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特表2024-504465回転軸心寄りのシール座部を備えた密封装置付き滑り軸受または転がり軸受
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  • 特表-回転軸心寄りのシール座部を備えた密封装置付き滑り軸受または転がり軸受 図1
  • 特表-回転軸心寄りのシール座部を備えた密封装置付き滑り軸受または転がり軸受 図2
  • 特表-回転軸心寄りのシール座部を備えた密封装置付き滑り軸受または転がり軸受 図3
  • 特表-回転軸心寄りのシール座部を備えた密封装置付き滑り軸受または転がり軸受 図4
  • 特表-回転軸心寄りのシール座部を備えた密封装置付き滑り軸受または転がり軸受 図5
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-01-31
(54)【発明の名称】回転軸心寄りのシール座部を備えた密封装置付き滑り軸受または転がり軸受
(51)【国際特許分類】
   F16C 33/78 20060101AFI20240124BHJP
   F16C 33/80 20060101ALI20240124BHJP
   F16J 15/447 20060101ALI20240124BHJP
【FI】
F16C33/78 Z
F16C33/80
F16J15/447
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023545949
(86)(22)【出願日】2021-12-30
(85)【翻訳文提出日】2023-09-25
(86)【国際出願番号】 EP2021087876
(87)【国際公開番号】W WO2022161734
(87)【国際公開日】2022-08-04
(31)【優先権主張番号】2100908
(32)【優先日】2021-01-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】508275098
【氏名又は名称】エヌティエヌ・ヨーロッパ
【氏名又は名称原語表記】NTN EUROPE
(74)【代理人】
【識別番号】100087941
【弁理士】
【氏名又は名称】杉本 修司
(74)【代理人】
【識別番号】100112829
【弁理士】
【氏名又は名称】堤 健郎
(74)【代理人】
【識別番号】100142608
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 由佳
(74)【代理人】
【識別番号】100155963
【弁理士】
【氏名又は名称】金子 大輔
(74)【代理人】
【識別番号】100150566
【弁理士】
【氏名又は名称】谷口 洋樹
(74)【代理人】
【識別番号】100213470
【弁理士】
【氏名又は名称】中尾 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100220489
【弁理士】
【氏名又は名称】笹沼 崇
(74)【代理人】
【識別番号】100225026
【弁理士】
【氏名又は名称】古後 亜紀
(74)【代理人】
【識別番号】100230248
【弁理士】
【氏名又は名称】杉本 圭二
(72)【発明者】
【氏名】バウドゥ・アレクサンドレ
(72)【発明者】
【氏名】プロイ-ソラリ・バンサン
(72)【発明者】
【氏名】ルランド・ジークフリード
【テーマコード(参考)】
3J042
3J216
【Fターム(参考)】
3J042AA09
3J042CA05
3J042CA10
3J042DA09
3J042DA10
3J216AA02
3J216AA14
3J216AB03
3J216BA16
3J216BA30
3J216CA02
3J216CB03
3J216CB08
3J216CB13
3J216CB18
3J216CC03
3J216CC14
3J216CC15
3J216CC35
3J216CC68
3J216DA01
3J216DA11
(57)【要約】
【課題】技術的性能と金銭的コストの観点から満足のいく密封機能と大きなピッチ円直径を両立させた、滑り軸受または転がり軸受を提供する。
