(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-01-31
(54)【発明の名称】充電式電池セル
(51)【国際特許分類】
H01M 10/056 20100101AFI20240124BHJP
H01M 4/66 20060101ALI20240124BHJP
H01M 4/74 20060101ALI20240124BHJP
H01M 10/054 20100101ALI20240124BHJP
H01M 10/052 20100101ALI20240124BHJP
H01M 4/525 20100101ALI20240124BHJP
H01M 4/505 20100101ALI20240124BHJP
H01M 4/58 20100101ALI20240124BHJP
H01M 4/587 20100101ALI20240124BHJP
H01M 4/62 20060101ALI20240124BHJP
H01M 4/80 20060101ALI20240124BHJP
【FI】
H01M10/056
H01M4/66 A
H01M4/74 C
H01M10/054
H01M10/052
H01M4/525
H01M4/505
H01M4/58
H01M4/587
H01M4/62 Z
H01M4/80 C
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023546072
(86)(22)【出願日】2022-01-26
(85)【翻訳文提出日】2023-09-28
(86)【国際出願番号】 EP2022051745
(87)【国際公開番号】W WO2022161996
(87)【国際公開日】2022-08-04
(32)【優先日】2021-01-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】521380247
【氏名又は名称】インノリス・テクノロジー・アー・ゲー
【氏名又は名称原語表記】INNOLITH TECHNOLOGY AG
【住所又は居所原語表記】HIRZBODENWEG 95, 4052 BASEL, SWITZERLAND
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】弁理士法人R&C
(72)【発明者】
【氏名】ツィンク,ローラン
(72)【発明者】
【氏名】ヘンリヒス,レオナルド
【テーマコード(参考)】
5H017
5H029
5H050
【Fターム(参考)】
5H017AA03
5H017CC01
5H017CC05
5H017CC25
5H017DD06
5H017EE01
5H017EE07
5H029AJ12
5H029AK01
5H029AK03
5H029AK04
5H029AL02
5H029AL03
5H029AL06
5H029AL07
5H029AL11
5H029AM01
5H029AM07
5H029DJ07
5H029DJ08
5H029EJ01
5H029HJ01
5H029HJ02
5H029HJ10
5H029HJ18
5H050AA15
5H050BA15
5H050BA17
5H050CA01
5H050CA08
5H050CA09
5H050CA10
5H050CB02
5H050CB03
5H050CB07
5H050CB08
5H050CB11
5H050DA07
5H050DA08
5H050DA11
5H050HA02
5H050HA18
(57)【要約】
本発明は、活性金属、導体要素(26)を有する少なくとも一つの正極(4、23、44)、導体要素(27)を有する少なくとも一つの負極(5、22、45)、ハウジング(1、28)および電解質を含む充電式電池セル(2、20、40)に関し、前記正極(4、23、44)の前記導体要素(26)と前記負極(5、22、45)の前記導体要素(27)とは、互いに独立してアルミニウムと銅とによって形成される群から選択される材料によって形成され、前記電解質は、SO
2系であり、式(I)を有する、少なくとも一つの第一の導電塩を含み、Mは、アルカリ金属、アルカリ土類金属、元素周期表第12族の金属およびアルミニウムによって形成される群から選択される金属であり、xは、1から3の整数であり、置換基R
1、R
2、R
3およびR
4は、互いに独立してC
1~C
10アルキル、C
2~C
10アルケニル、C
2~C
10アルキニル、C
3~C
10シクロアルキル、C
6~C
14アリールおよびC
5~C
14ヘテロアリールによって形成される群から選択され、さらにZは、アルミニウムまたはホウ素である。
【化1】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
活性金属、導体要素(26)を有する少なくとも一つの正極(4、23、44)、導体要素(27)を有する少なくとも一つの負極(5、22、45)、ハウジング(1、28)および電解質を含む充電式電池セル(2、20、40)であって、
前記正極(4、23、44)の前記導体要素(26)と前記負極(5、22、45)の前記導体要素(27)とは、互いに独立してアルミニウムと銅とによって形成される群から選択される材料によって形成され、さらに前記電解質は、SO
2系であり、式(I)
【化1】
を有する、少なくとも一つの第一の導電塩を含み、
-Mは、アルカリ金属、アルカリ土類金属、元素周期表第12族の金属およびアルミニウムによって形成される群から選択される金属であり、
-xは、1から3の整数であり、
-置換基R
1、R
2、R
3およびR
4は、互いに独立してC
1~C
10アルキル、C
2~C
10アルケニル、C
2~C
10アルキニル、C
3~C
10シクロアルキル、C
6~C
14アリールおよびC
5~C
14ヘテロアリールによって形成される群から選択され、さらに
-Zは、アルミニウムまたはホウ素であることを特徴とする充電式電池セル(2、20、40)。
【請求項2】
前記正極(4、23、44)の前記導体要素(26)は、アルミニウムによって形成されることを特徴とする、請求項1に記載の充電式電池セル(2、20、40)。
【請求項3】
前記負極(5、22、45)の前記導体要素(27)は、銅によって形成されることを特徴とする、請求項1または2に記載の充電式電池セル(2、20、40)。
【請求項4】
前記正極(4、23、44)の前記導体要素(26)および/または前記負極(5、22、45)の前記導体要素(27)は、
-好ましくは有孔状または網目状構造における薄い金属シート、薄い金属箔、あるいは金属がコーティングされたプラスチック箔の形状における平面状において、あるいは、
-三次元的に多孔金属構造の形状、特に金属発泡体(18)の形状において
形成されていることを特徴とする、請求項1~3の何れか1項に記載の充電式電池セル(2、20、40)。
【請求項5】
少なくとも4.0ボルト、好ましくは少なくとも4.4ボルト、さらに好ましくは少なくとも4.8ボルト、さらに好ましくは少なくとも5.2ボルト、さらに好ましくは少なくとも5.6ボルトおよび特に好ましくは少なくとも6.0ボルトのセル電圧を有することを特徴とする、請求項1~4の何れか1項に記載の充電式電池セル(2、20、40)。
【請求項6】
前記第一の導電塩の置換基R
1、R
2、R
3およびR
4は、互いに独立して以下によって形成される群から選択されることを特徴とする、請求項1~5の何れか1項に記載の充電式電池セル(2、20、40):
- C
1~C
6アルキル、好ましくはC
2~C
4アルキル、特に好ましくは2-プロピル、メチルおよびエチルのアルキル基、
- C
2~C
6アルケニル、好ましくはC
2~C
4アルケニル、特に好ましくはエテニルおよびプロペニルのアルケニル基、
- C
2~C
6アルキニル、好ましくはC
2~C
4アルキニル、
- C
3~C
6シクロアルキル、
- フェニル、および
- C
5~C
7ヘテロアリール。
【請求項7】
前記置換基R
1、R
2、R
3およびR
4のうち少なくとも二つは、キレート配位子を形成するために互いに架橋されていることを特徴とする、請求項1~6の何れか1項に記載の充電式電池セル(2、20、40)。
【請求項8】
前記第一の導電塩の前記置換基R
1、R
2、R
3およびR
4は、少なくとも一つのフッ素原子および/または少なくとも一つの化学基によって置換されており、前記化学基は、C
1~C
4アルキル、C
2~C
4アルケニル、C
2~C
4アルキニル、フェニールおよびベンジルによって形成される群から選択されることを特徴とする、請求項1~7の何れか1項に記載の充電式電池セル(2、20、40)。
【請求項9】
前記第一の導電塩の前記置換基R
1、R
2、R
3およびR
4のうち少なくとも一つは、CF
3基またはОSО
2CF
3基であることを特徴とする、請求項1~8の何れか1項に記載の充電式電池セル(2、20、40)。
【請求項10】
前記第一の導電塩は、以下により形成される群から選択されることを特徴とする、請求項1~9の何れか1項に記載の充電式電池セル(2、20、40):
【化2】
【請求項11】
前記第一の導電塩は、以下の式を有することを特徴とする、請求項7~10の何れか1項に記載の充電式電池セル(2、20、40):
【化3】
【請求項12】
前記電解質は、式(I)による前記第一の導電塩とは異なる、少なくとも一つの第二の導電塩を含むことを特徴とする、請求項1~11の何れか1項に記載の充電式電池セル(2、20、40)。
【請求項13】
前記電解質の前記第二の導電塩は、アルカリ金属化合物、特にリチウム化合物であり、当該リチウム化合物は、アルミン酸塩、特にテトラハロゲンアルミン酸リチウム、ハロゲン化物、シュウ酸塩、ホウ酸塩、リン酸塩、ヒ酸塩およびガレートによって形成される群から選択されることを特徴とする、請求項12に記載の充電式電池セル(2、20、40)。
【請求項14】
前記電解質は、少なくとも一つの添加剤を含むことを特徴とする、請求項1~13の何れか1項に記載の充電式電池セル(2、20、40)。
【請求項15】
前記電解質の前記添加剤は、ビニレンカーボネートおよび自身の誘導体、ビニルエチレンカーボネートおよび自身の誘導体、メチルエチレンカーボネートおよび自身の誘導体、リチウム(ビスオキサラト)ホウ酸、ジフルオロ(オキサラト)ホウ酸リチウム、テトラフルオロ(オキサラト)リン酸リチウム、シュウ酸リチウム、2-ビニルピリジン、4-ビニルピリジン、環状エキソメチレンカーボネート、スルホン、環状および非環状スルホン酸塩、非環状亜硫酸塩、環状および非環状スルフィン酸エステル、無機酸の有機エステル、非環状および環状アルカン(当該非環状および環状アルカンは1バールで少なくとも36℃の沸点を有する)、芳香族化合物、ハロゲン化環状および非環状スルホニルイミド、ハロゲン化環状および非環状リン酸エステル、ハロゲン化環状および非環状ホスフィン、ハロゲン化環状および非環状ホスファイト、ハロゲン化環状および非環状ホスファゼン、ハロゲン化環状および非環状シリルアミン、ハロゲン化環状および非環状ハロゲン化エステル、ハロゲン化環状および非環状アミド、ハロゲン化環状および非環状無水物およびハロゲン化有機複素環によって形成される群から選択されることを特徴とする、請求項14に記載の充電式電池セル(2、20、40)。
【請求項16】
前記電解質は、前記電解質組成の総容積に関して以下の組成を有することを特徴とする、請求項1~15の何れか1項に記載の充電式電池セル(2、20、40):
(i)5から99.4wt%の二酸化硫黄、i
(ii)0.6から95wt%の前記第一の導電塩、
(iii)0から25wt%の前記第二の導電塩、および
(iv)0から10wt%の前記添加剤。
【請求項17】
前記第一の導電塩の物質量濃度は、前記電解質の総容積に関して0.01モル/lから10モル/l、好ましくは0.05モル/lから10モル/l、さらに0.1モル/lから6モル/lおよび特に好ましくは0.2モル/lから3.5モル/lの範囲にあることを特徴とする、請求項1~16の何れか1項に記載の充電式電池セル(2、20、40)。
【請求項18】
前記電解質は、1モルの導電塩当たり少なくとも0.1モルのSO
2、好ましくは少なくとも1モルのSO
2、さらに好ましくは少なくとも5モルのSO
2、さらに好ましくは少なくとも10モルのSO
2および特に好ましくは少なくとも20モルのSO
2を含むことを特徴とする、請求項1~17の何れか1項に記載の充電式電池セル(2、20、40)。
【請求項19】
前記活性金属は、以下のものであることを特徴とする、請求項1~18の何れか1項に記載の充電式電池セル(2、20、40):
- アルカリ金属、特にリチウムまたはナトリウム、
- アルカリ土類金属、特にカルシウム、
- 元素周期表第12族の金属、特に亜鉛、または
- アルミニウム。
【請求項20】
前記正極(4、23、44)は、前記活物質として好ましくはA
xM’
yM”
zO
aの組成を有する、少なくとも一つの化合物を含み、
-Aは、アルカリ金属、アルカリ土類金属、元素周期表第12族の金属またはアルミニウムによって形成される群から選択される、少なくとも一つの金属であり、
-M’は、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、CuおよびZnの元素によって形成される群から選択される、少なくとも一つの金属であり、
-M”は、元素周期表の第2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15および16族の元素によって形成される群から選択される、少なくとも一つの元素であり、
-xおよびyは、それぞれ独立した0より大きい数であり、
-zは、0以上の数であり、さらに
-aは、0よりも大きい数である
であることを特徴とする、請求項1~19の何れか1項に記載の充電式電池セル(2、20、40)。
【請求項21】
前記化合物は、Li
xNi
y1Mn
y2Co
zO
aの組成を有し、x、y1およびy2は、それぞれ独立した0より大きい数であり、zは、0以上の数であり、さらにaは、0よりも大きい数であることを特徴とする、請求項20に記載の充電式電池セル(2、20、40)。
【請求項22】
前記化合物は、A
xM’
yM”
1
z1M”
2
z2O
4の組成を有し、
-M”
1は、元素周期表の第2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15および16族の元素によって形成される群から選択され、
-M”
2は、元素リンであり、
-xおよびyは、それぞれ独立した0より大きい数であり、
-z1は、0より大きい数であり、さらに
-z2の値は1である
ことを特徴とする、請求項20に記載の充電式電池セル(2、20、40)。
【請求項23】
