(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-01-31
(54)【発明の名称】スピンフィルターを使用して培養物の培養培地を交換する方法
(51)【国際特許分類】
C12N 5/00 20060101AFI20240124BHJP
C12N 1/00 20060101ALI20240124BHJP
C12N 5/0797 20100101ALI20240124BHJP
C12N 5/074 20100101ALN20240124BHJP
C12N 5/0775 20100101ALN20240124BHJP
C12N 5/0789 20100101ALN20240124BHJP
C12N 5/095 20100101ALN20240124BHJP
C12M 1/00 20060101ALN20240124BHJP
C12N 5/10 20060101ALN20240124BHJP
【FI】
C12N5/00
C12N1/00 A
C12N5/0797
C12N5/074
C12N5/0775
C12N5/0789
C12N5/095
C12M1/00 D
C12N5/10
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023544030
(86)(22)【出願日】2022-01-21
(85)【翻訳文提出日】2023-07-20
(86)【国際出願番号】 EP2022051314
(87)【国際公開番号】W WO2022157291
(87)【国際公開日】2022-07-28
(32)【優先日】2021-01-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522163724
【氏名又は名称】ザルトリウス ステディム バイオテック ゲーエムベーハー
(71)【出願人】
【識別番号】522164514
【氏名又は名称】リペアオン ゲーエムベーハー
(74)【代理人】
【識別番号】100102978
【氏名又は名称】清水 初志
(74)【代理人】
【識別番号】100205707
【氏名又は名称】小寺 秀紀
(74)【代理人】
【識別番号】100160923
【氏名又は名称】山口 裕孝
(74)【代理人】
【識別番号】100119507
【氏名又は名称】刑部 俊
(74)【代理人】
【識別番号】100142929
【氏名又は名称】井上 隆一
(74)【代理人】
【識別番号】100148699
【氏名又は名称】佐藤 利光
(74)【代理人】
【識別番号】100188433
【氏名又は名称】梅村 幸輔
(74)【代理人】
【識別番号】100128048
【氏名又は名称】新見 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100129506
【氏名又は名称】小林 智彦
(74)【代理人】
【識別番号】100114340
【氏名又は名称】大関 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100214396
【氏名又は名称】塩田 真紀
(74)【代理人】
【識別番号】100121072
【氏名又は名称】川本 和弥
(74)【代理人】
【識別番号】100221741
【氏名又は名称】酒井 直子
(74)【代理人】
【識別番号】100114926
【氏名又は名称】枝松 義恵
(72)【発明者】
【氏名】ハウプト ルイス
(72)【発明者】
【氏名】フップフェルド ジュリア
【テーマコード(参考)】
4B029
4B065
【Fターム(参考)】
4B029AA02
4B029BB11
4B029CC01
4B029CC02
4B029DA03
4B029DF05
4B029DG06
4B029HA06
4B065AA90X
4B065AB01
4B065AC17
4B065BC01
4B065BC25
4B065BC42
4B065BD18
4B065CA44
(57)【要約】
本発明は、懸濁培養物交換培養培地中で細胞凝集物として培養された幹細胞を拡大する方法、およびスピンフィルター装置などの回転メッシュの使用において特徴付けられる当該細胞に対する培地交換方法に関する。本発明は、幹細胞の懸濁培養物における培地交換のための回転メッシュの使用にさらに関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
幹細胞を拡大する方法であって、幹細胞が懸濁培養物中の細胞凝集物に含まれ、方法が以下:
(i)幹細胞の増殖を可能にする条件下で幹細胞を培養する工程;および
(ii)回転メッシュを通過する灌流によって培地交換を行う工程
を含む、方法。
【請求項2】
懸濁培養物の培養培地を交換する方法であって、懸濁培養物が、培養培地中に懸濁された幹細胞の細胞凝集物を含み、方法が以下:
(i)回転メッシュを通過する灌流によって培地交換を行う工程;および
(ii)任意で、回転メッシュを通過して除去された培地を新鮮な培地と取り替える工程
を含む、方法。
【請求項3】
幹細胞がバイオリアクターの中で培養され、バイオリアクターが、好ましくは、攪拌バイオリアクター、ロッキングモーションバイオリアクター、および/またはマルチパラレルバイオリアクターである、前記請求項のいずれか一項記載の方法。
【請求項4】
培地交換がバイオリアクター内で行われる、前記請求項のいずれか一項記載の方法。
【請求項5】
回転メッシュがスピンフィルターであり、任意で、スピンフィルターがバイオリアクターのスターラーまたは撹拌棒に取り付けられている、前記請求項のいずれか一項記載の方法。
【請求項6】
培地交換がバイオリアクター外で行われ、好ましくは、閉鎖系を形成するように、回転メッシュを収容する装置がバイオリアクターと流体でつなげられている、請求項1~3または5のいずれか一項記載の方法。
【請求項7】
回転メッシュが、約1μm~約50μm、約5μm~約50μm、約10μm~約50μm、約5μm~約40μm、約5μm~約30μm、約5μm~約20μm、または約5μm~約15μm、好ましくは約10μmの孔径を有する、前記請求項のいずれか一項記載の方法。
【請求項8】
細胞凝集物が約50~約300μm、約80~約250μm、約100~約220μm、または約100μm~約200μmの平均直径を有する、前記請求項のいずれか一項記載の方法。
【請求項9】
幹細胞が、多能性幹細胞、臍帯血幹細胞、間葉系幹細胞、および/もしくは造血幹細胞;ならびに/または幹細胞に由来する細胞であり、多能性幹細胞が、好ましくは、人工多能性幹細胞(iPSC)、胚性幹細胞(ESC)、単為発生幹細胞(pPSC)、または核移植由来PSC(ntPSC)であり、最も好ましくはiPSCである、前記請求項のいずれか一項記載の方法。
【請求項10】
幹細胞が、TC-1133、GibcoのヒトエピソームiPSC株、ATCC ACS-1004、ATCC ACS-1021、ATCC ACS-1025、ATCC ACS-1027、ATCC ACS-1030からなる群より選択される、前記請求項のいずれか一項記載の方法。
