(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-02-01
(54)【発明の名称】アルミニウムめっき鋼板、熱成形部品、および製造方法
(51)【国際特許分類】
C23C 2/12 20060101AFI20240125BHJP
C23C 2/26 20060101ALI20240125BHJP
C22C 38/00 20060101ALI20240125BHJP
C22C 38/38 20060101ALI20240125BHJP
C22C 38/60 20060101ALI20240125BHJP
C21D 9/00 20060101ALI20240125BHJP
C21D 1/18 20060101ALI20240125BHJP
C21D 1/26 20060101ALI20240125BHJP
C21D 9/52 20060101ALI20240125BHJP
C21D 9/46 20060101ALI20240125BHJP
【FI】
C23C2/12
C23C2/26
C22C38/00 301T
C22C38/38
C22C38/60
C22C38/00 301Z
C21D9/00 A
C21D1/18 C
C21D1/26 E
C21D9/52 101
C21D9/46 J
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023544455
(86)(22)【出願日】2021-12-23
(85)【翻訳文提出日】2023-09-21
(86)【国際出願番号】 CN2021140835
(87)【国際公開番号】W WO2022161049
(87)【国際公開日】2022-08-04
(31)【優先権主張番号】202110119239.0
(32)【優先日】2021-01-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】514216801
【氏名又は名称】バオシャン アイアン アンド スティール カンパニー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】弁理士法人WisePlus
(72)【発明者】
【氏名】タン, ニン
(72)【発明者】
【氏名】リウ, ハオ
(72)【発明者】
【氏名】ジン, シンイェン
【テーマコード(参考)】
4K027
4K037
4K042
4K043
【Fターム(参考)】
4K027AA05
4K027AA23
4K027AB02
4K027AB08
4K027AB48
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4K043BB07
4K043DA05
4K043EA02
4K043FA03
4K043FA12
(57)【要約】
本発明には、基板と基板の表面のめっき層とを含むアルミニウムめっき鋼板が開示されている。めっき層のミクロ組織は、Mg
2Si相およびAlMgSiFe相を含み、Mg
2Si相の平均結晶粒径は、0.001~5μmである。本発明は、アルミニウムめっき鋼板の熱成形プロセスでの溶融によるローラー付着の問題および水素脆化リスクの問題を軽減できる。本発明は、アルミニウムめっき鋼板の製造方法、ならびに熱成形部品およびその製造方法をさらに提供する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と上記基板の表面のめっき層とを含むアルミニウムめっき鋼板であって、上記めっき層のミクロ組織が、Mg
2Si相およびAlMgSiFe相を含み、上記Mg
2Si相が、0.001~5μmの平均結晶粒径を有する、アルミニウムめっき鋼板。
【請求項2】
上記めっき層が、上記Mg
2Si相および上記AlMgSiFe相を含む表面層を含む、請求項1に記載のアルミニウムめっき鋼板。
【請求項3】
上記めっき層が、Fe-Al合金およびFe-Al-Si合金を含むバリア層をさらに含み、上記バリア層が、5μm以下の厚さを有する、請求項2に記載のアルミニウムめっき鋼板。
【請求項4】
上記めっき層が、5~50μmの厚さを有する、請求項1に記載のアルミニウムめっき鋼板。
【請求項5】
上記アルミニウムめっき鋼板の上記基板の組成が、質量パーセントで、0.05~0.5%のC、0.01~2.0%のSi、0.3~3.0%のMn、0.005~0.3%のAl、0.01%≦Ti<0.1%、0.0005%≦B<0.1%、0.05%≦Cr<0.5%、0.0005%≦Nb<0.1%、およびFeを含む、請求項1に記載のアルミニウムめっき鋼板。
【請求項6】
上記アルミニウムめっき鋼板の上記基板の上記組成が、質量パーセントで、0.05~0.5%のC、0.01~2.0%のSi、0.3~3.0%のMn、0.005~0.3%のAl、0.01%≦Ti<0.1%、0.0005%≦B<0.1%、0.05%≦Cr<0.5%、0.0005%≦Nb<0.1%を含み、残部がFeおよび不可避的不純物である、請求項5に記載のアルミニウムめっき鋼板。
【請求項7】
上記不可避的不純物のうち、質量パーセントで、P<0.3%、S<0.1%、およびV<0.1%である、請求項6に記載のアルミニウムめっき鋼板。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか一項に記載のアルミニウムめっき鋼板の製造方法であって、
製錬する工程;
圧延する工程;および
