(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-02-01
(54)【発明の名称】金属基板構造体、半導体パワーモジュール用の金属基板構造体の製造方法、および半導体パワーモジュール
(51)【国際特許分類】
H01L 23/12 20060101AFI20240125BHJP
H01L 23/62 20060101ALI20240125BHJP
H01L 23/13 20060101ALI20240125BHJP
H01L 23/14 20060101ALI20240125BHJP
【FI】
H01L23/12 F
H01L23/56 A
H01L23/12 C
H01L23/14 R
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023546491
(86)(22)【出願日】2022-01-21
(85)【翻訳文提出日】2023-09-26
(86)【国際出願番号】 EP2022051325
(87)【国際公開番号】W WO2022167231
(87)【国際公開日】2022-08-11
(32)【優先日】2021-02-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】519431812
【氏名又は名称】ヒタチ・エナジー・スウィツァーランド・アクチェンゲゼルシャフト
【氏名又は名称原語表記】HITACHI ENERGY SWITZERLAND AG
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ギヨン,ダビド
(72)【発明者】
【氏名】エルバー,ローマン
(72)【発明者】
【氏名】シュダーラー,ユルゲン
(72)【発明者】
【氏名】バイヤー,ハラルト
(57)【要約】
半導体パワーモジュール用の金属基板構造体(10)は、スタンピングによって形成された少なくとも1つの貫通凹部(14)を有する金属上層(11)と、金属下層(13)とを備える。金属基板構造体(10)は、金属上層(11)および金属下層(13)の両方と結合される誘電体層(12)とをさらに備え、誘電体層(12)は、金属上層(11)と金属下層(13)との間に成形によって形成される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体パワーモジュール用の金属基板構造体(10)であって:
- 少なくとも1つの貫通凹部(14)を有する金属上層(11)と、
- 金属下層(13)と、
- 前記金属上層(11)および前記金属下層(13)の両方と結合され、前記金属上層(11)と前記金属下層(13)との間に成形によって形成される誘電体層(12)と
を備え、
前記誘電体層(12)は、少なくとも1つの貫通凹部(14)内に延びるように成形され、
少なくとも1つの貫通凹部(14)内の溝(15)および/または前記金属上層(11)の外面(111)上に突出する前記少なくとも1つの貫通凹部(14)を通って延びるバリア(16)を形成するように、前記誘電体層(12)が成形されることを特徴とする、金属基板構造体(10)。
【請求項2】
前記少なくとも1つの貫通凹部(14)を含む前記金属上層(11)は、スタンピングによって形成される、請求項1に記載の金属基板構造体(10)。
【請求項3】
前記誘電体層(12)はエポキシおよび/またはセラミック系誘電体である、先行する請求項のいずれか1項に記載の金属基板構造体(10)。
【請求項4】
前記少なくとも1つの貫通凹部(14)は前記金属上層(11)の縁部(17)によって制限され、前記誘電体層(12)は、前記縁部(17)のうちの少なくとも1つを覆うように成形される、先行する請求項のいずれか1項に記載の金属基板構造体(10)。
【請求項5】
前記金属上層(11)および前記金属下層(13)のうちの少なくとも一方は、予め曲げられている、先行する請求項のいずれか1項に記載の金属基板構造体(10)。
【請求項6】
前記誘電体層(12)は、前記金属下層(13)から前記金属上層(11)に向かう積層方向(A)に対して、50μm~1000μmの厚さ(D2)を有するように成形される、先行する請求項のいずれか1項に記載の金属基板構造体(10)。
【請求項7】
前記金属上層(11)は、前記金属下層(13)から前記金属上層(11)に向かう積層方向(A)に対して、前記金属上層(11)の隣接領域の厚さ(D1)よりも大きい厚さを有する突出領域(18)を備える、先行する請求項のいずれか1項に記載の金属基板構造体(10)。
【請求項8】
半導体デバイス用の半導体パワーモジュール(1)であって:
- 先行する請求項のいずれか1項に記載の金属基板構造体(10)と、
- 前記金属基板構造体(10)の金属上層(11)と結合されている電子機器(2)と
を備えた、半導体パワーモジュール(1)。
【請求項9】
