(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-02-01
(54)【発明の名称】腸癌の初代細胞用の培養培地及び培養方法
(51)【国際特許分類】
C12N 5/09 20100101AFI20240125BHJP
C12Q 1/04 20060101ALI20240125BHJP
【FI】
C12N5/09
C12Q1/04
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023546220
(86)(22)【出願日】2021-02-05
(85)【翻訳文提出日】2023-09-27
(86)【国際出願番号】 CN2021075366
(87)【国際公開番号】W WO2022160368
(87)【国際公開日】2022-08-04
(31)【優先権主張番号】202110134946.7
(32)【優先日】2021-02-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522178669
【氏名又は名称】合肥中科普瑞昇生物医▲薬▼科技有限公司
(74)【代理人】
【識別番号】110003845
【氏名又は名称】弁理士法人籾井特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】▲劉▼ 青松
(72)【発明者】
【氏名】赫 玉影
(72)【発明者】
【氏名】▲陳▼ 程
(72)【発明者】
【氏名】黄 涛
(72)【発明者】
【氏名】任 涛
(72)【発明者】
【氏名】王 文超
(72)【発明者】
【氏名】王 黎
【テーマコード(参考)】
4B063
4B065
【Fターム(参考)】
4B063QA06
4B063QQ08
4B063QR41
4B063QR90
4B063QS33
4B063QX02
4B065AA93X
4B065BB07
4B065BB11
4B065BB12
4B065BB13
4B065BB19
4B065BB20
4B065BB25
4B065BB28
4B065CA46
(57)【要約】
腸癌の初代細胞のin vitro増加のための培養培地及び培養方法を開示する。培養培地は初期培養培地、Rhoプロテアーゼ阻害剤、抗生物質、ガストリン、A8301、非必須アミノ酸、コレラ毒素、インスリン様成長因子-1、ニコチンアミド、インスリン、ウシ胎仔血清、並びにB27添加剤及びN2添加剤の少なくとも1つから選択される添加剤を含む。この培養培地を使用することで、腸癌の初代細胞の効果的かつ迅速な増加を達成することができる。増加させた細胞は、患者の病理学的特徴を維持し、腸癌の初代細胞の培養成功率及び細胞増加速度が改善し、患者の個別化治療の研究基盤がもたらされる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
初期培養培地、Rhoプロテアーゼ阻害剤、抗生物質、ガストリン、A8301、非必須アミノ酸、コレラ毒素、インスリン様成長因子-1、ニコチンアミド、インスリン、ウシ胎仔血清、並びにB27添加剤及びN2添加剤の少なくとも1つから選択される添加剤を含み、
前記初期培養培地がDMEM/F12、DMEM、F12又はRPMI-1640からなる群から選択されることを特徴とする、腸癌の初代細胞用の培養培地。
【請求項2】
前記Rhoプロテアーゼ阻害剤がY27632、ファスジル及びH-1152からなる群から選択される1つ以上であり、濃度は2.5μM~40μM、好ましくは2.5μM~5μMであり、
前記抗生物質がストレプトマイシン/ペニシリン、アムホテリシンB及びPrimocinからなる群から選択される1つ以上であり、ストレプトマイシン/ペニシリンの場合、ストレプトマイシンは25μg/mL~400μg/mL、好ましくは50μg/mL~200μg/mLの範囲内、より好ましくは200μg/mLの濃度を有し、ペニシリンは25U/mL~400U/mL、好ましくは50U/mL~200U/mLの範囲内、より好ましくは200U/mLの濃度を有し、アムホテリシンBの場合、0.25μg/mL~4μg/mL、好ましくは0.5μg/mL~2μg/mLの範囲内の濃度を有し、Primocinの場合、25μg/mL~400μg/mL、好ましくは50μg/mL~200μg/mLの範囲内の濃度を有し、
ガストリンの濃度が1.25nM~20nM、好ましくは2.5nM~10nMであり、
A8301の濃度が25nM~200nMであり、
前記非必須アミノ酸がグリシン、アラニン、アスパラギン、アスパラギン酸、グルタミン酸、プロリン及びセリンからなる群から選択される1つ以上であり、総濃度は25μM~400μMであり、
コレラ毒素の濃度が1.25ng/mL~20ng/mL、好ましくは2.5ng/mL~5ng/mLであり、
インスリン様成長因子-1の濃度が5ng/mL~405ng/mLであり、
ニコチンアミドの濃度が2mM~8mM、好ましくは4mM~8mMであり、
インスリンの濃度が0.5μg/mL~4μg/mL、好ましくは1μg/mL~2μg/mLであり、
前記培養培地に対するウシ胎仔血清の体積濃度が2.5%(v/v)~5%(v/v)であり、
前記培養培地に対するB27添加剤又はN2添加剤の体積比が1:25~1:200、好ましくは1:25~1:50であることを特徴とする、請求項1に記載の腸癌の初代細胞用の培養培地。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の腸癌の初代細胞用の培養培地を用いて腸癌の初代細胞を培養することを特徴とする、腸癌の初代細胞の培養方法。
【請求項4】
前記腸癌の初代細胞を培養皿に1×10
4細胞/cm
2~10×10
4細胞/cm
2の細胞密度で播種し、栄養膜細胞を2×10
4細胞/cm
2~3×10
4細胞/cm
2の細胞密度で添加し、請求項1又は2に記載の腸癌の初代細胞用の培養培地を培養に使用することを特徴とする、請求項3に記載の培養方法。
【請求項5】
前記栄養膜細胞が照射NIH-3T3細胞であり、放射線源がX線又はγ線であり、放射線量が30Gy~50Gyであることを特徴とする、請求項4に記載の培養方法。
【請求項6】
腸癌に対する薬物をスクリーニングする方法であって、
(1)請求項3~5のいずれか一項に記載の腸癌の初代細胞の培養方法を用いて腸癌の初代細胞を培養する工程と、
(2)被検薬物を選択するとともに、必要とされる濃度勾配に基づいて該薬物を希釈する工程と、
