(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-02-01
(54)【発明の名称】急性膵炎を予防及び治療するための薬物の製造におけるノルハルマンの使用
(51)【国際特許分類】
A61K 31/437 20060101AFI20240125BHJP
A61P 1/18 20060101ALI20240125BHJP
【FI】
A61K31/437
A61P1/18
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023534209
(86)(22)【出願日】2022-05-24
(85)【翻訳文提出日】2023-06-05
(86)【国際出願番号】 CN2022094667
(87)【国際公開番号】W WO2023123834
(87)【国際公開日】2023-07-06
(31)【優先権主張番号】202111630355.5
(32)【優先日】2021-12-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】521318734
【氏名又は名称】大連医科大学附属第一医院
(74)【代理人】
【識別番号】100095407
【氏名又は名称】木村 満
(74)【代理人】
【識別番号】100132883
【氏名又は名称】森川 泰司
(74)【代理人】
【識別番号】100148633
【氏名又は名称】桜田 圭
(74)【代理人】
【識別番号】100147924
【氏名又は名称】美恵 英樹
(72)【発明者】
【氏名】項 紅
(72)【発明者】
【氏名】尚 東
(72)【発明者】
【氏名】陶 旭鋒
(72)【発明者】
【氏名】周 ▲チー▼
(72)【発明者】
【氏名】郭 方悦
(72)【発明者】
【氏名】呉 ▲ユー▼
【テーマコード(参考)】
4C086
【Fターム(参考)】
4C086AA01
4C086AA02
4C086CB05
4C086MA01
4C086MA04
4C086MA35
4C086MA37
4C086MA43
4C086MA52
4C086NA14
4C086ZA66
(57)【要約】
本発明は、ノルハルマンの、急性膵炎を予防及び治療するための薬物の製造における使用を開示し、医薬分野に属する。ノルハルマンは、血清アミラーゼとリパーゼのレベルを低下させ、膵臓と腸組織の損傷を改善させる。ノルハルマンは、マクロファージのM1型への分極化を制御することで、急性膵炎を改善させる。本発明により、ノルハルマンの急性膵炎を予防及び治療する面での更なる研究と開発における有用性が明らかになり、本発明は、ノルハルマンの急性膵炎に対する改善作用の強化に対して新たな方向とアイディアを提供し、急性膵炎の新薬の開発のために実験データ及び新たな研究開発方向を提供する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
急性膵炎を予防又は治療するための薬物の製造におけるノルハルマンの使用。
【請求項2】
ノルハルマンを単一の化学成分の薬物製剤として又は他の薬物とともに複合剤として製造する、ことを特徴とする請求項1に記載の使用。
【請求項3】
前記急性膵炎は、哺乳動物が罹る急性膵炎である、ことを特徴とする請求項1に記載の使用。
【請求項4】
前記哺乳動物は、人類である、ことを特徴とする請求項3に記載の使用。
【請求項5】
急性膵炎を予防又は治療するための前記薬物の用量は11.08mg/kg以下である、ことを特徴とする請求項1に記載の使用。
【請求項6】
急性膵炎を予防又は治療するための前記薬物は、錠剤、丸剤、粉末剤、カプセル剤を含む、ことを特徴とする請求項1に記載の使用。
【請求項7】
ノルハルマンは、血清アミラーゼとリパーゼのレベルを低下させ、膵臓及び腸組織の損傷を改善させる、ことを特徴とする請求項1に記載の使用。
【請求項8】
ノルハルマンは、マクロファージのM1型への極性化を制御することで、急性膵炎を改善させる、ことを特徴とする請求項1に記載の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医薬技術分野に関し、具体的に急性膵炎を予防及び治療するための薬物の製造におけるノルハルマンの使用に関する。
【背景技術】
【0002】