前記正極(4、23、44)は、少なくとも一つの金属化合物を含み、当該金属化合物は、金属酸化物、金属ハロゲン化物および金属リン酸塩によって形成される群から選択され、当該金属化合物の金属は、元素周期表の原子番号22から28の遷移金属、特にコバルト、ニッケル、マンガンまたは鉄であることを特徴とする、請求項1~22の何れか1項に記載の充電式電池セル(2、20、40)。
【請求項24】
前記正極(4、23、44)は、スピネル、層状酸化物、変換化合物またはポリアニオン化合物の化学構造を有する、少なくとも一つの金属化合物を含むことを特徴とする、請求項1~23の何れか1項に記載の充電式電池セル(2、20、40)。
【請求項25】
前記負極(5、22、45)は、挿入材料であり、当該挿入材料は、活物質として炭素、特に修飾体であるグラファイトを含むことを特徴とする、請求項1~24の何れか1項に記載の充電式電池セル(2、20、40)。
【請求項26】
前記正極(4、23、44)および/または前記負極(5、22、45)は、少なくとも一つの結合剤、好ましくはフッ化結合剤、特にフッ化ポリビニリデンおよび/またはテトラフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレンおよびフッ化ビニリデンによって形成されるターポリマー、または
共役カルボン酸のモノマー構造単位または当該共役カルボン酸のアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩またはアンモニウム塩、またはこれらの組み合わせからなるポリマーからなる結合剤、または
単量体のスチレンおよびブタジエン構造単位系ポリマーからなる結合剤またはカルボキシメチルセルロース群からなる結合剤を含み、
前記結合剤は、前記正極または前記負極の総重量に関して多くとも20wt%、さらに好ましくは多くとも15wt%、さらに好ましくは多くとも10wt%、さらに好ましくは多くとも7wt%、さらに好ましくは多くとも5wt%および特に好ましくは多くとも2wt%の濃度において存在することを特徴とする、請求項1~25の何れか1項に記載の充電式電池セル(2、20、40)。
【請求項27】
交互に積層されて前記ハウジング(1、28)内に配置されている、複数の負極(5、22、45)と少なくとも一つの、好ましくは複数の正極(4、23、44)を含んでなり、前記正極(4、23、44)および前記負極(5、22、45)とは、好ましくはそれぞれセパレータ(11、21、13)によって互いに電気的に分離されていることを特徴とする、請求項1~26の何れか1項に記載の充電式電池セル(2、20、40)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、SO2系電解質を有する充電式電池セルに関する。
【背景技術】
【0002】
充電式電池セルは、多くの技術分野において非常に重要である。多くの場合、当該充電式電気セルは、例えば携帯電話の作動のように比較的小さい電流を有する小さい充電式電池セルのみが必要とされるような用途に使用されている。しかしながら、大きなエネルギー用途のためにより大きい充電式電池セルの需要も多く、車両の電気駆動用には電池セルの形状におけるエネルギーを大量に蓄積することが特に重要である。
【0003】
この種の充電式電池セルに求められる重要な要件は、高いエネルギー密度である。このことは前記充電式電池セルが重量および容積単位当たりの電気エネルギーを可能な限り多く含む必要があることを意味する。このため活性金属としてリチウムが特に有利であることが証明されている。活性金属としてリチウムを含む充電式電池セルは、リチウムイオン電池とも称される。電極の比容量の増加あるいはセル電圧の増加のいずれかによって当該リチウムイオン電池のエネルギー密度を高めることが可能である。
【0004】
リチウムイオン電池の正極と負極の両方は、挿入電極として形成されている。本発明の意味合いにおける「挿入電極」という用語は、結晶構造を有する電極であって、前記リチウムイオン電池の作動時に前記活性金属のイオンを当該結晶構造に蓄積または放出することが可能であると理解される。充電式電池セルの活性金属とは、電解質中の当該活性金属のイオンが前記セルの充放電時に負極または正極に移動してそこで電気化学プロセスに参加する金属を指す。挿入電極の場合には、電極過程が電極の表面だけではなく前記結晶構造内でも生じ得ることを意味する。前記リチウムイオン電池の充電時には前記活性金属のイオンが前記正極から放出されて前記負極へと蓄積される。前記リチウムイオン電池の放電時には逆のプロセスが実施される。当該電気化学プロセスは、直接的または間接的に外部回路への電子の放出または前記外部回路からの電子の受容につながる。前記電子が前記外部回路へ放出可能または前記外部回路から受容可能であるようにするために前記リチウムイオン電池の前記正極および前記負極は、それぞれ導体要素を有する。当該導体要素は、前記正極および前記負極の重要な構成要素である。第一の電極の電極反応において解放された電子(e-)は、自身の導体要素を介して前記外部回路へ放出される。第二の電極の電極反応において必要とされる電子は、当該電極の前記導体要素によって前記外部回路から供給される。前記両導体要素の良好な電子伝導性は、前記電気セルの高い電流容量の前提である。前記導体要素は、例えば金属シートの形状における平面状あるいは多孔質の金属発泡体の形状における三次元状に形成され得る。前記負極または前記正極の活物質は、前記金属発泡体内に導入または前記金属シート上に塗布される。前記金属発泡体内の前記活物質と前記活物質による前記平面状の金属シートのコーティングとは、多孔質であるため、使用される電解質がそれぞれの多孔質である構造に浸入可能であり、よってそれぞれの前記導体要素と接触する。電池セルの充電または放電時に前記電極間において電位差が形成される。前記導体要素と前記電極活物質あるいは前記電解質との反応は、当該電位差によって促進され得る。よって前記導体要素の材料は、対応する電位範囲において所望しない副反応が生じることなく使用される電極活物質のみならず使用される電解質に対しても不活性である必要がある。よって適切な導体要素を選択する際には前記使用される電解質と予期される電位範囲を考慮する必要がある。以下の文章において「導体要素」「導体手段」および「電流導体手段」の用語は、同義語である。
【0005】
前記電解質も充電式電池セルにとって重要な機能要素である。当該電解質は、通常、溶媒または溶媒混合物と少なくとも一つの導電塩を含む。例えば固体電解質またはイオン溶液は、溶媒を含まず、前記導電塩のみを含む。前記電解質は、前記電池セルの前記正極および前記負極と接触している。前記導電塩の少なくとも一つのイオン(アニオンまたはカチオン)は、イオン伝導によって前記充電式電池セルの機能にとって必要である電極間の電荷輸送が実施され得るように前記電解質中において移動可能である。前記電解質は、前記充電式電池セルの所定の上限セル電圧を越えると酸化的に電気化学分解される。当該プロセスは、多くの場合、前記電解質の構成要素の不可逆的な破壊、ひいては前記充電式電池セルの故障につながる。還元的プロセスも所定の下限セル電圧を下回ると前記電解質を破壊し得る。当該プロセスを回避するには前記正極および前記負極は、前記セル電圧が前記電解質の分解電圧より小さくあるいは大きくなるように選択される。よって前記電解質が電圧ウィンドウ(英語では電圧ウィンドウ)を決定し、当該範囲内において充電式電池セルを可逆的に作動、すなわち繰り返し充電または放電することが可能である。
【0006】
先行技術より公知であるリチウムイオン電池は、有機溶媒または溶媒混合物とその中に溶解した導電塩とからなる電解質を含む。前記導電塩は、例えばヘキサフルオロリン酸リチウム(LiPF6)のようなリチウム塩である。前記溶媒混合物は、例えばエチレンカーボネートを含み得る。EC:EMC 3:7において組成1M LiPF6を有する電解質LP57は、当該電解質の一例である。前記有機溶媒または溶媒混合物を用いることによりこの種のリチウムイオン電池は、有機リチウムイオン電池とも称される。
【0007】
先行技術において導電塩として頻繁に使用されるヘキサフルオロリン酸リチウム(LiPF6)の他に、有機リチウムイオン電池のためのその他の導電塩が記載されている。例えば、特許第4306858号公報(以下、[V1]と称する)においてフッ化または部分フッ化されているものであり得るテトラアルコキシ塩またはテトラアリールオキシボレート塩の形状における導電塩が記載されている。特開2001-143750号公報(以下、[V2]と称する)において導電性塩としてフッ化または部分フッ化されたテトラアルコキシホウ酸塩およびテトラアルコキシアルミン酸塩について述べられている。両文献[V1]および[V2]において記載される導電塩は、有機溶媒または溶媒混合物に溶解されて有機リチウムイオン電池に使用されている。
【0008】
有機リチウムイオン電池の意図しない過充電が電解質の構成要素の不可逆的分解につながることは以前から知られている。この際、前記有機溶媒および/または前記導電塩の酸化分解は、前記正極の表面で生じる。当該分解の間に形成される反応熱とこの際に発生する気体状生成物とは、その後に続く、いわゆる「熱暴走」(「熱暴走」の英語)とこれによって生じる前記有機リチウムイオン電池の破壊との原因となる。当該有機リチウムイオン電池のための充電プロトコルの大半は、充電終了の指標としてセル電圧を用いる。この際、熱暴走による事故は、容量が異なる複数の有機リチウムイオン電池が直列に接続されるマルチセル電池パックを使用した場合に特に生じやすい。
【0009】
したがって有機リチウムイオン電池には、自身の安定性および長期使用時の動作安全性に関して問題がある。安全上のリスクは、特に前記有機溶媒または溶媒混合物の可燃性によっても生じる。有機リチウムイオン電池が発火あるいは爆発すらした場合、前記電解質の有機溶媒が可燃物を形成する。このような安全上のリスクを回避するためには、さらなる対策を実施することが必要となる。当該対策には特に前記有機リチウムイオン電池の充電および放電のプロセスの極めて正確な制御と電池構造の最適化が含まれる。さらに前記有機リチウムイオン電池は、意図しない温度上昇時に溶解する構成要素を含み、その際に前記有機リチウムイオン電池を溶解プラスチックで満たす可能性がある。これによりさらなる制御不能な温度上昇が回避される。しかしながら当該対策は、前記有機リチウムイオン電池の製造時の製造コストの上昇と体積および重量の増加とにつながる。さらに当該対策は、前記有機リチウムイオン電池のエネルギー密度を低下させる。
【0010】
先行技術より公知である発展態様では充電式電池セルにおいて有機電解質に代えて二酸化硫黄(SO2)系電解質を使用するようにしている。SO2系電解質を含む充電式電池セルは、とりわけ高いイオン伝導性を有する。本発明の意味合いにおける「SO2系電解質」という用語は、添加剤としてSO2を低濃度で含むだけではなく、電解質に含まれており電荷輸送を実施させる導電塩のイオン移動度が少なくとも部分的、大半、あるいは完全にSO2によって保証される電解質であると理解される。よってSO2は、前記導電塩のための溶媒として機能する。前記導電塩は多くの場合、気体状のSO2と液状の溶媒和化合物複合体を形成するテトラクロロアルミン酸リチウム(LiAlCl4)であり、その際にSO2が結合して純粋なSO2に対して蒸気圧が顕著に低下する。より低い蒸気圧を有す電解質が生成される。この種のSO2系電解質は、前述の有機電解質に対して不燃性という利点を有する。よって電解質の可燃性に起因して生じる安全上のリスクを排除することが可能である。
【0011】
例えば、欧州特許第2534725号明細書(以下、[V3]と称する)において導電塩として好ましくはテトラハロゲンアルミン酸、特にLiAlCl4を含むSO2系電解質を有する充電式電池セルが示されている。
【0012】
導電要素に関して[V3]においては「電極へまたは電極からの電流導体手段に(…)しばしばニッケルまたはニッケル合金が使用される」と述べている。さらに当該文献にはニッケル発泡体が電極の導体手段として一般的に使用されると述べられている。
【0013】
米国特許出願公開第2004/0157129号明細書(以下、[V4]と称する)にもSO2系電解質を有する充電式電池セルが示されている。[V4]の発明者らは、導体要素とSO2系電解質、特に例えばLiAlCl4などの塩化物を含有する導電塩との間において所望しない反応が生じることを発見した。当該問題は、特に充電時において極めて高いセル電圧(4ボルトを越える)に到達する電池セルの場合に生じた。前記問題は、少なくとも一つの電極の導電性を有する導体要素が表面層において前記導体要素を所望しない反応から保護する反応保護材料としてクロムと別の金属および/または保護金属とからなる合金を含む電池セルによって解消される。
【0014】
欧州特許第2534719号明細書(以下、[V5]と称する)においてもとりわけLiAlCl4を導電塩として含むSO2系電解質が開示されている。当該LiAlCl4は、SO2と共に例えば式LiAlCl4*1.5モルSO2またはLiAlCl4*6モルSO2を有する複合体を形成する。[V5]において正極としてリン酸鉄リチウム(LiFePO4)が用いられる。LiFePO4は、LiCoO2(4.2V)に比べて充電終了電圧が低い(3.7V)。当該充電式電池セルにおいては前記導体要素の意図しない反応の問題が生じないのは、4.1ボルトの上部電位に到達しないからである。
【0015】
SO2系電解質のさらなる問題は、多くの、特に有機リチウムイオン電池において公知である導電塩がSO2に溶解不能であるということがある。
【0016】
【0017】
測定によりSO2が例えば以下のような多くの導電塩に対して貧溶媒であることが判明した:フッ化リチウム(LiF)、臭化リチウム(LiBr)、硫酸リチウム(Li2SО4)、ホウ酸ビス(オキサラト)リチウム(LiBОB)、ヘキサフルオロアルセン酸リチウム(LiAsF6)、テトラフルオロホウ酸リチウム(LiBF4)、ヘキサフルオロアルミン酸三リチウム(Li3AlF6)、ヘキサフルオロアンチモン酸リチウム(LiSbF6)、ジフルオロ(オキサラト)ホウ酸リチウム(LiBF2C2О4)、リチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(LiTFSl)、メタホウ酸リチウム(LiBО2)、アルミン酸リチウム(LiAlО2)、リチウムトリフラート(LiCF3SО3)およびクロロスルホン酸リチウム(LiSО3Cl)。当該導電塩のSO2に対する前記溶解性は、約10-2から10-4モル/Lである(表2を参照のこと)。これらの低い塩濃度ではせいぜい低い伝導性しか存在せず、充電式電池セルの有用な作動には不十分であると推定することが可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0018】
