(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-01-31
(54)【発明の名称】鉄関連疾患の処置のためのメタノバクチンの使用
(51)【国際特許分類】
A61K 38/07 20060101AFI20240124BHJP
A61P 25/00 20060101ALI20240124BHJP
A61P 7/00 20060101ALI20240124BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20240124BHJP
A61P 1/16 20060101ALI20240124BHJP
A61P 21/00 20060101ALI20240124BHJP
A61P 7/06 20060101ALI20240124BHJP
A61P 25/14 20060101ALI20240124BHJP
A61P 25/16 20060101ALI20240124BHJP
A61P 25/28 20060101ALI20240124BHJP
C07K 5/10 20060101ALN20240124BHJP
C12N 9/02 20060101ALN20240124BHJP
【FI】
A61K38/07
A61P25/00
A61P7/00
A61P43/00
A61P1/16
A61P21/00
A61P7/06
A61P25/14
A61P25/16
A61P25/28
C07K5/10
C12N9/02
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023546284
(86)(22)【出願日】2022-02-01
(85)【翻訳文提出日】2023-09-05
(86)【国際出願番号】 EP2022052263
(87)【国際公開番号】W WO2022162232
(87)【国際公開日】2022-08-04
(32)【優先日】2021-02-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2021-02-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】LU
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
(71)【出願人】
【識別番号】509160867
【氏名又は名称】ヘルムホルツ・ツェントルム・ミュンヘン・ドイチェス・フォーシュンクスツェントルム・フュア・ゲズントハイト・ウント・ウンベルト・ゲーエムベーハー
(71)【出願人】
【識別番号】509009692
【氏名又は名称】ザ リージェンツ オブ ザ ユニヴァシティ オブ ミシガン
(71)【出願人】
【識別番号】500365339
【氏名又は名称】アイオワ、ステイト、ユニバーシティー、リサーチ、ファウンデーション、インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】IOWA STATE UNIVERSITY RESEARCH FOUNDATION,INC.
(74)【代理人】
【識別番号】100102978
【氏名又は名称】清水 初志
(74)【代理人】
【識別番号】100205707
【氏名又は名称】小寺 秀紀
(74)【代理人】
【識別番号】100160923
【氏名又は名称】山口 裕孝
(74)【代理人】
【識別番号】100119507
【氏名又は名称】刑部 俊
(74)【代理人】
【識別番号】100142929
【氏名又は名称】井上 隆一
(74)【代理人】
【識別番号】100148699
【氏名又は名称】佐藤 利光
(74)【代理人】
【識別番号】100188433
【氏名又は名称】梅村 幸輔
(74)【代理人】
【識別番号】100128048
【氏名又は名称】新見 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100129506
【氏名又は名称】小林 智彦
(74)【代理人】
【識別番号】100114340
【氏名又は名称】大関 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100214396
【氏名又は名称】塩田 真紀
(74)【代理人】
【識別番号】100121072
【氏名又は名称】川本 和弥
(74)【代理人】
【識別番号】100221741
【氏名又は名称】酒井 直子
(74)【代理人】
【識別番号】100114926
【氏名又は名称】枝松 義恵
(72)【発明者】
【氏名】ツィシュカ ハンス
