(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-01-31
(54)【発明の名称】膀胱がんのバイオマーカーとしてのFUCα(1-2)Gal糖鎖構造の使用
(51)【国際特許分類】
G01N 33/574 20060101AFI20240124BHJP
G01N 33/53 20060101ALI20240124BHJP
【FI】
G01N33/574 B
G01N33/53 V
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023544660
(86)(22)【出願日】2022-01-24
(85)【翻訳文提出日】2023-09-22
(86)【国際出願番号】 FI2022050043
(87)【国際公開番号】W WO2022157422
(87)【国際公開日】2022-07-28
(32)【優先日】2021-01-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FI
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】523279914
【氏名又は名称】ユニオジェン・オサケユフティオ
【氏名又は名称原語表記】Uniogen Oy
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100150500
【氏名又は名称】森本 靖
(74)【代理人】
【識別番号】100176474
【氏名又は名称】秋山 信彦
(72)【発明者】
【氏名】イスラム,ムハンマド キルル
(72)【発明者】
【氏名】サイエド,パルヴェズ
(72)【発明者】
【氏名】レイヴォ,ヤンネ
(72)【発明者】
【氏名】ギドワニ,カムレシュ
(57)【要約】
本発明は、がん関連バイオマーカー(特に、インテグリン)上のFUCα(1-2)Gal糖鎖を含む構造上の改変型グリコシル化パターンに基づいた膀胱がんの非侵襲的診断に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
膀胱がんのバイオマーカーとしてのFUCα(1-2)Gal糖鎖構造の使用であって、前記FUCα(1-2)Gal糖鎖構造が、非MUC1抗原上または抗原提示小胞上に含まれている、使用。
【請求項2】
対象における膀胱がんの疾患状態を決定する方法であって、
a) 対象から得られたサンプルを、FUCα(1-2)Gal糖鎖構造を含む非MUC1抗原のレベルまたはFUCα(1-2)Gal糖鎖構造を含む抗原提示小胞体のレベルについてアッセイする工程;
b) 工程a) において得られたアッセイ後のレベルを、コントロールサンプルまたは事前に決定した閾値のレベルと比較する工程;および
c) 前記の比較に基づいて、がんの疾患状態を決定する工程、
を含む、方法。
【請求項3】
抗原が、インテグリン類、上皮細胞接着分子(EpCAM)、クローディン-4および腫瘍関連カルシウムシグナル伝達物質2(Trop2)からなる群から選択される、請求項1に記載の使用または請求項2に記載の方法。
【請求項4】
インテグリン類が、インテグリンサブユニットα3(ITGA3)、インテグリンサブユニットα1(ITGA1)、インテグリンサブユニットα2(ITGA2)、インテグリンサブユニットα4(ITGA4)、インテグリンサブユニットα5(ITGA5)、インテグリンサブユニットα6(ITGA6)、インテグリンサブユニットα11(ITGA11)、インテグリンサブユニットαV(ITGAV)、インテグリンサブユニットβ2(ITGB2)、インテグリンサブユニットβ5(ITGB5)、インテグリンサブユニットβ8(ITGB8)、インテグリンα2β1(ITGA2B1)およびインテグリンα3β1(ITGA3B1)からなる群から選択される、請求項3に記載の使用または方法。
【請求項5】
コントロールサンプルまたは事前に決定した閾値のレベルと比較して、FUCα(1-2)Gal糖鎖構造を含む非MUC1抗原または抗原提示小胞のレベルが増加することは、対象が膀胱がんを有するかまたは有するリスクがあることを示す、請求項1に記載の使用または請求項2に記載の方法。
【請求項6】
アッセイが、FUCα(1-2)Gal糖鎖構造に特異的な結合分子を用いるか、あるいは質量分析、核磁気共鳴(NMR)分光法、電気泳動、クロマトグラフィーまたはそれらの組合せを用いて実施される、請求項2~5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
結合分子が、Ulex europaeus アグルチニン-I(UEA-I)またはFUCα(1-2)Gal糖鎖構造に特異的な抗体である、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
小麦胚芽アグルチニン(WGA)に結合可能なムチン1(MUC1)(MUC1
WGA)、抗-Tn抗原抗体(Tn-AB)に結合可能なMUC1(MUC1
Tn-AB)、および/またはHelix pomatiaアグルチニン(HPA)に結合可能なMUC1(MUC1
HPA)についてサンプルをアッセイする工程をさらに含む、請求項2~7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
FUCα(1-2)Gal糖鎖構造に特異的な抗原結合物質および結合分子を含んでいる、対象におけるがんの疾患状態を決定する際に使用するためのキットであって、
前記抗原はMUC1ではなく、前記抗原結合物質または前記結合分子のいずれかは検出可能な標識を含んでいる、キット。
【請求項10】
対象における膀胱がんの疾患状態を決定するためのキットの使用であって、該キットは、FUCα(1-2)Gal糖鎖構造に特異的な抗原結合物質および結合分子を含んでおり、前記抗原はMUC1ではなく、前記抗原結合物質または前記結合分子いずれかは検出可能な標識を含んでいる、使用。
【請求項11】
サンプル中の膀胱がん関連抗原糖鎖形態の存在または非存在を決定するためのFUCα(1-2)Gal糖鎖構造に特異的な結合分子の使用であって、前記抗原がMUC1ではない、使用。
【請求項12】
抗原が、インテグリン類からなる群から選択され、好ましくは、ITGA3、ITGA1、ITGA2、ITGA5、ITGA6、ITGA11、ITGAV、ITGB2、ITGB5、ITGB8、ITGA2B1およびITGA3B1;EpCAM;クローディン-4;ならびにTrop2から選択される、請求項9に記載のキットまたは請求項10または請求項11に記載の使用。
【請求項13】
結合分子が、UEA-Iであるか、またはFUCα(1-2)Gal糖鎖構造に特異的な抗体である、請求項9に記載のキットまたは請求項10または請求項11に記載の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(発明の技術分野)
本発明は、がん関連バイオマーカー、特にインテグリンの改変型グリコシル化パターンを基準とする非侵襲的検出(例えば、膀胱がん)に関する。
【0002】
(背景技術)
タンパク質の過剰発現は、がん細胞の典型的な特徴である。このように、腫瘍マーカーは、それぞれが特定の疾患プロセスを示すものであり、がんの存在を検出するために腫瘍学において利用され得る。このような腫瘍マーカーの例としては、様々なインテグリンおよびムチンが挙げられる。
【0003】
過剰発現に加えて、タンパク質の異常なグリコシル化は、がんにおいて頻繁に観察される現象である。グリコシル化は、がんの発生および進行を制御するいくつかの生理学的プロセスに関与しているので、これは驚くべきことではない。例えば、糖鎖は、細胞シグナル伝達、細胞-マトリックス相互作用、腫瘍細胞の分離および浸潤、転移形成、血管新生および免疫調節に関与している。タンパク質のグリコシル化における最も一般的ながんに関連した変化は、シアリル化の増加、分岐型糖鎖構造の増加およびコアフコシル化の過剰発現である。例えば、N-アセチルグルコサミン(GlcNAc)の過剰発現ならびに過剰シアリル化および/またはシアリル-ルイスa(sLea)およびシアリル-ルイスx(sLex)のようなシアリル化ルイス抗原の過剰発現が報告されている。別の例として、ムチン1(MUC1)に関する特定の糖鎖バリアントが、大部分の乳がんにおいて高いレベルで存在することが報告されている。さらに、分岐したN型糖鎖、切断されたO型糖鎖および/またはシアリル化構造によるインテグリンの改変は、腫瘍細胞とマトリックスの相互作用を調節し、腫瘍細胞の移動を促進することが報告されている。
【0004】
本開示のいくつかの具体的な実施形態は、前立腺がんに次いで、男性では2番目に多い泌尿器の悪性腫瘍である膀胱がん(BlCa)に関する。2015年には、BlCaは、およそ340万人が罹患しており、毎年43万人の新規症例が見出されている。BlCaは、男性において世界で7番目に多く診断されるがんであり、男女両性別を合わせた場合には11番目に多く診断されるがんである。BlCaの発症率は、泌尿生殖器がんの中で最も高いわけではないが、この疾患に関する治療管理にかかる費用は、最も高額ながんとなっている。このような高額な費用の主な理由の一つには、全ての病期の患者の約70%が、5年以内に再発するためである。膀胱がんの症状には、血尿および刺激性排尿がある。現在、膀胱がんの診断およびサーベイランスは、排尿細胞診と膀胱の直接膀胱鏡検査に依拠している。しかし、膀胱鏡検査は侵襲的で不快かつ費用がかかる検査であり、小さな乳頭状腫瘍およびインサイチュのがん病変を見逃す可能性がある。尿中細胞診は、低い悪性度の腫瘍に対する感度が低く、細胞診が陰性であっても腫瘍の存在を排除することはできない。BlCaを検出するための数多くのバイオマーカー/キットが開発されている。これらには、膀胱腫瘍抗原(BTA)、核マトリックス蛋白22(NMP22)ならびにムチンおよびがん胎児性抗原(CEA)の検出に基づいたImmunoCyt+検査法などがある。しかし、これら全ての検査には、感受性または特異性いずれかにおいて限界があり、それらいずれも、一般診療や臨床ガイドラインにおけるBlCaの診断およびフォローアップとして認められていない。BlCaは、尿路がんであるため、尿に放出される可溶性膜結合糖タンパク質は、非侵襲的診断用ツールについての魅力的な標的として役立つ。
【0005】
診断または予後予測の目的のための非侵襲的で高感度かつ特異的なBlCaバイオマーカーの開発が急務である。その他のがん、例えば、前立腺がん、腎細胞がん、大腸がん、膵臓がん、卵巣がん、乳がん、肺がん、ならびに頭頸部扁平上皮がんについても同様のニーズが存在する。
【発明の詳細な説明】
【0006】
一つの局面において、本発明は、膀胱がんのバイオマーカーとしてのFUCα(1-2)Gal糖鎖構造の用途を提供するものであり、前記FUCα(1-2)Gal糖鎖構造は、非MUC1抗原上または抗原提示小胞上に含まれており、好ましくは、前記抗原はインテグリンである。
【0007】
別の態様において、本発明は、対象における膀胱がんの疾患状態を決定する方法を提供するものであって、該方法は、以下の工程:
a) 対象から得られたサンプルを、FUCα(1-2)Gal糖鎖構造を含む非MUC1抗原のレベル、またはFUCα(1-2)Gal糖鎖構造を含む抗原提示小胞のレベルについてアッセイする工程;
b) 工程a) において得られたアッセイ後のレベルを、コントロールサンプルまたは事前に決定した閾値のレベルと比較する工程;および
c) 前記比較に基づいて、がんの疾患状態を決定する工程、
を含む。
【0008】
さらなる態様において、本発明は、対象における膀胱がんの疾患状態を決定する際に使用するためのキットを提供するものであり、該キットは、抗原結合体およびFUCα(1-2)Gal糖鎖構造に特異的な結合分子を含んでおり、前記抗原は、MUC1ではなく、前記抗原結合体または前記結合分子いずれかは検出可能な標識を含んでいる。
【0009】
またさらなる態様において、本発明は、対象における膀胱がんの疾患状態を決定するためのキットの使用を提供するものであり、該キットは、FUCα(1-2)Gal糖鎖構造に特異的な抗原結合体および結合分子を含んでおり、前記抗原は、MUC1ではなく、前記抗原結合体または前記結合分子いずれかは検出可能な標識を含んでいる。
【0010】
また、サンプル中の膀胱がん関連抗原糖鎖構造の存在または非存在を決定するために、FUCα(1-2)Gal糖鎖構造に特異的な結合分子の使用が提供され、ここで前記抗原はMUC1ではない。
【0011】
さらなる態様、実施形態および詳細は、以下の図、詳細な説明、実施例および従属請求項に記載される。
【0012】
(図面の簡単な説明)
後記において、本発明は、添付の図面を参照し、好ましい実施形態によりさらに詳細に説明される。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】
図1は、がんおよび非がん由来の糖鎖形態のアッセイを示す概略図である。ストレプトアビジンでコートされたマイクロタイターウェル表面に固定されたビオチン化抗体は、サンプル由来の(糖)タンパク質を捕捉する。捕捉されたタンパク質上の糖鎖は、抗-タンパク質抗体(部分a)またはレクチン(部分b)いずれかに結合されたEu
3+ドープポリスチレンナノ粒子により検出される。
【
図2】
図2は、膀胱がん患者および良性(BPH)コントロールに由来するITGA3糖鎖形態についてのプールした尿サンプルの分析結果である。BPHおよびBlCaサンプル由来のITGA3に対する異なるレクチンの結合は、シグナル/バックグラウンド(S/B)比として表される。
【
図3】
図3は、従来のITGA3-ITGA3イムノアッセイ(
図3A)またはITGA3
UEA-Iアッセイ(
図3B)を用いた膀胱がん患者(n=13)および良性コントロール(n=9)由来の尿サンプルのITGA3に関する分析を示している。ITGAVのUEA-I結合糖鎖形態(即ち、ITGAV
UEA-I)についての同一サンプルの分析を
図3Cに示す。
【
図4】
図4Aは、見かけ上健康な患者(n=11)、良性泌尿器疾患患者(n=9)およびBlCa患者(n=18)の血清サンプルのITGA3
UEA-Iアッセイによる分析を示している。
図4Bでは、合計18個のBlCaサンプルのうち、5、3、3、7つのサンプルが、各々Ta低悪性度、Ta高悪性度、T1高悪性度、<T2高悪性度に分類された。TaおよびT1に分類された腫瘍は、非筋肉浸潤性膀胱がん(NMIBC)として見なされ、<T2に分類された腫瘍は、筋浸潤性膀胱がん(MIBC)と見なされた。ITGA3
UEA-Iアッセイにより、健康なボランティアとBlCaを区別することができ(p値:<0.00001)(
図4A)、NMBICおよびMIBC両方のサンプルを検出することもできた(
図4B)。
【
図5】
図5は、膀胱がん患者(n=13)および良性コントロール(n=9)由来の尿サンプルのEpCAM(
図5A)、抗-Trop2(
図5B)または抗-クローディン-4(
図5C)のUEA-I結合糖鎖形態に関する分析を示す。
【
図6】
図6は、良性泌尿器疾患患者および低リスクまたは中・高リスクの膀胱がん患者由来の尿サンプルのアッセイを示す。
図6Aは、トレーサーとしてEu
3+キレートと結合された抗体を用いる従来のMUC1イムノアッセイを示す。
図6Bは、MUC1-WGAレクチンアッセイ(MUC1
WGA)を示す。
図6Cは、トレーサーとしてEu
3+ドープナノ粒子と結合した抗-Tn抗体を用いるMUC1抗-Tn抗体アッセイ(MUC1
Tn-AB)を示す。
図6Dは、
図6Bおよび
図6Cのアッセイデータを組み合わせたロジスティック回帰モデルを表す。
図6Eは、MUC1-HPAレクチンアッセイ(MUC1
HPA)を示す。
【
図7】
図7は、健康コントロール対象(n=10)または膵臓疾患罹患患者(n=24)由来の血清サンプルのITGAV
AOL(
図7A)またはITGA2B1
AOL(
図7B)に関する分析から得た結果を示す。
【0014】
(定義)
別段の定義がない限り、本明細書および特許請求の範囲で使用される用語および表現は、がん診断の分野で一般的に適用される意味を有する。本明細書で使用される用語および表現の一部は、以下に定義される意味を有する。
【0015】
本明細書で使用される場合、単数形の名詞の意味は複数形の名詞の意味を含み、従って、単数形の用語は、別段の定めがない限り、その複数形の意味をも担うことができる。言い換えれば、「a」または「an」という用語は、1つまたは複数を意味し得る。
【0016】
本明細書で使用される場合、特許請求の範囲における用語「または」は、代替物のみを指すように明示的に示されない限り、または代替物が相互に排他的である場合を除き、「および/または」を意味するために使用されるが、本開示は、代替物および「および/または」のみを指す定義を支持する。
【0017】
本明細書で使用される場合、「生物学的サンプル」および「サンプル」という用語は、互換可能であり、特に、対象から得られる腹水、尿、血液、血漿、血清および腹膜腔液などの体液のサンプルを指す。しかし、この用語は、組織から採取された生検サンプルなどの組織サンプルも包含する。いくつかの実施形態において、前記組織サンプルは、ホルマリン固定またはパラフィン包埋組織サンプルであってもよい。一般に、対象から分析すべきサンプルを得ることは、対象のがん疾患状態を決定するための本方法の一部ではない。尿、血液、血清または血漿サンプルは、本方法およびその全ての実施形態で使用される最も好ましいサンプルのタイプである。ある実施形態において、サンプルは、EDTA血漿サンプルである。
【0018】
一以上のバイオマーカーのレベル評価に関する実施態様において、がんの疾患状態を決定すべき対象から得られた同一または異なるサンプルを、各評価に用いることができる。前記異なるサンプルとは、同一タイプまたは異なるタイプのものであって良い。
【0019】
本明細書において、「バイオマーカー」および「マーカー」という用語は、互換性があり、広義には、見かけ上健康な対象などのコントロール対象から採取した比較可能なサンプルと比較した場合に、がん患者から採取したサンプル中に示差的に存在する分子を指す。より具体的には、この用語は、特定のがんを示す抗原の特定の糖鎖バリアントを指す。
【0020】
本明細書で使用する場合、「抗原」という用語は、がんを示すあらゆるタンパク質抗原を広く指す。いくつかの実施形態において、抗原は、インテグリン(ITG)またはそのサブユニット、上皮細胞接着分子(EpCAM)、クローディン-4、腫瘍関連カルシウムシグナル伝達物質2(Trop2)またはムチン1(MUC1)である。「非MUC1抗原」という用語は、MUC1以外の任意の抗原を指す。
【0021】
本明細書で使用される場合、「抗原本体」という用語は、可溶性形態のあらゆる抗原、および前記抗原をその表面に提示する細胞外小胞を広く指す。従って、例えば、「インテグリン本体」という用語は、可溶性インテグリンおよびインテグリンを提示する細胞外小胞を包含する。
【0022】
本明細書で使用される場合、「糖鎖形態」および「糖鎖バリアント」という用語は、互換性があり、グリコシル化バイオマーカーの特定の形態を指す。すなわち、バイオマーカーの一部である同じタンパク質骨格が、異なる糖鎖または糖鎖対に結合される可能性を有する場合、バイオマーカーの各々異なるバージョンは、「糖鎖形態」と呼ばれる。
【0023】
本明細書において、「結合分子」という用語は、バイオマーカーまたはその糖鎖部分を結合することができるあらゆる分子を広く指す。より具体的には、用語「糖鎖結合体」などは、任意の糖鎖に特異的な結合分子を指す。結合分子の非限定的な例としては、レクチン、抗体、抗体模倣体、オリゴヌクレオチドおよびペプチドアプタマーが挙げられる。いくつかの実施形態では、結合分子は、フコシル化糖鎖構造、特にFUCα(1-n)糖鎖構造(式中、nは、2、3、4および6からなる群から選択される整数である)に特異的である。いくつかの好ましい実施形態では、FUCα(1)-n)は、FUCα(1-n)Gal/GlcNAcであり、より好ましくはFUCα(1-2)Gal、FUCα(1-3)GlcNAc、FUCα(1-4)GlcNAcまたはFUCα(1-6)GlcNAcである。本明細書で使用される場合、「Gal」は、ガラクトースを指し、「GlcNAc」は、N-アセチルグルコサミンを指す。いくつかの実施形態では、FUCα(1-2)Gal、FUCα(1-3)GlcNAcおよびFUCα(1-4)GlcNAcは、末端フコシル化を指し、一方でFUCα(1-6)GlcNAcはコアフコシル化を指す。
