(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-01-30
(54)【発明の名称】ミトコンドリア富化細胞の同定法
(51)【国際特許分類】
C12Q 1/06 20060101AFI20240123BHJP
C12Q 1/32 20060101ALI20240123BHJP
C12Q 1/26 20060101ALI20240123BHJP
【FI】
C12Q1/06
C12Q1/32
C12Q1/26
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023544463
(86)(22)【出願日】2022-01-24
(85)【翻訳文提出日】2023-08-24
(86)【国際出願番号】 IL2022050098
(87)【国際公開番号】W WO2022157781
(87)【国際公開日】2022-07-28
(32)【優先日】2021-01-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522384293
【氏名又は名称】ミノヴィア セラピューティクス リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100102978
【氏名又は名称】清水 初志
(74)【代理人】
【識別番号】100205707
【氏名又は名称】小寺 秀紀
(74)【代理人】
【識別番号】100160923
【氏名又は名称】山口 裕孝
(74)【代理人】
【識別番号】100119507
【氏名又は名称】刑部 俊
(74)【代理人】
【識別番号】100142929
【氏名又は名称】井上 隆一
(74)【代理人】
【識別番号】100148699
【氏名又は名称】佐藤 利光
(74)【代理人】
【識別番号】100188433
【氏名又は名称】梅村 幸輔
(74)【代理人】
【識別番号】100128048
【氏名又は名称】新見 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100129506
【氏名又は名称】小林 智彦
(74)【代理人】
【識別番号】100114340
【氏名又は名称】大関 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100214396
【氏名又は名称】塩田 真紀
(74)【代理人】
【識別番号】100121072
【氏名又は名称】川本 和弥
(74)【代理人】
【識別番号】100221741
【氏名又は名称】酒井 直子
(74)【代理人】
【識別番号】100114926
【氏名又は名称】枝松 義恵
(72)【発明者】
【氏名】イブギ-オハナ ナタリー
(72)【発明者】
【氏名】シェル ノア
【テーマコード(参考)】
4B063
【Fターム(参考)】
4B063QQ08
4B063QQ20
4B063QQ24
4B063QS03
(57)【要約】
本開示は、ミトコンドリアを富化された細胞が、疾患及び障害の治療に有用であるという発見に基づくものである。本発明は、このような外因性ミトコンドリアを富化された細胞の同定又は検出方法を提供する。具体的には、ミトコンドリア富化細胞の同定又は検出は、トリプタミン等の基質の利用によって決定される。これは、モノアミンオキシダーゼA(MAO-A)、モノアミンオキシダーゼ-B(MAO-B)、グリセロール-3-リン酸デヒドロゲナーゼ、又はそれらの組合せのレベルを決定するステップを含む。本発明は、ミトコンドリア富化細胞の同定又は検出のためのキットをさらに提供する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞の、外因性ミトコンドリア富化を判定する方法であって、
a)前記細胞を代謝基質と接触させるステップと、
b)前記代謝基質との接触後に前記細胞内の電子伝達を測定するステップと
を含む、前記方法。
【請求項2】
前記電子伝達を測定するステップが、比色アッセイ、蛍光アッセイ、発光アッセイ、又は酸素消費量によるものである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記細胞が、胎盤ミトコンドリア又は血液由来ミトコンドリアを富化されている、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記細胞が、胎盤ミトコンドリアを富化されている、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記細胞が、幹細胞、前駆細胞又は骨髄由来幹細胞、多能性幹細胞、胚性幹細胞、人工多能性幹細胞、間葉系幹細胞、造血幹細胞、造血前駆細胞、骨髄前駆細胞、リンパ前駆細胞、巨核球、赤血球、マスト細胞、筋芽細胞、好塩基球、好中球、好酸球、単球、マクロファージ、ナチュラルキラー(NK)細胞、小リンパ球、Tリンパ球、Bリンパ球、形質細胞、細網細胞、骨髄造血細胞、赤血球生成細胞、及びそれらの任意の組合せからなる群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記細胞がCD34+細胞である、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記代謝基質が、トリプタミン、D,L-a-グリセロールPO
4、スクシナート、及びそれらの組合せからなる群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記代謝基質がトリプタミンである、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記代謝基質がスクシナートである、請求項7に記載の方法。
【請求項10】
前記細胞が、前記細胞を外因性ミトコンドリアと接触させることで富化された、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記比色アッセイが、吸光度によって測定される、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
増加した吸光度が、前記細胞が富化されていることを示す、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記細胞を前記代謝基質と接触させるステップが、NADH及び/又はFADH
2を産生する、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
前記ミトコンドリアが、新鮮である、凍結解凍されている、又はそれらの任意の組合せである、請求項1に記載の方法。
【請求項15】
細胞内のモノアミンオキシダーゼA(MAO-A)及び/又はモノアミンオキシダーゼB(MAO-B)のレベルを決定するステップ
を含む、細胞の、胎盤ミトコンドリア富化を判定する方法であって、
胎盤ミトコンドリアを富化された細胞が、ミトコンドリアを富化されていない細胞に比べてMAO-A及び/又はMAO-Bの増加したレベルを有する、
前記方法。
【請求項16】
前記細胞が、幹細胞、前駆細胞又は骨髄由来幹細胞、多能性幹細胞、胚性幹細胞、人工多能性幹細胞、間葉系幹細胞、造血幹細胞、造血前駆細胞、骨髄前駆細胞、リンパ前駆細胞、巨核球、赤血球、マスト細胞、筋芽細胞、好塩基球、好中球、好酸球、単球、マクロファージ、ナチュラルキラー(NK)細胞、小リンパ球、Tリンパ球、Bリンパ球、形質細胞、細網細胞、骨髄造血細胞、赤血球生成細胞、及びそれらの任意の組合せからなる群から選択される、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記細胞がCD34+細胞である、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記細胞が、前記細胞をミトコンドリアと接触させることで富化された、請求項15に記載の方法。
【請求項19】
前記MAO-A及び/又はMAO-Bのレベルが、質量分析によって決定される、請求項15に記載の方法。
【請求項20】
グリセロール-3-リン酸デヒドロゲナーゼのレベルを決定するステップ
を含む、細胞の、外因性ミトコンドリア富化を判定する方法であって、
ミトコンドリアを富化された細胞が、ミトコンドリアを富化されていない細胞に比べてグリセロール-3-リン酸デヒドロゲナーゼの増加したレベルを有する、
前記方法。
【請求項21】
前記細胞が、幹細胞、前駆細胞又は骨髄由来幹細胞、多能性幹細胞、胚性幹細胞、人工多能性幹細胞、間葉系幹細胞、造血幹細胞、造血前駆細胞、骨髄前駆細胞、リンパ前駆細胞、巨核球、赤血球、マスト細胞、筋芽細胞、好塩基球、好中球、好酸球、単球、マクロファージ、ナチュラルキラー(NK)細胞、小リンパ球、Tリンパ球、Bリンパ球、形質細胞、細網細胞、骨髄造血細胞、赤血球生成細胞、及びそれらの任意の組合せからなる群から選択される、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
前記細胞がCD34+細胞である、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
前記細胞が、前記細胞をミトコンドリアと接触させることで富化された、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
前記細胞が、胎盤ミトコンドリア又は血液由来ミトコンドリアを富化されている、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
前記細胞が、胎盤ミトコンドリアを富化されている、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
外因性ミトコンドリアを富化された細胞を同定するためのキットであって、
a)代謝基質と、
b)使用説明書と
を含む、前記キット。
【請求項27】
前記基質が、トリプタミン、D,L-a-グリセロールPO
4、スクシナート、及びそれらの組合せからなる群から選択される、請求項26に記載のキット。
【請求項28】
前記ミトコンドリアが、胎盤ミトコンドリア又は血液由来ミトコンドリアである、請求項27に記載のキット。
【請求項29】
細胞を代謝基質と接触させた後に電子伝達を測定するステップ、
細胞内のモノアミンオキシダーゼA(MAO-A)及び/もしくはモノアミンオキシダーゼB(MAO-B)のレベルを決定するステップ、ならびに/又は
細胞内のグリセロール-3-リン酸デヒドロゲナーゼのレベルを決定するステップ
を含む、細胞の、外因性ミトコンドリア富化を判定する方法であって、
細胞を代謝基質と接触させた後、ミトコンドリアを富化された細胞が、ミトコンドリアを富化されていない細胞に比べて、電子伝達、モノアミンオキシダーゼA(MAO-A)、モノアミンオキシダーゼB(MAO-B)、及び/又はグリセロール-3-リン酸デヒドロゲナーゼの増加したレベルを有し、比色アッセイが、吸光度によって測定され、かつ吸光度の増加が、ミトコンドリア富化を示す、
前記方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、35U.S.C.§119(e)に基づいて2021年1月25日に提出された米国仮出願番号63/141,361の恩典を主張する。先願の開示は本出願の開示の一部と見なされ、その全ては参照によって本出願の開示に組み込まれる。
【0002】
発明の分野
本発明は主に、ミトコンドリアを富化された細胞に関し、より具体的にはミトコンドリア富化細胞の同定方法に関する。
【背景技術】
【0003】
背景情報
ミトコンドリアの主な機能は、電子伝達鎖及び酸化的リン酸化系(「呼吸鎖」)によってアデノシン三リン酸(ATP)としてのエネルギーを発生することである。また、ミトコンドリアは真核細胞において、ピルビン酸酸化、クレブス回路、及びアミノ酸、脂肪酸、ステロイドの代謝等、多数の重要な役割を果たしている。ミトコンドリアが関与する他のプロセスは、熱産生、カルシウムイオンの貯蔵、カルシウムシグナル伝達、プログラム細胞死(アポトーシス)及び細胞増殖を含む。
【0004】
細胞内のATP濃度は典型的に1~10mMである。ATPは、単純及び複合糖(炭水化物)又は脂質をエネルギー源として使用する酸化還元反応によって生成可能である。ATPへと合成される複合燃料については、まず、より小さくて単純な分子に分解する必要がある。複合炭水化物は、グルコース及びフルクトース等の単糖類へと加水分解される。脂肪(トリグリセリド)は、代謝されて脂肪酸及びグリセロールを提供する。
【0005】