(72)【発明者】
【氏名】ディスピリト アラン アンジェロ
(72)【発明者】
【氏名】ゼムラウ ジェレミー デヴィッド
【テーマコード(参考)】
4C084
4H045
【Fターム(参考)】
4C084AA02
4C084AA03
4C084BA01
4C084BA08
4C084BA16
4C084BA26
4C084BA32
4C084BA44
4C084CA04
4C084NA14
4C084ZA02
4C084ZA16
4C084ZA51
4C084ZA55
4C084ZA75
4C084ZA94
4H045AA10
4H045AA30
4H045BA05
4H045BA13
4H045CA11
4H045DA89
4H045EA20
(57)【要約】
本発明は、医薬における使用のための、Fe3+イオンをFe2+イオンに還元するメタノバクチン、および該メタノバクチンを含む薬学的組成物、ならびに、エクスビボでFe3+イオンをFe2+イオンに還元するための方法に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
医薬における使用のための、Fe
3+イオンをFe
2+イオンに還元するメタノバクチン。
【請求項2】
メタノバクチンの一次構造が、式(I):
による構造を含む、請求項1に記載の使用のためのメタノバクチン。
【請求項3】
Fe
3+のFe
2+への還元が、式(II):
によるメタノバクチン-Fe(II)錯体の中間体構造を含む、請求項1または2に記載の使用のためのメタノバクチン。
【請求項4】
メチロシスティス属種(Methylocystis sp.)SB2株に由来する、請求項1~3に記載の使用のためのメタノバクチン。
【請求項5】
メタノバクチンが、Fe
3+のFe
2+への還元を触媒し、かつここで、
(a)水が還元剤として用いられ、分子状酸素が発生し、かつ/または
(b)前記還元が、1分当たり、1メタノバクチン当たり、0.5~5、好ましくは0.7~3、より好ましくは1のFe
3+という還元速度で行われる、
請求項1~4の使用のためのメタノバクチン。
【請求項6】
請求項1~5記載のメタノバクチンを含む医薬における使用のための薬学的組成物。
【請求項7】
鉄過剰症、神経変性疾患、赤血球輸血による鉄過剰症、老化、加齢、フェロトーシス細胞死、アルコール性肝疾患、または筋萎縮性側索硬化症の処置における、請求項1~5記載の使用のためのメタノバクチンまたは請求項6記載の使用のための薬学的組成物。
【請求項8】
鉄過剰症の処置における、請求項7記載の使用のためのメタノバクチンまたは請求項7記載の使用のための薬学的組成物。
【請求項9】
鉄過剰症が、遺伝性ヘモクロマトーシス、サラセミア、鎌状赤血球症、再生不良性貧血、脊髄形成異常症からなる群より選択される疾患によって引き起こされる、請求項7もしくは8記載の使用のためのメタノバクチン、または請求項7もしくは8記載の使用のための薬学的組成物。
【請求項10】
神経変性疾患が、アルツハイマー病、パーキンソン病、認知症、ハンチントン病、多発性硬化症からなる群より選択される、請求項7記載の使用のためのメタノバクチンまたは請求項7記載の薬学的組成物。
【請求項11】
任意で適切な還元剤の存在下の、溶液中で、請求項1~5で定義されたメタノバクチンをFe
3+イオンと接触させる工程を含む、エクスビボでのFe
3+のFe
2+への還元のための方法。
【請求項12】
メタノバクチンが触媒であり、かつ還元剤が存在する、請求項11記載の方法。
【請求項13】
(a)溶媒および/または還元剤が水であり、かつ/または
(b)還元が、1分当たり1メタノバクチン当たり、0.5~5、好ましくは0.7~3、より好ましくは1のFe
3+という還元速度で行われる、
請求項11または12記載の方法。
【請求項14】
分子状酸素が発生する、請求項13記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の技術分野
本発明は、医薬における使用のための、Fe3+イオンをFe2+イオンに還元するメタノバクチン、および該メタノバクチンを含む薬学的組成物、ならびにFe3+イオンをFe2+に還元するための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
背景技術
