(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-02-01
(54)【発明の名称】空気流入用の前面開口部を備えたフェアリング付きモーターサイクル
(51)【国際特許分類】
B62J 17/10 20200101AFI20240125BHJP
B62J 17/00 20200101ALI20240125BHJP
B62J 23/00 20060101ALI20240125BHJP
B62J 41/00 20200101ALI20240125BHJP
【FI】
B62J17/10
B62J17/00
B62J23/00 A
B62J23/00 H
B62J41/00
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023546454
(86)(22)【出願日】2022-01-27
(85)【翻訳文提出日】2023-09-26
(86)【国際出願番号】 IB2022050706
(87)【国際公開番号】W WO2022162571
(87)【国際公開日】2022-08-04
(31)【優先権主張番号】102021000002006
(32)【優先日】2021-02-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】IT
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】515217546
【氏名又は名称】ピアッジオ エ チ.ソシエタ ペル アチオニ
(74)【代理人】
【識別番号】100194113
【氏名又は名称】八木田 智
(72)【発明者】
【氏名】デ ルカ,マルコ
(57)【要約】
フェアリング付きモーターサイクル(1)において、フェアリング(21)への前方からの空気の流入を促進するために、フェアリング(21)の前側部分に前側開口部(23)が設けられている。前側開口部(23)は、フェアリング自体に対して垂直方向への延びが小さくなっており、これにより、フェアリングの前側部分の上部領域は、モーターサイクル(1)の前方への移動によって生じる空気流(F)の直接流入を可能にするように開放されている。逆に、フェアリング(21)の前側部分の下側領域は、前側外面(31a)と後側内面(31b)とを有する空気力学的プロファイルを形成するカバー(31)によって閉じられており、このカバーは、下降する空気流を外側部分流(FA)と内側部分流(FB)とに分割する。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
フレーム(3)と、
フレームに設けられた内燃エンジン(7)と、
少なくとも一つの前側操舵輪(9)と、
後側駆動輪(13)と、
前記フレーム(3)を少なくとも部分的に覆う前側フェアリング(21)と
を備えたモーターサイクルであって、
・前側操舵輪(9)を覆うウィンドシールド(22)と、
・エンジン(7)を少なくとも部分的に挟み、モーターサイクル(1)の走行中にモーターサイクル(1)のドライバの範囲を超えて空気をそらすように構成された右側部分(21B)及び左側部分(21A)と、
・前記左側部分(21A)を右側部分(21B)に相互に接続し、エンジン(7)の下方に延在する、地面に面した底部分(34)と、
・ウィンドシールド(22)から下方に下降し、側面で左側部分(21A)及び右側部分(21B)に接合され、底面でフェアリング(21)の底部(34)に接合される前側部分とを備え、
前記前側部分が、モーターサイクル(1)の走行中にフェアリング(21)内に空気が入るように適合された前側開口部(23)を備え、該前側開口部(23)が縁部(25)で囲まれ、
前記前側部分が、前側開口部(23)を囲む縁部(25)から、フェアリング(21)の底部分(34)に向かってのびるカバー(31)を有し、該カバー(31)が、前側操舵輪(9)に向いた前側面(31a)と、エンジン(7)に向いた後側面(31b)を有し、
前記前側面(31a)及び後側面(31b)が前側開口部(23)の縁部(25)からフェアリング(21)の底部分(34)に向けて互いに対して拡がり、前側開口部(23)を囲む縁部(25)に沿った前縁部(31c)を有する空気力学的プロファイルを形成するようにされている
ことを特徴とするモーターサイクル。
【請求項2】
前記カバー(31)が、側面において前記フェアリング(21)の右側部分(21B)及び左側部分(21A)に接合され、底面において前記フェアリング(21)の底部分(34)に接合されている
ことを特徴とする請求項1に記載のモーターサイクル。
【請求項3】
前側開口部(23)が、前側開口部の上端(25A)から空気力学的プロファイルの前縁部(31c)まで下方に延び、
空気力学的プロファイルの前縁部(31c)が、前側開口部(23)の上端(25A)から、前側開口部(23)の上端(25A)とフェアリング(21)の底部分(34)との間の距離(H)の20%以上の距離(h)に配置されている
