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▶ リージェンツ オブ ザ ユニヴァーシティ オブ カリフォルニアの特許一覧

(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-02-01
(54)【発明の名称】部位特異的遺伝子改変
(51)【国際特許分類】
   A61K 48/00 20060101AFI20240125BHJP
   C12N 15/90 20060101ALI20240125BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20240125BHJP
【FI】
A61K48/00
C12N15/90 Z ZNA
A61P43/00 111
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023542853
(86)(22)【出願日】2022-01-06
(85)【翻訳文提出日】2023-09-13
(86)【国際出願番号】 US2022011514
(87)【国際公開番号】W WO2022155055
(87)【国際公開日】2022-07-21
(31)【優先権主張番号】63/137,664
(32)【優先日】2021-01-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TRITON
(71)【出願人】
【識別番号】504256408
【氏名又は名称】ザ リージェンツ オブ ザ ユニヴァーシティ オブ カリフォルニア
【氏名又は名称原語表記】THE REGENTS OF THE UNIVERSITY OF CALIFORNIA
【住所又は居所原語表記】1111 Franklin Street,12th Floor,Oakland,California 94607 U.S.A.
(74)【代理人】
【識別番号】100077012
【弁理士】
【氏名又は名称】岩谷 龍
(72)【発明者】
【氏名】ジャン,シャオズ
(72)【発明者】
【氏名】アプトン,ヘザー イー.
(72)【発明者】
【氏名】ヴァン トリーク,ブリアナ
(72)【発明者】
【氏名】コリンズ,キャスリーン
【テーマコード(参考)】
4C084
【Fターム(参考)】
4C084AA13
4C084NA14
4C084ZC021
4C084ZC022
(57)【要約】
本発明により、対象のゲノムに目的の導入遺伝子を標的部位特異的に挿入するためのシステム、組成物および方法が提供される。また、レトロエレメント由来の逆転写酵素(RT)を介する標的プライム逆転写(TPRT)により導入遺伝子の部位特異的な挿入を促進するシステムおよび方法も提供される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
真核生物ゲノムに導入遺伝子を導入する方法であって、RNA鋳型およびこれと協働する逆転写酵素(RT)を含む部位特異的導入遺伝子付加用組成物を対象に投与することを含む方法。
【請求項2】
前記部位特異的導入遺伝子付加用組成物が、改変R2レトロエレメントタンパク質を含み、該改変R2レトロエレメントタンパク質を介する標的プライム逆転写(TPRT)により、直接導入されたRNA鋳型を用いて、ヒト細胞のリボソームDNA(rDNA)への導入遺伝子の挿入が行われる、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記導入遺伝子が、治療上有効な遺伝子またはその治療上有効な断片である、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記部位特異的導入遺伝子付加用組成物が、TPRTを可能にするRTとしての活性および/または鎖へのニックを導入するエンドヌクレアーゼとしての活性を有する非長鎖末端反復(非LTR)型レトロエレメントタンパク質を含み、該非LTR型レトロエレメントタンパク質が、RTプライマー伸長アッセイおよび/またはin vitro TPRTアッセイで活性を示すものである、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記部位特異的導入遺伝子付加用組成物が、RTを介するTPRT用に1つ以上の3’側鋳型モジュールを含み、該1つ以上の3’側鋳型モジュールが、協働するRTと同種の3’側鋳型モジュールであるか、同種の天然型を改変したものであるか、系統学的調査および関連レトロエレメントの再構成と改変もしくは再構成のみにより得られたものであるか、またはin vitroおよび細胞内での3’結合形成および5’結合形成の選択性、効率および/もしくは忠実性に関するスクリーニングによって得られたものである、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記部位特異的導入遺伝子付加用組成物が、RTを介するTPRT用に1つ以上の5’側鋳型モジュールを含み、該1つ以上の5’側鋳型モジュールが、協働するRTと同種の5’側鋳型モジュールであるか、同種の天然型を改変したものであるか、系統学的調査および関連レトロエレメントの再構成と改変もしくは再構成のみにより得られたものであるか、異種レトロエレメントの5’領域を改変したものであるか、天然もしくは設計されたデルタ肝炎ウイルス(HDV)リボザイム(RZ)折り畳み構造を改変したものであるか、またはin vitroおよび細胞内での3’結合形成および5’結合形成の選択性、効率および忠実性に関するスクリーニングによって得られたものである、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記方法が、in vitroおよび細胞内での3’結合形成および5’結合形成の選択性、効率および/または忠実性を向上させる1つ以上の付加を鋳型末端に対して行うことを含み、該1つ以上の付加が、以下に限定されないが、標的部位またはその近傍の配列にマッチするrRNAからなる5’隣接配列および3’隣接配列の付加を含み、当該付加が、以下に限定されないが、4~29個のヌクレオチドの配列の付加を含み、当該付加が、他の長さのrRNAの付加を除外するものではなく、機能的な4~20個のヌクレオチド配列がより長い配列内に存在していてもよい、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記方法が、細胞への生物学的送達性、細胞内での安定性、または細胞における部位特異的導入遺伝子の挿入効率を向上させる1つ以上の付加を鋳型末端に対して行うことを含み、該1つ以上の付加が、以下に限定されないが、3’隣接ポリアデノシンモチーフおよび/もしくは5’隣接自己切断リボザイムモチーフ、または導入された鋳型RNAを分解から保護する他の構造の付加を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
送達性、安定性、標的指向性、相互作用からの隔離、または他の細胞プロセスへの影響、例えば、翻訳、DNA修復、クロマチン修飾、チェックポイント活性化などへの影響を改善する1つ以上の改変を鋳型に対して行うことを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記部位特異的導入遺伝子付加用組成物が、1つ以上の導入遺伝子を含み、該1つ以上の導入遺伝子が、ヒト細胞の28S rDNAに挿入されて機能的に発現される、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
導入遺伝子タンパク質の発現カセットの挿入を成功させるためのセーフハーバー部位としてヒトrDNAを使用することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記部位特異的導入遺伝子付加用組成物が、1つ以上の外来の導入遺伝子を含み、該1つ以上の外来の導入遺伝子が、ヒトの疾患における機能喪失の回復または有益な機能の付与を目的として前記RNA鋳型に導入されている、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
標的細胞ゲノム内の標的部位に、生物学的活性を有するDNAエレメントが(RNA中間体を経て)挿入されるように作動するエレメント挿入システム(EIS)であって、
a)標的細胞内で活性型非長鎖末端反復(非LTR)型レトロエレメント逆転写酵素(nrRT)を生成するnrRTモジュール、および
b)標的プライム逆転写(TPRT)により、前記標的細胞内の標的部位で、生物学的活性を有するDNAエレメントの少なくとも一本の鎖がnrRTの作用で合成されるように、鋳型として機能する挿入鋳型モジュール
を含む、EIS。
【請求項14】
前記nrRTモジュールが、
(a)任意の適切な送達システムにより前記標的細胞に送達可能な、活性型nrRTまたは適切な不活性型プロタンパク質nrRT;
(b)細胞内プロセシングを受けて翻訳されるか、細胞内プロセシングを受けずに翻訳される、mRNA、改変mRNAまたはその他の核酸;
(c)任意の適切な送達システムにより前記標的細胞に送達可能な、nrRT、nrRTプロタンパク質、または前記標的細胞内で活性型nrRTを誘導することができるその他のもの;および
(d)上記のいずれかをコードするDNA分子
から選択される、請求項13に記載のEIS。
【請求項15】
前記挿入鋳型モジュールが、任意の適切な送達システムにより前記標的細胞に送達可能な、RNA、改変RNAまたはその他の核酸を含み、これらの核酸が、nrRTによるcDNA合成の鋳型として使用されることで、TPRTにより、前記標的細胞内の標的部位で、生物学的活性を有するDNAエレメントの少なくとも一本の鎖が合成される、請求項13に記載のEIS。
【請求項16】
前記挿入鋳型モジュールが、3’側セグメント、5’側セグメントおよびペイロードセグメントを含み、これらが全体として、nrRTによるTPRTにおける前記挿入鋳型モジュールの効率的かつ選択的な使用を促進するように構成されており、該3’側セグメントが、特定のnrRTにより優先的に使用されるものであり、該5’側セグメントが、特定のnrRTにより優先的に使用されるものであり、前記ペイロードセグメントが、nrRTによるTPRTに適合するように選択されたものであり、かつ、生物学的活性を有するDNAエレメントのcDNA合成の鋳型として使用可能なものである、請求項13に記載のEIS。
【請求項17】
前記生物学的活性を有するDNAエレメントの一部のDNAセグメントが、前記標的細胞の標的部位に挿入されることにより、該細胞または該細胞を含む器官もしくは生物体の生物学的特性に所望の改変をもたらすように構成されている、請求項13に記載のEIS。
【請求項18】
前記生物学的活性を有するDNAが、
(a)ヒトの体内の細胞もしくは細胞群に対する治療的変化;
(b)農業に使用される動植物の特徴に対する望ましい変化;または
(c)外来生物もしくは病原媒介生物の防除など、生態学的変化をもたらす野生動植物に対する望ましい変化
を誘導する配列をコードする、請求項13に記載のEIS。
【請求項19】
前記生物学的活性を有するDNAエレメントが、
(a)挿入部位の外側のプロモーターによる該エレメントの転写を停止させる1つ以上の配列セグメント;
(b)転写を開始する1つ以上のプロモーターセグメント;および/または
(c)生物学的機能を有する1つ以上のタンパク質もしくは核酸をコードする1つ以上のエフェクターセグメント
を含む、請求項13に記載のEIS。
【請求項20】
化学修飾、コドン最適化またはこれらの組み合わせが施されたnrRTモジュールおよび挿入鋳型モジュールを含む、請求項13に記載のEIS。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2021年1月14日に出願された「RNA鋳型とこれと協働する逆転写酵素を用いた真核生物ゲノムへの部位特異的な遺伝子導入」という名称の米国仮出願第63/137,664号の優先権の利益を主張するものであり、この出願の内容は、参照によりその全体が本明細書に援用される。
【0002】
配列表の参照
本願は、電子形式の配列表とともに出願されたものである。この配列表は、SeqList.txtというファイル名で2021年12月28日に作成されたものであり、ファイルサイズは180,293バイトである。この電子形式の配列表に記載の情報は、その全体が参照により本明細書に援用される。
【0003】
政府の助成に関する陳述
本発明は、米国国立衛生研究所より交付された助成番号GM130315およびDP1HL156819の助成に基づき、米国政府の支援を受けてなされたものである。米国政府は、本発明に関し一定の権利を有する。
【0004】
本開示は、非長鎖末端反復(非LTR)型レトロトランスポゾンを用いて、標的プライム逆転写(TPRT)により、対象のゲノムへの導入遺伝子の挿入を行うための組成物、方法および/または改変タンパク質と改変ポリヌクレオチドの使用を提供する。
【背景技術】
【0005】
DNAへの導入遺伝子や遺伝子断片の挿入は、様々な遺伝的疾患を患う人々の健康や福祉を根本的に改善する可能性のある有力な手段である。また、科学、バイオテクノロジーや研究の分野を一変させる可能性もある。ヒトゲノムなどの真核生物ゲノムに導入遺伝子を導入することにより、遺伝的要素の有無にかかわらず、病態や疾患を幅広く治療できるようになることが期待される。導入遺伝子の導入や挿入は、遺伝子発現の改善、修正および/または変更を可能にすると同時に、欠失または修正した配列をゲノムに付加することで、疾患の治療や疾患の症状の改善にも役立つ。導入遺伝子の挿入により治療できる可能性のある遺伝的問題は数多くあり、実際に導入遺伝子を挿入することができれば、機能喪失の回復、RNA発現やタンパク質発現の外因性制御、アイソフォーム発現の特異性、改変遺伝子や改変タンパク質の発現など、内在性遺伝子配列のノックアウト、変異や修正とは異なる有用な結果が得られることが予想される。
【0006】
しかし、DNAを細胞に導入してゲノムに挿入する方法には、克服すべき大きなハードルがある。例えば、DNAの送達によって真核細胞の細胞質に導入された一部のDNAが、破壊的な免疫応答を誘導したり、細胞や生物体に有害な変化を引き起こしたりするという現象はよく知られている。また、相同組換え(HR)によりDNAがゲノムに導入される部位特異的組み込みでは、遺伝的および後成的に変異原性を有する二本鎖DNAの導入と、組み込み部位での破壊が不可避である。さらに高等真核生物では、特に有糸分裂後の細胞では、DNAの組み込みは非特異的であることが多い。これは、細胞周期の大半においてHRが抑制され、非相同末端結合(NHEJ)が優先されるためである。
【0007】
DNAの導入にウイルスベクターを用いた場合は、送達性の向上や毒性の低減が見込まれるが、このような発現ベクターは、細胞分裂の際に正確に複製されない可能性があり、かつ/または、容認できないレベルあるいは効果の得られないレベルのセミランダムな組み込みや自然免疫応答を引き起こす可能性がある。また、アデノ随伴ウイルス(AAV)などのウイルスベクターにより導入できるDNAの長さ(導入遺伝子のサイズ)に制限があることも事実である。
【0008】
したがって、細胞質に導入遺伝子のDNAを導入する方法ではなく、しかも、導入するDNAの長さに柔軟に対応できる方法で、ヒトゲノムなどの生細胞のゲノムに効果的かつ正確に導入遺伝子を挿入できれば、ヒト生物学、動物生物学や植物生物学への大きな貢献になり、研究や臨床応用の力強い進展につながると考えられる。
【0009】
生細胞に導入遺伝子を挿入するというニーズを解決する1つの方法として、導入遺伝子配列をRNAとして導入し、逆転写酵素(RT)による相補的DNA(cDNA)合成の鋳型とする方法が考えられる。しかし現時点では、ゲノムに導入遺伝子を挿入するための鋳型として哺乳動物細胞に導入されたRNAが、配列で定義されるセーフハーバー標的部位にコピーされるように誘導する分子シグナルは同定されていない。
【0010】
哺乳動物細胞でこのような分子シグナルがないという問題に対処する上で、非長鎖末端反復(非LTR)型レトロエレメント(RE)またはこれと同義の非LTR型レトロトランスポゾンとして知られている一群の遺伝子は有望な解決策となる。これらの遺伝子は、非LTR型レトロトランスポゾンRTタンパク質(nrRT)を発現することで、宿主ゲノム内で自己増幅が可能である。非LTR型レトロトランスポゾンRTタンパク質(nrRT)は、自身のレトロエレメント転写産物RNAに結合して、これを鋳型として使用し、また、レトロエレメントENタンパク質の触媒作用によりゲノムDNAに導入されたニックをcDNA合成開始のためのプライマーとして使用することで、cDNAを合成する(RTプライマー伸長)。このプロセスは、標的プライム逆転写(TPRT)として知られており、これによりゲノム内に二本鎖DNAレトロエレメントの新しいコピーが生じる。
【0011】
TPRTプロセスは、(1)nrRTタンパク質ドメインが標的部位のDNA配列に結合し、(2)nrRTのエンドヌクレアーゼ(EN)ドメインによって標的部位のボトム鎖にニックが導入されることにより、逆転写用のプライマーが提供され、(3)nrRT RTドメインによってボトム鎖のcDNAが合成され、(4)標的部位のトップ鎖にニックが導入され、(5)その後、第2鎖の合成が起こると考えられている。第2鎖の合成は、逆転写酵素および/または細胞内ポリメラーゼにより行われると考えられる。TPRTでは、二本鎖DNAの切断が起こらず、HRも必要ないという点で有利である。さらに、他のゲノム編集手法とは異なり、挿入メカニズムにおいてDNAの複製や細胞分裂も必須でない。
【0012】
メカニズムの点から見て、非LTR型レトロトランスポゾンによりコードされるRTタンパク質が、進化する宿主のゲノム内で利己的な転移因子として進化的に成功するためには、宿主細胞のRNAや別のレトロエレメントRNAではなく、自身のレトロエレメントRNA転写産物に優先的に結合し、それを鋳型として使用することが必要となる。同じゲノム内で、近縁ではあるが異なる非LTR型レトロトランスポゾン系統がそれぞれ独立して増殖することが知られており、このことは、少なくともいくつかのエレメントでは、鋳型RNAと同種のnrRTとの機能に高い特異性があることを示唆している。さらに、非LTR型レトロエレメントのコピーの多くは機能を持たないにもかかわらず転写されていることから、RTが進化的に成功するためには、機能的タンパク質の翻訳に使われたものと全く同じRNA分子を優先的に認識することが必要であると考えられる。この現象は、RTタンパク質が自身の翻訳に使われたRNA分子に結合することから、「シス優先性」と呼ばれている。nrRTが自身のmRNAに結合してそのmRNAをコピーするというnrRTのシス選択性はこれまでに文献で報告されているが、mRNAにコードされたタンパク質産物が、自身をコードするmRNA分子に再び結合するための基本的な要件は分かっていない。また、レトロエレメントによる挿入が全長のエレメントの挿入になるのか、あるいは5’側が様々な形に切断されたエレメントの挿入になるのかを決定する因子も不明である。
【0013】
nrRTの中には、2-ORF型ヒトLINE-1レトロエレメントにコードされるRTタンパク質のように、RNA鋳型認識要件が緩いものもある。ヒトLINE-1のRTは、短鎖散在反復配列(SINE)のRNA転写産物からコピーしたcDNAを挿入することができ、ヒトゲノム全体でこれが行われる。
【0014】
非LTR型レトロトランスポゾンの中には、部位特異的に、すなわちゲノム内の特定の標的遺伝子座に挿入されるものがある。真核生物の部位特異的レトロエレメントは、通常、偏在的に発現する必要不可欠なRNAをコードするマルチコピー遺伝子座に挿入される。例えば、Rエレメントは、RNAP Iによって転写される大型rRNAをコードする遺伝子座に挿入される。R2のRTは、真核生物の進化の過程で高度に保存されている28S rRNAの領域にcDNAを挿入する。
【0015】
不思議なことに、哺乳動物で部位特異的な非LTR型レトロエレメントはいまだ見つかっていない。もし異種Rエレメントがヒト細胞に導入され、ヒト細胞内で転移することができれば、nrRTとレトロエレメントRNAで構成されるリボヌクレオタンパク質(RNP)複合体は、その標的部位として、配列が変化していないか、ほとんど変化していない部位であって、かつ宿主細胞の内在性レトロエレメントに占有されていない部位を見つけることができると予想される。RエレメントのrRNA遺伝子(rDNA)標的部位は、ヒトの各細胞に存在する数百のrDNA遺伝子座のそれぞれに存在する。この標的部位は反復遺伝子座であるため、数個の標的部位が破壊されても悪影響はない。実際、ショウジョウバエの系統の中には、rDNA遺伝子座のうち50%を超える遺伝子座でレトロエレメントが挿入されている系統もある。しかし、非LTR型レトロエレメントの構造と機能については、現在のところあまり明らかになっておらず、野生型タンパク質の機能的な構成要素についても、その特性分析や合成はほとんど行われていない。
【0016】
