(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-02-01
(54)【発明の名称】透明なワークピースを分割する方法
(51)【国際特許分類】
B23K 26/53 20140101AFI20240125BHJP
B23K 26/40 20140101ALI20240125BHJP
【FI】
B23K26/53
B23K26/40
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023542970
(86)(22)【出願日】2022-01-10
(85)【翻訳文提出日】2023-09-13
(86)【国際出願番号】 EP2022050305
(87)【国際公開番号】W WO2022152637
(87)【国際公開日】2022-07-21
(31)【優先権主張番号】102021100675.9
(32)【優先日】2021-01-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】500341779
【氏名又は名称】フラウンホーファー-ゲゼルシャフト・ツール・フェルデルング・デル・アンゲヴァンテン・フォルシュング・アインゲトラーゲネル・フェライン
(71)【出願人】
【識別番号】506065105
【氏名又は名称】トルンプフ レーザー- ウント ジュステームテヒニク ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング
【氏名又は名称原語表記】TRUMPF Laser- und Systemtechnik GmbH
【住所又は居所原語表記】Johann-Maus-Strasse 2, D-71254 Ditzingen, Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100073184
【氏名又は名称】柳田 征史
(74)【代理人】
【識別番号】100175042
【氏名又は名称】高橋 秀明
(74)【代理人】
【識別番号】100163050
【氏名又は名称】小栗 眞由美
(74)【代理人】
【識別番号】100224775
【氏名又は名称】南 毅
(72)【発明者】
【氏名】ブロス,マルクス
(72)【発明者】
【氏名】シャンボノー,マクシム
(72)【発明者】
【氏名】ノルテ,シュテファン
(72)【発明者】
【氏名】クムカル,マルテ
【テーマコード(参考)】
4E168
【Fターム(参考)】
4E168AE01
4E168DA02
4E168DA03
4E168DA32
4E168DA46
4E168DA47
4E168JA12
(57)【要約】
本発明は、透明なワークピース(1)を、パルスレーザ放射線(2)を用いて、ワークピースの体積内にビーム集束ゾーン(3)を形成することにより分割する方法であって、レーザ放射線(2)の強度が、非線形吸収のための閾値を上回っており、ビーム集束ゾーン(3)とワークピース(1)とを互いに相対的に運動させ、これにより、ワークピース(1)内に、予め規定された分離線(4)に沿って延びる二次元の弱化部を形成し、次いでワークピース(1)を分離線(4)に沿って分割する方法に関する。本発明は、パルスレーザ放射線の非線形吸収により生じるエネルギ入力の持続時間を選択し、かつ空間的にビームを整形することによって、ビーム集束ゾーン外でのワークピース(1)の体積内におけるレーザ放射線(2)の非線形の伝播を抑制することを提案する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明なワークピース(1)を、パルスレーザ放射線(2)を用いて、前記ワークピースの体積内にビーム集束ゾーン(3)を形成することにより分割する方法であって、前記ビーム集束ゾーン(3)において、前記レーザ放射線(2)の強度が、非線形吸収のための閾値を上回っており、前記ビーム集束ゾーン(3)と前記ワークピース(1)とを互いに相対的に運動させ、これにより、前記ワークピース(1)内に、予め規定された分離線(4)に沿って延びる二次元の弱化部を形成し、次いで前記ワークピース(1)を前記分離線(4)に沿って分割する、方法において、
前記ビーム集束ゾーンにおいて前記パルスレーザ放射線の非線形吸収により生じるエネルギ入力の持続時間を選択し、かつ/または空間的にビームを整形することによって、前記ビーム集束ゾーン(3)外での前記ワークピース(1)の前記体積内における前記レーザ放射線(2)の非線形の伝播を抑制することを特徴とする、方法。
【請求項2】
