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特表2024-504629前立腺癌誘発性骨転移の核医学診断および治療のための標識前駆体および放射性トレーサー
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  • 特表-前立腺癌誘発性骨転移の核医学診断および治療のための標識前駆体および放射性トレーサー 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-02-01
(54)【発明の名称】前立腺癌誘発性骨転移の核医学診断および治療のための標識前駆体および放射性トレーサー
(51)【国際特許分類】
   A61K 51/04 20060101AFI20240125BHJP
   A61P 35/04 20060101ALI20240125BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20240125BHJP
【FI】
A61K51/04 200
A61K51/04 100
A61P35/04
A61P35/00
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023542823
(86)(22)【出願日】2022-01-20
(85)【翻訳文提出日】2023-07-13
(86)【国際出願番号】 EP2022051289
(87)【国際公開番号】W WO2022157277
(87)【国際公開日】2022-07-28
(31)【優先権主張番号】102021101216.3
(32)【優先日】2021-01-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】521177348
【氏名又は名称】エスツェーファオ-シュペツィアールヒェミカーリェンフェアトリープ、ゲーエムベーハー
【氏名又は名称原語表記】SCV-SPEZIALCHEMIKALIENVERTRIEB GMBH
(74)【代理人】
【識別番号】100120031
【弁理士】
【氏名又は名称】宮嶋 学
(74)【代理人】
【識別番号】100120617
【弁理士】
【氏名又は名称】浅野 真理
(74)【代理人】
【識別番号】100126099
【弁理士】
【氏名又は名称】反町 洋
(72)【発明者】
【氏名】フランク、レッシュ
(72)【発明者】
【氏名】ティルマン、グルス
【テーマコード(参考)】
4C084
4C085
【Fターム(参考)】
4C084AA12
4C084NA14
4C084ZB26
4C085HH03
4C085KA09
4C085KB02
4C085KB07
4C085KB09
4C085KB10
4C085KB12
4C085KB15
4C085KB17
4C085KB56
4C085LL18
(57)【要約】
核医学診断およびセラノスティクスのための標識前駆体は、下記構造(式)を有し、ここで、第1のPSMA特異的ターゲティングベクターTV1、第2のターゲティングベクターTV2は骨親和性を有し、キレート剤Chelは、放射性同位体と、2つまたは3つのリンカーL1、L2およびL3とを錯化するためのものである。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
放射性同位体と錯化するための、構造:
【化1】
(式中、
-第1のターゲティングベクターTV1は、
【化2】
を含むPSMA阻害剤の群から選択され;
-第2のターゲティングベクターTV2は、
【化3】
を含むビスホスホネートの群から選択され;
-第1のリンカーL1は、
【化4】
から選択される構造を有し、
式中、
Gは、
【化5】
であり;
O1、O2およびO3は、アミド基、カルボキサミド基、ホスフィネート基、アルキル基、トリアゾール基、チオ尿素基、エチレン基、マレイミド基、-(CH)-、-(CHCHO)-、-CH-CH(COOH)-NH-および-(CH)qNH-(式中、q=1、2、3、4、5、6、7、8、9または10)を含む群から独立して選択され;
p1、p2およびp3は、{0、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20}のセットから独立して選択され;
-第2のリンカーL2は、
【化6】
から選択される構造を有し、
式中、R1、R2およびR3は、アミド基、カルボキサミド基、ホスフィネート基、アルキル基、トリアゾール基、チオ尿素基、エチレン基、マレイミド基、フラン基、アゾール基、オキサゾール基、チオフェン基、チアゾール基、アジン基、チアジン基、ナフタレン基、キノリン基、ピロール基、イミダゾール基、ピラゾール基、テトラゾール基、チアジアゾール基、オキサジアゾール基、ピリジン基、ピリミジン基、トリアジン基、テトラジン基、チアジン基、オキサジン基、ナフタレン基、クロメン基またはチオクロメン基、-(CH)-、-(CHCHO)-、-CH-CH(COOH)-NH-および-(CH)qNH-(式中、q=1、2、3、4、5、6、7、8、9または10)からなる群から選択され;
s1、s2およびs3は、{0、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20}のセットから独立して選択され;
-第3のリンカーL3は、
【化7】
から選択される構造を有し、
式中、
T1、T2およびT3は、アミド基、カルボキサミド基、ホスフィネート基、アルキル基、トリアゾール基、チオ尿素基、エチレン基、マレイミド基、-(CH)-、-(CHCHO)-、-CH-CH(COOH)-NH-および-(CH)vNH-(式中、v=1、2、3、4、5、6、7、8、9または10)を含む群から選択され;
u1、u2およびu3は、{0、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20}のセットから独立して選択され;
-QSは、スクエア酸基:
【化8】
であり;
および
-キレート剤Chelは、Hpypa、EDTA(エチレンジアミンテトラアセテート)、EDTMP(ジエチレントリアミンペンタ(メチレンホスホン酸))、DTPA(ジエチレントリアミンペンタアセテート)およびその誘導体、DOTA(ドデカ-1,4,7,10-テトラアミンテトラアセテート)、DOTAGA(2-(1,4,7,10-テトラアザシクロドデカン-4,7,10)ペンタン二酸)および他のDOTA誘導体、TRITA(トリデカ-1,4,7,10-テトラアミンテトラアセテート)、TETA(テトラデカ-1,4,8,11-テトラアミンテトラアセテート)およびその誘導体、NOTA(ノナ-1,4,7-トリアミントリアセテート)およびその誘導体、例えばNOTAGA(1,4,7-トリアザシクロノナン,1-グルタル酸,4,7-アセテート)、TRAP(トリアザシクロノナンホスフィン酸)、NOPO(1,4,7-トリアザシクロノナン-1,4-ビス[メチレン(ヒドロキシメチル)ホスフィン酸]-7-[メチレン(2-カルボキシエチル)ホスフィン酸])、PEPA(ペンタデカ-1,4,7,10,13-ペンタアミンペンタアセテート)、HEHA(ヘキサデカ-1,4,7,10,13,16-ヘキサアミンヘキサアセテート)およびその誘導体、HBED(ヒドロキシベンジルエチレンジアミン)およびその誘導体、DEDPAおよびその誘導体、例えばHDEDPA(1,2-[[6-(カルボキシレート)ピリジン-2-イル]メチルアミン]エタン)など、DFO(デフェロキサミン)およびその誘導体、トリスヒドロキシピリジノン(THP)およびその誘導体、例えばYM103など、TEAP(テトラアザシクロデカンホスフィン酸)およびその誘導体、AAZTA(6-アミノ-6-メチルペルヒドロ-1,4-ジアゼピンN,N,N’,N’-テトラアセテート)およびその誘導体、例えばDATA((6-ペンタン酸)-6-(アミノ)メチル-1,4-ジアゼピントリアセテート)など;SarAr(1-N-(4-アミノベンジル)-3,6,10,13,16,19-ヘキサアザビシクロ[6.6.6]エイコサン-1,8-ジアミン)およびその塩、(NHSAR(1,8-ジアミノ-3,6,10,13,16,19-ヘキサアザビシクロ[6.6.6]エイコサン)ならびにその塩および誘導体、アミノチオールおよびその誘導体を含む群から選択される)
を有する、標識前駆体。
【請求項2】
前記キレート剤Chelが、DOTA、Hpypa、DATAまたはDOTAGAであることを特徴とする、請求項1に記載の標識前駆体。
【請求項3】
前記第2のリンカーL2が、
【化9】
から選択される、少なくとも1つの基を含むことを特徴とする、請求項1または2に記載の標識前駆体。
【請求項4】
前記第2のリンカーL2が、少なくとも1つのスクエア酸基:
【化10】
を含むことを特徴とする、請求項3に記載の標識前駆体。
【請求項5】
前記第2のリンカーL2が、
【化11】
から選択される少なくとも1つの基を含むことを特徴とする、請求項3に記載の標識前駆体。
【請求項6】
前記第2のリンカーL2が、少なくとも1つのイミダゾール基:
【化12】
を含むことを特徴とする、請求項1~5のいずれか一項に記載の標識前駆体。
【請求項7】