原型となる非LTR型レトロエレメントは、5’非翻訳領域(5’UTR)と3’非翻訳領域(3’UTR)に挟まれた1つのオープンリーディングフレーム(ORF)を有する構造である。例えば、R2非LTR型レトロエレメントは、マルチドメインタンパク質を産生するORFを1つ有しており、このマルチドメインタンパク質は、RNA鋳型とDNA標的部位配列に結合し、そのエンドヌクレアーゼドメインで標的部位DNA鎖の一方にニックを導入し、導入したニックの3’水酸基(OH)をTPRTのプライマーとして使用してRT活性を発揮する。R2レトロエレメントUTRは、保存された二次構造や配列モチーフを持たず、生物種によって長さや配列が大きく異なる。また、nrRTタンパク質のドメイン構造も多様である(図1)。R2のDクレードサブグループのエレメント(例えば、Bombyx moriのR2のD2クレードエレメントやDrosophila種のR2のD5クレードエレメント)は、通常1つのN末端ジンクフィンガー(ZF)を有するが、R2のAクレードサブグループのエレメント(例えば、L. polyphemusやO. latipesのR2のA3クレードエレメント)は、通常3つのZFを有する。他のR2クレードやR2に類似した非LTR型レトロエレメントの中には、ZFを2つ有するものやZFがないものもある。多くの1-ORF型非LTR型レトロエレメントは、宿主生物のゲノムの単一配列に挿入されるように高い特異性を有しており、このことが、当該エレメントの長期的な進化的生存と系統的多様化を可能にする無毒性に寄与していると考えられる。また、2つのORFを有する別のクラスの非LTR型レトロエレメントも存在し、この非LTR型レトロエレメントでは、ORF2タンパク質は触媒作用を有し、「もう1つ」のORF1タンパク質は、核酸と結合してORF2タンパク質の会合、局在化および/または機能を補助すると考えられている。2-ORF型非LTR型レトロエレメントは、RT活性を有するORF2タンパク質と、別の種類のエンドヌクレアーゼドメイン(APE-EN)をコードしており、APE-ENは、RTドメインのC末端側ではなくN末端側に位置している。2-ORF型非LTR型レトロエレメントは、TPRTを介した新たなエレメントコピーの挿入において、部位特異的に作用することはほとんどない。
【0017】
数多くの研究で、真核生物のゲノムに存在するレトロエレメントのコピーのほとんどは、転移活性を失っていることが示されている。例えば、ヒトの非LTR型レトロエレメントであるLINE-1のコピーうち、活性があるのは1%未満である。これは自然突然変異の必然的な結果であり、かつ/または高い転移活性を有するレトロエレメントに対する宿主選択の結果である。非LTR型レトロエレメントの構造や構造と機能の関係についてはほとんど知られていない。実際、非LTR型RTタンパク質のすべての領域の機能が明らかになっているわけではない。このような状況から、非LTR型レトロエレメントの活性型コピーを配列に基づいて同定することは、現時点で不可能ではないが、困難である。
【0018】
導入遺伝子を挿入するために非LTR構造を改変しようとする試みがなされているものの、この試みを困難にしているのは、非LTR型レトロエレメントがコードするタンパク質のタンパク質合成開始部位が、従来とは異なる方式で決められている可能性があり(すなわち、既知の開始コドンがない可能性がある)、RNA配列から予測できない可能性があるという点である。また、R1レトロエレメントやR2レトロエレメントなどの多くの非LTR型レトロエレメントは、LTR型レトロエレメントで典型的に見られる、レトロエレメント転写産物を合成するための内部プロモーターを有していないと考えられる。その代わりに、タンパク質翻訳に用いられるORFは、通常とは異なる方法でプロセシングされ、通常とは異なる方法で翻訳される、宿主細胞のポリメラーゼの転写産物内に含まれている。例えば、R2エレメントの場合、翻訳されるRNAは、RNAポリメラーゼI(RNAP I)により合成された、リボソームRNA(rRNA)をコードする非翻訳前駆転写産物が何らかの形でプロセシングされたものである必要がある。翻訳されるレトロエレメントRNA配列は、RNAP II mRNAの5’メチルグアノシンキャップといった典型的に見られる修飾や、転写後に付加される長いポリアデノシンテールを有していない。この2つは、ほぼすべての宿主細胞のmRNAの翻訳に不可欠であると考えられている。また、非LTR型レトロエレメント転写産物の翻訳では、メチオニンの開始コドンを全く使用しない可能性がある。実際、非LTR型レトロエレメント(例えば、いくつかの生物種が有するR2エレメント)の中には、保存されたタンパク質モチーフをコードするORF領域の上流にインフレームのメチオニンコドンがないものがある。したがって、非LTR型レトロエレメントのDNA配列から、生物学的活性型のnrRTタンパク質の配列を完全に予測することはできない可能性がある。
【0019】
非LTR型の細胞プロセスはあまり解明されておらず、どのエレメントが活性を有しているかを知ることは困難であり、よって、異種細胞での活性の予測はさらに困難である。多くの細胞プロセスや細胞内因子が、このような解明を複雑なものにしている。異種RTタンパク質および/または異種鋳型RNAが、リボ核タンパク質(RNP)を形成し成熟する過程で、既知または未知にかかわらず、どの細胞内コンパートメントを通ってどのように移動するかということは明確には分かっていない。また、標的部位のクロマチンも異なる可能性がある。さらに、異種細胞の細胞質、核や核小体におけるタンパク質、RNAやRNPの安定性の要件も異なる可能性がある。RTと目的の鋳型RNAとの結合特異性は、RT自身の親和性だけでなく、競合分子の結合にも左右される。また、生物体ごとに、もっと言えば、細胞ごとにトランスクリプトームも異なる。さらに、特に異種環境においては、標的部位の配列のわずかな違いにより、異種細胞での異種レトロエレメントの挿入において予想外の結果が生じる可能性がある。例えば、L. polyphemus、S. mansoni、C. intestinales、D. rerio、T. castaneumおよびD. melanogasterの28S rDNA標的部位のBLAST解析では、高度に保存された領域とともに、小さいが影響を及ぼす可能性のある配列の差異が認められた。
【0020】
広範な生物種を対象に以前に単離または記載されたタンパク質について調査し、RTタンパク質の候補を探すことは有用であると考えられるが、ゲノムDNAのニックの位置でcDNAを合成する部位特異的nrRTの能力に関しては、限られた数のアッセイ結果しか報告されておらず、これらはいずれも注意して解釈する必要がある。細胞アッセイにおいて、導入遺伝子の鋳型RNAを発現させるためにDNAプラスミドを用いた場合は、多くの注意点がある。このようなアッセイでは、ゲノム内に出現した導入遺伝子の配列が、プラスミドのDNAを鋳型とする合成や組換えによるものではなく、TPRTによるものであるという確証は得られない。さらに混乱を招くことになるが、本開示以前に報告された研究では、nrRTによる標的部位へのニックの導入により、DNA依存的な導入遺伝子の挿入が促進されることが確認されている。また、文献で公開された研究結果や活性部位残基のモデリングに基づいて設計された、エンドヌクレアーゼ活性を持たないはずのタンパク質が、ニック導入活性を保持していたという矛盾した結果も報告されている。これは、nrRTエンドヌクレアーゼのメカニズムに関する既知の情報が少ないことを考えれば、予想外の結果ではない。
【0021】
これまでに公開された研究結果の限界を理解し、その研究結果と本明細書における発見との違いを理解する上で重要な点は、2つの別々のDNA分子間で共有される領域を増幅するPCR反応では、アーチファクトによる偽陽性結果が生じやすいということである。例えば、標的部位の隣接rDNA内のリバースプライマーとレトロエレメント鋳型DNAプラスミド内のフォワードプライマーを用いたPCRでは、2つの線状増幅産物のアニーリングと伸長により、宿主染色体とプラスミドDNAの間に副次的に結合が生じることがある(図2)。偽陽性アーチファクトの傾向は、ヒトLINE-1転移活性アッセイで明らかになっており、本明細書に記載の実施例以前の研究では、このような偽陽性PCR産物によって、ヒト細胞でR2のnrRTにより導入遺伝子が挿入されたという誤った報告がなされている。偽陽性PCR産物の可能性は、鋳型発現プラスミドとゲノムの間で共有されるDNA鎖の長さに比例して増加する。
【0022】
導入遺伝子の安定した挿入を確認する際に起こる偽陽性は、TPRTの第1鎖cDNA合成の後に第2鎖合成が成功しなかった場合にも生じる。rDNAとの3’挿入結合部を検出するだけのPCRでは、第1鎖のcDNA合成しか起こっていない可能性があるため、導入遺伝子の完全な組み込みが行われたことを証明または確認することはできないと考えられる(図2)。導入遺伝子が完全に組み込まれたことを証明するには、5’挿入結合部のPCRアッセイが必要である。一般に、当技術分野におけるこれまでの導入遺伝子挿入アッセイでは、3’挿入結合部は容易に検出可能であるものの、5’挿入結合部を検出したと証明できるPCR産物は得られていない(参照:Su Y, Nichuguti N, Kuroki-Kami A, Fujiwara H. RNA 2019、偽陽性PCR結果の一例である)。5’挿入結合部が検出されていないということは、TPRTは行われたが、導入遺伝子が組み込まれていないこと、および/または上流の標的DNAが制御されずにゲノムから失われたことを示唆している可能性がある。したがって、先行技術の方法は不完全であり、TPRTによる導入遺伝子の挿入が正しく行われたことを証明するための確実な確認段階を欠いている。
【0023】
偽陽性アーチファクトの可能性や5’挿入結合部形成の証拠が不十分であることに加え、これまでに報告されているTPRTによる導入遺伝子挿入アッセイにおいて、全長の導入遺伝子配列が挿入された結果はほとんどない。導入遺伝子を挿入する方法として有用であるためには、5’挿入結合部のサイズと配列によって確認されるような、目的の導入遺伝子カセット全体の挿入が行われることが求められることは言うまでもない。
【0024】
さらに、非LTRの構造とプロセスに関する理解を妨げている原因として、タンパク質-RNA-DNA相互作用とRT活性の生化学的アッセイ用に精製された部位特異的nrRTがBombyx mori(すなわち、カイコガ)のR2タンパク質であり、アッセイに使用されたのがBombyx moriの細菌産生組換えタンパク質のみであるという事実が挙げられる。最初の10年以上にわたる生化学的研究では、精製物と考えられていたこのタンパク質が利用されてきたが、後に、このタンパク質はエレメントORFの5’領域から約350ntのRNAに結合していることが判明した(図1)。強固に結合したRNAにより、タンパク質のDNA相互作用部位は完全に変化してしまうため、当時構築された基礎的な理解や、それ以後のすべての研究は、誤りの可能性があるか、少なくともかなり誤解を招くものであると言える。
【0025】
このような誤りを解決する方法、メカニズムの解明やその適切な使用方法について、本明細書で提供する。野生型非LTR型レトロトランスポゾンの構造とプロセスを利用する方法の一つとして、これらを改変して、レトロエレメント由来のRTタンパク質または該RTタンパク質をコードする配列と、該RTによるcDNA合成に使用される、所望の導入遺伝子を含む鋳型とが送達されるようにすることが提案されている。
【0026】
組換えDNAや改変した合成mRNAを用いて機能的タンパク質を細胞へ補充する方法やタンパク質を直接導入する方法が相互に変換可能であることは、当技術分野で公知の様々な例で示されている。また、導入されたDNA発現ベクターや改変した合成mRNAに含まれる、タンパク質の産生を誘導・制御するシグナルもよく知られている。これらの送達方法のいずれを選択するかは、以下に限定されないが、利便性、対象となる細胞や組織の種類、臨床応用における有効性や承認などの様々な要因により、場合に応じて決定される。そのような前例として、DNA発現ベクター、精製mRNAまたは精製タンパク質の送達様式を用いて機能的Cas9タンパク質を細胞へ導入するという方法が確立されている。ただし、この例に限定されない。特定の理論に縛られることを望むものではないが、Cas9は、小型の非コードRNAと協働するが、この小型のRNAは、その小さなサイズ、変化しないRNA折り畳み、および強固に結合したCas9タンパク質による保護により、DNAプラスミドから発現させることも可能であり、また、RNAとして直接導入することも可能であると考えられる。
【0027】
nrRTを介したTPRTによる導入遺伝子の挿入とCas9による導入遺伝子の挿入の違いを明確にするために説明すると、TPRTで使用される非常に大型の導入遺伝子鋳型RNAは、導入遺伝子のペイロードによって折り畳まれ方が異なり、RNA鋳型のほぼ全長はnrRTとの相互作用によって保護されないという点がCasタンパク質システムとは異なる。さらに、特定の理論に縛られることを望むものではないが、Cas9結合RNAの機能は標的DNAと静的に塩基対を形成することであるのに対し、nrRTの鋳型RNAは導入遺伝子合成の鋳型として機能するために非常に動的な要件が求められると考えられる。例えば、nrRTの鋳型RNAは、その3’末端またはその近傍から、導入遺伝子ペイロードの全長にわたってRT活性部位を通過し続けなければならず、鋳型としての機能は、一本鎖RNA鋳型3’側モジュールがcDNA二重鎖に変換されることによってRNAがnrRTとの特異的な結合を失った後も持続しなければならない。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0028】
本開示は、RNA鋳型およびこれと協働する逆転写酵素(RT)を用いて、真核生物ゲノムに部位特異的に導入遺伝子を付加することを含む、導入遺伝子を導入する方法を提供する。
【0029】
いくつかの実施形態において、前記方法は、改変R2レトロエレメントタンパク質を用いることを含み、該改変R2レトロエレメントタンパク質を介するTPRTにより、直接導入されたRNA鋳型を用いて、ヒト細胞のrDNAへの導入遺伝子の挿入が行われる。
【0030】
いくつかの実施形態において、前記方法は、
R2レトロエレメントタンパク質、非LTR型RTタンパク質のR2/R8/R9ドメイン構造、天然タンパク質もしくは天然タンパク質複合体を除外するものではなく;
TPRTによる導入遺伝子の挿入の標的として他種のゲノム、もしくはゲノム以外の標的を除外するものではなく;
鋳型への外来性の付加/改変、例えば、別の核酸、核酸様物質、化学合成成分、天然もしくは合成のペプチドもしくは脂質、スキャフォールド結合および放出能力などを除外するものではなく;かつ/または
細胞へのRNAの「送達」もしくは導入は、(本明細書に記載のすべての実施例で採用されている)脂質を用いたトランスフェクションもしくはエレクトロポレーションなどの標準的な方法に限定されるものではない。
【0031】
いくつかの実施形態において、前記導入遺伝子は、治療上有効な遺伝子である。
【0032】
いくつかの実施形態において、前記方法は、TPRTを可能にするRTとしての活性および/または鎖へのニックを導入するエンドヌクレアーゼとしての活性を有する非LTR型レトロエレメントタンパク質を用いることを含んでいてもよく、該非LTR型レトロエレメントタンパク質は、RTプライマー伸長アッセイおよび/またはin vitro TPRTアッセイで活性を示すものであり、部位特異的であってもよい。
【0033】
いくつかの実施形態において、前記方法は、RTを介するTPRT用に1つ以上の3’側鋳型モジュールを用いることを含んでいてもよく、該1つ以上の3’側鋳型モジュールは、協働するRTと同種の3’側鋳型モジュールであるか、同種の天然型を改変したものであるか、系統学的調査および関連レトロエレメントの再構成と改変もしくは再構成のみにより得られたものであるか、またはin vitroおよび細胞内での3’結合形成および5’結合形成の選択性、効率および/もしくは忠実性に関するスクリーニングによって得られたものである。
【0034】
いくつかの実施形態において、前記方法は、RTを介するTPRT用に1つ以上の5’側鋳型モジュールを用いることを含んでいてもよく、該1つ以上の5’側鋳型モジュールは、協働するRTと同種の5’側鋳型モジュールであるか、同種の天然型を改変したものであるか、系統学的調査および関連レトロエレメントの再構成と改変もしくは再構成のみにより得られたものであるか、異種レトロエレメントの5’領域を改変したものであるか、天然もしくは設計されたHDV RZ折り畳み構造を改変したものであるか、またはin vitroおよび細胞内での3’結合形成および5’結合形成の選択性、効率および忠実性に関するスクリーニングによって得られたものである。
【0035】
いくつかの実施形態において、前記方法は、in vitroおよび細胞内での3’結合形成および5’結合形成の選択性、効率および/または忠実性を向上させる1つ以上の付加を鋳型末端に対して行うことを含んでいてもよく、該1つ以上の付加は、以下に限定されないが、標的部位またはその近傍の配列にマッチするrRNAからなる5’隣接配列および3’隣接配列の付加を含み、当該付加は、以下に限定されないが、4~29個のヌクレオチドの配列の付加を含み、当該付加は、他の長さのrRNAの付加を除外するものではなく、機能的な4~20個のヌクレオチド配列がより長い配列内に存在していてもよい。
【0036】
いくつかの実施形態において、前記方法は、細胞への生物学的送達性、細胞内での安定性、または細胞における部位特異的導入遺伝子の挿入効率を向上させる1つ以上の付加を鋳型末端に対して行うことを含んでいてもよく、該1つ以上の付加は、以下に限定されないが、3’隣接ポリアデノシンモチーフおよび/もしくは5’隣接自己切断リボザイムモチーフ、または導入された鋳型RNAを分解から保護する他の構造の付加を含む。
【0037】
いくつかの実施形態において、前記方法は、送達性、安定性、標的指向性、相互作用からの隔離、または他の細胞プロセスへの影響、例えば、翻訳、DNA修復、クロマチン修飾、チェックポイント活性化などへの影響を改善する1つ以上の改変を鋳型に対して行うことを含んでいてもよい。
【0038】
いくつかの実施形態において、前記方法は、1つ以上の導入遺伝子を用いることを含んでいてもよく、該1つ以上の導入遺伝子は、ヒト細胞の28S rDNAに挿入されて機能的に発現される。いくつかの実施形態において、ヒトrDNAは、導入遺伝子タンパク質の発現カセットの挿入を成功させるためのセーフハーバー部位である。
【0039】
いくつかの実施形態において、前記方法は、1つ以上の外来の導入遺伝子を用いることを含んでいてもよく、該1つ以上の外来の導入遺伝子は、例えば、ヒトの疾患における機能喪失の回復または有益な機能の付与を目的として前記RNA鋳型に導入されている。
【0040】
また、本開示は、標的細胞内の標的部位に、生物学的活性を有するDNAエレメントが(RNA中間体を経て)挿入されるように作動するエレメント挿入システム(EIS)であって、
(a)標的細胞内で活性型nrRTを生成するnrRTモジュール、および
(b)TPRTにより、前記標的細胞内の標的部位で、生物学的活性を有するDNAエレメントの少なくとも一本の鎖がnrRTの作用で合成されるように、鋳型として機能する挿入鋳型モジュール
を含む、EISを提供する。
【0041】
いくつかの実施形態において、前記nrRTモジュールの例として、以下に限定されないが、
任意の適切な送達システムにより前記標的細胞に送達可能な、活性型nrRTまたは適切な不活性型プロタンパク質nrRT;
細胞内プロセシングを受けて翻訳されるか、細胞内プロセシングを受けずに翻訳される、mRNA、改変mRNAまたはその他の核酸であって、nrRT、nrRTプロタンパク質、または前記標的細胞内で活性型nrRTを誘導することができるその他のものをコードし、かつ、任意の適切な送達システムにより前記標的細胞に送達可能なもの;および
前記標的細胞において活性型nrRTが合成されるようなmRNAが転写されるDNAコンストラクトまたはその他の核酸であって、任意の適切な送達システムにより前記標的細胞に送達可能なもの
が挙げられる。
【0042】
いくつかの実施形態において、前記挿入鋳型モジュールは、任意の適切な送達システムにより前記標的細胞に送達可能な、RNA、改変RNAまたはその他の核酸を含み、これらの核酸は、nrRTによるcDNA合成の鋳型として使用されることで、TPRTにより、前記標的細胞内の標的部位で、生物学的活性を有するDNAエレメントの少なくとも一本の鎖が合成される。
【0043】
いくつかの実施形態において、前記挿入鋳型モジュールは、複数のセグメントを含んでいてもよく、該複数のセグメントは、nrRTによるTPRTにおける前記挿入鋳型モジュールの効率的かつ選択的な使用を促進するように構成されたセグメントであり、例えば、
特定のnrRTにより優先的に使用される該3’側セグメント;
特定のnrRTにより優先的に使用される該5’側セグメント;および
nrRTによるTPRTに適合するように選択され、生物学的活性を有するDNAエレメントのcDNA合成の鋳型として使用可能なペイロードセグメント
である。
【0044】
いくつかの実施形態において、前記生物学的活性を有するDNAエレメントの一部のDNAセグメントは、前記標的細胞の標的部位に挿入されることにより、該細胞または該細胞を含む生物体の生物学的特性に所望の改変をもたらすように構成されている。
【0045】
いくつかの実施形態において、前記核酸配列は、コドン最適化されている。
【0046】
いくつかの実施形態において、前記生物学的活性を有するDNAの例として、
ヒトの体内の細胞もしくは細胞群に対する治療的変化;
農業に使用される動植物の特徴に対する望ましい変化;または
外来生物もしくは病原媒介生物の防除など、生態学的変化をもたらす野生動植物に対する望ましい変化
が挙げられる。
【0047】
いくつかの実施形態において、前記生物学的活性を有するDNAエレメントは、所望により、
挿入部位の外側のプロモーターによる該エレメントの転写を停止させる1つ以上の配列セグメント;
転写を開始する1つ以上のプロモーターセグメント;
生物学的機能を有する1つ以上のタンパク質または核酸をコードする1つ以上のエフェクターセグメント;および
その他の配列セグメント
を含んでいてもよい。
【0048】
いくつかの実施形態において、前記EISは、効率的かつ選択的に協働するように改変、設計または特別な調整が行われたnrRTモジュールおよび挿入鋳型モジュールを含む。
【0049】
本発明は、本明細書に記載された個々の実施形態のあらゆる組み合わせを包含するものであり、それらはすべて本明細書に記載されているものとする。
【図面の簡単な説明】
