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特表2024-504128破砕ドリル・ヘッド及びこれに関連する方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-01-30
(54)【発明の名称】破砕ドリル・ヘッド及びこれに関連する方法
(51)【国際特許分類】
   E21B 1/26 20060101AFI20240123BHJP
   E21B 43/00 20060101ALI20240123BHJP
【FI】
E21B1/26
E21B43/00 C
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023543210
(86)(22)【出願日】2022-01-24
(85)【翻訳文提出日】2023-09-11
(86)【国際出願番号】 US2022013545
(87)【国際公開番号】W WO2022159827
(87)【国際公開日】2022-07-28
(31)【優先権主張番号】63/140,439
(32)【優先日】2021-01-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.ケブラー
(71)【出願人】
【識別番号】522032073
【氏名又は名称】ストラボ エンジニアリング、エルエルシー
(74)【代理人】
【識別番号】100089875
【弁理士】
【氏名又は名称】野田 茂
(72)【発明者】
【氏名】ホルツマン、ベンジャミン
【テーマコード(参考)】
2D129
【Fターム(参考)】
2D129AA04
2D129AB01
2D129BA30
2D129CA25
2D129CB01
2D129FA02
(57)【要約】
破砕ドリル・ヘッド(100)はドリル・ヘッド本体(102)を含み、該ドリル・ヘッド本体は、その長軸に沿った一次掘削方向(106)に実質的に面した主面(104)を備える。液体流入口は前記ドリル・ヘッド本体 (102)上にあってよい。上記液体流入口は液体供給ライン(110)に接続されるか、又は接続可能であってよい。内部液体接続部(112)は前記ドリル・ヘッド本体(102)内に開口され、上記液体流入口に液体接続されてよい。上記ドリル・ヘッド(100)の主面(104)上には、複数の液体噴射部(114)が対向配置されていてよい。これら液体噴射部(114)には、上記内部液体接続部(112)を通じて前記液体流入口から液体が供給されてよい。これら液体噴射部による液体送達を制御する流量制御装置(116)が該液体噴射部に付随してよく、少なくともこれら液体噴射部(114)の中の2台の流速が独立に制御可能とされてよい。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
長軸に沿った一次掘削方向に実質的に面した主面を有するドリル・ヘッド本体と、
前記ドリル・ヘッド本体上に設けられ、液体供給ラインに接続される、又は接続可能な液体流入口と、
前記ドリル・ヘッド本体内に配向され、前記液体流入口に液体接続される内部液体接続部と、
前記ヘッドの前記主面に対向配置され、前記内部液体接続部を通じて前記液体流入口から液体が供給される複数の液体噴射部と、
これら液体噴射部による液体送達を制御するために、少なくとも2台の液体噴射部の流速を独立に制御可能な、各液体噴射部に付随する流量制御装置と、を備える破砕ドリル・ヘッド。
【請求項2】
前記ドリル・ヘッドが前記一次掘削方向に掘削を行う機械式ドリル・ヘッドを持たず、該一次掘削方向に非接触低温破砕を行う、請求項1に記載の破砕ドリル・ヘッド。
【請求項3】
前記複数の液体噴射部は少なくとも2群の液体噴射部を含み、
前記破砕ドリル・ヘッドは該液体噴射部の各群に液体接続されるバルブを更に備え、これらバルブにより各群への液体噴射部を独立に制御し、少なくとも或る1群への送液量を少なくとも他の1群よりも多くすることで該ドリル・ヘッドの操縦を可能とする、請求項1に記載の破砕ドリル・ヘッド
【請求項4】
前記液体流入口は送液される液体の唯一の流入口であり、前記ドリル・ヘッドを通じて1種類の液体のみが送液される、請求項1に記載の破砕ドリル・ヘッド。
【請求項5】
前記流量制御装置は、前記液体噴射部内にパルス流を発生させるバルブを備える、請求項1に記載の破砕ドリル・ヘッド
【請求項6】
前記複数の液体噴射部と液体接続され、該複数の液体噴射部から噴出される液体を加圧する低温液体ポンプを更に備える、請求項1に記載の破砕ドリル・ヘッド
【請求項7】
前記ドリル・ヘッド本体内で前記内部液体接続部に付随し、前記複数の液体噴射部に供給される液体を冷却するチラーを更に備える、請求項1に記載の破砕ドリル・ヘッド。
【請求項8】
前記ドリル・ヘッド本体の前部上面に設けられたスラリー回収口と、前記ドリル・ヘッド本体の後部上面に設けられたスラリー流出口とを更に備え、該スラリー流出口は該ドリル・ヘッド本体内で内部スラリー接続部により該スラリー回収口と接続され、該スラリー流出口はスラリー・ラインと接続される、又は接続可能な、請求項1に記載の破砕ドリル・ヘッド。
【請求項9】
スラリー・ポンプ又はインフレータブル・パッカーの少なくとも一方を更に備え、
前記スラリー・ポンプは前記内部スラリー接続部に付随し、液体と岩石破片とが混じったスラリーを前記スラリー・ラインへ圧送し、この場合のスラリー回収口は前記ドリル・ヘッド本体の前面に備えられ、
前記インフレータブル・パッカーは前記ドリル・ヘッド本体の側面に設けられ、膨張すると該ドリル・ヘッド本体の側面とボーリング井の内壁面との間の空間を封鎖する、請求項8に記載の破砕ドリル・ヘッド。
【請求項10】
前記ドリル・ヘッド本体の側面に車輪を更に備え、該各車輪は前記ドリル・ヘッド本体から外方へボーリング井の内壁面に向かって延出する、請求項1に記載の破砕ドリル・ヘッド
【請求項11】
前記ドリル・ヘッド本体の側面に対向する少なくとも1台の液体噴射部を更に備える、請求項1に記載の破砕ドリル・ヘッド
【請求項12】
長軸に沿った一次掘削方向に実質的に面した主面を有するドリル・ヘッド本体と、
前記ドリル・ヘッド本体上に設けられ、液体供給ラインに接続される、又は接続可能な液体流入口と、
前記ドリル・ヘッド本体内に配向され、前記液体流入口に液体接続される内部液体接続部と、
前記ヘッドの前記主面に対向し、前記内部液体接続部を通じて前記液体流入口から液体が供給される少なくとも1台の液体噴射部と、
前記少なくとも1台の液体噴射部による液体送達を制御する、該少なくとも1台の液体噴射部に付随する流量制御装置と、
前記ドリル・ヘッド本体の前部上面に設けられたスラリー回収口と、
前記ドリル・ヘッド本体の後部上面に設けられ、該ドリル・ヘッド本体内で内部スラリー接続部により該スラリー回収口と接続されるスラリー流出口と、
前記ドリル・ヘッド本体上で前記スラリー回収口と前記スラリー流出口との間に設けられた作動式シール要素であって、該シール要素後方のボーリング井の一部を、該シール要素前方のボーリング井の一部から一時的に遮断する如く作動する作動式シール要素と、
を備える破砕ドリル・ヘッド。
【請求項13】
前記作動式シール要素は、前記ドリル・ヘッド本体の側面に設けられ、且つ膨張すると該ドリル・ヘッド本体の側面とボーリング井の内壁面との間の空間を封鎖するインフレータブル・パッカーを備える、請求項12に記載の破砕ドリル・ヘッド。
【請求項14】
前記ドリル・ヘッド本体は円筒形状を有し、前記インフレータブル・パッカーは該ドリル・ヘッド本体を周回する円環チューブ状に形成されている、請求項13に記載の破砕ドリル・ヘッド。
【請求項15】
前記内部スラリー接続部に付随し、液体と岩石破片とが混じったスラリーを前記スラリー・ラインへ圧送するスラリー・ポンプを更に備える、請求項12に記載の破砕ドリル・ヘッド。
【請求項16】
前記スラリー回収口は前記ドリル・ヘッド本体の側面に設けられる、請求項12に記載の破砕ドリル・ヘッド。
【請求項17】
複数の液体噴射部を備える破砕ドリル・ヘッドをボーリング井内に設置する工程と、
前記ボーリング井の岩体に向けて液体噴射部から液体を噴射し、その際、該液体の温度と岩体の温度との間に、岩体が一次掘削方向に沿って液体噴射による熱破壊を生ずるに十分な温度差を設けることにより、熱破壊と液圧の組合せによって浮石破片を形成する工程と、
少なくとも1台の液体噴射部の流量を少なくとも他の1台の液体噴射部の流量と独立に制御することにより、これら独立に制御された各液体噴射部から異なる流量の液体が噴出されて破壊量を異ならしめる工程と、
前記液体と前記浮石破片とをスラリーの形で前記ボーリング井から取り除く工程と、
を備える破砕掘削方法。
【請求項18】
下記の少なくともいずれかの条件、即ち、
噴射されている前記液体の温度と前記岩体との温度差が約50℃~約800℃である;
噴射されている前記液体が前記岩体よりも低温である;
噴射されている前記液体の温度が約0℃~約100℃である;
噴射される前の前記液体を冷却する工程を更に含む、
を満たす、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記ドリル・ヘッドは、前記一次掘削方向の掘削を非接触低温破砕により行う、請求項17に記載の方法。
【請求項20】
前記ドリル・ヘッドを操縦して湾曲したボーリング井を形成する工程を更に含む、請求項17に記載の方法。
【請求項21】
前記ドリル・ヘッドの側壁面と前記ボーリング井の内壁面との間でインフレータブル・パッカーを膨張させて、前記岩体に向けて噴射された液体を含む空間を孤立させることで、該岩体に向けて噴射された後の液体の圧力を増大させる工程を更に含む、請求項17に記載の方法。
【請求項22】
前記ドリル・ヘッドの側壁面と前記ボーリング井の内壁面との間で第2のインフレータブル・パッカーを膨張させる工程を更に含む、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
少なくとも1つの横方向液体噴射部から、前記一次掘削方向に対して実質的に垂直な横方法に液体を噴射する工程を更に含む、請求項17に記載の方法。
【請求項24】
前記掘削を横方向に行う、請求項17に記載の方法。
【請求項25】
前記ボーリング井は、垂直な一次ボーリング井から横方向に延在する二次ボーリング井である、請求項24に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
炭化水素から熱エネルギーに至るまで、地殻に貯蔵されたエネルギーを採掘するには通常、何らかの形でボーリング井の掘削を行う必要がある。地殻中の熱エネルギーは事実上無尽蔵のカーボン・フリーなエネルギー源であり、発電、建物の冷暖房、淡水化、水素燃料の生成、その他人類のエネルギー需要の充足に用いられる。しかし、狙い通りの熱エネルギー密度を有する貯蔵地や巨大な体積の地殻を確実に開発することは困難で、これが現状の地熱エネルギーによる発電(例えば地熱発電)の足かせとなっている。最も経済的には地熱発電システムを標高の高い地殻熱源、例えば火山貫入のような非現実的な場所に立地させることであるが、そこはひび割れが多く透水性があり、水飽和あるいは水蒸気飽和状態の岩体に覆われ、常に注入水によって水が補充されている状態にある。地質学的な複雑さと現状の技術的限界とが相俟って、経済的かつ確実な発電を行うに十分な地熱エネルギーを採掘することは、多くの場合困難である。制約の主な原因は、現状の掘削方法の多くについて掘削深さ範囲が限られていることにある。
【0002】
地熱エネルギー採掘の効率と経済予測可能性を向上させることは、幾つかの観点から有効である。地熱エネルギーは、出力調整可能な再生可能電力源であり、その十分なベースロード性能により電力供給網の安定に寄与している。地熱エネルギーの利用はまた、その採掘過程で二酸化炭素を発生させないため、気候変動の懸念を和らげる可能性がある。地熱エネルギー採掘、別名「ヒート・マイニング」のプロセスでは多くの場合、液体が加熱され、高温岩体中の透水性のひび割れネットワークを伝って浸透する。加熱された液体は液体/蒸気回収用の掘削孔を通って再び地表に現れる。透水性のひび割れネットワークが無い場所では、水圧破砕法および熱衝撃破砕法で「高温ドライ岩体」(HDR)内にひび割れネットワークを造成することができる。HDRにおけるこれら掘削孔と造成されたひび割れネットワークを「地熱増産システム」(EGS)と称する。現状のEGSには水圧破砕に起因する問題点が幾つかあり、その理由として(1)既存の断層を刺激して大きな地震活動を誘発する可能性があること(あらゆる地熱貯蔵システムに当てはまる)、(2)熱増産のために造成されたひび割れネットワークの形状制御が難しいこと、(3)高流量の液体の抜け道となり得る比較的大きなひび割れが生成してしまい、回収すべき熱が急速に散逸してしまう可能性があること、が挙げられる。