ことを特徴とする請求項1又は2に記載のモーターサイクル。
【請求項4】
空気力学的プロファイルの前縁部(31c)が、前側開口部の上端から、前側開口部(23)の上端とフェアリング(21)の底部分(34)との間の距離の90%以下、好ましくは80%以下の距離にある
ことを特徴とする請求項3に記載のモーターサイクル。
【請求項5】
前側開口部(23)が、フェアリング(21)の底部分(34)よりもウインドシールド(22)に近くなるように、前側部分の上部に配置されている
ことを特徴とする請求項1~4の何れか一項に記載のモーターサイクル。
【請求項6】
エンジン(7)の少なくとも一つの液体冷却剤を冷却するための少なくとも一つのラジエーター(19)を備え、
前記少なくとも一つのラジエーター(19)が、モーターサイクル(1)の前進方向前方を向いた前側面を有し、
前記少なくとも一つのラジエーター(19)が、モーターサイクル(1)の走行時に前側開口部(23)を通過する空気流(F)を受けるように前側開口部(23)の後方に配置されている
ことを特徴とする請求項1~5の何れか一項に記載のモーターサイクル。
【請求項7】
前記少なくとも一つのラジエーター(19)が、前記モーターサイクル(1)の前進方向に関して、少なくとも部分的に前記カバー(31)の後方に配置されている
ことを特徴とする請求項6に記載のモーターサイクル。
【請求項8】
前記カバー(31)の後側内面(31b)が、前記少なくとも一つのラジエーター(19)の前側面に対して実質的に直交する方向に従って、前記少なくとも一つのラジエーター(19)に接合されている
ことを特徴とする請求項6又は7に記載のモーターサイクル。
【請求項9】
前記カバー(31)の前側外面(31a)が、少なくとも部分的に凸状であり、空気力学的プロファイルの前縁部(31c)に対して前方に延びている
ことを特徴とする請求項1~8の何れか一項に記載のモーターサイクル。
【請求項10】
カバー(31)の後側内面(31b)が、少なくとも部分的に凹んでおり、エンジン(7)に向かって空気力学的プロファイルの前縁部(31c)に対して後方に傾斜している
ことを特徴とする請求項1~9の何れか一項に記載のモーターサイクル。
【請求項11】
カバー(31)の前側外面(31a)及び後側内面(31b)が、モーターサイクル(1)の前方への移動によって生成され、前側操舵輪(9)の周囲及び上を流れる空気流(F)を、カバー(31)の後側内面(31b)に沿って運ばれる後側部分流(FB)と、カバー(31)の前側外面(31a)に沿って運ばれる前側部分流(FA)とに分けるように構成されている
ことを特徴とする請求項1~10の何れか一項に記載のモーターサイクル。
【請求項12】
カバー(31)の前側外面(31a)が、フェアリング(21)の底部分(34)に当接接合し、モーターサイクル(1)の前方への移動中に、前側部分流(FA)が前側外面(31a)に沿って加速し、モーターサイクル(1)の接地力を高める圧力の減少を生じさせるように構成されている
ことを特徴とする請求項11に記載のモーターサイクル。
【請求項13】
前記カバー(31)の後側内面(31b)と前記少なくとも一つのラジエーター(19)との間にポケットが形成され、
前記ポケットが、モーターサイクル(1)の前進中に発生する後側部分流(FB)を集めて減速させ、モーターサイクル(1)の接地力を高める圧力の高めるように構成されている
ことを特徴とする請求項11又は12に記載のモーターサイクル。
【請求項14】
前記カバー(31)の前側外面(31a)が、モーターサイクル(1)の進行方向前方に向いた凸部を有するオージブ形状を有する
ことを特徴とする請求項1~13の何れか一項に記載のモーターサイクル。
【請求項15】
前側操舵輪(9)に面する前側部分を有するフェアリング(21)を備えたモーターサイクルであって、
フェアリングの前側部分の垂直方向延長部の上部に延びる前側開口部(23)と、
フェアリングの前側部分の垂直方向延長部の下部に延びるカバー(31)とを備え、
前記カバー(31)が、前側操舵輪(9)に向いた前側外面(31a)と、エンジン(7)に向いた後側内面(31b)とを有する空気力学的プロファイルを形成し、
前記前側外面及び後側内面がお互いに対して拡がり、
空気力学的プロファイルが、モーターサイクルの前進運動によって発生する下降する空気流を、外側部分流(FA)と内側部分流(FB)とに分割する
ことを特徴とするモーターサイクル。
【請求項16】
請求項2~14に記載の特徴のうちの一つ以上を含むことを特徴とする
請求項15に記載のモーターサイクル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水又は他の液体冷却剤で冷却され、フェアリングを装備したモーターサイクル、例えば、限定するものではないが、レース用モーターサイクルに関する。