請求項1から7のいずれか1項に記載の半導体パワーモジュール用の金属基板構造体(10)の製造方法であって:
- 少なくとも1つの貫通凹部(14)を有する金属上層(11)を提供することと、
- 金属下層(13)を提供することと、
- ポンピング可能な物質を提供することと、
- 前記金属上層(11)と前記金属下層(13)とを、間に所定の間隔を空けて互いに対して位置合わせすることと、
- 位置合わせされた前記金属上層(11)と前記金属下層(13)との間に、前記提供された物質を入れ、それにより前記金属上層(11)および前記金属下層(13)の両方と結合された成形誘電体層(12)を形成することであって、前記提供された物質を入れる前記工程は:
前記少なくとも1つの貫通凹部(14)に所定の境界輪郭でキャビティを設けることを含み、
前記設けられたキャビティ内に前記提供された物質を入れ、前記少なくとも1つの貫通凹部(14)内に延びる溝(15)またはバリア(16)を有する前記成形誘電体層(12)を形成することを特徴とする、方法。
【請求項10】
少なくとも1つの貫通凹部(14)を有する前記金属上層(11)は、スタンピングによって形成される、請求項9に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、半導体パワーモジュール用の金属基板構造体、および半導体デバイス用の半導体パワーモジュールに関する。本開示はさらに、金属基板構造体の対応する製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の絶縁金属基板は、低絶縁要件および低耐熱性を同時に備えた低電力および中電力の半導体パッケージのための技術を形成している。米国特許第6570099B1号の文献には、第1のシート状絶縁体層、第2のシート状絶縁体層、および回路パターンとして機能するリードフレームを備えた熱伝導性基板が開示されている。第1の電気絶縁体層21は熱伝導性樹脂組成物で形成され、リードフレームに接合されている。
【0003】
EP1160861A2の文献は、電気絶縁シートの上面に設けられたリードフレームを開示している。絶縁シートの下面には放射プレートが取り付けられている。放射プレートの端部は、絶縁シートの周縁部の内側に配置されている。EP1909324A1、米国特許第6060150A号、特開2008 210920および特開2014 090103の文献に、さらなるリードフレームまたはパッケージ構造体が記載されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
この点に関して、高電圧パワーモジュール用途に信頼性の高い機能を備えた金属基板を提供することが課題である。
【0005】
望ましくは、高電圧パワーモジュール用途であっても信頼性の高い機能を可能とする、コスト削減となる半導体パワーモジュール用の金属基板構造体を提供する。半導体デバイス用の対応する半導体パワーモジュール、およびそのような金属基板構造体の製造方法を提供することがさらなる目的である。
【課題を解決するための手段】
【0006】
これらの目的は、独立請求項の主題によって達成される。さらなる発展および実施形態は従属請求項に記載されている。
【0007】
一実施形態によれば、半導体パワーモジュール用の金属基板構造体は、少なくとも1つの貫通凹部を有する金属上層を備える。金属基板構造体は、金属下層と、金属上層および金属下層の両方と結合され、金属上層と金属下層との間に成形によって形成される誘電体層とをさらに備える。誘電体層は、少なくとも1つの貫通凹部内に延び、少なくとも1つの貫通凹部内の溝および/または金属上層の外面上に突出する少なくとも1つの貫通凹部を通って延びるバリアを形成するように成形される。
【0008】
記載された成形金属基板構造体を使用することによって、例えば0.5kV~10.0kVの電圧範囲の高電圧パワーモジュール用途であっても信頼性の高い機能を可能とする半導体パワーモジュールが実現可能である。記載されている金属基板構造体は、所定のメタライゼーション構造および成形絶縁層を備えたパワーモジュール絶縁金属基板を提示する。
【0009】
メタライゼーションは、銅および/またはアルミニウムから構成されるフィルムおよび/またはシートであり得る金属上層によって形成される。これは、銅および/またはアルミニウムプレートとして形成され得る金属下層にも当てはまり得る。凹部を含む金属上層は、例えばスタンピングによって形成される。以下の説明では、金属基板構造体は主にスタンピングされ成形された金属基板に関して説明され、したがって「SMMS」と略した形で記載され得る。しかしながら、上部メタライゼーションの製造にも代替手段がある。代替的または追加的に、金属上層は、例えば、提供された金属シートのエッチングおよび/またはレーザ切削によって所定の構造を有するように形成される。
【0010】
