(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-02-01
(54)【発明の名称】ピペラジニル-チアゾール誘導体の結晶形
(51)【国際特許分類】
C07D 417/12 20060101AFI20240125BHJP
A61K 31/496 20060101ALI20240125BHJP
A61P 37/02 20060101ALI20240125BHJP
A61P 29/00 20060101ALI20240125BHJP
A61P 11/00 20060101ALI20240125BHJP
A61P 31/04 20060101ALI20240125BHJP
A61P 25/00 20060101ALI20240125BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20240125BHJP
【FI】
C07D417/12 CSP
A61K31/496
A61P37/02
A61P29/00
A61P11/00
A61P31/04
A61P25/00
A61P35/00
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023545827
(86)(22)【出願日】2022-01-26
(85)【翻訳文提出日】2023-09-22
(86)【国際出願番号】 EP2022051786
(87)【国際公開番号】W WO2022162017
(87)【国際公開日】2022-08-04
(31)【優先権主張番号】PCT/EP2021/051983
(32)【優先日】2021-01-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】517248845
【氏名又は名称】イドーシア ファーマシューティカルズ リミテッド
【氏名又は名称原語表記】IDORSIA PHARMACEUTICALS LTD
【住所又は居所原語表記】HEGENHEIMERMATTWEG 91, 4123 ALLSCHWIL, SWITZERLAND
(74)【代理人】
【識別番号】100090398
【氏名又は名称】大渕 美千栄
(74)【代理人】
【識別番号】100090387
【氏名又は名称】布施 行夫
(72)【発明者】
【氏名】ドミニク フォスハグ
【テーマコード(参考)】
4C063
4C086
【Fターム(参考)】
4C063AA01
4C063BB09
4C063CC62
4C063DD41
4C063EE01
4C086AA01
4C086AA03
4C086BC50
4C086GA07
4C086GA10
4C086GA12
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4C086MA01
4C086MA04
4C086NA14
4C086ZA02
4C086ZA36
4C086ZA59
4C086ZB07
4C086ZB11
4C086ZB26
4C086ZB35
(57)【要約】
本発明は、1-{(R)-2-(2-ヒドロキシ-エチル)-4-[2-トリフルオロメチル-4-(2-トリフルオロメチル-ピリミジン-5-イル)-チアゾール-5-イル]-ピペラジン-1-イル}-2-(3-メチル-[1,2,4]トリアゾール-1-イル)-エタノンの結晶形、その製造方法、当該結晶形を有する医薬組成物、かかる結晶形から製造された医薬組成物、並びに、CXCR3受容体及びそのリガンドに関連する種々の疾患及び障害の治療における、CXCR3受容体調節剤としてのそれらの使用に関する。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
粉末X線回折ダイアグラムにおける以下の屈折角2θ:14.3°、16.7°及び17.2°におけるピークの存在により特徴づけられる、1-{(R)-2-(2-ヒドロキシ-エチル)-4-[2-トリフルオロメチル-4-(2-トリフルオロメチル-ピリミジン-5-イル)-チアゾール-5-イル]-ピペラジン-1-イル}-2-(3-メチル-[1,2,4]トリアゾール-1-イル)-エタノンの結晶形。
【請求項2】
粉末X線回折ダイアグラムにおける以下の屈折角2θ:14.3°、15.5°、16.4°、16.7°及び17.2°におけるピークの存在により特徴づけられる、請求項1に記載の1-{(R)-2-(2-ヒドロキシ-エチル)-4-[2-トリフルオロメチル-4-(2-トリフルオロメチル-ピリミジン-5-イル)-チアゾール-5-イル]-ピペラジン-1-イル}-2-(3-メチル-[1,2,4]トリアゾール-1-イル)-エタノンの結晶形。
【請求項3】
粉末X線回折ダイアグラムにおける以下の屈折角2θ:5.8°、8.9°、12.1°、14.3°、15.5°、16.4°、16.7°、17.2°、18.5°及び26.9°におけるピークの存在により特徴づけられる、請求項1に記載の1-{(R)-2-(2-ヒドロキシ-エチル)-4-[2-トリフルオロメチル-4-(2-トリフルオロメチル-ピリミジン-5-イル)-チアゾール-5-イル]-ピペラジン-1-イル}-2-(3-メチル-[1,2,4]トリアゾール-1-イル)-エタノンの結晶形。
【請求項4】
図1に示す粉末X線回折パターンを本質的に示す、請求項1に記載の1-{(R)-2-(2-ヒドロキシ-エチル)-4-[2-トリフルオロメチル-4-(2-トリフルオロメチル-ピリミジン-5-イル)-チアゾール-5-イル]-ピペラジン-1-イル}-2-(3-メチル-[1,2,4]トリアゾール-1-イル)-エタノンの結晶形。
【請求項5】
約5mgの非晶質の「化合物」を、酢酸エチル、イソプロパノール又はtert.-ブチルメチルエーテルから選択される約0.02mLの溶媒と混合し、上記混合物を約5日間貯蔵することにより得ることができる、1-{(R)-2-(2-ヒドロキシ-エチル)-4-[2-トリフルオロメチル-4-(2-トリフルオロメチル-ピリミジン-5-イル)-チアゾール-5-イル]-ピペラジン-1-イル}-2-(3-メチル-[1,2,4]トリアゾール-1-イル)-エタノンの結晶形。
【請求項6】
粉末X線回折ダイアグラムにおける以下の屈折角2θ:14.3°、16.7°及び17.2°におけるピークの存在により特徴づけられる、請求項5に記載の1-{(R)-2-(2-ヒドロキシ-エチル)-4-[2-トリフルオロメチル-4-(2-トリフルオロメチル-ピリミジン-5-イル)-チアゾール-5-イル]-ピペラジン-1-イル}-2-(3-メチル-[1,2,4]トリアゾール-1-イル)-エタノンの結晶形。
【請求項7】
粉末X線回折ダイアグラムにおける以下の屈折角2θ:14.3°、15.5°、16.4°、16.7°及び17.2°におけるピークの存在により特徴づけられる、請求項5に記載の1-{(R)-2-(2-ヒドロキシ-エチル)-4-[2-トリフルオロメチル-4-(2-トリフルオロメチル-ピリミジン-5-イル)-チアゾール-5-イル]-ピペラジン-1-イル}-2-(3-メチル-[1,2,4]トリアゾール-1-イル)-エタノンの結晶形。
【請求項8】
粉末X線回折ダイアグラムにおける以下の屈折角2θ:5.8°、8.9°、12.1°、14.3°、15.5°、16.4°、16.7°、17.2°、18.5°及び26.9°におけるピークの存在により特徴づけられる、請求項5に記載の1-{(R)-2
-(2-ヒドロキシ-エチル)-4-[2-トリフルオロメチル-4-(2-トリフルオロメチル-ピリミジン-5-イル)-チアゾール-5-イル]-ピペラジン-1-イル}-2-(3-メチル-[1,2,4]トリアゾール-1-イル)-エタノンの結晶形。
【請求項9】
示差走査熱量測定により決定される約169℃の融点を有する、請求項1~8のいずれか1項に記載の1-{(R)-2-(2-ヒドロキシ-エチル)-4-[2-トリフルオロメチル-4-(2-トリフルオロメチル-ピリミジン-5-イル)-チアゾール-5-イル]-ピペラジン-1-イル}-2-(3-メチル-[1,2,4]トリアゾール-1-イル)-エタノンの結晶形。
【請求項10】
請求項5の方法により得ることができる、請求項1~4のいずれか1項に記載の1-{(R)-2-(2-ヒドロキシ-エチル)-4-[2-トリフルオロメチル-4-(2-トリフルオロメチル-ピリミジン-5-イル)-チアゾール-5-イル]-ピペラジン-1-イル}-2-(3-メチル-[1,2,4]トリアゾール-1-イル)-エタノンの結晶形。
【請求項11】
医薬として使用するための、請求項1~10のいずれか1項に記載の1-{(R)-2-(2-ヒドロキシ-エチル)-4-[2-トリフルオロメチル-4-(2-トリフルオロメチル-ピリミジン-5-イル)-チアゾール-5-イル]-ピペラジン-1-イル}-2-(3-メチル-[1,2,4]トリアゾール-1-イル)-エタノンの結晶形。
【請求項12】
請求項1~10のいずれか1項に記載の1-{(R)-2-(2-ヒドロキシ-エチル)-4-[2-トリフルオロメチル-4-(2-トリフルオロメチル-ピリミジン-5-イル)-チアゾール-5-イル]-ピペラジン-1-イル}-2-(3-メチル-[1,2,4]トリアゾール-1-イル)-エタノンの結晶形を有効成分として有し、さらに少なくとも1種の薬学的に許容される担体材料を有する医薬組成物。
【請求項13】
