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特表2024-504632非アルコール性脂肪肝疾患および関連する疾患または障害を処置または改善するための化合物、組成物および方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-02-01
(54)【発明の名称】非アルコール性脂肪肝疾患および関連する疾患または障害を処置または改善するための化合物、組成物および方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 45/00 20060101AFI20240125BHJP
   A61P 3/00 20060101ALI20240125BHJP
   A61P 1/16 20060101ALI20240125BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20240125BHJP
   A61P 29/00 20060101ALI20240125BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20240125BHJP
   A61P 3/08 20060101ALI20240125BHJP
   A61K 31/713 20060101ALI20240125BHJP
   A61K 31/7105 20060101ALI20240125BHJP
   A61K 31/7088 20060101ALI20240125BHJP
   A61K 48/00 20060101ALI20240125BHJP
   A61K 31/155 20060101ALI20240125BHJP
   A61K 31/37 20060101ALI20240125BHJP
   C12Q 1/6883 20180101ALI20240125BHJP
   C12N 15/09 20060101ALI20240125BHJP
   C12N 15/113 20100101ALI20240125BHJP
   C12N 15/86 20060101ALI20240125BHJP
   G01N 33/53 20060101ALI20240125BHJP
【FI】
A61K45/00
A61P3/00
A61P1/16
A61P35/00
A61P29/00
A61P43/00 105
A61P3/08
A61P43/00 111
A61K31/713
A61K31/7105
A61K31/7088
A61K48/00
A61K31/155
A61K31/37
C12Q1/6883 Z ZNA
C12N15/09 110
C12N15/113 140Z
C12N15/86 Z
G01N33/53 M
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023542860
(86)(22)【出願日】2022-01-14
(85)【翻訳文提出日】2023-08-28
(86)【国際出願番号】 US2022012516
(87)【国際公開番号】W WO2022155471
(87)【国際公開日】2022-07-21
(31)【優先権主張番号】63/137,915
(32)【優先日】2021-01-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】516241599
【氏名又は名称】トーマス・ジェファーソン・ユニバーシティ
(74)【代理人】
【識別番号】100102978
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 初志
(74)【代理人】
【識別番号】100205707
【弁理士】
【氏名又は名称】小寺 秀紀
(74)【代理人】
【識別番号】100160923
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 裕孝
(74)【代理人】
【識別番号】100119507
【弁理士】
【氏名又は名称】刑部 俊
(74)【代理人】
【識別番号】100142929
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 隆一
(74)【代理人】
【識別番号】100148699
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 利光
(74)【代理人】
【識別番号】100188433
【弁理士】
【氏名又は名称】梅村 幸輔
(74)【代理人】
【識別番号】100128048
【弁理士】
【氏名又は名称】新見 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100129506
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 智彦
(74)【代理人】
【識別番号】100114340
【弁理士】
【氏名又は名称】大関 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100214396
【弁理士】
【氏名又は名称】塩田 真紀
(74)【代理人】
【識別番号】100121072
【弁理士】
【氏名又は名称】川本 和弥
(74)【代理人】
【識別番号】100221741
【弁理士】
【氏名又は名称】酒井 直子
(74)【代理人】
【識別番号】100114926
【弁理士】
【氏名又は名称】枝松 義恵
(72)【発明者】
【氏名】キム フェリクス ジンヒョン
【テーマコード(参考)】
4B063
4C084
4C086
4C206
【Fターム(参考)】
4B063QA01
4B063QA19
4B063QQ08
4B063QQ53
4B063QR08
4B063QR42
4B063QR55
4B063QR62
4B063QX01
4C084AA13
4C084AA17
4C084MA52
4C084MA55
4C084MA59
4C084MA60
4C084NA14
4C084ZA751
4C084ZB111
4C084ZB212
4C084ZB261
4C084ZC331
4C084ZC351
4C086AA01
4C086AA02
4C086BA19
4C086EA16
4C086MA01
4C086MA04
4C086MA52
4C086MA55
4C086MA59
4C086MA60
4C086NA14
4C086ZA75
4C086ZB11
4C086ZB21
4C086ZB26
4C086ZC33
4C086ZC35
4C206AA01
4C206AA02
4C206HA31
4C206KA01
4C206MA01
4C206MA04
4C206MA72
4C206MA75
4C206MA79
4C206MA80
4C206NA14
4C206ZA75
4C206ZB11
4C206ZB21
4C206ZB26
4C206ZC33
4C206ZC35
(57)【要約】
本開示は、シグマ受容体の活性を調節する特定の化合物を用いて、非アルコール性脂肪肝疾患および関連する疾患または障害を処置または改善できるという知見に関する。特定の態様において、シグマ受容体はシグマ-1受容体(シグマ1としても知られる)である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の段階を含む、細胞における脂肪滴(LD)の蓄積を処置、改善および/または予防する方法:
細胞を、細胞におけるシグマR1転写を低減および/もしくは抑止するかつ/またはシグマ1活性および/もしくは発現を低減および/もしくは阻害する剤と接触させる段階。
【請求項2】
以下の段階を含む、対象における肝脂肪症(脂肪肝)および/または脂肪性肝炎に関連する炎症を処置、改善および/または予防する方法:
対象におけるシグマR1転写を低減および/もしくは抑止するかつ/またはシグマ1活性および/もしくは発現を低減および/もしくは阻害する剤の有効量を、対象に投与する段階。
【請求項3】
以下の段階を含む、対象における非アルコール性脂肪肝疾患(NAFLD)を処置、改善および/または予防する方法:
対象におけるシグマR1転写を低減および/もしくは抑止するかつ/またはシグマ1活性および/もしくは発現を低減および/もしくは阻害する剤の有効量を、対象に投与する段階。
【請求項4】
以下の段階を含む、対象における非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)を処置、改善および/または予防する方法:
対象におけるシグマR1転写を低減および/もしくは抑止するかつ/またはシグマ1活性および/もしくは発現を低減および/もしくは阻害する剤の有効量を、対象に投与する段階。
【請求項5】
以下の段階を含む、NAFLDに罹患している対象におけるNASHへのNAFLDの進行を反転、緩徐化または予防する方法:
対象におけるシグマR1転写を低減および/もしくは抑止するかつ/またはシグマ1活性および/もしくは発現を低減および/もしくは阻害する剤の有効量を、対象に投与する段階。
【請求項6】
以下の段階を含む、NASHに罹患している対象における肝細胞がん(HCC)へのNASHの進行を反転、緩徐化または予防する方法:
対象におけるシグマR1転写を調節するかつ/またはシグマ1活性および/もしくは発現を調節する剤の有効量を、対象に投与する段階。
【請求項7】
以下の段階を含む、NAFLDに罹患している対象がNASHに進行するリスクを判定および/または評価する方法:
対象におけるシグマR1転写および/もしくはシグマ1活性/発現のレベルを測定する段階、ならびに
測定されたレベルを対照サンプルにおけるシグマR1転写および/もしくはシグマ1活性/発現のレベルと比較する段階。
【請求項8】
NASHに進行するリスクのある対象が、シグマR1転写を低減および/もしくは抑止するかつ/またはシグマ1活性および/もしくは発現を低減および/もしくは阻害する剤の有効量を受けるようカウンセリングされる、請求項7記載の方法。
【請求項9】
NASHに進行するリスクのある対象が、シグマR1転写を低減および/もしくは抑止するかつ/またはシグマ1活性および/もしくは発現を低減および/もしくは阻害する剤の有効量を投与される、請求項7記載の方法。
【請求項10】
以下の段階を含む、NASHに罹患している対象がHCCに進行するリスクを判定および/または評価する方法:
対象におけるシグマR1転写および/もしくはシグマ1活性/発現のレベルを測定する段階、ならびに
測定されたレベルを対照サンプルにおけるシグマR1転写および/もしくはシグマ1活性/発現のレベルと比較する段階。
【請求項11】
HCCに進行するリスクのある対象が、シグマR1転写を調節するかつ/またはシグマ1活性および/もしくは発現を調節する剤の有効量を受けるようカウンセリングされる、請求項10記載の方法。
【請求項12】
HCCに進行するリスクのある対象が、シグマR1転写を調節するかつ/またはシグマ1活性および/もしくは発現を調節する剤の有効量を受けるようカウンセリングされる、請求項10記載の方法。
【請求項13】
対照サンプルが以下の少なくともに由来する、請求項7~12のいずれか一項記載の方法:
NAFLDに罹患している対象;
NAFLDに罹患していない対象;
NASHに罹患している対象;
NASHに罹患していない対象;
HCCに罹患している対象;
HCCに罹患していない対象;
NASHに進行していない、および/またはNASHに進行するリスクのないことが分かっている、NAFLDに罹患している対象;
NASHに進行している、および/またはNASHに進行するリスクのあることが分かっている、NAFLDに罹患している対象;
HCCに進行していない、および/またはHCCに進行するリスクのないことが分かっている、NASHに罹患している対象;
HCCに進行している、および/またはHCCに進行するリスクのあることが分かっている、NASHに罹患している対象。
【請求項14】
投与する段階が、以下の少なくとも1つを反転、予防および/または改善する、請求項2~6のいずれか一項記載の方法:
脂肪症、炎症、肝細胞バルーニング、線維症、肝星細胞(HSC)活性化、血清肝酵素の増加、インスリン抵抗性/耐糖能、およびHCC病変の形成。
【請求項15】
前記剤が、シグマR1に対するCRISPRシステム、および/またはsiRNA、shRNA、マイクロRNAもしくはアンチセンスポリヌクレオチドから選択されるシグマR1に対する核酸を含む、請求項1~6、8~9および11~14のいずれか一項記載の方法。
【請求項16】
前記核酸を発現するウイルスベクターが対象に投与される、請求項15記載の方法。
【請求項17】
前記核酸が対象の肝臓において発現される、請求項16記載の方法。
【請求項18】
前記剤が以下である、請求項1~6、8~9および11~14のいずれか一項記載の方法:
(i) 式(I):
の化合物であって、式中、
環Aは単環式もしくは二環式アリール環または単環式もしくは二環式ヘテロアリール環であり、ここでアリール環またはヘテロアリール環は0~4つのR1基で置換されていてもよく;
R1のそれぞれは、-C1~C6アルキル、-C1~C6フルオロアルキル、-C1~C6ヘテロアルキル、F、Cl、Br、I、-CN、-NO2、-OR3、-SR3、-S(=O)R3、-S(=O)2R3、-NHS(=O)2R3、-C(=O)R3、-OC(=O)R3、-CO2R3、-OCO2R3、-CH(R3)2、-N(R3)2、-C(=O)N(R3)2、-OC(=O)N(R3)2、-NHC(=O)NH(R3)、-NHC(=O)R3、-NHC(=O)OR3、-C(OH)(R3)2、および-C(NH2)(R3)2からなる群より独立に選択され;
R2のそれぞれは、H、C1~C6アルキル、C1~C6ヘテロアルキル、および-C1~C3アルキル-(C3~C6シクロアルキル)からなる群より独立に選択され、ここでアルキル、ヘテロアルキルもしくはシクロアルキル基は0~5つのR1基で置換されていてもよく、またはX3およびR2は一緒に、0~2つのR1基で置換されていてもよい(C3~C7)ヘテロシクロアルキル基を形成し;
R3のそれぞれは、H、C1~C6アルキル、C1~C6ヘテロアルキル、アリール、および-C1~C3アルキル-(C3~C6シクロアルキル)からなる群より独立に選択され、ここでアルキル、ヘテロアルキル、アリール、またはシクロアルキル基は0~5つのR1基で置換されていてもよく;
X1は-CH2-、-S-、-O-または-(NR2)-であり;
X2は=CH2、=S、=Oまたは=NR2であり; かつ
X3は-S-、-O-、または-NR2-である、化合物; ならびに
(ii) 式(II):
RA-RB (II)
の化合物であって、式中、
RAは、
からなる群より選択され;
X4は、メトキシ、F、Cl、Br、およびIからなる群より選択され; かつ
RBは、
からなる群より選択される、化合物;
(iii) 式(III):
の化合物であって、式中、
R1およびR2のそれぞれは、-C1~C6アルキル、-C1~C6フルオロアルキル、-C1~C6ヘテロアルキル、F、Cl、Br、I、-CN、-NO2、-OR5、-SR5、-S(=O)R5、-S(=O)2R5、-NHS(=O)2R5、-C(=O)R5、-OC(=O)R5、-CO2R5、-OCO2R5、-CH(R5)2、-N(R5)2、-C(=O)N(R5)2、-OC(=O)N(R5)2、-NHC(=O)NH(R5)、-NHC(=O)R5、-NHC(=O)OR5、-C(OH)(R5)2、および-C(NH2)(R5)2からなる群より独立に選択され;
R3は、-C1~C6アルキル、-C1~C6フルオロアルキル、-C1~C6アルコキシ、F、Cl、Br、およびIからなる群より選択され;
R4は、-C1~C6アルキル、-C1~C6アルコキシ、F、Cl、Br、およびIからなる群より選択され;
R5のそれぞれは、H、C1~C6アルキル、C1~C6ヘテロアルキル、アリール、および-C1~C3アルキル-(C3~C6シクロアルキル)からなる群より独立に選択され、ここでアルキル、ヘテロアルキル、アリール、またはシクロアルキル基は置換されていてもよく;
Xは、CH2、C=O、またはOからなる群より選択され;
nは1~3の整数であり;
xは0~4の整数であり; かつ
yは0~4の整数である、化合物、
その塩、溶媒和物またはN-オキシド; およびそれらの任意の組み合わせ。
【請求項19】
化合物が、以下からなる群より選択される、請求項18記載の方法:
1-(3-(4-フルオロフェノキシ)プロピル)-3-(4-ヨードフェニル)グアニジン(化合物A);
1-(3-(4-フルオロフェノキシ)プロピル)-3-(4-メトキシフェニル)グアニジン(化合物B);
1-(n-プロピル)-3-(4-ヨードフェニル)グアニジン(化合物C);
1-(n-プロピル)-3-(4-メトキシフェニル)グアニジン(化合物D);
1-(3-(4-フルオロフェノキシ)プロピル)-3-(4-トリフルオロメチルフェニル)グアニジン(化合物F);
1-(3-(4-フルオロフェノキシ)プロピル)-3-(4-クロロフェニル)グアニジン(化合物G);
その塩、溶媒和物またはN-オキシド、およびその任意の組み合わせ。
【請求項20】
化合物が、以下からなる群より選択される、請求項18記載の方法:
1,3-ビス(3-(4-フルオロフェノキシ)プロピル)グアニジン(化合物E);
1-(3-(4-フルオロフェノキシ)プロピル)-3-(4-メチル-2-オキソ-2H-クロメン-7-イル)グアニジン(化合物H);
その塩、溶媒和物またはN-オキシド、およびその任意の組み合わせ。
【請求項21】
化合物が、薬学的に許容される担体をさらに含む薬学的組成物として投与される、請求項18~20のいずれか一項記載の方法。
【請求項22】
対象に、NAFDL、NASHおよび/またはHCCの1つを処置、予防および/または改善する少なくとも1つの追加の剤がさらに投与される、請求項18~21のいずれか一項記載の方法。
【請求項23】
化合物が、経口、経鼻、直腸、膣内、非経口、頬、舌下または局所を含む経路によって投与される、請求項18~22のいずれか一項記載の方法。
【請求項24】
対象が哺乳動物である、請求項18~23のいずれか一項記載の方法。
【請求項25】
哺乳動物がヒトである、請求項24記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2021年1月15日付で出願された米国仮特許出願第63/137,915号に対する35 U.S.C. §119(e)の下での優先権を主張するものであり、これは参照によりその全体が本明細書に組み入れられる。
【背景技術】
【0002】
背景
非アルコール性脂肪肝疾患(NAFLD)は、肝脂肪症(脂肪肝)から始まる一連の肝臓異常を言い表す。一部の患者では、NAFLDが非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)に進行する。NASHは、線維症の有無にかかわらず、小葉の炎症、肝細胞損傷(バルーニング)を伴う肝脂肪症によって組織学的に定義される。NASHはその後、肝硬変および肝細胞がん(HCC)に進行する/つながる可能性がある。
【0003】
NAFLDは、肥満およびメタボリックシンドロームの世界的な増加とともに、慢性肝疾患の世界的な原因として着実に増加している。米国では、人口の約24%がNAFLDを患っていると推定されており、これらの人々のうちの約3分の1がNASHを患っている。NAFLDは、メタボリックシンドローム、糖尿病および心血管疾患(CVD)を含むさまざまな併存疾患と関連している。NAFLDは肝疾患の中で最も急速に増加しているHCCの原因であり、肝移植を必要とする主要な疾患の1つである。NAFLD病因の解明や、治療標的の同定、新薬の発見および開発にはかなりの進歩が見られるが、この分野には依然として重要な未解決の問題と、この患者集団に対する満たされていない臨床ニーズが残されている。
【0004】
NAFLDの進行に関与する要因は十分に定義されていない。NAFLDは、個人間の異なる進行速度に反映される非常に多様な自然経過を有し、不均一な臨床症状を有する。これらの違いの根底にあるのは、さまざまな環境的影響および社会的/行動的影響、ならびに代謝併存疾患、腸内微生物叢、遺伝的、性別および年齢に関連/連関するリスク因子の収れんである。したがって、NAFLDを推進する機構および臨床症状は不均一である。疾患の自然経過およびその進行に関与する要因は、十分に定義されていない。いくつかの分子経路がNASHの発症に寄与することが記述されているが、NAFLDの病原性推進因子、および疾患をもたらし推進する分子機構は十分に定義されておらず、患者によって異なる可能性が高く、多病巣性である可能性が高い。
【0005】
NASHが進行性線維症に急速に進行するNAFLD患者の約20%を特定する方法は、捉えどころのないままであり、この急速な進行の根底にある要因も不明なままである。疾患リスクの予測バイオマーカーおよび薬物応答の薬力学的バイオマーカーに対する差し迫った必要性がある。しかしながら、NAFLDの自然経過や、この疾患の主要な病原性推進因子および可能因子/促進因子の理解が不十分なため、NASHのリスクのある人々を特定することは依然として困難である。
