(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-01-31
(54)【発明の名称】治療困難な骨肉腫患者を診断時に同定し、新しい治療法を提供することにより転帰を改善するための方法
(51)【国際特許分類】
C12Q 1/6869 20180101AFI20240124BHJP
A61K 45/00 20060101ALI20240124BHJP
A61K 31/4409 20060101ALI20240124BHJP
A61P 19/00 20060101ALI20240124BHJP
A61P 21/00 20060101ALI20240124BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20240124BHJP
G01N 33/53 20060101ALI20240124BHJP
C12N 15/12 20060101ALN20240124BHJP
【FI】
C12Q1/6869 Z ZNA
A61K45/00
A61K31/4409
A61P19/00
A61P21/00
A61P35/00
G01N33/53 M
C12N15/12
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023544147
(86)(22)【出願日】2022-01-21
(85)【翻訳文提出日】2023-08-30
(86)【国際出願番号】 EP2022051410
(87)【国際公開番号】W WO2022157341
(87)【国際公開日】2022-07-28
(32)【優先日】2021-01-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】508061930
【氏名又は名称】アンスティテュ ギュスタブ ルシ
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100141977
【氏名又は名称】中島 勝
(74)【代理人】
【識別番号】100138210
【氏名又は名称】池田 達則
(74)【代理人】
【識別番号】100150810
【氏名又は名称】武居 良太郎
(72)【発明者】
【氏名】ナタリー ガスパル
(72)【発明者】
【氏名】アントナン マルシェ
【テーマコード(参考)】
4B063
4C084
4C086
【Fターム(参考)】
4B063QA01
4B063QA13
4B063QA19
4B063QQ08
4B063QQ52
4B063QR08
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4C084ZA941
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4C086AA01
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4C086NA14
4C086ZA94
4C086ZA96
4C086ZB26
4C086ZC41
(57)【要約】
本発明は、予後不良の腫瘍を有する患者を同定するために、骨肉腫に苦しむ患者を層別化するためのツールを提供する。本発明はまた、予後不良の骨肉腫を有する患者の全生存を改善するための抗腫瘍治療としてのPPARγ経路の阻害剤の使用に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象における骨肉腫の予後を決定するためのインビトロ方法であって、
(a)前記対象から採取された生物試料由来のシグネチャー遺伝子のコレクションの発現レベルを測定するステップあって、前記シグネチャー遺伝子のコレクションが、AMZ2P1、ASXL2、BIRC6、C11orf58、C1orf53、C5orf28、CCDC34、DCUN1D2、DNMT3A、ECI1、EIF3M、ESCO1、FAM35DP、GAGE12D、GAGE12G、HADHA、HIST2H2AA3、HIST2H2AA4、MAPK1、MEAF6、MYO1B、MYOM3、NDP、PAIP1、PCID2、PEG10、PEX26、POLR2C、PRR14L、RALGAPA2、SLC2A6、SLC7A4、ST7L、THAP9-AS1、TIMP3、TTPAL、WNT4からなる群から選択される少なくとも2つの遺伝子を含むステップ;
(b)ステップ(a)において測定された発現レベルを、骨肉腫の転帰を伴うシグネチャー遺伝子の前記コレクションの発現レベルに関連する予測モデルに適用するステップ;及び
(c)前記予測モデルの転帰を評価し、前記対象の骨肉腫の予後を決定するステップ
を含む、インビトロ方法。
【請求項2】
前記シグネチャー遺伝子のコレクションがCCDC34及びMEAF6を含む、請求項1に記載のインビトロ方法。
【請求項3】
前記シグネチャー遺伝子のコレクションが、AMZ2P1、C5orf28、CCDC34、GAGE12D、MEAF6、SLC2A6、SLC7A4及びTHAP9-AS1を含む、請求項1又は2に記載のインビトロ方法。
【請求項4】
前記シグネチャー遺伝子のコレクションが、AMZ2P1、C5orf28、CCDC34、ESCO1、GAGE12D、HADHA、MEAF6、RALGAPA2、SLC2A6、SLC7A4、THAP9-AS1及びTIMP3を含む、請求項1~3のいずれか1項に記載のインビトロ方法。
【請求項5】
前記シグネチャー遺伝子のコレクションが、AMZ2P1、ASXL2、C11orf58、C5orf28、CCDC34、ESCO1、GAGE12D、HADHA、MEAF6、PAIP1、RALGAPA2、SLC2A6、SLC7A4、THAP9-AS1及びTIMP3を含む、請求項1~4のいずれか1項に記載のインビトロ方法。
【請求項6】
前記シグネチャー遺伝子のコレクションが、AMZ2P1、C5orf28、CCDC34、ESCO1、FAM35DP、GAGE12D、HADHA、HIST2H2AA3、HIST2H2AA4、MAPK1、MEAF6、POLR2C、RALGAPA2、SLC2A6、SLC7A4、ST7L、THAP9-AS1、TIMP3及びTTPALを含む、請求項1~5のいずれか1項に記載のインビトロ方法。
【請求項7】
前記シグネチャー遺伝子のコレクションの発現レベルが診断時に測定される、請求項1~6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記シグネチャー遺伝子のコレクションの発現レベルが再発時に測定される、請求項1~7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
前記対象における骨肉腫の進行を予測するために、前記シグネチャー遺伝子の遺伝子発現レベルを1つ以上の他のパラメータと組み合わせることをさらに含む、請求項1~8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
前記生物試料が、前記対象由来の骨肉腫生検試料である、請求項1~9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
対象における骨肉腫の進行を予測するための診断キットであって、前記キットが、対象から採取された生物試料由来のシグネチャー遺伝子のコレクションの発現レベルを測定するために、請求項1~10のいずれか1項に定義される方法において使用され得る少なくとも1つの核酸プローブ又はオリゴヌクレオチドを含み、前記シグネチャー遺伝子のコレクションが、AMZ2P1、ASXL2、BIRC6、C11orf58、C1orf53、C5orf28、CCDC34、DCUN1D2、DNMT3A、ECI1、EIF3M、ESCO1、FAM35DP、GAGE12D、HADHA、HIST2H2AA3、HIST2H2AA4、MAPK1、MEAF6、MYO1B、MYOM3、NDP、PAIP1、PCID2、PEG10、PEX26、POLR2C、PRR14L、RALGAPA2、SLC2A6、SLC7A4、ST7L、THAP9-AS1、TIMP3、TTPAL、WNT4からなる群から選択される少なくとも2つの遺伝子を含む、診断キット。
【請求項12】
骨肉腫患者における抗腫瘍治療として使用するためのPPARγ阻害剤。
【請求項13】
前記PPARγ阻害剤がT0070907(CAS番号313516-66-4)である、請求項12に記載の使用するための、請求項12に記載のPPARγ阻害剤。
【請求項14】
前記対象が青年又は若年成人である、請求項12又は13に記載の使用するための、請求項12に記載のPPARγ阻害剤。
【請求項15】
前記対象が、請求項1~10のいずれか1項に記載の方法によって化学療法に対する不良な反応者であるものとして同定されている、請求項12~14のいずれか1項に記載の使用するための、請求項12に記載のPPARγ阻害剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、抗がん治療の分野に関する。特に、本発明は、個体における骨肉腫の予後に関するものであり、この予後を決定するためのインビトロ方法、並びにこの方法を実施するための診断キットを提供する。また、本明細書には、予後不良の骨肉腫患者の全生存を改善するための抗腫瘍治療としてのPPARγ経路の阻害剤の使用も記載される。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
骨肉腫は、青年及び若年成人において最も一般的な原発性骨がんであり、複数の染色体再構成の結果として、ゲノム及びトランスクリプトームのランドスケープが非常に不均一である1,2。このような不均一性は、疾患の発現又は進行の根底にある主要な発がん性ドライバーを決定するための複雑な探索的研究であり、日常的に使用される予後バイオマーカー又は頑健な層別化はこれまで定義されていない。結果として、40年間にわたって治療に大きな変更はなく、骨肉腫患者の3分の1は、主に転移性再発を伴う治療失敗を経験している3-7。過去20年間にわたり、比較ゲノムハイブリダイゼーションアレイ(CGH)8-12から全エキソーム(WES)1,2,13-18又はゲノム配列決定(WGS)17-19までの異なるDNA分析技術による疾患の遺伝的探索に焦点があてられてきた。これらは、明確な腫瘍の層別化なしに軽度/中程度の腫瘍適応度の増加に関連する多数の遺伝的事象(主にコピー数の変動、CNV)を報告している。
【0003】
最近、一般的な表現型の特徴にもかかわらず、原発性骨肉腫は中立に近い選択下で高度に多クローン性であることが示されている20。これらの観察は、主要な表現型の骨肉腫形質が、ポリクローナルコミュニティにおける不均一なゲノム再配列のエピジェネティック及び/又は転写再プログラミングからの緊急の特徴である可能性を提起する。言い換えれば、進行は腫瘍の可塑性の結果である。
【0004】
加えて、骨肉腫の高度に拘束された骨環境において、腫瘍微小環境(TME)組成及び間質細胞比率又は活性化状態と腫瘍細胞の共進化を評価することは困難である21,22。
【発明の概要】
【0005】
発明の概要
本発明者らは、骨肉腫の根底にある機序をよりよく理解し、この疾患に対する装備を充実させるために、トランスクリプトームの風景は、この疾患の遺伝的複雑性を克服し、より解釈しやすい情報を提供することができると推論した。教師なしの機械学習戦略を用いて、それらは骨肉腫腫瘍クローン及びTMEを記述する遺伝子成分のレパートリーを定義した。それらは、共発現を介した成分相互作用がコホートを良好な予後不良の腫瘍に層別化することを観察した。
【0006】
構成要素の機能的特徴づけは、良好な予後腫瘍と、特定の先天性免疫発現及び予後不良腫瘍と、血管新生、破骨細胞、及び脂肪生成活性を関連付け、各群に特異的な異なるCNVを伴う。これらの異なる機能的特徴は、骨肉腫における治療、例えばG1群腫瘍に対する免疫調節(例えば、ミファムルチド)(良好な予後)、及びG2(治療困難)群に対する抗破骨細胞療法及び抗血管新生療法を層別化するために用いることができる。
【0007】
本発明者らはまた、PPARγ、piRNA又はCTAを含む骨肉腫の基礎となる生物学的経路を同定した。
【0008】
最後に、同博士らは骨肉腫に関与する37の遺伝子のパネルを同定し、15個の遺伝子の最小の予後的特徴の予測力を確認した。
【0009】
第1の態様によれば、本発明は、従って、個体における骨肉腫の予後を決定するためのインビトロ方法に関し、該方法は、該個体から採取された生物試料からのシグネチャー遺伝子のコレクションの発現レベルを測定するステップ、該シグネチャー遺伝子のコレクションの発現レベルを骨肉腫の転帰と関連付ける予測モデルに測定された発現レベルを適用するステップ、及び該個体における骨肉腫の予後を決定するために、該予測モデルの転帰を評価するステップを含む。
【0010】
本発明はまた、個体から採取された生物試料からのシグネチャー遺伝子のコレクションの発現レベルを測定することによって、対象における骨肉腫の進行を予測するための診断キットに関する。
【0011】
本発明の別の目的は、骨肉腫の予後不良の患者を治療するためのPPARγ阻害剤、特にPPARγアンタゴニストの使用である。
【0012】