鉄過剰状態は、遺伝性ヘモクロマトーシス、サラセミア、鎌状赤血球症、再生不良性貧血、脊髄形成異常症、および他の疾患を有する患者の中で生じる可能性がある。遺伝性ヘモクロマトーシスは、全身性の鉄取り込みの制限に関与するタンパク質をコードする遺伝子における変異を原因とする。集団のおよそ10%はヘテロ接合体保有者であり、0.3~0.5%はホモ接合性である。現在、鉄取り込みの調節不全によって引き起こされるこれらの疾患は、定期的な瀉血(最大で500ml/週!)またはデフェリプロン(Ferriprox)、デフェラシロクス(Exjade, Novartis net sales 2019: 995 Mio $, https://www.novartis.com/investors/financial-data/product-sales)、およびデフェリプロン(Desferal)などの鉄キレート剤によって処置される。これらのキレート剤は望ましくない副作用を有し、かつ瀉血より有効性が低い。しかしながら、それらは部分的にしか鉄沈着物を溶解することができない。
【0003】
さらに、脳の鉄蓄積は、アルツハイマー病、パーキンソン病、認知症、ハンチントン病などの複数の神経変性疾患(Liu et al, Front Neurosci. 2018; 12: 632(非特許文献1); Agraval et al., Free Radical Biology and Medicine 2018, 120, 317-329(非特許文献2); Moon et al., J Alzheimers Disease 2016, 51(3), 737-45(非特許文献3))、および多発性硬化症(Stephenson et al., Nature Reviews Neurology, 2014, volume 10, 459-468(非特許文献4))に関連している。
【0004】
具体的には、鉄および鉄蓄積は、老化(Masaldan et al. Redox Biol, 2018,14:100-115(非特許文献5))、加齢(Timmers et al., NATURE COMMUNICATIONS| (2020), 11, 3570(非特許文献6))、フェロトーシス(ferroptotic)細胞死(Li et al. Cell Death & Disease, 11, Article number: 88(非特許文献7))、アルコール性肝疾患(Kowdley, Gastroenterol Hepatol (N Y), 2016, 12(11): 695-698(非特許文献8))、または筋萎縮性側索硬化症(Gajowiak et al., Postepy Hig Med Dosw (Online), 2016 Jun 30;70(0):709-21(非特許文献9))において役割を果たす。
【0005】
したがって、鉄の除去、特に鉄沈着物の溶解に役立つことができる化合物を特定することは非常に有益である可能性がある。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Liu et al, Front Neurosci. 2018; 12: 632
【非特許文献2】Agraval et al., Free Radical Biology and Medicine 2018, 120, 317-329
【非特許文献3】Moon et al., J Alzheimers Disease 2016, 51(3), 737-45
【非特許文献4】Stephenson et al., Nature Reviews Neurology, 2014, volume 10, 459-468
【非特許文献5】Masaldan et al. Redox Biol, 2018,14:100-115
【非特許文献6】Timmers et al., NATURE COMMUNICATIONS| (2020), 11, 3570
【非特許文献7】Li et al. Cell Death & Disease, 11, Article number: 88
【非特許文献8】Kowdley, Gastroenterol Hepatol (N Y), 2016, 12(11): 695-698
【非特許文献9】Gajowiak et al., Postepy Hig Med Dosw (Online), 2016 Jun 30;70(0):709-21
【発明の概要】
【0007】
本発明は、医薬における使用のための、Fe3+イオンをFe2+イオンに還元するメタノバクチンに関する。
【0008】
さらに、本発明は、メタノバクチンを含む薬学的組成物に関する。
【0009】
その上、本発明は、エクスビボでのFe3+のFe2+への還元のための方法に関する。
【0010】
