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特表2024-504645放射線誘発性疾患を予防、改善、又は軽減するプテロスチルベン及びシリビニン
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-02-01
(54)【発明の名称】放射線誘発性疾患を予防、改善、又は軽減するプテロスチルベン及びシリビニン
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/357 20060101AFI20240125BHJP
   A61P 39/00 20060101ALI20240125BHJP
   A61Q 17/04 20060101ALI20240125BHJP
   A61Q 19/08 20060101ALI20240125BHJP
   A61Q 19/00 20060101ALI20240125BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20240125BHJP
   A61P 25/28 20060101ALI20240125BHJP
   A61P 9/00 20060101ALI20240125BHJP
   A61P 11/00 20060101ALI20240125BHJP
   A61P 3/00 20060101ALI20240125BHJP
   A61P 25/16 20060101ALI20240125BHJP
   A61P 25/14 20060101ALI20240125BHJP
   A61P 25/00 20060101ALI20240125BHJP
   A61P 21/00 20060101ALI20240125BHJP
   A61P 13/12 20060101ALI20240125BHJP
   A61P 9/10 20060101ALI20240125BHJP
   A61P 9/12 20060101ALI20240125BHJP
   A61P 25/02 20060101ALI20240125BHJP
   A61P 3/10 20060101ALI20240125BHJP
   A61P 17/00 20060101ALI20240125BHJP
   A61P 17/16 20060101ALI20240125BHJP
   A61P 17/10 20060101ALI20240125BHJP
   A61P 17/06 20060101ALI20240125BHJP
   A61K 45/00 20060101ALI20240125BHJP
   A61K 38/08 20190101ALI20240125BHJP
   A61K 31/706 20060101ALI20240125BHJP
   A61K 31/085 20060101ALI20240125BHJP
   A61K 8/34 20060101ALI20240125BHJP
   A61K 8/49 20060101ALI20240125BHJP
   A23L 33/10 20160101ALI20240125BHJP
   A23L 33/18 20160101ALI20240125BHJP
   A61Q 19/06 20060101ALN20240125BHJP
   A61K 47/54 20170101ALN20240125BHJP
   C07K 7/06 20060101ALN20240125BHJP
【FI】
A61K31/357
A61P39/00
A61Q17/04
A61Q19/08
A61Q19/00
A61P43/00 111
A61P25/28
A61P9/00
A61P11/00
A61P3/00
A61P43/00 105
A61P25/16
A61P25/14
A61P25/00
A61P21/00
A61P13/12
A61P9/10
A61P9/12
A61P25/02
A61P3/10
A61P17/00
A61P17/16
A61P17/10
A61P17/06
A61P43/00 121
A61K45/00
A61K38/08
A61K31/706
A61K31/085
A61K8/34
A61K8/49
A23L33/10
A23L33/18
A61Q19/06
A61K47/54
C07K7/06 ZNA
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023542925
(86)(22)【出願日】2022-01-18
(85)【翻訳文提出日】2023-09-08
(86)【国際出願番号】 EP2022051038
(87)【国際公開番号】W WO2022152943
(87)【国際公開日】2022-07-21
(31)【優先権主張番号】21382036.8
(32)【優先日】2021-01-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】519098394
【氏名又は名称】ウニベルシタ デ バレンシア
(71)【出願人】
【識別番号】520075188
【氏名又は名称】インスティテュート デ インベスティガシオン サニタリア ラ フェ-フンダシオン パラ ラ インベスティガシオン デル ホスピタル ウニベルシタリオ イ ポリテクニコ ラ フェ デ ラ コミュニダ バレンシアナ
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】エストレラ アリギュエル ホセ マリア
(72)【発明者】
【氏名】オブラドール プラ マリア エレナ
(72)【発明者】
【氏名】サルヴァドール パーマー マリア ロサリオ
(72)【発明者】
【氏名】モントーロ パストル アレグリア
【テーマコード(参考)】
4B018
4C076
4C083
4C084
4C086
4C206
4H045
【Fターム(参考)】
4B018LB01
4B018LB02
4B018LB03
4B018LB04
4B018LB07
4B018LB08
4B018MD07
4B018MD10
4B018MD20
4B018ME14
4C076BB01
4C076CC01
4C076CC09
4C076CC11
4C076CC15
4C076CC17
4C076CC18
4C076CC20
4C076CC21
4C076CC26
4C076CC29
4C076CC40
4C076CC41
4C076EE59
4C083AC471
4C083AC472
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4C083EE12
4C083EE13
4C083EE14
4C083EE17
4C084AA02
4C084AA22
4C084BA01
4C084BA08
4C084BA17
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4C206ZA02
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4C206ZA16
4C206ZA22
4C206ZA36
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4C206ZA89
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4C206ZB21
4C206ZC21
4C206ZC35
4C206ZC37
4C206ZC41
4C206ZC75
4H045AA10
4H045AA30
4H045BA15
(57)【要約】
本発明は、プテロスチルベン又はその薬学的に許容可能な塩と、シリビニン又はその薬学的に許容可能な塩との組合せを含む組成物、及び被験体における電離放射線によって誘発される疾患の処置、予防、改善、又は軽減におけるそれらの使用に関する。上記組成物及び上記使用は、少なくとも1種以上の放射線緩和剤化合物、好ましくはNADブースター及び/又はFSL-1を更に含み得る。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)プテロスチルベン又はその塩と、b)シリビニン又はその塩とを含む組成物。
【請求項2】
前記組成物は、好ましくは、
a.NADブースター、及び/又は、
b.線維芽細胞刺激性リポペプチド-1、又は、
それらのあらゆる塩、
から選択される少なくとも1種以上の放射線緩和剤化合物を更に含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記組成物は、少なくとも2種以上の放射線緩和剤化合物を更に含み、ここで、前記少なくとも2種以上の放射線緩和剤化合物は、NADブースター及び線維芽細胞刺激性リポペプチド-1、又はそれらのあらゆる塩である、請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項4】
前記プテロスチルベンは、プテロスチルベンリン酸二ナトリウム塩であり、及び/又は前記シリビニンは、シリビニン-C-2’,3-二水素コハク酸二ナトリウム塩である、請求項1~3のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項5】
前記NADブースターは、ニコチンアミドリボシドである、請求項3又は4に記載の組成物。
【請求項6】
前記組成物は、医薬組成物、栄養補強食品組成物、美容組成物、又は食品組成物である、請求項1~5のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項7】
被験体における電離放射線によって誘発される疾患の予防、改善、又は軽減において使用される、シリビニン又はその薬学的に許容可能な塩と組み合わされたプテロスチルベン又はその薬学的に許容可能な塩であって、放射線照射前、又は放射線照射後、又は放射線照射中に投与され、ここでの組合せは、a)プテロスチルベン又はその薬学的に許容可能な塩と、b)シリビニン又はその薬学的に許容可能な塩とを前記被験体に任意の順序で同時に又は逐次的に投与することと理解される、プテロスチルベン又はその薬学的に許容可能な塩。
【請求項8】
プテロスチルベン又はその薬学的に許容可能な塩、及びシリビニン又はその薬学的に許容可能な塩は、単独の医薬組成物又は別個の医薬組成物において投与される、請求項7に記載の使用されるプテロスチルベン。
【請求項9】
プテロスチルベン又はその薬学的に許容可能な塩、及びシリビニン又はその薬学的に許容可能な塩の投与は、局所、経口、又は非経口である、請求項7又は8に記載の使用されるプテロスチルベン。
【請求項10】
プテロスチルベン又はその薬学的に許容可能な塩、及びシリビニン又はその薬学的に許容可能な塩は、放射線照射前及び/又は放射線照射後、又はその両方で、同時に又は逐次的に数回投与される、請求項7~9のいずれか一項に記載の使用されるプテロスチルベン。
【請求項11】
前記組合せは、放射線防護効果を提供することができる投与量で存在する、請求項7~10のいずれか一項に記載の使用されるプテロスチルベン。
【請求項12】
前記使用は、少なくとも1種以上の放射線緩和剤化合物と組み合わせて投与することを更に含み、ここでの組合せは、a)プテロスチルベン又はその薬学的に許容可能な塩、b)シリビニン又はその薬学的に許容可能な塩、及びc)少なくとも1種以上の放射線緩和剤化合物又はそのあらゆる薬学的に許容可能な塩の前記被験体への同時の又は逐次的な投与として理解される、請求項7~11のいずれか一項に記載の使用されるプテロスチルベン。
【請求項13】
前記少なくとも1種以上の放射線緩和剤化合物は、NADブースター及び/又は線維芽細胞刺激性リポペプチド、又はそれらのあらゆる薬学的に許容可能な塩である、請求項12に記載の使用されるプテロスチルベン。
【請求項14】
前記使用は、少なくとも2種以上の放射線緩和剤化合物と組み合わせて投与することを更に含み、ここで、前記少なくとも2種以上の放射線緩和剤化合物は、NADブースター及び線維芽細胞刺激性リポペプチド、又はそれらのあらゆる薬学的に許容可能な塩である、請求項13に記載の使用されるプテロスチルベン。
【請求項15】
前記NADブースターは、ニコチンアミドリボシドである、請求項12~14のいずれか一項に記載の使用されるプテロスチルベン。
【請求項16】
電離放射線によって誘発される疾患は、DNA損傷、放射線誘発性の細胞毒性、遺伝毒性、及び/又は酸化的細胞損傷に関連する、請求項7~15のいずれか一項に記載の使用されるプテロスチルベン。
【請求項17】
電離放射線によって誘発される疾患は、急性放射線症候群及び/又は慢性放射線症候群である、請求項7~16のいずれか一項に記載の使用されるプテロスチルベン。
【請求項18】
前記電離放射線は、ガンマ線又はX線である、請求項7~17のいずれか一項に記載の使用されるプテロスチルベン。
【請求項19】
前記プテロスチルベンは、プテロスチルベンリン酸二ナトリウム塩であり、及び/又は前記シリビニンは、シリビニン-C-2’,3-二水素コハク酸二ナトリウム塩である、請求項7~18のいずれか一項に記載の使用されるプテロスチルベン。
【請求項20】
プテロスチルベン又はその塩と、シリビニン又はその塩との組合せの非治療的な美容的使用であって、ここでの組合せは、a)プテロスチルベン又はその塩と、b)シリビニン又はその塩とを前記被験体に任意の順序で同時に又は逐次的に投与することと理解される、非治療的な美容的使用。
【請求項21】
前記使用は、加齢によるシミ、日焼け、紫外線によるシミ、しわ、小じわ、リンクル、目尻のしわ、クモ状静脈、皮膚線条、目のクマ、色素沈着過剰、色素沈着低下、変色、肌の色むら、くすみ、そばかす、吹き出物、ブレミッシュ、皮膚脆弱性、乾燥、まだら、触感上の荒れ、ひび割れ、たるみ、菲薄化、毛穴の拡大といったヒトの皮膚及び口唇に対する日光の有害効果を防護、改善、及び/又は軽減することである、請求項20に記載の非治療的な美容的使用。
【請求項22】
増加を必要とする患者におけるサーチュインの細胞内レベルを増加させるのに使用される、プテロスチルベン又はその塩と、シリビニン又はその塩との組合せであって、前記増加は、プテロスチルベン又はその塩と、シリビニン又はその塩との組合せでの処置前の同じ患者におけるサーチュインの細胞内レベルと比較したものである、組合せ。
【請求項23】
前記増加を必要とする患者は、神経変性障害、心血管障害、肺障害、代謝障害、又は加齢関連障害を患っている患者である、請求項22に記載の使用されるプテロスチルベン又はその塩と、シリビニン又はその塩との組合せ。
【請求項24】
前記障害は、アルツハイマー型認知症若しくは他の認知症、又は加齢に伴う認知障害、パーキンソン病、ハンチントン病、多発性硬化症、ケネディ病(球脊髄性筋萎縮症)、腎臓疾患、脳血管疾患、高血圧症、慢性閉塞性肺疾患、筋萎縮性側索硬化症、及び糖尿病からなる群から選択される、請求項23に記載の使用されるプテロスチルベン又はその塩と、シリビニン又はその塩との組合せ。
【請求項25】
栄養補強食品組成物として使用される、プテロスチルベン又はその塩と、シリビニン又はその塩との組合せであって、ここでの組合せは、a)プテロスチルベン又はその塩と、b)シリビニン又はその塩とを被験体に任意の順序で同時に又は逐次的に投与することと理解される、組合せ。
【請求項26】
栄養補強食品組成物としての使用は、電離放射線によって誘発される疾患の処置若しくは予防のため、神経変性障害、心血管障害、肺障害、代謝障害、若しくは加齢関連障害の処置若しくは予防のため、及び/又はヒトの皮膚若しくは口唇に対する日光の有害効果の防護若しくは修復のためのものである、請求項25に記載の使用されるプテロスチルベン又はその塩と、シリビニン又はその塩との組合せ。
【請求項27】
電離放射線によって誘発される疾患は、DNA損傷、放射線誘発性の細胞毒性、遺伝毒性、及び/又は酸化的細胞損傷に関連する、請求項26に記載の使用されるプテロスチルベン又はその塩と、シリビニン又はその塩との組合せ。
【請求項28】
前記神経変性障害、心血管障害、肺障害、代謝障害、又は加齢関連障害は、アルツハイマー型認知症若しくは他の認知症、又は加齢に伴う認知障害、パーキンソン病、ハンチントン病、多発性硬化症、ケネディ病(球脊髄性筋萎縮症)、腎臓疾患、脳血管疾患、高血圧症、慢性閉塞性肺疾患、筋萎縮性側索硬化症、及び糖尿病からなる群から選択される、請求項25に記載の使用されるプテロスチルベン又はその塩と、シリビニン又はその塩との組合せ。
【請求項29】
ヒトの皮膚又は口唇に対する日光の有害効果は、加齢によるシミ、日焼け、紫外線によるシミ、しわ、小じわ、リンクル、目尻のしわ、クモ状静脈、皮膚線条、目のクマ、色素沈着過剰、色素沈着低下、変色、肌の色むら、くすみ、そばかす、吹き出物、ブレミッシュ、皮膚脆弱性、乾燥、まだら、触感上の荒れ、ひび割れ、たるみ、菲薄化、毛穴の拡大、セルライト形成、ニキビ形成、酒さ、乾癬、及び湿疹からなる群から選択される、請求項25に記載の使用されるプテロスチルベン又はその塩と、シリビニン又はその塩との組合せ。
【請求項30】
少なくともプテロスチルベン又はその塩と、シリビニン又はその塩と、任意に少なくとも1種以上の放射線緩和剤化合物とを含む少なくとも2つの受容器を含むパーツのキット。
【請求項31】
任意の少なくとも1種以上の放射線緩和剤化合物は、
a.NADブースター、及び/又は、
b.線維芽細胞刺激性リポペプチド、又は、
それらのあらゆる薬学的に許容可能な塩、
の群から選択される、請求項30に記載のパーツのキット。
【請求項32】
前記NADブースターは、ニコチンアミドリボシドである、請求項31に記載のパーツのキット。
【請求項33】
前記プテロスチルベンは、プテロスチルベンリン酸二ナトリウム塩であり、及び/又は前記シリビニンは、シリビニン-C-2’,3-二水素コハク酸二ナトリウム塩である、請求項27又は28に記載のパーツのキット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医療の分野に関する。特に、本発明は、放射線誘発性疾患を予防、改善、又は軽減する組成物及び方法の分野に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、電離放射線は様々な医療目的に使用されている。X線及びγ線は、主にDNA及びその他の細胞標的の直接的な電離と、活性酸素種(ROS)を介した間接的な効果とによって細胞に損傷を与える。γ線とX線との間の違いはこれらの生成の仕方である。ガンマ線は、放射性核種の励起核が放射性崩壊を経た後の沈静化過程に由来するのに対して、X線は、電子がターゲットに衝突する際、又は電子が原子内で再配列する際に生成される。X線及びγ線はどちらも高エネルギー(高周波)電磁放射線の一種である。これらは電荷も質量も有しないエネルギーの塊(光子)である。X線及びγ線はどちらも同じ特性及び健康への影響を有する。
【0003】
X線及びγ線を含む電磁放射線は、DNA及びその他の分子の電離によって直接的に、また活性酸素種の生成によって間接的に細胞に損傷を与える。放射線曝露に対する応答は、細胞型及び放射線線量、固有の組織感受性及び組織修復、並びに細胞周期状態、O圧、並びにチオール及びその他の抗酸化物質のレベルを含む細胞内因子の調節によって異なる。しかしながら、放射線防護及び放射線緩和の方略は不足しており、非効率的である。毎年、何百万人もの癌患者がその処置の過程の間に放射線療法を受けており、近年、一部の放射線事象又は原子力事象が人々に脅威をもたらしているため、放射線防護又は放射線緩和の方略が必要とされる。
【0004】
有害な放射線への曝露に対する防護剤の開発は、数十年にもわたる精力的な調査対象となっている。効果的で安全な放射線防護剤は存在していない。現在まで、造血器及び消化管の急性放射線症候群(ARS)を引き起こす電離放射線等の高レベルの電離放射線曝露を処置する薬物は開発されていない。
【0005】
放射線防護剤は、放射線によって引き起こされる直接的な損傷を軽減することができる化合物である。放射線緩和剤は、放射線が照射された後でも毒性を最小限に抑えることができる化合物である。概して、理想的な放射線防護剤又は放射線緩和剤は、安定であるべきであり、容易に投与することができ、関連毒性を有さず、急性毒性若しくは遅発性毒性が線量制限的であるか、又は生活の質の大幅な低下の要因(例えば、粘膜炎、肺炎、脊髄症、口腔乾燥症、直腸炎、線維症、又は白質脳症の原因)となるような感受性があるとみなされる正常組織を防護するべきである。
【0006】
幅広い植物性化学物質(一般に植物の生長を助ける、又は競争者、捕食者、若しくは病原体を阻止するのに植物によって生成される化合物)は抗酸化物質であり、したがって潜在的に放射線防護性である。しかしながら、それらの放射線防護特性又は放射線緩和剤特性が通常有効であるのは短期間であり、通常は放射線発生後最大1ヶ月に限定される。したがって、継続的な期間にわたって被験体における放射線の有害効果を処置、軽減、予防、又は改善することができる新しい化合物及び組成物が望まれる。