特に、本発明は、個体における骨肉腫の予後を決定するためのインビトロ方法を提供し、(a)上記個体から採取された生物試料由来のシグネチャー遺伝子のコレクションを測定し、上記シグネチャー遺伝子のコレクションが、AMZ2P1、ASXL2、BIRC6、C11orf58、C1orf53、C5orf28、CCDC34、DCUN1D2、DNMT3A、ECI1、EIF3M、ESCO1、FAM35DP、GAGE12D、GAGE12G、HADHA、HIST2H2AA3、HIST2H2AA4、MAPK1、MEAF6、MYO1B、MYOM3、NDP、PAIP1、PCID2、PEG10、PEX26、POLR2C、PRR14L、RALGAPA2、SLC2A6、SLC7A4、ST7L、THAP9-AS1、TIMP3、TTPAL、WNT4からなる群から選択される少なくとも2つの遺伝子を含み;(b)ステップ(a)で測定された発現レベルを、上記シグネチャー遺伝子のコレクションの発現レベルと骨肉腫の転帰とを関連付ける予測モデルに適用し;(c)上記予測モデルの転帰を評価して、上記個体における骨肉腫の予後を決定することを含む。いくつかの実施形態において、シグネチャー遺伝子のコレクションは、CCDC34及びMEAF6を含む。いくつかの実施形態において、シグネチャー遺伝子のコレクションは、AMZ2P1、ASXL2、BIRC6、C11orf58、C1orf53、C5orf28、CCDC34、DCUN1D2、DNMT3A、ECI1、EIF3M、ESCO1、FAM35DP、GAGE12D、GAGE12G、HADHA、HIST2H2AA3、HIST2H2AA4、MAPK1、MEAF6、MYO1B、MYOM3、NDP、PAIP1、PCID2、PEG10、PEX26、POLR2C、PRR14L、RALGAPA2、SLC2A6、SLC7A4、ST7L、THAP9-AS1、TIMP3、TTPAL、WNT4からなる群から選択される少なくとも5個、好ましくは少なくとも7個、より好ましくは少なくとも8個の遺伝子を含む。いくつかの実施形態において、シグネチャー遺伝子のコレクションは、AMZ2P1、C5orf28、CCDC34、GAGE12D、MEAF6、SLC2A6、SLC7A4及びTHAP9-AS1を含む。いくつかの実施形態において、シグネチャー遺伝子のコレクションは、AMZ2P1、ASXL2、BIRC6、C11orf58、C1orf53、C5orf28、CCDC34、DCUN1D2、DNMT3A、ECI1、EIF3M、ESCO1、FAM35DP、GAGE12D、GAGE12G、HADHA、HIST2H2AA3、HIST2H2AA4、MAPK1、MEAF6、MYO1B、MYOM3、NDP、PAIP1、PCID2、PEG10、PEX26、POLR2C、PRR14L、RALGAPA2、SLC2A6、SLC7A4、ST7L、THAP9-AS1、TIMP3、TTPAL、WNT4からなる群から選択される少なくとも10個、好ましくは少なくとも12個、より好ましくは少なくとも15個の遺伝子を含む。いくつかの実施形態において、シグネチャー遺伝子のコレクションは、AMZ2P1、C5orf28、CCDC34、ESCO1、GAGE12D、HADHA、MEAF6、RALGAPA2、SLC2A6、SLC7A4、THAP9-AS1及びTIMP3を含む。いくつかの実施形態において、シグネチャー遺伝子のコレクションは、AMZ2P1、ASXL2、C11orf58、C5orf28、CCDC34、ESCO1、GAGE12D、HADHA、MEAF6、PAIP1、RALGAPA2、SLC2A6、SLC7A4、THAP9-AS1及びTIMP3を含む。いくつかの実施形態において、シグネチャー遺伝子のコレクションは、AMZ2P1、C5orf28、CCDC34、ESCO1、FAM35DP、GAGE12D、HADHA、HIST2H2AA3、HIST2H2AA4、MAPK1、MEAF6、POLR2C、RALGAPA2、SLC2A6、SLC7A4、ST7L、THAP9-AS1、TIMP3及びTTPALを含む。
【0013】
いくつかの実施形態において、上記シグネチャー遺伝子のコレクションの発現レベルは、診断時に測定される。いくつかの態様において、上記シグネチャー遺伝子のコレクションの発現レベルは、再発時に測定される。
【0014】
いくつかの実施形態において、上記シグネチャー遺伝子の遺伝子発現レベルは、上記個体における骨肉腫の進行を予測するために、1つ以上の他のパラメータと組み合わされる。いくつかの実施形態において、1つ以上の他のパラメータは、患者に投与される薬物、年齢、診断時の腫瘍高さ及び病期、診断時の転移の有無、及びそれらの任意の組み合わせからなる群から選択される。
【0015】
いくつかの実施形態において、生物試料は、個体由来の骨肉腫生検試料である。
【0016】
いくつかの実施形態において、本方法は、安定性選択を用いた上記予測モデルの開発をさらに含む。いくつかの実施形態において、本方法は、ロジスティック回帰を用いて、上記予測モデルを開発することをさらに含む。いくつかの実施形態において、本方法は、弾性ネット正規化ロジスティック回帰による安定性選択を用いて遺伝子を選択することによって、上記予測モデルを開発することをさらに含む。
【0017】
本発明はまた、対象における骨肉腫の進行を予測するための診断キットに関し、上記キットは、上記個体から採取された生物試料由来のシグネチャー遺伝子のコレクションの発現レベルを測定するための方法で用いることができる、少なくとも1つの核酸プローブ又はオリゴヌクレオチドを含み、上記シグネチャー遺伝子のコレクションは、AMZ2P1、ASXL2、BIRC6、C11orf58、C1orf53、C5orf28、CCDC34、DCUN1D2、DNMT3A、ECI1、EIF3M、ESCO1、FAM35DP、GAGE12D、HADHA、HIST2H2AA3、HIST2H2AA4、MAPK1、MEAF6、MYO1B、MYOM3、NDP、PAIP1、PCID2、PEG10、PEX26、POLR2C、PRR14L、RALGAPA2、SLC2A6、SLC7A4、ST7L、THAP9-AS1、TIMP3、TTPAL、WNT4からなる群から選択される少なくとも2つの遺伝子を含む。
【0018】
本発明の別の態様は、骨肉腫患者における抗腫瘍治療としてのPPARγ阻害剤、特にPPARγアンタゴニストの使用である。いくつかの実施形態において、上記対象は、青年又は若年成人である。いくつかの実施形態において、上記対象は、上述の方法によって化学療法に対する不良反応者として同定される。いくつかの実施形態において、上記阻害剤は、別の抗腫瘍治療と組み合わせて使用される。いくつかの実施形態において、上記PPARγ阻害剤は、T0070907(CAS番号313516-66-4)である。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】A.G1(ピンク色)及びG2(青色)患者の全生存曲線。B.G1(ピンク色)及びG2(青色)患者の無増悪生存曲線。C.Barplotは、コホート患者の全生存期間の予測のための臨床変数及びG1/G2層別化を含むモデルの割合を示している。D.独立成分メタ遺伝子ベクターの主成分分析。プロットには、最も寄与するロード変数のICの名前が表示される。太い点と透明な点は、それぞれ死亡した患者と生存している患者を示している。ドットはG1(ピンク色)又はG2(青色)のメンバーシップに従って色分けされる。E.G1又はG2の間の患者を層別化するために部分最小二乗判別分析により推定した最も寄与度の高いICの負荷。
【
図2】各サブネットワークの遺伝子発現分布とそれらの予測される生物学的機能。サブネットワーク遺伝子セットにおける有意な濃縮を検出するために、ネットワークからの遺伝子のlog2倍数変化(G1対G2)を用いた遺伝子セット濃縮分析により計算した調整P値。
【
図3A】A.コピー数変化のGISTIC分析により、G1又はG2腫瘍と有意に関連することが明らかになった。
【
図3B-3D】B.82人の骨肉腫患者の独立したコホートからの予測G1(ピンク色)及びG2(青色)患者の全生存曲線。C.OS2006コホートDの96試料について、カスタムNanostringパネルを用いたG1(ピンク色)及びG2(青色)予測患者の全生存曲線。左のバープロットは、OS2006試験に登録された患者79人中39人のG1及びG2腫瘍の割合を示し、腫瘍はRNA配列決定に提出され、再発した。右のバープロットは、MAPPYACTS試験に登録された骨肉腫患者42人から再発時に採取されたG1及びG2腫瘍の割合を示している。
【
図4A-1】A.PPARアンタゴニスト(T0070907-丸点)及び2つのPPARアゴニスト(TGZ-四角又はRGZ-三角)の圧力下での、48及び72時間における骨肉腫細胞株の細胞生存性評価。濃度は、MTSアッセイにより[0;0.01;0.1;1;5;10;17.5;20;25;30;50又は100μmol/L]であった。少なくとも3回の独立した試験を実施し、それぞれ3回の反復を行った。正常肺組織由来の細胞をPPARγ発現の陽性対照として使用し、β-アクチンをハウスキーピング遺伝子対照として使用した。
【
図4A-2】A.PPARアンタゴニスト(T0070907-丸点)及び2つのPPARアゴニスト(TGZ-四角又はRGZ-三角)の圧力下での、48及び72時間における骨肉腫細胞株の細胞生存性評価。濃度は、MTSアッセイにより[0;0.01;0.1;1;5;10;17.5;20;25;30;50又は100μmol/L]であった。少なくとも3回の独立した試験を実施し、それぞれ3回の反復を行った。正常肺組織由来の細胞をPPARγ発現の陽性対照として使用し、β-アクチンをハウスキーピング遺伝子対照として使用した。
【
図4B】B.PPARγのタンパク質発現は骨肉腫細胞株においてウエスタンブロットにより測定した。
【
図5】各IC試料の寄与とCNAの対数倍変化との間の散布図であり、対応する回帰モデルにおいて最大の係数を示す。
【
図6】A.RNA-seqとNanostring発現との相関に基づく遺伝子選択を示すバープロット。青い棒は相関する遺伝子を示す。p値は10-5未満であり、Nanostringシグネチャーために選択される。イタリック/太字の5つの遺伝子は、RNA-seqの低い分散に基づいて選択されたハウスキーピング遺伝子に対応し、NanostringデータBを正規化した。OS2006コホートからの96試料のカスタムNanostringパネルを用いた予測G1(ピンク色)及びG2(青色)患者の無増悪生存曲線。
【
図7】PPARGのアンタゴニスト又はアゴニストで処理した後、HOS細胞で差次的に発現した遺伝子(p-adj<0.01)。
【
図8】免疫組織化学(IHC)による骨肉腫PDXにおけるPPARγ発現。
【
図9】原発腫瘍(左)及び肺転移(右)に対する、骨肉腫傍脛骨PDXモデルMAP-217単独(上図)及びメトトレキサート(下図)との併用(下図)におけるT0070907のインビボ効果。A.対照マウス及びT0070907投与マウスにおいて、初期腫瘍サイズの2.5倍に達するまでの遅延(日数)。B.対照及びT0070907処置マウスにおけるIHC(Humain KI67染色)による転移評価。C.単剤及び併用の原発腫瘍の腫瘍増殖曲線。
【発明を実施するための形態】
【0020】
好ましい実施形態の詳細な説明
特に断らない限り、本明細書に開示される方法及びシステムの実施は、当業者に公知であり、多数の文献及び参考文献に記載されている、分子生物学、微生物学、タンパク質精製、タンパク質工学、タンパク質及びDNA配列決定、及び組換えDNA分野において一般的に使用される従来の技術及び装置を含む。
【0021】
本明細書に別段の定義がない限り、本明細書で使用される全ての技術用語及び科学用語は、当業者によって一般的に理解されるものと同じ意味を有する。本明細書に含まれる用語を含む種々の科学用語は、当業者に周知であり、当業者に利用可能である。本明細書に記載される方法及び材料と類似又は同等のいずれかの方法及び材料は、本明細書に開示される実施形態の実施又は試験において使用を見出すが、いくつかの方法及び材料が記載される。以下に定義する用語は、仕様全体を参照することにより、より詳細に説明される。本開示は、記載された特定の方法、プロトコール、及び試薬に限定されないことを理解されたい。なぜなら、これらは、当業者が使用する文脈に応じて変化し得るからである。
【0022】
本文では、以下の一般的な定義を使用する。
【0023】
本明細書中で使用される場合、文脈が別の意味を明確に示さない限り、単数語「a」、「an」、及び「the」は、複数の参照を含む。
【0024】
「核酸配列」、「発現された核酸」、又は対応するシグネチャー遺伝子の文脈で使用されるそれらの文法的等価物は、その量が遺伝子の発現レベルの指標として測定される核酸配列を意味する。核酸配列は、遺伝子の一部、調節配列、ゲノムDNA、cDNA、mRNA及びrRNAを含むRNA、又は他のものであり得る。特定の実施形態は、一次標的配列としてmRNAを利用する。本明細書に概説されるように、核酸配列は、試料からの配列、又は、例えば、PCR増幅産物(例えば、「アンプリコン」)などの反応の産物などの二次標的であり得る。シグネチャー遺伝子に対応する核酸配列は、より長い配列がより特異的であるという理解の下で、任意の長さであり得る。プローブを核酸配列にハイブリダイズさせて、試料中のシグネチャー遺伝子の発現の有無を決定する。
【0025】
本明細書中で使用される場合、用語「含む」は、命名された要素が含まれることを意味するが、他の要素(例えば、名前の付いていないシグネチャー遺伝子)を加えることができ、依然として、本クレームの範囲内の組成物又は方法を表すことができる。
【0026】
本明細書中で使用される場合、用語「シグネチャー遺伝子」は、その発現が、正又は負のいずれかで、疾患の進展又は転帰、又は疾患の進展又は転帰の別の予測因子と相関する遺伝子を指す。「特徴核酸」とは、cDNAの場合には、シグネチャー遺伝子によってコードされるRNA転写物の完全もしくは部分的配列、又はそのような完全もしくは部分的配列の相補物を含む、又はそれに対応する核酸である。特徴タンパク質は、開示のシグネチャー遺伝子によってコードされるか、又はそれに対応する。
【0027】
用語「再発予測」は、本明細書中では、治療後に明らかな残存腫瘍組織を有さない患者における骨肉腫再発の可能性の予測を指すために使用される。本開示の予測方法は、任意の特定の患者に対して最も適切な治療法を選択することによって、治療の決定を行うために臨床的に使用することができる。本開示の予測方法はまた、患者が、外科的介入、与えられた薬物又は薬物の併用による化学療法、及び/又は放射線療法などの治療レジメンに好ましく反応する可能性があるかどうかを予測する上で有用なツールを提供することができる。
【0028】
用語「対象」、「個体」又は「患者」は、本明細書中ではヒト対象を指す。
【0029】
「骨肉腫」とは、本明細書において、骨を形成する細胞から始まる骨がんの一種を指す。骨肉腫は、脚に発生することが多く、腕に発生することもあるが、どの骨にも発生する可能性がある。非常にまれな例では、骨の外側の軟部組織に発生する。
【0030】
本明細書中の用語「抗腫瘍治療」は、手術以外のがんに対する任意の治療を示す。
化学療法、ホルモン療法、生物学的療法、放射線療法などがある。
【0031】
本明細書中で使用される場合、「治療する」、「治療」及び「治療すること」とは、がん、特に固形腫瘍の進行、重症度、及び/又は持続時間のいずれかの減少又は改善;例えば、骨肉腫において、1つ以上の治療の投与から生じるその1つ以上の症状の減少を指す。
【0032】
その他の定義については、必要に応じて以下に規定する。
【0033】
第1の態様によれば、本発明は、以下のステップを含む、対象における骨肉腫の予後を決定するためのインビトロ方法に関する:
a.該シグネチャー遺伝子のコレクションが、AMZ2P1、ASXL2、BIRC6、C11orf58、C1orf53、C5orf28、CCDC34、DCUN1D2、DNMT3A、ECI1、EIF3M、ESCO1、FAM35DP、GAGE12D、GAGE12G、HADHA、HIST2H2AA3、HIST2H2AA4、MAPK1、MEAF6、MYO1B、MYOM3、NDP、PAIP1、PCID2、PEG10、PEX26、POLR2C、PRR14L、RALGAPA2、SLC2A6、SLC7A4、ST7L、THAP9-AS1、TIMP3、TTPAL、WNT4からなる群から選択される少なくとも2つの遺伝子を含む、上記対象から採取されたシグネチャー遺伝子のコレクションの発現レベルを測定するステップ;
b.ステップ(a)で測定された発現レベルを、骨肉腫の転帰を伴う上記シグネチャー遺伝子のコレクションの発現レベルを関連付ける予測モデルに適用するステップ;及び
c.上記予測モデルのアウトプットを評価して、上記対象における骨肉腫の予後を決定するステップ。
【0034】
上記の方法では、予測モデルは、当業者によって公知の任意の適切な方法によって開発することができる。機械学習(ML)アプローチは医学において有用であることが実証されており、予測法を構築するために有利に使用することができる。このような方法の例は、以下の実験部分に開示されている。予後特徴を同定し、改良するための計算プロトコルの他の例が記載されており、本発明の文脈で当業者によって使用され得る66-69(Vey et al., Cancers, 2019; Xia et al., Nature Communications, 2019; Jiang et al., Cell Systems, 2018; Liu et al, 2020; EBioMedicine)。
【0035】
予測モデルは、骨肉腫を有することが知られている患者からコレクションされたデータを使用して有利に開発される。当業者は、異なる臨床状況に対応する異なる予測モデルを得ることができる。例えば、診断時に患者からのみコレクションされたデータを用いてモデルを開発することができ、原発腫瘍の手術を受けた患者などのデータを用いて別のモデルを開発することができる。
【0036】
いくつかの実施形態において、遺伝子発現データは、正規化、バックグラウンド補正及び/又はバッチ効果補正によって前処理され得る。その後、予後良好群(第1群)と予後不良群(第2群)の患者の層別化のために、前処理されたデータを、遺伝子の差次的発現について分析することができる。
【0037】
いくつかの実施形態において、骨肉腫の予後に対する予測モデルを開発するために、最終モデルに含まれるプローブは、安定性選択を用いて、プローブの全体のセットから選択される。いくつかの実施形態において、モデルは、ロジスティック回帰、例えば、弾性正規化ロジスティック回帰を用いて開発される。弾性ネット回帰は、LASSO(L1)とリッジ回帰(L2)正規化ペナルティの両方を組み込んだ高次元回帰法である。ペナルティの正確な混合(LASSO対リッジ)は、パラメータα(α=0は純リッジ回帰、α=1は純LASSO)によって制御される。正則化の程度は単一ペナルティパラメータによって制御される。LASSO及びリッジ回帰の両方は、非実施化回帰に対してモデル係数をゼロに収縮させるが、LASSOは、係数を正確にゼロに収縮させることができ、従って、可変選択を効果的に行うことができる。しかしながら、LASSO単独は相関予測子の中からランダムに選択する傾向があり、リッジペナルティの追加が予防に役立つ。リッジペナルティは相関予測子の係数を互いに縮小し、一方のラッソはそれらのうちの1つを選び、他のものを捨てる傾向があることが知られている。いくつかの実施形態において、Rパッケージ「glmnet」における弾性ネットロジスティック回帰の実装を使用することができる。
【0038】
安定性選択の背後にある考え方は、元のデータを「撹乱」することによって得られる複数のデータセットにわたって、一貫して再発を予測することを示す「安定」プローブを見つけることである。具体的には、データの摂動バージョンは、置換なしでm<n個の対象(nは総対象数)をサブサンプリングすることによって得られる。次に、正規化回帰(又はいくつかの実施形態における弾性ネット)が、完全正規化パス(すなわち、正規化ペナルティの関数としてのモデル係数)を得るために、データの各サブ試料バージョンに対して実行される。LASSOペナルティの効果は、プローブ係数の大部分を正確にゼロに縮小することであり、データのサブ試料バージョンのかなりの割合にわたる非ゼロ係数(予測)のプローブは、安定した予測因子と見なされる。
【0039】
いくつかの実施形態では、弾性正味回帰による安定性選択を実施するために、繰返し交差検証(例えば、10倍交差検証のためのRパッケージを使用)を用いて調整パラメータを較正することができる。当業者は、良好な予測を提供し、良好な予測を維持しつつ、必要な限り多くの特徴を含むように、調整パラメータαを選択する。いくつかの実施形態において、安定性選択は、データの異なる数のサブ試料を用いて実施され得、各サブ試料は、最終モデルに対するロバストな予測因子を同定するために、総試料サイズの一部(各々は、元のものとほぼ同じ比率の症例及び対照を有する)を有する。いくつかの実施形態では、遺伝子発現レベルの差次的変動は生物学的に重要であり得るため、標準偏差(すべての遺伝子特徴を同一スケールに配置するためのglmnetにおけるデフォルト)による遺伝子発現レベルの標準化は行われない。いくつかの実施形態において、そのような標準化を実施することができる。いくつかの実施形態において、例えば、診断時の転移の存在などの臨床変数が強制的に組み込まれる(すなわち、弾性ネット正則化ペナルティの影響を受けない)。
【0040】
実験部分に例示された特定の実施形態によれば、予測モデルは、予後良好(3年OS=100%)のG1及び予後不良(3年OS<70%)のG2の2つのグループに患者を層別化し、より緊密なモニタリングを必要とする。
【0041】
G1群に分類された患者は、免疫調節剤(例えば、ミファムルチド)による治療が有益である一方、G2群の患者は、多チロシンキナーゼ阻害剤又はモノクローナル抗体、ビホスホネート又は抗RANKLのような抗破骨細胞、並びにPPARγアンタゴニスト(実施例2に例示されるように)のような抗血管新生剤による治療が有益である可能性がある。
【0042】
下記の実験部の表4~8は、上記方法を実施するために使用できる5つの異なるモデルのパラメータを提供する。
【0043】
好ましい実施形態において、シグネチャー遺伝子のコレクション(又はパネル)は、少なくともCCDC34及びMEAF6を含む。実験部分に示す表7は、これら2つの遺伝子の発現レベルに基づくモデルのパラメータを提供する。当然に、これらは例として提供され、限定するものではない。当業者は、例えば、異なる患者コホートを用いてこれらのパラメータを洗練するか、又はそれらを遺伝子の発現レベルを測定するために用いられる異なる技術を用いて得られる値に適応させることができる。当然に、このことは、このアプリケーションで提供されるすべてのモデルに当てはまる。
【0044】
いくつかの実施形態においては、表4に示される37遺伝子のうちの2、3、4、5、6、7、8、9、10、Il、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、35、36、又は全部を予測モデルにおいて用いることができる。例示的な目的のためにのみ、実験部分に示される表4は、これら37遺伝子の発現レベルに基づくモデルのためのパラメータを提供する。
【0045】
いくつかの実施形態において、表4のリストの少なくとも5個、好ましくは少なくとも7個、より好ましくは少なくとも8個の遺伝子が含まれる。いくつかの実施形態において、表4のリストの少なくとも10個、好ましくは少なくとも12個、より好ましくは少なくとも15個の遺伝子が含まれる。いくつかの実施形態において、これらの2つ以上の遺伝子は、予測モデルを開発するために、訓練データセットにおける再発との相関によって選択され得る。いくつかの実施形態において、1つ以上の遺伝子は、それらの信頼性ランクによって選択され得る。いくつかの実施形態において、2つ以上の遺伝子は、それらの予測力ランキングによって選択され得る。
【0046】
いくつかの実施形態において、シグネチャー遺伝子のパネルは、少なくともAMZ2P1、C5orf28、CCDC34、GAGE12D、MEAF6、SLC2A6、SLC7A4及びTHAP9-AS1を含む。例示的な目的のためにのみ、実験部分に示される表6は、これら8つの遺伝子の発現レベルに基づくモデルのためのパラメータを提供する。
【0047】
いくつかの実施形態において、シグネチャー遺伝子のパネルは、少なくともAMZ2P1、ASXL2、C11orf58、C5orf28、CCDC34、ESCO1、GAGE12D、HADHA、MEAF6、PAIP1、RALGAPA2、SLC2A6、SLC7A4、THAP9-AS1及びTIMP3を含む。例示的な目的のためにのみ、実験部分に示された表5は、これらの15個の遺伝子の発現レベルに基づくモデルのためのパラメータを提供する。
【0048】
いくつかの実施形態において、シグネチャー遺伝子のパネルは、少なくともAMZ2P1、C5orf28、CCDC34、ESCO1、FAM35DP、GAGE12D、HADHA、HISTH2H2A3、HIST2H2A4、MAPK1、MEAF6、POLR2C、RALGAPA2、SLC2A6、SLC7A4、ST7L、THAP9-AS1、TIMP3及びTTPALを含む。例示的な目的のためにのみ、実験部分に示された表8は、これら20個の遺伝子の発現レベルに基づくモデルのためのパラメータを提供する。
【0049】
いくつかの実施形態において、シグネチャー遺伝子のパネルは、少なくともAMZ2P1、C5orf28、CCDC34、ESCO1、GAGE12D、HADHA、MEAF6、RALGAPA2、SLC2A6、SLC7A4、THAP9-AS1及びTIMP3を含む。これら12個の遺伝子は、表5及び表8の両方に示されるモデルに存在する。
【0050】
本発明の方法は、上記の任意の態様において、さらに、該対象における骨肉腫の進行を予測するために、該シグネチャー遺伝子の遺伝子発現レベルを1つ以上の他のパラメータと組み合わせることを含むことができる。選択された遺伝子の発現レベルに組み合わせることができるこのような臨床パラメータの非限定的な例には、診断時の転移の存在及び量、診断時の腫瘍の大きさ、高さ及び/又は病期、患者に投与された薬物、年齢、及びそれらの任意の組み合わせが含まれる。
【0051】
いくつかの実施形態において、安定性選択によって決定された一組のプローブの発現レベル及び臨床変数に基づいて、予測モデルは、弾性ネット正規化ロジスティック回帰を用いてロジスティックモデルを適合させることによって得られる。Glmnetは、全範囲をカバーするλの値の格子上で、次の課題:
【0052】
【0053】
を解決する。同調パラメータλは、ペナルティの全体的な強度を制御する。
【0054】
いくつかの実施形態において、表4に開示されたパネルから遺伝子のサブセットを選択する代わりに、モデルは、ロジスティック回帰において遺伝子を異なる重み付けすることができる。いくつかの実施形態において、個体に対する骨肉腫の予後を決定することは、シグネチャー遺伝子のコレクションの発現レベルを予測モデルに適用することを含み、予測モデルは、シグネチャー遺伝子のコレクションの安定性ランキングに従って、該発現レベルを重み付けすることを含む。いくつかの実施形態において、本方法は、シグネチャー遺伝子のコレクションの予測力ランキングに従って発現レベルを重み付けすることを含む。
【0055】
上記のロジスティック回帰モデルは、発現レベル及び臨床変数を組み合わせて各個人のスコアを得る具体的な方法を表す。いくつかの実施形態において、発現レベルは、弾性-正味正規化ロジスティック回帰において重み付けされる。いくつかの実施形態において、発現レベルは、LASSOを使用する際に重み付けされる。ここでの重み付けは、モデル係数(発現レベル及び臨床変数の重みと考えられる)を指すのではなく、ロジスティック回帰手順における変数の重要性を差次的に説明するための追加的なメカニズムを指す。この点に関して、別の実施形態は、無重みロジスティック回帰、すなわち、全ての遺伝子を等しく処理し、重み付けロジスティック回帰、安定性選択頻度による重み付けを考慮する。
【0056】
いくつかの実施形態において、種々の臨床変数(例えば、患者に投与される薬物、年齢、診断時の腫瘍の高さ及び病期、診断時の転移の存在)は、シグネチャー遺伝子とともに、同じロジスティックモデルに含まれる。係数は、各変数(遺伝子発現及び臨床値)について定義する。このロジスティック回帰モデルは、遺伝子発現スコア及び臨床変数が与えられれば、臨床的再発の確率を提供する。この確率は0-1の間の数値であり、患者ごとに疾患の予後を示す。
【0057】
いくつかの実施形態では、予測モデルの係数を同定することに加えて、開示は、特定のリスク確率に対してユーザが有することを望む最も有用な特異性及び感度を同定する。所望の特異度及び感度レベルに基づき、本方法は各患者のリスク状態を報告する。例えば、当業者は、本発明者らのモデルの特異性及び感度を考慮すると、予後良好反応者群(グループ1)に分類される可能性が45%の患者は、グループ1よりも予後不良反応者群(グループ2)に分類されるほうが良好であるか、又はその逆であることを見出す。換言すれば、よりユーザフレンドリーな基準は、更なるデータセットにおけるより詳細な分析に基づいて選択することができ、臨床医が偽陽性又は偽陰性を有するリスクをどの程度有することを望むかに応じて、リスク確率の最も実際的な解釈を決定する。
【0058】
骨肉腫、骨がん、又は骨関節及び軟部組織のがん、並びに小児肉腫のような種々の骨がんのいずれかを有することが疑われる個人は、開示の方法を用いて評価することができる。本開示の方法を用いて評価することができる例示的ながんとしては、骨肉腫、小児肉腫、並びに骨組織における成人及び小児の再発性がんが挙げられるが、これらに限定されない。
【0059】
本開示のモデルから決定することができる例示的な臨床転帰は、例えば、腫瘍の外科的除去、放射線、又は化学療法などの特定の治療コースに対する反応を含む。
【0060】
当業者は、骨肉腫細胞を含有する患者組織試料が、疾患の予後を決定することを目的とするものを含むが、これらに限定されない、本開示の方法において使用され得ることを理解する。これらの実施形態において、シグネチャー遺伝子の発現レベルは、患者から得られた試料中の、シグネチャー遺伝子産物、例えば、シグネチャー遺伝子によってコードされるタンパク質及びRNA転写物、並びにタンパク質及びRNA転写物の断片の量、例えば、絶対量又は濃度を評価することによって評価することができる。試料は、当然に、試料中のシグネチャー遺伝子産物の量を評価する前に、種々の周知のコレクション後調製及び保存技術(例えば、固定、保存、凍結、溶解、均質化、DNA又はRNA抽出、限外濾過、濃度、蒸発、遠心分離など)に付すことができる。