少なくとも1つの凹部は、金属上層のメタライゼーションを形成するまとまった金属片を貫通する開口部を実現することができる。あるいは、少なくとも1つの凹部は、例えば、2つの別個の金属経路間の溝または自由体積を形成する。金属上層は、複数の凹部および/または溝をさらに備え、所定の金属パターンを形成してSMMSの上部に所望のメタライゼーションを準備することができる。
【0011】
その間の絶縁層は、成形された誘電体層によって実現される。SMMSの一実施形態によれば、誘電体層はエポキシおよび/またはセラミック系誘電体である。例えば、成形誘電体層は、セラミック充填材料、例えばエポキシ、Al2O3、AlN、BN、Si3N4またはSiO2を含む樹脂系誘電体材料を含む。例えば、誘電体層はフィラー入りエポキシである。誘電体層は、ビスマレイミド、シアネートエステル、ポリイミドおよび/またはシリコーンなどの、トランスファー成形、射出成形または圧縮成形に適した他の材料を主成分とすることもできる。代替的または追加的に、誘電体層は、セラミック材料および/もしくはハイドロセット材料、または前述の成分の2つ以上の材料の組み合わせを含むことができる。
【0012】
従来の絶縁金属基板が、低絶縁要件および低耐熱性を同時に備えた低電力および中電力の半導体パッケージのための技術を実現していることは本開示と関連する認識である。しかしながら、これらの絶縁金属基板は、一般に、高電圧パワーモジュール用途には適さない誘電体シート材料を備えている。一方では、現在入手可能な誘電体材料の絶縁能力は比較的低く、その結果、必要な絶縁層が比較的厚くなる。他方では、誘電体材料の熱伝導性は、厚い絶縁層を補うほど十分に高くないため、熱効率的な高電圧パワーモジュールの設計および開発を阻害している。
【0013】
さらに、従来の絶縁金属基板は、通常、絶縁層の上下に2枚の金属プレートを有するプリプレグシートで作製されている。典型的には、上面にCuが使用され、下部プレートにCuが使用される。メタライゼーションシートまたはプレートは、積層プロセスによって絶縁層に結合される。次いで、基板上面で必要とされるメタライゼーション構造は、導電性のCu金属を局所的に除去して最終的なメタライゼーション構造を作成するための、続くマスキングプロセスおよびエッチングプロセスの工程によって行われる。このような作製には多くの労力およびコストが必要であり、絶縁層の最大厚はプリプレグプロセスによって規定される。通常、絶縁層は100μmの厚さで、フィラーの分布は均一である。より厚い絶縁シートを実現するには、複数のプリプレグ層を一緒に積層する必要がある。
【0014】
記載されたSMMSおよび成形誘電体層によれば、金属下層から金属上層に向かう積層方向に対して、50μm~1mmの厚さを有する絶縁体が作成される。このように、コストを削減し、少ない労力で、依然として熱伝導性だけでなく有益な絶縁能力を可能にしながらSMMSを製造することができる。比較的厚い誘電体層は、十分な絶縁能力に寄与するのに有用である。成形された誘電体(molded dielectric)の厚さは、依然として有益な熱伝導性をもたらし、今日の絶縁プリプレグ材料の厚さの制限に関係なく製造することができる。
【0015】
さらに、記載されたSMMSを使用することにより、例えば、高電圧を確実に絶縁し、熱を半導体デバイスの冷却器に伝達するために、厚くて高価なAlNセラミック層を使用する必要がなくなる。加えて、SMMSは、誘電体層と、結合された上層および金属下層との有益なCTEマッチングを可能にする。ここで、CTEは熱膨張係数を表す。さらに、SMMSの誘電体層の成形は、所定の厚さの再現性およびサンプル間のばらつきに関して、従来のマスキングおよびエッチングよりも正確に行うことができる。成形誘電体層がエポキシ系材料であることにより、熱伝導性および絶縁能力の向上が実現可能であり、必要な材料の厚さの低減および/または熱抵抗の低減を実現でき、これらは共に熱的に有益な半導体パワーモジュールに寄与することができる。CTEの調整および熱伝導性の向上は、例えばフィラー入り樹脂の使用により制御可能である。
【0016】
例えば、少なくとも1つの凹部は金属上層の縁部によって制限され、誘電体層は、縁部のうちの少なくとも1つを覆うように成形される。このような縁部は通常、最も高い電界集中による部分放電のためのクリティカルエリアを形成する。誘電体層を金属上層と金属下層との間で、1つまたは複数の凹部内に成形することによって、そのようなクリティカルエリアは成形誘電体層の誘電体材料によって覆うことができる。このように、SMMSは、電界集中を抑制することによって、半導体パワーモジュールの安全で信頼性の高い機能に寄与することができる。SMMSのクリティカルエリアは、最終的な誘電体層媒体にすでに埋め込まれているため、さらなる絶縁媒体を適用することなく、未加工基板の部分放電試験を可能にする。
【0017】
