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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-01-31
(54)【発明の名称】医薬化合物
(51)【国際特許分類】
   C07D 451/04 20060101AFI20240124BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20240124BHJP
   A61P 29/00 20060101ALI20240124BHJP
   A61P 25/28 20060101ALI20240124BHJP
   A61P 25/04 20060101ALI20240124BHJP
   A61P 25/18 20060101ALI20240124BHJP
   A61K 31/4545 20060101ALI20240124BHJP
【FI】
C07D451/04 CSP
A61P43/00 111
A61P29/00
A61P25/28
A61P25/04
A61P25/18
A61K31/4545
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023536899
(86)(22)【出願日】2021-12-20
(85)【翻訳文提出日】2023-08-15
(86)【国際出願番号】 GB2021053372
(87)【国際公開番号】W WO2022129951
(87)【国際公開日】2022-06-23
(31)【優先権主張番号】2020191.9
(32)【優先日】2020-12-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】514120896
【氏名又は名称】ヘプタレス セラピューティクス リミテッド
【氏名又は名称原語表記】Heptares Therapeutics Limited
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【弁理士】
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【弁理士】
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100119013
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 一夫
(74)【代理人】
【識別番号】100123777
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 さつき
(74)【代理人】
【識別番号】100111796
【弁理士】
【氏名又は名称】服部 博信
(74)【代理人】
【識別番号】100123766
【弁理士】
【氏名又は名称】松田 七重
(72)【発明者】
【氏名】フィールドハウス シャーロット
(72)【発明者】
【氏名】コングリーブ マイルス スチュアート
【テーマコード(参考)】
4C086
【Fターム(参考)】
4C086AA01
4C086AA02
4C086AA03
4C086CB05
4C086GA13
4C086MA01
4C086MA04
4C086NA14
4C086ZA08
4C086ZA15
4C086ZA16
4C086ZA18
(57)【要約】
本発明は、ムスカリンM1及びM4受容体のアゴニストであり、ムスカリンM1及び/又はM4受容体に媒介される疾患の治療に有用である化合物に関する。また、前記化合物を含む医薬組成物及び前記化合物の治療用途を提供する。式(1):
(1)
の化合物及びその塩を提供する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(1):
【化1】
(1)
の化合物又はその塩。
【請求項2】
式(2):
【化2】
(2)
である、請求項1に記載の化合物又はその塩。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の化合物の塩。
【請求項4】
請求項1又は2に記載の化合物の医薬上許容される塩。
【請求項5】
請求項1又は2に記載の化合物の酸付加塩。
【請求項6】
請求項1又は2に記載の化合物の塩酸塩。
【請求項7】
請求項1又は2に記載の化合物の一塩酸塩。
【請求項8】
式(2b):
【化3】
(2b)
の化合物である、請求項1に記載の化合物。
【請求項9】
式(2c):
【化4】
(2c)
の化合物である、請求項1に記載の化合物。
【請求項10】
請求項1~9のいずれか一項に記載の化合物及び医薬上許容される賦形剤を含む、医薬組成物。
【請求項11】
ムスカリンM1及びM4受容体アゴニスト活性を有する、請求項1~9のいずれか一項に記載の化合物。
【請求項12】
医薬に使用するための、請求項1~9のいずれか一項に記載の化合物又は請求項10に記載の組成物。
【請求項13】
認知障害若しくは精神障害の治療、或いは急性、慢性、神経障害性、若しくは炎症性疼痛の治療又は重症度の軽減のために使用する、請求項1~9のいずれか一項に記載の化合物又は請求項10に記載の組成物。
【請求項14】
障害が、アルツハイマー病である、請求項13に記載の化合物の使用。
【請求項15】
障害が、レビー小体型認知症である、請求項13に記載の化合物の使用。
【請求項16】
障害が、統合失調症である、請求項13に記載の化合物の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一群の新規な複素環化合物、その塩、それらを含む医薬組成物、及び人体の治療におけるそれらの使用に関する。特に、本発明は、ムスカリンM1受容体及び/又はM4受容体のアゴニストであり、したがってアルツハイマー病、統合失調症、認知障害及びムスカリンM1/M4受容体により媒介される他の疾患の治療(疼痛の治療又は軽減が挙げられるが、これに限定されない)に有用である一群の化合物に関する。
【背景技術】
【0002】
ムスカリンアセチルコリン受容体(mAChR)は、中枢神経系と末梢神経系の両方において神経伝達物質アセチルコリンの作用を媒介する、Gタンパク質共役型受容体スーパーファミリーのメンバーである。5種のmAChRサブタイプ、M1~M5がクローニングされている。M1mAChRは、主に大脳皮質、海馬、線条体及び視床においてシナプス後に発現し;M2mAChRは、主に脳幹及び視床に存在するが、大脳皮質、海馬及び線条体にも存在し、M2mAChRは、コリン作動性シナプス終末に存在する(Langmead et al., 2008 Br J Pharmacol)。しかしながら、M2mAChRはまた、心臓組織上(そこで、心臓の迷走神経支配(vagal innervation)を媒介する)並びに平滑筋及び外分泌腺において末梢に発現する。M3mAChRは、CNSにおいて比較的低レベルで発現するが、平滑筋、及び汗腺や唾液腺などの腺組織において広範に発現する(Langmead et al., 2008 Br J Pharmacology)。
中枢神経系におけるムスカリン受容体、特に、M1mAChRは、より高度な認知処理を媒介することにおいて重要な役割を果たす。アルツハイマー病などの認知機能障害と関連する疾患は、前脳基底部におけるコリン作動性ニューロンの喪失を伴うものである(Whitehouse et al., 1982 Science)。認知機能障害を特徴とする統合失調症においても、統合失調症の対象の前頭前皮質、海馬及び尾状核被殻においてmAChR密度が減少している(Dean et al., 2002 Mol Psychiatry)。さらに、動物モデルにおいて、中枢コリン作動性経路の遮断又は損傷は、重度の認知障害を引き起こし、非選択的mAChRアンタゴニストは、精神科患者において精神異常作用を誘発することが示されている。コリン作動薬補充療法(cholinergic replacement therapy)は主に、内因性アセチルコリンの分解を防ぐためのアセチルコリンエステラーゼ阻害薬の使用に基づく。これらの化合物は、臨床において、症候性認知機能低下に対する有効性を示しているが、末梢のM2及びM3mAChRの刺激に起因する用量制限的な副作用(胃腸運動障害、徐脈、悪心及び嘔吐など)を引き起こす(http://www.drugs.com/pro/donepezil.html;http://www.drugs.com/pro/rivastigmine.html)。
【0003】
更に、認知機能の増加を標的とする直接的なM1mAChRアゴニストの同定を目標に探索が進められてきた。このような努力の結果、様々なアゴニストが同定され、例として、キサノメリン、AF267B、サブコメリン、ミラメリン及びセビメリンなどの化合物が挙げられる。これらの化合物の多くは、齧歯類及び/又は非ヒト霊長類の両方における認知の前臨床モデルで非常に有効であることが示されている。ミラメリンは、齧歯動物のスコポラミン誘発性作業記憶障害及び空間記憶障害に対して有効性を示し、サブコメリンは、マーモセットの視覚物体識別タスクにおいて有効性を示し、キサノメリンは、受動的回避パラダイムの認知パフォーマンスにおいてmAChRアンタゴニスト誘発性障害を回復させた。
アルツハイマー病(AD)は、高齢者が罹患する最も一般的な神経変性障害であり(2006年には全世界で2,660万人)、重度の記憶喪失及び認知機能障害をもたらす。本疾患の病因は複雑であるが、主にアミロイド-βペプチド(Aβ)から構成されるアミロイドプラークの凝集、及びタウタンパク質の過剰リン酸化により形成される神経原線維変化(neurofibrillary tangles)という2つの特徴的な脳の続発症を特徴とする。Aβの蓄積は、ADの進行の中心的な特徴であると考えられ、したがって、ADの治療のための多くの推定療法は現在、Aβ産生の阻害を標的としている。Aβは、膜結合型アミロイド前駆体タンパク質(APP)のタンパク質分解切断に由来する。APPは、2つの経路、非アミロイド形成経路及びアミロイド形成経路によりプロセシングされる。γ-セクレターゼによるAPPの切断は、両経路に共通しているが、前者において、APPは、α-セクレターゼにより切断され、可溶性APPαを産生する。切断部位はAβ配列内にあり、これによってAβの形成が妨げられる。しかしながら、アミロイド形成経路において、APPは、β-セクレターゼにより切断され、可溶性APPβとAβも産生する。インビトロ研究では、mAChRアゴニストは、可溶性の非アミロイド形成経路へのAPPのプロセシングを促進できることが示されている。インビボ研究では、mAChRアゴニストであるAF267Bが、アルツハイマー病の様々な構成要素のモデルである3×TgADトランスジェニックマウスおいて、疾患様病態を変化させたことが示されている(Caccamo et al., 2006 Neuron)。最後に、mAChRアゴニストであるセビメリンは、アルツハイマー病の患者におけるAβの脳脊髄液レベルをわずかであるが、有意に低減させたことが示されており、したがって潜在的な疾患修飾効果(disease modifying efficacy)を実証している(Nitsch et al., 2000 Neurol)。
【0004】
さらに、前臨床研究は、mAChRアゴニストが、様々な前臨床パラダイムにおいて非定型抗精神病薬のようなプロファイルを示すことを示唆している。mAChRアゴニストであるキサノメリンは、多くのドーパミン駆動の行動(ラットにおけるアンフェタミン誘発の運動、マウスにおけるアポモルフィン誘発の登攀、片側6-OH-DA病変ラットにおけるドーパミンアゴニスト駆動の回転、及びサルにおけるアンフェタミン誘発の運動不安など)を回復させる(EPS傾向を伴わない)。キサノメリンはまた、A9ではなく、A10のドーパミン細胞の発火及び条件回避を阻害することを示しており、ラットの前頭前皮質及び側坐核においてc-fos発現を誘発するが、線条体では誘発しない。これらのデータはすべて、非定型抗精神病薬のようなプロファイルを示唆している(Mirza et al., 1999 CNS Drug Rev)。ムスカリン受容体はまた、依存症の神経生物学にも関係がある。コカイン及び他の依存性物質の強化効果は、中脳辺縁系ドーパミン系により媒介され、ここで、行動学的研究及び神経化学的研究では、コリン作動性ムスカリン受容体サブタイプが、ドーパミン作動性神経伝達の調節において重要な役割を果たすことが示されている。例えば、M(4)(-/-)マウスは、コカインへの曝露の結果として、有意に増強された報酬駆動型行動を示した(Schmidt et al Psychopharmacology (2011) Aug;216(3):367-78)。さらに、キサノメリンは、これらのモデルにおいて、コカインの影響を遮断することが実証された。
【0005】
ムスカリン受容体は、運動の制御にも関与し、パーキンソン病、ADHD、ハンチントン病、トゥレット症候群、及び根本的な病原因子が駆動する疾患として、ドーパミン作動性機能不全と関連する他の症候群などの運動障害に対する新規な治療薬となる可能性がある。
キサノメリン、サブコメリン、ミラメリン及びセビメリンはすべて、アルツハイマー病及び/又は統合失調症の治療のための臨床開発の様々な段階に進んでいる。キサノメリンの第II相臨床研究では、様々な認知症状領域(アルツハイマー病と関連する行動障害及び幻覚を含む)に対する、キサノメリンの有効性が実証された(Bodick et al., 1997 Arch Neurol)。この化合物は、統合失調症患者の小規模な第II相研究においても評価され、プラセボ対照と比較して、陽性症状及び陰性症状を有意に低減させた(Shekhar et al., 2008 Am J Psych)。しかしながら、すべての臨床研究において、キサノメリン及び他の関連するmAChRアゴニストは、コリン作動性副作用(悪心、胃腸痛、下痢、発汗(過剰な発汗)、唾液分泌過多(過剰な唾液分泌)、失神及び徐脈など)に関して許容できない安全性の限界を示した。
【0006】