グルコースを二酸化炭素に酸化するプロセス全体は、細胞呼吸として知られ、単一分子のグルコースから約30分子のATPを生成できる。ATPは様々な細胞プロセスによって生成可能である。真核生物内でエネルギーを発生する3つの主な経路は、解糖、共に細胞呼吸の構成要素であるクエン酸回路/酸化的リン酸化、及びベータ酸化である。非光合成真核生物によるこのATP生成の大部分は、典型的な細胞の総体積のほぼ25%を占め得るミトコンドリア内で行われる。
【0006】
宿主細胞又は組織へのミトコンドリアの移入を誘導する試みが報告されている。殆どの方法は、ミトコンドリアの注入による能動的移入を要する。リポソーム等のビヒクル内に取り込まれたミトコンドリアの移入も知られている。mtDNA移入はインビトロで細胞間において自発的に起こる可能性があることが示されている。さらに、ミトコンドリア移入は、エンドサイトーシス又は内部移行によってインビトロで実証されている。
【0007】
ミトコンドリア富化細胞は疾患及び障害、特にミトコンドリア関連障害の治療に有用であることが示されている。したがって、外因性ミトコンドリアを富化された細胞を同定又は検出する方法が求められる。
【発明の概要】
【0008】
本発明は、外因性ミトコンドリアを富化された細胞の同定又は検出方法を提供する。本発明は、ミトコンドリア富化細胞の同定又は検出のためのキットをさらに提供する。
【0009】
1つの実施形態において、本発明は、細胞を代謝基質と接触させるステップと、前記代謝基質との接触後に前記細胞内の電子伝達を測定するステップとによって、細胞の、外因性ミトコンドリア富化を判定する方法を提供する。一態様において、前記細胞は、胎盤ミトコンドリア又は血液由来ミトコンドリアを富化される。特定の態様において、前記細胞は、幹細胞、前駆細胞又は骨髄由来幹細胞、多能性幹細胞、胚性幹細胞、人工多能性幹細胞、間葉系幹細胞、造血幹細胞、造血前駆細胞、骨髄前駆細胞、リンパ前駆細胞、巨核球、赤血球、マスト細胞、筋芽細胞、好塩基球、好中球、好酸球、単球、マクロファージ、ナチュラルキラー(NK)細胞、小リンパ球、Tリンパ球、Bリンパ球、形質細胞、細網細胞、骨髄造血細胞、赤血球生成細胞、又はそれらの任意の組合せである。様々な態様において、前記細胞はCD34+細胞である。一態様において、前記代謝基質はトリプタミン、D,L-a-グリセロールPO4、スクシナート、又はそれらの組合せである。追加の態様において、トリプタミンを利用する酵素は、ミトコンドリア内に位置するか、又はミトコンドリア膜に結合される。さらなる態様において、前記細胞は、前記細胞を外因性ミトコンドリアと接触させることで富化される。一態様において、比色アッセイは吸光度によって測定され、かつ増加した吸光度は、前記細胞が富化されていることを示す。追加の態様において、前記細胞と代謝基質との接触によってNADH及び/又はFADH2が産生される。
【0010】
追加の実施形態において、本発明は、細胞内のモノアミンオキシダーゼA(MAO-A)及び/又はモノアミンオキシダーゼB(MAO-B)のレベルを決定するステップによって、細胞の、胎盤ミトコンドリア富化を判定する方法であって、胎盤ミトコンドリアを富化された細胞が、富化されていない細胞に比べてMAO-A及び/又はMAO-Bの増加したレベルを有する、前記方法を提供する。一態様において、前記細胞は、幹細胞、前駆細胞又は骨髄由来幹細胞、多能性幹細胞、胚性幹細胞、人工多能性幹細胞、間葉系幹細胞、造血幹細胞、造血前駆細胞、骨髄前駆細胞、リンパ前駆細胞、巨核球、赤血球、マスト細胞、筋芽細胞、好塩基球、好中球、好酸球、単球、マクロファージ、ナチュラルキラー(NK)細胞、小リンパ球、Tリンパ球、Bリンパ球、形質細胞、細網細胞、骨髄造血細胞、赤血球生成細胞、又はそれらの任意の組合せである。特定の態様において、前記細胞はCD34+細胞である。追加の態様において、前記細胞は、前記細胞をミトコンドリアと接触させることで富化される。さらなる態様において、前記MAO-A及び/又はMAO-Bのレベルは質量分析によって決定される。
【0011】
さらなる実施形態において、本発明は、ミトコンドリアグリセロール-3-リン酸デヒドロゲナーゼのレベルを決定するステップによって、細胞の、外因性ミトコンドリア富化を判定する方法であって、ミトコンドリアを富化された細胞が、富化されていない細胞に比べてミトコンドリアグリセロール-3-リン酸デヒドロゲナーゼの増加したレベルを有する、前記方法を提供する。一態様において、前記細胞は、幹細胞、前駆細胞又は骨髄由来幹細胞、多能性幹細胞、胚性幹細胞、人工多能性幹細胞、間葉系幹細胞、造血幹細胞、造血前駆細胞、骨髄前駆細胞、リンパ前駆細胞、巨核球、赤血球、マスト細胞、筋芽細胞、好塩基球、好中球、好酸球、単球、マクロファージ、ナチュラルキラー(NK)細胞、小リンパ球、Tリンパ球、Bリンパ球、形質細胞、細網細胞、骨髄造血細胞、赤血球生成細胞、又はそれらの任意の組合せである。様々な態様において、前記細胞はCD34+細胞である。追加の態様において、前記細胞は、前記細胞をミトコンドリアと接触させることで富化される。様々な態様において、前記細胞は、胎盤ミトコンドリア又は血液由来ミトコンドリアを富化される。
【0012】
1つの実施形態において、本発明は、代謝基質と使用説明書とを有する、外因性ミトコンドリアを富化された細胞を同定するためのキットを提供する。一態様において、前記基質は、トリプタミン、D,L-a-グリセロールPO4、又はそれらの組合せである。追加の態様において、ミトコンドリアは胎盤ミトコンドリア又は血液由来ミトコンドリアである。
【0013】
1つの実施形態において、本発明は、細胞を代謝基質と接触させた後に比色アッセイによってミトコンドリア富化を判定するステップ、前記細胞内のモノアミンオキシダーゼA(MAO-A)及び/もしくはモノアミンオキシダーゼB(MAO-B)のレベルを決定するステップ、ならびに/又は前記細胞内のグリセロール-3-リン酸デヒドロゲナーゼのレベルを決定するステップによって、細胞の、外因性ミトコンドリア富化を判定する方法であって、ミトコンドリアを富化された細胞が、ミトコンドリアを富化されていない細胞に比べてモノアミンオキシダーゼA(MAO-A)、モノアミンオキシダーゼB(MAO-B)、及び/又はグリセロール-3-リン酸デヒドロゲナーゼのそれぞれ増加したレベルを有し、前記比色アッセイが、吸光度によって測定され、かつ吸光度の増加が、ミトコンドリア富化を示す、前記方法を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図2】インドール-3-アセトアルデヒドの形成の概略反応である。
【
図3-1】
図3A~
図3Fは、単離されたミトコンドリアによる基質利用を示す。Y軸は吸光度値からバックグラウンド値を差し引くことで計算されたΔODである。
図3Aはクエン酸である。
図3BはD,L-イソクエン酸である。
【
図3-2】
図3A~
図3Fは、単離されたミトコンドリアによる基質利用を示す。Y軸は吸光度値からバックグラウンド値を差し引くことで計算されたΔODである。
図3Cはcis-アコニット酸である。
図3Dはコハク酸である。
【
図3-3】
図3A~
図3Fは、単離されたミトコンドリアによる基質利用を示す。Y軸は吸光度値からバックグラウンド値を差し引くことで計算されたΔODである。
図3Eはトリプタミンである。
図3FはD,L-a-グリセロール-PO
4である。
【
図4-1】
図4A~
図4Eは、ミトコンドリア富化細胞による基質利用を示す。Y軸は、吸光度値からバックグラウンド値を差し引くことで計算されたΔODである。
図4Aはトリプタミンである。
図4BはD,L-a-グリセロール-PO
4である。
【
図4-2】
図4A~
図4Eは、ミトコンドリア富化細胞による基質利用を示す。Y軸は、吸光度値からバックグラウンド値を差し引くことで計算されたΔODである。
図4Cはクエン酸である。
図4DはD,L-イソクエン酸である。
【
図4-3】
図4A~
図4Eは、ミトコンドリア富化細胞による基質利用を示す。Y軸は、吸光度値からバックグラウンド値を差し引くことで計算されたΔODである。
図4Eはcis-アコニット酸である。
【
図5】トリプタミンの利用を示す。Y軸は、吸光度値からバックグラウンド値を差し引くことで計算されたΔODである。
【
図6A】
図6A~
図6Cは、胎盤ミトコンドリアを増強されたKG1a、LCL及びCD34+細胞の酸素消費速度(OCR)を示す図である。
図6Aは、胎盤ミトコンドリアを増強されたKG1a細胞の、複合体I及び複合体IIの基質を使用して測定されたOCRを示す図である。
【
図6B】
図6A~
図6Cは、胎盤ミトコンドリアを増強されたKG1a、LCL及びCD34+細胞の酸素消費速度(OCR)を示す図である。
図6Bは、胎盤ミトコンドリアを増強されたLCL細胞の、複合体I及び複合体IIの基質を使用して測定されたOCRを示す図である。
【
図6C】
図6A~
図6Cは、胎盤ミトコンドリアを増強されたKG1a、LCL及びCD34+細胞の酸素消費速度(OCR)を示す図である。
図6Cは、胎盤ミトコンドリアを増強されたCD34+細胞の、複合体Iの基質を使用して測定されたOCRを示す図である。
【
図7】単離されたミトコンドリアのトリプタミン利用を示す。
【
図8A】
図8A~
図8Bは、スクシナート利用を示す。
図8Aは、MitoPlate(Biolog)によってアッセイされた、胎盤由来ミトコンドリアのスクシナート利用活性及び血液由来ミトコンドリアのスクシナート利用活性を示す。
【
図8B】
図8A~
図8Bは、スクシナート利用を示す。
図8Bは、50Mの血液由来ミトコンドリア粒子のバックグラウンドに添加された、増加量の胎盤由来ミトコンドリア粒子(750kから35M)の、スクシナート利用活性を示す。
【発明を実施するための形態】
【0015】
発明の詳細な説明
本発明は、外因性ミトコンドリアを富化された細胞の同定又は検出方法を提供する。具体的には、ミトコンドリア富化細胞の同定又は検出は、基質の利用を測定することによる。いくつかの実施形態によれば、ミトコンドリア富化細胞の同定又は検出は酵素のレベルを決定することで行われる。いくつかの実施形態によれば、前記基質はトリプタミン、D,L-a-グリセロールPO4、スクシナート、又はそれらの組合せである。いくつかの実施形態によれば、モノアミンオキシダーゼA(MAO-A)、モノアミンオキシダーゼ-B(MAO-B)、又はグリセロール-3-リン酸デヒドロゲナーゼのレベルは決定されたものである。本発明はミトコンドリア富化細胞の同定又は検出のためのキットをさらに提供する。
【0016】
本組成物及び方法を説明する前に、本発明は、記載される特定の組成物、方法、及び実験条件に限定されず、そのような組成物、方法及び条件は変化し得ることを理解すべきである。本発明の範囲は添付の特許請求の範囲にのみ限定されるため、本明細書で使用される用語は特定の実施形態を説明する目的でのみ使用され、限定する意図がないものであることも理解すべきである。
【0017】
本明細書及び添付の特許請求の範囲で使用されるように、単数形「1つ(a)」、「1つ(an)」、及び「前記(the)」は、文脈上明らかに別段の指示がない限り、複数の言及を含む。したがって、例えば、「前記方法」への言及は、1つ又は複数の方法、及び/又は本開示等を読めば当業者に明らかになる、本明細書に記載されるタイプのステップを含む。
【0018】
本明細書で言及される全ての刊行物、特許、及び特許出願は、個々の刊行物、特許、又は特許出願が具体的に且つ個別に、参照によって組み込まれると示される限り、本明細書に同じ程度まで参照によって組み込まれる。
【0019】
他に定義されない限り、本明細書で使用される全ての技術用語及び科学用語は、本発明が属する技術分野の当業者によって一般に理解されるのと同じ意味を有する。本明細書に記載されるものと類似又は同等の任意の方法及び材料は本発明の実施又は試験に使用することができるが、修正及び変形は本開示の精神及び範囲内に含まれると理解すべきである。以下に好ましい方法及び材料を説明する。
【0020】
本発明は、例えばWO2016/135723に開示されているような、幹細胞及び骨髄細胞が、無傷の外因性ミトコンドリアの富化を良好に受け、ヒト骨髄細胞が、ミトコンドリアの富化を特に受けるという発見に部分的に基づくものである。いかなる理論又はメカニズムにも束縛されることなく、細胞と外因性ミトコンドリアの共インキュベーションは細胞へのミトコンドリアの移行を促進すると仮定する。具体的には、細胞と幹細胞又は骨髄外因性ミトコンドリアの共インキュベーションは幹細胞又は骨髄細胞へのミトコンドリアの移行を促進する。
【0021】
本発明は、ミトコンドリア富化細胞の同定又は検出のための方法及びキットを提供する。
【0022】