連続焼鈍および溶融めっきを行う工程であって、焼鈍温度が710~780℃であり、めっき液の温度が600~660℃であり、上記めっき液の温度からめっきポットに入る鋼板の温度を差し引いた温度が5℃以下であり、上記鋼板が上記めっきポットを出た後に冷却され、上記めっきポットを出た上記鋼板の温度からめっき層の凝固温度までの平均冷却速度が15℃/秒より大きく、上記めっきポットを出た上記鋼板の温度から200℃までの平均冷却速度が10~30℃/秒である、工程
を含む、アルミニウムめっき鋼板の製造方法。
【請求項9】
上記めっき液の化学組成が、質量パーセントで、5~11%のSiおよび0.5~20%のMgを含む、請求項8に記載のアルミニウムめっき鋼板の製造方法。
【請求項10】
上記めっき液が、1~10質量%のZnをさらに含む、請求項9に記載のアルミニウムめっき鋼板の製造方法。
【請求項11】
上記めっき液の残部が、Alおよび不可避的不純物である、請求項9または10に記載のアルミニウムめっき鋼板の製造方法。
【請求項12】
上記圧延する工程が、熱間圧延することを含み、上記熱間圧延の巻取温度が、630℃以下である、請求項8に記載のアルミニウムめっき鋼板の製造方法。
【請求項13】
上記圧延する工程が、冷間圧延することを含み、上記冷間圧延中の変形が、10~70%である、請求項12に記載のアルミニウムめっき鋼板の製造方法。
【請求項14】
請求項1~7のいずれか一項に記載のアルミニウムめっき鋼板を用いて製造された熱成形部品。
【請求項15】
上記熱成形部品が表面層および内部層を含み、上記内部層のMgの質量パーセントに対する上記表面層のMgの質量パーセントの比が5以上であり、上記熱成形部品が300以上の芯部硬度HV1を有する、請求項14に記載の熱成形部品。
【請求項16】
請求項14または15に記載の熱成形部品の製造方法であって、
上記アルミニウムめっき鋼板をビレットに加工する工程;
上記ビレットに熱処理を行う工程であって、上記熱処理の加熱方式が一段式加熱または段階式加熱であり;上記熱処理の上記加熱方式が一段式加熱である場合、加熱停止温度が900~1000℃のうちのある温度であり、総加熱時間が10~600秒であり;上記熱処理の上記加熱方式が段階式加熱である場合、加熱停止温度が700~1000℃のうちの複数の温度を含み、総加熱時間が1~15分であり、上記複数の温度のうち最も高い温度が900~1000℃のうちのある温度であり、900~1000℃での上記ビレットの保持時間が10~600秒である、工程;および
上記ビレットを熱成形用の金型に移す工程であって、上記金型に移す際の上記ビレットの温度が650℃以上であり、上記金型の冷却速度が30℃/秒以上である、工程
を含む、熱成形部品の製造方法。
【請求項17】
上記熱成形のプロセスが、ホットスタンプまたは熱間圧延である、請求項16に記載の熱成形部品の製造方法。
【請求項18】
上記アルミニウムめっき鋼板をビレットに加工する工程の前に、増肉圧延する工程がさらに行われる、請求項16または17に記載の熱成形部品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属めっき鋼板、特にアルミニウムめっき鋼板、熱成形部品、および製造方法の分野に関する。
【背景技術】
【0002】
アルミニウムめっき鋼板は、良好な耐熱性および耐食性のため、自動車、家庭用電化製品、オーブン、および炉などの様々な分野で広く使用されている。アルミニウムめっき層は、高温耐酸化性のため、熱処理中の鋼板の酸化および脱炭を防ぐことができる。そのため、アルミニウムコーティングは、熱成形鋼(特に、ホットスタンプ鋼)の分野で広く使用されている。アルミニウムめっきのホットスタンプ鋼の世界的需要は、約200万トンである。しかしながら、アルミニウムめっき鋼板の熱成形は、熱処理時のアルミニウム溶融によるローラー付着の問題および水素脆化リスクの問題など、いくつかの難題にも直面している。
【0003】
アルミニウム溶融によるローラー付着の問題は、熱成形部品の生産効率および品質を低下させる。この問題を改善するため、研究者らは、急速な加熱に起因するアルミニウムの溶融を避けるために加熱速度を制御することを一般に目指している。例えば、特許CN101583486Bには、20~700℃の間のアルミニウムめっき鋼板の加熱速度が12℃/秒を超えるべきではないことが明示的に提案されている。また、特許CN109518114Aには、アルミニウムが溶融によりローラーに付着することを防止し、加熱速度を低減するための段階式加熱方法が開示されている。
【0004】
水素脆化リスクは、熱成形部品の耐遅れ割れ性などの特性に影響を及ぼすこととなる。アルミニウム-ケイ素ホットスタンプ鋼の水素脆化リスクを低減するために、特許CN100471595Cには、熱間プレスプロセスの雰囲気を制御することによってホットスタンプ部品の水素脆化リスクが低減されるホットスタンプ方法が開示されている。特許CN104160050Bには、鋼中のMn含有介在物およびMn酸化物の濃度を高めることによって鋼板の水素脆化リスクが低減されたホットスタンプ鋼が開示されている。
【0005】
本発明は、既存の製品および技術の欠点に対応したアルミニウムめっき鋼板、熱成形部品、および製造方法を提供する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、アルミニウムめっき鋼板から熱成形部品を製造する際の熱処理プロセス中に発生する溶融によるローラー付着の問題および水素脆化リスクの問題を解決することである。本発明は、アルミニウムめっき鋼板の熱成形プロセス時の溶融によるローラー付着の問題および水素脆化リスクの問題を軽減できる、アルミニウムめっき鋼板、熱成形部品、および製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、基板と基板の表面のめっき層とを含むアルミニウムめっき鋼板であって、めっき層のミクロ組織が、Mg2Si相およびAlMgSiFe相を含み、Mg2Si相が、0.001~5μmの平均結晶粒径を有する、アルミニウムめっき鋼板を提供する。