ムスカリン受容体は、中枢性疼痛及び末梢性疼痛に関与している。疼痛は、3つの異なるタイプ:急性、炎症性、及び神経因性に分けることができる。急性疼痛は、組織損傷を引き起こす可能性のある刺激から生体を安全に守る重要な保護機能を担うが、手術後の疼痛の管理が必要である。炎症性疼痛は、組織損傷、自己免疫応答、及び病原体侵入などの、多くの原因で起こる可能性があり、神経の炎症及び疼痛を引き起こす神経ペプチド及びプロスタグランジンなどの炎症性メディエーターの作用がトリガーとなる。神経因性疼痛は、無痛の刺激に対する異常な痛みの感覚を伴う。神経因性疼痛は、脊髄損傷、多発性硬化症、糖尿病(糖尿病性神経障害)、ウイルス感染症(例えば、HIV又はヘルペス)などの、多くの異なる疾患/外傷と関連する。疾患又は化学療法の副作用の両方の結果として、がんでもよくみられる。ムスカリン受容体の活性化は、脳内の高次痛覚中枢及び脊髄における受容体の活性化を通して、多くの疼痛状態に対して鎮痛作用を有することが示されている。アセチルコリンエステラーゼ阻害薬によるアセチルコリンの内因性レベルの上昇、アゴニスト又はアロステリック修飾因子によるムスカリン受容体の直接的活性化は、鎮痛活性を有することが示されている。これに対して、アンタゴニスト又はノックアウトマウスの使用によってムスカリン受容体を遮断すると、疼痛感受性が高まる。疼痛におけるM1受容体の役割についての証拠は、D. F. Fiorino及びM. Garcia-Guzman, 2012において検討されている。
つい最近、末梢に発現するmAChRサブタイプと比べて、M1mAChRサブタイプに対して改善された選択性を示す少数の化合物が同定された(Bridges et al., 2008 Bioorg Med Chem Lett; Johnson et al., 2010 Bioorg Med Chem Lett; Budzik et al., 2010 ACS Med Chem Lett)。M3mAChRサブタイプに対する選択性のレベルが増加したにもかかわらず、これらの化合物の中には、このサブタイプ及びM2mAChRサブタイプの両方において顕著なアゴニスト活性を保持するものがある。本明細書において、予想外的に、M2及びM3受容体サブタイプと比べて、M1及び/又はM4mAChRに対して高レベルの選択性を示す一連の化合物を説明する。
【発明の概要】
【0007】
本発明は、ムスカリンM1及び/又はM4受容体アゴニストとしての活性を有する化合物を提供する。より具体的には、本発明は、M2及びM3受容体サブタイプと比べて、M1及び/又はM4受容体に対して選択性を示す化合物を提供する。
よって、本発明は、式(1):
【化1】
(1)
の化合物、又はその塩を提供する。
本発明は、式(1a):
【化2】
(1a)
の化合物を更に提供する
(式中、Xは、塩を表す)。
本発明は、式(1b):
【化3】
(1b)
の化合物を更に提供する。
【0008】
本発明は、式(2):
【化4】
(2)
の化合物又はその塩を提供する。
本発明は、式(2a):
【化5】
(2a)
の化合物を更に提供する
(式中、Xは、塩を表す)。
【0009】
本発明は、式(2b):
【化6】
(2b)
の化合物を更に提供する。
本発明は、式(2c):
【化7】
(2c)
の化合物を更に提供する。
【0010】
式(1)又は式(2)の化合物は、医薬上許容される塩であり得る。
式(1)又は式(2)の化合物は、酸付加塩であり得る。
式(1)又は式(2)の化合物は、塩酸塩であり得る。
一式(1)又は式(2)の化合物は、塩酸塩であり得る。
式(1)又は式(2)の化合物は、一塩酸塩一水和物であり得る。
式(1a)又は式(2a)の化合物において、Xは、医薬上許容される塩であり得る。
式(1a)又は式(2a)の化合物において、Xは、酸付加塩であり得る。
式(1a)又は式(2a)の化合物において、Xは、塩酸塩であり得る。
式(1a)又は式(2a)の化合物において、Xは、一塩酸塩であり得る。
式(1)又は式(2)の化合物は、塩酸塩であり得る。
Xは、塩酸塩であり得る。Xは、一塩酸塩であり得る。Xは、一塩酸塩一水和物であり得る。
化合物は、N-tert-ブチル-1-{8-[3-(トリフルオロメチル)-1,2,4-オキサジアゾール-5-イル]-8-アザビシクロ[3.2.1]オクタン-3-イル}ピペリジン-4-カルボキサミドであり得る。
化合物は、N-tert-ブチル-1-{(1R,3r,5S)-8-[3-(トリフルオロメチル)-1,2,4-オキサジアゾール-5-イル]-8-アザビシクロ[3.2.1]オクタン-3-イル}ピペリジン-4-カルボキサミドであり得る。
化合物は、N-tert-ブチル-1-{8-[3-(トリフルオロメチル)-1,2,4-オキサジアゾール-5-イル]-8-アザビシクロ[3.2.1]オクタン-3-イル}ピペリジン-4-カルボキサミドの塩であり得る。
化合物は、N-tert-ブチル-1-{(1R,3r,5S)-8-[3-(トリフルオロメチル)-1,2,4-オキサジアゾール-5-イル]-8-アザビシクロ[3.2.1]オクタン-3-イル}ピペリジン-4-カルボキサミドの塩であり得る。
【0011】
化合物は、N-tert-ブチル-1-{8-[3-(トリフルオロメチル)-1,2,4-オキサジアゾール-5-イル]-8-アザビシクロ[3.2.1]オクタン-3-イル}ピペリジン-4-カルボキサミドの医薬上許容される塩であり得る。
化合物は、N-tert-ブチル-1-{(1R,3r,5S)-8-[3-(トリフルオロメチル)-1,2,4-オキサジアゾール-5-イル]-8-アザビシクロ[3.2.1]オクタン-3-イル}ピペリジン-4-カルボキサミドの医薬上許容される塩であり得る。
化合物は、N-tert-ブチル-1-{8-[3-(トリフルオロメチル)-1,2,4-オキサジアゾール-5-イル]-8-アザビシクロ[3.2.1]オクタン-3-イル}ピペリジン-4-カルボキサミド塩酸塩であり得る。
化合物は、N-tert-ブチル-1-{(1R,3r,5S)-8-[3-(トリフルオロメチル)-1,2,4-オキサジアゾール-5-イル]-8-アザビシクロ[3.2.1]オクタン-3-イル}ピペリジン-4-カルボキサミド塩酸塩であり得る。
化合物は、N-tert-ブチル-1-{8-[3-(トリフルオロメチル)-1,2,4-オキサジアゾール-5-イル]-8-アザビシクロ[3.2.1]オクタン-3-イル}ピペリジン-4-カルボキサミド一塩酸塩であり得る。
化合物は、N-tert-ブチル-1-{(1R,3r,5S)-8-[3-(トリフルオロメチル)-1,2,4-オキサジアゾール-5-イル]-8-アザビシクロ[3.2.1]オクタン-3-イル}ピペリジン-4-カルボキサミド一塩酸塩であり得る。
化合物は、N-tert-ブチル-1-{8-[3-(トリフルオロメチル)-1,2,4-オキサジアゾール-5-イル]-8-アザビシクロ[3.2.1]オクタン-3-イル}ピペリジン-4-カルボキサミド一塩酸塩一水和物であり得る。
化合物は、N-tert-ブチル-1-{(1R,3r,5S)-8-[3-(トリフルオロメチル)-1,2,4-オキサジアゾール-5-イル]-8-アザビシクロ[3.2.1]オクタン-3-イル}ピペリジン-4-カルボキサミド一塩酸塩一水和物であり得る。
【発明を実施するための形態】
【0012】
定義
本願において、別段の指示がない限り、以下の定義が適用される。
式(1)、式(1a)、式(1b)、式(2)、式(2a)、式(2b)又は式(2c)の化合物の使用に関する用語「治療」は、問題の疾患若しくは障害を患っているか、又は患うリスクがあるか、又は潜在的に患うリスクがある対象に化合物を投与する、任意の形態の介入を説明するために使用される。したがって、用語「治療」は、予防的な治療、及び疾患又は障害の測定可能又は検出可能な症状を示している治療の両方を包含する。
本明細書において使用される用語「治療上有効量」(例えば、疾患又は状況の治療方法に関して)は、所望の治療効果を生み出すのに有効である化合物の量を指す。例えば、状況が疼痛である場合、治療上有効量は、疼痛緩和の所望のレベルを提供するのに十分な量である。疼痛緩和の所望のレベルは、例えば、疼痛の完全な除去又は疼痛の重症度の軽減であり得る。
【0013】

本明細書に記載の化合物は、塩の形態、例えば、酸付加塩、ある場合には有機及び無機塩基の塩、例えば、カルボン酸塩、スルホン酸塩及びリン酸塩で存在することができる。このような塩はすべて、本発明の範囲にあり、式(1)及び式(2)の化合物に言及する場合、本明細書において定義される化合物の塩の形態を含む。
塩は、典型的には酸付加塩である。
本発明の塩は、従来の化学的方法、例えば、Pharmaceutical Salts: Properties, Selection, and Use, P. Heinrich Stahl (Editor), Camille G. Wermuth (Editor), ISBN: 3-90639-026-8, Hardcover, 388 pages, August 2002に記載の方法により、塩基性部分又は酸性部分を含む親化合物から合成することができる。一般的に、このような塩は、これらの化合物の遊離酸又は遊離塩基の形態を、適切な塩基又は酸と、水若しくは有機溶媒中で、又は両者の混合物中で反応させることにより調製することができ、一般的に、エーテル、酢酸エチル、エタノール、イソプロパノール、又はアセトニトリルなどの非水媒体を使用する。
【0014】
酸付加塩は、多種多様な酸(有機酸及び無機酸の両方)で形成され得る。本発明の範囲に含まれる酸付加塩の例として、酢酸、2,2-ジクロロ酢酸、アジピン酸、アルギン酸、アスコルビン酸(例えば、L-アスコルビン酸)、L-アスパラギン酸、ベンゼンスルホン酸、安息香酸、4-アセトアミド安息香酸、ブタン酸、(+)ショウノウ酸、カンファースルホン酸、(+)-(1S)-カンファー-10-スルホン酸、カプリン酸、カプロン酸、カプリル酸、桂皮酸、クエン酸、シクラミン酸、ドデシル硫酸、エタン-1,2-ジスルホン酸、エタンスルホン酸、2-ヒドロキシエタンスルホン酸、ギ酸、フマル酸、ガラクタル酸、ゲンチシン酸、グルコヘプトン酸、D-グルコン酸、グルクロン酸(例えば、D-グルクロン酸)、グルタミン酸(例えば、L-グルタミン酸)、α-オキソグルタル酸、グリコール酸、馬尿酸、ハロゲン化水素酸(例えば、臭化水素酸、塩酸、ヨウ化水素酸)、イセチオン酸、乳酸(例えば、(+)-L-乳酸、(±)-DL-乳酸)、ラクトビオン酸、マレイン酸、リンゴ酸、(-)-L-リンゴ酸、マロン酸、(±)-DL-マンデル酸、メタンスルホン酸、ナフタレン-2-スルホン酸、ナフタレン-1,5-ジスルホン酸、1-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸、ニコチン酸、硝酸、オレイン酸、オロト酸、シュウ酸、パルミチン酸、パモン酸、リン酸、プロピオン酸、ピルビン酸、L-ピログルタミン酸、サリチル酸、4-アミノ-サリチル酸、セバシン酸、ステアリン酸、コハク酸、硫酸、タンニン酸、(+)-L-酒石酸、チオシアン酸、p-トルエンスルホン酸、ウンデシレン酸及び吉草酸からなる群より選択される酸、並びにアシル化アミノ酸及びカチオン交換樹脂で形成されるモノ塩又はジ塩が挙げられる。
【0015】
本明細書に記載の化合物におけるアミン官能基は、例えば、当業者によく知られている方法に従い、アルキル化剤との反応によって、四級アンモニウム塩を形成し得る。このような四級アンモニウム化合物は、本発明の範囲内にある。
本発明の化合物は、塩を形成する酸のpKaに応じて、モノ塩又はジ塩として存在し得る。
本発明の化合物の塩の形態は、典型的には、医薬上許容される塩であり、医薬上許容される塩の例は、Berge et al., 1977, " Pharmaceutically Acceptable Salts," J. Pharm. Sci., Vol. 66, pp. 1-19において議論されている。しかしながら、医薬上許容されない塩もまた、中間体形態として調製することができ、次いで医薬上許容される塩に変換することもできる。このような医薬上許容されない塩の形態は、例えば、本発明の化合物の精製又は分離において有用である場合があり、これも本発明の一部を形成する。
【0016】
立体異性体
式(1)、(1a)及び(1b)の化合物に言及する場合、文脈上他に必要がない限り、個々の異性体、又は混合物(例えば、ラセミ混合物)若しくは2つ以上の異性体として、そのすべての可能な立体異性体の形態(例えば、鏡像異性体、エピマー、及びジアステレオマー;エンド-エキソ異性体など)を含む。
したがって、本発明は、キラル中心を含む式(1)の化合物を提供する。
異性体は、Cahn、Ingold及びPrelogによって開発された「RとS」命名法を使用して、それらの絶対立体化学の観点から特徴付けることができる。Advanced Organic Chemistry by Jerry March, 4th Edition, John Wiley & Sons, New York, 1992, pages 109-114、及びCahn, Ingold & Prelog, Angew. Chem. Int. Ed. Engl., 1966, 5, 385-415を参照されたい。立体異性体は、キラルクロマトグラフィー(キラル担体によるクロマトグラフィー)を含む多くの技術により分離することができ、このような技術は、当業者によく知られている。キラルクロマトグラフィーの代わりとして、立体異性体は、(+)-酒石酸、(-)-ピログルタミン酸、(-)-ジ-トルオイル-L-酒石酸、(+)-マンデル酸、(-)-リンゴ酸、及び(-)-カンファースルホン酸などのキラル酸とジアステレオマーの塩を形成し、選択的に結晶化させることによりジアステレオマーを分離し、続いて塩を解離させ、遊離塩基の個々の鏡像異性体を得ることによって、分離することができる。
【0017】
本発明の化合物が2つ以上の立体異性体の形態として存在する場合、一対のジアステレオマーのうちの一方のジアステレオマーは、例えば、生物学的活性の面で、他方のジアステレオマーよりも優れていることがある。したがって、ある状況では、複数のジアステレオ異性体のうちの1つのみを治療剤として使用することが望ましい場合がある。
したがって、本発明は、1つ以上のキラル中心を有する化合物を含む組成物であって、前記化合物の少なくとも55%(例えば、少なくとも60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%又は95%)が、単一の異性体(例えば、ジアステレオマー)として存在する、前記組成物を提供する。
一般的な一実施形態において、化合物(又は使用のための化合物)の総量の99%以上(例えば、実質的に全部)は、単一の異性体として存在する。
例えば、一実施形態において、化合物は、単一のジアステレオマーとして存在し、化合物は、対称面を有する。
【0018】
同位体