急性膵炎(acute pancreatitis,AP)は、急性入院率の高い消化器系疾患で、全世界で年間の発症率が約13~45/10万人である。急性膵炎の主な病理学的特徴は、膵臓の消化酵素の異常活性化による膵臓の浮腫、出血、壊死により急性炎症反応が引き起こされることである。約20%の患者は重症急性膵炎に発展し、その早期に全身炎症反応症候群の病状が発生し、それに伴って多臓器機能障害が発生し、ひいては死亡に至ることもある。胆道系疾患、高脂血症、アルコール依存症、喫煙などは急性膵炎の主な病因で、膵腺房細胞の細胞質基質Ca2+が持続的に上昇し、早期かつ過度に活性化されたトリプシノーゲンによりNF-κB炎症シグナルの経路が活性化されて、膵臓に実質的な損害をもたらす。現在、急性膵炎の治療指南によれば、膵臓の分泌と二次性疾患による損害の減少を目的とした西洋医学の通常の治療を優先的な治療法として推奨しているが、急性膵炎の致死率の顕著な低下が得られていない。そのため、効果的で低副作用の急性膵炎を予防及び治療するための薬物の開発は、依然として急務となっている。
【0003】
免疫機能障害は、急性膵炎の重症化、ひいては死亡を招く重要な原因となる。生体内の炎症反応と抗炎症反応は、全体の過程で相互の制限と均衡、交互の変化により、最終的にAPの重症度や予後を決定する。このような炎症と抗炎症の動的バランスが一旦崩れると、APの病状が悪化される恐れがある。マクロファージとは、膵臓組織、肝臓、肺、腹腔に存在する自然免疫細胞で、好中球、リンパ球、その他の免疫細胞とともに炎症カスケードを媒介して増幅させ、急性膵炎の重症化過程において重要な役割を果たしている。マクロファージは、その活性化状態と機能によって、M1型とM2型の2種類に分けられる。インターフェロン-γ、リポ多糖類、顆粒球/マクロファージのコロニー刺激因子又は他のToll様受容体リガンドの刺激で、M1型マクロファージが炎症性サイトカインを放出し、Th1型細胞の免疫反応と特定のケモカインを誘導することで、宿主の多種の細菌、寄生虫、ウイルスに対する防御反応を起こさせる。M2型マクロファージは、炎症反応を抑制し、断片とアポトーシス細胞を取り除き、組織の修復と創傷の治癒を促進し、免疫調節を改善し、血管の新生と線維化を促進する特性を有する。マクロファージのM1/M2への分極化のバランスは免疫応答におけるTh1/Th2のバランスに影響を与え、M1/M2への分極化の不均衡はAPの病状を悪化させる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
発明者らは、本発明の初期段階で、16S rDNA配列決定-メタボノミクスの併用技術を用いて、急性膵炎ラットの糞便中の微生物及びその代謝物について研究を行ったところ、微生物の配列決定結果により、偽手術群と比較して、急性膵炎群の乳酸桿菌属(Lactobacillus)の相対存在度が顕著に低下することを見つけた。乳酸桿菌属は、トリプトファンの代謝調節に広く関与している。生体外実験において、異なる濃度のトリプトファンで3種の乳酸桿菌を予備処理し、非標的代謝物検出法で3種の乳酸桿菌のトリプトファン代謝物に対する影響を検出することで、有意差のある7種の代謝物を選別し、それらのマクロファージ分極化に対する影響をそれぞれ観察した。その結果、ノルハルマン(Norharman,9H-Pyrido[3,4-b]indole:9H-ピリド[3,4-b]インドール,CAS 244-63-3)が、マクロファージの分極化への影響に関して、新たな化合物として研究の価値があることが明らかになった。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、上記の技術課題に鑑みてなされたもので、ノルハルマンの急性膵炎の改善におけるメカニズム及びその使用を提供する。本発明は、ノルハルマンが急性膵炎に対して顕著な改善作用があることを開示する。本発明により、ノルハルマンの、急性膵炎を改善させる面での更なる研究と開発における有用性が明らかになり、新薬の開発に実験データを提供する。
【0006】
本発明は、上記の技術課題に鑑みてなされたもので、急性膵炎を予防又は治療するための薬物の製造におけるノルハルマンの使用を提供する。
【0007】
さらに、好ましい態様として、ノルハルマンを単一の化学成分の薬物製剤として又は他の薬物ととともに複合剤として製造する。
【0008】
さらに、好ましい態様として、急性膵炎を予防又は治療するための前記薬物の用量はマウスで100mg/kg以下、人(70kg)で11.08mg/kg以下である。マウスへの用量と人への用量は、「漢方薬理学的研究方法科学」((第3版)、陳奇編集、人民衛生出版社、2011年、第1261-1263頁)に記載の方法により換算される。
【0009】
さらに、好ましい態様として、急性膵炎を予防又は治療するための前記薬物の剤型は、錠剤、丸剤、粉末剤、カプセル剤を含む。
