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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-01-31
(54)【発明の名称】胎盤加水分解物およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C12P 21/06 20060101AFI20240124BHJP
   C12P 1/00 20060101ALN20240124BHJP
【FI】
C12P21/06
C12P1/00 A
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023544703
(86)(22)【出願日】2021-11-10
(85)【翻訳文提出日】2023-07-25
(86)【国際出願番号】 KR2021016357
(87)【国際公開番号】W WO2023085456
(87)【国際公開日】2023-05-19
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】520214466
【氏名又は名称】グリーン・クロス・ウェルビーイング・コーポレイション
【氏名又は名称原語表記】GREEN CROSS WELLBEING CORPORATION
【住所又は居所原語表記】33F, PARC 1 BLDG. TOWER-2, 108, YEOUI-DAERO, YEONGDEUNGPO-GU, SEOUL 07335, REPUBLIC OF KOREA
(71)【出願人】
【識別番号】597044704
【氏名又は名称】株式会社日本生物製剤
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】キム,テ・ジョン
(72)【発明者】
【氏名】ジョン,スン・ジェ
(72)【発明者】
【氏名】イム,ミン・ジュ
(72)【発明者】
【氏名】ジョン,キョン・ス
(72)【発明者】
【氏名】ハン,ヘ・ジョン
(72)【発明者】
【氏名】キム,サン・キュ
(72)【発明者】
【氏名】キム,サン・ヒョン
(72)【発明者】
【氏名】カク,タイイチ
(72)【発明者】
【氏名】イム,ホン・ソク
【テーマコード(参考)】
4B064
【Fターム(参考)】
4B064AG01
4B064AH19
4B064CA21
4B064CB06
4B064CE11
4B064DA01
(57)【要約】
本発明は、動物胎盤破砕物を脱脂し、乾燥して、動物胎盤破砕物粉末を得るステップと、前記動物胎盤破砕物脱脂粉末にタンパク質分解酵素酸溶液を処理して酵素分解するステップと、前記分解物を陰イオン交換樹脂と接触させてイオン交換するステップとを含むことにより、薬理活性を示すことができるアミノ酸、オリゴペプチドを多量に含む胎盤加水分解物を製造する方法に関するものである。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
動物胎盤破砕物を脱脂し、乾燥して、動物胎盤破砕物粉末を得るステップと、
前記動物胎盤破砕物脱脂粉末にタンパク質分解酵素酸溶液を処理して酵素分解するステップと、
前記分解物を陰イオン交換樹脂と接触させてイオン交換するステップとを含む、胎盤加水分解物の製造方法。
【請求項2】
前記脱脂は、胎盤破砕物にアセトン、アルコールおよびエステルからなる群より選択される有機溶媒を加えて行われる、請求項1に記載の胎盤加水分解物の製造方法。
【請求項3】
前記脱脂は、前記胎盤破砕物にアセトン、アルコールまたはエステルを含む有機溶媒のいずれか一つを加えて2時間~8時間脱脂させるステップと、60~100℃で10時間~24時間乾燥して前記有機溶媒を除去するステップとを含んで行われる、請求項1に記載の胎盤加水分解物の製造方法。
【請求項4】
前記脱脂および有機溶媒の除去は複数回行われ、1回目に比べて2回目でより長時間脱脂する、請求項3に記載の胎盤加水分解物の製造方法。
【請求項5】
前記タンパク質分解酵素は、パパイン(Papain)、ペプシン(pepsin)、ブロメライン(Bromelain)、プロナーゼ(Pronase)、またはアルカラーゼ(Alcalase)である、請求項1に記載の胎盤加水分解物の製造方法。
