(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-01-30
(54)【発明の名称】肺癌の検出のための方法
(51)【国際特許分類】
G01N 33/68 20060101AFI20240123BHJP
G01N 33/53 20060101ALI20240123BHJP
C12Q 1/00 20060101ALI20240123BHJP
【FI】
G01N33/68
G01N33/53 D
G01N33/53 X
C12Q1/00 Z
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023542548
(86)(22)【出願日】2022-01-13
(85)【翻訳文提出日】2023-09-07
(86)【国際出願番号】 EP2022050628
(87)【国際公開番号】W WO2022152786
(87)【国際公開日】2022-07-21
(32)【優先日】2021-01-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】517151969
【氏名又は名称】ベルジアン ボリション エスアールエル
(74)【代理人】
【識別番号】100097456
【氏名又は名称】石川 徹
(72)【発明者】
【氏名】マリエール ヘルツォーク
(72)【発明者】
【氏名】ジャコブ ビンセント ミカレフ
【テーマコード(参考)】
2G045
4B063
【Fターム(参考)】
2G045AA26
2G045CA25
2G045CA26
2G045DA36
2G045FB03
4B063QA01
4B063QA19
4B063QQ03
4B063QQ08
4B063QR48
4B063QS40
4B063QX02
4B063QX05
(57)【要約】
本発明は、肺癌、特に初期段階の肺癌を診断及び/又はモニタリングするための方法及び体液試料中のバイオマーカーのパネルの使用に関する。該バイオマーカーには、細胞外遊離ヌクレオソーム上に存在する特定のヒストン修飾を、癌胎児性抗原(CEA)と組み合わせたものがある。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
肺癌を診断及び/又はモニタリングするための体液試料中のバイオマーカーのパネルの使用であって、該バイオマーカーが、H3K27Me3、H3K36Me3及び癌胎児性抗原(CEA)を含む、前記使用。
【請求項2】
前記パネルが、1以上の追加のバイオマーカーを含む、請求項1記載の使用。
【請求項3】
前記追加のバイオマーカーが、C反応性タンパク(CRP)である、請求項2記載の使用。
【請求項4】
前記体液試料が、血液、血清又は血漿試料である、請求項1~3のいずれか1項記載の使用。
【請求項5】
前記肺癌が、初期段階の肺癌である、請求項1~4のいずれか1項記載の使用。
【請求項6】
H3K27Me3及びH3K36Me3が、前記体液試料中の細胞外遊離ヌクレオソーム又はその構成要素のレベルの比として測定される、請求項1~5のいずれか1項記載の使用。
【請求項7】
H3K27Me3及びH3K36Me3が、前記体液試料中のヒストンH3.1を含む細胞外遊離ヌクレオソームのレベルの比として測定される、請求項6記載の使用。
【請求項8】
患者における肺癌を診断する方法であって:
該患者から取得された体液試料中のH3K27Me3、H3K36Me3及びCEAのレベルを検出又は測定すること;並びに
該体液試料中で検出されたレベルを使用して、該患者が肺癌を有するかどうかを決定すること、を含む、前記方法。
【請求項9】
患者がさらなる肺癌の検査を必要とするかどうかを評価する方法であって:
該患者から取得された体液試料中のH3K27Me3、H3K36Me3及びCEAのレベルを検出又は測定すること;並びに
該体液試料中で検出されたレベルを使用して、該患者がさらなる肺癌の検査を必要とするかどうかを決定すること、を含む、前記方法。
【請求項10】
前記さらなる肺癌の検査が肺生検である、請求項9記載の方法。
【請求項11】
前記肺癌が、初期段階の肺癌である、請求項8~10のいずれか1項記載の方法。
【請求項12】
前記患者が肺小結節を有する、請求項8~11のいずれか1項記載の方法。
【請求項13】
H3K27Me3及びH3K36Me3のレベルが前記体液試料中の細胞外遊離ヌクレオソーム又はその構成要素のレベルの比として測定される、請求項8~12のいずれか1項記載の方法。
【請求項14】
前記H3K27Me3及びH3K36Me3のレベルが前記体液試料中のヒストンH3.1を含む細胞外遊離ヌクレオソームのレベルの比として測定される、請求項13記載の方法。
【請求項15】
C反応性タンパク(CRP)のレベルを検出又は測定することをさらに含む、請求項8~14のいずれか1項記載の方法。
【請求項16】
前記患者についての少なくとも1つの臨床パラメータを決定することをさらに含む、請求項8~15のいずれか1項記載の方法。
【請求項17】
前記臨床パラメータが、喫煙状態及び肺癌の家族歴から選択される、請求項16記載の方法。
【請求項18】
検出された前記H3K27Me3、H3K36Me3及びCEAのレベルを対照と比較する、請求項8~17のいずれか1項記載の方法。
【請求項19】
前記体液試料が、血液、血清又は血漿試料である、請求項8~18のいずれか1項記載の方法。
【請求項20】
前記検出又は測定することが、免疫アッセイ、免疫化学、質量分析、クロマトグラフィー、クロマチン免疫沈降又はバイオセンサ法を使用して実施される、請求項8~19のいずれか1項記載の方法。
【請求項21】
患者における肺癌を治療する方法であって:
(i)該患者から取得された体液試料中のH3K27Me3、H3K36Me3及びCEAのレベルを検出又は測定すること;
(ii)該体液試料中で検出されたレベルを使用して、該患者が肺癌を有するかどうかを決定すること;並びに
(iii)工程(ii)において該患者が肺癌を有すると決定された場合、該患者に治療を施すこと、を含む、前記方法。
【請求項22】
H3K27Me3、H3K36Me3及びCEAを検出するための試薬を含む、キット。
【請求項23】
肺癌の検出における使用のための、請求項22記載のキット。
【請求項24】
体液試料中で使用するための、請求項22又は23記載のキット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(発明の分野)
本発明は、バイオマーカーパネルの組合わせを使用する肺癌の検出のための体液検査方法に関する。本発明は、初期段階の肺癌の検出における特定の使用を見出し、かつ従って肺癌スクリーニング方法、例えばLDCTスキャンと組み合わせて、癌を判定し、又は癌を除外するための簡便な確認血液検査として使用することができる。
【背景技術】
【0002】
(発明の背景)
癌は、高い死亡率を有する一般的な疾患である。該疾患の生物学は、前癌状態から、ステージI、II、III及び最終的にはステージIVの癌に至るプログレッションを伴うことが理解されている。癌疾患の大半について、死亡率は、疾患が有効な治療選択肢が利用可能な初期の局所的段階で検出されるか、又は疾患が罹患器官内で拡散し得、それを超えては治療がより困難となる後期段階で検出されるかに大きく依存して、変化する。後期段階の癌の症状は様々であり、視認可能な血便、血尿、咳に伴う吐血、膣からの出血、説明不能な体重減少、持続的かつ説明不能なしこり(例えば、乳房における)、消化不良、嚥下困難、いぼ又はほくろへの変化並びに癌の種類に依存する大部分の他の挙げられ得る症状がある。しかしながら、そのような症状により診断される多くの癌は既に後期段階であり、治療困難となる。大部分の癌は初期段階では無症状であり、又は診断に資さない非特異的な症状を呈する。従って、癌は理想的には癌検査を使用して早期に検出するべきである。
【0003】
先進国において最も高い死亡率を有する癌は、肺癌である。肺癌の5年生存率は、疾患がまだ肺内部に限定されている時点で検出された症例については50%超であるが、疾患が他の器官に拡散した時点で検出された症例についてはわずか5%である。残念ながら、大部分の肺癌症例(57%)は既に転移した時点で診断されており、初期段階で診断されるのはわずか16%である。多くの他の癌疾患も同様のパターンをたどり、かつこの理由から、多くの国では癌性又は前癌性状態を有する個体を特定するためのスクリーニングプログラムが行われている。肺癌のスクリーニングプログラムの一例には、低線量コンピュータ断層撮影(LDCT)スキャンを含む。
【0004】
