(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-01-31
(54)【発明の名称】GHRP-6を含有する医薬組成物
(51)【国際特許分類】
A61K 38/18 20060101AFI20240124BHJP
A61K 47/12 20060101ALI20240124BHJP
A61K 47/26 20060101ALI20240124BHJP
A61K 9/08 20060101ALI20240124BHJP
A61K 9/10 20060101ALI20240124BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20240124BHJP
C07K 14/60 20060101ALI20240124BHJP
【FI】
A61K38/18
A61K47/12
A61K47/26
A61K9/08
A61K9/10
A61P43/00 111
C07K14/60 ZNA
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023545946
(86)(22)【出願日】2022-01-27
(85)【翻訳文提出日】2023-09-28
(86)【国際出願番号】 CU2022050001
(87)【国際公開番号】W WO2022161554
(87)【国際公開日】2022-08-04
(32)【優先日】2021-01-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CU
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】304012895
【氏名又は名称】セントロ デ インジエニエリア ジエネテイカ イ バイオテクノロジア
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】弁理士法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】サンターナ ミリアン、ヘクター、ヘスス
(72)【発明者】
【氏名】ヘルナンデス ベルナール、フランシスコ
(72)【発明者】
【氏名】ゴンザレス ブランコ、ソニア
(72)【発明者】
【氏名】サラテ リベラ、ヤセル
(72)【発明者】
【氏名】バカルディ フェルナンデス、ダニア、メルセデス
(72)【発明者】
【氏名】ガルシア デル バルコ ヘレーラ、ダイアナ
(72)【発明者】
【氏名】ゴンザレス ゴンザレス、ジャイーマ
(72)【発明者】
【氏名】カストロ オディオ、フィデル、ラウル
(72)【発明者】
【氏名】ベルランガ アコスタ、ホルヘ アマドール
(72)【発明者】
【氏名】ギレン ニエト、ジェラルド エンリケ
(72)【発明者】
【氏名】バリエンテ ムステリエル、フアン
【テーマコード(参考)】
4C076
4C084
4H045
【Fターム(参考)】
4C076AA11
4C076AA22
4C076BB13
4C076BB15
4C076BB16
4C076CC29
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4C084AA03
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4C084ZC41
4H045AA10
4H045AA30
4H045BA14
4H045CA40
4H045DA30
4H045EA20
(57)【要約】
成長ホルモン放出ペプチド6(GHRP-6)、pH5.0~6.0の酒石酸緩衝液、及び安定化剤としてのトレハロースを含む医薬組成物、並びに薬剤の製造のための前記組成物の使用。本発明はまた、前記医薬組成物を含むキット・オブ・パーツ及びそれを必要とする個体の処置方法を提供し、前記方法は、GHRP-6、pH5.0~6.0の酒石酸緩衝液及びトレハロースを含む治療有効量の医薬組成物の投与を伴う。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
成長ホルモン放出ペプチド6(GHRP-6)とともに、酒石酸緩衝液をpH5.0~6.0で含み、さらにトレハロースを含む、医薬組成物。
【請求項2】
ペプチドが1.0mg/mL~10.0mg/mLの濃度である、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
緩衝液が10mmol/L~100mmol/Lの濃度を有する、請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
酒石酸緩衝液が、ナトリウム塩、カリウム塩又はその両方による混合物により形成されている、請求項1に記載の組成物。
【請求項5】
トレハロースの濃度が2%~10%(w/v)の範囲である、請求項1に記載の組成物。
【請求項6】
液状であるか又は凍結乾燥物を懸濁した生成物(result)である、請求項1に記載の組成物。
【請求項7】
医薬品の製造のための、請求項1~6のいずれかに記載の医薬組成物の使用。
【請求項8】
医薬品が、第2の医薬組成物をさらに含むパーツのキット(kit of parts)である、請求項7に記載の組成物の使用。
【請求項9】
医薬品が、細胞保護剤、心臓保護剤、心臓回復剤もしくは神経保護剤として、又は脳損傷の回復剤として用いられる、請求項7に記載の組成物の使用。
【請求項10】
請求項1~6のいずれかに記載の医薬組成物を含むパーツのキット。
【請求項11】
請求項1~6のいずれかに記載の医薬組成物の治療有効量を投与することを含む、それを必要とする個人を処置する方法。
【請求項12】
医薬組成物が、静脈内経路、皮下経路又は筋肉内経路により投与される、請求項11に記載の処置する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
技術分野
本発明は、医薬及び生物医学産業に関し、その安全性プロファイルを改善するためのペプチド及びタンパク質の医薬製剤に関する。特に、本発明は、成長ホルモン放出ペプチド6(GHRP-6)の医薬組成物に関する。これは、非経口経路によるその投与に好適なペプチドの医薬製剤を開示する。
【0002】
先行技術