【0008】
上記の技術的解決手段を採用することにより、アルミニウムめっき鋼板から熱成形部品を製造する際の熱処理中での溶融によるローラー付着の問題および水素脆化リスクの問題を軽減でき、アルミニウムめっき鋼板から製造された熱成形部品の耐赤錆性を向上させることができる。
【0009】
好ましくは、めっき層は、表面層およびバリア層を含み、表面層は、Mg2Si相およびAlMgSiFe相を含む。
【0010】
好ましくは、めっき層は、バリア層をさらに含み、バリア層は、Fe-Al合金およびFe-Al-Si合金を含み、バリア層は、5μm以下の厚さを有する。
【0011】
好ましくは、アルミニウムめっき鋼板のめっき層は、5~50μmの厚さを有する。
【0012】
好ましくは、アルミニウムめっき鋼板の基板の組成は、質量パーセントで、0.05~0.5%のC、0.01~2.0%のSi、0.3~3.0%のMn、0.005~0.3%のAl、0.01%≦Ti<0.1%、0.0005%≦B<0.1%、0.05%≦Cr<0.5%、0.0005%≦Nb<0.1%、およびFeを含む。
【0013】
好ましくは、アルミニウムめっき鋼板の基板の組成は、質量パーセントで、0.05~0.5%のC、0.01~2.0%のSi、0.3~3.0%のMn、0.005~0.3%のAl、0.01%≦Ti<0.1%、0.0005%≦B<0.1%、0.05%≦Cr<0.5%、0.0005%≦Nb<0.1%を含み、残部がFeおよび不可避的不純物である。
【0014】
好ましくは、不可避的不純物のうち、質量パーセントで、P<0.3%、S<0.1%、およびV<0.1%である。
【0015】
また、本発明は、上記アルミニウムめっき鋼板の製造方法であって、
製錬する工程;
圧延する工程;および
連続焼鈍および溶融めっき(hot plating)を行う工程であって、焼鈍温度が710~780℃であり、めっき液の温度が600~660℃であり、めっき液の温度からめっきポットに入る鋼板の温度を差し引いた温度が5℃以下であり、鋼板がめっきポットを出た後に冷却され、めっきポットを出た鋼板の温度からめっき層の凝固温度までの平均冷却速度が15℃/秒より大きく、めっきポットを出た鋼板の温度から200℃までの平均冷却速度が10~30℃/秒である、工程
を含む、上記アルミニウムめっき鋼板の製造方法を提供する。
【0016】
好ましくは、めっき液の化学組成は、5~11質量%のSiおよび0.5~20質量%のMgを含む。
【0017】
好ましくは、めっき液は、1~10質量%のZnをさらに含む。
【0018】
好ましくは、めっき液の残部は、Alおよび不可避的不純物である。
【0019】
好ましくは、圧延する工程は、熱間圧延することを含み、熱間圧延の巻取温度は、630℃以下である。
【0020】
好ましくは、圧延する工程は、冷間圧延することを含み、冷間圧延中の変形は、10~70%である。
【0021】
また、本発明は、上記アルミニウムめっき鋼板から製造された熱成形部品を提供する。
【0022】
好ましくは、熱成形部品は、表面層および内部層を含み、内部層のMgの質量パーセントに対する表面層のMgの質量パーセントの比は、5以上であり、熱成形部品は、300以上の芯部硬度HV1を有する。
【0023】
さらに、本発明は、上記熱成形部品の製造方法であって、
アルミニウムめっき鋼板をビレットに加工する工程;
ビレットに熱処理を行う工程であって、熱処理の加熱方式が一段式加熱または段階式加熱であり;熱処理の加熱方式が一段式加熱である場合、加熱停止温度が900~1000℃のうちのある温度であり、総加熱時間が10~600秒であり;熱処理の加熱方式が段階式加熱である場合、加熱停止温度が700~1000℃のうちの複数の温度を含み、総加熱時間が1~15分であり、複数の温度のうち最も高い温度が900~1000℃のうちのある温度であり、900~1000℃でのビレットの保持時間が10~600秒である、工程;および
ビレットを熱成形用の金型に移す工程であって、金型に移す際のビレットの温度が650℃以上であり、金型の冷却速度が30℃/秒以上である、工程
を含む、上記熱成形部品の製造方法を提供する。
【0024】
好ましくは、熱成形のプロセスは、ホットスタンプまたは熱間圧延である。
【0025】
好ましくは、アルミニウムめっき鋼板をビレットに加工する工程の前に、増肉圧延(thickening rolling)する工程がさらに行われる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1】本発明の実施例2のアルミニウムめっき鋼板のめっき層の走査スペクトルを示す。
【