【請求項6】
前記酸溶液の酸濃度は0.1~10%である、請求項1に記載の胎盤加水分解物の製造方法。
【請求項7】
前記酵素分解時、胎盤破砕物脱脂粉末10kg~25kgに対してタンパク質分解酵素0.5kg~3kgを処理する、請求項1に記載の胎盤加水分解物の製造方法。
【請求項8】
前記陰イオン交換樹脂との接触は、前記分解物に陰イオン交換樹脂を添加するか、または前記分解物を陰イオン交換樹脂カラムに通過させて行われる、請求項1に記載の胎盤加水分解物の製造方法。
【請求項9】
前記イオン交換された分解物に塩基を添加してpHを調整するステップをさらに含む、請求項1に記載の胎盤加水分解物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、胎盤加水分解物およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
胎盤(placenta)は妊娠した哺乳類の子宮内に出来る器官であり、臍帯を通して胎児に栄養分を供給して命を支える。胎盤は出産時に子宮から排出され、胎盤が出ることを後産という。
【0003】
胎盤には必須アミノ酸、メラトニン、RNA、DNAなどの核酸成分、抗酸化酵素であるSOD(Super oxide Dismutase)、ヒアルロン酸(Hyaluronic acid)、抗酸化剤、免疫補助因子(cytokine)、胎盤ペプチド、インスリン様成長因子(insulin-like-growth factor)、上皮成長因子(EGFS、Epidermal Growth factors)および独特な老化細胞活性因子(SCAFS、Senescent cell Activating factors)などの成長因子とサイトカイン類が含まれており、疲労回復、免疫増強などに有用であることが知られている。
【0004】
この胎盤の加工方法としては、強酸(通常は、3N塩酸)や強アルカリを用いて胎盤を加水分解し、その産物を得る方法が用いられてきた。しかし、この方法は、長時間高温処理を行う過程で胎盤が持っている各種アミノ酸などの生理活性物質が破壊してしまう問題がある。また、従来の酵素を用いた胎盤加工方法は、有効成分の抽出に長時間を要する問題があり、その問題を改善できる方法の開発が必要なのが実情である。
【0005】
韓国特許出願第2000-0043588号では、肝癌の治療及び予防を目的として 紫河車(胎盤)加水分解物を用いているが、人体の胎盤からサイトカイン、アミノ酸、核酸塩基、糖質などの各種生体活性成分を抽出した紫河車加水分解物を用いている。ここでは、紫河車をアセトンで処理して脱脂した後、不完全な加水分解物が生成しないように、ペプシンと塩酸で処理する十分な加水分解処理を行うことが記載されているが、詳細な製造方法については記載されていない。
【0006】
韓国特許出願第2007-0065779号では、胎盤にアセトンおよび定量の精製水を添加して40℃で3~5時間脱脂反応させ、その脱脂反応の産物を80℃で8時間乾燥して脱脂胎盤粉末を得ており、胎盤粉末から、i)胎盤粉末40~60重量部に対して、タンパク質分解酵素0.5~8重量部および水30~60重量部を添加して加水分解するステップと、ii)前記加水分解の産物を減圧濃縮するステップと、iii)前記減圧濃縮物を凍結乾燥するステップとを含む胎盤由来の化粧品または健康機能食品原料用の組成物の製造方法を記載している。しかし、本件先行発明の実施例では、ヒトの胎盤ではないブタの胎盤を用いており、また酸追加加水分解法で得られた胎盤抽出物に比べてタンパク分解酵素法による胎盤抽出物のアミノ酸含有量が高いことを記載しているが、タンパク質の分解過程以外の他のステップについては比較や分析を行っていない。
【0007】
胎盤の具体的な成分は正確に知られていないが、先行韓国特許出願第2003-0000173号では、正常分娩した産婦の紫河車をアセトンで脱脂し、塩酸で加水分解して、1.0ミリリットル当たり56ミリグラム以上の水溶性物質を含有し、定量を行った場合、アルギニン0.01重量%、リジン0.02重量%、フェニルアラニン0.09重量%、チロシン0.04重量%、ロイシン0.11重量%、イソロイシン0.01重量%、メチオニン0.02重量%、バリン0.02重量%、グリシン0.02重量%、プロリン0.01重量%、グルタミン酸0.02重量%、セリン0.03重量%、トレオニン0.02重量%、アスパラギン酸0.21重量%以上のアミノ酸を含有し、全窒素0.172~0.816w/v%を含有することを記載している。
