(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-02-01
(54)【発明の名称】ガスインジェクタおよびガスインジェクタの製造方法
(51)【国際特許分類】
F02M 61/04 20060101AFI20240125BHJP
F02M 21/02 20060101ALI20240125BHJP
F02M 61/16 20060101ALI20240125BHJP
F02M 69/46 20060101ALI20240125BHJP
【FI】
F02M61/04 G
F02M21/02 S
F02M61/16 P
F02M69/46 A
F02M61/16 F
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023542954
(86)(22)【出願日】2021-12-01
(85)【翻訳文提出日】2023-09-13
(86)【国際出願番号】 EP2021083788
(87)【国際公開番号】W WO2022152456
(87)【国際公開日】2022-07-21
(31)【優先権主張番号】102021200392.3
(32)【優先日】2021-01-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】591245473
【氏名又は名称】ロベルト・ボッシュ・ゲゼルシャフト・ミト・ベシュレンクテル・ハフツング
【氏名又は名称原語表記】ROBERT BOSCH GMBH
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100196508
【氏名又は名称】松尾 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100161908
【氏名又は名称】藤木 依子
(72)【発明者】
【氏名】ミューラー,マーティン
【テーマコード(参考)】
3G066
【Fターム(参考)】
3G066AB05
3G066AC07
3G066AC10
3G066BA49
3G066CE22
(57)【要約】
本発明は、気体燃料を吹き込むためのガスインジェクタ(1)であって、電機子(20)、内側磁極(21)、およびコイル(22)を備えた磁気アクチュエータ(2)と、弁座(90)の傍らでのガス経路(14)を解放および閉止する閉鎖要素(3)であって、電機子(20)が閉鎖要素(3)と接続されている、閉鎖要素(3)と、ガスインジェクタ(1)内のチャンバを密閉するための少なくとも1つの封止器具であって、可撓性封止手段(51、52)および封止手段(51、52)と接続された少なくとも1つの剛性中間要素(71)を含む、少なくとも1つの封止器具とを含み、少なくとも1つの中間要素(71)が、ガスインジェクタ(1)のさらなる構成要素と溶接されており、可撓性封止手段(51、52)および中間要素(71)が少なくとも1つの第1の材料から作製されており、さらなる構成要素が少なくとも表面では第2の材料を有し、かつ可撓性封止手段(51、52)および中間要素(71)の少なくとも1つの第1の材料が第2の材料とは異なっている、ガスインジェクタ(1)に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
気体燃料を吹き込むためのガスインジェクタ(1)であって、
- 電機子(20)、内側磁極(21)、およびコイル(22)を備えた磁気アクチュエータ(2)と、
- 弁座(90)の傍らでのガス経路(14)を解放および閉止する閉鎖要素(3)であって、前記電機子(20)が前記閉鎖要素(3)と接続されている、閉鎖要素(3)と、
- 前記ガスインジェクタ(1)内のチャンバを密閉するための少なくとも1つの封止器具であって、可撓性封止手段(51、52)および前記封止手段(51、52)と接続された少なくとも1つの剛性中間要素(71)を含む、少なくとも1つの封止器具とを含み、