【0061】
骨肉腫の予後を決定するためのモデルを調製するのに有用な組織試料は、例えば、パラフィン及びポリマー包埋試料、エタノール包埋試料及び/又はホルマリン及びホルムアルデヒド包埋組織を含むが、任意の適切な試料を使用することができる。一般に、保存された試料から単離された核酸は高度に分解され得、核酸調製物の品質は、試料の保存期間、固定化技術及び単離方法を含むいくつかの因子に依存し得る。
【0062】
必要であれば、シグネチャー遺伝子配列を有する核酸試料を、公知の技術を用いて調製する。例えば、試料は、公知の溶解緩衝液、超音波処理、エレクトロポレーションなどを用いて細胞を溶解するために処理することができ、必要に応じて、当業者に理解されるように、精製及び増幅を行うことができる。さらに、この反応は、当業者に理解されるように、種々の方法で達成することができ、この反応の成分は、以下に概説する好ましい実施形態で、任意の順序で、同時に、又は連続的に添加することができる。さらに、反応は、アッセイにおいて有用であり得る種々の他の試薬を含むことができる。これらは、最適なハイブリダイゼーション及び検出を容易にし、及び/又は非特異的又はバックグラウンド相互作用を低減するために使用され得る、塩、緩衝液、中性タンパク質、例えばアルブミン、界面活性剤などの試薬を含む。また、プロテアーゼインヒビター、ヌクレアーゼインヒビター、抗微生物剤等のようなアッセイの効率を改善する試薬も、試料調製方法及び純度に依存して使用することができる。
【0063】
いくつかの実施形態において、骨肉腫組織に加えて、又はその代わりに、生物試料を用いて、シグネチャー遺伝子の発現レベルを決定することができる。いくつかの実施形態において、適切な生物試料は、限定されるものではないが、血液、患者又は他の体液の尿、エキソソーム、及び循環腫瘍核酸から単離された循環腫瘍細胞を含む。
【0064】
特定の実施形態によれば、上記シグネチャー遺伝子のコレクションの発現レベルは、診断時に測定される。
【0065】
別の特定の実施形態によれば、上記シグネチャー遺伝子のコレクションの発現レベルは、再発時に測定される。
【0066】
いくつかの実施形態において、シグネチャー遺伝子の遺伝子発現レベルは、複数回測定され得る。いくつかの実施形態において、発現レベルのダイナミクスは、臨床転帰をより良く予測するために、シグネチャー遺伝子発現レベルの組み合わせで使用され得る。当業者は、骨肉腫の予後を決定するために、シグネチャー遺伝子の発現のレベル及びダイナミクスの効果を組み合わせるために、種々のアプローチが使用され得ることを理解する。
【0067】
本開示の方法は、不均一な組織にわたる発現プロファイリングのための差次的に発現される遺伝子の検出に依存する。従って、本方法は、非がん性組織又は対照対象におけるその発現と比較して、例えば、骨肉腫のようながんに罹患した個体において、特定の組織におけるその発現がより高いレベル又はより低いレベルに活性化されるプロファイリング遺伝子に依存する。遺伝子発現は、同じ条件の異なる段階で高レベル又は低レベルに活性化され得、差次的に発現される遺伝子は、核酸レベル又はタンパク質レベルで活性化又は阻害され得る。
【0068】
差次的シグネチャー遺伝子発現は、qRT-PCR(定量的逆転写ポリメラーゼ連鎖反応)及びマイクロアレイ分析のような当技術分野で公知の方法を用いて同定又は確認することができる。特定の実施形態において、差次的シグネチャー遺伝子発現は、マイクロアレイ技術又は任意の類似の技術(例えば、NanoString技術)を用いて同定又は確認することができる。したがって、シグネチャー遺伝子は、マイクロアレイ技術を用いて、新鮮又はパラフィン包埋腫瘍組織のいずれかで測定することができる。この方法では、関心のあるポリヌクレオチド配列をマイクロチップ基板上にめっきするか、アレイする。次に、アレイ配列を、目的の細胞又は組織由来の特異的DNAプローブとハイブリダイズさせる。
【0069】
組織試料中のシグネチャー遺伝子の発現レベルは、組織試料由来の核酸分子を一組のプローブと接触させることにより、完全に相補的なプローブが、少なくとも2つのユニバーサルプライミング部位及びシグネチャー遺伝子標的特異的配列を含む、シグネチャー遺伝子に対応する核酸配列とハイブリダイゼーション複合体を形成する条件下で、決定することができ、各プローブは、少なくとも2つのユニバーサルプライミング部位及びシグネチャー遺伝子標的特異的配列を含む;ハイブリダイゼーション複合体を形成するプローブを増幅して、アンプリコンを産生する;及びアンプリコンを検出することにより、ここで、アンプリコンの検出は、組織試料中のシグネチャー遺伝子に対応する核酸配列の存在を示し;及びシグネチャー遺伝子の発現レベルを決定する。
【0070】
組織試料中のシグネチャー遺伝子のセットに対応する核酸配列の発現レベルは、組織試料由来の核酸分子を、相補的プローブが、少なくとも2つのユニバーサルプライミング部位及びシグネチャー遺伝子特異的核酸配列を含む、シグネチャー遺伝子特異的核酸配列とハイブリダイゼーション複合体を形成する条件下で、一組のプローブと接触させること;ハイブリダイゼーション複合体を形成するプローブを増幅すること;アンプリコンを検出すること;ここで、アンプリコンの検出は、組織試料中のシグネチャー遺伝子のセットに対応する核酸配列の存在を示し;標的配列の発現レベルを決定し、ここで、少なくとも2つ、少なくとも3つ、少なくとも5つのシグネチャー遺伝子特異的配列の発現が検出される。
【0071】
本発明はまた、AMZ2P1、ASXL2、BIRC6、C11orf58、C1orf53、CDC34、CCDC1C34、DNMT3A、DNMT3A、ECI1、EIF3M、EIF1、EIF3M、ESCO1、FAM35DP、GAGE12D、GAGE12G、HADHA、HISTH2H2A3、HIST2H2A4、MAPK1、MEAF6、MYO1B、MYOM3、NDP、PAIP1、PCID2、PEG10、PEX26、POLR2C、PRR14L、RALGAPA2、SLC2A6、SLC7A4、ST7L、THAP9-AS2、TIMP3、WNT4からなる群から選択される少なくとも2つの遺伝子を含む、単離された骨肉腫シグネチャー遺伝子のコレクションに関する。特に、本発明は、上記のシグネチャー遺伝子のコレクションの各々に対して、プローブの適切なコレクションを提供する。そのようなプローブの例は、下記の表3に提供される。
【0072】
本発明は、試料が得られる個体に対する骨肉腫の予後を決定するための組成物、キット、及び方法を含む。キットは、本明細書に記載されるように、遺伝子サインの発現を特異的に検出するための、少なくとも1つの試薬、例えば、プローブ又は上記のようなプローブの集合(例えば、配列番号1~41の核酸プローブ又はそのサブセット)を含む任意の製造(例えば、パッケージ又は容器)である。
【0073】
下記の実施例2に示すように、本発明者らは、PPARγアンタゴニストが7つのヒト骨肉腫株において細胞生存率を低下させることを実証した。これは、PPARγ経路の阻害剤が、骨肉腫の治療のための装備における画期的な革新を構成する可能性があるという原理の証拠である。
【0074】
その態様の別の態様において、本発明は、従って、骨肉腫を有する対象における抗腫瘍治療として、特に青年又は若年成人を治療するための、PPARγ阻害剤の使用に関する。
【0075】
本発明に従って使用することができるPPARγ阻害剤の例としては、T0070907(CAS番号313516-66-4)、BADGE、FH535、GW9662、SR16832、SR202、及びそれらの組み合わせが挙げられる。
【0076】
特定の実施形態によれば、PPARγ阻害剤は、上述のように、本発明の方法によって化学療法に対する不良な反応者として同定された患者を治療するために使用される。
【0077】
特定の実施形態では、PPARγ阻害剤は、抗血管新生剤(例えば、多チロシンキナーゼ阻害剤及びモノクローナル抗体)、抗破骨細胞(例えば、ビホスホネート及び抗RANKL)などによる治療などの別の治療に組み合わせることができる。
【0078】
本発明の他の特徴は、本発明の枠組みにおいて実施され、その範囲を制限することなく、必要な実験的裏付けを提供する生物学的アッセイの以下の記載の過程においても明らかになる。
【実施例】
【0079】
本発明者らは、骨肉腫において、TME組成物へのアクセスを与えることに加えて、RNAレベルでの遺伝子発現は、表現型の特徴よりも、高度に再構成された遺伝的ランドスケープのエピジェネティック及び転写調節の最終的な読み取りとして、骨肉腫腫瘍をより良く記述すべきであると推論した。
【0080】
この仮説を検証するために、筆者らは、第一選択OS2006試験(NCT00470223)で集められ均一に治療された患者から診断時にサンプリングされた79の原発性骨肉腫腫瘍のRNA配列決定(RNA-seq)を行った。これらの試料は、コホート全体の主な臨床的特徴分布を要約したものである(表1)。骨肉腫細胞とTME細胞のトランスクリプトームランドスケープを研究するために、最初にそれぞれのトランスクリプトームプログラムを解離した。そのために、ICASSO安定化手順23を用いた独立成分分析(ICA,BIODICA実装)23によりRNA遺伝子発現マトリックスを、遺伝子モジュールとも呼ばれる50の独立成分(IC)に分解した。
【0081】
【0082】
実施例1:免疫浸潤及び腫瘍微小環境転写プログラムは診断時に小児骨肉腫を予後グループに層別化する
材料及び方法
集団及び物質
治療薬として承認されたフランスのOS2006/sarcoma09試験(NCT00470223)に登録された患者(最長50年)の生物試料を前向きに採取した。本試験はヘルシンキ宣言の倫理原則及び医薬品の臨床試験の実施の基準に従って実施した。登録時に患者が18歳未満であった場合は、患者又はその両親/保護者から、血液及び腫瘍試料についての特別なインフォームド・コンセントを得た。患者に提供された情報、使用された文書による同意、試料の採取及び研究プロジェクトは、独立した倫理委員会及び治験審査委員会の承認を得た。補助的な生物学的研究の一環として、RNA-seq、CGHアレイ及びWESをGustave Roussy Cancer Campussで実施した。
【0083】
2009年から2014年の間に、診断時に79の凍結骨肉腫生検試料を採取し、RNA-seqにより分析した。79人の患者の臨床的及び生存特性(表1)は、OS2006試験で登録された骨肉腫集団全体と同等であった。性比M/Fは0.55であり、年齢中央値は15.43歳(4.71~36.83歳)であった。原発腫瘍は四肢(94.9%)に位置し、20.2%は診断時に転移があった。化学療法はOS2006試験に従って実施され、患者の86%ではMTX-エトポシド/イホスファミド(M-EI)レジメン、患者の12.6%ではアドリアマイシン/プラチナ製剤/イホスファミド(API-AI)レジメンのいずれか、無作為化群では34.1%にゾレドロン酸が投与された。77人の患者が原発腫瘍の手術を受け、24%の患者で組織学的反応が不良であった。29例が再発し、遅延の中央値は1.55歳(範囲0.09.~3.62)であった。22例が死亡し、遅延の中央値は2.25年(範囲0.07~6.9)であった。追跡期間中央値は4.8年であった。全体として、3年PFS及びOSはそれぞれ65.82%及び82.27%であった。
【0084】
核酸抽出
AllPrep DNA/RNAミニキット(Qiagen,Courtabouf,France)を用いて、製造者の指示に従ってDNA及びRNAを単離した。定量/適格性評価は、Nanodrop 2000分光光度計(Thermo Fisher Scientific,Illkirch,France)及びBioanalyzer DNA 7500(Agilent Technologies,Les Ulis,France)を用いて行った。
【0085】
RNA配列決定
TrueSeq Stranded mRNAキットを用いて、以下の推奨事項に従ってRNA配列決定ライブラリーを調製した:1μg全RNAを用いたオリゴdTビーズによるポリA mRNA捕獲、約400pbまでの断片化、DNA二本鎖合成、及び配列決定のためのPCRによるライブラリーのイルミナアダプター増幅によるライブラリーのライゲーション。ライブラリー配列決定は、両技術において75 bpペアエンドモードでIlluminaシークエンサー(NextSeq 500又はHiseq 2000/2500/4000)を用いて実施し、データシークエンシングはバイオインフォマティクス分析によって処理した。RNA-seqによる潜在的融合転写物の最適な検出のために、自社設計メタ呼出者アプローチを使用した。
【0086】
RNA-seqにおける遺伝子発現分析
鎖ペアエンドRNA-seqライブラリーの品質を、fastqc(Babraham研究所のウェブサイトのBabrahamバイオインフォマティクスページで入手可能な高スループット配列データのための品質管理ツール)を用いて評価した。読み取りは、参照配列としてGRCh37 ENSEMBL mRNAデータセットを用いてRSEMでマッピングした。
【0087】
ICAは、icasso安定性分析を含むfastICAの最も性能の高い実装の一つであるBIODICAを用いて行った。100個未満の読み取りで表される遺伝子をICAからフィルタリングし、遺伝子発現マトリックスを対数スケール化し、遺伝子によってスケール化した後、50個の成分で分解した。IC間の関係を評価するために、IC間のピアソン相関をメタ遺伝子マトリックスから計算した。各ICについて、寄与遺伝子を、対応するICメタ遺伝子ベクターの平均の3標準偏差内の遺伝子として定義した。各成分について、位置的濃縮のためにmsigdbを用い、機能的濃縮のためにg:Profilerを用いて遺伝子セットの濃縮を行った。各成分について、GO、REACTOME又はTFカテゴリーで検出された最も顕著な濃縮のみが報告されている。位置的濃縮のためには、1e-4のFDRが最低限である細胞バンドのみが報告されている。同じ染色体腕からいくつかのシトバンドが濃縮されていることが認められた場合、有意性の低いp値のみが表2に報告されている。遺伝子発現マトリックスから、対応するICメタ遺伝子ベクターの平均の2.5標準偏差内で寄与遺伝子のみを選択し、Pearson距離を用いてネットワーク推論を行い、エッジ長を計算した。0.25以上の距離のエッジは廃棄した。Cytoscape v3.6.1を用いて、ネットワーク及びサブネットワークの図及び分析を作成した。本発明者らは、REACTOME FI vizプラグインを用いて、スペクトル分割に基づくネットワーククラスタリングアルゴリズムでネットワーク内のクラスタを検出し、各クラスタのGO生物学的プロセス用語でのそれらの機能的濃縮を推定した。