誘電体層は、少なくとも1つの凹部内に溝を形成するように成形される。代替的または追加的に、別の凹部において、誘電体層は、金属上層の外面上に突出する凹部を通って延びるバリアを形成するように成形することができる。このようなバリアは、誘電体層の成形中に簡単に形成することができ、SMMSを含む半導体パワーモジュールの沿面距離の増大に寄与することができる。したがって、バリアは、沿面挙動を改善するように構成された突出部またはリブを形成することができる。沿面距離とは、非導電性表面に沿った金属上層の2つの導電性物体間の最短距離を示す。
【0018】
金属基板構造体のさらなる実施形態によれば、金属上層および/または金属下層は予め曲げられている。SMMSのこのような構成は、特定の用途に有用であり得る。金属上層と金属下層との間に成形された誘電体層もまた、対応する曲げられた側で弓状に曲げられるか、または曲げられる。
【0019】
金属基板構造体のさらなる実施形態によれば、金属上層は、金属下層から金属上層に向かう積層方向に対して、金属上層の隣接領域の厚さよりも大きい厚さを有する突出領域を備えている。金属上層は、同様に、2つ以上の突出領域を備えることができる。金属上層の厚さは、100μm~500μm、または最大2000μmの値を有することができる。金属上層が薄ければ薄いほどコスト削減に寄与する。金属上層が厚ければ厚いほど、有益な熱放散に寄与する。金属上層が突出領域を備える場合、そのような領域は、対応する半導体パワーモジュールの高さまで突出することができ、例えば、適用が望まれる場合、20mmの厚さを有することができる。
【0020】
さらに、実現可能なSMMSの幾何学的および材料的制約がさらにある。金属上層、誘電体層および金属下層は、矩形または正方形を構成することができ、記載されたSMMSの構造によれば、例えば、x方向および/またはy方向に100mm、120mmまたは140mmという比較的大きな辺の長さを有するものであっても製造することができる。この点に関して、x方向およびy方向は主要な平面の範囲に対応し、積層方向はz方向を表す。あるいは、SMMSは、34mmまたは20mm×30mmという小さな辺の長さを有して製造することもできる。
【0021】
金属上層を実現するSMMSの上面におけるメタライゼーションは、Cuおよび/またはAlを含むことができる。金属下層を実現するSMMSの下面のメタライゼーションも同様にCuおよび/またはAlを含むことができる。例えばUSW溶接のための、異なる上面のメタライゼーションパッドの厚さが実現可能である。さらに、SMMSは、予め弓状に曲げられた裏面のメタライゼーションを含むことができる。
【0022】
例えば50μm~1000μmの範囲の値で成形プロセスによって制御可能な誘電体層の厚さが提供される。さらに、誘電体層の材料を成形することにより、上面メタライゼーションパッド間にトレンチまたはリブを形成することができる。誘電体層は、1回の圧縮成形工程で最終的な金属基板構造体に圧縮成形することができ、追加のマスキング工程、エッチング工程および洗浄工程は必要とされない。これにより、半導体パワーモジュール設計の自由度を高めることができる。さらに、記載されたSMMSは、基板コストの低減と、歩留まりにとって重要なパラメータ(例えば部分放電)をチップ組立て前に試験する能力とを可能にする。
【0023】
一実施形態によれば、半導体デバイス用の半導体パワーモジュールは、記載された金属基板構造体の一実施形態と、金属基板構造体の金属上層と結合されている電子機器とを備える。半導体パワーモジュールは、金属基板構造体の金属下層と結合され、半導体パワーモジュールの動作中に熱を放散するヒートシンクをさらに備えることができる。このように、半導体パワーモジュールは、別個のヒートシンクを備えることができる。代替的または追加的に、金属基板構造体の金属下層は、ヒートシンク自体として機能することができ、例えば、有益な熱放散を行うためにリブまたは突出部を備えるように構成することができる。金属下層はさらに、半導体パワーモジュールのベースプレートとして機能することができる。
【0024】
さらに、半導体パワーモジュールは、上述の金属基板構造体の2つ以上の実施形態を含んでいてもよい。電子機器は、チップ、集積回路および/または他のデバイスの個々のデバイスを備えていてもよい。
【0025】
一実施形態によれば、半導体パワーモジュール用の、記載された金属基板構造体の一実施形態の製造方法は、少なくとも1つの貫通凹部を有する金属上層を提供することを含み、これは、例えば、スタンピング、エッチングおよび/または切削によって行ってもよい。本方法は、金属下層を提供することと、所定の材料特性を有するポンピング可能な物質を提供することとをさらに含む。ポンピング可能な物質は、形成される誘電体層の粘性原料である。したがって、一実施形態によれば、ポンピング可能な物質は、エポキシおよび/またはセラミック系の液体である。代替的または追加的に、原料は、金属上層および/または金属下層に関して、熱伝導性および/またはCTE調整を改善するために充填された無機フィラーを含んでいてもよい。
【0026】