【発明の概要】
【0007】
本発明は、放射線曝露によって引き起こされる疾患の長期防護及び緩和のための組成物及びその使用を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】A)全身γ線照射を受けたスイスアルビノマウスにおける30日間生存試験についての放射線線量-応答を示す図である。B)γ線(LD50/30)及び様々な用量のプテロスチルベン(PT)で処置されたマウスの60日間生存率を示す図である。アミフォスチンをコントロールの承認放射線防護剤として使用した。C)γ線(LD50/30)及び様々な用量のレスベラトロール(Resv)で処置されたマウスの60日間生存率を示す図である。化合物を経口投与した。全ての場合において、1群当たり20匹のマウスを使用した。
図2】A)照射6日後、B)照射30日後、及びC)照射60日後にγ放射線(LD50/30)によって誘発される致死性を予防するプテロスチルベン(PT)及び他のポリフェノールの組合せを示す図である。公表された最大非毒性用量から各植物性化学物質についての用量を選択した。化合物を経口投与した。全ての場合において、1群当たり20匹のマウスを使用した。
図3】A)全身γ線照射(LD50/30)を受けたマウスの長期生存に対するプテロスチルベン(PT)及びシリビニン(SIL)の組合せの効果を示す図である。B)PT及びSILの組合せによって引き出される放射線防護:γ線照射の前又は後のポリフェノールの投与間の比較を示す図である。化合物をIP投与した。全ての場合において、1群当たり20匹のマウスを使用した。
図4】A)γ線照射(LD50/30)されたマウスの生存に対するプテロスチルベン(PT)及びシリビニン(SIL)の効果、並びに体重に対する効果を示す図である。B)マウスにおける神経運動機能の全身γ放射線誘発性の変化に対するPT及びSILの投与の効果を示す図である。化合物をIP経由で投与した。全ての場合において、1群当たり20匹のマウスを使用した。
図5】分離された細胞における様々な抗酸化防御関連酵素活性のγ放射線誘発性の酸化的損傷発現(RT-PCR)に対するプテロスチルベン(PT)及びシリビニン(SIL)の防護効果を示す図である。GCL、γ-グルタミル-システインリガーゼ;GPX、グルタチオンペルオキシダーゼ;CAT、カタラーゼ;SOD、スーパーオキシドジスムターゼ;EIC、腸上皮細胞。コントロール(未処置)細胞(分子、細胞型、及び処置ごとにn=5)の発現率に対する倍率変化。
図6】様々な分子マーカーにおけるγ放射線誘発性の酸化的損傷に対するプテロスチルベン(PT)及びシリビニン(SIL)の防護効果を示す図である。A)8-OHdG、B)8-イソプロスタン、及びC)タンパク質カルボニル(分子、細胞型、及び処置ごとにn=5)。
図7】A)γ-グルタミル-システインリガーゼ、B)グルタチオンにおけるグルタチオン関連抗酸化防御におけるγ放射線誘発性の酸化的損傷に対するプテロスチルベン(PT)及びシリビニン(SIL)の防護効果(分子、細胞型、及び処置ごとにn=5)を示す図である。
図8】様々な抗酸化防御関連酵素活性:A)カタラーゼ、B)グルタチオンペルオキシダーゼ、並びにC)及びD)スーパーオキシドジスムターゼ1及びスーパーオキシドジスムターゼ2におけるγ放射線誘発性の酸化的損傷に対するプテロスチルベン(PT)及びシリビニン(SIL)の防護効果(分子、細胞型、及び処置ごとにn=5)を示す図である。
図9】γ線照射(LD50/30)誘発性の死亡率に対するニコチンアミドリボシド(NR)及び線維芽細胞刺激性リポペプチド(FSL-1)の効果を示す図である。NRを、照射のすぐ後(60分)から開始して1日1回の単回用量(経口)で30日間毎日投与した。FSL-1を、照射24時間後に1回だけIP投与した。全ての場合において、1群当たり20匹のマウスを使用した。
図10】処置されたマウス及び照射されたマウス(全ての場合において1群当たり6匹のマウス)の循環血液中のA)プテロスチルベン(PT)、B)シリビニン(SIL)、及びC)NADのレベルを示す図である。
図11】プテロスチルベン(PT)及びシリビニン(SIL)の放射線防護性の組合せへの、潜在的な放射線緩和剤(ニコチンアミドリボシド(NR)及び線維芽細胞刺激性リポペプチド-1(FSL-1))の添加を示す図である。A)投与スキーム、B)日数での照射後の時間に対する生存。全ての場合において、1群当たり20匹のマウスを使用した。
図12】γ線照射されたマウスにおける死因(LD50/30)、並びに放射線防護剤及び放射線緩和剤(PT、SIL、NR、及びFSL-1)の組合せ投与の効果を示す図である。全ての場合において、1群当たり20匹のマウスを研究した。
図13】A)成長中のヒトA549(肺腺癌)及びB)MDA-MB-231(トリプルネガティブ乳癌)異種移植片への放射線防護性/放射線緩和性の組合せPT+SIL+NR+FSL-1(PSNF)及びX線の組合せ投与を示す図である。全ての場合において、1群当たり5匹のマウスを使用した。
図14】γ線照射されたマウスにおける細胞NAD含有量、DNA損傷、及び造血回復に対する放射線防護剤及び放射線緩和剤の効果を示す図である。A)γ線照射されたマウスから分離された細胞のNAD含有量に対するPT、SIL、NR、及びニコチンアミドホスホリボシルトランスフェラーゼ(NAMPT)の特異的非競合的阻害剤FK866の効果(群、細胞型、及び処置ごとにn=5)。FK866をin vivoで投与した(15mg/kg、照射の3日前から開始して腹腔内注射により1日2回を6日間、図11aを参照のこと)。FK866は細胞培養物中にも存在した(100nM)。照射の72時間後に細胞を分離した。統計分析をスチューデントのt検定を使用して実施した(P<0.01;全ての群をコントロールに対して比較している;PT+SIL+NR+γ線で処置されたマウス又はPT+SIL+NR+FK866+γ線で処置されたマウスをγ線だけで処置されたマウスに対して比較している)。B)細胞NAMPT活性に対するFK866の効果(P<0.01;FK866で処置されたマウスをコントロールに対して比較している、n=5)。上記(a)のようにマウスを阻害剤で6日間処置した。C)γ線照射されたマウスから分離された細胞におけるDNA損傷に対するPT、SIL、NR、及びFK866の効果(群、細胞型、及び処置ごとにn=5)。統計分析をスチューデントのt検定を使用して実施した(P<0.01;全ての群をγ線照射されたコントロールに対して比較している;γ線照射され、FK866が存在する群をそれらの各コントロールに対して比較している)。上記(a)のようにマウスを処置し、細胞を分離した。D)γ線照射されたマウスにおける造血回復に対するPT、SIL、NR、及びFSL-1の効果。造血コロニー形成細胞CFU-GM(コロニー形成単位-顆粒球、マクロファージ)及びCFU-GEMM(コロニー形成単位-顆粒球、赤血球、マクロファージ、巨核球)を、コントロール及び処置されたマウスから摘出された大腿骨において定量化した(群及び処置ごとにn=5)。マウスを図11aのように処置し、照射の7日後に骨髄細胞を分離した。統計分析をスチューデントのt検定を使用して実施した(P<0.01;全ての群をコントロールに対して比較している;様々な処置+γ線照射をγ線照射単独に対して比較している)。
図15】Nrf2依存性機構、NF-κB依存性機構、PARP1依存性機構、及びPGC1α依存性機構に対するプテロスチルベン及びシリビニンによる処置の効果を示す図である。照射のすぐ前に、図11aに示されるプロトコルを受けたマウスから腸上皮細胞を分離した。A)核抽出物中のp65NF-κB、Nrf2、PARP1、及びSirt1、ミトコンドリア抽出物中のSirt3、並びに全抽出物中のリン酸化PGC-1αを検出するためのウェスタンブロット。デンシトメトリー分析(ウェスタンブロット)は、分子及び実験条件ごとに5匹又は6匹の異なるマウスについての平均値±SDを表す(P<0.01;PT、SIL、又はPT+SILで処置されたマウスを生理的食塩水、PSで処置されたマウスに対して比較している、PT+SILで処置されたマウスをPTで処置されたマウスに対して比較している、PT+SILで処置されたマウスをSILで処置されたマウスに対して比較している)。B)潜在的な分子相互作用及び異なるシグナル伝達機構間の相互関係。Ub、ユビキチン;IkB、B細胞阻害剤におけるカッパ軽鎖ポリペプチド遺伝子エンハンサーの核因子;Keap1、ケルチ様ECH関連タンパク質1;RE、応答要素;ARE、抗酸化剤応答要素;MAF、筋腱膜線維肉腫癌遺伝子ホモログ;Ac、アセチル化;IMF、炎症媒介因子。C)特定のシグナル伝達関連分子の遺伝子サイレンシング。この図は、n=5又は6の異なる実験及び実験条件についての代表的な実験を示している。PS、生理的食塩水。D)分離されたIECを特定のsiRNAの存在下又は不存在下で24時間培養し、その後、γ線(in vivo実験に使用したのと同じ線量)を照射した。細胞死を、「方法」で記載されるように、分離され培養されたIEC細胞において、γ線照射の12時間後に分析した。PT(20μM)及びSIL(15μM)は、PT+SILで処置されたマウスから分離されたIECを含む培養物中に存在した。これにより、in vivo処置によって誘導される効果をin vitro条件下で保持することができた。データは、分子及び実験条件ごとに4回又は5回の異なる実験についての平均値±SDである(p<0.01;PS下で又はPT+SIL下で、特定のsiRNAによる処置をコントロール(ビヒクルでの処置)に対して比較している;p<0.01;PT+SIL下でのデータをPS下でのそれらの同等のデータに対して比較している)。
【発明を実施するための形態】
【0009】
発明の簡単な説明
1つの態様において、本発明は、a)プテロスチルベン又はその塩と、b)シリビニン又はその塩とを含む組成物に関する。好ましくは、組成物は、好ましくは、a)NADブースター、及び/又は、b)線維芽細胞刺激性リポペプチド-1、又は、それらのあらゆる塩から選択される少なくとも1種以上の放射線緩和剤化合物を更に含む。
【0010】
好ましくは、組成物は、少なくとも2種以上の放射線緩和剤化合物を更に含み、ここで、少なくとも2種以上の放射線緩和剤化合物は、NADブースター及び線維芽細胞刺激性リポペプチド-1、又はそれらのあらゆる塩である。
【0011】
好ましくは、プテロスチルベンは、プテロスチルベンリン酸二ナトリウム塩であり、及び/又はシリビニンは、シリビニン-C-2’,3-二水素コハク酸二ナトリウム塩である。好ましくは、NADブースターは、ニコチンアミドリボシドである。
【0012】
好ましくは、組成物は、医薬組成物、栄養補強食品組成物、美容組成物、又は食品組成物である。
【0013】
更なる態様において、本発明は、被験体における電離放射線によって誘発される疾患の予防、改善、又は軽減において使用される、シリビニン又はその薬学的に許容可能な塩と組み合わされたプテロスチルベン又はその薬学的に許容可能な塩であって、投与は、放射線照射前、又は放射線照射後、又は放射線照射中に行われ、ここでの組合せは、a)プテロスチルベン又はその薬学的に許容可能な塩と、b)シリビニン又はその薬学的に許容可能な塩とを上記被験体に任意の順序で同時に又は逐次的に投与することと理解される、プテロスチルベン又はその薬学的に許容可能な塩に関する。
【0014】
好ましくは、プテロスチルベン又はその薬学的に許容可能な塩、及びシリビニン又はその薬学的に許容可能な塩は、単独の医薬組成物又は別個の医薬組成物において投与される。好ましくは、プテロスチルベン又はその薬学的に許容可能な塩、及びシリビニン又はその薬学的に許容可能な塩の投与は、局所、経口、又は非経口である。
【0015】
好ましくは、プテロスチルベン又はその薬学的に許容可能な塩、及びシリビニン又はその薬学的に許容可能な塩は、放射線照射前及び/又は放射線照射後、又はその両方で、同時に又は逐次的に数回投与される。好ましくは、組合せは、放射線防護効果を提供することができる投与量で存在する。
【0016】
好ましくは、使用は、少なくとも1種以上の放射線緩和剤化合物と組み合わせて投与することを更に含み、ここでの組合せは、a)プテロスチルベン又はその薬学的に許容可能な塩、b)シリビニン又はその薬学的に許容可能な塩、及びc)少なくとも1種以上の放射線緩和剤化合物又はそのあらゆる薬学的に許容可能な塩の上記被験体への同時の又は逐次的な投与として理解される。
【0017】
好ましくは、少なくとも1種以上の放射線緩和剤化合物は、NADブースター及び/又は線維芽細胞刺激性リポペプチド、又はそれらのあらゆる薬学的に許容可能な塩である。
【0018】
好ましくは、使用は、少なくとも2種以上の放射線緩和剤化合物と組み合わせて投与することを更に含み、ここで、少なくとも2種以上の放射線緩和剤化合物は、NADブースター及び線維芽細胞刺激性リポペプチド、又はそれらのあらゆる薬学的に許容可能な塩である。好ましくは、NADブースターは、ニコチンアミドリボシドである。
【0019】
好ましくは、電離放射線によって誘発される疾患は、DNA損傷、放射線誘発性の細胞毒性、遺伝毒性、及び/又は酸化的細胞損傷に関連するものであり、より好ましくは、急性放射線症候群及び/又は慢性放射線症候群である。
【0020】
好ましくは、電離放射線は、ガンマ線又はX線である。
【0021】
好ましくは、プテロスチルベンは、プテロスチルベンリン酸二ナトリウム塩であり、及び/又はシリビニンは、シリビニン-C-2’,3-二水素コハク酸二ナトリウム塩である。
【0022】
更なる態様において、本発明は、プテロスチルベン又はその塩と、シリビニン又はその塩との組合せの非治療的な美容的使用であって、ここでの組合せは、a)プテロスチルベン又はその塩と、b)シリビニン又はその塩とを上記被験体に任意の順序で同時に又は逐次的に投与することと理解される、非治療的な美容的使用に関する。好ましくは、使用は、加齢によるシミ、日焼け、紫外線によるシミ、しわ、小じわ、リンクル、目尻のしわ、クモ状静脈、皮膚線条、目のクマ、色素沈着過剰、色素沈着低下、変色、肌の色むら、くすみ、そばかす、吹き出物、ブレミッシュ、皮膚脆弱性、乾燥、まだら、触感上の荒れ、ひび割れ、たるみ、菲薄化、毛穴の拡大等のヒトの皮膚及び口唇に対する日光の有害効果を防護、改善、及び/又は軽減するためのものである。
【0023】
更なる態様において、本発明は、増加を必要とする患者におけるサーチュインの細胞内レベルを増加させるのに使用される、プテロスチルベン又はその塩と、シリビニン又はその塩との組合せであって、上記増加は、プテロスチルベン又はその塩と、シリビニン又はその塩との組合せでの処置前の同じ患者におけるサーチュインの細胞内レベルと比較したものである、組合せに関する。好ましくは、増加を必要とする患者は、神経変性障害、心血管障害、肺障害、代謝障害、又は加齢関連障害を患っている患者である。好ましくは、障害は、アルツハイマー型認知症若しくは他の認知症、又は加齢に伴う認知障害、パーキンソン病、ハンチントン病、多発性硬化症、ケネディ病(球脊髄性筋萎縮症)、腎臓疾患、脳血管疾患、高血圧症、慢性閉塞性肺疾患、筋萎縮性側索硬化症、及び糖尿病からなる群から選択される。
【0024】
更なる態様において、本発明は、栄養補強食品組成物として使用される、プテロスチルベン又はその塩と、シリビニン又はその塩との組合せであって、ここでの組合せは、a)プテロスチルベン又はその塩と、b)シリビニン又はその塩とを上記被験体に任意の順序で同時に又は逐次的に投与することと理解される、組合せに関する。好ましくは、栄養補強食品組成物としての使用は、電離放射線によって誘発される疾患の処置若しくは予防のため、神経変性障害、心血管障害、肺障害、代謝性障害、若しくは加齢関連障害の処置若しくは予防のため、及び/又はヒトの皮膚若しくは口唇に対する日光の有害効果の防護若しくは修復のためのものである。好ましくは、電離放射線によって誘発される疾患は、DNA損傷、放射線誘発性の細胞毒性、遺伝毒性、及び/又は酸化的細胞損傷に関連するものである。好ましくは、神経変性障害、心血管障害、肺障害、代謝障害、又は加齢関連障害は、アルツハイマー型認知症若しくは他の認知症、又は加齢に伴う認知障害、パーキンソン病、ハンチントン病、多発性硬化症、ケネディ病(球脊髄性筋萎縮症)、腎臓疾患、脳血管疾患、高血圧症、慢性閉塞性肺疾患、筋萎縮性側索硬化症、及び糖尿病からなる群から選択される。好ましくは、ヒトの皮膚又は口唇に対する日光の有害効果は、加齢によるシミ、日焼け、紫外線によるシミ、しわ、小じわ、リンクル、目尻のしわ、クモ状静脈、皮膚線条、目のクマ、色素沈着過剰、色素沈着低下、変色、肌の色むら、くすみ、そばかす、吹き出物、ブレミッシュ、皮膚脆弱性、乾燥、まだら、触感上の荒れ、ひび割れ、たるみ、菲薄化、毛穴の拡大、セルライト形成、ニキビ形成、酒さ、乾癬、及び湿疹からなる群から選択される。
【0025】
更なる態様において、本発明は、少なくともプテロスチルベン又はその塩と、シリビニン又はその塩と、任意に少なくとも1種以上の放射線緩和剤化合物とを含む少なくとも2つの受容器を含むパーツのキットに関する。好ましくは、任意の少なくとも1種以上の放射線緩和剤化合物は、a)NADブースター、及び/又は、b)線維芽細胞刺激性リポペプチド、又は、それらのあらゆる薬学的に許容可能な塩の群から選択される。好ましくは、NADブースターは、ニコチンアミドリボシドである。好ましくは、プテロスチルベンは、プテロスチルベンリン酸二ナトリウム塩であり、及び/又はシリビニンは、シリビニン-C-2’,3-二水素コハク酸二ナトリウム塩である。
【0026】
発明の説明
一般的な定義
本明細書において使用される場合に、単数形("a", "an", and "the")は、文脈上特段の明示がない限り、複数の参照を含むことに留意されたい。さらに、特段の指示がない限り、一連の要素に先立つ「少なくとも」という用語は、一連の中の全ての要素を指すものと理解されるべきである。当業者は、日常の実験を使用するだけで、本明細書に記載される本発明の特定の実施形態の多くの均等物を認識し、又は把握することができるであろう。そのような均等物は、本発明により包含されることが意図される。
【0027】
「約」という用語は、所与の量又は数量に適用される場合、プラス又はマイナス5パーセントの偏差を含むことが意図される。
【0028】
本明細書において使用される場合、多数の列挙された要素間の接続語「及び/又は」は、個別の選択肢及び組み合わされた選択肢の両方を包含するものとして理解される。例えば、2つの要素が「及び/又は」により接続されている場合、1つ目の選択肢は1つ目の要素を2つ目の要素を除いて適用可能であることを指す。2つ目の選択肢は2つ目の要素を1つ目の要素を除いて適用可能であることを指す。3つ目の選択肢は1つ目の要素と2つ目の要素とを一緒に適用可能であることを指す。これらの選択肢のいずれか1つがその意味の範囲内に含まれ、したがって本明細書において使用される「及び/又は」という用語の要件を満たすものと理解される。2つ以上の選択肢を同時に適用可能であることもその意味の範囲内に含まれ、したがって「及び/又は」という用語の要件を満たすものと理解される。
【0029】
本明細書及び添付の特許請求の範囲全体を通じて、文脈上特段の必要がない限り、「~を含む(comprise)」という語、並びに「~を含む(comprises)」及び「~を含む(comprising)」等の別形は、指定された整数若しくは工程又は整数若しくは工程の群を含むが、あらゆる他の整数若しくは工程又は整数若しくは工程の群も除外しないことを意味するものと理解されるであろう。本明細書において使用される場合、「~を含む(comprising)」という用語を、「~を含有する(containing)」若しくは「~を含む(including)」という用語で置き換えることができ、又は本明細書において使用される場合、時には「~を有する(having)」という用語で置き換えることができる。上述の用語(~を含む(comprising)、~を含有する(containing)、~を含む(including)、~を有する(having))のいずれも、本発明の態様又は実施形態の文脈において本明細書で使用されるときはいつでも、「~からなる(consisting of)」という用語で置き換えることができるが、これはあまり好ましくない。
【0030】
本明細書において使用される場合、「~からなる(consisting of)」は、クレームの要素に特定されていないあらゆる要素、工程、又は成分を除外する。本明細書において使用される場合、「本質的に~からなる(consisting essentially of)」は、クレームの基本的な特徴及び新規の特徴に実質的に影響を及ぼさない材料又は工程を除外しない。