前記レーザ放射線(2)の波長を、前記レーザ放射線(2)の線形吸収が、当該波長においてセンチメートル当たり20%未満、好ましくは10%未満、特に好ましくはセンチメートル当たり5%未満であるという条件に従って選択することを特徴とする、請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記レーザ放射線(2)の前記波長を、前記ワークピース(1)の前記体積内における非線形屈折率が当該波長においてできるだけ低く、特に前記非線形の伝播が、前記ビーム集束ゾーン内への、前記弱化部を形成するために十分なエネルギ入力を妨げないほど低いという条件に従って選択することを特徴とする、請求項2記載の方法。
【請求項4】
前記パルスレーザ放射線のパルス持続時間が、臨界値よりも大きく、該臨界値は、パルスエネルギと材料固有の臨界出力との商であり、該臨界出力を上回ると、非線形の伝播、特に自己集束が前記ワークピース(1)の前記体積内において生じることを特徴とする、請求項1から3までのいずれか1項記載の方法。
【請求項5】
前記パルスレーザ放射線(2)の前記パルス持続時間および前記パルスエネルギを、単独のレーザパルスまたは予め規定された数の一連のレーザパルスから成るレーザパルスバーストによって、前記ビーム集束ゾーン(3)内の前記ワークピースの前記体積内の、前記レーザ放射線(2)の非線形吸収による改質が生じるという条件に従って選択することを特徴とする、請求項1から4までのいずれか1項記載の方法。
【請求項6】
少なくとも80%、好ましくは少なくとも90%、特に好ましくは少なくとも95%の確率で前記改質が生じる、エネルギ入力の最短の可能な持続時間を特定し、エネルギ入力の前記持続時間を、該持続時間が、特定された当該最短の可能な値よりも長いかまたは等しいように、好ましくは1~20倍長く、特に好ましくは1.1~5倍長くなるように選択することを特徴とする、請求項1から5までのいずれか1項記載の方法。
【請求項7】
前記ビーム集束ゾーン(3)が、前記ワークピースの表面に対して実質的に垂直に向けられたビーム軸線(8)に沿った細長い形状を有しており、前記ビームの方向での前記ビーム集束ゾーンの長さが、前記ビーム軸線に対して垂直な前記ビーム集束ゾーンの拡がりよりも、少なくとも10倍、好ましくは少なくとも50倍、特に好ましくは100倍大きいことを特徴とする、請求項1から6までのいずれか1項記載の方法。
【請求項8】
前記ビーム軸線に対して横方向の前記ビーム集束ゾーン(3)の拡がりは、弱化平面に対して平行な方向で、前記弱化平面に対して垂直な方向よりも、好ましくは1.2倍よりも大きく、特に好ましくは2倍よりも大きいことを特徴とする、請求項7記載の方法。
【請求項9】
前記ビームを整形することを、前記ワークピースの前記体積内で前記ワークピースの表面の近傍で集束する、前記レーザ放射線のビーム成分(6,7,9,10,11,12)と前記ビーム軸線(8)とが形成する角度が、前記ワークピース(1)の前記体積内で前記ワークピースの表面からさらに離れて集束する前記ビーム成分(6,7,9,10,11,12)と前記ビーム軸線(8)とが形成する角度以下の角度であるように実施することを特徴とする、請求項1から8までのいずれか1項記載の方法。
【請求項10】
前記ワークピースの材料が、シリコンであり、前記パルスレーザ放射線のパルス持続時間が、20~500psの範囲であり、前記レーザ放射線の前記波長が、1300~2500nmの範囲であることを特徴とする、請求項1から9までのいずれか1項記載の方法。
【請求項11】
半導体ウェハをチップに分割するための、請求項1から10までのいずれか1項記載の方法の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
透明なワークピースを、パルスレーザ放射線を用いて、ワークピースの体積内にビーム集束ゾーンを形成することにより分割する方法であって、ビーム集束ゾーンにおいて、レーザ放射線の強度が、非線形吸収のための閾値を上回っており、ビーム集束ゾーンとワークピースとを互いに相対的に運動させ、これにより、ワークピース内に、予め規定された分離線に沿って延びる二次元の弱化部を形成し、次いでワークピースを分離線に沿って分割する、方法。
【背景技術】
【0002】
ウェハ基板をチップに分割すること、すなわち、ウェハのいわゆるダイシングは、ますます小さく、より複雑になっている半導体デバイスの製造において重要である。ダイシングの従来の方法は、100μmよりも厚いウェハのためには、ダイヤモンドソーの使用に基づいている。より薄いウェハのためには、レーザに基づく方法がますます使用されるようになっている。
【0003】