本方法は、金属上層と金属下層とを、間に所定の間隔を空けて互いに対して位置合わせすることをさらに含む。この距離は、誘電体層の後の厚さを実質的に予め決定する。例えば、この位置合わせは、金属上層を剥離フィルムもしくはライナー、または他の固定具、例えば成形ツールのモールドチェイス内に配置することによって実現することができる。これにより、金属下層に対して金属上層の提供されたメタライゼーション構造を正確に位置決めすることが可能になり、例えば、金属上層が、動作の異なる電位による別個の金属パッドから構成される場合に有用であり得る。
【0027】
本方法は、位置合わせされた金属上層と金属下層との間に、提供された物質を入れ、それにより金属上層および金属下層の両方と結合された成形誘電体層を形成することを含む。成形は、例えば、圧縮成形、トランスファー成形および/または射出成形によって行うことができる。位置合わせのために剥離フィルムが使用される場合、これはその後メタライゼーションの上面から除去することができる。
【0028】
提供された物質を入れる工程は、少なくとも1つの凹部に所定の境界輪郭でキャビティを設けることと、設けられたキャビティ内に提供された物質を入れ、それにより少なくとも1つの凹部内に延びる溝またはバリアを有する成形誘電体層を形成することとを含む。キャビティは、成形ツールと金属上層との間に形成され、溝またはバリアの後の輪郭を予め決定する。金属上層に2つ以上の凹部がある場合、1つの凹部に溝を形成し、別の凹部にバリアを形成することができる。あるいは、2つの溝または2つのバリアを形成することもできる。
【0029】
記載された半導体パワーモジュールおよび記載された製造方法は、スタンピングされ成形された金属基板構造体の一実施形態を含むか、またはその製造に関連している結果として、SMMSの記載された特徴および特性は、半導体パワーモジュールおよび製造方法に関しても開示されており、その逆もまた同様である。
【0030】
SMMSは、0.5kV~10.0kVの絶縁能力の範囲で動作可能な半導体パワーモジュール用の特定の基板設計コンセプトを実現する。記載されたSMMSは、低電圧または中電圧の範囲で使用することもできる。記載されたSMMSは、スタンピング、エッチングおよび/または切削プロセスに基づくことができ、基板上面のメタライゼーション構造は、誘電体層への上部メタライゼーションの組立てプロセスの前に実現される。金属上層と金属下層とを接続する組立て工程は成形であり、これは射出成形、トランスファー成形および/または圧縮成形によって行うことができる。誘電体層の成形および形成は、追加のマスキングプロセスおよびエッチングプロセスを必要とすることなく、機能的な絶縁金属基板が直接得られる。
【0031】
金属上層のメタライゼーション構造は、時間のかかる化学的マスキング工程、エッチング工程および洗浄工程の代わりに、機械的スタンピングプロセスで簡単に実現できる。スタンピングプロセスは、対応する製造方法に含まれる工程を実現することができる。あるいは、スタンピングプロセスは異なる場所でおよび/または異なる時点に行われ、スタンピングされた金属上層は凹部構造を備える。さらに、誘電体層を成形するプロセスにより、最も高い電界集中が発生する領域は誘電体モールド材料で直接覆うことができる。
【0032】
スタンピングされ圧縮成形された金属基板構造体は、以下の利点の少なくとも1つを可能にし得る:
・従来の製造プロセスに比べて製造工程が少なく、製造コストを削減する
・金属廃棄物が少なく、スタンピング残渣は再利用可能である
・スタンピングプロセスは、従来のマスキング/エッチングプロセスに比べて安価である
・エッチングではなくスタンピングであることにより、サンプル間のばらつきが小さい
・基板設計の自由度が高い:
○絶縁誘電体層の厚さは、プリプレグIMS技術を用いた場合の従来の100~200μmの限界と比較して、容易に変えることができ、薄くすることも厚くすることもできる
○メタライゼーションの厚さを厚くすることができる(エッチングプロセスによる制限はない)
○1つの基板内でのメタライゼーションの局所的な厚さ変化が可能である
○エッチングに比べてスタンピングでは上部メタライゼーション縁部の幾何学的形状制御性が高いため、基板上面の異なる電位間に、より薄く再現性の高い絶縁距離を達成できる
・部分放電用のクリティカルエリア(電界集中が最も高い)が、最終的な誘電体媒体にすでに存在するため、さらなる絶縁媒体を適用することなく、未加工基板の部分放電試験を可能にする
・沿面距離は、モールド材料の溝および/またはバリアによって直接、モールドツール内で達成できるかまたは少なくとも拡大することができる
・プリプレグをメタライゼーションに取り付けるために接着剤の必要がなく、これはメタライゼーションと誘電体層との間の熱伝導性を低下させる
・圧縮成形工程の前に、ダイまたは端子接続の事前組立てが可能である
・従来の積層プロセスでは実現不可能であった、予め弓状に曲げられた裏面プレートの使用が可能である
