(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-01-31
(54)【発明の名称】CD3及び蛍光体に結合する二重特異性抗体
(51)【国際特許分類】
C07K 16/46 20060101AFI20240124BHJP
C07K 16/28 20060101ALI20240124BHJP
C07K 16/44 20060101ALI20240124BHJP
A61K 39/395 20060101ALI20240124BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20240124BHJP
C12N 15/09 20060101ALN20240124BHJP
【FI】
C07K16/46
C07K16/28 ZNA
C07K16/44
A61K39/395 N
A61K39/395 T
A61P35/00
C12N15/09 Z
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023544196
(86)(22)【出願日】2022-01-24
(85)【翻訳文提出日】2023-09-15
(86)【国際出願番号】 EP2022051477
(87)【国際公開番号】W WO2022157352
(87)【国際公開日】2022-07-28
(32)【優先日】2021-01-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】519146639
【氏名又は名称】エーテーハー チューリッヒ
【氏名又は名称原語表記】ETH ZURICH
(71)【出願人】
【識別番号】517237735
【氏名又は名称】ウニベルシテート チューリッヒ
(74)【代理人】
【識別番号】110000109
【氏名又は名称】弁理士法人特許事務所サイクス
(72)【発明者】
【氏名】ネリ ダリオ
(72)【発明者】
【氏名】マイバーグ レニエ
(72)【発明者】
【氏名】マンツ マルクス
(72)【発明者】
【氏名】ヴォルタ ラウラ
【テーマコード(参考)】
4C085
4H045
【Fターム(参考)】
4C085AA16
4C085BB01
4C085BB11
4C085CC23
4H045AA11
4H045AA20
4H045AA30
4H045BA10
4H045BA41
4H045DA76
4H045EA20
4H045FA72
4H045FA74
(57)【要約】
本発明は、少なくとも、第1の結合ドメイン及び第2の結合ドメインを含む二重特異性抗体であって、前記第1の結合ドメインは、有機蛍光体に結合し、前記第2の結合ドメインは、CD3に結合する、二重特異性抗体、並びに標的抗原に特異的に結合する標識結合剤とのその組み合わせであって、標識結合剤は、有機蛍光体により標識されている、その組み合わせに関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも第1の結合ドメイン及び第2の結合ドメインを含む二重特異性抗体であって、前記第1の結合ドメインは、有機蛍光体に結合し、前記第2の結合ドメインは、CD3に結合する、二重特異性抗体。
【請求項2】
前記第1の結合ドメインは、フルオレセイン、好ましくは、タンパク質に結合している時のフルオレセイン(「抱合フルオレセイン」)に結合する、請求項1に記載の二重特異性抗体。
【請求項3】
フルオレセイン又は抱合フルオレセインに結合する前記第1の結合ドメインは、
a)それぞれ配列番号27及び31又は配列番号36及び40において記載されるように、抗フルオレセイン抗体E2若しくは4m5.3のうちの1つの重鎖/軽可変領域配列対において含まれる、一セットの重鎖/軽鎖相補性決定領域(CDR)を含み
b)以下の配列を含む重鎖/軽鎖相補性決定領域(CDR)のセットを含み
・HC CDR1(配列番号28)
・HC CDR2(配列番号29)
・HC CDR3(配列番号30)
・LC CDR1(配列番号32)
・LC CDR2(配列番号33)、及び
・LC CDR3(配列番号34)
c)以下の配列を含む重鎖/軽鎖相補性決定領域(CDR)のセットを含み
・HC CDR1(配列番号37)
・HC CDR2(配列番号38)
・HC CDR3(配列番号39)
・LC CDR1(配列番号41)
・LC CDR2(配列番号42)、及び
・LC CDR3(配列番号43)
d)b)若しくはc)の前記重鎖/軽鎖相補性決定領域(CDR)を含み、但し、前記CDRの少なくとも1つが、それぞれの配列番号28~30、32~34、37~39、若しくは41~43と比較して3アミノ酸以下の置換を有することを条件とし、及び/又は
e)b)の前記重鎖/軽鎖相補性決定領域(CDR)を含み、但し、前記CDRの少なくとも1つが、それぞれの配列番号28~30、32~34、37~39、若しくは41~43に対して≧66%の配列同一性を有することを条件とし、
前記CDRは、フルオレセイン又は抱合フルオレセインに結合することができるように、適したタンパク質フレームワーク中に埋め込まれる、請求項1又は2に記載の二重特異性抗体。
【請求項4】
フルオレセイン又は抱合フルオレセインに結合する前記第1の結合ドメインは、
a)E2又は4m5.3からなる群から選択される1つの抗体の可変ドメイン
b)重鎖/軽鎖可変ドメイン(VD)
・HC VD(配列番号27又は36)及び
・LC VD(配列番号31又は40)
c)b)の前記重鎖/軽鎖可変ドメイン(VD)、但し
・前記HCVDは、それぞれの配列番号27若しくは36に対して≧80%の配列同一性を有する、及び/又は
・前記LCVDは、それぞれの配列番号31若しくは40に対して≧80%の配列同一性を有することを条件とする
d)b)の前記重鎖/軽鎖可変ドメイン(VD)、但し前記HCVD又はLCVDの少なくとも1つは、それぞれの配列番号と比較して10アミノ酸以下の置換を有することを条件とする
を含み、
前記二重特異性抗体は、フルオレセイン又は抱合フルオレセインになお結合することができる、請求項1~3のいずれか一項に記載の二重特異性抗体。
【請求項5】
CD3に結合する前記第2の結合ドメインは、
a)それぞれ、配列番号1及び8若しくは配列番号16及び20において記載されるように、抗CD3抗体BlinCD3及びOKT3のうちの1つの重鎖/軽可変領域配列対において含まれる、一セットの重鎖/軽鎖相補性決定領域(CDR)を含み
b)以下の配列を含む重鎖/軽鎖相補性決定領域(CDR)のセットを含み
・HC CDR1(配列番号2若しくは5)
・HC CDR2(配列番号3若しくは6)
・HC CDR3(配列番号4若しくは7)
・LC CDR1(配列番号9若しくは12)
・LC CDR2(配列番号10若しくは13)、及び
・LC CDR3(配列番号11若しくは14)
c)以下の配列を含む重鎖/軽鎖相補性決定領域(CDR)のセットを含み
・HC CDR1(配列番号17)
・HC CDR2(配列番号18)
・HC CDR3(配列番号19)
・LC CDR1(配列番号21)
・LC CDR2(配列番号22)、及び
・LC CDR3(配列番号23)
d)b)若しくはc)の前記重鎖/軽鎖相補性決定領域(CDR)を含み、但し、前記CDRの少なくとも1つは、それぞれの配列番号2~4、9~11、17~19、若しくは21~23と比較して、3アミノ酸以下の置換を有することを条件とし、並びに/又は
e)b)の前記重鎖/軽鎖相補性決定領域(CDR)を含み、但し、前記CDRの少なくとも1つは、それぞれの配列番号2~4、9~11、17~19、若しくは21~23に対して≧66%の配列同一性を有することを条件とし、
前記CDRは、CD3に結合することができるように、適したタンパク質フレームワーク中に埋め込まれる、請求項1~4のいずれか一項に記載の二重特異性抗体。
【請求項6】
CD3に結合する前記第2の結合ドメインは、
a)OKT3及びBlinCD3からなる群から選択される1つの抗体の可変ドメイン
b)重鎖/軽鎖可変ドメイン(VD)
・HC VD(配列番号1又は16)及び
・LC VD(配列番号8又は20)
c)b)の前記重鎖/軽鎖可変ドメイン(VD)、但し
・前記HCVDは、それぞれの配列番号1若しくは16に対して≧80%の配列同一性を有する、及び/又は
・前記LCVDは、それぞれの配列番号8若しくは20に対して≧80%の配列同一性を有することを条件とする
d)b)の前記重鎖/軽鎖可変ドメイン(VD)、但し前記HCVD又はLCVDの少なくとも1つは、それぞれの配列番号と比較して10アミノ酸以下の置換を有することを条件とする
を含み、
前記二重特異性抗体は、CD3になお結合することができる、請求項1~5のいずれか一項に記載の二重特異性抗体。
【請求項7】
CD3に結合する前記第2の結合ドメインは、
a)配列番号15若しくは24のいずれか1つにおいて記載されるscFv様の配列を含む、又は
b)配列番号15若しくは24のいずれか1つに対して≧80%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む
請求項1~6のいずれか一項に記載の二重特異性抗体。
【請求項8】
フルオレセイン又は抱合フルオレセインに結合する前記第1の結合ドメインは、
c)配列番号35若しくは44のいずれか1つにおいて記載されるscFv様の配列を含む、又は
d)配列番号35若しくは44のいずれか1つに対して≧80%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む
請求項1~7のいずれか一項に記載の二重特異性抗体。
【請求項9】
a)配列番号48~50から選択される配列の少なくとも1つを含み、又は
b)配列番号48~50に対して≧80%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含み、
任意選択で、C末端システイン残基及び/又はHisタグは取り除かれる又はそのままとする、請求項1~8のいずれか一項に記載の二重特異性抗体。
【請求項10】
a)請求項1~9のいずれか一項に記載の二重特異性抗体、及び
b)標的抗原に特異的に結合する標識結合剤
を含み、
前記標識結合剤は、請求項1~9のいずれか一項に記載の二重特異性抗体の第1の結合ドメインが特異的に検出する及び/又は結合する有機蛍光体により標識される、組み合わせ。
【請求項11】
前記標識結合剤における前記有機蛍光体は、フルオレセインである、請求項10に記載の組み合わせ。
【請求項12】
前記標識結合剤は、抗体又はその標的結合断片若しくは誘導体を含む、請求項10又は11に記載の組み合わせ。
【請求項13】
請求項10~12のいずれか一項に記載の組み合わせ及び任意選択で1つ又は複数の薬学的に許容される賦形剤を含む医薬組成物。
【請求項14】
新生物疾患を発症
・していると診断されている、
・していることで苦しんでいる、若しくは
・するリスクがある
ヒト若しくは動物対象の処置における使用のための又はこのような状態の予防のための請求項10~13のいずれか一項に記載の組み合わせ又は医薬組成物。
【請求項15】
a)及びb)が、
・b)の前にa)若しくはa)の前にb)で続けて又は
・同時に
投与される、請求項14に記載の使用のための組み合わせ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二重特異性抗体に関する。
【背景技術】
【0002】
二重特異性T細胞誘導活性化抗体及びキメラ抗原受容体(CAR)T細胞(CAR T)細胞は、種々のタイプの癌(又は自己免疫病、炎症、若しくは感染症のような他の疾患)を処置するための有望な抗体ベースのアプローチである。両方の療法は、標的細胞に対するT細胞の死滅活性を(再)指示することに依拠する。
【0003】
二重特異性抗体は、生物製剤であり、標的抗原発現細胞にエフェクター細胞(例えばT細胞)を連結させることを狙いとして2つの異なる抗原に同時に結合することができ、標的抗原運搬細胞のエフェクター細胞媒介性の死滅を導く。詳細には、二重特異性抗体は、T細胞上のCD3及び腫瘍関連抗原に結合することができ、腫瘍細胞及びエフェクターT細胞を架橋する。架橋結合は、T細胞活性化を導き、MHCとは無関係に、標的運搬細胞に対するそれらの細胞溶解活性の強力で選択的な(再)ターゲティングを誘起する。臨床段階の二重特異性抗体は、2つの連結された抗原結合断片からなる小タンパク質から、追加のドメインが加えられた大きな免疫グロブリンG(IgG)様分子まで及ぶ。
【0004】
