(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-01-31
(54)【発明の名称】リジン分解関連障害の治療
(51)【国際特許分類】
A61K 31/7088 20060101AFI20240124BHJP
C12N 15/113 20100101ALI20240124BHJP
C12N 15/09 20060101ALI20240124BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20240124BHJP
A61P 25/08 20060101ALI20240124BHJP
A61P 13/00 20060101ALI20240124BHJP
A61K 31/713 20060101ALI20240124BHJP
A61K 31/7105 20060101ALI20240124BHJP
A61K 48/00 20060101ALI20240124BHJP
【FI】
A61K31/7088
C12N15/113 130Z
C12N15/113 ZNA
C12N15/09 110
A61P43/00 111
A61P25/08
A61P13/00
A61K31/713
A61K31/7105
A61K48/00
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023538768
(86)(22)【出願日】2021-12-22
(85)【翻訳文提出日】2023-08-21
(86)【国際出願番号】 GB2021053413
(87)【国際公開番号】W WO2022136873
(87)【国際公開日】2022-06-30
(32)【優先日】2020-12-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】506417186
【氏名又は名称】ユーシーエル ビジネス リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100136629
【氏名又は名称】鎌田 光宜
(74)【代理人】
【識別番号】100080791
【氏名又は名称】高島 一
(74)【代理人】
【識別番号】100125070
【氏名又は名称】土井 京子
(74)【代理人】
【識別番号】100121212
【氏名又は名称】田村 弥栄子
(74)【代理人】
【識別番号】100174296
【氏名又は名称】當麻 博文
(74)【代理人】
【識別番号】100137729
【氏名又は名称】赤井 厚子
(74)【代理人】
【識別番号】100151301
【氏名又は名称】戸崎 富哉
(74)【代理人】
【識別番号】100152308
【氏名又は名称】中 正道
(74)【代理人】
【識別番号】100201558
【氏名又は名称】亀井 恵二郎
(72)【発明者】
【氏名】ミルズ、フィリッパ
(72)【発明者】
【氏名】ジョウ、ハイヤン
(72)【発明者】
【氏名】ギッセン、ポール
(72)【発明者】
【氏名】ヴーツクリ、レディ スリーカンス
【テーマコード(参考)】
4C084
4C086
【Fターム(参考)】
4C084AA13
4C084NA05
4C084NA14
4C084ZA06
4C084ZA81
4C084ZC20
4C084ZC41
4C086AA01
4C086AA02
4C086EA16
4C086MA01
4C086MA04
4C086NA05
4C086NA14
4C086ZA06
4C086ZA81
4C086ZC20
4C086ZC41
(57)【要約】
本開示は、対象におけるリジン分解のサッカロピン経路の障害を治療する方法、及び該方法において使用するための組成物に関する。本開示はまた、リジン分解のサッカロピン経路に関与する酵素の発現を低下させる核酸サイレンシング分子に関する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象におけるリジン分解のサッカロピン経路の障害を治療する方法であって、α-アミノアジピン酸セミアルデヒド合成酵素(AASS)の発現を低下させる核酸サイレンシング分子を含む組成物を前記対象に投与することを含む方法。
【請求項2】
対象におけるリジン分解のサッカロピン経路の障害を治療する方法において使用するための組成物であって、前記組成物が、α-アミノアジピン酸セミアルデヒド合成酵素(AASS)の発現を低下させる核酸サイレンシング分子を含み、前記方法が、前記核酸サイレンシング分子を前記対象に投与することを含む組成物。
【請求項3】
前記障害が、ALDH7A1、DHTKD1、グルタリル-CoAデヒドロゲナーゼ、又はAADATの欠損を含む、請求項1に記載の方法又は請求項2に記載の使用のための組成物。
【請求項4】
前記欠損が、それぞれALDH7A1、DHTKD1、グルタリル-CoAデヒドロゲナーゼ、又はAADATにおける変異に起因する、請求項3に記載の方法又は使用のための組成物。
【請求項5】
前記変異が、それぞれALDH7A1、DHTKD1、グルタリル-CoAデヒドロゲナーゼ、又はAADATにおける1つ以上の置換、1つ以上の挿入、及び/又は1つ以上の欠失を含む、請求項4に記載の方法又は使用のための組成物。
【請求項6】
(a)前記障害が、ALDH7A1の欠損を含み、前記障害が、ピリドキシン依存性てんかんである;
(b)前記障害が、DHTKD1の欠損を含み、前記障害が、2-アミノアジピン酸2-ケトアジピン酸尿症若しくはシャルコー・マリー・ツース病2Q型である;又は
(c)前記障害が、グルタリル-CoAデヒドロゲナーゼの欠損を含み、前記障害が、グルタル酸尿症I型である
請求項1及び請求項3~5のいずれか一項に記載の方法又は請求項2~5のいずれか一項に記載の使用のための組成物。
【請求項7】
前記方法が、前記対象に更なる治療組成物を投与する又は治療レジメンを施すことを含む、請求項1及び請求項3~6のいずれか一項に記載の方法、又は請求項2~6のいずれか一項に記載の使用のための組成物。
【請求項8】
(a)前記障害がALDH7A1の欠損を含み、前記更なる治療用組成物がビタミンB6及び/若しくはアルギニンを含む;又は(b)前記障害がグルタリル-CoAデヒドロゲナーゼの欠損を含み、前記更なる治療用組成物がアルギニン及び/若しくはカルニチンを含む、請求項7に記載の方法又は使用のための組成物。
【請求項9】
前記治療レジメンが治療食を含み、任意で、前記治療食がリジン制限食及び/又はトリプトファン制限食を含む、請求項7に記載の方法又は使用のための組成物。
【請求項10】
α-アミノアジピン酸セミアルデヒド合成酵素(AASS)の発現を低下させる核酸サイレンシング分子。
【請求項11】
前記核酸サイレンシング分子が、(i)RNA、(ii)DNA、又は(iii)RNA及びDNAを含む、請求項1及び3~9のいずれか一項に記載の方法;請求項2~9のいずれか一項に記載の使用のための組成物;又は請求項10に記載の核酸サイレンシング分子。
【請求項12】
前記核酸サイレンシング分子が、アンチセンスオリゴヌクレオチド(AON)、低分子干渉RNA(siRNA)、ショートヘアピンRNA(shRNA)、マイクロRNA(miRNA)、又はCRISPRガイドRNAを含むか又はからなり;任意で、前記核酸サイレンシング分子が、アンチセンスオリゴヌクレオチド(AON)又は低分子干渉RNA(siRNA)を含むか又はからなる、請求項1、3~9、及び11のいずれか一項に記載の方法;請求項2~9及び11のいずれか一項に記載の使用のための組成物;又は請求項10若しくは11に記載の核酸サイレンシング分子。
【請求項13】
前記核酸サイレンシング分子が、1つ以上の2’-O-メトキシエチルリボース(MOE)修飾ヌクレオチドを含むか又は2’-O-メトキシエチルリボース(MOE)修飾ヌクレオチドからなる、請求項1、3~9、11、及び12のいずれか一項に記載の方法;請求項2~9、11、及び12のいずれか一項に記載の使用のための組成物;又は請求項10~12のいずれか一項に記載の核酸サイレンシング分子。
【請求項14】
前記核酸サイレンシング分子が、1つ以上の2’-O-メチル(2OMe)修飾ヌクレオチドを含むか又は2’-O-メチル(2OMe)修飾ヌクレオチドからなる、請求項1、3~9、及び11~13のいずれか一項に記載の方法;請求項2~9及び11~13のいずれか一項に記載の使用のための組成物;又は請求項10~13のいずれか一項に記載の核酸サイレンシング分子。
【請求項15】
前記核酸サイレンシング分子が、1つ以上のロックド核酸(LNA)修飾ヌクレオチドを含むか又はロックド核酸(LNA)修飾ヌクレオチドからなる、請求項1、3~9、及び11~14のいずれか一項に記載の方法;請求項2~9及び11~14のいずれか一項に記載の使用のための組成物;又は請求項10~14のいずれか一項に記載の核酸サイレンシング分子。
【請求項16】
前記核酸サイレンシング分子が、1つ以上のヌクレオシドホスホロチオエートを含むか又はヌクレオシドホスホロチオエートからなる、請求項1、3~9、及び11~15のいずれか一項に記載の方法;請求項2~9及び11~15のいずれか一項に記載の使用のための組成物;又は請求項10~15のいずれか一項に記載の核酸サイレンシング分子。
【請求項17】
(i)前記組成物が、請求項16に記載の2つ以上の核酸サイレンシング分子を含み;(ii)前記2つ以上の核酸サイレンシング分子の各々が1つの立体異性体であり;かつ(iii)前記組成物中に更なる核酸サイレンシング分子が含まれない、請求項16に記載の方法又は使用のための組成物。
【請求項18】
前記核酸サイレンシング分子が、(a)AASSの一次転写産物に含まれるヌクレオチド配列に対して少なくとも75%の配列同一性を有するヌクレオチド配列又は(b)(a)のヌクレオチド配列に相補的なヌクレオチド配列を含み、任意で、前記核酸サイレンシング分子がアンチセンスオリゴヌクレオチド(AON)である、請求項1、3~9、及び11~17のいずれか一項に記載の方法;請求項2~9及び11~17のいずれか一項に記載の使用のための組成物;又は請求項10~16のいずれか一項に記載の核酸サイレンシング分子。
【請求項19】
前記一次転写産物に含まれるヌクレオチド配列が、(i)エクソンに含まれるヌクレオチド配列、(ii)イントロンに含まれるヌクレオチド配列、(iii)3’非翻訳領域に含まれるヌクレオチド配列、及び(iv)5’非翻訳領域に含まれるヌクレオチド配列のうちの1つ以上を含む、請求項18に記載の方法、使用のための組成物、又は核酸サイレンシング分子。
【請求項20】
前記核酸サイレンシング分子が、(a)AASSから転写されたmRNAに含まれるヌクレオチド配列に対して少なくとも75%の配列同一性を有するヌクレオチド配列又は(b)(a)のヌクレオチド配列に相補的なヌクレオチド配列を含み、任意で、前記核酸サイレンシング分子が、アンチセンスオリゴヌクレオチド(AON)又は低分子干渉RNA(siRNA)である、請求項1、3~9、及び11~17のいずれか一項に記載の方法;請求項2~9及び11~17のいずれか一項に記載の使用のための組成物;又は請求項10から16のいずれか一項に記載の核酸サイレンシング分子。
【請求項21】
前記核酸サイレンシング分子が、(a)AASSから転写されたmRNAのエクソン8及び/若しくはエクソン9に含まれるヌクレオチド配列に対して少なくとも75%の配列同一性を有するヌクレオチド配列、又は(b)(a)のヌクレオチド配列に相補的なヌクレオチド配列を含む、請求項18~20のいずれか一項に記載の方法、使用のための組成物、又は核酸サイレンシング分子。
【請求項22】
前記核酸サイレンシング分子に含まれるヌクレオチド配列が、約10~約15000ヌクレオチド長、任意で約10~約50ヌクレオチド長、又は約20~約30ヌクレオチド長である、請求項1、3~9、及び11~21のいずれか一項に記載の方法;請求項2~9及び11~21のいずれか一項に記載の使用のための組成物;又は請求項10~16及び18~21のいずれか一項に記載の核酸サイレンシング分子。
【請求項23】
前記核酸サイレンシング分子が、
(a)任意で、前記核酸サイレンシング分子が、配列番号22若しくは配列番号32又はそれらに対して少なくとも75%の配列同一性を有するヌクレオチド配列を含むか又はからなる、配列番号7又はそれに対して少なくとも75%の配列同一性を有するヌクレオチド配列;あるいは
(b)任意で、前記核酸サイレンシング分子が、配列番号23若しくは配列番号33又はそれらに対して少なくとも75%の配列同一性を有するヌクレオチド配列を含むか又はからなる、配列番号8又はそれに対して少なくとも75%の配列同一性を有するヌクレオチド配列;あるいは
(c)任意で、前記核酸サイレンシング分子が、配列番号38若しくは配列番号41又はそれらに対して少なくとも75%の配列同一性を有するヌクレオチド配列を含むか又はからなる、配列番号35又はそれに対して少なくとも75%の配列同一性を有するヌクレオチド;
(d)任意で、前記核酸サイレンシング分子が、配列番号19、配列番号27、若しくは配列番号28又はそれらに対して少なくとも75%の配列同一性を有するヌクレオチド配列を含むか又はからなる、配列番号4又はそれに対して少なくとも75%の配列同一性を有するヌクレオチド配列;あるいは
(e)任意で、前記核酸サイレンシング分子が、配列番号21、配列番号30、若しくは配列番号31又はそれらに対して少なくとも75%の配列同一性を有するヌクレオチド配列を含むか又はからなる、配列番号6又はそれに対して少なくとも75%の配列同一性を有するヌクレオチド配列;あるいは
(f)任意で、前記核酸サイレンシング分子が、配列番号37若しくは配列番号41又はそれらに対して少なくとも75%の配列同一性を有するヌクレオチド配列を含むか又はからなる、配列番号34又はそれに対して少なくとも75%の配列同一性を有するヌクレオチド配列;あるいは
(g)任意で、前記核酸サイレンシング分子が、配列番号39若しくは配列番号42又はそれらに対して少なくとも75%の配列同一性を有するヌクレオチド配列を含むか又はからなる、配列番号36又はそれに対して少なくとも75%の配列同一性を有するヌクレオチド配列;
(h)任意で、前記核酸サイレンシング分子が、配列番号16若しくは配列番号24又はそれらに対して少なくとも75%の配列同一性を有するヌクレオチド配列を含むか又はからなる、配列番号1又はそれに対して少なくとも75%の配列同一性を有するヌクレオチド配列;あるいは
(i)任意で、前記核酸サイレンシング分子が、配列番号17若しくは配列番号25又はそれらに対して少なくとも75%の配列同一性を有するヌクレオチド配列を含むか又はからなる、配列番号2又はそれに対して少なくとも75%の配列同一性を有するヌクレオチド配列;あるいは
(j)任意で、前記核酸サイレンシング分子が、配列番号18若しくは配列番号26又はそれらに対して少なくとも75%の配列同一性を有するヌクレオチド配列を含むか又はからなる、配列番号3又はそれに対して少なくとも75%の配列同一性を有するヌクレオチド配列;あるいは
(k)任意で、前記核酸サイレンシング分子が、配列番号20若しくは配列番号29又はそれらに対して少なくとも75%の配列同一性を有するヌクレオチド配列を含むか又はからなる、配列番号5又はそれに対して少なくとも75%の配列同一性を有するヌクレオチド配列;
を含むか又はからなる、請求項1、3~9、及び11~22のいずれか一項に記載の方法;請求項2~9及び11~22のいずれか一項に記載の使用のための組成物;又は請求項11~17及び19~22のいずれか一項に記載の核酸サイレンシング分子。
【請求項24】
前記核酸サイレンシング分子が、1つ以上の非核酸部分にコンジュゲートされている、請求項1、3~9、及び11~23のいずれか一項に記載の方法;請求項2~9及び11~23のいずれか一項に記載の使用のための組成物;又は請求項11~17及び19~23のいずれか一項に記載の核酸サイレンシング分子。
【請求項25】