特許文献1は、ワークピースすなわち半導体基板の体積内にビーム集束ゾーンを形成するためにパルスレーザ放射線を使用する方法が記載されている。ビーム集束ゾーンでは、レーザ放射線の強度が非線形吸収のための閾値を局所的に上回っている。対応して、ビーム集束ゾーンでは、多光子プロセスが、例えば多光子イオン化またはアバランシェイオン化の形態で生じ、このことはプラズマの形成につながる。プラズマ形成速度は、ワークピースの材料およびレーザ放射線のパラメータに依存する閾値を大幅に超えて増す。したがって、これは、「光学的絶縁破壊」とも称される。結果として生じるワークピースの改質、ひいては処理は、高精度である。なぜならば、空間的に局所化された少量のエネルギが材料内に再現可能に導入されるからである。この良好な空間的な局所化は、可能な限り収差のない高い開口数の光プローブを使用してレーザ放射線を集束することにより達成される。ビーム集束ゾーンは、レーザビーム軸線の方向に延びる、上掲の特許文献1では「スパイク状の」焦点体積の形態で形成される。このビーム集束ゾーンは、ワークピースに対して相対的に運動させられ、これにより、予め規定された分離線に沿って延びる、ワークピース内の二次元の弱化部を形成することができる。導入された改質により生じ得る弱化メカニズムは、ボイドおよび/またはクラックの生成、ワークピースの材料の構造的な変化、改質領域にそれぞれ結合されたクラック、過渡応力または永久応力、熱機械的な応力、局所的な体積増加または減少による応力、凝固割れ等である。最後に、ワークピースの実際の分離は、小さな機械的な力または応力を加えることにより生じ、これにより、ワークピースは、弱化部の領域において、つまり分離線に沿って破断する。
【0004】
極めて重要であるのは、ワークピースの所定の深さにわたる、かつワークピースの所定の深さに至る材料の均一な改質である。このことは、分割性を向上させ、チッピングまたは材料の歪みのような製造不良を最小限にし、かつより高い縁端強さが達成される。公知の方法では、ワークピース内の改質は、500nm~2000nmの波長および10kHz~2MHzの繰返し率で、100~15000fsの範囲のパルス持続時間(持続時間)のレーザパルスにより引き起こされる。公知の方法では、ビーム集束ゾーンを形成するためのビームの整形は、ワークピースの体積内におけるレーザ放射線の乱されていない線形の伝播に基づいて設計される。しかし、細分化を可能にする材料の弱化部を生じさせるために必要となるフルエンス(流速量)では、ワークピース内でのレーザ放射線の伝播は、上述のパルス持続時間範囲では非線形効果を受ける。狭いパルス持続時間および高いエネルギ密度では、ワークピースの体積内でのレーザ放射線の伝播は、非線形効果(例えばビーム集束ゾーン外で既に生じる自己集束ならびに2光子吸収)により強く妨害されるので、ビーム集束ゾーンの所望の領域への効果的なエネルギ結合は大幅に妨げられる。エネルギ堆積の明確な局所化およびワークピースの材料の、結果として生じる改質は、放射線のピーク強度が高い場合、このピーク強度が短いパルス持続時間で存在する理由から達成することができない。
【0005】
長いパルス持続時間(例えば、>1ns)、ひいてはより低いピーク強度では、材料を改質することができるが、典型的にはより高いエネルギが必要とされ、かつ拡散効果が発揮されるので、熱が加えられる体積が増大することによる、より大きな損傷を甘受しなければならない。したがって、分離プロセスの結果は、破断線の品質に関して満足のいくものではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
この背景に対して、本発明の根底にある課題は、透明なワークピースを分割するための改善された方法を提供することである。公知の方法の上述の欠点を回避することが望ましい。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明はこの課題を、冒頭で述べた方法を起点として、ビーム集束ゾーンにおいてパルスレーザ放射線の非線形吸収により生じるエネルギ入力の持続時間を選択し、かつ/または空間的にビームを整形することによって、ビーム集束ゾーン外でのワークピースの体積内におけるレーザ放射線の非線形の伝播を抑制することによって達成する。
【0009】