一部の癌の症例は、不適切なしこり、小結節又は塊のための身体の触診によって検出することができる。そのような任意のしこりが実際に癌性であろうとなかろうと、しこりが性質上悪性であるか、良性であるかを決定するためには、さらなる調査が必要となり得る。しかしながら、臓器、例えば肺、結腸又は膵臓を触診することは不可能であり、かつ他の癌検査が必要である。大部分の癌検査は、(i)体内の小結節、塊若しくはしこりを可視化するためのスキャン、(ii)標的器官中の異常な細胞を探索するための組織生検又は(iii)癌又は関連する、若しくは周囲の組織によって放出された物質についての体液検査に広くカテゴリ分けすることができる。現在の全ての癌スクリーニング方法は、欠点を有する。スキャンは触診同様にしこり又は小結節の視覚的検出を可能とするが、悪性小結節及び不活性又は非悪性(例えば、線維性)のしこりを識別することができないことが多く、特異度に乏しく、かつ/又は過剰診断につながる。組織生検は、大部分の組織(例えば、肺、肝臓、腎臓、前立腺)について、高度に侵襲的な外科処置又は針生検を必要とする。血液及び他の体液検査は低コストかつ非侵襲性であるが、滅多に行われない。
【0005】
LDCTによる肺癌スクリーニングは、近年高リスク対象、例えば長期ヘビースモーカーにおける疾患の早期検出のためのスクリーニング検査として推奨されている。LDCTは低線量X線を使用して、肺の中の初期の小さなしこり又は小結節を可視化する。しかしながら、他のスキャン方法と同様に、観察された任意のしこりは実際に癌性でも、非癌性でもあり得、かつ生検による癌の組織学的確認が必要である。LDCTにおける全ての陽性結果のうちの95%が擬陽性であり、かつLDCTは癌を有さない患者の少なくとも25%において癌であり得る異常を見出すことが報告されている(Lazrisらの文献、2019)。病因不明の多くの小結節が見出されており、それは実際に悪性でも、非悪性でもあり得るが、小さすぎて生検にすることはできない。擬陽性結果は不必要な侵襲的処置をもたらし得、かつ病因不明の小結節は追跡調査スキャンを繰り返して、さらなるX線への曝露を繰り返しながらしこりをモニタリングすることにつながり得る。肺癌検出のための血液検査は、主にその精度の欠如から、臨床では使用されていない。例えば、76%の特異度で肺癌症例の21%を検出するmiRNA検査は、第一線のスクリーニング検査として提案されており、かつ87%の特異度で肺癌症例の41%を検出する早期CDT-肺検査(EarlyCDT-Lung test)は、一次スクリーニング検査としての評価を受けている(Midthunの文献、2016)。
【0006】
現在のスクリーニング方法のもう1つの重大な欠点は、患者コンプライアンスが低いことである。それは、スクリーニングを受けないと、患者の早期の死がもたらされる場合があり、かつ高額な後期段階癌治療による医療提供者の負担を増加させるためである。LDCTは近年開発されたスクリーニングであるが、初期における経験は低いコンプライアンスを示し、おそらくわずか2%である(Lazrisらの文献、2019)。その理由には、発見された病因不明の小結節に対して3~6月に1回スキャンを受けることを繰り返す必要があり、そうでなければ小結節の成長が緩慢であったかもしれない癌の発達を加速させるおそれがあるX線線量に対象を繰り返し曝露させることが挙げられ得る。米国予防医療専門委員会(United States Preventative Services Task Force; USPSTF)は、LDCTスキャンで特定された良性及び悪性小結節を正確に識別するためのバイオマーカーが求められていることを特定した(Moyerの文献、2014)。現在の全ての癌スクリーニング方法には、精度の低さ、過剰診断、高いコスト、高い侵襲性、X線への曝露及び患者コンプライアンスの低さが組み合わさっていることによる欠点がある。
【0007】
簡便かつ常套的な癌血液検査への要望に対処するため、多くの血液中に生じるバイオマーカーが潜在的癌検査として研究されており、CRCに対する癌胎児性抗原(CEA)、肝臓癌に対するα-フェトタンパク質(AFP)、卵巣癌に対するCA125、膵臓癌に対するCA19-9、乳癌に対するCA 15-3及び前立腺癌に対するPSAがある。しかしながら、それらの臨床における精度は常套的に診断に使用するには低すぎるものであり、かつそれらは患者モニタリングのための使用により向いていると考えられている。
【0008】
また、当業者は循環細胞外遊離ヌクレオソーム自体(Holdenriederらの文献、2001)及び炎症性分子、例えばTNFα、インターロイキン-6(IL-6)及びインターロイキン-8(IL-8)(Chadhaらの文献、2014)を含む癌の検出のための多くの他のバイオマーカーを研究してきた。
【0009】
循環中の細胞外遊離ヌクレオソーム自体のレベルが様々な癌状態において上昇し得ることは周知されているものの、細胞外遊離ヌクレオソームの測定は、癌を検出するため、又は任意の他の臨床目的のために、臨床において使用されてはいない(Holdenriederらの文献、2001)。臨床用途における細胞外遊離ヌクレオソーム自体の測定の主要な欠点は、レベルの上昇が細胞死を示す非特異的な指標であり、婦人科疾患、自己免疫疾患、炎症性疾患、脳卒中、心疾患、敗血症、移植片対宿主病、外傷及び続いて起こる熱傷、外科処置又は運動を含む非常に多くの状態に対して報告がなされていることである(Holdenriederらの文献、2005並びにHoldenrieder及びStieberの文献、2009)。従って、ヌクレオソーム自体のレベルの上昇の測定は、きわめて非特異的な疾患の指標であり、腫瘍学において使用できないと考えられている。
【0010】
また、特定の翻訳後修飾、ヒストンアイソフォーム、修飾ヌクレオチド及び非ヒストンクロマチンタンパク質を含む、特定のエピジェネティックシグナルを含む循環細胞外遊離ヌクレオソームが、癌のマーカーとして研究されている(WO2005019826、WO2013030577、WO2013030579及びWO2013084002において言及されている)。
【0011】
近年の進歩にもかかわらず、癌スクリーニングにおいて常套的に使用される血液検査法は、極めて少ない。徴候を示す患者における潜在的診断として、又は他の癌検出法の補助として、癌を判定し、又は除外する概して癌診断のための個々の癌に対する非侵襲性血液検査の開発が要望されている。
【発明の概要】
【0012】
(発明の概要)
本発明の第一の態様により、肺癌を診断及び/又はモニタリングするための体液試料中のバイオマーカーのパネルの使用であって、該バイオマーカーが、H3K27Me3、H3K36Me3及び癌胎児性抗原(CEA)を含む、前記使用を提供する。
【0013】
本発明のさらなる態様により、患者における肺癌を診断する方法であって:
該患者から取得された体液試料中のH3K27Me3、H3K36Me3及びCEAのレベルを検出又は測定すること;並びに
該体液試料中で検出されたレベルを使用して、該患者が肺癌を有するかどうかを決定すること、を含む、前記方法を提供する。
【0014】
本発明のさらなる態様により、患者がさらなる肺癌の検査を必要とするかどうかを評価する方法であって:
該患者から取得された体液試料中のH3K27Me3、H3K36Me3及びCEAのレベルを検出又は測定すること;並びに
該体液試料中で検出されたレベルを使用して、該患者がさらなる肺癌の検査を必要とするかどうかを決定すること、を含む、前記方法を提供する。
【0015】
本発明のさらなる態様により、患者における肺癌を治療する方法であって:
(i)該患者から取得された体液試料中のH3K27Me3、H3K36Me3及びCEAのレベルを検出又は測定すること;
(ii)該体液試料中で検出されたレベルを使用して、該患者が肺癌を有するかどうかを決定すること;並びに
(iii)工程(ii)において該患者が肺癌を有すると決定された場合、該患者に治療を施すこと、を含む、前記方法を提供する。
【0016】
本発明のさらなる態様により、H3K27Me3、H3K36Me3及びCEAを検出するための試薬を含む、キットを提供する。
【図面の簡単な説明】
【0017】
(図面の簡単な説明)
【
図1】良好な判定又は除外検査の特性を示すグラフ。良好な判定検査は少なくとも一部の真の癌について陽性という結果を与え、擬陽性がないか、又は少ない。例えば、癌症例のおよそ25%は「A」において真陽性であることが確認され、特異度は100%である(すなわち、擬陽性がない)。良好な除外検査は癌を有さない少なくとも一部の人々について陰性という結果を与え、偽陰性がないか、又は少ない。例えば、癌を有さない人々のおよそ35%は「B」において癌を有さないことが確認され、感度は100%である(すなわち、偽陰性がない)。
【
図2】組織学的に確認された、過去にLDCTによるスクリーニングを受けている肺癌の家族歴のない220名の患者のパネル分析の結果を示す、箱ひげ図及び点図。血漿試料をH3K27Me3+H3K36Me3+CEAを含む分析物のパネルについてアッセイした。
【
図3】LDCTによる過去のスクリーニングにおいて肺小結節陽性と判定され、かつ組織学検査による追跡調査で悪性又は良性(非悪性)であることが見出された肺癌の家族歴を有さない患者のパネル分析に対するROC曲線。ROC曲線は、良性小結節に対する全ての癌性小結節の検出、良性小結節に対する初期段階(0、I、II)癌性小結節及び良性小結節に対する後期段階(III、IV)の癌性小結節の検出を示す。モデルは、高い(95%)特異度で癌性小結節を有する患者の27%を癌と判定することができ、かつ100%の特異度で初期段階の癌(0、I、II)を有さない非悪性小結節を有する患者の32%を除外することができる。