【0031】
本明細書において使用される「疾患」という用語は、「病理」、「障害」、及び「病態」(病状等)という用語と、これら全てが正常な機能を損ない、典型的には、特徴的な兆候及び症状によって現れる身体又はその部分の1つの異常な状態を反映するという点でほぼ同義であることが意図され、これらと区別なく使用される。
【0032】
本明細書において言及される「治療的有効量」は、被験体に投与された場合に、条件付きの状態のそのような処置を行うのに十分な化合物の量として定義される。「治療的有効量」は、化合物、及び処置される病態、被験体の年齢及び相対的健康、投与経路及び投与形態、当業者の判断、並びにその他の要因に応じて変動し得る。
【0033】
本明細書において使用される「処置」という用語は、疾患又は傷害に対して患者に与えられる医療ケアを指す。この用語は、疾患の治癒だけでなく、上記疾患の症状を改善、緩和、又は軽減することも含む。したがって、本明細書において使用される「治療的処置」又は「処置」という用語は、身体を病理学的状態又は疾患からその正常な健康状態に戻すことを指す。本明細書において使用される「治療的処置」又は「処置」という用語はまた、被験体における放射線の有害効果の緩和、改善、若しくは軽減、又はそのような効果に関連する症状を何らかの方法で軽減することを指す。本明細書において使用される「予防的処置」という用語は、病理学的状態を予防することを指す。
【0034】
「予防」とは、疾患の発生を防ぐことを意味する。「改善」とは、患者の疾患を良くすること、又は上記疾患を矯正する若しくは少なくともより許容可能にする努力をする行動を意味する。「軽減」又は「緩和」とは、疾患の重症度、重篤度、又は痛みを減らすことを意味する。
【0035】
本明細書において使用される「被験体」という用語は、哺乳動物被験体を指す。好ましくは、被験体は、ヒト、伴侶動物、非家畜、又は動物園の動物から選択される。例えば、被験体は、ヒト、イヌ、ネコ、ウシ、ブタ、ヒツジ、ウマ、クマ等から選択され得る。好ましい実施形態において、上記哺乳動物被験体は、ヒト被験体である。
【0036】
「電離放射線」とは、通り抜ける媒体中で電離を引き起こすのに十分なエネルギーを有する粒子、X線、又はガンマ線からなる放射線を意味する。「γ線」又は「γ放射線」とは、原子核の放射性崩壊から生ずる透過型の電磁放射線を意味する。これは最も短い波長の電磁波からなるため、最も高い光子エネルギーを与える。「X線」又はX放射線とは、透過型の高エネルギー電磁放射線を意味する。殆どのX線は10ピコメートル~10ナノメートルの範囲の波長を有し、これは30ペタヘルツ~30エクサヘルツの範囲の周波数、及び124eV~124keVの範囲のエネルギーに相当する。
【0037】
「プテロスチルベン」又はPTとは、3,5-ジメトキシ-4’-ヒドロキシスチルベン、又はその塩、溶媒和物、異性体(エナンチオマー、ジアステレオマー)、水和物、又はあらゆる既知の誘導体、合成変種、及び許容可能な製剤(医薬品、化粧品、栄養補強食品等)を意味する。プテロスチルベン(PT)は天然の抗酸化物質であり、レスベラトロールの天然類似体であるが、同様の抗発癌特性を示すほぼ60倍~100倍強力な抗真菌剤である。プテロスチルベンは、主にブルーベリー及び赤ブドウに存在するが、定量的研究によれば、10部ごとのt-レスベラトロールにつき、1部~2部のt-プテロスチルベンしか存在しないことが明らかになっている。プテロスチルベンは、式:
【化1】
に対応する。
【0038】
「シリビニン」又はSILは、シリビン又はシリマリンとしても知られており(どちらもシリバム(Silybum)(オオアザミ)由来)、キク科における2種のアザミ属から得られるフラボノイドである。シリビニンには、その塩、溶媒和物、異性体(エナンチオマー、ジアステレオマー)、水和物、又はあらゆる既知の誘導体、合成変種、及び許容可能な製剤(医薬品、化粧品、栄養補強食品等)のいずれも含まれる。この植物は、欧州の地中海地域、北アフリカ、及び中東を原産とする。シリビニン(SIL)は、オオアザミ種子の標準化抽出物である、シリビニン、イソシリビニン、シリクリスチン、シリジアニン等からなるフラボノリグナンの混合物を含むシリマリンの主要な活性成分である。シリビニン自体は、2つのジアステレオマーであるシリビンA及びシリビンBのほぼ等モル比での混合物である。SILは、3,5,7-トリヒドロキシ-2-[3-(4-ヒドロキシ-3-メトキシフェニル)-2-(ヒドロキシメチル)-2,3-ジヒドロ-1,4-ベンゾジオキシン-6-イル]-2,3-ジヒドロクロメン-4-オンとしても知られ、これは、以下の式:
【化2】
を有する。
【0039】
ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドブースター、NAD前駆体、又はNADブースターとは、Rajman et al., Cell Metab. 2018 March 06; 27(3): 529-547. doi:10.1016/j.cmet.2018.02.011による文献に明確に開示されたNAD前駆体、NAD合成の活性化剤、又はNAD分解の阻害剤等のあらゆる化合物を意味する。ニコチンアミドには、その塩、溶媒和物、異性体(エナンチオマー、ジアステレオマー)、水和物、又はあらゆる既知の誘導体、合成変種、及び許容可能な製剤(医薬品、化粧品、栄養補強食品等)のいずれも含まれる。
【0040】
「線維芽細胞刺激性リポペプチド」又はFSL-1とは、トール様受容体2/6アゴニスト、又はその塩、溶媒和物、異性体(エナンチオマー、ジアステレオマー)、水和物、又はあらゆる既知の誘導体、合成変種、及び許容可能な製剤(医薬品、化粧品、栄養補強食品等)を意味し、式:
【化3】
に対応する。
【0041】
ニコチンアミドリボシドとは、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド又はNADの前駆体として機能する、ビタミンB3に似たピリジンヌクレオシドを意味する。NRの式は、
【化4】
である。
【0042】
本明細書において使用される「パーツのキット」という用語は、患者への同時投与又は逐次投与による併用療法において使用するのに有効成分が物理的に隔離されている組合せ調剤を指す。
【0043】
詳細な説明
幾つかの天然化合物は、放射線照射前に被験体に投与すると放射線防護効果を有することが知られている。図2Aに示されるように、プテロスチルベン(PT)、没食子酸、EGCG等のような化合物は、スイスアルビノマウスにおいて放射線照射の6日後にほぼ100%の生存率をもたらす。しかしながら、一部の化合物は長期間にわたってマウスを防護することができない。例えば、30日後(図2B)、ルテオリンの生存率のパーセンテージは約40%に低下し、60日後(図2C)には生存率のパーセンテージは0%であった。したがって、長期間にわたって高レベルの防護を発揮することができる化合物が望まれる。
【0044】
これらの化合物を組み合わせて一緒に投与することはできるものの、この組合せにより得られる放射線防護を予測することはできない。場合によっては、或る化合物を別の化合物と組み合わせても、この化合物の放射線防護特性が変化しないこともある。例えば、図2Cに示されるように、PTの投与により、放射線照射の60日後に40%のマウス生存率がもたらされる。デルフィニジンはおよそ12%の生存率をもたらす。しかしながら、PTをデルフィニジンと組み合わせると、得られる生存率はおよそ40%のままであり、これはPT化合物単独によってもたらされる生存率とほぼ同じである。この場合、デルフィニジンの効果はPTの効果に加算されない。
【0045】
その他の場合に、驚くべきことに、或る化合物の放射線防護効果は別の化合物の同時投与によって悪影響を受けることがある。これは図2Cに示されており、PTの放射線防護効果は60日後に40%の生存率をもたらし、没食子酸はおよそ5%の防護をもたらす。しかしながら、両方の化合物を組み合わせると、全体の生存率はおよそ35%であり、PT単独の投与よりも低下した放射線防護効果がもたらされる。
【0046】
その他の場合に、2種の化合物を組み合わせると、それらの放射線防護効果が合算され、これらの個々の効果を足し合わせて得られた防護がもたらされることがある。例えば、図2Cにおいて、PTによってもたらされる防護はおよそ40%であり、ゲニステインによってもたらされる防護はおよそ7%であることが示されている。したがって、両方の化合物を組み合わせると、得られる防護はおよそ45%となり、これは、両方の化合物がそれらの効果を発揮しており、かつ全体的な防護が多かれ少なかれ両方の化合物の効果の合算であることを意味する。
【0047】
より興味深いことに、本発明の著者らは、驚くべきことに、2種の化合物の組合せが変化又は有害な若しくは累積的な防護をもたらし得ないだけでなく、非常にまれな場合に、2種の化合物の組合せがそれらの効果の単なる累積を超えた放射線防護特性の強化をもたらすことがあることも見出した。すなわち、特定の化合物の特定の組合せは、それらの個々の効果の累積によっては説明することができない防護の強化をもたらし、これは、それらの間に相乗効果があることを意味する。これは図2B及び図2Cに示されている。図2Cにおいて、シリビニン(SIL)はおよそ10%の生存率をもたらし、PTはおよそ40%の生存率をもたらすが、これらの両者の組合せは70%を超える生存率をもたらす。これは、SIL及びPTの組合せが単にそれらの放射線防護特性の相加効果をもたらすのではなく、放射線防護の強化を生ずる相乗効果をもたらすことも明確に示している。
【0048】
これらの知見は、放射線防護の強化を達成するのに、組み合わされる化合物に注意を払うべきであることを示唆している。それというのも、組合せによっては放射線防護を強化することができるものもあれば、好ましくない場合には、化合物を個別に投与する方が推奨されることとなるものもあるからである。
【0049】
したがって、放射線防護の強化を達成するのに、異なる放射線防護特性を有する化合物をただ手当たり次第に組み合わせることはできない。それというのも、この組合せが必ずしも全体的な放射線防護の強化をもたらすとは限らないからである。どの化合物を同時投与するかに応じて、結果として得られる放射線防護が悪化することもあれば、同じになることも、又は2種の化合物の合算になることもあるが、一部の化合物を一緒に組み合わせると、相乗効果がもたらされ、それらの放射線防護特性の単なる合算だけでは導き出されない防護の強化がもたらされる。
【0050】
本発明者らによって見出された別の見解は、PT及びSILの特定の組合せが長期間の防護をもたらすことである。上述のように、全ての化合物が30日間を超えて放射線防護効果を発揮するわけではないため、これは驚くべきことである。例えば、図2BにおけるEGCG、ケルセチン、ナリンゲリン、又はフロリジン化合物(30日間)を参照のこと。ここでは、それらの放射線防護効果は60日後に0%に低下している(図2C)。しかしながら、図3に示されるように、PT及びSILの組合せにより、360日目、すなわち1年後におよそ25%の生存率(20匹中5匹のマウスが生きている)がもたらされた。したがって、PT及びSILの組合せは、防護効果の相乗的な強化をもたらすだけでなく、この効果は継続的でもある。さらに、図11Bに示されるように、PT及びSILをニコチンアミドリボシド(NR)又は線維芽細胞刺激性リポペプチド-1(FSL-1)等の他の放射線緩和剤化合物と組み合わせると、1年後の生存率はなおも更に最大50%~60%まで増大し、注目すべきことに、4種の化合物(PT、SIL、NR、及びFSL-1)を組み合わせると、これらは360日後に動物のほぼ完全な防護(90%)をもたらす。
【0051】
結論として、本発明は2つの主要な知見を与える:一方では、放射線防護特性を有する2種の天然化合物であるPT及びSILを同時投与すると、それらの対応する放射線防護効果の単なる累積だけでは導き出されない強化された持続的な相乗的な放射線防護がもたらされることが判明した。他方では、これら2種の化合物をNR及び/又はFSL-1等の放射線緩和剤化合物と組み合わせると、放射線に対する防護が長期間にわたって1年間でさえも最大90%の生存率まで更に強化され得ることも判明した。
【0052】
SIL及びPTの相乗効果を詳細に研究するのに、著者らは、PT+SILの組合せによって引き起こされる防護効果に関与する可能性のある潜在的なシグナル伝達経路を更に調査した。図15aに示されるように、コントロールと比較して、PT及びSILはどちらも核Nrf2を増加させ、一方で核NF-κBレベルを減少させた。これらの効果は、全体として、NF-κB依存性炎症誘発応答を下方調節しながら抗酸化防御を促進するという協調的な効果を示唆している。pPGC-1αもPTによって増加した(図15a)。興味深いことに、SIL単独ではSirt1レベルに影響が及ぼされなかったが、2つのポリフェノールを組み合わせると、PT単独よりもSirt1レベルが増加した(図15a)。これらの結果は、PTE及びSILの相乗効果が、細胞内で生ずる酸化ストレス及びDNA損傷を和らげる際に両方の化合物が有する協調的な効果に基づくという結論につながり、両方の化合物を含む組成物を活用して、美容、栄養、栄養補強食品、及び医学の分野において使用することへの道を切り開く。
【0053】
電離放射線によって誘発される疾患の予防、改善、又は軽減において使用されるプテロスチルベン
本発明の第1の態様は、被験体における電離放射線によって誘発される疾患の処置、予防、改善、又は軽減において使用される、シリビニン又はその薬学的に許容可能な塩若しくは誘導体と組み合わされたスチルベノイド、好ましくはレスベラトロール若しくはプテロスチルベン又はそれらの薬学的に許容可能な塩若しくは誘導体に関する。好ましくは、使用されるスチルベノイドは、プテロスチルベン又はその薬学的に許容可能な塩である。したがって、第1の態様において、本発明は、被験体における電離放射線によって誘発される疾患の処置、予防、改善、又は軽減において使用される、シリビニン又はその薬学的に許容可能な塩と組み合わされたプテロスチルベン又はその薬学的に許容可能な塩であって、投与は、放射線照射前、又は放射線照射後、又は放射線照射中に行われ、ここでの組合せは、a)プテロスチルベン又はその薬学的に許容可能な塩と、b)シリビニン又はその薬学的に許容可能な塩とを上記被験体に任意の順序で同時に又は逐次的に投与することと理解される、プテロスチルベン又はその薬学的に許容可能な塩を提供する。特定の実施形態において、電離放射線によって誘発される疾患は、DNA損傷、放射線誘発性の細胞毒性、遺伝毒性、及び/又は酸化的細胞損傷に関連する。好ましい実施形態において、電離放射線によって誘発される疾患は、急性放射線症候群及び/又は慢性放射線症候群である。別の実施形態において、上記疾患は、皮膚疾患、急性放射線症候群、癌、及び心血管疾患からなる群から選択される。
【0054】
本発明の第1の態様では、プテロスチルベンはシリビニンと組み合わせて使用される。PT及びSILを、単独の組成物において、又は別個の組成物において投与してもよい。
【0055】
好ましい実施形態において、プテロスチルベンはプテロスチルベンリン酸二ナトリウム塩である。別の好ましい実施形態において、シリビニンはシリビニン-C-2’,3-二水素コハク酸二ナトリウム塩である。
【0056】
上述のように、PT及びSIL、又はそれらの薬学的に許容可能な塩若しくは誘導体を組み合わせて投与して、被験体における電離放射線によって誘発される疾患を予防、改善、又は軽減する。好ましい実施形態において、被験体は哺乳動物である。より好ましくは、被験体は人間である。
【0057】
投与計画及び投与経路
投与は、同時(同じ時点で)又は逐次的であり得る。本明細書において使用される「逐次的な投与」とは、PT又はそれを含む組成物の投与の少し前又は少し後のSIL又はそれを含む組成物の投与を指す。本明細書において使用される「少し前又は少し後」とは、1時間~24時間、好ましくは1時間~12時間、好ましくは1時間~3時間の間隔内、好ましくは2時間以内、より好ましくは1時間又はそれより短い範囲内、例えば45分以内、30分以内、15分以内又はそれより短い範囲内であると理解される。一実施形態において、PTを最初に投与し、続いてSILを投与する。別の実施形態において、SILを最初に投与し、続いてPTを投与する。好ましい実施形態において、PT及びSILの投与を同時に行う。一実施形態において、PT及びSILを、単一の組成物の一部として、又は2つの異なる組成物の部分として、組み合わせて同時に投与する。
【0058】
一実施形態において、上記薬学的に許容可能な化合物及び組成物を、意図された投与経路に適合するように製剤化する。投与を達成する方法は当業者に知られている。これには、例えば、血管内、静脈内、動脈内、皮下、筋肉内、腹腔内、脳室内、硬膜外内(intraepidural)等のような非経口経路による注射だけでなく、経口、局所、鼻腔、眼内、直腸、又は局所も挙げられる。特に、デポー注射又は侵食性インプラント等の手段による徐放性投与も検討される。好ましい投与経路は非経口投与であり、これは本明細書においては1つ以上の血管内での投与として理解され、典型的には静脈内投与又は動脈内投与を含む。現在、最も好ましい投与経路は、非経口、経口、又は局所である。
【0059】
投与を1回だけ行うこともでき、又は2回以上投与することもできる。好ましい実施形態において、これらの化合物を数回投与する。特定の実施形態において、投与は、少なくとも1回、2回、3回、4回、5回、6回、7回、又はそれより多くの用量を含み得る。
【0060】
放射線照射前、放射線照射中、又は放射線照射後に投与を行うことができる。例えば、放射線照射が行われる少なくとも10日前、9日前、8日前、7日前、6日前、5日前、4日前、3日前、2日前、1日前に投与を行うことができる。別の実施形態において、放射線照射後に投与を行う。一実施形態において、放射線照射後に行われる投与は、放射線照射の1日後、2日後、3日後、4日後、5日後、6日後、7日後、8日後、9日後、10日後、又は10日を超える期間後に、例えば20日後若しくは30日後に、又は1ヶ月を超える期間後に、例えば2ヶ月後、3ヶ月後、5ヶ月後、6ヶ月後、8ヶ月後、9ヶ月後に行われる。特定の実施形態において、放射線照射が行われる日の同日、放射線照射前又は放射線照射後のいずれかで投与を行う。一実施形態において、投与は、放射線照射が行われる前、放射線照射の同日、及び/又は放射線照射が行われた後の数日間に投与される数回の用量からなる。好ましい実施形態において、プテロスチルベン及びシリビニン、又はそれらのあらゆる薬学的に許容可能な塩を、放射線照射前及び/又は放射線照射後、又はその両方で、同時に又は逐次的に数回投与する。
【0061】
投与量
最適な用量は、既存の毒性データ及び有効性データを考慮して、投与経路、処置計画、及び/又は投与計画に従って選択されることになる。好ましい実施形態において、本発明の第1の態様により使用されるPT及びSILは、放射線防護効果をもたらすことができる投与量で投与される。上記定義のように、「放射線防護」は、放射線によって引き起こされる直接的な損傷を軽減する能力として理解される。したがって、本発明において、PT及びSILの投与量は特に制限されない。
【0062】
さらに、本明細書に開示されるマウスモデルに適用される用量をヒトにおいて適用される等価用量に変換することは当業者には明らかであろう。そのために、当業者は、動物とヒトとの間の用量換算についてのよく知られた一般的な実践ガイドを照会することができる。例えば、Nair AB, Jacob S.著の「動物とヒトとの間の用量換算についての簡単な実践ガイド(A simple practice guide for dose conversion between animals and human.)」 J Basic Clin Pharma 2016;7:27-31を参照のこと。簡潔に言うと、マウスモデルにおける治療的用量を約12.3で割ることによって、それをヒトに換算することができる。すなわち、100mg/kgの用量がマウスにおいて治療的効果を呈した場合、ヒト等価用量は8.13mg/kgとなる。
【0063】
一実施形態において、PT又はその薬学的に許容可能な塩を最大500mg/kgの投与量で投与する。PTを300mg/kg~30mg/kgの範囲の投与量で投与することができる。好ましくは、PTを200mg/kg~40mg/kg、又は150mg/kg~40mg/kgの投与量で投与する。より好ましくは、PTを100mg/kgの投与量で投与する。一実施形態において、PT又はその薬学的に許容可能な塩を最大40.65mg/kgの投与量でヒトに投与する。PTを24.39mg/kg~2.43mg/kgの範囲の投与量でヒトに投与することができる。好ましくは、PTを16.2mg/kg~3.25mg/kg又は12.19mg/kg~3.25mg/kgの投与量でヒトに投与する。より好ましくは、PTを8.13mg/kgの投与量でヒトに投与する。