本発明の要旨は、ワークピース内に弱化部を導入するために、非線形の伝播特性を考慮することである。ビーム集束ゾーン外におけるレーザ放射線の非線形の伝播を抑制する、つまり著しく減じるために、エネルギ入力の持続時間および/またはビームの整形に関して、最適である可能なプロセスパラメータが定義され、これによりエネルギ堆積の改善された制御が可能になる。これに関して、最終的に、ワークピースの体積内の局所的なエネルギ密度が、エネルギ入力の持続時間により制御され、ビーム集束ゾーン内のエネルギ結合が改善される。周囲の体積内の、つまりビーム集束ゾーン外の損傷は最小限にされる。本発明は、妨害する非線形効果(例えば、自己集束および非線形吸収)または別の伝播妨害を最小限にするために、外側、特にレーザ放射線の伝播方向においてビーム集束ゾーンの手前で、最小の可能な相互作用が達成されることを達成している。さらに、ビーム集束ゾーンにおける非線形吸収の持続時間中に、ビーム方向で最初に生じる改質または高い電子密度のゾーンが、入射するエネルギの50%超、好ましくは20%超、特に好ましくは10%超を、ビーム集束ゾーンの、ビーム方向で後から到達される部分に対して遮らないことが保証される。
【0010】
非線形の伝播を最小限にすることにより、ビーム集束ゾーンにおけるビーム集束によって、適切なフルエンスを意図的かつ定義した形式で達成することができる。結果として、所望の改質はこの領域においてのみ生じる。時間に関するビームの整形および空間に関するビームの整形の組み合わせによって、特定のビーム集束ゾーン全体にわたって均一かつ個別調整されたエネルギ堆積が生じる。結果として、分割プロセスが容易になる。チッピングまたは材料応力は最小限にされる。破断線の縁端の品質は、従来技術と比較して改善されている。
【0011】
換言すると、本発明に従ってプロセスパラメータ(エネルギ入力の量および持続時間、空間的なビームの整形)を意図的に選択することにより、以下のこと、つまり、
a)非線形吸収のための強度閾値が、ビーム集束ゾーンにおいて上回られており、
b)ビーム集束ゾーン外の望ましくない非線形効果のための出力閾値または強度閾値が下回られており、
c)所望の改質のために必要とされるエネルギが、制御されて局所化されて導入され、これにより、所望の面状の弱化部が所望の幾何学形状で生じる
ことが達成される。
【0012】
理想的には、レーザ放射線の波長を、ワークピースの材料におけるレーザ放射線の線形吸収がレーザビーム方向で1センチメートルの長さ当たり20%未満、より良好には10%未満、特に好ましくは5%未満であるように選択することが望ましい。さらに、レーザ放射線の波長は、非線形効果がビーム集束ゾーンにおける十分なエネルギ堆積を妨げないように、ワークピースの体積内における非線形屈折率が当該波長において低いという条件に従って選択されることが望ましい。同時に、波長は、良好な集束性が保証されている範囲内にあることが望ましい。
【0013】
本発明によれば、ビーム集束ゾーンにおいて、つまり分離線に沿ったワークピースの規定された位置においてパルスレーザ放射線の非線形に引き起こされる吸収によるエネルギ入力の持続時間を適切に選択することが重要である。エネルギ入力の持続時間を、例えば、パルスレーザ放射線のパルス持続時間によって特定することができる。持続時間の上限は、熱拡散による熱損傷ゾーンの許容可能な大きさに基づいて得られる。さらに、持続時間の上限は、ビーム集束ゾーンにおいて吸収される最大許容エネルギによって与えられる。強度が非線形吸収のための閾値を上回っている場合、持続時間が長くなるほど、エネルギ入力は大きくなる。過度に多くのエネルギにより、かつ/または過度に長い期間にわたって導入されるエネルギによって、ビーム集束ゾーンに対する弱化部の場所制限が損なわれる。ビーム集束ゾーン外のレーザ放射線の非線形の伝播を回避するという観点では、エネルギ入力持続時間の下限が重要である。特に、パルス持続時間は、臨界値より大きいことが望ましく、この臨界値は、例えば、パルスエネルギと材料固有の臨界出力との商であり、この臨界値を上回ると、非線形の伝播、特に自己集束がワークピースの体積内において生じる。これにより、エネルギ堆積が非線形効果により過度に妨害されないことが保証され、したがって、ビーム集束ゾーンにおいて十分に高い局所化されたエネルギ堆積が保証されている。
【0014】
有利には、パルス事象におけるエネルギ入力の持続時間(例えばパルス持続時間)およびエネルギ入力の量(例えばパルスエネルギ)は、損傷、つまりビーム集束ゾーン内のワークピースの体積内の所望の改質が、単独のレーザパルスまたは予め規定された数の一連のレーザパルスから成るレーザパルスバーストによって生じるという条件において選択されることが望ましい。適切な単独のパルスは、例えば、特定のパルス持続時間のガウス形の時間プロフィールを有するレーザパルスであってよい。バーストは、短い時間間隔(GHzまたはTHz範囲のパルス繰返し周波数)で予め規定された数のレーザパルスを含んでいる。バースト相互の時間間隔が個別のバーストの持続時間の少なくとも100倍大きい場合、このような1回のバーストもパルス事象と見なされる。ワークピースの特定の箇所における改質は、単独のこのような「パルス事象」(単一パルスまたは単一バースト)中に完全に引き起こされることが望ましい。したがって、本発明の文脈におけるエネルギ入力は、ビーム集束ゾーンにおいて非線形に引き起こされる吸収による単独のパルス事象中のエネルギ入力に関する。したがって、エネルギ入力の持続時間は、パルス持続時間またはバースト持続時間から生じる。なお、レーザパルスは必ずしもガウス形、「フラットトップ」形、または別の何らかの一般的な形を有している必要はない。あらゆるパルス形が考えられる。重要であるのは、エネルギ入力の有効な持続時間である。本発明による方法において、有効な持続時間は、好ましくは20~500psである。