本発明の化合物は、1つ以上の同位体置換を含むことができ、特定の元素に言及する場合、その範囲内にその元素のすべての同位体を含む。例えば、水素に言及する場合、その範囲内に1H、2H(D)、及び3H(T)を含む。同様に、炭素及び酸素に言及する場合、それぞれの範囲内に12C、13C及び14C並びに16O及び18Oを含む。
同じように、特定の官能基に言及する場合、文脈上他に示していない限り、その範囲内に同位体のバリエーションも含む。例えば、tert-ブチル基などのアルキル基に言及する場合、その基における1つ以上の水素原子が、重水素又は三重水素(トリチウム)同位体の形態のバリエーション、例えば、9つの水素原子がすべて、重水素同位体形態であるtert-ブチル基(ペル重水素-tert-ブチル基)も包含する。
同位体は、放射性又は非放射性であってもよい。化合物は、放射性同位体を含まないこともある。このような化合物は、治療用途に好ましい。しかしながら、化合物は、1種以上の放射性同位体を含み得る。このような放射性同位体を含む化合物は、診断の場面で有用であり得る。
【0019】
溶媒和物
本発明の化合物は、溶媒和物を形成することができる。好ましい溶媒和物は、無毒性の医薬上許容される溶媒(以下、溶媒和性溶媒(solvating solvent)と称する)の分子を、本発明の化合物の固体構造(例えば、結晶構造)に取り込ませることによって形成される溶媒和物である。このような溶媒の例として、水、アルコール(エタノール、イソプロパノール及びブタノール等)、及びジメチルスルホキシドが挙げられる。溶媒和物は、溶媒又は溶媒和性溶媒を含む溶媒の混合物で、本発明の化合物を再結晶することにより調製することができる。いかなる場合においても、溶媒和物を形成したか否かについては、熱重量分析(TGE)、示差走査熱量測定(DSC)及びX線結晶解析などの周知かつ標準的な技術を用いて、化合物の結晶を分析することによって決定することができる。溶媒和物は、化学量論的な又は非化学量論的な溶媒和物であってもよい。特に好ましい溶媒和物は、水和物であり、水和物の例として、半水和物、一水和物及び二水和物が挙げられる。
したがって、本発明は、
溶媒和物の形態の化合物、
溶媒和物が水和物である化合物、
溶媒和物が一水和物である化合物、を提供する。
溶媒和物とその作製及び特性評価に使用する方法のより詳細な議論については、SSCI, Inc of West Lafayette, IN, USA, 1999により出版された、Bryn et al., Solid-State Chemistry of Drugs, Second Edition(ISBN 0-967-06710-3)を参照されたい。
或いは、本発明の化合物は、水和物として存在することよりもむしろ、無水であってもよい。したがって、本発明は、無水形態(例えば、無水結晶形態)の本発明の化合物を提供する。
【0020】
結晶形態及び非晶質形態
化合物は、結晶又は非結晶(例えば、非晶質)状態で存在してもよい。化合物が結晶状態で存在するか否かについては、X線粉末回折(XRPD)などの標準的な技術により容易に決定することができる。結晶及びその結晶構造は、多くの技術を用いて特性評価することができ、前記技術として、単結晶X線結晶解析、X線粉末回折(XRPD)、示差走査熱量測定(DSC)及び赤外分光法(例えば、フーリエ変換赤外分光法(FTIR))が挙げられる。変動する湿度条件下での結晶の挙動は、蒸気吸着重量の研究(gravimetric vapour sorption studies)によって、XRPDによっても分析することができる。化合物の結晶構造は、従来の方法に従い実施できるX線結晶解析によって決定することができ、従来の方法は、例えば、本明細書、及びFundamentals of Crystallography, C. Giacovazzo, H. L. Monaco, D. Viterbo, F. Scordari, G. Gilli, G. Zanotti and M. Catti, (International Union of Crystallography/Oxford University Press, 1992 ISBN 0-19-855578-4 (p/b), 0-19-85579-2 (h/b))に記載されている。この技術は、単結晶のX線回折の分析及び解釈を含む。非晶質固体において、結晶形態に通常存在する三次元構造は存在せず、非晶質形態における分子の相対的な位置は、本質的にランダムである。例えば、Hancock et al. J. Pharm. Sci. (1997), 86, 1)を参照されたい。
したがって、本発明は、
結晶形態の化合物、
(a)50%~100%結晶、より具体的には、少なくとも50%結晶、又は少なくとも60%結晶、又は少なくとも70%結晶、又は少なくとも80%結晶、又は少なくとも90%結晶、又は少なくとも95%結晶、又は少なくとも98%結晶、又は少なくとも99%結晶、又は少なくとも99.5%結晶、又は少なくとも99.9%結晶、例えば、100%結晶の化合物、
非晶質形態の化合物、を提供する。
【0021】
錯体及びクラスレート
本発明の化合物は、錯体(例えば、シクロデキストリンなどの化合物との包接錯体若しくはクラスレート、又は金属との錯体)も包含する。
したがって、本発明は、錯体又はクラスレートの形態の化合物を提供する。
生物学的活性及び治療用途
本発明の化合物は、ムスカリンM1及びM4受容体アゴニストとしての活性を有する。化合物のムスカリン活性は、以下の実施例Aに記載のリン酸化-ERK1/2アッセイを用いて決定することができる。
本発明の化合物の大きな利点は、本発明の化合物は、M2及びM3受容体サブタイプと比べて、M1及び/又はM4受容体に対して高度な選択性を有することである。本発明の化合物は、M2及びM3受容体サブタイプのアゴニストではない。例えば、本発明の化合物は、実施例Aに記載の機能アッセイにおけるM1受容体に対して、典型的には少なくとも6(好ましくは少なくとも6.5)のpEC50値及び80超(好ましくは90超)のEmax値を有する一方で、実施例Aの機能アッセイにおけるM2及びM3サブタイプに対して試験した場合、5未満のpEC50値及び20%未満のEmax値を有し得る。
【0022】
本発明の化合物に関して、本発明は、以下を更に提供する:
医薬に使用するための化合物、
ムスカリンM1及び/又はM4受容体アゴニストとして使用するための化合物、
本明細書の実施例Aのアッセイ又はこれと実質的に同様のアッセイにおいてM1受容体に対して、6.9超のpEC50及び少なくとも80のEmaxを有するムスカリンM1受容体アゴニストである化合物、
7.0超のpEC50を有するムスカリンM1受容体アゴニストである化合物、
1受容体に対して、少なくとも90のEmaxを有する化合物、
本明細書の実施例Aのアッセイ又はこれと実質的に同様のアッセイにおいてM4受容体に対して、6.0超のpEC50を有するムスカリンM1及びM4受容体アゴニストである化合物、
ムスカリンM2及びM3受容体と比べて、M1及びM4受容体に対して選択的である化合物、
ムスカリンM2及びM3受容体サブタイプに対して、5未満のpEC50及び30未満のEmaxを有する化合物、
ムスカリンM1及び/又はM4受容体により媒介される疾患又は状態の治療に使用するための化合物。
本発明の化合物は、そのムスカリンM1及びM4受容体アゴニスト活性により、アルツハイマー病、レビー小体型認知症、統合失調症、及び他の精神障害、認知障害、並びにムスカリンM1及び/又はM4受容体により媒介される他の疾患の治療に使用することができ、様々なタイプの疼痛の治療にも使用することができる。
【0023】
したがって、本発明の化合物に関して、本発明は、以下を更に提供する:
認知障害又は精神障害の治療に使用するための化合物、
認知障害又は精神障害の治療に使用するための化合物であって、認知障害又は精神障害が、以下から選択される状態を含むか、以下から選択される状態から生じるか、或いは以下から選択される状態と関連する前記化合物:認知機能障害、軽度認知障害(MCI)(健忘性MCI及び非健忘性MCIなど、アルツハイマー病及び/又は前駆期アルツハイマー病に起因する軽度認知機能障害を含む)、前頭側頭葉型認知症、血管性認知症、レビー小体型認知症、初老期認知症、老年認知症、フリードライヒ運動失調症、ダウン症候群、ハンチントン舞踏病、運動亢進症、躁病、トゥレット症候群、アルツハイマー病(前駆期アルツハイマー病、並びにアメリカ食品医薬品局の「Early Alzheimer's disease: Developing Drugs for Treatment」(fda.gov/downloads/Drugs/GuidanceComplianceRegulatoryInformation/Guidances/UCM596728.pdfを利用可能)により定義されるステージ1、2及び3の早期アルツハイマー病など)、進行性核上性麻痺、認知機能の障害(注意力、見当識、学習障害、記憶(すなわち、記憶障害、健忘症、健忘性障害、一過性全健忘症と加齢による記憶障害)、及び言語機能など);脳卒中の結果としての認知機能障害、ハンチントン病、ピック病、AIDS関連認知症又は他の認知症状態、例えば、多発脳梗塞性認知症、アルコール性認知症、甲状腺機能低下症関連の認知症、及び小脳萎縮と筋萎縮性側索硬化症などの他の退化性障害関連の認知症;せん妄若しくはうつ状態(偽認知症状態)などの認知機能低下を引き起こすおそれがある他の急性又は亜急性状況、外傷、頭部外傷、加齢関連の認知機能低下、脳卒中、神経変性、薬物誘発性状態、神経毒性薬剤、加齢関連の認知機能障害、自閉症関連の認知機能障害、ダウン症候群、精神病に関連した認知障害、及び電気けいれん療法後に関連する認知障害;薬物乱用又は薬物禁断に起因する認知障害(ニコチン、大麻、アンフェタミン、コカインなどの薬物)、注意欠陥多動障害(ADHD)及び運動障害(例えば、パーキンソン病、神経遮断薬誘発性パーキンソニズム、及び遅発性ジスキネジア)、統合失調症、統合失調症様疾患、精神病性うつ病、躁病、急性躁病、偏執性障害、幻覚障害及び妄想性障害、パーソナリティ障害、強迫性障害、統合失調型障害、妄想性障害、悪性腫瘍、又は代謝障害、又は内分泌疾患又はナルコレプシーに起因する精神病、薬物乱用又は薬物禁断に起因する精神病、双極性障害及び統合失調感情障害、
【0024】
アルツハイマー病の治療に使用するための化合物、
レビー小体型認知症の治療に使用するための化合物、
統合失調症の治療に使用するための化合物、
対象(例えば、ヒト(例えば、治療を必要とするヒト)などの哺乳類患者)における認知障害の治療方法であって、治療上有効量の本発明の化合物を投与することを含む、前記治療方法、
対象(例えば、ヒト(例えば、治療を必要とするヒト)などの哺乳類患者)における認知障害の治療方法であって、治療上有効量の本発明の化合物を投与することを含み、認知障害が、上記に定義される状態を含むか、上記に定義される状態から生じるか、又は上記に定義される状態と関連する、前記治療方法、
対象(例えば、ヒト(例えば、治療を必要とするヒト)などの哺乳類患者)における認知障害の治療方法であって、治療上有効量の本発明の化合物を投与することを含み、認知障害が、アルツハイマー病から生じるか、又はアルツハイマー病と関連する、前記治療方法、
対象(例えば、ヒト(例えば、治療を必要とするヒト)などの哺乳類患者)における認知障害の治療方法であって、治療上有効量の本発明の化合物を投与することを含み、認知障害が、レビー小体型認知症である、前記治療方法、
対象(例えば、ヒト(例えば、治療を必要とするヒト)などの哺乳類患者)における認知障害の治療方法であって、治療上有効量の本発明の化合物を投与することを含み、認知障害が、統合失調症である、前記治療方法、
【0025】
認知障害の治療用医薬を製造するための、本発明の化合物の使用、
認知障害の治療用医薬を製造するための、本発明の化合物の使用であって、認知障害が、上記に定義される状態含むか、上記に定義される状態から生じるか、又は上記に定義される状態と関連する、前記使用、
認知障害の治療用医薬を製造するための、本発明の化合物の使用であって、認知障害が、アルツハイマー病を含むか、アルツハイマー病から生じるか、又はアルツハイマー病と関連する、前記使用、
認知障害の治療用医薬を製造するための、本発明の化合物の使用であって、認知障害が、レビー小体型認知症を含むか、レビー小体型認知症から生じるか、又はレビー小体型認知症と関連する、前記使用、
認知障害の治療用医薬を製造するための、本発明の化合物の使用であって、認知障害が、統合失調症を含むか、統合失調症から生じるか、又は統合失調症と関連する、前記使用、
急性、慢性、神経因性、若しくは炎症性疼痛、関節炎、片頭痛、群発頭痛、三叉神経痛、ヘルペス性神経痛、全身性(general)神経痛、内臓痛、変形性関節症疼痛、ヘルペス後神経痛、糖尿病性ニューロパチー、神経根痛、坐骨神経痛、背部痛、頭痛若しくは頸痛、重症若しくは難治性の疼痛、侵害受容性疼痛、突出痛、術後痛、又はがん性疼痛の治療又は重症度の軽減のための化合物、
【0026】
急性、慢性、神経因性、若しくは炎症性疼痛、関節炎、片頭痛、群発頭痛、三叉神経痛、ヘルペス性神経痛、全身性神経痛、内臓痛、変形性関節症疼痛、ヘルペス後神経痛、糖尿病性ニューロパチー、神経根痛、坐骨神経痛、背部痛、頭痛若しくは頸痛、重症若しくは難治性の疼痛、侵害受容性疼痛、突出痛、術後痛、又はがん性疼痛の治療又は重症度の軽減の方法であって、治療上有効量の本発明の化合物を投与することを含む、前記方法、
緑内障の眼内圧の低減などの末端障害の治療、及びシェーグレン症候群などのドライアイと口内乾燥の治療のための化合物、
緑内障の眼内圧の低減などの末端障害、及びシェーグレン症候群などのドライアイと口内乾燥の治療方法であって、治療上有効量の本発明の化合物を投与することを含む、前記治療方法、
急性、慢性、神経因性、若しくは炎症性疼痛、関節炎、片頭痛、群発頭痛、三叉神経痛、ヘルペス性神経痛、全身性神経痛、内臓痛、変形性関節症疼痛、ヘルペス後神経痛、糖尿病性ニューロパチー、神経根痛、坐骨神経痛、背部痛、頭痛若しくは頸痛、重症若しくは難治性の疼痛、侵害受容性疼痛、突出痛、術後痛、又はがん性疼痛の治療又は重症度の軽減、或いは緑内障の眼内圧の低減などの末端障害、及びシェーグレン症候群などのドライアイと口内乾燥の治療のための医薬を製造するための、本発明の化合物の使用、
【0027】
皮膚病変、例えば、尋常性天疱瘡、疱疹状皮膚炎、類天疱瘡及び他の水疱形成の皮膚状態に起因する皮膚病変を治療するための、本発明の化合物の使用、