【0064】
別の実施形態において、SL又はその薬学的に許容可能な塩を最大500mg/kgの投与量で投与する。SILを200mg/kg~35mg/kgの範囲の投与量で投与することができる。好ましくは、SILを150mg/kg~40mg/kg、又は100mg/kg~50mg/kgの投与量で投与する。より好ましくは、PTを70mg/kgの投与量又はヒトへの等価量で投与する。別の実施形態において、SL又はその薬学的に許容可能な塩を最大40.65mg/kgの投与量でヒトに投与する。SILを16.26mg/kg~2.84mg/kgの範囲の投与量でヒトに投与することができる。好ましくは、SILを12.19mg/kg~3.25mg/kg又は8.13mg/kg~4.06mg/kgの投与量でヒトに投与する。より好ましくは、PTを5.69mg/kgの投与量又はヒトへの等価量でヒトに投与する。
【0065】
更なる化合物の投与
第1の態様の一実施形態において、上述の実施形態のいずれかに記載される使用は、少なくとも1種の更なる放射線緩和剤化合物と組み合わせて投与することを更に含み、ここで、本明細書に記載される使用は、本明細書において、a)プテロスチルベン又はその薬学的に許容可能な塩、b)シリビニン又はその薬学的に許容可能な塩、及びc)1種以上の放射線緩和剤化合物の上記被験体への同時の又は逐次的な投与として理解される。好ましい実施形態において、少なくとも1種以上の放射線緩和剤化合物は、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドブースター(以下、NADブースターと呼ぶ)、及び/又は線維芽細胞刺激性リポペプチド-1(以下、FSL-1と呼ぶ)、又はそれらのあらゆる薬学的に許容可能な塩を指す。本発明の文脈において、FSL-1が好ましいが、FSL-1は線維芽細胞刺激性リポペプチドの一種であるため、あらゆる他の線維芽細胞刺激性リポペプチドによって置き換えることができることに留意されたい。したがって、本発明の実施形態のいずれかで使用される「FSL-1」という用語を、あらゆる他の適切な線維芽細胞刺激性によって置き換えることができる。
【0066】
上記定義のように、「放射線緩和剤」は、放射線が照射された後でも毒性を最小限に抑えることができる化合物である。したがって、第1の態様の一実施形態において、PTとSILとの組合せの投与は、1種以上の放射線緩和剤化合物の投与を更に含む。PTと、SILと、1種以上の放射線緩和剤化合物との間の組合せは限定されない、すなわち、PTを、単一の組成物においてSIL及び1種以上の放射線緩和剤と一緒に投与することができ、又はこれらを異なる組成物において個別に投与することができる。3種(又は4種以上)の化合物の可能な全ての組合せが本明細書に含まれる。
【0067】
上記の投与経路及び投与計画は、PT及びSILを1種以上の放射線緩和剤化合物と一緒に投与する場合にも適用される。
【0068】
好ましい実施形態において、被験体における電離放射線によって誘発される疾患の予防、改善、又は軽減におけるPTと、SIL、それらの塩又はその誘導体との組合せの使用は、NADブースターの投与を更に含む。したがって、この実施形態において、少なくとも3種の化合物が一緒に投与され、これらは、同じ又は異なる組成物に含まれていてもよく、逐次的に又は同時に投与されてもよい。
【0069】
別の好ましい実施形態において、被験体における電離放射線によって誘発される疾患の予防、改善、又は軽減におけるPTと、SIL、それらの塩又はその誘導体との組合せの使用はFSL-1の投与を更に含む。したがって、この実施形態において、少なくとも3種の化合物が一緒に投与され、これらは、同じ又は異なる組成物に含まれていてもよく、逐次的に又は同時に投与されてもよい。
【0070】
更により好ましい実施形態において、被験体における電離放射線によって誘発される疾患の予防、改善、又は軽減におけるPTと、SIL、それらの塩又はその誘導体との組合せの使用はNADブースター及びFSL-1の両方の投与を更に含む。したがって、この実施形態において、4種の化合物は、同じ又は異なる組成物に含まれていてもよく、逐次的に又は同時に投与されてもよい。
【0071】
より好ましい実施形態において、NADブースターは、ニコチンアミドリボシド又は1-(β-D-リボフラノシル)ニコチンアミド(以下、NRと呼ぶ)、それらの薬学的に許容可能な塩又は誘導体である。
【0072】
更により好ましい実施形態において、被験体における電離放射線によって誘発される疾患の予防、改善、又は軽減におけるPTと、SIL、それらの塩又はその誘導体との組合せの使用はNR及びFSL-1の投与を更に含む。したがって、この実施形態において、4種の化合物は1用量以上の用量で一緒に投与され、同じ又は異なる組成物に含まれており、放射線照射前、放射線照射中、又は放射線照射後に逐次的に又は同時に投与される。
【0073】
好ましい実施形態において、PT及びSILを、放射線照射前の数日間及び/又は放射線照射後の数日間、1日1回投与する。より好ましくは、PT及びSILを、放射線照射前の10日間、9日間、8日間、7日間、6日間、5日間、4日間、3日間、2日間、1日間、好ましくは5日間、毎日投与する。別の実施形態において、PT及びSILを、放射線照射前から放射線照射後の最大5日まで、4日まで、3日まで、2日まで、1日まで毎日投与する。好ましくは、PT及びSILを、放射線照射前の先行する5日間、かつ放射線照射後の2日間、毎日投与する。
【0074】
別の実施形態において、NADブースターを、放射線照射の同日に、かつ放射線照射後の翌月中に1日1回投与する。別の実施形態において、NADブースターを、放射線照射の少なくとも60分後に投与し、放射線照射後の次の30日間に更に投与する。
【0075】
別の実施形態において、FSL-1を、好ましくは放射線照射後に、より好ましくは放射線照射の少なくとも1日後に1回だけ投与する。
【0076】
一実施形態において、NADブースター又はその薬学的に許容可能な塩を最大500mg/kgの投与量で投与する。一実施形態において、NADブースター又はその薬学的に許容可能な塩を400mg/kg~100mg/kgの投与量で投与する。好ましくは、NADブースターを300mg/kg~150mg/kg、又は200mg/kg~150mg/kgの投与量で投与する。より好ましくは、NADブースターを185mg/kgの投与量で投与する。一実施形態において、NADブースター又はその薬学的に許容可能な塩を最大40.65mg/kgの投与量でヒトに投与する。一実施形態において、NADブースター又はその薬学的に許容可能な塩を32.52mg/kg~8.13mg/kgの投与量でヒトに投与する。好ましくは、NADブースターを24.39mg/kg~12.19mg/kg又は16.26mg/kg~12.19mg/kgの投与量でヒトに投与する。より好ましくは、NADブースターを15.04mg/kgの投与量でヒトに投与する。
【0077】
別の実施形態において、NADブースターはニコチンアミドリボシド又はそのあらゆる薬学的に許容可能な塩であり、これを400mg/kg~100mg/kgの投与量で投与する。好ましくは、ニコチンアミドリボシドを300mg/kg~150mg/kg、又は200mg/kg~150mg/kgの投与量で投与する。より好ましくは、ニコチンアミドリボシドを185mg/kgの投与量で投与する。別の実施形態において、NADブースターはニコチンアミドリボシド又はそのあらゆる薬学的に許容可能な塩であり、これを32.52mg/kg~8.13mg/kgの投与量でヒトに投与する。好ましくは、ニコチンアミドリボシドを24.39mg/kg~12.19mg/kg又は16.26mg/kg~12.19mg/kgの投与量でヒトに投与する。より好ましくは、ニコチンアミドリボシドを15.04mg/kgの投与量でヒトに投与する。
【0078】
一実施形態において、FSL-1又はその薬学的に許容可能な塩を最大1mg/kgの投与量で投与する。別の実施形態において、FSL-1化合物又はその薬学的に許容可能な塩を1mg/kg~0.1mg/kgの投与量で投与する。好ましくは、FSL-1化合物を0.75mg/kg~0.1mg/kg、又は0.5mg/kg~0.1mg/kgの投与量で投与する。より好ましくは、FSL-1化合物を0.25mg/kgの投与量で投与する。一実施形態において、FSL-1又はその薬学的に許容可能な塩を最大0.08mg/kgの投与量で投与する。別の実施形態において、FSL-1化合物又はその薬学的に許容可能な塩を0.08mg/kg~0.008mg/kgの投与量で投与する。好ましくは、FSL-1化合物を0.06mg/kg~0.008mg/kg、又は0.04mg/kg~0.081mg/kgの投与量で投与する。より好ましくは、FSL-1化合物を0.020mg/kgの投与量で投与する。
【0079】
一実施形態において、電離放射線はガンマ(γ)線又はX線である。
【0080】
PT及びSILを含む組成物
第2の態様において、本発明は、a)スチルベノイド、好ましくはレスベラトロール若しくはプテロスチルベン又はそれらの塩若しくは誘導体と、b)シリビニン又はその塩若しくは誘導体とを含む組成物に関する。好ましくは、スチルベノイドは、プテロスチルベン又はその塩である。したがって、本発明の第2の態様は、a)プテロスチルベン又はその塩と、b)シリビニン又はその塩とを含む組成物を提供する。好ましくは、組成物は、医薬組成物、栄養補強食品組成物、美容組成物、又は食品組成物である。本発明の目的で、栄養補強食品という用語は、「食品薬(food-drug)」、すなわち、栄養成分と、有効性が証明され認識されている天然有効成分(この場合はPT及びSIL)の治癒特性とを関連付ける健康食品を意味する。
【0081】
薬学的に許容可能な賦形剤としては、限定されるものではないが、水、生理食塩水、ポリエチレングリコール、ヒアルロン酸、グリセロール、及びエタノール等の液体が挙げられる。薬学的に許容可能な塩、例えば、塩酸塩、臭化水素酸塩、リン酸塩、硫酸塩等のような鉱酸塩、及び酢酸塩、プロピオン酸塩、マロン酸塩、安息香酸塩等のような有機酸の塩もそれに含まれ得る。ペプチド、タンパク質、又は他の同様の分子がワクチン組成物に含まれるべきであれば、特にこれらに対する安定剤として機能する薬学的に許容可能な賦形剤が調剤に含まれることも好ましい。適切な担体の例としては、限定されるものではないが、医薬品グレードのデキストロース、スクロース、ラクトース、トレハロース、マンニトール、ソルビトール、イノシトール、デキストラン等が挙げられる。他の適切な担体としては、デンプン、セルロース、リン酸ナトリウム又はリン酸カルシウム、クエン酸、酒石酸、グリシン、高分子量ポリエチレングリコール(PEG)、及びそれらの組合せが挙げられる。薬学的に許容可能な賦形剤、添加剤、及び担体の詳細な考察は、Remington's Pharmaceutical Sciences(第22版、2012年)において得られる。
【0082】
医薬製剤、構造改変、及び送達系に関する様々な選択肢がPTE及びSILの経口投与を容易にするのを助けることができ、これらも本明細書に含まれる。幾つかの例としては、プロドラッグ(カルボキシエステル、スルホン酸塩、硫酸塩、リン酸塩、アセタール、又はカルバミン酸塩若しくは炭酸塩)、ナノエマルジョン、ナノ粒子をカプセル化するポリイオン/ポリマーシェル、リポソーム、又はエキソソームが挙げられる。特に、PTE及びSILのあらゆる薬学的に許容可能な製剤が本明細書に含まれる。
【0083】
第2の態様による1つ以上の組成物は、本発明の第1の態様において定義された投与量でPT及びSILを含み、本発明の第1の態様で定義される投与経路及び投与計画に従って投与される。上記組成物の投与量、投与経路、及び投与計画に関する更なる詳細及び好ましい実施形態も本発明の第1の態様において提供される。
【0084】
上記組成物は、PT及びSIL、又はそれらのあらゆる塩若しくは誘導体を含み、本発明の第1の態様で定義される1種以上の放射線緩和剤化合物を更に含み得る。上述のように、一実施形態において、放射線緩和剤化合物は、NADブースター及び/又はFSL-1であり得る。好ましい実施形態において、PT及びSILを含む組成物は、少なくとも2種の放射線緩和剤化合物、好ましくはNR及びFSL-1を更に含む。
【0085】
好ましくは、上記1つ以上の組成物は、非経口投与、経口投与、又は局所投与に適した形態である。好ましい実施形態において、上記組成物は水性組成物、より好ましくは安定な水性組成物である。本明細書において使用される場合、「安定な組成物」とは、その中の有効成分が貯蔵時にその物理的安定性及び/又は化学的安定性及び/又は生物学的活性を本質的に保持する製剤を指し得る。
【0086】
第2の態様の1つ以上の組成物は、食品組成物であり得る。食品組成物は液体組成物又は固体組成物であり得る。本発明の文脈において、そのような液体組成物としては、限定されるものではないが、動物乳若しくは植物乳及び、例えばミルクシェイク、ヨーグルト、ケフィア等のようなそれらのあらゆる派生物、果物ジュース及び/又は野菜ジュース、静水若しくは炭酸水、又はフレーバー付き若しくは甘味を加えた水若しくは飲料(栄養性甘味料(ショ糖、果糖等)又は人工甘味料による)、シーズニング、あらゆる種類のアルコール飲料、紅茶、コーヒー、並びにあらゆる種類の清涼飲料若しくはソフトドリンク、又は栄養補給飲料からなる群から選択されるあらゆる飲料が挙げられる。
【0087】
食品組成物はまた固体組成物であり得る。このような固体組成物は、例えば、限定されるものではないが、チーズ、バター、マーガリン、及び豆腐等の動物乳若しくは植物乳の派生物、焼きたてのパン、包装されたパン、若しくは冷凍されたパン、スライスされたパン、全粒粉パン、スパイス入りパン、甘味のあるパン、塩味のあるパン等を含むあらゆる種類のパン、小麦粉若しくはセモリナ粉等のあらゆる穀粉から作製されたパスタ(マカロニ、スパゲッティ、麺等)、焼き菓子、飲料の準備用のばらでの若しくは小袋入りの煎じ物、紅茶、又はコーヒー、ゼリー、「ソフトフルーツキャンディ」としてより良く知られるグミキャンディを含むキャンディ、並びにあらゆる種類の固形シーズニング、又はそれらの混合物からなる群から選択され得る。
【0088】
最後に、食品組成物はまた、栄養の、食事の、又は食品の補助物又は補足物であり得る。これらの用語は、食事を補足することを意図した成分、本発明の場合にはPT及びSIL、又はそれらの塩若しくは誘導体のいずれかを含む経口摂取される組成物に対して通常使用される。これらは、決して従来の食品の代わりになることも、又は食物若しくは食事の唯一の構成要素となることもない。組成物はまた、栄養補強食品組成物であってもよい。この組成物を更に、本明細書全体で定義されるように、機能性食品又はPTEとSILとの組合せを添加すると追加の機能を有する食品の調製に使用することができる。栄養組成物、食事組成物、若しくは栄養補強食品組成物、又は食品補助物若しくは機能性食品は、香錠、丸剤、錠剤、カプセル剤、ソフトゼラチンカプセル剤、ゼラチンカプセル剤、ウェハー剤、発泡錠剤、液剤(溶液剤、懸濁液剤、シロップ剤)、顆粒剤、及び粉剤等の様々な表現で見られ得る。これらは全て、本発明の範囲内の特定の実施形態として含まれる。栄養学的又は薬学的に許容可能な賦形剤は、上述の表現のいずれかを得ることに関して当業者には明らかであり、これらは本発明の範囲内に含まれる。
【0089】
本発明は更に、本発明の第1の態様において定義されるように使用される上記組成物に関する。
【0090】
PT及びSILを含むパーツのキット
第3の態様において、本発明は、少なくともa)スチルベノイド、好ましくはレスベラトロール若しくはプテロスチルベン及びシリビニン又はそれらのあらゆる塩若しくは誘導体と、任意に少なくとも1種以上の上記定義の放射線緩和剤化合物とを含む少なくとも2つの受容器を含むパーツのキットに関する。好ましくは、パーツのキットに含まれるスチルベノイドはプテロスチルベンである。
【0091】
典型的には、2種以上の成分は、組成物として製剤化されて提供され、2つ以上の別個の受容器に提供される。例えば、PT及びSILを一方の受容器において組み合わせ、放射線緩和剤をもう一方の受容器において組み合わせることができる。一実施形態において、各化合物は別個の受容器に収容される。更なる実施形態において、放射線緩和剤化合物は、放射線緩和剤化合物と同様の受容器において存在する。
【0092】
好ましくは、上記組成物は、本発明の先の態様において定義したように、好ましくは電離放射線によって誘発される疾患の治療処置において本発明の先の態様において定義したように使用される。
【0093】
電離放射線によって誘発される疾患を予防、改善、又は軽減する方法
第4の態様において、本発明は、スチルベノイド、好ましくはレスベラトロール若しくはプテロスチルベン又はそれらの薬学的に許容可能な塩若しくは誘導体と、シリビニン又はそのあらゆる薬学的に許容可能な塩若しくは誘導体との組合せを被験体に投与することを含む、被験体における電離放射線によって誘発される疾患を予防、処置(改善又は軽減を含む)する方法に関する。好ましくは、スチルベノイドは、プテロスチルベンである。したがって、第4の態様において、本発明は、プテロスチルベンと、シリビニン又はそのあらゆる薬学的に許容可能な塩との組合せを投与することを含む、被験体における電離放射線によって誘発される疾患を予防、処置(改善又は軽減を含む)する方法であって、上記投与は、放射線照射前、又は放射線照射後、又は放射線照射中に行われ、ここでの組合せは、本明細書全体を通して定義されるa)プテロスチルベン又はその薬学的に許容可能な塩と、b)シリビニン又はそのあらゆる薬学的に許容可能な塩と、任意にc)少なくとも1種以上の放射線緩和剤化合物とを上記被験体に同時に又は逐次的に投与することと理解される、方法を提供する。本発明の第1の態様及び第2の態様において上記したのと同様に、少なくとも1種以上の放射線緩和剤化合物は、NADブースター及び/又はFSL-1であり得る。
【0094】
この第4の態様は、上記の第1の態様及び第2の態様に関連する。したがって、化合物及び医薬組成物、投与量、投与経路及び投与計画は、本発明の先の態様において提供され、本明細書に適用される。
【0095】
栄養補強食品分野において又は栄養補強食品組成物として使用されるプテロスチルベンとシリビニンとの組合せ
第5の態様において、本発明は更に、スチルベノイド、好ましくはレスベラトロール若しくはプテロスチルベンと、シリビニン若しくはそのあらゆる塩若しくは誘導体との組合せの使用、又は第2の態様による組成物の使用であって、栄養補強食品分野における又は栄養補強食品組成物としての使用に関する。好ましくは、使用されるスチルベノイドは、プテロスチルベンである。したがって、第5の態様は、栄養補強食品分野において又は栄養補強食品組成物として使用されるプテロスチルベン又はその塩と、シリビニン又はその塩との組合せであって、ここでの組合せは、a)プテロスチルベン又はその塩と、b)シリビニン又はその塩とを上記被験体に任意の順序で同時に又は逐次的に投与することと理解される、組合せを提供する。
【0096】
好ましい実施形態において、栄養補強食品組成物としての使用は、電離放射線によって誘発される疾患の処置若しくは予防のため、神経変性障害、心血管障害、肺障害、代謝性障害、若しくは加齢関連障害の処置又は予防のため、及び/又はヒトの皮膚若しくは口唇に対する日光の有害効果の防護若しくは修復のためのものである。「ヒトの皮膚又は口唇に対する日光の有害効果の修復」という用語は、本明細書においては、限定されるものではないが、加齢によるシミ、日焼け、紫外線によるシミ、しわ、小じわ、リンクル、目尻のしわ、クモ状静脈、皮膚線条、目のクマ、色素沈着過剰、色素沈着低下、変色、肌の色むら、くすみ、そばかす、吹き出物、ブレミッシュ、皮膚脆弱性、乾燥、まだら、触感上の荒れ、ひび割れ、たるみ、菲薄化、毛穴の拡大、セルライト形成、ニキビ形成、酒さ、乾癬、及び湿疹を含む、皮膚の欠損、欠陥、又は美観的に好ましくない状態を阻止する、逆転させる、改善する、減少させる、及び/又は軽減することを指すのに使用される。「皮膚」という用語には、顔又は身体の皮膚が含まれる。
【0097】
好ましくは、電離放射線によって誘発される疾患は、DNA損傷、放射線誘発性の細胞毒性、遺伝毒性、及び/又は酸化的細胞損傷に関連する。より好ましくは、電離放射線によって誘発される疾患は、急性放射線症候群及び/又は慢性放射線症候群からなる群から選択される。
【0098】
