(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-02-01
(54)【発明の名称】治療における使用のためのT細胞
(51)【国際特許分類】
C12N 15/12 20060101AFI20240125BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20240125BHJP
C07K 14/725 20060101ALI20240125BHJP
C12N 15/13 20060101ALI20240125BHJP
C12N 15/62 20060101ALI20240125BHJP
C07K 16/18 20060101ALI20240125BHJP
C07K 19/00 20060101ALI20240125BHJP
A61K 35/17 20150101ALI20240125BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20240125BHJP
A61K 38/17 20060101ALI20240125BHJP
A61K 39/395 20060101ALI20240125BHJP
A61P 35/02 20060101ALI20240125BHJP
A61K 47/68 20170101ALI20240125BHJP
A61K 48/00 20060101ALI20240125BHJP
【FI】
C12N15/12
C12N5/10 ZNA
C07K14/725
C12N15/13
C12N15/62 Z
C07K16/18
C07K19/00
A61K35/17
A61P35/00
A61K38/17
A61K39/395 N
A61P35/02
A61K47/68
A61K48/00
【審査請求】未請求
【予備審査請求】有
(21)【出願番号】P 2023544131
(86)(22)【出願日】2022-01-21
(85)【翻訳文提出日】2023-09-04
(86)【国際出願番号】 NL2022050028
(87)【国際公開番号】W WO2022158977
(87)【国際公開日】2022-07-28
(32)【優先日】2021-01-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】511294062
【氏名又は名称】エラスムス・ユニヴァーシティ・メディカル・センター・ロッテルダム
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】ヨハンネス・エデュアルト・マリア・アントーニウス・デベツ
(72)【発明者】
【氏名】ドラ・マルタ・ハンマール
【テーマコード(参考)】
4B065
4C076
4C084
4C085
4C087
4H045
【Fターム(参考)】
4B065AA93Y
4B065AA94X
4B065AB01
4B065AC13
4B065BA02
4B065BA21
4B065BB12
4B065BB19
4B065BB25
4B065BB34
4B065BB37
4B065BC11
4B065BD15
4B065CA24
4B065CA25
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4C076CC41
4C076EE59
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4C084BA08
4C084BA22
4C084BA23
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4C084ZB26
4C084ZB27
4C085AA14
4C085BB01
4C085DD62
4C085EE01
4C087AA01
4C087AA02
4C087AA03
4C087BB37
4C087CA04
4C087CA12
4C087NA14
4C087ZB26
4C087ZB27
4H045AA10
4H045AA11
4H045AA30
4H045BA10
4H045BA41
4H045BA72
4H045CA40
4H045DA50
4H045DA76
4H045EA20
4H045FA74
(57)【要約】
本発明は、特に、ヒトロッポリン-1A(ROPN1)又はヒトロッポリン-1B(ROPN1B)のT細胞エピトープに結合するT細胞受容体(TCR)又は抗体ベース受容体を発現するように操作されたT細胞であって、前記T細胞エピトープが、配列番号4、配列番号43、配列番号23、配列番号56及び配列番号24からなる群から選択される、操作されたT細胞を提供する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒトロッポリン-1A(ROPN1)及び/又はヒトロッポリン-1B(ROPN1B)のT細胞エピトープに結合するT細胞受容体(TCR)又は抗体ベース受容体を発現するように操作されたT細胞であって、前記T細胞エピトープが、配列番号4、配列番号43、配列番号23、配列番号56及び配列番号24のうちの1つから選択されるアミノ酸配列からなる、操作されたT細胞。
【請求項2】
前記T細胞が、配列番号4及び/又は配列番号43からなるT細胞エピトープに結合するTCRを発現するように操作されており、前記TCRが、
(i)配列番号37のCDR3を含む超可変領域を含むT細胞受容体アルファ鎖、及び
(ii)配列番号42のCDR3を含む超可変領域を含むT細胞受容体ベータ鎖
を含み;
前記T細胞受容体アルファ及びベータ鎖の前記超可変領域がCDR1及びCDR2を更に含む、請求項1に記載の操作されたT細胞。
【請求項3】
前記T細胞受容体アルファ鎖の前記超可変領域が、
- 配列番号35のCDR1;
- 配列番号36のCDR2;
- 配列番号37のCDR3
を含み;
前記T細胞受容体ベータ鎖の前記超可変領域が、
- 配列番号40のCDR1;
- 配列番号41のCDR2;
- 配列番号42のCDR3
を含む、請求項2に記載の操作されたT細胞。
【請求項4】
前記T細胞受容体アルファ鎖が配列番号44のアミノ酸配列を含み、前記T細胞受容体ベータ鎖が配列番号45のアミノ酸配列を含み;好ましくは前記T細胞受容体アルファ鎖が配列番号34のアミノ酸配列を含み、前記T細胞受容体ベータ鎖が配列番号39のアミノ酸配列を含む、請求項2又は3に記載の操作されたT細胞。
【請求項5】
前記T細胞が、配列番号23及び/又は配列番号56からなるT細胞エピトープに結合するTCRを発現するように操作されており;前記TCRが、
(i)配列番号50のCDR3を含む超可変領域を含むT細胞受容体アルファ鎖、及び
(ii)配列番号55のCDR3を含む超可変領域を含むT細胞受容体ベータ鎖
を含み;
前記T細胞受容体アルファ及びベータ鎖の前記超可変領域がCDR1及びCDR2を更に含む、請求項1に記載の操作されたT細胞。
【請求項6】
前記T細胞受容体アルファ鎖の前記超可変領域が、
- 配列番号48のCDR1;
- 配列番号49のCDR2;
- 配列番号50のCDR3
を含み;
前記T細胞受容体ベータ鎖の前記超可変領域が、
- 配列番号53のCDR1;
- 配列番号54のCDR2;
- 配列番号55のCDR3
を含む、請求項5に記載の操作されたT細胞。
【請求項7】
前記T細胞受容体アルファ鎖が配列番号57のアミノ酸配列を含み、前記T細胞受容体ベータ鎖が配列番号58のアミノ酸配列を含み;好ましくは前記T細胞受容体アルファ鎖が配列番号47のアミノ酸配列を含み、前記T細胞受容体ベータ鎖が配列番号52のアミノ酸配列を含む、請求項5又は6に記載の操作されたT細胞。
【請求項8】
前記T細胞が、配列番号24のT細胞エピトープに結合するTCRを発現するように操作されており;前記TCRが、
(i)配列番号63のCDR3を含む超可変領域を含むT細胞受容体アルファ鎖、及び
(ii)配列番号68のCDR3を含む超可変領域を含むT細胞受容体ベータ鎖
を含み;
前記T細胞受容体アルファ及びベータ鎖の前記超可変領域がCDR1及びCDR2を更に含む、請求項1に記載の操作されたT細胞。
【請求項9】
前記T細胞受容体アルファ鎖の前記超可変領域が、
- 配列番号61のCDR1;
- 配列番号62のCDR2;
- 配列番号63のCDR3
を含み;
前記T細胞受容体ベータ鎖の前記超可変領域が、
- 配列番号66のCDR1;
- 配列番号67のCDR2;
- 配列番号68のCDR3
を含む、請求項8に記載の操作されたT細胞。
【請求項10】
前記T細胞受容体アルファ鎖が配列番号69のアミノ酸配列を含み、前記T細胞受容体ベータ鎖が配列番号70のアミノ酸配列を含み;好ましくは前記T細胞受容体アルファ鎖が配列番号60のアミノ酸配列を含み、前記T細胞受容体ベータ鎖が配列番号65のアミノ酸配列を含む、請求項8又は9に記載の操作されたT細胞。
【請求項11】
前記T細胞エピトープが、ヒト主要組織適合複合体(MHC)分子、好ましくはHLA-A*02分子と複合体を形成する、請求項1から10のいずれか一項に記載の操作されたT細胞。
【請求項12】
請求項1から11のいずれか一項に記載の操作されたT細胞、及び医薬的に許容される賦形剤を含む、医薬組成物。
【請求項13】
請求項1から10のいずれか一項に規定のTCR又は抗体ベース受容体を含む、TCRタンパク質又は抗体ベース受容体タンパク質であって;好ましくは前記TCRが、請求項2から10のいずれか一項に規定のT細胞受容体アルファ鎖及びT細胞受容体ベータ鎖を有し;好ましくは前記TCRタンパク質又は抗体ベース受容体タンパク質が、抗体薬物コンジュゲート(ADC)の部分であるか、又は可溶性TCR(の部分)である、TCRタンパク質又は抗体ベース受容体タンパク質。
【請求項14】
請求項2から10のいずれか一項に規定のT細胞受容体アルファ鎖及び/又は請求項2から10のいずれか一項に規定のT細胞受容体ベータ鎖をコードする核酸配列を含む核酸分子。
【請求項15】
治療における使用のための、請求項1から11のいずれか一項に記載の操作されたT細胞、請求項12に記載の組成物、請求項13に記載のTCRタンパク質若しくは抗体ベース受容体タンパク質又は請求項14に記載の核酸分子。
【請求項16】
前記操作されたT細胞、組成物、TCRタンパク質、抗体ベース受容体タンパク質又は核酸分子が、腫瘍、好ましくは固形腫瘍又は液性腫瘍の処置における使用のためのものである、請求項15に記載の使用のための操作されたT細胞、組成物、TCRタンパク質、抗体ベース受容体タンパク質又は核酸分子。
【請求項17】
前記腫瘍が、ヒトROPN1及び/又はヒトROPN1Bを発現する腫瘍細胞を含み、好ましくは前記腫瘍が、請求項1に規定のT細胞エピトープと複合体化しているか、又は前記T細胞エピトープに結合しているMHC分子を含む腫瘍細胞を含む、請求項16に記載の使用のための操作されたT細胞、組成物、TCRタンパク質、抗体ベース受容体タンパク質又は核酸分子。
【請求項18】
前記固形腫瘍が、乳がん、好ましくはトリプルネガティブ乳がん、又は皮膚がん、好ましくは黒色腫である、請求項16又は17に記載の使用のための操作されたT細胞、組成物、TCRタンパク質、抗体ベース受容体タンパク質又は核酸分子。
【請求項19】
前記液性腫瘍が、骨髄腫、好ましくは多発性骨髄腫、白血病、好ましくは急性骨髄性白血病、又はリンパ腫である、請求項16又は17に記載の使用のための操作されたT細胞、組成物、TCRタンパク質、抗体ベース受容体タンパク質又は核酸分子。
【請求項20】
ヒト主要組織適合複合体(MHC)分子、好ましくはHLA-A*02分子と複合体を形成する、ヒトロッポリン-1A(ROPN1)又はヒトロッポリン-1B(ROPN1B)の単離又は精製されたペプチドであって、前記ペプチドが、配列番号4、配列番号43、配列番号23、配列番号56及び配列番号24のいずれか1つのアミノ酸配列からなる、単離又は精製されたペプチド。
【請求項21】
ヒトロッポリン-1A(ROPN1)及び/又はヒトロッポリン-1B(ROPN1B)を発現するように操作されている、操作された細胞、好ましくは操作されたがん細胞。
【請求項22】
腫瘍に罹患しているか、又は罹患していることが疑われる対象を処置する方法であって、治療有効量の、請求項1から11のいずれか一項に記載の操作されたT細胞、請求項12に記載の組成物、請求項13に記載のTCRタンパク質若しくは抗体ベース受容体タンパク質又は請求項14に記載の核酸分子を、それを必要とする対象に投与する工程を含む、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はT細胞治療の分野におけるものである。より特に、本発明は、ヒトロッポリン-1A(ROPN1)及び/又はヒトロッポリン-1B(ROPN1B)のT細胞エピトープ、ROPN1及びROPN1Bに対して結合特異性を有するT細胞受容体(TCR)又は抗体ベース受容体、並びにROPN1及び/又はROPN1Bのエピトープに結合する(又はそれに対して結合特異性を有する)T細胞受容体又は抗体ベース受容体を発現するように操作された(発現するように強制された)操作された(遺伝子改変された)T細胞に関する。操作されたT細胞は、免疫治療において、例えば固形腫瘍、例えば乳がん、皮膚がん、又は血液腫瘍、例えば骨髄腫若しくはリンパ腫の処置において使用されうる。
【背景技術】
【0002】
養子T細胞治療(AT)は、一般に、患者の血液からのT細胞の単離、予め定義された抗原特異性を有するキメラ抗原受容体(CAR)又はTCRのいずれかをコードする遺伝子の挿入、これらの細胞の拡大増殖、及び操作された自家T細胞製造物の患者への再注入に依拠する。この戦略は、主に腫瘍、標的抗原及び受容体のタイプに依存して、変動的な成功と共に異なる腫瘍タイプに応用されている(Debetsら、Semin Immunol.28(1):10~21頁(2016), doi:10.1016/j.smim.2016.03.002; Johnsonら、Cell Res.27(1):38~58頁(2017)、doi:10.1038/cr.2016.154;及びSadelainら、Nature.545(7655):423~431頁(2017)、doi:10.1038/nature22395)。
【0003】
CAR T細胞での処置は、B細胞悪性腫瘍についてブレークスルーと考えられており(客観的奏効率(OR):95%)、CD19指向性CAR T細胞製造物(即ち、Kymriah、Yescarta、Tecartus)は最近、これらの悪性腫瘍を処置するためにFDA及びEMAにより承認された。残念なことに、固形腫瘍を処置するためのCAR T細胞の有効性は、血液学的悪性腫瘍について観察される有効性から重大に後れを取っている。CARは細胞外標的を認識する(即ち、全ての標的の約30%をカバーする)一方、TCRは細胞外標的及び細胞内標的の両方を認識する(即ち、全ての標的の100%をカバーする)ことは注目に値する。実際に、一部の事例においてTCR操作されたT細胞は、固形腫瘍タイプの他に血液腫瘍タイプを処置するために使用された場合に明確な臨床応答を明らかにした(Kunertら、Front Immunol. 4(November):1~16頁(2013)、doi:10.3389/fimmu.2013.00363;及びJohnsonら、Cell Res.27(1):38~58頁(2017)、doi:10.1038/cr.2016.154)。例えば、黒色腫、滑膜肉腫及び多発性骨髄腫においてそれぞれ55%、61%及び80%のORが、NY-ESO1特異的TCRを発現するT細胞でのATについて観察されている(Robbinsら、Clin Can Res doi: 10.1158/1078-0432; Rapoportら、Nat Med.21(8):914~921頁(2015)、doi:10.1038/nm.3910)。
【0004】
一部の臨床的成功にもかかわらず、CAR T細胞又はTCR T細胞のいずれであれ、操作されたT細胞での処置についての大きな課題は、処置関連毒性を予防することである。そのような毒性は、オンターゲット毒性(即ち、操作されたT細胞が腫瘍組織の外側で同一の標的を認識すること)の他にオフターゲット毒性(即ち、操作されたT細胞が、腫瘍組織の外側でそれらの同族標的に非常に類似した標的を認識すること)を含む(Debetsら、Semin Immunol.28(1):10~21頁(2016)、doi:10.1016/j.smim.2016.03.002)。処置関連毒性は一般に標的抗原及びTCRの選択に依存する。例えば、CAIX抗原を標的化するCARは重度のオンターゲット毒性を結果としてもたらし(Lamersら、Mol Ther.21(4):904~912頁(2013)、doi:10.1038/mt.2013.17)、MAGE-A3抗原を標的化する親和性増強されたTCRは重度のオフターゲット毒性を伴った(Cameronら、Sci Transl Med.5(197):197ra103-197ra103 (2013)、doi:10.1126/scitranslmed.3006034;及びMorganら、J Immunother.36(2):133~151頁(2014)、doi:10.1097/CJI.0b013e3182829903.Cancer)。
【0005】
特には固形腫瘍の処置についての、別の課題は、ATの有効性を制限しうる、少数から多数までの腫瘍細胞の範囲に及ぶ、腫瘍組織中の標的抗原の不均質な発現である(Majznerら、Cancer Discov.8(10):1219~1226頁(2018)、doi:10.1158/2159-8290.CD-18-0442)。
【0006】
同様に固形腫瘍の処置に関する、最後の課題は、細胞内抗原の研究の進展が不十分であることに帰せられる、患者の大きいコホートの処置を可能にする標的が現行で欠如していることである。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Debetsら、Semin Immunol.28(1):10~21頁(2016)、doi:10.1016/j.smim.2016.03.002
【非特許文献2】Johnsonら、Cell Res.27(1):38~58頁(2017)、doi:10.1038/cr.2016.154
【非特許文献3】Sadelainら、Nature.545(7655):423~431頁(2017)、doi:10.1038/nature22395
【非特許文献4】Kunertら、Front Immunol. 4(November):1~16頁(2013)、doi:10.3389/fimmu.2013.00363
【非特許文献5】Robbinsら、Clin Can Res doi: 10.1158/1078-0432
【非特許文献6】Rapoportら、Nat Med.21(8):914~921頁(2015)、doi:10.1038/nm.3910
【非特許文献7】Lamersら、Mol Ther.21(4):904~912頁(2013)、doi:10.1038/mt.2013.17
【非特許文献8】Cameronら、Sci Transl Med.5(197):197ra103-197ra103 (2013)、doi:10.1126/scitranslmed.3006034
【非特許文献9】Morganら、J Immunother.36(2):133~151頁(2014)、doi:10.1097/CJI.0b013e3182829903.Cancer
【非特許文献10】Majznerら、Cancer Discov.8(10):1219~1226頁(2018)、doi:10.1158/2159-8290.CD-18-0442
【非特許文献11】Kunertら、Oncoimmunology、7(1):e1378842 (2017)
【非特許文献12】Goversら、J Immunol、193(10):5315~26頁(2014)
【非特許文献13】Lamersら、Hum Gene Ther Methods、25(6):345~357頁(2014)
【非特許文献14】Kabat、Sequences of Proteins of Immunological Interest、5th edit. NIH Publication no. 91-3242 U.S. Department of Health and Human Services (1991)
【非特許文献15】Chothia J. Mol. Biol. 196 (1987)、901~917頁
【非特許文献16】Chothia、Nature 342 (1989)、877~883頁
【非特許文献17】Chamesら、J Immunol、169(2)、1110~1118頁、2002
【非特許文献18】Sela、Science 166 (1969)、1365
【非特許文献19】Laver、Cell 61 (1990)、553~536頁
【非特許文献20】Liljebladら、Glyco J 17、323~329頁(2000)
【非特許文献21】Heeley、Endocr Res 28、217~229頁(2002)
【非特許文献22】Kunertら、J Immunol;197(6):2541~2552頁(2016)、doi:10.4049/jimmunol.1502024
【非特許文献23】Kunert A、Clin Cancer Res、2017
【非特許文献24】「REMINGTON'S PHARMACEUTICAL SCIENCE」、17th edition、1985
【非特許文献25】Van de Griendら、Transplantation.、38(4):401~406頁(1984)
【非特許文献26】Hammerlら、Clin Cancer Res. 2019. doi:10.1158/1078-0432.CCR-19-0285
【非特許文献27】http://www.cta.lncc.br/
【非特許文献28】Hammerlら、Trends Immunol. 2018;xx:1~16頁、doi:10.1016/j.it.2018.09.004
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【非特許文献36】Butlerら、Clin Cancer Res.;13(6):1857~1867頁(2007)、doi:10.1158/1078-0432
【非特許文献37】Kunertら、J Immunol;197(6):2541~2552頁(2016), doi:10.4049/jimmunol.1502024
【非特許文献38】http://www.imgt.org
【非特許文献39】Lamersら、Cancer Gene Ther.;13(5):503~509頁(2006)、doi:10.1038/sj.cgt.7700916
【非特許文献40】Straetemans G、Clin Dev Immunol、2012
【非特許文献41】https://prosite.expasy.org/scanprosite/
【非特許文献42】Rapoportら、Nat Med.21(8):914~921頁(2015)、doi:10.1038/nm.3910
【非特許文献43】Robbinsら、Clin Cancer Res. 2015、doi:10.1158/1078-0432.CCR-14-2708
【非特許文献44】Butlerら、Sci Transl Med.3(80):80ra34-80ra34 (2011)、doi:10.1126/scitranslmed.3002207
【非特許文献45】Engelsら、Cancer Cell.23(4):516~526頁(2013)、doi:10.1016/j.ccr.2013.03.018
【非特許文献46】Kammertoensら、Cancer Cell.23(4):429~431頁(2013)、doi:10.1016/j.ccr.2013.04.004
【非特許文献47】Spechtら、Cancer Res.79(4 Supplement):P2-09-13 LP-P2-09-13 (2019)、doi:10.1158/1538-7445.SABCS18-P2-09-13
【非特許文献48】Robbins P、J Immunol、2008
【非特許文献49】Robbins P、J Clin Oncol、2011
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記の課題を合わせると、腫瘍選択的及び免疫原性標的抗原、それらのエピトープ並びに対応するTCRを同定及び活用する明確な必要性が当技術分野において存在する。処置関連毒性を回避するが、それと同時に、がん患者の大きいコホートの処置を可能にする免疫原性の及び均質に発現される標的及びエピトープに対するT細胞応答を保証するような仕方で標的、エピトープ及びTCRを選択することは不可避的な重要性をもつ。
【0009】
本発明の目的は、ある特定のがん種において均質に及び高頻度に発現される標的抗原に由来する腫瘍選択的及び免疫原性T細胞エピトープを提供すること、並びに厳格なエピトープ特異性を有する(即ち、他の、非常に類似したエピトープに対して交差反応性ではない)TCRを発現するように操作されたT細胞を用いてそのようなエピトープを標的化することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、ヒトロッポリン-1A(ROPN1)及び/又はヒトロッポリン-1B(ROPN1B)のT細胞エピトープに結合するT細胞受容体(TCR)又は抗体ベース受容体、例えばキメラ抗原受容体(CAR)を発現するように操作されており;前記T細胞エピトープが、配列番号4、配列番号43、配列番号23、配列番号56及び配列番号24のうちの1つから選択されるアミノ酸配列からなる、操作されたT細胞を提供する。
【0011】
本発明はまた、ヒトロッポリン-1B(ROPN1B)及び/又はヒトロッポリン-1A(ROPN1)のT細胞エピトープ、例えばエピトープ1~11のうちの1つ又は複数、好ましくはエピトープ4(FLY-Aエピトープ)、10(FLY-Bエピトープ)又は11(EVIエピトープ)、より好ましくはエピトープ4(FLY-A)に結合するT細胞受容体(TCR)、又は抗体ベース受容体(例えばキメラ抗原受容体(CAR))を発現するように操作されている、操作されたT細胞を提供する。
【0012】
本発明者らは、乳がん、例えばトリプルネガティブ乳がん(TNBC)、及び皮膚がん、例えば皮膚黒色腫(SKCM)の両方において(実施例1並びに
図1及び
図2を参照)、そしてまたある特定の血液学的悪性腫瘍、例えば骨髄腫(例えば多発性骨髄腫(MM))において高い及び均質な発現を有する、腫瘍制限的な発現を有するT細胞標的抗原としてヒトロッポリン-1A(ROPN1)及びロッポリン-1B(ROPN1B)を同定した。本発明者らは、腫瘍選択的な及び安全な(即ち、ROPN1及びROPN1B以外のいかなるタンパク質の部分でもない)11個のヒトROPN1及びROPN1B T細胞エピトープのセットを同定し(実施例1、
図3、Table 1(表1))、それを更なるスクリーニングの後に9個のヒトROPN1及びROPN1B T細胞エピトープのセットに低減させた。これらのROPN1及びROPN1Bエピトープは、前記エピトープに対して生成されたT細胞応答により立証されるように、高度に免疫原性である(Table 2(表2))。更に、本発明者らは、ROPN1Bのエピトープ、配列番号1(MLNエピトープ(エピトープ1))に結合するTCRを単離し、TCRアルファ及びベータ鎖の配列を決定した(実施例1、
図4、及び配列番号10~19、21、22)。このTCRは、T細胞へと操作された場合に機能的であり、MLNエピトープを特異的に認識することが更に確立された(実施例1、
図5)。
【0013】