【特許文献1】特許第4306858号公報
【特許文献2】特開2001-143750号公報
【特許文献3】欧州特許第2534725号明細書
【特許文献4】米国特許出願公開第2004/0157129号明細書
【特許文献5】欧州特許第2534719号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
SO2系電解質を含む充電式電池セルとの用途および特性をさらに向上するために、本発明は先行技術より公知である充電式電池セルと比べて以下のような、SO2系電解質を有する充電式電池セルを提案するという課題に基づいている:
- SO2系電解質と反応せず、より高い充電電位でも安定した不活性導体要素を有する電極を有し、
- より高い電位で溶解することも酸化的な電解質分解を促進することもない、導体要素を有する電極を有する。さらに表層形成のための反応を阻害してはならない。
- 正極において酸化的な電解質分解が生じないように広い電気化学ウィンドウを有し、
- 負極の上に安定した表層を有し、その際、表層容量は低くあるべきであり、その後の作動時に前記負極にさらなる還元的な電解分解が発生しない、
- 導電塩の良好な溶解度を有するSO2系電解質を有し、それにより良好なイオン導体および電子絶縁体であり、よってイオン輸送を容易にして自己放電を最小限に抑え得る、
- 例えばセパレータ、電極材料およびセル外装材などの充電式電池セルにおけるその他の構成要素に対しても不活性であるSO2系電解質を含み、
- 電気的、機械的または熱的な誤用に対して頑丈であり、
- 充電式電池セルにおけるセル構成要素における残留水量に対するより高い安定性を有するSO2系電解質を含み、
- 改善された電気的性能データ、特に高いエネルギー密度を有し、
- 改善された過充電性および深放電性ならびにより低い自己放電性を有し、
- より長いサービス寿命、特に高い使用可能な充放電サイクル数を示し、さらには
- 可能な限り安価で高い入手可能性を有すること。このことは大型電池または広範囲に流通する電池において特に重要である。
【0020】
この種の充電式電池セルは、特に極めて良好な電気的エネルギーデータおよび性能データ、高い動作安定性およびサービス寿命、特に高い使用可能な充放電サイクル数を有し、その際に前記充電式電池セルの作動時に電解質が分解されることがないようにすべきである。
【課題を解決するための手段】
【0021】
当該課題は、請求項1の特徴を有する充電式電池セルによって解消される。請求項2から27は、本発明による充電式電池セルの有利である発展態様を説明するものである。
【0022】
本発明による充電式電池セルは、活性金属、導体要素を有する少なくとも一つの正極、導体要素を有する少なくとも一つの負極、ハウジングおよび電解質を含んでなる。前記正極の前記導体要素と前記負極の前記導体要素とは、互いに独立してアルミニウムと銅とによって形成される群から選択される材料からなる。前記電解質は、SO2系であり、少なくとも一つの第一の導電塩を含む。当該第一の導電塩は、式(I)を有する。
【0023】
【0024】
前記式(I)においてMは、アルカリ金属、アルカリ土類金属、元素周期表第12族の金属およびアルミニウムによって形成される群から選択される金属である。xは、1から3の整数である。置換基R1、R2、R3およびR4は、互いに独立してC1~C10アルキル、C2~C10アルケニル、C2~C10アルキニル、C3~C10シクロアルキル、C6~C14アリールおよびC5~C14ヘテロアリールによって形成される群から選択される。中心原子Zは、アルミニウムまたはホウ素である。
【0025】
本発明の意味合いにおける「導体要素」という用語は、それぞれの電極の活物質の外部回路に対する必要とされる電子伝導接続を可能にするために使用される電子伝導要素を指す。このために前記それぞれの導体要素は、前記それぞれの電極の電極反応に関与する活物質と電子伝導接触している。
【0026】
本発明における充電式電池セルにおいて使用される、SO2系電解質は、添加剤としてSO2を低濃度で含むだけではなく、電解質に含まれており電荷輸送を実施させる第一の導電塩のイオン移動度が少なくとも部分的、大半、あるいは完全にSO2によって保証される濃度において含む。前記第一の導電塩は、前記電解質内に溶解しており、当該電解内において極めて良好な溶解性を示す。当該導電塩は、気体状のSO2とともに液状の溶媒和化合物複合体を形成することが可能であり、当該溶媒和化合物複合体内にSO2が結合される。この場合、前記液状の溶媒和化合物複合体の蒸気圧が純粋なSO2に対して顕著に低下してより低い蒸気圧を有する電解質が生成される。しかしながら本発明による電解質の製造時に式(I)による前記第一の導電塩の化学構造に応じて蒸気圧低下が生じない可能があることも本発明の範囲内にある。後者の場合、本発明による電解質の製造時に低温あるいは加圧下において作業することが好ましい。前記電解質は、自身の化学構造が互いに異なる、式(I)による複数の導電塩をも含み得る。
【0027】
本発明の意味合いにおける「C1~C10アルキル」という用語は、1から10の炭素原子を有する直鎖状または分枝状の飽和炭化水素基を含んでなる。これには特にメチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチル、sec-ブチル、イソブチル、tert-ブチル、n-ペンチル、イソペンチル、2、2-ジメチルプロピル、n-ヘキシル、イソヘキシル、2-エチルヘキシル、n-ヘプチル、イソヘプチル、n-オクチル、イソオクチル、n-ノニル、n-デシルなどが該当する。
【0028】
本発明の意味合いにおける「C2~C10アルケニル」という用語は、2から10の炭素原子を有する不飽和直鎖状または分枝状の炭化水素基を含んでなり、前記炭化水素基は少なくとも一つのC-C二重結合を有する。これには特にエテニル、1-プロペニル、2-プロペニル、1-n-ブテニル、2-n-ブテニル、イソブテニル、1-ペンテニル、1-ヘキセニル、1-ヘプテニル、1-オクテニル、1-ノネニル、1-デセニルなどが該当する。
【0029】
本発明の意味合いにおける「C2~C10アルキニル」という用語は、2から10の炭素原子を有する不飽和直鎖状または分枝状の炭化水素基を含んでなり、前記炭化水素基は少なくとも一つのC-C三重結合を有する。これには特にエチニル、1-プロピニル、2-プロピニル、1-n-ブチニル、2-n-ブチニル、イソブチニル、1-ペンチニル、1-ヘキシニル、1-ヘプチニル、1-オクチニル、1-ノニニル、1-デシニルなどが該当する。
【0030】
本発明の意味合いにおける「C3~C10シクロアルキル」という用語は、3から10の炭素原子を有する環状飽和炭化水素基を含んでなる。これには特にシクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシル、シクロヘプチル、シクロへキシル、シクロノニルおよびシクロデカニルが該当する。
【0031】
本発明の意味合いにおける「C6~C14アリール」という用語は、6から14の環状炭素原子を有する芳香族炭化水素基を含んでなる。これには特にフェニル(C6H5基)、ナフチル(C10H7基)およびアントラシル(C14H9基)が該当する。
【0032】
本発明の意味合いにおける「C5~C14ヘテロアリール」という用語は、5から14の環状炭化水素原子を有する芳香族炭化水素基を含んでなり、当該炭化水素原子のうち少なくとも一つが窒素原子、酸素原子または硫黄原子によって置換または交換されている。これには特にピロリル、フラニル、チオフェニル、ピリジニル、ピラニル、チオピラニルなどが該当する。前述の炭化水素基の全ては、それぞれ前記酸素原子を介して式(I)による中心原子に結合している。
【0033】
この種の電解質を有する充電式電池セルは、先行技術より公知である電解質を含む充電式電池セルに比べて、当該電解質に含まれる第一の導電塩がより高い酸化安定性を有することによって、より高いセル電圧において分解が実質的に生じないという利点を有する。当該電解質は、好ましくは少なくとも4.0ボルトの上限電位まで、さらに好ましくは少なくとも4.2ボルトの上部電位まで、さらに好ましくは少なくとも4.4ボルトの上部電位まで、さらに好ましくは少なくとも4.6ボルトの上部電位まで、さらに好ましくは少なくとも4.8ボルトの上部電位までおよび特に好ましくは少なくとも5.0ボルトの上部電位までの酸化安定性を示す。よって充電式電池セルにおいてこのような電解質を用いた場合、作用電位内、すなわち前記充電式電池セルの両電極の充電終了電圧と放電終了電圧との間における範囲において生じる電解質分解が全くないあるいは極めて少ない。これにより本発明による充電式電池セルは、少なくとも4.0ボルト、さらに好ましくは4.4ボルト、さらに好ましくは少なくとも4.8ボルト、さらに好ましくは少なくとも5.2ボルト、さらに好ましくは少なくとも5.6ボルトおよび特に好ましくは少なくとも6.0ボルトの充電終了電圧を有し得る。当該電解質を含む充電式電池セルのサービス寿命は、先行技術より公知である電解質を含む充電式電池セルに比べて顕著に長くなる。
【0034】
さらにこのような電解質を含む充電式電池セルは、低温安定性を有する。例えば-40℃の温度において充電された容量の61%がまだ放電され得る。低温における前記電解質の伝導性は、電池セルを作動するのに十分である。さらにこのような電解質を含む充電式電池セルは、残留水量に対して向上した安定性を有する。前記電解質において(ppmの範囲における)微量の水が残留している場合、前記電解質または前記第一の導電塩は、水とともに先行技術より公知であるSO2系電解質に比べてセル構成要素に対する侵食性が著しく低い加水分解生成物を形成する。したがって先行技術より公知であるSO2系電解質に比べて前記電解質が水を含まないということはさほど重要な役割を果たすものではない。本発明による電解質の当該利点は、先行技術より公知である導電塩に比べて式(I)による前記第一の導電塩が著しく大きいアニオン寸法を有することによって生じる欠点を凌駕する。当該より大きいアニオン寸法は、LiAlCl4の伝導性に比べて式(I)による前記第一の導電塩の伝導性が低くなることにつながる。
【0035】
正極および負極の導体要素
以下において前記正極の前記導体要素と前記負極の前記導体要素に関して本発明による充電式電池セルの有利である発展態様を説明する。
【0036】
本発明によると前記正極のみならず前記負極もが導体要素を有する。当該導体要素は、前記それぞれの電極の活物質の外部回路への必要とされる電子伝導接続を可能にするために使用される。このため前記導体要素は、前記それぞれの電極の電気反応に関与する活物質と接触している。前述のとおり、本発明によると前記正極の前記導体要素と前記負極の前記導体要素とは、アルミニウムと銅によって形成される群から選択される材料から互いに独立して形成される。本発明による充電式電池セルの好ましい実施態様では前記正極の前記導体要素は、アルミニウムからなる。本発明による充電式電池セルの別の好ましい実施態様では前記負極の前記導体要素は、銅によって形成される。前記正極の前記導体要素および/または前記負極の前記導体要素は、一体型としても数個割型としても形成され得る。
【0037】
前記正極の前記導体要素および/または前記負極の前記導体要素は、薄い金属シートまたは薄い金属箔の形状において平面状に形成され得る。前記薄い金属箔または薄い金属箔は、有孔状または網目状構造を有し得る。前記平面状の導体要素を金属がコーティングされたプラスチック箔によって形成することも可能である。当該金属コーティングは、0.1μmから20μmの範囲における厚みを有することが好ましい。前記それぞれの電極の前記活物質は、前記薄い金属シート、前記薄い金属箔あるいは前記金属がコーティングされたプラスチック箔の表面に塗布されていることが好ましい。前記活物質は、前記平面状の導体要素の前面および/または背面に塗布され得る。この種の平面状の導体要素は、好ましくは0.5μmから50μmの範囲、特に好ましくは1μmから20μmの範囲における厚みを有する。平面状の導体要素を使用する場合、前記それぞれの電極の総厚みは、少なくとも20μm、好ましくは少なくとも40μmおよび特に好ましくは少なくとも60μmであり得る。最大厚みは、好ましくは多くとも300μm、好ましくは多くとも150μmおよび特に好ましくは多くとも100μmである。
【0038】
前記それぞれの導体要素の一方の面におけるコーティングに関する前記正極および/
たは前記負極の面積比容量は、平面状の導体要素を使用した場合に好ましくは少なくとも0.5mAh/cm2であり、さらにはこの順における以下の値が好ましい:1mAh/cm2、3mAh/cm2、5mAh/cm2、10mAh/cm2、15mAh/cm2、20mAh/cm2。
【0039】
前記導体要素が薄い金属シート、薄い金属箔あるいは金属がコーティングされたプラスチック箔の形状において平面状に形成されている場合、前記負極または前記正極の前記活物質の量、すなわち前記一方の面におけるコーティングに関する前記電極の充填量は、好ましくは少なくとも1mg/cm2、好ましくは少なくとも3mg/cm2、さらに好ましくは少なくとも5mg/cm2、さらに好ましくは少なくとも8mg/cm2、さらに好ましくは少なくとも10mg/cm2および特に好ましくは少なくとも20mg/cm2である。
【0040】
前記一方の面におけるコーティングに関する前記電極の最大充填量は、好ましくは多くとも150mg/cm2、さらに好ましくは多くとも100mg/cm2および特に好ましくは多くとも80mg/cm2である。
【0041】
さらに前記正極の前記導体要素および/または前記負極の前記導体要素を三次元的に多孔金属構造の形状、特に金属発泡体の形状において形成する可能性もある。前記三次元的な多孔金属構造は、前記それぞれの電極の前記活物質を前記金属構造体の孔内に取り入れることが可能であるように多孔質である。取り入れられたまたは塗布された前記活物質の量とは、前記電極の充填量のことである。前記導体要素が三次元的に多孔金属構造の形状、特に金属発泡体の形状において形成されている場合、前記それぞれの電極は、好ましくは少なくとも0.2mm、好ましくは少なくとも0.3mm、さらに好ましくは少なくとも0.4mm、さらに好ましくは少なくとも0.5mmおよび特に好ましくは少なくとも0.6mmの厚みを有する。
【0042】