【0006】
現在、NALFDの処置選択肢は依然として限られており、この急速に増大する公衆衛生上の懸念の影響を受ける患者を処置するためにFDAが承認した薬物はない。新しい治療剤および処置戦略、ならびに疾患リスクおよび薬物応答のバイオマーカーに対する差し迫った必要性がある。線維症を伴うNASHを処置するための少なくとも6つの第3相試験における4つの異なる標的剤を含めて、いくつかの剤が臨床試験中である。このうち、最近完了したASK-1阻害剤セロンセルチブの第III相臨床試験2件は、NASHの悪化を伴うことなく線維症の組織学的改善を1段階以上改善するという事前に定められた48週目の主要評価項目を達成できなかった。
【0007】
これは、バイオマーカーによる治療試験の必要性を浮き彫りにしている。疾患の進行をより正確に予測し、より効果的な処置を開発し、臨床試験をより効果的にデザインするためには、治療剤および診断技術が不可欠である。臨床試験のデザインおよび戦略は、薬物標的のリストが増加し、NAFLDの不均一性の根底にある要因の理解が深まるにつれて急速に進化している。
【0008】
NAFLDおよび関連疾患の処置、予防、および/またはモニタリングを可能にする新規の化合物、組成物、方法およびバイオマーカーを同定する必要性が当技術分野において存在する。本開示は、この満たされていない要求に対処する。
【発明の概要】
【0009】
概要
ある種の局面において、本明細書は以下の非限定的な態様を対象とする:
態様1: 以下の段階を含む、細胞における脂肪滴(LD)の蓄積を処置、改善および/または予防する方法: 細胞を、細胞におけるシグマR1転写を低減および/もしくは抑止するかつ/またはシグマ1活性、局在化、および/もしくは発現を低減および/もしくは阻害する剤と接触させる段階。
態様2: 以下の段階を含む、対象における肝脂肪症(脂肪肝)および/または脂肪性肝炎に関連する炎症を処置、改善および/または予防する方法: 対象におけるシグマR1転写を低減および/もしくは抑止するかつ/またはシグマ1活性および/もしくは発現を低減および/もしくは阻害する剤の有効量を、対象に投与する段階。
態様3: 以下の段階を含む、対象における非アルコール性脂肪肝疾患(NAFLD)を処置、改善および/または予防する方法: 対象におけるシグマR1転写を低減および/もしくは抑止するかつ/またはシグマ1活性および/もしくは発現を低減および/もしくは阻害する剤の有効量を、対象に投与する段階。
態様4: 以下の段階を含む、対象における非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)を処置、改善および/または予防する方法: 対象におけるシグマR1転写を低減および/もしくは抑止するかつ/またはシグマ1活性および/もしくは発現を低減および/もしくは阻害する剤の有効量を、対象に投与する段階。
態様5: 以下の段階を含む、NAFLDに罹患している対象におけるNASHへのNAFLDの進行を反転、緩徐化または予防する方法: 対象におけるシグマR1転写を低減および/もしくは抑止するかつ/またはシグマ1活性および/もしくは発現を低減および/もしくは阻害する剤の有効量を、対象に投与する段階。
態様6: 以下の段階を含む、NASHに罹患している対象における肝細胞がん(HCC)へのNASHの進行を反転、緩徐化または予防する方法: 対象におけるシグマR1転写を調節するかつ/またはシグマ1活性および/もしくは発現を調節する剤の有効量を、対象に投与する段階。
態様7: 以下の段階を含む、NAFLDに罹患している対象がNASHに進行するリスクを判定および/または評価する方法: 対象におけるシグマR1転写および/もしくはシグマ1活性/発現のレベルを測定する段階、ならびに測定されたレベルを対照サンプルにおけるシグマR1転写および/もしくはシグマ1活性/発現のレベルと比較する段階。
態様8: NASHに進行するリスクのある対象が、シグマR1転写を低減および/もしくは抑止するかつ/またはシグマ1活性および/もしくは発現を低減および/もしくは阻害する剤の有効量を受けるようカウンセリングされる、態様7の方法。
態様9: NASHに進行するリスクのある対象が、シグマR1転写を低減および/もしくは抑止するかつ/またはシグマ1活性および/もしくは発現を低減および/もしくは阻害する剤の有効量を投与される、態様7の方法。
態様10: 以下の段階を含む、NASHに罹患している対象がHCCに進行するリスクを判定および/または評価する方法: 対象におけるシグマR1転写および/もしくはシグマ1活性/発現のレベルを測定する段階、ならびに測定されたレベルを対照サンプルにおけるシグマR1転写および/もしくはシグマ1活性/発現のレベルと比較する段階。
態様11: HCCに進行するリスクのある対象が、シグマR1転写を調節するかつ/またはシグマ1活性および/もしくは発現を調節する剤の有効量を受けるようカウンセリングされる、態様10の方法。
態様12: HCCに進行するリスクのある対象が、シグマR1転写を調節するかつ/またはシグマ1活性および/もしくは発現を調節する剤の有効量を受けるようカウンセリングされる、態様10の方法。
態様13: 対照サンプルが以下の少なくともに由来する、態様7~12のいずれかの方法: NAFDLに罹患している対象; NAFDLに罹患していない対象; NASHに罹患している対象; NASHに罹患していない対象; HCCに罹患している対象; HCCに罹患していない対象; NASHに進行していない、および/またはNASHに進行するリスクのないことが分かっている、NAFLDに罹患している対象; NASHに進行している、および/またはNASHに進行するリスクのあることが分かっている、NAFLDに罹患している対象; HCCに進行していない、および/またはHCCに進行するリスクのないことが分かっている、NASHに罹患している対象; HCCに進行している、および/またはHCCに進行するリスクのあることが分かっている、NASHに罹患している対象。
態様14: 投与する段階が、以下の少なくとも1つを反転、予防および/または改善する、態様2~6のいずれかの方法: 脂肪症、炎症、肝細胞バルーニング、線維症、肝星細胞(HSC)活性化、血清肝酵素の増加、インスリン抵抗性/耐糖能、およびHCC病変の形成。
態様15: 前記剤が、シグマR1に対するCRISPRシステム、および/またはsiRNA、shRNA、マイクロRNAもしくはアンチセンスポリヌクレオチドから選択されるシグマR1に対する核酸を含む、態様1~6、8~9および11~14のいずれかの方法。
態様16: 前記核酸を発現するウイルスベクターが対象に投与される、態様15の方法。
態様17: 前記核酸が対象の肝臓において発現される、態様16の方法。
態様18: 前記剤が以下である、態様1~6、8~9および11~14のいずれかの方法:
式(I):
の化合物であって、式中、
環Aは単環式もしくは二環式アリール環または単環式もしくは二環式ヘテロアリール環であり、ここでアリール環またはヘテロアリール環は0~4つのR1基で置換されていてもよく;
R1のそれぞれは、-C1~C6アルキル、-C1~C6フルオロアルキル、-C1~C6ヘテロアルキル、F、Cl、Br、I、-CN、-NO2、-OR3、-SR3、-S(=O)R3、-S(=O)2R3、-NHS(=O)2R3、-C(=O)R3、-OC(=O)R3、-CO2R3、-OCO2R3、-CH(R3)2、-N(R3)2、-C(=O)N(R3)2、-OC(=O)N(R3)2、-NHC(=O)NH(R3)、-NHC(=O)R3、-NHC(=O)OR3、-C(OH)(R3)2、および-C(NH2)(R3)2からなる群より独立に選択され;
R2のそれぞれは、H、C1~C6アルキル、C1~C6ヘテロアルキル、および-C1~C3アルキル-(C3~C6シクロアルキル)からなる群より独立に選択され、ここでアルキル、ヘテロアルキルもしくはシクロアルキル基は0~5つのR1基で置換されていてもよく、またはX3およびR2は一緒に、0~2つのR1基で置換されていてもよい(C3~C7)ヘテロシクロアルキル基を形成し;
R3のそれぞれは、H、C1~C6アルキル、C1~C6ヘテロアルキル、アリール、および-C1~C3アルキル-(C3~C6シクロアルキル)からなる群より独立に選択され、ここでアルキル、ヘテロアルキル、アリール、またはシクロアルキル基は0~5つのR1基で置換されていてもよく;
X1は-CH2-、-S-、-O-または-(NR2)-であり;
X2は=CH2、=S、=Oまたは=NR2であり; かつ
X3は-S-、-O-、または-NR2-である、化合物; ならびに
式(II):
RA-RB (II)
の化合物であって、式中、
RAは、
からなる群より選択され;
X4は、メトキシ、F、Cl、Br、およびIからなる群より選択され; かつ
RBは、
からなる群より選択される、化合物;
式(III):
の化合物であって、式中、
R1およびR2のそれぞれは、-C1~C6アルキル、-C1~C6フルオロアルキル、-C1~C6ヘテロアルキル、F、Cl、Br、I、-CN、-NO2、-OR5、-SR5、-S(=O)R5、-S(=O)2R5、-NHS(=O)2R5、-C(=O)R5、-OC(=O)R5、-CO2R5、-OCO2R5、-CH(R5)2、-N(R5)2、-C(=O)N(R5)2、-OC(=O)N(R5)2、-NHC(=O)NH(R5)、-NHC(=O)R5、-NHC(=O)OR5、-C(OH)(R5)2、および-C(NH2)(R5)2からなる群より独立に選択され;
R3は、-C1~C6アルキル、-C1~C6フルオロアルキル、-C1~C6アルコキシ、F、Cl、Br、およびIからなる群より選択され;
R4は、-C1~C6アルキル、-C1~C6アルコキシ、F、Cl、Br、およびIからなる群より選択され;
R5のそれぞれは、H、C1~C6アルキル、C1~C6ヘテロアルキル、アリール、および-C1~C3アルキル-(C3~C6シクロアルキル)からなる群より独立に選択され、ここでアルキル、ヘテロアルキル、アリール、またはシクロアルキル基は置換されていてもよく;
Xは、CH2、C=O、またはOからなる群より選択され;
nは1~3の整数であり;
xは0~4の整数であり; かつ
yは0~4の整数である、化合物、
その塩、溶媒和物またはN-オキシド; およびそれらの任意の組み合わせ。
態様19: 化合物が、以下からなる群より選択される、態様18の方法:
1-(3-(4-フルオロフェノキシ)プロピル)-3-(4-ヨードフェニル)グアニジン(化合物A);
1-(3-(4-フルオロフェノキシ)プロピル)-3-(4-メトキシフェニル)グアニジン(化合物B);
1-(n-プロピル)-3-(4-ヨードフェニル)グアニジン(化合物C);
1-(n-プロピル)-3-(4-メトキシフェニル)グアニジン(化合物D);
1-(3-(4-フルオロフェノキシ)プロピル)-3-(4-トリフルオロメチルフェニル)グアニジン(化合物F);
1-(3-(4-フルオロフェノキシ)プロピル)-3-(4-クロロフェニル)グアニジン(化合物G、本明細書において「CT-110」または「CT-189」とも呼ばれる);
その塩、溶媒和物またはN-オキシド、およびその任意の組み合わせ。
態様20: 化合物が、以下からなる群より選択される、態様18の方法:
1,3-ビス(3-(4-フルオロフェノキシ)プロピル)グアニジン(化合物E);
1-(3-(4-フルオロフェノキシ)プロピル)-3-(4-メチル-2-オキソ-2H-クロメン-7-イル)グアニジン(化合物H);
その塩、溶媒和物またはN-オキシド、およびその任意の組み合わせ。
態様21: 化合物が、薬学的に許容される担体をさらに含む薬学的組成物として投与される、態様18~20のいずれかの方法。
態様22: 対象に、NAFDL、NASHおよび/またはHCCの1つを処置、予防および/または改善する少なくとも1つの追加の剤がさらに投与される、態様18~21のいずれかの方法。
態様23: 化合物が、経口、経鼻、直腸、膣内、非経口、頬、舌下または局所を含む経路によって投与される、態様18~22のいずれかの方法。
態様24: 対象が哺乳動物である、態様18~23のいずれかの方法。
態様26: 哺乳動物がヒトである、態様24の方法。
【図面の簡単な説明】
【0010】
本開示を例示する目的で、本開示のある種の態様が図面に描かれている。しかしながら、本開示は、図面に描かれた態様の正確な構成および手段に限定されない。
【0011】
図1A図1A~1Bは、いくつかの態様による、健常ヒト肝臓および非アルコール性脂肪(NAFL)肝臓におけるシグマR1転写産物発現パターンを例示する。図1A: 27臓器でのシグマR1 mRNA転写産物発現レベル(Fagerberg, Mol. Cell. Proteomics 2014; PMID: 24309898のデータ)。図1B: 健常ヒト肝臓および非アルコール性脂肪肝(NAFL)肝臓におけるシグマR1 mRNA転写発現レベル。散布図上の水平線は、Z-スコアの中央値を表す。
図1B図1Aの説明を参照のこと。
図2-1】図2A~2Eは、いくつかの態様によって、シグマR1ノックアウト(KO)マウスが食餌誘導性肝脂肪症から保護されることを実証している。図2A: 通常食(ND)または高脂肪食(HFD)を与えられた野生型(WT)マウスおよびシグマR1 KOマウスの脂肪症等級を描いている。通常食および高脂肪食の野生型マウスおよびシグマR1 KOマウスにおける脂質で構成される肝臓切片の面積(%面積)。図2B: ND v HFDを与えた野生型(WT)、シグマR1 KO (σ1(-/-)マウスの肝臓のヘマトキシリン・エオシン(H&E)染色画像を示す。14倍で撮影した画像, スケールバー = 200 um。図2C: 図2Aのマウスから計算された肝臓の脂肪症等級を描いている。図2D: 高脂肪食を与えたWTマウスおよびシグマR1 KO (σ1(-/-))マウスの肝臓の代表的な写真を示す。図2E: 高脂肪食を与えたWTマウスおよびシグマR1 KOマウスの肝臓のオイルレッド-O染色画像を示す。
図2-2】図2-1の説明を参照のこと。
図3-1】図3A~3Cは、いくつかの態様によって、高脂肪食が褐色脂肪組織(BAT)の白色化を誘導したことを実証している。高脂肪食(HFD)を8週間与えた野生型(WT)マウスおよびシグマR1 KOマウスのBATにおける脂質含量。図3A: 8週間のHFD後のWTおよびシグマR1 KO雄性マウスのH&E染色BATからの代表的な視野の画像を示す。14倍で撮影した画像, スケールバー = 200 um。図3B: H&E染色切片の脂質領域, 動物ごとに3視野, 群ごとにn=4の動物を描いている。ImageJを用いて定量化した。使用した統計分析、一元配置ANOVA Tukeyの事後検定、対比較の統計的有意性を示す。図3C: 平均脂肪滴(LD)サイズを平方ミクロン(μM2)単位で描いている。Aperioソフトウェアを用いて定量化した。使用した統計分析、一元配置ANOVA Tukeyの事後検定、対比較の統計的有意性を示す。
図3-2】図3-1の説明を参照のこと。
図4図4A~4Bは、いくつかの態様によって、レンチウイルスベクターを用いたシグマR1標的指向型shRNAの導入によるシグマ1 (σ1)ノックダウンが、脂肪滴(LD)蓄積を抑止するという知見を例示している。図4A: LDの形成および蓄積を誘導するためにジヒドロテストステロン(DHT)で72時間(72h)処理したLNCaP細胞の共焦点顕微鏡写真。非特異的対照shRNAをレンチウイルスベクターにおいてシグマR1転写産物選択的shRNAと比較した。σ1 shR #4 = MISSION/SigmaAldrichクローンTRCN0000061010; σ1 shR #5 = MISSION/SigmaAldrichクローンTRCN0000061008。白枠は、すぐ下に拡大して表示した領域を示します。LDがほぼ完全に排除されていることに留意されたい。図4B: レンチウイルスシグマ1 (σ1) shRNAによるシグマ1ノックダウンを確認する免疫ブロット。HCS-LipidTox蛍光染色でLDは赤色に染色されている。青色のDAPI染色核。
図5】いくつかの態様によって、薬理学的シグマ1調節因子/阻害因子1-(4-ヨードフェニル)-3-(2-アダマンチル)グアニジン(IPAG)が脂肪滴(LD)を排除するという知見を例示している。LDの形成および蓄積を誘導するために1 nMジヒドロテストステロン(DHT)で72時間(72h)処理したLNCaP細胞の共焦点顕微鏡写真。右端のパネルでは、72時間のDHT処理期間の最後の16時間、プロトタイプのシグマ1選択的低分子化合物IPAG (10 uM)でLNCaP細胞を処理した。HCS-LipidTox蛍光染色でLDは赤色に染色されている。青色のDAPI染色核。
図6図6A~6Cは、いくつかの態様によって、薬物様シグマ1阻害因子(「CT-189」および「化合物G」ともいわれるCT-110)が食餌誘導性肝脂肪症を予防することを実証している。図6A: 試験デザインのある種の局面を例示している。図6Aに示されるように、高脂肪食(HFD)を与えたマウスを、ベヒクルまたは新規の薬物様低分子シグマ1阻害因子CT-110のいずれかで、週3日経口で(PO)同時処置した。図6B: 図6Aにおけるマウスの肝臓のH&E染色画像を示す。図6C: ベヒクルまたはCT-110 (「CT-189」および「化合物G」ともいわれる)のいずれかで処置した高脂肪食(HFD)マウス由来の褐色脂肪組織(BAT)の画像を示す。8週間のHFD後のマウスのH&E染色BATからの代表的な画像。14倍で撮影した画像, スケールバー = 200 um。
図7】いくつかの態様によって、CT-189によるシグマ1阻害がHT-29 (ヒト結腸直腸腺がん細胞株)における主要な線維症関連の炎症促進性サイトカインのレベルを抑制するという知見を例示している。線維症関連の炎症促進性サイトカインは、可溶性IL-6、TNFαおよびIL-17を含み、これらはNAFLDから線維症を伴うNASHへの進行の寄与因子である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
詳細な説明
本明細書において記述される研究(「本研究」)は、1つの局面において、非アルコール性脂肪(NAFL)肝を有する人の肝臓においてシグマ1受容体の発現が有意に増加していることを開示する。非限定例としてシグマR1ノックアウトマウスを用いて、本研究は、シグマ1発現の除外が、高脂肪食(HFD)によって誘発される肝臓での脂肪症および褐色脂肪組織の白色化のレベルを実質的に低減することができることを発見した。非限定例としてshRNAを用いて、本研究では、シグマ1の発現レベルを低減させると、細胞におけるDHT誘導性の脂肪滴の形成および蓄積を低減させることができることを発見した。非限定例として低分子シグマ1阻害因子IPAG (1-(4-ヨードフェニル)-3-(2-アダマンチル)グアニジン)を用いて、本研究では、シグマ1受容体の薬学的阻害が細胞におけるDHT誘導性の脂肪滴の形成および蓄積を低減することができることを発見した。非限定例として低分子シグマ1阻害因子CT-110 (本明細書において「CT-189」または「化合物G」ともいわれる)を用いて、本研究では、マウスにおけるシグマ1受容体の薬学的阻害が、高脂肪食によって誘発される肝臓での脂肪症および褐色脂肪組織の白色化を低減することができることを発見した。さらに、本研究では、シグマ1受容体の薬学的阻害が、非アルコール性脂肪肝疾患の後に起こることが多い肝臓の線維症などの、線維症に関連する炎症促進性サイトカインの発現レベルを低減することができることを発見した。
【0013】
本開示は、1つの局面において、肝臓におけるシグマ1受容体(シグマ1としても知られる)の薬理学的および/または遺伝学的(すなわち、遺伝子治療)調節が、非アルコール性脂肪肝疾患(NAFLD)の処置および/もしくは予防、ならびに/または脂肪肝から線維症を伴う非アルコール性脂肪性肝炎、そして肝細胞がん(HCC)への進行の予防および/もしくは改善に有用であるという知見に関する。さらに、本開示によれば、シグマ1は、そのような任意の状態および/または疾患の進行において有用な診断的、予後的、および/または薬力学的バイオマーカーとして作用することができる。
【0014】
本開示は、非アルコール性脂肪肝疾患(NAFLD)から非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)への進行における必要な因子としてのシグマ1の生理学的役割を確立し、NAFLからNASHへの進行における新規の標的およびバイオマーカーとしてのシグマ1を確立する。
【0015】
