(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-01-31
(54)【発明の名称】充電式電池セル
(51)【国際特許分類】
H01M 4/62 20060101AFI20240124BHJP
H01M 10/0563 20100101ALI20240124BHJP
H01M 10/052 20100101ALI20240124BHJP
H01M 10/054 20100101ALI20240124BHJP
H01M 4/525 20100101ALI20240124BHJP
H01M 4/505 20100101ALI20240124BHJP
H01M 4/587 20100101ALI20240124BHJP
H01M 4/58 20100101ALI20240124BHJP
【FI】
H01M4/62 Z
H01M10/0563
H01M10/052
H01M10/054
H01M4/525
H01M4/505
H01M4/587
H01M4/58
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023546073
(86)(22)【出願日】2022-01-26
(85)【翻訳文提出日】2023-09-28
(86)【国際出願番号】 EP2022051762
(87)【国際公開番号】W WO2022162008
(87)【国際公開日】2022-08-04
(32)【優先日】2021-01-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】521380247
【氏名又は名称】インノリス・テクノロジー・アー・ゲー
【氏名又は名称原語表記】INNOLITH TECHNOLOGY AG
【住所又は居所原語表記】HIRZBODENWEG 95, 4052 BASEL, SWITZERLAND
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】弁理士法人R&C
(72)【発明者】
【氏名】ツィンク,ローラン
(72)【発明者】
【氏名】ボルク,マルクス
(72)【発明者】
【氏名】トュンメル,ユリア
【テーマコード(参考)】
5H029
5H050
【Fターム(参考)】
5H029AJ05
5H029AJ06
5H029AJ12
5H029AK01
5H029AK03
5H029AK04
5H029AL02
5H029AL03
5H029AL06
5H029AL07
5H029AL11
5H029AM01
5H029AM07
5H029DJ08
5H029HJ01
5H029HJ02
5H029HJ10
5H029HJ18
5H050AA07
5H050AA12
5H050BA15
5H050BA17
5H050CA01
5H050CA08
5H050CA09
5H050CA10
5H050CB02
5H050CB03
5H050CB07
5H050CB08
5H050CB11
5H050DA11
5H050HA01
5H050HA02
5H050HA10
5H050HA18
(57)【要約】
本発明は、活性金属、平面状の導体要素(26)を有する少なくとも一つの正極(23、44)、平面状の導体要素(27)を有する少なくとも一つの負極(22、45)、ハウジング(28)および第一の導電塩を含む、SO2系電解質を含む充電式電池セル(20、40、101)に関し、前記正極(23、44)および/または前記負極(22、45)は、単量体のスチレンおよびブタジエン構造単位系ポリマーからなる、少なくとも一つの第一の結合剤と、カルボキシメチルセルロース基からなる、少なくとも一つの第二の結合剤を含む。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
活性金属、平面状の導体要素(26)を有する少なくとも一つの正極(23、44)、平面状の導体要素(27)を有する少なくとも一つの負極(22、45)、ハウジング(28)および第一の導電塩を含む、SO
2系電解質を含んでなる充電式電池セル(20、40、101)であって、
前記正極(23、44)および/または前記負極(22、45)は、単量体のスチレンおよびブタジエン構造単位系ポリマーからなる、少なくとも一つの第一の結合剤と、カルボキシメチルセルロース基からなる、少なくとも一つの第二の結合剤を含むことを特徴とする充電式電池セル(20、40、101)。
【請求項2】
前記正極(23、44)および/または前記負極(22、45)は、前記第一および前記第二の結合剤とは異なる、少なくとも一つの別の結合剤を有し、前記別の結合剤は、好ましくは以下のものであることを特徴とする、請求項1に記載の充電式電池セル(20、40、101):
- フッ化結合剤、特にフッ化ポリビニリデンおよび/またはテトラフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレンおよびフッ化ビニリデンによって形成されるターポリマー、または
- 共役カルボン酸のモノマー構造単位または前記共役カルボン酸のアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩またはアンモニウム塩、またはこれらの組み合わせからなるポリマー。
【請求項3】
前記正極(23、44)または前記負極(22、45)における全ての結合剤の濃度は、前記正極(23、44)または前記負極(22、45)の総重量に関して好ましくは多くとも20wt%、さらに好ましくは多くとも15wt%、さらに好ましくは多くとも10wt%、さらに好ましくは多くとも7wt%、さらに好ましくは多くとも5wt%、さらに好ましくは多くとも2wt%、さらに好ましくは多くとも1wt%および特に好ましくは多くとも0.5wt%であることを特徴とする、請求項1または2に記載の充電式電池セル(20、40、101)。
【請求項4】
前記第一の導電塩は、
- アルカリ金属化合物、特にリチウム化合物、前記リチウム化合物は、アルミン酸塩、特にテトラハロゲンアルミン酸リチウム、ハロゲン化物、シュウ酸塩、ホウ酸塩、リン酸塩、ヒ酸塩およびガレートによって形成される群から選択され、さらに
- 以下の式(I)
【化1】
を有する導電塩、
によって形成される群から選択され、
- Mは、アルカリ金属、アルカリ土類金属、元素周期表第12族の金属およびアルミニウムによって形成される群から選択される金属であり、
- xは、1から3の整数であり、
- 置換基R
1、R
2、R
3およびR
4は、互いに独立してC
1~C
10アルキル、C
2~C
10アルケニル、C
2~C
10アルキニル、C
3~C
10シクロアルキル、C
6~C
14アリールおよびC
5~C
14ヘテロアリールによって形成される群から選択され、さらに
- 中心原子Zは、アルミニウムまたはホウ素である
ことを特徴とする、請求項1~3の何れか1項に記載の充電式電池セル(20、40、101)。
【請求項5】
前記第一の導電塩の前記置換基R
1、R
2、R
3およびR
4は、互いに独立して以下によって形成される群から選択されることを特徴とする、請求項4に記載の充電式電池セル(20、40、101):
- C
1~C
6アルキル、好ましくはC
2~C
4アルキル、特に好ましくは2-プロピル、メチルおよびエチルのアルキル基、
- C
2~C
6アルケニル、好ましくはC
2~C
4アルケニル、特に好ましくはエテニルおよびプロペニルのアルケニル基、
- C
2~C
6アルキニル、好ましくはC
2~C
4アルキニル、
- C
3~C
6シクロアルキル、
- フェニル、および
- C
5~C
7ヘテロアリール。
【請求項6】
前記第一の導電塩の前記置換基R
1、R
2、R
3およびR
4のうち少なくとも一つは、少なくとも一つのフッ素原子および/または少なくとも一つの化学基によって置換されており、前記化学基は、C
1~C
4アルキル、C
2~C
4アルケニル、C
2~C
4アルキニル、フェニールおよびベンジルによって形成される群から選択されることを特徴とする、請求項4および5に記載の充電式電池セル(20、40、101)。
【請求項7】
前記第一の導電塩の前記置換基R
1、R
2、R
3およびR
4のうち少なくとも一つは、CF
3基またはОSО
2CF
3基であることを特徴とする、請求項4~6の何れか1項に記載の充電式電池セル(20、40、101)。
【請求項8】
前記第一の導電塩は、以下によって形成される群から選択されることを特徴とする、請求項4~7の何れか1項に記載の充電式電池セル(20、40、101):
【化2】
【請求項9】
前記電解質は、前記第一の導電塩とは異なる、少なくとも一つの第二の導電塩を含むことを特徴とする、請求項1~8の何れか1項に記載の充電式電池セル(20、40、101)。
【請求項10】
前記電解質は、少なくとも一つの添加剤を含むことを特徴とする、請求項1~9の何れか1項に記載の充電式電池セル(20、40、101)。
【請求項11】
前記電解質の前記添加剤は、ビニレンカーボネートおよび自身の誘導体、ビニルエチレンカーボネートおよび自身の誘導体、メチルエチレンカーボネートおよび自身の誘導体、リチウム(ビスオキサラト)ホウ酸、ジフルオロ(オキサラト)ホウ酸リチウム、テトラフルオロ(オキサラト)リン酸リチウム、シュウ酸リチウム、2-ビニルピリジン、4-ビニルピリジン、環状エキソメチレンカーボネート、スルホン、環状および非環状スルホン酸塩、非環状亜硫酸塩、環状および非環状スルフィン酸エステル、無機酸の有機エステル、非環状および環状アルカン(前記非環状および環状アルカンは1バールで少なくとも36℃の沸点を有する)、芳香族化合物、ハロゲン化環状および非環状スルホニルイミド、ハロゲン化環状および非環状リン酸エステル、ハロゲン化環状および非環状ホスフィン、ハロゲン化環状および非環状ホスファイト、ハロゲン化環状および非環状ホスファゼン、ハロゲン化環状および非環状シリルアミン、ハロゲン化環状および非環状ハロゲン化エステル、ハロゲン化環状および非環状アミド、ハロゲン化環状および非環状無水物およびハロゲン化有機複素環によって形成される群から選択されることを特徴とする、請求項10に記載の充電式電池セル(20、40、101)。
【請求項12】
前記電解質は、前記電解質組成の総重量に関して以下の組成を有することを特徴とする、請求項1~11の何れか1項に記載の充電式電池セル(20、40、101):
(i)5から99.4wt%の二酸化硫黄、
(ii)0.6から95wt%の前記第一の導電塩、
(iii)0から25wt%の前記第二の導電塩、および
(iV)0から10wt%の前記添加剤。
【請求項13】
前記第一の導電塩の物質量濃度は、前記電解質の総容積に関して0.01モル/lから10モル/l、好ましくは0.05モル/lから10モル/l、さらに好ましくは0.1モル/lから6モル/lおよび特に好ましくは0.2モル/lから3.5モル/lの範囲にあることを特徴とする、請求項1~12の何れか1項に記載の充電式電池セル(20、40、101)。
【請求項14】
前記電解質は、1モルの導電塩当たり少なくとも0.1モルのSO
2、好ましくは少なくとも1モルのSO
2、さらに好ましくは少なくとも5モルのSO
2、さらに好ましくは少なくとも10モルのSO
2および特に好ましくは少なくとも20モルのSO
2を含むことを特徴とする、請求項1~3の何れか1項に記載の充電式電池セル(20、40)。
【請求項15】
前記充電式電池セル(20、40、101)は、少なくとも4.0ボルト、さらに好ましくは少なくとも4.4ボルト、さらに好ましくは少なくとも4.8ボルト、さらに好ましくは少なくとも5.2ボルト、さらに好ましくは少なくとも5.6ボルトおよび特に好ましくは少なくとも6.0ボルトのセル電圧を有することを特徴とする、請求項1~14の何れか1項に記載の充電式電池セル(20、40、101)。
【請求項16】
前記活性金属は、以下のものであることを特徴とする、前項のうちいずれか一つに記載の充電式電池セル(20、40、101):
- アルカリ金属、特にリチウムまたはナトリウム、
- アルカリ土類金属、特にカルシウム、
- 元素周期表第12族の金属、特に亜鉛、または
- アルミニウム。
【請求項17】
前記正極(23、44)は、前記活物質(24)として好ましくはA
xM’
yM”
zO
aの組成を有する、少なくとも一つの化合物を含み、以下のとおりであることを特徴とする、請求項1~15の何れか1項に記載の充電式電池セル(20、40、101):
- Aは、アルカリ金属、アルカリ土類金属、元素周期表第12族の金属またはアルミニウムによって形成される群から選択される、少なくとも一つの金属であり、
- M’は、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、CuおよびZnの元素によって形成される群から選択される、少なくとも一つの金属であり、
- M”は、元素周期表の第2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15および16族の元素によって形成される群から選択される、少なくとも一つの元素であり、
- xおよびyは、それぞれ独立した0より大きい数であり、
- zは、0以上の数であり、さらに
- aは、0より大きい数である。
【請求項18】
前記化合物は、Li
xNi
y1Mn
y2Co
zO
aの組成を有し、x、y1およびy2はそれぞれ独立した0より大きい数であり、zは0以上の数であり、aは0より大きい数であることを特徴とする、請求項17に記載の充電式電池セル(20、40、101)。
【請求項19】
前記化合物は、A
xM’
yM”
1
z1M”
2
z2O
4の組成を有し、M”
1は、元素周期表の第2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15および16族の元素によって形成される群から選択される、少なくとも一つの元素であり、M”
2は
リンであり、zは0以上の数であり、z2の値は1であることを特徴とする、請求項17に記載の充電式電池セル(20、40、101)。
【請求項20】