【背景技術】
【0002】
高性能モーターサイクルは、典型的には、水又は水性混合物のような液体冷却剤で冷却される内燃エンジンを備えている。液体冷却剤を冷却するためのラジエーターは、通常、前輪とエンジンとの間に配置されている。特にレース用モーターサイクルでは、エンジンとモーターサイクルのフレームとは、少なくとも一部がフェアリングで囲まれていることが多い。フェアリングは、モーターサイクルの動きによって生じる空気流をラジエーターに入れるように、前面に開口を有する。
【0003】
特に、各サスペンション及びステアリングコラムを備えた前側操舵輪の存在による悪影響を低減する目的で、ラジエーター内での空気の流れを改善するために多くの努力が払われてきた。実際、これらの構成部品は、モーターサイクルの前方への動きによって発生する空気流がラジエーターに自由に流入するのを妨げている。
【0004】
例えば、W02020/115636には、前側操舵輪が、空気を横方向に流すためのシステムに関連付けられたモーターサイクルが開示されており、前記システムは、少なくとも部分的に前側操舵輪を囲み、モーターサイクルの前方移動によって発生する空気流を前方に集めて、ラジエーターの前面に向けて搬送する。
【0005】
このような改善努力にもかかわらず、モーターサイクルの重量を増加させたり、空気抵抗係数(CX係数)に悪影響を及ぼし得る部品をモーターサイクルやその周辺に追加したりすることなく、エンジンの効率や出力を向上させるために、エンジン、特に高性能モーターサイクルの冷却条件を改善する必要性が絶えず存在する。
【発明の概要】
【0006】
要するに、エンジンの前方への動きによって発生する空気流のフェアリングへの進入をより効率的にするため、例えば、フェアリングによって画定される容積内に配置されるラジエーターからの熱除去の条件を改善するために、フェアリングは、最高位置のポイントからフェアリングの底部分に達することなく下方に延びる前側開口部を有する前側部分を有するが、空気力学的プロファイルを画定する二つの分岐面によって画定される前面カバーを残している。より詳細には、前記カバーは、前側開口部の下、前側開口部とフェアリングの底部分との間、及びフェアリングの右側部分と左側部分との間に位置する。前記カバーは、車両の進行方向に面し、即ち、前側操舵輪の方を向いた前側外面を有する。また、カバーは、エンジンに面する後側内面を有する。
【0007】
前記後側内面と前記前側外面とは、空気力学的プロファイルの前縁部に沿って互いに接合され、前記前縁部は、前記フェアリングの前側開口を囲む縁に沿っており、前記前縁部を起点として下方、即ち、前記フェアリングの底部分に向かって拡がる。
【0008】
後側内面及び前側外面によって形成される空気力学的プロファイルは、モーターサイクルの前方への移動によって発生し、下方への速度成分を有する空気流を、前側外面及び後側内面に沿って空気力学的プロファイルを覆う二つの流れに分割する。これにより、走行中のモーターサイクルの地面との接地性という点で特に有利な条件が生み出され、また、フェアリング内部への空気の進入が容易かつ促進される。
【0009】
概して、フェアリングの内部容積に流入するこの空気流は、エンジンが液体及び/又は強制空気対流によって完全に、又は部分的に冷却されるという事実にかかわらず、冷却条件にプラスの効果をもたらす。
【0010】
しかしながら、特に有利な実施形態では、モーターサイクルは、エンジンで発生した熱を放散するための少なくとも一つのラジエーターを有する。前記ラジエーターは、潤滑油を冷却するためのラジエーターであってもよいし、水又は別の液体冷却剤、例えば水と不凍液又は同様の混合物を冷却するためのラジエーターであってもよい。一般的な用語として、本明細書では,液体冷却剤に言及するが、これは、ラジエーター内を循環し、エンジン内で発生する熱を放散することができる液状の任意の流体を意味する。したがって、液体冷却剤という用語は、本明細書では、任意に潤滑流体(潤滑油)も含む。
【0011】
モーターサイクルが、フェアリングの前側開口部の後方、即ち、前側開口部とエンジンとの間に、モーターサイクルの前進方向に対して直交するように配置されたラジエーターを有する場合、カバーは、ラジエーターの前面にほぼ平行な流路を画定する。フェアリングのカバーを形成する部分によって画定される空気力学的プロファイルは、流れ方向が下方に傾斜する空気流を遮断し、前記空気流を、前側外面を覆う前側部分流と、フェアリングに進入して内側放熱面に向かって送られる後側部分流とに分割する。少なくとも一つのラジエーターが設けられている場合、この後側部分流はラジエーターに向かって送られる。
【0012】
カバーの後方にラジエーターが存在する場合、カバーの空気力学的プロファイルによって生成され、前側操舵輪の周りの前方領域から来る後側部分流は、ラジエーターの前面の前に形成された流路に向かって、このラジエーターの前面と空気力学的プロファイルの後側内面との間に送られる。