機能性ディスペプシア、過敏性腸症候群、胃食道酸逆流(GER)及び食道蠕動低下、胃不全麻痺及び慢性下痢の症状などの胃腸機能の変化及び運動性と関連する状態を治療、予防、改善又は回復するための、本発明の化合物の使用、
ボスマ・ヘンキン・クリスティアンセン症候群(Bosma-Henkin-Christiansen syndrome)などの嗅覚機能障害、化学中毒(例えば、セレン及び銀)、下垂体機能低下症、カルマン症候群、頭蓋骨骨折、腫瘍治療、及び甲状腺機能低下を治療するための、本発明の化合物の使用、
依存症を治療するための、本発明の化合物の使用、
運動障害、例えば、パーキンソン病、ADHD、ハンチントン病、トゥレット症候群、及び疾患を駆動する根本的な病原因子としてのドーパミン作動性機能不全と関連する他の症候群を治療するための、本発明の化合物の使用、
認知症の行動と心理症状(BPSD;激越、言語的攻撃、身体的攻撃、うつ状態、不安、異常な運動行動、高揚した気分、易刺激性、感情鈍麻、脱抑制、衝動性、妄想、幻覚、睡眠変化、及び食欲変化を含む)を治療するための、本発明の化合物の使用。
【0028】
本発明の化合物は、以下に示す実施例1、実施例1-1及び実施例1-2を含む。
【表1】
【0029】
本発明の化合物の調製方法
本発明の化合物は、当業者によく知られており、本明細書に記載の合成方法に従い調製することができる。
また、上で定義した化合物の調製方法を提供し、前記方法は、A、B又はCのいずれかを含むことができる:
(A)式(10):
【化8】
の化合物を、還元的アミノ化条件下で、式(11):
【化9】
の化合物と反応させること;又は
(B)式(12):
【化10】
の化合物を、式(CH33CNH2(式中、Rは、メチル又はエチルなどの適切な基を表す)のアミンと反応させること;又は
(C)式(13):
【化11】
の化合物を式(CH33CNH2のアミンと反応させること。
【0030】
このような方法は、当業者によく知られている。一官能基を別の官能基に変換するための合成手順の例は、標準的なテキスト、例えば、March's Advanced Organic Chemistry: Reactions, Mechanisms, and Structure, 7th Edition, Michael B. Smith, John Wiley, 2013, (ISBN: 978-0-470-46259-1)、Organic Syntheses, Online Edition, www.orgsyn.org, (ISSN 2333-3553)、及びFiesers’ Reagents for Organic Synthesis, Volumes 1-17, John Wiley, edited by Mary Fieser(ISBN: 0-471-58283-2)に記載されている。
上述した反応において、分子上の望ましくない位置において反応が起こることを防ぐために、1つ以上の基を保護する必要があり得る。保護基の例、並びに官能基を保護及び脱保護する方法は、Greene's Protective Groups in Organic Synthesis, Fifth Edition, Editor: Peter G. M. Wuts, John Wiley, 2014, (ISBN: 9781118057483)に記載されている。
前述の方法により調製された化合物は、当業者によく知られている様々な方法のいずれかによって単離及び精製することができ、このような方法の例として、再結晶、並びにクロマトグラフィー技術、例えば、カラムクロマトグラフィー(例えば、フラッシュクロマトグラフィー)、HPLC及びSFCが挙げられる。
【0031】
医薬製剤
活性化合物を単独で投与することが可能であるが、医薬組成物(例えば、製剤)として提供することが好ましい。
したがって、上で定義した本発明の化合物の少なくとも1種を、少なくとも1種の医薬上許容される賦形剤と一緒に含む医薬組成物を提供する。
組成物は、錠剤組成物であり得る。
組成物は、カプセル剤組成物であり得る。
1種以上の医薬上許容される賦形剤は、例えば、担体(例えば、固体、液体又は半固体担体)、アジュバント、希釈剤(例えば、充填剤又は増量剤などの固体希釈剤;並びに溶媒及び共溶媒などの液体希釈剤)、造粒剤、結合剤、流動助剤、コーティング剤、放出制御剤(例えば、放出を遅緩又は遅延させるポリマー又はワックス)、結着剤、崩壊剤、緩衝剤、滑沢剤、防腐剤、抗真菌剤及び抗細菌剤、抗酸化剤、緩衝剤、等張化剤(tonicity-adjusting agent)、増粘剤、香味料、甘味料、色素、可塑剤、矯味剤、安定化剤、又は医薬組成物に従来使用される任意の他の賦形剤から選択することができる。
本明細書において使用される用語「医薬上許容される」は、健全な医学的判断の範囲内で、過度の毒性、刺激、アレルギー反応、又は他の問題若しくは合併症なしに、対象(例えば、ヒト対象)の組織に接触して使用することに適しており、かつ妥当なベネフィット/リスク比に見合う、化合物、材料、組成物、及び/又は剤形を意味する。各賦形剤も、製剤の他の成分に適合するという意味で「許容される」ものでなければならない。
本発明の化合物を含む医薬組成物は、既知の技術に従って製剤化することができ、例えば、Remington’s Pharmaceutical Sciences, Mack Publishing Company, Easton, PA, USAを参照されたい。
医薬組成物は、経口、非経口、局所、鼻腔内、気管支内、舌下、点眼(ophthalmic)、眼(optic)、直腸、膣内、又は経皮投与に適した任意の形態であってもよい。
【0032】
経口投与に適した医薬剤形として、錠剤(コーティングされている又はコーティングされていない)、カプセル剤(硬質又は軟質シェル)、カプレット、丸剤、トローチ剤、シロップ剤、液剤、粉末剤、顆粒剤、エリキシル剤及び懸濁剤、舌下錠、ウエハー又は貼付剤(例えば、頬側パッチ)が挙げられる。
錠剤組成物は、単位投与量の活性化合物を、不活性希釈剤又は担体、例えば、糖若しくは糖アルコール(例えば、ラクトース、スクロース、ソルビトール若しくはマンニトール);及び/又は糖由来ではない希釈剤、例えば、炭酸ナトリウム、リン酸カルシウム、炭酸カルシウム、又はセルロース又はその誘導体、例えば、微結晶セルロース(MCC)、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、及びコーンスターチなどのデンプンと一緒に含むことができる。錠剤はまた、標準的な成分、例えば、結着剤及び造粒剤(例えば、ポリビニルピロリドン)、崩壊剤(例えば、架橋カルボキシメチルセルロースなどの膨潤性の架橋ポリマー)、滑沢剤(例えば、ステアリン酸塩)、防腐剤(例えば、パラベン)、抗酸化剤(例えば、BHT)、緩衝剤(例えば、リン酸緩衝液又はクエン酸緩衝液)、及び発泡剤(例えば、クエン酸塩/炭酸水素塩混合物)を含んでもよい。このような賦形剤は、よく知られており、本明細書において詳しく議論する必要はない。
錠剤は、胃液に接触すると薬物を放出するように設計されてもよく(即時放出性錠剤)、長期間にわたって又はGI管の特定領域で、制御された方法で放出するように設計されてもよい(放出制御性錠剤)。
【0033】
医薬組成物は、典型的には、おおよそ1%(w/w)~おおよそ95%(好ましくは%(w/w))の有効成分と、99%(w/w)~5%(w/w)の医薬上許容される賦形剤(例えば、上記に定義されるもの)又は賦形剤の組み合わせとを含む。好ましくは、組成物は、おおよそ20%(w/w)~おおよそ90%(w/w)の有効成分と、80%(w/w)~10%の医薬上の賦形剤又は賦形剤の組み合わせとを含む。医薬組成物は、おおよそ1%~おおよそ95%、好ましくはおおよそ20%~おおよそ90%の有効成分を含む。本発明の医薬組成物は、アンプル、バイアル、坐剤、プレフィルドシリンジ、糖衣錠、粉末剤、錠剤又はカプセル剤の形態などの単位用量の形態であり得る。
錠剤及びカプセル剤は、例えば、0~20%の崩壊剤、0~5%の滑沢剤、0~5%の流動助剤、及び/又は0~99%(w/w)の充填剤/若しくは増量剤(薬物の用量に依存する)を含み得る。錠剤及びカプセル剤はまた、0~10%(w/w)のポリマー結合剤、0~5%(w/w)の抗酸化剤、0~5%(w/w)の色素を含み得る。徐放性錠剤はさらに、典型的には、0~99%(w/w)の放出制御(例えば、遅延)ポリマー(用量に依存する)を含む。錠剤又はカプセル剤のフィルムコートは、典型的には、0~10%(w/w)のポリマー、0~3%(w/w)の色素、及び/又は0~2%(w/w)の可塑剤を含む。
非経口製剤は、典型的には、0~20%(w/w)のバッファー、0~50%(w/w)の共溶媒、及び/又は0~99%(w/w)の注射用水(WFI)を含む(用量及び凍結乾燥されているかによる)。また、筋肉内デポ製剤は、0~99%(w/w)のオイルを含み得る。
【0034】
医薬製剤は、単一のパッケージ(通常は、ブリスターパック)に全治療コースが含まれる「患者用パック」で患者に提供することができる。
本発明の化合物は、一般的には、単位剤形で提供され、したがって、典型的には、所望のレベルの生物学的活性を提供するのに十分な化合物を含む。例えば、製剤は、1ナノグラム~2グラムの有効成分、例えば、1ナノグラム~2ミリグラムの有効成分を含み得る。これらの範囲内の、化合物の特定のより狭い範囲は、0.1ミリグラム~2グラムの有効成分(より一般的には、10ミリグラム~1グラム、例えば、50ミリグラム~500ミリグラム)、又は1マイクログラム~20ミリグラム(例えば、1マイクログラム~10ミリグラム、例えば、0.1ミリグラム~2ミリグラムの有効成分)である。
経口組成物について、単位剤形は、1ミリグラム~2グラム、より典型的には10ミリグラム~1グラム、例えば、50ミリグラム~1グラム、例えば、100ミリグラム~1グラムの活性化合物を含み得る。
活性化合物は、それを必要とする患者(例えば、ヒト又は動物患者)に、所望の治療効果を達成するのに十分な量(有効量)で投与される。投与される化合物の正確な量は、標準的な手順に従って、担当医師が決定することができる。
【実施例
【0035】
一般的な手順
調製経路が記載されていない場合、関連する中間体は、市販品である。市販の試薬を更なる精製なしで利用した。室温(rt)は、おおよそ22~30℃を指す。1H NMRスペクトルは、400MHzでブルカー製装置で記録した。化学シフト値は、百万分率(ppm)(すなわち、(δ)値)で表した。以下の略語を、NMRシグナルの多重度に使用する:s=一重線、br=ブロード、d=二重線、t=三重線、q=四重線、quint=五重線、td=二重線の三重線、tt=三重線の三重線、qd=二重線の四重線、ddd=二重線の二重線の二重線、ddt=三重線の二重線の二重線、m=多重線。結合定数は、Hzで測定したJ値として記録した。NMR及び質量分析の結果は、バックグラウンドピークを考慮して補正した。
LCMS分析
化合物のLCMS分析は、以下の表に示した装置及び方法を使用して、エレクトロスプレー条件下で行った。
【表2】

【0036】
【表3】

【0037】
分取HPLC精製
SPD-20A UV検出器付きの島津LC-20APバイナリシステムを使用して、分取HPLC精製を行った。精製技術:[相(カラム説明、カラム長さ×内径、粒径)、溶媒流量、勾配-移動相A中の移動相B(経時)を%で表す、移動相(A)、移動相(B)]
分取HPLC方法A
分取HPLC:[逆相(X-BRIDGE C-18、250×50mm、5μm)、85mL/min、勾配:35%~70%(26分間)、100%(2分間)、100%~35%(6分間)、移動相(A):水中5mM炭酸水素アンモニウム+水中0.1%アンモニア、(B):100%アセトニトリル]
分取HPLC方法B
分取HPLC:[逆相(X-BRIDGE C-18、250×50mm、5μm)、85mL/min、勾配:40%~60%(26分間)、60%(4分間)、100%(2分間)、100%~40%(7分間)、移動相(A):水中5mM炭酸水素アンモニウム+水中0.1%アンモニア、(B):100%アセトニトリル]
【0038】
略語
AcOH =酢酸
Bn =ベンジル
t-BuOH=tert-ブチルアルコール
CPM =シクロペンチルメチルエーテル
DCM =ジクロロメタン
DIPEA =N,N-ジイソプロピルエチルアミン
DMF =ジメチルホルムアミド
DMSO =ジメチルスルホキシド
ESI =エレクトロスプレーイオン化
EtOH =エタノール
h =時間/秒
HATU =ヘキサフルオロフォスフェートアザベンゾトリアゾールテトラメチルウロニウム
HPLC =高速液体クロマトグラフィー
IPA =プロパン-2-オール
LCMS =液体クロマトグラフィー質量分析
MeOH =メタノール
min =分/秒
2-MTHF=2-メチルテトラヒドロフラン
nm =ナノメートル
NMO =4-メチルモルホリン4-オキシド
NMR =核磁気共鳴
rt =室温
RT =滞留時間
TEA =トリエチルアミン
TFA =トリフルオロ酢酸
TFAA =トリフルオロ酢酸無水物
THF =テトラヒドロフラン
接頭辞n-、s-、i-、t-及びtert-は、それらの通常の意味:ノルマル、第二級、イソ、及び第三級を有する。
【0039】
N-(tert-ブチル)-1-((1R,3r,5S)-8-(3-(トリフルオロメチル)-1,2,4-オキサジアゾール-5-イル)-8-アザビシクロ[3.2.1]オクタン-3-イル)ピペリジン-4-カルボキサミド塩酸塩(実施例1-1)の合成
【化12】

【化13】
【0040】
工程1:ベンジルシクロペンタ-3-エン-1-カルボキシレート(中間体2)の合成
アセトン(375mL)中のK2CO3(61.5g、446mmol)及びシクロペンタ-3-エン-1-カルボン酸(CAS:7686-77-3、中間体1)(25.0g、223mmol)の混合物に、(ブロモメチル)ベンゼン(CAS:100-39-0)(29.1mL、245mmol)を滴下した。反応物(reaction)を60℃で2時間撹拌し、次に室温まで冷却した。得られた混合物をろ過し、濾液を減圧下で濃縮した。粗製物をカラムクロマトグラフィー[順相(中性Al23)、0~10%(ヘキサン中酢酸エチル)]により精製し、ベンジルシクロペンタ-3-エン-1-カルボキシレート(中間体2)(40.1g、89.0%)を得た。
LCMS(システム1、方法A):(ESI) m/z 203 [M+H]+ RT 5.10 min, 254 nm.