【0050】
図1】代表的なR2レトロエレメントの模式図である。1つしか存在しないORFは、それぞれDNA結合ドメイン(ZF、Myb)、RNA相互作用に影響する領域(RBD)、逆転写酵素モチーフ(RT)、いわゆる制限酵素様エンドヌクレアーゼドメイン(EN)、および機能が不明なその他の保存されたモジュール(ジンクナックル(ZK)など)を有するタンパク質をコードしている。各構成要素は、推定されるORFの始点から原寸に比例した長さで表示されている(ORFは太い長方形で表示。UTRは細長い長方形で表示)。B. moriのR2 RNAにおいて、R2タンパク質と強固かつ特異的に結合する領域をBoMo 5’ RNAと表示している。
【0051】
図2】RNA導入遺伝子鋳型を生成するためにDNAを細胞に導入した場合に、アッセイでアーチファクト偽陽性が起こる可能性を示した図である。
【0052】
図3】nrRTモジュール(上)と挿入鋳型モジュール(下)の設計例を示した模式図である。非LTR型レトロエレメントの一例を、2つのモジュールの模式図の間に示した(中央)。垂直方向の粗い破線で示した部分は、野生型非LTR型レトロエレメント配列の各部分から派生した各モジュールの部分を一例として示したものである。水平方向の粗い破線は、任意選択エレメントを表す。この模式図は原寸に比例して描写したものではない。
【0053】
図4】挿入鋳型モジュールの模式図(上)と、様々な任意選択エレメントを示した上段の挿入鋳型モジュールの拡大図(下)である。この模式図は原寸に比例して描写したものではない。OLS=任意選択の連結配列。5’-rRNA=任意選択の5’隣接rRNA(対象のゲノム由来)。HDV-RV=任意選択の、デルタ肝炎ウイルスのモチーフの1つである自己切断リボザイム。3’-rRNA=任意選択の3’隣接rRNA(対象のゲノム由来)。PA=任意選択の短い(例えば、1~25nt)アデノシン鎖。Tags=任意選択の配列タグおよびマーカー。
【0054】
図5】変性PAGEゲルの解析結果である。矢印は、正しいRT産物で予想されるサイズを示す。レーンBは、B. moriのnrRTの反応産物、レーンDは、D. simulansのnrRTの反応産物、レーンOは、O. latipesのnrRTの反応産物、レーンO_RT-は、必須の逆転写酵素活性部位側鎖に変異を有するO. latipesのRTの反応産物、レーンNは、酵素非存在下の反応産物を含む。各レーンは、同じゲルから得られたものである。
【0055】
図6A-6B】Aは、同種R2エレメント3’UTRと同種でないR2エレメント3’UTRを用いた鋳型コンストラクトに対するnrRTタンパク質の特異性を検証するための実験デザインの1例を示した図である。Bは、同種3’UTRと同種でない3’UTRに対する、B. mori、D. simulansおよびO. latipesのnrRTの選択性を調べたスポットブロットの結果である。
【0056】
図7】TPRT反応産物の変性PAGEゲルの解析結果である。矢印は、正しいTPRT産物で予想されるサイズを示す。レーンBは、B. moriのnrRTの反応産物、レーンDは、D. simulansのnrRTの反応産物、レーンOは、O. latipesのnrRTの反応産物、レーンNは、酵素非存在下の反応産物を含む。左側のゲルには、各種nrRTタンパク質とO. latipesの3’UTRを含む鋳型の反応産物(「単独」と表示されたレーン)、および各種nrRTタンパク質とO. latipesの3’UTRと4ntのrRNAを含む鋳型の反応産物(「+R4」と表示されたレーン)が含まれている。右側のゲルには、各種nrRTタンパク質とD. simulansの3’UTRを含む鋳型の反応産物(「単独」と表示されたレーン)、および各種nrRTタンパク質とD. simulansの3’UTRと4ntのrRNAを含む鋳型の反応産物(「+R4」と表示されたレーン)が含まれている。
【0057】
図8】B. moriのnrRTと各種鋳型のTPRT反応産物の変性PAGEゲルの解析結果である。矢印は、正しいTPRT産物で予想されるサイズを示す。丸印は、内部開始で生じる産物の長さを示す。
【0058】
図9A-9B】O. latipesのnrRTと各種鋳型のTPRT反応産物の変性PAGEゲルの解析結果である。
【0059】
図10】T. castaneumのnrRTと各種鋳型のTPRT反応産物の変性PAGEゲルの解析結果である。目的のTPRT産物の長さは、矢印で示されている。
【0060】
図11】O. latipesの改変nrRTを用いてヒト細胞の28S rDNAに導入遺伝子を挿入した結果である。右側の模式図は、1回目のPCRとnested PCRで用いたプライマーの設計を示したものである。左側の画像は、挿入された導入遺伝子と標的部位rDNAの3’結合部に対するPCRの結果である。予想された産物は、四角で囲まれた部分に示されている。
【0061】
図12】O. latipesの改変nrRTを用いてヒト細胞の28S rDNAに導入遺伝子を挿入した結果である。上段の2つの模式図は、PCRで用いたプライマーの設計を示したものである。下段の画像は、挿入された導入遺伝子と標的部位rDNAの5’結合部に対するPCRの結果である。
【0062】
図13】T. castaneumの改変nrRTおよび表示の鋳型の5’UTRと3’UTRを用いてヒト細胞の28S rDNAに導入遺伝子を挿入した結果である。導入遺伝子と標的rDNAの3’結合部の正しい結合サイズと配列は、黒い矢印で示されている。
【0063】
図14】T. castaneumの改変nrRTおよび表示の鋳型の5’UTRと3’UTRを用いてヒト細胞の28S rDNAに導入遺伝子を挿入した結果である。標的rDNAと導入遺伝子の5’結合部の正しい結合サイズと配列は、黒い矢印で示されている。
【0064】
図15A-15B】O. latipesおよびD. simulansの改変nrRTと、ピューロマイシン耐性を付与する導入遺伝子をコードする鋳型を用いて、ヒト細胞の28S rDNAに導入遺伝子を挿入した結果である。Aは、コードされた導入遺伝子とプロモーターを含む鋳型の設計とPCRの設計を示したものである;OrLa 5’RZ+UTRを含むpuro導入遺伝子発現鋳型を用いたin vitro TPRT。各nrRTを、同種の3’UTRを含む鋳型を用いて評価した。Bは、トランスフェクトした細胞をピューロマイシン環境下で連続継代し、挿入された導入遺伝子に対するPCRを行った結果である。矢印は、PCR産物の予想される長さを示す。nrRTタンパク質と、鋳型に用いた3’UTRと下流のrRNA配列は、各レーンの上側に表示されている。
【発明を実施するための形態】
【0065】
I. 序論
本開示は、対象のゲノムに導入遺伝子を挿入するシステムを提供する。このシステムは、改変されていてもよい非長鎖末端反復(非LTR)型レトロエレメント逆転写酵素(nrRT)と、これと協働する組換えRNAコンストラクトとの使用を含み、該使用を提供する。前記nrRTは、部位特異的標的プライム逆転写(TPRT)の機能を有し、nrRTとは別に発現させた前記組換えRNAコンストラクトは、導入遺伝子を挿入するための鋳型として、配列で定義されるセーフハーバー標的部位にコピーされるものである。この使用により、真核生物のゲノム編集とヒト遺伝子治療が可能になる。本明細書において、「非LTR型レトロエレメント逆転写酵素(nrRT)」という用語は、非LTR型レトロエレメントに由来する逆転写活性を有するタンパク質を意味する。
【0066】
本明細書において、「セーフハーバー」、「セーフハーバー部位」、「セーフハーバーゲノム位置」という用語およびこれらと文法的に同等な用語は、例えば、異種配列の挿入により配列が破壊されても対象の細胞の機能に悪影響が及ばない、対象のゲノムの部位を意味する。本明細書において利用される典型的なセーフハーバー部位としては、本明細書においてリボソームDNA(rDNA)と呼ばれる、リボソームRNA(rRNA)をコードする対象のゲノムの部位、具体的には28S rRNAをコードするゲノムの部位が挙げられる。
【0067】
本明細書で提供されるシステムおよび方法では、改変RTタンパク質(nrRT)が、上述のRNA鋳型を用いて相補的DNA(cDNA)合成を行うことで、標的部位で鋳型RNAがcDNAにコピーされ、二本鎖導入遺伝子の安定した挿入が行われる。cDNA合成は、nrRTが標的部位にニックを導入することによりプライミングされる。この導入遺伝子付加のメカニズムにより、プロセスのどの段階においても他のゲノムDNAを必要とせず、また、DNAインテグラーゼ、DNA含有ウイルス、HRのいずれも必要としないという前例のない方法で、目的のDNA配列をゲノムに挿入し、安定的に継承させることができる。したがって、本明細書で提供されるシステムおよび方法では、非相同DNA切断修復で見られるような、導入されたDNAが望ましくない形で利用されることで起こる、対象の免疫反応やゲノムの突然変異の誘発を回避することができる。
【0068】
さらに、本明細書で提供されるシステムでは、鋳型RNAとは別に発現させたRTと直接導入された鋳型RNAとを用いて導入遺伝子の挿入が行われるため、RNA鋳型分子に対する改変は、配列の改変(例えば、挿入される導入遺伝子は、nrRTタンパク質ORFを含んでいなくてもよい)とヌクレオチドまたは非ヌクレオチドの組成の改変(例えば、RNA鋳型分子は、幅広い種類の化学基の使用が可能である)の両方が可能である。本明細書において、生物学的安定性を向上させる改変、毒性を低減する改変、導入されたRNAを共に導入したRTへと標的化する改変などの、改変の例が提供される。また、鋳型RNAプールの均質性を高めるために、選択的精製用に所望の折り畳み構造または特性を有するRNAも提供される。
【0069】
II. エレメント挿入システム
本明細書において、エレメント挿入システム(EIS)が提供される。本明細書において、「エレメント挿入システム」という用語は、TPRTにより、対象のゲノムの特定の位置に遺伝子配列(導入遺伝子)を挿入するために使用される構成要素(モジュール)からなるシステムを意味する(図3)。本明細書に記載のEISでは、改変された部位特異的nrRTタンパク質が用いられ、この改変nrRTタンパク質は、協働する鋳型の3’側モジュールに結合し、結合した鋳型を使用してヒト細胞のrDNAでTPRTを行う。この鋳型は、改変nrRTタンパク質とは別に発現させたものである。本明細書において、「協働する鋳型」という用語は、nrRTタンパク質によるcDNA合成が行われるようにnrRTタンパク質とともに送達され使用されるRNAコンストラクトを意味する。RTと鋳型を別々に発現させて送達するため、RTの導入遺伝子RNA鋳型を独立して設計することができる。
【0070】
本明細書に記載のEISは、様々なモジュールを含んでいてもよい(図3)。いくつかの実施形態において、前記EISは、少なくとも1つのnrRTモジュールを含む。いくつかの実施形態において、前記EISは、少なくとも1つの挿入鋳型モジュールを含む。いくつかの実施形態において、前記EISは、少なくとも1つのnrRTモジュールと少なくとも1つの挿入鋳型モジュールとを含む。
【0071】
nrRTモジュール
本明細書に記載のエレメント挿入システムは、少なくとも1つのnrRTモジュールを含み、該少なくとも1つのnrRTモジュールは、活性型nrRTタンパク質を含むか、活性型nrRTタンパク質をコードする。本明細書において、「nrRTモジュール」という用語は、少なくとも1つのnrRTを含むか、少なくとも1つのnrRTをコードするバイオポリマーコンストラクトを意味する。
【0072】
前記nrRTモジュールは、標的細胞内で活性型nrRTを生成する少なくとも1つの構成要素を含む。いくつかの実施形態において、前記nrRTモジュールは、任意の適切な送達システムにより前記標的細胞に送達可能な、活性型nrRTまたは適切な不活性型プロタンパク質nrRTを含んでいてもよい。いくつかの実施形態において、前記nrRTモジュールは、細胞内プロセシングを受けて翻訳されるか、細胞内プロセシングを受けずに翻訳される、mRNA、改変mRNAまたはその他の核酸を含んでいてもよい。これらの核酸は、nrRTまたはnrRTプロタンパク質をコードし、かつ、任意の適切な送達システムにより前記標的細胞に送達可能なものである。いくつかの実施形態において、前記nrRTモジュールは、前記標的細胞において活性型nrRTが合成されるようなmRNAが転写されるDNAコンストラクトまたはその他の核酸を含み、該DNAコンストラクトまたは他の核酸は、任意の適切な送達システムにより前記標的細胞に送達可能なものである。
【0073】
いくつかの実施形態において、前記nrRTモジュールは、少なくとも1つのRTタンパク質を含むか、少なくとも1つのRTタンパク質をコードする。いくつかの実施形態において、前記RTタンパク質は、非LTR型RTタンパク質であってもよい。いくつかの実施形態において、前記非LTR型RTタンパク質は、Bombyx mori、Drosophila simulans、Tribolium castaneumまたはOryzias latipesに由来する非LTR型R2のRTタンパク質であってもよい。いくつかの実施形態において、前記RTタンパク質は、改変されていてもよい。いくつかの実施形態において、前記RTタンパク質は、以下に限定されないが、配列番号1~4のいずれかに示されるタンパク質であってもよい。
【0074】
いくつかの実施形態において、前記nrRTモジュールは、少なくとも1つのRTタンパク質をコードするポリヌクレオチドを含んでいてもよい。いくつかの実施形態において、前記nrRTモジュールは、配列番号1~4のいずれかのタンパク質をコードするポリヌクレオチドを含む。
【0075】
一般に、導入したRNAを鋳型にしてcDNAにコピーするRTは、用途に最も適した方法で提供することができる。例えば、タンパク質として、mRNAとして、またはmRNAもしくはタンパク質を発現させるDNAベクターとして提供することができる。本明細書で提供される実施例では、プラスミドベクターから発現されるRTを使用しているが、当業者であれば、当然のことながら、この手法を精製mRNAまたは精製タンパク質として導入する別の手法と容易に関連付けるであろう。
【0076】
いくつかの実施形態において、鋳型選択性の高いnrRTは、有用である。一般に、鋳型が、鋳型とは別に発現させた部位特異的nrRTタンパク質に対して精製RNAとして提供される場合、部位特異的nrRTタンパク質が目的の鋳型のみに結合して当該鋳型をコピーするという機能的な特異性をどの程度有しているかは配列情報のみからは分からない。特定の理論に縛られることを望むものではないが、鋳型RNAの使用に対する特異性が不明であることは、この場合のタンパク質とRNAの相互作用が、内在性レトロエレメントの場合とは異なることに関係していると考えられる。一般に、内在性レトロエレメントのnrRTタンパク質は、非常に高い局所濃度で存在する自身のmRNAに結合するシス優先性を有することが知られている。
【0077】
部位特異的nrRTタンパク質の候補の多くが、その最低限の要件であるプライマー伸長RT活性アッセイで不活性であるが、B. mori、D. simulansおよびO. latipesのゲノム配列を改変したnrRTタンパク質や他のいくつかのnrRTタンパク質のように不活性でないものもある。細菌で組換え発現させて精製したものを用いてアッセイを行い、これまでに生化学的活性を有することが確認されているnrRTタンパク質は、B. mori R2(「BoMo」)RTのみである。いくつかの実施形態において、一次配列だけで単純に予測することができない不活性型と活性型の改変nrRTタンパク質を、スクリーニングにより同定してもよい。
【0078】
TPRT活性アッセイ
いくつかの実施形態において、候補となるnrRTタンパク質のTPRT活性の有無を調べてもよい。いくつかの実施形態において、TPRT活性の有無を調べるアッセイは、(i)アフィニティー精製用の適切なタグ(例えば、FLAGタグ)を有するnrRTタンパク質をコードする発現プラスミドを細胞集団にトランスフェクトする工程、(ii)前記細胞集団を溶解し、当技術分野で公知の適切な方法により、発現したタンパク質産物を回収し、精製する工程、(iii)当技術分野で公知の任意の方法(例えば、T7 RNAポリメラーゼ)により、組換え鋳型RNAを調製する工程、(iv)精製nrRTタンパク質と、組換え鋳型と、末端が放射標識されたボトム鎖を有する標的部位オリゴヌクレオチド二重鎖DNAを含むヌクレオチド溶液とを、nrRTによる逆転写が促進される培地中で組み合わせる工程、ならびに(v)当技術分野で公知の任意の適切な方法(例えば、変性PAGE)により、産物を回収し、分析する工程を含んでいてもよい。
【0079】
挿入鋳型モジュール
本明細書に記載のエレメント挿入システム(EIS)は、少なくとも1つの挿入鋳型モジュールを含む。本明細書において、「挿入鋳型モジュール」および「鋳型モジュール」という用語は、nrRTタンパク質のRNA鋳型として機能するRNAコンストラクトを意味する。前記挿入鋳型モジュールは、それ自体が複数のモジュールで構成されている(図3および図4)。この複数のモジュールは、標的ゲノムに挿入するための導入遺伝子配列(すなわち、ペイロードモジュール)、および/または挿入鋳型モジュールと対象のゲノムもしくはEISのnrRTタンパク質成分との相互作用に影響を及ぼすモジュール(5’側モジュールと3’側モジュール)を含んでいてもよい。一般に、5’側モジュールと3’側モジュールにより、その間に配置される導入遺伝子の長さまたは配列は制限されない。
【0080】
いくつかの実施形態において、前記挿入鋳型モジュールは、少なくとも1つの5’側モジュールを含む。いくつかの実施形態において、前記挿入鋳型モジュールは、少なくとも1つの3’側モジュールを含む。いくつかの実施形態において、前記挿入鋳型モジュールは、少なくとも1つのペイロードモジュールを含む。いくつかの実施形態において、前記挿入鋳型モジュールは、少なくとも1つの5’側モジュールと、少なくとも1つのペイロードモジュールと、少なくとも1つの3’側モジュールとを含む。
【0081】
いくつかの実施形態において、これらのモジュールは、有用な機能を有するように設計されており、例えば、細胞に導入された鋳型RNAが損傷されないように保護する機能、協働する改変nrRTと特異的に結合してこれを活性化する機能、完全長の第1鎖のcDNA合成を促進する機能、第2鎖の合成を促進して導入遺伝子の安定な挿入を可能にする機能などを有するように設計されている。当業者であれば、5’側導入遺伝子鋳型モジュールおよび/または3’側導入遺伝子鋳型モジュールによって付与される各特性がそれぞれ独立で有用であることは理解できるであろう。
【0082】
特定の理論に縛られることを望むものではないが、5’側鋳型RNAモジュールおよび/または3’側鋳型RNAモジュールの重要な特徴として、化学的改変および酵素的改変が可能であることが挙げられ、このような改変により、細胞送達性、局在化、安定性、組織選択的取り込みまたは機能、およびこれら以外に、研究もしくは臨床応用で好ましいとされるような評価項目を改善することができると考えられる。このような評価項目に寄与するRNAの改変は、例えば、臨床的に有用なmRNAワクチンの開発や改良、およびマイクロRNA、アンチセンスRNA、Cas9ガイドRNAやmRNAの送達に有用である。
【0083】
いくつかの実施形態において、5’側鋳型RNAモジュールおよび/または3’側鋳型RNAモジュールの改変は、予め作製された全長鋳型RNAにおいて、かつ/またはライゲーションなどの標準的な方法によって実施することができる。
【0084】
いくつかの実施形態において、本開示に記載の5’側モジュールおよび3’側モジュールは、標的部位との30nt未満の連続した相補性、例えば、標的部位とのわずか4nt(3’隣接)またはわずか13nt(5’隣接)の連続した相補性を含んでいてもよい。いくつかの実施形態において、標的部位の相補性を制限することで、配列相補性のあるゲノムの別の部位への望ましくない第1鎖cDNAの侵入を回避することができる。これが回避できない場合、所望の部位以外でのゲノム再編成を伴わない第2鎖合成を想定しているにもかかわらず、望ましくないゲノム再編成が起こる可能性がある。
【0085】
いくつかの実施形態において、前記5’側モジュールおよび前記3’側モジュールは、宿主細胞のゲノムの任意の領域との30nt未満の連続した配列相補性を含んでいてもよい。一般に、この制限は、挿入された導入遺伝子とゲノム内の別の遺伝子座との間でHRが起こらないようにするものである。HRが起こると、ゲノムの大規模な再編成や、挿入された導入遺伝子が細胞のrDNAから脱落する可能性がある。いくつかの実施形態において、前記導入遺伝子ペイロードは、ゲノムの別の部位と正確にマッチする30ntより長い配列を少なくとも1つ含んでいてもよい。いくつかの実施形態において、前記導入遺伝子ペイロードは、ゲノムの別の部位と正確にマッチする30ntより長い配列を少なくとも1つ含む必要はない。特定の理論に縛られることを望むものではないが、二本鎖導入遺伝子合成におけるcDNA中間体は、ゲノムの別の位置との30ntの連続した相補性を含む必要がないため、相同二重鎖配列へのcDNA鎖の侵入や、望ましくない不適切なHRは制限または回避されると考えられる。現行技術では、TPRTによるゲノムへの挿入に際して、比較的長い隣接rDNA、例えば、100ntの3’隣接rRNAが重要な因子とされているが、当業者であれば、本開示がそれとは対照的な内容であることは理解できるであろう(参照:Kuroki-Kami A, Nichuguti N, Yatabe H, Mizuno S, Kawamura S, Fujiwara H. Mob DNA. 2019 および US20200109398、これらの文献の内容のうち、必要または理想的な連続した配列相補性の長さに関する記載内容は、本明細書において参照により開示される)。
【0086】