CAR-T細胞は、通常、可動性のヒンジ及び膜貫通ドメインを介してT細胞に連結された単鎖可変断片(scFv)結合ドメインからなる人工CARを過剰発現する、遺伝子修飾されたT細胞である。追加のCAR構成要素である細胞内の共刺激ドメイン及び刺激性ドメインは、活性化シグナルを媒介する。表面のscFvは、MHCとは無関係に、同種抗原を発現する標的細胞に対するCAR-T細胞細胞障害活性を再指示する。
【0005】
CD3及びCD19に対する2つのscFvsからなるある二重特異性T細胞結合体(BiTE(商標))は、B細胞白血病又はリンパ腫のある特定の亜型に対するサルベージ療法として、2つのCAR-T細胞製品(Kymriah(登録商標)及びYescarta(登録商標))と同様に、規制当局の承認を獲得した(ブリナツモマブ;Blycinto(登録商標))。
【0006】
しかしながら、初期反応の率が高いにもかかわらず、再発は、注目すべき割合の患者において観察される。単一の腫瘍細胞抗原を標的にすることができる二重特異性抗体及びCAR-T細胞は、抗原回避に対処すること又は腫瘍不均一性を克服することができない。コンビナトリアル戦略の使用による成果の改善には、標的にすることが望まれ得るそれぞれの新しい抗原に対する新しいGMP製品の開発を必要とする。
【0007】
組換えタンパク質の開発と比べて、CAR-T細胞のGMP生産は、個別化医療の費用の原因となっており、バッチごとに患者の細胞から製造され、従って、その臨床適用性を制限している。さらに、抗体の活性は、注射スケジュールによって制御することができるが、このオン/オフ安全スイッチは、CAR-T細胞を使用する場合、今のところ不可能である。それらの活性化は、注射後の下流の制御メカニズムを欠いており、強力なレベルのCAR T細胞活性化による全身毒性又はon-target off-tumor反応に由来する重度の副作用をもたらし得る。
【0008】
しかしながら、これまでのところ、市場で入手可能である二重特異性T細胞誘導結合剤は、ごくわずかな選択肢しかない。これは、ごく少数の二重特異性T細胞誘導結合剤のうちの1つがすでに利用可能である標的を表す疾患に対するT細胞誘導療法の臨床上の可能性を著しく制限し、それぞれの疾患が前記療法に対して耐性を呈する場合に、医師に残される適した二次療法はない。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、少なくとも、第1の結合ドメイン及び第2の結合ドメインを含む二重特異性抗体であって、前記第1の結合ドメインは、有機蛍光体に結合し、前記第2の結合ドメインは、CD3に結合する、二重特異性抗体並びに標的抗原に特異的に結合する標識結合剤とのその組み合わせであって、標識結合剤は、有機蛍光体により標識されている、その組み合わせを提供する。
【0010】
このような新しい構築物は、「汎用T細胞誘導活性化二重特異性抗体」と呼ばれ、本明細書においてUniTEAと略記される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は、UniTEAの略図及びキャラクタリゼーションを示す図である。(A)汎用T細胞誘導活性化二重特異性抗体(UniTEA)は、T細胞上に発現されるヒトCD3(例えばCD3ε)及びフルオレセインに対する二つの特異性を有する。T細胞細胞障害活性は、蛍光体タグ付き標的結合アダプターの存在下においてのみ誘起される。蛍光体は、星(☆)として示される。アダプターとして使用することができる様々なタイプのバインダー、すなわち、抗体(左、さらに例えばscFv又はダイアボディ(diabody)のようなその他の断片又は誘導体も含むIgG様の形状によって表される及び小分子(真ん中)又はペプチド(右))が、示される。(B)4m5.3/BlinCD3、E2/BlinCD3、及びFluA/BlinCD3と呼ばれる3つの異なるUniTEAフォーマットの純度及び分子量を示すサイズ排除クロマトグラフィープロファイル及びSDS PAGEゲル。
【
図2】
図2は、インビトロにおけるCD19、CAIX、及びCD117発現細胞株のT細胞媒介性の除去を示す図である。(A)NALM-6(CD19
+)B-ALL細胞株は、ブリナツモマブ(商標)(抗CD19/BlinCD3 T細胞誘導活性化二重特異性抗体、TEA)と、4m5.3/BlinCD3及びFluA/BlinCD3 UniTEAフォーマットによって誘起されるT細胞媒介性の死滅を比較するために使用した。標的細胞及びT細胞は、10:1のE:T比で24時間及び48時間コインキューベートした。(B)示す濃度でのUniTEA又は市販の抗ヒトCD19 IgG-FITCアダプター分子のみのバックグラウンドの死滅。(C)等モル濃度の4m5.3/BlinCD3及びFluA/BlinCD3 UniTEAは、10nMのアダプターを追加した場合に、ブリナツモマブ(商標)と同様のT細胞媒介性の標的細胞溶解を誘起した。(D)腎細胞癌細胞株SK-RC-52(CAIX
+)は、10nMの部位特異的にフルオレセイン化した抗CAIX IgGの存在下において、4m5.3/BlinCD3、FluA/BlinCD3、及びE2/BlinCD3 UniTEAによって誘起されるT細胞媒介性の死滅を判断するために使用した。(E)3つのUniTEAフォーマットはすべて、10:1のE:T比で24時間後に濃度依存的にT細胞媒介性の腫瘍細胞溶解を誘発した。T細胞及び腫瘍細胞だけを共培養した後の又は10nMアダプター分子のみを追加することによるバックグラウンドの死滅もまた報告する。(F)CAR T細胞とTEAとUNiTEAとの間の比較は、MOLM14(CD117
+)AML細胞上のCD117を標的にすることによって実行した。4m5.3/BlinCD3 UNiTEA(BiTEフォーマット)は、部位特異的にフルオレセイン化した抗CD117ダイアボディ(Db)と組み合わせて使用した。標的細胞及びエフェクター細胞は、1:1のE:T比で24時間及び48時間コインキューベートした。(G)10nMフルオレセイン化抗CD117 Dbの存在下における4m5.3/BlinCD3 UniTEAの追加は、24及び48時間で、直接的な抗CD117 CAR-T細胞及び抗CD117/BlinCD TEAと同様のT細胞媒介性の標的細胞溶解をもたらした。
【
図3】
図3は、FITC-抗体のインビボにおける持続性を示す図である。(A)市販で入手可能な抗マウスCD19(mCD19)IgG-FITCを、2匹のC57BL/6Jマウスにi.v.注射した(50ug/マウス)。末梢血を、8日間にわたり様々な時点で、FACSによって分析した。(B)追加のmCD19 IgG-FITCあり及びなしで染色したmCD19
+細胞の各時点の平均蛍光強度(MFI)を、それぞれ塗りつぶした丸及び塗りつぶしていない丸によって示す。(C)それぞれ塗りつぶした丸及び塗りつぶしていない丸によって示す追加のmCD19 IgG-FITCあり及びなしで染色した4時間後のベースラインの数と比べた各時点のmCD19
+/mCD20
+細胞のパーセンテージとして表現するmCD19
+/mCD20
+B生細胞。(D)追加のCD19-FITC標識あり及びなしの示す時点での末梢血CD19
+CD20
+マウスB細胞集団を示す代表的なFACSプロット。
【
図4】
図4は、FITC及びフルオレセイン-5-マレイミドの構造(後者は、末端システイン残基により標識された抗体へのFITCの部位特異的抱合のために使用される)を示す図である。
【
図5】
図5は、様々な二重特異性抗体フォーマットの概要を示す図である。この図は、本発明において使用することができる二重特異性抗体の様々なフォーマットを示す。これは、Spiess et al.2015から引用したものであり、この内容は、特に色情報を失う可能性について責任を取るために、参照によって本明細書に組み込まれる。
【
図6】
図6は、インビトロにおけるフルオレセイン化PSMAターゲティングリガンド及びE2/OKT3 UniTEAによるPSMA+LNCaPヒト前立腺腺癌細胞のT細胞媒介性の除去を示す図である。(A)UniTEAは、T細胞上に発現されるヒトCD3εに対して(OKT3バインダー)及びフルオレセインに対して(E2バインダー)二つの特異性を有する。PSMA+細胞に対するT細胞細胞障害活性は、フルオレセインタグ付きPSMA特異的アダプター、すなわち小分子DUPA-FITC(D-F)の存在下においてのみ誘起される。(B)24時間、T細胞、1nM UniTEA、及び示す濃度のDUPA-FITC(D-F)と共培養したPSMA+標的細胞を示す代表的なFACSプロット。(C)T細胞(E:T 10:1)、1nM UniTEA、及び示す濃度のDUPA-FITC(D-F)と共培養した24時間後に達成されたPSMA+CD3-細胞の特異的な溶解のパーセンテージの定量化。特異的な溶解は、以下のとおりに計算した:(1-生標的細胞の数/抗体なしでの生標的細胞の数)*100。
【
図7】
図7は、インビトロにおけるフルオレセイン化し、臨床的に承認された抗体及びE2/OKT3 UniTEAによる二重陽性CD20+/CD38+ヒトB細胞リンパ腫細胞のT細胞媒介性の除去を示す図である。(A)UniTEAは、T細胞上に発現されるヒトCD3εに対して(OKT3バインダー)及びフルオレセインに対して(E2バインダー)二つの特異性を有する。CD20+/CD38+細胞に対するT細胞細胞障害活性は、フルオレセインタグ付きの臨床的に承認された抗CD20又は抗CD38抗体の存在下においてのみ誘起される。(B)DOHH-2 NHL細胞株上のヒトCD3、CD19、CD20、及びCD38の細胞表面発現を示す代表的なFACSプロット。(C)FITCにより標識した(フルオレセイン:タンパク質比=2)、示す濃度の臨床的に利用可能な抗CD20(リツキシマブ)及び抗CD38ヒト(ダラツモマブ(Daratumomab))IgG1により標識したDOHH-2細胞を示すフローサイトメトリーヒストグラム。(D)T細胞(E:T 1:1)及び示す抗体との共培養の後24時間にわたって残ったCD19+CD3-細胞の割合を示す代表的なFACSプロット。発明者らは、DOHH2細胞がCD19、CD20、及びCD38について陽性であるので、標的細胞を同定するためにCD19を使用しており、これにより、ターゲティング抗体及び検出用抗体のエピトープ遮断を回避する(
図5B)。(E)T細胞及び示す抗体との共培養の24時間後に達成されたCD3-CD19+CD20+CD38+DOHH-2細胞の特異的な溶解のパーセンテージの定量化。
【
図8】
図8は、ヒトAML細胞株のT細胞媒介性の除去が、インビトロにおいてフルオレセイン化腫瘍特異性バインダー及びUniTEAの組み合わせを使用する腫瘍関連抗原のコンビナトリアルターゲティングによって向上することを示す図である。(A)絵図は、抗原A若しくは抗原B又は抗原A及びBの両方を発現する標的細胞集団を示す。抗原A又はBに対するフルオレセイン化アダプターは、発現された抗原を介してそれぞれの細胞に結合する。これは、より高度な標識、そのため、抗原A及びBを両方とも発現する細胞のより多くのフルオレセイン発現を導く。従って、UniTEAの追加は、T細胞活性化の向上及び抗原A及びBを両方とも発現する細胞の死滅を導くが、抗原A又はBしか発現しない細胞の死滅は、それほど効率的ではない。従って、このシステムは、リンカーのコンビナトリアルな使用によって、選択された複数の標的抗原が陽性である集団の死滅の向上を可能にするが、同時に、単一の標的抗原を発現する細胞は、それほど効率的には死滅しない。(B)CD117(右下角)、CD371(左上角)、又はCD117及びCD371の両方(右上角)を発現するように形質導入されたMOLM13ヒトAML細胞株の混合物上のCD117及びCD371の細胞表面発現を示す代表的なFACSプロット。加えて、細胞混合物中のCD117及びCD371陰性T細胞を示す(左下角)。(C)示す濃度のE2/OKT3 UniTEA並びに組み合わせて及び単剤として使用したフルオレセイン化腫瘍抗原特異的アダプターをT細胞と24時間共培養した後のCD33+CD3-MOLM13細胞の特異的な溶解のパーセンテージの定量化(E:T 1:10)。(D)T細胞、示すフルオレセイン化腫瘍抗原特異的アダプター、及びUniTEAとの共培養後24時間にわたって残ったCD33+CD3-細胞の割合を示す代表的なFACSプロット。
【
図9】