前記リンカーL1、L2およびL3の2つまたは3つが同一であることを特徴とする、請求項1~6のいずれか一項に記載の標識前駆体。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか一項に記載の標識前駆体と、44Sc、47Sc、55Co、62Cu、64Cu、67Cu、66Ga、67Ga、68Ga、89Zr、86Y、90Y、89Zr、90Nb、99mTc、111In、135Sm、140Pr、159Gd、149Tb、160Tb、161Tb、165Er、166Dy、166Ho、175Yb、177Lu、186Re、188Re、211At、212Pb、213Bi、225Acおよび232Thを含む群から選択される放射性同位体とを含んでなる、放射性トレーサー。
【請求項9】
前記放射性同位体が、68Ga、177Luまたは225Acであることを特徴とする、請求項8に記載の放射性トレーサー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、キレート剤Chelと、そのキレート剤Chelにコンジュゲートされた、PSMAおよび骨転移のための2つのターゲティングベクターとを含む、放射性同位体を錯化するための標識前駆体に関する。
【0002】
本発明の化合物は、前立腺癌によって誘発される骨転移の画像核医学診断および治療(セラノスティクス)を意図している。
【背景技術】
【0003】
ラジオセラノスティックス
診療において、陽電子放出断層撮影(PET)および単一光子放射型コンピュータ断層撮影法(SPECT)などの核医学画像診断法は、およそ15年間にわたり、使用範囲が拡大してきた。近年、セラノスティック方法もまた、ますます重要になってきた。
【0004】
核医学診断法および治療法において、腫瘍細胞および転移は、放射性同位体、例えばガリウム-68(68Ga)またはルテチウム-177(177Lu)によって標識される。標識前駆体のなかで、この場合、各放射性同位体(68Ga、99mTc、177Lu)に配位結合し、放射性トレーサーを形成するものが使用される。標識前駆体は、必須の化学的コンポーネントとして、放射性同位体の効果的かつ安定な錯化のためのキレート剤と、機能性コンポーネントとして、腫瘍組織中の限定された標的構造に結合する生物学的ターゲティングベクターとを含む。一般に、生物学的ターゲティングベクターは、腫瘍細胞の膜貫通受容体、タンパク質、酵素、または他の構造に対して高い親和性を有する。
【0005】
血流中に静脈内注入した後、放射性同位体標識したセラノスティック薬剤または放射性トレーサーは、原発性腫瘍および転移性組織の細胞上または細胞内に集積する。目的は、組織が死ぬような放射線の線量を腫瘍内に蓄積させることである。同時に、健常組織が受ける放射線量は、そこに与える障害が許容可能であるように、十分に低いままであるべきである。
【0006】
キレート剤は、ターゲティングベクターのコンフィギュレーションおよび化学的特性を改変し、また、一般に腫瘍細胞に対するターゲティングベクターの親和性に強く影響を及ぼす。したがって、キレート剤とターゲティングベクターの間のカップリングは、複雑な試行錯誤実験、または生化学的スクリーニングと呼ばれる実験において、目的に合わせて作られる。これには、キレート剤とターゲティングベクターを含む多数の標識前駆体を合成すること、および、特に腫瘍細胞に対する親和性を定量することが含まれる。キレート剤、およびターゲティングベクターに対する化学的カップリングは、それぞれのラジオセラノスティックスの生物学的および核医学的能力にとって極めて重要である。
【0007】
高い親和性に加えて、標識前駆体は、さらなる要求、例えば、
-それぞれの放射性同位体の迅速かつ効果的なキレート化;
-健常組織と比較して、腫瘍細胞および転移(特に骨転移)に対する、最終的なラジオセラノスティックスの高い選択性;
-in vivo安定性、すなわち、生理的条件下の血清中における最終的なラジオセラノスティックスの生化学的安定性
を満たさなければならない。
【0008】
前立腺癌
先進国の男性について、前立腺癌は、最も一般的な種類の癌であり、また、癌による死の第三位の原因である。この疾患において、腫瘍増殖はゆっくりと進む。早いステージに診断された場合、5年生存率は100%に近い。腫瘍が転移した後で初めて診断された場合、生存率は劇的に低下する。他方で、腫瘍の治療が早すぎる、および積極的すぎる場合、患者のクオリティ・オブ・ライフを無駄に損ない得る。例えば、前立腺の外科的切除は、失禁およびインポテンツを引き起こし得る。この疾患のステージについての信頼できる診断および情報が、患者のクオリティ・オブ・ライフが高い、成功した治療のために不可欠である。幅広く用いられている診断ツールは、医師による前立腺の触診に加えて、患者の血液中の腫瘍マーカーの定量である。前立腺癌の最も有名なマーカーは、血液中の前立腺特異抗原(PSA)の濃度である。しかしながら、わずかに数値が上昇した患者が前立腺癌を有していないことがしばしばあり、逆に、前立腺癌患者の15%は血中PSA濃度の上昇を示さないので、PSA濃度の重要性には議論がある。
【0009】
前立腺特異的膜抗原(PSMA)
前立腺腫瘍の診断のための標的構造の一つは、前立腺特異的膜抗原(PSMA)である。PSAとは異なり、PSMAは、血中には検出されない。PSMAは、酵素活性を有する膜結合型糖タンパク質である。その機能は、N-アセチル-アスパルチル-グルタメート(NAAG)および葉酸-(ポリ)-γ-グルタメートからC末端グルタメートを切断することである。PSMAは、正常組織にはほとんど生じないが、前立腺癌細胞によって高度に過剰発現され、その発現は、腫瘍疾患のステージと密接に関連している。前立腺癌のリンパ節転移および骨転移の約40%もまた、PSMAを発現する。
【0010】
PSMAの分子ターゲティングのための1つの戦略は、PSMAのタンパク質構造に抗体を結合させることである。別なアプローチは、PSMAの酵素活性を利用することであり、これはよく理解されている。PSMAの酵素結合ポケット中に、グルタメートに結合する2つのZn2+イオンが存在する。2つのZn2+イオンの中心の前方に、芳香族結合ポケットがある。このタンパク質は、プテロイン酸基が芳香族結合ポケットに結合すると共に、NAAGに加えて葉酸も結合できるように、伸長して結合相手に適合(誘導適合)することができる。PSMAの酵素親和性を利用することによって、基質の酵素的切断とは独立して、細胞内への基質の取り込み(エンドサイトーシス)が可能になる。
【0011】
したがって、特にPSMA阻害剤は、画像診断およびセラノスティックな放射性医薬品または放射性トレーサーのためのターゲティングベクターとして、高い適性を有している。放射標識された阻害剤は、酵素の活性部位に結合するが、そこで変換されることはない。よって、この阻害剤と放射性標識の間の結合は切断されない。エンドサイトーシスによって、放射性標識を有する阻害剤は、細胞内に取り込まれ、腫瘍細胞内に集積する。
【0012】
PSMAに対する親和性が高い阻害剤(スキーム1)は、一般にグルタメートモチーフ、および酵素的に切断されない構造を含む。非常に効果的なPSMA阻害剤は、2-ホスホノメチルグルタル酸または2-ホスホノメチルペンタン二酸(2-PMPA)であり、ここで、グルタメートモチーフは、PSMAによって切断されないホスホネート基に結合されている。尿素ベースの阻害剤は、臨床的に適切な放射性医薬品PSMA-11(スキーム2)およびPSMA-617(スキーム3)において使用される、PSMA阻害剤の別のグループを形成する。
【0013】
グルタメートモチーフのための結合ポケットに加えて、PSMAの芳香族結合ポケットを標的化することが有利であることが見出されている。例えば、非常に強力な放射性医薬品PSMA-11において、結合モチーフL-リジン-尿素-L-グルタメート(KuE)は、ヘキシル(ヘキシルリンカー)を介して、芳香族HBEDキレート剤(N,N’-ビス(2-ヒドロキシ-5-(エチレン-ベータ-カルボキシ)ベンジル)エチレンジアミンN,N’-ジアセテート)に結合される。
【0014】
これに対して、L-リジン-尿素-L-グルタメート(KuE)が非芳香族キレート剤DOTA(1,4,7,10-テトラアザシクロドデカン-1,4,7,10-テトラアセテート)に結合される場合、親和性および腫瘍組織への蓄積が低下することが観察される。しかしながら、治療用放射性同位体(例えば177Luまたは225Acなど)を含む、PSMA親和性を有する放射性医薬品のためにDOTAキレート剤を使用することを可能にするために、リンカーを適合させなければならない。非常に効果的な放射性医薬品PSMA-617(現在のゴールドスタンダードである)は、種々の芳香族構造によるヘキシルの特異的な置換によって見出された。
【0015】
【化1】
【0016】
【化2】
【0017】
【化3】
【0018】
放射性同位体を用いた、癌の診断およびセラノスティクスのための多数の標識前駆体が、先行技術に開示されている。WO2015055318A1は、スキーム3の化合物PSMA-617を含む、前立腺癌または上皮癌の診断およびセラノスティクスのための放射性トレーサーを開示している。
【0019】
骨転移およびビスホスホネート
