(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-02-01
(54)【発明の名称】生体材料を解凍および蘇生するためのシステムおよびその方法
(51)【国際特許分類】
C12N 1/04 20060101AFI20240125BHJP
C12N 5/00 20060101ALI20240125BHJP
C12M 1/00 20060101ALI20240125BHJP
【FI】
C12N1/04
C12N5/00
C12M1/00 A
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023546505
(86)(22)【出願日】2022-01-17
(85)【翻訳文提出日】2023-07-31
(86)【国際出願番号】 CN2022072245
(87)【国際公開番号】W WO2022161195
(87)【国際公開日】2022-08-04
(31)【優先権主張番号】202110136270.5
(32)【優先日】2021-02-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】523290274
【氏名又は名称】深▲セン▼拜爾洛克生物技術有限公司
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】陳昊楠
(72)【発明者】
【氏名】李徳▲スム▼
【テーマコード(参考)】
4B029
4B065
【Fターム(参考)】
4B029AA27
4B029BB11
4B029BB12
4B065BD09
4B065BD12
(57)【要約】
本発明は、キャリア、ベセルおよびチップを備える、生体材料を解凍および蘇生するためのシステムおよびその方法を開示する。キャリアの先端近傍には、解凍が必要な生体材料および凍結保護剤が収容されている溝が設けられており、ベセルには、油相解凍液が入っており、油相解凍液がキャリアの溝を被覆するように、キャリアの溝に油相解凍液を含浸させ、生体材料に対して解凍・復温を行い、チップは凍結保護剤および/または基礎培養液を含む化学薬品が封入され、キャリアを油相解凍液から移し、キャリアを被覆するようにし、チップをキャリアに対して移動させ、化学薬品を溝に全体を被覆するように接触させることによって、溝から凍結保護剤を除去する。本願は、解凍および蘇生プロセス全体を効果的に標準化および自動化し、効果的な品質管理を実現し、処理効率を向上させ、スタッフトレーニングを軽減することができる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
先端近傍には、解凍が必要な生体材料および凍結保護剤が収容されている溝が設けられているキャリアと、
含浸させている前記キャリアの溝を被覆し、前記生体材料に対して解凍・復温を行うための油相解凍液が入っているベセルと、
凍結保護剤および/または基礎培養液を含む化学薬品が封入され、前記キャリアに対して移動させ、前記化学薬品を前記溝に全体を被覆するように接触させることによって、前記溝から凍結保護剤を除去するチップとを含むことを特徴とする
生体材料を解凍および蘇生するためのシステム。
【請求項2】
前記化学薬品に含まれている凍結保護剤は、非透過性凍結保護剤であることを特徴とする
請求項1に記載のシステム。
【請求項3】
前記化学薬品は、ヒドロゲル状で作製される解凍液、希釈液および洗浄液を含み、前記チップには、解凍液ヒドロゲル、希釈液ヒドロゲルおよび洗浄液ヒドロゲルを順次埋め込むための区画が複数設けられ、各区画の被覆面積が前記溝の開口面積よりも大きく、前記チップが前記キャリアに対して移動すると、前記解凍液ヒドロゲル、前記希釈液ヒドロゲルおよび前記洗浄液ヒドロゲルが前記溝の上に順次移動し、該溝に全体を被覆するように順次接触することを特徴とする
請求項2に記載のシステム。
【請求項4】
前記化学薬品は、溶液状の解凍液、希釈液および洗浄液を含み、前記チップは、溶液状の解凍液、希釈液および洗浄液を支持し、有孔フィルム、グリッド、透析膜、または水溶性フィルムである透過性フィルムが設けられていることを特徴とする
請求項2に記載のシステム。
【請求項5】
前記チップが前記キャリアに対して移動する前に、前記化学薬品は、前記キャリアの溝を被覆せず、前記キャリアの一部エリアを被覆し、前記キャリアの溝との間にクリアランス距離を有することを特徴とする
請求項3または4に記載のシステム。
【請求項6】
中央領域が、前記キャリアを配置するために使用され、長さ方向に互いに平行な2本のトラックが設けられ、前記トラックが、前記チップをその下面が前記キャリアの上面に接触したままとなるように支持固定させるベースをさらに含むことを特徴とする
請求項3または4に記載のシステム。
【請求項7】
解凍が必要な生体材料および凍結保護剤が収容されている第1のキャリアと、
含浸させている前記第1のキャリアを被覆し、前記生体材料に対して前記第1のキャリアから剥離するように解凍・復温を行うための解凍液が入っているベセルと、
先端近傍に、第1の希釈液が収容されている溝が設けられている第2のキャリアと、
前記生体材料を前記第2のキャリアの溝に移送するための毛細管と、
凍結保護剤および/または基礎培養液を含む化学薬品が封入され、前記第2のキャリアに対して移動させ、前記化学薬品を前記第2のキャリアの溝に全体を被覆するように接触させることによって、前記溝から凍結保護剤を除去するチップと
を含むことを特徴とする
生体材料を解凍および蘇生するためのシステム。
【請求項8】