図9は、フルオレセイン化腫瘍抗原特異的アダプター及びUniTEAにより処置した免疫不全NSGマウス中に移植したヒトAML細胞株のT細胞媒介性の除去を示す図である。(A)AML細胞株、ヒト初代T細胞、並びにUniTEA及びフルオレセイン化ダイアボディを使用する予防的なインビボAML処置の実験計画。(B)CD117+ヒトAML細胞株注射の7、14、及び19日後の免疫不全マウスの生の生物発光画像処理の定量化。処置群を示す。(C)実験の終了時(19日目)のマウスの骨髄中のCD117+GFP+ヒトAML MOLM14細胞のパーセンテージを示すフローサイトメトリーデータの定量化。(D)実験の終了時(19日目)のマウスの骨髄、末梢血、及び脾臓中のMOLM14 AML細胞(ヒトCD45+GFP+細胞によって同定される)を示す代表的なFACSプロット。細胞は、全生有核細胞のうちのパーセンテージとして示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明を詳細に記載する前に、本発明は、記載されるデバイスの特定の構成部分又は記載される方法のプロセスステップに限定されず、このようなデバイス及び方法は変更されてもよいことが理解されるべきである。本明細書において使用される用語は、特定の実施形態を記載する目的のためだけのものであって、限定することを意図するものではないこともまた理解されるべきである。明細書及び添付の特許請求の範囲において使用されるように、文脈によって明示されない限り、単数形「1つの(a)」、「1つの(an)」、及び「その(the)」は、単一の及び/又は複数の指示物を含むことに注意しなければならない。数値によって範囲を決められるパラメーターの範囲が与えられる場合、範囲は、これらの上限値を含むと考えられることがさらに理解されるべきである。
【0013】
本明細書において開示される実施形態は、互いに関係しないであろう個々の実施形態として理解されるものではないことがさらに理解されるべきである。ある実施形態により述べられる特徴はまた、本明細書において示される他の実施形態にも関連して開示されるものとする。ある場合において、特定の特徴がある実施形態により開示されないが、別の実施形態により開示されるのであれば、当業者は、前記特徴が前記他の実施形態により開示されるものではないことを必ずしも意味するというわけではないことを理解するであろう。当業者は、他の実施形態についても前記特徴を開示することは本出願の本質であるが、ただ明確にするために及び明細書を扱いやすい量に保つために、これが行われなかったことを理解するであろう。
【0014】
さらに、本明細書において参照される先行技術文献の内容は、参照によって組み込まれる。これは、特に、標準的な又はルーチン的な方法を開示する先行技術文献を指す。その場合、参照による組み込みは、主に、十分な実施可能な程度の開示を提供し、冗長な反復を回避するといった目的を有する。
【0015】
本発明の第1の態様によれば、二重特異性抗体は、少なくとも第1の結合ドメイン及び第2の結合ドメインを含み、前記第1の結合ドメインは、有機蛍光体に結合し、前記第2の結合ドメインは、CD3に結合する。
【0016】
このような新しい構築物は、「汎用T細胞誘導活性化二重特異性抗体」と呼ばれ、本明細書においてUniTEAと略記される。
【0017】
本明細書において使用されるように、用語「有機蛍光体」は、光励起と同時に光を再放射する能力を有する有機小分子に関する。本明細書において開示される有機蛍光体は、2500ダルトンを超えない最大分子を有する。用語「有機蛍光体」は、27kDaの分子量を有する緑色蛍光タンパク質(GFP)及び約240kDaの分子量を有するいくつかのフィコビリタンパク質のような蛍光タンパク質を除く。
【0018】
いくつかの実施形態では、有機蛍光体は、
・例えばフルオレセイン、ローダミン、Oregon green、エオシン、及びTexas redのようなキサンテン誘導体
・例えばシアニン、インドカルボシアニン、オキサカルボシアニン、チアカルボシアニン(thiacarbocyanine)、及びメロシアニンのようなシアニン誘導体
・Seta色素及びSquare色素を含むスクアライン誘導体及び環置換スクアライン
・例えばSee Tau色素のようなスクアラインロタキサン誘導体
・ナフタレン誘導体(ダンシル誘導体及びプロダン誘導体)
・クマリン誘導体
・例えばピリジルオキサゾール、ニトロベンゾキサジアゾール、及びベンゾオキサジアゾールのようなオキサジアゾール誘導体
・例えば、DRAQ5、DRAQ7、及びCyTRAK Orangeを含むアントラキノンのようなアントラセン誘導体
・例えばcascade blueなどのようなピレン誘導体
・例えばNile red、Nile blue、クレシルバイオレット、オキサジン170などのようなオキサジン誘導体
・例えばプロフラビン、アクリジンオレンジ、アクリジンイエローなどのようなアクリジン誘導体
・例えばオーラミン、クリスタルバイオレット、マラカイトグリーンのようなアリールメチン(arylmethine)誘導体
・例えばポルフィン、フタロシアニン、ビリルビンのようなテトラピロール誘導体、並びに/又は
・例えばBODIPY、アザ-BODIPYのようなジピロメテン誘導体
からなるリストから選択される群の少なくとも1つに属している。
【0019】
発明者らは、驚くべきことに、このような構築物を、患者の体内のほぼすべての考えられる限りの標的にT細胞誘導療法を届けるために、対応する蛍光体により標識される第2の結合剤(本明細書において「アダプター」とも呼ばれる)と一緒に使用することができることを発見した。
【0020】
それゆえ、これまでこのアプローチに利用可能でなかった標的に対するT細胞誘導療法の適用を容易にするモジュール方式が、提供される。さらに、このような方式は、新しい標的に対するT細胞誘導療法の規制当局の承認を容易にし、加速するかもしれない。
【0021】
結果として生じるUniTEA及び蛍光体タグ付きアダプター複合体は、CD3発現T細胞と標的細胞との間で細胞溶解性接合部の形成を容易にし、効果的な標的細胞死滅を導く。
【0022】
UniTEAは、市販のGMP製造生物製剤として提供することができ、その上、臨床上承認された治療用抗体又は他の標的バインダー(本明細書において「アダプター」と呼ばれる)と組み合わせて使用することができ、アダプターは、アダプターを、問題にしているそれぞれの標的に対するT細胞細胞障害作用を再指示するのに適したアダプターにするために、最小限に修飾される(蛍光体タグ付き)。
【0023】
有機蛍光体は、広範囲にわたるアダプターに連結させることができるので、T細胞は、好ましい任意の標的細胞に対して例外なく再指示することができる、但し、利用可能な臨床グレードのブリッジがあることを条件とする。さらに、適切なアダプターとして役立つであろう抗体(又はペプチド、小分子、若しくは任意の他の抗原バインダー)は、T細胞を動員し、アダプターを介してT細胞に再指示するUniTEにより、それらの機能性が向上するであろう。
【0024】
UniTEAモジュール方式は、オンデマンドのT細胞活性化を可能にし、これは、UniTEAが蛍光体タグ付き標的結合アダプターと同時に存在する場合にのみ誘起されるであろうが、T細胞細胞障害活性は、蛍光体タグ付きブリッジが体内に残っているかもしれない場合であっても、UniTEAの非存在下では誘起することができない。そのため、UniTEAの短い半減期(約30分間)により、内在性T細胞の活性に対して厳密な制御を加え、投薬による効果の細かな調整を可能にする。
【0025】
抗原陰性の再発又は腫瘍不均一性は、各患者又は疾患それぞれに対してさらに個別化することができるコンビナトリアル戦略を利用することによって対処されるであろう。この方式は、そのため、既存の臨床上使用される標的結合分子を組み合わせて又は連続的に活用することを可能にし、より広くより不均一な腫瘍細胞抗原(血液及び非血液腫瘍)を標的にすることを可能にし、単一特異性腫瘍抗原ターゲティングアプローチの限界を克服する。
【0026】
すべてが、患者のT細胞を遺伝子操作するための専用のGMP設備を必要とする新規な一価又は多価CAR-T細胞及びモジュールCAR-T細胞の製造費用と比べて、タンパク質を開発するための投資額は、かなり低い。単一の汎用二重特異性タンパク質を生成する利点により、新たな二重特異性抗体の生産は無用になる。UniTE分子の開発は、テーラーメイド治療薬の個人化の利点及び単一の組換えタンパク質のGMP生産費用を保ちながら、非常に労力を要する多価抗体及びCAR T細胞の代替物になるであろう。
【0027】
一実施形態によれば、前記第2の結合ドメインは、CD3のε鎖及び/又はCD3のγ鎖に結合する。
【0028】
T細胞受容体(TCR)複合体は、リガンド結合サブユニット(TCRα及びTCRβ)並びにシグナル伝達サブユニット(CD3γ、CD3δ、CD3ε、及びCD3ζ[CD247])から構成される。TCRのリガンドは、主要組織適合遺伝子複合体(MHC)クラスI又はクラスII分子に結合したペプチド抗原からなる。組み立てについての研究、トランスフェクション及び再構成についての実験、並びに界面活性剤による解離についての研究は、TCR複合体の構成要素が、二量体として構成されることを示唆する[において概説される。CD3εは、CD3γ及びCD3δと非共有結合の別の二量体を形成し、TCRαは、TCRβとジスルフィド連結二量体を形成し、CD3ζは、ジスルフィド連結ホモ二量体の形態で発現される。
【0029】
T細胞は、T細胞受容体複合体のインバリアントシグナリング構成要素であるCD3、特にCD3εに結合することができる結合分子によって誘導することができる。これは、細胞障害性T細胞[CD8+、CD4+、調節性T細胞(Treg)を含む]のポリクローナル集団を利用する能力を活かすものであり、抗原提示についてMHCクラスIに依存していない。CD3の一価の結合は、標的細胞の結合が、下記に述べられるように、二重特異性抗体と標識結合剤とを組み合わせて誘導されない限り、TCRを活性化しない。このような方法において、T細胞の誘導は、効力の向上に寄与する、T細胞の活性化及びその結果としての増殖を引き起こす。さらに、T細胞誘導は、効力をさらに向上させる連続的な溶解に寄与する。
【0030】
本発明の一実施形態によれば、二重特異性抗体は、完全長抗体又は抗体断片のフォーマットをしており、後者は、標的結合特性を保持する。
【0031】
一般に、二重特異性抗体についての多くのフォーマットが、評価されてきた。概説については、例えば、内容が参照によって本明細書に組み込まれるSpiess et al.(2015)を参照されたい。二重特異性抗体は、5つの異なる構造群に分類される:
(i)二重特異性IgG(BsIgG)
(ii)追加の抗原結合成分が付加されたIgG
(iii)二重特異性抗体断片
(iv)二重特異性融合タンパク質、及び
(v)二重特異性抗体抱合体
【0032】
さらに、それは、たいてい、
(i)非対称な二重特異性抗体(異なる抗原に対する結合成分を有する異なる鎖を有するヘテロ多量体抗体)と
(ii)対称な二重特異性抗体(ヘテロ多量体又は単量体/単鎖抗体、ここで、異なる抗原に対する異なる結合成分は、同じ鎖上にある)
とで区別される。
【0033】
一般に、多くの場合、単量体/単鎖立体構造をしている小さなフォーマットは、血清半減期が短く、これにより、頻繁な又はさらに絶え間のない投薬が必要になるが、サイトカインストームのような副作用の発生の直後に処置を中断する選択肢を提供する。
【0034】
非対称な二重特異性抗体は、多くの場合、異なる鎖の翻訳後の対合のことになると、問題が起きる。4つの異なる抗体鎖(それぞれの特異性がある重鎖及び軽鎖)の同時発現において、不適切な対合が生じることがあり、10種の異なる産物を導き、これらのうち、1つだけが正しいバリアントとなる。しかしながら、これらの誤対合の課題は、様々な技術的アプローチにより取り組むことができる(Wang et al.2018を参照されたい)。
【0035】
様々なフォーマットの概要については
図5を参照されたい。これらのフォーマットのそれぞれは、様々な特性及び利点を生み、それゆえ、とりわけ
・それぞれの抗原に対する結合価、
・抗原結合部位cの幾何学的配置、
・鎖対合の正確さ、
・薬物動態学的半減期
・及び場合によってはエフェクター機能
について好ましいフォーマットとして選ぶことができる。
【0036】
本発明の実施形態によれば、二重特異性抗体は、
・DVD-Ig
・Knobs in Holes
・Crossmab
・BiTE(商標)
・Nanobody
・ダイアボディ