図2】本発明の実施例2の熱成形部品のめっき層中のMgの質量パーセントを、めっき層の深さの関数として示す。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明の実施方式を具体的な実施形態により説明する。当業者は、本明細書に開示されている内容に基づいて、本発明の他の利点および効果を容易に理解できる。本発明の説明を好ましい実施形態と共に紹介することとなるが、このことは、本発明の特徴がそれらの実施形態にのみ限定されることを意味するものではない。それどころか、実施方式と併せた本発明の説明は、本発明の特許請求の範囲から導き出され得る他の代替形態または変形形態も含むことを意図している。本発明の完全な理解を提供するために、以下の説明は、多くの具体的な詳細を含むこととなる。しかしながら、本発明は、これらの具体的な詳細を用いることなく実施することもできる。また、混乱または本発明の焦点を曖昧にすることを避けるために、いくつかの具体的な詳細を説明において省略することとなる。矛盾しない限り、本発明における実施形態および実施形態における特徴は、互いに組み合わせることができることに留意されたい。
【0028】
本明細書において、同様の参照符号および文字は、以下の図面において同様の項目を指すことに留意されたい。したがって、一旦ある図面で項目を定義すれば、それ以降の図面ではさらなる定義および説明は必要ない。
【0029】
実施形態の説明において、「内」などの用語は、図面に示す向きもしくは位置関係、または本発明が使用される際の通常の向きもしくは位置関係に基づく向きもしくは位置関係を示すものであり、本発明を説明し、説明を簡略化する便宜のためのものであることに留意されたい。参照されている装置または要素が特定の向きを有し、特定の向きで構成され操作されなければならないことを示すものでも暗示するものでもないため、本発明を限定するものとして解釈されるべきではない。
【0030】
本発明の目的、技術的解決手段、および利点をより明確にするために、本発明の実施方式を添付図面と共にさらに詳細に説明する。
【0031】
本発明は、基板と基板の表面のめっき層とを含むアルミニウムめっき鋼板であって、めっき層のミクロ組織が、Mg2Si相およびAlMgSiFe相を含み、Mg2Si相が、0.001~5μmの平均結晶粒径を有する、アルミニウムめっき鋼板を提供する。
【0032】
めっき層中にMg2Si相およびAlMgSiFe相を形成することにより、主にAlから構成されるめっき層中のAl相またはAl-Si相の割合を低減し、これらのAl含有相のめっき層表面での凝集を解消し、これらをできるだけ分散させることができ、それにより、熱処理中にアルミニウムが溶融することを低減し、熱処理時のアルミニウム溶融によるローラー付着の問題を軽減できる。これにより、アルミニウムめっき鋼板がより速い加熱速度に耐えることが可能となり、生産効率を向上させることができる。加えて、熱処理時にアルミニウムが空気中のH2Oと反応してH2を生成する確率を低減し、熱処理時の雰囲気中のH2の含有量を最小限に抑え、それにより水素脆化リスクを軽減する。
【0033】
本発明の実施形態において、高品質のめっき層中のMg2Si相の平均結晶粒径は、0.001~5μmである。Mg2Si相の平均結晶粒径が小さいほど、めっき層の表面に分布させやすくなり、水素脆化リスクを低減するのに一層貢献する。
【0034】
好ましくは、めっき層は、Mg2Si相およびAlMgSiFe相を含む表面層を含む。
【0035】
めっき層は、主にAl相とSiリッチ相とからなり、Mg2Si相およびAlMgSiFe相は、表面層中にクラスター状または網目状に均一に分布している。Mg含有相はめっき層の表面に蓄積しやすいため、めっき層中のMg2Si相およびAlMgSiFe相は、熱処理中に優先的にめっき層の表面に分布する。このことは、外部雰囲気から基板へのH2の拡散または浸透を効果的に遮断し、水素脆化リスクをさらに低減する。
【0036】
上記めっき層は、Fe-Al合金およびFe-Al-Si合金を含むバリア層をさらに含み、バリア層は、5μm以下の厚さを有する。
【0037】
主にFeから構成された基板は、主にAlおよびSiから構成されためっき液に浸漬されると、溶融したAlおよびSiが基板の表面で自然にFeと合金になり、主にFe-Al合金およびFe-Al-Si合金から構成されたバリア層を形成することとなる。バリア層は、鋼板の基板とめっき層の表面層との間に位置する。実際の生産のプロセスにおいて、めっきバリア層の厚さは、めっき液中への鋼板の浸漬時間およびその他の条件を制御することによって調整できる。本発明の実施形態において、バリア層の厚さは、5μm以内に制御されるべきである。バリア層の厚さが大きすぎると、冷却中のめっき層のミクロ組織の変化に影響を及ぼし、例えば、Mg2Si相およびAlMgSiFe相の形成が妨げられ、結晶粒が過度に大きくなり、場合によっては、その後の熱成形中に表面層の剥離に至ることがある。
【0038】
好ましくは、アルミニウムめっき鋼板のめっき層は、5~50μmの厚さを有する。
【0039】
実際の生産時には、めっき層の厚さは、めっき液中への基板の浸漬時間、エアーナイフの気流強度などを調整することによって制御できる。浸漬時間が長いほど、めっき層はより厚くなり、一方で、エアーナイフの気流強度が高いほど、めっき層はより薄くなる。
【0040】
好ましくは、アルミニウムめっき鋼板の基板の組成は、質量パーセントで、0.05~0.5%のC、0.01~2.0%のSi、0.3~3.0%のMn、0.005~0.3%のAl、0.01%≦Ti<0.1%、0.0005%≦B<0.1%、0.05%≦Cr<0.5%、0.0005%≦Nb<0.1%、およびFeを含む。
【0041】
好ましくは、アルミニウムめっき鋼板の基板の組成は、質量パーセントで、0.05~0.5%のC、0.01~2.0%のSi、0.3~3.0%のMn、0.005~0.3%のAl、0.01%≦Ti<0.1%、0.0005%≦B<0.1%、0.05%≦Cr<0.5%、0.0005%≦Nb<0.1%を含み、残部がFeおよび不可避的不純物である。