シグマ1 (遺伝子名SIGMAR1、同様にシグマ-1受容体、シグマ1R、および他のいくつかの名称としても知られる; PMID: 28744586, 28871306を参照のこと)は、ほとんどの細胞の分泌経路に豊富に存在する、新規なリガンド作動性の細胞内膜内在性タンパク質である。シグマ受容体は古典的なオピオイド受容体とは異なる。シグマ1は哺乳動物間で高度に保存されている(80%超のアミノ酸同一性)が、従来のいずれの受容体ファミリーまたは他の哺乳動物タンパク質とも有意な相同性を共有していない。クローニングされたシグマ1は、ERにおいて主に見られる26キロダルトンの膜内在性タンパク質であり、原形質膜、他のオルガネラ、および小胞体膜マイクロドメインへ移行することができる。シグマ1自体には既知の固有のシグナル伝達または酵素活性はなく、むしろその関連タンパク質の細胞内シグナル伝達および活性をアロステリックに調節する。したがって、シグマ1は細胞支持機構の成分のようである。シグマ1は、リソソームの不安定化および酸化ストレスによるリガンド誘導性の細胞死に関与しうる。
【0016】
シグマ1はいくつかの発がん性駆動体タンパク質と物理的に会合し、シグマ1はタンパク質間相互作用(PPI)を介して機能し、薬理学的に制御可能な方法でそれらの安定性、輸送および分解を調節する。シグマ1はまた、脂質およびタンパク質の恒常性を複数のレベルで調節し、腫瘍増殖に関連した脂質とタンパク質の合成、プロセッシングおよび品質管理の増加において重要な役割を果たしている。したがって、シグマ1を標的とすることで、1つの薬物標的を介して複数ノードの選択的調節が可能となる。シグマ1調節因子の分泌経路調節特性の結果は、それらを用いて免疫調節効果および抗炎症効果を引き出すことができることである。シグマ1は脂質代謝を調節しており、前立腺がん細胞が疾患進行および悪性腫瘍のために脂肪滴の蓄積と代謝を利用するには、完全なシグマ1が必要とされる。
【0017】
重要なことには、シグマ1は病態生理学的および生理学的状態において異なる形で関与する多機能な薬物標的である。本明細書において提供されるデータは、シグマR1/シグマ1がNAFLDにおいて重要な役割を果たしていることを示す。肝臓では明らかに高レベルのシグマR1転写産物が観察されるが、肝臓生理学および病態生理学におけるシグマR1/シグマ1の役割は未定義のままである。シグマR1転写産物レベルは、健常な肝臓と比較してNAFLおよび線維症NASH肝臓において上昇し、興味深いことに、肝硬変肝臓では急激に低下する(図1A~1B)。これは、NAFLDがNASHからHCCに進行するにつれて、シグマ1の役割が変化することを示している。高脂肪食(HFD)は、シグマR1 KOマウスにおいて肝脂肪症を誘発せず(図2A~2C)、シグマ1がNAFLの発症に必要であることを示唆している。さらに、シグマ1阻害は、NASHへのNAFLDの進行の明らかな寄与因子である可溶性IL-6、TNFαおよびIL-17を含めて重要な線維症関連の炎症促進性サイトカインのレベルを抑制する。
【0018】
ある種の態様において、シグマ1は、高脂肪西洋食(HFWD)誘導性のNAFLならびにNASHおよびHCCへの進行に必要である。したがって、シグマ1阻害は肝臓保護的であることができ、肝脂肪症および脂肪性肝炎に関連する炎症ならびに肝硬変およびHCCへの進行を予防することによってNASHへのNAFLDの進行を予防または遅延することができる。
【0019】
ある種の態様において、高脂肪西洋食(HFWD)を与えたシグマR1ノックアウト(KO)マウスにおけるNAFLからNASH、そしてHCCへの進行は、野生型(WT)マウスと比較して特徴付けられる。本研究では、HFWD+CCl4を与えてある完全シグマR1ノックアウト(KO) C57BL/6マウスモデル(Tsuchida, et al., 2018, J. Hepatol. 69:385-395)を用いて、疾患進行の主要なバイオマーカーである脂肪症、炎症、肝細胞バルーニング、線維症、肝星細胞(HSC)活性化、血清肝酵素、インスリン抵抗性/耐糖能、および/またはHCC病変の形成を評価する。WT C57BL/6マウスにて、シグマR1転写産物およびシグマ1タンパク質レベルの状態、ならびに疾患進行の全段階での肝臓の免疫染色パターンをモニタリングする。
【0020】
ある種の態様において、脂肪症および線維症の予防および退縮におけるシグマ1標的薬物療法の影響が評価される。他の態様において、低分子シグマ1調節因子は、シグマR1 KOマウスの肝保護効果の主要な側面を表現型模写する。その後、疾患進行のどの段階でシグマ1薬物療法が効果的でありうるかを判定することができる。シグマ1薬物療法を用いて、脂肪症、炎症および/または線維症を予防できるかどうかを判定することができる。これは、シグマ1薬物療法が保護的であり、肝脂肪症および線維症を予防し、および/または肝脂肪症の発症後および線維症の発症後の回復を促進および加速できることを証明するのに役立つ。
【0021】
本開示は、本開示内で企図される任意の化合物、ならびにそれを含む組成物を含み、ここで該組成物は少なくとも1つの追加の治療剤および/または少なくとも1つの薬学的に許容される担体を任意でさらに含んでもよい。
【0022】
ある種の態様において、本開示内で企図される化合物は、シグマ受容体に結合し、シグマ受容体を調節するように、当技術分野において公知の化合物よりも改善された薬物様特性を有する。もう1つの態様において、本開示内で企図される化合物は、血液脳関門を通過しない。さらにもう1つの態様において、本開示内で企図される化合物は血液脳関門を通過する。
【0023】
本開示内で企図される化合物は、薬理学的、細胞的、生化学的、インビボ、薬物動態学的、または薬力学的特性によって特徴付けることができる。特性研究の選択された例としては、シグマ1-リガンド結合特性、シグナル伝達経路の分析および/または特徴付け、シグマリガンド処理に応じたシグマ1タンパク質会合のプロテオーム分析、腫瘍、脳応答、ならびに毒性が挙げられるが、これらに限定されることはない。
【0024】
WO 2014/015157およびUS 2015/0166472の開示全体は、参照によりその全体が本明細書に組み入れられる。
【0025】
定義
特に定義されないかぎり、本明細書において用いられる全ての技術的および科学的用語は、本開示が属する当業者によって一般に理解されるものと同じ意味を有する。本明細書において記述されるものと類似または等価の任意の方法および材料を、本開示の実践または試験において使用することができるが、好ましい方法および材料を記述する。
【0026】
本明細書において用いられる場合、以下の用語の各々は、本項においてそれに関連する意味を有する。
【0027】
「1つの(a)」および「1つの(an)」という冠詞は、本明細書において冠詞の文法上の対象の1つまたは2つ以上(すなわち、少なくとも1つ)をいうために用いられる。例として、「要素(an element)」は1つの要素または2つ以上の要素を意味する。
【0028】
本明細書において用いられる「約」は、量、持続時間などのような測定可能な値をいう場合、指定の値から±20%または±10%、より好ましくは±5%、さらにより好ましくは±1%、さらにより好ましくは±0.1%の変動を、開示される方法を実施するのにそのような変動が適切である場合、包含することが意図される。
【0029】
「異常な」という用語は、生物、組織、細胞またはその成分の文脈において用いられる場合、少なくとも1つの観察可能または検出可能な特徴(例えば、年齢、処置、時刻など)が「正常な」(予想される)それぞれの特徴を示す生物、組織、細胞またはその成分とは異なる生物、組織、細胞またはその成分をいう。1つの細胞または組織型で正常な、または予想される特徴は、異なる細胞または組織型では異常でありうる。
【0030】
「疾患」は、動物がホメオスタシスを維持することができず、疾患が改善されなければ、動物の健康が悪化し続ける、動物の健康の状態である。
【0031】
対照的に、動物の「障害」は、動物がホメオスタシスを維持することはできるが、動物の健康状態が障害のない場合よりも望ましくない、健康の状態である。未処置のままにしても、障害は必ずしも動物の健康状態のさらなる低下を引き起こすことはない。
【0032】
疾患または障害は、疾患または障害の症状の重症度、そのような症状を患者が経験する頻度、または両方が低減すれば、「緩和」または「改善」される。
【0033】
本明細書において用いられる場合、「シグマ」という用語は、シグマ1受容体(シグマ1)、シグマ2受容体(シグマ2)、その任意のスプライス変種またはその任意のアイソフォームをいう。シグマ1の標準型はSEQ ID NO:1のアミノ酸配列を有する。2~8番目のアミノ酸は当該タンパク質を小胞体関連脂肪滴へと標的指向させ、99~106番目のアミノ酸はリガンド結合に重要であり、177~223番目のアミノ酸はC末端の疎水性領域に相当することに留意すべきである。
【0034】
本明細書において用いられる場合、「シグマ受容体調節因子」は、シグマ受容体に結合し、調節因子の非存在下での受容体の活性または生物学的機能と比較して、受容体の活性または生物学的機能を調節する化合物である。ある種の態様において、調節因子は受容体を活性化することができ、したがって、結合していない受容体のベースライン活性よりも増強された生物学的応答を引き起こしうる。ある種の態様において、調節因子は、受容体を完全に活性化せず、したがって、完全な調節因子のものと比較して大きさが小さい生物学的応答を引き起こしうる。ある種の態様において、調節因子は受容体に結合するが、受容体を活性化せず、その結果、受容体遮断を引き起こし、他の調節因子の結合を阻害しうる。そのような調節因子は、調節因子の非存在下でのベースライン細胞内応答を減弱しない。ある種の態様において、調節因子は、推定上のアンタゴニスト、アゴニストとして、またはその構成的活性を阻害することによって受容体の活性を低減する逆アゴニストとして機能しうる。
【0035】
本明細書において用いられる場合、「シグマ1i」という用語は、シグマ受容体調節因子をいう。「シグマ1i」 = シグマ1阻害因子。「シグマ1a」 = シグマ1活性化因子。シグマ1調節因子 = シグマ1に結合し/親和性を有し、活性を誘発する任意の化合物。
【0036】
「患者」、「対象」、「個体」などの用語は、本明細書において互換的に用いられ、インビトロまたはインサイチューのいずれかにかかわらず、本明細書において記述される方法に適用できる、任意の動物、またはその細胞をいう。非限定的な態様において、患者、対象または個体はヒトである。
【0037】
「治療的」処置は、病態の徴候を減弱または除去する目的のために、それらの徴候を示す対象に投与される処置である。
【0038】
本明細書において用いられる「処置」または「処置すること」という用語は、本明細書において企図される状態および/または本明細書において企図される状態の症状を治癒する、癒す、緩和する、軽減する、変更する、矯正する、改善する、改良する、または影響することを目的として、本明細書において企図される状態および/または本明細書において企図される状態の症状を有する患者への、治療薬、すなわち、本開示の化合物(単独または別の薬学的物質との組み合わせで)の適用もしくは投与、または患者から単離した組織もしくは細胞株への治療薬の適用もしくは投与(例えば、診断またはエクスビボ投与のため)と定義される。そのような処置は、薬理ゲノミクスの分野から得た知識に基づいて、特に適応または改変されてもよい。
【0039】
「CRISPR/Cas」または「クラスタ化され、規則的に間隔があいた短い回文構造の繰り返し」または「CRISPR」という用語は、ウイルスまたはプラスミドへの以前の曝露に由来する短いスペーサーDNAセグメントに先立つ短い塩基配列の繰り返しを含んだDNA遺伝子座をいう。細菌および古細菌は、短いRNAを用いて外来核酸の分解を指令するCRISPR/CRISPR関連(Cas)システムと称される適応免疫防御を進化させてきた。細菌では、CRISPRシステムは、RNA誘導性のDNA切断を介して、侵入してくる外来DNAに対する獲得免疫を提供する。
【0040】
本明細書において用いられる場合、「組成物」または「薬学的組成物」という用語は、本開示の範囲内で有用な少なくとも1つの化合物と薬学的に許容される担体との混合物をいう。薬学的組成物は、化合物の患者または対象への投与を容易にする。当技術分野において、静脈内、経口、エアロゾル、非経口、眼、肺および局所投与を含むが、これらに限定されることはない、化合物を投与する複数の技法が存在する。
【0041】
本明細書において用いられる場合、「有効量」、「薬学的有効量」および「治療的有効量」という用語は、所望の生物学的結果を提供するための剤の、非毒性であるが、十分な量を意味する。その結果は、疾患の徴候、症状、もしくは原因の低減および/もしくは緩和、または生物学的システムの任意の他の所望の変更でありうる。任意の個々の症例における適切な治療的量は、当業者が日常的実験を用いて決定してもよい。
【0042】
送達ベヒクルの「有効量」は、化合物を有効に結合または送達するのに十分な量である。
【0043】
本明細書において用いられる場合、「有効性」という用語は、アッセイの範囲内で達成される最大効果(Emax)をいう。
【0044】
本明細書において用いられる場合、「ハロペリドール」という用語は、4-[4-(4-クロロフェニル)-4-ヒドロキシ-1-ピペリジル]-1-(4-フルオロフェニル)-ブタン-1-オン、またはその塩もしくは溶媒和物をいう。
【0045】
本明細書において用いられる場合、「薬学的に許容される」という用語は、化合物の生物学的活性または特性を抑制せず、相対的に非毒性である、担体または希釈剤などの材料をいい、すなわち、材料は、望ましくない生物学的効果を引き起こす、またはそれが含まれる組成物の任意の成分と有害な様式で相互作用することなく、個体に投与されうる。
【0046】
本明細書において用いられる場合、「薬学的に許容される担体」という用語は、本開示の範囲内で有用な化合物を、それがその意図される機能を実施しうるように、患者の範囲内または患者に運ぶ、または輸送することに関与する、液体または固体の充填剤、安定化剤、分散化剤、懸濁化剤、希釈剤、賦形剤、増粘剤、溶媒またはカプセル化材料などの、薬学的に許容される材料、組成物または担体を意味する。典型的には、そのような作成物を、体の1つの器官、または一部から、体の別の器官、または一部に運ぶ、または輸送する。各担体は、本開示の範囲内で有用で、患者に対して有害ではない、化合物を含む、製剤の他の成分と適合性であるという意味で「許容され」なければならない。薬学的に許容される担体として役立ちうる材料のいくつかの例には下記が含まれる: 乳糖、ブドウ糖およびショ糖などの糖類; トウモロコシデンプンおよびジャガイモデンプンなどのデンプン; セルロース、ならびにカルボキシメチルセルロースナトリウム、エチルセルロースおよび酢酸セルロースなどの、その誘導体; トラガカント末; 麦芽; ゼラチン; タルク; カカオ脂および坐剤ワックスなどの賦形剤; 落花生油、綿実油、紅花油、ゴマ油、オリーブ油、トウモロコシ油およびダイズ油などの油; プロピレングリコールなどのグリコール; グリセリン、ソルビトール、マンニトールおよびポリエチレングリコールなどのポリオール; オレイン酸エチルおよびラウリン酸エチルなどのエステル; 寒天; 水酸化マグネシウムおよび水酸化アルミニウムなどの緩衝化剤; 界面活性剤; アルギン酸; 発熱原物質を含まない水; 等張食塩水; リンゲル液; エチルアルコール; リン酸緩衝液; ならびに薬学的製剤において用いられる他の非毒性、適合性物質。本明細書において用いられる場合、「薬学的に許容される担体」には、本開示の範囲内で有用な化合物の活性と適合性であり、患者に対して生理学的に許容される、任意のおよび全てのコーティング、抗菌および抗真菌剤、ならびに吸収遅延剤なども含まれる。補助的活性化合物を組成物に組み込んでもよい。「薬学的に許容される担体」には、本開示の範囲内で有用な化合物の薬学的に許容される塩もさらに含まれうる。本開示の実践において用いられる薬学的組成物に含まれてもよい、他の追加の成分は、当技術分野において公知で、例えば、Remington's Pharmaceutical Sciences (Genaro, Ed., Mack Publishing Co., 1985, Easton, PA)に記述されており、これは参照により本明細書に組み入れられる。
【0047】
本明細書において用いられる場合、「薬学的に許容される塩」という語句は、無機酸、有機酸、溶媒和物、水和物、またはその包接化合物を含む、薬学的に許容される非毒性酸から調製された、投与化合物の塩をいう。そのような無機酸の例は、塩酸、臭化水素酸、ヨウ化水素酸、硝酸、硫酸、リン酸、酢酸、ヘキサフルオロリン酸、クエン酸、グルコン酸、安息香酸、プロピオン酸、酪酸、スルホサリチル酸、マレイン酸、ラウリン酸、リンゴ酸、フマル酸、コハク酸、酒石酸、アムソン酸、パモ酸、p-トルエンスルホン酸、およびメシル酸である。適切な有機酸は、例えば、有機酸の脂肪族、芳香族、カルボン酸およびスルホン酸クラスから選択されてもよく、その例はギ酸、酢酸、プロピオン酸、コハク酸、カンファースルホン酸、クエン酸、フマル酸、グルコン酸、イセチオン酸、乳酸、リンゴ酸、粘液酸、酒石酸、パラトルエンスルホン酸、グリコール酸、グルクロン酸、マレイン酸、フロン酸、グルタミン酸、安息香酸、アントラニル酸、サリチル酸、フェニル酢酸、マンデル酸、エンボン(パモ)酸、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、パントテン酸、ベンゼンスルホン酸(ベシラート)、ステアリン酸、スルファニル酸、アルギン酸、ガラクツロン酸などである。さらに、薬学的に許容される塩は、非限定例として、アルカリ土類金属塩(例えば、カルシウムまたはマグネシウム)、アルカリ金属塩(例えば、ナトリウム依存性またはカルシウム)、およびアンモニウム塩を含む。
【0048】
本明細書において用いられる場合、「効力」という用語は、最大応答の半分を生じるのに必要な用量(ED50)をいう。
【0049】
本明細書において用いられる場合、「アルキル」という用語は、それ自体または別の置換基の一部として、特に記載がないかぎり、明示された数の炭素原子(すなわち、C1~6は1~6個の炭素原子を意味する)を有し、直鎖、分枝鎖、または環式置換基を含む、直鎖または分枝鎖炭化水素を意味する。例としては、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、tert-ブチル、ペンチル、ネオペンチル、ヘキシル、およびシクロプロピルメチルが挙げられる。最も好ましいのは(C1~C6)アルキル、特にエチル、メチル、イソプロピル、イソブチル、n-ペンチル、n-ヘキシルおよびシクロプロピルメチルである。
【0050】
本明細書において用いられる場合、「置換アルキル」という用語は、ハロゲン、-OH、アルコキシ、-NH2、-N(CH3)2、-C(=O)OH、トリフルオロメチル、-C≡N、-C(=O)O(C1-C4)アルキル、-C(=O)NH2、-SO2NH2、-C(=NH)NH2、および-NO2からなる群より選択される1、2または3つの置換基で置換され、好ましくはハロゲン、-OH、アルコキシ、-NH2、トリフルオロメチル、-N(CH3)2、および-C(=O)OHから選択され、より好ましくはハロゲン、アルコキシおよび-OHから選択される1または2つの置換基を含む、上で定義するアルキルを意味する。置換アルキルの例としては、2,2-ジフルオロプロピル、2-カルボキシシクロペンチルおよび3-クロロプロピルが挙げられるが、これらに限定されることはない。
【0051】
本明細書において用いられる場合、「ヘテロアルキル」という用語は、それ自体または別の用語との組み合わせで、特に記載がないかぎり、示された数の炭素原子ならびにO、N、およびSからなる群より選択される1または2個のヘテロ原子からなる、安定な直鎖または分枝鎖アルキル基を意味し、ここで窒素および硫黄原子は任意に酸化されていてもよく、かつ窒素原子は任意に四級化されていてもよい。ヘテロ原子は、ヘテロアルキル基の残りとそれが結合している断片との間、ならびにヘテロアルキル基の最も末端の炭素原子への結合を含む、ヘテロアルキル基の任意の位置に配置されてもよい。例としては、-OCH2CH2CH3、-CH2CH2CH2OH、-CH2CH2NHCH3、-CH2SCH2CH3および-CH2CH2S(=O)CH3が挙げられる。例えば、-CH2NHOCH3または-CH2CH2SSCH3のように、最大2個までのヘテロ原子が連続してもよい。
【0052】
本明細書において用いられる場合、「アルコキシ」という用語は、単独または他の用語との組み合わせで用いられ、特に記載がないかぎり、例えば、メトキシ、エトキシ、1-プロポキシ、2-プロポキシ(イソプロポキシ)ならびにより高級の相同体および異性体などの、分子の残りに酸素原子を介して連結された、上の定義のとおりの、明示された数の炭素原子を有するアルキル基を意味する。好ましいのは(C1~C3)アルコキシ、特にエトキシおよびメトキシである。
【0053】
本明細書において用いられる場合、「ハロ」または「ハロゲン」という用語は、単独または別の置換基の一部として、特に記載がないかぎり、フッ素、塩素、臭素、またはヨウ素原子、好ましくはフッ素、塩素、または臭素、より好ましくはフッ素または塩素を意味する。
