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特表2024-504388抗4-1BB/抗HER2二重特異性抗体の精製方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-01-31
(54)【発明の名称】抗4-1BB/抗HER2二重特異性抗体の精製方法
(51)【国際特許分類】
   C07K 1/22 20060101AFI20240124BHJP
   C07K 16/46 20060101ALN20240124BHJP
   C12P 21/08 20060101ALN20240124BHJP
【FI】
C07K1/22 ZNA
C07K16/46
C12P21/08
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023544437
(86)(22)【出願日】2022-01-21
(85)【翻訳文提出日】2023-09-15
(86)【国際出願番号】 KR2022001083
(87)【国際公開番号】W WO2022158889
(87)【国際公開日】2022-07-28
(31)【優先権主張番号】10-2021-0010077
(32)【優先日】2021-01-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TWEEN
(71)【出願人】
【識別番号】500309919
【氏名又は名称】ユーハン・コーポレイション
【氏名又は名称原語表記】YUHAN Corporation
(74)【代理人】
【識別番号】100077012
【弁理士】
【氏名又は名称】岩谷 龍
(72)【発明者】
【氏名】パク,ジュヨン
(72)【発明者】
【氏名】チェ,ソンヒョン
(72)【発明者】
【氏名】チェ,ユンヒ
(72)【発明者】
【氏名】キム,ウォンテ
【テーマコード(参考)】
4B064
4H045
【Fターム(参考)】
4B064AG27
4B064CA10
4B064CA19
4B064CE12
4H045AA11
4H045AA20
4H045BA41
4H045DA76
4H045FA72
4H045FA74
4H045GA26
(57)【要約】
本発明は、特定の無機塩を含む酢酸ナトリウム緩衝液を溶出緩衝液として用いてアフィニティークロマトグラフィーを行う工程を含む、抗4-1BB/抗HER2二重特異性抗体の精製方法を提供する。本発明の精製方法は、インタクト型の抗体の溶出を増加させることによって、インタクト型の抗4-1BB/抗HER2二重特異性抗体を、高純度かつ高収率で提供することができる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
抗4-1BB/抗HER2二重特異性抗体の精製方法であって、
(a)抗4-1BB/抗HER2二重特異性抗体を産生する細胞株の培養上清を濾過して粗抗体を含有する濾液を得る工程;
(b)前記濾液をプロテインAアフィニティークロマトグラフィーカラムにロードする工程;および
(c)CaClを含有する酢酸ナトリウム緩衝液を用いて工程(b)のカラムから抗体を溶出する工程を含み、
前記抗4-1BB/抗HER2二重特異性抗体の重鎖が、
(i)配列番号9のアミノ酸配列からなる抗HER2抗体の重鎖と、
(ii)配列番号1のアミノ酸配列、配列番号2のアミノ酸配列および配列番号3のアミノ酸配列を含む抗4-1BB抗体の軽鎖可変領域と;配列番号5のアミノ酸配列、配列番号6のアミノ酸配列および配列番号7のアミノ酸配列を含む抗4-1BB抗体の重鎖可変領域とを含む抗4-1BB抗体のscFv
とを含み、
前記抗4-1BB/抗HER2二重特異性抗体の軽鎖が、配列番号11のアミノ酸配列からなる抗HER2抗体の軽鎖を含む、方法。
【請求項2】