ビスホスホネート(BP)は、診療において、骨代謝異常およびカルシウム代謝異常の治療ために使用される。これには、ページェット病、骨粗鬆症および骨腫瘍の従来の全身療法が含まれる。ビスホスホネートは、ミネラルであるリン酸カルシウムの蓄積における顕著な選択性によって特徴付けられる。これは、ビスホスホネートとカルシウム(II)イオンの二座キレート錯体の形成に基づく。ビスホスホネートは、急速に骨再構築している領域において優先的に吸収される。骨転移においては、健常組織と比較して、集中的な再構築が起こる。したがって、ビスホスホネートは、骨転移においてより高い程度まで集積し、そこで、種々のプロセスを開始させる。
【0020】
他方で、ビスホスホネートは、骨質のミネラル化および骨吸収を阻害する。この効果は、なかでも、HMG-CoA還元酵素(メバロネート)経路の酵素であるファルネシルピロリン酸合成酵素(FPPS)の阻害に基づく。この酵素の阻害によって、シグナリングタンパク質を細胞膜にアンカリングするための重要な分子(FPPS)であるファルネシルの産生が止まり、また、細胞のアポトーシスが引き起こされる。よって、ビスホスホネート誘導体は、そのようなものとして、細胞レベルで既に治療的な役割を果たしている。
【0021】
骨表面へのビスホスホネートの選択的蓄積によって、骨原性細胞、特に破骨細胞(これは、骨基質が脱灰した場合に、より高い程度までビスホスホネートを取り込む)のアポトーシスが促進する。破骨細胞のアポトーシスが増加したことによって、次に、骨吸収抑制効果が生じる。
【0022】
臨床的に適切なビスホスホネートは、クロドロネート、エチドロネート、パミドロネート、リセドロネートおよびゾレドロネートである。
【0023】
骨転移のセラノスティクスのための特に効果的な放射性トレーサーは、芳香族複素環Nユニットを有するヒドロキシビスホスホネートであるゾレドロネート(ZOL)であることが見出されている。キレート剤NODAGAおよびDOTAとコンジュゲートしたゾレドロネート(スキーム4)は、骨転移のための現在最も強力な放射性セラノスティクスの代表である。
【0024】
【化4】
【0025】
進行期における前立腺癌および転移の治療において、上記のPSMAターゲティングベクターKuEを含む単量体放射性トレーサーは、現在好んで用いられている。PSMAは、また、健常細胞の表面にも発現される。したがって、PSMAターゲティングベクターを含む単量体放射性トレーサー放射性トレーサーは、また、健常組織内にも少なからぬ程度まで集積する。それに伴う放射線量は、種々の有毒な副作用を引き起こす。これらの副作用は、225Ac(225アクチニウム)で標識された放射性トレーサーのケースにおいて特に顕著であり、唾液腺を完全かつ不可逆的に損傷させる。したがって、225Ac放射性同位体を含む治療形態は、もはや用いられていない。
【0026】
診断方法の改善の結果として、転移性前立腺癌の患者数が近年減少しているにもかかわらず、前立腺癌転移を有する患者数は依然として高く、転移の約80%が骨組織を侵している。転移性前立腺癌のケースにおいては、生存率が著しく低下する。これは、骨転移に特にあてはまる。加えて、骨転移は、激痛を引き起こし、また、クオリティ・オブ・ライフを著しく損なう。一般に、残された唯一の臨床的な代替手段は、緩和療法である(Gandaglia,G.ら,Impact of Metastases on Survival in Patients with Metastatic Prostate Cancer,European Urology,2015,68(2),325-334)。
【発明の開示】
【0027】
本発明の目的は、転移性前立腺癌の穏やかで効果的な治療のための標識前駆体および放射性トレーサーを提供することである。
【0028】
この目的は、放射性同位体と錯化するための、構造:
【化5】
(式中、
-第1のターゲティングベクターTV1は、
【化6】
を含むPSMA阻害剤の群から選択され;
-第2のターゲティングベクターTV2は、
【化7】
を含むビスホスホネートの群から選択され;
-第1のリンカーL1は、
【化8】
から選択される構造を有し、
式中、
Gは、
【化9】
であり;
O1、O2およびO3は、アミド基、カルボキサミド基、ホスフィネート基、アルキル基、トリアゾール基、チオ尿素基、エチレン基、マレイミド基、-(CH)-、-(CHCHO)-、-CH-CH(COOH)-NH-および-(CH)qNH-(式中、q=1、2、3、4、5、6、7、8、9または10)を含む群から独立して選択され;
p1、p2およびp3は、{0、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20}のセットから独立して選択され;
-第2のリンカーL2は、
【化10】
から選択される構造を有し、
式中、R1、R2およびR3は、アミド基、カルボキサミド基、ホスフィネート基、アルキル基、トリアゾール基、チオ尿素基、エチレン基、マレイミド基、フラン基、アゾール基、オキサゾール基、チオフェン基、チアゾール基、アジン基、チアジン基、ナフタレン基、キノリン基、ピロール基、イミダゾール基、ピラゾール基、テトラゾール基、チアジアゾール基、オキサジアゾール基、ピリジン基、ピリミジン基、トリアジン基、テトラジン基、チアジン基、オキサジン基、ナフタレン基、クロメン基またはチオクロメン基、-(CH)-、-(CHCHO)-、-CH-CH(COOH)-NH-および-(CH)qNH-(式中、q=1、2、3、4、5、6、7、8、9または10)からなる群から選択され;
s1、s2およびs3は、{0、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20}のセットから独立して選択され;
-第3のリンカーL3は、
【化11】
から選択される構造を有し、
式中、
T1、T2およびT3は、アミド基、カルボキサミド基、ホスフィネート基、アルキル基、トリアゾール基、チオ尿素基、エチレン基、マレイミド基、-(CH)-、-(CHCHO)-、-CH-CH(COOH)-NH-および-(CH)vNH-(式中、v=1、2、3、4、5、6、7、8、9または10)を含む群から選択され;
u1、u2およびu3は、{0、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20}のセットから独立して選択され;
-QSは、スクエア酸基:
【化12】
であり;
および
-キレート剤Chelは、Hpypa、EDTA(エチレンジアミンテトラアセテート)、EDTMP(ジエチレントリアミンペンタ(メチレンホスホン酸))、DTPA(ジエチレントリアミンペンタアセテート)およびその誘導体、DOTA(ドデカ-1,4,7,10-テトラアミンテトラアセテート)、DOTAGA(2-(1,4,7,10-テトラアザシクロドデカン-4,7,10)ペンタン二酸)および他のDOTA誘導体、TRITA(トリデカ-1,4,7,10-テトラアミンテトラアセテート)、TETA(テトラデカ-1,4,8,11-テトラアミンテトラアセテート)およびその誘導体、NOTA(ノナ-1,4,7-トリアミントリアセテート)およびその誘導体、例えばNOTAGA(1,4,7-トリアザシクロノナン,1-グルタル酸,4,7-アセテート)、TRAP(トリアザシクロノナンホスフィン酸)、NOPO(1,4,7-トリアザシクロノナン-1,4-ビス[メチレン(ヒドロキシメチル)ホスフィン酸]-7-[メチレン(2-カルボキシエチル)ホスフィン酸])、PEPA(ペンタデカ-1,4,7,10,13-ペンタアミンペンタアセテート)、HEHA(ヘキサデカ-1,4,7,10,13,16-ヘキサアミンヘキサアセテート)およびその誘導体、HBED(ヒドロキシベンジルエチレンジアミン)およびその誘導体、DEDPAおよびその誘導体、例えばHDEDPA(1,2-[[6-(カルボキシレート)ピリジン-2-イル]メチルアミン]エタン)など、DFO(デフェロキサミン)およびその誘導体、トリスヒドロキシピリジノン(THP)およびその誘導体、例えばYM103など、TEAP(テトラアザシクロデカンホスフィン酸)およびその誘導体、AAZTA(6-アミノ-6-メチルペルヒドロ-1,4-ジアゼピンN,N,N’,N’-テトラアセテート)およびその誘導体、例えばDATA((6-ペンタン酸)-6-(アミノ)メチル-1,4-ジアゼピントリアセテート)など;SarAr(1-N-(4-アミノベンジル)-3,6,10,13,16,19-ヘキサアザビシクロ[6.6.6]エイコサン-1,8-ジアミン)およびその塩、(NHSAR(1,8-ジアミノ-3,6,10,13,16,19-ヘキサアザビシクロ[6.6.6]エイコサン)ならびにその塩および誘導体、アミノチオールおよびその誘導体を含む群から選択される)
を有する標識前駆体によって実現される。
【0029】
本発明の標識前駆体の適切な実施形態は、特徴が相互排他的でない限り、下記の特徴:
-前記キレート剤Chelは、DOTAであり;
-前記キレート剤Chelは、Hpypaであり;
-前記キレート剤Chelは、DATAであり;
-前記キレート剤Chelは、DOTAGAであり;
-前記第2のリンカーL2は、
【化13】
から選択される基の少なくとも1つを含み;
-前記第2のリンカーL2は、少なくとも1つのスクエア酸基
【化14】
を含み;
-前記第2のリンカーL2は、
【化15】
から選択される少なくとも1つの基を含み;