【0013】
フェアリング内部を冷却する目的で空気の進入を促進し、改善することに加えて、カバーはさらなる利点を有することができる。特に、少なくとも一つのラジエーターがフェアリングの前側開口部の後方に配置され、少なくとも部分的にカバーによって覆われている場合、これは、前側操舵輪によって後方に投げ出された石やその他の破片によって引き起こされる偶発的な衝撃からラジエーターを機械的に保護する効果を達成する。
【0014】
さらに、前側操舵輪は、地面からの熱風をフェアリングの前側部分に向けて送り出す効果がある。この熱気の流れは、特に前側開口部のすぐ内側にラジエーターを設けた場合、熱交換効率を低下させる可能性がある。カバーは、この負の熱影響を低減する。
【0015】
モーターサイクルの更なる有利な特徴及び実施形態は、本明細書の一部をなす添付の特許請求の範囲に定義される。
本発明は、本発明の非限定的な実施例を示す説明及び添付図面に従うことにより、より良く理解される。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】一実施形態におけるモーターサイクルの側面図である。
【
図4】モーターサイクルの前側部分の側面図と、中央平面上の部分断面を示している。
【
図5】モーターサイクルの前側部分の斜視図である。
【
図6】モーターサイクルの後側下部の斜視図である。
【
図7】モーターサイクルの後側部分の側面図である。
【
図8】リアフォーク及び後側駆動輪の一部の水平面に沿った概略断面図である。
【
図9】フェアリングの下側部分の空気流によって生じる接地力を示すモーターサイクルの概略側面図である。
【
図10】別の実施形態における
図7に相当する側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本明細書では、特に特定しない限り、「上方」「下方」「頂部」「底部」「右」「左」「上側」「下側」「前側」「後側」「前」及び「後」の用語、及びモーターサイクルの要素若しくは構成部品又はその周囲の空気流の空間的位置を定義する類似の用語は、モーターサイクルが通常の乗車姿勢にある状態を参照する。また、「垂直」の語は、重力方向に平行な方向を示し、「水平」の語は、垂直方向に直交する方向を示す。
図2において、矢印L及びRは左右方向を示し、矢印U及びDは垂直上下方向を示す。
【0018】
非限定的な実施例を参照して以下に詳細に説明するように、前側操舵輪に面する前側部分を有するフェアリングを備えたモーターサイクルが提供される。前側部分は、フェアリングの前側部分の垂直延在部の上部に延在する前側開口部と、フェアリングの前側部分の垂直延在部の下部に延在するカバーを備えている。前記カバーは、前側外面と後側内面とを備え、該カバーは、モーターサイクルの前方への移動によって発生する下降空気流を、前側外面を覆う外側部分気流と、後側内面を覆う内側部分気流とに分割する。本明細書に記載される実施形態では、前側外面及び後側内面は、一緒に、フェアリングの前側開口部の周縁に沿って配置された前縁部を有する空気力学的プロファイルを形成する。
【0019】
添付の図面に示された実施形態を参照すると、モーターサイクル1はフレーム3を備え、該フレーム3にシート5及びエンジン7が固定されている。モーターサイクル1は、前方に前側操舵輪9を有し、前記前側操舵輪9は、ハンドルバー11に連結され、図示実施例ではフロントフォーク12を備えたサスペンションに関連付けられている。モーターサイクル1は、さらに後側駆動輪13を有し、該後側駆動輪13は、不図示の変速装置、例えば、チェーンを介してエンジン7に連結されている。後側駆動輪13は、リアフォーク17によって支持されており、前記リアフォーク17は、後側駆動輪13の回転軸線に平行なヒンジ軸線A(
図7)を中心にフレーム3に枢着されている。
【0020】
エンジン7は、液体冷却剤、例えば水によって冷却される。エンジン7から取り出された熱は、周囲環境に放散されなければならない。図示の実施形態では、この目的のために、典型的にはエンジン7と前側操舵輪9との間に取り付けられた少なくとも一つのラジエーター19が設けられている。図示の実施形態では、ラジエーター19は二つあり、例えば、一方のラジエーターは水(又は他の液体冷却剤)を冷却するためものであり、他方のラジエーターは潤滑油を冷却するためのものである。一般論として、モーターサイクル1は、例えば、冷却水用又は潤滑油用の単一のラジエーターを有することができ、又は、この実施例のように、冷却水用及び潤滑油用の二つのラジエーターを有することもできる。本明細書及び添付の特許請求の範囲では、液体冷却剤という用語は潤滑油も意味する。
【0021】
