指す。相同性又は同一性のエリア、領域又はドメインは、相同性を共有するか又は同じである、2つ以上の参照される実体の部分を指す。したがって、1つ又は複数の配列領域にわたって2つの配列が同一である場合、これらは、これらの領域に同一性を共有する。実質的な相同性は、参照分子又は相同性を共有する参照分子の関連する/対応する領域若しくは部分の構造又は機能(例えば、生物学的機能又は活性)の1つ又は複数の少なくとも部分的な構造又は機能を有するか或いは有すると予想されるように、構造的に又は機能的に保存されている分子を指す。
【0061】
一実施形態では、2つの配列間の「相同性」パーセンテージは、デフォルトパラメーターを用いたBLASTPアルゴリズム(Altschuら、Nucleic Acids Res.1997年9月1日;25(17):3389~402)を使用して決定される。特に、BLASTアルゴリズムは、URL:https://blast.ncbi.nlm.nih.gov/Blast.cgiを使用してインターネットでアクセスすることができる。代替の実施形態では、グローバル配列アラインメントについて、2つの配列間の相同性パーセンテージは、デフォルトパラメーターを使用したEMBOSS Needleアルゴリズムを使用して決定される。特に、EMBOSS Needleアルゴリズムは、URL:https://www.ebi.ac.uk/Tools/psa/emboss_needle/を使用してインターネットでアクセスすることができる。
【0062】
別段指示がない限り、本明細書において、用語「相同性」は用語「配列同一性」と互換的に使用される。
【図面の簡単な説明】
【0063】
図1】基本モデルの神経細胞(pc12)における神経突起形成に対する配列番号1の効果の図的表示である。
図2】MPP+誘導性損傷に対する、神経細胞(pc12)における神経突起形成に対する配列番号1の効果の図的表示である。
図3】組織病理画像(H&E染色;100×)である。
【発明を実施するための形態】
【0064】
Table-1(表1)-神経毒(MPP+)誘導性損傷に対する、神経細胞(SH-SY5Y)における配列番号1の細胞保護効果
Table-2(表2)-MPP+ヨウ化物損傷に対する、ミトコンドリア膜電位の回復を介した、神経細胞(SH-SY5Y)における配列番号1の抗アポトーシス効果
Table-3(表3)-MPP+ヨウ化物損傷に対する、アネキシン陽性細胞集団の減少を介した、神経細胞(SH-SY5Y)における配列番号1の抗アポトーシス効果
Table-4(表4)-MPP+ヨウ化物誘導性損傷に対する、サブ(G0/G1)細胞集団の減少を介した、神経細胞(SH-SY5Y)における配列番号1の抗アポトーシス効果
Table 5(表5):基本モデルの神経細胞(pc12)における神経突起形成に対する配列番号1の効果
Table 6(表6):mpp+誘導性損傷に対する、神経細胞(pc12)における神経突起形成に対する配列番号1の保護効果
Table:7(表7)神経細胞株(SH-SY5Y)における、アルツハイマー病と関連するバイオマーカーの発現に対する配列番号1の効果
Table:8(表8)神経細胞株(SH-SY5Y)における、パーキンソン病と関連するバイオマーカーの発現に対する配列番号1の効果。
Table 9(表9):動物の割り当て
Table 10(表10):平均移動待ち時間(Transfer Latency Time)(秒)
Table 11(表11):脳神経成長因子(NGF)(pg/ml)に対する配列番号1の効果
Table 12(表12):脳アセチルコリンエステラーゼ(mU/ml)に対する配列番号1の効果
Table 13(表13):脳TNF-アルファ(pg/ml)に対する配列番号1の効果
Table 14(表14):組織病理検査(平均スコア)
【0065】
配列表示:
配列番号4:ネイティブなS.ロルフシーのレクチンのアミノ酸配列(WO2010/095143で配列番号1として報告されている)を表し、以下の配列を有する:
【0066】
【化1】
【0067】
配列番号1:S.ロルフシーのレクチンのアミノ酸配列の変異体(WO2010/095143でRec-2として報告されている)を表し、以下の配列を有する:
【0068】
【化2】
【0069】
配列番号2:S.ロルフシーのレクチンのアミノ酸配列の変異体(WO2010/095143でRec-3として報告されている)を表し、以下の配列を有する:
【0070】
【化3】
【0071】
配列番号3:S.ロルフシーのレクチンのアミノ酸配列の変異体(WO2014/203261で報告されている)を表し、以下の配列を有する:
【0072】
【化4】
【0073】
発明の詳細な説明
第一の態様では、本発明は、スクレロティウム・ロルフシー(S.ロルフシー)のレクチンに由来する、神経変性疾患の治療又は予防のための組換えレクチンを提供する。
【0074】
本発明の一実施形態では、レクチンは、限定されないが、真菌及び植物からなる群に由来する。いくつかの実施形態では、レクチンは、S.ロルフシー等の土壌伝播性植物病原性真菌に由来する。
【0075】
「に由来する」とは、レクチンがそのネイティブ環境から単離されうること、又はレクチンが、天然配列と同一であるか若しくは天然配列と類似しているアミノ酸配列を含むことであることを理解されたい。
【0076】
レクチンは、天然配列に対して少なくとも60%、70%、80%、90%、95%、96%、97%、98%又は99%の相同性を有するアミノ酸配列を含むことができる。ネイティブレクチンはS.ロルフシーから単離されうる。
【0077】
レクチンは、配列番号4に対して少なくとも60%の相同性を有するアミノ酸配列を含むことができる。いくつかの実施形態では、レクチンは、配列番号1、2又は3に対して少なくとも60%の相同性を有するアミノ酸配列を含むことができる。いくつかの実施形態では、アミノ酸配列は、配列番号4に対して少なくとも70%、80%、90%、95%、96%、97%、98%又は99%の相同性を有する。いくつかの実施形態では、アミノ酸配列は、配列番号1、2又は3に対して少なくとも70%、80%、90%、95%、96%、97%、98%又は99%の相同性を有する。
【0078】
配列番号1は配列番号4と98%の相同性を有する。配列番号2は配列番号4と96%の相同性を有する。配列番号3は配列番号4と91%の相同性を有する。
【0079】
前述の態様のうちのいずれか1つによれば、組換えレクチンは、参照によって本明細書に組み込まれるWO2020/044296で定義されるように、改変レクチンタンパク質(すなわち、分子中、好ましくは炭水化物結合部位中に少なくとも1つのアミノ酸修飾を有する組換えレクチンタンパク質)である。
【0080】
本発明のいくつかの具体的な実施形態によれば、レクチンは、配列番号1、配列番号2又は配列番号3からなる群から選択されるアミノ酸配列を含む。
【0081】