【0003】
EGSのもうひとつの大きな制約は、周囲温度の上昇につれて岩体の延性が増大すると、機械的掘削プロセスに必要なひび割れ形成が抑制される点にあり、その他の技術的困難も相俟って、掘削が大深度になるほど掘削はより困難となる。何よりも、現状のEGS技術を用いた試みのほぼ全ては、注入井と生産井のいずれについても個々に地表からの複数のボーリング井の掘削に頼っており、掘削費用や、注入井と生産井とを接続するひび割れネットワーク造成の不確かさを増大させている。EGSその他の地熱技術に進展はみられるものの、費用効果と信頼性に優れる地熱貯留層からの熱回収および発電に関する試みは続いている。さらに、タービン発電機の種類の多くは、その効率が貯留層から回収される液体/蒸気の温度に大きく依存している。この効率は、超臨界液体による採掘が実現すれば大幅に増大し、大深度の地殻が最適な目標となり得る。大深度地殻の熱源ならどこでも確実にアクセスできるようになれば、地熱発電は進展する可能性がある。
【発明の概要】
【0004】
本開示では、様々な目的のボーリング井の掘削に使用可能な破砕ドリル・ヘッドとそれを用いる方法について述べる。ここで採用する掘削および破砕のプロセスの物理的根拠は、少量の岩体の温度をジェット液流を用いて素早く変化させることでひび割れ造成のための応力を発生させ、熱エネルギーを機械エネルギーへ変換することにある。この破砕ドリル・ヘッドは、低温破砕にも高温破砕にも使用できる。「低温破砕」とは、低温の液体を用いてそれよりも高温の岩体内に微細なひび割れを発生させるプロセスである。低温破砕を用いることで、通常450℃超と定義される超高温地熱貯留層へのアクセスが増える可能性がある。一方の「高温破砕」は、高温の液体を用いてそれよりも低温の岩体内に微細なひび割れを発生させるプロセスである。ここで述べる破砕ドリル・ヘッドは、熱採掘その他の目的で掘削ならびに液流の浸透性を増大させるための微小ひび割れの造成を含む様々な運転モードにおいて、プロセスを左右する。これら破砕ドリル・ヘッドは、超高温地熱貯留層へのアクセスに関する現状の制約を軽減あるいは取り払う一助となり得る。
【0005】
一例において、破砕ドリル・ヘッドはドリル・ヘッド本体を含み得る。このドリル・ヘッド本体は、その長軸に沿った一次掘削方向に実質的に面した主面を備えてよい。このドリル・ヘッド本体上に、液体流入口が設けられてよい。この液体流入口は、液体供給ラインに接続されるか、又は接続可能であってよい。ドリル・ヘッド本体内では、内部液体接続部が開口し、前記液体流入口に液体接続されてよい。上記ドリル・ヘッドの主面上には、複数の液体噴射部が対向配置されていてよい。これら液体噴射部には、前記内部液体接続部を通じて前記液体流入口から液体が供給されてよい。これら液体噴射部による液体送達を制御する流量制御装置が、該液体噴射部に備えられてもよい。これら液体噴射部の少なくとも2台の流速が独立に制御可能であってよい。これにより、異なる液体噴射部を通過する液体の量を変化させて上記破砕ドリル・ヘッドを操縦することが可能となる場合がある。
【0006】
或る場合において、上記ドリル・ヘッドは上記一次掘削方向に掘削を行う機械式ドリル・ヘッドを備えなくてもよい。この様な場合のドリル・ヘッドは、一次掘削方向の掘削を非接触低温破砕で行うことができる。但し、1つ又は複数の代替エレメントを用いて掘削中の岩体面に機械的損傷を与え、一次破砕による岩体除去を増強又は補強できる場合がある。
【0007】
或る場合において、上記破砕ドリル・ヘッドは複数の液体噴射部を含んでもよい。これら液体噴射部は、ドリル・ヘッド主面上に一列に配置されてよい。一例として、これらの液体噴射部の第1部分が、これら液体噴射部の第2部分と異なる方向に配向されてよい。更に別の例では、これらの液体噴射部に液体接続されるバルブを設けて、異なる方向に配向されるこれら液体噴射部への液流を独立に制御可能とし、所望の方向へ配向した液体噴射部により多くの液体を流すことで、ドリル・ヘッドを操縦してもよい。これらのバルブは、単一の液体噴射部に液体接続されてもよいし、これら液体噴射部の小集団に液体接続されてもよい。これにより、性能バランス及び複雑さに応じた、個々の噴射部の完全独立動作、又はこれら噴射部の複数ゾーンの分割動作が可能となる。
【0008】
更に別の例では、これらの液体噴射部が少なくとも4群に分かれていてよい。これら液体噴射部の各群は互いに空間的に離間されている。各群への流速は独立に制御可能である。これら液体噴射部の各群にはバルブが接続され、各群への液流を独立に制御可能とされてよい。これにより、少なくとも液体噴射部の或る一群に対して少なくとも他の一群よりも多くの液体を流し、ドリル・ヘッドを操縦することが可能となる。
【0009】
任意選択的な例として、上記破砕ドリル・ヘッドの液体流入口を、岩体に向けて噴射される液体の唯一の流入口とし、該ドリル・ヘッドを通じて1種類の液体のみを噴射することができる。
【0010】
別の例では、破砕ドリル・ヘッドの流量制御装置が、これら液体噴射部を通過するパルス流を発生させるバルブを備えることができる。一例として、このバルブを、各液体噴射部を通じた液流を停止可能に構成し、ドリル・ヘッドを包囲する岩体内の温度平衡化を促すことができる。
【0011】
上記破砕ドリル・ヘッドは、或る場合において液体を加圧する液体ポンプを備えてもよい。この液体ポンプは、破砕ドリル・ヘッドの少なくとも1台の液体噴射部と液体接続され得る。上記液体は、少なくとも1台の液体噴射部から噴射されるジェット液流を加圧することができる。一例として、この液体ポンプをドリル・ヘッド本体に内蔵することができる。
【0012】
上記破砕ドリル・ヘッドは、或る場合においてチラーを備えることができる。このチラーはドリル・ヘッド本体に内蔵することができ、内部液体接続部に付随して、各液体噴射部に供給される液体を冷却することができる。このチラーは、或る場合において熱電チラーであってもよい。破砕ドリル・ヘッドを高温破砕に用いる場合、該破砕ドリル・ヘッドはヒーターを備えてよい。このヒーターはドリル・ヘッド本体に内蔵することができ、内部液体接続部に付随して、各液体噴射部に供給される液体を加熱することができる。一例として、このヒーターを電気ヒーターとすることができる。
【0013】
更に他の例において、上記破砕ドリル・ヘッドはスラリー回収口を備えてよい。このスラリー回収口はドリル・ヘッド本体の前部上面に設けられてよい。また、スラリー流出口がドリル・ヘッド本体の後部上面に設けられてよく、これによりボーリング井外へスラリーを搬出することができる。このスラリー流出口は、ドリル・ヘッド本体内で内部スラリー接続部により上記スラリー回収口に接続されてよい。このスラリー流出口は、スラリー・ラインに接続されるか又は接続可能とされてよい。更に他の例において、上記破砕ドリル・ヘッドは、内部スラリー接続部に付随するスラリー・ポンプを備えることができる。このスラリー・ポンプは、液体と岩石破片とが混じったスラリーを上記スラリー・ラインへ圧送することができる。或る例において、このスラリー回収口はドリル・ヘッド本体の側面に設けることができる。
【0014】
上記破砕ドリル・ヘッドは、該ドリル・ヘッド本体上で上記スラリー回収口と上記スラリー流出口との間に作動式シール要素を備えてよく、該シール要素はその後方のボーリング井の一部を、その前方のボーリング井の一部から一時的に遮断する如く作動することができる。或る例において、このシール要素はドリル・ヘッド本体の側面に設けられたインフレータブル・パッカーであってよい。このインフレータブル・パッカーは、膨張させるとドリル・ヘッド本体の側面とボーリング井の内壁面との間の空間を封鎖し、ドリル・ヘッド本体の外表面とボーリング井の内壁岩体面との間の区間同士の間にシールを形成することができる。或る場合において、ドリル・ヘッド本体が円筒形状を有し、上記インフレータブル・パッカーが該ドリル・ヘッド本体を周回する円環チューブ状に形成されていてもよい。更に別の例では、破砕ドリル・ヘッドが、該ドリル・ヘッド本体を周回する円環チューブ状に形成され上記第1のインフレータブル・パッカーに並置された、第2のインフレータブル・パッカーを備えてもよい。
【0015】
或る場合において、上記破砕ドリル・ヘッドは、該装置をボーリング井の中心に配置し、且つ該ドリル・ヘッド本体の側面における移動性を制御するための、ホイールその他の機構を備えることができる。これらホイールその他の機構は、上記ドリル・ヘッド本体から外方のボーリング井内壁面に向けて延在し、ボーリング井内でのドリル・ヘッドを所望の速度で推進させる他、ドリル・ヘッドを所定の位置で固定することができる。これらのホイールは、使用時の破砕ドリル・ヘッドの横方向安定性を幾らか改善することもできる。
【0016】
更に別の例において、上記破砕ドリル・ヘッドは、ドリル・ヘッド本体の側面に向けた少なくとも1台の横方向液体噴射部を備えてもよい。更に別の例において、この少なくとも1つの横方向液体噴射部は、ドリル・ヘッド本体の側面上に放射状且つ長手方向に一列に配置された横方向液体噴射部を備えることができる。これら横方向液体噴射部は、岩屑除去の促進、ボーリング井の幅拡張、及び/又は、液体-岩体間の熱交換の促進による微細ひび割れ損傷・ゾーンの創出に利用できる。
【0017】
種々の例において、破砕ドリル・ヘッドは一次ドリル・ヘッド、一次ドリル・ヘッドから繰り出される二次ドリル・ヘッド、非ドリル・ヘッド・ベース・ユニットから繰り出される二次ドリル・ヘッド、或いは二次ドリル・ヘッドから繰り出される三次ドリル・ヘッドであってよい。
【0018】
別の例において、破砕ドリル・ヘッドは、自身の長軸に沿った一次掘削方向に実質的に面した主面を有するドリル・ヘッド本体を備えてよい。このドリル・ヘッド本体上の液体流入口は、液体供給ラインに接続されるか、又は接続され得る。ドリル・ヘッド本体内には内部液体接続部が配向され、上記液体流入口に液体接続され得る。ドリル・ヘッドの主面上には、少なくとも1台の液体噴射部が配向され得る。この少なくとも1台の液体噴射部は、内部液体接続部を通じて上記液体流入口から液体の供給を受ける。流量制御装置は少なくとも1台の液体噴射部に付随して、上記少なくとも1台の液体噴射部による液体送達を制御し得る。ドリル・ヘッド本体は、その前部上面にスラリー回収口が設けられてよい。また、ドリル・ヘッド本体は、その後部上面にスラリー流出口が設けられてよい。このスラリー流出口は、ドリル・ヘッド本体内の内部スラリー接続部により、上記スラリー回収口と接続され得る。作動式シール要素は、上記スラリー回収口と上記スラリー流出口との間のドリル・ヘッド本体上に設けられてよい。このシール要素は、該シール要素前方のボーリング井の一部を、該シール要素後方のボーリング井の一部から一時的に遮断する如く作動され得る。
【0019】
或る例において、上記作動式シール要素は、ドリル・ヘッド本体の側面上にインフレータブル・パッカーを備えてよい。インフレータブル・パッカーは、膨張させると、ドリル・ヘッド本体の側面とボーリング井の内壁面との間の空間を封鎖し得る。ドリル・ヘッド本体は円筒形状を有し、上記インフレータブル・パッカーは該ドリル・ヘッド本体を周回する円環チューブ状に形成されていてよい。他の例として、ドリル・ヘッドは、内部スラリー接続部に付随し、液体と岩石破片とが混じったスラリーを上記スラリー・ラインへ圧送するスラリー・ポンプを備えてよい。更に、上記スラリー回収口は、ドリル・ヘッド本体の側面上に設けられてよい。
【0020】