請求項11~16及び18~24のいずれか一項に記載の核酸サイレンシング分子と細胞を接触させることを含む、細胞におけるAASSの発現を低下させるためのインビトロ法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、対象におけるリジン分解のサッカロピン経路の障害を治療する方法、及び該方法において使用するための組成物に関する。本開示はまた、リジン分解のサッカロピン経路に関与する酵素の発現を低下させる核酸サイレンシング分子に関する。
【背景技術】
【0002】
幾つかの遺伝性代謝障害は、リジン分解のサッカロピン経路に影響を及ぼす。これら障害は、個体がこの経路に関与する酵素をコードしている遺伝子のうちの1つに変異を有する場合に生じる。変異の結果経路がブロックされ、影響を受けた酵素によって触媒される工程の上流に代謝物が蓄積する。多くの場合、その代謝物は、神経毒性があると考えられる。
【0003】
より詳細には、ALDH7A1(アルデヒド脱水素酵素7ファミリーメンバーA1)における変異は、ピリドキシン依存性てんかんを引き起こし得る。このピリドキシン依存性てんかんの発症率は64,000人に1人であり、ビタミンB6の欠乏によって引き起こされる難治性の新生児発作を特徴とする。現在の治療には、ピリドキシン(ビタミンB6の一形態)の投与、リジンの食事制限、及び/又はアルギニンの補給がある。ピリドキシンの投与は発作を制御することができるが、末梢神経障害を引き起こす可能性もある。更に、食事制限は、患者及びその家族にとって負担となり、必須アミノ酸であるリジンの欠乏につながる可能性がある。更に、患者の75%に発達遅延がみられるが、これはALDH7A1の基質であるAASA及び他の代謝物の蓄積によって引き起こされると考えられる。現在の治療では、このような発達遅延を改善することはできない。
【0004】
DHTKD1(デヒドロゲナーゼE1及びトランスケトラーゼドメイン含有1)における変異は、2-アミノアジピン酸2-ケトアジピン酸尿症(2-アミノアジピン酸及び2-ケトアジピン酸尿症、2-アミノアジピン酸2-オキソアジピン酸尿症、又は2-アミノアジピン酸及び2-オキソアジピン酸尿症としても知られている)を引き起こし得る。2-アミノアジピン酸2-ケトアジピン酸尿症は、発症率が64,000人に1人である常染色体劣性障害である。症状は、発作、免疫不全、発達遅延、軽度から重度の知的障害、運動失調、てんかん、及び行動障害を含み得るが、現在利用可能な治療ではうまく対処できない。DHTKD1における変異は、シャルコー・マリー・ツース病2Q型を引き起こす場合もある。シャルコー・マリー・ツース病2Q型は、常染色体優性ナンセンス変異に起因する希少疾患である。患者は、通常、末梢神経障害を含む症状が発現した時点で13歳~25歳である。現在利用可能なのは支持療法だけである。DHTKD1における変異は好酸球性食道炎と関連することも示されている。
【0005】
グルタリルCoAデヒドロゲナーゼにおける変異は、グルタル酸尿症I型を引き起こし得る。グルタル酸尿症I型の発症率は、世界的には小児10万人に1人であり、アーミッシュ派のコミュニティー及びカナダのオジブウェー族では、最大新生児300人に1人が罹患する。グルタル酸尿症I型は、未治療のまま放置すると、不可逆的な線条体損傷及び運動障害を引き起こされ、罹患者の多くは成人するまで生存できない。現在の治療は、リジン及びトリプトファンの制限食、並びにアルギニン、カルニチン、及びリボフラビンの補給を含む。しかし、早期に治療を実行したとしても、罹患者は、腎臓疾患を発症する及び/又は白質変化を経験する場合がある。
【0006】
従って、リジン分解のサッカロピン経路の障害に対する改善された治療が必要とされている。
【発明の概要】
【0007】
本発明者らは、核酸サイレンシング分子を用いてα-アミノアジピン酸セミアルデヒド合成酵素(AASS)の遺伝子発現を低下させることが可能であることを実証した。AASSはリジン分解のサッカロピン経路における最初の酵素であるため、AASSの発現を低下させることで、この経路に影響を及ぼす代謝障害から生じる毒性代謝物の蓄積を減少させることができる。このようにして、障害の症状を緩和することができる。
【0008】
リジン分解のサッカロピン経路の障害を治療するためにAASSの発現を低下させる核酸サイレンシング分子を使用することは、幾つかの利点に関連する。第一に、AASSは経路の最初の酵素であり(
図1参照)、AASSの発現を低下させることによって下流の全ての障害を治療することができる。例えば、AASSの発現を低下させる核酸サイレンシング分子は、ピリドキシン依存性てんかん等のALDH7A1における1つ以上の変異に起因する障害を治療するために使用することができる。AASSの発現を低下させる核酸サイレンシング分子は、2-アミノアジピン2-ケトアジピン酸尿症又はシャルコー・マリー・ツース病2Q型等のDHTKD1における1つ以上の変異に起因する障害を治療するために使用することもできる。AASSの発現を低下させる核酸サイレンシング分子は、グルタル酸尿症I型等のグルタリル-CoAデヒドロゲナーゼにおける1つ以上の変異に起因する障害を治療するために使用することもできる。
【0009】
第二に、リジン分解のサッカロピン経路の障害は、通常、リジン制限食で治療される。このような食事は、患者及びその家族に負担をかける場合があり、社会的及び文化的な伝統と相容れない場合もある。また、必須アミノ酸であるリジンの欠乏につながる恐れもある。従って、リジン制限食は、通常、専門栄養士が頻繁にモニタリングすることを必要とする。AASSの発現を低下させる核酸サイレンシング分子を用いて毒性代謝物の蓄積を減少させることにより、食事制限をすることなく、リジン分解のサッカロピン経路の障害を治療することができる。これにより、患者及びその家族の負担を最小限に抑え、確実にリジンをタンパク質合成に容易に利用できるようになる。
【0010】
第三に、AASSの発現低下に関連する副作用は軽度である可能性が高い。AASSにおける変異により生じ、高リジン血症(血漿リジン濃度が600μmol/L超に上昇することを特徴とする)を引き起こす障害も知られているが、これは良性障害であるというのが一般的な共通認識である。報告されている発端者の約50%は無症状であり、偶発的に検出されたものである。神経学的表現型を有する個体も幾つか報告されているが、一貫した画像がないことから、高リジン血症は臨床的表現型とは無関係な逸話的生化学的所見であることが示唆されている。このことは、明らかな臨床的帰結がないことが報告されたAASSのノックインマウスモデルから得られた最近のデータによって更に裏付けられている。
【0011】
まとめると、AASSの発現を低下させる核酸サイレンシング分子の使用により、リジン分解のサッカロピン経路の障害から生じる毒性代謝物の蓄積を予防することができる。従って、疾患の臨床徴候が緩和される。一般に副作用は最小限であり、患者は通常の食事をとることができる。
【0012】
従って、本開示は、対象におけるリジン分解のサッカロピン経路の障害を治療する方法であって、α-アミノアジピン酸セミアルデヒド合成酵素(AASS)の発現を低下させる核酸サイレンシング分子を含む組成物を該対象に投与することを含む方法を提供する。本開示はまた、
- 対象におけるリジン分解のサッカロピン経路の障害を治療する方法において使用するための組成物であって、該組成物が、α-アミノアジピン酸セミアルデヒド合成酵素(AASS)の発現を低下させる核酸サイレンシング分子を含み、該方法が、該核酸サイレンシング分子を該対象に投与することを含む組成物;
- α-アミノアジピン酸セミアルデヒド合成酵素(AASS)の発現を低下させる核酸サイレンシング分子;及び
- 細胞におけるAASSの発現を低下させるためのインビトロ方法であって、該細胞を本開示の核酸サイレンシング分子と接触させることを含む方法
を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】リジン分解のためのサッカロピン経路。AASS:α-アミノアジピン酸セミアルデヒド合成酵素、AASA:α-アミノアジピン酸セミアルデヒド、AAA:α-アミノアジピン酸、KAA:α-ケトアジピン酸。
【
図2】a、b)ピリドキシン依存性てんかんの根底にある機序。ALDH7A1における変異の結果、毒性代謝物が蓄積するが、そのうちの1つ(P6C)は、70種を超える酵素の補酵素として作用することができるビタミンB6の唯一の形態であるピリドキサール5’-リン酸(PLP)と相互作用する。c)ピリドキシン依存性てんかんの治療法の時間軸。2006年にALDH7A1欠損症の遺伝的な根拠が同定され、発作を制御するためにビタミンB
6が投与された。トリプル療法=リジンの制限と並行してビタミンB
6及びアルギニンを補給する。
【
図3】a)α-アミノアジピン酸及びα-ケトアジピン酸尿症とシャルコー・マリー・ツース病2Q型との根底にある機序。DHTKD1における変異の結果、毒性代謝物が蓄積する。b)グルタル酸尿症1型の根底にある機序。グルタリル-CoAデヒドロゲナーゼにおける変異の結果、グルタル酸(GA)、3-OHGA、及びグルタリルカルニチン等の毒性代謝物が蓄積する。
【
図4】ALDH7A1欠損線維芽細胞におけるAASSのmRNA発現に対するアンチセンスオリゴヌクレオチド処理の効果。A)LNA修飾アンチセンスオリゴヌクレオチドはAASSを抑制し(p<0.05)、AON4及びAON6が最も劇的な効果を有していた(p=0.0001)。(b)MOE修飾AON4及びAON6はAASSを有意に減少させた(p=0.0001)。
【
図5】質量分析を用いて線維芽細胞内のAASAを測定することによるALDH7A1欠損症の機能アッセイ。
【
図6】a)患者1(P1)及びb)患者3(P3)の線維芽細胞におけるAASAレベルは、MOEケミストリーにおけるAON4処理によって有意に低下した(それぞれp=0.0082及びp=0.0008)。同様に、MOEケミストリーにおけるAON6もP3のAASAレベルを低下させた(p=0.0007)。
【
図7】ALDH7A1欠損患者の線維芽細胞におけるAASS mRNA発現に対するAON MOE4、6、7、8、及び9の効果。定量PCR(q RT-PCR)を用いて解析を行った。100nMの濃度のAONを使用した。
【
図8】GCDH欠損患者の線維芽細胞におけるAASS mRNA発現に対するAON MOE4、6、7、8、及び9の効果。定量PCR(q-RT-PCR)を用いて解析を行った。100nMの濃度のAONを使用した。平均AASS発現阻害率%を各バーの上に記載する。統計的有意性は、GraphPad Prismを用いて計算した。
【
図9】3T3 J2マウス線維芽細胞におけるAass mRNA発現に対するAON MOE6、MOE6マウス、及びMOE8の初期スクリーニング。100nMの濃度のAONを使用した。定量PCR(qRT-PCR)解析を用いて、Aass mRNAの発現レベルを評価した。
【
図10】質量分析ベースのアッセイを用いたグルタリルカルニチン(C5DC)の測定。親水性相互作用液体クロマトグラフィー(HILIC)法を用いて50μM濃度でC5DCを測定した。使用したMRMトランジション:276.2>84.9。
【
図11】標準的なトランスフェクション法を用いてAON MOE6~9を細胞にトランスフェクションした後のHepG2細胞におけるAASSの発現レベル。100nMの濃度のAONを使用した。定量PCR(q-RT-PCR)解析を用いて、AASS mRNAの発現レベルを評価した。
【
図12】逆トランスフェクション法を用いてAONを細胞に導入したときのHepG2細胞におけるAASS発現に対するAON MOE4、6、及び8の効果。100nMの濃度のAONを使用した。定量PCR(q-RT-PCR)解析を用いて、AASS mRNA発現レベルを評価した。n=3。
【
図13】逆トランスフェクション法を用いてAONを細胞に導入したときのHepG2細胞におけるAASS発現に対する様々な濃度(10nM、50nM、100nM)のAON MOE4、6、及び8の効果。定量PCR(q-RT-PCR)解析を用いて、AASS mRNA発現レベルを評価した。
【
図14】HepG2細胞におけるMOE4、6、及び8の最大半量阻害濃度(IC50)の評価。MOE4、6、及び8のIC50はそれぞれ1.42nM、4.308nM、及び8.86nMであると同定された。
図13で作成した用量応答データに基づいて、IC50を計算するためのGraphPad Prismソフトウェアを用いてグラフを作成した。
【発明を実施するための形態】
【0014】
配列表の簡単な説明
配列番号1-本発明の核酸サイレンシング分子。各Nは、独立して、T及びUから選択され得る。
配列番号2-本発明の核酸サイレンシング分子。各Nは、独立して、T及びUから選択され得る。
配列番号3-本発明の核酸サイレンシング分子。各Nは、独立して、T及びUから選択され得る。
配列番号4-本発明の核酸サイレンシング分子。各Nは、独立して、T及びUから選択され得る。
配列番号5-本発明の核酸サイレンシング分子。各Nは、独立して、T及びUから選択され得る。
配列番号6-本発明の核酸サイレンシング分子。各Nは、独立して、T及びUから選択され得る。
配列番号7-本発明の核酸サイレンシング分子。配列番号7は、配列番号4の拡張(20mer)バージョンである。各Nは、独立して、T及びUから選択され得る。
配列番号8-本発明の核酸サイレンシング分子。配列番号8は、配列番号6の拡張(20mer)バージョンである。各Nは、独立して、T及びUから選択され得る。
配列番号9-AASS遺伝子の核酸配列。
配列番号10-AASS遺伝子によってコードされているmRNAの核酸配列。
配列番号11-AASSタンパク質のアミノ酸配列。
配列番号12-実施例で使用したAASSフォワードプライマー。
配列番号13-実施例で使用したAASSリバースプライマー。
配列番号14-実施例で使用したGAPDHフォワードプライマー。
配列番号15-実施例で使用したGAPDHリバースプライマー。
配列番号16-AON1の核酸配列、配列番号1に係る核酸サイレンシング分子配列。
配列番号17-AON2の核酸配列、配列番号2に係る核酸サイレンシング分子配列。
配列番号18-AON3の核酸配列、配列番号3に係る核酸サイレンシング分子配列。
配列番号19-AON4の核酸配列、配列番号4に係る核酸サイレンシング分子配列。
配列番号20-AON5の核酸配列、配列番号5に係る核酸サイレンシング分子配列。
配列番号21-AON6の核酸配列、配列番号6に係る核酸サイレンシング分子配列。
配列番号22-AON7の核酸配列、配列番号7に係る核酸サイレンシング分子配列。AON7は、AON4の拡張(20mer)バージョンである。
配列番号23-AON8の核酸配列、配列番号8に係る核酸サイレンシング分子配列。AON8は、AON6の拡張(20mer)バージョンである。
配列番号24-LNA修飾AON1の核酸配列。
配列番号25-LNA修飾AON2の核酸配列。
配列番号26-LNA修飾AON3の核酸配列。
配列番号27-LNA修飾AON4の核酸配列。
配列番号28-MOE修飾AON4の核酸配列。
配列番号29-LNA修飾AON5の核酸配列。
配列番号30-LNA修飾AON6の核酸配列。
配列番号31-MOE修飾AON6の核酸配列。
配列番号32-MOE修飾AON7の核酸配列。
配列番号33-MOE修飾AON8の核酸配列。
配列番号34-本発明の核酸サイレンシング分子。各Nは、独立して、T及びUから選択され得る。
配列番号35-本発明の核酸サイレンシング分子。各Nは、独立して、T及びUから選択され得る。
配列番号36-本発明の核酸サイレンシング分子。各Nは、独立して、T及びUから選択され得る。
配列番号37-MOE7の核酸配列、配列番号34に係る核酸サイレンシング分子配列。
配列番号38-MOE8の核酸配列、配列番号35に係る核酸サイレンシング分子配列。
配列番号39-MOE9の核酸配列、配列番号36に係る核酸サイレンシング分子配列。
配列番号40-MOE修飾MOE7の核酸配列。
配列番号41-MOE修飾MOE8の核酸配列。