-前記リンカーL1およびL2は、同一であり(L1=L2);
-前記リンカーL1およびL3は、同一であり(L1=L2);
-前記リンカーL2およびL3は、同一であり(L2=L3);
-前記リンカーL1、L2およびL3は、同一であり(L1=L2=L3);
-前記第2のリンカーL2は、
【化16】
および上記の基の誘導体
の基を含む群から選択される基を含み;
-前記第2のリンカーL2は、少なくとも1つのイミダゾール基:
【化17】
を含み;
-Gは、
【化18】
であり;
-前記標識前駆体は、構造:
【化19】
を有する;
の任意の組合せによって特徴付けられる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
以下、図面および実施例を参照して本発明を詳細に説明する。図面は、以下のことを示す。
図1図1は、放射性トレーサーの機能性コンポーネントを示す。
図2図2は、ウィスターラットのin vivo PET画像を示す。
図3図3は、時間に対する、SUVの進行、および骨端と血液のPETシグナル比の図を示す。
図4図4は、PSMA結合ポケットについての結合シミュレーションの結果を示す。
図5図5は、標識前駆体の標識キネティクスを示す。
図6図6は、生理学的培地中の放射性トレーサーの安定性を示す。
図7図7は、ヒドロキシアパタイトについての結合親和性を示す。
図8図8は、PSMAのブロッキングあり、および、ブロッキングなしにおける、ex vivo組織蓄積を示す。
【発明の具体的説明】
【0031】
アミドカップリングの具体例
本発明において、キレート剤Chel、ターゲティングベクターTV1、TV2およびリンカーL1、L2は、好ましくは、アミドカップリング反応によってコンジュゲートされる。アミドカップリング(これは、タンパク質のバックボーンを形成する)は、医薬品化学において、最も一般的に使用される反応である。アミドカップリングの一般的な例をスキーム5に示す。
【0032】
【化20】
【0033】
容易に利用可能なカルボン酸誘導体およびアミン誘導体のセットには実質的に限りがないため、アミドカップリング戦略は、新規化合物を合成するための簡便な経路をもたらす。アミドカップリングのための非常に多くの試薬およびプロトコルが当業者に知られている。最も一般的なアミドカップリング戦略は、カルボン酸とアミンの縮合に基づく。カルボン酸は、この目的のために、一般的に活性化される。残りの官能基は、活性化の前に保護される。反応は、2つのステップで行われ、1つの反応媒体(ワンポット)で活性化カルボン酸を直接的に変換するか、または2つのステップで、活性化された「トラップされた」カルボン酸を単離して、アミンと反応させるか、のいずれかである。
【0034】
カルボキシレートは、ここで、カップリング剤と反応し、反応中間体を形成する(反応中間体は、単離してもよく、またはアミンと直接的に反応させてもよい)。非常に多くの試薬(例えば、酸ハロゲン化物(塩化物、フッ化物)、アジ化物、無水物、またはカルボジイミドなど)が、カルボン酸の活性化のために利用可能である。加えて、ペンタフルオロフェニルまたはヒドロキシコハク酸イミドエステルなどのエステルが、反応中間体として形成され得る。アシル塩化物またはアジ化物由来の中間体は、反応性が高い。しかしながら、過酷な反応条件および高い反応性が、繊細な基質またはアミノ酸に対する使用の妨げになることが多い。対照的に、DCC(ジシクロヘキシルカルボジイミド)またはDIC(ジイソプロピルカルボジイミド)などのカルボジイミドを使用するアミドカップリング戦略は、幅広い範囲に適用される。一般に、特に固相合成において、反応効率を改善するために添加材が用いられる。アミニウム塩は、反応時間が短く、かつラセミ化が最小限である、高効率なペプチドカップリング試薬である。いくつかの添加剤、例えばHOBtによって、ラセミ化は完全に回避することさえ可能である。アミニウム試薬は、ペプチドの遊離アミンとの過剰な反応を防ぐために、カルボン酸に対して等モル量で使用される。ホスホニウム塩は、カルボキシレートと反応し、これは、一般に2等量の塩基、例えばDIEAを必要とする。イミニウム試薬を上回るホスホニウム塩の主要な利点は、ホスホニウムは、アミン化合物の遊離アミノ基と反応しないことである。これが、酸とアミンの当モル比でのカップリングを可能にし、また、直鎖ペプチドの分子内環化および高価なアミン化合物の過剰な使用を避けるために役立つ。
【0035】
アミドカップリングのための反応戦略および試薬の包括的な概要は、以下の総説論文中に見出すことができる:
-Analysis of Past and Present Synthetic Methodologies on Medicinal Chemistry:Where Have All the New Reactions Gone?;D.G.Brown,J.Bostrom;J.Med.Chem.2016,59(10),4443-4458;
-Peptide Coupling Reagents,More than a Letter Soup;A.El-Faham,F.Albericio;Chem.Rev.2011,111(11),6557-6602;
-Rethinking amide bond synthesis;V.R.Pattabiraman,J.W.Bode;Nature,Vol.480(2011)471-479;
-Amide bond formation:beyond the myth of coupling reagents;E.Valeur,M.Bradley;Chem.Soc.Rev.,2009,38,606-631。
【0036】
本発明に従って使用されるキレート剤の多く(特にDOTAなど)は、1つまたはそれを超えるカルボキシ基またはアミド基を有する。したがって、これらのキレート剤は、当該技術分野で知られているいずれかのアミドカップリング戦略を使用して、リンカーL1、L2に容易にコンジュゲートされ得る。スキーム6および7は、リンカーターゲティングベクターユニットL1-TV1とキレート剤Chelのカップリングの例を示し;スキーム8~10は、L2-TV2とキレート剤Chelのカップリングの例を示す。
【0037】
【化21】
【0038】
【化22】
【0039】
【化23】
【0040】
【化24】
【0041】
【化25】
【0042】
放射性同位体標識のためのキレート剤Chel
キレート剤Chelは、44Sc、47Sc、55Co、62Cu、64Cu、67Cu、66Ga、67Ga、68Ga、89Zr、86Y、90Y、89Zr、90Nb、99mTc、111In、135Sm、140Pr、159Gd、149Tb、160Tb、161Tb、165Er、166Dy、166Ho、175Yb、177Lu、186Re、188Re、211At、212Pb、213Bi、225Acおよび232Thからなる群から選択される放射性同位体によって、本発明の標識前駆体を標識するためのものである。上記の放射性同位体を錯化するための多様なキレート剤が、当該技術分野において知られている。スキーム11は、本発明に従って使用されるキレート剤の例を示す。
【0043】
【化26】
【0044】
68Gaの錯化のために、また177Luの錯化のためにも適性が良好なDOTAキレート剤は、本発明に従って好ましい。177Luの錯化のために、特に、Hpypaキレート剤もまた使用され得る。Hpypaの合成をスキーム12に示す。
【0045】
【化27】
【0046】
放射性同位体
核医学セラノスティクス(診断および治療)のために、特に、放射性同位体68Gaまたは177Luが使用される。本発明は、また、44Sc、47Sc、55Co、62Cu、64Cu、67Cu、66Ga、67Ga、68Ga、89Zr、86Y、90Y、89Zr、90Nb、99mTc、111In、135Sm、159Gd、149Tb、160Tb、161Tb、165Er、166Dy、166Ho、175Yb、177Lu、186Re、188Re、211At、212Pb、213Bi、225Acおよび232Thからなる群から選択される放射性同位体の使用も提供する。
【0047】
本発明の標識前駆体の構造式の例を、以下に列挙する。
【化28】
【0048】
【化29】
【0049】
【化30】
【0050】
【化31】
【0051】
【化32】
【0052】
【化33】
【0053】
【化34】
【0054】
【化35】
【0055】
【化36】
【0056】
【化37】
【実施例
【0057】
実施例1:ビスホスホネートのための親和性プロモーターとしてのスクエア酸
発明者らは、意外にも、ビスホスホネートターゲティングベクターのリンカーのコンポーネントとしてのスクエア酸は、骨組織において、ヒドロキシアパタイトに対する親和性を増大させることを見出した。この有利な効果は、キレート剤NODAGAとスクエア酸パミドロネート(NODAGA.QS.Pam)のコンジュゲート、およびNODAGAとゾレドロネート(NODAGA.ZOL)のコンジュゲートの吸着熱(adsorption therms)によって示される。この目的のために、吸着熱(adsorption therms)は、LangmuirとFreundlichの方法によって決定される。
【0058】