【0088】
Pearson距離とWardの構築法を用いて,Pheatmap Rパッケージを用いてメタ遺伝子マトリックスと対応するヒートマップの階層的分類を作成した。MixOmics RパッケージからのPls-da機能を用いて、G1/G2患者分類に最も寄与する独立成分を選択した。
【0089】
Kaplan-Meier OS及びPFS曲線は、サーブマイナー及び生存Rパッケージを用いて作成した。ログランク検定を用いて、群間の生存分布を比較し、対応するp値を提供した。
【0090】
【0091】
生読み取りカウント表からDESeq2 Rパッケージを用いて、差次的mRNA発現を推定した。
【0092】
glmnet Rパッケージ(パラメータ:type.measure=「mse」、α=0.8、ファミリー=「gaussian」)を用いたガウス回帰モデルを用いて、CNAs(RNA-seq試料と対になったCGHアレイから推定)を選択し、各ICを最適にモデル化した。同様に、本発明者らは、同じ染色体領域からの大きな染色体転写調節及びコピー数変化に対応するIC間の依存性を検出した。表2の太字で書かれた染色体領域は、ICが豊富な領域に相当し、モデルに最も寄与するCNAと重なり合っており、用量依存的な関係を示唆している。
図5は、回帰モデルにおいて最も高い係数を有するコピー数変化の、IC信号の散布図対コピー数の対数の対数倍変化によるケースを示す。
【0093】
glmnet Rパッケージを用いたロジスティック回帰モデルを用いて、G1をG2 RNA配列決定ライブラリー(パラメータ:type.measure=「mse」、α=0.35、ファミリー=「binomial」)から識別することができる最小遺伝子シグネチャーを定義した。クロスバリデーション戦略を用いて、最良のλを選択した。次に、TARGETコンソーシアムにより作成された82の骨肉腫RNA-seqデータセットからこの特徴的なG1及びG2腫瘍を予測し、MAPPYACTS試験(NCT02613962)における42の再発骨肉腫試料における署名を比較した。TARGET及びMAPPYACTに関して、遺伝子発現は、我々の79試料における遺伝子発現の平均及び分散によってスケール化された。TARGET試料については、Survminer及びSurvival Rパッケージを用いてKaplan-Meier OS及びPFS曲線を作成した。ログランク検定を用いて、群間の生存分布を比較し、対応するp値を提供した。
【0094】
オリゴヌクレオチドアレイ比較ゲノムハイブリダイゼーション(aCGH)アッセイ
すべての実験において、プールされたヒトの雌又は雄(Promega,Madison,WI,USA)からの性適合正常DNAを参照として使用した。オリゴヌクレオチドaCGHプロセシングは、製造業者のプロトコール(バージョン7.5;http://www.agilent.com)に詳述されているように実施した。等量(500ng)の腫瘍及び正常DNAをAluI及びRsaI(Fermentas,Euromedex,France)で断片化した。断片化したDNAをシアニンCy3-デオキシウリジン三リン酸(dUTP)又はCy5-dUTPで標識した。ハイブリダイゼーションは、SurePrint G3 Human CGH Microarray 4x180K(Agilent Technologies,Santa Clara,CA,USA)アレイ上で、20rpmの回転オーブン(Robbins Scientific,Mountain View,CA)中、65℃で24時間行った。ハイブリダイゼーション後、適切な洗浄ステップを行った。
【0095】
オリゴヌクレオチドaCGH混合(関節+個体)前処理
ガラスマイクロアレイの走査は、低オゾン濃度環境下で20℃にて3μmの分解能で100%PMTでAgilent G2505C DNAマイクロアレイスキャナを用いて行った。Feature Extractionソフトウェア(v11.5.1.1、Agilent)を用いて、プロトコールCGH 1105 Oct12と共に走査TIFF画像からデータを抽出した。v3.4(http://cran.r-project.org)では、すべての追加データ処理をR統計分析下で行った。獲得生強度をlog2(試験/参照)に変換した。生CGHプロファイルの全コホートの共同正規化を、デフォルトパラメータを用いて「cghseg」パッケージ(v1.0.2.1)を用いて実行した:共通の「波動効果」トラックを計算し、次に、lowess回帰を通して全ての個々のプロファイルに差し引いた。第2段階として、lowess回帰を通して事前に計算されたGC含量トラックを差し引くことにより、各プロファイルに対して個別正規化ステップを実行した。正規化CGHプロファイルの全コホートの共同セグメンテーションを、「コピー数」パッケージ(v1.16.0)で実装したペナル化最小二乗回帰を用いて行った。コホート全体のガンマ(ペナルティ)パラメータに固有値を設定するために、100回のクロスバリデーション折り返しを用いて各プロファイルに対して最適ガンマ値を計算し、最適ガンマの中央値を選択した(中央値=18、sd=4.2、範囲=11:41)。関節セグメンテーションは1604セグメントになった。プロファイルの個々のセンタリングは、プローブのlog2(比)値の分布密度において最も中心を置いたモードを選択する自社の方法を用いて行った。異常呼出は行わなかった。
【0096】
オリゴヌクレオチドaCGH分析
ゲノム座標はすべて、UCSCヒトゲノム構築hg19上に確立した。標本の階層的クラスタリングは、[[Euclidean/Pearson/Spearman]距離とWardの構築法を用いて、セグメント化データ上でRの下で行った。非負行列因数分解と球面k平均に基づく試料のクラスタ化を、それぞれ「NMF」(v0.20.6)と「skmeans」(v0.2.10)パッケージを用いて行った。最小共通領域(MCR)分析はGISTIC2(v2.0.22)を用いて行った。差分分析はノンパラメトリック統計検定(2クラスについてはWilcoxon、NクラスについてはKruskal-Wallis)を用いて実施し、すべてのp値はBenjamini-Hochberg法を用いてFDRで調整した。
【0097】
多変量比例ハザードモデル
全生存と主要臨床因子(性別、組織学的反応、転移状態、腫瘍サイズ、治療、化学療法思春期状態)とG1/G2シグネチャーとの関連をモデル化するために、Coxモデルを用いてブースティングによる安定性選択を検討した(Hofner et al., 2015: Controlling false discoveries in high-dimensional situations: boosting with stability selection; BMC Bioinformatics volume 16, Article number: 144)。
【0098】
これらの予測因子に対する選択頻度は、1,000のブートストラップ試料から計算した。ブースティング1回あたりの選択変数の数を2に、安定変数を定義する閾値を0.9に固定した(これは緩めることができ、偽陽性予測因子選択のリスクを増加させる)。偽陽性選択予測因子の最大数の期待に対応する家族当たり誤差率(PFER)及び有意水準は、以前に定義された2つの量から、(及び)Meinshausen及びBuhlmann(Meinshausen and Buhlmann (2010); Stability selection; Royal Statistical Society 1369-7412/10/72417J. R. Statist. Soc. B (2010)72, Part 4, pp. 417-473)によって提供された定義から計算した。これらの分析は、mboost Rパッケージを用いて行った。
【0099】
標的化RNA発現分析
Nanostring標準カスタムアプローチを用いて、サプライヤの推奨に従って直接遺伝子発現分析を行った。Nanostringに従って、5つのハウスキーピング遺伝子(CNOT1、EIF4G2、SF1、SLC39A1、及びSURF4)を含む、関心のある41のプローブの特異的パネルを設計した(表3 標的一覧)。RNA完全性は、断片アナライザーシステム(RNA濃度、RNA品質番号、RNA断片のパーセンテージ>300nt)、RNA濃度及び純度を、Nanodrop ND8000で制御した。
【0100】
【0101】
標的の数(<400)のために、全RNAの100ngをNanostringプローブにハイブリダイズさせた。本発明者らのコホートは、1バッチ当たりNo Template Control(NTC、水)試料及びUniversal RNA試料(Agilent Technologies、P/N:7400000)を含む2バッチのハイブリダイゼーションで176試料から構成された。ハイブリダイゼーションの前に、Nanostring陽性及び陰性対照を、対照におけるスパイクとして試料に添加した。プローブ及びmRNAを、65℃で16時間ハイブリダイズさせた後、NanoString nCounter調製ステーションでプロセッシングし、過剰のプローブを除去し、ビオチン化ハイブリッドをストレプトアビジンでコーティングしたカートリッジ上に固定化した。カートリッジをnCounter Digital Analyzer(NanoString Technologies)上の最大走査解像度(555視野(FOV))で走査し、個々の蛍光バーコードを計数し、RNA分子を定量した。Nanostring nSolver 4.0ソフトウェアを使用して、生データを制御し、データを正規化した。画像QC基準は93%を超えていた(閾値:FOVの75%)。結合密度は、陽性及び陰性対照シグナルとしてモニタリングした。NTC試料中の各標的について得られたカウント(1~9カウント)を、対象試料中の対応する標的に推定した。ハウスキーピング遺伝子シグナルの幾何平均を用いて、RNA含有量を正常化した。ユニバーサルRNAの比較はプラットフォーム合意(r2:0.98792)であった。176の試料のうち、性能の低い3つの試料が一次分析から棄却された:1つの試料は低結合密度(低い閾値:0.1;EX148 ARN010:0.09)であり、2つの試料は高いmRNA含有量正規化因子(閾値:20;EX148 ARN071:25.7及びEX148 ARN165:870.6)を有する。
【0102】
標的RNA発現パネルからのG1/G2層の予測
疑わしい相違を検出するために、本発明者らは最初に35遺伝子と5ハウスキーピング遺伝子のRNA発現のNanostringとRNA-seq推定を比較した。同様に、相関のp値(Parson法)が10-5よりも高い7つの遺伝子を除外した(図には示していない、
図6A)。166試料から、すでにRNA-seqにより分析され、従ってG1又はG2に分類された70試料を、28標的RNA発現パネル上のglmnetを用いて弾性正味正規化で我々のロジスティックモデルを再訓練するためのトレーニングセットとして選択した。交差バリデーション戦略により、αを0.8及びλに選択した。次に、残りの96試料のG1/G2層を予測し、サーブマイナー及び生存Rパッケージを用いてKaplan-Meier OS及びPFS曲線を作成した。ログランク検定を用いて、群間の生存分布を比較し、対応するp値を提供した。
【0103】
結果
1.1.独立した構成要素は生物学的機能とそれらの相互作用を要約する
最初に、特異的ICが臨床変数と個別に相関するかどうかを検証した。性別及びY染色体からの明らかな遺伝子濃縮と関連するIC2(図には示していない)を除き、他のICはp値調整後の臨床項目と有意に関連しなかった。
【0104】
次に、各ICの最も寄与する遺伝子を用いた機能的濃縮分析によりICを特性化した。本発明者らは、ICの90%が、msigdbデータベースによる転写調節上の大きな染色体領域又はg:Profilerによる特異的な細胞/分子機能のいずれかと有意に関連していることを観察した(表2)。いくつかのICは、統計的に有意な大きな染色体領域を含む遺伝子発現の変化を伴う腫瘍クローンに特異的であると思われた。これらの領域のいくつかは骨肉腫で観察された既知のCNVを要約しており、我々のRNA-seq試料と対に作製された70のCGHアレイとの比較によって確認された(表2、
図5)。残りの10のICからの寄与遺伝子は、多様なTME細胞の転写プログラム又は腫瘍細胞との相互作用を要約する。骨微小環境(破骨細胞/骨吸収IC25;骨芽細胞/骨化IC44)、血管新生(IC13)、免疫応答(IC41)に属する骨肉腫機能遺伝子モジュールを同定したが、ニューロン投射(IC48)及び筋肉(IC1)も同定した。コンポーネントのピアソン相関研究は、2つの主なコンポーネント群を有する特定のIC間の近接性を明らかにした(図には示していない)。このようなICクラスタリングは、骨肉腫腫瘍が2つの特異的なICパターンを共有し、TME、がん細胞、及び大きな染色体領域の調節にわたって強い関係を確認することを示す。これらの潜在的な機能的相互作用を解明するために、著者らはICに有意に寄与する遺伝子のみを用いて共発現ネットワークを推測した(平均からの3標準偏差以上)。同じICに属する遺伝子は、ネットワーク内で強い相互接続を示し、ICの潜在変数と実際に測定された遺伝子発現との間に連続性が存在することを確認している(図には示していない)。ほとんどの場合、REACTOME FI vizを用いて実施されたICと機能的サブネットワーク注釈の一致を同定し(図示せず)、不均一な腫瘍から機能的に関連する遺伝子モジュールに遺伝子発現マトリックスを分解するICAの効力を確認した。さらに、共発現ネットワークのアノテーションは、ICからの遺伝子をより正確なサブネットワークに分類するのに役立った。IC41は、最初は一般的な免疫応答としてフラグ付けされ、「適応免疫応答/好中球脱顆粒」、「1型インターフェロン応答」及び「適応免疫応答」に細分化されている。IC9は、「好中球脱顆粒/デフェンシン」及び「脂肪生成/ペルオキシソーム増殖因子活性化受容体(PPAR)シグナル伝達経路」に細分化されている。より大きなスケールでは、ネットワークは、高度に接続されたIC/サブネットワークのいくつかのハブの周りに構造化され、おそらく、TMEと腫瘍細胞との間の能動的クロストークを反映している。
【0105】
1.2.