医薬組成物の製造において使用するための請求項1~10のいずれか1項に記載の1-{(R)-2-(2-ヒドロキシ-エチル)-4-[2-トリフルオロメチル-4-(2-トリフルオロメチル-ピリミジン-5-イル)-チアゾール-5-イル]-ピペラジン-1-イル}-2-(3-メチル-[1,2,4]トリアゾール-1-イル)-エタノンの結晶形であって、当該医薬組成物が、1-{(R)-2-(2-ヒドロキシ-エチル)-4-[2-トリフルオロメチル-4-(2-トリフルオロメチル-ピリミジン-5-イル)-チアゾール-5-イル]-ピペラジン-1-イル}-2-(3-メチル-[1,2,4]トリアゾール-1-イル)-エタノンを有効成分として有し、さらに少なくとも1種の薬学的に許容される担体材料を有する、結晶形。
【請求項14】
(自己)免疫/炎症介在性障害;肺障害;心血管障害;感染性疾患;線維性疾患;神経変性障害;又は腫瘍性疾患から選択される障害の予防又は治療において使用するための、請求項1~10のいずれか1項に記載の1-{(R)-2-(2-ヒドロキシ-エチル)-4-[2-トリフルオロメチル-4-(2-トリフルオロメチル-ピリミジン-5-イル)-チアゾール-5-イル]-ピペラジン-1-イル}-2-(3-メチル-[1,2,4]トリアゾール-1-イル)-エタノンの結晶形又は請求項12に記載の医薬組成物。
【請求項15】
(自己)免疫/炎症介在性障害;肺障害;心血管障害;感染性疾患;線維性疾患;神経変性障害;又は腫瘍性疾患から選択される障害の予防又は治療のための医薬の製造のための、請求項1~10のいずれか1項に記載の1-{(R)-2-(2-ヒドロキシ-エチル)-4-[2-トリフルオロメチル-4-(2-トリフルオロメチル-ピリミジン-5-イル)-チアゾール-5-イル]-ピペラジン-1-イル}-2-(3-メチル-[1,2,4]トリアゾール-1-イル)-エタノンの結晶形の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、1-{(R)-2-(2-ヒドロキシ-エチル)-4-[2-トリフルオロメチル-4-(2-トリフルオロメチル-ピリミジン-5-イル)-チアゾール-5-イル]-ピペラジン-1-イル}-2-(3-メチル-[1,2,4]トリアゾール-1-イル)-エタノン(以下、「化合物」とも記載する。)の結晶形、その製造方法、当該結晶形を有する医薬組成物、かかる結晶形から製造された医薬組成物、並びに、CXCR3受容体及びそのリガンドに関連する種々の疾患及び障害の治療における、CXCR3受容体調節剤としてのそれらの使用に関する。特に、結晶形の「化合物」は、(自己)免疫/炎症介在性障害;肺障害(pulmonary disorders);心血管障害(cardiovascular disorders);感染性疾患;線維性疾患;神経変性障害;及び腫瘍性疾患を包含する疾患及び障害;特に、関節リウマチ、多発性硬化症、クローン病、潰瘍性大腸炎、全身性エリテマトーデス、ループス腎炎、サルコイドーシス、全身性強皮症、乾癬、乾癬性関節炎、間質性膀胱炎、セリアック病、重症筋無力症、I型糖尿病、尋常性白斑(vitiligo)、ブドウ膜炎、炎症性ミオパチー、眼球乾燥疾患、グレーブス病を包含する甲状腺炎、移植拒絶、急性及び/又は慢性移植片対宿主病、急性肺損傷(acute lung injury)、急性呼吸窮迫症候群、喘息、慢性閉塞性肺疾患、アテローム性動脈硬化、心筋炎、インフルエンザ、脳マラリア、肝硬変、アルツハイマー病、神経変性、ハンチントン舞踏病、視神経脊髄炎、慢性炎症性脱髄性多発ニューロパチー、ギラン-バレー症候群、脳腫瘍、大腸癌、乳癌及び/又は癌の転移拡散の予防又は治療のために、単独で又は医薬組成物中で使用してよい。
【背景技術】
【0002】
ケモカイン受容体は、ペプチド性のケモカインリガンドに高い親和性で結合するGタンパク質共役受容体(GPCR)の一群である。ケモカイン受容体の主な機能は、安静時及び炎症時において、白血球のリンパ器官及び組織への輸送をガイドすることであるが、ある種のケモカイン受容体は、非造血系細胞及びその前駆細胞に対する役割を持つことが知られている。
【0003】
ケモカイン受容体CXCR3は、炎症性ケモカインCXCL9(当初はMIG、インターフェロン-γ[INF-γ]誘発性モノカインと呼ばれていた)、CXCL10(IP-10、INF-γ-誘発性タンパク質10)及びCXCL11(I-TAC、INF-γ-誘発性T細胞α走化性因子)に結合するGタンパク質共役受容体である。CXCR3は、主に活性化したTヘルパー1型(Th1)リンパ球上で発現するが、ナチュラルキラー細胞、マクロファージ、樹状細胞及びBリンパ球サブセット上にも存在している。3種のCXCR3リガンドは、主に炎症条件下で発現しており、健常組織での発現は非常に低い。例えば、インターフェロン-γ又はTNF-α等の炎症性サイトカインへの暴露後にCXCR3リガンドを発現できる細胞としては、内皮細胞、線維芽細胞、上皮細胞、ケラチノサイト等の種々の間質細胞が挙げられるが、その他にマクロファージ及び単球等の造血性細胞も挙げられる。CXCR3とそのリガンドの相互作用(以後、CXCR3系(axis)と称する)は、受容体担持細胞の、身体の特定部位、特に炎症、免疫障害及び免疫機能障害部位へのガイドに関わっており、また、組織障害、アポトーシス誘導、細胞成長及び血管新生抑制(アンギオスタシス)にも関連している。CXCR3及びそのリガンドは、自己免疫異常、炎症、感染症、移植拒絶、線維症、神経変性及び癌を含む種々の病的状態において、上方制御されて強く発現している。
【0004】
自己免疫異常におけるCXCR3系の役割は、幾つかの前臨床及び臨床観察により裏付けられている。患者における血清レベル又は炎症性病変の組織学的解析により、CXCR
3リガンドレベルの上昇又はCXCR3陽性細胞数の増加が明らかとなった自己免疫異常としては、関節リウマチ(RA)、全身性エリテマトーデス(SLE)、ループス腎炎、多発性硬化症(MS)、炎症性腸疾患(IBD;クローン及び潰瘍性大腸炎を含む)及びI型糖尿病が挙げられる(Groom、J.R.&Luster、A.D. Immunol Cell Biol 2011、89、207;Groom、J.R.&Luster、A.D.Exp Cell Res 2011、317、620;Lacotte、S.、Brun、S.、Muller、S.&Dumortier、H.Ann N Y Acad Sci 2009、1173、310)。健常組織ではCXCR3リガンドの発現が非常に低いため、上記の相関する証拠から、ヒトの自己免疫疾患におけるCXCR3の役割が強く示唆される。さらに、Ruschpler及び共同研究者ら(Ruschpler、P.ら、Arthritis Res Ther 2003、5(5)、R241-252)は、関節リウマチ(RA)患者の滑膜組織中のCXCR3リガンドのレベルの上昇を記述している。また、彼らは肥満細胞上のCXCR3発現を示し、これらの細胞がRAの病理に重要な役割を担っている可能性を提唱している。著者らは:「これらの知見は、RA患者からの滑膜組織内の肥満細胞上におけるCXCR3タンパク質の実質的な発現が、ケモカイン、CXCL9及びCXCL10のレベルの上昇とともに、RAの病態生理学において重要な役割を担うことを示唆している」と述べている。Mohan及び共同研究者ら(Mohan、K.ら、J Immunol 2007、179(12)、8463-8469)は、T細胞上におけるCXCR3の発現が、炎症を起こした関節へのT細胞の動員に本質的な役割を担い、RAの動物モデルにおける関節炎の発症に寄与する可能性を提唱している。Enghardら(Enghard、P.ら、Arthritis Rheum 2009、60(1)、199-206)は、CXCR3発現T細胞が炎症を起こした腎臓内に動員され、ループス患者の尿中においても増大していることを記述している。彼らは、これらのCXCR3発現細胞が、SLEにおける腎炎活動性の有用なバイオマーカーであり、CXCR3系が将来の治療に対する潜在的なターゲットである可能性を提唱している。Steinmetz及び共同研究者ら(Steinmetz、O.M.ら、J Immunol 2009、183(7)、4693-4704)は、SLE及びループス腎炎両方のマウスモデルにおいて、CXCR3受容体欠損マウスの疾患の発症が弱まることを示し、CXCR3がこの疾患の有望な治療ターゲットであることを提唱している。さらに、Menkeら(Menke、J.ら、J Am Soc Nephrol 2008、19(6)、1177-1189)は、ループス腎炎の2つのマウスモデルにおいて、CXCR3又はCXCR3リガンドであるCXCL9(MIG)欠損マウスの疾患の発症がより軽症となることを示している。Comini-Frotaら(Comini-Frota、E.R.ら、CNS Drugs 2011、25(11)、971-981)は、CXCR3リガンドであるCXCL10のレベルが、多発性硬化症(MS)患者のCNSにおける病理学的病変(T1及びT2)と関連することを示している。彼らの観察が、MS患者の末梢血中のCXCR3発現CD4 T細胞がMS患者のCNS病変と関連するという以前の観察と一致すると彼らは結論づけている。さらに、Uzawaらによる研究(Uzawa、A.ら、「Expression of chemokine receptors on peripheral blood lymphocytes in multiple sclerosis and neuromyelitis optica.」BMC Neurol 2010、10、113)は、末梢血中のCXCR3発現T細胞のパーセンテージが、MS患者の疾患活動性と関連することを示している。また、Sporici及び共同研究者ら(Sporici、R.ら、Eur J Immunol 2010、40(10)、2751-2761)は、T細胞上のCXCR3発現が疾患の誘発に重要であるとするMSの前臨床モデルからのデータを提示している。Schroepfら(Schroepf、S.ら、Inflamm Bowel Dis 2010、16(11)、1882-1890)は、CXCR3系(CXCR3受容体及びそのリガンド)が小児クローン病及び小児潰瘍性大腸炎の両方において過剰発現していることを示すデータを提示している。Uno及び共同研究者
