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特表2024-504335細胞凝集物を含む懸濁培養凝集物中での誘電率測定プローブの適用方法
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  • 特表-細胞凝集物を含む懸濁培養凝集物中での誘電率測定プローブの適用方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-01-31
(54)【発明の名称】細胞凝集物を含む懸濁培養凝集物中での誘電率測定プローブの適用方法
(51)【国際特許分類】
   C12Q 1/02 20060101AFI20240124BHJP
   G01R 27/26 20060101ALI20240124BHJP
   C12N 5/00 20060101ALN20240124BHJP
   C12M 1/00 20060101ALN20240124BHJP
   C12N 5/10 20060101ALN20240124BHJP
【FI】
C12Q1/02
G01R27/26 H
C12N5/00
C12M1/00 D
C12N5/10
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023544032
(86)(22)【出願日】2022-01-21
(85)【翻訳文提出日】2023-07-20
(86)【国際出願番号】 EP2022051300
(87)【国際公開番号】W WO2022157282
(87)【国際公開日】2022-07-28
(31)【優先権主張番号】21152718.9
(32)【優先日】2021-01-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522163724
【氏名又は名称】ザルトリウス ステディム バイオテック ゲーエムベーハー
(71)【出願人】
【識別番号】522164514
【氏名又は名称】リペアオン ゲーエムベーハー
(74)【代理人】
【識別番号】100102978
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 初志
(74)【代理人】
【識別番号】100205707
【弁理士】
【氏名又は名称】小寺 秀紀
(74)【代理人】
【識別番号】100160923
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 裕孝
(74)【代理人】
【識別番号】100119507
【弁理士】
【氏名又は名称】刑部 俊
(74)【代理人】
【識別番号】100142929
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 隆一
(74)【代理人】
【識別番号】100148699
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 利光
(74)【代理人】
【識別番号】100188433
【弁理士】
【氏名又は名称】梅村 幸輔
(74)【代理人】
【識別番号】100128048
【弁理士】
【氏名又は名称】新見 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100129506
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 智彦
(74)【代理人】
【識別番号】100114340
【弁理士】
【氏名又は名称】大関 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100214396
【弁理士】
【氏名又は名称】塩田 真紀
(74)【代理人】
【識別番号】100121072
【弁理士】
【氏名又は名称】川本 和弥
(74)【代理人】
【識別番号】100221741
【弁理士】
【氏名又は名称】酒井 直子
(74)【代理人】
【識別番号】100114926
【弁理士】
【氏名又は名称】枝松 義恵
(72)【発明者】
【氏名】ハウプト ルイス
(72)【発明者】
【氏名】フップフェルド ジュリア
【テーマコード(参考)】
2G028
4B029
4B063
4B065
【Fターム(参考)】
2G028BC07
2G028CG09
4B029AA02
4B029AA11
4B029BB11
4B029CC01
4B029DA01
4B029FA11
4B029GB06
4B063QA01
4B063QQ02
4B063QR55
4B063QS39
4B063QX04
4B065AA90X
4B065AB01
4B065BC01
4B065CA44
(57)【要約】
本開示は、細胞凝集物を含む細胞懸濁液中の細胞密度を測定する方法であって、(i)細胞懸濁液の誘電率を測定する工程;(ii)測定された誘電率を、細胞密度を示す予め決められた値と比較し、それによって、細胞密度を決定する工程を含む、方法に関する。細胞凝集物を含む懸濁細胞培養物の細胞密度を決定するための誘電率プローブについてさらに説明される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞凝集物を含む細胞懸濁液中の細胞密度を測定する方法であって、
(i)細胞懸濁液の誘電率を測定する工程;
(ii)測定された誘電率を、細胞密度を示す予め決められた値と比較し、それによって、細胞密度を決定する工程
を含む、方法。
【請求項2】
測定する工程がバイオリアクターの中で実施される、請求項1記載の方法。
【請求項3】
バイオリアクターが、攪拌バイオリアクター、ロッキングモーションバイオリアクター、および/またはマルチパラレルバイオリアクターである、請求項2記載の方法。
【請求項4】
懸濁培養物の細胞密度がインラインで(リアルタイムで)測定される、請求項2または3記載の方法。
【請求項5】
誘電率の測定が誘電率プローブを用いて実施される、前記請求項のいずれか一項記載の方法。
【請求項6】
誘電率の測定が誘電分光法を用いて実施される、前記請求項のいずれか一項記載の方法。
【請求項7】
細胞が、初代細胞、組織または臓器から得られた細胞、不死化細胞、幹細胞、例えば、多能性幹細胞、または幹細胞に由来する細胞からなる群より選択され、細胞が好ましくは多能性幹細胞であり、細胞が、より好ましくは、人工多能性幹細胞(iPSC)、胚性幹細胞(ESC)、単為発生幹細胞(pPSC)、および核移植由来PSC(ntPSC)からなる群より選択される多能性幹細胞であり、好ましくはiPSCである、前記請求項のいずれか一項記載の方法。
【請求項8】
換算係数が、
(a)参照懸濁培養物の少なくとも2つの、好ましくは少なくとも3つの異なる細胞密度で、誘電率と細胞密度とを測定すること;
(b)参照懸濁培養物の測定された細胞誘電率と細胞密度とを相関させ、それによって、細胞密度を示す予め決められた値を決定すること
によって得られる、前記請求項のいずれか一項記載の方法。
【請求項9】
前記相関が直線的相関を定めるものである、請求項8記載の方法。
【請求項10】
参照懸濁培養物と懸濁培養物が、
(i)同様のもしくは同じ、細胞タイプ、細胞株、組織、もしくは臓器に由来する;
(ii)同じ培養培地を用いて培養されている;および/または
(iii)同様のもしくは同じバイオリアクターの中で培養されている、
請求項8または9記載の方法。
【請求項11】
