(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-02-01
(54)【発明の名称】ポリグリセロール脂肪酸エステル含有組成物
(51)【国際特許分類】
A61K 47/14 20170101AFI20240125BHJP
A61K 8/37 20060101ALI20240125BHJP
C11C 3/02 20060101ALI20240125BHJP
【FI】
A61K47/14
A61K8/37
C11C3/02
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023546060
(86)(22)【出願日】2021-01-29
(85)【翻訳文提出日】2023-09-21
(86)【国際出願番号】 DE2021000014
(87)【国際公開番号】W WO2022161558
(87)【国際公開日】2022-08-04
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】521076786
【氏名又は名称】イーオーイー オレオ ゲーエムベーハー
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】弁理士法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ロックマン、ダーク
(72)【発明者】
【氏名】レイエル、セバスチャン
(72)【発明者】
【氏名】サラール ベーザディ、シャラレー
(72)【発明者】
【氏名】シュテアー、ミカエル
【テーマコード(参考)】
4C076
4C083
4H059
【Fターム(参考)】
4C076DD46A
4C083AC391
4C083CC01
4H059BA26
4H059BA30
4H059BA33
4H059EA15
(57)【要約】
本発明は、以下の3つの成分、すなわち、第1に、2~10個のグリセロール単位を有するポリグリセロールを12~22個の炭素原子を有する脂肪酸でエステル化することによって得ることができるポリグリセロール脂肪酸エステル、第2に、2~10個のグリセロール単位を有する遊離ポリグリセロール、第3に、2~10個のグリセロール単位及び12~22個の炭素原子を有する脂肪酸基を有するポリグリセロール脂肪酸モノエステル、を有するポリグリセロール脂肪酸エステル含有組成物に関する。組成物は、特に3D印刷法の出発材料での使用に適しており、化粧品及び/又は医薬活性成分又は他の物質と容易に組み合わせることができる。本発明はまた、同様に記載される3D印刷方法のための対応する出発材料を製造するための方法、及びそれを使用して製造することができる成形体に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の成分:
成分1、すなわち2~10個までのグリセリル単位を含有するポリグリセロールと12~22個までの炭素原子を含有する脂肪酸とのエステル化から得ることができるポリグリセロール脂肪酸エステル、
成分2、すなわち2~10個のグリセリル単位を含有する遊離ポリグリセロール、及び
成分3、すなわち、2~10個のグリセリル単位を含有し、かつ12~22個の炭素原子を含有する脂肪酸残基を含有するポリグリセロール脂肪酸モノエステル、を特徴とする、ポリグリセロール脂肪酸エステル含有組成物。
【請求項2】
成分1が、2~6個のグリセリル単位を含有するポリグリセロールのエステル化から得ることができ、及び成分2が、3~6個のグリセリル単位のみを含有する遊離ポリグリセロールからなる
ことを特徴とする、
請求項1に記載のポリグリセロール脂肪酸エステル含有組成物。
【請求項3】
成分1が、50mgKOH/g~350mgKOH/gの水酸基価を有する
ことを特徴とする、
請求項1又は2に記載のポリグリセロール脂肪酸エステル含有組成物。
【請求項4】
成分1が、35℃~80℃の温度範囲に含まれる融点を有する
ことを特徴とする、
請求項1~3のいずれか一項に記載のポリグリセロール脂肪酸エステル含有組成物。
【請求項5】
成分1が、100mgKOH/g~250mgKOH/gの範囲内のけん化価を有する
ことを特徴とする、
請求項1~4のいずれか一項に記載のポリグリセロール脂肪酸エステル含有組成物。
【請求項6】
成分2が、800mgKOH/g~1400mgKOH/gの水酸基価を有する
ことを特徴とする、