いくつかの実施形態において、本開示は、挿入鋳型モジュールとして使用するための組成物を提供する。いくつかの実施形態において、前記挿入鋳型モジュールは、少なくとも1つの5’側モジュールを含んでいてもよい。いくつかの実施形態において、前記挿入鋳型モジュールは、少なくとも1つの3’側モジュールを含んでいてもよい。いくつかの実施形態において、前記挿入鋳型モジュールは、ペイロードセクションを含んでいてもよい。いくつかの実施形態において、前記挿入鋳型モジュールは、5’側モジュール、3’側モジュールおよび/またはペイロードセクションのうちの少なくとも1つを含んでいてもよい。
【0087】
いくつかの実施形態において、前記挿入鋳型モジュールは、RNA、改変RNAまたはその他の核酸を含み、これらの核酸は、nrRTによるcDNA合成の鋳型として使用されることで、TPRTにより、前記標的細胞内の標的部位で、生物学的活性を有するDNAエレメントの少なくとも一本の鎖が合成される。
【0088】
5’側モジュール
いくつかの実施形態において、導入遺伝子鋳型RNAに適した5’側モジュールは、3’側モジュールとは異なる原理に基づいて設計される。特定の理論に縛られることを望むものではないが、ヒト細胞のrDNAへの導入遺伝子の挿入において形成される5’結合の効率と忠実性の観点から、最適な5’側モジュールとして、上流のrRNA配列がデルタ肝炎ウイルス(HDV)折り畳み構造を有する自己切断型リボザイム(RZ)の第1ループで保護されるモジュールが挙げられる。一般に、すべての種ではないが、いくつかの種(または種内系統)のR2エレメントがこのタイプの自己切断活性をコードしており、自然界では、この活性が発揮されることにより、RNAP Iにより合成された大きな前駆rRNA転写産物から5’側鋳型末端が遊離され、天然のORFからタンパク質が翻訳されることが示唆されている(Ruminski DJ, Webb CT, Riccitelli NJ, Luptak A. J Biol Chem. 2011)。当然のことながら、in vitroで転写され、直接導入された鋳型RNAは、RZの作用により前駆転写産物から遊離される必要はない。したがって、RZ折り畳み構造を有する改変5’側モジュールが、導入遺伝子鋳型のコピーに有用であり、該改変5’側モジュールにより、5’結合部の形成の効率および忠実性が高くなるという結果は自明のものではなかった。
【0089】
いくつかの実施形態において、RZは、完全な導入遺伝子の挿入には必要でない場合もある。いくつかの実施形態において、RZにより、5’導入遺伝子挿入結合および3’導入遺伝子挿入結合の効率および忠実性が向上する場合がある。
【0090】
いくつかの実施形態において、前記5’側モジュールは、様々な改変nrRTによる導入遺伝子合成において、それぞれの鋳型間で交換可能に使用できる。例えば、D. simulansの5’RZはrDNAとレトロエレメント5’末端の正確な結合部(+0)で自己切断するが、O. latipesの5’RZはボトム鎖の最初のニックの位置から28nt上流(プロモーター方向)(-28)で自己切断し、26ntの5’隣接rRNAが残る(標的部位の中心にある2bpの配列は天然のレトロエレメント挿入時に欠失する)。
【0091】
いくつかの実施形態において、導入遺伝子5’結合部の形成の効率および忠実性は、様々な要因によってさらなる向上が期待できる。例えば、折り畳み構造、細胞内での安定性、鋳型5’側モジュールの設計と評価に関する他のパラメータなどの改善が、そのような要因として挙げられる。一例として、HDVのプラス鎖ゲノムとマイナス鎖ゲノムに由来する天然または改変リボザイムや、天然に存在しヒト細胞で機能研究されているHDV折り畳みリボザイムの詳細な特性解析を生かした改善が挙げられるが、これに限定されない。いくつかの実施形態において、系統横断的にR2の内部にあるHDV折り畳みリボザイムの量を増やすことも、改善につながる。
【0092】
いくつかの実施形態において、個々の改変nrRTタンパク質に合わせて最適な5’隣接rRNAの長さを決定する際に(それぞれ標的部位に結合する際の位置が異なる)、それぞれの長さの5’隣接rRNAが保護されるようにHDV折り畳みRZを再設計してもよい。いくつかの実施形態において、最適な5’隣接rRNAの長さと、最適な3’隣接rRNAの長さは相互に関連する場合がある。いくつかの実施形態において、RZの触媒作用のない変異体を、導入遺伝子鋳型5’側モジュールとして使用するためのスクリーニングに供することも可能である。一般に、このことは、RZの折り畳み構造が維持されていることの重要性と、切断されたRNAの5’水酸基がRNAの三次構造の中に埋もれてヌクレアーゼがアクセスできないこととの違いを明らかにできる可能性がある。いくつかの実施形態において、前記5’側モジュールの設計は、5’導入遺伝子結合部の形成に向けて様々な細胞因子が動員されるように調整を行ってもよい。いくつかの実施形態において、前記5’側モジュールの設計は、鋳型RNAの折り畳み、精製または局在化を促進するモチーフが含まれるように調整を行ってもよい。
【0093】
いくつかの実施形態において、前記5’側モジュールは、R2レトロエレメント配列に由来する少なくとも1つのエレメントを含む。いくつかの実施形態において、前記5’側モジュールは、Bombyx mori、Drosophila simulans、Tribolium castaneumまたはOryzias latipesのR2レトロエレメント配列に由来する少なくとも1つのエレメントを含む。
【0094】
いくつかの実施形態において、前記5’側モジュールは、以下に限定されないが、配列番号5~7のいずれかに記載またはコードされるRNAであってもよい。
【0095】
3’側モジュール
いくつかの実施形態において、前記3’側モジュールの設計の指標として、鋳型RNAの結合アッセイ、および/または鋳型使用の寛容性および特異性を調べるTPRTアッセイを挙げることができる。以下に限定されないが、例えば、D. simulansのRTはO. latipesの3’UTRの使用に寛容ではなく、O. latipesのRTはD. simulansの3’UTRの使用に寛容ではないが、B. moriのRTはいずれも使用可能である。このTPRTの結果は、結合アッセイにおけるRNA相互作用の特異性とも一致する。
【0096】
いくつかの実施形態において、O. latipesおよびD. simulansの3’UTR含有RNAは、(共に使用する同種のRTによる)結合およびコピーに関する特異性が高いことから、これらは、選択的な鋳型使用を誘導する導入遺伝子鋳型モジュールとしての適性が高いと考えられる。いくつかの実施形態において、RNAとの結合の特異性が高い場合、細胞内のRTタンパク質のうち、目的の鋳型に結合できるものは少なくなる。よって、意図しない導入遺伝子が合成される可能性も少なくなる。いくつかの実施形態において、鋳型との結合および鋳型使用に対する特異性、効率および忠実性は、3’UTR配列の最適化(または同等の機能を有する配列の選択)によってさらなる向上が期待できる。この最適化により、特に、最適な長さ、均一な折り畳み構造、高い結合性およびTPRTの開始位置の改良が付与される。
【0097】
いくつかの実施形態において、鋳型RNAの末端を改変することは有用であり、例えば、配列タグの付加(例えば、RNAの安定性を向上させるために用いられる配列タグの付加)や共有結合性の連結(例えば、細胞への取り込みを促進するペプチドの融合に用いられる共有結合性の連結)が挙げられる。いくつかの実施形態において、20~25ntのアデノシン(A)鎖が付加される。一般に、このポリA鎖(PA)は、in vitroでのTPRTにおける鋳型使用の特異性または忠実性を変化させるものではない。例えば、後述の実施例に示すように、改変R2 nrRTと、3’隣接rRNAを有する同種の3’UTR鋳型とのいずれの組み合わせにおいても、TPRTにおける鋳型使用の特異性や忠実性に、PAによる変化は認められなかった。いくつかの実施形態において、前記アデノシン鎖は、細胞内ポリアデノシン結合タンパク質を動員することによって、あるいは安定に積層した一本鎖のRNA塩基を形成することによって、鋳型RNAの3’末端を保護することができる。いくつかの実施形態において、細胞における導入遺伝子の挿入は、PAの存在により促進される。いくつかの実施形態において、in vitroでのTPRTを阻害せず、in vivoおよび/またはin vitroでのTPRTを機能的に向上させる可能性のある末端伸長部を、導入遺伝子鋳型の3’隣接rRNAの後に付加することができる。一般に、異種の末端伸長部は、天然で発現するものではなく、標的部位と相同性がなく、RTタンパク質との相互作用も知られていないため、そのような異種の末端伸長部が鋳型RNAに影響を及ぼしうるという結果は、これまでの認識とは異なるものである(参照:Kuroki-Kami A, Nichuguti N, Yatabe H, Mizuno S, Kawamura S, Fujiwara H. Mob DNA. 2019)。
【0098】
いくつかの実施形態において、同種の3’UTR鋳型を用いて行われるO. latipesのRTによるTPRTは、3’UTR配列の後に4ntの3’隣接rRNAが存在することで促進される。いくつかの実施形態において、20ntの3’隣接rRNAを用いることで、O. latipesのRTによるTPRT効率が向上する場合がある。いくつかの実施形態において、B. moriの3’UTR鋳型の3’UTR配列末端の後に4ntの3’隣接rRNAが存在しても、B. moriのRTによるTPRTの効率には影響はない。いくつかの実施形態において、4ntの代わりに20ntの3’隣接下流rRNAを用いた場合、B. moriのRTによる内部開始が起こり、3’結合の忠実性が低下する。概して、これらの結果は、nrRT酵素の種類に合わせて3’側鋳型モジュールの設計を個別に調整することが有用であるという我々の仮説の根拠となる代表的なアッセイ結果である。TPRTの効率および/または忠実性は、3’隣接rRNA配列の存在または長さによって変化すると考えられる。鋳型の3’隣接rRNA配列を制限することの有用性について、驚くべきことに、公開されている研究結果とは反対の結論が得られたことは、当業者であれば理解できるであろう(Kuroki-Kami A, Nichuguti N, Yatabe H, Mizuno S, Kawamura S, Fujiwara H. Mob DNA. 2019)。なお、3’隣接rRNA配列の機能評価にあたり、一般に、in vitroでのTPRTにおける鋳型選択性と、ヒト細胞でのTPRTにおける鋳型選択性との比較はこれまで実施されていない。いくつかの実施形態において、in vitroとin vivoでのTPRTの相関を利用して、導入遺伝子の挿入を最適化してもよい。
【0099】
いくつかの実施形態において、前記3’側モジュールは、R2レトロエレメント配列に由来する少なくとも1つのエレメントを含む。いくつかの実施形態において、前記3’側モジュールは、Bombyx mori、Drosophila simulans、Tribolium castaneumまたはOryzias latipesのR2レトロエレメント配列に由来する少なくとも1つのエレメントを含む。
【0100】
いくつかの実施形態において、前記3’側モジュールは、以下に限定されないが、配列番号8~11のいずれかに記載またはコードされるRNAであってもよい。
【0101】
RNA合成の不完全性
一般に、長鎖の非タンパク質コードRNA(すなわち、本明細書に記載の鋳型RNAのような非翻訳RNA)の細胞内発現、共転写変化、パッケージングおよび一般的な運命は、明確には定義されていない、多様かつ競合的な複数の経路により決定されるため、生成されるRNAは、配列、折り畳み構造、プロセシングや修飾の異なるRNAで構成された異種RNAプールとして得られる。機能的な長鎖非翻訳RNAの生成にin vitro合成を用いる場合に障害になるのは、長鎖の非翻訳RNAの機能的な折り畳みやタンパク質との会合には細胞内発現が必要であると考えられていることである。このような細胞内発現の必要性が想定されるのは、RNA前駆体や成熟RNAを修飾し、折り畳み、輸送するために順次働くシャペロンや補助因子、さらにRNAと協働するタンパク質とを共に折り畳むための条件や機構が複雑に絡み合っているためと考えられている。細胞内とin vitroで同等の長鎖非翻訳RNAが生成されるとは限らないため、in vitroで生成された長鎖非翻訳RNAは、その生物学的機能を確認する必要がある。いくつかの実施形態において、in vitro合成と折り畳みと修飾を選択的精製と組み合わせることで、意図しない活性や毒性のない、均一に折り畳まれたRNA分子のプールを調製することができる。
【0102】
ペイロードモジュール
いくつかの実施形態において、前記ペイロードモジュールは、対象のゲノムに挿入するための少なくとも1つの目的遺伝子を含む。いくつかの実施形態において、前記ペイロードモジュールは、EISにより対象のゲノムに挿入可能な任意の遺伝子を含む。
【0103】
我々が開発した本明細書に開示の導入遺伝子挿入方法は、非LTR型レトロエレメントの天然の挿入プロセスには本来存在しないものであることは、当業者であれば理解できるであろう。天然の挿入プロセスでは、細胞内で合成されたレトロエレメント由来のRNA転写産物は、いくつかの未知の工程を経て、タンパク質合成とcDNA合成の両方を誘導する二重機能を有するmRNA+RNA鋳型分子となる。前記RNA鋳型のいくつかの実施形態において、前記RNA鋳型は、二重機能を有していない。いくつかの実施形態において、前記RNA鋳型は、タンパク質合成を誘導しない。
【0104】
本開示の組成物および方法が、nrRTによるTPRTに関して公開された研究とは異なるものであることは、当業者であれば理解できるであろう。概して、既に開示されているnrRTによるTPRT法では、タンパク質を生成するとともに、TPRTによるcDNA合成の鋳型としても機能するレトロエレメント配列全体を含む転写産物を発現するDNAベクターを用いる。この場合、挿入される導入遺伝子は、必然的にnrRTのORFを含み、活性型nrRTを発現する。さらに、このnrRTタンパク質を発現する配列は通常、nrRTタンパク質と機能的鋳型の両方を生成する必要があるという制約を超えて調整することはできない。前記挿入される導入遺伝子のいくつかの実施形態において、前記挿入される導入遺伝子は、nrRTのORFを含まない。いくつかの実施形態において、nrRTタンパク質を発現するベクターは、nrRTタンパク質と機能的鋳型の両方を生成する必要があるという制約を超えて調整することができる。
【0105】
さらに、本開示の組成物および方法が、タンパク質の生成に使用されたものと同じRNA分子が後で鋳型として機能する例(すなわち、「シス優先性」として当技術分野で公知である)とは異なることは、当業者であれば理解できるであろう。いくつかの実施形態において、本開示は、別々に生成されたnrRTタンパク質とRNA鋳型を使用する(すなわち、「トランス優先性」)。いくつかの実施形態において、本開示の方法および組成物は、細胞内でRNA鋳型が生成されるのではなく、RNA鋳型を細胞に直接導入するものである。いくつかの実施形態において、本開示は、別々に生成された構成要素としてnrRTとRNA鋳型を使用する。
【0106】
III. 製剤および送達
送達媒体
いくつかの実施形態において、本明細書に記載のEISは、送達媒体に配合して、製剤として調製することができる。本開示の実施に適した典型的な送達媒体としては、脂質系ナノ粒子(例えば、脂質ナノ粒子(LNP)、リポソームおよびミセル)ならびに非脂質系ナノ粒子(例えば、ウイルス様粒子(VLP)およびポリマー送達粒子)などのナノ粒子が挙げられる。
【0107】
いくつかの実施形態において、前記送達媒体は、少なくとも1種のナノ粒子を含んでいてもよい。一般に、本明細書において、「ナノ粒子」という用語は、10~1000nmの大きさの粒子を意味する場合がある。
【0108】
脂質系粒子
脂質ナノ粒子
いくつかの実施形態において、前記送達媒体は、脂質ナノ粒子(LNP)であってもよい。一般に、LNPは、非LNP環境と接する親水性外表面を含む外部脂質層と、非水性または水性の内部空間(すなわち、それぞれミセル様LNPおよび小胞様LNP)と、少なくとも1つの疎水性膜間空間とを有する。LNP膜は、非ラメラ構造であってもラメラ構造であってもよく、1層、2層、3層、4層、5層または5層より多い数の層で構成されていてもよい。前記LNPは、固体でも半固体でもよい。いくつかの実施形態において、前記LNPの内部空間、膜間空間、外表面またはこれらの任意の組み合わせにおいて、少なくとも1つのカーゴまたはペイロード(EISなど)が含まれていてもよい。
【0109】
ミセル
いくつかの実施形態において、前記送達媒体は、少なくとも1種のミセルを含む。いくつかの実施形態において、前記ミセルは、脂質ナノ粒子と同じ成分で構成されていてもよいが、基本的に製造方法が異なる。本明細書において、「ミセル」とは、水性の粒子内空間を有していない小さな粒子を意味する。特定の理論に縛られることを望むものではないが、ミセルの粒子内空間には、脂質ヘッド基は含まれず、むしろ、ミセル膜を構成する脂質の疎水性テールと、それに結合する可能性のあるEISが含まれている。
【0110】
リポソーム
いくつかの実施形態において、前記送達媒体は、少なくとも1種のリポソームを含む。いくつかの実施形態において、前記リポソームは、脂質ナノ粒子と同じ成分および同じ成分量で構成されていてもよいが、基本的に製造方法が異なる。本明細書において、「リポソーム」とは、水性の内部ナノ粒子空間を包囲する少なくとも1つの脂質二重膜で構成される小胞を意味する。さらに、リポソームは細胞外小胞とは異なり、一般に前駆細胞/宿主細胞に由来するものではない。リポソームとしては、狭い水性空間によって隔てられた複数の同心二重層を含み、直径が数百ナノメートルのもの(すなわち(大型)多層小胞(MLV))、直径が50nmより小さいもの(小型単層小胞(SUV))、直径が50~500nmのもの(大型単層小胞(LUV))などが挙げられる。
【0111】
エクソソーム
いくつかの実施形態において、前記送達媒体は、少なくとも1種のエクソソームを含む。一般に、「エクソソーム」とは、エンドサイトーシスに由来する小型の膜結合体である細胞外小胞を意味する。エクソソーム膜は、一般に脂質二重層で構成されたラメラ構造をとっており、水性の内部ナノ粒子空間を有する。エクソソームには、あらかじめ設定していた成分に加えて、宿主細胞膜/前駆細胞膜の成分が含まれている傾向がある。特定の理論に縛られることを望むものではないが、エクソソームは一般に、多胞体が細胞形質膜に融合した後、宿主細胞/前駆細胞から細胞外環境に放出される。
【0112】
ウイルス様粒子
いくつかの実施形態において、前記送達媒体は、少なくとも1種のウイルス様粒子(VLP)を含む。一般に、ウイルス様粒子は、EISを担持することができるウイルス由来のタンパク質カプシド、コート、シェルまたはシース(本明細書ではこれらはすべて同じものとして同じ意味で使用される)を主成分として構成された非感染性小胞である。いくつかの実施形態において、VLPは、細胞内機構により発現したウイルスカプシドタンパク質配列が自己集合してEISを取り込むことにより合成されたものであってもよい。いくつかの実施形態において、VLPは、発現に関連する細胞内機構を利用せずに、カプシドおよびEIS構成要素を準備して、これらを自己集合させることによって形成されたものであってもよい。
【0113】
VLPの由来となるウイルス科およびウイルス種の例としては、以下に限定されないが、パルボウイルス科、レトロウイルス科、フラビウイルス科、パラミクソウイルス科、アデノ随伴ウイルス、HIV、C型肝炎ウイルス、HPV、バクテリオファージまたはこれらの組み合わせが挙げられる。
【0114】
直接トランスフェクション
いくつかの実施形態において、本明細書に開示のEISは、前記送達媒体を使用せずに標的細胞に直接トランスフェクトしてもよい。いくつかの実施形態において、本明細書に開示のEISは、当技術分野で公知の任意の技術を用いて標的細胞にトランスフェクトしてもよい。そのような技術としては、化学的トランスフェクション法(例えば、リン酸カルシウム接触法)、物理的トランスフェクション法(例えば、エレクトロポレーション法、マイクロインジェクション法、遺伝子銃送達法)などが挙げられるが、これらに限定されない。いくつかの実施形態において、直接トランスフェクションは、以下に限定されないが、リポフェクタミン、リポフェクタミン2000、およびこれらの任意の組み合わせなどの脂質系トランスフェクション試薬を用いて実施してもよい。
【0115】
送達標的部位
いくつかの実施形態において、本明細書に開示のEISは、標的部位に送達してもよい。いくつかの実施形態において、前記標的部位としては、対象の特定の細胞、組織、器官、生理システムまたはこれらの任意の組み合わせが挙げられるが、これらに限定されない。
【0116】
IV. 医薬組成物および投与経路
本開示は、対象にEISを投与するための医薬組成物を提供する。いくつかの実施形態において、本開示は、治療適応症の治療において医薬として使用するための医薬組成物を提供する。いくつかの実施形態において、前記医薬組成物は、少なくとも1つの有効成分(例えば、本開示のEIS)と、少なくとも1つの薬学的に許容される賦形剤、アジュバント、担体、希釈剤またはこれらの任意の組み合わせとを含む。いくつかの実施形態において、前記医薬組成物は、少なくとも1つの投与経路に適した製剤として調製される。いくつかの実施形態において、前記医薬組成物は、少なくとも1つの有効成分(例えば、EIS)の所定の用量が送達されるような製剤として調製される。また、所定のスケジュールで送達されるような製剤として調製することもできる。
【0117】