前記化学薬品に含まれている凍結保護剤は、非透過性凍結保護剤であることを特徴とする
請求項1に記載のシステム。
【請求項9】
前記化学薬品は、ヒドロゲル状で作製される第2の希釈液および洗浄液を含み、前記第2の希釈液に含まれている非透過性凍結保護剤は、前記第1の希釈液に含まれている非透過性凍結保護剤よりも低い濃度を有し、前記チップには、第2の希釈液ヒドロゲルおよび洗浄液ヒドロゲルを順次埋め込むための区画が複数設けられ、各区画の被覆面積が前記溝の開口面積よりも大きく、前記チップが前記キャリアに対して移動すると、前記第2の希釈液ヒドロゲルおよび前記洗浄液ヒドロゲルが前記溝の上に順次移動し、該溝に全体を被覆するように順次接触することを特徴とする
請求項8に記載のシステム。
【請求項10】
前記化学薬品は、含まれている非透過性凍結保護剤が前記第1の希釈液に含まれている非透過性凍結保護剤よりも低い濃度を有する溶液状の第2の希釈液と、洗浄液とを含み、前記チップは、溶液状の第2の希釈液および洗浄液を支持し、有孔フィルム、グリッド、透析膜、または水溶性フィルムである透過性フィルムが設けられていることを特徴とする
請求項8に記載のシステム。
【請求項11】
前記チップが前記第2のキャリアに対して移動する前に、前記化学薬品は、前記第2のキャリアの溝を被覆せず、前記第2のキャリアの一部エリアを被覆し、前記第2のキャリアの溝との間にクリアランス距離を有することを特徴とする
請求項9または10に記載のシステム。
【請求項12】
中央領域が、前記第2のキャリアを配置するために使用され、長さ方向に互いに平行な2本のトラックが設けられ、前記トラックが、前記チップをその下面が前記第2のキャリアの上面に接触したままとなるように支持固定させるベースをさらに含むことを特徴とする
請求項9または10に記載のシステム。
【請求項13】
先端近傍に、解凍が必要な生体材料および凍結保護剤が収容されている溝が設けられているキャリアを提供すること、
油相解凍液が前記キャリアの溝を被覆するように、前記キャリアの溝に前記油相解凍液を含浸させ、前記生体材料に対して解凍・復温を行うこと、
凍結保護剤および/または基礎培養液を含む化学薬品が封入されるチップを提供すること、
前記キャリアを前記油相解凍液から移し、前記キャリアを前記チップに覆わせること、
前記チップが前記キャリアに対して移動させ、前記化学薬品を前記キャリアの溝に全体を被覆するように接触させることによって、前記溝から凍結保護剤を除去すること、
を含むことを特徴とする
生体材料を解凍および蘇生するための方法。
【請求項14】
前記化学薬品に含まれている凍結保護剤は、非透過性凍結保護剤であることを特徴とする
請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記チップが前記キャリアに対して移動する前に、前記化学薬品は、前記キャリアの溝を被覆せず、前記キャリアの一部エリアを被覆し、前記キャリアの溝との間にクリアランス距離を有することを特徴とする
請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記化学薬品は、ヒドロゲル状で作製される解凍液、希釈液および洗浄液を含み、前記チップには、解凍液ヒドロゲル、希釈液ヒドロゲルおよび洗浄液ヒドロゲルを順次埋め込むための区画が複数設けられ、各区画の被覆面積が前記溝の開口面積よりも大きく、前記チップが前記キャリアに対して移動すると、前記解凍液ヒドロゲル、前記希釈液ヒドロゲルおよび前記洗浄液ヒドロゲルが前記溝の上に順次移動し、該溝に全体を被覆するように順次接触することを特徴とする
請求項14に記載の方法。
【請求項17】
前記化学薬品は、溶液状の解凍液、希釈液および洗浄液を含み、前記チップは、溶液状の解凍液、希釈液および洗浄液を支持し、有孔フィルム、グリッド、透析膜、または水溶性フィルムである透過性フィルムが設けられていることを特徴とする
請求項14に記載の方法。
【請求項18】
解凍が必要な生体材料および凍結保護剤が収容されている第1のキャリアを提供すること、
解凍液が前記第1のキャリアを被覆するように、前記第1のキャリアに前記解凍液を含浸させ、前記生体材料に対して解凍・復温を行うこと、
先端近傍に、第1の希釈液が収容されている溝が設けられている第2のキャリアを提供すること、
前記生体材料を前記第2のキャリアの溝に移送すること、
凍結保護剤および/または基礎培養液を含む化学薬品が封入され、前記第2のキャリアを被覆するチップを提供すること、
前記チップが前記第2のキャリアに対して移動させ、前記化学薬品を前記第2のキャリアの溝に全体を被覆するように接触させることによって、前記溝から凍結保護剤を除去すること、
を含むことを特徴とする
生体材料を解凍および蘇生するための方法。
【請求項19】
前記化学薬品に含まれている凍結保護剤は、非透過性凍結保護剤であることを特徴とする
請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記チップが前記キャリアに対して移動する前に、前記化学薬品は、前記第2のキャリアの溝を被覆せず、前記第2のキャリアの一部エリアを被覆し、前記第2のキャリアの溝との間にクリアランス距離を有することを特徴とする
請求項19に記載の方法。
【請求項21】