請求項1~5のいずれか一項に記載のポリグリセロール脂肪酸エステル含有組成物。
【請求項7】
成分3が、400mgKOH/g~650mgKOH/gの水酸基価を有する
ことを特徴とする、
請求項1~6のいずれか一項に記載のポリグリセロール脂肪酸エステル含有組成物。
【請求項8】
成分1の重量パーセンテージが少なくとも50%であり、成分2の重量パーセンテージが少なくとも5%であり、成分3の重量パーセンテージが少なくとも10%であり、及び成分1~3の重量パーセンテージの合計が少なくとも98%である
ことを特徴とする、
請求項1~7のいずれか一項に記載のポリグリセロール脂肪酸エステル含有組成物。
【請求項9】
成分1が、ヘキサグリセロールとパルミチン酸との部分エステル化から得ることができ、かつ成分3において、脂肪酸残基が16個の炭素原子を含む
ことを特徴とする、
請求項1~8のいずれか一項に記載のポリグリセロール脂肪酸エステル含有組成物。
【請求項10】
以下の工程:
i)成分1、成分2及び成分3を一緒に溶融及び混合する工程、
ii)15℃~25℃の温度及び750hPa~1250hPaの圧力で混合物を凝固させる工程
を特徴とする、
請求項1~9のいずれか一項に記載のポリグリセロール脂肪酸エステル含有組成物の製造方法。
【請求項11】
以下の工程:
i)請求項10による工程i)、
ii)請求項10による工程ii)、
iii)凝固した混合物を粉砕する工程、
iv)粉砕した混合物を孔径800μm以下のふるいでふるい分け、かつふるい分けした粉末を回収する工程
を特徴とする、
3D印刷プロセスのための出発材料の製造方法。
【請求項12】
以下の更なる工程:
v)請求項11に記載の出発材料のポリグリセロール脂肪酸エステル含有組成物の成分1の溶融温度より少なくとも1℃低い温度で、フィラメントを形成するために、押出機ノズルヘッドを通して、請求項11に記載のように製造された出発材料を押し出す工程
を特徴とする、
請求項11に記載の方法。
【請求項13】
以下の更なる工程:
vi)最大0.06の楕円率を考慮して、それぞれのフィラメントの断面における不一致を伴って、1.52mm~1.96mmの範囲内の連続した均一な断面直径を有するフィラメントを選択する工程
を特徴とする、
請求項12に記載の方法。
【請求項14】
以下の更なる工程:
vii)押出機ノズルヘッドから出たフィラメントを、最小外径が23mm以上のスプールに巻き取る工程
を特徴とする、
請求項12又は請求項13に記載の方法。
【請求項15】
工程v)において、温度条件のために軟質塊に変形されふるい分けされた粉末が、最大7kg/hのスループットで押出機ノズルヘッドに供給される
ことを特徴とする、
請求項12~14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
工程ii)において、一緒になって全混合物の10重量%を超えない1つ以上の微粉化固体を溶融成分と混合する
ことを特徴とする、
請求項11~15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
固体が、医薬活性物質又は化粧品活性物質によって形成される群と関連している
ことを特徴とする、
請求項16に記載の方法。
【請求項18】
請求項1~10のいずれか一項に記載のポリグリセロール脂肪酸エステル含有組成物を特徴とする、
1つ以上のチャンバ及び/又は1つ以上のキャビティを備える、3D印刷によって製造された、成形部品。
【請求項19】
少なくとも1つのチャンバ又はキャビティが、充填材料を含む、
ことを特徴とする、
請求項18に記載の成形部品。
【請求項20】
充填材料が、医薬活性物質であるか、又は医薬活性物質を含む、
ことを特徴とする、
請求項18又は19に記載の成形部品。
【請求項21】
充填材料が、固体、半固体又は液体の形態である
ことを特徴とする、
請求項18~20のいずれか一項に記載の成形部品。
【請求項22】
互いに異なる少なくとも2つの充填材料
を特徴とする、
請求項18~21のいずれか一項に記載の成形部品。
【請求項23】
互いに異なる充填材料が、それぞれ異なる医薬活性物質であるか、又はそれぞれ異なる医薬活性物質を含有する
ことを特徴とする、
請求項22に記載の成形部品。
【請求項24】
以下の工程:
i)請求項11~17のいずれか一項に従って製造された出発材料を、入口及び出口を有する印刷ヘッドノズルに通す工程と、
ii)様々な平面内における印刷ヘッドノズルの出口の対応する所定の移動によって、所定の3次元形状の物品を層ごとに構築する工程と、を含む
