(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-02-01
(54)【発明の名称】銀の触媒的堆積のための安定な組成物
(51)【国際特許分類】
C23C 18/44 20060101AFI20240125BHJP
【FI】
C23C18/44
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023545755
(86)(22)【出願日】2022-01-24
(85)【翻訳文提出日】2023-08-07
(86)【国際出願番号】 IB2022050577
(87)【国際公開番号】W WO2022162512
(87)【国際公開日】2022-08-04
(32)【優先日】2021-01-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】523209748
【氏名又は名称】スイストゥトゥウェルヴ・ソシエテ・アノニム
(74)【代理人】
【識別番号】100069556
【氏名又は名称】江崎 光史
(74)【代理人】
【識別番号】100111486
【氏名又は名称】鍛冶澤 實
(74)【代理人】
【識別番号】100139527
【氏名又は名称】上西 克礼
(74)【代理人】
【識別番号】100164781
【氏名又は名称】虎山 一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100221981
【氏名又は名称】石田 大成
(72)【発明者】
【氏名】アンドレアッタ・ガエル
(72)【発明者】
【氏名】フィネッリ・アルバ
【テーマコード(参考)】
4K022
【Fターム(参考)】
4K022AA13
4K022BA01
4K022DA01
4K022DB01
4K022DB04
4K022DB07
4K022DB08
(57)【要約】
本発明は、少なくとも1種の金属塩(M)、金属塩(M)を還元することを可能にする還元剤(R)、および式(F1)の安定化添加剤(T)を含む溶液(S)を記載する:
[式中、Ra、RbおよびRc基は、互いに独立して、アルカン、アルケンまたはアルキンを表し、それらは、独立して、直鎖状、分岐状または環状であってよく、かつ1~20個の炭素原子を含み、RdおよびRe基は、互いに独立して、水素原子、またはアルカン、アルケンもしくはアルキンを表し、それらはそれぞれ、独立して、直鎖状、分岐状または環状であってよく、かつ1~20個の炭素原子を含む]。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1種の金属塩(M)と、金属塩(M)を還元するための還元剤(R)と、安定剤(T)とを含む溶液(S)であって、安定剤(T)が、式(F1):
【化1】
[式中、基Ra、Rb、Rcは、互いに独立して、アルカン、アルケンまたはアルキンを表し、それらは、独立して、直鎖状、分岐状または環状であってよく、かつ1~20個の炭素原子を含んでいてよく、基RdおよびReは、互いに独立して、水素原子、またはアルカン、アルケンもしくはアルキンを表し、それらはそれぞれ、独立して、直鎖状、分岐状または環状であってよく、かつ1~20個の炭素原子を含んでいてよい]
の双性イオン性有機化合物であることを特徴とする、前記溶液(S)。
【請求項2】
金属塩(M)が、有機または無機アニオンと組み合わされた銀塩または銅塩を含む、請求項1に記載の溶液。
【請求項3】
還元剤(R)が、有機または無機アニオンと組み合わされたコバルト塩を含む、請求項1または2に記載の溶液。
【請求項4】
還元剤(R)の濃度が、金属塩(M)の濃度よりも2~10倍高い、請求項1~3のいずれか1つに記載の溶液。
【請求項5】
式F1において、基Ra、RbおよびRcのうちの1つまたは複数、好ましくはただ1つが、直鎖状、分枝状または環状のアルキル、アルケンまたはアルキン鎖を表し、かつ2~20個の炭素原子を含み、基Ra、RbおよびRcのうちの他のものはメチルまたはエチル基である、請求項1~4のいずれか1つに記載の溶液。
【請求項6】
式F1において、2つの基RdおよびReのうちの一方が水素原子を表し、他方が、2~20個の炭素原子、好ましくは5~18個の間の炭素原子を含む、直鎖状、分枝状または環状のアルキル、アルケンまたはアルキン鎖を表す、請求項1~5のいずれか1つに記載の溶液。
【請求項7】
2つの基RdおよびReがそれぞれ水素原子である、請求項1~5のいずれか1つに記載の溶液。
【請求項8】