・DART(商標)
・TandAb(商標)、及び/又は
・scDb-scFv
からなる群から選択される少なくとも1つのフォーマットをしている。
【0037】
これらのフォーマットは、当業者によく知られている(定義についてはSpiess et al.(2015)を参照されたい)。当業者は、ルーチン的な方法によって上述したフォーマットを作製するために、本明細書において開示される可変ドメイン及び/又はCDRのセットを使用することができる。
【0038】
本発明の一実施形態によれば、二重特異性抗体は、BiTEのフォーマットをしている。
【0039】
BiTEフォーマットは、本質的に、ペプチドリンカー、通常、アミノ酸配列GGGG(「G4S」)を含むリンカーによって互いにつながれた2つのscFvフォーマット抗体からなる。結果として生じる単鎖は、約55kDの重量を有する。前記BiTEは、以下のフォーマットを有することができる(可変ドメインの間のダッシュは任意選択のリンカーを示す):
・VH1-VL1-VL2-VH2
・VL1-VH1-VH2-VL2
・VL1-VH1-VL2-VH2
・VH1-VL1-VH2-VL2
【0040】
その小さなサイズのために、BiTEフォーマットは、患者における非常に急速なクリアランスプロファイルと関連する。ブリナツモマブは、市場に出回っている唯一の臨床上承認されたBiTEであり、一定流量を有する静脈内ポンプの使用のおかげで、28日間の持続点滴として投与される。このような方法において、深刻な有害事象が生じる場合、抗体投与を直ちに中止する状況がある。
【0041】
scDb-scFvは、BiTEフォーマットと類似しており、例えば以下に示されるように、第1又は第2の標的に対する可変ドメインが重複しているといった違いしかない:
・VH1-VL1-VH1-VL1-VL2-VH2
・VL1-VH1-VL1-VH1-VH2-VL2
・VL1-VH1-VL1-VH1-VL2-VH2
・VH1-VL1-VH1-VL1-VH2-VL2
【0042】
TandAb(タンデム型ダイアボディ)フォーマットは、例えば、以下のとおりである:
【0043】
DARTフォーマットは、2つの鎖がシステインリンカーによって互いに接続された二量体フォーマットである:
・鎖1:VL1-VH2
・鎖2:VH1-VL2
【0044】
Anticalinタンパク質は、抗原、タンパク質又は小分子に結合することができる人工タンパク質である。Anticalinタンパク質は、抗体に構造的に関連がなく、これはAnticalinタンパク質を一種の抗体ミメティックにしている。そうではなく、Anticalinタンパク質は、天然結合タンパク質のファミリーであるヒトリポカリンに由来する。Anticalinタンパク質は、モノクローナル抗体の代わりに使用されているが、約8分の1の大きさしかなく、約180アミノ酸のサイズ及び約20kDaの質量を有する。
【0045】
一実施形態によれば、二重特異性抗体の前記第1の結合ドメインは、フルオレセイン、好ましくは、タンパク質に結合している時のフルオレセイン(抱合フルオレセイン)に結合する。
【0046】
本明細書において使用されるように、用語「フルオレセイン」、「フルオレセインイソチオシアネート」、及び「FITC」は、区別なく使用されている。フルオレセイン、好ましくは、タンパク質に結合している時のフルオレセイン(抱合フルオレセイン)に結合する抗体を含む結合剤は、広く入手可能である。いくつかの実施形態が以下に述べられるが、>78000種の抗FITC抗体製品をリストするインターネットの情報源であるBiocomepareもまた参照され、ほんの少し例を挙げればab19224(Abcam、ヤギポリクローナルIgG)及びLS C34608(LSBio、モノクローナルマウスFITC抗体(クローンF4/1、IHC)がある。
【0047】
一実施形態によれば、フルオレセイン又は抱合フルオレセインに結合する二重特異性抗体の前記第1の結合ドメインは、anticalin FluA(配列番号47)を含み、これは、Vopel et al.(2005)において開示され、この内容は参照によって本明細書に組み込まれる。
【0048】
本明細書において他で述べられるように、Anticalinタンパク質は、抗原、タンパク質又は小分子に結合することができる人工タンパク質である。Anticalinタンパク質は、天然結合タンパク質のファミリーであるヒトリポカリンに由来する。
【0049】
好ましくは、フルオレセイン又は抱合フルオレセインに結合する二重特異性抗体の前記第1の結合ドメインは、配列番号47に対して≧80%、≧81%、≧82%、≧83%、≧84%、≧85%、≧86%、≧87%、≧88%、≧89%、≧90%、≧91%、≧92%、≧93%、≧94%、≧95%、≧96%、≧97%、≧98%、及び最も好ましくは≧99%の配列同一性を有するanticalin FluAを含む。
【0050】
以下において、特異性抗体の配列が参照される実施形態について記載する。いくつかの実施形態では、代替のCDR(相補性決定領域)配列が、開示される。これらの実施形態は、同じ抗体に関するものであるが、CDRが定義される命名法だけが異なる。
【0051】
本明細書において使用されるように、用語「CDR」又は「相補性決定領域」は、重鎖及び軽鎖ポリペプチドの両方の可変領域内に見つけられる非隣接抗原結合部位を意味することが意図される。これらの特定の領域は、Kabat et al.(1977)、Kabat et al.(1991)、Chothia et al.(1987)、及びMacCallum et al.,(1996)によって記載されており、それらの定義は、互いに比較すると、アミノ酸残基のオーバーラップ又はサブセットが含まれる。それにもかかわらず、抗体又はその移植抗体若しくはバリアントのCDRを参照するためのいずれかの定義の適用は、本明細書において定義され、使用される用語の範囲内にあることが意図される。上記の引用文献のそれぞれによって定義されるCDRを含むアミノ酸残基を、比較として表1において下記に記載する。CDRの定義が状況によって変更されるので、このナンバリングが実際に同封の配列表において開示されるCDRと異なっていてもよいことに注意されたい。
【0052】
【0053】
本明細書において使用されるように、抗体可変領域に関して使用される場合の用語「フレームワーク」は、抗体の可変領域内のCDR領域の外側のすべてのアミノ酸残基を意味するために記載される。そのため、可変領域フレームワークは、長さが約100~120アミノ酸の間にあるが、CDRを除くアミノ酸のみを指すことが意図される。
【0054】
一実施形態では、用語「標的Xに結合することができる」は、十分な結合親和性で結合することを意味することが理解されるべきである。このような実施形態において、それぞれの結合ドメインは、10-4以下のKDで標的に結合する。KDは、抗体とその抗原との間の平衡解離定数、koff/konの比である。KD及び親和性は、反比例する。KD値は、抗体の濃度(特定の実験に必要とされる抗体の量)に関し、KD値が低いと(濃度が低い)、結合ドメインの親和性は高くなる。以下の表は、モノクローナル抗体の典型的なKDの範囲を示す。
【0055】
【0056】
一実施形態によれば、フルオレセイン又は抱合フルオレセインに結合する第1の結合ドメインは、
a)それぞれ配列番号27及び31若しくは配列番号36及び40において記載されるように、抗フルオレセイン抗体E2若しくは4m5.3のうちの1つの重鎖/軽可変領域配列対において含まれる、一セットの重鎖/軽鎖相補性決定領域(CDR)を含み
b)以下の配列を含む重鎖/軽鎖相補性決定領域(CDR)のセットを含み
・HC CDR1(配列番号28)
・HC CDR2(配列番号29)
・HC CDR3(配列番号30)
・LC CDR1(配列番号32)
・LC CDR2(配列番号33)、及び
・LC CDR3(配列番号34)
c)以下の配列を含む重鎖/軽鎖相補性決定領域(CDR)のセットを含み
・HC CDR1(配列番号37)
・HC CDR2(配列番号38)
・HC CDR3(配列番号39)
・LC CDR1(配列番号41)
・LC CDR2(配列番号42)、及び
・LC CDR3(配列番号43)
d)b)若しくはc)の重鎖/軽鎖相補性決定領域(CDR)を含み、但し、CDRの少なくとも1つが、それぞれの配列番号28~30、32~34、37~39、若しくは41~43と比較して3アミノ酸以下の置換を有することを条件とし、及び/又は
e)b)の重鎖/軽鎖相補性決定領域(CDR)を含み、但し、CDRの少なくとも1つが、それぞれの配列番号28~30、32~34、37~39、若しくは41~43に対して≧66%の配列同一性を有することを条件とし、
CDRは、フルオレセイン又は抱合フルオレセインに結合することができるように、適したタンパク質フレームワーク中に埋め込まれる。
【0057】
抗フルオレセイン抗体E2は、Vaughan et al.(1996)において開示され、この内容は、参照によって本明細書に組み込まれる。抗フルオレセイン抗体4m5.3は、Boder et al.(2000)において開示され、この内容は、参照によって本明細書に組み込まれる。
【0058】
好ましくは、これは、本明細書において開示されるすべてのCDRセットに適用され、少なくとも1つのCDRは、2アミノ酸以下の置換、より好ましくは1アミノ酸以下の置換を有する。
【0059】
好ましくは、これは、本明細書において開示されるすべてのCDRセットに適用され、CDRの少なくとも1つは、それぞれの配列番号に対して≧67%、≧68%、≧69%、≧70%、≧71%、≧72%、≧73%、≧74%、≧75%、≧76%、≧77%、≧78%、≧79%、≧80%、≧81%、≧82%、≧83%、≧84%、≧85%、≧86%、≧87%、≧88%、≧89%、≧90%、≧91%、≧92%、≧93%、≧94%、≧95%、≧96%、≧97%、≧98%、及び最も好ましくは≧99%の配列同一性を有する。
【0060】
本明細書において使用されるように、用語「配列同一性%」は、以下のとおり理解されなければならない:比較される2つの配列は、配列の間に最大の相関性をもたせるようにアラインメントされる。これは、アラインメントの程度を向上させるために、一方又は両方の配列に「ギャップ」を挿入することを含んでいてもよい。同一性%は、次に、同じ若しくは同様の長さの配列に特に適している、比較されているそれぞれの配列の全長にわたって(いわゆるグローバルアラインメント)又は長さが等しくない配列により適している、より短い、定められた長さにわたって(いわゆるローカルアラインメント)、決定されてもよい。上記の文脈において、問い合わせアミノ酸配列に対して少なくとも例えば95%の「配列同一性」を有するアミノ酸配列は、対象のアミノ酸配列が、問い合わせアミノ酸配列の各100アミノ酸当たり5アミノ酸以下の改変を含んでもよいこと以外は、対象のアミノ酸配列の配列が問い合わせ配列と同一であることを意味することが意図される。言い換えれば、問い合わせアミノ酸配列に対して少なくとも95%の同一性の配列を有するアミノ酸配列を得るために、対象の配列におけるアミノ酸残基の5%以下(100のうちの5)は、別のアミノ酸により挿入されてもよい若しくは置換されてもよい又は欠失させてもよい。2つ以上の配列の同一性及び相同性を比較する方法は、当技術分野においてよく知られている。2つの配列が同一であるパーセンテージは、例えば、数学的なアルゴリズムを使用することによって決定することができる。数学的なアルゴリズムの好ましいが限定的ではない例は、プログラム、例えばBLAST又はNBLASTプログラムのBLASTファミリー及びFASTAに集約される。他の配列とある程度同一である配列は、これらのプログラムによって同定することができる。さらに、Wisconsin Sequence Analysis Package,version 9.1における利用可能なプログラム、例えばプログラムBESTFIT及びGAPは、2つのポリペプチド配列の間の同一性%を決定するために使用されてもよい。本明細書において、参照配列に対してかなりの程度の配列同一性を共有するアミノ酸配列が参照される場合、配列中の前記の違いは、好ましくは保存的アミノ酸置換によるものである。好ましくは、このような配列は、例えば速度が遅いかもしれないが、参照配列の活性を保持する。
【0061】
好ましくは、これは、本明細書において開示されるすべてのCDRセットに適用され、CDRの少なくとも1つは、
・親和性成熟