【解決手段】軸受(10)は、内輪(36)と、外輪(20)と、密封装置(66)と、を備える。密封装置(66)は、少なくとも、外輪(20)に固定された外側構造体(76)および内輪(36)に固定された内側構造体(78)を含む。内側構造体(78)は、内輪(36)の焼き嵌め支持面(72)に焼き嵌めされた焼き嵌め部(88)および少なくとも1つのシール座部(90)を有する。外側構造体(76)は、シール座部(90)に摺接する少なくとも1つのシールリップ(86)を有する。シール座部(90)は、内輪(36)の端壁(74)から軸方向に距離を空けて設けられているとともに回転軸心(XX)からみて焼き嵌め部(72)よりも近くにある。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つの内輪(36)と、
少なくとも1つの外輪(20)と、
密封装置(66)と、
を備える滑り軸受または転がり軸受(10)であって、
前記内輪(36)と前記外輪(20)とが当該軸受(10)の回転軸心(XX)を中心として相対回転可能であり、前記内輪(36)がガイドレース(62)を有し、前記外輪(20)が前記内輪(36)の前記ガイドレース(62)に対して対向配置されて前記内輪(36)の前記ガイドレース(62)と共同で当該軸受(10)の内部空間(V)を画定している少なくとも1つのガイドレース(24)を有し、前記内輪(36)は、前記回転軸心(XX)と平行な基準軸方向(D)に向いた軸方向端面(74)を有し、前記軸方向端面(74)は、前記基準方向(D)において前記内輪(36)の前記ガイドレース(62)から軸方向に距離を空けて設けられており、前記内輪(36)は、軸方向において前記軸方向端面(74)と前記内輪(36)の前記ガイドレース(62)との間に設けられた焼き嵌め支持面(72)を有し、前記密封装置(66)は、少なくとも、前記外輪に固定された外側構造体(76)および前記内輪(36)に固定された内側構造体(78)を含み、前記外側構造体(76)と前記内側構造体(78)が共同で当該軸受(10)の前記内部空間(V)に開口した密封空間(L)を画定しており、前記内側構造体(78)は、前記内輪(36)の前記焼き嵌め支持面(72)に焼き嵌めされた焼き嵌め部(88)および少なくとも1つのシール座部(90)を有し、前記外側構造体(76)は、前記シール座部(90)に摺接する少なくとも1つのシールリップ(86)を有し、前記シール座部(90)と前記シールリップ(86)が前記密封空間(L)を密封し、前記シール座部(90)は、前記基準軸方向(D)において前記内輪(36)の前記端壁(74)から軸方向に距離を空けて設けられているとともに前記回転軸心(XX)からみて前記焼き嵌め支持面(72)よりも近くにある、軸受(10)において、
-前記シール座部(90)は、当該軸受(10)の前記回転軸心(XX)とは径方向反対側に面しており、
-前記内側構造体(78)は、さらに、前記基準方向(D)において前記シール座部(90)に対して軸方向に突出する連結部(785)、および前記連結部から径方向に前記回転軸心(XX)とは径方向反対側に突設されたデフレクタ(784)を有し、
-前記デフレクタ(784)は、前記外側構造体(76)と共同で、前記密封空間(L)に開口するバッフル通路(S)を形成しており、前記バッフル通路(S)は、前記回転軸心(XX)からみて前記シール座部(90)よりも遠くにある入口(E)を有し、前記シール座部(90)および前記シールリップ(86)は、前記密封空間(L)内に位置しているとともに前記バッフル通路(S)と当該軸受(10)の前記内部空間(V)との間に介在していることを特徴とする、軸受(10)。
【請求項2】
請求項1に記載の軸受(10)において、前記シール座部(90)が、前記回転軸心(XX)からみて前記内輪(36)の前記ガイドレース(62)の底部(FI)よりも近くにあることを特徴とする、軸受(10)。
【請求項3】
請求項1または2に記載の軸受(10)において、前記内輪(36)の円筒状の前記焼き嵌め支持面(72)が、当該軸受(10)の前記回転軸心(XX)とは径方向反対側に面していることを特徴とする、軸受(10)。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか一項に記載の軸受(10)において、前記内側構造体(78)が、前記焼き嵌め部(88)および前記シール座部(90)を形成するフレーム(782)を有することを特徴とする、軸受(10)。
【請求項5】
請求項4に記載の軸受(10)において、前記デフレクタ(784)が、留め固定要素または任意の他の手段による留め固定、焼き嵌め、または接着によって前記フレーム(782)に取り付けられていることを特徴とする、軸受(10)。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか一項に記載の軸受(10)において、前記内側構造体(78)は、当該内側構造体(78)と前記内輪(36)に固定された部品、特には、トランスミッションボウル(38)またはトランスミッションボウル(38)を保護するベローズ(104)、との間に介在するように意図された静的シール(102)に接する静的密封部(99)を有することを特徴とする、軸受(10)。