1種または複数のアミノ酸をさらに含む、請求項1~7のいずれか1つに記載の溶液。
【請求項9】
基Ra、Rb、Rc、RdおよびReのうちの少なくとも1つが、1つまたは複数のハロゲン、好ましくは1つまたは複数のフッ素原子で置換されている、請求項1~8のいずれか1つに記載の溶液。
【請求項10】
以下から選択される、請求項1~9のいずれか1つに記載の溶液。
【表1】
【請求項11】
非電気化学的かつ無電解式の方法による表面(P)の金属化の方法であって、金属塩(M)、還元剤(R)および安定剤(T)を含む浸漬浴を用意する第1のステップ(E1)と、表面(P)を、表面(P)上に金属化層(C)が生成されるように、30℃~80℃の間の温度で、数分~数時間の時間、前記浴中に浸漬することを含む金属化ステップ(E2)とを含む、前記方法。
【請求項12】
金属化ステップ(E2)が、同一の浴で、金属化される他の表面(P)を用いて、数日間または数週間の期間、金属化層(C)の質の重大な喪失なしに繰り返される、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
最初の1時間の間、金属化層(C)の厚さが均一で、3マイクロメートルより大きい、請求項11または12に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無電解式でかつ非電気化学的である方法による、金属、特に銀または銅の堆積のための組成物に関する。本発明は特に、溶液中の金属と、還元剤と、当該組成物を安定化するための1種または複数の添加剤とを含む、安定な組成物に関する。本発明はまた、金属堆積の方法、特に無電解条件において銀を堆積させる方法も包含する。
【背景技術】
【0002】
無電解式の金属堆積は、一般に、表面の装飾、光学的用途、導電層の施与、表面と最終コーティングとの間のプライミングコート、またはオーバーコーティング、例えばプリント回路の製造において施与されるものを含む、種々の用途において、表面の金属コーティングのために使用されている。
【0003】
無電解式の金属堆積は、溶液中に保持された1種または複数の金属塩、ならびに溶液中の当該金属塩(1種または複数)を還元するための少なくとも1種の適切な還元剤から出発して行われる。そのようにして、コーティングされるべき表面上に金属化層が生じる。これは、電流も電極も関与しない、専ら化学的な堆積である。実際には、自己触媒浴が予め用意され、自己触媒浴中に連続的に浸漬されるいくつかの物品上への化学的堆積のために使用される。
【0004】
この方法の制限の1つは、特に使用される金属塩を溶液中で維持することに関しての、自己触媒浴の安定性であり、当該金属塩は、不適切な析出または凝固になりやすい。さらに、表面の金属化を可能にする化学反応は、可能な限り、コーティングされる表面のレベルで行われるべきである。場合によっては、還元反応が溶液中で起こり、従って、金属塩のかなりの割合を不必要に消費してしまう。
【0005】
これらの制限は、銀溶液の場合に特に顕著である。実際には、銀の浴は2つの別個の浴から用意され、一方は銀塩を含み、他方は還元剤を含む。2つの溶液を堆積時に合わせる。これらは好ましくは、主に表面上で化学反応が起こるように、コーティングされる表面上に同時に噴霧される。しかしながら、この化学的コーティングの方法は、低質の銀コーティング(特にそれらの粗さまたは均質性に関して)を与える。さらに、そのようなコーティングの厚さは、一般に、1マイクロメートル未満である。
【0006】
銀浴が予め用意される場合、添加剤、例えば錯化剤、界面活性剤または他の安定化成分が、その安定性を維持するために添加される。これは特に、銀塩の還元剤としてコバルト塩を使用する場合に当てはまる。この場合、浴は、非常に特定の条件で数時間安定化することができる。添加剤は特に、還元剤および溶液の任意の他の構成成分に適合されなければならないことに留意されるべきである。
【0007】
従って、金属塩、特に銀塩をベースとし、安定であり、かつ堆積物の質をより良好に制御することを可能にする、化学的堆積のための組成物を開発することが必要である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の1つの目的は、無電解かつ非電気化学的条件において、表面上への、金属堆積、特に銀または銅の金属堆積のための組成物を提案することである。この場合、当該目的は、少なくとも数日間、経時的に安定な化学的堆積のための溶液を供給することである。目的はまた、化学的堆積、特に銀の化学的堆積のための溶液であって、1マイクロメートルを超える、またはさらには5マイクロメートル超~10マイクロメートル超の厚さを有する均一な堆積物を与える溶液を提案することである。