3D印刷プロセス。
【請求項25】
印刷ヘッドノズルが、出発材料の溶融温度よりも1℃~4.9℃高く加熱される、
ことを特徴とする、
請求項24に記載の3D印刷プロセス。
【請求項26】
以下の工程:
i)請求項24又は請求項25による工程i)、
ii)以下のサブ工程に分割される、請求項24又は請求項25による工程ii)、
ii-a)充填のために設けられたチャンバ又はキャビティのすべてが、充填され得る部分的又は完全なキャビティとして生成されるまで、成形部品の一部を段階的に構築する工程、
ii-b)それぞれの充填材料で充填するために設けられた部分的又は完全なキャビティを充填する工程、
ii-c)成形部品を完成させる工程
を特徴とする、
請求項24又は請求項25に記載の3D印刷プロセス。
【請求項27】
以下の更なる工程:
iii)請求項24~26のいずれか一項に記載の3D印刷プロセスによって製造された第2の成形部品を置くことによって、キャビティの開口部を閉鎖する工程
を特徴とする、
請求項24~26のいずれか一項に記載の3D印刷プロセス。
【請求項28】
完成した成形部品が、カニューレによって充填材料が導入される少なくとも1つのチャンバを有する
ことを特徴とする、
請求項24~27のいずれか一項に記載の3D印刷プロセス。
【請求項29】
1つ又は複数の充填材料が、グルココルチコイド、ミネラルコルチコイド、アンドロゲン、エストロゲン、ゲスターゲン、アゾール抗真菌剤、ACE阻害剤又はAT1拮抗薬によって形成される群からの少なくとも1つの医薬活性物質を含有する
ことを特徴とする、
請求項24~28のいずれか一項に記載の3D印刷プロセス。
【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
多くのポリグリセロール脂肪酸エステルは、医薬品又は化粧品の基材として、又は食品産業などの適用分野においてさえ、又は一般に貯蔵時の安定性が必要とされるすべての分野において、作用するための良好な特性を有する。特に、トリアシルグリセロールなどの多くの他の脂質ベースの材料とは対照的に、いくつかのポリグリセロール脂肪酸エステルは実用的な多形性を示さず、したがって長期貯蔵時に体積変化、特に「ブルーミング」として知られる体積の増加を受けない。
【0002】
国際公開第2020/083411号は、ホットメルトコーティングプロセスに適したポリグリセロール脂肪酸エステル又はそのブレンドを既に開示している。ホットメルトコーティングは、コーティング材料を溶媒なしで使用することができ、このようにして、望ましくない、場合によっては有毒な溶媒残留物を、複雑な乾燥工程を使用して生成物から除去する必要がないので、他のコーティング又は被覆プロセスよりも有利である。ヒト又は動物の体内に導入される製品の調製に関するポリグリセロール脂肪酸エステルの使用はまた、少なくとも偶数の脂肪酸によるポリグリセロールのエステル化が、インビトロ及びインビボで、毒性分解生成物を可能な限り排除することができるポリグリセロール脂肪酸エステルを生成する、という利点を有する。
【0003】
ホットメルトコーティングプロセスにおける上記のポリグリセロール脂肪酸エステルなどの基材の使用に加えて、3D印刷の分野で同等の特性を有する材料を使用する必要もある。これに関して、ホットメルトコーティングに使用される材料を単に直接使用することは成功しないが、それは、3D印刷プロセスでは、所定の成形物品を構築した後、安定した形状を有する本体を形成するために適切に硬化することができるように、それらが印刷ヘッドノズルに押し通されることができるように加熱によって十分に軟化又は流動化されなければならない出発材料が必要であるからである。特に、国際公開第2020/008411号に記載されているものなどのポリグリセロール脂肪酸エステルは、実際には3D印刷ノズルに通すことができるが、それによって3D印刷によって製造される成形物品の形状の安定性は、工業用包装工程中及び製品の取り扱い中にも安定性を保証できるほど十分ではない。更に、少なくとも、非常にかさ高い医薬的又は化粧品的に活性な物質をそれぞれの基材と混合する場合、3D印刷のための出発材料の物理的特性は、製品が形状が安定せず、貯蔵時に安定せず、又は脆性が増加したために均一な品質の製品に印刷することができないように変更され得る、という問題が生じる。
【0004】