本発明者らはまた、2つの更なるROPN1Bエピトープ(配列番号23(「FLY-Bエピトープ」又は「エピトープ10」としても参照される)及び配列番号24(「EVIエピトープ」又は「エピトープ11」)としても参照される)を同定した。本発明者らは、エピトープ4(配列番号4、「エピトープ4」又は「FLY-Aエピトープ」としても参照される)、10及び11に結合するT細胞受容体(TCR)を更に同定した。これらのTCRは、T細胞に形質導入された場合に、同族エピトープの高感度の及び特異的な認識を結果としてもたらし、並びに有効な腫瘍細胞殺傷を結果としてもたらす遺伝子操作されたT細胞を提供する(実施例2、
図7+)。エピトープ4(FLY-A)、10(FLY-B)及び11(EVI)のいずれかに結合するTCR(導入)遺伝子を発現するように遺伝子操作されたT細胞、並びにそのようなTCRは、本発明の非常に好ましい実施形態である。
【0014】
本発明の操作されたT細胞の好ましい実施形態において、前記T細胞は、配列番号4及び/又は配列番号43のT細胞エピトープに結合するTCRを発現するように操作されており;前記TCRは、(i)配列番号37のCDR3を含む超可変領域を含むT細胞受容体アルファ鎖、及び(ii)配列番号42のCDR3を含む超可変領域を含むT細胞受容体ベータ鎖を含み;前記T細胞受容体アルファ及びベータ鎖の前記超可変領域はCDR1及びCDR2を更に含む。
【0015】
本発明の操作されたT細胞の別の好ましい実施形態において、前記TCRアルファ鎖の前記超可変領域は、- 配列番号35のCDR1;- 配列番号36のCDR2;- 配列番号37のCDR3を含み;前記T細胞受容体ベータ鎖の前記超可変領域は、- 配列番号40のCDR1;- 配列番号41のCDR2;- 配列番号42のCDR3を含む。
【0016】
本発明の操作されたT細胞の別の好ましい実施形態において、前記T細胞受容体アルファ鎖は配列番号44のアミノ酸配列を含み、前記T細胞受容体ベータ鎖は配列番号45のアミノ酸配列を含み;好ましくは前記T細胞受容体アルファ鎖は配列番号34のアミノ酸配列(任意選択的に、
図14に示されているリーダー配列を有しないか、又は代替的なリーダー配列を有する)を含み、前記T細胞受容体ベータ鎖は配列番号39のアミノ酸配列(任意選択的に、
図14に示されているリーダー配列を有しないか、又は代替的なリーダー配列を有する)を含む。
【0017】
代替的な実施形態において、前記T細胞は、配列番号23及び/又は配列番号56のT細胞エピトープに結合するTCRを発現するように操作されており;前記TCRは、(i)配列番号50のCDR3を含む超可変領域を含むT細胞受容体アルファ鎖、及び(ii)配列番号55のCDR3を含む超可変領域を含むT細胞受容体ベータ鎖を含み;前記T細胞受容体アルファ及びベータ鎖の前記超可変領域はCDR1及びCDR2を更に含む。
【0018】
本発明の前記操作されたT細胞の好ましい実施形態において、前記TCRアルファ鎖の前記超可変領域は、- 配列番号48のCDR1;- 配列番号49のCDR2;- 配列番号50のCDR3を含み;前記T細胞受容体ベータ鎖の前記超可変領域は、- 配列番号53のCDR1;- 配列番号54のCDR2;- 配列番号55のCDR3を含む。
【0019】
本発明の前記操作されたT細胞の別の好ましい実施形態において、前記T細胞受容体アルファ鎖は配列番号57のアミノ酸配列を含み、前記T細胞受容体ベータ鎖は配列番号58のアミノ酸配列を含み;好ましくは前記T細胞受容体アルファ鎖は配列番号47のアミノ酸配列(任意選択的に、
図14に示されているリーダー配列を有しないか、又は代替的なリーダー配列を有する)を含み、前記T細胞受容体ベータ鎖は配列番号52のアミノ酸配列(任意選択的に、
図14に示されているリーダー配列を有しないか、又は代替的なリーダー配列を有する)を含む。
【0020】
別の代替的な実施形態において、前記T細胞は、配列番号24のT細胞エピトープに結合するTCRを発現するように操作されており;前記TCRは、(i)配列番号63のCDR3を含む超可変領域を含むT細胞受容体アルファ鎖、及び(ii)配列番号68のCDR3を含む超可変領域を含むT細胞受容体ベータ鎖を含み;前記T細胞受容体アルファ及びベータ鎖の前記超可変領域はCDR1及びCDR2を更に含む。
【0021】
本発明の前記操作されたT細胞の好ましい実施形態において、前記TCRアルファ鎖の前記超可変領域は、- 配列番号61のCDR1;- 配列番号62のCDR2;- 配列番号63のCDR3を含み;前記T細胞受容体ベータ鎖の前記超可変領域は、- 配列番号66のCDR1;- 配列番号67のCDR2;- 配列番号68のCDR3を含む。
【0022】
本発明の前記操作されたT細胞の別の好ましい実施形態において、前記T細胞受容体アルファ鎖は配列番号69のアミノ酸配列を含み、前記T細胞受容体ベータ鎖は配列番号70のアミノ酸配列を含み;好ましくは前記T細胞受容体アルファ鎖は配列番号60のアミノ酸配列(任意選択的に、
図14に示されているリーダー配列を有しないか、又は代替的なリーダー配列を有する)を含み、前記T細胞受容体ベータ鎖は配列番号65のアミノ酸配列(任意選択的に、
図14に示されているリーダー配列を有しないか、又は代替的なリーダー配列を有する)を含む。
【0023】
本発明のT細胞の別の実施形態において、前記T細胞受容体アルファ鎖は配列番号21のアミノ酸配列を含み、及び/又は前記T細胞受容体ベータ鎖は配列番号22のアミノ酸配列を含み;好ましくは前記T細胞受容体アルファ鎖は配列番号11のもの(任意選択的に、
図6に示されているリーダー配列を有しないか、若しくは代替的なリーダー配列を有する)であり、及び/又は前記T細胞受容体ベータ鎖は配列番号16のもの(任意選択的に、
図6に示されているリーダー配列を有しないか、若しくは代替的なリーダー配列を有する)である。
【0024】
本発明の前記操作されたT細胞の別の好ましい実施形態において、前記T細胞エピトープは、ヒト主要組織適合複合体(MHC)分子、好ましくはHLA-A*02分子と複合体を形成する。
【0025】
本発明の操作されたT細胞の好ましい実施形態において、前記T細胞は、(i)細胞内、膜発現される又は分泌される(例えば分泌性)タンパク質をコードする更なる(例えば、非TCR又は非CAR)導入遺伝子を発現するように追加的に操作されている(例えばKunertら、Oncoimmunol、7(1):e1378842 (2017)を参照)。例として、前記操作されたT細胞は、異なるT細胞エピトープに結合する(即ち二重に標的化する)更なるTCR若しくは更なる抗体ベース受容体を発現するように追加的に操作されうるか、又は前記操作されたT細胞は、TCRでも抗体でもない分泌可能なタンパク質を発現するように追加的に操作されうる。
【0026】
別の態様において、本発明は、TCRタンパク質又は抗体ベース受容体タンパク質であって、前記TCRタンパク質又は抗体ベース受容体タンパク質が、本発明の操作されたT細胞の態様及び/又は実施形態のいずれか1つにおいて規定されているTCR又は抗体ベース受容体を含み;好ましくは前記TCRが、本明細書に開示されているT細胞受容体アルファ鎖及びT細胞受容体ベータ鎖を有し;好ましくは前記TCRタンパク質又は抗体ベース受容体タンパク質が、抗体薬物コンジュゲート(ADC)の部分であるか、又は可溶性TCR(の部分)である、TCRタンパク質又は抗体ベース受容体タンパク質を提供する。
【0027】
別の態様において、本発明は、本発明の操作されたT細胞の態様及び/又は実施形態のいずれか1つにおいて規定されているT細胞受容体アルファ鎖及びT細胞受容体ベータ鎖である、T細胞受容体(TCR)タンパク質を提供する。
【0028】
実施形態において、TCRタンパク質又は抗体ベース受容体タンパク質は、膜発現されるか、可溶性であるか、又はより大きい可溶性化合物、例えば抗体-薬物コンジュゲート、例えばTCR様抗体-薬物コンジュゲートの部分である。本発明はまた、本発明のTCRタンパク質又は抗体ベース受容体タンパク質を含む抗体-薬物コンジュゲート、例えばTCR様抗体薬物コンジュゲートを提供する。
【0029】
別の態様において、本発明は、本発明の操作されたT細胞の態様及び/又は実施形態のいずれか1つにおいて規定されている、T細胞受容体(TCR)アルファ鎖又はベータ鎖タンパク質を提供する。
【0030】
別の態様において、本発明は、ヒトロッポリン-1A(ROPN1)及び/又はヒトロッポリン-1B(ROPN1B)のT細胞エピトープに結合し、前記T細胞エピトープが、配列番号4、配列番号43、配列番号23、配列番号56及び配列番号24のうちの1つから選択されるアミノ酸配列からなる、T細胞受容体(TCR)タンパク質又は抗体ベース受容体、例えばキメラ抗原受容体(CAR)、タンパク質を提供する。
【0031】
別の態様において、本発明は、本発明の操作されたT細胞の態様及び/又は実施形態のいずれか1つにおいて規定されている(i)T細胞受容体アルファ鎖及び/若しくはT細胞受容体ベータ鎖又は(ii)TCRタンパク質若しくは抗体ベース受容体をコードする核酸配列を含む核酸分子を提供する。
【0032】
別の態様において、本発明は、配列番号4、配列番号43、配列番号23、配列番号56及び配列番号24のうちの1つから選択されるアミノ酸配列からなるT細胞エピトープに特異的な、又はそれに結合するTCR又は抗体ベース受容体、例えばCAR、タンパク質をコードする核酸配列を含む核酸分子を提供する。
【0033】
別の態様において、本発明は、本明細書に開示されているTCR可変アルファ及びベータ鎖のアミノ酸配列に影響することなく(例えば膜貫通及び/又は細胞内ドメイン中の1つ又は複数のアミノ酸残基の付加、欠失及び/又は置換を介して)改変されているTCR導入遺伝子を提供する(例えばGoversら、J Immunol、193(10):5315~26頁(2014))。
【0034】
別の態様において、本発明は、本明細書に開示されている任意のエピトープ、好ましくはエピトープ4、10又は11に特異的なTCR又は抗体ベース受容体、例えばCAR、タンパク質をコードする核酸配列を含む核酸分子を提供する。
【0035】
本発明の前記核酸分子の好ましい実施形態において、前記核酸分子は、発現ベクター、例えばプラスミドの部分である。
【0036】
本発明の前記核酸分子の別の好ましい実施形態において、前記核酸分子は、レトロウイルスプラスミド発現ベクター、例えばpMP71ベクターの部分である。
【0037】
実施形態において、本明細書に開示されている前記核酸分子は、T細胞、例えば処置される対象から得られたT細胞にトランスフェクトされる。
【0038】
本発明のT細胞の好ましい実施形態において、前記T細胞は、ヒトROPN1B及び/又はROPN1の前記T細胞エピトープに結合する前記TCR又は前記抗体ベース受容体をコードする構築物を発現するように遺伝子操作されている。
【0039】
本発明のT細胞の別の好ましい実施形態において、前記T細胞は、ヒトROPN1B及び/又はROPN1の前記T細胞エピトープに結合する前記TCR又は前記抗体ベース受容体(例えばCAR)をコードするヌクレオチド配列(好ましくは発現ベクター、例えば宿主染色体DNAへの前記ヌクレオチド配列の組み込みを可能とする発現ベクター又は染色体外に留まる発現ベクター中に任意選択的に含まれるヌクレオチド構築物、例えばDNA構築物の形態)を発現するように遺伝子操作されている。
【0040】
本発明のT細胞の別の好ましい実施形態において、前記T細胞は、ヒトROPN1B及び/又はROPN1のT細胞エピトープに結合する前記TCRを発現するように遺伝子操作されており、前記TCRは、前記TCRの表面発現及び/又はエピトープ特異的機能を増強するための改変(例えば改変は、1つ又は複数のアミノ酸残基の付加、欠失及び/又は置換である)を有するか、又は有しない。
【0041】
本発明のT細胞の別の好ましい実施形態において、前記T細胞エピトープは、ヒト主要組織適合複合体(MHC)分子、好ましくはHLA-A*02分子と複合体を形成するペプチドである。
【0042】
本発明のT細胞の別の好ましい実施形態において、前記T細胞エピトープは、配列番号1~9、20、23~32、43又は56のうちの1つ(好ましくは配列番号4、23、24、43又は56のうちの1つ)及びそれに対して少なくとも70%、又は少なくとも80%の配列同一性を有する配列から選択されるアミノ酸配列からなる。配列番号20、43及び56のエピトープモチーフにおいて、「X」は、任意のアミノ酸残基、例えばアラニンであることができる。
【0043】
本発明のT細胞の一実施形態において、前記T細胞エピトープは、配列番号1並びに配列番号1の6位(Glu)、8位(Glu)及び/又は9位(Val)におけるアミノ酸残基が別のアミノ酸残基により置換されているその改変されたアミノ酸配列から選択されるアミノ酸配列からなる。より好ましい実施形態において、前記T細胞エピトープは、配列番号4並びに配列番号4の1位(F)、2位(L)及び/又は9位(V)におけるアミノ酸残基が別のアミノ酸残基により置換されているその改変されたアミノ酸配列から選択されるアミノ酸配列からなる。別の好ましい実施形態において、前記T細胞エピトープは、配列番号23並びに配列番号23の1位(F)及び/又は9位(V)におけるアミノ酸残基が別のアミノ酸残基により置換されているその改変されたアミノ酸配列から選択されるアミノ酸配列からなる。
【0044】
本発明のT細胞の別の好ましい実施形態において、前記T細胞はCD8+ T細胞である。好ましくは、前記T細胞は、前記TCRを発現するように遺伝子操作されている。好ましくは、本発明のT細胞は、好ましくは前記T細胞の表面上に、前記TCRを発現する。前記TCRは、それにより、本明細書に開示されているROPN1及び/又はROPN1Bエピトープに特異的に反応することができる。
【0045】
本発明のT細胞の別の好ましい実施形態において、前記T細胞はヒトT細胞である。
【0046】
別の態様において、本明細書に開示されている前記T細胞は、自家T細胞治療における使用のためのものである。
【0047】
別の態様において、本発明は、数多くの本明細書に開示されているT細胞を含む、T細胞の集合物を提供する。
【0048】
別の態様において、本発明は、本明細書に開示されている操作されたT細胞、及び医薬的に許容される賦形剤、例えば担体又は希釈剤を含む、医薬組成物を提供する。
【0049】
別の態様において、本発明は、治療における使用のための又は医薬としての使用のための、本発明の操作されたT細胞、本発明の医薬組成物、本発明のTCRタンパク質又は本発明の核酸分子を提供する。
【0050】
別の態様において、本発明は、治療、例えば自家T細胞治療における使用のための、好ましくは固形腫瘍又は液性腫瘍の処置における使用のための、本明細書に開示されている(遺伝子操作された)T細胞を提供する。
【0051】
好ましい実施形態において、本発明の操作されたT細胞、医薬組成物、TCRタンパク質又は核酸分子は、腫瘍、好ましくは固形腫瘍又は液性腫瘍の処置における使用のためのものである。より好ましくは、腫瘍は、悪性腫瘍、即ち、がんである。
【0052】
本発明の使用のためのT細胞、医薬組成物、TCRタンパク質又は核酸分子の好ましい実施形態において、前記腫瘍は、ヒトROPN1及び/又はROPN1Bを発現する腫瘍細胞を含み、好ましくは前記腫瘍は、本明細書に開示されているT細胞エピトープ、好ましくは配列番号4、23、24、43又は56からなる群から選択されるT細胞エピトープと複合体化した、又はそれに結合したMHC分子を含む腫瘍細胞を含み、より好ましくは前記T細胞エピトープは配列番号4である。
【0053】
本発明の使用のためのT細胞、医薬組成物、TCRタンパク質又は核酸分子の別の好ましい実施形態において、前記固形腫瘍は、乳がん、好ましくはトリプルネガティブ乳がん(TNBC)、又は皮膚がん、好ましくは黒色腫、例えば皮膚黒色腫(SKCM)である。
【0054】
本発明の使用のためのT細胞、医薬組成物、TCRタンパク質又は核酸分子の別の好ましい実施形態において、前記液性腫瘍は、骨髄腫、好ましくは多発性骨髄腫、白血病、好ましくは急性骨髄性白血病、又はリンパ腫である。
【0055】
別の態様において、本発明は、本発明のT細胞に関する先行又は後続する態様及び/又は実施形態のいずれか1つにおいて規定されているT細胞受容体(TCR)タンパク質又は抗体ベース受容体タンパク質(例えばCARタンパク質)を提供する。同様に、本発明は、本発明のT細胞受容体(TCR)タンパク質のTCRアルファ鎖及び/又はTCRベータ鎖タンパク質を提供する。
【0056】
本発明のTCRタンパク質又は抗体ベース受容体タンパク質の好ましい実施形態において、前記TCRタンパク質又は抗体ベース受容体タンパク質は、ヒトロッポリン-1B(ROPN1B)及び/又はヒトロッポリン-1A(ROPN1)のT細胞エピトープに結合し、好ましくは前記T細胞エピトープは、配列番号1~9、20、23~32、43若しくは56のうちのいずれか1つ(好ましくは配列番号4、23、24、43若しくは56のうちの1つ)のアミノ酸配列又はそれに対して少なくとも70%若しくは少なくとも80%の配列同一性を有する配列からなる。
【0057】
本発明のTCRタンパク質又は抗体ベース受容体タンパク質の好ましい別の実施形態において、前記TCRタンパク質又は前記抗体ベース受容体タンパク質は、(i)配列番号1並びに配列番号1の6位(Glu)、8位(Glu)及び/若しくは9位(Val)におけるアミノ酸残基が別のアミノ酸残基により置換されているその改変されたアミノ酸配列、(ii)配列番号4若しくは配列番号4の1位(F)、2位(L)及び/若しくは9位(V)におけるアミノ酸残基が別のアミノ酸残基により置換されているその改変されたアミノ酸配列、(iii)配列番号23若しくは配列番号23の1位(F)及び/若しくは9位(V)におけるアミノ酸残基が別のアミノ酸残基により置換されているその改変されたアミノ酸配列、又は(iv)配列番号24から選択されるアミノ酸配列からなるT細胞エピトープに結合する。
【0058】
本発明のTCRタンパク質の一実施形態において、前記TCRタンパク質は、(i)配列番号14のCDR3を含む超可変領域を含むT細胞受容体アルファ鎖、及び(ii)配列番号19のCDR3を含む超可変領域を含むT細胞受容体ベータ鎖を含み、前記T細胞受容体アルファ及びベータ鎖の前記超可変領域はCDR1及びCDR2を更に含む。
【0059】
本発明のTCRタンパク質の別の実施形態において、前記TCRアルファ鎖の前記超可変領域は、- 配列番号12のCDR1;- 配列番号13のCDR2;- 配列番号14のCDR3を含み;並びに/又は前記T細胞受容体ベータ鎖の前記超可変領域は、- 配列番号17のCDR1;- 配列番号18のCDR2;及び- 配列番号19のCDR3を含む。
【0060】
本発明のTCRタンパク質の別の実施形態において、前記T細胞受容体アルファ鎖は配列番号21のアミノ酸配列を含み、及び/又は前記T細胞受容体ベータ鎖は配列番号22のアミノ酸配列を含み;好ましくは前記T細胞受容体アルファ鎖は配列番号11のものであり、及び/又は前記T細胞受容体ベータ鎖は配列番号16のものである。
【0061】
本発明のTCRタンパク質の好ましい実施形態において、前記TCRは、(i)配列番号37のCDR3を含む超可変領域を含むT細胞受容体アルファ鎖、及び(ii)配列番号42のCDR3を含む超可変領域を含むT細胞受容体ベータ鎖を含み;前記T細胞受容体アルファ及びベータ鎖の前記超可変領域はCDR1及びCDR2を更に含む。
【0062】
本発明のTCRタンパク質の別の好ましい実施形態において、前記TCRアルファ鎖の前記超可変領域は、- 配列番号35のCDR1;- 配列番号36のCDR2;- 配列番号37のCDR3を含み;前記T細胞受容体ベータ鎖の前記超可変領域は、- 配列番号40のCDR1;- 配列番号41のCDR2;- 配列番号42のCDR3を含む。
【0063】
本発明のTCRタンパク質の別の好ましい実施形態において、前記T細胞受容体アルファ鎖は配列番号44のアミノ酸配列を含み、前記T細胞受容体ベータ鎖は配列番号45のアミノ酸配列を含み;好ましくは前記T細胞受容体アルファ鎖は配列番号34のアミノ酸配列を含み、前記T細胞受容体ベータ鎖は配列番号39のアミノ酸配列を含む。
【0064】
本発明のTCRタンパク質の別の好ましい実施形態において、前記TCRは、(i)配列番号50のCDR3を含む超可変領域を含むT細胞受容体アルファ鎖、及び(ii)配列番号55のCDR3を含む超可変領域を含むT細胞受容体ベータ鎖を含み;前記T細胞受容体アルファ及びベータ鎖の前記超可変領域はCDR1及びCDR2を更に含む。
【0065】
本発明のTCRタンパク質の別の好ましい実施形態において、前記TCRアルファ鎖の前記超可変領域は、- 配列番号48のCDR1;- 配列番号49のCDR2;- 配列番号50のCDR3を含み;前記T細胞受容体ベータ鎖の前記超可変領域は、- 配列番号53のCDR1;- 配列番号54のCDR2;- 配列番号55のCDR3を含む。
【0066】
本発明のTCRタンパク質の別の好ましい実施形態において、前記T細胞受容体アルファ鎖は配列番号57のアミノ酸配列を含み、前記T細胞受容体ベータ鎖は配列番号58のアミノ酸配列を含み;好ましくは前記T細胞受容体アルファ鎖は配列番号47のアミノ酸配列を含み、前記T細胞受容体ベータ鎖は配列番号52のアミノ酸配列を含む。
【0067】
本発明のTCRタンパク質の別の好ましい実施形態において、前記TCRは、(i)配列番号63のCDR3を含む超可変領域を含むT細胞受容体アルファ鎖、及び(ii)配列番号68のCDR3を含む超可変領域を含むT細胞受容体ベータ鎖を含み;前記T細胞受容体アルファ及びベータ鎖の前記超可変領域はCDR1及びCDR2を更に含む。
【0068】
本発明のTCRタンパク質の別の好ましい実施形態において、前記TCRアルファ鎖の前記超可変領域は、- 配列番号61のCDR1;- 配列番号62のCDR2;- 配列番号63のCDR3を含み;前記T細胞受容体ベータ鎖の前記超可変領域は、- 配列番号66のCDR1;- 配列番号67のCDR2;- 配列番号68のCDR3を含む。
【0069】
本発明のTCRタンパク質の別の好ましい実施形態において、前記T細胞受容体アルファ鎖は配列番号69のアミノ酸配列を含み、前記T細胞受容体ベータ鎖は配列番号70のアミノ酸配列を含み;好ましくは前記T細胞受容体アルファ鎖は配列番号60のアミノ酸配列を含み、前記T細胞受容体ベータ鎖は配列番号65のアミノ酸配列を含む。
【0070】
本発明の抗体ベース受容体、例えばCAR、タンパク質の好ましい実施形態において、前記抗体ベース受容体タンパク質は配列番号4のエピトープに結合し;好ましくは前記抗体ベース受容体タンパク質は、配列番号35、36、37、40、41及び42からなる群から選択される1つ又は複数のCDR、好ましくは全てを含む。本発明の前記抗体ベース受容体タンパク質の他の実施形態において、少なくとも配列番号37及び/又は配列番号42が存在する。
【0071】
本発明の抗体ベース受容体、例えばCAR、タンパク質の好ましい実施形態において、前記抗体ベース受容体タンパク質は配列番号23のエピトープに結合し、好ましくは前記抗体ベース受容体タンパク質は、配列番号48、49、50、53、54及び55からなる群から選択される1つ又は複数のCDR、好ましくは全てを含む。本発明の前記抗体ベース受容体タンパク質の他の実施形態において、少なくとも配列番号50及び/又は配列番号55が存在する。
【0072】
本発明の抗体ベース受容体、例えばCAR、タンパク質の好ましい実施形態において、前記抗体ベース受容体タンパク質は配列番号24のエピトープに結合し、好ましくは前記抗体ベース受容体タンパク質は、配列番号61、62、63、66、67及び68からなる群から選択される1つ又は複数のCDR、好ましくは全てを含む。本発明の前記抗体ベース受容体タンパク質の他の実施形態において、少なくとも配列番号63及び/又は配列番号68が存在する。
【0073】
本発明のTCRタンパク質又は抗体ベース受容体タンパク質の好ましい実施形態において、前記TCRタンパク質又は抗体ベース受容体タンパク質は、単離又は精製されたTCRタンパク質又は抗体ベース受容体タンパク質である。
【0074】
本発明のT細胞又はTCRタンパク質の一実施形態において、前記TCRアルファ及びベータ鎖は、1つ又は複数のヌクレオチド配列、例えば、以下に限定されないが、それぞれ配列番号10及び15において提供されるヌクレオチド配列によりコードされ、並びに翻訳されたタンパク質は配列番号11のTCRアルファ鎖可変配列及び配列番号16のTCRベータ鎖可変配列を含む。本発明の操作されたT細胞又はTCRタンパク質の好ましい実施形態において、前記TCRアルファ及びベータ鎖は、1つ又は複数のヌクレオチド配列、例えば、以下に限定されないが、それぞれ配列番号33及び38において提供されるヌクレオチド配列によりコードされ、並びに翻訳されたタンパク質は配列番号44のTCRアルファ鎖可変配列及び配列番号45のTCRベータ鎖可変配列を含む。本発明のT細胞又はTCRタンパク質の別の好ましい実施形態において、前記TCRアルファ及びベータ鎖は、1つ又は複数のヌクレオチド配列、例えば、以下に限定されないが、それぞれ配列番号46及び51において提供されるヌクレオチド配列によりコードされ、並びに翻訳されたタンパク質は配列番号57のTCRアルファ鎖可変配列及び配列番号58のTCRベータ鎖可変配列を含む。本発明のT細胞又はTCRタンパク質の別の好ましい実施形態において、前記TCRアルファ及びベータ鎖は、1つ又は複数のヌクレオチド配列、例えば、以下に限定されないが、それぞれ配列番号59及び64において提供されるヌクレオチド配列によりコードされ、並びに翻訳されたタンパク質は配列番号69のTCRアルファ鎖可変配列及び配列番号70のTCRベータ鎖可変配列を含む。
【0075】
本発明はまた、ヒト主要組織適合複合体(MHC)分子、好ましくはHLA-A*02分子と複合体を形成する、ヒトロッポリン-1B(ROPN1B)及び/又はヒトロッポリン-1A(ROPN1)の単離又は精製されたペプチド(T細胞エピトープ)を提供する。
【0076】
本発明の前記単離又は精製されたペプチドの好ましい実施形態において、前記ペプチドは、配列番号4、配列番号43、配列番号23、配列番号56及び配列番号24のいずれか1つのアミノ酸配列からなる。
【0077】
本発明のペプチドの一実施形態において、前記ペプチドは、配列番号1~9、20、23~32、43若しくは56のうちのいずれか1つ(好ましくは配列番号4、23、24、43若しくは56のうちの1つ)のアミノ酸配列若しくはそれに対して少なくとも70%若しくは少なくとも80%の配列同一性を有する配列、又は上記に規定されている配列番号1、4、23及び24の改変されたアミノ酸配列からなる。
【0078】
本発明はまた、本発明のヒトロッポリン-1B(ROPN1B)及び/又はヒトロッポリン-1A(ROPN1)のペプチド(T細胞エピトープ)と複合体化した単離又は合成されたヒトMHC分子を提供する。
【0079】
本発明はまた、本発明のヒトロッポリン-1B(ROPN1B)及び/若しくはヒトロッポリン-1A(ROPN1)のペプチド並びに/又は本発明のMHC分子を含む、免疫原性組成物を提供し、前記組成物は、医薬的に許容される賦形剤を更に含み;前記組成物はアジュバントを任意選択的に更に含み;好ましくは前記組成物は、ワクチン接種における使用のためのもの、より好ましくは本明細書に開示されている腫瘍、例えば乳がん又は皮膚がんに対する対象のワクチン接種における使用のためのものである。
【0080】
本発明はまた、ヒトロッポリン-1B(ROPN1B)及び/又はヒトロッポリン-1A(ROPN1)を発現するように操作されている操作された細胞、好ましくは操作されたがん細胞を提供する。
【0081】
本発明はまた、表面発現及び/若しくはエピトープ特異的機能を増強するための改変を有するか、若しくは有しない本発明のTCRタンパク質又は抗体ベース受容体タンパク質のTCRアルファ及び/若しくはTCRベータ鎖をコードする核酸、又は本発明のヒトロッポリン-1B(ROPN1B)及び/若しくはヒトロッポリン-1A(ROPN1)のペプチドをコードする核酸を提供する。