本明細書に記載されたフェアリングの特徴は、好ましくは、その主表面が車両の移動方向に対して直交するように配置された少なくとも一つのラジエーターを有するモーターサイクルにおいて特に有利であるが、空冷式モーターサイクル及び/又は一つ又は複数のラジエーターを異なる位置に備えたモーターサイクルにおいても幾つかの利点を得ることができる。「移動方向」とは、モーターサイクルのステアリングを切らない状態での移動方向、即ち直進方向を意味する。
【0022】
少なくとも一つのラジエーター19が設けられている場合、熱は、モーターサイクルの動きによって発生する空気流によって除去される。前記空気流は、ラジエーター19に接触して、ラジエーター19を通過し、液体冷却剤(水、オイル)が通過するダクトを覆う。図示の実施形態では、ラジエーター19は二つある。
【0023】
フレーム3及びエンジン7は、少なくとも部分的に前側フェアリング21によって保護されており、該前側フェアリング21は、ハンドルバー及び車載計器、並びに運転者を保護するための前側ウィンドシールド22を備えている。
【0024】
また、フェアリング21は、エンジン7を少なくとも部分的に挟む左側部分21A及び右側部分21Bを有し、モーターサイクル1が動いている時に、空気を、モーターサイクル1の運転者Gの範囲を超えてそらす構造になっている。符号34は、モーターサイクルが支持されている地面に面し、フェアリングの左側部分21Aと右側部分21Bとを結合するフェアリング21の底部分、即ち、下壁を示している。底部分34は、ラジエーター19の下方、かつ、モーターサイクル1のエンジン7の下方を通り、フェアリング21の前側部分から後側駆動輪13に向かって延びている。
【0025】
フェアリング21の前側部分は、ウィンドシールド22から、前輪操舵輪9の後方を通り、底部34まで延び、かつ、フェアリングの左側部分21Aと右側部分21Bとの間に延在している。前側部分は、縁部25によって囲まれた前側開口部23を有する。前面開口部23は、モーターサイクルの前方への移動によって発生する空気流を、エンジン7に向かってフェアリング内部に進入させる。少なくとも一つのラジエーターが存在する場合、空気流は、典型的には、フェアリング21の内部における前面開口部23の後方で、かつ、前面開口部23の縁部25とエンジン7との間に配置されたラジエーターに衝突する。
【0026】
前側操舵輪9及びフロントフォーク12は、フェアリング21の内側、特に、存在する場合には一つ又は複数のラジエーター19に向かう空気流の動きを妨げる障害物を形成する。
【0027】
冷却空気がラジエーター19に入ることを可能にする前側開口部23は、フェアリング21の前側部分全体に存在するのではなく、フェアリング21の底部34からウィンドシールド22に向かって延びる前面カバー31の存在により、フェアリングの前側部分の高さ方向延在部分の一部分だけ、フェアリング21におけるウィンドシールド22に隣接する最高位置のポイントからフェアリング21の底部まで延びている。モーターサイクルが開口部23の後方に配置された少なくとも一つのラジエーター19を有する場合、当該少なくとも一つのラジエーターの前面の少なくとも一部分が、フェアリング21によって形成された前面カバー31によって部分的に覆われる。このカバー31は、フェアリング21の前側部分の下部領域において、ポケット(
図3)を形成しており、このポケットは、ラジエーター19の前面、即ち、図示の実施例では下側のラジエーター19の、モーターサイクル1の進行方向を向く面を部分的に覆っているが、上側のラジエーター19は完全にフリーであり、即ち、その前面は、モーターサイクル1の前進方向とは反対方向に観察すると、前側開口部23から多かれ少なかれ完全に見えるようになっている。従って、前側開口部23を囲む縁部25は、ラジエーターの有効表面に対して完全に外側にあるのではなく、ラジエーター19の最低点よりも実質的に高い高さに位置する下部を有している。
【0028】
フェアリング21におけるラジエーター19のカバー31を形成する部分は、特に
図4に見られるように、本明細書では再び符号31で示される空気力的プロファイルを画定する。より詳細には、カバー31は、モーターサイクル1の前進方向(矢印FF)に対して前方を向いた前側外面31aを備えている。さらに、カバー31は、モーターサイクル1の前進方向とは反対方向を向き、従ってラジエーター19に面する後側内面31bを備える。前側外面31aと後側内面31bとは接合されて、前縁部31c(特に
図4参照)を形成し、前記前縁部31cは、前側開口部23を囲む縁部25の一部を形成する。
【0029】
図4を参照すると、符号25Aは、前側開口部23を囲む縁部25の最高点を示している。従って、符号25Aは前側開口部23の上端である。通常、この最高点25Aは、モーターサイクル1の垂直中央平面上に位置する。
図4において、符号Hは、フェアリング21の底部34からの前側開口部23の上端25Aまでの距離を示している。符号hは、前側開口部25の上端25Aと、カバー21によって形成される空気力学的プロファイルの誘導縁部31cとの間の距離を示している。距離hは、好ましくは距離Hの20%以上である。好ましくは、距離hは距離Hの80%以下である。例えば、距離hは距離Hの10%以上60%以下、好ましくは距離Hの20%以上50%以下、より好ましくは距離Hの20%以上50%以下、又は20%以上40%以下とすることができる。