欧州特許第3482774号は、インビボで生理学的親水性相と接触して自己乳化し、親油性相、HLB値が8を超える界面活性剤、及び任意の共界面活性剤を有する3D印刷によって製造することができる系を開示しており、界面活性剤は、PEGエステル、ポロキサマー、エトキシ化油、エトキシ化ビタミンE、及び/又は脂肪酸から生成された糖残基からなる。その組成物の欠点は、毒性分解産物を確実に排除することができず、形状及び貯蔵時の安定性を十分に改善することができることである。加えて、引用された例によれば、医薬活性物質の混合物は、3D印刷のための出発材料のわずか7重量%未満にしかならず、その結果、出発材料が混合されていない場合であっても、脱混合及び相分離のための個々の医薬活性物質の不利な傾向のため、混合物を含有する出発混合物の加工性について、あらゆる種類の混合物について新たな調査を行わなければならないという問題が生じる。5%~50%、好ましくは15%(重量基準)のポリエチレングリコール300-6000、好ましくはPEG 1500を含む50%~95%(重量基準)、好ましくは85%のグリセロールモノステアレートなどの組成物は、実際には、それらの接着特性にもかかわらず、依然として3D印刷プロセスで処理することができるが、貯蔵時に完全に安定ではない。新鮮なPEGは、エチレンオキシド及びジオキサンを含有し得る。ホルムアルデヒドは、熟成するにつれて形成され得る。更に、それらは潜在的なアレルゲンである。
【発明の概要】
【0005】
以下に記載される本発明の目的は、ホットメルトコーティングプロセスについて既に知られているようなポリグリセロール脂肪酸エステルの利点、特に多形性がないこと、並びにこの組成物を3D印刷によって処理することを可能にする組成物を提供することであり、この組成物はまた、通常実際に使用される混合物又は充填剤の割合に特に使用される追加の医薬活性物質及び化粧品活性物質又は他の添加剤の量とは無関係に実施することができ、形状が安定であり、貯蔵時に安定な製品を提供する。
【0006】
この目的は、請求項1に記載の組成物、請求項10に記載のその製造方法、請求項24に記載の3D印刷プロセス、3D印刷プロセスのための出発材料の調製のための請求項11に記載の方法、並びに請求項18に記載の3D印刷によって製造された成形部品によって達成され、有利な実施形態はそれぞれの従属請求項に定義されている。
【0007】
ポリグリセロール脂肪酸エステル含有組成物を3D印刷プロセスで使用することができるように、ポリグリセロール脂肪酸エステル含有組成物は、出発材料と、柔らか過ぎず脆過ぎない最終生成物との両方を生成しなければならない。ポリグリセロール脂肪酸エステルを含有する組成物の場合、これは自明性ではない。ポリグリセロール脂肪酸エステルを使用する場合、実際には通常のように3D印刷プロセスのためにフィラメントに形成される出発材料の弾性は、組成物中の遊離ヒドロキシル基の数に依存する。ある時点まで、遊離ヒドロキシル基の数は、使用されるポリグリセロール脂肪酸部分エステルのエステル化度によって影響され得るが、驚くべきことに、ポリグリセロール脂肪酸モノエステルと遊離ポリグリセロールとの混合物がより標的化され、効果的である。イオン結合又は共有結合などの強力な結合は、より硬くより脆い組成物をもたらすが、遊離ヒドロキシル基を介した水素結合の割合が増加すると、個々の分子の再配向がより大きな自由度によって促進されるため、結合強度が低下し、したがって弾性が高くなる。更に、ポリグリセロール脂肪酸モノエステル及び遊離ポリグリセロール中のグリセリル単位の数が増加すると、立体効果及び組成物の内部剪断によるより柔軟な再配向のために、より小さな分子間の結合を破壊することはそれほど容易ではないが、分子のより長い鎖のために組成物の弾性が増加する。驚くべきことに、3D印刷プロセスにおける加工性及び多形性に付随する体積変化の非存在下での印刷製品の形状及び貯蔵に関する安定性に関する良好な特性は、少なくとも3つの成分、すなわち、第一に、2~10個のグリセリル単位を含有するポリグリセロールと12~22個の炭素原子を含有する脂肪酸とのエステル化によって得ることができる両方のポリグリセロール脂肪酸エステル、並びに第二に、2~10個のグリセリル単位を含有する遊離ポリグリセロール、及び第三に、2~10個のグリセリル単位を含有し、12~22個の炭素原子を含有する脂肪酸残基を含有する更なるポリグリセロール脂肪酸モノエステルを含有するタイプの組成物において得られる。
【0008】