【0024】
本明細書において、「抗体」という用語は、ジスルフィド結合によって相互結合した2本の重(H)鎖および2本の軽(L)鎖を含む免疫グロブリン構造を指す。抗体は、インタクトな免疫グロブリンとして、または多くの十分に特徴づけされた抗原結合フラグメントもしくはその一本鎖バリアントのいずれかとして存在し得るが、本明細書においては、これら全てが「抗体」という用語に包含される。前記抗原結合フラグメントの非限定的な例としては、Fabフラグメント、Fab'フラグメント、F(ab')2フラグメントおよびFvフラグメントが挙げられる。前記フラグメントおよびバリアントは、組換えDNA技術によるか、または当該技術分野において周知のようなインタクトな免疫グロブリンの酵素的もしくは化学的分離により生成され得る。
【0025】
本明細書で使用される場合、用語「対象」は、動物、好ましくは哺乳動物、より好ましくはヒトを指し、いくつかの実施形態では最も好ましくはメスであり、他のいくつかの実施形態では最も好ましくは雄である。目的とする実施形態によって、前記対象は、診断の有無に拘わらず、がんに罹患している可能性があるか、がんに罹患している疑いがあるか、がんのリスクがあるか、または既にがんの治療を受けている可能性がある。本明細書において、「ヒト対象」、「患者」および「個体」という用語は、互換可能である。
【0026】
本明細書で使用される場合、「見かけ上健康な」という用語は、がんまたは良性状態の徴候または症状を示さず、そのため、がんまたは良性状態に罹患していないと考えられるか、またはがんまたは良性状態を発症しないと予測される個体または個体のプールを指す。ここで、用語「見かけ上健康な」および「健康な」とは、いくつかの場合において、互換的に使用され得る。
【0027】
本明細書で使用される「良性状態」などの用語は、がん性ではない状態を指す。同様に、本明細書で使用される場合、「良性泌尿器状態」、「良性泌尿器疾患」などの用語は、良性前立腺過形成を含むがこれに限定されない非がん性泌尿器疾患を指す。非がん性の良性状態のさらなる非限定的な例としては、膵炎および子宮内膜症が挙げられる。同様に、本明細書で使用される場合、「良性コントロール」および「良性コホート」などの用語は、良性状態を有する対象または患者、および/または良性状態を有する対象または患者由来のサンプルを指す。当業者であれば、所定のがんに関して、どの良性状態を考慮するのが適切であるかを容易に理解できる。
【0028】
本明細書で使用される場合、「良性前立腺過形成」(BPH)という用語は、良性前立腺肥大症としても知られ、高齢男性における前立腺の一般的な非がん性肥大を指す。一般的には、BPHは、前悪性病変としても、がんの前駆症状としても見なされない。
【0029】
本明細書において、バイオマーカーに適用される場合、「がんを示す」という用語は、信頼水準を最低95%に設定する統計的常法を用いて、検出されたレベルが、がん、またはがんのある病期を有する対象において、がん、またはがんの別の病期を有さない対象に比べて有意に多く見出される場合に、前記がんまたは前記がんの病期を診断するレベルを指す。好ましくは、がんを示すレベルは、がんを有する対象の少なくとも80%に認められ、がんを有しない対象の10%未満に認められる。より好ましくは、前記がんを示すレベルは、がんを有する対象の少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%またはそれ以上で認められ、がんを有さない対象の10%未満、8%未満、5%未満、2.5%未満または1%未満で認められる。
【0030】
本明細書において、「レベル」という用語は、別段の記載がない限り、「量」および「濃度」という用語と互換性がある。
【0031】
検出されたバイオマーカーのレベルが、当該バイオマーカーに関連するがんの存在または存在のリスクを示すかどうかを決定するためには、対応するコントロールにおけるレベルを決定する必要がある。一旦コントロールレベルが分かれば、決定されたマーカーレベルをコントロールレベルと比較することができ、標準的な統計的方法を用いて差異の有意性を評価することができる。いくつかの実施形態において、決定されたバイオマーカーレベルとコントロールレベルとの間の統計的有意差は、当該がんを示す。いくつかのさらなる実施形態では、コントロールと比較する前に、バイオマーカーレベルは、標準的な方法を用いて正規化される。
【0032】
分析されるサンプル中のバイオマーカーのアッセイされたレベルと、関連するコントロールまたは事前に決定した閾値のレベルとの比較は、いくつかの実施形態において、コンピューターデバイスのプロセッサによって実行され得る。
【0033】
コンピューターデバイスのプロセッサを前記比較に使用するか否かにかかわらず、アッセイされたバイオマーカーのレベルは、少なくともいくつかの実施形態において、サンプル中のバイオマーカーのレベルが、例えば、少なくとも約1.5倍、少なくとも約1.75倍、少なくとも約2倍、少なくとも約3倍、少なくとも約4倍、少なくとも約5倍、少なくとも約6倍、少なくとも約8倍、少なくとも約9倍、少なくとも約10倍、少なくとも約20倍または少なくとも約30倍の事前に決定した閾値レベルまたはコントロールサンプル中のバイオマーカーのレベルである場合、「増加した」または「高い」と決定される。いくつかの実施形態では、適切な診断、予後または予測結果を提供するためには、分析されるサンプル中のバイオマーカーのレベルと、事前に決定した閾値レベルまたはコントロールサンプル中のバイオマーカーのレベルとの間の差は、統計的に有意でなければならない。
【0034】
がんの疾患状態を決定されるべき対象、またはがんのスクリーニング、診断、予後またはモニタリングを受けるべき対象から得られたサンプル中のバイオマーカーの濃度は、その検出された濃度が、関連するコントロールサンプルまたは事前に決定した閾値の濃度と比較して、低い、本質的に同一または本質的に変化していない場合、「増加せず」または「正常」とみなされる。
【0035】
本明細書で使用される場合、「コントロール」という用語は、見かけ上健康な個体または見かけ上健康な個体のプールから得られたコントロールサンプルを指す場合もあれば、前立腺肥大症などの良性泌尿器疾患を有する個体または個体のプールから得られたコントロールサンプルを指す場合もあり、あるいは、当該がんの有無を示す事前に決定した閾値(即ち、カットオフ値)を指す場合もある。適切な閾値を決定するための統計学的方法は、当業者には容易に理解されるであろう。閾値は、必要であれば、同じ年齢、人口統計学的特徴および/または疾患状態などの対象のサンプルから決定されたものであってもよい。閾値は、当該がんに罹患していない一個体から得られてもよいし、複数のそのような個体からプールされた値であってもよい。
【0036】
いくつかの実施形態では、「コントロールサンプル」という用語は、がん疾患状態を決定する同一の対象から得られたサンプルであるが、疾患状態決定の時点とは異なる時点で得られたサンプルを指す。このような異なる時点の非限定的な例には、疾患の診断前の1つ以上の時点、疾患の診断後の1つ以上の時点、疾患の治療前の1つ以上の時点、疾患の治療中の1つ以上の時点ならびに疾患の治療後の1つ以上の時点が含まれる。典型的には、同じ対象から得られたこのようなコントロールサンプルは、がん疾患状態を決定する目的が、前記疾患をモニタリングすること、特に、疾患の発症、疾患の発症リスク、治療応答、疾患の再発または疾患の再発をモニタリングすることである場合に使用される。
【0037】
本明細書で使用される場合、用語「がん」とは、任意のがん様状態を広く指す。いくつかの実施形態において、がん様状態は、膀胱がん(BlCa)、前立腺がん(PrCa)または腎細胞がん(RCC)などの泌尿器がん、大腸がん(ColCa)または膵臓がん(PanCa)などの消化器がん、卵巣がん(OvCa)または乳がん(BrCa)などの婦人科がん、肺がん(LunCa)あるいは頭頸部扁平上皮がん(HNSCC)である。いくつか例において、「がん」は、広義には、本明細書において「疾患」という用語を使用することにより示される。
【0038】
本明細書で使用される場合、「がんの疾患状態」という用語は、非がんを含むがんのあらゆる識別可能な症状を指す。例えば、この用語には、以下に限定されないが、がんの存在または非存在、がんの前臨床期の存在または非存在、がんを有するリスクまたはがんを発症するリスク、がんの病期ならびにがんの進行に関する情報が含まれる。
【0039】
本開示において使用されるいくつかのさらなる用語および表現は、本発明の詳細な説明において以下に説明される。
【0040】
(発明の詳細な説明)
本開示は、少なくとも部分的には、がんバイオマーカーと同じ抗原のその他バリアントよりも感度が向上した抗原のがん関連糖鎖バリアントを同定することを目的とする研究に基づく。この目的に従って、本開示は、がんに罹患している対象またはがんに罹患するリスクがあると疑われる対象におけるがん疾患状態を決定するための手段および方法を提供する。この手段および方法は、特に、がんのスクリーニング、診断、予後判定またはモニタリングのために提供される。
【0041】
ここで驚くべきことに、インテグリンおよびインテグリンのαまたはβサブユニットなどのタンパク質抗原のあるフコシル化された糖鎖バリアントの一部が、がんのバイオマーカーとして機能することが可能であり、同じ抗原のその他の種よりもがん患者と非がん対象を区別する能力が向上することが明らかとなった。より具体的には、フコシル化糖鎖構造は、フコース-α(1-n)構造、即ち、略してFUCα(1-n)を含んでおり、式中のnは、2、3、4または6のいずれかである。
【0042】
また驚くべきことに、上皮細胞接着分子(EpCAM)、クローディン-4および腫瘍関連カルシウムシグナル伝達物質2(Trop2)のようないくつかの別のタンパク質抗原のフコシル化糖鎖バリアント、特にFUCα(1-n)構造、好ましくはFUCα(1-2)Gal構造を含む糖鎖バリアントは、互いに独立して、または組合せて、および/またはフコシル化インテグリン類と組合せて、がんのバイオマーカーとして使用され得ることも明らかとなった。
【0043】
注目すべきことに、いくつかの実施形態では、FUCα(1-2)Gal構造を含むフコシル化MUC1糖鎖バリアントの使用は除かれる。むしろ、いくつかの実施形態は、FUCα(1-n)構造、特にFUCα(1-2)Gal構造またはFUCα(1-n)GlcNAc構造(例えば、FUCα(1-6)GlcNAc構造)を含むフコシル化非MUC1抗原、例えば、インテグリン、EpCAM、クローディン-4およびTrop2に関する。
【0044】
一方、いくつかの態様において、本開示は、以下により詳細に説明するように、FUCα(1-2)Gal構造を含むもの以外のMUC1の糖鎖バリアントに関する。
【0045】
本明細書で使用する場合、「抗原FUCα(1-n)」という用語は、FUCα(1-n)糖鎖構造を含む抗原を広く指し、式中のnは、2、3、4および6から選択される整数である。従って、「インテグリンFUCcα(1-n)」という用語は、例えば、FUCα(1-n)糖鎖構造を含むインテグリンの糖鎖バリアントを指す。対応する用語は、その他の抗原にも、また任意のインテグリン類またはそのサブユニットに対しても適用することができる。
【0046】
同様に、「抗原FUCα(1-2)Gal」という用語は、FUCα(1-2)Gal糖鎖構造を含む抗原、好ましくは非MUC1抗原を広く指す。従って、「インテグリンFUCα(1-2)Gal」、「クローディン-4FUCα(1-2)Gal」、「EpCAMFUCα(1-2)Gal」および「Trop2FUCα(1-2)Gal」という用語は、インテグリン、クローディン-4の糖鎖バリアントを指す。EpCAMおよびTrop2は、各々FUCα(1-2)Gal糖鎖構造を含む。対応する用語は、「FUCα(1-n)」という用語において、その他のフコシル化糖鎖構造にも、またその他の抗原および任意のインテグリン類またはそのサブユニットにも適用される。
【0047】
インテグリン(ITG)は、α鎖およびβ鎖を含む膜内在性グリコシル化タンパク質である。哺乳類では、インテグリンには24種類のαサブユニットおよび9種類のβサブユニットがある。インテグリンのいくつかのタイプは、細胞表面および細胞外小胞(EV)に存在し、インテグリンのいくつかのサブユニットは、尿などの体液中において検出され得る可溶性タンパク質としても存在し得る。本方法において使用に適切なαサブユニットの非限定的な例としては、インテグリンサブユニットα1(ITGA1)、インテグリンサブユニットα2(ITGA2)、インテグリンサブユニットα3(ITGA3)、インテグリンサブユニットα4(ITGA4)、インテグリンサブユニットα5(ITGA5)、インテグリンサブユニットα11(ITGA11)およびインテグリンサブユニットαV(ITGAV)が挙げられ、一方で適切なβサブユニットの非限定的な例としては、インテグリンサブユニットβ1(ITGB1)、インテグリンサブユニットβ2(ITGB2)、インテグリンサブユニットβ4(ITGB4)、インテグリンサブユニットβ5(ITGB5)およびインテグリンサブユニットβ8(ITGB8)が挙げられる。また、インテグリンα2β1(ITGA2B1)およびインテグリンα3β1(ITGA3B1)のようなヘテロ二量体インテグリンを用いることもできる。
【0048】
上皮細胞接着分子(EpCAM)は、ヒト上皮糖タンパク質-2としても知られ、上皮におけるCa2+非依存性のホモ型細胞間接着を媒介する膜貫通型糖タンパク質である。EpCAMは、様々ながんの診断マーカーとして使用できる。
【0049】
クローディン-4(CLDN4またはクローディン4としても知られる)は、クローディンファミリーに属するタンパク質である。クローディン-4は、タイトジャンクションの構造的および機能的な膜貫通成分であり、上皮の細胞外液および電解質輸送に重要な役割を果たしている。
【0050】
腫瘍関連カルシウムシグナル伝達物質2(Trop2、Trop-2)は、上皮糖タンパク質-1抗原としても知られ、がんにおいて発現が上昇する膜貫通型糖タンパク質である。
【0051】
ムチン1(MUC1)は、ムチン1 細胞表面関連またはがん抗原15-3(CA15-3)としても知られ、分子量500~1000kDaの大きな膜貫通型糖タンパク質であり、細胞外部分は高度に保存された20個のアミノ酸の反復単位(タンデムリピート)を含み、その中に5つのグリコシル化可能部位が存在する。MUC1抗原は、腫瘍細胞から分泌され、乳がんなどのマーカーとして確立されている。
【0052】
従来のイムノアッセイは、抗原の異なるタンパク質エピトープを認識する2つの異なるモノクローナル抗体によって、血清または血漿などのサンプル中の抗原レベルを決定することに基づいている。このような従来のイムノアッセイは、本明細書では「抗原-抗原アッセイ」と呼ばれる場合がある。
【0053】
従って、従来のITGA3イムノアッセイは、例えば、ITGA3の異なるタンパク質エピトープを認識する2つの異なるモノクローナル抗体によって、血清または血漿などのサンプル中のITGA3抗原レベルを決定することに基づいている。このような従来のイムノアッセイは、本明細書では「ITGA3-ITGA3アッセイ」と呼ばれる場合がある。さらに、「ITGA3」という用語は、従来のイムノアッセイにより認識可能なITGA3種を指す場合もある。
【0054】
同様に、従来のムチン1(MUC1)イムノアッセイは、MUC1の異なるエピトープを認識する2つの異なるモノクローナル抗体によって、血清または血漿などのサンプル中のMUC1抗原レベルを決定することに基づいている。このような従来のイムノアッセイは、本明細書において「MUC1-MUC1アッセイ」と呼ばれる場合がある。さらに、「MUC1」という用語は、従来のイムノアッセイにより認識可能なMUC1種を指す場合もある。繰り返さないが、対応する用語は、当該抗原に関係なく、その他の従来のイムノアッセイにも本明細書で使用することができる。
【0055】
従来のイムノアッセイを用いる代わりに、タンパク質抗原の特定の糖鎖バリアントを検出することで、がん患者と非がん対象を区別できる感度が向上することが本明細書で示されている。
【0056】
本発明のいくつかの実施形態に至る実験では、試験した様々な植物またはヒトのレクチンのパネル内で、ハリエニシダ由来のアグルチニン:Ulex europaeus agglutinin-I(UEA-I)というレクチンが、膀胱がん(BlCa)患者の尿サンプル由来のITGA3と、良性コントロールサンプル由来のITGA3との間で顕著に良好な識別能(p=0.007)を示した(
図3B)。良性コントロールとは、前立腺肥大症(BPH)患者の尿サンプルである。当技術分野で知られている通り、UEA-Iは、FUCα(1-2)、特に末端のFUCα(1-2)Galに対して親和性がある。UEA-Iをトレーサーとして用いて、サンプルのITGA3
FUCα(1-2)lに関してアッセイすることにより、従来のITGA3-ITGA3アッセイを用いた場合よりも、膀胱がん患者を良性コントロール群と良好に区別することができた。従来のITGA3-ITGA3アッセイでは、p値は0.023と高かったが(
図3A)、ITGA3
FUCα(1-2)lアッセイでは有意限界であるp<0.05以下であった。
【0057】
膀胱がん由来のITGA3で得られた結果は、BlCaおよび良性(BPH)由来の血清サンプルおよび健康な対象由来の血清サンプルを含む実験において確認され、患者の層別化に拡張された。UEA-IベースのアッセイによってITGA3
FUCα(1-2)についてサンプルを測定したところ、がん由来のITGA3と、良性(BPH)由来のITGA3(p<0.00001)または健康な対象由来のITGA3(p=0.00003)の識別が、極めて良好であった(
図4A)。さらに、UEA-IをベースとしたITGA3
FUCα(1-2)アッセイから、筋肉浸潤性BlCaおよび非筋肉浸潤性BlCaの両方を検出できることが判った(
図4B)。後者は、以前では、購入できる従来の試験を用いて検出することは特に困難であった。
【0058】
ITGA3以外のインテグリン、即ち、ITGA1、ITGA2、ITGA5、ITGA6、ITGA11、ITGAV、ITGB2、ITGB5、ITGB8、ITGA2B1およびITGA3B1、ならびに細胞膜貫通タンパク質であるクローディン-4、EpCAMおよびTrop2を用いた実験においても、UEA-Iによって、がん(BlCa)と良性との明確な区別が認められた。例えば、UEA-Iをトレーサーとして用いて、ITGAV
FUCα(1-2)およびクローディン-4
FUCα(1-2)についてサンプルをアッセイしたところ、膀胱がん患者を、良性のコントロール群と、各々0.020および0.030のp値にて区別することができた(各々
図5Cおよび
図3C)。さらに、UEA-Iにより、BlCa患者の尿サンプル由来のEpCAMと良性コントロール対象の尿サンプル由来のEpCAMを、十分に区別することができることが判った。UEA-Iをトレーサーとして用いることにより、EpCAM
FUCα(1-2)に関してサンプルをアッセイすることにより、膀胱がん患者を、良性コントロール対象と、p値0.003にて区別することができた(
図5A)。さらに、UEA-Iをトレーサーとして用いることで、Trop2
FUCα(1-2)についてサンプルをアッセイすることにより、膀胱がんの対象は、p値0.02にて良性のコントロール対象と区別することができた(
図5B)。このように、いくつかの実施形態では、ITGA1
FUCα(1-2)、ITGA2
FUCα(1-2)、ITGA3
FUCα(1-2)、ITGA5
FUCα(1-2)、ITGA6
FUCα(1-2)、ITGA11
FUCα(1-2)、ITGAV
FUCα(1-2)、ITGB2
FUCα(1-2)、ITGB5
FUCα(1-2)、ITGB8
FUCα(1-2)、ITGA2B1
FUCα(1-2)およびITGA3B1
FUCα(1-2)ならびにクローディン-4
FUCα(1-2)、EpCAM
FUCα(1-2)およびTrop2
FUCα(1-2)から選択される1つ以上のインテグリン