【0054】
本明細書において用いられる場合、「シクロアルキル」という用語は、単環式または多環式、非芳香族基をいい、ここで環を形成する原子(すなわち、骨格原子)はそれぞれ炭素原子である。ある種の態様において、シクロアルキル基は飽和または部分不飽和である。もう1つの態様において、シクロアルキル基は芳香環と縮合している。シクロアルキル基には、3~10個の環原子を有する基が含まれる。シクロアルキル基の実例としては、以下の部分
が挙げられるが、これらに限定されることはない。
【0055】
単環式シクロアルキルには、シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシル、シクロヘプチル、およびシクロオクチルが含まれるが、これらに限定されることはない。二環式シクロアルキルには、テトラヒドロナフチル、インダニル、およびテトラヒドロペンタレンが含まれるが、これらに限定されることはない。多環式シクロアルキルには、アダマンタンおよびノルボルナンが含まれる。シクロアルキルという用語は、「不飽和非芳香族カルボシクリル」または「非芳香族不飽和カルボシクリル」基を含み、これらはいずれも少なくとも1つの炭素炭素二重結合または1つの炭素炭素三重結合を含む、本明細書において定義される非芳香族炭素環をいう。
【0056】
本明細書において用いられる場合、「ヘテロシクロアルキル」または「ヘテロシクリル」という用語は、それぞれO、SおよびNから選択される1~4個の環ヘテロ原子を含む、ヘテロ脂環式基をいう。ある種の態様において、前記基の環が2個の隣接するOまたはS原子を含まないとの条件で、各ヘテロシクロアルキル基はその環系に4~10個の原子を有する。もう1つの態様において、ヘテロシクロアルキル基は芳香環と縮合している。ある種の態様において、窒素および硫黄ヘテロ原子は任意に酸化されていてもよく、かつ窒素原子は任意に四級化されていてもよい。複素環系は、特に記載がないかぎり、安定な構造を提供する任意のヘテロ原子または炭素原子で結合してもよい。複素環は本質的に芳香族または非芳香族であってもよい。ある種の態様において、複素環はヘテロアリールである。
【0057】
3員ヘテロシクロアルキル基の例としては、アジリジンが挙げられるが、これに限定されることはない。4員ヘテロシクロアルキル基の例としては、アゼチジンおよびベータラクタムが挙げられるが、これらに限定されることはない。5員ヘテロシクロアルキル基の例としては、ピロリジン、オキサゾリジンおよびチアゾリジンジオンが挙げられるが、これらに限定されることはない。6員ヘテロシクロアルキル基の例としては、ピペリジン、モルホリンおよびピペラジンが挙げられるが、これらに限定されることはない。ヘテロシクロアルキル基の他の非限定例は
である。
【0058】
非芳香族複素環の例としては、アジリジン、オキシラン、チイラン、アゼチジン、オキセタン、チエタン、ピロリジン、ピロリン、ピラゾリジン、イミダゾリン、ジオキソラン、スルホラン、2,3-ジヒドロフラン、2,5-ジヒドロフラン、テトラヒドロフラン、チオファン、ピペリジン、1,2,3,6-テトラヒドロピリジン、1,4-ジヒドロピリジン、ピペラジン、モルホリン、チオモルホリン、ピラン、2,3-ジヒドロピラン、テトラヒドロピラン、1,4-ジオキサン、1,3-ジオキサン、ホモピペラジン、ホモピペリジン、1,3-ジオキセパン、4,7-ジヒドロ-1,3-ジオキセピン、およびヘキサメチレンオキシドなどの単環式基が挙げられる。
【0059】
本明細書において用いられる場合、「芳香族」という用語は、1つまたは複数の多価不飽和環を有し、かつ芳香族特性を有する、すなわち、(4n+2)非局在化π(パイ)電子を有する、炭素環または複素環をいい、ここでnは整数である。
【0060】
本明細書において用いられる場合、「アリール」という用語は、単独または他の用語との組み合わせで用いられ、特に記載がないかぎり、1つまたは複数の環(典型的には、1、2または3つの環)を含む炭素環式芳香族系を意味し、ここでそのような環は、ビフェニルのように、ぶら下がった様式で一緒に結合していてもよく、またはナフタレンのように、縮合していてもよい。アリール基の例としては、フェニル、アントラシル、およびナフチルが挙げられる。好ましい例はフェニルおよびナフチルで、最も好ましいのはフェニルである。
【0061】
本明細書において用いられる場合、「アリール-(C1~C3)アルキル」という用語は、1~3炭素アルキレン鎖がアリール基に結合している官能基、例えば、-CH2CH2-フェニルを意味する。好ましいのはアリール-CH2-およびアリール-CH(CH3)-である。「置換アリール-(C1~C3)アルキル」という用語は、アリール基が置換されているアリール-(C1~C3)アルキル官能基を意味する。好ましいのは置換アリール(CH2)-である。同様に、「ヘテロアリール-(C1~C3)アルキル」という用語は、1~3炭素アルキレン鎖がヘテロアリール基に結合している官能基、例えば、-CH2CH2-ピリジルを意味する。好ましいのはヘテロアリール-(CH2)-である。「置換ヘテロアリール-(C1~C3)アルキル」という用語は、ヘテロアリール基が置換されているヘテロアリール-(C1~C3)アルキル官能基を意味する。好ましいのは置換ヘテロアリール-(CH2)-である。
【0062】
本明細書において用いられる場合、「ヘテロアリール」または「ヘテロ芳香族」という用語は、芳香族特性を有する複素環をいう。多環式ヘテロアリールは、部分飽和である1つまたは複数の環を含んでもよい。例としては以下の部分
が挙げられる。
【0063】
ヘテロアリール基の例としては、ピリジル、ピラジニル、ピリミジニル(特に2-および4-ピリミジニル)、ピリダジニル、チエニル、フリル、ピロリル(特に2-ピロリル)、イミダゾリル、チアゾリル、オキサゾリル、ピラゾリル(特に3-および5-ピラゾリル)、イソチアゾリル、1,2,3-トリアゾリル、1,2,4-トリゾリル、1,3,4-トリアゾリル、テトラゾリル、1,2,3-チアジアゾリル、1,2,3-オキサジアゾリル、1,3,4-チアジアゾリルおよび1,3,4-オキサジアゾリルも挙げられる。
【0064】
多環式複素環およびヘテロアリールの例としては、インドリル(特に3-、4-、5-、6-および7-インドリル)、インドリニル、キノリル、テトラヒドロキノリル、イソキノリル(特に1-および5-イソキノリル)、1,2,3,4-テトラヒドロイソキノリル、シンノリニル、キノキサリニル(特に2-およい5-キノキサリニル)、キナゾリニル、フタラジニル、1,8-ナフチリジニル、1,4-ベンゾジオキサニル、クマリン、ジヒドロクマリン、1,5-ナフチリジニル、ベンゾフリル(特に3-、4-、5-、6-および7-ベンゾフリル)、2,3-ジヒドロベンゾフリル、1,2-ベンズイソキサゾリル、ベンゾチエニル(特に3-、4-、5-、6-、および7-ベンゾチエニル)、ベンゾキサゾリル、ベンゾチアゾリル(特に2-ベンゾチアゾリルおよび5-ベンゾチアゾリル)、プリニル、ベンズイミダゾリル(特に2-ベンズイミダゾリル)、ベンゾトリアゾリル、チオキサンチニル、カルバゾリル、カルボリニル、アクリジニル、ピロリジジニル、およびキノリジジニルが挙げられる。
【0065】
本明細書において用いられる場合、「置換」という用語は、原子または原子群が別の基に結合された置換基として水素に取って代わることを意味する。「置換」という用語は、そのような置換が許容される、任意のレベルの置換、すなわち、一、二、三、四、または五置換をさらにいう。置換基は独立に選択され、置換は任意の化学的に可能な位置でありうる。ある種の態様において、置換基の数は1~4の間で変動する。もう1つの態様において、置換基の数は1~3の間で変動する。さらにもう1つの態様において、置換基の数は1~2の間で変動する。
【0066】
本明細書において用いられる場合、「置換されていてもよい」という用語は、言及される基が置換されていてもよく、または無置換でもよいことを意味する。ある種の態様において、言及される基はゼロの置換基で置換されていてもよく、すなわち、言及される基は無置換である。もう1つの態様において、言及される基は、本明細書に記述の基から個々に、かつ独立に選択される1つまたは複数の追加の基で置換されていてもよい。
【0067】
ある種の態様において、置換基はオキソ、ハロゲン、-CN、-NH2、-OH、-NH(CH3)、-N(CH3)2、アルキル(直鎖、分枝および/または不飽和アルキルを含む)、置換または無置換シクロアルキル、置換または無置換ヘテロシクロアルキル、フルオロアルキル、置換または無置換ヘテロアルキル、置換または無置換アルコキシ、フルオロアルコキシ、-S-アルキル、S(=O)2アルキル、-C(=O)NH[置換もしくは無置換アルキル、または置換もしくは無置換フェニル]、-C(=O)N[Hまたはアルキル]2、-OC(=O)N[置換または無置換アルキル]2、-NHC(=O)NH[置換もしくは無置換アルキル、または置換もしくは無置換フェニル]、-NHC(=O)アルキル、-N[置換または無置換アルキル]C(=O)[置換または無置換アルキル]、-NHC(=O)[置換または無置換アルキル]、-C(OH)[置換または無置換アルキル]2、および-C(NH2)[置換または無置換アルキル]2からなる群より独立に選択される。もう1つの態様において、例として、任意の置換基はオキソ、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素、-CN、-NH2、-OH、-NH(CH3)、-N(CH3)2、-CH3、-CH2CH3、-CH(CH3)2、-CF3、-CH2CF3、-OCH3、-OCH2CH3、-OCH(CH3)2、-OCF3、-OCH2CF3、-S(=O)2-CH3、-C(=O)NH2、-C(=O)-NHCH3、-NHC(=O)NHCH3、-C(=O)CH3、および-C(=O)OHから選択される。さらに1つの態様において、置換基はC1~6アルキル、-OH、C1~6アルコキシ、ハロ、アミノ、アセトアミド、オキソおよびニトロからなる群より独立に選択される。さらにもう1つの態様において、置換基はC1~6アルキル、C1~6アルコキシ、ハロ、アセトアミド、およびニトロからなる群より独立に選択される。本明細書において用いられる場合、置換基がアルキルまたはアルコキシ基である場合、炭素鎖は分枝、直鎖または環式であってもよいが、直鎖が好ましい。
【0068】
範囲: 本開示の全体を通して、本開示のさまざまな局面を範囲形式で示すことができる。範囲形式での記述は単に便宜および簡潔のためであることが理解されるべきで、本開示の範囲に対する柔軟性のない限定と解釈されるべきではない。したがって、範囲の記述は全ての可能な部分範囲ならびにその範囲内の個々の数値を具体的に開示していると考えられるべきである。例えば、1~6などの範囲の記述は、1~3、1~4、1~5、2~4、2~6、3~6などの部分範囲、ならびにその範囲内の個々の数、例えば、1、2、2.7、3、4、5、5.3、および6を具体的に開示していると考えられるべきである。これは範囲の広さに関係なく適用される。
【0069】
化合物
本開示内で企図される化合物は、有機合成の技術分野において周知の技法を用いて合成されてもよい。合成に必要な出発原料および中間体は、商業的供給源から入手されてもよく、または当業者には公知の方法にしたがって合成されてもよい。
【0070】
1つの局面において、本開示内で企図される化合物は式(I)の化合物、またはその塩、溶媒和物、もしくはN-オキシドである:
式中:
環Aは単環式もしくは二環式アリール環または単環式もしくは二環式ヘテロアリール環であり、ここでアリール環またはヘテロアリール環は0~4つのR1基で置換されていてもよく;
R1のそれぞれは-C1~C6アルキル、-C1~C6フルオロアルキル、-C1~C6ヘテロアルキル、F、Cl、Br、I、-CN、-NO2、-OR3、-SR3、-S(=O)R3、-S(=O)2R3、-NHS(=O)2R3、-C(=O)R3、-OC(=O)R3、-CO2R3、-OCO2R3、-CH(R3)2、-N(R3)2、-C(=O)N(R3)2、-OC(=O)N(R3)2、-NHC(=O)NH(R3)、-NHC(=O)R3、-NHC(=O)OR3、-C(OH)(R3)2、および-C(NH2)(R3)2からなる群より独立に選択され;
R2のそれぞれはH、C1~C6アルキル、C1~C6ヘテロアルキル、および-C1~C3アルキル-(C3~C6シクロアルキル)からなる群より独立に選択され、ここでアルキル、ヘテロアルキルもしくはシクロアルキル基は0~5つのR1基で置換されていてもよく、またはX3およびR2は一緒に、0~2つのR1基で置換されていてもよい(C3~C7)ヘテロシクロアルキル基を形成し;
R3のそれぞれはH、C1~C6アルキル、C1~C6ヘテロアルキル、アリール、および-C1~C3アルキル-(C3~C6シクロアルキル)からなる群より独立に選択され、ここでアルキル、ヘテロアルキル、アリール、またはシクロアルキル基は0~5つのR1基で置換されていてもよく;
X1は-CH2-、-S-、-O-または-(NR2)-であり;
X2は=CH2、=S、=Oまたは=NR2であり; かつ
X3は-S-、-O-、または-NR2-である。
【0071】
ある種の態様において、環Aは、0~4つのR1基で置換されていてもよい単環式アリール環または単環式ヘテロアリール環である。もう1つの態様において、環Aは無置換である。さらにもう1つの態様において、環Aはフェニルまたは置換フェニルである。
【0072】
好ましい態様において、X1およびX3はいずれも-NH-であり、かつX2は=NHである。
【0073】
もう1つの局面において、本開示内で企図される化合物は式(II)の化合物、またはその塩、溶媒和物、もしくはN-オキシドである:
RA-RB (II)
式中、
RA
からなる群より選択され; ここで
X4はメトキシ、F、Cl、Br、およびIからなる群より選択され; かつ
RBは:
からなる群より選択される。
【0074】
もう1つの局面において、本開示内で企図される化合物は式(III)の化合物、またはその塩、溶媒和物、もしくはN-オキシドである:
式中:
R1およびR2のそれぞれは-C1~C6アルキル、-C1~C6フルオロアルキル、-C1~C6ヘテロアルキル、F、Cl、Br、I、-CN、-NO2、-OR5、-SR5、-S(=O)R5、-S(=O)2R5、-NHS(=O)2R5、-C(=O)R5、-OC(=O)R5、-CO2R5、-OCO2R5、-CH(R5)2、-N(R5)2、-C(=O)N(R5)2、-OC(=O)N(R5)2、-NHC(=O)NH(R5)、-NHC(=O)R5、-NHC(=O)OR5、-C(OH)(R5)2、および-C(NH2)(R5)2からなる群より独立に選択され;
R3は-C1~C6アルキル、-C1~C6フルオロアルキル、-C1~C6アルコキシ、F、Cl、Br、およびIからなる群より選択され;
R4は-C1~C6アルキル、-C1~C6アルコキシ、F、Cl、Br、およびIからなる群より選択され;
R5のそれぞれはH、C1~C6アルキル、C1~C6ヘテロアルキル、アリール、および-C1~C3アルキル-(C3~C6シクロアルキル)からなる群より独立に選択され、ここでアルキル、ヘテロアルキル、アリール、またはシクロアルキル基は置換されていてもよく;
XはCH2、C=O、またはOからなる群より選択され;
nは1~3の整数であり;
xは0~4の整数であり; かつ
yは0~4の整数である。
【0075】
ある種の態様において、本開示内で企図される化合物は下記からなる群より選択される:
1-(3-(4-フルオロフェノキシ)プロピル)-3-(4-ヨードフェニル)グアニジン(化合物A;JMS-51-58または51-58としても公知);
1-(3-(4-フルオロフェノキシ)プロピル)-3-(4-メトキシフェニル)グアニジン(化合物B);
1-(n-プロピル)-3-(4-ヨードフェニル)グアニジン(化合物C);
1-(n-プロピル)-3-(4-メトキシフェニル)グアニジン(化合物D);
1,3-ビス(3-(4-フルオロフェノキシ)プロピル)グアニジン(化合物E);
1-(3-(4-フルオロフェノキシ)プロピル)-3-(4-トリフルオロメチルフェニル)グアニジン(化合物F);
1-(3-(4-フルオロフェノキシ)プロピル)-3-(4-クロロフェニル)グアニジン(化合物G、本明細書においてCT-189またはCT-110ともいわれる);
1-(3-(4-フルオロフェノキシ)プロピル)-3-(4-メチル-2-オキソ-2H-クロメン-7-イル)グアニジン(化合物H);
その塩、溶媒和物またはN-オキシド; およびその任意の組み合わせ。
【0076】
いくつかの局面において、本開示内で企図される化合物は、1-(4-ヨードフェニル)-3-(2-アダマンチル)グアニジン(IPAG)を含む。
【0077】
化合物の調製
本開示内で企図される化合物は、当業者には公知の合成法を用い、本明細書において記述される一般スキームによって調製されてもよい。以下の例は本開示の非限定的な態様を例示する。
【0078】
非限定的な態様において、非対称のN,N'-二置換グアニジンの合成を、アリールシアナミドおよびアミンをカップリングすることにより達成する。ある種の態様において、カップリング反応は80℃~250℃の範囲の高温で起こる。アニリンをエーテル中、臭化シアンによりアリールシアナミドに変換してもよい。次いで、非対称のN,N'-二置換グアニジンを、アリールシアナミドをアミンとカップリングすることによって生成する。カップリング法の非限定例としては、アセトニトリル中、還流温度で加熱すること、およびマイクロ波中、120℃で加熱することが挙げられる。
【0079】
もう1つの非限定的な態様において、非対称のN,N'-二置換グアニジンを、ベンズイミドチオアートおよびアミンをカップリングすることにより合成してもよい。例えば、アニリンをイソチオシアン酸カリウムと反応させてチオ尿素を得てもよい。次いで、チオ尿素を還流温度まで加熱したアセトン中、ヨウ化メチルで処理して、所望のベンズイミドチオアートを得てもよい。次いで、非対称のN,N'-二置換グアニジンを、ベンズイミドチオアートをアミンとカップリングすることによって生成してもよい。カップリング法の非限定例としては、エタノール中、還流温度で加熱することが挙げられる。
【0080】
本開示の化合物は、1つまたは複数の立体中心を有していてもよく、各立体中心は独立にRまたはS立体配置のいずれかで存在してもよい。ある種の態様において、本明細書において記述される化合物は光学活性体またはラセミ体で存在する。本明細書において記述される化合物は、本明細書において記述される治療上有用な特性を有する、ラセミ体、光学活性体、位置異性体および立体異性体、またはその組み合わせを含むことが理解されるべきである。光学活性体の調製は、非限定例として、ラセミ体の再結晶技法による分割、光学活性出発原料からの合成、またはキラル固定相を用いてのクロマトグラフィ分離を含む、任意の適当な様式で達成される。ある種の態様において、1つまたは複数の異性体の混合物を本明細書において記述される治療化合物として用いる。もう1つの態様において、本明細書において記述される化合物は1つまたは複数のキラル中心を含む。これらの化合物を、立体選択的合成、エナンチオ選択的合成ならびに/または鏡像異性体および/もしくはジアステレオ異性体の混合物の分離を含む、任意の手段によって調製する。化合物およびその異性体の分割は、非限定例として、化学的方法、酵素的方法、分別結晶、蒸留、およびクロマトグラフィを含む、任意の手段によって達成される。
【0081】
本明細書において記述される方法および製剤は、本開示の任意の化合物の構造を有する化合物のN-オキシド(適切な場合)、結晶型(多形としても公知)、溶媒和物、アモルファス相、および/または薬学的に許容される塩、ならびに同じ型の活性を有するこれらの化合物の代謝物および活性代謝物の使用を含む。溶媒和物には水、エーテル(例えば、テトラヒドロフラン、メチルtert-ブチルエーテル)またはアルコール(例えば、エタノール)溶媒和物、酢酸塩などが含まれる。ある種の態様において、本明細書において記述される化合物は、水およびエタノールなどの薬学的に許容される溶媒による溶媒和型で存在する。もう1つの態様において、本明細書において記述される化合物は非溶媒和型で存在する。
【0082】
ある種の態様において、本開示の化合物は互変異性体で存在してもよい。全ての互変異性体は、本明細書において提示される化合物の範囲内に含まれる。
【0083】
ある種の態様において、本明細書において記述される化合物をプロドラッグとして調製する。「プロドラッグ」とは、インビボで親薬物に変換される作用物質をいう。ある種の態様において、インビボ投与後に、プロドラッグは化合物の生物学的、薬学的または治療的活性型に化学的に変換される。もう1つの態様において、プロドラッグは、1つまたは複数の段階または過程によって化合物の生物学的、薬学的または治療的活性型に酵素的に代謝される。
【0084】