【0008】
タンパク質やペプチドの存在有無についての分析には、一般にSDSポリアクリルアミドゲル電気泳動(Sodium Dodecyl Sulfate Polyacrylamide Gel Electrophoresis、SDS-PAGE)法を用いる。これは、電気泳動装置を用いてタンパク質を分子量によって分離する定性分析方法であって、主要なタンパク質の存在を確認する方法である。SDS-PAGEは、アクリルアミド(Acrylamide)成分の含有量とグリシン(Glycine)またはトリシン(Tricine)を原料としてタンパク質とペプチドの分離に適用している。トリス-グリシン(Tris-glycine)ゲルの場合は、分子量10kDa~300kDaのタンパク質の分離に有用であり、トリス-トリシン(Tris-tricine)ゲルの場合は、分子量2kDa~20kDaのペプチドの分離に有用である。SDS-PAGEによって分離したタンパク質/ペプチドは、クマシー染色法(Coomassie staining)によって最終タンパク質の有無を確認する。最近では、ゲル・イメージング・プログラム(Gel image program)を用いてPAGEで分離されたタンパク質の含有量を数値化することもあるが、バンド分離と染色法のバンド飽和(band saturation)などの理由で、正確なタンパク質の含有量分析方法としては適用しにくい。分子量2kDa以下のペプチドは、LC-MS分析法によりペプチドの存在有無を確認することができる。
【0009】
胎盤加水分解物の製造過程の中で酸加水分解過程が行われるが、これはヒトの胎盤内にペプチドまたはアミノ酸が多数存在し得ることを意味する。現在まで知られているペプチドの配列決定には、質量分析計(ESI-MS/MS;Electrospray Ionization)を通常使用している。胎盤加水分解物中に存在するタンパク質またはペプチドは、前記方法によって確認分析が可能である。最終的には胎盤加水分解物中に含まれているタンパク質またはペプチドについてSDS-PAGE法で存在有無を確認し、LC-MS法によって低分子量のペプチドの存在と含有量を分析することにより、胎盤加水分解物中に含まれているタンパク質とペプチドを全て確認することができる。
【0010】
胎盤中には、様々な人体の生理作用に影響を与えることが知られているミネラルが含まれていると推定される。ミネラルとしては、鉄粉、マグネシウム、カルシウム、亜鉛、セレンなどが代表的に知られている。粉乳や健康機能食品、そして医薬品中のミネラル含有量の分析法としては様々な方法が知られている。代表的な方法として、大韓薬典中の一般試験法に相当する方法を参考にすると、標準液を濃度別に製造して各濃度に相当する吸光度値で検量線を得、その検量線グラフ上の試料の吸光度値を読み取って試料中の当該ミネラル成分の含有量を確認する方法がある。
【0011】
一般に、アミノ酸、ペプチドまたはタンパク質を含有する組成物を精製する過程では、イオン交換クロマトグラフィーを使用する。タンパク質とペプチドは、両性イオンであるアミノ酸からなっているため、周辺環境のpHによってタンパク質とペプチドの電荷(net charge)が変化することになるが、中性を帯びるようにするpI(等電点)の差を用いてイオンや極性物質を分離する。この分離過程をイオン交換クロマトグラフィーといい、分離しようとするタンパク質の表面電荷を基準に、陰イオン交換体と陽イオン交換体を用いるクロマトグラフィーに区分する。陰イオン交換クロマトグラフィーの場合、等電点の高いタンパク質はカラムとの結合が相対的に弱く、低い塩濃度でも溶出できるため、等電点の高いタンパク質からカラムより溶出し始める。イオン交換クロマトグラフィーのイオン交換体、すなわちイオン交換樹脂の種類と平衡条件、試料のローディング条件と洗浄の進め方、または溶出液のpHの傾斜範囲、バッファの種類と溶出条件によって得られる生成物の含有量が異なることになる。
