(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-01-30
(54)【発明の名称】高エントロピーのオーステナイト系ステンレス鋼及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C22C 38/00 20060101AFI20240123BHJP
C22C 30/00 20060101ALI20240123BHJP
C22F 1/16 20060101ALI20240123BHJP
C22B 9/04 20060101ALI20240123BHJP
C22C 33/04 20060101ALI20240123BHJP
C22C 19/05 20060101ALI20240123BHJP
C22C 38/50 20060101ALI20240123BHJP
C22F 1/00 20060101ALN20240123BHJP
【FI】
C22C38/00 302Z
C22C30/00
C22F1/16 Z
C22B9/04
C22C33/04 N
C22C19/05 Z
C22C38/50
C22F1/00 604
C22F1/00 623
C22F1/00 630A
C22F1/00 630K
C22F1/00 640A
C22F1/00 681
C22F1/00 682
C22F1/00 683
C22F1/00 691A
C22F1/00 691B
C22F1/00 691C
C22F1/00 694A
C22F1/00 686B
C22F1/00 685Z
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023563148
(86)(22)【出願日】2022-10-31
(85)【翻訳文提出日】2023-06-26
(86)【国際出願番号】 CN2022128626
(87)【国際公開番号】W WO2023093464
(87)【国際公開日】2023-06-01
(31)【優先権主張番号】202111396824.1
(32)【優先日】2021-11-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】523243513
【氏名又は名称】イェンシャン ユニバーシティー
【氏名又は名称原語表記】YANSHAN UNIVERSITY
【住所又は居所原語表記】No.438, West Section of Hebei Street Qinhuangdao, Hebei 066004, China
(74)【代理人】
【識別番号】110001841
【氏名又は名称】弁理士法人ATEN
(72)【発明者】
【氏名】シェン トンデェァ
(72)【発明者】
【氏名】ウェン カンカン
(72)【発明者】
【氏名】スン バオルー
(72)【発明者】
【氏名】ツァィ シュェチォン
【テーマコード(参考)】
4K001
【Fターム(参考)】
4K001AA02
4K001AA08
4K001AA10
4K001AA19
4K001AA27
4K001BA23
4K001FA10
4K001GA16
4K001HA02
(57)【要約】
本発明は材料分野のステンレス材料技術分野の高エントロピーのオーステナイト系ステンレス鋼及びその製造方法を開示する。本発明の開発するステンレス鋼は原子百分比の含有量で元素成分は以下のとおりである:Cr:5~30%、Ni:5~50%、Ti:1~15%、Al:1~15%であり、残部がFe及び不可避的不純物である。好ましい成分はCr:5~19%、Ni:5~29%、Ti:6~15%、Al:5~15%であり、残部はFeである。各元素の原子比を制御することにより、ナノ析出相の可能な最大量の析出を実現し、高い可塑性を保持すると同時に、強度を最大限に向上させる。本発明の提供するステンレス鋼成分体系が簡単で、製造コストが低く且つ高強度と高塑性を兼ね備え、航空、宇宙、海洋、原子力発電等の多くの工業分野に広く用いることができ、広い市場の将来性を有する。
【選択図】
図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
原子百分比の含有量に基づき、ステンレス鋼の元素成分は、
Cr:5~30%であり、
Ni:5~50%であり、
Ti:1~15%であり、
Al:1~15%であり、
残部はFeであることを、
特徴とする高エントロピーのオーステナイト系ステンレス鋼。
【請求項2】
原子百分比の含有量に基づき、前記ステンレス鋼の元素成分は、