ミトコンドリアは細胞のエネルギー産生において主な役割を果たす。細胞内のミトコンドリアの量及び構造が変化し得るため、これらの細胞小器官が動的であることは明らかである。ミトコンドリアは複合体であり、1,000超のタンパク質からなり、その大部分はミトコンドリアDNAではなく核DNAによってコードされる。ミトコンドリアは、タンパク質に加えて、特殊な膜も有し、それらは、互いに作用し、及び小胞体等の細胞小器官と相互作用することができる。
【0023】
細胞内のミトコンドリア含有量の増加がクエン酸シンターゼ(CS)活性又はCoxI量のレベルの増加をもたらすため、現在のミトコンドリア増強の解決手段はこれらのパラメータのレベルの相対的な増加を定量化することに基づくものである。
【0024】
これらの方法を使用する欠点の1つは、細胞内の増加したミトコンドリア発現が、細胞に進入する外因性ミトコンドリアによるか、それとも内因性ミトコンドリア発現の増加等の他の原因(例えば、増強中に細胞が受けるストレス)によるかを判定するために、他の方法から独立して使用することができないことである。
【0025】
さらに、現在の利用可能な方法は、発現の相対的変化に基づくものであるため、CS活性又はCoxI量のレベルが増加したか否かを判定するために対照としての未処理細胞を有する必要がある。
【0026】
本発明は、トリプタミン利用を検出するアッセイが、ミトコンドリアを富化された細胞の同定に使用可能であることを実証する。特定の態様において、MAOの存在及び/又はグリセロール-3-リン酸デヒドロゲナーゼのレベルが決定される。これらの反応の成分を測定することにより、細胞が外因性ミトコンドリアを富化されているか否かを判定する新規な方法が提供される。
【0027】
トリプタミンは、インドール環構造を有するモノアミンアルカロイドである。トリプタミンが関与する反応はいくつかある。トリプタミン生合成は通常、前駆体アミノ酸であるトリプトファンから始まる。トリプタミンの酸化は
図1に示すとおりである。この反応は、モノアミンオキシダーゼ(MAO)又はアミロライド感受性アミンオキシダーゼ(AOC1)の2つの異なる酵素によって触媒され得る。MAOは、MAO-AとMAO-Bの2つの形態がある。MAO-Aは、ドーパミン、ノルエピネフリン、セロトニン等のアミンの酸化的脱アミノ化を触媒する酵素である。MAO-Aは主にミトコンドリアの外膜に位置するが、サイトゾルにも見られる。MAO-Bは生体アミン及び生体異物アミンの酸化的脱アミノ化を触媒し、中枢神経系及び末梢組織における神経活性アミン及び血管活性アミン(ドーパミン等)の異化に重要な役割を果たし、ベンジルアミン及びフェネチルアミンを優先的に分解する。MAO-Bはミトコンドリアの外膜に位置する。MAO-AとMAO-Bは両方とも様々な組織にも位置し、胎盤内で高レベルを有する。AOC1は、プトレシン、ヒスタミン、スペルミン、スペルミジン等の化合物、アレルギー及び免疫応答、細胞増殖、組織分化、腫瘍形成、及び場合によってはアポトーシスに関与する物質の分解を触媒する。AOC1はペルオキシソーム、形質膜、細胞外領域に位置するか、又は分泌される。AOC1は様々な組織に位置し、胎盤内で比較的中程度の発現レベルを有する。
【0028】
別の反応において、トリプタミン酸化反応(反応I)の一部として形成されたインドール-3-アセトアルデヒドは、アルデヒドデヒドロゲナーゼ(NAD+)ファミリーの酵素(ALDH2(ミトコンドリア酵素)、ALDH1B1(ミトコンドリア酵素)、ALDH9A1、ALDH3A2、ALDH7A1を含む)によってさらに触媒されてNADHを形成する(
図2)。一部のNAD+ファミリーの酵素はミトコンドリアマトリックス酵素であり、細胞質のものもある。
【0029】
トリプタミンが関与する他の反応はメチル化及びアセチル化である。メチル化は、インドールエチルアミンN-メチルトランスフェラーゼ(INMT)によって触媒される。アセチル化は、アラルキルアミンN-アセチルトランスフェラーゼ(AANAT)によって触媒される。これらの反応及びこれらの反応の生成物が関与する直接の下流反応は、NAD+又はFAD+を生成しない。
【0030】
ミトコンドリアグリセロール-3-リン酸デヒドロゲナーゼは、FADH2を形成するFAD+還元と結合した、グリセロール3-リン酸(別称D,L-グリセロール-PO4)のジヒドロキシアセトンリン酸(旧称グリセロンリン酸)への変換を触媒する酵素である。
【0031】
1つの実施形態において、本発明は、細胞を代謝基質と接触させるステップと、前記代謝基質との接触後に前記細胞内の電子伝達を測定するステップとによって、細胞の、外因性ミトコンドリア富化を判定する方法を提供する。特定の態様において、前記電子伝達を測定するステップは、比色アッセイ、蛍光アッセイ、発光アッセイ、又は酸素消費量によるものである。一態様において、前記細胞は胎盤ミトコンドリア又は血液由来ミトコンドリアを富化される。追加の態様において、前記細胞は胎盤ミトコンドリアを富化される。特定の態様において、前記細胞は、幹細胞、前駆細胞又は骨髄由来幹細胞、多能性幹細胞、胚性幹細胞、人工多能性幹細胞、間葉系幹細胞、造血幹細胞、造血前駆細胞、骨髄前駆細胞、リンパ前駆細胞、巨核球、赤血球、マスト細胞、筋芽細胞、好塩基球、好中球、好酸球、単球、マクロファージ、ナチュラルキラー(NK)細胞、小リンパ球、Tリンパ球、Bリンパ球、形質細胞、細網細胞、骨髄造血細胞、赤血球生成細胞、又はそれらの任意の組合せである。様々な態様において、前記細胞はCD34+細胞である。一態様において、前記代謝基質は、トリプタミン、D,L-a-グリセロールPO4、スクシナート、又はそれらの組合せである。特定の態様において、前記代謝基質はトリプタミンである。特定の態様において、前記代謝基質はスクシナートである。追加の態様において、トリプタミンを利用する酵素は前記ミトコンドリア内に位置するか又は前記ミトコンドリア膜に結合される。さらなる態様において、前記細胞は、前記細胞を外因性ミトコンドリアと接触させることで富化される。一態様において、前記比色アッセイは吸光度によって測定され、かつ増加した吸光度は、前記細胞が富化されていることを示す。追加の態様において、細胞と代謝基質との接触により、NADH及び/又はFADH2が産生される。
【0032】
一態様において、単離された標的細胞は、幹細胞、前駆細胞又は骨髄由来幹細胞、多能性幹細胞、胚性幹細胞、人工多能性幹細胞、間葉系幹細胞、造血幹細胞、造血前駆細胞、骨髄前駆細胞、リンパ前駆細胞、巨核球、赤血球、マスト細胞、筋芽細胞、好塩基球、好中球、好酸球、単球、マクロファージ、ナチュラルキラー(NK)細胞、小リンパ球、Tリンパ球、Bリンパ球、形質細胞、細網細胞、骨髄造血細胞、赤血球生成細胞、又はそれらの任意の組合せから選択される。さらなる態様において、前記単離された細胞はCD34+である。
【0033】
本明細書で使用されるように、用語「富化する」又は「増強する」は互換的に使用され、例えば無傷のミトコンドリアの数、又は哺乳類細胞のミトコンドリアの機能性等、前記ミトコンドリア含有量を増加させるように設計された任意の行動を指す。特定の態様において、外因性ミトコンドリアを富化された標的細胞は、富化前の同標的細胞に比べて強化された機能を示す。
【0034】
本明細書で使用されるように、用語「標的細胞」は、外因性ミトコンドリアを富化された又は富化される細胞である。様々な態様において、前記標的細胞は幹細胞、前駆細胞又は骨髄由来幹細胞である。具体的には、標的細胞は多能性幹細胞、胚性幹細胞、人工多能性幹細胞、間葉系幹細胞、造血幹細胞、造血前駆細胞、共通骨髄前駆細胞、共通リンパ前駆細胞、CD34+細胞、及びそれらの任意の組合せを含む。
【0035】
本明細書で使用されるように、用語「幹細胞」は、一般に任意の哺乳類幹細胞を指す。幹細胞は、他の種類の細胞に分化でき、且つ分裂して同じ種類の幹細胞をさらに生成できる未分化細胞である。幹細胞は全能性又は多能性のいずれかであってもよい。
【0036】
本明細書で使用されるように、用語「ヒト幹細胞」は一般にヒトに天然に見出される全ての幹細胞、及び生体外で生成された又は生体外に由来する全ての幹細胞を指し、ヒトとの適合性がある。いくつかの態様において、前記ヒト幹細胞は自己由来である。いくつかの態様において、前記ヒト幹細胞は同種異系である。「前駆細胞」は、幹細胞と同様に、特定の種類の細胞に分化する傾向にあるが、すでに幹細胞よりも特異的であり、その「標的」細胞に分化するようにされる。幹細胞と前駆細胞の最も重要な相違点は、幹細胞は無限に複製できるのに対し、前駆細胞は限られた回数しか分裂できない点である。用語「ヒト幹細胞」は、本明細書で使用されるように、「前駆細胞」及び「完全には分化していない幹細胞」をさらに含む。
【0037】
特定の態様において、前記幹細胞は多能性幹細胞(PSC)である。いくつかの態様において、前記幹細胞は誘導PSC(iPSC)である。特定の態様において、前記幹細胞は胚性幹細胞である。特定の態様において、前記幹細胞は骨髄細胞に由来する。具体的な態様において、前記幹細胞はCD34+細胞である。具体的な態様において、前記幹細胞は間葉系幹細胞である。別の態様において、前記幹細胞は脂肪組織に由来する。さらに別の態様において、前記幹細胞は血液に由来する。さらなる態様において、前記幹細胞は臍帯血に由来する。さらなる態様において、前記幹細胞は口腔粘膜に由来する。特定の態様において、障害の疾患に罹患した患者又は健康な対象から得られた幹細胞は骨髄細胞又は骨髄由来幹細胞である。
【0038】
本明細書で使用されるように、用語「多能性幹細胞(PSC)」は、無限に増殖でき且つ体内で複数の細胞型を生じることができる細胞を指す。全能性幹細胞は、体内で他のあらゆる細胞型を生じることができる細胞である。胚性幹細胞(ESC)は全能性幹細胞であり、人工多能性幹細胞(iPSC)は多能性幹細胞である。
【0039】
本明細書で使用されるように、用語「人工多能性幹細胞(iPSC)」は、ヒト成人体細胞から生成され得る多能性幹細胞の一種を指す。本明細書においてiPSCを生成可能な体細胞のいくつかの非限定的な例としては、線維芽細胞、内皮細胞、毛細血管血球、角化細胞、骨髄細胞、上皮細胞を含む。
【0040】
本明細書で使用されるように、用語「胚性幹細胞(ESC)」は、胚盤胞の内部細胞塊に由来する全能性幹細胞の1種を指す。
【0041】
本明細書で使用されるように、用語「骨髄細胞」は、ヒトの骨髄に自然に見出される全てのヒト細胞、及びヒトの骨髄に自然に見出される全ての細胞集団を指す。用語「骨髄幹細胞」及び「骨髄由来幹細胞」は、骨髄に由来する幹細胞集団を指す。
【0042】
いくつかの態様において、前記標的細胞は多能性幹細胞、胚性幹細胞、人工多能性幹細胞、間葉系幹細胞、造血幹細胞、造血前駆細胞、共通骨髄前駆細胞、共通リンパ前駆細胞、CD34+細胞、及びそれらの任意の組合せである。
【0043】
いくつかの態様において、前記自己由来又は同種異系ヒト幹細胞は多能性幹細胞(PSC)又は人工多能性幹細胞(iPSC)である。さらなる態様において、前記自己由来又は同種異系ヒト幹細胞は間葉系幹細胞である。
【0044】
いくつかの態様によれば、前記ヒト幹細胞は脂肪組織、口腔粘膜、血液、臍帯血又は骨髄に由来する。特定の態様において、前記ヒト幹細胞は骨髄に由来する。
【0045】
特定の態様において、骨髄由来幹細胞は骨髄造血細胞を含む。用語「骨髄造血細胞」は、本明細書で使用されるように、骨髄造血に関与する細胞、例えば、骨髄及び骨髄から生じる全ての細胞即ち全ての血液細胞の産生に関与する細胞を指す。
【0046】
特定の態様において、骨髄由来幹細胞は赤血球生成細胞を含む。用語「赤血球生成細胞」は、本明細書で使用されるように、赤血球生成に関与する細胞、例えば、赤色血液細胞(赤血球)の産生に関与する細胞を指す。
【0047】
特定の態様において、骨髄由来幹細胞は多能性造血幹細胞(HSC)を含む。用語「多能性造血幹細胞」又は「血球芽細胞」は、本明細書で使用されるように、造血のプロセスによって他の全ての血液細胞を生じる幹細胞を指す。
【0048】
特定の態様において、骨髄由来幹細胞は共通骨髄前駆細胞、共通リンパ前駆細胞、又はそれらの任意の組合せを含む。特定の態様において、骨髄由来幹細胞は間葉系幹細胞を含む。用語「共通骨髄前駆細胞」は、本明細書で使用されるように、骨髄細胞を生成する細胞を指す。用語「共通リンパ前駆細胞」は、本明細書で使用されるように、リンパ球を生成する細胞を指す。
【0049】
特定の態様において、骨髄由来幹細胞は巨核球、赤血球、マスト細胞、筋芽細胞、好塩基球、好中球、好酸球、単球、マクロファージ、ナチュラルキラー(NK)細胞、小リンパ球、Tリンパ球、Bリンパ球、形質細胞、細網細胞、又はそれらの任意の組合せをさらに含む。
【0050】
特定の態様において、骨髄由来幹細胞は間葉系幹細胞を含む。用語「間葉系幹細胞」は、本明細書で使用されるように、骨芽細胞、軟骨細胞、筋細胞及び脂肪細胞を含む様々な細胞型に分化できる多能性間質細胞を指す。
【0051】