本明細書において、「医薬組成物」という用語は、少なくとも1つの有効成分を含み、さらに1つ以上の薬学的に許容される賦形剤を含んでいてもよい組成物を意味する。本明細書において、「有効成分」という用語は、通常、EIS、対象のゲノムへの挿入用のEISによって送達される遺伝子ペイロード、または本明細書に記載のEISによって送達される遺伝子ペイロードの発現産物を意味する。
【0118】
いくつかの実施形態において、前記医薬組成物は、任意の賦形剤、アジュバント、希釈剤、増量剤、保存剤、安定剤などを含んでいてもよい。
【0119】
いくつかの実施形態において、本明細書に記載の医薬組成物の製剤は、薬理学分野で公知のまたは今後開発される任意の方法で調製してもよい。一般に、このような製剤の調製方法は、有効成分を賦形剤および/または1つ以上の他の補助成分と組み合せる工程を含む。
【0120】
前記EIS、例えば、本明細書に記載のEISを含む医薬組成物は、対象の細胞にEISを組み込むことができる送達経路であれば、いずれの経路で投与してもよい。許容可能な投与経路として、経耳投与(耳内への投与または耳経由の投与)、胆管灌流、頬側投与(頬内側への投与)、心臓灌流、仙骨ブロック、結膜投与、経皮投与、経歯投与(1本の歯または複数本の歯への投与)、歯冠内投与、診断用投与、点耳投与、電気浸透、子宮頸管内膜投与、副鼻腔内投与、気管内投与、浣腸、腸内投与(腸管内への投与)、表皮投与(皮膚の上からの穿刺)、硬膜外投与(硬膜外腔への投与)、羊膜外投与、体外循環装置を介した投与、点眼投与(結膜上への投与)、胃腸管投与、血液透析、浸潤投与、吹送投与(鼻からの吸引)、組織間隙投与、腹腔内投与、羊膜内投与、動脈内投与(動脈内への投与)、関節内投与、胆管内投与、気管支内投与、嚢内投与、心臓内投与(心臓内への投与)、軟骨内投与(軟骨内への投与)、馬尾内投与(馬尾内への投与)、空洞内注射(病的空洞内への投与)、海綿体洞内投与(陰茎基部への投与)、脳内投与(大脳への投与)、脳室内投与(脳室への投与)、大槽内投与(大槽/小脳延髄槽内への投与)、角膜内投与(角膜内への投与)、冠動脈内投与(冠動脈内への投与)、海綿体内投与(陰茎の海綿体の膨張性空間内への投与)、皮内投与(皮膚自体への投与)、椎間板内投与(椎間板内への投与)、腺管内投与(腺管内への投与)、十二指腸内投与(十二指腸内への投与)、硬膜内投与(硬膜内または硬膜下への投与)、表皮内投与(表皮への投与)、食道内投与(食道への投与)、胃内投与(胃内への投与)、歯肉内投与(歯肉内への投与)、回腸内投与(小腸の遠位部内への投与)、病変内投与(局所病変内への投与または局所病変への直接的な導入)、腔内投与(管の内腔内への投与)、リンパ管内投与(リンパ管内への投与)、髄内投与(骨の髄腔内への投与)、髄膜内投与(髄膜内への投与)、筋肉内投与(筋肉への投与)、心筋内投与(心筋内への投与)、眼内投与(眼の内部への投与)、骨内注入(骨髄内への投与)、卵巣内投与(卵巣内への投与)、実質内投与(脳組織への投与)、心膜内投与(心膜内への投与)、腹腔内投与(腹腔内への注入または注射)、胸膜内投与(胸膜内への投与)、前立腺内投与(前立腺内への投与)、肺内投与(肺内またはその気管支内への投与)、腔内投与(副鼻腔内または眼窩周囲腔内への投与)、脊髄内投与(脊柱内への投与)、滑液包内投与(関節の滑液腔内への投与)、腱内投与(腱内への投与)、精巣内投与(精巣内への投与)、髄腔内投与(脊柱管内への投与)、髄腔内投与(脳脊髄軸の任意の部位の脳脊髄液内への投与)、胸腔内投与(胸腔内への投与)、管腔内投与(器官の管腔内への投与)、腫瘍内投与(腫瘍内への投与)、中耳内投与(中耳内への投与)、子宮内投与、膣内投与、血管内投与(1本の血管内または複数本の血管内への投与)、静脈内投与(静脈内への投与)、静脈内ボーラス、点滴静注、心室内投与(心室内への投与)、膀胱内注入、硝子体内投与(眼球の内部への投与)、イオントフォレーシス(電流を用いて可溶性塩のイオンを生体組織に導入する方法)、洗浄(開放性創傷または体腔の浸漬洗浄またはフラッシュ)、喉頭投与(喉頭への直接投与)、経鼻投与(鼻腔を介した投与)、経鼻胃投与(鼻腔を通して胃内に投与する方法)、神経ブロック、密封療法(外用経路投与を行った後、その部位を閉鎖する被覆材で覆う方法)、経眼投与(外眼部への投与)、経口投与(口腔を介した投与)、口咽頭投与(口腔および咽頭への直接投与)、非経口投与、経皮膚投与、関節周囲投与、硬膜周囲投与、神経周囲投与、歯周投与、フォトフェレーシス、直腸投与、呼吸器投与(局所効果または全身効果を得るための、経口吸入または経鼻吸入による呼吸器内への投与)、球後投与(脳橋の後ろまたは眼球の後ろへの投与)、軟部組織投与、クモ膜下投与、結膜下投与、皮下投与(皮膚の下への投与)、口唇下投与、舌下投与、粘膜下投与、外用投与、経皮投与、経皮投与(全身分布させるための無傷な皮膚を介した拡散)、経粘膜投与(粘膜を介した拡散)、経胎盤投与(胎盤を通した投与または胎盤を介した投与)、経気管投与(気管壁を通した投与)、経鼓室投与(鼓室を介した投与または鼓室を通した投与)、経膣投与、尿管投与(尿管への投与)、尿道投与(尿道への投与)、膣投与ならびに脊髄投与が挙げられるが、これらに限定されない。
【0121】
前記EISおよび/または該EISを含む医薬組成物は、対象において所望の効果(例えば、所望の治療効果、研究結果など)をもたらす任意の量(すなわち、用量)で投与してもよい。
【0122】
V. 使用方法
本明細書において、対象に導入遺伝子を導入する方法が提供される。いくつかの実施形態において、前記方法は、導入遺伝子を含む少なくとも1つのEISの有効量を対象に導入することを含む。
【0123】
いくつかの実施形態において、前記方法は、導入遺伝子を導入することを含み、前記方法はさらに、RNA鋳型およびこれと協働する逆転写酵素を用いて、真核生物ゲノムに部位特異的に導入遺伝子を付加することを含む。
【0124】
前記方法のいくつかの実施形態において、改変R2レトロエレメントタンパク質を用いることで、該改変R2レトロエレメントタンパク質を介する標的プライム逆転写(TPRT)により、直接導入されたRNA鋳型を用いて、ヒト細胞のrDNAへの導入遺伝子の挿入が行われる。
【0125】
いくつかの実施形態において、本発明のシステムおよび方法は、R2レトロエレメントタンパク質、非LTR型RTタンパク質のR2/R8/R9ドメイン構造、天然タンパク質または天然タンパク質複合体を除外するものではない。
【0126】
いくつかの実施形態において、本発明のシステムおよび方法は、TPRTによる導入遺伝子の挿入の標的として他種のゲノム、またはゲノム以外の標的を除外するものではない。
【0127】
いくつかの実施形態において、本発明のシステムおよび方法は、鋳型への外来性の付加/改変、例えば、別の核酸、核酸様物質、化学合成成分、天然または合成のペプチドまたは脂質、スキャフォールド結合および放出能力などを除外するものではない。
【0128】
いくつかの実施形態において、細胞へのRNAの「送達」または導入は、(本明細書に記載のすべての実施例で採用されている)脂質を用いたトランスフェクションまたはエレクトロポレーションなどの標準的な方法に限定されるものではない。
【0129】
いくつかの実施形態において、前記導入遺伝子は、治療上有効な遺伝子である。
【0130】
いくつかの実施形態において、本発明のシステムおよび方法は、TPRTを可能にするRTとしての活性および/または鎖へのニックを導入するエンドヌクレアーゼとしての活性を有する非LTR型レトロエレメントタンパク質を用いるものであり、該非LTR型レトロエレメントタンパク質は、RTプライマー伸長アッセイおよび/またはin vitro TPRTアッセイで活性を示すものであり、部位特異的であってもよい。
【0131】
いくつかの実施形態において、本発明のシステムおよび方法は、RTを介するTPRT用に1つ以上の3’側鋳型モジュールを用いるものであり、該1つ以上の3’側鋳型モジュールは、協働するRTと同種の3’側鋳型モジュールであるか、同種の天然型を改変したものであるか、系統学的調査および関連レトロエレメントの再構成と改変もしくは再構成のみにより得られたものであるか、またはin vitroおよび細胞内での3’結合形成および5’結合形成の選択性、効率および/もしくは忠実性に関するスクリーニングによって得られたものである。
【0132】
いくつかの実施形態において、本発明のシステムおよび方法は、RTを介するTPRT用に1つ以上の5’側鋳型モジュールを用いるものであり、該1つ以上の5’側鋳型モジュールは、協働するRTと同種の5’側鋳型モジュールであるか、同種の天然型を改変したものであるか、系統学的調査および関連レトロエレメントの再構成と改変もしくは再構成のみにより得られたものであるか、異種レトロエレメントの5’領域を改変したものであるか、天然もしくは設計されたデルタ肝炎ウイルス(HDV)リボザイム(RZ)折り畳み構造を改変したものであるか、またはin vitroおよび細胞内での3’結合形成および5’結合形成の選択性、効率および忠実性に関するスクリーニングによって得られたものである。
【0133】
いくつかの実施形態において、本発明のシステムおよび方法は、in vitroおよび細胞内での3’結合形成および5’結合形成の選択性、効率および/または忠実性を向上させる1つ以上の付加を鋳型末端に対して行うものであり、該1つ以上の付加は、以下に限定されないが、標的部位またはその近傍の配列にマッチするrRNAからなる5’隣接配列および3’隣接配列の付加を含み、当該付加は、以下に限定されないが、4~29個のヌクレオチドの配列の付加を含み、当該付加は、他の長さのrRNAの付加を除外するものではなく、機能的な4~20個のヌクレオチド配列がより長い配列内に存在していてもよい。
【0134】
いくつかの実施形態において、本発明のシステムおよび方法は、細胞への生物学的送達性、細胞内での安定性、または細胞における部位特異的導入遺伝子の挿入効率を向上させる1つ以上の付加を鋳型末端に対して行うものであり、該1つ以上の付加は、以下に限定されないが、3’隣接ポリアデノシンモチーフおよび/もしくは5’隣接自己切断リボザイムモチーフ、または導入された鋳型RNAを分解から保護する他の構造の付加を含む。
【0135】
いくつかの実施形態において、本発明のシステムおよび方法は、送達性、安定性、標的指向性、相互作用からの隔離、または他の細胞プロセスへの影響、例えば、翻訳、DNA修復、クロマチン修飾、チェックポイント活性化などへの影響を改善する1つ以上の改変を鋳型に対して行うものである。
【0136】
いくつかの実施形態において、本発明のシステムおよび方法は、1つ以上の導入遺伝子を用いるものであり、該1つ以上の導入遺伝子は、ヒト細胞の28S rDNAに挿入されて機能的に発現され、該ヒトrDNAは、導入遺伝子タンパク質の発現カセットの挿入を成功させるためのセーフハーバー部位である。
【0137】
いくつかの実施形態において、本発明のシステムおよび方法は、1つ以上の外来の導入遺伝子を用いるものであり、該1つ以上の外来の導入遺伝子は、例えば、ヒトの疾患における機能喪失の回復または有益な機能の付与を目的として前記RNA鋳型に導入されている。
【0138】
配列表
タンパク質がアミノ酸配列として本明細書に記載されている場合、当該タンパク質をコードするDNA/RNA配列(合成DNAを含む)は容易に推測できる。タグやその他の修飾がタンパク質配列に含まれている場合、このタンパク質は内在性タンパク質ではなく、改変タンパク質である。RNA「モジュール」配列が、鋳型の構成要素がすべて揃ってない状態でそれぞれ個別に記載されている場合、これらを合わせた全長鋳型は、本明細書に開示されている構成要素の組み合わせから容易に推測できる。いくつかの実施形態において、5’rRNAと3’rRNAの長さおよび位置、ならびに3’rRNAの3’伸長部は、本文中に記載のものであってもよい。慣例により、RNA配列と表示または表記された配列では、Tの記載はすべてUであると理解してもよい。いくつかの実施形態において、代表的なペイロードは、例えば、puroR(ピューロマイシン耐性遺伝子)である。ペイロードとして使用したpuroRの構成は、RNAP Iターミネーター、RNAP IIプロモーター、5’UTR、ORF、3’mRNA切断シグナルおよびポリアデニル化シグナルを含む。記載されている配列は、ペイロード全体の配列である。
【0139】
VI. 実施形態の列挙
RNA鋳型およびこれと協働する逆転写酵素を用いて、真核生物ゲノムに部位特異的に導入遺伝子を付加することを含む、導入遺伝子を導入する方法。
【0140】
実施形態2
前記方法が、改変R2レトロエレメントタンパク質を用いるものであり、該改変R2レトロエレメントタンパク質を介するTPRTにより、直接導入されたRNA鋳型を用いて、ヒト細胞のrDNAへの導入遺伝子の挿入が行われる、実施形態1に記載の方法。
【0141】
実施形態3
前記方法が、R2レトロエレメントタンパク質、非LTR型RTタンパク質のR2/R8/R9ドメイン構造、天然タンパク質もしくは天然タンパク質複合体を除外するものではなく;
前記方法が、TPRTによる導入遺伝子の挿入の標的として他種のゲノム、もしくはゲノム以外の標的を除外するものではなく;
前記方法が、鋳型への外来性の付加/改変、例えば、別の核酸、核酸様物質、化学合成成分、天然もしくは合成のペプチドもしくは脂質、スキャフォールド結合および放出能力などを除外するものではなく;かつ/または
細胞へのRNAの「送達」もしくは導入が、(本明細書に記載のすべての実施例で採用されている)脂質を用いたトランスフェクションもしくはエレクトロポレーションなどの標準的な方法に限定されるものではない、
実施形態1に記載の方法。
【0142】
実施形態4
前記導入遺伝子が、治療上有効な遺伝子である、実施形態1に記載の方法。
【0143】
実施形態5
前記方法が、TPRTを可能にするRTとしての活性および/または鎖へのニックを導入するエンドヌクレアーゼとしての活性を有する非LTR型レトロエレメントタンパク質を用いるものであり、該非LTR型レトロエレメントタンパク質が、RTプライマー伸長アッセイおよび/またはin vitro TPRTアッセイで活性を示すものであり、部位特異的であってもよい、実施形態1に記載の方法。
【0144】
実施形態6
前記方法が、RTを介するTPRT用に1つ以上の3’側鋳型モジュールを用いるものであり、該1つ以上の3’側鋳型モジュールが、協働するRTと同種の3’側鋳型モジュールであるか、同種の天然型を改変したものであるか、系統学的調査および関連レトロエレメントの再構成と改変もしくは再構成のみにより得られたものであるか、またはin vitroおよび細胞内での3’結合形成および5’結合形成の選択性、効率および/もしくは忠実性に関するスクリーニングによって得られたものである、実施形態1に記載の方法。
【0145】
実施形態7
前記方法が、RTを介するTPRT用に1つ以上の5’側鋳型モジュールを用いるものであり、該1つ以上の5’側鋳型モジュールが、協働するRTと同種の5’側鋳型モジュールであるか、同種の天然型を改変したものであるか、系統学的調査および関連レトロエレメントの再構成と改変もしくは再構成のみにより得られたものであるか、異種レトロエレメントの5’領域を改変したものであるか、天然もしくは設計されたHDV RZ折り畳み構造を改変したものであるか、またはin vitroおよび細胞内での3’結合形成および5’結合形成の選択性、効率および忠実性に関するスクリーニングによって得られたものである、実施形態1に記載の方法。
【0146】
実施形態8
前記方法が、in vitroおよび細胞内での3’結合形成および5’結合形成の選択性、効率および/または忠実性を向上させる1つ以上の付加を鋳型末端に対して行うものであり、該1つ以上の付加が、以下に限定されないが、標的部位またはその近傍の配列にマッチするrRNAからなる5’隣接配列および3’隣接配列の付加を含み、当該付加が、以下に限定されないが、4~29個のヌクレオチドの配列の付加を含み、当該付加が、他の長さのrRNAの付加を除外するものではなく、機能的な4~20個のヌクレオチド配列がより長い配列内に存在していてもよい、実施形態1に記載の方法。
【0147】
実施形態9
前記方法が、細胞への生物学的送達性、細胞内での安定性、または細胞における部位特異的導入遺伝子の挿入効率を向上させる1つ以上の付加を鋳型末端に対して行うものであり、該1つ以上の付加が、以下に限定されないが、3’隣接ポリアデノシンモチーフおよび/もしくは5’隣接自己切断リボザイムモチーフ、または導入された鋳型RNAを分解から保護する他の構造の付加を含む、実施形態1に記載の方法。
【0148】
実施形態10
前記方法が、送達性、安定性、標的指向性、相互作用からの隔離、または他の細胞プロセスへの影響、例えば、翻訳、DNA修復、クロマチン修飾、チェックポイント活性化などへの影響を改善する1つ以上の改変を鋳型に対して行うものである、実施形態1に記載の方法。
【0149】
実施形態11
前記方法が、1つ以上の導入遺伝子を用いるものであり、該1つ以上の導入遺伝子が、ヒト細胞の28S rDNAに挿入されて機能的に発現される、実施形態1に記載の方法。
【0150】
実施形態12
ヒトrDNAが、導入遺伝子タンパク質の発現カセットの挿入を成功させるためのセーフハーバー部位である、実施形態1に記載の方法。
【0151】
実施形態13
前記方法が、1つ以上の外来の導入遺伝子を用いるものであり、該1つ以上の外来の導入遺伝子が、例えば、ヒトの疾患における機能喪失の回復または有益な機能の付与を目的として前記RNA鋳型に導入されている、実施形態1に記載の方法。
【0152】
実施形態14
標的細胞内の標的部位に、生物学的活性を有するDNAエレメントが(RNA中間体を経て)挿入されるように作動するエレメント挿入システム(EIS)であって、
標的細胞内で活性型nrRTを生成するnrRTモジュール、および
TPRTにより、前記標的細胞内の標的部位で、生物学的活性を有するDNAエレメントの少なくとも一本の鎖がnrRTの作用で合成されるように、鋳型として機能する挿入鋳型モジュール
を含む、EIS。
【0153】
実施形態15
前記nrRTモジュールの例として、以下に限定されないが、
任意の適切な送達システムにより前記標的細胞に送達可能な、活性型nrRTまたは適切な不活性型プロタンパク質nrRT;
細胞内プロセシングを受けて翻訳されるか、細胞内プロセシングを受けずに翻訳される、mRNA、改変mRNAまたはその他の核酸であって、nrRT、nrRTプロタンパク質、または前記標的細胞内で活性型nrRTを誘導することができるその他のものをコードし、かつ、任意の適切な送達システムにより前記標的細胞に送達可能なもの;および
前記標的細胞において活性型nrRTが合成されるようなmRNAが転写されるDNAコンストラクトまたはその他の核酸であって、任意の適切な送達システムにより前記標的細胞に送達可能なもの
が挙げられる、実施形態14に記載のEIS。
【0154】
実施形態16
前記挿入鋳型モジュールが、任意の適切な送達システムにより前記標的細胞に送達可能な、RNA、改変RNAまたはその他の核酸を含み、これらの核酸が、nrRTによるcDNA合成の鋳型として使用されることで、TPRTにより、前記標的細胞内の標的部位で、生物学的活性を有するDNAエレメントの少なくとも一本の鎖が合成される、実施形態14に記載のEIS。
【0155】
実施形態17
前記挿入鋳型モジュールが、複数のセグメントを含んでいてもよく、該複数のセグメントが、nrRTによるTPRTにおける前記挿入鋳型モジュールの効率的かつ選択的な使用を促進するように構成されたセグメントであり、例えば、
特定のnrRTにより優先的に使用される該3’側セグメント;
特定のnrRTにより優先的に使用される該5’側セグメント;および
nrRTによるTPRTに適合するように選択され、生物学的活性を有するDNAエレメントのcDNA合成の鋳型として使用可能なペイロードセグメント
である、実施形態14に記載のEIS。
【0156】
実施形態18
前記生物学的活性を有するDNAエレメントの一部のDNAセグメントが、前記標的細胞の標的部位に挿入されることにより、該細胞または該細胞を含む生物体の生物学的特性に所望の改変をもたらすように構成されている、実施形態14に記載のEIS。
【0157】
実施形態19
前記生物学的活性を有するDNAの例として、
ヒトの体内の細胞もしくは細胞群に対する治療的変化;
農業に使用される動植物の特徴に対する望ましい変化;または
外来生物もしくは病原媒介生物の防除など、生態学的変化をもたらす野生動植物に対する望ましい変化
が挙げられる、実施形態14に記載のEIS。
【0158】
実施形態20
前記生物学的活性を有するDNAエレメントが、所望により、
挿入部位の外側のプロモーターによる該エレメントの転写を停止させる1つ以上の配列セグメント;
転写を開始する1つ以上のプロモーターセグメント;
生物学的機能を有する1つ以上のタンパク質または核酸をコードする1つ以上のエフェクターセグメント;および
その他の配列セグメント
を含んでいてもよい、実施形態14に記載のEIS。
【0159】
実施形態21
効率的かつ選択的に協働するように改変、設計または特別な調整が行われたnrRTモジュールおよび挿入鋳型モジュールを含む、実施形態14に記載のEIS。
【0160】
実施形態22
改変R2レトロエレメントタンパク質を用い、該改変R2レトロエレメントタンパク質を介する標的プライム逆転写(TPRT)により、直接導入されたRNA鋳型を用いて、ヒト細胞のrDNAへの導入遺伝子の挿入が行われること;
R2レトロエレメントタンパク質、非LTR型RTタンパク質のR2/R8/R9ドメイン構造、天然タンパク質もしくは天然タンパク質複合体を除外するものではないこと;
TPRTによる導入遺伝子の挿入の標的として他種のゲノム、もしくはゲノム以外の標的を除外するものではないこと;
鋳型への外来性の付加/改変、例えば、別の核酸、核酸様物質、化学合成成分、天然もしくは合成のペプチドもしくは脂質、スキャフォールド結合および放出能力などを除外するものではないこと;ならびに/または