【0042】
基板の組成において、P、S、およびVの元素は不可避的不純物であり、基板中のそれらの含有量が少ないほど、より良好である。具体的には、本願の実施形態において、質量パーセントで、P<0.3%、S<0.1%、およびV<0.1%である。
【0043】
また、本発明は、上記アルミニウムめっき鋼板の製造方法であって、
製錬する工程;
圧延する工程;および
連続焼鈍および溶融めっきを行う工程であって、焼鈍温度が710~780℃であり、めっき液の温度が600~660℃であり、めっき液の温度からめっきポットに入る鋼板の温度を差し引いた温度が5℃以下であり、鋼板がめっきポットを出た後に冷却され、めっきポットを出た鋼板の温度からめっき層の凝固温度までの平均冷却速度が15℃/秒より大きく、めっきポットを出た鋼板の温度から200℃までの平均冷却速度が10~30℃/秒である、工程
を含む、上記アルミニウムめっき鋼板の製造方法を提供する。
【0044】
焼鈍温度が710℃未満であると、鋼板のめっき性に影響を及ぼし、めっきの漏れまたはめっき層のめっき付着不良を引き起こすことがある。焼鈍温度が780℃を超えると、エネルギーの浪費を招き、さらに鋼板の表面状態に影響を及ぼすことがあり、めっき層の表面品質や、めっき層中のMg2Si相の結晶粒サイズおよびAlMgSiFe相の形成に影響を及ぼす可能性がある。
【0045】
めっき液の温度は、溶融したAlおよびFeの合金化反応に影響を及ぼし、それによりバリア層の組成および厚さに影響を及ぼすこととなる。本願では、めっき液の温度が600~660℃の範囲内に制御され、めっきポットに入る鋼板の温度がめっき液の温度より若干低く制御されることにより、適切な厚さおよびミクロ組織を有するバリア層を得ることができ、その後の処理中に表面層に所望のAlMgSiFe相およびMg2Si相が確実に形成されるようにし、表面層の剥離が防止される。
【0046】
めっき液の温度が高いか低いかだけではなく、めっきポットに入る鋼板の温度とめっき液の温度との間に著しい差があることも、めっき層の表面品質や、めっき層中のMg2Si相の結晶粒サイズおよびAlMgSiFe相の形成に影響を及ぼす可能性がある。このことは、Mg2Si相の平均結晶粒径が5μmより大きくなる、および/またはAlMgSiFe相を形成することができない、という結果をもたらす可能性がある。めっき層中のMg2Si相の平均粒径が大きすぎると、めっき層の表面が目立って粗くなり、鋼板の外観に影響を及ぼすこととなる。
【0047】
めっきポットを出た鋼板の温度からめっき層の凝固温度までの平均冷却速度、およびめっきポットを出た鋼板の温度から200℃までの平均冷却速度は、両方とも重要である。この2つの冷却速度が遅すぎると、Al-Si相の成長速度が速くなりすぎ、Mg2Si相およびAlMgSiFe相の形成を抑制することとなる。その結果、本願のアルミニウムめっき鋼板の熱成形プロセス時に直面する、溶融によるローラー付着の問題および水素脆化リスクの問題を克服する能力を実現することができない。また、冷却速度が過度に遅いと、めっき層中に大きな結晶粒のMg2Si相およびAlMgSiFe相が析出し、その結果、めっき層の表面が粗くなり、製品の外観に影響を及ぼす可能性がある。逆に、この2つの冷却速度が速すぎると、鋼板の強度が過大となり、その伸びを損なうか、または表面に傷がつくなどのその他の二次的な損傷を生じさせることがある。
【0048】
めっきポットに入る鋼板の温度は、鋼板の厚さおよび幅に応じて調整できる。めっきポットに入る鋼板の温度およびめっきポットを出た後の冷却速度(めっきポットを出た鋼板の温度からめっき層の凝固温度までの平均冷却速度、およびめっきポットを出た鋼板の温度から200℃までの平均冷却速度を含む)が適切に速いことにより、表面層中のMg2Si相およびAlMgSiFe相の均一な分布および結晶粒の微細化をさらに改善できる。
【0049】
連続焼鈍および溶融めっきのプロセス中、冷却速度の制御は、送風機の出力を調整することによって実現できる。
【0050】
好ましくは、めっき液の化学組成は、質量パーセントで、5~11%のSiおよび0.5~20%のMgを含む。
【0051】
めっき液中のSiは、主にバリア層の厚さを抑制するために、必須である。めっき液中のSi含有量が低すぎると、バリア層の厚さが厚くなりすぎ、その結果、鋼板の加工性が劣ることとなる。一方、めっき液中のSi含有量が高すぎると、バリア層に対するその抑制効果が限定されると同時に、めっき液の流動性にも影響を及ぼし、生産の難易度を高めることとなる。したがって、めっき液中のSi含有量は、5~11%である。めっき層中のMgの存在は、主に耐食性を向上させ、Mg2Si相の形成を促進するためである。めっき層中のMgはめっき液に由来し、めっき液中のMg含有量がある値を超えると、冷却中にMg2Si相が形成され得る。しかしながら、Al-Siめっき液へのMgの溶解度には限界があり、めっき液中のMg含有量が高すぎると、Mgは極めて容易に酸化されてスラグを形成し、生産が困難になる。したがって、めっき液中のMg含有量は、0.5~20%である。
【0052】
好ましくは、めっき液は、1~10質量%のZnをさらに含む。めっき層中のZnは、犠牲陽極としての機能を果たし、犠牲保護を提供し、鋼の耐食性を高める。
【0053】
好ましくは、めっき液の残部は、Alおよび不可避的不純物である。
【0054】
好ましくは、圧延する工程は、熱間圧延することを含み、熱間圧延の巻取温度は、630℃以下である。巻取温度が高すぎると、鋼板の表面に過度な酸化物スケールを生じさせることがあり、圧延した後の酸洗中にその酸化物スケールを完全に除去できないため、その後のアルミニウムめっき時のめっき層の表面品質に影響を及ぼし得る。