本発明の実施形態の特定の一態様によれば、本発明のレクチンタンパク質は、好ましくは、組換え技術を使用して合成される。組換えタンパク質を調製するための方法は当業者に周知である。一実施形態では、クローン化されたヌクレオチド配列は、ネイティブレクチンのアミノ酸配列に近い改変レクチンタンパク質をコードするが、別の特性を提供する。或いは、組換えレクチンタンパク質をコードするヌクレオチド配列は、化学的又は組換え的手段を使用して合成することができ、適切な宿主で発現させて組換えタンパク質を得ることができる。適切な宿主細胞としては、原核細胞及び下等真核細胞と高等真核細胞の両方が挙げられる。宿主細胞への組換え分子の導入は、当技術分野で既知の方法を使用して達成することができる。本発明の例示的実施形態では、適切な宿主は微生物細胞である。好ましい実施形態では、微生物細胞は、限定されないが、酵母細胞、大腸菌(Escherichia coli)、昆虫細胞株又は哺乳動物細胞株からなる群から選択される。更に、組換えタンパク質は、組換え宿主からの発現産物として、単離によって得ることができる。一実施形態では、本発明の組換えタンパク質は、従来の技法、典型的にはクロマトグラフィー方法によって、精製される。例として、本発明の組換えレクチンタンパク質は、出願人の以前の出願WO/2020/074977に開示されている方法によって調製することができる。
【0082】
本発明の別の実施形態では、SDS-PAGE及び質量分析によって決定される組換えレクチンの分子量は、およそ16,000ダルトンである。
【0083】
一実施形態によれば、本発明は、神経変性疾患の治療又は予防のための組換えレクチンを提供し、治療は、神経変性疾患の徴候及び症状を低減させる若しくは排除すること、又は減らすこと、又は軽減することを包含し、予防は、神経変性疾患又は疾患に関連する症状の発生又は発症の抑制、制御又は遅延を含む。
【0084】
いくつかの実施形態によれば、神経変性疾患は、脳又は中枢神経系内及び脳又は中枢神経系周囲のニューロン又は神経細胞の変性が理由で引き起こされる疾患又は障害を含む。
【0085】
神経変性疾患は、ICAM-1/CD54、ドーパミン、セロトニン、S100b、Park7/DJ-1、カルビンディンD、B-NGF、RAGE、MPO、Tau、GDNF、α-シヌクレイン、アミロイドベータタンパク質、アセチリンコリンエステラーゼ、ペリオスチン、アンギオスタチン変換酵素(ACE)、トロンボスポリン-1、血漿アミロイドベータタンパク質、VE-カドヘリン、LGALS3BP(レクチンガラクトシド結合可溶性3結合タンパク質)、TNF-α(腫瘍壊死因子-アルファ)等のバイオマーカーのレベルの増強又は低減が理由で引き起こされうる。これらのバイオマーカーの正常レベルの増加又は減少は、検査下で、身体における神経変性疾患の発症又は存在を示す可能性がある。
【0086】
例えば、S100bは、パーキンソン病の病態形成において極めて重要な役割を果たすカルシウム結合タンパク質である。パーキンソン病を有さない正常なヒトのS100bの正常レベルは10pg/mL~150pg/mLであると思われるが、パーキンソン病を患っているヒトは200pg/mL以上の量を示すと思われる。したがって、パーキンソン病を患っているヒト対象は、S100bのレベルが増強していると思われる。
【0087】
本発明の一態様によれば、組換えレクチンタンパク質はS100bのレベルを低下させることができる。
【0088】
同様に、一態様によれば、本発明の組換えレクチンタンパク質は、身体の細胞の要求に従って、バイオマーカーのレベルをモジュレートし、それにより、疾患の進行を治療する又は予防することができる。
【0089】
本発明の一態様では、上に列挙したマーカーは、1つ又は1つより多くの神経変性疾患の原因に関与する可能性がある。本発明の組換えレクチンタンパク質は、これらのバイオマーカーのレベルをモジュレートすることができ、したがって1つ又は複数の疾患又は疾患の進行又は発症の制御で有効である。
【0090】
本発明の一実施形態では、配列番号1を有する組換えレクチンは、神経毒損傷細胞において、バイオマーカーのドーパミン及びセロトニンのレベルの正常化を助け、それによって、脳の認知的健康を回復させる。ドーパミン及びセロトニンホルモンは、シグナルを神経細胞に伝達することができるので、睡眠サイクル、筋収縮、気分機能(mood function)、運動、自律神経機能の維持に関与する。認知的健康は、脳、組織及び血液供給の総体的な健康並びに様々な条件下で適切に機能するその能力を指す。良好な認知的健康は、限定されないが、学習、直観、判断、言語、注意力、覚醒、集中及び記憶(長期と短期の両方)を含めて、認知として知られるすべての心理過程を脳が集合的に行うために極めて重要である。加齢、疾患及び/又は他の認知損失による不良な認知的健康は、脳が適切に機能する能力を低減させ、認知機能及び能力の著しい減退をもたらす。認知的健康関連障害のいくつかは、パニック障害、強迫性障害(OCD)、注意欠陥多動性障害(ADHD)、季節性情動障害(SAD)、睡眠障害、記憶喪失又は混乱、ストレス及び抑うつ気分である。パーキンソン病の病態形成の間、セロトニン及びドーパミンの正常な合成が非常に影響を受け、これが、認知的健康障害につながる。
【0091】
本発明のいくつかの実施形態では、スクレロティウム・ロルフシーのレクチンに由来する有効量の組換えレクチンタンパク質の対象への投与を含む、神経変性疾患の治療又は予防のための方法が提供される。
【0092】
対象は哺乳類対象であってもよい。いくつかの実施形態では、対象はヒトである。特に、対象は、神経変性疾患を患っているか又は神経変性疾患の予防を求めているヒト対象であってもよい。
【0093】
一実施形態では、神経変性疾患の治療又は予防の方法は、スクレロティウム・ロルフシーのレクチンに由来する治療有効量の組換えレクチンタンパク質の投与を含み、レクチンの治療有効量は、0.01mg/kg~1000mg/kg対象体重の用量範囲でありうる。いくつかの実施形態では、用量範囲は、0.1mg/kg~500mg/kg又は0.5mg/kg~100mg/kg又は1mg/kg~50mg/kgでありうる。治療される状態及び対象の性質に従って、投与されるレクチンの量を決定することは、当業者の能力内である。
【0094】
いくつかの実施形態では、本発明の組換えレクチンタンパク質は、それ自体で、又は医薬組成物の形態で投与することができる。
【0095】
したがって、本発明はまた、スクレロティウム・ロルフシーのレクチンに由来する組換えレクチンタンパク質及び医薬的に許容可能な賦形剤を含む、神経変性疾患の治療又は予防のための医薬組成物を提供する。例示的賦形剤としては、滅菌水、生理食塩水、及び/又は医薬的に許容可能な緩衝液が挙げられる。
【0096】
組成物は、タンパク質安定化剤、ポリマー、可溶化剤、凍結保護物質、リオプロテクタント、充填剤/希釈剤又はこれらの混合物を更に含むことができる。組成物は、参照によりその全体が本出願に組み込まれる出願人等の同時係属中のインド出願第201921027358号に列挙される賦形剤を含むことができる。
【0097】
レクチンタンパク質又は組成物の投与は、限定されないが、注射(例えば、静脈内(ボーラス又は注入)、動脈内、腹腔内、皮下(ボーラス又は注入)、脳室内、筋肉内又はくも膜下)、(例えば、錠剤、ゲル剤、ロゼンジ剤又は液剤の)経口摂取、吸入、局所、経粘膜(例えば、口腔、鼻又は直腸の粘膜)、噴霧剤、錠剤、経皮パッチ、皮下インプラントの形態又は坐剤の形態での送達によるものを含めて、当業者に理解される任意の適切な経路によるものでありうる。
【0098】