金属上層と金属下層との間に誘電体層を形成する成形プロセスは、メタライゼーションパターンの縁部のブリードおよびモールドフラッシュにより容易に検出できる。このような成形されたエポキシ系誘電体層は、従来の金属基板とは異なる材料をさらに含む。
【0033】
本開示は、いくつかの態様を含み、態様のうちの1つに関して記載されるすべての特徴は、それぞれの特徴が特定の態様の文脈で明示的に言及されていなくても、他の態様に関しても本明細書に開示されている。
【0034】
例示的実施形態は、概略的図面および参照番号を用いて以下に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【
図1】半導体パワーモジュールの実施形態の図である。
【
図2】半導体パワーモジュール用の金属基板構造体の実施形態の図である。
【
図3】半導体パワーモジュール用の金属基板構造体の実施形態の図である。
【
図4】半導体パワーモジュール用の金属基板構造体の実施形態の図である。
【
図5】半導体パワーモジュール用の金属基板構造体の実施形態の図である。
【
図6】金属基板構造体の一実施形態のための製造プロセスの図である。
【
図7】金属基板構造体の一実施形態の製造方法のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0036】
添付の図面は、さらなる理解を提供するために含まれている。図面に示す実施形態は例示的表現であって、必ずしも縮尺通りに描かれていないことを理解されたい。同一の参照番号は、同一の機能を有する要素または構成要素を示す。要素または構成要素が、異なる図面においてその機能の点で互いに対応している限り、その説明は、以下の各図について繰り返されない。明確さを期して、すべての図において、要素が対応する参照符号とともに示されないことがある。
【0037】
図1は、半導体デバイス用の半導体パワーモジュール1の一実施形態の側面図を示す。半導体パワーモジュール1は、金属基板構造体10と、金属基板構造体10と結合された電子機器2と、同様に金属基板構造体10と結合されたヒートシンク3とを備える。図示された積層方向Aに関して、電子機器2はスタンピングされた金属上層11と結合されており、ヒートシンク3は金属基板構造体10の金属下層13と結合されている。金属基板構造体10は、金属上層11と金属下層13との間に形成された成形誘電体層12をさらに備える。金属基板構造体10は、スタンピングされ成形された要素により、「SMMS」と略した形で記載され得る。
【0038】
金属上層11および金属下層13は、両方とも金属からなるか、または少なくとも銅および/もしくはアルミニウムなどの金属を含む。代替的な熱伝導性および/もしくは電気伝導性材料、または材料の組み合わせを代わりに使用することもできる。誘電体層12は、例えばフィラー入りエポキシである。フィラーはセラミック状であっても、または他の無機フィラーで実現されてもよい。代替的または追加的に、誘電体層12は、Al2O3、AlN、BN、Si3N4、SiO2などのセラミック系絶縁層を構成する。誘電体層12は、ビスマレイミド、シアネートエステル、ポリイミドおよびシリコーンなどのトランスファー成形および圧縮成形に適した他の材料を主成分とすることもでき、またはハイドロセット材料などのセラミック材料を主成分とすることもできる。このように、SMMS10は、構成されたスタンピング上面メタライゼーション、金属裏面プレート、および間に成形された誘電体絶縁層を有する絶縁金属基板を実現する。金属上層11のパッドは、リード4を介して電子機器2のコンポーネントに接続されている。
【0039】
図示された半導体パワーモジュール1は、ゲル充填パワーモジュールを実現することができ、電子機器2、またはSMMS10の上面全体もしくはそれよりも多くが、エポキシおよび/またはゲル封入に埋め込まれている。このような封入は、例えば、SMMS10の製造後に成形することによって行うことができる。
【0040】
図2~
図5は、SMMS10の実施形態を概略側面図で示す。
図2では、所定の方法で誘電体層12を成形することにより充填される2つの貫通凹部14を備えたスタンピングされた金属上層11を含む金属基板構造体10を示す。誘電体層12は、凹部14内に延びるように成形され、一方の凹部14内には誘電体溝15が形成され、他方の凹部14内には誘電体バリア16が形成されている。バリア16は、対応する凹部14を通って延び、金属上層11の外面111上に突出している。バリア16の突出部はリブと名付けることができる。
【0041】
溝15およびバリア16は、1回の成形プロセスで誘電体層12と一体形成され、対応する凹部14を制限する金属上層11の縁部17を覆う。縁部17は一般に、最も高い電界集中に対応する部分放電のためのクリティカルエリアである(