【
図4】LDCTによる肺小結節についてのスクリーニングを受けた患者に対し実施例2で取得されたヌクレオソーム及びCEAアッセイ結果を使用する、小結節を有さない対照対象に対するステージ0、I、II、III又はIVの肺癌を有する対象の検出のために取得された、ROC曲線。(a)CEAについてのROC曲線;(b)H3K27Me3/H3.1比についてのROC曲線;(c)CEAレベルが異常であるか(>5 ng/ml)、又はH3K27Me3/H3.1+H3K36Me3/H3.1についてのロジスティック回帰の結果が異常であった場合、患者を癌陽性であると分類する、決定樹分析についてのROC曲線。
【発明を実施するための形態】
【0018】
(発明の詳細な説明)
低線量コンピュータ断層撮影(LDCT)は、肺癌のリスクが高い個体のスクリーニングについて広く受け入れられた標準である。しかしながら、LDCTには過剰診断につながる検出された非悪性小結節の保有率(prevalence)が高いこと、累積的放射線照射線量の潜在的な害及び推奨される追跡調査の遵守が低いことを含む、いくつかの制限がある。従って、新規の血液ベース検査は簡便な追跡調査確認アプローチを提供し、肺癌及び非悪性小結節を識別する一助となり得る。患者は、癌を判定し、又は癌を除外する血液検査の一方又は両方から恩恵を受ける。
【0019】
判定検査は癌の可能性が高い患者を特定する結果をもたらす。LDCTにより病因不明の肺小結節が見出された患者の状況においては、これにより小結節が悪性である患者が特定される。従って、判定検査が良好であるための特性には、小結節が実際に癌性であることの信頼性を提供する擬陽性率の低さがある。受信者動作特性(ROC)曲線の観点からは、これは
図1に示されるROC曲線の左下における非常に高い臨床特異度で患者が癌陽性であると特定されることに対応する(すなわち、患者が癌を有することが特定される一方、癌を有さない任意の患者において誤って癌と診断されない)。
【0020】
除外検査は、癌の可能性が低い患者を特定する結果を提供する。LDCTにより病因不明の肺小結節が見出された患者の状況において、これにより癌である見込みが極めて低く、従って治療又は積極的かつ侵襲的な検査を必要としない、小結節を有する患者が特定される。そのため、これらの患者は比較的低い強度で追跡調査され、次回の予定されたスクリーニング検査まで、病院を離れる。従って、良好な除外検査の特性には、小結節が実際には癌性ではないことの信頼性を提供する低い偽陰性率がある。ROC曲線の観点からは、これは
図1に示されるROC曲線の右上における非常に高い臨床感度で患者が癌陰性であると特定されることに対応する(すなわち、患者が癌を有さないことが特定される一方、癌を有する者が見落とされない)。
【0021】
本発明の第一の態様により、肺癌の診断及び/又はモニタリングのための体液試料中のバイオマーカーのパネルの使用であって、バイオマーカーが、H3K27Me3、H3K36Me3及び癌胎児性抗原(CEA)を含む、前記使用を提供する。
【0022】
本明細書では、本発明のバイオマーカーのパネルにより、肺癌を有する患者を良性肺小結節を有する者と比較して区別することが可能となることを示す、データを提示する。血液試料は、肺小結節がLDCTスクリーニング中に検出され、かつバイオマーカーのパネルについて検査された後にCTスキャンで照会された患者から取得した。パネルからの結果より、非悪性小結節を有する人々のうちの32%において、初期段階の肺癌(すなわち、ステージ0、I及びII)を有さないものとして癌を除外することができた。
【0023】
LDCTは非常に高い臨床感度を有し、かつ大部分の肺癌を検出する。LDCTの主要な問題は、小さな悪性及び非悪性の小結節の分化に対する臨床特異度に乏しく、不必要な生検又は繰り返しのスキャンにつながることである。従って、血液検査は:悪性小結節を識別し;治療(すなわち、外科処置が必要であるか否か)を選択する一助とし;かつ繰り返し/追跡調査スキャンによる放射線曝露の頻度を排する一助とするのに有用である。
【0024】
バイオマーカーのパネルはヒストン翻訳後修飾: H3K27Me3(すなわち、位置27のリジン残基におけるトリメチル化ヒストンH3)及びH3K36Me3(すなわち、位置36のリジン残基におけるトリメチル化ヒストンH3)を含む。従って、本発明の一態様により、肺癌の診断及び/又はモニタリングのための体液試料中のバイオマーカーのパネルの使用であって、バイオマーカーがH3K27Me3及びH3K36Me3を含む、前記使用を提供する。また、このパネルを過去に結腸直腸癌と関連付けられた、血液中に生じるバイオマーカーである、癌胎児性抗原(CEA)の検出と組み合わせた。従って、さらなる実施態様において、パネルはさらにCEAを含む。
【0025】
ヌクレオソームはクロマチン構造の基本単位であり、8つの高度に保存されたコアヒストン(ヒストンH2A、H2B、H3、及びH4の各々の対から構成される)のタンパク質複合体からなる。この複合体の周りには、およそ146塩基対のDNAが巻きついている。別のヒストン、H1又はH5はリンカーとして作用し、クロマチンコンパクションに関与する。DNAは、しばしば「ひもでつながったビーズ」のようであると言われる構造の中で連続したヌクレオソームの周りに巻きつき、これは開いた、又はユークロマチンの基本構造を形成する。圧縮された、又はヘテロクロマチン中で、このひもはコイル及びスーパーコイルを形成し、閉鎖した複雑な構造となる(Herranz及びEstellerの文献(2007))。
【0026】
一実施態様において、パネルは、1以上の追加のバイオマーカーを含む。さらなる実施態様において、追加のバイオマーカーはC反応性タンパク(CRP)である。CRPのレベルは、過去生体内の例えば感染症、心血管疾患又は慢性炎症性疾患、例えば関節リウマチ若しくは狼瘡に起因する炎症の存在を検出するために測定されている。バイオマーカーのパネルにCRPを加えると、特に喫煙者であった患者において肺癌を検出するための検査(すなわち、判定検査)の特異度が増加した。
【0027】
また、追加のバイオマーカーは、細胞外遊離ヌクレオソーム自体及び細胞外遊離ヌクレオソームの1以上のエピジェネティックな特徴を含み得る。「ヌクレオソーム」への言及は、体液試料中で検出される場合、「細胞外遊離ヌクレオソーム」を指し得る。本文書の全体を通じて使用する、「細胞外遊離ヌクレオソーム」という用語は、1以上のヌクレオソームを含む任意の細胞外遊離クロマチン断片を含むことを意図していることは理解されよう。本明細書中で言及する細胞外遊離ヌクレオソームのエピジェネティックシグナルの構造/特徴は、限定されることなく、1以上のヒストン翻訳後修飾、ヒストンアイソフォーム/バリアント、修飾ヌクレオチド及び/又はヌクレオソーム-タンパク質付加物としてヌクレオソームと結合するタンパク質を含み得る。「ヌクレオソーム自体」への言及は、ヌクレオソームに何らかのエピジェネティックな特徴が含まれている場合でも、含まれていない場合でも、試料中に存在するヌクレオソームの総レベル又は総濃度を指す。また、この種のアッセイはしばしば簡単に「ヌクレオソームアッセイ」又は「総ヌクレオソームアッセイ」と呼ばれ、かつ典型的に全てのヌクレオソームに共通のヒストンタンパク質、例えばヒストンH4又はヒストンH3を検出することを伴う。従って、一実施態様において、ヌクレオソーム自体は、コアヒストンタンパク質、例えばヒストンH3を検出することにより測定される。本明細書に記載の通り、ヒストンタンパク質は真核生物細胞においてDNAを小さくまとめるために使用される、ヌクレオソームとして知られる構造単位を形成する。一実施態様において、ヒストンタンパク質はコアヒストン、例えばH2A、H2B、H3又はH4である。WO2016067029(参照により本明細書に組み込まれている)において過去報告されているように、特定のヒストンバリアント、例えばヒストンH3.1、H3.2又はH3tを使用して、腫瘍細胞に起源を有する細胞外遊離ヌクレオソームを単離することができる。従って、腫瘍起源の細胞外遊離ヌクレオソームのレベルを検出することができる。
【0028】
また、総細胞外遊離ヌクレオソーム又はヌクレオソーム自体は、それらのDNA断片含有量を定量化することにより測定することができる。血液中の循環細胞外遊離DNA(ccfDNA)は200塩基対未満の長さのDNA断片を含み、クロマチン断片及び特にヌクレオソームの形態で循環する。PicoGreen核酸染色法を使用して行う血液中ccfDNAの測定は、細胞外遊離ヌクレオソームのELISA測定と95%相関することが示されている(Bjorkmanらの文献、2003)。従って、ccfDNAの測定値は、総ヌクレオソーム又は総クロマチン断片レベルの測定値と等価であるか、又はこれに代替するものと考えられる。ヌクレオソームの測定の代替法としてのccfDNAの定量化のための典型的な方法には、限定されることなく、核酸染色を使用する定量化(例えば、PicoGreen、SYBR Green、SYBER Gold、オキサゾールイエロー及びチアゾールオレンジ)又は単一コピーの遺伝子配列の反復DNA配列の増幅及び測定のための、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)法又は他の方法による定量化がある。従って、一実施態様において、細胞外遊離クロマチン断片は、ccfDNAを検出することにより測定する(又は定量化する)。さらなる実施態様において、ccfDNAは核酸染色を使用して測定する。さらなる実施態様において、ccfDNAはPCRによって測定する。さらに、本発明のさらなる態様により、癌を診断及び/又はモニタリングするための体液試料中のバイオマーカーのパネルの使用であって、バイオマーカーがccfDNAの測定を含む、前記使用を提供する。