特定の態様において、骨髄由来幹細胞は骨髄造血細胞を含む。特定の態様において、骨髄由来幹細胞は赤血球生成細胞からなる。特定の態様において、骨髄由来幹細胞は多能性造血幹細胞(HSC)を含む。特定の態様において、骨髄由来幹細胞は共通骨髄前駆細胞、共通リンパ前駆細胞、又はそれらの任意の組合せを含む。特定の態様において、骨髄由来幹細胞は巨核球、赤血球、マスト細胞、筋芽細胞、好塩基球、好中球、好酸球、単球、マクロファージ、ナチュラルキラー(NK)細胞、小リンパ球、Tリンパ球、Bリンパ球、形質細胞、細網細胞、又はそれらの任意の組合せを含む。特定の態様において、骨髄由来幹細胞は間葉系幹細胞からなる。特定の態様において、幹細胞は末梢血から得られた複数のヒト骨髄幹細胞を含む。
【0052】
CD34抗原としても知られる造血前駆細胞抗原CD34は、ヒトにおいてCD34遺伝子によってコードされるタンパク質である。CD34は、細胞表面糖タンパク質内の表面抗原分類であり、細胞-細胞接着因子として機能する。特定の態様において、骨髄幹細胞は骨髄前駆細胞抗原CD34を発現する(CD34+である)。特定の態様において、骨髄幹細胞はその外膜上に骨髄前駆細胞抗原CD34を提示させる。特定の態様において、CD34+細胞は臍帯血からのものである。
【0053】
本明細書で使用されるように、用語「CD34+細胞」は、起源に関わらず、CD34陽性として特徴付けられる造血幹細胞を指す。特定の態様において、CD34+細胞は、骨髄、血液に動員された骨髄細胞、又は臍帯血から得られる。
【0054】
本明細書で使用されるように、「障害に罹患した対象又は障害に罹患していない提供者から得られた幹細胞」という表現は、対象から単離される時点で対象/提供者に存在する幹細胞を指す。
【0055】
本明細書で使用されるように、「障害に罹患した対象又は障害に罹患していない提供者に由来する幹細胞」という表現は、対象/提供者に存在する幹細胞ではなく、幹細胞となるように操作された細胞を指す。用語「操作された」は、本明細書で使用されるように、体細胞を、未分化状態になり人工多能性幹細胞(iPSC)となるように再プログラムし、及び、任意に、前記iPSCを、所望の系統又は集団(Chen M. et al., IOVS, 2010, Vol. 51(11), pages 5970-5978)の細胞、例えば骨髄細胞(Xu Y. et al., PLoS ONE, 2012, Vol. 7(4), page e3432l)となるようにさらに再プログラムするための本分野で知られている方法のいずれかの使用(Yu J. et al., Science, 2007, Vol. 318(5858), pages 1917-1920)を指す。
【0056】
特定の態様において、幹細胞は、疾患又は障害に罹患した対象に直接由来する。特定の態様において、幹細胞は提供者に直接由来する。用語「直接由来する」は、本明細書で使用されるように、別の細胞に直接由来する幹細胞を指す。特定の態様において、造血幹細胞(HSC)は骨髄細胞に由来する。特定の態様において、造血幹細胞(HSC)は末梢血に由来する。
【0057】
特定の態様において、幹細胞は、疾患又は障害に罹患した対象に間接的に由来する。特定の態様において、幹細胞は提供者に間接的に由来する。用語「間接的に由来する」は、本明細書で使用されるように、非幹細胞に由来する幹細胞を指す。特定の態様において、幹細胞は、人工多能性幹細胞(iPSC)となるように操作された体細胞に由来する。
【0058】
いくつかの態様において、標的細胞は、全血、血液画分、末梢血、PBMC、血清、血漿、脂肪組織、口腔粘膜、血液、臍帯血又は骨髄から得られる。特定の態様において、幹細胞は疾患又は障害に罹患した対象の骨髄から直接得られる。特定の態様において、幹細胞は提供者の骨髄から直接得られる。用語「直接得られた」は、本明細書で使用されるように、骨髄自体から、例えば手術又は注射器の針による吸引によって得られた幹細胞を指す。
【0059】
特定の態様において、標的細胞は疾患又は障害に罹患した患者の骨髄から間接的に得られる。特定の態様において、標的細胞は提供者の骨髄から間接的に得られる。用語「間接的に得られた」は、本明細書で使用されるように、骨髄自体以外の場所から得られた骨髄細胞を指す。
【0060】
特定の態様において、標的細胞は疾患又は障害に罹患した対象の末梢血から得られる。特定の態様において、標的細胞は健康な提供者又は対象の末梢血から得られる。用語「末梢血」は、本明細書で使用されるように、前記血液系を循環する血液を指す。
【0061】
本明細書で使用されるように、用語「自己由来細胞」又は「自己由来である細胞」は互換的に使用され、患者自身の細胞を指す。
【0062】
追加の態様において、単離された標的細胞は遺伝子組換え細胞である。特定の態様において、前記遺伝子組換え細胞はT細胞である。特定の態様において、前記遺伝子組換え細胞はT細胞受容体(TCR)又はキメラ抗原受容体(CAR)形質導入T細胞である。
【0063】
用語「リンパ球」は、本明細書で使用されるように、身体を病気から防御する際に主要な役割を果たす白血球を指し、T細胞、ナチュラルキラー細胞(NK細胞)、B-細胞及びそれらの混合物を含む。上記で挙げられた免疫細胞タイプはさらなるサブセットに分類できる。いくつかの態様において、リンパ球は成熟リンパ球である。いくつかの態様において、リンパ球は非遺伝子組換えリンパ球である。別の態様において、リンパ球は遺伝子組換えリンパ球である。
【0064】
用語「T細胞」及び「Tリンパ球」は本明細書で互換的に使用される。T細胞は、様々な免疫関連機能を提供することで免疫応答の制御と形成に重要な役割を担う特定の種類のリンパ球である。T細胞は細胞表面上のT細胞受容体(TCR)の存在によって別のリンパ球から区別できる。用語「T細胞」は、本明細書で使用されるように、細胞傷害性T細胞、ヘルパーT細胞、制御性T細胞及びナチュラルキラーT細胞(NKT)を含む。いくつかの態様によれば、T細胞はT細胞前駆体である。別の態様によれば、T細胞は成熟T細胞である。いくつかの態様によれば、T細胞は完全に分化したT細胞である。
【0065】
いくつかの態様によれば、標的細胞は哺乳類対象、好ましくはヒト対象に由来する。
【0066】
本明細書で使用されるように、用語「ミトコンドリア富化細胞」又は「ミトコンドリア富化標的細胞」は互換的に使用され、外因性ミトコンドリアが挿入された任意の細胞を指す。細胞は標的細胞であってもよい。細胞は幹細胞であってもよい。
【0067】
本明細書で使用されるように、用語「ミトコンドリア富化T細胞」は、外因性ミトコンドリアが挿入されたT細胞を指す。
【0068】
本明細書で使用されるように、用語「ミトコンドリア富化造血幹細胞」は、外因性ミトコンドリアが挿入された造血幹細胞である。
【0069】
用語「同種異系細胞」は、対象以外の異なる提供者個体等の供給源からの細胞を指す。
【0070】
用語「同系」は、本明細書及び特許請求の範囲で使用されるように、拒絶反応なく個体間の移植を可能にするのに十分な遺伝的同一性又は遺伝的ほぼ同一性を指す。ミトコンドリアのコンテキストにおける同系という用語は、本明細書では、同じ母方血統を意味する自己由来ミトコンドリアという用語と互換的に使用される。
【0071】
特定の態様において、幹細胞であり得るミトコンドリア富化標的細胞は、(i)ミトコンドリア富化前の標的細胞内のミトコンドリアDNA含有量に比べて増加したミトコンドリアDNA含有量、(ii)ミトコンドリア富化前の標的細胞内の酸素(O2)消費速度に比べて増加した酸素(O2)消費速度、(iii)ミトコンドリア富化前の標的細胞内のクエン酸シンターゼ含有量又は活性レベルに比べて増加したクエン酸シンターゼ含有量又は活性レベル、(iv)ミトコンドリア富化前の標的細胞内のアデノシン三リン酸(ATP)産生率に比べて増加したアデノシン三リン酸(ATP)産生率、(v)より低いヘテロプラスミーレベル、又は(i)、(ii)、(iii)、(iv)、及び(v)の任意組合せ、のうちの少なくとも1つを有する。
【0072】
特定の態様において、標的細胞は、障害に罹患した対象と同種異系である。用語「対象と同種異系である」は、患者の細胞とHLA適合であるか又は少なくとも部分的にHLA適合である幹細胞又はミトコンドリアを指す。特定の態様によれば、提供者は特定のミトコンドリアDNAハプログループの同定に基づいて対象とマッチする。特定の態様において、対象は幹細胞及び/又はミトコンドリアの供給源である。
【0073】
用語「HLA適合」は、本明細書で使用されるように、対象と標的細胞の提供者が、少なくとも対象が提供者の標的細胞に対して急性免疫応答を発症しない程度まで、可能な限り密接に一致するという要望を指す。このような免疫応答の予防及び/又は治療は、免疫抑制剤の短期間又は長期間使用の有無に関わらず達成され得る。特定の態様において、提供者からの標的細胞は、患者が標的細胞を拒絶しない程度に患者とHLA適合である。
【0074】
用語「ハプログループ」は、本明細書で使用されるように、母系上で共通の祖先を共有する人々の遺伝的集団グループを指す。ミトコンドリアハプログループは配列決定によって決定される。
【0075】
特定の態様において、ミトコンドリアは同一のハプログループからのものである。別の態様において、ミトコンドリアは異なるハプログループからのものである。
【0076】
いくつかの態様において、標的細胞はインビトロで培養及び増殖される。特定の態様において、標的細胞はミトコンドリア富化の前又は後に少なくとも1回の凍結解凍サイクルを受ける。
【0077】
様々な態様において、外因性ミトコンドリアは対象又は提供者から単離される。特定の態様によれば、外因性ミトコンドリアは、対象の障害に応じて、特定のミトコンドリアハプログループから選択される提供者から単離される。
【0078】
様々な態様において、外因性ミトコンドリアは、新鮮である、凍結されている、又は凍結解凍されている。
【0079】
本明細書で使用されるように、用語「提供者」は、外因性ミトコンドリアを提供する提供者を指す。いくつかの態様において、提供者は、疾患又は障害を患っていないか、又は対象が罹患している同じ疾患又は障害を患っていない。
【0080】
ミトコンドリアに関する用語「外因性」又は「単離された外因性」は、細胞の外部の供給源から標的細胞(例えば、幹細胞)に導入されるミトコンドリアを指す。例えば、いくつかの態様において、外因性ミトコンドリアは一般に、標的細胞と異なる提供者細胞に由来するか又はそこから単離される。例えば、外因性ミトコンドリアは提供者細胞内で生成又は作製され、提供者細胞から精製、単離又は取得され、その後、標的細胞内に導入され得る。外因性ミトコンドリアは、提供者から得られた場合に同種異系であるか、又は対象から得られた場合に自己由来であってもよい。単離されたミトコンドリアは機能的ミトコンドリアを含み得る。特定の態様において、外因性ミトコンドリアはミトコンドリア全体である。
【0081】
本明細書で使用されるように、ミトコンドリアのコンテキストにおける用語「単離された」及び「部分的に精製された」は、別の細胞成分から少なくとも部分的に精製された外因性ミトコンドリアを含む。単離又は部分的に精製された外因性ミトコンドリア内のミトコンドリアタンパク質の総量は、サンプル内の細胞タンパク質の総量の10%~90%である。
【0082】
本明細書で使用されるように、用語「機能的ミトコンドリア」は、正常なミトコンドリアDNA(mtDNA)及び正常な非病理学的レベルの活性を指し示すパラメータを示すミトコンドリアを指す。ミトコンドリアの活性、例えば、膜電位、O2消費、ATP産生、クエン酸シンターゼ(CS)活性レベル等は、本分野で公知の様々な方法によって測定することができる。
【0083】
特定の態様において、外因性ミトコンドリアはミトコンドリア富化細胞内のミトコンドリア総含有量の少なくとも1%を構成する。特定の態様において、外因性ミトコンドリアはミトコンドリア富化標的細胞内のミトコンドリア総含有量の少なくとも10%を構成する。いくつかの態様において、前記外因性ミトコンドリアはミトコンドリア富化標的細胞内のミトコンドリア総含有量の少なくとも約3%、5%、10%、15%、20%、25%、30%、40%又は50%を構成する。特定の態様において、単離されたミトコンドリア内のミトコンドリアタンパク質の総量は、細胞タンパク質の総量の10~90%、20~80%、20~70%、40~70%、20~40%、又は20~30%である。特定の態様において、単離されたミトコンドリア内のミトコンドリアタンパク質の総量は、サンプル内の細胞タンパク質の総量の20%~80%である。特定の態様において、単離されたミトコンドリア内のミトコンドリアタンパク質の総量は、ミトコンドリアと別の細胞成分画分の組合せ重量の20%~80%である。別の態様において、単離されたミトコンドリア内のミトコンドリアタンパク質の総量は、ミトコンドリアと別の細胞成分画分との組合せ重量の80%超である。