比較のために、スキーム23および24に、キレート剤NODAGAとスクエア酸パミドロネート(NODAGA.QS.Pam)のコンジュゲート、およびNODAGAとゾレドロネート(NODAGA.ZOL)のコンジュゲートを示し、さらにLangmuirとFreundlichの方法によって測定された、それぞれの吸着係数KLFも示す。
【0059】
【化38】
【0060】
【化39】
【0061】
コンジュゲートNODAGA.QS.Pamの吸着係数KLFは、NODAGA.ZOL(これは、スクエア酸基の代わりにイミダゾール基を含む)の吸着係数KLFよりも大きく、約3倍である。このことから、スクエア酸は、骨組織に対するビスホスホネート基の親和性を著しく増大させることが直ちに明らかである。
【0062】
さらに、若齢の健常ウィスターラットに対する、放射性トレーサー[68Ga]Ga-NODAGA.QS.Pamを使用したin vivo PET(陽電子放出断層撮影)研究(図2参照)によって、骨端(これは、若齢動物において、骨転移と同様に、骨組織の急速な更新および再構築によって特徴付けられる)における高い蓄積が示される。
【0063】
PET放射標識[68Ga]Ga-DOTA.ZOLについての公開されているSUV(標準取込値、https://de.wikipedia.org/wiki/SUV_(Nuklearmedizin))であるSUV骨端=17.4と比較して、[68Ga]NODAGA.QS.Pamによって、著しく上昇した値であるSUV骨端=22.9(図3参照)を実現することが可能である。
【0064】
加えて、[68Ga]NODAGA.QS.Pamの腎排出(%ID=40±4、60分p.i.)は、[68Ga]Ga-DOTA.ZOLについての腎排出(%ID=33±17、60分p.i.)よりも速い。[68Ga]Ga-NODAGA.QS.Pamについて、図3に示すように、このことが、[68Ga]Ga-DOTA.ZOLについての30.3と比較してより高い299.1という骨端対血液比、また、これに対応してより良好なPET画像コントラスト(またはシグナル・ノイズ比)をもたらす。
【0065】
実施例2:KuEユニットの合成
PSMAのためのターゲティングベクターとして、例えば、PSMA阻害剤L-リジン-尿素-L-グルタメート(KuE)を、Benesovaらによる既知の方法(Linker Modification Strategies To Control the Prostate-Specific Membrane Antigen(PSMA)-Targeting and Pharmacokinetic Properties of DOTA-Conjugated PSMA Inhibitors;J Med Chem,2016,59(5),1761-1775)を使用して合成した(スキーム25参照)。固相に、特にポリマー樹脂に結合し、かつtert-ブチルオキシカルボニル(tert-ブチル)で保護されたリジンを、ここで、二重にtert-ブチルで保護されたグルタミン酸と反応させる。保護されたグルタミン酸を、トリホスゲンで活性化し、固相に結合したリジンにカップリングした後、L-リジン-尿素-L-グルタメート(KuE)を、TFAを使用して除去し、同時に完全に脱保護する。次いで、セミ分取HPLCによって、産物を遊離リジンから71%の収率で単離することができる。
【0066】
【化40】
【0067】
次いで、PSMA阻害剤KuE(1)を、カップリング試薬としてジエチルスクエアレートを使用して、標識前駆体とカップリングすることができる。KuE(1)とスクエアジエステルのカップリングは、pH7の0.5Mリン酸緩衝液中で行われる。リン酸緩衝液の緩衝能が不十分なので、両方の試薬を添加した後、水酸化ナトリウム水溶液(1M)によってpHを再調整しなければならない。pH7において、酸の単純なアミド化(スキーム26)が、室温で、短い反応時間で急速に進行する。HPLC精製を行った後、KuE-QS(2)が全収率16%で得られる。
【0068】
【化41】
【0069】
このようにして得たKuEスクエア酸モノエステルは、貯蔵可能であり、また、さらなる合成のための基礎的要素として使用することができる。
【0070】
実施例3:KuEユニットおよびPSMA-617リンカーの固相ベースの合成
グルタメート-尿素-リジン結合モチーフKuEを、Benesovaらによって開発された方法によって、芳香族リンカーユニットとコンジュゲートする(Linker Modification Strategies To Control the Prostate-Specific Membrane Antigen(PSMA)-Targeting and Pharmacokinetic Properties of DOTA-Conjugated PSMA Inhibitors;J Med Chem,2016,59(5),1761-1775)。Benesovaらによって報告された合成方法を、わずかに改変した(スキーム27参照)。
【0071】
【化42】
【0072】
【化43】
【0073】
【化44】
【0074】
【化45】
【0075】
実施例4:標識前駆体Pam.QS.DOTAGA.KuE-617の合成
まず、DOTAGA部分構造を合成する。これは、収率74%であった。
【化46】
【0076】
合成は、二級アミンをBoc保護アミノ基で官能化した、商業的に入手可能なDO2A(tBu)-GABzから出発した。
【0077】
DOTAGA(COOtBu)(NHBoc)-GABz(4)のグルタル酸側鎖のベンジル保護基を還元的に除去し、ターゲティングベクターとカップリングさせた。
【0078】
次いで、PSMA-617リンカーを、アミドカップリングによって、キレート剤(5)とカップリングする。
【化47】
【0079】
キレート剤(5)とKuE-結合リンカーのカップリングをスキーム29に示す。アミドカップリングによって得た、保護されたPSMA-617誘導体(6)を、トリフルオロ酢酸(TFA)を使用して脱保護し、固相から脱離させる。2段階合成の全収率は、HPLC精製後で6%であった。
【0080】
最後のステップにおいて、パミドロネート-スクエア酸ユニットを合成し、化合物(7)とカップリングする(スキーム30)。β-アラニンから出発し、パミドロネート(8)をまず調製し、pH7のリン酸緩衝水溶液中でスクエアジエステルとカップリングさせる。パミドロネート-スクエア酸基(9)とDOTAGA.KuE-617(7)のカップリングは、pH9のリン酸緩衝水溶液中で行われる(スキーム30参照)。HPLC精製を行った後、本発明の標識前駆体Pam.QS.DOTAGA.KuE-617(10)が収率49%で得られる。
【0081】
【化48】
【0082】
実施例5:標識前駆体DOTA.L-Lys(SA.Pam)KuE-617の合成
スキーム17に示す標識前駆体DOTA.L-Lys(SA.Pam)KuE-617の合成をスキーム31に示す。まず、固相に結合した第1のターゲティングベクターKuEと、それにコンジュゲートされた芳香族リンカー(スキーム31における構造(11))を、スキーム27に示したものと同様のやり方で合成する。次いで、直交的に保護されたリジンを、架橋ユニットXとしてリンカーにコンジュゲートする。Fmoc脱保護(構造(12))に続き、DOTA-トリス(tert-ブチルエステル)とカップリングし(各反応において、アミド形成のための試薬としてHATUを使用する)、構造式(13)に示す化合物を得る。その後、化合物(13)をTFA/DCM中で完全に脱保護し、固相から脱離させて化合物(14)を得る。最後に、パミドロネートとスクエア酸からなる第2のターゲティングベクター(9)を、化合物(14)とコンジュゲートさせる。第2のターゲティングベクターは、スキーム30に示したものと同様のやり方で、前もって合成する。
【0083】
【化49】
【0084】
実施例6:化合物NH2.DOTAGA.KuE-617、NH2.DOTAGA.QS.KuEおよびPam.SA.DOTAGA.KuE-617のin vitro研究
細胞アッセイを使用して、KuEターゲティングベクターと、親油性リンカーとの親和性(PSMA-617と類似する)、およびスクエア酸リンカーとの親和性を、化合物NH2.DOTAGA.KuE-617およびNH2.DOTAGA.QS.KuE(スキーム32における構造式(8)および(10))を使用して検討した。
【0085】
【化50】
【0086】
アッセイのために、LNCaP細胞を、マルチウェルプレート(Merck Millipore Multiscreen(商標))の中にピペットで分注した。次第に濃度を上げた分析対象の化合物に、それぞれ、規定量または濃度の、K値が既知である参照化合物化合物68Ga[Ga]PSMA-10を添加し、混合物を、ウェル中で、LNCaP細胞と45分間インキュベートした。数回洗浄した後、細胞結合活性を決定した。得られた阻害曲線を、表1に示すIC50値およびK値を計算するために使用した。
【0087】
【表1】
【0088】
非特異的な結合を決定するために、全ての化合物に過剰量のPSMA阻害剤2-PMPA(2-(ホスホノメチル)ペンタン酸)を追加して添加し、それらを上記と同じLNCaPアッセイにかけた。
【0089】