本開示はまた、破砕掘削方法も提供する。高温破砕は、岩体の熱弾性を活性化して熱エネルギーを機械エネルギーに変換することで進行する。低温の液体で高温岩体の表面に熱衝撃を与えると、岩体の表面に対して斜めに一定距離に亘る強い熱勾配が生じ、これに沿って岩体が収縮して局所的な引張応力が発生し、岩体の浅い範囲に微小ひび割れが生ずる。この様な破砕岩の層は、「破砕層」と呼ぶことができる。この層の厚さは、複数のメカニズムによる岩体から液体への熱伝達によって決まり、これらメカニズムには熱弾性連成に依存した破砕プロセス、或いは局所的に変化するひび割れの密度や形状への熱的、機械的、輸送的性質の依存性に起因する非線形効果が関与している。この層内の熱伝達は、固体内の伝導、及び、ひび割れ表面からひび割れ内を浸透・対流する液体への熱伝達によって達成される。極端な熱的不均衡の下では、様々な熱伝達モードが可能であり、例えばミクロ液体プロセスや、或る場合において液体・岩体間の放射伝達も生じ得る。液体からの水圧も、ひび割れを更に岩体内へ進展させる。更に、この岩体内の圧力(又は平均応力)は掘削岩面付近に概ね静岩圧から水圧付近の値に亘る急峻な圧力勾配を発生させ、その長さ範囲は熱勾配とは異なるがそれと関連した範囲に亘る。このプロセスが、最終的に破砕に至る、或いはこの破砕で生じた岩石破片を岩体表面から液体中へ懸濁させるに至る無数の微小ひび割れ(微小ひび割れ)を生じさせる上で最も効果的である。このプロセスは、ひび割れが岩体を貫いても、破片が岩体表面から剥離しなければ阻害される可能性がある。効果的な破砕を行うには、破砕層の下の比較的高温の表面を露出させ、これを新たな破砕層とすることである。本明細書で述べる各方法では、急峻な熱勾配を保ち、これに基づく岩体内の応力勾配を微小ひび割れの形成及び破砕の原動力とすることができる。特に好ましい例において、本方法は急峻な温度・応力勾配を保ち、また岩体面から掘削岩屑(スラリー)を除去するに十分な自由度を制御することができる。これらの下位プロセス(熱拡散、岩体から液体への放射熱伝達、ひび割れの熱伝搬および水圧伝搬、スラリー除去のための液体流れ)は、マルチ・タイムスケール法で調整することができる。
【0021】
破砕掘削方法の一例では、破砕ドリル・ヘッドをボーリング井内に設置することができる。この破砕ドリル・ヘッドは、複数の液体噴射部を備えてよい。本方法では更に、ボーリング井の岩体に向けて液体噴射部から液体を噴射することができる。この液体の温度と岩体の温度との間には、液体噴射により岩体が掘削表面から或る深さに亘って熱破壊を生じ、岩体内に破壊を生じ、これにより岩体内に熱破壊と液圧の組合せによって浮石破片を形成するに十分な温度差を設定することができる。少なくとも1台の液体噴射部の流量を少なくとも他の1台の液体噴射部の流量と独立に制御することにより、これら独立に制御された各液体噴射部から異なる流量の液体を噴出させることができる。これにより、岩体の異なる部位に異なる量の破壊を生じさせることができる。これら液体と浮石破片とはスラリーの形でボーリング井から除去することができ、破壊が少ないより高温の層が液体噴射部に向けて露出されることになる。液圧もひび割れ内に液体を押し込み、ひび割れを更に伝搬させる原動力となる。
【0022】
或る場合において、上記液体は十分な時間間隔を有するパルス流として噴射することができ、これにより冷却された岩体面が再び十分な温度に加熱され、それより低温の液体の次の一撃で破壊される。岩体表面を叩く液体の運動量(質量×速度)と、該液体と岩体との間の温度差とでひび割れ速度が制御される。本方法には、液体の質量流速の経時的な制御、及び或る程度の温度制御が含まれ得る。液体噴射は一定の質量流量で維持しても、オン・オフ切替えしてもよく、また、所望の持続時間と流量をゼロ又は低減させた休止時間とに基づくパルス制御または振動制御を行ってもよい。これらを選択することで、破砕界面に対する熱衝撃や、この界面から岩体内部に亘る熱勾配が決定される。上記界面が過度に冷却されてひび割れが停止した場合は、岩体表面が再び暖まるに十分な期間、液体噴射を停止することができる。これら異なるフェーズ間の期間は、自然熱エネルギー、岩体の特性その他の要因により、数秒から数日の範囲に亘り得る。かかる熱/機械的勾配の制御と維持は、装置設計により可能である。
【0023】
噴射中の液体と岩体との間の温度差は約50℃~800℃であり、200℃~500℃の場合もある。噴射中の液体が岩体よりも低温となり得る例もある。例えば、噴射中の液体の温度は約0℃~約100℃であり、或る場合において約20℃~約90℃である。
【0024】
上記の各液体噴射部は、これを通って流れる液体を、バルブを用いてパルス化できる場合がある。
【0025】
更に別の例では、液体を噴射前に冷却することができる。特筆すべき例として、この冷却を電熱冷却、又は別の低温作動液体を封入した熱交換器を用い、ドリル・ヘッド内で行うことができる。
【0026】
一例として、上記ドリル・ヘッドは非接触低温破砕により、つまりドリル・ヘッドを掘削すべき岩体に接触させずに、上記一次掘削方向に掘削を行うことができる。
【0027】
本方法は、ドリル・ヘッドを操縦して湾曲したボーリング井を形成する工程を含むことができる。
【0028】
更なる例において、上記複数の液体噴射部はドリル・ヘッドの主面に備えられてよい。この主面は、実質的に一次掘削方向に面してよい。或る場合において、少なくとも一部台数の液体噴射部がその他の台数の液体噴射部と別の方向に配向されてよい。上記ドリル・ヘッドは、所望の方向へ配向した液体噴射部により多くの液体を流すことで少しずつ回転する如く操縦可能であり、これによりボーリング井内での方向変換が可能とされる。
【0029】
上記液体噴射部から噴射される液体は、専用の送液ポンプを用いて加圧できる場合がある。また別の例では、液体噴射部を水圧を利用して加圧してもよい。
【0030】
更なる例において、上記スラリーはドリル・ヘッド上のスラリー回収口を通じて除去されてよい。
【0031】
上記液体の圧力は、岩体に向けて射出された後、ドリル・ヘッド本体上の作動式シール要素でボーリング井を密閉することにより制御可能である。ここで、シール要素は 該シール要素前方のボーリング井の一部を、該シール要素後方のボーリング井の一部から一時的に遮断する如く作動可能である。或る例において、このシール要素は、ドリル・ヘッドの側壁とボーリング井の内壁面との間で作動する、トーラス型の(タイヤのインナー・チューブの様な)インフレータブル・パッカーで構成することができる(例えば、水圧破砕装置に用いられている様なものでよいが、高温条件に適合化されている)。これらパッカーとバルブによる本システムを用いて、岩体へ噴射される液体を含む空間を孤立させることができる。或る場合において、本方法はドリル・ヘッドの側壁とボーリング井の内壁面との間で作動する第2のインフレータブル・パッカーを膨張させる工程を含むこともできる。或いは、ボーリング井の岩壁面に十分に圧接される如くに突出してシールを形成したり、液流を大幅に制限するようなシール要素を用いることもできる。
【0032】
或る例において、上記液体は、少なくとも1台の横方向液体噴射部から、一次掘削方向に対して実質的に垂直な方向である横方向に噴出され得る。
【0033】
様々な例において、上記ドリル・ヘッドは一次ドリル・ヘッド、一次ドリル・ヘッドから繰り出される二次ドリル・ヘッド、非ドリル・ヘッド・ベース・ユニットから繰り出される二次ドリル・ヘッド、あるいは二次ドリル・ヘッドから繰り出される三次ドリル・ヘッドであり得る。掘削は横方向に行うことができる。一例として、 ボーリング井が、垂直な一次ボーリング井から横方向に延在する二次ボーリング井であってもよい。
【0034】
以下に述べる発明の詳細な説明の理解を助け、また当該技術分野における本発明の意義を正しく認識してもらうために、これまで本発明の重要な特徴をかなり広く概説してきた。本発明の他の特徴は、下記の本発明の詳細な説明並びに添付図面と特許請求の範囲から一層明らかとなり、或いは本発明の実践から学ぶことができるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0035】
図1】本発明の一実施態様に係る例示的な破砕ドリル・ヘッドの模式図である。
図2】本発明の一実施態様に係る例示的な破砕ドリル・ヘッドの斜視図である。
図3】本発明の一実施態様に係る例示的な破砕ドリル・ヘッドの別の模式図である。
図4】本発明の一実施態様に係る例示的な破砕ドリル・ヘッドの別の模式図である。
図5】本発明の一実施態様に係る例示的な破砕ドリル・ヘッドの別の斜視図である。
図6】本発明の一実施態様に係る例示的な破砕ドリル・ヘッドの別の斜視図である。
図7】本発明の一実施態様に係る例示的な破砕ドリル・ヘッドの更に別の模式図である。
図8A8B】延長部を有する破砕ドリル・ヘッドの模式図である。
図9A】本発明の一実施態様に係る、例示的な湾曲ボーリング井と該ボーリング井内の破砕ドリル・ヘッドとを示す垂直断面図である。
図9B】本発明の一実施態様に係る、例示的な湾曲ボーリング井と該ボーリング井内の破砕ドリル・ヘッドとを示す別の垂直断面図である。
図10A】本発明の一実施態様に係る例示的な破砕ドリル・ヘッドの切欠き図である。
図10B図10Aに示す例における操縦機構を示す拡大切欠き図である。
図10C10D図10Bに示す操縦機構内の制御バルブの垂直断面図である。
図10E図10Aの操縦機構を下から見た様子を、種々の開閉状態にある制御バルブと共に示す断面図である。
図11A】本発明の一実施態様に係る、二次ボーリング井を有する例示的な一次ボーリング井と、該二次ボーリング井内の掘削ドリルとを示す垂直断面図である。
図11B】本発明の一実施態様に係る、二次ボーリング井と、該二次ボーリング井内の破砕ドリル・ヘッドとを示す拡大図である。
図11C】本発明の一実施態様に係る、ループ型の二次ボーリング井を形成する破砕ドリル・ヘッドの拡大図である。
図11D】一次ボーリング井と二次ボーリング井の斜視図である。
図12】本発明の一実施態様に係る、例示的な非掘削型ベース・ユニットと二次ドリル・ヘッドとを示す模式図である。
図13A】本発明の一実施態様に係る、水平ボーリング井の壁面に損傷部を形成する例示的な破砕ドリル・ヘッドの拡大図である。
図13B】本発明の一実施態様に係る、水平ボーリング井の壁面に損傷部を形成する他の例示的な破砕ドリル・ヘッドの拡大図である。
図14A】岩体を破砕する例示的な高温破砕ドリル・ヘッドの拡大図である。
図14B】岩体を破砕する例示的な低温破砕ドリル・ヘッドの拡大図である。
【0036】
これらの図面は本発明の様々な側面を説明するためのものであり、特許請求の範囲で特に規定されない限り、寸法、材料、構成、配置、又は比率を何ら制限する意図はない。
【発明を実施するための形態】
【0037】
以下、例示的な実施態様を当業者が本発明を容易に実施できる程度に説明するが、本発明の趣旨と範囲を逸脱しない限りにおいて他の実施態様が実現されても、或いは種々の変更が加えられてもよいと理解されたい。したがって、下記の本発明の実施態様のより詳細な説明は、特許請求の範囲に記載された本発明の範囲を制限することを何ら意図しておらず、単に本発明の特徴や性質を制限することなく説明することを目的としており、本発明の最良の実施形態を説明し、当業者による本発明の実施を十分に可能とするものである。したがって、本発明の範囲は専ら特許請求の範囲により規定されるものである。
【0038】
諸定義
本発明を説明し、特許請求を行うにあたり、以下の用語を用いることとする。
【0039】
「地熱」の語は、地表の下に存在するあらゆる熱エネルギーを指す。地熱は広い温度範囲及び圧力範囲で岩体内に貯蔵され、地表からの広い深さ範囲に存在し得る。
【0040】
本明細書で述べる「地熱貯留層」とは、有用な熱エネルギーが産出され、且つ採掘されるに十分な高温(又は熱エネルギー密度)を有する地表の下の領域を指す。典型的には、地熱貯留層は天然に加熱された領域、言い換えると地球の深部から地表に向けて流れる熱エネルギーを含むものであり、地上側の熱源から導入されるものではない。
【0041】
地熱貯留層には、岩体のひび割れ及び/又は他の形の空隙内に液体を保持するもの、及びかかる空隙を持たないものが含まれる (それぞれ「湿潤型」及び 「乾燥型」と称される)。例えば、湿潤型の地熱貯留層には、熱エネルギーを産出するに十分な高温を有する地下熱水系又は高温湿潤岩体(HWR)が含まれる。一方、乾燥型の地熱貯留層には、液体を少量しか含まない、或いは全く含まない岩層である高温乾燥岩体(HDR)が含まれる。これらの系を、本明細書では簡潔にHWR又はHDRと記載する。横方向ボーリング井を用いる実施態様は、HWR又はHDRのいずれの熱源にも (或いは、透水性や液体含有量が時間的、空間的に変化する混合型の熱源にも)臨機応変に適用できる。いずれの場合にも本システムは広い温度範囲で適用できるが、特に目標温度の高い(350℃超)地熱貯留層、又は「超高温」条件を意図している。本システムは特に発電に有用であるが、限定を伴わない他の応用例として水素燃料の生産を通じたエネルギー貯蔵(例えば、電気分解による)、蒸気の直接生産、直接加熱等、及び熱水に溶解したリチウム等の金属の採掘(「直接リチウム採掘」として既知)が挙げられる。