らの研究(Uno、S.ら、Endocr J 2010、57(11)、991~996)は、I型糖尿病の病態生理学において、CXCR3系が重要な役割を担う証拠を提供している。このチームは、患者の膵臓の未だ無傷のベータ細胞中でCXCR3リガンドであるCXCL10が発現しており、浸潤T細胞がCXCR3を発現することを示すことができた。従って、CXCL10とCXCR3の相互作用がI型糖尿病の病理に寄与すると彼らは結論づけている。Chen及び共同研究者ら(Chen、S.C.ら、Arch Dermatol Res 2010、302(2)、113-123)は、CXCR3並びにそのリガンドであるCXCL9、10及び11のmRNAレベルが、乾癬病変において、非病変サンプルと比較して有意に上昇していることを示した。著者らは定量的画像解析を用いて、非病変生検と比較した、病変における上皮性及び真皮性両方のCXCR3発現細胞の数の有意な増大を示した。CXCR3発現細胞の大多数は真皮中に存在し、Tリンパ球であることが示された。最後に、著者は、「乾癬皮膚の真皮中への活性化Tリンパ球の移動に対するその役割から、CXCR3はこの疾患の治療に対する非常に魅力的な標的である」と結論づけている。Loosら(Loos、T.ら、Lab Invest
2006、86(9)、902-916)は、脊椎関節症(すなわち、強直性脊椎炎又は乾癬性関節炎)又は関節リウマチの患者の滑液中で、有意に上昇したCXCL9レベルが観察されたことを記述している。従って、著者らは、CXCR3リガンドであるCXCL9は、乾癬性関節炎を含む自己免疫性関節炎において重要なケモカインであると結論づけている。Antonelli及び共同研究者らによる研究(Antonelli、A.ら、Rheumatology(Oxford)2008、47(1)、45-49)は、新たに診断された全身性強皮症において、CXCR3結合ケモカイン、CXCL10の血清レベルが高いことを示している。高い値のCXCL10は、より重篤な臨床像(肺及び腎臓の関与)と関連した。
【0005】
尋常性白斑患者の皮膚において、病原性メラノサイト(pathogenic melanocyte)-特異的CD8陽性T細胞がCXCR3を発現していることが見いだされ(Boniface、K.ら、J Invest Dermatol 2018、138(2)、355)、血清CXCL10レベルは疾患の重症度と関連していた(Wang、XX.ら、Br J Dermatol 2016、174(6)、1318)。尋常性白斑マウスモデルにおける研究は、この疾患の病理におけるCXCR3/CXCL10系の重要な役割を強調するものであった。抗CXCL10抗体を用いることによる、又は、抗CXCR3枯渇抗体を用いることによるこの系の遮断が、尋常性白斑マウスモデルにおいて、色素消失を予防し及び元に戻すことが示された(Rashighi、M.ら、Sci Transl Med 2014、6(223)、223ra23;Richmond JMら、J Invest Dermatol 2017、137(4)、982~5)。
【0006】
CXCR3欠損マウス、CXCR3リガンドの1つが欠損しているマウス又はCXCR3若しくはそのリガンドの1つを遮断する抗体を用いた前臨床疾病モデルにより、免疫病理におけるCXCR3系の役割がさらに裏付けられている。例えば、CXCR3又はCXCR3リガンドであるCXCL9のいずれかの欠損マウスでは、ループス腎炎モデルにおいて症状が低減することが示されている(Menke、J.ら、J Am Soc Nephrol 2008、19、1177)。CXCR3系が間質性膀胱炎の病理に関与することに対して、臨床及び前臨床的証拠の両方が存在する。Sakthivel及び共同研究者ら(Sakthivel、S.K.ら、J Immune Based Ther
Vaccines 2008、6、6.)は、間質性膀胱炎のマウスモデルにおいて、CXCR3リガンドであるCXCL10の遮断がこの疾患の重症度を減少させることができることを示した。臨床現場において、Ogawaら(Ogawa、T.ら、J Urol 2010、183(3)、1206~1212)は、CXCR3結合ケモカインが、健常対照と比較して、患者の生検において過剰に存在し、間質性膀胱炎のバイオマーカー
となる可能性を示した。同様に、ラットの関節リウマチモデルでは、抗体によりCXCL10を遮断すると、症状が低減した(Mohan、K.&Issekutz、T.B.J
Immunol 2007、179、8463)。同様に、マウスの炎症性腸疾患モデルでは、CXCL10遮断抗体により、治療環境において症状を防止することができた(Singh、U.P.ら、J Interferon Cytokine Res 2008、28、31)。また、CXCR3欠損マウスの組織を用いた実験により、セリアック病及びその他の自己免疫型障害におけるCXCR3の役割が示唆されている(Lammers、K.M.ら、Gastroenterology 2008、135、194)。Fefermanら(Feferman、T.ら、J Neuroimmunol 2009、209(1-2)、87-95)は、重症筋無力症におけるCXCR3及びCXCL10の過剰発現を以前に示したが、この疾患の前臨床モデルにおいてCXCR3及びそのリガンドであるCXCL10の役割をさらに研究した。彼らは、遮断抗体を用いたCXCL10の、又は、低分子アンタゴニストを用いたCXCR3のいずれかの遮断により、重症筋無力症のこのマウスモデルの病状を抑制できることを見いだした。CXCR3/IP-10シグナル伝達の遮断が、重症筋無力症の潜在的治療法と考えることができると彼らは結論づけている。Howardら(Howard、O.M.ら、Blood 2005、105(11)、4207-4214)は、ブドウ膜炎において見いだされた組織特異的自己抗原について研究し、これらがヒト正常免疫細胞、具体的にはリンパ球及び未成熟DCの走化性因子であり得ることを示した。彼らは、これらの自己抗原がCXCR3発現細胞の移動を誘発することを具体的に示している。
【0007】
CXCR3系の発現の増加に関連する炎症性疾患としては、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、喘息、サルコイドーシス、アテローム性動脈硬化及び心筋炎が挙げられる(Groom、J.R.&Luster、A.D.Immunol Cell Biol 2011、89、207;Groom、J.R.&Luster、A.D.Exp Cell Res 2011、317、620)。
【0008】
ある研究では、COPDを有する喫煙者の肺では、CXCR3陽性細胞が、健常者と比較して増加しており、また、CXCR3-リガンド、CXCL10に対する免疫応答性は、COPDを有する喫煙者の細気管支上皮には見られるが、喫煙する及び喫煙しない対照被験者の細気管支上皮には見られないことが示されている(Saetta、M.ら、Am
J Respir Crit Care Med 2002、165、1404)。これらの知見から、CXCR3系が、COPDを有する喫煙者の末梢気道で起こる免疫細胞の動員に関与している可能性が示唆される。これらの知見と一致して、CXCR3欠損マウスでは、たばこの煙により誘発される急性肺炎が減弱することが、COPDの前臨床研究により明らかとなった(Nie、L.ら、Respir Res 2008、9、82)。喘息におけるCXCR3及びCXCR3結合ケモカインの関与についての前臨床的証拠が存在する。Suzakiら(Suzaki、Y.ら、Eur Respir J 2008、31(4)、783-789)は、受容体、CXCR3及びCCR5の低分子アンタゴニストが、マウスモデルにおいて喘息症状の発症を予防できることを示した。Lin及び共同研究者ら(Lin、Y.ら、Respir Res 2011、12、123)は、CXCR3欠損マウスにおいて類似の研究を行い、CXCR3が喘息の新規な治療ターゲットとなる可能性があると結論づけた。Busuttil及び共同研究者ら(Busuttil、A.ら、Eur Respir J 2009、34(3)、676-686)は、肺サルコイドーシスの病因を研究し、リンパ球及び単球系の細胞の両方がCXCR3を発現し、サルコイド肺肉芽腫(sarcoid lung granulomas)の形成に関与し、サルコイド気管支肺胞洗浄液(bronchoalveolar fluid)(BALF)において、CXCR3リガンドであるCXCL9及びCXCL11は上方制御されていると結論づけた。Crescioli及び共同研究者ら(Crescioli、C.ら、Eur J Cell Biol 2012、91(2)、13
9~149)は、心筋炎の病態生理を分析し、炎症を起こした筋肉においては、骨格筋細胞が活発にCXCL10を分泌し、これは次いでCXCR3発現Th1 T細胞を引きつけることができ、ひいては自己促進炎症(self-promote inflammation)を起こすことを見いだした。彼らは、CXCL10を標的とすることにより、この症状における異常な免疫反応を制御できる可能性があると結論づけている。CXCL10はCXCR3の認識リガンド(cognate ligand)であるため、アンタゴニストによるCXCR3の阻害が有益であることは理にかなっている。CXCR3リガンドは、急性呼吸窮迫症候群を発症している患者の血漿及び肺で増大する。この増大はこの疾患の重症度と関連していた(Jiang、Y.ら、Am J Respir Crit Care Med 2005、171(8)、850;Bautista、E.ら、Exp Mol Pathol 2013、94(3)、486;Yang、Y.ら、J