配列番号42-MOE修飾MOE9の核酸配列。
配列番号43-実施例で使用したAassマウスフォワードプライマー。
配列番号44-実施例で使用したAassマウスリバースプライマー。
配列番号45-実施例で使用したHprt1マウスフォワードプライマー。
配列番号46-実施例で使用したHprt1マウスリバースプライマー。
【0015】
発明の詳細な説明
開示される方法及び生成物の様々な用途は、当技術分野における具体的なニーズに応じて調整できることを理解されたい。また、本明細書で使用される用語は、本開示の特定の実施形態を説明することのみを目的とし、限定を意図するものではないことも理解されたい。
【0016】
上記であろうと下記であろうと、本明細書に引用される全ての刊行物、特許、及び特許出願は、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0017】
一般的定義
特に定義しない限り、本明細書で使用される技術用語及び科学用語は、本開示が属する技術分野の当業者によって一般的に理解されるものと同じ意味を有する。
【0018】
本明細書及び添付の特許請求の範囲で使用するとき、単数形「a」、「an」、及び「the」は、文脈上特に明確に指示しない限り、複数の指示対象を含む。従って、例えば、「細胞(a cell)」への言及は、「複数の細胞(cells)」を含み、「アンチセンスオリゴヌクレオチド(an antisense oligonucleotide)」への言及は、2つ以上のこのようなアンチセンスオリゴヌクレオチドを含む、等である。
【0019】
一般に、「含む」という用語は、含むがそれに限定されないことを意味することを意図する。例えば、「RNAを含む核酸サイレンシング分子」という表現は、核酸サイレンシング分子はRNAを含有するが、核酸サイレンシング分子が更なる核酸を含有していてもよいことを意味すると解釈されるべきである。
【0020】
本開示の幾つかの態様では、「含む」という単語は、「からなる」という表現に置き換えられる。「からなる」という用語は、限定的であることを意図する。例えば、「RNAからなる核酸サイレンシング分子」という表現は、核酸サイレンシング分子がRNAを含有し、更なる核酸を含有しないことを意味すると理解されるべきである。
【0021】
「タンパク質」及び「ポリペプチド」という用語は、本明細書において互換的に用いられ、任意の長さのアミノ酸のポリマー鎖を指すことが意図される。
【0022】
本開示の目的のために、2つの配列(2つのポリヌクレオチド又は2つのポリペプチドの配列等)の同一性パーセントを求めるために、最適な比較目的のために配列をアラインする(例えば、第2の配列と最適にアラインするために第1の配列にギャップを導入してもよい)。次いで、ヌクレオチド位置におけるヌクレオチド残基を比較する。第1の配列におけるある位置が第2の配列の対応する位置と同じヌクレオチド残基で占められている場合、ヌクレオチドはその位置で同一である。2つの配列間の同一性パーセントは、配列によって共有されている同一位置の数の関数である(すなわち、同一性%=同一位置の数/参照配列における位置の総数×100)。
【0023】
通常、配列比較は、参照配列の全長に対して行われる。例えば、所与の(「試験」)配列が配列番号Xに対して特定の同一性%を有するかどうかをユーザが判定したい場合、配列番号Xが参照配列となる。例えば、配列が配列番号X(参照配列の一例)に対して少なくとも80%同一であるかどうかを評価するために、当業者は配列番号Xの全長に対してアライメントを実施し、試験配列中の何箇所が配列番号Xと同一であるかを特定する。位置の少なくとも80%が同一である場合、試験配列は配列番号Xに対して少なくとも80%同一である。配列が配列番号Xよりも短い場合、ギャップ又は欠損している位置は非同一位置であるとみなすべきである。
【0024】
当業者は、2つの配列間の相同性又は同一性を求めるために利用可能な様々なコンピュータプログラムを認識している。例えば、配列の比較及び2つの配列間の同一性パーセントの決定は、数学的アルゴリズムを用いて行うことができる。
【0025】
核酸サイレンシング分子
α-アミノアジピン酸セミアルデヒド合成酵素(AASS)の発現を低下させる核酸サイレンシング分子が本明細書に開示される。
【0026】
このようなサイレンシング分子は、AASSの発現を低下させるために治療的に用いることができる。AASSの発現を低下させることにより、リジン分解のサッカロピン経路をその初期工程においてブロック又は阻害することができるが、その理由は、AASSが該経路における最初の酵素であるためである。このように経路の先頭をブロック又は阻害することにより、下流の代謝物の形成を防止又は低減することができる。従って、神経毒性代謝物等の毒性代謝物の蓄積を防止又は低減することができる。毒性代謝物の蓄積を予防又は低減することにより、リジン分解のサッカロピン経路の障害を治療することができる。例えば、そのような障害の臨床徴候又は症状を軽減又は消失させることができる。臨床徴候又は症状の進行を止めることもできる。本明細書に開示される核酸サイレンシング分子を用いたリジン分解のサッカロピン経路の障害の治療は、上記のような食事性リジン制限等の他の治療法を超える利点を有し得る。
【0027】
本明細書に開示される核酸サイレンシング分子の他の使用も想定され得る。例えば、核酸サイレンシング分子を用いてインビボ又はインビトロでAASSの発現を実験的に低下させることができる。言い換えれば、例えばリジン分解のサッカロピン経路について調べるための研究ツールとして核酸サイレンシング分子を使用することができる。
【0028】
AASSの発現低下
本明細書に開示される核酸サイレンシング分子は、α-アミノアジピン酸セミアルデヒド合成酵素(AASS)の発現を低下させる。核酸サイレンシング分子は、例えば、AASS mRNAの発現を低下させることができる。核酸サイレンシング分子は、例えば、AASSタンパク質の発現を低下させることができる。核酸サイレンシング分子は、例えば、AASS mRNA及びAASSタンパク質の発現を低下させることができる。
【0029】
核酸サイレンシング分子は、例えば、細胞内のAASSの発現を低下させることができる。細胞は、例えば、ヒト又はヒト細胞株由来であってよい。細胞は、例えば、インビボ、エクスビボ、又はインビトロであってよい。細胞は、核酸サイレンシング分子と接触させた細胞であってよい。細胞におけるAASSの発現低下は、例えば、細胞内に含まれるAASS mRNA及び/又はAASSタンパク質の量の減少を指し得る。従って、AASSの発現が低下した細胞は、例えば、減少した量のAASS mRNAを含み得る。AASSの発現が低下した細胞は、例えば、減少した量のAASSタンパク質を含み得る。AASSの発現が低下した細胞は、例えば、減少した量のAASS mRNA及び減少した量のAASSタンパク質を含み得る。
【0030】
核酸サイレンシング分子は、例えば、核酸サイレンシング分子と接触させていない細胞と比べて、核酸サイレンシング分子と接触させた細胞内のAASSの発現を低下させることができる。核酸サイレンシング分子と接触させた細胞は、例えば、ヒト又はヒト細胞株由来であってよい。核酸サイレンシング分子と接触させた細胞は、例えば、インビボ、エクスビボ、又はインビトロであってよい。核酸サイレンシング分子と接触させていない細胞は、例えば、ヒト又はヒト細胞株由来であってよい。核酸サイレンシング分子と接触させていない細胞は、例えば、インビボ、エクスビボ、又はインビトロであってよい。好ましくは、核酸サイレンシング分子と接触させた細胞及び核酸サイレンシング分子と接触させていない細胞は、同じ種類の細胞(例えば、ヒト細胞又はヒト細胞株由来の細胞)である。好ましくは、核酸サイレンシング分子と接触させた細胞及び核酸サイレンシング分子と接触させていない細胞は、同じ条件下(例えば、インビボ、エクスビボ、又はインビトロ)にある。核酸サイレンシング分子と接触させていない細胞は、代わりに、モック核酸サイレンシング分子等の対照分子と接触させてもよい。モック核酸サイレンシング分子(モックアンチセンスオリゴヌクレオチド等)並びにそれを設計及び作製する方法は、当技術分野において周知である。核酸サイレンシング分子と接触させた細胞内のAASSの発現の低下は、例えば、核酸サイレンシング分子と接触させていない細胞と比べて細胞内に含まれるAASS mRNA及び/又はAASSタンパク質の量が減少することを指し得る。従って、核酸サイレンシング分子と接触させ、AASSの発現が低下した細胞は、核酸サイレンシング分子と接触していない細胞と比べて、減少した量のAASS mRNAを含み得る。核酸サイレンシング分子と接触させ、AASSの発現が低下した細胞は、核酸サイレンシング分子と接触していない細胞と比べて、減少した量のAASSタンパク質を含み得る。核酸サイレンシング分子と接触させ、AASSの発現が低下した細胞は、核酸サイレンシング分子と接触していない細胞と比べて、減少した量のAASS mRNA量及び減少した量のAASSタンパク質を含み得る。
【0031】
上記の態様のいずれかでは、核酸サイレンシング分子は、AASSの発現を少なくとも30%低下させることができる。言い換えれば、核酸サイレンシング分子は、AASS mRNAの量及び/又はAASSタンパク質の量を少なくとも30%減少させることができる。核酸サイレンシング分子は、例えば、AASSの発現を少なくとも30%、少なくとも35%、少なくとも40%、少なくとも45%、少なくとも50%、少なくとも55%、少なくとも60%、少なくとも65%、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%、少なくとも99%低下させることができる。言い換えれば、核酸サイレンシング分子は、例えば、AASS mRNAの量及び/又はAASSタンパク質の量を、少なくとも30%、少なくとも35%、少なくとも40%、少なくとも45%、少なくとも50%、少なくとも55%、少なくとも60%、少なくとも65%、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%、少なくとも99%減少させることができる。核酸サイレンシング分子は、例えば、AASSの発現を30%~99%、例えば35%~95%、40%~90%、45%~85%、50%~80%、55%~75%、又は60%~70%低下させることができる。すなわち、核酸サイレンシング分子は、例えば、AASS mRNAの量及び/又はAASSタンパク質の量を30%~99%、例えば35%~95%、40%~90%、45%~85%、50%~80%、55%~75%、又は60%~70%減少させることができる。
【0032】
好ましくは、核酸サイレンシング分子は、細胞内のAASSの発現を少なくとも30%低下させる。言い換えれば、核酸サイレンシング分子は、細胞内のAASS mRNAの量及び/又はAASSタンパク質の量を少なくとも30%減少させることができる。AASS発現を評価するための細胞の種類及び条件は上記の通りである。核酸サイレンシング分子は、例えば、細胞内のAASSの発現を少なくとも30%、少なくとも35%、少なくとも40%、少なくとも45%、少なくとも50%、少なくとも55%、少なくとも60%、少なくとも65%、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%、少なくとも99%低下させることができる。言い換えれば、核酸サイレンシング分子は、例えば、細胞内のAASS mRNAの量及び/又はAASSタンパク質の量を、少なくとも30%、少なくとも35%、少なくとも40%、少なくとも45%、少なくとも50%、少なくとも55%、少なくとも60%、少なくとも65%、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%、少なくとも99%減少させることができる。核酸サイレンシング分子は、例えば、細胞内のAASSの発現を30%~99%、例えば35%~95%、40%~90%、45%~85%、50%~80%、55%~75%、又は60%~70%低下させることができる。すなわち、核酸サイレンシング分子は、例えば、細胞内のAASS mRNAの量及び/又はAASSタンパク質の量を30%~99%、例えば35%~95%、40%~90%、45%~85%、50%~80%、55%~75%、又は60%~70%減少させることができる。
【0033】
より好ましくは、核酸サイレンシング分子は、核酸サイレンシング分子と接触させていない細胞と比べて、核酸サイレンシング分子と接触させた細胞におけるAASSの発現を少なくとも30%低下させる。言い換えれば、核酸サイレンシング分子は、核酸サイレンシング分子と接触させていない細胞と比べて、核酸サイレンシング分子と接触させた細胞内のAASS mRNAの量及び/又はAASSタンパク質の量を少なくとも30%減少させることができる。AASS発現を評価するための細胞の種類及び条件は上記の通りである。核酸サイレンシング分子は、例えば、核酸サイレンシング分子と接触させていない細胞と比べて、核酸サイレンシング分子と接触させた細胞内のAASSの発現を少なくとも少なくとも30%、少なくとも35%、少なくとも40%、45%、少なくとも50%、少なくとも55%、少なくとも60%、少なくとも65%、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%、少なくとも99%低下させることができる。言い換えれば、核酸サイレンシング分子は、例えば、核酸サイレンシング分子と接触させていない細胞と比べて、核酸サイレンシング分子と接触させた細胞内のAASS mRNAの量及び/又はAASSタンパク質の量を少なくとも30%、少なくとも35%、少なくとも40%、少なくとも45%、少なくとも50%、少なくとも55%、少なくとも60%、少なくとも65%、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%、少なくとも99%減少させることができる。核酸サイレンシング分子は、例えば、核酸サイレンシング分子と接触させていない細胞と比べて、核酸サイレンシング分子と接触させた細胞内のAASSの発現を30%~99%、例えば35%~95%、40%~90%、45%~85%、50%~80%、55%~75%、又は60%~70%低下させることができる。すなわち、核酸サイレンシング分子は、例えば、核酸サイレンシング分子と接触させていない細胞と比べて、核酸サイレンシング分子と接触させた細胞内のAASS mRNAの量及び/又はAASSタンパク質の量を30%~99%、例えば35%~95%、40%~90%、45%~85%、50%~80%、55%~75%、又は60%~70%減少させることができる。
【0034】
上記の態様のいずれかでは、核酸サイレンシング分子は、AASSの発現を100%低下させることができる。言い換えれば、核酸サイレンシング分子は、AASSの発現を完全に排除することができる。核酸サイレンシング分子は、例えば、AASS mRNAの発現を完全に排除する(すなわち、AASS mRNAの発現を100%低下させる)ことができる。核酸サイレンシング分子は、例えば、AASSタンパク質の発現を完全に排除する(すなわち、AASSタンパク質の発現を100%低下させる)ことができる。核酸サイレンシング分子は、例えば、AASS mRNA及びAASSタンパク質の発現を完全に排除する(すなわち、AASS mRNA及びAASSタンパク質の発現を100%低下させる)ことができる。
【0035】
核酸サイレンシング分子は、例えば、細胞内のAASSの発現を完全に排除することができる。従って、細胞は、AASS mRNA及び/又はAASSタンパク質を発現することができない。細胞は、例えば、ヒト又はヒト細胞株由来であってよい。細胞は、例えば、インビボ、エクスビボ、又はインビトロであってよい。細胞は、核酸サイレンシング分子と接触させた細胞であってよい。
【0036】