【0042】
本明細書で述べる「熱接触」とは、2つの物体又は液体の間で、一方の物体または液体から発生した熱を他方へ伝達させる機能的な接触を指す。熱接触は、直接的な物理接触により達成される場合もある。例えば、高温岩層のひび割れに直接注入された水は、高温岩体と熱接触した状態となる。何故なら、水が高温岩体と直接的に物理接触している間は、該高温岩体から水へと熱が伝達されるからである。また、熱接触が直接的な物理接触に依らず達成される例もあり、この場合は熱を伝導し得る中間媒体が介在されている。例えば、水をパイプに封入し、これを高温岩体に物理接触させることができる。この水は高温岩体と熱接触した状態と言える。熱は高温岩体からパイプの管壁を通じて水に伝わるが、この時、水と高温岩体とは直接的に物理接触していない。
【0043】
本明細書で述べる「液体接続された」とは、液体同士、液体ライン同士、又は液体容器同士が、一方から他方への液体の物質移動を生じ得る様に接続されていることを指す。同様に、「液体遮断された」とは、液体同士、液体ライン同士、又は液体容器同士が、一方から他方への液体の物質移動を生じ得ない様に遮断されていることを指す。
【0044】
本明細書で述べる「破砕」とは、岩体から岩石破片を分離するプロセスを指す。破砕には熱破砕が含まれ、これは熱膨張又は収縮を利用して岩体(又はコンクリートや金属等の他の固体)を破壊し、岩石の破片を岩層から分離するものである。「高温破砕」は、火炎、プラズマ、又はレーザーで岩体面を加熱することで達成できる。液体を用いて岩体を加熱又は冷却する場合、このプロセスは「熱水破砕」と称される。「冷熱水破砕」略して「低温破砕」は温度差関係が逆であり、低温液体が高温岩体と接触される。これらの場合、熱衝撃が岩体をそれぞれ熱膨張又は収縮させ、岩体内にそれぞれ圧縮応力又は引張応力を発生させ、岩層に微小ひび割れが生ずる。或る場合において、地熱岩層中では低温破砕が特に有用であり得る。低温破砕プロセスは、高温岩体の温度を急速に冷却して行うことができ、これにより急速な熱収縮で岩層内に微小ひび割れ又は破壊が発生し、岩体の表面から浅い部分を貫通する。或る場合において、低温液体を岩体に向けて噴射し、かかる急速な温度低下を生じさせることもできる。岩石の破片は、急速収縮による破壊と、液体の圧力と運動力との組合せによって分離・除去され得る。破砕は、局所的なひび入れとひび割れた岩体の除去を生ずるに十分なレベルで、熱エネルギーが機械的エネルギーに急速に変換される現象である。
【0045】
本明細書で述べる「流量制御装置」とは、或る貯液槽から他の貯液槽への制御された送液を司る機構又は装置であり、液体の流速や圧力を制御するシステムの一部である。かかる貯液槽は、破砕ドリル・ヘッドの一部も構成し得る。或る場合において、これら流量制御装置は、単一のバルブ、複数のバルブ、単一のポンプ、複数のポンプ、或いはこれらの組合せを含み得る。制御された送液は、定常流、パルス流、間歇流等を含み得る。パルス流の性質は変更することができ、例えば破砕ドリル・ヘッドから送液される液体の流速の増減を繰り返すことで、液体をパルス化できる場合がある。一例として、液体の流れをパルス間で完全に停止することができ、別の例では流量の多いパルス間で単に流量を下げることができる。
【0046】
本明細書において、例えば温度分布や空孔径分布など、異なるレベル間に分布し得る何らかの性質に言及する時は、言及の対象となる性質は特に断らない限り、分布の平均値を示すものとする。
【0047】
本明細書と特許請求の範囲において、単数形による記載は文脈中で特に明示しない限り、複数の指示対象をも含むものとする。したがって、例えば「(1つの)層」とは1つ又は複数の層を示し、「(1つの)粒子」とは1つ又は複数の粒子を示し、「生成する」とは1つ又は複数の工程を示す。
【0048】
本明細書において、「約」及び「概ね」の語は融通性をもって用いられ、例えば或る数値範囲内で与えられる数値は、その終端の「若干上」又は「若干下」であってよい。ある特定の変数に関する融通性の程度は、当業者であれば文脈から容易に判断できる。しかし、特に明言しない限り、「約」の語の融通性は暗黙の了解として概ね2%未満、或る場合において1%未満、さらなる場合において0.1%未満である。
【0049】
本明細書において、「実質的に」の語は動作、特性、性質、状態、構造、項目又は結果の程度が完全であるか又は完全に近いことを示す。厳密な完全さからの逸脱の許容度は、特段の文脈に依存する場合がある。しかし、かかる完全さに近いという事は、あたかも厳密な完全性が達成された場合と概ね同様な結果に至るものである。「実質的に」とは、特定の性質や状況からの逸脱の程度が検知不能なほど十分に小さいことを指す。逸脱の正確な許容範囲は、特定の文脈に依存する場合がある。「実質的に」の用語法は、特性、性質、状態、構造、項目又は結果を完全に欠いているか又はほぼ欠いているといったネガティブな文脈にも同様に適用できる。
【0050】
本明細書において、「隣接する」とは2つの構造又は要素が近接していることを指す。特に、「隣接する」と認められる要素は、当接又は接続されていてよい。かかる要素らは、互いの近く又は至近にあってもよく、必ずしも接触していなくてよい。近接の正確な程度は、特定の文脈に依存する場合がある。したがって、隣接する構造又は要素らは、これらの間に介在される追加的な構造又は要素により離間されている場合がある。
【0051】
本明細書において、複数の項目、構造要素、構成要素、及び/又は材料は、便宜上共通のリストにまとめて記載する。但し、これらのリストは、あたかもそのリストに含まれる各メンバーを個別のメンバーとして識別可能とするものである。したがって、専ら共通グループ内での各メンバーの有り様に基づいてこれに反する表示がなされない限り、かかるリストに含まれる如何なる個々のメンバーも、同一リスト内の他の如何なるメンバーと事実上同等であると解釈されるべきではない。
【0052】
本明細書で記載する濃度、分量その他の数値データは、範囲形式で記載される。この範囲形式は単に簡便さと簡潔さを意図しており、上限と下限として明示された数値のみならず、その範囲に含まれる個々の数値のすべて又は部分範囲が、あたかもそれらが個別に明示されている如くに含まれるものと解釈される。例えば、約1~約4.5という数値範囲は、上限と下限として明示されている1と4.5の他、2、3、4 等の個々の数値、及び1~3、2~4等の部分範囲を含むものとする。単一の通知にも同じ原則を適用するものとし、例えば「約4.5未満」とは、上記の数値及び範囲全てを含むものと解釈される。更に、かかる解釈は、議論されている範囲の幅や特性には無関係に適用されるものとする。
【0053】
あらゆる方法や方法クレイムで言及されたあらゆる工程は、如何なる順序で実行されてもよく、特許請求の範囲に記載される順序に限定されない。ミーンズ・プラス・ファンクションやステップ・プラス・ファンクションの規定は、或る特定のクレイムの規定に以下の規定、即ちa)「~の為の手段」又は「~する工程」が明示されていること、及び、b)対応する機能が明示されていること、が共に含まれる場合にのみ適用される。ミーンズ・プラス・ファンクションの根拠となる構造、材料、及び動作は、本明細書中に明示されている。したがって、本発明の範囲は、本明細書中の記載及び実施例ではなく、専ら特許請求の範囲及びその法的同等物により規定されるものとする。
【0054】
以下、具体的な実施態様を例示し、指定の用語を用いてこれらを説明するが、これらにより本技術の範囲を制限することは何ら意図しない。本発明のその他の特徴や利点は、本技術の特徴を例示に基づいて協働的に説明する下記の詳細な説明と添付図面とから明らかになろう。
【0055】
上記「発明の概要」で一般論を述べたが、本開示でシステム、又は関連する装置又は方法について述べる時は、特定の実施例又は実施態様の文脈の中で明示的に論じられているか否かに関わらず、個々又は個別の記載は全てに該当するものと理解される。例えば、装置そのものを論ずる場合、その議論には他の装置、システム、及び/又は方法の各実施態様も含まれ、逆もまた同様である。
【0056】
更に、本開示及び説明から種々の変形例や組合せが派生する可能性があるので、以下の図面を限定的なものと考えるべきではない。
【0057】
破砕ドリル・ヘッド
本開示では、岩体中にボーリング井を掘削するのに使用可能な破砕ドリル・ヘッドについて述べる。この破砕ドリル・ヘッドは特に、地熱岩層にボーリング井を掘削するのに有用である。高温域では岩体の延性が増し、転移が生ずる温度範囲は岩体の組成と微細構造(粒径分布等の性質)、並びに変形速度に依存する。岩体の延性が増すほど、機械的掘削の効果が落ちる。また、岩体の温度はボーリング井が深くなるほど高くなる場合が多い。例えばボーリング井が目標の地熱貯留層に進入し、その目標深さにおける岩体が著しい延性を示すようになると、機械的破砕、高温破砕等の方法は効果的ではなくなってしまう。例えば岩体の温度がその融点の約50%~70%に達すると、その岩体はいわゆる「半脆性」状態となり、脆性-延性転移を起こす。岩体に顕著な延性が現れる温度は、岩体組成、圧力、水その他の液体の含有量、粒径等の微細構造の特徴、変形速度等、多くの要因によって変化し得る。例えば、少量の水と共存する花崗岩は、5~10kmの深さ範囲では約650~700℃で融解し、その脆性-延性転移は約325℃で始まる。ところが、この脆性-延性転移温度以上の温度では、低温破砕が特に効果的となる。岩体は圧縮時よりも引張時の方で降伏応力が低く、また低温破砕は熱収縮を生ずるように作用するので、低温破砕が容易に進行するのである。低温破砕は急速な温度降下を生ずるに十分に高い温度域で開始され、この際、岩体は低温液体に接触して熱応力を生じ、ひび割れ発生の臨界応力に達する。この温度は、脆性-延性転移温度よりもかなり低くて良い。したがって、機械的掘削と水熱掘削掘削が有効に機能する範囲はかなり重複している場合がある。ボーリング井は、低温水熱破砕掘削が始まりそうな深さまでは、地表から機械的その他の手段で掘削することができる。
【0058】
低温破砕ドリル・ヘッドは、水等の低温液体を地熱岩体へ向けて噴射する噴射部を備え得る。冷水を高温岩体に向けて噴射すると、岩体の薄い層が冷却されて非常に速やかに収縮し、岩体中に小規模な破壊が生ずる。
【0059】
これらの破壊は、岩石粒子の剥落を生ずる場合がある。一例として、低温液体が大幅に加圧され、この液体がひび割れに進入してひび割れを進展させ、破砕プロセスを増強し得る。これらの破片や粒子はスラリー・ラインを通じてボーリング井から搬出される場合がある。更に他の例として、低温液体噴射と機械力が併用できる場合もある。例えば、低温液体を岩体に向けて噴射してひび割れを形成した後、ドリル・ヘッドがその回転動作と衝撃力を利用してひび割れた岩体を破壊するか、或いは、後続の水熱破砕に備えてより多くの核形成ポイントを作り出すために、熱衝撃を加える前に機械的な力で岩体に小規模な損傷を与えておくことができる。
【0060】
低温液体噴射部は、パルス駆動又はサイクル駆動することができる。液流束を時間制御することにより、破砕層内で最適又はそれに近い熱/応力勾配を保ち、必要であれば更なるひび割れを生じさせ、スラリーを排出することができる。掘削対象が冷却され過ぎた場合は、送液を停止し、熱伝導により岩体が再加熱されるのを待つ。再加熱により、必要な熱機械的勾配が再構築されると、破砕掘削を再開することができる。
【0061】
液体は徐々に圧力を高めながらパルス化されてもよい。或いは、液体噴射部をパルス駆動する周波数を高めて、その時間では浅い層以深の岩体を冷却できない様にすることもできる。低温液体に接触した岩体の浅い層はひび割れを生じ、このひび割れた岩体は除去され、その下にある高温岩体が冷却するに十分な時間が経過する前に、低温液体の次のパルスが噴射される。したがって、高温岩体中にひび割れを形成するに十分な温度差を生ずる様に、低温液体を高温岩体に向けて連続的に噴射することができる。破砕が進行しているボーリング井のドリル・ヘッドより下の部分(以下、「破砕チャンバ」と称する)の温度と圧力も、該破砕チャンバからの液体の排出速度により制御され、それらはスラリー流出口バルブとスラリー流出口ポンプとを用いて決定できる。