GHRP-6は、成長ホルモンの分泌促進物質のファミリーにおいて最も研究されている分子の1つである(Casanueva and Dieguez,Trends Endocrinol.Metab.,1999,10:30-38)。そのアミノ酸配列はHis-Trp-Ala-Trp-Phe-Lys-NH2であり、2番目及び5番目のアミノ酸はDアミノ酸である。これは、合成ペプチドであり、腸met-エンセファリン及び胃グレリンの類似体であり、また、ソマトロトロフ(somatrotroph)下垂体前葉受容体についてこれらの物質と競合する。これらのペプチドは、成長ホルモン分泌促進物質の受容体(GHS-R1a)として知られるプロテインGに結合した受容体を介して作用し、その天然リガンドはグレリンである(Kojima et al.,Nature,1999,402:656-660)。スカベンジャー又はB型リムーバー受容体(type B remover receptor)のファミリーに属する受容体CD36との会合を介した、非内分泌組織におけるGHRP-6に対する追加の結合部位があることが実証されている(Bodart et al.,Circ.Res.,1999,85:796-802)。
【0003】
虚血/再灌流の動物モデルで行われた試験では、GHRP-6は強力な細胞保護効果を示した(Murriel and Mochly,Arch.Biochem.Brophys.,2003,420:246-254)。予備的ないくつかの証拠は、組織損傷が軽減される機構が細胞の酸化還元環境の制御に関連する可能性を示唆している。アポトーシスのような別の形態の細胞死もまた、GHRP-6によって防止されるようである(Colonna et al.,EUR.J.Pharmacol.,1997,334:201-207;Cibrian et al.,Clin.Sci.,2006,110:563-573)。心血管機能に対するその有益な効果は、心筋梗塞及び虚血性心臓病態のような疾患において証明されている(Berlanga et al.,Clin.Sci.,2007,112:241-250;Berlanga et al.,Clin.Med.Insights Cardiol.,2017,11:1-9)。一方、GHRP-6と上皮成長因子(EGF)との組合せは、虚血性脳梗塞の処置において有望な治療法であることが判明した(Subiros et al.,Neurol.Res.,2016,38(3):187-195)。
【0004】
GHRP-6は、成長ホルモンの放出を誘導する目的で、非経口経路、主に静脈内経路によってヒトに投与されてきた。ヒトにおいて静脈内経路によって適用される投与量は、1~2μg/kg体重の間で変動した(Leal-Cerro et al.,EUR.J.Endocrinol.,1995,132(6):712-715);Loche et al.,J.Clin.Endocrinol.Metab.,1995,80(2):674-678)。非経口経路によるヒトにおける新たな適用のために、薬理学的試験は、GHRP-6の治療投与量が100倍高いことを示唆している。ブタにおける急性心筋梗塞のモデルで報告された治療投与量は400μg/kgであり(Berlanga et al.,Clin.Sci.,2007,112:241-250)、これは1990年代にヒトで使用された投与量より200~400倍高い投与量を表す。一方、スナネズミ(Meriones unguiculatus)における、虚血性脳梗塞のモデルにおいて報告されたGHRP-6の治療投与量は、約600μg/kgであった(Subiros et al.,Neurol.Res.,2016,38(3):187-195)。この最後の例では、GHRP-6はEGFと組み合わせて使用された。
【0005】
ヒトにおける安全性に関して、静脈内経路によるGHRP-6の投与中、2μg/kg以下の用量が安全であるといわれる。しかしながら、急性心筋梗塞及び虚血性脳梗塞の処置におけるペプチドの有効な使用を達成するためには、50~600μg/kgの範囲のはるかに高い用量が必要である。同様に、前記目的のために、有害作用及び/又は毒性作用を最小限に抑えながら、品質、安定性及び治療特性を維持する高濃度(1.0~10.0mg/mL)のGHRP-6製剤を得ることが必要である。製品の高い安全性プロファイルは、急性心筋梗塞及び脳卒中を有する患者の処置において特に必要である。
【0006】
高濃度のペプチド又はタンパク質を含む製剤の特定の問題は、その凝集傾向によってもたらされる。凝集の結果として、保存中に製品の沈殿が起こる場合があり、これは患者に投与される投与量の再現性に影響を及ぼす可能性がある。また、粒子含有溶液の非経口投与中に塞栓症が起こる場合がある。
【0007】
医薬品の別の一般的な問題は、患者の処置中に有害作用及び/又は毒性がみられる可能性があることである。これらの望ましくない事象は、とりわけ、有効成分の特性(代謝、タンパク質への結合など)、製剤、投与経路及び患者の特性に応じて、異なる種類のものである場合がある(Ajayi et al.,J.Clin.Pharmacol.,2000,40(10):1093-1101;Choonara et al.,Paediatr.Perinat.Drug Ther.,2001,5:12-18)。非経口経路によって適用された場合の有害作用のプロファイルを最小レベルで維持しながら、適切な治療効果をもたらすペプチドの濃縮製剤の調製は、課題を提起する。各ペプチドは独特のインビボ挙動を示すので、各ペプチドに対する特定の製剤を開発する必要がある。
【0008】
したがって、いくつかの条件で治療薬として投与するために必要なペプチドの濃度を有し、同時にヒトにおいて要求される安全性プロファイルを示すGHRP-6の安定な医薬組成物を得ることが必要である。
【0009】
本発明の説明
本発明は、GHRP-6、pH5.0~6.0でのpH調節緩衝剤である酒石酸、及びトレハロースを含む医薬組成物を提供することによって、前述の問題を解決する。GHRP-6は、配列表の配列番号1として同定されるアミノ酸配列により番号付けを行う。本発明で初めて明らかにされるこの組成物は、高い安全性プロファイルを示し、動物及びヒトの両方において、先行する製剤について検出された有害事象及び毒性事象を最小限に抑える。
【0010】