図3および図示された雷の符号参照)。SMMS10によれば、これらのエリアは誘電体層12の最終媒体によってすでに覆われている。さらに、未加工基板の部分放電試験は、さらなる絶縁媒体を適用なしに可能である。このように、最も高い電界集中は、誘電体層12の材料内にすでに埋め込まれている。さらに、成形ツール内の沿面距離は、溝15および/またはバリア16を形成することにより直接増大させることができる。
【0042】
SMMS10の複数の層11、12および13は、積層方向Aに関してそれぞれの厚さD1、D2およびD3を有する。メタライゼーション金属上層11は、100~500μmの値の範囲内、または熱放散の向上が望まれる場合には最大2000μmの厚さD1を有することができる。さらに、金属上層11は、同様に異なる厚さを有することができる(
図4参照)。例えば、金属上層11は、500μmの厚さの突出領域18を備え、金属上層11のより薄い隣接領域は100μmの厚さを有する。
【0043】
誘電体層12の厚さD2は、50μm~1000μmの範囲内の値を有することができ、これは、間に誘電体を成形する前に、単に金属上層11と金属下層13との間の所与の距離により予め決定することができる。
【0044】
金属下層13の厚さD3は、半導体パワーモジュール1のヒートシンク3への確実な熱放散を可能にするために、所定の値を有することができる。金属下層13は、SMMS10のベースプレートを実現し、例えば、0.5mm~5.0mmの厚さD3を有することができる。
【0045】
さらに、横方向Bに関して、凹部14の幅、したがって溝15および/またはバリア16の最大幅は、縁部17および凹部14のそれぞれの大きさを形成する所与のスタンピングツールおよび対応する突出部により予め決定することができる。例えば、溝15または凹部14内のトレンチの幅または厚さは、対応する凹部14を制限する対向する縁部17間の距離の0.1~0.9倍の相対値を有することができ、これは、金属上層11の2つの隣接する金属パッド間の距離に対応する。溝15の深さは、金属上層11の厚さD1に等しくてもよい。あるいは、溝15の深さはさらに大きくすることができ、誘電体層12の厚さD2を部分的にさらに含むことができる。
【0046】
例えば、凹部14内のバリア16またはリブの幅または厚さは、対応する凹部14を制限する対向する縁部17間の距離の0.1~1.0倍の相対値を有することができる。また、金属上層11のメタライゼーションパッド間には、1つまたは複数のいくつかの溝/トレンチおよび/またはバリア/リブが存在し得る。バリア16のリブは、例えば0.1~5.0mmの高さを有する。同様に、溝15の深さは、例えば0.1~5.0mmの値を有することができる。リブおよび/または溝15は、矩形、半球形または三角形の形状を構成することができる。代替的または追加的に、金属上層11の上部メタライゼーションパッドの縁部領域は特に、誘電体層12の材料でオーバーモールドすることができる。
【0047】
さらなる実施形態によれば、SMMS10は、予め曲げられた金属上層11および/または金属下層13を設けることによって曲げて形成することができる(
図5参照)。成形により、誘電体層12は、金属上層11と金属下層13との間の所与の自由体積に形成される。
【0048】
図6は、SMMS10の一実施形態を製造するための3つの製造状態を示す。対応する製造方法の工程は、
図7に示すフローチャートに従うことができる。工程S1では、後の金属上層11を形成するために未加工シート19が提供される。さらに、金属下層13を、後の誘電体層12を形成するための液状または粘性の原料を実現する所定の材料特性を有するポンピング可能な物質と同様に提供することができる。
【0049】
工程S2では、未加工シートは、例えば、凹部14および突出領域18を形成するために用意された突出部を有するスタンピングツールを使用してスタンピングされる。代替的または追加的に、このようなスタンピングプロセスでも別個の金属パッドをスタンピングすることができる。
【0050】
工程S3では、スタンピングされた金属上層11と、提供された金属下層13とが、間に所定の間隔を空けて互いに対して位置合わせされる。これは、例えば、剥離フィルムを使用することによって行うことができ、この剥離フィルムには金属上層11の提供されたメタライゼーション構造が組み付けられる。その後、このような金属上層剥離フィルムユニットは提供された金属下層13に対して相対的に配置することができ、例えば、金属上層11は金属下層13に面している。
【0051】
工程S4では、提供された物質は、位置合わせされた金属上層11と金属下層13との間の自由体積に入れられ、それにより誘電体層12の成形が処理される。誘電体層12の形成は、射出成形、トランスファー成形、および/または圧縮成形によって行うことができ、対応する凹部14を通って延びる1つまたは複数の溝15および/またはバリア16の形成を含むことができる。例えば、これは、凹部14の領域に成形ツールおよび金属上層11によって制限されたそれぞれのキャビティを設けることによって行われる。次いで、提供された物質は、トレンチ、溝15、バリア16および/またはリブを形成するために、そのようなキャビティに入れられる。