前記抗4-1BB抗体の軽鎖可変領域が、配列番号4のアミノ酸配列からなる、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記抗4-1BB抗体の重鎖可変領域が、配列番号8のアミノ酸配列からなる、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記抗4-1BB抗体のscFvが、配列番号13のアミノ酸配列からなるリンカーをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記抗4-1BB/抗HER2二重特異性抗体の重鎖が、(iii)配列番号12のアミノ酸配列からなるリンカーをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記抗4-1BB/抗HER2二重特異性抗体の重鎖が、配列番号10のアミノ酸配列からなる、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記酢酸ナトリウム緩衝液中のCaClの濃度が、30~500mMである、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記酢酸ナトリウム緩衝液中のCaClの濃度が、75~125mMである、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記酢酸ナトリウム緩衝液中の酢酸ナトリウムの濃度が、20~100mMである、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記酢酸ナトリウム緩衝液のpHが、pH3.5~pH4.0である、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記酢酸ナトリウム緩衝液中のCaClの濃度が、75~125mMであり、前記酢酸ナトリウム緩衝液中の酢酸ナトリウムの濃度が、20~100mMである、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記酢酸ナトリウム緩衝液のpHが、pH3.5~pH4.0である、請求項11に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗4-1BB/抗HER2二重特異性抗体の精製方法に関する。より具体的には、本発明は、特定の無機塩を含む酢酸ナトリウム緩衝液を溶出緩衝液として用いてアフィニティークロマトグラフィーを行う工程を含む、抗4-1BB/抗HER2二重特異性抗体の精製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
4-1BBタンパク質は、TNF受容体スーパーファミリー(TNFRSF)のメンバーであり、自然免疫細胞と獲得免疫細胞の両方の免疫細胞の活性化後に発現される共刺激分子である。4-1BBは、様々な免疫細胞の活性の調節に重要な役割を果たしている。4-1BBアゴニストは、免疫細胞の増殖と生存、サイトカインの分泌、およびCD8 T細胞の細胞溶解活性を増強する。したがって、4-1BBは、がん免疫学の標的分子として有望である可能性がある。抗4-1BB抗体は、抗腫瘍効果を有するものの、臨床応用において重度の肝毒性を引き起こすことが認められた。
【0003】
HER2は、細胞表面に存在する受容体チロシンキナーゼ(RTK)であり、がん細胞の増殖と浸潤、血管新生などを誘導する。
【0004】
2種以上の抗原を標的とする多重特異性抗体は、モノクローナル抗体に比べて、優れた治療効果を有する新薬として期待されている。がん細胞上に存在する抗原と免疫細胞上に存在する抗原の2種の抗原を認識できる多重特異性抗体は、より強力ながん特異的免疫応答を誘導することができる。本出願人は、4-1BBとHER2の両方に特異的に結合する様々な抗体、すなわち、抗4-1BB/抗HER2二重特異性抗体を開発した(国際特許出願第PCT/KR2020/009871号)。これらの抗4-1BB/抗HER2二重特異性抗体は、HER2発現細胞の存在下でのみ4-1BBシグナル伝達を活性化し、強力な免疫細胞を増強する。したがって、これらの抗4-1BB/抗HER2二重特異性抗体は、HER2を介して特異的な免疫応答を誘導することから、これらの抗4-1BB/抗HER2二重特異性抗体を使用することにより、4-1BBモノクローナル抗体と比較して、肝毒性をはるかに低くく抑えられることが期待される。国際特許出願第PCT/KR2020/009871号は、参照により本明細書に組み込まれる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明者らは、国際特許出願第PCT/KR2020/009871号の開示に従って、抗4-1BB/抗HER2二重特異性抗体を産生する細胞を培養し、この抗4-1BB/抗HER2二重特異性抗体産生細胞から抗4-1BB/抗HER2二重特異性抗体を単離しようとする際に、得られる抗体の大部分が凝集体の形態で存在するという問題に気付いた。本発明者らは、インタクト型の抗4-1BB/抗HER2二重特異性抗体の純度を高めることができる精製方法を開発するために、種々の研究を行った。その結果、特定の無機塩を含む酢酸ナトリウム緩衝液を溶出緩衝液として用いてアフィニティークロマトグラフィーを行うことによって、インタクト型の抗4-1BB/抗HER2二重特異性抗体を、高純度かつ高収率に得ることができることを見出した。