ラットにおいて、pH6.0のクエン酸緩衝液及び等張化剤としての塩化ナトリウムを含むGHRP-6の製剤を評価した際、400μg/kgの治療投与量の50倍であるペプチドの投与量を投与すると、急性毒性の要素が認められた。前記毒性試験では、腫脹細胞及び大滴性脂肪変性の存在を伴う索状帯のレベルでの壊死の病巣領域からなる副腎に変化がみられた。これらの徴候は、クエン酸塩/NaCl製剤に含まれる高用量のGHRP-6の投与に関連する。驚くべきことに、ラットで行われた毒性試験では、本発明の製剤は、400μg/kg体重の治療投与量より100倍高い用量を適用した結果として、動物において急性毒性の徴候も有害作用の出現も示さなかった。本発明の製剤はいずれも、治療投与量の最大50倍の反復投与(14回の連続投与)中に全身レベルで毒性の徴候を示さなかった。さらに、薬剤の毒性学的評価に広く使用されているウサギモデルでは、治療投与量の最大10倍の投与で良好な局所忍容性がみられた。
【0011】
一方、pH6.0のクエン酸緩衝液及び等張化剤としての塩化ナトリウムを含有するGHRP-6製剤の投与量スケールアップを行うと、健康なボランティアの個体において、50μg/kg及び100μg/kgの用量を受けた個体において徐脈が発生した。臨床的には、徐脈は、ペプチドが薬剤として投与される場合、特に急性心筋梗塞又は虚血性脳梗塞のような病状を患っている患者において、深刻な問題を引き起こす可能性がある。驚くべきことに、本発明のGHRP-6製剤は、最大100μg/kgの用量の投与後に、毒性の徴候を示さず、徐脈も報告されなかった。
【0012】
本発明の一実施形態では、ペプチドGHRP-6は、医薬組成物中、1.0mg/mL~10.0mg/mLの濃度である。1990年代に、GHRP-6の化学的安定性は、pH/緩衝系、イオン強度及び温度に関して低濃度(およそ100μg/mL)でのみ試験された(Ha et al.,Int.J.Pharm.,1996,144:91-97)。対照的に、本発明では、ペプチドの安定性が評価されていない成分の存在下で、2.5mg/mL~10mg/mL(言及された報告よりも25~100倍高い)の高濃度で、GHRP-6の安定性が達成された。
【0013】
本発明により開示される医薬組成物は、ペプチドの濃度が高いにもかかわらず、冷蔵条件下(5±3℃)での保存中に高い安定性を示す。これはまた、室温(25±2℃)で高い安定性を示し、薬剤の流通中にコールドチェーン(cold chain)を除くことを可能にする。
【0014】
本発明の一実施形態では、緩衝液は10mmol/L~100mmol/Lの濃度を有する。使用されてよい酒石酸緩衝液は、基本的に、所望のpH値に達するのに適切な全ての生理学的に許容されるものであり、例えば、酒石酸ナトリウム塩及び酒石酸カリウム塩、又はそれらの混合物である。緩衝液は、好ましくは、1つ以上の酒石酸塩及び/又はそれを含まない酸(例えば、酒石酸、重酒石酸ナトリウム、重酒石酸カリウム、無水酒石酸二ナトリウム、酒石酸二ナトリウム二水和物、酒石酸二ナトリウム及び四水和物カリウム、酒石酸カルシウム)からなる。特定の実施形態では、酒石酸緩衝液は、ナトリウム塩、カリウム塩又は両方の混合物によって構成される。
【0015】
本発明の一実施形態では、安定化化合物であるトレハロースは、2%~10%(w/v)の範囲内である。好ましくは、使用されるトレハロースは、D(+)形態及び二水和物形態である。
【0016】
本発明の製剤は、液体として、又は凍結乾燥によって得られる乾燥形態で提供されてよい。したがって、ペプチド、緩衝液及び安定化剤の濃度は、液体形態であるか、又は凍結乾燥物の懸濁液から生じる濃度を指す。
【0017】
凍結乾燥方法は、滅菌(例えば、濾過による)後に行われる。これは、系で使用される溶媒(例えば、注射用水)を5%未満のレベルまで除去し、さらに残留湿度の3%未満の値まで減少させる。前記方法は、室温で長期間保存されてよいGHRP-6組成物を提供する。製剤は、高温での調製、輸送及び保存中に作用する剪断力の作用下で、保存中に安定性を保持することができる。
【0018】
本発明の好ましい実施形態では、酒石酸緩衝液中においてトレハロース水溶液が調製される;次いで、先の溶液中のGHRP-6の溶解が起こる。当該製剤は、場合により凍結乾燥されてよい。本明細書に記載される凍結乾燥組成物は、十分な量の薬学的に許容される溶媒と接触すると、容易に再構成される。凍結乾燥組成物は、2分未満の間に再構成される。好適な希釈剤には、注射用水、生理食塩水、緩衝液の存在下での水性媒体、場合により、糖の存在下での緩衝液、ビタミン、及び合成ポリマーが包含される。好ましい実施形態では、希釈剤は注射用水である。凍結乾燥組成物は、所望の治療濃度を示す組成物を製造するために再構成されてよい。
【0019】
別の態様では、本発明は、薬剤の製造のための、GHRP-6、pH5.0~6.0の酒石酸緩衝液、及びトレハロースを含有する医薬組成物の使用を含む。他の成分と共にGHRP-6を含有する薬剤は、血液灌流の欠如に起因して損傷を受けた組織の処置における細胞保護剤として有用である。したがって、本発明の一実施形態では、前述のGHRP-6製剤を含有する医薬品は、細胞保護剤、心臓保護剤、心臓修復剤若しくは神経保護剤として、又は脳損傷の回復剤として使用される。
【0020】
本発明の一実施形態では、薬剤は、第2の医薬組成物も含む成分のキットである。したがって、GHRP-6、pH5.0~6.0の酒石酸緩衝液及びトレハロースを含む医薬組成物を含む成分のキットも、本発明の目的である。
【0021】
別の態様では、本発明は、GHRP-6、pH5.0~6.0のpH調節の酒石酸緩衝液及びトレハロースを含む治療有効量の医薬組成物が投与される、処置を必要とする個体の処置方法を明らかにする。本発明の処置方法では、医薬組成物は、当技術分野の専門家に公知の経路によって投与される。本発明の一実施形態では、GHRP-6を含有する医薬組成物は、静脈内、皮下又は筋肉内経路によって投与される。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】25mmol/L及びpH5.5の2つの緩衝液中、3%(w/v)の異なる賦形剤の存在下で凍結乾燥したGHRP-6の逆相高速液体クロマトグラフィー(RP-HPLC)プロファイル。(A)酒石酸ナトリウム及び(B)ヒスチジン-HCl。ペプチドの濃度は2.5mg/mLであった。クロマトグラフィー分析の前に、サンプルを50±2℃で6ヶ月間保存した。
【