(3)工程(1)で培養し、得られた細胞に前記薬物を様々な濃度勾配で添加する工程と、
(4)細胞生存性を検出する工程と、
を含むことを特徴とする、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バイオテクノロジーの分野、特に腸癌の初代細胞を迅速に増加させるための培養培地及び培養方法、並びに薬物の有効性評価及びスクリーニングにおけるそれらの使用に関する。
【背景技術】
【0002】
腸癌は、遺伝因子及び環境因子の相互作用によって引き起こされる疾患であり、世界的に最もよく見られる胃腸腫瘍の1つである。調査データ(非特許文献1)から、腸癌が最もよく見られる腫瘍の1つであり、全発生率及び死亡率はいずれも増加傾向にあり、生命及び健康を深刻に脅かす悪性腫瘍となっていることが示されている。外科手術と術後化学療法との併用が現在、腸癌の主な治療法である。近年、外科手術手技が向上することで腸癌患者の生存率が改善しているが、依然として腫瘍の転移及び再発が患者に予後不良をもたらしている。大腸癌の精密な治療という点では、標的薬物の出現が進行大腸癌を有する患者に希望をもたらしており、いかに標的薬物を合理的に選択し、個別化治療計画を立てるかが今後の展開である。薬物感受性試験技術の継続的な革新は、標的薬物、化学療法薬及び標的薬物の組合せの有効性の予測に強力な技術的支持をもたらし、腸癌を有する患者の個別化治療の実現のための強固な基盤を築く。
【0003】
in vitroで培養された既存の腸癌細胞株は、主に正常細胞を長期培養して自発的に不死化するか、又は正常細胞の不死化を促進する癌遺伝子をトランスフェクトすることによって得られる。従来の方法によって樹立された細胞株は、依然として細胞生物学、分子生物学及び癌生物学の研究の中心である。しかしながら、これらの方法は、細胞の遺伝的背景を変化させ、また長期培養細胞株にはゲノム不安定性の傾向があり、in vivoで腫瘍細胞株及び腫瘍細胞の表現型に人為的な変化を引き起こす可能性がある。これらの細胞株は通常、原発腫瘍の複雑な不均一性を欠いており、腫瘍細胞応答を予測するためのこれらの細胞株の応用が制限され、腸癌の科学的研究及び薬物開発の精度に影響を及ぼす。加えて、腸癌組織から得られた細胞を培養して癌細胞にする過程では、従来の培養方法によって癌細胞を得ることは困難であり、培養過程で線維芽細胞による干渉等の問題があり、形成されたクローンを継代培養することができず、腸癌のヒト初代細胞の応用が制限される。
【0004】
2017年に、Xuefeng Liu et al.は、照射マウス線維芽細胞及びRho関連キナーゼ阻害剤(Y-27632)を使用し、上皮由来細胞を増加させた。この系は、遺伝子操作なしに上皮由来細胞の無制限の成長を達成する能力を有する(非特許文献2)。しかしながら、Xuefeng Liu et al.によって確立された方法は、培養期間が長く、迅速な細胞増加を達成することができないため、この技術の応用も制限される。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Shu Zheng et al., Prevention of Colorectal Cancer, Chinese Journal of Oncology, 2004, vol. 13, NO. 1, pp1-2
【非特許文献2】Xuefeng Liu et al., Conditional reprogramming and long-term expansion of normal and tumor cells from human biospecimens. Nat. Protoc. 2017, 12, 439
【発明の概要】
【0006】
上述の技術的課題を解決するために、本発明は、腸癌の初代細胞をin vitroで迅速に増加させるための培養培地及び培養方法を提供する。
【0007】
本発明の1つの態様は、初期培養培地、Rhoプロテアーゼ阻害剤、抗生物質、ガストリン、A8301、非必須アミノ酸、コレラ毒素、インスリン様成長因子-1、ニコチンアミド、インスリン、ウシ胎仔血清、並びにB27添加剤及びN2添加剤の少なくとも1つから選択される添加剤を含む、腸癌の初代細胞用の培養培地を提供することである。初期培養培地は、DMEM/F12、DMEM、F12又はRPMI-1640からなる群から選択される。
【0008】
本発明の好ましい実施の形態は、少なくとも1つの以下の態様を含む:
(1)Rhoプロテアーゼ阻害剤がY27632、ファスジル及びH-1152からなる群から選択される1つ以上であり、好ましくY27632であり、濃度は、好ましくは2.5μM~40μM、より好ましくは2.5μM~5μM、最も好ましくは5μMであり、
(2)抗生物質がストレプトマイシン/ペニシリン、アムホテリシンB及びPrimocinからなる群から選択される1つ以上であり、ストレプトマイシン/ペニシリンの場合、ストレプトマイシンは25μg/mL~400μg/mL、好ましくは50μg/mL~200μg/mLの範囲内、より好ましくは200μg/mLの濃度を有し、ペニシリンは25U/mL~400U/mL、好ましくは50U/mL~200U/mLの範囲内、より好ましくは200U/mLの濃度を有し、アムホテリシンBの場合、0.25μg/mL~4μg/mL、好ましくは0.5μg/mL~2μg/mLの範囲内の濃度を有し、Primocinの場合、25μg/mL~400μg/mL、好ましくは50μg/mL~200μg/mLの範囲内の濃度を有し、
(3)ガストリンの濃度範囲が、好ましくは1.25nM~20nM、より好ましくは2.5nM~10nM、最も好ましくは5nMであり、
(4)A8301の濃度範囲が、好ましくは25nM~200nM、より好ましくは200nMであり、
(5)非必須アミノ酸がグリシン、アラニン、アスパラギン、アスパラギン酸、グルタミン酸、プロリン及びセリンからなる群から選択される1つ以上であり、非必須アミノ酸の総濃度範囲は25μM~400μM、より好ましくは50μMであり、
(6)コレラ毒素の濃度範囲が、好ましくは1.25ng/mL~20ng/mL、より好ましくは2.5ng/mL~5ng/mL、最も好ましくは5ng/mLであり、
(7)インスリン様成長因子-1の濃度範囲が、好ましくは5ng/mL~405ng/mL、より好ましくは45ng/mLであり、
(8)ニコチンアミドの濃度範囲が、好ましくは2mM~8mM、より好ましくは4mM~8mM、最も好ましくは4mMであり、