【0082】
提供されるのはまた、腫瘍に罹患しているか、又は罹患していることが疑われる対象を処置する方法であって、治療有効量の本発明によるT細胞又は本発明の医薬組成物をそれを必要とする対象に投与する工程を含む、方法である。
【0083】
本発明はまた、固形腫瘍に罹患しているか、又は罹患していることが疑われる対象において本明細書に開示されているT細胞を本明細書に開示されているT細胞エピトープに結合させる方法であって、本明細書に開示されているT細胞を前記対象に投与する工程を含む、方法を提供する。これらの実施形態において、前記対象における固形腫瘍は、例えば表面抗原として、それらの表面上にエピトープを発現する。本発明はまた、エピトープ特異的T細胞を製造する方法であって、前記エピトープが、本明細書に開示されているヒトロッポリン-1B(ROPN1B)及び/又はヒトロッポリン-1A(ROPN1)エピトープであり、方法が、任意選択的にHLA提示される、ROPN1B及び/又はROPN1エピトープをその細胞表面上に提示するエピトープ発現細胞を、T細胞の集団と接触させることによりエピトープ特異的T細胞を生成する工程であって、T細胞の前記集団が自家宿主T細胞又は同種宿主T細胞の集団のいずれかである、工程、ROPN1B及び/又はROPN1エピトープを提示する細胞に結合するT細胞、好ましくはCD8+ T細胞を選択する工程、並びに任意選択的に、そのように提供される選択されたT細胞を濃縮及び/又は繁殖させる工程を含む、方法を提供する。追加的に、方法は、TCRコード遺伝子をシークエンシングする工程、並びにレシピエントT細胞において導入遺伝子として前記遺伝子をクローニングして、ROPN1B及び/又はROPN1エピトープ特異的TCRを発現する遺伝子操作されたT細胞を提供する工程を含んでもよい。
【0084】
本発明はまた、対象における腫瘍(例えば固形腫瘍又は液性腫瘍)の処置用の医薬の生産における本発明のT細胞、本発明の医薬組成物、本発明のTCRタンパク質、本発明の抗体ベース受容体タンパク質又は本発明の核酸分子の使用を提供する。
【0085】
本発明はまた、ヒトロッポリン-1B(ROPN1B)のT細胞エピトープに結合するT細胞受容体(TCR)を発現する操作されたT細胞であって、前記TCRが、(i)配列番号14のCDR3を含む超可変領域を含むT細胞受容体アルファ鎖、及び(ii)配列番号19のCDR3を含む超可変領域を含むT細胞受容体ベータ鎖を含み、前記T細胞受容体アルファ及びベータ鎖の前記超可変領域がCDR1及びCDR2を更に含む、操作されたT細胞を提供する。
【0086】
本発明はまた、ヒトロッポリン-1B(ROPN1B)及び/又はヒトロッポリン-1A(ROPN1)のT細胞エピトープに結合するT細胞受容体(TCR)又は抗体ベース受容体(例えばCAR)を発現する操作されたT細胞を提供する。
【0087】
別の態様において、本発明は、(任意選択的に単離又は精製された)免疫細胞、例えばT細胞であって、前記T細胞が、ヒトロッポリン-1A(ROPN1)及び/又はヒトロッポリン-1B(ROPN1B)のT細胞エピトープに結合するT細胞受容体(TCR)を発現し、前記T細胞エピトープが、配列番号4、配列番号43、配列番号23、配列番号56及び配列番号24のうちの1つから選択されるアミノ酸配列からなる、(任意選択的に単離又は精製された)免疫細胞、例えばT細胞を提供する。前記態様の一実施形態において、免疫細胞、好ましくはT細胞は、前記T細胞受容体(TCR)を発現するように操作されていないが、例えば、前記TCR、例えば本明細書に開示されている前記TCRタンパク質をネイティブに発現する。
【0088】
他の実施形態において、免疫細胞、好ましくはT細胞は、例えば前記TCR導入遺伝子の他に、異なる(即ち非TCR)導入遺伝子を発現するように追加的に操作されていてもよく、並びに/又は前記TCR導入遺伝子は、前記T細胞の増強された抗腫瘍応答を可能にするために(例えば、前記TCRアルファ及びベータ可変ドメインに影響することなく1つ又は複数のアミノ酸残基の付加、欠失及び/又は置換を介して)改変されていてもよい(Goversら、J Immunol、193(10):5315~26頁(2014)を参照)。
【0089】
別の態様において、本発明は、前記免疫細胞を含む医薬組成物を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0090】
【
図1A】ROPN1及びROPN1Bは健常組織において発現されない。バーは、TPM値による、及び6つの異なる健常組織データベースのRNAseqに基づく健常組織におけるROPN1及びROPN1B遺伝子発現を示す(塗りつぶしたボックスはデータベースにおける組織の存在を指し示し、詳細について実施例1、材料及び方法を参照)、橙色の破線は、閾値として使用されたNY-ESO1の発現を示す。遺伝子及びタンパク質発現分析において、NY-ESO1を対照とした。
【
図1B】ROPN1及びROPN1Bは健常組織において発現されない。(重ね合わせられた)ドットは、健常組織試料のcDNAライブラリーを使用したqPCRによる48の健常組織におけるGAPDHと比較した倍数変化として表されるROPN1及びROPN1Bの遺伝子発現を示す。遺伝子及びタンパク質発現分析において、NY-ESO1を対照とした。
【
図1C】ROPN1及びROPN1Bは健常組織において発現されない。パネルは、組織マイクロアレイ(TMA、n=63)におけるROPN1抗体(ROPN1及びROPN1Bの両方を検出する)を使用した健常組織の代表的な免疫染色を示す。遺伝子及びタンパク質発現分析において、NY-ESO1を対照とした。
【
図2-1】
図2Aは、ROPN1及びROPN1Bは、TNBCにおいて高い及び均質な発現を示す。棒グラフは、ROPN1及びROPN1Bの弱(TPM 1~10)、中(TPM 10~100)及び強(TPM >100)遺伝子発現を有するTNBC腫瘍の比率を示す(TCGA、RNAseq、n=122;詳細について実施例1、材料及び方法を参照)。遺伝子及びタンパク質発現分析において、NY-ESO1を対照とした。
図2Bは、ROPN1及びROPN1Bは、TNBCにおいて高い及び均質な発現を示す。棒グラフは、ROPN1及びROPN1Bの弱、中及び強免疫染色を有するTNBC腫瘍の比率を示し(TMA、n=338);スコア付けは、実施例1、材料及び方法に記載されるように行う。遺伝子及びタンパク質発現分析において、NY-ESO1を対照とした。
図2Cは、ROPN1及びROPN1Bは、TNBCにおいて高い及び均質な発現を示す。棒グラフは、ROPN1及びROPN1Bタンパク質について陽性の1~9%、10~25%、26~50%又は51~100%の腫瘍細胞を有するTNBC腫瘍の比率を示す。遺伝子及びタンパク質発現分析において、NY-ESO1を対照とした。
図2Dは、ROPN1及びROPN1Bは、TNBCにおいて高い及び均質な発現を示す。パネルは、ROPN1及びROPN1Bの弱、中及び強免疫染色を有するTNBC腫瘍の代表的なものである。遺伝子及びタンパク質発現分析において、NY-ESO1を対照とした。
【
図2-2】
図2Eは、ROPN1及びROPN1Bは、TNBCにおいて高い及び均質な発現を示す。棒グラフは、14の腫瘍タイプにおけるROPN1Bの弱、中及び強遺伝子発現を有する腫瘍の比率を示す(パネルAと同様、TCGA、RNAseqデータ、n=6670)。遺伝子及びタンパク質発現分析において、NY-ESO1を対照とした。略語:BLCA、膀胱尿路上皮癌;BRCA、乳癌;COAD、結腸腺癌;GBM、神経多形神経膠芽腫;KIRC、腎明細胞癌;LIHC、肝細胞癌;LUAD、肺腺癌;LUSC、肺扁平上皮細胞癌;OV、卵巣漿液性嚢胞腺癌;PAAD、膵臓腺癌;PRAD、前立腺癌;SKCM、皮膚黒色腫;THCA、甲状腺癌;UCEC、子宮体部子宮内膜癌。
図2Fは、ROPN1及びROPN1Bは、TNBCにおいて高い及び均質な発現を示す。棒グラフは、14の腫瘍タイプにおけるROPN1Bの弱、中及び強遺伝子発現を有する腫瘍の比率を示す(パネルAと同様、TCGA、RNAseqデータ、n=6670)。遺伝子及びタンパク質発現分析において、NY-ESO1を対照とした。略語:BLCA、膀胱尿路上皮癌;BRCA、乳癌;COAD、結腸腺癌;GBM、神経多形神経膠芽腫;KIRC、腎明細胞癌;LIHC、肝細胞癌;LUAD、肺腺癌;LUSC、肺扁平上皮細胞癌;OV、卵巣漿液性嚢胞腺癌;PAAD、膵臓腺癌;PRAD、前立腺癌;SKCM、皮膚黒色腫;THCA、甲状腺癌;UCEC、子宮体部子宮内膜癌。
【
図3-1】
図3Aは、免疫原性の、安全な及びHLA-A2に結合するROPN1及びROPN1Bエピトープの予測及び選択。インシリコ予測、ペプチド溶出、並びに非交差反応性及びHLA-A2結合についてのチェックに基づくROPN1及びROPN1Bペプチド選択のフローチャート(各々のツール/アッセイに関する詳細について実施例1、材料及び方法、並びにエピトープの非交差反応性に関する詳細についてTable 1(表1)を参照)。
図3Bは、免疫原性の、安全な及びHLA-A2に結合するROPN1及びROPN1Bエピトープの予測及び選択。スピン上(左、サイトスピン染色)又は懸濁状態(右、フローサイトメトリー)で生育されたROPN1B過剰発現あり及びなしのMDA-MB231 TNBC細胞株のROPN1B染色(赤は過剰発現細胞株のGFP陽性細胞の%を指し示し、青は陰性対照を指し示す)。ヒストグラムは、MDA-MB231-ROPN1B+GFP細胞から溶出されたペプチドの総数(y軸)及びそれらの長さ(x軸)を示す(下)。
図3Cは、免疫原性の、安全な及びHLA-A2に結合するROPN1及びROPN1Bエピトープの予測及び選択。HLA-A2結合安定性についての独特の(非交差反応性の)エピトープの突き合わせた比較。試験は、単一のペプチド濃度(25μM)を使用して行い;結果を、ベースライン(ペプチドを加えていないT2細胞)と比べた抗HLA-A2-PEの蛍光強度(MFI)中央値の倍数変化として表す(n=6)。ペプチドなしと比べて>1.1の倍数変化を有するペプチドを、滴定された量(範囲:31nM~31μM)を使用して試験した。Gp100ペプチドYLEを陽性対照として、及びNY-ESOペプチドSLLを参照ペプチドとして使用した。
【
図3-2】
図3Dは、免疫原性の、安全な及びHLA-A2に結合するROPN1及びROPN1Bエピトープの予測及び選択。代表的な滴定曲線をパネルDに示す。
図3Eは、免疫原性の、安全な及びHLA-A2に結合するROPN1及びROPN1Bエピトープの予測及び選択。エピトープ順位付けの表形式での概要。インプットは、対照/参照ペプチド;免疫原性又は溶出についての予測、及び交差反応性試験後に得られた14個のROPN1及びROPN1Bペプチドを含んでいた(パネルAを参照)。表は、左から右へ、各々のツールのインシリコスコア(順位として提供される);HLA-A2結合パラメーター、例えば最小安定性、振幅(ベースライン点について補正された最も高いデータ点)、及びEC50値(M;GraphPad software 5を用いて算出される);並びにエピトープの最終順位付け(閾値:参照ペプチドYLEの振幅の半分;及び1E-05を下回るEC50値)を含む。閾値に達しなかったペプチドは、それらのEC50値に基づいて順位付けした。
【
図4-1】
図4Aは、ROPN1及びROPN1Bエピトープ特異的CD8+ T細胞並びにそれらのTCRの濃縮。フローチャートは、TCR遺伝子の同定に向けたT細胞濃縮からの個々の工程を示す。
図4Bは、ROPN1及びROPN1Bエピトープ特異的CD8+ T細胞並びにそれらのTCRの濃縮。箱ひげ図は、エピトープ1ロードaAPCとの4又は5サイクルの共培養後に濃縮されたエピトープ1(配列番号1)刺激T細胞のIFNy産生を示す(詳細について実施例1、材料及び方法を参照)。
図4Cは、ROPN1及びROPN1Bエピトープ特異的CD8+ T細胞並びにそれらのTCRの濃縮。エピトープ1ロードaAPCとの5サイクルの共培養後のT細胞の代表的なペプチド:MHC染色。pMHC+ CD8 T細胞を、fluorescence minus one(FMO;pMHCを除いて全てのマーカーを含有する)に基づいてゲーティングした。
【
図4-2】
図4Dは、ROPN1及びROPN1Bエピトープ特異的CD8+ T細胞並びにそれらのTCRの濃縮。フローサイトメトリープロットは、pMHC(MLN/A2複合体)を有するパネルBからのT細胞(対照)の他に、IFNy捕捉後の異なるクローン(クローン1~8)に由来するT細胞の染色を示す(詳細について実施例1、材料及び方法を参照)。黄色の四角を有する試料(クローン2及びクローン8)を5'RACE PCR及びTCRシークエンシングのために使用した。
【
図4-3】
図4Eは、ROPN1及びROPN1Bエピトープ特異的CD8+ T細胞並びにそれらのTCRの濃縮。フローサイトメトリープロットは、MLN/A2-pMHCマルチマーでのFACS選別後のpMHCを有するパネルBからのT細胞の他に、対応するfluorescence minus one(FMO)対照の染色を示す。黄色の四角を有する試料を5'RACE PCR及びシークエンシングのために使用した。
【
図4-4】
図4Fは、ROPN1及びROPN1Bエピトープ特異的CD8+ T細胞並びにそれらのTCRの濃縮。ゲルは、TCRアルファ及びベータ遺伝子についての5'RACE生成物のバンドを示す。+は陽性PCR対照を指し示し;α及びβは、限界希釈及びpMHC FACS選別(F)集団からのクローン2及び8についてのTCRアルファ及びベータ遺伝子についてのRACE生成物を指し示す。右のゲルは、ネステッドプライマーを使用した追加の増幅工程を示す。
図4Gは、ROPN1及びROPN1Bエピトープ特異的CD8+ T細胞並びにそれらのTCRの濃縮。同定されたT細胞受容体V-アルファ(IMGT命名法に従ってTRAV及びJ;黄)並びにベータ遺伝子(TRBV、D及びJ;青)の他に、パネルE及びFからのT細胞からクローニングされた対応するC遺伝子(開始及び終了アミノ酸);パーセンテージは全ての同定されたコロニーの比率を反映している。
【
図5】A: ROPN1(B) MLN TCRを発現するように遺伝子操作されたT細胞の厳格なエピトープ特異性。2人の健常ドナーからのT細胞におけるMLN-TCR1及びMLN-TCR2(MLN-TCR2は、配列番号11のアルファ鎖及び配列番号16のベータ鎖を有するTCRである)の遺伝子移入、並びにフローサイトメトリーにより決定されたMLN/A2-pMHCマルチマーの結合。B: ROPN1(B) MLN TCRを発現するように遺伝子操作されたT細胞の厳格なエピトープ特異性。2人の健常ドナーからのMLN-TCR2 T細胞のMACS選別;パネルは、pMHCでのMACS選別の前(左)及び後(右)のMLN/A2-pMHC結合を示す。C: ROPN1(B) MLN TCRを発現するように遺伝子操作されたT細胞の厳格なエピトープ特異性。滴定された量のエピトープ1(MLN)及びgp100ペプチドでの刺激でのMLN-TCR2 T細胞(2人のドナーのうちの1人)の代表的なIFNγ応答(n=3)。D: ROPN1(B) MLN TCRを発現するように遺伝子操作されたT細胞の厳格なエピトープ特異性。棒グラフは、ROPN1Bからのエピトープ1(MLN)の認識でのMLN-TCR2 T細胞によるIFNγ産生を示し、しかしエピトープがROPN1に由来する場合にはIFNg産生はなかったことを示す(n=3からの代表的なグラフ)。E: ROPN1(B) MLN TCRを発現するように遺伝子操作されたT細胞の厳格なエピトープ特異性。棒グラフは、突然変異なしの同族ペプチドと比べて各々の個々の位置にアラニン突然変異を有する同族ペプチドに応答したMLN-TCR2 T細胞によるIFNγ産生を示す(n=3からの代表的なグラフ)。
【
図6-1】別個の領域について注釈された配列番号10、11、15及び16。リーダー配列、TRAV、TRAJ及びTRACドメインを配列番号10(ヌクレオチド配列)及び11(アミノ酸配列)のTCRアルファ鎖について示している。リーダー配列、TRBV、TRBD、TRBJ及びTRBCドメインを配列番号15(ヌクレオチド配列)及び16(アミノ酸配列)のTCRベータ鎖について示している。CDR1~3領域を太字で示している。
【
図7-1】
図7A(
図3の拡張):免疫原性、安全性及びHLA-A2に対する結合による予測及び溶出されたROPN1及びROPN1Bエピトープの選択。インシリコ予測、ペプチド溶出(全部でn=28)の他に、非交差反応性についてのチェック(n=19)、HLA-A2についての最小結合の特徴(n=11)、並びにHLA-A2結合の振幅による順位付けに基づくROPN1及びROPN1Bペプチド選択のフローチャート(各々のツール/アッセイに関する詳細について実施例1、材料及び方法、並びにエピトープの非交差反応性に関する詳細についてTable 3(表3)を参照)。
図7B(
図3の拡張):免疫原性、安全性及びHLA-A2に対する結合による予測及び溶出されたROPN1及びROPN1Bエピトープの選択。HLA-A2結合についての独特の(非交差反応性の)エピトープの突き合わせた比較。試験は、単一のエピトープ濃度(31μM)を使用して行い;結果を、ベースライン(エピトープを加えていないT2細胞)と比べた結合した抗HLA-A2-PEの蛍光強度(MFI)中央値の倍数変化として表す;エピトープ当たりn=2/3。
図7C(
図3の拡張):免疫原性、安全性及びHLA-A2に対する結合による予測及び溶出されたROPN1及びROPN1Bエピトープの選択。エピトープなしと比べて>1.1の倍数変化を有するエピトープを、滴定された量のエピトープ(範囲:31nM~31μM)を使用してT2細胞で更に試験した。代表的な滴定曲線を示している。Gp100ペプチド(YLE)を参照エピトープとして使用した。
【
図7-2】
図7D(
図3の拡張):免疫原性、安全性及びHLA-A2に対する結合による予測及び溶出されたROPN1及びROPN1Bエピトープの選択。エピトープ並びにそれらの(左から右へ):インシリコスコア(順位として提供される);HLA-A2結合スコア(即ち、最小安定性(上記を参照)、振幅(参照エピトープの振幅との対比)、及びEC50値(モル濃度;GraphPad software 5を用いて算出される));並びにエピトープの最終順位付けの概要。エピトープが以下の3つの基準:(1)ペプチドなしと比べて>1.1のHLA-A2結合安定性;(2)<5×10
-5MのEC50;並びに(3)参照ペプチドYLEと比べて>0.5の結合振幅(パネルB及びCを参照)を満たし、それらを実証した場合に、残りのエピトープ(n=11)を振幅値に従って順位付けした。
【
図8】ROPN1及びROPN1B特異的CD8+ T細胞の濃縮から、対応するTCRの感度及び特異性の試験までの個々の工程を含むフローチャート。模式図は、ROPN1N及びROP1NB特異的CD8+ T細胞が取得される方法を8つの工程において示し、対応するTCRは、感度及び特異性についてのインビトロ及びインビボアッセイに従って同定及び試験される。工程毎に、エピトープ特異的T細胞又はTCRが次の工程に進むために達成される必要がある採用基準を示している。各々の工程に到達するエピトープに対して方向付けられたT細胞又はTCRを太字で強調している。
【
図9-1】(
図4及び
図5の拡張)。ROPN1及びROPN1Bエピトープ特異的CD8+ T細胞の濃縮並びに対応するTCRの同定及び遺伝子移入。
図3Dにおいて順位付けされたROPN1及びROPN1Bエピトープを使用して、エピトープ特異的CD8+ T細胞の濃縮を開始した。配列番号1~9、23及び24を有するエピトープを鉛直方向に配置し、結果を水平方向に配置している。エピトープ毎の結果は(左から右へ)、(i)エピトープ特異的IFNg産生及び(ii)CD8+ T細胞のペプチド:MHC結合;FACS選別されたCD8+ T細胞のクローンTCRの配列;及び(iv)T細胞への遺伝子移入後のTCRの表面発現である。IFNgレベル(pg/ml)を、同族又はランダムエピトープをロードされたT2細胞でのT細胞刺激後24hにおいてELISAを用いて決定した。CD8+ T細胞によるpMHCの結合(%)を、ペプチド:MHC四量体での染色、及びフローサイトメトリー分析に従って決定した。TCR-V-アルファ(IMGT命名法に従ってTRAV及びJ;黄)並びにベータ遺伝子(TRBV、D及びJ;青)を、FACS選別されたpMHC+ T細胞からのcDNAの5'RACE PCRに従ってシークエンシングし;パーセンテージは、全ての同定されたコロニーの比率を反映している。TCR遺伝子をレトロウイルスにより形質導入し、その後にペプチド:MHCで染色した健常ドナーT細胞においてTCR発現を決定している。代表的なフロープロットを示している(2人のドナーのうちの1人)。エピトープ11(配列番号24)の場合、特異的ペプチド:MHC複合体はTCR T細胞の検出において非感受性のようであり、TCR-Vb7.1及びCD137に対して方向付けられた抗体での染色により置き換えた(後者は同族エピトープロードBSM細胞での48hの刺激後)。示しているのは、CD137応答を示した抗エピトープ11 TCRabである。詳細について、
図8、Table 4(表4)並びに実施例1、材料及び方法を参照。NAは、「該当せず」を意味し、即ち、T細胞又はTCRは、先行する工程の採用基準に達しなかった。
【
図10-1】(
図5の拡張)。ROPN1及びB制限的TCRを発現するように遺伝子操作されたT細胞の同族エピトープに対する感度。
図5においてTCR表面発現を示したROPN1及びROPN1Bエピトープを使用して同族エピトープに対する感度を試験した。配列番号1、4、8、23及び24を有するエピトープを鉛直方向に配置し、結果を水平方向に配置している。エピトープ毎の結果は(左から右へ)、(i)ROPN1又はROPN1Bトランスフェクト乳がん細胞株;及び(ii)滴定された量の同族エピトープをロードされたBSM細胞での刺激でのIFNg産生である。IFNgレベルをELISAで決定した(pg/ml)。(i)のための対照は、同族又はランダムエピトープをロードされたBSM細胞を含む。ROPN1又はROPN1BをトランスフェクトされたTNBC細胞株MM231に対するTCR T細胞反応性は、エピトープが内因性抗原プロセシング及び提示後に認識される度合いを提供する(換言すれば、エピトープは人工的なエピトープではない)。(ii)においてBSM細胞に1nM~30μMの範囲に及ぶ同族エピトープをロードした。EC50値はモル濃度で表され、GraphPad software 5を用いて算出され、同族エピトープに対するTCR T細胞の感度の度合いを表す。Gp100ペプチド(YLE)を参照ペプチドとして使用した。詳細について、
図8、Table 4(表4)並びに実施例1、材料及び方法を参照。NAは、「該当せず」を意味し、即ち、T細胞又はTCRは、先行する工程の採用基準に達しなかった。
【
図11】(
図5の拡張)。ROPN1及びB制限的TCRを発現するように遺伝子操作されたT細胞の厳格なエピトープ特異性。
図6において同族エピトープに対する高感度のTCR T細胞応答を示したROPN1及びROPN1Bエピトープを使用して同族エピトープに対する特異性を試験した。配列番号4及び23を有するエピトープを鉛直方向に配置し、結果を水平方向に配置している。エピトープ毎の結果は(左から右へ)、(i)単一のアミノ酸位置において突然変異した同族エピトープ;及び(ii)HLA-A2溶出ペプチドのライブラリーでの刺激でのIFNg産生である。BSM細胞に10mMのエピトープをロードし、24hの上清中のIFNgレベル(pg/ml)をELISAで測定した。(i)において、TCR T細胞を同族エピトープ又は単一アラニン置換(元々のエピトープにおいてアラニンの場合はグリシン置換)を有するエピトープで刺激した。IFNgレベルは、突然変異なしの同族エピトープへの応答と比べた平均%±SEMとして示している(n=3)。50%(破線)未満の応答は、TCR認識のために不可欠なアミノ酸(認識モチーフ:下線を引いたアミノ酸)を指し示す。ScanProSiteを使用してヒトタンパク質データベースに対して相同モチーフを検索し;これは試験されたTCRについて非同族マッチをもたらさなかった。(ii)において、TCR T細胞を114の異なるHLA-A2溶出ペプチドで刺激した。同族エピトープを陽性対照とした。IFNgレベルを平均±SEMとして示している(n=3)。詳細について
図8、Table 4(表4)並びに実施例1、材料及び方法を参照。NAは、「該当せず」を意味し、即ち、T細胞又はTCRは、先行する工程の採用基準に達しなかった。
【
図12】TCR操作されたT細胞によるROPN1A及びB陽性3D乳房腫瘍オルガノイド(tumoroid)の認識。
図7において同族エピトープに対する特異的TCR T細胞応答を示したROPN1及びROPN1Bエピトープを使用して3D乳房腫瘍オルガノイドに対する反応性を試験した。配列番号4及び23を有するエピトープを鉛直方向に配置し、結果を水平方向に配置している。エピトープ毎の結果は、乳がん細胞の3次元腫瘍オルガノイドモデルにおけるTCR T細胞のリアルタイムトラッキング及びモニタリングを含む。腫瘍オルガノイドは、ROPN1又はROPN1BトランスフェクトMM231細胞から誘導され、コラーゲンマトリックス中で生育され、その後にTCR T細胞を腫瘍オルガノイドの上に直接的に加えた。腫瘍細胞にGFP(ROPN1又はROPN1Bに連結されている;緑色を提供する)をトランスフェクトし、腫瘍オルガノイドの上への添加の前にHoechst(青色を提供する)でTCR T細胞を標識し、PI標識(赤色を提供する)を使用して細胞死をモニターした。TCR T細胞と腫瘍オルガノイドとの間の共培養を様々な時点において蛍光顕微鏡法によりモニターした。代表的な画像はt=0、24及び48hを示し;プロットは、0hと比べた48hにおけるGFP及びPIのシグナルにおける差異を示す。詳細について
図8、Table 4(表4)並びに実施例1、材料及び方法を参照。NAは、「該当せず」を意味し、即ち、T細胞又はTCRは、先行する工程の採用基準に達しなかった。
【
図13】免疫不全マウスにおけるTCR操作されたT細胞の養子移入後のROPN1陽性乳房腫瘍の退縮。マトリゲル中のROPN1陽性乳がん細胞(MM321)をNSGマウスの右脇腹にs.c.で移植した。腫瘍が触知可能(約200mm
3)となったときに、マウスをブスルファン(-3日目)、続いてシクロホスファミド(-2日目)のi.p.注射で前処置した。0及び3日目に、マウスにi.v.での各々15×10
6個のTCR又はMock操作されたヒトT細胞の2回の移入、続いて連続する8日間のs.c.でのIL-2注射を与えた(n=4/群)。T細胞への形質導入を新たに行い(0日目の移入)、IL15及びIL21と共に維持した(7日目の移入)。A: ウォーターフォールプロット(10日目を0日目と比べたもの)。B: 代表的な肉眼的な例。
【
図14-1】別個の領域について注釈されたROPN1及びROPN1Bエピトープ4(配列番号4)、10(配列番号23)及び11(配列番号24)に特異的なTCR配列。リーダー配列、TRAV、TRAJ及びTRACドメインを配列番号33、46、59(ヌクレオチド配列)及び34、47、60(アミノ酸配列)のTCRアルファ鎖について示している。リーダー配列、TRBV、TRBD、TRBJ及びTRBCドメインを配列番号38、51、64(ヌクレオチド配列)及び39、52、65(アミノ酸配列)のTCRベータ鎖について示している。CDR1~3領域を太字で示している。
【発明を実施するための形態】
【0091】