【0029】
モノヌクレオソーム及びオリゴヌクレオソームは、酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)によって検出することができ、かついくつかの方法が報告されている(その全てが参照により本明細書に組み込まれているSalgameらの文献、1997; Holdenriederらの文献、2001; van Nieuwenhuijzeらの文献、2003; WO2005019826; WO2013030577; WO2013030579; 及びWO2013084002)。これらのアッセイでは典型的に、抗ヒストン抗体(例えば、抗H2B、抗H3、又は抗H1、H2A、H2B、H3及びH4)を捕捉抗体及び検出抗体(検出される部分に応じて異なる)として利用し、又は抗ヒストン抗体を捕捉抗体として、かつ抗DNA抗体を検出抗体として利用する。一実施態様において、抗ヒストン抗体は抗H3抗体又は抗H1抗体を含む。
【0030】
循環ヌクレオソームは、タンパク質-核酸複合体の均質な群ではない。むしろ、それらは細胞死に際するクロマチンの消化から生じるクロマチン断片の異種混交性の群であり、特定のヒストンアイソフォーム(又はバリアント)、翻訳後のヒストン修飾、ヌクレオチド又は修飾ヌクレオチド、及びタンパク質付加物を含む極めて多様なエピジェネティック構造を含む。当業者には、ヌクレオソームレベルの上昇が、特定のヒストンアイソフォーム(又はバリアント)を含むヌクレオソーム、特定の翻訳後ヒストン修飾を含むヌクレオソーム、特定のヌクレオチド又は修飾ヌクレオチドを含むヌクレオソーム、及び特定のタンパク質付加物を含むヌクレオソームを含む、特定のエピジェネティックシグナルを含む、一部の循環ヌクレオソームのサブセットの上昇に関連することは明らかであろう。これらの種類のクロマチン断片のアッセイは、当該技術分野で公知である(例えば、参照により本明細書に組み込まれているWO2005019826、WO 2013030579、WO 2013030578、WO 2013084002を参照されたい)。
【0031】
一実施態様において、エピジェネティックな特徴は、ヒストンの翻訳後修飾、ヒストンアイソフォーム、修飾ヌクレオチド及び/又はヌクレオソームと結合するタンパク質(すなわち、ヌクレオソーム-タンパク質付加物として)から選択される。「エピジェネティックシグナル構造」及び「エピジェネティックな特徴」という用語は、本明細書において互換的に使用されることは、理解されよう。これらの用語はヌクレオソームの検出可能な特定の特徴を指す。
【0032】
一実施態様において、細胞外遊離ヌクレオソームはヒストンアイソフォームを含む。バイオマーカーパネルの一部として測定されるヌクレオソーム部分は、1以上の特定の又は特定されたヒストンアイソフォームを含む、循環細胞外遊離ヌクレオソームとし得る。多くのヒストンアイソフォームが、当該技術分野において公知である。多数のヒストンアイソフォームのヌクレオチド配列が、例えば米国立ヒトゲノム研究所NHGRIヒストンデータベース(Marino-Ramirezらの文献、「ヒストンデータベース:ヒストン及びヒストンフォールド含有タンパク質の統合リソース(The Histone Database: an integrated resource for histones and histone fold-containing proteins.)」Database Vol.2011、GenBank (NIH遺伝子配列)データベース、EMBLヌクレオチド配列データベース及び日本DNAデータバンク(DDBJ)において公開され、入手可能である。好ましい実施態様において、細胞外遊離ヌクレオソームはヒストンH3のヒストンアイソフォーム、例えばH3.1、H3.2及びH3tから選択されるヒストンアイソフォームを含む。
【0033】
別の実施態様において、細胞外遊離ヌクレオソームは1以上の特定の又は特定された翻訳後ヒストン修飾を含む。ヌクレオソームの構造は、ヒストンタンパク質の翻訳後修飾(PTM)によって異なり得る。ヒストンタンパク質のPTMは典型的にコアヒストンの尾部で起こり、一般的な修飾には、リジン残基のアセチル化、メチル化又はユビキチン化並びにアルギニン残基のメチル化及びセリン残基のリン酸化など多数がある。多くのヒストン修飾が当該技術分野で公知であり、その数は新たな修飾が特定されるにつれ、増加している(Zhao及びGarciaの文献、2015)。
【0034】
一実施態様において、関連するヒストンの(翻訳後)修飾の群又はクラス(単一の修飾ではなく)が検出される。本実施態様の典型的な例には、限定されることなく、ヌクレオソームとの結合に方向づけられた1つの抗体又は他の選択的結合因子及び対象とするヒストン修飾の群との結合に方向づけられた1つの抗体又は他の選択的結合因子を利用する二部位免疫アッセイを含む。そのようなヒストン修飾の群との結合に方向づけられた抗体の例には、限定されることなく説明の目的で、抗汎アセチル化抗体(例えば、汎アセチルH4抗体)、抗シトルリン化抗体、又は抗ユビキチン抗体がある。
【0035】
一実施態様において、細胞外遊離ヌクレオソームは1以上のDNA修飾(すなわち、修飾ヌクレオチド)を含む。ヌクレオソームヒストンアイソフォーム及びヒストン翻訳後修飾の組成によって仲介されるエピジェネティックシグナル伝達に加え、ヌクレオソームはそのヌクレオチド及び修飾ヌクレオチドの組成においても異なる。グローバルなDNAの低メチル化は癌細胞の特徴であり、一部のヌクレオソームは他のヌクレオソームよりも多くの5-メチルシトシン残基(又は5-ヒドロキシメチルシトシン残基又は他のヌクレオチド若しくは修飾ヌクレオチド)を含み得る。5-ヒドロキシメチル化は、例えばゲノム中のCpGアイランドで検出され得る。一実施態様において、DNA修飾は5-メチルシトシン又は5-ヒドロキシメチルシトシンから選択される。
【0036】
別の実施態様において、細胞外遊離ヌクレオソームはタンパク質付加物、すなわちヌクレオソーム及びヌクレオソーム又はクロマチン断片に付加する別の非ヒストンタンパク質を含む。そのような付加物には、DNA結合ドメイン又はヌクレオソーム結合ドメイン又はヒストン結合ドメインを含有し、又は含む任意のタンパク質があり得る。例としては、転写調節因子、クロマチンの構造タンパク質、CpGメチル-CpG結合ドメインタンパク質、高移動度群ボックスタンパク質(例えば、HMGB1)、エピジェネティック酵素、例えばヒストンアセチルトランスフェラーゼ、ヒストンメチルトランスフェラーゼ、ヒストンデアセチラーゼ、DNAメチルトランスフェラーゼ、PARP(ポリADPリボースポリメラーゼ)結合因子など多数がある。
【0037】
一実施態様において、ヌクレオソームに付加する(かつ従ってバイオマーカーとして使用され得る)タンパク質は:転写調節因子、高移動度群タンパク質、又はクロマチン調節酵素から選択される。「転写調節因子」への言及は、DNAに結合し、転写を促進し(すなわち、アクチベーター)又は抑制する(すなわち、リプレッサー)ことによって遺伝子発現を調節するタンパク質を指す。転写調節因子は、それが調節する遺伝子に隣接するDNAの特定の配列に結合する1以上のDNA結合ドメイン(DBD)を含む。本明細書に記載する全ての循環ヌクレオソーム及びヌクレオソームの部分、種類、又はサブグループは、本発明において有用であり得る。
【0038】
本明細書で提供するデータから、対象とするヒストンマーカーを含む細胞外遊離ヌクレオソームの比率を決定することにより、特に初期段階の肺癌に対する特許請求の範囲に記載のバイオマーカーパネルの識別能を改善することができることが理解される。従って、一実施態様において、バイオマーカーH3K27Me3及びH3K36Me3は、試料中の細胞外遊離ヌクレオソーム又はその構成要素のレベルの比として測定する。細胞外遊離ヌクレオソーム及びその構成要素は、本明細書中先に定義してある。特に、H3K27Me3及びH3K36Me3は、試料中のヒストンH3バリアント、例えばヒストンH3.1を含む細胞外遊離ヌクレオソームのレベルの比として測定することができる。
【0039】