【請求項11】
懸濁培養物における培地交換のための回転メッシュの使用であって、懸濁培養物が、培養培地中に懸濁された細胞凝集物を含み、前記細胞が幹細胞である、使用。
【請求項12】
幹細胞が、多能性幹細胞、臍帯血幹細胞、間葉系幹細胞、および/もしくは造血幹細胞;ならびに/または幹細胞に由来する細胞であり、多能性幹細胞が、好ましくは、人工多能性幹細胞(iPSC)、胚性幹細胞(ESC)、単為発生幹細胞(pPSC)、または核移植由来PSC(ntPSC)であり、最も好ましくはiPSCである、請求項11記載の使用。
【請求項13】
幹細胞が、TC-1133、GibcoのヒトエピソームiPSC株、ATCC ACS-1004、ATCC ACS-1021、ATCC ACS-1025、ATCC ACS-1027、ATCC ACS-1030からなる群より選択される、請求項11または12記載の使用。
【請求項14】
細胞凝集物が、好ましくは、約50~約300μm、約80~約250μm、約100~約220μm、または約100μm~約200μmの平均直径平均直径を有する、請求項11~13のいずれか一項記載の使用。
【請求項15】
回転メッシュがスピンフィルターであり、任意で、スピンフィルターがバイオリアクターのスターラーまたは撹拌棒に取り付けられている、請求項11記載の使用。
【請求項16】
回転メッシュが、約1μm~約50μm、約5μm~約50μm、約10μm~約50μm、約5μm~約40μm、約5μm~約30μm、約5μm~約20μm、または約5μm~約15μm、好ましくは約10μmの孔径を有する、請求項11または15記載の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本願は、2021年1月21日に出願された欧州特許出願番号21152729.6の優先権の恩典を主張する。欧州特許出願番号21152729.6の内容は、その全体が、全ての目的のために本明細書に参照により組み入れられる。
【0002】
発明の技術分野
本開示は、懸濁培養物交換培養培地中で細胞凝集物として培養された幹細胞を拡大する方法、およびスピンフィルター装置などの回転メッシュ(rotating mesh)の使用において特徴付けられる培地交換方法に関する。さらに、本開示は、幹細胞の懸濁培養物における培地交換のための回転メッシュの使用に関する。
【背景技術】
【0003】
背景
基礎研究では、多量の細胞に対する需要は小さく、通常、PSC、iPSC、およびiPSC由来細胞は付着細胞培養物として増殖される。この場合、細胞は培養ディッシュの表面に付着し、コロニーまたは単層として増殖する。しかしながら、iPSCの付着細胞培養は、臨床用途に必要とされる多量の細胞を作製するには適していない。これは、付着細胞培養が材料集約的かつ労働集約的だからである。さらに、細胞生産の結果と品質は操作者に大きく左右される。なぜなら、通常、このプロセスは自動化されておらず、十分にモニタリングおよび管理されないからである。
【0004】
バイオリアクターシステムを使用すると多量のPSC、iPSC、およびiPSC由来細胞の生産が可能になることが報告されている(Kropp et al., 2017)。これらのシステムでは、通常、iPSCおよびiPSC由来細胞はディッシュの表面に付着せず、自由に浮遊する懸濁液の中で増殖される。なぜなら、PSCは懸濁液中で培養されると凝集物を形成するからである。バイオリアクターシステムの中での懸濁培養は、細胞数が多くても、培養のモニタリング、管理、および自動化が可能であり、必要とされる材料と作業量が少ないので付着培養よりも効率的だと言われる。重要なことに、これらの理由から、GMPによって管理される用途には、バイオリアクターシステムの使用が、静置培養よりも好ましいだろう。PSCを懸濁培養するために様々なバイオリアクターシステムが報告されおり、攪拌タンクリアクター(STR)システムが、最も良く述べられているシステムである。STRシステムにおいて多数のiPSCとiPSC-CMを首尾良く作製できることが示された(Chen et al., 2012; Halloin et al., 2019; Hemmi et al., 2014; Jiang et al., 2019; Kempf et al., 2015; Kropp et al., 2016)。
【0005】
PSC、iPSC、およびiPSC-CMの大規模生産にはバイオリアクターシステムが有利であるのにもかかわらず、懸濁培養は、いくつかの新たな課題を生み出した。例えば、懸濁培養物における培養培地の交換は、付着細胞培養物における培養培地の交換よりも複雑である。これは、使用済み培地が除去されている間に細胞が失われないように、PSCが培養物中に保持されなければならないからである。培地交換用のSTRでは反復バッチフィーディング戦略が述べられることが多い(Kropp et al., 2017)。この場合、撹拌は止められ、細胞凝集物は容器の下部に沈殿する。その後、沈殿した凝集物を乱すことなく培地は廃棄される。新鮮な培地が添加され、撹拌は続けられる。この戦略は、沈殿した凝集物の融合を引き起こすことがあり、それによって、iPSCの自発的な分化を引き起こすことがある。凝集物融合の程度は、撹拌のない期間に左右される。特に大規模システムでは反復バッチフィーディング戦略は多量の融合凝集物の原因となる可能性が高い。なぜなら、容器の高さと共に沈殿時間が増加し、大きな体積の培地を交換するのに時間もかかる場合があるからである。さらに、多量の培地を一度で交換すると、pH、酸素濃度、ならびに代謝産物、栄養分、およびシグナル伝達因子の濃度などの培養パラメータが急変する。これにより、PSCに対してさらなるストレスが加わり、その結果、増殖が遅くなる可能性がある。
【0006】
従って、幹細胞を含む懸濁培養物の培養培地を交換する方法、または幹細胞を含む懸濁培養物の細胞を拡大する方法であって、特に、システムから細胞または凝集物を取り出すことなく、沈降および/または遠心分離に関連したストレスに細胞を長期間曝露することなく全プロセスを行うことができる、幹細胞を含む懸濁培養物の培養培地を交換する方法、または幹細胞を含む懸濁培養物の細胞を拡大する方法が依然として必要とされている。本発明は、この必要性に対処することを目的とする。
【発明の概要】
【0007】
この問題は、特許請求の範囲において定義される保護対象によって解決される。幹細胞を拡大する方法であって、幹細胞が懸濁培養物中の細胞凝集物に含まれる、方法;懸濁培養物の培養培地を交換する方法であって、懸濁培養物が、培養培地中に懸濁された幹細胞の細胞凝集物を含む、方法;および懸濁培養物における培地交換のための本明細書において定義される回転メッシュの使用であって、懸濁培養物が、培養培地中に懸濁された細胞凝集物を含む、使用、が本明細書において示される。
【0008】