提案された組成物の加工性に関する有利な特性は、上述の第3の成分に加えて、2~6個のグリセリル単位を含有するポリグリセロールのエステル化から得られ得るポリグリセロール脂肪酸エステルのみが成分1として使用され、3~6個のグリセリル単位のみを含有するポリグリセロールが成分2として使用されるという点で、更に改善され得る。成分1が、完全なエステルとしてではなく、50mgKOH/g~350mgKOH/gの水酸基価を有する部分エステルとして存在することが有利であることも示されている。好ましくは、第1の成分のけん化価は、100mgKOH/g~250mgKOH/gである。35℃以上で最大80℃の成分1の融点も有利であることが示されており、これは、低い融点がより低い処理温度を許容し、提案された組成物が一緒に処理される熱不安定性活性物質の場合、無害な低温をプロセスに使用することができることを意味する。
【0009】
上記の議論から結論付けることができるように、組成物の第2の成分の水酸基価はまた、組成物全体の弾性に関連する。好ましくは、800mgKOH/g~1400mgKOH/gであるが、第3の成分、すなわちポリグリセロール脂肪酸モノエステルは、好ましくは400mgKOH/g~650mgKOH/gの水酸基価を有するべきである。
【0010】
3つの成分の互いに対する混合比もまた、組成物の特性に影響を及ぼす。良好な結果は、第1の成分の重量パーセンテージが少なくとも50%であり、第2の成分の重量パーセンテージが少なくとも5%であり、第3の成分の重量パーセンテージが少なくとも10%である場合に得られ、3つの成分の重量パーセンテージの合計は、好ましくは少なくとも98%である。
【0011】
バランスのとれた組成物は、添加剤としての他の固体と共に、3D印刷プロセスにおいて出発材料に望ましい特性を提供するのに十分な稠度も有し、成分1としてのパルミチン酸及び16個の炭素原子を含有する脂肪酸残基を含有する成分3によるヘキサグリセロールの部分エステル化から得ることができるポリグリセロール脂肪酸エステルを含有する。
【0012】
提案される組成物は、成分1、成分2及び成分3を、例えば80℃で、溶融及び混合することによって、簡単な方法で製造することができ、個々の成分の溶融温度は、有利には超えないか、又はわずかしか超えない。次に、混合物を15℃~25℃の温度、すなわちほぼ室温で、750hPa~1250hPaの圧力で固化させる。通常、混合物を放置して単独で固化させればよい。混合物の均質性は、溶融物を適度に撹拌することによって更に補助することができる場合がある。
【0013】
組成物が3D印刷プロセスで使用される場合、固化した混合物を最初に粉砕し、次いで800μm以下の孔径を有するふるいを通してふるい分けし、ふるい分けした材料を取り出すことができることが有利であることが示されている。ふるい分けされた材料は、高粘性流体用の溶融チャンバ及びポンプを備えた適切なシステムを使用して、3D印刷ヘッドノズルに供給され、次いで3D印刷プロセスで使用され得る。3D印刷プロセスで使用される前に、出発材料は、その破断強度に関して試験されるべきである。この目的のために、製造中にまだ流動することができるが、出発材料の一部は、長さ155mm、幅45mm及び厚さ15mmのプレートに鋳造され、これは、硬化後、それぞれが互いに60mmだけ離れた30mmの側面を有する2つの金属立方体上に個別に配置され、それらの側面は平行であり、金属立方体を長手方向に架橋する。測定のために、同様に金属から製造され、長さが69mmであり、金属立方体間の空間に対して直角に配向された丸いパンチエッジを有するパンチツールを使用して、プレートが破損するまで金属立方体間のプレートの中心に作用する力を増加させる。記載された条件下でこのタイプのプレートを破壊するには、90N以下を適用する必要がある。
【0014】
3D印刷によって処理する場合、フィラメントは、電気モータを使用して印刷ヘッドノズルに通されるだけでよいため、出発材料として使用するのがより簡単である。ダブルウォームギヤユニットによってスプール上に巻かれたフィラメントを供給することが、ここでは有利であることが示されている。3D印刷プロセスの出発材料として既に適しているふるい分けされた材料を、加工がより容易なフィラメントに変形するために、好ましくは、ポリグリセロール脂肪酸エステル含有組成物の第1の成分の溶融温度より少なくとも1℃低い温度で、押出機ノズルヘッドを通して押し出される。原則として、フィラメントの厚さは、印刷ヘッドノズルの形状によって決定される。