実施例において示されるように、驚くべきことに、ある特定のメタノバクチンは、Fe3+イオンを錯体化し、それらをFe2+に還元することができることが見いだされた。過剰鉄の大部分は通常、動物、植物、および細菌ではフェリチン(ferretin)によってFe3+として貯蔵される。よって、過剰鉄Fe3+イオンは、本発明の発見されたメタノバクチンによって取り除くことができる。したがって、本発明のメタノバクチンは、体内の鉄イオンの蓄積によって引き起こされる疾患の治療において有用である。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】MB-SB2による三価鉄の結合および二価鉄への還元。A. 単離されその後5 nmolのFeCl
3を添加された50 nmol ml
-1 SB2-MBのUV可視吸収スペクトル。B. それぞれMB-SB2に対するFeCl
3のモル比の関数としての、336および387 nmでのオキサゾロン(○)およびイミダゾロン(△)基の吸光度。
【
図2】MB-SB2の(しかしMB-OB3bでは認められなかった)鉄レダクターゼ活性。1mMフェロジン+10mM FeCl
3(- ・ -)、1mMフェロジン+23.4μM MB-SB(- - - -)、1mMフェロジン+10mM FeCl
3と5.8(―・・―・・)、11.6(― ―)、17.4(- -)または 23.4(――)μMのMB-SB2(A)またはMB-OB3b(B)のいずれかとを含有する反応混合物の562 nmでの吸光度の変化。C. 4M FeCl
3水溶液(a)および、MB-SB2の添加の4時間後の4M FeCl
3溶液+20 mM MB-SB2。
【
図3】MB-SB2による(しかしMB-OB3bでは認められなかった)胆汁中鉄排泄。A. 胆汁中鉄排泄。肝臓灌流の際に、MB-SB2は鉄を胆汁に運ぶのに対して、MB-OB3bはそうではない。B. 糞便中鉄排泄。MB-SB2の腹腔内注入時に、LPP Atp7b
-/-ラットは糞便中に鉄を排泄するが、MB-OB3b注入時にはそうではない。破線は、未処置のラットの平均の糞便中鉄排泄を示す。
【
図4】MB-SB2によるFe(III)還元と共役した水の酸化。20mM FeCl
3の添加後の97% H
2
18O中の2mM MB-SB2を含有する反応混合物のヘッドスペースガス(head space gas)の質量スペクトル。
【
図5】対照Huh7細胞(ヒト肝細胞腫細胞株)を50 μM FACで24時間前処置した。次いで、細胞を0.5 mM MB-SB2、0.5 mM MB-OB3b、および0.5 mM DFOで24時間処置した。OB3BおよびDFOとは対照的に、MB-SB2は、鉄で前処置したHuh7細胞における細胞鉄濃度を未処置のレベルまで顕著に低下させた。統計分析を一元配置ANOVA
(N=4)によって行った。FAC:クエン酸鉄アンモニウム。UT:未処置のHuh7細胞。対照:50 μM FACで24時間処置した細胞。DFO:デフェロキサミン。
【発明を実施するための形態】
【0012】
発明の詳細な説明
本発明の解決方法が、以下に記載され、以下の実施例において例示され、図面において図示され、かつ添付の特許請求の範囲において反映される。□
【0013】
「および/または」という用語には、本明細書において用いられる場合は必ず、「および」、「または」、および「該用語によって連結される要素の全てまたは任意の他の組み合わせ」の意味が含まれる。
【0014】
本明細書および添付の特許請求の範囲の全体にわたって、文脈上他の解釈を必要としない限り、「含む」という語句、ならびに「含む(comprises)」および「含む(comprising)」などの変化形は、言及された整数値または工程または整数値もしくは工程の群を包含するが、任意の他の整数値または工程または整数値もしくは群を除外するものではないことを含意すると理解される。本明細書において用いられる場合、「含む(comprising)」という用語は、「含有する(containing)」もしくは「含む(including)」という用語または本明細書において用いられる一部の場合において「有する(having)」という用語で置き換えることができる。本明細書において用いられる場合、「からなる」は、指定されていない任意の要素、工程、または成分を排除する。
【0015】
本発明は、本明細書に記載されている特定の方法論、プロトコール、材料、試薬、および物質などに限定されず、よって変化することができることが、理解されるべきである。本明細書において用いられている用語は、特定の態様を説明することのみを目的としており、本発明の範囲を限定することを意図せず、本発明の範囲は、添付の特許請求の範囲によってのみ定義される。
【0016】