【化14】
【0041】
工程2:ベンジル3,4-ジヒドロキシシクロペンタン-1-カルボキシレート(中間体3)の合成
アセトン(431mL)中の4-メチルモルホリン4-オキシド(30.44g、260mmol)、OsO4(t-BuOH中2%、12.0mL、0.94mmol)、及びベンジルシクロペンタ-3-エン-1-カルボキシレート(中間体2)(43.8g、217mmol)の混合物を室温で16時間撹拌した。混合物を飽和Na2SO3水溶液(500mL)で処理し、次にDCM(3×400mL)で抽出した。合わせた有機層を乾燥し(Na2SO4)、減圧下で濃縮した。得られた残留物をカラムクロマトグラフィー[順相(シリカ)、0~50%(ヘキサン中酢酸エチル)]により精製し、ベンジル3,4-ジヒドロキシシクロペンタン-1-カルボキシレート(中間体3)(30.4g、59.4%)を得た。
LCMS(システム2、方法B):(ESI) m/z 237 [M+H]+ RT 2.38 min, 224 nm.
【化15】
【0042】
工程3:ベンジル4-オキソ-2-(2-オキソエチル)ブタノアート(中間体4)の合成
THF(1800mL)及び水(144mL)中のNaIO4(48.7g、229mmol)、及びベンジル3,4-ジヒドロキシシクロペンタン-1-カルボキシレート(中間体3)の混合物(36.0g、153mmol)を室温で2時間撹拌した。沈殿物が溶解するまで水(1500mL)を添加し、次にDCM(3×500mL)で混合物を抽出した。合わせた有機層を乾燥し(Na2SO4)、減圧下で濃縮し、ベンジル4-オキソ-2-(2-オキソエチル)ブタノアート(中間体4)(35.8g、100.0%)を得た。粗製物を更に精製せずに使用した。
LCMS(システム2、方法B):(ESI) m/z 233 [M-H]- RT 2.33 min and 2.74 min, 202 nm.
【化16】
【0043】
工程4:tert-ブチル(1R,3r,5S)-3-(4-((ベンジルオキシ)カルボニル)ピペリジン-1-イル)-8-アザビシクロ[3.2.1]オクタン-8-カルボキシレート(中間体6)の合成
EtOH(1400mL)中のベンジル4-オキソ-2-(2-オキソエチル)ブタノアート(中間体4)(35.8g、153mmol)及びtert-ブチル(1R,3r,5S)-3-アミノ-8-アザビシクロ[3.2.1]オクタン-8-カルボキシレート(CAS:207405-68-3、中間体5)(34.6g、153mmol)の溶液を室温で30分間撹拌した。次に、この溶液にNaBH3CN(9.64g、153mmol)及びAcOH(3.0mL、52.5mmol)を添加し、室温で16時間攪拌し続けた。反応混合物を水(1000mL)で希釈し、DCM(3×500mL)で抽出した。合わせた有機層を乾燥し(Na2SO4)、減圧下で濃縮した。得られた残留物をカラムクロマトグラフィー[順相(シリカ)、0~30%(ヘキサン中酢酸エチル)]により精製し、tert-ブチル(1R,3r,5S)-3-(4-((ベンジルオキシ)カルボニル)ピペリジン-1-イル)-8-アザビシクロ[3.2.1]オクタン-8-カルボキシレート(中間体6)(41.0g、62.6%)を得た。
LCMS(システム2、方法B):(ESI) m/z 429 [M+H]+ RT 4.28 min, 202 nm.
【化17】
【0044】
工程5:ベンジル1-((1R,3r,5S)-8-アザビシクロ[3.2.1]オクタン-3-イル)ピペリジン-4-カルボキシレート二塩酸塩(中間体7)の合成
1,4-ジオキサン(82.0mL)中のtert-ブチル(1R,3r,5S)-3-(4-((ベンジルオキシ)カルボニル)ピペリジン-1-イル)-8-アザビシクロ[3.2.1]オクタン-8-カルボキシレート(中間体6)(41.0g、96.0mmol)の溶液に、1,4-ジオキサン(4M、410mL、10 vol)中HClを0℃で滴下した。反応混合物を室温で2時間攪拌し、次に減圧下で濃縮した。得られた残留物をヘキサン(2×50mL)と共沸し、次にヘキサン(2×50mL)でトリチュレーションし、ベンジル1-((1R,3r,5S)-8-アザビシクロ[3.2.1]オクタン-3-イル)ピペリジン-4-カルボキシレート二塩酸塩(中間体7)(38.4g、100.0%)を得た。
LCMS(システム1、方法B):(ESI) m/z 329 [M+H]+ RT 3.10 min, 202 nm.
【化18】
【0045】
工程6:ベンジル1-((1R,3r,5S)-8-シアノ-8-アザビシクロ[3.2.1]オクタン-3-イル)ピペリジン-4-カルボキシレート(中間体8)の合成
DCM(314mL)中のベンジル1-((1R,3r,5S)-8-アザビシクロ[3.2.1]オクタン-3-イル)ピペリジン-4-カルボキシレート二塩酸塩(中間体7)(38.4g、96.0mmol)の溶液に、-20℃~0℃の範囲の内部温度を維持しながら、トリエチルアミン(39.8mL、287mmol)を-20℃で滴下した。次に、反応物をこの温度で30分間攪拌した。次に、この反応物に、-20℃~0℃の範囲の内部温度を維持しながら、DCM(31.0mL)の溶液として臭化シアン(15.1g、144mmol)を滴下した。次に、この反応物を室温に温めて、16時間攪拌した。反応混合物を飽和NaHCO3水溶液(700mL)で希釈し、DCM(3×300mL)で抽出した。合わせた有機層を乾燥し(Na2SO4)、減圧下で濃縮した。粗製物をカラムクロマトグラフィー[順相(中性Al23)、0~30%(ヘキサン中酢酸エチル)]により精製し、ベンジル1-((1R,3r,5S)-8-シアノ-8-アザビシクロ[3.2.1]オクタン-3-イル)ピペリジン-4-カルボキシレート(中間体8)(16.0g、47.4%)を得た。
LCMS(システム2、方法B):(ESI) m/z 354 [M+H]+ RT 3.69 min, 202 nm.
【化19】
【0046】
工程7:ベンジル1-((1R,3r,5S)-8-((((tert-ブトキシカルボニル)アミノ)オキシ)(イミノ)メチル)-8-アザビシクロ[3.2.1]オクタン-3-イル)ピペリジン-4-カルボキシレート(中間体10)の合成
THF(160mL)中のベンジル1-((1R,3r,5S)-8-シアノ-8-アザビシクロ[3.2.1]オクタン-3-イル)ピペリジン-4-カルボキシレート(中間体8)(16.0g、45.3mmol)の溶液に、tert-ブチルヒドロキシカルバメート(CAS:36016-38-3、中間体9)(6.63g、49.8mmol)を0℃で添加した。反応混合物を0℃で20分間攪拌した。次に、この溶液に、2-MTHF(1.9M、47.7mL、90.6mmol)中塩化亜鉛を0℃でゆっくり添加し、その後、室温で16時間攪拌した。反応混合物を水(300mL)でクエンチし、酢酸エチル(3×400mL)で抽出した。合わせた有機層を乾燥し(Na2SO4)、減圧下で濃縮した。得られた粗製物をヘキサン(2×50mL)でトリチュレーションし、ベンジル1-((1R,3r,5S)-8-((((tert-ブトキシカルボニル)アミノ)オキシ)(イミノ)メチル)-8-アザビシクロ[3.2.1]オクタン-3-イル)ピペリジン-4-カルボキシレート(中間体10)(22.0g、100.0%)を得た。粗製物を更に精製せずに使用した。
LCMS(システム2、方法B):(ESI) m/z 487 [M+H]+ RT 3.10 min, 202 nm.
【化20】
【0047】
工程8:ベンジル1-((1R,3r,5S)-8-(3-(トリフルオロメチル)-1,2,4-オキサジアゾール-5-イル)-8-アザビシクロ[3.2.1]オクタン-3-イル)ピペリジン-4-カルボキシレート(中間体11)の合成
DCM(220mL)中のベンジル1-((1R,3r,5S)-8-((((tert-ブトキシカルボニル)アミノ)オキシ)(イミノ)メチル)-8-アザビシクロ[3.2.1]オクタン-3-イル)ピペリジン-4-カルボキシレート(中間体10)(22.0g、5.3mmol)の溶液に、TFA(110mL、5 vol)を0℃~5℃で滴下した。反応混合物を室温で40分間撹拌し、次に0℃~5℃に冷却した。次に、室温に温めて16時間攪拌する前に、これにTFAA(28.7mL、203.7mmol)を滴下し、30分間攪拌した。反応混合物をトルエン(220mL)で希釈し、減圧下で濃縮した。飽和NaHCO3溶液(800mL)を添加し、反応物を酢酸エチル(3×500mL)で抽出した。合わせた有機層を乾燥し(Na2SO4)、減圧下で濃縮した。得られた残留物をカラムクロマトグラフィー[順相(中性Al23)、0~30%(ヘキサン中の酢酸エチル)]により精製し、ベンジル1-((1R,3r,5S)-8-(3-(トリフルオロメチル)-1,2,4-オキサジアゾール-5-イル)-8-アザビシクロ[3.2.1]オクタン-3-イル)ピペリジン-4-カルボキシレート(中間体11)(12.4g、59.0%)を得た。
LCMS(システム2、方法B):(ESI) m/z 465 [M+H]+ RT 4.40 min, 240 nm.