核酸サイレンシング分子は、例えば、核酸サイレンシング分子と接触させていない細胞と比べて、核酸サイレンシング分子と接触させた細胞内のAASSの発現を100%低下させることができる。核酸サイレンシング分子と接触させた細胞は、例えば、ヒト又はヒト細胞株由来であってよい。核酸サイレンシング分子と接触させた細胞は、例えば、インビボ、エクスビボ、又はインビトロであってよい。核酸サイレンシング分子と接触させていない細胞は、例えば、ヒト又はヒト細胞株由来であってよい。核酸サイレンシング分子と接触させていない細胞は、例えば、インビボ、エクスビボ、又はインビトロであってよい。好ましくは、核酸サイレンシング分子と接触させた細胞及び核酸サイレンシング分子と接触させていない細胞は、同じ種類の細胞(例えば、ヒト細胞又はヒト細胞株由来の細胞)である。好ましくは、核酸サイレンシング分子と接触させた細胞及び核酸サイレンシング分子と接触させていない細胞は、同じ条件下(例えば、インビボ、エクスビボ、又はインビトロ)にある。核酸サイレンシング分子と接触させていない細胞は、代わりに、モック核酸サイレンシング分子等の対照分子と接触させてもよい。上記の通り、モック核酸サイレンシング分子(モックアンチセンスオリゴヌクレオチド等)並びにそれを設計及び作製する方法は、当技術分野において周知である。
【0037】
核酸サイレンシング分子
本開示の文脈において、サイレンシング分子は、標的遺伝子の発現を低下させるか又は排除する(すなわち、ノックダウンする)分子として定義することができる。サイレンシング分子は、例えば、標的遺伝子のmRNA産物の量を減少させることができる。サイレンシング分子は、例えば、標的遺伝子のmRNA産物を排除することができる。サイレンシング分子は、例えば、標的遺伝子のタンパク質産物の量を減少させることができる。サイレンシング分子は、例えば、標的遺伝子のタンパク質産物を排除することができる。本開示では、標的遺伝子はAASSである。
【0038】
本開示の文脈において、核酸サイレンシング分子は、1つ以上の核酸を含むか又はからなるサイレンシング分子として定義することができる。本開示の核酸サイレンシング分子は、RNAを含み得る。本開示の核酸サイレンシング分子は、DNAを含み得る。本開示の核酸サイレンシング分子は、DNA及びRNAを含み得る。本開示の核酸サイレンシング分子は、RNAからなり得る。本開示の核酸サイレンシング分子は、DNAからなり得る。本開示の核酸サイレンシング分子は、DNA及びRNAからなり得る。
【0039】
核酸サイレンシング分子は、当技術分野で公知の任意の機序により、AASSの発現を低下させるか又は排除する(すなわちノックダウン)ことができる。核酸サイレンシング分子は、例えば、AASS遺伝子によってコードされているmRNA分子に結合して、そのタンパク質への翻訳をブロックすることができる。核酸サイレンシング分子は、例えば、AASS遺伝子によってコードされているmRNA分子に結合して、mRNAの分解(酵素分解等)を誘導することができる。核酸サイレンシング分子は、例えば、AASS遺伝子をコードしているDNAに結合して、DNA及び/又はその関連ヒストンのメチル化を誘導することができる。核酸サイレンシング分子は、例えば、AASSをコードしているDNAに結合して、遺伝子編集によるAASS遺伝子の全部又は一部の除去を促進することができる。
【0040】
例えば、核酸サイレンシング分子は、アンチセンスオリゴヌクレオチド(AON)を含み得るか又はからなり得る。核酸サイレンシング分子は、低分子干渉RNA(siRNA)を含み得るか又はからなり得る。核酸サイレンシング分子は、ショートヘアピンRNA(shRNA)を含み得るか又はからなり得る。核酸サイレンシング分子は、マイクロRNA(miRNA)を含み得るか又はからなり得る。核酸サイレンシング分子は、CRISPRガイドRNAを含み得るか又はからなり得る。好ましくは、核酸サイレンシング分子は、アンチセンスオリゴヌクレオチド(AON)又は低分子干渉RNA(siRNA)を含み得るか又はからなり得る。
【0041】
核酸サイレンシング分子は、約10~約15000ヌクレオチド長であってよく、例えば、約100~約14000ヌクレオチド長、約200~約13000ヌクレオチド長、約300~約12000ヌクレオチド長、約400~約11000ヌクレオチド長、約400~約10000ヌクレオチド長、約500~約9000ヌクレオチド長、約600~約8000ヌクレオチド長、約700~約7000ヌクレオチド長、約800~約6000ヌクレオチド長、約900~約5000ヌクレオチド長、約1000~約4000ヌクレオチド長、又は約2000~約3000ヌクレオチド長であってよい。好ましくは、核酸サイレンシング分子は、100ヌクレオチド長未満(例えば、95ヌクレオチド長未満、90ヌクレオチド長未満、85ヌクレオチド長未満、80ヌクレオチド長未満、75ヌクレオチド長未満、70ヌクレオチド長未満、65ヌクレオチド長未満、60ヌクレオチド長未満、55ヌクレオチド長未満、50ヌクレオチド長未満、45ヌクレオチド長未満、40ヌクレオチド長未満、35ヌクレオチド長未満、30ヌクレオチド長未満、25ヌクレオチド長未満、20ヌクレオチド長未満、15ヌクレオチド長未満、又は10ヌクレオチド長未満)である。核酸サイレンシング分子は、例えば、約10~約50ヌクレオチド長であり得る。例えば、核酸サイレンシング分子は、約10~約40ヌクレオチド長、約10~約30ヌクレオチド長、約10~約20ヌクレオチド長、約20~約50ヌクレオチド長、約20~約40ヌクレオチド長、約20~約30ヌクレオチド長、約30~約50ヌクレオチド長、又は約30~約40ヌクレオチド長であり得る。好ましくは、核酸分子は約10~約30ヌクレオチド長(約10~約20ヌクレオチド長又は約20~約30ヌクレオチド長等)である。核酸サイレンシング分子は、例えば、約10ヌクレオチド長、約11ヌクレオチド長、約12ヌクレオチド長、約13ヌクレオチド長、約14ヌクレオチド長、約14ヌクレオチド長、約16ヌクレオチド長、約17ヌクレオチド長、約18ヌクレオチド長、約19ヌクレオチド長、約20ヌクレオチド長、約21ヌクレオチド長、約22ヌクレオチド長、約23ヌクレオチド長、約24ヌクレオチド長、約25ヌクレオチド長、約26ヌクレオチド長、約27ヌクレオチド長、約28ヌクレオチド長、約29ヌクレオチド長、又は約30ヌクレオチド長であってよい。核酸分子は、好ましくは約16核酸長又は約20核酸長であってよい。アンチセンスオリゴヌクレオチド(AON)、低分子干渉RNA(siRNA)、ショートヘアピンRNA(shRNA)、マイクロRNA(miRNA)、及びCRISPRガイドRNAの典型的な長さは、当技術分野において周知である。
【0042】
核酸サイレンシング分子は、例えば、1つ以上の2’-O-メトキシエチルリボース(MOE)修飾ヌクレオチドを含み得るか、又は2’-O-メトキシエチルリボース(MOE)修飾ヌクレオチドからなり得る。核酸サイレンシング分子は、例えば、1つ以上の2’-O-メチル(2OMe)修飾ヌクレオチドを含み得るか、又は2’-O-メチル(2OMe)修飾ヌクレオチドからなり得る。核酸サイレンシング分子は、例えば、1つ以上のロックド核酸(LNA)修飾ヌクレオチドを含み得るか、又はロックド核酸(LNA)修飾ヌクレオチドからなり得る。核酸サイレンシング分子は、例えば、1つ以上のヌクレオチドホスホロチオエートを含み得るか、又はヌクレオチドホスホロチオエートからなり得る。MOE修飾ヌクレオチド、2OMe修飾ヌクレオチド、LNA修飾ヌクレオチド、及びヌクレオチドホスホロチオエートは、当技術分野において記載されている。
【0043】
核酸サイレンシング分子は、AASS遺伝子又はAASS遺伝子によってコードされているRNAに結合することができる。核酸サイレンシング分子は、AASS遺伝子の一部又はAASS遺伝子によってコードされているRNAの一部に結合することができる。結合は、例えば、ハイブリダイゼーションによって行われる。
【0044】
核酸サイレンシング分子は、AASS遺伝子の核酸配列に対するものであってよい。例えば、核酸サイレンシング分子は、配列番号9のDNAに対するものであってよい。核酸サイレンシング分子は、AASS遺伝子によってコードされているRNAに対するものであってよい。例えば、核酸サイレンシング分子は、AASS遺伝子によってコードされているmRNAに対するものであってよい。核酸サイレンシング分子は、配列番号9のDNAによってコードされているRNAに対するものであってよい。例えば、核酸サイレンシング分子は、配列番号9のDNAによってコードされているmRNAに対するものであってよい。核酸サイレンシング分子は、配列番号10のmRNAに対するものであってよい。核酸サイレンシング分子は、AASSタンパク質をコードしている核酸配列に対するものであってよい。例えば、核酸サイレンシング分子は、配列番号11のAASSタンパク質をコードしている核酸配列に対するものであってよい。核酸サイレンシング分子は、配列番号11に対して少なくとも90%の配列同一性を有するタンパク質をコードしている核酸配列に対するものであってよい。例えば、核酸サイレンシング分子は、配列番号11に対して少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、又は少なくとも99%の配列同一性を有するタンパク質をコードしている核酸配列に対するものであってよい。特定の核酸配列に「対する」核酸サイレンシング分子は、その核酸配列に結合する(例えば、ハイブリダイズする)ことができる。
【0045】
核酸サイレンシング分子は、(a)AASSの一次転写産物に含まれるヌクレオチド配列に対して少なくとも75%の配列同一性を有するヌクレオチド配列、又は(b)(a)のヌクレオチド配列に相補的なヌクレオチド配列を含み得る。核酸サイレンシング分子は、例えば、アンチセンスオリゴヌクレオチド(AON)を含み得るか又はからなり得る。一態様では、核酸サイレンシング分子は、AASSの一次転写産物に含まれるヌクレオチド配列に対して少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%、又は100%の配列同一性を有するヌクレオチド配列を含み得る。一態様では、核酸サイレンシング分子は、AASSの一次転写産物に含まれるヌクレオチド配列に対して80%~100%、85%~99%、90%~98%、又は95%~97%の配列同一性を有するヌクレオチド配列を含み得る。一態様では、核酸サイレンシング分子は、AASSの一次転写産物に含まれるヌクレオチド配列に対して少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%、又は100%の配列同一性を有するヌクレオチド配列に相補的なヌクレオチド配列を含み得る。一態様では、核酸サイレンシング分子は、AASSの一次転写産物に含まれるヌクレオチド配列に対して80%~100%、85%~99%、90%~98%、又は95%~97%の配列同一性を有するヌクレオチド配列に相補的なヌクレオチド配列を含み得る。一次転写産物とは、DNAの転写によって合成される一本鎖リボ核酸RNA産物であり、プロセシングされてmRNA、tRNA、及びrRNA等の様々な成熟RNA産物が生成される。一次転写産物は、例えば、プロセシングされてmRNAを形成する前駆体mRNA(pre-mRNA)であってよい。一次転写産物に含まれるヌクレオチド配列は、(i)エクソンに含まれるヌクレオチド配列、(ii)イントロンに含まれるヌクレオチド配列、(iii)3’非翻訳領域に含まれるヌクレオチド配列、及び(iv)5’非翻訳領域に含まれるヌクレオチド配列のうちの1つ以上を含み得る。一次転写産物に含まれるヌクレオチド配列は、例えば、(i);(ii);(iii);(iv);(i)及び(ii);(i)及び(iii);(i)及び(iv);(ii)及び(iii);(ii)及び(iv);(iii)及び(iv);(i)、(ii)及び(iii);(i)、(ii)及び(iv);(i)、(iii)及び(iv);(ii)、(iii)及び(iv);又は(i)、(ii)、(iii)及び(iv)を含む。
【0046】
核酸サイレンシング分子は、(a)AASSから転写されたmRNAに含まれるヌクレオチド配列に対して少なくとも75%の配列同一性を有するヌクレオチド配列、又は(b)(a)のヌクレオチド配列に相補的なヌクレオチド配列を含み得る。核酸サイレンシング分子は、例えば、アンチセンスオリゴヌクレオチド(AON)を含み得るか又はからなり得る。核酸サイレンシング分子は、例えば、低分子干渉RNA(siRNA)を含み得るか又はからなり得る。一態様では、核酸サイレンシング分子は、AASSから転写されたmRNAに含まれるヌクレオチド配列に対して少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%、又は100%の配列同一性を有するヌクレオチド配列を含み得る。一態様では、核酸サイレンシング分子は、AASSから転写されたmRNAに含まれるヌクレオチド配列に対して80%~100%、85%~99%、90%~98%、又は95%~97%の配列同一性を有するヌクレオチド配列を含み得る。一態様では、核酸サイレンシング分子は、AASSから転写されたmRNAに含まれるヌクレオチド配列に対して少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%、又は100%の配列同一性を有するヌクレオチド配列に相補的なヌクレオチド配列を含み得る。一態様では、核酸サイレンシング分子は、AASSから転写されたmRNAに含まれるヌクレオチド配列に対して80%~100%、85%~99%、90%~98%、又は95%~97%の配列同一性を有するヌクレオチド配列に相補的なヌクレオチド配列を含み得る。
【0047】
核酸サイレンシング分子は、例えば、AASSのエクソン8を標的とすることができる。核酸サイレンシング分子は、例えば、AASSのエクソン9を標的とすることができる。核酸サイレンシング分子は、例えば、AASSのエクソン8及びエクソン9を標的とすることができる。従って、核酸サイレンシング分子は、(a)AASSから転写されたmRNAのエクソン8及び/若しくは9に含まれるヌクレオチド配列に対して少なくとも75%の配列同一性を有するヌクレオチド配列、又は(b)(a)のヌクレオチド配列に相補的なヌクレオチド配列を含み得る。すなわち、核酸サイレンシング分子は、(a)AASSから転写されたmRNAのエクソン8に含まれるヌクレオチド配列に対して少なくとも75%の配列同一性を有するヌクレオチド配列、又は(b)(a)のヌクレオチド配列に相補的なヌクレオチド配列を含み得る。核酸サイレンシング分子は、(a)AASSから転写されたmRNAのエクソン9に含まれるヌクレオチド配列に対して少なくとも75%の配列同一性を有するヌクレオチド配列、又は(b)(a)のヌクレオチド配列に相補的なヌクレオチド配列を含み得る。核酸サイレンシング分子は、(a)AASSから転写されたmRNAのエクソン8及び9に含まれるヌクレオチド配列に対して少なくとも75%の配列同一性を有するヌクレオチド配列、又は(b)(a)のヌクレオチド配列に相補的なヌクレオチド配列を含み得る。核酸サイレンシング分子は、例えば、アンチセンスオリゴヌクレオチド(AON)を含み得るか又はからなり得る。核酸サイレンシング分子は、例えば、低分子干渉RNA(siRNA)を含み得るか又はからなり得る。一態様では、核酸サイレンシング分子は、AASSから転写されたmRNAのエクソン8及び/又はエクソン9に含まれるヌクレオチド配列に対して少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%、又は100%の配列同一性を有するヌクレオチド配列を含み得る。一態様では、核酸サイレンシング分子は、AASSから転写されたmRNAのエクソン8及び/又はエクソン9に含まれるヌクレオチド配列に対して80%~100%、85%~99%、90%~98%、又は95%~97%の配列同一性を有するヌクレオチド配列を含み得る。一態様では、核酸サイレンシング分子は、AASSから転写されたmRNAのエクソン8及び/又はエクソン9に含まれるヌクレオチド配列に対して少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%、又は100%の配列同一性を有するヌクレオチド配列に相補的なヌクレオチド配列を含み得る。一態様では、核酸サイレンシング分子は、AASSから転写されたmRNAのエクソン8及び/又はエクソン9に含まれるヌクレオチド配列に対して80%~100%、85%~99%、90%~98%、又は95%~97%の配列同一性を有するヌクレオチド配列に相補的なヌクレオチド配列を含み得る。
