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特表2024-504686尿路結石症関連疾患を治療するための薬物、およびその調製方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-02-01
(54)【発明の名称】尿路結石症関連疾患を治療するための薬物、およびその調製方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/7048 20060101AFI20240125BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20240125BHJP
   A61P 13/04 20060101ALI20240125BHJP
   A61P 13/02 20060101ALI20240125BHJP
   A61K 36/69 20060101ALI20240125BHJP
【FI】
A61K31/7048
A61P43/00 121
A61P13/04
A61P13/02
A61K36/69
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023543360
(86)(22)【出願日】2021-12-29
(85)【翻訳文提出日】2023-09-14
(86)【国際出願番号】 CN2021142460
(87)【国際公開番号】W WO2022151978
(87)【国際公開日】2022-07-21
(31)【優先権主張番号】202110060462.2
(32)【優先日】2021-01-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】523272513
【氏名又は名称】張弘
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】弁理士法人WisePlus
(72)【発明者】
【氏名】張弘
(72)【発明者】
【氏名】王奎武
(72)【発明者】
【氏名】桂遷
【テーマコード(参考)】
4C086
4C088
【Fターム(参考)】
4C086AA01
4C086AA02
4C086EA11
4C086GA17
4C086MA03
4C086MA04
4C086NA14
4C086ZA81
4C086ZC75
4C088AB54
4C088AC05
4C088BA10
4C088BA13
4C088BA14
4C088CA14
4C088NA14
4C088ZA81
4C088ZC75
(57)【要約】
本発明においてヒメハギから抽出された医薬的な薬効成分抽出物が提供される。前記抽出物は、第一の薬効成分として下記式(I)の構造のフラボノール化合物を含み、第二の薬効成分として下記式(II)より選択されるキサントン化合物および第三の薬効成分として下記式(III-1)より選択される糖脂質化合物を含んでいてもよい。動物実験により、クエン酸カリウムナトリウム水素に比べて本発明の薬物は、シュウ酸カルシウム結晶の凝集、腎臓間質性炎症性細胞浸潤、および腎尿細管拡張性病変などの典型的な検査指標において有意に優れた効果を有することが確認され、上記薬物が尿路結石症や尿路感染、または尿路結石症によって生じた腎臓損傷の治療および尿路結石症の外科治療後のアジュバント薬物として高い潜在能力と市場での見込みを有することが示された。
[化1]
[化2]
[化3]
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第一の薬効成分として下記式(I)のフラボノール化合物を含む、植物ヒメハギから抽出された医薬的な薬効成分抽出物であって、
【化1】
ここで、Rは-OH、-O-Glc、-O-Gal、-O-Api、-ORha、-O-Glc-Glc、-O-Glc-Gal、-O-Glc-Api、-O-Glc-Rha、-O-Gal-Glc、-O-Gal-Gal、-O-Gal-Api、-O-Gal-Rha、-O-Glc-Glc-Api、-O-Gal-Glc-Api、-O-Glc-Gal-Api、-O-Gal-Gal-Api、-O-Gal-Rha-Gal、-O-Gal-Rha-Glc、-O-Glc-Rha-Glc、および-O-Glc-Rha-Galからなる群より選択され、
は-OH、-O-Me、-O-Glc、-O-Gal、-O-Api、および-O-Rhaからなる群より選択される置換基であり、
はH、OH、-O-Me、-O-Glc、-O-Gal、-O-Api、および-O-Rhaからなる群より選択される置換基であり、
はOHおよび-O-Meからなる群より選択される置換基であり、
前記医薬的な薬効成分抽出物は、第二の薬効成分として下記式(II)より選択されるキサントン化合物、および第三の薬効成分として下記式(III)より選択される糖脂質化合物を含んでいてもよく、
【化2】
ここで、Rは-O-Gal、-O-Api、-ORha、-O-Glc-Glc、-O-Glc-Gal、-O-Glc-Api、-O-Glc-Rha、-O-Gal-Glc、-O-Gal-Gal、-O-Gal-Api、-O-Gal-Rha、-O-Api-Glc、-O-Api-Gal、-O-Api-Api、および-O-Api-Rhaからなる群より選択される置換基であり、Rは-OHおよび-O-Meからなる群より選択される置換基であり、
【化3】
ここで、R、Rはそれぞれ独立してHおよびCH3からなる群より選択され、
上記一般式(I)および一般式(II)のR~Rの定義において、Glcはグルコシルを表し、Galはガラクトシルを表し、Apiはセロシル(celosyl)を表し、Rhaはラムノースを表す、医薬的な薬効成分抽出物。
【請求項2】
前記第一の薬効成分としての前記一般式(I)のフラボノール化合物は、好ましくは下記一般式で表される1種以上の化合物より選択され、
【化4】
ここで、Rは-OH、-O-Glc、-O-Gal、-O-Glc-Glc、-O-Glc-Gal、-O-Glc-Rha、-O-Gal-Glc、-O-Gal-Gal、-O-Gal-Rha、-O-Glc-Glc-Api、-O-Gal-Glc-Api、-O-Glc-Gal-Api、および-O-Gal-Gal-Apiからなる群より選択され、
【化5】
ここで、Rは-OH、-O-Glc、-O-Gal、-O-Glc-Glc、-O-Glc-Gal、-O-Glc-Api、-O-Glc-Rha、-O-Gal-Glc、-O-Gal-Gal、-O-Gal-Api、-O-Gal-Rha、-O-Glc-Glc-Api、-O-Gal-Glc-Api、-O-Glc-Gal-Api、-O-Gal-Gal-Api、-O-Gal-Rha-Gal、-O-Gal-Rha-Glc、-O-Glc-Rha-Glc、および-O-Glc-Rha-Galからなる群より選択され、
【化6】
ここで、Rは-OH、-O-Glc、-O-Gal、-O-Glc-Api、-O-Gal-Apiからなる群より選択され、
【化7】
ここで、Rは-OH、-O-Glc、-O-Gal、-O-Glc-Rha、および-O-Gal-Rhaからなる群より選択され、
【化8】
ここで、Rは-OH、-O-Glc、-O-Gal、-O-Glc-Rha、および-O-Gal-Rhaからなる群より選択され、
【化9】
ここで、Rは-OH、-O-Gal、および-O-Gal-Apiからなる群より選択され、
前記第二の薬効成分としての前記一般式(II)のキサントン化合物は、好ましくは下記式(II-1)、(III-2)、および(II-3)の1種以上より選択され、
【化10】
【化11】
【化12】
前記第三の薬効成分としての前記糖脂質化合物は、好ましくは下記式(III-1)または(III-2)の化合物である、
【化13】
【化14】
、請求項1に記載の植物ヒメハギから抽出された医薬的な薬効成分抽出物。
【請求項3】
前記第一の薬効成分は、前記一般式F-7K、F-7Q、F-74Q、およびF-74Kのフラボノール化合物より選択される、請求項2に記載の植物ヒメハギから抽出された医薬的な薬効成分抽出物。
【請求項4】
前記第一の薬効成分は、好ましくは以下の化合物から選択される1種である、請求項3に記載の植物ヒメハギから抽出された医薬的な薬効成分抽出物。
【化15】
【化16】
【化17】
【請求項5】
前記第一の薬効成分としての前記一般式(I)のフラボノール化合物、および含まれていてもよい前記第二の薬効成分としての前記一般式(II)のキサントンと前記一般式(III)の糖脂質の総含有量は、ヒメハギの総抽出物の30~100%であり、