【0012】
本発明の発明者らは、胎盤を加工して胎盤を加水分解させるか、または胎盤から有効な効果を有する医薬品組成物を抽出する過程におけるイオン交換クロマトグラフィーの最適条件を樹立し、それにより得られる胎盤加水分解物または胎盤抽出物中のタンパク質、ペプチドまたはミネラルの含有量を確認して本発明を完成するに至った。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、薬理活性を示すことができるアミノ酸、オリゴペプチドを多量に含む胎盤加水分解物の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
1.動物胎盤破砕物を脱脂し、乾燥して、動物胎盤破砕物粉末を得るステップと、
前記動物胎盤破砕物脱脂粉末にタンパク質分解酵素酸溶液を処理して酵素分解するステップと、
前記分解物を陰イオン交換樹脂と接触させてイオン交換するステップとを含む、胎盤加水分解物の製造方法。
【0015】
2.前記項目1において、前記脱脂は、胎盤破砕物にアセトン、アルコールおよびエステルからなる群より選択される有機溶媒を加えて行われる、胎盤加水分解物の製造方法。
【0016】
3.前記項目1において、前記脱脂は、前記胎盤破砕物にアセトン、アルコールまたはエステルを含む有機溶媒のいずれか一つを加えて2時間~8時間脱脂させるステップと、60~100℃で10時間~24時間乾燥して前記有機溶媒を除去するステップとを含んで行われる、胎盤加水分解物の製造方法。
【0017】
4.前記項目3において、前記脱脂および有機溶媒の除去は複数回行われ、1回目に比べて2回目でより長時間脱脂する、胎盤加水分解物の製造方法。
【0018】
5.前記項目1において、前記タンパク質分解酵素は、パパイン(Papain)、ペプシン(pepsin)、ブロメライン(Bromelain)、プロナーゼ(Pronase)、またはアルカラーゼ(Alcalase)である、胎盤加水分解物の製造方法。
【0019】
6.前記項目1において、前記酸溶液の酸濃度は0.1~10%である、胎盤加水分解物の製造方法。
【0020】
7.前記項目1において、前記酵素分解時、胎盤破砕物脱脂粉末10kg~25kgに対してタンパク質分解酵素0.5kg~3kgを処理する、胎盤加水分解物の製造方法。
【0021】
8.前記項目1において、前記陰イオン交換樹脂との接触は、前記分解物に陰イオン交換樹脂を添加するか、または前記分解物を陰イオン交換樹脂カラムに通過させて行われる、胎盤加水分解物の製造方法。
【0022】
9.前記項目1において、前記イオン交換された分解物に塩基を添加してpHを調整するステップをさらに含む、胎盤加水分解物の製造方法。
【発明の効果】
【0023】
本発明は、胎盤から胎盤粉末を製造する方法、胎盤粉末から胎盤加水分解物を製造する方法を提供する。本発明の製造方法によって得られる胎盤加水分解物は、2mer~5merのペプチドを含有し、生理学的活性の高いミネラルを多量に含有しているため、本発明の胎盤加水分解物を含有する薬学組成物または健康機能食品組成物は、疲労に関連する症状や疾患を緩和することができ、特に肝疾患に効果がある。また、本発明の胎盤加水分解物を含む化粧品組成物は、皮膚老化の防止およびシワの改善に有用に使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1図1は、本発明の胎盤加水分解物をTCA沈殿濃縮した後のSDS-PAGEタンパク質分離の結果である。
図2図2は、本発明の胎盤加水分解物をSpeedvac濃縮した後のSDS-PAGEタンパク質分離の結果である。
図3図3は、本発明の胎盤加水分解物をSpeedvac濃縮した後のトリス-トリシン(Tris-tricine)ゲル電気泳動によるペプチド分離の結果である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0026】
本発明は、胎盤加水分解物の製造方法に関するものである。
【0027】
本発明の方法は、動物胎盤破砕物を脱脂し、乾燥して、動物胎盤破砕物粉末を得るステップと、前記動物胎盤破砕物脱脂粉末にタンパク質分解酵素酸溶液を処理して酵素分解するステップと、前記分解物を陰イオン交換樹脂と接触させてイオン交換するステップとを含む。