- 前記少なくとも1つの中間要素(71)が、前記ガスインジェクタ(1)のさらなる構成要素と溶接されており、
- 前記可撓性封止手段(51、52)および前記中間要素(71)が少なくとも1つの第1の材料から作製されており、前記さらなる構成要素が少なくとも表面では第2の材料を有し、かつ前記可撓性封止手段(51、52)および前記中間要素(71)の前記少なくとも1つの第1の材料が前記第2の材料とは異なっている、ガスインジェクタ(1)。
【請求項2】
前記可撓性封止手段(51、52)が前記中間要素(71)と溶接されている、請求項1に記載のガスインジェクタ。
【請求項3】
前記第1の材料が、水素脆化に対して前記第2の材料より耐性がある、請求項1または2に記載のガスインジェクタ。
【請求項4】
- 前記第1の材料がオーステナイト鋼であり、
- かつ/または前記第2の材料が少なくとも表面では硬化された鋼である、請求項1から3のいずれか一項に記載のガスインジェクタ。
【請求項5】
前記中間要素(71)と前記さらなる構成要素との溶接によって生じた溶融領域が、好ましくは隣り合う熱影響ゾーンも、特にレーザによる溶融(72)によってオーステナイト化されている、請求項1から4のいずれか一項に記載のガスインジェクタ。
【請求項6】
前記可撓性封止手段(51、52)では最薄部で壁厚(53)が定義されており、前記中間要素(71)では最薄部で厚さ(74)が定義されており、前記厚さ(74)が前記壁厚(53)の少なくとも2倍、好ましくは少なくとも3倍、特に好ましくは少なくとも5倍である、請求項1から5のいずれか一項に記載のガスインジェクタ。
【請求項7】
前記可撓性封止手段(51、52)がベローズである、請求項1から6のいずれか一項に記載のガスインジェクタ。
【請求項8】
- 中間リングとして形成された前記中間要素(71)が前記閉鎖要素(3)と溶接されており、
- かつ/または中間リングとして形成された前記中間要素(71)が案内スリーブ(12)と溶接されている、請求項1から7のいずれか一項に記載のガスインジェクタ。
【請求項9】
前記封止器具が、前記ガスインジェクタ(1)内の潤滑剤チャンバを密閉するために配置されている、請求項1から8のいずれか一項に記載のガスインジェクタ。
【請求項10】
特に請求項1から9のいずれか一項に記載のガスインジェクタ(1)の製造方法であって、前記ガスインジェクタ(1)内のチャンバを密閉するために、可撓性封止手段(51、52)と接続されている剛性中間要素(71)が、前記ガスインジェクタ(1)のさらなる構成要素と溶接され、前記可撓性封止手段(51、52)および前記中間要素(71)が少なくとも1つの第1の材料から、前記さらなる構成要素が少なくとも表面では第2の材料を有し、前記少なくとも1つの第1の材料が前記第2の材料とは異なる、製造方法。
【請求項11】
前記中間要素(71)と前記さらなる構成要素との溶接によって生じた溶融領域が、好ましくは隣り合う熱影響ゾーンも、前記溶接の後、好ましくはレーザによる表面付近の溶融(72)とそれに続く冷却によって処理される、請求項10に記載の製造方法。
【請求項12】
前記溶融が、2μm~100μm、好ましくは5μm~30μmの溶融深さで実施される、請求項11に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特に内燃機関用の、気体燃料、特に水素または天然ガスなどを吹き込むためのガスインジェクタに関する。ガスインジェクタは、特に給気管に吹き込むかまたは燃焼室内に直接吹き込むために設計されている。本発明はガスインジェクタの製造方法をさらに示す。
【背景技術】
【0002】
ガスインジェクタは、先行技術から様々な形態で知られている。ガスインジェクタにおける問題領域は、原理的に、吹き込むべき媒体が気体であるので、例えばガソリンまたはディーゼル燃料を噴射する燃料インジェクタでは可能であるような、媒体による潤滑が不可能なことにある。これにより、液体燃料用の燃料インジェクタに比べて、動作中に過度の摩耗が発生する。