従って、本発明は、幹細胞を拡大する方法であって、幹細胞が懸濁培養物中の細胞凝集物に含まれ、方法が以下:
(i)幹細胞の増殖を可能にする条件下で幹細胞を培養する工程;および
(ii)回転メッシュを通過する灌流によって培地交換を行う工程
を含む、方法に関する。
【0009】
さらに、本発明は、懸濁培養物の培養培地を交換する方法であって、懸濁培養物が、培養培地中に懸濁された多能性幹細胞の細胞凝集物を含み、方法が以下:
(i)回転メッシュを通過する灌流によって培地交換を行う工程;および
(ii)任意で、回転メッシュを通過して除去された培地を新鮮な培地と取り替える工程
を含む、方法に関する。
【0010】
さらに、本発明は、懸濁培養物における培地交換のための本明細書において定義される回転メッシュの使用であって、懸濁培養物が、培養培地中に懸濁された細胞凝集物を含み、前記細胞が幹細胞である、使用に関する。
【0011】
前記細胞はバイオリアクターの中で培養されてもよく、バイオリアクターは、好ましくは、攪拌バイオリアクター、ロッキングモーションバイオリアクター、および/またはマルチパラレルバイオリアクターである。
【0012】
培地交換はバイオリアクター内で行われてもよい。
【0013】
回転メッシュはスピンフィルターでもよく、任意で、スピンフィルターはバイオリアクターのスターラーまたは撹拌棒に取り付けられている。
【0014】
培地交換はバイオリアクター外で行われてもよく、好ましくは、閉鎖系を形成するように、回転メッシュを収容する装置がバイオリアクターと流体でつなげられている。
【0015】
回転メッシュは、約1μm~約50μm、約5μm~約50μm、約10μm~約50μm、約5μm~約40μm、約5μm~約30μm、約5μm~約20μm、または約5μm~約15μm、好ましくは約10μmの孔径を有してもよい。
【0016】
細胞凝集物は、約50~約300μm、約80~約250μm、約100~約220μm、または約100μm~約200μmの平均直径を有してもよい。
【0017】
幹細胞は、多能性幹細胞、臍帯血幹細胞、間葉系幹細胞、および/もしくは造血幹細胞;ならびに/または幹細胞に由来する細胞でもよい。多能性幹細胞は、好ましくは、人工多能性幹細胞(iPSC)、胚性幹細胞(ESC)、単為発生幹細胞(pPSC)または核移植由来PSC(nuclear transfer derived PSC)(ntPSC)であり、最も好ましくはiPSCである。幹細胞は、好ましくは、TC-1133、GibcoのヒトエピソームiPSC株、ATCC ACS-1004、ATCC ACS-1021、ATCC ACS-1025、ATCC ACS-1027、ATCC ACS-1030からなる群より選択される。
【0018】
本発明は、非限定的な実施例および添付の図面と共に考慮された時に詳細な説明に関連してより深く理解される。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】iPSC懸濁培養物と廃棄培地の光学顕微鏡画像を示す。廃棄培地は細胞保持装置として回転メッシュ、ここでは例示的にスピンフィルターを用いて吸引された。
図1Aは、継代0の懸濁培養物の試料を示す。これに対して、
図1Bは、同じ継代の廃棄培地の試料を示す。
図1Cは、継代1の凝集物懸濁培養物の試料を示し、凝集物は多様な寸法を示す。これに対して、
図1Dは、同じ継代の廃棄培地の試料を示す。これにより、効率的なフィルター能力が証明された。スケールバー:400μm。
【
図2】回転メッシュを用いて灌流された2つの異なるUniVesselサイズ(0.5Lおよび2L)における、様々な培養日のPSC細胞凝集物の凝集物サイズを示す。
【
図3】回転メッシュを用いて灌流されたUniVessel2L(容器2)で培養された継代0の4日目のiPSCにおける多能性関連遺伝子の発現を示す。
【
図4】回転メッシュを用いて灌流されたUniVessel0.5L(容器3)で培養された継代0の4日目のiPSCにおける多能性関連遺伝子の発現を示す。
【発明を実施するための形態】
【0020】
発明の詳細な説明
本発明が以下において詳述され、添付の実施例および図面でもさらに例示される。
【0021】
バイオリアクター内にある懸濁培養物、特に、幹細胞凝集物の懸濁培養物の自動培地交換は依然として難しい問題である。手操作による培地交換は、例えば、細胞の遠心分離を含み、通常、懸濁培養物の少なくとも一部をバイオリアクターから移すことを伴う。この機械的刺激は、幹細胞の望まない分化など細胞生存率または機能に悪影響を及ぼすことがある(Lipsitz et al. 2018)。バイオリアクター内にある懸濁培養物を自動培地交換(「容器沈殿」)するさらなる可能性の1つは、攪拌を止め、バイオリアクターの底面に細胞を沈殿させることである。次いで、上清を吸引し、新鮮な培地と取り替えることができる。しかしながら、こうすることで細胞の機械的刺激も起こり、不規則な増殖と多能性の消失につながることがある。この問題は本発明の方法によって克服される。
【0022】
回転メッシュ、例えば、スピンフィルター細胞保持装置を使用すると細胞培養物との干渉を最小限にしながら灌流培地を交換することが可能になる。これは、GMPによって導かれるプロセスには特に望ましい。直接、培養容器の中で、驚くべきことに幹細胞を全く乱すことなく幹細胞凝集物から使用済み培地を分離することができる。対照的に、他の細胞保持装置の適用には、多くの場合、細胞懸濁液を培養容器から移す必要がある。このように培養容器から取り出すと、剪断応力が増加し、凝集物が融合し、細胞環境が短期間で変化するために幹細胞の品質が低下する可能性が高い。さらに、外部装置が操作される必要があり、プロセス中のエラーのさらなる原因である。マイクロスパージャー(microsparger)を細胞保持装置として適用することが述べられており、前記で説明されたような同様の利点が提唱されている。しかしながら、マイクロスパージャーは細胞保持装置として適用されるように設計されておらず、簡単に詰まり、それによって懸濁培養の失敗の原因となる可能性がある。これは、マイクロスパージャーの表面が小さく、フィルターが吸引チューブのすぐ前にあるからである。さらに、懸濁培養物の中にある凝集物がマイクロスパージャーに吸引されたら静的なマイクロスパージャーに活発に付着することがある。他方で、スピンフィルターの表面積は大きいので、スピンフィルターの目詰まりのリスクは小さい。スピンフィルター装置の回転運動によって目詰まりのリスクはさらに低下する。
【0023】
実施例1および実施例2に示したように、細胞保持装置として回転メッシュを適用すると、多能性幹細胞の細胞凝集物を完全な形で維持しながら、同時に破片と死細胞を簡単に除去することができる。上記のように幹細胞は剪断応力に対して感受性があるために、幹細胞を傷つけることなく、培地交換のために回転メッシュを用いて灌流懸濁培養物中で幹細胞凝集物も培養できることは驚くべきことであった。
【0024】