【0006】
したがって、本発明の目的は、特定の無機塩を含む酢酸ナトリウム緩衝液を溶出緩衝液として用いてアフィニティークロマトグラフィーを行う工程を含む、抗4-1BB/抗HER2二重特異性抗体の精製方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様によれば、抗4-1BB/抗HER2二重特異性抗体の精製方法であって、(a)抗4-1BB/抗HER2二重特異性抗体を産生する細胞株の培養上清を濾過して粗抗体を含有する濾液を得る工程;(b)前記濾液をプロテインAアフィニティークロマトグラフィーカラムにロードする工程;および(c)CaClを含有する酢酸ナトリウム緩衝液を用いて工程(b)のカラムから抗体を溶出する工程を含む、方法が提供される。
【0008】
本発明の精製方法において、前記抗4-1BB/抗HER2二重特異性抗体の重鎖は、(i)配列番号9のアミノ酸配列からなる抗HER2抗体の重鎖と、(ii)配列番号1のアミノ酸配列、配列番号2のアミノ酸配列および配列番号3のアミノ酸配列を含む抗4-1BB抗体の軽鎖可変領域と;配列番号5のアミノ酸配列、配列番号6のアミノ酸配列および配列番号7のアミノ酸配列を含む抗4-1BB抗体の重鎖可変領域とを含む抗4-1BB抗体のscFvとを含み、前記抗4-1BB/抗HER2二重特異性抗体の軽鎖は、配列番号11のアミノ酸配列からなる抗HER2抗体の軽鎖を含む。
【0009】
一実施形態において、前記抗4-1BB抗体の軽鎖可変領域は、配列番号4のアミノ酸配列からなっていてもよく;前記抗4-1BB抗体の重鎖可変領域は、配列番号8のアミノ酸配列からなっていてもよい。別の一実施形態において、前記抗4-1BB抗体のscFvは、配列番号13のアミノ酸配列からなるリンカーをさらに含んでいてもよい。さらに別の一実施形態において、前記抗4-1BB/抗HER2二重特異性抗体の重鎖は、(iii)配列番号12のアミノ酸配列からなるリンカーをさらに含んでいてもよい。さらに別の一実施形態において、前記抗4-1BB/抗HER2二重特異性抗体の重鎖は、配列番号10のアミノ酸配列からなっていてもよい。
【0010】
本発明の精製方法において、前記酢酸ナトリウム緩衝液中のCaClの濃度は、30~500mMであってもよく、好ましくは75~125mMであってもよい。また、前記酢酸ナトリウム緩衝液中の酢酸ナトリウムの濃度は、20~100mMであってもよい。さらに、前記酢酸ナトリウム緩衝液のpHは、pH3.5~pH4.0であってもよい。
【発明の効果】
【0011】
本発明に従って、特定の無機塩、すなわちCaClを含む酢酸ナトリウム緩衝液を溶出緩衝液として用いてアフィニティークロマトグラフィーを行うことによって、インタクト型の抗体の溶出を顕著に増加させることができ、これによって、インタクト型の抗4-1BB/抗HER2二重特異性抗体を、高純度かつ高収率で提供することができる。したがって、本発明の精製方法は、抗4-1BB/抗HER2二重特異性抗体を高純度かつ高収率で提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明は、抗4-1BB/抗HER2二重特異性抗体の精製方法であって、(a)抗4-1BB/抗HER2二重特異性抗体を産生する細胞株の培養上清を濾過して粗抗体を含有する濾液を得る工程;(b)前記濾液をプロテインAアフィニティークロマトグラフィーカラムにロードする工程;および(c)CaClを含有する酢酸ナトリウム緩衝液を用いて工程(b)のカラムから抗体を溶出する工程を含む、方法を提供する。
【0013】
本発明の精製方法において、前記抗4-1BB/抗HER2二重特異性抗体は重鎖と軽鎖からなり、国際特許出願第PCT/KR2020/009871号の開示に従って製造することができる。具体的には、本発明の精製方法において、前記抗4-1BB/抗HER2二重特異性抗体の重鎖は、(i)配列番号9のアミノ酸配列からなる抗HER2抗体の重鎖と、(ii)配列番号1のアミノ酸配列、配列番号2のアミノ酸配列および配列番号3のアミノ酸配列を含む抗4-1BB抗体の軽鎖可変領域と;配列番号5のアミノ酸配列、配列番号6のアミノ酸配列および配列番号7のアミノ酸配列を含む抗4-1BB抗体の重鎖可変領域とを含む抗4-1BB抗体のscFv(一本鎖Fv)とを含み、前記抗4-1BB/抗HER2二重特異性抗体の軽鎖は、配列番号11のアミノ酸配列からなる抗HER2抗体の軽鎖を含む。