【化21】
【0048】
工程9:1-((1R,3r,5S)-8-(3-(トリフルオロメチル)-1,2,4-オキサジアゾール-5-イル)-8-アザビシクロ[3.2.1]オクタン-3-イル)ピペリジン-4-カルボン酸塩酸塩(中間体12)の合成
THF(123mL)及び水(24.6mL)中のベンジル1-((1R,3r,5S)-8-(3-(トリフルオロメチル)-1,2,4-オキサジアゾール-5-イル)-8-アザビシクロ[3.2.1]オクタン-3-イル)ピペリジン-4-カルボキシレート(中間体11)(12.3g、26.5mmol)の溶液に、水酸化リチウム一水和物(2.78g、66.3mmol)を室温で少しずつ添加し、次に室温で16時間攪拌した。反応混合物を水(100mL)で希釈し、0℃~10℃に冷却し、1M HCl溶液(おおよそ70~80mL)を用いてpHを5~6に調整した。反応混合物を1時間攪拌し、次に水層を分離して凍結乾燥し、1-((1R,3r,5S)-8-(3-(トリフルオロメチル)-1,2,4-オキサジアゾール-5-イル)-8-アザビシクロ[3.2.1]オクタン-3-イル)ピペリジン-4-カルボン酸塩酸塩(中間体12)(15.1g、粗製物)を得た。粗製物を更に精製せずに使用した。
LCMS(システム2、方法B):(ESI) m/z 375 [M+H]+ RT 2.10 min, 236 nm.
【化22】
【0049】
工程10:N-(tert-ブチル)-1-((1R,3r,5S)-8-(3-(トリフルオロメチル)-1,2,4-オキサジアゾール-5-イル)-8-アザビシクロ[3.2.1]オクタン-3-イル)ピペリジン-4-カルボキサミド(中間体14)の合成
DMF(80.0mL)中1-((1R,3r,5S)-8-(3-(トリフルオロメチル)-1,2,4-オキサジアゾール-5-イル)-8-アザビシクロ[3.2.1]オクタン-3-イル)ピペリジン-4-カルボン酸塩酸塩(中間体12)(5.8g、14.1mmol)(工程9から単離した8gの粗製物を使用した)の溶液に、HATU(12.2g、32.0mmol)を0℃~10℃で少しずつ添加した。反応物を0℃~10℃で40分間攪拌した。次に、この反応物に、2-メチルプロパン-2-アミン(CAS:75-64-9、中間体13)(6.8mL、64.2mmol)及びDIPEA(11.4mL、64.2mmol)を添加した。得られた反応混合物を室温まで温めて16時間攪拌した。氷水(500mL)を添加し、20分間攪拌し、形成された沈殿物をろ過により集めた。ろ過ケークを冷水(500mL)で洗浄し、次にヘキサン(500mL)で洗浄し、粗製物(2.5g)を得た。水層を酢酸エチル(2×200mL)で抽出し、合わせた有機層を乾燥し(Na2SO4)、減圧下で濃縮し、更なる粗製物(4.5g)を得た。粗製物を合わせて、カラムクロマトグラフィー[順相(シリカ)、0~50%(ヘキサン中の酢酸エチル)]により精製し、異なる純度を有する生成物の2つのバッチを得た(2.0gと3.8g)。次に、各バッチを別々に取り出し、それぞれを分取HPLC方法A及びBにより更に精製した。得られた生成物を合わせ、IPA(10 vol)及びMeOH(1 vol)を用いて結晶化させ、ろ過ケークを冷したIPA(2 vol)で洗浄し、N-(tert-ブチル)-1-((1R,3r,5S)-8-(3-(トリフルオロメチル)-1,2,4-オキサジアゾール-5-イル)-8-アザビシクロ[3.2.1]オクタン-3-イル)ピペリジン-4-カルボキサミド(中間体14)(1.9g、31.4%)を得た。
LCMS(システム2、方法B):(ESI) m/z 430 [M+H]+ RT 3.54 min, 240 nm.
1H NMR (400 MHz, DMSO-d6): δ 7.31 (br. s, 1H), 4.39 - 4.25 (m, 2H), 3.26 - 3.15 (m, 2H), 2.27 - 1.80 (m, 10H), 1.71 - 1.44 (m, 6H), 1.22 (s, 9H).
【化23】
【0050】
工程11:N-(tert-ブチル)-1-((1R,3r,5S)-8-(3-(トリフルオロメチル)-1,2,4-オキサジアゾール-5-イル)-8-アザビシクロ[3.2.1]オクタン-3-イル)ピペリジン-4-カルボキサミド塩酸塩(実施例1-1)の合成
1,4-ジオキサン(3.8mL)中のN-(tert-ブチル)-1-((1R,3r,5S)-8-(3-(トリフルオロメチル)-1,2,4-オキサジアゾール-5-イル)-8-アザビシクロ[3.2.1]オクタン-3-イル)ピペリジン-4-カルボキサミド(中間体14)(1.9g、4.4mmol)の溶液に、1,4-ジオキサン(4M、19.0mL、10 vol)中のHClを0℃で添加した。反応物を室温で4時間攪拌し、次に減圧下で濃縮した。得られた残留物を1,4-ジオキサン(2×10mL)と共沸し、次に1,4-ジオキサン(10mL)でトリチュレーションした。固体をろ過によって集め、ろ過ケークを1,4-ジオキサン(2×5mL)、n-ペンタン(10mL)で洗浄し、減圧下で乾燥した。IPA(10 vol)及びMeOH(1 vol)を用いて固体を結晶化させ、ろ過ケークを冷したIPA(2 vol)で洗浄し、N-(tert-ブチル)-1-((1R,3r,5S)-8-(3-(トリフルオロメチル)-1,2,4-オキサジアゾール-5-イル)-8-アザビシクロ[3.2.1]オクタン-3-イル)ピペリジン-4-カルボキサミド塩酸塩(実施例1-1)(1.8g、87.9%)を得た。
LCMS(システム2、方法B):(ESI) m/z 430 [M+H]+ RT 3.55 min, 240 nm.
1H NMR (400 MHz, DMSO-d6): δ 10.78 - 10.24 (m, 1H), 7.58 - 7.46 (m, 1H), 4.62 - 4.50 (m, 2H), 3.54 - 3.43 (m, 2H), 3.32 - 3.06 (m, 2H), 2.85 - 2.64 (m, 4H), 2.37 - 2.20 (m, 1H), 2.13 - 2.00 (m, 2H), 1.93 - 1.69 (m, 7H), 1.23 (s, 9H).
【0051】
N-(tert-ブチル)-1-((1R,3r,5S)-8-(3-(トリフルオロメチル)-1,2,4-オキサジアゾール-5-イル)-8-アザビシクロ[3.2.1]オクタン-3-イル)ピペリジン-4-カルボキサミド一塩酸塩一水和物(実施例1-2)のスケールアップ合成
【化24】
【0052】
工程1:ベンジルシクロペンタ-3-エン-1-カルボキシレート(2)の合成
【化25】
冷却器、温度計ポケット(thermometer pocket)を備えた、清浄で乾燥した5.0リットルの四つ口RBフラスコに、窒素雰囲気下で、2-メチル-THF(2550mL)、シクロペンタ-3-エン-1-カルボン酸(150g)、EDC・HCl(308.72g)及びベンジルアルコール(137.25g)を室温(22~25℃)で充填した。反応混合物を0~5℃に冷却した。反応混合物に、DMAP(196.10g)及びトリエチルアミン(205mL)を、0~5℃で5分間にわたって添加した。反応混合物を室温までゆっくり温めて、室温(24~25℃)で18~20時間攪拌し続けた。反応終了まで、反応の進行をTLC及びHPLCによりモニターした。脱塩水(demineralized water)(3000mL)を室温(24~25℃)で添加し、混合物を室温(24~25℃)で30分間攪拌した。有機層を分離し、1N HCl(1500mL)を0~5℃で添加して30分間攪拌した。有機層を分離し、10%のNaHCO3水溶液(1500mL)を室温(24~25℃)で添加して15~20分間攪拌した。有機層を分離し、塩水溶液(750mL)を室温(22~25℃)で添加して15~20分間攪拌した。有機層を分離し、該有機層を減圧下で45~47℃で留去し、粗化合物を得た。
粗製物の質量:248g、粗収率=91%、粗製物の特徴:青紫色の液体
この粗製物を更に精製せずに次の工程に直接使用した。
【0053】
工程2:ベンジル6-オキサビシクロ[3.1.0]ヘキサン-3-カルボキシレート(15)の合成
【化26】
冷却器、温度計ポケットを備えた、清浄で乾燥した5.0リットルの四つ口RBフラスコに、窒素雰囲気下で、MTBE(2450mL)及びベンジルシクロペンタ-3-エン-1-カルボキシレート(中間体2、245g)を室温(22~25℃)で充填し、反応混合物を5~10℃に冷却した。m-CPBA(362.6g)を5つの別々のロットで添加したところ、色が暗褐色から黄色に変化した。反応混合物を15~20℃にゆっくり温めて、15~20℃で16~20時間攪拌し続けた。反応終了まで、反応の進行をHPLCによりモニターした。20%の亜硫酸水素ナトリウム水溶液(3675mL、15V)を15~20分間にわたってゆっくり添加し、20~25℃で30分間攪拌した。有機層を分離し、10%のNa2CO3水溶液(2450mL、10V)を添加して20~25℃で15分間攪拌した。有機層を分離し、20%の亜硫酸水素ナトリウム水溶液(2450mL、10V)を添加して、過酸化物の含有量が<3mg/リットル(過酸化物ストリップ)になるまで攪拌した。有機層を分離し、硫酸ナトリウムで乾燥し、ろ過し、圧力下で、37~40℃で有機層を留去し、ベンジル6-オキサビシクロ[3.1.0]ヘキサン-3-カルボキシレートを得た。
粗製物の質量:234g、粗収率:88%、粗製物の特徴:淡黄色の液体
この粗製物を更に精製せずに次の工程に直接使用した。
【0054】
工程03:ベンジル4-オキソ-2-(2-オキソエチル)ブタノアート(4)の合成
【化27】
冷却器、温度計ポケットを備えた、清浄で乾燥した2.0リットルの四つ口RBフラスコに、窒素雰囲気下で、酢酸エチル(380mL)及び過ヨウ素酸(87.41g)を室温(22~25℃)で充填し、白色懸濁液を0~10℃に冷却した。ベンジル6-オキサビシクロ[3.1.0]ヘキサン-3-カルボキシレート(中間体15、380mLの酢酸エチル溶液中76g)を添加したところ、暗褐色から黄色への色の変化が観察された。反応混合物を15~20℃にゆっくり温めて、3~4時間撹拌し続けた。反応終了まで、反応の進行をTLC及びHPLCによりモニターした。脱塩水(760mL、10V)を添加し、20~25℃で15~20分間撹拌することを3回繰り返した。有機層を分離し、塩水溶液(380mL、5V)で洗浄して20~25℃で5~10分間攪拌した。有機層を分離し、硫酸ナトリウムで乾燥し、ろ過し、圧力下で、37~40℃で有機層を留去し、ベンジル-4-オキソ-2-(2-オキソエチル)ブタノアートを得た。
粗製物の質量:82g、粗製物の特徴:淡黄色の液体
この粗製物を更に精製せずに次の工程に直接使用した。
【0055】
工程04:tert-ブチル(1R,3R,5S)-3-(4-((ベンジルオキシ)カルボニル)ピペリジン-1-イル)-8-アザビシクロ[3.2.1]オクタン-8-カルボキシレート(6)の合成
【化28】
冷却器及び温度計ポケットを備えた、清浄で乾燥した2.0リットルの四つ口RBフラスコに、窒素雰囲気下で、2-メチル-THF(570mL)及びベンジル-4-オキソ-2-(2-オキソエチル)ブタノアート(中間体4、57g(工程3から直接に得られた実際の粗製物の質量は82gであった)を室温(22~23℃)で充填した。中間体5(エンドアミン)(49.54g)を添加し、反応物を5~10℃に冷却し、反応物を30分間攪拌した。トリアセトキシ水素化ホウ素ナトリウム(56.78g)及び氷酢酸(5.7mL)を添加し、反応混合物を室温(22~23℃)まで温めて10~12時間攪拌した。反応の進行をTLC及びHPLCによりモニターし、終了したら、飽和炭酸水素溶液(400mL、7V)を添加し、20~25℃で15~20分間攪拌した。有機層を分離し、硫酸ナトリウムで乾燥し、ろ過し、圧力下で、37~40℃で有機層を留去し、tert-ブチル(1R,3R,5S)-3-(4-((ベンジルオキシ)カルボニル)ピペリジン-1-イル)-8-アザビシクロ[3.2.1]オクタン-8-カルボキシレートを得た。
粗製物の質量:115g、粗製物の特徴:濃厚液、色:淡いくり色
【0056】
シュウ酸塩形成を用いる精製:
温度計及び冷却器を備えた、清浄で乾燥した500mLの四つ口RBフラスコに、粗製物(25g)及びアセトン(150mL、6V)を充填し、5~10℃に冷却した。シュウ酸(10g、2.0eq.)を充填し、反応生成物(reaction mass)を、2時間攪拌しながら、室温まで温めた。反応生成物を40℃で留去して粗製物(質量:35g)を提供し、次に10 VolのMTBEを25~30℃で充填して30分間攪拌した。反応生成物をろ過し、MTBE(1.0 vol)でベッド洗浄を行って、湿った固体(シュウ酸塩、26g)を得た。固体を飽和炭酸水素溶液(30 vol、780mL)及び酢酸エチル(25 Vol、650mL)中に懸濁させ、15分間攪拌した。有機層を分離し、Na2SO4で乾燥し、真空下で37~40℃で留去し、生成物を得た。
生成物の質量:8.0g