【請求項7】
請求項1から6のいずれか一項に記載の軸受(10)において、前記内側構造体が、エンコーダ(108)を有することを特徴とする、軸受(10)。
【請求項8】
請求項1から7のいずれか一項に記載の軸受(10)において、前記外輪(20)の前記ガイドレース(24)が軌道であり、前記内輪(36)の前記ガイドレース(62)が軌道であり、当該軸受(10)は、前記回転軸心(XX)を中心として前記内輪(36)と前記外輪(20)が相対回転運動可能であるように前記外輪(20)の前記軌道(24)と前記内輪(36)の前記軌道(62)上を転動することが可能な少なくとも1列の転動体(18)を含む転がり軸受であることを特徴とする、軸受(10)。
【請求項9】
請求項8に記載の軸受において、前記シール座部(90)が、前記回転軸心(XX)からみて、前記列の転動体(18)によって形成されるピッチ円(C)よりも近くにあることを特徴とする、軸受。
【請求項10】
請求項1から9のいずれか一項に記載の軸受(10)を備え、
前記内輪(36)が回転輪、好ましくは、ハブ輪(34)またはハブ輪(34)に固定された輪(36)であり、前記外輪(20)が、車輪支持体(30)、特には、ホイールピボット、に留め固定するための接続部(28)を有する固定輪であることを特徴とする、モータービークルの車輪支持装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、滑り軸受または転がり軸受に関し、詳細には、そのような軸受のなかでも、モータービークルの車輪用の転がり軸受を構成するもの、好ましくは、操舵駆動輪用の転がり軸受を構成するもの(但し、これらに限定されない)に関する。
【背景技術】
【0002】
一部のモータービークルの電動式やハイブリッド式のドライブトレーンでは、駆動輪のトランスミッションボウルを設置するために利用することができるスペースが狭くなることから、例えば現時点で未公開の仏国特許出願第2000720号に記載されているような種類の、車輪の回転案内部の少なくとも一部がトランスミッションボウルと重なるアセンブリが提案されるに至った。このようなアセンブリには、通常市販されているものよりも大径の車輪用軸受が要求される。このような軸受の密封性を確保するためには、シールを設ける必要がある。この目的のためには、径方向において内輪と外輪の間に直接位置する空間に収容されるカセットシールが当然に検討され得る。しかし、このような大径のシールは、機能コストを増大させずには解決することが難しい問題を生じさせる。具体的に述べると、このようなシールは、シールリップと座部との間に摩擦を生じさせ、当該摩擦は径が大きくなるほど増加し、抵抗トルクと動作温度に悪影響を及ぼす。一方で、大径の継手には、なおいっそうの組付精度と、より厳しい製造公差が要求される。最後に、カセットシールを車輪用軸受に挿設させるためには、外輪と内輪に、互いに向かい合う2つの円筒状座部が必要となる。
【0003】
米国特許第9377055号明細書(特許文献1)には、バッフルシールで保護された一般的なカセットシールで構成されてなる密封装置付き車輪用軸受が示されている。同密封装置は、当該軸受の外輪に固定された外側構造体が、当該軸受の内輪に固定された内側構造体に対して対向配置されたものであり、これら2つの内側構造体と外側構造体は互いに非接触とされている。ここでも、カセットシールを車輪用軸受に挿設させるためには、外輪と内輪に、互いに向かい合う2つの円筒状支持面が必要となる。
【0004】
特開2008-138766号公報(特許文献2)は、請求項1の前提部の基礎となる文献であり、密封装置付き車輪用軸受を記載している。同密封装置は、当該軸受の外輪に固定された外側構造体と、当該軸受の内輪に固定された内側構造体とを含み、これら外側構造体と内側構造体とが共同で密封空間を画定しており、上記内側構造体は、上記内輪の焼き嵌め支持面に焼き嵌めされた焼き嵌め部および少なくとも1つのシール座部を有し、上記外側構造体は、上記密封空間を密封するように上記シール座部に摺接する少なくとも1つのシールリップを有する。上記シール座部は、平坦であり、上記内輪の軸方向端面の一部を覆うように回転軸心の方向に延びている。このような装置では、上記シールとシール座部が汚れに直接曝される。上記内輪と一緒に回転する上記シール座部は、汚れに遠心力を作用させ、汚れをシールの方向に吹き付ける要因となり、好ましくない。