【0014】
一実施形態において、前記抗4-1BB抗体の軽鎖可変領域は、配列番号4のアミノ酸配列からなっていてもよく;前記抗4-1BB抗体の重鎖可変領域は、配列番号8のアミノ酸配列からなっていてもよい。別の一実施形態において、前記抗4-1BB抗体のscFvは、配列番号13のアミノ酸配列からなるリンカーをさらに含んでいてもよい。例えば、前記抗4-1BB抗体のscFvは、配列番号4のアミノ酸配列、配列番号13のアミノ酸配列および配列番号8のアミノ酸が順に(すなわち、N’→C’に)連結されているポリペプチドであってもよい。
【0015】
一実施形態において、前記抗4-1BB/抗HER2二重特異性抗体の重鎖は、(iii)配列番号12のアミノ酸配列からなるリンカーをさらに含んでいてもよい。例えば、抗4-1BB/抗HER2二重特異性抗体の重鎖は、配列番号9のアミノ酸配列、配列番号12のアミノ酸配列、配列番号4のアミノ酸配列、配列番号13のアミノ酸配列および配列番号8のアミノ酸が順に(すなわち、N’→C’に)連結されているポリペプチド、すなわち、配列番号10のアミノ酸配列からなるポリペプチドであってもよい。
【0016】
本発明の精製方法は、抗4-1BB/抗HER2二重特異性抗体を産生する細胞株の培養上清を濾過して粗抗体を含有する濾液を得る工程[工程(a)]を含む。抗4-1BB/抗HER2二重特異性抗体を産生する細胞株は、抗4-1BB/抗HER2二重特異性抗体の重鎖をコードするポリヌクレオチドと、抗4-1BB/抗HER2二重特異性抗体の軽鎖をコードするポリヌクレオチドとがそれぞれ組み込まれたプラスミドでトランスフェクションされた細胞(例えば、CHO細胞)であってもよい。このトランスフェクションされた細胞は、国際特許出願第PCT/KR2020/009871号の開示に従って得ることができる。このトランスフェクションされた細胞は、生物工学分野で通常用いられる培地を用いて常法に従って培養してもよい。培養上清は、例えば、抗4-1BB/抗HER2二重特異性抗体を産生する細胞株の培養物を遠心分離することにより得ることができる。濾過は、通常の無菌濾過、例えば、0.2μmのメンブレンフィルターを用いた無菌濾過により行ってもよい。上記のようにして得られる粗抗体含有濾液には、抗体凝集体が約40~45%含まれている。
【0017】
本発明の精製方法は、工程(a)で得られた濾液をプロテインAアフィニティークロマトグラフィーカラムにロードする工程[工程(b)]を含む。プロテインAアフィニティークロマトグラフィーは、様々なアガロース系樹脂の使用を含む。樹脂としては、公知のアガロース系樹脂、例えば、MabSelect SuReTM LX(Cytiva社)、MabSelectTM PrismA(Cytiva社)、PraestoTM jetted A50(Purolite Life Sciences社)等、好ましくはMabSelectTM PrismA(Cytiva社)のアフィニティークロマトグラフィー樹脂を用いてもよい。例えば、MabSelectTM PrismA(Cytiva社)樹脂を充填したプロテインAアフィニティークロマトグラフィーカラムへの、工程(a)で得られた濾液のロードは、常法に従って行ってもよい。例えば、濾液は、樹脂1ml当たり20~40mgの割合でロードしてもよいが、これに限定されない。
【0018】
本発明の精製方法は、CaClを含有する酢酸ナトリウム緩衝液を溶出緩衝液として用いて、工程(b)のカラムから抗体(すなわち、抗4-1BB/抗HER2二重特異性抗体)を溶出する工程[工程(c)]を含む。前記酢酸ナトリウム緩衝液中のCaClの濃度は、好ましくは30~500mMであってもよく、より好ましくは50~500mMであってもよく、さらに好ましくは75~125mMであってもよく、特に好ましくは約100mMであってもよい。前記酢酸ナトリウム緩衝液中の酢酸ナトリウムの濃度は、好ましくは20~100mMであってもよい。本発明の一実施形態において、前記酢酸ナトリウム緩衝液中のCaClの濃度は、75~125mMであってもよく、前記酢酸ナトリウム緩衝液中の酢酸ナトリウムの濃度は、20~100mMであってもよい。
【0019】