Cr:5~19%であり、
Ni:5~29%であり、
Ti:6~15%であり、
Al:5~15%であり、
残部はFeであることを、
特徴とする請求項1に記載の高エントロピーのオーステナイト系ステンレス鋼。
【請求項3】
前記ステンレス鋼におけるナノ析出相のサイズは≦30nmであり、ナノ析出相の数密度は≧5.0×10
21m
-3であることを、
特徴とする請求項1に記載の高エントロピーのオーステナイト系ステンレス鋼。
【請求項4】
原子比の要求に応じて各原料を混合し、真空アルゴンアーク炉の溶製及び注湯によりインゴットを得て、インゴットを溶体化処理した後、(1)冷間圧延、再結晶を経た後、又は(2)熱間圧延、冷間圧延、再結晶を経た後、時効処理を行い、高エントロピーのオーステナイト系ステンレス鋼を得ることを、
特徴とする高エントロピーのオーステナイト系ステンレス鋼の製造方法。
【請求項5】
前記(1)における冷間圧延のプロセスは、各パスの圧下量は0.2mmを超えず、総圧下量は60%~70%であることを、
特徴とする請求項4に記載の製造方法。
【請求項6】
前記(2)における熱間圧延、冷間圧延のプロセスであって、
熱間圧延は、800°C~1150°Cで行い、各パスの圧下量は0.5mmを超えず、熱間圧延中に温度は、800~1150°C区間内であることを保証し、温度が低下すれば、炉に戻して圧延温度区間内で5~15分間を保温することができ、総圧下量を50%~60%にした後に冷間圧延プロセスに切り替え、冷間圧延の各パスの圧下量は0.2mmを超えず、総圧下量は60%~70%であることを、
特徴とする請求項4に記載の製造方法。
【請求項7】
前記再結晶の具体的な操作は、(1)又は(2)で圧延済みのインゴットを1140°C~1160°Cで1~3分間保温し、
好ましくは、前記再結晶の昇温速度は10℃/分間~20℃/分間であることを、
特徴とする請求項4に記載の製造方法。
【請求項8】
前記真空アルゴンアーク炉の溶製工程において、アルゴンアーク炉は、5.0×10
-3Pa以下でアルゴンガスを充填して炉内の気圧を、5.0×10
3Paにした後、炉内の酸素含有量及び窒素含有量は180分間内でいずれも0.002%未満であれば、溶製を開始し、
さらに、溶製を開始する前にさらに純Tiで酸素を除去することを含み、
好ましくは、前記真空アルゴンアーク炉の溶製回数は少なくとも四回であることを、
特徴とする請求項4に記載の製造方法。
【請求項9】
前記溶体化処理の具体的な操作は、
注湯後のインゴットを、1.0×10
-3Pa以下で1140°C~1160°Cに加熱し、1時間~2.5時間保温し、次いで水焼入れまたは空気中で冷却し、
好ましくは、前記溶体化処理の昇温速度が10°C/分間~20°C/分間であることを、
特徴とする請求項4に記載の製造方法。
【請求項10】
前記時効処理の具体的な操作は、
再結晶の完了したインゴットを、500°C~600°Cで、0.5時間~1.5時間保温した後、水焼入れまたは空冷し、
好ましくは、前記時効処理の昇温速度は5℃/分間~15℃/分間であることを、
特徴とする請求項4に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は材料分野に属し、具体的にはステンレス材料技術分野に関し、特に高エントロピーのオーステナイト系ステンレス鋼及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ステンレス鋼は、その良好な耐腐食性及び耐酸化性のために航空、宇宙、海洋、核産業の多くの工業分野に広く応用され、しかし、現在全ての商用ステンレス鋼は優れた強度と高い可塑性を両立することが困難である。例えば、オーステナイト系ステンレス鋼は、塑性が良いが強度が低すぎる。フェライト系ステンレス鋼及びマルテンサイト系ステンレス鋼は、強度はやや高いが、塑性が一般的である。析出硬化系ステンレス鋼は、ステンレス鋼種において最も高い強度を有するが、塑性が最も低い。現在、市場で一般的に使用されるオーステナイト系ステンレス鋼は201、301、304、316などの強度が低くて可塑性に優れたステンレス鋼及びその誘導された材料であり、その化学元素の質量配合比は以下のとおりである:C≦0.15%、Si≦2.0%、Mn≦2.0%(201,202の中:5.0%≦Mn≦10.5%、それぞれの成分が異なる)、P≦0.045%、S≦0.03%、N≦0.025%、15.0%≦Cr≦28.0%、3.5%≦Ni≦36.0(Cr、Ni含有量はそれぞれの系に関係する)、その他はCu、Nb、W、Ta、B及びAlなどの微量ドープ元素ならびに鉄及びその他の不可避的不純物である。