本発明による充電式電池セルの別の有利である実施態様において、特に金属発泡体の形状における三次元的な導体要素を使用する場合の前記正極および/または前記負極の面積比容量は、好ましくは少なくとも2.5mAh/cm2であり、以下の値がこの順においてさらに好ましい:5mAh/cm2、15mAh/cm2、25mAh/cm2、35mAh/cm2、45mAh/cm2、55mAh/cm2、65mAh/cm2、75mAh/cm2。前記導体要素が、三次元的に多孔金属構造の形状、特に金属発泡体の形状において形成されている場合、前記正極または前記負極の前記活物質の量、すなわち自身の面に関する前記それぞれの電極の充填量は、少なくとも10mg/cm2、好ましくは少なくとも20mg/cm2、さらに好ましくは少なくとも40mg/cm2、さらに好ましくは少なくとも60mg/cm2、さらに好ましくは少なくとも80mg/cm2および特に好ましくは少なくとも100mg/cm2である。前記それぞれの電極の当該充填量は、前記充電式電池セルの前記充電プロセスだけではなく前記放電プロセスに対してもプラスの影響を及ぼす。さらに前記充電式電池セルは、多孔金属構造の形状、特に金属発泡体の形状における導体要素を有する少なくとも一つの正極と、薄い金属シート、薄い金属箔あるいは金属がコーティングされたプラスチック箔の形状における平面状の導体要素を有する、少なくとも一つの負極を含んでなることも可能である。別法として前記充電式電池セルは、多孔金属構造の形状、特に金属発泡体の形状における導体要素を有する少なくとも一つの負極と、薄い金属シート、薄い金属箔あるいは金属がコーティングされたプラスチック箔の形状における平面状の導体要素を有する、少なくとも一つの正極を含んでなることも可能である。
【0043】
前記正極の前記活物質は、前記導体要素を少なくとも部分的にあるいは完全に被覆することが可能である。さらに前記負極の前記活物質は、前記導体要素を少なくとも部分的にあるいは完全に被覆することが可能である。前記平面状の導体要素も前記三次元的な導体要素も数個割型として形成され得る。前記導体要素の接触のために前記充電式電池セルは、前記それぞれの導体要素に取り付けられる、例えばラグ、ワイヤ、シートなどのさらなる構成要素を有し得る。当該構成要素は、前記それぞれの導体要素と同一の材料、すなわちアルミニウムまたは銅だけではなく、その他の材料を用いて形成され得る。
【0044】
電解質
以下においてSO2系電解質に関して本発明による充電式電池セルの有利である発展態様を説明する。
【0045】
前述のとおり、前記第一の導電塩の前記式(I)における置換基R1、R2、R3およびR4は、互いに独立してC1~C10アルキル、C2~C10アルケニル、C2~C10アルキニル、C3~C10シクロアルキル、C6~C14アリールおよびC5~C14ヘテロアリールによって形成される群から選択される。前記充電式電池セルの別の有利である実施態様において前記第一の導電塩の置換基R1、R2、R3およびR4は、互いに独立して以下によって形成される群から選択される:
- C1~C6アルキル、好ましくはC2~C4アルキル、特に好ましくは2-プロピル、メチルおよびエチルのアルキル基、
- C2~C6アルケニル、好ましくはC2~C4アルケニル、特に好ましくはエテニルおよびプロペニルのアルケニル基、
- C2~C6アルキニル、好ましくはC2~C4アルキニル、
- C3~C6シクロアルキル、
- フェニル、および
- C5~C7ヘテロアリール。
【0046】
前記SO2系電解質の当該有利である実施態様の場合、「C1~C6アルキル」という用語は、1から6の炭化水素基を有する直鎖状または分枝状の飽和炭化水素基、特にメチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチル、sec-ブチル、イソブチル、tert-ブチル、n-ペンチル、イソペンチル、2、2-ジメチルプロピル、n-ヘキシルおよびイソヘキシルを含んでなる。これらのうちC2~C4アルキルが好ましい。特に好ましいのはC2~C4アルキルの2-プロピル、メチルおよびエチルである。
【0047】
前記SO2系電解質の当該有利である実施態様の場合、「C2~C6アルケニル」という用語は、2から6の炭素原子を有する不飽和直鎖状または分枝状の炭化水素基を含んでなり、前記炭化水素基は少なくとも一つのC-C二重結合を有する。これには特にエテニル、1-プロペニル、2-プロペニル、1-n-ブテニル、2-n-ブテニル、イソブテニル、1-ペンテニル、1-ヘキセニルが該当し、C2~C4アルケニルが好ましい。特に好ましいのはエテニルおよび1-プロペニルである。
【0048】
前記SO2系電解質の当該有利である実施態様の場合、「C2~C6アルキニル」という用語は、2から6の炭素原子を有する不飽和直鎖状または分枝状の炭化水素基を含んでなり、前記炭化水素基は少なくとも一つのC-C三重結合を有する。これには特にエチニル、1-プロピニル、2-プロピニル、1-n-ブチニル、2-n-ブチニル、イソブチニル、1-ペンチニル、1-ヘキシニルが該当する。これらのうちC2~C4アルキニルが好ましい。
【0049】
前記SO2系電解質の当該有利である実施態様の場合、「C3~C6シクロアルキル」という用語は、3から6の炭素原子を有する環状飽和炭化水素基を含んでなる。これには特にシクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチルおよびシクロヘキシルが該当する。
【0050】
前記SO2系電解質の当該有利である実施態様の場合、「C5~C7ヘテロアリール」という用語は、フェニールおよびナフチルを含んでなる。
【0051】
本発明による充電式電池セルの別の好ましい発展態様において前記置換基R1、R2、R3およびR4のうち少なくとも二つが二座キレート配位子を形成するために互いに架橋されている。このような二座キレート配位子は、例えば以下のような構造を有し得る:
【0052】
【0053】
前記置換基R1、R2、R3およびR4のうち三つあるいは四つが三座キレート配位子または四座キレート配位子を形成するために互いに架橋され得ることも好ましい。前記キレート配位子は、キレート錯体の形成後、中心原子Zに配位する。「キレート錯体」―あるいは短縮してキレートとも称される―という用語は、(一つよりも多い自由電子対を有する)多座配位子が前記中心原子の少なくとも二つの配位部位(結合部位)を占める錯体化合物を表す。前記中心原子とは、正電荷を有する金属イオンAl3+またはB3+である。配位体と中心原子とは配位結合で結合されており、このことは前記結合電子対が配位体のみによって構成されていることを意味する。
【0054】
本発明による充電式電池セルの別の好ましい発展態様は、少なくとも4.0ボルト、好ましくは少なくとも4.4ボルト、さらに好ましくは少なくとも4.8ボルト、さらに好ましくは少なくとも5.2ボルト、さらに好ましくは少なくとも5.6ボルトおよび特に好ましくは少なくとも6.0ボルトのセル電圧を有する。
【0055】
前記SO2系電解質における前記第一の導電塩の溶解度を向上させるために本発明による充電式電池セルの別の好ましい実施態様において前記置換基R1、R2、R3およびR4は、少なくとも一つのフッ素原子および/または少なくとも一つの化学基によって置換されており、前記化学基は、C1~C4アルキル、C2~C4アルケニル、C2~C4アルキニル、フェニールおよびベンジルによって形成される群から選択される。前記化学基C1~C4アルキル、C2~C4アルケニル、C2~C4アルキニル、フェニールおよびベンジルは、前述の炭化水素基と同様の特性または化学構造を有する。当該文脈における置換とは、前記置換基R1、R2、R3およびR4の個々の原子または原子団が前記フッ素原子および/または前記化学基によって置換されていることを意味する。
【0056】
前記置換基R1、R2、R3およびR4のうち少なくとも一つがCF3基またはОSО2CF3基であることにより極めて高い前記SO2系電解質における前記第一の導電塩の溶解度を得ることが可能である。
【0057】
前記充電式電池セルの別の有利である発展態様において前記第一の導電塩は、以下により形成される群から選択される:
【0058】
【0059】
分子式LiB(О2C2(CF3)4)2を有する最後に言及した前記第一の導電塩は、以下の構造を有する二つの二座キレート配位子であって、当該二座キレート配位子は、キレート錯体の形成後、中心原子B3+に配位する。このためそれぞれ二つのパーフルオロアルコキシ置換基がC-C単結合を介して互いに架橋されている。
【0060】
【0061】
前記電解質の伝導性および/またはさらなる特性を所望する値に適合させるために本発明による充電式電池セルの別の好ましい実施態様において前記電解質は、前記式(I)による前記第一の導電塩とは異なる、少なくとも一つの第二の導電塩を有する。このことは前記電解質が前記第一の導電塩に加えて自身の化学組成のみならず自身の化学構造においても前記第一の導電塩とは異なる、一つあるいはそれ以上の第二の導電塩を含み得ることを意味する。
【0062】
本発明による充電式電池セルの別の好ましい実施態様において前記第二の導電塩は、アルカリ金属化合物、特にリチウム化合物である。前記アルカリ金属化合物または前記リチウム化合物は、アルミン酸塩、ハロゲン化物、シュウ酸塩、ホウ酸塩、リン酸塩、ヒ酸塩およびガレートにより形成される群から選択される。前記第二の導電塩は、テトラハロゲンアルミン酸リチウム、特にLiAlCl4であることが好ましい。
【0063】
さらに本発明による充電式電池セルの別の好ましい実施態様において前記電解質は、少なくとも一つの添加剤を含む。当該添加剤は、ビニレンカーボネートおよび自身の誘導体、ビニルエチレンカーボネートおよび自身の誘導体、メチルエチレンカーボネートおよび自身の誘導体、リチウム(ビスオキサラト)ホウ酸、ジフルオロ(オキサラト)ホウ酸リチウム、テトラフルオロ(オキサラト)リン酸リチウム、シュウ酸リチウム、2-ビニルピリジン、4-ビニルピリジン、環状エキソメチレンカーボネート、スルホン、環状および非環状スルホン酸塩、非環状亜硫酸塩、環状および非環状スルフィン酸エステル、無機酸の有機エステル、非環状および環状アルカン(当該非環状および環状アルカンは1バールで少なくとも36℃の沸点を有する)、芳香族化合物、ハロゲン化環状および非環状スルホニルイミド、ハロゲン化環状および非環状リン酸エステル、ハロゲン化環状および非環状ホスフィン、ハロゲン化環状および非環状ホスファイト、ハロゲン化環状および非環状ホスファゼン、ハロゲン化環状および非環状シリルアミン、ハロゲン化環状および非環状ハロゲン化エステル、ハロゲン化環状および非環状アミド、ハロゲン化環状および非環状無水物およびハロゲン化有機複素環によって形成される群から選択されることが好ましい。
【0064】
本発明による充電式電池セルの別の好ましい発展態様において前記電解質は、前記電解質組成の総重量に関して以下の組成を有する:
(i)5から99.4wt%の二酸化硫黄、
(ii)0.6から95wt%の前記第一の導電塩、
(iii)0から25wt%の前記第二の導電塩、および
(iv)0から10wt%の前記添加剤。
【0065】
前述のとおり前記電解質は、前記式(I)による一つの第一の導電塩と一つの第二の導電塩とだけではなくそれぞれ前記式(I)による複数の第一の導電塩と複数の第二の導電塩とを含むことが可能である。後者の場合、前述の割合は、複数の第一の導電塩と複数の第二の導電塩とを含むものである。前記第一の導電塩の物質量濃度は、前記電解質の総容積に関して0.01モル/lから10モル/l、好ましくは0.05モル/lから10モル/l、さらに好ましくは0.1モル/lから6モル/lおよび特に好ましくは0.2モル/lから3.5モル/lの範囲にある。
【0066】
本発明による充電式電池セルの別の好ましい発展態様において前記電解質は、1モルの導電塩当たり少なくとも0.1モルのSO2、好ましくは少なくとも1モルのSO2、さらに好ましくは少なくとも5モルのSO2、さらに好ましくは少なくとも10モルのSO2および特に好ましくは少なくとも20モルのSO2を含む。前記電解質は、極めて高いモル比のSO2を含むことも可能であり、好ましい上限値は、1モルの導電塩当たり2600モルのSO2であり、さらに1モルの導電塩当たり1500、1000、500および100モルのSO2の上限がこの順において好ましい。「1モルの導電塩当たり」という用語は、前記電解質に含まれる全ての導電塩を指す。SO2と前記導電塩との間におけるこの種の濃度比を有するSO2系電解質は、当該電解質が先行技術より公知である、例えば有機溶媒混合物系の電解質と比べてより多量の導電塩を溶解することが可能であるという利点を有する。本発明の範囲内において意外にも比較的小さな導電塩濃度を有する電解質は、それに伴って蒸気圧が上昇するにも関わらず特に前記充電式電池セルの多数の充放電サイクルに対する自身の安定性に関して有利であることが判明した。前記電解質におけるSO2濃度は、当該電解質の伝導性に影響を及ぼす。よってSO2濃度を選択することによって前記電解質の伝導性を当該電解質によって作動される充電式電池セルの使用目的に適用させることが可能である。SO2と前記第一の導電塩の総重量は、前記電解質の重量の50重量パーセント(wt%)よりも多いことが可能であり、好ましくは60wt%より多く、さらに好ましくは70wt%より多く、さらに好ましくは80wt%より多く、さらに好ましくは85wt%より多く、さらに好ましくは90wt%より多く、さらに好ましくは95wt%より多くあるいはさらに好ましくは99wt%より多い。
【0067】
前記電解質は、前記充電式電池セルに含まれる前記電解質の総量に関して少なくとも5wt%のSO2を含み得、さらに好ましいのは20wt%のSO2、40wt%のSO2および60wt%のSO2の値である。前記電解質は、95wt%までのSO2を含み得て、80wt%のSO2および90wt%のSO2の最大値がこの順で好ましい。
【0068】
前記電解質における少なくとも一つの有機溶媒の割合は、わずかあるいは全くないことも本発明の範囲内にある。例えば溶媒または複数の有機溶媒の混合物の形状において存在する、電解質における有機溶媒の割合は、前記電解質の重量の多くとも50wt%であり得る。特に好ましいのは前記電解質の重量に関して多くとも40wt%、多くとも30wt%、多くとも20wt%、多くとも15wt%、多くとも10wt%、多くとも5wt%あるいは多くとも1wt%である、より少ない割合である。前記電解質は、有機溶媒を含まないことがさらに好ましい。前記有機溶媒の割合がわずかである、あるいは全く存在しないことで前記電解質は、ほとんど、あるいは全く可燃性を有しない。このことは、この種のSO2系電解質によって作動する充電式電池セルの動作安全性を向上させる。前記SO2系電解質は、実質的に有機溶媒を含まないことが特に好ましい。
【0069】
前記充電式電池セルの別の有利である発展態様において前記電解質は、前記電解質組成の総重量に関して以下の組成を有する:
(i)5から99.4wt%の二酸化硫黄、
(ii)0.6から95wt%の前記第一の導電塩、
(iii)0から25wt%の前記第二の導電塩、
(iv)0から10wt%の前記添加剤、および
(v)0から50wt%の有機溶媒。
【0070】
活性金属