細胞へのRNAの「送達」もしくは導入が、(本明細書に記載のすべての実施例で採用されている)脂質を用いたトランスフェクションもしくはエレクトロポレーションなどの標準的な方法に限定されるものではないこと;
前記導入遺伝子が、治療上有効な遺伝子であること;
TPRTを可能にするRTとしての活性および/または鎖へのニックを導入するエンドヌクレアーゼとしての活性を有する非LTR型レトロエレメントタンパク質を用い、該非LTR型レトロエレメントタンパク質が、RTプライマー伸長アッセイおよび/またはin vitro TPRTアッセイで活性を示すものであり、部位特異的であってもよいこと;
RTを介するTPRT用に1つ以上の3’側鋳型モジュールを用い、該1つ以上の3’側鋳型モジュールが、協働するRTと同種の3’側鋳型モジュールであるか、同種の天然型を改変したものであるか、系統学的調査および関連レトロエレメントの再構成と改変もしくは再構成のみにより得られたものであるか、またはin vitroおよび細胞内での3’結合形成および5’結合形成の選択性、効率および/もしくは忠実性に関するスクリーニングによって得られたものであること;
RTを介するTPRT用に1つ以上の5’側鋳型モジュールを用い、該1つ以上の5’側鋳型モジュールが、協働するRTと同種の5’側鋳型モジュールであるか、同種の天然型を改変したものであるか、系統学的調査および関連レトロエレメントの再構成と改変もしくは再構成のみにより得られたものであるか、異種レトロエレメントの5’領域を改変したものであるか、天然もしくは設計されたデルタ肝炎ウイルス(HDV)リボザイム(RZ)折り畳み構造を改変したものであるか、またはin vitroおよび細胞内での3’結合形成および5’結合形成の選択性、効率および忠実性に関するスクリーニングによって得られたものであること;
in vitroおよび細胞内での3’結合形成および5’結合形成の選択性、効率および/または忠実性を向上させる1つ以上の付加を鋳型末端に対して行い、該1つ以上の付加が、以下に限定されないが、標的部位またはその近傍の配列にマッチするrRNAからなる5’隣接配列および3’隣接配列の付加を含み、当該付加が、以下に限定されないが、4~29個のヌクレオチドの配列の付加を含み、当該付加が、他の長さのrRNAの付加を除外するものではなく、機能的な4~20個のヌクレオチド配列がより長い配列内に存在していてもよいこと;
細胞への生物学的送達性、細胞内での安定性、または細胞における部位特異的導入遺伝子の挿入効率を向上させる1つ以上の付加を鋳型末端に対して行い、該1つ以上の付加が、以下に限定されないが、3’隣接ポリアデノシンモチーフおよび/もしくは5’隣接自己切断リボザイムモチーフ、または導入された鋳型RNAを分解から保護する他の構造の付加を含むこと;
送達性、安定性、標的指向性、相互作用からの隔離、または他の細胞プロセスへの影響、例えば、翻訳、DNA修復、クロマチン修飾、チェックポイント活性化などへの影響を改善する1つ以上の改変を鋳型に対して行うこと;
1つ以上の導入遺伝子を用い、該1つ以上の導入遺伝子が、ヒト細胞の28S rDNAに挿入されて機能的に発現されること;
該ヒトrDNAが、導入遺伝子タンパク質の発現カセットの挿入を成功させるためのセーフハーバー部位であること;ならびに/または
1つ以上の外来の導入遺伝子を用い、該1つ以上の外来の導入遺伝子が、例えば、ヒトの疾患における機能喪失の回復または有益な機能の付与を目的として前記RNA鋳型に導入されていること。
【0161】
実施形態23
一態様において、本開示は、エレメント挿入システム(EIS)を含む。前記EISは、標的細胞内の標的部位に、生物学的活性を有するDNAエレメントが挿入されるように機能する。前記EISは、nrRTモジュールと挿入鋳型モジュールという2つのモジュールを含む。
【0162】
実施形態24
前記nrRTモジュールは、標的細胞内で活性型nrRTを生成する。前記nrRTモジュールの例として、以下に限定されないが、
任意の適切な送達システムにより前記標的細胞に送達可能な、活性型nrRTまたは適切な不活性型プロタンパク質nrRT;
細胞内プロセシングを受けて翻訳されるか、細胞内プロセシングを受けずに翻訳される、mRNA、改変mRNAまたはその他の核酸であって、nrRT、nrRTプロタンパク質、または前記標的細胞内で活性型nrRTを誘導することができるその他のものをコードし、かつ、任意の適切な送達システムにより前記標的細胞に送達可能なもの;および
前記標的細胞において活性型nrRTが合成されるようなmRNAが転写されるDNAコンストラクトまたはその他の核酸であって、任意の適切な送達システムにより前記標的細胞に送達可能なもの
が挙げられる。
【0163】
実施形態25
前記挿入鋳型モジュールは、任意の適切な送達システムにより前記標的細胞に送達可能な、RNA、改変RNAまたはその他の核酸を含み、これらの核酸は、nrRTによるcDNA合成の鋳型として使用されることで、TPRTにより、前記標的細胞内の標的部位で、生物学的活性を有するDNAエレメントの少なくとも一本の鎖が合成される。前記挿入鋳型モジュールは、複数のセグメントを含んでいてもよく、該複数のセグメントは、nrRTによるTPRTにおける前記挿入鋳型モジュールの効率的かつ選択的な使用を促進するように構成されたセグメントであり、例えば、
特定のnrRTにより優先的に使用される該3’側セグメント;
特定のnrRTにより優先的に使用される該5’側セグメント;および
nrRTによるTPRTに適合するように選択され、生物学的活性を有するDNAエレメントのcDNA合成の鋳型として使用可能なペイロードセグメント
である。
【0164】
実施形態26
前記生物学的活性を有するDNAエレメントの一部のDNAセグメントは、前記標的細胞の標的部位に挿入されることにより、該細胞または該細胞を含む生物体の生物学的特性に所望の改変をもたらすように構成されている。前記生物学的活性を有するDNAの例として、
ヒトの体内の細胞もしくは細胞群に対する治療的変化;
農業に使用される動植物の特徴に対する望ましい変化;または
外来生物もしくは病原媒介生物の防除など、生態学的変化をもたらす野生動植物に対する望ましい変化
が挙げられる。
前記生物学的活性を有するDNAエレメントは、所望により、
挿入部位の外側のプロモーターによる該エレメントの転写を停止させる1つ以上の配列セグメント;
転写を開始する1つ以上のプロモーターセグメント;
生物学的機能を有する1つ以上のタンパク質または核酸をコードする1つ以上のエフェクターセグメント;および
その他の配列セグメント
を含んでいてもよい。
【0165】
実施形態27
前記EISは、効率的かつ選択的に協働するように改変、設計または特別な調整が行われたnrRTモジュールおよび挿入鋳型モジュールを含んでいてもよい。
【0166】
実施形態28
本開示は、本明細書に記載された個々の実施形態のあらゆる組み合わせを包含するものであり、それらはすべて本明細書に記載されているものとする。
【0167】
VII. 定義
28S rDNA:本明細書において、「28S rDNA」という用語は、真核生物の細胞質リボソームの大サブユニット(LSU)を構成するリボソームRNA(rRNA)をコードする対象のゲノムの一部を意味する。
【0168】
3’結合部:本明細書において、「3’結合部」という用語は、挿入される配列の3’末端が、対象のゲノムの5’末端と連結する位置を意味する。
【0169】
3’領域:本明細書において、「3’領域」という用語は、レトロエレメント遺伝子において、オープンリーディングフレームの3’側に位置する部分を意味する。
【0170】
3’側鋳型モジュール:本明細書において、「3’側鋳型モジュール」という用語は、レトロエレメント遺伝子の3’領域に由来する少なくとも1つのエレメントを含む、挿入鋳型モジュールの一部を意味する。
【0171】
5’結合部:本明細書において、「5’結合部」という用語は、対象のゲノムの3’末端が、挿入される配列の3’末端と連結する位置を意味する。
【0172】
5’領域:本明細書において、「5’領域」という用語は、レトロエレメント遺伝子において、オープンリーディングフレームの5’側に位置する部分を意味する。
【0173】
5’側鋳型モジュール:本明細書において、「5’側鋳型モジュール」という用語は、レトロエレメント遺伝子の5’領域に由来する少なくとも1つのエレメントを含む、挿入鋳型モジュールの一部を意味する。
【0174】
活性:本明細書において、「活性」という用語は、何らかの事象が起こっている状態または何らかの事象が行われている状態を意味する。本開示のタンパク質および核酸は活性を有していてもよく、この活性は1つ以上の生物学的事象に関与していてもよい。
【0175】
調整が行われた:本明細書において、「調整が行われた」という用語は、その特性および/または活性を変化させたり、付加したり、除去するための、タンパク質配列またはアミノ酸配列の変化を意味する。
【0176】
付加:本明細書において、「付加」という用語は、本開示の組成物または方法を構成する要素の数を増加させることを意味する。
【0177】
アッセイ:本明細書において、「アッセイ」という用語を動詞として使用する場合、この用語は最も広い意味で使用され、当技術分野で公知の適切な方法を用いて試験を行う行為を意味する。本明細書において、「アッセイ」という用語を名詞として使用する場合、この用語は、アッセイの対象の特性、状態および/または活性を測定するために使用される試験を意味する。
【0178】
結合された:本明細書において、「結合された(associated with)」、「結合された(conjugated)」、「連結された(linked)」、「結合された(attached)」および「繋留された(tethered)」という用語は、この用語が2つ以上の部分に関して使用される場合、この2つ以上の部分が、直接または連結剤として機能する1つ以上の別の部分を介して物理的に結合または連結されて、十分に安定な構造を形成し、この構造が使用される条件、例えば、生理学的条件において、前記2つ以上の部分が、物理的な結合を維持することができることを意味する。「結合」は、必ずしも、直接的な共有結合を介した化学結合である必要はない。また、「結合」は、「結合された」部分が物理的な結合を維持することができる十分に安定な、イオン結合もしくは水素結合、またはハイブリダイゼーションに基づく連結性を示す場合もある。
【0179】
生物学的送達:本明細書において、「生物学的送達」という用語は、生きた細胞または生きた生物体に、化合物、物質、物体、部分、カーゴまたはペイロードを送達する行為または方法を意味する。別段の指示がない限り、「送達」という用語および「生物学的送達」という用語は、同じ意味で使用される場合がある。
【0180】
生物学的特性:本明細書において、「生物学的特性」および「特性」という用語は、測定可能または観察可能な、生物体、生理システム、器官、組織、細胞または分子の特徴または活性を意味する。
【0181】
カーゴ:送達媒体に関連する文脈で使用される場合以外では、「カーゴ」または「ペイロード」という用語は、対象のゲノムに挿入することを意図したエレメント挿入システム(EIS)に含まれる核酸配列(例えば、目的の遺伝子)を意味する場合がある。送達媒体に関連する文脈では、「カーゴ」および「ペイロード」という用語は、通常、対象の細胞、組織、器官または生理システムへの送達、これらに対する送達、これらの近傍への送達を意図した化合物または構造(例えば、本開示のエレメント挿入システム)を意味する。
【0182】
細胞:本明細書において、「細胞」という用語は、可能な限り広い意味を有し、生きた膜結合構造を意味する。
【0183】
細胞プロセス:本明細書において、「細胞プロセス」という用語およびこれと文法的に同等な用語は、細胞レベルで行われるプロセスを意味し、ここで細胞レベルとは、1個の細胞に限定されていてもよく、1個の細胞に限定されていなくてもよい。
【0184】
特徴:本明細書において、「特徴」および「特性」という用語は、同じ意味で使用される場合がある。
【0185】
チェックポイント活性化:本明細書において、「チェックポイント活性化」という用語は、少なくとも1つの細胞周期調節機構の活性化を意味する。
【0186】
クロマチン修飾:本明細書において、「クロマチン修飾」という用語は、ゲノムの凝縮状態を変化させることによって、ゲノムDNAへのアクセスを変化させるクロマチン構造の修飾を意味する。
【0187】
同種:本明細書において、「同種」という用語は、同じレトロエレメント遺伝子に由来するEISのエレメントを意味する。
【0188】
適合する:本明細書において、「適合する」という用語は、標的プライム逆転写に負の影響を与えることなく、EISを構成するエレメントとして使用できることを意味する。
【0189】
付与する:本明細書において、「付与する」という用語およびこれと文法的に同等な用語は、対象に追加の機能を付加することを意味する。
【0190】
コンストラクト:本明細書において、「コンストラクト」という名詞は、人工的に設計されたバイオポリマーを意味する。バイオポリマーの例として、DNA、RNAおよびポリペプチドが挙げられる。通常、本明細書に記載のコンストラクトは、EISでの使用を目的として設計されている。
【0191】
分解:本明細書において、「分解」は、時間の経過に伴う組成物の機能喪失を意味する。
【0192】
送達:本明細書において、「送達」は、化合物、物質、物体、部分、カーゴまたはペイロードを送達する行為または方法を意味する。
【0193】
送達システム:本明細書において、「送達システム」という用語は、本発明のEISと組み合わせて製剤として調製した場合に、標的細胞の細胞質内にEISの構成要素を送達することができる組成物、方法またはこれらの組み合わせを意味する。送達システムの例として、送達媒体で構成されるシステムおよび直接トランスフェクション用システムが挙げられるが、これらに限定されない。
【0194】
設計された:本明細書において、「設計された」という用語は、新規かつ所望の特性および/または活性を有するように、天然の状態または現行の状態に変化を加えた組成物を意味する。
【0195】
病原媒介生物:本明細書において、「病原媒介生物」という用語は、感染性病原体を保有し、この感染性病原体を別の生きた生物体に伝播する生物因子を意味する。
【0196】
DNAおよびRNA:本明細書において、「RNA」、「RNA分子」または「リボ核酸分子」という用語は、リボヌクレオチドのポリマーを意味する。本明細書において、「DNA」、「DNA分子」または「デオキシリボ核酸分子」という用語は、デオキシリボヌクレオチドのポリマーを意味する。DNAおよびRNAは、天然に合成することができる。例えば、DNAは、DNAの複写により天然に合成することができ、RNAは、DNAの転写により天然に合成することができる。また、DNAおよびRNAは、化学的に合成することもできる。DNAおよびRNAは、一本鎖であってもよく(すなわち、ssRNAまたはssDNAであってもよく)、複数鎖であってもよい(例えば、二本鎖、すなわち、dsRNAまたはdsDNAであってもよい)。本明細書において、「mRNA」または「メッセンジャーRNA」という用語は、1本以上のポリペプチド鎖のアミノ酸配列をコードする一本鎖RNAを意味する。
【0197】
DNA修復:本明細書において、「DNA修復」という用語は、細胞内のゲノムに発生した損傷を修正するために、細胞内で実行される内在性プロセスを意味する。
【0198】
生態学的:本明細書において、「生態学的」という用語は、生きた生物体同士の関係性、および生きた生物体とそれを取り巻く物理的環境との関係性を意味する。
【0199】
エフェクターセグメント:本明細書において、「エフェクターセグメント」という用語は、機能性産物をコードするDNA配列またはRNA配列を意味する。
【0200】
効率的:本明細書において、標的プライム逆転写に関連する「効率的」という用語およびこれと文法的に同等な用語は、所望の標的部位にペイロードモジュールの全長を挿入する際の、nrRTタンパク質と5’側モジュールと3’側モジュールの任意の組み合わせの有効性を意味する。
【0201】
エレメント:本明細書において、「エレメント」という用語は、分子、システムまたは方法の一工程の個々の構成要素を意味する。
【0202】
エレメント挿入システム:本明細書において、「エレメント挿入システム(EIS)」という用語は、TPRTにより、対象のゲノムの特定の位置に遺伝子配列(導入遺伝子)を挿入するために使用される構成要素(モジュール)からなるシステムを意味する。
【0203】
封入する:本明細書において、「封入する」という用語は、内包させること、包囲すること、または格納することを意味する。
【0204】
コードする:本明細書において、「コードする」という用語は、ポリマー高分子(第1の分子)に書き込まれた情報を用いて、自身とは異なる第2の分子の産生を誘導するプロセスを広く意味する。第2の分子は、第1の分子とは異なる化学的性質を有する化学構造を有していてもよい。
【0205】
エンドヌクレアーゼ:本明細書において、「エンドヌクレアーゼ」という用語は、両末端以外のヌクレオチドを分解することによりポリヌクレオチド鎖を切断するタンパク質またはその一部を意味する。
【0206】
エクソソーム:本明細書において、「エクソソーム」は、哺乳動物細胞により分泌される小胞またはRNAの分解に関与する複合体である。
【0207】
促進する:本明細書において、「促進する」という用語は、最も広い意味で使用され、特定のエレメントを付加することによって、何らかの作用またはプロセスを起こりやすくすることを意味する。
【0208】
忠実性:本明細書において、「忠実性」という用語は、目的の遺伝子が対象のゲノムに挿入される際の精度を意味する。高い忠実性は、ヌクレオチド同一性、配列長および標的部位の位置に関して比較的少ないエラーで目的の遺伝子が挿入されることに相当する。例えば、約5,000個のヌクレオチドを含む鋳型RNAがnrRTタンパク質によりコピーされて、ミスマッチ塩基対を生じることなくcDNAを産生することができる場合、この遺伝子挿入は高い忠実性を有する。導入遺伝子の挿入の目的によって異なるが、わずかな数のミスマッチが起こることはあっても、十分に高い忠実性により、機能的な導入遺伝子を産生することができる。
【0209】
隣接:本明細書において、「隣接」という用語は、1つのエレメントが、別のエレメントの5’側(5’隣接)または3’側(3’隣接)に位置することを意味する。隣接するエレメント同士は、互いに直接連結されていてもよく、隣接するエレメント同士の間に別のエレメントが存在していてもよい。
【0210】
製剤:本明細書において、「製剤」は、本明細書に記載のEISの少なくとも1つの構成要素と、少なくとも1つの送達剤、薬学的に許容される賦形剤またはその両方とを含む。
【0211】
機能的/活性型:本明細書において、生体分子に関連して使用される「機能的」という用語は、それを特徴付ける特性および/または活性を示す形態の生体分子を意味する。
【0212】
遺伝子:本明細書において、「遺伝子」という用語は、最も広い意味で使用され、染色体の一部を形成する区別可能なヌクレオチド配列、または染色体の一部を形成してもよい区別可能なヌクレオチド配列を意味し、その順序によって、ポリペプチド内または核酸分子内におけるモノマーの順序が決まる。
【0213】
生成する:本明細書において、「生成する」という動詞およびその活用形は、最も広い意味で使用され、特定の産物を得るためのプロセスを意味する。
【0214】
ゲノム:本明細書において、「ゲノム」という用語は、最も広い意味で使用され、細胞内に存在するあらゆる遺伝物質を意味する。
【0215】
デルタ肝炎ウイルス(HDV)リボザイム(RZ)折り畳み構造:本明細書において、「HDV RZ折り畳み構造」という用語は、リボザイムの機能を保持する、デルタ肝炎ウイルス(HDV)のリボザイムに由来するRNA配列を意味する。
【0216】
異種:本明細書において、「異種」という用語は、ある細胞で通常作られない遺伝子またはタンパク質の配列または構造をその細胞に導入する場合に、この導入される遺伝子またはタンパク質の配列または構造を意味する用語である。
【0217】
相同組換え:本明細書において、「相同組換え」という用語は、導入遺伝子と対象のゲノムの間の相同性に依存した導入遺伝子挿入プロセスを意味する。
【0218】
in vitro:本明細書において、「in vitro」という用語は、生きた細胞または生きた生物体の外部で行われる反応またはプロセスを意味する。
【0219】
in vivo:本明細書において、「in vivo」という用語は、生きた細胞または生きた生物体の内部またはその表面で行われる反応またはプロセスを意味する。
【0220】
不活性型:本明細書において、生体分子に関連して使用される「不活性型」という用語は、それを特徴付ける特性および/または活性を示さない形態の生体分子を意味する。
【0221】
不活性成分:本明細書において、「不活性成分」という用語は、製剤に含まれる医薬組成物の有効成分の活性に寄与しない1つ以上の薬剤を意味する。いくつかの実施形態において、本開示の製剤に使用してもよい不活性成分のすべてが、米国食品医薬品局(FDA)による承認を受けたものであってもよく、そのうちのいくつかが、FDAによる承認を受けたものであってもよく、本開示の製剤に使用してもよい不活性成分のすべてが、FDAによる承認を受けていないものであってもよい。
【0222】
誘導する:本明細書において、「誘導する」という用語およびこれと文法的に同等な用語は、工程に対して特定の制限を加えることなく、特定の結果がもたらされるプロセスを意味する。
【0223】
挿入鋳型モジュール:本明細書において、「挿入鋳型モジュール」という用語は、nrRTタンパク質のRNA鋳型として機能するRNAコンストラクトを意味する。
【0224】
導入する:本明細書において、「導入する」という用語は、遺伝物質(DNAであることが多い)を細胞に付加することを意味する。
【0225】