【0015】
次いで、パルス事象毎に分離線に沿ってワークピースをビーム集束ゾーンに対して相対的に徐々に運動させることにより、2次元の弱化部が繰り返し形成される。可能であれば、弱化部は分離線に沿った単独の運動事象中に形成される。これにより、高いプロセス速度を達成することができ、ワークピースは分離線に沿った分割縁端の高い品質をもって、確実に破断される。
【0016】
好ましくは、少なくとも80%、好ましくは少なくとも90%、より好ましくは少なくとも95%の確率で所望の改質が生じる、エネルギ入力の最短の可能な持続時間が特定される。次いで、弱化部が導入される場合のエネルギ入力の持続時間は、この特定された最短の可能な値よりも長いか、または等しくなるように選択される。この値は、多数の要因(ビーム集束ゾーンの材料、サイズおよび幾何学形状、波長、パルス形状等)に依存してよい。例えば、エネルギ入力の選択された持続時間は、特定された最短の可能な値を10倍、好ましくは5倍、特に好ましくは2倍上回っていてよい。理想的には、係数は1.1~5の範囲にある。このことは、弱化部の所望の形成のためのエネルギ入力の良好な制御を提供する。
【0017】
さらに好ましくは、ビーム集束ゾーンは、ワークピースの表面に対して垂直な細長い形状を有していることが望ましい。上記で引用した国際公開第2016/059449号と同様に、ビーム集束ゾーンは、ビーム方向に細長いと望ましく、したがって、適切な弱化部を保証するためにワークピースの厚さ全体の大部分にわたって延びていることが望ましい。例えば、ビーム方向でのビーム集束ゾーンの長さは、所望の二次元の弱化部に対して垂直なビーム集束ゾーンの拡がりよりも、少なくとも10倍、好ましくは少なくとも50倍、特に好ましくは少なくとも100倍大きくてよい。レーザビームは、まずはガウス形のプロフィールまたは任意の実現可能な別の入力ビーム形状を有していてよい。特に適しているのは、実質的に非回折ビームとして記載され得るガウス-ベッセルビームまたは別のビーム形状である。ビーム集束ゾーンにおける個別調整された空間的な強度分布は、便宜的に、ビーム整形光学系、または空間的な光変調器(SLM)またはピエゾミラーのような適応性のビーム整形要素と組み合わせた集光光学系のような、適切な光学要素によって達成される。深さに依存した収差補正によって改善することができる。空間的なビームの整形の目標は、所望のビーム集束ゾーンへの可能な限り妨害されないエネルギ導入を、ワークピースの表面(ビーム入射面)から分離プロセスに必要な深さに至るまでワークピース内に到達させることである。
【0018】
同時に、ビーム軸線に対して横方向のビーム集束ゾーンの拡がりは、弱化部の平面に対して平行な方向で、弱化部の平面に対して垂直な方向よりも大きいことが望ましい。これにより、ビーム集束ゾーンとワークピースとの相対的な運動に基づいて改質が繰り返し導入される間に、その前に既に導入された改質によってそれぞれ影響を受ける(妨げられる)レーザ放射線の部分が最小限にされる。
【0019】
上述したように、本発明は、妨害する非線形効果を最小限にするために、外側、特にレーザ放射線の伝播方向においてビーム集束ゾーンの手前で、最小の可能な相互作用が達成されることを目指している。さらに、ビーム集束ゾーンにおけるパルス事象中に最初に生じる改質または高い電子密度のゾーンが、入射するエネルギのできるだけ小さな部分のみを、ビーム集束ゾーンの、後から到達される部分に対して遮ることが保証されることが望ましい。このことには、適切なビームの整形が寄与する。ビームの整形は、有利には、ワークピースの体積内でワークピースの表面の近傍で集束するレーザ放射線の(個別のビームまたは個別のビームの束から構成される)ビーム成分とビーム軸線と形成する角度が、ワークピースの体積内でワークピースの表面からさらに離れて集束するビーム成分とビーム軸線とが形成する角度以下の角度であるように実施される。このことは、いずれの場合も、ビーム集束ゾーンにおいて集束するビーム成分の大部分に当てはまることが望ましく、非線形効果が十分に抑制される限り、個別の場合に、この幾何学形状からの、ビーム成分の小さな部分の逸脱は許容することができる。