ここで成分含有量(%)は、当該分野で一般的な方法に従ってHPLC積分型面積規定化法を用いて算出されたHPLC%含有量である、請求項1~4の何れか一項に記載の植物ヒメハギから抽出された医薬的な薬効成分抽出物。
【請求項6】
前記第一の薬効成分としての前記一般式(I)のフラボノール化合物の総含有量は、ヒメハギの総抽出物の20~100%である、請求項5に記載の植物ヒメハギから抽出された医薬的な薬効成分抽出物。
【請求項7】
前記第一の薬効成分としての前記一般式(I)のフラボノール化合物の総含有量は、ヒメハギの総抽出物の75~100%である、請求項5~6の何れか一項に記載の植物ヒメハギから抽出された医薬的な薬効成分抽出物。
【請求項8】
以下の工程:
(1)ヒメハギの前処理
ヒメハギの全部分または地上部分、あるいはヒメハギの市販の医薬品材料を取って、洗浄、破砕することによりヒメハギの原材料を得ること、
(2)ヒメハギの有効部分の粗抽出
工程(1)で得たヒメハギの原材料の部分を取って、加熱下、ヒメハギの原材料の重量の約6~12倍である濃度20~95%(v/v)のエタノールで各回1~3時間還流し、繰り返し還流して1~3回抽出し、得られたアルコール抽出物を合わせて濃縮することによりヒメハギの総アルコール抽出物を得ること、
または
工程(1)で得たヒメハギの原材料の一部を取り、加熱してヒメハギの重量の約6~15倍の脱イオン水で煮沸し、1~3時間煮沸を継続し、1~3回繰り返し抽出し、得られた水抽出物を合わせて濃縮することによりヒメハギの総水抽出物を得ること、
(3)ヒメハギの有効部分の精製
前記工程(2)のヒメハギの総水抽出物または総アルコール抽出物を濾過または遠心分離し、濾液または上澄みを濃縮した後、マクロ多孔性吸着樹脂クロマトグラフカラムまたはポリアミド樹脂クロマトグラフカラムで分離し、溶離液が無色になるまで異なる比の水/エタノールで順次、勾配溶出し、0~95%エタノール勾配溶離液を集めて、減圧乾燥することによって、求められているヒメハギの医薬的な薬効成分抽出物を得ることを含む、請求項1~7の何れか一項に記載の植物ヒメハギから抽出された医薬的な薬効成分抽出物を調製する方法。
【請求項9】
工程(3)で前記マクロ多孔性樹脂は、好ましくはタイプD101、HPD100、HPD200、またはAB-8のマクロ多孔性樹脂より選択され、前記ポリアミド樹脂は100~200メッシュのSCRポリアミド樹脂より選択される、請求項8に記載の植物ヒメハギから抽出された医薬的な薬効成分抽出物を調製する方法。
【請求項10】
工程(1)で前記ヒメハギは、好ましくはヒメハギの茎および葉の部分である、請求項8に記載の植物ヒメハギから抽出された医薬的な薬効成分抽出物を調製する方法。
【請求項11】
工程(3)で前記マクロ多孔性樹脂はタイプD101またはAB-8のマクロ多孔性樹脂より選択され、前記ポリアミド樹脂は100~200メッシュのSCRポリアミド樹脂より選択される、請求項8に記載の植物ヒメハギから抽出された医薬的な薬効成分抽出物を調製する方法。
【請求項12】
好ましくは工程(3)で溶離液が無色になるまで水、25%エタノール、50%エタノール、75%エタノール、および95%エタノールで順次、溶出することにより前記勾配溶出が行われる、請求項8に記載の植物ヒメハギから抽出された医薬的な薬効成分抽出物を調製する方法。
【請求項13】
尿路結石症や尿路感染、または尿路結石症によって生じた腎臓損傷の治療または予防のため、および尿路結石症の外科治療後のアジュバント薬物として用いられる薬剤の調製における、請求項1~7の何れか一項に記載の植物ヒメハギから抽出された医薬的な薬効成分抽出物の使用。
【請求項14】
薬効成分として下記式より選択される少なくとも1種の化合物を含む医薬組成物。
【化18】
【化19】
【化20】
【請求項15】
医薬的に許容可能な担体、賦形剤、または補助材料をさらに含む、請求項14に記載の医薬組成物。
【請求項16】
尿路結石症や尿路感染、または尿路結石症によって生じた腎臓損傷の治療または予防のため、および尿路結石症の外科治療後のアジュバント薬物として用いられる薬剤の調製における請求項14または15に記載の医薬組成物の使用。
【請求項17】
尿路結石症や尿路感染、または尿路結石症によって生じた腎臓損傷の治療または予防のため、および尿路結石症の外科治療後のアジュバント薬物として用いられる薬剤の調製における下記化合物の何れか1種の使用。
【化21】
【化22】
【化23】
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の参照
本出願は、2021年1月18日に提出され中国特許出願第202110060462.2に対する優先権を主張するものであり、参照によりその全内容を本明細書に組み込む。
【0002】
本発明は医薬品化学の分野に属する。具体的には、本発明は、主要薬効成分として構造的に特定のフラボノール化合物、キサントン、および糖脂質を含む植物ヒメハギの抽出物、好ましくはヒメハギの茎および葉の部分の抽出物である、尿路結石症を治療するための薬物を提供する。本発明の薬物は既存の主流の臨床薬物であるクエン酸カリウムナトリウム水素よりも明らかに優れており、尿路結石症や尿路感染、または尿路結石症によって生じた腎臓損傷の治療において、あるいは尿路結石症の外科治療後のアジュバント薬物として副作用が少なく、よって医療・経済価値が高い。
【背景技術】
【0003】
尿路結石症(尿路結石という)は、人によって最も古くに発見された病気である。尿路結石は、6800年前の紀元前4800年にエジプトのエルアムラ遺跡で発見された。2,000年以上も前にヒポクラテスは、腎膿瘍が腎臓結石によって生じることを述べており、また関節石症について説明している。また、2000年前の中国には尿路結石症および尿石有痛性排尿困難について説明がある。尿路結石症は人だけの病気ではなく、動物でも起こる。
【0004】
尿路結石症は、尿中に結晶が沈殿および濃縮することにより形成される尿路結石によって生じる病気の総称である。尿路結石症の発症は、結石形成塩の過飽和(例えば、塩の過度の排出、尿酸度、尿出力の低下)、予め形成された核(例えば、尿酸結晶および他の結石)、および結晶化形成阻害剤異常を促進する因子が尿中に存在することに関連する。特発性高カルシウム尿症[男性で尿カルシウム>300mg/d(>7.5mmol/d)、女性で>250mg/d(6.2mmol/d)]は遺伝性疾患であり、カルシウム結石を有する男性の50%、カルシウム結石を有する75%の女性で発症する。クエン酸は通常、尿カルシウムに結合して可溶性のクエン酸カルシウムを形成するので、低クエン酸尿症[尿クエン酸<350mg/d(<1820μmol/d)]単独で、または他の病気との組み合わせで結石の形成を促進し得る。
【0005】
世界では尿路結石の発生率が高い地域が多くあり、結石地域と言う。これは主に、子供の栄養不良および膀胱結石の発生率が高い地域を指す。尿路結石の発生率が相対的に高い地域は、米国南東部、英国、北欧諸国、地中海諸国、インド北部、パキスタン、オーストラリア北部、中央ヨーロッパ、マレー半島、中国南部などである。発生率が低い地域は中央アメリカ、南アメリカ、アフリカなどである。中国での尿路結石症の平均発生率は5%であり、約5000万人の尿路結石症患者が存在する。この分布は特定の地域分布を有する。発生率は、広東省、広西、雲南省、貴州省、山東省、湖南省、江西省、および安徽省などの地域で相対的に高い。南部の発生率は北部の発生率に比べて有意に高い。発生率が最も低いのは黒竜江省の2.5%であり、発生率が最も高いのは貴州省の59%であり、その差は20倍である。また、尿路結石症の再発率は非常に高く、約15~50%である。
【0006】
長い間、人々は、体外衝撃波結石破砕治療、軟性尿管鏡下砕石術、低侵襲性経皮性腎腫術(結石直径≦2cm)、開腹手術(結石直径≧2cm)、薬物治療(結石直径<0.6cm)、およびその他の方法を含む尿路結石症の有効な治療方法を探してきた。これらのうち、上部、中部、および下部尿細管開口部の結石に対する体外衝撃波結石破砕治療は、必然的に尿管損傷を生じ、腎盂での結石への衝撃はまた腎臓損傷を生じさせることがあり、臨床的に血尿は明かである。軟性尿管鏡による砕石術および結石除去は尿管および腎臓を損傷することがあり、その結果、結石の除去が不完全になる場合がある。低侵襲性経皮性腎腫術による砕石術および結石除去は腎臓損傷および不完全な結石除去に繋がる。臨床医薬品の開発とともに、腎臓結石の治療に開腹手術を用いるのは希である。