前記酢酸ナトリウム緩衝液のpHは、好ましくはpH3.5~pH4.0であってもよく、より好ましくは約pH3.7であってもよい。本発明の一実施形態において、前記酢酸ナトリウム緩衝液中のCaClの濃度は、75~125mMであってもよく、前記酢酸ナトリウム緩衝液中の酢酸ナトリウムの濃度は、20~100mMであってもよく、前記酢酸ナトリウム緩衝液のpHは、pH3.5~pH4.0であってもよい。
【0020】
本発明による精製方法の一実施形態において、前記酢酸ナトリウム緩衝液は、約100mMのCaClを含有し、約pH3.7のpHを有する100mM酢酸ナトリウム緩衝液であってもよい。
【0021】
本発明による精製方法の別の一実施形態では、前記酢酸ナトリウム緩衝液は、約100mMのCaClを含有し、約pH3.7のpHを有する20mM酢酸ナトリウム緩衝液であってもよい。
【0022】
本発明の精製方法により得られる抗4-1BB/抗HER2二重特異性抗体は、通常の方法によるウイルス不活化処理および中和処理を行うことによって、工程(c)の溶出液から抗体含有溶液の形態で単離してもよい。ウイルス不活化処理は、例えば、pHを3.4~3.6に調整することによって行ってもよく、中和は、例えば、1Mトロメタミン溶液を使用することによって行ってもよいが、これらに限定されない。必要に応じて、工程(c)の工程を行った後、陽イオン交換クロマトグラフィー、陰イオン交換クロマトグラフィー、混合モードクロマトグラフィーおよび疎水性相互作用クロマトグラフィーからなる群から選択される1つ以上のクロマトグラフィーをさらに実施してもよい。
【0023】
以下、製造例および実施例を参照することにより本発明をさらに詳細に説明する。しかし、これらの製造例および実施例は、本発明を説明するためのものであり、本発明の範囲を限定するものではない。
【実施例
【0024】
製造例:抗4-1BB/抗HER2二重特異性抗体の製造
国際特許出願第PCT/KR2020/009871号に開示された方法に従って、抗4-1BB/抗HER2二重特異性抗体を以下のように製造した。
(1)抗4-1BB scFv抗体
イムノチューブを用いた4-1BBに対するファージライブラリーパニングによって、スクリーニングを実施した。標的分子に対するファージライブラリー(KBio Health and CUREBIOから入手)のパニングでは、ヒト4-1BB(NCBI Accession No. NP_001552.2)でコーティングされたイムノチューブを使用して、合計4回のパニングを実施した。
【0025】
3回のパニングによって得られた細菌コロニーを、96ディープウェルプレートに入れたSB-カルベニシリン(Biomatik、カタログNo.A2311、5g)中で、混濁するまで増殖させた後、1011pfuのVCSM13ヘルパーファージ(K-Bio Health)を各ウェルに添加した。穏やかに振盪(80rpm)しながら37℃で1時間かけて感染させた後、70μg/mLのカナマイシンを添加し、細胞を200rpmで振盪しながら30℃で一晩培養した。
【0026】
翌日、プレートを遠心分離し、ファージを含む上清を、3%(v/v)BSA(ウシ血清アルブミン)のPBST(Tween20を含むリン酸緩衝生理食塩水)溶液でブロックした4-1BB抗原コーティングELISAプレートに添加した。室温で1時間インキュベートした後、プレートをPBSTで3回洗浄し、抗M13抗体(Sino Biological、カタログNo.11973-MM05)を添加した。プレートを1時間インキュベートし、PBSTで3回洗浄し、テトラメチルベンジジン(TMB)を使用して結合活性を測定した。
【0027】
プラスミドのDNA配列決定のため、4-1BB特異的バインダーを増幅させた。軽鎖可変領域および重鎖可変領域(VLおよびVH)の配列を分析して、固有の配列を同定し、配列多様性を調べた。アゴニスト活性の比較には、BMUR(BMS社製Urelumab、米国特許第7,288,638号)という名称で示される抗4-1BB抗体を使用した。その結果として得られた4-1BBに対する全長ヒトモノクローナル抗体の配列を以下に示す。
【0028】
【表1】
【0029】