前記化学薬品は、ヒドロゲル状で作製される第2の希釈液および洗浄液を含み、前記第2の希釈液に含まれている非透過性凍結保護剤は、前記第1の希釈液に含まれている非透過性凍結保護剤よりも低い濃度を有し、前記チップには、第2の希釈液ヒドロゲルおよび洗浄液ヒドロゲルを順次埋め込むための区画が複数設けられ、各区画の被覆面積が前記溝の開口面積よりも大きく、前記チップが前記キャリアに対して移動すると、前記第2の希釈液ヒドロゲルおよび前記洗浄液ヒドロゲルが前記溝の上に順次移動し、該溝に全体を被覆するように順次接触することを特徴とする
請求項19に記載の方法。
【請求項22】
前記化学薬品は、溶液状の第2の希釈液および洗浄液を含み、前記第2の希釈液に含まれている非透過性凍結保護剤は、前記第1の希釈液に含まれている非透過性凍結保護剤よりも低い濃度を有し、前記チップは、溶液状の第2の希釈液および洗浄液を支持し、有孔フィルム、グリッド、透析膜、または水溶性フィルムである透過性フィルムが設けられていることを特徴とする
請求項19に記載の方法。
【請求項23】
凍結保護剤および/または基礎培養液を含む化学薬品をヒドロゲルの構造形態に調製すること、
凍結保護剤を含む生体材料を前記ヒドロゲルに接触させ、凍結保護剤のヒドロゲルへの拡散によって、凍結保護剤の拡散を除去すること、
を含むことを特徴とする
生体材料を解凍および蘇生するための方法。
【請求項24】
前記化学薬品に含まれている凍結保護剤は、非透過性凍結保護剤であることを特徴とする
請求項23に記載の方法。
【請求項25】
前記化学薬品をヒドロゲルの構造形態に調製する工程は、
アガロースを80~90℃の化学薬品溶液に溶解し、0.1~6%のアガロース溶液を調製し、
撹拌、混合、冷却、硬化を行うことによって、化学薬品を含むアガロースゲルを得ることを含むことを特徴とする
請求項23に記載の方法。
【請求項26】
前記化学薬品をヒドロゲルの構造形態に調製する工程は、
アルギン酸ナトリウムを化学薬品溶液に溶解して、0.3~10%のアルギン酸ナトリウム溶液として作製し、
塩化カルシウムを化学薬品溶液に溶解し、0.01M~0.2Mの塩化カルシウム溶液として作製し、
塩化カルシウム溶液をチップ内のアルギン酸ナトリウム溶液の上に加えて、
塩化カルシウムがチップの底に拡散するまでに、アルギン酸ナトリウム溶液をアルギン酸カルシウムヒドロゲルに硬化させることを含むことを特徴とする
請求項23に記載の方法。
【請求項27】
前記化学薬品をヒドロゲルの構造形態に調製する工程は、
ゼラチンを36~45℃の化学薬品溶液に溶解し、1~15%のゼラチン溶液として作製し、
36~50℃のゼラチン溶液をチップに加えて、
ゼラチン溶液を冷却し、化学薬品を含有するヒドロゲルに硬化させることを含むことを特徴とする
請求項23に記載の方法。
【請求項28】
前記化学薬品をヒドロゲルの構造形態に調製する工程は、
GelMAを36~50℃の化学薬品溶液に溶解し、1~15%のGelMA溶液として作製し、
光開始剤を36~50℃のGelMA溶液に0.001~2%の濃度で溶解し、
36~50℃のGelMA溶液をチップに加えて、
36~50℃のGelMA溶液に光を5~30分間照射し、GelMA溶液をヒドロゲルに硬化させることを含むことを特徴とする
請求項23に記載の方法。
【請求項29】
前記化学薬品は、解凍液、希釈液または洗浄液のいずれか1つ以上を含むことを特徴とする
請求項23~28のいずれか1項に記載の方法。
【請求項30】
生体材料に油相解凍液を含浸させて解凍・復温を行うことを含むことを特徴とする
生体材料を解凍および蘇生するための方法。
【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
〔技術分野〕
本発明は、生物工学技術分野に関し、特に、生体材料を解凍および蘇生するためのシステムおよびその方法に関する。
【0002】
〔背景技術〕
細胞の凍結保存技術は、生物学の多くの分野で重要な技術であり、低温凍結状態から正常な代謝状態への細胞の回復も重要であり、このような解凍および蘇生プロセスには、凍結保護剤の除去や、通常の培地のプロセスへの置換が含まれている。
【0003】
従来の技術は、解凍蘇生処理に対して要求が厳しく、面倒で、難しくて、高い集中力が必要であり、ストレスが多く、標準化が困難である作業である。
【0004】
〔発明の開示〕
本発明の主な目的は、従来技術の手作業による解凍および蘇生の効率が低いという問題を解決するために、生体材料を解凍および蘇生するためのシステムおよびその方法を提供することである。
【0005】
本発明の実施形態によれば、先端近傍には、解凍が必要な生体材料および凍結保護剤が収容されている溝が設けられているキャリアと、含浸させている上記のキャリアの溝を被覆し、上記の生体材料に対して解凍・復温を行うための油相解凍液が入っているベセルと、凍結保護剤および/または基礎培養液を含む化学薬品が封入され、上記のキャリアに対して移動させ、上記の化学薬品を上記の溝に全体を被覆するように接触させることによって、上記の溝から凍結保護剤を除去するチップとを含む、生体材料を解凍および蘇生するためのシステムを提供する。
【0006】
具体的な実施態様として、以下の1つ以上を含む場合がある。上記の化学薬品に含まれている凍結保護剤は、非透過性凍結保護剤である。上記の化学薬品は、ヒドロゲル状で作製される解凍液、希釈液および洗浄液を含み、上記のチップには、解凍液ヒドロゲル、希釈液ヒドロゲルおよび洗浄液ヒドロゲルを順次埋め込むための区画が複数設けられ、各区画の被覆面積が上記の溝の開口面積よりも大きく、上記のチップが上記のキャリアに対して移動すると、上記の解凍液ヒドロゲル、上記の希釈液ヒドロゲルおよび上記の洗浄液ヒドロゲルが上記の溝の上に順次移動し、該溝に全体を被覆するように順次接触する。上記の化学薬品は、溶液状の解凍液、希釈液および洗浄液を含み、上記のチップは、溶液状の解凍液、希釈液および洗浄液を支持し、有孔フィルム、グリッド、透析膜、または水溶性フィルムである透過性フィルムが設けられている。上記のチップが上記のキャリアに対して移動する前に、上記の化学薬品は、上記のキャリアの溝を被覆せず、上記のキャリアの一部エリアを被覆し、上記のキャリアの溝との間にクリアランス距離を有する。ベースの中央領域は、上記のキャリアを配置するために使用され、上記のベースの長さ方向に互いに平行な2本のトラックが設けられ、上記のトラックが、上記のチップをその下面が上記のキャリアの上面に接触したままとなるように支持固定させる。