【0028】
胎盤は、ヒトを含む哺乳類の胎盤であってもよく、具体的にはヒトの胎盤であってもよい。
【0029】
胎盤では、絨毛組織または臍帯組織を使用することができる。
【0030】
脱脂は、胎盤破砕物にアセトン、アルコールおよびエステルからなる群より選択される溶媒を加えて行うことができる。具体的には、アセトンまたはアルコールを使用することができる。アルコールとしては、エタノールを使用することができる。
【0031】
溶媒は、例えば、胎盤破砕物に対して2~20v/w倍、4~12v/w倍の量を加えることができるが、これらに限定されるものではない。溶媒の量が前記範囲内であると、十分な脱脂効果を示すとともに、後の溶媒除去が容易である。
【0032】
脱脂は撹拌下で行うことができる。撹拌時間は2時間~8時間が好ましい。攪拌時間が短すぎると、十分な量の沈殿物が得られず、攪拌時間が長すぎると、全工程時間が長くなるため非効率的である。
【0033】
脱脂は、胎盤破砕物にアセトン、アルコールまたはエステルを含む有機溶媒のいずれか一つを加えて2時間~8時間脱脂するステップと、60℃~100℃で10時間~24時間乾燥して前記有機溶媒を除去するステップとを含んで行うことができる。
【0034】
脱脂は、残留脂肪を完全に除去する観点から複数回行うことができる。例えば、2回以上、3回以上、4回以上行うことができる。その上限は、例えば6回、5回、4回などであってもよい。複数回脱脂時の各脱脂工程は、前記例示した時間だけ行うことができるが、これらに限定されるものではない。
【0035】
脱脂を複数回行う場合には、前回に比べて次回の脱脂時間をより長くすることができる。例えば、1回目の脱脂に比べて2回目の脱脂時間をより長くすることができる。
【0036】
脱脂後は、沈殿溶媒を除去する。溶媒の除去は遠心分離によって行うことができる。
【0037】
脱脂を複数回行う場合には、各脱脂工程毎にその間に溶媒除去工程を行うことができる。
【0038】
乾燥温度は、例えば60℃~100℃であってもよい。前記範囲内の温度は、60℃~100℃、70℃~100℃、80℃~100℃、90℃~100℃などであってもよい。乾燥温度が前記範囲内であると、十分な乾燥が可能であり、胎盤組織の損傷を防止することができる。
【0039】
乾燥時間は、例えば、10時間以上、12時間以上、14時間以上、16時間以上であってもよい。その上限は、例えば48時間、36時間、24時間などであってもよい。
【0040】
その後、動物胎盤破砕物脱脂粉末にタンパク質分解酵素酸溶液を処理して酵素分解を行う。
【0041】
タンパク質分解酵素としては、例えば、パパイン(Papain)、ペプシン(pepsin)、ブロメライン(Bromelain)、プロナーゼ(Pronase)またはアルカラーゼ(Alcalase)を用いることができる。
【0042】
タンパク質分解酵素酸溶液は、タンパク質分解酵素を含む酸溶液であり、酸は例えば塩酸、硝酸、硫酸、酢酸などであってもよく、具体的には塩酸であってもよい。
【0043】
酸溶液の酸濃度は0.1~10%であってもよく、その含有量は胎盤粉末の乾燥含有量に対して0.2~20倍(W/W)の量で使用することができる。
【0044】
本ステップでは、胎盤粉末10~25kgに対してタンパク質分解酵素0.5kg~3kgを使用することができる。タンパク質分解酵素の含有量は、胎盤粉末の乾燥含有量に対して0.01~5倍(W/W)であることが好ましい。タンパク質分解酵素の含有量が少なすぎると、加水分解が十分に行われず、加水分解時間が長くなって工程時間が不必要に長くなる問題が生じる。一方、タンパク質分解酵素の含有量が多すぎると、加水分解により胎盤成分の分子量が低下し、所望の効果を十分に発揮できない問題が生じることがある。
【0045】
酵素分解は、さらなる分解反応が起こらなくなるまで行うことができる。例えば、ビウレット反応によるさらなるタンパク質反応が起こらなくなるまで行うことができる。
【0046】
その後、前記分解物を陰イオン交換樹脂と接触させてイオン交換を行う。
【0047】