【0055】
好ましくは、圧延する工程は、冷間圧延することをさらに含む。上記熱間圧延する工程で生産された鋼板がユーザー用途の要件を満たさない場合、熱間圧延された鋼コイルにさらに冷間圧延を行うことができる。本願の実施形態において、冷間圧延中の変形は、10~70%である。
【0056】
アルミニウムめっき鋼板は、直接コールドスタンプ成形またはホットスタンプ成形に使用できる。
【0057】
さらに、本発明は、上記アルミニウムめっき鋼板から製造された熱成形部品を提供する。
【0058】
好ましくは、熱成形部品は、表面層および内部層を含み、内部層のMgの質量パーセントに対する表面層のMgの質量パーセントの比は、5以上であり、熱成形部品は、300以上の芯部硬度HV1を有する。
【0059】
アルミニウムめっき鋼板の熱成形プロセス中、先に形成されためっき層の表面層およびバリア層は、熱成形部品の表面層および内部層に変わる。対応するミクロ組織も変わることとなる。表面層は、もともとAl-Si合金から構成されていたが、Fe-Al-Si合金に変わることとなる。Fe-Al-Si合金のバリア層は、合金拡散をさらに受けることとなり、Feの含有量が増加する。部品の内部層とは、熱成形部品の基板からめっき層中の濃色Feリッチ層までを指し、表面層は、めっき層中の濃色Feリッチ層からめっき層の表面にまで及ぶ。
【0060】
Mg2Si相およびAlMgSiFe相は、めっき層の表面層に分布し、熱処理中も依然としてめっき層の表面に優先的に分布する。熱処理後、Mgは主に部品の表面層に分布し、部品の内部層のMgの質量パーセントに対する表面層のMgの質量パーセントの比は、5以上であり、これはMgの凝集特性によって決まる。熱成形部品の表面にMgが豊富に存在するため、輸送および保管中の熱成形部品の耐赤錆性を向上させることができる。
【0061】
アルミニウムめっき鋼板の基板は、熱成形の後、熱成形部品の芯部に変わることとなる。熱成形部品の芯部のミクロ組織は、マルテンサイト、ベイナイト、およびフェライトの1つまたは複数を含む。具体的な組成および含有量は、基板の組成および熱成形時の金型の冷却速度によって決まる。芯部の最終的なミクロ組織は、熱成形部品の芯部硬度に影響を及ぼすこととなる。
【0062】
また、本発明は、上記熱成形部品の製造方法であって、
アルミニウムめっき鋼板をビレットに加工する工程;
ビレットに熱処理を行う工程であって、熱処理の加熱方式が一段式加熱または段階式加熱であり;熱処理の加熱方式が一段式加熱である場合、加熱停止温度が900~1000℃のうちのある温度であり、総加熱時間が10~600秒であり;熱処理の加熱方式が段階式加熱である場合、段階式加熱の停止温度が700~1000℃のうちの複数の温度を含み、総加熱時間が1~15分であり、複数の温度のうち最も高い温度が900~1000℃のうちのある温度であり、900~1000℃でのビレットの保持時間が10~600秒である、工程;および
ビレットを熱成形用の金型に移す工程であって、金型に移す際のビレットの温度が650℃以上であり、金型の冷却速度が30℃/秒以上である、工程
を含む、上記熱成形部品の製造方法を提供する。本願の実施形態において、熱成形する金型に水冷が施され、金型の冷却速度は、冷却水の流量、流速、および圧力などの条件を調整することによって制御される。
【0063】
熱処理の加熱方式が一段式加熱である場合、加熱停止温度は、900~1000℃内のある温度であり、総加熱時間は、ビレットの加熱開始から終了までの時間である。熱処理の加熱方式が段階式加熱である場合、停止温度は、700~1000℃の範囲内の複数の温度を含み、総加熱時間は、ビレットの加熱開始から終了までの時間である。確実に鋼を完全にオーステナイト化させ、冷却中に所望の組織を形成させるのに備えるために、最終的な加熱停止温度は、一段式加熱であるか段階式加熱であるかにかかわらず、900℃以上にする必要がある。エネルギー節約のため、加熱停止温度の上限は、1000℃に設定される。
【0064】
好ましくは、熱成形のプロセスは、ホットスタンプまたは熱間圧延である。
【0065】
好ましくは、アルミニウムめっき鋼板をビレットに加工する前に、増肉圧延する工程がさらに行われる。
【実施例】
【0066】
実施例1~6および比較例1~2
下記の製造方法を用いて、実施例1~6および比較例1~2のアルミニウムめっき鋼板および熱成形部品を製造した。
工程1:製錬して、表1に示す組成を有する基板を得た。
工程2:圧延して、圧延鋼板を得た。圧延した後、酸洗を行って鋼板の表面の酸化物層を除去した。
工程3:連続焼鈍および溶融めっきを行った。この工程では、圧延鋼板に連続的に焼鈍を施し、その後、めっきポットに入れた(めっき液に浸漬した)。浸漬した後、鋼板を冷却して、アルミニウムめっき鋼板を得た。
圧延ならびに連続焼鈍および溶融めっきの具体的なプロセスパラメータを表2に示す。
工程4:アルミニウムめっき鋼板をビレットに加工した。
工程5:ビレットを熱処理した。
工程6:熱処理したビレットを熱成形用の金型に移して、熱成形部品を得た。
熱処理および熱成形の具体的なプロセスパラメータを表3に示す。
【0067】
下記の試験方法に従って、実施例1~6および比較例1~2のアルミニウムめっき鋼板および熱成形部品を試験した。試験結果を表2および表3に示す。
【0068】
1)Mg2Si相の平均結晶粒径(μm)
切片法を用いて、結晶粒度を算出した。平均結晶粒径=切片断面の長さ/結晶粒の数。