FUCα(1-2)種を、任意の組み合わせにおいて、BlCaのバイオマーカーとして使用することができる。いくつかのさらなる実施形態において、上記に示されるFUCα(1-2)とは、より具体的にはFUCα(1-2)Galである。
【0059】
さらに、UEA-Iをトレーサーとして用いて、インテグリンFUCα(1-2)について、より具体的にはインテグリンFUCα(1-2)Galについてサンプルをアッセイしたところ、様々ながんの起源から得たプールしたサンプルと、非がん起源から得られたサンプルとの明確な識別が達成された。表1に要約したように、非悪性サンプルを用いて得られたものと比較したシグナルとバックグラウンドの相対比を示している。
【0060】
【0061】
全体としては、本発明のインテグリンFUCα(1-2)アッセイは、がん様サンプルを非悪性サンプルと区別する際に、対応する従来のインテグリン-インテグリンイムノアッセイよりも良好に実施された。従来のイムノアッセイにより得られた結果の一部が表2に要約されており、非悪性サンプルと比較した時の相対的なシグナルとバックグラウンド比を示す。
【0062】
【0063】
本発明のいくつかの実施形態に至る実験において、別のフコース特異的レクチン、即ちAspergillus oryzae由来のレクチン(AOL)は、
図7Aに示すように、膵臓疾患患者(n=24、この内の11人は膵臓がんであり、13人は良性の膵臓疾患である)の血清サンプル由来のITGAVと健康対象のコントロール(n=10)由来のITGAVとの間で、顕著に良好な識別能(p=0,000093)を示した。さらに、AOLは、
図7Bに示すように、膵臓疾患患者の血清サンプル由来のITGA2B1と健康対象のコントロール由来のITGA2B1との間で、顕著に良好な識別能(p=0,000766)を示した。当該技術分野で知られているように、AOLは、糖タンパク質のFUCα(1-n)残基(式中のnは、2、3、4または6のいずれか)に親和性を示す。より具体的には、AOLは、糖タンパク質のFUCα(1-2)Gal、FUCα(1-3)GlcNAc、FUCα(1-4)GlcNAcおよびFUCα(1-6)GlcNAc残基に対して親和性を示し、FUCα(1-6)GlcNAcに対する親和性が最も強い。AOLをトレーサーとして用いて、ITGAV
FUCα(1-n)またはITGA2B1
FUCα(1-n)についてサンプルをアッセイすることにより、膵臓疾患を、健康対象コントロールと驚くべき程度で区別することができた。
【0064】
従って、一態様において、本明細書で提供されるものは、がんのバイオマーカーとしてのFUCα(1-n)糖鎖構造、特にFUCα(1-2)GalまたはFUCα(1-6)GlcNAc糖鎖構造の使用である。好ましくは、前記FUCα(1-n)糖鎖構造は、抗原提示細胞外小胞上に、またはタンパク質抗原上(例えば、非MUC1抗原)、特にFUCα(1-2)Galの場合に含まれる。ある実施形態において、非MUC1抗原は、インテグリン、例えば、ITGA1、ITGA2、ITGA3、ITGA4、ITGA5、ITGA6、ITGA11、ITGAV、ITGB1、ITGB2、ITGB3、ITGB4、ITGB5、ITGB8、ITGA2B1またはITGA3B1である。さらなるある実施形態において、非MUC1抗原は、EpCAM、クローディン-4またはTrop2である。当該抗原FUCα(1-n)種、例えば、特に非MUC1抗原FUCα(1-2)Gal種および抗原FUCα(1-6)GlcNAc種は、任意の組み合わせにおいて、がんバイオマーカーとしても使用され得る。ある実施形態において、ITGA3FUCα(1-n)を、単独で、またはITGA1FUCα(1-n)、ITGA2FUCα(1-n)、ITGA4FUCα(1-n)、ITGA5FUCα(1-n)、ITGA6FUCα(1-n)、ITGA11FUCα(1-n)、ITGAVFUCα(1-n)、ITGB1FUCα(1-n)、ITGB2FUCα(1-n)、ITGB3FUCα(1-n)、ITGB4FUCα(1-n)、ITGB5FUCα(1-n)、ITGB8FUCα(1-n)、ITGA2B1FUCα(1-n)およびITGA3B1FUCα(1-n)から独立して選択された1以上のさらなるインテグリンFUCα(1-n)種と組み合わせて使用した。いくつかの実施形態において、ITGA3FUCα(1-n)を、ITGA1FUCα(1-n)、ITGA2FUCα(1-n)、ITGA4FUCα(1-n)、ITGA5FUCα(1-n)、ITGA6FUCα(1-n)、ITGA11FUCα(1-n)、ITGAVFUCα(1-n)、ITGB1FUCα(1-n)、ITGB2FUCα(1-n)、ITGB3FUCα(1-n)、ITGB4FUCα(1-n)、ITGB5FUCα(1-n)、ITGB8FUCα(1-n)、ITGA2B1FUCα(1-n)またはITGA3B1FUCα(1-n)のいずれかと組み合わせて使用した。これらの組み合わせにおいて、FUCα(1-n)は、FUCα(1-2)Gal、FUCα(1-3)GlcNAc、FUCα(1-4)GlcNAcまたはFUCα(1-6)GlcNAcのいずれか1つ、好ましくはFUCcα(1-2)GalまたはFUCα(1-6)GlcNAcのいずれか1つであり得る。
【0065】
いくつかの実施形態において、1以上のインテグリンFUCα(1-n)種、特にITGA1FUCα(1-2)GAL、ITGA2FUCα(1-2)GAL、ITGA3FUCα(1-2)GAL、ITGA4FUCα(1-2)GAL、ITGA5FUCα(1-2)GAL、ITGA6FUCα(1-2)GAL、ITGA11FUCα(1-2)GAL、ITGAVFUCα(1-2)GAL、ITGB1FUCα(1-2)GAL、ITGB2FUCα(1-2)GAL、ITGB3FUCα(1-2)GAL、ITGB4FUCα(1-2)GAL、ITGB5FUCα(1-2)GAL、ITGB8FUCα(1-2)GAL、ITGA2B1FUCα(1-2)GALおよびITGA3B1FUCα(1-2)GALからなる群から選択されるものを、前立腺がんのバイオマーカーとして使用した。
【0066】
いくつかの実施形態において、1以上のインテグリンFUCα(1-n)種、特にITGA6FUCα(1-2)GAL、ITGAVFUCα(1-2)GALおよびITGB3FUCα1-2GALからなる群から選択されるものを、腎細胞がんのバイオマーカーとして使用した。
【0067】
いくつかの実施形態において、ITGA4FUCα(1-n)、特にITGA4FUCα(1-2)GALを、大腸がんのバイオマーカーとして使用した。
【0068】
いくつかの実施形態において、1以上のインテグリンFUCα(1-n)種、特にITGA1FUCα(1-2)GAL、ITGA3FUCα(1-2)GAL、ITGA5FUCα(1-2)GAL、ITGA6FUCα(1-2)GAL、ITGA11FUCα(1-2)GAL、ITGAVFUCα(1-2)GAL、ITGAVFUCα(1-3)GlcNAc、ITGAVFUCα(1-4)GlcNAc、ITGAVFUCα(1-6)GlcNAc、ITGB1FUCα(1-2)GAL、ITGB2FUCα(1-2)GAL、ITGB4FUCα(1-2)GAL、ITGB5FUCα(1-2)GAL、ITGB8FUCα(1-2)GAL、ITGA2B1FUCα(1-2)GAL、ITGA2B1FUCα(1-3)GlcNAc、ITGA2B1FUCα(1-4)GlcNAc、ITGA2B1FUCα(1-6)GlcNAcおよびITGA3B1FUCα(1-2)GALからなる群から選択されるものを、膵臓がんのバイオマーカーとして使用した。
【0069】
いくつかの実施形態において、1以上のインテグリンFUCα(1-n)種、特にITGA1FUCα(1-2)GAL、ITGA3FUCα(1-2)GAL、ITGA4FUCα(1-2)GAL、ITGA11FUCα(1-2)GAL、ITGAVFUCα(1-2)GAL、ITGB1FUCα(1-2)GAL、ITGB2FUCα(1-2)GAL、ITGB4FUCα(1-2)GAL、ITGB5FUCα(1-2)GAL、ITGB8FUCα(1-2)GALおよびITGA3B1FUCα(1-2)GALからなる群から選択されるものを、卵巣がんのバイオマーカーとして使用した。
【0070】
いくつかの実施形態において、1以上のインテグリンFUCα(1-n)種、特にITGA1FUCα(1-2)GAL、ITGA2FUCα(1-2)GAL、ITGA3FUCα(1-2)GAL、ITGA5FUCα(1-2)GAL、ITGA11FUCα(1-2)GAL、ITGAVFUCα(1-2)GAL、ITGB1FUCα(1-2)GAL、ITGB2FUCα(1-2)GAL、ITGB4FUCα(1-2)GAL、ITGB5FUCα(1-2)GAL、ITGB8FUCα(1-2)GAL、ITGA2B1FUCα(1-2)GALおよびITGA3B1FUCα(1-2)GALからなる群から選択されるものを、乳がんのバイオマーカーとして使用した。
【0071】
いくつかの実施形態において、1以上のインテグリンFUCα(1-n)種、特にITGA1FUCα(1-2)GAL、ITGA2FUCα(1-2)GAL、ITGA3FUCα(1-2)GAL、ITGA4FUCα(1-2)GAL、ITGA5FUCα(1-2)GAL、ITGA6FUCα(1-2)GAL、ITGA11FUCα(1-2)GAL、ITGAVFUCα(1-2)GAL、ITGB1FUCα(1-2)GAL、ITGB2FUCα(1-2)GAL、ITGB5FUCα(1-2)GAL、ITGB8FUCα(1-2)GAL、ITGA2B1FUCα(1-2)GALおよびITGA3B1FUCα(1-2)GALからなる群から選択されるものを、肺がんのバイオマーカーとして使用した。
【0072】
いくつかの実施形態において、1以上のインテグリンFUCα(1-n)種、特にITGA1FUCα(1-2)GAL、ITGA3FUCα(1-2)GAL、ITGA6FUCα(1-2)GAL、ITGA11FUCα(1-2)GAL、ITGAVFUCα(1-2)GAL、ITGB5FUCα(1-2)GAL、ITGB8FUCα(1-2)GALおよびITGA3B1FUCα(1-2)GALからなる群から選択されるものを、頭頚部扁平上皮がんのバイオマーカーとして使用した。
【0073】
対象におけるがんの疾患状態を決定する方法が提供されるが、この方法では、当該対象から得られるサンプルが、FUCα(1-n)糖鎖構造を含む抗原提示細胞外小胞のレベル、またはFUCα(1-n)構造を含む抗原糖鎖バリアントのレベルのいずれかについてアッセイされる。第2工程においては、前記小胞または前記抗原糖鎖バリアントのアッセイされたレベルが、コントロールサンプルまたは事前に決定した閾値のレベルと比較される。その後、対象のがん疾患状態が、前記比較に基づいて決定される。いくつかの実施形態において、前記小胞または前記抗原糖鎖バリアントのレベル増加は、がんの指標である。いくつかの実施形態において、抗原は、インテグリン抗原、例えば、ITGA1、ITGA2、ITGA3、ITGA4、ITGA5、ITGA11、ITGAV、ITGB1、ITGB2、ITGB4、ITGB5、ITGB8、ITGA2B1またはITGA3B1である。いくつかの実施形態において、抗原は、好ましくはITGA3である。さらなるいくつかの実施形態において、抗原は、EpCAM、クローディン-4またはTrop2である。
【0074】
いくつかの実施形態において、対象におけるがんの疾患状態を決定する方法は、より具体的には、がんのスクリーニング、診断、予後判定および/またはモニタリング、および/またはがんの治療法の選択または割り付け、および/またはがん患者の層別化(デノボであるか、再発であるか、またはがんの疑いが有るかは問わない)の方法として定式化され得る。
【0075】
さらに、いくつかの実施形態において、FUCα(1-n)糖鎖構造を含む抗原提示細胞外小胞、またはFUCα(1-n)構造を含む可溶性抗原糖鎖バリアント(例えば、非MUC抗原糖鎖バリアント)を検出する方法が提供される。本方法は、以下の工程を含む:がんに罹患しているか、またはがんに罹患もしくは発症するリスクがあると疑われる対象から得たサンプルを、抗-抗原抗体(小胞または可溶性抗原の場合)または抗-非MUC1抗原抗体(可溶性非MUC1抗原の場合)およびFUCα(1-n)に特異的な糖鎖結合体と接触させることにより、FUCα(1-n)糖鎖構造を含む抗原提示細胞外小胞またはFUCα(1-n)構造を含む抗原糖鎖バリアントが、前記サンプル中に存在するか否かを検出する工程;ならびに前記糖鎖結合体の結合を検出する工程。いくつかの実施形態において、糖鎖結合体は、FUCα(1-n)(例えば、UEA-I、AOL、AALまたはLCA)に結合可能なレクチン、あるいは抗-FUCα(1-n)抗体(例えば、抗-FUCα(1-2)Gal抗体または抗-FUCα(1-6)GlcNAc抗体)である。あるいは、がんを有している対象、あるいはがんを有するかまたは発症するリスクがあると疑われる対象から得られたサンプルが、FUCα(1-n)糖鎖構造を含む前記抗原提示細胞外小胞またはFUCα(1-n)構造を含む前記抗原糖鎖バリアントを含有しているか否かの検出は、質量分析法、NMR分光法、電気泳動法またはクロマトグラフィー法を、任意の適切な組み合わせで用いることにより実施することができる。
【0076】
細胞外小胞(EV)は、細胞から自然に分泌される脂質二重層で覆われた粒子であって、後記に限定するものではないが血液、尿および脳脊髄液などの生体液中に存在する。EVは、親細胞由来のタンパク質、核酸、脂質および代謝産物を運び、その表面にインテグリン、ムチン(MUC1など)、クローディン-4、EpCAM、Trop2などの様々な抗原を提示する。しかし、これらの抗原は、抗原提示小胞上に構成されることなく、可溶性タンパク質として生体液中に見出される場合もある。従って、本方法は、それらが可溶性抗原の糖鎖バリアントとして存在するか、抗原提示小胞上に含まれるかに拘わらず、生物学的サンプル中の特定の糖鎖構造のレベルを決定することを包含する。従って、一例として、ITGA3FUCα1-2GALについてサンプルをアッセイすることとは、前記サンプルがFUCα(1-2)Gal糖鎖構造を含むITGA3種の存在についてアッセイされる場合だけでなく、前記サンプルがITGA3およびFUCα(1-2)Gal糖鎖構造の両方を表面に提示するEVについてアッセイされる場合も指す。後者は、抗-ITGA3抗体によって捕捉することができ、かつその表面にFUCα(1-2)Gal糖鎖構造を含んでいるEVについてサンプルをアッセイすることによって達成され得る。しかし、いくつかの実施形態は、抗原の可溶性糖鎖形態に特に関係し得るが、いくつかの他の実施形態は、EVによって提示される糖鎖構造に特に関係し得る。
【0077】
抗原上または抗原提示EV上のFUCα(1-n)構造の存在は、様々な方法により、特に、糖鎖結合体(例えば、レクチンまたは抗-糖鎖抗体)、質量分析、核磁気共鳴(NMR)分光法、電気泳動法またはクロマトグラフィー法を任意の適切な組み合わせで用いることにより決定することができる。
【0078】
レクチンは、多くの植物、特に種子に存在しており、また菌類、細菌および動物に存在する炭水化物結合タンパク質の一群である。例えば、Ulex europaeus アグルチニン-I(UEA-I)、別名Ulex europaeus アグルチニン-1(UEA-1)は、糖鎖構造FUCα1-2Galに親和性を有する68kDaのフコース結合性植物レクチンである。本出願の内容から、用語「UEA」、「UEA-I」および「UEA-1」は、互換可能なように使用される。別の例として、Aspergillus oryzae由来のレクチン(AOL)は、FUCα(1-n)、特にFUCα(1-n)Gal/GlcNAc(式中のnは、2、3、4または6のいずれかである)に親和性を有する。より具体的には、AOLは、FUCα(1-2)Gal、FUCα(1-3)GlcNAc、FUCα(1-4)GlcNAc、特にFUCα(1-6)GlcNAcに親和性を有する。別の例として、Aleuria aurantia レクチン(AAL)は、FUCα(1-n)、特にFUCα(1-3)GlcNAcおよびFUCα(1-6)GlcNAcに親和性を有する。Lens culimaris アグルチニン-A(LCA)もまた、FUCα(1-6)GlcNAcに対する親和性を有する。
【0079】
従って、いくつかの実施形態において、抗原本体上、即ち抗原上、好ましくは非MUC1抗原上または抗原提示EV上のFUCα(1-n)残基、特にFUCα(1-2)Gal構造のレベルの決定は、UEA-Iを活用することで、特に非MUC1抗原のUEA-I結合種の検出に基づいて(例えば、トレーサーとしてUEA-Iを使用することによって)実施することができる。従って、抗原FUCα(1-2)GaLという用語には、前記抗原のUEA-Iレクチン結合種が包含され、これは「抗原UEA-I」という用語で呼ばれる場合がある。しかし、「抗原UEA-I」という用語は、適用または使用される検出技術に限定されることなく、UEA-Iと結合する能力を有する前記抗原の任意の糖鎖バリアントを指す。言い換えれば、UEA-Iを用いる技術だけでなく、UEA-Iと類似または重複する結合特異性により前記抗原のUEA-I結合種を認識する能力を有するUEA-I以外のレクチンを用いる技術などの別の技術により、抗原UEA-Iを検出またはアッセイすることができる。様々なレクチンの特異性、つまり本目的への適合性は当業者には知られている。
【0080】
同様に、いくつかの実施形態において、抗原本体上、即ち抗原上または抗原提示EV上のFUCα(1-n)構造のレベルの決定は、AOLを活用することで、特に抗原のAOL結合種の検出に基づいて(例えば、トレーサーとしてAOLを使用することにより)実施することができる。従って、抗原FUCα(1-n)という用語には、前記抗原のAOLレクチン結合種が包含され、これは「抗原AOL」という用語で呼ばれる場合がある。しかし、「抗原AOL」という用語は、適用または使用される検出技術に限定されることなく、AOLと結合する能力を有する前記抗原の任意の糖鎖バリアントを指す。言い換えれば、AOLを用いる技術だけでなく、AOLと類似または重複する結合特異性により前記抗原のAOL結合種を認識する能力を有するAOL以外のレクチンを用いる技術などの別の技術により、抗原AOLを検出またはアッセイすることができる。様々なレクチンの特異性、つまり本目的への適合性は当業者には知られている。
【0081】
同様に、いくつかの実施形態において、抗原本体上、即ち抗原上または抗原提示EV上のFUCα(1-n)残基、特にFUCα(1-6)GlcNAc構造のレベルの決定は、AALまたはLCAを活用することによって、特に抗原のAALまたはLCA結合種の検出に基づいて(例えば、トレーサーとしてAALまたはLCAを各々用いることにより)実施することができる。従って、抗原FUCα(1-n)という用語には、前記抗原のAALまたはLCAレクチン結合種が包含され、これは各々「抗原AAL」および「抗原LCA」という用語で呼ばれる場合がある。しかし、「抗原AAL」という用語は、適用または使用される検出技術に限定されることなく、AALと結合する能力を有する前記抗原の任意の糖鎖バリアントを指す。言い換えれば、AALを用いる技術だけでなく、AALと類似または重複する結合特異性により前記抗原のAAL結合種を認識する能力を有するAAL以外のレクチンを用いる技術などの別の技術により、抗原AALを検出またはアッセイすることができる。同様の事が「抗原LCA」にも適用される。様々なレクチンの特異性、つまり本目的への適合性は当業者には知られている。
【0082】
FUCα(1-2)Gal構造に特異的な抗-糖鎖抗体は、任意の抗原FUCα(1-2)Galまたは抗原UEA-I糖鎖を検出するための結合分子として用いることもできる。従って、「抗原UEA-I」という用語は、UEA-Iに基づく技術によって検出される抗原のUEA-I結合種に限定されるものではなく、UEA-1に結合する能力を有するが、FUCα(1-2)Galを含む糖鎖構造に特異的な抗-糖鎖抗体などの別の糖鎖結合体を用いることによって検出される抗原種もまた包含する。
【0083】