【0007】
臨床的には、尿路結石症の治療には西洋の医薬品として、クエン酸カリウムナトリウム水素顆粒、クエン酸カリウム、チアジド利尿剤、マグネシウム、およびアセチルシステインなどの排出促進剤が用いられるが、それらの効果は理想的ではなく、その毒性および副作用は明かである。クエン酸カリウムナトリウム水素顆粒(商品名:Uralyt-U)は、1965年独国のMADAUS AGによって開発された、尿酸結石を溶解し、防止する世界初のクエン酸塩調製剤である。2005年、これはUrolithology Group of the Urology Branch of the Chinese Medical Associationによってクエン酸塩調製剤として独立した化学構造および結石溶解効果を持つ唯一国内で合法なものとして推奨された。しかしながら、クエン酸カリウムナトリウム水素顆粒は非常に高い有効投与量で摂取される必要があり、1日の投与量は4袋(各袋は2.5グラムの顆粒で、合計10グラムの顆粒)であり、食後に3回摂取する。朝1袋、昼1袋、夜2袋摂取する。この顆粒は水とともに摂取することができる。1グラムのクエン酸カリウムナトリウム水素は、0.172グラムまたは4.4mmolのカリウム、および0.1グラムまたは4.4mmolのナトリウム(塩化ナトリウム0.26グラム当量)を含む。毎日このように多量のナトリウムイオンおよびカリウムイオンを摂取すると、重度の高カリウム血症、心臓の不整脈、および高血圧症などの重篤な病気を引き起こすことがあり、よって、この薬物の使用範囲は厳しく制限されている。
【0008】
中国では、また、治療計画として多数の漢方薬および中国特許医薬品が臨床および医療研究で探求されてきた。例えば、中国特許出願CN103285355A、CN103704591A、CN104083644A、CN105213919A、CN105998861A、CN1653929Aなどは、尿路結石症を治療するための一連の多組成の漢方薬を記載している。しかしながら、多組成の漢方薬は一般に、複雑な成分、未発達の医薬品技術、品質制御の難しさ、定量的検出方法の不正確さ、投与量の多さ、不完全な品質制御規格、および現代の臨床医薬品規格および薬物要件との不合致などの問題を有する。また、Bishitong、排石(Paishi)顆粒、石淋通(Shilintong)錠剤、およびRelinqing顆粒など、いくつかの伝統的な中国特許医薬品もまた、尿路結石症を治療するのに用いられる一般的な中国特許医薬品である。しかしながら、これら伝統的な中国特許医薬品は、複雑な成分、未発達の医薬品技術、品質制御の難しさ、定量的検出方法の不正確さ、投与量の多さ、不完全な品質制御規格、および現代の臨床医薬品規との不合致などの問題を有する。
【0009】
中国薬物評価システムの改革を継続的に深めるとともに、登録を宣言された薬物の品質要件は増え続けている。これらのうち、漢方薬およびそれらの活性抽出物の臨床試験に関して、新たな承認規格は一般に、同じ指標について典型的な西洋医薬品(尿路結石症の治療のためのクエン酸カリウムナトリウム水素など)と比較した二重盲検比較試験が求められ、天然医薬品またはそれらの抽出物の臨床での有効性および安全性が臨床試験の同じ指標を有する西洋医薬品(化合物医薬品)と同じか、あるいはよい場合のみ、天然医薬品またはそれらの抽出物の販売が承認されることが求められている。天然医薬品の評価規格要件が高いため、現在、中国では毎年化学的および生物学的に新規の薬物が40~50種、製造承認されているが、伝統的な中国医薬品または天然医薬品の場合は毎年1~2種のみが製造承認されている。したがって、近年、尿路結石症の治療用の様々な漢方薬から有効活性抽出物および有効薬効成分を抽出しようとする医薬品会社が存在するものの、製造承認を得たものはほとんどいない。第2相/第3相臨床試験に入った個々の薬物でさえも失敗に終わっている。重要な理由の1つは、これら薬物の活性部分および薬効成分に関する研究が不十分で、その結果、これら薬物の臨床的有効性および安全性が、クエン酸カリウムナトリウム水素などの既存の典型的な臨床西洋医薬品に有意に劣るものとなり、そのためにその評価試験に合格できず製造承認が得られなかった。
【0010】
したがって、安全かつ有効で、安定したおよび制御可能な品質、明かな治療効果があり、副作用が少なく(尿路結石症の既存の主要薬物であるクエン酸カリウムナトリウム水素と同等かそれ以下)、身体での吸収がよく、現代の薬物登録要件を満たす尿路結石症のための薬物を低コストで、簡単な工程で開発することは、いまだ医療コミュニティの喫緊の探求である。
【0011】
ヒメハギはヒメハギ科の植物で、中国では広く分布している。中国では、民間伝承の医薬品として、主に痰の除去、咳の緩和、鬱血の放出、止血、心および神経の鎮静、解毒、むくみの低減に広く用いられている。
【0012】
「中国薬局方」(2015版、第1巻)に記載されている伝統的な中国医薬品ヒメハギの機能および効能は、痰の除去、咳の緩和、血液循環の促進、むくみの低減、解毒、および痛みの緩和である。過剰な痰を伴う咳、喉の痛み、傷の外部治療、腫れ物、皮膚のできもの、および蛇咬傷にも用いられる。
【0013】
「中国薬局方」(2015版、第1巻)に記載されているヒメハギの調製剤は、ヒメハギ顆粒化合物である。その処方は、150gのヒメハギ、350gの大青葉、200gの野菊、250gの海金沙(Spora Lygodii)、250gのHerba Hedyotis、200gの紫花丁字(Herba Violae)である。機能および効能:熱除去および喉の痛みの緩和、停滞消散、痛みの緩和、痰の除去、および咳の緩和。これは、肺を襲う風熱または肺を阻害する痰熱により生じた咽頭の腫れ、喉の痛み、熱、および咳;急性咽頭炎、慢性咽頭炎の急性増悪、および上記の症状が見られる上部気道感染に用いられる。
【0014】
また、医薬品として使用するためのヒメハギの様々な薬効成分の抽出について記載した特許文献が多数ある。例えば、特許CN1303097Cにはポリガラサポニン類およびそれらのアグリコン、総サポニンおよびそれらの総アグリコン、ならび鬱の治療、知能の発達、鎮静状態、抗不安、および催眠におけるそれらの効果が記載されている。特許CN104004110Bには、身体の免疫機能を向上させるための薬物および健康食品の調製においてヒメハギから抽出したヒメハギ多糖の適用が記載されている。特許CN108159126Aには、抗癌薬物の調製におけるポリガラサポニン抽出物の適用が記載されている。特許CN103006793Bには、ヒメハギの有効抗炎症性部分の分離および精製工程が記載されており、ヒメハギの総フラボノイドおよび総サポニン抽出物が抗炎症効果部分であることが開示されている。特許CN108948125Aには、ヒメハギを利用してヒメハギサポゲニンを調製する方法は、ヒメハギサポゲニンを調製する方法およびヒメハギフラボンを調製する方法について述べており、後者は4つの特定のフラボン分子、ケンペロール-3-O-6’’-O-(3-ヒドロキシ-3-メチル-グルタリル)グルコシド、アストラグリン、ケンペロール3-(6-アセチル)グルコシド、ケンペロール3,7-ジグルコシドに言及している。しかしながら、抽出された成分の医薬品活性は確認されていない。また、既存の出版文献は、ヒメハギの特定の抽出物を尿路結石症に治療に用いることを開示していない。
【0015】
また、上記の特許はすべて、ヒメハギの全部分を用いており、必須の薬効成分としてサポニン化合物を用いている。「中国薬局方」(2015版、第1巻)に記載されたヒメハギの化合物に対する品質制御検出基準は、乾燥品として算出したヒメハギサポニン(C53H86O23)の含有量が0.60%未満であってはならない。しかしながら、ヒメハギの化学成分はサポニン、フラボノイド、糖脂質、アルカロイド、フェノール、タンニン、多糖などを含み、これら成分は非常に複雑である。CNKI文献検索によれば、確認された分子構造を持つ化合物は100種類を超える。したがって、ヒメハギの全部分を現代の医薬品規格に合うような天然医薬品に開発することは困難である。実際、ヒメハギの化合物の調製剤のみが現在流通しており、単独の漢方薬として用いられたヒメハギは流通していない。
【発明の概要】
【0016】