Allergy Clin Immunol 2020、146(1)、119-27
e4)。CXCR3系は、酸の吸引、ウイルス感染、敗血症、肺炎等の異なる条件により動物モデルにおいて誘発される急性呼吸窮迫症候群の発症における重要な因子であることが示された。CXCL10若しくはCXCR3のノックダウン又は抗CXCL10若しくは抗CXCR3剤の使用が、急性肺損傷を回復させて、肺の炎症、肺水腫を減少させ、肺機能を改善させることが示された(Ichikawa、A.ら、Am J Respir Crit Care Med 2013、187(1)、65;Lang、S.ら、PLoS One 2017、12(1)、e0169100;Zhu、X.ら、J Surg Res 2016、204(2)、288)。アテローム性動脈硬化に関するある研究において、ヒトの動脈硬化病変内のすべてのT細胞上にCXCR3発現が見いだされた。CXCR3リガンドであるCXCL9、CXCL10及びCXCL11は、すべてこれらの病変に関連する内皮及び平滑筋細胞中に見いだされ、このことは、これらがCXCR3陽性細胞、特に、アテローム形成の間に血管壁病変内に観察される活性化Tリンパ球の動員及び維持に関与していることを示唆している(Mach、F.ら、J Clin
Invest 1999、104、1041)。Van Wanrooijら(van
Wanrooij、E.J.ら、Arterioscler Thromb Vasc
Biol 2008、28(2)、251-257)は、CXCR3アンタゴニストによる治療が、循環から動脈硬化プラーク内へのCXCR3発現エフェクター免疫細胞の直接的な移動を遮断することにより、マウスモデルにおいて動脈硬化病変形成の低減を引き起こすことを示した。アテローム性動脈硬化の発症におけるCXCR3の役割は、前臨床研究によりさらに支持されている。ApoE欠損マウスにおけるCXCR3遺伝子欠失は、腹部大動脈内における動脈硬化病変の発生を有意に減少させる(Veillard、N.R.ら、Circulation 2005、112、870)。
【0009】
Yoon及び共同研究者ら(Yoon、K.C.ら、Invest Ophthalmol Vis Sci 2010、51(2)、643-650)は、眼球乾燥疾患(ドライアイ症候群とも呼ばれる。)を患う患者の眼表面上のCXCR3系(CXCR3及びそのリガンドであるCXCL9、10、11)の構成要素について研究した。炎症性眼球乾燥疾患の患者及び自己免疫性眼球乾燥疾患の患者(シェーグレン症候群の患者)の両方において、眼表面上のCXCR3及びCXCR3リガンドが上昇していた。
【0010】
Cameronら(Cameron、C.M.ら、J Virol 2008、82(22)、11308-11317)は、インフルエンザ病理の研究に適切であると考えられる、世界的に流行したフェレットのインフルエンザ株H5N1について研究した。彼らはまず、インフルエンザ感染に続いて、CXCR3リガンドであるCXCL10が高度に上方制御されると記述している。次いで、彼らは、フェレットのH5N1感染過程における低分子CXCR3アンタゴニストの効果を試験した。その結果、ベヒクル処理と比較して、症状の重症度の減少及び大量死の遅延がもたらされた。
【0011】
Campanella及び共同研究者ら(Campanella、G.S.ら、Proc
Natl Acad Sci USA 2008、105(12)、4814-4819)は、前臨床モデルにおいて、脳マラリアの発症に対するCXCR3系の影響について研究した。彼らは、T細胞の脳内への動員及びマウス脳マラリアの発症にはCD8 T細胞上のCXCR3が必要であると結論づけ、この疾患の病因においてCXCR3リガンドであるCXCL9及びCXCL10が別個で非冗長性の役割を担っていることを示唆している。従って、CXCR3アンタゴニストが脳マラリアの治療に適切な治療手段である可能性を論じることができる。
【0012】
CXCR3系は、臓器移植及び骨髄移植後の拒絶反応に関連する毒性においても中心的役割を果たすことが示唆されている(Groom、J.R.&Luster、A.D.Exp Cell Res 2011、317、620)。前臨床的には、CXCR3欠損マウスは、同種移植片拒絶に対して有意な耐性を示す(Hancock、W.W.ら、J
Exp Med 2000、192、1515)。Romagnaniら(Romagnani、P.ら、Clin Chim Acta 2012、413(17-18)、1364-1373)は、彼らの文献調査において、CXCR3リガンドであるCXCL10は、拒絶の重症度を予測し及び臓器レシピエントの炎症状態をモニターするためのバイオマーカーとして有用であるだけではなく、移植片対宿主病及び移植臓器全般の治療標的としても有用であると結論づけている。肺移植拒絶の前臨床モデルにおいて、Seungら(Seung、E.ら、J Immunol 2011、186(12)、6830-6838)は、CXCR3欠損エフェクターT細胞において、致死的な肺炎症、従って組織拒絶を誘発する能力が減少していることを示している。エフェクターT細胞上のCXCR3の阻害が肺移植拒絶の予防に治療上有益であろうと著者らは結論づけている。Matlら(Matl、I.ら、Kidney Blood Press Res 2010、33(1)、7-14)は、CXCR3リガンドであるCXCL10(IP-10)のmRNAレベルが高い、腎臓移植の患者には、早期腎臓移植片喪失の危険があることが見いだされたと記述している。従って、CXCL10、及び、ひいてはその受容体であるCXCR3は腎臓移植拒絶の病理に関与している可能性が高く、そのため、CXCR3阻害は腎臓移植片喪失の予防のための治療戦略となる可能性がある。Heら(He、S.ら、J Immunol 2008、181(11)、7581-7592)は、抗体によるCXCR3の遮断が移植片対宿主病の前臨床モデルにおいて有益な効果をもたらすことを示している。
【0013】
CXCR3リガンドの血漿濃度は、ヒトにおける肝硬変及び線維症を含む、種々の肝臓症状とも正に相関している(Tacke、F.ら、Liver Int 2011、31(6)、840)。
【0014】
腫瘍学分野では、癌細胞が転移により拡散するのを制限する助けとして、CXCR3系を遮断することが提案されている。例えば、低分子のCXCR3受容体アンタゴニストであるAMG487の投与により、腫瘍細胞の肺への転移を制限することができた(Pradelli、E.ら、Int J Cancer 2009、125、2586)。Walser及び共同研究者ら(Walser、T.C.ら、Cancer Res 2006、66(15)、7701-7707)は、低分子量CXCR3アンタゴニストが腫瘍転移を阻害する能力を有することを示した。この研究では、マウス乳房腫瘍の肺への拡散をCXCR3阻害により阻害することができた。B細胞慢性リンパ球性白血病(CLL)の抑制におけるCXCR3の役割についての機能的証明が、Trentin及びその共同研究者らにより報告された(Trentin、L.ら、J Clin Invest 1999、104、115)。さらに、脳腫瘍/神経膠芽腫の前臨床モデルにおいて、Liu及び共同研究者ら(Liu、C.ら、Carcinogenesis 2011、32(2)、129-137)は、低分子阻害剤でCXCR3を薬理学的に阻害すると、腫瘍
担持マウスの生存が増大することを示した。以前において、Maruら(Maru、S.V.ら、J Neuroimmunol 2008、199(1-2)、35-45.)は、脳腫瘍神経膠腫細胞においてCXCL10産生の増大並びにその受容体であるCXCR3発現の増大が見られることを示した。CXCL10は細胞増殖のERK1/2-依存性増強を誘発した。Amy Fulton(Fulton、A.M. Curr Oncol Rep 2009、11(2)、125-131)は、CXCR3の癌への関与に関する文献的証拠を調査している。CXCR3は多くの悪性細胞株上で検出されており、大腸及び乳癌並びにメラノーマにおける患者の帰結に関連すると彼女は述べている。これらの疾患において、高いCXCR3発現はより侵攻性の疾患と連関する。
【0015】