用語「操作された」は、T細胞に関して本明細書において使用される場合、それらの天然に存在する形態から改変されているT細胞への言及を含む。改変は、好ましくは、例えば、T細胞が、天然に存在する分子と比べて少なくとも1つのアミノ酸欠失、挿入若しくは置換を有するタンパク質を提供する操作された核酸配列を含むか、又は異種核酸配列を含む、遺伝子改変である。操作されたT細胞は、好ましくは、本明細書に開示されているTCR導入遺伝子を発現する。操作されたT細胞は、明示的に、天然に存在するT細胞ではない。用語「操作された」は、「組換え」と交換可能に使用可能であり、「組換え」は、遺伝子操作を通じて作られたことを意味する。本明細書において使用される場合、用語「操作された細胞」又は「遺伝子操作された細胞」は、対応する野生型細胞において見出されないか、又は野生型細胞において見出されない位置においてゲノムに挿入されている単一の核酸分子を少なくとも含む細胞を指し示すために使用される。例えば、操作された細胞は、細胞のゲノムに組み込まれているか、又は染色体外遺伝子エレメントとして存在する核酸発現ベクターを含むか、又は宿すものであってもよい。
【0092】
語句「T細胞受容体(TCR)又は抗体ベース受容体を発現するように操作された」は、操作されたT細胞に関して本明細書において使用される場合、TCR又は抗体ベース受容体が、(例えば1つ若しくは複数のアミノ酸残基の付加、欠失及び/若しくは置換を介して)遺伝子改変されている(Goversら、J Immunol、193(10):5315~26頁(2014)を参照)か、又はトランスジェニックである可能性を含み、TCR又は抗体ベース受容体が、親和性増強されているか、又はされていない可能性を含み、TCR又は抗体ベース受容体を発現するように操作された細胞が、例えば導入遺伝子の形態で、1つ又は複数の追加のTCR又は抗体ベース受容体を更に発現する可能性を含む。操作されたT細胞は、TCR又は抗体ベース受容体に加えて、細胞内の、膜発現される又は分泌可能なタンパク質をコードする(導入)遺伝子を更に発現してもよい(例えばKunertら、Oncoimmunology、7(1):e1378842 (2017))。例として、異なるエピトープに結合する更なるTCR(導入)遺伝子又は更なる抗体ベース受容体(導入)遺伝子が発現されてもよい。
【0093】
用語「天然に存在する」は、本明細書において使用される場合、天然において存在する物体への言及を含む。
【0094】
用語「T細胞」は、本明細書において使用される場合、様々な細胞媒介性免疫反応に参加する胸腺由来リンパ球への言及を含む。該用語は、ヘルパーT細胞(CD4+ T細胞)及び細胞傷害性T細胞(CTL、CD8+ T細胞)、例えば細胞溶解性T細胞、並びにそれらの様々なサブセットへの言及を含む。好ましくは、排他的ではないが、T細胞は、CD3+、CD8+ T細胞である。実施形態において、T細胞、又はT細胞の集合物は、本明細書に開示されているTCR導入遺伝子を用いるトランスフェクションに先立って、一般に、排他的ではないが、健常個体又はがん保有患者からの末梢血から単離又は精製される。用語「T細胞」及び「Tリンパ球」は、本明細書において交換可能に使用されうる。T細胞は、リンパ球として公知の白血球の群に属し、細胞媒介性免疫において中心的役割を果たす。それらは、T細胞受容体(TCR)と呼ばれるそれらの細胞表面上の受容体の存在により、他のリンパ球タイプ、例えばB細胞及びナチュラルキラー細胞から区別されうる。好ましくは、T細胞は、ヒトT細胞、例えば血液(末梢血単核細胞、PBMC)又は腫瘍組織(腫瘍浸潤性Tリンパ球、TIL)中に存在するヒトT細胞である。
【0095】
T細胞は、任意選択的に好適な改変後に、例えばTCRを発現するように操作された後に、免疫応答、例えばTCRが方向付けられたエピトープに対する細胞性免疫応答を生成又は媒介する能力を有する細胞である。好ましいT細胞は、TCRの内因性発現を欠如するように強制又は改変されており、細胞表面上にTCR導入遺伝子を発現して、関心対象のエピトープ、即ち、がん細胞により選択的に発現されるエピトープ、例えば本明細書に開示されるT細胞エピトープへのT細胞の再方向付けを可能にするように改変されうるT細胞である。
【0096】
T細胞のいくつかの異なるサブセットが発見されている。ヘルパーT細胞は、他の機能の中でも、形質細胞へのB細胞の成熟並びに細胞傷害性T細胞及びマクロファージの活性化を含む、免疫学的プロセスにおいて他の白血球を補助する。これらの細胞は、それらの表面上にCD4タンパク質を発現するためCD4+ T細胞として一般に公知であり、様々なサブセット、例えばヘルパーTタイプ1、2、17等に表現型的に及び機能的に区別されうる。ヘルパーT細胞は、抗原提示細胞(APC)の表面上に発現されるMHCクラスII分子(HLA-DP、DQ、DRとも称される)によりエピトープを提示された場合に活性化される。活性化されると、ヘルパーT細胞は、急速に分裂し、サイトカインと呼ばれる小さいタンパク質を分泌し、及び/又は能動免疫応答を調節若しくは補助する受容体を表面発現する。細胞傷害性T細胞は、ウイルスに感染した細胞及び腫瘍細胞を破壊する。これらの細胞は、それらの表面にCD8を発現するためCD8+ T細胞としても公知であり、そしてまた様々なサブセット、例えばT細胞傷害性タイプ1、2、17等に表現型的に及び機能的に区別されうる。これらの細胞は、身体のあらゆる有核細胞の表面上に存在するMHCクラスI分子(HLA-A、B、Cとも称される)と関連付けられるエピトープへの結合によりそれらの標的を認識する。
【0097】
当業者は、標準的な実験室手順を使用して、通常はインビトロ又はエクスビボで、T細胞をルーチンに単離及び調製することができる。例えば、T細胞は、周知の細胞分離システムを使用して対象の骨髄、末梢血、腫瘍の小片から単離されうる。実施形態において、T細胞は、対象からの末梢血単核細胞(PBMC)の試料中に存在する。好ましくは、本明細書に開示されているT細胞は、一般に、TCR導入遺伝子をレトロウイルスにより形質導入され、並びにサイトカイン、例えばIL-15及びIL-21の存在下で拡大増殖された、(例えば抗CD3及びCD28抗体を用いて)活性化されたT細胞である(Lamersら、Hum Gene Ther Methods、25(6):345~357頁(2014)において記載されている)。
【0098】
用語「T細胞受容体(TCR)」は、本明細書において使用される場合、T細胞受容体アルファ及びベータ遺伝子から産生され、並びにα-及びβ-TCR鎖と呼ばれる少なくとも2つの別々のペプチド鎖を含み、CD3分子と天然に複合体化してTCRの表面発現及び機能を提供しうるタンパク質複合体への言及を含む。TCR-abの構造は免疫グロブリン抗原結合断片(Fab)断片に類似しており、Fab断片は、1つの定常ドメイン及び1つの可変ドメインから各々なる抗体の重鎖及び軽鎖から構成される。TCRの各々の鎖は、免疫グロブリンスーパーファミリーのメンバーであり、1つのN末端免疫グロブリン(Ig)可変(V)ドメイン、1つのIg定常(C)ドメイン、膜貫通/細胞膜貫通領域、及びC末端における短い細胞質テイルを有する。用語「T細胞受容体の可変領域」は、本明細書において使用される場合、TCR鎖の可変ドメインへの言及を含み、可変(V)及び結合(Joining)(J)セグメント(TCRアルファの場合;それぞれ1~43及び1~58と番号付けされる、対応するV及びJアルファ遺伝子セグメントによりコードされる)、並びに可変(V)、多様性(Diversity)(D)及び結合(J)セグメント(TCRベータの場合;Dベータ1(1つの遺伝子セグメント)及びJベータ1(6つの遺伝子セグメント)又はDベータ2(1つの遺伝子セグメント)及びJベータ2(7つの遺伝子セグメント)のいずれかと組み合わせられた、1~42と番号付けされる対応するVベータ遺伝子セグメントによりコードされる)から構成される。TCRアルファ鎖及びベータ鎖の両方の可変領域は、ペプチド:MHC複合体(TCRの天然のリガンド)への結合のために認識される3つの超可変又は相補性決定領域(CDR)を有する。CDR1及び2はTCR-Vセグメントから構成される(TCRアルファ及びベータの両方の場合)一方、CDR3は、ヌクレオチド欠失及び挿入を含む、TCR-V、J(TCRアルファの場合)及びTCR-V、D、Jセグメント(TCRベータの場合)の融合物から構成される。CDR1及び2はMHCそれ自体に主に結合し、任意のTCRにとって最も独特であるCDR3はペプチド:MHC複合体に主に結合する。好ましくは、(Goversら、J Immunol、2014、193(10)、5315~5326頁(2014)において行われたように、)TCRは、前記TCRの表面発現及び/又はエピトープ特異的機能を増強するために膜貫通及び細胞内ドメイン中に改変(TCR-Vドメインに影響しない)を有するか、又は有しないヒトTCRである。
【0099】
用語「CDR」は、本明細書において用いられる場合、当技術分野において周知である「相補性決定領域」に関する。CDRは、免疫グロブリン又は抗原結合受容体(例えば、CAR及びTCR)の部分であり、前記分子の特異性を決定し、及び特異的なリガンドと接触する。CDRは、分子の最も可変的な部分であり、これらの分子の抗原結合多様性に寄与する。各々のVドメイン中に3つのCDR領域CDR1、CDR2及びCDR3がある。Ig由来領域のCDR領域は、「Kabat」(Sequences of Proteins of Immunological Interest、5th edit. NIH Publication no. 91-3242 U.S. Department of Health and Human Services (1991); Chothia J. Mol. Biol. 196 (1987)、901~917頁)又は「Chothia」(Nature 342 (1989)、877~883頁)に記載されるように決定されてもよい。好ましくは、本明細書において参照されるCDRは、(ヒト)T細胞CDR、例えばT細胞CDR1、T細胞CDR2又はT細胞CDR3である。
【0100】
好ましくは、本明細書において言及されている抗原結合受容体はTCRであるが、任意の他の受容体、例えば抗体ベース受容体の使用を除外しない。抗体ベース受容体の場合、本発明は、(Chamesら、J Immunol、169(2)、1110~1118頁、2002において取得及び記載されている)ペプチド:MHC複合体に対して特異性を有する抗体断片(Fab)又は一本鎖可変断片(scFv)を特に指す。本明細書に開示されている抗体ベース受容体は好ましくはTCR様抗体、即ち、ペプチド:MHC複合体に結合する抗原結合受容体である。好ましくは、抗体ベース受容体は(TCR様)CARである。
【0101】
一部の態様及び実施形態において、本発明は、本明細書に開示されているヒトロッポリン-1B(ROPN1B)及び/又はヒトロッポリン1-A(ROPN1)のT細胞エピトープに結合する(親和性増強された)TCR又は抗体ベース受容体、例えばCARを発現するように操作されている、操作されたT細胞を提供する。実施形態において、前記抗体ベース受容体は、抗体断片(Fab)又は一本鎖可変断片(scFv)の形態の結合ドメインを含む。実施形態において、前記親和性増強されたTCR又は抗体ベース受容体は、(i)配列番号12のCDR1;配列番号13のCDR2及び配列番号14のCDR3;若しくは配列番号17のCDR1;配列番号18のCDR2;及び配列番号19のCDR3、(ii)配列番号35のCDR1;配列番号36のCDR2;配列番号37のCDR3;及び/若しくは配列番号40のCDR1;配列番号41のCDR2;配列番号42のCDR3、(iii)配列番号48のCDR1;配列番号49のCDR2;配列番号50のCDR3;及び/若しくは配列番号53のCDR1;配列番号54のCDR2;配列番号55のCDR3、又は(iv)配列番号61のCDR1;配列番号62のCDR2;配列番号63のCDR3;及び/若しくは配列番号66のCDR1;配列番号67のCDR2;配列番号68のCDR3を必ずしも含まない。換言すれば、上述のCDR配列(例えば上述のCDR3配列)は、エピトープに対する受容体の親和性を増強するために1、2又は3つのアミノ酸残基付加、置換及び/又は欠失を含んでもよい。これらのバリアントは、親和性増強されたバリアントとしても参照され、本発明の部分である。
【0102】
用語「結合」は、本明細書において使用される場合、「抗原相互作用部位」と抗原との間の結合(相互作用)への言及を含む。用語「抗原相互作用部位」は、特異的な抗原又は特異的な抗原の群との特異的相互作用の能力を示すポリペプチドのモチーフを定義する。前記結合/相互作用はまた、「特異的な認識」を定義することが理解され、「特異的な認識」は、上記に説明されるように、6つのCDR領域(TCRアルファのCDR1~3及びTCRベータのCDR1~3)により定義可能なTCRabの場合におけるものである。用語「特異的に認識する」は、本発明に従って、受容体が、本明細書に開示されているROPN1及び/又はROPN1Bエピトープに対して特異的に相互作用及び/又は結合する能力を有することを意味する。TCRの抗原結合部分は、異なる結合強度ではあるが、異なるエピトープを認識し、それと相互作用し、及び/又はそれに結合することができる。これは、TCRの特異性、即ち、本明細書に開示されている抗原分子の特有の領域の間で識別するその能力に関する。その特異的な抗原との抗原相互作用部位の特異的相互作用は、例えば、TCRのオリゴマー化に起因して、細胞内シグナルの開始を結果としてもたらしうる。そのため、抗原相互作用部位のアミノ酸配列中の特有のモチーフ及び抗原は、それらの一次、二次又は三次構造の結果の他に、前記構造の二次的な改変の結果として互いに結合する。よって、用語「~に結合する」は、リニアエピトープに関するだけでなく、標的分子又はその部分の2つの領域からなるコンホメーショナルエピトープ、構造的エピトープ又は不連続エピトープにも関しうる。本発明の文脈において、コンホメーショナルエピトープは、ポリペプチドがネイティブなタンパク質にフォールディングした場合に分子の表面上で一緒になる、一次配列中で分離された2つ又はより多くの別々のアミノ酸配列により定義される(Sela、Science 166 (1969)、1365及びLaver、Cell 61 (1990)、553~536頁)。更に、用語「~に結合する」は、本発明の文脈において用語「~と相互作用する」と交換可能に使用される。特有の標的抗原決定因子に結合するTCRの抗原結合部分の能力は、酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)又は当業者が精通している他の技術、例えば、表面プラズモン共鳴(SPR)技術(BIAcore機器上で分析される)(Liljebladら、Glyco J 17、323~329頁(2000))、及び伝統的な結合アッセイ(Heeley、Endocr Res 28、217~229頁(2002))を通じて測定されうる。1つの実施形態において、無関連のエピトープへのTCRの結合の程度は、特にSPRにより測定された場合に、標的エピトープ(又は同族エピトープ)への前記TCRの結合の約10%よりも低い。ある特定の実施形態において、標的抗原に結合する抗原結合部分は、≦1mM、≦100nM、≦10nM、≦1nM、≦0.1nM、≦0.01nM、又は≦0.001nM(例えば、10-8M又はそれ未満、例えば、10-8M~10-13M、例えば、10-9M~10-13M)の解離定数(KD)を有する。用語「特異的結合」は、本発明に従って使用される場合、本発明において使用される分子が、類似した構造の(ポリ)ペプチドと交差反応しないか、又は本質的に交差反応しないことを意味する。調査されている一連のTCRの交差反応性は、例えば、対照として無関連のペプチド及び単一のアミノ酸位置において突然変異したペプチドを使用してTCR操作されたT細胞によるペプチド:MHC結合又はエピトープ特異的応答を評価することにより試験されてもよい(Kunert A、J Immunol、2016、及びKunert A、Clin Cancer Res、2017を参照)。関心対象のエピトープに結合するが、無関連のエピトープに結合しないか、又は本質的に結合しないTCRのみが、関心対象のエピトープ(及びそのため抗原)に特異的であると考えられ、本明細書において提供される方法に従って更なる研究のために選択される。より多くのアミノ酸位置が(突然変異したペプチドの分析に基づいて)不可欠であると実証されるほど、TCRの抗原結合部位はよりストリンジェント及び特異的である。これらの方法は、特に、構造的に及び/若しくは機能的に密接に関連する並びに/又は突然変異したペプチドを用いる結合研究、遮断及び競合研究を含んでもよい。結合及び機能研究はまた、TCR操作されたT細胞を使用するフローサイトメトリー分析、表面プラズモン共鳴(SPR、例えば、BIAcore(登録商標)を用いるもの)、放射性標識リガンド結合アッセイ及び/又は刺激アッセイを含む。
【0103】
抗原決定因子としても公知であるエピトープは、免疫系、特にT細胞により認識される抗原の部分である。例えば、エピトープは、TCRが結合する抗原の特有の部分である。エピトープは通常は非自己タンパク質であるが、(自己免疫疾患又はがんの場合におけるように)認識されうる宿主に由来する配列もまたエピトープである。本明細書に記載されているタンパク質抗原のエピトープは、それらの構造及びTCRとの相互作用に基づいて、コンホメーショナルエピトープ又はリニアエピトープであってもよい。
【0104】
用語「結合」は、本明細書において使用される場合、TCR-ペプチド:MHC特異的結合への言及を含み、TCRは、好ましくは抗原又はエピトープがMHC分子上に提示される場合に、T細胞エピトープ又は前記エピトープを含む抗原に対する結合特異性を有するか、又はそれに結合する能力を有する。この記載は、TCRがT細胞エピトープ又は標的抗原に(既に)結合していることを意味しないことを当業者は理解する。
【0105】
用語「抗原」は、本明細書において使用される場合、それに対する免疫応答が誘発される及び/又は方向付けられているエピトープを含む作用物質への言及を含む。本開示において、抗原は、任意選択的にプロセシング後に、抗原又は抗原若しくはそれに由来するエピトープを発現及び/若しくは提示する細胞に特異的な免疫応答を誘導するタンパク質分子であることが好ましい。用語「抗原」は特にタンパク質及びペプチドを含む。
【0106】
用語「エピトープ」は、本明細書において使用される場合、分子、例えば抗原中の抗原決定因子、即ち、特にMHC分子の文脈において提示される場合に、免疫系により認識される、例えば、T細胞により認識される分子、例えばタンパク質中の部分又はその断片への言及を含む。タンパク質、例えばヒトROPN1及び/又はROPN1Bのエピトープは、前記タンパク質の連続的な又は不連続の部分を含んでもよく、それぞれMHCクラスI又はIIに結合した場合に好ましくは8~11又は15~24アミノ酸残基の長さである。例えば、エピトープは、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23又は24アミノ酸残基の長さであることができる。本明細書に開示されているエピトープは好ましくはT細胞エピトープである。
【0107】
用語「ROPN1及び/又はROPN1B」は、本明細書において使用される場合、男性の生殖と関連付けられるタンパク質への言及を含む。ROPN1(本明細書においてロッポリン-1Aとしても参照される)及び/又はROPN1B(本明細書においてロッポリン-1Bとしても参照される)は、他の機能の中でも、線維鞘完全性及び精子運動性の調節に関与し、精子受精能獲得のために要求されるPKA依存性シグナル伝達において役割を果たす。好ましくは、本開示において、ROPN1及び/又はROPN1BはヒトROPN1及びROPN1Bであり、好ましい例はヒトROPN1A/ROPN1及びそのアイソフォームROPN1Bである。ヒトROPN1のアミノ酸配列はUniProtKBアクセッション番号Q9HAT0-1(最終更新日:2001年10月1日 - v2)の下でアクセス可能である。ヒトROPN1Bのアミノ酸配列はUniProtKBアクセッション番号Q9BZX4-1(最終更新日:2001年6月1日 - v1)の下でアクセス可能である。同定されたT細胞エピトープ(Table 1(表1)~Table 4(表4)、配列番号1~9、20、23~32、43及び56)の全てはヒトROPN1及び/又はROPN1Bのアミノ酸配列中に存在する。同定されたT細胞エピトープの一部はヒトROPN1Bのアミノ酸配列中に排他的に存在し、ヒトROPN1のアミノ酸配列中に存在せず、逆もまた成り立つ。
【0108】
用語「免疫応答」は、本明細書において使用される場合、抗原に対する統合された身体応答への言及を含み、好ましくは細胞性免疫応答又は細胞性の他に液性免疫応答を指す。免疫応答は、保護的/防護的/予防的及び/又は治療的なものであってもよい。
【0109】
用語「細胞性免疫応答」は、本明細書において使用される場合、MHCクラスI又はクラスIIの文脈において抗原(のエピトープ)を提示する細胞に方向付けられた細胞応答への言及を含む。
【0110】
好ましくは、本明細書に開示されている医学的方法において、免疫応答の標的は、ヒトROPN1及び/又はROPN1Bを発現する細胞(即ち、標的細胞)、好ましくは腫瘍又はがん細胞である。好ましくは、前記細胞は対象中にある。例えば、前記細胞は、ヒトROPN1及び/又はROPN1Bを発現する、並びにMHC分子、例えばMHCクラスI分子(例えばHLA-A、例えばHLA-A*02、分子)と複合体化したT細胞エピトープをその細胞表面上にディスプレイ又は提示する細胞であり、好ましくは前記T細胞エピトープは、配列番号1~9、20、23~32、43及び56のうちの1つ、好ましくは配列番号4、23、24、43又は56のうちの1つ、より好ましくは配列番号4、23又は24のうちの1つ、よりいっそう好ましくは配列番号4である。
【0111】
用語「主要組織適合複合体」及び対応する略語「MHC」は、本明細書において使用される場合、MHCクラスI及びMHCクラスII分子への言及を含む。MHC分子は、全ての脊椎動物において存在する遺伝子の複合体に関する。MHC分子は、免疫反応におけるT細胞による抗原提示細胞又は疾患細胞の認識、及びT細胞の活性化を可能にする重要なタンパク質である。MHC分子は、エピトープ、例えばペプチドに結合し、TCRによる認識のためにそれらを提示する。MHCによりコードされるタンパク質は、細胞の表面上に発現され、自己抗原(細胞それ自体からのペプチド断片)及び非自己抗原(例えば、侵入微生物の断片又はかつて自己抗原であった異常な分子)の両方をT細胞にディスプレイする。MHC分子は3つのサブグループ、クラスI、クラスII、及びクラスIIIに分けられる。MHCクラスIタンパク質は、抗原決定因子を細胞傷害性T細胞に提示することが一般に公知である。一般に、MHCクラスIIタンパク質は、抗原決定因子をヘルパーT細胞に提示することが公知である。ヒトにおいて、MHC遺伝子は多くの場合にヒト白血球抗原(HLA)遺伝子として参照され、MHC分子は多くの場合にHLA分子として参照される。HLA遺伝子は、9つの古典的な群:HLA-A、HLA-B、HLA-C、HLA-DPA1、HLA-DPB1、HLA-DQA1、HLA-DQB1、HLA-DRA、及びHLA-DRB1をコードする。
【0112】
好ましくは、本開示において、MHC分子はHLA分子である。実施形態において、HLA分子(タンパク質)は、HLA-A分子、より好ましくはHLA-A*02分子である。好ましくは、本明細書に開示されているTCRは、HLA-A分子、より好ましくはHLA-A*02分子に結合するTCRである。
【0113】
用語「集合物」(collection)は、T細胞に関して本明細書において使用される場合、本明細書に開示されている同じTCR又は本明細書に開示されている異なるTCRを発現するように操作されたT細胞のセットへの言及を含む。例えば、集合物は、配列番号1又は配列番号20のエピトープに結合するTCRを発現するように操作されたT細胞を含んでもよく、前記集合物はまた、配列番号2等のエピトープに結合するTCRを発現するように操作されたT細胞を含んでもよい。当業者が理解するように、T細胞の集合物は、医薬的に許容される賦形剤、例えば医薬的に許容される担体又は希釈剤を追加的に含有する医薬組成物の形態で投与されうる。
【0114】
用語「腫瘍」は、本明細書において使用される場合、良性、前がん性、悪性、又は転移性であることができる異常な細胞増殖への言及を含む。好ましくは、腫瘍は、悪性新生物、即ちがんである。腫瘍は、固形腫瘍、例えば癌腫、又は血液(液性)腫瘍、例えばリンパ腫、骨髄腫若しくは白血病であることができる。好ましくは、腫瘍は固形腫瘍であり、より好ましくは腫瘍は、ヒトROPN1及び/又はROPN1B、好ましくは、開示されるTCRの文脈において、ヒトROPN1又はROPN1Bを発現する腫瘍細胞により特徴付けられる固形腫瘍である。好ましい実施形態において、前記固形腫瘍は、乳がん、例えばTNBC、又は皮膚がん、例えば黒色腫、より好ましくは皮膚黒色腫(SKCM)である。
【0115】
本明細書において使用される場合、用語「がん」は、副腎腫瘍、AIDS関連がん、肺胞軟部肉腫、星細胞腫瘍、膀胱がん(扁平上皮細胞癌及び移行細胞癌)、骨がん(アダマンチノーマ、動脈瘤様骨嚢胞、骨軟骨腫、骨肉腫)、脳及び脊髄がん(神経膠腫)、転移性脳腫瘍、乳がん、頸動脈小体腫瘍、子宮頸がん、軟骨肉腫、脊索腫(dhordoma)、色素嫌性腎細胞癌、明細胞癌、結腸がん、結腸直腸がん、皮膚良性繊維性組織球腫、線維形成性小円形細胞腫瘍、上衣腫、ユーイング腫瘍、骨外性粘液性軟骨肉腫、線維形成骨不全症(fibrogenesis imperfecta ossium)、骨の線維性異形成症、胆嚢若しくは胆管がん、胃がん、妊娠性栄養膜疾患、生殖細胞腫瘍、頭頸部がん、肝細胞癌、膵島細胞腫瘍、カポジ肉腫、腎臓がん(腎芽腫、乳頭腎細胞癌)、白血病、脂肪腫/良性脂肪腫性腫瘍、脂肪肉腫/悪性脂肪腫性腫瘍、肝臓がん(肝芽腫、肝細胞癌)、リンパ腫、肺がん、髄芽腫、黒色腫、髄膜腫、多発性内分泌腫瘍症、多発性骨髄腫、骨髄異形成症候群、神経芽腫、神経内分泌腫瘍、卵巣がん、膵臓がん、甲状腺乳頭癌、副甲状腺腫瘍、小児がん、末梢神経鞘腫瘍、褐色細胞腫、下垂体腫瘍、前立腺がん、後部ブドウ膜(posterious unveal)黒色腫、希少血液障害、腎臓転移がん、ラブドイド腫瘍、横紋筋肉腫(rhabdomysarcoma)、肉腫、皮膚がん、軟組織肉腫、扁平上皮細胞がん、胃がん、滑膜肉腫、精巣がん、胸腺癌、胸腺腫、甲状腺転移がん、及び子宮がん(子宮頸部の癌腫、子宮内膜癌、及び平滑筋腫)、又は任意の他の悪性組織の細胞からなる群から選択されるがん細胞の存在により特徴付けられるがんへの言及を含む(がそれに限定されない)。
【0116】
用語「対象」又は「患者」は、本明細書において使用される場合、腫瘍に罹患しているか、又は罹患していることが疑われる個体への言及を含む。換言すれば、用語「対象」又は「患者」は、腫瘍、例えばがんを有する個体を指し示すために使用されうる。好ましくは、対象は、哺乳動物、より好ましくは霊長動物、最も好ましくはヒトである。
【0117】
用語「核酸」は、本明細書において使用される場合、mRNA又はcDNAを含むDNA及びRNAの他に、その合成同族体への言及を含む。核酸は、天然、組換え又は合成核酸であることができる。
【0118】
用語「アミノ酸」は、本明細書において使用される場合、タンパク質の天然に存在する単量体の他に、その合成同族体への言及を含む。アミノ酸残基は、天然、組換え又は合成アミノ酸残基であることができる。
【0119】