【発明の概要】
【0003】
請求項1の特徴を有する本発明による気体燃料を吹き込むためのガスインジェクタは、ガスインジェクタ内のチャンバがどのように可撓性封止手段によって高い動作信頼性で密閉され得るかを示す。ガスインジェクタ内のこのチャンバの方は、潤滑剤チャンバとして使用することができ、したがってガス経路に対して潤滑剤を密閉し得る。チャンバ、特に潤滑剤チャンバ内には、好ましくはガスインジェクタの可動部品、例えば電機子が配置されている。ここで紹介しているガスインジェクタは、電機子、内側磁極、およびコイルを備えた磁気アクチュエータを含む。電機子は閉鎖要素と接続されており、したがって閉鎖要素は磁気アクチュエータによって動かすことができる。閉鎖要素は、ガスインジェクタの弁座の傍らでのガス経路を解放および閉止するために配置および形成されている。このために電機子は、閉鎖要素と直接的または間接的に機械的に接続されており、それによりガスインジェクタの開放および/または閉鎖のための動きを可能にする。ガスインジェクタ内には少なくとも1つの封止器具が設けられている。この封止器具は、ガスインジェクタ内のチャンバを密閉するために形成および配置されている。ガスインジェクタ内のこのチャンバは、前述の潤滑剤チャンバであることが好ましい。単一の封止器具は、1つの可撓性封止手段および少なくとも1つの剛性中間要素を有する。少なくとも1つの中間要素は、ガスインジェクタの「さらなる構成要素」と溶接されている。本発明の枠内では、肉薄の可撓性封止手段は、中間要素とだけ接続されていればよく、特に溶接されていればよく、中間要素がさらなる構成要素と溶接されるので、封止手段とこのさらなる構成要素の間の直接的な溶接は行われない。この場合、水素脆化に関する利点を達成するため、材料選択に注意が払われるべきである。すなわち、封止手段および中間要素のための材料を「第1の材料」と呼ぶ。これに関し中間要素および封止手段は、同じ「第1の材料」から作製することができるか、または2つの異なる「第1の材料」を有し得る。封止手段および中間要素の材料(第1の材料)が、ここで使用される「第2の材料」とは異なることが重要である。中間要素が溶接されるさらなる構成要素は、少なくとも表面ではこの第2の材料を有し、特に全体的に第2の材料から作製されている。
【0004】
従属請求項は本発明の好ましい発展形態を示す。
特に、少なくとも1つの第1の材料が、水素脆化に対して第2の材料より耐性があることが企図されている。第1の材料は特にオーステナイト鋼である。つまり中間要素も可撓性封止要素もオーステナイト鋼から作製されていることが好ましく、これに関しては、これら両方の要素に対して2つの異なるまたは2つの同じオーステナイト鋼が使用され得る。オーステナイト鋼は、ニッケルクロム鋼とも呼ばれる。詳しくは、ニッケルおよびクロムが十分な量で鋼に添加されると、結晶構造がオーステナイトに変化する。これに関し、特にニッケル含有量が十分に大きいことに注意が払われ、なぜならそれが、水素脆化に対する耐性を改善すると同時にオーステナイト構造を維持するからである。水素脆化は、特に材料が水素に曝される場合に発生する脆性破壊または脆性亀裂形成の形態を表す。水素脆化に対するより悪い耐性は、特に、水素の影響に起因する、より大きな亀裂進展速度を表す。
【0005】
中間要素が溶接されるさらなる構成要素は少なくとも表面では硬化されている。特に、さらなる構成要素は少なくとも表面ではマルテンサイト組織または析出硬化組織を有する。つまりさらなる構成要素には、特に硬化熱処理によって少なくとも表面にマルテンサイト組織を得ているマルテンサイト鋼が使用されることが好ましい。しかし、さらなる構成要素がまた他のやり方で、例えば析出硬化により、硬度を改善させていてもよい。
【0006】