中枢神経系では、CXCR3系の遮断には有益な効果があり、神経変性を予防する可能性がある。CNSにおけるCXCL10の発現の増加が、虚血、アルツハイマー病、多発性硬化症(MS)及びヒト免疫不全ウイルス(HIV)-脳炎で示されている。例えば、2つの研究グループが、神経変性障害及び神経細胞障害(neuronal disfunction)又は神経細胞死におけるCXCR3及びそのリガンドであるCXCL10の一般的な役割を記述している。Choら(Cho、J.ら、J Neuroimmunol 2009、207(1-2)、92-100)は、ラットニューロンがCXCR3を発現することができ、CXCL10が神経細胞の機能を変性させることができることを記述している。慢性神経炎症又は神経変性障害において、CXCR3とCXCL10の間のこの相互作用が中枢神経系の機能変性に寄与する可能性があると著者らは仮定している。Van Weeringら(van Weering、H.R.ら、Hippocampus 2011、21(2):220-232.)は、マウスにおいて、病的状況下でのニューロン-グリア及びグリア-グリア相互作用におけるCXCL10/CXCR3シグナル伝達の領域特異的役割を見いだした。CXCR3を欠損するマウスを用い、彼らは、ミクログリア細胞上のCXCR3が、興奮毒性条件下における神経細胞死に重要であると結論づけている。まとめると、これら2つの文献は、CXCR3及びCXCL10が、前臨床モデルにおいて、神経細胞障害又は死さえも引き起こすことができることを示している。Xiaら(Xia、M.Q.ら、J Neuroimmunol 2000、108(1-2)、227-235)は、CXCR3リガンドであるCXCL10が、正常脳内のアストロサイトの亜集団中で観察され、アルツハイマー病脳内のアストロサイト中では顕著に上昇していることを示している。また、彼らは、CXCL10及びCXCL9がラットニューロンにおいてシグナルを誘発できることを示している。Vergote及び共同研究者ら(Vergote、D.ら、Proc Natl Acad Sci USA 2006、103(50)、19182-19187)は、HIV関連認知症を患う患者において、ケモカインCXCL12が最初の4アミノ酸を欠いた欠失型(CXCL12(5-67))で存在することを観察した。全長CXCL12とは異なり、上記欠失型は、もはやケモカイン受容体CXCR4を介してシグナル伝達を行わないが、代わりにCXCR3を介してシグナル伝達を行うことができる。著者らは、この新規な相互作用が神経細胞の病態を引き起こすと結論づけている。In vivoで、彼らは、CXCL12の欠失型により引き起こされる神経炎症、ニューロン損失及び神経行動学的異常がCXCR3アンタゴニストにより予防されることを示した。ハンチントン病モデルにおけるHTT断片誘発神経変性に対する神経保護作用を備える薬物様分子の特定を目的とした研究では、2種のCXCR3受容体アンタゴニストが特定された(Reinhart、P.H.ら、Neurobiol Dis 2011、43、248)。Press及び共同研究者ら(Press、R.ら、J Clin Immunol 2003、23(4)、259-267.)は、脊髄神経根及び末梢神経のマクロファージ及びT細胞による浸潤は、ギラン-バレー症候群(GBS)及び慢性炎症性脱髄性多発ニューロパチー(CIDP)の患者におけるむしろ一貫した免疫病理学的知見であると述べている。彼らは、GBS及びCIDP患者の脳脊髄液中の炎症メディエーターについて研究し、CXCR3リガンドであるCXCL10のレベルが両方の病態において上昇していることを見いだし、そし
てCXCL10がこれらの2つの疾患の病因に関連していると仮定している。
【0016】
「化合物」はWO2016/113344に記載の手順に従って製造することができる。
【発明の概要】
【0017】
「化合物」の特定の結晶形が特定の条件下で見つかることが見いだされた。「化合物」の当該結晶形は新規であり、薬学的有効成分としての「化合物」の使用可能性という観点から有利な特性を有するであろう。かかる有利な特性は、より良好な流動特性;より低い吸湿性;錠剤製造に対するより良好な特性(例えば十分に高い融点);製造におけるより良好な再現性(例えば、より良好なろ過パラメータ、より良好な形成再現性及び/又はより良好な沈降性);及び/又は一定したモルフォロジーを含むであろう。「化合物」のかかる結晶形は、特定の医薬組成物の製造方法に特に適切であろう。「化合物」の結晶形1は、非溶媒和、非水和固体形であり、従って結晶形2及び3とは異なる。溶媒和固体形は時間の経過とともに脱溶媒和する傾向があるため、非溶媒和形は、無制御な脱溶媒和が起こりえない点で有利である。溶媒和固体形の別の欠点は医薬組成物中の残留溶媒含量の量であり、これは(ICHの勧告により特定される)推奨許容1日摂取量を超えるかもしれない。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】
図1は、結晶形1の「化合物」の粉末X線回折ダイアグラムを示し、この粉末X線回折ダイアグラムは(実験手法に記載した)XRPD法1を用いて測定され、Cu Kα照射に対して示す。ダイアグラムにおいて、屈折角2θを横軸上にプロットし、カウントを縦軸上にプロットする。X線回折ダイアグラムは、示した屈折角2シータにおける、ダイアグラムにおける最も強いピークと比較して、下記のパーセンテージの相対強度を有するピークを示す(相対的ピーク強度を括弧内に記載する。)(3-30°の範囲の2シータからの、10%より大きな相対強度を有する選択したピークを報告する。):5.8°(20%)、8.9°(18%)、9.1°(13%)、11.3°(14%)、12.1°(37%)、12.7°(13%)、14.3°(100%)、15.5°(33%)、16.4°(15%)、16.7°(96%)、17.2°(64%)、17.9°(24%)、18.2°(25%)、18.5°(20%)、20.4°(13%)、20.7°(12%)、21.1°(21%)、21.3°(13%)、21.7°(11%)、22.3°(14%)、22.5°(20%)、23.3°(12%)、24.7°(28%)及び26.9°(25%)。
【
図2】
図2は、アセトンから得られた結晶形2の「化合物」の粉末X線回折ダイアグラムを示し、この粉末X線回折ダイアグラムは(実験手法に記載した)XRPD法2を用いて測定され、Cu Kα照射に対して示す。ダイアグラムにおいて、屈折角2θを横軸上にプロットし、カウントを縦軸上にプロットする。X線回折ダイアグラムは、示した屈折角2シータにおける、ダイアグラムにおける最も強いピークと比較して、下記のパーセンテージの相対強度を有するピークを示す(相対的ピーク強度を括弧内に記載する。)(3-30°の範囲の2シータからの、10%より大きな相対強度を有する選択したピークを報告する。):8.6°(11%)、9.6°(19%)、14.2°(22%)、14.7°(44%)、15.0°(22%)、16.0°(55%)、16.7°(100%)、17.3°(70%)、18.7°(26%)、20.5°(77%)、22.3°(53%)及び22.7°(33%)。
【
図3】
図3は、結晶形3の「化合物」の粉末X線回折ダイアグラムを示し、この粉末X線回折ダイアグラムは(実験手法に記載した)XRPD法2を用いて測定され、Cu Kα照射に対して示す。ダイアグラムにおいて、屈折角2θを横軸上にプロットし、カウントを縦軸上にプロットする。X線回折ダイアグラムは、示した屈折角2シータにおける、ダイアグラムにおける最も強いピークと比較して、下記のパーセンテージの相対強度を有するピークを示す(相対的ピーク強度を括弧内に記載する。)(3-30°の範囲の2シータからの、10%より大きな相対強度を有する選択したピークを報告する。):8.7°(23%)、9.8°(25%)、11.4°(10%)、13.4°(16%)、14.2°(14%)、15.3°(13%)、16.4°(55%)、17.0°(100%)、17.7°(37%)、19.7°(13%)、20.6°(24%)、21.3°(40%)、21.8°(29%)及び28.5°(34%)。
【
図4】
図4は、結晶形1の「化合物」の示差走査熱量測定(DSC)サーモグラムを示す。
図4のDSCサーモグラムにおいて、温度(℃)を横軸上にプロットし、熱流量(mW)を縦軸上にプロットする。
【
図5】
図5は、実施例1から得られた結晶形1の「化合物」の重量測定蒸気吸着ダイアグラムを示す。
図5の重量測定蒸気吸着ダイアグラムにおいては、相対湿度(%RH)を横軸上に、質量変化(%dm)を縦軸上にプロットする。
【
図6】
図6は、結晶形2の「化合物」の熱重量分析(TGA)を示す。
図6の熱重量分析ダイアグラムにおいては、温度(℃)を横軸上にプロットし、相対質量(%)を縦軸上にプロットする。
【0019】
いかなる疑義をも避けるために、上記のピークは、
図1~
図3に示す粉末X線回折の実験結果を記述する。上記のピークのリストとは対照的に、本発明の各結晶形の「化合物」を完全に及び明確に特徴づけるためには、選択された特徴的なピークのみが必要であることが理解されるべきである。
【0020】
本発明の詳細な記述
1) 本発明の第1の態様は、粉末X線回折ダイアグラムにおける以下の屈折角2θ:14.3°、16.7°及び17.2°におけるピークの存在により特徴づけられる、1-{(R)-2-(2-ヒドロキシ-エチル)-4-[2-トリフルオロメチル-4-(2-トリフルオロメチル-ピリミジン-5-イル)-チアゾール-5-イル]-ピペラジン-1-イル}-2-(3-メチル-[1,2,4]トリアゾール-1-イル)-エタノン(「化合物」)の結晶形に関する。
【0021】
態様1)に従う結晶形は、遊離塩基(すなわち塩の形態ではない)の結晶形の「化合物」を包含するものとする。
【0022】
さらに、「化合物」の上記結晶形は非配位及び/又は配位溶媒(特に、非配位及び/又は配位水)を有してよい。配位溶媒(特に配位水)は、本明細書において、結晶性溶媒和物(特に結晶性水和物)についての用語として使用される。同様に、非配位溶媒(特に水)は、本明細書において、物理吸着又は物理捕捉溶媒についての用語として使用される(特に水;Polymorphism in the Pharmaceutical Industry(Ed.R.Hilfiker、VCH、2006)、Chapter 8:U.J.Griesser:The Importance of Solvatesによる定義)。「化合物」の結晶形1は、配位水を有さないが、非配位水又は別の非配位溶媒を有してよい。
【0023】
結晶形1の「化合物」は、DSCにより測定されたT=169±3℃の融点を有する。結晶形1の「化合物」は、Ph.Eur.(欧州薬局方(European Pharmacopeia) 10.0、section 5.11)によれば吸湿性ではない。
【0024】
2) 別の態様は、粉末X線回折ダイアグラムにおける以下の屈折角2θ:14.3°、15.5°、16.4°、16.7°及び17.2°におけるピークの存在により特徴づけられる、態様1)に従う「化合物」の結晶形に関する。