細胞密度が生細胞密度である、前記請求項のいずれか一項記載の方法。
【請求項12】
細胞凝集物を含む懸濁細胞培養物の細胞密度を決定するための、誘電率プローブの使用。
【請求項13】
細胞密度が生細胞密度である、請求項12記載の使用。
【請求項14】
(i)細胞密度がバイオリアクターの中で決定される;および/または
(ii)細胞が、初代細胞、組織または臓器から得られた細胞、不死化細胞、幹細胞、例えば、多能性幹細胞、または幹細胞に由来する細胞からなる群より選択され、好ましくは、細胞が、多能性幹細胞、より好ましくは人工多能性幹細胞(iPSC)であり、より好ましくは、多能性幹細胞が、人工多能性幹細胞(iPSC)、胚性幹細胞(ESC)、単為発生幹細胞(pPSC)、および核移植由来PSC(ntPSC)からなる群より選択される、請求項12または13記載の使用。
【請求項15】
請求項1~11のいずれか一項記載の方法における、誘電率プローブの使用。
【請求項16】
細胞がマイクロキャリア培養物の中にない、請求項1~11のいずれか一項記載の方法または請求項12~15のいずれか一項記載の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本願は、2021年1月21日に出願された欧州特許出願番号21152718.9の優先権の恩典を主張する。欧州特許出願番号21152718.9の内容は、その全体が、全ての目的のために本明細書に参照により組み入れられる。
【0002】
発明の技術分野
本開示は、細胞凝集物を含む細胞懸濁液中の細胞密度を測定する方法であって、(i)細胞懸濁液の誘電率を測定する工程;(ii)測定された誘電率を、細胞密度を示す予め決められた値と比較し、それによって、細胞密度を決定する工程を含む、方法に関する。細胞凝集物を含む懸濁細胞培養物の細胞密度を決定するための誘電率プローブの使用がさらに説明される。
【背景技術】
【0003】
背景
バイオリアクターシステムを使用すると多量のPSC、iPSC、およびiPSC由来細胞などの付着細胞の生産が可能になることが報告されている(Kropp et al., 2017)。これらのシステムでは、通常、前記細胞は、通常、ディッシュの表面に付着せず、自由に浮遊する懸濁液の中で増殖される。なぜなら、PSCなどの付着細胞は懸濁液中で培養されると凝集物を形成するからである。バイオリアクターシステムの中での懸濁培養は、細胞数が多くても、培養のモニタリング、管理、および自動化が可能であり、必要とされる材料と作業量が少ないので付着培養よりも効率的だと言われる。重要なことに、これらの理由から、GMPによって管理される用途には、バイオリアクターシステムの使用が、静置培養よりも好ましいだろう。PSCなどの付着細胞を懸濁培養するために様々なバイオリアクターシステムが報告されおり、攪拌タンクリアクター(STR)システムが、最も良く述べられているシステムである。STRシステムにおいて多数のiPSCとiPSC-CMを首尾良く作製できることが示された(Chen et al., 2012; Halloin et al., 2019; Hemmi et al., 2014; Jiang et al., 2019; Kempf et al., 2015; Kropp et al., 2016)。
【0004】
付着細胞懸濁培養物中で、pHおよび溶存酸素(DO)などの培養条件をモニタリングすることに加えて、STRを使用すると、細胞培養物そのものの品質もモニタリングすることができる。この目的で、STR用には、細胞をインラインでモニタリングするために、および培養条件を制御するために使用することができるプローブが述べられてきた。細胞濃度が培養物の品質全体を示すので細胞濃度のダイナミクスは重要なパラメータであり、供給と回収を制御するのに用いられる場合がある。インラインプローブを使用しない場合は、定期的にサンプリングし、オフライン測定することでしか細胞濃度を確かめることができない。今までに、細胞凝集物を含む細胞懸濁液に対する細胞密度のインライン測定は述べられたことがない。
【0005】
従って、細胞凝集物を含む細胞懸濁物中で細胞密度を測定する方法が依然として必要とされている。本発明は、この必要性に対処することを目的とする。
【発明の概要】
【0006】
この問題は、特許請求の範囲において定義される保護対象によって解決される。細胞凝集物を含む細胞懸濁液中の細胞密度を測定する方法、細胞凝集物を含む懸濁細胞培養物の細胞密度を決定するための誘電率プローブの使用、および本発明の方法における誘電率プローブの使用が本明細書において示される。
【0007】
従って、本発明は、細胞凝集物を含む細胞懸濁液中の細胞密度を測定する方法であって、
(i)細胞懸濁液の誘電率を測定する工程;
(ii)測定された誘電率を、細胞密度を示す予め決められた値と比較し、それによって、細胞密度を決定する工程
を含む、方法に関する。
【0008】
さらに、本発明は、細胞凝集物を含む懸濁細胞培養物の細胞密度を決定するための誘電率プローブの使用に関する。
【0009】
(工程(i)の)測定する工程はバイオリアクターの中で実施されてもよい。
【0010】
バイオリアクターは攪拌バイオリアクター、ロッキングモーションバイオリアクター、および/またはマルチパラレルバイオリアクターでもよい。
【0011】
懸濁培養物の細胞密度はインラインで(リアルタイムで)測定され得る。
【0012】
誘電率の測定は誘電率プローブを用いて実施されてもよい。誘電率の測定は、誘電分光法を使用することによって実施されてもよい。
【0013】
前記細胞は、初代細胞、組織または臓器から得られた細胞、不死化細胞、幹細胞、例えば、多能性幹細胞、または幹細胞に由来する細胞からなる群より選択されてもよい。前記細胞は多能性幹細胞でもよい。前記細胞はまた、人工多能性幹細胞(iPSC)、胚性幹細胞(ESC)、単為発生幹細胞(pPSC)、および核移植由来PSC(nuclear transfer derived PSC)(ntPSC)からなる群より選択される多能性幹細胞でもよく、好ましくはiPSCでもよい。
【0014】
換算係数(conversion factor)は、
(a)参照懸濁培養物の少なくとも2つの、好ましくは少なくとも3つの異なる細胞密度で誘電率および細胞密度を測定する;
(b)参照懸濁培養物の測定された細胞誘電率と細胞密度を相関させ、それによって、細胞密度を示す予め決められた値を決定する
ことによって得られ得る。
【0015】
前記の相関は直線的相関を定めるものでもよい。参照懸濁培養物と懸濁培養物は、同様のまたは同じまたは同様の、細胞タイプ、細胞株、組織、または臓器に由来してもよい。参照懸濁培養物と懸濁培養物は同じ培養培地を用いて培養されてもよい。参照懸濁培養物と懸濁培養物は、同様のまたは同じバイオリアクターの中で培養されてもよい。
【0016】
細胞密度は生細胞密度でもよい。
【0017】
さらに、本発明は、本発明の方法における誘電率プローブの使用に関する。
【0018】