・免疫原性の低下
を含むCDR配列修飾にかけられている。
【0062】
ある特定の抗体の親和性をインビトロにおいて増加させるプロセスにおける親和性成熟。自然の親和性成熟のように、インビトロ親和性成熟は、突然変異及び選択の原理に基づく。インビトロ親和性成熟は、抗体、抗体断片、又は抗体ミメティックのような他のペプチド分子を最適化するために使用され、成功してきた。CDR内部のランダムな突然変異は、放射線、化学的突然変異原、又はエラープローンPCRを使用して導入される。加えて、遺伝的多様性は、鎖シャフリング(chain shuffling)によって増加させることができる。ファージディスプレイのようなディスプレイ方法を使用する2又は3回の突然変異及び選択は、通常、低ナノモル範囲の親和性を有する抗体断片をもたらす。原理については、内容が参照によって本明細書に組み込まれるEylenstein et al.(2016)を参照されたい。
【0063】
ヒト化抗体は、任意の必要なフレームワーク復帰突然変異と共にヒト配列に由来するV領域の中に移植された、マウス配列に由来するCDR領域を含有する。それゆえ、CDR自体は、ヒト化抗体が患者に投与される場合、免疫原性の反応を引き起こすことがある。CDRによって引き起こされる免疫原性を低下させる方法は、内容が参照によって本明細書に組み込まれるHarding et al.(2010)において開示される。本発明の一実施形態によれば、フレームワークは、ヒトVH/VLフレームワークである。VHは、IgG状の抗体の重鎖可変ドメインを表すが、VLは、軽鎖可変ドメイン(カッパ又はラムダ)を表す。
【0064】
本発明の一実施形態によれば、フルオレセイン又は抱合フルオレセインに結合する第1の結合ドメインは、
a)E2又は4m5.3からなる群から選択される1つの抗体の可変ドメイン
b)重鎖/軽鎖可変ドメイン(VD)
・HC VD(配列番号27又は36)及び
・LC VD(配列番号31又は40)
c)b)の重鎖/軽鎖可変ドメイン(VD)、但し
・HCVDは、それぞれの配列番号27若しくは36に対して≧80%の配列同一性を有する及び/又は
・LCDVDは、それぞれの配列番号31若しくは40に対して≧80%の配列同一性を有することを条件とする
d)b)の重鎖/軽鎖可変ドメイン(VD)、但しHCVD又はLCVDの少なくとも1つは、それぞれの配列番号と比較して10アミノ酸以下の置換を有することを条件とする
を含み、
前記二重特異性抗体は、フルオレセイン又は抱合フルオレセインになお結合することができる。
【0065】
「可変ドメイン」は、抗体又はその重鎖若しくは軽鎖に関して使用される場合、分子に抗原結合性を与え且つ定常領域ではない抗体の部分を意味することが意図される。この用語は、全可変領域の結合機能のすべてのうちのいくつかを維持するその機能的断片を含むことが意図される。可変領域結合断片は、例えば、Fab、F(ab)2、Fv、単鎖Fv(scfv)、及びその他同種のものなどの機能的断片を含む。このような機能的断片は、当業者らによく知られている。従って、ヘテロマー可変領域の機能的断片を記載する際のこれらの用語の使用は、当業者らによく知られている定義に一致することが意図される。このような用語は、例えば、Huston et al.,(1993)又はPlueckthun and Skerra(1990)において記載される。
【0066】
好ましくは、これは、本明細書において開示されるすべての可変ドメインに適用され、可変ドメインの少なくとも1つは、それぞれの配列番号に関して、≦9、≦8、≦7、≦6、≦5、≦4、≦3、≦2、≦1のアミノ酸置換を有する。
【0067】
好ましくは、これは、本明細書において開示されるすべての可変ドメインに適用され、可変ドメインの少なくとも1つは、それぞれの配列番号に対して、≧81%、≧82%、≧83%、≧84%、≧85%、≧86%、≧87%、≧88%、≧89%、≧90%、≧91%、≧92%、≧93%、≧94%、≧95%、≧96%、≧97%、≧98%、≧99の配列同一性を有する。
【0068】
好ましくは、これは、本明細書において開示されるすべての可変ドメインに適用され、本明細書において開示される可変ドメインのいずれかにおける少なくとも1つのアミノ酸置換は、保存的アミノ酸置換である。
【0069】
「保存的アミノ酸置換」は、非保存的置換よりも抗体機能に対する影響がより小さい。アミノ酸を分類するための多くの方法があるが、アミノ酸は、多くの場合、構造及びR基の一般的な化学的特徴を基準として6つの主な群に区分される。
【0070】
一実施形態では、「保存的アミノ酸置換」は、アミノ酸残基が同様の側鎖を有するアミノ酸残基と置き換えられる置換である。例えば、同様の側鎖を有するアミノ酸残基のファミリーは、当技術分野において定義されている。これらのファミリーは、
・塩基性側鎖(例えば、リシン、アルギニン、ヒスチジン)、
・酸性側鎖(例えば、アスパラギン酸、グルタミン酸)、
・非電荷極性側鎖(例えば、グリシン、アスパラギン、グルタミン、セリン、トレオニン、チロシン、システイン)、
・非極性側鎖(例えば、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、プロリン、フェニルアラニン、メチオニン、トリプトファン)、
・ベータ分岐側鎖(例えば、トレオニン、バリン、イソロイシン)、及び
・芳香族側鎖(例えば、チロシン、フェニルアラニン、トリプトファン、ヒスチジン)
を有するアミノ酸を含む。
【0071】
他の保存されたアミノ酸置換はまた、ペプチドの電荷を修飾するためにアスパラギンをアスパラギン酸に置換する場合など、アミノ酸側鎖ファミリーを横断して行うこともある。従って、HRドメインポリペプチドにおける予測される非必須アミノ酸残基は、例えば、好ましくは、同じ側鎖ファミリーの別のアミノ酸残基又はファミリーを横断して相同体(例えば、アスパラギンをアスパラギン酸に、グルタミンをグルタミン酸に)と置き換えられる。保存的変化は、化学的に相同な非天然アミノ酸の置換をさらに含むことができる(すなわち、ロイシンの代わりに合成非天然疎水性アミノ酸、トリプトファンの代わりに合成非天然芳香族アミノ酸)。
【0072】
本発明の実施形態によれば、CD3に結合する第2の結合ドメインは、OKT3又はBlinCD3並びにUCHT-1(Ceuppens et al,1986)、BMA031(Borst et al,1990)、及び12F6(Li et al,2005)からなる群から選択される抗体のCDR及び/又は可変ドメインを含む。
【0073】
抗CD3抗体OKT3は、内容が参照によって本明細書に組み込まれるHorn et al.(2017)において開示される。抗CD3抗体BlinCD3は、OKT3の修飾バリアントである。
【0074】
本発明の一実施形態によれば、CD3に結合する第2の結合ドメインは、
a)それぞれ、配列番号1及び8若しくは配列番号16及び20において記載されるように、抗CD3抗体BlinCD3及びOKT3のうちの1つの重鎖/軽可変領域配列対において含まれる、一セットの重鎖/軽鎖相補性決定領域(CDR)を含み
b)以下の配列を含む重鎖/軽鎖相補性決定領域(CDR)のセットを含み
・HC CDR1(配列番号2若しくは5)
・HC CDR2(配列番号3若しくは6)
・HC CDR3(配列番号4若しくは7)
・LC CDR1(配列番号9若しくは12)
・LC CDR2(配列番号10若しくは13)、及び
・LC CDR3(配列番号11若しくは14)
c)以下の配列を含む重鎖/軽鎖相補性決定領域(CDR)のセットを含み
・HC CDR1(配列番号17)
・HC CDR2(配列番号18)
・HC CDR3(配列番号19)
・LC CDR1(配列番号21)
・LC CDR2(配列番号22)、及び
・LC CDR3(配列番号23)
d)b)若しくはc)の重鎖/軽鎖相補性決定領域(CDR)を含み、但し、CDRの少なくとも1つは、それぞれの配列番号2~4、9~11、17~19、若しくは21~23と比較して、3アミノ酸以下の置換を有することを条件とし、及び/又は
e)b)の重鎖/軽鎖相補性決定領域(CDR)を含み、但し、CDRの少なくとも1つは、それぞれの配列番号2~4、9~11、17~19、若しくは21~23に対して66%の配列同一性を有することを条件とし、
CDRは、CD3に結合することができるように、適したタンパク質フレームワーク中に埋め込まれる。
【0075】
項目b)に関して、CDRのカウントが、一方のカウント法と他方のカウント法で変動し得るため(例えば、Kabat、Chothia、又はMacCallum)、CDRの2つの異なるセットが開示される。
【0076】
本発明の一実施形態によれば、CD3に結合する第2の結合ドメインは、
a)OKT3及びBlinCD3からなる群から選択される1つの抗体の可変ドメイン
b)重鎖/軽鎖可変ドメイン(VD)
・HC VD(配列番号1又は16)及び
・LC VD(配列番号8又は20)
c)b)の重鎖/軽鎖可変ドメイン(VD)、但し
・HCVDは、それぞれの配列番号1若しくは16に対して≧80%の配列同一性を有する及び/又は
・LCDVDは、それぞれの配列番号8若しくは20に対して≧80%の配列同一性を有することを条件とする
d)b)の重鎖/軽鎖可変ドメイン(VD)、但しHCVD又はLCVDの少なくとも1つは、それぞれの配列番号と比較して10アミノ酸以下の置換を有することを条件とする
を含み、
前記二重特異性抗体は、CD3になお結合することができる。
【0077】
一実施形態によれば、フレームワークは、ヒトVH/VLフレームワークである。一実施形態によれば、少なくとも1つのアミノ酸置換は、保存的アミノ酸置換である。
【0078】
二重特異性抗体の一実施形態によれば、CD3に結合する第2の結合ドメインは、
a)配列番号15若しくは24のいずれか1つにおいて記載されるscFv様の配列を含む又は
b)配列番号15若しくは24のいずれか1つに対して≧80%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む。
【0079】
二重特異性抗体の一実施形態によれば、フルオレセイン又は抱合フルオレセインに結合する第1の結合ドメインは、
a)配列番号35若しくは44のいずれか1つにおいて記載されるscFv様の配列を含む又は
b)配列番号35若しくは44のいずれか1つに対して≧80%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む。
【0080】
二重特異性抗体の一実施形態によれば、フルオレセイン又は抱合フルオレセインに結合する第1の結合ドメインは、
a)配列番号48~50から選択される配列の少なくとも1つを含む又は
b)配列番号48~50に対して≧80%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む、
任意選択で、C末端システイン残基及び/又はHisタグは取り除かれる又はそのままとする。
【0081】
二重特異性抗体の一実施形態によれば、薬剤は、上記説明による二重特異性抗体と比べて、
・CD3に対するSPRによって測定される≧50%の標的結合親和性及び/又は
・フルオレセイン若しくは抱合フルオレセインに対するSPRによって測定される≧50%の標的結合親和性
の少なくとも1つを有する。
【0082】
本発明の別の態様によれば、上記説明による二重特異性抗体と、それぞれフルオレセイン若しくは抱合フルオレセイン及び/又はCD3に対する結合について競合する二重特異性抗体が、提供される。
【0083】
本発明の別の態様によれば、上記説明による結合剤をコードする核酸が、提供される。このような核酸は、非コーディングストレッチ(イントロン)を含み得るmRNA、cDNA、DNA、又はゲノムDNAとすることができる。遺伝コードの縮重のために、多数の異なる核酸配列を、同じ結合剤について含めることができる。しかしながら、結合剤の配列情報に基づいて、当業者は、1つ又は複数のこのような核酸分子を決定する又は同定することができる。
【0084】
本発明の別の態様によれば、
a)上記説明による二重特異性抗体及び
b)標的抗原に特異的に結合する標識結合剤
を含む組み合わせであって、
標識結合剤は、上記説明による二重特異性抗体の第1の結合ドメインが特異的に検出する及び/又は結合する有機蛍光体により標識される、組み合わせが提供される。
【0085】
本発明の別の態様によれば、
a)上記説明による二重特異性抗体及び