いくつかの実施形態では、レクチン(例えば、配列番号1、2、3若しくは4のアミノ酸配列を有するレクチン)又は本明細書に記載の医薬組成物は、経腸的、非経口的又は局所的に対象に投与される。レクチン又は医薬組成物は、固体(例えば、錠剤若しくはカプセル剤)、凍結乾燥粉末剤、液体(例えば、溶液剤若しくは懸濁剤)、半固体又は当業者に既知の任意の他の形態である剤形として、投与することができる。レクチン又は医薬組成物は、溶液剤若しくは懸濁剤を静脈内、筋肉内、腹腔内、皮下若しくは皮内に、デポー注射によって注射することによって対象に投与することができ、又はこれらは、髄腔内に、経皮的に、舌下に、若しくは経口、局所若しくは吸入方法によって投与することができる。
【0099】
当業者に理解されるように、組成物の適切な形態は、組成物の投与経路によって決定することができる。したがって、組成物の適切な形態としては、限定はされないが、静脈内(ボーラス若しくは注入)、動脈内、腹腔内、皮下(ボーラス若しくは注入)、脳室内、筋肉内又はくも膜下経路のための注射;経口摂取のための錠剤、カプセル剤、ゲル剤、ロゼンジ剤又は液剤;吸入のための噴霧剤としての溶液剤、懸濁剤又はエアロゾル剤;局所適用のためのゲル剤、噴霧剤又はクリーム剤;口腔、鼻又は直腸の粘膜を介した投与のための経粘膜的組成物;経皮パッチ、皮下インプラントの形態又は坐剤の形態での送達によるものを挙げることができる。レクチンタンパク質は、坐剤又は停留浣腸等の直腸用組成物に製剤化することもできる。バッカル投与のために、組成物は錠剤又はロゼンジ剤の形態をとることができる。組成物は、小胞薬物送達システム、例えば、限定されないが、ビロソーム(bilosomes)、リポソーム、ニオソーム、トランスファーソーム、エトソーム(ethosomes)、スフィンゴソーム(sphingosomes)、ファーマコソーム(pharmacosomes)、多重ラメラ小胞、ミクロスフェア等であってもよい。
【0100】
本発明の組成物は、当業者の理解及び知識に従って製剤化することができる。
【0101】
一実施形態では、本発明は、神経変性疾患の治療又は予防のための、スクレロティウム・ロルフシーのレクチンに由来する組換えレクチンタンパク質の使用を提供する。
【0102】
本実施形態によれば、使用は、組換えレクチンタンパク質それ自体のものであってもよく、又はレクチンタンパク質及び医薬的に許容可能な賦形剤を含む組成物の形態であってもよい。
【0103】
一実施形態では、本発明は、スクレロティウム・ロルフシーのレクチンに由来する有効量の組換えレクチンタンパク質を投与することによってニューロンの増生を誘導する方法を提供する。
【0104】
本発明によれば、「ニューロンの増生の誘導」は、神経突起の成長の誘導を示し、神経突起はニューロンの細胞体からの突起である。本発明のレクチンタンパク質は、それらを必要とする対象に投与される場合に、ニューロンにおいて神経突起を成長させることができる。
【0105】
本発明の具体的な一実施形態では、組換えレクチンタンパク質は、配列番号1、配列番号2、配列番号3又は配列番号4の配列を有するレクチンから選択することができる。
【0106】
一実施形態では、本発明に従って治療又は予防される神経変性疾患は、上記で本明細書に列挙されるものである。
【0107】
特定の実施形態では、神経変性疾患は、限定されないが、認知症、例えば、アルツハイマー病、前頭側頭型認知症(ピック病)、レビー小体型認知症、神経原線維変化認知症及び認知症に関連する症状、クロイツフェルト・ヤコブ病(アルツハイマーと同様の臨床症状を有する)、海馬硬化症、シルダー病;パーキンソン病、パーキンソン様疾患、例えば、進行性核上性麻痺(PSP)、多系統萎縮症(MSA)及び皮質基底核変性症(CBD);運動失調、認知障害、運動ニューロン疾患様筋萎縮性側索硬化症(ALS)、原発性側索硬化症(PLS)、ALSの変形型である進行性球麻痺(PBP)、仮性球麻痺及び遺伝性痙性対麻痺;動脈瘤、てんかん及びハンチントン病、パントテン酸キナーゼ関連神経変性症(PKAN)、卒中、バッテン病、ゲルストマン・シュトロイスラー・シャインカー症候群、CADASIL(皮質下梗塞及び白質脳症をともなう常染色体優性脳動脈症)、小脳低形成、脳動脈硬化症、低酸素脳症(Cerebral Hypoxia)、舞踏病、慢性炎症性脱髄性多発ニューロパチーCIDP、脳梁欠損症、グリア細胞球状封入体タウオパチー(globular glial tauopathies)、原発性加齢関連タウオパチー、慢性外傷性脳症(CTE)、加齢関連タウアストログリオパチー、リー症候群、レビー小体病様びまん性レビー小体病(DLBD)、ニューロンの状態/喪失を引き起こす遺伝性疾患、例えば、トリヌクレオチドリピート遺伝性障害である脊髄性筋萎縮症(SMA)、SMAのまれな形態である、関節拘縮症をともなう先天性sma、球脊髄性筋萎縮症(SBMA)、ポリグルタミン(ポリQ)リピート病、原発性進行性失語症(PPA)、アレキサンダー病、アルパース病、クラッベ病、サンドホフ病、ハラーホルデン・スパッツ症候群並びにクーゲルベルク・ヴェランダー病であってもよい。
【0108】
非常に特定の実施形態では、神経変性疾患は、アルツハイマー病、パーキンソン病、認知症、認知障害及び認知症に関連する症状、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、レビー小体病、脊髄性筋萎縮症並びにハンチントン病から選択されうる。
【0109】
別の非常に具体的な実施形態では、神経変性疾患は、アルツハイマー病、パーキンソン病、認知症、認知障害及び認知症に関連する症状から選択されうる。
【0110】
本発明は、配列番号4又はその相同体の配列を有する組換えレクチンタンパク質を使用する、神経変性疾患の治療又は予防の方法に関していた。配列番号1の配列を有する組換えレクチンのインビトロ研究によって、神経毒の存在下で、神経細胞株に対する有意な正の効果が示された。組換えレクチンは、神経細胞を神経毒から保護した。同様に、神経変性疾患と関連するバイオマーカーに対する、配列番号1の配列を有する組換えレクチンの効果を研究した場合、レクチンが、病的状況においてバイオマーカーを異常範囲から正常範囲にモジュレートすることが示された。
【0111】
特に、パーキンソン病及びアルツハイマー病又は認知症についてのいくつかの細胞株に対するインビトロ研究を行った。
【0112】
神経毒1-メチル-4-フェニルピリジニウムヨウ化物(MPP+ヨウ化物)の存在下で、ヒト神経細胞株SH-SY5Yの細胞生存率を決定することによって、配列番号1を有する組換えレクチンタンパク質の細胞保護効果を解明した。神経毒誘導性細胞毒性に対する、細胞生存率及び細胞生存率の回復を決定した。0.001μg/mL~50μg/mLの濃度の配列番号1は、およそ41%~76%の細胞保護を示した濃度1μM~100μMの陽性対照デプレニルと比較して、40%~86%の細胞保護を示した。
【0113】
最初に、配列番号1を有する組換えレクチンタンパク質の非細胞毒性濃度でSH-SY5Y細胞株を処理し、次いで、神経毒MPP+ヨウ化物に細胞株を曝露することによって、細胞保護効果を研究した。デプレニルを陽性対照として使用した。79.3%~91.3%の間の細胞生存率範囲を示した陽性対照デプレニルと比較して、配列番号1を有する組換えレクチンで処理したパーキンソン誘導性SH-SY5Y細胞に関して78.8%~94.9%の間の細胞生存率の増加が観察された。
【0114】
ヒトニューロン(SH-SY5Y)細胞株で抗アポトーシス効果を研究するために、配列番号1の効果を評価した。1-メチル-4-フェニルピリジニウムヨウ化物(MPP+ヨウ化物)を神経毒として使用して、SH-SY5Y細胞株においてパーキンソン病を誘導した。3つの異なる研究、アネキシンV染色技法、PI染色によるサブG0/G1を使用して、配列番号1を有する組換えレクチンのインビトロでの抗アポトーシス効果を決定した。