スクエア酸含有化合物NH.DOTAGA.QS.KuE(16)およびNH.DOTAGA.KuE-617(7)の親和性は実質的に同じであり、確立された化合物PSMA-617およびPSMA-11の親和性とおおむね一致する。
【0090】
図4は、QS.KuE基と、PSMAの結合ポケットの相互作用を示す。
【0091】
スクエア酸含有化合物NH.DOTAGA.QS.KuE(10)の合成に関する複雑さは、他の化合物と比較して、非常に低い。ターゲティングベクターとキレート剤の間のリンカーとしてスクエア酸を使用することによって、2つの異なるターゲティングベクター(このケースでは、KuEとビスホスホネート)を用いて、より複雑な標識前駆体を定量的に合成する手段がもたらされる。
【0092】
さらに、最終の標識前駆体Pam.SA.DOTAGA.KuE-617(10)のPSMA親和性を決定した。IC50は、49.8±10nMである。
【0093】
実施例7:[ 117 Lu]Lu-DOTA.L-Lys(SA.Pam)KuE-617の放射化学的分析
温度95℃で、標識前駆体DOTA.L-Lys(SA.Pam)KuE-617(スキーム17、およびスキーム31の構造式(15)を参照のこと)を、1mlの酢酸アンモニウム緩衝水溶液(1M、pH5.5)中で、177Luによって標識する。酢酸アンモニウム緩衝溶液中に存在する標識前駆体の量(5、10および30nmol)の関数としての放射化学的収率(RCY)を図5に示す。≧10nmolの量の標識前駆体で、5分後に、放射化学的収率(RCY)は≧90%に達する。対照的に、5nmolの量の標識前駆体では、5分後の収率はわずか75%であり、その後、85%の定常値に達する。放射化学的収率および純度は、ラジオ薄層クロマトグラフィー(ラジオTLC)およびラジオ高圧液体クロマトグラフィー(ラジオHPLC)によって決定する。ラジオ薄層クロマトグラフィーによって、放射性トレーサー[117Lu]Lu-DOTA.L-Lys(SA.Pam)KuE-617について、0.0というRが得られる。対照的に、移動相としてのクエン酸緩衝液中の非結合[177Lu]Lu3+について、0.8~1.0というRが得られる。分析ラジオ高圧液体クロマトグラフィーにおいて、この放射性トレーサーについて、9.8分という保持時間tが測定される。
【0094】
図6は、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)、等張生理食塩水(NaCl)およびヒト血清(HS)における放射性トレーサー[117Lu]Lu-DOTA.L-Lys(SA.Pam)KuE-617の安定性の測定値を示す。PBSおよび等張生理食塩水(NaCl)において、14日後においても、≧98%の放射性トレーサー[117Lu]Lu-DOTA.L-Lys(SA.Pam)KuE-617が、変化せずに、錯体形態で存在する。ヒト血清(HS)において、9日後の安定性はわずかに低く93%であり、14日後も安定性は93%のままである。
【0095】
[117Lu]Lu-DOTA.L-Lys(SA.Pam)KuE-617の親油性は、n-オクタノールとPBSの混合液における、この化合物の分配平衡を決定することによって決定する。[117Lu]Lu-DOTA.L-Lys(SA.Pam)KuE-617および[117Lu]Lu-PSMA-617のlogD7.4係数についての測定値を表2に示す。この結果は、[117Lu]Lu-DOTA.L-Lys(SA.Pam)KuE-617が、PSMA-617と実質的に同じ親油性を有することを示す。
【0096】
【表2】
【0097】
実施例8:ヒドロキシアパタイト(HAP)についての親和性
カルシウムを含有する結晶であるヒドロキシアパタイトは、哺乳動物の骨に必須の構成成分であり、また、健常な骨組織および骨転移におけるビスホスホネート蓄積のin vitro研究のためのモデル基材として適している。図7は、通常のHAP、およびパミドロネートで前処理またはブロッキングしたHAPに対する、[117Lu]Lu-DOTA.L-Lys(SA.Pam)KuE-617、[117Lu]Lu-PSMA-617および[117Lu]Lu3+の蓄積についての測定値を示し、遊離[117Lu]Lu3+は、HAPに対して高い親和性を有することが知られており、参照の役割を果たす。HAPに結合した放射性トレーサー[117Lu]Lu-DOTA.L-Lys(SA.Pam)KuE-617の割合は98.2%であり、遊離[117Lu]Lu3+の99.9%という測定値よりもわずかに低い。対照的に、[117Lu]Lu-PSMA-617は、HAP富化フラクションがわずか1.2%であることがわかった。選択性を決定するために、前もって過剰量のパミドロネートで処理したHAPに対する蓄積をさらに測定した。これによって、[117Lu]Lu-DOTA.L-Lys(SA.Pam)KuE-617について7.3%、遊離[117Lu]Luについて4.9%という値が得られ、これは、HAPについての高い選択性を示している。
【0098】
実施例9:PSMAについてのin vitro親和性
放射リガンド比較アッセイによって、PSMAについて、放射性トレーサーまたは標識前駆体DOTA.L-Lys(SA.Pam)KuE-617、および参照構造に対する結合親和性を決定する。阻害定数Kについての対応する測定値を表3に示す。[natLu]Lu-DOTA.L-Lys(SA.Pam)KuE-617についてのK値は、標識前駆体DOTA.L-Lys(SA.Pam)KuE-617についての値と概ね一致する。このことから、ルテチウムによる錯化は、PSMAについての結合親和性に悪影響を及ぼさないことが理解できる。DOTA.L-Lys.KuE-617(スキーム31の構造式(14)に相当する)と比較して、[natLu]Lu-DOTA.L-Lys(SA.Pam)KuE-617のKは、約2倍の大きさである。このことから、スクエア酸-パミドロネート基は、PSMAに対する親和性を低下させることが理解できる。
【0099】
【表3】
【0100】
実施例10:ex vivo研究
放射性トレーサー[117Lu]Lu-DOTA.L-Lys(SA.Pam)KuE-617について、器官蓄積を、誘発させたLNCaP腫瘍を有するBalb/cマウスで検討した。結果を図8に示す。腫瘍と大腿骨における放射性トレーサー[117Lu]Lu-DOTA.L-Lys(SA.Pam)KuE-617の富化は同等であり、それぞれの値は、4.2±0.7%ID/gと3.4±0.4%ID/gであった。腫瘍とは対照的に、骨への蓄積は、PSMA阻害剤PMPA(2-ホスホノメチルペンタン二酸)の投与によってブロックすることはできない。このことから、骨への取り込みは、PSMAは発現されていないため、PSMAによるものではないことが理解できる。腎臓は、17±2%ID/gという値であり、[117Lu]Lu-DOTA.L-Lys(SA.Pam)KuE-617の高い蓄積を示し、これは、同様にPMPAの投与によって大幅に減少し得る。対照的に、肝臓および脾臓への蓄積は、PSMA特異的ではない。腫瘍と血液への蓄積率は高く、それぞれ210と170という値であり、これは血液学的な軽度の副作用を示唆する。
【0101】
方法および材料
全般
全ての化学物質は、Sigma-Aldrich、Merck、Fluka、AlfaAesar、VWR、AcrosOrganics、TCI、Iris BiotechまたはFisher Scientificから入手し、さらなる精製を行わずに使用した。乾燥溶媒は、MerckおよびVWRから、NMRスペクトルのための重水素化された溶媒は、Deuteroから入手した。PSMA-617は、Hycultecから購入した。薄層クロマトグラフィーは、Merckシリカゲル60 F254コーティングアルミニウムプレートを使用して行った。評価は、λ=254nmの蛍光吸収、および過マンガン酸カリウムによる染色によって行った。ラジオTLCは、Raytest CR-35 Bio Testイメージング装置およびAIDAソフトウェア(Raytest)を使用して評価した。Hおよび13C NMR測定は、Bruker Avance III HD 300分光装置(300MHz、5mm BBFOプローブ、zグラジエント、ATM、およびBACS60サンプルチェンジャーを使用)、Bruker Avance II 400分光装置(400MHz、5mm BBFOプローブ、zグラジエント、ATM、およびSampleXPress60サンプルチェンジャーを使用)、およびBruker Avance III 600分光装置(600MHz、5mm TCI CryoProbeプローブ、zグラジエント、ATM、およびSampleXPress Lite16サンプルチェンジャーを使用)で行った。LC/MS測定は、Agilent Technologies 6130B Single Quadrupole LC/MSシステムに接続した、Agilent Technologies 1220 Infinity LCシステムで行った。セミ分取HPLC精製は、Hitachi LaChromシリーズ7000で、各ケースに記載されている条件およびカラムを使用して行った。放射性標識実験のために、ITM Garchingから提供を受けた、0.04M HCl中の[177Lu]LuClを使用した。
【0102】
有機合成
PSMAリガンドの固相合成(ポリスチレン樹脂上、KuE-617)