中間要素と封止手段との間の溶接時には、2つのオーステナイト鋼が相互に溶接されるだけであり、したがってここでは溶接継目の溶融領域に混合組織は生じず、したがってここでは水素脆化の危険はない。中間要素とさらなる構成要素との間の溶接継目では、溶接がここでは相対的に大きな接合幅でロバスト性に実施され得るので、この領域では特に水素脆化による限定的な強度低下は容認され得るため、マルテンサイトの混合組織またはその他の部分的に硬化された混合組織が容認される。これは特に、中間要素が可撓性封止手段よりはるかに大きな体積で、特により厚く実施され得ることによって可能である。
【0007】
可撓性封止手段は、特に金属製である。可撓性封止手段は、特に金属ベローズ、金属膜、または金属チューブである。可撓性封止手段には特にオーステナイト鋼が使用され、なぜならこの材料は変形させやすく、水素含有燃料の場合に水素脆化を示さないからである。
【0008】
剛性中間要素は、好ましくは閉じたリング形である。剛性中間要素は、可撓性封止手段と固定接続されているか、または可撓性封止手段と一体的に作製されている。好ましくは、剛性中間要素が可撓性封止手段と溶接されていることが企図される。
【0009】
封止器具は、好ましくは、可撓性封止手段の両側にそれぞれ1つの剛性中間要素を有する。少なくとも1つの中間要素が、ガスインジェクタの「さらなる構成要素」と溶接されている。封止器具が2つの中間要素を有する場合、好ましくは、この剛性中間要素の両方がそれぞれガスインジェクタの「さらなる構成要素」と溶接されている。これは特に2つの異なる「さらなる構成要素」であり、なぜなら可撓性封止手段は、ガスインジェクタの互いに相対運動可能な2つの構成要素の間で密閉するべきだからである。
【0010】
「さらなる構成要素」、例えばガスインジェクタ内の閉鎖要素または案内スリーブは、たいていはマルテンサイトに硬質化された材料または析出硬化された材料(第2の材料)から作製されており、これにより少なくとも表面では相応の(例えばマルテンサイト)組織を有する。この材料は、耐摩耗性なのでこれらの構成要素に特に適している。ただしこの硬化された材料は、水素原子が存在すると脆化し得る。ここで開示されている中間要素なしでは、オーステナイトの可撓性封止手段とさらなる構成要素との溶接時に、溶接の溶融領域および隣接する熱影響ゾーン内で混合組織が生じるであろうし、この混合組織には、特に相対的に肉薄な封止手段に基づき、水素脆化することで亀裂が入り得る。可撓性封止手段とさらなる構成要素との間での中間要素の使用が、相対的に肉薄の封止手段をさらなる構成要素と直接溶接せざるを得ないことを回避する。
【0011】
中間要素とさらなる構成要素との溶接時に、溶接によって生じる溶融領域では混合組織が生じる。この混合組織は、隣り合う熱影響ゾーンでも生じ得る。この溶融領域は、特に隣り合う熱影響ゾーンも、表面付近のレーザ溶融により、侵入してくる水素に対してよりロバスト性にされていることが好ましい。これは本発明による方法の枠内で詳細に説明する。
【0012】
可撓性封止手段の壁厚はその最薄部で定義されている。中間要素でも同様に最薄部で、中間要素の厚さが定義されている。特に、中間要素の厚さはガスインジェクタの長手軸に対して垂直に測定される。好ましくは、中間要素の厚さが、封止手段の壁厚の少なくとも2倍、好ましくは少なくとも3倍、特に好ましくは少なくとも5倍であることが企図されている。これにより、中間要素とさらなる構成要素との間の溶接の十分に大きな接合幅が保証され得る。
【0013】
さらに、中間要素の長さはガスインジェクタの長手軸に対して平行に定義されている。この長さは、好ましくは少なくとも1mm、特に好ましくは少なくとも3mmである。
中間要素は、特にリング形で、ガスインジェクタの長手軸に同軸に配置されている。特に、中間要素はそのリング形の内面で、中間要素が溶接されるさらなる構成要素に載っている。
【0014】
ガスインジェクタは、既に述べたように閉鎖要素を有し、この閉鎖要素は、磁気アクチュエータによって閉位置と開位置の間を往復運動可能である。少なくとも1つの中間要素がこの閉鎖要素と溶接されていることが好ましい。