ある種の態様において、例えば、本開示の化合物の芳香環部分上の部位はさまざまな代謝反応に対して感受性である。芳香環構造上に適切な置換基を組み込むことで、この代謝経路を低減、最小化、または除去してもよい。ある種の態様において、芳香環の代謝反応に対する感受性を低下または除去するための適切な置換基は、例でしかないが、重水素、ハロゲン、またはアルキル基である。
【0085】
本明細書において記述される化合物には、1つまたは複数の原子が、同じ原子番号を有するが、天然に通常見られる原子質量または質量数とは異なる原子質量または質量数を有する原子で置き換えられている、同位体標識化合物も含まれる。本明細書において記述される化合物への包含に適した同位体の例としては、2H、3H、11C、13C、14C、36Cl、18F、123I、125I、13N、15N、15O、17O、18O、32P、および35Sが挙げられるが、これらに限定されることはない。ある種の態様において、同位体標識化合物は薬物および/または基質組織分布試験において有用である。もう1つの態様において、重水素などのより重い同位体による置換は、より大きい代謝安定性(例えば、インビボ半減期の延長または必要な用量の低減)を提供する。さらにもう1つの態様において、11C、18F、15Oおよび13Nなどのポジトロン放出同位体による置換は、基質受容体占有を調べるためのポジトロン放出断層撮影(PET)試験において有用である。同位体標識化合物は、適切な同位体標識試薬を、そうでなければ使用する非標識試薬の代わりに用い、任意の適当な方法またはプロセスによって調製する。
【0086】
ある種の態様において、本明細書において記述される化合物を、発色団もしくは蛍光部分、生物発光標識、または化学発光標識の使用を含むが、これらに限定されない、他の手段によって標識する。
【0087】
本明細書において記述される化合物、および異なる置換基を有する他の関連化合物を、本明細書に記述の、および、例えば、以下に記述するとおりの、技術および材料を用いて合成する: Fieser & Fieser's Reagents for Organic Synthesis, Volumes 1-17 (John Wiley and Sons, 1991); Rodd's Chemistry of Carbon Compounds, Volumes 1-5 and Supplementals (Elsevier Science Publishers, 1989); Organic Reactions, Volumes 1-40 (John Wiley and Sons, 1991)、Larock's Comprehensive Organic Transformations (VCH Publishers Inc., 1989)、March, Advanced Organic Chemistry 4th Ed., (Wiley 1992); Carey & Sundberg, Advanced Organic Chemistry 4th Ed., Vols. A and B (Plenum 2000,2001)、およびGreen & Wuts, Protective Groups in Organic Synthesis 3rd Ed., (Wiley 1999) (これらは全てそのような開示のために参照により本明細書に組み入れられる)。本明細書において記述される化合物の調製の一般法を、本明細書において提供する式に見られるさまざまな部分を導入するために、適切な試薬および条件の使用によって改変する。
【0088】
本明細書において記述される化合物を、商業的供給源から入手可能であるか、または本明細書において記述される手順を用いて調製される化合物から出発し、任意の適当な手段を用いて合成する。
【0089】
ある種の態様において、ヒドロキシル、アミノ、イミノ、チオまたはカルボキシ基などの、反応性官能基を、反応におけるそれらの有害な関与を避けるために保護する。保護基を用いて、反応性部分のいくつか、または全てをブロックし、保護基を除去するまで、そのような基が化学反応に関与するのを防止する。もう1つの態様において、各保護基は異なる手段によって除去可能である。全く異なる反応条件下で切断される保護基は、区別しての除去の必要条件を満たす。
【0090】
ある種の態様において、保護基は酸、塩基、還元条件(例えば、水素化分解などの)、および/または酸化条件によって除去する。トリチル、ジメトキシトリチル、アセタールおよびt-ブチルジメチルシリルなどの基は酸に不安定で、水素化分解によって除去可能なCbz基および塩基に不安定なFmoc基で保護したアミノ基存在下のカルボキシおよびヒドロキシ反応性部分を保護するために用いる。t-ブチルカルバマートなどの酸に不安定な基、または酸および塩基の両方に安定であるが、加水分解で除去可能なカルバマートでブロックしたアミン存在下では、カルボン酸およびヒドロキシ反応性部分は、メチル、エチル、およびアセチルなどであるが、これらに限定されない、塩基に不安定な基でブロックする。
【0091】
ある種の態様において、カルボン酸およびヒドロキシ反応性基を、ベンジル基などの加水分解で除去可能な保護基でブロックし、その一方で酸と水素結合可能なアミン基を、Fmocなどの塩基に不安定な基でブロックする。カルボン酸反応性部分は、アルキルエステルへの変換を含む、本明細書において例示される単純なエステルへの変換によって保護するか、または2,4-ジメトキシベンジルなどの酸化により除去可能な保護基でブロックし、その一方で共存するアミノ基はフッ化物に不安定なシリルカルバマートでブロックする。
【0092】
アリルブロック基は安定で、後に金属またはパイ酸触媒によって除去されるため、酸および塩基保護基存在下で有用である。例えば、アリルブロックしたカルボン酸は、酸に不安定なt-ブチルカルバマートまたは塩基に不安定なアセタートアミン保護基存在下、パラジウム触媒反応で脱保護する。保護基のさらにもう1つの形は、化合物または中間体が結合する樹脂である。残基が樹脂に結合しているかぎり、官能基はブロックされ、反応しない。樹脂から遊離されれば、官能基は反応することが可能である。
【0093】
典型的には、ブロック/保護基は
から選択されうる。
【0094】
他の保護基、ならびに保護基の創製およびそれらの除去に適用可能な技法の詳細な記述は、Greene & Wuts, Protective Groups in Organic Synthesis, 3rd Ed., John Wiley & Sons, New York, NY, 1999、およびKocienski, Protective Groups, Thieme Verlag, New York, NY, 1994に記述されており、これらはそのような開示のために参照により本明細書に組み入れられる。
【0095】
核酸阻害因子/調節因子
ある種の態様において、シグマ1調節剤は単離された核酸を含む。他の態様において、調節因子は、シグマ1発現および/または活性を阻害するRNAi分子(siRNAおよび/またはshRNAおよび/またはmiRNAなどであるが、これらに限定されない)またはアンチセンス分子である。さらに他の態様において、核酸は、好ましくは核酸の発現を指令することができるようなプロモーター/調節配列を含む。したがって、本開示は、例えば、Sambrook et al. (2012, Molecular Cloning: A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Laboratory, New York)、およびAusubel et al. (1997, Current Protocols in Molecular Biology, John Wiley & Sons, New York)に記述されているものなどの、ならびに本明細書の他の箇所に記述されているような、細胞内での外来性DNAの同時発現を伴う、細胞内への外来性DNAの導入のための発現ベクターおよび方法を提供する。
【0096】
ある種の態様において、シグマ1は、シグマ1を不活性化および/または隔離することによって阻害することができる。したがって、シグマ1の活性の阻害は、トランスドミナントネガティブ変異体を用いることによって達成することができる。
【0097】
ある種の態様において、siRNAを用いてシグマ1のレベルを低下させる。RNA干渉(RNAi)は、多様な生物および細胞型への二本鎖RNA (dsRNA)の導入が相補的mRNAの分解を引き起こす現象である。細胞内では、Dicerとして知られるリボヌクレアーゼにより、長いdsRNAは21~25ヌクレオチドの短い低分子干渉RNA、またはsiRNAに切断される。siRNAはその後、タンパク質成分とともにRNA誘導サイレンシング複合体(RISC)に集合し、その過程で巻き戻される。活性化されたRISCは次に、siRNAアンチセンス鎖とmRNAとの塩基対形成相互作用によって、相補的な転写産物に結合する。結合したmRNAは切断され、mRNAの配列特異的分解が遺伝子サイレンシングを引き起こす。例えば、米国特許第6,506,559号; Fire et al., 1998, Nature 391(19):306-311; Timmons et al., 1998, Nature 395:854; Montgomery et al., 1998, TIG 14 (7):255-258; Engelke, Ed., RNA Interference (RNAi) Nuts & Bolts of RNAi Technology, DNA Press, Eagleville, PA (2003); およびHannon, Ed., RNAi A Guide to Gene Silencing, Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, NY (2003)を参照されたい。Soutschekら(2004, Nature 432:173-178)には、静脈内全身送達を補助するsiRNAへの化学修飾について記述されている。siRNAを最適化するには、全体のG/C含量、末端のC/T含量、Tmおよび3'突出部のヌクレオチド含量を考慮する必要がある。例えば、Schwartz et al., 2003, Cell, 115:199-208およびKhvorova et al., 2003, Cell 115:209-216を参照されたい。それゆえ、本開示には、RNAi技術を用いてシグマ1のレベルを低下させる方法も含まれる。
【0098】
ある種の態様において、本開示は、siRNAまたはアンチセンスポリヌクレオチドを含むベクターを提供する。他の態様において、siRNAまたはアンチセンスポリヌクレオチドは、シグマ1の発現を阻害する。所望のポリヌクレオチドのベクターへの組み込みおよびベクターの選択は、当技術分野において周知である。
【0099】
ある種の態様において、本明細書において記述される発現ベクターは、短鎖ヘアピンRNA (shRNA)阻害因子をコードする。shRNA阻害因子は当技術分野において周知であり、標的のmRNAに向けられ、それにより標的の発現を低下させる。ある種の態様において、コードされたshRNAは細胞により発現され、次いでsiRNAにプロセッシングされる。例えば、場合によっては、細胞はshRNAを切断してsiRNAを形成する天然酵素(例えば、ダイサー)を保有する。
【0100】
siRNA、shRNA、またはアンチセンスポリヌクレオチドは、本明細書の他の箇所に記述されているように、いくつかのタイプのベクターにクローニングすることができる。siRNAまたはアンチセンスポリヌクレオチドの発現の場合、各プロモーター中の少なくとも1つのモジュールがRNA合成の開始部位の位置を定めるように機能する。
【0101】
siRNA、shRNA、またはアンチセンスポリヌクレオチドの発現を評価するために、細胞に導入される発現ベクターは、ウイルスベクターを用いてトランスフェクションまたは感染させようとする細胞集団からの発現細胞の同定および選択を容易にするために、選択可能なマーカー遺伝子もしくはレポーター遺伝子のいずれか、またはその両方を含むこともできる。ある種の態様において、選択可能なマーカーはDNAの別個の部分に担持され、同時トランスフェクション手順において使用されてもよい。選択可能なマーカーとレポーター遺伝子の両方には、宿主細胞での発現を可能にする適切な調節配列が隣接していてもよい。有用な選択可能なマーカーは当技術分野において公知であり、例えば、ネオマイシン耐性などのような、抗生物質耐性遺伝子を含む。
【0102】
それゆえ、もう1つの局面において、本開示は、本開示のヌクレオチド配列または本開示の構築体を含む、ベクターに関する。ベクターの選択は、後にベクターが導入される宿主細胞に依るであろう。ある種の態様において、本開示のベクターは発現ベクターである。適当な宿主細胞は、多種多様な原核宿主細胞および真核宿主細胞を含む。ある種の態様において、発現ベクターは、ウイルスベクター、細菌ベクターおよび哺乳動物細胞ベクターからなる群より選択される。原核生物ベクターおよび/または真核生物ベクターに基づくシステムを、本開示と共に用いてポリヌクレオチド、またはその同族ポリペプチドを産生するために採用することができる。そのようなシステムの多くは市販されており、広く入手可能である。
【0103】
さらに、発現ベクターは、ウイルスベクターの形態で細胞に提供されてもよい。ウイルスベクター技術は当技術分野において周知であり、例えば、ウイルス学および分子生物学マニュアルに記述されている。ベクターとして有用なウイルスは、レトロウイルス、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス、ヘルペスウイルス、およびレンチウイルスを含むが、これらに限定されることはない。一般に、適当なベクターは、少なくとも1つの生物において機能する複製起点、プロモーター配列、便利な制限エンドヌクレアーゼ部位、および1つまたは複数の選択可能なマーカーを含む。(例えば、WO 01/96584; WO 01/29058; および米国特許第6,326,193号を参照のこと。
【0104】
ウイルスベクターは、アデノ随伴ウイルスのAAV1~AAV8ファミリーなどの、任意の適当なアデノ随伴ウイルス(AAV)であることができる。いくつかの態様において、ウイルスベクターは、ヒトに感染できるウイルスベクターである。所望の核酸配列は、AAV中の逆方向末端反復(ITR)間に挿入することができる。さまざまな態様において、ウイルスベクターはAAV8である。プロモーターは、チロキシン結合グロブリン(TBG)プロモーターであることができる。さまざまな態様において、プロモーターは、肝臓での所望の核酸発現を可能にするヒトプロモーター配列である。AAVは、キャプシドが1つのAAV血清型に由来し、ITRがもう1つのAAV血清型に由来する組み換えAAVであることができる。さまざまな態様において、AAVキャプシドは、AAV1、AAV2、AAV3、AAV4、AAV5、AAV6、AAV7およびAAV8キャプシドからなる群より選択される。さまざまな態様において、AAV中のITRは、AAV1、AAV2、AAV3、AAV4、AAV5、AAV6、AAV7およびAAV8 ITRからなる群より選択される少なくとも1つのITRである。さまざまな態様において、本開示は、所望の核酸発現配列と、対象に投与された場合に所望の核酸の全身発現の上昇を引き起こす少なくとも1つのプロモーター配列とを含むAAV8ウイルスベクター(組み換え型または非組み換え型)を企図する。いくつかの態様において、ウイルスベクターは、本明細書において記述される所望の核酸発現配列のいずれかを含む組み換え型または非組み換え型AAV2またはAAV5である。
【0105】
例示として、核酸配列が導入されるベクターは、細胞内に導入されるときに宿主細胞のゲノムに組み込まれるまたは組み込まれないプラスミドであることができる。本開示のヌクレオチド配列または本開示の遺伝子構築体を挿入できるベクターの例示的な非限定例としては、真核生物細胞での発現のためのテット・オン(tet-on)誘導性ベクターが挙げられる。
【0106】
ベクターは、当業者に公知の従来の方法によって得られてもよい(Sambrook et al., 2012)。ある種の態様において、ベクターは、動物細胞を形質転換するのに有用なベクターである。
【0107】
ある種の態様において、組み換え発現ベクターは、本明細書の他の箇所に記述される、本開示のペプチドまたはペプチド模倣阻害因子をコードする核酸分子も含んでもよい。
【0108】
プロモーターは、コードセグメントおよび/またはエクソンの上流に位置する5'非コード配列を単離することによって得ることができるように、遺伝子またはポリヌクレオチド配列にもともと付随したものであってよい。そのようなプロモーターは「内因性」ということができる。同様に、エンハンサーは、ポリヌクレオチド配列にもともと付随し、その配列の下流または上流のどちらかに位置したものであってよい。あるいは、コードポリヌクレオチドセグメントを組み換えプロモーターまたは異種プロモーターの制御下に位置付けることによって、ある種の利点が得られるものと考えられ、それらのプロモーターは、通常、その天然の環境にあるポリヌクレオチド配列に付随していないプロモーターをいう。同様に、組み換えエンハンサーまたは異種エンハンサーとは、通常、その天然の環境にあるポリヌクレオチド配列に付随していないエンハンサーをいう。そのようなプロモーターまたはエンハンサーには、他の遺伝子のプロモーターまたはエンハンサー、および任意の他の原核生物、ウイルスもしくは真核生物の細胞から単離されたプロモーターまたはエンハンサー、ならびに「天然に存在する」ことのないプロモーターまたはエンハンサー、すなわち異なる転写調節領域の異なる要素、および/または発現を変化させる変異を含むものが含まれてもよい。プロモーターおよびエンハンサーの核酸配列を合成により作製することに加えて、組み換えクローニングおよび/またはPCR(商標)を含む、核酸増幅技術を、本明細書において開示される組成物と併せて用い配列を作製してもよい(米国特許第4,683,202号、米国特許第5,928,906号)。さらに、ミトコンドリア、葉緑体などのような非核オルガネラ内の配列の転写および/または発現を指令する制御配列を、同様に利用できるものと企図される。
【0109】
発現用に選択された細胞型、オルガネラ、および生物においてDNAセグメントの発現を効率的に指令するプロモーターおよび/またはエンハンサーを利用することが重要であろう。分子生物学の当業者は一般に、タンパク質発現用のプロモーター、エンハンサーおよび細胞型の組み合わせの使用方法を承知している。利用されるプロモーターは、構成性、組織特異性、誘導性であってよく、ならびに/または組み換えタンパク質および/もしくはペプチドの大規模産生において有利であるような、導入されたDNAセグメントの高レベル発現を指令するのに適した条件の下で有用であってよい。プロモーターは異種性または内因性であってもよい。
【0110】
組み換え発現ベクターは、形質転換またはトランスフェクションされた宿主細胞の選択を容易にする選択可能なマーカー遺伝子を含んでもよい。適当な選択可能なマーカー遺伝子は、ある種の薬物に対する耐性を付与するG418およびハイグロマイシン、β-ガラクトシダーゼ、クロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ、ホタルルシフェラーゼ、または免疫グロブリンもしくはその部分、例えば免疫グロブリン、好ましくはIgGのFc部分などのタンパク質をコードする遺伝子である。選択可能なマーカーは、関心対象の核酸とは別のベクターに導入されてもよい。
【0111】
siRNAポリヌクレオチドの作製後、当業者は、siRNAポリヌクレオチドが、治療用化合物としてのsiRNAを改善するために修飾できるある種の特性を有することを理解するであろう。それゆえ、siRNAポリヌクレオチドは、ホスホロチオエート、または他の連結、メチルホスホネート、スルホン、サルフェート、ケチル、ホスホロジチオエート、ホスホルアミデート、ホスフェートエステルなどを含むように修飾することによって、分解に抵抗するようにさらにデザインされてもよい(例えば、Agrwal et al., 1987, Tetrahedron Lett. 28:3539-3542; Stec et al., 1985 Tetrahedron Lett. 26:2191-2194; Moody et al., 1989 Nucleic Acids Res. 12:4769-4782; Eckstein, 1989 Trends Biol. Sci. 14:97-100; Stein, In: Oligodeoxynucleotides. Antisense Inhibitors of Gene Expression, Cohen, ed., Macmillan Press, London, pp. 97-117 (1989)を参照のこと)。
【0112】