陰イオン交換樹脂の処理は、加水分解液に陰イオン交換樹脂を添加するか、または加水分解液を陰イオン交換カラムに通過させて行うことができる。
【0048】
その後、ろ過、pH調整、加熱滅菌を行うことができる。
【0049】
加水分解物溶液の温度を上げて酵素を不活性化し、残渣をろ過して除去する過程である。このときの温度は70℃~100℃であってもよい。
【0050】
次は、水酸化ナトリウムなどの塩基をpH調整剤として添加してpHを上げる工程である。pHは、例えば5.5~7.5の範囲で調整することができる。本発明の組成物を注射剤または経口用に使用するためには、前記pHの範囲を有することが好適であるからである。前記工程により得られる組成物に精製水を加えることにより、濃度と液量を調節することができる。この過程は熱処理により行われるが、高温高圧の滅菌器に安息香酸ナトリウムのような保存剤を添加して加熱滅菌することが好ましい。保存剤は、本発明の組成物(例えば、医薬組成物または食品組成物)が許容する範囲内の通常のものを使用することができる。
【0051】
前記滅菌過程は、好ましくは100~140℃で20~120分間行うことができる。
【0052】
前記本発明の方法により得られる胎盤加水分解物は、薬理活性を示すことができるアミノ酸、オリゴペプチドを多量に含んでいるので、健康機能食品の原料として使用することができる。
【0053】
前記加水分解物から製造される健康機能食品は、肝機能の改善に役立つことができる。
【0054】
「健康機能食品」とは、「人体に有用な機能性を持った原料や成分を使用して、錠剤、カプセル、粉末、顆粒、液状、丸剤などの形態で製造・加工した食品」(韓国法律第7428号の健康機能食品に関する法律の第3条第1号)に満たすものである。そして「機能」または「機能性」とは、人体の構造および機能に対し栄養素を調節するか生理学的作用などのような保健用途に有用な効果を得ることをいう。つまり、健康な人または不健康な人の保健用途に有用に使用できることを意味する。
【0055】
健康機能食品中の胎盤加水分解物の乾燥含有量は、全含有量の0.1~50重量%が好ましい。含有量が少なすぎると、前述した胎盤加水分解物の効能が十分に発現せず、また投与量が多くなって投与の不便さがある。含有量が多すぎると、溶解性および製品製剤上の問題がある。
【0056】
胎盤加水分解物を含有する健康機能食品は、服用の便宜のために、錠剤、糖衣錠、カプセル、ドリンクなどの製剤を有する機能性食品として使用することが好ましい。
【0057】
実施例
1.胎盤粉末の製造
冷凍保存されたヒト胎盤200kgを洗浄し、解凍および破砕して胎盤破砕物を得た。
【0058】
得られた胎盤破砕物に脱脂溶媒を加え、撹拌して脱脂した。脱脂溶媒としては、アセトン、アルコールまたはエステルを用いることができる。
【0059】
脱脂溶媒は、胎盤破砕物含有量の4倍~12倍の体積(v/w)で使用し、2~8時間撹拌した。
【0060】
脱脂は2回に分けて行った。繰り返される脱脂工程(2回目の脱脂工程)は、前回の脱脂工程(1回目の脱脂工程)で得られた沈殿物に、再度アセトン、アルコールまたはエステルを投与し、攪拌を続けて沈殿物を得る過程である。ここで、アセトンの量は前回の脱脂工程で使用した量と同じであるが、撹拌時間は2時間~24時間とした。
その後、溶媒を除去し、乾燥して、胎盤破砕物粉末を得た。
【0061】
2.胎盤加水分解物の製造
前記胎盤破砕物粉末に酸溶液を加えて酸加水分解を行った。このとき、タンパク質分解酵素も併用した。
【0062】
酸としては塩酸、硝酸または酢酸を使用することができ、タンパク質分解酵素としてはパパイン、ペプシン、ブロメライン、プロナーゼまたはアルカラーゼを使用した。
【0063】
本ステップでは、胎盤粉末10~25kgに対してタンパク質分解酵素0.5kg~3kgを使用した。
【0064】
酸は0.1~10%の濃度範囲で使用し、その含有量は胎盤粉末の乾燥含有量に対して0.2~20倍(W/W)で使用した。
【0065】
ビウレット反応によるさらなるタンパク質反応が起こらなくなるまで加水分解した。加水分解後にイオン交換過程を経る。
【0066】
イオン交換は、陰イオン交換クロマトグラフィーを使用するか、または得られた加水分解物にイオン交換樹脂を添加することによって行った。
【0067】