本発明は、非限定的な実施例および添付の図面と共に考慮された時に詳細な説明に関連してより深く理解される。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】オフラインセルカウント(Nucleocounter 200)と比較したインライン誘電率測定値(BioPAT(登録商標)ViaMass)を示す。誘電率測定値は細胞濃度と相関する。興味深いことに、誘電率測定によって、オフライン測定では捕捉されなかった動的な変化が記録された(例示的なプラトーを星印で示し、急な培地添加を矢印で示した)。図1Aは例示的な操作番号1を示す。印がついている時点で培養体積が増加した。図1Bは例示的な操作番号2を示す。培養体積は灌流によって一定レベルに保たれた。電気容量測定値がプラトーに達した時に、3日目の印がついている時点で灌流率を増加させた。4日目および9日目にiPSCを継代した。これは、電気容量の突然の強い変化によって示されている。この変化は吸引とUniVesselへの補充によって引き起こされた。
図2】凝集物サイズのオフライン分析(Cellavista)と比較したインライン誘電率測定(BioPAT(登録商標)ViaMass)を示す。誘電率測定は凝集物サイズと相関しない。培養体積の変化は電気容量の記録にはっきりと示されるのに対して、凝集物サイズはその影響を受けない。図1Aは例示的な操作番号1を示す。印がついている時点で培養体積は増加した。図1Bは例示的な操作番号2を示す。培養体積は灌流によって一定レベルに保たれた。4日目および9日目にiPSCを継代した。これは、電気容量の突然の強い変化によって示されている。この変化は吸引とUniVesselへの補充によって引き起こされた。
【発明を実施するための形態】
【0020】
発明の詳細な説明
本発明が以下において詳述され、添付の実施例および図面でもさらに例示される。
【0021】
これまでは、マイクロキャリア上で培養する細胞懸濁培養によって誘電率の測定と細胞濃度との相関付けが可能になることしか示されていなかった。しかしながら、細胞のみの凝集物の懸濁培養と、マイクロキャリアベースの懸濁培養は同等でないことに気付くことが重要である。これは、マイクロキャリア上では細胞が単層として、またはいくつかの層として増殖するからである。他方で、凝集物中の細胞は多数の層の形で密に増殖し、かなり多くの量の細胞間相互作用を有する。本発明は、細胞のみの、すなわち、マイクロキャリアのない、PSCなどの細胞の凝集物懸濁培養における誘電率測定プローブの首尾良い適用と、細胞濃度との相関付けを初めて説明する。実施例1に示したように、誘電率測定値はPSC凝集物の細胞密度と良い相関を示すが、驚くべきことに、細胞凝集物サイズと相関しない。従って、細胞凝集物中にある細胞の細胞密度を決定するために誘電率測定を使用することができるが、誘電率は凝集物サイズの変化の影響を受けない。本発明は、懸濁培養物におけるPSC品質、増殖、および細胞濃度のインラインモニタリングおよび評価を可能にし、培養パラメータおよび重要なプロセス段階の制御を可能にする。それによって、本発明は、GMPによって管理される大規模な細胞生産に寄与する。さらに、細胞凝集物の中にある細胞数の計数は、常に、細胞凝集物をシングル細胞に事前に解離することを含む。本発明の方法および使用を用いる時には細胞計数のために細胞を解離することはもはや必要でなく、そのため、細胞密度をすぐに直接モニタリングすることできる。
【0022】
本発明の方法の基礎をなす一般原則は以下の通りである:最初に、細胞密度を示す、言い換えると、誘電率を細胞密度に変換するのを可能にする予め決められた値が得られなければならない。これは、懸濁培養物から試料を入手し、細胞凝集物を解離し、手操作による計数などの「オフライン」方法を用いて、または自動セルカウンターを用いて細胞を計数することで、細胞密度を測定することによって行うことができる。同時に懸濁培養物の誘電率が測定される。これは、別の細胞密度で、例えば、細胞密度が増加する期間にわたってPSCを単に培養することで、少なくとももう1回繰り返される。これらの少なくとも2つのデータペアに基づいて、誘電率と細胞密度との間の相関を入手することができ、従って、予め決められた値を入手することができる。次いで、この予め決められた値を使用して、後の培養のために、インライン細胞密度におけるインライン誘電率測定値を変換することができる。
【0023】
従って、本発明は、細胞凝集物を含む細胞懸濁液中の細胞密度を測定する方法であって、
(i)細胞懸濁液の誘電率を測定する工程;
(ii)測定された誘電率を、細胞密度を示す予め決められた値と比較し、それによって、細胞密度を決定する工程
を含む、方法に関する。
【0024】
「絶対誘電率」は、単に「誘電率」と呼ばれることが多く、本明細書で使用する時にはギリシア文字εで表記され、誘電体の電気分極の尺度である。高誘電率の材料は、加えられた電場に応答して低誘電率の材料よりも大きく分極し、それによって材料に多くのエネルギーをたくわえる。誘電率のSI単位はファラド/メートル(F/m)である。本発明の文脈において、誘電体は生細胞の細胞体積とみなすことができる。細胞、特に、細胞の数は、細胞誘電率に対して測定可能な影響を及ぼし、原理上、細胞誘電率は細胞数を導き出すのに使用することができる。しかしながら、細胞懸濁液は、かなり複雑な電気系であり、当業者は細胞凝集物がシングル細胞と同じように挙動すると予想できない。それにもかかわらず、本発明者らは、細胞密度を求めるために細胞凝集物でも誘電率測定を首尾良く使用することができた。
【0025】
本明細書に記載のように(実施例1も参照されたい)、本発明者らは、細胞懸濁液の細胞密度はインラインで、または言い換えるとリアルタイムで測定できることを発見した。従って、懸濁培養物の細胞密度はインラインで(リアルタイムで)測定され得る。
【0026】
細胞懸濁液の誘電率は、当業者が知っている様々な手法によって測定することができる。1つの例示的な手法は、誘電率プローブを使用する手法である。従って、誘電率の測定は誘電率プローブを用いて実施されてもよい。誘電率プローブは市販されている。例えば、Sartorius Stedim Biotechから入手可能なBioPAT(登録商標)ViaMass、Hamiltonから入手可能可能なIncyte、またはAber Instruments Ltdから入手可能可能なFutura Probe。
【0027】
一態様において、誘電率測定は誘電分光法(DS)を用いて実施される。DSは、導電媒体の中にある物質または生物学的単位の受動的誘電特性の測定に基づいている。この用語は、基本的に、ある特定の範囲の周波数にわたる電気容量および伝導率の測定および分析について説明している。誘電体と呼ばれる試料を2つの電極間にある電場に配置する。次いで、交流電場の存在下での電流-電圧関係の変化を用いて、試料に関する情報を導き出す。DSの基本的な考えは、例えば、様々な周波数で定期的に交流する電場を、系(例えば、細胞凝集物を含む細胞懸濁液)に加えることである。DS用の系は、DSの医療用途ではヒトなどの多細胞生物全体でもよく、本明細書中の関心対象の場合では、少なくとも一部が生きている、懸濁または支持された細胞または単細胞生物と、低分子溶質(塩、栄養分)と、ことによると、細胞破片、ウイルス、およびウイルス粒子を含有する溶液/懸濁液でもよい。周波数が正しい範囲内にあれば、培地中の一部の成分は、例えば、いくらかのエネルギーを、一時的に分離された電荷としてたくわえることで応答することができる(分極)。電場が定期的に逆転すると、系の応答のいくらかの遅れが検出される(振幅および/または周波数の変化)。この応答が誘電分光法の基盤である。
【0028】