【0010】
さらに、好ましい態様として、ノルハルマンは、血清アミラーゼとリパーゼのレベルを低下させ、膵臓と腸組織の損傷を改善させる。
【0011】
さらに、好ましい態様として、ノルハルマンは、マクロファージのM1型への分極化を制御することで、急性膵炎を改善する。
【発明の効果】
【0012】
本発明は、従来技術と比べると、以下のメリットがある。
【0013】
本発明は、ノルハルマンが急性膵炎に対して顕著な改善作用を有することを開示し、具体的にはマクロファージのM1型への分極化を制御することで急性膵炎を改善する。本発明の結果により、ノルハルマンの、急性膵炎を改善する面での更なる研究と開発における有用性が明らかになり、本発明は、ノルハルマンの急性膵炎に対する改善効果を強化するための新たな方向やアイデアを提供し、急性膵炎を予防及び治療するための新薬の開発へ実験データと新たな研究方向を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の実施例1に係るノルハルマンの、急性膵炎マウスの血清アミラーゼとリパーゼに対する影響の結果を示す図である。n=6で、対照群と比較して、**P<0.01で、モデル群と比較して、##P<0.01である。
【
図2】本発明の実施例1に係るノルハルマンの、急性膵炎マウスの膵臓と腸組織に対する病理学的影響の結果を示す図である。
【
図3】本発明の実施例1に係るノルハルマンの、急性膵炎マウスの脾臓のマクロファージのM1型への分極化に対する影響の結果を示す図である。n=3で、対照群と比較して、**P<0.01で、モデル群と比較して、##P<0.01である。
【
図4】本発明の実施例1に係るノルハルマンの、急性膵炎マウスの膵臓中のマクロファージのM1型への分極化に対する影響の結果を示す図である。
【
図5】本発明の実施例1に係るノルハルマンの、急性膵炎マウスの腸管と膵臓組織の炎症性サイトカインの放出に対する影響の結果を示す図である。n=4で、対照群と比較して、*P<0.05、**P<0.01で、モデル群と比較して、#P<0.05、##P<0.01である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
下記の非制限性の実施例は、当業者が本発明を全面的に理解するように説明するためのものであり、いかなる形態で本発明を制限するものではない。
【0016】
本発明の目的、技術手段及びメリットをより明らかにするために、以下、実施例と図面を参照しながら、本発明をさらに詳細に説明するが、本発明の例示的実施形態及びその説明は本発明を説明するためのものに過ぎず、本発明を限定するものではない。
【0017】
(実施例1)
本実施例の生体内実験では、腹腔投与によりセルレイン(Caerulein)をLPS(リポ多糖類)とともに注射して急性膵炎を誘導して急性膵炎マウスモデルを作成する。15匹のC57BL/6マウスを、各群に6匹ずつなるように対照群、モデル群、ノルハルマン投与群にランダムで分ける。具体的には、実験前に12時間断水せず断食し、インスリン針を用いて腹腔投与によりセルレイン(100μg/kg)を注射し、1時間おきに、7回連続して実施し、最終回にLPS(10mg/kg)とともに投与する。対照群では、モデリング薬の代わりに、生理食塩水を腹腔投与により注射する。ノルハルマン(100mg/kg)を、胃内投与により、8時間おきに1回投与する。最終回の腹腔投与から24時間後、ペントバルビタールナトリウムを使ってマウスを麻酔し、仰臥位になるように四肢をテープで固定する。腹壁を消毒した後に、1mLの注射器の針を心尖拍動の箇所に挿入して約0.8-1mLの血を取り、採取した全血を優しく2mLの無菌遠心分離管に注入し、4℃で2時間静置すると、一部の血清の析出が見える。遠心機により、4℃、3000rpm下で10min遠心分離を行い、上清液を取って新しい無菌遠心分離管に入れ、-80℃で保存し、ELISA検出に用いる。腹部を腹部正中線に沿って切り、右後方で胃の延長方向に沿って十二指腸を探し当て、膵臓と脾臓を十分に露出させる。脾臓を取ってPBS液に置き、脾臓細胞の採集に用いる。膵臓組織と一部分の腸管組織を取ってパラホルムアルデヒド組織固定液にそれぞれ保存し、HE染色による組織の病理的変化の観察に用いる。膵臓と腸の組織を、氷上において、低温PBSで腸内糞便を完全に洗い流した後、速やかに凍結保存管に入れ、液体窒素タンクに置いて保存し、qRT-PCR実験に用いる(腸管組織の分解を防ぐために、必ず低温のPBSを使い、かつ素早く行うこと)。
【0018】