挿入する:本明細書において、「挿入する」という用語は、DNA配列にヌクレオチドを付加することを意味する。
【0226】
外来生物:本明細書において、「外来生物」という用語は、本来の生息地の外で繁殖している生物体を意味する。
【0227】
結合部:本明細書において、「結合部」という用語は、対象のゲノム内に挿入された導入遺伝子のcDNAと、挿入部位の対象のゲノムのDNAが連結されている位置を意味する。
【0228】
脂質ナノ粒子:本明細書において、「脂質ナノ粒子」または「LNP」は、1種以上の脂質(例えば、カチオン性脂質、非カチオン性脂質、PEG修飾脂質)を含む送達媒体を意味する。
【0229】
リポソーム:本明細書において、「リポソーム」は、通常、脂質(例えば両親媒性脂質)からなる1層以上の二重層または球状二重層で構成される小胞を意味する。
【0230】
機能喪失:本明細書において、「機能喪失」という用語は、野生型遺伝子の機能が喪失した遺伝子産物をもたらす対象の遺伝子の変化を意味する。
【0231】
介する:本明細書において、結果(例えば生理的効果)をもたらすことを意味する。
【0232】
改変:本明細書において、「改変」は、分子の状態または構造に変化が加えられていることを意味する。分子は、様々な方法で化学的、構造的または機能的に改変されていてもよい。
【0233】
モチーフ:本明細書において、「モチーフ」という用語は、認識可能な構造を有するバイオポリマーの領域を意味し、この認識可能な構造は、特有の化学機能または生体機能によって定義されていてもよく、特有の化学機能または生体機能によって定義されていなくてもよい。
【0234】
天然:本明細書において、「天然」という用語は、野生型または天然型の化合物、生体分子(例えば、タンパク質もしくは核酸)または組成物を意味する。
【0235】
非長鎖末端反復型レトロエレメント逆転写酵素:本明細書において、「非長鎖末端反復(非LTR)型レトロエレメント逆転写酵素(nrRT)」という用語は、非LTR型レトロエレメント遺伝子に由来する逆転写活性を有するタンパク質を意味する。
【0236】
非LTR型レトロエレメント逆転写酵素:本明細書において、「非LTR型レトロエレメント逆転写酵素(nrRT)」という用語は、非LTR型レトロエレメントに由来する逆転写活性を有するタンパク質を意味する。
【0237】
非LTR型レトロエレメント:本明細書において、「非LTR型レトロエレメント」という用語は、長鎖末端反復を含んでいない一群のレトロエレメント遺伝子(別名:レトロトランスポゾン)を意味する。
【0238】
nrRTモジュール:本明細書において、「nrRTモジュール」という用語は、少なくとも1つのnrRTを含むか、少なくとも1つのnrRTをコードするバイオポリマーコンストラクトを意味する。
【0239】
外側:本明細書において、挿入部位に関連する「外側」という用語は、挿入部位の5’末端または3’末端から約60bpを超えて離れたゲノムの任意の部分を意味する。
【0240】
協働する逆転写酵素(RT):本明細書において、「協働するRT」は、挿入鋳型モジュールを含む少なくとも1つのモジュールと組み合わせて使用される逆転写酵素(RT)を意味する。モジュールは、協働するRTと同種であってもよく、これは、このモジュールに含まれるすべてのエレメントとRTが同じレトロエレメント遺伝子に由来することを意味する。モジュールは、協働するRTと同種でなくてもよく、これは、このモジュールに含まれる少なくとも1つのエレメントが、RTと同じレトロエレメント遺伝子に由来していないことを意味する。
【0241】
ペプチド:本明細書において、「ペプチド」は、50アミノ酸長以下であり、例えば、約5アミノ酸長、約10アミノ酸長、約15アミノ酸長、約20アミノ酸長、約25アミノ酸長、約30アミノ酸長、約35アミノ酸長、約40アミノ酸長、約45アミノ酸長または約50アミノ酸長である。
【0242】
医薬組成物:本明細書において、「医薬組成物」という用語は、少なくとも1つの有効成分を含み、さらに1つ以上の薬学的に許容される賦形剤を含んでいてもよい組成物を意味する。
【0243】
系統学的調査:本明細書において、「系統学的調査」という用語は、進化的関係を利用して、EISの構成要素として使用可能な候補配列を選択する方法を意味する。
【0244】
ポリアデノシン:本明細書において、「ポリアデノシン」という用語は、任意の長さのアデノシンヌクレオチド配列を意味する。
【0245】
ポリアデノシンテール:本明細書において、「ポリアデノシンテール」または「テール」という用語は、約50ヌクレオチド長以上のアデノシンヌクレオチド配列を意味する。
【0246】
ポリアデノシン鎖:本明細書において、「ポリアデノシン鎖」、「ポリA鎖」および「A鎖」という用語(いずれもPAと略される)は、同じものを示し、同じ意味で使用され、約1~50ヌクレオチド長のアデノシンヌクレオチド配列を意味する。
【0247】
プロモーター:本明細書において、「プロモーター」という用語は、タンパク質の結合を受けて転写を開始するDNA配列を意味する。
【0248】
プロタンパク質:本明細書において、「タンパク質前駆体」、「プロタンパク質」および「プロペプチド」という用語は、翻訳後修飾により活性な形態に変化することができる不活性タンパク質を意味する。
【0249】
保護する:本明細書において、「保護する」という用語およびこれと文法的に同等な用語は、バイオポリマーの全体またはその一部の分解を防ぐ組成物またはプロセスを意味する。
【0250】
タンパク質:本明細書において、「タンパク質」は、50アミノ酸長を超えるアミノ酸からなるバイオポリマーを意味する。本明細書において、タンパク質の例として、酵素、逆転写酵素およびエンドヌクレアーゼが挙げられるが、これらに限定されない。
【0251】
組換えRNA:本明細書において、「組換えRNA」は、非内在的に発現させて製造されたRNAを意味する。「合成RNA」は、自然界では見られないRNAを意味する。「ニック」は、二本鎖の一方の鎖のホスホジエステル骨格の破壊を意味する。「切断」は、二本鎖の両方の鎖のホスホジエステル骨格の破壊を意味する。
【0252】
再構成:本明細書において、「再構成」という用語は、二次材料からDNA試料を集めて機能性配列を構成するプロセスを意味する。
【0253】
領域:本明細書において、「領域」という用語は、ヌクレオチド配列の一部またはアミノ酸配列の一部を意味する。領域は、その長さが不明であっても定義されていなくてもよく、このような場合、その領域が示す機能により規定されるか、または配列内のその他のエレメントに対する相対的な位置により規定される。
【0254】
レトロエレメント/レトロトランスポゾン:本明細書において、「レトロエレメント」および「レトロトランスポゾン」という用語は、同じ意味で使用され、RNA中間体を介して、自身のゲノム内の新たな場所で複製することができる一群の真核細胞遺伝子を意味する。
【0255】
逆転写酵素:本明細書において、「逆転写酵素」という用語は、RNA鋳型配列からcDNAを合成することができるタンパク質を意味する。
【0256】
リボソームDNA:本明細書において、「リボソームDNA(rDNA)」という用語は、リボソームRNAをコードする対象のゲノムの一部を意味する。
【0257】
リボソームRNA:本明細書において、「リボソームRNA(rRNA)」という用語は、リボソームの主成分である非コードRNAを意味する。
【0258】
逆転写酵素によるプライマー伸長:本明細書において、「逆転写酵素(RT)によるプライマー伸長」は、逆転写酵素が、鋳型ポリヌクレオチドと塩基対を形成するプライマー(通常、DNAオリゴヌクレオチド)の3’末端を利用して鋳型に相補的なDNAを合成することによって、cDNAが合成されるプロセスを意味する。
【0259】
スクリーニング:本明細書において、「スクリーニング」という用語は、特定の遺伝子配列または特定のタンパク質配列の系統的探索を意味する。
【0260】
セグメント:本明細書において、「セグメント」という用語は、配列の一部を意味する。例えば、ヌクレオチド配列のセグメントは、遺伝子の全長よりも短い、遺伝子の任意の部分を含んでいてもよい。
【0261】
選択的:本明細書において、「選択的」および「選択性」という用語は、酵素、酵素タンパク質、遺伝子などの分子(ただしこれらに限定されない)が、非常に限られた種類、構造、タンパク質配列または遺伝子配列の別の分子に結合する傾向を意味する。
【0262】
自己切断リボザイム:本明細書において、「自己切断リボザイム」という用語は、配列特異的な分子内切断(または分子間切断)を触媒する一群のRNAを意味する。
【0263】
選択性:本明細書において、「選択性」は、nrRTが、同種でない5’側鋳型モジュールまたは3’側鋳型モジュールを利用する傾向の程度を意味する。
【0264】
配列:本明細書において、「配列」という用語は、バイオポリマーのN末端からC末端の方向に記載されたアミノ酸の順序、またはバイオポリマーの5’末端から3’末端の方向に記載されたヌクレオチドの順序を意味する。
【0265】
部位特異的:本明細書において、「部位特異的」という用語は、遺伝子座、例えば、約60bpの領域からなる遺伝子座を意味する。
【0266】
安定性:本明細書において、「安定性」という用語は、組成物がその特性を経時的に保持する能力を意味する。
【0267】
TPRTが行われた:本明細書において、「TPRTが行われた」という用語は、標的部位に導入遺伝子が挿入されたことを意味する。
【0268】
適切な:本明細書において、「適切な」という用語は、特定の目的または使用に対して効果があるか、有効であるか、または適合性があることを意味する。
【0269】
合成の:本明細書において、「合成の」という用語は、人工的に製造、調製および/または生産されたものを意味する。本開示のポリヌクレオチドもしくはポリペプチドまたはその他の分子の合成は、化学合成であってもよく、酵素合成であってもよい。
【0270】
合成:本明細書において、「合成」という用語は、天然の配列または野生型の配列の機能および構造を模倣した人工分子の配列を意味する。
【0271】
標的細胞:本明細書において、「標的細胞」という用語は、1個以上の目的の細胞を意味する。標的細胞は、in vitro、in vivoもしくはin situで、または生物体の組織もしくは器官に存在してもよい。生物体は動物であってもよく、哺乳動物であることが好ましく、ヒトであることがより好ましく、患者であることが最も好ましい。
【0272】
標的プライム逆転写(TPRT):本明細書において、「標的プライム逆転写(TPRT)」という用語は、逆転写酵素が標的部位の利用可能なDNAの3’末端をプライマーとして利用することでcDNAの合成を開始するプロセスを意味する。
【0273】
鋳型:本明細書において、「鋳型」および「RNA鋳型」という用語は、RTによってcDNAに転写されるRNA配列を意味する。
【0274】
鋳型末端:本明細書において、「鋳型末端」という用語は、RNA鋳型の5’末端または3’末端を意味する。
【0275】
治療上有効な:本明細書において、「治療上有効な」という用語は、対象における治療適応症を治療または緩和することができる遺伝子または遺伝子産物を意味する。
【0276】
転写:本明細書において、「転写」という用語は、DNA分子を鋳型として用いたRNAポリメラーゼによるRNA分子の形成または合成を意味する。
【0277】
トランスフェクション:本明細書において、「トランスフェクション」という用語は、細胞に外因性核酸を導入する方法を意味する。トランスフェクション方法として、化学的方法、物理的処理、およびカチオン性脂質またはカチオン性混合物が挙げられるが、これらに限定されない。
【0278】
導入遺伝子:本明細書において、「導入遺伝子」という用語は、対象のゲノムに挿入される遺伝子を意味する。
【0279】
導入遺伝子タンパク質の発現カセット:本明細書において、「導入遺伝子タンパク質の発現カセット」という用語は、対象のゲノム内に挿入することが意図された少なくとも1つの目的の遺伝子と、該目的の遺伝子の発現を制御してもよい別のエレメントを意味する。
【0280】
翻訳:本明細書において、「翻訳」という用語は、RNA鋳型に基づいてリボソームによりポリペプチド分子が形成されることを意味する。
【0281】
治療および予防:本明細書において、「治療する」または「予防する」という用語およびこれらから派生した用語は、必ずしも100%の治療もしくは予防または完全な治療もしくは予防を意味する必要はない。実際、当業者が有用性または治療効果が見込まれると認める治療または予防の程度はさまざまである。さらに、「予防」は、疾患、その症状または状態の発症を遅延させることを含んでいてもよい。
【0282】
非改変:本明細書において、「非改変」という用語は、何らかの方法で変化が加えられる前の物質、化合物または分子を意味する。「非改変」は、生体分子の野生型または天然型を意味する場合もあるが、必ずしもこれらに限定されるものではない。分子は、複数の改変を受ける場合があり、その過程では、改変分子が、次の改変で「非改変」出発分子として使用されることもある。
【0283】
ベクター:本明細書において、「ベクター」という用語は、異種分子を輸送するか、異種分子を形質導入するか、または異種分子の担体として作用する分子または部分を意味する。
【0284】
VIII. 同等物および範囲
当業者であれば、本明細書に記載された本開示の具体的な実施形態に対する等価物が多数存在することは理解できるであろう。また、そのことを通常の実験により確認することができるであろう。本開示の範囲は、明細書内の上記の説明に限定されることを意図するものではなく、添付の請求項に規定される通りである。
【0285】
特許請求の範囲において、「a」、「an」および「the」などの冠詞は、別段の指示がない限り、または文脈から明らかな場合を除いて、1つ以上を意味する場合がある。グループ内の1つ以上の構成要素の間に「または」が含まれる請求項または説明は、別段の指示がない限り、または文脈から明らかな場合を除いて、グループ内の1つの構成要素、複数の構成要素またはすべての構成要素が、所定の製品もしくはプロセスに存在するか、使用されるか、または関連するとみなされる。本開示は、グループ内の1つの構成要素が、所定の製品またはプロセスに存在するか、使用されるか、または関連する実施形態を含む。本開示は、グループ内の複数の構成要素またはすべての構成要素が、所定の製品またはプロセスに存在するか、使用されるか、または関連する実施形態を含む。
【0286】
また、「含む(comprising)」という用語は、非限定的であることが意図されており、追加の要素または工程が含まれることを容認するものであるが、追加の要素または工程が含まれることを要求するものではないことに留意されたい。本明細書において、「含む(comprising)」という用語が用いられる場合、「からなる(consisting of)」もまた包含され開示される。
【0287】
範囲が指定されている場合は、端点も含まれる。さらに、別段の指示がない限り、または文脈および当業者の理解に照らして明らかでない限り、範囲として表される値は、本開示の様々な実施形態で記載された範囲内の任意の特定の値または部分範囲が想定され、文脈上別段の明確な指示がない限り、範囲の下限値の10分の1の単位まで想定されることは理解されるであろう。
【0288】
また、従来技術に該当する本開示の特定の実施形態は、請求項のうちのいずれか1つ以上から明示的に除外される場合があることは理解されるであろう。このような実施形態は、当業者にとって公知であるとみなされるため、本明細書において明示的に除外を定めていない場合であっても、除外される場合がある。また、本開示の組成物の任意の特定の実施形態(例えば、任意の抗生物質、治療薬または活性成分;任意の製造方法;任意の使用方法;など)が、従来技術に存在するものとの関連の有無にかかわらず、任意の理由で、任意の1つ以上の請求項から除外される場合がある。
【0289】
使用されている文言は、限定するためのものではなく説明するためのものであり、広い意味での本開示の真の範囲および趣旨から逸脱しなければ、請求項の範囲内で変更が可能であることは理解されるであろう。
【0290】
本開示について、いくつかの記載された実施形態に関して、ある程度の長さで、ある程度の具体性をもって記載してきたが、本開示は、そのような具体的事項もしくは実施形態または任意の特定の実施形態に限定されることを意図するものではなく、添付の請求項を参照し、従来技術に鑑みて、請求項の可能な限り広範な解釈を提供するものとして、つまり、本開示の意図された範囲を効果的に包含するものとして解釈されるものである。
【0291】
本開示について以下の実施例によりさらに説明するが、本開示はこれらに限定されない。
【実施例
【0292】
実施例1 in vitro RNA転写(IVT)
in vitro RNA転写(IVT)用のDNA鋳型は、Q5 DNAポリメラーゼ(NEB)を用いたPCRにより作製し、カラム精製(Bio Basic)により精製した。IVT反応は、1μgのDNA鋳型を含む25μLの反応液中で行った。反応液には、40mM Tris pH7.9、2.5mMスペルミジン、26mM MgCl2、0.01% Triton X-100、約30mM DTT、8mM GTP、4mMその他のrNTP、0.5μLのRiboLock(Thermo Scientific)、0.5μLの無機ピロホスファターゼ(NEB)および0.5μLのT7ポリメラーゼ(細菌で過剰発現させた後に精製し、20mM KPO4 pH7.5、100mM NaCl、50%グリセロール、10mM DTT、0.1mM EDTAおよび0.2% NaN3を含む溶液中に50mg/mLで保存)が含まれる。反応液を37℃で3~4時間インキュベートした後、1μLのDNase RQ1(Promega)、1.5μLの20mM CaCl2および2μLのH2Oを加えた。次いで、脱塩(Rocheミニクイックスピンカラム)、有機溶媒による抽出および沈殿により鋳型を精製した。
【0293】
実施例2 nrRTタンパク質スクリーニング
組換えタンパク質の生成および精製
Bombyx mori由来改変nrRT(配列番号12)、Drosophila simulans由来改変nrRT(配列番号13)もしくはOryzias latipes由来改変nrRT(配列番号14)を発現するプラスミド、または必須の逆転写酵素活性部位側鎖に変異を有するO. latipesの不活性型nrRT(配列番号15)を発現するプラスミドをHEK293T細胞にトランスフェクトした。いずれの配列も開始コドンAUGを含み、その上流に規範的に翻訳が開始されるように人工のコザック配列が配置されている。また、3’FLAGタグ配列に続いて翻訳終止コドンが配置されている。
【0294】
細胞を溶解し、溶解液を回収した。RTタンパク質をFLAG抗体固定化樹脂(Sigma)に結合させて、溶出することにより精製した。このタンパク質タグに対する免疫ブロットを並行して行ったところ、D. simulansのRT以外のタンパク質は同程度の回収量が得られたが、D. simulansのRTは、他のRTの発現レベルの10分の1程度であった。
【0295】
RT活性スクリーニングアッセイ
各組換えnrRTタンパク質を、32P標識dGTP(Perkin Elmer)を含むdNTP溶液中で、鋳型の5’末端が突出した状態でアニーリングしたプライマーと鋳型と生理的温度で混合し、cDNA合成に十分な時間反応させた。
プライマー配列:
CAGCACTAGATTTTTGGGGTTGAATG(配列番号16)
鋳型配列:
ATACCCGCTTAATTCATTCAGATCTGTAATAGAACTGTCATTCAACCCCAAAAATCTAGTGCTGATATAACCTTCACCAATTAGGTTCAAATAAGTGGTAATGCGGGACAAAAGACTATCGACATTTGATACACTATTTATCAATGGATGTCTTATTTTTTTT(配列番号17)
鋳型は、実施例1と同様にIVT反応により調製した。反応産物を変性PAGEで分離し、泳動したゲルをTyphoon Trioイメージアナライザーで画像化した。
【0296】
図5のO、D、Bと表示されたレーンを見ると分かるように、PAGEの画像解析の結果から、B. mori、D. simulansおよびO. latipesに由来するnrRTは生化学的活性を有し、cDNA合成が可能であることが示された。予想通り、RTタンパク質/酵素の非存在下で得られたdNTPの反応産物を含むレーンN、および変異により不活性化されたO. latipesのnrRTとdNTPの反応産物を含むO_RT-では、cDNA産物は観察されなかった。
【0297】
実施例3 nrRT+鋳型3’側モジュールの相互作用
3’UTR特異性を確認するためのin vivoでのnrRTアッセイ
実施例1に記載したB. mori、D. simulansおよびO. latipesに由来する改変nrRTタンパク質を発現するプラスミドのうちの1つと、B. mori(配列番号18)、D. simulans(配列番号19)またはO. latipes(配列番号20)のR2エレメントの3’UTR RNAを発現する別のプラスミドとをそれぞれ組み合わせたものを、9つのHEK293T細胞集団にトランスフェクトした(図6(A)参照)。各nrRTタンパク質と、組み合わせた3’UTR RNAを共に発現させた。
【0298】