周波数と場の強さに応じて、試料に加えられたAC電場は、1個の無機イオンから細胞全体または多細胞生物にさえ及ぶことがある、帯電している実体の分極、配向、または変位を引き起こし得る。0.1~10MHzの範囲で、前記方法は高周波インピーダンススペクトロスコピー(radio frequency impedance spectroscopy)(RFI)と呼ばれ、細胞膜などの表面を有する非導電実体の分極が起こる。従って、加えられるAC電場の周波数は50kHz~20MHz、より好ましくは300~900kHz、より好ましくは400~800kHz、より好ましくは500~700kHz、最も好ましくは約580kHzでもよい。この範囲は、DSで可能な広範囲の周波数の小さな割合に相当する。中間の波長は双極子の配向の変化を引き起こすのに対して、近赤外周波数および赤外周波数は原子緩和(atomic relaxation)を引き起こす。可視光の範囲では電子緩和(electronic relaxation)が観察される。高周波の範囲では、無傷の原形質膜をもつ細胞は基本的にコンデンサとして働く。なぜなら、概して脂質ベースの細胞原形質膜の非導電性によって電荷が蓄積するからである。生物は、その膜にまたがって電気化学的電位差を能動的に維持する。誘電分光法を使用するやり方についてのさらなるガイダンスはJustice et al., 2011で見られる。
【0029】
無傷の膜をもつ生細胞の電気容量値は非生細胞と比較して非常に大きく、その結果、非生細胞、漏出している細胞、細胞破片、発生気体の泡、および他の培地成分はRFIでは本質的に見えない。従って、本明細書で使用する細胞密度は好ましくは生細胞密度(生細胞/体積)である。
【0030】
本明細書に記載のように、細胞密度は、測定された誘電率を予め決められた換算係数と比較することによって決定される。この換算係数は、参照懸濁培養物の測定された誘電率を、例えば、手操作による細胞計数または自動細胞計数によって得られる異なる細胞密度での参照懸濁培養物の実際の細胞密度と相関させることによって得ることができる。従って、本明細書に記載の換算係数は、
(a)参照懸濁培養物の少なくとも2つの、好ましくは少なくとも3つの異なる細胞密度で、誘電率と細胞密度とを測定すること;
(b)参照懸濁培養物の測定された細胞誘電率と細胞密度を相関させ、それによって、細胞密度を示す予め決められた値を決定すること
によって得られ得る。
【0031】
相関は直線的相関でもよく、すなわち、言い換えると、相関は直線的相関を定めるものでもよい。これに関連して、「直線的相関」は線形回帰分析の結果だと理解され得る。統計において、線形回帰は、スカラー応答(または従属変数)と1つまたは複数の説明変数(または独立変数)との関係をモデル化する線形手法である。説明変数が1つの場合は単回帰と呼ばれ、本開示内で説明される線形回帰に適用される。線形回帰では、この関係は、未知のモデルパラメータがデータから推定される線形予測関数(linear predictor function)を用いてモデル化される。このようなモデルは線形モデルと呼ばれる。最も一般的には、説明変数(または予測変数)の値が与えられる応答の条件付き平均(conditional mean)は、これらの値のアフィン関数とみなされる。一般的ではないが、条件付き中央値(conditional median)または他の何らかの分位が使用される。あらゆる種類の回帰分析と同じように、線形回帰は、多変量解析の領域である、これらの変数の全ての複合確率分布ではなく、予測変数の値が与えられる応答の条件付き確率分布に注目する。線形回帰モデルは最小二乗法を用いてフィッティングされることが多いが、例えば、(最小絶対偏差回帰(least absolute deviations regression)と同様に)他の何らかのノルムでは「あてはまりの悪さ(lack of fit)」を最小化することによって、またはリッジ回帰(L2-ノルムペナルティ)およびラッソ(lasso)(L1-ノルムペナルティ)のように罰則付きバージョンの最小二乗費用関数(least squares cost function)を最小化することによって他の手法でもフィッティングされることがある。逆に、最小二乗法を用いて、線形モデルでないモデルをフィッティングすることができる。従って、「最小二乗」および「線形モデル」という用語は密接に関連しているが同義ではない。しかしながら、相関は線形であることに限定されず、非線形相関または回帰になることもある。線形回帰が用いられる場合、以下に示した方程式のような線形関数が計算され得る。
式中、aは直線の傾きであり、bは切片である。関数f(x)から、誘電率の測定値xのそれぞれの値について細胞密度が得られ得る。従って、f(x)は、予め決められた値とみなすことができる。
【0032】
予め決められた値は、少なくとも2つの値、例えば、線形回帰のための絶対最小値を相関させることによって得られる。しかしながら、得られるデータペア(誘電率と細胞密度)が多ければ多いほど、相関の結果は正確になる。従って、好ましくは、相関を行う前に3、4、5、6、7、8、9、もしくは10の、またはそれより多くのデータペアが得られる。都合よく、細胞懸濁の完全な培養プロセスの間に予想される、ある範囲の細胞密度について誘電率が得られる。
【0033】
都合のよいことに、「参照懸濁培養物」は、評価しようとする、例えば、本明細書に記載の方法または使用によって評価しようとする細胞懸濁液と本質的に同じ条件下で培養された細胞懸濁液である。同じ条件は、細胞タイプ、細胞株、培養培地、および/またはバイオリアクターなどの培養に用いられる培養容器を含んでもよいが、これに限定されない。一部の態様において、同じ条件は、細胞タイプ、細胞株、培養培地、およびバイオリアクターなどの培養に用いられる培養容器を含む。
【0034】
従って、参照懸濁培養物と懸濁培養物は、好ましくは、同様のまたは同じ、細胞タイプ、細胞株、組織、または臓器に由来する。細胞タイプ、細胞株、組織、または臓器の文脈において同様とは、必ず同じ対象から得られるわけではなく、同じ細胞タイプであることを意味する。2人の異なる患者から得られたPSCは同様であるとみなすことができる。他方で、同じ患者に由来する心筋細胞とニューロンは同様でないとみなすことができる。同じ患者から得られたPSCは同じ細胞だとみなすことができる。同様の推論が細胞株にも当てはまる。例えば、起源が2人の異なる患者にある2種類のPSC細胞株は同様であるとみなすことができる。同様のまたは同じ、細胞タイプ、細胞株、組織、または臓器について説明する、さらに好ましい特徴は分化状態である。分化状態の間に誘電体特性が変化することがある。従って、細胞懸濁液および参照懸濁培養物の細胞は好ましくは同じ分化状態を有する。PSCの場合、このことは、細胞懸濁液および参照懸濁培養物のPSCが分化しておらず、多能性状態のままであることを意味する可能性がある。
【0035】
さらに、または代わりに、参照懸濁培養物と懸濁培養物は同じ培養培地を用いて培養される。同じ培養培地とは、少なくとも、本質的に同じ濃度の塩および/または(好ましくは「および」)本質的に同じpHを有する培養培地である。さらに、または代わりに、培養培地の伝導率が本質的に同じでもよい。同じ培地はまた、(全く)同じ培養培地に関連してもよい。同じ培地はまた、本質的に同じ組成を有する培地に関連してもよい。
【0036】
さらに、加えて、または代わりに、参照懸濁培養物と懸濁培養物は、好ましくは、同様のまたは同じバイオリアクターの中で培養される。同様のバイオリアクターとは、同じモデルのバイオリアクター、または本質的に同じ寸法を有し、培養容器が同じ材料から作られているバイオリアクターであるバイオリアクターを意味する。
【0037】