【0084】
特定の態様において、外因性ミトコンドリアはヒト細胞又はヒト組織から得られる。いくつかの態様において、ヒト細胞又はヒト組織は、胎盤細胞、培養で成長した胎盤細胞、及び血液細胞から選択される。いくつかの態様において、前記ヒト細胞はヒト幹細胞である。いくつかの実施形態において、ヒト細胞はヒト体細胞である。いくつかの態様において、細胞は培養細胞である。体細胞のいくつかの非限定的な例としては、線維芽細胞、内皮細胞、毛細血管血球、角化細胞、骨髄細胞、及び上皮細胞を含む。
【0085】
ミトコンドリアに関する用語「自己由来」は、標的細胞(例えば、幹細胞)へと該細胞と同じ供給源から導入されるミトコンドリアを指す。例えば、いくつかの態様において、自己由来ミトコンドリアは標的細胞の供給源である対象に由来するか又はそこから単離される。例えば、自己由来ミトコンドリアは、対象の細胞から精製/単離/取得され、その後、対象の標的細胞に導入され得る。用語「自己由来ミトコンドリア」は、患者自身の細胞又は母系的に関係のある細胞から得られたミトコンドリアを指す。用語「同種異系ミトコンドリア」は、異なる提供者個体からのミトコンドリアを指す。
【0086】
ミトコンドリアに関する用語「内因性」は、細胞によって作製/発現/産生されており、外部供給源から細胞に導入されていないミトコンドリアを指す。いくつかの態様において、内因性ミトコンドリアは細胞のゲノムによってコードされるタンパク質及び/又は別の分子を含有する。いくつかの態様において、用語「内因性ミトコンドリア」は用語「宿主ミトコンドリア」に相当する。
【0087】
特定の態様において、外因性ヒトミトコンドリアは、ヒト幹細胞であり得る標的細胞に導入されるため、これらの細胞は外因性ミトコンドリアを富化される。特定の態様において、標的細胞は、標的細胞を外因性ミトコンドリアと接触又はインキュベートすることによって、外因性ミトコンドリアを富化される。前記接触又はインキュベートは外因性又は単離されたミトコンドリアが標的細胞に進入できる条件下で行われる。
【0088】
このような富化により標的細胞のミトコンドリア含有量が変化することを理解すべきであり、そのうち、ナイーブヒト標的細胞は実質的に宿主/自己由来ミトコンドリアの1つの集団を有するが、外因性ミトコンドリアを富化された標的細胞は実質的に、宿主/内因性ミトコンドリアの1つの集団と、導入されたミトコンドリア(即ち、外因性ミトコンドリア)の別の集団という、2つのミトコンドリアの集団を有する。したがって、用語「富化された」は外因性ミトコンドリアの受け取り/取り込み後の細胞の状態に関する。ミトコンドリアの2つの集団間の数及び/又は比率は、2つの集団が例えばミトコンドリアDNA等の点で相違し得るため、簡単に決定できる。したがって、「外因性ヒトミトコンドリアを富化されたヒト細胞」という表現は、「内因性ミトコンドリア及び単離された外因性ミトコンドリアを含むヒト細胞」という表現に相当する。例えば、ミトコンドリア総含有量の少なくとも1%の単離された外因性ミトコンドリアを含むヒト標的細胞は、99:1の比率で宿主内因性ミトコンドリアと単離された外因性ミトコンドリアとを含むと考えられる。例えば、「総ミトコンドリアの3%」は、富化後、元の(内因性)ミトコンドリア含有量が総ミトコンドリアの97%であり、導入された(外因性)ミトコンドリアが総ミトコンドリアの3%であることを意味し、これは(3/97=)3.1%富化に相当する。別の例において、「総ミトコンドリアの33%」は、富化後、元の(内因性)ミトコンドリア含有量が総ミトコンドリアの67%であり、導入された(外因性)ミトコンドリアが総ミトコンドリアの33%であることを意味し、これは(33/67=)49.2%富化に相当する。
【0089】
いくつかの態様において、内因性ミトコンドリアの、外因性ミトコンドリアからの同定/区別は、後者が標的細胞に導入された後、例えば、内因性ミトコンドリアと外因性ミトコンドリアとの間のmtDNA配列、例えば異なるハプロタイプの差の同定、及び外因性ミトコンドリアの供給源組織、例えば、胎盤からのチトクロムp450コレステロール側鎖切断酵素(P450SCC)、褐色脂肪組織からのUCP1等又はそれらの任意の組合せに由来する特定のミトコンドリアタンパク質の同定を含むがそれらに限定されない様々な手段によって、実行できる。
【0090】
ヘテロプラスミーは細胞又は個体内に1種超のミトコンドリアDNAが存在することである。ヘテロプラスミーレベルは、野生型/機能性mtDNA分子に対する変異型mtDNA分子の割合であり、ミトコンドリア疾患の重症度を考慮する際の重要な要因である。より低いヘテロプラスミーレベル(機能しているミトコンドリアの量が十分である)は健康な表現型に関連するが、より高いヘテロプラスミーレベル(機能しているミトコンドリアの量が不十分である)は病状に関連する。特定の態様において、富化された幹細胞のヘテロプラスミーレベルは、対象又は提供者から取得された又はそこから由来する幹細胞のヘテロプラスミーレベルより少なくとも1%、3%、5%、15%、20%、25%、又は30%低い。
【0091】
本明細書で使用されるように、用語「ミトコンドリア富化標的細胞」又は「ミトコンドリア富化細胞」は互換的に使用され、外因性ミトコンドリアが挿入された標的細胞を指す。特定の態様において、ミトコンドリア富化標的細胞はCD45、CD3、CD33、CD14、CD19、CD11、CD15、CD16を発現する細胞に分化する。特定の態様において、ミトコンドリア富化標的細胞はCD45、CD3、CD33、CD14、又はCD19を発現する。CD45は赤血球及び形質細胞を除いた造血系統の全ての細胞に存在する受容体連結タンパク質チロシンホスファターゼである。CD3は免疫応答効率のマーカーである。具体的には、CD3は前胸腺細胞内で発現される。細胞上のCD45及びCD3の発現は、フローサイトメトリーを含む本分野で知られている任意の手段によって決定してもよい。
【0092】
いくつかの態様において、上述した方法は、標的細胞の増殖が可能な増殖培地中で前記幹細胞を培養することによって標的細胞を増殖させるステップをさらに含む。別の態様において、該方法は、標的細胞の増殖が可能な培養又は増殖培地中で前記細胞を培養することによってミトコンドリア富化標的細胞を増殖させるステップをさらに含む。本出願を通じて使用されるように、用語「培養又は増殖培地」は、細胞培養培地、細胞成長培地、細胞に栄養を与える緩衝液等の流体培地である。
【0093】
本明細書で使用されるように、用語「接触」は、ミトコンドリアの細胞への進入を促進するようにミトコンドリアと細胞を十分に近付けることを指す。ミトコンドリアの標的細胞への導入又は挿入という用語は、接触という用語と互換的に使用される。
【0094】
「単離されたミトコンドリアが標的細胞に進入できる条件」という表現は、本明細書で使用されるように、一般に、時間、温度、培養培地及びミトコンドリアと幹細胞の接近度等のパラメータを指す。例えば、ヒト細胞及びヒト細胞株は通常、流体培地中でインキュベートされ、組織培養インキュベーター等の無菌環境に、37℃及び5%CO2雰囲気で保管される。本明細書に開示及び例示される代替的な態様によれば、細胞はヒト血清アルブミンを補足した生理食塩水中で室温にてインキュベートされ得る。
【0095】
特定の態様において、ヒト標的細胞は0.5~30時間の範囲の時間、約16~約37℃の温度で、単離されたミトコンドリアとともにインキュベートされる。特定の態様において、ヒト標的細胞は1~30又は5~25時間の範囲の時間、単離されたミトコンドリアとともにインキュベートされる。特定の態様において、インキュベーションは20~30時間行う。いくつかの態様において、インキュベーションは少なくとも1、3、5、8、10、13、15、18、20、21、22、23又は24時間行う。別の態様において、インキュベーションは5、10、15、20又は30時間行う。特定の態様において、インキュベーションは24時間行う。特定の態様において、インキュベーションは標的細胞内のミトコンドリア含有量が初期のミトコンドリア含有量に比べて平均して1%~45%増加するまで行う。
【0096】
いくつかの態様において、インキュベーションは室温(16℃~30℃)で行う。別の態様において、インキュベーションは37℃で行う。いくつかの態様において、インキュベーションは5%CO2雰囲気で行う。別の態様において、インキュベーションは空気中のレベルを超える添加CO2を含まない。
【0097】
さらに別の態様において、インキュベーションは、ヒト血清アルブミン(HSA)を補足した培養培地中で行う。追加の態様において、インキュベーションはHSAを補足した生理食塩水中で行う。特定の例示的態様によれば、単離された外因性ミトコンドリアをヒト幹細胞に進入させることで、前記ヒト標的細胞が前記ヒト外因性ミトコンドリア富化される条件は、4.5%ヒト血清アルブミンを補足した生理食塩水中での室温下のインキュベーションを含む。
【0098】
一態様において、ミトコンドリアは提供者から得られる。別の態様において、外因性ミトコンドリアは自己由来又は標的細胞と同種異系である。
【0099】
特定の態様において、インキュベーションは室温で行う。特定の態様において、インキュベーションは少なくとも6時間行う。特定の態様において、インキュベーションは少なくとも12時間行う。特定の態様において、インキュベーションは12~24時間行う。特定の態様において、条件は、CS活性による測定で、ナイーブ標的細胞のミトコンドリア含有量を少なくとも約1%、3%、5%又は10%増加させるのに十分である。
【0100】
クエン酸シンターゼ(CS)はミトコンドリアマトリックスに局在するが、核DNAによってコードされる。クエン酸シンターゼはクレブス回路の最初のステップに関与し、一般に無傷のミトコンドリアの存在を示す定量的酵素マーカーとして使用される(Larsen S. et al., J. Physiol., 2012, Vol. 590(14), pages 3349~3360; Cook G.A. et al., Biochim. Biophys. Acta., 1983, Vol. 763(4), pages 356~367)。
【0101】
ミトコンドリア用量は、本明細書で解釈されるように、外因性ミトコンドリアの量の他の定量化可能な測定のCS活性単位又はmtDNAコピー数で表すことができる。「CS活性単位」は、1mLの反応体積において1分間で1マイクロモルの基質の変換を可能にする量として定義される。
【0102】
いくつかの態様において、標的細胞の、外因性ミトコンドリア富化は、細胞百万個当たり少なくとも0.044~176ミリ単位(mU)のクエン酸シンターゼ(CS)活性、細胞百万個当たり少なくとも0.088~176mUのCS活性、細胞百万個当たり少なくとも0.2~150mUのCS活性、細胞百万個当たり少なくとも0.4~100mUのCS活性、細胞百万個当たり少なくとも0.6~80mUのCS活性、細胞百万個当たり少なくとも0.7~50mUのCS活性、細胞百万個当たり少なくとも0.8~20mUのCS活性、細胞百万個当たり少なくとも0.88~17.6mUのCS活性、又は細胞百万個当たり少なくとも0.44~17.6ミリ単位のCS活性の用量のミトコンドリアを標的細胞に導入することを含む。
【0103】
本明細書で使用されるように、用語「ミトコンドリア含有量」は、細胞内のミトコンドリアの量、又は複数の細胞内のミトコンドリアの平均量を指す。用語「増加したミトコンドリア含有量」は、本明細書で使用されるように、ミトコンドリア富化前の標的細胞内のミトコンドリア含有量よりも検出可能に高いミトコンドリア含有量を指す。
【0104】
特定の態様において、外因性ミトコンドリアを富化されたヒト標的細胞のミトコンドリア含有量は、富化前の標的細胞のミトコンドリア含有量よりも検出可能に高い。様々な態様によれば、ミトコンドリア富化標的細胞のミトコンドリア含有量は、標的細胞のミトコンドリア含有量より、少なくとも1%、少なくとも3%、少なくとも5%、少なくとも10%、少なくとも25%、少なくとも50%、少なくとも100%、少なくとも200%又はそれ以上高い。
【0105】
特定の態様において、標的細胞又はミトコンドリア富化標的細胞のミトコンドリア含有量は、クエン酸シンターゼの含有量を決定することで決定される。特定の態様において、標的細胞又は富化された幹細胞のミトコンドリア含有量は、クエン酸シンターゼの活性レベルを決定することで決定される。特定の態様において、標的細胞又は富化された標的細胞のミトコンドリア含有量は、クエン酸シンターゼの含有量に相関する。特定の態様において、標的細胞又は富化された標的細胞のミトコンドリア含有量は、クエン酸シンターゼの活性レベルに相関する。CS活性は、市販のキット、例えばCS活性キットCS0720(Sigma)を使用して測定できる。