nrRTタンパク質プラスミドの転写・翻訳により生成されたnrRTタンパク質と、転写された3’UTR RNAが会合するのに十分な時間を置いた後、細胞を溶解し、nrRTタンパク質+RNA鋳型複合体を、FLAGを用いた免疫精製(Sigma FLAG抗体固定化樹脂)により精製した。免疫精製前の各溶解液に存在するRNAと、各免疫精製サンプル中のRNAをそれぞれ精製した。免疫精製前のRNAサンプルと各nrRT結合RNAサンプルからそれぞれ同じ分量を採取し、Hybond N+メンブレン(Cytiva)に格子状にスポットした。各種3’UTR RNAのスポットを含むメンブレンに所望の3’UTR RNAが存在することを確認するために、T4ポリヌクレオチドキナーゼ(NEB)により32Pで5’末端を放射標識した相補的なオリゴヌクレオチドプローブとのハイブリダイゼーションを行った。すなわち、B. mori R2の3’UTRを発現する細胞のサンプルに、B. moriの3’UTR配列が存在するかどうかを確認した(B. moriの3’UTR用プローブは、CATCATGGATTAGGATCGGAAGACCCCCG(配列番号21)、GTACGCCGGCGAAATTGGATCAGTAGATG(配列番号22)およびGAGAAACAGACGGGCCTGATCTACACCC(配列番号23)である)。D. simulans R2の3’UTRを発現するサンプルに、D. simulansの3’UTR配列が存在するかどうかを確認した(D. simulansの3’UTR用プローブは、CTATCTGAACCGAAGTTCCGCAACGCCTACGTAC(配列番号24)、CACTGCGTGTGGTCAGTTTTCCTAGCATGCACG(配列番号25)およびGATGTTATGCCAAGACAGCAAGCAAATGTTTTGAACCAAACG(配列番号26)である)。O. latipes R2の3’UTRを発現するサンプルに、O. latipesの3’UTR配列が存在するかどうかを確認した(O. latipesの3’UTR用プローブは、TTGAGGCGAGTCACCACTCGCTTTCCGG(配列番号27)およびGTGTCCGTCACGGGGACGACATCCGAGTG(配列番号28)である)。
【0299】
図6(B)から分かるように、B. moriの改変nrRTタンパク質は、同種の3’UTR配列だけでなく、D. simulansまたはO. latipesのR2エレメントの3’UTR配列とも結合したが、D. simulansの改変タンパク質とO. latipesの改変タンパク質はより高い選択性を示した。B. moriのnrRTは、ヒト細胞で比較的非特異的なRNA相互作用を示すことが分かった。
【0300】
in vitro TPRTアッセイ
以下のin vitro TPRTアッセイは、実施例2を通じて使用した。nrRTタンパク質は、実施例1と同様にして調製した。TPRT用の鋳型RNAは、実施例1と同様にIVT反応により調製した。nrRTタンパク質と鋳型を、dNTPを含むマグネシウム含有反応バッファー中で、標的部位オリゴヌクレオチド(標的部位の長さは64bpまたは84bp)からなる二重鎖DNA(配列番号29または配列番号30)と混合し、37℃で30分間インキュベートしてTPRTを行った。この二重鎖DNAのボトム鎖(下側の鎖)は、T4ポリヌクレオチドキナーゼ(NEB)により5’末端が32Pで放射標識されたものである。反応産物を変性PAGEで分離し、泳動したゲルをTyphoon Trioイメージアナライザーで画像化した。
【0301】
in vitroにおけるnrRTの同種鋳型3’UTRに対する特異性
B. mori、D. simulansおよびO. latipesのnrRTタンパク質を上記の方法と同様にして合成・精製した。鋳型DNAとして、T7 RNAポリメラーゼプロモーターに続いてO. latipesの3’UTRを有し、標的部位のすぐ下流に4ntのrRNAを有するもの(配列番号31)と4ntのrRNAのないもの(配列番号32)を用意した。また、鋳型DNAとして、T7 RNAポリメラーゼプロモーターに続いてD. simulansの3’UTRを有し、標的部位のすぐ下流に4ntのrRNAを有するもの(配列番号33)と4ntのrRNAのないもの(配列番号34)を用意した。鋳型DNAを用いてIVTにより鋳型RNAを生成し、これを精製してin vitro TPRTアッセイに用いた。
【0302】
次に、前述のin vitro TPRTアッセイを、各nrRTと各鋳型コンストラクトを組み合わせて行った。
【0303】
D. simulansのRTは、TPRTにO. latipesの3’UTRを使用せず、O. latipesのRTは、TPRTにD. simulansの3’UTRを使用しなかったが、B. moriのRTは、TPRTにいずれの3’UTRも使用した(図7)。B. moriのRTは、他のR2の改変nrRTタンパク質、例えば、O. latipes R2(OrLa)のRTやD. simulans R2(DrSi)のRTとは異なり、TPRTにより非特異的に鋳型をコピーした。
【0304】
このスクリーニングにより、程度の差はあるものの、鋳型としての同種の3’UTRに選択性を示す改変nrRTタンパク質が同定された。これらの違いは、各タンパク質の一次配列だけで単純に予測できるものではなく、また、ヒト細胞で同様に発現させて精製したタンパク質の逆転写酵素活性の相対レベルから単純に予測できるものでもない。
【0305】
B. moriのnrRTの効率に対する3’側モジュール改変の効果
B. moriのnrRTタンパク質を上記の方法と同様にして合成・精製した。鋳型コンストラクトには、B. mori由来の3’UTRが含まれており、3’UTRに続くrRNAのないものを1種類(R26_BM3UTR、配列番号35)、3’UTRに続いて、標的部位のすぐ下流に4ntのrRNAを有するものを4種類(GG_BM3UTR_R4、配列番号36;GGG-R4_BM3UTR_R4、配列番号37;およびR26_BM3UTR_R4、配列番号38)、3’UTRに続いて4ntのrRNAと20~25ntのポリA鎖を有するものを1種類(R26_BM3UTR_R4_PA、配列番号39)、3’UTRに続いて、標的部位のすぐ下流に20ntのrRNAを有するものを1種類(R26_BM3UTR_R20、配列番号40)用意した。鋳型RNAは、実施例1と同様にIVT反応により合成した。IDがR4で始まる鋳型は、組み込まれた天然のエレメントの5’末端に隣接した4ntのrRNAによる5’伸長部を有し、IDがR26で始まる鋳型は、26ntのrRNAによる5’伸長部を有する。上記の配列の中には、T7 RNAポリメラーゼによる転写を増強するために5’末端に複数のグアノシン(G)を付加した配列も存在する。
【0306】
in vitro TPRTアッセイを、O. latipesのnrRTタンパク質と各鋳型をそれぞれ組み合わせて、前述の方法と同様にして行った。アッセイには、64bpと84bpの標的部位を使用した。
【0307】
図8から分かるように、B. moriの3’UTR RNAの3’末端は、B. moriのRTによるTPRTの効率にあまり大きな影響を与えなかった。よって、TPRTの鋳型に3’隣接rRNAは必要なかった。しかし、3’下流の20ntのrRNAを用いた場合は、4ntの3’rRNAを有する鋳型を用いたTPRTで見られた高い忠実性とは異なり(矢印は、高い忠実性で3’結合部が形成された領域)、内部開始が可能になったことで、3’結合の忠実性の低下が認められた(丸印の位置)。すなわち、20ntの3’隣接rRNA配列は、4ntの3’隣接rRNA配列に比べて不利であった。一方、3’隣接rRNAを20ntより長いアデノシン鎖で伸長しても、正しい生成物を合成する効率や忠実性が失われないということは注目すべき点である。
【0308】
O. latipesのnrRTの効率に対する3’側モジュール改変の効果
O. latipesのnrRTタンパク質を上記の方法と同様にして合成・精製した。鋳型コンストラクトには、O. latipes由来の3’UTRが含まれており、3’UTRに続くrRNAのないものを1種類(R26_OL、配列番号41)、3’UTRに続いて4ntのrRNAを有するものを2種類(R4_OL_R4、配列番号42およびR26_OL_R4、配列番号43)、3’UTRに続いて20ntのrRNAを有するものを1種類(R26_OL_R20、配列番号44)、3’UTRに続いて4ntのrRNAとポリA鎖を有するものを1種類(R26_OL_R4_PA、配列番号45)用意した。鋳型RNAは、実施例1と同様にIVT反応により合成した。IDがR4で始まる鋳型は、組み込まれた天然のエレメントの5’末端に隣接した4ntのrRNAによる5’伸長部を有し、IDがR26で始まる鋳型は、組み込まれた天然のエレメントの5’末端に隣接した26ntのrRNAによる5’伸長部を有する。
【0309】
in vitro TPRTアッセイを、O. latipesのnrRTタンパク質と各鋳型をそれぞれ組み合わせて、前述の方法と同様にして行った。
【0310】
図9(A)から分かるように、rRNAによる3’伸長部のないO. latipesの3’UTRは、O. latipes RTによるTPRTに効率的に使用されておらず、3’隣接rRNAのないB. moriの3’UTR RNAが、TPRTに効率的に使用されることを示した図8とは異なる結果になった。また、B. moriの構成要素を用いた場合と同様に、3’隣接rRNAを20ntより長いアデノシン鎖で伸長しても、O. latipesのRTによるTPRTは阻害されなかった。
【0311】
この実験を、5’rRNAによる伸長部を含まず、0ntの3’rRNA(R0-OL3-R0、配列番号46)、4ntの3’rRNA(R0-OL3-R4、配列番号47)、8ntの3’rRNA(R0-OL3-R8、配列番号48)、12ntの3’rRNA(R0-OL3-R12、配列番号49)、16ntの3’rRNA(R0-OL3-R16、配列番号50)または20ntの3’rRNA(R0-OL3-R20、配列番号51)を含む鋳型コンストラクトを用いて再度行った。鋳型RNAは、in vitro TPRTアッセイで記載した方法と同様にして合成した。
【0312】
図9(B)から分かるように、この結果からも前述の結果が裏付けられた。rRNAの3’伸長部がない場合は、O. latipesのRTによるコピー量が不十分であるとともに、不適切な内部開始が行われたが、4ntのrRNAの存在により、TPRTと3’結合の精度が十分に向上した。
【0313】
Tribolium castaneumのnrRTタンパク質
T. castaneum由来のnrRTタンパク質を上記の方法と同様にして、発現プラスミド(配列番号52)を用いて合成・精製した。鋳型コンストラクトには、T. castaneum R2の天然の3’UTRを25ntの5’rRNAと4ntの3’rRNAで挟んだR25-UTR-R4(配列番号53)、25ntの5’隣接rRNAと4ntの3’隣接rRNAとこれに続いて20~25ntのタンデムアデノシンA鎖とを有するR25-UTR-R4_PA(配列番号54)、または、25ntの5’隣接rDNAと10ntの3’rRNAを有するR25-UTR-R10(配列番号55)が含まれる。鋳型RNAは、in vitro TPRTアッセイで記載した方法と同様にして合成した。
【0314】
in vitro TPRTアッセイを、前述の方法と同様にして行った。
【0315】
図10から分かるように、T. castaneumのnrRTによるTPRTでは、nrRTが生化学的活性を有し、同種の3’UTRとの反応により、標的部位で効率的なTPRTが行われた。また、3’隣接rRNAを20ntより長いアデノシン鎖で伸長しても、TPRTは阻害されなかった。3’rRNAの長さが4ntを超えても、その顕著な影響は認められなかった。
【0316】
実施例4 in vivoでの鋳型挿入
O. latipes
1つの翻訳開始コドンAUG配列を有するO. latipes R2レトロエレメントのORFを改変したタンパク質(配列番号14)が発現されるように、293T細胞にトランスフェクションを行った。次いで、T7 RNAポリメラーゼによるin vitro転写で得られたRNAを、28S rDNAのR2標的部位でTPRTの鋳型として機能するように、同じ細胞にトランスフェクトした。
【0317】
鋳型RNAとして、O. latipesエレメントの3’UTRを含み、O. latipesの5’領域を含むものとO. latipesの5’領域を含まないものを用意した。O. latipesの5’領域は、自己切断リボザイムの5’末端から(26ntの5’隣接rRNAは残る)5’UTRまで延び、天然のORF領域内まで及んでいる可能性もある(実際の翻訳開始部位が不明であったため、それぞれ配列番号56および配列番号57に相当する)。3’UTRを有するが5’UTRを有していない鋳型RNAでは、RNAの5’末端には、レトロエレメント配列は付加されておらず、天然のレトロエレメントの5’結合部にrRNA配列が保持されている。鋳型RNAの3’末端には、3’UTRが存在し、3’挿入結合部の下流に4ntのrRNA配列が存在する。
【0318】
28S rDNAでTPRTが行われたことを示す3’挿入結合部を検出するために、トランスフェクトした細胞プールのゲノムDNAと、鋳型の3’末端と標的の28S rDNAの5’末端との結合が予測される部分をオーバーラップするプライマーとを用いて、1回目のPCRとnested PCRを行った。
【0319】
1回目のPCRプライマーは以下の通りである。
フォワードプライマー:
GACAGCTGGGAGTCTCGGCATG(配列番号58)
リバースプライマー:
CCGTTCCCTTGGCTGTGGTTTCGC(配列番号59)
nested PCRプライマーは以下の通りである。
フォワードプライマー:
AAAAGCTGGGTACCGGGCCCCAAATCTTGCGCTGCACTCGGATG(配列番号60)
リバースプライマー:
ATTGGAGCTCCACCGCGGTGCCATTCATGCGCGTCACTAATTAGATGAC(配列番号61)
【0320】
目的産物の検出は、RTタンパク質の発現とRNA鋳型のトランスフェクションの両方に依存した(図11)。目的産物は、シーケンス解析により、内在性R2エレメントのゲノム配列のものとマッチする正しい結合部であった。
【0321】
標的の28S rDNAの3’末端と鋳型の5’末端との結合が予測される部分をオーバーラップする下記のプライマーを用いて、トランスフェクトした細胞プールのゲノムDNAをPCRで増幅した。
フォワードプライマー:
CTAGCAGCCGACTTAGAACTGGTGCGG(配列番号62)
リバースプライマー:
CTTGAGGCGAGTCACCACTCGC(配列番号63)
【0322】
このプロセスにより、5’挿入結合部が検出され、28S rDNAでTPRTが行われたことが確認された。目的産物、すなわち、内在性R2エレメントのゲノム配列のものとマッチする正しい結合部の検出は、RTタンパク質の発現とTPRT用の目的のRNA鋳型のトランスフェクションの両方に依存した(図12)。
【0323】
シーケンス解析を行ったところ、293T細胞におけるほとんどの5’結合部と3’結合部は、鋳型となるエレメント配列とrDNAとのシームレスな結合であることが分かった。この配列では、293T細胞の標的部位と導入遺伝子の鋳型RNAの両方に存在するrRNA配列の重複は見られなかった。目的産物が検出されたのは、RTタンパク質の発現とRNA鋳型のトランスフェクションの両方が起こった場合のみであった(図12)。
【0324】
T. castaneum
1つの翻訳開始コドンAUGを示す合成配列ORFを有するT. castaneum(TriCas)のR2の3系統のうちの1系統を改変したタンパク質(配列番号52)が発現されるように、293T細胞にトランスフェクションを行った。次いで、T7 RNAポリメラーゼによるin vitro転写で得られたRNAを、28S rDNAのR2標的部位でTPRTの鋳型として機能するように、同じ細胞にトランスフェクトした。
【0325】
鋳型RNAとして、T. castaneumのエレメントの3’UTRを含み、5’領域を含むものと5’領域のないものを用意し、この実験で検討した。この5’領域は、自己切断リボザイムの5’末端から、ボトム鎖の最初のニックの反対側に位置するヒトゲノムのトップ鎖部位を経て(Triboliumゲノムではなくヒトゲノムにマッチする13ntの5’隣接rRNAが残るように設計されている)、T. castaneumの5’UTRまで延びる。5’領域はORF領域に及んでいると考えられるが、実際の翻訳開始部位は不明であった。鋳型RNAの3’末端は、4ntのrRNA、20~25ntのポリA鎖(PA)が付加された4ntのrRNA、または10ntのrRNAで構成されている。鋳型コンストラクトとその配列の概要を表1に示す。
【表1】
【0326】
28S rDNAでTPRTが行われたことを示す3’挿入結合部を検出するために、下記のプライマーを用いて、トランスフェクトした細胞プールのゲノムDNAをPCRで増幅した(図13)。
フォワードプライマー:
CTCCTGACCAACTAGCTCACTGACTAATTTTAAAC(配列番号70)
リバースプライマー:
CCACTTATTCTACACCTCTCATGTCTCTTCACCG(配列番号71)
RTタンパク質の発現とRNA鋳型のトランスフェクションの両方が起こった場合のみ、3’結合部の形成が確認された。5’側モジュールにより、3’結合部の形成の効率と特異性が向上し、3’UTRに続く4ntのrRNA配列の後にポリA鎖を付加した場合も同様に、3’結合部の形成の効率と特異性が向上した。
【0327】
28S rDNAでTPRTが行われたことを示す5’挿入結合部を検出するために、下記のプライマーを用いて、トランスフェクトした細胞プールのゲノムDNAをPCRで増幅した(図14)。
フォワードプライマー:
CTAGCAGCCGACTTAGAACTGGTGCGG(配列番号62)
リバースプライマー:
CTTCGTCTTCGGAATCCATGTCCATAGC(配列番号72)
RTタンパク質の発現とRNA鋳型のトランスフェクションの両方が起こった場合のみ、5’挿入結合部が検出された。4ntのrRNA配列の後にポリA鎖を付加した3’側モジュールにより、5’結合部の形成の効率と特異性が向上した。
【0328】
T. castaneumのR2レトロエレメントRZの一形態を含む5’側モジュールにより、TriCas RTによる導入遺伝子の5’挿入結合と3’挿入結合の効率と精度が大幅に向上した(図13および14)。5’RZは、最初に導入されたボトム鎖のニックの位置の13nt上流(-13)で自己切断するため、T. castaneumのゲノムではなくヒトゲノムとマッチする13ntの外来の5’隣接rRNAが残る。これは、天然のT. castaneumエレメントの5’結合部よりnt数が多い。
【0329】
ピューロマイシン耐性
1つの翻訳開始コドンAUGを示す合成配列ORFを有するD. simulans R2を発現するpcDNA3.1プラスミドベクター(配列番号13)、1つの翻訳開始コドンAUGを示す合成配列ORFを有するO. latipes R2を発現するpcDNA3.1プラスミドベクター(配列番号14)、または空のpcDNA3.1プラスミドベクター(配列番号73)をHEK293T細胞にトランスフェクトした。3日後、IVTで調製した、ピューロマイシン耐性を付与する導入遺伝子(配列番号74)をコードする精製鋳型RNAを同じ細胞にトランスフェクトした。4日目に、細胞を0.75μg/mlのピューロマイシンを含む選択培地に移した。選択培地中で15回程度細胞分裂が行われた後、細胞を回収して、ゲノムDNAを抽出した。図15において、「少ない」と記されたレーンは、表記のないレーンの回収時期より細胞分裂が5~10回少ない細胞集団を示し、「多い」と記されたレーンは、他のレーンの回収時期より細胞分裂が5~10回多い細胞集団である。PCRアッセイにより、外来のピューロマイシン耐性カセットの一部の領域を増幅することで、DNAにコピーされた鋳型RNA配列が存在するかどうかを確認した。
【0330】
鋳型RNAがコピーされて導入されると、ピューロマイシン耐性タンパク質のRNAP II発現カセットが提供される(図15)。また、鋳型RNAは、自己切断リボザイムの5’末端から延びる(26ntの5’隣接rRNAは残る)O. latipes R2の5’領域と、RTと同種のレトロエレメント3’UTRとを含む。鋳型RNAの3’末端には、4ntまたは20ntの3’隣接rRNAが含まれているが、ポリA鎖を有するものとポリA鎖がないものがある(データ示さず)。鋳型コンストラクトとその配列の概要を表2に示す。
【表2】
【0331】
挿入されたピューロマイシン耐性カセット配列を検出するために、下記のプライマーを用いて、トランスフェクトした細胞プールのゲノムDNAをPCRで増幅した。
フォワードプライマー:
CACCGAGCTGCAAGAACTCTTCCTCACG(配列番号79)
リバースプライマー:
CTTGCGGGTCATGCACCAGGTGC(配列番号80)
得られたPCR産物から、導入遺伝子を鋳型としたTPRTが行われたことが示された。
【0332】
O. latipes R2のRTタンパク質の改変体とともに、O. latipes R2の3’UTRと5’領域を含む導入遺伝子RNA鋳型をトランスフェクトした培養物では、挿入された導入遺伝子が強く検出された。また、D. simulans R2のRTタンパク質の改変体とともに、D. simulans R2の3’UTRおよび同種でないO. latipes R2の5’領域を含む導入遺伝子RNA鋳型をトランスフェクトした細胞培養物においても、導入遺伝子が強く検出された(図15)。
【0333】
D. simulansのRTと、直接導入した同種の5’UTRと3’UTR、D. simulansの導入遺伝子鋳型およびD. simulansの5’RZとを組み合わせた場合は、ヒト細胞のrDNAへの導入遺伝子の挿入(およびそれに関連する検出)は効率的には行われなかった(データは示さず)。
【0334】
異種のRZを含むO. latipesの5’RNA領域を用いた場合、導入遺伝子の挿入効率と結合の忠実性が向上することは予想外であった(異種の5’側モジュールの使用は図15に示されている)。
図1
図2
図3
図4
図5
図6A-6B】
図7
図8
図9A-9B】
図10
図11
図12
図13
図14
図15A-15B】
【配列表】
2024504630000001.app
【国際調査報告】