本発明の主な目的は、安全かつ有効で、安定したおよび制御可能な品質、明かな治療効果があり、副作用が少なく(尿路結石症の既存の主要薬物であるクエン酸カリウムナトリウム水素と同等かそれ以下)、身体での吸収がよく、現代の薬物登録要件を満たす尿路結石症のための薬物を低コストで、簡単な工程で提供することである。
【0017】
多くの実験研究により、本発明者らは、植物ヒメハギから抽出された、一般式(I)の特定の構造を持つフラボノール化合物の医薬的な薬効成分抽出物を見出した。
【0018】
具体的には、本発明は、植物ヒメハギから抽出された医薬的な薬効成分抽出物を提供するものであり、前記抽出物は第一の薬効成分として下記式(I)のフラボノール化合物を含む。
【化1】
ここで、Rは-OH、-O-Glc、-O-Gal、-O-Api、-ORha、-O-Glc-Glc、-O-Glc-Gal、-O-Glc-Api、-O-Glc-Rha、-O-Gal-Glc、-O-Gal-Gal、-O-Gal-Api、-O-Gal-Rha、-O-Glc-Glc-Api、-O-Gal-Glc-Api、-O-Glc-Gal-Api、-O-Gal-Gal-Api、-O-Gal-Rha-Gal、-O-Gal-Rha-Glc、-O-Glc-Rha-Glc、および-O-Glc-Rha-Galからなる群より選択され、
は-OH、-O-Me、-O-Glc、-O-Gal、-O-Api、および-O-Rhaからなる群より選択される置換基であり、
はH、OH、-O-Me、-O-Glc、-O-Gal、-O-Api、および-O-Rhaからなる群より選択される置換基であり、
はOHおよび-O-Meからなる群より選択される置換基である。
【0019】
前記医薬的な薬効成分抽出物は、第二の薬効成分として下記式(II)より選択されるキサントン化合物、および第三の薬効成分として下記式(III)より選択される糖脂質化合物を含んでいてもよい。
【化2】
ここで、Rは-O-Gal、-O-Api、-ORha、-O-Glc-Glc、-O-Glc-Gal、-O-Glc-Api、-O-Glc-Rha、-O-Gal-Glc、-O-Gal-Gal、-O-Gal-Api、-O-Gal-Rha、-O-Api-Glc、-O-Api-Gal、-O-Api-Api、および-O-Api-Rhaからなる群より選択される置換基であり、Rは-OHおよび-O-Meからなる群より選択される置換基である。
【化3】
ここで、R、Rはそれぞれ独立してHおよびCH3からなる群より選択され、
上記一般式(I)および一般式(II)のR~Rの定義において、Glcはグルコシルを表し、Galはガラクトシルを表し、Apiはセロシル(celosyl)を表し、Rhaはラムノースを表す。
【0020】
好ましい技術的な解決において、第一の薬効成分としての一般式(I)のフラボノール化合物は、以下の一般式で表される1種以上の化合物より選択されるのが好ましい。
【化4】
ここで、Rは-OH、-O-Glc、-O-Gal、-O-Glc-Glc、-O-Glc-Gal、-O-Glc-Rha、-O-Gal-Glc、-O-Gal-Gal、-O-Gal-Rha、-O-Glc-Glc-Api、-O-Gal-Glc-Api、-O-Glc-Gal-Api、および-O-Gal-Gal-Apiからなる群より選択される。
【化5】
ここで、Rは-OH、-O-Glc、-O-Gal、-O-Glc-Glc、-O-Glc-Gal、-O-Glc-Api、-O-Glc-Rha、-O-Gal-Glc、-O-Gal-Gal、-O-Gal-Api、-O-Gal-Rha、-O-Glc-Glc-Api、-O-Gal-Glc-Api、-O-Glc-Gal-Api、-O-Gal-Gal-Api、-O-Gal-Rha-Gal、-O-Gal-Rha-Glc、-O-Glc-Rha-Glc、および-O-Glc-Rha-Galからなる群より選択される。
【化6】
ここで、Rは-OH、-O-Glc、-O-Gal、-O-Glc-Api、-O-Gal-Apiからなる群より選択される。
【化7】
ここで、Rは-OH、-O-Glc、-O-Gal、-O-Glc-Rha、および-O-Gal-Rhaからなる群より選択される。
【化8】
ここで、Rは-OH、-O-Glc、-O-Gal、-O-Glc-Rha、および-O-Gal-Rhaからなる群より選択される。
【化9】
ここで、Rは-OH、-O-Gal、および-O-Gal-Apiからなる群より選択される。
【0021】
第二の薬効成分としての一般式(II)のキサントン化合物は、下記式(II-1)、(III-2)、および(II-3)の1種以上より選択されるのが好ましい。
【化10】
【化11】
【化12】
【0022】
第三の薬効成分としての糖脂質化合物は、下記式(III-1)または(III-2)の化合物であることが好ましい。
【化13】
【化14】
【0023】
さらに好ましい技術的な解決において、ヒメハギの医薬的な薬効成分抽出物中の第一の薬効成分は、上記一般式F-7K、F-7Q、F-74Q、およびF-74Kのフラボノール化合物より選択される。
【0024】
さらに好ましい技術的な解決において、ヒメハギの医薬的な薬効成分抽出物中の第一の薬効成分は、以下の化合物より選択される少なくとも1種であることが好ましい。
【化15】
【化16】
【化17】
【0025】
さらに好ましい技術的な解決において、ヒメハギの医薬的な薬効成分抽出物中、第一の薬効成分としての一般式(I)のフラボノール化合物、および含まれていてもよい第二の薬効成分としての一般式(II)のキサントンと一般式(III)の糖脂質の総含有量は、ヒメハギの総抽出物の30~100%である。ここで、成分含有量(%)は、当該分野で一般的な方法に従ってHPLC積分型面積規定化法を用いて算出されたHPLC%含有量である。
【0026】
さらに好ましい技術的な解決において、ヒメハギの医薬的な薬効成分抽出物中、第一の薬効成分としての一般式(I)のフラボノール化合物の総含有量は、ヒメハギの総抽出物の20~100%である。
【0027】
さらに好ましい技術的な解決において、ヒメハギの医薬的な薬効成分抽出物中、第一の薬効成分として一般式(I)のフラボノール化合物の総含有量は、ヒメハギの総抽出物の75~100%である。
【0028】
本発明はまた、ヒメハギの医薬的な薬効成分抽出物を調製する方法を提供する。前記方法は以下の工程を含む:
(1)ヒメハギの前処理
ヒメハギの全部分または地上部分、あるいはヒメハギの市販の医薬品材料を取って、洗浄、破砕することによりヒメハギの原材料を得る。
(2)ヒメハギの有効部分の粗抽出
工程(1)で得たヒメハギの原材料の部分を取って、加熱下、ヒメハギの原材料の重量の約6~12倍である濃度20~95%(v/v)のエタノールで各回1~3時間還流し、繰り返し還流して1~3回抽出し、得られたアルコール抽出物を合わせて濾過または遠心分離して濃縮することによりヒメハギの総アルコール抽出物を得る。
または、
工程(1)で得たヒメハギの原材料の一部を取り、加熱してヒメハギの重量の約6~15倍の脱イオン水で煮沸し、1~3時間煮沸を継続し、1~3回繰り返し抽出し、得られた水抽出物を合わせて濾過または遠心分離して濃縮することによりヒメハギの総水抽出物を得る。
(3)ヒメハギの有効部分の精製
マクロ多孔性吸着樹脂またはポリアミド樹脂クロマトグラフカラムで工程(2)のヒメハギの総水抽出物または総アルコール抽出物の濃縮物を分離し、溶離液が無色になるまで異なる比の水/エタノールで順次、勾配溶出し、0~95%エタノール勾配溶離液を集めて、減圧乾燥することによって、求められているヒメハギの医薬的な薬効成分抽出物を得る。
【0029】
上記の抽出方法において、工程(3)でマクロ多孔性樹脂はタイプD101、HPD100、HPD200、またはAB-8のマクロ多孔性樹脂より選択され、ポリアミド樹脂は100~200メッシュのSCRポリアミド樹脂より選択されることが好ましい。
【0030】
上記の抽出方法において、工程(1)でヒメハギはヒメハギの茎および葉の部分であることが好ましい。
【0031】
上記の抽出方法において、工程(3)でマクロ多孔性樹脂はタイプD101またはAB-8のマクロ多孔性樹脂より選択され、ポリアミド樹脂は100~200メッシュのSCRポリアミド樹脂より選択されることが好ましい。
【0032】
上記の抽出方法において、工程(3)で溶離液が無色になるまで水、25%エタノール、50%エタノール、75%エタノール、および95%エタノールで順次、溶出することにより前記勾配溶出が行われることが好ましい。
【0033】