【0062】
他の例として、高温熱水破砕を用いることもできる。例えば、岩体よりも高温の加圧液体を用いることができる。例えば、岩体の最初の浅い部分は比較的低温であるかも知れず、この場合、低温破砕掘削がより効果的となるに十分な温度に上がるまでは高温熱水破砕掘削が有用であり得る。この加圧液体はひび割れを広げて伝搬させ、成長中の隣りのひび割れと連結し、これにより細かい岩石破片を剥落させ、ひび割れた破片をスラリーの形で除去し、岩体の新生面を露出させる。この高温破砕掘削モードは、より高温の地熱領域に到達する前の、比較的浅い低温の地殻領域の掘削に有用であり得る。
【0063】
ここで述べる低温破砕及び高温破砕掘削のいずれの方法も、岩体に向けた(隣接する岩体よりも低温又は高温の)液体の噴射を利用することができる。これらの方法は、或る場合において単一種類の液体を噴射するものであってもよい。言い換えると、この方法は、異なる場所で異なる時間に岩体に向けて複数種類の液体を噴射するものではない。或いは、単一種類の液体をパルス化パターン又は連続パターン等の様々な噴射パターンで岩体に向けて噴射してもよい。或る場合において、粘度、熱容量、凝固点等、或る種の物理的性質を達成するために、噴射される液体を複数の成分の混合物とすることができる。一例として、この液体は水、アルコール、プロピレン又はエチレングリコール、又は水溶液であってよい。
【0064】
破砕ドリル・ヘッドは操縦可能に構成されてもよい。或る場合において、この破砕ドリル・ヘッドはボーリング井の軸に対して異なる方向に配向した多数の液体噴射部を備えてよい。ドリル・ヘッドを操縦するには、狙った方向に向いた液体噴射部を用いればよく、その特定の方向にある岩体が優先的に除去される。これにより、ドリル・ヘッドを操縦し、ボーリング井の掘削方向を変化させることができる。方向変化の割合やこれに基づく曲率半径に変動幅はあるものの、殆どの場合、かかる方向の変化は数十から数百メートル或いはヤードである。
【0065】
一例として、本発明で述べる破砕ドリル・ヘッドは米国特許第11,029,062号に記載されるように、地熱掘削機に用いられ、その内容は本明細書に援用される。この地熱掘削機は、一次ボーリング井を掘削するための一次ドリル・ヘッド、及び/又は二次ボーリング井を掘削するための二次ドリル・ヘッド、及び/又は三次ボーリング井を掘削するための三次ドリル・ヘッドを備えてよい。ここで述べる破砕ドリル・ヘッドは、これら地熱掘削機と併用される一次、二次、又は三次ドリル・ヘッドのいずれかとして有用であり得る。また、これらの特定の地熱掘削機と併用せずとも、これら破砕ドリル・ヘッドは一次ボーリング井、該一次ボーリング井から分岐する二次ボーリング井、及び/又は該二次ボーリング井から分岐する三次ボーリング井に使用できる。
【0066】
この一般論を念頭に置き、図1に本開示にかかる破砕ドリル・ヘッド100の一例の模式的断面図を示す。この破砕ドリル・ヘッドはドリル・ヘッド本体102を備え、該ドリル・ヘッド本体102はその長軸に沿った一次掘削方向106に実質的に面した主面104を有する。図1では、一次掘削方向は図面の下側へ向かう方向である。この方向は、ドリル・ヘッドが岩体を掘り進むにつれて進行する方向なので、前進方向とも言える。したがって同図では、このドリル・ヘッド本体の主面は底面である。破砕ドリル・ヘッドはまた、ドリル・ヘッド本体上に液体流入口108を備える。本例において、この液体流入口はドリル・ヘッド本体の上記主面とは反対側の上面にある。この上面は、ドリル・ヘッドが岩体を掘り進むにつれて進行する方向とは逆なので、後面とも言える。上記液体流入口は液体供給ライン110に接続されている。上記液体流入口は、ドリル・ヘッド本体内の内部液体接続部112にも接続されている。複数の液体噴射部114がドリル・ヘッドの主面に配向されている。これらの液体噴射部には、上記液体流入口から上記内部液体接続部を通過して液体が供給される。ドリル・ヘッド本体内には、液体噴射部に付随する形で流量制御装置116が備えられる。この流量制御装置は、複数の液体噴射部による液体送達をパルス化する等、液流を選択的に制御することができる。上述した様に、かかる流量制御は全ての噴射部に対して共通に行っても、各噴射部について個別に行っても、噴射部を何群か(例えば、複数の独立制御ゾーン)に分けて別々に行ってもよい。図1に示した例示的な破砕ドリル・ヘッドは、低温破砕掘削又は高温破砕掘削に用いられる。なお、本明細書で説明する幾つかの例は低温破砕掘削を念頭に置くが、低温破砕ドリル・ヘッドに関して述べる事例や特徴は、いずれも高温破砕ドリル・ヘッドに当てはまるか、又は適用することができる。
【0067】
図2は、ボーリング井150内に破砕ドリル・ヘッド100が設置された例を示す。このドリル・ヘッド100は、低温液体供給ライン110に接続され得る。この低温液体供給ラインはボーリング井を這い上がって地表まで延在する。地上側には低温液体バルブがあり、このバルブで供給ラインを流下してドリル・ヘッドに至る低温液体の流れを制御することができる。一例において、ドリル・ヘッドは地表から深い位置にあるので(例えば、地下数百メートルから数キロメートル)、低温液体供給ライン内の液体には当然ながら高い静水圧が掛かり得る。この高圧液体ドリル・ヘッド周辺の岩体にひび割れを生じさせ、該液体と岩石破片の混じったスラリーを形成する。このスラリーは、ドリル・ヘッド側面とボーリング井の壁面との間を這い上がって地表に達するか、又はポンプで地表に汲み上げられる。更に別の例では、低温液体ポンプを用いて低温液体を更に加圧し、液体噴射部から噴射される液体の圧力を高めることができる。図2にはまた、破砕ドリル・ヘッドから地表に至るスラリー・ライン130が図示されている。地上側にはスラリー・ポンプを設置し、スラリー・ラインを通じて液体と岩石破片の混じったスラリーを汲み上げる補助とすることもできる。
【0068】
図3は類似の破砕ドリル・ヘッド100の模式図である。本例は、地表から上記ドリル・ヘッドに至る低温液体供給ライン110(「下降管」)を備える。地上側に設置された低温液体バルブ140を開くと、低温液体が低温液体供給ラインを通って流下する。ドリル・ヘッドは流量制御装置116を内蔵している。本例では、この流量制御装置はバルブである。このバルブを開くと、液体をドリル・ヘッドの液体噴射部の外部へと流すことができる。液体噴射部の下にある貯留部は破砕チャンバ152である。噴射部から噴射された液体はボーリング井内の岩体にひびを入れ、スラリーを形成することができる。このスラリーは、ドリル・ヘッドとボーリング井の壁面との間の空間を這い上がってスラリー・ライン130(「上昇管」)に達する。同図では、3種類の個別の貯液が各々圧力P、P、及びPを有する貯留部として図示されている。本例では、低温液体供給ライン内の圧力は破砕チャンバ内の圧力よりも高く、またスラリー・ライン内の圧力よりも高い。
【0069】
破砕ドリル・ヘッドの液体噴出装置により、様々な種類の液体が噴出され得る。一部の例では、上記液体は水であり得る。したがって、上記低温液体供給ラインは低温水を供給できる場合がある。水が特に効果的で入手も容易であるが、より高密度の液体も或る速度下での運動量を増やし、破砕速度を高める上で有用である。より熱容量の大きい液体を使用することも、岩体をより効率的に冷却する上で有用である。或る場合において、固体強化粒子として微細粒子を懸濁させ、液体の粘度と熱容量を上昇させることもできる。一般に、施工に応じて添加剤が併用されることはある。好適な添加剤としてはスケール防止剤、発泡剤、トレーサー、強化粒子、プロパント等が挙げられるが、これらに限定されない。更に、液体は通常の液体であっても、超臨界液体であってもよい。
【0070】
図4は、破砕ドリル・ヘッド200の更なる一例の断面図である。本例には幾つかの構成要素が追加されている。図1と同様、本例はドリル・ヘッド本体202、液体流入口208、液体供給ライン210、内部低温液体接続部212、複数の液体噴射部214、及び流量制御装置を備える。図4に示す例では、上記流量制御装置が、複数のバルブの組合せを備える。主バルブ218が上記内部低温液体接続部の上に設けられ、ドリル・ヘッド全体を通じた低温液体の流れを調節する。液体噴射部に接続された操縦バルブ220も図示されている。この操縦バルブは、個別に調節される液体噴射部の各群へ液体を流すことができる。更に、これらのバルブのいずれも、送液のパルス化に用いることができる。図4に示す例ではは、チラー222が内部低温液体接続部と直列に接続されている。チラーは、或る場合において熱電チラーであってもよい。このチラーは、高温岩体に向けて噴射されひび割れを生じさせる前の液体を、十分に低温とすることができる。しかし、或る場合において液体の温度が水の凝固点より高くてもよい。
【0071】
図4の例で追加された構成要素は、ドリル・ヘッド本体の側面に設けられた複数のスラリー回収口224である。これらのスラリー回収口は、ドリル・ヘッド本体上のスラリー流出口228に至る内部スラリー接続部226に接続されている。上記スラリー流出口にはスラリー・ライン230が接続されており、これを通じてスラリーが地上へ送られる。これらのスラリー回収口は、液体と破砕された岩石破片とが混じった、掘削中に生成するスラリーを集めるのに利用される。本例ではまた、内部スラリー接続部上にスラリー・ポンプ234が設けられており、スラリー・ラインを通じてスラリーを汲み上げる構成とされている。
【0072】
図4にはまた、ドリル・ヘッド本体側面に設けられた車輪236が図示されている。これらの車輪は、下記の機能のいずれか又は全てを担うものである。 (1)ボーリング井内でドリル・ヘッドの中心を合わせる、(2)ボーリング井内でドリル・ヘッドを定位置にロックする、及び(3)ドリル・ヘッドを推進・操縦する。各車輪は、ドリル・ヘッド本体から外方へボーリング井の内壁面に向かって延出する。各車輪はバネ式に装着され、ボーリング井の中心合わせ装置として機能する。この他、標準的なバネ式「ボーリング井中心合わせ」法を用いることもできる。一例として、低温液体供給ラインを流下する液体のエネルギーを利用して、これらの車輪を水圧駆動することもできる。流れる液体のエネルギーを利用して車輪を駆動するために、タービンの様なエネルギー変換機構を用いることができる。他の例として、これらの車輪を電気モーターその他の方法で駆動することができる。更に他の例として、これらの車輪を全く駆動させず、ドリル・ヘッドに働く重力を利用して該ドリル・ヘッドを深さ方向へ推進させることができる。或いは、ドリル・ヘッドと地上側とを剛線で接続し、該剛線を地上側から押す等して該ドリル・ヘッドを地上側から下方向に押すことができる。他の例として、これらの車輪にブレーキ機構を設けて所定の位置にロックできるようにし、必要に応じてドリル・ヘッドを定位置に保持することができる。他の例として、ドリル・ヘッドを定位置にロックする別の機構、例えば格納式のロッドやスパイクを設けることもできる。ドリル・ヘッドを定位置に保持することは、液体噴射部の稼働中に有効である場合があり、これにより該ドリル・ヘッドを浮上させることなく、該液体噴射部により発生する圧力を該ドリル・ヘッドの下方に閉じ込めることができる。
【0073】
図4に示される例はまた、インフレータブル・パッカー238を備えている。このインフレータブル・パッカーは、ドリル・ヘッド本体を周回する空気膨張式の円環リング又はトーラスの形状を持ち得る。インフレータブル・パッカーは、ドリル・ヘッドの長さ方向と平行にも伸長し得る。インフレータブル・パッカーは、空気注入により膨らみ、ドリル・ヘッド本体とボーリング井内壁面との間の空間を封鎖する。上記パッカーがこの様に膨張すると、ボーリング井と協働的にシールを形成することができる。このシールにより、液体噴射部により発生する圧力と作動液体の温度上昇に伴う膨張とがより閉じ込められ易くなり、該作動液体が超臨界状態に保たれる。したがって、破砕チャンバ152内の圧力、又はドリル・ヘッド以深のボールング井の容積を制御することができる。一般的な指針では、破砕チャンバ内の圧力は静水圧より5~10%少なく、過渡的には静水圧の50%以下、或いは100%以上になることもあるが、静岩圧よりは低い。例えば、深度10kmにおける静岩圧は約265MPa、静水圧は約100MPaであり、深度20kmにおける静岩圧は約530MPa、静水圧は約200MPaである。