図2】Balb/cマウス(n=6)における2つのGHRP-6製剤の変力効果による生物学的活性の評価。実験の対照として、各製剤の対応するプラセボを使用した。左室駆出率(LVEF)を心エコー検査によって評価した。動物の体重1キログラム当たり100μgのGHRP-6の用量、又は等量の対応するプラセボ製剤を腹腔内経路によって投与した。
【0023】
例(実施例)
実施された全ての試験について、GHRP-6を医薬品有効成分(API)として使用したが、これは配列表の配列番号1として同定されるアミノ酸配列を有する。ペプチドは、固相でのペプチドの線形合成の方法によって段階的に得られた(Atherton and Sheppard,1989.Solid phase peptide synthesis:a practical approach,at:Coligan,J.,Dunn,B.,Ploegh H.(Eds.),Current Protocols in Protein Science.IRL Press,Oxford)。ペプチドバッチの同一性は、電気噴霧モードでの質量分析(ESI-MS)によって裏付けられたが、インタクトなペプチドの画分のパーセンテージはRP-HPLCによって決定され、98.0%より高かった。
【0024】
●例1.クエン酸塩/塩化ナトリウム中のGHRP-6の液体製剤の取得
異なるpH値、イオン種、緩衝液の濃度及び塩化ナトリウムの濃度での安定性
医薬製剤のpH値は、非経口経路によるそれらの投与に関連する。異なるpH値でのGHRP-6の安定性を試験するために、クエン酸-リン酸緩衝液(クエン酸/Na2HPO4)を100mmol/Lの濃度及び4.0~8.0のpH値で使用した。異なる製剤の調製のために、APIを2.5mg/mLの所望の濃度に達するまで溶解した。製剤を濾過(0.22μmのフィルタを通して)によって滅菌し、1バイアル当たり1.0mLの比で2Rバイアルに分注した。異なる製剤の代表的なサンプルを60℃でインキュベートし、異なる時間間隔で前記温度で保存した後、RP-HPLCによってペプチドの安定性を評価した。
【0025】
インタクトなペプチドの画分のパーセンテージを、RP-HPLC、C18カラム(4.6×150mm、5μm)、(Vydac、米国)で評価した。移動相として、0.1%(v/v)のトリフルオロ酢酸(TFA)を含む注射用水の溶液(溶液A)及び0.05%(v/v)のTFAを含むアセトニトリル(溶液B)の混合物を用いた。ストレス試験中に形成された分解生成物を分離するために、34℃の作業温度で45分間、A中のBの0から60%までの勾配を使用した。GHRP-6濃度を、実験的に決定された280nmでの吸光度及び146.8mLmg-1cm-1の質量吸光係数(ε1%280nm)の測定値から出発して、ランベルト・ベールの法則(Lambert-Berr law)によって決定した。60℃のクエン酸-リン酸ナトリウム緩衝液中でのGHRP-6製剤(2.5mg/mL)の保存中、RP-HPLCにおける最高の純度値がpH6.0で得られた。
【0026】
次に、酢酸ナトリウム緩衝液、クエン酸ナトリウム緩衝液、リン酸ナトリウム緩衝液及びクエン酸-リン酸ナトリウム緩衝液中、緩衝液濃度25、50、100mmol/Lの同一pH値におけるペプチド(2.5mg/mL)の安定性を試験した。リン酸緩衝液、クエン酸緩衝液及びクエン酸-リン酸緩衝液では、ペプチドの分解において触媒効果が観察され、緩衝液の濃度が増加すると、ペプチドの純度が低下した。酢酸ナトリウム緩衝液の使用により、触媒効果は観察されなかった。RP-HPLC分析によると、pH6.0及び25mmol/Lの濃度でのクエン酸ナトリウム緩衝液の使用により、ペプチドの最高純度値が観察された。
【0027】
最後に、等張化剤としての塩化ナトリウムを評価する目的で、GHRP-6安定性に対するその濃度(2.5、5.0及び10.0mg/mL)の効果を評価した。この試験は、クエン酸ナトリウム緩衝液中、pH6.0(緩衝液濃度25mmol/L)で実施した。2.5mg/mLのGHRP-6製剤を25mmol/Lのクエン酸ナトリウム緩衝液中で60℃で保存している間、ペプチドの純度値は、製剤中に存在する塩化ナトリウムの濃度(2.5~10mg/mL)の影響を受けなかった。したがって、この化合物は、製剤中で等張化剤として使用されてよい。表1は、前述の製剤のいくつかの結果をまとめたものである。
【表1】
各製剤のpHは6.0であった。
【0028】
前記結果を考慮に入れて、スケールアップ及び安定性試験中に評価する製剤の組成は、以下の通りであった:2.5mg/mLのGHRP-6、25mmol/L及び5.7~6.3のpHのクエン酸ナトリウム緩衝液、一方、塩化ナトリウムは6mg/mLの等張化剤として使用した。
【0029】
クエン酸塩/塩化ナトリウム中2.5mg/mLのGHRP-6の液体製剤の調製:スケールアップ及び安定性試験
2.5mg/mLのGHRP-6製剤の成分:GHRP-6(2.5g)、クエン酸(4.8g)、塩化ナトリウム(6.0g)及び注射用水(1.0Lに十分な量)。
【0030】
GHRP-6によって構成されるAPIを除いて、製剤の全ての成分を測定し、注射用水で溶解した。溶液のpHを確認し、1.0mol/LのNaOHで6.0±0.3の値に調整した。その溶液中で所望の濃度(2.5mg/mL)に達するまでAPIを添加した。次に、クラス100区域で、製剤を濾過(0.22μmのフィルタを通して)によって滅菌した。次いで、滅菌液体製剤を、クラス100区域で、栓及びシールをしたバイアルに分注した。3つのバッチからのサンプルを、制御された温度(5±3℃)の低温チャンバ及び25±2℃のインキュベータ(加速安定性の試験のため)に入れた。所与の時間間隔で、重要な品質特性:製品の外観、RP-HPLCによって測定されたGHRP-6純度、ESI-MSによって測定されたGHRP-6同一性、280nmでの吸光度によって決定されたペプチドの濃度、pH、無菌性及び発熱性を分析するためにサンプルを回収した。分析試験は、前述のように、又はモノグラフUSP-米国薬局方に記載のように行った。
【0031】
クエン酸塩/塩化ナトリウム中2.5mg/mLのGHRP-6液体製剤の保存中、5±3℃で12ヶ月間、インタクトなペプチドの画分のパーセンテージは98.04%を超えたままであった。安定性試験中、製品はその外観に変化がないままであった。また、無菌性、発熱物質及びESI-MSによる同一性の試験は、試験の開始時及び終了時の両方で、全てのバッチに対して満足のいくものであることが判明した。同様に、製剤は、6ヶ月間、25±2℃での保存中、安定なままであった。RP-HPLCによって測定された純度は95.73%を超えたままであり、無菌性、発熱物質及びESI-MSによる同一性の試験は、試験の開始時及び終了時に、全てのバッチに対して満足のいくものであることが判明した。得られた製剤は、5±3℃で1年間の保存中及び25±2℃で6ヶ月間安定であることが判明したと結論付けられる。