【0005】
国際公開第2008/102579号(特許文献3)には、密封装置が備え付けられた車輪用軸受が記載されており、同密封装置は、当該軸受の外輪に固定された外側構造体と、当該軸受の内輪に固定された内側構造体とを含み、これら外側構造体と内側構造体とが共同で当該軸受の内部空間に開口する密封空間を画定している。上記内側構造体は、上記内輪の焼き嵌め支持面に焼き嵌めされた焼き嵌め部および少なくとも1つのシール座部を有する。上記外側構造体は、上記密封空間を密封するように上記シール座部に摺接する少なくとも1つのシールリップを有する。上記シール座部は、径方向外方を向くとともに上記焼き嵌め部を覆う円筒状部、および前記円筒状部から回転軸心の方向とは逆方向に延びる平坦部を有する。得られる構造物は、部品点数が多く、組立も複雑である。また、上記シール座部が上記内側構造体の焼き嵌め支持面よりも径方向外方に位置するため、大径の車輪用軸受には適さない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】米国特許第9377055号明細書
【特許文献2】特開2008-138766号公報
【特許文献3】国際公開第2008/102579号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、先行技術の短所を改善し、技術的性能と金銭的コストの観点から満足のいく密封機能と大きなピッチ円直径を両立させた、滑り軸受または転がり軸受を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
このために、本発明の第1の態様では、少なくとも1つの内輪と、少なくとも1つの外輪と、密封装置と、を備える滑り軸受または転がり軸受であって、前記内輪と前記外輪とが当該軸受の回転軸心を中心として相対回転可能であり、前記内輪がガイドレースを有し、前記外輪が前記内輪の前記ガイドレースに対して対向配置されて前記内輪の前記ガイドレースと共同で当該軸受の内部空間を画定している少なくとも1つのガイドレースを有し、前記内輪は、前記回転軸心と平行な基準軸方向に向いた軸方向端面を有し、前記軸方向端面は、前記基準方向において前記内輪の前記ガイドレースから軸方向に距離を空けて設けられており、前記内輪は、軸方向において前記軸方向端面と前記内輪の前記ガイドレースとの間に設けられた焼き嵌め支持面を有し、前記密封装置は、少なくとも、前記外輪に固定された外側構造体および前記内輪に固定された内側構造体を含み、前記外側構造体と前記内側構造体が共同で当該軸受の前記内部空間に開口した密封空間を画定しており、前記内側構造体は、前記内輪の前記焼き嵌め支持面に焼き嵌めされた焼き嵌め部および少なくとも1つのシール座部を有し、前記外側構造体は、前記シール座部に摺接する少なくとも1つのシールリップを有し、前記シール座部と前記シールリップが前記密封空間を密封する、軸受において、前記シール座部は、前記基準軸方向において前記内輪の前記端壁から軸方向に距離を空けて設けられているとともに前記回転軸心からみて前記焼き嵌め支持面よりも近くにある、軸受が提案される。
【0009】
本発明によれば、前記シール座部が、前記軸受の前記回転軸心とは径方向反対側に面している。前記内側構造体は、さらに、前記基準方向において前記シール座部に対して軸方向に突出する連結部、および前記連結部から径方向に前記回転軸心とは径方向反対側に突設されたデフレクタを有する。前記デフレクタは、前記外側構造体と共同で、前記密封空間に開口するバッフル通路を形成しており、前記バッフル通路は、前記回転軸心からみて前記シール座部よりも遠くにある入口を有し、前記シール座部および前記シールリップは、前記密封空間内に位置しているとともに前記バッフル通路と前記軸受の前記内部空間との間に介在している。前記バッフル通路は、その幾何形状により、当該バッフル通路に侵入し得る汚れに遠心力を作用させ易くなっている。
【0010】
前記シール座部を前記内輪の外部に配置することで、前記シール座部の径および外周を小さくすることができ、前記シールリップと前記シール座部の間の摩擦トルクが抑えられることから、ピッチ円直径の大きい軸受にとって際立った利点となる。
【0011】
好ましくは、前記シール座部が、前記回転軸心からみて前記内輪の前記ガイドレースの底部よりも近くにある。
【0012】
一実施形態において、前記内輪の円筒状の前記焼き嵌め支持面が、前記軸受の前記回転軸心とは径方向反対側に面している。