同様に、FUCα(1-n)構造に特異的な抗-糖鎖抗体は、抗原FUCα(1-n)または抗原AOL糖鎖を検出するための結合分子として用いることもできる。従って、「抗原AOL」という用語は、AOLに基づく技術によって検出される抗原のAOL結合種に限定されるものではなく、AOLに結合する能力を有するが、FUCα(1-n)を含む糖鎖構造、特にFUCα(1-2)GalまたはFUCα(1-6)GlcNAcに特異的な抗-糖鎖抗体などの別の糖鎖結合体を用いることによって検出される抗原種もまた包含する。
【0084】
同様に、FUCα(1-n)構造に特異的な抗-糖鎖抗体は、抗原FUCα(1-n)または抗原AAL糖鎖形態を検出するための結合分子として用いることもできる。従って、「抗原AAL」という用語は、AALに基づく技術によって検出される抗原のAAL結合種に限定されるものではなく、FUCα(1-n)を含む糖鎖構造、特にFUCα(1-3)GlcNAcまたはFUCα(1-6)GlcNAcに特異的な抗-糖鎖抗体などの別の糖鎖結合体を用いることによって検出されるAALに結合する能力を有する抗原種もまた包含する。
【0085】
同様に、FUCα(1-n)構造に特異的な抗-糖鎖抗体は、抗原FUCα(1-n)または抗原LCA糖鎖形態を検出するための結合分子として用いることもできる。従って、「抗原LCA」という用語は、LCAに基づく手法によって検出される抗原のLCA結合種に限定されるものではなく、LCAに結合する能力を有するが、FUCα(1-n)、特にFUCα(1-6)GlcNAcを含む糖鎖構造に特異的な抗-糖鎖抗体などの別の糖鎖結合体を用いることによって検出される抗原種もまた包含する。
【0086】
さらに、質量分析法、NMR分光法、電気泳動法および/またはクロマトグラフィー法は、任意の抗原またはEV(即ち、抗原本体)上のFUCα(1-n)Gal構造などの任意の糖鎖構造の有無を決定するために用いることができる。
【0087】
上述のように、「インテグリンUEA-I」(即ち、ITGUEA-I)、「クローディン-4UEA」、「EpCAMUEA-I」および「Trop2UEA-I」という用語は、検出技術を限定することなく、各々インテグリン、クローディン-4、EpCAMおよびTrop2のUEA-Iレクチン結合種を指す。対応する用語は、その他の抗原、特異的インテグリン類またはそのサブユニット(例えば、インテグリンαサブユニットのITGA1UEA-I、ITGA2UEA-I、ITGA3UEA-I、ITGA4UEA-I、ITGA5UEA-I、ITGA6UEA-I、ITGA11UEA-IおよびITGAVUEA-I、ならびにインテグリンβサブユニットのITGB1UEA-I、ITGB2UEA-I、ITGB6UEA-I、ITGB4UEA-I、ITGB5UEA-IおよびITGB8UEA-I、ならびにヘテロダイマーインテグリンのITGA2B1UEA-IおよびITGA3B1UEA-Iが挙げられるが、これらに限定するものではない)にも適用される。「抗原FUCα(1-2)GaL」および「抗原UEA-I」という用語が互換可能であることから、対象のがんの疾患状態の決定は、いくつかの実施形態において、1以上の抗原FUCα(1-2)GAL種、例えばITGA1FUCα(1-2)GAL、ITGA2FUCα(1-2)GAL、ITGA3FUCα(1-2)GAL、ITGA4FUCα(1-2)GAL、ITGA5FUCα(1-2)GAL、ITGA6FUCα(1-2)GAL、ITGA11FUCα(1-2)GAL、ITGAVFUCα(1-2)GAL、ITGB1FUCα(1-2)GAL、ITGB2FUCα(1-2)GAL、ITGB3FUCα(1-2)GAL、ITGB4FUCα(1-2)GAL、ITGB5FUCα(1-2)GAL、ITGB8FUCα(1-2)GAL、ITGA2B1FUCα(1-2)GAL、ITGA3B1FUCα(1-2)GAL、クローディン-4FUCα(1-2)GAL、EpCAMFUCα(1-2)GALおよびTrop2FUCα(1-2)GALを任意に組み合わせて、前記対象から得られたサンプルをアッセイすることに基づく。
【0088】
同様に、「インテグリンAOL」(即ち、ITGAOL)という用語は、例えば、検出技術を限定することなく、インテグリンのAOL結合種を指す。対応する用語は、その他の抗原、特異的インテグリン類またはそのサブユニット(例えば、ITGA1AOL、ITGA2AOL、ITGA3AOL、ITGA4AOL、ITGA5AOL、ITGA6AOL、ITGA11AOLおよびITGAVAOL、ITGB1AOL、ITGB2AOL、ITGB6AOL、ITGB4AOL、ITGB5AOL、ITGB8AOL、ITGA2B1AOLおよびITGA3B1AOLが挙げられるが、これらに限定するものではない)にも適用される。「抗原FUCα(1-n)」および「抗原AOL」という用語が互換可能であることから、対象のがんの疾患状態の決定は、いくつかの実施形態において、1以上の抗原FUCα(1-n)種、例えば、ITGA1FUCα(1-n)、ITGA2FUCα(1-n)、ITGA3FUCα(1-n)、ITGA4FUCα(1-n)、ITGA5FUCα(1-n)、ITGA6FUCα(1-n)、ITGA11FUCα(1-n)、ITGAVFUCα(1-n)、ITGB1FUCα(1-n)、ITGB2FUCα(1-n)、ITGB3FUCα(1-n)、ITGB4FUCα(1-n)、ITGB5FUCα(1-n)、ITGB8FUCα(1-n)、ITGA2B1FUCα(1-n)、ITGA3B1FUCα(1-n)、クローディン-4FUCα(1-n)、EpCAMFUCα(1-n)およびTrop2FUCα(1-n)を任意に組み合わせて、前記対象から得られたサンプルをアッセイすることに基づく。
【0089】
いくつかの実施形態において、AALおよび/またはLCAは、対象のがんの疾患状態を決定するためにUEA-Iおよび/またはAOLの代わりに使用され得るか、またはUEA-Iおよび/またはAOLに加えて使用され得る。いくつかの実施形態において、前記方法は、前記対象から得られたサンプルを、ITGAALおよび/またはITGLCA、例えば、後記に限定しないが、ITGA1AAL、ITGA2AAL、ITGA3AAL、ITGA4AAL、ITGA5AAL、ITGA6AAL、ITGA11AAL、ITGAVAAL、ITGB1AAL、ITGB2AAL、ITGB6AAL、ITGB4AAL、ITGB5AAL、ITGB8AAL、ITGA2B1AAL、ITGA3B1AAL、ITGA1LCA、ITGA2LCA、ITGA3LCA、ITGA4LCA、ITGA5LCA、ITGA6LCA、ITGA11LCA、ITGAVLCA、ITGB1LCA、ITGB2LCA、ITGB6LCA、ITGB4LCA、ITGB5LCA、ITGB8LCA、ITGA2B1LCAおよびITGA3B1LCAについてアッセイすることに基づく。
【0090】
上記に従い、本発明は、対象から得られたサンプルを、抗原FUCα(1-n)についてアッセイすることにより、対象のがんの疾患状態を決定する方法を提供する。サンプル中の前記抗原FUCα(1-n)のレベルが、コントロールサンプルまたは事前に決定した閾値と比較して増加することは、前記対象ががんを有するか、またはがんを有するリスクがあることを示す。一方で、前記サンプル中の抗原FUCα(1-n)が、コントロールサンプルまたは事前に決定した閾値と比較して増加しないか、または通常のレベルであることは、前記対象が、がんに関して見かけ上健康であるか、あるいはがんを有しないか、またはがんを発症するリスクが無いことを示す。
【0091】
同様に、本発明は、抗原の表面にFUCα(1-n)糖鎖構造を含む抗原提示EVについて、前記対象から得られたサンプルを、アッセイすることにより、対象のがんの疾患状態を決定する方法を提供するものであって、前記抗原は、好ましくは、ITGA1、ITGA2、ITGA3、ITGA4、ITGA5、ITGA6、ITGA11、ITGAV、ITGB1、ITGB2、ITGB3、ITGB4、ITGB5、ITGB8、ITGA2B1およびITGA3B1などのインテグリン、クローディン-4、EpCAM、Trop2、ならびにMUC1などのムチンから選択される。コントロールサンプルまたは事前に決定した閾値と比較して、前記サンプル中の前記EVのレベルが増加することは、前記対象が、がんを有するか、またはがんを有するリスクがあることを示す。一方、コントロールサンプルまたは事前に決定した閾値と比較して、前記サンプル中のEVのレベルが増加しないか、または正常レベルであることは、前記対象が、がんに関して見かけ上健康であるか、あるいはがんを有するリスクまたは発症するリスクがないことを示す。
【0092】
いくつかの実施形態において、対象におけるがんの疾患状態を決定する本方法はまた、対象が、がんを有しているか、あるいはがんを有するリスクまたは発症するリスクがあることを同定する方法としてもまた定式化され、本方法は、a) 対象から得られたサンプルにおいて、FUCα(1-n)糖鎖構造を含む抗原提示細胞外小胞のレベルまたはFUCα(1-n)構造を含む抗原糖鎖バリアントのレベルを決定する工程;b) 前記対象の前記小胞または前記抗原糖鎖の決定されたレベルを、コントロールサンプル中の対応する小胞または抗原糖鎖のレベルと比較する工程;ならびにc) 前記比較に応答して、対象におけるがんの存在またはがんのリスクを決定する工程を含んでおり、前記コントロールサンプル中の小胞または抗原糖鎖バリアントのレベルと比較して、対象から得られたサンプル中の前記小胞または前記抗原糖鎖バリアントのレベルが増加することは、対象が、がんを有するか、またはがんを有するリスクまたは発症するリスクがあることを示す。
【0093】
抗原FUCα(1-n)アッセイを、従来のイムノアッセイによって認識可能な同種抗原についてもアッセイすることにより補完することにより、本方法の感度が改善することが想定され得る。つまり、例えば、ITGA3FUCα(1-n)のアッセイに関する方法の感度は、ITGA3を別のバイオマーカーとして本方法に含めることによって改善される可能性がある。従って、ITGA3FUCα(1-n)に関するいくつかの例示的な実施形態において、対象のがん疾患状態を決定する方法は、ITGA3FUCα(1-n)について前記対象から得られたサンプルをアッセイする工程;ならびにITGA3濃度について前記対象から得られた同じサンプルまたは異なるサンプルを従来通りアッセイする工程を含み得る。代替的または追加的に、本方法は、当該がんに適切な任意の従来のがんバイオマーカーについてアッセイすることをさらに含み得る。例えば、以下に限定するものではないが、BlCaに対する適切な従来のがんバイオマーカーはMUC1であり、PanCaに対する適切な従来のがんバイオマーカーはCA19-9である。あらゆるがんに対する適切な従来のバイオマーカーは、当業者に十分に知られている。
【0094】
本発明のいくつかの実施形態に至る実験では、小麦胚芽アグルチニン(WGA)およびヘリックス・ポマチア・アグルチニン(HPA)(Helix pomatia agglutinin (HPA))というレクチンならびに抗-Tn抗原抗体(Tn-AB)が、良性コントロール群と、低リスク群または中間および高リスク群に層別化されたBlCa患者由来のムチン1(MUC1)との間で有意な識別能(p<0.05)を示した。MUC1WGAについてサンプルをアッセイすることにより、低リスク群に層別化された対象は、良性コントロール群とp値0.01463にて区別され、中および高リスク群に層別化された対象は、良性コントロール群とp値0.02118にて区別された。MUC1Tn-ABについてサンプルをアッセイすることにより、膀胱がん対象で低リスク群または中間および高リスク群に層別化された対象は、良性コントロールと区別でき、各々のp値はp=0.01831およびp=0.00212であった。MUC1WGAおよびMUC1Tn-ABアッセイのデータを組み合わせたロジスティック回帰モデルを構築することにより、識別力はさらに改善された。このモデルを用いると、低リスク群に層別化された対象は、良性コントロール群とp=0.00508のp値で区別でき、中および高リスク群の対象は、良性コントロールとp=0.00118のp値で区別できた。従来のMUC1-MUC1免疫測定法でも、低リスク群または中および高リスク群と、良性コントロール群を、各々p=0.04006およびp=0.03216のp値にて識別した。しかし、上記のMUC1アッセイまたはモデルは、いずれも低リスク群と中および高リスク群を識別することはできなかった(即ちp値は、p≧0.05であった)。興味深いことに、MUC1HPAアッセイは、良性コントロール群と低リスクBlCa群との間に有意な識別能を提供し(p=0.03362)、低リスクBlCa群と中および高リスクBlCa群との間においては、有意に近い識別能を示した(p=0.0548)。従って、MUC1HPAは、おそらく本明細書に開示されたものを含む他のバイオマーカーと組み合わせて、患者の層別化を可能にし得る。
【0095】
小麦胚芽アグルチニン(WGA)は、小麦に含まれる36kDaのレクチンである。それは、N-アセチルグルコサミン(GlcNAc)とシアル酸(NeuNAc)に結合する。コハク化WGAは、GlcNAcと選択的に結合する。従って、「MUC1WGA」という用語は、適用または使用される検出技術に限定されることなく、WGAと結合する能力を有するMUC1の任意の糖鎖バリアントを指す。言い換えれば、MUC1WGAは、WGAを用いる技術のみならず、例えば、WGAで認識可能な糖鎖構造に特異性を有する抗-糖鎖抗体を用いる技術または質量分析法などの別の技術によっても検出またはアッセイすることができる。さらに、レクチンの特異性は重複する場合があるので、MUC1のWGA結合種を認識できるその他のレクチンを用いてMUC1WGAをアッセイすることもできる。この目的に適切なレクチンは、当業者に知られている。
【0096】
Helix pomatia アグルチニン(HPA)は、カタツムリのアルブメン腺に存在する79 kDaのN-アセチルガラクトサミン(GalNAc)結合レクチンである。従って、「MUC1HPA」という用語は、適用または使用される検出技術に限定されることなく、HPAと結合する能力を有するMUC1の任意の糖鎖バリアントを指す。言い換えれば、任意のMUC1HPAは、HPAを用いる技術だけでなく、例えば、HPAによって認識可能な糖鎖構造に対する特異性を有する抗-糖鎖抗体を用いる技術または質量分析法などの別の技術によっても検出またはアッセイすることができる。また、レクチンの特異性は重複する場合があるので、MUC1のHPA結合種を認識できるその他のレクチンを用いてMUC1HPAをアッセイすることもできる。この目的に適したレクチンは当業者に知られている。
【0097】
Tn抗原(Tn)とは、セリンまたはスレオニンにグリコシド結合で結合した単糖構造N-アセチルガラクトサミン(GalNAc)を指す。Tn抗原は、多くのヒトがんで異常発現するネオ抗原である。Tn抗原は、様々な製造業者から入手可能な抗体によって標的とすることができる。従って、「MUC1Tn-AB」という用語は、適応または使用される検出技術に限定されることなく、抗-Tn抗原抗体と結合する能力を有するMUC1の任意の糖鎖バリアントを指す。言い換えると、MUC1Tn-ABは、抗-Tn抗原抗体を用いる技術のみならず、例えば、Tn抗原に特異的なレクチンを用いる技術または質量分析などの別の技術によっても検出またはアッセイすることができる。
【0098】
いくつかの実施形態において、インテグリンFUCα1-nGALアッセイ、例えば、ITGA3FUCα(1-n)アッセイを、MUC1結合体、クローディン-4結合体、EpCAM結合体および/またはTrop2結合体と組み合わせて使用し、そのパフォーマンスを補足することが有利であると考えられる。その他のいくつかの実施形態では、MUC1結合体、クローディン-4結合体、EpCAM結合体および/またはTrop2結合体アッセイを、インテグリンFUCα(1-n)アッセイを行わずに使用して、BlCa患者などのがん患者を、良性または見かけ上健康なコントロールと区別することができる。好ましくは、MUC1結合体は、MUC1WGA、MUC1Tn-ABまたはMUC1HPAであるが、レクチン、抗-糖鎖抗体またはMUC1のその他の糖鎖結合体-結合種のいずれか1つ以上であってもよい。好ましくは、クローディン-4結合体は、クローディンFUCα(1-2)GALであるが、クローディン-4のレクチン、抗-糖鎖抗体またはその他の糖鎖結合体-結合種のいずれか1つ以上であってもよい。好ましくは、EpCAM結合体は、EpCAMFUCα(1-2)GALであるが、EpCAMのレクチン、抗-糖鎖抗体またはその他の糖鎖結合体-結合種のいずれか1つ以上であってもよい。好ましくは、Trop2結合体は、Trop2FUCα(1-2)GALであるが、Trop2のレクチン、抗-糖鎖抗体または糖鎖結合体-結合種のいずれか1つ以上であってもよい。言い換えれば、一般的な用語、「MUC1結合体」、「クローディン-4結合体」、「EpCAM結合体」および「Trop2結合体」における「結合体」とは、好ましくは、UEA-I、AAL、AOL、LCA、SBA、SNA、GSL-1、DC-SIGN、WGA、BPL、DSL、HPAおよびTnに特異的なレクチン類からなる群から選択される1つ以上のレクチンによるか、または前記レクチンと同じ糖鎖構造に特異的なその他の糖鎖結合体(例えば、抗-糖鎖抗体)により認識することができる任意の糖鎖構造を指すことができる。
【0099】
本発明の方法は、上記の特定の抗原の組み合わせについてアッセイするものに限定されるものではなく、1以上のインテグリンタンパク質抗原、例えば、ITGA1、ITGA2、ITGA3、ITGA4、ITGA5、ITGA6、ITGA11、ITGAV、ITGB1、ITGB2、ITGB3、ITGB4、ITGB5、ITGB8、ITGA2B1、ITGA3B1に対する従来通りのアッセイを組合せて、または組合せずに、1以上の抗原FUCα(1-n)種、例えば、ITGA1FUCα(1-n)、ITGA2FUCα(1-n)、ITGA3FUCα(1-n)、ITGA4FUCα(1-n)、ITGA5FUCα(1-n)、ITGA6FUCα(1-n)、ITGA11FUCα(1-n)、ITGAVFUCα(1-n)、ITGB1FUCα(1-n)、ITGB2FUCα(1-n)、ITGB3FUCα(1-n)、ITGB4FUCα(1-n)、ITGB5FUCα(1-n)、ITGB8FUCα(1-n)、ITGA2B1FUCα(1-n)およびITGA3B1FUCα(1-n)についてアッセイすることを含み得ることを理解されたい。好ましくは、FUCα(1-n)は、FUCα(1-2)GalまたはFUCα(1-6)GlcNAcである。この方法は、任意の1以上のITGA1結合体、ITGA2結合体、ITGA3結合体、ITGA4結合体、ITGA5結合体、ITGA6結合体、ITGA11結合体、ITGAV結合体、ITGB1結合体、ITGB2結合体、ITGAB3結合体、ITGB4結合体、ITGB5結合体、ITGB8結合体、ITGA2B1結合体、ITGA3B1結合体、EpCAM結合体、クローディン-4結合体、Trop2結合体およびMUC1結合体についてアッセイすることをさらに含み、前記「結合体」は、好ましくは、UEA-I、AAL、AOL、LCA、SBA、SNA、GSL-1、DC-SIGN、WGA、BPL、DSL、HPAおよびTnに特異的なレクチンからなる群から選択される1つ以上のレクチンによって認識可能な任意の糖鎖構造、または前記レクチンと同じ糖鎖構造に特異的な抗-糖鎖抗体などのその他の糖鎖結合体を指す場合がある。好ましくは、EpCAM結合体は、EpCAMFUCα(1-2)GALである。好ましくは、クローディン-4結合体は、クローディンFUCα(1-2)GALである。好ましくは、Trop2結合体は、Trop2FUCα(1-2)GALである。好ましくは、MUC1結合体は、MUC1WGA、MUC1Tn-ABまたはMUC1HPAである。
【0100】