前記正極(23、44)は、金属酸化物、金属ハロゲン化物および金属リン酸塩によって形成される群から選択される、少なくとも一つの金属化合物を含み、前記金属化合物の金属は、好ましくは元素周期表の原子番号22から28の遷移金属、特にコバルト、ニッケル、マンガンまたは鉄であることを特徴とする、請求項1~19の何れか1項に記載の充電式電池セル(20、40、101)。
【請求項21】
前記正極(23、44)は、スピネル、層状酸化物、変換化合物またはポリアニオン化合物の化学構造を有する、少なくとも一つの金属化合物を含むことを特徴とする、請求項1~20の何れか1項に記載の充電式電池セル(20、40)。
【請求項22】
前記負極(22、45)は、活物質として好ましくは炭素、特に修飾体であるグラファイトを含む挿入電極であることを特徴とする、請求項1~21の何れか1項に記載の充電式電池セル(20、40、101)。
【請求項23】
交互に積層されてまたは巻かれて前記ハウジング(28)内に配置されている、少なくとも一つの負極(22、45)と少なくとも一つの正極(23、44)を含んでなり、前記正極(23、44)および前記負極(22、45)は、好ましくはそれぞれ少なくとも一つのセパレータ(21,13)によって互いに電気的に分離されていることを特徴とする、請求項1~22の何れか1項に記載の充電式電池セル(20、40、101)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、SO2系電解質を有する充電式電池セルに関する。
【背景技術】
【0002】
充電式電池セルは、多くの技術分野において非常に重要である。多くの場合、当該充電式電池セルは、例えば携帯電話の作動のように比較的小さい電流を有する小さい充電式電池セルのみが必要とされるような用途に使用されている。しかしながら大きなエネルギー用途のためにより大きい充電式電池セルの需要も多く、車両の電気駆動用には電池セルの形状におけるエネルギーを大量に蓄積することが特に重要である。
【0003】
この種の充電式電池セルに求められる重要な要件は、高いエネルギー密度である。このことは前記充電式電池セルが重量および容積単位当たりの電気エネルギーを可能な限り多く含む必要があることを意味する。このため活性金属としてリチウムが特に有利であることが証明されている。充電式電池セルの活性金属とは、電解質中の当該活性金属のイオンが前記セルの充放電時に負極または正極に移動してそこで電気化学プロセスに参加する金属を指す。当該電気化学プロセスは、直接的または間接的に外部回路へ電子の放出または前記外部回路からの電子の受容につながる。活性金属としてリチウムを含む充電式電池セルは、リチウムイオン電池とも称される。電極の比容量の増加あるいはセル電圧の増加のいずれかによって当該リチウムイオン電池のエネルギー密度を高めることが可能である。
【0004】
リチウムイオン電池の正極と負極の両方は、挿入電極として形成されている。本発明の意味合いにおける「挿入電極」という用語は、結晶構造を有する電極であって、前記リチウムイオン電池の作動時に前記活物質のイオンを当該結晶構造に蓄積または放出することが可能であると理解される。このことは、電極過程が電極の表面だけではなく前記結晶構造内でも生じ得ることを意味する。前記リチウムイオン電池の充電時には前記活性金属のイオンが前記正極から放出されて前記負極へと蓄積される。前記リチウムイオン電池の放電時には逆のプロセスが実施される。
【0005】
前記電解質も充電式電池セルにとって重要な機能要素である。当該電解質は、通常、溶媒または溶媒混合物と少なくとも一つの導電塩を含む。例えば固体電解質またはイオン溶液は、溶媒を含まず、前記導電塩のみを含む。前記電解質は、前記電池セルの前記正極および前記負極と接触している。前記導電塩の少なくとも一つのイオン(アニオンまたはカチオン)は、イオン伝導によって前記充電式電池セルの機能にとって必要である電極間の電荷輸送が実施され得るように、前記電解質中において移動可能である。前記電解質は、前記充電式電池セルの所定の上限セル電圧を越えると酸化的に電気化学分解される。当該プロセスは、多くの場合、前記電解質の構成要素の不可逆的な破壊、ひいては前記充電式電池セルの故障につながる。還元的プロセスも所定の下限セル電圧を下回ると前記電解質を破壊し得る。当該プロセスを回避するには前記正極および前記負極は、前記セル電圧が前記電解質の分解電圧より小さくあるいは大きくなるように選択される。よって前記電解質が電圧ウィンドウ(英語では電圧ウィンドウ)を決定し、当該範囲内において充電式電池セルを可逆的に作動、すなわち繰り返し充電または放電することが可能である。
【0006】
先行技術より公知であるリチウムイオン電池は、有機溶媒または溶媒混合物とその中に溶解した導電塩とからなる電解質を含む。前記導電塩は、例えばヘキサフルオロリン酸リチウム(LiPF6)のようなリチウム塩である。前記溶媒混合物は、例えばエチレンカーボネートを含み得る。EC:EMC 3:7において組成1M LiPF6を有する電解質LP57は、当該電解質の一例である。前記有機溶媒または溶媒混合物を用いることによりこの種のリチウムイオン電池は、有機リチウムイオン電池とも称される。
【0007】
先行技術において導電塩として頻繁に使用されるヘキサフルオロリン酸リチウム(LiPF6)の他に、有機リチウムイオン電池のためのその他の導電塩が記載されている。例えば特許第4306858号公報(以下、[V1]と称する)において、フッ化または部分フッ化されているものであり得るテトラアルコキシ塩またはテトラアリールオキシボレート塩の形状における導電塩が記載されている。特開2001-143750号公報(以下、[V2]と称する)において、導電性塩としてフッ化または部分フッ化されたテトラアルコキシホウ酸塩およびテトラアルコキシアルミン酸塩について述べられている。両文献[V1]および[V2]において記載される導電塩は、有機溶媒または溶媒混合物に溶解されて有機リチウムイオン電池に使用されている。
【0008】
有機リチウムイオン電池の意図しない過充電が電解質の構成要素の不可逆的分解につながることは以前から知られている。この際、前記有機溶媒および/または前記導電塩の酸化分解は、前記正極の表面で生じる。当該分解の間に形成される反応熱とこの際に発生する気体状生成物とは、その後に続く、いわゆる「熱暴走」(「熱暴走」の英語)とこれによって生じる前記有機リチウムイオン電池の破壊との原因となる。当該有機リチウムイオン電池のための充電プロトコルの大半は、充電終了の指標としてセル電圧を用いる。この際、熱暴走による事故は、容量が異なる複数の有機リチウムイオン電池が直列に接続されるマルチセル電池パックを使用した場合に特に生じやすい。
【0009】
したがって有機リチウムイオン電池には、自身の安定性および長期使用時の動作安全性に関して問題がある。安全上のリスクは、特に前記有機溶媒または溶媒混合物の可燃性によっても生じる。有機リチウムイオン電池が発火あるいは爆発すらした場合、前記電解質の有機溶媒が可燃物を形成する。このような安全上のリスクを回避するためには、さらなる対策を実施することが必要となる。当該対策には特に前記有機リチウムイオン電池の充電および放電のプロセスの極めて正確な制御と電池構造の最適化が含まれる。さらに前記有機リチウムイオン電池は、意図しない温度上昇時に溶解する構成要素を含み、その際に前記有機リチウムイオン電池を溶解プラスチックで満たす可能性がある。これによりさらなる制御不能な温度上昇が回避される。しかしながら当該対策は、前記有機リチウムイオン電池の製造時の製造コストの上昇と体積および重量の増加とにつながる。さらに当該対策は、前記有機リチウムイオン電池のエネルギー密度を低下させる。
【0010】
先行技術より公知である発展態様では、充電式電池セルにおいて有機電解質に代えて二酸化硫黄(SO2)系電解質を使用するようにしている。SO2系電解質を含む充電式電池セルは、とりわけ高いイオン伝導性を有する。本発明の意味合いにおける「SO2系電解質」という用語は、添加剤としてSO2を低濃度で含むだけではなく、電解質に含まれており電荷輸送を実施させる導電塩のイオン移動度が少なくとも部分的、大半、あるいは完全にSO2によって保証される電解質であると理解される。よってSO2は、前記導電塩のための溶媒として機能する。前記導電塩は、気体状のSO2と液状の溶媒和化合物複合体を形成し得て、その際にSO2が結合して純粋なSO2に対して蒸気圧が顕著に低下する。より低い蒸気圧を有する電解質が生成される。この種のSO2系電解質は、前述の有機電解質に対して不燃性という利点を有する。よって電解質の可燃性に起因して生じる安全上のリスクを排除することが可能である。
【0011】
有機電解溶媒を有するリチウムイオン電池においても、SO2系電解質を有する充電式電池セルにおいても、正極および負極のための結合剤の選択は、重要である。結合剤とは、電極の機械的安定性と化学的安定性とを向上するためのものである。負極上の表層の形成とこれによる第一のサイクルにおける表層容量とを可能な限り小さく、電池セルのサービス寿命を長くすべきである。当該結合剤は、充放電サイクルにおいて生じ得る誤作動の際に前記活性金属(すなわちリチウムイオン電池の場合はリチウム)が金属析出されて前記結合剤と接触した場合であっても使用される電解質に対して安定性を有し、長期に亘って自身の安定性を保持する必要がある。前記結合剤が前記金属と反応すると、前記電極の機械的構造の不安定化につながる。電解質における結合剤は、電極表面の濡れ性に影響を与える。濡れ性が損なわれることは、充電式電池セル内における高抵抗につながる。その結果、前記充電式電池セルの作動時に問題が生じる。前記結合剤の選択における大事な観点は、導体要素の形状である。導体要素は、平面状、例えば薄い金属シートまたは薄い金属箔の形状において、あるいは三次元的に多孔金属構造の形状、例えば金属発泡体の形状において形成され得る。三次元的な多孔金属構造は、電極の活物質を前記金属構造体の孔内に取り入れることが可能であるように多孔質である。前記平面状の導体要素の場合、前記活物質は前記平面状の導体要素の前面および/または背面の表面に塗布される。導体要素の形状に応じて前記結合剤に対する様々な要求、例えば導体要素に対する接着性が十分である必要がある、などが存在する。前記結合剤と電極内の自身の質量割合との選択の際に多くの場合、一方では機械的安定性、他方で電極の電気化学的特性の向上の間で妥協点を見出す必要がある。
【0012】
例えば「低温リチウムイオン電池におけるスチレンブタジエンゴム/カルボキシメチルセルロース(SBR/CMC)および二フッ化ポリビニリデン(PVDF)バインダーの影響について」(Jui-Pin Yen, Chia-Chin Chang, Yu-Run Lin, Sen-Thann Shen and Jin-Long Honga Journal of The Electrochemical Society, 160 (10) A1811-A1818 (2013))という論文(以下、[V3]と称する)の著者らは、エチレンカルボネート(EC)/ジエチルカルボネート(DEC)(v/v=1:1)中、導電塩としてLiPF6を含む有機電解溶媒(1M)中に結合剤SBR/CMCまたはPVDFを有するグラファイト系アノードの調査について述べている。彼らは、PVDF結合剤を有する電極は、SBR/CMC結合剤混合物を有する電極と比べてより低い抵抗、よりよい放電率およびよりよいサイクル安定性を有するという結果を得る。
【0013】
米国特許出願公開第2015/0093632号明細書(以下、[V4]と称する)において組成がLiAlCl4*SO2であるSO2系電解質が示されている。前記電解質は、導電塩として好ましくはテトラハロゲンアルミン酸リチウム、特に好ましくはテトラクロロアルミン酸リチウム(LiAlCl4)を含む。正極および負極は、並外れて厚く、三次元的な多孔金属構造を有する導体要素を有する。開始容量を高めて前記負極および前記正極の機械的安定性および化学的安定性を向上するために、例えばポリアクリル酸リチウム(LiPAA)などの共役カルボン酸のモノマー構造単位または当該共役カルボン酸のアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩またはアンモニウム塩、またはこれらの組み合わせからなるポリマーから成る結合剤Aまたは単量体のスチレンおよびブタジエン構造単位系ポリマーからなる結合剤Bあるいは結合剤AおよびBの混合物を使用することが提案されている。
【0014】
国際公開第2020/221564号(以下、[V5]と称する)にも正極の硫黄ドープ活物質との組み合わせにおける、とりわけLiAlCl4を導電塩として有するSO2系電解質が開示されている。好ましくは三次元的な多孔金属構造を有する導体要素を有する負極および正極の結合剤としては、例えばフッ化ビニリデン(THV)またはフッ化ポリビニリデン(PVDF)などのフッ化結合剤、例えばポリアクリル酸リチウム(LiPAA)などのポリアクリル酸塩、単量体のスチレンおよびブタジエン構造単位系ポリマーからなる結合剤あるいはカルボキシメチルセルロース基の結合剤などが提案される。前記負極については特に共役カルボン酸のアルカリ酸のポリマーが特に有用であることが判明した。前記正極については特にTHVおよびPVDFが有用であることが判明した。
【0015】
とりわけ当該SO2系電解質においても生じる欠点は、微量の水が残留している可能性がある場合に生成される加水分解生成物が前記充電式電池セルのセル構成要素と反応し、これによって所望しない副産物の生成につながるということにある。そのため、SO2系電解質を用いてこの種の充電式電池セルを製造する際には電解質およびセル構成要素に含まれる残留水分量を最小限に抑えるように注意する必要がある。
【0016】
SO2系電解質のさらなる問題は、多くの、特に有機リチウムイオン電池において公知である導電塩がSO2に溶解不能であるということがある。
【0017】
【0018】