【0106】
ミトコンドリアDNA含有量は、ミトコンドリア富化の前又は後にミトコンドリア遺伝子の定量的PCRを行い、核遺伝子に対して正規化して測定することができる。
【0107】
特定の状況において、ミトコンドリア富化前の同じ細胞は、CS及びATP活性等の追加パラメータを測定し富化レベルを決定するための対照として働く。
【0108】
特定の態様において、用語「よりも検出可能に高い」は、本明細書で使用されるように、正常値と増加値の間の統計的に有意な増加を指す。特定の態様において、用語「よりも検出可能に高い」は、本明細書で使用されるように、非病理学的増加、即ち実質的により高い値に関連する病理学的症状がないことが明らかになるレベルを指す。特定の態様において、用語「増加した」は、本明細書で使用されるように、1人の健康な対象又は複数の健康な対象又はミトコンドリア富化前の標的細胞内の対応する細胞又は対応するミトコンドリアで見出された対応する値より1.05倍、1.1倍、1.25倍、1.5倍、2倍、3倍、4倍、5倍、6倍、7倍又はそれ以上高い値を指す。
【0109】
用語「増加したミトコンドリアDNA含有量」は、本明細書で使用されるように、ミトコンドリア富化前の標的細胞内のミトコンドリアDNA含有量よりも検出可能に高いミトコンドリアDNA含有量を指す。ミトコンドリア含有量はSDHA又はCOX1含有量を測定することで決定され得る。本明細書及び特許請求の範囲のコンテキストにおける「正常なミトコンドリアDNA」は、ミトコンドリア疾患に関連することが知られている突然変異又は欠失を保有しない/有さないミトコンドリアDNAを指す。用語「酸素(O2)消費の正常速度」は、本明細書で使用されるように、健康な個体からの細胞の平均O2消費を指す。用語「クエン酸シンターゼの正常な活性レベル」は、本明細書で使用されるように、健康な個体からの細胞内のクエン酸シンターゼの平均活性レベルを指す。用語「正常なアデノシン三リン酸(ATP)産生率」は、本明細書で使用されるように、健康な個体からの細胞内の平均ATP産生率を指す。
【0110】
いくつかの実施形態において、標的細胞の、外因性ミトコンドリア富化の程度は、酸素(O2)消費速度、クエン酸シンターゼ含有量又は活性レベル、アデノシン三リン酸(ATP)産生率を含むがそれらに限定されない機能アッセイ及び/又は酵素アッセイによってさらに決定され得る。あるいは、標的細胞の、外因性ミトコンドリア富化は、提供者のミトコンドリアDNAの検出によって確認され得る。いくつかの態様によれば、標的細胞の、外因性ミトコンドリア富化の程度は、ヘテロプラスミーの変化のレベル及び/又は細胞あたりのmtDNAのコピー数によって決定され得る。
【0111】
TMRM(テトラメチルローダミンメチルエステル)又は関連するTMRE(テトラメチルローダミンエチルエステル)は、ミトコンドリア膜電位の変化を同定することによって、生細胞におけるミトコンドリア機能を評価するために一般に使用される細胞透過性蛍光色素である。いくつかの態様によれば、富化のレベルはTMRE又はTMRMによる染色によって決定できる。
【0112】
いくつかの態様によれば、ミトコンドリア膜の無傷性は本分野で知られている任意の方法によって決定されてもよい。非限定的な例において、ミトコンドリア膜の無傷性はテトラメチルローダミンメチルエステル(TMRM)又はテトラメチルローダミンエチルエステル(TMRE)蛍光プローブを使用して測定される。顕微鏡下で観察され且つTMRM又はTMRE染色を示すミトコンドリアは、無傷のミトコンドリア外膜を有する。本明細書で使用されるように、用語「ミトコンドリア膜」は、ミトコンドリア内膜、ミトコンドリア外膜、及びその両方からなる群から選択されるミトコンドリア膜である。
【0113】
特定の態様において、ミトコンドリア富化ヒト標的細胞内のミトコンドリア富化のレベルは、細胞内の総ミトコンドリアDNAの少なくとも統計的に代表的な部分を配列決定し、宿主/内因性ミトコンドリアDNA及び外因性ミトコンドリアDNAの相対レベルを決定することによって、決定される。特定の態様において、ミトコンドリア富化ヒト標的細胞内のミトコンドリア富化のレベルは、一塩基多型(SNP)分析によって決定される。特定の態様において、最大のミトコンドリア集団及び/又は最大のミトコンドリアDNA集団は宿主/内因性ミトコンドリア集団及び/又は宿主/内因性ミトコンドリアDNA集団であり、及び/又は2番目に大きいミトコンドリア集団及び/又は2番目に大きいミトコンドリアDNA集団は外因性ミトコンドリア集団及び/又は外因性ミトコンドリアDNA集団である。
【0114】
特定の態様によれば、標的細胞の、外因性ミトコンドリア富化は、本分野で周知の従来のアッセイによって判定されてもよい。特定の態様において、ミトコンドリア富化ヒト標的細胞内のミトコンドリア富化のレベルは、(i)宿主/内因性ミトコンドリアDNA及び外因性ミトコンドリアDNAのレベル、(ii)クエン酸シンターゼ(CS)、シトクロムCオキシダーゼ(COX1)、コハク酸デヒドロゲナーゼ複合体フラボタンパク質サブユニットA(SDHA)、及びそれらの任意の組合せからなる群から選択されるミトコンドリアタンパク質のレベル、(iii)CS活性のレベル、又は(iv)(i)、(ii)、及び(iii)の任意の組合せによって決定される。特定の態様において、ミトコンドリア富化ヒト標的細胞内の富化のレベルは、NADH、FADH2、MAO-A、MAO-B、グリセロール-3-リン酸デヒドロゲナーゼ、又はそれらの任意の組合せのレベルを決定することによってトリプタミン等の基質の利用を測定することで決定される。特定の態様において、ミトコンドリア富化ヒト標的細胞内の富化のレベルは、例えばデヒドロゲナーゼ複合体フラボタンパク質サブユニットAのレベルを決定することによってスクシナート等の基質の利用を測定することで決定される。
【0115】
特定の態様において、ミトコンドリア富化ヒト幹細胞内のミトコンドリア富化のレベルは、(i)同種異系ミトコンドリアの場合の宿主ミトコンドリアDNA及び外因性ミトコンドリアDNAのレベル、(ii)クエン酸シンターゼ活性のレベル、(iii)コハク酸デヒドロゲナーゼ複合体フラボタンパク質サブユニットA(SDHA)又はシトクロムCオキシダーゼ(COX1)のレベル、(iv)酸素(O2)消費速度、(v)アデノシン三リン酸(ATP)産生率、(vi)トリプタミン利用の測定、(vii)スクシナート利用の測定、(viii)NADH又はFADH2、MAO-A、MAO-B、又はグリセロール-3-リン酸デヒドロゲナーゼを産生する代謝基質から電子伝達鎖(ETC)への電子流の流入及び通過の速度の決定、又は(ix)それらの任意の組合せ、の少なくとも1つによって決定される。これらの各パラメータを測定する方法は本分野において公知のものである。本明細書に記載の方法は単独で又は組み合わせて使用できることを理解すべきである。
【0116】
いくつかの態様において、標的細胞の、外因性ヒトミトコンドリア富化は、ヒト標的細胞と前記単離された外因性ヒトミトコンドリアのインキュベーション後にミトコンドリア富化標的細胞を洗浄するステップを含む。このステップにより、細胞片又はミトコンドリア膜残存物が実質的にないミトコンドリア富化標的細胞及び標的細胞に進入していないミトコンドリアが提供される。いくつかの態様において、洗浄はヒト標的細胞と前記単離された外因性ヒトミトコンドリアのインキュベーション後のミトコンドリア富化標的細胞の遠心分離を含む。いくつかの態様によれば、ミトコンドリア富化ヒト細胞は遊離ミトコンドリア即ち幹細胞に進入していないミトコンドリア、又は別の細胞片から分離される。
【0117】
ミトコンドリア富化細胞を含む組成物から残留物を除去するステップは、本分野で知られている異なる方法を使用して実行できる。いくつかの態様によれば、残留物除去は遠心分離によって実行される。
【0118】
特定の態様において、標的細胞及び/又は単離された外因性ミトコンドリアはインキュベーション及び/又は接触の前又はその間に濃縮される。特定の態様において、標的細胞及び/又は単離された外因性ミトコンドリアはインキュベーション又は接触の前又はその間又はその後に遠心分離に供される。いくつかの態様において、標的細胞と単離されたミトコンドリアとのインキュベーションの前又はその間又はその後に、単一又は複数の遠心分離ステップがある。
【0119】
特定の態様において、遠心分離速度は7,000g又は8,000gである。さらなる形態によれば、遠心分離速度は300g~8000g、500g~8000g、1000g~8000g、300g~5000g、2000g~4000g、2500g~8500g、3000g~8000g、4000g~8000g、5,000~l0,000g、7000g~8000g又は2500g超である。いくつかの態様において、遠心分離は、2分間~30分間、3分間~25分間、5分間~20分間、又は8分間~15分間の範囲の時間、実施される。
【0120】
いくつかの態様において、遠心分離は、2~6℃、4~37℃、4~l0℃又はl6~30℃の範囲の温度で実施される。特定の態様において、遠心分離は4℃で実施される。いくつかの態様において、標的細胞と単離された外因性ミトコンドリアとのインキュベーションの前又はその間又はその後に、遠心分離ステップがあり、その後、細胞を30℃未満の温度で静置する。いくつかの態様において、単離された外因性ミトコンドリアがヒト標的細胞に進入できる条件は、標的細胞と単離されたミトコンドリアとのインキュベーションの前又はその間又はその後の、単一の遠心分離を含み、その後、細胞を16~28℃の範囲の温度で静置する。
【0121】
特定の態様において、標的細胞は新鮮なものを使用する。いくつかの態様において、標的細胞はミトコンドリアの富化の前又は後に凍結解凍される。
【0122】
特定の態様において、標的細胞は新鮮なものである。特定の態様において、標的細胞はインキュベーション前に凍結解凍される。特定の態様において、単離された外因性ミトコンドリアは新鮮なものである。特定の態様において、単離された外因性ミトコンドリアはインキュベーション前に凍結解凍される。特定の態様において、ミトコンドリア富化標的細胞は新鮮なものである。特定の態様において、ミトコンドリア富化標的細胞は凍結される。特定の態様において、ミトコンドリア富化標的細胞は凍結解凍される。
【0123】
特定の態様において、ミトコンドリアは凍結されない。さらなる態様において、単離されたミトコンドリアは凍結され、次に貯蔵され、使用前に解凍される。さらなる態様において、ミトコンドリア富化標的細胞は凍結及び貯蔵せずに使用される。さらに別の態様において、ミトコンドリア富化標的細胞は凍結、貯蔵及び解凍後に使用される。生存能力を保持するための細胞調製物の凍結解凍に適する方法は、本分野で公知のものである。
【0124】
本明細書で使用されるように、用語「凍結解凍サイクル」は、単離された外因性ミトコンドリアを0℃未満の温度に凍結し、ミトコンドリアを0℃未満の温度で所定期間維持し、そして単離されたミトコンドリアを室温又は体温又は標的細胞と単離されたミトコンドリアとの接触を可能にする任意の0℃超の温度に解凍することを指す。用語「室温」は、本明細書で使用されるように、典型的に18℃~25℃の温度を指す。用語「体温」は、本明細書で使用されるように、35.5℃~37.5℃の温度を指し、好ましくは37℃である。
【0125】
別の態様において、凍結解凍サイクルを受けたミトコンドリアは、-20℃以下、-4℃以下、又は-70°C以下の温度で凍結された。別の形態によれば、ミトコンドリアは徐々に凍結される。いくつかの態様によれば、ミトコンドリアは急速凍結によって凍結される。本明細書で使用されるように、用語「急速凍結」は、ミトコンドリアを極低温にさらすことで急速に凍結させることを指す。
【0126】
別の態様において、凍結解凍サイクルを受けたミトコンドリアは、解凍前に少なくとも30分間凍結された。別の形態によれば、凍結解凍サイクルは解凍前に、単離された外因性ミトコンドリアを少なくとも30、60、90、120、180、210分間凍結することを含む。別の態様において、凍結解凍サイクルを受けた単離された外因性ミトコンドリアは、解凍前に少なくとも1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、24、48、72、96、又は120時間凍結された。別の態様において、凍結解凍サイクルを受けた単離された外因性ミトコンドリアは解凍前に少なくとも4、5、6、7、30、60、120、365日間凍結された。別の形態によれば、凍結解凍サイクルは解凍前に、単離された外因性ミトコンドリアを少なくとも1、2、3週間凍結させることを含む。別の形態によれば、凍結解凍サイクルは、解凍前に、単離された外因性ミトコンドリアを少なくとも1、2、3、4、5、6ヶ月間凍結させることを含む。別の形態によれば、凍結解凍サイクル後の単離された外因性ミトコンドリアの酸素消費量は凍結解凍サイクル前の外因性ミトコンドリアの酸素消費量以上である。