【0013】
一実施形態において、前記内側構造体が、前記焼き嵌め部および前記シール座部を形成するフレームを有する。
【0014】
好ましくは、前記デフレクタが、留め固定要素または任意の他の手段による留め固定、焼き嵌め、または接着によって前記フレームに取り付けられている。
【0015】
一実施形態において、前記内側構造体は、当該内側構造体と前記内輪に固定された部品、特には、トランスミッションボウル、またはトランスミッションボウルを保護するベローズ、との間に介在するように意図された静的シールに接する静的密封部を有する。この静的シールにより、前記内輪と前記内輪が取り付けられる前記部品との間の連結部を保護することができる。
【0016】
一実施形態において、前記内側構造体が、エンコーダを有する。このエンコーダにより、センサ、好ましくは、前記外側構造体に対して静止しているセンサによって読み取られる情報、特には、位置情報の符号化が可能となる。
【0017】
一実施形態において、前記外輪の前記ガイドレースが軌道であり、前記内輪の前記ガイドレースが軌道であり、前記軸受は、前記回転軸心を中心として前記内輪と前記外輪が相対回転運動可能であるように前記外輪の前記軌道と前記内輪の前記軌道上を転動することが可能な少なくとも1列の転動体を含む転がり軸受である。ここで、本発明によれば、転がり軸受の抵抗トルクに悪影響を及ぼすことなく転がり軸受のピッチ円直径を大きくすることができる。好ましくは、前記シール座部が、前記回転軸心からみて、前記列の転動体によって形成されるピッチ円よりも近くにある。このように前記シール座部の外周が小さくなることにより、前記軸受の摩擦トルクが抑えられる。
【0018】
本発明の他の態様は、モータービークルの車輪支持装置において、先述の請求項のいずれか一項に記載の軸受を備え、前記内輪が回転輪、好ましくは、ハブ輪またはハブ輪に固定された輪であり、前記外輪が、車輪支持体、特には、ホイールピボット、に取り付けるための接続部を有する固定輪であることを特徴とする、モータービークルの車輪支持装置に関する。
【0019】
本発明のその他の特徴および利点は、添付の図面を参照しながら行う以下の説明を参酌することによって明らかになる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明の第1の実施形態に係る車輪用軸受を備えた車輪支持アセンブリの軸方向断面図である。
図2図1の車輪用軸受の一部の構成部品の詳細図である。
図3】本発明の第2の実施形態に係る車輪用軸受の一部の構成部品の詳細図である。
図4】本発明の第3の実施形態に係る車輪用軸受の一部の構成部品の詳細図である。
図5】本発明の第4の実施形態に係る車輪用軸受の一部の構成部品の詳細図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
分かり易くするために、同一または同様の構成要素は、全ての図をとおして同一の参照符号で特定している。
【0022】
図1に、モータービークルの駆動輪アセンブリ10であって、モータービークル(図示せず)のサスペンション部材に固定されるように意図されているとともに回転軸心XXを定める固定サブアセンブリ12と、固定サブアセンブリ12の内部で回転軸心XXを中心として回転することが可能な回転サブアセンブリ14と、回転サブアセンブリ14と固定サブアセンブリ12との間の案内転動体16,18とを備える、駆動輪アセンブリ10を示す。
【0023】
本例の固定サブアセンブリ12は、中実の単一物の金属製外輪20によって構成されている。本実施形態では、外輪20に、回転軸心XXを定める2つの同軸の外側軌道22,24が形成されており、一方の外側軌道22は、車両のアウタ側に位置するように意図されており、他方の外側軌道24は、車両のインナ側に、すなわち、車両の前後上下方向の中央平面寄りに位置するように意図されている。前記外輪は、さらに、径方向外方に延びる少なくとも1つの取付用挟持部26を有する。取付用挟持部26には、取付要素32により当該取付用挟持部26をサスペンション部材30(本例では、ストラットピボット)に取り付けるための孔部28が形成されている。
【0024】
回転サブアセンブリ14は、車両のアウタ側において内輪を形成するハブ輪34、車両のインナ側にある第2の内輪36、およびトランスミッションボウル38を含む。
【0025】