予後別に患者を層別化する安定した独立した構成要素
本発明者らは、TME組成を反映するIC/サブネットワーク相互接続が臨床変数と関連しているかどうかを疑問視した。臨床的注釈を反映する安定IC(安定性指数>0.5)を用いて、階層的分類により腫瘍を分類した(図には示していない)。この監視されていない分析では、異なる平均的な「生存状態」に関連する2つの腫瘍群が定義され、コホートを、高リスク群G2(43.1%DR;図には示されていない)から、35の低リスク腫瘍、造粒G1(8.5%死亡率、DR)に分類した。本発明者らは、ログランク検定(p値=0.00042;
図1A)を用いてG1/G2群間でKaplan-Meier法により推定した有意差のある全生存(OS)を確認した。追跡期間中央値4.8年で、3y-OSはG1及びG2でそれぞれ100%及び67.8%であった。無増悪生存期間(PFS)にも差が認められたが、有意性は低かった(p値=0.042;
図1B)。次に、本発明者らは、既知の骨肉腫予後因子を含む多変量比例ハザードモデルを用いて、層別化の予後的価値に異議を唱えた。この安定性分析で試験したモデルは、診断時のG1/G2層別化がOSに対する最も寄与する因子であることを同定した(68.5%の組入れ頻度;
図1C)。我々の分析を精緻化するために、最初の2つの主成分空間におけるそれらの投影により、予後的G1/G2層別化に最も寄与するICを選択した(
図1D)。監督下部分最小二乗判別分析(
図1E)によって確認されるように、IC39はG1/G2層別を最もよく表しているが、他のいくつかのICは両群間の区別に関与している(
図1D、1E)。第1主成分(PCA1)は、第2成分(PCA2)がいずれの臨床項目とも有意に関連していない場合、いくつかのICの予後への高い関連性を確認した。したがって、PCA2は腫瘍細胞の興味深い状態(IC48:神経突起、IC49:EGR1調節遺伝子、IC50:KIT及びYES1発現、IC42:E2F1調節遺伝子)と関連している可能性があるが、生存に関連するPCA1機能にさらに焦点を当てた。これらの観察は、我々の層別化及び患者の予後に関連する複雑な形質が、いくつかの遺伝子モジュールの相互作用から出現したという我々の仮説を支持するものである。
【0106】
1.3.層別化ICは、特定の生物学的機能に関連する
診断時に検出可能なこの隠れた複雑な腫瘍形質を生物学的レベルで理解するために、ネットワークスケールで2つの予後グループを機能的に特性化した。推測されたネットワーク上で、G1対G2腫瘍のlog2倍変化遺伝子発現をオーバーレイした(データは示していない)。
【0107】
本発明者らは、G1群が、「先天性免疫応答/インターフェロン1応答」及び「炎症応答」に関与する遺伝子に有意に富む、より高いレベルで2つのIC41サブネットワークからの遺伝子を発現することを同定した(
図2)。興味深いことに、機能的に複雑な構成要素であり、G1群に最も寄与するIC39は、免疫TME(例えば、エピジェネティックな再プログラミング)に関連しているようである。HDAC11/HDAC6はIL10を負に調節し、KDM6AはIL6を正に調節する。これらの観察は、骨肉腫抗腫瘍免疫の良好な予後的役割に関するこれまでの文献からの結論を支持するものである。さらに、一部のG1腫瘍は、新生抗原源として知られる特異的ながん精巣抗原(CTA;IC26)を発現する。対照的に、予後不良G2群は、破骨細胞分化(IC25)、腫瘍血管新生/VEGFR(IC13)及び好中球脱顆粒(IC9)のような予後不良及び転移前表現型に関連して前述したTMEの他の側面を再開する関連サブネットワークを示した。他の2つの単離されたサブネットワークは、G2群で強くアップレギュレートされた(
図2):i)線維芽細胞ネットワーク(IC1)は、おそらく肺転移又は間葉様表現型及び転移に寄与するがん関連線維芽細胞(CAF)の筋線維芽細胞リプログラミングを反映する、及びii)脂肪細胞/PPARシグナル伝達経路(IC9)は、炎症状態及びがん進行を促進する代謝リプログラミングに関与する。これらのG2特性を組み合わせると、転移を誘発しやすい予後不良な骨肉腫TMEが描出され、TME及び腫瘍の運命を悪循環に固定する初期事象を意味する。
【0108】
この機能的アプローチを補完し、本発明者らの知見の妥当性を試験するために、遺伝子発現マトリックスに戻り、G1/G2間の差次的遺伝子発現分析を行った(
図2)。上記の結果と一致して、G1腫瘍では、本発明者らは、精子形成に関与する遺伝子(例えば、RHOXF2B、GTSF1、RHOXF2、DAZ3)に加えて、Xp11.23にクラスター化されたGAGEファミリーのCTA、及びその他(FMR1NB、PASD1、NLRP4、CT45A7、MAGEC3、PAGE2、MAEL、TDRD1、IL13RA2など)を含む、特定のCTAの再発現を観察した。この再発現は、減数分裂前又は減数分裂の制御に必要なメチル化レベルでのいくつかの主要なエピゲノム変化を誘発する。これに従い、本発明者らは、RNA遺伝子サイレンシング経路(例えば、MAEL、DDX4、TDRD1)に関与し、piRNA経路を介した減数分裂中の転移因子発現を抑制することが知られている、いくつかの遺伝子(調整されたp値<1.3×10-4)の有意なアップレギュレーションを観察した。同様に、G2群腫瘍の機能的特徴は、脂肪細胞分化、破骨細胞形成及び血管新生に関与する遺伝子のアップレギュレーションを伴う差次的遺伝子発現分析によって確認され、これには、他のG2機能との何らかの関連及び骨肉腫における予後不良(例えば、PLA2G2A、PAQR3、HP)が含まれる。
【0109】
このように、3つの相補的機能分析法はすべて一貫しており、骨肉腫の進行に対するTMEの主要な寄与の基礎となっており、先天性免疫応答は良好な予後G1腫瘍と関連していたが、血管新生、破骨細胞形成及び脂肪生成は不良な予後G2腫瘍と関連していた。これは、再発骨肉腫における抗血管新生活性を有するマルチチチロシンキナーゼ阻害剤の観察された臨床的有効性と一致するが、第一線の骨肉腫治療におけるゾレドロネートの観察された無効は、免疫系に対するその作用と部分的に関連していると考えられる。
【0110】
1.4.層別化ICは、異なる大きな染色体領域と関連している
これらの異なるTME組成に加えて、おそらくCNAsの用量効果に関連する大きな染色体領域を含む遺伝子発現の変化が観察され(図には示されていない、表2)、これらのG1/G2層別化グループの各々に関連していると考えられる。G1群(図に示されていない、表2)に最も影響力のあるIC寄与因子は、骨肉腫の腫瘍形成及び化学療法に対する反応に関与する遺伝子を含む、4qter(IC34)又は6p21.1-22.1(IC6:RUNX2、CDC5L、UBR2)に関連するサイトバンド12q14.1(CDK4、OS9)のような既知の骨肉腫細胞の特徴を反映していた。他のG1群寄与ICは、テロメア領域の調節異常発現(IC24:15qter、21qter、12qter;IC34:4qter;IC35:13qter)によってかなり特徴付けられた。この特徴は好ましくないG2群では検出されなかったが、IC19の最も積極的に寄与する遺伝子はDAXXであり、ATRX/DAXX/HistoneH3.3複合体の一部として、テロメアの代替延長を介してテロメア維持を調節する。予後不良のG2群では、3つの主な染色体領域が染色体6p(IC19)、8q(IC23)及び22q(IC33)で調節異常であった。最初の2つは、原発性骨肉腫よりも再発性/転移性骨肉腫でより頻度が高く、以前は予後不良と関連していた、骨肉腫発がんに関連する高コピーゲイン又は増幅事象であることがよく知られている。サイトバンド6pは、がん遺伝子CDCL5の発現レベルを調節しない骨肉腫における反復増幅領域である。サイトバンド8qコピー数増加は、MYC駆動スーパーエンハンサーシグナル伝達を介して腫瘍形成に関与し、骨肉腫の予後因子であることが強く疑われている。驚くべきことに、染色体22qは骨肉腫の予後因子としてこれまでに報告されておらず、さらなる研究が必要となる可能性がある。それぞれのグループに特異的なこれらの異なる染色体不均衡は、異なる腫瘍形成経路を反映している可能性がある。
【0111】
全体として、調節異常の染色体領域を有するこれらのICは、エピゲノム変化からいくつかの全般的調節が生じる可能性を除外できないとしても、G1/G2層別化に対するCNVの主要な寄与を強調した。そのような潜在的寄与を推定するために、我々は、我々のRNA配列決定試料と対をなす70のCNVプロファイル(CGHアレイ)と結果を統合した。GISTIC2.0を用いたaCGHプロファイルの鑑別分析では、予後グループ間で異なる有意に変化した領域を有する4つの染色体を特徴付けた(調整p値<0.1、
図3A)。したがって、2p21-23及び22q11.22サイトバンドの増加及び11p12-p15サイトバンドの消失はG2群で検出されたが、13q12領域の消失はG2群からもG1群でより顕著であった。これらの領域の中で、chr22:21859431-22318144(8.27E-03)領域のみがG1/G2層化に関与する発現レベル(IC33)で同定された。この領域は、PI4KAP2、RIMBP3B、RIMBP3C、UBE2L3、YDJC、CCDC116、SDF2L1、MIR301B、MIR130B、PPIL2、YPEL1、MAPK1、PPM1F及びTOP3B遺伝子を含有した。MAPKシグナル伝達経路は、転移病期の重要なドライバーとして以前に提唱されているが、PI3K-Aktシグナル伝達経路は、骨肉腫進化の初期及び後期に関与する可能性がある。また、MYCを含むchr8qサイトバンドがaCGHプロファイル分析において有意性に近いことに気づき、骨肉腫におけるMYC増幅関与に関する複数の報告を支持した。染色体領域及びコピー数の変化に関連するICの数を考慮すると、本発明者らの分析では、それらの比較的少数がG1/G2と関連しており、TME組成よりも腫瘍細胞の疾患進行への寄与が低いことを支持している。
【0112】
1.5.骨肉腫RNA-seqの予後的特徴の検証
腫瘍学における遺伝子発現はしばしば試料間の高い分散を示し、シグナルよりもむしろノイズに基づくオーバーフィットモデル又は分類につながることが多く、他のコホートにおける結果の再現性及び患者使用のためのこのようなモデルの導入に疑問を投げかけている。
【0113】
独立コホートにおける著者らの層別化の頑健性を検証するために、37、15、8、及び5の遺伝子に基づき、それぞれ4つの遺伝子シグネチャーを同定し、初期遺伝子発現数マトリックスから学習し、弾性ネット(表4~7)により正規化されたロジスティック回帰、並びにLASSOにより正規化されたロジスティック回帰により、初期遺伝子発現数マトリックスから機械学習することにより、G1/G2腫瘍を予測する20の遺伝子シグネチャー(表8)により、G1/G2腫瘍を予測した。
【0114】
【0115】
【0116】
【0117】
【0118】
【0119】
本発明者らは、表5に示される15の遺伝子シグネチャーを調べ、Office of Cancer Genomics(National Cancer Institute)のウェブサイト上の骨肉腫プロジェクトに関するページへのオープンアクセスにより、遺伝子発現数表及びペア臨床データが利用可能な82の小児骨肉腫腫瘍の独立したコホートからG1/G2腫瘍を予測した。予測の妥当性を確認するために、予測されたG1/G2と生成された関連ログランクp値との間のOSを比較した(
図3B)。OS2006コホートの観察と一致して、この独立したコホートの結果は、予測されるG2腫瘍が予測されるG1腫瘍よりも不良な予後と有意に関連することを実証した(p値:0)。この遺伝子シグネチャーの予測力は、使用した第一選択治療に関係なく支持された。実際、この独立したコホートでは、主にMAPレジメンに基づいて使用された第一選択化学療法はOS2006コホートとは異なっていた。RNA-seqに基づく特徴に対するもう一つの有効な批判は、異なる技術的設定を有する実験室における再現性に関するものである。従って、OS2006コホートからの166試料に適用したRNA-seq署名に基づいてカスタムNanostringパネルを設計した。すでにRNA-seqで分析された70個の試料を用いて、本発明者らの弾性ネットモデルを再訓練した。残りの96の腫瘍のG1/G2予測により、この層別化が有意に異なる全生存率及び無増悪生存率と関連していることが再度確認された(
図3C及び
図6B)。
【0120】
最後に、RNA-seqに基づく特徴を用いて、再発時の層別化の妥当性を推定し、疾患進行を通してこの予後的特徴の可逆性を調べた。MAPPYACTS試験(NCT02613962)で再発を経験したOS2006 RNA-seqコホートの患者から診断時に採取したG1/G2腫瘍の割合は同程度であった(
図3D)。この結果は、疾患の進行全体にわたってこの層別化が持続していることを支持している。
【0121】
1.6.考察