【0009】
本発明の別の目的は、無電解的かつ非電気化学的条件における、金属堆積、特に銀または銅の金属堆積のために適した方法であって、公知の方法よりも安価な方法を提案することである。提案される方法のさらなる目的は、特に銀塩を用いて、現在得られているものよりも良好な質の金属堆積物をもたらすことである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
これらの目的は特に、独立請求項に記載され、それらに従属する請求項に詳述される溶液および方法によって達成される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
本発明を、以下の図面を用いて説明する:
・
図1:本発明による方法の主要なステップの概略図。
【0012】
発明の詳細な説明
本発明における溶液Sは、金属層Cでコーティングされる表面P上に堆積されることが意図される、溶液中の少なくとも1種の金属塩Mを含有する。金属塩Mは、特に、無機アニオンと金属カチオンとの組み合わせを含む。これらの無機アニオンは、好ましくは、硫酸イオン、硝酸イオン、リン酸イオンおよびハロゲン化物イオンから選択される。任意選択的に、有機塩、例えば酢酸塩が想定され得る。本発明による溶液Sは、好ましくは、硝酸イオンをベースとする金属塩Mを含む。
【0013】
金属塩Mの構成成分である金属は、用途および必要とされる特性に応じて、銅、白金、銀、金および他の金属等のいくつかの元素から選択することができる。好ましくは、本発明に従って調製される溶液の金属塩Mは、銀または銅をベースとし、より好ましくは銀をベースとする。
【0014】
金属塩、例えば硝酸銀AgNO3、硫酸銀Ag2SO4、硝酸銅Cu(NO3)2および硫酸銅CuSO4が、本発明の溶液Sにおいて有利に使用される。
【0015】
金属塩Mの濃度は、好ましくは、0.01モル/リットル~0.5モル/リットルの間、好ましくは0.03モル/リットル~0.1モル/リットルの間である。
【0016】
本発明による溶液Sは、少なくとも1種の還元剤Rを含む。還元剤は、溶液中の金属塩Mを還元することができるように、その酸化還元電位に応じて選択される金属塩である。還元性成分は、この場合、硫酸イオン、硝酸イオン、リン酸イオンおよびハロゲン化物イオンから選択される無機アニオンを含む。堆積されるべき金属塩Mが銀をベースとする場合、還元剤Rは、例えばコバルトをベースとすることができる。有利には、還元剤Rは、水和硫酸コバルト、例えばCoSO4-7H2Oである。
【0017】
還元剤Rの濃度は、好ましくは、金属塩Mの濃度よりも高い。それは、金属塩Mの濃度の約2~10倍程度であってもよい。還元剤Rの濃度は、例えば、0.04モル/リットル~1モル/リットルの間、または約0.08モル/リットル~0.2モル/リットルの間であってもよい。
【0018】
本発明による溶液Sは、1種または複数の他の非金属塩、例えば硫酸塩または硝酸塩を含んでいてもよい。特に、それらは、0.1モル/リットル~2モル/リットルの間の可変濃度で、硫酸アンモニウムSO4(NH4)2を含有し得る。
【0019】
本発明による溶液Sは、約1モル/リットル~5モル/リットルの間の可変濃度で、アンモニアNH3水溶液をさらに含むことができる。
【0020】
本発明による溶液は、1種または複数のアミノ酸をさらに含んでもよい。適切な場合、本発明による溶液は、1種または複数のα-アミノ酸を含む。当該アミノ酸(1種または複数)は、当業者に公知の天然アミノ酸から選択され得る。代替的にまたは追加的に、前記アミノ酸(1種または複数)は、ハロゲン、アミノ基、アルコール、チオールまたはニトロから選択される置換基で一置換、二置換または三置換されていてもよい。
【0021】
有利な実施態様によれば、本発明による溶液は、以下の式のジヨードチロシンを含む:
【0022】
【化1】
溶液中のアミノ酸または酸の全濃度は、1リットルあたり、約1 10
-6~1 10
-4モルの間であり得る。それは好ましくは、1リットル当たり1~8 10
-5モル程度である。
【0023】
溶液Sは本質的に水性であり、これは、溶液中の成分が水に溶解されていることを意味する。これは、少量の有機溶媒の添加を排除しない。前記有機溶媒としては、例えば、エタノール、メタノール、または他のより極性の高いもしくはより極性の低い溶媒が挙げられる。