グルタメート-尿素-リジン結合モチーフKuEとKuE-617リガンドのリンカーの合成は、Benesovaらによって提案された方法(Benesova,M.;Schafer,M.;Bauder-Wust,U.;Afshar-Oromieh,A.;Kratochwil,C.;Mier,W.;Haberkorn,U.;Kopka,K.;Eder,M.Preclinical Evaluation of a Tailor-Made DOTA-Conjugated PSMA Inhibitor with Optimized Linker Moiety for Imaging and Endoradiotherapy of Prostate Cancer.J.Nucl.Med.2015,56(6),914-920; Benesova,M.;Bauder-Wust,U.;Schafer,M.;Klika,K.D.;Mier,W.;Haberkorn,U.;Kopka,K.;Eder,M.Linker Modification Strategies to Control the Prostate-Specific Membrane Antigen(PSMA)-Targeting and Pharmacokinetic Properties of DOTA-Conjugated PSMA Inhibitors.J.Med.Chem.2016,59(5),1761-1775)、およびわずかに適合させた方法によって、確立された固相ペプチド化学に従う。ビス(tert-ブチル)-L-グルタメート塩酸塩(4.5g、15.21mmol)およびDIPEA(7.98g、10.5ml、61.74mmol)を乾燥ジクロロメタン(200ml)に溶解し、0℃に冷却する。ジクロロメタン(30ml)中のトリホスゲン(1.56g、5.26mmol)を、4.5時間にわたり、滴下して添加する。添加が完了した後、溶液をさらに1時間撹拌する。Fmoc-L-リジン(Alloc)-Wang resin(1.65g、1.5mmol、0.9mmol/g)のFmoc保護基をピペリジン/DMF溶液(1:1)中で15分間撹拌することによって除去し、その後、ジクロロメタンによる洗浄ステップを行う。脱保護したL-リジン(Alloc)-Wang resinを、予め調製した溶液に添加し、室温で終夜撹拌する。樹脂をジクロロメタン(15ml)で洗浄し、さらなる精製を行わずに使用する。
【0103】
テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(516mg、0.45mmol)およびモルホリン(3.92g、3.92ml、45mmol)をジクロロメタン(12ml)に溶解して添加する。溶液を暗所で24時間撹拌する。次いで、それをジクロロメタン(15ml)、DMF中の1%DIPEA溶液(3×13ml)、DMF中のジエチルジチオカルバミン酸ナトリウム三水和物溶液(15mg/ml)(9×10.5ml×5分)で洗浄し、樹脂に結合し、かつAllocで保護されたグルタメート-尿素-リジンコンジュゲートを得る。Fmoc-3-(2-ナフチル)-L-アラニン(1.75g、4.00mmol)、HATU(1.52g、4.00mmol)、HOBt(540mg、4mmol)およびDIPEA(780mg、1.02ml、6.03mmol)を乾燥DMF(10ml)に溶解して樹脂に添加する。この溶液を終夜撹拌し、次いでDMF(10ml)およびジクロロメタン(10ml)で洗浄する。Fmoc基を除去するために、ピペリジン/DMF溶液(1:1、3×11ml)中で、1回あたり10分間ずつ撹拌し、DMF(10ml)およびジクロロメタン(10ml)で洗浄した。Fmoc-4-Amc-OH(1.52g、4mmol)、HATU(1.52g、4mmol)、HOBt(540mg、4mmol)、およびDIPEA(780mg、1.02ml、6.03mmol)を、乾燥DMF(10ml)中で樹脂に添加する。この溶液を2日間撹拌し、次いで、DMF(10ml)およびジクロロメタン(10ml)で洗浄する。Fmoc基を除去するために、反応溶液をピペリジン/DMF溶液(1:1、11ml)中で、1回あたり10分間ずつ撹拌し、DMF(10ml)およびジクロロメタン(10ml)で洗浄して、樹脂に結合したKuE-617リガンドを得る。
【0104】
パミドロネートの合成
β-アラニン(1.5g、0.017mol)およびリン酸(2.76g、0.034mol)をスルホラン(5.5ml)に溶解し、0℃に冷却する。三塩化リン(4.62g、2.95ml、0.034mmol)を滴下して添加する。この溶液を75℃で3時間撹拌する。水(15ml)を添加し、混合物を100℃で12時間撹拌する。最後に、エタノール(15ml)を添加し、0℃で3日間結晶化させることによって、パミドロネート産物(1.48g、0.006mol、37%)を黄色固体として得る。
1H NMR (300 MHz, D2O): δ [ppm] = 3.34 (t, J = 7.1 Hz, 2H), 2.31 (tt, J = 13,7, 7.1 Hz, 2H).
13C NMR (400 MHz, D2O): δ [ppm] = 72.58; 36.14; 30.54.
31P NMR (121.5 MHz, D2O): δ [ppm] = 17.58 (s, 2P).
MS (ESI): 236.0 [M+H]+, C3H11NO7P2についての計算値: 235.07 [M]+.
【0105】
パミドロネート-エチルスクエアレートの合成
パミドロネート(500mg、2.13mmol)をリン酸緩衝液(0.5M、pH7、5ml)に溶解する。3,4-ジエトキシシクロブト-3-エン-1,2-ジオン(ジエチルスクエアレート、SADE、542mg、468μl、3.2mmol)を添加し、混合物を室温で2日間撹拌する。結晶化のためにエタノール(3ml)を添加する。この混合物をフリーザー内に3日間放置し、結晶化を完了させる。白色の沈殿を冷エタノールで洗浄し、パミドロネート-エチルスクエアレート産物(0.58g、1.62mol、76%)を白色固体として得る。
1H NMR (400 MHz, D2O): δ [ppm] = 4.79-4.62 (m, 2H), 3.31 (t, J = 6.6 Hz, 2H), 2.32-2.15 (m, 2H), 1.42 (dt, J = 11.7, 7.2 Hz, 3H).
31P NMR (162 MHz, D2O): δ [ppm] = 17.92 (s), 2.26 (s).
MS (ESI): 360.0 [M+H]+, 720.0 2[M+H]+, 763.0 2[M+Na]+, C9H15NO10P2についての計算値: 359.16 [M]+.
【0106】
Fmoc-L-Lys(Boc)-KuE-617樹脂
Fmoc-L-Lys(Boc)-OH(506mg、0.0011mmol)、HATU(415mg、0.0011mg)、HOBt(146mg、0.0011mmol)およびDIPEA(277μl、211mg、0.00162mmol)をアセトニトリル(4ml)に溶解し、30分間撹拌する。KuE-617樹脂(300mg、0.0027mmol、0.09mmol/g)を添加し、混合物を室温で1日間撹拌する。樹脂をアセトニトリル(10ml)およびジクロロメタン(10ml)と混合し、後続の合成ステップのために用意しておく。
【0107】
L-Lys(Boc)-KuE-617樹脂
Fmoc-L-Lys(Boc)-KuE-617樹脂を、DMFとピペリジン(1:1、6ml)の混合物中で1時間撹拌する。Fmoc脱保護した樹脂をDMF(10ml)およびジクロロメタン(10ml)で洗浄し、次のステップにおいて、さらなる精製を行わずに使用する。
【0108】
DOTA(tBu)3-L-Lys(Boc)-KuE-617樹脂
DOTA-トリス(tert-ブチルエステル)(310mg、0.54μmol)、HATU(308mg、0.00081mmol)、HOBt(110mg、0.00081mmol)およびDIPEA(184μl、140mg、0.0011mmol)をアセトニトリル(4ml)に溶解し、30分間撹拌する。L-Lys(Boc)-KuE-617樹脂(461mg、0.00027mmol、0.9mmol/g)を添加し、混合物を室温で1日間撹拌する。樹脂をアセトニトリル(10ml)およびジクロロメタン(10ml)で洗浄し、次のステップにおいて、さらなる精製を行わずに使用する。
【0109】
DOTA-L-Lys-KuE-617
DOTA(tBu)3-L-Lys(Boc)-KuE-617樹脂(536mg、0.00027mmol、0.9mmol/g)を、TFAおよびジクロロメタンの溶液(1:1、4ml)中で撹拌する。TFA/ジクロロメタン溶液を減圧下で濃縮し、セミ分取HPLC精製(カラム:LiChrospher 100 RP18 EC(250×10mm)5m、流速:5ml/分、HO/MeCN+0.1%TFA、25%MeCN均一濃度、t=10.3分)を行って、産物(10.6mg、0.0091mmol、4%)を無色粉末として得る。
MS (ESI): 1172.5 [M+2H]+, 585.9 1/2[M+2H]+, 391.0 1/3[M+2H]+, C55H83N11O17についての計算値: 1170.33 [M]+.