教師なし機械学習戦略を用いて、著者らは骨肉腫腫瘍クローンとTMEを記述する遺伝子成分のレパートリーを定義した。共発現を介した成分相互作用がコホートを良好な予後不良腫瘍に層別化することを観察した。構成要素の機能的特徴づけは、良好な予後腫瘍と、血管新生、破骨細胞、脂肪生成活性を伴う特異的な先天性免疫発現及び予後不良腫瘍とを関連付け、各群に特異的な異なるCNVを伴う。
【0122】
これらの異なる機能的特徴は、骨肉腫における治療層別化を可能にし、例えば、G1群腫瘍に対する免疫調節(例えば、ミファムルチド)、及びG2群に対する抗破骨細胞療法及び抗血管新生療法を可能にする。
【0123】
発明者らはまた、PPARγ、piRNA又はCTAを含む骨肉腫の基礎となる生物学的経路を同定し、これは新たな実行可能な標的を強調した。本発明者らのデータは、特定のクローンにおける早期の劇的な遺伝的/トランスクリプトーム的摂動が、腫瘍の進化、治療への反応及び転移の可能性だけでなく、TMEにも影響を及ぼす可能性があることを示唆している。
【0124】
最後に、82個の骨肉腫原発腫瘍の独立したコホート内で、また再現性のあるNanostringアッセイを用いて、15の遺伝子の最小予後的特徴の予測力を確認した。この研究は、特に臨床医が診断時に治療困難な患者を同定するのを助けることによって、骨肉腫における個別化された治療につながる予後検査の開発への道を開くものである。
【0125】
本発明者らのデータは、骨肉腫における個別化治療は、腫瘍自体の遺伝的異常(例、突然変異/CNV)に基づくだけでなく、RNAレベルで転写されるDNA異常及びTMEランドスケープ22を考慮に入れたRNA発現プロファイリングにも基づくべきであることを強調している。
【0126】
実施例2:骨肉腫における新しい治療標的であるPPARγ経路の調節
材料及び方法
MTS細胞増殖アッセイ
HOS、143B、MG-63、U2OS及びIOS18細胞株を5,000細胞/ウェルで播種し、Saos-2、Saos-2-B及びIOR/OS14細胞株を100μl/ウェルの最終容量を含む96ウェルプレート中でウェル当たり10,000細胞で播種し、10%ウシ胎児血清を含むDMEM中で一晩沈降させた。
【0127】
細胞を、0μmol/L~100μmol/Lの範囲の濃度の異なる薬物(DMSOに溶解したPPARγアゴニストのトログリタゾン(TGZ)またはロシグリタゾン(RGZ)、またはPPARγアンタゴニストT0070907)で処理した。対照(未処理細胞)は、細胞が処理された場合と同じ体積のDMSOを取得する(1mlあたり10μl)。細胞生存率は、曝露後48時間及び72時間で測定した。古い培地を除去し、MTS/新培地(MTS溶液20μl-最終濃度0.33mg/ml)(CellTiter 96 Aqueous One Solution細胞増殖アッセイ;Promega Corporation,Charbonnieres,France)を添加した。一組のウェルは、バックグラウンド減算のためにMTS/新規培地のみと同時に調製した。37℃で1~7時間インキュベートし(細胞株代謝依存性)、自動プレートリーダー(Elx808;Fisher Bioblock Scientific SAS,Illkirch,France)を用いて490nmで比色測定を行った。
【0128】
ウエスタンブロット法
HOS、143B、MG-63、U2OS、Saos-2、Saos-2-B IOR/OS18及びIOR/OS14骨肉腫細胞株を60mmプレート皿に播種し、約80%のコンフルエンスでコレクションした。細胞を溶解緩衝液(10mlのTNEN 5mM緩衝液、1/2プロテアーゼインヒビターピル、50μlのNaF、及び50μlのオルトバナジン酸塩(ホスファターゼインヒビター))中に集め、次に、窒素中で凍結し、37℃の水浴中で融解する5サイクルを交互に行うことによって得た。4℃、20分間、13,200rpmで遠心分離した後、タンパク質上清を回収した。
【0129】
一連のウシ血清アルブミン濃度(BSA、Euromedex、04-100-812-E、Souffelyersheim、France)を用いて、ThermoFisher Scientific(Thermoscific Pierce TM BCAタンパク質アッセイキット)のキットBCAを用いてタンパク質定量を行った。自動マイクロプレートリーダー(Elx808; Fisher Bioblock Scientific SAS,Illkirch,France)を用いて570nmで吸光度を読み取った。
【0130】
タンパク質(30μg/ウェル)を4~20%ポリアクリルアミドゲル電気泳動、トリス-グリシン延長(Mini-Protean TGX、Bio-Rad、米国カリフォルニア州)により分離し、Trans-Blot Turbo transfer system(米国カリフォルニア州、Bio-Rad Laboratories)を用いてポリフッ化ビニリデン(PVDF)膜(Trans-Blot Bio-Rad、米国カリフォルニア州)に移した。
【0131】
膜を室温で45分間5%BSAで飽和し、PPARγ(5mg/mL;P5505-05B;US Biological,USA)又はAdipoQ(1:1000;ab75989;Abcam,英国ケンブリッジ州)に対する抗体を添加し、4℃で一晩インキュベートした。その後、膜を緩衝液(TBS 1%及びTween(登録商標)0.1%)で数回洗浄し、二次抗体(ヤギ抗ウサギIgG、1:5000;A9169;Sigma-Aldrich、米国ミズーリ州セントルイス)と少なくとも2時間インキュベートした。
【0132】
膜は、Clarity Western ECL基質キット(米国カリフォルニア州Bio-Rad Laboratories)を用いて、及びBio-Rad ChemiDocイメージングシステム(米国カリフォルニア州Bio-Rad Laboratories)を用いて化学発光によって検出されたタンパク質バンドを用いて明らかにした。
【0133】
次に、HRP(HRPコンジュゲート;1:1000;#5125;Cell Signaling,MA,USA)に直接コンジュゲートしたβ-アクチン抗体と膜をインキュベートするために、ストリッピングを行った(ストリッピングバッファー62.5mL Tris 0.5M、50mL SDS 20%、3.5mL β-メルカプトエタノール、500mL H2O)。
【0134】
結果
PPARγアゴニスト及びPPARγアンタゴニスト(MTS試験)の効果下で細胞増殖を評価することにより、インビトロでPPARγ経路の治療可能性を検討した。
【0135】
PPARγアンタゴニストT0070907は、9~18μM(IC50中央値20μM)の範囲のIC50で、7つのヒト骨肉腫系における細胞生存率を低下させる。アゴニストでは、試験した最高濃度で効果はほとんど観察されず、これはPPARγ陰性ドミナントアイソフォームの発現を介したPPARγの負のフィードバックループによって説明することができる。
【0136】
結論
PPARγ経路の調節は骨肉腫における新しい治療標的である。
【0137】
実施例2:骨肉腫におけるPPAR治療の可能性:前臨床インビトロ及びインビボ実験
材料及び方法
細胞培養
ヒト骨肉腫細胞株HOS、HOS R/MXT、HOS R/DOXO、143B、U2OS、Saos-2B、Saos-2B、MG-63、IOR/OS14、及びIOR/OS18を、種々の遺伝的背景を有するダルベッコ改変イーグル培地(DMEM、インビトロゲン、セントオービン、フランス)に10%(v/v)のウシ胎児血清(FBS、インビトロゲン、セントオービン、フランス)を添加した37℃で、マイコプラズマフリー条件下で培養した。生物発光細胞株(ルシフェラーゼ/mKate2)でshRNA及び過剰発現を行った。
【0138】
PPARg発現のqRT-PCR
PPARg発現はqRT-PCRにより評価した。製造業者の指示に従って、AllPrep DNA/RNAミニキット(Cat番号号/ID:80204 Qiagen)を用いてARN抽出を行った。次に、MLV逆転写酵素(Invivogen ref 28025.013)を用いてRNA(1μg)を逆転させた。最後に、5μLのcDNAを、6μLのヌクレアーゼ遊離水、1.5μMのプライマー、10μM(PPARY-s TTGACTTCTCCAGCATTTCTAC(配列番号42)+PPARY-as CTTTATCTCCACAGACACGAC(配列番号43))及び12.5μlのサイバーグリーンマスターミックス(参照K0223サーモフィッシャーサイエンス)と混合した。PPARY及びGAPDHの増幅は、1サイクル、50℃で2分間及び95℃で10分間行い、続いて、95℃で15秒間、60℃で1分間、40サイクル行った。独自のPCR産物を同定するため、PCR終了時に融解曲線を実施した(95℃で15秒間、60℃で1分間、95℃で15秒間)。増幅は、ViiA 7リアルタイムPCRシステムでモニターした。ハウスキーピング遺伝子としてGAPDHを用いた。2-ΔΔCt法を用いて、それぞれの転写物の相対的発現の算出を行った。
【0139】
ウエスタンブロット法
骨肉腫細胞株を、前述のように、37℃で一晩インキュベートし、翌日に処理したか、又は処理しなかった。細胞ペレットを、100μlの溶解緩衝液(10mlのTNEN 5mM緩衝液中に、1/2プロテアーゼ阻害剤ピル、50μlのNaF及び50μlのオルトバナジン酸塩を加える)に、6、24、48又は72時間後に再懸濁した。タンパク質を、窒素中の凍結細胞懸濁液によって抽出し、37℃(5×)の水浴中で解凍し、続いて、4℃、20分間、13.200rpmで遠心分離した。BCAタンパク質定量キット(Thermoscientific PierceTM BCAタンパク質定量キット)を用いて、製造者の指示に従ってタンパク質定量を行った。
【0140】
簡単に説明すると、タンパク質(20μg~30μg)を4~15% Mini-Proteam TGX染色フリーゲル(ref 4568086 Bio-Rad)で分離し、次にトランスブロットターボ輸送システム(Bio-Rad)を用いてニトロセルロース膜(Ref 1704156 Bio-Rad)に移した。次に、膜をPPARY primary抗体(抗PPARgポリクローナルP5505-05B; US Biological)と一晩インキュベートする。膜を洗浄(洗浄緩衝液で5倍)し、二次抗体(ヤギ抗ウサギa9169シグマ、1/5000 Bio-Rad ChemiDocイメージングシステムを用いて全イムノブロットイメージングを行った)で2時間インキュベートした。次に、膜を、Bactinキャラクタリゼーションのためにストライピング溶液中でインキュベートした(同じ手順)。相対バンド強度は、Image Jソフトウェアを用いて行った。
【0141】
化合物
ドキソルビシン(DOXO)、メトトレキサート(MTX)は、ClinisiencesからSigma Aldrich(Lyon、フランス)、mafosfamide(MAF)、T0070907、Rosiglitazone(RGZ)及びトログリタゾン(TGZ)から購入した。(フランス・ナンテル)。全ての化合物を10mMストック溶液でジメチルスルホキシド(DMSO;Sigma Aldrich,Lyon,France)に可溶化し、-20℃で保存した。インビボでは、2,5%DMSO+47,5%PEG400+50%PBSに可溶化したT0070907を除いて、使用したすべての化合物をPBSに可溶化した。
【0142】
インビトロ細胞生存度アッセイ
親HOS、143B、MG-63、IOR/OS18、由来HOS R/MTX及び由来PPAR shRNA又は過剰発現PPAR細胞株を、5000細胞/ウェルで播種し、親細胞、Saos2、Saos-2B、IOR/OS14、耐性HOS R/DOXO及び由来PPAR shRNA又は過剰発現PPAR株を、両アッセイのために10%FBSを補足したDMEM中の96ウェルプレート中で10,000細胞/ウェルで播種した。
【0143】
播種翌日、細胞を、72時間、ある範囲の薬物濃度の存在下でインキュベートした(DOXO、MAFについては0~100μmol/L;MTXについては0~500μmol/L、T0070907、ロシグリタゾン(RGZ)及びトログリタゾン(TGZ))。細胞生存率は、製造者の指示に従って、CellTiter 96水性1液性細胞増殖アッセイ(MTSアッセイ)(Promega,Charbonnieres,France)を用いて評価した。半最大阻害濃度(IC50)は、GraphPad Prism5ソフトウェア(Graphpad Software Inc.,California,USA)を用いて測定した。
【0144】
併用試験
細胞を、単独で、又は同等のモル比で組み合わせて、増加濃度の薬物で同時に処理した。細胞数への影響は、製造業者の指示に従ってMTSアッセイによって測定した。その結果を、中央値効果分析法を用い、50%で成長を阻害する等電位結合薬物濃度(ED50)で計算した結合指数(CI)を導出することにより分析した。排他的なCI値を用いて組み合わせを分析した。
【0145】
PDXモデル