従って、本発明は、幹細胞を拡大する方法であって、幹細胞が懸濁培養物中の細胞凝集物に含まれ、方法が以下:
(i)幹細胞の増殖を可能にする条件下で幹細胞を培養する工程;および
(ii)回転メッシュを通過する灌流によって培地交換を行う工程
を含む、方法に関する。
【0025】
さらに、本発明は、懸濁培養物の培養培地を交換する方法であって、懸濁培養物が、培養培地中に懸濁された幹細胞の細胞凝集物を含み、方法が以下:
(i)回転メッシュを通過する灌流によって培地交換を行う工程;および
(ii)任意で、回転メッシュを通過して除去された培地を新鮮な培地と取り替える工程
を含む、方法に関する。
【0026】
灌流は、特定のシステムによって細胞を容器の中に保持しながら、リアクターからの培地を新鮮な培地と連続して交換することを特徴とする。灌流は、最高の細胞密度と生産性を可能にする生物製剤生産プロセスのための運転方式である。灌流中の細胞に新鮮な栄養分と増殖因子が常に供給されるという利点に加えて、潜在的に毒性のある廃棄物が洗い流され、それによってリアクター内でより均一な状態が確保される。さらに、反復バッチプロセスと比較して、灌流プロセスはプロセス自動化と、DO(溶存酸素)、pH、および栄養分濃度を含む培養環境のフィードバック制御の改善を支援する。灌流培養を用いると、PSCの内因性因子分泌によるPSCのセフルコンディショニング(self-conditioning)能力も支援する比較的安定した生理学的環境が可能になり、従って、最終的に、高価な培地成分の補給が少なくなる可能性がある。まとめると、灌流培養によって細胞の収率と品質が高くなる。
【0027】
本明細書において用いられる「回転メッシュ」は細胞保持装置に関する。回転メッシュは、死細胞などの破片を含む使用済み培地を懸濁培養物から流出させるが、培養容器中に細胞凝集物を保持するのを可能にする開口部の存在を特徴とする。これは灌流培養の原理でもある。それによって、「使用済みの」培地はバイオリアクターから流出することができる。流出は、培地の流入によって、好ましくは、流出と本質的に等しい速度の培地の流入によって補うことができ、それによって、懸濁培養物に最適な増殖条件が長期間にわたって維持される。回転メッシュは円柱の形をとることが多く、通常、側面に開口部があるが、時として上部および/または下部にも開口部がある。回転メッシュはバイオリアクターのスターラーまたは撹拌棒に取り付けられる場合がある。本明細書に記載の回転メッシュの一例はスピンフィルターである。回転メッシュはプラスチックまたは金属などの任意の適切な材料から作ることができる。好ましい回転メッシュはステンレス鋼で作られる。回転メッシュは好ましくは加圧滅菌可能であるが、(予め滅菌された)使い捨ての回転メッシュの形でも提供することができる。
【0028】
回転メッシュは培養容器を2つの区画、培養培地中に懸濁された細胞凝集物を含む「内部」区画と「外部」区画に分ける。回転メッシュがスターラー上に配置されているバイオリアクターの状況では、「外部」とは回転メッシュの内側区画であり、これから使用済みの培地が除去されるのに対して、「内部」区画とは、回転メッシュの外側にある培養容器部分を意味する。内部区画は、都合よく、使用済みの培地が流出するように設計されている。例示的な回転メッシュはスピンフィルターを備える。スピンフィルターは当業者に公知であり、例えば、WO92/05242に記載されている。回転メッシュはバイオリアクターのインペラー上に取り付けられてもよい。この場合、回転メッシュはバイオリアクターのインペラーと同じ回転速度を有する。当業者は、幹細胞の増殖と、回転メッシュを通る培養培地の灌流に両方とも適した適切な回転速度を決定することができる。代表的なインペラー回転速度は85~140rpmを含む。
【0029】
回転メッシュの孔径は、好ましくは、細胞凝集物の保持を可能にしながら、同時に、(細胞)破片を含む使用済みの培養培地が回転メッシュを通過できるように、または回転メッシュに「灌流」できるように選択される。最適な孔径は、培養される細胞タイプによって変化することがある。一部の例では、回転メッシュは、約1μm~約50μm、約5μm~約50μm、約10μm~約50μm、約5μm~約40μm、約5μm~約30μm、約5μm~約20μm、または約5μm~約15μm、好ましくは約10μmの孔径を有してもよい。これに関連して、幹細胞の懸濁培養が(例えば、バイオリアクター内で)開始した時に、前記細胞は、回転メッシュでは保持されないシングル細胞として存在してもよく、ほんの小さな細胞凝集物として存在してもよいことは注目に値する。初期増殖期の間には、この時も栄養分の需要が依然として低いが、回転メッシュによって懸濁培養物中に保持されるサイズに細胞凝集物が達する前に幹細胞が失われるのを避けるために、回転メッシュを通過する、かつバイオリアクターなどの培養装置から外への液体の流れを開始しないようにすることが望ましい場合がある。
【0030】
本明細書において用いられる「懸濁培養」という用語は、シングル細胞または小さな細胞凝集物が、好ましくは撹拌された増殖培地中で機能および増殖することが可能であり、従って懸濁液が形成される、細胞培養の一種である(化学的定義:「液体中に懸濁された小さな固体粒子」と比較されたい)。これは、細胞が細胞培養容器に付着され、細胞培養容器が細胞外マトリックス(ECM)のタンパク質でコーティングされていることがある付着培養とは対照的である。懸濁培養では、一態様において、ECMのタンパク質は細胞および/または培養培地に添加されない。懸濁培養は、好ましくは、固体粒子、例えば、ビーズ、マイクロスフェア、マイクロキャリア粒子などが本質的に無い。細胞または細胞凝集物は、この状況で固体粒子でない。一態様において、前記細胞はマイクロキャリア(懸濁液)培養物の中にない。
【0031】
本明細書において用いられる「拡大」または「細胞拡大」は、そして「細胞増殖」も、細胞増殖および細胞分裂の結果として細胞数が増加することに関する。
【0032】