ハブ輪34は、駆動輪のリムとブレーキディスクを取り付けるためのフランジ40を有する中実の単一物の金属製部品である。フランジ40は、前記ブレーキディスクまたは車輪のリムと接する平坦面42を有している。また、フランジ40には、同リムおよび/または同ブレーキディスクの取付要素を挿入することが可能な取付孔部44が設けられている。ハブ輪34は、第1の外側軌道22と向かい合う第1の内側軌道46を有する。
【0026】
トランスミッションボウル38は、中実の単一物の金属製部品である。本実施形態において、トランスミッションボウル38は、中実の突出端部50と、空洞54を画定するフレア状の中央部52とを有し、等速ジョイントとして機能する。トランスミッションボウル38の突出部50はスプライン加工されており、ハブ輪34のスプライン付きの管状空洞56に隙間嵌め、中間嵌めまたは締まり嵌めで取り付けられてスプライン結合接触接続部を形成する。さらに、図1には、トランスミッションボウル38とハブ輪34を取り付けるための手段として、突出部50のねじ付き端部に螺合されてハブ輪34の肩部に圧接させられるナット58が示されている。車両のインナ側にある軸受内輪36は、ハブ輪34の円筒状の焼き嵌め面60に焼き嵌めされているとともに、軸方向においてハブ輪34とトランスミッションボウル38との間に挟持されている。
【0027】
転がり軸受内輪36には、車両のインナ側に、外側軌道24に対向して内側軌道62が形成されている。転動体16,18は、車両のアウタ側で外側軌道22および内側軌道46上を転動する第1列の転動体16と、車両のインナ側で外側軌道24および内側軌道62上を転動する第2列の転動体18とを構成している。
【0028】
これら2列の転動体16,18と軌道22,24,46,62は、2つの密封装置によって、つまり、車両のアウタ側で外輪20とハブ輪34との間に位置する密封装置64および車両のインナ側で外輪20と軸受内輪36との間に位置する密封装置66によって、保護されている。
【0029】
既述した車輪用軸受10の構成要素は一般的なものであり、様々な異なる形態をとり得る。具体的に述べると、内側軌道46は、ハブ輪34に取り付けられた軸受輪に形成されたものであってもよい。車両のインナ側にある内輪36は、スナップリングによってハブ輪34に固定されるものであってもよく、必要に応じて、トランスミッションボウル38と接触しないようにされてもよい。トランスミッションボウル38は、どのような手段でハブ輪34に取り付けられてもよい。前記軸受は単列の転動体16を備えていてもよく、転動体16はボールまたはころとされ得る。
【0030】
次に、車両のインナ側に位置する、図2に詳細に示した密封装置66に注目する。密封装置66は、軸受外輪20と軸受内輪36の間を密封するものであり、より具体的には、外輪20の軌道24と内輪36の軌道62との間に位置する空間Vを保護する。この領域において、軸受外輪20は、回転軸心XXに面して本例では円筒状とされる焼き嵌め面68と、回転軸心XXと直交して端面70に接する、軸受外輪20の基準平面PEを規定できるようにする端壁70とを有する。焼き嵌め面68は、外輪20のうち、車両のインナ側にある軌道24と端面70との間に位置する領域において軸方向および周方向に延びている。前記外輪の焼き嵌め面68は、回転軸心XXからみて転動体18の列のピッチ円Cよりも遠くにあり、本実施形態では、回転軸心XXからみて外輪20の軌道24の軌道底部FEよりも遠くにある。
【0031】
軸受内輪36も、径方向外方に面して本例では円筒状とされる焼き嵌め面72と、回転軸心XXと直交して端面74に接する、軸受内輪36の基準平面PIを規定する端壁74とを有する。焼き嵌め面72は、前記内輪のうち、車両のインナ側にある軌道62と端面74との間に位置する領域において軸方向および周方向に延びている。前記軸受内輪の端面74と前記軸受外輪の端面70は、基準軸心XXに平行な共通の方向D(以下、基準軸方向とする)を向いている。なお、本実施形態では、軸受内輪36の基準平面PIが、軸受外輪20の基準平面PEから距離を空けて位置し、基準軸方向Dにずれている。これにより、軸受内輪36が、軸受外輪20よりも基準軸方向Dに突き出て軸受外輪20の基準平面PEを通り越している。より具体的には、軸受内輪36の焼き嵌め面72の少なくとも一部が、軸受外輪20の基準平面PEに対して一方の側で、軸受外輪20の焼き嵌め面68に向かい合って位置している。
【0032】
密封装置66は、外輪20と一体にされた外側構造体76、および内輪36と一体にされた内側構造体78を含む。
【0033】