【0048】
核酸サイレンシング分子は、例えば、配列番号1、配列番号2、配列番号3、配列番号4、配列番号5、配列番号6、配列番号7、配列番号8、配列番号34、配列番号35、又は配列番号36を含み得るか又はからなり得る。核酸サイレンシング分子は、例えば、配列番号1、2、3、4、5、6、7、8、34、35、又は36に対して少なくとも75%の配列同一性を有するヌクレオチド配列を含み得るか又はからなり得る。例えば、核酸サイレンシング分子は、配列番号1、2、3、4、5、6、7、8、34、35、又は36に対して少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、又は少なくとも99%の配列同一性を有するヌクレオチド配列を含み得るか又はからなり得る。好ましくは、核酸サイレンシング分子は、(a)配列番号4、若しくは配列番号4に対して少なくとも75%の配列同一性を有するヌクレオチド配列;(b)配列番号6、若しくは配列番号6に対して少なくとも75%の配列同一性を有するヌクレオチド配列;(c)配列番号7、若しくは配列番号7に対して少なくとも75%の配列同一性を有するヌクレオチド配列;(d)配列番号8、若しくは配列番号8に対して少なくとも75%の配列同一性を有するヌクレオチド配列;又は(e)配列番号35、若しくは配列番号35に対して少なくとも75%の配列同一性を有するヌクレオチド配列を含み得るか又はからなり得る。
【0049】
配列番号7は、配列番号4の16merを含む20merである。配列番号8は、配列番号6の16merを含む20merである。配列番号4及び配列番号7は、AASSのエクソン9を標的とする。配列番号6及び配列番号8は、AASSのエクソン8を標的とする。
【0050】
配列番号34は、AASSのエクソン9を標的とする。配列番号35は、AASSのエクソン8を標的とする。配列番号36は、AASSのエクソン8を標的とする。
【0051】
配列番号1、2、3、4、5、6、7、8、34、35、及び36は、核酸「N」を含有する。いずれも場合も、Nは、独立して、T(チミン)及びU(ウラシル)から選択可能である。配列番号1、2、3、4、5、6、7、8、34、35、及び36のそれぞれについて、任意の数の「N」が「T」であってよい。配列番号1、2、3、4、5、6、7、8、34、35、及び36のそれぞれについて、任意の数の「N」が「U」であってよい。配列番号1、2、3、4、5、6、7、8、34、35、及び36はそれぞれ、「N」と指定された位置に「T」及び「U」の任意の組み合わせを含有し得る。従って、配列番号1、2、3、4、5、6、7、8、34、35、及び36はそれぞれ、DNA配列、RNA配列、又はハイブリッドDNA/RNA配列であってよい。
【0052】
配列番号1、2、3、4、5、6、7、8、34、35、又は36に対して少なくとも75%の配列同一性を有するヌクレオチド配列は、それぞれ配列番号1、2、3、4、5、6、7、8、34、35、又は36に対して1つ以上のヌクレオチド置換を含み得る。例えば、ヌクレオチド配列は、16merである配列番号1、2、3、4、5、又は6に対して1つ、2つ、3つ、又は4つの置換を含み得る。ヌクレオチド配列は、19merである配列番号34に対して1つ、2つ、3つ、又は4つの置換を含み得る。ヌクレオチド配列は、20merである配列番号7、8、35、又は36に対して1つ、2つ、3つ、4つ、又は5つの置換を含み得る。
【0053】
配列番号1、2、3、4、5、6、7、8、34、35、又は36に対して少なくとも75%の配列同一性を有するヌクレオチド配列は、それぞれ配列番号1、2、3、4、5、6、7、8、34、35又は36に対して1つ以上のヌクレオチド欠失を含み得る。例えば、ヌクレオチド配列は、16merである配列番号1、2、3、4、5、又は6に対して1つ、2つ、3つ、又は4つの欠失を含み得る。ヌクレオチド配列は、19merである配列番号34に対して1つ、2つ、3つ、又は4つの欠失を含み得る。ヌクレオチド配列は、20merである配列番号7、8、35、又は36に対して1つ、2つ、3つ、4つ、又は5つの欠失を含み得る。
【0054】
配列番号1又はそれに対して少なくとも75%の配列同一性を有するヌクレオチド配列を含むか又はからなる核酸サイレンシング分子は、例えば、配列番号16(AON1)若しくはそれに対して少なくとも75%の配列同一性を有するヌクレオチド配列、又は配列番号24(LNA修飾AON1)若しくはそれに対して少なくとも75%の配列同一性を有するヌクレオチド配列を含み得るか又はからなり得る。従って、核酸サイレンシング分子は、配列番号16(AON1)若しくはそれに対して少なくとも75%の配列同一性を有するヌクレオチド配列、又は配列番号24(LNA修飾AON1)若しくはそれに対して少なくとも75%の配列同一性を有するヌクレオチド配列を含み得るか又はからなり得る。
【0055】
配列番号2又はそれに対して少なくとも75%の配列同一性を有するヌクレオチド配列を含むか又はからなる核酸サイレンシング分子は、例えば、配列番号17(AON2)若しくはそれに対して少なくとも75%の配列同一性を有するヌクレオチド配列、又は配列番号25(LNA修飾AON2)若しくはそれに対して少なくとも75%の配列同一性を有するヌクレオチド配列を含み得るか又はからなり得る。従って、核酸サイレンシング分子は、配列番号17(AON2)若しくはそれに対して少なくとも75%の配列同一性を有するヌクレオチド配列、又は配列番号25(LNA修飾AON2)若しくはそれに対して少なくとも75%の配列同一性を有するヌクレオチド配列を含み得るか又はからなり得る。
【0056】
配列番号3又はそれに対して少なくとも75%の配列同一性を有するヌクレオチド配列を含むか又はからなる核酸サイレンシング分子は、例えば、配列番号18(AON3)若しくはそれに対して少なくとも75%の配列同一性を有するヌクレオチド配列、又は配列番号26(LNA修飾AON3)若しくはそれに対して少なくとも75%の配列同一性を有するヌクレオチド配列を含み得るか又はからなり得る。従って、核酸サイレンシング分子は、配列番号18(AON3)若しくはそれに対して少なくとも75%の配列同一性を有するヌクレオチド配列、又は配列番号26(LNA修飾AON3)若しくはそれに対して少なくとも75%の配列同一性を有するヌクレオチド配列を含み得るか又はからなり得る。
【0057】
配列番号4又はそれに対して少なくとも75%の配列同一性を有するヌクレオチド配列を含むか又はからなる核酸サイレンシング分子は、例えば、配列番号19(AON4)若しくはそれに対して少なくとも75%の配列同一性を有するヌクレオチド配列、配列番号27(LNA修飾AON4)若しくはそれに対して少なくとも75%の配列同一性を有するヌクレオチド配列、又は配列番号28(MOE修飾AON4)若しくはそれに対して少なくとも75%の配列同一性を有するヌクレオチド配列を含み得るか又はからなり得る。従って、核酸サイレンシング分子は、配列番号19(AON4)若しくはそれに対して少なくとも75%の配列同一性を有するヌクレオチド配列、配列番号27(LNA修飾AON4)若しくはそれに対して少なくとも75%の配列同一性を有するヌクレオチド配列、又は配列番号28(MOE修飾AON4)若しくはそれに対して少なくとも75%の配列同一性を有するヌクレオチド配列を含み得るか又はからなり得る。
【0058】
配列番号5又はそれに対して少なくとも75%の配列同一性を有するヌクレオチド配列を含むか又はからなる核酸サイレンシング分子は、例えば、配列番号20(AON5)若しくはそれに対して少なくとも75%の配列同一性を有するヌクレオチド配列、又は配列番号29(LNA修飾AON5)若しくはそれに対して少なくとも75%の配列同一性を有するヌクレオチド配列を含み得るか又はからなり得る。従って、核酸サイレンシング分子は、配列番号20(AON5)若しくはそれに対して少なくとも75%の配列同一性を有するヌクレオチド配列、又は配列番号29(LNA修飾AON5)若しくはそれに対して少なくとも75%の配列同一性を有するヌクレオチド配列を含み得るか又はからなり得る。
【0059】
配列番号6又はそれに対して少なくとも75%の配列同一性を有するヌクレオチド配列を含むか又はからなる核酸サイレンシング分子は、例えば、配列番号21(AON6)若しくはそれに対して少なくとも75%の配列同一性を有するヌクレオチド配列、配列番号30(LNA修飾AON6)若しくはそれに対して少なくとも75%の配列同一性を有するヌクレオチド配列、又は配列番号31(MOE修飾AON6)若しくはそれに対して少なくとも75%の配列同一性を有するヌクレオチド配列を含み得るか又はからなり得る。従って、核酸サイレンシング分子は、配列番号21(AON6)若しくはそれに対して少なくとも75%の配列同一性を有するヌクレオチド配列、配列番号30(LNA修飾AON6)若しくはそれに対して少なくとも75%の配列同一性を有するヌクレオチド配列、又は配列番号31(MOE修飾AON6)若しくはそれに対して少なくとも75%の配列同一性を有するヌクレオチド配列を含み得るか又はからなり得る。
【0060】
配列番号7又はそれに対して少なくとも75%の配列同一性を有するヌクレオチド配列を含むか又はからなる核酸サイレンシング分子は、例えば、配列番号22(AON7)若しくはそれに対して少なくとも75%の配列同一性を有するヌクレオチド配列、又は配列番号32(MOE修飾AON7)若しくはそれに対して少なくとも75%の配列同一性を有するヌクレオチド配列を含み得るか又はからなり得る。従って、核酸サイレンシング分子は、配列番号22(AON7)若しくはそれに対して少なくとも75%の配列同一性を有するヌクレオチド配列、又は配列番号32(MOE修飾AON7)若しくはそれに対して少なくとも75%の配列同一性を有するヌクレオチド配列を含み得るか又はからなり得る。
【0061】
配列番号8又はそれに対して少なくとも75%の配列同一性を有するヌクレオチド配列を含むか又はからなる核酸サイレンシング分子は、例えば、配列番号23(AON8)若しくはそれに対して少なくとも75%の配列同一性を有するヌクレオチド配列、又は配列番号33(MOE修飾AON8)若しくはそれに対して少なくとも75%の配列同一性を有するヌクレオチド配列を含み得るか又はからなり得る。従って、核酸サイレンシング分子は、配列番号23(AON8)若しくはそれに対して少なくとも75%の配列同一性を有するヌクレオチド配列、又は配列番号33(MOE修飾AON8)若しくはそれに対して少なくとも75%の配列同一性を有するヌクレオチド配列を含み得るか又はからなり得る。
【0062】
配列番号22は、配列番号19の16merを含む20merである。配列番号23は、配列番号21の16merを含む20merである。配列番号19、22、27、28、及び32は、AASSのエクソン9を標的とする。配列番号21、23、30、31、及び33は、AASSのエクソン8を標的とする。
【0063】
配列番号34又はそれに対して少なくとも75%の配列同一性を有するヌクレオチド配列を含むか又はからなる核酸サイレンシング分子は、例えば、配列番号37(MOE7)若しくはそれに対して少なくとも75%の配列同一性を有するヌクレオチド配列、又は配列番号40(MOE修飾MOE7)若しくはそれに対して少なくとも75%の配列同一性を有するヌクレオチド配列を含み得るか又はからなり得る。従って、核酸サイレンシング分子は、配列番号37(MOE7)若しくはそれに対して少なくとも75%の配列同一性を有するヌクレオチド配列、又は配列番号40(MOE修飾MOE7)若しくはそれに対して少なくとも75%の配列同一性を有するヌクレオチド配列を含み得るか又はからなり得る。
【0064】
配列番号35又はそれに対して少なくとも75%の配列同一性を有するヌクレオチド配列を含むか又はからなる核酸サイレンシング分子は、例えば、配列番号38(MOE8)若しくはそれに対して少なくとも75%の配列同一性を有するヌクレオチド配列、又は配列番号41(MOE修飾MOE8)若しくはそれに対して少なくとも75%の配列同一性を有するヌクレオチド配列を含み得るか又はからなり得る。従って、核酸サイレンシング分子は、配列番号38(MOE8)若しくはそれに対して少なくとも75%の配列同一性を有するヌクレオチド配列、又は配列番号41(MOE修飾MOE8)若しくはそれに対して少なくとも75%の配列同一性を有するヌクレオチド配列を含み得るか又はからなり得る。
【0065】
配列番号36又はそれに対して少なくとも75%の配列同一性を有するヌクレオチド配列を含むか又はからなる核酸サイレンシング分子は、例えば、配列番号39(MOE9)若しくはそれに対して少なくとも75%の配列同一性を有するヌクレオチド配列、又は配列番号42(MOE修飾MOE9)若しくはそれに対して少なくとも75%の配列同一性を有するヌクレオチド配列を含み得るか又はからなり得る。従って、核酸サイレンシング分子は、配列番号39(MOE9)若しくはそれに対して少なくとも75%の配列同一性を有するヌクレオチド配列、又は配列番号42(MOE修飾MOE9)若しくはそれに対して少なくとも75%の配列同一性を有するヌクレオチド配列を含み得るか又はからなり得る。
【0066】
配列番号16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、37、38、39、40、41、又は42に対して少なくとも75%の配列同一性を有するヌクレオチド配列は、それぞれ配列番号16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、37、38、39、40、41、又は42に対して1つ以上のヌクレオチド置換を含み得る。例えば、ヌクレオチド配列は、16merである配列番号16、17、18、19、20、21、24、25、26、27、28、29、30、又は31に対して1つ、2つ、3つ、又は4つの置換を含み得る。ヌクレオチド配列は、19merである配列番号37又は40に対して1つ、2つ、3つ、又は4つの置換を含み得る。ヌクレオチド配列は、20merである配列番号22、23、32、33、38、39、41、又は42に対して1つ、2つ、3つ、4つ、又は5つの置換を含み得る。
【0067】
配列番号16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、37、38、39、40、41、又は42に対して少なくとも75%の配列同一性を有するヌクレオチド配列は、それぞれ配列番号16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、37、38、39、40、41、又は42に対して1つ以上のヌクレオチド欠失を含み得る。例えば、ヌクレオチド配列は、16merである配列番号16、17、18、19、20、21、24、25、26、27、28、29、30、又は31に対して1つ、2つ、3つ、又は4つの欠失を含み得る。ヌクレオチド配列は、19merである配列番号37又は40に対して1つ、2つ、3つ、又は4つの欠失を含み得る。ヌクレオチド配列は、20merである配列番号22、23、32、33、38、39、41、又は42に対して1つ、2つ、3つ、4つ、又は5つの欠失を含み得る。
【0068】