本発明の方法において、本発明の方法は、幹細胞を拡大する方法または懸濁培養物の培養培地を交換する方法でもよく、前記細胞はバイオリアクター内で培養されてもよく、言い換えると、培養容器がバイオリアクターでもよく、バイオリアクターは、好ましくは、攪拌バイオリアクター、ロッキングモーションバイオリアクター、および/またはマルチパラレルバイオリアクターである。本明細書において用いられる「リアクター」および「バイオリアクター」という用語は同義で使用することができ、細胞培養のために動的な流体環境を提供するように構成された密閉した培養容器を指す。バイオリアクターは攪拌(stir)および/または攪拌(agitate)されてもよい。攪拌リアクターの例には、攪拌タンクバイオリアクター、ウェーブミックスド/ロッキング(wave-mixed/rocking)バイオリアクター、上下攪拌バイオリアクター(すなわち、ピストン運動を備える攪拌リアクター)、スピナーフラスコ、振盪フラスコ、振盪バイオリアクター、パドルミキサー(paddle mixer)、バーチカルウィール(vertical wheel)バイオリアクターが含まれるが、これに限定されない。攪拌リアクターは約2mL~20,000Lの細胞培養体積を収容するように構成されてもよい。好ましいバイオリアクターの体積は最大50Lでもよい。本発明の方法に適した例示的なバイオリアクターは、Sartorius Stedim Biotechから入手可能なUniVesselバイオリアクターである。バイオリアクターはステンレス鋼または使い捨てバイオリアクターでもよい。バイオリアクターは1個の容器からなってもよく、いくつかのバイオリアクターを並列に備えてもよい。使い捨てバイオリアクターはガラスまたはプラスチックから製造されてもよい。使い捨てバイオリアクターは攪拌タンクバイオリアクターまたはロッキングモーションバイオリアクターでもよい。例:Sartorius STR、RM、UniVessel。培養培地のpHはバイオリアクターによって、好ましくは、CO2供給によって制御されてもよく、6.6~7.6の範囲、好ましくは約7.4に保たれてもよい。
【0033】
バイオリアクターは攪拌バイオリアクター(STR)でもよい。STRは、例えば、Sartorius Stedim Biotechから入手可能であり、BIOSTAT(登録商標)A/B/B-DCU/Cplus/D-DCUを含むが、これに限定されない。バイオリアクターはロッキングモーションバイオリアクター(RM)でもよい。RMは、例えば、Sartorius Stedim Biotechから入手可能であり、BIOSTAT(登録商標)RMおよびBIOSTAT(登録商標)RM TXを含むが、これに限定されない。バイオリアクターはマルチパラレルバイオリアクターでもよい。
【0034】
一部の態様において、バイオリアクター内にある培養容器の体積は約50mL~約20,000Lである。一部の態様において、バイオリアクター内にある培養容器の体積は約50mL~約2,000Lである。一部の態様において、バイオリアクター内にある培養容器の体積は約50mL~約200Lである。一部の態様において、バイオリアクター内にある培養容器の体積は約50mL~約100Lである。一部の態様において、バイオリアクター内にある培養容器の体積は約50mL~約50Lである。一部の態様において、バイオリアクター内にある培養容器の体積は約50mL~約20Lである。一部の態様において、バイオリアクター内にある培養容器の体積は約50mL~約10Lである。一部の態様において、バイオリアクター内にある培養容器の体積は約50mL~約1Lである。一部の態様において、バイオリアクター内にある培養容器の体積は約100mL~約10Lである。一部の態様において、バイオリアクター内にある培養容器の体積は約100mL~約5Lである。一部の態様において、バイオリアクター内にある培養容器の体積は約150mL~約1Lである。一部の態様において、バイオリアクター内にある培養容器の体積は約1L~約1,000Lである。
【0035】
本発明の1つの利点は、細胞を閉鎖系で増殖できること、すなわち、手操作による相互作用も、培養培地外での細胞の相互作用も操作も必要としないことである。従って、培地交換は培養容器内で、またはバイオリアクター内で実施され得る。それによって、連続して培地交換をしている間に、懸濁培養物との手操作による相互作用を最小化または回避しながら細胞凝集物を培養容器/バイオリアクターの中で懸濁培養の状態に保つことができる。
【0036】
しかしながら、ヒトとの相互作用を必要としない閉鎖系が依然として用いられるが、培地交換が(バイオリアクターの)培養容器外で行われる可能性もある。この場合、バイオリアクター外にある装置ハウジングの中に回転メッシュが配置される。細胞凝集物を含む懸濁培養物の液体の流れが装置ハウジングの中に入るように、バイオリアクターの1つの出口が装置ハウジングの「内部」セクションにつなげられる。さらに、装置ハウジングの「内部」セクションからの1つの出口が(バイオリアクターの)培養容器につなげられる。使用済みの培地は回転メッシュを通って灌流され、別の出口を経由して廃棄される。装置ハウジングの中で、またはバイオリアクターそのものの中で廃棄培地を新鮮な培地と取り替えることができる。従って、培地交換はバイオリアクター外で行われてもよく、好ましくは、回転メッシュを収容する装置は、閉鎖系を形成するようにバイオリアクターと流体でつなげられている。
【0037】
本明細書において用いられる「増殖培地」、「培養培地」、または単に「培地」は、微生物、細胞、または小さな植物の増殖を支援するように設計された液体である。異なるタイプの細胞を増殖させるために異なるタイプの培地が用いられる。当業者は、特定の細胞タイプには、どの培養培地が最適かを決定することができる。(バイオリアクター内で)懸濁培養される幹細胞は培養培地中で培養される。幹細胞の拡大を可能にする、すなわち、「幹細胞の増殖を可能にする条件」の一部を規定する培養培地が当業者に公知であり、ほんの数例を挙げると、IPS-Brew、iPS-Brew XF、E8、StemFlex、mTeSR1、PluriSTEM、StemMACS、TeSRTM2、Corning NutriStem hPSC XF Medium、Essential 8 Medium(ThermoFisher Scientific)、StemFit Basic02(Ajinomoto Co. Inc)を含むが、これに限定されない。例示的な1つの例では、培養培地は、Miltenyi Biotec, GermanyからGMPグレードで入手可能なIPS-Brewである。幹細胞の拡大のために条件が適切かどうか決定する別の条件は温度を含む。従って、培養培地の温度は、約30~約50℃、約30~約43℃、約35~約40℃、約36~約38℃、約30~約37℃、約32~約36℃、または約37℃、好ましくは37℃である。幹細胞の増殖を可能にするさらなる条件は、培地のpH、酸素供給、および/または撹拌速度を含んでもよい。
【0038】
本明細書において開示される培養培地を交換する方法は、使用済みの培地を同じ(タイプの)培地と取り替えるのに使用することができる、または、例えば、誘導性プロモーターの制御下で関心対象のタンパク質の分化もしくは発現を誘導するために異なる培地に培地交換するのに使用することもできる。
【0039】
本明細書において概説される時、懸濁培養物中の細胞は好ましくは培養培地中に沈降せず、分散されている。従って、懸濁培養物は好ましくは攪拌される。連続攪拌すると、培養培地/懸濁培養物中の細胞を本質的に均一に分散することができ、幹細胞、特に、iPSCなどのPSCが多能性を維持するのを助けることができる。従って、前記細胞は好ましくは培養培地中で本質的に均一に分散されている。
【0040】