以下において前記活性金属に関して本発明による充電式電池セルの有利である発展態様を説明する:
【0071】
前記充電式電池セルの有利である発展態様において前記活性金属は、以下のものである:
- アルカリ金属、特にリチウムまたはナトリウム、
- アルカリ土類金属、特にカルシウム、
- 元素周期表第12族の金属、特に亜鉛、または
- アルミニウム。
【0072】
正極
以下において前記正極に関して本発明による充電式電池セルの有利である発展態様を説明する:
【0073】
本発明による充電式電池セルの第一の発展態様において前記正極は、少なくとも4.0ボルトの上限電位まで、好ましくは4.4ボルトの電位まで、さらに好ましくは少なくとも4.8ボルトの電位まで、さらに好ましくは少なくとも5.2ボルトの電位まで、さらに好ましくは少なくとも5.6ボルトの電位までおよび特に好ましくは少なくとも6.0ボルトの電位まで充電可能である。
【0074】
本発明による充電式電池セルの別の有利である発展態様において正極は、少なくとも一つの活物質を含む。当該活物質は、前記活性金属のイオンを貯蔵して前記電池セルの作動時に前記活性金属の前記イオンを放出して再受容することが可能である。
【0075】
本発明による充電式電池セルの別の有利である発展態様において前記正極は、少なくとも一つの層間化合物を含んでいる。本発明の意味合いにおける「層間化合物」という用語は、前述の挿入材料の下位カテゴリーであると理解されたい。当該層間化合物は、相互接続されている空所を有するホストマトリックスとして機能する。前記充電式電池セルの放電プロセスの間に前記活性金属の前記イオンが当該空所内に拡散してそこに蓄積され得る。前記活性金属の前記イオンの当該蓄積の過程における前記ホストマトリックスの構造変化は、わずかであるか全く生じない。
【0076】
本発明による充電式電池セルの別の有利である発展態様において前記正極は、前記活物質として少なくとも一つの変換化合物を含む。本発明の意味合いにおける「変換化合物」という用語は、電気化学活性の間に他の材料を形成する材料であると理解されたい、すなわち前記電池セルの充放電の間に化学結合が分解されて再形成される。前記活性金属の前記イオンの受容および放出の際には前記変換化合物のマトリックスにおいて構造変化が生じる。
【0077】
本発明による充電式電池セルの別の有利である発展態様において前記活物質は、AxM’yM”zOaの組成を有する。当該組成AxM’yM”zOaにおいて、
- Aは、アルカリ金属、アルカリ土類金属、元素周期表第12族の金属またはアルミニウムによって形成される群から選択される、少なくとも一つの金属であり、
- M’は、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、CuおよびZnの元素によって形成される群から選択される、少なくとも一つの金属であり、
- M”は、元素周期表の第2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15および16族の元素によって形成される群から選択される、少なくとも一つの元素であり、
- xおよびyは、それぞれ独立した0より大きい数であり、
- zは、0以上の数であり、さらに
- aは、0よりも大きい数である。
【0078】
Aは、金属リチウムであることが好ましい、すなわち前記化合物は、LixM’yM”zOaの組成を有し得る。
【0079】
組成AxM’yM”zOaにおける指数yおよびzは、それぞれM’またはM”で表される金属および元素の総計を表す。例えばM’が二つの金属M’1およびM’2を含んでなる場合、指数yはy=y1+y2であり、y1およびy2は、金属M’1およびM’2の指数を表す。指数x、y、zおよびaは、前記組成内の電荷が中立になるように選択されねばならない。M’が二つの金属を含む化合物の例は、M’1=Ni、M’2=MnおよびM”=Coである組成LixNiy1Mny2CozO2のニッケルマンガンコバルト酸化リチウムである。z=0である、すなわち別の金属または要素M”を有しない化合物の例は、コバルト酸化リチウムLixCoyOaである。例えばM”が二つの要素、一方では金属であるM”1と他方ではM”2としてリンを含んでなる場合、指数zについてはz=z1+z2であり、z1およびz2は、金属M”1とリン(M”2)の指数を表す。指数x、y、zおよびaは、前記組成内の電荷が中立になるように選択されねばならない。Aがリチウム、M”が金属M”1とM”2としてリンを含んでなる化合物の例としてはA=Li、M’=Fe、M”1=Mn、M”2=Pおよびz2=1であるリチウム鉄マンガンリン酸塩LixFeyMnz1Pz2O4がある。別の組成では、M”は二つの非金属、例えばM”1としてフッ素、M”2として硫黄を含んでなることが可能である。このような化合物の例としてはA=Li、M’=Fe、M”1=F、M”2=Pであるリチウム鉄フルオロ硫酸塩LixFeyFz1Sz2O4がある。
【0080】
本発明による充電式電池セルの別の有利である発展態様においてM’は、ニッケルおよびマンガンの金属からなり、M”はコバルトである。この場合、式LixNiy1Mny2CozO2(NMC)である組成、すなわち層状酸化物の構成を有するリチウムニッケルマンガンコバルト酸化物であり得る。このようなリチウムニッケルマンガンコバルト酸化物からなる当該活物質の例としては、LiNi1/3Mn1/3Co1/3O2(NMC111)、LiNi0.6Mn0.2Co0.2O2(NMC622)およびLiNi0.8Mn0.1Co0.1O2(NMC811)である。リチウムニッケルマンガンコバルト酸化物からなるその他の化合物は、組成LiNi0.5Mn0.3Co0.2O2、LiNi0.5Mn0.25Co0.25O2、LiNi0.52Mn0.32Co0.16O2、LiNi0.55Mn0.30Co0.15O2、LiNi0.58Mn0.14Co0.28O2、LiNi0.64Mn0.18Co0.18O2、LiNi0.65Mn0.27Co0.08O2、LiNi0.7Mn0.2Co0.1O2、LiNi0.7Mn0.15Co0.15O2、LiNi0.72Mn0.10Co0.18O2、LiNi0.76Mn0.14Co0.10O2、LiNi0.86Mn0.04Co0.10O2、LiNi0.90Mn0.05Co0.05O2、LiNi0.95Mn0.025Co0.025O2あるいはこれらの組み合わせを有し得る。当該化合物を用いることで4.6ボルトより大きいセル電圧を有する充電式電池セルのための正極を製造することが可能である。
【0081】
本発明による充電式電池セルの別の有利である発展態様において前記活物質は、リチウムとマンガンに富む金属酸化物(英語ではリチウムおよびマンガンが豊富な酸化物材料)である。当該金属酸化物は、組成LixMnyM”zOaを有し得る。よってM’は、上述の式LixM’yM”zOaにおいて金属マンガン(Mn)を表す。ここでの指数xは、1以上であり、指数yは、指数zまたは指数z1+z2+z3などの和よりも大きい。例えばM”が指数z1およびz2の二つの金属M”1およびM”2を含んでなる場合(例えば、M”1=Ni z1=0.175およびM”2=Co z2=0.1であるLi1.2Mn0.525Ni0.175Co0.1O2)、指数yについてはy>z1+z2が当てはまる。指数zは、0以上であり、指数aは0より大きい。指数x、y、zおよびaは、前記組成内の電荷が中立になるように選択されねばならない。リチウムとマンガンに富む金属酸化物は、0<m<1である式mLi2MnO3(1-m)LiM’O2によって表すことも可能である。この種の化合物の例は、Li1.2Mn0.525Ni0.175CO0.1O2、Li1.2Mn0.6Ni0.2O2またはLi1.2Ni0.13CO0.13Mn0.54O2である。
【0082】
本発明による充電式電池セルの別の有利である発展態様において前記組成は、式AxM’yM”zO4を有する。当該化合物は、スピネル構造である。例えばAがリチウム、M’がコバルトおよびM”がマンガンであり得る。この場合、前記活物質は、リチウムコバルトマンガン酸化物(LiCoMnO4)である。LiCoMnO4を用いて4.6ボルトより大きいセル電圧を有する充電式電池セルのための正極を製造することが可能である。当該LiCoMnO4は、Mn3+を含まないことが好ましい。別の例においてM’がニッケル、M”がマンガンであり得る。この場合の活物質は、リチウムニッケルマンガン酸化物(LiNiMnO4)である。両金属M’およびM”のモル比は、異なっていてもよい。リチウムニッケルマンガン酸化物は、例えばLiNi0.5Mn1.5O4の組成を有し得る。
【0083】
本発明による充電式電池セルの別の有利である発展態様において前記正極は、変換化合物である、少なくとも一つの活物質を含む。変換化合物は、例えばリチウムまたはナトリウムなどの活性金属を受容する際に固体酸化還元反応が生じてその際に材料の結晶構造が変化する。このことは化学結合の分解および再形成下において生じる。変換化合物の完全可逆反応は、例えば以下のとおりであり得る:
タイプA: MXz+yLi ⇔ M+zLi(y/z)X
タイプB: X+yLi ⇔ LiyX
【0084】
変換化合物の例は、FeF2、FeF3、CoF2、CuF2、NiF2、BiF3、FeCl3、FeCl2、CoCl2、NiCl2、CuCl2、AgCl、LiCl、S、Li2S、Se、Li2Se、Te、IおよびLilである。
【0085】
別の有利である発展態様において前記化合物は、AxM’yM”1
z1M”2
z2O4の組成を有し、M”1は、元素周期表の第2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15および16族の元素によって形成される群から選択され、M”2は、元素リンであり、xおよびyは、それぞれ独立した0より大きい数であり、z1は、0より大きい数であり、さらにz2の値は1である。組成AxM’yM”z1M”z2O4を有する化合物は、いわゆるリン酸金属リチウムである。当該化合物は、特に組成LixFe’yMnz1Pz2O4有する。リン酸金属リチウムの例は、リン酸鉄リチウム(LiFePO4)またはリン酸鉄マンガンリチウム(Li(FeyMnz)PO4)である。リン酸鉄マンガンリチウムの例としては、組成Li(Fe0.3Mn0.7)PO4のリン酸塩が挙げられる。リン酸鉄マンガンリチウムの例は、組成Li(Fe0.3Mn0.7)PO4のリン酸塩である。他の組成を有するリン酸金属リチウムを本発明による電池セルにおいて使用することも可能である。
【0086】
本発明による充電式電池セルの別の有利である発展態様において前記正極は、少なくとも一つの金属化合物を含む。当該金属化合物は、金属酸化物、金属ハロゲン化物および金属リン酸塩によって形成される群から選択される。当該金属化合物の金属は、元素周期表の原子番号22から28の遷移金属、特にコバルト、ニッケル、マンガンまたは鉄であることが好ましい。
【0087】
本発明による充電式電池セルの別の有利である発展態様において前記正極は、スピネル、層状酸化物、変換化合物またはポリアニオン化合物の化学構造を有する、少なくとも一つの金属化合物を含む。
【0088】
前記正極は、活物質として前述の化合物または前記化合物の組み合わせのうち少なくとも一つを含むことは、本発明の範囲内にある。前記化合物の組み合わせとは、前述の材料のうち少なくとも二つを含む正極を意味する。
【0089】
本発明による電池セルの別の有利である発展態様において前記正極は、少なくとも一つの結合剤を有する。当該結合剤は、フッ化結合剤、特にフッ化ポリビニリデンおよび/またはテトラフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレンおよびフッ化ビニリデンによって形成されるターポリマーである。しかしながら共役カルボン酸のモノマー構造単位または当該共役カルボン酸のアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩またはアンモニウム塩、またはこれらの組み合わせからなるポリマーからなる結合剤であってもよい。さらに前記結合剤は、単量体のスチレンおよびブタジエン構造単位系ポリマーからなることも可能である。さらに前記結合剤は、カルボキシメチルセルロース群からなる結合剤であってもよい。前記結合剤は、好ましくは前記正極の総重量に対して多くとも20wt%、さらに好ましくは多くとも15wt%、さらに好ましくは多くとも10wt%、さらに好ましくは多くとも7wt%、さらに好ましくは多くとも5wt%および特に好ましくは多くとも2wt%の濃度において前記正極内に存在する。
【0090】
負極
以下において前記負極に関して本発明による充電式電池セルの有利である発展態様を説明する:
【0091】
前記充電式電池セルの別の有利である発展態様において前記負極は、挿入電極である。当該挿入電極は、活物質として挿入材料を含み、前記充電式電池セルの充電時に前記活性金属のイオンが当該挿入材料内に蓄積され、前記充電式電池セルの放電時に前記活性金属のイオンが当該挿入材料から放出され得る。このことは電極過程が前記負極の表面だけではなく前記負極の内部においても実施され得ることを意味する。例えばリチウム系の導電塩を用いた場合、前記充電式電池セルの充電時にリチウムイオンが前記挿入材料内に蓄積され、前記充電式電池セルの放電時に当該挿入材料から放出され得る。前記負極は、活物質または挿入材料として炭素、特に修飾体であるグラファイトを含むことが好ましい。しかしながら前記炭素が天然黒鉛(フレーク状促進剤または円形)、合成黒鉛(メソフェーズ黒鉛)、黒鉛化メソカーボンマイクロビーズ(MCMB)、炭素被覆黒鉛または非晶質炭素の形であることも本発明の範囲に含まれる。
【0092】
本発明による充電式電池セルの別の有利である発展態様において前記負極は、例えばチタン酸リチウム(例えばLi4Ti5O12)など、炭素を含まないリチウム層間負極活物質を含んでなる。
【0093】
本発明による充電式電池セルの別の有利である発展態様において前記負極は、リチウムと合金を形成する負極活物質を含んでなる。当該負極活物質とは、例えばリチウムを貯蔵する金属および金属合金(例えば、Si、Ge、Sn、SnCoxCy、SnSixなど)およびリチウムを貯蔵する金属および金属合金の酸化物(例えば、SnOx、SiOxあるいはSn、Siなどの酸化物ガラス)である。
【0094】
本発明による充電式電池セルの別の有利である発展態様において前記負極は、変換負極活物質を含む。当該変換負極活物質は、例えばマンガン酸化物(MnOx)、鉄酸化物(FeOx)、コバルト酸化物(CoOx)、ニッケル酸化物(NiOx)、銅酸化物(CuOx)の形状における遷移金属酸化物や、水素化マグネシウム(MgH2)、水素化チタン(TiH2)、水素化アルミニウム(AlH3)などの形状における金属水素化物およびボロン系、アルミニウム系およびマグネシウム系の三元水素化物であり得る。