いくつかの実施態様において、本方法は、治療的介入をさらに含むことができる。対象が、がんを有するか、またはがんを発症するリスクがあると決定されると、その対象に、有効であると予測されるがん治療を実施することができる。このような方法は、異なる方法において処方される場合がある。例えば、いくつかの実施形態において、本発明は、対象が、がんを有するか、またはがんを有するリスクがあるか、もしくはがんを発症するリスクがあることを決定する方法を提供するものであって、該方法は、下記工程を含んでいる: a) 該対象から得られたサンプル中のFUCα(1-n)糖鎖構造を含む抗原提示細胞外小胞のレベルまたはFUCα(1-n)構造を含む抗原糖鎖バリアントのレベルを決定する工程;b) 対象の前記小胞または前記抗原糖鎖バリアントの決定されたレベルを、コントロールサンプル中の対応する小胞または抗原糖鎖バリアントのレベルと比較する工程;c) 前記比較に対する応答により、対象におけるがんの存在またはがんのリスクを決定する工程であって、ここでコントロールサンプル中の前記小胞または前記抗原糖鎖バリアントのレベルと比較して、対象から得られたサンプル中の小胞または抗原糖鎖バリアントのレベルが増加することは、前記対象が、がんを有するか、またはがんを発症するリスクがあることを示している;ならびにd) 対象にがんの治療を提供する工程。
【0101】
本明細書で使用される場合、「治療」および「処置」などの用語は、がんの緩和、軽減、抑制または治癒を包含し得る目的で、がんの治療が必要な対象にがんの治療を提供することを指す。がんの治療には、手術、化学療法、放射線療法、免疫療法または標的化療法(例えば、低分子阻害剤による治療)から選択される1以上の治療が挙げられる。
【0102】
上記に従い、本方法は、いくつかの実施形態において、がんの診断(即ち、対象が、がんを有するか、またはがんを有するリスクまたは発症するリスクがあるか否かの決定)に関する。これは、がんの存在またはリスクを最終的に決定するものではないが、さらなる診断的検査が妥当でありとみなされる場合を含むことも意味する。このような実施形態では、本方法は、それ自体で対象におけるがんの有無、またはがんのリスクを決定するものではないが、診断的検査が必要であるか、または有益であることを示し得る。従って、本方法は、対象におけるがんの有無またはリスクを最終的に決定するために、1つまたは複数のその他の診断方法と組み合わせることができる。その他の診断法は、当業者にはよく知られている。
【0103】
非侵襲的であって、分析に適しているため(例えば、尿および血清サンプルなど)、本方法とその様々な実施形態は、がんを有するか、またはがんを有するリスクまたは発症するリスクのある対象を同定するための集団スクリーニングプロトコールに容易に組み込むことができる。これにより、がんの早期診断が可能になるだけでなく、高齢になってがんを発症するリスクが高いことが同定された対象のがん発症に対する積極的な監視も可能になる。さらに、がんを早期に発見することで、治癒の可能性が最も高い時期に早期に治療することができる。
【0104】
本方法およびその様々な実施形態は、診断目的だけでなく、がんの予後もしくは転帰の予測、またはがんの発症、がんのリスクにおける任意の進展、対象のがんからの回復もしくは生存、疾患の可能性のある再発もしくは再燃、または治療に対する反応をモニタリングするためにも使用することができる。いくつかの実施形態において、本方法は、上記のようなITGA3FUCα(1-n)などのインテグリンFUCα(1-n)のレベルを、MUC1結合体、EpCAM結合体、クローディン-4結合体、Trop2結合体、ITGA3などのインテグリンおよびMUC1からなる群から選択される1つまたは複数の別のバイオマーカーのレベルと、異なる時点で同じ対象から得られた1つまたは複数のその他のサンプルにおける各レベルを同時に用いるか、または用いずに比較することによって、前記対象におけるがんをモニタリングすることを含む。モニタリングに用いられ得るサンプルには、がんの診断後、および/またはがんを緩和または治癒するための、例えば、手術、放射線療法、化学療法、任意のその他の適切な治療的処置またはそれらの任意の組み合わせによる治療的介入の前、最中および後の異なる時点で採取されたサンプルが含まれるが、これらに限定されない。いくつかの実施形態において、前記モニタリングは、異なる時点において少なくとも2回アッセイ工程を繰り返すことによって実施され、前記時点は、上記の時点から互いに独立して選択される。いくつかの実施形態において、モニタリングは、がんの治療中または治療後に実施され、および/または本方法は、バイオマーカーの少なくとも1つのレベルが、同じ対象から得られた1つまたは複数の過去のサンプルよりも高いか、関連するコントロールよりも高いか、または事前に決定した閾値以上である場合に、前記対象ががんの再発または再帰を示すか、またはがんの再発または再帰のリスクがあると決定することを含む。
【0105】
いくつかの実施形態において、本方法は、がんの早期診断、およびがんの再発、再帰および進行の早期検出に特に適している。従って、ITGA3FUCα(1-n)などのインテグリンFUCα(1-n)は、所望により、MUC1結合体、EpCAM結合体、Trop2結合体、ITGA3などのインテグリンおよびMUC1からなる群から選択される1つまたは複数のバイオマーカーと組み合わせて、がんの早期腫瘍マーカーとしてだけでなく、がんの再発、再帰および/または進行に関する腫瘍マーカーとしても機能し得る。従って、本方法および本明細書において開示されるバイオマーカーの組み合わせは、診断、予後、モニタリングの目的だけでなく、無症状の対象のがんまたはがん発症リスクのスクリーニングにも使用することができる。
【0106】
簡略化のため、本明細書に開示される従来のがん関連バイオマーカー、即ちインテグリン、MUC1、クローディン-4、EpCAMまたはTrop2は、総称して「GlycoProt」という用語で呼ばれ、一方でレクチン、抗-糖鎖抗体またはその他の糖鎖結合体の結合糖鎖形態は、総称して「GlycoProt結合体」という用語で呼ばれる。当該実施形態に応じて、用語は、当業者に容易に理解されるように、その各用語によって包含される1つまたは複数のバイオマーカーまたは糖鎖形態を指し得る。好ましいGlycoProt結合体種としては、インテグリンFUCα(1-n)、MUC1WGA、MUC1Tn-AB、MUC1HPA、クローディン-4FUCα(1-2)GAL、EpCAMFUCα(1-2)GALおよびTrop2FUCα(1-2)GALが挙げられるが、これらに限定されない。
【0107】
上記の用語に従い、「GlycoProt結合体」という用語は、その表面に結合体構造を持つGlycoProt提示EVも包含するが、必ずしも当該GlycoProt上にある必要はない。前記EVの好ましい例には、FUCα(1-n)構造を、表面に持つインテグリン提示小胞が含まれる。さらに好ましい小胞種には、FUCα(1-2)構造とともに表面にクローディン-4、EpCAMおよび/またはTrop2を提示するEVが含まれる。さらに好ましい小胞種としては、WGA、HPAまたはTn-ABに結合可能な1つ以上の糖鎖構造とともにMUC1をその表面に提示するものが含まれる。
【0108】
本明細書に開示された任意のGlycoProt結合体についてサンプルをアッセイすることは、当技術分野で利用可能な任意の手段、方法または技術によって実施され得る。非限定的な好ましい例は、当該糖鎖構造に特異的な結合分子へのGlycoProtまたはGlycoProt提示EVの結合レベルを決定することである。いくつかの実施形態において、結合分子は、レクチンまたは抗-糖鎖抗体である。これは、GlycoProtに特異的な結合分子、例えば、抗-GlycoProt抗体、好ましくはモノクローナル抗体を捕捉剤として使用し、また当該糖鎖結合体、例えば、レクチンまたは抗-糖鎖抗体をトレーサーとして使用するサンドイッチアッセイによって実施することができる。トレーサーとして使用する場合、当該糖鎖結合体は、直接的または間接的のいずれかに、検出可能に標識されていてもよい。
【0109】
その他のいくつかの実施形態では、サンドイッチアッセイを、逆の方法を用いて実施してもよい。その場合、当該糖鎖結合体、例えば、レクチンまたは抗-糖鎖抗体は、捕捉剤として使用され、GlycoProtに特異的な結合分子(例えば、抗体、好ましくはモノクローナル抗体)が、直接または間接的に検出可能に標識されたトレーサーとして使用される。尿は、血液よりも干渉する糖鎖分子を含まないので、逆サンドイッチアッセイは、血液サンプルよりも尿サンプルの方が良好に操作できる場合がある。
【0110】
注目すべきことに、サンドイッチアッセイは、アッセイされる糖鎖構造のレベルが、可溶性抗原上にあるか、抗原提示小胞上にあるかに関係なく適用することができる。
【0111】
いくつかの実施形態では、サンドイッチアッセイは、捕捉工程の後に、捕捉剤に特異的でない糖鎖抗原種またはGlycoProt提示EVを除去するために、1回以上の洗浄工程を含む場合がある。適切な洗浄および条件(例えば、時間および温度)は、当業者に知られている。
【0112】
本発明の様々な実施形態によるサンドイッチアッセイは、マイクロタイタープレートのような固体表面上で、またはラテラルフロー形式いずれかにおいて実施することができる。捕捉剤を固体表面に結合させるための手段および方法(例えば、ストレプトアビジン-ビオチン複合体を介して)、または捕捉剤をラテラルフローアッセイに組み込むための手段および方法は、当技術分野において公知であり、当業者には容易に明らかである。
【0113】
本発明の固相サンドイッチアッセイで使用するのに適した基材としては、ガラス、シリカ、アルミノケイ酸塩、ホウケイ酸塩、金属酸化物(例えば、アルミナおよび酸化ニッケル)、金、各種粘土、ニトロセルロースまたはナイロンなどが挙げられるが、これらに限定されない。上記に示したように、いくつかの実施形態において、基材は、基材への捕捉剤(即ち、GlycoProt結合体または糖鎖結合体のいずれか)の結合を増強するために、適切な化合物でコーティングされ得る。さらにいくつかの実施形態では、1つまたは複数のコントロール結合体(例えば、コントロール抗体またはコントロールレクチンなど)も基質と結合することができる。
【0114】
任意の1つまたは複数の、好ましくはモノクローナル抗-GlycoProt抗体を、捕捉剤またはトレーサーとして上記のサンドイッチアッセイに使用することができる。適切な市販の抗-ITGA3抗体の非限定的な例としては、少なくともR&D Systems社(Abingdon, UK)から入手可能なIA3が挙げられ、適切な市販の抗-EpCAM抗体の非限定的な例としては、少なくともR&D Systems社(Abingdon、UK)から入手可能なクローン158206が挙げられる。適切な市販の抗-MUC1抗体の非限定的な例としては、少なくともFujirebio Diagnostics社から入手可能なMa552およびMa695が挙げられる。適切な市販の抗-ITGAV抗体の非限定的な例としては、少なくともR&D Systems社(Abingdon, UK)から入手可能な273210が挙げられる。適切な市販の抗-クローディン-4抗体の非限定的な例としては、少なくともR&D Systems社(Abingdon, UK)から入手可能な382321が挙げられる。さらなるGlycoProtに特異的なモノクローナル抗体は、当技術分野でよく知られている方法に従って製造することができる。トレーサーとして使用するために、抗-GlycoProt抗体は、当技術分野において既知のあらゆる適切な標識、例えば、以下に限定しないが蛍光標識、生体発光標識、化学発光体標識を用いて標識されてもよい。いくつかの実施形態において、前記抗-GlycoProt抗体は、検出可能に間接的に標識されていてもよい(例えば、検出可能なナノ粒子との固定化により)。
【0115】
抗-糖鎖抗体は、複数の供給元から市販されている。適切な市販の抗-Tn抗原抗体の非限定的な例としては、少なくともSBH Sciences社(Natick, MA, USA)から入手可能なSBH-Tnがある。レクチンは、複数の供給元から市販されている。非限定的な例としては、ThermoFischer Scientific社から入手可能なHPAおよびVectorlabs社(Burlingame, CA)から入手可能なWGAがある。
【0116】
トレーサーとして使用するために、レクチンまたは抗-糖鎖抗体などの糖鎖結合体は、当技術分野で周知の様々な方法で検出可能に標識することができる。いくつかの実施形態では、GlycoProt結合体のレベルについてサンプルをアッセイするために適用される1以上の糖鎖結合体を、標準的な技術を使用して、あらゆる入手可能な標識を用いて直接標識することもできる。その他のいくつかの実施形態では、用いられる1以上の糖鎖結合体は、例えば、レクチンまたは抗-糖鎖抗体などの前記1つまたは複数の糖鎖結合体を検出することが出来るナノ粒子に固定することによって、間接的に検出可能に標識することができる。このようなナノ粒子に固定された結合体は、結合体-NP(例えば、略してレクチン-NPまたは抗-糖鎖抗体-NP)と呼ばれる。
【0117】
本明細書で使用される場合、用語「ナノ粒子」(NP)は、約1000 nm以下、例えば約500 nm以下、約100 nm以下または約50 nm以下の1つまたは複数の寸法、例えば直径を有する、合成または天然の粒子を指す。本明細書で使用される場合、用語「約」は、規定値の±10%の値の範囲を指す。例えば、「約100 nm」という表現は、100 nmの±10%または90 nmから110 nmを含む。ナノ粒子は、一般に球形状を有することができるが、楕円形状などの非球形状を使用することもできる。いくつかの実施形態では、前記ナノ粒子の全ての寸法は、約1000 nm以下、約500 nm以下、約100 nm以下または約50 nm以下である。
【0118】
様々な異なる材料を本発明のナノ粒子に利用することができる。適切なポリマーの非限定的な例としては、ポリ(エチレングリコール)(PEG)、ポリスチレン、ポリエチレン、ポリ(アクリル酸)、ポリ(メタクリル酸メチル)(PMMA)、多糖類およびそれらのコポリマーまたは組み合わせが挙げられる。その他の適切なナノ粒子の材料としては、コロイド状の金、銀、量子ドット、炭素、多孔性シリコンおよびリポソームが挙げられるが、これらに限定されない。さらに適切なナノ粒子の材料には、タンパク質ナノ粒子、鉱物ナノ粒子、ガラスナノ粒子、ナノ粒子結晶、金属ナノ粒子およびプラスチックナノ粒子などがある。
【0119】
本発明または本開示の様々な実施形態における使用に適したナノ粒子は、任意の既知の手段によって直接的または間接的に定性的または定量的に検出可能であり得る。例えば、ナノ粒子は、例えば、アップコンバーティングナノ粒子(UCNP)、共鳴粒子、量子ドットおよび金粒子の場合のように、固有の品質によって検出可能であり得る。他のいくつかの実施形態では、ナノ粒子は、例えば、蛍光標識、生物発光標識、化学発光標識によって検出可能とすることができる。いくつかのさらなる実施形態において、ランタニド、即ち、可視または近赤外または赤外波長での発光および長い蛍光減衰を有する発光性ランタニドイオン、例えば、ユーロピウム(III)、テルビウム(III)、サマリウム(III)、ジスプロシウム(III)、イッテルビウム(III)、エルビウム(III)およびネオジニウム(III)による標識化またはドーピングは、本発明のナノ粒子を検出可能にするための好ましい手段である。
【0120】
糖鎖結合体(例えば、レクチンまたは抗-糖鎖抗体)は、本明細書の実施例に開示されているものに限定されないが、当技術分野で公知の任意の適切な方法によってナノ粒子に固定することができる。例えば、複数の異なるレクチンおよび/または複数の異なる抗-糖鎖抗体を含む複数の異なる糖鎖結合体を含むそれらの実施形態では、前記異なる糖鎖結合体は、任意の所望の比率で、同じナノ粒子上または異なるナノ粒子上のいずれかに固定され得る。注目すべきは、前記異なる糖鎖結合体は、タイプ(例えば、レクチン、抗-グリカン抗体、抗体模倣体またはアプタマー)が相違していてもよく、またはそれらの糖鎖特異性において相違していてもよく、または両方相違してもよい。
【0121】
いくつかの非限定的な実施形態において、最も好ましいナノ粒子は、約97 nmまたは約107 nmのいずれかの直径を有するポリスチレンナノ粒子である。このようなナノ粒子は、少なくともThermoFisher Scientific社およびSeradyn社から市販されている。さらに好ましいナノ粒子には、ユーロピウムキレートドープ化ナノ粒子がある。このようなナノ粒子の利点としては、i) 粒子あたりのキレート数が多いことを理由とするシグナル増幅;ii) 粒子上に高密度に固定化されたレクチンまたは抗-糖鎖抗体の標的糖鎖構造エピトープに対する機能的親和性(アビディティー)の強化;およびiii) 多価ナノ粒子の作成により可能となったレクチンまたは抗-糖鎖抗体の糖鎖構造特異性などが挙げられる。しかしながら、ナノ粒子は、本発明または開示およびそれらの様々な実施形態を実施するための十分なアビディティ効果とシグナル増幅を提供する好ましい方法の一つに過ぎない。
【0122】
さらに、1つ以上の異なる糖鎖結合体を含む実施形態では、サンプルは、異なるGlycoProt結合体種について、同じアッセイ(即ち、同時に)または異なるアッセイで(即ち、並行して)、同時または逐次のいずれかでアッセイされ得る。いずれのアッセイにおいても、前記異なる糖鎖結合体は、直接または間接的に、同一または異なる標識で検出可能に標識されていてもよい。いくつかの実施形態において、例えば、単一のアッセイにおいて異なる糖鎖結合体種を有する異なる標識ナノ粒子を使用することによる多重化は、本明細書に開示される方法またはその実施形態のいずれかを実施するための好ましい形式である。
【0123】
いくつかの具体的な実施形態では、ユーロピウム(III)、テルビウム(III)、サマリウム(III)およびジスプロシウム(III)から選択されるランタニドキレートなどの検出可能な標識で標識された同一または異なるナノ粒子に固定された1つまたは複数の異なる糖鎖結合体が、トレーサーとして使用される。いくつかのより具体的な実施形態では、ユーロピウムキレートが検出可能な標識として使用される。非限定的な好ましい実施形態では、レクチン-NPまたは抗-糖鎖抗体-NPが、トレーサーとして使用され、約30000個のEu-キレートでドープされる。他のいくつかの具体的な実施形態では、当該レクチンまたは抗-糖鎖抗体は、アップコンバーティングリン(UCP)粒子に結合しており、これは特にラテラルフロー形式におけるトレーサーとしての使用に適している。
【0124】
また、任意の利用可能なセンサー技術を使用して検出可能なシグナルを作成することも可能である。例えば、固体表面には、標識部位の使用の有無にかかわらず、結合反応を検出可能なシグナルに変換できる認識要素(トランスデューサー)を組み込むことができる。電気化学的検出または光学的検出に基づくものなど、様々なタイプのトランスデューサーを用いることができる。検出は、当業者に明らかなように、均一または不均一検出技術のいずれかに基づいてもよい。
【0125】
レクチンまたは抗-糖鎖抗体などの糖鎖結合体を、マイクロタイターウェル、アレイまたはセンサーなどの固体表面にコーティングする代わりに、ナノ粒子表面にコーティングすることは、特に、糖鎖結合体が、特異的な抗-GlycoProt抗体と組み合わせて使用される非競合アッセイ形式において、アッセイ性能の点で大きな利点をもたらす。このような特異的抗体が固相に結合している場合、糖鎖結合体と比較して一般的に顕著に高いこれらの抗体の親和性をフルに活用して、第一段階として標的バイオマーカー分子を高い効率と安定性にて固相に捕捉することができる。抗-GlycoProt抗体の高い親和性を考えると、標的とするエピトープを1コピーしか持たない低分子標的分子も高い安定性で捕捉することができる。標的分子が捕捉されると、糖鎖結合体ナノ粒子のアビディティ効果、即ち、隣接する複数の糖鎖結合体が、捕捉された標的分子に隣接して結合することにより、1つの糖鎖結合分子に比べて結合力が顕著に増大する効果を十分に利用することもできる。
【0126】
さらに、ナノ粒子は、一般的に測定可能なシグナルを顕著に増強することができるという事実と組み合わせることで、レクチン-NP/固相抗体または抗-糖鎖抗体-NP/固相抗体アプローチのような糖鎖結合体-NP/固相抗-GlycoProt抗体アプローチは、両方の結合パートナーの高い特異性、特異的な抗-GlycoProt抗体の高い結合力、複数の隣接する糖鎖構造に対する複数の隣接する糖鎖結合体の高い結合力(アビディティ効果)および結合したナノ粒子毎に検出可能な高レベルのシグナルを最適に組み合わせて、高感度かつ高特異性の最適な組み合わせが得られる。
【0127】