本発明は、薬剤の調製におけるヒメハギの医薬的な薬効成分抽出物の使用を提供し、前記薬剤は尿路結石症や尿路感染、または尿路結石症によって生じた腎臓損傷の治療または予防のため、および尿路結石症の外科治療後のアジュバント薬物として用いられる。
【0034】
本発明はまた、薬効成分として下記式より選択される少なくとも1種の化合物を含む医薬組成物を提供する。
【化18】
【化19】
【化20】
【0035】
好ましい技術的な解決において、前記医薬組成物は医薬的に許容可能な担体、賦形剤、または補助材料をさらに含む。
【0036】
本発明はさらに、尿路結石症や尿路感染、または尿路結石症によって生じた腎臓損傷の治療または予防のため、および尿路結石症の外科治療後のアジュバント薬物として用いられる薬剤の調製における上記医薬組成物の使用を提供する。
【0037】
本発明はまた、薬剤の調製における下記化合物の何れか1種の使用を提供する。
【化21】
【化22】
【化23】
【0038】
前記薬剤は、尿路結石症や尿路感染、または尿路結石症によって生じた腎臓損傷の治療または予防のため、および尿路結石症の外科治療後のアジュバント薬物として用いられる。
【0039】
多くの実験研究により本発明者らは、本発明の薬効成分抽出物を尿路結石症や尿路感染、または尿路結石症によって生じた腎臓損傷の治療、および尿路結石症の外科治療後のアジュバント薬物として用いることができ、現在知られている出版文献に記載されている漢方薬および生薬抽出物よりも有意に効果が高く、周知の臨床西洋医薬品クエン酸カリウムナトリウム水素(詳細は以下の薬理例を参照のこと)と同じかそれ以上の効果を有することを見出した。予備研究では、本発明の主要薬効成分として選択された一般式(I)の化合物および一般式(II)の化合物が、フラボノイドおよびキサントンのカルボニルのβ位置に置換基として水酸基を有していることが重要であることが示された。ここで、水酸基およびケトンカルボニル基は共に作用して尿系の結石のカルシウムイオン含有成分とより有効に反応し、これによって尿系の結石をより有効に分解または溶解する。
【0040】
したがって、本発明の特定の技術的な解決において、薬剤の調製における上記一般式(I)、一般式(II)の化合物の何れか1種またはそれらの2種以上の組み合わせの使用が提供される。前記薬剤は、尿路結石症や尿路感染、または尿路結石症によって生じた腎臓損傷の治療または予防のため、および尿路結石症の外科治療後のアジュバント薬物として用いられる。
【0041】
本発明の好ましい技術的な解決において、薬剤の調製における上述した一般式(I-1)~(I-4)および/または一般式(II-1)~(II-3)の化合物の何れか1種、あるいはそれらの2種以上の組み合わせの使用が提供される。前記薬剤は尿路結石症や尿路感染、または尿路結石症によって生じた腎臓損傷の治療または予防のため、および尿路結石症の外科治療後のアジュバント薬物として用いられる。
【0042】
本発明のヒメハギの医薬的な薬効成分抽出物はまた、従来の調剤法によって、カプセル、錠剤、丸薬、経口液、顆粒、チンキ剤、徐放剤などの経腸投与形態および注射および外用製剤などの非経口投与形態など、様々な投与形態に調製することができる。
【図面の簡単な説明】
【0043】
図1図1は、本発明のヒメハギの全部分からのアルコール抽出物のHPLC分析クロマトグラムである。
図2図2は、本発明のヒメハギ地上部からのアルコール抽出物のHPLC分析クロマトグラムである。
図3図3は、本発明のヒメハギ地上部をポリアミド樹脂で勾配溶出した後に得られた有効部分のHPLC分析クロマトグラムである。
図4図4は、本発明の化合物F-7Q-1のC-H相関二次元NMRクロマトグラムである。
図5図5は、本発明の化合物F-7Q-1のC-Hリモート二次元NMR相関クロマトグラムである。
図6図6は、本発明の化合物F-7K-1のC-H相関二次元NMRクロマトグラムである。
図7図7は、本発明の化合物F-7K-1のC-Hリモート相関二次元NMRクロマトグラムである。
図8図8は、本発明の化合物F-74Q-1のC-H相関二次元NMRクロマトグラムである。
図9図9は、本発明の化合物F-74Q-1のC-Hリモート相関二次元NMRクロマトグラムである。
図10図10は、本発明の薬物を用いた動物実験での腎尿細管拡張性病変のHE顕微鏡による観察結果である(正常群)。
図11図11は、本発明の薬物を用いた動物実験での腎尿細管拡張性病変のHE顕微鏡による観察結果(モデル群)である。
図12図12は、本発明の薬物を用いた動物実験での腎尿細管拡張性病変のHE顕微鏡による観察結果である(クエン酸カリウムナトリウム水素薬物群)。
図13図13は、本発明の薬物を用いた動物実験での腎尿細管拡張性病変のHE顕微鏡による観察結果である(低投与量群)。
図14図14は、本発明の薬物を用いた動物実験での腎尿細管拡張性病変のHE顕微鏡による観察結果である(中投与量群)。
図15図15は、本発明の薬物を用いた動物実験での腎尿細管拡張性病変のHE顕微鏡による観察結果である(高投与量群)。
【発明を実施するための形態】
【0044】
以下、本発明の実施例を詳細に記載する。添付の図面に実施例の図を示す。図面を参照して以下で記載される実施例は、単に例示的で本発明を説明するためのものであり、本発明を限定するものとして理解されるべきではない。
【0045】
I.調製例
調製例1:ヒメハギの全部分からのアルコール抽出物の成分分析
ヒメハギの全部分を計量して、10倍の量の75%エタノールを加えた。得られた溶液を加熱して還流させ、各回3時間で3回抽出し、熱い状態で濾過し、次いでアルコール抽出物を合わせた。
【0046】
アルコール抽出物を濃縮して、相対密度1.1~1.3g/mlの抽出物濃縮物を得た。
【0047】
HPLCを用いて、得られたヒメハギのアルコール抽出物濃縮物の指紋分析を行った。
HPLC試験条件:移動相:アセトニトリル(A)、0.1%ギ酸水溶液(B)、バイナリ勾配分離
流量:0.8mL min-1
検出波長:330nm
カラム温度:20℃
注入量:20μL
90分間クロマトグラムを記録した。
【0048】
調製例2:ヒメハギの全部分からの水抽出物の成分分析
ヒメハギの全部分を計量して、10倍の量の脱イオン水を加えた。得られた溶液を加熱して還流させ、各回3時間で3回抽出し、熱い状態で濾過し、次いで水抽出物を合わせた。抽出物は暗褐色の液体である。
【0049】
水抽出物を濃縮して、相対密度1.1~1.3g/mlの抽出物濃縮物を得た。
【0050】
HPLCを用いて、得られたヒメハギの水抽出物濃縮物の指紋分析を行った(詳細は添付の図面の図1を参照のこと)。抽出物が主に4種の主要な化合物を数十種類、他の種類の化合物を数十種類含むことは基本的に確認することができる。HPLCクロマトグラムにおいて、キサントンのピーク時間は12~25分の間であり、フラボノール化合物のピーク時間は18~68分の間であり、糖脂質のピーク時間は15~45分の間であり、サポニンのピーク時間は42~85分の間である。
【0051】
水抽出法で得られた成分とアルコール抽出法で得られた成分を比較すると、水の極性が比較的高いため、水抽出法で得られた抽出物中の極性が低い不純物(クロロフィルなど)の含有量は少なく、極性の高いタンニン成分は多いことが分かる。抽出物は暗褐色がかった黄色である。しかしながら、アルコール抽出物中の低極性成分(クロロフィルなど)の含有量は多く、高極性成分(タンニンなど)の含有量は有意に少なくなっている。アルコール抽出物は緑色がかった色だが、冷却後は茶色がかった黄色に変わる。
【0052】
薬草全体の抽出は、多くの薬用植物を消費する。市販のヒメハギの大部分が地上部であることを考慮すると、地上部を選択し、植物の根を保つだけで薬用植物資源の保護にも有益である。したがって、本発明者は、さらに、アルコール抽出によりヒメハギ地上部から薬効成分を抽出しようとした。その特定の方法は以下の通りである。
【0053】
調製例3:ヒメハギ地上部からの水抽出物の成分分析
ヒメハギ地上部を計量して、医薬品材料の10倍の量の脱イオン水を加えた。得られた溶液を加熱して還流させ、各回3時間で3回抽出し、熱い状態で濾過し、次いで水抽出物を合わせた。
【0054】
水抽出物を濃縮して、相対密度1.1~1.3g/mlの抽出物濃縮物を得た。
【0055】
HPLCを用いて、ヒメハギ地上部の脱イオン水抽出物濃縮物の指紋分析を行った。
【0056】
調製例4:ヒメハギ地上部からのアルコール抽出物の成分分析
ヒメハギ地上部を計量して、医薬品材料の10倍の量の50%エタノールを加えた。得られた溶液を加熱して還流させ、各回3時間で3回抽出し、熱い状態で濾過し、次いでアルコール抽出物を合わせた。