(9)インスリンの濃度範囲が、好ましくは0.5μg/mL~4μg/mL、より好ましくは1μg/mL~2μg/mL、最も好ましくは2μg/mLであり、
(10)培養培地に対するウシ胎仔血清の体積比が、好ましくは2.5%(v/v)~5%(v/v)、より好ましくは5%(v/v)であり、
(11)培養培地に対するB27添加剤又はN2添加剤の体積比が、好ましくは1:25~1:200、より好ましくは1:25~1:50、最も好ましくは1:25である。
【0009】
本発明はまた、腸癌の初代細胞の培養方法を提供する。本発明の腸癌の初代細胞の培養方法においては、本発明の腸癌の初代細胞用の培養培地を用いて腸癌の初代細胞を培養する。
【0010】
本発明の腸癌の初代細胞の培養方法は、以下の工程を含む。
【0011】
1.腸癌の初代細胞の単離
(1)洗浄培地で洗浄した後、組織サンプル、内視鏡サンプルに洗浄培地及び組織消化液(組織消化液の添加量は、1gの腫瘍組織に対して約5mL~10mLの組織消化液である)を1:3の比率で添加し、恒温振盪機に入れ、4℃~37℃の範囲、好ましくは37℃の消化温度、200rpm~350rpmの範囲、好ましくは300rpmの消化回転速度で消化を行う。
(2)明らかな組織塊が残存しなくなってから消化を終了させることができ、消化時間は3時間~6時間の範囲、好ましくは4時間である。
(3)1200rpm~1600rpmの範囲、好ましくは1500rpmの遠心分離速度、2分間~6分間の範囲、好ましくは4分間の遠心分離時間での遠心分離後に上清を捨てる。得られたものを、10%血清を含有するDMEM/F12培地を添加して再懸濁する。
【0012】
2.本発明の腸癌の初代細胞用の培養培地を用いた培養
上記の工程1で得られた腸癌の初代細胞を本発明の腸癌の初代細胞用の培養培地で再懸濁し、計数し、培養皿に1×104細胞/cm2~10×104細胞/cm2の細胞密度で播種する。同時に、栄養膜細胞を2×104細胞/cm2~3×104細胞/cm2の細胞密度で添加する。細胞が培養皿の90%以上を覆うまで成長させた後、細胞を継代のために消化する。
【0013】
具体的には、工程1に記載した洗浄培地の配合は、100μg/mL Primocin(InvivoGenから購入、0.2%(v/v)、市販品の濃度は50mg/mlである)を含有するDMEM/F12培地である。工程1に記載した組織消化液の配合は、1640培地(Corning、10-040-CVR)、コラゲナーゼII(2mg/mL)、コラゲナーゼIV(2mg/mL)、DNase(50U/mL)、ヒアルロニダーゼ(0.75mg/mL)、塩化カルシウム(3.3mM)、BSA(10mg/mL)である。工程2に記載した栄養膜細胞は、例えば照射NIH-3T3細胞であり、放射線源はX線又はγ線、好ましくはγ線であり、放射線量は20Gy~50Gy、好ましくは30Gyである。
【0014】
本発明はまた、腸癌に対する薬物をスクリーニングする方法であって、
(1)本発明の腸癌の初代細胞の培養方法を用いて薬物スクリーニング用の腸癌の初代細胞を培養する工程と、
(2)被検薬物を選択するとともに、必要とされる濃度勾配に基づいて該薬物を希釈する工程と、
(3)工程(1)で培養し、得られた細胞に薬物を様々な濃度勾配で添加する工程と、
(4)細胞生存性を検出する工程と、
を含む、方法を提供する。
【0015】
本発明の技術的解決策は、以下の技術的効果をもたらすことができる:
(1)腸癌の初代細胞の培養の成功率を改善することができ、成功率は80%以上となる。
(2)in vitroで培養した腸癌の初代細胞は、患者の病理学的特徴を維持することができる。
(3)培養した腸癌の初代細胞は、線維芽細胞及び脂肪細胞等の間葉細胞に干渉されない。
(4)腸癌の初代細胞を高効率で増加させることができ、105レベルの細胞数から開始して約1週間以内に106規模の細胞の増加に成功し、増加させた腸癌の初代細胞は、は連続継代能力を有する。
(5)培養培地が高価なWntアゴニスト、R-スポンジンファミリータンパク質、BMP阻害剤、FGF10等の因子を必要としないため、培養のコストを制御可能である。
(6)本技術は、腸癌の初代細胞を多量に高い均一性で培養し、提供することができ、新たな候補化合物のハイスループットスクリーニング及び患者に対するin vitroでのハイスループット薬物感受性機能試験に適している。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】腸癌の初代細胞の増殖に対する腸癌の初代細胞用の培養培地に添加した異なる因子の組合せの影響を示すグラフである。
【
図2-1】(A)~(D)は、腸癌の初代細胞の培養に対する本発明の腸癌の初代細胞用の培養培地に添加した異なる濃度の因子の影響を示すグラフである。
【
図2-2】(E)~(J)は、腸癌の初代細胞の培養に対する本発明の腸癌の初代細胞用の培養培地に添加した異なる濃度の因子の影響を示すグラフである。
【
図3】(A)~(H)は、本発明の腸癌の初代細胞用の培養培地を用いて培養することによって得られた腸癌の初代細胞を顕微鏡で観察した写真である。
【
図4】(A)~(D)は、元の腸癌組織の細胞の免疫組織化学的結果を示す図である。
【
図5】(A)~(D)は、本発明の培養培地CA-1を用いて培養した腸癌の初代細胞の免疫組織化学的結果を示す図である。
【
図6】本発明の腸癌の初代細胞用の培養培地を用いて培養した腸癌の初代細胞の細胞免疫蛍光染色の結果を示す図である。
【
図7】本発明の腸癌の初代細胞用の培養培地を用いて培養した腸癌の初代細胞の細胞成長曲線を示す図である。
【
図8】(A)および(B)は、本発明の腸癌の初代細胞用の培養培地CA-1及び既存の培養培地LXFを用いた腸癌の初代細胞の培養の比較結果を示す図である。
【
図9】(A)および(B)は、本発明の腸癌の初代細胞用の培養培地を用いて培養した異なる世代の腸癌細胞を用いた薬物スクリーニングの結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明をより良く理解するために、実施形態及び図面と組み合わせて以下に更に説明する。以下の実施例は、本発明を限定するものではなく、例示のみを目的として提示される。
【実施例】
【0018】
実施例1.腸癌の初代細胞の増殖に対する腸癌の初代細胞用の培養培地に添加したそれぞれの因子の影響
(1)腸癌の初代細胞用の培養培地の調製
初めに、基本培地を調製した。基本培地の配合は、DMEM/F12培地(Corningから購入)+5μM Y27632(MCEから購入)+5%(v/v)ウシ胎仔血清(Excell Bioから購入)+100μg/mL Primocin(InvivoGenから購入、0.2%(v/v)、市販品の濃度は50mg/mlである)である。