好ましくは、栄養補強食品組成物は、アルツハイマー型認知症若しくは他の認知症、又は加齢に伴う認知障害、パーキンソン病、ハンチントン病、多発性硬化症、ケネディ病(球脊髄性筋萎縮症)、腎臓疾患、脳血管疾患、高血圧症、慢性閉塞性肺疾患、筋萎縮性側索硬化症、及び糖尿病からなる群から選択される障害の処置において使用される。
【0099】
この第5の態様は、上記の第1の態様及び第2の態様に関連する。したがって、化合物及び医薬組成物、投与量、投与経路及び投与計画は、本発明の先の態様において提供され、本明細書に適用される。
【0100】
非治療的に美容組成物として使用されるプテロスチルベンとシリビニンとの組合せ
第6の態様において、本発明は更に、スチルベノイド、好ましくはレスベラトロール又はプテロスチルベンと、シリビニン又はそのあらゆる塩若しくは誘導体との組合せの非治療的な美容的使用に関する。さらに、第6の態様はまた、第2の態様による組成物の非治療的な美容的使用に関する。好ましくは、使用されるスチルベノイドは、プテロスチルベンである。したがって、本発明の第6の態様は、非治療的に美容的使用される又は美容組成物としてのプテロスチルベン又はその塩と、シリビニン又はその塩との組合せであって、ここでの組合せは、a)プテロスチルベン又はその塩と、b)シリビニン又はその塩とを上記被験体に任意の順序で同時に又は逐次的に投与することと理解される、組合せを提供する。
【0101】
本明細書において使用される場合、「非治療的な美容的使用」という表現は、人の外見を良くする、すなわち、外見を美しくするのに使用される方法を指す。美容における使用は、手術又は療法による処置を含まない。美容ケアとしては、処置される皮膚領域へのPTE及びSILの局所塗布が挙げられる。好ましくは、組成物の美容的使用は、洗浄し、美化し、魅力を付加し、外見を変え、又は皮膚若しくは毛髪を良好な状態に維持若しくは促進するという非治療的な目的を有する。上記目的は、美白すること、顔及び身体のシワの発生を最小限に抑えること、日光及び太陽光線から保護することでもあってもよい。一実施形態において、非治療的な美容的使用は、皮膚の老化の自然なプロセスを予防、軽減、及び/又は改善することである。
【0102】
好ましくは、非治療的な使用は、限定されるものではないが、加齢によるシミ、日焼け、紫外線によるシミ、しわ、小じわ、リンクル、目尻のしわ、クモ状静脈、皮膚線条、目のクマ、色素沈着過剰、色素沈着低下、変色、肌の色むら、くすみ、そばかす、吹き出物、ブレミッシュ、皮膚脆弱性、乾燥、まだら、触感上の荒れ、ひび割れ、たるみ、菲薄化、毛穴の拡大を含むヒトの皮膚及び口唇に対する日光の有害効果を防護、改善、及び/又は軽減することである。「皮膚」という用語には、顔又は身体の皮膚が含まれる。
【0103】
この第6の態様は、上記の第1の態様及び第2の態様に関連する。したがって、美容的使用に適合し、本発明の先の態様において提供された化合物及び組成物、投与量、投与経路及び投与計画も本明細書に適用される。
【0104】
細胞内サーチュインレベルを増加させるのに使用されるプテロスチルベンとシリビニンとの組合せ
図5図8において報告されたデータに基づいて、PT+SILは誘発された酸化的損傷に対して防護を発揮することが明らかになった。さらに、図15に示されるように、この機構は、サーチュイン(Sirt)レベル、特にSirt1におけるPTE+SILによって引き起こされる相乗的増加に直接関連していることが判明した。サーチュインは、多くの重要な機能を制御するため代謝調節に関与し、また代謝性疾患、心血管疾患、肺疾患、神経変性障害、及び加齢関連障害、並びに癌等の幾つかの病理にも関与するシグナル伝達タンパク質のファミリーである。サーチュインは、炎症及びオートファジーのモジュレーターであることが明らかになっている。サーチュインを活性化する又は増加させる化合物が代謝機能不全、癌、及び加齢関連疾患を処置する治療的アプローチとしての将来性を示すことを示唆する証拠が相次いでいることから、上記疾患の処置又は予防における使用のためのPTEとSILとの組合せの使用が強力に裏付けられる。特に、幾つかの研究により、神経保護における、特にアルツハイマー型認知症若しくは他の認知症、又は加齢に伴う認知障害、パーキンソン病、ハンチントン病、多発性硬化症、ケネディ病(球脊髄性筋萎縮症)、筋萎縮性側索硬化症、及びその他の神経関連疾患等の神経変性障害におけるサーチュインの役割が明らかにされている(Kim D, et al.著の「SIRT1デアセチラーゼは、アルツハイマー病及び筋萎縮性側索硬化症についてのモデルにおける神経変性から保護する(SIRT1 deacetylase protects against neurodegeneration in models for Alzheimer's disease and amyotrophic lateral sclerosis.)」 EMBO J. 2007;26(13):3169-3179、Donmez G et al.著の「SIRT1は、分子シャペロンを活性化することによってα-シヌクレインの凝集から保護する(SIRT1 protects against α-synuclein aggregation by activating molecular chaperones.)」 J Neurosci. 2012;32(1):124-132、Outeiro TF et al.著の「サーチュイン2阻害剤は、パーキンソン病モデルにおけるα-シヌクレイン媒介毒性を救済する(Sirtuin 2 inhibitors rescue alpha-synuclein-mediated toxicity in models of Parkinson's disease.)」 Science. 2007;317(5837):516-519、Pallos J et al.著の「特定のHDAC及びサーチュインの阻害は、ハンチントン病のショウジョウバエモデルにおける病因を抑制する(Inhibition of specific HDACs and sirtuins suppresses pathogenesis in a Drosophila model of Huntington's disease.)」 Hum Mol Genet. 2008;17(23):3767-377、Luthi-Carter R et al.著の「SIRT2阻害は、ステロール生合成を減少させることにより神経保護を実現する(SIRT2 inhibition achieves neuroprotection by decreasing sterol biosynthesis.)」 Proc Natl Acad Sci U S A. 2010;107(17):7927-7932、Shindler KS, et al.著の「SIRT1の活性化は、実験的視神経炎における神経保護をもたらす(SIRT1 activation confers neuroprotection in experimental optic neuritis.)」 Invest Ophthalmol Vis Sci. 2007;48(8):3602-3609、Montie HL, et al.著の「SIRT1は、SBMAの細胞モデルにおけるアンドロゲン受容体の脱アセチル化を通じて凝集及び毒性を調節する(SIRT1 modulates aggregation and toxicity through deacetylation of the androgen receptor in cell models of SBMA.)」 J Neurosci. 2011;31(48):17425-17436を参照のこと)。
【0105】
これを考慮して、第7の態様において、本発明は、増加を必要とする患者におけるサーチュインの細胞内レベルを増加させるのに使用されるスチルベノイド、好ましくはレスベラトロール若しくはプテロスチルベンと、シリビニン若しくはそのあらゆる塩若しくは誘導体との組合せ、又は第2の態様による組成物であって、上記増加は、スチルベノイド、好ましくはレスベラトロール若しくはプテロスチルベンと、シリビニン若しくはそのあらゆる塩との組合せでの処置前の、又は第2の態様による組成物での処置前の同じ患者におけるサーチュインの細胞内レベルと比較したものである、組合せ又は組成物である。好ましくは、スチルベノイドは、プテロスチルベンである。好ましくは、細胞内レベルが増加するサーチュインは、Sirt1、Sirt2、又はSirt3、最も好ましくはSirt1である。未処置の患者と比較した細胞内サーチュインレベルの増加は、好ましくは統計的に有意な増加であり、限定されるものではないが、ブラッドフォードアッセイ、比色タンパク質測定BCA、ウェスタンブロット又はELISA等の抗体ベースのアッセイ、ローリータンパク質アッセイ、蛍光ベースのアッセイ、タンパク質の質量分析ベースのアッセイ、ナノ粒子及びナノポアベースの方法等のようなタンパク質の量を測定することを目的としたあらゆる適切な技術によって測定することができる。
【0106】
「サーチュインの細胞内レベルの統計的に有意な増加」は、本明細書においては、上記タンパク質(この場合、サーチュイン)の発現レベル又は活性化レベルの増加が偶然だけでは説明することができないという分析者による決定としてみなされる。統計的仮説検定は、当業者がこの決定を下す方法である。この検定では、結果が本当に偶然のみによるものであると仮定して、データの結果と同じくらい極端な結果が観察される確率であるp値が得られる。本明細書においては、0.1以下(好ましくは0.05、0.01、0.001以下)のp値が統計的に有意であるとみなされる。例えば、サーチュインの細胞内レベルの増加は、統計的検定を行って、サーチュインの細胞内レベルを参照細胞又は未処置の細胞におけるサーチュインの基底細胞内レベルと比較した場合に統計的に有意であり、その際、上記統計的検定の結果として得られるp値は、0.1以下、好ましくは0.05、0.01、0.001以下である。
【0107】
好ましくは、それを必要とする患者は、サーチュインの細胞内レベルの低下、好ましくはSirt1の細胞内レベルの低下を特徴とする疾患又は障害を患っている。好ましくは、それを必要とする患者は、健康な人におけるサーチュインの細胞内レベルと比較して、サーチュイン、好ましくはSirt1の細胞内レベルの低下を特徴とする神経変性障害、心血管障害、肺障害、代謝障害、又は加齢関連障害を患っている。好ましくは、障害は、アルツハイマー型認知症若しくは他の認知症、又は加齢に伴う認知障害、パーキンソン病、ハンチントン病、多発性硬化症、ケネディ病(球脊髄性筋萎縮症)、腎臓疾患、脳血管疾患、高血圧症、慢性閉塞性肺疾患、筋萎縮性側索硬化症、及び糖尿病からなる群から選択される。
【0108】
好ましくは、プテロスチルベン又はその塩と、シリビニン又はその塩との組合せは、神経変性疾患の処置、予防、改善、又は軽減において使用され、ここでの組合せは、a)プテロスチルベン又はその塩と、b)シリビニン又はその塩とを上記被験体に任意の順序で同時に又は逐次的に投与することと理解される。好ましくは、上記障害は、健康な人と比較して、サーチュイン、好ましくはSirt1の細胞内レベルの低下を特徴としている。一実施形態において、神経変性障害は、アルツハイマー型認知症若しくは他の認知症、又は加齢に伴う認知障害、パーキンソン病、ハンチントン病、多発性硬化症、ケネディ病(球脊髄性筋萎縮症)、腎臓疾患、脳血管疾患、高血圧症、慢性閉塞性肺疾患、筋萎縮性側索硬化症、及び糖尿病からなる群について選択される。一実施形態において、処置するとサーチュイン、好ましくはSirt1の細胞内レベルが増加する細胞は、神経組織由来である。好ましくは、この細胞はニューロン又は神経膠細胞である。
【0109】
さらに、サーチュインは糖尿病等の代謝障害の処置における潜在的な治療標的であることも知られている。幾つかの研究は、膵臓細胞におけるSirt1の過剰発現を使用して糖尿病患者における血糖値を制御することができることを示唆している(Nerurkar et al.著の「評判の良いSir(2):糖尿病の不思議な標的(Respected Sir(2): magic target for diabetes.)」 Cellscience. 2008;4(4):82-96、Moynihan et al.著の「膵臓ベータ細胞における哺乳動物Sir2の投与量の増加は、マウスにおけるグルコース刺激性インスリン分泌を促進する(Increased dosage of mammalian Sir2 in pancreatic beta cells enhances glucose-stimulated insulin secretion in mice.)」 Cell Metab. 2005;2(2):105-117、及びBordone et al.著の「Sirt1は膵臓ベータ細胞におけるUCP2を抑制することによってインスリン分泌を調節する(Sirt1 regulates insulin secretion by repressing UCP2 in pancreatic beta cells.)」 PLoS Biol. 2006;4(2):e31を参照のこと)。これを考慮して、本明細書において与えられる知見に基づいて、スチルベノイド、好ましくはレスベラトロール若しくはプテロスチルベンとシリビニンとの組合せ、又は第2の態様による組成物を糖尿病の処置、予防、改善、又は軽減に使用することもできる。好ましくは、スチルベノイドは、プテロスチルベンである。したがって、好ましい実施形態において、本発明はまた、糖尿病の処置、予防、改善、又は軽減において使用されるプテロスチルベン又はその塩と、シリビニン又はその塩との組合せであって、ここでの組合せは、a)プテロスチルベン又はその塩と、b)シリビニン又はその塩とを上記被験体に任意の順序で同時に又は逐次的に投与することと理解される、組合せを提供する。
【0110】
この第7の態様は、上記の第1の態様及び第2の態様に関連する。したがって、化合物及び医薬組成物、投与量、投与経路及び投与計画は、本発明の先の態様において提供され、本明細書に適用される。
【0111】
第1の態様において定義したのと同様に、また第5の態様、第6の態様、及び第7の態様における実施形態としても含まれるが、PTとSILとの組合せを単独の組成物又は別個の組成物において投与することができる。第5の態様、第6の態様、及び第7の態様の実施形態において、プテロスチルベンはプテロスチルベンリン酸二ナトリウム塩である。上記態様の他の実施形態において、シリビニンはシリビニン-C-2’,3-二水素コハク酸二ナトリウム塩である。上述の態様のいずれかに記載される使用は、PTE及びSILと少なくとも1種の更なる放射線緩和剤化合物との組合せを投与することを更に含むことに留意し、ここで、本明細書に記載される使用は、a)プテロスチルベン又はその塩、b)シリビニン又はその塩、及びc)1種以上の放射線緩和剤化合物の上記被験体への同時の又は逐次的な投与として理解される。好ましい実施形態において、少なくとも1種以上の放射線緩和剤化合物は、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドブースター(以下、NADブースターと呼ぶ)、及び/又は線維芽細胞刺激性リポペプチド-1(以下、FSL-1と呼ぶ)、又はそれらのあらゆる塩を指す。
【0112】
第1の態様において定義したのと同様に、また第5の態様、第6の態様、及び第7の態様における実施形態としても含まれるが、PT及びSIL、又はそれらのあらゆる塩若しくは誘導体が被験体に投与される。好ましい実施形態において、被験体は哺乳動物である。好ましくは、哺乳動物は、人間、又はイヌ、ネコ、若しくはウマ等の家畜である。より好ましくは、哺乳動物は人間である。
【0113】
本発明は更に、先の態様において記載したように、被験体におけるサーチュインの細胞内レベルを増加させて、低いレベルのサーチュイン又はサーチュイン活性化の低下を特徴とする疾患を予防、処置(改善又は軽減を含む)する方法を提供する。一実施形態において、上記方法は、プテロスチルベンと、シリビニン又はそのあらゆる塩との組合せを投与することを含み、ここでの組合せは、本明細書全体を通して定義されるa)プテロスチルベン又はその塩と、b)シリビニン又はその塩と、任意にc)少なくとも1種以上の放射線緩和剤化合物とを上記被験体に同時に又は逐次的に投与することと理解される。上記したのと同様に、少なくとも1種以上の放射線緩和剤化合物はNADブースター及び/又はFSL-1であり得る。重要なことには、第1の態様において定義された投与量及び投与経路は、第5の態様、第6の態様、及び第7の態様による使用にも適用される。
【0114】
本明細書において、本発明は、以下の項目又は実施形態も対象としていることに留意されたい。
【0115】
1.被験体における電離放射線によって誘発される疾患の予防、改善、又は軽減において使用される、シリビニン又はその薬学的に許容可能な塩と組み合わされたプテロスチルベン又はその薬学的に許容可能な塩であって、投与は、放射線照射前、又は放射線照射後、又は放射線照射中に行われ、ここでの組合せは、a)プテロスチルベン又はその薬学的に許容可能な塩と、b)シリビニン又はその薬学的に許容可能な塩とを上記被験体に任意の順序で同時に又は逐次的に投与することと理解される、プテロスチルベン又はその薬学的に許容可能な塩。
【0116】
2.プテロスチルベン及びシリビニン又はその薬学的に許容可能な塩は、単独の医薬組成物又は別個の医薬組成物において投与される、項目1に記載の使用されるプテロスチルベン。
【0117】
3.プテロスチルベン及びシリビニン又はその薬学的に許容可能な塩の投与は、局所、経口、又は非経口である、項目1又は2に記載の使用されるプテロスチルベン。
【0118】
4.プテロスチルベン及びシリビニン又はその薬学的に許容可能な塩は、放射線照射前及び/又は放射線照射後、又はその両方で、同時に又は逐次的に数回投与される、項目1~3のいずれかに記載の使用されるプテロスチルベン。
【0119】
5.組合せは、放射線防護効果を提供することができる投与量で存在する、項目1~4のいずれかに記載の使用されるプテロスチルベン。
【0120】
6.プテロスチルベン又はその薬学的に許容可能な塩は、300mg/kg~30mg/kg、好ましくは100mg/kgの投与量で投与され、かつシリビニン又はその薬学的に許容可能な塩は、200mg/kg~35mg/kgのシリビニン、好ましくは70mg/kgの投与量、又はヒトに換算した等価用量で投与される、項目1~5のいずれかに記載の使用されるプテロスチルベン。
【0121】
7.使用は、少なくとも1種以上の放射線緩和剤化合物と組み合わせて投与することを更に含み、ここでの組合せは、a)プテロスチルベン又はその薬学的に許容可能な塩、b)シリビニン又はその薬学的に許容可能な塩、及びc)少なくとも1種以上の放射線緩和剤化合物又はそのあらゆる薬学的に許容可能な塩の上記被験体への同時の又は逐次的な投与として理解される、項目1~6のいずれかに記載の使用されるプテロスチルベン。
【0122】
8.少なくとも1種以上の放射線緩和剤化合物は、NADブースター及び/又は線維芽細胞刺激性リポペプチド、又はそれらのあらゆる薬学的に許容可能な塩である、項目7に記載の使用されるプテロスチルベン。
【0123】
9.使用は、少なくとも2種以上の放射線緩和剤化合物と組み合わせて投与することを更に含み、ここで、少なくとも2種以上の放射線緩和剤化合物は、NADブースター及び線維芽細胞刺激性リポペプチド、又はそれらのあらゆる薬学的に許容可能な塩である、項目7に記載の使用されるプテロスチルベン。
【0124】
10.NADブースター又はそのあらゆる薬学的に許容可能な塩は、400mg/kg~100mg/kg、好ましくは185mg/kgの投与量で投与され、及び/又は線維芽細胞刺激性リポペプチド又はその薬学的に許容可能な塩は、1mg/kg~0.1mg/kg、好ましくは0.25mg/kgの投与量、又はヒトに換算した等価用量で投与される、項目7~9のいずれかに記載の使用されるプテロスチルベン。
【0125】
11.NADブースターは、ニコチンアミドリボシドである、項目8~10のいずれかに記載の使用されるプテロスチルベン。
【0126】
12.電離放射線によって誘発される疾患は、DNA損傷、放射線誘発性の細胞毒性、遺伝毒性、及び/又は酸化的細胞損傷に関連する、項目1~11のいずれかに記載の使用されるプテロスチルベン。
【0127】
13.電離放射線によって誘発される疾患は、急性放射線症候群及び/又は慢性放射線症候群である、項目1~12のいずれかに記載の使用されるプテロスチルベン。
【0128】
14.電離放射線は、ガンマ線又はX線である、項目1~13のいずれかに記載の使用されるプテロスチルベン。
【0129】
15.プテロスチルベンは、プテロスチルベンリン酸二ナトリウム塩であり、及び/又はシリビニンは、シリビニン-C-2’,3-二水素コハク酸二ナトリウム塩である、項目1~14のいずれかに記載の使用されるプテロスチルベン。