用語「配列同一性%」は、本明細書において使用される場合、配列をアライメントし、及び必要な場合に任意選択的にギャップを導入して、最大配列同一性パーセントを達成した後の、関心対象の核酸又はアミノ酸配列中のそれぞれヌクレオチド、アミノ酸残基と同一である、核酸配列中のヌクレオチド、又はアミノ酸配列中のアミノ酸残基のパーセンテージへの言及を含む。アライメントのための方法及びコンピュータプログラムは当技術分野において周知である。配列同一性は、関心対象のアミノ酸配列の実質的に全長、好ましくは全長にかけて算出される。1つのアミノ酸配列中の連続するアミノ酸残基が別のアミノ酸配列中の連続するアミノ酸残基と比較されることを当業者は理解する。
【0120】
T細胞エピトープ
本発明者らは、本明細書に開示されているTCR操作されたT細胞の標的として使用されうるヒトロッポリン-1B(ROPN1B)及び/又はヒトロッポリン-1A(ROPN1)T細胞エピトープのセットを発見した。ヒトロッポリン-1B(ROPN1B)及び/又はヒトロッポリン-1A(ROPN1)T細胞エピトープのこのセットは、Table 1(表1)~Table 4(表4)において配列番号1~9、20、23~32、43及び56として列記されており、本発明の部分を形成する。好ましいT細胞エピトープは、配列番号4(FLY-Aエピトープ)、23(FLY-Bエピトープ)、24(EVIエピトープ)、43又は56、より好ましくは配列番号4、23又は24のうちの1つ、よりいっそう好ましくは配列番号4により同定される。
【0121】
本発明は、そのため、ヒト主要組織適合複合体(MHC)分子、好ましくはHLA-A*02分子と複合体を形成する、ヒトロッポリン-1B(ROPN1B)及び/又はヒトロッポリン-1A(ROPN1)の単離又は精製されたペプチドであって、配列番号1~9、20、23~32、43及び56のいずれか1つのアミノ酸配列からなる、ペプチドを提供する。
【0122】
一部の実施形態において、ペプチドは、配列番号1~9、20、23~32、43及び56のいずれか1つのアミノ酸配列、又はそれに対して少なくとも70%若しくは少なくとも80%の配列同一性を有する配列からなる。実施形態において、ペプチドは、(i)配列番号1の6位(Glu)、8位(Glu)及び/又は9位(Val)におけるアミノ酸残基が別のアミノ酸残基により置換されている配列番号1の改変されたアミノ酸配列、(ii)配列番号4の1位(F)、2位(L)及び/又は9位(V)におけるアミノ酸残基が別のアミノ酸残基により置換されている配列番号4の改変されたアミノ酸配列、(iii)配列番号23の1位(F)及び/又は9位(V)におけるアミノ酸残基が別のアミノ酸残基により置換されている配列番号23の改変されたアミノ酸配列からなる。
【0123】
同じ文脈において、本発明はまた、本発明のヒトロッポリン-1B(ROPN1B)及び/又はヒトロッポリン-1A(ROPN1)のペプチド(T細胞エピトープ)と複合体化した単離又は合成されたヒトMHC分子を提供する。
【0124】
本発明はまた、T細胞の同定、スクリーニング、精製、濃縮及び/又は親和性成熟のための、(i)本明細書に開示されているヒトロッポリン-1B(ROPN1B)及び/若しくはヒトロッポリン-1A(ROPN1)T細胞エピトープ又は(ii)本明細書に開示されているヒトロッポリン-1B(ROPN1B)及び/若しくはヒトロッポリン-1A(ROPN1)T細胞エピトープと複合体化したヒトMHC分子の使用を提供する。
【0125】
ROPN1及び/又はROPN1B由来T細胞エピトープを選択及び検証するための工程の要約
ROPN1Bタンパク質は、210個のアミノ酸からなり、ROPN1と95%の配列オーバーラップを有する。MHC-Iペプチドの大部分は8~11アミノ酸の長さであり、これは、ROPN1及び/又はROPN1Bを起源としうる全部で814個の理論的なエピトープを結果としてもたらす。
【0126】
腫瘍免疫学の分野において、ほとんどの研究は、単一のインシリコ予測ツールに従ってT細胞エピトープを選択する。対照的に、本発明者らは、MHC-I溶出エピトープの免疫ペプチドーム分析と組み合わせて複数のインシリコツール(自身で開発したカットオフを用いた)を使用することにより独特のROPN1及び/又はROPN1B T細胞エピトープを選択した。エピトープの全集合物を、他のタンパク質中に存在する任意のエピトープに対する非相同性についてフィルタリングし、引き続いてHLA-A2発現細胞及び健常ドナーからのナイーブT細胞の刺激を使用してMHC-I結合の他に免疫原性についてインビトロで検証した。
【0127】
より詳細には、ROPN1及び/又はROPN1Bエピトープの選択及び検証は以下の6つの工程に従った。
1.カットオフに基づいてn=17個の免疫原性エピトープをもたらした、HLA-A2:01によるエピトープ提示についての複数の公開されているツールを使用した予測(詳細について
図3を参照)。
2.n=2個の追加のエピトープ(HLA-A2:01に対する結合が予測された11-merエピトープ、及びHLA-B40:01に対する結合が予測された10-merエピトープ)をもたらした、免疫ペプチドーム分析(即ち、HLA-A2発現がん細胞株からのMHC-I結合ペプチドの質量分光分析)。
3.非交差反応性エピトープの数を14に狭めた、非相同性(ROPN1及び/又はROPN1Bに由来しない任意のペプチド配列に対する>2個のアミノ酸差異)についてのエピトープのフィルタリング。
4.最小HLA-A2結合の本発明者らの閾値を使用して、エピトープの数を11に狭めた、HLA-A2:01に結合する能力の評価。
5.T細胞応答を誘発するための重要な特徴であり、エピトープの数を9に狭めた、HLA-A2:01に結合する強さ(親和性)の評価(
図3E、Table 2(表2)、及び配列番号1~9を参照)。
6.エピトープの免疫原性の度合いと考えられる、健常ドナーに由来するエピトープ特異的T細胞を濃縮させる能力の評価。これまで、健常ドナーPBMCに由来する自家ナイーブT細胞と共にペプチドをロードされた抗原提示細胞の共培養において試験された全てのエピトープに対してT細胞応答が観察された(Table 2(表2))。
【0128】
T細胞エピトープ及びT細胞受容体の選択及び検証のための更なる工程は実施例2及び
図7~
図14において提供されている。
【0129】
TCRの同定及び選択
養子T細胞治療用の標的抗原としてのROPN1及び/又はROPN1B、並びに本明細書に開示されているそれらのエピトープの同定に従って、ROPN1及び/又はROPN1Bエピトープ特異的TCRを含む宿主T細胞を生成及び/又は濃縮するために引き続いて使用されうるROPN1及び/又はROPN1Bエピトープを発現する細胞を調製する方法を当業者は理解する。そのような方法の詳細は、以下の実験セクションにおいて記載されている。
【0130】
簡潔に述べれば、エピトープ特異的T細胞は、蛍光標識されたHLA分子と複合体化した前記エピトープを用いる染色及び選別を介して、又は抗IFNg及び磁気標識された捕捉抗体を用いる染色及び選別を介して、健常ドナーの血液又は固形がん患者の血液若しくは腫瘍組織から(form)単離されうる。そのようなT細胞は、上記の染色及び単離に先立って、人工的又は自家抗原提示細胞、例えば樹状細胞(CD11c+)又は遺伝子改変されたB細胞、例えばK562細胞との共培養で濃縮されうる。更なる詳細及び参照のために実施例1及び実施例2、材料及び方法もまた参照される。
【0131】
TCR操作されたT細胞
本発明の文脈における操作された細胞は、免疫細胞、例えばT細胞又はNK細胞であるが、好ましくはT細胞である。特異性及び腫瘍細胞を殺傷する能力を好ましくは有する、本発明による腫瘍抗原特異的T細胞の生成は、当技術分野において一般に公知の異なる戦略の1つ又は複数を用いることにより行われてもよい。
【0132】
1つの実施形態において、腫瘍反応性宿主T細胞は、上記されるように同定及び選択され、末梢血単核細胞(PBMC)又は腫瘍浸潤性リンパ球(TIL)の集団から増殖されてもよい。そのような細胞が生成及び単離されたら、それらは使用のために拡大増殖されてもよい。1つの実施形態において、そのような腫瘍反応性宿主T細胞は、それらのがん抗原特異的TCRの核酸配列を明らかにするために調べられる。
【0133】
代替的に又は連続的に、同じ又は別の実施形態において、宿主T細胞は、本明細書に開示されているか、又は上記されるTCR選択の方法を使用することにより同定されるような1つ又は複数の腫瘍特異的TCRを発現するように宿主T細胞を遺伝子改変することにより腫瘍反応性となるように改変されうる。そのような遺伝子改変は、トランスフェクション又は形質導入により、好ましくは形質導入により、例えばレトロウイルス技術を使用することにより、行われてもよい。
【0134】
本発明の文脈における宿主T細胞は好ましくはヒトT細胞、より好ましくはヒトCD8+ T細胞であり、自家又は同種宿主細胞、好ましくは自家細胞であってもよい。
【0135】
本明細書において使用される場合、「自家」は、同じドナーに由来する遺伝学的に同一の細胞を指し、例えば患者から得られた細胞は、がんを標的化するように加工され、細胞は次に患者の身体に戻すように投与される一方、用語「同種」は、遺伝学的に非同一のドナーに由来する細胞を指す。
【0136】
細胞の遺伝子改変は、細胞、好ましくは細胞の実質的に均質な組成物に、抗原結合受容体、例えば本明細書に開示されているTCR又は抗体ベース受容体、好ましくはTCRをコードする組換えDNA又はRNA構築物を形質導入することにより達成されうる。ベクター、好ましくは、レトロウイルスベクター(ガンマレトロウイルス又はレンチウイルスのいずれか)は、TCRをコードする組換えDNA又はRNA構築物の、宿主細胞ゲノムへの導入のために用いられうる。例えば、本明細書に記載されているROPN1及び/又はROPN1Bのエピトープに結合するTCRをコードするポリヌクレオチドは、レトロウイルスベクター中にクローニング可能であり、発現は、その内因性プロモーターから、レトロウイルス長鎖末端反復から、又は代替的な内部プロモーターから駆動されうる。非ウイルスベクター又はRNAもまた使用されうる。ランダムな染色体組み込み、又は標的化された組み込み(例えば、ヌクレアーゼ、転写活性化因子様エフェクターヌクレアーゼ(TALEN)、ジンクフィンガーヌクレアーゼ(ZFN)、及び/若しくはclustered regularly interspaced short palindromic repeat(CRISPR)を使用する)、又は導入遺伝子発現(例えば、天然の若しくは化学的に修飾されたRNAを使用する)が使用されうる。
【0137】
好ましくは、操作された細胞は、本明細書に開示されているTCR又は抗体ベース受容体の発現を調節するプロモーター核酸配列を含有する核酸構築物を用いて改変され、前記プロモーターは、本明細書に開示されているTCRをコードする核酸に作動可能に連結している。
【0138】
腫瘍抗原特異的細胞を提供するための細胞の遺伝子改変のために、レトロウイルスベクターが好ましくは用いられるが、任意の他の好適なウイルスベクター又は非ウイルス送達システムが、細胞への腫瘍抗原反応性TCRの形質導入のために使用されうる。好ましくは、選択されたベクターは、感染の高い効率並びに安定な組み込み及び発現を呈する。使用されうる他のウイルスベクターは、例えば、アデノウイルス、レンチウイルス、及びアデノ随伴ウイルスベクター、ワクシニアウイルス、ウシパピローマウイルス、又はヘルペスウイルス、例えばエプスタイン・バーウイルスを含む。レトロウイルスベクターは、特によく開発されており、何十年にもわたり臨床的状況において使用されてきた。
【0139】
非ウイルスアプローチもまた、細胞中でのタンパク質の発現のために用いられうる。例えば、核酸分子は、トランスフェクションにより、例えばリポフェクション、アシアロオロソムコイド-ポリリジンコンジュゲーションの存在下で核酸を投与することにより、又は外科的条件下でのマイクロ注射により、細胞に導入可能であり、これらの全ては当技術分野において公知である。遺伝子移入のための他の非ウイルス手段は、リン酸カルシウム、DEAEデキストラン、エレクトロポレーション、及びプロトプラスト融合を使用するインビトロでのトランスフェクションを含む。リポソームもまた、細胞中へのDNA又はRNAの送達のために潜在的に有益でありうる。組換え受容体はまた、トランスポザーゼ又は標的化されたヌクレアーゼ(例えば、転写活性化因子様エフェクターヌクレアーゼ(TALEN)、ジンクフィンガーヌクレアーゼ(ZFN)、及び/若しくはclustered regularly interspaced short palindromic repeat(CRISPR))を使用して誘導又は取得されうる。一過性発現がRNAエレクトロポレーションにより得られうる。
【0140】
結果としてもたらされる改変された細胞は、非改変の細胞のための条件に類似した条件下で増殖可能であり、それにより、改変された細胞は拡大増殖されて、治療のために使用されうる本発明によるT細胞を提供することができる。
【0141】
本発明において、本明細書に開示されているTCRの機能的なバリアントもまた想定され、これは例えば、本明細書に開示されているCDR1、CDR2及び/又はCDR3(例えばCDR1及びCDR2;CDR1及びCDR3;CDR2及びCDR3;又はCDR1、CDR2及びCDR3)が、(前記CDR及び/又は前記CDRを含むTCRの)結合特異性及び/又は結合特性を少なくとも維持(又は向上)しながら1、2、3、4又は5つのアミノ酸残基が付加、置換及び/又は欠失されるように改変又は変更されているTCRがある。
【0142】
同様に、本明細書に開示されているVDJ、VJ、アルファ鎖及び/又はベータ鎖アミノ酸配列(例えば配列番号11、配列番号16、配列番号21、配列番号22、配列番号34、配列番号39、配列番号44、配列番号45、配列番号47、配列番号52、配列番号57、配列番号58、配列番号60、配列番号65、配列番号69及び配列番号70)を含むT細胞受容体に関して、(本明細書に開示されている前記VDJ、前記VJ、前記アルファ鎖及び/又は前記ベータ鎖アミノ酸配列を含むTCRの)結合特異性及び/又は結合特性を少なくとも維持(又は向上)しながら本明細書に開示されている前記VDJ、前記VJ、前記アルファ鎖及び/又は前記ベータ鎖アミノ酸配列に対して少なくとも70%、80%又は少なくとも90%の配列同一性を有するその機能的なバリアントが本明細書において想定される。
【0143】
例えば、本発明は、ヒトロッポリン-1A(ROPN1)及び/又はヒトロッポリン-1B(ROPN1B)のT細胞エピトープに結合するT細胞受容体(TCR)を発現するように操作されている操作されたT細胞であって、前記TCRが、(i)配列番号14、配列番号37、配列番号50若しくは配列番号63(好ましくは配列番号37、配列番号50若しくは配列番号63)若しくはその機能的なバリアント、例えば(配列番号14、配列番号37、配列番号50若しくは配列番号63のCDR3の、及び/若しくは配列番号14、配列番号37、配列番号50若しくは配列番号63のCDR3を含むTCRの)結合特異性及び/若しくは結合特性を少なくとも維持(若しくは向上)しながら1、2、3、4若しくは5つのアミノ酸残基が付加、置換及び/若しくは欠失されている配列番号14、配列番号37、配列番号50若しくは配列番号63のバリアントのCDR3を含む超可変領域を含むT細胞受容体アルファ鎖、並びに/又は(ii)配列番号19、配列番号42、配列番号55若しくは配列番号68(好ましくは配列番号42、配列番号55若しくは配列番号68)若しくはその機能的なバリアント、例えば(配列番号19、配列番号42、配列番号55若しくは配列番号68のCDR3の、及び/若しくは配列番号19、配列番号42、配列番号55若しくは配列番号68のCDR3を含むTCRの)結合特異性及び/若しくは結合特性を少なくとも維持(若しくは向上)しながら1、2、3、4若しくは5つのアミノ酸残基が付加、置換及び/若しくは欠失されている配列番号19、配列番号42、配列番号55若しくは配列番号68のバリアントのCDR3を含む超可変領域を含むT細胞受容体ベータ鎖を含み;前記T細胞受容体アルファ及びベータ鎖の前記超可変領域がCDR1及びCDR2を更に含む、操作されたT細胞を提供する。
【0144】
当業者は、いずれのCDRの組合せ、及びそのためそれらの機能的なバリアントが、同類であるのかを特に
図6及び
図14からルーチンに理解する。
【0145】
同様に、本発明は、例えば、ヒトロッポリン-1A(ROPN1)及び/又はヒトロッポリン-1B(ROPN1B)のT細胞エピトープに結合するT細胞受容体(TCR)を発現するように操作されている操作されたT細胞であって、前記T細胞受容体の前記超可変領域が、
- 配列番号12、配列番号35、配列番号48若しくは配列番号61(好ましくは配列番号35、配列番号48若しくは配列番号61)若しくはその機能的なバリアント、例えば(配列番号12、配列番号35、配列番号48若しくは配列番号61のCDR1の、及び/若しくは配列番号12、配列番号35、配列番号48若しくは配列番号61のCDR1を含むTCRの)結合特異性及び/若しくは結合特性を少なくとも維持(若しくは向上)しながら1、2、3、4若しくは5つのアミノ酸残基が付加、置換及び/若しくは欠失されている配列番号12、配列番号35、配列番号48若しくは配列番号61のバリアントのCDR1;
- 配列番号13、配列番号36、配列番号49若しくは配列番号62(好ましくは配列番号36、配列番号49若しくは配列番号62)若しくはその機能的なバリアント、例えば(配列番号13、配列番号36、配列番号49若しくは配列番号62のCDR2の、及び/若しくは配列番号13、配列番号36、配列番号49若しくは配列番号62のCDR2を含むTCRの)結合特異性及び/若しくは結合特性を少なくとも維持(若しくは向上)しながら1、2、3、4若しくは5つのアミノ酸残基が付加、置換及び/若しくは欠失されている配列番号13、配列番号36、配列番号49若しくは配列番号62のバリアントのCDR2;
- 配列番号14、配列番号37、配列番号50若しくは配列番号63(好ましくは配列番号37、配列番号50若しくは配列番号63)若しくはその機能的なバリアント、例えば(配列番号14、配列番号37、配列番号50若しくは配列番号63のCDR3の、及び/若しくは配列番号14、配列番号37、配列番号50若しくは配列番号63のCDR3を含むTCRの)結合特異性及び/若しくは結合特性を少なくとも維持(若しくは向上)しながら1、2、3、4若しくは5つのアミノ酸残基が付加、置換及び/若しくは欠失されている配列番号14、配列番号37、配列番号50若しくは配列番号63のバリアントのCDR3
を含み;並びに/又は
前記T細胞受容体ベータ鎖の前記超可変領域が、
- 配列番号17、配列番号40、配列番号53若しくは配列番号66(好ましくは配列番号40、配列番号53若しくは配列番号66)若しくはその機能的なバリアント、例えば(配列番号17、配列番号40、配列番号53若しくは配列番号66のCDR1の、及び/若しくは配列番号17、配列番号40、配列番号53若しくは配列番号66のCDR1を含むTCRの)結合特異性及び/若しくは結合特性を少なくとも維持(若しくは向上)しながら1、2、3、4若しくは5つのアミノ酸残基が付加、置換及び/若しくは欠失されている配列番号17、配列番号40、配列番号53若しくは配列番号66のバリアントのCDR1;
- 配列番号18、配列番号41、配列番号54若しくは配列番号67(好ましくは配列番号41、配列番号54若しくは配列番号67)若しくはその機能的なバリアント、例えば(配列番号18、配列番号41、配列番号54若しくは配列番号67のCDR2の、及び/若しくは配列番号18、配列番号41、配列番号54若しくは配列番号67のCDR2を含むTCRの)結合特異性及び/若しくは結合特性を少なくとも維持(若しくは向上)しながら1、2、3、4若しくは5つのアミノ酸残基が付加、置換及び/若しくは欠失されている配列番号18、配列番号41、配列番号54若しくは配列番号67のバリアントのCDR2;並びに
- 配列番号19、配列番号42、配列番号55若しくは配列番号68(好ましくは配列番号42、配列番号55若しくは配列番号68)若しくはその機能的なバリアント、例えば(配列番号19、配列番号42、配列番号55若しくは配列番号68のCDR3の、及び/若しくは配列番号19、配列番号42、配列番号55若しくは配列番号68のCDR3を含むTCRの)結合特異性及び/若しくは結合特性を少なくとも維持(若しくは向上)しながら1、2、3、4若しくは5つのアミノ酸残基が付加、置換及び/若しくは欠失されている配列番号19、配列番号42、配列番号55若しくは配列番号68のバリアントのCDR3
を含む、
操作されたT細胞を提供する。
【0146】
同様に、本発明は、ヒトロッポリン-1A(ROPN1)及び/又はヒトロッポリン-1B(ROPN1B)のT細胞エピトープに結合するT細胞受容体(TCR)を発現するように操作されている操作されたT細胞であって、前記TCRが、
(i)配列番号21、配列番号44、配列番号57若しくは配列番号69(好ましくは配列番号44、配列番号57若しくは配列番号69)若しくは(配列番号21、配列番号44、配列番号57若しくは配列番号69のタンパク質の、及び/若しくは配列番号21、配列番号44、配列番号57若しくは配列番号69のアミノ酸配列を含むTCRの)結合特異性及び/若しくは結合特性を少なくとも維持(若しくは向上)しながら配列番号21、配列番号44、配列番号57若しくは配列番号69(好ましくは配列番号44、配列番号57若しくは配列番号69)と少なくとも70%、少なくとも80%若しくは少なくとも90%の配列同一性を有するその機能的なバリアントのアミノ酸配列を含むT細胞受容体アルファ鎖;若しくは配列番号11、配列番号34、配列番号47若しくは配列番号60(好ましくは配列番号34、配列番号47若しくは配列番号60)若しくは(配列番号11、配列番号34、配列番号47若しくは配列番号60のタンパク質の、及び/若しくは配列番号11、配列番号34、配列番号47若しくは配列番号60のアミノ酸配列を含むTCRの)結合特異性及び/若しくは結合特性を少なくとも維持(若しくは向上)しながら配列番号11、配列番号34、配列番号47若しくは配列番号60と少なくとも70%、少なくとも80%若しくは少なくとも90%の配列同一性を有するその機能的なバリアントのアミノ酸配列を含むT細胞受容体アルファ鎖;並びに/又は
(ii)配列番号22、配列番号45、配列番号58若しくは配列番号70(好ましくは配列番号45、配列番号58若しくは配列番号70)若しくは(配列番号22、配列番号45、配列番号58若しくは配列番号70のタンパク質の、及び/若しくは配列番号22、配列番号45、配列番号58若しくは配列番号70のアミノ酸配列を含むTCRの)結合特異性及び/若しくは結合特性を少なくとも維持(若しくは向上)しながら配列番号22、配列番号45、配列番号58若しくは配列番号70(好ましくは配列番号45、配列番号58若しくは配列番号70)と少なくとも70%、少なくとも80%若しくは少なくとも90%の配列同一性を有するその機能的なバリアントのアミノ酸配列を含むT細胞受容体ベータ鎖;若しくは配列番号16、配列番号39、配列番号52若しくは配列番号65(好ましくは配列番号39、配列番号52若しくは配列番号65)若しくは(配列番号16、配列番号39、配列番号52若しくは配列番号65のタンパク質の、及び/若しくは配列番号16、配列番号39、配列番号52若しくは配列番号65のアミノ酸配列を含むTCRの)結合特異性及び/若しくは結合特性を少なくとも維持(若しくは向上)しながら配列番号16、配列番号39、配列番号52若しくは配列番号65と少なくとも70%、少なくとも80%若しくは少なくとも90%の配列同一性を有するその機能的なバリアントのアミノ酸配列を含むT細胞受容体ベータ鎖
を含む、操作されたT細胞を提供する。
【0147】
処置
本発明は更に、治療における使用のための、本明細書に開示されているT細胞を提供する。好ましくは、T細胞は、対象における固形又は液性腫瘍、好ましくはがんの処置における使用のためのものである。
【0148】
同様に、本発明は、固形又は液性腫瘍に罹患しているか、又は罹患していることが疑われる対象を処置する方法であって、- 治療有効量の本明細書に開示されているT細胞を前記対象を投与する工程を含む、方法を提供する。本発明はまた、固形又は液性腫瘍に罹患しているか、又は罹患していることが疑われる対象において本明細書に開示されているT細胞を本明細書に開示されているT細胞エピトープに結合させる方法であって、本明細書に開示されているT細胞を前記対象に投与する工程を含む、方法を提供する。
【0149】
同様に、本発明は、対象における固形又は液性腫瘍の処置用の医薬の生産における本明細書に開示されているT細胞の使用を提供する。
【0150】
用語「治療有効量」は、本明細書において使用される場合、所望される投薬レジメンの部分として(哺乳動物、好ましくはヒトに)投与された場合に、処置される障害又は状態のための臨床的に許容される標準に従って、例えば任意の医学的処置に適用可能な合理的なベネフィット/リスク比において、症状を軽減するか、状態を寛解させるか、又は疾患状態の開始を緩慢化させるT細胞の量への言及を含む。対象のための精密な有効量は、対象のサイズ及び健康状態、状態の性質及び程度に依存し、慣例的な方式において当業者により決定されうる。
【0151】
用語「処置する」及び「処置」は、本明細書において使用される場合、対象の状態を改善するか又は安定化させる目標と共に状態の症状、臨床徴候、及び/又は基礎病理を逆転、低減及び/又は停止させることへの言及を含む。
【0152】
実施形態において、固形腫瘍は、ヒトROPN1及び/又はROPN1Bを発現する腫瘍細胞を含む。本開示から明らかなように、本明細書に開示されているT細胞及びTCRは、ヒトROPN1及び/又はROPN1B、好ましくはヒトROPN1B、T細胞エピトープに特異的に結合する。
【0153】
ヒトROPN1及び/又はROPN1B、好ましくはヒトROPN1Bを発現する腫瘍細胞を含む固形腫瘍の2つの好ましい例は、乳がん、例えばトリプルネガティブ乳がん(TNBC)、及び皮膚がん、例えば黒色腫、例えば皮膚黒色腫(SKCM)である。好ましくは、対象は、トリプルネガティブ乳がん又は黒色腫、例えば皮膚黒色腫(SKCM)に罹患しているか、又は罹患していることが疑われる。
【0154】
トリプルネガティブ乳がん(TNBC)は、全ての乳がん(BC)症例の15~20%を占める高悪性度の乳がんサブタイプである。TNBCは、エストロゲン及びプロゲステロンの受容体の非存在並びにヒト上皮増殖因子受容体2(HER2)の欠如により特徴付けられ、したがって現行のホルモン受容体又はHER2標的化治療に応答していない。PD-L1陽性TNBCのための免疫チェックポイント阻害剤(ICI)の最近の承認にもかかわらず、患者の大部分はこの処置に応答しない。
【0155】
好ましくは、本明細書に開示されているT細胞は、養子T細胞治療、例えばTCR操作されたT細胞での治療における使用のためのものである。養子T細胞治療は、対象からのT細胞の単離及び前記T細胞のインビトロ又はエクスビボ拡大増殖を伴う。T細胞は次に、がんを攻撃及び殺傷することができるT細胞を介して残存する腫瘍を圧倒する能力を免疫系に与えるための試みにおいて腫瘍を有する患者に注入される。がんを処置するための養子T細胞治療のために使用される複数の形態のT細胞があり;これは、腫瘍浸潤性リンパ球(TIL)、特定のT細胞又はクローン、並びに腫瘍を認識及び攻撃するように操作されているT細胞である。
【0156】
好ましくは、本明細書に開示されているT細胞は、自家T細胞であり、自家T細胞治療のためのものである。この文脈において、自家は、T細胞が、処置される対象から得られることを意味する。
【0157】
操作されたT細胞受容体(TCR)でのT細胞治療は、患者からT細胞を採取することを伴うが、利用可能な抗腫瘍T細胞を活性化及び拡大増殖させる代わりに、T細胞は、それらが特有のがん抗原を標的化することを可能にする新たな(組換え)TCRを備えている。