【0019】
異なるタイプの添加剤(表1を参照されたい)を基本培地に添加し、異なる成分を含有する腸癌の初代細胞用の培養培地を調製した。
【0020】
(2)腸癌の初代細胞の単離及び処理
1.サンプルの選択
腸癌固形腫瘍の組織サンプル(術中/内視鏡)は、専門医療機関の専門医療従事者によって患者から採取され、全ての患者がインフォームドコンセントに署名した。術中サンプルのサイズは0.25cm3、内視鏡サンプルのサイズは0.025cm3であり、市販の組織保存液(製造業者:Miltenyi Biotec)を保管及び輸送に使用した。
【0021】
2.材料の準備
表面消毒(surface sterilization)に供した後、15mL滅菌遠心分離管、ピペッター、10mLピペット、滅菌ピペットチップ等を超清浄作業台に置き、30分間紫外線照射した。洗浄培地は、4℃の冷蔵庫から30分前に取り出し、組織消化液は、-20℃の冷蔵庫から30分前に取り出した。
【0022】
洗浄培地:100μg/mL Primocin(InvivoGenから購入、0.2%(v/v)、市販品の濃度は50mg/mlである)を含有するDMEM/F12培地。
【0023】
組織消化液:1640培地(Corning、10-040-CVR)、コラゲナーゼII(2mg/mL)、コラゲナーゼIV(2mg/mL)、DNase(50U/mL)、ヒアルロニダーゼ(0.75mg/mL)、塩化カルシウム(3.3mM)、BSA(10mg/mL)。
【0024】
上述のコラゲナーゼII、コラゲナーゼIV、DNase及びヒアルロニダーゼは、全てSigma Corporationから購入し、塩化カルシウムはSangon Biotech (Shanghai) Co., Ltd.から購入し、BSAはBiofroxx Corporationから購入した。
【0025】
3.サンプルの単離
3.1.組織サンプルを超清浄作業台から培養皿に移し、血液が付いた組織を除去した。組織サンプルを洗浄培地で2回洗浄した後、別の培養皿に移し、滅菌メスで1×1×1mm3のサイズの組織ブロックに機械的に切断した。
【0026】
3.2.切断した術中又は内視鏡組織を15mL遠心分離管に吸引し、これに5mLの洗浄培地を添加し、完全に混合した後、1500rpmで4分間遠心分離した。
【0027】
3.3.上清を捨て、得られたものに洗浄培地及び組織消化液(組織消化液の添加量は、1gの腫瘍組織に対して約10mLの組織消化液とした)の1:3混合物を添加した。サンプルに名前及び番号を付け、シーリングフィルムで密閉した後、振盪機(Zhichu InstrumentのZQLY-180N)内にて37℃、300rpmで消化した。消化の完了は、30分毎の観察により、目に見える粒子が存在するか否かに基づいて決定した。消化時間は4時間であった。
【0028】
3.4.消化が完了した後、未消化の組織塊を100μMフィルターメッシュに通して濾過した。フィルターメッシュ上の組織塊を、細胞の喪失を減らすために洗浄培地で遠心分離管に洗い入れた。得られたものを25℃、1500rpmで4分間遠心分離した。
【0029】
3.5.上清を捨て、得られたものを観察して、血球が存在するかを決定した。血球が存在する場合、得られたものに8mLの血球溶解液(Sigma)を添加し、完全に混合し、4℃で20分間溶解させた。この過程で転倒混和を1回行った。得られたものを25℃、1500rpmで4分間遠心分離した。
【0030】
3.6.上清を捨て、10%血清を含有する2mLのDMEM/F12培地(Excell Bio、FND500)を添加し、細胞を再懸濁して保存した。
【0031】
4.細胞の計数及び処理
4.1 顕微鏡観察:少量の再懸濁細胞を培養皿にプレーティングし、癌細胞の密度及び形態を顕微鏡(CNOPTEC、BDS400)下で観察した。
【0032】
4.2 生存細胞の計数:12μLの再懸濁した細胞懸濁液を12μLのトリパンブルー染色液(Sangon Biotech (Shanghai) Co., Ltd.)と完全に混合した後、20μLの混合物を細胞計数プレート(Countstar、仕様:50個/箱)に添加した。セルカウンター(Countstar、IC1000)を用いて、生存大細胞(10μm超の細胞サイズ)のパーセンテージ=生存細胞数/総細胞数×100%を算出した。
【0033】
(3)腸癌の初代細胞の培養
表1に示す種々の成分の培養培地を48ウェルプレートに1mL/ウェルの容量で添加した。上記の工程(2)に従って2例の腸癌組織(番号OE0042及びOE(E)003)から単離した腸癌の初代細胞を48ウェル培養プレートに3×104細胞/ウェルの細胞密度で播種し、37℃、5%CO2濃度下で培養した。7日間~10日間培養した後、細胞が85%まで成長した時点で培養培地を捨て、100μL/ウェルの0.05%トリプシン(Gibcoから購入)を用いて細胞を1回洗浄した。トリプシンを除去した後、200μLの0.05%トリプシンを各ウェルに添加した。次いで、プレートを37℃、5%CO2のインキュベーターに10分間入れ、細胞を顕微鏡(CNOPTEC、BDS400)下で観察したところ、細胞が完全に消化されたことが示された。10%血清(Excell Bio、FND500)を含有する300μLのDMEM/F12培地を添加して、消化を停止させた。得られた20μLを細胞計数プレート(Countstar、仕様:50個/箱)に添加し、セルカウンター(Countstar、IC1000)で細胞の総数を計数した。具体的には、いかなる添加剤も含まない基本培地を実験対照として用い、実験結果を表1に示す。
【0034】
【0035】
ここで、「+」は、基本培地と比較して、添加剤(複数の場合もある)を添加した培地が、少なくとも2例において腸癌組織から単離した腸癌の初代細胞の増殖を促進する効果を有することを示し、「-」は、添加剤(複数の場合もある)を添加した培地が、少なくとも1例において腸癌組織から単離した腸癌の初代細胞の増殖を阻害する効果を有することを示し、「〇」は、添加剤(複数の場合もある)を添加した培地が、少なくとも2例において腸癌組織から単離した腸癌の初代細胞の増殖に対して顕著な影響を及ぼさないことを示す。
【0036】
上記の結果に従い、非必須アミノ酸、コレラ毒素、インスリン様成長因子-1、B27又はN2、ニコチンアミド、インスリン、プロスタグランジンE2、A8301及びガストリンを含む因子を更なる培養実験に選択した。