配列番号13の(GGGGS)をリンカーとして用いて、下記表2に示す(N’)-VL-リンカー-VH-(C’)の構造を有する抗4-1BB scFv抗体を作製した。ジスルフィド架橋を形成することによってscFvを安定化させるため、軽鎖可変領域の103位のアミノ酸残基「G」を「C」に置換し(配列番号4)、重鎖可変領域の44位のアミノ酸残基「G」を「C」に置換した(配列番号8)。具体的には、配列番号4の軽鎖可変領域をコードするDNAと、配列番号13のリンカーをコードするDNAと、配列番号8の重鎖可変領域をコードするDNAとが連結されたポリヌクレオチドをpcDNA 3.4(Invitrogen、A14697)に挿入した。得られたベクターを、ExpiFectamineTM CHO Kit(Gibco、A29133)を用いて37℃でExpiCHO細胞(Gibco、A29127)にトランスフェクションし、8日間培養した。培養上清を0.2μmフィルターでろ過し、(N’)-VL-リンカー-VH-(C’)の構造を有する抗4-1BB scFv抗体を得た。
【0030】
【表2】
【0031】
(2)抗HER2抗体
抗4-1BB/抗HER2二重特異性抗体のHER2標的部分として、トラスツズマブ(Genentech;以下、「HER2(WT)」と呼ぶ;DrugBank Accession No. DB00072;ヒトIgG1κモノクローナル抗体)の重鎖および軽鎖を使用した。HER2(WT)の重鎖および軽鎖のアミノ酸配列を以下の表3に示す。
【0032】
【表3】
【0033】
(3)抗4-1BB/抗HER2二重特異性抗体を産生する細胞株
上記(1)および(2)で得られた、抗4-1BB scFv抗体とHER2(WT)の重鎖および軽鎖を用いて、IgG-scFv融合抗体(scFv抗体断片をIgGのC末端に融合させたもの)、すなわち、下記の表4に示す、配列番号10からなる重鎖部分と配列番号11からなる軽鎖部分を有する抗4-1BB/抗HER2二重特異性抗体を製造した。
【0034】
具体的には、配列番号12のGSリンカーをコードするDNAセグメント2を、抗HER2抗体の重鎖をコードするDNAセグメント1(配列番号9)の末端に融合した後、抗4-1BB抗体のscFvをコードするDNAセグメント3を融合して、抗HER2/抗4-1BB二重特異性抗体の重鎖をコードするDNAセグメント(配列番号10)を作製し、このDNAセグメントをプラスミド1(Invitrogen、A14697)に挿入した。さらに、抗HER2/抗4-1BB二重特異性抗体の軽鎖をコードするDNAセグメント4(配列番号11)をプラスミド2(Invitrogen、A14697)に挿入した。
【0035】
得られたプラスミド1とプラスミド2を、ExpiCHOTM Expression System(Gibco、A29133)を使用してExpiCHO細胞(Gibco、A29127)にトランスフェクションした。具体的には、得られたプラスミド1(250μg)とプラスミド2(250μg)を、ExpiFectamine CHO試薬(A29129)を含むOptiPROTM SFM(12309-050)(800μL)と混合し(最終量20mL)、3分間静置した。トランスフェクションを行うため、得られた混合溶液と6×10個のExpiCHO細胞をExpiCHO発現培地(A29100-01)に加えて、8%CO加湿振盪インキュベーター内において37℃で培養した。18時間培養後、1.5mLのExpiFectamineTM CHO Transfection Enhancer 1とExpiFectamineTM CHO Feedを加え、37℃で4日間培養した。温度を32℃に調整した後、ExpiFectamineTM CHO Feedを添加し、8日間培養を継続した。
【0036】
【表4】
【0037】
(4)抗体発現のための流加培養
(3)で得られた抗4-1BB/抗HER2二重特異性抗体を産生する細胞株を、グルタミンを含まないActipro培地(Hyclone、SH31037.02)で3日間培養した後、流加培養(作業量:700ml/2000mlフラスコ、37℃、5%CO、130rpm)を14日間実施し、その際に、Cell BoostTM 7a(Hyclone、SH31026.01)/7bサプリメント(Hyclone、SH31027.01KR)を1日おきに添加した。培養物を約3000rpmで遠心分離して得られた培養上清を、0.2μmのメンブレンフィルターで濾過して、粗抗体を含有する濾液を得た。
【0038】
実施例1:プロテインAアフィニティークロマトグラフィーによる抗4-1BB/抗HER2二重特異性抗体の精製
直径1.6cm、樹脂層高20cmのカラムにMabSelect PrismAアフィニティークロマトグラフィー樹脂(Cytiva)を充填してプロテインAアフィニティークロマトグラフィーカラムを作製し、1×リン酸緩衝生理食塩水(PBS)(pH7.4)で平衡化した。製造例(4)で得られた粗抗体を含有する濾液を、樹脂1mL当たり30mgの割合でプロテインAアフィニティークロマトグラフィーカラムにロードした。カラムを1×PBS(pH7.4)で洗浄した後、添加剤(CaCl)を含む酢酸ナトリウム緩衝液または添加剤を含まない酢酸ナトリウム緩衝液を溶出緩衝液として用いて抗体を溶出した。溶出緩衝液中の添加剤の濃度および酢酸ナトリウムの濃度と、溶出緩衝液のpHを下記の表5に示す。