【0074】
或る場合において、上記第一のインフレータブル・パッカーの隣りに第二のインフレータブル・パッカーを追加し、シールを増強することができる。また、或る場合において、上記インフレータブル・パッカーに、空気や液体等の流体で膨らむ膨張式のインナー・チューブを内蔵させることもできる。また、低温液体供給ラインを通じて供給される液体を用いて上記パッカーを膨張できる場合もある。更に他の例として、上記インナー・チューブを耐摩耗性の素材から成る外層で保護することもできる。一例として、インナー・チューブをケブラー繊維又は炭素繊維のスリーブに通してこれを保護することができる。他の例として、インナー・チューブの上部に剛体シールを配置することができる。この剛体シールは、十分に広い温度範囲、圧力及び摩耗に耐え、自身の径をドリル・ヘッド本体の直径からボーリング井の直径へと拡大できるゴム、シリコン、プラスチック、金属その他の材料から成るものであってよい。これらのパッカーが膨張すると、上記剛体シールはボーリング井の内壁面に押し当てられ、該ボーリング井を封鎖する。これらインフレータブル・パッカーにより形成されるシールは、あらゆる液体のパッカー内通過を防ぐことができるが、円環状のシール領域の中で圧力の目標値が維持されていれば、若干の漏出は許容される場合が多い。一例として、最大目標圧力は静水圧より20%低く、過渡的には100%以上となることもあるが、上記装置への流入管の底部における圧力は上記のピーク範囲に一致している。或る場合において、パッカーが膨張する前に、ボーリング井内でドリル・ヘッドを定位置にロックすることもできる。上述のとおり、ドリル・ヘッドはブレーキその他の機構を用いて所定の位置にロックすることができる。これらのパッカーは、ドリル・ヘッドのロックを解除する前に収縮させ、ドリル・ヘッドを更にボーリング井の深部へ移動させることができる。
【0075】
図5は破砕ドリル・ヘッド200の正面斜視図である。この破砕ドリル・ヘッドの主面には、複数の液体噴射部214が複数の孔として描かれている。この様に配列された液体噴射部の全てに、上述の通り、低温液体供給ライン210から内部低温液体接続部を通じて液体が供給される。ドリル・ヘッド本体の主面は曲率を持つため、各液体噴射部は異なる方向に向けて配向されている。
【0076】
図5はまた、ドリル・ヘッド本体202の側面であって、前記主面よりも若干後方に並んだ複数のスラリー回収口224も示す。上記液体噴射部で岩体の破片が破砕されると、液体と岩石破片とが混じったスラリーが、これらスラリー回収口を通ってボーリング井から汲み出される。スラリーはスラリー・ライン230を通って汲み上げられるが、図5では液体供給ライン210の隣でボーリング井内を上行するラインとして図示されている。上記インフレータブル・パッカー238もこれらスラリー回収口のすぐ後方に図示されている。このパッカーは、膨張することで、岩体に向けた液体の噴射と、そこからのスラリーの回収が行われるボーリング井の坑内を封鎖することができる。同図はまた、ドリル・ヘッド本体側面の複数の車輪236も図示している。これらの車輪はボーリング井の内壁面に向けて延出しており、上述の様に、ボーリング井内でドリル・ヘッドを推進させることができる。
【0077】
或る例では、上記ドリル・ヘッド本体の主面に、ボーリング井内の岩体に機械的損傷を与える部材が備えられてもよい。熱破砕により岩体にひびを入れた後に、ひび割れた岩体をドリル・ヘッド本体に備わった機械的部材を用いて削り落とし、ひび割れた領域から岩石破片を十分に除去することが有効な場合がある。或る場合において、この機械的損傷を与える部材は、図5に示す液体噴射部の各群の間の十字状の領域に配された突起を備えてもよい。これらの突起は金属、ダイヤモンド、カーバイド又はセラミックから成る削り落とし板、先の尖ったスパイク、その他の部材であってよい。ドリル・ヘッドの主面はまた、「回転ユニオン」を備えることにより回転可能とされてもよい。或る例では、主面上の各液体噴射部に該主面に対する角度を設け、該主面に回転動作を与えるトルクを生み出すことができる。また他の例では、主面上に回転ドリル、インパクト・ドリル、その他の機械的ドリルを設けることができる。これに替えて、或いはこれに加えて、ドリル・ヘッド本体の主面に複数の溝を設け、該主面の縁部に向けて液流を導き、また、液体やスラリーの排出路に導くことができる。
【0078】
他の類似例を図6に示す。この図は、ボーリング井250内に設置された破砕ドリル・ヘッド200の側面図である。ドリル・ヘッドは、低温液体供給ライン210とスラリー・ライン230とに接続されている。本例はまた、ドリル・ヘッドの側面に複数の車輪236を備える。また、複数のインフレータブル・パッカー238もドリル・ヘッドの側面に備えられ、該ドリル・ヘッドとボーリング井の壁面との間の空間を封鎖する。ドリル・ヘッドにより岩砕スラリーが形成されるにつれ、このスラリーはドリル・ヘッド側面のスラリー回収口224を通って流出する。
【0079】
例示的な破砕ドリル・ヘッド100の液体制御システムの模式図を図7に示す。同図において、4種類の個別の貯液が各々圧力P、P、P、Pを有する「貯留部」として図示されている。各貯液は、(1)低温液体供給ライン210(「下降管」と表示)内の液体、(2)チラー222が置かれた内部低温液体接続部212(「冷却チャンバ」と表示)内の低温液体、(3)液体噴射部から噴射され、ドリル・ヘッド本体外の空間とスラリー回収口内の空間を占める液体(「破砕チャンバ」252と表示)、及び(4)スラリー・ライン230(「上昇管」と表示)内を地上に向けて汲み上げられているスラリー、である。これら4種類の貯液の温度は、個々に異なる得る。また、これらの貯液の圧力は或る場合においてPからPへと低下し得る。同図はまた、地上に設置される低温液体バルブ240と、ドリル・ヘッド内で冷却チャンバへ向かう低温液体の流れを制御する別のバルブ218を示す。また、2個のバルブ220が液体噴射部の2群へ向けて液流を制御する。更に、スラリー・バルブ232がスラリー・ポンプ234の下側に設置されている。このスラリー・ポンプがスラリー・ラインを通じてスラリーを圧送し、地上に設置された別のスラリー・ポンプが該スラリーの更なる圧送を担い得る。
【0080】
これらのバルブやポンプはいずれも、流量制御装置の各部と考えることができる。或る場合において、この流量制御装置は図7に示す各貯液の圧力を制御し得る。流量制御装置はまた、各種センサを内蔵するか又はこれらセンサと通信可能とされてもよい。これらセンサは、ドリル・ヘッド、ボーリング井、及び周囲の岩層の諸特性をモニタすることができる。或る場合において、これらのセンサは温度センサ、液圧センサ、音響センサ、近接センサその他であり得る。例えば、音響センサと熱センサからのデータを組み合わせ、破砕速度が所望の閾値よりも低下した場合に、破砕を一時停止して岩体の露出面の再加熱を待つ決定を下すことに利用することができる。また、液圧センサは流量制御装置の制御システムにデータを提供し、異なるチャンバ内で液体を維持又は変化させて、ひび割れ及び破砕の速度を制御することができる。岩体の種類や性質や熱力学的条件は掘削装置の前進にしたがって変化するので、その場(in situ)試験/実験を行うことで、ひび割れ速度を温度差及び圧力/質量流速の関数として捉えることができる。
【0081】
或る例において、上記流量制御装置を用いて複数のバルブや複数のポンプを特定のシーケンスで稼働させることができる。一例として、上記流量制御装置は液体噴射部を制御するバルブを開き、液体を岩体に向けて噴射することができる。これと同時に、流量制御装置はスラリー・ライン上のバルブを閉じて、液体噴射部の外部の空間に圧力を閉じ込めると共に、スラリー・ポンプ を高圧から保護することができる。これを液体噴射部のパルス駆動と称する。所定時間経過後、これら液体噴射部を制御する各バルブを閉じ、該液体噴射部からの液流を停止する。続いてスラリー・バルブを開け、スラリー・ポンプを起動させ、液体と岩石破片の混じったスラリーを、ドリル・ヘッドの主面の下方空間から外へ圧送することができる。或いは別の例として、液体噴射部からの液体噴射中に、上記スラリー・ポンプを常時稼働させることもできる。これにより、岩体に向けて連続噴射が行われ、液体はスラリー・ラインを通って連続的に外部へ圧送され得る。したがって、特定の用途に応じ、各ポンプと各バルブは「起動・停止」モード又は連続モードで稼働させることができる。
【0082】
更に、或る場合には上記破砕ドリル・ヘッド自体の移動を起動・停止型とし、別の場合には連続型とすることもできる。一例において、この破砕ドリル・ヘッドはボーリング井内を或る地点まで進み、そこで停止することができる。上記インフレータブル・パッカーを膨張させて上記破砕ドリル・ヘッドを定位置に保ち、その間、液体噴射部を用いて岩体にひびを入れ、ボーリング井の底から岩体を除去する。所望量の岩体を除去した後、インフレータブル・パッカーを収縮または後退させ、ボーリング井内で破砕ドリル・ヘッドを更に前進させる。別の例において、ボーリング井の延伸と共に、上記破砕ドリル・ヘッドが連続的に移動してもよい。或る例において、インフレータブル・パッカーを、ボーリング井の壁面に対して十分な封鎖状態、又は部分的な封鎖状態を保ちながら、該ボーリング井の壁面に沿って摺動可能に構成することもできる。
【0083】
或る例において、上記ドリル・ヘッドは、自身の本体が定位置にロックされている間もボーリング井の深部へ向かって前進できる伸縮式の前部を備えてよい。この伸縮部は、ドリル・ヘッドの主面と、複数の液体噴射部を備える。場合に応じ、この伸縮部は伸縮自在に摺動することができ、或いは、ドリル・ヘッド本体の他の部分から着脱可能であって、独立に動作できる。これにより、ドリル・ヘッド本体を所定の位置にロックしたままで、上記伸縮部が届く範囲でドリル・ヘッド本体より深い距離分の掘削を続けることができる。この状態は、ドリル・ヘッドの主面を、ひび割れが進行している最中の岩層から実質的に一定の距離に保つ上で有用である。したがって、この伸縮部は、岩体が破砕により除去される速度と同じ速度でボーリング井内を下降することができる。複数のインフレータブル・パッカーを備えた例では、該インフレータブル・パッカーの摩耗や破損を低減するため、その膨張・収縮の頻度を下げることが好ましい。ドリル・ヘッドの伸縮部が伸長している間も上記インフレータブル・パッカーを定位置に保つことにより、該インフレータブル・パッカーが収縮し、ドリル・ヘッド本体の全体がボーリング井内を下降する前に、多くの岩層を除去することができる。これにより、パッカー(又は他のシール要素)の寿命を延長し、掘削プロセスを高速化することができる。更に他の例において、上記伸縮部は、ドリル・ヘッドの下方の岩体に物理的に接触するまで深さ方向に伸長することができる。この伸縮部は、例えば主面から突出する突起の様な、岩体に機械的損傷を与え得る機械的損傷付与手段を備えることができる。伸縮部は、回転を通じて上記機械的損傷付与手段が岩石破片を削り落とす様、回転式に設計されていてもよい。或いは、伸縮部がハンマーの様に岩体を打撃して機械的損傷を与えてもよい。この機械的損傷は、熱破砕を通じた岩体の破砕を増強する。
【0084】
図8Aは、伸縮部204を備えたドリル・ヘッド本体202を含む例示的な破砕ドリル・ヘッドの一部を示す。この伸縮部はドリル・ヘッドの前端部にあり、一次掘削面を有する。本例はまた、上記液体噴射部に液体を供給する内部液体接続部上にスライド式接続部213を備える。図8Aはこの伸縮部が後退位置にある場合、図8Bは伸長位置にある場合を示す。ドリル・ヘッドをこの様に伸長させることにより、ドリル・ヘッドの下方で岩層が除去されるにつれて該ドリル・ヘッドの主面が下降し、残るドリル・ヘッド本体部分は静止状態に保たれる。上記インフレータブル・パッカー238は、図示される様に膨張されている。ドリル・ヘッドを長時間静止させることにより、該ドリル・ヘッドはインフレータブル・パッカーを膨張・収縮させる前により長い時間、稼働することができる。本例はまた、一次掘削面に機械的損傷付与手段282を備える。特段のこの例において、機械的損傷付与手段は、ひび割れを促進し岩石破片の除去を助ける一次掘削面上の複数のバンプである。上記伸縮部は、上記機械的損傷付与手段が岩体に接触して回転するに伴い、回転して機械的な掻き取りと研削に必要な力を生み出す様に設計することができる。伸縮部は、或いはまた、打撃動作により岩体を叩打し、これに機械的損傷を与える様に設計されてもよい。