【0037】
実施例2.腸癌の初代細胞の増殖に対する腸癌の初代細胞の培養培地に添加した異なる因子の組合せの影響
表2に示す成分に従い、異なる添加因子の組合せを用いて腸癌の初代細胞用の培養培地を調製し、腸癌の初代細胞に対する異なる添加因子の組合せの増殖促進効果を調査した。
【0038】
【0039】
実施例1の工程(2)-3に記載の方法に従い、腸癌の初代細胞を腸癌組織(番号OE0042、OE(E)006)から得て、得られた細胞懸濁液を11等分し、1500rpmで4分間遠心分離し、続いて200μLのBM、No.1~No.10の培地それぞれで再懸濁した。細胞を48ウェルプレートに2×104細胞/cm2(1ウェル当たり20000個の細胞)の生細胞密度で播種した後、γ線照射したNIH-3T3細胞(放射線量30Gy)(ATCCから購入、基本培地(BM)で再懸濁)を2×104細胞/cm2の細胞密度でプレートに添加した。最後に、48ウェルプレートの各ウェルに対応する培養培地を1mLの容量まで添加し、得られたものを完全に混合した。表面消毒後にプレートを37℃、5%CO2のインキュベーター(Thermo Fisherから購入)に入れて培養した。
【0040】
細胞が48ウェルプレートの面積の85%以上を覆うまで成長した後、培地を捨てた。細胞を100μLの0.05%トリプシン(Gibcoから購入)で1回洗浄した。トリプシンを除去した後、200μLの0.05%トリプシンを各ウェルに添加した。プレートを37℃、5%CO
2のインキュベーターに10分間入れ、細胞を顕微鏡(CNOPTEC、BDS400)下で観察したところ、細胞が完全に消化されたことが示された。10%血清(Excell Bio、FND500)を含有する300μLのDMEM/F12培地を添加して、消化を停止させた。得られた20μLを細胞計数プレート(Countstar、仕様:50個/箱)に添加し、セルカウンター(Countstar、IC1000)で細胞の総数を計数した。術中、内視鏡組織サンプルOE0042、サンプルOE(E)006から単離された腸癌の初代細胞から得られた結果を
図1に示す。
【0041】
図1に示す結果から分かるように、基本培地と比較して、上記のNo.1~No.10の培地は全て、異なるレベルで腸癌の初代細胞の増殖を促進することができる。Y27632、ウシ胎仔血清、ガストリン、A8301、非必須アミノ酸、コレラ毒素、インスリン様成長因子-1、B27、ニコチンアミド、インスリンを含有する培養培地(すなわちNo.2の培養培地、以下「CA-1培地」と称される)を腸癌の初代細胞の培養に用いた場合、最も良好な増殖効果が得られた。
【0042】
実施例3.腸癌の初代細胞の増殖に対するCA-1培地に添加した異なる濃度の因子の影響
実施例1の工程(2)-3に記載の方法に従い、腸癌の初代細胞を内視鏡組織サンプル(番号OE(E)042、OE(E)050、OE(E)060)から得て、実施例2のCA-1培地を用いて細胞を培養した。得られた腸癌の初代細胞を6ウェルプレートに1×104細胞/cm2(1ウェル当たり100000個の細胞)の生細胞密度で播種した後、γ線(放射線量30Gy)を照射したNIH-3T3細胞を2×104細胞/cm2の細胞密度でプレートに添加し、よく混合した。表面消毒後にプレートを37℃、5%CO2のインキュベーター(Thermo Fisherから購入)に入れて培養した。細胞を培養し、CA-1中で85%以上に成長するまで増加させた。500μLの0.05%トリプシン(Gibcoから購入)を添加して、細胞を1分間洗浄した。トリプシンを除去した後、500μLの0.05%トリプシンを各ウェルに添加した。次いで、細胞が完全に消化されるまで、プレートを37℃、5%CO2のインキュベーターに2分間~10分間入れた。10%血清(Excell Bio、FND500)を含有する500μLのDMEM/F12培地を添加して、消化を停止させた。得られたものを1500rpmで4分間遠心分離し、上清を捨てた。DMEM/F12を用いて細胞沈殿物を再懸濁し、20μLの懸濁液を細胞計数プレート(製造業者:Countstar、仕様:50個/箱)に添加した。細胞の総数をセルカウンター(Countstar、IC1000)で計数した。得られた細胞を以下の培養実験に使用した。
【0043】
次に、以下の10の配合の培地を実験のために調製した:
配合1:ガストリンを含まないCA-1培地、
配合2:A8301を含まないCA-1培地、
配合3:非必須アミノ酸を含まないCA-1培地、
配合4:コレラ毒素を含まないCA-1培地、
配合5:インスリン様成長因子-1を含まないCA-1培地、
配合6:B27を含まないCA-1培地、
配合7:ニコチンアミドを含まないCA-1培地、
配合8:インスリンを含まないCA-1培地、
配合9:Y-27632を含まないCA-1培地、
配合10:ウシ胎仔血清を含まないCA-1培地。
【0044】
1×104個の細胞を含有する20μlの細胞懸濁液を各ウェルに添加し、上述の配合1~配合10の培地をそれぞれ1mL用いて細胞懸濁液を希釈した。
【0045】
配合1の培地を使用する場合、初代細胞を播種した48ウェルプレートに、1mL/ウェルの調製したガストリンを1.25nM、2.5nM、5nM、10nM、20nMのそれぞれのガストリンの最終濃度で添加し、配合1の培地をブランク対照(BC)として用いた。
【0046】
配合2の培地を使用する場合、初代細胞を播種した48ウェルプレートに、1mL/ウェルの調製したA8301を25nM、50nM、100nM、200nM、400nMのそれぞれのA8301の最終濃度で添加し、配合2の培地をブランク対照(BC)として用いた。
【0047】
配合3の培地を使用する場合、初代細胞を播種した48ウェルプレートに、1mL/ウェルの調製した非必須アミノ酸を25μM、50μM、100μM、200μM、400μMのそれぞれの非必須アミノ酸の最終濃度で添加し、配合3の培地をブランク対照(BC)として用いた。
【0048】
配合4の培地を使用する場合、初代細胞を播種した48ウェルプレートに、1mL/ウェルの調製したコレラ毒素を1.25ng/ml、2.5ng/ml、5ng/ml、10ng/ml、20ng/mlのそれぞれのコレラ毒素の最終濃度で添加し、配合4の培地をブランク対照(BC)として用いた。
【0049】