【0015】
ガスインジェクタはさらに案内スリーブを有し得る。この案内スリーブは、ガスインジェクタの弁ハウジングに対して位置固定されている。特に、案内スリーブは弁ハウジングと直接的または間接的に接続されている。例えば、案内スリーブは弁体と溶接されている。弁体は他方で弁ハウジングおよび/または内側磁極と溶接されている。
【0016】
閉鎖要素は、案内スリーブを貫通しており、案内スリーブ内で直線運動可能に案内されている。案内スリーブ内に、例えばコイルばねとして形成された復元要素があることが好ましい。復元要素は、閉鎖要素を開放プロセス後に再び閉状態に復元するために形成されている。
【0017】
少なくとも1つの中間要素が案内スリーブと溶接されていることが好ましい。特に、封止器具は、1つの可撓性封止手段および両端にそれぞれ1つの剛性中間要素を含む。一方の中間要素は閉鎖要素と溶接されており、もう一方の中間要素は案内スリーブと溶接されている。
【0018】
ガスインジェクタはさらに内装体を有し得る。この内装体は、例えば、閉鎖要素の動きを減速させるための、ガスインジェクタ内の制動機構の収容に役立つ。内装体内に少なくとも1つの潤滑剤チャネルが形成されていてもよい。内装体は、好ましくは弁ハウジングに対して位置固定されており、例えば内装体はガスインジェクタの本体と溶接されている。この本体は他方で弁ハウジングと溶接されていてもよい。それに加えてまたはその代わりに内装体は磁気アクチュエータの磁気ハウジングと溶接されていてもよい。この内装体の領域内にさらなる封止器具が設けられていることが好ましい。このさらなる封止器具の少なくとも1つの剛性中間要素が内装体と溶接されていることが好ましい。
【0019】
内装体上では、末端部材が直線運動可能に案内されていてもよい。さらなる封止器具が、さらなる剛性中間要素によって末端部材と溶接されていることが好ましく、したがってさらなる封止器具は2つの剛性中間要素を有し、この中間要素の一方は内装体と、もう一方の中間要素は末端部材と溶接されている。これら両方の中間要素の間に可撓性封止手段が延びる。
【0020】
本発明はさらにガスインジェクタの製造方法に関する。これは特に前述のガスインジェクタである。この方法では、ガスインジェクタ内のチャンバ、とりわけ潤滑剤チャンバの密閉が行われる。このために、可撓性封止手段と接続されている剛性中間要素が、ガスインジェクタのさらなる構成要素と溶接される。可撓性封止手段および中間要素は「第1の材料」から、さらなる構成要素は「第2の材料」から作製されている。本発明によるガスインジェクタの枠内で説明したように、両方の材料は互いに異なっている。特に、剛性中間要素および可撓性封止手段はオーステナイト鋼から作製されており、さらなる構成要素は、少なくともその表面ではマルテンサイト組織を有するか、または析出硬化された材料である。
【0021】
この方法では最初に、可撓性封止手段が、少なくとも1つ、好ましくは2つの中間要素と溶接されることが特に好ましい。その後、この1つの中間要素または両方の中間要素と、それぞれ帰属のさらなる構成要素との溶接が行われる。
【0022】
中間要素とさらなる構成要素との溶接時に、溶接により、溶融領域および隣り合う熱影響ゾーンが生じる。これに関し、中間要素はオーステナイト鋼から作製されており、さらなる構成要素は少なくとも表面では硬化されているので、溶融領域内では、場合によっては熱影響ゾーン内でも、混合組織が生じる。この方法の枠内では、溶接の後に溶融領域の、場合によってはまた隣り合う熱影響ゾーンの、表面付近の溶融によって処理され、好ましくはオーステナイト化される。表面付近の溶融は、好ましくはレーザによって行われる。この溶融の後に、コントロールされた冷却が行われることが好ましい。この冷却プロセス中も、レーザによって入熱を行うことができ、これによりオーステナイト化のための所望の冷却速度が制御され得る。この表面付近のレーザ溶融により、また組織を均質化でき、残留応力を低減でき、かつ炭素割合を減らせる。拡張された溶接領域のこの処理により、少なくとも部分的にはオーステナイト化も生じ、このオーステナイト化が、処理された領域の水素ロバスト性を高める。これにより水素が中へと拡散する可能性が低下する。