陰イオン交換クロマトグラフィーを使用する具体的な実施例は下記の3つの通りであり、これらはそれぞれ選択的に使用することができる。
【0068】
(1)陰イオン交換の実施例1
20mMのTris(pH7.5)緩衝液で平衡化したSource Q(XK50/25、500ml)カラムに、20mMのTris(pH7.5)緩衝液ダイアフィルトレーション(ILDF、In-line diafiltration module)とエタノール処理した胎盤加水分解物を10倍希釈して12ml/minの流速で負荷して結合させた後、直線濃度勾配(塩化ナトリウムの濃度0M→1M)法で18カラム容量の線形濃度勾配を用いて胎盤加水分解物を溶出した。
【0069】
(2)陰イオン交換の実施例2
前のステップで得られた画分を、NaOHを用いてpH5.8に調整した後、以下のようにDEAE-セファロースファーストフロー(DEAE-sepharose fast flow)カラムクロマトグラフィーを行った。すなわち、前記画分を緩衝溶液2(20mMの酢酸ナトリウム、pH5.8)で予め平衡化したDEAEセファロースカラムに吸着させた後、塩化ナトリウムの濃度を10mMずつ増加させながら順次溶出して胎盤加水分解物を溶出した。
【0070】
(3)陰イオン交換の実施例3
一般に、混合液を精製する樹脂のマトリックスは、ポリスチレンまたはポリアクリレートにDVB(Divinylbenzene)を混合させたマトリックスに陽イオン交換樹脂の場合は交換基(functional group)にスルホネート(sulfonate、-SO3-)、陰イオン交換樹脂の場合は交換基に-N(CH)Cl(trimethylammonium)、-N(CHOHCl(dimethylethanolammonium)、-(CHN(CH(Tertiary Amine)、または-CHNH(CHCHNH)H(CHNH(Secondary Amine)である樹脂を使用する。
【0071】
その後、ろ過、pH調整、加熱滅菌を行った。
【0072】
加水分解物溶液の温度を上げて酵素を不活性化させ、残渣をろ過して除去する過程である。このときの温度は70℃~100℃であった。その後、前記加水分解物溶液を濃縮およびろ過した。
【0073】
次は、水酸化ナトリウムのようなpH調整剤を添加してpHを5.5~7.5に調整する工程である。本発明の組成物を注射剤または経口用に使用するためには、前記pHの範囲を有することが好適であるからである。前記工程により得られる組成物に精製水を加えることにより、濃度と液量を調節することができる。この過程は熱処理により行われるが、高温高圧の滅菌器に安息香酸ナトリウムのような保存剤を添加して加熱滅菌することが好ましい。保存剤は、本発明の医薬組成物または食品組成物が許容する範囲内の通常のものを使用することができる。
【0074】
前記滅菌過程では、好ましくは100~140℃で20~120分間加熱滅菌を行った。
【0075】
実験例
1.胎盤加水分解物のタンパク質とペプチドの存在の確認
TCA(Trichloroacetic acid)沈殿法とSpeedvac法により、胎盤加水分解物試料中のタンパク質とペプチドを濃縮した。SDS-PAGEの染色法に相当するクマシー染色は、検知強度が約20ngのレベルであることが知られているが、本発明の胎盤加水分解物試料中に存在する微量のタンパク質またはペプチドを確認するために前記2つの濃縮法を用いた。濃縮した胎盤加水分解物試料は、タンパク質分離用のトリス-グリシン(Tris-glycine)ゲルとペプチド分離用のトリス-トリシン(Tris-tricine)を用いて、それぞれタンパク質とペプチドに分離した。
【0076】
1.1 TCA沈殿
TCA溶液としては、Sigma T9159-100Gを使用した。TCA沈殿によって濃縮させた胎盤加水分解物試料10μLをロードした場合、特異的に確認されるタンパク質バンドが、Lane(2)、(5)、(8)のように検出されなかった。50μLと100μLをロードした試料では、分子量5kDa~35kDaまで垂直(vertical streaking)バンドを確認した(図1参照)。図において、試料番号30620は本発明の胎盤加水分解物に相当し、677870及びK018は対照群に相当する。これらの番号は、各々生産ロット(Lot)の異なる試料を区分するための番号である。