本発明は、医薬における使用のための、Fe3+イオンをFe2+イオンに還元するメタノバクチンに関する。
【0017】
「メタノバクチン」という用語は、本明細書において用いられる場合、特に、1つのオキサゾロン環および第2のオキサゾロン、イミダゾロン、またはピラジンジオン環の存在によって特徴づけられる修飾ペプチドを包含する。2つの環は、2~5個のアミノ酸残基によって隔てられている。各環は隣接チオアミド基を有する。
【0018】
好ましくは、メタノバクチンはMB-SB2であり、式(I)による一次構造を含む。より好ましくは、メタノバクチンは式(I)による一次構造を有し、MB-SB2である。
【0019】
Fe
2+またはFe
3+と錯体形成させると、その結果生じるメタノバクチン錯体は、式(II)による式を有することが想定される。したがって、Fe
3+のFe
2+への還元は、式(II)による中間体構造を含むことが想定される。
【0020】
本明細書において用いられる場合、「錯体形成する」および「結合する」という用語は互換的に用いられる、すなわち、例えば、鉄に「結合する」メタノバクチンは、鉄と「錯体形成する」メタノバクチンとして理解されるべきであり、その逆も同様である。「錯体形成する」という用語は一般に、中心イオンと、配位子または錯化剤として公知である分子の周囲アレイとからなる錯体を形成することを意味する。本発明では、中心イオンは鉄(すなわち、Fe2+またはFe3+)であり、配位子はメタノバクチンである。1つのメタノバクチンは典型的に、1つの鉄イオンと錯体形成して、メタノバクチン-鉄錯体をそれぞれ形成する。
【0021】
過剰なFe3+の存在下で、メタノバクチンは、1分当たり、1メタノバクチン当たり、好ましくは0.1~200、より好ましくは0.5~5、最も好ましくは0.7~3、特に好ましくは1のFe3+という還元速度で、Fe3+をFe2+に還元する。
【0022】
好ましくは、還元は、触媒としてメタノバクチンを用いて、触媒的に行われる。本発明では、「触媒的に」という用語は、
理想的には技術的に有用な総括反応速度が達成されるような様式で、中間体を形成することによって、「触媒」-分子が反応の反応スピードの速度を増加させる、反応
として定義される。本発明内で、「触媒」は、中間体を形成した後に再生され、これが、式(III)により再生された触媒および目的とする反応産物を遊離する。
【0023】
本発明のメタノバクチンは、Fe3+還元のためにさまざまな電子供与体を利用する可能性がある。好ましくは、還元剤はH2Oであり、還元過程で分子状酸素を生成する。還元は好ましくは、以下の式により行われることが想定される:
4FeCl3+メタノバクチン+2H2O→3Fe2++Fe(II)-メタノバクチン+12Cl-+4H++O2
。
【0024】
当業者は、メタノバクチンが錯体形成してそれにより対象の体内の(過剰な)鉄を枯渇させるとき、メタノバクチン-鉄錯体が典型的には、対象へのメタノバクチンの投与後に生じることを容易に理解する。
【0025】
「メタノバクチン」という用語には、天然に存在するメタノバクチン、ならびに、鉄(すなわち、Fe2+およびFe3+)と錯体形成する能力を保持しかつ好ましくは天然に存在するメタノバクチンのものと同等またはそれよりさらに高い結合親和性でFe3+に結合する、その機能的バリアント、断片、および誘導体が含まれる。
【0026】
「メタノバクチンバリアント」という用語は、「親」メタノバクチンのメタノバクチン一般式を有するが親メタノバクチンと比較して少なくとも1個のアミノ酸置換、欠失、または挿入を含有する、メタノバクチンを指し、ただし、該バリアントは、本明細書に記載される望ましい鉄結合親和性および/または生物学的活性を保持している。
【0027】
「メタノバクチン誘導体」は、化学的に修飾されたメタノバクチンである。一般に、それらがメタノバクチンの有益な作用を消失させない限り、あらゆる種類の修飾が本発明によって含まれる。すなわち、メタノバクチン誘導体は好ましくは、それらが由来するメタノバクチンの鉄結合親和性および/または生物学的活性を保持する。メタノバクチン誘導体には、以下に記載されるような安定化メタノバクチンも含まれる。
【0028】