さらに、レクチンおよび抗-糖鎖抗体などの糖鎖結合体は、通常、標的糖鎖構造(糖鎖形態)に対して高い特異性を有するが、そのような糖鎖形態は標的分子以外の分子にも存在する可能性がある。従って、いくつかの好ましい実施形態では、標的分子抗体捕捉段階および糖鎖結合体-NP結合段階の間に洗浄段階を設けて、場合によっては標的分子と同じ糖鎖構造を含む、つまり種間の交差反応性に基づく非特異的検出のリスクをもたらす可能性のある非標的分子および未結合分子を全て洗い流す。抗-GlycoProt抗体を用いて特異的標的分子を捕捉し、糖鎖結合体の結合工程の前にその他の分子を洗浄すれば、レクチンまたは抗-糖鎖抗体などの糖鎖結合体による不要な標的分子の非特異的結合のリスクは排除されるようになる。このような洗浄工程は、多くの場合に低い親和性により生じるけれど、標的分子の、糖鎖結合体-NP周辺から離れた部位への結合についての競合を防ぐためにも好ましい。しかし、ITGA3および本明細書で規定する他のインテグリン類のような高分子量を有する多くの分子のように、標的分子が複数の反応性糖鎖構造を持ち、隣接する糖鎖結合体が同じ標的分子内の隣接する糖鎖構造に結合できる場合、交差反応性と遠隔結合の両方のリスクが増大する。このような場合、糖鎖結合体-NP結合反応の前に洗浄工程を行う非競合的糖鎖結合体-NP/固相の抗-GlycoProt抗体アプローチを使用すると、糖鎖結合体が固相に結合しているプラットフォームまたは中間洗浄工程を行わずに糖鎖結合体-NPが使用されているプラットフォームと比較して、感度が顕著に高く、標的に特異的なアッセイが可能になる。同様に、アビディティ効果が殆どないため、糖鎖結合体(抗-GlycoProt抗体の代わりに)が固相に結合しているアッセイプラットフォームは、低分子標的分子では最適な性能を発揮しない。
【0128】
さらに、GlycoProt結合体中またはGlycoProt提示小胞上に存在する任意の糖鎖構造についてサンプルをアッセイするには、核磁気共鳴(NMR)、電気泳動、クロマトグラフィー法および質量分析などの方法または技術あるいはそれらの適切な組み合わせを用いることができる。好適なNMR法としては、例えば、相関分光法(COSY)、全相関分光法(TOCSY)、核オーバーハウザー効果分光法(NOESY)および回転フレームオーバーハウザー増強分光法(ROESY)が挙げられ、これらの方法はすべて、1Dまたは2Dのいずれかで使用され得る。適切な電気泳動法には、例えば、レーザー誘起蛍光を用いたキャピラリー電気泳動法(CE-LIF)、キャピラリーゲル電気泳動法(CGE)およびキャピラリーゾーン電気泳動法(CZE)などがある。質量分析法の非限定的な例としては、高速原子衝撃質量分析法(FAB-MS)、フーリエ変換イオンサイクロトロン共鳴質量分析法(FTICR-MS)、液体クロマトグラフィー質量分析法(LC-MS)、液体クロマトグラフィータンデム質量分析法(LC-MS/MS)、エレクトロスプレーイオン化液体クロマトグラフィー質量分析法(LC-ESI-MS)、マトリックス支援レーザー脱離/イオン化質量分析法(MALDI-MS)、マトリックス支援レーザー脱離/イオン化タンデム質量分析法(MALDI-MS/MS)およびマトリックス支援レーザー脱離/イオン化イメージング質量分析法(MALDI-IMS)が挙げられる。
【0129】
本開示はまた、本方法およびその様々な実施形態に使用するためのキットも提供する。最も広範な態様において、キットは、インテグリンからなる群から選択される1つ以上のがん関連糖タンパク質バイオマーカーのレクチン結合種をアッセイするための試薬、例えば、ITGA1、ITGA2、ITGA3、ITGA4、ITGA5、ITGA6、ITGA11、ITGAV、ITGB1、ITGB2、ITGB3、ITGB4、ITGB5、ITGB8、ITGA2B1およびITGA3B1、MUC1、クローディン-4、EpCAMおよびTrop2を含む。言い換えれば、本キットは、インテグリン結合体、MUC1結合体、クローディン-4結合体およびEpCAM結合体からなる群から選択される任意の所望のGlycoProt結合体種またはその組み合わせについてサンプルをアッセイするための試薬を含んでいる。アッセイされる各GlycoProt結合体について、少なくとも1つの試薬は、モノクローナル抗-GlycoProt抗体など、目的とするGlycoProtに特異的なGlycoProt結合体であり、少なくとも1つの試薬は、レクチンまたは抗-糖鎖抗体などの目的とする糖鎖構造に特異的な糖鎖結合体であり、好ましくはナノ粒子に固定されている。前記GlycoProt結合物質または糖鎖結合体のいずれかは、検出可能に標識される。糖鎖結合体は、それが固定された検出可能なナノ粒子を介して間接的に標識されてもよい。アッセイされるGlycoProt結合体種、即ちキットに含まれる試薬は、キットの使用目的、特にスクリーニング、診断、予後またはモニタリングされるがんに依存して変更され、好ましい組み合わせは、本開示内容から明らかとなる。
【0130】
所望により、キットは、好ましくは、ITGA1、ITGA2、ITGA3、ITGA4、ITGA5、ITGA6、ITGA11、ITGAV、ITGB1、ITGB2、ITGB3、ITGB4、ITGB5、ITGB8、ITGA2B1またはITGA3B1、MUC1、クローディン-4、EpCAMおよびTrop2などのインテグリンからなる群から選択される前記の1つまたは複数のGlycoProt抗原をアッセイするための試薬も含み得る。いくつかの実施形態において、キットはITGA3をアッセイするための試薬を含む。いくつかの他の実施形態において、キットは、MUC1をアッセイするための試薬を含む。いくつかのさらなる実施形態において、キットは、ITGA3およびMUC1の両方をアッセイするための試薬を含む。前記した従来のGlycoProt抗原をアッセイするための典型的な試薬の非限定的な例としては、アッセイされる従来の各GlycoProt抗原に対して2つのGlycoProt結合物質、例えば、前記GlycoProt中の異なるエピトープに結合する2つのモノクローナル抗-GlycoProt抗体が挙げられる。各々特異的なGlycoProtに対して、結合物質の一方は、各々のGlycoProt結合体をアッセイするために提供されるGlycoProt結合物質と同じであってもよい。しかしながら、GlycoProt結合物質の一方は、固体表面に固定されるか、あるいはラテラルフロー形式における捕捉剤として使用するために提供されてもよく、他方のGlycoProt結合物質は、検出可能な標識を含んでいてもよい。アッセイされるべき従来のGlycoProt抗原、即ちキットに含まれる試薬は、キットの使用目的、特にスクリーニング、診断、予後またはモニタリングすべきがんによって変更され、好ましい組み合わせは、上記本開示内容から明らかとなる。
【0131】
従って、いくつかの実施形態において、本キットは、対象のがん疾患状態を決定するために、または対象におけるがんのスクリーニング、診断、予後判定もしくはモニタリングのために、および/またはがんに対する治療を選択もしくは指定するために、および/またはがん患者の層別化のために提供される。
【0132】
いくつかの実施形態において、キットは、モノクローナル抗-インテグリン抗体などのインテグリン結合物質と、同一または異なるナノ粒子に所望により固定されたUEA-I、AOL、AALまたはLCAを含む。前記インテグリン結合物質または前記UEA-I、AOL、AALまたはLCAのいずれかは、検出可能な標識を含むか、またはマイクロタイタープレートのような固体表面に固定されている。いくつかのさらなる実施形態では、プレートのストレプトアビジンコーティングおよび抗体のビオチン化が、前記結合のために使用される。同じことを達成する別の方法は、当業者にとは容易に利用可能である。いくつかの実施形態において、前記モノクローナル抗-インテグリン抗体は、抗-ITGA1、抗-ITGA2、抗-ITGA3、抗-ITGA4、抗-ITGA5、抗-ITGA6、抗-ITGA11、抗-ITGAV、抗-ITGB1、抗-ITGB2、抗-ITGB3、抗-ITGB4、抗-ITGB5、抗-ITGB8、抗-ITGA2B1および抗-ITGA3B1抗体から選択される。さらなるいくつかの実施形態において、前記UEA-I、AOL、AALまたはLCAは、抗-FUCα(1-n)抗体または別のFUCα(1-n)に特異的な糖鎖結合体で置き換えられてもよい。
【0133】
さらなるいくつかの実施形態において、対象のがん疾患状態を決定するために、または前記対象におけるがんのスクリーニング、診断、予後判定もしくはモニタリングのために、および/またはがんに対する治療を選択もしくは割り当てるために、および/またはがん患者の層別化のために提供されるキットは、インテグリン類、インテグリン結合体、MUC1、MUC1結合体、クローディン-4結合体、EpCAM結合体およびTrop2結合体からなる群から選択される追加のバイオマーカーをアッセイするための試薬も含み得る。これらのアッセイに適した試薬は、上記から明らかになる。好ましくは、前記インテグリン類は、ITGA1、ITGA2、ITGA3、ITGA4、ITGA5、ITGA6、ITGA11、ITGAV、ITGB1、ITGB2、ITGB3、ITGB4、ITGB5、ITGB8、ITGA2B1およびITGA3B1から選択される。好ましくは、前記インテグリン結合体は、ITGA1結合体、ITGA2結合体、ITGA3結合体、ITGA4結合体、ITGA5結合体、ITGA6結合体、ITGA11結合体、ITGAV結合体、ITGB1結合体、ITGB2結合体、ITGAB3結合体、ITGB4結合体、ITGB5結合体、ITGB8結合体、ITGA2B1結合体およびITGA3B1結合体から選択され、前記「結合体」は、好ましくは、UEA-I、AAL、AOL、LCA、SBA、SNA、GSL-1、DC-SIGN、WGA、BPL、DSL、HPAおよびTnに特異的なレクチンからなる群から選択される1つ以上のレクチンによって認識可能な任意の糖鎖構造、または前記レクチンと同じ糖鎖構造に特異的な抗-糖鎖抗体などのその他の糖鎖結合体を指すことができる。好ましくは、EpCAM結合体はEpCAMFUCα(1-2)GALである。好ましくは、クローディン-4結合体は、クローディンFUCα(1-2)GALである。好ましくは、Trop2結合体は、Trop2FUCα(1-2)GALである。好ましくは、MUC1結合体は、MUC1WGA、MUC1Tn-ABまたはMUC1HPAである。
【0134】
キットが、インテグリン結合体(例えば、ITGA3結合体)、MUC1結合体、クローディン-4結合体、EpCAM結合体およびTrop2結合体から選択される1つまたは複数の追加バイオマーカーをアッセイするための試薬を含む場合、キットは、インテグリン、MUC1、クローディン-4、EpCAMおよび/またはTrop2結合物質、例えば、モノクローナル抗-インテグリン(例えば、抗-ITGA3)、抗-MUC1、抗-クローディン-4、抗-EpCAMまたは抗-Trop2抗体、およびレクチンまたは抗-糖鎖抗体などの1つまたは複数の糖鎖結合体を含んでおり、所望により同一または異なるナノ粒子に固定される。前記抗原結合物質または前記糖鎖結合体のいずれかは、検出可能な標識を含むか、またはマイクロタイタープレートなどの固体表面に固定されている。いくつかのさらなる実施形態では、プレートのストレプトアビジンコーティングおよび結合物質のビオチン化が、前記結合のために用いられる。同じことを達成する別の方法は、当業者には容易に利用可能である。
【0135】
キットが、インテグリン類(例えば、ITGA3)およびMUC1から選択される1つまたは複数の追加のバイオマーカーをアッセイするための試薬を含む場合、インテグリンまたはMUC1をアッセイするための典型的な試薬の非限定的な例には、2つのインテグリン(例えば、ITGA3)またはMUC1結合物質、例えば、標的において異なるエピトープに結合する2つのモノクローナル抗体が含まれる。結合物質の一方は、インテグリン結合体(例えば、ITGA3結合体)またはMUC1結合体をアッセイするために提供されるインテグリンまたはMUC1結合物質と同じであってもよい。2つの結合物質の一方は、固体表面に固定されるか、またはラテラルフロー形式における捕捉剤として使用するために提供されてもよく、もう一方の結合物質は、検出可能な標識を含んでいてもよい。
【0136】
所望により、キットは、UEA-I、AOL、AALまたはLCAなどの糖鎖結合体に結合するインテグリン(例えば、ITGA3)の測定値と比較するためのコントロールを含むことができる。いくつかの実施形態において、コントロールとは、測定値と比較するための閾値である。
【0137】
いくつかのさらなる実施形態において、キットは、本開示の任意の方法を実行するための指示書も含み得る。いくつかのさらなる実施形態において、キットは、本開示の任意の方法を実行するためのコンピューターにて実行可能な指示を含むコンピューター可読媒体を含んでもよい。
【0138】
上記のバイオマーカーの組み合わせについて、サンプルをアッセイするための試薬に加えて、キットは、任意のその他のバイオマーカー、特にがん以外のその他の任意の疾患またはその他のがんに関連する1つまたは複数のバイオマーカーについて前記サンプルをアッセイするための試薬を含んでもよい。従って、本キットは、ある1種のがんにおけるスクリーニング、診断、予後予測またはモニタリング、および/またはがんに対する治療の選択もしくは割り付け、および/またはがん患者の層別化だけでなく、例えば、その他のがんにおいて、バイオマーカーの濃度がアッセイされる1つまたは複数のその他のバイオマーカーの特異性および感度に応じて、スクリーニング、診断、予後予測またはモニタリング、および/またはがんに対する治療の選択もしくは割り付け、および/またはがん患者の層別化にも使用することができる。
【0139】
本方法の様々な詳細および実施形態は、当業者には容易に理解されるため、本キットにも適用される。従って、本キットに関して、例えば、好適なナノ粒子の特性および特徴を、ここでは繰り返さない。
【0140】
また、対象におけるがんの状態を決定するために、もしくは対象のがんをスクリーニング、診断、予後判定もしくはモニタリングするために、所望によりWGA、HPAおよび/またはTn-ABとの任意の組み合わせにおけるUEA-I、AOL、AALおよび/またはLCAの使用、あるいは所望によりWGA、HPAまたはTn-ABと同じ糖鎖構造に特異的な1つもしくは複数の糖鎖結合体との組み合わせにおけるUEA-I、AOL、ALLまたはLCAと同じ糖鎖構造に特異的な抗糖鎖抗体などの糖鎖結合体の使用あるいはこれらを含むナノ粒子組成物などの任意の組成物の使用も提供される。本方法およびその実施形態に関して開示された詳細および具体的な内容をここでは繰り返さないが、これらのバイオマーカーの様々な用途に適用される。
【0141】
様々なその他のレクチン、抗糖鎖抗体またはその他の糖鎖結合体に結合するバイオマーカー種およびそれらの組み合わせの使用も提供される。このような用途の詳細および特徴は、上記の開示から明らかとなる。
【0142】
本発明の実施態様に関するいくつかの例示
本発明の実施態様に関するいくつかの例示に、以下の番号をつけた:
1.対象におけるがんの疾患状態を決定する方法であって、前記方法は、以下の工程:
インテグリン類(ITGUEA-I)、好ましくはITGA1UEA-I、ITGA2UEA-I、ITGA3UEA-I、ITGA4UEA-I、ITGA5UEA-I、ITGA6UEA-I、ITGA11UEA-I、ITGAVUEA-I、ITGB1UEA-I、ITGB2UEA-I、ITGB6UEA-I、ITGB4UEA-I、ITGB5UEA-I、ITGB8UEA-I、ITGA2B1UEA-IおよびITGA3B1UEA-I、より好ましくはITGA3UEA-Iからなる群から選択されるUlex europaeus アグルチニンI(UEA-I)結合糖鎖形態(ITGUEA-I)のレベル、レベルについて、前記対象から得られたサンプルをアッセイする工程;
インテグリンのAOL結合糖形態(ITGAOL)、好ましくはITGA1AOL、ITGA2AOL、ITGA3AOL、ITGA4AOL、ITGA5AOL、ITGA6AOL、ITGA11AOL、ITGAVAOL、ITGB1AOL、ITGB2AOL、ITGB6AOL、ITGB4AOL、ITGB5AOL、ITGB8AOL、ITGA2B1AOLおよびITGA3B1AOLからなる群から選択されたもの、より好ましくはITGAVAOLまたはITGA2B1AOLのレベルについて、前記対象から得られたサンプルをアッセイする工程;
インテグリンのAAL結合糖形態(ITGAAL)のレベル、好ましくはITGA1AAL、ITGA2AAL、ITGA3AAL、ITGA4AAL、ITGA5AAL、ITGA6AAL、ITGA11AAL、ITGAVAAL、ITGB1AAL、ITGB2AAL、ITGB6AAL、ITGB4AAL、ITGB5AAL、ITGB8AAL、ITGA2B1AALおよびITGA3B1AALからなる群から選択されるもののレベルについて、前記対象からアグルチンアグルチン得られたサンプルをアッセイする工程;および/または
インテグリンのLCA結合糖形態(ITGLCA)のレベル、好ましくはITGA1LCA、ITGA2LCA、ITGA3LCA、ITGA4LCA、ITGA5LCA、ITGA6LCA、ITGA11LCA、ITGAVLCA、ITGB1LCA、ITGB2LCA、ITGB6LCA、ITGB4LCA、ITGB5LCA、ITGB8LCA、ITGA2B1LCAおよびITGA3B1LCAからなる群から選択されるもののレベルについて、前記対象から得られたサンプルをアッセイする工程;
前記サンプル中のITGUEA-I、ITGAOL、ITGAALおよび/またはITGLCAの検出レベルを、コントロールサンプルのレベルまたは事前に決定した閾値と比較する工程;ならびに
前記比較に基づいてがんの疾患状態を決定する工程、
を含む。
【0143】
2. がんが、膀胱がん、前立腺がん、腎細胞がん、大腸がん、膵臓がん、卵巣がん、乳がん、肺がんおよび頭頚部扁平上皮がんからなる群から選択される、実施形態1の方法。
3. ITGUEA-I、ITGAOL、ITGAALおよび/またはITGLCAのレベルが、コントロールサンプルまたは事前に決定した閾値のレベルと比較して増加することが、前記対象ががんを有するか、またはがんを有するリククがあることを示す、実施形態1または2に記載の方法。
4. ITGUEA-I、ITGAOL、ITGAALおよび/またはITGLCAのレベルが、コントロールサンプルまたは事前に決定した閾値のレベルと比較して増加しないか、または減少することが、前記対象ががんを有していないか、またはがんを有するリスクがないことを示す、実施形態1~3のいずれか1つに記載の方法。
5. ITGUEA-Iのレベルについての前記アッセイが、ITGとUEA-Iとの間の結合反応に基づいており、ITGAOLのレベルについての前記アッセイが、ITGとAOLとの間の結合反応に基づいており、ITGAALのレベルについての前記アッセイが、ITGとAALとの間の結合反応に基づいており、ITGLCAのレベルについての前記アッセイが、ITGとLCAとの間の結合反応に基づいている、実施形態1~4のいずれか1つに記載の方法。
6. ITGUEA-I、ITGAOL、ITGAALおよび/またはITGLCAのレベルについての前記アッセイが、質量分析法、核磁気共鳴(NMR)分光法、電気泳動法、クロマトグラフィー法およびそれらの任意の組み合わせからなる群から選択される技術に基づく、実施形態1~4のいずれか1つに記載の方法。
【0144】
7. 以下の工程:
対象から得られたサンプルを、小麦胚芽アグルチニン(WGA)に結合可能なムチン1(MUC1)(MUC1WGA);抗-Tn抗原抗体(Tn-AB)に結合可能なMUC1(MUC1Tn-AB);Helix pomatia アグルチニン(HPA)に結合可能なMUC1(MUC1HPA);UEA-Iに結合可能なクローディン-4 (クローディン-4UEA-I);UEA-Iに結合可能な上皮細胞接着分子(EpCAM)(EpCAMUEA-I);およびUEA-Iに結合可能な腫瘍関連カルシウムシグナル伝達物質2(Trop2)(Trop2UEA-I)からなる群から選択されるバイオマーカーの1以上の糖鎖形態のレベルについてアッセイする工程;および
検出されたレベルを、コントロールサンプルまたは事前に決定した閾値と比較する工程、
をさらに含む、実施形態1~6のいずれか一項に記載の方法。