印刷ヘッドノズルの直径は、印刷される成形部品の形状の仕様に応じて選択することができる。ノズルが大きいほど、材料のスループットを高めることができ、したがって製造を高速化することができるという利点を有する。印刷される成形部品が繊細であるほど、十分な精度で印刷を提供するために、選択される断面はより小さくあるべきである。1.52mm~1.96mmの一貫して均一な断面直径を有するフィラメントは、加工において有利であることが示されており、0.06の楕円率までのフィラメントの断面における不一致が許容され得る。検討中のそれぞれのフィラメントの断面の楕円率(O)は、ここでは、その最大直径(Dmax)とその最小直径(Dmin)との差の2倍をそれらの合計で割ったもの、すなわちO=2×(Dmax-Dmin)/(Dmax+Dmin)として定義される。好ましくは、調製されたフィラメントは、0.23mmの最小外径を有するが、より高くてもよいスプールに巻き付けられる。破損することなく小直径スプールに巻き取ることは、3D印刷プロセスでの処理に十分な弾性を示すと考えることができる。ポリグリセロール脂肪酸エステル含有組成物のために、フィラメントの製造は、使用される温度のためにふるいにかけられた粉末が軟質塊に変形している限り、押出機ノズルヘッドでの押出材料のスループットが最大7kg/hで行われてもよい。
【0015】
原則として、活性物質又は他の物質を3D印刷プロセスの生成物に組み込むための2つの可能性がある。いずれかの物質は、3D印刷のための出発材料に既に組み込まれており、次いで3D印刷プロセスによって印刷されて、所定の成形部品を形成するか、又は出発材料は、活性物質又は他の物質を含まないままであり、その後、少なくとも部分的に調製された成形物品のキャビティ又はチャンバに導入される。3D印刷プロセスのための出発材料を形成するためのポリグリセロール脂肪酸エステル含有組成物への微粉化固体の組み込みは、好ましくは、ポリグリセロール脂肪酸エステル含有組成物の溶融成分に、1つ以上の微粉化固体を混合することによって行われ、混合物全体におけるそれらの重量パーセンテージは、このようにして得られる出発材料の加工性が維持されるように、10%を超えるべきではない。これに関して、微粉化固体として混合される物質の種類は、実質的に重要ではない。好ましくは、微粉化固体は、医薬活性物質又は化粧品活性物質群からのものである。
【0016】
活性物質又は他の物質を3D印刷プロセスの生成物に組み込むための第2の可能性の場合、好ましくはフィラメントとしてのポリグリセロール脂肪酸エステル含有組成物自体を印刷して、1つ以上のキャビティ及び/又はチャンバを有する成形物品を形成することができる。これを達成するための簡単な方法は、例えば、カップの形態の成形物品を3D印刷することであり、そのキャビティ内に、固体、半固体又は液体であり得る活性物質又は他の物質を、充填材料として導入することができる。その後、成形物品の開口部は、好ましくは同じ出発材料から印刷された、インターロック及び/又は摩擦嵌合方式でそれに嵌合するのに適した、例えば蓋の形態の第2の成形部品によって閉じることができる。ここでより洗練された解決策は、充填材料を成形物品に組み込むことであり、成形物品の印刷は、充填に十分なキャビティが形成された点まで最初に行われ、次いで充填材料を導入し、次いで3D印刷を完了し、好ましくは、充填されたキャビティを閉じて充填材料が設けられたチャンバを形成することができる。3D印刷プロセスの利点はすべて、このようにして利用することができる。したがって、2つ以上の異なる医薬活性物質などの異なる物質を、同じ成形物品の別個のチャンバに導入することが可能である。活性物質の放出は、異なる壁厚によって制御することができる。
【0017】
したがって、本明細書で提案されるポリグリセロール脂肪酸エステル含有組成物のために、3D印刷プロセスが可能であり、3D印刷プロセスのための出発材料への活性物質又は他の物質の組み込みを可能にし、適切に成形された成形物品への固体、半固体又は液体の充填材料の組み込みも可能にする。更に、両方の変形を一緒に組み合わせることができ、その結果、出発材料と混合された固体を印刷された成形物品の材料から直接放出することができ、チャンバ又はキャビティ内に位置する充填材料は、それらを境界付ける壁の崩壊後に、又は好ましくは狭い形状のチャネルを介してのみキャビティ又はチャンバから逃げることができる。
【0018】