【0057】
アルコール抽出物を濃縮して、相対密度1.1~1.3g/mlの抽出物濃縮物を得た。
【0058】
HPLCを用いて、得られたヒメハギ地上部のアルコール抽出物濃縮物の指紋分析を行った(結果は図2を参照のこと)。
【0059】
抽出物濃縮物の化学組成を確認するため、HPLC-MSにより分析した。MS分析は正イオンおよび負イオン分析、MS-MS分析、MS-MS-MS分析を含んでいた。分析結果を既存の文献と比較し、フラボノール化合物、キサントン、糖脂質、およびサポニンの4つの主要カテゴリーの構造型を予め確認した。さらに、フラボノール化合物の親核の違いによりフラボノール化合物をさらに分けた。
【0060】
しかしながら、グリコシドにおける空間構造とグリコシルの結合方法の複雑さと多様性により、複数のグリコシドとフラボノール化合物の親核との結合が単一の糖鎖であるか否か、およびHPLCおよび多段タンデムMSによる質量分析におけるグリコシド断片化の順番を決定して、糖鎖の末端糖の分子量およびグリコーゲンの基本型を確認することができる。しかしながら、グリコシドにおける空間構造とグリコシルの結合方法の複雑さと多様性により、異性体の糖環(例えば、グルコースまたはガラクトース)の特定の炭素原子上の水酸基の配置、グリコシドとグリコシドとの糖鎖結合の位置(例えば、1-2結合、1-4結合、または1-6結合)、および糖構成のα配置またはβ配置について他の手段によってさらに同定する必要がある。したがって、HPLC-MS-MSによって同定された構造によってのみ、同じ分子式を有する化合物は、フラボノール化合物のアグリコンと異なる型のグリコシドの複数の構造的な組み合わせを持ち得る。
【0061】
区別を容易にするために、本出願は、化合物カテゴリーを用いて構成単位の様々な組み合わせを持ち得る化合物を同定し、区別した。例えば、本出願では、Fはあるクラスのフラボノール化合物を表すのに用いられ、F-Qはフラボノール化合物の親核がケルセチンであるクラスのフラボノールグリコシドを表すのに用いられる。構造の決定において、302-162-132は、フラボノールのアグリコンの親核がケルセチンであり、これにグルコース(またはガラクトース)が結合し、このグルコース(またはガラクトース)にセロース(celose)が結合していることを表す。ここで、302はケルセチンの親核であり、162は質量スペクトルにおけるグルコース(またはガラクトース)断片化断片の特徴ピークの分子量であり、および132はセロース断片化断片の特徴ピークの分子量である。
【0062】
HPLCおよび多段タンデムMS分析により、ヒメハギ地上部からのアルコール抽出物は主に以下の成分を含むことが予め確認されている。
【0063】
【表1-1】
【表1-2】
【0064】
上記の表で、化学組成の構造は主に以下のカテゴリーを含む。
【0065】
(1)グリコシドを有するフラボノール
1.化合物カテゴリーがF-7Kであるフラボノールグリコシド化合物。この化合物のアグリコン構造は分子量300のラムノシトリン、3,4’,5-トリヒドロキシ-7-メトキシフラボン、または7-メトキシル-ケンペロールであり、この化合物は以下の一般構造を有する。
【化24】
ここで、R1=グリコシルであり、-OH、-O-Glc、-O-Gal,-O-Glc-Glc、-O-Glc-Gal、-O-Glc-Rha、-O-Gal-Glc、-O-Gal-Gal、-O-Gal-Rha、-O-Glc-Glc-Api、-O-Gal-Glc-Api、-O-Glc-Gal-Api、および-O-Gal-Gal-Apiからなる群より選択されてもよい。
【0066】
2.化合物カテゴリーがF-7Qであるフラボノールグリコシド化合物。この化合物のアグリコン構造は分子量316のラムネチン、3,3’,4’,5-テトラヒドロキシ-7-メトキシフラボン、または7-メトキシル-ケルセチンであり、この化合物は以下の一般構造を有する。
【化25】
ここで、R1=グリコシルであり、-OH、-O-Glc、-O-Gal、-O-Glc-Glc、-O-Glc-Gal、-O-Glc-Api、-O-Glc-Rha、-O-Gal-Glc、-O-Gal-Gal、-O-Gal-Api、-O-Gal-Rha、-O-Glc-Glc-Api、-O-Gal-Glc-Api、-O-Glc-Gal-Api、-O-Gal-Gal-Api、-O-Gal-Rha-Gal、-O-Gal-Rha-Glc、-O-Glc-Rha-Glc、および-O-Glc-Rha-Galからなる群より選択されてもよい。
【0067】
3.化合物カテゴリーがF-74Qであるフラボノールグリコシド化合物。この化合物のアグリコン構造は分子量330のオンブイン(Ombuine)、3,5,3’-トリヒドロキシ7,4’-ジメトキシフラボン、7,4’-ジメトキシル-ケルセチンであり、この化合物は以下の一般構造を有する。
【化26】
ここで、R1=グリコシルであり、OH、-O-Glc、-O-Gal、-O-Glc-Api、および-O-Gal-Apiからなる群より選択されてもよい。
【0068】
4.化合物カテゴリーがF-Kであるフラボノールグリコシド化合物。この化合物のアグリコン構造は分子量286のケンペロールまたは3,4’,5,7-テトラヒドロキシフラボンであり、この化合物は以下の一般構造を有する。
【化27】
ここで、Rは-OH、-O-Glc、-O-Gal、-O-Glc-Rha、および-O-Gal-Rhaからなる群より選択されてもよい。
【0069】
5.化合物カテゴリーがF-Qであるフラボノールグリコシド化合物。このアグリコン構造は分子量302のケルセチンまたは3,3’,4’,5,7-ペンタヒドロキシフラボンであり、この化合物は以下の一般構造を有する。
【化28】
ここで、Rは-OH、-O-Glc、-O-Gal、-O-Glc-Rha、および-O-Gal-Rhaからなる群より選択されてもよい。
【0070】
6.化合物カテゴリーがF-74Kであるフラボノールグリコシド化合物。このアグリコン構造は、分子量314のエルマニン、3,5-ジヒドロキシ7,4’-ジメトキシフラボン、または7,4’-ジメトキシル-ケンペロールであり、この化合物は以下の一般構造を有する。
【化29】
ここで、R=グリコシルであり、-OH、-O-Gal、および-O-Gal-Apiからなる群より選択されてもよい。
【0071】
(2)ヒメハギのキサントン化合物
二次的な質量分析によって、ヒメハギのキサントン化合物が下記式(II-1)、(II-2)、および(II-3)より選択されることを確認することができる。
【化30】
【化31】
【化32】
【0072】
(3)糖脂質化合物
二次的な質量分析によって、糖脂質化合物の構造が下記式(III-1)および(III-2)より選択されることを確認することができる。
【化33】
【化34】
【0073】
(4)サポニン化合物
HPLCおよび多段タンデムMS分析によって、本出願のヒメハギ地上部からのアルコール抽出物はポリガラサポニンVIII、ポリガラサポニンXXI、ポリガラサポニンX、ポリガラサポニンXXIX、および他のサポニン化合物を含むことを確認することができる。
【0074】
ヒメハギ地上部からのアルコール抽出物は、フラボノール、キサントン、およびその他の標的薬効成分だけでなく、サポニン、糖脂質、および他の成分も含む。したがって、本発明者らはさらに、マクロ多孔性樹脂およびポリアミド樹脂などの分離方法により上記のヒメハギ地上部からのアルコール抽出物をさらに精製して、標的薬効成分を分離し、富化させようとした。
【0075】
調製例5:ヒメハギ地上部からのアルコール抽出物のマクロ多孔性樹脂による精製処理
1時間あたりのカラム床体積の1倍の流量にて調製例1で得られた抽出物濃縮物をD101マクロ多孔性吸着樹脂カラムに通した。吸着が完了した後、まず、カラムを8倍の量の樹脂で洗浄して不純物を除去し、次いでカラム床体積の2~5倍の体積の0%~25、25%~50%、50%~75%、75%~95%エタノール勾配溶出液で洗浄し、1時間あたりのカラム床体積の0.5~2倍の流量で溶出を行って溶離液を得た。異なる濃度のエタノール溶出液をそれぞれ、5~20倍に濃縮して相対密度1.1~1.3g/mlの溶出液濃縮物を得た。
【0076】
得られたヒメハギの全部分のアルコール抽出物濃縮物およびHPLCを用いたマクロ多孔性吸着樹脂カラムを通したエタノール勾配溶出液濃縮物の成分について、それぞれ指紋分析を行った。