外側構造体76は、外輪20の焼き嵌め面68に焼き嵌めされた焼き嵌め部80と、径方向外方に開口したガター82、バッフル壁84および本実施形態では2つあるシールリップ86を構成する機能部とを有する。ガター82は、底部822および側壁824を有し、側壁824は、前記底部の軸方向各側に位置し、前記回転軸心からみて前記底部よりも遠くにある。本実施形態において、外側構造体76は、例えば板金製、プラスチック製等の剛性フレーム762と、オーバーモールド部764とを有する。フレーム762は焼き嵌め部80およびガター82を形成しているのに対し、オーバーモールド部764はバッフル壁84およびシールリップ86を形成している。
【0034】
内側構造体78は、内輪36の焼き嵌め支持面72に焼き嵌めされた焼き嵌め部88と、シール座部90およびバッフル壁92を構成する機能部とを有する。バッフル壁92は、内側構造体78と外側構造体76との間にバッフル通路Sを画定するように外側構造体76のバッフル壁84に対して対向配置されている。シールリップ86は、弾性変形可能であり、かつ、本実施形態で円筒状とされるシール座部90に接する。前記密封装置の内側構造体78と外側構造体76は共同で、シール座部90およびシールリップ86のための環状の収納部Lを画定している。環状の収納部Lには、バッフル通路Sが開口しているとともに、軸受外輪20の軌道24と軸受内輪36の軌道62とによって画定された内部空間Vも連通している。
【0035】
内側構造体78の焼き嵌め部88と機能部とは、内輪36の基準平面PIの各側に配されている。これにより、シール座部90を、回転軸心XXからみて焼き嵌め部88よりも近くに配置することが可能になる。この配置構成は、シール座部90の径を最小限に抑える構成であり、これにより、シールリップ86とシール座部90との間の摩擦トルクを最小にするとともに、この摩擦によって発生する熱を軽減させることができる。
【0036】
バッフル通路Sは、外側構造体76のバッフル壁84の入口部と、内側構造体78のバッフル壁92の入口部とによって画定された入口Eを有する。ガター82の軸方向各側に、バッフル通路Sの入口Eと外側構造体76の焼き嵌め部80とが位置している。バッフル通路Sとガター82は、外輪20の基準平面PEに対して同じ側に位置しており、基準平面PEに対して、外側構造体76の焼き嵌め部80が位置している側とは反対側にある。前記バッフル通路の前記入口は、回転軸心XXからみてシール座部90よりも遠くにある。
【0037】
外側構造体76のバッフル壁84は、内側構造体78のバッフル壁92に向かって軸方向に突出した環状のリブ94によって形成されている。同様に、内側構造体78のバッフル壁92は、1つ以上の環状のリブ96によって形成されており、1つ以上の環状のリブ96は、外側構造体76のバッフル壁84に向かって軸方向に突出し、かつ、外側構造体76の環状のリブ94間の空間に配置されている。外側構造体76の環状のリブ94は、バッフル通路Sの内部に位置する1つ以上のさらなるガター98を形成している。バッフル壁92は、内側構造体78の環状のリブ96の箇所に、前記回転軸心側を向く円錐台形状面922、および径方向外方を向く円錐台形状壁924を有する。
【0038】
バッフル通路Sの入口Eは、環状であり、軸受外輪20に向かって基準軸方向Dとは逆の軸方向に面している。入口Eは、回転軸心XXからみてガター82の底部822よりも遠くにある。本例において、好ましくは、入口Eが、回転軸心XXからみて、転動体18の列によって形成されたピッチ円Cよりも遠くにある。
【0039】
好ましくは、内側構造体78のバッフル壁92の前記入口部は、図示のように、前記外輪の基準平面PEからみて入口Eよりも遠くにある頂部に向かって収束するような円錐台形状とされる。同様に、好ましくは、外側構造体76のバッフル壁84の前記入口部が、図示のように、前記外輪の基準平面PEからみて入口Eよりも遠くにある頂部に向かって収束するような円錐台形状とされる。
【0040】
本実施形態において、ガター82は、軸受内輪36の焼き嵌め面72および内側構造体78の焼き嵌め部88と、軸方向において少なくとも部分的に重なっていることが見て取れる。外側構造体76のバッフル壁84は、軸受内輪36の基準平面PIの片側に全体が位置するとともに、ガター82の片側に全体が位置していることから、ガター82は、軸方向において外側構造体76の焼き嵌め部80と外側構造体76のバッフル壁84の間に位置している。
【0041】
任意の構成であるが、内側構造体78の前記機能部は、さらに、トランスミッションボウル38のフレア状の中央部52と直接もしくは間接的に協働する静的シール102のための座部99もしくは支持部、および/または、トランスミッションボウル38の保護スリーブ104を取り付けるための接続部を構成していてもよい。