【0003】
近年、研究者は強塑性変形手段を利用し、代表的な技術は液体窒素冷間圧延、メカニカルアロイング、高圧ねじり及び押出等であり、マルテンサイトをオーステナイトに反転する強化方法により、材料結晶粒径をナノレベルまで微細化させ、材料の強度を効果的に向上させる。結晶粒微細化は強度を強化する作用が顕著であるが、材料の塑性靭性を極めて大きく損失させる。材料科学分野において、近年斬新な金属材料が台頭し、高エントロピー合金又は多元合金と呼ばれる。高エントロピー合金は少なくとも五種類の主要元素を含み、各元素の含有量は5-35at%である。高エントロピー合金は、高硬度、高強度、抗酸化、耐食性、耐疲労性、耐高温軟化性、耐クリープ性、耐摩耗性、固有の磁性、及び優れた低温機械的特性など、従来の合金では達成できない優れた特性を有する。C.T.Liu等は用L12-Ni3(TiAl)析出相を利用してFeCoNiTiAl高エントロピー合金を強化する設計方法を紹介し、多元合金基体にL12-Ni3(TiAl)析出相を導入することによって材料強度を大幅に向上させ、且つ引張塑性の損失がほとんどない[Science ,2018 ,362,933~937]。該方法において、高密度のナノ析出相を導入することにより強度を向上させ、引張変形過程において、転位と析出相との間の相互作用はせん断関係であり、変形の間に多数のマイクロストリップを形成し、それによって高い可塑性を維持する。したがって、基体合金中に微細且つ高密度のナノ析出相を導入することは、構造材料の強靭化を図る上で重要な役割を果たす。しかし、この高エントロピー合金は高価な戦略金属コバルトを含んでおり、大量に適用することは難しい。そのため新規な、元素コバルトを含まない高エントロピーのオーステナイト系ステンレス鋼を開発して従来の商用オーステナイト鋼における強度と塑性が両立しにくい技術的ボトルネックを埋め、従来のオーステナイト系ステンレス鋼の強度・塑性マッチングをはるかに超えることを達成することは極めて必要である。
【発明の概要】
【0004】
本発明における中高エントロピーのオーステナイト系ステンレス鋼の成分配分比は主に以下の思想に基づいて設計される:
(1)Cr元素の添加はステンレス鋼の強度を向上させると同時にその耐食性を保証することができ、高いCr含有量は核材料の使用環境(超臨界水、鉛ビスマス溶液など)における応用に適することに寄与する。
(2)Ni元素の添加は、ナノ析出相が形成される相領域を広げ、脆性をもたらす他の有害な金属間化合物の形成を抑制することができる。
(3)Al元素の適量添加は、合金に耐酸化性と耐食性を付与するとともに、ナノ析出相の析出を促進し、ナノ析出相を基体との高い共格度(High Coherence)を保持させる。
(4)Ti元素の適量添加は、結晶粒を微細化すること及び組織を均一化することができ、同時にNi、Alとナノ析出相を形成してステンレス鋼の強度を向上させる。且つTiは高価なCu、Co、Nb、Moを代替して生産コストを低減させると同時にナノ析出相のミクロ構造を破壊しない。
(5)Mnは製錬過程において揮発問題が存在するため、合金製造に不便をもたらし、且つ大きな浪費を引き起こす。Cuの存在は、材料を偏析させ、組織に不均一性をもたらす可能性がある。したがって、本発明の合金は、これら二つの元素を除去する必要がある。
(6)合金における各元素含有量の変化規則は以下のとおりである:Ti、Alの含有量は、他の三つの元素の含有量によって決定される。Cr、Niの含有量がTi、Alの含有量を上回る場合には、Ti、Alの含有量を適量低減する必要がある。Cr、Niの含有量がTi、Alの含有量を下回る場合はTi、Al含有量を適量増やす必要がある。Cr元素の含有量が高くなる場合、同時にNi元素の含有量を高める必要があり、一方で基体がオーステナイト構造であることを保証することができ、他方で十分なNi原子がナノ析出相を形成することを保証することができる。
【0005】
従来技術の不足を解決するために、本発明の目的は高強度・高塑性の高エントロピーのオーステナイト系ステンレス鋼及びその製造方法を提供することであり、本発明が採用する技術的手段は以下のとおりである:
高エントロピーのオーステナイト系ステンレス鋼であって、その特徴は、原子百分比の含有量に基づき、上記ステンレス鋼の元素成分は以下のとおりである:
Cr:5~30%; Ni:5~50%; Ti:1~15%; Al:1~15%; 残部はFeである。