【0130】
16.a)プテロスチルベン又はその薬学的に許容可能な塩と、b)シリビニン又はその薬学的に許容可能な塩とを含む医薬組成物。
【0131】
17.上記組成物中に存在するプテロスチルベン又はその薬学的に許容可能な塩の投与量は、300mg/kg~30mg/kg、好ましくは100mg/kgであり、かつ上記組成物中に存在するシリビニン又はその薬学的に許容可能な塩の投与量は、200mg/kg~35mg/kgのシリビニン、好ましくは70mg/kg、又はヒトに換算した等価用量である、項目16に記載の医薬組成物。
【0132】
18.医薬組成物は、好ましくは、
a.NADブースター、及び/又は、
b.線維芽細胞刺激性リポペプチド-1、又は、
それらのあらゆる薬学的に許容可能な塩、
から選択される少なくとも1種以上の放射線緩和剤化合物を更に含む、項目16又は17に記載の医薬組成物。
【0133】
19.医薬組成物は、少なくとも2種以上の放射線緩和剤化合物を更に含み、ここで、少なくとも2種以上の放射線緩和剤化合物は、NADブースター及び線維芽細胞刺激性リポペプチド-1、又はそれらのあらゆる薬学的に許容可能な塩である、項目18に記載の医薬組成物。
【0134】
20.NADブースター又はその薬学的に許容可能な塩は、上記組成物中に400mg/kg~100mg/kg、好ましくは185mg/kgの投与量で存在し、及び/又は線維芽細胞刺激性リポペプチド-1又はその薬学的に許容可能な塩は、上記組成物中に1mg/kg~0.1mg/kg、好ましくは0.25mg/kgの投与量、又はヒトに換算した等価用量で存在する、項目18又は19に記載の医薬組成物。
【0135】
21.NADブースターは、ニコチンアミドリボシドである、項目18~20のいずれかに記載の医薬組成物。
【0136】
22.上記組成物は、薬学的に許容可能な担体、添加剤、及び/又は賦形剤を更に含む、項目16~21のいずれかに記載の医薬組成物。
【0137】
23.プテロスチルベンは、プテロスチルベンリン酸二ナトリウム塩であり、及び/又はシリビニンは、シリビニン-C-2’,3-二水素コハク酸二ナトリウム塩である、項目16~22のいずれかに記載の医薬組成物。
【0138】
24.少なくともプテロスチルベン及びシリビニン又はそれらのあらゆる薬学的に許容可能な塩と、任意に少なくとも1種以上の放射線緩和剤化合物とを含む少なくとも2つの受容器を含むパーツのキット。
【0139】
25.プテロスチルベン又はその薬学的に許容可能な塩は、300mg/kg~30mg/kg、好ましくは100mg/kgの投与量で存在し、かつシリビニン又はその薬学的に許容可能な塩は、200mg/kg~35mg/kgのシリビニン、好ましくは70mg/kgの投与量、又はヒトに換算した等価用量で存在する、項目24に記載のパーツのキット。
【0140】
26.任意の少なくとも1種以上の放射線緩和剤化合物は、
a.NADブースター、及び/又は、
b.線維芽細胞刺激性リポペプチド、又は、
それらのあらゆる薬学的に許容可能な塩、
の群から選択される、項目24又は25に記載のパーツのキット。
【0141】
27.NADブースター又はその薬学的に許容可能な塩は、400mg/kg~100mg/kg、好ましくは185mg/kgの投与量で存在し、及び/又は線維芽細胞刺激性リポペプチド又はその薬学的に許容可能な塩は、1mg/kg~0.1mg/kg、好ましくは0.25mg/kgの投与量、又はヒトに換算した等価用量で存在する、項目26に記載のパーツのキット。
【0142】
28.NADブースターは、ニコチンアミドリボシドである、項目26又は27に記載のパーツのキット。
【0143】
29.プテロスチルベンは、プテロスチルベンリン酸二ナトリウム塩であり、及び/又はシリビニンは、シリビニン-C-2’,3-二水素コハク酸二ナトリウム塩である、項目24~27のいずれかに記載のパーツのキット。
【0144】
30.プテロスチルベンと、シリビニン又はその薬学的に許容可能な塩との組合せを投与することを含む、被験体における電離放射線によって誘発される疾患を予防、改善、又は軽減する方法であって、上記投与は、放射線照射前、又は放射線照射後、又は放射線照射中に行われ、ここでの組合せは、a)プテロスチルベン又はその薬学的に許容可能な塩と、b)シリビニン又はその薬学的に許容可能な塩とを上記被験体に同時に又は逐次的に投与することと理解される、方法。
【0145】
31.少なくとも1種の放射線緩和剤化合物を投与することを更に含み、ここで、少なくとも1種以上の放射線緩和剤化合物は、好ましくは、
a.NADブースター、及び/又は、
b.線維芽細胞刺激性リポペプチド、又は、
それらのあらゆる薬学的に許容可能な塩、
から選択される、項目30に記載の方法。
【0146】
32.NADブースターは、ニコチンアミドリボシドである、項目31に記載の方法。
【0147】
本実施例に記載される特定の実施形態は、本発明の限定としてではなく、実例として示されることが理解される。本発明の主な特徴は、本発明の範囲から逸脱することなく、様々な実施形態で用いられ得る。当業者は、日常的な実験のみを使用して、本明細書に記載される特定の手順について多くの等価物を認識する、又は確認することができる。かかる等価物は、本発明の範囲内にあるとみなされ、特許請求の範囲に包含される。
【実施例
【0148】
実施例1:一般的な材料及び方法
本発明において使用される一般的な材料及び方法をここに開示する。詳細な手順を実施例2~実施例4のそれぞれに更に記載する。
【0149】
マウス及び処置手順
スイスアルビノマウス(雄、9週齢~10週齢、30g~32g)をCharles River Laboratories(マサチューセッツ州ウィルミントン)から入手した。この株は、放射線研究において最も一般的に使用される株のうちの1つである(Williams 2010)。マウスに栄養的に完全な食餌(標準食、SD)を与えた後に放射線照射を行った。これはPanlab(スペイン、バルセロナ)製のA03であり、3200kcal/kgを有し、かつ以下の栄養組成:粗タンパク質23.5%、粗脂肪4.3%、粗繊維3.7%、及び炭水化物51.1%を有し、ビタミン及びミネラルをラット及びマウス用のNIH-7オープンフォーミュラと同様に供給した。この食餌は米国栄養研究所が成体マウスに推奨する栄養所要量を満たしている。動物には自由に給餌し、個別の代謝ケージに入れて飼育し、そこでは体重及び食物摂取を毎日監視した。動物室を12時間明/12時間暗のサイクルで22℃に維持した。飲料水の自由摂取も許容した。照射されたマウスのケアは、ロバートウッドジョンソン医科大学(ニュージャージー州ピスカタウェイ)のマウス全身照射(方針15)に関する勧告に従った。これには、a)飲料水中に抗生物質を使用すること(134mgのアンピシリン/kg/日、40mgのベイトリル/kg/日、及び220mg/42mgのスルファメトキサゾール/トリメトプリム/kg/日)、b)飲料水を容易に利用可能にすること、c)Napa nectar(Systems Engineering Lab Group Inc.、カリフォルニア州ナパ)を最初の14日間ケージの底部に設置し、毎日交換すること、d)ケージの床に小さなペトリ皿に入れて柔らかくした食物を与えること、e)免疫抑制に関連する感染症の可能性を避けるために、完全に滅菌環境(ケージ、食物、及び水)にすることが含まれる。動物の身体運動を促進するために、ケージ内部に自立式ホイールも備えていた。起こり得る概日変動を最小限に抑えるために、全ての実験を10時00分に開始した。動物に関する手順は、国際法及び国際方針(EEC指令86/609、OJ L 358.1、1987年12月12日、及びNIHの実験動物の管理と使用に関する指針(NIH Guide for the Care and Use of Laboratory Animals)、NIH出版番号85-23、1985年)に準拠した。マウスを、BIOBEAM 8000(Gamma-Service Medical GmbH、ドイツ、ライプツィヒ)においてγ放射線(137Cs)(全身照射、TBI)に曝した。単回照射放射線療法(Single fraction radiotherapy)を、およそ5.0Gyから10.0Gyまでの範囲の総線量で、およそ5.0Gy/分の速度にて施した。線源からの照射距離を12cmに限定した。放射線線量測定を、Bruker(マサチューセッツ州ビレリカ)製のアラニン線量計を使用して±0.09Gyの線量測定変動で制御した。経口投与の場合に、PTER及びSIL(Merck Chemicals GmbH、ドイツ、ダルムシュタット)を2-ヒドロキシプロピル-β-シクロデキストリン中に可溶化し、次いで0.3%のカルボキシメチルセルロース中に懸濁した。IP投与の場合に、PTER塩(プテロスチルベンリン酸二ナトリウム塩、SYNCOM、オランダ、フローニンゲン)及びSIL塩(シリビニン-C-2’,3-二水素コハク酸二ナトリウム塩、Rottapharm/Madaus、ドイツ、ケルン)をワクチン接種グレードの滅菌水中に溶解した。アッセイした他の全てのポリフェノール系植物化学物質(Merck Chemicals GmbH、及びCayman Chemical Co.、ミシガン州アナーバー)は、主要なフラボノイド及び非フラボノイド(Estrela 2017)、すなわち没食子酸(フェノール酸)、コーヒー酸(ヒドロキシ桂皮酸)、クルクミン(クルクミノイド)、没食子酸エピガロカテキン(フラバノール)、ゲニステイン(イソフラボン)、ケルセチン(フラボノール)、ルテオリン(フラボン)、ナリンゲニン(フラバノン)、デルフィニジン(アントシアニジン)、及びフロリジン(カルコン)に相当し、これらをPTER及びSILのように可溶化した後に経口投与した(Wani 2016)。NR(ニコチンアミドリボシド、3-アミノカルボニル-1-β-D-リボフラノシル-ピリジニウム、Elysium Health, Inc.、ニューヨーク州ニューヨーク)をワクチン接種グレードの水中に溶解し、溶液のpHを中和(pH7.0)した後に経口投与した(185mg/kg×日、Obrador 2020)。FSL-1(InvivoGen、カリフォルニア州サンディエゴ)をワクチン接種グレードの滅菌水中に再懸濁し、IP投与した(0.25mg/kg×日、投与容量は、Kurkjian 2017による推奨のようにマウスの体重に応じて50mL~60mLであった)。医薬品グレードのアミフォスチン(エチオール)を、Cumberland Pharmaceuticals(テネシー州ナッシュビル)から500mgの滅菌凍結乾燥粉末バイアルとして入手し、生理的食塩水で再構成した後に使用した。
【0150】
病理学
死亡したマウス、瀕死のマウス、又は屠殺が予定されたマウスのいずれも研究から除外した。全てのマウスを剖検し、およそ30個の組織又は器官だけでなく全ての肉眼的病変も収集して顕微鏡検査を行った。10%の中性緩衝ホルマリン中で固定した後に、全ての組織を慣例通りに処理し、ヘマトキシリン及びエオシンで染色して、組織病理学的評価を行った。
【0151】
照射から14日後にマウスを安楽死させた後、大腿骨を摘出した。予冷したリン酸緩衝生理食塩水を用いて26ゲージの針を使用して、摘出された大腿骨から骨髄細胞を洗い流した。洗い流した細胞を数回穏やかにピペッティングすることによって単一細胞懸濁液を調製し、血球計算盤(Neubauer、ドイツ、マリエンフェルト)を使用して生存骨髄有核細胞(BMNC)の数を計数し、×10/大腿骨として表した。
【0152】
ロータロッド試験
試験の機能には、特に実験薬の効果の試験において、被験体のバランス、握力、及び運動協調性の評価が含まれる。この試験(ロータロッド、Harvard Apparatus、マサチューセッツ州ホリストン)では、各動物に3回の試験を行い、回転心棒(3.5cmの直径、回転速度:15rpm)上で落下せずに留まることができた最大期間(秒)を測定した。各マウスには、1200秒の任意の限界内で最大3回の試行を行い、最長期間を記録した。異なる群における経時的変化を毎週監視した。
【0153】
プテロスチルベンレベル
液体クロマトグラフィー及び質量分析(LC-MS/MS)を、株式会社島津製作所のLC-10ADvpポンプ及びSLC-10AvpコントローラーシステムとともにSIL-10ADvpオートインジェクターを備えたTSQ Vantage(商標)トリプル四重極質量分析計(Thermo Fisher Scientific)を使用して、以前に記載されたように(Ferrer 2005)実施した。
【0154】
シリビニンレベル
測定は、Song et al. (2019)によって記載された方法論を基礎とした。簡潔に言うと、試料を、HPLC(Ultimate 3000、Thermo Fisher Scientific)及びMS/MS(WatersのTQ検出器トリプル四重極)システムを介してHypurity(商標)C18カラム(50mm×4.6mm)上で5μLの注入容量を使用して分析した。移動相は水(A)及びアセトニトリル(B)からなっていた。勾配溶離系を以下のように最適化した:0分~3.0分 20%→100%のB、3.0分~5.0分 100%→100%のB、5.0分~5.5分 100%→20%のB、5.5分~7.5分 20%のB。流速は0.5mL/分であった。MS/MSデータ取得を負のエレクトロスプレーイオン化モードで実施した。多重反応モニタリングモードを使用して、m/z 481.3/125.0のプリカーサーイオンからプロダクトイオンへの遷移を伴うSILをモニタリングした。フラグメンター電圧は150Vであり、衝突エネルギーは15eVであった。組織試料の調製は、PTERレベル(上記)の決定について記載した通りであった。
【0155】
血中NADレベル
全血中のNADレベルの測定を、Yoshino及びImai(Yoshino et al. 2013)によって記載された方法論に従ってHPLCによって実施した。この手順では、それぞれSupelco LC-18-Tカラム(15cm×4.6cm、Sigma Aldrich)及びHypercarbカラム(15cm×4.6cm、Thermo Fisher Scientific、マサチューセッツ州ウォルサム)を備えたHPLCシステム(株式会社島津製作所、日本、京都)を使用した。全血試料(0.5ml)を4℃でクエン酸ナトリウムチューブに収集した。次いで、0.1mlの全血アリコートを、0.9mlの0.5Mの氷冷過塩素酸を含むクライオバイアルに移して、全ての血球を溶解させた。試料を10000g×10分間(4℃)で遠心分離した。上清は分析するまで-80℃で貯蔵した。
【0156】
療法によって誘発されるin vivo毒性の評価
これは、NIHの標準方法論に基づく血球計数及び化学反応を含んでいた。
【0157】
染色体異常及び二本鎖DNA切断
本発明者らは、テロメア及びセントロメアの染色により、最適化されたハイブリダイゼーション条件及び間期染色体の融合捕捉を使用して、リンパ球における早期染色体凝縮の二動原体、環状染色体、及び無動原体染色体の簡単な検出が容易になるM'kacher et al. (2015)によって記載された技術に従った。採血後数時間以内に損傷が観察され得るため、このアプローチには大きな利点がある。手順(M'kacher 2015)において示唆されるように、したがってDNA修復並びに二動原体、環状染色体、及び無動原体染色体の発生の時間を考慮に入れて、照射8時間後に血液を収集した。
【0158】
末梢血リンパ球を本明細書で以下に記載されるように分離した。早期染色体凝縮(PCC)を、以前に記載されたように(Pantelias 1983)CHO細胞(ATCC)を使用して行った。凝縮されたヒト染色体と、CHO染色体とを、それらの形態学的特徴に従って区別した(M'kacher 2015)。この手順にはおよそ4時間を要した。
【0159】
PCC融合物のテロメア及びセントロメアを、Q-FISH技術を使用してテロメアのTTAGGGに特異的なCy-3標識ペプチド核酸(PNA)プローブ及びセントロメア配列に特異的なフルオレセインイソチオシアネート標識PNAプローブ(M'kacher 2015)(両者とも、ThermoFisher Scientific(マサチューセッツ州ウォルサム)製)を用いて染色した。テロメア及びセントロメアが染色された融合物を、Metasystems(ドイツ、アルトルスハイム)製のAutocaptソフトウェア及び高解像度CCDカメラ(C91002-23B、浜松ホトニクス株式会社、ドイツ、ヘルシング)を使用して自動的に記録した。
【0160】
同じスライドにおいて、M'kacher et al. (2015)によって記載されるように、2つの異なる手動の手順を実施した。簡潔に言えば、最初に逆方向(reverse)4’,6-ジアミジノ-2-フェニルインドールを使用し、環染色体及び過剰な無動原体染色体をスコアリングする。次に、テロメア及びセントロメアの染色を使用して、テロメア染色を有しない間質欠失、末端欠失を表す1つだけのテロメアを有する無動原体染色体、及び二動原体又は環状断片の形成を伴う2つの無動原体染色体の融合から誘導される2つのテロメアを有する無動原体染色体から、二動原体、環状染色体、及び無動原体染色体をスコアリングする。結果として得られる二本鎖DNA切断(DSB)を計算した(M'kacher 2015)。
【0161】
小核の形成
この目的のために、屠殺したマウスから大腿骨髄を収集し、塗抹標本を作製し、メタノールを使用して固定した。乾燥後、メイグリュンワルド・ギムザ染色を使用して二重染色を行った(Schmid 1975)。この方法によれば、多染性赤血球(PCE)は赤みがかった青色に染色され、正染性赤血球(NCE)は橙色に染色されたのに対して、核物質は濃い紫色であった。油浸下で2000個の細胞から小核を有する多染性(MnPCE)細胞及び正染性(MnNCE)細胞を計数した。
【0162】
リンパ球、肝細胞、及び腸上皮細胞の分離及びインキュベーション
肝細胞の分離を、以前に報告された方法論(Berry 1969)に従って実施した。ヘパリン添加血液からAccuspin-Histopaque(Sigma-Aldrich、ミズーリ州セントルイス)勾配遠心分離によって血液単核細胞を得た。単核細胞を2回洗浄し、0.3%のウシ血清アルブミンを含むクレブス-ヘンゼライト重炭酸媒体(pH7.4)中に1ml当たり20×10個の細胞の濃度で再懸濁した。単分散の免疫磁性Dynabeads(Dynal)によるリンパ球サブセットの更なる正の選択を、他の文献(Thornton 2003)の記述に従って4℃で実施した。肝細胞及びリンパ球の細胞体積を、以前に記載されたように(Estrela 1992)得た。
【0163】
分離した肝細胞を、フラスコ(1ml当たり約10mgの乾燥重量)において、1.3mMのCaCl、5%の無脂肪ウシ血清アルブミンを含むクレブス-ヘンゼライト重炭酸媒体(KHBM、pH7.4)中で、グルコース(5mM)の存在下にて37℃でインキュベートした。ガス雰囲気はO/CO(19:1)であった。分離したリンパ球を、5%の無脂肪ウシ血清アルブミンを含むクレブスリンガー媒体中で、グルコース(5mM)及びグルタミン(2mM)の存在下にて37℃でインキュベート(フラスコ当たり10個の細胞)した。インキュベーション後に、0.2mlの25%の過塩素酸を加えて細胞を破壊した。遠心分離によりタンパク質を除去し、上清を20mlの40%のKOH溶液及びトリス-(ヒドロキシメチル)アミノメタン/KOH(0.5M~2.0M)溶液で中和して、代謝産物の測定を行った。
【0164】
Graves et al. (2014)から適合されたプロトコルを使用して初代腸上皮細胞(IEC)を分離した。縦走筋層を除去し、100Uのペニシリン、100μg/mlのストレプトマイシン、25μg/mlのゲンタマイシン、及び0.5mMのジチオトレイトール(DTT)を含む氷冷したMg2+及びCa2+を含まないハンクス平衡塩類溶液(HBSS)で洗浄することによって結腸組織を調製した。組織を小片に切断し、50mlのHBSS洗浄溶液中に懸濁し、振盪し、内容物を2分間沈殿させた。上清を除去し、沈殿した内容物を3回洗浄した。沈殿した内容物を細かく刻み、HBSS中に懸濁した。得られた懸濁液を1000μmのメッシュフィルターに通した。残りの組織を、ダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)(Sigma-Aldrich)中の75U/mlのXI型コラゲナーゼ(Sigma-Aldrich)、25μg/mlのディスパーゼ中性プロテアーゼII(ThermoFisher Scientific、マサチューセッツ州ウォルサム)、0.5mMのDTT、及び2%(容量/容量)のウシ胎児血清(FBS)(ThermoFisher Scientific)を含むバッファー中で消化した。次いで、組織を含む消化バッファーを37℃のインキュベーター内に置き、200rpmで2時間振盪させた。得られた消化混合物を再び1000μmのフィルターに通し、フィルター上の組織断片を25mlの完全成長培地(DMEM、8.5g/lのピルビン酸ナトリウム、2%(容量/容量)のFBS、0.25U/mlのインスリン、100Uのペニシリン、100μg/mlのストレプトマイシン、25μg/mlのゲンタマイシン、5μg/mlのトランスフェリン、及び2%(重量/容量)のD-ソルビトールを含む10ng/mlのEGF)で洗浄した。フィルターに残った組織破片を廃棄し、増殖性陰窩構造物を含む流出液を200gで4℃にて5分間遠心分離した。単離された腸陰窩を含む残りのペレットをDMEM中に懸濁した。陰窩を完全成長培地中に懸濁し、12ウェルのI型コラーゲンでコーティングされた培養皿(ThermoFisher Scientific)においておよそ2000個の陰窩/ml/ウェルの密度でプレーティングし、37℃、O/CO(19:1)でインキュベートした。