【0115】
配列番号1の組換えレクチンタンパク質の抗アポトーシス効果は、MPP+ヨウ化物誘導性損傷に対する、SH-SY5Y細胞におけるミトコンドリア膜電位の回復を介して、評価する。配列番号1を有する組換えレクチンタンパク質は、1μg/mL~50μg/mLの濃度範囲で、22.7%~115.9%のミトコンドリア膜電位の増加をともなう抗アポトーシス効果を示した。陽性対照は、1μM~100μMの濃度で、40%~95%のミトコンドリア膜電位の増加を示した。
【0116】
神経毒、MPP+ヨウ化物に対するアネキシン陽性染色を使用して、アポトーシス細胞のさらなる低減を決定した。組換えレクチンタンパク質は、レクチンで処理しておらず、且つ神経毒に曝露した細胞と比較して、0.001μg/mL~1μg/mLの濃度で、集団を単位として、23.5%~70.4%のアポトーシス細胞の減少を示した。陽性対照デプレニルは、10μM~100μMの濃度で、27.2%~38.3%の集団の減少を示した。
【0117】
神経毒、MPP+ヨウ化物に対して、ヒトニューロン(SH-SY5Y)細胞株でサブ(G0/G1)細胞集団を評価することによって、配列番号1の抗アポトーシス効果を更に確かめた。この研究によって、レクチンで処理しておらず、且つ神経毒に曝露した細胞と比較して、0.001μg/mL~1μg/mLの範囲の濃度で、サブ(G0/G1)細胞集団のアポトーシスが19%~35%減少することが示された。陽性対照デプレニルは、10μM~100μMの濃度で、13%~42%の集団の減少を示した。神経細胞PC12(ラット褐色細胞腫細胞)を使用して、神経突起増生アッセイを用いて認知的健康を評価することによって、配列番号1を有する組換えレクチンの神経保護効能を更に検証する。細胞を神経成長因子(NGF)、配列番号1を有する組換えレクチン及びMPP+ヨウ化物で処理し、神経保護効果について試験した。この研究によって、配列番号1を有する組換えレクチンは、0.0001μg/mL~5μg/mLの濃度で、細胞のMPP+ヨウ化物誘導性損傷において、神経突起成長の回復を7.3%~78.2%助けるので、強力な神経保護特性を持つことが示された。これに反して、NGF及びMPP+ヨウ化物のみで処理した細胞は、神経突起の形成において0%の保護を示した。
【0118】
上記の研究から、配列番号1を有する組換えレクチンタンパク質が、神経細胞を神経毒から守り、細胞のアポトーシスをかなり減少させる細胞保護効果を持つことが明らかである。したがって、本発明の組換えレクチンタンパク質は、神経毒に曝露された場合に、神経細胞の生存力を助けることによって、細胞、したがって身体を疾患の発症から予防する。
【0119】
神経突起成長に対する配列番号1を有する組換えレクチンタンパク質の効果を評価するために、さらなる研究を行った。0.001μg/mL~5μg/mLの範囲の濃度の配列番号1を有する組換えレクチンでPC12細胞を処理した。レクチンは、未処理細胞と比較して、19%から55%の神経突起数の増加を示した。本発明の組換えレクチンはかなりの神経突起増生を示し、そうした治療を必要としている対象に対して、前記目的のために使用することができる。
【0120】
パーキンソン病における配列番号1を有する組換えレクチンの作用機構を多重分析及びELISAによって決定し、バイオマーカーの発現レベルを評価した。試験試料は、ヒトニューロン(SH-SY5Y)細胞を0.001μg/mL~1μg/mLの様々な濃度の配列番号1を有する組換えレクチンタンパク質で24時間処理し、ニューロン損傷を誘導するために神経毒MPP+ヨウ化物で更に処理することによって、調製する。
【0121】
この研究は、配列番号1を有する組換えレクチンは、MPP+ヨウ化物で処理した細胞と比較して、22.9%~82.5%増加したドーパミン;5.1%~23.5%増加したセロトニン、及びそのレベルが1.7%~9.7%増加したカルビンディンD等、神経伝達物質、神経保護シグナリングカスケードタンパク質を活性化することによって、パーキンソン病罹患神経細胞を回復することを明らかにする。明るい面では、配列番号1を有する組換えレクチンは、MPP+ヨウ化物で処理した細胞と比較して、6.2%~41.3%減少したICAM-1/CD54レベル及び6.5%~11.4%減少したカルシウム結合タンパク質S100b等、炎症細胞接着タンパク質に対して顕著な阻害効果も持つ。しかし、α-シヌクレインの場合には、有意なモジュレーションは観察されなかった。
【0122】
アルツハイマー病における配列番号1を有する組換えレクチンの作用機構を多重分析によって解明した。作用機構を描写するために評価するバイオマーカーは、b-NGF、RAGE、MPO、Tauである。アルツハイマー病の作用機構は、0.01μg/mL~25μg/mLの濃度の配列番号1を有する組換えレクチンタンパク質でヒトニューロン(SH-SY5Y)細胞を24時間処理し、ニューロン損傷を誘導するために神経毒スコポラミンで更に処理することによって、決定した。
【0123】
スコポラミン処理細胞と比較してそのレベルが41%から89%増加したニューロン成長因子バイオマーカーであるb-NGF等のある特定のバイオマーカーの活性化及び阻害によって、アルツハイマー病を抑制する、配列番号1を有する組換えレクチンタンパク質の効果を評価し;MPO(メタロペルオキシダーゼ)及びRAGE(終末糖化産物受容体)は配列番号1によって阻害され、それぞれ、46%~64%及び3%~19%のレベルの減少を示した。MPO(メタロペルオキシダーゼ)及びRAGE(終末糖化産物受容体)の阻害は、アルツハイマー病に対する組換えレクチンの治療効果の有意性を示す。RAGEは、免疫グロブリンスーパーファミリーの多重リガンド表面分子であり、アミロイド-ベータタンパク質の受容体として働くので、アルツハイマー病の予後において重要な役割を果たす。遺伝子異常によるRAGEの発現増加は、酸化ストレスにつながる活性酸素種の生成をともなう神経炎症をもたらす。MPOは免疫調節タンパク質であり、サイトカインの誘導で極めて重要な役割を果たし、塩化物の存在下で過酸化水素の次亜塩素酸への変換を主に触媒し、これは、生物学的化学種(biological species)と反応させることによって、酸化付加物の形成につながる。MPO遺伝子の異常により、脳の前頭皮質領域でMPOの過剰発現がもたらされ、再生が導かれる。
【0124】
インビトロ研究によって、神経変性疾患に対する組換えレクチンタンパク質の安全性及び治療有効性が示唆された。受動的回避試験における移動待ち時間を測定すること、脳バイオマーカーのレベルの変化及び脳の海馬領域の組織病理検査によって、スイスアルビノマウスにおけるスコポラミン誘導性認知症を使用してそのインビボ抗認知症活性を決定することによって、組換えレクチンタンパク質の治療効果を更に検証した。
【0125】