測定によりSO2が例えば以下のような多くの導電塩に対して貧溶媒であることが判明した:フッ化リチウム(LiF)、臭化リチウム(LiBr)、硫酸リチウム(Li2SО4)、ホウ酸ビス(オキサラト)リチウム(LiBОB)、ヘキサフルオロアルセン酸リチウム(LiAsF6)、テトラフルオロホウ酸リチウム(LiBF4)、ヘキサフルオロアルミン酸三リチウム(Li3AlF6)、ヘキサフルオロアンチモン酸リチウム(LiSbF6)、ジフルオロ(オキサラト)ホウ酸リチウム(LiBF2C2О4)、リチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(LiTFSl)、メタホウ酸リチウム(LiBО2)、アルミン酸リチウム(LiAlО2)、リチウムトリフラート(LiCF3SО3)およびクロロスルホン酸リチウム(LiSО3Cl)。当該導電塩のSO2に対する前記溶解性は、約10-2から10-4モル/Lである(表1を参照のこと)。これらの低い塩濃度ではせいぜい低い伝導性しか存在せず、充電式電池セルの有用な作動には不十分であると推定することが可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0019】
【特許文献1】特許第4306858号公報
【特許文献2】特開2001-143750号公報
【特許文献3】米国特許出願公開第2015/0093632号明細書
【特許文献4】国際公開第2020/221564号
【非特許文献】
【0020】
【非特許文献1】Jui-Pin Yen, Chia-Chin Chang, Yu-Run Lin, Sen-Thann Shen and Jin-Long Honga著 Journal of The Electrochemical Society, 160 (10) A1811-A1818「低温リチウムイオン電池におけるスチレンブタジエンゴム/カルボキシメチルセルロース(SBR/CMC)および二フッ化ポリビニリデン(PVDF)バインダーの影響について」2013年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0021】
SO2系電解質を含む充電式電池セルの用途および特性をさらに向上するために、本発明は、先行技術より公知である充電式電池セルと比べて以下のような、SO2系電解質を有する充電式電池セルを提案するという課題に基づいている:
- 不活性結合剤を有する電極を有し、当該結合剤は、SO2系電解質と反応せず、より高い充電電位でも安定し、酸化的な電解質分解を促進せず、表層形成のための反応を阻害しない、
- 良好な機械的安定性を有する電極の製造を可能にする結合剤を有し、
- 電極の活物質とともに前記それぞれの電極の導体要素の上に均一に分布または塗布され得、前記それぞれの電極の前記導体要素の前記活物質に対する良好な電気接続を可能にする結合剤を有し、
- 前記電解質と電極との良好な濡れ性を有し、
- 特に大型電池または広範囲に流通する電池に関して可能な限り安価で高い入手可能性を有し、
- 正極において酸化的な電解質分解が生じないように広い電気化学ウィンドウを有し、
- 負極の上に安定した表層を有し、その際、表層容量は低くあるべきであり、その後の作動時に前記負極にさらなる還元的な電解分解が発生しない、
- 導電塩の良好な溶解度を有するSO2系電解質を有し、それにより良好なイオン導体および電子絶縁体であり、よってイオン輸送を容易にして自己放電を最小限に抑え得る、
- 例えばセパレータ、電極材料およびセル外装材などの充電式電池セルにおけるその他の構成要素に対しても不活性であるSO2系電解質を含み、
- 電気的、機械的または熱的な誤用に対して頑丈であり、
- 向上した電気的性能データ、特に高いエネルギー密度を有し、
- 向上した過充電性および深放電性ならびにより低い自己放電性を有し、さらには
- より長いサービス寿命、特に高い使用可能な充放電サイクル数を示す。
【0022】
この種の充電式電池セルは、特に極めて良好な電気的エネルギーデータおよび性能データ、高い動作安定性およびサービス寿命、特に高い使用可能な充放電サイクル数を有し、その際に前記充電式電池セルの作動時に電解質が分解されることがないようにすべきである。
【課題を解決するための手段】
【0023】
当該課題は、請求項1の特徴を有する充電式電池セルによって解消される。請求項2から23は、本発明による充電式電池セルの有利である発展態様を説明するものである。
【0024】
本発明による充電式電池セルは、活性金属、平面状の導体要素を有する少なくとも一つの正極、平面状の導体要素を有する少なくとも一つの負極、ハウジングおよび第一の導電塩を含む、SO2系電解質を含んでなる。前記正極および/または前記負極は、少なくとも一つの第一の結合剤と少なくとも一つの第二の結合剤を含む。前記第一の結合剤は、単量体のスチレンおよびブタジエン構造単位系ポリマーからなる。前記第二の結合剤は、カルボキシメチルセルロース基から選択される。
【0025】
本発明による当該電池セルの開発時、出願人は、SO2系電解質の使用と平面状の導体要素の使用とに関連する、多くの困難な問題に直面した。活物質をそれぞれの結合剤または結合剤の組み合わせとともに可能な限り均一に平面状の導体要素の上に分布するためには、溶媒とともに構成要素の均質な混合物を製造することが可能でなくてはならない。当該均質な混合物の平面状の導体要素の上への塗布は、容易でなければならない。当該条件が満たされないと機械的安定性を有する電極の製造時に顕著な問題が生じる。本発明による充電式電池セルの場合、前記活物質とともに前記第一および前記第二の結合剤とを用いて均質な混合物を生成して、当該均質な混合物を容易に前記それぞれの電極の前記平面状の導体要素の上に塗布することが可能であったため、当該問題が解消された。第一の結合剤としては特にスチレンブタジエンゴムを使用することが可能である(英語:スチレンブタジエンゴム、略称:SBR)。前記第二の結合剤としては特にカルボキシメチレンセルロース(略称:CMC)が使用される。
【0026】
本発明の意味合いにおける「導体要素」という用語は、それぞれの電極の活物質の外部回路に対する必要とされる電子伝導接続を可能にするために使用される電子伝導要素を指す。このために前記導体要素は、前記電極の電極反応に関与する活物質と電子接触している。前記導体要素は、平面状、すなわちほぼ二次元的な実施形態において存在している。
【0027】
本発明における充電式電池セルにおいて使用される、SO2系電解質は、添加剤としてSO2を低濃度で含むだけではなく、電解質に含まれており電荷輸送を実施させる導電塩のイオン移動度が少なくとも部分的、大半、あるいは完全にSO2によって保証される濃度において含む。前記第一の導電塩は、前記電解質内に溶解しており、当該電解内において極めて良好な溶解性を示す。当該導電塩は、気体状のSO2とともに液状の溶媒和化合物複合体を形成することが可能であり、当該溶媒和化合物複合体内にSO2が結合される。この場合、前記液状の溶媒和化合物複合体の蒸気圧が純粋なSO2に対して顕著に低下してより低い蒸気圧を有する電解質が生成される。しかしながら本発明による電解質の製造時に前記第一の導電塩の化学構造に応じて蒸気圧低下が生じない可能があることも本発明の範囲内にある。後者の場合、本発明による電解質の製造時に低温あるいは加圧下において作業することが好ましい。前記電解質は、自身の化学構造が互いに異なる、複数の導電塩をも含み得る。
【0028】
この種の電解質を有する充電式電池セルは、当該電解質に含まれる第一の導電塩が高い酸化安定性を有することによってより高いセル電圧において分解が実質的に生じないという利点を有する。当該電解質は、好ましくは少なくとも4.0ボルトの上部電位まで、さらに好ましくは少なくとも4.2ボルトの上部電位まで、さらに好ましくは少なくとも4.4ボルトの上部電位まで、さらに好ましくは少なくとも4.6ボルトの上部電位まで、さらに好ましくは少なくとも4.8ボルトの上部電位までおよび特に好ましくは少なくとも5.0ボルトの上部電位までの酸化安定性を示す。よって充電式電池セルにおいてこのような電解質を用いた場合、作用電位内、すなわち前記充電式電池セルの両電極の充電終了電圧と放電終了電圧との間における範囲において生じる電解質分解が全くないあるいは極めて少ない。これにより本発明による充電式電池セルは、少なくとも4.0ボルト、さらに好ましくは少なくとも4.4ボルト、さらに好ましくは少なくとも4.8ボルト、さらに好ましくは少なくとも5.2ボルト、さらに好ましくは少なくとも5.6ボルトおよび特に好ましくは少なくとも6.0ボルトの充電終了電圧を有し得る。当該電解質を含む充電式電池セルのサービス寿命は、先行技術より公知である電解質を含む充電式電池セルに比べて顕著に長くなる。
【0029】
さらにこのような電解質を含む充電式電池セルは、低温安定性を有する。例えば-40℃の温度において充電された容量の61%がまだ放電され得る。低温における前記電解質の伝導性は、電池セルを作動するのに十分である。
【0030】
正極
以下において前記正極に関して本発明による充電式電池セルの有利である発展態様を説明する:
【0031】
本発明による充電式電池セルの第一の発展態様において前記正極は、少なくとも4.0ボルトの上限電位まで、好ましくは4.4ボルトの電位まで、さらに好ましくは少なくとも4.8ボルトの電位まで、さらに好ましくは少なくとも5.2ボルトの電位まで、さらに好ましくは少なくとも5.6ボルトの電位までおよび特に好ましくは少なくとも6.0ボルトの電位まで充電可能である。
【0032】
本発明による充電式電池セルの別の有利である発展態様において正極は、少なくとも一つの活物質を含む。当該活物質は、前記活性金属のイオンを貯蔵して前記電池セルの作動時に前記活性金属の前記イオンを放出して再受容することが可能である。ここで前記活物質の前記平面状の導体要素への良好な電気接続が前記正極の前記結合剤によって阻害されないことが重要である。前記第一および第二の結合剤を使用することによって前記活物質の前記正極の前記平面状の導体要素への良好な電気接続が得られ、当該電気接続は、電池内における作動時においても維持される。
【0033】
本発明による充電式電池セルの別の有利である発展態様において前記正極は、少なくとも一つの層間化合物を含んでいる。本発明の意味合いにおける「層間化合物」という用語は、前述の挿入材料の下位カテゴリーであると理解されたい。当該層間化合物は、相互接続されている空所を有するホストマトリックスとして機能する。前記充電式電池セルの放電プロセスの間に前記活性金属の前記イオンが当該空所内に拡散してそこに蓄積され得る。前記活性金属の前記イオンの当該蓄積の過程における前記ホストマトリックスの構造変化は、わずかであるか全く生じない。
【0034】
本発明による充電式電池セルの別の有利である発展態様において前記正極は、前記活物質として少なくとも一つの変換化合物を含む。本発明の意味合いにおける「変換化合物」という用語は、電気化学活性の間に他の材料を形成する材料であると理解されたい、すなわち前記電池セルの充放電の間に化学結合が分解されて再形成される。前記活性金属の前記イオンの受容および放出の際には前記変換化合物のマトリックスにおいて構造変化が生じる。
【0035】
本発明による充電式電池セルの別の有利である発展態様において前記活物質は、AxM’yM”zOaの組成を有する。当該組成AxM’yM”zOaにおいて
- Aは、アルカリ金属、アルカリ土類金属、元素周期表第12族の金属またはアルミニウムによって形成される群から選択される、少なくとも一つの金属であり、
- M’は、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、CuおよびZnの元素によって形成される群から選択される、少なくとも一つの金属であり、
- M”は、元素周期表の第2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15および16族の元素によって形成される群から選択される、少なくとも一つの元素であり、
- xおよびyは、それぞれ独立した0より大きい数であり、
- zは、0以上の数であり、さらに
- aは、0より大きい数である。
Aは、金属リチウムであることが好ましい、すなわち前記化合物は、LixM’yM”zOaの組成を有し得る。
【0036】
組成AxM’yM”zOaにおける指数yおよびzは、それぞれM’またはM”で表され金属および元素の総計を表す。例えばM’が二つの金属M’1およびM’2を含んでなる場合、指数yはy=y1+y2であり、y1およびy2は、金属M’1およびM’2の指数を表す。指数x、y、zおよびaは、前記組成内の電荷が中立になるように選択されねばならない。M’が二つの金属を含む化合物の例は、M’1=Ni、M’2=MnおよびM”=Coである組成LixNiy1Mny2CozO2のニッケルマンガンコバルト酸化リチウムである。z=0である、すなわち別の金属または要素M”を有しない化合物の例は、コバルト酸化リチウムLixCoyOaである。例えばM”が二つの要素、一方では金属であるM”1と他方ではM”2としてリンを含んでなる場合、指数zについてはz=z1+z2であり、z1およびz2は、金属M”1とリン(M”2)の指数を表す。指数x、y、zおよびaは、前記組成内の電荷が中立になるように選択されねばならない。Aがリチウム、M”が金属M”1とM”2としてリンを含んでなる化合物の例としてはA=Li、M’=Fe、M”1=Mn、M”2=Pおよびz2=1であるリチウム鉄マンガンリン酸塩LixFeyMnz1Pz2O4がある。別の組成では、M”は二つの非金属、例えばM”1としてフッ素、M”2として硫黄を含んでなることが可能である。このような化合物の例としてはA=Li、M’=Fe、M”1=FおよびM”2=Pであるリチウム鉄フルオロ硫酸塩LixFeyFz1Sz2O4がある。
【0037】