【0095】
本発明による充電式電池セルの別の有利である発展態様において前記負極は、金属、特に金属リチウムを含んでなる。
【0096】
本発明による充電式電池セルの別の有利である発展態様において前記負極は、多孔質であり、気孔率は、好ましくは多くとも50%、さらに好ましくは多くとも45%、さらに好ましくは多くとも40%、さらに好ましくは多くとも35%、さらに好ましくは多くとも30%、さらに好ましくは多くとも20%および特に好ましくは多くとも10%である。気孔率は、前記負極の総容量に対する空隙容量を表し、前記空隙容量は、いわゆる気孔あるいは空隙によって形成されている。当該気孔率は、前記負極の内部表面の増加をもたらす。さらに前記気孔率は、前記負極の密度とひいては当該負極の重量をも減少させる。前記負極の個々の気孔は、作動時において前記電解質によって好ましくは完全に充填されることが可能である。
【0097】
本発明による電池セルの別の有利である発展態様において前記負極は、少なくとも一つの結合剤を有する。当該結合剤は、フッ化結合剤、特にフッ化ポリビニリデンおよび/またはテトラフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレンおよびフッ化ビニリデンによって形成されるターポリマーである。しかしながら共役カルボン酸のモノマー構造単位または当該共役カルボン酸のアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩またはアンモニウム塩、またはこれらの組み合わせからなるポリマーからなる結合剤であってもよい。さらに前記結合剤は、単量体のスチレンおよびブタジエン構造単位系ポリマーからなることも可能である。さらに前記結合剤は、カルボキシメチルセルロース群からなる結合剤であってもよい。前記結合剤は、前記負極の総重量に関して好ましくは多くとも20wt%、さらに好ましくは多くとも15wt%、さらに好ましくは多くとも10wt%、さらに好ましくは多くとも7wt%、さらに好ましくは多くとも5wt%および特に好ましくは多くとも2wt%の濃度において前記負極内に存在する。
【0098】
本発明による電池セルの別の有利である発展態様において前記負極は、少なくとも一つの伝導性添加剤を有する。前記伝導性添加剤は、低重量、高化学抵抗および高比表面積を有することが好ましい。前記伝導性添加物の例は、粒子状炭素(カーボンブラック、スーパーP、アセチレンブラック)、繊維状炭素(カーボンナノチューブCNT、カーボン(ナノ)ファイバー)、微細に分割した黒鉛およびグラフェン(ナノシート)である。
【0099】
充電式電池セルの構造
以下において自身の構造に関して本発明による充電式電池セルの有利である発展態様を説明する:
【0100】
前記充電式電池セルの機能をさらに向上させるために本発明による充電式電池セルの別の有利である発展態様において前記充電式電池セルは、交互に積層されてハウジング内に配置されている、複数の負極と複数の正極とを有する。ここで前記正極および前記負極とは、それぞれセパレータによって互いに電気的に分離されていることが好ましい。
【0101】
しかしながら前記充電式電池セルは、コイルセルとして形成されていてもよく、当該コイルセルでは前記電極がセパレータ材とともに巻かれている薄層として形成されている。前記セパレータは、一方では前記正極と前記負極とを空間的におよび電気的に分離し、他方ではとりわけ前記活性金属のイオンに対して透過性を有する。こうすることにより電気化学的に有効な大きな表面が形成され、当該表面によって相当する高い電流収量が可能となる。前記セパレータは、不織布、膜、織布、編物、有機材料、無機材料あるいはこれらの組み合わせを用いて形成することが可能である。有機セパレータは、例えば非置換ポリオレフィン(例えばポリプロピレンまたはポリエチレン)、部分的から完全にハロゲン置換されたポリオレフィン(例えば部分的にから完全にフッ素置換されたもの、特にPVDF、ETFE、PTFE)、ポリエステル、ポリアミドまたはポリスルホンからなるものであり得る。有機材料と無機材料の組み合わせを含むセパレータは、例えばガラス繊維に適切なポリマーコーティングが設けられているガラス繊維織物材料である。前記コーティングは、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、エチレンテトラフルオロエチレン(ETFE)、パーフルオロエチレンプロピレン(FEP)、THV(テトラフルオロエチレン、ヘキサフルオロエチレン、フッ化ビニリデンからなるターポリマー)、パーフルオロアルコキシポリマー(PFA)、アミノシラン、ポリプロピレンまたはポリエチレン(PE)などのフッ素含有ポリマーである。前記セパレータは、前記充電式電池セルの前記ハウジング内において例えばいわゆる「Z折り」の形状において折りたたまれて設けられることも可能である。当該Z折りの場合、帯状のセパレータが電極を通るようにあるいは当該電極を中心としてZ状に折りたたまれる。さらに前記セパレータは、セパレータ紙として形成されていてもよい。
【0102】
前記セパレータが被覆として形成され得、正極がまたは負極がそれぞれ当該被覆によって覆われることも本発明の範囲内にある。当該被覆は、不織布、膜、織布、編物、有機材料、無機材料あるいはこれらの組み合わせを用いて形成することが可能である。
【0103】
前記正極の被覆により、前記充電式電池セルにおけるイオン移動およびイオン分布が均一になる。特に負極におけるイオン分布が均一であればあるほど前記前記負極への活物質の可能な充填量を増やし、その結果、前記充電式電池セルの使用可能容量を増やすことが可能である。同時に不均一な充填量とその結果としての前記活性金属の析出につながり得るリスクも回避される。当該利点は、前記充電式電池セルの前記正極が前記被覆によって覆われている場合に特に顕著に作用する。
【0104】
前記電極および前記被覆の表面寸法は、前電極の前記被覆の外形寸法と前記被覆されていない電極の外形寸法とが少なくとも一つの寸法に関して一致するように互いに調整されることが好ましい。
【0105】
前記被覆の表面積は、前記電極の表面積よりも大きいものであり得ることが好ましい。この場合、前記被覆は、前記電極の境界を越えて延伸する。したがって前記電極の両面を覆う前記被覆の二つの層が前記正極の縁において縁接続によって互いに接続され得る。
【0106】
本発明による充電式電池セルの別の有利である実施態様において前記負極が被覆を有するのに対して前記正極は被覆を有しない。
【0107】
以下において本発明のさらなる有利である特性について図面、実施例および実験を用いて詳細に記述および説明する。
【図面の簡単な説明】
【0108】
【
図1】本発明による充電式電池セルの第一の実施形態例の断面図である。
【
図2】
図1による第一の実施形態例による金属発泡体の三次元多孔構造の電子顕微鏡写真の詳細図である。
【
図3】本発明による充電式電池セルの第二の実施形態例の断面図である。
【
図4】
図3の第二の実施形態例の詳細を示した図である。
【
図5】本発明による充電式電池セルの第三の実施形態例を示す分解立体図である。
【
図6】充電時における、実施例1による基準電解質が充填された銅またはニッケル導体要素を有するグラファイト電極を有する二つの実験用完全セルにおける電位(単位[V])を負極に表層形成時における負極の理論容量に関する容量の関数として示す図である。
【
図7】放電容量を銅またはニッケル導体要素を有するグラファイト電極を有する、二つの実験用完全セルのサイクル数の関数として示す図である。実験用完全セルには基準電解質が充填されている。
【
図8】充電時における、電解質1が充填された銅またはニッケル導体要素を有するグラファイト電極を有する二つの実験用完全セルにおける電位(単位[V])を負極に表層を形成する間における負極の理論容量に関する容量の関数として示す図である。
【
図9】放電容量を銅またはニッケル導体要素を有するグラファイト電極を有する、二つの実験用完全セルのサイクル数の関数として示す図である。実験用完全セルには電解質1が充填されている。
【
図10】
図9の測定後の銅導体要素を示す写真である。
【
図11】充放電時における電位経過(単位[ボルト])を銅導体要素を有するグラファイト電極を有する、ハーフセルのサイクルの充電割合の関数として示す図ある。ハーフセルには電解質5が充填されている。
【
図12】電位および電流をアルミニウム導体要素を有するハーフセルの時間の関数として示す図である。ハーフセルには基準電解質または電解質1が充填されている。
【
図13】
図12の基準電解質を有するハーフセルにおける実験前のアルミニウム導体要素を示す図である。
【
図14】
図12の基準電解質を有するハーフセルにおける実験後のアルミニウム導体要素を示す図である。
【
図15】
図12の電解質1を有するハーフセルにおける実験後のアルミニウム導体要素を示す図である。
【
図16】充放電時における電位経過(単位[ボルト])をアルミニウム導体要素を有する正極を有するハーフセルの第一のサイクルの充電割合の関数として示す図である。ハーフセルには電解質1が充填されている。
【
図17】放電容量をアルミニウム導体要素を有する正極を有する実験用完全セルのサイクル数の関数として示す図である。実験用完全セルには電解質1が充填されている。
【
図18】放電容量をアルミニウム導体要素を有する正極と銅導体要素を有する負極とを有する二つの完全セルのサイクル数の関数として示す図である。完全セルには電解質1が充填されており、充電終了電圧は4.3または4.6ボルトである。
【
図19】充放電時における電位経過(単位[ボルト])をアルミニウム導体要素を有する正極を有するハーフセルの第一のサイクルの充電割合の関数として示す図である。ハーフセルには電解質5が充填されている。
【
図20】負極の充電時における、実施例2による電解質1および3と実施例1による基準電解質が充填された三つの実験用完全セルにおける電位(単位[V])を負極に表層を形成する間における負極の理論容量に関する容量の関数として示す図ある。
【
図21】放電時における電位経過(単位[ボルト])を実施例2による電解質1、3、4および5が充填され、電極活物質としてニッケルマンガンコバルト酸化リチウム(NMC)を含んだ、四つの実験用完全セルの充電割合の関数として示す図である。
【
図22】化合物1、4および6の濃度に依拠する、実施例2による電解質1、4および6の伝導性(単位[mS/cm])を示す図ある。
【
図23】化合物3および5の濃度に依拠する、実施例2による電解質3および5の伝導性(単位[mS/cm])を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0109】
図1は、本発明による充電式電池セル2の第一の実施形態例の断面図を図示している。当該充電式電池セル2は、角柱セルとして形成されており、とりわけハウジング1を有する。当該ハウジング1は、三つの正極4および四つの負極5を含んでなる電極ユニット3を囲んでいる。前記正極4および前記負極5は、前記電極ユニット3において交互に積層されて配置されている。しかしながら前記ハウジング1は、より多くの正極4および/または負極5を収容することも可能である。一般的には前記負極5の数が前記正極4の数を1上回ることが好ましい。これにより電極スタックの外側の端面が前記負極5の電極表面によって形成される。前記電極4、5は、電極接続6、7を介して前記充電式電池セル2の対応する接続接点9、10に接続されている。前記充電式電池セル2にはSO
2系電解質が充填され、その際に前記電解質が前記電極4、5の特に内側における全ての孔あるいは空所にできる限り完全に浸入するようにする。
図1において前記電解質は、図示されていない。本実施形態例において前記正極4は、活物質として層間化合物を含む。当該層間化合物は、スピネル構造を有するLiCoMnO
4である。本実施形態において前記電極4、5は、平面状、すなわち自身の表面積に対して厚みが小さい層として形成されている。当該電極は、セパレータ11によってそれぞれ互いに分離されている。前記充電式電池セル2の前記ハウジング1は、実質的に立方体形状において形成され、前記電極4、5と断面図にて示される前記ハウジング1の壁とは、図平面に対して垂直に延伸し、実質的に直線的で平坦に形成されている。しかしながら前記充電式電池セル2は、コイルセルとして形成されていてもよく、当該コイルセルでは前記電極がセパレータ材とともに巻かれている薄層として形成されている。前記セパレータ11は、一方では前記正極4と前記負極5とを空間的におよび電気的に分離し、他方ではとりわけ前記活性金属のイオンに対して透過性を有する。こうすることにより電気化学的に有効な大きな表面が形成され、当該表面によって相当する高い電流収量が可能となる。さらに前記電極4、5は、それぞれの電極の前記活物質の必要とされる電子伝導接続を可能にするために使用される導体要素をそれぞれ有する。当該導電要素は、前記それぞれの電極4、5の電極反応に関与する活物質(
図1では図示せず)と接触している。前記導体要素は、多孔質の金属発泡体18の形状において形成されている。前記金属発泡体18は、前記電極4、5の厚み寸法に亘って延伸している。前記正極4および前記負極5の前記活物質は、それぞれ当該金属発泡体18の孔内に取り入れられているため、当該活物質が当該金属構造の総厚みに亘って当該金属発泡体の孔を均一に充填している。機械的強度を向上させるために前記正極4は、結合剤を含む。当該結合剤は、フッ素ポリマーである。前記負極5は、前記活物質として炭素を挿入材料としてリチウムイオンを受容するのに適した形状において含む。前記負極5の構造は、前記正極4の構造と同様である。本第一の実施形態例において前記正極4の導体要素はアルミニウム、前記負極5の導体要素は銅によって形成される。
【0110】
図2は、
図1における前記第一の実施形態例の前記金属発泡体18の三次元多孔構造の電子顕微鏡写真を図示している。表示されたスケールに基づいて、前記孔Pの平均径が100μmより大きい、すなわち比較的大きいことが見受けられる。
【0111】
図3は、本発明による充電式電池セル20の第二の実施形態例の断面図を図示している。当該第二の実施形態例は、
図1に図示される第一の実施形態例とは前記電極ユニットが一つの正極23と二つの負極22とを含んでなる点において異なる。当該電極は、それぞれセパレータ21によって互いに分離されており、ハウジング28によって囲まれている。前記正極23は、平面状の金属箔の形状における導体要素26を有し、当該導体要素の上に前記正極23の活物質24が両面に亘って塗布されている。前記負極22も同様に平面状の金属箔の形状における第二の導体要素27を有し、当該導体要素の上に前記負極22の活物質25が両面に亘って塗布されている。別法として縁電極、すなわち前記電極スタックを閉止する電極の平面状の導体要素の一面のみに活物質をコーティングすることも可能である。コーティングされない面は、前記ハウジング28の壁に対向する。前記電極22、23は、電極接続29、30を介して前記充電式電池セル20の対応する接続接点31、32に対して接続されている。