本発明の方法は、一般的に、細胞培養で培養することができるどんな細胞にも、すなわち、付着細胞培養物にも使用することができる。好都合なことに、前記方法は懸濁培養物の培養培地の交換に用いられ、この場合、細胞と培養培地を分離することが最も重要である。これに関連して、「培養培地中に懸濁された」とは、実際に懸濁細胞であるかどうかに関係なく懸濁液中で培養された細胞を指す。従って、付着細胞が培養培地中で懸濁されるのであれば、本発明の方法は付着細胞にも使用することができる。従って、前記細胞は、懸濁液中で培養された付着細胞でもよい。
【0041】
懸濁液中に培養されている、すなわち、培養容器に付着できない付着細胞は細胞凝集物を形成することがある。これはまた、本明細書に記載の使用および方法において培養された幹細胞にも適用される。本明細書において用いられる「凝集物」および「細胞凝集物」という用語は同義で用いられることがあり、複数の細胞、例えば、(人工)多能性幹細胞を指す。この場合、細胞間の結合は細胞間相互作用によって(例えば、互いとの生物学的接着によって)引き起こされる。生物学的接着は、例えば、表面タンパク質、例えば、インテグリン、免疫グロブリン、カドヘリン、セレクチン、または他の細胞接着分子によるものでもよい。例えば、細胞は懸濁液中で自発的に結合し、細胞間接着(例えば、自己集合)を形成し、それによって、凝集物を形成することがある。一部の態様において、細胞凝集物は実質的に均一でもよい(すなわち、概して、同じタイプの細胞を含有してもよい)。他の態様において、細胞凝集物は不均一でもよい(すなわち、複数のタイプの細胞を含有してもよい)。
【0042】
本発明の方法は細胞凝集物に適している。細胞凝集物はサイズが異なってもよい。幹細胞の場合、前記細胞は細胞凝集物を形成し、細胞凝集物は、典型的に、播種の1日後に約50~約150μm、例えば、約100μmの平均直径を有する(実施例2も参照されたい)。従って、初期平均直径は、好ましくは、約50~約150μm、より好ましくは約100μmである。4日後に、細胞凝集物は典型的に約200~約220μmの平均直径を有する(実施例2も参照されたい)。従って、細胞凝集物の最終平均直径は好ましくは約200~約200μmである。この直径の幹細胞凝集物が理想的に解離される。なぜなら、約300μmを上回る直径は、組織/凝集物中心に栄養分と気体が拡散するのを制限するため細胞壊死をもたらす可能性があるからである。最終的に、制御されない分化も、特に、大きな幹細胞凝集物では起こることがある。従って、細胞凝集物は、好ましくは、約180~約250μm、好ましくは約200~約220μm、理想的に約200μmの平均直径を有する時に解離される。従って、細胞凝集物は、約50~約300μm、約80~約250μm、約100~約220μm、または約100μm~約200μmの平均直径を有してもよい。好ましくは、細胞凝集物の平均直径は、約50μm~約220μm、より好ましくは約100μm~約200μmである。細胞凝集物は、約50~800μm、約150~800μm、少なくとも約800μm、少なくとも約600μm、少なくとも約500μm、少なくとも約400μm、少なくとも約300μm、少なくとも約200μm、少なくとも約150μm、約300~500μm、約150~300μm、約50~150μm、約80~100μm、約180~250μm、または約200~250μmの平均直径を有してもよい。
【0043】
前記細胞は、懸濁液中で培養することができる任意の細胞でよく、好ましくは、前記細胞は幹細胞である。多細胞生物において幹細胞は、様々なタイプの細胞に分化し、無限に増殖して、同じ幹細胞をさらに多く産生することができる未分化細胞または部分的に分化した細胞である。幹細胞は、通常、無限に分裂できない前駆細胞(progenitor cell)や、通常、ある細胞タイプへの分化に関係づけられている前駆体細胞(precursor cell)または芽細胞と区別される。従って、幹細胞という用語は多能性(pluripotent)幹細胞だけでなく、多能性(multipotent)(多数の細胞タイプに分化できるが、密接に関連する細胞ファミリーの細胞タイプにしか分化できない)、少能性(oligopotent)幹細胞(リンパ性幹細胞もしくは骨髄性幹細胞などの少数の細胞タイプにしか分化できない)、または単能性(unipotent)幹細胞、例えば、衛星細胞も含む。幹細胞の例には、多能性幹細胞、臍帯血幹細胞、間葉系幹細胞、および/または造血幹細胞、好ましくは多能性幹細胞が含まれるが、これに限定されない。人工多能性幹細胞(iPSC)が特に好ましい。本発明の文脈において、幹細胞はまた、幹細胞に由来する細胞、特に、(i)PSCに由来する細胞にも関連することがある。「幹細胞に由来する細胞」は、身体のあらゆる細胞タイプにもはや分化することができない、分化細胞または特定の細胞タイプに分化した細胞に関する。前記幹細胞に由来する細胞は、本発明の方法および使用において用いられる(多能性)幹細胞に由来する細胞に関し、従って、好ましくは、天然の分化細胞を含まない。PSCなどの幹細胞から出発して異なる細胞タイプに分化するための方法は当業者に公知である。「幹細胞に由来する細胞」は、心臓細胞および/もしくは組織、肝臓細胞および/もしくは組織、腎臓細胞および/もしくは組織、脳細胞および/もしくは組織、膵臓細胞および/もしくは組織、肺細胞および/もしくは組織、骨格筋細胞および/もしくは組織、胃腸細胞および/もしくは組織、ニューロン細胞および/もしくは組織、皮膚細胞および/もしくは組織、骨細胞および/もしくは組織、骨髄、脂肪細胞および/もしくは組織、結合細胞および/もしくは組織、網膜細胞および/もしくは組織、血管細胞および/もしくは組織、ストローマ細胞または心筋細胞に関するものでもよい。心臓組織を作製するための方法はWO2015/025030およびWO2015/040142から公知である。前記細胞はまた、バイオリアクター内で、バイオリアクター外でも、例えば、心筋細胞またはストローマ細胞に分化されてもよい。これらの分化細胞はまた、本発明の方法を利用してバイオリアクター内で培養されてもよい。組織または臓器から得られた細胞は、心臓細胞および/もしくは組織、肝臓細胞および/もしくは組織、腎臓細胞および/もしくは組織、脳細胞および/もしくは組織、膵臓細胞および/もしくは組織、肺細胞および/もしくは組織、骨格筋細胞および/もしくは組織、胃腸細胞および/もしくは組織、ニューロン細胞および/もしくは組織、皮膚細胞および/もしくは組織、骨細胞および/もしくは組織、骨髄、脂肪細胞および/もしくは組織、結合細胞および/もしくは組織、網膜細胞および/もしくは組織、血管細胞および/もしくは組織、ストローマ細胞または心筋細胞から得られてもよい。
【0044】
前記細胞は、哺乳動物、例えば、いくつか例示を挙げてみただけでも、ヒト、イヌ、マウス、ラット、ブタ、非ヒト霊長類、例えば、アカゲザル(Rhesus macaque)、ヒヒ、カニクイザル(cynomolgus macaque)、またはコモンマーモセットの細胞でもよい。好ましくは、前記細胞はヒトである。
【0045】