【0007】
本発明の実施形態によれば、解凍が必要な生体材料および凍結保護剤が収容されている第1のキャリアと、含浸させている上記の第1のキャリアを被覆し、上記の生体材料に対して上記の第1のキャリアから剥離するように解凍・復温を行うための解凍液が入っているベセルと、先端近傍に、第1の希釈液が収容されている溝が設けられている第2のキャリアと、上記の生体材料を上記の第2のキャリアの溝に移送するための毛細管と、凍結保護剤および/または基礎培養液を含む化学薬品が封入され、上記の第2のキャリアに対して移動させ、上記の化学薬品を上記の第2のキャリアの溝に全体を被覆するように接触させることによって、上記の溝から凍結保護剤を除去するチップとを含む、生体材料を解凍および蘇生するためのシステムをさらに提供する。
【0008】
具体的な実施態様として、以下の1つ以上を含む場合がある。上記の化学薬品に含まれている凍結保護剤は、非透過性凍結保護剤である。上記の化学薬品は、ヒドロゲル状で作製される第2の希釈液および洗浄液を含み、上記の第2の希釈液に含まれている非透過性凍結保護剤は、上記の第1の希釈液に含まれている非透過性凍結保護剤よりも低い濃度を有し、上記のチップには、第2の希釈液ヒドロゲルおよび洗浄液ヒドロゲルを順次埋め込むための区画が複数設けられ、各区画の被覆面積が上記の溝の開口面積よりも大きく、上記のチップが上記のキャリアに対して移動すると、上記の第2の希釈液ヒドロゲルおよび上記の洗浄液ヒドロゲルが上記の溝の上に順次移動し、該溝に全体を被覆するように順次接触する。上記の化学薬品は、含まれている非透過性凍結保護剤が上記の第1の希釈液に含まれている非透過性凍結保護剤よりも低い濃度を有する溶液状の第2の希釈液と、洗浄液とを含み、上記のチップは、溶液状の第2の希釈液および洗浄液を支持し、有孔フィルム、グリッド、透析膜、または水溶性フィルムである透過性フィルムが設けられている。上記のチップが上記の第2のキャリアに対して移動する前に、上記の化学薬品は、上記の第2のキャリアの溝を被覆せず、上記の第2のキャリアの一部エリアを被覆し、上記の第2のキャリアの溝との間にクリアランス距離を有する。ベースの中央領域は、上記の第2のキャリアを配置するために使用され、上記のベースの長さ方向に互いに平行な2本のトラックが設けられ、上記のトラックが、上記のチップを、その下面が上記の第2のキャリアの上面に接触したままとなるように支持固定させる。
【0009】
本発明の実施形態によれば、先端近傍に、解凍が必要な生体材料および凍結保護剤が収容されている溝が設けられているキャリアを提供すること、油相解凍液が上記のキャリアの溝を被覆するように、上記のキャリアの溝に上記の油相解凍液を含浸させ、上記の生体材料に対して解凍・復温を行うこと、凍結保護剤および/または基礎培養液を含む化学薬品が封入されるチップを提供すること、上記のキャリアを上記の油相解凍液から移し、上記のキャリアを上記のチップに覆わせること、上記のチップを上記のキャリアに対して移動させ、上記の化学薬品を上記のキャリアの溝に全体を被覆するように接触させることによって、上記の溝から凍結保護剤を除去することを含む、生体材料を解凍および蘇生するための方法をさらに提供する。
【0010】
具体的な実施態様として、以下の1つ以上を含む場合がある。上記の化学薬品に含まれている凍結保護剤は、非透過性凍結保護剤である。上記のチップが上記のキャリアに対して移動する前に、上記の化学薬品は、上記のキャリアの溝を被覆せず、上記のキャリアの一部エリアを被覆し、上記のキャリアの溝との間にクリアランス距離を有する。上記の化学薬品は、ヒドロゲル状で作製される解凍液、希釈液および洗浄液を含み、上記のチップには、解凍液ヒドロゲル、希釈液ヒドロゲルおよび洗浄液ヒドロゲルを順次埋め込むための区画が複数設けられ、各区画の被覆面積が上記の溝の開口面積よりも大きく、上記のチップが上記のキャリアに対して移動すると、上記の解凍液ヒドロゲル、上記の希釈液ヒドロゲルおよび上記の洗浄液ヒドロゲルが上記の溝の上に順次移動し、該溝に全体を被覆するように順次接触する。上記の化学薬品は、溶液状の解凍液、希釈液および洗浄液を含み、上記のチップは、溶液状の解凍液、希釈液および洗浄液を支持し、有孔フィルム、グリッド、透析膜、または水溶性フィルムである透過性フィルムが設けられている。
【0011】
本発明の実施形態によれば、解凍が必要な生体材料および凍結保護剤が収容されている第1のキャリアを提供すること、解凍液が上記の第1のキャリアを被覆するように、上記の第1のキャリアに上記の解凍液を含浸させ、上記の生体材料に対して解凍・復温を行うこと、先端近傍に、第1の希釈液が収容されている溝が設けられている第2のキャリアを提供すること、上記の生体材料を上記の第2のキャリアの溝に移送すること、凍結保護剤および/または基礎培養液を含む化学薬品が封入され、上記の第2のキャリアを被覆するチップを提供すること、上記のチップを上記の第2のキャリアに対して移動させ、上記の化学薬品を上記の第2のキャリアの溝に全体を被覆するように接触させることによって、上記の溝から凍結保護剤を除去することを含む、生体材料を解凍および蘇生するための方法をさらに提供する。