配合5の培地を使用する場合、初代細胞を播種した48ウェルプレートに、1mL/ウェルの調製したインスリン様成長因子-1を5ng/ml、15ng/ml、45ng/ml、135ng/ml、405ng/mlのそれぞれのインスリン様成長因子-1の最終濃度で添加し、配合5の培地をブランク対照(BC)として用いた。
【0050】
配合6の培地を使用する場合、初代細胞を播種した48ウェルプレートに、1mL/ウェルの調製したB27を12.5倍、25倍、50倍、100倍、200倍のそれぞれのB27の最終濃度で添加し、配合6の培地をブランク対照(BC)として用いた。
【0051】
配合7の培地を使用する場合、初代細胞を播種した48ウェルプレートに、1mL/ウェルの調製したニコチンアミドを1mM、2mM、4mM、8mM、16mMのそれぞれのニコチンアミドの最終濃度で添加し、配合7の培地をブランク対照(BC)として用いた。
【0052】
配合8の培地を使用する場合、初代細胞を播種した48ウェルプレートに、1mL/ウェルの調製したインスリンを0.25μg/ml、0.5μg/ml、1μg/ml、2μg/ml、4μg/mlのそれぞれのインスリンの最終濃度で添加し、配合8の培地をブランク対照(BC)として用いた。
【0053】
配合9の培地を使用する場合、初代細胞を播種した48ウェルプレートに、1mL/ウェルの調製したY-27632を2.5μM、5μM、10μM、20μM、40μMのそれぞれのY-27632の最終濃度で添加し、配合9の培地をブランク対照(BC)として用いた。
【0054】
配合10の培地を使用する場合、初代細胞を播種した48ウェルプレートに、1mL/ウェルの調製したウシ胎仔血清を2.5%(v/v)、5%(v/v)、10%(v/v)、20%(v/v)、40%(v/v)のそれぞれのウシ胎仔血清の添加率で添加し、配合10の培地をブランク対照(BC)として用いた。
【0055】
細胞を48ウェルプレートの約85%まで増加させた後、消化し、計数した。増殖倍数は、ブランク対照(BC)における細胞数に基づいて算出した。結果をそれぞれ
図2A~
図2Jに示す。
図2A~
図2Jにおいては、比率は、各培地を用いて1継代培養することによって得られた細胞数と、対応するブランク対照を用いて1継代培養することによって得られた細胞数との比率である。1より大きい比率は、異なる濃度の因子又は低分子化合物を含有する調製培地が、ブランク対照の培養培地よりも良好な増殖促進効果を有することを示し、1より小さい比率は、異なる濃度の因子又は低分子化合物を含有する調製培地が、ブランク対照の培養培地よりも増殖促進効果が低いことを示す。
【0056】
図2A~
図2Jに示す結果によると、ガストリンの量は、好ましくは1.25nM~20nM、より好ましくは2.5nM~10nM、更により好ましくは5nMであり、A8301の量は、好ましくは25nM~200nM、より好ましくは200nMであり、非必須アミノ酸の量は、好ましくは25μM~400μM、より好ましくは50μMであり、コレラ毒素の量は、好ましくは1.25ng/ml~20ng/ml、より好ましくは2.5ng/mL~5ng/mL、更により好ましくは5ng/mlであり、インスリン様成長因子-1の量は、好ましくは5ng/ml~405ng/ml、より好ましくは45ng/mlであり、B27の体積濃度は、好ましくは25倍~200倍、より好ましくは25倍~50倍、更により好ましくは25倍であり、培養培地中のニコチンアミドの量は、好ましくは2mM~8mM、より好ましくは4mM~8mM、更により好ましくは4mMであり、インスリンの量は、好ましくは0.5μg/ml~4μg/ml、より好ましくは1μg/mL~2μg/mL、更により好ましくは2μg/mlであり、Y-27632の量は、好ましくは2.5μM~40μM、より好ましくは2.5μM~5μM、更により好ましくは5μMであり、ウシ胎仔血清の体積含有率は、好ましくは2.5%(v/v)~5%(v/v)、より好ましくは5%(v/v)である。
【0057】
実施例4.腸癌の初代細胞の培養及び特定
(1)腸癌の初代細胞の培養
実施例1の工程(2)-3に記載の方法に従い、内視鏡組織サンプル(番号OE(E)019、OE(E)028、OE(E)021、OE(E)023、OE(E)026、OE(E)025、OE(E)024、OE(E)004)から腸癌の初代細胞を得て、実施例2のCA-1培地を用いて培養した。得られた腸癌の初代細胞を6ウェルプレートに1×104細胞/cm2(1ウェル当たり100000個の細胞)の生細胞密度で播種した後、γ線(放射線量30Gy)を照射したNIH-3T3細胞を2×104細胞/cm2の細胞密度でプレートに添加し、よく混合した。表面消毒後にプレートを37℃、5%CO2のインキュベーター(Thermo Fisherから購入)に入れて培養した。
【0058】
培養した腸癌の初代細胞を、顕微鏡(EVOS M500、Invitrogen)を用いて観察した。
図3A~
図3Hは、10倍の対物レンズ下で撮影した写真である。細胞は顕微鏡下で密に配列し、僅かに不規則な形状であった。
【0059】
(2)腸癌組織から継代培養した腸癌細胞の免疫組織化学的特定
約0.25cm3のサイズの癌組織を、腸癌を有する患者の術中組織から採取し(サンプル番号:OE(O)001)、1mLの4%パラホルムアルデヒドに浸漬し、固定した。実施例3の方法を用い、本発明の培地CA-1を用いてサンプルOE(O)001を第5継代まで連続培養した。4%パラホルムアルデヒドで固定した組織又は細胞を、パラフィンに包埋し、ミクロトームを用いて厚さ4μMの組織切片に切断した。次いで、通常の免疫組織化学的アッセイ(具体的な工程については、Li et al., Nature Communication, (2018) 9: 2983を参照されたい)を行った。使用した一次抗体はki-67、CK20、CDX-2及びビリン(全てCSTから購入)であった。
【0060】
図4A~
図4D及び
図5A~
図5Dはそれぞれ、元の組織細胞及び本発明の培地CA-1を用いて元の組織細胞を培養することによって得られた腸癌の腫瘍細胞の免疫組織化学的結果の比較写真である。
図4A及び
図5Aはそれぞれ、ki-67抗体で標識した腸癌組織並びに増加及び培養後に得られた細胞の写真である。
図4B及び
図5Bはそれぞれ、CK20抗体で標識した腸癌組織並びに増加及び培養後に得られた細胞の写真である。
図4C及び
図5Cはそれぞれ、CDX-2抗体で標識した腸癌組織並びに増加及び培養後に得られた細胞の写真である。
図4D及び