本発明による充電式電池セルの別の有利である発展態様においてM’は、ニッケルおよびマンガンの金属からなり、M”はコバルトである。この場合、式LixNiy1Mny2CozO2(NMC)である組成、すなわち層状酸化物の構成を有するリチウムニッケルマンガンコバルト酸化物であり得る。このようなリチウムニッケルマンガンコバルト酸化物からなる当該活物質の例としては、LiNi1/3Mn1/3Co1/3O2(NMC111)、LiNi0.6Mn0.2Co0.2O2(NMC622)およびLiNi0.8Mn0.1Co0.1O2(NMC811)である。リチウムニッケルマンガンコバルト酸化物からなるその他の化合物は、組成LiNi0.5Mn0.3Co0.2O2、LiNi0.5Mn0.25Co0.25O2、LiNi0.52Mn0.32Co0.16O2、LiNi0.55Mn0.30Co0.15O2、LiNi0.58Mn0.14Co0.28O2、LiNi0.64Mn0.18Co0.18O2、LiNi0.65Mn0.27Co0.08O2、LiNi0.7Mn0.2Co0.1O2、LiNi0.7Mn0.15Co0.15O2、LiNi0.72Mn0.10Co0.18O2、LiNi0.76Mn0.14Co0.10O2、LiNi0.86Mn0.04Co0.10O2、LiNi0.90Mn0.05Co0.05O2、LiNi0.95Mn0.025Co0.025O2あるいはこれらの組み合わせを有し得る。当該化合物を用いることで4.6ボルトより大きいセル電圧を有する充電式電池セルのための正極を製造することが可能である。
【0038】
本発明による充電式電池セルの別の有利である発展態様において前記活物質は、リチウムとマンガンに富む金属酸化物(英語ではリチウムおよびマンガンが豊富な酸化物材料)である。当該金属酸化物は、組成LixMnyM”zOaを有し得る。よってM’は、上述の式LixM’yM”zOaにおいて金属マンガン(Mn)を表す。ここでの指数xは、1以上であり、指数yは、指数zまたは指数z1+z2+z3などの和より大きい。例えばM”が指数z1およびz2の二つの金属M”1およびM”2を含んでなる場合(例えば、M”1=Ni z1=0.175およびM”2=Co z2=0.1であるLi1.2Mn0.525Ni0.175Co0.1O2)、指数yについてはy>z1+z2が当てはまる。指数zは、0以上であり、指数aは0より大きい。指数x、y、zおよびaは、前記組成内の電荷が中立になるように選択されねばならない。リチウムとマンガンに富む金属酸化物は、0<m<1である式mLi2MnO3(1-m)LiM’O2によって表すことも可能である。この種の化合物の例は、Li1.2Mn0.525Ni0.175CO0.1O2、Li1.2Mn0.6Ni0.2O2またはLi1.2Ni0.13CO0.13Mn0.54O2である。
【0039】
本発明による充電式電池セルの別の有利である発展態様において前記組成は、式AxM’yM”zO4を有する。当該化合物は、スピネル構造である。例えばAがリチウム、M’がコバルトおよびM”がマンガンであり得る。この場合、前記活物質は、リチウムコバルトマンガン酸化物(LiCoMnO4)である。LiCoMnO4を用いて4.6ボルトより大きいセル電圧を有する充電式電池セルのための正極を製造することが可能である。当該LiCoMnO4は、Mn3+を含まないことが好ましい。別の例においてM’がニッケル、M”がマンガンであり得る。この場合の活物質は、リチウムニッケルマンガン酸化物(LiNiMnO4)である。両金属M’およびM”のモル比は、異なっていてもよい。リチウムニッケルマンガン酸化物は、例えばLiNi0.5Mn1.5O4の組成を有し得る。
【0040】
本発明による充電式電池セルの別の有利である発展態様において前記正極は、変換化合物である、少なくとも一つの活物質を含む。変換化合物は、例えばリチウムまたはナトリウムなどの活性金属を受容する際に固体酸化還元反応が生じてその際に材料の結晶構造が変化する。このことは化学結合の分解および再形成下において生じる。変換化合物の完全可逆反応は、例えば以下のとおりであり得る:
タイプA: MXz+yLi ⇔ M+zLi(y/z)X
タイプB: X+yLi ⇔ LiyX
変換化合物の例は、FeF2、FeF3、CoF2、CuF2、NiF2、BiF3、FeCl3、FeCl2、CoCl2、NiCl2、CuCl2、AgCl、LiCl、S、Li2S、Se、Li2Se、Te、IおよびLilである。
【0041】
別の有利である発展態様において前記化合物は、AxM’yM”z1M”z2O4の組成を有し、M”は、リンであり、z2の値は1である。組成LixM’yM”z1M”z2O4を有する化合物は、いわゆるリン酸金属リチウムである。当該化合物は、特に組成LixFeyMnz1Pz2O4を有する。リン酸金属リチウムの例は、リン酸鉄リチウム(LiFePO4)またはリン酸鉄マンガンリチウム(Li(FeyMnz)PO4)である。リン酸鉄マンガンリチウムの例としては、組成Li(Fe0.3Mn0.7)PO4のリン酸塩が挙げられる。リン酸鉄マンガンリチウムの例としては、組成Li(Fe0.3Mn0.7)PO4のリン酸塩が挙げられる。他の組成を有するリン酸金属リチウムを本発明による電池セルにおいて使用することも可能である。
【0042】
本発明による充電式電池セルの別の有利である発展態様において前記正極は、少なくとも一つの金属化合物を含む。当該金属化合物は、金属酸化物、金属ハロゲン化物および金属リン酸塩によって形成される群から選択される。当該金属化合物の金属は、元素周期表の原子番号22から28の遷移金属、特にコバルト、ニッケル、マンガンまたは鉄であることが好ましい。
【0043】
本発明による充電式電池セルの別の有利である発展態様において前記正極は、スピネル、層状酸化物、変換化合物またはポリアニオン化合物の化学構造を有する、少なくとも一つの金属化合物を含む。
【0044】
前記正極は、活物質として前述の化合物または前記化合物の組み合わせのうち少なくとも一つを含むことは、本発明の範囲内にある。前記化合物の組み合わせとは、前述の材料のうち少なくとも二つを含む正極を意味する。
【0045】
本発明による電池セルは、平面状の導体要素を有する正極を有する。このことは、前記正極が前記活物質の他に導体要素をも含むことを意味する。当該導体要素は、前記正極の前記活物質の必要とされる電子伝導接続を可能にするために使用される。そのために前記導体要素は、前記正極の電極反応に関与する前記活物質と接触している。当該平面状の導体要素は、薄い金属シートまたは薄い金属箔であることが好ましい。前記薄い金属箔は、有孔状または網目状構造を有し得る。前記平面状の導体要素は、金属がコーティングされたプラスチック箔からなることも可能である。当該金属コーティングは、0.1μmから20μmの範囲における厚みを有する。前記正極の前記活物質は、前記薄い金属シート、前記薄い金属箔あるいは前記金属がコーティングされたプラスチック箔の表面に塗布されていることが好ましい。前記活物質は、前記平面状の導体要素の前面および/または背面に塗布され得る。この種の平面状の導体要素は、5μmから50μmの範囲における厚みを有する。前記平面状の導体要素の厚みは、10μmから30μmの範囲であることが好ましい。平面状の導体要素を使用する場合、前記正極の総厚みは、少なくとも20μm、好ましくは少なくとも40μmおよび特に好ましくは少なくとも60μmであり得る。最大厚みは、多くとも200μm、好ましくは多くとも150μmおよび特に好ましくは多くとも100μmである。前記正極の一面におけるコーティングに関する面積比静電容量は、平面状の導体要素を使用した場合、好ましくは少なくとも0.5mAh/cm2であり、さらにはこの順における以下の値が好ましい:1mAh/cm2、3mAh/cm2、5mAh/cm2、10mAh/cm2、15mAh/cm2、20mAh/cm2。前記導体要素が、平面状に薄い金属シート、薄い金属箔または金属がコーティングされたプラスチック箔の形状に形成されている場合、前記正極の前記活物質の量、すなわち一面のコーティングに関する前記電極の充填量は、好ましくは少なくとも1mg/cm2、好ましくは少なくとも3mg/cm2、さらに好ましくは少なくとも5mg/cm2、さらに好ましくは少なくとも8mg/cm2、さらに好ましくは少なくとも10mg/cm2および特に好ましくは少なくとも20mg/cm2である。
【0046】
一面のコーティングに関する前記電極の最大充填量は、好ましくは多くとも150mg/cm2、さらに好ましくは多くとも100mg/cm2および特に好ましくは多くとも80mg/cm2である。
【0047】
本発明による電池セルの別の有利である発展態様において前記正極は、前記第一および前記第二の結合剤とは異なる、別の結合剤を有する。当該別の結合剤は、好ましくは以下のものである:
- フッ化結合剤、特にフッ化ポリビニリデン(略称:PVDF)および/またはテトラフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレンおよびフッ化ビニリデンによって形成されるターポリマー、または
- 共役カルボン酸のモノマー構造単位または当該共役カルボン酸のアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩またはアンモニウム塩、またはこれらの組み合わせからなるポリマー。
【0048】
ポリマーの形状における前記別の結合剤は、ポリアクリル酸リチウム(LiPAA)であり得る。前記正極は、前記第一および前記第二の結合剤とは異なる、二つの別の結合剤を有することも可能である。この場合、前記正極は、フッ化結合剤の形状における第三の結合剤、特にフッ化ポリビニリデン(略称:PVDF)および/またはテトラフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレンおよびフッ化ビニリデンによって形成されるターポリマーと、共役カルボン酸のモノマー構造単位または当該共役カルボン酸のアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩またはアンモニウム塩、またはこれらの組み合わせからなるポリマーの形状における第四の結合剤を含むことが好ましい。前記フッ化結合剤を使用する場合、当該フッ化結合剤が多くの場合には可燃性が高く、環境に有害である有機溶媒にしか溶解しないという問題がある。フッ化結合剤を用いて正極を製造する場合には、当該溶媒の使用を考慮した複雑な装置を使用する必要がある。この際に特に防爆、環境保護およびスタッフの被爆保護が問題となる。当該問題は、本発明による電池セルの有利である発展態様の開発時に出願人が考慮する必要があった。
【0049】
本特許出願の充電式電池セルの開発時に出願人は、正極の総重量に関する前記第一、第二、第三および/または第四の結合剤の最適な濃度を求めることが困難であることを発見した:正極における濃度が低すぎると製造された正極の取り扱い性が悪くなるのは、例えば結合剤を含まない電極は、導体要素に対する接着性を有さないため、活物質の粒子放出が生じ、その結果、製造された充電式電池セルが使用不能であることがあり得る。結合剤の濃度が高くなりすぎることも充電式電池セルのエネルギー密度に対して悪影響を及ぼす。結合剤の重量によってエネルギー密度が低下するからである。さらに結合剤濃度が高すぎるとSO2系電解質による正極の濡れ性が悪化する。そのため、正極における全ての結合剤の濃度は、正極の総重量に関して好ましくは多くとも20wt%、さらに好ましくは多くとも15wt%、さらに好ましくは多くとも10wt%、さらに好ましくは多くとも7wt%、さらに好ましくは多くとも5wt%、さらに好ましくは多くとも2wt%、さらに好ましくは多くとも1wt%および特に好ましくは多くとも0.5wt%である。正極における全ての結合剤の濃度は、好ましくは0.05wt%から20wt%の範囲、さらに好ましくは0.5wt%から10wt%の範囲および特に好ましくは0.5wt%から5wt%の範囲にある。前述の濃度により、このような正極を用いてSO2系電解質による正極の良好な濡れ性、正極の良好な取り扱い性および充電式電池セルの良好なエネルギー密度が可能となる。
【0050】
電解質
以下においてSO2系電解質に関して充電式電池セルの有利である発展態様を説明する。
【0051】
本発明による充電式電池セルの有利な発展態様において前記第一の導電塩は、
- アルカリ金属化合物、特にリチウム化合物であって、当該リチウム化合物は、アルミン酸塩、特にテトラハロゲンアルミン酸リチウム、ハロゲン化物、シュウ酸塩、ホウ酸塩、リン酸塩、ヒ酸塩およびガレートによって形成される群から選択され、さらに
- 以下の式(I)を有する導電塩、によって形成される群から選択され、
【化1】
- Mは、アルカリ金属、アルカリ土類金属、元素周期表第12族の金属およびアルミニウムによって形成される群から選択される金属であり、
- xは、1から3の整数であり、
- 置換基R
1、R
2、R
3およびR
4は、互いに独立してC
1~C
10アルキル、C
2~C
10アルケニル、C
2~C
10アルキニル、C
3~C
10シクロアルキル、C
6~C
14アリールおよびC
5~C
14ヘテロアリールによって形成される群から選択され、さらに
- 中心原子Zは、アルミニウムまたはホウ素である。
【0052】
本発明の意味合いにおける「C1~C10アルキル」という用語は、1から10の炭素原子を有する直鎖状または分枝状の飽和炭化水素基を含んでなる。これには特にメチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチル、sec-ブチル、イソブチル、tert-ブチル、n-ペンチル、イソペンチル、2、2-ジメチルプロピル、n-ヘキシル、イソヘキシル、2-エチルヘキシル、n-ヘプチル、イソヘプチル、n-オクチル、イソオクチル、n-ノニル、n-デシルなどが該当する。
【0053】
本発明の意味合いにおける「C2~C10アルケニル」という用語は、2から10の炭素原子を有する不飽和直鎖状または分枝状の炭化水素基を含んでなり、前記炭化水素基は少なくとも一つのC-C二重結合を有する。これには特にエテニル、1-プロペニル、2-プロペニル、1-n-ブテニル、2-n-ブテニル、イソブテニル、1-ペンテニル、1-ヘキセニル、1-ヘプテニル、1-オクテニル、1-ノネニル、1-デセニルなどが該当する。
【0054】
本発明の意味合いにおける「C2~C10アルキニル」という用語は、2から10の炭素原子を有する不飽和直鎖状または分枝状の炭化水素基を含んでなり、前記炭化水素基は少なくとも一つのC-C三重結合を有する。これには特にエチニル、1-プロピニル、2-プロピニル、1-n-ブチニル、2-n-ブチニル、イソブチニル、1-ペンチニル、1-ヘキシニル、1-ヘプチニル、1-オクチニル、1-ノニニル、1-デシニルなどが該当する。