マウスにおけるスコポラミン誘導性記憶機能障害に対する、配列番号1を有する組換えレクチンタンパク質の認知強化活性を、受動的回避試験を使用して決定した。スコポラミンを注射した動物、群G2は、正常な対照群G1(すなわち、135.70±5.11秒)と比較した場合に、移動待ち時間の有意な減少(p<0.001)(すなわち、56.93±5.12秒)を示し、これは、マウスの短期記憶欠損を示す。ドネペジルで処置した動物(G3、2.5mg/kg)は、G2と比較した場合に、移動待ち時間の有意な増加(p<0.001)(すなわち、110.61±7.02秒)を示し、これは、コリンエステラーゼ阻害剤ドネペジルによって、スコポラミン誘導性短期記憶欠損が正常に逆戻りしたことを示す。3用量レベルで、配列番号1を有する組換えレクチンタンパク質で処置した動物、群G4(0.5mg/kg)は、有意な増加(p<0.05)(85.26±6.52)を示した。G2と比較した場合、G5(0.25mg/kg)は80.58±9.08秒の記憶の増加を示し、G6(0.125mg/kg)は75.81±7.75秒の記憶の向上を示した。
【0126】
移動待ち時間の増加パーセンテージは、未処置と比較した場合に、ドネペジルで処置した動物について48.5%であった。異なる用量を用いて、配列番号1を有する組換えレクチンタンパク質で処置した動物、G4、G5及びG6は、G2と比較した場合に、それぞれ、移動待ち時間の増加、33.2%、29.4%及び24.9%を示した。
【0127】
さらなる脳バイオマーカー、例えば、脳NGF(神経成長因子)、TNFアルファ及びアセチルコリンエステラーゼ(AChE)のレベルをELISAによって推定評価した。
【0128】
NGF(神経成長因子)は、cAMP応答エレメント結合タンパク質(CREB、cAMPは環状アデノシン一リン酸である)リン酸化6の阻害を介して、ニューロンの可塑性及びニューロン新生において中心的役割を果たす。CREBリン酸化の障害は、神経変性障害の既知の病理学的因子であり、アポトーシス促進過程を介して、海馬及び皮質における神経細胞の脱落を誘発する。CREBの阻害は、様々な記憶試験における行動能力を障害する。これに対して、CREBの過剰発現は、コリン作動系を介して、ニューロンの生存を促進し、認知機能障害を改善する。神経毒、スコポラミン処置は、正常な対照群で観察されるレベルと比較した場合に、脳のNGF発現を有意に(p<0.001)低減させる。しかし、0.5mg/kg及び0.25mg/kgの変動用量の配列番号1を有する組換えレクチンタンパク質で処置した群は、スコポラミンで処置した認知症群(34.5pg/mL)と比較した場合に、NGFのレベルの有意な(p<0.001)増加(それぞれ、71.6pg/mL及び62pg/mL)を示した。ドネペジル(陽性対照)で処置した群は、57pg/mLの増加を示した。研究結果によって、配列番号1を有する組換えレクチンタンパク質が、神経栄養因子を活性化すること、及びニューロンのアポトーシスを予防することによって、学習及び記憶機能障害を保護又は改善することが示される。研究群における脳のさらなるAChE活性を評価した。この研究は、スコポラミン群が脳内でAChE活性を有意に(p<0.001)増加させたことを明らかにし、これによって、観察された認知機能障害がコリン作動性機能不全によって誘導されたことが示唆される。しかし、配列番号1を有する組換えレクチンタンパク質、0.5mg/kgの前処置は、これらのスコポラミン誘導性機能障害を有意に(p<0.001)弱めた。AChEは、学習及び記憶において中心的役割を果たす周知の酵素である。コリンアセチルトランスフェラーゼ(ChAT)は、アセチルコリン(Ach)合成に関与する重要なコリン作動性マーカーである。Achの維持は正常な機能に必須であるが、過度のAChE活性は、脳内のAchレベルの混乱をもたらす。アセチルコリンシグナリングは、最終的にcAMP(環状アデノシン一リン酸)応答エレメント結合タンパク質(CREB)のリン酸化を導き、次いで、これが核に移行して、標的遺伝子の転写を調節する。ニューロンの成長、増殖、分化及び生存においてCREBが重要な役割を果たすことは、周知である。多数の研究はまた、CREBの転写活性と海馬依存的記憶形成の間の相互関係を強調した。
【0129】
神経毒スコポラミンで処置した動物の研究群は6.74mU/mLのAChEレベルを示したが、スコポラミン及びドネペジルで処置した研究群である陽性対照は4.39mU/mLのAChEレベルを示した。スコポラミンと配列番号1の両方で処置した研究群は、0.5mg/kgで4.47mU/mL、0.25 0.5mg/kgで6.27mU/mL及び0.125mg/kgで6.59mU/mLのAChEレベルを示した。未処置群では、AChEのレベルは4.19mU/mLであった。
【0130】
さらなる研究において、スコポラミン誘導性認知症は脳TNF-αのレベルを増加させ、これにより、軽度から中程度の神経炎症が示された。スコポラミン群は脳TNF-αレベルの有意な(p<0.01)増加(144pg/mL)を示し;一方、用量レベル0.5mg/kg(121.7pg/mL)、0.25mg/kg(67.65pg/mL)及び0.125mg/kg(79.53pg/mL)の配列番号1を有する組換えレクチンは、TNF-αの脳内含有量を有意に減少させ、これにより、抗炎症活性が示唆された。スコポラミン処置なしの正常群は61.02pg/mLを有し、ドネペジル及びスコポラミンで処置した陽性対照群は156pg/mLレベルのTNF-αを示した。
【0131】
大脳皮質及び海馬(CA1、CA3及びDG)領域のH&E(ヘマトキシリン-エオジン)染色された脳組織に対して、詳細な組織学的調査を行った。結果は、すべての処置群及びスコポラミン注射群において、大脳皮質及びCA3領域を除いた海馬領域で有意な変化が観察されないことを示した。群G2、すなわち、正常な対照群(0)と比較した場合に2.0の平均スコア値を示したスコポラミン疾患制御群で、海馬のCA3領域で有意な(p<0.01)損傷が見出された。G2と比較した場合に、ドネペジルで処置した群(1.33)であるG3において、有意な減少は観察されなかった。更に、0.25mg/kgの配列番号1を有する組換えレクチンタンパク質で処置した群G5は、値の有意な(p<0.05)減少、すなわち、0.60を示し、群G4(0.5mg/kgの配列番号1)及びG6(0.125mg/kgの配列番号1)は、平均スコア値の減少、すなわち、それぞれ0.67及び1.00を示した。海馬は学習及び記憶のための脳の中枢的領域であることが当業者に周知である。成人の海馬のニューロン新生は記憶形成で重要な役割を果たし;したがって、ニューロン新生及びニューロン統合の障害は、神経変性障害の病理学的特徴とみなされる。したがって、配列番号1を有する組換えレクチンタンパク質処置は、CA3の海馬構造におけるニューロン新生のスコポラミン誘導性阻害を顕著に逆戻りさせた。このニューロン新生は、ニューロトロフィンとその受容体の両方の活性に依存することが既知である。
【0132】