試料は、対象から採取する任意の生体液(又は体液)試料とすることができ、それには限定されることなく、脳脊髄液(CSF)、全血、血清、血漿、月経血、子宮内膜液、尿、唾液若しくは他の体液(糞便、涙液、滑液、喀痰)、呼気、例えば濃縮された呼気(condensed breath)、又はそれらからの抽出物若しくは精製物又はそれらの希釈物がある。好ましい実施態様において、体液試料は、血液、血清又は血漿から選択される。また、生体試料には、生きている対象からの検体又は死後採取された検体がある。試料は通常の方法で調製し、例えば適宜希釈又は濃縮し、かつ保存することができる。本発明の方法及び使用は、患者から取得した血液、血清又は血漿試料において特定の用途を見出すことが理解されよう。一実施態様において、試料は血液又は血漿試料である。さらなる実施態様において、試料は血清試料である。さらなる実施態様において、血清及び血漿試料の両方を異なるアッセイパネルの構成要素の測定に使用する。
【0040】
一実施態様において、バイオマーカーは、癌のステージの診断における使用のためのものである。癌は、ステージ0、ステージI、ステージII、ステージIII及びステージIVに指定される。ステージの定義は異なる癌疾患について異なり、当該技術分野において公知である。典型的に、ステージIは癌が小さく、かつ原発組織に局所的に限定されている場合として分類される。ステージIIは癌がより大きく成長し、かつその原発部位を越えて器官内の近隣の組織又は近隣のリンパ節へと移った場合として分類される。ステージIIIは癌が成長して原発器官を超えて近隣の組織へと移ったが、生体の他のより離れたの部位へと拡散はしていない場合として分類される。ステージIVは癌が生体の1以上の離れた部位、例えば肝臓又は肺へと拡散した場合として分類される。初期段階の癌は、一般にステージ0、I及びIIを含む。後期段階の癌は、一般にステージIII及びIVを含む。
【0041】
一実施態様において、癌はステージI(例えば、ステージIA若しくはステージIB)、ステージII(例えば、ステージIIA若しくはステージIIB)、ステージIII(例えば、ステージIIIA、ステージIIIB若しくはステージIIIC)又はステージIV(例えば、ステージIVA若しくはステージIVB)の癌である。本発明は、初期段階、特にステージI及びIIの癌の検出における有用性を見出し得る。従って、一実施態様において、癌はステージI、II又はIIIである。さらなる実施態様において、癌はステージI又はステージIIである。代替の実施態様において、癌はステージII又はステージIIIである。また、本発明は後期段階、特にステージIII又はIVの癌の検出における有用性を見出し得る。従って、一実施態様において、癌はステージIII又はIVである。さらなる実施態様において、癌はステージIVである。
【0042】
本発明のさらなる態様により、体液試料中で肺癌を診断及び/又はモニタリングするためのキットの製造におけるH3K27Me3、H3K36Me3及びCEA結合剤の使用を提供する。
【0043】
(診断方法)
本発明のさらなる態様により、患者における肺癌を診断する方法であって:
患者から取得された体液試料中のH3K27Me3、H3K36Me3及びCEAを検出又は測定すること;並びに
体液試料中で検出されたレベルを使用して、患者が肺癌を有するかどうかを決定すること、を含む、前記方法を提供する。
【0044】
別の態様において、本発明の方法は、肺癌を有するリスクが高く、従ってさらなる検査(すなわち、さらなる肺癌調査)が必要な対象を特定するために実施する。さらなる検査は生検及び1以上の内視鏡法又はスキャン方法(例えば、LDCT)を伴い得る。
【0045】
それらの独立型検査としての使用に加え、癌の判定又は除外血液検査は例えばLDCT陽性個人におけるものを含む他のスクリーニングモダリティに対する補助的方法として有用であり得る。LDCT陽性患者はその肺中にしこり又は小結節を有するが、小結節は悪性でない場合があり、LDCTはおよそ60%の特異度を有する。
【0046】
一実施態様において、肺癌は初期段階の肺癌である(すなわち、ステージ0、I又はII)。代替の実施態様において、肺癌は後期段階の肺癌である(すなわち、ステージIII又はIV)。
【0047】
一実施態様において、患者は肺小結節を有する。これは例えばLDCTスキャンによって特定され得る。
【0048】
一実施態様において、本方法は、患者の少なくとも1つの臨床パラメータを決定することをさらに含む。このパラメータは、結果の解釈に使用することができる。臨床パラメータには、任意の関連する臨床情報、例えば限定することなく、性別、体重、ボディーマス指数(BMI)、喫煙状態及び食習慣があり得る。従って、一実施態様において、臨床パラメータは:喫煙状態、肺癌の家族歴、年齢、性別、及びボディーマス指数(BMI)からなる群から選択される。さらなる実施態様において、臨床パラメータは喫煙状態及び肺癌の家族歴からなる群から選択される。
【0049】
一実施態様において、個々のアッセイのカットオフレベルが使用され、患者は個々のパネルアッセイ結果が全て又は最小限の数のパネルアッセイ(例えば、2つのうちの1つ、2つのうちの2つ、3つのうちの2つなど)についてのアッセイカットオフレベルを上回る(又は妥当な場合は下回る)場合に、パネル検査において陽性であるとみなされる。本発明の一実施態様において、決定樹モデル又はアルゴリズムを利用して、結果を分析する。
【0050】
当業者には、本明細書で開示するバイオマーカーの任意の組合わせを、癌の検出のためのパネル及びアルゴリズムにおいて使用することができること、及びさらなるマーカーをこれらのマーカーを含むパネルに追加することができることは、明らかであろう。
【0051】
(治療方法)
本発明のさらなる態様により、患者における肺癌の治療方法であって:
(i)患者から取得された体液試料中のH3K27Me3、H3K36Me3及びCEAを検出又は測定すること;
(ii)体液試料中で検出されたレベルを使用して、患者が肺癌を有するかどうかを決定すること;並びに
(iii)工程(ii)において患者が肺癌を有すると決定された場合、該患者に治療を施すこと、を含む、前記方法を提供する。
【0052】
一実施態様において、本方法は(例えば、工程(i)又は(iii)の前に)対象に1以上のスキャン方法を実施することをさらに含む。例えば、スキャン方法は、LDCTとし得る。
【0053】
肺癌について利用可能な治療には、外科処置(生検を含む)、放射線療法(ブラッキー療法を含む)、ホルモン療法、免疫療法並びに化学療法における使用のための様々な薬物治療がある。一実施態様において、施される治療(複数可)は、外科処置、放射線療法、ホルモン療法、免疫療法及び/又は化学療法から選択される。
【0054】
本発明の別の態様により、肺癌の治療方法であって、本発明のパネル検査を使用して肺癌の治療を必要とする患者を特定すること、及び該治療を提供すること、を含み、パネル検査が、患者から取得された体液試料中のH3K27Me3、H3K36Me3及びCEAを検出するための試薬を含む、前記方法を提供する。
【0055】
一実施態様において、患者が対照と比較して高いレベルを有する場合、その患者は肺癌のリスクが高い。
【0056】
一実施態様において、対照は、健常対象、疾患を有さない対象及び/又は癌を有さない対象を含む。一実施態様において、本方法は、対象から取得された体液試料中に存在するバイオマーカー(複数可)の量を、正常対象から取得された体液試料中に存在するバイオマーカー(複数可)の量と比較することを含む。「正常」対象とは、健常/疾患を有さない対象を指すことは理解されよう。
【0057】
一実施態様において、対照は、非癌性疾患を有する対象を含む。本発明の方法は、癌を有する対象及び非悪性小結節を有する対象を識別することができる。従って、一態様において、診断は肺癌を有する患者を非悪性(すなわち、良性)小結節を有する患者とは区別して診断することを含む。
【0058】
(患者評価の方法)
本発明は、患者が癌についてさらなる調査を必要とするかどうかの評価(例えば、診断及び/又は局在器官(organ location)の特定)における特定の用途を見出すものである。LDCTスキャン、その他のスキャン及び生検を含むそのような手順は侵襲的であるか、又は潜在的に有害であり、かつ医療提供者にとって比較的コストが高くつく。従って、不必要な調査に付される患者の数を減らすことが、要望されている。例えば、本発明のこの態様は、LDCT陽性個人を生検を必要とするものとして評価するのに有用となるであろう。従って、本発明のさらなる態様により、患者が肺癌についてのさらなる検査を必要とするかどうかを評価する方法であって:
該患者から取得された体液試料中のH3K27Me3、H3K36Me3及びCEAのレベルを検出又は測定すること;並びに
該体液試料中で検出されたレベルを使用して、該患者がさらなる肺癌の検査を必要とするかどうかを決定すること、を含む、前記方法を提供する。
【0059】
一実施態様において、肺癌についてのさらなる検査は肺生検である。
【0060】
一実施態様において、患者は肺小結節を有する。これは例えばLDCTスキャンによって特定され得る。
【0061】