好ましくは、原子百分比の含有量に基づき、上記ステンレス鋼の元素成分は以下のとおりである:
Cr:5~19%; Ni:5~29%; Ti:6~15%; Al:5~15%; 残部はFeである。
【0006】
さらに、上記ステンレス鋼におけるナノ析出相のサイズは≦30nmであり、ナノ析出相の数密度は≧5.0×1021m-3である。
【0007】
高エントロピーのオーステナイト系ステンレス鋼の製造方法であって、具体的なステップは以下のとおりである:原子比要求に応じて各原料を混合し、真空アルゴンアーク炉の溶製及び注湯によりインゴットを得て、インゴットを溶体化処理した後、(1)冷間圧延、再結晶後又は(2)熱間圧延、冷間圧延、再結晶後、時効処理を行い、高エントロピーのオーステナイト系ステンレス鋼を得る。
【0008】
さらに、上記(1)における冷間圧延のプロセスは以下のとおりである:各パスの圧下量は0.2mmを超えず、総圧下量は60%~70%である。
【0009】
さらに、上記(2)における熱間圧延、冷間圧延のプロセスは以下のとおりである:熱間圧延は、800°C~1150°Cで行い、各パスの圧下量は0.5mmを超えず、熱間圧延中に温度は、800~1150°C区間内であることを保証し、温度が低下すれば、炉に戻して圧延温度区間内で5~15を保温することができる。総圧下量を50%~60%にした後に冷間圧延プロセスに切り替え、冷間圧延の各パスの圧下量は0.2mmを超えず、総圧下量は60%~70%である。
【0010】
さらに、上記再結晶の具体的な操作は以下のとおりである:(1)又は(2)圧延済みのインゴットを1140°C~1160°Cで1~3分間保温する(インゴットの体積が大きすぎると、再結晶時間を適量に増加することができる)。
好ましくは、上記再結晶の昇温速度は10°C/分間~20°C/分間である。
【0011】
さらに、上記真空アルゴンアーク炉の溶製工程において、アルゴンアーク炉は、5.0×10-3Pa以下でアルゴンガスを充填して炉内の気圧を、5.0×103Paにした後、炉内の酸素含有量及び窒素含有量は180分間内で0.002%未満であれば、溶製を開始する。
さらに、溶製を開始する前に純Tiで酸素を除去することを含む。
さらに、上記純Tiの質量は30-40gであり、原材料とせず溶製にも関与しない。
好ましくは、上記真空アルゴンアーク炉の溶製回数は少なくとも四回である。
【0012】
さらに、上記溶体化処理の具体的な操作は以下のとおりである:注湯後のインゴットを、1.0×10-3Pa以下で1140°C~1160°Cに加熱し、1時間~2、5時間保温し、次いで水焼入れまたは空気中で冷却する。
上記溶体化処理の昇温速度が10°C/分間~20°C/分間であることが好ましい。
【0013】
さらに、上記時効処理の具体的な操作は以下のとおりである:再結晶の完了したインゴットを、500°C~600°Cで、0.5時間~1.5時間保温した後、水焼入れまたは空冷する。
上記時効処理の昇温速度は、5°C/分間~15°C/分間であることが好ましい。
【発明の効果】
【0014】
(1)本発明は、高エントロピーのオーステナイト系ステンレス鋼を提供し、原子百分比含有量で計算し、各元素の原子配合比はCr:5~30%であり、Ni:5~50%であり、Ti:1~15%であり、Al:1~15%であり、残部はFe及び他の製錬過程又は熱処理過程で導入される不可避的且つ含有量が極めて少ない不純物元素(C、N、O等)である。該ステンレス鋼成分系は簡単であり、一部の貴金属及び微量のドーピング元素を減少し、合金元素の添加を最大限に減少する。五種類の合金元素(三種類の主要元素:Fe、Cr、Ni、二種類の少量元素:Ti、Al)のみを用い、各成分の原子占有比を調整することにより、ナノ析出相の最大量の析出を実現し、製造された高エントロピーのオーステナイト系ステンレス鋼に高強度と高塑性を備えさせる。
【0015】
Crの添加により、ステンレス鋼の強度及び耐食性が向上する。Niの添加は、ナノ析出相が形成される相領域を広げ、有害な金属間化合物の生成を抑制する。Alの添加は、材料に耐酸化性及び耐食性を付与し、ナノ析出相の形成に寄与する。Ti元素を添加して結晶粒を微細化させ且つ組織を均一にさせ、同時にNi、Alとナノ析出相を形成してステンレス鋼の強度を向上させ、同時にTiは高価なCu、Co、Nb、Moを代替して生産コストを低減させ且つナノ析出相のミクロ構造を破壊しない。該ステンレス鋼はFe~Cr~Niを基体とし、Cr、Niの含有量を制御することにより、添加したTi、Al二種類の元素の含有量を調整してナノ析出相を形成して基体を強化する。ここで、Cr元素の含有量が高くなる場合、Ni元素の含有量を高める必要があり、基体がオーステナイト構造であることを保証する一方、十分なNi原子がナノ析出相を形成することを保証し、同時にTi、Al含有量を適量低下させ、脆性の金属間化合物の形成を防止し、逆もまた同様である。