b)標的抗原に特異的に結合する標識結合剤
続けて又は同時に患者に投与することを含む投与計画であって、
標識結合剤は、上記説明による二重特異性抗体の第1の結合ドメインが特異的に検出する及び/又は結合する有機蛍光体により標識される、投与計画が提供される。
【0086】
標識結合剤はまた、本明細書において「アダプター分子」又は「アダプター」とも呼ばれ、標識結合剤は、組み合わせに対して標的特異性を提供する。技術的に、標識結合剤は、あらゆる考えられる限りの標的抗原に対して特異的である、抗体を含む結合剤の大きなライブラリーから選ぶことができる。
【0087】
一実施形態では、標的抗原は、血液腫瘍の腫瘍細胞によって提示される抗原である。一実施形態では、標的抗原は、固形腫瘍の腫瘍細胞によって提示される抗原である。
【0088】
アダプター分子において有機蛍光体を使用することの利点は、多方面にわたる:
a)多くの有機蛍光体に対して、二重特異性抗体において使用することができる高親和性を有する市販で入手可能な抗体がある
b)有機蛍光体は、比較的小さい(フルオレセインは、例えば、約390Daの分子量を有する)、
c)有機蛍光体は、非免疫原性且つ無毒性である(フルオレセインは、例えば、点眼剤において使用されている)
d)有機蛍光体により標識される結合剤は、例えば、前臨床試験においてモニターすることができる
e)例えば抗体のような結合剤に有機蛍光体を安定して抱合し、血流における結合剤からの有機蛍光体の解離(ペプチド標識について起こり得る)を回避する証明済みの化学的性質がある。
【0089】
前記組み合わせにおける二重特異性抗体に関して、同じ実施形態が、二重特異性抗体のみについて上記に開示されるように適用される。
【0090】
上記説明による組み合わせ又は投与計画の一実施形態によれば、二重特異性抗体及び標識結合剤は、個々に投与される又は最初に互いに混合され、次に投与される。
【0091】
上記説明による組み合わせ又は投与計画の一実施形態によれば、標識結合剤における有機蛍光体は、フルオレセインである。
【0092】
本明細書において使用されるように、用語「フルオレセイン」、「フルオレセインイソチオシアネート」、及び「FITC」は、区別なく使用されている。
【0093】
上記説明による組み合わせ又は投与計画の一実施形態によれば、標識結合剤は、有機蛍光体により部位特異的に標識される。
【0094】
このような方法において、以下について確実にすることができる。
a)二重特異性抗体及び標識結合剤の組み合わせの再現可能な投薬にとって重大である、結合剤と有機蛍光体との間の一定の化学量論比を達成することができる。
b)標識は、その標的への標識二重特異性薬剤の結合に干渉しない。
【0095】
一実施形態において、フルオレセインによる部位特異的標識(「FITC化」は、(i)フルオレセイン-5-マレイミド(5-MF)及び(ii)C末端システインを有する、抗体、その断片、又は誘導体のようなタンパク質性の結合剤の使用によって得ることができる。
【0096】
このようなアプローチは、実施可能要件(enablement purposes)のために、本明細書における実験の部において開示されており、例えば、内容が参照によって本明細書に組み込まれるPellegrino et al.2020)において記載された。
【0097】
上記説明による組み合わせ又は投与計画の一実施形態によれば、標識結合剤は、抗体又はその標的結合断片若しくは誘導体を含む。
【0098】
好ましい実施形態において、標識結合剤は、以下からなる群から選択される少なくとも1つである
・抗体、
・抗体ベースの結合タンパク質
・標的結合能を保持する修飾抗体フォーマット、
・標的結合能を保持する抗体誘導体若しくは断片、及び/又は
・抗体ミメティック。
【0099】
本明細書において使用されるように、用語「結合剤」は、ある特定の標的、例えば受容体、細胞表面タンパク質、サイトカイン、又はその他同種のものに対して親和性を有する実体、薬剤、又は分子を定義することを意味する。このような結合剤は、任意選択で、アゴニスト媒介性の反応を遮断してもよい若しくは弱めてもよい又は受容体-アゴニスト相互作用を阻害してもよい。しかしながら、最も重要なことに、結合剤は、前記結合剤によって認識される標的によって定められる特異的な部位に搭載物を送達するシャトルの役割をしてもよい。従って、例えば、これに限定されないが受容体を標的とする結合剤は、多量の前記受容体によって特徴付けられる部位にその搭載物を送達する。
【0100】
結合剤は、抗体、抗体断片、抗体ベースの結合タンパク質、抗体ミメティック、受容体、可溶性デコイ受容体、特定の標的に対して親和性を有する足場タンパク質、及び受容体のリガンドを含むが、これらに限定されない。
【0101】
「抗体」は、同義的に「免疫グロブリン」(Ig)とも呼ばれるが、一般に4つのポリペプチド鎖、2つの重(H)鎖及び2つの軽(L)鎖を含み、そのため、多量体タンパク質である又はその等価なIg相同体を含み(例えば、重鎖しか含まないラクダ科の動物の抗体、重鎖又は軽鎖から誘導することができる単一ドメイン抗体(dAb))、その完全長機能的突然変異体、バリアント、又は誘導体を含み(これらに限定されないが、Ig分子の必須のエピトープ結合特性を保持するマウス、キメラ、ヒト化、及び完全ヒト抗体を含み、二重特異的、二重特異性、多重特異性、及び二重可変ドメイン免疫グロブリンを含む。免疫グロブリン分子は、任意のクラス(例えばIgG、IgE、IgM、IgD、IgA、及びIgY)又はサブクラス(例えばIgGl、IgG2、IgG3、IgG4、IgAl、及びIgA2)のもの並びにアロタイプとすることができる。
【0102】
「抗体ベースの結合タンパク質」は、本明細書において使用されるように、他の非免疫グロブリン又は非抗体由来構成要素と関連して、少なくとも1つの抗体由来VH、VL、又はCH免疫グロブリンドメインを含有する任意のタンパク質を示してもよい。このような抗体ベースのタンパク質は、(i)免疫グロブリンCHドメインのすべて若しくは一部と受容体若しくは受容体構成要素を含む結合タンパク質のFc融合タンパク質、(ii)VH及び/若しくはVLドメインが代替の分子足場に結びつけられている結合タンパク質、又は(iii)免疫グロブリンVH及び/若しくはVL及び/若しくはCHドメインが天然に存在する抗体若しくは抗体断片において普通は見つけられないやり方で組み合わせられている及び/若しくは組み立てられている分子を含むが、これらに限定されない。
【0103】
「抗体誘導体又は断片」は、本明細書において使用されるように、完全長ではない抗体に由来する少なくとも1つのポリペプチド鎖を含む分子に関し、(i)可変軽(VL)、可変重(VH)、定常軽(CL)、及び定常重1(CHI)ドメインからなる一価断片であるFab断片;(ii)ヒンジ領域でジスルフィド架橋によって連結された2つのFab断片を含む二価断片であるF(ab’)2断片;(iii)VH及びCHIドメインからなるFab(Fa)断片の重鎖部分;(iv)抗体の単一アームのVL及びVHドメインからなる可変断片(Fv)断片、(v)単一の可変ドメインからなるドメイン抗体(dAb)断片;(vi)単離相補性決定領域(CDR);(vii)単鎖Fv断片(scFv);(viii)VH及びVLドメインが単一のポリペプチド鎖上で発現されるが、同じ鎖上の2つのドメインの間で対合を可能にするには短すぎるリンカーを使用し、それによって、ドメインを別の鎖の相補性ドメインと対合するようにし、2つの抗原結合部位を作製する二価の二重特異性抗体であるダイアボディ;(ix)相補性軽鎖ポリペプチドと一緒に一対の抗原結合領域を形成する一対のタンデム型Fvセグメント(VH-CH1-VH-CH1)を含む線状抗体;(X)二重可変ドメイン免疫グロブリン(xI)免疫グロブリン重及び/又は軽鎖の他の非完全長部分又はその突然変異体、バリアント、若しくは誘導体を単独で又は任意の組み合わせで含むが、これらに限定されない。
【0104】
用語「修飾抗体フォーマット」は、本明細書において使用されるように、抗体-薬剤抱合体、ポリアルキレンオキシド修飾scFv、モノボディ(Monobody)、ダイアボディ、ラクダ科の動物の抗体、ドメイン抗体、二重又は三重特異性抗体、IgA、すなわちJ鎖及び分泌成分によってつながれた2つのIgG構造体、サメ抗体、新世界霊長類フレームワーク+非新世界霊長類CDR、ヒンジ領域が取り除かれたIgG4抗体、2つの追加の結合部位が操作されてCH3ドメインの中に入れられたIgG、Fcガンマ受容体に対する親和性を向上させるようにFc領域が改変された抗体、CH3+VL+VHを含む二量体化構築物、並びにその他同種のものを含む。
【0105】
用語「抗体ミメティック」は、本明細書において使用されるように、免疫グロブリンファミリーに属していないタンパク質及びさらにアプタマー又は合成ポリマーなどの非タンパク質を指す。いくつかのタイプは、抗体様のベータシート構造を有する。抗体にまさる「抗体ミメティック」又は「代替の足場」の考え得る利点は、より優れた溶解性、より高い組織浸透性、熱及び酵素に対するより高い安定性、並びに比較的低い生産費用である。
【0106】
いくつかの抗体ミメティックは、あらゆる考えられる限りの標的に対する特異的結合候補を提案する大きなライブラリーで提供することができる。抗体でのように、標的特異的抗体ミメティックは、ハイスループットスクリーニング(HTS)技術の使用によって及びファージディスプレイ、細菌ディスプレイ、酵母又は哺乳動物ディスプレイのように確立されたディスプレイ技術により、開発することができる。今のところ開発されている抗体ミメティックは、例えば、アンキリンリピートタンパク質(DARPinと呼ばれる)、C型レクチン、黄色ブドウ球菌(S.aureus)のA-ドメインタンパク質、トランスフェリン、リポカリン、10番目のフィブロネクチンのIII型ドメイン、Kunitzドメインプロテアーゼ阻害剤、ユビキチン由来のバインダー(アフィリン(affilin)と呼ばれる)、ガンマクリスタリン由来のバインダー、システインノット(knot)又はノッチン、チオレドキシンA足場ベースのバインダー、核酸アプタマー、ポリマーの分子インプリンティングによって産生される人工抗体、細菌ゲノム由来のペプチドライブラリー、SH-3ドメイン、ストラドボディ(stradobody)、ジスルフィド結合及びCa2+によって安定する膜受容体の「Aドメイン」、CTLA4ベースの化合物、及びFyn SH3を含む。
【0107】
一実施形態では、標識結合剤は、例えば以下の構造のうちの1つを有するscfV断片である:
・VL1-VH1
・VH1-VL1
【0108】
一実施形態では、標識結合剤は、例えば以下の構造のうちの1つを有するダイアボディである:
・VL1-VH1-VL1-VH1
・VH1-VL1-VH1-VL1
【0109】
上記説明による組み合わせ又は投与計画の実施形態によれば、標識結合剤は、CD117及びCAIXからなる群から選択される標的抗原に特異的に結合する。
【0110】
好ましくは、CD117/c-KITは、例えばUniProt識別子P10721下で開示されるように、ヒトCD117/c-KITである。癌原遺伝子c-KIT又はチロシン-プロテインキナーゼKIT又はCD117としても知られている肥満/幹細胞成長因子受容体(SCFR)は、ヒトにおいてKIT遺伝子によってコードされる受容体型チロシンキナーゼタンパク質である。様々なアイソフォームをコードする複数の転写物バリアントが、この遺伝子について見つかっている。KITは、1987年にドイツの生化学者Axel Ullrichによって、ネコ肉腫ウイルス癌遺伝子v-kitの細胞ホモログとして最初に記載された。
【0111】
CD117は、造血幹細胞及び他の細胞型の表面に発現されるサイトカイン受容体である。この受容体の改変形態は、いくつかのタイプの癌と関連し得る。CD117は、受容体型チロシンキナーゼIII型であり、これは、「造血幹細胞因子」又は「c-kitリガンド」としても知られている幹細胞因子(ある特定のタイプの細胞の成長を引き起こす物質)に結合する。この受容体が幹細胞因子(SCF)に結合すると、その内在性チロシンキナーゼの活性を活性化する二量体が形成され、次いで、細胞においてシグナルを伝えるシグナル伝達分子がリン酸化され、活性化される。活性化後、受容体は、リソソームに運搬し、最終的に破壊するために受容体をマークするようユビキチン化される。CD117を通してのシグナリングは、細胞生存、増殖、及び分化において役割を果たす。例えば、CD117シグナリングは、メラニン細胞生存に必要とされ、それはまた、造血及び配偶子形成にも関与する。