【0025】
3) 別の態様は、粉末X線回折ダイアグラムにおける以下の屈折角2θ:5.8°、
8.9°、12.1°、14.3°、15.5°、16.4°、16.7°、17.2°、18.5°及び26.9°におけるピークの存在により特徴づけられる、態様1)に従う「化合物」の結晶形に関する。
【0026】
4) 別の態様は、
図1に示す粉末X線回折パターンを本質的に示す、態様1)に従う「化合物」の結晶形に関する。
【0027】
5) 別の態様は、粉末X線回折ダイアグラムにおける以下の屈折角2θ:16.0°、16.7°及び20.5°におけるピークの存在により特徴づけられる、「化合物」の結晶形に関する。
【0028】
結晶化に使用する溶媒(アセトン又はTHF)により、結晶形2の「化合物」は、配位及び/又は非配位溶媒を有してよい。
【0029】
6) 別の態様は、粉末X線回折ダイアグラムにおける以下の屈折角2θ:9.6°、16.0°、16.7°、17.3°及び20.5°におけるピークの存在により特徴づけられる、態様5)に従う「化合物」の結晶形に関する。
【0030】
7) 別の態様は、粉末X線回折ダイアグラムにおける以下の屈折角2θ:8.6°、9.6°、14.7°、15.0°、16.0°、16.7°、17.3°、18.7°及び20.5°におけるピークの存在により特徴づけられる、態様5)に従う「化合物」の結晶形に関する。
【0031】
8) 別の態様は、粉末X線回折ダイアグラムにおける以下の屈折角2θ:9.8°、17.0°及び17.7°におけるピークの存在により特徴づけられる、「化合物」の結晶形に関する。
【0032】
結晶形3の「化合物」はアセトニトリル溶媒和物である。
【0033】
9) 別の態様は、粉末X線回折ダイアグラムにおける以下の屈折角2θ:8.7°、9.8°、13.4°、17.0°及び17.7°におけるピークの存在により特徴づけられる、態様8)に従う「化合物」の結晶形に関する。
【0034】
10) 別の態様は、粉末X線回折ダイアグラムにおける以下の屈折角2θ:8.7°、9.8°、11.4°、13.4°、14.2°、15.3°、16.4°、17.0°、17.7°及び19.7°におけるピークの存在により特徴づけられる、態様8)に従う「化合物」の結晶形に関する。
【0035】
11) 別の態様は、約5mgの非晶質の「化合物」を、酢酸エチル、イソプロパノール又はtert.-ブチルメチルエーテルから選択される約0.02mLの溶媒と混合し、上記混合物を約5日間貯蔵することにより得ることができる、化合物、1-{(R)-2-(2-ヒドロキシ-エチル)-4-[2-トリフルオロメチル-4-(2-トリフルオロメチル-ピリミジン-5-イル)-チアゾール-5-イル]-ピペラジン-1-イル}-2-(3-メチル-[1,2,4]トリアゾール-1-イル)-エタノンの結晶形、例えば本質的に純粋な結晶形に関する。
【0036】
12) 別の態様は、粉末X線回折ダイアグラムにおける以下の屈折角2θ:14.3°、16.7°及び17.2°におけるピークの存在により特徴づけられる、態様11)に従う「化合物」の結晶形に関する。
【0037】
13) 別の態様は、粉末X線回折ダイアグラムにおける以下の屈折角2θ:14.3°、15.5°、16.4°、16.7°及び17.2°におけるピークの存在により特徴づけられる、態様11)に従う「化合物」の結晶形に関する。
【0038】
14) 別の態様は、粉末X線回折ダイアグラムにおける以下の屈折角2θ:5.8°、8.9°、12.1°、14.3°、15.5°、16.4°、16.7°、17.2°、18.5°及び26.9°におけるピークの存在により特徴づけられる、態様11)に従う「化合物」の結晶形に関する。
【0039】
15) 別の態様は、
図1に示す粉末X線回折パターンを本質的に示す、態様11)に従う「化合物」の結晶形に関する。
【0040】
16) 別の態様は、示差走査熱量測定により決定される約169℃の(特に169±3℃の)融点を有する、態様1)~4)又は11)~15)のいずれか1つに従う「化合物」の結晶形に関する。
【0041】
示差走査熱量測定(DSC)データは、「化合物」のサンプル(特に1~5mg)を、分当たり10℃にて、-20℃から200℃までの範囲で加熱することにより(そして特に、実験の項に記載した方法により)測定してよい。
【0042】
17) 別の態様は、
図5に示す重量測定水分吸着プロファイルを本質的に示し、上記重量測定水分吸着プロファイルが約25℃にて(特に25℃にて)測定される、態様1)~4)又は11)~16)のいずれか1つに従う「化合物」の結晶形に関する。
【0043】
18) 別の態様は、態様11)の方法により得ることができる、態様1)~4)のいずれか1つに従う「化合物」の結晶形に関する。
【0044】
従って、先に開示した異なる態様1)~18)の従属関係に基いて、下記の態様が可能であり、意図されており、そして個々の形態としてここに具体的に開示される:
1、2+1、3+1、4+1、5、6+5、7+5、8、9+8、10+8、11、12+11、13+11、14+11、15+11、16+1、16+2+1、16+3+1、16+4+1、16+11、16+12+11、16+13+11、16+14+11、16+15+11、17+1、17+2+1、17+3+1、17+4+1、17+11、17+12+11、17+13+11、17+14+11、17+15+11、17+16+1、17+16+2+1、17+16+3+1、17+16+4+1、17+16+11、17+16+12+11、17+16+13+11、17+16+14+11、17+16+15+11、18;
上記の表中、数字は上記の番号に応じた態様を意味し、「+」は他の態様への従属関係を表す。種々の態様は読点により個々に分けられている。換言すると、例えば「16+2+1」は、態様16)であって、態様2)に従属し、態様1)に従属することを意味し、すなわち、態様「16+2+1」は、態様2)及び16)の特徴によりさらに特徴付けられた態様1)に相当する。
【0045】
いかなる疑義をも避けるために、上記態様の1つが、「粉末X線回折ダイアグラムにおける、以下の屈折角2θにおけるピーク」に言及する場合は常に、当該粉末X線回折ダイアグラムは、Kα2を除去することなく、結合Cu Kα1及びKα2照射(combined Cu Kα1 and Kα2 radiation)を用いて得られたものであり;そして本明細書で提供される2θ値の精度は+/-0.1~0.2°の範囲内であることが理解されるべきである。特に、本発明の態様及び請求項中でピークに対する屈折角2シータ(2θ)を特定する場合、記載された当該2θ値は、当該値-0.2°から当
該値+0.2°(2θ+/-0.2°)の間;そして好ましくは当該値-0.1°から当該値+0.1°(2θ+/-0.1°)の間と理解されるべきである。
【0046】
化合物、固体、医薬組成物、疾患等について複数形が使用される場合は、単数の化合物、固体、医薬組成物、疾患等をも意味することが意図されている。
【0047】
ここに記載される定義は、態様1)~18)のいずれか1つに定義される主題に対して一律に適用されるものであり、特段の定義によってより広い又はより狭い定義が与えられない限り本明細書及び請求項を通じて必要な変更を加えて適用される。当然ながら、ある用語又は表現の定義又は好ましい定義が、ここに定義されるいずれか又は他のすべての用語又は表現のいずれか又は好ましい定義におけるそれぞれの用語又は表現を、独立して(及びそれらと共に)定義し置き換えるものであってよい。
【0048】
「エナンチオマーが富化された」という用語は、本発明の文脈において、特に、「化合物」の少なくとも90、好ましくは少なくとも95、そして最も好ましくは少なくとも99重量パーセントが、「化合物」の一方のエナンチオマーの形態で存在することを意味するものと理解される。「化合物」は、エナンチオマーが富化された絶対(R)-配置で存在するものと理解される。
【0049】
「本質的に純粋な」という用語は、本発明の文脈において、「化合物」の結晶の少なくとも90、好ましくは少なくとも95、そして最も好ましくは少なくとも99重量パーセントが、本発明の結晶形で存在すること、を特に意味するものと理解される。
【0050】
例えば、粉末X線回折ダイアグラムにおけるピークの存在を定義する場合、通常の方法は、S/N比(S=シグナル、N=ノイズ)の点からこれを行うことである。この定義に従えば、粉末X線回折ダイアグラムにピークが存在しなければならないと述べる場合、粉末X線回折ダイアグラムのピークは、x(xは1より大きい数値である。)より大きい、通常は2より大きい、特に3より大きいS/N比(S=シグナル、N=ノイズ)を持つことにより定義されるものと理解される。
【0051】
結晶形が、
図1に表される粉末X線回折パターンを本質的に示す、という記載の文脈において、「本質的に」という用語は、当該図に表されるダイアグラムの少なくとも主要なピーク、すなわち、ダイアグラムにおける最も強いピークと比べ、20%を超える、特に10%を超える相対強度を有するピークが存在しなければならないことを意味する。しかしながら、粉末X線回折の当業者は、粉末X線回折ダイアグラムの相対強度が、好ましい配向効果に起因する強い強度変動に付され得ることを認識しているはずである。
【0052】
温度に関して使用されていない場合には、数値「X」の前に置かれる「約」という用語は、本出願において、X-Xの10%からX+Xの10%にわたる間、好ましくはX-Xの5%からX+Xの5%にわたる間、特にXを意味する。温度の特定の場合には、温度「Y」の前に置かれる「約」の用語は、本出願において、温度Y-5℃からY+5℃にわたる間、好ましくはY-3℃からY+3℃にわたる間、特にYを意味する。室温は、約25℃の温度を意味する。