【0016】
好ましい態様において、Cr:5~19%であり、Ni:5~29%であり、Ti:6~15%であり、Al:5~15%であり、残部が鉄である。合金の強度と塑性を保証する前提で、CrとNiの使用量を低減させ、さらに生産コストを低減させる。
【0017】
(2)本発明は、さらに高強度高塑性高エントロピーのオーステナイト系ステンレス鋼の製造プロセスを提供し、熱処理プロセスを簡略化させ、生産コストを低減させる。製造プロセスが簡単で、広い応用の将来性を有する。本発明における溶体化処理方法は合金元素をオーステナイト基体に十分に溶け込ませ、合金成分をより均一にさせ、高温短時間の再結晶処理を採用し、均一で比較的粗大な等軸晶を取得し、合金の良好な可塑性を保証すると同時に、生産効率を大幅に向上させ、コストを節約する。
【0018】
本発明の一つの好ましい態様において、熱間圧延した後に冷間圧延する圧延プロセスを採用し、大インゴットの圧延が困難であるという問題を解決することに役立つ。熱間圧延は初期に圧延による割れを解消することができ、後続の冷間圧延に備えて危険性を低減する。後続の時効処理により、ナノ強化相の最大化析出に寄与し、それによりステンレス鋼の強度と可塑性を向上させる。本発明の製造方法で製造されたステンレス鋼はその良好な強度・塑性の総合により、その力学的性能の面で大部分の商用ステンレス鋼より優れ、大部分のステンレス鋼の就役分野に適用する。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】
図1は、高エントロピーのオーステナイト系ステンレス鋼Fe
47Cr
16Ni
26Ti
6Al
5のX線回折図である。
【
図2】
図2は、高エントロピーのオーステナイト系ステンレス鋼Fe
47Cr
16Ni
26Ti
6Al
5の透過電子顕微鏡図及び元素分布図である。
【
図3】
図3は、高エントロピーのオーステナイト系ステンレス鋼が室温で測定した工学応力-歪み曲線図である。
【
図4】
図4は、従来技術における商用ステンレス鋼の性能である降伏強度R
eL及び破断伸びEと、本発明の高エントロピーのオーステナイト系ステンレス鋼の力学的性能とを比較した比較図である(ここで、二相はフェライト+マルテンサイトであり、以下では二相の意味はこれと同じである)。
【
図5】
図5は、従来技術における商用ステンレス鋼性能と本発明の高エントロピーのオーステナイト系ステンレス鋼の力学的性能の引張強度R
mと破断伸びEの比較図である。
【
図6】
図6は、従来技術における商用ステンレス鋼性能と本発明の高エントロピーのオーステナイト系ステンレス鋼の力学的性能の降伏強度と強度-延性バランス(引張強度×破断伸び)の比較図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明をより明確に理解するために、以下の実施例及び図面を参照して本発明をさらに説明する。実施例は単なる例示であり、決して本発明を限定しない。実施例において、各元の試薬材料は市販されており、特定の条件が明記されていない実験方法は、当該技術分野において周知の従来の方法及び条件であるか、又は装置製造業者によって推奨される条件に従う。
【0021】
実施例1
本実施例は、高エントロピーのオーステナイト系ステンレス鋼を提供し、その化学成分は以下のとおりである:Fe47Cr16Ni26Ti6Al5(原子比)又はFe48.56Cr15.39Ni28.24Ti5.32Al2.5(重量比)であり、製錬過程及び熱処理過程で不可避的に混入するごく少量の不純物元素(C、N、Oなど)が材料特性に与える影響は無視できる。
【0022】
上記高エントロピーのオーステナイト系ステンレス鋼の製造ステップは以下のとおりである:
(1)化学成分の設計割合に基づき、各原料を秤量して混合し(各原料の純度は≧99.9%である)、アルゴンアーク炉を、5.0×10
-3Pa以下でアルゴンガスを充填して炉内の気圧を5.0×10
3Paにした後、炉内の酸素含有量及び窒素含有量は、180分間内で0.002%未満である場合、まず30gの純Tiを溶融して脱酸素した後に溶製を開始する。アルゴンアーク炉で6回溶製し、60×10×5mmのシート状インゴットに鋳造し、得られたインゴットの化学成分は前記高エントロピーのオーステナイト系ステンレス鋼と同じである。