【0127】
特定の態様によれば、解凍は室温で実施される。別の態様において、解凍は体温で実施される。別の形態によれば、解凍は外因性ミトコンドリアと標的細胞との接触又はインキュベーションを可能にする温度で実施される。別の形態によれば、解凍は徐々に実施される。
【0128】
本明細書で使用されるように、「サンプル」又は「生体サンプル」は、対象から採取された任意の「生体標本」を指し、全体として考慮したサンプルの供給源の含有量又は組成を代表する。サンプルは分析用に直接採取して処理可能であり、又は分析が完了するまでサンプルの品質を維持するために適切な貯蔵条件下で貯蔵可能である。理想的には、貯蔵されたサンプルは新鮮に採取された標本と同等の状態が維持される。サンプルの供給源は、内臓、静脈、動脈、又は流体であってもよい。サンプルの非限定的な例としては、血液、血漿、尿、唾液、汗、臓器生検、脳脊髄液(CSF)、涙液、精液、膣液、糞便、皮膚、及び毛髪を含む。
【0129】
特定の態様において、疾患又は障害に罹患した対象又は提供者には、末梢血への骨髄細胞の動員を誘導する薬剤が投与される。
【0130】
さらなる態様において、対象又は提供者には、サンプル採取前に、顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF)、1,1’-[1,4-フェニレンビス(メチレン)]-ビス[1,4,8,11-テトラアザシクロテトラデカン](プレリキサホル)、その塩、及びそれらの任意の組合せが投与される。
【0131】
いくつかの態様において、標的細胞は、標的細胞の増殖が可能な増殖培地中で前記標的細胞を培養することによって増殖される。別の態様において、ミトコンドリア富化標的細胞は、ミトコンドリア富化細胞の増殖が可能な培養又は増殖培地中でミトコンドリア富化細胞を培養することによって増殖される。本出願を通じて使用されるように、用語「培養又は増殖培地」は、細胞培養培地、細胞成長培地、細胞に栄養を与える緩衝液等の流体培地である。
【0132】
用語「疾患」及び「障害」は、正常とはみなされない、又は生理学的状態とは異なる任意の苦痛を指す。疾患及び障害は、体内の実質的に任意の臓器、組織、又は機能に影響可能である。疾患及び症状の非限定的な例としては、癌、筋肉の疾患及び障害、グリコーゲン貯蔵疾患及び障害、血管内皮障害又は疾患、脳障害又は脳疾患、胎盤障害又は胎盤疾患、胸腺障害又は胸腺疾患、自己免疫疾患、腎性疾患又は障害、膵臓障害又は膵臓疾患、前立腺障害又は前立腺疾患、腎臓障害又は腎臓病、血液障害又は血液疾患、心臓疾患又は心臓障害、皮膚障害又は皮膚疾患、免疫及び炎症性疾患及び障害、骨疾患又は骨障害、胃腸疾患又は胃腸障害、及び眼疾患又は眼障害を含む。特定の態様において、疾患又は障害はミトコンドリア疾患又は障害である。
【0133】
本明細書で使用されるように、用語「疾患又は障害に罹患した対象」又は「疾患又は障害を患っている対象」は、特定の条件によって引き起こされる衰弱効果を経験しているヒト対象を指す。障害は、癌、加齢関連障害、腎性疾患、膵臓疾患、肝疾患、筋肉障害、脳疾患、又は原発性ミトコンドリア疾患、続発性ミトコンドリア機能不全、及び他の疾患又は障害を指し得る。
【0134】
本明細書で使用されるように、用語「生体外方法」は、各ステップが人体外に限って実行される方法を指す。
【0135】
特定の態様において、幹細胞であり得る標的細胞は、疾患又は障害に罹患していない対象又は提供者から得られ、標的細胞は、(i)正常な酸素(O2)消費速度、(ii)正常なクエン酸シンターゼ含有量又は活性レベル、(iii)正常なアデノシン三リン酸(ATP)産生率、又は(iv)(i)、(ii)、及び(iii)の任意の組合せを有する。
【0136】
特定の態様において、幹細胞であり得る標的細胞は、疾患又は障害に罹患した対象又は提供者から得られ、標的細胞は、疾患又は障害に罹患していない対象に比べて、(i)減少した酸素(O2)消費速度、(ii)減少したクエン酸シンターゼ含有量又は活性レベル、(iii)減少したアデノシン三リン酸(ATP)産生率、又は(iv)(i)、(ii)、及び(iii)の任意の組合せ、を有する。
【0137】
特定の態様において、ミトコンドリア富化標的細胞は、標的細胞に比べて、(i)増加した酸素(O2)消費速度、(ii)増加したクエン酸シンターゼ含有量又は活性レベル、(iii)増加したアデノシン三リン酸(ATP)産生率、(iv)増加したミトコンドリアDNA含有量、(v)より低いヘテロプラスミーレベル、又は(vi)(i)、(ii)、(iii)(iv)、及び(v)の任意の組合せ、を有する。
【0138】
用語「増加した酸素(O2)消費速度」は、本明細書で使用されるように、ミトコンドリア富化前の酸素(O2)消費速度よりも検出可能に高い酸素(O2)消費速度を指す。
【0139】
用語「増加したクエン酸シンターゼ含有量又は活性レベル」は、本明細書で使用されるように、ミトコンドリア富化前のクエン酸シンターゼ含有量又は活性レベルよりも検出可能に高いクエン酸シンターゼ含有量又は活性レベルを指す。
【0140】
用語「増加したアデノシン三リン酸(ATP)産生率」は、本明細書で使用されるように、ミトコンドリア富化前のアデノシン三リン酸(ATP)産生率よりも検出可能に高いアデノシン三リン酸(ATP)産生率を指す。
【0141】
MAOは、MAO-AとMAO-Bの2つの形態がある。MAO-Aは、ドーパミン、ノルエピネフリン、セロトニン等のアミンの酸化的脱アミノ化を触媒する酵素である。MAO-Aは主にミトコンドリアの外膜に位置するが、サイトゾルにも見られる。MAO-Bは生体アミン及び生体異物アミンの酸化的脱アミノ化を触媒し、中枢神経系及び末梢組織における神経活性アミン及び血管活性アミン(ドーパミン等)の異化に重要な役割を果たし、ベンジルアミン及びフェネチルアミンを優先的に分解する。MAO-Bはミトコンドリアの外膜に位置する。MAO-AとMAO-Bは両方とも様々な組織にも位置し、胎盤内で高レベルを有する。
【0142】
追加の実施形態において、本発明は、細胞内のモノアミンオキシダーゼA(MAO-A)及び/又はモノアミンオキシダーゼB(MAO-B)のレベルを決定するステップによって、細胞の、胎盤ミトコンドリア富化を判定する方法であって、胎盤ミトコンドリアを富化された細胞が、富化されていない細胞に比べてMAO-A及び/又はMAO-Bの増加したレベルを有する、前記方法を提供する。一態様において、前記細胞は幹細胞、前駆細胞又は骨髄由来幹細胞、多能性幹細胞、胚性幹細胞、人工多能性幹細胞、間葉系幹細胞、造血幹細胞、造血前駆細胞、骨髄前駆細胞、リンパ前駆細胞、巨核球、赤血球、マスト細胞、筋芽細胞、好塩基球、好中球、好酸球、単球、マクロファージ、ナチュラルキラー(NK)細胞、小リンパ球、Tリンパ球、Bリンパ球、形質細胞、細網細胞、骨髄造血細胞、赤血球生成細胞、又はそれらの任意の組合せである。特定の態様において、前記細胞はCD34+細胞である。追加の態様において、前記細胞は、前記細胞をミトコンドリアと接触させることで富化される。特定の態様において、前記胎盤ミトコンドリアは、新鮮なミトコンドリア、凍結されたミトコンドリア又は凍結解凍されたミトコンドリアである。さらなる態様において、前記MAO-A及び/又はMAO-Bのレベルは質量分析によって決定される。
【0143】
さらなる実施形態において、本発明は、グリセロール-3-リン酸デヒドロゲナーゼのレベルを決定するステップによって、細胞の、外因性ミトコンドリア富化を判定する方法であって、ミトコンドリアを富化された細胞が、富化されていない細胞に比べてグリセロール-3-リン酸デヒドロゲナーゼの増加したレベルを有する、前記方法を提供する。一態様において、前記細胞は幹細胞、前駆細胞又は骨髄由来幹細胞、多能性幹細胞、胚性幹細胞、人工多能性幹細胞、間葉系幹細胞、造血幹細胞、造血前駆細胞、骨髄前駆細胞、リンパ前駆細胞、巨核球、赤血球、マスト細胞、筋芽細胞、好塩基球、好中球、好酸球、単球、マクロファージ、ナチュラルキラー(NK)細胞、小リンパ球、Tリンパ球、Bリンパ球、形質細胞、細網細胞、骨髄造血細胞、赤血球生成細胞、又はそれらの任意の組合せである。様々な態様において、前記細胞はCD34+細胞である。追加の態様において、前記細胞は、前記細胞をミトコンドリアと接触させることで富化される。特定の態様において、前記ミトコンドリアは新鮮なミトコンドリア、凍結されたミトコンドリア又は凍結解凍されたミトコンドリアである。様々な態様において、前記細胞は胎盤ミトコンドリア又は血液由来ミトコンドリアを富化される。さらなる態様において、前記細胞は胎盤ミトコンドリアを富化される。
【0144】
1つの実施形態において、本発明は、代謝基質と、使用説明書とを有する、ミトコンドリアを富化された細胞を同定するためのキットを提供する。一態様において、前記基質はトリプタミン、D,L-a-グリセロールPO4、スクシナート、又はそれらの組合せである。追加の態様において、前記ミトコンドリアは胎盤ミトコンドリア又は血液由来ミトコンドリアである。
【0145】
1つの実施形態において、本発明は、細胞を代謝基質と接触させた後に比色アッセイによってミトコンドリア富化を判定するステップ、細胞内のモノアミンオキシダーゼA(MAO-A)及び/もしくはモノアミンオキシダーゼB(MAO-B)のレベルを決定するステップ、ならびに/又は細胞内のグリセロール-3-リン酸デヒドロゲナーゼのレベルを決定するステップによって、細胞の、外因性ミトコンドリア富化を判定する方法であって、ミトコンドリアを富化された細胞が、ミトコンドリアを富化されていない細胞に比べて、それぞれモノアミンオキシダーゼA(MAO-A)、モノアミンオキシダーゼB(MAO-B)、及び/又はグリセロール-3-リン酸デヒドロゲナーゼの増加したレベルを有し、前記比色アッセイが、吸光度によって測定され、かつ吸光度の増加が、ミトコンドリア富化を示す、前記方法を提供する。
【0146】
以下の実施例は本発明の実施形態をさらに説明するために提供されるが、本発明の範囲を限定するものではない。それらは使用され得る典型的なものであるが、当業者に知られている他の手順、方法論、又は技術は代替的に使用され得る。
【実施例】
【0147】
実施例1
胎盤ミトコンドリアの基質利用
単離された胎盤ミトコンドリアの、異なる基質を利用する能力を評価した。ミトコンドリアを新鮮な胎盤から単離した。単離されたミトコンドリアを31種の基質とともにインキュベートし、それらの異なる基質を利用する能力をMitoPlate(Biolog)によって評価した。簡単に述べると、MitoPlateは、NADH又はFADH2を産生する代謝基質から電子伝達鎖への電子流の流入及び通過速度を測定することでミトコンドリア機能を評価する。各基質は異なるルートに従い、異なる輸送体を使用してミトコンドリアに進入し、異なるデヒドロゲナーゼを使用してNADH又はFADH2を産生する。電子はNADH又はFADH2から呼吸複合体1又は2に移動し、次にテトラゾリウム酸化還元色素(MC)が、還元されると紫色に変わる末端電子受容体として機能する電子伝達鎖の遠位部に移動する。
【0148】
2つの対照を使用した。対照1はカルボニルシアニド-4(トリフルオロメトキシ)フェニルヒドラゾン(FCCP)で処理されたミトコンドリアであった。FCCPは、プロトン勾配を崩壊させ、ミトコンドリア膜電位を破壊する脱共役剤である。対照2は水に懸濁させ、ボルテックスすることで膜完全性が損傷された単離されたミトコンドリアであった。
【0149】
結果は、単離された機能的胎盤ミトコンドリアがクエン酸、D,L-イソクエン酸、Cis-アコニット酸、コハク酸、トリプタミン、及びD,L-a-グリセロールPO
4を利用できたことを示す(
図3)。
【0150】
加えて、対照1はクエン酸、D,L-イソクエン酸、Cis-アコニット酸、トリプタミン、及びD,L-a-グリセロールPO4を利用できたが、コハク酸を利用できなかった。
【0151】
実施例2
ミトコンドリア富化細胞の基質利用
富化された細胞の、実施例1に記載の基質を利用する能力を試験した。ミトコンドリア疾患に罹患していない健康な対象にG-CSF + プレリキサホルを投与して末梢血(PB)への骨髄細胞の動員を誘導した。患者の血液幹細胞をアフェレーシスによって採取し、CD34+造血幹細胞(HSPC)を単離した。CD34+は、未処理(NT)とされたか、又は健康な提供者の血液又は胎盤から単離された凍結解凍された健康なミトコンドリアを増強された。簡単に述べると、細胞を、血液又は胎盤からのミトコンドリアと4.4mU CS活性/細胞百万個(それぞれBLD4.4及びPLC4.4)の用量で混合し、7000gで遠心分離し、再懸濁した。細胞を室温で24時間インキュベートし、その後、PBSで2回洗浄した。COX-1タンパク質の増加によって富化を検証した(未処理細胞 対 増強細胞)。