【0112】
受容体型チロシンキナーゼIIIファミリーの他のメンバーのように、CD117は、細胞外ドメイン、膜貫通ドメイン、膜近傍ドメイン、及び細胞内チロシンキナーゼドメインからなる。細胞外ドメインは、5つの免疫グロブリン様のドメインから構成され、タンパク質キナーゼドメインは、約80アミノ酸の親水性挿入配列によって中断される。リガンド幹細胞因子は、2及び3番目の免疫グロブリンドメインを介して結合する。
【0113】
分化抗原群(CD)分子は、抗体の特異的なセットによって認識されるように、細胞表面上のマーカーであり、細胞型、細胞の分化の段階及び活性を特定するために使用される。CD117は、骨髄におけるある特定のタイプの造血(血液)前駆細胞を特定するために使用される重要な細胞表面マーカーである。詳細には、造血幹細胞(HSC)、多能性前駆細胞(multipotent progenitor)(MPP)、及び骨髄系共通前駆細胞(CMP)は、高レベルのCD117を発現する。リンパ系共通前駆細胞(CLP)は、低表面レベルのCD117を発現する。CD117はまた、胸腺初期T細胞系統前駆細胞(thymus-early T lineage progenitor)(ETP/DN1)において最初期胸腺前駆細胞(earliest thymocyte progenitor)も特定し、DN2胸腺細胞は、高レベルのc-Kitを発現する。CD117はまた、マウス前立腺幹細胞のマーカーでもある。加えて、肥満細胞、皮膚におけるメラニン細胞、及び消化管におけるカハール介在細胞は、CD117を発現する。ヒトにおいて、CRTH2(CD294)の発現を欠いているヘルパー様の自然リンパ球(ILC)におけるc-kitの発現は、ILC3集団をマークするために使用される。
【0114】
ヒトにおいて、CD117/c-Kitは、とりわけ造血細胞において存在し、造血の初期において重大な役割を果たすが、AML芽球においても発現される。
【0115】
好ましくは、CAIX(炭酸脱水酵素IX、CA09とも呼ばれる)は、ヒトCAIXである(UniProt識別子:A0A087WYS4。炭酸脱水酵素IX(CAIX)は、種々の抗癌戦略に適した標的である。CAIXは、ヒト腫瘍において存在するが、対応する正常組織には存在しない細胞表面タンパク質である。CAIXの発現は、低酸素によって誘発され、多くの腫瘍のタイプにおいて癌予後と相関する。さらに、CAIXは、pH及び細胞接着を調節する能力を介して低酸素及びアシドーシスから癌細胞を保護する生存促進因子として、癌進行において機能的に関係している。
【0116】
癌に関連があるCAIXの分布は、その細胞外ドメインに結合する抗体によって癌細胞を標的にすることを可能にするのに対して、CAIXの機能的な関与は、CAIX酵素活性の阻害を介して生理的ストレスへのそれらの適応を遮断することによって癌細胞に打撃を与えるという可能性を開く。後者の戦略は、最近かなり注目されており、抗癌効果を有するCAIX-選択的阻害剤誘導体を産生するために多大な努力がなされている。
【0117】
免疫療法によるCAIX-発現細胞を標的にすることは、治験に到達しており、腎細胞癌患者の処置における適用に近づいている。それにもかかわらず、新しいCAIX特異的抗体の開発及びキャラクタリゼーションは、なお継続中である。
【0118】
上記説明による組み合わせ又は投与計画の一実施形態によれば、CD117に結合する標識結合剤は、
a)配列番号52及び59において記載される、抗CD117抗体79Dの重鎖/軽可変領域配列対中に含まれる一セットの重鎖/軽鎖相補性決定領域(CDR)を含み、
b)以下の配列を含む重鎖/軽鎖相補性決定領域(CDR)のセットを含み
・HC CDR1(配列番号53若しくは56)
・HC CDR2(配列番号54若しくは57)
・HC CDR3(配列番号55若しくは58)
・LC CDR1(配列番号60若しくは63)
・LC CDR2(配列番号61若しくは64)、及び
・LC CDR3(配列番号62若しくは65)
c)b)若しくはc)の重鎖/軽鎖相補性決定領域(CDR)を含み、但し、CDRの少なくとも1つは、それぞれの配列番号53~55、60~62、56~57、若しくは63~65と比較して3アミノ酸以下の置換を有することを条件とし、及び/又は
d)b)の重鎖/軽鎖相補性決定領域(CDR)を含み、但し、CDRの少なくとも1つは、それぞれの配列番号53~55、60~62、56~57、若しくは63~65に対して≧66%の配列同一性を有することを条件とし、
CDRは、CD117に結合することができるように、適したタンパク質フレームワーク中に埋め込まれる。
【0119】
抗CD117抗体79Dは、内容が参照によって本明細書に組み込まれるXにおいて開示される。
【0120】
項目b)に関して、CDRのカウントが、一方のカウント法と他方のカウント法で変動し得るため(例えば、Kabat、Chothia、又はMacCallum)、CDRの2つの異なるセットが開示される。
【0121】
上記説明による組み合わせ又は投与計画の一実施形態によれば、CD117に結合する標識結合剤は、
a)抗体79Dの可変ドメイン
b)重鎖/軽鎖可変ドメイン(VD)
・HC VD(配列番号52)及び
・LC VD(配列番号59)
c)b)の重鎖/軽鎖可変ドメイン(VD)、但し
・HCVDが、それぞれの配列番号52に対して≧80%の配列同一性を有する及び/又は
・LCDVDが、それぞれの配列番号59に対して≧80%の配列同一性を有する
ことを条件とする
d)b)の重鎖/軽鎖可変ドメイン(VD)、但しHCVD又はLCVDの少なくとも1つは、それぞれの配列番号と比較して10アミノ酸以下の置換を有することを条件とする
を含み、
前記標識結合剤は、CD117になお結合することができる。
【0122】
開示される様々な代替物に関して、同じ実施形態が、特に相同性の範囲及び保存的アミノ酸置換に関して、本明細書において他のところで開示される二重特異性抗体に関して適用される。
【0123】
開示される様々な代替物に関して、同じ実施形態が、特に相同性の範囲及び保存的アミノ酸置換に関して、本明細書において他のところで開示される二重特異性抗体に関して適用される。
【0124】
本発明の別の態様によれば、上記説明による組み合わせを含む医薬組成物が、提供され、医薬組成物は、任意選択で、1つ又は複数の薬学的に許容される賦形剤を含む。
【0125】
本発明の一態様によれば、上記説明による組み合わせ又は投与計画又は医薬組成物は、新生物疾患を発症
・していると診断されている、
・していることで苦しんでいる、若しくは
・するリスクがある
ヒト若しくは動物対象の処置における(医薬の製造における)使用のために又はこのような状態の予防のために提供される。
【0126】
括弧中の用語「医薬の製造における」による上記の記載は、いわゆるスイス形式の請求項の記載(括弧は削除されると考えられる)及び例えばEPC2000の下で許容される請求項の記載(括弧の間の内容は削除されると考えられる)の両方について開示を提供することを意味する。
【0127】
そのいくつかの実施形態において、二重特異性抗体(a)及び標識結合剤(b)は、
・b)の前にa)若しくはa)の前にb)で続けて又は
・同時に
投与される。
【0128】
好ましい実施形態において、このような新生物疾患は、固形腫瘍又は血液学的腫瘍である。本明細書に提供される実施例は、両方の適用分野に対して効果的な支援を提供した。
【0129】
本発明の一態様によれば、新生物疾患を処置する又は予防するための方法であって、上記説明による組み合わせ若しくは医薬組成物の有効量をそれを必要とする対象に投与すること又は前記患者に上記説明による投与計画を受けさせることを含む方法が提供される。
【0130】
そのいくつかの実施形態において、二重特異性抗体(a)及び標識結合剤(b)は、
・b)の前にa)若しくはa)の前にb)で続けて又は
・同時に
投与される。
【0131】
本発明の一態様によれば、以下を含む治療用パーツキットが、提供される:
a)上記説明による組み合わせ又は医薬組成物
b)組み合わせ又は組成物を投与するための装置、及び
c)任意選択で使用説明書。
【実施例】
【0132】
本発明が、図面及び前述の説明において図示され、詳細に記載されたが、このような図示及び説明は、例証又は例示であるとみなされ、限定的なものではなく、本発明は、開示される実施形態に限定されない。開示される実施形態に対する他の変形物は、図面、本開示、及び添付の請求の範囲の考察により、請求項に係る発明の実施において当業者らによって理解され、成し遂げられ得る。請求項において、「含む」という語は、他の要素又はステップを除外せず、不定冠詞「1つの(a)」又は「1つの(an)」は、複数を除外しない。ある特定の手段が、互いに異なる従属請求項において挙げられるといった単なる事実は、これらの手段の組み合わせを有効に使用することができないことを示すものではない。請求項におけるいかなる参照符号も、範囲を限定するものとして解釈されるべきではない。
【0133】
本明細書において開示されるすべてのアミノ酸配列は、N末端からC末端に示され、本明細書において開示されるすべての核酸配列は、5’→3’で示される。
【0134】
材料及び方法
細胞株
NALM-6(ACC128、DSMZ)及びMOLM-14(ACC777、DSMZ)細胞は、20%FBS及び1%ペニシリン/ストレプトマイシンを補足したRPMI-1640中で培養した。細胞株を、増やし、液体窒素中で凍結保存アリコートとして保存した。細胞を、供給業者のプロトコールに従って成長させ、最長2週間培養状態を保った。細胞株の認証には、凍結後の生存度のチェック、成長特性、形態、マイコプラズマ汚染についての試験、アイソザイムアッセイ、及び無菌試験がさらに含まれ、発送前に細胞バンクによって実行された。MOLM-14細胞は、表面にCD117を均一に発現するように、レンチウイルスで(lentivirally)形質導入し、その後、選別した(Myburgh et al.2020)。
【0135】
T細胞の単離及び精製
健康なドナーのバフィーコートを、Zurich blood donation service(Blutspende Zuerich、Zuerich、Switzerland)から入手した。末梢血単核細胞(PBMC)を、メーカーの指示に従ってFicoll Paque Plus(GE Healthcare)での密度勾配遠心分離によって単離した。T細胞を、次に、EasySep(商標)ビーズ(Human T cell isolation kit、STEMCELL Technologies)によりネガティブ単離した。精製したT細胞サンプルは、10%DMSOを補足した90%FCS中に再懸濁し、-80℃で、その後、液体窒素中で凍結保存した。
【0136】
UniTE(4m5.3/BlinCD3)、UniTE(E2/BlinCD3)、及びUniTE(FluA/BlinCD3)のクローニング
Blin CD3と呼ばれる抗ヒトCD3抗体OKT3のヒト化バージョンの配列(配列番号1~14)並びに抗フルオレセインマウス4m5.3(配列番号36~34)若しくはヒトE2抗体(27.35)(Boder et al.(2000)及びVaughan et al.(1996)において開示される)又はanticalin(商標)FluA(Vopel et al.(2005)において開示される(配列番号47)の配列を、UniTE 4m5.3/BlinCD3、FluA/BlinCD3、及びE2/BlinCD3を得るために以下のフォーマットでPCRによって遺伝的に組み立て(下の列は配列番号を示す)。
【0137】
【0138】
そして、哺乳動物発現ベクターpcDNA3.1(+)(Invitrogen)にクローニングした。
【0139】
アダプターとして使用されることになる抗体のクローニング
2つの異なる標識結合剤(「アダプター」)を作製したが、両方とも抗体とする。一方のアダプターは、CD117に結合し、CD117は、本明細書において他のところで述べられるように、血液細胞及び造血細胞上に発現される標的である。CD117は、それゆえ、血液癌の典型である。
【0140】
他方のアダプターは、CAIX(炭酸脱水酵素IX、CA09とも呼ばれる)に結合し、CAIXは、本明細書において他のところで述べられるように、対応する正常組織において存在しないが、ヒト腫瘍において存在する細胞表面タンパク質である。CAIXは、それゆえ、固形腫瘍の典型である。