本発明の文脈において可能性のある化学修飾には、アミノ酸残基のアシル化、アセチル化またはアミド化が含まれる。他の適した修飾には、例えば、さまざまな長さのポリマー鎖によるアミノ基の伸長(例えば、XTEN技術またはPASylation(登録商標))、N-グリコシル化、O-グリコシル化、およびヒドロキシエチルデンプンなどの炭水化物の化学的コンジュゲーション、(例えば、 HESylation(登録商標))またはポリシアル酸(例えば、PolyXen(登録商標)技術)が含まれる。アルキル化(例えば、メチル化、プロピル化、ブチル化)、アリール化、およびエーテル化などの化学修飾が可能であってもよく、それらも想定される。本明細書において想定されるさらなる化学修飾は、ユビキチン化、治療用または診断用作用物質へのコンジュゲーション、標識化(例えば、放射性核種または種々の酵素による)、および非天然アミノ酸の化学合成による挿入または置換である。
【0029】
他の可能性のある修飾には、硫酸基の除去、および/または、オキサゾロン基とより安定なイミダゾロン基もしくはピラジンジオン基との置換が含まれ得る。遺伝子付加および/またはグループIIメタノバクチンのオペロンからグループIへの遺伝子の欠失(またはその逆も同様である)は、変化をもたらすはずであり、環の種類の変更をもたらし得る(注記:グループIおよびIIメタノバクチンはSemrau et al. 2020.FEMS Microbiol Lett. 367: fn045に記載される)。オキサゾロン基とイミダゾロン基またはピラジンジオン基いずれかとの置換は、経口投与が可能であり得る程度までメタノバクチンの安定性を増加させるはずである。
【0030】
本発明の目的のために、上記で定義されるようなメタノバクチンには、その薬学的に許容される塩も含まれる。「薬学的に許容される塩」という語句は、本明細書において用いられる場合、処置に関して安全かつ有効であるメタノバクチンの塩を意味する。薬学的に許容される塩には、アニオンにより形成されたもの、例えば、塩酸、リン酸、酢酸、シュウ酸、酒石酸、コリン等に由来するもの、およびカチオンにより形成されたもの、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化アンモニウム、水酸化カルシウム、水酸化第二鉄、イソプロピルアミン、トリエチルアミン、2-エチルアミノエタノール、ヒスチジン、プロカイン等に由来するものが含まれる。
【0031】
これまでに示されたように、メタノバクチンの断片、バリアントおよび誘導体は好ましくは、以下の実施例において評価されるメタノバクチンの有利な能力を保持する。
【0032】
メタノバクチンは、メチロシスティス属種(Methylocystis sp.)SB2株に由来し得る。
【0033】
上記で述べられかつ実施例2に示されるように、本発明によるメタノバクチンは、Fe3+イオンをFe2+に還元しかつそれらを各々Fe2+イオンの形態に錯体化することによって、過剰鉄Fe3+イオンを取り除くことができる。したがって、本発明のメタノバクチンは、体内での鉄イオンの蓄積および鉄沈着物の形成によって引き起こされる疾患の治療で有用である。以下の疾患は、導入でも述べたように、鉄蓄積に関連し、よってそれらの治療は、本発明のメタノバクチンなど、鉄沈着物を枯渇させるのを助ける作用物質から恩恵を受ける。
【0034】
さらに、本発明は、鉄過剰症、神経変性疾患、赤血球輸血による鉄過剰状態、老化、加齢、フェロトーシス細胞死、アルコール性肝疾患、または筋萎縮性側索硬化症の処置での使用のためのメタノバクチンに関する。
【0035】
鉄過剰症は、遺伝性ヘモクロマトーシス、サラセミア、鎌状赤血球症、再生不良性貧血、脊髄形成異常症からなる群より選択される疾患によって引き起こされ得る。
【0036】
神経変性疾患は、アルツハイマー病、パーキンソン病、認知症、ハンチントン病、および多発性硬化症からなる群より選択され得る。
【0037】
本発明およびその利点のより良い理解は、例示のみを目的として提供される、以下の実施例から得られる。実施例は、いかなる形でも本発明の範囲を限定することを意図しない。
【0038】
本発明はさらに、医薬における使用のための、特に上記に記載される適応での、上記に記載されるようなメタノバクチンを含む薬学的組成物に関する。
【0039】
上述において記載されるように、メタノバクチンを含む薬学的組成物もまた、本明細書において想定される。したがって、本発明のさらなる局面は、本明細書において記載されるようなメタノバクチンを含む薬学的組成物および薬学的組成物の製造のための該メタノバクチンの使用を含む。「薬学的組成物」という用語は特に、ヒトに投与するのに適した組成物を指す。しかしながら、非ヒト動物への投与に適した組成物もまた、本明細書において想定される。
【0040】