【0030】
空気力学的プロファイル31、より正確にはその前側外面31aは、側面でフェアリング21の左側面部21A及び右側面部21B(
図2)に接合され、底面でフェアリング21の下壁、即ち、底部分34に接合される。好ましくは、前側外面31aは、側面部21A及び21B並びに底部分34に当接し、空気力学的な目的のために、角のない接合曲線を画定する。
【0031】
後側内面31bは、ラジエーター19の前面から一定の距離をおいて配置され、ラジエーター19とカバー31の後側内面31bとの間に、ラジエーター19の前面とほぼ平行な方向に空気流が入るための通路を形成する。
【0032】
側面図において、カバー31の前側外面31bは、主に凸状であり得るが、添付の図面に見られるように、前縁部31cに近い部分は凹状の形状を有し得る。実際には、幾つかの実施形態では、垂直中央平面に従ったフェアリング21の断面図において、前側外面31aは、順次、前縁部31cから始まって、第一の凹状部分と第二の凸状部分とを有するプロファイルを有する。凸状部分は、モーターサイクルのエンジンの下方に延在する下部フェアリング34の部分の下部外面に接合するまで下方に続いている。
【0033】
しかし、前側外面31aは主に(又は完全に)凸状、即ち前方を向いた凸状部分を有し、一方で、後側内面31bは主に(又は完全に)凹状、即ち後方を向いた凹状部分を有する。実質的に、モーターサイクル1の垂直中央平面と、カバー31を形成するフェアリングの部分との間の交点は、二つの曲線を画定し、一方は主に前方を向いた凸状であり、他方は主に後方を向いた凹状である。
【0034】
二つの表面31a及び31bは、前縁部31cに沿って互いに接合された二つの別個の金属板によって形成することができる。
【0035】
有利な実施形態では、側面図において、凸部を画定するカバー31の前側外面31aの部分は、フェアリング21のオージブ形状部分(ogival-shaped)又は球形状部分を形成して前方に突出しており、これにより、モーターサイクルの空気力学的抗力係数が低減される。
【0036】
前側外面31aは、フェアリングの底部分34の下側外面に接合し、前側外面31aとフェアリング21の下側外面とを覆う空気流の加速プロファイルを画定し、空気圧の減少を発生させ、走行中のモーターサイクルの接地力を増加させる。
図9では、この接地力を符号F1で示す。
【0037】
有利な実施形態では、カバー31によって形成される空気力学的プロファイルの後側内面31bは、前縁部31cから下方に延び、ラジエーター19に向かって後方に傾斜している。言い換えると、側面図において、モーターサイクル1の中央平面に沿った後側内面31bによって画定されるプロファイルは、前縁部31cからカバー31の下側部分、即ち、エンジン7の下方に延びるフェアリング21の底部分34に向かって、ラジエーターからの距離が減少する。モーターサイクル1が前進すると、後側内面31bの後方のフェアリング内容積に流入する空気流は、当該内面31bに沿って減速し、その結果、圧力が上昇し、これが接地力F1に寄与する。
【0038】
上述したカバー31の機能は、特に
図4に示されている。モーターサイクル1の前進中に、前側操舵輪9とフェアリング21の前側上部との間に空気流Fが発生し、この空気流Fは、前側泥除け35の上方及び下方の両方を流れることができ、下方に向いた成分を有する。空気流Fを形成する流体流の上部は、ラジエーター19を通過するように、ラジエーター19の前面に直交する高い速度成分で、ラジエーター19に直接衝突する。空気流Fを形成する流体流の下部は、下方に向けられた高い垂直速度成分を有する。下方に向けられた流れの部分は、前縁部31cにぶつかり、前側部分流FAと後側部分流FBとに分けられる。
【0039】
側面図において、前部部分流FAは、カバー31の前側外面31aを覆い、フェアリング31の底部分34と地面との間で分流され(矢印FC、
図4)、前側外面31a及びそれによって画定されるオージブ形状部分(ogival portion)に沿った加速度の結果として下方に向けられた力を発生させる。
【0040】
後側部分流FBは、カバー31の後側内面31bを覆い、後側内面31bとラジエーター19の前面との間に画定された流路を貫通し、後側部分流FBの下方に向けられた速度成分の結果としてラジエーター19の前面を覆う。後側部分流FBは、結果として生じる圧力の上昇に伴って減速され、ラジエーター19内を徐々に流れる。
【0041】
前側外面31a及び後側内面31bの空気力学的形状のプロファイルは、表面に沿った流体流の分離の危険性を制限し、したがって流体力学的挙動を改善する。
【0042】