任意のポリヌクレオチドをさらに修飾して、インビボでの安定性を高めてもよい。可能な修飾は、5'および/もしくは3'末端での隣接配列の付加; 主鎖におけるホスホジエステル結合ではなく、ホスホロチオエートまたは2' O-メチル結合の使用; ならびに/またはイノシン、ケオシンおよびワイブトシンなどのような非伝統的塩基のほかに、アデニン、シチジン、グアニン、チミンおよびウリジンのアセチル修飾、メチル修飾、チオ修飾および他の修飾型の包含を含むが、これらに限定されることはない。
【0113】
ある種の態様において、プラスミドベクターによって発現されるアンチセンス核酸配列は、シグマ1タンパク質の発現を阻害するために用いられる。アンチセンス発現ベクターは、哺乳動物細胞または哺乳動物自体をトランスフェクションするために用いられ、それによってシグマ1の内因性発現の低減を引き起こす。
【0114】
遺伝子発現を阻害するためのアンチセンス分子およびその使用は、当技術分野において周知である(例えば、Cohen, 1989, In: Oligodeoxyribonucleotides, Antisense Inhibitors of Gene Expression, CRC Pressを参照のこと)。アンチセンス核酸は、その用語が本明細書の他の箇所で定義されるように、特定のmRNA分子の少なくとも一部分と相補的であるDNAまたはRNA分子である(Weintraub, 1990, Scientific American 262:40)。細胞内では、アンチセンス核酸は対応するmRNAとハイブリダイズし、二本鎖分子を形成して遺伝子の翻訳を阻害する。
【0115】
遺伝子の翻訳を阻害するためのアンチセンス法の使用は、当技術分野において公知であり、例えば、Marcus-Sakura (1988, Anal. Biochem. 172:289)に記述されている。そのようなアンチセンス分子は、Inoue, 1993, 米国特許第5,190,931号によって教示されているように、アンチセンス分子をコードするDNAを用いた遺伝子発現を介して細胞に提供されてもよい。
【0116】
あるいは、本開示のアンチセンス分子を合成により作製し、次いで細胞に提供してもよい。約10~約30ヌクレオチド、より好ましくは約15ヌクレオチドのアンチセンスオリゴマーが、容易に合成され標的細胞に導入されるので好ましい。本開示によって企図される合成アンチセンス分子は、未修飾のオリゴヌクレオチドと比較して生物学的活性が改善された、当技術分野において公知のオリゴヌクレオチド誘導体を含む(米国特許第5,023,243号参照)。
【0117】
ある種の態様において、シグマ1タンパク質の発現を阻害するためにリボザイムが用いられる。標的分子の発現を阻害するのに有用なリボザイムは、例えば、シグマ1をコードするmRNA配列に相補的な標的配列を基本リボザイム構造に組み込むことによってデザインされてもよい。シグマ1を標的とするリボザイムは、市販の試薬(Applied Biosystems, Inc., Foster City, CA)を用いて合成されてもよく、またはそれらをコードするDNAから遺伝的に発現されてもよい。
【0118】
CRISPR/Cas9
CRISPR/Cas9システムは、標的遺伝子の改変を誘導するための簡便かつ効率的なシステムである。Cas9タンパク質による標的認識は、ガイドRNA (gRNA)内の「シード」配列およびgRNA結合領域の上流にあるプロトスペーサー隣接モチーフ(PAM)配列を含む保存されたジヌクレオチドを要する。それにより、CRISPR/Cas9システムは、細胞株(293T細胞などの)、初代細胞およびCAR T細胞において、gRNAを再デザインすることにより、事実上あらゆるDNA配列を切断するように操作することができる。CRISPR/Cas9システムは、単一のCas9タンパク質と2つまたはそれ以上のgRNAを同時発現させることにより、複数のゲノム遺伝子座を同時に標的とすることができ、このシステムを複数の遺伝子編集または標的遺伝子の相乗的活性化に独自に適したものにしている。
【0119】
Cas9タンパク質およびガイドRNAは、標的配列を特定および切断する複合体を形成する。Cas9は、REC I、REC II、Bridge Helix、PAM interacting、HNHおよびRuvCの6つのドメインから構成される。RecIドメインはガイドRNAに結合し、Bridge helixは標的DNAに結合する。HNHおよびRuvCドメインはヌクレアーゼドメインである。ガイドRNAは、標的DNA配列と相補的な5'末端を有するように操作されている。ガイドRNAのCas9タンパク質への結合によって、立体構造変化が起こり、タンパク質を活性化する。活性化されると、Cas9はそのプロトスペーサー隣接モチーフ(PAM)配列と一致する配列に結合することによって標的DNAを探索する。PAMは、ガイドRNAに相補的な領域の下流1ヌクレオチド以内の2または3ヌクレオチド塩基配列である。1つの非限定例では、PAM配列は5'-NGG-3'である。Cas9タンパク質は、適切なPAMを有するその標的配列を見つけると、PAM上流の塩基を融解し、それらをガイドRNA上の相補的領域と対合する。次に、RuvCおよびHNHヌクレアーゼドメインが、PAM上流の3番目のヌクレオチド塩基以降の標的DNAを切断する。
【0120】
遺伝子発現を阻害するために用いられるCRISPR/Casシステムの1つの非限定例であるCRISPRiは、米国特許出願公開第US20140068797号に記述されている。CRISPRiは、RNA誘導型Cas9エンドヌクレアーゼを利用してDNA二本鎖切断を導入し、フレームシフト変異をもたらすエラーを起こしやすい修復経路を誘発する恒久的な遺伝子破壊を誘導する。触媒的に死んだCas9はエンドヌクレアーゼ活性を欠く。ガイドRNAと同時発現させると、転写伸長、RNAポリメラーゼ結合または転写因子結合を特異的に妨害するDNA認識複合体が生じる。このCRISPRiシステムは、標的遺伝子の発現を効率的に抑制する。
【0121】
CRISPR/Cas遺伝子破壊は、標的遺伝子に特異的なガイド核酸配列およびCasエンドヌクレアーゼが細胞内に導入され、Casエンドヌクレアーゼが標的遺伝子に二本鎖切断を導入することを可能にする複合体を形成する場合に行われる。ある種の態様において、CRISPR/Casシステムは、限定するものではないが、pAd5F35-CRISPRベクターなどの発現ベクターを含む。他の態様において、Cas発現ベクターは、Cas9エンドヌクレアーゼの発現を誘導する。T7、Cas3、Cas8a、Cas8b、Cas10d、Cse1、Csy1、Csn2、Cas4、Cas10、Csm2、Cmr5、Fok1、当技術分野において公知の他のヌクレアーゼ、およびそれらの任意の組み合わせを含むが、これらに限定されない、他のエンドヌクレアーゼが用いられてもよい。
【0122】
ある種の態様において、Cas発現ベクターを誘導することは、Cas発現ベクター中の誘導可能なプロモーターを活性化する剤に細胞を曝露することを含む。そのような態様において、Cas発現ベクターは、(例えば、テトラサイクリンまたはテトラサイクリンの誘導体、例えばドキシサイクリンによる)抗生物質への曝露によって誘導可能であるものなどの、誘導可能なプロモーターを含む。しかしながら、他の誘導可能なプロモーターを用いることができるものと理解されるべきである。誘導剤は、誘導可能なプロモーターの誘導をもたらす選択的条件(例えば、作用物質、例えば抗生物質への曝露)であることができる。これにより、Cas発現ベクターの発現がもたらされる。
【0123】
ある種の態様において、ガイドRNAおよびCas9は、リボ核タンパク質(RNP)複合体として細胞に送達することができる。RNPは、gRNAと複合体を形成した精製Cas9タンパク質から構成され、幹細胞および免疫細胞を含むがこれらに限定されない、複数のタイプの細胞に効率的に送達されることが当技術分野において周知である(Addgene, Cambridge, MA, Mirus Bio LLC, Madison, WI)。
【0124】
ガイドRNAは関心対象のゲノム領域に特異的であり、その領域をCasエンドヌクレアーゼ誘導性の二本鎖切断の標的とする。ガイドRNA配列の標的配列は、遺伝子の遺伝子座内またはゲノムの非コード領域内であってもよい。ある種の態様において、ガイド核酸配列は、少なくとも10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、30、31、32、33、34、35、36、37、38、39、40またはそれ以上のヌクレオチド長である。
【0125】
ガイドRNA (gRNA)は、「短鎖ガイドRNA」または「sgRNA」ともいわれ、Cas9ヌクレアーゼに標的指向特異性と足場/結合能力の両方を提供する。gRNAは、内因性細菌crRNAおよびtracrRNAに由来する標的指向配列および足場配列から構成される合成RNAであることができる。gRNAは、ゲノム操作実験においてCas9を特定のゲノム遺伝子座に標的指向させるために用いられる。ガイドRNAは、当技術分野において周知の標準的なツールを用いてデザインすることができる。
【0126】
CRISPR複合体の形成という文脈では、「標的配列」とは、ガイド配列がある程度の相補性を有するようにデザインされている配列をいい、ここで標的配列とガイド配列との間のハイブリダイゼーションがCRISPR複合体の形成を促進する。ハイブリダイゼーションを引き起こし、CRISPR複合体の形成を促進するのに十分な相補性があれば、完全な相補性は必ずしも必要とされない。標的配列は、DNAまたはRNAポリヌクレオチドなどの、任意のポリヌクレオチドを含んでもよい。ある種の態様において、標的配列は、細胞の核または細胞質に位置する。他の態様において、標的配列は、真核細胞のオルガネラ、例えば、ミトコンドリアまたは核内にあってもよい。典型的には、内因性CRISPRシステムという文脈では、CRISPR複合体(標的配列とハイブリダイズされ、1つまたは複数のCasタンパク質と複合体化されたガイド配列を含む)の形成により、標的配列内または標的配列近傍(例えば、約1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、20、50またはそれ以上の塩基対以内)の一方または両方の鎖の切断が引き起こされる。標的配列と同様に、機能するのに十分であれば、完全な相補性は必要とされないと考えられている。
【0127】
ある種の態様において、CRISPRシステムの要素の発現が1つまたは複数の標的部位でのCRISPR複合体の形成を指令するように、CRISPRシステムの1つまたは複数の要素の発現を駆動する1つまたは複数のベクターが宿主細胞に導入される。例えば、Cas酵素、tracr-mate配列に連結されたガイド配列、およびtracr配列をそれぞれ、別々のベクター上の別々の調節要素に機能的に連結することができる。あるいは、同じまたは異なる調節要素から発現される2つまたはそれ以上の要素を単一のベクター中で、最初のベクターに含まれないCRISPRシステムの任意の成分を提供する1つまたは複数の追加のベクターと組み合わせてもよい。単一のベクター中で組み合わされるCRISPRシステム要素は、1つの要素が第2の要素に対して5'側(第2の要素の「上流」)に位置する、または第2の要素に対して3'側(第2の要素の「下流」)に位置するなど、任意の適当な方向に配置されてもよい。1つの要素のコード配列は、第2の要素のコード配列と同じ鎖上または反対側の鎖上に位置し、同じ方向または反対方向に配向されてもよい。ある種の態様において、単一のプロモーターは、CRISPR酵素をコードする転写産物、ならびにガイド配列、tracr mate配列(ガイド配列に機能的に連結されていてもよい)および1つまたは複数のイントロン配列内に(例えば、各々が異なるイントロンに、2つもしくはそれ以上が少なくとも1つのイントロンに、または全てが単一のイントロンに)埋め込まれたtracr配列のうちの1つまたは複数の発現を駆動する。
【0128】
ある種の態様において、CRISPR酵素は、1つまたは複数の異種タンパク質ドメイン(例えば、CRISPR酵素に加えて、約1、2、3、4、5、6、7、8、9、10もしくはそれ以上のドメインまたは約1、2、3、4、5、6、7、8、9、10もしくはそれ以上超のドメイン)を含む融合タンパク質の一部である。CRISPR酵素融合タンパク質は、任意の追加のタンパク質配列、および任意で、任意の2つのドメイン間のリンカー配列を含んでもよい。CRISPR酵素に融合されうるタンパク質ドメインの例としては、非限定的に、エピトープタグ、レポーター遺伝子配列、ならびに以下の活性: メチラーゼ活性、デメチラーゼ活性、転写活性化活性、転写抑制活性、転写放出因子活性、ヒストン修飾活性、RNA切断活性および核酸結合活性の1つまたは複数を有するタンパク質ドメインが挙げられる。CRISPR酵素を含む融合タンパク質の一部を形成しうる追加のドメインは、参照により本明細書に組み入れられる米国特許出願公開第US20110059502号に記述されている。ある種の態様において、タグ化CRISPR酵素は、標的配列の位置を同定するために用いられる。
【0129】
従来のウイルスおよび非ウイルスに基づく遺伝子移入法を用いて、哺乳動物および非哺乳動物の細胞または標的組織に核酸を導入することができる。そのような方法を用いて、CRISPRシステムの成分をコードする核酸を培養細胞または宿主生物内の細胞に投与することができる。非ウイルスベクター送達システムは、DNAプラスミド、RNA (例えば、本明細書において記述されるベクターの転写産物)、裸の核酸、およびリポソームなどの送達ベヒクルと複合体化された核酸を含む。ウイルスベクター送達システムは、細胞への送達後にエピソームゲノムまたは統合ゲノムのいずれかを有するDNAウイルスおよびRNAウイルスを含む(Anderson, 1992, Science 256:808-813; およびYu, et al., 1994, Gene Therapy 1:13-26)。
【0130】
ある種の態様において、CRISPR/CasはII型CRISPR/Casシステムに由来する。他の態様において、CRISPR/CasシステムはCas9タンパク質に由来する。Cas9タンパク質は、化膿連鎖球菌(Streptococcus pyogenes)、高温性連鎖球菌(Streptococcus thermophilus)、または他の種由来であることができる。
【0131】
一般に、Casタンパク質は少なくとも1つのRNA認識ドメインおよび/またはRNA結合ドメインを含む。RNA認識ドメインおよび/またはRNA結合ドメインは、ガイドRNAと相互作用する。Casタンパク質は、ヌクレアーゼドメイン(すなわち、DNaseまたはRNaseドメイン)、DNA結合ドメイン、ヘリカーゼドメイン、RNAseドメイン、タンパク質-タンパク質相互作用ドメイン、二量体化ドメイン、および他のドメインを含むこともできる。Casタンパク質は、核酸結合親和性および/または特異性を増加させ、酵素活性を改変させ、および/またはタンパク質の別の特性を変化させるように修飾することができる。ある種の態様において、融合タンパク質のCas様タンパク質は、野生型Cas9タンパク質またはその断片に由来することができる。他の態様において、Casは修飾Cas9タンパク質に由来することができる。例えば、Cas9タンパク質のアミノ酸配列は、タンパク質の1つまたは複数の特性(例えば、ヌクレアーゼ活性、親和性、安定性など)を改変するように修飾することができる。あるいは、RNA誘導性の切断に関与しないCas9タンパク質のドメインは、修飾されたCas9タンパク質が野生型Cas9タンパク質よりも小さいように、タンパク質から除外することができる。一般に、Cas9タンパク質は、少なくとも2つのヌクレアーゼ(すなわち、DNase)ドメインを含む。例えば、Cas9タンパク質はRuvC様ヌクレアーゼドメインおよびHNH様ヌクレアーゼドメインを含むことができる。RuvCドメインおよびHNHドメインは協働して一本鎖を切断し、DNA中に二本鎖切断を生じる(Jinek, et al., 2012, Science, 337:816-821)。ある種の態様において、Cas9由来タンパク質は、1つの機能的ヌクレアーゼドメイン(RuvC様またはHNH様ヌクレアーゼドメインのいずれか)のみを含むように修飾することができる。例えば、Cas9由来タンパク質は、ヌクレアーゼドメインの1つがもはや機能しない(すなわち、ヌクレアーゼ活性がない)ように欠失または変異されるように修飾することができる。ヌクレアーゼドメインの1つが不活性であるいくつかの態様において、Cas9由来タンパク質は、二本鎖核酸にニックを導入することができる(そのようなタンパク質は「ニッカーゼ」と称される)が、二本鎖DNAを切断しない。上記の態様のいずれかにおいて、ヌクレアーゼドメインのいずれかまたは全てを、部位特異的突然変異誘発、PCR媒介突然変異誘発、および全遺伝子合成などの周知の方法、ならびに当技術分野において公知の他の方法を用いて、1つまたは複数の欠失突然変異、挿入突然変異、および/または置換突然変異によって不活性化することができる。
【0132】
1つの非限定的な態様において、ベクターはCRISPRシステムの発現を駆動する。当技術分野には、本開示において有用である適当なベクターが豊富にある。使用されるベクターは、真核細胞での複製および任意で、組み込みに適している。典型的なベクターは、所望の核酸配列の発現調節に有用な転写および翻訳終結因子、開始配列ならびにプロモーターを含む。本開示のベクターは、核酸標準遺伝子送達プロトコルに用いられてもよい。遺伝子送達のための方法は、当技術分野において公知である(参照によりその全体が本明細書に組み入れられる米国特許第5,399,346号、同第5,580,859号および同第5,589,466号)。
【0133】
さらに、ベクターは、ウイルスベクターの形態で細胞に提供されてもよい。ウイルスベクター技術は当技術分野において周知であり、例えば、Sambrook et al. (4th Edition, Molecular Cloning: A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Laboratory, New York, 2012)ならびに他のウイルス学および分子生物学マニュアルに記述されている。ベクターとして有用なウイルスは、レトロウイルス、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス、ヘルペスウイルス、シンドビスウイルス、ガンマレトロウイルスおよびレンチウイルスを含むが、これらに限定されることはない。一般に、適当なベクターは、少なくとも1つの生物において機能する複製起点、プロモーター配列、好都合な制限エンドヌクレアーゼ部位、および1つまたは複数の選択可能なマーカーを含む(例えば、WO 01/96584; WO 01/29058; および米国特許第6,326,193号)。
【0134】
方法
本開示は、細胞における脂肪滴(LD)の蓄積を処置、予防および/または改善する方法を含む。本開示はさらに、対象における脂肪性肝炎に関連する脂肪肝および/または炎症を処置、予防および/または改善する方法を含む。本開示は、対象における非アルコール性脂肪肝疾患(NAFLD)を処置、予防および/または改善する方法を含む。本開示は同様に、非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)へのNAFLDの進行を反転、緩徐化または予防する方法を含む。本開示は同様に、肝細胞がん(HCC)へのNASHの進行を反転、緩徐化または予防する方法を含む。本開示は同様に、NAFLDに罹患している対象がNASHに進行するリスクを判定および/または評価する方法を含む。本開示は同様に、NASHに罹患している対象がHCCに進行するリスクを判定および/または評価する方法を含む。
【0135】
ある種の態様において、本方法は、本開示内で企図される少なくとも1つの化合物および/または組成物の有効量を対象に投与する段階を含む。他の態様において、対象は、本明細書において企図される疾患および/または障害を処置または予防する少なくとも1つの追加の剤がさらに投与される。さらに他の態様において、本化合物および少なくとも1つの追加の剤は、対象に同時投与される。さらに他の態様において、本化合物および少なくとも1つの追加の剤は、同時製剤化される。
【0136】
ある種の態様において、対象は哺乳動物である。他の態様において、哺乳動物はヒトである。
【0137】
併用療法
本開示内で企図される化合物は、1つまたは複数の追加の化合物との組み合わせで有用であることが意図される。これらの追加の化合物は、本開示の化合物、ならびに/または本明細書において企図される1つもしくは複数の疾患もしくは障害を処置する、少なくとも1つの追加の抗ウイルス剤および/もしくは少なくとも1つの追加の剤を含んでもよい。
【0138】