本発明のさらなる態様により、LDCTスキャンを必要とする患者を特定する方法であって、該患者から取得された体液試料を本明細書で定義するパネル検査に適用すること、及びパネル検査から取得された結果を使用して、患者がスキャンを必要とするかどうかを特定すること、を含む、前記方法を提供する。
【0062】
一実施態様において、本明細書に記載の方法は複数の時機に繰り返す。本実施態様は、検出結果を一定期間にわたりモニタリングすることを可能とするという利点を提供する。そのような計画は、疾患状態の治療の有効性をモニタリングし、又は評価することの利益を提供するであろう。本発明のそのようなモニタリング方法を使用して、発症、進行、安定化、改善、再発、及び/又は寛解をモニタリングすることができる。
【0063】
従ってまた、本発明は疾患を有することが疑われる対象におけるそのような疾患状態に対する治療の有効性をモニタリングする方法であって、該対象からの生体試料中に存在するバイオマーカー(例えば、本明細書に記載のバイオマーカーパネル)を検出し、かつ/又は定量化することを含む、前記方法を提供する。モニタリング方法において、検査試料は2以上の時機に採取し得る。本方法は、検査試料中に存在するバイオマーカー(複数可)のレベルを、1以上の対照及び/又は例えば治療開始前に同じ検査対象から、及び/又は治療のより前の段階の同じ検査対象から、以前に採取した1以上の過去の検査試料と比較することをさらに含み得る。本方法は、異なる時機に採取された検査試料中のバイオマーカー(複数可)の性質又は量の変化を検出することを含み得る。
【0064】
従って、本発明のさらなる態様により、ヒト又は動物対象における疾患状態に対する治療の有効性をモニタリングするための方法であって:
(a)本明細書で定義するパネルバイオマーカーを定量化すること;及び
(b)検査試料におけるパネル結果を1以上の対照及び/又は同じ検査対象から先立つ時点で採取された1以上の過去の検査試料のパネル結果と比較すること、を含む、前記方法を提供する。
【0065】
検査試料中のバイオマーカー結果を同じ検査対象から以前に採取された過去の検査試料におけるレベルと比較した変化は、障害又は疑いのある障害に対するその治療の有益な効果、例えば安定化又は改善を示すことができる。さらに、治療が完了したら、疾患の再発をモニタリングするため、本発明の方法を定期的に繰り返すことができる。
【0066】
治療の有効性をモニタリングする方法を使用して、ヒト対象及び非ヒト動物(例えば、動物モデル)における既存の治療法及び新規治療法の治療有効性をモニタリングすることができる。これらのモニタリング方法は、新規な原薬及び物質の組合わせのスクリーニングに組み込むことができる。
【0067】
さらなる実施態様において、迅速に作用する治療によるより急速な変化のモニタリングを、より短い時間又は日数の間隔で実施することができる。
【0068】
(キット及びパネル検査)
本明細書に記載するマーカーの組合わせを使用して、特に肺癌の診断及び/又は肺癌を有する若しくは肺癌の疑いのある患者のモニタリングにおける使用のための、キット又はパネル検査を製造することができる。
【0069】
従って、本発明のさらなる態様により、H3K27Me3、H3K36Me3及びCEAのレベルを検出するための試薬を含むキットを提供する。本明細書に記載するキットは、肺癌の診断における使用のためのものとすることができる。
【0070】
キットは、本明細書に記載の1以上の追加のバイオマーカーに対する試薬を含み得る。例えば、一実施態様において、キットはCRPのレベルを検出するための試薬をさらに含む。
【0071】
本発明のさらなる態様により、肺癌の治療を必要とする患者を特定するための、本明細書で定義するキットの使用を提供する。
【0072】
本発明のさらなる態様により、肺癌のプログレッション(例えば、腫瘍のさらなる成長又は癌の異なるステージへの進行)について患者をモニタリングするための、本明細書で定義するキットの使用を提供する。本態様の実施態様は、注意深い待機、能動的な監視及び外科処置又は他の治療後の再発についてのモニタリングにおける、疾患のプログレッションを検出するための使用を含む。
【0073】
本発明のさらなる態様により、患者における肺癌治療の有効性を評価するための、本明細書で定義するキットの使用を提供する。
【0074】
本発明のさらなる態様により、肺癌を有する患者のための治療を選択するための、本明細書で定義するキットの使用を提供する。
【0075】
他の実施態様において、キットは総ヌクレオソームレベル及び/又はH1-ヌクレオソームレベルを検出するための試薬を含み得るものであり、かつ/又は他のヌクレオソーム測定、例えばヌクレオソームのエピジェネティックな特徴(例えば、ヒストンH3.1のレベル)を含み得る。
【0076】
(測定方法)
一実施態様において、検出されたバイオマーカーのレベル又は濃度(すなわち、H3K27Me3、H3K36Me3及びCEA、任意にCRPを含む)を対照と比較する。当業者には、例えば疾患を有さないことが分かっている対象を含み得、又は異なる疾患を有する(例えば、異なる診断の研究のための)対象であり得る対照対象は、様々な基準により選択され得ることは明らかであろう。「対照」には、健常対象、疾患を有さない対象及び/又は癌を有さない対象を含み得る。また、対照は異なるステージの癌、例えばステージI、ステージII、ステージIII又はステージIVの癌を有する対象とし得る。対照との比較は、診断の分野において周知されている。
【0077】
一度「正常範囲」が確立されたら、それを以後の全ての検査の基準として使用することができるため、比較目的の健常/疾患を有さない対照の測定は、全ての場合に必要となるわけではないことは理解されよう。正常範囲は、癌を有さない複数の対照対象から試料を取得すること、及びバイオマーカーのレベルを検査することにより確立することができる。続いて癌を有する疑いがある対象の結果(すなわち、バイオマーカーレベル)を調べ、それらがそれぞれの正常範囲内にあるか、又は範囲外にあるかを確認することができる。「正常範囲」の使用は、疾患を検出するための標準的な慣例である。
【0078】
対象が癌を有さないと決定された場合でも、本発明は依然として疾患のプログレッションをモニタリングする目的で使用することができる。例えば、使用が癌を有さないと決定された対象由来の血液、血清又は血漿試料を含む場合、バイオマーカーレベルの測定を繰り返して別の時点でも行い、バイオマーカーレベルが変化したかどうかを確立することができる。
【0079】
「対象」又は「患者」への言及は、本明細書において互換的に使用される。一実施態様において、患者はヒト患者である。一実施態様において、患者は(非ヒト)動物である。本明細書に記載の使用、パネル及び方法は、好ましくはインビトロで実施する。
【0080】
一実施態様において、パネル(すなわち、H3K27Me3、H3K36Me3及びCEA、任意にCRPを含む)の検出又は測定は、免疫アッセイ、免疫化学、質量分析、クロマトグラフィー、クロマチン免疫沈降又はバイオセンサ法を含む。
【0081】
一実施態様において、検出又は測定は、免疫アッセイを含む。本発明の好ましい実施態様において、ヌクレオソーム部分に対する二部位免疫アッセイ法を提供する。特に、そのような方法は、2つの抗ヌクレオソーム結合剤、又は抗ヌクレオソーム結合剤を抗ヒストン修飾若しくは抗ヒストンバリアント若しくは抗DNA修飾若しくは抗付加タンパク質検出結合剤と組み合わせたものを利用して、インサイチュでヌクレオソーム又はエピジェネティックな特徴が組み込まれたヌクレオソームの測定に好ましい。本発明の別の実施態様において、標識抗ヌクレオソーム検出結合剤を固定化された抗ヒストン修飾又は抗ヒストンバリアント又は抗DNA修飾又は抗付加タンパク質結合剤と組み合わせたものを利用した、二部位免疫アッセイを提供する。
【0082】
バイオマーカー(複数可)のレベルの検出又は測定は、好適な結合剤などの1以上の試薬を使用して実施すことができる。一実施態様において、1以上の結合剤は所望のバイオマーカー、例えばH3K27Me3、H3K36Me3及びCEA又はバイオマーカーの構造的/形態的模倣物又はそれらの構成要素部分に特異的なリガンド又は結合因子を含む。本明細書で定義する用語「バイオマーカー」は、任意の単一のバイオマーカー部分又はバイオマーカーパネル中の個々のバイオマーカー部分の組合わせを含む。
【0083】
本明細書に記載の通り、1以上のヒストンバイオマーカーのレベルは、試料中の細胞外遊離ヌクレオソームのレベルに対して正規化され、すなわち対象とするヒストンバイオマーカーを含む細胞外遊離ヌクレオソームの比率を決定する。従って、バイオマーカーH3K27Me3及びH3K36Me3のレベルを試料中の細胞外遊離ヌクレオソーム又はその構成要素のレベルの比として測定し得る。特に、H3K27Me3及びH3K36Me3は、試料中のヒストンH3バリアント、例えばヒストンH3.1を含む細胞外遊離ヌクレオソームのレベルの比として測定することができる。
【0084】