本発明の一実施形態によれば、スクレロティウム・ロルフシーのレクチンに由来する配列番号1を有する組換えレクチンタンパク質は、疾患誘導性動物モデルにおいて、神経細胞を興奮毒性によるアポトーシスから予防し、神経成長によってニューロンの機能を回復する。興奮毒性は、内在起源又は外来起源の有害物質から生じる可能性があり、これは、神経変性疾患、例えば、アルツハイマー、パーキンソン、ハンチントン病、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、認知症等における重要な機構である。興奮毒性は、ミトコンドリア機能に影響を及ぼし、次にこれが酸化ストレスをもたらすことによって、神経細胞に重度の損傷を主として引き起こす、神経伝達物質の過剰活性化である。カルシウムイオンの過剰な流入も神経細胞の脱落に関与する機構のうちの1つでありうる。この結果として、神経細胞はその機能を失い、アポトーシスによって変性させられる。したがって、スクレロティウム・ロルフシーのレクチンに由来する配列番号1を有する組換えレクチンタンパク質は、アルツハイマー、パーキンソン、ハンチントン病、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、認知症等の神経変性疾患の治療又は予防のための治療的効力を有し、これは、ミトコンドリア膜電位を回復させること;ニューロンの機能において重要な役割を果たすある特定のバイオマーカーレベルの発現レベルを調節すること、及び更にニューロンの成長を助けることによって、神経細胞をアポトーシスから予防する。
【0133】
本発明の実施形態に対するさらなる態様では、スクレロティウム・ロルフシーのレクチンに由来するレクチンタンパク質は治療効能を示し、アルツハイマー病、パーキンソン病及び認知症又は認知症に関連する症状等の神経変性疾患の予防及び治療で有効であった。レクチンは、疾患誘導性モデルにおいて神経突起増生及び認知機能の回復における有効性を更に示した。
【実施例
【0134】
以下の実施例は、本発明の最良実施形態を示すために示される。実施例は、いかなる方法によっても本発明を限定しない。
【0135】
SH-SY5Y細胞は、SK-N-SHヒト神経芽腫細胞のサブクローン化細胞株に由来する。これは、特定の化合物を添加することによって、様々なタイプの機能的ニューロンにこの細胞を改変することができるので、神経変性障害のモデルとして働く。したがって、SH-SY5Y細胞株のこの特性によって、この細胞は、神経変性過程、神経毒性及び神経保護に関連する、ニューロンの分化、代謝及び機能の分析を含めた実験的な神経学的研究のための適切なモデルになった。ヒト神経細胞株SH-SY5Yは、国立細胞科学センター(National Centre for Cell Science)(NCCS)、Puneから入手した。
【0136】
5%CO2、37℃及び95%湿度の増殖条件下で、DMEM:ハムF-12(1:1)+10%FBS増殖培地中でSH-SY5Y細胞株を維持した。新しいフラスコに細胞懸濁液を分割し、新鮮な培養培地を補充することによって、細胞株をサブカルチャーした。
【0137】
PC-12細胞、すなわち、副腎褐色細胞腫(PC12)細胞株は、ラットの副腎髄質から最初に単離された。ドーパミンを合成及び保存し、神経成長因子(NGF)による分化の際の交感神経節ニューロンと似ているというPC12細胞の能力により、この細胞は、パーキンソン病の適切なモデルとなった。ラット褐色細胞腫細胞PC12は、アメリカ培養細胞系統保存機関(ATCC)USAから入手した。
【0138】
5%CO2、37℃及び95%湿度の増殖条件下で、ハムF12+10%FBS増殖培地中でPC12細胞株を維持した。トリプシン処理及び新しいフラスコに細胞懸濁液を分割し、新鮮な培養培地を補充することによって、細胞株をサブカルチャーした。
【0139】
配列番号1を有する配列を有する組換えレクチンタンパク質の水溶液を準備した。血清フリー培地(SFM)にストック溶液を希釈して、最終濃度を達成した。
【0140】
(実施例1)
パーキンソン病における有益な効果に関する、神経細胞における配列番号1の細胞保護効果の評価
SH-SY5Y神経細胞における配列番号1の細胞保護効果は、以下のアッセイを使用して行った。
【0141】
血球計算板を使用してヒトニューロンSH-SY5Y細胞を数え、この細胞を25,000細胞/ウェルの密度で96ウェルプレートにプレーティングし、37℃で24時間インキュベートした。インキュベーション後、0.001μg/ml~50μg/mlの範囲の濃度の配列番号1の配列を有する組換えレクチンタンパク質で細胞を24時間処理した。24時間処理した後、神経毒(MPP+ヨウ化物、1mM)に細胞を24時間曝露した。MPP+ヨウ化物単独で処理した細胞を陰性対照として含めた。未処理細胞を対照として含めた。デプレニル(1μM~100μM)で処理した細胞を陽性対照として扱った。処理後、3-(4,5-ジメチルチアゾール-2-イル)-2,5-ジフェニルテトラゾリウムブロミド(MTT)アッセイによって、細胞生存率に対する配列番号1の細胞保護効果を評価した:プレートを取り出し、5mg/mlのMTT 3-(4,5-ジメチルチアゾール-2-イル)-2,5-ジフェニルテトラゾリウムブロミド溶液20μlをすべてのウェルに添加した。SH-SY5Y細胞を37℃で3時間インキュベートした。上清を吸引し、各ウェルに150μlのDMSOを添加して、ホルマザンの結晶を溶かした。Synergy HTマイクロプレートリーダーを使用して、各ウェルの吸光度を540nmで読み取った。MPP+ヨウ化物誘導性損傷に対する、SH-SY5Y細胞の生存に対する配列番号1の保護効果を以下のように決定した:細胞の生存率を以下のように決定した:
細胞生存率%=(100-細胞毒性%);
式中、各処理に対応する細胞毒性パーセンテージは以下のように計算する:
細胞毒性%=[(R-X)/R]*100
X=MPP+ヨウ化物/配列番号1を有する組換えレクチン+MPP+ヨウ化物で処理した細胞の吸光度
R=対照細胞(未処理)の吸光度
保護パーセンテージは以下のように計算した:
[(配列番号1+MPP+ヨウ化物の吸光度)-(MPP+ヨウ化物の吸光度)/(未処理の吸光度)-(MPP+ヨウ化物単独の吸光度)]*100
【0142】
【表1】
【0143】
(実施例2)
パーキンソン病における有益な効果に関する、神経細胞における配列番号1を有する組換えレクチンの抗アポトーシス効果の評価
パーキンソン病における有益な効果に関する、神経細胞における配列番号1を有する組換えレクチンの抗アポトーシス効果は、以下のアッセイを使用して決定した。
【0144】
(実施例2a)
ミトコンドリア膜電位に対する配列番号1を有する組換えレクチンの効果の決定
血球計算板を使用して細胞を数え、完全増殖培地の25,000細胞/ウェルの密度で、黒色ウェルの96ウェルプレートにプレーティングした。プレーティングした細胞を5%CO2インキュベーター中で37℃で一晩インキュベートした。24時間後、1μg/ml~50μg/mlの範囲の濃度の配列番号1を有する組換えレクチンタンパク質で細胞を24時間処理した。24時間処理した後、損傷(MPP+ヨウ化物1mM)に細胞を24時間曝露した。MPP+ヨウ化物単独で処理した細胞を陰性対照として含めた。未処理細胞を対照として含めた。デプレニルで処理した細胞を陽性対照として扱った。MPP+ヨウ化物に曝露した後、以下のようにJC-1アッセイを使用して、ミトコンドリア膜電位に対する配列番号1を有する組換えレクチンタンパク質の保護効果を評価した;インキュベーション後、上清を捨て、100μlのJC1-色素溶液(1×PBS中で1mM DMSOストックを10μMに希釈することによって調製した)を各ウェルに添加した。次いで、CO2インキュベーター中で色素とともに細胞を37℃で15分間インキュベートした。15分インキュベートした後、上清を除去し、1×PBS(リン酸緩衝食塩水)で細胞を2回洗浄した。最後に、100μlの1×PBSを各ウェルに添加した。Biotek Synergy HTプレートリーダーを使用して、赤色蛍光(励起550nm、発光600nm)及び緑色蛍光(励起485nm、発光535nm)を測定した。以下に記載のように、赤色蛍光の強度の緑色蛍光の強度に対する比としてミトコンドリア膜電位(Δψm)を計算した:
Δψm=赤色蛍光の強度/緑色蛍光の強度
【0145】
増加パーセンテージ/MPP+ヨウ化物損傷に対するミトコンドリア膜電位の回復を以下のように計算した:
増加%=[(R-X)/R]*100
式中、X=配列番号1+MPP+ヨウ化物処理細胞に対応するΔψm
R=対照細胞(MPP+ヨウ化物損傷単独)に対応するΔψm
【0146】
【表2】
【0147】
(実施例2b)
アネキシン-V染色に対する配列番号1を有する組換えレクチンタンパク質の効果の決定
インキュベーション後、0.001μg/ml~1μg/mlの範囲の濃度の配列番号1を有する組換えレクチンタンパク質で細胞を24時間で処理した。24時間処理した後、損傷(MPP+ヨウ化物1mM)に細胞を24時間曝露した。MPP+ヨウ化物単独で処理した細胞を陰性対照として含めた。未処理細胞を対照として含めた。デプレニルで処理した細胞を陽性対照として扱った。処理後、トリプシン処理により細胞を回収し、以下のように、この細胞をアネキシンVアッセイのために処理した:細胞を予め標識された滅菌遠心管に穏やかに回収し、これを300×gで5~7分遠心分離した。24時間処理した後、損傷(MPP+ヨウ化物1mM)に細胞を24時間曝露した。MPP+ヨウ化物単独で処理した細胞を対照として含めた。未処理細胞を陰性対照として含めた。デプレニルで処理した細胞を陽性対照として扱った。処理後、トリプシン処理により細胞を回収し、以下のように、この細胞をアネキシンVアッセイのために処理した:細胞を予め標識された滅菌遠心チューブに穏やかに回収し、これを300×gで5~7分遠心分離した。上清を捨て、200μlの新鮮な培養培地にペレットを再懸濁した。100μlの細胞懸濁液を予め標識された滅菌遠心チューブに移した。100μlのアネキシン-V試薬を各チューブに添加し、室温で30分間暗所でインキュベートした。次いで、アネキシン-Vで染色された細胞を96ウェルプレートに移し、フローサイトメーター(Guava technologies社)でデータを取得した(acquired)。アネキシン-V陽性細胞のパーセンテージを決定した。
【0148】
アポトーシス細胞の阻害パーセント=[(MPP+ヨウ化物単独におけるアネキシン陽性細胞%)-(配列番号1を有する組換えレクチン+MPP+ヨウ化物におけるアネキシン陽性細胞%)/MPP+ヨウ化物単独におけるアネキシン陽性細胞%]*100
【0149】
【表3】
【0150】
(実施例2c)
MPP+ヨウ化物誘導性損傷に対する、サブ(G0/G1)細胞集団の減少を介した、神経細胞(SH-SY5Y)における配列番号1の組換えレクチンタンパク質の抗アポトーシス効果
実施例2a及び2bと同様のインキュベーション後、トリプシン処理により細胞を回収し、以下のように、細胞周期アッセイのためにこの細胞を処理した:細胞周期試薬はPI染色を含み、これは、細胞周期の異なる期;サブ(G0/G1)、G1、S、G2及びMで細胞のDNAを染色する。サブ(G0/G1)期の細胞はアポトーシス細胞に相当する。
【0151】
細胞を予め標識された遠心チューブに穏やかに回収し、450gで5分間、室温で遠心分離(低ブレーキ)した。上清を慎重に除去し、捨てた。1mlの1×PBSをペレットに添加し、穏やかに再懸濁して、均一な懸濁液にした。細胞を450gで5分間、室温で遠心分離(低ブレーキ)した。およそ100μlのPBSを残して、上清を慎重に除去した。細胞を穏やかにだが、完全に残留PBS中に再懸濁した。低速でボルテックスしながら、滴加して氷冷70%エタノール(100μl)を各チューブ中の細胞に添加することによって、細胞を固定した。細胞を4℃で24時間保存してから染色した。
【0152】
エタノールで固定した細胞を450gで5分間、室温で遠心分離(低ブレーキ)し、上清を慎重に除去し(ペレットにはさわらない)、捨てた。1mlの1×PBSをペレットに添加し、穏やかに再懸濁した。細胞を室温で1分間インキュベートした。細胞を450gで5分間、室温で遠心分離(低ブレーキ)した。(洗浄工程)約20μl~50μlのPBSを残して、上清を慎重に除去した。200μlの細胞周期試薬を各チューブに添加した。細胞を穏やかに再懸濁し、混合した。細胞を室温、暗所で30分間インキュベートした。染色された試料を96ウェルプレートに移し、フローサイトメーター(Guava technologies社)でデータを取得した。サブ(G0/G1)期の細胞のパーセンテージを決定した。
【0153】
アポトーシス細胞の阻害パーセント=[(MPP+ヨウ化物単独におけるサブ(G0/G1)細胞%)-(配列番号1+MPP+ヨウ化物におけるサブ(G0/G1)細胞%)/MPP+ヨウ化物単独におけるサブ(G0/G1)細胞%]*100
【0154】
【表4】
【0155】
(実施例3)
インビトロでの神経突起増生アッセイによる、パーキンソン病における認知的健康に対する配列番号1の効果の評価
パーキンソン病における神経突起増生による認知的健康を以下の方法で研究した
【0156】
(実施例3a)
基本モデルの神経細胞(pc12)における神経突起形成に対する配列番号1の効果
血球計算板を使用して細胞を数え、1×104細胞/ウェル/500μlの増殖培地に相当する密度で24ウェルプレートにプレーティングした。次いで、37℃の5%CO2インキュベーター中で細胞を48時間インキュベートした。基本モデルとMPP+損傷誘導性モデルの両方で、神経突起形成に対する配列番号1を有する組換えレクチンの効果を評価した。
【0157】
基本モデルについては、神経突起形成の増加パーセントを以下のように決定した。
増加%=[(処理細胞の神経突起の数-未処理細胞の神経突起の数)/未処理細胞の神経突起の数]×100
【0158】
【表5】
【0159】
(実施例3b)
MPP+誘導性損傷に対する、神経細胞(pc12)における神経突起形成に対する配列番号1の保護効果
MPP+誘導性損傷に対する、神経突起形成における保護パーセントを以下のように決定した:
{(A-B)/(C-B)}*100
式中、
A=NGF+配列番号1+MPP+で処理した細胞における神経突起の数
B=NGF+MPP+で処理した細胞における神経突起の数
C=NGF単独で処理した細胞における神経突起の数
【0160】
【表6】
【0161】
(実施例4)
多重分析培養及び細胞株の維持による、パーキンソン病及びアルツハイマー病における配列番号1を有する組換えレクチンタンパク質の作用機構の解明
A.多重分析/ELISAによるマーカーの推定評価
以前の実施例と同様に一晩インキュベートした後、パーキンソン病について、0.001μg/ml~1μg/mlの範囲の様々な濃度で24時間、及びアルツハイマー病について0.01μg/ml~25μg/mlの範囲の様々な濃度で24時間、配列番号1を有する組換えレクチンタンパク質で細胞を処理した。
・パーキンソン病:配列番号1を有する組換えレクチンタンパク質で24時間前処理した後、更に24時間細胞を曝露(MPP+)した。MPP+ヨウ化物で処理した細胞を対照として含めた。デプレニルで処理した細胞を陽性対照として含めた。
・アルツハイマー病:配列番号1を有する組換えレクチンタンパク質で24時間前処理した後、スコポラミン(4mM)に更に24時間細胞を曝露した。スコポラミンで処理した細胞を対照として含めた。ガランタミンで処理した細胞を陽性対照として含めた。