【0158】
本発明はまた、本明細書に開示されているT細胞、及び医薬的に許容される賦形剤を含む、医薬組成物を提供する。
【0159】
用語「医薬組成物」は、本明細書において使用される場合、哺乳動物、好ましくはヒトへの投与のために好適であるような条件下で作られた組成物への言及を含み、例えば、医薬組成物はGMP条件下で作られる。本発明による医薬組成物は、医薬的に許容される賦形剤、例えば、限定なしに、安定化剤、充填剤、緩衝剤、担体、希釈剤、媒体、可溶化剤、及び結合剤を含んでもよい。適切な担体又は希釈剤の選択は、投与の経路及び投薬形態の他に、活性成分及び他の要因に依存することを当業者は理解する。本発明による医薬組成物は、好ましくは、非経口投与のために適合されている。
【0160】
本明細書に開示されるT細胞は、任意の好適な医薬組成物の形態で投与されてもよい。
【0161】
記載されている医薬組成物は、好ましくは、無菌であり、治療有効量の本明細書に開示されているT細胞及び医薬的に許容される賦形剤、例えば担体又は希釈剤を含有する。医薬組成物は、注入可能な溶液又は懸濁液の形態であってもよい。
【0162】
本明細書に開示されているT細胞は、注射又は注入を通じて投与可能であり、好ましくは本明細書に開示されているT細胞は、液体、例えば水性液体中に含まれる。例示的な投与の経路は、非経口投与、例えば静脈内、筋肉内、腹腔内、皮下、動脈内及び脳内投与を含む。
【0163】
本発明によるT細胞を含む細胞集団は、異常増殖の処置のために対象に全身的に又は直接的に提供されうる。1つの実施形態において、本発明のT細胞は、関心対象の臓器(例えば、異常増殖により影響された臓器)に直接的に注射される。代替的に、本発明のT細胞及びそれを含む組成物は、関心対象の臓器に、例えば、循環系への投与(及び腫瘍血管系へのアクセスの提供)により、間接的に提供される。拡大増殖及び分化剤並びに/又は免疫調節剤が、インビトロ又はインビボでT細胞の産生を増加させるために細胞及び組成物の投与の前、間又は後に提供されうる。
【0164】
本発明によるT細胞及びそれらを含む医薬組成物は、任意の生理学的に許容される媒体中で任意の許容される部位に、通常は血管内に投与可能であるが、それらはまた、骨、又は細胞が再生及び分化のための適切なニッチを見出しうる他の好都合な部位(例えば、胸腺)に導入されてもよい。通常は、少なくとも1×107個の細胞が投与され、最終的に1×1010個又はより多くに達する。T細胞を含む細胞集団は、精製された細胞の集団を含むことができる。当業者は、様々な周知の方法、例えばフローサイトメトリーを使用して集団中のTCR操作されたT細胞のパーセンテージを容易に決定することができる。TCR操作されたT細胞を含む集団中の純度の好ましい範囲は約5~約70%である。より好ましくは純度は約20~約80%である。投薬量は当業者により容易に調整されうる(例えば、純度における減少は投薬量における増加を要求しうる)。細胞は、注射、カテーテル等により導入されうる。所望される場合、因子もまた含めることができ、これは、インターロイキン、例えばIL-2、IL-15及び/又はIL-21、並びに他のインターロイキンを含むが、これらに限定されない。
【0165】
本発明の組成物は、ROPN1及び/又はROPN1B特異的TCRを発現するT細胞及び医薬的に許容される担体を含む医薬組成物を含む。T細胞は自家又は非自家であることができる。例えば、T細胞及びそれを含む組成物は、1人の対象から得、同じ対象又は異なる、適合性の対象に投与されうる。本発明の末梢血由来T細胞又はそれらの子孫(例えば、インビボ、エクスビボ若しくはインビトロで誘導されたもの)は、カテーテル投与、全身注射、局在化された注射、静脈内注射、又は非経口投与を含む、局在化された注射を介して投与されうる。本発明の治療用組成物を投与する場合、それは一般に、単位投薬量の注射可能な形態(溶液、懸濁液、エマルション)に製剤化され、静脈内に投与される。
【0166】
本発明によるT細胞を含む細胞集団及びT細胞を含む組成物は、好都合には、無菌液体調製物、例えば、等張水性溶液、懸濁液、エマルション、分散体、又は粘性組成物として提供可能であり、これは選択されたpHに緩衝化されてもよい。液体調製物は、ゲル、他の粘性組成物、及び固体組成物よりも調製が通常はより容易である。追加的に、液体組成物は、特に注射による、投与のためにより幾分好都合である。粘性組成物は、他方で、特有の組織とのより長い接触期間を提供するために適切な粘度範囲内に製剤化されうる。液体又は粘性組成物は担体を含むことができ、担体は、例えば、水、食塩水、リン酸緩衝食塩水、ポリオール(例えば、グリセロール、プロピレングリコール、及び液体ポリエチレングリコール等)並びに好適なこれらの混合物を含有する溶媒又は分散媒体であることができる。
【0167】
無菌注射溶液は、T細胞を含む組成物を、要求される量の適切な溶媒中に、所望される場合に様々な量の他の成分と共に組み込むことにより調製されうる。そのような組成物は、好適な担体、希釈剤、又は賦形剤、例えば無菌水、生理食塩水、グルコース、又はデキストロース等と混合状態であってもよい。組成物はまた凍結乾燥されうる。組成物は、投与の経路及び所望される調製物に依存して、助剤物質、例えば湿潤剤、分散剤、又は乳化剤(例えば、メチルセルロース)、pH緩衝化剤、ゲル化剤又は粘度増強添加剤、防腐剤、香味剤、及び着色剤等を含有することができる。標準的なプロトコール、例えば「REMINGTON'S PHARMACEUTICAL SCIENCE」、17th edition、1985(参照により本明細書に組み込まれる)におけるプロトコールを参照して、過度の実験なしに好適な調製物を調製することができる。
【0168】
抗微生物性防腐剤、抗酸化剤、キレート剤、及び緩衝剤を含む、組成物の安定性及び無菌性を増強する様々な添加剤を加えることができる。微生物の作用の予防は、様々な抗菌剤及び抗真菌剤、例えば、パラベン、クロロブタノール、フェノール、及びソルビン酸等により確実にされうる。注射可能な薬学的形態の持続吸収は、吸収を遅延させる剤、例えば、モノステアリン酸アルミニウム(alum inurn monostearate)及びゼラチンの使用によりもたらされうる。本発明によれば、しかしながら、使用される任意の媒体、希釈剤、又は添加剤は、本発明のT細胞と適合性である必要がある。
【0169】
組成物は等張であることができ、即ち、それらは、血液及び涙液と同じ浸透圧を有することができる。本発明の組成物の所望される等張性は、塩化ナトリウム、又は他の医薬的に許容される剤、例えばデキストロース、ホウ酸、酒石酸ナトリウム、プロピレングリコール若しくは他の無機若しくは有機溶質を使用して達成されうる。塩化ナトリウムは、特にナトリウムイオンを含有する緩衝剤のために好ましい。
【0170】
組成物の粘度は、所望される場合、医薬的に許容される増稠剤を使用して選択されたレベルに維持されうる。メチルセルロースは好ましく、その理由は、それは容易に及び安価に入手可能であり、取り扱いが容易であるからである。他の好適な増稠剤は、例えば、キサンタンガム、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、及びカルボマー等を含む。増稠剤の好ましい濃度は、選択された剤に依存する。重要な点は、選択された粘度を達成する量を使用することである。
【0171】
自明なことに、好適な担体及び他の添加剤の選択は、正確な投与の経路及び特定の投薬形態、例えば、液体投薬形態の性質(例えば、組成物が、溶液、懸濁液、ゲル又は別の液体形態、例えば時間放出形態若しくは液体充填形態のいずれに製剤化されるのか)に依存する。
【0172】
組成物の成分は、化学的に不活性であるように選択されるべきであり、本発明に記載されているT細胞の生存又は有効性に影響しないことを当業者は認識する。これは、化学及び薬学原理に熟達した当業者に問題を提示しないか、又は問題は、標準的なプロトコールを参照することにより、若しくは、本開示及び本明細書において参照される文献から、単純な実験(過度の実験を伴わない)により容易に回避されうる。
【0173】
本発明のT細胞の治療的使用に関する1つの考慮は、最適な効果を達成するために必要な細胞の量である。投与されるべき細胞の量は、処置されている対象のために臨床試験設計及びプロトコールに従って変動する。1つの実施形態において、107~1010個の本発明のT細胞がヒト対象に投与される。より有効な細胞は、より少ない数においても投与されうる。有効な用量と考えられるであろうものの精密な決定は、処置スケジュール(即ち、単一又は組合せでの処置)に特有の要因、並びに、特定の対象のサイズ、年齢、性別、体重、及び条件を含む、各々の対象にとって個々の要因に基づいてもよい。投薬量は、本開示及び当技術分野における知識から当業者により容易に確認されうる。
【0174】
当業者は、組成物中の細胞及び任意選択的な添加剤、媒体、担体、並びに/又は本発明の方法において投与される併用処置の量を容易に決定することができる。典型的には、(活性の細胞及び/又は剤に加えて)任意の添加剤は、リン酸緩衝食塩水の溶液中で0.001~50%(質量)の量で存在し、活性成分は、マイクログラム~ミリグラムのオーダー、例えば約0.0001~約5wt%、好ましくは約0.0001~約1wt%、よりいっそう好ましくは約0.0001~約0.05wt%又は約0.001~約20wt%、好ましくは約0.01~約10wt%、よりいっそう好ましくは約0.05~約5wt%で存在する。
【0175】
明確及び簡潔な記載の目的のために、特徴は同じ又は別々の実施形態の部分として本明細書に記載されるが、本開示は、記載される特徴の全て又は一部の組合せを有する実施形態を含むことが理解される。
【0176】
本明細書において参照される文献の内容は参照により組み込まれる。
【0177】
同様に本発明の一部である番号付けされた実施形態:
実施形態1. ヒトロッポリン-1B(ROPN1B)のT細胞エピトープに結合するT細胞受容体(TCR)を発現するように操作されており、前記TCRが、
(i)配列番号14のCDR3を含む超可変領域を含むT細胞受容体アルファ鎖、及び
(ii)配列番号19のCDR3を含む超可変領域を含むT細胞受容体ベータ鎖
を含み、前記T細胞受容体アルファ及びベータ鎖の前記超可変領域がCDR1及びCDR2を更に含む、
操作されたT細胞。
【0178】
実施形態2. 前記TCRアルファ鎖の前記超可変領域が、
- 配列番号12のCDR1;
- 配列番号13のCDR2;
- 配列番号14のCDR3
を含み;及び/又は
前記T細胞受容体ベータ鎖の前記超可変領域が、
- 配列番号17のCDR1;
- 配列番号18のCDR2;
- 配列番号19のCDR3
を含む、
実施形態1に記載の操作されたT細胞。
【0179】
実施形態3. 前記T細胞受容体アルファ鎖が配列番号21のアミノ酸配列を含み、及び/又は前記T細胞受容体ベータ鎖が配列番号22のアミノ酸配列を含み;好ましくは前記T細胞受容体アルファ鎖が配列番号11のものであり、及び/又は前記T細胞受容体ベータ鎖が配列番号16のものである、実施形態1又は実施形態2に記載の操作されたT細胞。
【0180】
実施形態4. ヒトロッポリン-1B(ROPN1B)及び/又はヒトロッポリン-1A(ROPN1)のT細胞エピトープに結合するT細胞受容体(TCR)又はキメラ抗原受容体(CAR)を発現するように操作されている、操作されたT細胞。
【0181】
実施形態5. 前記T細胞エピトープが、ヒト主要組織適合複合体(MHC)分子、好ましくはHLA-A*02分子と複合体を形成するペプチドである、実施形態1~4のいずれか1つに記載の操作されたT細胞。
【0182】
実施形態6. 前記T細胞エピトープが、配列番号1~9及び20のうちの1つから選択されるアミノ酸配列からなる、実施形態1~5のいずれか1つに記載の操作されたT細胞。
【0183】
実施形態7. 前記T細胞エピトープが、配列番号1並びに配列番号1の6位(Glu)、8位(Glu)及び/又は9位(Val)におけるアミノ酸残基が別のアミノ酸残基により置換されているその改変されたアミノ酸配列から選択されるアミノ酸配列からなる、実施形態1~6のいずれか1つに記載の操作されたT細胞。
【0184】
実施形態8. 実施形態1~7のいずれか1つに記載の操作されたT細胞、及び医薬的に許容される賦形剤を含む、医薬組成物。
【0185】
実施形態9. 治療における使用のための、好ましくは固形又は液性(血液)腫瘍の処置における使用のための、実施形態1~7のいずれか1つに記載のT細胞。
【0186】
実施形態10. 前記固形腫瘍が、ヒトROPN1B及び/又はROPN1を発現する腫瘍細胞を含み、好ましくは前記固形腫瘍が、実施形態1~7のいずれか1つに規定のT細胞エピトープと複合体化しているか、又は前記T細胞エピトープに結合したMHC分子を含む腫瘍細胞を含む、実施形態9に記載の使用のためのT細胞。
【0187】
実施形態11. 前記固形腫瘍が、乳がん、好ましくはトリプルネガティブ乳がん、又は皮膚がん、好ましくは黒色腫である、実施形態9又は実施形態10に記載の使用のためのT細胞。
【0188】
実施形態12.
(i)配列番号14のCDR3を含む超可変領域を含むT細胞受容体アルファ鎖、及び
(ii)配列番号19のCDR3を含む超可変領域を含むT細胞受容体ベータ鎖
を含み、
前記T細胞受容体アルファ及びベータ鎖の前記超可変領域がCDR1及びCDR2を更に含む、
TCRタンパク質。
【0189】
実施形態13. ヒト主要組織適合複合体(MHC)分子、好ましくはHLA-A*02分子と複合体を形成する、ヒトロッポリン-1B(ROPN1B)及び/又はヒトロッポリン-1A(ROPN1)の単離又は精製されたペプチドであって、配列番号1~9及び20のいずれか1つのアミノ酸配列からなる、単離又は精製されたペプチド。
【0190】
実施形態14. ヒトロッポリン-1B(ROPN1B)及び/又はヒトロッポリン-1A(ROPN1)を発現するように操作されている、操作された細胞、好ましくは操作されたがん細胞。
【0191】
実施形態15. 固形腫瘍に罹患しているか、又は罹患していることが疑われる対象を処置する方法であって、- 治療有効量の実施形態1~7のいずれか1つに記載のT細胞をそれを必要とする対象に投与する工程を含む、方法。
【実施例】
【0192】
(実施例1)
ATのための腫瘍制限的な抗原標的、それらのエピトープ、それらの対応するTCR、及び操作されたT細胞の同定及び検証
材料及び方法
細胞株及びT細胞の生成及び培養
ROPN1過剰発現トリプルネガティブ乳がん(TNBC)細胞を作製するために、ROPN1B+GFP cDNA断片(UniProtKBアクセッション番号Q9BZX4-1の下でアクセス可能なアミノ酸配列)(ROPN1B-2A-GFP)をGeneArt社(Regensburg、Germany)に注文し、PiggyBac PB510B-1ベクター末端に相同的な15bpの伸長を含む遺伝子特異的プライマーを用いるPCRを使用して増幅した。増幅された断片を、In Fusion cloning kit(Takara社)を使用してPiggyBacベクター(Dr. P. J. French、Erasmus MC、Rotterdam、the Netherlandsからの好意による寄贈)にクローニングした。引き続いて、Lipofectamine(Invitrogen社)及びTransposase Expression vector DNA(System Biosciences社)を使用してMDA-MB-231細胞株(ECACC カタログ番号92020424、TNBC用の細胞株モデル)にPiggyBac ROPN1B+GFP DNAを安定的にトランスフェクトした。トランスフェクトされたMDA-MB-231細胞株をGFPについてFACS選別し、その後にROPN1Bの発現をPCR及びサイトスピンの免疫組織化学染色(抗ROPN1抗体を使用)で確認した(
図3Bを参照)。MDA-MB-231野生型及びそのROPN1B過剰発現バリアントの細胞を、それぞれ2μg/mLのピューロマイシンなし及びありで10%のFBS、200mMのL-グルタミン及び1%の抗生物質を補充したRPMI培地中で培養した。パッケージング細胞株293T及びPhoenix-Amphoを、10%のFBS、200mMのL-グルタミン、非必須アミノ酸、及び1%の抗生物質を補充したDMEM(DMEM完全培地)中で培養した。T2細胞及びBSM細胞を、10%のFBS、200mMのL-グルタミン及び1%の抗生物質を補充したRPMI培地中で培養した。
【0193】
T細胞を、Ficoll-Isopaque(密度=1.077g/cm3;Amersham Pharmacia Biotech社、Uppsala、Sweden)を介して遠心分離により健常ヒトドナーからのPBMC(Sanquin社、Amsterdam、the Netherlands)から誘導し、25mMのHEPES、6%のヒト血清(Sanquin社、Amsterdam、the Netherlands)、200mMのL-グルタミン、及び1%の抗生物質(T細胞培地)及び360U/mlのヒトrIL-2(プロロイキン;Chiron社、Amsterdam、the Netherlands)を補充したRPMI培地中で培養し、他の箇所(Van de Griendら、Transplantation.、38(4):401~406頁(1984))に記載されるように、照射された同種フィーダー細胞の混合物で2週毎に刺激した。
【0194】
患者コホート、データベース及び行動規範
TNBCコホート1:European genome-phenome archive EGAS00001001178を通じてアクセス可能なRNAseqを有するBC(n=347、そのうちn=66のTNBC、正規化されたgeTMM)(BASISコホート)。
TNBCコホート2:アジュバント全身処置を受けなかったマイクロアレイデータ(U133)を有するリンパ節陰性疾患を有する一次BC(n=867、そのうちn=183のTNBC)。gene expression omnibus GSE2034、GSE5327、GSE11121、GSE2990及びGSE7390から取得されたデータ。組み合わせたコホートの詳細は以前に記載されている(Hammerlら、Clin Cancer Res. 2019. doi:10.1158/1078-0432.CCR-19-0285)。
TCGA:汎がんRNAseqデータの他に試料注釈データは、USCS Xenaブラウザから取得した(n=10,495、そのうち1,211のBC及び122のTNBC、正規化されたTPM)。
健常組織:66の健常組織をカバーする6つのデータベース(Uhlen's Lab:n=122の個体、n=32の組織;GTEx:n=1,315の個体、n=63の組織;Illumina body map:n=32の個体、n=17の組織;human proteome map:n=30の個体、n=26の組織;Synders Lab:n=210の個体、n=32の組織)のRNAseqデータをExpression atlasからダウンロードした(正規化されたTPM)。
【0195】
この研究は、ヘルシンキ宣言及びthe Federation of Medical Scientific Societies(FMSF)の「Code for Proper Secondary Use of Human Tissue in The Netherlands」(2002年版、2011年改訂)に従って行い、後者は研究用の規範化されたスペア組織の認可された使用と整合するものであった。データ分析及びエクスビボ分析は、Erasmus MCの医療倫理委員会により承認された(それぞれMEC.02.953及びMEC-2020-0090)。国家のガイドラインに従って、この研究のためにインフォームドコンセントは要求されなかった。
【0196】
発現分析
遺伝子発現(RNAseq、マイクロアレイ及びqPCR)
239のがん生殖系列抗原の発現(CGA、Ctdatabase、Ludwig institute、http://www.cta.lncc.br/中のもの)を健常及び腫瘍組織において分析した。ROPN1及びROPN1Bの発現を健常組織の5つの異なるコホートにおいて評価し、TPM値が少なくとも2つのコホートにおいてTPM>0.2の閾値に達した場合に組織において発現されると考えた(
図1A)。腫瘍(TCGA)における発現を以下のように分類した:1~9、10~100、及び>100のTPM値をそれぞれ低、中、及び高発現と評価した(
図2A、E)。geTMM正規化RNAseqデータ(TNBCコホート1)又はマイクロアレイデータ(TNBCコホート2)の場合、発現の閾値を全てのCGAの第3四分位数に設定し、CGAをこの閾値に基づく陽性腫瘍のパーセンテージに基づいて順位付けした。
【0197】
MX3000を使用して正常ヒト組織cDNAパネル(OriGene Technologies社、Rockville、MD)に対して定量PCR(qPCR)を行って、48の健常ヒト組織のROPN1(TaqManプローブ:Hs00250195_m1)、ROPN1B(Taqmanプローブ:Hs00250195_m1)及びGAPDH(TaqManプローブ:Hs02758991_g1)mRNA発現を定量化した(
図1B)。関心対象の遺伝子のCt値をGAPDHのCt値に対して正規化し、相対的な発現を2
-dCtにより分析した。
【0198】
免疫組織化学染色
2~6人の個体からの16の主要な組織をカバーする健常組織の大きいコア(直径2mm)(検死又は切除に由来する、n=62)(
図1C)の他に、以前に記載された338人の患者をカバーするTNBC腫瘍組織のFFPE組織マイクロアレイ(
図2B~D)を使用してIHC染色を行った。抗ROPN1抗体(ROPN及びROPN1Bの両方のタンパク質を検出する)での染色を、95℃で20分間の熱誘導性抗原賦活化後に行った。RTへの冷却後に、染色をanti-mouse EnVision+(登録商標)System-HRP(DAB)(DakoCytomation社、Glostrup、Denmark)により可視化した。ヒト精巣組織を陽性対照組織として使用した。独立して3人の研究者によりDistiller(SlidePath社)ソフトウェアを使用して陽性腫瘍細胞の強度及びパーセンテージに関して染色を手動でスコア付けした。
【0199】
エピトープの同定、選択及び順位付け
予測及び免疫ペプチドミクス
免疫反応性の異なる態様を予測するための複数のインシリコ法(Hammerlら、Trends Immunol. 2018;xx:1~16頁、doi:10.1016/j.it.2018.09.004)(即ち、NetMHCpan(Hoofら、Immunogenetics;61(1):1~13頁(2009) doi:10.1007/s00251-008-0341-z);NetCTLpan(Stranzlら、Immunogenetics;62(6):357~368頁(2010)、doi:10.1007/s00251-010-0441-437);SYFPEITHI(Rammenseeら、Immunogenetics;50(3-4):213~219頁(1999)、doi:10.1007/s002510050595);並びにRANKPEP(Recheら、Hum Immunol;63(9):701~709頁(2002)、doi:10.1016/S0198-8859(02)00432-9; Recheら、Immunogenetics;56(6):405~419頁(2004)、doi:10.1007/s00251-004-0709-7;及びRecheら、Methods Mol Biol;409:185~200頁(2007)、doi:10.1007/978-1-60327-118-9_13)による高い順位に基づいてペプチドを選択した。免疫ペプチドミクスのために、ROPN1B過剰発現MDA-MB231細胞(3×10
8)をIFNγで24h処置し、MHCクラスI分子の免疫沈降の前にEDTAを使用して採取した。以前に記載されたようにペプチドを溶出させ、質量分析で測定した。ツール毎の上位10の予測されたペプチド(n=17の独特のペプチド)の他に、免疫ペプチドミクスから取得された独特のペプチド(n=2)をExpitopeで交差反応性についてチェックし(Table 1(表1)を参照)、最大2つのアミノ酸ミスマッチを有するペプチドを更なる分析から除外した。選択されたペプチド(n=14;
図3Aを参照)をThinkPeptides(ProImmune社、Oxford、United Kingdom)に注文し、50~75%のDMSO中に溶解させ、使用まで-20℃で貯蔵した。
【0200】
HLA-A2安定化アッセイ及びエピトープの順位付け
Milesら、Mol Immunol;48(4):728~732頁(2011)、doi:10.1016/j.molimm.2010.11.004に記載されるようにT2細胞を使用してHLA-A2安定化アッセイを行った。簡潔に述べれば、0.15×10
6個のT2細胞(LCLxTリンパ芽球様ハイブリッド細胞株0.1743CEM.T2)を、滴定された量のペプチドと37℃で3h、3μg/mLのβ2-ミクログロブリン(Sigma社)を補充した無血清培地中でインキュベートした。表面発現されたHLA-A2分子を、HLA-A2 mAb BB7.2(BD Pharmingen社、1:20)を使用してフローサイトメトリーで測定した。この目的のために、T2細胞を洗浄し、蛍光標識された抗体を使用して染色し、暗所中氷上で25分間インキュベートし、1%のFBSを含むPBA中に溶解させた。フローサイトメトリーを使用して生存について細胞をゲーティングし、事象をFACSCantoフローサイトメーターで獲得し、FlowJoソフトウェア(TreeStar社、Ashland、OR)を使用して分析した。ペプチドなしのT2細胞をベースラインとして使用した。第1のスクリーニングにおいて、ベースラインに対して>1.1倍の変化を誘導した25ug/mlの濃度で使用されたペプチド(14個のうちの11個、
図3Cを参照)を0.316~31.6μg/mlで更に滴定した。用量滴定曲線(
図3D)から、HLA-A2に対する結合アビディティの2つのパラメーター:(1)最も高い濃度とベースラインとの間の蛍光強度における差異である、振幅;及び(2)GraphPad ソフトウェアを使用して算出された、半数最大有効濃度(EC50)を算出した。これらの2つのパラメーターの閾値はgp100 YLE対照ペプチドの振幅の半分であり;EC50<1E-5Mであった。残りのROPN1及びROPN1B T細胞エピトープ(n=9)を引き続いてEC50値に基づいて順位付けした(
図3E)。
【0201】
T細胞の濃縮
ROPN1エピトープ特異的CD8 T細胞の濃縮
エピトープ特異的CD8 T細胞の濃縮を、Butlerら、Clin Cancer Res.;13(6):1857~1867頁(2007)、doi:10.1158/1078-0432により記載されたプロトコールに従って行ったが、これは以下の補正を含んだ。CD8 isolation kit(Miltenyi Biotec社)による磁気活性化細胞選別(MACS)によりPBMCからCD8+ Tリンパ球を収集した。>95%の純度を有するCD8+ T細胞を引き続いて、IL-2(36IU/mL;但しゲンタマイシンなし)を補充したT細胞培地中で1日間培養した後に、拡大増殖サイクルを開始した。K562ABC細胞(prof. Bruce Levine、University of Pennsylvania、PAの好意により提供された)に10μg/mlのROPN1及び/又はROPN1Bペプチドをロードし、無血清培地中RTで5hインキュベートした後に、細胞を洗浄し、0.1%のパラホルムアルデヒドで固定した。洗浄後に、K562ABC細胞を0.1×10