薬学的組成物およびその構成成分(すなわち、活性成分および任意で賦形剤または担体)は、好ましくは薬学的に許容される、すなわち、望ましくない作用を引き起こすことなく望ましい治療効果を誘発することができる、または少なくとも、許容可能な局所作用もしくは全身作用を誘発することができる。本発明の薬学的に許容される組成物は特に、無菌であってよく、かつ/または薬学的に不活性であってよい。特に、「薬学的に許容される」という用語は、動物、より具体的にはヒトでの使用について、規制当局または他の一般に認識されている薬局方によって認められていることを意味し得る。
【0041】
本明細書において記載されるメタノバクチンは好ましくは、治療的有効量で薬学的組成物中に存在する。「治療的有効量」とは、望ましい治療効果を誘発するメタノバクチンの量を意味する。正確な用量は、処置の目的に依存し、公知の技術を用いて当業者によって確かめることができる。治療有効性および毒性は、細胞培養または実験動物における標準的な薬学的手法、例えば、ED50(集団の50%で治療効果のある用量)およびLD50(集団の50%が死に至る用量)によって判定することができる。治療効果と毒性作用との間の用量比が治療指数であり、比ED50/LD50として表現することができる。大きな治療指数を示す薬学的組成物が一般に好ましい。
【0042】
薬学的組成物は、任意で、1種または複数種の担体、賦形剤、および/または追加的活性剤と一緒に、特に、安定化された形態でかつ好ましくは治療的有効量で、本明細書において記載されるようなメタノバクチンを含むことが想定される。
【0043】
「賦形剤」には、充填剤、結合剤、崩壊剤、コーティング剤、吸着材、抗接着剤(antiadherent)、流動促進剤、保存剤、抗酸化剤、着香剤、着色剤、甘味剤、溶媒、共溶媒、緩衝剤、キレート剤、粘性付与剤、界面活性剤、希釈剤、湿潤剤、担体、希釈剤、保存剤、乳化剤、安定化剤、および浸透圧調整剤(tonicity modifier)が含まれる。本発明の薬学的組成物での使用に適した例示的な担体には、食塩水、緩衝食塩水、ブドウ糖、および水が含まれる。
【0044】
本発明の薬学的組成物は、種々の形態で、例えば、固体、液体、気体、または凍結乾燥形態で製剤化することができ、特に、軟膏剤、クリーム、経皮吸収パッチ、ゲル剤、粉末剤、錠剤、液剤、エアロゾル、顆粒剤、ピル剤、懸濁剤、乳剤、カプセル剤、シロップ剤、液体、エリキシル剤、エキス剤、細口もしくは流エキス剤、または望ましい投与方法に特に適している形態であってもよい。医薬を製造するためにそれ自体が公知であるプロセスは、Forth, Henschler, Rummel (1996) Allgemeine und spezielle Pharmakologie und Toxikologie, Urban & Fischerに示されている。
【0045】
多種多様な経路が、本発明によるメタノバクチンおよび薬学的組成物の投与のために想定される。典型的には、投与は、非経口的に達成されるが、経口投与もまた想定される。非経口送達の方法には、局所、動脈内、筋肉内、皮下、髄内、髄腔内、脳室内、静脈内、腹腔内、子宮内、膣内、舌下、または鼻腔内への投与が含まれる。好ましくは、投与は、腹腔内および静脈内に達成される。
【0046】
本発明はさらに、任意で適切な還元剤の存在下の、溶液中で、上記で定義されたようなメタノバクチンをFe3+イオンと接触させる工程を含む、エクスビボでのFe3+のFe2+への還元のための方法に関する。
【0047】
好ましくは、メタノバクチンは触媒であり、還元剤が存在する。
【0048】
還元剤は、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NADH)または水でもよい。
【0049】
溶媒は、極性プロトン性または非プロトン性溶媒でもよい。
【0050】
好ましくは、溶媒および/または還元剤は水である。
【0051】
好ましくは、還元は、1分当たり、1メタノバクチン当たり、0.5~5、より好ましくは0.7~3、最も好ましくは1のFe3+という還元速度で行われる。
【0052】
好ましくは、分子状酸素は方法の過程で発生する。
【実施例】
【0053】
本発明の実施例
実施例1:MB-SB2による三価鉄結合および二価鉄への還元(図1)
単離されその後5 nmolのFeCl
3を添加された、50 nmol ml
-1 SB2-MBのUV可視吸収スペクトルを測定している。
【0054】
実施例2:鉄還元(図2)
フェロジンアッセイを用いて、鉄レダクターゼ活性を決定した(1、2)。
1.Carter P. 1971. Spectrometric determination of serum iron at the submicrogram level with a new reagent (ferrozine). Anal Biochem 40:450-458.