【0024】
本明細書による安定剤Tは、好ましくは、2つの反対の電荷を含む双性イオン性有機化合物から選択される。双性イオン性化合物は、当業者によって、負電荷と正電荷を同時に含むことが知られている。前記双性イオン性化合物は、好ましくは、2つの反対の電荷を合わせ持つ極性部分と、非極性部分とを含み、その結果それは両親媒性特性を有する。従って、本発明で使用される双性イオン性化合物は、界面活性剤特性を有する。しかしながら、これらの界面活性剤特性は、本発明の溶液Sを安定化させるには十分ではない。実際、アニオン性またはカチオン性タイプの界面活性剤が、期待される効果を生じないことが見出される。イオン電荷を有さない中性界面活性剤もまた、本発明の溶液の場合、全体として不十分であると判断される。
【0025】
本発明による安定剤Tは、双性イオン界面活性剤である。2つの反対の電荷を含む極性部分は、好ましくは、ベタイン型であり、その構造は以下の式F0に対応する:
【0026】
【化2】
好ましくは、本発明による安定剤Tは、式F1のものである。
【0027】
【化3】
式中、Ra、Rb、Rcは、互いに独立して、飽和、不飽和またはポリ不飽和の、1~20個の炭素原子を含む炭素鎖である。Ra、Rb、Rcは特に、アルカン、アルケンおよびアルキンからなる群から独立して選択され、等しく、1~20個の炭素原子を含む直鎖状、分枝状または環状であってもよい。
【0028】
一実施態様において、基Ra、Rb、Rcのうちの少なくとも1つはメチル基を表し、Ra、Rb、Rcのうちの他の2つの基は、独立して、2~20個の炭素原子を含む、直鎖状、分岐状または環状のアルキル、アルケンまたはアルキン鎖を表す。
【0029】
別の実施態様において、基Ra、Rb、Rcのうちの少なくとも2つはメチル基CH3を表し、第3のものは、2~20個の炭素原子を含む、直鎖状、分枝状または環状のアルキル、アルケンまたはアルキン鎖を表す。
【0030】
別の実施態様において、3つの基Ra、Rb、Rcは、それぞれメチル基CH3またはエチルC2H5を表し、好ましくはメチルを表す。
【0031】
安定剤Tの式F1において、基RdおよびReは、互いに独立して、水素原子、あるいは飽和、不飽和またはポリ不飽和の、1~20個の炭素原子を含む炭素鎖を表す。RdおよびReは特に、互いに独立して、水素原子、アルカン、アルケンおよびアルキンからなる群から選択され、そしてそれぞれは等しく、1~20個の炭素原子を含む、直鎖状、分枝状または環状であってもよい。
【0032】
一実施態様において、2つの基RdおよびReのうちの一方は水素原子である。
【0033】
別の実施態様において、2つの基RdおよびReのうちの一方は水素原子であり、他方は、3~18個の炭素原子、好ましくは4~10個の炭素原子を含む、直鎖状、分枝状または環状のアルキル、アルケンまたはアルキン基である。
【0034】
一実施態様において、基Ra、RbおよびRcのうちの1つまたは複数、好ましくはただ1つは、2~20個の炭素原子を含む直鎖状、分枝状または環状アルキル、アルケンまたはアルキン鎖を表し、基Ra、RbおよびRcのうちの他のものはメチルまたはエチル基であり、ならびに/あるいは、2つの基RdおよびReのうちの一方は水素原子を表し、他方は2~20個の炭素原子、好ましくは3~18個の間の炭素原子、または4~10個の間の炭素原子を含む直鎖状、分枝状または環状アルキル、アルケンまたはアルキン鎖を表す。
【0035】
一実施態様において、基Ra、RbおよびRcのうちの1つまたは複数、好ましくはただ1つは、2~20個の炭素原子を含む直鎖状、分枝状または環状アルキル、アルケンまたはアルキン鎖を示し、基Ra、RbおよびRcのうちの他のものはメチル基であり、2つの基RdおよびReはそれぞれ水素原子を示す。
【0036】
別の実施態様によれば、3つの基Ra、RbおよびRcはそれぞれ、メチルまたはエチル基を表し、2つの基RdおよびReの一方は、2~20個の炭素原子、好ましくは3~18個の間の炭素原子、または4~10個の間の炭素原子を含む直鎖状、分枝状または環状アルキル、アルケンまたはアルキン鎖を表し、2つの基RdおよびReの他方のものは水素原子である。
【0037】