図5Dはそれぞれ、ビリン抗体で標識した腸癌組織並びに増加及び培養後に得られた細胞の写真である。これにより、本発明の技術によって培養される腸癌の腫瘍細胞(サンプル番号:OE(O)001)を第5継代まで培養した場合、細胞上の腸癌関連バイオマーカーの発現が、細胞が由来する元の組織切片と基本的に一致することを確認することができる。このことから、本発明の技術によって培養された細胞が、腸癌を有する患者の癌組織の元の病理学的特徴を維持することが示唆される。
【0061】
(3)継代培養後の腸癌の初代細胞の免疫蛍光特定
実施例2のCA-1培地を用いて、サンプルOE(O)001を細胞が85%以上に成長するまで培養し、500μLの0.05%トリプシン(Gibcoから購入)を添加して細胞を1分間洗浄した。トリプシンを除去した後、500μLの0.05%トリプシンを各ウェルに添加した。次いで、細胞が完全に消化されるまで、プレートを37℃、5%CO2のインキュベーターに2分間~10分間入れた。10%血清(Excell Bio、FND500)を含有する500μLのDMEM/F12培地を添加して、消化を停止させた。得られたものを1500rpmで4分間遠心分離し、上清を捨てた。得られたものを、500μLのCA-1培地を用いて再懸濁した。培養した腸癌の初代細胞を免疫蛍光染色によって特定した。
【0062】
培養した腸癌の初代細胞を細胞スライド(Thermo Fisherから購入)上に播種し、37℃、5%CO2のインキュベーター内で細胞が壁面に付着するまで培養した後、更に2日間~3日間培養した。
【0063】
細胞が底面積の80%を覆うまで増加した時点で培養培地を捨てた。得られたものをPBS(Shanghai Sangonから購入)で1回洗浄し、300μLの4%パラホルムアルデヒド(biosharp、BL539A)を添加した後、室温で20分間静置して細胞を固定した。得られたものをPBSで5分間洗浄し、3回繰り返した。続いて、PBS+0.3%Triton X-100(Shanghai Sangonから購入)を用いて、ブロッキング用の5%体積濃度のBSA(Shanghai Sangonから購入)溶液を調製した。ブロッキングは、37℃の水浴内で30分間行った。一次抗体希釈液(Beyotime、P0023A)を用いて抗体を希釈し、特異抗体であるki-67、CK20、CDX-2及びビリン(全てCSTから購入)を1:50の比率で希釈した。ブロッキング溶液を除去し、調製した一次抗体を添加した。スライドを4℃の冷蔵庫内で一晩インキュベートした。具体的には、CK20は、ほぼ全ての腸腺癌で発現され、結腸腺癌は、CDX-2(+)及びビリン(+)で特定された。
【0064】
翌日、スライドを4℃の冷蔵庫から取り出し、室温に平衡化した後、37℃で1時間インキュベートした。次いで、得られたものをPBSで5分間洗浄し、3回繰り返した。二次抗体希釈のために一次抗体希釈液を調製した。励起光488nmの蛍光二次抗体(Thermo Fisherから購入、種はウサギ又はマウスとした)を1:1000の比率で希釈し、暗所にて室温で1時間インキュベートし、PBSで5分間洗浄し、3回繰り返した。
【0065】
DAPI(Sigmaから購入)をPBSで1:1000の比率に希釈し、暗所にて室温で 5分間染色し、PBSで5分間洗浄し、3回繰り返した。顕微鏡(EVOS M500、Invitrogen)下でイメージングを行い、写真撮影し、記録した。
【0066】
図6は、サンプルOE(O)001からin vitroで培養した腸癌の初代細胞の免疫蛍光染色及び特定の結果を示し、蛍光を用いて20倍の対物レンズ下で撮影した写真である。
図6に示すように、ki-67、CK20、CDX-2及びビリンが発現されており、サンプルが結腸直腸腺癌細胞であることが示唆され、本発明の培地CA-1を用いて培養した初代細胞の診断結果は、腸癌組織の診断結果と一致していた。本発明の技術を用いて培養した細胞は、腸癌を有する患者の元の病理学的特徴を維持する。
【0067】
実施例5.腸癌の初代細胞の初期培養期間及び細胞数の統計、並びに集団倍加(PD)値の算出
実施例1の工程(2)-3に記載の方法に従い、4例の腸癌組織サンプル(番号OE0042、OE(E)003、OE(E)006、OE(O)001)から腸癌の初代細胞を得た。得られた腸癌の初代細胞を、実施例2のCA-1培地を用いて培養し、細胞をT25フラスコに2×104細胞/cm2の生細胞密度で播種し、培養した。95%まで増加させた後、細胞を消化し、計数した。同時に、消化までの培養日数を1培養期間として記録した。この実験条件下で細胞を連続培養し、得られた細胞を異なる継代まで増加させた。各継代を消化後に計数し、対応する培養期間を記録した。PD値は、集団倍加(PD)=3.32×log10(消化後の細胞の総数/播種細胞の初期数)の式に従って算出した。この式については、Chapman et al., Stem Cell Research & Therapy 2014, 5: 60を参照されたい。
【0068】
図7は、Graphpad Prismソフトウェアによって描画した、本発明の腸癌の初代細胞についての培養条件下での4例の初代細胞の成長曲線を示す。横軸は細胞培養日数を表し、縦軸は、培養期間中の細胞増加の倍数を表す累積細胞増殖倍数であり、値が大きいほど或る特定の期間内の細胞増加の倍数が大きく、すなわち、より多くの細胞が増加している。傾きは細胞増加の速度を表す。
図7から、本発明の培地CA-1を用いて腸癌の初代細胞を少なくとも80日間連続培養し、増加させた場合、細胞増加速度が実質的に変化しないままであり、連続増加能が依然として維持されることを確認することができる。
【0069】
実施例6.既存の培養培地との培養効果の比較
(1)培養培地の調製
文献の培地(非特許文献2)は、DMEM/F12培地+250ng/mlアムホテリシンB(Selleck)+10μg/mlゲンタマイシン(MCE)+0.1nMコレラ毒素+0.125ng/ml EGF+25ng/mlヒドロコルチゾン+10μM Y27632+10%FBSの配合を有する(以下、「LXF」培地と称する)。
【0070】
(2)腸癌の初代細胞の取得及び培養
腸癌の初代細胞は、実施例1の工程(2)-3に記載の方法に従い、術中組織サンプル(OE(E)003、OE0042)から得た後、栄養膜細胞を用いた場合及び用いない場合のそれぞれで培養した。
【0071】