6個/mLで懸濁し、T細胞と1:20の比で共培養した。IL-2(36IU/mL)及びIL-15(20ng/μL)を共培養の開始後1及び3日目に加え、6日後に、T細胞をカウントし、2×10
6個/mLで懸濁し、1日静置した後に、次のサイクルを開始した(このスケジュールを最大4又は5サイクル続けた)。4及び5サイクル後に、T細胞をpMHCマルチマー(HLA*0201/MLN、Immudex社、Copenhagen、Denmark)で染色した。pMHC-PEをRTで10分間プレインキュベートし、続いて7AAD、抗CD3-FITC及び抗CD8-APCと20分間インキュベートした。細胞を1%のパラホルムアルデヒドで固定し、TCR発現をフローサイトメトリーで測定し、FlowJoXソフトウェアを使用して分析した。
図4Aは、エピトープ特異的T細胞を濃縮し、及び対応するTCR遺伝子を得るための手順を図式的に描写する。
【0202】
濃縮されたT細胞をROPN1及び/又はROPN1Bエピトープ特異的IFNγ産生について試験した。この目的のために、T2細胞(4×10
6個/mL)にペプチド(20ng/mL)を30分間ロードした。T細胞(2×10
5)を1:1の比でT2細胞と丸底96ウェルプレート中で培養し、翌日に上清を収集し、IFN-γ産生を生産者のプロトコールに従って酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA、Invitrogen社)で測定した(
図4B)。ペプチドなしのT2細胞を陰性対照として含め;スタフィロコッカス(staphylococcal)エンテロトキシンB(0.1μg、Sigma社)を陽性対照として使用した。
【0203】
ROPN1及び/又はROPN1Bエピトープ特異的TCRを得るために、濃縮されたT細胞(
図4C)は、IFNy分泌(Milentyi Biotec社)後に希釈されたか、又はpMHCマルチマーでFACS選別された単一細胞であった(例えば
図4D、Eを参照)。前者の手順のために、照射されたBSM細胞でT細胞を刺激し、IFNγ分泌細胞を生産者の推奨に従って捕捉した。
【0204】
TCRのクローニング及び配列同定
いずれかの手順からのCD8 T細胞をSMARTer(商標) RACE cDNA Amplification Kit(Clontech社)に曝露してROPN1及び/又はROPN1Bエピトープ特異的TCRα及びβ鎖を同定した。簡潔に述べれば、RNAをスピンカラム精製(NucleoSpin、Macherey-Nagel社)により単離した後に、5'RACE準備済みcDNAをKunertら、J Immunol;197(6):2541~2552頁(2016), doi:10.4049/jimmunol.1502024におけるように作製し、PCRを行ってTCR-Vコード領域を増幅した(
図4F)。初期生成物をネステッドPCRにより再増幅し、TOPO 2.1 vector(Invitrogen社)にクローニングし、DNAシークエンシングに供した。TCRα及びTCRβ配列を少なくとも12のコロニーにおいて検証した。IMGTデータベース及びHighV-QUESTツール(http://www.imgt.org)を使用して、TCR V、D、及びJ配列をLefranc命名法に従って注釈した(
図4Gを参照)。
【0205】
TCR遺伝子移入及びインビトロ試験
同定されたTCRα及びTCRβ遺伝子をコドン最適化し(GeneArt社、Regensburg、Germany)、NotI及びEcoRI制限部位により隣接されたTCRβ-2A-TCRαカセットを使用してpMP71ベクター(prof. Wolfgang Uckert、MDC、Berlin、Germanyの好意による寄贈)にクローニングした。Lamersら、Cancer Gene Ther.;13(5):503~509頁(2006)、doi:10.1038/sj.cgt.7700916、及びStraetemans G、Clin Dev Immunol、2012において以前に記載されたように、抗CD3 mAb OKT3での活性化で、293T及びPhoenix-Amphoパッケージング細胞の共培養により製造されたTCRコードレトロウイルス(pMP71)又はエンプティベクターを用いて健常ドナーからのPBMCへの形質導入を行った。表面発現されたTCR導入遺伝子についての染色を上記のように行った(
図5A、B)。
【0206】
形質導入されたT細胞(96ウェルプレート中6×10
4個/ウェル)をBSM細胞(1pM~1μMの範囲に及ぶペプチド濃度でのロード)又は腫瘍細胞(2×10
4個/ウェル)と200μlの総体積のT細胞培地中37℃で24h共培養した。T細胞IFN-γ産生のために要求されるROPN1、ROPN1B及びgp100対照ペプチドの応答及びEC50を、GraphPad Prism 5ソフトウェアを使用して算出した(
図5C)。
【0207】
同族ROPN1Bペプチド中のあらゆる単一の位置における置換として個々のアラニンを含有するペプチドをロードしたT2細胞の共培養において認識モチーフを決定した。不可欠な位置を、同族ペプチドと比較したIFNγ産生における>50%の減少として決定した。結果としてもたらされたモチーフを、ScanPrositeツール(https://prosite.expasy.org/scanprosite/)を使用してヒトプロテオームにおける存在についてスキャンした(
図5C、及び配列番号20)。
【0208】
結果
ROPN1及びROPN1Bは健常組織に存在せず、TNBCの>80%において豊富な及び均質な発現を示す
養子T細胞治療(AT)用のTNBC特異的標的抗原を同定するために、全部で1,735個体に由来する66の健常組織をカバーする5つのデータベースの他に、14の固形腫瘍タイプをカバーする447人のTNBC患者及び6,670人のがん患者の大きいデータベースにおいて、全ての現行で既知のCGA(n=239)の遺伝子発現値を調べた。これらの遺伝子発現(又はそれらの非存在)を引き続いてqPCR及び免疫組織化学(IHC)により検証した。このワークフロー(詳細についてM&Mを参照)を使用して、以下のアウトカムに従ってTNBCを処置するATのための標的としてROPN1及びROPN1Bを同定した:第1に、ROPN1又はそのアイソフォームROPN1Bは、精巣を除いて、いかなる健常組織においても発現されなかった(遺伝子発現データベースによる、
図1A)。健常組織(免疫特権部位、例えば精巣、胎盤及び精巣上体を除く)における参照CGA NY-ESO1(CTAG1B)の遺伝子発現レベルを発現閾値(TPM≦0.2)として設定し、その理由は、この抗原は、処置関連毒性なしでTCR操作されたT細胞を用いて成功裏に標的化されているからである(Rapoportら、Nat Med.21(8):914~921頁(2015)、doi:10.1038/nm.3910;及びRobbinsら、Clin Cancer Res. 2015、doi:10.1158/1078-0432.CCR-14-2708)。ROPN1アイソフォーム及びNY-ESO1の両方の主要な健常組織における発現の非存在は、10人のドナーからプールされた48の健常組織の商業的に得られるcDNAライブラリーを使用したqPCR(
図1B)の他に、2~6人の個体からの16の主要な健常組織を含有する組織マイクロアレイのIHC染色(
図1C)により確認された。第2に、ROPN1及びROPN1Bは、TNBC患者の84%(
図2A)の他に皮膚黒色腫の93%、及びはるかにより低い程度で多数の他の固形腫瘍タイプ(
図2E:UCEC:3%、LUSC:5%、GBM:3%)により高発現された。TNBCにおける高いROPN1及びROPN1B遺伝子発現は2つの追加の遺伝子発現データセットにおいて確認された(TNBCコホート1:86%陽性、n=66人の患者;及びTNBCコホート2:77%陽性、n=259人の患者)。比較としてNY-ESO1はTNBC患者の≦14%により発現され、発現レベルは一般に低かった(
図2E)。遺伝子発現に加えて、ROPN1及びROPN1Bタンパク質発現が、腫瘍組織マイクロアレイの免疫組織化学(IHC)染色を介してTNBCの88%において実証された(n=338)(
図2B)。第3に、タンパク質発現は83%において均質であった一方、不均質発現(腫瘍細胞の<50%はROPN1及びROPN1Bについて陽性であった)はROPN1及びROPN1B陽性TNBCの13%のみにおいて観察されたが、NY-ESO1はNY-ESO1陽性TNBCの18%において均質に発現され、82%において不均質に発現された(
図2C、D)。
【0209】
予測及び溶出されたROPN1及びROPN1Bエピトープは高いアビディティでHLA-A2により結合される
免疫原性T細胞エピトープを選択するために、本発明者らは第1に、エピトープの様々な定性的な態様、例えば切断部位の存在、transport of associated protein(TAP)についての親和性、及びHLAへの結合についての親和性に対して各々バイアスされた、以下のツール:NetMHC、NetCTLpan、RANKPEP、及びSYFPEITHIを使用するインシリコ予測のシリーズを行った(エピトープ特徴付け及び選択の概要について
図3Aを参照;予測された特徴に関する詳細についてHammerlら、Trends Immunol. 2018;xx:1~16頁、doi:10.1016/j.it.2018.09.004を参照)。予測されたエピトープをツール毎に順位付けし、各々のツールの上位10個のペプチドを重み付けして順位付けしたところ、17個の独特のペプチドが結果としてもたらされた。第2に、本発明者らは、免疫ペプチドミクス用の供給源としてROPN1Bを過剰発現するMDA-MB-231細胞(高いHLA-A2発現を有するTNBC細胞株)を使用した。本発明者らは免疫染色及びフローサイトメトリーによりROPN1B-GFP発現を検証した(
図3B)。全てのMHCクラスI結合ペプチドの質量分光分析は2つの追加の独特のエピトープをもたらした(
図3B)。独特のエピトープの全セット(n=19)を、アルゴリズムEXPITOPEを使用してヒトプロテオーム中に存在する他のペプチド配列に対する非相同性についてスクリーニングしたところ、14個の免疫原性の、非交差反応性のROPN1及び/又はROPN1Bペプチドがもたらされた(即ち、任意の他のペプチドと比較して>2個のミスマッチを有するペプチド、Table 1(表1))。これらの14個のペプチドを、参照及び対照ペプチドNY-ESO1(SLLMWITQV)及びgp100(YLEPGPVTA)と共に、インビトロでHLA-A2に対する結合について試験した。飽和濃度(25μg/ml)を使用した第1のサイド・バイ・サイドのスクリーニングにおいて、ベースラインに対して>1.1倍の変化を誘導したペプチドを選択した(HLA-A2の最小の安定性と考えられる、
図3C)。3つの予測されたペプチドはこの閾値に達しなかった。興味深いことに、AELTPELLKI(10-mer、免疫ペプチドームに由来する)はHLA-A2に結合せず(及びインシリコでHLA-B40:01にマッピングされた)、LIIRAEELAQM(同様に免疫ペプチドームに由来する11-mer)は高い親和性(上位の予測されたHLA-A2バインダーと同等)でHLA-A2に結合した。顕著なことに、後者のペプチドは、HLA-A2結合は予測されなかった。11個の残りのペプチドを用量滴定により分析し(
図3D)、gp100ペプチド(即ち、振幅)と比較した場合に半分若しくはそれ未満の最大結合を示した場合又は1E
-5M未満のEC50を示した場合に除外した。9個のペプチドはこれらの基準を満たし、これらをEC50値に従って順位付けした(
図3E;及び配列番号1~9)。
【0210】
ROPN1Bエピトープ特異的CD8 T細胞は健常ドナーT細胞から濃縮される
本発明者らは、NY-ESO1ペプチド(SLLMWITQV、EC50:5μM)と比較した場合に類似したEC50値をいずれも有する5つの上位に順位付けされたエピトープ(FQFLYTYIA、EC50:3.3μM;KTLKIVCEV、EC50:4.4μM;FLALACSAL、EC50:5.1μM ;MLNYIEQEV、EC50:6.6μM;FLYTYIAEV、EC50:1.1mM)を(Butlerら、Sci Transl Med.3(80):80ra34-80ra34 (2011)、doi:10.1126/scitranslmed.3002207に従って)T細胞及び人工抗原提示細胞(aAPC、HLA-A2、CD80及びCD86を過剰発現するK562ABC)の共培養において使用した。T細胞を健常ドナーから単離し、4~5回の濃縮サイクル後にエピトープ特異的IFNγ産生について試験した(T細胞濃縮手順の概要について
図4Aを参照)。2人のHLA-A2陽性ドナーを試験し、本発明者らは現在までに1人の健常ドナーにおいてMLNエピトープ特異的T細胞を濃縮した(
図4B)。濃縮されたT細胞は、それぞれ4及び5回のサイクル後に20%及び62%の結合性MLN/HLA-A2複合体を宿した(
図4C)。これらのT細胞を、IFNy捕捉後の限界希釈を通じてクローニングしたか(
図4D)、又は対応するpMHCマルチマーを使用してFACSを通じて選別し(
図4E)、引き続いてそれを使用して5'RACE PCRを介してエピトープ特異的TCR遺伝子を同定した(
図4F)。MLN-TCR遺伝子は、可変TCRα鎖(TRVA)をコードする2つの遺伝子及び可変TCRβ鎖(TRVB)をコードする1つの遺伝子を含有した(
図4G)。
【0211】
MLNエピトープ特異的TCRはT細胞により機能的に発現される
MLN TCR-αβの組合せをコドン最適化し、pMP71にクローニングした。2人の健常ドナーからの末梢T細胞における表面発現についての試験は、MLN TCR2(
図5A、B)はMLNペプチド:HLA-A2の結合を結果としてもたらすことを実証した。引き続いての実験において、pMHC複合体を使用してMLN TCR2 T細胞をMACS選別し、このTCRは、11nMの親和性でROPN1Bエピトープの認識を媒介するが、関連しないエピトープの認識は媒介しないことが示された(
図5C)。更には、このTCRは、ROPN1Bに由来するMLNエピトープ(MLN
YIEQEV)を特異的に認識するが、単一のアミノ酸差異のみを有するROPN1に由来するMLNエピトープ(MLNYMEQEV)を特異的に認識せず(
図5C)、アラニンスキャンにより決定された場合にストリンジェントな認識モチーフを示した(詳細について材料及び方法のセクションを参照)。6位及び8位におけるグルタミン酸並びに9位におけるバリンを除いて、あらゆるアミノ酸がTCR認識のために決定的であり(
図5C)、結果としてもたらされる認識モチーフ:M-L-N-Y-I-x-Q-x-xはヒトプロテオームのいかなる他の公知の配列中にも存在しない。
【0212】
考察
本研究において、本発明者らは、インシリコのワークフロー及び実験室ツールを利用して、TNBCの処置のための腫瘍選択的及び免疫原性標的抗原、対応するT細胞エピトープ並びにTCRを同定した。重要なことに、このワークフローを用いて、本発明者らはATの分野における3つの課題、即ち、T細胞関連毒性;標的抗原の不均質発現;及び最適以下のT細胞エピトープの選択に対処することを目的とした。
【0213】
操作されたT細胞でのATの最も目立った課題は、T細胞関連毒性、即ち、オン及びオフターゲット毒性についてのリスクである。本発明者らは、これらの毒性リスクを最小化することを目的とするアプローチを利用した。第1に、本発明者らは、腫瘍制限的な発現を有する標的抗原を選択した。換言すれば、ROPN1及びROPN1Bが精子の繊維鞘において通常発現される精巣及び精巣上体を除く健常組織における発現の非存在についてROPN1及びROPN1Bをスクリーニングした。これらの後者の組織は免疫特権的であり、女性において存在せず、女性TNBC患者におけるオンターゲット毒性のリスクを更に最小化する。第2に、(アルゴリズムEXPITOPEを使用して)ヒトプロテオームにおける他のペプチド/タンパク質配列に対する非相同性についてROPN1及びROPN1Bエピトープをスクリーニングした。第3に、インビトロアッセイのシリーズを用いてエピトープ特異性及び類似したエピトープに対する交差反応性の非存在についてTCRをスクリーニングした。ATの他の課題は、標的抗原の一般に低い及び不均質な発現であり、これは、抗原陰性腫瘍細胞クローンの派生物に起因して持続的な応答の欠如又は再発に有意に寄与すると考えられる。ROPN1及びROPN1Bは、TNBCの>80%において、腫瘍選択的なだけでなく、高い発現を示し、その大部分は厳格な均質な発現を有し、ROPN1及びROPN1Bは、ATのための安全なだけでなく、有効でもある標的となることが予想されることを指し示す。第3の課題は、真に免疫原性のエピトープを選択することであり、その目的のために本発明者らは複数のインシリコ及び実験室ツールを使用した。本発明者らのデータは、異なる技術の間でほとんど一致を明らかにしなかった。例えば、本発明者らは、HLA-A2に結合することは予測されなかった免疫ペプチドーム分析を通じた天然に存在するHLA-A2結合エピトープ(LIIRAEELAQM)を同定した。反対に、本発明者らは、免疫ペプチドーム分析によって取得されなかった予測される9-mer(MLNYIEQEV)に対する健常ドナーにおけるT細胞応答を観察した。これらの観察は、免疫原性エピトープを正確に同定するための複数のツールの関連性を強調する。更には、インビトロでのHLA結合の検証は、誤って予測されるエピトープを除外し、免疫原性を確実にするための必要条件であることを本発明者らは議論する。実際に、HLA-A2に対するエピトープの高い結合親和性は、抗原提示細胞を通じた交差提示を増強し、これは有効な抗腫瘍T細胞応答のために重要であることを証明している(Engelsら、Cancer Cell.23(4):516~526頁(2013)、doi:10.1016/j.ccr.2013.03.018;及びKammertoensら、Cancer Cell.23(4):429~431頁(2013)、doi:10.1016/j.ccr.2013.04.004)。合わせると、免疫ペプチドミクスと組み合わせた複数の予測ツールの逐次的な使用が、独特の及び免疫原性のエピトープを同定するために必要とされることを本発明者らのデータは示唆する。
【0214】
標的抗原及びエピトープが選択されたら、次の工程はエピトープ特異的T細胞及びそれらのTCRの濃縮を含む。健常ドナーPBMCからエピトープ特異的TCRを得ることは、そのようなT細胞の非常に低い頻度により一般に困難である。これに沿って、本発明者らは2人のドナーのうちの1人においてROPN1B特異的T細胞を濃縮することができ、これは対応するTCR遺伝子を同定するためにいくつかの濃縮サイクルを要求した。異なるアプローチを使用する同一のTCR遺伝子の同定は、抗原特異的な応答は単一のT細胞を起源とすることを示唆する。そのため、本発明者らの結果に基づいて腫瘍抗原特異的T細胞の実行可能な供給源となる、健常ドナーからそのようなT細胞を濃縮するために多くの数のPBMCが必要とされる。
【0215】
現在までに、TNBCにおいてTCR操作された細胞を用いるATを使用する研究は実行されていない。TNBCを処置するためのチロシンキナーゼ様オーファン受容体1(ROR1)に対して方向付けられたキメラ抗原受容体(CAR)T細胞は現在臨床試験中である(Spechtら、Cancer Res.79(4 Supplement):P2-09-13 LP-P2-09-13 (2019)、doi:10.1158/1538-7445.SABCS18-P2-09-13)。ROR1 CARは、ROR1を頻繁に過剰発現するTNBC細胞を認識及び殺傷できることを前臨床研究は示している。それにもかかわらず、ROR1は様々な健常組織において発現され、T細胞標的としてのROR1はオンターゲット毒性のリスクの増加を示すことを本発明者らは議論する。
【0216】
結論
本明細書において確立及び利用されるのは、ATのための腫瘍制限的な抗原標的、それらのエピトープ、それらの対応するTCR、及び操作されたT細胞を同定及び検証するための有効なワークフローである。特に、本発明者らは、複数の健常組織における発現の非存在を伴うATのための腫瘍標的としてROPN1及びROPN1Bを同定したが、上記非存在はオンターゲット毒性についての最小のリスクを含意する。また、本発明者らは、健常ドナーからの末梢T細胞において発現され、MLNYIEQEVエピトープの認識を媒介するが、関連しないエピトープの認識を媒介せず、オフターゲット毒性についての最小のリスクを含意するいかなる他のヒトタンパク質中にも存在しないストリンジェントな認識モチーフを示すROPN1B特異的及びHLA-A2制限的TCRを単離した。これらの結果と共に、ROPN1B、及び期待されるところではROPN1は、優れた標的抗原となり、ROPN1B-TCRは、TNBC患者の>80%について該当するROPN1BのT細胞エピトープをディスプレイするがんに対する新規の処置機会を提供することが実証される。
【0217】
【0218】
【0219】
(実施例2)
ATのための腫瘍制限的な抗原標的、それらのエピトープ、それらの対応するTCR、及び操作されたT細胞の同定及び検証における更なる工程(実施例1の拡張)。
実施例1の拡張における材料及び方法
細胞株及びT細胞の生成及び培養
ROPN1又はROPN1B過剰発現トリプルネガティブ乳がん(TNBC)細胞を作製するために、ROPN1+GFP又はROPN1B+GFP cDNA断片(UniProtKBアクセッション番号Q9BZX4-1の下でアクセス可能なアミノ酸配列)(ROPN1-2A-GFP又はROPN1B-2A-GFP)をGeneArt社(Regensburg、Germany)に注文し、PiggyBac PB510B-1ベクター末端に相同的な15bpの伸長を含む遺伝子特異的プライマーを用いるPCRを使用して増幅した。増幅された断片を、In Fusion cloning kit(Takara社)を使用してPiggyBacベクター(Dr. P. J. French、Erasmus MC、Rotterdam、the Netherlandsからの好意による寄贈)にクローニングした。引き続いて、Lipofectamine(Invitrogen社)及びTransposase Expression vector DNA(System Biosciences社)を使用してMDA-MB-231細胞株(ECACC カタログ番号92020424、TNBC用の細胞株モデル)にPiggyBac-ROPN1+GFP又はROPN1B+GFP DNAを安定的にトランスフェクトした。トランスフェクトされたMDA-MB-231細胞株をGFPについてFACS選別し、その後にROPN1又はROPN1Bの発現をPCR及びサイトスピンの免疫組織化学染色(遺伝子特異的プライマー及び抗ROPN1抗体を使用)で確認した。MDA-MB-231野生型及びそのROPN1又はROPN1B過剰発現バリアントの細胞を、それぞれ2μg/mLのピューロマイシンなし及びありで10%のFBS、200mMのL-グルタミン及び1%の抗生物質を補充したRPMI培地中で培養した。パッケージング細胞株293T及びPhoenix-Amphoを、10%のFBS、200mMのL-グルタミン、非必須アミノ酸、及び1%の抗生物質を補充したDMEM(DMEM完全培地)中で培養した。T2細胞及びBSM細胞を、10%のFBS、200mMのL-グルタミン及び1%の抗生物質を補充したRPMI培地中で培養した。
【0220】
T細胞の濃縮
ROPN1及び1Bエピトープ特異的CD8 T細胞の濃縮
エピトープ特異的T細胞の濃縮は、ペプチドをロードしたCD11c陽性細胞とナイーブT細胞を共培養することにより行った。PBMCをセルストレーナー(70μm)に通過させ、ナイーブT細胞及びCD11c細胞の単離のために使用した。CD11c陽性細胞(典型的には樹状細胞、DC)を単離するために、PBMCをFc遮断と共に4℃で10分間染色し(10μL/107個のPBMC、BD Pharmingen社、Vianen、the Netherlands)、その後に細胞をCD11c-PE抗体(10μL/107個のPBMC、BD Pharmingen社)を用いて4℃で30分間染色し、洗浄し、PEビーズ(10μL/107個のPBMC、Miltenyi Biotech社、Bergisch Gladbach、Germany)と4℃で更に15分間インキュベートした。洗浄後に、細胞を磁気活性化細胞選別(MACS)バッファーに溶解させ、MACS LSカラム(Miltenyi Biotec社)に通過させてCD11c細胞を陽性選択した。選択後に、CD11c細胞に30Gyでの照射を行い、24ウェルプレート(1×106個/mL)中、1%のヒト血清(Sanquin社)、1%の抗生物質、200mMのL-グルタミン、DC成熟カクテル(GM-CSF(10ng/mL、ImmunoTools社、Germany)、IL-4(10ng/mL、ImmunoTools社)、LPS(100ng/mL、Invitrogen社、Goteborg、Sweden)及びIFNγ(10ng/mL、Preprotech社、London、United Kingdom)の混合物)の他に、ペプチド(10μg/mL)を補充したRPMI培地中で終夜培養した。生産者のプロトコールに従ってNaive T Cell isolation kit(Miltenyi Biotec社)を使用してナイーブT細胞を単離し、5%のヒト血清(Sanquin社)、1%の抗生物質、200mMのL-グルタミン及びIL-7(5ng/mL、BD Pharmingen社)を補充したRPMI培地に懸濁した。ナイーブT細胞選択の通過画分を凍結させ、エピトープ特異的T細胞の再刺激のために使用した。CD11c細胞の成熟後に、これらの細胞をナイーブT細胞(1×106個/mL)と24ウェルプレート中、低いレベルのIL-7(5ng/mL)の存在下で72h共培養した。6及び8日目に、IL-7及びIL-15(10ng/mL)を加え、T細胞を12日目まで更に培養し、その後にこれらの細胞を刺激性細胞の非存在下で24h静置した。翌日、ペプチドをロードした照射されたPBMCを、IL-7及びIL-15の存在下1:1の比で加えた(再刺激1)。ペプチド当たり2~7人のドナーを使用して濃縮サイクルを4回(即ち、3回の再刺激サイクル)行った。
【0221】
濃縮後に、T細胞をROPN1及び/又はROPN1Bエピトープ特異的IFNγ産生について試験した。この目的のために、T2細胞(1×10
6個/mL)にペプチド(20ng/mL)を30分間ロードし、その後にT細胞(1×10
5個)を1:1の比でT2細胞と丸底96ウェルプレート中で18h培養した。上清を収集し、生産者のプロトコールに従って酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA、BioLegend社)を用いてIFN-γ産生を測定した(
図9A)。関連しないペプチドをロードしたT2細胞を陰性対照として含めた。レベルが200pg/mlを上回り、レベルが関連しないペプチドよりも最低でも2倍高い場合に、T細胞IFNg産生をエピトープ特異的と考えた(基準の完全な列記について、
図8を参照)。これらの基準を満たしたT細胞をペプチド:MHC(pMHC)四量体で染色してエピトープ特異的T細胞の頻度を決定した。Empty Loadable HLA Tetramers(5μL、Tetramer shop社、Kongens Lyngby、Denmark)を0.5μLのペプチド(200μM)と氷上で30分間インキュベートした。pMHCの複合体を遠心分離(3300g、5分)し、0.1×10