基Ra、Rb、Rc、RdおよびReは、独立して、非置換であってもよく、あるいは1つまたは複数のハロゲン、特に1つまたは複数のフッ素原子で置換されていてもよい。語句「非置換(非置換である)」は、専ら炭素原子および水素を含有する対応の基を表す。語句「置換(置換されている)」は、1つまたは複数の水素原子が前記置換基で置き換えられている対応の基を表す。基Ra、Rb、Rc、RdおよびReのうちの1つまたは複数は、特にフッ素原子で、完全に置換されていてもよい。一実施態様によれば、基Ra、Rb、Rc、RdおよびReのうちの少なくとも1つが、モノフッ素化または過フッ素化されている。
【0038】
一実施態様によれば、単一の安定剤Tが溶液Sに添加される。
【0039】
別の実施態様によれば、2種以上の異なる安定剤Tが溶液Sに添加される。溶液に添加される添加剤Tの各々は上記の式F1に対応することを理解されたい。
【0040】
一実施態様によれば、基Ra、Rb、Rc、RdおよびReのうちの少なくとも1つは、9個の炭素原子を有するペラルゴニル型、10個の炭素原子を有するカプリン、12個の炭素原子を有するラウリル、14個の炭素原子を有するミリスチル、16個の炭素原子を有するパルミチル、および18個の炭素原子を有するステアリルの炭素鎖を表し、基Ra、RbおよびRcの他のものはそれぞれメチルまたはエチル基であり、基RdおよびReのうちの他のものは水素原子である。
【0041】
一実施態様によれば、安定剤Tはラウリルベタインである。好ましくは、安定剤Tは以下の式を有する:
【0042】
【化4】
別の実施態様によれば、安定剤Tは式F1’の化合物であり、これは、式F1において、基Ra、RbおよびRcのうちの少なくとも1つが、1~20個の炭素原子、好ましくは3~18個の間の炭素原子または4~10個の間の炭素原子を含む直鎖状または分岐状の過フッ素化アルカンまたは過フッ素化アルケンを表し、これらの基のうちの他のもの、適切な場合にはならびに基RdおよびReは、本明細書の実施態様のうちの1つまたは他で定義された通りであり、あるいは、基RdおよびReのうちの少なくとも1つが、1~20個の炭素原子、好ましくは3~18個の間の炭素原子または4~10個の間の炭素原子を含む直鎖状または分岐状の過フッ素化アルカンまたは過フッ素化アルケンを表し、これらの基のうちの他のもの、適切な場合にはならびに基Ra、RbおよびRcは、本明細書の実施態様のうちの1つまたは他で定義された通りである、式1に該当する。
【0043】
安定剤は、例えば、Capstone FS(登録商標)タイプである。
【0044】
本明細書に従う溶液は、XYタイプの1種または複数の無機塩をさらに含んでいてもよく、ここでXはカチオンを表し、Yはアニオンを表す。これらの無機塩において、Xは、好ましくは、カリウムK+、ナトリウムNa+およびアンモニウムNH3
+から選択されるカチオンを表す。これらの無機塩において、Yは好ましくは、塩素、ヨウ素、臭素、フッ素から選択されるアニオンを表す。有利な実施態様では、無機塩、例えばKBrまたはKClが、1リットルあたり約3ミリモル~約50ミリモルの間の濃度で、または1リットルあたり約5~20ミリモル程度の濃度で、前記溶液中に含まれ得る。前記無機塩は、堆積物の質または浴の安定性に悪影響を及ぼすことなく、銀の堆積を加速するように選択される。これらの塩の添加は、添加剤、例えば安定剤Tの存在に起因する堆積の減速を補うために特に有利である。
【0045】
特定の実施態様によれば、前記溶液は、フッ素化安定剤T、例えば、式F1’の成分または式F1’の成分の混合物と、上記のタイプXYの無機塩との組み合わせを含む。
【0046】
また、本発明は、金属塩Mの溶液からの表面P上への化学的堆積の方法も包含する。
図1は、本発明による化学的堆積の必須ステップを概略的に示す。第1のステップE1において、少なくとも1種の金属塩Mおよび少なくとも1種の還元剤Rを含む溶液Sが調製される。溶液Sは、溶液Sを少なくとも24時間、好ましくは数日間、またはさらには1週間を超えて均質に保つために、少なくとも1種の安定剤Tをさらに含む。選択された安定剤Tおよび他のパラメーター、例えば温度およびpHに応じて、溶液Sは、数週間安定であり得る。好ましくは、金属塩M(1種または複数)、還元剤Rおよび安定化成分T(1種または複数)は上記のものである。特に溶液のpHを所定の値に維持するために、他の添加剤が任意選択的に含まれていてもよい。成分を一つずつ水に溶解して、溶液Sを形成することができる。あるいは、中間溶液を形成するように、成分を個々に水に溶解し、次いで中間溶液を合わせて溶液Sを得てもよい。
【0047】
溶液Sは、浴を形成するように開放容器内に入れられる。容器のサイズは、好ましくは、コーティングされる表面Pの寸法に適合される。