【0165】
グルコース及びグルタミンの利用率を、以前に記載されたように(Newsholme 1987)測定した。
【0166】
細胞培養
分離した肝細胞を、ウィリアム完全培地中で1mL当たり10個の細胞の濃度で培養した。分離したC2Dリンパ球をPB-MAX培地(GIBCO、ThermoFisher Scientific)中で1mL当たり2×10個の細胞の濃度にて培養した。IEC(1mL当たり10個の細胞)を、10%の熱不活化FBS及び300mg/mlのL-グルタミンを補充したDMEM中で培養した。全ての細胞を95%の空気及び5%のCOの加湿雰囲気中で37℃にて培養した。
【0167】
DNAの酸化
組織試料を10mMのTris(pH7.0)+1mMのEDTA+150mMのNaCl中で均質化した。その後、最初にRNアーゼAとともに37℃で30分間インキュベートし、次いでプロテイナーゼKとともに55℃で一晩インキュベートした。これに続いて、クロロホルム/イソアミルアルコール抽出を行った。100μgの単離されたDNAの試料をヌクレアーゼP1及びアルカリホスファターゼでヌクレオシドに消化した(Crain 1990)。修飾DNA塩基8-ヒドロキシ-2’-デオキシグアノシン(8OHdG)の分析を、UPLC-MS/MSによって行った。
【0168】
脂質過酸化反応
イソプロスタンの測定のために、組織試料を0.1Mのリン酸バッファー(pH7.4)+1mMのEDTA+0.005%のブチル化ヒドロキシトルエン中で均質化した。イソプロスタンを8-イソプロスタンEIAキット(Cayman Chemical Co.)を使用し、製造業者のプロトコルに従って測定した。
【0169】
タンパク質のカルボニル化
不可逆的な酸化的損傷であるタンパク質のカルボニル化を、タンパク質カルボニル蛍光分析アッセイキット(Cayman Chemical Co.)を使用し、製造業者のプロトコルに従って測定した。
【0170】
酵素活性及び代謝産物レベル
分離した細胞を0.1Mのリン酸バッファー(pH7.2)中で4℃にて均質化した。γ-グルタミルシステインリガーゼ(GCL)、グルタチオンペルオキシダーゼ(GPX)、カタラーゼ(CAT)、並びにスーパーオキシドジスムターゼ1及びスーパーオキシドジムスターゼ2(SOD1及びSOD2)の活性を、以前に詳細に記載されたように(Benlloch 2016)測定した。タンパク質濃度を、Pierce BCAタンパク質アッセイ(Thermo Fisher Scientific)で測定した。グルタチオン(γ-L-グルタミル-L-システイニル-グリシン、GSH)を、以前に報告されたように(Obrador 2014)LC/MSによって測定した。公開された方法論に従って、GSH自動酸化を防ぐために迅速なN-エチルマレイミド誘導体化を使用して(Asensi 1994)、細胞プロセシングを行った。分離された細胞中のNAD及びNADHを、MyBiosource(カリフォルニア州サンディエゴ)製のアッセイキットを使用して定量化した。
【0171】
RT-PCR及びmRNAの検出
全RNAを、Invitrogen(カリフォルニア州サンディエゴ)製のTRIzolキットを使用して製造業者の使用説明書に従って単離した。cDNAを、製造業者によって推奨されるランダムヘキサマープライマー及びMultiScribe逆転写酵素キット(Taq-Man RT試薬;Applied Biosystems、カリフォルニア州フォスターシティ)を使用して取得した。PCRマスターミックス及びAmpliTaq Gold DNAポリメラーゼ(Applied Biosystems)を、以前に報告された(Benlloch 2016)プライマーに加えた。グリセルアルデヒド3-リン酸デヒドロゲナーゼ(GAPDH)に対するmRNAのリアルタイム定量化を、以前に報告されたように(Benlloch 2016)実施した。
【0172】
コメットアッセイ
このアッセイは、細胞のDNA損傷を簡単に評価するための単一細胞ゲル電気泳動アッセイである。本発明者らは、Abcam製のアッセイキット(ab238544)(英国、ケンブリッジ)を使用した。段階を追って製造業者の使用説明書に従った。
【0173】
ニコチンアミドホスホリボシルトランスフェラーゼ活性アッセイ
14C-ニコチンアミド(NAM)(GE Healthcare Life Sciences、スウェーデン、ウプサラ、ビヨルクガタン)からの14C-ニコチンアミドモノヌクレオチド(NMN)の形成を、濾紙上でのアセトン中の14C-NMNの沈殿及びシンチレーション計数によって測定することができる。細胞の分散をトリプシン処理(0.2%のトリプシン、0.5mMのEDTA、及び5mMのグルコースを補充したMg2+及びCa2+を含まないPBS中で、37℃にて3分間)によって行った。細胞ペレットを遠心分離(4℃で800g×5分間)によって取得した後に、100μlのリン酸バッファー[プロテアーゼ阻害剤(Sigma-Aldrich)を含む0.01MのNaHPO/NaHPOバッファー(pH7.4)]を各細胞試料に加えた。試料を更に処理し、以前に記載されたように(Elliott GC, et al. 1980、及びSchuster S, et al. 2014)30μgのタンパク質に対してNAMPT活性を決定した。放射活性(1分当たりの崩壊)を、Perkin-Elmer製のTri-Carb(商標)液体シンチレーションカウンターを使用して測定した。シンチレーション流体からの1分当たりのバックグラウンド崩壊を各測定値から差し引いた。
【0174】
骨髄内のコロニー形成細胞
マウスを無菌条件下で屠殺し、照射後7日目に大腿骨を摘出した。5%のウシ胎児血清を補充したリン酸緩衝生理食塩水(4℃)を用いて、摘出された大腿骨(上記を参照のこと)から骨髄細胞を洗い流した。単一細胞懸濁液を100μmのナイロンメッシュストレーナーに通し、破片及び集塊を除去した。細胞をリン酸緩衝生理食塩水(4℃)で2回洗浄し、血球計算盤を使用して計数した。製造業者のプロトコルに従って、Methocult GF M3434(Stemcell Technologies、カナダ、バンクーバー)成長培地中で35mmの細胞培養皿当たり5×10個の細胞の濃度で細胞をex vivoでプレーティングし、37℃、5%のCO、95%の湿度で14日間インキュベートした。培養14日目にコロニーを光学顕微鏡(AxioCam MRc5、Zeiss、ドイツ、オーバーコッヘン)を使用して偏光下で視覚化し、60mmの格子付きスコアリングペトリ皿(Stemcell Technologies)においてスキャンした。造血コロニー形成細胞CFU-GM及びCFU-GEMMを定量化した。
【0175】
細胞、核、及びミトコンドリア抽出物の調製
細胞抽出物を、Sigma Aldrichの全細胞抽出キットを使用して調製した。NE-PER(商標)核及び細胞質抽出キット(ThermoFisher Scientific)により、哺乳動物の細胞又は組織から細胞質抽出物及び核抽出物の段階的な分離及び調製が可能となる。ミトコンドリア抽出物を、ThermoFisher Scientificによって標準化された細胞分画及びオルガネラ分離手順に従って調製した。
【0176】
遺伝子サイレンシング
Ambion Inc.(テキサス州オースティン)のPSilencer 3.1-H1線状ベクターを使用して、長期の遺伝子サイレンシングを達成した。マウスNfκbieを標的とするために、Origen(メリーランド州ロックビル)製のsiRNAオリゴデュプレックス(遺伝子座ID 18037)を使用した。マウスのNfe2l2(参照配列NM_010902.3)、Ppargc1(参照配列NM_008904.2)、Sirt1(参照配列NM_019812.2)、Sirt3(参照配列MN_022433.2)、Parp1(参照配列NM_007415.2)、SOD2(参照配列NM_013671.3)、及びGPX1(参照配列NM_008160.6)を標的とするsiRNAはInvitrogen製であった。全ての場合において、サイレンシング手順は製造業者の技術的推奨に従った。コントロール実験を、同じ塩基組成及び無作為化配列を有する等量の対応するセンスオリゴヌクレオチド及びスクランブルオリゴヌクレオチドを使用して実施した。サイレンシングをイムノブロッティングによって確認した。siRNAの送達には、InvitrogenのリポフェクタミンRNAiMAXトランスフェクション試薬及び製造業者のプロトコルを使用した。
【0177】
細胞死分析
アポトーシス性細胞死及び壊死性細胞死を、蛍光顕微鏡測定を使用することによって区別した。この目的のために、単離されたMNをHoescht 33342(10mM;全ての核を染色する)及びヨウ化プロピジウム(10mM;原形質膜が破壊された細胞の核を染色する)とともに3分間インキュベートし、Diaphot 300蛍光顕微鏡(Nikon、日本、東京)を使用して360nmでの励起で分析した。生存細胞、壊死細胞、及びアポトーシス細胞の核は、それぞれ青色の丸い核、ピンク色の丸い核、及び断片化された青色又はピンク色の核として観察された。毎回約1000個の細胞を計数した。
【0178】
ウェスタンブロット
ウェスタンブロット分析を、以前に記載されたように(Benlloch M, et al. 2016)実施した。タンパク質をニトロセルロース膜に転写し、特異的な抗ヒトモノクローナル抗体(OriGene、メリーランド州ロックビル、及びAbcam)を用いたウェスタンブロットに供した。西洋わさびペルオキシダーゼコンジュゲート二次抗体及び増強化学発光(ECLシステム;GE HealthCare Life Sciences)を使用して、ブロットを現像した。タンパク質バンドを、レーザー濃度測定を使用して定量化した。
【0179】
腫瘍異種移植片
ヒトA549細胞及びMDA-MB-231細胞は、ATCC(バージニア州マナッサス)製であった。10%の熱不活化FCS(Biochrom KG、ドイツ、ベルリン)、100単位/mLのペニシリン、及び100μg/mLのストレプトマイシンを補充したDMEM(Invitrogen、カリフォルニア州サンディエゴ)(pH7.4)中で細胞を成長させた。細胞をプレーティングし(1cm当たり20000個の細胞)、5%のCOを含む加湿雰囲気中で37℃にて培養した。0.3mMのEDTAを含むPBS(pH7.4)中で0.05%(重量/容量)のトリプシン(Sigma Aldrich、ミズーリ州セントルイス)とともに5分間インキュベートし、続いて10%のFCSを添加してトリプシンを不活化することによって細胞を採取した。どの処理を加える前にも、細胞を12時間付着させた。細胞数及び生存率を、BioRad(カリフォルニア州ハーキュリーズ)のTC20自動セルカウンターを使用して決定した。ヌード(nu/nu)マウス(雄、9週齢~10週齢、Charles River Laboratories、マサチューセッツ州ウィルミントン)に標準食(Letica、ミシガン州ロチェスターヒルズ)を自由に与え、12時間明/12時間暗のサイクルで22℃の室温において飼育した。手順は、国際法及び国際方針(EEC指令86/609、OJ L 358.1、1987年12月12日、及びNIHの実験動物の管理と使用に関する指針、NIH出版番号85-23、1985年)に準拠した。腫瘍細胞を0.02%のEDTAに曝露(37℃で5分間)することにより培養フラスコから採取し、DMEM中で2回洗浄し、同じ培養培地中に再懸濁し、動物の背中に皮下注射した(マウス当たり5×10個の細胞)。局所腫瘍成長を処置2日目から開始して2日ごとにノギスを使用して測定した。
【0180】
統計
データは、異なる実験の数について平均値±SDとして表される。統計分析をスチューデントのt検定を使用して実施し、P<0.05を有意であると見なした。
【0181】
Power 3.1.9.2ソフトウェアを使用して標本サイズを決定した(ANOVA検定、効果サイズ=0.21、α=0.05、β=0.80、及び示された群)。生存データを、カプラン-マイヤー曲線及びLogRank(マンテル-コックス)検定を用いて分析した。
【0182】
参考文献
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【0183】
実施例2:PT及び放射線防護効果
最初に、γ放射線の効果及びマウスの生存を研究した。全身γ線照射を受けたマウスを研究した(図1A)。マウスに全身γ線照射(1回の単回線量;137Cs、0.5Gy/分~0.6Gy/分;Biobeam 8000、GSM GmbH)を与えた。1Gy=物質1kg当たり1Jのエネルギーの吸収。およそ7.2GyのLD50/30(放射線線量ごとにn=20)。
【0184】
次に、γ線(LD50/30)及びプテロスチルベン(PT)で処置されたマウスの30日間生存率を分析した(図1B)。そのために、スイスアルビノマウス(Charles River、1群当たりn=20)を、アミフォスチン(2-(3-アミノプロピルアミノ)エチルスルファニルホスホン酸)(生理的食塩水中に溶解、照射30分前に1回の単回経口投与、ヒトに推奨される200mg/mを、FDAのガイドラインに従ってマウスに適応させた)又はプテロスチルベン(2-ヒドロキシプロピル-β-シクロデキストリン中に溶解した後に、0.3%のカルボキシメチルセルロース中に懸濁した;照射前の5日間及び照射後の2日間1日1回経口投与)で処置した。マウスに全身γ線照射(0.5Gy/分~0.6Gy/分で7.2Gyの137Csの1回の単回線量;機器=Biobeam 8000、GSM GmbH)を与えた。1Gy=物質1kg当たり1Jのエネルギーの吸収。データをLogRank(マンテル-コックス)検定で分析した(全ての群をビヒクルで処置されたコントロールに対して比較している)。図1Bにおける結果は、生存の改善に対する最良の効果(60日)が、1kg当たり100mgのプテロスチベンの用量によって発揮されることを示している。
【0185】
γ線(LD50/30)及びレスベラトロール(Resv)で処置されたマウスの生存率も分析し、これらの結果を図1Cに示す。スイスアルビノマウス(1群当たりn=20)をResvl(2-ヒドロキシプロピル-β-シクロデキストリン中に溶解した後に、0.3%のカルボキシメチルセルロース中に懸濁した;照射前の5日間及び照射後の2日間1日1回経口投与)で処置した。マウスに全身γ線照射(0.5Gy/分~0.6Gy/分で7.2Gyの137Csの1回の単回線量、Mortazavi SMJ et al. Dose-Response 11: 281-292, 2013;機器=Biobeam 8000、GSM GmbH)を与えた。1Gy=物質1kg当たり1Jのエネルギーの吸収。これらの結果により、Resvの放射線防護効果がPTの放射線防護効果よりも低いことが明らかになった。
【0186】
マウスにプテロスチルベンを経口投与した後のその血漿レベル及び血管外レベルを研究した。マウスを体重1kg当たり200mgのPterで処置した。4匹又は5匹の動物の群を各時点で屠殺した。Pterを2-ヒドロキシプロピル-β-シクロデキストリン中に溶解した後に、0.3%のカルボキシメチルセルロース中に懸濁した。検出不能=n.d.。P<0.1、10分~1440分で得られたデータを5分で見られたデータに対して比較している。これらの結果を以下の表1に示す。
【0187】
【表1】
【0188】
これらの結果は、研究した全ての組織において、プテロスチルベンレベルが投与60分後にピークに達することを示している。
【0189】
まとめると、上記の結果はPTERの放射線防護剤としての可能性を裏付けている。
【0190】
実施例3:PT+SILの組合せ
プテロスチルベンを他のポリフェノールと組み合わせてより良好な放射線防護効果を達成することができるかどうかを解明するために、スイスアルビノマウス(1群当たりn=20)をプテロスチルベン及び/又は他のポリフェノールで処置した。経口投与の場合に、PTを2-ヒドロキシプロピル-β-シクロデキストリン中に可溶化した後に、0.3%のカルボキシメチルセルロース中に懸濁した。アッセイした他の全てのポリフェノール系植物化学物質は、主要なフラボノイド及び非フラボノイド、すなわち没食子酸(フェノール酸)、コーヒー酸(ヒドロキシ桂皮酸)、クルクミン(クルクミノイド)、没食子酸エピガロカテキン(フラバノール)、ゲニステイン(イソフラボン)、ケルセチン(フラボノール)、ルテオリン(フラボン)、ナリンゲニン(フラバノン)、デルフィニジン(アントシアニジン)、及びフロリジン(カルコン)に相当し、これらをPTとして可溶化した後に経口投与した。公表された最大非毒性用量から各植物性化学物質の用量を選択した。データをLogRank(マンテル-コックス)検定で分析した(全ての群をビヒクルで処置されたコントロールに対して比較している、全ての群をPTだけで処置された群に対して比較している)(図2)。
【0191】
これらの結果により、PTと様々なポリフェノールとの組合せが様々な効果をもたらすことが明らかになった:
a)幾つかの場合には、この組合せにより、PTを個別に投与してもたらされる生存率よりも低い生存率が得られた。これは、例えば、照射60日後のPTと没食子酸との組合せにおいて見られる。
b)幾つかの場合には、2種の化合物の組合せにより得られる生存率は、PTを単独で投与することによりもたらされた生存率と同様であったことから、他の化合物の添加が全生存率に殆ど影響を及ぼさないことを示している。これは、例えば、照射60日後のPTとデルフィニジンとの組合せにおいて見られる。
c)幾つかの他の場合には、得られる生存率は、2種の化合物を個別に投与することによって及ぼされる生存率の合計にほぼ等しくなる。これは、例えば、照射60日後のPTとゲニステインとの組合せにおいて見られる。
d)最後に、最も重要なことには、2種の化合物を組み合わせた結果として得られた生存率は相乗効果を生じ、これは個別に投与された2種の化合物の効果の合計からは導き出すことができない生存率の例外的な増加をもたらした。この最後の場合はシリビニン(SIL)及びPTの組合せでのみ起こり、照射30日後及び照射60日後の両方で起こった。
【0192】
まとめると、これらの結果は、SIL+PTの組合せが相乗的な放射線防護効果を発揮し、こうしてγ線照射30日後及びγ線照射60日後に高い生存率のパーセンテージを達成することを示している。
【0193】
この結果を考慮して、より長い期間にわたる生存率の向上及び放射線防護の強化を研究した。スイスアルビノマウス(1群当たりn=20)を、PT(100mg/kg)及びSIL(70mg/kg)×7日間(γ線照射前の5日間及びγ線照射後の2日間)でIP処置した。IP投与の場合に、PT塩(プテロスチルベンリン酸二ナトリウム塩、SYNCOM、オランダ、フローニンゲン)及びSIL塩(シリビニン-C-2’,3-二水素コハク酸二ナトリウム塩、Rottapharm/Madaus、ドイツ、ケルン)をワクチン接種グレードの滅菌水中に溶解した。図3Aは、カプラン-マイヤー曲線、及びLogRank(マンテル-コックス)検定(PT+SILで処置された群をビヒクルで処置されたコントロールに対して比較している)を示す。多数のマウスへの定期的な投与を容易にするのにIP投与を選択した。図3Aから分かるように、PT+SILの組合せにより、照射後1年間の時間後におよそ25%(5/20)の生存率で長期間の防護がもたらされた。これらの結果は、これら2種の化合物を組み合わせて投与した場合の相乗的な増強効果を裏付け、それらの組み合わせられた放射線防護効果が長期間持続することを実証している。
【0194】