【0055】
本発明の意味合いにおける「C3~C10シクロアルキル」という用語は、3から10の炭素原子を有する環状飽和炭化水素基を含んでなる。これには特にシクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシル、シクロヘプチル、シクロへキシル、シクロノニルおよびシクロデカニルが該当する。
【0056】
本発明の意味合いにおける「C6~C14アリール」という用語は、6から14の環状炭素原子を有する芳香族炭化水素基を含んでなる。これには特にフェニル(C6H5基)、ナフチル(C10H7基)およびアントラシル(C14H9基)が該当する。
【0057】
本発明の意味合いにおける「C5~C14ヘテロアリール」という用語は、5から14の環状炭化水素原子を有する芳香族炭化水素基を含んでなり、当該炭化水素原子のうち少なくとも一つが窒素原子、酸素原子または硫黄原子によって置換または交換されている。これには特にピロリル、フラニル、チオフェニル、ピリジニル、ピラニル、チオピラニルなどが該当する。前述の炭化水素基の全ては、それぞれ前記酸素原子を介して式(I)による中心原子に結合している。
【0058】
前記テトラハロゲンアルミン酸リチウムは、テトラクロロアルミン酸リチウム(LiAlCl4)であり得る。
【0059】
前記充電式電池セルの別の好ましい実施態様において前記式(I)による前記第一の導電塩の前記置換基R1、R2、R3およびR4は、互いに独立して以下によって形成される群から選択される:
- C1~C6アルキル、好ましくはC2~C4アルキル、特に好ましくは2-プロピル、メチルおよびエチルのアルキル基、
- C2~C6アルケニル、好ましくはC2~C4アルケニル、特に好ましくはエテニルおよびプロペニルのアルケニル基、
- C2~C6アルキニル、好ましくはC2~C4アルキニル、
- C3~C6シクロアルキル、
- フェニル、および
- C5~C7ヘテロアリール。
【0060】
前記SO2系電解質の当該有利である実施態様の場合、「C1~C6アルキル」という用語は、1から6の炭化水素基を有する直鎖状または分枝状の飽和炭化水素基、特にメチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチル、sec-ブチル、イソブチル、tert-ブチル、n-ペンチル、イソペンチル、2、2-ジメチルプロピル、n-ヘキシルおよびイソヘキシルを含んでなる。これらのうちC2~C4アルキルが好ましい。特に好ましいのはC2~C4アルキルの2-プロピル、メチルおよびエチルである。
【0061】
前記SO2系電解質の当該有利である実施態様の場合、「C2~C6アルケニル」という用語は、2から6の炭素原子を有する不飽和直鎖状または分枝状の炭化水素基を含んでなり、前記炭化水素基は少なくとも一つのC-C二重結合を有する。これには特にエテニル、1-プロペニル、2-プロペニル、1-n-ブテニル、2-n-ブテニル、イソブテニル、1-ペンテニル、1-ヘキセニルが該当し、C2~C4アルケニルが好ましい。特に好ましいのはエテニルおよび1-プロペニルである。
【0062】
前記SO2系電解質の当該有利である実施態様の場合、「C2~C6アルキニル」という用語は、2から6の炭素原子を有する不飽和直鎖状または分枝状の炭化水素基を含んでなり、前記炭化水素基は少なくとも一つのC-C三重結合を有する。これには特にエチニル、1-プロピニル、2-プロピニル、1-n-ブチニル、2-n-ブチニル、イソブチニル、1-ペンチニル、1-ヘキシニルが該当する。これらのうちC2~C4アルキニルが好ましい。
【0063】
前記SO2系電解質の当該有利である実施態様の場合、「C3~C6シクロアルキル」という用語は、3から6の炭素原子を有する環状飽和炭化水素基を含んでなる。これには特にシクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチルおよびシクロヘキシルが該当する。
【0064】
前記SO2系電解質の当該有利である実施態様の場合、「C5~C7ヘテロアリール」という用語は、フェニールおよびナフチルを含んでなる。
【0065】
SO2系電解質における前記第一の導電塩の溶解度を向上するために、充電式電池セルの別の好ましい実施態様において前記置換基R1、R2、R3およびR4は、少なくとも一つのフッ素原子および/または少なくとも一つの化学基によって置換されており、前記化学基は、C1~C4アルキル、C2~C4アルケニル、C2~C4アルキニル、フェニールおよびベンジルによって形成される群から選択される。前記化学基C1~C4アルキル、C2~C4アルケニル、C2~C4アルキニル、フェニールおよびベンジルは、前述の炭化水素基と同様の特性または化学構造を有する。当該文脈における置換とは、前記置換基R1、R2、R3およびR4の個々の原子または原子団が前記フッ素原子および/または前記化学基によって置換されていることを意味する。
【0066】
前記置換基R1、R2、R3およびR4のうち少なくとも一つがCF3基またはОSО2CF3基であることにより極めて高い前記SO2系電解質における前記第一の導電塩の溶解度を得ることが可能である。
【0067】
前記充電式電池セルの別の有利である発展態様において式(I)による前記第一の導電塩は、以下によって形成される群から選択される:
【0068】
【0069】
前記電解質の伝導性および/またはその他の特性を所望する値に適合するために、本発明による充電式電池セルの別の有利である実施態様において前記電解質は、前記第一の導電塩とは異なる、少なくとも一つの第二の導電塩を含む。このことは前記電解質が前記第一の導電塩の他に自身の化学組成のみならず自身の化学構造においても前記第一の導電塩とは異なる、一つあるいはそれ以上の第二の導電塩を含み得ることを意味する。
【0070】
さらに本発明による充電式電池セルの別の好ましい実施態様において前記電解質は、少なくとも一つの添加剤を含む。当該添加剤は、ビニレンカーボネートおよび自身の誘導体、ビニルエチレンカーボネートおよび自身の誘導体、メチルエチレンカーボネートおよび自身の誘導体、リチウム(ビスオキサラト)ホウ酸、ジフルオロ(オキサラト)ホウ酸リチウム、テトラフルオロ(オキサラト)リン酸リチウム、シュウ酸リチウム、2-ビニルピリジン、4-ビニルピリジン、環状エキソメチレンカーボネート、スルホン、環状および非環状スルホン酸塩、非環状亜硫酸塩、環状および非環状スルフィン酸エステル、無機酸の有機エステル、非環状および環状アルカン(当該非環状および環状アルカンは1バールで少なくとも36℃の沸点を有する)、芳香族化合物、ハロゲン化環状および非環状スルホニルイミド、ハロゲン化環状および非環状リン酸エステル、ハロゲン化環状および非環状ホスフィン、ハロゲン化環状および非環状ホスファイト、ハロゲン化環状および非環状ホスファゼン、ハロゲン化環状および非環状シリルアミン、ハロゲン化環状および非環状ハロゲン化エステル、ハロゲン化環状および非環状アミド、ハロゲン化環状および非環状無水物およびハロゲン化有機複素環によって形成される群から選択されることが好ましい。
【0071】
本発明による充電式電池セルの別の好ましい発展態様において前記電解質は、前記電解質組成の総重量に関して以下の組成を有する:
(i)5から99.4wt%の二酸化硫黄、
(i)0.6から95wt%の前記第一の導電塩、
(iii)0から25wt%の前記第二の導電塩、および
(iV)0から10wt%の前記添加剤。
【0072】
前述のとおり前記電解質は、一つの前記第一の導電塩と一つの第二の導電塩とだけではなくそれぞれ複数の第一の導電塩と複数の第二の導電塩とを含むことが可能である。後者の場合、前述の割合は、複数の第一の導電塩と複数の第二の導電塩とを含むものである。前記第一の導電塩の物質量濃度は、前記電解質の総容積に関して0.01モル/lから10モル/l、好ましくは0.05モル/lから10モル/l、さらに好ましくは0.1モル/lから6モル/lおよび特に好ましくは0.2モル/lから3.5モル/lの範囲にある。
【0073】
本発明による充電式電池セルの別の好ましい発展態様において前記電解質は、1モルの導電塩当たり少なくとも0.1モルのSO2、好ましくは少なくとも1モルのSO2、さらに好ましくは少なくとも5モルのSO2、さらに好ましくは少なくとも10モルのSO2および特に好ましくは少なくとも20モルのSO2を含む。前記電解質は、極めて高いモル比のSO2を含むことも可能であり、好ましい上限値は、1モルの導電塩当たり2600モルのSO2であり、さらに1モルの導電塩当たり1500、1000、500および100モルのSO2の上限がこの順において好ましい。「1モルの導電塩当たり」という用語は、前記電解質に含まれる全ての導電塩を指す。SO2と前記導電塩との間におけるこの種の濃度比を有するSO2系電解質は、当該電解質が先行技術より公知である、例えば有機溶媒混合物系の電解質と比べてより多量の導電塩を溶解することが可能であるという利点を有する。本発明の範囲内において意外にも比較的小さな導電塩濃度を有する電解質は、それに伴って蒸気圧が上昇するにも関わらず特に前記充電式電池セルの多数の充放電サイクルに対する自身の安定性に関して有利であることが判明した。前記電解質におけるSO2濃度は、当該電解質の伝導性に影響を及ぼす。よってSO2濃度を選択することによって前記電解質の伝導性を当該電解質によって作動される充電式電池セルの使用目的に適用させることが可能である。SO2と前記第一の導電塩の総重量は、前記電解質の重量の50重量パーセント(wt%)よりも多いことが可能であり、好ましくは60wt%より多く、さらに好ましくは70wt%より多く、さらに好ましくは80wt%より多く、さらに好ましくは85wt%より多く、さらに好ましくは90wt%より多く、さらに好ましくは95wt%より多くあるいはさらに好ましくは99wt%より多い。
【0074】
前記電解質は、前記充電式電池セルに含まれる前記電解質の総量に関して少なくとも5wt%のSO2を含み得、さらに好ましいのは20wt%のSO2、40wt%のSO2および60wt%のSO2の値である。前記電解質は、95wt%までのSO2を含み得て、80wt%のSO2および90wt%のSO2の最大値がこの順で好ましい。
【0075】
前記電解質における少なくとも一つの有機溶媒の割合は、わずかあるいは全くないことも本発明の範囲内にある。例えば溶媒または複数の有機溶媒の混合物の形状において存在する、電解質における有機溶媒の割合は、前記電解質の重量の多くとも50wt%であり得る。特に好ましいのは前記電解質の重量に関して多くとも40wt%、多くとも30wt%、多くとも20wt%、多くとも15wt%、多くとも10wt%、多くとも5wt%あるいは多くとも1wt%である、より少ない割合である。前記電解質は、有機溶媒を含まないことがさらに好ましい。前記有機溶媒の割合がわずかである、あるいは全く存在しないことで前記電解質は、ほとんど、あるいは全く可燃性を有しない。このことは、この種のSO2系電解質によって作動する充電式電池セルの動作安全性を向上させる。前記SO2系電解質は、実質的に有機溶媒を含まないことが特に好ましい。
【0076】
前記充電式電池セルの別の有利である発展態様において前記電解質は、前記電解質組成の総重量に関して以下の組成を有する:
(i)5から99.4wt%の二酸化硫黄、
(ii)0.6から95wt%の前記第一の導電塩、
(ii)0から25wt%の前記第二の導電塩、
(iV)0から10wt%の前記添加剤、および
(V)0から50wt%の有機溶媒。
【0077】
活性金属
以下において前記活性金属に関して本発明による充電式電池セルの有利である発展態様を説明する:
【0078】
前記充電式電池セルの有利である発展態様において前記活性金属は、以下のものである:
- アルカリ金属、特にリチウムまたはナトリウム、
- アルカリ土類金属、特にカルシウム、
- 元素周期表第12族の金属、特に亜鉛、または
- アルミニウム。
【0079】
負極
以下において前記負極に関して本発明による充電式電池セルの有利である発展態様を説明する:
【0080】
前記充電式電池セルの別の有利である発展態様において前記負極は、挿入電極である。当該挿入電極は、活物質として挿入材料を含み、前記充電式電池セルの充電時に前記活性金属のイオンが当該挿入材料内に蓄積され、前記充電式電池セルの放電時に前記活性金属のイオンが当該挿入材料から放出され得る。このことは電極過程が前記負極の表面だけではなく前記負極の内部においても実施され得ることを意味する。例えばリチウム系の導電塩を用いた場合、前記充電式電池セルの充電時にリチウムイオンが前記挿入材料内に蓄積され、前記充電式電池セルの放電時に当該挿入材料から放出され得る。前記負極は、活物質または挿入材料として炭素、特に修飾体であるグラファイトを含むことが好ましい。しかしながら前記炭素が天然黒鉛(フレーク状促進剤または円形)、合成黒鉛(メソフェーズ黒鉛)、黒鉛化メソカーボンマイクロビーズ(MCMB)、炭素被覆黒鉛または非晶質炭素の形であることも本発明の範囲に含まれる。
【0081】
本発明による充電式電池セルの別の有利である発展態様において前記負極は、例えばチタン酸リチウム(例えばLi4Ti5O12)など、炭素を含まないリチウム層間負極活物質を含んでなる。
【0082】
本発明による充電式電池セルの別の有利である発展態様において前記負極は、リチウムと合金を形成する負極活物質を含んでなる。当該負極活物質とは、例えばリチウムを貯蔵する金属および金属合金(例えば、Si、Ge、Sn、SnCoxCy、SnSixなど)およびリチウムを貯蔵する金属および金属合金の酸化物(例えば、SnOx、SiOxあるいはSn、Siなどの酸化物ガラス)である。
【0083】
本発明による充電式電池セルの別の有利である発展態様において前記負極は、変換負極活物質を含む。当該変換負極活物質は、例えばマンガン酸化物(MnOx)、鉄酸化物(FeOx)、コバルト酸化物(CoOx)、ニッケル酸化物(NiOx)、銅酸化物(CuOx)の形状における遷移金属酸化物や、水素化マグネシウム(MgH2)、水素化チタン(TiH2)、水素化アルミニウム(AlH3)などの形状における金属水素化物およびボロン系、アルミニウム系およびマグネシウム系の三元水素化物であり得る。