本明細書において用いられる「懸濁培養」または「細胞懸濁」という用語は、両用語とも同義で使用することができ、シングル細胞または小さな細胞凝集物が、好ましくは撹拌された増殖培地中で機能および増殖することが可能であり、従って懸濁液が形成される、細胞培養の一種である(化学的定義:「液体中に懸濁された小さな固体粒子」と比較されたい)。これは、細胞が細胞培養容器に付着され、細胞培養容器が細胞外マトリックス(ECM)のタンパク質でコーティングされていることがある付着培養とは対照的である。懸濁培養では、一態様において、ECMのタンパク質は細胞および/または培養培地に添加されない。懸濁培養は、好ましくは、固体粒子、例えば、ビーズ、マイクロスフェア、マイクロキャリア粒子などが本質的に無い。細胞または細胞凝集物は、この状況で固体粒子でない。一態様において、前記細胞はマイクロキャリア(懸濁液)培養物の中にない。好ましくは、懸濁培養は灌流懸濁培養である。
【0038】
懸濁液中に培養されている、すなわち、培養容器に付着できない付着細胞は細胞凝集物を形成することがある。これはまた、本明細書に記載の使用および方法において培養されたPSCにも適用される。本明細書において用いられる「凝集物」および「細胞凝集物」という用語は同義で用いられることがあり、複数の細胞、例えば、(人工)多能性幹細胞を指す。この場合、細胞間の結合は細胞間相互作用によって(例えば、互いとの生物学的接着によって)引き起こされる。生物学的接着は、例えば、表面タンパク質、例えば、インテグリン、免疫グロブリン、カドヘリン、セレクチン、または他の細胞接着分子によるものでもよい。例えば、細胞は懸濁液中で自発的に結合し、細胞間接着(例えば、自己集合)を形成し、それによって、凝集物を形成することがある。一部の態様において、細胞凝集物は実質的に均一でもよい(すなわち、概して、同じタイプの細胞を含有してもよい)。他の態様において、細胞凝集物は不均一でもよい(すなわち、複数のタイプの細胞を含有してもよい)。
【0039】
本開示の方法および使用は細胞凝集物に適している。細胞凝集物はサイズが異なってもよい。細胞凝集物は、約50~800μm、約150~800μm、少なくとも約800μm、少なくとも約600μm、少なくとも約500μm、少なくとも約400μm、少なくとも約300μm、少なくとも約200μm、少なくとも約150μm、約300~500μm、約150~300μm、約50~150μm、約80~100μm、約180~250μm、または約200~250μmの平均直径を有してもよい。
【0040】
本明細書に記載の方法および使用は、バイオリアクター内での懸濁培養物中で行われる時に特に有用である。本明細書に記載のように、誘電率プローブを使用すると、細胞懸濁液から試料を入手する必要なく、またはバイオリアクターの中にある細胞懸濁液との他のどの手操作による相互作用もなく細胞密度をインラインでモニタリングすることが可能になる。従って、バイオリアクターの中で測定を行うことができる。言い換えると、バイオリアクターの中で誘電率を決定することができる。本明細書において用いられる「リアクター」および「バイオリアクター」という用語は同義で使用することができ、細胞培養のために動的な流体環境を提供するように構成された密閉した培養容器を指す。バイオリアクターは攪拌(stir)および/または攪拌(agitate)されてもよい。攪拌リアクターの例には、攪拌タンクバイオリアクター、ウェーブミックスド/ロッキング(wave-mixed/rocking)バイオリアクター、上下攪拌バイオリアクター(すなわち、ピストン運動を備える攪拌リアクター)、スピナーフラスコ、振盪フラスコ、振盪バイオリアクター、パドルミキサー(paddle mixer)、バーチカルウィール(vertical wheel)バイオリアクターが含まれるが、これに限定されない。攪拌リアクターは約2mL~20,000Lの細胞培養体積を収容するように構成されてもよい。好ましいバイオリアクターの体積は最大50Lでもよい。本発明の方法に適した例示的なバイオリアクターは、Sartorius Stedim Biotechから入手可能なambr15バイオリアクターである。バイオリアクターはステンレス鋼または使い捨てバイオリアクターでもよい。バイオリアクターは1個の容器からなってもよく、いくつかのバイオリアクターを並列に備えてもよい。使い捨てバイオリアクターはガラスまたはプラスチックから製造されてもよい。使い捨てバイオリアクターは攪拌タンクバイオリアクターまたはロッキングモーションバイオリアクターでもよい。例:Sartorius STR、RM、ambr15、ambr 250。培養培地のpHはバイオリアクターによって、好ましくは、CO2供給によって制御されてもよく、6.6~7.6の範囲、好ましくは約7.4に保たれてもよい。
【0041】
バイオリアクターは攪拌バイオリアクター(STR)でもよい。STRは、例えば、Sartorius Stedim Biotechから入手可能であり、BIOSTAT(登録商標)A/B/B-DCU/Cplus/D-DCU、ambr(登録商標)15、およびambr(登録商標)250を含むが、これに限定されない。バイオリアクターはロッキングモーションバイオリアクター(RM)でもよい。RMは、例えば、Sartorius Stedim Biotechから入手可能であり、BIOSTAT(登録商標)RMおよびBIOSTAT(登録商標)RM TXを含むが、これに限定されない。バイオリアクターは、例えば、Sartorius Stedim Biotechから入手可能であり、ambr(登録商標)15およびambr(登録商標)250を含むが、これに限定されないマルチパラレルバイオリアクターでもよい。
【0042】
一部の態様において、バイオリアクター内にある培養容器の体積は約50mL~約20,000Lである。一部の態様において、バイオリアクター内にある培養容器の体積は約50mL~約2,000Lである。一部の態様において、バイオリアクター内にある培養容器の体積は約50mL~約200Lである。一部の態様において、バイオリアクター内にある培養容器の体積は約50mL~約100Lである。一部の態様において、バイオリアクター内にある培養容器の体積は約50mL~約50Lである。一部の態様において、バイオリアクター内にある培養容器の体積は約50mL~約20Lである。一部の態様において、バイオリアクター内にある培養容器の体積は約50mL~約10Lである。一部の態様において、バイオリアクター内にある培養容器の体積は約50mL~約1Lである。一部の態様において、バイオリアクター内にある培養容器の体積は約100mL~約10Lである。一部の態様において、バイオリアクター内にある培養容器の体積は約100mL~約5Lである。一部の態様において、バイオリアクター内にある培養容器の体積は約150mL~約1Lである。一部の態様において、バイオリアクター内にある培養容器の体積は約1L~約1,000Lである。
【0043】