【0012】
具体的な実施態様として、以下の1つ以上を含む場合がある。上記の化学薬品に含まれている凍結保護剤は、非透過性凍結保護剤である。上記のチップが上記のキャリアに対して移動する前に、上記の化学薬品は、上記の第2のキャリアの溝を被覆せず、上記の第2のキャリアの一部エリアを被覆し、上記の第2のキャリアの溝との間にクリアランス距離を有する。上記の化学薬品は、ヒドロゲル状で作製される第2の希釈液および洗浄液を含み、上記の第2の希釈液に含まれている非透過性凍結保護剤は、上記の第1の希釈液に含まれている非透過性凍結保護剤よりも低い濃度を有し、上記のチップには、第2の希釈液ヒドロゲルおよび洗浄液ヒドロゲルを順次埋め込むための区画が複数設けられ、各区画の被覆面積が上記の溝の開口面積よりも大きく、上記のチップが上記のキャリアに対して移動すると、上記の第2の希釈液ヒドロゲルおよび上記の洗浄液ヒドロゲルが上記の溝の上に順次移動し、該溝に全体を被覆するように順次接触する。上記の化学薬品は、溶液状の第2の希釈液および洗浄液を含み、上記の第2の希釈液に含まれている非透過性凍結保護剤は、上記の第1の希釈液に含まれている非透過性凍結保護剤よりも低い濃度を有し、上記のチップは、溶液状の第2の希釈液および洗浄液を支持し、有孔フィルム、グリッド、透析膜、または水溶性フィルムである透過性フィルムが設けられている。
【0013】
本発明の実施形態によれば、凍結保護剤および/または基礎培養液を含む化学薬品をヒドロゲルの構造形態に調製すること、凍結保護剤を含む生体材料を上記のヒドロゲルに接触させ、凍結保護剤のヒドロゲルへの拡散によって、凍結保護剤の拡散を除去することを含む、生体材料を解凍および蘇生するための方法をさらに提供する。
【0014】
具体的な実施態様として、以下の1つ以上を含む場合がある。上記の化学薬品に含まれている凍結保護剤は、非透過性凍結保護剤である。アガロースを80~90℃の化学薬品溶液に溶解し、0.1~6%のアガロース溶液を調製し、撹拌、混合、冷却、硬化を行うことによって、化学薬品を含むアガロースゲルを得る。アルギン酸ナトリウムを化学薬品溶液に溶解し、0.3~10%のアルギン酸ナトリウム溶液として作製し、塩化カルシウムを化学薬品溶液に溶解し、0.01M~0.2Mの塩化カルシウム溶液として作製し、塩化カルシウム溶液をチップ内のアルギン酸ナトリウム溶液の上に加えて、塩化カルシウムがチップの底に拡散するまでに、アルギン酸ナトリウム溶液をアルギン酸カルシウムヒドロゲルに硬化させる。ゼラチンを36~45℃の化学薬品溶液に溶解し、1~15%のゼラチン溶液として作製し、36~50℃のゼラチン溶液をチップに加えて、ゼラチン溶液を冷却し、化学薬品を含有するヒドロゲルに硬化させる。GelMAを36~50℃の化学薬品溶液に溶解し、1~15%のGelMA溶液として作製し、光開始剤を36~50℃のGelMA溶液に0.001~2%の濃度で溶解し、36~50℃のGelMA溶液をチップに加えて、36~50℃のGelMA溶液に光を5~30分間照射し、GelMA溶液をヒドロゲルに硬化させる。上記の化学薬品は、解凍液、希釈液または洗浄液のいずれか1つ以上を含む。
【0015】
本発明の技術的解決手段によれば、胚などの生体材料に対して解凍・復温を行った後、化学薬品が封入されたチップが胚を担持するキャリアを被覆し、化学薬品をキャリアの溝に全体を被覆するように接触させることによって、溝から凍結保護剤を除去することができるために、本願は、解凍および蘇生のプロセス全体を効果的に標準化および自動化し、効果的な品質管理を達成すると共に、処理効率を向上し、スタッフトレーニングを軽減することができる。
【0016】
〔図面の簡単な説明〕
ここで説明される添付図面は、本発明をより理解するために提供され、本出願の一部を構成しており、本発明の例示的な実施例およびその説明は、本発明を説明するために使用されるものであり、本発明に対する不適切な限定を構成するものではない。添付図面は、以下の通りである。
【0017】
図1は、本発明の一実施形態による生体材料を解凍および蘇生するための方法のフローチャートである。
【0018】
図2は、本発明の別の実施形態による生体材料を解凍および蘇生するための方法のフローチャートである。
【0019】
図3は、本発明のさらなる実施形態による生体材料を解凍および蘇生するための方法のフローチャートである。
【0020】
図4は、本発明のさらに別の実施形態による生体材料を解凍および蘇生するための方法のフローチャートである。
【0021】
図5は、本発明の実施形態によるキャリアおよびベセルの模式図である。
【0022】
図6は、本発明の実施形態によるキャリアの模式図である。
【0023】
図7は、本発明の実施形態によるチップの模式図である。
【0024】
図8は、本発明の一実施形態による生体材料を解凍および蘇生するシステムの模式図である。
【0025】
図9は、本発明の実施形態によるベースの構造模式図である。
【0026】
図10は、本発明の別の実施形態による生体材料を解凍および蘇生するシステムの模式図である。
【0027】
図11は、本発明のさらなる実施形態による生体材料を解凍および蘇生するシステムの模式図である。
【0028】
〔発明を実施するための形態〕