【0069】
2)AlMgSiFe相の存在
EVO10のZeiss走査型電子顕微鏡を用い、エネルギー分散型X線分光計(EDS)分析と組み合わせて観察した。
【数1】
は存在することを示し、「/」は存在しないことを示す。
【0070】
3)ローラー付着現象
目視検査で判断した。「×」は、付着の発生がないことを示し、
【数2】
は、付着の発生を示す。
【0071】
4)耐水素脆化性
熱成形部品の水素含有量は、G4-PHONEX微量水素濃度分析計を用いて評価した。最大加熱温度は400℃を超えなかった。放出された水素量を記録した。放出された量が多いほど、耐水素脆化性がより劣ることを示す。評価尺度は、1(最も悪い)から5(最も良い)までの範囲である。
【0072】
5)部品の表面層のMgの質量パーセント/部品の内部層のMgの質量パーセント
GDS850Aグロー放電分光計を用いて試験した。部品の内部層とは、熱成形部品の基板からめっき層中の濃色Feリッチ層までを指し、部品の表面層とは、めっき層中の濃色Feリッチ層からめっき層の表面までを指す。
【0073】
6)耐赤錆性
中性塩噴霧試験を用いて評価した。評価対象の熱成形部品は、電気泳動コーティングを有さなかった。24時間後、赤錆の被覆度を評価するが、5%未満の被覆度は、最も良い性能であることを示す。この実験では、1(最も悪い)から5(最も良い)の評価尺度を用いる。
【0074】
7)芯部硬度HV1
熱成形部品のビッカース硬度についてGB/T4340.1-2009規格に従って測定した。
【0075】
本発明の実施例2で得られたアルミニウムめっき鋼板のめっき層を、Zeiss電界放出型電子顕微鏡を用いて走査することによって、
図1を得た。
【0076】
本発明の実施例2で得られた熱成形部品を、GDS850Aグロー放電分光計を用いて試験して、めっき層の深さの関数としてのMgの質量パーセントの変化を示す
図2を得た。
【0077】
表1は、実施例1~6および比較例1~2の基板の化学元素の組成を示す。
【0078】
【0079】
表2は、実施例1~6および比較例1~2の圧延ならびに連続焼鈍および溶融めっきのプロセスパラメータ、めっき液の組成、ならびに鋼板のめっき層のミクロ組織および厚さを示す。
【0080】
【0081】
表3は、実施例1~6および比較例1~2における熱処理のプロセスパラメータ、ローラー付着現象の発生有無、アルミニウムめっき鋼板の熱成形のプロセスパラメータ、および熱成形部品の特性を示す。
【0082】
【0083】
表1~3から、実施例1~6で得られたアルミニウムめっき鋼板は、Mg2Si相およびAlMgSiFe相を含むめっき層のミクロ組織を示すことがわかる。Mg2Si相の平均結晶粒径は、1~5μmである。熱処理中、溶融によるローラー付着現象は発生しない。実施例1~6で得られた熱成形部品は、耐水素脆化性に優れており、内部層のMgの質量パーセントに対する表面層のMgの質量パーセントの比は、5以上である。その上、熱成形部品は優れた耐赤錆性を示し、芯部硬度HV1が、300以上である。
【0084】
図1は、本発明の実施例2のアルミニウムめっき鋼板のめっき層の走査スペクトルであり、めっき層のミクロ組織は、Mg
2Si相およびAlMgSiFe相を含むことがわかる。
図2は、本発明の実施例2の熱成形部品中のMgの質量パーセントの変化をめっき層の深さの関数として示し、測定がめっき層の表面に近いほど、Mgの質量パーセントはより高いことがわかる。
【0085】
対照的に、比較例1については、めっきポットを出た鋼板の温度からめっき層の凝固温度までの平均冷却速度は、遅すぎるものであり、わずか10℃/秒である。めっき液の化学組成は、Mgを含まず、アルミニウムめっき鋼板のめっき層は、Mg2Si相およびAlMgSiFe相を含まない。溶融によるローラー付着現象は、熱処理中に発生する。金型に移す際のビレットの温度は、低すぎるものであり、わずか600℃である。金型の冷却速度は、低すぎるものであり、わずか25℃/秒である。その結果、熱成形部品の耐水素脆化性および耐赤錆性は劣っており、芯部硬度HV1は、250しかない。
【0086】
比較例2については、めっき液の温度とめっきポットに入る鋼板の温度との差が著しく、20℃の差がある。めっきポットを出た鋼板の温度からめっき層の凝固温度までの平均冷却速度は、遅すぎるものであり、わずか5℃/秒である。めっきポットを出た鋼板の温度から200℃までの平均冷却速度は、遅すぎるものであり、わずか8℃/秒である。めっき液中のMg含有量は、0.3%しかなく、Mg2Si相およびAlMgSiFe相は存在しない。溶融によるローラー付着現象は、熱処理中に発生する。金型に移す際のビレットの温度は、低すぎるものであり、わずか600℃である。金型の冷却速度も、低く、わずか25℃/秒である。その結果、熱成形部品の耐水素脆化性は劣っており、部品の内部層のMgの質量パーセントに対する表面層のMgの質量パーセントの比は、3しかない。その上、耐赤錆性は劣っており、芯部硬度HV1は、250しかない。
【0087】
比較例1および2の鋼板のプロセスパラメータは、連続焼鈍および溶融めっきならびに熱成形時に適切に制御されないため、結果として得られる熱成形部品は、本願の所望の特性を有さない。
【0088】
要約すれば、本発明は、アルミニウムめっき鋼板の熱処理中の溶融によるローラー付着の問題を軽減し、水素脆化リスクを低減しつつ、熱成形部品の耐赤錆性を向上させることができる、アルミニウムめっき鋼板、熱成形部品、および製造方法を提供する。
【0089】