【0032】
●例2.クエン酸塩/塩化ナトリウム中のGHRP-6の液体製剤に対して行った前臨床毒性試験
以下に記載される前臨床試験では、2.5mg/mLのGHRP-6、25mmol/Lのクエン酸ナトリウム緩衝液及び5.7~6.3のpHからなる、例1に記載のGHRP-6の液体製剤を使用し、6mg/mLの塩化ナトリウムを等張化剤として使用した。
【0033】
Sprague-Dawleyラットにおける急性毒性の評価
合計50匹のラット(雌25匹及び雄25匹)を使用し、それぞれ10匹の個体からなる5つの群を構成した。各群に対応する投与量を、6時間ごとに1回、3回の適用に分けて投与した。表2に示すデザインに従って、実験段階の1日目及び2日目に、製剤を腹腔内経路によって適用した。400μg/kgの治療投与量(therapeutic dosage, TD)を基準として使用した。評価したパラメータは、体重、摂食量、臨床的及び肉眼的観察、並びに目的の器官の組織病理学的試験であった。
【表2】
【0034】
得られた結果の詳細な分析の後、クエン酸塩/塩化ナトリウム中のGHRP-6の製剤は、高用量では、患者の安全性を損なう可能性がある急性全身変化を引き起こさなかったと結論付けられた。評価された製剤は、臨床試験での使用のために、クエン酸塩/塩化ナトリウム中のGHRP-6の製剤のTDの最大30倍の十分な安全性フレームワークを示した。それにもかかわらず、高用量のGHRP-6(この場合、TDの50倍)の投与に関連した毒性事象の要素と考えられる所見が、副腎(腫脹細胞及び大滴性脂肪変性の存在を伴う、索状帯のレベルでの壊死の病巣領域)で報告された。
【0035】
Sprague-Dawleyラットにおける反復用量での毒性の評価
雌雄の100匹の若齢成体ラット(雌50匹及び雄50匹)を使用し、7つの群を構成した。非処置群及びサテライト群(TDの9倍を投与)をそれぞれ10匹の個体で完成させた。他の5つの群は、それぞれ16匹の個体で完成させた。試験のデザインを表3に要約する。サテライト群には、潜在的な効果の可逆性を評価する目的で、試験で使用した最高投与量を投与した。この群の個体を、残りの個体に対しての時間の2倍後に屠殺した。構成された全ての処置群において、腹腔内経路により、14回の連続投与(1日に1回の頻度、2週間)を行った。評価したパラメータは、体重、摂食量、臨床的及び肉眼的観察、並びに目的の器官の組織病理学的試験であった。同様に、血液学及び生化学、並びに器官の絶対及び相対重量の測定を行った。また、各被験個体の全ての器官を組織病理学で試験した。
【表3】
【0036】
この試験から、クエン酸塩/塩化ナトリウム中のGHRP-6の製剤は、評価した用量では全身レベルで毒性ではないと結論付けられた。
【0037】
F1ウサギにおける局所忍容性の評価
合計18匹の雌個体を使用し、それぞれ3匹の個体からなる6つの群を構成した。静脈内経路による5回の連続投与を72時間ごとに行った。処置ごとの個体群の分布は以下の通りであった:第I群、非処置;第II群、プラセボ;第III群、GHRP-6のTD(400μg/kg);第IV群、GHRP-6のTDの5倍(2000μg/kg);第V群、GHRP-6のTDの10倍(4000μg/kg);及び第VI群(サテライト)、GHRP-6のTDの10倍(4000μg/kg)。評価したパラメータは、体重、摂食量、臨床的及び肉眼的観察、並びに目的の器官の組織病理学的試験であった。結果は、クエン酸塩/塩化ナトリウム中のGHRP-6の製剤の反復投与は高用量で忍容性が良好であること、及び認められた有害事象は毒性の徴候を構成しないことを証明するものであった。
【0038】
●例3.健康なボランティアにおけるクエン酸塩/塩化ナトリウム中のGHRP-6の液体製剤の投与量試験
健康なボランティアにおける投与量スケールアップの第I相非対照臨床試験を行い、例1で試験・開発されたクエン酸塩/塩化ナトリウムを含有する液体製剤中でGHRP-6を評価した。製剤は以下を含有していた:2.5mg/mLのGHRP-6、25mmol/L及び5.7~6.3のpHのクエン酸ナトリウム緩衝液。6mg/mLの塩化ナトリウムを等張化剤として使用した。ペプチドを、6つの投与量スケール:1、10、50、100、200及び400μg/kg体重で静脈内経路により単回投与量で投与した。サンプルは、18~35歳の男性で体重が正常範囲内であり、自発的に試験研究への参加を承諾した18名の健康な被験者で構成された。投与量スケールアップの各レベルで、3名の被験者を処置した。次のレベルへの移行は、毒性(重篤な有害事象)がないことに依存した。
【0039】
ペプチドの安全性に関して、重篤な有害事象は報告されなかった。表4に認められるように、12名の被験者(66.7%)において6つの異なる有害事象が記録され、発汗(50%)、徐脈(44.4%)及び眠気(16.7%)が最も頻度の高いものであった。全ての有害事象は、APIとしてGHRP-6を含有する投与された医薬品との因果関係を示した。報告された有害事象の数は、試験中のペプチドの投与量レベルと共に増加した。
【表4】
【0040】
基礎となる値から、正常範囲(60~100)を下回る心拍数の値が観察された。病理学的値(60未満)を、徐脈の有害事象として報告された。これは、およそ55分~3時間の間で変動する持続時間を有し、ペプチドの投与から経過した最初の30分間における第V群(200μg/kg)及び第VI群(400μg/kg)の心拍数の値の減少が最も大きいものであった。最も臨床的注意を必要とする有害事象(徐脈)では、GHRP-6の濃度との関係をより詳細に探索した。統計学的に有意な相関は検出されなかったものの、心拍数がより低かったことを考慮すると、GHRP-6の濃度の値が増加するにつれて、徐脈の傾向がより大きくなったことを観察したことは興味深いものであった。臨床的には、徐脈は、ペプチドが患者に投与される場合、深刻な問題をもたらす可能性がある。この試験では、被験者が健康なボランティアであったにもかかわらず、試験した6つの投与量レベルのうち4つでそれは発現した。