【0048】
金属化の第2のステップE2は、溶液Sの浴中に、金属化される表面Pを浸漬することを含む。浸漬は、金属化層Cの所望の厚さに応じて可変時間の間、維持することができる。特に、浸漬は、数分間~数時間継続することができ、典型的には約1時間~3時間維持される。最初の1時間の間に表面P上に堆積される金属化層Cの厚さは、好ましくは3マイクロメートル超、好ましくは5マイクロメートル超である。金属層の厚さは、最初の1時間から3~8マイクロメートルの間であってもよい。あるいは又はさらに、金属化層Cの最終の厚さは、約3~12マイクロメートルの間である。
【0049】
浴の温度は、金属化ステップE2の間に制御されてもよい。それは例えば、約30℃~80℃超の値で一定に保つことができる。pHなどの他のパラメーターを制御または調節してもよい。浸漬時間が十分であると判断されたとき、または金属化層Cの必要な厚さに達したときに、表面Pは浴から取り出される。
【0050】
金属化ステップE2は、コーティングされる他の表面Pを用いて数回繰り返されてもよい。この場合、本発明による方法は、少なくとも2日間、好ましくは最大で1週間、化学的堆積浴を使用することを可能にする。
【0051】
いくつかの表面Pが、浴中に同時に浸漬されてもよい。コーティングされる表面Pは、取り出される前に、所定の時間、浴中に浸漬され、静置状態に保たれてもよい。あるいはそれらは、浴の中を連続的に、必要な金属化コーティング層Cを得るのに十分な時間そこに留まるように、運搬されてもよい。
【0052】
金属化ステップE2は、溶液Sの性能が評価されるように、得られたコーティング層の厚さまたは質をモニタリングするステップをさらに含むことができる。堆積物の質がある点を超えて劣化した場合、または堆積物の厚さがもはや所定の値の範囲に対応しなくなった場合、溶液Sを、ステップE1に従う新しい溶液Sに置き換えることを決定してもよい。あるいは、コーティングされる表面Pの滞留時間を長くしてもよい。
【0053】
語句「安定である」は、特に、金属塩Mが溶解したままであり、析出しないかまたは著しく析出しないこと、ならびに、還元剤Rによる金属塩Mの還元の反応が起こらないかまたは著しく起こらず、その結果、表面上で金属堆積がもたらされること、を意味する。金属塩Mの化学的堆積に必要な全ての成分を含む溶液の安定性の持続時間は、例えば、それを調製後、時間を増加させて、金属化される表面を溶液中に浸漬することによって決定することができる。金属堆積の速度または質が所定の閾値を下回った場合に、溶液Sは劣化しているとみなされる。その安定性の持続時間は、許容可能な速度および対応する質で表面P上に金属コーティングを堆積させることが依然として可能である時間に対応する。
【0054】
組成物の例を以下の表1に示す。調製された体積は300mLである。銀塩の堆積は、全ての場合において、50℃の温度および9.4程度のpHで実施される。表面上へのコーティングの堆積速度は、堆積物の厚さを測定することによって、最初の1時間に関して決定される。参照溶液S0は、金属化剤として銀塩を含み、還元剤としてコバルト塩を含む。溶液S1、S2、S3およびS4は、参照溶液S0と同じ基本成分を同じ割合で含有し、さらに少なくとも1種の界面活性剤、例えば上記のものを含有する。
【0055】
試験された溶液の安定性は、参照溶液と比較して、使用された界面活性剤のポジティブな効果を実証している。
【0056】
【0057】
金属堆積が行われる表面Pは、その材料またはその形状にかかわらず、処理される任意の物品の表面を表す。物品は、例えば、プラスチックもしくはポリマーで、または金属もしくは金属合金でできた物品であることができる。物品は均質な組成のものであってよく、あるいは逆に、混合物またはいくつかの材料の組み合わせを含んでもいてもよい。それは、例えば、その主の組成とは異なる材料の追加の層を含んでもよい。従って、処理される物品は、金属層でコーティングされたポリマーでできた物品を意味し得る。その場合、表面Pは、当該物品を覆う金属層を意味する。
【0058】
物品のおよび/またはその表面Pの製造方法は、本明細書の文脈においてあまり重要ではない。物品は、例えば、成形、機械加工又は3Dプリンティングの結果であってもよい。金属化層は、適切な場合、電解法または無電解法から得ることができる。表面Pに該当する金属層は、例えば、金、パラジウム、ニッケル-リン、ニッケル-ホウ素、白金を含むことができる。金属層またはいくつかの金属層は、本明細書に記載される堆積物の接着性を改善し、腐食から物品を保護し、表面の質を、特に粗さの観点から、改善することができる。物品自体が、金属、例えばアルミニウムのものであってもよい。