【0077】
調製例6:ヒメハギ地上部からの水抽出物のポリアミド樹脂による精製処理
1時間あたりのカラム床体積の0.5~1倍の流量にて調製例3で得られた抽出物濃縮物をポリアミド樹脂カラムに通した。吸着が完了した後、まず、カラムを2~8倍の量の樹脂で洗浄して溶出し、不純物を除去し、次いで、カラム床体積の2~5倍の体積の0~25%、25%~50%、50%~75%、75%~95%エタノール勾配溶出液で洗浄し、1時間あたりのカラム床体積の0.5~2倍の流量で溶出を行って溶離液を得た。異なる濃度の上記エタノール溶出液をそれぞれ、5~20倍に濃縮して相対密度1.1~1.3g/mlの溶出液濃縮物を得た。
【0078】
マクロ多孔性樹脂とポリアミド樹脂の分離効果を比較すると、ポリアミド樹脂のほうがヒメハギ抽出物のサポニン成分をより除去することができ、分離および精製効果がより高いことが分かった。
【0079】
得られたヒメハギ地上部の抽出物濃縮物およびHPLCを用いてポリアミド樹脂カラムを通したエタノール勾配溶出液濃縮物の成分について、それぞれ指紋分析を行った。
【0080】
HPLC分析により、(本明細書の図3に示すように)薬効成分(I)、(II)、および(III)の総含有量は0~25%エタノール溶出部分の橙色から赤色の溶出液濃縮物の50%~90%であることが確認された。
【0081】
溶出液濃縮物を75℃で減圧乾燥して、破砕し、薬物の有効性比較実験で用いられたヒメハギ地上部の富化された薬効成分を得た。
【0082】
ヒメハギ地上部の富化された薬効成分をHPLC-MSによって分析した。MS分析は正イオンおよび負イオン分析、MS-MS分析、MS-MS-MS分析を含み、分析結果は既存の文献と比較して、以下の表2に示される化合物構造が確認された。
【0083】
【表2-1】
【表2-2】
【0084】
上記分析に基づいて、水抽出、ポリアミド樹脂による精製を行ったヒメハギ抽出物の主成分は化合物カテゴリーF-7K、F-7Q、F-74Q、F-74Kのフラボノール化合物、一般式(II-1)のキサントン化合物(ポリガラキサントンIII)、および糖脂質化合物を含むことを確認することができる。
【0085】
表2では、含有量が18.97%の化合物はF-7K-1と同定され、含有量が33.71%の化合物はF-7Q-1と同定され、含有量が23.60%の化合物はF-74Q-1と同定され、含有量が4.81%の化合物は化合物F-74K-1(ポリガリトールB)と同定された。
【0086】
上記の化合物カテゴリー名の意味は表1のものと全く同じである。
【0087】
植物ヒメハギの抽出された特定の部分(全部分、地下茎、または茎および葉)の違い、出所の違い、植物ヒメハギの調製の違い(市販の乾燥品、生の植物ヒメハギ)の他、特定の抽出および精製工程の条件の違いによって、得られた薬効成分抽出物中の薬効成分の構造および含有量における差異の程度が異なる場合があることを強調する必要がある。本発明では、好ましくは、薬効成分抽出物は水抽出およびポリアミドカラムのアルコール/水勾配溶出によってヒメハギの生あるいは乾燥地上部から得られた。
【0088】
調製例7:主要な活性化合物の分離および精製
フラボノール化合物の親核とその分子中の複数の糖環の存在が決定されると、明かな特性によってそれが単一の糖鎖であるか否かをHPLC-MS-MSによって決定することができる。しかしながら、同じ分子量の糖環(例えば、グルコースまたはガラクトース)の特定の炭素原子上の水酸基の配置を区別するための根拠が不十分である。糖鎖が2つ超の糖環を有する場合、糖の結合位置(例えば、1-2結合、1-4結合、または1-6結合)および糖構成のα配置またはβ配置を決定するための根拠が不十分である。このため、主要な薬効成分の純粋化合物を半分取HPLCによって分離して、その特定の構造をH NMR、C NMR、および二次元NMRの組み合わせで決定した。
【0089】
半分取HPLCにより精製した。実施例5で調製された抽出物をさらに分離して精製し、抽出物中最も含有量が多い3種の成分の純粋な単体化合物をそれぞれ集めた。すなわち、化合物F-7Q-1、F-7K-1、およびF-74Q-1の純粋な単体化合物を得た。
【0090】
半分取HPLC装置および条件は以下の通りであった。
HPLC試験条件 移動相:アセトニトリル(A)、脱イオン水(B)、バイナリ勾配分離
半分取カラム:19×250mm、C18
流量:8mL・min-1
検出波長:330nm
カラム温度:室温
注入量:0.5mL
180分間クロマトグラムを記録した。
【0091】
化合物F-7Q-1、F-7K-1、およびF-74Q-1の構造をそれぞれ、NMRおよび二次元NMRによって分析した。分析結果は以下の通りであった。
【0092】
1.化合物F-7Q-1の構造の確認
分子量:640、糖鎖:316-162-162
【0093】
化合物F-7Q-1の二次元NMRに関する重要な情報を以下の表にまとめた。
【0094】
【表3】
【0095】
上記のクロマトグラフィー分析のデータに基づいて、主要薬効成分の化合物F-7Q-1の正確な空間構造式は以下の通りであることを最終的に確認した。
【化35】
【0096】
F-7Q-1の化合物名は、ラムネチン3-O-β-D-グルコピラノシル(1→2)-β-D-ガラクトピラノシドまたはラムネチン-3-O-(2’’-O-β-D-グルコピラノシル)-β-D-ガラクトピラノシドである。
【0097】
(2)化合物F-7K-1の構造の確認
分子量:624、糖鎖:300-162-162
【0098】
化合物F-7K-1の二次元NMRに関する重要な情報を以下の表にまとめた。
【0099】
【表4】
【0100】
上記のクロマトグラフィー分析のデータに基づいて、主要薬効成分の化合物F-7K-1の正確な空間構造式が以下の通りであることを最終的に確認した。
【化36】
【0101】
F-7K-1の化合物名はラムノシトリン3-O-β-D-グルコピラノシル(1→2)-β-D-ガラクトピラノシド、またはOR ラムノシトリン-3-O-(2’’-O-β-D-グルコピラノシル)-β-D-ガラクトピラノシドである。
【0102】
3.化合物F-74Q-1の構造の確認
分子量:624、糖鎖:330-162-132、同定
【0103】
化合物F-74Q-1の二次元NMRに関する重要な情報を以下の表にまとめた。
【0104】
【表5】
【0105】
上記のクロマトグラフィー分析のデータに基づいて、主要薬効成分の化合物F-74Q-1の正確な空間構造式が以下の通りであることを最終的に確認した。
【化37】
【0106】
F-74Q-1の化合物名は、3,5,3’-トリヒドロキシ-7,4’-ジメトキシフラボン-3-O-β-D-アピオフラノシル(1→2)-β-D-ガラクトピラノシド、ポリガリンC、またはポリガリトールCである。
【0107】
本発明者らの研究に基づいて、発明者らは本発明のヒメハギ抽出物の主成分として単離された化合物F-7Q-1、F-7K-1、およびF-74Q-1は所望の医薬品効果を実現するための重要な役割を行っていると考えた。これらの化合物は、記載された分子構造においてカルボニルのβ位置に置換基として水酸基を有し、この水酸基とケトンカルボニル基とが共に作用して、尿系内の結石のカルシウムイオン含有成分とより有効に反応し、これによって尿系の結石をより有効に分解または溶解する。したがって、化合物F-7Q-1、F-7K-1、およびF-74Q-1の少なくとも1種を主要薬効成分および必要薬効成分として用いて、尿路結石症や尿路感染、または尿路結石症によって生じた腎臓損傷を治療または予防するための対応する医薬組成物および尿路結石症の外科治療後のアジュバント薬物として用いることもできる。この医薬組成物はさらに、医薬的に許容可能なアジュバント、担体、または賦形剤を含んでいてもよい。
【0108】
II.薬理活性の実験例
1.試験試料の調製
【0109】
[1]高投与量群試験試料:調製例5で調製した、水抽出、ポリアミドカラムによる0~25%エタノール勾配溶離液を濃縮して、乾燥させ、薬効成分抽出物を得た。密度が約1.2g/mlの溶液を調合した。薬局方基準(標準物質としてルチンを用いて基準曲線を作成)によって測定した有効物質の濃度は約130.4mg/mlである。
[2]中投与量群試験試料:高投与量群試料を一度希釈して、中投与量群試験試料を得た。
[3]低投与量群試験試料:中投与量群試料を一度希釈して、低投与量群試験試料を得た。
[4]陽性対照群試験試料:濃度が100mg/mlのクエン酸カリウムナトリウム水素水溶液、一日あたり3ml、300mg/d相当。