相乗効果を、例えば、S字状-Emax式(Holford & Scheiner, 1981, Clin. Pharmacokinet. 6:429-453)、レーヴェ(Loewe)相加性(Loewe & Muischnek, 1926, Arch. Exp. Pathol Pharmacol. 114:313-326)および半数有効式(Chou & Talalay, 1984, Adv. Enzyme Regul. 22:27-55)などの適当な方法を用いて計算してもよい。上で言及した各式を実験データに適用して対応するグラフを作成し、薬物併用効果の評価を補助してもよい。上で言及した式に関連する対応するグラフは、それぞれ、濃度作用曲線、アイソボログラム曲線および併用指数曲線である。
【0139】
投与/用量/製剤
投与計画は有効量を構成するものに影響を及ぼしうる。本開示内で企図される治療製剤を対象に、本明細書において企図される疾患および/または障害の発症の前または後のいずれかに投与してもよい。さらに、いくつかの分割用量、ならびに交互の用量を1日1回もしくは逐次投与してもよく、または用量を持続的に注入してもよく、もしくはボーラス注射であってもよい。さらに、本開示内で企図される治療製剤の用量を、治療または予防の状況の緊急性によって指示されるとおり、比例的に増量または減量してもよい。
【0140】
本開示内で企図される組成物の患者、好ましくは哺乳動物、より好ましくはヒトへの投与は、公知の手順を用い、患者での本明細書において企図される疾患および/または障害を処置するのに有効な用量および期間で実施してもよい。治療効果を得るために必要な治療化合物の有効量は、患者での疾患または障害の状態; 患者の年齢、性別、および体重; ならびに患者での本明細書において企図される疾患および/または障害を処置するための本開示内で企図される治療化合物の能力などの因子に応じて変動しうる。投与計画は、最適な治療応答を提供するように調節してもよい。例えば、いくつかの分割用量を1日1回投与してもよく、または用量を、治療状況の緊急性によって指示されるとおり、比例的に減量してもよい。本開示内で企図される治療化合物の有効用量範囲の非限定例は、約1から5,000 mg/kg体重/日である。当業者であれば、関連する因子を試験し、過度の実験を行うことなく、治療化合物の有効量に関する決定を行うことができるであろう。
【0141】
本開示内で企図される薬学的組成物中の活性成分の実際の用量レベルは、患者に対して毒性ではなく、特定の患者、組成物、および投与様式に対する所望の治療応答を達成するのに有効な、活性成分の量を得るために変動してもよい。
【0142】
特に、選択する用量レベルは、利用される特定の化合物の活性、投与の時間、化合物の排出速度、処置の持続時間、他の薬物、化合物との組み合わせで用いる化合物または材料、処置中の患者の年齢、性別、体重、状態、全身の健康および過去の既往歴、ならびに医学の技術分野において周知の同様の因子を含む、種々の因子に依存する。
【0143】
当技術分野において通常の技術を有する医師、例えば、内科医または獣医師は、必要な薬学的組成物の有効量を容易に決定し、処方しうる。例えば、内科医または獣医師は、薬学的組成物において利用する本開示内で企図される化合物の用量を、所望の治療効果を達成するために必要とされるよりも低いレベルで開始し、所望の効果が達成されるまで徐々に用量を増やすこともできる。
【0144】
特定の態様において、投与を容易にし、用量を均一にするために、化合物を用量単位剤形で製剤化することが特に有利である。本明細書において用いられる用量単位剤形は、処置する患者の単位用量として適した、物理的に分離した単位をいい; 各単位は、必要な薬学的ベヒクルと共に所望の治療効果を生じるよう計算した、所定の量の治療化合物を含む。本開示内で企図される用量単位剤形は、(a) 治療化合物の独特の特徴および達成されるべき特定の治療効果、ならびに(b) 本明細書において企図される疾患および/または障害の処置のためにそのような治療化合物を配合/製剤化する技術分野に固有の制限によって指示され、それらに直接に依存する。
【0145】
ある種の態様において、本開示の組成物を、1つまたは複数の薬学的に許容される賦形剤または担体を用いて製剤化する。ある種の態様において、本開示の薬学的組成物は、治療的有効量の本開示の化合物および薬学的に許容される担体を含む。
【0146】
担体は、例えば、水、エタノール、ポリオール(例えば、グリセロール、プロピレングリコール、および液体ポリエチレングリコールなど)、その適当な混合物、および植物油を含む、溶媒または分散媒であってもよい。適切な流動性を、例えば、レシチンなどのコーティングの使用により、分散液の場合には、必要な粒径の維持により、および界面活性剤の使用により、維持してもよい。微生物の活動の予防を、さまざまな抗菌および抗真菌剤、例えば、パラベン、クロロブタノール、フェノール、アスコルビン酸、チメロサールなどによって達成してもよい。多くの場合、組成物中に等張剤、例えば、糖類、塩化ナトリウム、またはマンニトールおよびソルビトールなどのポリアルコールを含むことが好ましい。注射用組成物の長期吸収を、組成物中に吸収を遅らせる物質、例えば、モノステアリン酸アルミニウムまたはゼラチンを含むことによってもたらしてもよい。
【0147】
ある種の態様において、本開示の組成物を患者に、1日に1~5回またはそれ以上の範囲の用量で投与する。もう1つの態様において、本開示の組成物を患者に、1日に1回、2日に1回、3日に1回~1週間に1回、および2週間に1回を含むが、これらに限定されない、用量範囲で投与する。当業者には、本開示のさまざまな組み合わせ組成物の投与頻度は、年齢、処置する疾患または障害、性別、全般的健康、および他の因子を含むが、これらに限定されない、多くの因子に依存して、個体ごとに変動することが容易に明らかである。したがって、本開示は、任意の特定の投与計画に限定されると解釈されるべきではなく、任意の患者に投与される正確な用量および組成物は、主治医が患者に関する全ての他の因子を斟酌して決定する。
【0148】
投与のための本開示の化合物は、約1μg~約10,000 mg、約20μg~約9,500 mg、約40μg~約9,000 mg、約75μg~約8,500 mg、約150μg~約7,500 mg、約200μg~約7,000 mg、約3050μg~約6,000 mg、約500μg~約5,000 mg、約750μg~約4,000 mg、約1 mg~約3,000 mg、約10 mg~約2,500 mg、約20 mg~約2,000 mg、約25 mg~約1,500 mg、約30 mg~約1,000 mg、約40 mg~約900 mg、約50 mg~約800 mg、約60 mg~約750 mg、約70 mg~約600 mg、約80 mg~約500 mg、ならびにその間の任意および全ての全または部分的増分の範囲であってもよい。
【0149】
いくつかの態様において、本開示の化合物の用量は約1 mgから約2,500 mgである。いくつかの態様において、本明細書において記述される組成物において用いる本開示の化合物の用量は約10,000 mg未満、または約8,000 mg未満、または約6,000 mg未満、または約5,000 mg未満、または約3,000 mg未満、または約2,000 mg未満、または約1,000 mg未満、または約500 mg未満、または約200 mg未満、または約50 mg未満である。同様に、いくつかの態様において、本明細書において記述される第二の化合物の用量は約1,000 mg未満、または約800 mg未満、または約600 mg未満、または約500 mg未満、または約400 mg未満、または約300 mg未満、または約200 mg未満、または約100 mg未満、または約50 mg未満、または約40 mg未満、または約30 mg未満、または約25 mg未満、または約20 mg未満、または約15 mg未満、または約10 mg未満、または約5 mg未満、または約2 mg未満、または約1 mg未満、または約0.5 mg未満、ならびにその任意および全ての全または部分的増分である。
【0150】
ある種の態様において、本開示は、治療的有効量の本開示の化合物を、単独または第二の薬学的物質との組み合わせで保持する容器; および患者のシグマ受容体関連障害または疾患の1つまたは複数の症状を処置、予防、または低減するために化合物を使用する説明書を含む、包装された薬学的組成物を目的とする。
【0151】
製剤を通常の賦形剤、すなわち、当技術分野において公知の、経口、非経口、経鼻、静脈内、皮下、経腸、または任意の他の適当な投与様式に適した、薬学的に許容される有機または無機担体物質との混合物で用いてもよい。薬学的調製物は滅菌し、望まれる場合には、補助剤、例えば、滑沢剤、保存剤、安定化剤、湿潤剤、乳化剤、浸透圧に影響をおよぼすための塩、緩衝剤、着色、着香および/または芳香物質などと混合してもよい。これらは、望まれる場合には、他の活性物質、例えば、他の鎮痛剤と組み合わせてもよい。
【0152】
任意の本開示の組成物の投与経路には、経口、経鼻、直腸、腟内、非経口、口腔、舌下または局所が含まれる。本開示において用いるための化合物を、経口または非経口、例えば、経皮、経粘膜(例えば、舌下、舌、(経)口腔、(経)尿道、膣(例えば、経膣および膣周囲)、鼻(内)および(経)直腸)、膀胱内、肺内、十二指腸内、胃内、クモ膜下、皮下、筋肉内、皮内、動脈内、静脈内、気管支内、吸入、および局所投与などの、任意の適当な経路による投与のために製剤化してもよい。
【0153】
適当な組成物および剤形には、例えば、錠剤、カプセル剤、カプレット、丸剤、ゲルキャップ、トローチ、分散化剤、懸濁剤、液剤、シロップ剤、顆粒剤、ビーズ、経皮パッチ、ゲル、散剤、ペレット、マグマ剤、ロゼンジ、クリーム、ペースト剤、硬膏剤、ローション、ディスク、坐剤、経鼻または経口投与用の液体噴霧剤、吸入用のドライパウダーまたはエアロゾル製剤、膀胱内投与用の組成物および製剤などが含まれる。本開示において有用な製剤および組成物は、本明細書において記述される特定の製剤および組成物に限定されないことが理解されるべきである。
【0154】
経口投与
経口適用のために、特に適しているのは錠剤、糖衣錠、液剤、滴剤、坐剤、またはカプセル剤、カプレットおよびゲルキャップである。経口使用が意図される組成物を、当技術分野において公知の任意の方法に従って調製してもよく、そのような組成物は錠剤の製造に適した不活性、非毒性薬学的賦形剤からなる群より選択される1つまたは複数の物質を含んでもよい。そのような賦形剤には、例えば、乳糖などの不活性希釈剤; トウモロコシデンプンなどの造粒および崩壊剤; デンプンなどの結合剤; ならびにステアリン酸マグネシウムなどの滑沢剤が含まれる。錠剤はコーティングしていなくてもよく、またはエレガンスのため、もしくは活性成分の放出を遅らせるために、公知の技術によりコーティングしてもよい。経口使用のための製剤は、活性成分が不活性希釈剤と混合されている、ゼラチン硬カプセル剤として提供してもよい。
【0155】
経口投与のために、本開示の化合物は、結合剤(例えば、ポリビニルピロリドン、ヒドロキシプロピルセルロースまたはヒドロキシプロピルメチルセルロース); 充填剤(例えば、トウモロコシデンプン、乳糖、微結晶セルロースまたはリン酸カルシウム); 滑沢剤(例えば、ステアリン酸マグネシウム、タルク、またはシリカ); 崩壊剤(例えば、デンプングリコール酸ナトリウム); または湿潤剤(例えば、ラウリル硫酸ナトリウム)などの薬学的に許容される賦形剤と共に、通常の手段によって調製される錠剤またはカプセル剤の形であってもよい。望まれる場合、錠剤を適当な方法およびColorcon、West Point、Pa.から入手可能なOPADRY(商標)フィルムコーティングシステムなどのコーティング材料(例えば、OPADRY(商標)OY Type、OYC Type、Organic Enteric OY-P Type、Aqueous Enteric OY-A Type、OY-PM TypeおよびOPADRY(商標)White、32K18400)を用いてコーティングしてもよい。経口投与のための液体調製物は、液剤、シロップ剤または懸濁剤の形であってもよい。液体調製物は、懸濁化剤(例えば、ソルビトールシロップ、メチルセルロースまたは硬化食用油); 乳化剤(例えば、レシチンまたはアカシア); 非水性ベヒクル(例えば、アーモンド油、油性エステルまたはエチルアルコール); および保存剤(例えば、p-ヒドロキシ安息香酸メチルもしくはプロピルまたはソルビン酸)などの薬学的に許容される添加物と共に、通常の手段によって調製してもよい。
【0156】
本開示は、本開示の1つまたは複数の化合物の遅延放出を提供する層および別の医薬の即時放出を提供するさらなる層を含む、多層錠も含む。ワックス/pH感受性ポリマー混合物を用いて、その中に活性成分が捕捉されその遅延放出を確実にする胃不溶性組成物を得てもよい。
【0157】
非経口投与
非経口投与のために、本開示の化合物を注射もしくは注入、例えば、静脈内、筋肉内または皮下注射もしくは注入用、またはボーラス投与および/もしくは持続注入用に製剤化してもよい。任意に懸濁化剤、安定化剤および/または分散化剤などの他の製剤物質を含む、油性または水性ベヒクル中の懸濁剤、液剤または乳剤を用いてもよい。
【0158】
追加の投与形態
本開示の追加の剤形には、米国特許第6,340,475号; 同第6,488,962号; 同第6,451,808号; 同第5,972,389号; 同第5,582,837号; および同第5,007,790号に記述の剤形が含まれる。本開示の追加の剤形には、米国特許出願20030147952号; 同第20030104062号; 同第20030104053号; 同第20030044466号; 同第20030039688号; および同第20020051820号に記述の剤形も含まれる。本開示の追加の剤形には、PCT出願国際公開公報第03/35041号; 同第03/35040号; 同第03/35029号; 同第03/35177号; 同第03/35039号; 同第02/96404号; 同第02/32416号; 同第01/97783号; 同第01/56544号; 同第01/32217号; 同第98/55107号; 同第98/11879号; 同第97/47285号; 同第93/18755号; および同第90/11757号に記述の剤形も含まれる。
【0159】
制御放出製剤および薬物送達系
ある種の態様において、本開示の製剤は、短期、急速オフセット、ならびに制御、例えば、持続放出、遅延放出およびパルス放出製剤であってもよいが、これらに限定されることはない。
【0160】
持続放出という用語は、長期にわたって薬物の徐々の放出を提供し、かつ、必ずではないが、長期にわたって薬物の実質的に一定の血中レベルをもたらしうる、薬物製剤をいうために、その通常の意味で用いられる。期間は一ヶ月以上もの長さであってもよく、ボーラス型で投与された同じ量の剤よりも長い放出であるべきである。
【0161】
持続放出のために、化合物を、化合物に持続放出特性を提供する適切なポリマーまたは疎水性材料と共に製剤化してもよい。したがって、本開示の方法を用いるための化合物を、例えば、注射により微小粒子の形で、または埋め込みによりウェーハもしくはディスクの形で投与してもよい。
【0162】
本開示のある種の態様において、本開示の化合物を患者に、単独または別の薬学的物質との組み合わせで、持続放出製剤を用いて投与する。
【0163】
遅延放出という用語は、薬物投与に続くいくらかの遅延の後に薬物の最初の放出を提供し、かつそのマットは、必ずではないが、約10分から最大約12時間までの遅延を含む、薬物製剤をいうために、本明細書においてその通常の意味で用いられる。
【0164】
パルス放出という用語は、薬物投与後に薬物のパルス血漿プロファイルを生じるような様式で薬物の放出を提供する、薬物製剤をいうために、本明細書においてその通常の意味で用いられる。
【0165】
即時放出という用語は、薬物投与の直後に薬物の放出を提供する、薬物製剤をいうために、その通常の意味で用いられる。
【0166】
本明細書において用いられる場合、短期とは、薬物投与後の、最大約8時間、約7時間、約6時間、約5時間、約4時間、約3時間、約2時間、約1時間、約40分、約20分、または約10分まで、かつこれらを含む任意の期間、およびその任意または全ての全または部分的増分をいう。
【0167】
本明細書において用いられる場合、急速オフセットとは、薬物投与後の、最大約8時間、約7時間、約6時間、約5時間、約4時間、約3時間、約2時間、約1時間、約40分、約20分、または約10分まで、かつこれらを含む任意の期間、ならびにその任意および全ての全または部分的増分をいう。
【0168】
投与
本開示の化合物の治療的有効量または用量は、患者の年齢、性別および体重、患者の現在の医学的状態ならびに処置中の患者のシグマ受容体関連障害または疾患の進行に依存する。当業者であれば、これらおよび他の因子に依存して適切な用量を決定することができる。
【0169】
本開示の化合物の適当な用量は、約0.1 mg~約1,000 mgなどの、1日に約0.01 mg~約5,000 mg、例えば、1日に約5 mg~約250 mgなどの、約1 mg~約500 mgの範囲であってもよい。用量は1回の投与で、または複数回の投与、例えば、1日に1~4回またはそれ以上で投与してもよい。複数回投与を用いる場合、各投与の量は同じでも異なっていてもよい。例えば、1日に1 mgの用量を、2回の0.5 mg用量として、投与の間に約12時間の間隔をおいて投与してもよい。
【0170】
1日に投与する化合物の量を、非限定例において、毎日、1日おき、2日に1回、3日に1回、4日に1回、または5日に1回投与しうることが理解される。例えば、1日おきの投与で、1日に5 mgの用量を月曜日に開始し、続く最初の1日に5 mgの用量を水曜日に投与し、続く二回目の1日に5 mgの用量を金曜日に投与するなどしてもよい。
【0171】
患者の状態が改善している場合、医師の裁量により、本開示の調節因子の投与を任意に持続的に与えてもよく; あるいは、投与している薬物の用量を特定の期間一時的に低減する、または一時的に中止する(すなわち、「休薬」)。休薬の長さは、例でしかないが、2日、3日、4日、5日、6日、7日、10日、12日、15日、20日、28日、35日、50日、70日、100日、120日、150日、180日、200日、250日、280日、300日、320日、350日、または365日を含む、任意に2日から1年の間で変動する。休薬中の用量低減は、例でしかないが、10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、または100%を含む、10%~100%を含む。
【0172】
いったん患者の状態の改善が起これば、必要に応じて維持用量を投与する。続いて、投与の用量もしくは頻度、または両方を、改善された疾患が保持されるレベルまで、患者の状態に応じて低減する。ある種の態様において、患者は、症状および/または感染のいかなる再発後にも、長期ベースで間欠的処置を必要とする。
【0173】
本開示の方法において用いるための化合物は、単位剤形に製剤化してもよい。「単位剤形」という用語は、処置を受けている患者の単位用量として適切な、物理的に分離した単位をいい、各単位は、任意に適当な薬学的担体と共に、所望の治療効果を生じるよう計算した、所定の量の活性材料を含む。単位剤形は単一の1日用量、または複数の1日用量の1つ(例えば、1日に約1~4回またはそれ以上)であってもよい。複数の1日用量を用いる場合、単位剤形は各投与について同じでも異なっていてもよい。
【0174】
そのような治療計画の毒性および治療効果は、LD50 (集団の50%に対して致死的な用量)およびED50 (集団の50%で治療的に有効な用量)の測定を含むが、これらに限定されない、細胞培養物または実験動物で任意に測定されてもよい。毒性と治療効果との間の用量比が治療指数であり、これはLD50とED50との間の比で表される。高い治療指数を示すキャプシド集合調節因子が好ましい。細胞培養検定および動物試験から得られたデータを、ヒトで用いるためのさまざまな用量の製剤において任意に用いてもよい。そのようなキャプシド集合調節因子の用量は、好ましくは、毒性が最小限のED50を含む循環濃度の範囲内にある。用量は、採用する剤形および利用する投与経路に依存して、この範囲内で任意に変動してもよい。
【0175】
当業者であれば、日常的実験だけを用いて、本明細書において記述される具体的手順、態様、特許請求の範囲、および実施例に対する多くの等価物を理解するか、または確認することができる。そのような等価物は本開示の範囲内であると考えられ、本明細書に添付の特許請求の範囲に含まれる。例えば、アッセイおよび/または反応条件の、当技術分野において認められている代替物による、日常的実験だけを用いての改変は、本出願の範囲内であることが理解されるべきである。
【0176】
本明細書において値および範囲が提供される場合は常に、これらの値および範囲に含まれる全ての値および範囲は、本開示の範囲内に含まれることになることが理解されるべきである。さらに、これらの範囲内に入る全ての値、ならびに値の範囲の上限または下限も、本出願によって企図される。
【0177】
本明細書において記述される実施例は、本開示の局面をさらに例示する。しかしながら、これらは決して、本明細書において記載される本開示の教示または開示の限定ではない。