さらに、図3Bは、γ線照射前又はγ線照射後のPT+SIL投与間の比較を示す:スイスアルビノマウス(1群当たりn=20)をPT(100mg/kg)及びSIL(70mg/kg)×7日間(LD50/30のγ線照射前の5日間及びγ線照射後の2日間、明灰色のバー、又はγ線照射後の7日間、暗灰色のバー)でIP処置した。データをLogRank(マンテル-コックス)検定で分析した(照射後に処置された群を照射前に処置された群に対して比較している)。これらの結果は、照射前にポリフェノールが投与されると生存率がより高いことを示している。
【0195】
次に、γ線照射(LD50/30)されたマウスの生存に対するプテロスチルベン(PT)及びシリビニン(SIL)の効果、並びに体重に対する効果:スイスアルビノマウス(1群当たりn=20)を、PT(100mg/kg)及びSIL(70mg/kg)×7日間(γ線照射前の5日間及びγ線照射後の2日間)でIP処置した。統計分析をスチューデントのt検定を使用して実施した(P<0.01、PT+SILをビヒクルで処置されたコントロールに対して比較している)。これらの結果を図4Aに示す。ここでは、ポリフェノールが放射線誘発性の体重減少を軽減することが理解され得る。
【0196】
マウスにおける全身放射線誘発性の神経運動機能の変化に対するプテロスチルベン(PT)及びシリビニン(SIL)を組み合わせた投与の効果も研究した:スイスアルビノマウス(1群当たりn=20)を、PT(100mg/kg)及びSIL(70mg/kg)×7日間(γ線照射前の5日間及びγ線照射後の2日間)でIP処置した。神経運動機能を研究するのに、標準化されたロータロッド試験を以下のように実施した:試験の機能には、特に実験薬の効果の試験において、被験体のバランス、握力、及び運動協調性の評価が含まれる。この試験(ロータロッド、Harvard Apparatus、マサチューセッツ州ホリストン)では、各動物に3回の試験を行い、回転心棒(3.5cmの直径、回転速度:15rpm)上で落下せずに留まることができた最大期間(秒)を測定した。各マウスには、1200秒の任意の限界内で最大3回の試行を行い、最長期間を記録した。異なる群における経時的変化を毎週監視した。図4Bに示されるように、これらの結果により、神経運動機能が放射線及び/又はPT及びSILの投与のいずれによっても大幅に変化しないことが明らかになった。
【0197】
次に、分離された細胞における様々な抗酸化防御関連の酵素活性の発現分析をRT-PCRによって研究した。統計分析をスチューデントのt検定を使用して実施した(P<0.01;PT+SIL+γ線で処置されたマウスをγ線だけで処置されたマウスに対して比較している;PT+SILで処置されたマウスをビヒクルで処置されたコントロールに対して比較している)。これらの結果を図5に示す。放射線は研究された全ての抗酸化防御関連分子の発現を減少させるのに対して、PT及びSILは放射線誘発性効果を打ち消すと結論付けられた。
【0198】
さらに、γ放射線誘発性の酸化的損傷に対するPT及びSILの防護効果を様々な分子マーカーを評価することによって研究した。そのために、PT、SIL、及びγ線を以前に示されたように以前に示された用量/線量(doses)で施し(分子、細胞型、及び処置ごとにn=5)、スチューデントのt検定を使用して統計分析を実施した(P<0.01;全ての群をコントロールに対して比較している;PT+SIL+γ線で処置されたマウスをγ線だけで処置されたマウスに対して比較している)。図6に示されるように、PT及びSILは、放射線により誘発される様々な酸化ストレス関連のバイオマーカーの増加を打ち消す。
【0199】
PT及びSILを組み合わせて投与した場合の放射線防護効果の完全な分析を提供するために、GCL及びGSHによって媒介される抗酸化防御も測定した。したがって、PT、SIL、及びγ線を以前に示したように以前に示した用量/線量で施し(分子、細胞型、及び処置ごとにn=5)、スチューデントのt検定を使用して統計分析を実施した(P<0.01;全ての群をコントロールに対して比較している;PT+SIL+γ線で処置されたマウスをγ線だけで処置されたマウスに対して比較している)。図7に示されるように、PT及びSILは、放射線により誘発される様々なグルタチオン関連のバイオマーカーの減少を打ち消す。
【0200】
図8において、PT、SIL、及びγ線を以前に示したように以前に示した用量/線量で施した場合のカタラーゼレベル及びグルタチオンペルオキシダーゼレベル(図8A及び図8B)並びにスーパーオキシドジスムターゼレベル(図8C及び図8D)を測定した(分子、細胞型、及び処置ごとにn=5)。統計分析をスチューデントのt検定を使用して実施した(P<0.01;全ての群をコントロールに対して比較している;PT+SIL+γ線で処置されたマウスをγ線だけで処置されたマウスに対して比較している)。これらの結果により、PT及びSILが、放射線により誘発される様々な抗酸化酵素活性の減少を打ち消すことが明らかになった。
【0201】
最後に、循環CD2リンパ球におけるγ放射線誘発性の染色体異常及び小核形成に対するPT及びSILの効果を研究した。未熟な染色体凝縮融合物のテロメア及びセントロメアを、Q-FISH技術を使用して染色した。テロメア及びセントロメアの染色を使用して、テロメア染色を有しない間質欠失、末端欠失を表す1つだけのテロメアを有する無動原体染色体、及び二動原体又は環状断片の形成を伴う2つの無動原体染色体の融合から誘導される2つのテロメアを有する無動原体染色体から、二動原体、環状染色体、及び無動原体染色体をスコアリングした。結果として得られる二本鎖DNA切断(DSB)を計算した。骨髄において、メイグリュンワルド・ギムザ染色を使用して二重染色を行った。この方法によれば、多染性赤血球(PCE)は赤みがかった青色に染色され、正染性赤血球(NCE)は橙色に染色されたのに対して、核物質は濃い紫色であった。小核を有する多染性(MnPCE)細胞及び正染性(MnNCE)細胞を計数した。統計分析をスチューデントのt検定を使用して実施した(P<0.01;全ての群をコントロールに対して比較している;PT+SIL+γ線で処置されたマウスをγ線だけで処置されたマウスに対して比較している)。これらの結果を以下の表2に示す。
【0202】
【表2】
【0203】
表2から分かるように、PT及びSILは、全ての放射線誘発性の細胞遺伝学的変化、すなわち染色体の変化及び小核の形成を減少させる。
【0204】
実施例4:PT及びSILと放射線緩和剤との組合せ
次に、本発明者らは、放射線防護剤(放射線により引き起こされる直接的な損傷を軽減することができる分子)及び放射線緩和剤(放射線が照射された後でも毒性を最小限に抑える分子)の組合せがより長い生存に有利に働き得るかどうかを調べた。これを研究するために、PT及びSILをNADブースターのニコチンアミドリボシド(NR)及びトール様受容体2/6アゴニストのFSL-1リポペプチド(FSL-1)と組み合わせた。
【0205】
最初に、放射線緩和特性を確認するために、両方の分子単独の効果及びそれらを組み合わせた効果を研究した。そのために、NR(ニコチンアミドリボシド、3-アミノカルボニル-1-β-D-リボフラノシル-ピリジニウム、Elysium Health, Inc.、ニューヨーク州ニューヨーク)をワクチン接種グレードの水中に溶解し、溶液のpHを中性(pH7.0)した後に経口投与した(185mg/kg×日)。FSL-1(線維芽細胞刺激性リポペプチド1、InvivoGen、カリフォルニア州サンディエゴ)をワクチン接種グレードの滅菌水中に再懸濁し、IP投与した(0.25mg/kg×日、投与容量は、マウスの体重に応じて50mL~60mLであった)。NRを、照射後から開始して1日1回の単回用量で30日間毎日投与した。FSL-1を、照射24時間後に1回だけ投与した。使用したマウスの総数は20匹であった。これらの結果を図9に示す。ここで、これらの分子のそれぞれを単独で投与することによってもたらされるγ線照射60日後の生存率は、NRでは0%であり、FSL-1では5%であり、NR+FSL-1の組合せでは10%であることが観察される。
【0206】
次に、スイスアルビノマウス(1群当たりn=6)を、事前に計画した通りに上記に示した用量にてPT、SIL、又はNRで処置し、スチューデントのt検定を使用して統計分析を行った(P<0.01;120分を30分に対して比較している;2日を0日に対して比較している;3日又は15日を0日に対して比較している)。これらの結果を図10に示す。この図から分かるように、PT及びSILのレベルはそれらの投与から30分後により高くなるが、NR誘発性のNADレベルは測定された2つの時点(30分及び120分)で同様であることが判明した。
【0207】
次に、4種の化合物PT、SIL、NR、及びFSL-1を、上記に示したように上記に示した用量で1群当たりn=20のマウスにおいて投与した。図11Aは、従った投与計画を示す。図11Bは、カプラン-マイヤー曲線及びLogRank(マンテル-コックス)検定を示す(全ての群をビヒクルで処置されたコントロールに対して比較している;PT+SIL+NR+FSL-1で処置された群をPT+SIL+NRで処置された群又はPT+SIL+FSL-1で処置された群に対して比較している)。驚くべきことに、NR及びFLS1をPT及びSILと組み合わせた場合にも、マウスの生存が最長1年間延長されたので相乗効果が見られた。重要なことには、4種の成分の組合せにより、処置されたマウスの最大90%の防護及び生存がもたらされたことから、これは4種の成分の組合せにより、照射されたマウスの長期生存が達成されることを示している。
【0208】
γ線照射されたマウス(LD50/30)における死因、及び4種の化合物を組み合わせた投与の効果を図12に示されるように研究した。スイスアルビノマウス(1群当たりn=20)を、事前に計画した通りに上記に示した用量にてPT、SIL、NR、及びFSL-1で処置したところ、これらの結果によれば、完全な組合せ(PT+SIL+NR+FSL-1)により、a)消化管及び造血器のARS、並びにb)腎症に関連する全ての死亡が回避されることが明らかになった。完全な組合せにより、骨髄性白血病及び感染症/炎症に関連する死亡も最小限に抑えられた。
【0209】
次に、γ放射線誘発性の毒性、並びにPT、SIL、NR、及びFSL-1の組合せ(PSNFと略す)により引き起こされる予防を研究した。これらの結果を以下の表3に示す:
【表3】
【0210】
表3から分かるように、完全な組合せ(PT+SIL+NR+FSL-1)による処置は、放射線誘発性の毒性を改善するのに役立つ。
【0211】
最後に、4種の組み合わせた化合物(PT+SIL+NR+FSL-1;PSNF)による処置が腫瘍異種移植片における抗癌放射線療法(X線)の治療有効性を妨げるかどうかを解明するために、雌のnu/nuヌードマウス(6週齢~8週齢)(1群当たりn=5のマウス)に、マウス当たり5×10個のA549(肺腺癌)細胞又はMDA-MB-231(トリプルネガティブ乳癌)細胞を皮下接種した。腫瘍体積を、ノギスを使用して測定された2つの寸法に基づいて計算し、式:V=0.5a×b(式中、a及びbは、それぞれ腫瘍の長径及び短径である)に従って立方ミリメートルで表した。腫瘍には、Philips製の6-keV SL75線形加速器を使用してX線(10Gy)を照射した。単回照射放射線療法を、5.0Gy/分の速度で施した。PSNF投与についてのプロトコルは上記で説明したものと同一であり、放射線療法を21日目に施した。統計分析をスチューデントのt検定を使用して実施した(P<0.01;全ての群をコントロールに対して比較している;γ線+PSNFで処置された群をγ線だけで処置された群に対して比較している)。
【0212】
これらの結果を図13に示す。ここでは、4種の化合物の組合せがX線による抗癌処置の有効性を減じないことが分かり、こうして、上記放射線療法処置を受けている患者にこれらの化合物を使用する実現可能性が立証される。
【0213】
まとめると、これらの結果は、放射線によって引き起こされる損傷から防護し、緩和するための、少なくともPT及びSILと、任意にNR及びFSL-1とを含む組成物の使用を支持している。図3A及び図11Bに示されるように、これらの化合物の放射線防護効果が長期間(1年以上)延長されたことに留意することが重要である。
【0214】
実施例5:プテロスチルベン、シリビニン、及びニコチンアミドリボシドは細胞DNA損傷を減少させ、FSL-1リポペプチドは造血系の回復を促進する
図14aに示されるように、NR処置は、様々な細胞型においてNAD含有量を増加させ、γ放射線によって誘発されるNADの減少も予防する。単独で投与されたPT+SILは、研究したどの細胞においてもNADレベルに影響を与えず、NRによって引き起こされる増加にも影響を与えなかった(結果は示していない)。ニコチンアミドホスホリボシルトランスフェラーゼ(NAMPT)の特異的非競合的阻害剤であるFK866の投与は、PT+SIL+NR又はPT+SIL+NR+γ線で処置されたマウスにおいてNADレベルを減少させた(図14a)。FK866によって誘発されるNAD枯渇は、NAMPT活性の劇的な減少と関連していた(図14b)(PT、SIL、NR、FSL-1、及び/又はγ放射線は、FK866によって誘発されるNAMPT活性の阻害の速度に影響を与えなかった(示していない))。重要なことには、図14cに示されるように、DNA損傷コメットアッセイに基づくと、PT+SIL又はNRがDNA回復に有利に働き、それらの組合せが最も有効であった(図14c)。恐らく、ポリフェノールの効果は抗酸化物質に関連した機構であるのに対して、NRによって誘導されるNADの増加はDNA修復活性を直接的に促進する。図14dに示されるように、FSL-1は、造血コロニー形成細胞CFU-GM(コロニー形成単位-顆粒球、マクロファージ)及びCFU-GEMM(コロニー形成単位-顆粒球、赤血球、マクロファージ、巨核球)を増加させる。したがって、照射後の造血回復の確認は、上記の表3における血液学に基づくデータによって示唆される。
【0215】
放射線防護機構におけるNrf2、NF-κB、PGC-1α、及びPARP1の相互作用
分離された腸上皮細胞を使用して、PT+SILの組合せによって引き起こされる防護効果に関与し得る潜在的なシグナル伝達経路を調査した。図5図8において報告されたデータに基づけば、PT+SILはγ放射線誘発性の酸化的損傷に対して防護を発揮する。恐らく、観察された防護は、Nrf2(核因子赤血球2関連因子2)依存性の抗酸化防御の誘導によるものである(図5図8)。両方のポリフェノールについて抗炎症特性が報告されていることから、NF-κB(活性化B細胞の核因子カッパ軽鎖エンハンサー)依存性シグナル伝達の関与が示唆される。NRによって誘発されるNADの増加はまた、PARP1(ポリ[ADP-リボース]ポリメラーゼ1)依存性のDNA修復、サーチュイン活性、及びPGC-1α(ペルオキシソーム増殖因子活性化受容体γコアクチベーター1α)の活性化にも有利に働くことになる。さらに、PTはPGC-1α、Nrf2活性化、及びSirt1発現を誘発し得る一方で、SILはSirt3発現及びPARP1活性に影響を与える可能性がある。図15aに示されるように、コントロールと比較して、PT及びSILはどちらも核Nrf2を増加させ、一方で核NF-κBレベルを減少させた。Nrf2の場合に、PTの効果はSILによって発揮される効果よりも顕著である。これらの効果は、全体として、NF-κB依存性炎症誘発応答を下方調節しながら抗酸化防御を促進するという協調的な効果を示唆している。pPGC-1αもPTによって増加した(図15a)。Sirt1レベルはPTによって増加した。興味深いことに、SIL単独ではSirt1レベルに影響が及ぼされなかったが、2種のポリフェノールを組み合わせると、PT単独よりもSirt1レベルが増加した(図15a)。PT及びSILのどちらもSirt3レベルを増加させたが、Sirt3に対するSILの効果はより強力であった(図15a)。PT及びSILのどちらもPARP1を増加させた(図15a)。図15bは、これらのシグナル伝達カスケード間に考えられる分子相互関係と、PT及びSILがそれらの効果を発揮し得る段階とを概説している。どの特定の分子が放射線防護効果における決定要因となり得るかを更に調査するために、本発明者らは、分離されたIEC(図11aでのように、コントロール又はPT+SILで処置されたマウスから)及び遺伝子サイレンシングに基づくアプローチを使用した。図15cに示されるように、マウスのNfκbie、Nfe2l2、Ppargc1、Sirt1、Sirt3、Parp1、SOD2、又はGPX1の遺伝子発現を標的とするsiRNAは、遊離NF-κBの増加及び他の全ての分子標的の下方調節を促進する。in vivoで誘発される放射線防護的防御の保存を確実にする濃度のPT+SILの不存在下又は存在下で(図15のキャプションを参照のこと)、そして特定のsiRNAの存在下で、分離されたIECを24時間培養した。図15dに示されるように、PT及びSILは、コントロール(ビヒクルで処置された)細胞において観察されたγ線照射誘発性細胞死を劇的に減少させた。γ線に曝された細胞における特定のRNAの効果に基づく細胞死分析は、Nrf2、pPGC-1α、SOD2、及びSirt3が、ポリフェノールによる処置によって引き起こされる放射線防護効果の主たる要因であることを示している(図15d)。
【0216】
結論
ここで、本発明者らは、全身投与されたPTのγ放射線に対する効果を調査し、PT及びSILを組み合わせることによって高い生存率のパーセンテージが得られることを見出した。さらに、放射線誘発性損傷を減少させ、生存率を高める方略としての潜在的な放射線防護剤及び放射線緩和剤の関連性は、依然として未開発の分野である。本研究は、致死的(LD50/30)γ線照射を受けたマウスにおいて長期生存を達成することができる組合せの効力を示している。長期生存を実証するこの新規の方略は、今後のパラダイムとして役立つ可能性がある。したがって、放射線防護剤及び/又は放射線緩和剤として試験されている多数の分子を考慮すると、このパラダイムはこの分野を切り開く助けとなる可能性がある。PT及びSILは、様々な細胞型における抗酸化防御を上方調節し、γ放射線誘発性の酸化的損傷及び細胞遺伝学的変化(染色体異常及び小核形成)を減少させる。図15に示されるように、PT及びSILによって引き起こされる防護には、相互に関連する異なるシグナル伝達機構が関与している可能性がある。酸化ストレス及び炎症は、細胞を有害な電離放射線に曝露することによって活性化される直接的な病態生理学的機構である。PT及びSILは、様々な細胞型において核Nrf2及び抗酸化剤応答を増加させるのに対して(図15)、これらは、NF-κB(図15)及び恐らく放射線関連の炎症応答を減少させる。さらに、PTはSirt1レベルを増加させ、それによりPGC-1αの脱アセチル化が促進される(図15)。PGC-1αはSirt3発現の誘導因子であり、図15に示されるように、SIL処置はSirt3レベルの増加とも関連している。ミトコンドリアのSOD2(Sirt3によって脱アセチル化される)及びGSHペルオキシダーゼ(サイトゾルからのGSHの取り込みに依存する)は、ミトコンドリア由来のROSを減少させ、アポトーシスの活性化を防ぐように働くと考えられる。重要なことには、図15c及び図15dに示されるように、遺伝子サイレンシングに基づくアプローチにより、PT及びSILによる組み合わせた処置によって引き起こされる放射線防護効果への手がかりとして、Nrf2、Sirt3、及びSOD2を結び付ける経路が特定された。さらに、NRはNADを生成してSirt1及びSirt3の活性並びにPARP1依存性のDNA修復を支持する(図15)。PARP1活性も両方のポリフェノールによって誘導される(図15)。ピリジン-ヌクレオシド形のビタミンB3であるNRは、他の形のB3(ニコチン酸及びニコチンアミド)に対して優れた薬物動態プロファイルを備えたNADの前駆体であるため、これは最適なNADブースターに相当する。
【0217】
本研究は、2種の放射線防護剤であるプテロスチルベン及びシリビニンと、2種の放射線緩和剤であるニコチンアミドリボシド及び線維芽細胞刺激性リポタンパク質1との組合せが、マウスにおける致死線量の放射線に対する正常組織の長期間防護を与えることができることを実証している。これら4種の分子の確立された安全性プロファイルからも、この組合せをヒトへのその応用につなげる研究の継続が必要とされることは明らかである。理想的な放射線防護剤又は放射線緩和剤は、安定であり、容易に投与することができ、関連する全身毒性を有さず、放射線誘発性の損傷から正常組織を防護するべきである。提案された組合せはこれらの基準を満たしており、一方で、高い有効性が実証されている。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15-1】
図15-2】
【配列表】
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【国際調査報告】