【0041】
投与量スケールアップで得られた結果に基づくと、健康な個体では、ヒトにおけるその評価のために、ペプチドが濃縮され、安定なままである製剤の新たな代替物を探索することが必要になった。
【0042】
●例4.GHRP-6の新たな製剤の取得
水溶液中のGHRP-6の安定性に対するpH5.0~6.0の酒石酸緩衝液、コハク酸緩衝液及びヒスチジン緩衝液の効果
ペプチドは5.0~6.0のpH範囲で安定であるので、その値の範囲でpHを調節するための良好な緩衝能を示す酒石酸緩衝液、コハク酸緩衝液及びヒスチジン緩衝液を試験した。緩衝液は、50mmol/Lの最終濃度で調製した。酒石酸緩衝液の調製には酒石酸を用いた。ヒスチジン-HCl試薬からヒスチジン緩衝液を調製し、両方の場合において、1.0mol/LのNaOHを用いて5.0~6.0の間でpH調整を行った。コハク酸緩衝液は、酒石酸緩衝液と同じように、コハク酸及びNaOHから調製した。
【0043】
API(GHRP-6)を異なる緩衝液で溶解した。振盪時間は、25±2℃で1時間未満であった。GHRP-6の濃度は、280nmでの吸光度によって決定して2.5mg/mLであった。次に、サンプルを無菌条件下で濾過(0.22μmのフィルタにおいて)によって滅菌した。ペプチドの安定性を評価するために、サンプルを60±2℃のストレス条件下で28日間インキュベータに入れた。インタクトなペプチドのパーセンテージ、ペプチドの濃度及びpHを、前述の方法に従って評価した。
【0044】
評価した範囲(5.0~6.0)において、コハク酸緩衝液中で、GHRP-6の安定性はpHの上昇と共に増加した。製剤を60℃で28日間保存した後、pH6.0でコハク酸塩において最も高い安定性に達し、ペプチドの純度が74.31%であることが分かった。ペプチドの純度は、酒石酸緩衝液及びヒスチジン緩衝液について同じ条件下で到達したものよりも低かった。
【0045】
表5は、酒石酸緩衝液及びヒスチジン緩衝液についてのGHRP-6の安定性試験の結果を示しており、酒石酸ナトリウム緩衝液中のRP-HPLCにおける純度値は、5.5~6.0のpH値でヒスチジン-HClについて認められたものよりも高かったことが分かる。
【表5】
【0046】
酒石酸緩衝液及びヒスチジン緩衝液中の凍結乾燥GHRP-6のpH5.5での安定性に対する賦形剤の効果
固体状態の製剤は、水溶液中の製剤よりも高い安定性を示すことが知られている。GHRP-6の必要な安定性を達成するために、酒石酸緩衝液及びヒスチジン-HCl緩衝液中での凍結乾燥のための異なる賦形剤を評価した。pH5.5及び25mmol/Lの濃度の緩衝液を前述のように調製した。使用した賦形剤は、スクロース、ラクトース、トレハロース、マンニトール、グリシン、アラニン及びデキストラン40であった。これを、評価した緩衝液中に3%(w/v)の最終濃度で溶解した。前述のように、ペプチドを2.5mg/mLの濃度まで溶解した。その後、製剤を無菌環境条件下で濾過によって滅菌し、凍結乾燥に供した。賦形剤の群に適合する従来の凍結乾燥サイクルを適用した(Santana et al.,Biologicals,2014,42:322-333)。
【0047】
安定性試験のために、凍結乾燥製剤のサンプルを50±2℃のストレス条件下でインキュベータに入れた。凍結乾燥ペプチドの最も高い安定性は、表6に結果が示されるとおり、トレハロース、続いてデキストラン40の存在下で認められた。pH5.5の酒石酸ナトリウム緩衝液及びヒスチジン-HCl緩衝液を使用した場合、結果は同様であった。驚くべきことに、スクロース、ラクトース及びマンニトールのようなペプチド及びタンパク質の凍結乾燥に広く使用される凍結保護賦形剤は、GHRP-6に有効でないことが判明した。一方、
図1は、4つの賦形剤の存在下での凍結乾燥GHRP-6のRP-HPLCプロファイルを示す。凍結保護賦形剤トレハロースの存在下で凍結乾燥した場合、ペプチドの最も高い安定性が達成されたことが認められる。
【表6】
【0048】
驚くべきことに、トレハロースと組み合わせた酒石酸緩衝液及びヒスチジン緩衝液の存在下で凍結乾燥したGHRP-6が高い化学的安定性を有することが、他の評価対象とした製剤において認められた。同様に、これらの製剤は、光遮蔽法を適用して分析した場合に体積単位当たりの肉眼では視認できない粒子の数が少なく、米国薬局方(USP<788>,2008)によって10μm及び25μm以上の粒子に要求される結果よりも100倍低い結果を示した。したがって、スケールアップ及び安定性試験中に評価した凍結乾燥製剤の組成は、2.5mg/mLのペプチドGHRP-6、25mmol/L、pH5.0~6.0の酒石酸ナトリウム緩衝液、及び安定化剤又は等張化剤としての3%(w/v)のトレハロースであった。
【0049】
●例5.GHRP-6酒石酸塩/トレハロースの液体製剤のスケールアップ及び安定性試験
3.75g/lの酒石酸、33.16g/lのα-α二水和物トレハロース、1.0Lに十分な量の注射用水を含有するGHRP-6の2つの液体製剤を試験開発した。一方の製剤では、ペプチドは2.5mg/mLの濃度であり、他方では10.0mg/mLであった。2.5mg/mLの濃度を得るために、2.5gのGHRP-6を溶解し、10.0mg/mLの濃度については、10.0gのGHRP-6を溶解した。
【0050】
GHRP-6のAPIを除いて、製剤の全ての成分を測定し、注射用水に溶解した。溶液のpHを確認し、1.0mol/LのNaOHで5.5±0.3の値に調整した。所望の濃度(2.5又は10.0mg/mL)が得られるまで、GHRP-6を徐々に添加した。これに続いて、製剤を濾過によって滅菌し、クラス100区域で、滅菌液体製剤をバイアルに分注した。ペプチドの液体製剤の3つのバッチを、各濃度のGHRP-6(2.5及び10.0mg/mL)で酒石酸塩/トレハロース中で製造した。バッチからのサンプルを、制御された温度(5±3℃)の低温チャンバ、又は25±2℃のインキュベータに入れた。所与の時間間隔で、サンプルを分析した。25±2℃での安定性試験を6ヶ月間行った。重要な品質特性及び分析方法を、前述のものと同様に評価した。
【0051】
表7は、GHRP-6の液体製剤の安定性試験の結果を含むものである。これをみるに、5±3℃で2年間の保存中、インタクトなペプチドの画分のパーセンテージは、2.5mg/mLの濃度で97%を超え、10.0mg/mLで98%を超えたままであった。