本明細書において用いられる「多能性幹細胞」(PSC)という用語は、身体のあらゆる細胞タイプに分化することができる細胞を指す。従って、多能性幹細胞は、本質的に全ての組織または臓器に分化するユニークな機会を提供する。現在、最も利用されている多能性細胞は胚性幹細胞(ESC)または人工多能性幹細胞(iPSC)である。多能性幹細胞のさらなる例は単為発生幹細胞(pPSC)または核移植由来PSC(ntPSC)を含む。ヒトESC株は最初にThomsonと共同研究者によって樹立された(Thomson et al.(1998), Science 282:1145-1147)。ヒトESC研究によって、最近、身体の細胞をES様細胞にリプログラミングする新技術の開発が可能になった。山中と共同研究者らが、この技術を2006年と2007年に他に先駆けて開発した(Takahashi & Yamanaka (2006), Cell, 126:663-676、およびTakahashi et al. (2007), Cell, 131(5):861-72)。結果として得られた人工多能性細胞(iPSC)はESCに極めて似た挙動を示し、重要なことに、身体のあらゆる細胞に分化することもできる。従って、一態様において、iPSCという用語はESCを含む。しかしながら、本発明の文脈では、これらの多能性幹細胞は、好ましくは、ヒトの生殖細胞系列遺伝子同一性の改変を伴うプロセス、または産業目的もしくは商業目的でのヒト胚の使用を伴うプロセスを用いて作製されない。好ましくは、多能性幹細胞は霊長類に由来し、より好ましくはヒトに由来する。
【0046】
適切な人工PSCは、例えば、いくつかの供給元の名前を挙げてみただけでも、NIH human embryonic stem cell registry、European Bank of Induced Pluripotent Stem Cells(EBiSC)、Stem Cell Repository of the German Center for Cardiovascular Research(DZHK)、Human Pluripotent Stem Cell Registry (hPSCreg)、またはATCCから入手することができる。人工多能性幹細胞はまた、商業的用途のために、例えば、米国立神経疾患・脳卒中研究所(U.S. National Institute of Neurological Disorders and Stroke)(NINDS)によって運営されており、ヒト細胞資源を広く学術研究者および産業研究者に配布しているNINDS Human Sequence and Cell Repository(https://stemcells.nindsgenetics.org)からも入手可能である。本発明において使用することができる適切な細胞株の例示の1つは、臍帯血幹細胞に由来する人工(未編集(unedited))多能性幹細胞である細胞株TC-1133である。この細胞株は、例えば、NINDS, USAから直接入手することができる。好ましくは、TC-1133はGMPに準拠している。本発明において使用することができる、さらに例示的なiPSC細胞株には、Gibco(商標)のヒトエピソームiPSC株(注文番号A18945、Thermo Fisher Scientific)、またはATTCから入手可能なiPSC細胞株であるATCC ACS-1004、ATCC ACS-1021、ATCC ACS-1025、ATCC ACS-1027、もしくはATCC ACS-1030が含まれるが、これに限定されない。または、リプログラミングの当業者は、公知のプロトコール、例えば、Okita et al,「A more efficient method to generate integration-free human iPS cells」 Nature Methods, Vol.8 No.5, May 2011, 409-411頁、またはLu et al 「A defined xeno-free and feeder-free culture system for the derivation, expansion and direct differentiation of transgene-free patient-specific induced pluripotent stem cells」, Biomaterials 35 (2014) 2816e2826に記載のプロトコールによって適切なiPSC株を容易に作製することができる。
【0047】
前記幹細胞は、TC-1133、GibcoのヒトエピソームiPSC株、ATCC ACS-1004、ATCC ACS-1021、ATCC ACS-1025、ATCC ACS-1027、ATCC ACS-1030からなる群より選択されてもよい。
【0048】
本明細書において説明されるように、本発明において用いられる(人工)多能性幹細胞は、任意の適切な細胞タイプ(例えば、幹細胞、例えば、間葉系幹細胞、もしくは上皮幹細胞、または分化細胞、例えば、線維芽細胞)および任意の適切な供給源(体液または組織)から得ることができる。このような供給源(体液または組織)の例には、いくつか名前を挙げてみただけでも、臍帯血、皮膚、歯肉、尿、血液、骨髄、臍帯の任意の区画(例えば、臍帯の羊膜またはワルトンゼリー)、臍帯-胎盤接合部、胎盤または脂肪組織が含まれる。1つの例示は、例えば、CD34に対して特異的に作られた抗体を用いた磁気細胞分離と、それに続く、Chou et al.(2011), Cell Research, 21:518-529に記載の、リプログラミングによる臍帯血からのCD34陽性細胞の単離である。Baghbaderani et al.(2015), Stem Cell Reports, 5(4):647-659は、細胞株ND50039を作製するために、iPSC作製プロセスが、医薬品の製造管理及び品質管理に関する基準(GMP(good manufacturing practice))の規制に準拠している可能性があることを示す。
【0049】
従って、前記幹細胞は、好ましくは、医薬品の製造管理及び品質管理に関する基準の要件を満たしている。
【0050】
さらに、本発明は、懸濁培養物における培地交換のための本明細書において定義される回転メッシュの使用であって、懸濁培養物が、培養培地中に懸濁された細胞凝集物を含み、前記細胞が幹細胞である、使用に関する。
【0051】
本明細書において用いられる単数形「1つの(a)」、「1つの(an)」、および「その(the)」は、特に文脈によってはっきり示されていない限り複数の言及を含むことに留意する。従って、例えば、「1つの試薬」についての言及は、このような異なる試薬の1つまたは複数を含み、「その方法」についての言及は、本明細書に記載の方法の代わりに改変または使用することができる、当業者に公知の等価な工程および方法についての言及を含む。
【0052】