必要に応じ、この物質を、ヘキサン:酢酸エチルを使用して中性アルミナ(供給源-SDFCL)に吸着させる、カラムクロマトグラフィーにより、さらに精製することができる。カラム勾配:5->10->12%(酢酸エチル:ヘキサン)
【0057】
工程05:ベンジル1-((1R,3R,5S)-8-アザビシクロ[3.2.1]オクタン-3-イル)ピペリジン-4-カルボキシレート塩酸塩(7)の合成
【化29】
冷却器及び温度計ポケットを備えた、清浄で乾燥した5.0リットルの四つ口RBフラスコに、窒素雰囲気下で、シクロペンチルメチルエーテル(452mL、4.0 V)及び中間体6(113g、1.0eq.)を充填し、反応混合物を0~5℃に冷却した。シクロペンチルメチルエーテル(904mL、8.0 V)中の3M HClを0~5℃で非常にゆっくりと加え、反応混合物を22~25℃にゆっくり温めて16時間攪拌した。反応終了まで、反応をHPLCによりモニターした。反応混合物をN2雰囲気下でろ過し、MTBE(2.0 vol.)でベッド洗浄を行った。生成物の湿ったケーキをN2下で取り出し、減圧下で45~47℃で乾燥し、粗製物を得、該粗製物をいかなる更に精製せずに次の工程に直接使用した。
【0058】
工程06:ベンジル1-((1R,3R,5S)-8-シアノ-8-アザビシクロ[3.2.1]オクタン-3-イル)ピペリジン-4-カルボキシレート(8)の合成
【化30】
冷却器及び温度計ポケットを備えた、清浄で乾燥した5.0リットルの四つ口RBフラスコに、窒素雰囲気下で、ジクロロメタン(1860mL、10 vol.)、中間体7(186.0g、1.0eq.)及びトリエチルアミン(355mL、5.0eq.)を22~25℃で10~15分間にわたって充填し、さらに、反応混合物を30~45分間攪拌した。反応混合物を0~5℃に冷却し、DCM(372mL、2.0 V)中の臭化シアン(92g、1.7eq.)を0~5℃で添加し、反応混合物を22~25℃にゆっくり温めて、22~25℃で3~4時間攪拌した。反応終了まで、反応の進行をHPLCによりモニターした。反応混合物をDCM(1860mL、10 vol.)で希釈し、飽和NaHCO3溶液(930mL、5V)を用いて塩基性化させた。有機層を分離し、水層をDCM(1860mL、10 vol)で抽出した。合わせた有機層をNa2SO4で乾燥し、減圧下で蒸発させ、190gの粗化合物を得た。粗化合物を、ヘキサン中15%酢酸エチルを用いる中性アルミナカラムクロマトグラフィーにより精製した。純粋な画分を集めて減圧下で濃縮し、75gの純粋な化合物(収率:46%)を得た。
【0059】
工程07:ベンジル1-((1R,3R,5S)-8-((((tertブトキシカルボニル)アミノ)オキシ)(イミノ)メチル)-8-アザビシクロ[3.2.1]オクタン-3-イル)ピペリジン-4-カルボキシレート(10)の合成
【化31】
冷却器及び温度計ポケットを備えた、清浄で乾燥した3.0リットルの四つ口RBフラスコに、窒素雰囲気下で、2-メチル-THF(800mL、10 vol.)及び中間体8(80g、1.0eq.)を充填し、反応混合物を0~5℃に冷却した。ZnCl2の溶液(2.2eq.、2-メチル-THF中1.9Mの溶液)を添加し、反応混合物を0℃で30分間攪拌した。次に、N-Boc-ヒドロキシルアミン(中間体9)(1.2eq.)を添加し、反応混合物を23~25℃にゆっくり温めて、16時間攪拌し続けた。反応終了まで、反応の進行をTLC及びHPLCによりモニターした。反応混合物を水(800mL、10.0 V)でクエンチし、次に生成物を酢酸エチル(2×800mL)で抽出した。合わせた有機層をNa2SO4で乾燥し、減圧下で蒸発させ、110g(定量的収量)の粗化合物を得た。この生成物を、更に精製せずに次の工程に直接使用した。
【0060】
工程08:ベンジル1-((1R,3R,5S)-8-(3-(トリフルオロメチル)-1,2,4-オキサジアゾール-5-イル)-8-アザビシクロ[3.2.1]オクタン-3-イル)ピペリジン-4-カルボキシレート(11)の合成
【化32】
冷却器及び温度計ポケットを備えた、清浄で乾燥した3.0リットルの四つ口RBフラスコに、窒素雰囲気下で、DCM(1150mL、10.0 vol.)及び中間体10(115.0g、1.0eq.)を充填し、反応混合物を0~5℃に冷却した。トリフルオロ酢酸(271mL、15.0eq.)及びTFAA(164mL、5.0eq.)の混合物を、0~5℃で、3~4時間の間隔で、窒素雰囲気下で、3回分けて滴下した。反応混合物を室温で12時間撹拌し、次に、反応の進行が終了するまで(TLC及びHPLCによってモニターした)、さらに16時間攪拌した。反応終了後、反応混合物を0℃に冷却し、飽和NaHCO3水溶液を用いてpH(7~8)を調整し、反応混合物を15分間攪拌した。層を分離し、水層をDCM(2×100mL)で抽出した。合わせた有機層をNa2SO4で乾燥し、減圧下で蒸発させ、145gの粗化合物を得た。粗化合物を、ヘキサン及び酢酸エチルを溶離剤として用いる中性アルミナを用いるカラムクロマトグラフィーにより精製し、49gの純粋な生成物を得た。
【0061】
工程09:1-((1R,3R,5S)-8-(3-(トリフルオロメチル)-1,2,4-オキサジアゾール-5-イル)-8-アザビシクロ[3.2.1]オクタン-3-イル)ピペリジン-4-カルボン酸(12)の合成
【化33】
冷却器及び温度計ポケットを備えた、清浄で乾燥した5.0リットルの四つ口RBフラスコに、窒素雰囲気下で、THF(2250mL)、脱塩水(450mL)及び中間体11(225g)を室温(22~25℃)で充填した。水酸化リチウム一水和物(30.5g、2.0eq.)を室温(22~25℃)で添加し、反応混合物を60℃で4時間攪拌した。反応の進行をTLC及びHPLCによりモニターし、反応終了後、反応混合物を0~5℃に冷却した。1N HCl溶液を用いてpHを4~5に調整し、混合物を15分間攪拌した。溶媒を蒸発させ、MTBE(10.0 V)を室温で粗固体化合物に添加して室温で2時間撹拌して、粗製物を精製した。固体をろ過し、MTBE(10.0 V)で洗浄した。固体化合物を真空下で乾燥し、オフホワイト色の固体として245gの生成物(実際の化合物は、216gの中間体12であり、残りのおおよそ29.0gは、塩化リチウム塩であった)を得た。
【0062】
工程10:N-(tert-ブチル)-1-((1R,3r,5S)-8-(3-(トリフルオロメチル)-1,2,4-オキサジアゾール-5-イル)-8-アザビシクロ[3.2.1]オクタン-3-イル)ピペリジン-4-カルボキサミドの合成
【化34】
手順:
メカニカルスターラー及び窒素注入口を備えた、清浄で乾燥した1Lの三つ口丸底フラスコに、アセトニトリル(20.0 V)及び中間体12(1.0eq)を単一のロットで充填し、反応生成物を10分間攪拌した。反応混合物を0℃に冷却し、次にHATUを添加し、続いてtert-ブチルアミン(1.5eq)、DIPEA(4.0 V)を15分までゆっくり添加した。添加終了後、反応混合物を室温で16時間攪拌した。反応の進行をTLCによりモニターし、終了したら、過剰のアセトニトリルを減圧下で留出した。反応を脱塩水(40.0 V)でクエンチし、固体物質を沈殿させ、60分間攪拌した。固体を脱塩水(5.0 V)で洗浄し、吸引により乾燥した。固体化合物を真空下で乾燥し、オフホワイト色の固体として56.0gの生成物を得た。
【0063】
工程11:N-(tert-ブチル)-1-((1R,3r,5S)-8-(3-(トリフルオロメチル)-1,2,4-オキサジアゾール-5-イル)-8-アザビシクロ[3.2.1]オクタン-3-イル)ピペリジン-4-カルボキサミド塩酸塩の合成
【化35】
フラスコに、アセトン(10.0 V)中の中間体14の遊離塩基(56.0g、1.0eq.)を取り、反応混合物を10分間攪拌した。次に、反応混合物を0℃に冷却し、IPA中の15%HCl溶液を0℃で滴下した。次に、反応混合物を25~30℃に温めて、25~30℃で2時間攪拌した。溶媒を減圧下で完全に蒸発させ、10.0Vのn-ヘプタンで2回共蒸発した。固体化合物を真空下で乾燥し、オフホワイト色の固体として59.0gの生成物を得た。
【0064】
工程12(再結晶):N-(tert-ブチル)-1-((1R,3r,5S)-8-(3-(トリフルオロメチル)-1,2,4-オキサジアゾール-5-イル)-8-アザビシクロ[3.2.1]オクタン-3-イル)ピペリジン-4-カルボキサミド一塩酸塩一水和物(実施例1-2)の合成
フラスコに、IPA(10.0 V)中の中間体14の塩酸塩(108.0g)を充填し、反応混合物を加熱して1時間還流したが、固体は還流温度では完全に溶解しなかった。1時間加熱し続けながら、MeOH(1.0 V)を添加し、溶液を得た。熱い溶液を濾紙に通過して、不溶性粒子を除去した。溶媒(溶媒の11容量のうちのおおよそ8容量)を減圧下で除去した。おおよそ3容量が残り、それを0℃に冷却させ、同じ温度で1時間攪拌した。次に、固体をろ過し、最小量の冷やしたIPAで洗浄して吸引により乾燥した。固体化合物を真空下で乾燥し、オフホワイト色の固体として93.5gの生成物を得た。
分析を行って、バッチの組成を決定した。その結果は、このバッチは一塩酸塩一水和物であった。
一塩酸塩一水和物の式:C203353ClF3;分子量:483.96
【表4】

【0065】
生物学的活性
実施例A:リン酸化-ERK1/2アッセイ
Alphascreen Surefireリン酸化-ERK1/2アッセイ(Crouch & Osmond, Comb. Chem. High Throughput Screen, 2008)を用いて機能アッセイを行った。ERK1/2リン酸化は、Gq/11及びGi/oタンパク質共役型受容体活性化の下流の結果であり、異なる受容体サブタイプに対して異なるアッセイ形式を使用することよりも、M1、M3受容体(Gq/11共役型)及びM2、M4受容体(Gi/o共役型)の評価にはるかに適している。ヒトムスカリンM1、M2、M3又はM4受容体を安定に発現するCHO細胞を、MEM-α+10%透析済みFBS入りの96ウェル組織培養プレート上に蒔いた(25K/ウェル)。細胞を接着させたら、一晩血清飢餓状態にした。5μLアゴニストを細胞に5分間(37℃)添加することにより、アゴニスト刺激を行った。培地を除き、50μLの溶解バッファーを添加した。15分後、4μLの試料を384ウェルプレートに移し、7μLの検出混合物を添加した。プレートを暗所で穏やかに振盪しながら2時間インキュベートし、PHERAstarプレートリーダー上で読み取った。各受容体サブタイプについて得られたデータから、pEC50及びEmaxの数値を算出した。結果を、以下の表1に示す。
【表5】

【0066】
実施例B:CLint(インビトロ肝細胞)(実施例1)
プールされた凍結保存肝細胞(Bioreclamation)を用いて肝細胞安定性アッセイを行った。DMSOで調製された被験化合物を、初期濃度1μM(最終:0.25%DMSO、n=2)で、細胞密度を100万細胞/mLの肝細胞とともに37℃においてインキュベートした。0.5、5、10、15、30、60及び120分の時点でアリコートを除去し、反応を停止させ、及び分析用の内部標準(0.5μMカルバマゼピン)を含むアセトニトリルで化合物を抽出した。試料を遠心分離し、質量分析(LC-MS/MS)により親化合物についての上清画分を分析した。T=0の試料(内部標準について正規化した)のMS応答と比較した各試料のMS応答から、残りの化合物の量(%で表示)を決定した。残りの%のLnプロットを用いて、以下の関係式を使用して化合物の消失の半減期を決定した。
半減期(min)=-0.693/λ(式中、λは、残りのLn%対時間曲線の傾き)
式:
CLint(μL/min/100万細胞)=(0.693/半減期(min))×(1000/1mL当たり100万細胞のインキュベーション)
を使用して、μL/min/100万細胞としてのインビトロの固有クリアランス(CLint)を算出した。
マウス=7μL/min/100万
ラット 8μL/min/100万
イヌ 8μL/min/100万
サル <5μL/min/100万
ヒト <5μL/min/100万
【0067】
実施例C:MDCKの透過性/排出(実施例1)
MDR1-MDCK細胞(Solvo Biotechnology)をウェル当たり2.35×105細胞で24ウェルのトランズウェルプレート上に播種し、37℃において5%CO2下で3日間の培養後、コンフルエントな単層で使用した。頂端膜側から基底膜側へ(AからBへ)及び基底膜側から頂端膜側へ(BからAへ)の両方の測定に関し、細胞のタイプについて、被験化合物と対照化合物(プロプラノロール、ビンブラスチン)を、アッセイバッファー(25mMのHEPESを補充し、pH7.4に調整したハンクス平衡塩溶液)入りのトランズウェルプレートのドナー区画に添加した(1μM、最終:0.1%DMSO、n=2)。インキュベーションを37℃において行い、T=0及び1時間の時点でドナーチャンバー及びアクセプターチャンバーの両方から試料を取り出し、分析用の内部標準を含む質量分析(LC-MS/MS)により化合物を分析した。
以下の関係式:
Papp=(T=終了時のアクセプター化合物/(ドナー化合物×ドナーV)/インキュベーション時間)×ドナーVの面積×60×10-6cm/s