【0053】
数値範囲を記述するために「間」又は「から(~)」の語が使用される場合は常に、示された範囲の末端の点は明示的にその範囲に含まれるものとする。例えば:温度範囲が40℃から80℃の間(又は40℃から(~)80℃)であると記述される場合、末端の点である40℃と80℃はその範囲に含まれることを意味し、あるいは、可変数が1から4の間(又は1から(~)4)の整数であると定義される場合、可変数は整数の1、2、3又は4であることを意味する。
【0054】
態様1)~18)のいずれか1つに従う「化合物」の結晶形、特に本質的に純粋な結晶形は、医薬として、例えば、(例えば特に経口等の)経腸又は(局所的適用又は吸入を含む)非経口投与のための医薬組成物の形態で使用することができる。
【0055】
19) したがって、別の態様は、医薬として使用するための、態様1)~18)(特に1)~4)又は11)~17))のいずれか1つに従う化合物、1-{(R)-2-(2-ヒドロキシ-エチル)-4-[2-トリフルオロメチル-4-(2-トリフルオロメチル-ピリミジン-5-イル)-チアゾール-5-イル]-ピペラジン-1-イル}-2-(3-メチル-[1,2,4]トリアゾール-1-イル)-エタノン(「化合物」)の結晶形に関する。
【0056】
態様1)~18)(特に、1)~4)又は11)~17))のいずれか1つに従う「化合物」の結晶性固体、特に本質的に純粋な結晶性固体は、単独の成分として、又は、「化合物」の他の結晶形若しくは非晶質形との混合物として使用してよい。
【0057】
医薬組成物の製造は、いずれの当業者にもよく知られた様式で(例えば、Remington、The Science and Practice of Pharmacy、21st Edition(2005)、Part5、「Pharmaceutical Manufacturing」[Lippincott Williams&Wilkinsにより出版]参照。)、本発明の結晶形を、任意にその他の治療的に有益な物質と組み合わせて、適切な無毒の不活性な薬学的に許容される固体又は液体の担体材料及び必要に応じて、通常の薬学的アジュバントと共に、製剤投与形態とすることにより遂行することができる。
【0058】
20) 本発明のさらなる態様は、態様1)~18)のいずれか1つに従う「化合物」の結晶形(特に、態様1)~4)又は11)~17)のいずれか1つに従う「化合物」の結晶形)を有効成分として有し、さらに少なくとも1種の薬学的に許容される担体材料を有する医薬組成物に関する。
【0059】
21) 本発明のさらなる態様は、医薬組成物の製造において使用するための態様1)~18)のいずれか1つに従う(特に、態様1)~4)又は11)~17)のいずれか1つに従う)「化合物」の結晶形に関し、当該医薬組成物は、「化合物」を有効成分として有し、さらに少なくとも1種の薬学的に許容される担体材料を有する。
【0060】
態様1)~18)のいずれか1つに定義する結晶形(特に、態様1)~4)又は11)~17)のいずれか1つに定義する結晶形)は、CXCR3受容体の機能不全又はCXCR3を介してシグナル伝達するリガンドの機能不全に関連する障害の予防又は治療に有用である。
【0061】
CXCR3受容体又はそのリガンドの機能不全に関連するそのような障害は、ヒトCXCR3受容体の調節剤が必要とされる疾患又は障害である。上記の障害は特に、(自己)免疫/炎症介在性障害;肺障害;心血管障害;感染性疾患;線維性疾患;神経変性障害及び腫瘍性疾患を包含するものと定義してよい。
【0062】
22) 本発明のさらなる態様は、(自己)免疫/炎症介在性障害;肺障害;心血管障害;感染性疾患;線維性疾患;神経変性障害;又は腫瘍性疾患から選択される障害の予防又は治療において使用するための、態様1)~18)のいずれか1つに従う(特に、態様1)~4)又は11)~17)のいずれか1つに従う)「化合物」の結晶形に関する。
【0063】
(自己)免疫/炎症介在性障害は、関節リウマチ(RA);多発性硬化症(MS);炎症性腸疾患(IBD;クローン病及び潰瘍性大腸炎を包含する。);原発性胆汁性肝硬変(PBC);自己免疫性肝炎;全身性エリテマトーデス(SLE);ループス腎炎;抗リン脂質抗体症候群;シェーグレン症候群;サルコイドーシス;全身性強皮症;脊椎関節炎;乾癬;乾癬性関節炎;間質性膀胱炎;セリアック病;橋本甲状腺炎、リンパ球性甲状腺炎、グレーブス病等の甲状腺炎;重症筋無力症;I型糖尿病;ブドウ膜炎;上強膜炎;強膜炎;川崎病;網膜ブドウ膜炎;後部ブドウ膜炎;ベーチェット病関連ブドウ膜炎;ブドウ膜髄膜炎症候群;尋常性白斑;アレルギー性脳脊髄炎;鼻炎、結膜炎、皮膚炎等のアトピー性疾患;リウマチ熱及び感染後糸球体腎炎を包含する感染後自己免疫疾患;(炎症性ミオパチーを包含する)ミオパチー;肥満及び移植関連障害を包含するものと定義してよい。移植関連障害は、腎臓、肝臓、心臓、肺、膵臓、角膜及び皮膚等の移植された器官の拒絶等の移植拒絶;急性及び/又は慢性移植片対宿主病;及び慢性同種移植片血管症を包含するものと定義してよい。
【0064】
肺障害は、急性肺損傷;急性呼吸窮迫症候群;喘息;及び慢性閉塞性肺疾患(COPD)を包含するものと定義してよい。
【0065】
心血管障害は、アテローム性動脈硬化;及び心筋炎を包含するものと定義してよい。
【0066】
感染性疾患は、マラリア、脳マラリア、らい病、結核、インフルエンザ、トキソプラズマ、デング熱、B及びC型肝炎、単純ヘルペス、リーシュマニア、クラミジア・トラコマチス、ライム病並びにウエストナイルウイルス等の様々な感染因子によって引き起こされる疾患及びその合併症を包含するものと定義してよい。
【0067】
線維性疾患は、肝硬変、特発性肺線維症、腎線維症、心内膜心筋線維症、全身性強皮症及び関節線維症を包含するものと定義してよい。
【0068】
神経変性障害は、多発性硬化症(再発寛解型多発性硬化症及び進行性多発性硬化症を包含する。)、アルツハイマー病、パーキンソン病、ハンチントン舞踏病、HIV関連認知症、プリオン介在神経変性、てんかん、卒中、脳虚血、脳性麻痺、視神経脊髄炎、臨床的に孤発した症候群(clinically isolated syndrome)、アルパース病、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、老年認知症、レビー小体型認知症、レット症候群、脊髄外傷、外傷性脳損傷、三叉神経痛、慢性炎症性脱髄性多発ニューロパチー、ギラン-バレー症候群、ナルコレプシー、舌咽神経痛、軽度の認知機能低下、認知機能低下、脊髄性筋萎縮症及び脳マラリア等の神経変性及び神経細胞死が関与する状態を包含するものと定義してよい。
【0069】
腫瘍性疾患は、大腸癌、直腸癌、乳癌、肺癌、非小細胞性肺癌、前立腺癌、食道癌、胃癌、肝臓癌、胆管癌、脾臓癌、腎臓癌、膀胱癌、子宮癌、卵巣癌、子宮頚部癌、精巣癌、甲状腺癌、膵臓癌、脳腫瘍、血腫、好塩基性腺腫、プロラクチノーマ、高プロラクチン血症、腺腫、子宮体癌、結腸癌;慢性リンパ性白血病(CLL)等のすべての種類の癌;及び(特に)癌の転移拡散を包含するものと定義してよい。
【0070】
23) 本発明の好ましい態様は、下記の群の疾患及び障害の1つ、幾つか又はすべてから選択される障害の予防又は治療において使用するための、態様1)~18)のいずれか1つに従う(特に、態様1)~4)又は11)~17)のいずれか1つに従う)「化合物」の結晶形に関する:
1) 関節リウマチ、多発性硬化症、クローン病、潰瘍性大腸炎、原発性胆汁性肝硬変、自己免疫性肝炎、全身性エリテマトーデス、ループス腎炎、シェーグレン症候群、サルコイドーシス、全身性強皮症、脊椎関節炎、乾癬、乾癬性関節炎、間質性膀胱炎;セリア
ック病、重症筋無力症、I型糖尿病、ブドウ膜炎、炎症性ミオパチー、眼球乾燥疾患、グレーブス病を包含する甲状腺炎、尋常性白斑、移植拒絶、急性及び/又は慢性移植片対宿主病、並びに、(皮膚)線維症から選択される(自己)免疫/炎症介在疾患;
2) 急性肺損傷、急性呼吸窮迫症候群、喘息及び慢性閉塞性肺疾患から選択される肺疾患;
3) アテローム性動脈硬化及び心筋炎から選択される心血管疾患;
4) インフルエンザ及び脳マラリアから選択される感染性疾患;
5) 肝硬変から選択される線維性疾患;
6) アルツハイマー病、神経変性、ハンチントン舞踏病、視神経脊髄炎、慢性炎症性脱髄性多発ニューロパチー及びギラン-バレー症候群から選択される神経変性障害;
7) 脳腫瘍、大腸癌、乳癌及び癌の転移拡散から選択される腫瘍性疾患。
【0071】
24) 本発明の別の好ましい態様は、関節リウマチ、多発性硬化症、クローン病、潰瘍性大腸炎、全身性エリテマトーデス、ループス腎炎、サルコイドーシス、全身性強皮症、乾癬、乾癬性関節炎、間質性膀胱炎、セリアック病、重症筋無力症、I型糖尿病、尋常性白斑、ブドウ膜炎、炎症性ミオパチー、眼球乾燥疾患、グレーブス病を包含する甲状腺炎、移植拒絶、急性及び/又は慢性移植片対宿主病、急性肺損傷、急性呼吸窮迫症候群、喘息、慢性閉塞性肺疾患、アテローム性動脈硬化、心筋炎、インフルエンザ、脳マラリア、肝硬変、アルツハイマー病、神経変性、ハンチントン舞踏病、視神経脊髄炎、慢性炎症性脱髄性多発ニューロパチー、ギラン-バレー症候群、脳腫瘍、大腸癌、乳癌及び癌の転移拡散から選択される障害の予防又は治療において使用するための、態様1)~18)のいずれか1つに従う(特に、態様1)~4)又は11)~17)のいずれか1つに従う)「化合物」の結晶形に関する。
【0072】