【0112】
図4は、
図3の第二の実施形態例においてそれぞれ前記正極23および前記負極22の導体要素26、27として使用される前記平面状の金属箔を図示している。当該金属箔は、20μmの厚みの有孔状または網目状構造を有する。
【0113】
図5は、本発明による充電式電池セル40の第三の実施形態例の分解立体図を図示している。当該第三の実施形態例は、前述の両実施形態例とは正極44が被覆13によって覆われている点において異なる。この際、前記被覆13の表面積は、前記正極44の表面積よりも大きく、当該正極の境界14が
図5において一点鎖線で記入されている。前記正極44の両面を覆う、前記被覆13の二つの層15、16は、前記正極44の周縁において縁接続17によって互いに接続されている。両負極45は、被覆されていない。前記電極44および45は、前記電極接続46および47を介して接触され得る。
【0114】
〔実施例1〕基準電解質の製造
以下に説明する実施例において使用する基準電解質を欧州特許第2954588号明細書に記載の方法にしたがって製造した(以下、[V6]と称する)。まず塩化リチウム(LiCl)を真空下で120℃において三日間乾燥した。アルミニウム粒子(Al)を真空下で450℃において二日間乾燥した。LiCl、塩化アルミニウム(AlCl3)およびAlをAlCl3:LiCl:Alが1:1.06:0.35のモル比になるようにガスを逃すための開口部を有するガラス瓶内において互いに混合した。その後、当該混合物を段階的に加熱処理して溶融塩を製造した。冷却後、形成した前記溶融塩を濾過した後、室温まで冷却し、最後に所望するLiAlCl4に対するSO2のモル比が形成されるまでSO2を添加した。こうして形成した基準電解質は、組成LiAlCl4*xSO2を有し、xは添加したSO2の量に依拠する。
【0115】
〔実施例2〕電池セルのためのSO2系電解質の六つの実施形態例1、2、3、4、5および6の製造
以下に説明する実験のためにSO2系電解質の六つの実施形態例1、2、3、4、5および6を製造した(以下、電解質1、2、3、4、5および6と称する)。このためにまず以下の文献[V7]、[V8]および[V9]に記載されている製造方法にしたがって式(I)による五つの異なる第一の導電塩を製造した:
[V7]I. Krossing, Chem. Eur. J. 2001, 7, 490
[V8]S. M. Ivanova et al., Chem. Eur. J. 2001, 7, 503
[V9]Tsujioka et al., J. Electrochem. Soc., 2004, 151, A1418
【0116】
当該六つの異なる、式(I)による第一の導電塩を以下において化合物1、2、3、4、5および6と称する。当該化合物は、ポリフルオロアルコキシアルミン酸の仲間であり、ヘキサン中においてLiAlH4と対応するアルコールR-ОH(R1=R2=R3=R4)とから出発して以下の反応式にしたがって製造した。
【0117】
【0118】
キレート錯体を以下の文献[V10]に記載されている製造方法にしたがって対応するジオールHО-R-ОHから出発して製造した:
[V10]ウー シェイら、エレクトロケミカル・アンド・ソリッドステート・レターズ、2000年、3、366から368
【0119】
これにより以下に示される分子式または構造式を有する、化合物1、2、3、4、5および6を形成した:
【0120】
【0121】
精製のために、まず前記化合物1、2、3、4、5および6を再結晶化した。これにより遊離体LiAlH4の残留物を前記第一の導電塩から除去したのは、当該遊離体がSO2中に存在する可能性がある微量の水とスパークする可能性があるからである。
【0122】
その後、前記化合物1、2、3、4、5および6をSO2中に溶解した。この際、
前記化合物1、2、3、4、5および6がSO2において良好に溶解することが判明した。
【0123】
前記電解質1、2、3、4、5および6の製造を以下の一覧による方法
ステップ1から4にしたがって低温あるいは加圧下において実施した:
1)それぞれの化合物1、2、3、4、5および6をそれぞれ一つのライザーパイプ付き圧力フラスコ内に入れる、
2)前記圧力フラスコを空にする、
3)液状のSO2を流入する、および
4)目標量のSO2が添加されるまでステップ2および3を繰り返す。
【0124】
前記電解質1、2、3、4、5および6における前記化合物1、2、3、4、5および6のそれぞれの濃度は、以下の実験説明において特に記述しない限り0.6モル/l(電解質1リットルに対する物質量濃度)であった。前記電解質1、2、3、4、5および6および前記基準電解質を用いて以下に説明する実験を実施した。
【0125】
〔実施例3〕実験用完全セルの製造
以下に説明する実験において使用した実験用完全セルは、それぞれがセパレータによって分離された、二つの負極と一つの正極とを有する充電式電池セルである。前記正極は、活物質、伝導性向上剤および結合剤を有した。前記活物質については、それぞれの実験において述べられている。前記負極は、活物質としてグラファイト、結合剤および導体要素も含んでいた。実験において述べられている場合、前記負極はさらに伝導性添加剤を有し得る。前記正極および前記負極の前記導体要素の材料は、アルミニウムと銅であり、それぞれの実験において述べられている。先行技術による基準材料としては、導電要素ニッケルを使用する。とりわけ実験の目的は、本発明による電池セルにおける前記正極と前記負極における導電要素アルミニウムおよび銅の使用を実証することにある。表3において異なる導体要素に対して実施した実験を示す。
【0126】
前記実験用完全セルにはそれぞれ実験にとって必要である電解質、すなわち前記基準電解質または前記電解質1、2、3、4、5および6を充填した。実験のために複数、すなわち二つから四つの同一の実験用完全セルを製造した。実験において示した結果は、それぞれ同一の実験用完全セルについて得られた測定値の平均値である。
【0127】
〔実施例4〕実験用完全セルにおける測定
表層容量:
前記負極上に表層を形成するために第一のサイクルにおいて消費される容量は、電池セルの品質に関する大事な基準となる。当該表層は、前記実験用完全セルの最初の充電時において前記負極上に形成される。当該表層形成のためにはリチウムイオンが不可逆的に消費される(表層容量)ため、その後のサイクルで前記実験完全セルが利用できるサイクル可能容量が少なくなる。前記負極上に表層を形成するために使用した理論値に対する表層容量(単位[%])は、以下の式によって計算する:
【0128】
表層容量[理論値に対する%]=(Qlad(xmAh)-Qent(ymAh)/QNEL
【0129】
Qladは、それぞれの実験で指定された充電量(単位[mAh])、Qentは、その後に施した前記実験用完全セルの放電時において得られた充電量(単位[mAh])である。QNELは、使用した負極の理論容量である。前記理論容量は、例えばグラファイトの場合、372mAh/gの値で計算する。
【0130】
放電容量:
実験用完全セルにおける測定では例えば放電容量をサイクル数によって決定する。このため前記実験用完全セルを所定の上限電位まで所定の充電電流において充電する。相当する前記上限電位を前記充電電流がある値に下がるまで保持する。その後、所定の放電電位になるまで所定の放電電流において放電を実施する。当該充電方法をI/U充電と称する。当該プロセスを所望するサイクル数に応じて繰り返す。
【0131】
前記上限電位または前記放電容量およびそれぞれの充放電電流は、実験において記載されている。前記充電電流が下がって到達すべき値も実験において記載されている。
【0132】
「上限電位」という用語は、「充電電位」「充電電圧」「充電終了電圧」および「上部電位限界」という用語と同義に使用される。前記用語は、セルまたは電池が電池充電装置によって充電される際に到達すべき電圧/電位を示す。
【0133】
前記電池の充電は、C/2の電流率と22℃の温度において実施することが好ましい。
【0134】
「放電電位」という用語は、「下部セル電圧」という用語と同義に使用される。当該用語は、セルまたは電池を電池充電装置によって放電する際に到達すベき電圧/電位を示す。
【0135】
前記電池の放電は、C/2の電流率と22℃の温度において実施することが好ましい。
【0136】
前記放電容量は、放電電流と放電を終了するための基準が満たされるまでの時間とによって得られる。これらに関連する図において前記放電容量の平均値を前記サイクル数の関数として図示している。前記放電容量の当該平均値を多くの場合は開始容量の100%に標準化してそれぞれ公称容量に対する割合で表す。
【0137】
以下の実験は、ニッケル、銅またはアルミニウムのいずれかによって形成されている導体要素の特性を調査する。[V3]によるとニッケルからなる導体要素は、通常先行技術の電解質LiAlCl4*xSO2に使用され、以下、基準電解質と称する。以下、ニッケルからなる当該導電要素をニッケル導体要素と称する(実施例1を参照のこと)。したがって一方では前記基準電解質LiAlCl4*xSO2、他方では本発明による充電式電池セルの構成要素ともなり得る様々な電解質において実験が行われた。文献より公知である銅とアルミニウムの電気伝導性は、ニッケルの電気伝導性よりもよい(表1を参照のこと)。よって銅およびアルミニウムからなる導電要素は、本発明の範囲において好ましい。
【0138】
【0139】
〔実験1〕組成LiAlCl4*4.5SO2の基準電解質を有する実験用完全セルにおける負極のニッケルおよび銅からなる導体要素の挙動
活物質としてグラファイトを用いて負電極を製造した。当該負極は、結合剤を含んでいなかった。第一の負極の導体要素は、銅発泡体の形状における銅からなるものであった。第二の前記負極は、ニッケル発泡体の形状におけるニッケル導体要素を含んでいた。ニッケルは、先行技術による、LiAlCl4*xSO2の組成を有する電解質を有する充電式電池セルにおいて用いられる、導体要素の材料である。
【0140】
銅導体要素を有する二つの負極と電極活物質としてリン酸鉄リチウムを含む正極とを組み立てて実施例3にしたがって第一の実験用完全セル1を形成した。ニッケル導体要素を含む前記負極を用いて実施例3にしたがって第二の実験用完全セル2を形成した。両実験用完全セル1および2にLiAlCl4*4.5SO2の組成を有する、実施例1による基準電解質を充填した。
【0141】
まず、第一のサイクルにおいて実施例4にしたがって表層容量を決定した。
図6は、前記負極の充電時における前記実験用完全セルの電位(単位[ボルト])を負極の理論容量に関する容量の関数(単位[%])として示す図であって、実線は前記実験用完全セル1の曲線、一点鎖線は前記実験用完全セル2の曲線に相当する。
【0142】
前記二つの図示された曲線は、前述の実験用完全セル1および2を用いて実施した、それぞれ複数の実験の結果を示す。まず、前記実験用完全セルに125mA(Qlad)に到達するまで15mAの電流を充電した。その後、2.5ボルトの電位に到達するまで15mAにおいて前記実験用完全セルの放電を実施した。その際に放電容量(Qent)を求めた。
【0143】
求められた表層容量(単位[負極の理論容量の%])は、前記負極がバインダーを含まないため、例えばバインダーを含む電極において求められた表層容量よりも高い値である。銅発泡体導体要素を有するグラファイト電極を有する前記実験用完全セル1の場合、前記表層容量は19.8%であり、ニッケル発泡体導体要素を有するグラファイト電極を有する前記実験用完全セル2の場合は15.5%である。
【0144】
前記放電容量を求めるために(実施例4を参照のこと)前記両実験用完全セル1および2をC/2の充電率において3.8ボルトの上限電位まで充電した。その後、C/2の放電率において2.5ボルトの放電電位までの放電を実施した。
【0145】
図7は、前記二つの実験用完全セル1および2の放電容量の平均値をサイクル数の関数として図示しており、実線は前記実験用完全セル1の曲線、一点鎖線は前記実験用完全セル2の曲線に相当する。190サイクルを実施した。前記放電容量の当該平均値をそれぞれ公称容量に対する割合(単位[公称容量の%])で表す。
【0146】
前記二つの実験用完全セル1および2の前記放電容量の経過は、均一な減少の経過を示す。しかしながら容量減少は、銅発泡体導体要素を有するグラファイト電極を含む実験用完全セルにおける方が著しく大きい。よって前記実験用完全セル1(ニッケル導体要素)における容量は、190サイクルにおいてまだ70%にあるのに対して前記実験用完全セル2(銅導体要素)における容量は、190サイクルにおいて64%でしかない。
【0147】
前記基準電解質中においてニッケル導体要素を有する負極は、銅導体要素を有する負極に比べて低い表層容量とより良好なサイクル挙動を示す。これによりニッケルがLiAlCl4*xSO2電解質における一般的な導体要素であるとする[V3]の記述が実証される。
【0148】
〔実験2〕電解質1を用いた実験用完全セルにおける負極のためのニッケルおよび銅からなる導体要素の挙動
再度、活物質としてグラファイトを有する負極を用意した。前記第一の負極の導体要素は、多孔質の銅発泡体の形状における銅からなるものであった。前記第二の負極は、多孔質のニッケル発泡体の形状におけるニッケル導体要素を含んでいた。
銅発泡体を導体要素として有する二つの負極を電極活物質としてニッケルマンガンコバルト酸化物リチウム(NMC622)を含む正極とともに実施例3にしたがって第一の実験用完全セルへと組み立てた。導体要素としてニッケル発泡体を含む負極を用いて実施例3にしたがって第二の実験用完全セルを形成した。両実験用完全セルに実施例2による電解質1を充填した。
【0149】
まず、第一のサイクルにおいて実施例4にしたがって表層容量を測定した。
【0150】
図8は、前記負極の充電時における前記両実験用完全セルの電位(単位[ボルト])を負極の理論容量に関する容量の関数(単位[%])として図示している。前記二つの図示された曲線は、前述の前記実験用完全セルを用いて実施した、それぞれ複数の実験の平均した結果を示しており、実線の曲線は、銅導体要素を有するグラファイト電極を有する実験用完全セル、一点鎖線の曲線は、ニッケル導体要素を有するグラファイト電極を有する実験用完全セルに相当する。まず、前記実験用完全セルに125mA(Q
lad)に到達するまで15mAの電流を充電した。その後、2.5ボルトの電位に到達するまで15mAにおいて前記実験用完全セルの放電を実施した。その際に放電容量(Q
ent)を求めた。
【0151】