【0085】
図9Aは、一例として破砕ドリル・ヘッド200が操縦を通じて湾曲したボーリング井250を形成している様子を示す。場合に応じ、各液体噴射部は、該ボーリング井の一方側ではより大量の液体を噴射し、該ボーリング井の反対側ではより少量の液体を噴射する様に制御され得る。これにより、一方側では他方側よりもより多くのひび割れが岩体に発生する。多数の岩層がこの様にひび割れて除去されると、ボーリング井はその方向へ曲がりやすくなる。図9Bは、破砕ドリル・ヘッドが下降した後の、該ドリル・ヘッドの拡大図である。本例では、ボーリング井の左側でより大量の岩体が除去されており、これによりボーリング井が右方向に曲がっている。場合に応じ、ボーリング井を曲げるために、ボーリング井の曲げたい方向とは反対の側に、より大量の液体を噴射することができる。例えば、ボーリング井を左側に曲げたい場合は、該ボーリング井の右側により大量の液体を噴射することができる。他の場合として、曲げたい方向と同じ側により大量の液体を噴射することもできる。また、ドリル・ヘッドの操縦にあたり、これら液体噴射部の一部だけを用いて他部は用いない、或いは、一部からは他部からよりも大量の水を噴射し得る場合がある。或る場合において、各液体噴射部は個別に制御可能であってよく、したがって各噴射部の噴射量をより多く、又はより少なく調節することができる。他の場合において、これら液体噴射部を各群又は各ゾーンにグループ分けすることができる。噴射部の各群は独立制御とすることができる。或る例において、これら液体噴射部は2群、4群、8群、その他の便利な数の群に分割することができる。各群は、これら液体噴射部がその各群への液流を調整可能なバルブを個々に備えることにより、該流量制御装置によって制御され得る。掘削ドリル・ビットの前方空間内における液体力学は非常に複雑なので、各液体噴射部の調整の効果を予測することは困難な場合がある。したがって、所望の方向へのボーリング井の湾曲を実現する各液体噴射部の適切な制御体制を決定するために、実験的検討が行われる場合がある。ボーリング井が湾曲する際の破砕ドリル・ヘッドは、緩やかに方向転換する。或る場合において、破砕ドリル・ヘッドが形成するボーリング井の曲率半径は、約100m~約500mであり得る。
【0086】
図10Aは、複数の群206の液体噴射部214を備えた例示的な破砕ドリル・ヘッド200の切欠き図である。本例では、これら液体噴射部は4群に分割され、各群はドリル・ヘッドの主面の4つの象限に配置されている。これら液体噴射部の各群を通過する液流は、該ドリル・ヘッド内の個々のバルブ220によって制御される。また、主バルブ218が低温液体接続部212及び全ての液体噴射部に接続され、これら全ての液体噴射部の全体的な流速の調節に用いられ得る。この主バルブ、及び/又は個々の制御バルブは、これら液体噴射部を通じた液流のパルス化にも用いられ得る。個々の制御バルブは、ボーリング井250のどちらかの側でより大きく岩体にひび割れを生じさせることで、上記ドリル・ヘッドを操縦することに用いられ得る。前例でみた様に、上記ドリル・ヘッドは複数の車輪236を備え、これら車輪は該ドリル・ヘッドの推進、操縦の補助、ボーリング井内での該ドリル・ヘッドの中心合わせ、及び/又はボーリング井内での該ドリル・ヘッドの所定位置へのロックに用いられ得る。
【0087】
図10B図10Aに示した例で用いられる操縦機構の拡大切欠き図である。複数の制御バルブ220が、低温液体接続部212の周囲に配置されている。各制御バルブは、同機構の1つの象限からの液流を制御又は遮断することができる。各象限は、液体噴射部214の4つの群206に接続されている。図10Cと10Dは、それぞれ開位置及び閉位置にある制御バルブの断面図である。開位置を示す図10Cにおいて、制御バルブは楔部270と、水圧駆動又は電気駆動され得るネジ式アクチュエータ272とを備える。この楔部は蝶番連結されており、流路内外へ回動できる。制御バルブが開くと、該バルブ内を下降する液体の力により楔部を流路外に保つ。上記ネジ式アクチュエータはネジ山を切ったネジであってよく、その回転により上下動が可能である。閉位置を示す図10Dでは、上記ネジ式アクチュエータは上昇して楔部を押し上げ、該楔部は流路内へ移動する。楔部は流路を横断する如く移動し、バルブを完全に閉じる。パイプの4つの象限を区切る壁又はバリヤは、バルブの位置よりも上に開口部を備えてもよく、例えば或るバルブを閉じた時に、閉じられた象限からの液体が開いている象限に振り分けられる様にすることができる。図10Eは、上記制御バルブを液流の上流側から見た時の断面図である。1番目の例では、4つの制御バルブが全開している。2番目の例では、ドリル・ヘッドを西向き(垂直なボーリング井の紙面上側を北とした場合)に操縦するため、これらのバルブのうち2つが開き、2つが閉じている。3番目の例では、北向きへの操縦用に、これとは別のドリル・ヘッドの2個組を開き、他の2個組を閉じている。或る場合において、上記ドリル・ヘッドは2つの開いたバルブとは逆方向に操縦することもできる。これは、開かれたバルブが液体噴射部を通じて液体を噴射させ、ドリル・ヘッドのバルブが開いている側で、より多くの岩石破砕が進むからである。
【0088】
図11Aと11Bは、中心ボーリング井250に対して斜めに横方向二次ボーリング井350を掘削している破砕ドリル・ヘッド300の一例を示す。本例では、一次ボーリング井内にベース・ユニット370を設置している。このベース・ユニットは、その側面からより小型の破砕ドリル・ヘッドを繰り出して横方向二次ボーリング井を掘削するものである。二次ボーリング井は、一次ボーリング井に対してほぼ垂直である。横方向二次ボーリング井をこの様に掘削することは様々な場面で有効と考えられる。例えば地熱層からエネルギーを産生する場合に、横方向ボーリング井のネットワークを形成してこれを熱伝達に利用すること等が考えられる。この場合、上記ベース・ユニットはいかなる展開可能な横方向ドリル・ヘッド以外のドリル・ヘッドや掘削機構も持たない。 図11Cは更に他の例を示す図である。この図の破砕ドリル・ヘッドはループ型の二次ボーリング井を形成する様に操縦される。このループ型の二次ボーリング井は、破砕ドリル・ヘッドを一次ボーリング井に向かって戻る方向に操縦すると完成させることができ、これにより二次ボーリング井は完全なループ型となる。かかるループ型の二次ボーリング井は、例えば、これを通じて熱伝達液体を圧送し地熱を産生する用途に利用できる。図11Dは、一次ボーリング井と、該一次ボーリング井から遠ざかる様に湾曲している二次ボーリング井とを示している。ここで、二次ボーリング井は一次ボーリング井を振り返る様な部分ループとして形成されている。場合により、上記二次破砕ドリル・ヘッドを繰り出すベース・ユニットは、米国特許第11,029,062号に記載される地熱掘削機であってよく、これは本明細書に援用される。他の例では、上記ベース・ユニットは、横方向二次破砕ドリル・ヘッドを繰り出し、また低温液体供給ラインとスラリー・ラインとを地上側から二次破砕ドリル・ヘッドへと導く装置であってよい。
【0089】
図12は、二次ドリル・ヘッド300を繰り出すベース・ユニット370の他の例を示す図である。このベース・ユニットは、地上側から該ベース・ユニットに至る液体供給ライン210を備える。液体はこの液体供給ラインを通って、ベース・ユニット内の低温液体ポンプ242へと流れる。この低温液体ポンプは、液体を二次ドリル・ヘッドへ送る前に、該液体を加圧することができる。上記ベース・ユニットはまた、スラリー・ライン230を通じてスラリーを地上側に戻すスラリー・ポンプ234を備える。低温液体ポンプとスラリー・ポンプの下方では、液体供給ラインとスラリー・ラインの双方がホース244内に収容されてよい。このホースは、ベース・ユニット内でコイル246状に巻かれていてよい。ホースの他端は、二次ドリル・ヘッドの位置又はその近傍にあってよい。したがって、二次ドリル・ヘッドが掘削を進めて一次ボーリング井からより遠ざかるにつれ、ホースの巻きがほどけてベース・ユニットから延出し、 該ドリル・ヘッドと液体供給ライン及びスラリー・ラインとの接続状態を保つ。このホースのコイルは回転ドラム248に券回されており、その基台258として回転ユニオンが備わっている。
【0090】
図13Aは、水平ボーリング井350を形成する破砕ドリル・ヘッド300の一例を示す。本例は、ドリル・ヘッド本体の側面に更に複数の液体噴射部380を備える。これらの液体噴射部は、掘削方向に応じて、水平ボーリング井又は垂直ボーリング井の壁に微小ひび割れ354のネットワークを形成することに用いられる。ここに図示される破砕ドリル・ヘッドはまた、2個のインフレータブル・パッカー338を備える。一方のインフレータブル・パッカーはドリル・ヘッド本体の前端近くにあり、他方は該ドリル・ヘッド本体の後端近くにある。ドリル・ヘッド本体の側面であって、これら2つのインフレータブル・パッカーの間には、複数の横方向液体噴射部が配置されている。双方のインフレータブル・パッカーが膨張すると、ドリル・ヘッド本体の側面とボーリング井の壁面との間の空間が孤立する。これにより、横方向液体噴射部がボーリング井の壁面に対してより多くの微小ひび割れ損傷を与えることができる様になる。この様にボーリング井の壁面に損傷を与えることは、例えばこのボーリング井を地熱産生に利用する場合において、岩体からの熱伝達を増大させる上で有用である。圧力を維持したり、噴射される液体へのプロパントを添加することも、温度上昇に伴って生じがちな微小ひび割れの自己加熱を減じたり防止するのに役立つ。
【0091】
図13Bは、水平ボーリング井350を形成する破砕ドリル・ヘッド300の一例を示す。ドリル・ヘッド本体の側面に、ボーリング井の壁面に損傷を与えるための複数の液体噴射部380を備える。但し、本例の液体噴射部は、岩体内をより深く貫く局所的な損傷帯356を形成するために、特定の領域に配置されている。これが図13Aに示した例とは異なる点である。図13Aの例では上記液体噴射部がドリル・ヘッド本体の側面全体に亘って間隔をあけて配置され、ボーリング井の壁面全体に亘って広範囲な損傷を生じさせていた。一方、図13Bに示す例は、ボーリング井の壁面の岩体をより深く貫く局所的な損傷帯を形成することができる。本例の破砕ドリル・ヘッドはまた、ドリル・ヘッド本体の前端付近に複数の横方向機械損傷ヘッド382を備える。これら横方向機械損傷ヘッドは、小型の回転式ドリル・ヘッド又は小型のインパクト・ドリル・ヘッドであってよい。一例において、図13Bの破砕ドリル・ヘッドはボーリング井内の所望の場所に設置することができ、複数のインフレータブル・パッカー338は膨張してドリル・ヘッド本体とボーリング井の壁面との間の空間を封鎖すると共に、該ドリル・ヘッドを一箇所に留め置くことができる。そして、この横方向機械損傷ヘッドは、ボーリング井の壁面に局所的な損傷領域を形成することに利用できる。続いて、インフレータブル・パッカーを収縮させ、局所的損傷領域がドリル・ヘッド本体の側面の横方向液体噴射部の最初のセットと並ぶ位置まで、破砕ドリル・ヘッドを少し前進させることができる。インフレータブル・パッカーを再び膨張させ、液体噴射部の最初のセットから液体を岩体に向けて噴射し、岩体に更に多くの微小ひび割れを発生させることができる。これらの微小ひび割れは、既に損傷を受けた場所を核として成長するので、その場所により深い微小ひび割れのネットワークが形成される。これと同時に、横方向機械損傷ヘッドは局所的損傷領域の他のセットの形成にも利用され得る。続いて、微小ひび割れネットワークが横方向液体噴射部の2番目のセットと並ぶ位置まで、破砕ドリル・ヘッドを再び前進させることができる。この横方向液体噴射部の2番目のセットは、岩体に向けて液体を噴射し、微小ひび割れネットワークの深さを増すことができる。このようにして、ボーリング井の壁に深い損傷帯を形成することができる。なお、図13Bに示した例は機械損傷ヘッドを1セット、横方向液体噴射部を2セット備えているが、機械損傷ヘッドや横方向液体噴射部の数は幾つであっても構わない。