当業者には、本発明の任意の態様に関する「抗体」、「結合因子」又は「リガンド」という用語は、限定するものでないものの、特定の分子又は実体と結合することができる任意の結合因子を含むことを意図するものであること、及び任意の好適な結合因子を本発明の方法において使用することができることは、明らかであろう。
【0085】
バイオマーカーを検出する方法は、当該技術分野で公知である。一実施態様において、試薬は1以上のリガンド又は結合因子を含む。一実施態様において、本発明のリガンド又は結合因子は、所望の標的との特異的結合が可能な天然に存在する化合物又は化学的に合成された化合物を含む。リガンド又は結合因子は、所望の標的との特異的結合が可能なペプチド、抗体、若しくはそれらの断片、又はプラスチック抗体などの合成リガンド、又はアプタマー、又はオリゴヌクレオチドを含み得る。抗体は、モノクローナル抗体又はその断片であり得る。抗体断片を使用する場合、それはバイオマーカーと結合する能力を保持する結果、(本発明に従い)バイオマーカーを検出することができることは理解されよう。リガンド/結合因子は、検出可能なマーカー、例えば発光、蛍光、酵素、又は放射性マーカーで標識することができ;あるいはさらに、本発明によるリガンドはアフィニティータグ、例えばビオチン、アビジン、ストレプトアビジン、又はHis(例えば、ヘキサ-His)タグで標識することができる。あるいは、リガンド結合は、無標識技術、例えばForteBio社の無標識技術を使用して決定することができる。
【0086】
診断又はモニタリングのキット(又はパネル)を、本発明の方法を実施するために提供する。そのようなキットは、好適には本発明によるバイオマーカーの検出及び/若しくは定量用の1以上のリガンド、並びに/又は本明細書に記載するバイオセンサ及び/若しくはアレイを、任意にキットの使用説明書とともに含む。
【0087】
本発明のさらなる態様は、疾患状態の存在を検出するためのキットであって、本明細書で定義する1以上のバイオマーカーを検出し、かつ/又は定量することが可能なバイオセンサを含む、前記キットである。本明細書で使用する「バイオセンサ」という用語は、バイオマーカーの存在を検出可能なあらゆるものを意味する。バイオセンサの例は、本明細書に記載されている。バイオセンサは、バイオマーカーとの特異的結合が可能な、本明細書に記載のリガンド結合因子又はリガンドを含み得る。そのようなバイオセンサは、本発明のバイオマーカーの検出及び/又は定量化に有用である。
【0088】
好適には、本発明の1以上のバイオマーカーの検出のためのバイオセンサは、生体分子の認識を、試料中のバイオマーカーの存在の検出又は定量結果をシグナルに変換する適切な手段と組み合わせる。バイオセンサは、診断検査を行う「代替現場」、例えば病棟、外来科(outpatients’ department)、手術室、自宅、フィールド、及び職場に適応させることができる。本発明の1以上のバイオマーカーを検出するバイオセンサには、音響、プラズモン共鳴、ホログラフィー、バイオレイヤー干渉測定(BLI)、及びマイクロエンジニアリングセンサがある。インプリント認識エレメント、薄膜トランジスタ技術、磁気音響レゾネータ装置、及び他の新規音響電気システムを、本発明の1以上のバイオマーカーを検出するためのバイオセンサに利用することができる。
【0089】
疾患の存在を検出するためのバイオマーカーは、障害の進行を遅らせ、又は停止させる新規標的及び薬物分子を発見するためのきわめて重要な標的である。バイオマーカー又はバイオマーカーパネルについての結果は障害及び薬物反応を示すため、バイオマーカーはインビトロ及び/又はインビボアッセイにおける新規治療化合物の同定に有用である。本発明のバイオマーカー及びバイオマーカーパネルは、バイオマーカーの活性を調節する化合物のスクリーニング方法に利用することができる。
【0090】
従って、本発明のさらなる態様において、記載された通り、本発明によるバイオマーカーに方向づけられたペプチド、抗体、若しくはそれらの断片、又はアプタマー、又はオリゴヌクレオチドであり得る結合因子又はリガンドの使用;あるいはバイオマーカーの生成を促進し、かつ/又は抑制し得る物質を同定するための本発明によるバイオセンサ、又はアレイ、又はキットの使用を提供する。
【0091】
「バイオマーカー」という用語は、プロセス、事象、又は状態の示差的な生物学的な又は生物由来の指標を意味する。バイオマーカーは、診断の方法、例えば臨床スクリーニング及び予後評価において、並びに治療結果のモニタリング、特定の治療的処置に最も反応する可能性が高い対象の特定、薬物スクリーニング、及び創薬において、使用することができる。バイオマーカー及びそれらの使用は、新規薬物治療の特定及び薬物治療の新規標的の発見に有益である。
【0092】
本明細書で使用する「検出する」又は「診断する」という用語は、疾患状態の特定、確認、及び/又は特性評価を包含する。本発明による検出、モニタリング、及び診断の方法は、疾患の存在を確認し、発症及び進行を評価することにより疾患の発展をモニタリングし、又は疾患の改善又は軽減を評価するのに有用である。また、検出、モニタリング、及び診断の方法は、臨床スクリーニングの評価、予後判定、治療の選択、治療利益の評価、すなわち薬物スクリーニング及び創薬の方法に有用である。
【0093】
特定及び/又は定量化は、対象由来の生体試料、又は生体試料の精製物若しくは抽出物若しくはそれらの希釈物中の特定のタンパク質の存在及び/又は量を特定するのに好適な任意の方法により実施することができる。本発明の方法において、定量化は1以上の試料中の標的の濃度を測定することにより実施することができる。本発明の方法において検査され得る生体試料には、本明細書中上記において定義した生体試料がある。試料は通常の方法で調製し、例えば適宜希釈又は濃縮し、かつ保存することができる。
【0094】
バイオマーカーの特定及び/又は定量化は、バイオマーカー又はその断片、例えばC末端が切断された断片、又はN末端が切断された断片の検出により実施され得る。断片は、好適には長さが4アミノ酸超、例えば長さが5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、又は20アミノ酸である。特に、ヒストン尾部の配列と同じ又は関連する配列のペプチドは、特に有用なヒストンタンパク質の断片であることに留意されたい。
【0095】
例えば、検出及び/又は定量化は、免疫学的方法、例えば免疫アッセイを使用して実施することができる。免疫アッセイには、本明細書で定義するバイオマーカーに結合するよう方向づけられた1以上の抗体又は他の特異的結合因子を利用する任意の方法がある。免疫アッセイには、酵素検出法を利用する二部位免疫アッセイ又は免疫測定アッセイ(例えば、ELISA)、蛍光標識免疫測定アッセイ、時間分解蛍光標識免疫測定アッセイ、化学発光免疫測定アッセイ、免疫比濁アッセイ、微粒子標識免疫測定アッセイ、及び免疫放射測定アッセイ、並びに一部位免疫アッセイ、試薬限定免疫アッセイ、標識抗原及び標識抗体を含む競合的免疫アッセイ法、放射性、酵素、蛍光、時間分解蛍光、及び微粒子標識を含む、様々な種類の標識を用いる単一抗体免疫アッセイ法がある。
【0096】
別の例において、検出及び/定量化は: SELDI(-TOF)、MALDI(-TOF)、1-Dゲルベース分析、2-Dゲルベース分析、質量分析(MS)、逆相(RP)LC、サイズ透過(ゲルろ過)、イオン交換、アフィニティー、HPLC、UPLC、及び他のLC又はLC MSベースの技術からなる群から選択される1以上の方法により実施することができる。適切なLC MS技術には、ICAT(登録商標)(Applied Biosystems、CA、USA)又はiTRAQ(登録商標)(Applied Biosystems、CA、USA)がある。液体クロマトグラフィー(例えば、高圧液体クロマトグラフィー(HPLC)又は低圧液体クロマトグラフィー(LPLC))、薄層クロマトグラフィー、NMR(核磁気共鳴)分光法も使用可能である。
【0097】
本発明の1以上のバイオマーカーの特定及び/又は定量化を伴う方法は、実験机上の機器で実施することができ、又は実験室外の環境、例えば医師の執務室若しくは対象のベッド脇において使用可能な使い捨ての診断若しくはモニタリングプラットフォームに組み込むことができる。本発明の方法の実施に好適なバイオセンサには、光学又は音響リーダを備えた「クレジット」カードがある。バイオセンサは、収集されたデータを電子的に送信して医師の解釈に付すことを可能とするように構成され、従ってe-medicineの基盤を形成し得る。
【0098】
疾患状態のバイオマーカーの特定は、診断手順及び治療レジメンの統合を可能とする。本発明のバイオマーカーの検出を使用して、対象が臨床試験に参加する前に、対象をスクリーニングすることができる。バイオマーカーは、治療反応、反応の失敗、望ましくない副作用プロファイル、医学コンプライアンスの程度、及び適切な血清薬物レベルの達成を示す手段を提供する。バイオマーカーを使用して、有害薬物反応の警告を提供することができる。反応の評価を使用して、投薬量を微調整し、処方される投薬の回数を最小限に抑え、効果的な治療の達成の遅延を低下させ、有害薬物反応を回避することができるため、バイオマーカーは、オーダーメイド治療の開発に有用である。従って本発明のバイオマーカーをモニタリングすることにより、対象の障害及び薬理ゲノムプロファイルによって決定されるニーズに適合するよう対象のケアを的確に合わせることができ、そのためにバイオマーカーを使用して、最適な用量を調整し、肯定的な治療反応を予測し、かつ重篤な副作用のリスクが高い対象を特定することができる。