特に定めのない限り、一連の要素の前にある「少なくとも」という用語は、一連の要素の中にある全ての要素について言及していると理解しなければならない。当業者は、本明細書に記載の本発明の特定の態様に対する多くの均等物を認識するか、または日常的な実験にすぎない実験を用いて突き止めることができる。このような均等物は本発明に包含されることが意図される。
【0053】
「および/または」という用語は、本明細書において用いられる場合は必ず、「および」、「または」、および「前記用語によってつながっている要素の全てまたは他の任意の組み合わせ」の意味を含む。
【0054】
「より小さい」という用語、または同様に「より大きい」という用語は、それに添えられる数値を含まない。
【0055】
例えば、「20より小さい」とは、その示された数(20)よりも小さいことを意味する。同様に、「より大きい」、または「を上回る」とは、その示された数よりも大きい、またはその示された数を上回ることを意味する。例えば、80%より大きいとは、示された数(80%)より大きい、または示された数(80%)を上回ることを意味する。
【0056】
以下の本明細書および特許請求の範囲の全体を通して、特に文脈によって必要とされない限り、「含む(comprise)」という単語ならびに「含む(comprises)」および「含む(comprising)」などの語尾変化は、述べられた整数もしくは工程または整数もしくは工程の集まりを含むことを意味するが、他の任意の整数もしくは工程または整数もしくは工程の集まりを排除することを意味しないことが理解される。本明細書において用いられる「含む(comprising)」という用語は、「含有する(containing)」または「含む(including)」という用語で置換されてもよく、時として、本明細書において用いられる時、「有する(having)」という用語で置換されてもよい。本明細書において用いられる時、「からなる」は、明記されていない要素、工程、または成分を排除する。
【0057】
「を含む(including)」という用語は、「を含むが、これに限定されない」を意味する。「を含む」および「を含むが、これに限定されない」は同義で用いられる。
【0058】
本明細書において用いられる「約(about)」、「約(approximately)」、または「本質的に」という用語は、ある特定の値または範囲の20%以内、好ましくは15%以内、好ましくは10%以内、より好ましくは5%以内を意味する。これはまたそれに添えられる数値も含む。すなわち、「約20」は数値20を含む。
【0059】
本発明は、本明細書に記載の特定の方法論、プロトコール、材料、試薬、および物質などに限定されず、従って、変更することができると理解されるはずである。本明細書において用いられる専門用語は、特定の態様を説明することだけを目的とし、本発明の範囲を限定すると意図されない。本発明の範囲は特許請求の範囲によってのみ定義される。
【0060】
前記にあっても下記にあっても、本明細書の本文全体を通して引用された全ての刊行物(全ての特許、特許出願、科学刊行物、説明書などを含む)は、その全体が参照により本明細書に組み入れられる。本明細書には、先行発明に基づいて本発明がこのような開示に先行する権利がないと認められると解釈されるものは何もない。参照により組み入れられる資料が矛盾するか、または本明細書と一致しない範囲まで、本明細書は、このような資料に取って代わる。
【0061】
本明細書において引用された全ての文書および特許文書の内容は、その全体が参照により組み入れられる。
【実施例】
【0062】
本発明およびその利点をさらに深く理解することは以下の実施例から明らかであり、以下の実施例は例示のためだけに提供される。実施例は、本発明の範囲を限定すると意図されない。
【0063】
実施例1:スピンフィルターを適用するとPSC凝集物の形態を変えることなく自動培地交換することができる
以下の材料および機器(表1を参照されたい)を、製造業者の説明書に従って使用した。
【0064】
【0065】
細胞のみの凝集物の懸濁培養を以下に記載のように行った。細胞を2.5x10+6細胞/mlの濃度で播種し、StemMACS iPS-Brew XF, Basal Medium中で培養した。スピンフィルターを通した灌流による培地交換を2日目に開始した。以下の表2は培養パラメータを示す。
【0066】
【0067】
約0.1~2.2mL/minに対応する、90~140rpmの撹拌速度および5~100%ポンプ速度で使用した時に、スピンフィルターはiPSC凝集物を約70~300μmのサイズで首尾良く保持する。1日に60~100%培地交換率の灌流培地交換が300~500mLの培養体積で首尾良く行われる。使用済み培地はスピンフィルターを用いて除去され、iPSC凝集物を含有せず、シングル細胞と破片しか含有しない(
図1BおよびD)。これに対して、培養物中のiPSC凝集物は典型的な形態を有する(
図1AおよびC)。
【0068】
まとめると、本発明者らは、驚くべきことに、回転メッシュ、ここでは例示的にスピンフィルターを適用してもiPSC凝集物は損なわれず、連続した灌流培養が可能なことを示すことができた。
【0069】
実施例2:スピンフィルターの適用はPSC凝集物の品質に影響を及ぼさない
本発明者らは、PSC細胞凝集物の懸濁培養物の培地交換に対するスピンフィルターの適用可能性を、凝集物サイズ、拡大率、および多能性の点からでもさらに強調するために、0.5Lおよび2LのUniVesselを用いて実施例1に示した実験を繰り返した。
【0070】
材料および方法は実施例1に対応し、表3に概説した以下の培養パラメータを用いた。iPSCを「容器2」(Sartorius UniVessel 2Lの社内名称)と「容器3」(Sartorius UniVessel 0.5Lの社内名称)に入れて培養した。
【0071】
【0072】
凝集物サイズ
継代0の1日目にUniVessel 0.5Lの中にある凝集物は大きく、129μmであった(
図2 エラー!参照元が見つかりません)。継代0の1日目にUniVessel 2Lの中にある凝集物は0.5L容器の中にある凝集物より小さかった。継代0の4日目に両容器の凝集物のサイズは同等であった。
【0073】
拡大率
継代0で培養して4日後の拡大率は0.5L UniVesselと2L UniVesselの両方とも約8倍であった(表4)。
【0074】
【0075】
多能性
多能性関連遺伝子の発現は両容器の接種材料とも高かった(
図3および
図4)。継代0の4日目に2L UniVesselと0.5L UniVessel両方のiPSCが、高い多能性関連マーカー発現を示した。懸濁液中にあるiPSCにおける発現は接種材料における発現と同等であった。
【0076】
分析
実施例2では、iPSCを異なるサイズ(0.5Lおよび2L)の2種類のUniVesselに入れて培養した。両容器で、継代0の4日目に品質の良いiPSCが得られた。従って、本発明の方法を使用すると、望ましい増殖速度と適切な凝集物サイズで望ましい品質が得られる。
【0077】
【国際調査報告】