から、見かけの透過性(Papp)の値を決定した。
【0068】
式中、Vは、各トランズウェルの区画の容量(頂端側125μL、側底側600μL)であり、濃度は、インキュベーション前のドナーチャンバー及びインキュベーション終了時のアクセプターチャンバーにおける化合物(内部標準について正規化した)についての相対的MS応答である。面積は、薬物移行に曝された細胞の面積である(0.33cm2)。排出比率(Papp BからAへ/Papp AからBへ)を各方向の平均Papp値から算出した。MDR1-MDCK細胞株を、排出トランスポーターであるMDR1(P-糖タンパク質)を過剰発現させるように操作した。BからAへの透過性が良好であるが、AからBへの透過性が劣るであることという知見は、化合物がこのトランスポーターの基質であることを示唆する。ルシファーイエロー(LY)を全ウェル内の頂端側バッファーに添加し、細胞層の生存率を評価した。LYが親油性バリアを自由に透過できないため、高レベルのLY輸送は、細胞層の完全性が劣ることを示し、LY Papp>10×10-6cm/sのウェルを不合格とした。1つのウェルで完全性が損なわれても、プレート上の他のウェルの有効性には影響を与えないことに留意されたい。ウェルからの化合物回収率(recovery)を、ドナーチャンバーのプレインキュベーションでの応答と比較した、インキュベーション終了時のドナーチャンバー及びアクセプターチャンバーでのMS応答(内部標準について正規化した)から決定した。回収率<50%の場合は、アッセイにおける化合物の溶解性、安定性又は結合の問題を示唆し、結果の信頼性を低下させる可能性がある。
A-B=66×10-6cm/sec
B-A=77×10-6cm/sec
B-A/A-B排出比率=1.2
【0069】
実施例D:溶解性データ(実施例1)
水溶性(熱力学的)-LCMS/MS方法
被験試料についての10mMのストック溶液(DMSO中)を調製した。前記10mMのストック溶液から、移動相溶液(典型的には、メタノール:適切な内部標準(IS)-、カルバマゼピン/他の適切なIS-を含む2mM酢酸アンモニウム)で被験試料を希釈することにより、1μMのワーキングソリューションを調製した。また、ワーキングソリューションを移動相溶液で段階希釈し(最大5~6つの直線性ポイント)、検量線をプロットするための標準溶液を調製した。LCMS/MSを用いて、一重線で各標準試料についての面積を分析した。正規化した面積値を濃度に対してプロットし、未知の試料を決定するための校正方程式を得た。被験化合物の水熱力学的(TD)な溶解度を確認するために、1mg(粉末状)の化合物を以下の表に記載される各緩衝剤及び生体関連媒体1mLに添加し、1mg/mLと等しい理論濃度を達成した。ボルテックスミキサーを用いて、被験化合物を緩衝液中に分散させた。
【0070】
【表6】

次に、室温(25℃)でのTD溶解性のために、得られた溶液をRotoSpin(振盪機)上に50 rpmで4時間維持した。インキュベーション期間の後、化合物の不溶性画分を除去するために、0.45ミクロンのPVDF注射器用フィルターを用いて溶液をろ過した。ろ液を移動相で希釈した後、LCMS/MSを使用して希釈した試料のAUCを確認した。被験試料のAUCから、5~6つのポイントの直線性/検量線を使用して対応する濃度を算出した。
すべての数字をμMとして報告した。
【表7】
【0071】
実施例E:HμREL(実施例1)
HμREL human Pool(商標)96ウェル肝細胞共培養プレート(HμREL human PoolTM 96-well hepatic co-culture plates)が到着したら、すぐに培地を交換して、細胞を37℃において約20時間順化させた。HμREL(登録商標)インキュベーション培地(無血清)及び被験化合物(基質の最終濃度:1μM;DMSOの最終濃度:0.1%)をHμREL(登録商標)96ウェル共培養系(最終細胞数:1ウェル当たり30,000細胞)に添加して反応を開始させた。最終インキュベーション容量は、時点ごとに80μLであった。アッセイごとに2種の対照化合物を含ませた。各被験化合物に対して、すべてのインキュベーションを単独で行った。
各化合物を0、2、6、24、48及び72時間(0、120、360、1440、2880及び4320分間)インキュベートした。適切な時点で、60μLのインキュベート物を、内部標準を含む180μLアセトニトリルに移すことにより、反応を停止させた。終止プレート(termination plate)を3000rpm、4℃において20分間遠心分離し、あらゆる残留タンパク質を沈殿させた。
定量分析
タンパク質を沈殿させた後、試料の上清を最大4つの化合物のカセットにまとめ、サイプロテックスジェネリックLC-MS/MS条件を用いて分析した。
データ分析
lnピーク面積の比率(化合物のピーク面積/内部標準のピーク面積)対時間のプロットから、線の傾きを決定した。その後、以下の方程式:
排出速度定数(k)=(-傾き)

(式中、V=インキュベーション容量(μL)/細胞数)
CLint<0.143μL/min/百万
を用いて半減期(t1/2)及び固有クリアランス(CLint)を算出した。
【0072】
実施例F:ヒト有効用量について予測されるターゲットエンゲージメント(実施例1)
ヒトにおけるM1アゴニストの有効性を観察するために予想される要件は、組換えM1のEC50を超える6時間の非結合脳暴露である。実施例1は、おおよそ22mgの用量で、M1アゴニストの有効性に必要とされる、非結合脳暴露に至ると予測され、ヒト半減期は15時間と予測される(図1)。
受容体占有率の予測(ターゲットエンゲージメント)に使用したパラメータ
MW=429.48
1pEC50=7.17
Fu=0.682
Kpuu=1
半減期(予測)=15時間
F=0.61
Cl=4.4mL/min/kg
V=5.9mL/min/kg
Ka=1
定義:
fu-血漿又は脳組織ホモジェネート中の結合していない化合物の割合
F-バイオアベイラビリティ;体循環(血漿)に至る投与量%
Kp,uu-非結合脳濃度/非結合血漿濃度の比率。血液脳関門を通過する薬物の正味の流束(net flux)を定量すること(血漿及び脳組織における非特異的結合によって交絡されることなく、トランスポーターの定量的な役割を含む)Gupta et al, DMD, 2006; Hammarlund-Udenaes et al, PharmRes, 2008
【0073】
実施例G:雌性リスターフーデッドラットにおけるオペラント逆転学習タスクにおける亜慢性PCP誘発性欠損の減弱(実施例1)
目的及び結果
実施例1(1、3、10及び30mg/kg、p.o.、1時間の前処理時間、ptt)が、雌性リスターフーデッドラットにおいてフェンシクリジン(scPCP)を用いて亜慢性処理によって誘発された認知タスクの混乱を減弱する能力を調べた。
ビヒクルと比べて、scPCP群において、タスクの逆転相における反応の正答率が有意に(P<0.01)減少した(図2)。逆転相において、最低用量及び2つの中間用量(1、3及び10mg/kg)での実施例1による処理は、scPCP群と比べて、反応の正答率を有意に(それぞれ、P<0.05、P<0.05及びP<0.01)増加させた(図2)。
材料及び方法
雌性リスターフーデッドラットをこの実験に使用した。試験時のラットの平均重量は、294g±29gであった。ラットを、12時間の明暗周期(7時に点灯)で、標準的な実験室条件下で3~5匹の群で収容し、自由摂食時の体重の90%まで給餌を制限した(ラット1匹あたり1日あたり12gの餌)。試験を明期において行った。ラットを無作為に2つの処理群に割り当て、ビヒクル、n=8(0.9%生理食塩水溶液、i.p.)又はPCP、n=48(2mg/kg、i.p.、1日2回、7日間))を与えた。試験日当日に、ラットを無作為に7つの処理群に割り当て(1群あたりn=6~8)、実施例1(1、3、10及び30mg/kg、p.o.、1時間、ptt)又はビヒクルによる急性処理を受けさせた。実施例1を1%メチルセルロースに溶解させ、試験の1時間前に、5mL/kgの量で経口投与した(p.o.)。試験を、Animals Scientific Procedures Act(UK, 1986)に準拠して行い、マンチェスター大学のAWERB(動物福祉及び倫理審査機関(Animal Welfare and Ethical Review Body))により承認された。
【0074】
試験手順
オペラント箱(operant chamber)に馴化させた後、ラットを、両レバーをアクティブにしてFR1(定率1)の強化スケジュールで餌に反応させるように訓練した。反応が安定したとき、ラットを、餌の供給を求めて左又は右レバーのいずれかを押すように訓練したが、アクティブレバーを日によって変えた。各セッションを20分間持続し、各レバーのカウントを記録した。その後、ラットを、視覚的な手がかり(点灯したLED)の位置に基づいて餌に反応させるようにさらに訓練した。半分を、餌の報酬を受けるために、点灯したLEDの下でレバーを押すように訓練し、残りの半分を逆の偶発的案件(未点灯のLEDの下でレバーを押す)で訓練した。試験セッションは合計128回レバーを押した後に終了し、おおよそ30分間かけた。その後、逆の偶発的案件の基準に到達するまで、ラットを再び訓練した。
各逆転学習タスクのセッションの前日に、安定な反応を確保するように全30分のオペラント訓練セッション(上述したとおり)を行った。逆転学習タスクについて、動物をまず5分間の期間に曝した。その期間中は、偶発的状況(アクティブレバーに対する手がかりの位置)はオペラント訓練セッションと同じであった。この期間中、正解及び不正解のレバーの両方での反応を記録した。セッションのこの部分を初期相と称する。次の5分間において、偶発的状況を逆転させた。正解及び不正解のレバーに対して行った反応を再度記録した。この第2の期間を逆転相と称する。この段階で、訓練を終わらせ、ラットをPCP(2mg/kg、i.p.)又はビヒクル(0.9%生理食塩水、i.p.)で7日間処理し、次に少なくとも7日の休薬期間を取った。ケージに含まれるラットのすべてが異なる薬物処理を受けるように、ラットを無作為化させた。
【0075】
データを正解の反応率(±S.E.M)として表し、初期相及び逆転相についての値を異なる薬物の治療群に対して表す(図2)。正解の反応率のデータを使用して、薬物が反応精度に有意な影響を及ぼすかを判断した(例えば、認知機能障害を反映し得る)。統計的有意性は、P<0.05の場合に推定され、初期相及び逆転相における薬物治療の主な効果を検出するために、一元配置分散分析を使用して決定した。初期相及び逆転相の両方の間に記録されたレバーを押した合計数は、ビヒクル又は実施例1(表2)のいずれかで治療した後は有意な差がなく、この研究において一般的な反応に非特異的な影響がないことを確認した。
表2.逆転学習タスクにおいて、一般的なパフォーマンスに対するscPCP処置ラット(2mg/kg、i.p、7日間、1日2回、その後、少なくとも7日の休薬期間)における実施例1(1.0、3.0、10.0&30.0mg/kg、p.o.)による急性処置の影響。データは、逆転学習タスクの初期相及び逆転相においてレバーを押した平均合計数として表す(±S.E.M(n=6~9))。
【表8】
【図面の簡単な説明】
【0076】
図1図1は、経口投与後のマウス、ラット、イヌ及びサルの種にわたるアロメトリースケーリングからの、実施例1の有効用量について予測されたターゲットエンゲージメントを示す。データは、計算されたM1受容体のターゲットエンゲージメント%の関数として示し、ここで、50%は、組換えヒトEC50(86nM又は28ng/mL)に等しい非結合暴露に相当する。測定された同等の非結合血漿:脳の分布プロファイル(Kpuu=1)に基づいて、示された暴露は、血漿又は脳の区画のいずれかを表す。
図2図2は、scPCP処置ラット(2mg/kg、i.p、7日間、1日2回、その後、少なくとも7日の休薬期間)における実施例1(1.0、3.0、10.0&30.0mg/kg、p.o.)の急性処置が逆転学習タスクのパフォーマンスに与える影響を示す。データは平均正解率%(mean correct responding %)±S.E.M.(n=6~9)として示す。破線でタスクの初期相(左)と逆転相(右)を分けている。データを一元配置分散分析及びその後のLSD検定により分析した。***P<0.001;sc生理食塩水+ビヒクル群と比べて、タスクの逆転相における正解率%(correct responding %)が有意に減少した。#P<0.05;##P=0.01;###P<0.001;scPCP+ビヒクル群と比べて、タスクの逆転相における正解率%が有意に増加した。
【0077】
均等物
前述の例は、本発明を例示する目的で示すものであり、本発明の範囲に何らかの限定を加えるものと解釈されるべきではない。本発明の根底にある原理から逸脱することなく、上記で述べ、実施例で例示した本発明の特定の実施形態に、多くの修正及び変更をなすことができることが、容易に明らかになるであろう。こうした修正及び変更はすべて、本願に包含されると意図されている。
図1
図2
【国際調査報告】