【0092】
低温破砕掘削方法
本開示ではまた、低温破砕掘削方法についても述べる。一例において、低温破砕掘削方法は、少なくとも1台の液体噴射部を備える低温破砕ドリル・ヘッドをボーリング井内に設置する工程と;ボーリング井の岩体に向けて少なくとも1台の液体噴射部から液体を噴射し、その際、該液体の温度と岩体の温度との間に、岩体が液体噴射により熱収縮するに十分な温度差を設けて岩体にひびを入れ、熱破壊と液圧の組合せによって浮石破片を形成する工程と;液体と前記浮石破片とをスラリーの形でボーリング井から取り除く工程と、を備えることができる。
【0093】
場合により、ボーリング井内に低温破砕ドリル・ヘッドを設置する工程は、低温破砕ドリル・ヘッドを用いてボーリング井を形成する工程を含むことができる。或る例において、岩体の温度が比較的低い地表側からボーリング井の掘削を開始してからしばらくの間は、上記ドリルを高温破砕ドリル・ヘッドとして使用することができる。その後、ドリル・ヘッドが地下のより高温の岩体に達した時に、運転モードを低温破砕に切り替えることができる。他の例では、ボーリング井の最初の部分を回転ドリル・ヘッド又はインパクト・ドリル・ヘッド等の機械式ドリル・ヘッドで地表から掘り始めることができる。この機械式ドリル・ヘッドは、岩体の温度が高温となる深さ、例えば100℃超、200℃超、300℃超、400℃超、又は500℃超となる深さまで使用することができる。岩体は温度が高くなるにつれて脆さが増す場合があり、これにより機械式ドリル・ヘッドの効果が薄くなる。この時点で、機械式ドリル・ヘッドを引き上げ、低温破砕ドリル・ヘッドをボーリング井内へ降ろすことができる。以降は、この低温破砕ドリル・ヘッドを高温岩体の掘削に用いることができる。
【0094】
ここで述べる低温破砕掘削方法は、低温破砕ドリル・ヘッドを用いて二次又は三次ボーリング井を掘削する方法とも言える。二次又は三次ボーリング井は、他のボーリング井から枝別れしてよい。
【0095】
上記液体噴射部はパルス駆動されてよい。これは、噴射部からの液流が、制御期間内に亘って増減を繰り返すことを意味する。或る場合において、液流はパルスの間の時間帯で完全に遮断されてもよく、他の場合において、液流は継続するものの、パルスの間の時間帯で流量を下げてもよい。或る場合において、パルス駆動は、圧力の時間変化が正弦波パターンに従うような振動的駆動であってもよい。パルス長とパルス間隔とは、液体と岩体との温度差、岩体の熱膨張、パルス間隔内でドリル・ヘッドを前進させる時間等の実践的要素、その他の様々な要素に依存し得る。パルス継続時間は0.1秒から数日のオーダーで変化し得る。同様に、パルス間隔も0.1秒から数日のオーダーで変化し得る。
【0096】
或る場合において、上記破砕ドリル・ヘッドは図13A及び13Bに示す様に、ボーリング井の壁に損傷帯を形成することができる。ボーリング井が地熱採掘用であれば、この損傷帯は、岩体とボーリング井を通って流通し得る液体との間の熱伝達を促進し、熱を採掘する上で有効であり得る。状況によっては、岩体の温度が十分高ければ、該高温岩体中の微小ひび割れが時間と共に自然修復され得る。そこで、場合によっては、ボーリング井を冷却液で満たして微小ひび割れの修復を阻止することが有効である。
【0097】
これまで説明および図示してきた各破砕ドリル・ヘッドは、いずれも本明細書で述べる方法を実施するためのものであるが、他の如何なる装置も本方法に用いられ得る。例えば、地熱掘削機を用いることができ、この地熱掘削機は一次ドリル・ビット、又は二次ドリル・ビット、又は三次ドリル・ビット、又はこれらの組み合わせとして掘削ドリルを備えてよい。更に、場合により、一次ボーリング井内にベース・ユニットを降ろし、このベース・ユニットから破砕ドリル・ビットを繰り出して横方向二次ボーリング井を掘削することができる。
【0098】
図14Aは、高温破砕掘削に用いられる破砕ドリル・ヘッド100の一例の側面図を、高温破砕プロセスを表す幾つかの追加図面と共に示す。ここに示す破砕チャンバ101の拡大図は、ドリル・ヘッドの一次掘削面の小領域とひび割れ進行中の岩体とを囲む破線の枠に対応している。本図において、高温液体はボーリング井内の壁面に向けて液体噴射部から噴射される。この高温液体は岩体の最上層を加熱し、液体-岩体境界に垂直な方向の温度勾配に沿って該岩体を膨張させる。この膨張により小さなひび割れが岩体の最上層内に生じ、続いてひび割れた岩体の破片が噴射部から噴出される液流によって除去される。岩体103の拡大図も示す。この図では、岩体の熱膨張を、個々の破片内の外向きの矢印で示している。この熱膨張に起因する応力が岩体にひび割れを生じさせ、これをより小さい破片へと破壊する。熱膨張は、温度勾配で示される如く、岩体の温度が噴射される高温液体の温度に近づくほど増大する。熱応力(及びそれにより生ずるひび割れの形状)の程度は熱応力の異方性(各結晶粒内で、格子面に対して平行及び垂直な方向に直交する矢印の相対的な大きさで表示)、結晶粒の相互間方位差の程度、粒界の形状と性質、及びあらゆる大きさの岩体の境界条件等の種々の要因に依存する。図14Aはまた、温度105、圧力107、及びひび割れ速度109を含む性質の一連のグラフを示す。これらの性質は、破壊進行中の岩層と、破砕チャンバ内の液体の高さによって変化する。液体の温度Tは、ドリル・ヘッド内でまだ噴射される前の高温液体の初期温度である。液体は、液体噴射部から噴射されると乱流となり、この液体の温度は乱流内で大きな空間変動を生ずる。この温度変動を、温度グラフ中の幅広の線で示す。温度は岩体に近づくほど下がる。破壊進行中の岩層にも幾らかの温度変動があり、岩体中の温度Tは、まだひび割れていないバルクの岩体のより低い温度T に達するまで、深さ方向に低下する。圧力のグラフは、液体の圧力Pが岩体の圧力Pよりも低いことを示し、乱流内と破砕層内における局所的な圧力変動とを幅広の線で示している。同グラフ中、|σ’|と表示した曲線部は岩体内の応力差の規模を表す。この応力は、岩体が加熱し膨張するにつれて破砕層内で上昇するが、岩石破片が粉々になるとゼロに急落する。応力の大きさは局所的な温度変化に依存するが、温度勾配にも依存する。ひび割れ速度のグラフは、ひび割れ速度が破砕層の底部から破砕層の最上部に向かって増大し、岩体がひび割れてばらばらの破片になるとゼロに急落することを示している。これらの値は経時的にも空間的にも変動し、理想的な定常的破砕掘削では岩体中を共にコヒーレント・フロントとして伝搬する。
【0099】
図14Bは、低温破砕掘削に用いられる破砕ドリル・ヘッド100の一例の側面図を、低温破砕プロセスを表す幾つかの追加図面と共に示す。ここに示す破砕チャンバ101の拡大図は、ドリル・ヘッドの一次掘削面の小領域とひび割れ進行中の岩体とを囲む破線の枠に対応している。本例において、低温液体はボーリング井内の高温岩体に向けて噴射される。岩層は冷却され、熱収縮により岩体がひび割れを生じ、破片となる。拡大図は岩体が破壊されて細かい破片となり、ドリル・ヘッド下方の破砕チャンバ空間内で液体の乱流により除去される様子を示している。岩体103の拡大図も示す。この図では、岩体の熱収縮を、個々の破片内の内向きの矢印で示している。この熱収縮が岩体にひびを入れ、破片化する。熱収縮は、岩体の温度が噴射される低温液体の温度に近づくほど増大する。図14Bはまた、温度105、圧力107、及びひび割れ速度109を含む性質の一連のグラフを示す。符号は既述の通りである。これらの性質は、破壊進行中の岩層と、破砕チャンバ内の液体の高さによって変化する。液体の温度は、ドリル・ヘッド内でまだ噴射される前の低温液体の初期温度である。液体は、液体噴射部から噴射されると乱流となり、この液体の温度は乱流内で大きな空間変動を生ずる。この温度変動を、温度グラフ中の幅広の線で示す。温度は岩体に近づくほど上がる。破壊進行中の岩層にも幾らかの温度変動があり、岩体中の温度は、まだひび割れていないバルクの岩体の温度に達するまで、深さ方向に上昇する。圧力のグラフは、液体の圧力Pが岩体の圧力Pよりも低いことを示し、乱流内と破砕層内における局所的な圧力変動とを幅広の線で示している。同グラフ中、|σ’|と表示した曲線部は岩体内の応力差の規模を表す。この応力は、岩体が冷却し収縮するにつれて破砕層内で上昇するが、岩石破片が冷却後に粉々になるとゼロに急落する。ひび割れ速度のグラフは、ひび割れ速度が破砕層の底部から破砕層の最上部に向かって増大し、岩体がひび割れてばらばらの破片になるとゼロに急落することを示している。
【0100】
破砕チャンバを備えた本実施態様の設計意図は、破砕チャンバの内外で液流を制御し、これによりチャンバ内における温度と圧力の変化、及び破砕層における温度勾配と応力をできる限り精密に調節し、スラリーを排出しながらも掘削速度を最大化することにある。幾つかの運転モードの条件を定義し、これらを必要に応じて時系列的に組み合わせることで、最適な熱勾配とひび割れ速度を維持することができる。「一次封鎖」は、流入口バルブと流出口バルブの双方を閉め、破砕チャンバ内の液体と岩体とが熱平衡に達する条件である。低温破砕の場合、液体の温度と圧力とが共に上昇する。「定常流」では、流入と流出とが同じ速度に保たれ、地表側の温度が常に最も低く保たれる。「アクティブ圧力制御」条件では破砕チャンバ内の液圧が低下又は上昇する。液圧を低下させると、局所垂直応力の低下によりひび割れが成長し易くなり、液体をひび割れ内で気化させ、静岩圧に由来する岩体内の圧力とチャンバ内の局所圧力との差を広げるが、これらはチャンバ内への流速を低下させ、チャンバ外での流速を上昇させることで達成される。一方、液圧を上昇させると、ひび割れ内の水圧が上昇してひび割れを前方へ進展させ(即ち、小規模水圧破壊)、これはチャンバ外での流速を低下させ、チャンバ内への流速を上昇させることで達成される。上記の諸条件、及びここに記載しなかった諸条件のいずれも、本設計の中心的要素、及び岩体-液体間の熱的不均衡の制御に、パッカー、スラリー排出チャネル、ジェット液流、及び本発明の液体噴射部を組み合わることで達成できる。
【0101】
これまで低温破砕掘削に特化して説明してきた例示的な破砕ドリル・ヘッドやシステムは、いずれも高温破砕にも適用できる。上記の各ドリル・ヘッドを 高温破砕掘削に用いるには、低温液体に替えて高温液体を用いることができる。したがって、「低温液体供給ライン」又は「低温流体供給ライン」は高温液体供給ラインに置き換えることができる。同様に、「低温液体接続部」又は「低温流体接続部」は高温液体接続部に置き換えることができ、他も同様である。更なる例において、破砕ドリル・ヘッドはチラーの代わりにヒーターを内蔵することができる。このように、上記の各破砕ドリル・ヘッドは高温破砕掘削にも適合化させることができる。
【0102】
装置に内蔵される運転温度を維持するためのあらゆる電子機器や水圧機器も、周囲温度が高い条件下で利用できる。かかる温度制御要素は図示こそしていないものの、上記装置に流入する低温液体、並びに、熱電その他の冷却機構を利用することができる。
【0103】
上述した特徴、構造、特性は、一つ又は複数の例において如何様にも適切に組み合わせてよい。これまで、様々な構成例を通じて本発明の技術の各例が十分に理解される様、具体的な細部を説明してきた。しかし、当業者であれば、上記具体的な細部の一つ又はそれ以上を欠いても、又は他の方法、構成要素、装置等を用いても、本技術を実施可能であることに気付くであろう。他の例では、本技術の側面が曖昧になることを避けるために、公知の構造や動作については図示や説明を行っていない。
【0104】
以上、具体的な実施態様を例示しながら本発明を詳細に説明してきた。但し、添付の特許請求の範囲に記載された本発明の範囲を逸脱しない範囲で、種々の変形や変更が可能である。上記の詳細な説明や添付の図面は単に例示的なものであり、何ら制限的なものではない。変形や変更が加えられたとしても、これらは全て、本明細書中に記載される発明の範囲に該当するものである。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8A
図8B
図9A
図9B
図10A
図10B
図10C
図10D
図10E
図11A
図11B
図11C
図11D
図12
図13A
図13B
図14A
図14B
【国際調査報告】