ここで前述の前記活物質のうちいずれか一つの前記平面状の導体要素への良好な電気接続が前記負極の前記結合剤によって阻害されないことが重要である。前記第一および第二の結合剤を使用することによって前述の活物質の前記負極の前記平面状の導体要素への良好な電気接続が得られ、当該電気接続は、電池内における作動時においても維持される。
【0084】
本発明による充電式電池セルの別の有利である発展態様において前記負極は、金属、特に金属リチウムを含んでなる。
【0085】
本発明による充電式電池セルの別の有利である発展態様において前記負極は、多孔質であり、気孔率は、好ましくは多くとも50%、さらに好ましくは多くとも45%、さらに好ましくは多くとも40%、さらに好ましくは多くとも35%、さらに好ましくは多くとも30%、さらに好ましくは多くとも20%および特に好ましくは多くとも10%である。気孔率は、前記負極の総容量に対する空隙容量を表し、前記空隙容量は、いわゆる気孔あるいは空隙によって形成されている。当該気孔率は、前記負極の内部表面の増加をもたらす。さらに前記気孔率は、前記負極の密度とひいては当該負極の重量をも減少させる。前記負極の個々の気孔は、作動時において前記電解質によって好ましくは完全に充填されることが可能である。
【0086】
本発明による電池セルにおいて前記負極は、平面状の導体要素を有する。このことは、前記負極が前記活物質または前記挿入材料の他に平面状の導体要素をも含むことを意味する。当該平面状の導体要素は、薄い金属シートまたは薄い金属箔であることが好ましい。前記薄い金属箔は、有孔状または網目状構造を有することが好ましい。前記平面状の導体要素は、金属がコーティングされたプラスチック箔からなることも可能である。当該金属コーティングは、0.1μmから20μmの範囲における厚みを有する。前記負極の前記活物質は、前記薄い金属シート、前記薄い金属箔あるいは前記金属がコーティングされたプラスチック箔の表面に塗布されていることが好ましい。前記活物質は、前記平面状の導体要素の前面および/または背面に塗布され得る。この種の平面状の導体要素は、5μmから50μmの範囲における厚みを有する。前記平面状の導体要素の厚みは、10μmから30μmの範囲であることが好ましい。平面状の導体要素を使用する場合、前記負極の総厚みは、少なくとも20μm、好ましくは少なくとも40μmおよび特に好ましくは少なくとも60μmであり得る。最大厚みは、多くとも200μm、好ましくは多くとも150μmおよび特に好ましくは多くとも100μmである。前記負極の一面に対するコーティングに関する面積比静電容量は、平面状の導体要素を使用した場合、好ましくは少なくとも0.5mAh/cm2であり、さらにはこの順における以下の値が好ましい:1mAh/cm2、3mAh/cm2、5mAh/cm2、10mAh/cm2、15mAh/cm2、20mAh/cm2。前記導体要素が、薄い金属シート、薄い金属箔または金属がコーティングされたプラスチック箔の形状において平面状に形成されている場合、前記負極の前記活物質の量、すなわち一面のコーティングに関する前記電極の充填量は、少なくとも1mg/cm2、好ましくは少なくとも3mg/cm2、さらに好ましくは少なくとも5mg/cm2、さらに好ましくは少なくとも8mg/cm2、さらに好ましくは少なくとも10mg/cm2および特に好ましくは少なくとも20mg/cm2である。一面のコーティングに関する前記電極の最大充填量は、好ましくは多くとも150mg/cm2、さらに好ましくは多くとも100mg/cm2および特に好ましくは多くとも80mg/cm2である。
【0087】
前記電池セルの別の有利である発展態様において前記負極は、前記第一および前記第二の結合剤とは異なる、少なくとも一つの別の結合剤を有する。当該別の結合剤は、好ましくは以下のものである:
- フッ化結合剤、特にフッ化ポリビニリデン(略称:PVDF)および/またはテトラフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレンおよびフッ化ビニリデンによって形成されるターポリマー、または
- 共役カルボン酸のモノマー構造単位または当該共役カルボン酸のアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩またはアンモニウム塩、またはこれらの組み合わせからなるポリマー。
【0088】
ポリマーの形状における前記別の結合剤は、ポリアクリル酸リチウム(LiPAA)であり得る。前記負極は、前記第一および前記第二の結合剤とは異なる、二つの別の結合剤を有することも可能である。この場合、前記負極は、フッ化結合剤の形状における第三の結合剤、特にフッ化ポリビニリデン(略称:PVDF)および/またはテトラフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレンおよびフッ化ビニリデンによって形成されるターポリマーと、共役カルボン酸のモノマー構造単位または当該共役カルボン酸のアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩またはアンモニウム塩、またはこれらの組み合わせからなるポリマーの形状における第四の結合剤を含むことが好ましい。
【0089】
前記フッ化結合剤を使用する場合、当該フッ化結合剤が多くの場合には可燃性が高く、環境に有害である有機溶媒にしか溶解しないという問題がある。フッ化結合剤を用いて負極を製造する場合には、当該溶媒の使用を考慮した複雑な装置を使用する必要がある。この際に特に防爆、環境保護およびスタッフの被爆保護が問題となる。当該問題は、本発明による電池セルの有利である発展態様の開発時に出願人が考慮する必要があった。本特許出願の充電式電池セルの開発時に出願人は、負極の総重量に関する前記結合剤の最適な濃度を求めることが困難であることを発見した:負極における濃度が低すぎると製造された負極の取り扱い性が悪くなるのは、例えば結合剤を含まない電極は、導体要素に対する接着性を有さないため、活物質の粒子放出が生じ、その結果、製造された充電式電池セルが使用不能であることがあり得る。結合剤の濃度が高くなりすぎることも充電式電池セルのエネルギー密度に対して悪影響を及ぼす。結合剤の重量によってエネルギー密度が低下するからである。さらに結合剤濃度が高すぎるとSO2系電解質による負極の濡れ性が悪化する。そのため、負極における全ての結合剤の濃度は、負極の総重量に関して好ましくは多くとも20wt%、さらに好ましくは多くとも15wt%、さらに好ましくは多くとも10wt%、さらに好ましくは多くとも7wt%、さらに好ましくは多くとも5wt%、さらに好ましくは多くとも2wt%、さらに好ましくは多くとも1wt%および特に好ましくは多くとも0.5wt%である。負極における全ての結合剤の濃度は、好ましくは0.05wt%から20wt%の範囲、さらに好ましくは0.5wt%から10wt%の範囲および特に好ましくは0.5wt%から5wt%の範囲である。前述の濃度により、このような負極を用いてSO2系電解質による負極の良好な濡れ性、負極の良好な取り扱い性および充電式電池セルの良好なエネルギー密度が可能となる。本発明による電池セルの別の有利である発展態様において前記負極は、少なくとも一つの伝導性添加剤を有する。前記伝導性添加剤は、低重量、高化学抵抗および高比表面積を有することが好ましい。前記伝導性添加物の例は、粒子状炭素(カーボンブラック、スーパーP、アセチレンブラック)、繊維状炭素(カーボンナノチューブCNT、カーボン(ナノ)ファイバー)、微細に分割した黒鉛およびグラフェン(ナノシート)である。
【0090】
充電式電池セルの構造
以下において自身の構造に関して本発明による充電式電池セルの有利である発展態様を説明する:
【0091】
前記充電式電池セルの機能をさらに向上させるために本発明による充電式電池セルの別の有利である発展態様において前記充電式電池セルは、交互に積層されてハウジング内に配置されている、複数の負極と複数の正極とを有する。ここで前記正極および前記負極とは、それぞれセパレータによって互いに電気的に分離されていることが好ましい。
【0092】
しかしながら前記充電式電池セルは、コイルセルとして形成されていてもよく、当該コイルセルでは前記電極がセパレータ材とともに巻かれている薄層として形成されている。前記セパレータは、一方では前記正極と前記負極とを空間的におよび電気的に分離し、他方ではとりわけ前記活性金属のイオンに対して透過性を有する。こうすることにより電気化学的に有効な大きな表面が形成され、当該表面によって相当する高い電流収量が可能となる。前記セパレータは、不織布、膜、織布、編物、有機材料、無機材料あるいはこれらの組み合わせを用いて形成することが可能である。有機セパレータは、例えば非置換ポリオレフィン(例えばポリプロピレンまたはポリエチレン)、部分的から完全にハロゲン置換されたポリオレフィン(例えば部分的にから完全にフッ素置換されたもの、特にPVDF、ETFE、PTFE)、ポリエステル、ポリアミドまたはポリスルホンからなるものであり得る。有機材料と無機材料の組み合わせを含むセパレータは、例えばガラス繊維に適切なポリマーコーティングが設けられているガラス繊維織物材料である。前記コーティングは、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、エチレンテトラフルオロエチレン(ETFE)、パーフルオロエチレンプロピレン(FEP)、THV(テトラフルオロエチレン、ヘキサフルオロエチレン、フッ化ビニリデンからなるターポリマー)、パーフルオロアルコキシポリマー(PFA)、アミノシラン、ポリプロピレンまたはポリエチレン(PE)などのフッ素含有ポリマーである。前記セパレータは、前記充電式電池セルの前記ハウジング内において例えばいわゆる「Z折り」の形状において折りたたまれて設けられることも可能である。当該Z折りの場合、帯状のセパレータが電極を通るようにあるいは当該電極を中心としてZ状に折りたたまれる。さらに前記セパレータは、セパレータ紙として形成されていてもよい。
【0093】
前記セパレータが被覆として形成され得、それぞれの高圧正極がまたはそれぞれの負極がそれぞれ前記被覆によって覆われることも本発明の範囲内にある。当該被覆は、不織布、膜、織布、編物、有機材料、無機材料あるいはこれらの組み合わせを用いて形成することが可能である。
【0094】
前記正極の被覆により、前記充電式電池セルにおけるイオン移動およびイオン分布が均一になる。特に負極におけるイオン分布が均一であればあるほど前記負極への活物質の可能な充填量を増やし、その結果、前記充電式電池セルの使用可能容量を増やすことが可能である。同時に不均一な充填量とその結果としての前記活性金属の析出につながり得るリスクも回避される。当該利点は、前記充電式電池セルの前記正極が前記被覆によって覆われている場合に特に顕著に作用する。
【0095】
前記電極および前記被覆の表面寸法は、前記電極の前記被覆の外形寸法と前記被覆されていない電極の外形寸法とが少なくとも一つの寸法に関して一致するように互いに調整されることが好ましい。
【0096】
前記被覆の表面積は、前記電極の表面積より大きいものであり得ることが好ましい。この場合、前記被覆は、前記電極の境界を越えて延伸する。したがって前記電極の両面を覆う前記被覆の二つの層が前記正極の縁において縁接続によって互いに接続され得る。
【0097】
本発明による充電式電池セルの別の有利である実施態様において前記負極が被覆を有するのに対して前記正極は被覆を有しない。
【0098】
以下において本発明のさらなる有利である特性について図面、実施例および実験を用いて詳細に記述および説明する。
【図面の簡単な説明】
【0099】
【
図1】本発明による充電式電池セルの第一の実施形態例の断面図である。
【
図2】
図1による第一の実施形態例の詳細図である。
【
図3】本発明による充電式電池セルの第二の実施形態例を示す分解立体図である。
【
図4】本発明による充電式電池セルの第三の実施形態例を示す分解立体図である。
【
図5】表層形成時における、様々な結合剤の組み合わせと三次元的な導体要素を有する電極を有し、実施例1のテトラクロロアルミン酸リチウム電解質が充填された、三つの実験用完全セルの電位(単位[V])を負極の理論容量に関する容量の関数として示す図である。
【
図6】様々な結合剤の組み合わせと三次元的な導体要素を有し、実施例1のテトラクロロアルミン酸リチウム電解質が充填された電極を有する三つの実験用完全セルの放電容量をサイクル数の関数として示す図である。
【
図7】様々な結合剤の組み合わせと平面状の導体要素を有し、実施例1の電解質1が充填された電極を有する三つのハーフセルの電位(単位[V])を容量の関数としてとして示す図である。
【
図8】様々な結合剤の組み合わせと平面状の導体要素を有し、実施例1の電解質1が充填された電極を有する二つのハーフセルの放電容量をサイクル数の関数としてとして示す図である。
【
図9】負極上への表層形成の間の充電時における様々な結合剤の組み合わせと平面状の導体要素を有し、実施例1の電解質1が充填された電極を有する三つのコイルセルの電位(単位[V])を負極の理論容量に関する容量の関数としてとして示す図である。
【
図10】様々な結合剤の組み合わせと平面状の導体要素を有し、実施例1の電解質1が充填された電極を有する二つのコイルセルの放電容量をサイクル数の関数として示す図である。
【
図11】負極上への表層形成の間の充電時における実施例1による電解質1および3およびテトラクロロアルミン酸リチウム電解質が充填された三つの実験用完全セルの電位(単位[V])を負極の理論容量に関する容量の関数としてとして示す図である。
【
図12】実施例1による電解質1、3、4および5が充填され、電極活物質としてニッケルマンガンコバルト酸化リチウム(NMC)を含む三つの実験用完全セルの放電時における電位経過(単位[V])を充電割合の関数として示す図である。
【