【0162】
以下のように、多重分析によってマーカーのレベルを決定した:細胞培養上清をキャリブレーター希釈剤で希釈(1:2)した。ウェルあたり50μlの標準物質又は試料を添加した。50μlの微粒子カクテルをマイクロプレートの各ウェルに添加し、ホイルプレートシーラーでカバーした。水平軌道のマイクロプレート振盪機でプレートを室温で2時間インキュベートした。マイクロプレートに対応するように設計された磁気デバイスを使用して、プレート洗浄した。マイクロプレートの底面に磁石をあてることによって洗浄を行い、1分間放置してから液体を除去し、洗浄緩衝液(100μl)で各ウェルを満たし、1分間放置してから再び液体を除去した。50μlの希釈したビオチン-抗体カクテルを各ウェルに添加した。プレートをホイルプレートシーラーでカバーし、振盪機上で室温で1時間インキュベートした。洗浄工程を繰り返した。50μlの希釈したストレプトアビジン-PEを各ウェルに添加した。プレートをホイルプレートシーラーでしっかりとカバーし、振盪機上で室温で30分間インキュベートした。洗浄工程を繰り返した。100μlの洗浄緩衝液を各ウェルに添加することによって、微粒子を再懸濁した。プレートを振盪機上で2分間インキュベートし、Magpix(登録商標)マルチプレックス装置を使用して、90分以内に読み取った。Magpix(登録商標)マルチプレックス装置を使用して、パーキンソン病及びアルツハイマー病のバイオマーカーのレベルを推定評価した。
【0163】
パーキンソン病について、各試料のモジュレーションパーセントを以下のように決定した:
[{配列番号1+MPP+ヨウ化物処理細胞におけるバイオマーカーの濃度(pg/ml))-対照細胞(MPP+ヨウ化物単独処理)におけるバイオマーカーの濃度(pg/ml)}/対照細胞(MPP+ヨウ化物単独処理)におけるバイオマーカーの濃度(pg/ml)]*100
【0164】
アルツハイマー病について、各試料のモジュレーションパーセントを以下のように決定した:
変化%=[(対照細胞におけるバイオマーカーの濃度-対照細胞におけるバイオマーカーの濃度)/対照細胞における分析物の濃度]×100
【0165】
結果:
【0166】
【表7】
【0167】
【表8】
【0168】
インビボ研究:
【0169】
(実施例5)
配列番号1を有する組換えレクチンタンパク質
配列番号1を有する組換えレクチンタンパク質の必要量を滅菌Tris緩衝食塩水(TBS)に希釈して、所望の最終濃度、すなわち、それぞれ、0.5mg/kg、0.25mg/kg及び0.125mg/kgの用量で、0.1mg/mL、0.05mg/mL、0.025mg/mLにした。配合物は、毎日新しく調製した。
【0170】
参照薬物-ドネペジル塩酸塩を0.5%Na-CMCに懸濁して、0.25mg/mLの最終濃度(用量:2.5mg/kg;用量体積:10mL/kg)を得た。
【0171】
それぞれ、試験品目である配列番号1を有する組換えレクチン及び参照品目配合物の調製のためのビヒクルとして、TBS緩衝液及び0.5%CMCを使用した。
【0172】
8~10週齢の雄のマウス(Mus musculus)(スイスアルビノ)をGENTOX Bio services有限会社、Hyderabadから入手した。動物を6群に分類し、2週間順応させた。ケージの標識化及び尾の印付けによって動物を特定し、動物を体重に基づいて無作為化した。
【0173】
健康な雄のスイスアルビノマウス(n=48)を選択し、table no-1(表1)で述べたように、体重に基づいて6群に無作為化した(群当たりn=8)。対照群G1は、実験完了までビヒクルで静脈内に毎日処置した。群G2は陰性対照とみなし、ビヒクルで処置した。群G3は、用量2.5mg/kgの標準化合物ドネペジル塩酸塩で経口的に処置した。群G4、G5及びG6の動物は、それぞれ、試験品目、すなわち、0.5mg/kg、0.25mg/kg及び0.125mg/kgの用量の配列番号1を有する組換えレクチンタンパク質で処置した。すべての試験品目は、14日間、5ml/kgの用量体積で静脈内に(i.v)毎日与えた。実験期間全体を通して、体重を毎日記録した。研究全体を通して、臨床徴候についてすべての動物を観察した。試験品目の最終投与(14日目)から1時間後、正常な対照群G1を除いてすべての動物に2.5mg/kgの用量のスコポラミン臭化水素酸塩をi.p.注射した。スコポラミン注射から30分後に、受動的回避試験を行った。
【0174】
【表9】
【0175】
(実施例5a)
受動的回避試験
この学習及び記憶試験は、照明及び暗所として並置された同一サイズの正方形の箱を有する2つのチャンバーで行った。照明のために、1つのチャンバーの上にランプを設置した。各試験は、訓練トライアルと試験トライアルの2つの別々のトライアルを含んでいた。
【0176】
訓練トライアルについては、照明チャンバーにマウスを最初に入れた。マウスが暗所チャンバーに進入した場合、ステンレス鋼の棒を通して3秒間の電気ショック(0.5mA)を加えた。一旦マウスが明所コンパートメントから暗所コンパートメントに進入した待ち時間を内蔵タイマーを使用して記録した。試験トライアルは、訓練トライアルに続いて24時間行い、暗所チャンバーに再進入する待ち時間を最大で5分まで測定した。
【0177】
【表10】
【0178】
(実施例5b)
脳の収集及び脳バイオマーカーの推定評価
記憶のモデルをスクリーニングする受動的回避試験の後、動物を人道的に屠殺した。脳全体を頭蓋から慎重に取り出し、秤量した。脳を解剖して2つの部分にした。
【0179】
脳の1部分:
氷冷リン酸緩衝液中でホモジナイズすることによって、10%w/vの脳ホモジネート(100mg/mL)を調製した。続いて、3000rpmで10分間、冷却した遠心分離機を使用して、ホモジネートを遠心分離し、上清を分離させ、生化学的推定評価に使用した。
【0180】
製造業者の指示に従ってELISAキットを使用して、以下のバイオマーカーを推定評価した。
・脳NGF(神経成長因子)、CUSABIO社、カタログ番号CSB-E04684m
・アセチルコリンエステラーゼ、CUSABIO社、カタログ番号CSB-E17521m
・TNFアルファ、CUSABIO社、カタログ番号CSB-E04741m
【0181】
【表11】
【0182】
【表12】
【0183】
【表13】
【0184】
(実施例5c)
組織病理検査
人道的な屠殺後にマウスの脳を収集し、これを10%中性緩衝ホルマリン中で固定した。次いで、脳組織を切り取り、処理し、パラフィン中に包埋した。ヘマトキシリン-エオシン(H&E)染色のための検体として、スライド中に5ミクロンの切片を調製した。100×倍率で顕微鏡的に海馬の病変を評価した。
【0185】
結果:
H&E染色された脳組織に対して詳細な組織学的調査を行った。ニューロン損傷に従ってスコアリングを行った。病理組織学的評価の結果は、すべての処置群及びスコポラミン注射群において、大脳皮質及びCA3領域を除いた海馬領域で有意な変化が観察されないことを示した。組織病理検査スコアについての類別の判断基準は、以下の通りであった:正常又は傷害なし-0;まれなニューロン傷害(<5クラスター)-1;時々のニューロン傷害(5~15クラスター)-2;高頻度のニューロン傷害(>15クラスター)-3;汎発性ニューロン傷害-4。
【0186】
【表14】
図1
図2
図3
【配列表】
2024504078000001.app
【国際調査報告】