【0110】
DOTA-L-Lys(SA.Pam)-KuE-617
スキーム31(10mg、0.0085mmol)からの化合物(14)およびパミドロネート-エチルスクエアレート(16mg、0.043mmol)を、リン酸緩衝液(0.5M、pH9、1ml)に溶解し、2日間撹拌する。セミ分取HPLC精製(カラム:LiChrospher 100 RP18 EC(250×10mm)5m、流速:5ml/分、HO/MeCN+0.1%TFA、20分間で23%~28%MeCN、t=8.2分)を行って、DOTA-L-Lys(SA.Pam)-KuE-617産物(10.56mg、0.0071mmol、84%)を無色粉末として得る。
MS (ESI): 511.3 1/3[M+H+2Na]+, 520.0 [1/3M+2K]+, 781.0 1/2[M+2K]+, C62H92N12O26P2についての計算値: 1483.42 [M]+.
【0111】
ルテチウム-177によるDOTA-L-Lys(SA.Pam)-KuE-617の放射性標識
放射性標識のために、0.04M HCl(ITG,Garching,ドイツ)中の[177Lu]LuClを使用する。放射標識は、1mlの1M酢酸アンモニウム緩衝液中で、pH5.5で行う。反応は、異なる量の前駆体(5、10および30nmol)を使用して、95℃で、40~50MBq n.c.a.のルテチウム-177で行う。反応は、ラジオ薄層クロマトグラフィー(TLC シリカゲル60 F254、Merckから入手)および移動相としてクエン酸緩衝液(pH4)移動相を使用して、およびHPLC 7000 Hitachi LaChrom分析装置(カラム:Merck Chromolith(登録商標)RP-18e、10分間で5~95%MeCN(0.1%TFA)/95~5%水(0.1%TFA))を使用した高圧液体クロマトグラフィーを使用してモニターした。ラジオ薄層クロマトグラフィーサンプルは、Elysia-Raytest(Straubenhardt、ドイツ)から入手したTLC Imager CR-35 Bio Testイメージング装置を使用して、AIDAソフトウェアで測定および評価する。
【0112】
in vitro安定性研究
177Lu標識化合物の安定性研究は、ヒト血清(HS、ABヒト男性血漿、USA起源、Sigma-Aldrich)およびリン酸緩衝生理食塩水(Sigma-Aldrich)中で行う。5MBqの放射活性化合物を0.5mlの媒体中で14日間インキュベートする。異なる時間(1時間、2時間、5時間、1日、2日、5日、7日、9日および14日)に試料の一部を取り、放射化学的安定性を決定する。各測定は、3回同じ方法で行う。
【0113】
親油性の決定
各化合物のLogD7.4を、n-オクタノールとPBSにおける分配係数によって決定する。標識溶液をpH7.4に調節し、5MBqを700μlのn-オクタノールおよび700μlのPBSで希釈する。これを1500rpmで2分間振盪し、次いで遠心する。400μlのn-オクタノール相および400μlのPBS相を、それぞれ新しいエッペンドルフチューブに移した。次いで、3~6μlをTLCプレートにピペットで乗せ、蛍光イメージング装置を使用して分析する。logD7.4を、2つの相の活性の比率に基づいて計算する。各相の測定は、3つのlogD7.4値を得ることができ、平均値が計算できるように、より高い活性のサンプルを使用して、さらに2回繰り返す。
【0114】
177 Lu標識化合物のヒドロキシアパタイト親和性の測定
ヒドロキシアパタイト(20mg)を、生理食塩水(1ml)中で24時間インキュベートする。50μlの放射性トレーサー[177Lu]Lu-DOTA-L-Lys(SA.Pam)-KuE-617(5MBq)または[177Lu]Lu-PSMA-617(5MBq)を添加する。各懸濁液をボルテックスミキサーで20秒間ボルテックスし、室温で1時間インキュベートする。各懸濁液をフィルター(CHROMAFIL(登録商標)Xtra PTFE-45/13)に通し、上清を水(500μl)で洗浄する。液体、および得られたHAP含有上清の放射活性を、各ケースにおいて、キュリーメーター(Isomed2010 activimeter、MED Nuclear-Medizintechnik Dresden GmbH)を使用して測定する。[177Lu]Lu-DOTA-L-Lys(SA.Pam)-KuE-617および[177Lu]Lu-PSMA-617の結合を、HAPに吸着された活性の割合(パーセント)として決定する。参照として、遊離Lu-177のHAP結合を、同様のやり方で測定する。比較測定を、ブロッキングされたヒドロキシアパタイトで、同様のやり方で行う。この目的のために、生理食塩水溶液(1ml)中のHAP(20mg)を、パミドロネート(100mg)とインキュベートし、[177Lu]Lu-DOTA-L-Lys(SA.Pam)-KuE-617および遊離Lu-177の活性をそれぞれ決定する。
【0115】
PSMA結合親和性のin vitro研究
非放射性(コールド)の[natLu]Lu複合体を、標識前駆体DOTA-L-Lys(SA.Pam)-KuE-617(371μl、1mg/ml、250nmol)を含有する溶液とLuCl(129μl、1mg/ml、375nmol、金属と標識前駆体の比1.5:1)を、1M酢酸アンモニウム緩衝液中で、95℃で2時間振盪することによって調製する。複合体の形成を、ESI-LC/MSによってモニターする。
【0116】
PSMA結合親和性を、Benesovaらによって記述されている競合放射性リガンドアッセイ(Benesova,M.;Schaefer,M.;Bauder-Wust,U.;Afshar-Oromieh,A.;Kratochwil,C.;Mier,W.;Haberkorn,U.;Kopka,K.;Eder,M.Preclinical Evaluation of a Tailor-Made DOTA-Conjugated PSMA Inhibitor with Optimized Linker Moiety for Imaging and Endoradiotherapy of Prostate Cancer.J.Nucl.Med.2015,56(6),914-920.)によって決定する。この目的のために、Sigma-Aldrichから入手したPSMA陽性LNCaP細胞を、10%ウシ胎児血清(Thermo Fisher Scientific)、100μg/mlのストレプトマイシンおよび100単位/mlのペニシリンを添加したRPMI1640(Thermo Fisher Scientific)中で、5%CO中、37℃で培養する。LNCaP細胞を、次第に濃度を高めた標識前駆体を含有する溶液と、0.75nM[68Ga]Ga-PSMA-10存在下で、45分間インキュベートする。遊離放射活性を、氷冷PBSで数回洗浄することによって除去する。得られたサンプルを、ガンマカウンター((2480WIZARD2自動ガンマカウンター、PerkinElmer)内で測定する。測定データを、GraphPad Prism 9で、非線形回帰を用いて評価する。
【0117】
ex vivo研究
全ての動物実験は、Rhineland-Palatinate州の倫理委員会(Tierschutzgesetz[動物保護法]のセクション8、第1パラグラフに従う、Landesuntersuchungsamt[State Investigation Office])によって承認を受け、関連する連邦法および施設ガイドラインに従って行った(承認番号23 177-07/G 21-1-022)。6~8週齢のBALB/cAnNRj雄性マウス(Janvier Labs)に、200μlの1:1(v/v)マトリゲル/PBS(Corning(登録商標)中の5×106個のLNCaP細胞を皮下接種した。測定は、腫瘍の体積が約100cmに達した後に行った。LNCaP腫瘍担持マウスを2%イソフルランで麻酔した後、0.5nmolの[177Lu]Lu-DOTA-L-Lys(SA.Pam)-KuE-617を静脈内注射した。比放射能は、約3MBq/nmolであった。PSMA選択性は、マウス1匹あたり1.5mmolのPMPAを同時注射することによって調べた。動物は、注射の24時間後に屠殺した。器官を回収し、秤量した。放射活性を測定し、組織質量1グラムあたりの、注射した線量の減衰補正した割合(パーセント)(%ID/g)として計算した。
図1
図2
図3
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図8
【国際調査報告】