図13】化合物1および4の濃度に依拠する、実施例1による電解質1および4の伝導性(単位[mS/cm])を示す図である。
【
図14】化合物3および5の濃度に依拠する、実施例1による電解質3および5の伝導性(単位[mS/cm])を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0100】
図1は、本発明による充電式電池セル20の第一の実施形態例の断面図を図示している。当該第一の実施形態例は、一つの正極23と二つの負極22を有する電極ユニットを示す。前記電極22、23は、それぞれセパレータ21によって互いに分離されてハウジング28によって囲まれている。前記正極23は、平面状の金属箔の形状における導体要素26を有し、当該金属箔の上に前記正極23の活物質24、第一の結合剤SBRおよび第二の結合剤CMCからなる均質な混合物が両面に塗布されている。前記負極22も同様に平面状の金属箔の形状における導体要素27を有し、当該金属箔の上に前記負極22の活物質25、第一の結合剤SBRおよび第二の結合剤CMCからなる均質な混合物が両面に塗布されている。別法として縁電極、すなわち電極スタックを閉止する電極の平面状の導体要素の一面のみに活物質をコーティングすることも可能である。コーティングされない面は、前記ハウジング28の壁に対向する。前記電極22、23は、電極接続29、30を介して前記充電式電池セル20の対応する接続接点31、32に対して接続されている。
【0101】
図2は、
図1の第二の実施形態例においてそれぞれ正極23と負極22の導体要素26、27として使用される平面状の金属箔を図示している。当該金属箔は、20μmの厚みの有孔状または網目状構造を有する。
【0102】
図3は、本発明による充電式電池セル40の第二の実施形態例の分解立体図を図示している。当該第二の実施形態例は、前述の第一の実施形態例とは正極44がセパレータとして機能する被覆13によって覆われている点において異なる。この際、前記被覆13の表面積は、前記正極44の表面積よりも大きく、当該正極の境界14が
図5において一点鎖線で記入されている。前記正極44の両面を覆う、前記被覆13の二つの層15、16は、前記正極44の周縁において縁接続17によって互いに接続されている。両負極45は、被覆されていない。前記電極44および45は、電極接続46および47を介して接触され得る。
【0103】
図4は、本発明による充電式電池セル101の第三の実施形態例の分解立体図を図示している。巻かれた電極ユニットを有する、電池セル101の重要な構造要素が図示されている。カバー部103を有する円筒形状のハウジング102内にシート状の出発材料を巻いて形成した電極ユニット105がある。前記シートは、一つの正極と、一つの負極と、前記電極間の間を延伸するセパレータとを含む複数の層からなり、当該セパレータは、前記電極を互いから電気的および機械的に隔離するものの必要なイオン交換を可能にするには十分な多孔性またはイオン伝導性を有する。前記正極は、平面状の金属箔の形状における導体要素を有し、当該金属箔の上に前記正極23の前記活物質24、第一の結合剤SBRおよび第二の結合剤CMCからなる均質な混合物が両面に塗布されている。前記負極も同様に平面状の金属箔の形状における導体要素を有し、当該金属箔の上に前記負極22の活物質25、前記第一の結合剤SBRおよび前記第二の結合剤CMCからなる均質な混合物が両面に塗布されている。
【0104】
前記ハウジング102の空所は、前記電極ユニット105によって占められない限り図示されない電解質によって充填されている。前記電極ユニット105の前記正極および前記負極は、前記正極のための対応する端子ラグ106と前記負極のための対応する端子ラグ107を介して前記正極のための端子接続108および前記負極のための端子接続109と接続されており、これにより前記充電式電池セル101の電気接続が可能になる。
図4に図示される、前記端子ラグ107と前記端子接続109とを介した前記負極の電気接続の別法として、前記負極の電気接続を前記ハウジング102を介して実施することも可能である。
【0105】
〔実施例1〕電池セルのためのSO2系電解質の実施形態例の製造
以下に説明する実験において使用する電解質LiAlCl4*xSO2を欧州特許第2954588号明細書に記載の方法にしたがって製造した(以下、[V6]と称する)。まず塩化リチウム(LiCl)を真空下で120℃において三日間乾燥した。アルミニウム粒子(Al)を真空下で450℃において二日間乾燥した。LiCl、塩化アルミニウム(AlCl3)およびAlをAlCl3:LiCl:Alが1:1.06:0.35のモル比になるようにガスを逃すための開口部を有するガラス瓶内において互いに混合した。その後、当該混合物を段階的に加熱処理して溶融塩を製造した。冷却後、形成した前記溶融塩を濾過した後、室温まで冷却し、最後に所望するLiAlCl4に対するSO2のモル比が形成されるまでSO2を添加した。こうして形成した電解質は、組成LiAlCl4*xSO2を有し、xは添加したSO2の量に依拠する。実験において当該電解質をテトラクロロアルミン酸リチウム電解質と称する。
【0106】
以下に説明する実験のために式(I)による一つの導電塩を有するSO2系電解質の五つの実施形態例1、2、3、4および5を製造した(以下、電解質1、2、3、4および5と称する)。このためにまず以下の文献[V7]、[V8]および[V9]に記載されている製造方法にしたがって式(I)による五つの異なる第一の導電塩を製造した:
[V7]I. Krossing, Chem. Eur. J. 2001, 7, 490
[V8]S. M. Ivanova et al., Chem. Eur. J. 2001, 7, 503
[V9]Tsujioka et al., J. Electrochem. Soc., 2004, 151, A1418
【0107】
当該五つの異なる、式(I)による第一の導電塩を以下において化合物1、2、3、4および5と称する。当該化合物は、ポリフルオロアルコキシアルミン酸の仲間であり、ヘキサン中においてLiAlH4と対応するアルコールR-ОH(R1=R2=R3=R4)とから出発して以下の反応式にしたがって製造した。
【0108】
【0109】
これにより以下に示す分子式または構造式を有する、化合物1、2、3、4および5を形成した:
【0110】
【0111】
精製のために、まず前記化合物1、2、3、4および5を再結晶化した。これにより遊離体LiAlH4の残留物を前記第一の導電塩から除去したのは、当該遊離体がSO2中に存在する可能性がある微量の水とスパークする可能性があるからである。
【0112】
その後、前記化合物1、2、3、4および5をSO2中に溶解した。この際、
前記化合物1、2、3、4および5がSO2において良好に溶解することが判明した。
【0113】
前記電解質1、2、3、4および5の製造を以下の一覧による方法
ステップ1から4にしたがって低温あるいは加圧下において実施した:
1)それぞれの化合物1、2、3、4および5をそれぞれ一つのライザーパイプ付き圧フラスコ内に入れる、
2)前記圧力フラスコを空にする、
3)液状のSO2を流入する、および
4)目標量のSO2が添加されるまでステップ2および3を繰り返す。
【0114】
前記電解質1、2、3、4および5における前記化合物1、2、3、4および5のそれぞれの濃度は、以下の実験説明において特に記述しない限り0.6モル/l(電解質1リットルに対する物質量濃度)であった。
【0115】
前記テトラクロロアルミン酸リチウム電解質と前記電解質1、2、3、4および5とを用いて以下に説明する実験を実施した。
【0116】
〔実施例2〕実験用完全セルの製造
以下に説明する実験において使用した実験用完全セルは、それぞれがセパレータによって分離された、二つの負極と一つの正極とを有する充電式電池セルである。前記正極は、活物質、伝導性添加剤および二つの結合剤を有した。前記負極は、活物質としてグラファイトと同じく二つの結合剤とを含んでいた。実験において述べられているように、前記負極はさらに伝導性添加剤を有し得る。前記正極の活物質については、それぞれの実験において述べられている。とりわけ実験の目的は、本発明によるSO2系電解質を有する電池セルにおける、平面状の導体要素を有する電極における様々な結合剤または結合剤の組み合わせの使用を実証することにある。表2aにおいて調査した結合剤を示す。表2bからは実験において使用した結合剤の組み合わせが見受けられる。
【0117】
前記実験用完全セルにはそれぞれ実験にとって必要である電解質、すなわち前記テトラクロロアルミン酸リチウム電解質または前記電解質1、2、3、4または5を充填した。実験のために通常、複数、すなわち二つから四つの同一の実験用完全セルを製造した。その場合、それぞれの実験において示した結果は、それぞれ同一の実験用完全セルについて得られた測定値の平均値である。
【0118】
【0119】
【0120】
〔実施例3〕実験用完全セルにおける測定
表層容量:
前記負極上に表層を形成するために第一のサイクルにおいて消費される容量は、電池セルの品質に関する大事な基準となる。当該表層は、前記実験用完全セルの最初の充電時において前記負極上に形成される。当該表層形成のためにはリチウムイオンが不可逆的に消費される(表層容量)ため、その後のサイクルで前記実験完全セルが利用できるサイクル可能容量が少なくなる。前記負極上に表層を形成するために使用した理論値に対する表層容量(単位[%])を以下の式によって計算する:
【0121】
表層容量[理論値に対する%]=(Qlad(xmAh)-Qent(ymAh))/QNEL
【0122】
Qladは、それぞれの実験で指定された充電量(単位[mAh])、Qentは、その後に施した前記実験用完全セルの放電時において得られた充電量(単位[mAh])である。QNELは、使用した負極の理論容量である。前記理論容量は、例えばグラファイトの場合、372mAh/gの値で計算する。
【0123】
放電容量:
実験用完全セルにおける測定では例えば放電容量をサイクル数によって決定する。このため前記実験用完全セルを所定の上限電位まで所定の充電電流において充電する。相当する前記上限電位を前記充電電流がある値に下がるまで保持する。その後、所定の放電電位になるまで所定の放電電流において放電を実施する。当該充電方法をI/U充電と称する。当該プロセスを所望するサイクル数に応じて繰り返す。
【0124】
上限電位または前記放電容量およびそれぞれの充放電電流は、実験において記載されている。前記充電電流が下がって到達すべき値も実験において記載されている。
【0125】
「上限電位」という用語は、「充電電位」「充電電圧」「充電終了電圧」および「上部電位限界」という用語と同義に使用される。前記用語は、セルまたは電池が電池充電装置によって充電される際に到達すべき電圧/電位を示す。
【0126】
前記電池の充電は、C/2の電流率と22℃の温度において実施することが好ましい。定義によると1Cの充放電率ではセルの公称容量が一時間で充放電される。よってC/2の電流率とは、二時間の充電時間を意味する。
【0127】
「放電電位」という用語は、「下部セル電圧」という用語と同義に使用される。当該用語は、セルまたは電池が電池充電装置によって放電される際に到達すベき電圧/電位を示す。
【0128】
前記電池の放電は、C/2の電流率と22℃の温度において実施することが好ましい。
【0129】
前記放電容量は、放電電流と放電を終了するための基準が満たされるまでの時間とによって得られる。これらに関連する図において前記放電容量の平均値を前記サイクル数の関数として図示している。前記放電容量の当該平均値は、多くの場合は実験において得られた最大容量に標準化されてそれぞれ公称容量に対する割合で表される。
【0130】
〔実験1〕三次元的導体要素を有する実験用完全セルにおける様々な結合剤の組み合わせの調査
先行技術によるSO2系電解質を有する充電式電池セルは、主に例えばニッケル発泡体([V5]を参照のこと)からなる三次元的導体要素を有する電極を使用する。負極にとって好ましい結合剤は、ポリアクリル酸リチウム(LiPAA)である([V4]を参照のこと)。活物質としてグラファイトと様々な結合剤の組み合わせとを有する負極(NEL)を製造した。全ての電極は、先行技術より公知である、ニッケル発泡体の形状における三次元的導体要素を含んでなるものであった。前記結合剤の組み合わせとは、以下のものであった:
・2wt%LiPAA/2wt%CMC、
・2wt%LiPAA/2wt%SBR、および
・2wt%SBR/2wt%CMC。
【0131】
それぞれ二つの同一の負極と電極活物質としてリン酸鉄リチウム(LEP)を含む一つの正極とを実施例2にしたがって組み立てて実験用完全セル1を形成した。負極内の結合剤の組み合わせがそれぞれ異なる、三つの実験用完全セルを得た。三つの実験用完全セル全てに実施例1による、LiAlCl4*6SO2の組成を有するテトラクロロアルミン酸リチウム電解質を充填した。
【0132】
まず第一のサイクルにおいて実施例3にしたがって表層容量を決定した。
【0133】
そのために前記実験用完全セルに125mAh(Qlad)に到達するまで15mAの電流を充電した。その後、2.5ボルトの電位に到達するまで15mAにおいて前記実験用完全セルの放電を実施した。その際に放電容量(Qent)を求めた。
【0134】
図5は、負極の充電時における様々な実験用完全セルの電位(単位[V])を負極の理論容量に対する容量(単位[%])の関数として示す図である。
【0135】
前記様々な負極の測定された表面容量(単位[負極の理論容量の%])は、以下の値であった:
NEL2%SBR/2%CMC: 負極の理論値の7.48%
NEL2%LiPAA/2%CMC: 負極の理論値の7.15%
NEL2%LiPAA/2%SBR: 負極の理論値の9.34%
【0136】
前記表層容量は、2%LiPAA/2%CMCの結合剤の組み合わせの場合、最も低くなる。
【0137】
前記放電容量を求めるために(実施例3を参照のこと)前記実験用完全セルを100mAの電流において3.6ボルトの上限電位まで充電した。当該3.6ボルトの電位を電流が40mAに下がるまで保持した。その後、100mAの放電電流において2.5ボルトの放電電位まで放電した。