(2)上記インゴットを炉内に置いて溶体化処理及び均一化処理を行い、15°C/分の速度で1150°Cまで昇温し、120分間保温し、続いて水焼き入れする。溶体化処理後のインゴットに対し、冷間圧延変形プロセスを採用する。圧延プロセスは以下のとおりである:各パスの圧下量は0.2mmを超えず、総圧下量は66.7%である。圧延したインゴットを、10°C/分の速度で1150°Cまで昇温し、1.5分間保温して再結晶を完了する。再結晶が完了したインゴットを、10°C/分の速度で、600°Cまで昇温させて1時間保温した後に水焼き入れし、時効処理を完了する。
従来のCuKα放射をX線源として回折を行い、回折スペクトルは
図1に示すように、図中の回折ピークは面心構造の(111)、(200)、(220)、(311)、(222)回折ピークに標定することができ、そのため得られた構造はオーステナイトであり、ナノ析出相のサイズが小さすぎるため、X線回折図に可視の回折ピークを示さない。
【0023】
実施例2
本実施例は、高エントロピーのオーステナイト系ステンレス鋼を提供し、その化学成分は以下のとおりである:Fe47Cr16Ni26Ti6Al5(原子比)又はFe48.56Cr15.39Ni28.24Ti5.32Al2.5(重量比)であり、製錬過程及び熱処理過程で不可避的に混入するごく少量の不純物元素(C、N、Oなど)が材料特性に与える影響は無視できる。
【0024】
上記高エントロピーのオーステナイト系ステンレス鋼の製造ステップは以下のとおりである:
(1)化学成分の設計割合に基づき、各原料を秤量して混合し(各原料の純度は≧99.9%である)、アルゴンアーク炉を、5.0×10-3Pa以下でアルゴンガスを充填して炉内の気圧を5.0×103Paにした後、炉内の酸素含有量及び窒素含有量は、180分間内で0.002%未満である場合、まず30gの純Tiを溶融して脱酸素した後に溶製を開始する。アルゴンアーク炉で6回溶製し、60×10×5mmのシート状インゴットに鋳造し、インゴットの化学成分は上記高エントロピーのオーステナイト系ステンレス鋼と同じである。
(2)上記インゴットを炉内に置いて溶体化処理及び均一化処理を行い、15°C/分の速度で1150°Cまで昇温し、120分間保温し、空気中で冷却する。溶体化処理後のインゴットに対し、熱間圧延後に冷間圧延する変形プロセスを採用する。圧延プロセスは以下である。熱間圧延温度は1150°Cであり、熱間圧延中に温度が、800-1150°C区間内にあることを保証し、温度が低下すると、炉に戻して圧延温度区間内に5-15分間保温し、各パスの圧下量は、0.5mmを超えず、総圧下量が50%になった後に冷間圧延プロセスに切り替え、各パスの圧下量は、0.2mmを超えず、総圧下量は、66.7%である。圧延したインゴットを、15°C/分の速度で1140°Cまで昇温し、1.5分間保温して再結晶を完了した。再結晶が完了したインゴットを、15°C/分の速度で、550°Cまで昇温し、1.5時間保温した後、空気中で冷却し、時効処理を完了する。
【0025】
透過型電子顕微鏡により材料を特徴付け、透過型電子顕微鏡写真及び元素分布図を
図2に示す。ステンレス鋼基体に大量の球状ナノ析出相が分布され、成分はNi-Ti-Alであり、結晶構造は面心立方であり、平均サイズは14.4nm(直径)であり、数密度は1.68×10
22m
-3である。
【0026】
実施例3
本実施例は高エントロピーのオーステナイト系ステンレス鋼を提供し、その化学成分は以下のとおりである:Fe39Cr20Ni30Ti6Al5(原子比)又はFe40.33Cr19.25Ni32.6Ti5.32Al2.5(重量比)であり、ここで、製錬過程及び熱処理過程に導入された不可避的且つ含有量が極めて少ない不純物元素(C、N、O等)は材料性能への影響を無視できる。
【0027】
上記高エントロピーのオーステナイト系ステンレス鋼の製造ステップは以下のとおりである:
(1)化学成分の設計割合に基づき、各原料を秤量して混合し(各原料の純度は≧99.9%である)、アルゴンアーク炉を、5.0×10-3Pa以下でアルゴンガスを充填して炉内の気圧を5.0×103Paにした後、炉内の酸素含有量及び窒素含有量は、180分間内で0.002%未満である場合、まず35gの純Tiを溶融して脱酸素した後に溶製を開始する。アルゴンアーク炉で5回溶製し、60×10×5mmのシート状インゴットに鋳造し、インゴットの化学成分は上記高エントロピーのオーステナイト系ステンレス鋼と同じである。