前記細胞は、懸濁液中で培養することができる任意の細胞でよい。前記細胞は、初代細胞、組織または臓器から得られた細胞、不死化細胞、幹細胞、例えば、多能性幹細胞、または幹細胞に由来する細胞、好ましくは、PSCに由来する細胞、好ましくは、iPSCに由来する細胞からなる群より選択することができる。前記細胞は多能性幹細胞でもよい。前記細胞はまた、人工多能性幹細胞(iPSC)、胚性幹細胞(ESC)、単為発生幹細胞(pPSC)、および核移植由来PSC(ntPSC) からなる群より選択される多能性幹細胞でもよく、好ましくはiPSCでもよい。好ましくは、前記細胞は、多能性幹細胞、より好ましくは人工多能性幹細胞(iPSC)、または幹細胞に由来する細胞、例えば、(i)PSCである。幹細胞の例には、多能性幹細胞、臍帯血幹細胞、間葉系幹細胞、および/または造血幹細胞、好ましくは多能性幹細胞が含まれるが、これに限定されない。人工多能性幹細胞(iPSC)が特に好ましい。「幹細胞に由来する細胞」は、身体のあらゆる細胞タイプにもはや分化することができない、分化細胞または特定の細胞タイプに分化した細胞に関する。前記幹細胞に由来する細胞は、本発明の方法および使用において用いられる(多能性)幹細胞に由来する細胞に関し、従って、好ましくは、天然の分化細胞を含まない。(i)PSCなどの幹細胞から出発して異なる細胞タイプに分化するための方法は当業者に公知である。「幹細胞に由来する細胞」は、心臓細胞および/もしくは組織、肝臓細胞および/もしくは組織、腎臓細胞および/もしくは組織、脳細胞および/もしくは組織、膵臓細胞および/もしくは組織、肺細胞および/もしくは組織、骨格筋細胞および/もしくは組織、胃腸細胞および/もしくは組織、ニューロン細胞および/もしくは組織、皮膚細胞および/もしくは組織、骨細胞および/もしくは組織、骨髄、脂肪細胞および/もしくは組織、結合細胞および/もしくは組織、網膜細胞および/もしくは組織、血管細胞および/もしくは組織、ストローマ細胞または心筋細胞に関するものでもよい。心臓組織を作製するための方法はWO2015/025030およびWO2015/040142から公知である。前記細胞はまた、バイオリアクター内で、またはバイオリアクター外でも、例えば、心筋細胞またはストローマ細胞に分化されてもよい。これらの分化細胞はまた、本発明の方法を利用してバイオリアクター内で培養されてもよい。組織または臓器から得られた細胞は、心臓細胞および/もしくは組織、肝臓細胞および/もしくは組織、腎臓細胞および/もしくは組織、脳細胞および/もしくは組織、膵臓細胞および/もしくは組織、肺細胞および/もしくは組織、骨格筋細胞および/もしくは組織、胃腸細胞および/もしくは組織、ニューロン細胞および/もしくは組織、皮膚細胞および/もしくは組織、骨細胞および/もしくは組織、骨髄、脂肪細胞および/もしくは組織、結合細胞および/もしくは組織、網膜細胞および/もしくは組織、血管細胞および/もしくは組織、ストローマ細胞または心筋細胞から得られてもよい。
【0044】
前記細胞は、哺乳動物、例えば、いくつか例示を挙げてみただけでも、ヒト、イヌ、マウス、ラット、ブタ、非ヒト霊長類、例えば、アカゲザル(Rhesus macaque)、ヒヒ、カニクイザル(cynomolgus macaque)、またはコモンマーモセットの細胞でもよい。好ましくは、前記細胞はヒトである。
【0045】
多細胞生物において「幹細胞」は、様々なタイプの細胞に分化し、無限に増殖して、同じ幹細胞をさらに多く産生することができる未分化細胞または部分的に分化した細胞である。幹細胞は、通常、無限に分裂できない前駆細胞(progenitor cell)や、通常、ある細胞タイプへの分化に関係づけられている前駆細胞(precursor cell)または芽細胞と区別される。従って、幹細胞という用語は多能性(pluripotent)幹細胞だけでなく、多能性(multipotent)(多数の細胞タイプに分化できるが、密接に関連する細胞ファミリーの細胞タイプにしか分化できない)、少能性幹細胞(リンパ性幹細胞もしくは骨髄性幹細胞などの少数の細胞タイプにしか分化できない)、または単能性幹細胞、例えば、衛星細胞も含む。幹細胞の例には、多能性幹細胞、臍帯血幹細胞、間葉系幹細胞、および/または造血幹細胞、好ましくは多能性幹細胞が含まれるが、これに限定されない。本明細書において用いられる「多能性幹細胞」(PSC)という用語は、身体のあらゆる細胞タイプに分化することができる細胞を指す。従って、多能性幹細胞は、本質的に全ての組織または臓器に分化するユニークな機会を提供する。現在、最も利用されている多能性細胞は胚性幹細胞(ESC)または人工多能性幹細胞(iPSC)である。ヒトESC株は最初にThomsonと共同研究者によって樹立された(Thomson et al.(1998), Science 282:1145-1147)。ヒトESC研究によって、最近、身体の細胞をES様細胞にリプログラミングする新技術の開発が可能になった。山中と共同研究者らが、この技術を2006年に他に先駆けて開発した(Takahashi & Yamanaka (2006), Cell, 126:663-676、およびTakahashi et al. (2007), Cell, 131(5):861-72)。結果として得られた人工多能性細胞(iPSC)はESCに極めて似た挙動を示し、重要なことに、身体のあらゆる細胞に分化することもできる。従って、一態様において、iPSCという用語はESCを含む。しかしながら、本発明の文脈では、これらの多能性幹細胞は、好ましくは、ヒトの生殖細胞系列遺伝子同一性の改変を伴うプロセス、または産業目的もしくは商業目的でのヒト胚の使用を伴うプロセスを用いて作製されない。好ましくは、多能性幹細胞は霊長類に由来し、より好ましくはヒトに由来する。
【0046】
適切な人工PSCは、例えば、いくつかの供給元の名前を挙げてみただけでも、NIH human embryonic stem cell registry、European Bank of Induced Pluripotent Stem Cells(EBiSC)、Stem Cell Repository of the German Center for Cardiovascular Research(DZHK)、またはATCCから入手することができる。人工多能性幹細胞はまた、商業的用途のために、例えば、米国立神経疾患・脳卒中研究所(U.S. National Institute of Neurological Disorders and Stroke)(NINDS)によって運営されており、ヒト細胞資源を広く学術研究者および産業研究者に配布しているNINDS Human Sequence and Cell Repository(https://stemcells.nindsgenetics.org)からも入手可能である。本発明において使用することができる適切な細胞株の例示の1つは、臍帯血幹細胞に由来する人工(未編集(unedited))多能性幹細胞である細胞株TC-1133である。この細胞株は、例えば、NINDS, USAから直接入手することができる。好ましくは、TC-1133はGMPに準拠している。本発明において使用することができる、さらに例示的なiPSC細胞株には、Gibco(商標)のヒトエピソームiPSC株(注文番号A18945、Thermo Fisher Scientific)、またはATTCから入手可能なiPSC細胞株であるATCC ACS-1004、ATCC ACS-1021、ATCC ACS-1025、ATCC ACS-1027、もしくはATCC ACS-1030が含まれるが、これに限定されない。または、リプログラミングの当業者は、公知のプロトコール、例えば、Okita et al,「A more efficient method to generate integration-free human iPS cells」 Nature Methods, Vol.8 No.5, May 2011, 409-411頁、またはLu et al 「A defined xeno-free and feeder-free culture system for the derivation, expansion and direct differentiation of transgene-free patient-specific induced pluripotent stem cells」, Biomaterials 35 (2014) 2816e2826に記載のプロトコールによって適切なiPSC株を容易に作製することができる。