【0023】
特に、この溶融は2μm~100μm、とりわけ5μm~30μmの溶融深さで行われる。
溶接によって生じた溶融領域も隣り合う熱影響ゾーンも、中間要素内にもさらなる構成要素内にも広がっている。それに応じて、好ましくは、オーステナイト化のための表面付近の溶融が、中間要素の領域内でもさらなる構成要素の領域内でも行われることが企図されている。
【0024】
以下に、本発明の1つの例示的実施形態を添付の図面を参照しながら詳しく説明する。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】1つの例示的実施形態に基づく本発明によるガスインジェクタの概略的な断面図である。
【
図2】
図1の本発明によるガスインジェクタの前方の一区間を示す図である。
【
図3】
図2で印をつけた細部IIIの詳細図である。
【
図4】
図1の本発明によるガスインジェクタの後方の一区間を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下に、
図1~
図4を参照しながら本発明の好ましい1つの例示的実施形態に基づくガスインジェクタ1を詳細に説明する。
図1と、
図2~
図4で見えていることとが示すように、気体燃料を注入するためのガスインジェクタ1は、閉鎖要素3を動かす磁気アクチュエータ2を含む。閉鎖要素3は、ガスインジェクタ1の長手軸40に沿って延びる。示した例示的実施形態では、閉鎖要素3は外向きに開く。これらの図では、これに関し閉状態が示されている。
【0027】
磁気アクチュエータ2は電機子20を含み、電機子20は電機子ボルト24で閉鎖要素3に当接する。磁気アクチュエータ2は、内側磁極21、コイル22、および磁気ハウジング23をさらに含み、磁気ハウジング23は磁気アクチュエータ2の磁気帰還を保証する。
【0028】
ガスインジェクタは、気体燃料が供給される後方の接続部を備えた本体7をさらに含む。本体7に弁ハウジング8が固定されている。弁ハウジング8内に磁気アクチュエータ2がある。弁ハウジング8に弁体9がつながり、弁体9の自由端に弁座90が設けられており、弁座90内で、閉鎖要素3が気体燃料用の通路を解放および閉止する。弁体9の縁には、気体燃料用の相応の吐出口を備えたヘッド11がある。
【0029】
弁体9内に案内スリーブ12があり、案内スリーブ12に内側磁極21および弁ハウジング8が溶接されている。案内スリーブ12は、閉鎖要素3に対する第1の可撓性封止要素51、特にベローズによって密閉されている。閉鎖要素3は、案内スリーブ12を貫通し、案内スリーブ12内で直線運動可能に案内されている。案内スリーブ12の内部には、閉鎖要素3のための、コイルばねとして形成された復元要素10が、閉鎖要素3を開放プロセス後に再び
図1に示した閉状態に復元するために存在する。
【0030】
磁気ハウジング23は内装体13と溶接されている。内装体13は本体7と溶接されている。内装体13は、末端部材15に対する第2の可撓性封止要素52、とりわけベローズによって密閉されている。末端部材15は、内装体13の縁で直線運動可能に案内されており、弾性平衡要素16、とりわけコイルばねにより、内装体13の方向に予応力をかけられている。
【0031】
両方の可撓性封止要素51、52は、内側にある潤滑剤チャンバを密閉し、この潤滑剤チャンバ内で閉鎖要素3および電機子20が移動する。
図1では、ガスインジェクタ1を通るガス経路14が概略的に示されており、ガス経路14は潤滑剤チャンバの外側を走る。このガス経路14は、本体7で始まり、弁ハウジング8を通って磁気アクチュエータ2の径方向外側を走り、弁体9を経て弁座90に至る。ガスインジェクタ1の開放時には、気体燃料が磁気アクチュエータ2の外周および開いた弁座90を通過して燃焼室または給気管内に流入する。したがって閉鎖要素3は、弁座90の傍らでのガス経路14を解放し、およびこれを閉止する。