【0059】
一実施態様の例によれば、処理される物品は、高周波の放出または受信に関与する。その表面の状態および堆積される金属の電気伝導率に依存する有効電気伝導率は、可能な限り高くなければならない。表面P上に本明細書に従って作られる堆積物は、厚さおよび質の両方の点で均質かつ再現可能であることが重要である。
【0060】
ベタインタイプの他の界面活性剤を、単独で、または他の成分と組み合わせて使用することができる。しかしながら、特定の界面活性剤は、自己触媒溶液の安定性または銀堆積物の質に負の影響を及ぼし得、銀堆積物は、上記界面活性剤が特定の濃度範囲で存在する場合には多孔質または不均一であり得る。好ましくは、銀およびコバルト塩の溶液に関して、ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)、セチルトリメチルアンモニウムブロミド(CTAB)、パーフルオロオクタンスルホン酸カリウム塩(PFOSP)およびパーフルオロオクタン酸(PFOA)などの界面活性剤は、上記組成物から除かれ得るか、または特定の濃度範囲に限定され得る。好ましくは、silwet L77(登録商標)、triton x100(登録商標)、Pluronic F-127(登録商標)などの市販製品もまた、上記組成物から除かれ得るか、または特定の濃度範囲に限定され得る。
【手続補正書】
【提出日】2023-08-07
【手続補正1】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0060
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0060】
ベタインタイプの他の界面活性剤を、単独で、または他の成分と組み合わせて使用することができる。しかしながら、特定の界面活性剤は、自己触媒溶液の安定性または銀堆積物の質に負の影響を及ぼし得、銀堆積物は、上記界面活性剤が特定の濃度範囲で存在する場合には多孔質または不均一であり得る。好ましくは、銀およびコバルト塩の溶液に関して、ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)、セチルトリメチルアンモニウムブロミド(CTAB)、パーフルオロオクタンスルホン酸カリウム塩(PFOSP)およびパーフルオロオクタン酸(PFOA)などの界面活性剤は、上記組成物から除かれ得るか、または特定の濃度範囲に限定され得る。好ましくは、silwet L77
(登録商標)、triton x100
(登録商標)、Pluronic F-127
(登録商標)などの市販製品もまた、上記組成物から除かれ得るか、または特定の濃度範囲に限定され得る。
なお、本願は、特許請求の範囲に記載の発明に関するものであるが、他の態様として以下も包含し得る。
1.少なくとも1種の金属塩(M)と、金属塩(M)を還元するための還元剤(R)と、安定剤(T)とを含む溶液(S)であって、安定剤(T)が、式(F1):
【化5】
[式中、基Ra、Rb、Rcは、互いに独立して、アルカン、アルケンまたはアルキンを表し、それらは、独立して、直鎖状、分岐状または環状であってよく、かつ1~20個の炭素原子を含んでいてよく、基RdおよびReは、互いに独立して、水素原子、またはアルカン、アルケンもしくはアルキンを表し、それらはそれぞれ、独立して、直鎖状、分岐状または環状であってよく、かつ1~20個の炭素原子を含んでいてよい]
の双性イオン性有機化合物であることを特徴とする、前記溶液(S)。
2.金属塩(M)が、有機または無機アニオンと組み合わされた銀塩または銅塩を含む、上記1に記載の溶液。
3.還元剤(R)が、有機または無機アニオンと組み合わされたコバルト塩を含む、上記1または2に記載の溶液。
4.還元剤(R)の濃度が、金属塩(M)の濃度よりも2~10倍高い、上記1~3のいずれか1つに記載の溶液。
5.式F1において、基Ra、RbおよびRcのうちの1つまたは複数、好ましくはただ1つが、直鎖状、分枝状または環状のアルキル、アルケンまたはアルキン鎖を表し、かつ2~20個の炭素原子を含み、基Ra、RbおよびRcのうちの他のものはメチルまたはエチル基である、上記1~4のいずれか1つに記載の溶液。
6.式F1において、2つの基RdおよびReのうちの一方が水素原子を表し、他方が、2~20個の炭素原子、好ましくは5~18個の間の炭素原子を含む、直鎖状、分枝状または環状のアルキル、アルケンまたはアルキン鎖を表す、上記1~5のいずれか1つに記載の溶液。