ラジエーター19の前面とカバー31の後側内面31bとの間に形成されたフローポケット、即ち、流路における部分流FBの減速は、ラジエーター19を通る空気を押す。従って、部分流FBは、ラジエーター19からの熱の除去に効率的に寄与する。
【0043】
このようにして、前側操舵輪9とフェアリング21の上部との間に発生する空気流Fは、エンジン7の流体冷却剤を冷却するために最適に利用される。さらに、カバー31は、ラジエーターのような機械部材を損傷させる可能性のある石などの夾雑物や鋭利な物体の侵入からフェアリング21の内部を保護する。環境温度が非常に高い場合に、前側操舵輪9によって地面から汲み上げられる熱風の流入も低減され、その結果、エンジン7の冷却状態が改善される。
【0044】
添付図面、特に、
図1、
図7、
図8及び
図9に示された実施形態では、リアフォーク17は、後側駆動輪13の二つの支持アーム51を備えている。二つのアーム51は、リアフォーク17をモーターサイクルのフレームに連結するヒンジを画定するブロックを形成する接合構造体53によって互いに連結されている。
【0045】
接合構造体53は、後側駆動輪13に面する後側面55を有する。
図7及び
図9に特に示すように、側面図、正確には、モーターサイクル1の垂直中央平面に沿った断面図において、後側面55は、フェアリング21の後部分59に接合される下部を有する。フェアリングの後部分59は、フェアリング21の底部分34から上方に延び、地面及び後側駆動輪13に面している。
【0046】
実用的な実施形態では、後側面55は、側面図において、より正確には、モーターサイクル1の垂直中央平面に沿った断面図において、後側駆動輪13の外周面とほぼ平行な部分を有することができる。幾つかの実施形態では、
図7に示すように、二輪車の垂直中央平面に沿った後側面55の輪郭は、後側駆動輪13の輪郭とともに、後側駆動輪13と後側面55との間に発生する空気流の方向にわずかに収束する流路を画定するようにすることができる。
【0047】
実用的な実施形態では、モーターサイクル1の垂直中央平面において、接合構造体53の後側面55は、フェアリング21の後側部59に実質的に接する輪郭、即ち、曲線(
図7及び
図9に示す)を画定し、後側駆動輪13の外周面とともに空気拡散路を形成するようになっている。
【0048】
実際には、モーターサイクル1の垂直中央平面上で、フェアリング21の後側部59と接合構造体53の後側面55とは、後側部59と後側面55との移行領域において、その一次導関数が連続する曲線を形成する。
【0049】
このようにして、フェアリング21の後側部59及び接合構造体53の後側面55は、後側駆動輪13の周りの空気流のガイドプロファイルを画定する。
【0050】
幾つかの実施形態では、接合構造体53及びフェアリング21の後側部59は、例えばドライバGによる荷重の結果としての、又は地面の粗さ及び/又は動的効果によって引き起こされる動きの結果としての、軸線Aの周りのリアフォーク17の揺動運動にかかわらず、後側駆動輪13の周りの空気流の拡散通路を規定する表面の連続性を維持するように構成することができる。例えば、この目的のために、フェアリング21の後側部59及び接合構造体53の二つの相互に当接する表面は、相互に摺動可能に連結する領域を有し得る。
【0051】
図示の実施形態では、フェアリング21の後側部59は、フォーク17に面する上端縁部61(
図6)を有し、この上端縁部61は、前記フォーク17から間隔をあけて配置されている。さらに、上端縁部61には、リアフォーク17に面する切欠き63が設けられている。切り欠き63と相補的な形状のデフレクタ65が、リアフォーク17と一体に設けられている。リアフォーク17の角度位置では、デフレクタ65は切欠き63の内側とほぼ面一となり、実質的に連続した表面を形成する。リアフォーク17が前述の位置に対して軸線Aを中心に上方に回転すると、デフレクタ65はフェアリング21の後側部59から離れる方向に移動し、フェアリングの後側部59に隙間70を開かせ、その隙間の前にデフレクタ65が位置する。これにより、ノッチ63によって画定された隙間を通ってフェアリング21の内側から出る空気流のためのガイドプロファイルが形成され、この空気流れは、後側駆動輪13の外周面と接合構造体53の後側面55との間に画定された通路を強制的に通過する。
【0052】
このようにして、フェアリング21の後側部の周囲で、フォーク17の接合構造体53の後側面55と後側駆動輪13との間に、空気流のガイドが得られ、流れ状態が改善され、モーターサイクルの転動抵抗の増加を引き起こす渦度現象が低減され、また、流路内に案内される空気流の結果として、後側駆動輪13の冷却状態が最適化される。
【0053】
フェアリング21の後側部59の周囲の空気流が接合構造体53の後側面55に向かって加速されることにより、下方に向かう力を伴う空気力学的効果も生じ、モーターサイクル1の接地力が高まる(
図9の矢印F2)。