8. MUC1WGAのレベルは、MUC1のWGAへの結合を決定することによりアッセイされ;MUC1Tn-ABのレベルは、MUC1のTn-ABへの結合を決定することによりアッセイされ;MUC1HPAのレベルは、MUC1のHPAへの結合を決定することによりアッセイされ;クローディン-4UEA-Iのレベルは、クローディン-4のUEA-Iへの結合を決定することによりアッセイされ;EpCAMUEA-Iのレベルは、EpCAMのUEA-Iへの結合を決定することによりアッセイされ;および/またはTrop2UEA-Iのレベルは、Trop2のUEA-Iへの結合を決定することによりアッセイされる、実施形態7に記載の方法。
9. 1以上のMUC1WGA、MUC1Tn-AB、MUCHPA、クローディン-4UEA-I、EpCAMUEA-IおよびTrop2UEA-Iの内の1つまたは複数のレベルの増加は、前記対象ががんを有するか、またはがんを有するリスクがあることを示す、実施形態7に記載の方法。
【0145】
10. 以下の工程:
前記対象から得られたサンプルを、ITG、好ましくはITGA1、ITGA2、ITGA3、ITGA4、ITGA5、ITGA11、ITGAV、ITGB1、ITGB2、ITGB4、ITGB5、ITGB8、ITGA2B1およびITGA3B1ならびにMUC1からなる群より選択される1つ以上のバイオマーカーのレベルについてアッセイする工程;および
検出されたレベルを、コントロールサンプルのレベルまたは事前に決定した閾値と比較する工程、をさらに含む、実施形態1~9のいずれか1項に記載の方法。
11. がんのスクリーニング、診断、予後判定および/またはモニタリング、あるいは治療法の選択または割り付け、あるいは患者の層別化のための、実施形態1~10のいずれか1つに記載の方法。
12. 前記モニタリングが、がんの発症をモニタリングするために;がんを有するか、または発症するリスクにおける何らかの変化をモニタリングするために;治療に対する応答をモニタリングするために;がんの悪化をモニタリングするために;またはがんの再発をモニタリングするために実施される、実施形態11に記載の方法。
13. 前記モニタリングが、少なくとも2回異なる時点でアッセイ工程を繰り返して実施される、実施形態11または12に記載の方法。
14. 前記時点が、互いに独立して、診断前の時点、診断後の時点、前記がんの治療前の時点、前記がんの治療中の時点および前記がんの治療後の時点からなる群から選択される、実施形態13に記載の方法。
15. 前記モニタリングが、がんの治療中または治療後に実施され、ITGUEA-I、ITGAOL、ITGAALおよび/またはITGLCAのレベルが、コントロールサンプルよりも高いか、または事前に決定した閾値以上である場合に、前記対象が、がんの悪化または再発を有するか、またはがんの悪化または再発のリスクがあると決定される、実施形態11~14のいずれか1つに記載の方法。
【0146】
16. コントロールサンプルが、がんの治療前に同じ対象から得られたサンプルである、実施形態15に記載の方法。
17. ITGUEA-I、ITGAOL、ITGAALおよび/またはITGLCAのレベルが、コントロールサンプルのレベルよりも高いか、または事前に決定した閾値よりも高い場合、手術、放射線療法、免疫療法、標的療法および化学療法からなる群から選択される治療が、前記患者に対して選択されるか、または前記患者に割り当てられる、実施形態1~16のいずれか1つに記載の方法。
18. ITGUEA-Iのレベルは、ナノ粒子固定化UEA-I(UEA-I-NP)に結合するITGのレベルをアッセイすることによって決定され、ITGAOLのレベルは、ナノ粒子固定化AOL(AOL-NP)に結合するITGのレベルをアッセイすることによって決定され、ITGAALのレベルは、ナノ粒子固定化AAL(AAL-NP)に結合するITGのレベルをアッセイすることによって決定され、ITGLCAのレベルは、ナノ粒子固定化LCA(LCA-NP)に結合するITGのレベルをアッセイすることによって決定される、前記実施形態いずれかに記載の方法。
19. ITGUEA-Iのレベルが、ナノ粒子固定化UEA-I(UEA-I-NP)に結合するITGのレベルをアッセイすることによって決定され;ITGAOLのレベルが、ナノ粒子固定化AOL(AOL-NP)に結合するITGのレベルをアッセイすることによって決定され;ITGAALのレベルが、ナノ粒子固定化AAL(AAL-NP)に結合するITGのレベルをアッセイすることによって決定され;ITGLCAのレベルが、ナノ粒子固定化LCA(LCA-NP)に結合するITGのレベルをアッセイすることによって決定され;MUC1WGAのレベルが、ナノ粒子固定化WGA(WGA-NP)に結合するMUC1のレベルをアッセイすることによって決定され;MUC1Tn-ABのレベルが、ナノ粒子固定化Tn-AB(Tn-AB-NP)に結合するMUC1のレベルをアッセイすることによって決定され;MUC1HPAのレベルが、ナノ粒子固定化HPA(HPA-NP)に結合するMUC1のレベルによって決定され;クローディン-4UEA-Iのレベルが、UEA-I-NPに結合するクローディン-4のレベルによって決定され;EpCAMUEA-Iのレベルが、UEA-I-NPに結合するEpCAMのレベルをアッセイすることによって決定され;ならびにTrop2UEA-Iのレベルが、UEA-I-NPに結合するTrop2のレベルによって決定される、実施形態5および/または8に記載の方法。
【0147】
20. Tn-ABがSBH-Tnである、実施態様7、8、9または19のいずれか1つの方法。
21. 前記サンプルが、尿、血液、血清、血漿、精液、腹膜腔液および組織サンプルからなる群から選択される、前記実施態様1~20のいずれか1つの方法。
22. 膀胱がんが、筋層非浸潤膀胱がん(NMIBC)または筋層浸潤膀胱がん(MIBC)である、実施形態2に記載の方法。
23. キットが、インテグリン結合物質およびUEA-I、AOL、AALまたはLCAを含んでおり、前記インテグリン結合物質または前記UEA-I、AOL、AALまたはLCAのいずれかが、検出可能な標識を含んでいる、実施態様1~22のいずれか1つに記載の方法に使用するためのキット。
24. キットが、インテグリン結合物質およびUEA-I、AOL、AALまたはLCAを含んでおり、前記ITGA3結合物質または前記UEA-I、AOL、AALまたはLCAのいずれかが、検出可能な標識を含んでいる、実施形態1~22のいずれか一つに記載の方法におけるキットの使用。
25. インテグリン結合物質が、ITGA1、ITGA2、ITGA3、ITGA4、ITGA5、ITGA11、ITGAV、ITGB1、ITGB2、ITGB4、ITGB5、ITGB8、ITGA2B1およびITGA3B1からなる群から選択されるインテグリンに結合する試薬から選択される、実施形態23に記載のキットまたは実施形態24記載の使用。
26. 前記FUCα1-n糖鎖構造が、非MUC1抗原上または抗原提示小胞上に含まれており、nが、2、3、4および6からなる群から選択される整数である、がんバイオマーカーとしてのFUCα(1-n)糖鎖構造の使用。
【0148】
27. 対象におけるがんの疾患状態を決定する方法であって、以下の工程:
a) FUCα(1-n)糖鎖構造(式中、nが、2、3、4および6からなる群から選択される)を含む非MUC1抗原のレベル、またはFUCα(1-n)糖鎖構造(式中、nが、2、3、4および6からなる群から選択される)を含む抗原提示小胞のレベルについて、前記対象から得られたサンプルをアッセイする工程;
b) 工程a) において得られたアッセイされたレベルを、コントロールサンプルまたは事前に決定した閾値のレベルと比較する工程;および
c) 前記比較に基づいて、がんの疾患状態を決定する工程、
を含む、方法。
28. 抗原が、インテグリン類、上皮細胞接着分子(EpCAM)、クローディン-4および腫瘍関連カルシウムシグナル伝達物質2(Trop2)からなる群から選択される、実施形態26に記載の使用または実施形態27に記載の方法。
29. インテグリン類が、インテグリンサブユニットα3(ITGA3)、インテグリンサブユニットα1(ITGA1)、インテグリンサブユニットα2(ITGA2)、インテグリンサブユニットα4(ITGA4)、インテグリンサブユニットα5(ITGA5)、インテグリンサブユニットα11(ITGA11)、インテグリンサブユニットαV(ITGAV)、インテグリンサブユニットβ1(ITGB1)、インテグリンサブユニットβ2(ITGB2)、インテグリンサブユニットβ4(ITGB4)、インテグリンサブユニットβ5(ITGB5)、インテグリンサブユニットβ8(ITGB8)、インテグリンα2β1(ITGA2B1)およびインテグリンα3β1(ITGA3B1)からなる群から選択される、実施形態28に記載の使用または方法。
30. 前記非MUC1抗原または前記FUCα(1-n)糖鎖構造を含む抗原提示小胞のレベルが、コントロールサンプルまたは事前に決定した閾値のレベルと比較して増加することが、前記対象が、がんを有するか、またはがんを有するリスクがあることを示す、実施形態26に記載の使用または実施形態27に記載の方法。
31. がんが、膀胱がん、前立腺がん、腎細胞がん、大腸がん、膵臓がん、卵巣がん、乳がん、肺がん、および頭頸部扁平上皮がんからなる群から選択される、実施形態30に記載の使用または方法。
32. がんが膀胱がんであり、抗原が、ITGA3、ITGA1、ITGA2、ITGA5、ITGA6、ITGA11、ITGAV、ITGB2、ITGB5、ITGB8、ITGA2B1、ITGA3B1、クローディン-4、EpCAMおよびTrop2からなる群から選択されるか:
がんが前立腺がんであり、抗原が、ITGA1、ITGA2、ITGA3、ITGA4、ITGA5、ITGA6、ITGA11、ITGAV、ITGB1、ITGB2、ITGB3、ITGB4、ITGB5、ITGB8、ITGA2B1およびITGA3B1からなる群から選択されるか;
がんが腎細胞がんであり、抗原が、ITGA6、ITGAVおよびITGB3からなる群から選択されるか;
がんが大腸がんであり、抗原が、ITGA4であるか;
がんが膵臓がんであり、抗原が、ITGAV、ITGA1、ITGA3、ITGA5、ITGA6、ITGA11、、ITGB1、ITGB2、ITGB4、ITGB5、ITGB8、ITGA2B1およびITGA3B1からなる群から選択されるか;
がんが、卵巣がんであり、抗原が、ITGA1、ITGA3、ITGA4、ITGA11、ITGAV、ITGB1、ITGB2、ITGB4、ITGB5、ITGB8およびITGA3B1からなる群から選択されるか;
がんが、乳がんであり、抗原が、ITGA1、ITGA2、ITGA3、ITGA5、ITGA11、ITGAV、ITGB1、ITGB2、ITGB4、ITGB5、ITGB8、ITGA2B1およびITGA3B1からなる群から選択されるか;
がんが、肺がんであり、抗原が、ITGA1、ITGA2、ITGA3、ITGA4、ITGA5、ITGA6、ITGA11、ITGAV、ITGB1、ITGB2、ITGB5、ITGB8、ITGA2B1またはITGA3B1からなる群から選択されるか;または
がんが、頭頚部扁平上皮がんであり、抗原が、ITGA1、ITGA3、ITGA6、ITGA11、ITGAV、ITGB5およびITGA3B1からなる群から選択される、
実施形態31に記載の使用または方法。
【0149】
33. 前記アッセイが、FUCα(1-n)糖鎖構造に特異的な結合分子を使用することによるか、あるいは質量分析、核磁気共鳴(NMR)分光法、電気泳動、クロマトグラフィーまたはそれらの組み合わせを使用することによって実施される、実施態様27~32のいずれか1つに記載の方法。
34. 結合分子が、Ulex europaeus アグルチニン-I(UEA-I)、Aspergillus oryzae レクチン(AOL)、Aleuria aurantia レクチン(AAL)、Lens culimaris アグルチニン-A(LCA)またはFUCα(1-n)糖鎖構造に特異的な抗体である、実施形態33に記載の方法。
35. 前記サンプルを、小麦胚芽アグルチニン(WGA)に結合可能なムチン1(MUC1)(MUC1WGA)、抗-Tn抗原抗体(Tn-AB)に結合可能なMUC1(MUC1Tn-AB)および/またはHelix pomatia アグルチニン(HPA)に結合可能なMUC1(MUC1HPA)についてアッセイすることをさらに含む、実施態様27~34のいずれか1つに記載の方法。
36. FUCα(1-n)糖鎖構造に特異的な抗原結合物質および結合分子を含んでおり、前記抗原がMUC1ではなく、前記抗原結合物質または前記結合分子のいずれかが、検出可能な標識を含んでおり、nが、2、3、4および6からなる群から選択される整数である、対象におけるがんの疾患状態を決定する際に使用するためのキット。
37. FUCα(1-n)糖鎖構造に特異的な抗原結合物質および結合分子を含んでおり、前記抗原がMUC1ではなく、前記抗原結合物質または前記結合分子のいずれかが検出可能な標識を含んでおり、nが、2、3、4および6からなる群から選択される整数である、対象におけるがんの疾患状態を決定するためのキットの使用。
38. サンプル中のがん関連抗原糖鎖形態の有無を決定するための、FUCα(1-n)糖鎖に特異的な結合分子の使用であって、前記抗原がMUC1ではなく、nが、2、3、4および6からなる群より選択される整数である、使用。
39. 抗原が、インテグリン類、好ましくは、ITGA3、ITGA1、ITGA2、ITGA4、ITGA5、ITGA6、ITGA11、ITGAV、ITGB1、ITGB2、ITGB3、ITGB4、ITGB5、ITGB8、ITGA2B1およびITGA3B1;EpCAM;クローディン-4;およびTrop2から選択される、実施形態36に記載のキット、または実施形態37もしくは実施形態38に記載の使用。
40. 結合分子が、UEA-I、AOL、AAL、LCAまたはFUCα(1-n)糖鎖構造に特異的な抗体である、実施形態36記載のキットまたは実施形態37または実施形態38に記載の使用、あるいは実施形態39記載のキットおよび使用。
【0150】
技術の進歩に伴い、本発明の概念を様々な方法で実施できることは当業者には明らかであろう。本発明およびその実施形態は、以下に記載する実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲内で種々変更可能である。
【実施例】
【0151】
実施例1.
この試験は、ゲント大学病院倫理委員会の承認を得て、ヘルシンキ宣言のガイドラインおよび規定に従って実施された。参加者には、書面によるインフォームド・コンセントを行った。膀胱がん患者(n=13)の尿サンプルを、経尿道的膀胱腫瘍切除術(TURB)または根治的膀胱摘出術による外科治療前にカテーテルを用いて採取した。同様に、年齢を一致させた前立腺肥大症(BPH)患者(n=9)の尿サンプルを、経尿道的前立腺切除術(TURP)または単純前立腺切除術の前に採取し、良性コントロールとして使用した。患者は全員絶食状態であった。BlCaおよび良性コントロール(BPH)の両サンプルを、組織学的に分類して、免疫アッセイの結果に影響を及ぼす可能性のある泌尿器科的に併存する疾患を列挙した(表3)。全ての尿サンプルを、3,000g(20分間)で遠心分離して、細胞残渣を除去して、-80℃で保存した。
【0152】
表3. 患者の特徴. TURP=経尿道的前立腺切除術;BPH=良性前立腺肥大症;SP=単純前立腺切除術;SBC=恥骨上膀胱カテーテル(suprapubic bladder catheter);TURB=経尿道的膀胱腫瘍切除術
【表3】
【0153】
モノクローナル抗体の抗-ITGA3(IA3)、抗-ITGB1(4B7R)、抗-ITGAV(273210)および抗-ITGA6(MP4F10)を、R&D systems(Abingdon, UK)から購入した。抗体を、以前に記載されたプロトコールを用いてビオチン化した(Islam et al.)。本研究で試験したレクチンおよびその主な糖鎖結合特異性を表4に示す。レクチンは、以前のプロトコール(Islam et al.)に従って、そのアミン基を介した共有結合によりEu3+-NP上にコートされた。Eu3+-NP(Seradyn Indianapolis IN, USA)は、単分散ポリスチレンビーズである。
【0154】
【0155】
時間分解蛍光(TRF)イムノアッセイの概略図を
図1のb部分に示した。要すれば、150ngのビオチン化捕捉抗体(例えば、抗-ITGA3、抗-ITGB1、抗-ITGAVまたは抗-ITGA6)を、アッセイ緩衝液(Kaivogen, Turku, Finland)を用いて最終容量30μL/ウェルに希釈して、96ウェル-ストレプトアビジンコートプレート(KaiSA96, Kaivogen, Turku, Finland)にRTで1時間固定した。その後、DELFIAプレートウォッシャー(パーキンエルマー社製)を用いて、洗浄緩衝液(Kaivogen, Turku, Finland)でウェルを4回洗った。その後、50μLの尿サンプルと100μLのアッセイ緩衝液を各ウェルに添加した。尿サンプルは、個々のBPHまたはBlCa患者、あるいはBPH(n=9)またはBlCa(n=13)患者のプールしたサンプルのいずれかであった。600rpmのプレートシェーカーで1時間インキュベートした後、ウェルを、洗浄緩衝液で4回洗った。各ウェルに1 x 10
7のレクチンが結合したEu
3+-NP(レクチン-NP)を、最終容量30μLで添加し、プレートシェーカーでゆっくりと振とうしながら、RTで1.5時間インキュベートした。ITGA3-ITGA3アッセイでは、Eu-NPに結合した抗-ITGA3抗体をトレーサーとして用いた。その後、ウェルを、DELFIAプレートウォッシャーにて洗浄緩衝液を用いて4回洗浄した。ウェルのシグナル測定は、表面からのユーロピウムをプログラムVictorTM 1420 マルチ標識カウンター(Perkin-Elmer)を用いて行った(λex: 340 nm;λem: 615 nm)。アッセイを全て3連で行った。
【0156】
統計解析は、GraphPad Prism software, lnc(version 6)を用いて行った。がんと良性の群を区別するために、シグナル/バックグラウンド比を測定した。また、BlCa患者とBPH患者の免疫測定結果を比較するために、Mann-Whitney U検定を用いた。両側P値<0.05は、統計的有意性を示す。
【0157】
9種類のレクチン-NPパネル(UEA-I、AAL、SBA、SNA、GSL-1、DC-SIGN、WGA、BPL、DSL)またはEu-NP結合抗-ITGA3抗体をトレーサーとして用いる時間分解蛍光法サンドイッチイムノアッセイでは、抗-ITGA3抗体が捕捉した抗原に対する異なる結合強度がシグナル/バックグラウンド(S/B)比により認められた(
図2)。従来のITGA3-ITGA3アッセイでは、プールしたBlCaサンプルとプールしたBPHサンプルを比べたS/B比は2倍であったが、ITGA3
UEA-Iアッセイでは、プールしたBlCaサンプルとプールしたBPHサンプルを比べたS/B比は6倍であった。その他のレクチン-NPの内では、AAL、SNA、GSL-1、DC-SIGNおよびBPLが、プールしたBPHと比較して1.5~3倍の高いS/B比を示した。レクチン-NPのSBA、WGAおよびDSLは、プールされたBlCaとBPHの間に識別力を示さなかった。
【0158】
インテグリンをベースとしたアッセイのパフォーマンスは、BlCa患者とBPH患者の個々の尿サンプルを用いて評価された。両側P値が0.05未満の場合、アッセイは統計学的に有意であるとみなされた。従来のITGA3-ITGA3アッセイは、BlCaとBPHとの有意な識別を示したものの(
図3A、p=0.023)、ITGA3
UEA-Iアッセイは、従来のアッセイと比較して、BlCaとBPHとの識別が明らかに改善された(
図3B、p=0.007)。
【0159】
BlCaおよびBPH患者の尿サンプルからのUEA-Iの検出と、その他のインテグリンサブユニットの捕捉抗体を組み合わせたアッセイの性能も評価された。例えば、
図3Cに示すように、ITGAV
UEA-Iは、BlCaとBPHの有意な識別力を示した(p=0.020)。
【0160】
実施例2.