銅導体要素を有するグラファイト電極を有する前記実験用完全セルの場合、前記表層容量は6.7%であり、ニッケル導体要素を有するグラファイト電極を有する前記実験用完全セルの場合は7.3%である。表層容量は、ニッケル導体要素を使用した場合に比べて銅導体要素を使用した場合の方が小さい。
【0152】
前記放電容量を求めるために(実施例4を参照のこと)前記両実験用完全セルをC/2の充電率において4.4ボルトの上限電位まで充電した。その後、C/2の放電率において2.5ボルトの放電電位までの放電を実施した。
【0153】
図9は、前記二つの実験用完全セルの放電容量の平均値をサイクル数の関数として図示しており、実線の曲線は、銅導体要素を有するグラファイト電極を有する実験用完全セル、一点鎖線の曲線は、ニッケル導体要素を有するグラファイト電極を有する実験用完全セルに相当する。前記放電容量の当該平均値をそれぞれ公称容量に対する割合(単位[公称容量の%])で表す。前記二つの実験用完全セルの前記放電容量の経過は、均一な、ほぼ直線上の経過を示す。前記両実験用完全セルにおいてわずかな容量減少のみが見受けられる。よって前記両実験用完全セルにおける前記容量は、200サイクルにおいてまだ約95%(ニッケル導体要素)または94%(銅導体要素)である。
【0154】
図10は、
図9の前述の測定後の銅導体要素を示す写真である。
図10からは前記実験の間に銅導体要素の腐食が生じないことが見受けられる。
【0155】
前記電解質1中、ニッケル導体要素を有する負極と銅導体要素を有する負極とは、低い表層容量と良好なサイクル挙動を示す。前記実験後、前記銅導体要素においては負極が認められない。
【0156】
〔実験3〕電解質5および電解質6を有するハーフセルにおける負極の銅からなる導体要素の挙動
再度、活物質としてグラファイトを有する負極を製造した。前記電極の導体要素は、銅箔の形状における銅からなるものであった。
【0157】
実験を戻り電極および参照電極として金属リチウムを有するハーフセルにおいて実施した。作用電極は、調査対象の銅導体要素を有するグラファイト電極であった。前記ハーフセルには一方では電解質5、他方には電解質6を充填した。前記ハーフセルを0.02Cの充放電率において0.03ボルトの電位まで充電して0.5ボルトの電位まで放電した。
図11は、電解質5中の第四のサイクルと電解質6中の第二のサイクルとにおける前記ハーフセルのそれぞれの充電曲線および放電曲線の電位を図示しており、実線の曲線は、充電曲線の電位、一点鎖線の曲線は、放電曲線の電位に相当する。前記充放電曲線は、安定した、電池に典型的な挙動を示す。銅導体要素は、前記電解質5および6における負極の導体要素として適しており、安定した挙動を示す。
【0158】
〔実験4〕基準電解質および本発明による電解質1を用いたハーフセル実験におけるアルミニウムからなる導体要素の挙動
当該実験の目的は、基準電解質および電解質1における電流負荷下でのアルミニウム導体要素の長期安定性を調査することにある。実験を戻り電極および参照電極として金属リチウムを有するハーフセルにおいて実施した。作用電極は、それぞれ調査対象のアルミニウムシートの形状におけるアルミニウム導体要素であった。前記ハーフセルには一方ではLiAlCl4*1.5SO2の組成を有する基準電解質、他方には電解質1を充填した。
【0159】
基準電解質中でアルミニウム導体要素を有するハーフセルに約300時間に亘って0.1mAの定電流を印加した。
図12における一点鎖線は、対応する図の右側におけるスケールによる電流と90時間に亘って適合する電位(左側のスケール)とを示す。全時間に亘って約3.9ボルトの電位が観察された。実験後、前記アルミニウム導体要素をハーフセルから取り外して調査した。
【0160】
電解質1中のアルミニウム導体要素を有するハーフセルに対してもまずは0.1mAの定電流を印加した。5.0Vである実験の目標電位には既に約2分後に到達した。その後、電流を0.5μAに下げて10時間毎に順次1μA、2μA、3μA、4μA、6μA、8μA、10μAおよび12μAに上げた。
図12における実線は、対応する図の右側におけるスケールによる電流と90時間に亘って適合する電位(左側のスケール)とを示す。実験後、ここでも前記アルミニウム導体要素をハーフセルから取り外して調査した。
【0161】
図13は、測定の開始時にそれぞれのハーフセルに挿入されたアルミニウム導体要素の一例を図示している。
図14において基準電解質を有するハーフセルにおける実験後のアルミニウム導体要素が見受けられる。基準電解質を有するハーフセルにおける前記実験後のアルミニウムシートの縁および表面において顕著な腐食が見受けられる。当該腐食は、前記アルミニウム導体要素における61.5%という極めて大きな重量損失にも反映されている。アルミニウムは、電流負荷下において基準電解質中では安定しない。
図15において電解質1を有するハーフセルにおける実験後のアルミニウム導体要素が見受けられる。測定開始時と比べてアルミニウムシートにおける変化は見受けられない、すなわち導体要素における腐食は認められない。アルミニウムは、電流負荷下において本発明による電解質1中では極めて安定している。
【0162】
〔実験5〕電解質1を有する実験用完全セルおよびハーフセルにおける正極のアルミニウムからなる導体要素の挙動
アルミニウムからなる導体要素をさらに調査するために当該導体要素に正極の活物質を被覆した。活物質としてLiNi0.5Mn1.5O4(LNMО)を有する正極を製造した。LNMОは、例えば5ボルトの高い上限電位まで充電可能である活物質である。前記電極の導体要素は、アルミニウムシートの形状におけるアルミニウムからなるものであった。正極を用いて戻り電極および参照電極としてリチウム電極を有するハーフセルを形成した。前記ハーフセルに電解質1を充填した。放電容量を求めるために(実施例4を参照のこと)前記ハーフセルを0.1Cの充放電率において5ボルトの電位まで充放電した。
【0163】
図16は、アルミニウム導体要素を有するハーフセルの第一のサイクルの充電曲線(実線)および放電曲線(一点鎖線)の電位を容量の関数として図示している。
【0164】
前記充放電曲線は、安定した、電池に典型的な挙動を示す。アルミニウム導体要素は、前記電解質1における正極の導体要素として極めて安定している。
【0165】
〔実験6〕電解質1を有する実験用完全セルにおける正極のアルミニウムからなる導体要素の挙動
さらにアルミニウム導体要素の安定性を調査するために活物質としてニッケルマンガンコバルト酸化物(NMC622)とアルミニウム箔を導体要素として含む正極と二つの負極とを用いて実験用完全セルを組み立てた。前記負極は、活物質としてグラファイトとニッケル導体要素とを含むものであった。放電容量を求めるために(実施例4を参照のこと)前記実験用完全セルを0.1Cの充電率において4.4ボルトの上限電位まで充電した。その後、0.1Cの放電率において2.8ボルトの放電電位まで放電した。
図17は、200サイクルに亘る放電容量の経過を図示している。前記実験用完全セルは、ほぼ水平な容量経過の極めて安定した挙動を示す。これにより正極における導体要素としてアルミニウム導体要素が電解質1中において極めて安定していることが実証される。
【0166】
〔実験7〕電解液1を用いた完全セルにおける負極の銅からなる導体要素との組み合わせにおける正極のアルミニウムからなる導体要素の挙動
本発明による電解液1を有する完全セルにおける負極の銅からなる導体要素との組み合わせにおける正極のアルミニウムからなる導体要素の挙動を調査するために24個の負極と23個の正極とを用いて完全セルを形成した。前記正極は、活物質としてニッケルマンガンコバルト酸化(NMC622)と導体要素としてアルミニウム箔を含むものであった。前記負極は、活物質としてグラファイトと導体要素として銅箔を含むものであった。放電容量を求めるために(実施例4を参照のこと)前記完全セルを0.1Cの充電率において4.3ボルトまたは4.6ボルトの様々な上限電位まで充電した。充電容量は、理論セル容量の50%に制限された。その後、0.1Cの放電率において2.8ボルトの放電電位までの放電を実施した。
図18は、上限電位が4.3Vである完全セルと上限電位が4.6Vである完全セルの最大容量に標準化された、10サイクルに亘る放電容量の経過を図示する。前記完全セルは、より高い上限電位で測定した場合であってもほぼ水平な容量経過を有する、極めて安定した挙動を示す。これにより負極の銅からなる導体要素との組み合わせにおける正極のアルミニウム導体要素が電解質1を有する完全セルにおいて極めて安定していることが実証される。
【0167】
〔実験8〕電解質5を有するハーフセルにおける正極のアルミニウムからなる導体
要素の挙動
活物質としてニッケルマンガンコバルト酸化物(NMC811)を用いて正極を製造した。前記正極の導体要素は、アルミニウム箔の形状におけるアルミニウムからなるものであった。実験を戻り電極および参照電極として金属リチウムを有するハーフセルにおいて実施した。作用電極は、調査対象のアルミニウム導体要素を有する正極であった。
【0168】
前記ハーフセルには電解質5を充填した。放電容量を求めるために(実施例4を参照のこと)前記ハーフセルを0.02Cの充放電率において3.9ボルトの電位まで充電して3ボルトの電位まで放電した。
【0169】
図19は、充電時におけるアルミニウム導体要素を有するハーフセルの第二のサイクルの電位を容量の関数として図示している。
【0170】
前記充放電曲線は、安定した、電池に典型的な挙動を示す。アルミニウム導体要素は、前記電解質5における正極の導体要素として極めて安定している。
【0171】
〔実験8〕電解質1、3、4および5の調査
電解質1、3、4および5を調査するために様々な実験を実施した。一方では電解質1および3ならびに基準電解質の表層容量を求めて他方では電解質1、3、4および5における放電容量を測定した。
【0172】
表層容量を求めるために三つの実験用完全セルに実施例2に記載された電解質1および3と実施例1に記載された基準電解質とを充填した。前記三つの実験用完全セルは、正極の活物質としてリン酸鉄リチウムを含むものであった。
【0173】
図20は、負極の充電時における実験用完全セルの電位(単位[ボルト])を負極の理論容量に関する容量の関数として図示している。前記二つの図示される曲線は、前述の実験用完全セルを用いて実施した、それぞれ複数の実験の求められた結果を示す。まず、前記実験用完全セルに125mA(Q
lad)に到達するまで15mAの電流を充電した。その後、2.5ボルトの電位に到達するまで15mAにおいて前記実験用完全セルの放電を実施した。その際に放電容量(Q
ent)を求めた。
【0174】
絶対容量損失は、前記電解質1および3ではそれぞれ7.58%または11.51%であり、前記基準電解質では6.85%である。表層形成のための容量は、本発明による両電解質の方が前記基準電解質よりも若干高い。7.5%から11.5%の範囲における前記絶対容量損失の値は、5ボルトまでの高電圧カソードを使用する可能性と組み合わせて良好な結果である。放電実験のために実施例3による四つの実験用完全セルに実施例2に記載の電解質1、3、4および5を充填した。前記実験用完全セルは、正極の活物質としてニッケルマンガンコバルト酸化リチウム(NMC)を含むものであった。放電容量を求めるために(実施例4を参照のこと)前記実験用完全セルを15mAの電流を用いて125mAhの容量まで充電した。その後、15mAの電流を用いて2.5ボルトの放電電位まで放電を実施した。
【0175】
図21は、放電された充電量を越える放電時の電位経過に対する割合(単位:[最大充電(放電)の%])を図示している。全ての実験用完全セルは、電池セルの良好な作動にとって必要である、平らな放電曲線を示す。
【0176】
〔実験9〕電解質1、3、4、5および6の伝導性の測定
伝導性の測定のために異なる濃度の化合物1、3、4、5および6を有する電解質1、3、4、5および6を製造した。前記異なる化合物のそれぞれの濃度について、伝導測定法を用いて電解質の伝導性を測定した。その際、テンパリング後、四電極センサを溶液に接触するように保持して0.02から500mS/cmの測定範囲で測定した。
【0177】
図22は、化合物1、4および6の濃度に依拠する電解質1、4および6の伝導性を図示している。電解質1において化合物1の濃度が0.6モル/Lから0.7モル/Lである場合に約37.9mS/cmの値の最大伝導性が見受けられる。これに比べると先行技術より公知である、例えばLP30(1M LiPF
6/EC-DMC(1:1重量)などの有機電解質は、約10mS/cmの伝導性しか有しない。電解質4の場合、1モル/Lの導電塩濃度の場合、最大18mS/cmが得られる。電解質6は、0.6モル/Lの導電塩濃度の場合、11mS/cmの最大値を示す。
【0178】
図23は、化合物3および5の濃度に依拠する電解質3および5の伝導性を図示している。電解質5の場合、導電塩濃度が0.8モル/Lである場合に最大1.3mS/cmが得られる。電解質3は、導電塩濃度が0.6モル/Lである場合に0.5mS/cmの最大伝導性を示す。前記電解質3および5の伝導性は低かったものの、例えば実験3において記載される実験用ハーフセルまたは実験8において記載される実験用完全セルの充電または放電は、十分可能である。
【0179】
〔実験10〕低温挙動
前記電解質1の低温挙動を前記基準電解質と比較して測定するために実施例3にしたがって二つの実験用完全セルを製造した。一方の実験用完全セルにLiAlCl4*6SO2の組成を有する基準電解質を、他方の実験用完全セルに電解質1を充填した。前記基準電解質を含む前記実験用完全セルは、正極の活物質としてリン酸鉄リチウム(LEP)を、電解質1を含む前記実験用セルは、活物質としてニッケルマンガンコバルト酸化リチウム(NMC)を含むものであった。前記実験用完全セルを20℃において3.6ボルト(LEP)または4.4ボルト(NMC)まで充電して、それぞれの調査する温度において再び2.5ボルトまで放電した。20℃において到達した放電容量を100%と評価した。放電のための温度を10°Kの温度ステップで下げた。得られた放電容量を20℃での放電容量に対する割合で表記した。低温放電は、使用された正極および負極の活物質にほぼ依拠しないため、結果を全ての活物質の組み合わせに摘要可能である。表5は、結果を示す。
【0180】
電解質1を用いた実験用完全セルは、極めて良好な低温挙動を示す。20℃ではまだ容量の82%、-30℃ではまだ73%に到達する。-40℃の温度であっても、まだ容量の61%を放電することが可能である。これに対して基準電解質を有する実験用完全セルは、-10℃までしか放電性を示すことができない。この場合、21%の容量に到達する。より低い温度では基準電解質を有するセルをもはや放電することは不可能である。
【0181】
【国際調査報告】