実験は、CEEA26、倫理委員会(承認番号:APAFIS#27183-200914229028 v3)によって検証され、欧州共同体(指令2010/63/UE)によって定められた条件下で実施された。動物は、Gustave Roussy(フランス、Villejuif)で購入し、標準的な動物規制、健康管理及び倫理管理に従い、それぞれの動物施設で維持した。骨肉腫PDXsは、免疫不全NSGマウスにおける移植によって再発患者から確立され、少なくとも2つのインビボ継代後に腫瘍増殖が維持された場合に確立されたとみなされた。さらなる移植は、新鮮なものであるか、又は軟らかいコンジェレーション(FBS中で凍結、+10%DMSO)によって保存された、前の継代からの腫瘍断片の直接移植によって実施される。麻酔下(3%イソフルラン、1.5L/分の空気)で、0.5cmの皮膚切開と骨膜の穏やかな活性化(骨膜脱落)後に、腫瘍試料を筋肉と骨脛骨の間に同所位、脛骨傍(約2mm3)に移植した。骨痛を避けるため、全身麻酔に加えて、又は症状が発現した場合には鎮痛薬(ブプレノルフィン0.3mg/kg)を投与する。臨床状態、腫瘍の取り込み及び腫瘍の増殖を週1~3回評価する。触診及び腫瘍の肉眼的外観(キャリパー測定)により傍脛骨腫瘍が検出された。実験は、腫瘍が約1500mm3の特定の腫瘍体積に達し、有意な体重減少、又は歩行困難に達するまで続いた。次に、マウスを麻酔し、骨構造変化をCTスキャンイメージングにより分析した。エンドポイントでマウスを安楽死させ、試料を収穫し、以下に記載するように処理した。
【0146】
インビボT0070907 骨肉腫PDX同所性モデルの治療
同じOTS同所性PDXモデルを有する8匹の動物群を、腫瘍移植後14日目から毎日、T0070907(10mg/Kg/注射)又はビヒクル(生理食塩水、対照群)のいずれかを用いて腹腔内(IP)注射(容積10ml/kg)で処置した。T0070907とメトトレキサートの併用では、対照群のコンボ群と生理食塩水群の4群に、J1-J4又はJ1-J4、J6-J7のT0070907(10mg/注射)及びJ5のメトトレキサート(10mg/注射)を投与した。臨床状態、腫瘍取り込み及び腫瘍増殖を2日毎に評価した。傍脛骨腫瘍は、触診、腫瘍の肉眼的外観(キャリパー測定)により検出された。腫瘍CTスキャン画像検査を週1回実施した。屠殺時に腫瘍脚、正常脚、肺、脾臓及び肝臓を採取し、将来の分析のために保存した(RNAseq、WES、組織学、単一細胞、空間トランスクリプトーム・・・)。
【0147】
インビボCTスキャンイメージング
IVIS SpectrumCT(Perkin Elmer,Courtabouf,France)を画像取得に使用した。このシステムは、X線トモグラフィーによる原発腫瘍の検出を可能にする。CTスキャン画像は3%(v/v)イソフルラン麻酔下で実施した。
【0148】
組織学
臓器を4%(v/v)パラホルムアルデヒド中に固定し、パラフィン中に包埋した。組織を形態学的にヘマトキシリン-エオシン-サフラニン(HES)で染色した。パラフィン切片を熱誘導抗原回収(ER2対応EDTA緩衝液pH9)のために100℃で20分間処理した。スライドを、マウスモノクローナル抗ヒトKi67抗体(クローンMIB1;1:20;Agilent Dako)又は抗PPARポリクローナル(P5505-05B;US Biological)と共に室温で1時間インキュベートした。核シグナルはKlearマウスキット(GBI実験室)で明らかになった。スライドを光学顕微鏡(Zeiss,Marly-Le-Roy,France)を用いて検査し、スライドスキャナーNanoZoomer 2.0-HT(C9600-13,Hamamatsu Photonics)を用いて、各動物からの単一の代表的な全腫瘍組織切片をデジタル化した。骨の専門病理医が組織学的検査を行った。
【0149】
背景
骨肉腫の青年/若年成人の転帰は、数十年の間に改善されていない。
【0150】
79の骨肉腫診断生検体のRNA配列決定から、腫瘍微小環境及びクローンを再現する安定した独立した成分を同定した(Marchais et al Cancer Research 2022、出版物中、実施例1を参照のこと)。Metagene unsuppresed分類は、このコホートを全生存率に関して予後良好(G1)及び予後不良(G2)腫瘍に層別化した。多変量生存分析では、この層別化を最も影響力のある変数としてランク付けした。機能的特徴づけは、PPAR経路のアップレギュレーションと同様に、血管新生、破骨細胞及び脂肪生成活性を伴う先天性免疫を伴う良好なG1腫瘍及び予後不良なG2腫瘍と関連していた。
【0151】
PPAR(ペルオキシソーム増殖因子活性化受容体のガンマアイソタイプ)は、種々の生物学的プロセス、脂肪生成、血管新生、及び免疫(マクロファージ極性化)70,71に関与する核受容体であり、がんに様々に関与している。
【0152】
プロ及び抗がん効果は、腫瘍タイプに依存して記載されている。その結果、アンタゴニストとアゴニストの両方が、潜在的な抗がん療法として探索されてきた。
-PPARは、通常、いくつかのがんにおける抗増殖及びアポトーシス促進及び再分化の役割を通して、腫瘍抑制遺伝子と考えられる。上皮がんでは、発現の喪失72、リガンド結合を損なう変異、ひいてはその転写活性73が報告されている。これらの場合、PPARの合成アゴニストは抗がん活性を有する可能性がある。発がん性融合物PAX8-PPARγは甲状腺がんにおいて記載されており、PPARγリガンドピオグリタゾンは脂肪細胞様細胞へのトランス分化を誘導する。負の優性アイソフォームはまた、いくつかのがん(例えば、疝痛がんにおけるORF4)において発現され得る74。
-逆に、一部のがん細胞におけるPPARの活性化は、脂肪酸の利用に向けたエネルギー的な転換を誘導し、細胞増殖及び生存に関与している可能性がある35。PPARのいくつかの標的遺伝子もまた、血管新生のような腫瘍の侵攻性に関与している。脂肪酸に富む微小環境におけるPPARの活性化は、一部のがん(乳がん、黒色腫)における転移発生を有利にする可能性がある75。その場合、PPAR特異的合成拮抗薬であるT0070907は転移性75を低下させる可能性がある。
【0153】
骨肉腫では、インビトロで、PPARアゴニストトログリタゾン(5μM)は、AKT依存性自発的アポトーシスの抑制を介して細胞株の生存を促進する76。高濃度では、トログリタゾン(100μM)がインビトロで抗増殖作用、インビボでアポトーシス促進作用及び分化促進作用を介して抗腫瘍作用を有するのとは逆の作用を示したが、これはおそらくドミナントネガティブイソ型を有するネガティブレトロコントロールループによるものと考えられる78,79。
【0154】
PPARγ活性化の既知の効果は、Ahmadianら(2013 Nature Medecine; 19(5): PPARγ signaling and metabolism: the good, the bad and the future)の
図2に要約されている。
【0155】
診断時の骨肉腫生検におけるPPAR-γ及び標的:OS2006コホート
診断時にOS2006骨肉腫コホートに関して実施したRNAseq研究に基づき、PPARシグナル伝達経路は、本発明者らのシグネチャーにより同定されたG2予後不良群と関連している。いくつかのPPAR標的のRNA発現は、PPAR活性化に加えて、このコホートで同定された、血管新生促進、破骨細胞および脂肪細胞の活性の不良な予後と関連する他の成分と相関していた。これら全ては、骨肉腫におけるPPARのプロ腫瘍及びプロ転移活性、及びこれらの患者におけるPPARアンタゴニストの潜在的な治療的役割を示唆する。
【0156】
骨肉腫におけるPPAR-γ:インビトロ前臨床データ
2種類のPPARアゴニスト、トログリタゾン及びロシグリタゾン、並びに1種類の合成特異的アンタゴニストT0070907のインビトロ抗増殖作用(MTSアッセイ)を、単独で並びに骨肉腫患者(メトトレキサート、ドキソルビシン、マホスファミド)に用いられる化学療法と併用して評価するために、PPAR(ウエスタンブロット;
図4B)及びそれらのメトトレキサート又はドキソルビシン
79に対する耐性対応物を全部が発現する8種類の骨肉腫細胞株を用いた(メジアン効果分析法)
80。
【0157】
骨肉腫細胞株におけるT0070907のインビトロ抗増殖作用
全8種類の骨肉腫親細胞株に対するT0070907のIC50中央値は20μM(範囲9.3~37.4;MTSアッセイ)であったが、2種類のアゴニストでは最大100μMの濃度でIC50に達しなかった(
図4A)。骨肉腫細胞におけるT0070907 IC50は、成人がんの様々な組織型のIC50と類似していた
81。T0070907に25μM(IC50)で24時間曝露したHOS細胞のRNA配列決定により、アポトーシス促進性及び骨芽細胞分化プログラムの誘導が確認された(
図7)。PPARアゴニスト(ロシグリタゾン)については、脂肪細胞分化プログラムのみが治療された骨肉腫細胞において予想通り有意にアップレギュレートされ、PPARは脂肪生成の主要調節因子であった。
【0158】
メトトレキサート及びドキソルビシンに対する親及び抵抗性のHOS骨肉腫細胞株における化学療法とT0070907のインビトロ相乗作用
次に、MTSアッセイを用いて、骨肉腫に日常的に使用されるT0070907と化学療法(メトトレキサート、ドキソルビシン、マホスファミド)の併用効果を試験し、骨肉腫細胞株HOS及びそれらのメトトレキサート及びドキソルビシンに対する耐性の対応物における中央値作用分析法78を行った。すべての細胞株及びT0070907投与のタイミング(化学療法の24時間前、同時、又は24時間後)において、すべての薬物との相乗作用が観察され、T0070907を最初に投与した場合には、抵抗指数が高くなった(表1)。
【0159】
【0160】
骨肉腫におけるPPARγ:PDXモデルにおけるインビボ前臨床データ
当初の仮説によれば、PPARアンタゴニストは予後不良の骨肉腫の腫瘍微小環境の組成を修飾する可能性がある。この仮説を検証するために、再発MAP-217-PT患者の転移試料から発生させたT0070907単独及びメトトレキサート(同所性(脛骨傍)骨肉腫患者由来の異種移植片(PDX)モデル)との併用で治療した。このモデルは、PPARの発現及び肺転移を形成する能力のために選択された。IHCによるPPAR発現は、いくつかのPDXモデルで観察された(
図8)。
【0161】
マウスが耐えられるT0070907の濃度を調べるための初期用量試験後、毎日10mg/kg/注射で腹腔内(IP)投与されたT0070907単独の効果(
図9A)、または5日目に10mg/kg/注射で5日目にメトトレキサートと組み合わせた、1~4日目または1~4日目および6~7日目に10mg/kg/注射で腹腔内(IP)投与されたT0070907の効果(
図9B)を、原発腫瘍の腫瘍増殖およびマウス屠殺時の肺転移の分析によってインビボで評価した。
【0162】
T0070907は、MAP-217 PT PDXモデルにおいて腫瘍増殖の遅延を誘導し(腫瘍体積を反映する初期脚体積の2.5倍に達するまでの遅れは、対照と比較してT0070907処置マウスで20%高かった;
図9A)、肺転移の数とサイズを減少させた(病理学者によって定量化が進行中;
図9B)。さらに、メトトレキサートと併用したT0070907は、インビボでの原発腫瘍の増殖に関して、各薬剤単独よりも大きな効果を有するようである(
図9C)。転移に対するコンボの効果は現在、病理医によって定量化されている。
【0163】
T0070907単独及びメトトレキサートとの併用が腫瘍細胞及び腫瘍微小環境に及ぼす影響をさらに理解するために、空間トランスクリプトーム法が実施されている。
【0164】
本文中で使用した略語:
API-AI アドリアマイシン/白金/イホスファミド
AUC 曲線下面積
BCA ビシンコニン酸アッセイ
BSA ウシ血清アルブミン
CAF がん関連線維芽細胞
CGH 比較ゲノムハイブリダイゼーション
CNA コピー数の異常
CNV コピー数のばらつき
CTA がん精巣抗原
DASL cDNAを介したアニーリング、選択及びライゲーション
DMEM ダルベッコ/フォークト改良イーグル最小必須培地
DMSO ジメチルスルホキシド
DNA デオキシリボ核酸
DR 死亡率
dUTP デオキシウリジン三リン酸
FOV 視野
HRP ウマラジッシュペルオキシダーゼ
IC 独立コンポーネント
ICA 独立成分分析
IL インターロイキン
MAP メトトレキサート、ドキソルビシン及びシスプラチン
MCR 最小共通領域
M-EI MTX-エトポシド/イホスファミド
OLA オリゴヌクレオチドライゲーションアッセイ
OS 全生存期間
OTS 骨肉腫
PCA 主成分分析
PFER ファミリーごとの誤差率
PFS 無増悪生存期間
PPARγ ペルオキシソーム増殖因子活性化受容体
PVDF ポリフッ化ビニリデン
qRT-PCR 定量的逆転写ポリメラーゼ連鎖反応
RGZ ロシグリタゾン
RNA リボ核酸
RNA-seq RNA配列決定
TGZ トログリタゾン
TME 腫瘍の微小環境
WES 全エキソーム配列決定
WGS 全ゲノム配列決定
【0165】
参考文献
【0166】
【0167】
【0168】
【0169】
【0170】
【配列表】
【国際調査報告】