以下、本発明の目的、技術的解決手段および利点をより明確にするために、本発明の技術的解決手段を、本発明の具体的実施形態および対応する添付図面に合わせて、明確かつ完全に説明する。記載された実施形態は本発明の実施形態の一部に過ぎず、その全てではないことが明らかなになる。本発明における実施形態に基づき、当業者が進歩的な活動を行わずに得られる他のすべての実施形態は、本発明の特許請求の範囲に含まれる。
【0029】
以下、本発明の様々な実施形態による技術的解決手段は、添付図面に併せて詳細に説明する。
【0030】
図1を参照すると、本出願の実施形態による以下の具体的な工程を含む、生体材料を解凍および蘇生するための方法を提案している。
【0031】
工程S102において、先端近傍に、解凍が必要な生体材料および凍結保護剤が収容されている溝が設けられているキャリアを提供する。
【0032】
キャリアは、生体材料を運搬して低温の液体窒素環境(例えば、-196度)で保存し、該生体材料を保護する凍結保護剤は、生体材料の近傍または周辺にある。ここで、上記の生体材料は、細胞、生体組織、卵または胚であり得、上記の凍結保護剤は、上記の生体材料を保護するために使用されるガラス化凍結液(Vitrification Solution、略称:VS)であり得る。
【0033】
工程S104において、油相解凍液が上記のキャリアの溝を被覆するように、上記のキャリアの溝に上記の油相解凍液を含浸させ、上記の生体材料に対して解凍・復温を行う。ここで、上記の油相解凍液には、非透過性凍結保護剤が含まれていない。
【0034】
キャリアを低温環境から油相解凍液の入ったベセルに速やかに移し、ここで、解凍・加温速度を確保するためにキャリアの溝を油相解凍液に浸漬しなければならない。油相解凍液は、凍結保護剤よりも密度が低いため、溝内の凍結保護剤は、胚とともに溝内に留まり続け、溝から浮き出ることはない。本工程の目的は、溝内の胚/卵の速やかな解凍・加温を可能にすることである。
【0035】
工程S106において、凍結保護剤および/または基礎培養液を含む化学薬品が封入されたチップを提供する。
【0036】
本出願の実施例において、上記の化学薬品に含まれている凍結保護剤は、溝内の凍結保護剤よりも低い濃度を有する。実際的応用において、化学薬品に含まれている凍結保護剤は、非透過性凍結保護剤または透過性凍結保護剤を使用し得る。具体的には、胚内の凍結保護剤を除去するために化学薬品を使用する場合、化学薬品は、凍結保護剤および/または基礎培養液を含んでいるか、非透過性凍結保護剤および/または基礎培養液を含んでいることがある。より良い除去効果を得るためには、成分に非透過性凍結保護剤および/または基礎培養液が含まれる化学薬品が使用されることがある。これは、非透過性凍結保護剤が細胞膜を通過せず、一般に細胞毒性を持たない分子であるためである。透過性凍結保護剤は一般に細胞毒性を持つ低分子である。解凍用途では、非透過性凍結保護剤の役割は、細胞内外の透過圧差が大きくなりすぎないようにすることである。すなわち、解凍用途では、細胞を液体窒素から取り出すと、細胞内は透過性凍結保護剤で満たされているため、細胞内の透過圧が非常に高くなり、解凍の場合に、そのまま培地に入れると、この透過圧差により水分子が細胞内に急速に進入し、細胞が死滅してしまう。しかし、解凍の際には、非透過性凍結保護剤を含む溶液に置くと、透過圧差が小さいため、水分子の細胞への進入速度が遅くなり、同時に細胞内の透過性凍結保護剤が細胞外に拡散することができるため、凍結保護剤をゆっくりと除去するという目的を達成することができる。
【0037】
ここで、上記の化学薬品の種類には、解凍液、希釈液および洗浄液が含まれる。本出願の実施形態では、上記の化学薬品は、ヒドロゲル状で作製される固体状態の形態、または溶液の形態であり得る。
【0038】
化学薬品が固体状態の場合、解凍液、希釈液および洗浄液はヒドロゲル状、すなわち解凍ヒドロゲル(TS gel)、希釈ヒドロゲル(DS gel)および洗浄ヒドロゲル(WS gel)としてチップに埋め込まれる。ここで、ヒドロゲルは、液体を主成分とする固形材料であり、かつ内部に三次元架橋ネットワークが存在するため、流動性を持たない。ヒドロゲルは、柔らかい場合も硬い場合もある。ヒドロゲル内の液体は非透過性凍結保護剤および/または基礎培養液を含む。具体的には、解凍ヒドロゲルは、基礎培養液と0.5~1.5Mの非透過性凍結保護剤などの非常に高濃度の非透過性凍結保護剤を含む。希釈ヒドロゲルは、基礎培養液と、0.1~0.75Mの非透過性凍結保護剤などの解凍ヒドロゲルよりも低濃度の非透過性凍結保護剤を含む。洗浄ヒドロゲルは基礎培養液のみを含む。
【0039】
具体的には、チップ上に順次配列された3つの区画が設けられ、解凍ヒドロゲル、希釈ヒドロゲル(すなわち第1の希釈ヒドロゲル)、および洗浄ヒドロゲルを区画に順次埋め込み、ここで、各区画の被覆面積がキャリアの溝の開口面積よりも大きい。さらに、チップ上に順次配列された4つの区画が設けられ、追加の1つの区画が第2の希釈ヒドロゲルを埋め込むために用いられてよく、ここで第2の希釈ヒドロゲルに含まれる非透過性凍結保護剤は第1の希釈ヒドロゲルに含まれている非透過性凍結保護剤よりも低い濃度を有し、透過圧の変化が比較的緩やかであるため、胚に対する透過圧の損傷をより少なくすることができる。
【0040】
化学薬品が溶液状の場合、解凍液、希釈液および洗浄液は、チップに透過性フィルムにより溶液状で封入される。溶液形態の化学薬品に含まれている基礎培養液および非透過性凍結保護剤は、ヒドロゲルと同様の濃度を有するため、ここでは繰り返さない。
【0041】