【0138】
図6は、実験用完全セルの放電容量の平均値をサイクル数の関数として図示している。500サイクルを実施した。前記放電容量の当該平均値をそれぞれ公称容量の割合[公称容量の%]で表す。
【0139】
前記実験用完全セルの前記放電容量の経過は、均一なわずかに減少する経過を示す。しかしながら容量減少は、2%LiPAA/2%CMCの結合剤の組み合わせを含むグラファイト電極を含む実験用完全セルにおいて最も少ない。
【0140】
ニッケル発泡体導体要素の形状における三次元的な導体要素を使用した場合、2%LiPAA/2%CMCの結合剤の組み合わせを含む負極は、2%LiPAA/2%SBRまたは2%SBR/2%CMCの結合剤の組み合わせを有する負極よりも低い表層容量とより良好なサイクル挙動を示す。これによりLiPAAを含む結合剤がニッケル発泡体導体要素の形状における三次元的導体要素を使用する場合にプラスの影響があるとする[V4]の記述が実証される。
【0141】
〔実験2〕平面状の導体要素上の様々な結合剤を有するグラファイトの機械的調査
平面状の導体要素上の様々な結合剤を有するグラファイトの特性を調査するためにまず機械的調査を実施した。一方では平面状の導体要素に対する電極物質の粘着力の値を求め、他方では充填量、すなわち1cm2の電極面当たりの活物質の量に関する調査を実施した。
【0142】
平面状の導体要素上の二つの異なる結合剤の組み合わせを有するグラファイトの粘着力をMFCセンサー・テヒニーク社の引張・圧縮試験機モデルT1000を用いて調査した。試験は、90°剥離試験であった。剥離試験は、引張試験において基材と接続された箔の特性を確認するために使用される。調査対象のコーティングされた箔を担持プレート上に固定し、自由端を引張試験機内に固定して100mm/分の一定速度において上方に引っ張った。この際、導体要素箔の形状における平面状の導体要素が電極層から剥がれ、電極箔に沿った粘着力を記録した。平面状の導体要素として金属箔上の結合剤CMC-LiPAA-SBR(1%-2%-1%)(電極1)と結合剤CMC-SBR(2%-1%)(電極2)とを有する二つのグラファイト電極に対して試験を実施した。表3は、粘着力の測定結果を示す。
【0143】
【0144】
LiPAA割合を含む結合剤の組み合わせを有するグラファイトは、LiPAA割合を含まない結合剤の組み合わせを有するグラファイトと比べて著しく低い粘着力の値を示す。このことは電極1においてはグラファイトの前記導体要素上への接着性がより低く、電池セルの作動時における機械的負荷によって前記電極物質の欠けが生じ得ることを意味する。これに対してCMC/SBR結合剤の組み合わせを有する電極の平面状の導体要素に対する接着性は良好である。
【0145】
平面状の導体要素における可能な充填量、すなわち1cm2の電極面当たりの活物質の量を調査した。平面状の電極を製造するためにグラファイトと結合剤からなる混合物を製造し、溶媒と加工して均質なペーストを得た。完成した前記ペーストを金属箔の上に均質に塗布して空気中または低温においてオーブン内で乾燥した。当該ステップは、電極から溶媒を除去するために必要である。冷却後、前記電極をカレンダを用いて圧縮した。
【0146】
一方ではLiPAA(2wt%)とCMC(2wt%)からなる結合剤混合物と他方ではSBR(2wt%)とCMC(2wt%)からなる結合剤混合物とを製造した。平面状の電極上におけるLiPAAの機械的特性が悪いため、金属箔上に約5mg/cm2のグラファイト/結合剤しか塗布できなかった。SBR/CMC結合剤混合物を使用した場合、14mg/cm2の所望量を塗布することが可能であった。高充填量とこれに伴って高容量の電極を製造するには、SBR/CMCの結合剤の組み合わせが適している。
【0147】
〔実験3〕平面状の導体要素を有し、電解質1が充填されたハーフセルにおける様々な結合剤の組み合わせの調査
まず、三電極ユニットを有するハーフセルにおける様々な結合剤の組み合わせを有するグラファイト電極を調査し、その際に戻り電極および参照電極は、それぞれ金属リチウムからなるものであった。ハーフセルに用いた電解は、実施例1による電解質1であった。平面状の導体要素上における以下の結合剤の組み合わせを使用した:
- 3.0wt%SBRと1.0wt%CMCとを含むグラファイト電極
- 2.0wt%SBRと2.0wt%CMCとを含むグラファイト電極
- 約2.0から4.0wt%のPVDFを含むグラファイト電極
【0148】
先行技術([V3]および[V5]を参照のこと)においてはPVDFも適切な結合剤であると提案されているため、当該結合剤を含むグラファイト電極も調査した。まず表層容量を測定した。そのためにハーフセルを0.1Cの率において0.03Vの電位まで充電し、同じ率において0.5Vの電位まで放電した。第一のサイクルの容量損失を用いて表層容量を演算した。
図7は、負極の充電時における様々な実験用完全セルの電位(単位[ボルト])を負極の理論容量に関する容量(単位[%])の関数として図示している。
【0149】
前記様々な電極において求められた表層容量(単位[負極の理論容量の%])は、以下のとおりである:
NEL 3%SBR/1%CMC: 負極の理論値の14.0%
NEL 2%SBR/2%CMC: 負極の理論値の14.0%
NEL 2.0から4.0wt%PVDF: 負極の理論値の21.5%
【0150】
PVDF結合剤を有する負極の表面容量は、21.5%と極めて高い。このことは、表層形成のために既に電池容量のほぼ四分の一が使用されることを意味する。平面状の導体要素を有する電極においてPVDF結合剤を単独で使用することは、SO2系電解質を有する充電式電池セルにおいては適さない。しかしながらSBR/CMC結合剤の組み合わせの他に追加的な第三の結合剤として当該PVDF結合剤を使用することが可能である。
【0151】
これに対してSBR/CMC結合剤を有する電極は、より低い表層容量を有する。
【0152】
放電容量を求めるために(実施例3を参照のこと)サイクル1から5においてSBR/CMC結合剤を有するハーフセルを0.1Cの充電率において0.03ボルトの電位まで充電し、0.5ボルトの電位まで放電した。サイクル6からは充放電率を1Cに引き上げた。さらに充電時に充電率が0.01Cに下がるまで0.03ボルトの電位を維持した。
図8は、両ハーフセルの放電容量の平均値をサイクル数の関数として図示している。25(2%SBR/2%CMC)または50(3%SBR/1%CMC)サイクルを実施した。放電容量の当該平均値をそれぞれ公称容量の割合(単位[公称容量の%])として表した。両ハーフセルは、安定した放電容量の経過を有する。SO
2系電解質において前記SBRおよびCMC結合剤の組み合わせは、平面状の導電要素を有する電極に極めて良好に適している。
【0153】
〔実験4〕平面状の導電要素を有し、電解質1を充填したコイルセルにおける様々な結合剤の組み合わせの調査
ハーフセル実験の他に、活物質としてニッケルマンガンコバルト酸化物(NMC811)を含む正極と以下の結合剤の組み合わせを有する負極のグラファイト電極とを有するコイルセルを調査した:
- 2.5wt%SBR/1.5wt%CMC
- 2.0wt%SBR/2.0wt%CMC
- 1.0wt%SBR/2.0wt%CMC。
【0154】
まず第一のサイクルにおいて実施例3にしたがって表層容量を決定した。そのためにコイルセルに0.9Ah(Qlad)に到達するまで0.1Aの電流を充電した。その後、2.5ボルトの電位に到達するまで0.1Aにおいて前記コイルセルの放電を実施した。その際に放電容量(Qent)を求めた。
【0155】
図9は、負極の充電時における様々なコイルセルの電位(単位[V])を負極の理論容量に対する容量(単位[%])の関数として図示している。求められた前記表面容量(単位[負極の理論容量の%])は、三つの調査されたコイルセルにおいて負極の理論値の約11%以下であり、よって良好な値であった。
【0156】
放電容量を求めるために(実施例3を参照のこと)2.5%SBR/1.5%CMCと2.0%SBR/2.0%CMCの結合剤の組み合わせを有するコイルセルを0.2Aの電圧において4.2ボルトの上位電位まで充電した。その後、0.2Aの放電電流において2.8ボルトの電位まで放電した。充電電圧を4.4ボルト、その後4.6に引き上げて以降の全てのサイクルについて維持した。
【0157】
図10は、コイルセルの放電容量の平均値をサイクル数の関数として図示している。15(2.5%SBR/1.5%CMC)または60(2.0%SBR/2.0%CMC)サイクルを実施した。放電容量の当該平均値をそれぞれ公称容量の割合(単位[公称容量の%])として表した。
【0158】
両コイルセルとも均一なわずかに減少する経過を有する。SO2系電解質と平面状の導体要素を有する電極とを有するコイルセルにとっても前記SBRおよびCMC結合剤の組み合わせは、良好に適している。
【0159】
〔実験5〕電解質1、3、4および5の調査
電解質1、3、4および5を調査するために様々な実験を実施した。一方では電解質1および3ならびにテトラクロロアルミン酸リチウム電解質の表層容量を求めて他方では電解質1、3、4および5における放電容量を測定した。
【0160】
表層容量を求めるために三つの実験用完全セルに実施例1に記載された電解質1および3とテトラクロロアルミン酸リチウム電解質とを充填した。前記三つの実験用完全セルは、正極の活物質としてリン酸鉄リチウムを含むものであった。
【0161】
図11は、充電時における実験用完全セルの電位(単位[ボルト])を負極の理論容量に関する容量の関数として図示している。前記二つの図示される曲線は、前述の実験用完全セルを用いて実施した、それぞれ複数の実験の平均した結果を示す。まず、前記実験用完全セルに125mAh(Q
lad)に到達するまで15mAの電流を充電した。その後、2.5ボルトの電位に到達するまで15mAにおいて前実験用完全セルを放電した。その際に放電容量(Q
ent)を求めた。
【0162】
絶対容量損失は、前記電解質1および3ではそれぞれ7.58%または11.51%であり、前記テトラクロロアルミン酸リチウム電解質では6.85%である。表層形成のための容量は、全ての電解質において低い。
【0163】
放電実験のために実施例2による三つの実験用完全セルに実施例1に記載の電解質1、3、4および5を充填した。前記実験用完全セルは、正極の活物質としてニッケルマンガンコバルト酸化リチウム(NMC)を含むものであった。放電容量を求めるために(実施例3を参照のこと)前記実験用完全セルを15mAの電流を用いて125mAhの容量まで充電した。その後、15mAの電流を用いて2.5ボルトの放電電位まで放電を実施した。
【0164】
図12は、放電された充電量を越える放電時の電位経過に対する割合(単位:[最大充電(放電)の%])を図示している。全ての実験用完全セルは、電池セルの良好な作動にとって必要である、平らな放電曲線を示す。
【0165】
〔実験6〕電解質1、3、4および5の伝導性の測定
伝導性の測定のために様々な濃度の化合物1、3、4および5を有する電解質1、3、4および5を製造した。前記様々な化合物のそれぞれの濃度について、伝導測定法を用いて電解質の伝導性を測定した。その際、テンパリング後、四電極センサを溶液に接触するように保持して0.02から500mS/cmの測定範囲で測定した。
【0166】
図13は、化合物1または4の濃度に依拠する電解質1および4の伝導性を図示している。電解質1において化合物1の濃度が0.6モル/Lから0.7モル/Lである場合に約37.9mS/cmの値の最大伝導性が見受けられる。これに比べると先行技術より公知である、例えばLP30(1M LiPF6/EC-DMC(1:1重量))などの有機電解質は、約10mS/cmの伝導性しか有しない。電解質4の場合、1モル/Lの導電塩濃度の場合、最大18mS/cmが得られる。
【0167】
図14は、化合物3または5の濃度に依拠する電解質3および5の伝導性を図示している。
【0168】
電解質5の場合、導電塩濃度が0.8モル/Lである場合に最大1.3mS/cmが得られる。電解質3は、導電塩濃度が0.6モル/Lである場合に0.5mS/cmの最大伝導性を示す。前記電解質3および5の伝導性は低かったものの、例えば実験3において記載される実験用ハーフセルまたは実験8において記載される実験用完全セルの充電または放電は、十分可能である。
【0169】
〔実験7〕低温挙動
前記電解質1の低温挙動を前記テトラクロロアルミン酸リチウム電解質と比較して測定するために、実施例2にしたがって二つの実験用完全セルを製造した。一方の実験用完全セルにLiAlCl4*6SO2の組成を有するテトラクロロアルミン酸リチウム電解質を、他方の実験用完全セルに電解質1を充填した。前記テトラクロロアルミン酸リチウム電解質を含む前記実験用完全セルは、正極の活物質としてリン酸鉄リチウム(LEP)を、電解質1を含む前記実験用セルは、活物質としてニッケルマンガンコバルト酸化リチウム(NMC)を含むものであった。前記実験用完全セルを20℃において3.6ボルト(LEP)または4.4ボルト(NMC)まで充電してそれぞれの調査する温度において再び2.5ボルトまで放電した。20℃において到達した放電容量を100%と評価した。放電のための温度を10°Kの温度ステップで下げた。得られた放電容量を20℃での放電容量に対する割合で表記した。低温放電は、使用された正極および負極の活物質にほぼ依拠しないため、結果を全ての活物質の組み合わせに摘要可能である。表5は、結果を示す。
【0170】
【0171】
電解質1を用いた実験用完全セルは、極めて良好な低温挙動を示す。20℃ではまだ容量の82%、-30℃ではまだ73%に到達する。-40℃の温度であっても、まだ容量の61%を放電することが可能である。これに対してテトラクロロアルミン酸リチウム電解質を有する実験用完全セルは、-10℃までしか放電性を示すことができない。この場合、21%の容量に到達する。より低い温度ではテトラクロロアルミン酸リチウム電解質を有するセルをもはや放電することは不可能である。
【国際調査報告】