【0047】
前記細胞は、TC-1133、GibcoのヒトエピソームiPSC株、ATCC ACS-1004、ATCC ACS-1021、ATCC ACS-1025、ATCC ACS-1027、および ATCC ACS-1030からなる群より選択されてもよい。さらに、または代わりに、さらに、または代わりに、前記細胞は、HEK293、HEK293T、BHK 21、CHO、NS0、Sp2/0-Ag14からなる群より選択されてもよい。
【0048】
本明細書において説明されるように、本発明において用いられる(人工)多能性幹細胞は、任意の適切な細胞タイプ(例えば、幹細胞、例えば、間葉系幹細胞、もしくは上皮幹細胞、または分化細胞、例えば、線維芽細胞)および任意の適切な供給源(体液または組織)から得ることができる。このような供給源(体液または組織)の例には、いくつか名前を挙げてみただけでも、臍帯血、皮膚、歯肉、尿、血液、骨髄、臍帯の任意の区画(例えば、臍帯の羊膜またはワルトンゼリー)、臍帯-胎盤接合部、胎盤または脂肪組織が含まれる。1つの例示は、例えば、CD34に対して特異的に作られた抗体を用いた磁気細胞分離と、それに続く、Chou et al.(2011), Cell Research, 21:518-529に記載のようなリプログラミングによる臍帯血からのCD34陽性細胞の単離である。Baghbaderani et al.(2015), Stem Cell Reports, 5(4):647-659は、細胞株ND50039を作製するために、iPSC作製プロセスが、医薬品の製造管理及び品質管理に関する基準(GMP(good manufacturing practice))の規制に準拠している可能性があることを示す。従って、多能性幹細胞は、好ましくは、医薬品の製造管理及び品質管理に関する基準の要件を満たしている。
【0049】
さらに、本発明は、懸濁培養物中の細胞凝集物の中にある細胞を拡大する方法であって、(i)細胞懸濁液の誘電率を測定する工程;および(ii)測定された誘電率を、細胞密度を示す予め決められた値と比較し、それによって、細胞密度を決定する工程を含む、方法に関する。本明細書に記載のように細胞を「拡大する」または細胞「の拡大」は、細胞分裂によって細胞数が増加することを表している。
【0050】
さらに、本発明は、細胞凝集物を含む懸濁細胞培養物の細胞密度を決定するための誘電率プローブの使用に関する。さらに、本発明は、本発明の方法における誘電率プローブの使用に関する。
【0051】
本明細書において用いられる単数形「1つの(a)」、「1つの(an)」、および「その(the)」は、特に文脈によってはっきり示されていない限り複数の言及を含むことに留意する。従って、例えば、「1つの試薬」についての言及は、このような異なる試薬の1つまたは複数を含み、「その方法」についての言及は、本明細書に記載の方法の代わりに改変または使用することができる、当業者に公知の等価な工程および方法についての言及を含む。
【0052】
特に定めのない限り、一連の要素の前にある「少なくとも」という用語は、一連の要素の中にある全ての要素について言及していると理解しなければならない。当業者は、本明細書に記載の本発明の特定の態様に対する多くの均等物を認識するか、または日常的な実験にすぎない実験を用いて突き止めることができる。このような均等物は本発明に包含されることが意図される。
【0053】
「および/または」という用語は、本明細書において用いられる場合は必ず、「および」、「または」、および「前記用語によってつながっている要素の全てまたは他の任意の組み合わせ」の意味を含む。
【0054】
「より小さい」という用語、または同様に「より大きい」という用語は、それに添えられる数値を含まない。
【0055】
例えば、「20より小さい」とは、その示された数(20)よりも小さいことを意味する。同様に、「より大きい」、または「を上回る」とは、その示された数よりも大きい、またはその示された数を上回ることを意味する。例えば、80%より大きいとは、示された数(80%)より大きい、または示された数(80%)を上回ることを意味する。
【0056】
以下の本明細書および特許請求の範囲の全体を通して、特に文脈によって必要とされない限り、「含む(comprise)」という単語ならびに「含む(comprises)」および「含む(comprising)」などの語尾変化は、述べられた整数もしくは工程または整数もしくは工程の集まりを含むことを意味するが、他の任意の整数もしくは工程または整数もしくは工程の集まりを排除することを意味しないことが理解される。本明細書において用いられる「含む(comprising)」という用語は、「含有する(containing)」または「含む(including)」という用語で置換されてもよく、時として、本明細書において用いられる時、「有する(having)」という用語で置換されてもよい。本明細書において用いられる時、「からなる」は、明記されていない要素、工程、または成分を排除する。
【0057】
「を含む(including)」という用語は、「を含むが、これに限定されない」を意味する。「を含む」および「を含むが、これに限定されない」は同義で用いられる。
【0058】
本明細書において用いられる「約(about)」、「約(approximately)」、または「本質的に」という用語は、ある特定の値または範囲の20%以内、好ましくは15%以内、好ましくは10%以内、より好ましくは5%以内を意味する。これはまたそれに添えられる数値も含む。すなわち、「約20」は数値20を含む。
【0059】
本発明は、本明細書に記載の特定の方法論、プロトコール、材料、試薬、および物質などに限定されず、従って、変更することができると理解されるはずである。本明細書において用いられる専門用語は、特定の態様を説明することだけを目的とし、本発明の範囲を限定すると意図されない。本発明の範囲は特許請求の範囲によってのみ定義される。
【0060】
前記にあっても下記にあっても、本明細書の本文全体を通して引用された全ての刊行物(全ての特許、特許出願、科学刊行物、説明書などを含む)は、その全体が参照により本明細書に組み入れられる。本明細書には、先行発明に基づいて本発明がこのような開示に先行する権利がないと認められると解釈されるものは何もない。参照により組み入れられる資料が矛盾するか、または本明細書と一致しない範囲まで、本明細書は、このような資料に取って代わる。
【0061】
本明細書において引用された全ての文書および特許文書の内容は、その全体が参照により組み入れられる。
【実施例
【0062】
本発明およびその利点をさらに深く理解することは以下の実施例から明らかであり、以下の実施例は例示のためだけに提供される。実施例は、本発明の範囲を限定すると意図されない。
【0063】
実施例1:細胞密度のインラインモニタリングのために誘電率の測定を使用することができる