栄養膜細胞を使用する場合、上記のLXF培地及び実施例2のCA-1培地をそれぞれ用いて、細胞を48ウェルプレートに3×104細胞/cm2(1ウェル当たり30000個の細胞)の生細胞密度で播種した後、γ線(放射線量30Gy)を照射したNIH-3T3細胞を2×104細胞/cm2の細胞密度で添加した。最後に、48ウェルプレートの各ウェルに対応する培養培地を500μLの容量まで添加し、得られたものを完全に混合した。表面消毒後にプレートを37℃、5%CO2のインキュベーター(Thermo Fisherから購入)に入れて培養した。細胞が48ウェルプレートの面積の85%以上を覆うまで成長した後、細胞を継代培養した。
【0072】
栄養膜細胞が存在しない場合、上記のLXF培地及び実施例2のCA-1培地をそれぞれ用いて、細胞を48ウェルプレートに3×104細胞/cm2(1ウェル当たり30000個の細胞)の生細胞密度で播種した後、48ウェルプレートの各ウェルに対応する培養培地を500μLの容量まで添加し、得られたものを完全に混合した。表面消毒後にプレートを37℃、5%CO2のインキュベーター(Thermo Fisherから購入)に入れて培養した。細胞が48ウェルプレートの面積の85%以上を覆うまで成長した後、細胞を継代培養した。
【0073】
培養7日目に48ウェルプレートを取り出し、培地を捨てた。100μLの0.05%トリプシン(Gibcoから購入)を用いて細胞を1回洗浄した。トリプシンを除去した後、200μLの0.05%トリプシンを各ウェルに添加した。プレートを37℃、5%CO
2のインキュベーターに10分間入れ、細胞を顕微鏡(CNOPTEC、BDS400)下で観察したところ、細胞が完全に消化されたことが示された。次いで、10%血清(Excell Bio、FND500)を含有する300μLのDMEM/F12培地を添加して、消化を停止させた。得られた20μLを細胞計数プレート(Countstar、仕様:50個/箱)に添加し、セルカウンター(Countstar、IC1000)で細胞の総数を計数した。計数結果を
図8A及び
図8Bに示す。
【0074】
図8A及び
図8Bに示す結果から分かるように、LXF培地と比較して、CA-1は、栄養膜細胞の有無に関わらず、腸癌の初代細胞の増加を有意に促進することができ、その効果は従来技術で使用されるLXF培地の効果よりも良好である。さらに、栄養膜細胞の存在下では(
図8B)、腸癌の初代細胞の増加に対する促進効果はより顕著である。
【0075】
実施例7.本発明の培養培地を用いて増加させることによって得られた腸癌の初代細胞の薬物スクリーニングへの使用
1.細胞培養及びプレーティング
実施例1に記載のものと同じ方法に従い、腸癌の初代細胞を腸癌の術中/内視鏡サンプル(OE(E)003、OE0042)から単離し、CA-1培地中で培養した。細胞をプレートの85%まで増加させた後、1継代として消化した後、継代培養した。細胞を消化し、実施例1に記載の工程に従って計数し、細胞を5.76×104細胞/mLの生細胞密度で負荷スロット(Corningから購入)に入れ、よく混合した。完全に混合した後、培養用の384ウェル乳白色細胞培養プレート(Corningから購入)に1ウェル当たり50μLの容量及び3000細胞/ウェルの細胞数で播種した。プレートの端からCA-1培地を添加することによってプレートを密閉し、サンプル名及びCellTiter-Glo(Promegaから購入)の試験時間をプレートに記入した。表面を75%アルコール(LIRCONから購入)で消毒し、得られたものを37℃、5%CO2のインキュベーター内で培養した。培養細胞の第1継代、第2継代、第3継代、第4継代、第5継代をそれぞれ薬物スクリーニングに選択し、本発明の培地を用いて培養した初代細胞の連続継代に対する薬物感受性を試験した。
【0076】
2.候補薬物の調製
7つの濃度勾配の2つの薬物(ダウノルビシン及びダサチニブ;どちらもMCEから購入)を以下の表に従って調製し、384ウェルプレート(Thermo Fisherから購入)に1ウェル当たり30μLの容量で添加し、使用のために保管した。
【0077】
【0078】
3.ハイスループット薬物負荷
調製した薬物プレートを取り出し、室温に置いた。
【0079】
プレートを遠心分離機(Beckman)内にて室温、1000rpmで1分間遠心分離した後、取り出した。ハイスループット自動化負荷システム(JANUS、Perkin Elmer)をハイスループット薬物負荷に使用した。腸癌の培養細胞が入った384ウェルプレートの各ウェルに、対応する濃度の候補薬物を0.1μL添加した。薬物の負荷後に384ウェルプレートの表面を消毒し、インキュベーターに入れ、72時間後に細胞生存性を測定した。
【0080】
4.細胞生存性の検出
CellTiter-Glo発光試薬(Promegaから購入)を4℃の冷蔵庫から取り出し、10mLの試薬を負荷スロットに添加し、試験用の384ウェルプレートをインキュベーターから取り出し、10μLのCellTiter-Glo発光試薬を各ウェルに添加した。10分間静置した後、多機能マイクロプレートリーダー(Envision、Perkin Elmer)を用いて試験を行った。
【0081】
5.データ処理
細胞阻害率(%)=100%-薬物負荷ウェルの化学発光値/対照ウェルの化学発光値×100%の式に従い、異なる薬物で処理した細胞の細胞阻害率を算出し、graphpad prismソフトウェアを用いて細胞に対する薬物の50%阻害濃度(IC
50)を算出した。結果を
図9A及び
図9Bに示す。
【0082】
本発明の腸癌の初代細胞用の培養培地によって培養した腸癌細胞を薬物スクリーニングに用いた場合、異なる継代の培養細胞に対する同じ薬物の阻害効果が実質的に同じままである(阻害曲線が実質的に一致している)ことを
図9A及び
図9Bから確認することができる。同じ患者からの細胞でも、ヒト身体における最大血中濃度での種々の薬物に対する感受性が異なる。この結果によると、腸癌を有する患者に対する臨床使用における薬物の有効性を決定することができ、同時に、本特許の培養方法に従って得られた異なる継代の腫瘍細胞の薬物に対する感受性が安定したままであることを確認することができる。
【産業上の利用可能性】
【0083】
本発明は、腸癌の初代細胞をin vitroで培養又は増加させるための培養培地及び培養方法を提供し、培養細胞を薬物の有効性評価又はスクリーニングに使用することができる。このため、本発明は産業上の利用に適している。
【0084】
本発明を本明細書において詳細に説明したが、本発明はこれに限定されず、当業者であれば本発明の原理に従って変更を加えることができる。したがって、本発明の原理に従って加えられたいかなる変更も、本発明の保護範囲に含まれると理解されるものとする。
【国際調査報告】