配列番号1、2、3、4、5、6、7、8、16、17、18、19、20、21、22、23、34、35、36、37、38、及び39のいずれかは、1個以上(例えば、2個以上、3個以上、4個以上、5個以上、6個以上、7個以上、8個以上、9個以上、10個以上、11個以上、12個以上、13個以上、14個以上、15個以上、16個以上、17個以上、18個以上、又は19個以上)の2’-O-メトキシエチルリボース(MOE)修飾ヌクレオチドを含み得るか、又は2’-O-メトキシエチルリボース(MOE)修飾ヌクレオチドからなり得る。2’-O-メトキシエチルリボース(MOE)修飾ヌクレオチドは、配列番号1、2、3、4、5、6、7、8、16、17、18、19、20、21、22、23、34、35、36、37、38、及び39内の任意の位置(複数可)に存在し得る。
【0069】
配列番号1、2、3、4、5、6、7、8、16、17、18、19、20、21、22、23、34、35、36、37、38、及び39のいずれかは、1個以上(例えば、2個以上、3個以上、4個以上、5個以上、6個以上、7個以上、8個以上、9個以上、10個以上、11個以上、12個以上、13個以上、14個以上、15個以上、16個以上、17個以上、18個以上、又は19個以上)の2’-O-メチル(2OMe)修飾ヌクレオチドを含み得るか、又は2’-O-メチル(2OMe)修飾ヌクレオチドからなり得る。2’-O-メチル(2OMe)修飾ヌクレオチドは、配列番号1、2、3、4、5、6、7、8、16、17、18、19、20、21、22、23、34、35、36、37、38、及び39内の任意の位置(複数可)に存在し得る。
【0070】
配列番号1、2、3、4、5、6、7、8、16、17、18、19、20、21、22、23、34、35、36、37、38、及び39のいずれかは、1個以上(例えば、2個以上、3個以上、4個以上、5個以上、6個以上、7個以上、8個以上、9個以上、10個以上、11個以上、12個以上、13個以上、14個以上、15個以上、16個以上、17個以上、18個以上、又は19個以上)のロックド核酸(LNA)修飾ヌクレオチドを含み得るか、又はロックド核酸(LNA)修飾ヌクレオチドからなり得る。LNA修飾ヌクレオチドは、配列番号1、2、3、4、5、6、7、8、16、17、18、19、20、21、22、23、34、35、36、37、38、及び39内の任意の位置(複数可)に存在し得る。
【0071】
配列番号1、2、3、4、5、6、7、8、16、17、18、19、20、21、22、23、34、35、36、37、38、及び39のいずれかは、1個以上(例えば、2個以上、3個以上、4個以上、5個以上、6個以上、7個以上、8個以上、9個以上、10個以上、11個以上、12個以上、13個以上、14個以上、15個以上、16個以上、17個以上、18個以上、又は19個以上)のヌクレオチドホスホロチオエートを含み得るか、又はヌクレオチドホスホロチオエートからなり得る。ヌクレオチドホスホロチオエート(複数可)は、配列番号1、2、3、4、5、6、7、8、16、17、18、19、20、21、22、23、34、35、36、37、38、及び39内の任意の位置(複数可)に存在し得る。
【0072】
配列番号1、2、3、4、5、6、7、8、16、17、18、19、20、21、22、23、34、35、36、37、38、及び39のいずれかは、(i)1つ以上の2OMe修飾ヌクレオチド、(ii)1つ以上のLNA修飾ヌクレオチド、(iii)1つ以上の2’-O-メトキシエチルリボース(MOE)修飾ヌクレオチド、及び(iv)1つ以上のヌクレオチドホスホロチオエートの任意の組み合わせを含み得る。例えば、配列番号1、2、3、4、5、6、7、8、16、17、18、19、20、21、22、23、34、35、36、37、38、及び39のいずれかは、(i);(ii);(iii);(iv);(i)及び(ii);(i)及び(iii);(i)及び(iv);(ii)及び(iii);(ii)及び(iv);(iii)及び(iv);(i)、(ii)及び(iii);(i)、(ii)及び(iv);(i)、(iii)及び(iv);(ii)、(iii)及び(iv);又は(i)、(ii)、(iii)及び(iv)を含み得る。
【0073】
例示の目的のために、配列番号16、17、18、19、20、及び21の例示的なLNA修飾を、それぞれ配列番号24、25、26、27、29、及び30に示す。配列番号16、17、18、19、20、及び21の例示的なヌクレオチドホスホロチオエート修飾も、それぞれ配列番号24、25、26、27、29、及び30に示す。配列番号19、21、22、及び23の例示的な2’-O-メトキシエチルリボース(MOE)修飾を、それぞれ配列番号28、31、32及び33に示す。配列番号19、21、22、及び23の例示的なヌクレオチドホスホロチオエート修飾も、それぞれ配列番号28、31、32及び33に示す。配列番号37、38、及び39の例示的なヌクレオチドホスホロチオエート修飾を、それぞれ配列番号40、41、及び42にも示す。配列番号37、38、及び39の例示的な2’-O-メトキシエチルリボース(MOE)修飾も、それぞれ配列番号40、41、及び42に示す。例示される修飾は限定的なものではない。任意の種類の化学修飾(例えば、2OMe修飾、LNA修飾、2’-O-メトキシエチルリボース(MOE)修飾、ヌクレオチドホスホロチオエート修飾)が、例示された位置のいずれか又は全てにおいてなされ得る。化学修飾(例えば、2OMe修飾、LNA修飾、2’-O-メトキシエチルリボース(MOE)修飾、ヌクレオチドホスホロチオエート修飾)は、例示されていない位置でもなされ得る。
【0074】
好ましい態様では、核酸サイレンシング分子は、配列番号4又はそれに対して少なくとも75%の配列同一性を有するヌクレオチド配列を含むか又はからなる。より好ましい態様では、核酸サイレンシング分子は、配列番号19(AON4)又はそれに対して少なくとも75%の配列同一性を有するヌクレオチド配列を含むか又はからなる。核酸サイレンシング分子は、例えば、配列番号19(又はそれに対して少なくとも75%の配列同一性を有するヌクレオチド配列)の化学修飾バージョン、例えば、配列番号23(又はそれに対して少なくとも75%の配列同一性を有するヌクレオチド配列)又は(配列番号33又はそれに対して少なくとも75%の配列同一性を有するヌクレオチド配列)を含み得るか又はからなり得る。
【0075】
別の好ましい態様では、核酸サイレンシング分子は、配列番号7又はそれに対して少なくとも75%の配列同一性を有するヌクレオチド配列を含むか又はからなる。より好ましい態様では、核酸サイレンシング分子は、配列番号22(AON7;配列番号19(AON4)の16merを含む20mer)又はそれに対して少なくとも75%の配列同一性を有するヌクレオチド配列を含むか又はからなる。核酸サイレンシング分子は、例えば、配列番号22(又はそれに対して少なくとも75%の配列同一性を有するヌクレオチド配列)の化学修飾バージョン、例えば、配列番号32(又はそれに対して少なくとも75%の配列同一性を有するヌクレオチド配列)を含み得るか又はからなり得る。
【0076】
更に好ましい態様では、核酸サイレンシング分子は、配列番号6又はそれに対して少なくとも75%の配列同一性を有するヌクレオチド配列を含むか又はからなる。より好ましい態様では、核酸サイレンシング分子は、配列番号21(AON6)又はそれに対して少なくとも75%の配列同一性を有するヌクレオチド配列を含むか又はからなる。核酸サイレンシング分子は、例えば、配列番号21(又はそれに対して少なくとも75%の配列同一性を有するヌクレオチド配列)の化学修飾バージョン、例えば、配列番号30(又はそれに対して少なくとも75%の配列同一性を有するヌクレオチド配列)又は(配列番号31又はそれに対して少なくとも75%の配列同一性を有するヌクレオチド配列)を含み得るか又はからなり得る。
【0077】
別の好ましい態様では、核酸サイレンシング分子は、配列番号8又はそれに対して少なくとも75%の配列同一性を有するヌクレオチド配列を含むか又はからなる。より好ましい態様では、核酸サイレンシング分子は、配列番号23(AON8;配列番号21(AON6)の16merを含む20mer)又はそれに対して少なくとも75%の配列同一性を有するヌクレオチド配列を含むか又はからなる。核酸サイレンシング分子は、例えば、配列番号23(又はそれに対して少なくとも75%の配列同一性を有するヌクレオチド配列)の化学修飾バージョン、例えば、配列番号33(又はそれに対して少なくとも75%の配列同一性を有するヌクレオチド配列)を含み得るか又はからなり得る。
【0078】
別の好ましい態様では、核酸サイレンシング分子は、配列番号35又はそれに対して少なくとも75%の配列同一性を有するヌクレオチド配列を含むか又はからなる。より好ましい態様では、核酸サイレンシング分子は、配列番号38(MOE8)又はそれに対して少なくとも75%の配列同一性を有するヌクレオチド配列を含むか又はからなる。核酸サイレンシング分子は、例えば、配列番号38(又はそれに対して少なくとも75%の配列同一性を有するヌクレオチド配列)の化学修飾バージョン、例えば、配列番号41(又はそれに対して少なくとも75%の配列同一性を有するヌクレオチド配列)を含み得るか又はからなり得る。
【0079】
コンジュゲーション
核酸サイレンシング分子は、1つ以上の非核酸部分にコンジュゲートし得る。例えば、核酸サイレンシング分子は、2つ以上、3つ以上、4つ以上、又は5つ以上の非核酸部分にコンジュゲートし得る。
【0080】
好ましくは、非核酸部分は、送達部分である。送達部分は、核酸サイレンシング分子のインビボ送達を支援する分子である。例えば、送達部分は、標的の器官、組織、又は細胞型への核酸サイレンシング分子の送達を促進し得る。以下に述べる非核酸部分はいずれも、送達部分として機能し得る。
【0081】
非核酸部分は、例えば、疎水性であってよい。非核酸部分は、例えば、脂質を含み得る。例えば、非核酸部分は、コレステロール、脂肪酸、トリグリセリド、又はリン脂質を含み得る。脂肪酸は、飽和であっても不飽和であってもよい。不飽和脂肪酸は、多価不飽和であってよい。好ましくは、非核酸部分は、コレステロール又は多価不飽和脂肪酸を含む。
【0082】
非核酸部分は、例えば、ペプチド、ポリペプチド、又はタンパク質を含み得る。例えば、非核酸部分は、ペプチドリガンドを含み得る。ペプチド又はペプチドリガンドは、例えば、標的細胞、又は標的組織若しくは標的器官に含まれる細胞の表面上に存在する受容体に対する同族リガンドであり得る。非核酸部分は、例えば、抗体又は抗体断片を含み得る。抗体又は抗体断片は、例えば、標的細胞又は標的の組織若しくは器官に含まれる細胞の表面上に存在する抗原に結合することが可能であり得る。抗体断片は、例えば、scFv、Fab、修飾Fab、Fab’、修飾Fab’、F(ab’)2、又はscFv2を含み得るか又はからなり得る。
【0083】
非核酸部分は、例えば、糖類、二糖類、又は多糖類を含み得る。非核酸部分は、例えば、アミノ糖を含み得る。好ましくは、非核酸部分は、N-アセチルガラクトサミン(GalNAc)を含む。GalNAcは、肝臓の肝細胞表面上で発現するアシアロ糖タンパク質受容体(ASGPR)に結合することができる。このように、核酸サイレンシング分子をGalNAcにコンジュゲートすることにより、核酸サイレンシング分子を肝臓の肝細胞に特異的に送達することが可能となる。GalNAcは非常に強力であり、肝細胞による核酸サイレンシング分子の取り込みを劇的に増加させ、その持続時間を延長することが実証されている。マウスにおける研究では、腎臓におけるGalNAcにコンジュゲートしたオリゴヌクレオチドの体内分布の一部も示唆されている。リジンの異化は、主に肝臓、次いで腎臓で生じるので、核酸サイレンシング分子をGalNAcにコンジュゲートさせると有利である。
【0084】
非核酸部分は、例えば、ナノ粒子を含み得る。好適なナノ粒子は、当技術分野において公知である。このようなナノ粒子の製造方法も公知である。ナノ粒子は、例えば、脂質ナノ粒子、リポソーム、高分子ナノ粒子、無機ナノ粒子、ウイルス様粒子(VLP)、自己組織化タンパク質、リン酸カルシウムナノ粒子、シリコンナノ粒子、又は金ナノ粒子であってよい。好ましくは、ナノ粒子は、脂質ナノ粒子である。核酸サイレンシング分子を脂質ナノ粒子にコンジュゲートさせると、肝臓及び腎臓における核酸サイレンシング分子の体内分布及び取り込みが増強され得る。
【0085】
治療方法及び医学的使用
対象におけるリジン分解のサッカロピン経路の障害を治療する方法であって、α-アミノアジピン酸セミアルデヒド合成酵素(AASS)の発現を低下させる核酸サイレンシング分子を含む組成物を該対象に投与することを含む方法が本明細書に開示される。
【0086】
また、対象におけるリジン分解のサッカロピン経路の障害を治療する方法において使用するための組成物であって、該組成物が、α-アミノアジピン酸セミアルデヒド合成酵素(AASS)の発現を低下させる核酸サイレンシング分子を含み、該方法が、該核酸サイレンシング分子を該対象に投与することを含む組成物も本明細書に開示される。
【0087】
リジン分解のサッカロピン経路の障害を有する対象に、AASSの発現を低下させる核酸サイレンシング分子を投与すると、該経路を初期段階でブロック又は阻害することができる。このようにして、下流の代謝物の形成を防止又は低減することができる。従って、神経毒性代謝物等の毒性代謝物の蓄積を防止又は低減することができる。毒性代謝物の蓄積を防止又は低減することにより、リジン分解のサッカロピン経路の障害を治療することができる。例えば、そのような障害の臨床徴候又は症状を軽減又は消失させることができる。臨床徴候又は症状の進行を止めることもできる。本明細書に開示される治療方法及び医学的使用は、上記のような食事性リジン制限等のリジン分解のサッカロピン経路の障害に対する他の治療を超える利点を有し得る。
【0088】
核酸サイレンシング分子
本明細書に記載の治療方法及び医学的使用は、AASSの発現を低下させる核酸サイレンシング分子を含む組成物を対象に投与することを含む。このような核酸サイレンシング分子については、上記で詳述した。本開示の核酸サイレンシング分子に関連して上述した態様はいずれも、本開示の治療方法又は本開示の医学的使用にも等しく適用され得る。
【0089】
組成物は、AASSの発現を低下させる1つ以上の核酸サイレンシング分子を含み得る。例えば、組成物は、1用量あたりAASSの発現を低下させる核酸サイレンシング分子を2個以上、5個以上、10個以上、20個以上、50個以上、100個以上、200個以上、500個以上、1000個以上、2000個以上、5000個以上、10000個以上、20000個以上、50000個以上、100000個以上、200000個以上、500000個以上、1000000個以上、2000000個以上、5000000個以上、1×107個以上、2×107個以上、5×107個以上、1×108個以上、2×108個以上、5×108個以上、1×109個以上、2×109個以上、又は5×109個以上含み得る。好ましくは、組成物の1用量に含まれるより多くの核酸サイレンシング分子は全て、同じヌクレオチド配列を含む。
【0090】
一態様では、核酸サイレンシング分子は、1つ以上のヌクレオチドホスホロチオエートを含み得るか又はヌクレオチドホスホロチオエートからなり得る。組成物が2つ以上のこのような核酸サイレンシング分子を含む場合、2つ以上の核酸サイレンシング分子の各々が1つの立体異性体であってもよい。好ましくは、組成物は、更なる核酸サイレンシング分子を含まない。これにより、組成物の立体純度が確保される。核酸サイレンシング分子の立体純度については、当技術分野、例えばIwamoto et al.(2017),Nature Biotechnology,35:9,845-851において記載されている。
【0091】
AASSの発現低下
組成物に含まれる核酸サイレンシング分子は、AASSの発現を低下させる。AASSの発現低下については、本開示の核酸サイレンシング分子に関連して上記で詳述した。本開示の核酸サイレンシング分子に関連して記載した態様はいずれも、本開示の治療方法又は本開示の医学的使用にも等しく適用され得る。