【0020】
本発明による方法は、特に半導体ウェハをチップにダイシングするために適している。本発明によって提案される時間的および空間的なビームの整形は、ダイシングプロセスにとって不都合な、レーザ放射線の非線形の伝播を防止するかまたは少なくとも最小限にする。結果として、基板の材料中のレーザ放射線の伝播は妨げられず、各パルス事象によって、細長い改質ゾーンを導入することができる。レーザビームと基板との相対移動を伴う手順を繰り返すことにより、予め規定された分離線に沿って二次元の弱化部が形成される。この弱化部は、その後に加えられる引張応力による破断中に、予め規定された破断点として機能する。したがって、一方では薄く、他方では厚い半導体基板であっても、最小限の熱的な応力が加えられたまたは種々異なって弱化された破断点において効果的に分離することができる。弱化平面に対して横方向の改質ゾーンの小さな拡がりにより、上述のように導入された改質によりビーム伝播が著しく妨害されることなしに、送り方向で互いに密接に隣接して改質を導入することが可能である。分離線の輪郭精度は特に高い。製造エラーおよび不良品が最小限にされる。同時に、高いプロセス速度を達成することができる。
【0021】
本発明による方法は、平坦なガラス製品またはセラミックおよび結晶性のワークピースの分割のためにも適している。
【0022】
本発明の別の特徴、詳細および利点は、特許請求の範囲の文言および図面に基づく例示的な実施形態の以下の説明から明らかである。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】透明なワークピースを割裂または分割するための本発明に係る方法の概略図である。
【
図2】本発明による空間的なビームの整形を示す概略図である。
【
図3】異なる間隔を有する改質ゾーンの繰り返しの導入を示す図である。
【
図4】方法パラメータを最適化するプロセスのフローチャートである。
【
図5】パルス持続時間を最適化するプロセスのフローチャートである。
【
図6】パルスエネルギを最適化するプロセスのフローチャートである。
【
図7】改質ゾーンの繰り返しの導入に関する方法パラメータの相互関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
図1は、ワークピース1、例えば半導体製造においてウェハを割裂または分割するための、本発明に係る方法の主要なステップを示す。パルスレーザ放射線の形態のレーザビーム2が、ワークピースに上から放射される。レーザビーム2は、ビーム方向に細長いビーム集束ゾーン3がワークピース1の体積内に生じるように、(例えば、空間光変調器(図示せず)と組み合わせた集光光学系によって)整形される。ビーム集束ゾーン3内では、レーザ放射線の強度が、非線形吸収のための閾値を上回り、これにより、ワークピース1の材料の、対応して空間的に制限された改質が生じる。ビーム集束ゾーン3は、ワークピースに対して相対的に徐々に運動させられる(矢印方向)。プロセス中に、分離線4に沿って互いに隣り合って位置する複数の改質ゾーン5がワークピース1の体積内に形成され、これらの改質ゾーン5が一緒に弱化平面を形成する。次いで、ワークピース1は、小さな機械的な力を加えることにより、分離線4に沿って2つの部分1b,1cに破断される。分離線は、
図1に示すように真っ直ぐである必要はない。湾曲した分離線に沿ったワークピース部分1a,1bの分離も考えられる。
【0025】
本発明の要旨は、ワークピース1内に改質ゾーン5を導入するために、レーザ放射線2の非線形の伝播特性を考慮することである。ワークピース1の体積内へのレーザ放射線2の伝播は、一方ではビーム集束ゾーン3の所望の領域に制限されているが、他方ではできるだけ完全にビーム集束ゾーン3を満たす有効なエネルギ結合がかなり阻止されているほど強く、非線形効果(例えば、ビーム集束ゾーン外で既に生じる自己集束ならびに2光子吸収)によって妨害される。ビーム集束ゾーン3の外側におけるレーザ放射線2のこのような非線形の伝播を抑制する、すなわち減じるために、本発明によって、エネルギ入力の持続時間およびビームの整形に関して最適である可能なプロセスパラメータが定義され、したがって、エネルギ堆積の広範囲の制御が可能になる。周囲の体積内の、つまりビーム集束ゾーン3外の損傷は、最小限に減じられる。
【0026】
図2は、本発明による空間的なビームの整形を、ワークピース1を通る断面によって概略的に示している。
図2の左図では、上方から入射するレーザ放射線2(