いかなる疑義をも避けるために、「化合物」の結晶形がある疾患の予防及び/又は治療について有用であると記載されている場合には、そのような「化合物」の結晶形は、同様に当該疾患の予防又は治療のための医薬の製造における使用に適している。特に、「化合物」の結晶形が、態様22)~24)のいずれか1つに従う疾患の予防及び/又は治療について有用であると記載されている場合には、そのような「化合物」の結晶形は、同様に当該疾患の予防又は治療のための医薬の製造における使用に適している。
【0073】
本発明はまた、薬学的に有効な量の態様1)~18)のいずれか1つに従う(特に、態様1)~4)又は11)~17)のいずれか1つに従う)「化合物」の結晶形又は態様20)に従う医薬組成物を、それを必要とする対象(特に、それを必要とする患者)に投与することを有する、本明細書において言及する疾患の予防又は治療方法にも関する。
【0074】
本発明はまた、「化合物」を有効成分として有し、さらに少なくとも1種の薬学的に許容される担体材料を有する医薬組成物の製造方法にも関し、上記医薬組成物の上記製造は、態様1)~18)のいずれか1つに従う(特に、態様1)~4)又は11)~17)のいずれか1つに従う)「化合物」の結晶形を、少なくとも1種の薬学的に許容される担体材料と混合する工程を有する。
【0075】
本発明はまた、エナンチオマーが富化された形態の「化合物」の製造方法、及び、態様1)~18)のいずれか1つに従う(特に、態様1)~4)又は11)~17)のいずれか1つに従う)「化合物」の結晶形の製造及び特徴づけのための方法にも関する。当該方法は、態様11)並びに下記の実験の項の手順に記載されている。
【実施例】
【0076】
実験手法
(上記の部分又は下記において使用される)略語:
CNS 中枢神経系
DSC 示差走査熱量測定
EtOAc 酢酸エチル
Fig 図
GVS 重量測定蒸気吸着
HPLC 高速液体クロマトグラフィー
MeCN アセトニトリル
MeOH メタノール
min 分
NMR 核磁気共鳴
RH 相対湿度
s 秒
tBME tert.-ブチルメチルエーテル
TGA 熱重量分析
THF テトラヒドロフラン
XRPD 粉末X線回折
【0077】
全ての溶媒及び試薬は、特に断らない限り、商業的供給元から得られたままで使用される。
【0078】
温度は摂氏温度(℃)で示す。特に断らない限り、反応は室温(RT)で行われる。
【0079】
混合物において、溶媒又は溶出液又は液体形態の試薬混合物の割合の関係は、特に断らない限り、体積関係(v/v)で示す。
【0080】
粉末X線回折分析(XRPD)
XRPD法1
粉末X線回折パターンは、反射モード(結合2シータ/シータ)において作動するLynxeye検出器を備えたBruker D8 AdvanceX線回折計上で収集した。典型的には、Cu X-線チューブを40kV/40mAで走査させた。3~50°の2θの走査範囲にわたって、0.02°(2θ)のステップサイズ及び76.8秒のステップタイムを適用した。発散及び抗分散スリット(antiscatter slit)は固定的に0.3°に設定した。粉末を、0.5mmの深さのシリコン単結晶サンプルホルダー内にわずかにプレスし、測定の間、サンプルをそれ自体のプレイン中で回転させた。回折データはCu Kα(λ=1.5418Å)照射を用いてレポートされる。これまでに記録された粉末X線回折パターンが一般的にそうであるように、本明細書で提供される2θ値の精度は、+/-0.1~0.2°の範囲内である。
【0081】
XRPD法2
粉末X線回折パターンは、自動XYZステージ、オートサンプルポジショニング仕様のレーザービデオ顕微鏡及び反射モードにおいて作動するVantec-500検出器を備えたBruker D8 GADDS-HTS回折計上で収集した。典型的には、Cu X-線チューブを40kV/40mAで走査させる。X線光学系は、0.5mmのピンホールコリメーターと接続したシングルGoebel多層膜ミラーからなる。典型的には、4°のシータ1及び16°のシータ2のゴニオメーターポジション並びに20cmの検出器距離で、180sにわたってシングルフレームを記録した。フレームを5-35°の2θ範囲において積分した。周囲条件下で走査するサンプルは、グラインドせずに受け取ったままの粉末を用いて、平板試料として調製した。約5-10mgのサンプルをガラススライド上に軽くプレスし、平坦な表面を得た。測定時間の間サンプルは移動させなかった。回折データはCu Kα(λ=1.5418Å)照射を用いてレポートされる。これまで
に記録された粉末X線回折パターンが一般的にそうであるように、本明細書で提供される2θ値の精度は、+/-0.1~0.2°の範囲内である。
【0082】
示差走査熱量測定(DSC)
DSCデータは、Pyris Software 2.1.1.0106を備えたPerkinElmer DSC8500上で収集した。装置は、インジウム標品を用いてエネルギー及び温度について校正した。典型的には、1~5mgのサンプルを、非密封アルミニウムパン(non-hermetic aluminum pan)内で、-20℃から200℃の範囲において10℃ min-1で加熱した。サンプル上で窒素パージを20mL min-1で維持した。融点についてピーク温度をレポートする。
【0083】
重量測定蒸気吸着(GVS)
水分吸着等温線は、Isochema HIsorp 2019ソフトウェア バージョン4.02.0070で作動するHiden Isochemaの動的蒸気吸着分析器IGASORP HAS-036-080上で収集した。典型的には、約30mgのサンプルをサンプルホルダー内に入れ、25℃で所定の相対湿度(RH)設定点にて段階的平衡化に供する。サンプル質量をこれらの設定点にて記録し、水分吸着等温線の作成に使用する。使用した相対湿度設定点は、5%RH間隔で、40%~0%RH、次いで0%~95%RHであった。示したデータは、相対湿度の上昇に供したサンプルの5%~90%の範囲における水分吸着等温線からなる。最初の吸着スキャンにおける40%相対湿度と80%相対湿度の間の質量の変化を、吸湿性の決定のために評価する。等級分けは欧州薬局方(Ph.Eur.)10.0、section 5.11と同様に行う。
【0084】
熱重量分析(TGA)
TGAデータはMettler Toledo STARe System(TGA/SDTA851eモジュール)上で収集した。典型的には、約5mgのサンプルを、自動的に削孔される標準TGAアルミニウムパン内で、30℃から250℃の範囲において10℃ min-1で加熱した。測定の間、サンプル上で窒素ガスパージを維持した。
【0085】
I-化学
「化合物」はWO2016/113344(実施例35)に記載の手順に従って製造することができる。
【0086】
参照実施例1:
「化合物」のMeOH中の25mg/mLの溶液0.2mLを4mLガラスバイアル中に分配し、Combindancer装置(Hettich、スイス連邦)内で蒸発させて、5mgの非晶質の透明な「化合物」の膜を各バイアルに生成させる。
【0087】
実施例1:結晶形1の「化合物」
4mL標準ガラスバイアル中で、0.02mLのEtOAc、イソプロパノール又はtBMEを、参照実施例1により得られた5mgの非晶質「化合物」に加える。蓋をし、約30秒間ボルテックスした後、バイアルを暗所で5日間貯蔵する。乾燥せずに分析した場合、得られた固体は結晶形1の「化合物」である。
【0088】
別の実験において、1mLのMeCN/tBME、1:2v/v混合物を100mgの「化合物」に加え、混合物を、0.1℃/minの加熱速度で55℃に加熱し、0.1℃/minの冷却速度で20℃に冷却する。一晩放置した後、固体をフィルター遠心分離により単離し、40℃/10mbarで15min乾燥して、結晶形1の「化合物」を得る。
【0089】
【0090】
実施例2:結晶形2の「化合物」
0.15mLのアセトンを、標準ガラスHPLCバイアル中の150mgの(例えば、実施例1から得られた)「化合物」に加え、蓋をしたバイアル中の懸濁液を25℃で24時間振とうする。得られた固体は結晶形2の「化合物」である。
【0091】
フィルター-遠心分離により単離し、10mbarで1時間乾燥した後の固体残渣の熱重量分析は、アセトンの約1.1%の段階的重量損失を示し、これは結晶形2の溶媒和物としての性質を追認するものである。
【0092】
【0093】
実施例3:結晶形3の「化合物」
4mL標準ガラスバイアル中で、0.02mLのMeCNを、参照実施例1により得られた5mgの非晶質「化合物」に加える。蓋をし、約30秒間ボルテックスした後、バイアルを暗所で5日間貯蔵する。乾燥せずに分析した場合、得られた固体は結晶形3の「化合物」である。
【0094】
別の実験において、0.04mLのMeCNを、標準ガラスHPLCバイアル中の20mgの(例えば、実施例1から得られた)「化合物」に加え、蓋をしたバイアル中の懸濁液を、磁気撹拌棒で撹拌しながら、温度変化サイクルに供する。温度サイクル(1時間での20℃から40℃への加熱及び4時間での40℃から20℃への冷却の反復)及び25時間の撹拌をPolar Bear装置(Cambridge reactor design、英国)内で行う。乾燥せずに分析した場合、得られた固体は結晶形3の「化合物」である。
【0095】
十分なMeCNがなお存在する場合に測定すると、XRPDにより結晶形3が観察される。フィルター遠心分離により単離し、又は、単離し、減圧下で乾燥すると、結晶形3から結晶形1への変換が起こり、これは、十分なMeCNの非存在下における結晶形3の準安定性を示している。結晶形3が十分なMeCNの存在下でのみ観察されること、結晶形3が懸濁液状態の結晶形1から得られること、及び、結晶形3が十分なMeCNの非存在下では準安定であることという事実の組み合わせは、結晶形3がMeCN溶媒和構造を有することを示している。
【0096】
【国際調査報告】