【0032】
ガスインジェクタ1は制動機構6をさらに有する。制動機構6は、内装体13内に差し込まれた制動ボルト60上の制動ばね61を含む。制動案内要素62は、電機子ボルト24を案内し、したがって電機子ボルト24は制動ボルト60と動作接続し得る。この制動機構6は、ガスインジェクタ1の閉鎖プロセス時に、閉鎖要素3を電機子20ともども減速させる役割を有する。
【0033】
図2は、第1の可撓性封止要素51を備えた前方の領域でのガスインジェクタ1を示す。
図3は、
図2で印をつけた細部IIIを示す。これらの図が示すように、第1の可撓性封止要素51はその両端でそれぞれ中間要素70と溶接されている。溶接継目が、符号71を付されて概略的に描き込まれている。第1の可撓性封止要素51はその両方の中間要素70と一緒に、外側にあるガス経路14に対して内側にある潤滑剤チャンバを密閉するための封止器具を構成する。
【0034】
第1の封止手段51および両方の中間要素70はそれぞれオーステナイト鋼から作製されている。第1の可撓性封止手段51はベローズである。両方の中間要素70は閉じたリングである。
【0035】
図2では左に示されている中間要素70は、閉鎖要素3上に設置され、閉鎖要素3と溶接されている。閉鎖要素3は、マルテンサイト組織または析出硬化組織を有する。それに応じて、中間要素70と閉鎖要素3との間の溶接継目71の形成時には、溶融領域および隣り合う熱影響ゾーン72内で、例えばマルテンサイトとの混合組織が生じる。したがってこの溶融領域および熱影響ゾーン内では、溶接の後、表面付近の溶融72とそれに続く冷却が、オーステナイト化のために実施されることが好ましい。
【0036】
この表面付近のレーザ溶融により、また組織を均質化でき、残留応力を低減でき、かつ炭素割合を減らせる。拡張された溶接領域のこの処理により、少なくとも部分的にはオーステナイト化も生じ、このオーステナイト化が、処理された領域の水素ロバスト性を高める。これにより水素が中へと拡散する可能性が低下する。
【0037】
図2は、右の領域内で中間要素70と案内スリーブ12との溶接を示す。案内スリーブ12もマルテンサイト組織または析出硬化組織を有し、したがって溶接継目71の溶融領域および隣り合う熱影響ゾーン内では混合組織が生じ、この混合組織もまた、表面付近の溶融72によってオーステナイト化されている。
【0038】
図3は、第1の封止手段51が壁厚53を有することを詳細図で示す。長手軸40に対して垂直に、中間要素70の厚さ74が定義されている。長手軸40に対して平行に、中間要素70の長さ75が定義されている。厚さ74は、一般部分で解説したように、壁厚53の少なくとも2倍であることが好ましい。
【0039】
図4は、第2の可撓性封止手段52を備えたガスインジェクタ1の一部分を示す。この第2の可撓性封止手段52も、同様にそれぞれ閉じたリング形に形成された2つの中間要素70と一緒に封止器具を構成する。
【0040】
図4が示すように、一方の中間要素70は内装体13と溶接されている。もう一方の中間要素70は末端部材15と溶接されている。特に、ここでもまた両方の中間要素70および第2の封止手段52はオーステナイト鋼製である。内装体13および/または末端部材15はマルテンサイト組織または析出硬化組織を有する。
【0041】
図4は、両方の中間要素70が、溶接継目71を介してさらなる構成要素、詳しくは内装体13または末端部材15と溶接されていることを概略的に明らかにする。見やすくするためにここでは熱影響ゾーンが図示されていないが、ここでも、好ましくは、溶融領域および熱影響ゾーンが、表面付近の溶融72とそれに続く冷却とによってオーステナイト化されることが企図されている。
【国際調査報告】