【0042】
密封装置66の内側構造体78は、好ましくは金属製であるフレーム782を有する。フレーム782は、焼き嵌め部72を形成しており、シール座部90も形成し得る。代替的に、シール座部90は、金属製材料または非金属性材料からなり得るフレーム782に取り付けられた環状の部品に形成されたものであってもよい。好ましくは、内側構造体78は、さらに、任意の適切な手段、特には、接着、オーバーモールド成形または機械的留め固定、例えば、焼き嵌め、留め固定要素等、あるいは、図1図3に示すような弾性留め固定によってフレーム782の連結部785に取り付けられた第2の部品784を有する。本例では、フレーム782の連結部785が、基準方向Dにおいてシール座部90から軸方向に突出している。第2の部品784は、プラスチック製であり得る。第2の部品784は、デフレクタとして機能して、前記内側構造体のバッフル壁92を形成しているとともに、場合によっては、静的シール102のための座部99もしくは支持部、または、静的シール102自体を形成している。図1および図2に示す実施形態では、第3の部品786が、第2の部品784と共同で、シール座部90付近にさらなるガター106を形成している。
【0043】
図示しない一変形例として、前記デフレクタを構成する前記部品は、さらに、前記シール座部も形成するものとされてよい。
【0044】
図1および図2に示す実施形態において、内側構造体78は、さらに、ガター82の側壁824または底部822に対して対向配置された好ましくは環状であるエンコーダ108を支持している。具体的には、エンコーダ108は、多極磁気エンコーダまたはトーンホイールであり得る。ガター82内に局所的に侵入するセンサ110により、エンコーダ108で符号化されたデータ、特には、位置データが、ガター82の壁824を介して遠隔で読み取られ得る。エンコーダ108が内側構造体78の焼き嵌め部88に設置されており、かつ、エンコーダ108を無制御で変形させることがないように前記焼き嵌めが管理されている場合には、前記読取りがラジアル型(径方向)の読取りとされてもよい。代替的に、また、好ましくは、図1および図2に示すように、前記読取りがアキシャル型(軸方向)の読取りとされる。この場合、エンコーダ108は、焼き嵌め部88から軸受外輪20に向かって径方向に突出する環状の平坦なフランジ112に支持される。なお、エンコーダ108がない場合であっても、側壁824から短い距離で側壁824に対して対向配置される環状の平坦なフランジ112は、グリースを空間V内に閉じ込めることができ、必要に応じて、シールリップ86のうちの一方をなくすこともでき、これにより、摩擦トルクの軽減に寄与するという点で、利点を奏し得る。
【0045】
図3に、密封装置66の一変形例として、図1および図2に示した実施形態においてエンコーダが使用されていない場合を示す。
【0046】
図4に、図1および図2に示した実施形態とはシールの形状が異なるさらなる変形例を示す。本変形例では、シールリップ86が1つしかない。
【0047】
図5に、他の変形例として、図1および図2に示した実施形態の前記密封装置の外側構造体76のフレーム762が、任意の適切な手段(本例では、焼き嵌めと機械的な相互係合)によって互いに留め固定された2つの部品7621,7622で構成された場合を示す。
【0048】
図示しない一変形例として、前記シール座部は、前記内輪の前記基準平面に平行な環状の平坦面を有するものであってもよく、この場合、前記密封装置の前記外側構造体は、前記平坦面に軸方向に接するシールリップを有することになる。
【0049】
図示および上述した例は、あくまでも例示である。図示の各種実施形態を組み合わせることによって別の実施形態を提供することも可能であるという点を明記したい。説明した密封装置は、車輪用軸受の保護以外の用途にも適用されることが可能であるとともに、あらゆる滑り軸受や転がり軸受、特には、外輪が固定側となり内輪が回転側となるよう意図したあらゆる滑り軸受や転がり軸受に有利に適用されることが可能である。包括的な文言として、軌道22,24,46,62をガイドレースと称する。
【0050】
本開示内容、図面および添付の特許請求の範囲から当業者に対して教示される全ての構成は、その他の所定の構成との関連で具体的に説明したものであるが、単独の構成でも任意の組合せとしても、明確に排除されるようなものや技術的条件として不可能又は理にかなわない組合せにならないかぎり本明細書で開示した別の構成や構成群と組み合わせられてもよいという点を強調したい。
図1
図2
図3
図4
図5
【国際調査報告】