印刷手順は、好ましくは、適用される3D印刷プロセスにおいて、粉末の形態の、又はフィラメントとしての、混合物が提供されるか、又は混合物を含まないポリグリセロール脂肪酸エステル含有組成物を、入口及び出口を有する印刷ヘッドノズルに通すことによって開始される。次いで、所定の3次元形状の物品の積層造形は、様々な平面における印刷ヘッドノズルからの出口の対応する所定の移動によって実行される。好ましくは、この点に関して、温度制御可能な印刷ヘッドノズルが使用され、その印刷手順中の温度は、出発材料の溶融温度よりも1℃~4.9℃高い。
【0019】
充填材料は、様々な方法で導入することができる。第2の成形部品で充填されたキャビティの開口部を閉鎖すること、又は成形物品を全体として仕上げる前に成形物品の一部に既に形成された適切なキャビティに充填材料を導入することであって、その後、成形物品の仕上げ中にチャンバ又はより発達したキャビティに印刷されることは、既に上述されている。第3の可能性は、好ましくは完全に硬化する前に、カニューレによって、既製の成形物品のキャビティ又はチャンバを充填材料で充填することである。明らかに、上述の充填の可能性は、任意の方法で組み合わせることができる。
【0020】
充填材料が1つ以上の医薬活性物質を含有するものである場合、これらは好ましくはグルココルチコイド、ミネラルコルチコイド、アンドロゲン、エストロゲン、ゲスターゲン、アゾール抗真菌剤、ACE阻害剤又はAT1拮抗薬である。この群の医薬活性物質は、ポリグリセロール脂肪酸エステル含有組成物のための混合物としても適している。
【0021】
本発明を、図面及び2つの例を用いて非限定的に、より詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】カップ形状の成形部品(
図1a、
図1b、寸法(mm))。
【実施例】
【0023】
例1
80.5重量%の平均水酸基価160を有するヘキサグリセリルパルミチン酸部分エステルを成分1として使用した。8.0重量%のヘキサグリセロールを成分2として使用し、11.5重量%のヘキサグリセリルモノパルミテートを成分3として使用した。成分を一緒に混合し、溶融させた。溶融物を撹拌によって均質化し、静置して、20℃の室温及び1005hPaの圧力で固化させた。溶融物の一部を5つの同一の型に入れ、このようにして155mm×45mm×15mmのプレートに成形し、硬化後、上記のように曲げ疲労試験を受けた。プレートを破壊するのに必要な平均力は83Nであった。固化した塊を粉砕し、孔径800μmのふるいに通した。ふるい分けした材料を49℃の温度で押し出して、1.75mmの均一な連続断面を有し、最大楕円率が0.02のフィラメントストランドを形成した。フィラメントを23mmの最小直径を有するスプールに巻き付けた。フィラメントのスプールを3Dプリンタに挿入し、50.5℃の印刷ノズル温度で3D印刷を開始した。印刷された成形部品は、手のないカップ(
図1a、
図1b、寸法(mm))の形態であった。10mgの微粒子化プレドニゾロンからなる充填材料をカップ形状の成形部品に導入した。カップ形状の成形部品が形成された(
図1a、
図1b、寸法(mm))と同時に、カップ形状の成形部品(
図1a、
図1b、寸法(mm))の開口部に嵌合する蓋形状の成形部品(
図2a、
図2b、寸法(mm))を同一出発材料から印刷した。蓋形状の成形部品(
図2a、
図2b、寸法(mm))によって、カップ形状の成形部品(
図1a、
図1b、寸法(mm))の開口部を閉鎖して、完成したプレドニゾロン含有製品を形成した。
【0024】
例2
67.7重量%の平均水酸基価160を有するヘキサグリセリルパルミチン酸部分エステルを成分1として使用した。13.6重量%のヘキサグリセロールを成分2として使用し、9.6重量%のヘキサグリセリルモノパルミテートを成分3として使用した。9.1重量%の微粒子化デキサメタゾンを添加した。成分を一緒に混合し、溶融させた。溶融物を撹拌により均質化し、20℃の室温及び1005hPaの圧力で固化させるために静置した。固化した塊を粉砕し、孔径800μmのふるいに通した。ふるい分けした材料を49℃の温度で押し出して、1.75mmの均一な連続断面を有し、最大楕円率が0.02のフィラメントストランドを形成した。フィラメントを23mmの最小直径を有するスプールに巻き付けた。フィラメントのスプールを3Dプリンタに挿入し、50.5℃の印刷ノズル温度で3D印刷を開始した。印刷された成形部品は、扁平な円柱の形態であり、完成したデキサメタゾン含有製品を錠剤の形態で提供した。
【国際調査報告】