【0141】
抗CD117抗体は、Reshetnyak et al.(2013)において記載されており、クローン名抗体79Dを持つ。抗CD117抗体は、重鎖/軽鎖可変ドメインHC VD(配列番号52)及びLC VD(配列番号59)を含む。
【0142】
抗CAIX抗体は、Cazzamalli et al(2018)において記載されており、クローン名抗体XE114を持つ。抗CAIX抗体は、重鎖/軽鎖可変ドメインHC VD(配列番号68)及びLC VD(配列番号72)を含む。
【0143】
抗CD117抗体
抗CD117抗体の軽及び重鎖の可変領域の配列を、C末端ポリヒスチジンタグと共にダイアボディ(Db)フォーマット(VL-リンカー5aa-VH)でpcDNA3.1(+)にクローニングした。追加のC末端システインは、部位選択的抱合のために追加した。
【0144】
抗CAIX抗体
抗CAIX抗体は、内容が参照によって本明細書に組み込まれるCazzamalli et al(2018)において記載されるように、IgGとしてクローニングし、調製した。
【0145】
抗体の発現
抗体は、標準的なプロトコールに従って、CHO-S細胞(Invitrogen)においてポリエチレンイミンを使用し、一過性の遺伝子発現によって産生した8。タンパク質は、Ni-NTAアガロース樹脂(ThermoFisher)によって精製し、SDS-PAGE及びサイズ排除クロマトグラフィー(Superdex 200 Increase、10/300、GE Healthcare)を使用して分析した。
【0146】
抗CD117及び抗CAIXのフルオレセインへの抱合
PBS中の抗体溶液(1mg/ml)を、PBS中50eq.のDTT(1,4-ジチオ-DL-トレイトール)により還元した。還元後、タンパク質溶液を、Vivaspin遠心カラム(Sartorius)を使用してPBSにより3回洗浄し、DTTを希釈した。フルオレセイン-5-マレイミド(Thermo Scientific)は、還元タンパク質に追加した場合に10%(v/v)の最終濃度を得るために、無水DMSO中に溶解した。抗体を、システイン当たり50eq.のフルオレセインにより処置し、軽鎖内に単一の修飾を有する均一な抱合体が、1時間後にLCーMSによって観察された。抱合タンパク質を、PD-10脱塩カラム(GE Healthcare)によって精製し、酢酸緩衝液、pH5中に溶出した。アリコートを、液体窒素中で瞬間凍結させ、さらなる使用まで-80℃で保存した。
【0147】
CD19+腫瘍細胞のインビトロにおけるUniTE媒介性のT細胞による死滅
健康なドナーのT細胞を、アッセイの1日前に解凍し、1×Glutamax(Gibco)、10%FBS、及び1%ペニシリン/ストレプトマイシンを補足した改良型のRPMI(T細胞培地)において一晩培養した。T細胞及びCD19+B急性リンパ芽球性白血病(B-ALL)NALM-6細胞を、10nMの市販で入手可能なFITC-抗ヒトCD19マウスIgG1(Biolegend;クローンHIB19)の存在下において10:1の比(E:T=10:1)でコインキューベートした。UniTE(4m5.3/BlinCD3)及びUniTE(FluA/BlinCD3)を、臨床的に承認された(抗CD19/BlinCD3)二重特異性T細胞結合体(BiTE(商標))ブリナツモマブ(Blycinto(商標))と同じ濃度(100nM及び10nM)で比較した。標的細胞の特異的な溶解は、LSR II Fortessa細胞分析装置(BD Biosciences)を使用して、フローサイトメトリーによって分析し、以下の式を使用して定量化した:(1-生標的細胞の数/抗体なしでの生標的細胞の数)*100。
【0148】
CD117+腫瘍細胞のインビトロにおけるUniTE媒介性のT細胞による死滅
T細胞を、アッセイの1日前に解凍し、T細胞培地において一晩培養した。T細胞及び急性骨髄性白血病(AML)MOLM-14細胞(表面にCD117を発現するように形質導入した)を、フルオレセインを部位特異的に抱合した10nMの抗CD117ダイアボディの存在下において、T細胞培地(E:T=1:1)において共培養した。UniTE(4m5.3/BlinCD3)による死滅を、抗CD117/BlinCD3二重特異性T細胞結合体と等モル濃度(100nM及び1nM)で及び直接的な抗CD117 CAR-T細胞と比較したが1、これらは両方とも、架橋Dbの同じクローン由来のscFvを持つ。標的細胞の特異的な溶解は、前に記載したように分析した。
【0149】
CAIX+腫瘍細胞のインビトロにおけるUniTEA媒介性のT細胞による死滅
T細胞を、アッセイの1日前に解凍し、T細胞培地において一晩培養した。CAIX+腎細胞癌SK-RC-52細胞を、アッセイの1日前に回収し、メーカーの指示に従ってPKH26 Red Fluorescent Cell Linker Kit for General Membrane(Sigma-Aldrich)を使用して膜を染色した。染色したSK-RC-52細胞を、96ウェルプレート中に播種し、一晩インキューベートした。翌日、SK-RC-52細胞及びT細胞を、10nMの部位特異的にフルオレセイン化した抗CAIX IgG並びに様々な濃度の4m5.3/BlinCD3、FluA/BlinCD3、及びE2/BlinCD3 UniTEAs(1、10、及び100nM)の存在下において、T細胞培地において共培養した(E:T=10:1)。24時間後、標的細胞の特異的な溶解を、前に記載したように分析した。T細胞及び腫瘍細胞だけを共培養した後の又は10nMアダプター分子のみを追加することによるバックグラウンドの死滅もまた分析した。
【0150】
抗体上のフルオレセイン分子のインビボにおける安定性
8週齢のC57BL/6Jマウスに、50ugの抗マウスCD19-FITC抗体(Biolegend;クローン1D3)をi.v.注射した。マウスB細胞を、注射の4時間、1日、4日、及び8日後に末梢血からフローサイトメトリーによって分析した。末梢血を、RBC溶解試薬(Biolegend)により10分間溶解し、PBS(Invitrogen)により1×洗浄した。各サンプルを2つに分け、抗マウスCD20(Biolegend;クローンSA271G2)のみにより又は抗マウスCD20(Biolegend;クローンSA271G2)及び抗マウスCD19-FITC(Biolegend;クローン1D3)により染色した。サンプルを、FACSバッファー(2%FBS及び2mM EDTAを有するPBS)において染色し、インキュベーション後、FACS分析の前に2回洗浄した。
【0151】
統計的分析
データは、特に断りのない限り、平均±標準偏差(SD)として報告する。統計的分析は、GraphPad Prism 8.0ソフトウェアで実行した。FlowJoソフトウェア(v10.0.7、FlowJo)は、データ分析及び発表のために使用した。
【0152】
結果
種々のUniTEAフォーマットの産生
フルオレセインタグ付き標的結合分子を介して可能性としてあらゆる標的細胞のT細胞媒介性の死滅を再指示し、活性化し、誘発することを目標にして[
図1A]、発明者らは、すべてヒトCD3ε及びフルオレセインに結合するUniTEの3つのバージョンを生成した[
図1B]。3つのバージョンは、以下のとおりに命名する;4m5.3/BlinCD3、E2/BlinCD3、及びFluA/BlinCD3。各UniTEAバージョンは、フルオレセイン結合成分が異なる。4m5.3及びE2は、それぞれ、マウス及びヒト起源のフルオレセインに対するscFvフォーマットをした抗体断片である。FluAは、オオモンシロチョウ(Pieris brassicae)に由来するリポカリンフルオレセイン結合分子である。
【0153】
UniTEは、インビトロにおいてCD19及びCD117発現白血病細胞株を除去するようにT細胞を再指示する。2つのUniTE-4m5.3/BlinCD3及びFluA/BlinCD3-は、CD19
+及びCD117
+ヒト細胞株に対するT細胞による死滅を再指示するそれらの可能性を決定することによって、インビトロにおいて機能的に試験した[
図2]。CD19
+NALM6細胞株を、臨床グレードのBiTE(商標)ブリナツモマブ(抗CD19/BlinCD3)と比べた、4m5.3/BlinCD3及びFluA/BlinCD3 UniTEAフォーマットによって誘起されるT細胞媒介性の死滅を比較するために使用した[
図2A]。発明者らは、UniTEA又はブリッジ分子だけとコインキューベートした標的細胞及びT細胞が、標的細胞の最小限の(約5%)バックグラウンドの溶解しか導かなかったので、T細胞の活性化及び死滅が、UniTEA及びアダプター分子の両方の存在下においてのみ誘起されることを確認した[
図2B]。10:1と同じくらいのエフェクター対標的比を使用すると、あらゆるT細胞活性剤の非存在下において標的細胞に対するT細胞のいくらかの自然発生的な活性が見られることが予想される。24時間後、ブリナツモマブは、50%を超える77%以下のT細胞媒介性の標的細胞溶解をもたらした[
図2C]。4m5.3/BlinCD3又はFluA/BlinCD3 UniTEAの追加は、10nMの市販で入手可能な抗CD19 IgG-FITC(Biolegend;クローンHIB1)を架橋分子として使用した場合に、等モル濃度のブリナツモマブと同様の細胞溶解を達成することができた[
図2C]。CD117
+MOLM14細胞株は、CD117に対して向けられる従来のCAR-T細胞及びBiTE(商標)と比べた、4m5.3/BlinCD3及びFluA/BlinCD3 UniTEAフォーマットによって誘起されるT細胞媒介性の死滅を比較するために使用した[
図2D]。CD117標的CAR T細胞及びBiTE(商標)は、24時間後に、>95%の標的細胞溶解を達成することができた[
図2E]。同様の標的細胞溶解は、100nMの4m5.3/BlinCD3 UniTEAを10nMフルオレセイン標識抗CD117 Dbと組み合わせて追加した場合に、同じ時点で発生した。1nMの4m5.3/BlinCD3 UniTEAの追加は、48時間後に、>95%の標的細胞溶解をもたらした[
図2E]。
【0154】
フルオレセイン化抗体のインビボにおける持続性
経時的なフルオレセインの血液中の安定性は、効率的なUniTE-フルオレセイン化ブリッジ複合体形成及びT細胞再指示に必要である。ブリッジ分子上の構造的に損われていないフルオレセインの有効性を判断するために、発明者らは、50ugの市販で入手可能な抗マウスCD19(mCD19)IgG-FITCを投与し、8日間にわたる様々な時点で末梢血を分析した[
図3A]。分析した各時点で、同じマウスに属しているmCD19
+細胞は、追加のmCD19-FITCあり又はなしで染色した場合の平均蛍光強度(MFI)において違いを示さなかった[
図3B]。しかしながら、mCD19
+集団のMFIは、24時間後に減少したが、それから8日目まで安定したままであった[
図3B]。追加のCD19-FITC標識あり及びなしで染色したmCD19
+/mCD20
+B細胞の割合において違いはなかった(4時間後のベースラインの数と比べたmCD19
+/mCD20
+細胞のパーセンテージとして表現される)[
図3C]。フローサイトメトリーのための追加のCD19-FITC標識がCD19
+細胞の割合又はMFIを増加させなかったので、すべての利用可能なCD19エピトープは、0日目に注射したCD19-FITC抗体によってなおふさがれており、FITCは、5日間にわたってインビボにおいて安定したままである。8日目のみ、追加のmCD19-FITC標識は、CD19
+集団のMFIの増加をもたらし、注射したmCD19-FITC抗体のいくらかが8日目に体から排出されたことを示した。追加のmCD19-FITC標識あり及びなしの示す時点での末梢血mCD19
+/mCD20
+B細胞集団を示す代表的なFACSプロットを、
図3Dにおいて報告する。これらの集団は、生きている単一細胞であらかじめゲートした。
【0155】
参考文献
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【0156】
配列
以下の配列は、本出願の開示の一部をなす。WIPO ST25に適合する電子配列表も、本出願と共に提出する。誤解を避けるために、以下の表における配列と電子配列表との間に不一致が存在する場合、この表における配列が、正確であると考えられるものとする。
【0157】
【配列表】
【国際調査報告】