ELISAにより血清アミラーゼとリパーゼのレベルを検出し、HE染色により膵臓と腸組織の病理学的損傷の状況を観察する。
【0019】
分子メカニズムの研究では、生体内実験でフローサイトメトリーを用いてマウスの脾臓のマクロファージのM1への分極化を検出し、免疫蛍光染色法を用いて膵臓におけるM1型マクロファージの割合を観察する。
【0020】
生体内実験の結果から分かるように、対照群と比較して、モデル群のマウスの血清アミラーゼとリパーゼのレベルが著しく向上し、モデル群と比較して、ノルハルマン投与群のマウスの血清アミラーゼとリパーゼのレベルが著しく低下する。対照群と比較して、モデル群のマウスの膵臓組織には、浮腫、壊死、炎症性細胞浸潤が現れ、対照群と比較して、モデル群のマウスの腸組織の腸上皮下の隙間が大きくなり、絨毛が著しく薄くなったり欠けたりし、絨毛の先端の破れや抜け落ちが起こっている。モデル群と比較して、ノルハルマン投与群のマウスの膵臓と腸組織の損傷が顕著に改善される。
【0021】
図1の結果に示すように、ノルハルマンは、急性膵炎のマウスの血清アミラーゼとリパーゼのレベルを低下させることができ、
図2の結果に示すように、ノルハルマンは、急性膵炎のマウスの膵臓と腸組織の損傷を改善させることができ、これはノルハルマンが急性膵炎のマウスに対して、顕著な改善作用を発揮していることを提示する。
【0022】
分子メカニズムの研究から分かるように、対照群と比較して、モデル群のマウスの脾臓におけるM1型マクロファージの割合が著しく向上し、モデル群と比較して、ノルハルマン投与群のマウスの脾臓におけるM1型マクロファージの割合が著しく低下する。対照群と比較して、モデル群のマウスの膵臓におけるM1型マクロファージの量が増加し、モデル群と比較して、ノルハルマン投与群のマウスの膵臓におけるM1型マクロファージの量が減少する。
【0023】
図3、
図4の結果に示すように、ノルハルマンは、急性膵炎のマウスの脾臓におけるM1型マクロファージの割合を減少させることができ、これらの結果は、ノルハルマンは、M1型マクロファージへの分極化を調節することで、急性膵炎を軽減できることを表明する。
【0024】
ノルハルマンの急性膵炎のマクロファージの分極化の制御における作用をさらに明らかにするために、qRT-PCRを用いて、マウスの膵臓と腸組織における炎症性因子IL-1βとTNF-αの遺伝子発現をそれぞれ検出したところ、対照群と比較して、モデル群のマウスの膵臓と腸組織の炎症性因子IL-1βとTNF-αの遺伝子発現が著しくアップ調節(up regulation)され、モデル群と比較して、ノルハルマン投与群のマウスの膵臓と腸組織の炎症性因子IL-1βとTNF-αの遺伝子発現が著しくダウン調節(down regulation)された。
【0025】
図5の結果に示すように、ノルハルマンは、急性膵炎のマウスの膵臓と腸組織における炎症性因子IL-1βとTNF-αの遺伝子発現を抑制することができる。
【0026】
上記の内容は、本発明の実施例にすぎない。上記の実施例及び実施例における具体的なバラメータは、発明の検証過程を説明するためのものにすぎなく、本発明の保護の範囲を限定するものではない。本発明の保護の範囲は、特許請求の範囲に基づくものであるが、本発明の明細書及び図面に基づいて行われた同等な変更は、すべて本発明の請求の範囲に含まれるべきである。
【0027】
[付記]
[付記1]
急性膵炎を予防又は治療するための薬物の製造におけるノルハルマンの使用。
【0028】
[付記2]
ノルハルマンを単一の化学成分の薬物製剤として又は他の薬物とともに複合剤として製造する、ことを特徴とする付記1に記載の使用。
【0029】
[付記3]
前記急性膵炎は、哺乳動物が罹る急性膵炎である、ことを特徴とする付記1に記載の使用。
【0030】
[付記4]
前記哺乳動物は、人類である、ことを特徴とする付記3に記載の使用。
【0031】
[付記5]
急性膵炎を予防又は治療するための前記薬物の用量は11.08mg/kg以下である、ことを特徴とする付記1に記載の使用。
【0032】
[付記6]
急性膵炎を予防又は治療するための前記薬物は、錠剤、丸剤、粉末剤、カプセル剤を含む、ことを特徴とする付記1に記載の使用。
【0033】
[付記7]
ノルハルマンは、血清アミラーゼとリパーゼのレベルを低下させ、膵臓及び腸組織の損傷を改善させる、ことを特徴とする付記1に記載の使用。
【0034】
[付記8]
ノルハルマンは、マクロファージのM1型への極性化を制御することで、急性膵炎を改善させる、ことを特徴とする付記1に記載の使用。
【国際調査報告】