【表7】
【0052】
25±2℃で6ヶ月間保存している間、インタクトなGHRP-6の画分のパーセンテージは、2.5mg/mLの提示については95%を超え、10.0mg/mLの提示については97%を超えたままであった。また、pHは必要な範囲内にとどまった。外観、肉眼では視認できない(sub-visible)粒子の数、無菌性、発熱物質及びESI-MSによる同一性の試験は、試験の開始時及び終了時に、2つの濃度のペプチド及び試験した2つの温度値で、全てのバッチに対して満足のいくものであると認められた。安定性試験の結果から、評価した液体製剤は5±3℃で24ヶ月間及び25±2℃で6ヶ月間安定であると結論付けられた。
【0053】
●例6.酒石酸塩/トレハロース中のGHRP-6の凍結乾燥製剤のスケールアップ及び安定性試験
固体段階のタンパク質及びペプチドは、一般に、保存温度が上昇するにつれて、液体状態よりも高い安定性を示すことが知られている。したがって、3.75g/lの酒石酸、33.16g/lのα-α-二水和物トレハロース、1.0Lに十分な定量の注射用水を含有するGHRP-6の2つの凍結乾燥製剤を試験開発した。2.5mg/mLの濃度については、2.5gのGHRP-6を溶解し、10.0mg/mLの濃度については、10.0gのGHRP-6を溶解した。例5と同じ製造方法を適用した。液体状態のバルク内の製品の3つのバッチを調製した。次に、凍結乾燥方法に進むために、バルク内の製品をバイアルに分注した。従来の凍結乾燥サイクルを適用した(Santana et al.,Biologicals,2014,42:322-333)。記載された手順に基づいて、GHRP-6の各強度(2.5又は10.0mg/バイアル)で酒石酸塩/トレハロース中のGHRP-6の凍結乾燥製剤の3つのバッチを製造した。バッチから回収したサンプルを、制御された温度(5±3℃)の低温チャンバ、又は25±2℃のインキュベータに入れた。所与の時間間隔で、凍結乾燥製剤のサンプルを分析した。25±2℃での安定性試験を6ヶ月間行った。評価した重要な品質特性及び分析方法は、前述のものと同様であった。
【0054】
表8は、GHRP-6の凍結乾燥製剤の安定性の結果を含む。5±3℃での2年間の保存中、インタクトなペプチドの画分のパーセンテージは、両方の提示(2.5mg/バイアル及び10.0mg/バイアル)について、99%を超えたままであった。両方の製剤に対応する全てのサンプルのペプチドの濃度、残留水分及びpHは、試験したインターバルの間、適切な値のままであった。
【表8】
【0055】
25±2℃で6ヶ月間保存している間、インタクトなGHRP-6の画分のパーセンテージは、両方の試験区(presentation)について99.4%を超えたままであった。全てのサンプルのペプチドの濃度、残留水分及びpHは、試験した時間間隔の間、適切な値のままであった。また、外観、肉眼では視認できない粒子の数、無菌性、発熱物質及びESI-MSによる同一性の試験は、試験の開始時及び終了時に、2つの濃度のペプチド及び試験した2つの温度値で、全てのバッチに対して満足のいくものであることが認められた。
【0056】
この安定性試験に基づいて、評価した凍結乾燥製剤は、5±3℃で24ヶ月間及び25±2℃で6ヶ月間非常に安定であると結論付けられた。インタクトなペプチドのパーセンテージは、25±2℃で6ヶ月間、両方の提示について99%を超えたままであり、これは、ペプチドが製品の流通中にコールドチェーンなしでさえ保存される可能性があることを正当化するものである。
【0057】
●例7.動物モデルにおける酒石酸塩/トレハロース中のGHRP-6の製剤の生物学的活性の評価
GHRP-6の2つの製剤のインビボ生物学的活性を、該ペプチドを2.5mg/mLの濃度で含有する製剤について評価した。対象として、ペプチドが2.5mg/mLである、例5に記載されているように調製された、クエン酸塩/NaCl中のGHRP-6の製剤(例1で開発)及び酒石酸塩/トレハロース中のGHRP-6の製剤のサンプルを使用した。対照として、GHRP-6ペプチドを添加せずに同様の方法で調製した各製剤に対応するプラセボも評価した。
【0058】
Balb/c雄マウス(1群当たり6匹)において、ペプチドの変力活性を評価した。100μg/kgの投与量のGHRP-6製剤又は等量のプラセボを腹腔内経路によって投与した。各群について、モニタリング、温度及び鎮静の同じ条件下で、投与後の時間0及び5分ごとに15分まで心エコー図を得た。
【0059】
Mモードの二次元超音波画像を、高解像度画像システム(Vevo770(商標)、Visual Sonics Inc.)を使用して得た。システムは、40MHzのスケールアップされたマトリックス線形磁気増幅器を備え、焦点領域間で最大30ミクロンの軸方向分解能で、最大250フォトグラム/秒の周波数でデータを取得した。データ処理及び分析は、ソフトウェアVevo770(バージョン3.0.0、Visual Sonics Inc.)を適用して、45°の角度での傍胸骨長軸、及びプラットフォームの尾側のアンギュレーションを考慮して行った。左室駆出率(LVEF)は、Teicholdの式によって計算した。
【数1】
FDV:最終拡張期容積
FSV:最終収縮期容積。
【0060】
特定の心エコー図に従って測定を行い、拡張期パラメータはR波のピークで測定し、収縮期パラメータはT波のピークで測定した。3~5回の連続した心周期により測定を完了した。米国心エコー図学会(American Society of Echocardiography)の勧告(Langy et al.,EUR.J.Echocardiogr.,2006,7(2):79-108)に従うものである。
【0061】
図2によれば、酒石酸塩/トレハロース中の製剤中の本ペプチドで処置した個体について、LVEFは経時的に有意に増加し、試験した少なくとも15分間増加したままであった。この効果は、前記製剤のプラセボで処置した個体では観察されなかった。LVEFは、本ペプチドの他の製剤で処置した個体と比較して、酒石酸塩/トレハロース中の製剤の投与を受けた個体の場合に高かった。すなわち、酒石酸塩/トレハロース中のGHRP-6の製剤は、使用した動物モデルにおいてより高い変力活性を示した。
【0062】
●例8.酒石酸塩/トレハロース中のGHRP-6の製剤の前臨床毒性試験