【0054】
リアフォーク17と一体であり、後側駆動輪13の回転軸線とリアフォーク17のヒンジ軸線Aとが横たわる平面の下に配置された上下逆エアフォイル67を用いると、前記接地力をさらに高めることができる。前記エアフォイル67は、それに沿って空気流が減速する高圧面が上方を向き、空気流が加速する低圧面が下方を向いているという意味で、上下逆になっている。前記エアフォイル67の前縁部は前方を向いており、後縁部は後側駆動輪13の方を向いており、かつ、モーターサイクル1の前進方向(矢印FF)に対して後側駆動輪13の前方に位置する。
【0055】
特に有利な実施形態では、後側駆動輪13に面する後側面71を有する後側泥除け69をリアフォーク17に固定することができる。側面図、特にモーターサイクル1の垂直中央平面に沿った断面図において、特に
図7に見られるように、後側泥除け69の後側面71は、接合構造体53の後側面55に対して実質的に当接することができる。実質的に、後側泥除け69の後側面71は、後側面55及びフェアリング21の後側部59と垂直中央平面との交差によって画定される輪郭の延長を形成する輪郭に沿って、モーターサイクル1の垂直中央平面と交差する。
【0056】
これにより、それに沿って空気流FEが案内されるモーターサイクル1のシートの下で、後側輪駆動輪1の上部領域まで達することができる、流路の延長部分の一部について、後輪駆動輪13の周囲に延びる流路が画定される。この流路は、モーターサイクル1の前進により発生する空気流FEを効率的に案内し、空気抵抗を低減し、後側駆動輪を効果的に冷却する。
【0057】
図10は、改良された実施形態の
図7と同様の図である。特に、この実施形態では、リアフォーク17の構造、特にその後側面55とフェアリング21の後側部59との組み合わせによって生成される空気流の効果を最適化することを目的とした解決策が提供される。
【0058】
図10に見られるように、後側駆動輪13のタイヤの外周面の周囲に延びるシールド100が、フォーク17の二つのアーム51の間に配置されている。
図10を見れば理解できるように、シールド100は、後側駆動輪13のタイヤの曲率に実質的に対応する三次元曲率を有する壁の形態とすることができ、当該タイヤのトレッドから一定の距離を置いて配置される。実際には、後側駆動輪13に面するシールド100の表面は、後側駆動輪13から好ましくは一定の距離で、後側駆動輪13の包囲を形成することができる。
【0059】
シールド100は、上側部分100aと下側部分100bとを有する。図示の実施形態では、上側部分100aは角度αに等しい角度延長を有し、下側部分100bは角度βに等しい角度延長を有する。幾つかの実施形態では、二つの部分100a及び100bの角度延長、従ってシールド100の全角度延長は固定され得る。以下に明らかにする目的のために、様々な走行条件にモーターサイクル1を適合させるために、異なる角度延長を有する一組のシールドを提供することができる。他の実施形態では、二つの部分100a及び100bは、他方に対して一方を移動可能にして、重なり合う範囲を大きく又は小さくし、その結果、その全角度延長を変化させることができる。この変化は、例えば、二つの部分100a及び100bを、一方を他方に対して可変角度位置で固定可能にすることによって、手動で制御することができる。より洗練された別の実施形態では、シールド100の角度延長は、サーボ補助システムを用いて、任意に、走行中に運転者Gがアクセス可能な制御手段によって、変更することができる。この目的のために、電動、空気圧又は油圧アクチュエータを設けることができる。また、ハンドルバー上に配置された操作部材、又は走行中に運転者がアクセス可能な操作部材による機械的な制御によって、シールド100の延長及び縮小を制御することも可能である。
【0060】
シールド100の機能は、その角度延長(a+P)に応じて、後側駆動輪13のタイヤをより大きく又はより小さく遮蔽することである。このようにして、後側駆動輪13のタイヤを多かれ少なかれ遮蔽することによって、タイヤの温度を調整することができ、即ち、フェアリング21の後側部59とリアフォーク17の後側面55とによって形成される流路内を搬送される空気流の結果として、タイヤの冷却効果を多かれ少なかれ付与することができる。
【0061】
シールド100の角度延長(a+P)は、走行状態、装着されたタイヤの種類、周囲温度、路面の種類などに応じて、(手動又はサーボ補助方式で)変更することができる。また、サーボ補助操作の場合、後輪の表面温度を検出する温度センサによって生成される温度信号に基づいて、シールド100の角度延長の制御を自動化することも可能である。
【0062】
さらに、雨の場合、シールド100は、リアフォークの後側面59と後側駆動輪13との間に流された雨水の流れが、走行中に後側駆動輪13に浸水するのを防止する。これにより、悪天候時のグリップ力が最大化される。
【国際調査報告】