(2)上記インゴットを炉内に置いて溶体化処理及び均一化処理を行い、15°C/分の速度で1150°Cまで昇温し、120分間保温し、続いて水焼き入れする。溶体化処理後のインゴットに対し、冷間圧延変形プロセスを採用する。圧延プロセスは以下のとおりである:各パスの圧下量は0.2mmを超えず、総圧下量66.7%である。圧延したインゴットを、18°C/分の速度で1145°Cまで昇温し、1.5分間保温して再結晶を完了する。再結晶が完了したインゴットを、12°C/分の速度で、600°Cまで昇温させて1時間保温した後に水焼き入れし、時効処理を完了する。
【0028】
実施例4
本実施例は、高エントロピーのオーステナイト系ステンレス鋼を提供し、その化学成分は以下のとおりである:Fe31Cr24Ni34Ti6Al5(原子比)又はFe32.08Cr23.12Ni36.98Ti5.32Al2.5(重量比)であり、製錬過程及び熱処理過程で不可避的に混入するごく少量の不純物元素(C、N、Oなど)が材料特性に与える影響は無視できる。
【0029】
上記高エントロピーのオーステナイト系ステンレス鋼の製造ステップは以下のとおりである:
(1)化学成分の設計割合に基づき、各原料を秤量して混合し(各原料の純度は≧99.9%である)、アルゴンアーク炉を、5.0×10-3Pa以下でアルゴンガスを充填して炉内の気圧を5.0×103Paにした後、炉内の酸素含有量及び窒素含有量は、180分間内で0.002%未満である場合、まず40gの純Tiを溶融して脱酸素した後に溶製を開始する。アルゴンアーク炉で5回溶製し、60×10×5mmのシート状インゴットに鋳造し、インゴットの化学成分は上記高エントロピーのオーステナイト系ステンレス鋼と同じである。
(2)上記インゴットを炉内に置いて溶体化処理及び均一化処理を行い、15°C/分の速度で1150°Cまで昇温し、120分間保温し、続いて水焼き入れする。溶体化処理後のインゴットに対し、冷間圧延変形プロセスを採用する。圧延プロセスは以下のとおりである:各パスの圧下量は0.2mmを超えず、総圧下量は66.7%である。圧延したインゴットを、10°C/分の速度で1155°Cまで昇温し、1.5分間保温して再結晶を完了する。再結晶が完了したインゴットを、10°C/分の速度で、600°Cまで昇温させて1時間保温した後に水焼き入れし、時効処理を完了する。
【0030】
実施例5
本実施例は、高エントロピーのオーステナイト系ステンレス鋼を提供し、その化学成分は以下のとおりである:Fe42Cr16Ni28Ti7Al7(原子比)又はFe43.88Cr15.56Ni30.75Ti6.27Al3.53(重量比)であり、製錬過程及び熱処理過程で不可避的に混入するごく少量の不純物元素(C、N、Oなど)が材料特性に与える影響は無視できる。
【0031】
上記高エントロピーのオーステナイト系ステンレス鋼の製造ステップは以下のとおりである:
(1)化学成分の設計割合に基づき、各原料を秤量して混合し(各原料の純度は≧99.9%である)、アルゴンアーク炉を、5.0×10-3Pa以下でアルゴンガスを充填して炉内の気圧を5.0×103Paにした後、炉内の酸素含有量及び窒素含有量は、180分間内で0.002%未満である場合、まず35gの純Tiを溶融して脱酸素した後に溶製を開始する。アルゴンアーク炉で6回溶製し、60×10×5mmのシート状インゴットに鋳造し、インゴットの化学成分は上記高エントロピーのオーステナイト系ステンレス鋼と同じである。
(2)上記インゴットを炉内に置いて溶体化処理及び均一化処理を行い、15°C/分の速度で1150°Cまで昇温し、120分間保温し、続いて水焼き入れする。溶体化処理後のインゴットに対し、冷間圧延変形プロセスを採用する。圧延プロセスは以下のとおりである:各パスの圧下量は0.2mmを超えず、総圧下量は66.7%である。圧延したインゴットを、20°C/分の速度で1160°Cまで昇温し、1.5分間保温して再結晶を完了する。再結晶が完了したインゴットを、10°C/分の速度で、600°Cまで昇温させて1時間保温した後に水焼き入れし、時効処理を完了する。
【0032】
実施例6
本実施例は、高エントロピーのオーステナイト系ステンレス鋼を提供し、その化学成分は以下のとおりである:Fe49Cr16Ni28Ti4Al3(原子比)又はFe49.9Cr15.17Ni29.98Ti3.49Al1.48(重量比)であり、製錬過程及び熱処理過程で不可避的に混入するごく少量の不純物元素(C、N、Oなど)が材料特性に与える影響は無視できる。