図1)の2つのビーム成分6,7が、ワークピースの表面(ビーム入射面)のずっと下側のビーム集束ゾーン3において集束している。ビーム成分6,7は、ビーム軸線8と鋭角を形成し、その結果、細長いビーム集束ゾーン3が生じる。ビーム軸線8に対して所定の角度でワークピース1の体積を通って伝播するビーム成分6,7は、ビーム成分6,7のオーバラップが、専らビーム集束ゾーン3内で発生することを保証する。ビーム集束ゾーン外では、ワークピースの体積内におけるレーザ放射線のフルエンスは、できるだけ少ない非線形効果が生じるように低いままである。
図2の中央図では、レーザ放射線2(
図1)の別のビーム成分9,10,11,12が加えられており、これらの別のビーム成分9,10,11,12は、最も低く位置するビーム集束ゾーン3の間の領域を、別のビーム集束ゾーン3’,3’’で「満たす」。ビーム集束ゾーン3,3’,3’’外でのレーザ放射線2の非線形の伝播を阻止するために、ワークピース1の体積内でワークピースの表面に対してより近傍で集束する、レーザ放射線2のビーム成分9,10,11,12とビーム軸線8とが成す角度は、ワークピース1の体積内でワークピースの表面からさらに離れて集束するビーム成分6,7とビーム軸線8とが成す角度と同じである(
図2と同様)か、または小さな角度を有している。このことは、互いに異なるビーム成分6,7,9,10,11,12がビーム集束ゾーン3,3’,3’’外でオーバラップする可能性を排除し、これにより非線形効果を可能にするフルエンスを形成する。
図2の右図の例では、種々異なるビーム成分6,7,9および10,11,12がそれぞれ、より幅広の2つのビーム成分13,14において互いに合流し、これにより単独の細長いビーム集束ゾーン3が形成されている。ビームの整形は、ビーム集束ゾーン3における1回のパルス事象(単独のレーザパルスまたはパルスバースト)中に、最初に(つまり、
図2においてずっと上側で)発生する変質(または高電子密度のゾーン)が、入射エネルギの単に小さな部分のみを、ビーム集束ゾーン3の、後から(つまり、ずっと下側で)到達される部分に対して遮ることを保証する。このことは、概して、ビーム軸線8に関する入射レーザ放射線のビーム成分6,7,9,10,11,12,13,14の最も狭い可能な角度範囲によって達成することができる。
【0027】
図3は、ワークピース1の断面図(上図)および平面図(下図)によって、レーザ放射線2の集束するビーム成分13,14による複数の改質ゾーン5の漸次の導入を示している。ここでは、上述したように、ワークピース1が、ビーム集束ゾーン3に対して相対的に(
図3の右側に向かって)運動させられる。左図では、複数の改質ゾーン5が密に隣り合って導入されている。ここでは、レーザ放射線2の一部が、それぞれ先立って既に導入された改質ゾーン5によって遮られる。対応する遮蔽角度セグメントが、
図3の下図に示されている。この角度セグメントは、密な間隔を有する改質ゾーン5(左図)の場合に、より広い間隔を有する改質ゾーン5(中央図)の場合よりも大きいことが分かる。右面では、改質ゾーンは再び密に隣り合っている。しかし、この場合、ビームの整形は、ビーム集束ゾーン3および対応してそれぞれ現れる改質ゾーン5の拡がりが、弱化平面に対して平行な方向で(つまり分離線4に沿って)、弱化平面に対して垂直な方向よりも、ビーム軸線8に対して横方向で大きくなるように行われる。結果として、改質ゾーン5の繰り返しの導入中に、レーザ放射線2の、それぞれ上述したように既に導入された各改質ゾーン5によって遮られている部分が減じられる。右下図では、遮蔽角度セグメントが、左下図よりも小さいことが分かる。したがって、分割線4に対して横方向の改質ゾーン5の小さな拡がりが、密な間隔を有する改質ゾーンを可能にするので、全体的により大きな割合の領域が弱化されてよく、したがって、破断の質を向上させることができる。
【0028】
図4は、本発明によるプロセスパラメータを最適化するための手順の例を示す。まず、ワークピース1の状態(材料、厚さ)に基づいてレーザ放射線の波長を特定する。理想的には、レーザ放射線の波長は、ワークピースの材料中でのレーザ放射線の線形吸収が、レーザビーム方向で1センチメートルの長さにわたって、20%未満、より良好には10%未満、特に好ましくは5%未満になるように、選択されることが望ましい。さらに、レーザ放射線の波長は、ワークピースの体積内の非線形屈折率が、この波長においてできるだけ低くなるという条件で選択されることが望ましい。例えば、より長い波長は、ビーム集束ゾーン外での2光子吸収を減じる。同時に、波長は、良好な集束性が保証されている範囲にあるべきであり、この観点からは、より短い波長が好ましい。互いに異なる最適化基準に基づいて、適切な波長が特定される。次のステップでは、上述の基準に従って、ワークピースの厚さおよび材料(屈折率)も考慮して、ビームの整形が特定される。次いで、パルス持続時間およびパルスエネルギの反復最適化が、ここでも、ビーム集束ゾーン3外でワークピース1の体積を通るレーザ放射線2の伝播における非線形効果が回避されるか、または少なくとも減じられるという条件で実施される。これに関する更なる詳細には、