【0039】
以下の各溶出緩衝液を使用して得られたプールを、280nmのUVで吸光度を測定することによって、抗体(すなわち、抗4-1BB/抗HER2二重特異性抗体)の収率を分析し、サイズ排除クロマトグラフィー(SEC-HPLC)を用いて高分子量凝集体の含有量(%)を測定することによって、抗体(すなわち、抗4-1BB/抗HER2二重特異性抗体)の純度を分析した。SEC-HPLCによる分析は、東ソー社製カラム(型番:TSK-GEL G3000SWXL)を用いて行った。1×リン酸緩衝食塩水(PBS)(pH7.4)を1ml/分の流速でカラムに流して平衡化した後、各溶出画分(100μg)を注入して純度分析を行った。純度は、インタクト型の純度(%)を示し、以下の式により算出した。
純度(%)=100-高分子量凝集体の含有量(%)
【0040】
上述のように、プロテインAアフィニティークロマトグラフィーを使用して精製を行うことによって得られた結果を以下の表5に示す。
【0041】
【表5】
【0042】
上記表5の結果から分かるように、添加剤としてCaClを含む酢酸ナトリウム緩衝液を使用すると、比較的に高い収率で、抗4-1BB/抗HER2二重特異性抗体の純度を顕著に高めることができる。また、表5の結果から、酢酸ナトリウム緩衝液中のCaClの濃度は、30~500mMの範囲が好ましく、50~500mMの範囲がより好ましく、75~125mMの範囲がさらに好ましく、約100mMが特に好ましいことが分かる。また、酢酸ナトリウム緩衝液中の酢酸ナトリウムの濃度は、20~100mMの範囲であることが好ましいことが分かる。
【0043】
比較例1:添加剤としてNaClを使用した抗4-1BB/抗HER2二重特異性抗体の精製
添加剤としてのNaClを1000mMの濃度で含む100mM酢酸ナトリウム緩衝液(pH3.7)を用いて、実施例1と同様の方法でプロテインAアフィニティークロマトグラフィーによる精製を行った。実施例1と同様の方法で、溶出プールの純度および収率を分析した。その結果、添加剤を含まない100mM酢酸ナトリウム(pH3.7)を用いた精製に比べて、純度は相対的に上昇したが、収率は29.3%に大幅に低下した。
【0044】
上記の結果を踏まえて、酢酸ナトリウムと添加剤(NaCl)の濃度を下げることにより純度および収率を評価した。すなわち、添加剤としてのNaClを100mMの濃度で含む20mM酢酸ナトリウム緩衝液(pH3.7)を用いて、実施例1と同様の方法でプロテインAアフィニティークロマトグラフィーによる精製を行った。実施例1と同様の方法で、溶出プールの純度および収率を分析した。その結果、純度が74.2%に大幅に低下した。
【0045】
したがって、NaClを含む酢酸ナトリウム緩衝液の使用は、純度および収率の点で、改善された精製効果を示さなかった。
【0046】
比較例2:添加剤としてMgCl を使用した抗4-1BB/抗HER2二重特異性抗体の精製
添加剤としてのMgClを1000mMの濃度で含む100mM酢酸ナトリウム緩衝液(pH3.7)を用いて、実施例1と同様の方法でプロテインAアフィニティークロマトグラフィーによる精製を行った。実施例1と同様の方法で、溶出プールの純度および収率を分析した。その結果、添加剤を含まない100mM酢酸ナトリウム(pH3.7)を用いた精製に比べて、純度は相対的に上昇したが、収率は43.9%に大幅に低下した。
【0047】
上記の結果を踏まえて、酢酸ナトリウムと添加剤(MgCl)の濃度を下げることにより純度および収率を評価した。すなわち、添加剤としてのMgClを100mMの濃度で含む20mM酢酸ナトリウム緩衝液(pH3.7)を用いて、実施例1と同様の方法でプロテインAアフィニティークロマトグラフィーによる精製を行った。実施例1と同様の方法で、溶出プールの純度および収率を分析した。その結果、高濃度の酢酸ナトリウム/添加剤を用いた精製に比べて、純度は相対的に上昇したが、収率はわずか66.7%であった。
【0048】
したがって、MgClを含む酢酸ナトリウム緩衝液の使用は、収率の点で、改善された精製効果を示さなかった。
【配列表】
2024504388000001.app
【国際調査報告】