【0033】
上記高エントロピーのオーステナイト系ステンレス鋼の製造ステップは以下のとおりである:
(1)化学成分の設計割合に基づき、各原料を秤量して混合し(各原料の純度は≧99.9%である)、アルゴンアーク炉を、5.0×10-3Pa以下でアルゴンガスを充填して炉内の気圧を5.0×103Paにした後、炉内の酸素含有量及び窒素含有量は、180分間内で0.002%未満である場合、まず30gの純Tiを溶融して脱酸素した後に溶製を開始する。アルゴンアーク炉で6回溶製し、60×10×5mmのシート状インゴットに鋳造し、インゴットの化学成分は上記高エントロピーのオーステナイト系ステンレス鋼と同じである。
(2)上記インゴットを炉内に置いて溶体化処理及び均一化処理を行い、15°C/分の速度で1150°Cまで昇温し、120分間保温し、続いて水焼き入れする。溶体化処理後のインゴットに対し、冷間圧延変形プロセスを採用する。圧延プロセスは以下のとおりである:各パスの圧下量は0.2mmを超えず、総圧下量は66.7%である。圧延したインゴットを、10°C/分の速度で1150°Cまで昇温し、1.5分間保温して再結晶を完了する。再結晶が完了したインゴットを、10°C/分の速度で、600°Cまで昇温させて1時間保温した後に水焼き入れし、時効処理を完了する。
【0034】
実験例
実施例1~6で製造された材料を任意にサンプリングして分析し、その降伏強度R
eL、引張強度R
m、破断伸び率E、降伏比(R
eL/R
m)の統計分析の結果を表1に示し、そのうち、表における各サンプルはいずれも三回検出し、ランダムにサンプリングする方式を採用する。
【表1】
(1)表1から分かるように、本発明の実施例1~3により製造された高エントロピーのオーステナイト系ステンレス鋼の降伏強度、引張強度がより高く、破断伸び率がいずれも高いレベルを保持する。降伏比が0.67~0.73の合理的な範囲内に位置する。実施例4~5は、Ti、Alの含有量が過剰であるため、脆い金属間化合物が形成され、強度は向上したが、塑性損失が多かった。実施例6はTi、Alの含有量が不足であるため、析出強化を最大化することができず、強度が低い。
(2)
図3は高エントロピーのオーステナイト系ステンレス鋼が室温で測定した工学的応力-歪み曲線であり、使用する歪み速度は1×10
-3s
-1である。高エントロピーのオーステナイト系ステンレス鋼の降伏強度、引張強度および破断伸びを表1に示し、この図から、最適性能を有する高エントロピーのオーステナイト系ステンレス鋼は、820MPaの降伏強度、1220MPaの引張強度、37%の破断伸びを有することが分かる。
(3)
図4は従来技術における商用ステンレス鋼性能と本発明の高エントロピーのオーステナイト系ステンレス鋼力学的性能の降伏強度R
eLと破断伸び率Eとの対比である。該図から明らかなように、本発明の高エントロピーのオーステナイト系ステンレス鋼の降伏強度は大部分の商用ステンレス鋼より高くかつ高い塑性を保持し、その降伏強度と破断伸び率との積は、14.5~30.3GPa%であり、商用ステンレス鋼の降伏強度2.62~17.2GPa%より高い。
(4)
図5は従来技術における商用ステンレス鋼性能と本発明の高エントロピーのオーステナイト系ステンレス鋼力学的性能の引張強度R
mと破断伸びEの対比である。該図から明らかなように、本発明の高エントロピーのオーステナイト系ステンレス鋼は高塑性を保持すると同時にさらに高い引張強度を備え、その引張強度と破断伸びの積は18.0~46.1GPa%であり、商用ステンレス鋼の2.9~42.8GPa%より高い。
(5)
図6は従来技術における商用ステンレス鋼性能と本発明の高エントロピーのオーステナイト系ステンレス鋼力学性能の降伏強度と強度-延性バランス(引張強度×破断伸び率)との対比である。該図から明らかなように、本発明の高エントロピーのオーステナイト系ステンレス鋼の降伏強度及び強度-延性バランスは従来技術のステンレス鋼より高く、高強度を兼ね備えると同時に高塑性を保持し、総合性能は従来技術のステンレス鋼より優れる。
【0035】
明らかに、上記実施例は説明を明瞭にするために例示したものであり、実施形態を限定するものではない。当業者であれば、上記説明に基づいて他の異なる形態の変化又は変更を行うことができる。ここで、すべての実施形態を網羅する必要はない。このように延伸された明らかな変化又は変動は依然として本発明の保護範囲内にある。
【国際調査報告】