【0092】
リジン分解のサッカロピン経路の障害
AASSの発現を低下させる核酸サイレンシング分子を投与すると、リジン分解のサッカロピン経路がその初期段階でブロック又は阻害されるが、その理由は、AASSが該経路における最初の酵素であるためである。このように経路上流の先頭をブロック又は阻害することにより、任意の下流の代謝物の形成を防止又は低減することができる。従って、リジン分解のサッカロピン経路のいかなる障害も、本開示の治療方法又は医学的使用に従って治療することができる。
【0093】
好ましくは、障害は、リジン分解のサッカロピン経路の毒性代謝物の蓄積と関連している。毒性代謝物は、例えば、神経毒性代謝物である。好ましくは、障害は、リジン分解のサッカロピン経路に含まれる酵素のうちの1つ以上(例えば、2つ以上、3つ以上、又は4つ以上)に欠損を含む。障害は、例えば、ALDH7A1に欠損を含み得る。障害は、例えば、DHTKD1に欠損を含み得る。障害は、例えば、グルタリル-CoAデヒドロゲナーゼに欠損を含み得る。障害は、例えば、AADATに欠損を含み得る。
【0094】
1つ以上の酵素における欠損は、酵素における変異に起因する場合がある。例えば、ALDH7A1における欠損は、ALDH7A1における変異に起因する場合がある。DHTKD1における欠損は、DHTKD1における変異に起因する場合がある。グルタリル-CoAデヒドロゲナーゼにおける欠損は、グルタリル-CoAデヒドロゲナーゼにおける変異に起因する場合がある。AADATにおける欠損は、AADATにおける変異に起因する場合がある。変異は、酵素における1つ以上の置換を含み得る。変異は、酵素への1つ以上の挿入を含み得る。変異は、酵素からの1つ以上の欠失を含み得る。
【0095】
障害は、例えば、ピリドキシン依存性てんかんであり得る。ピリドキシン依存性てんかんは、ALDH7A1における欠損(例えば変異)に起因する。障害は、例えば、2-アミノアジピン酸2-ケトアジピン酸尿症であり得る。2-アミノアジピン酸2-ケトアジピン酸尿症(2-アミノアジピン酸及び2-ケトアジピン酸尿症としても知られている)は、DHTKD1における欠損(例えば変異)に起因する。2-アミノアジピン酸2-ケトアジピン酸尿症は、2-アミノアジピン酸2-オキソアジピン酸尿症又は2-アミノアジピン酸及び2-オキソアジピン酸尿症としても知られている。障害は、例えば、シャルコー・マリー・ツース病2Q型であり得る。シャルコー・マリー・ツース病2Q型は、DHTKD1における欠損(例えば変異)に起因する。障害は、例えば、グルタル酸尿症I型であり得る。グルタル酸尿症I型は、グルタリル-CoAデヒドロゲナーゼにおける欠損(例えば変異)に起因する。
【0096】
対象
対象は、例えば哺乳類であってよい。哺乳類は、例えば、ヒトであってもよく、イヌ、ネコ、ウマ、又は家畜等の非ヒト哺乳類であってもよい。好ましくは、対象は、ヒトである。
【0097】
対象は、例えば、成体である。対象は、例えば、若年である。
【0098】
投与及び製剤
組成物は、任意の経路によって投与してよい。好適な経路としては、静脈内、髄腔内、脳内、脳室内、筋肉内、腹腔内、皮下、皮内、経皮、及び経口/頬側の経路が挙げられるが、これらに限定されない。
【0099】
組成物は、インビボでの核酸サイレンシング分子の送達を最適化する送達ビヒクルを含み得る。好適な送達ビヒクルは、当技術分野で公知であり、例えば、細胞標的化部分、細胞透過性部分、脂質、リポタンパク質、リポソーム、リポプレックス、ペプチド、GalNAc、抗体、アプタマー、ナノ粒子、エクソソーム、球状核酸、及びDNAケージ等が挙げられる。
【0100】
組成物は、生理学的に許容し得る担体又は希釈剤と一緒に調製してもよい。典型的には、そのような組成物は、核酸サイレンシング分子及び/又は送達ビヒクルと連結した核酸サイレンシング分子の懸濁液として調製される。核酸サイレンシング分子及び/又は送達ビヒクルと連結した核酸サイレンシング分子は、薬学的に許容し得かつ活性成分と適合する賦形剤と混合され得る。好適な賦形剤は、例えば、水、生理食塩水、デキストロース、グリセロール等、及びこれらの組み合わせである。更に、必要に応じて、医薬組成物は、湿潤剤若しくは乳化剤及び/又はpH緩衝剤等の補助物質を微量含有していてもよい。
【0101】
核酸サイレンシング分子及び/又は送達ビヒクルと連結した核酸サイレンシング分子は、剤形に適合する方法で投与され、そのような量で治療的に有効になるであろう。投与される量は、治療される対象、治療される疾患、及び対象の免疫系の能力に依存する。投与が必要とされる核酸サイレンシング分子及び/又は送達ビヒクルと連結した核酸サイレンシング分子の正確な量は、医師の判断に依存し得、各対象に特有であり得る。
【0102】
上記のように、核酸サイレンシング分子は、一態様では、CRISPRガイドRNAであり得る。この場合、CRISPRヌクレアーゼ(Cas9、Cpf1、Cas12b、又はCasX等)を対象に投与してよい。CRISPRヌクレアーゼは、核酸サイレンシング分子を含む組成物中に含まれていてもよく、別個の組成物中に含まれていてもよい。CRISPRヌクレアーゼが別個の組成物に含まれている場合、核酸サイレンシング分子を含む組成物及びCRISPRヌクレアーゼを含む組成物を対象に同時に投与してもよい。核酸サイレンシング分子を含む組成物及びCRISPRヌクレアーゼを含む組成物は、異なる時間に対象に投与してもよい。例えば、CRISPRヌクレアーゼを含む組成物の前に核酸サイレンシング分子を含む組成物を対象に投与してもよい。CRISPRヌクレアーゼを含む組成物の後に核酸サイレンシング分子を含む組成物を対象に投与してもよい。
【0103】
併用療法
組成物は、併用療法の一部として投与することができる。すなわち、治療方法又は医学的使用は、対象に更なる治療組成物又は治療レジメンを投与することを含み得る。例えば、核酸サイレンシング分子がAASS発現を排除するのではなく低下させる場合、更なる組成物を投与したり治療レジメンを施したりすることが望ましい場合もある。しかし、場合によっては、障害を治療するために、AASSの発現を(排除するのではなく)低下させることで十分な場合もある。
【0104】
組成物は、特定の障害に対して利用可能な任意の治療用組成物又は治療レジメンと組み合わせて併用療法の一部として投与してもよい。例えば、リジン分解のサッカロピン経路の多くの障害は、リジン制限食で治療することができる。従って、治療レジメンは、リジン制限食を含んでいてよい。リジン分解のサッカロピン経路の幾つかの障害(グルタリル-CoAデヒドロゲナーゼに欠損を含む障害、例えばグルタル酸尿症I型等)は、トリプトファン制限食で治療することができる。従って、治療レジメンは、トリプトファン制限食を含んでいてよい。ビタミンB6は、ピリドキシン依存性てんかんの治療薬として公知である。従って、障害がALDH7A1に欠損を含む場合(例えば、ピリドキシン依存性てんかん)、更なる治療組成物はビタミンB6を含んでいてよい。ALDH7AIに欠損を含む障害に対する別の公知の治療薬はアルギニンである。従って、障害がALDH7AIに欠損を含む場合、更なる治療組成物はアルギニンを含んでいてよい。アルギニンは、グルタル酸尿症I型の治療薬としても公知である。従って、障害がグルタリル-CoAデヒドロゲナーゼに欠損を含む(例えばグルタル酸尿症I型)場合、更なる治療組成物はアルギニンを含んでいてよい。カルニチンもグルタル酸尿症I型の治療薬として公知である。従って、障害がグルタリル-CoAデヒドロゲナーゼに欠損を含む(例えばグルタル酸尿症I型)場合、更なる治療組成物はカルニチンを含んでいてよい。
【0105】
併用療法では、AASSの発現を低下させる核酸サイレンシング分子を含む組成物は、更なる治療組成物又は治療レジメンの投与と組み合わせて治療的に有効となるような量で投与される。更なる治療組成物は、AASSの発現を低下させる核酸サイレンシング分子を含む組成物と組み合わせて治療的に有効となるような量で投与される。AASSの発現を低下させる核酸サイレンシング分子を含む組成物及び更なる治療組成物は、一緒に、例えば同時に投与してもよい。AASSの発現を低下させる核酸サイレンシング分子を含む組成物及び更なる治療組成物は、別々に、例えば異なる時間に投与してもよい。例えば、AASSの発現を低下させる核酸サイレンシング分子を含む組成物を更なる治療組成物の前に投与してもよい。AASSの発現を低下させる核酸サイレンシング分子を含む組成物を更なる治療組成物の後に投与してもよい。AASSの発現を低下させる核酸サイレンシング分子を含む組成物の投与を更なる治療組成物の投与と交互に行ってもよい。
【0106】
併用療法の別の態様では、AASSの発現を低下させる核酸サイレンシング分子を含む組成物は、追加の治療レジメンと組み合わせて治療的に有効となるような量で投与される。治療レジメンは、AASSの発現を低下させる核酸サイレンシング分子を含む組成物の投与と組み合わせて治療的に有効となる程度まで実施される。AASSの発現を低下させる核酸サイレンシング分子を含む組成物は、治療レジメンの実施前、実施中、又は実施後に投与してよい。好ましくは、AASSの発現を低下させる核酸サイレンシング分子を含む組成物は、治療レジメンの実施中に投与される。
【0107】
インビトロ法
上記のように、本明細書に開示される核酸サイレンシング分子は、インビトロでAASSの発現を低下させるために使用することができる。例えば、例えばリジン分解のサッカロピン経路について調べるための研究ツールとして、核酸サイレンシング分子を使用することができる。従って、本開示は、細胞内のAASSの発現を低下させるためのインビトロ方法であって、該細胞を本開示の核酸サイレンシング分子と接触させることを含む方法を提供する。
【0108】
細胞は、任意の種類の細胞であってよい。例えば、細胞は、任意の組織由来であってよい。細胞は、任意の種由来であってよい。好ましくは、細胞は、ヒトである。細胞は、健常細胞であっても、疾患細胞であってもよい。疾患細胞は、例えば、がん細胞であってよい。細胞は、天然に存在する細胞であってよい。細胞は、細胞株由来であってよい。
【0109】
核酸サイレンシング分子を細胞に接触させる機序は、当技術分野において周知である。接触は、例えば、マイクロウェルプレートのウェル内又は細胞培養フラスコ若しくは試験管等の別の種類の容器内で行ってよい。接触工程は、細胞の培養の前に行ってもよく、又は同時に行ってもよい。様々な細胞型の培養に必要な条件は、当技術分野において周知である。
【0110】
細胞は、核酸サイレンシング分子に加えて1つ以上の分子と接触させてもよい。追加の分子は、AASSを標的とする別の核酸サイレンシング分子であってもよい。追加の分子は、AASS以外の遺伝子、例えばリジン分解のサッカロピン経路内の異なる遺伝子を標的とする核酸サイレンシング分子であってもよい。好ましくは、追加の分子は、核酸サイレンシング分子によるAASS発現の低下又は排除を促進し得る。例えば、核酸サイレンシング分子がCRISPRガイドRNAである場合、追加の分子は、CRISPRヌクレアーゼであってよい。CRISPRヌクレアーゼは、例えば、Cas9、Cpf1、Cas12b、又はCasXであってよい。
【0111】
以下の実施例は、本発明を説明する。
【実施例】
【0112】
実施例1
材料及び方法
患者
ALDH7A1欠損症患者5名及び健常対照4名の線維芽細胞株を皮膚生検から樹立した。
【0113】
ヒト線維芽細胞の培養
全ての患者及び対照の線維芽細胞を、10%熱不活性化ウシ胎児血清(FBS)、100U/mLペニシリン、及び100μg/mLストレプトマイシンを補給したダルベッコ変法イーグル培地(DMEM)中において、37℃及び5%CO2で成長させた。
【0114】
アンチセンスオリゴヌクレオチド(AON)の設計
AASS(α-アミノアジピン酸セミアルデヒド合成酵素)を標的とするロックド核酸(LNA)(Qiagen)及び2’-O-メトキシ-エチル(MOE)(Eurogentec)ケミストリーを有するAONを設計し、商業的に合成した。ギャップマーの長さは、LNAケミストリーでは16mer、MOEケミストリーでは20merであった。中央のDNAギャップはホスホロチオエート(PS)修飾DNAであり、一方、隣接するRNA領域はMOE又はLNAで修飾された。
【0115】
細胞のAON処理
線維芽細胞成長培地(2mL)中2×105個の密度で6ウェルプレートに細胞を播種し、翌日、85~90%コンフルエントになったところで、AONを含む5μLのリポフェクタミン2000(ThermoFisher)を10分間用いて、製造業者の指示に従ってトランスフェクトした後、1mLのOpti-MEM(ThermoFisher)を24時間にわたって添加した。各実験につき、リポフェクタミンのみで処理した細胞(モック)、mRNAに結合しないスクランブル配列を有するAONで処理した細胞(スクランブル)、及び線維芽細胞成長培地のみで処理した細胞の3つの対照条件を使用した。
【0116】
質量分析によるAASA分析のための細胞の収集及び調製
AONで24時間処理した後、細胞から培地を除去し、細胞をPBSで2回洗浄した。次いで、細胞を400mg/LのL-リジンを含有するDMEM中で更に24時間放置して成長させた。次いで、調整培地を回収し、細胞を冷PBSで3回洗浄した。2400μLの氷冷メタノールを細胞に添加し、続いて、2400μLのMillipore冷H2Oを加え、全ての工程を氷上で行った。セルスクレーパーを用いて細胞を収集し、1.5mLのエッペンドルフチューブに移し、30秒間超音波処理(40% amp)した後に、15000rpm、4℃で30分間遠心分離した。上清を新たな1.5mLのエッペンドルフチューブに移し、直ちに質量分析によって分析するか又は分析前に-80℃で保存した。
【0117】
LC/MS-MSを用いたAASA代謝物の分析
FMOC-塩化物、ホウ酸、アセトン、酢酸アンモニウム、ギ酸、及びアセトニトリルはHPLCグレードのものであり、Sigma-Aldrichから購入した。重水素化内部標準物質であるα-アミノアジピン酸-d3(AAA-d3、純度98%)は、CDN isotopes(Quebec,Canada)から購入した。L-アリシンエチレンアセタールは、Sigma-Aldrichから購入した。
【0118】
上清をガラスバイアルに移し、窒素流下で乾燥させた後、50μLの水、10μLの0.1mmol AAA-d3、及び125μLのホウ酸バッファ(pH10.4)に再懸濁させた。次いで、125μLのFmoc-塩化物(アセトン中6mM)を添加し、十分に混合し、室温で15分間反応させることにより、サンプルを誘導体化した。
【0119】
Waters Xevo TQ-S質量分析計に接続したWaters Acquity UPLCを用いた液体クロマトグラフィー-質量分析(LC-MS/MS)によって、α-AASAの定量を行った。調製したサンプル10マイクロリットルをDiscovery HS F5-5 LCカラム(5cm×2.1mm×5μM)に注入した。移動相は、A(4mM酢酸アンモニウム、pH5.0及びB(100%アセトニトリル)からなっており、以下の勾配を使用した:0~1.9分(95%A及び5%B;0.5mL/分)、2~10分(80%A及び20%B→20%A及び80%B;0.25mL/分)、10~12分(80%A及び20%B→100%B;0.25~0.5mL/分)、12~16分(100%B;0.5mL/分)。次いで、次のサンプルを注入する前にカラムを再平衡化した。全ての勾配工程は線形であった。α-AASA及びd3-AAAはネガティブイオンモードで分析した。モニタリングした複数の反応トランジションは、α-AASA-FMOCについては366.1>144.1m/z(コーン電圧=4V、コリジョン電圧20V)、d3-AAA-FMOCについては385.02>163.06m/z(コーン電圧=19V、コリジョン電圧=13V)であった。
【0120】