【0110】
2.動物実験
2.1.実験動物および給餌条件
36匹のSDラットをShanghai Slackより購入した。ライセンス番号:SCXK(Shanghai)2017-0005、証明書番号:20170005011248であった。飲料水は超純水である。実験動物の部屋のライセンス番号はSYXK(Zhejiang)2015-0008である。
【0111】
給餌環境:温度は20℃~25℃の範囲であり、相対湿度は40%~70%の範囲である。実験の前に1週間、適応給餌を行った。
【0112】
2.2.実験スキーム
2.2.1 実験動物
SPF等級、6~8週齢、200~250gのオスSDラット36匹
【0113】
2.2.3 モデルの作製
SDラットを7日間、適応給餌し、すべての群(正常群を除く)に1%エチレングリコール(飲用水で)+2%塩化アンモニウム(腸内投与で)を2ml/ラットで投与して、連続28日間でモデルを確立した。
【0114】
2.2.4 実験群の形成および処理
体重によって、36匹のオスSDラットを無作為に6群(各群に6匹のラット)に分けた。これらは正常群、モデル群、クエン酸カリウムナトリウム水素群、伝統的中国医薬品抽出物(低、中、高)投与量群である。モデル化プロセスの間、毎日3mlの薬物を腸内投与した。この薬物は陽性対照薬物およびポリアミドカラムを通した精製部分を含んでいた。4週間後に動物を安楽死させた。
【0115】
2.2.5 腎臓
インビボで腎臓組織を剥がして、片側の腎臓を-80℃で冷凍保存管に保存し、組織均質液としてCa2+濃度を検出した。キット操作工程は上記と同じであった。もう一方の腎臓をホルマリン溶液中で固定し、組織切片を作製して、HE染色を行った。
【0116】
(1)パラフィン切片を作製する工程は以下の通りであった。
[1]固定、[2]切り取り、[3]脱水、[4]透徹、[5]ワックスへの浸漬、[6]包埋、[7]薄切、[8]薄切の焼き付け、[9]保存:箱に入れて、室温で保存。
【0117】
(2)HE染色工程は以下の通りであった。
【0118】
[1]脱蝋および再水和、[2]染色、[3]脱水、透徹、設置
【0119】
[4]染色結果:核は青色、細胞質はピンク色、赤血球は明るい赤色であった。
【0120】
3.試験結果
3.1.ラットの尿中のシュウ酸カルシウム結晶の陽性試験
尿ルーチン報告の結果により、正常群を除く他の群すべてでラットの尿中のシュウ酸カルシウム結晶は陽性であることが示された。
【0121】
3.2.血清Ca2+濃度の試験結果
各群の血清中のCa2+濃度差は小さかった。正常群に比べて、モデル群および中投与量治療群は有意な差を示した。尿中のCa2+濃度差は大きかった。正常群と比べて、低投与量治療群および高投与量治療群は非常に有意な差を示した(P<0.01)。モデル群と比べて、低投与量治療群は非常に有意な差を示した(P<0.01)。クエン酸カリウムナトリウム水素薬物群では腎臓組織の濃度が最も高く、モデル群および正常群と比べて非常に有意な差があった(P<0.01)。他の群は有意な差を示さなかった。
【0122】
血清中のCRE量は、多いほうから少ない順に、モデル群>中投与量治療群>クエン酸カリウムナトリウム水素薬物群>低投与量治療群>高投与量治療群>正常群であった。正常群と比べて、中投与量治療群および高投与量治療群は有意な差を示した(P<0.05)が、他の群では有意な差はなかった。
【0123】
血清中のBUN量は、多いほうから少ない順に、モデル群>低投与量治療群>クエン酸カリウムナトリウム水素薬物群>中投与量治療群>高投与量治療群>正常群であった。正常群と比べて、すべての群が非常に有意な差を示した(P<0.01)。
【0124】
モデル群に比べて、低投与量治療群は有意な差を示した(P<0.05)以外は、他のすべての群で非常に有意な差を示した(P<0.01)。
【0125】
3.3.HE顕微鏡での病変の観察結果
結果はシュウ酸カルシウム結晶の凝集、腎尿細管拡張性病変、および慢性腎臓間質性炎症性細胞浸潤という3つの部分からなっていた。
【0126】
動物モデルの特性は以下の通りであった。
【0127】
4週間後に、モデル動物の血清中のBUN含有量が有意に増加した。血液中のP、CA含有量には有意な変化はなかったが、24時間の尿OXおよびCA排出と腎臓組織CA含有量はいずれも有意に増加した。腎臓が肥大していることが肉眼で観察でき、断面は淡い色であった。腎臓断面を手で触ると、細かい砂のざらつく感触がはっきりとあった。腎臓皮質と腎臓髄質との境界は不明瞭であった。正常群に比べて、モデル群は、シュウ酸カルシウム結晶の凝集、尿細管上皮細胞の膨潤、変性、壊死、内腔の拡張、および慢性腎臓間質性炎症性細胞浸潤をはっきりと示していた。
【0128】
図10図15の図に示すように、HE顕微鏡で以下のことが見られた。正常群に比べて、モデル群の腎尿細管は有意に拡張しており、多数の褐色がかった黄色のシュウ酸カルシウム結晶が見られ、炎症性細胞が局所的な腎臓間質に浸潤していた。モデル群に比べて、中投与量群および高投与量群では腎尿細管拡張が改善され、褐色がかった黄色のシュウ酸カルシウム結晶が有意に低減していた。また、腎臓間質における明かな炎症性細胞浸潤は見られなかった。低投与量群では腎尿細管拡張が改善し、腎臓間質における明かな炎症性細胞は見られなかったが、褐色がかった黄色のシュウ酸カルシウム結晶は有意に低減されなかった。クエン酸カリウムナトリウム水素群では腎尿細管拡張が改善され、腎臓間質における炎症性細胞浸潤が見られることがあった。また、褐色がかった黄色のシュウ酸カルシウム結晶も有意に低減されなかった。
【0129】
腎臓病変の評価表は、以下の通りであった。
【0130】
【表6】
注記:病変なしを-、中程度の病変を+、病変を++、有意な病変を+++として示した。
【0131】
上記の動物薬理試験の結果に基づき、腎石症(シュウ酸カルシウム結晶の凝集、腎尿細管拡張性病変、および慢性腎臓間質性炎症性細胞浸潤)の治療用の3つの主要な指標から、本発明の中投与量群および高投与量群においてヒメハギの薬効成分抽出物(水抽出物を0~25%エタノールと共にポリアミド樹脂カラムで溶出した後の化合物)は何れも、同じ品質のクエン酸カリウムナトリウム水素よりも有意に優れていることが十分に証明された。これらの薬物有効性レベルは中国薬物登録評価の要件を達成しており、尿路結石症や尿路感染、または尿路結石症によって生じた腎臓損傷の治療において、また尿路結石症の外科治療後のアジュバント薬物として優れた能力と市場での見込みがあることを示している。
【0132】
利点、効果
本発明の薬物は、シュウ酸カルシウム結晶の凝集、腎臓間質性炎症性細胞浸潤、および腎尿細管拡張性病変などの典型的な試験指標において、クエン酸カリウムナトリウム水素よりも有意に優れた効果を有し、これらの薬物有効性レベルは中国薬物登録評価の要件を達成している。これは尿路結石症や尿路感染、または尿路結石症によって生じた腎臓損傷の治療において、また尿路結石症の外科治療後のアジュバント薬物として優れた能力と市場での見込みがあることを示している。
【0133】
最も広く使用されている臨床薬物クエン酸カリウムナトリウム水素に比べて、本発明のヒメハギの抽出物に含まれる薬効成分(I)~(III)はナトリウムイオンおよびカリウムイオンを含まないので、クエン酸カリウムナトリウム水素のような重篤な副作用(重篤な高カリウム血症、不整脈、および高血圧症)に繋がらず、より安全性が高い。
【0134】
尿路結石症に関連する病気の治療に用いられる他の漢方薬および薬物抽出物に比べて、本発明の医薬品薬効成分抽出物はより単純な成分、薬効成分のより明かな構造、より安定した制御可能な品質を有する。
【0135】
また、本発明の医薬的な薬効成分抽出物は、好ましくは、ヒメハギ全体の抽出によって生じる薬用植物の過度に長期の成長サイクルという問題を回避するため、より低コストでより環境保護をしながらヒメハギ地上部の茎および葉から抽出される。
【0136】
つまり、本発明の薬物は尿路結石症および他の関連する病気に対して明かな治療効果を有し、副作用が少なく(既存の主要な尿路結石症用薬物であるクエン酸カリウムナトリウム水素と同等かそれ以下)、工程が単純で、安全かつ有効であり、安定した制御可能な品質を有し、現代の薬物登録要件を満たし、優れた医療・経済価値を有する。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
【国際調査報告】