7.2つの基RdおよびReがそれぞれ水素原子である、上記1~5のいずれか1つに記載の溶液。
8.1種または複数のアミノ酸をさらに含む、上記1~7のいずれか1つに記載の溶液。
9.基Ra、Rb、Rc、RdおよびReのうちの少なくとも1つが、1つまたは複数のハロゲン、好ましくは1つまたは複数のフッ素原子で置換されている、上記1~8のいずれか1つに記載の溶液。
10.以下から選択される、上記1~9のいずれか1つに記載の溶液。
【表2】
11.非電気化学的かつ無電解式の方法による表面(P)の金属化の方法であって、金属塩(M)、還元剤(R)および安定剤(T)を含む浸漬浴を用意する第1のステップ(E1)と、表面(P)を、表面(P)上に金属化層(C)が生成されるように、30℃~80℃の間の温度で、数分~数時間の時間、前記浴中に浸漬することを含む金属化ステップ(E2)とを含む、前記方法。
12.金属化ステップ(E2)が、同一の浴で、金属化される他の表面(P)を用いて、数日間または数週間の期間、金属化層(C)の質の重大な喪失なしに繰り返される、上記11に記載の方法。
13.最初の1時間の間、金属化層(C)の厚さが均一で、3マイクロメートルより大きい、上記11または12に記載の方法。
【手続補正2】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1種の金属塩(M)と、金属塩(M)を還元するための還元剤(R)と、安定剤(T)とを含む溶液(S)であって、安定剤(T)が、式(F1):
【化1】
[式中、基Ra、Rb、Rcは、互いに独立して、アルカン、アルケンまたはアルキンを表し、それらは、独立して、直鎖状、分岐状または環状であってよく、かつ1~20個の炭素原子を含んでいてよく、基RdおよびReは、互いに独立して、水素原子、またはアルカン、アルケンもしくはアルキンを表し、それらはそれぞれ、独立して、直鎖状、分岐状または環状であってよく、かつ1~20個の炭素原子を含んでいてよい]
の双性イオン性有機化合物であ
り、金属塩(M)が、有機または無機アニオンと組み合わされた銀塩を含む、前記溶液(S)。
【請求項2】
還元剤(R)が、有機または無機アニオンと組み合わされたコバルト塩を含む、請求項
1に記載の溶液。
【請求項3】
還元剤(R)の濃度が、金属塩(M)の濃度よりも2~10倍高い、請求項1
または2に記載の溶液。
【請求項4】
式F1において、基Ra、RbおよびRcのうちの1つまたは複数、好ましくはただ1つが、直鎖状、分枝状または環状のアルキル、アルケンまたはアルキン鎖を表し、かつ2~20個の炭素原子を含み、基Ra、RbおよびRcのうちの他のものはメチルまたはエチル基である、請求項1~
3のいずれか1つに記載の溶液。
【請求項5】
式F1において、2つの基RdおよびReのうちの一方が水素原子を表し、他方が、2~20個の炭素原子、好ましくは5~18個の間の炭素原子を含む、直鎖状、分枝状または環状のアルキル、アルケンまたはアルキン鎖を表す、請求項1~
4のいずれか1つに記載の溶液。
【請求項6】
2つの基RdおよびReがそれぞれ水素原子である、請求項1~
4のいずれか1つに記載の溶液。
【請求項7】
1種または複数のアミノ酸をさらに含む、請求項1~
6のいずれか1つに記載の溶液。
【請求項8】
基Ra、Rb、Rc、RdおよびReのうちの少なくとも1つが、1つまたは複数のハロゲン、好ましくは1つまたは複数のフッ素原子で置換されている、請求項1~
7のいずれか1つに記載の溶液。
【請求項9】
以下から選択される、請求項1~
8のいずれか1つに記載の溶液。
【表1】
【請求項10】
非電気化学的かつ無電解式の方法による表面(P)の金属化の方法であって、金属塩(M)、還元剤(R)および安定剤(T)を含む浸漬浴を用意する第1のステップ(E1)と、表面(P)を、表面(P)上に金属化層(C)が生成されるように、30℃~80℃の間の温度で、数分~数時間の時間、前記浴中に浸漬することを含む金属化ステップ(E2)とを含む、前記方法。
【請求項11】
金属化ステップ(E2)が、同一の浴で、金属化される他の表面(P)を用いて、数日間または数週間の期間、金属化層(C)の質の重大な喪失なしに繰り返される、請求項
10に記載の方法。
【請求項12】
最初の1時間の間、金属化層(C)の厚さが均一で、3マイクロメートルより大きい、請求項
10または
11に記載の方法。
【国際調査報告】