2.Moody MD, Dailey HA. 1983. Aerobic ferrisiderophore reductase assay and activity stain for native polyacrylamide gels. Anal Biochem 134:235-239.
【0055】
実施例3:肝臓灌流実験(図3A)
LPP Atp7b
-/-ラットからのカニューレ処置した肝臓を、95 % O
2および5 % CO
2で気体処理したKrebs-Ringer重炭酸液およびMB-SB2または MB-OB3b(35 μmol)で37℃にて1時間灌流した。灌流の間、総胆汁を10分間隔で回収した。胆汁の鉄濃度を、記載されているように(Lichtmannegger et al. J CIin Invest, 2016, 126, 2721-2735)誘導結合プラズマ発光分光分析(ICP-OES)により決定した。
【0056】
実施例4:糞便中鉄排泄(図3B)
110 mg/kg体重のMB-SB2または150 mg/kg体重のMB-OB3bのいずれかを、連続4日にわたり1日2回、LPP Atp7b
-/-ラットに腹腔内(i.p.)注入した。ラットを個別に、代謝ケージ中に4日間収容した。各ラットの糞便を、処置開始の24、48、72、および96時間後に24時間間隔で回収した。糞便を固形飼料残留物から分離し、乾燥させ、粉砕または製粉によりホモジナイズし、濃縮したHNO
3で消化し、鉄含量を誘導結合プラズマ発光分光分析(ICP-OES)により決定した。
【0057】
実施例5:水の酸化(図4)
無水FeCl
3の飽和溶液をCoy嫌気性チャンバー(大気中に95% Ar、5% H
2)(Coy Laboratory Products, Ann Arbor, MI, USA)で調製した。0.5~10倍過剰の金属を作出するのに十分な量を、100μlの1mMから10mMのMB-SB2または MB-OB3bに添加し、ヘッドスペースガス試料をバイアルから収集した。全ての溶液を、0~.8 mlの茶褐色の気密バイアル(DWK Life Sciences, Millville, NJ, USA)中で97% H
2
18O(Sigma Aldrich, St. Louis, Mo, USA)で作製した。
【0058】
金属およびMB-SB2を含有する反応混合物中の2H2OのO2+4H+への酸化を、18,18O2およびH+の生成をモニターすることによって決定した。酸素発生実験において、凍結乾燥させたMB-SB2、MB-OB3b、カタラーゼ、ならびに無水金属保存液を97% H2
18Oで調製した。反応混合物は、100μl H2
18Oの最終体積で2mM MB-SB2またはMB-OB3bおよび0.5~20mMの金属を含有した。反応混合物を2 ml茶褐色血清バイアル中で調製し、テフロンライニングシリコンセプタムで密封した。初回実験は、アルミニウムホイルで包んだバイアルを用いて決定されたが、そのような実施は、バイアルが包まれているかいないかにかかわらず、同じ結果が生じたことが明らかになった後は、中止した。H2
18Oからの18,18O2の発生を、ヘッドスペースの直接注入(1μlまたは2μl)によってモニターした。
【0059】
気体試料を、7250 Accurate-Mass Q-TOF GC/MSおよびDB5-msカラムを伴うAgilent 7890B GCシステム(Santa Clara, CA, USA)に手動で注入した。標準曲線用の18,18O2注入を除いて、全ての注入は1μlであり、気密Hamiltonシリンジを用いた。97% 18,18O2(Sigma Aldrich, St. Louis, Mo, USA)の1μl、1.5μLおよび2 μl注入を用いて標準曲線を作製した。金属の添加の前および後にバイアル中のヘッドスペースをサンプリングし、同様に、対照として質量分析において外気をサンプリングした。標準物質および対照を注入した後、試料を混合し、ヘッドスペース試料を直ちに収集し、後続の試料を30~60秒毎に採取した。数分後、収集を2~3分ごとに1サンプルにペースを落とした。発生した18,18O2の量子化は、35.9978 Daに設定した抽出イオンクロマトグラムに由来する。18,18O2のMS位置の小さなシフトが、いくつかの日付で観察された。18,18O2のMSのドリフトが観察された場合、ピークの同一性を97% 18,18O2標準物質で検証した。
【国際調査報告】