【0099】
バイオマーカーベースの検査は、現在の尺度を使用しては達成できない「新規」対象の第一線評価を提供し、正確かつ迅速な診断のための客観的な尺度を提供する。
【0100】
また、バイオマーカーをモニタリングする方法、バイオセンサ、及びキットは、再発が障害の悪化によるものであるかどうかを医師が決定できるようにするための対象モニタリングツールとして重要である。薬理学的治療が不十分であると評価された場合、治療を再開又は増加させることができ;適切な場合治療を変更することができる。バイオマーカーは障害の状態に敏感であるため、バイオマーカーは薬物治療の影響の指標を提供する。
【0101】
本明細書に記載の実施態様は、本発明の全ての態様に適用することができる。すなわち、使用の記載のある実施態様は、特許請求の範囲に記載の方法などに等しく適用することができることは、理解されよう。
【0102】
ここで本発明を、以下の非限定的な実施例を参照して説明する。
【実施例】
【0103】
(実施例)
(実施例1)
肺癌についてLDCTにより過去にスキャンされた220名の患者から、EDTA血漿試料を取得した。該患者のうち、70名においては小結節が発見されず、100名においては小結節が発見され、かつ外科的に摘出された生検組織試料の組織学検査により悪性であることが確認され、かつ50名においては小結節が発見され、かつ外科的に摘出された生検組織試料の組織学検査により、非悪性であることが確認された。患者コホートの詳細を、表1にまとめる。
【0104】
【0105】
全血試料をEDTA血漿チューブに収集し、選択されたバイオマーカーについて検査した。CEA及びCRPのレベルを商業的に利用可能な免疫アッセイ法を使用して測定した。また、H3K27Me3及びH3K36Me3を、選択されたヒストン修飾に結合するよう方向づけられた1つの抗体及びインタクトなヌクレオソームに存在するエピトープに結合するよう方向づけられた1つの抗体を利用するサンドイッチ免疫アッセイ法を使用して測定した。
【0106】
アッセイ結果をロジスティック回帰分析によってモデル化し、肺癌を有する患者対非悪性(良性)小結節を有する患者の比較のために最も高いAUCを用いてモデル又はアルゴリズムに学習させた。適切な診断検査を準備するために、最も特異度の高い検査を使用して、診断を確認(すなわち、判定)し、かつ最も感度の高い検査を使用して、疾患の見込みが低いことを確立(すなわち、除外)することが推奨される。結果を表2にまとめる。
【0107】
(表2:結果の概要)
【表2】
*AUCが予測と有意に異なる。
【0108】
検査したパネルは、肺癌についての好適な判定及び除外検査を提供することができた。特に、H3K27Me3+H3K36Me3+CEAを含むパネルは、高い特異度(95%)を有する全体コホートの中で癌性小結節を有する患者の27%において癌であると判定することができた(
図2に例示的結果を提示する)。従って、このパネルはさらなる調査及び治療を必要とする全ての癌症例のうち、4分の1超を確認するのに、有用である。
【0109】
このパネルは、肺癌の家族歴のない患者において特に十分に機能し、かつ非悪性の小結節を有する患者のうちの32%を、100%の特異度で初期段階の癌(0、I及びII)を有さないものとして除外することができた(受信者動作特性(ROC)曲線を
図3に提示する)。初期段階の癌は比較的小さな小結節を提示する見込みがより高く、そのために初期段階の癌についての除外検査はスクリーニングプログラムの状況において非常に有用である。それは、LDCTなどのスキャン方法が、非悪性の小結節の差別化に関して特異度が乏しく、不必要な生検又はスキャンの繰り返しをもたらすためである。従って、他の臨床パラメータの結果をこのパネルとともに使用して、さらに正確性及び有用性を高めることができる。
【0110】
パネルにCRPを追加することは、(肺癌の家族歴の有無にかかわらず)特に喫煙者における有用な肺癌の検出(すなわち判定)方法を提供する。パネルにより、全ての検査された対象のうち、42%の癌を95%の特異度で検出することが可能となった。これは、喫煙者である患者(肺癌スクリーニングプログラムにおいて標的となることの多い集団)においては、95%の特異度で66.7%の癌まで増加する。
【0111】
(実施例2)
本発明者らは、循環中に存在する特定のヒストン修飾を含むヌクレオソームの割合が、存在するヌクレオソームの単純な量よりも臨床との関連性が高くなり得るとの仮説を立てた。本発明者らは、この仮説をLDCTによりスクリーニングした患者の大コホートで試験した。
【0112】
肺癌についてLDCTにより過去にスキャンされた702名の患者から、EDTA血漿試料を取得した。該患者のうち、77名においては小結節が発見されず、625名においては小結節が発見され、かつ外科的に摘出された生検組織試料の組織学検査により悪性であることが確認された。肺癌の診断が確認された625名の患者のうち、55名はステージ0の疾患、397名はステージIの疾患、35名はステージIIの疾患、43名はステージIIIの疾患、68名はステージIVの疾患を有しており、かつ27名はステージ不明の肺癌を有していた。従って、患者の70%超は、初期のステージ0又はステージIの疾患を有していた。
【0113】
CEAのレベルは、商業的に利用可能な免疫アッセイ法を使用して測定した。ヒストンバリアントH3.1並びにヒストン修飾H3K27Me3及びH3K36Me3を含むヌクレオソームは、選択されたヒストンバリアント又は修飾に結合するよう方向づけられた1つの抗体及びインタクトなヌクレオソーム中に存在するエピトープに結合するよう方向づけられた1つの抗体を利用するサンドイッチ免疫アッセイ法を使用して測定した。
【0114】
本発明者らはロジスティック回帰分析を使用した各アッセイについて、癌を有する対象及び癌を有さない対象を識別するためにROC曲線及びAUCを計算した。また、本発明者らはH3K27Me3/H3.1及びH3K36Me3/H3.1の比並びに表3に示す比を含むパネルについてのROC曲線及びAUCを計算した。
【0115】
(表3:625名の患者コホート(及びコホート内の各疾患ステージ0、I、II、III、IVを有する患者)についてのアッセイ結果、ヌクレオソーム比の結果及びパネルに対して計算されたAUC)
【表3】
*CEAレベルが異常(>5ng/ml)であるか、又はH3K27Me3/H3.1+H3K36Me3/H3.1に対するロジスティック回帰の結果が異常である(又はその両方の)場合、患者を癌陽性であると分類する、決定樹分析を示す。
【0116】
また、CEA、H3K27Me3/H3.1及び決定樹分析CEA // H3K27Me3/H3.1+H3K36Me3/H3.1に対するステージ0、I、II、III及びIVの肺癌の検出のためのROC曲線を
図4に図示する。
【0117】
表3及び
図4の結果から、CEAは肺癌の疾患ステージ依存的なマーカーであり(全体コホートAUC=65%)、ステージII及びIIIの肺癌に対して良好なマーカーであり、かつステージIVの癌に対して非常に優れたマーカーであることが示される。しかしながら、CEAはステージ0又はステージIに対してはより不良である。個別のH3.1、H3K27Me3及びH3K36Me3ヌクレオソームレベルもステージ依存的なマーカーであるが、個別にはCEAよりも識別力が低い(全体コホートAUC=56及び50%)。このことは、レベルが疾患及び疾患重症度を反映することを示す。
【0118】
しかしながら、本発明者らは個々のヒストン修飾H3K27Me3及びH3K36Me3のレベルをH3.1ヌクレオソームのレベルに対する比として正規化することにより(すなわち、H3K27Me3/H3.1及びH3K36Me3/H3.1)、CEAの識別力と同程度又はそれ以上の水準で癌の識別が改善されることを観察した(全体コホートAUC=68及び64%)。また、マーカーの比はステージ依存的であり、かつ疾患及び疾患重症度を反映する。さらに、この比を用いると、ステージ0及びステージIの癌の識別力が改善される。
【0119】
ロジスティック回帰分析を使用した2つの比の組合わせ又はいずれかの比のCEAとの組合わせにより、結果がさらに改善された(全体コホートAUC=70、71及び70%)。
【0120】
CEAのレベルが異常であるか(>5ng/ml)、又はH3K27Me3/H3.1+H3K36Me3/H3.1に対するロジスティック回帰の結果が異常である(又はその両方の)場合に患者を癌陽性であると分類する決定樹分析におけるCEA及び2つの比の組合わせにより、癌の識別力はさらに改善され(全体コホートAUC=76%)、初期段階の癌の識別力はCEAと比較してずっと改善される。
【0121】
【国際調査報告】