本発明のいくつかの好ましい実施形態を参照して本発明を図示し、説明してきたが、上記の内容は、具体的な実施形態と共に本発明をさらに詳細に説明したものであり、本発明の具体的な実施が以上の説明のみに限定されると考えることはできないことを、当業者は理解するべきである。当業者は、本発明の趣旨および範囲から逸脱することなく、ある程度の演繹または置換を行うことを含め、形式および細部に様々な変更を行ってもよい。
【符号の説明】
【0090】
1 Mg2Si相
2 AlMgSiFe相
【手続補正書】
【提出日】2023-09-21
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と上記基板の表面のめっき層とを含むアルミニウムめっき鋼板であって、上記めっき層のミクロ組織が、Mg
2Si相およびAlMgSiFe相を含み、上記Mg
2Si相が、0.001~5μmの平均結晶粒径を有する、アルミニウムめっき鋼板。
【請求項2】
上記めっき層が、上記Mg
2Si相および上記AlMgSiFe相を含む表面層を含む、請求項1に記載のアルミニウムめっき鋼板。
【請求項3】
上記めっき層が、Fe-Al合金およびFe-Al-Si合金を含むバリア層をさらに含み、上記バリア層が、5μm以下の厚さを有する、請求項2に記載のアルミニウムめっき鋼板。
【請求項4】
上記めっき層が、5~50μmの厚さを有する、請求項1に記載のアルミニウムめっき鋼板。
【請求項5】
上記アルミニウムめっき鋼板の上記基板の組成が、質量パーセントで、0.05~0.5%のC、0.01~2.0%のSi、0.3~3.0%のMn、0.005~0.3%のAl、0.01%≦Ti<0.1%、0.0005%≦B<0.1%、0.05%≦Cr<0.5%、0.0005%≦Nb<0.1%、およびFeを含む、請求項1に記載のアルミニウムめっき鋼板。
【請求項6】
上記アルミニウムめっき鋼板の上記基板の上記組成が、質量パーセントで、0.05~0.5%のC、0.01~2.0%のSi、0.3~3.0%のMn、0.005~0.3%のAl、0.01%≦Ti<0.1%、0.0005%≦B<0.1%、0.05%≦Cr<0.5%、0.0005%≦Nb<0.1%を含み、残部がFeおよび不可避的不純物である、請求項5に記載のアルミニウムめっき鋼板。
【請求項7】
上記不可避的不純物のうち、質量パーセントで、P<0.3%、S<0.1%、およびV<0.1%である、請求項6に記載のアルミニウムめっき鋼板。
【請求項8】
請求項
1に記載のアルミニウムめっき鋼板の製造方法であって、
製錬する工程;
圧延する工程;および
連続焼鈍および溶融めっきを行う工程であって、焼鈍温度が710~780℃であり、めっき液の温度が600~660℃であり、上記めっき液の温度からめっきポットに入る鋼板の温度を差し引いた温度が5℃以下であり、上記鋼板が上記めっきポットを出た後に冷却され、上記めっきポットを出た上記鋼板の温度からめっき層の凝固温度までの平均冷却速度が15℃/秒より大きく、上記めっきポットを出た上記鋼板の温度から200℃までの平均冷却速度が10~30℃/秒である、工程
を含む、アルミニウムめっき鋼板の製造方法。
【請求項9】
上記めっき液の化学組成が、質量パーセントで、5~11%のSiおよび0.5~20%のMgを含む、請求項8に記載のアルミニウムめっき鋼板の製造方法。
【請求項10】
上記めっき液が、1~10質量%のZnをさらに含む、請求項9に記載のアルミニウムめっき鋼板の製造方法。
【請求項11】
上記めっき液の残部が、Alおよび不可避的不純物である、請求項
9に記載のアルミニウムめっき鋼板の製造方法。
【請求項12】
上記圧延する工程が、熱間圧延することを含み、上記熱間圧延の巻取温度が、630℃以下である、請求項8に記載のアルミニウムめっき鋼板の製造方法。
【請求項13】
上記圧延する工程が、冷間圧延することを含み、上記冷間圧延中の変形が、10~70%である、請求項12に記載のアルミニウムめっき鋼板の製造方法。
【請求項14】
請求項
1に記載のアルミニウムめっき鋼板を用いて製造された熱成形部品。
【請求項15】
上記熱成形部品が表面層および内部層を含み、上記内部層のMgの質量パーセントに対する上記表面層のMgの質量パーセントの比が5以上であり、上記熱成形部品が300以上の芯部硬度HV1を有する、請求項14に記載の熱成形部品。
【請求項16】
請求項1
4に記載の熱成形部品の製造方法であって、
上記アルミニウムめっき鋼板をビレットに加工する工程;
上記ビレットに熱処理を行う工程であって、上記熱処理の加熱方式が一段式加熱または段階式加熱であり;上記熱処理の上記加熱方式が一段式加熱である場合、加熱停止温度が900~1000℃のうちのある温度であり、総加熱時間が10~600秒であり;上記熱処理の上記加熱方式が段階式加熱である場合、加熱停止温度が700~1000℃のうちの複数の温度を含み、総加熱時間が1~15分であり、上記複数の温度のうち最も高い温度が900~1000℃のうちのある温度であり、900~1000℃での上記ビレットの保持時間が10~600秒である、工程;および
上記ビレットを熱成形用の金型に移す工程であって、上記金型に移す際の上記ビレットの温度が650℃以上であり、上記金型の冷却速度が30℃/秒以上である、工程
を含む、熱成形部品の製造方法。
【請求項17】
上記熱成形のプロセスが、ホットスタンプまたは熱間圧延である、請求項16に記載の熱成形部品の製造方法。
【請求項18】
上記アルミニウムめっき鋼板をビレットに加工する工程の前に、増肉圧延する工程がさらに行われる、請求項1
6に記載の熱成形部品の製造方法。
【国際調査報告】