6個のT細胞と暗所中37℃で15分間インキュベートした。次に、CD3-FITC(1:30、BD社)及びCD8-APC(1:300、eBiosciences社)を含有する抗体カクテルを加え、暗所中4℃で更に30分間インキュベートした。最後に、T細胞を2回洗浄し、1%のパラホルムアルデヒド(PFA)で固定し、その後に事象をFACSCelesta(BD社)で獲得し、FlowJoXソフトウェアを使用して分析した。pMHCのT細胞結合がCD3陽性細胞集団中の細胞の0.5%より多くにおいて観察された場合(
図8)、T細胞をpMHCマルチマーでFACS選別した(例えば
図9Bを参照)。
【0222】
TCRのクローニング及び配列同定
次の工程において、CD8 T細胞をSMARTer(商標) RACE cDNA Amplification Kit(Clontech社)に曝露してROPN1及び/又はROPN1Bエピトープ特異的TCRα及びβ鎖を同定した。簡潔に述べれば、RNAをスピンカラム精製(NucleoSpin、Macherey-Nagel社)により単離した後に、5'RACE準備済みcDNAをKunertら、J Immunol;197(6):2541~2552頁(2016), doi:10.4049/jimmunol.1502024におけるように作製し、PCRを行ってTCR-Vコード領域を増幅した。初期生成物をネステッドPCRにより再増幅し、TOPO 2.1 vector(Invitrogen社)にクローニングし、DNAシークエンシングに供した。TCRα及びTCRβ配列を少なくとも12のコロニーにおいて検証した。IMGTデータベース及びHighV-QUESTツール(http://www.imgt.org)を使用して、TCR V、D、及びJ配列をLefranc命名法に従って注釈した。所与のエピトープについて、TCRa又はb配列が対応するTCR鎖の全ての機能的な配列の30%又はより多くを表す場合(即ち、>30%のクローン配列、
図8;
図9Cにおける例)、それらのTCRは他のTCR鎖とマッチし、遺伝子移入のために使用した。
【0223】
TCR遺伝子の同定及び移入
TCRα及びTCRβ遺伝子をコドン最適化し(GeneArt社、Regensburg、Germany)、NotI及びEcoRI制限部位により隣接されたTCRβ-2A-TCRαカセットを使用してpMP71ベクター(prof. Wolfgang Uckert、MDC、Berlin、Germanyの好意による寄贈)にクローニングした。Lamersら、Cancer Gene Ther.;13(5):503~509頁(2006)、doi:10.1038/sj.cgt.7700916、及びStraetemans G、Clin Dev Immunol、2012において以前に記載されたように、抗CD3 mAb OKT3での活性化で、293T及びPhoenix-Amphoパッケージング細胞の共培養により製造されたTCRコードレトロウイルス(pMP71)又はエンプティベクターを用いて健常ドナーからのPBMCへの形質導入を行った。表面発現されたTCR導入遺伝子についての染色を上記のように行った。TCR表面発現が少なくとも2人のドナーにおいてCD3陽性細胞集団中の細胞の5%より多くにおいて観察された場合(
図8)、TCRを更なる試験に曝露した(
図9Dにおける例)。単一のエピトープ(EVI;配列番号24)について、pMHC複合体はTCR T細胞を検出するために感受性でなく、TCR-Vb7.1及びCD137に対して方向付けられた抗体での染色により置き換えられたことが留意される。CD137の発現をEVIエピトープロードBSM細胞での48hの刺激後に測定し、包含のための閾値は再び、少なくとも2人のドナーにおけるCD3陽性細胞集団中の細胞の5%より多くにおける発現とした。これらの基準を満たしたTCR T細胞を、pMHC複合体を使用して又はCD137発現の上方調節に従ってMACS選別し、インビトロアッセイのために使用した。
【0224】
感度及び特異性についてのTCRの試験
インビトロ試験の第1のシリーズにおいて、TCR形質導入T細胞(96ウェルプレート中6×10
4個/ウェル)をROPN1又はROPN1B過剰発現MDA-MB231腫瘍細胞(2×10
4個/ウェル)と200μlの総体積のT細胞培地中37℃で24h共培養した。ROPN1又はROPN1B過剰発現腫瘍細胞を「細胞株及びT細胞の生成及び培養」(上記を参照)の下で記載したように生成し、腫瘍細胞をIFN-γで48h前処置した後にT細胞と共培養した。レベルが200pg/mlを上回り、レベルがwt MDA-MB231腫瘍細胞についてよりも最低でも2倍高い場合に、内因的にプロセシングされたエピトープのT細胞認識が実証された(
図8)。これらの基準を満たしたT細胞(
図10Aにおける例)を、それらの同族エピトープに対するそれらの感度について評価した。この目的のために、1pM~30μMの範囲に及ぶペプチド濃度でロードされたBSM細胞とTCR T細胞を共培養してEC50値を決定した(
図10Bにおける例)。GraphPad Prism 5ソフトウェアを使用してEC50値を算出した。
【0225】
次に、TCR T細胞と、同族ROPN1又はROPN1Bペプチド中のあらゆる単一の位置における置換として個々のアラニンを含有するペプチド(即ち、10μM)をロードしたBSM細胞との間の共培養を使用してTCRの認識モチーフを決定した。不可欠なアミノ酸位置は、アラニンバリアントを同族ペプチドと比較した場合にIFNγ産生における>50%の減少を示すものとして定義した。結果としてもたらされた認識モチーフを、ScanPrositeツール(https://prosite.expasy.org/scanprosite/)を使用してヒトプロテオームにおけるその存在についてスキャンした(
図11Aにおける例)。追加的に、TCR T細胞を、114個のHLA-A2溶出非同族ペプチドに対する反応性の欠如についてスクリーニングした(
図11Bにおける例)。上記の遺伝子を形質導入されたT細胞は、FLY-A、FLY-B及びEVIエピトープ特異的TCRとしても参照される。
【0226】
進化したモデルにおけるTCRの試験
試験の引き続いてのシリーズにおいて、TCR T細胞を乳がん細胞の3次元腫瘍オルガノイドモデルにおけるトラッキング及びモニタリングに供した。腫瘍オルガノイドをROPN1又はROPN1B過剰発現MDA-MB231腫瘍細胞から誘導した。単一腫瘍細胞懸濁液をマイクロインジェクターでコラーゲンマトリックスに注入して腫瘍オルガノイドを終夜形成させた。TCR T細胞を腫瘍オルガノイドの上に直接的に加えた。腫瘍細胞はGFP(ROPN1又はROPN1Bに遺伝学的に連結されている)を発現し、腫瘍オルガノイドへの追加に先立ってTCR T細胞をHoechstで標識し、腫瘍及びT細胞の両方をPI染色して細胞死をモニターした。TCR T細胞の追加後のいくつかの時点において、蛍光顕微鏡法を介して画像を記録した(
図12における例)。
【0227】
最後に、TCR T細胞を腫瘍保有免疫不全マウスにおけるそれらの抗腫瘍有効性について試験した。この目的のために、マトリゲル中に懸濁された2.5×10
6個のROPN1過剰発現MDA-MB231腫瘍細胞をNSGマウス(NOD.Cg-Prkdc
scid Il2rg
tm1Wjl/SzJ、Charles River Laboratories社、Paris、France)の右脇腹にscで移植した。腫瘍が触知可能となったときに(約200mm
3、腫瘍移植の3~4週後)、マウスをブスルファン(ip、16.5mg/kg、-3日目)、続いてシクロホスファミド(ip、200mg/kg、-2日目)で前処置した。0及び3日目に、マウスに各々15×10
6個のTCR又はMock(TCRなし)ヒトT細胞の2回のiv移入を与えた。T細胞は0日目の移入に先立って新たに形質導入し、3日目の移入に先立って5ng/mlのIL-15及びIL-21で維持し;T細胞をT細胞移入の前にサイトカインの非存在下で24h静置した。マウスにT細胞の第2の移入後に連続する8日間sc IL-2注射(1×10
5IU)を与えた。10日目に、0日目と比べた腫瘍退縮を測定し、TCR T細胞での処置とMock T細胞での処置とを比較した(
図13における例)。
【0228】
実施例1の拡張における結果
予測及び溶出されたROPN1及びROPN1Bエピトープは高いアビディティでHLA-A2により結合される
実施例1の拡張において、既存のエピトープを用いて実験を繰り返し、新たなエピトープを用いて実験を開始した。
図7は、実施例1及び2からの現行のデータの概要を提供する。
【0229】
実施例1と比較した場合に、新たなROPN1又はROPN1Bエピトープを、実施例1について記載したものと類似したツールを使用して予測したか、又は公開されている溶出されたペプチドのデータベースにおいてサーチし、10個の追加のエピトープを得た。エピトープの全セット(n=28)を、ROPN1又はROPN1B抗原における独特の存在、及びHLA-A2による有意な結合に従ってフィルタリングした(概要を
図7Aに示す)。第1に、アルゴリズムEXPITOPEを使用してヒトプロテオーム中に存在する他のペプチド配列に対する非相同性についてペプチドをスクリーニングし、19個の免疫原性の、非交差反応性のROPN1及び/又はROPN1Bペプチド(即ち、任意の他のペプチドと比較して>2個のミスマッチを有するペプチド)の短いリストを得た(Table 3(表3))。第2に、これらの19個のペプチドを参照及び対照ペプチドNY-ESO1(SLLMWITQV)及びgp100(YLEPGPVTA)と共にインビトロでHLA-A2に対する結合について試験した。エピトープは、(1)ペプチドなしと比較した場合に結合安定性が少なくとも1.1倍高い(
図7B);(2)EC50が少なくとも5×10
-5Mである;並びに(3)結合振幅が参照ペプチドYLEのそれの少なくとも50%である(
図7B及びC)場合に、HLA-A2により結合されると考えた。残りの11個のエピトープを振幅値に従って順位付けした(
図7D;配列番号1~9、23、24)。
【0230】
ROPN1及びROPN1Bエピトープ特異的CD8 T細胞は健常ドナーT細胞から濃縮される
遵守する必要がある基準エピトープ及びそれらの対応するTCRの他に、各々の工程に合格したエピトープ及び/又はそれらの対応するTCRを含む、全体的な選択プロセスは、
図8において図式的に示され、材料及び方法において記載される。本発明者らは、11個の上位に順位付けされたエピトープを使用してエピトープ特異的T細胞を取得した。4回の濃縮サイクル後に、T細胞をエピトープ特異的IFNγ産生及びpMHC結合について試験した。エピトープ特異的T細胞の濃縮が11個のROPN1又はROPN1Bペプチドのうちの9個について実証された(
図9A及びB)。
【0231】
ROPN1及びROPN1Bエピトープ特異的TCRはT細胞により機能的に発現される
ROPN1又はROPN1Bエピトープに特異的なT細胞を、pMHCマルチマーを使用してFACS選別し、それを使用して5'RACE PCRを介してTCR遺伝子を同定した。9個のエピトープのうちの6個について、対応するTCR遺伝子はオリゴ又はモノクローン性を実証し(
図9C)、マッチするTCR-abの組合せをコドン最適化し、pMP71にクローニングした。末梢T細胞における表面発現を、pMHCの結合に従って、又はそのようなpMHC複合体が利用可能でない場合に、CD137発現の上方調節に従って評価した(詳細について材料及び方法を参照)。6個のエピトープのうちの5個に特異的なTCRabは機能的な発現を実証した(MLN、FLY-A、AQM、FLY-B、EVI;配列番号1、4、8、23、24;
図9D)。
【0232】
FLY-A、FLY-B及びEVIエピトープ特異的TCRは高感度の及び特異的なT細胞応答をもたらす
T細胞濃縮のために使用された全てのエピトープ、及び/又はそれらの対応するTCRについてのアウトカムの一覧をTable 4(表4)に提示している。第1の及び不可欠なアッセイにおいて、腫瘍細胞によりプロセシング及び提示されるペプチドに対する反応性についてTCR T細胞を試験した。この工程に合格しないTCRは、予測される非天然ペプチドに特異的であるTCRである可能性が最も高く、更なる試験から(選択プロセスのかなり早くに)除外される。FLY-A、FLY-B及びEVI TCRは、ROPN1又はROPN1B発現MDA-MB231腫瘍細胞での刺激でT細胞IFNgを媒介できるが、MLN及びAQM TCRはそれができないことを本発明者らの結果は示した(
図10A)。FLY-A、FLY-B及びEVI(配列番号4、23、24)に特異的なTCR T細胞について、同族エピトープに対するT細胞応答の感度を用量滴定に従って決定した。EC50値は、FLY-A、FLY-B及びEVI TCR T細胞についてそれぞれ0.1、1.2、及び18.1mMであり、その順序でTCR T細胞は高い~低いアビディティを示すことを含意した(
図10B)。
【0233】
上記のアッセイに合格した形質導入されたTCRα及びTCRβ遺伝子のコードされるアミノ酸配列を配列番号34及び39(FLY-Aエピトープ/エピトープ4に結合する)、配列番号47及び52(FLY-Bエピトープ/エピトープ10に結合する)並びに配列番号60及び65(EVI-エピトープ/エピトープ11に結合する)に提供しており、これらを引き続いてのアッセイにおいて使用した。
【0234】
次のアッセイにおいて、FLY-A及びFLY-B TCR T細胞を同族エピトープに対するそれらの特異性について試験し;EVI TCR T細胞についてのアッセイは進行中である。いずれかのFLYエピトープに対して方向付けられたTCR T細胞は、これらのエピトープはストリンジェントな認識モチーフ、即ち:X-X-Y-T-Y-I-A-K-X(FLY-A)及びX-L-Y-T-Y-I-A-E-X(FLY-B)を宿すことを明らかにした(詳細について材料及び方法を参照)(
図11A)。実際に、これらのモチーフは、ヒトプロテオームの任意の他の既知の配列中に存在しなかった。追加的に、両方のTCRは、HLA-A2溶出非同族ペプチドを認識しなかった(
図11B)。
【0235】
FLY-A及びFLY-Bエピトープ特異的TCRは進化した腫瘍モデルにおいて高度に有効なT細胞応答をもたらす
FLY-A及びFLY-B TCR T細胞を更に検証するために、それらを3D腫瘍オルガノイドモデルにおいて試験した。両方のTCRは、ROPN1又はROPN1B過剰発現MDA-MB231乳がん細胞の殺傷を媒介した。これは、腫瘍オルガノイドにTCR T細胞を加えた後の腫瘍細胞(即ち、GFPシグナル)の喪失及び細胞死(即ち、PIシグナル)における増加を示す顕微鏡画像の他に、時間におけるGFP及びPIシグナルの定量化により例示される(
図12A及びB)。最後に、例示的な実施形態として、FLY-A TCRを免疫不全マウスモデルにおいて試験した。ROPN1過剰発現MDA-MB231細胞に由来する触知可能な皮下腫瘍を有し、Mock T細胞を用いた場合にはそうでなかったが、FLY-A TCR T細胞を用いて処置されたマウスは、10日目に60~90%の範囲に及ぶ腫瘍サイズの低減を示した(
図13A及びB)。
【0236】
実施例1の拡張における考察
養子T細胞処置のための標的抗原、エピトープの他に、対応するTCRの選択は、工程毎のアプローチ及び治療的な安全性の他に有効性の基準によるストリンジェントなフィルタリングを要求することを本発明者らは提示する。これに沿って、選択的(即ち、正常組織において存在しない)及び高い及び均質(即ち、全ての腫瘍細胞ではないとしてもほとんどにおいて明確に存在する)なTNBCにおける発現を有する標的抗原としてROPN1及びROPN1Bを選択した(
図1及び
図2を参照)。固形腫瘍、例えばTNBC及び皮膚黒色腫の他に、ROPN1/1Bはまた血液学的悪性腫瘍、例えば多発性骨髄腫において発現される。例えば、ROPN1(B)遺伝子は、5つの異なる患者コホートにおける多発性骨髄腫患者の骨髄試料の最大55%において発現されることを本発明者らは見出した(データ示さず)。ROPN1及びROPN1Bからのエピトープを予測又は免疫ペプチドミクスを通じて導出し、独特性(即ち、ROPN1又はROPN1Bを除いてヒトプロテオーム中に存在しないこと)の他にHLA-A2に対する結合特性についてフィルタリングした(アウトカムの他に基準の概要について
図7を参照)。このフィルタリングは、28個のエピトープの本発明者らの元々のリストを11個のエピトープまで狭め、この11個のエピトープをエピトープ特異的T細胞の濃縮の他に、インビトロ及びインビボモデルでの検証における感度、特異性及び抗腫瘍有効性についての対応するTCRの取得及び試験のために使用した(アウトカムの他に基準の概要について
図8を参照)。TCRのフィルタリングは、高い治療的価値を有する40個より多くのTCRabのうちの3個のTCRabの検証に繋がり;これらのTCRは、エピトープFLY-A、FLY-B又はEVI(配列番号4、23、24(aaにおけるエピトープ);33、34、38、39、46、47、51、52、59、60、64、65(nt及びaa配列におけるTCRa及びb))に対して方向付けられる。
【0237】
末梢血中に存在する低い出発頻度からエピトープ特異的T細胞を取得することを可能にする高感度プロトコールを使用して、(11個のうちの)9個のエピトープについてT細胞の濃縮された頻度を検出することができ;そのうちで6つのエピトープについて本発明者らはTCRab配列を取得し;そのうちで5つのエピトープについてTCRab配列は、遺伝子がT細胞に移入された場合に表面発現された(
図9)。腫瘍細胞によりプロセシング及び提示されるペプチドに対する反応性についてこれらのTCRabを評価し;そのようにして、更なる試験からの、予測される非天然ペプチドに特異的なTCRの早期の除外が提供された。5つのエピトープのうち、MLN及びAQMエピトープに対して方向付けられたTCRは、内因的にプロセシングされたエピトープを認識しなかった一方、エピトープFLY-A、FLY-B又はEVIに対して方向付けられたTCRはそれを認識した(
図10)。実施例2はMLN TCR T細胞に関する実施例1のより早期の発見を覆すことは注目に値し、この試験の複数の繰り返しは、このTCRは内因的に提示されるROPN1Bを過剰発現する腫瘍細胞に対してT細胞IFNg産生を媒介しないことを実証した(11回の繰り返しのうちの9回)。同族エピトープに対するFLY-A、FLY-B又はEVI TCR T細胞の感度は0.1(FLY-A)~18mM(EVI)の範囲に及び(
図10)、特にFLY-A又はFLY-B TCR T細胞のアビディティは、黒色腫及び肉腫患者を処置するために臨床的に有効に使用されているNY-ESO1 TCR T細胞の範囲内(即ち、0.7mM)であった(Robbins P、J Immunol、2008; Robbins P、J Clin Oncol、2011)。重要なことに、それらの認識モチーフに従ってそれらの同族エピトープに対するFLY-A又はFLY-B TCR T細胞の特異性 (即ち、9個の連続するアミノ酸のうちの6個は認識のために不可欠である)があり、また非同族エピトープのライブラリーを試験した (
図11)。より進化した腫瘍モデルにおいて残りのTCR T細胞を検証した場合に、これまでに試験されたTCR(FLY-A TCRが最も古い)は、インビトロでROPN1陽性3次元腫瘍オルガノイドを殺傷する他に、マウスに移植された場合にROPN1陽性腫瘍を殺傷する有意な能力を実証することを本発明者らは実証した(
図12及び
図13)。
【0238】
簡潔に述べれば、本発明者らは、高い治療的価値を示すROPN1又はROPN1BのFLY-A、FLY-B及びEVIエピトープに対して方向付けられた3つのTCRを同定及び検証した。TCR配列について配列番号33、34、38、39、46、47、51、52、59、60、64、65;及び注釈付き配列について
図14を参照。これらのTCRを用いて遺伝子操作されたT細胞は、TNBC又は他のROPN1(B)陽性がんを有する患者を処置するための試験におけるそれらの使用について予定されている。
【0239】
実施例1の拡張における結論
本明細書において確立及び利用されるのは、ATのための腫瘍制限的な抗原標的、それらのエピトープ、それらの対応するTCR、及び操作されたT細胞を同定及び検証するための有効なワークフローである。特に、本発明者らは、オンターゲット毒性についての最小のリスクを含意する、複数の健常組織における発現の非存在を伴うATのための腫瘍標的としてROPN1及びROPN1Bを同定した。また、本発明者らは、その内因的に提示されるエピトープの認識を媒介するが、関連しないエピトープの認識を媒介しない健常ドナーからの末梢T細胞において発現される3つのROPN1及び/又はROPN1B特異的並びにHLA-A2制限的TCRを単離した。追加的に、これらのTCRのうちの2つ(FLY-A及びFLY-B TCR)は、オフターゲット毒性についての最小のリスクを含意するいかなる他のヒトタンパク質中にも存在しないストリンジェントな認識モチーフを示した。更に、FLY-A及びFLY-B TCRは3次元腫瘍オルガノイドモデルにおいて明確な抗腫瘍有効性を実証し、FLY-A TCRはマウスモデルにおいて腫瘍の有意な退縮を実証した。これらの結果と共に、ROPN1及びROPN1Bは優れた標的抗原となり、ROPN1及び/又はROPN1B-TCRは、TNBC患者の>80%について該当するROPN1及び/又はROPN1BのT細胞エピトープをディスプレイするがんに対する新規の処置機会を提供することが実証される。
【0240】
【0241】
【0242】
配列
配列番号1:エピトープ1(MLN)
MLNYIEQEV
配列番号2:エピトープ2
FLALACSAL
配列番号3:エピトープ3
KTLKIVCEV
配列番号4:エピトープ4(FLY-A)
FLYTYIAKV
配列番号5:エピトープ5
LIIRAEELAQM
配列番号6:エピトープ6
FQFLYTYIA
配列番号7:エピトープ7
ALACSALGV
配列番号8:エピトープ8
AQMWKVVNL
配列番号9:エピトープ9
KMLKEFAKA
配列番号10:エピトープ1(MLN)特異的TCRアルファ鎖非改変ヌクレオチド配列
【0243】
【0244】
配列番号11:エピトープ1(MLN)特異的TCRアルファ鎖アミノ酸配列
【0245】
【0246】
配列番号12:エピトープ1(MLN)特異的TCRアルファ鎖CDR1
DSSSTY
配列番号13:エピトープ1(MLN)特異的TCRアルファ鎖CDR2
IFSNMDM
配列番号14:エピトープ1(MLN)特異的TCRアルファ鎖CDR3
AEDGGGSYIPT
配列番号15:エピトープ1(MLN)特異的TCRベータ鎖非改変ヌクレオチド配列
【0247】
【0248】
配列番号16:エピトープ1(MLN)特異的TCRベータ鎖アミノ酸配列
【0249】
【0250】
配列番号17:エピトープ1(MLN)特異的TCRベータ鎖CDR1
SGHDN
配列番号18:エピトープ1(MLN)特異的TCRベータ鎖CDR2
FVKESK
配列番号19:エピトープ1(MLN)特異的TCRベータ鎖CDR3
ASSPGPGQNSPLH
配列番号20:モチーフエピトープ1(MLN)
MLNYIXQXX
配列番号21:配列番号11のTRAV及びTRAJドメイン
【0251】
【0252】
配列番号22:配列番号16のTRBV、TRBD及びTRBJドメイン
【0253】
【0254】
配列番号23:エピトープ10(FLY-B)
FLYTYIAEV
配列番号24:エピトープ11(EVI)
EVIGPDGLITV
配列番号25:エピトープ12
GLPRIPFST
配列番号26:エピトープ13
HVSRMLNYI
配列番号27:エピトープ14
RLIIRAEEL
配列番号28:エピトープ15
YIEVDGEI
配列番号29:エピトープ16
AELTPELLKI
配列番号30:エピトープ17
GVTITKTLK
配列番号31:エピトープ18
LPRIPFSTF
配列番号32:エピトープ19
SALGVTITK
配列番号33:エピトープ4(FLY-A)特異的TCRアルファ鎖非改変ヌクレオチド配列
【0255】
【0256】
配列番号34:エピトープ4(FLY-A)特異的TCRアルファ鎖アミノ酸配列
【0257】
【0258】
配列番号35:エピトープ4(FLY-A)特異的TCRアルファ鎖CDR1
DRGSQS
配列番号36:エピトープ4(FLY-A)特異的TCRアルファ鎖CDR2
IYSNGD
配列番号37:エピトープ4(FLY-A)特異的TCRアルファ鎖CDR3
AVNGDSSYKLI
配列番号38:エピトープ4(FLY-A)特異的TCRベータ鎖非改変ヌクレオチド配列
【0259】
【0260】
配列番号39:エピトープ4(FLY-A)特異的TCRベータ鎖アミノ酸配列
【0261】
【0262】
配列番号40:エピトープ4(FLY-A)特異的TCRベータ鎖CDR1
MNHEY
配列番号41:エピトープ4(FLY-A)特異的TCRベータ鎖CDR2
SVGAGI
配列番号42:エピトープ4(FLY-A)特異的TCRベータ鎖CDR3
ASSYSLGDGYT
配列番号43:モチーフエピトープ4(FLY-A)
XXYTYIAKX
配列番号44:配列番号34のTRAV及びTRAJドメイン
【0263】
【0264】
配列番号45:配列番号39のTRBV、TRBD及びTRBJドメイン
【0265】
【0266】
配列番号46:エピトープ10(FLY-B)特異的TCRアルファ鎖非改変ヌクレオチド配列
【0267】
【0268】
配列番号47:エピトープ10(FLY-B)特異的TCRアルファ鎖アミノ酸配列
【0269】
【0270】
配列番号48:エピトープ10(FLY-B)特異的TCRアルファ鎖CDR1
TSINN
配列番号49:エピトープ10(FLY-B)特異的TCRアルファ鎖CDR2
IRSNERE
配列番号50:エピトープ10(FLY-B)特異的TCRアルファ鎖CDR3
ATDARARLM
配列番号51:エピトープ10(FLY-B)特異的TCRベータ鎖非改変ヌクレオチド配列
【0271】
【0272】
配列番号52:エピトープ10(FLY-B)特異的TCRベータ鎖アミノ酸配列
【0273】
【0274】
配列番号53:エピトープ10(FLY-B)特異的TCRベータ鎖CDR1
SGHDY
配列番号54:エピトープ10(FLY-B)特異的TCRベータ鎖CDR2
FNNNVP
配列番号55:エピトープ10(FLY-B)特異的TCRベータ鎖CDR3
ASSLGGGTRPLPNSPLH
配列番号56:モチーフエピトープ10(FLY-B)
XLYTYIAEX
配列番号57:配列番号47のTRAV及びTRAJドメイン
【0275】
【0276】
配列番号58:配列番号52のTRBV、TRBD及びTRBJドメイン
【0277】
【0278】
配列番号59:エピトープ11(EVI)特異的TCRアルファ鎖非改変ヌクレオチド配列
【0279】
【0280】
配列番号60:エピトープ11(EVI)特異的TCRアルファ鎖アミノ酸配列
【0281】
【0282】
配列番号61:エピトープ11(EVI)特異的TCRアルファ鎖CDR1
SSVSVY
配列番号62:エピトープ11(EVI)特異的TCRアルファ鎖CDR2
YLSGSTLV
配列番号63:エピトープ11(EVI)特異的TCRアルファ鎖CDR3
AARTGGGNKLT
配列番号64:エピトープ11(EVI)特異的TCRベータ鎖非改変ヌクレオチド配列
【0283】
【0284】
配列番号65:エピトープ11(EVI)特異的TCRベータ鎖アミノ酸配列
【0285】
【0286】
配列番号66:エピトープ11(EVI)特異的TCRベータ鎖CDR1
MGHRA
配列番号67:エピトープ11(EVI)特異的TCRベータ鎖CDR2
YSYEKL
配列番号68:エピトープ11(EVI)特異的TCRベータ鎖CDR3
ASSQEGLAGVPQY
配列番号69:配列番号60のTRAV及びTRAJドメイン
【0287】
【0288】
配列番号70:配列番号65のTRBV、TRBD及びTRBJドメイン
【0289】
【図】
【配列表】
【国際調査報告】