具体的には、チップ上に順次配列された3つの区画が設けられ、解凍液、希釈液および洗浄液が区画に順次封入されてよく、ここで各区画の被覆面積が溝の開口面積よりも大きい。さらに、チップ上に順次配列された4つの区画が設けられ、追加の1つの区画が第2の希釈液を封入するために用いられてよく、ここで第2の希釈液に含まれている非透過性凍結保護剤は第1の希釈液に含まれている非透過性凍結保護剤よりも低い濃度を有し、透過圧の変化が比較的緩やかであるため、胚に対する透過圧損傷をより少なくすることができる。実際的応用において、厚さと孔径の適切な有孔フィルム、グリッドまたは透析膜を選択してチップの下面に設置し、溶液を、溶液に対する有孔フィルム、グリッド、透析膜、または水溶性フィルムによる支持によって、チップに固定するにように、区画に直接加えてもよい。
【0042】
工程S108において、上記のキャリアを上記の油相解凍液から移し、上記のチップが上記のキャリアを被覆するようにする。
【0043】
復温が完了したら(通常、油相解凍液に2~3秒間浸せばよい)、化学薬品が封入されたチップをキャリア上に置く。より良い拡散除去効果を達成するために、ヒドロゲル状または溶液状の解凍液、希釈液および洗浄液はキャリアの一部エリアを被覆するように、すなわちキャリアの溝を被覆しないようにし、解凍液、希釈液および洗浄液とキャリアの溝との間のクリアランス距離を数ミリメートルとする。
【0044】
工程S110において、上記のチップが上記のキャリアに対して移動され、上記の化学薬品を上記の溝に全体を被覆するように接触させることによって、上記の溝から凍結保護剤を除去する。
【0045】
固体ヒドロゲル状の化学薬品がチップに固定されている場合、上記のチップが上記のキャリアに対して移動すると、チップに埋め込まれた解凍ヒドロゲル、希釈ヒドロゲルおよび洗浄ヒドロゲルがキャリアの溝の上に順次移動し、溝内の解凍が必要な生体材料に全体を被覆するように順次接触する。化学薬品分子は、ヒドロゲル内で自由に拡散するため、キャリアの溝に接触すると、溝内の胚と凍結保護剤がヒドロゲル内に拡散し、凍結保護剤を除去する機能を果たす。具体的には、解凍ヒドロゲルの下で、胚は低い透過圧力差に応じて、胚内の高濃度の有毒な透過性凍結保護剤を除去することができる。希釈ヒドロゲルの下で、水は、ゆっくりと胚の中に再び拡散し、胚周辺の非透過性凍結保護剤分子を規則正しく除去することができる(除去が速すぎると胚に透過圧の損傷を与えることになる)。洗浄ヒドロゲルの下で、より多くの水は、ゆっくりと胚の中に再び拡散し、胚周辺の非透過性凍結保護剤分子を完全に除去し、胚が正常な浸透圧環境に戻ることを可能にする。このような3つのヒドロゲルで処理された胚は、既に凍結保護剤を一切含まず、正常な透過圧環境に整然と回復しており、胚をキャリアから培養皿に移し、インキュベーターで培養することができる。
【0046】
溶液状の化学薬品をチップ内に固定している場合、胚が溢れ出さないように、溝への透過性フィルムによる覆いを形成し、透過性フィルムの両側にある溶液が接触すると、溶液の浸透が起こり、両側の溶液の拡散と交換が完了し、具体的に、ヒドロゲルの実施例を参照されたい。
【0047】
つまり、化学薬品は、固体であれ液体であれ、凍結保護剤の拡散を除去する場合、溝内の胚をブロックしながら溝内の化学薬品との拡散交換を完了し、化学薬品がチップに流出しないようにすることが可能である。全体の除去プロセスが完了すると、胚は、キャリアの溝内にあるため、素早く位置決めされて捕獲され、キャリアから培養皿に移され、インキュベーターで培養して蘇生されることができる。洗浄ヒドロゲル(または洗浄液)の培地の組成は、必ずしも使用者の培地の組成と同一ではないため、使用者は必要に応じてキャリアから移された胚を使用者の培地に入れて最終洗浄を行い、その後、培養蘇生のために使用者の培養系に移行することができる。
【0048】
図1に示す実施例では、油相解凍液は、解凍・復温に使用されている。他の実施例では、非油相の解凍液、すなわち一般的な解凍液も解凍・復温に使用できる。
図2を参照すると、本出願の実施形態による生体材料を解凍および蘇生するための方法は、以下の工程を含む。
【0049】
工程S202において、解凍が必要な生体材料および凍結保護剤が収容されている、第1のキャリアを提供する。
【0050】
第1のキャリアは、生体材料を運搬して低温の液体窒素環境で保存するために使用され、該生体材料を保護する凍結保護剤は、生体材料の近傍または周辺にあり、ここで、上記の生体材料は、細胞、生体組織、卵または胚であり得、上記の凍結保護剤は、ガラス化凍結液であり得る。以下、生体材料は、簡潔にするため、胚を例にして説明する。
【0051】
いくつかの実施形態において、第1のキャリアの先端は溝を有してもよく、生体材料は第1のキャリアの溝に収容される。
【0052】
工程S204において、解凍液が上記の第1のキャリアを被覆するように、上記の第1のキャリアに上記の解凍液を含浸させ、上記の生体材料に対して解凍・復温を行う。
【0053】
第1のキャリアを、低温環境から解凍液の入ったベセルに速やかに移し、解凍・加温速度を確保するために第1のキャリアで運搬された胚を解凍液に完全に浸漬し、胚を第1のキャリアから剥離する。
【0054】
工程S206において、先端近傍に、第1の希釈液が収容されている溝が設けられている第2のキャリアを提供する。
【0055】
先端に、第1の希釈液の容量が溝の容量よりも大きくなるように第1の希釈液で満たされた溝を含む第2のキャリアを予め準備してもよい。
【0056】
工程S208において、上記の生体材料を上記の第2のキャリアの溝に移送する。
【0057】