所望の生物学的活性が証明された後、以下の動物モデルにおいて、酒石酸ナトリウム、トレハロース及び1バイアル当たり5mgのGHRP-6を含有する凍結乾燥製剤を再構成し、毒性試験に供した。
【0063】
Sprague-Dawleyラットにおける急性毒性の評価
合計50匹のラット(雌25匹及び雄25匹)を使用し、それぞれ10匹の個体からなる5つの群を設けた。各群に対応する投与量を、6時間ごとに1回、3回の適用に分けて投与した。製品を、実験段階の1日目及び2日目に腹腔内経路によって適用した。400μg/kgのTDを基準とした。表9は、実施された試験のデザインを示す。
【表9】
【0064】
得られた結果の詳細な分析の後、酒石酸塩/トレハロース中のペプチドGHRP-6の凍結乾燥製剤は、評価した用量では、患者の安全性を損なう急性全身変化を引き起こさなかったと結論付けられた。このことから、TDの最大100倍の十分な安全性フレームワークが示され、酒石酸塩/トレハロース中の製剤を臨床試験に供することができるといえた。
【0065】
Sprague-Dawleyラットにおける反復用量での毒性の評価
雌雄100匹の若齢成体ラット(雌50匹及び雄50匹)を使用し、7つの群を構成した。表10は、実施された試験のデザインを示す。非処置群及びサテライト群(TDの50倍を投与)をそれぞれ10匹の個体で構成した。他の5つの群は、それぞれ16匹の個体で完成させた。サテライト群には、潜在的な効果の可逆性を評価する目的で、試験で使用した最高投与量を投与し、前記群の個体を、試験の残りの個体に対しての時間の2倍後に屠殺した。構成された全ての処置群において、腹腔内経路により、14回の連続投与(1日1回、2週間)を行った。
【表10】
【0066】
得られた結果を詳細に分析し、酒石酸塩/トレハロース中のGHRP-6の凍結乾燥製剤は、TDの50倍まで全身レベルでの毒性はないと結論付けた。
【0067】
F1ウサギにおける局所忍容性の評価
合計18匹の雌個体を使用し、それぞれ3匹の個体からなる6つの群を構成した。静脈内経路による5回の連続投与を72時間ごとに行った。処置ごとの個体群の分布は以下の通りであった:第1群、非処置;第II群、プラセボ;第III群、GHRP-6のTD(400μg/kg);第IV群、GHRP-6のTDの5倍(2000μg/kg);第V群、GHRP-6のTDの10倍(4000μg/kg);及び第VI群、GHRP-6のTDの10倍(4000μg/kg)。
【0068】
この試験で得られた結果の分析により、酒石酸塩/トレハロース中のGHRP-6の製剤の反復投与は忍容性が良好であり、認められた有害事象は毒性の徴候を構成しないと結論付けられた。
【0069】
●例9.急性心筋梗塞患者における酒石酸塩/トレハロース中のGHRP-6製剤の安全性の評価
この試験では、酒石酸ナトリウム、トレハロース及び1バイアル当たり5mgのGHRP-6を含有するGHRP-6の凍結乾燥製剤を使用した。一次経皮経管冠動脈形成術を受けた急性心筋梗塞患者において、前向き多施設オープン無作為化第I-B相臨床試験(探索的)を実施した。凍結乾燥製剤を再構成した後、本ペプチドを患者の体重1kg当たり50又は100μgの用量で、静脈内経路によりボーラスで無作為に投与した。第1の投与量は、患者が試験に参加した時点で投与された。その後、本ペプチドの合計14回の投与まで、製品を12時間ごとに7日間投与した。サンプルは、試験研究に自発的に参加した30歳を超える男女19名の患者で構成された。この試験の主要目的は、GHRP-6を含有する凍結乾燥製剤の安全性を評価することであった。
【0070】
表11は、登録された有害事象の要約を示す。クエン酸塩/NaCl中のGHRP-6の製剤を用いて実施された健康なボランティアにおける投与量スケールアップの試験で認められたものと比較することを意図している。本表において、本試験では、例3に反映されているクエン酸塩/NaClの製剤によって引き起こされた有害事象は観察されなかったことが分かる。他の事象は軽度又は中程度の強度であり、そのほとんどは試験対象の本ペプチドとの因果関係は低いものでしかなく、患者のベースライン疾患に起因するものであった。
【表11】
【0071】
以上により、酒石酸塩/トレハロース中のGHRP-6の製剤の臨床評価からの結論として、同製剤は、徐脈をもたらさず、心血管又は脳血管疾患に罹患している患者の処置において用いることが可能であり、少なくとも2年間にわたる必要な安定性を高濃度の本ペプチドにおいて与えること、が明らかになった。
【配列表フリーテキスト】
【0072】
配列表1 <223>人工配列の記載:GHRP-6、Trp2及びPhe5はDアミノ酸である
<223>アミド化
【配列表】
【手続補正書】
【提出日】2022-08-25
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
成長ホルモン放出ペプチド6(GHRP-6)
を1.0mg/mL~10.0mg/mLの濃度で含み、pH5.0~6.0の酒石酸緩衝液及びトレハロースを含む、医薬組成物。
【請求項2】
緩衝液が10mmol/L~100mmol/Lの濃度を有する、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
酒石酸緩衝液が、ナトリウム塩、カリウム塩又はその両方による混合物により形成されている、請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
トレハロースの濃度が2%~10%(w/v)の範囲である、請求項1に記載の組成物。
【請求項5】
液状であるか又は凍結乾燥物を懸濁した生成物(result)である、請求項1に記載の組成物。
【請求項6】
医薬品の製造のための、請求項1~5のいずれかに記載の医薬組成物の使用。
【請求項7】
医薬品が、第2の医薬組成物をさらに含むパーツのキット(kit of parts)である、請求項
6に記載の組成物の使用。
【請求項8】
医薬品が、細胞保護剤、心臓保護剤、心臓回復剤もしくは神経保護剤として、又は脳損傷の回復剤として用いられる、請求項
6に記載の組成物の使用。
【請求項9】
請求項1~
5のいずれかに記載の医薬組成物を含むパーツのキット。
【請求項10】
請求項1~
5のいずれかに記載の医薬組成物の治療有効量を投与することを含む、それを必要とする個人を処置する方法。
【請求項11】
医薬組成物が、静脈内経路、皮下経路又は筋肉内経路により投与される、請求項
10に記載の処置する方法。
【国際調査報告】