【0152】
NADH又はFADH2を産生する代謝基質から電子伝達鎖への電子流の流入及び通過速度をMitoplate(BIOLOG)によって測定することで、ミトコンドリア機能をアッセイした。
【0153】
NT細胞を対照として使用した。NT細胞及び富化された細胞(BLD4.4及びPLC4.4)をサポニン(Sigma SAE0073)で透過処理し、MitoPlateに添加し、そしてそれらの基質を利用する能力を分析した(
図4)。結果は、胎盤由来ミトコンドリアを富化されたCD34+細胞(PLC4.4)が、トリプタミン、D,L-a-グリセロールPO
4(
図4)、及びコハク酸(データは示さず)を基質として利用できたことを示した。最も重要な結果は、PLC富化細胞はトリプタミンを利用できたが、NT細胞及びBLD富化細胞はできなかったことであった。
【0154】
また、血液及び胎盤ミトコンドリア富化は両方ともNT細胞に比べて細胞のD,L-a-グリセロールPO4を利用する能力を向上させ、BLD富化細胞はPLC富化細胞ほどD,L-a-グリセロールPO4を効率的に利用しなかった。
【0155】
さらに、実施例1に示したように、単離された機能的胎盤ミトコンドリアはトリプタミン、L-a-グリセロールPO4、クエン酸、イソクエン酸、cis-アコニット酸、及びコハク酸を利用できた。しかし、この実験において、細胞の、胎盤又は血液由来ミトコンドリア富化は、細胞のクエン酸、イソクエン酸、及びcis-アコニット酸を利用する能力の増加を示さなかった。
【0156】
実施例3
ミトコンドリアの分析
質量分析(MS)を行って、実施例2における血液及び胎盤から単離されたミトコンドリア内のトリプタミン利用酵素の存在を決定した。10マイクログラムの各ミトコンドリアサンプル(3つのBLD-ミトコンドリアサンプル及び3つのPLC-ミトコンドリアサンプル)を8M尿素で抽出した後、超音波処理した。抽出されたタンパク質をカルバアミドメチル化(carbaamidomethylate)によって還元し、トリプシンによって消化した。得られたペプチドをQ-Exactive HF(Thermo)上でのLC-MS/MSによって分析し、ヒトuniprotデータベースに対するSequest(Thermo)検索エンジンという検索アルゴリズムを有するDiscoverer1.4によって同定した。同定された全てのペプチドを高信頼度で濾過した。各ペプチドの抽出イオン電流(XIC)に基づいてそのピーク面積を計算することで半定量化を完了した。3つ超のペプチドで表されるタンパク質について、該タンパク質の発現強度は、最も強度の高い3つのペプチドの平均値である。表1のタンパク質発現強度はバックグラウンドノイズを低減してlog2で表示される。各タンパク質を表すペプチドの数は括弧内に記載する。
【0157】
【0158】
結果は、血液から単離されたミトコンドリアに比べて胎盤から単離されたミトコンドリアにおいてより高いレベルのMAOA、MAOB及びALDH1B1が見られたことを実証した。
【0159】
実施例4
トリプタミン利用
トリプタミン利用酵素の位置を試験するために、MitoPlateアッセイを実施した。末梢血単核細胞(PBMC)は、4.4mU CS活性/細胞百万個の用量の胎盤からのミトコンドリアを富化された(PLC)か、又は増強前に濾過された、4.4mU CS活性/細胞百万個の用量の胎盤からのミトコンドリアを富化された(濾過済み)。濾過済みサンプルはサンプルを0.22umフィルタに通過させてミトコンドリア(典型的にサイズが0.5マイクロメートル~1マイクロメートル)を除去することで調製された。未処理PBMCを対照(NT)として使用した。
【0160】
図5に示した結果は、トリプタミン利用酵素はミトコンドリアに位置するか又はミトコンドリア膜に結合される可能性が高く、フィルタを通過する(例えば、細胞質酵素)画分にはないことを示す。
【0161】
実施例5
新鮮なミトコンドリア及び凍結解凍されたミトコンドリアは、トリプタミンを利用できる
新鮮な単離されたミトコンドリアの、トリプタミンを利用する能力を、凍結解凍された(frozen and thawed,F&T)ミトコンドリアの、トリプタミンを利用する能力と比較した。
【0162】
新鮮なミトコンドリア及びF&Tミトコンドリアは両方ともヒト胎盤から単離された。F&Tミトコンドリアは-196℃で10分間凍結され、室温で解凍された。単離されたミトコンドリアはMitoPlateにおいてトリプタミンとともにインキュベートされた。
【0163】
図7に示した結果は、新鮮なミトコンドリア及びF&Tミトコンドリアは両方ともトリプタミンを利用することを示す。
【0164】
実施例6
ミトコンドリア富化細胞のトリプタミン利用
細胞の胎盤ミトコンドリア増強をSeahorse XFe96 Analyzerによってさらに検証した。このアッセイにおいて、酸素消費速度(OCR)を細胞株KG1a、LCL(Coreille、Pearson患者からのGM18456)及びCD34+(Hemacare ロット:18049698)内の複合体I(CI)及び複合体II(CII)の特定の基質によって測定した。10X106のLCL、KG1a、又はCD34+細胞は、0.88mU又は4.4mU CS活性/細胞百万個の用量の胎盤ミトコンドリアを増強された。増強細胞を、非増強細胞と比較した。細胞を透過処理剤(サポニン)で処理し、グルコース(10mM)、ピルビン酸塩(1mM)及びグルタミン酸塩(2mM)を補足したRPMI培地又はMAS緩衝液(70mM蔗糖、220mMマンニトール、5mM KH2PO4、5mM MgCl2、1mM EGTA、2mM HEPES、pH7.4)で維持した。プレコートされたSeahorse XF96マイクロプレートに、1ウェル当たり300k細胞のKG1a、1ウェル当たり300k細胞のCD34+、又は1ウェル当たり150k細胞のLCLを含有する50μlの培地を添加した。プレートを200gで1分間遠心分離した。さらに130μlのRPMI培地又はMAS+基質を各ウェルに追加した。トリプタミンをCI特異的基質として使用し、スクシナートをCII特異的基質として使用した。LCL細胞及びKG1a細胞について、ADPをポートAに注入し(最終濃度5mM)、トリプタミンをポートBに注入し(60mM)、スクシナートをポートC(10mmM)に注入した。CD34+細胞について、ADP(最終濃度5mM)をトリプタミン(60mM)とともにポートAに注入した。混合及び測定時間はそれぞれ3分間及び3分間である。Waveソフトウェア(Agilent)を使用してOCRを分析した。OCR測定をバックグラウンド(細胞無しの培地及び基質)に対して正規化した。
【0165】
結果は、トリプタミンをCI基質として添加した場合、0.88mU又は4.4mU CS活性/細胞百万個の用量のミトコンドリアを増強されたKG1a細胞はNT対照細胞に比べて、OCRレベルがそれぞれ29%及び74%増加したことを示す。また、トリプタミン及びスクシナートを両方とも添加した場合、CI及びCII組合せ呼吸数(OCR)も対照の非増強細胞(NT)に比べて、0.88mU及び4.4mU増強細胞においてそれぞれ12%及び41%増加した(
図6A)。
【0166】
トリプタミンをCI基質として添加した場合、0.88mU又は4.4mU CS活性/細胞百万個の用量のミトコンドリアを増強されたLCL細胞はNT対照細胞に比べて、OCRレベルがそれぞれ43%及び182%増加した。トリプタミン及びスクシナートを両方とも添加した場合、CI及びCII組合せOCRも、対照の非増強細胞(NT)に比べて、0.88mU及び4.4mU増強細胞においてそれぞれ43%及び57%増加した(
図6B)。
【0167】
CD34+細胞について、結果は、トリプタミンを添加した場合、0.88mU及び4.4mU CS活性/細胞百万個の用量のミトコンドリアを増強されたCD34+細胞はOCRレベルがそれぞれ39%及び271%増加したことを示す(
図6C)。
【0168】
実施例7
ミトコンドリア富化を評価するための酵素発現検出
細胞内の胎盤ミトコンドリア富化を検出するために、MAO酵素の存在を決定する。簡単に述べると、増強及び非増強細胞をMAOアッセイ緩衝液によって均質化する。ホモジネートを遠心分離し(4Cにて10,000 x g で4分間)、上清を収集する。対照、標準(H2O2)、反応緩衝液(アッセイ緩衝液、MAO基質、現像液及びプローブ)及びバックグラウンド反応混合物(アッセイ緩衝液、現像液及びプローブ)を調製する。サンプル上清(40μl)を反応プレートのウェルに添加する。総MAO活性を測定するために、10μlのアッセイ緩衝液を指定のウェルに添加する。MAO-A活性を測定するために、10μlの10μMセレギリンを指定のウェルに添加する。MAO-B活性を測定するために、10μLの10μMクロルジリンを指定のウェルに添加する。反応混合物(50μl)を各ウェルに添加し、バックグラウンド反応混合物(50μl)をバックグラウンド対照サンプルウェルに添加する。蛍光(Ex/Em = 535/587nm)をキネティックモードにおいて25℃で60分間測定する。増強細胞内の総MAO、MAO-A及び/又はMAO-B活性の増加は細胞ミトコンドリア富化を示す。
【0169】
実施例8
PLC-ミトコンドリア検出のためのMAOA染色技術
MAO-Aは、胎盤細胞内で検出されかつCD34+細胞内で検出されないミトコンドリアタンパク質であるため、造血幹細胞のバックグラウンドを上回る胎盤ミトコンドリアの検出(免疫蛍光に基づくアッセイ)専用に蛍光標識法を開発した。この方法により、単一細胞解像度で増強を定量的に測定するための画像化に基づく分析が可能になった。
【0170】
MAO-A抗体(Abcamカタログ番号ab200752)及びTOMM20抗体(Abcamカタログ番号ab210047)を使用した。TOMM20は、アッセイの内部陽性対照として使用された一般的なミトコンドリア抗体である。TOMM20は、生細胞内のミトコンドリアを染色する赤色蛍光色素であるMitoTracker(Invitrogen、カタログ番号M22426)と完全に共局在すると判明した。
【0171】
健康なCD34+細胞を、単離された胎盤ミトコンドリアとともに細胞百万個あたり4.4mU(CS活性で)のミトコンドリア対細胞比でインキュベートした。24hrのインキュベーション後、CD34+細胞を3回洗浄した。NT細胞を対照(例えば、ミトコンドリア添加無しの細胞)として使用した。細胞を、1%BSA、TOMM20-AF405(最終希釈1:5000)及びAb MAOA(最終希釈1:50)中の抗体で、氷上において30分間免疫染色した(軽く振盪)。
【0172】
細胞をAmnis IMAGESTREAM X MARKIIで画像化した。データをIDEAS(登録商標)分析ソフトウェアで分析した。
【0173】
MAO-Aによる免疫蛍光は感度が高く、特異性が高いため、胎盤ミトコンドリアを富化された細胞は染色されたが、未処理細胞は染色されなかった。
【0174】
実施例9
スクシナート利用
ミトコンドリアをヒト胎盤及びヒト末梢血単核細胞(PBMC)から単離した。ミトコンドリアの、スクシナート基質を利用する能力をMitoPlate(Biolog)によってアッセイした。
【0175】
図8Aに示した結果は、胎盤から単離されたミトコンドリアは、血液から単離されたミトコンドリアに比べて、より高いスクシナート利用活性を有することを示す。
【0176】
血液由来ミトコンドリア及び胎盤由来ミトコンドリアがスクシナートを利用する能力を有するため(
図8A)、増強細胞内の異なる比率の外因性ミトコンドリアに対する該方法の感度レベルを試験した。
【0177】
胎盤由来ミトコンドリアの、スクシナートを利用する能力を、PBMCから単離されたミトコンドリアのバックグラウンド上で試験した。使用されたバックグラウンド対照はPBMCから単離されたミトコンドリアであった。50M血液由来ミトコンドリア粒子を1M CD34細胞から単離されたミトコンドリアの同等物として使用した。増加量の胎盤由来ミトコンドリア粒子(750k~35M)を50M血液由来ミトコンドリア粒子のバックグラウンドに添加して総スクシナート利用活性を評価した。
【0178】
図8Bから見られるように、胎盤由来ミトコンドリアの、スクシナートを利用する能力は、高濃度及び低濃度の胎盤由来ミトコンドリアにおいて、明らかに50M血液由来ミトコンドリア粒子のバックグラウンド活性を上回った。
【0179】
本発明を上記実施例により説明したが、様々な修正及び変形は本発明の精神及び範囲内に包含されることが理解される。したがって、本発明は添付の特許請求の範囲によってのみ限定される。
【国際調査報告】