【0178】
本明細書において記述される実施例は、例示のために提供するにすぎず、特に記載がないかぎり、限定を意図するものではない。したがって、本開示は決して、本明細書において記述される実施例に限定されると解釈されるべきでなく、それよりも本明細書に提供する教示の結果明らかになる任意の、および全ての変種を包含すると解釈されるべきである。
【0179】
さらなる記述なしで、当業者は、本記述および例示的な実施例を用いて、本開示の化合物を作製および利用し、主張する方法を実践することができると考えられる。それゆえ、作業実施例は、本開示の選択された態様を具体的に示すものであり、本開示の残りの部分をいかなる意味においても限定するものと解釈されるべきではない。
【実施例
【0180】
実験的な実施例
以下の実施例を参照して本開示をこれから記述する。これらの実施例は例示のみを目的として提供されており、本開示はこれらの実施例に限定されるものではなく、本明細書において提供される教示の結果として明らかな全ての変形を包含する。
【0181】
これらの実験において利用された材料および方法を、これから記述する。
【0182】
実施例1: シグマR1 mRNAレベルの増加は非アルコール性脂肪肝と関連する
肝臓の生理学および病態生理学におけるシグマR1/シグマ1の役割は不明であった。しかしながら、本明細書において提示されたデータは、シグマR1/シグマ1が肝臓の代謝およびストレス応答において中心的な役割を果たしていることを証明している。シグマR1転写産物レベルは、他の臓器と比較して肝臓において顕著に2~9倍高い(図1A)。シグマR1転写産物レベルは、正常な健常肝臓と比較して線維症NASH肝臓では2倍超上昇している(図1B)。興味深いことに、線維症NASH肝臓が肝硬変およびHCCに進行するにつれて、シグマR1転写産物レベルは急激に減少する(図1B)。ある種の態様において、これはNAFLDがNASHからHCCに進行するにつれてシグマ1の役割が変化することを示している。
【0183】
シグマ1調節因子のオンターゲット作用は副作用(体重減少および行動異常を含む)を誘発せず、選択的シグマ1アンタゴニスト/阻害因子は動物実験において細胞毒性を示さない。実際、シグマR1ノックアウト(KO)マウスは生存能力があり、繁殖力があり、野生型マウスと明らかに異なる表現型を示さない(Langa, et al., 2003, Eur J Neurosci 18:2188-2196)ことから、シグマ1の阻害が正常組織に対してわずかな影響しか及ぼさないことが示唆される。したがって、シグマ1標的指向薬は単剤として安全かつ効果的に使用することができ、治療効果を補足または増強するためにも使用することができる。
【0184】
実施例2: シグマR1ノックアウトは高脂肪食誘導性の脂肪肝を防ぐ
ある種の態様において、高脂肪西洋食(HFWD)を与えたシグマR1ノックアウト(KO)マウスにおけるNAFLからNASH、そしてHCCへの進行を、野生型(WT)マウスと比較して特徴付けた。本研究では、HFWD+CCl4を与えた完全シグマR1ノックアウト(KO) C57BL/6マウスモデル(Tsuchida, et al., 2018, J Hepatol 69:385-395)を用いて、疾患進行の主要なバイオマーカーである脂肪症、炎症、肝細胞バルーニング、線維症、肝星細胞(HSC)活性化、血清肝酵素、インスリン抵抗性/耐糖能、およびHCC病変形成を評価する。WT C57BL/6マウスでは、シグマR1転写産物およびシグマ1タンパク質レベルの状態、ならびに疾患進行の全段階での肝臓の免疫染色パターンをモニタリングする。
【0185】
完全シグマR1ノックアウト(KO) C57BL/6マウスを作製した。C57BL/6マウスは、食餌誘導性肥満およびNAFLD研究用のマウス系統である。2歳齢の雄性野生型シグマR1およびシグマR1 KO C57BL/6マウスに、通常食(ND)または高脂肪食(HFD)のいずれかを8週間与え(図2A~2E)、その後に肝臓を採取し、体重、組織像および脂肪症について評価した。HFDで8週までに、WTマウスの肝臓の重量中央値は、シグマR1 KOマウス肝臓の場合の2.2グラムと比較して3.9グラムの重量中央値を有していた(図2A)。対照的に、通常食(ND)を与えたWTマウスおよびシグマR1 KOマウスの肝臓の重量は同等であった(図2A)。体重は、WTマウスおよびシグマR1 KOマウスともに約56グラムで同様であった。HFDを与えたWTマウスとシグマR1 KOマウスの肝臓は、大きさ、色および質感が目に見えて異なっていた(図2D)。ヘマトキシリン・エオシン(H&E)染色では、WTマウスの肝臓で免疫細胞の浸潤が増加した証拠と同様に、脂肪滴を示す大きな空隙を伴う、顕著に異なる組織構造が示された(図2B~2C)。中性脂質/脂肪滴の蓄積がオイルレッド-O (oil-Red-O)染色で確認され、HFDを与えたWTマウスの肝臓では中性脂質レベルの顕著な上昇を示していた(図2E)。
【0186】
哺乳動物では、白色脂肪組織(WAT)が脂質を貯蔵・放出するのに対し、褐色脂肪組織(BAT)は脂質を酸化して熱発生の燃料とする。肥満個体では、白色様の単房性細胞への褐色脂肪細胞の変換の結果としてBAT含量および活性が低下する。図3A~3Cに示されるように、野生型マウスでは、高脂肪食(HFD)は褐色脂肪組織(BAT)の白色化を誘導し(図3A)、これは総脂質面積の増加(図3B)と平均脂肪滴サイズの増加(図3C)の両方を伴う。シグマR1 KOは、HFDによって引き起こされる白色化(図3A)、脂質面積の増加(図3B)および脂肪滴サイズの増加(図3C)を大幅にレスキューした。
【0187】
実施例3: シグマ1発現の下方制御により細胞内での脂肪滴の蓄積が低減された
図4A~4Bを参照して、本研究では、シグマR1標的指向型shRNAを用いたシグマ1(σ1)発現の下方制御により細胞内での脂肪滴の蓄積が大幅に低減されることを発見した。レンチウイルスベクターを用いてshRNAを送達した。図4Bに示されるように、2つのshRNA、つまりshRNA #4 (σ1 shR #4 = MISSION/SigmaAldrichクローンTRCN0000061010;)およびshRNA #5 (σ1 shR #5 = MISSION/SigmaAldrichクローンTRCN0000061008)は、シグマ1の発現を下方制御できることが確認された。図4Aに示されるように、ジヒドロテストステロン(DHT) (および非特異的対照shRNA)で72時間(72h)処理したLNCaP細胞は、脂肪滴の顕著な形成および蓄積をもたらした。しかしながら、シグマ1発現を特異的に低減するshRNA #4とshRNA #5の両方が、ジヒドロテストステロン誘導性のLD形成および蓄積をほぼ完全に排除した。
【0188】
実施例4: シグマ1の薬学的阻害は高脂肪食誘導性の肝脂肪症のレベルを低減した
本研究では、脂肪症の予防および退行におけるシグマ1標的薬物療法の影響を評価した。ある種の態様において、低分子シグマ1調節因子は、シグマR1 KOマウスの肝保護効果の主要な側面を表現型模写する。
【0189】
図5および6A~6Cを参照して、シグマ1の薬理学的阻害はシグマ1ノックダウンのある種の側面を表現型模写する。シグマR1 KO MEFではオレイン酸およびグルコース誘導性の脂肪滴が形成されない。また、低分子阻害因子IPAGは、脂肪貪食によってオレイン酸、コレステロールおよびグルコース誘導性の脂肪滴を排除する(図5)。図6A~6Cを参照して、低分子阻害因子CT-189 (本明細書において「化合物G」または「CT-110」ともいわれる)を経口投与したHFD給餌マウスは、ベヒクルを投与したマウスと比較して、有意に低減された肝臓脂肪レベル(図6B)、および有意に低減された褐色脂肪組織の白色化レベル(図6C)を示した。
【0190】
シグマ1iリード化合物CT189 [1-(4-クロロフェニル)-3-(3(4-フルオロフェノキシ)プロピル)グアニジン、本明細書において化合物GまたはCT-110ともいわれる] は、経口により生体利用可能であり、高い親和性(Ki = 38 nM)でシグマ1に結合し、CEREP Safety 44パネルスクリーニングに基づいてオフターゲットの傾向が限られている。CT189は安全であり、本明細書において提案される濃度を超える用量でさえも、肝臓毒性を誘発しない(Salvino et al 2017 (PMID: 28385503); Thomas et al 2017 (PMID: 28235766); Kim and Maher 2017 (PMID: 28744586))。CT189は腫瘍異種移植片実験に使用されており、ここでは毎日の経口投薬は4週間を超えたが、マウスの体重や行動に検出可能な変化を生じなかった。それゆえ、この化合物は、シグマ1のその阻害を通じて、二重の抗悪性腫瘍特性と脂肪症低減特性を引き出すことができる。
【0191】
実施例5: シグマ1の薬学的阻害は線維症関連の炎症促進性サイトカインの発現を低減する
多くの場合、NASH 患者は、線維性疾患を既に患った後に特定/診断される。本研究は、シグマ1薬物療法が肝線維症の進行を遮断できるかどうかを判定するのに役立つ。
【0192】
図7を参照して、シグマ1の阻害は、可溶性IL-6、TNFαおよびIL-17を含む主要な線維症関連の炎症促進性サイトカインのレベルを抑制する(図7)。シグマ1調節因子は、免疫調節特性および抗炎症特性、ならびに抗線維症特性を有する。さらに、いくつかのシグマ1阻害因子はインビトロでHCC細胞増殖を抑制し、アポトーシスを誘発する。
【0193】
本研究は、シグマ1標的薬物療法が、NAFLDの進行を止めることができるかどうか、ならびに脂肪症および/または線維症を伴うNASHの発症後、HFWDを中止した後に退行および回復を促進できるかどうかを示す。シグマ1i薬を用いて、食餌変更後の脂肪症および/線維症からの回復を増強/促進できるかどうかを判定することができる。
【0194】
実施例6:
脂肪症
本研究は、マウスが依然としてHFWDを受けている間に、シグマ1を標的とした薬物療法が脂肪症を減弱/軽減するかどうかを示す。マウスを通常食(ND)に戻した後、シグマ1標的薬物療法が脂肪症の退行の程度を促進および増強するかどうかを判定することができる。顕著な脂肪症がHFD 4~8週間で発症する。本明細書において得られたデータは、高脂肪食誘導性の脂肪滴の排除を示す(図2A~2E)。脂肪症の変化は、本明細書の他の箇所に記述されるように、オイルレッド-O染色およびH&E染色を用いて測定される(図2A~2E)。
【0195】
炎症
いくつかのシグマ1リガンドは抗炎症特性を有しており、CT189を用いたインビトロデータは、この化合物がIL-17、IL-6およびTNFαを抑制できることを実証しており、したがって、この化合物シリーズが肝臓における炎症を効果的に抑制できることを示している(図7)。シグマ1iが脂肪肝における炎症を予防できるかどうかを試験するために、処置を4~8週目に開始し、8~12週目まで継続する。シグマ1iが炎症の退行を増強および促進するかどうかを試験するために、マウスを通常食(ND)に戻した直後に処置を開始し、回復期間中に4週間処置を継続し、マウス肝臓をこの期間中に毎週、すなわち、4つのデータポイントで採取して、回復速度を測定する。回復の程度をNAFLDスコアによって定量化し、免疫細胞浸潤の変化を本明細書の他の箇所に記述されているように、H&E、CD45+、CD68+細胞によって定量化し、選択されたサンプルセットにおいてCD3+、CD4+、CD8+細胞を特異的に染色する。
【0196】
線維症
NAFLDの自然経過に関与する因子は十分に定義されていないため、脂肪症、炎症、関連する酸化ストレス、および他の代謝的変化がNAFLDの発症および進行に相対的に寄与するかは不明のままである。しかしながら、これらの大部分または全ての収れんが必要なようである。本データは、シグマ1iが脂肪症を予防することができること、および脂肪症の進行を軽減することもできることを実証する。したがって、マウスを脂肪症の発症後に、ただし線維症の発症前に処置した場合、CT189を含むシグマ1iが線維症を予防できるかどうかを試験する; この場合、処置を8週目に開始し、毎日の投薬を12週目まで、またはベヒクル処置したマウスが線維症を発症するまで続けた。線維症を既に発症しているマウスにおいて、CT189が線維化病変の進行を排除または予防するかどうかも試験する; この場合、処置をおよそ12週目から16週目までに、またはベヒクル処置マウスが病期4の線維症と同等のものを発症するまでに開始する。最後に、HFDを中止し、マウスを12 (線維症を伴うNASH)の時点でNDに戻した場合の薬物補助回復を評価する。線維化病変をピコ・シリウスレッド(pico-Sirius Red)、線維形成遺伝子発現の分子分析で検出および測定する。
【0197】
シグマ1i標的薬物療法に対する肝臓応答の血液に基づくバイオマーカー: ALTおよびASTの血清レベル
ALTおよびASTの血清レベルをシグマ1i処置に応じてモニタリングし、ALTおよびASTの血清レベルの変化が組織学的改善に追随する/対応するかどうかを判定する。本明細書の他の箇所に記述されている材料および方法を用いて、尾静脈採血からの血清ALTおよびASTレベルを測定する。
【0198】
シグマ1i標的薬物療法に応じた代謝併存疾患のバイオマーカーの変化: インスリン、グルコース、トリグリセリド(TG)、コレステロールの血清レベル
本明細書の他の箇所に記述されている各処置時間枠中、シグマ1i処置に応じたグルコース、インスリン、トリグリセリドおよびコレステロールの血清レベルを、インスリンキット、グルコース検出器、総TGおよびコレステロールキットを用いてまたはLC-MS/MSによってモニタリングする。
【0199】
肝細胞がん
本データは、シグマ1iが抗腫瘍特性を有し、HCC細胞がシグマ1iに応答性/感受性であることを示す(Kim et al 2012 (PMID: 22925888); Schrock et al 2013 (PMID: 24006496); Kim and Maher 2017 (PMID: 28744586); Oyer et al 2019 (PMID: 31695608))。それゆえ、脂肪症の発症後に、ただしHCC病変の出現前にマウスを処置した場合に、CT189を含むシグマ1iがHCCを予防できるかどうかを試験する。この場合、20週目に処置を開始し、24週目まで、またはベヒクル処置マウスがHCC病変を発症するまで毎日投薬を続ける。HCC病変を既に発症しているマウスを用いて、CT189がこれらの腫瘍性病変を排除するか、またはその進行を抑止するかどうかも試験する。この場合、処置をおよそ24週目から28週目までに、またはベヒクル処置マウスが末期腫瘍量と同等のものを発症するまでに開始する。HFD継続の効果を、20週目(予防的プロトコル)および24週目(治癒的プロトコルの場合)にマウスをNDに戻した後に処置を開始することによって評価する。
【0200】
実施例7: 材料および方法
完全シグマR1ノックアウト(KO) C57BL/6マウスをWTシグマR1 C57BL/6マウスと比較して用い、健常な肝臓から以下のNAFLD段階を経た進行におけるシグマR1/シグマ1の要件を評価することができる: 肝脂肪症(8週)、関連線維症を伴うHFWD誘導性NASHを加速および増幅するHFWD+CCl4の食餌(毎週投与)と比較した高脂肪西洋食(HFWD、重量で21.1%の脂肪、41%のスクロースおよび1.25%のコレステロールを含有するWD (Teklad diets, TD.120528)および高糖液(23.1 g/LのD-フルクトース(Sigma-Aldrich, F0127)および18.9 g/LのD-グルコース(Sigma-Aldrich, G8270))単独による炎症性線維症発症を伴うNASH (12週)、肝硬変への進行(24週)ならびにHCC病変の頻度、数および大きさの増加(24週)。全群を通常食通常固形飼料食(ND、ラボ食、Rodent diet 20, #5053)と比較する。
【0201】
シグマ1の非存在下でのNAFL疾患進行の組織学的マーカー
ホルマリン固定し、パラフィン包埋した肝臓切片を、組織構造および肝組織像の評価のためにヘマトキシリン・エオシン(H&E)で染色し、線維症を評価するためにコラーゲンのシリウスレッド(Sirius Red)染色(Sigma, 365548-5G)/ファストグリーン(Fast Green) (Sigma, F258)を行い、肝臓における中性脂質蓄積の場合にはオイルレッド-O染色を行い、グリコーゲン蓄積を評価するために過ヨウ素酸シッフ(PAS)染色を行う。NAFLD活動スコアおよび線維化段階は、NASH CRNスコアリングシステムを用いて、処置条件を知らされていない経験豊富な病理医によって測定される。
【0202】
線維症の分子マーカー
線維形成遺伝子であるコラーゲン-α1、β-PDGFR、TGF-β、およびTimp-1の発現の変化を、qRT-PCRによって評価する。さらに、肝星細胞(HSC)活性化を、デスミン(HSCを同定)およびα-SMA (活性化されたHSCを検出)の免疫染色によって評価する。肝細胞のアポトーシスは、切断型カスパーゼおよび/またはTUNEL染色によってモニタリングする。
【0203】
炎症マーカー
炎症をCD45 (汎白血球抗原)およびCD68 (単球/マクロファージ浸潤)の免疫染色によって検出する。CD45陽性切片の場合、HFWD/CCl4食餌モデルを含む実験的NASHモデルに関連付けられているCD3+、CD4+およびCD8+陽性免疫細胞の浸潤の増加をモニタリングする。
【0204】
本データは、シグマ1調節が炎症促進性IL-17、IL-6およびTNFαを抑制できることを示している(図7)。NAFLDでは肝臓内のCD4+ Tリンパ球が高レベルのIL-17を産生するため、可溶性IL-17 (sIL-17)をモニタリングする。食餌性および遺伝性肥満は、IL-6およびTNFα発現を亢進させることにより肝臓の炎症および腫瘍形成を促進するため、IL-6およびTNFαもモニタリングする。
【0205】
肝臓酵素
血清ALT (アラニントランスアミナーゼ)およびAST (アスパラギン酸トランスアミナーゼ)の上昇は、NAFLD進行/肝機能障害のバイオマーカーである。血清ALTおよびAST活性を、蛍光測定キット(Biovision)でモニタリングし、および/またはVITROS 5,1 FS (Ortho Clinical Diagnostics)を用いて測定する。総血清トリグリセリド(TG)およびコレステロールレベルを、市販の検査キットを用いて、および/またはLC質量分析によって、および/またはVITROS 5,1 FS (Ortho Clinical Diagnostics)を用いて測定する。
【0206】
インスリン抵抗性および耐糖能
インスリン抵抗性および耐糖能はメタボリックシンドロームおよびNAFLDの症状/指標である。メタボリックシンドロームに関連するバイオマーカーをモニタリングする。空腹時および非空腹時血漿インスリンレベルを超高感度マウスインスリン(Ultrasensitive Mouse Insulin) ELISAキット(Crystal Chem, 90080)で検査する。空腹時および非空腹時血糖レベルをOne Touch Ultra (Life Scan)でモニタリングする。CCl4を投与された動物では、直近の投与から7日後に血液を分析する。非空腹時恒常性モデルおけるインスリン抵抗性の評価の場合、他所に記述されているようにQUICKIを計算する(Lee, et al., 2008, Amer. J. Physiol Endocrinol. Metab. 294, E261-270; Bowe, et al., 2014, J. Endocrinol. 222:G13-25)。
【0207】
シグマR1/シグマ1状態
WT C57BL/6マウスでは、シグマR1 mRNA転写産物の状態をqRT-PCRによってモニタリングおよび評価し、シグマ1タンパク質レベルおよび分布パターンを、疾患進行の主要な段階である脂肪症(8週)、炎症と線維症を伴う脂肪性肝炎(12週)、およびHCC病変(24週)の時点で肝臓組織における免疫組織化学(IHC)染色によってモニタリングおよび評価する。
【0208】
本明細書において引用されるありとあらゆる特許、特許出願および刊行物の開示は、参照によりその全体が本明細書に組み入れられる。
【0209】
特定の態様を参照して本開示を開示してきたが、本開示の他の態様および変形が、本開示の真の趣旨および範囲から逸脱することなく、当業者によって考案されうることは明らかである。添付の特許請求の範囲は、そのような全ての態様および等価な変形を含むように解釈されることが意図される。
図1A
図1B
図2-1】
図2-2】
図3-1】
図3-2】
図4
図5
図6
図7
【手続補正書】
【提出日】2023-10-12
【手続補正1】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】配列表
【補正方法】追加
【補正の内容】
【配列表】
2024504632000001.app
【国際調査報告】