図5および
図6を参照して以下で説明する。
【0029】
エネルギ堆積の最良の可能な制御を達成するために、パルスレーザ放射線の非線形吸収によって引き起こされるエネルギ入力の最短の可能な持続時間、つまりこの場合、ワークピース1における所望の改質の達成のために最短の可能なパルス持続時間が特定される。このパルス持続時間は、前もって既に特定されているパラメータ、すなわち、材料、ビーム集束ゾーン3の幾何学形状、すなわちビーム形状および波長に依存する。
図5に示した最適化のステップは、最適なパルス持続時間を見つけるために使用される。反復最適化のための可能な開始点は、一方ではワークピース1の材料を改質するために必要となるエネルギ密度から生じ、他方ではワークピース1の体積内を伝播するレーザ放射線2の自己集束が生じるそれぞれの臨界出力から生じてよい。パルス持続時間は少なくとも、達成されるレーザ放射線のピーク出力が、自己集束に対する材料固有の限界のパラメータを下回るように、十分に長く選択されなければならない。
図5および
図6に示した順序において、少なくとも95%の確率で成功する改質の実証は、例えばISO21254(「Lasers and laser-related equipment - Test methods for laser-induced damage threshold」)に従って実施される。パルスレーザ放射線2のパルス持続時間およびパルスエネルギは、単独のレーザパルスまたはレーザパルスの予め規定された連続から成るレーザパルスバーストによる改質が(少なくとも95%の確率で)確実に生じるように最適化によって特定される。同時に、改質が依然として確実に行われる最短の必要なパルス持続時間が選択される。
図5によるパルス持続時間の最適化後に、改善された結果および/または向上したプロセス安定性が達成され得る場合、その結果に応じてパルス持続時間を任意に上方調整することができる。上限は、レーザ照射中の熱損傷範囲によってさらに特定される。
図6によれば、所望の改質範囲におけるフルエンス(確率>95%)は、次いで同様の手順に従ってパルスエネルギの増加または減少により調整される。
図5および
図6に示した最適化ステップは、最適なパルス持続時間およびパルスエネルギが、選択されたビームの整形のために、すなわち、改質ゾーン5の所望の幾何学形状のために使用されることを保証する。
【0030】
本発明の実際の実施形態では、厚さ525μmのシリコンウェハに、1960nmの波長でパルスレーザ放射線を照射する。非線形の伝播の著しい減少、ひいては改質の最初の発生は、20psのパルス持続時間から観察することができる。単独のレーザパルスによる改質の確率の特定は、>95%の確率が25psのパルス持続時間から達成されることを示している。この場合、パルスエネルギは、15μJである。したがって、5μmの直径および350μmのビーム方向の長さを有する改質ゾーンを、空間的なパルスの整形によって形成することができる。改質ゾーンは、ウェハに対して相対的にレーザ放射線の焦点、つまりビーム集束ゾーンを運動させることによって10μmの間隔で整列されている。次いで、ウェハは、小さな機械的な力で直角に破断することができる。正確な破断線が形成される。破断線に沿った熱影響領域は小さい。表面の粗さは5μm未満である。
【0031】
ワークピース1の材料に連続的な弱化部を形成するために、レーザビーム2とワークピース1との相対運動の速度は、ワークピース1の体積内に改質ゾーン5のオーバラップが存在する程度にまで低下させることができる。
図7のグラフは、送り速度α、改質確率Pおよび入力パルスエネルギE
inのパラメータの相互作用が、どのように種々異なるレジームを形成するかを示している。X1は、改質が連続的な形式で(互いに重なり合って)導入されている領域を示している。ビームの伝播に対して垂直な改質ゾーン5の拡がりに影響を及ぼすそれぞれの選択されたエネルギE
inにおいて、オーバラップが生じる。送り速度が上昇すると、次いでパルス事象の同じ繰返し速度で、導入される改質ゾーン5間の距離が増大し、分離された、つまりオーバラップしない改質ゾーン5の形成が生じる(レジームX2)。レジームX3では、パルスエネルギが過度に低く、これにより改質の確率が過度に低い。破断を可能にするワークピース1の十分な弱化は達成されていない。
【国際調査報告】