【0077】
通常のタンパク質の移動(migration)パターンとは異なる形態のバンドパターンを確認した。確認したバンドは、タンパク質の有無を確認するために当該バンドを切り取り、インゲル消化(In-gel digestion)過程を経てMALDI-TOF/TOF分析を行った。
【0078】
1.2 Speedvac濃縮
図2は、Speedvacシステムで濃縮した本発明の胎盤加水分解物試料のSDS-PAGE分析の結果である。
【0079】
胎盤加水分解物試料10μLをロードした場合、7kDaの分子量を確認した。50μLロード試料は約15kDa、100μLロード試料は約20kDaの分子量を確認した(図2参照)。
【0080】
通常、SDS-PAGEで特定の分子量のバンドから確認することができ、ロード試料の量が多いほど、同じ分子量においてバンドの厚さが増加する。しかし、Speedvac濃縮試料は、試料のロード量が増加するほど分子量が増加するパターンで示され、通常のSDS-PAGEとは異なる。ここで確認したバンドは、タンパク質の有無を確認するために当該バンドを切り取り、インゲル消化(In-gel digestion)過程を経てMALDI-TOF/TOF分析を行った。
【0081】
1.3 トリス-トリシン(Tris-tricine)を用いた低分子量のタンパク質とペプチドの確認
Speedvacシステムで濃縮した本発明の胎盤加水分解物試料のペプチドゲル(Tris-tricine)分析の結果を図3に示す。
【0082】
胎盤加水分解物試料10μLをロードしたレーン(2)では、0~7kDaの分子量を確認した。50μLをロードしたレーン(3)では、0~15kDa、100μLをロードしたレーン(4)では約0~25kDaの分子量を確認した。図2のSDS-PAGEと類似した形態であるが、低分子量でより広く広がっていることを確認できる(図3参照)。
【0083】
本実験におけるペプチドゲルもまた、通常のタンパク質の移動(migration)パターンとは異なっていた。ここで確認したバンドは、タンパク質の有無を確認するために当該バンドを切り取り、インゲル消化(In-gel digestion)過程を経てMALDI-TOF/TOF分析を行った。
【0084】
2.胎盤加水分解物に存在するペプチド配列の分析
2.1 LC-MS/MSを用いたペプチド配列の分析
前記実験例1では、胎盤加水分解物中のタンパク質とペプチドの存在有無のみを確認した。しかし、分子量2kDa以下のペプチドは前記方法では確認できない。したがって、本実施例ではLC-MS分析を行った。LC-MS分析により、100個以上のペプチド配列の存在を確認し、MS/MS分析により、100個以上のペプチドの配列情報を確認した。
【0085】
100個以上のペプチドを分析した結果、いずれも1.5kDa以下の分子量で存在していた。アミノ酸5個(5mer)以下~2mer以上のペプチドを表1にまとめる。
【0086】
【表1】
【0087】
2.2 EIC法を用いたペプチド含有量の比較
前記実験例2.1で分析したペプチドと対照群試料から得られたペプチドに対して、さらにEIC(Extracted Ion Chromatography)分析を行った。
【0088】
胎盤加水分解物の原液と対照群試料を、同一のペプチドの含有量で比較した。EIC分析は、同じ試料で3回繰り返してEIC分析法の再現性をまず確認した。各ペプチドの全含有量(total area)の平均と3回繰り返し試験で確認した標準偏差は±3%以内で確認した。
【0089】
2つの試料のペプチド含有量を対比したところ、本発明の胎盤加水分解物の全ペプチドのうち、1%以上の含有量を有するペプチド、0.5%~1%未満のペプチド、および0.5%未満の含有量のペプチドをそれぞれ比較した結果、対照群に対して高い含有量を有することが確認された。
【0090】
実験例3.ミネラルの種類及び含有量の分析
胎盤加水分解物のミネラルを分析した結果を下記表2に示す。ミネラルの分析は、大韓薬典中の一般試験法を参考にして行い、成人健常者の血漿中濃度を参考値として示す。
【0091】
【表2】

図1
図2
図3
【国際調査報告】