この試験では、見かけ上健康なボランティア11人の血清サンプル、BPH患者および/またはその他の良性泌尿器疾患患者を含む良性コホートから得た良性コントロール9人の血清サンプルおよび尿路上皮膀胱がん(BlCa)患者18人の血清サンプルを使用した。見かけ上健康なボランティアは、バイオテクノロジー・ユニットの生化学部門の職員であった。同意書に署名した後、良性コホートとBlCa患者の血清サンプルを、Turku prostate cancer consortiumから入手した。本試験は、南西フィンランド病院地区の倫理委員会の承認を受け(BlCaサンプルに関する倫理委員会声明:TO3/010/13)、ヘルシンキ宣言に従って実施された。18個のBlCaサンプルの内の5、3、3、7は、腫瘍-リンパ節-転移(TNM)分類に従い、各々Ta低悪性度、Ta高悪性度、T1高悪性度および<T2高悪性度に分類した。TaおよびT1として分類された腫瘍は、非筋肉浸潤性膀胱がん(NMIBC)とみなされ、<T2に分類された腫瘍は、筋層浸潤性膀胱がん(MIBC)とみなされた。血清サンプルの免疫測定(ITGA3-UEA-I)は、上記の実施例1に記載した通りに行った。
【0161】
ITGA3
UEA-Iアッセイにより、BlCaと、見かけ上健康なボランティア(p<0.00001)および良性コントロール(p=0.00003)とが有意に識別された(p<0.05)。見かけ上健康なボランティアと良性コントロールの間には有意な識別力は無かった(p=0.32276)(
図4A)。加えて、このアッセイは、NMIBC(Ta_低悪性度、Ta_高悪性度、T1_高悪性度)およびMIBC(<T2_高悪性度)サンプルを好結果で検出することができた(
図4B)。NMIBCの検出は困難な点が多く、利用できる現行の検査法ではNMIBC腫瘍の検出感度が低い。しかし、UEA-Iレクチンを用いたITGA3の糖鎖バリアント形態の検出は、NMIBC腫瘍であっても効率的に検出できる。
【0162】
実施例3.
様々な細胞接着タンパク質(上皮細胞接着分子(Epithelium cell adhesion molecule: EpCAM)、腫瘍関連カルシウムシグナル伝達物質2(tumor-associated calcium signal transducer 2: Trop2)およびクローディン-4)に対する捕捉抗体を用いて、BlCa(n=13)および良性コントロール(BPH, n=9)群の尿からこれらのタンパク質を捕捉し、タンパク質が提示する糖鎖をUEA-Iを用いてプローブした。EpCAM(158206, R&D Systems)、Trop2(162-46, BD Biosciences)またはクローディン-4(382321, R&D Systems)に対するビオチン化捕捉抗体を、本明細書の実施例1と同様に製造し、アッセイ緩衝液(Kaivogen, Turku, Finland)にて150 ng/30 μL/ウェルとして希釈し、96-ストレプトアビジンコートプレート(KaiSA96, Kaivogen, Turku, Finland)に、RTで1時間固定した。その後、洗浄緩衝液(Kaivogen, Turku, Finland)とDELFIAプレートウォッシャー(Perkin-Elmer)を用いてプレートを4回洗浄した。各ウェルに、50μLの尿サンプルを加えて、100μLのアッセイ緩衝液を用いて希釈して。600 rpmのプレート振とう器上で、RTで1時間インキュベートした後、ウェルを洗浄緩衝液で4回洗浄した。最終容量30μL/ウェルで、1×107/ウェルにてUEA-Iレクチンと結合したナノ粒子(本明細書の実施例1と同様に製造した)を添加し、プレートシェーカー上でゆっくりと振とうしながら、RTで1.5時間インキュベートすることにより、尿サンプルから捕捉した分析物を検出した。その後、DELFIAプレートウォッシャーで、ウェルを洗浄液で4回洗浄した。ウェルのシグナル測定は、VictorTM 1420マルチ標識カウンター(Perkin-Elmer)を用いて行った(λex:340 nm;λem:615 nm)。全てのアッセイを、3連で行った。
【0163】
EpCAMUEA-I(p=0.003)、クローディン-4UEA-I(p=0.030)およびTrop2UEA-I(p=0.02)アッセイにより、BlCa患者の統計学的に有意な識別力(即ち、p値は<0.05であった)が認められた。
【0164】
実施例4
本試験は、南西フィンランド病院区の倫理委員会(BlCaサンプルに関する倫理委員会声明:TO3/010/13)の承認を受け、ヘルシンキ宣言を遵守して実施した。トゥルク前立腺がんコンソーシアムから、トゥルク大学病院での手術時にカテーテルまたは膀胱鏡により採取された14人の膀胱がん患者の尿サンプルを、署名入り同意書の後に入手した。BlCa患者のうち、8人が、経尿道的膀胱腫瘍切除術(TURB)を受け(2013~2015年)、6人が根治的膀胱切除術を受けていた(2014~2017年)。腫瘍を、WHO/国際泌尿器病理学会(ISUP)の2004年分類に従って分類して、2010年のTNM病期分類に従って病期を分類した。さらに、患者を、欧州泌尿器科学会(EAU)のガイドラインに従って、低リスク群、中リスク群、高リスク群などの様々なリスク群に分類した。簡単に説明すると、原発性がんの患者、孤立性がん(3cm未満)の患者、低悪性度/G1の患者、Taの患者は、低リスク群に分類される。一方で、T1、高い悪性度/G3、CISの存在、多発、再発、低リスクまたは高リスク基準を有する患者は、高リスク群に分類される。低悪性度または高悪性度群に当てはまらない患者は、中間リスク群として分類した。
【0165】
コントロールサンプルについては、前立腺がん(PSA 2.5~20 ng/mlおよび/または異常なデジタル直腸検査)に関して、前立腺がん診断における生検前MRIの役割を検討するプロスペクティブコントロール試験(IMPROD, 臨床試験, 政府識別番号NCT01864135)において、前立腺がんが臨床的に疑われる(PSA 2.5~20ng/mlおよび/または直腸指診異常)男性15人から得た尿サンプルを用いた。書面による同意を参加者から得た。尿サンプルは、2013年~2015年の間にトゥルク大学病院でサンプル採取容器に直接採取された。中央値0.65年(24日~1.9年)の追跡期間中、15人の患者全員の状態に変化はなかった。
【0166】
全ての尿サンプルを、-70℃で保存した。患者に関する情報および腫瘍特徴を含む臨床病理学的特徴を表5に示す。
【表5】
【0167】
抗-MUC1抗体のMa552およびMa695は、Fujirebio Diagnostics社(Gothenburg, Sweden. Biotinylation)から入手した。Ma552抗体のビオチン化は、本明細書の実施例1と同様に行った。ビオチン化抗体を、1g/L BSAとともに+4℃で保存した。Ma695抗体のEu標識は、40倍モル過剰のEu3+-キレートを添加することにより行った。反応混合物を、+4℃で一晩インキュベートした。未反応のEu3+キレートの精製は、本明細書の実施例1におけるビオチン化抗体の未反応ビオチン-イソチオシアネートの精製と同じ方法で行った。
【0168】
抗-Tn抗原抗体は、Fujirebio Diagnostic社(Gothenburg, Sweden)から入手した。非結合Helix pomatiaアグルチニン(HPA)および小麦胚芽アグルチニン(WGA)は、各々ThermoFischer ScientificおよびVectorlabs(Burlingame, CA)から購入した。Eu3+-NPは、直径0.1μmのFluoro-Max(登録商標)蛍光カルボキシレート修飾粒子(Seradyn Inc.)であった。スルホ-NHS(N-ヒドロキシスルホスクシンイミドナトリウム塩)は、Sigma-AldrichおよびEDC(EDC-HCl Novabiochem(登録商標)から入手し、1-エチル-3-(3'-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミドHCl)は、Milliporeから入手した。Nanosep 300K Omegaフィルターは、Pall Life Sciences社から購入し、チップソニケーターUP100HおよびチューブソニケーターVialTweeterは、Hielscher社から購入した。
【0169】
Eu3+-NPのコーティングを、Eu3+-NPのカルボキシレート基をタンパク質の一級アミンと結合することが出来るカルボジイミド架橋化学を利用して行った。特に言及しない限り、この工程を室温で行った。フィルターはまだ湿っている状態であるが、目視で明確な液滴が観察され無くなるまで、フィルター中のEu3+-NPを、5400×gで遠心分離することにより、全ての洗浄を、200~300μLの緩衝液を用いて行った。全てのEu3+-NP回収工程は、フィルター膜を2~5mmの距離から60~80%の振幅で30パルス超音波処理し、膜から溶液を回収することによって実施した。1回の反応につき約3.3×1011個のEu3+-NPを使用した。Eu3+-NPを、200μLのコンジュゲーション緩衝液(50mM MES, pH6.1)を用いて2回洗浄し、50μLのコンジュゲーション緩衝液中に回収した。EDCとNHSを、各々最終濃度1.3 mMと8 mMにて、15分間ボルテックスして粒子を活性化した。反応緩衝液(50 mM MES, pH 6.1, 100 mM NaCl)中で30分間ボルテックスすることにより、Eu3+-NPを150 μgのタンパク質と結合させた。反応pHを、0.5 Mの炭酸緩衝液(pH9.8)を用いてpH8.0に調整し、混合物を、30分間ボルテックスした。反応性カルボキシレート基をブロックするために、ウシ血清アルブミン(BSA)を最終濃度10 mg/mLになるように加えて、混合物を30分間ボルテックスし、回転させて攪拌しながら、+4℃で一晩保存した。混合物を、乾燥するまで5400×gで遠心し、300 μLの保存用緩衝液(25 mM Tris, pH 7.8;150 mM NaCl;0.1% NaN3)を用いて3回洗浄した。粒子を、150μLの保存用緩衝液中に回収し、十分に混合した後、BSAを最終濃度2mg/mLになるように添加した。Eu3+-NPを、+4℃で2日間保存した。溶液を混合し、その後振幅100%で7回パルス超音波処理した。500×gで5分間遠心した後、上清を回収した。
【0170】
時間分解蛍光測定(TRF)アッセイの概略図を
図1に示す。簡単に説明すると、ビオチン化抗体を、Kaivogenアッセイ緩衝液(Kaivogen, Turku, Finland)で最終濃度100 ng/ウェルに希釈し、室温で60分間インキュベートすることにより、ストレプトアビジンをコートしたマイクロタイターウェル(Kaivogen)に固定した。Eu
3+-キレート標識Ma695および抗-Tn抗体あるいはWGAまたはHPA結合Eu
3+-NPを、各々トレーサーとして使用する場合は、最終容量50μLおよび25μLのビオチン化抗体を使用した。過剰な未結合ビオチン化抗体を除去するために、ウェルの洗浄を行った。その後、希釈した尿サンプル50 μLを、3連のウェルに添加した。尿サンプルの希釈は、Kaivogenアッセイ緩衝液で行った。Eu
3+-キレート標識Ma695抗体およびWGAまたはHPAでコーティングしたEu
3+-NPをトレーサーとして用いたイムノアッセイについては、尿サンプルを1:40に希釈した。しかし、抗-Tn抗体でコーティングしたEu
3+-NPを、トレーサーとして使用する場合は、尿サンプルを1:20に希釈した。希釈したサンプルを、プレート振とう器で60分間インキュベートし、その後ウェルを洗浄した。結合した分析物はTRFを用いて検出した。
【0171】
従来のMUC1イムノアッセイでは、MUC1上に発現するシアリル化糖鎖エピトープを、Eu3+-キレート標識MUC1-抗体により標的とした。標識抗体を、Kaivogenアッセイ緩衝液(50μL)で希釈し、室温で60分間振盪しながらインキュベートした。ウェルを洗浄した後、200 μLのユーロピウム蛍光増感剤(Kaivogen)を各ウェルに添加し、室温で10分間振とう器上でインキュベートした。
【0172】
抗-Tn抗体、WGAまたはHPA結合Eu3+-NPを用いるMUC1上の糖鎖エピトープを標的としたアッセイでは、NP-バイオコンジュゲートを、25μLのKaivogenアッセイ緩衝液で希釈し、室温で60分間振とうした。Victor(登録商標)1420 Multilabel Counter(Perkin-Elmer Life Sciences)を用いて、ユーロピウムのTRFを測定した(λex:340 nm;λem:615 nm)。
【0173】
従来のMUC1イムノアッセイで得られた特異的シグナルは、良性泌尿器疾患患者、低リスクBlCa患者、中・高リスクBlCa患者の尿サンプルを有意に識別した(即ち、p値は、p<0.05であった)(
図6A)。しかし、WGAレクチンまたは抗-Tn抗体(Tn-AB)を用いたN-アセチルグルコサミン(GlcNAc)、HPAを用いたN-アセチルガラクトサミン(GalNAc)のようなMUC1上のがん特異的糖鎖の検出により、識別能力の向上(即ち、より低いp値)が得られた。MUC1WGAアッセイにより、低リスクBlCaと中・高リスクBlCaを良性泌尿器疾患サンプルから有意に識別することができた(p値:各々0.01463および0.02118)(
図6B)。しかし、低リスクBlCaサンプルを、中・高リスクBlCaサンプルと区別することはできなかった(p値:0.25143)。同様に、MUC1
Tn-ABアッセイでは、低リスクBlCaサンプルと中・高リスクBlCaサンプルは、各々p値0.01831と0.00212で良性サンプルと有意に識別できたが、MUC1
Tn-ABアッセイでは、低リスクサンプルと中・高リスクBlCaサンプルを識別できなかった(p値:0.25143)(
図6C)。MUC1
WGAアッセイとMUC1
Tn-ABアッセイから得られたデータを用いて構築したロジスティック回帰モデルでは、低リスクおよび中・高リスクのBlCaを良性サンプルと、より良好に識別された(p値:各々0.00508および0.00118)。しかし、このモデルは、低リスクBlCaサンプルおよび中・高リスクBlCaサンプルと良性サンプルとの識別力を改善したが、低リスクBlCaサンプルと中・高リスクBlCaサンプルとの識別力は認められなかった(p値:0.39358)(
図6D)。これとは反対に、HPAを用いたMUC1上のGalNAcの検出(MUC1
HPAアッセイ)では、低リスクBlCaと良性の泌尿器科疾患との有意な識別が得られた(p値:0.03362)(
図6E)。非常に興味深いことに、MUC1
HPAアッセイでは、中リスクおよび高リスクのBlCaサンプルを良性の泌尿器疾患と区別できなかった(p値:0.0951)。有意限界(p値:0.0548)を僅かに超えたものの、低リスクBlCaサンプルからのシグナルは、中・高リスクBlCaサンプルからのシグナルよりも高いようであった。従って、MUC1
HPAアッセイは、特に、低リスクのBlCaを区別できる可能性があり、例えば、本明細書に記載したような他のバイオマーカーと組み合わせることで、BlCa患者を低リスク群と中・高リスク群に層別化できる可能性がある。
【0174】
実施例5
本試験は、フィンランド南西部病院区の倫理委員会の承認を受け、ヘルシンキ宣言に準拠して実施された。参加者は書面によるインフォームド・コンセントを行った。
【0175】
様々ながん(卵巣がん、膀胱がん、頭頚部がん、大腸がん、膵臓がん、腎細胞がん)または良性状態(子宮内膜症および膵炎)に罹患している対象ならびに健康なコントロールから得られた血清サンプルを、各々、6~10人の個々の血清サンプルを合わせてプールした。同様に、がん患者(肺がん、前立腺がん)または健康なコントロールから得られた6~10人のEDTA血漿サンプルを合わせて、各々プールしたEDTA血漿サンプルとした。
【0176】
異なるインテグリンサブユニットのタンパク質エピトープを認識する様々な抗ヒトインテグリン(ITG)モノクローナル抗体(mAb)(例えば、抗-ITGA2、抗-ITGA3、抗-ITGA5、抗-ITGAV、抗-ITGB1、抗-ITGB3、抗-ITGB5および抗-ITGA3B1 mAbs)を、RnD system(USA)から購入した。レクチンUlex Europaeus アグルチニンI (UEA I)を、Vector laboratories (USA)から入手した。黄色ストレプトアビジン(SA)コート低蛍光マイクロ滴定プレート、洗浄緩衝液、アッセイ緩衝液を、Kaivogen Oy(Turku, Finland)から入手した。ユーロピウム(III)-キレート染色Fluoro-Max(登録商標)ポリスチレンナノ粒子(直径95 nmで1粒子あたり30,000キレートのEu+3-NP)を、Seradyn Inc.から購入した。
【0177】
時間分解蛍光法(TRF)ITGイムノアッセイ(ITG-ITG)および対応する糖鎖バリアントNPアッセイ(ITG-UEA)を、以下のように実施した:ビオチン化ITG-mAb捕捉体および同様のITG-mAbまたはα1,2フコース認識レクチンUEA-Iをトレーサー分子として結合させたEu-NPを使用した。各ビオチン化捕捉mAb(80 ng/25 μl/ウェル)を、緩衝液中で1時間インキュベートしてSAvコートした黄色低蛍光マイクロタイターウェルに固定した。その後、ウェルを洗浄液で2回洗浄し、25μlの希釈したプール血清またはEDTA血漿(緩衝液で1:5)を、3回に分けてウェルに添加し、振盪しながらRTで1時間インキュベートした。固定されたITGを、2つのTRFアッセイフォーマットを用いて検出した:同様のITG-mAbで標識したEu-NPはITGタンパク質エピトープを検出し、一方でUEA-Iレクチン-NPコンジュゲートは糖鎖エピトープ(α1,2フコース)の検出に使用した。TRF ITG-UEAアッセイでは、レクチンUEAでコートした1×107 Eu+3-NPを含む25μlのアッセイ緩衝液を各ウェルに加えて、振とうしながらRTで1時間インキュベートした。インキュベーション後、ウェルを洗浄緩衝液で6回洗浄した。Victor(登録商標)1420 Multilabel Counter(Perkin-Elmer Life Sciences, Wallac, Turku, Finland)を用いて、乾燥したウェルからEu+3のTRFを測定した(λex:340 nm; λem:615 nm)。各捕捉抗体を、ウェルに固定して、サンプルのインキュベーション中はアッセイ緩衝液を使用して、蛍光シグナルを、バックグラウンドと比較した。シグナル/バックグラウンド比(S/B)を、各捕捉抗体に対応するプールしたサンプルについて算出した。
【0178】
結果を、非悪性サンプルで得られたものと比較した相対的なシグナル/バックグラウンド比を表1にまとめた。
【0179】
文献
Islam Md K, Syed P, Lehtinen L, Leivo J, Gidwani K, Wittfooth S, Pet-tersson K, Lamminmoeki U. A Nanoparticle-Based Approach for the Detection of Extracellular Vesicles. Sci Rep. 2019 Jul 11;9(1):10038. doi: 10.1038/s41598-019-46395-2.
【国際調査報告】