【0052】
したがって、半導体パワーモジュール1用の金属基板構造体10の一実施形態は、金属上層11を実現するスタンピングされた金属プレート上面、誘電体層12を実現するエポキシ系絶縁体、および金属下層13を実現する金属プレート下面からなるように製造することができる。金属上層11は、1つの凹部14と、複数のパッドを含む上面メタライゼーションとを少なくとも備える。このような金属パッド間の空間には、誘電体層12の誘電体材料を充填することができる。空間を充填する誘電体材料は、上部メタライゼーションと下部メタライゼーションとの間の誘電体層12のうちの1つと同じ絶縁材料である。実施形態によれば、誘電体層12は、バンプまたはトレンチを有して成形され、構造化され得る。金属基板構造体10の製造は、追加のマスキングプロセスおよびエッチングプロセスなしに、下部金属プレート上にスタンピングされた上部メタライゼーションを成形することによって、単一工程で製造することができる。
【0053】
したがって、半導体パワーモジュール1の設計は、以下のうちの1つまたは複数を含むことができる:
・絶縁基板:
○横方向B(x方向および/またはy方向に対応する)の辺の長さが最大100mm、120mmまたは140mmの1つの大型SMMS10
○上面に集積回路メタライゼーションを有する誘電体モールド材料
○無機材料が充填された樹脂製の絶縁材料および回路メタライゼーションを含む金属プレート
・拡散はんだ付け、焼結、または接着のような他の適切な接合方法によってSMMS10に接合されたチップ
・はんだ付け、超音波溶接、または他の適切な接合方法によってSMMS10に接合された主端子
・はんだ付け、超音波溶接、ワイヤボンディング、または他の適切な接合方法によってSMMS10に接合された補助端子
・裏面メタライゼーション:
○銅、アルミニウム、または対応する合金もしくは複合材料から作られたSMMS10の金属下層13
○平坦な裏面または予め弓状に曲げられた裏面を有するSMMS10の金属下層13
誘電体層12および金属裏面プレートに圧縮成形された、スタンピングされた上部メタライゼーションに基づく基板を有する、説明されたSMMS10および中~高電圧レジーム(例えば0.5~10.0kVの絶縁能力)用の半導体パワーモジュール1を、すべて一工程で実現することは、従来の基板設計と比較して、いくつかの潜在的な製品改良をもたらす。加えて、上述した特徴は、とりわけ以下の利点を可能にする:
・電圧クラスおよび用途に基づく絶縁誘電体層12の厚さD2の最適化
・圧縮モールド材料のCTE(熱膨張係数)を金属上層11および/または金属下層13のCu/Alに合わせて調整することができ、CTEミスマッチが減少するため、パワーサイクル能力が向上した半導体パワーモジュール1。
【0054】
・薄い誘電体層12により、SMMS10は、例えば、均一な品質を考慮すると困難な高価なAlN層を含む従来の設計と比較して、コスト削減しながら、より大きなサイズで、必要な製造工程をより少なくして実現することができる。
【0055】
・圧縮成形工程前にダイおよび/または端子の可能な事前組立てにより、チップおよびチップアセンブリは「個々に」または少なくともパワーモジュール全体としてより小さなアセンブリで事前に試験し、選別することができる。
【0056】
・誘電体層12のエポキシ材料内の最も高い電界集中により、SMMS10は、CO2などの特別な環境なしに、ダイが取り付けられる前に部分放電の観点から事前に試験を行うことができ、半導体パワーモジュール1の最終的な部分放電試験と同等になる(従来の設計に鑑みると、部分放電は、将来のシリコーンゲルを「シミュレート」する6barのCO2環境下において基板レベルで測定される)。
【0057】
記載された
図1~
図7に示す実施形態は、改良された金属基板構造体10、半導体パワーモジュール1、およびその製造方法の例示的な実施形態を表すものであり、したがって、すべての実施形態の完全なリストを構成するものではない。実際の配置および方法は、例えば、金属基板構造体およびパワーモジュールに関して示された実施形態とは異なっていてもよい。
【符号の説明】
【0058】
符号の説明
1 半導体パワーモジュール
2 電子機器
3 ヒートシンク
4 リード
10 金属基板
11 金属基板の金属上層
111 金属上層の外面
12 金属基板の誘電体層
13 金属基板の金属下層
14 スタンピングされた凹部
15 成形された溝
16 成形されたバリア
17 金属上層縁部
18 金属上層の突出領域
19 未加工シート
A 積層方向
B 横方向
D1 金属上層の厚さ
D2 誘電体層の厚さ
D3 金属下層の厚さ
S(i) 半導体パワーモジュール用の金属基板構造体の製造方法の工程
【国際調査報告】