0.032~0.1mmol/Lの濃度でα-AASA標準曲線を作成した。α-AASA標準物質は、L-アリシンエチレンアセタールから合成した。簡潔に説明すると、5mgのL-アリシンエチレンアセタールを1mLのdH2Oに添加し、15mgのAmberlyst 15樹脂と室温で10分間混合することによりブロックを解除した。次いで、1mLの溶液を新たなバイアルに移し、樹脂を0.5mLの25%水酸化アンモニウム及び2mLのdH2Oと混合した。更に3.11mLのdH2Oを添加して、1mmol/L α-AASAの溶液6.61mLを作製した。
【0121】
RNAの抽出及びcDNAの調製
RNeasy Plus Mini Kitを用い、製造業者の指示に従って、細胞から全RNAを抽出した。NanoDrop分光光度計を用いて260nm及び280nmにおける吸光度を測定することにより、各サンプルのRNAの収量及び品質を求めた。ランダムヘキサマー及びSuperScript IV Master Mix cDNA Synthesis kit(ThermoFisher)を用いて20μLの反応混合物中で製造業者の指示に従って全RNA(400~500ng)を逆転写した。
【0122】
定量リアルタイムPCR(RT-PCR)解析
Power SYBR(商標)Green PCR Master Mix(ThermoFisher)を用いて定量リアルタイムPCR解析を行った。AASS及びGAPDHの遺伝子に最適化されたプライマーについては以下に詳述する。以下の方法を用いた定量リアルタイムPCR及び解析のために、StepOne(商標)リアルタイムPCRシステム(Applied Biosystems)を使用した:95℃で10分間の保持段階、続いて、以下の融解曲線(工程1:95℃で15秒間、工程2:60℃で1分間、及び工程3:95℃で15秒間(+0.3℃)で95℃で15秒間の変性及び60℃で1分間のアニーリングを40サイクル。ΔΔCt法を用いて相対定量を測定した。AASSの発現レベルをGAPDHに対して正規化した。各サンプルをトリプリケートで分析した。
【0123】
【0124】
定量及び統計解析
両側独立スチューデントのt検定(GraphPad Prism 8ソフトウェア)を用いてデータを分析した。複数の群を比較する場合、一元配置分散分析検定を行った。p<0.05を有意であるとみなした。データは、平均±SEMとして提示する。
【0125】
結果
AASS mRNAの発現
ALDH7A1欠損線維芽細胞において、AASS特異的アンチセンスオリゴヌクレオチドによる処理のAASS mRNA発現に対する効果を評価した。結果を
図4に示す。LNA修飾及びMOE修飾のアンチセンスオリゴヌクレオチドはいずれもAASS mRNAの発現を低下させた。具体的には、LNA修飾アンチセンスオリゴヌクレオチドはAASSを抑制し(p<0.05)、AON4及びAON6が最も劇的な効果を有していた(p=0.0001)(
図4(a))。MOE修飾AON4及びAON6(それぞれ20merの形態、それぞれAON7とAON8に対応)もAASSを有意に減少させた(p=0.0001)(
図4(b))。
【0126】
AASA代謝物の定量
質量分析法を用いて線維芽細胞内のAASAを測定することにより、ALDH7A1の欠損を機能的にアッセイすることができる。AASAはALDH7A1の代謝物であり、ALDH7A1が欠損するとAASAが蓄積し得る。このことは、ALDH7A1患者及び健常対照由来の線維芽細胞で行った質量分析の結果を示す
図5で確認される。健常対照由来の線維芽細胞ではAASAは検出されなかったが、ALDH7A1欠損患者由来の線維芽細胞ではAASAの蓄積が実証された。
【0127】
AASSによって駆動されるAASAの産生に対するアンチセンスオリゴヌクレオチド処理の効果について調べるため、患者の線維芽細胞をAASS特異的アンチセンスオリゴヌクレオチド又は対照アンチセンスオリゴヌクレオチドで処理した。
図6に示す通り、a)患者1(P1)及びb)患者3(P3)由来の線維芽細胞におけるAASAレベルは、MOEケミストリーにおけるAON4による処理によって有意に低下した(それぞれp=0.0082及びp=0.0008)。同様に、MOEケミストリーにおけるAON6もP3のAASAレベルを低下させた(p=0.0007)。上述のように、MOEケミストリーではギャップマーの長さは20merであった(すなわち、AON7はMOEケミストリーのAON4として使用され、AON8はMOEケミストリーのAON6として使用された)。
【0128】
従って、リジン分解のサッカロピン経路における下流酵素の障害によって引き起こされる代謝物の蓄積を防止又は最小化するために、AASS特異的アンチセンスオリゴヌクレオチドを使用することができる。
【0129】
実施例2
ヒトAASS及びマウスAassを標的とする更なるAONの設計
AASS遺伝子の特定の領域、すなわちエクソン8/エクソン9に対して、3つの新たなMOE修飾アンチセンスオリゴヌクレオチド(MOE7、MOE8、及びMOE9)を設計した。AASS遺伝子の発現が最も大きく阻害されるのは、この領域を標的とした場合である。遺伝子のこの領域のヒト及びマウスのDNA配列は類似している。MOE7、MOE8、及びMOE9は、表1に示す通りである。
【0130】
【0131】
ヒトALDH7A1欠損線維芽細胞におけるAASS mRNA発現のノックダウンに対するAONの有効性
5つのALDH7A1欠損患者線維芽細胞株において、以下のAONの効力を調べた:
- MOE4(MOEケミストリーにおけるAON4であり、20merの形態である、すなわち、MOEケミストリーにおけるAON7である);
- MOE6(MOEケミストリーにおけるAON6であり、20merの形態である、すなわち、MOEケミストリーにおけるAON8である);
- MOE7
- MOE8
- MOE9。
【0132】
リポフェクタミン2000を用いたトランスフェクションの24時間後にq-RT-PCRによってAASS mRNAの発現レベルを測定することにより、効力を調べた。試験したAONは全て、
図7に示すように発現レベルを有意に低下させ、最大98%の抑制が達成された。
【0133】
ヒトGCDH欠損線維芽細胞(グルタル酸尿症)におけるAASS mRNA発現のノックダウンに対するAONの有効性
リポフェクタミン2000を用いたトランスフェクションの24時間後にq-RT-PCRによってAASS mRNAの発現レベルを測定することにより、市販されている2つの患者GCDH欠損線維芽細胞株でも、MOE4、6、7、8、及び9の効果を分析した。MOE4、6、7、8、及び9は、発現を最大90%と有意に阻害することが示された(
図8)。
【0134】
マウス細胞株におけるAass遺伝子発現のノックダウンに対するAONの有効性
Aassの発現を6つのマウス細胞株で分析した(表2)。これら株のうち5株では、Aassの発現が低すぎて、AON処理後のAassノックダウンについて信頼できる結果が得られなかった。しかし、Aassがはるかに高いレベルで発現しているマウス線維芽細胞上皮細胞株3T3-J2では、AONの効果を調べることが可能であった。リポフェクタミン3000を用いたトランスフェクションの24時間後にq-RT-PCR法によってAASS mRNAの発現レベルを測定することにより、Aassの発現を最も大きく阻害したのはMOE8であることが明白であり、約85%のノックダウンが達成された(
図9)。
【0135】
【0136】
*Ct値が低いほど、標的核酸の量が多い。Ct値≧29は核酸が豊富に存在することを示し、一方、30~34のCt値は、標的核酸の量が少ないか又は中程度である弱い陽性反応であるとみなされる。
【0137】
GA1欠損患者線維芽細胞におけるAONの効果を測定するための機能的アッセイの開発
グルタル酸尿症1型(GA1)は、リジン及びヒドロキシリジンの代謝に関与する酵素であるグルタリル-CoAデヒドロゲナーゼ(GCDH)の欠損によって引き起こされる。GCDHにおける変異の結果、グルタル酸(GA)、3-OH-グルタル酸(3-OH-GA)、グルタコン酸、及びグルタリルカルニチン(C5DC)が蓄積する。C5DCを測定するための質量分析法が確立されている(
図10)。これを用いて、GA1欠損患者線維芽細胞に対するAONの効果を機能的に評価する。
【0138】
HEPG2ヒト肝細胞におけるAASSの発現レベル
AONをN-アセチルガラクトサミン(GalNAc)とコンジュゲートさせ、その後アシアロ糖タンパク質受容体(ASGR)に選択的に取り込ませることにより、肝臓細胞(肝細胞)へのAONの標的送達が達成される。取り込みに対するGalNAcコンジュゲーションの効果を調べる前に、ヒトHepG2肝細胞株におけるAASSの発現レベルを評価するための試験を行った。継代回数が発現レベルに影響するかどうかを調べるため、ほんの数回しか継代していない細胞株(p=14)及びかなり多い回数継代した細胞株(p=78)を調べた。継代回数は、AASSの発現レベルには影響を及ぼさなかった(表3)。
【0139】
【0140】
AONによるHEPG2細胞のトランスフェクション
リポフェクタミン3000トランスフェクション試薬を用いたことを除いて先のヒト線維芽細胞の研究で用いたのと同じ方法を用いてHEPG2細胞をトランスフェクションした後、非コンジュゲートAONであるMOE4、6、及び8の効力を評価した。AASS mRNA発現の有意な低下が達成されたが(
図11)、このアプローチを用いても、患者線維芽細胞でみられたほどの大きな低下を達成することはできなかった。これは、単層で成長する線維芽細胞とは異なりHepG2細胞はクラスター状に又は互いに重なり合って成長することによりトランスフェクション効率が低下したためである可能性が高い。トランスフェクションを改善するため、逆トランスフェクション法を採用したが、それは、細胞がプレートに接着する前にトランスフェクションを行うことができるためである。
【0141】
HepG2細胞の逆トランスフェクションの条件を最適化し、q-RT-PCRを用いて非コンジュゲートAON4、6、及び8の有効性を分析した(
図12;n=3)。
【0142】
濃度範囲(10nM、50nM、100nM)に対する用量応答を行った。結果を
図13に示す。対応する対照(モック処理)に対するMOE4、6、及び8の最大半量阻害濃度(IC50)は、それぞれ1.42nM、4.308nM、及び8.86nMであった(
図14)。
【0143】
方法
患者細胞株
実施例1と同様に皮膚生検から線維芽細胞株及び健常対照株を樹立した。2つのGCDH欠損線維芽細胞株をCoriell Instituteから購入した(カタログID:GM16393及びGM16394)。
【0144】
細胞培養
全てのヒト患者及び対照の線維芽細胞、マウス上皮線維芽細胞(3T3 J2)及びHepG2細胞を、10%熱不活性化ウシ胎児血清(FBS)(Gibco-10500064)、100U/mLペニシリン、及び100μg/mLストレプトマイシン(ThermoFisher-15140122)を補給したダルベッコ変法イーグル培地(DMEM)(ThermoFisher-41965039)中において、37℃及び5%CO2で成長させた。約75~80%のコンフルエントに達した時点で細胞を分割した。
【0145】
アンチセンスオリゴヌクレオチド(AON)の設計
AASS(α-アミノアジピン酸セミアルデヒド合成酵素)を標的とするAON 2’-O-メトキシ-エチル(MOE)(Eurogentec)ケミストリーを有するAONを設計し、商業的に合成した。AONは、
- MOE4(MOEケミストリーにおけるAON4であり、20merの形態である、すなわち、MOEケミストリーにおけるAON7である-配列番号32);
- MOE6(MOEケミストリーにおけるAON6であり、20merの形態である、すなわち、MOEケミストリーにおけるAON8である-配列番号33);
- MOEケミストリーにおけるMOE7(配列番号40)
- MOEケミストリーにおけるMOE8(配列番号41)
- MOEケミストリーにおけるMOE9(配列番号42)
を含む。
【0146】
線維芽細胞株へのAON処理
実施例1と同様にAON処理を行った。
【0147】
HepG2及び3T3 J2細胞株の逆トランスフェクション
Opti-MEM培地と共にトランスフェクション試薬としてリポフェクタミン3000(ThermoFisher-L3000001)を用いた。細胞をカウントし、6ウェルプレート当たり5×105個の密度で線維芽細胞成長培地(1.6mL)中に回収した。200μLのOpti-MEM培地中6μLのリポフェクタミン、及び200μLのOpti-MEM培地中所望の濃度のAONを調製し、リポフェクタミン及びAONの両方を混合し、15分間インキュベートした。次の工程では、細胞及びAONを混合し、製造業者の指示に従って24時間トランスフェクションを行った。各実験につき、リポフェクタミンのみで処理した細胞株、すなわちモック対照、いかなるmRNAにも結合しないスクランブル配列を有するAONで処理した患者細胞株、及び線維芽細胞成長培地のみで処理した細胞株、すなわちブランク対照の3つの対照を使用した。
【0148】
RNAの抽出
Qiagen mini-RNA kit(Qiagen-74134)を用いて細胞から全RNAを抽出し、Agilent 2100 BioAnalyzerを用いてRNAの完全性を評価し、RNA品質管理のためのRIN(RNA完全性番号)スコアを決定した。RNAの純度が良好なサンプルのみを研究に含めた。
【0149】
RT-PCRのためのcDNA合成
SuperScript(商標)IV VILO Master Mix(ThermoFisher-11756050)を用いて、製造業者の指示に従って、500ngの全RNAをcDNA合成に使用した。
【0150】
定量リアルタイムPCR(RT-PCR)分析
Power SYBR(商標)Green PCR Master Mix(ThermoFisher-4368577)を用いて定量リアルタイムPCR解析を行った。
ヒトAASS及びGAPDH並びにマウスAass及びHprt1遺伝子に最適化したプライマーを以下に列挙する。実施例1に記載の通り定量リアルタイムPCRを行うために、StepOne(商標)リアルタイムPCRシステム(Applied Biosystems)を用いた。AASS/Aass発現レベルを正規化するために、内因性対照又は参照遺伝子としてGAPDH/Hprt1を用いてΔΔCt法によって相対定量を測定した。各サンプルを少なくとも3回試験した。
【0151】
【0152】
質量分析による代謝物分析のための細胞の収集及び調製
接着細胞を収集し、実施例1に記載の通り代謝物分析用に調製した。
【0153】
液体クロマトグラフィー質量分析法(LC-MS/MS)によるAASAの分析
実施例1に記載の通り、LC-MS/MSによってAASAを分析した。
【0154】
LC-MS/MSを用いたグルタリルカルニチン(C5DC)の分析
酢酸アンモニウム、ギ酸、及びアセトニトリルは、HPLCグレードのものであり、Sigma-Aldrichから購入した。非標識内部標準物質であるC5DC(純度98%)は、CDN isotopes(Quebec,Canada)から購入した。
【0155】
グルタリルカルニチンのLC-MS/MS分析
Waters Xevo TQ-S質量分析計に接続したWaters Acquity UPLCを用いた親水性相互作用液体クロマトグラフィー(HILIC)-質量分析計(MS)を用いることによって、グルタリルカルニチンの定量を行った。10mM酢酸アンモニウム+0.2%ギ酸の移動相A及び90%アセトニトリルの移動相Bを用い、流速500uL/分でAcquity UPLC BEH Amideカラム1.7μmにおいて50μMの未標識C5DC 5μLを分析した。以下のパラメーターを用いて、ポジティブイオンモードで多重反応モニタリングによりC5DCを検出した:C5DCm/z 276.2>84.9(コーン電圧=30V、コリジョン電圧20V)。
【配列表】
【国際調査報告】