誘電率を測定するために、以下の材料および機器(表1を参照されたい)を製造業者の説明書に従って使用した。
【0064】
(表1)実施例1において使用した材料
【0065】
細胞のみの凝集物の懸濁培養を以下に記載のように行う。TC1133細胞を2.5x105細胞/mlで播種した。2日目に、1日に現体積の62%の新鮮な培地を添加することによって培地交換を開始した。細胞を37℃、pH7.4、DO 23.8%で培養した。全ての継代後に、細胞を2.5x105細胞/mlで再播種した。
【0066】
ViaMassプローブを、BM220 PolC、フィルター30、および電気容量ゼロ値0pF/cmを用いて580kHzで「細胞培養」測定モードで操作する。接種前にViamass測定値をゼロに設定し、培養全体を通して測定値を記録する。UniVesselバイオリアクターから採取した試料を用いて細胞濃度をオフラインで評価する。細胞数は、Nucleocounter 200と「生存率および細胞数A100およびB(Viability and cell count A100 and B)」プロトコールを用いて測定する。1日目以後、Nucleocounter 200による測定の前にiPSC凝集物を解離する必要がある。この理由で、1mLの試料を100xgで1分間、遠心分離し、上清を除去する。その後に、1ml TrypLE Express(Life Technologies)を添加し、室温で15分間インキュベートする。凝集物を5分ごとにピペッティングによって再懸濁する。凝集物が解離されたら、前記と同じ手法で細胞数を測定する。
【0067】
図1は、2つの別々の培養操作中のViaMass誘電率とNucleocounter 200記録を示す。Nucleocounter 200を用いて求めた細胞濃度は容量と相関する。容量はViaMass誘電率プローブを用いて測定した。重要なことに、ViaMass誘電率記録は、プラトーと、培養パラメータ変化後の増加などの動的な変化を示す。例示的な操作番号2では、誘電率測定値は、灌流率の増加に対して、電気容量の急速な、その後の上昇によって応答した(図1B)。これらの発見は、細胞のみの凝集物のiPSC懸濁培養物における誘電率測定プローブの潜在能力を強調する。
【0068】
重要なことに、誘電率測定値はiPSC凝集物サイズと相関しなかった(図2)。例示的な操作番号1では、凝集物サイズは、培地添加と、結果として生じた培養体積変化の影響を受けなかったのに対して、電気容量は動的に低下した(図2A)。さらに、例示的な操作番号2では、4日目に継代した後に細胞と凝集物の濃度は低かったが、予想していた通り凝集物サイズは増加した。これは誘電率測定では示されなかった(図2B)。電気容量と凝集物との間の初期の明らかな相関は一定の培養体積の結果であり、凝集物の凝集物サイズと細胞数との間の相関の結果である。
【0069】
従って、誘電率測定を用いると、PSC凝集物の細胞密度をインラインでモニタリングすることが可能になる。重要なことに、誘電率は、驚くべきことに、細胞相互作用の数を増やす凝集物サイズの増加の影響を受けない。まとめると、本発明者らは、驚くべきことに、PSC凝集物の誘電率測定によって、細胞密度をインラインでモニタリングすることが可能になり、その結果としてプロセス管理によって細胞密度の発達に反応することが可能になることを発見した。
【0070】
実施例2:検量線に基づく予め決められた値の決定
本実施例では、本発明者らは、iPSC凝集物培養物の細胞密度を細胞誘電率測定(Viamassプローブ)によってオンラインで、標準的な細胞計数(Nucleocounter)によってオフラインで追跡した。以下の培養条件を使用した。
【0071】
実験デザインおよび実験進行:
●細胞: TC1133 TL004、p4
●播種条件: 2,5x105細胞/mlを用いて450ml
●培地交換: d2に開始、灌流60%。
●培養条件: 37℃、pH7.4、DO 23.8%、45°刃角、120rpmで下方撹拌(0~1日目)および100rpmで下方撹拌(d1~4)。
【0072】
継代1~3
●播種条件:2,5x105細胞/mlを用いて320ml
●培地交換: d2に開始、灌流60%を目標にした
●培養条件: 37℃、pH7.4、DO 23.8%、45°刃角、120rpmで下方撹拌(0~1日目)および100rpmで下方撹拌(d1~継代終了)
【0073】
材料
試薬および材料:
●StemMACS iPS-Brew XF, 基本培地、注文番号: 130-107-086
●StemMACS iPS-Brew XF 50xサプリメント; 注文番号: 130-107-087
【0074】
装置
●Biostat B-DCU II: タイプ: BB-8841212
●Tower 3: タイプ: BB-8840152
○pHセンサー: Hamilton; Easyferm Plus VP 120
○酸素センサー: Hamilton; Oxyferm FDA VP 120
○UniVessel 0.5L
●pHメーター: Multi 3510 IDS; Xylem Analytics Germany GmbH
●pH電極: SenTix Micro 900P; WTW
●Nucleocounter NC-200 Type 900-0201
●Cellavista
【0075】
ここで、本発明者らは、「内部の」予め決められた値(同じ培養操作の細胞電気容量と細胞密度のデータペアの線形回帰によって計算した)を、参照懸濁培養物から得られた「外部の」予め決められた値と比較した。
【0076】
図3は、インラインおよびオフラインでモニタリングした1つの例示的なiPSC培養操作を示す。図3Aから明らかなように、完全な操作の間に電気容量と細胞計数値は良い相関を示す。同じことが、内部(図3Bの検量線を参照されたい)と外部(図4Bの検量線を参照されたい)の細胞濃度計算値、すなわち、予め決められた値に基づいて計算した値の両方に当てはまる。図3Bは、検量線と、誘電率測定値と細胞計数によって得られた細胞密度の直線的相関を示す。直線的相関によって高いR2値となった。高いR2値は、細胞密度と誘電率との間に直線的相関があることを示している。
【0077】
同様に、図4は、さらなる例示的なiPSC培養操作を示す。ここでは、同じ培養条件を使用した。しかしながら、細胞を継代しなかった。またしても、細胞誘電率、細胞密度、ならびに内部(図4Bの検量線を参照されたい)および外部(図3Bの検量線を参照されたい)の計算値は良い相関を示す(図4Aを参照されたい)。図3Bは、検量線と、誘電率測定値と、細胞計数によって得られた細胞密度との直線的相関を示す。直線的相関によって高いR2値となった。高いR2値は、細胞密度と誘電率との間に直線的相関があることを示している。
【0078】
重要なことに、ありとあらゆる細胞培養操作について予め決められた値を計算する必要はない。対照的に、予め決められた値は、上記に示したように類似する培養条件間で同等である。従って、参照懸濁培養物から得られた予め決められた値を使用することができる。これにより、手操作による細胞計数または自動細胞計数のために試料を採取するのを避けながら、PSC凝集物の細胞密度を簡単にオンライン測定することができる。従って、本発明の方法は細胞培養のさらなる重要な価値を提供する。最も重要なことに、細胞密度の割合がリアルタイムで提供され、従って、プロセス管理のために考慮に入れることができる。
【0079】
参考文献
図1
図2
図3
図4
【国際調査報告】