胚が第1のキャリアから剥離後に、胚の正確な位置を特定し、毛細管(例えば、ガラス毛細管)で胚を第2のキャリアの溝に移送する。
【0058】
工程S210において、上記の第2のキャリアを被覆する、化学薬品が封入されたチップを提供し、ここで、上記の化学薬品は、凍結保護剤および/または基礎培養液を含む。
【0059】
本出願の実施例において、上記の化学薬品に含まれている凍結保護剤は、溝内の凍結保護剤よりも低い濃度を有する。実際的応用において、化学薬品に含まれている凍結保護剤は、非透過性凍結保護剤または透過性凍結保護剤を使用し得る。具体的には、胚内の凍結保護剤を除去するために化学薬品を使用する場合、化学薬品は、凍結保護剤および/または基礎培養液を含んでいるか、非透過性凍結保護剤および/または基礎培養液を含んでいることがある。より良い除去効果を得るためには、成分に非透過性凍結保護剤および/または基礎培養液が含まれる化学薬品が使用されることがある。これは、非透過性凍結保護剤が細胞膜を通過せず、一般に細胞毒性を持たない分子であるためである。透過性凍結保護剤は一般に細胞毒性を持つ低分子である。解凍用途では、非透過性凍結保護剤の役割は、細胞内外の透過圧差が大きくなりすぎないようにすることである。すなわち、解凍用途では、細胞を液体窒素から取り出すと、細胞内は透過性凍結保護剤で満たされているため、細胞内の透過圧が非常に高くなり、解凍の場合に、そのまま培地に入れると、この透過圧差により水分子が細胞内に急速に進入し、細胞が死滅してしまう。しかし、解凍の際には、非透過性凍結保護剤を含む溶液に置くと、透過圧差が小さいため、水分子の細胞への進入速度が遅くなり、同時に細胞内の透過性凍結保護剤が細胞外に拡散することができるため、凍結保護剤をゆっくりと除去するという目的を達成することができる。
【0060】
ここで、上記の化学薬品の種類には、基礎培養液と第1の希釈液よりも低濃度の非透過性凍結保護剤で構成される第2の希釈液、および基礎培養液のみで構成される洗浄液を含む。具体的には、チップ上に順次配列された2つの区画が設けられ、第2の希釈液および洗浄液が区画に順次封入されてよく、ここで各区画の被覆面積が第2のキャリアの溝の開口面積よりも大きい。
【0061】
本出願の実施例において、上記の化学薬品は、ヒドロゲル状で作製された固体状態の形態またはチップに封入された溶液の形態であり得る。化学薬品が固体状態の形態の場合、第2の希釈液および洗浄液はヒドロゲル状、すなわち第2の希釈ヒドロゲル(DS2 gel)および洗浄ヒドロゲル(WS gel)としてチップに埋め込まれる。化学薬品が溶液状の場合、希釈液および洗浄液は透過性フィルムによってチップに溶液状で封入される。実際的応用において、厚さと孔径の適切な有孔フィルム、グリッドまたは透析膜を選択してチップの下面に設置し、溶液を、溶液に対する有孔フィルム、グリッド、透析膜、または水溶性フィルムによる支持によって、チップに固定するにように、区画に直接加えてもよい。
【0062】
工程S212において、上記のチップを上記の第2のキャリアに対して相対的に移動し、上記の化学薬品を上記の第2のキャリアの溝に全体を被覆するように接触させることによって、上記の溝から凍結保護剤を除去する。
【0063】
固体のヒドロゲル状の化学薬品がチップに固定されている場合、上記のチップが上記のキャリアに対して移動すると、チップに埋め込まれた第2の希釈ヒドロゲルおよび洗浄ヒドロゲルが第2のキャリアの溝の上に順次移動し、該溝内の解凍が必要な生体材料に全体を被覆するように順次接触する。化学薬品分子は、ヒドロゲル内で自由に拡散するため、キャリアの溝に接触すると、溝内の胚と凍結保護剤がヒドロゲル内に拡散し、凍結保護剤を除去する機能を果たす。第2の希釈ヒドロゲルの下で、水は、ゆっくりと胚の中に再び拡散し、胚周辺の非透過性凍結保護剤分子を規則正しく除去することができる。洗浄ヒドロゲルの下で、より多くの水は、ゆっくりと胚の中に再び拡散し、胚周辺の非透過性凍結保護剤分子を完全に除去し、胚が正常な浸透圧環境に戻ることを可能にする。ヒドロゲルで処理された胚は、既に凍結保護剤を一切含まず、正常な透過圧環境に整然と回復しており、胚をキャリアから培養皿に移し、インキュベーターで培養することができる。
【0064】
溶液状の化学薬品をチップ内に固定している場合、胚が溢れ出さないように、溝への透過性フィルムによる覆いを形成し、透過性フィルムの両側にある溶液が接触すると、溶液の浸透が起こり、両側の溶液の拡散と交換が完了し、具体的に、ヒドロゲルの実施例を参照されたい。
【0065】
つまり、化学薬品は、固体であれ液体であれ、凍結保護剤の拡散を除去する場合、溝内の胚をブロックしながら溝内の溶液との拡散交換を完了し、化学薬品がチップに流出しないようにすることが可能である。全体の除去プロセスが完了すると、胚は、キャリアの溝内にあるため、素早く位置決めされて捕獲され、キャリアから培養皿に移され、インキュベーターで培養して蘇生されることができる。洗浄ヒドロゲル(または洗浄液)の培地の組成は、必ずしも使用者の培地の組成と同一ではないため、使用者は必要に応じてキャリアから移された胚を使用者の培地に入れて最終洗浄を行い、その後、培養蘇生のために使用者の培養系に移行することができる。
【0066】
油相解凍液が解凍・復温に使用されている場合、標準化されていないキャリアで胚を担持する場合に、胚を解凍・復温後、標準化されたキャリアに移送することによって、チップと連動して凍結保護剤を除去することが可能である。
図3を参照すると、本出願の実施形態によれば、生体材料を解凍および蘇生するための方法をさらに提供し、具体的には、以下の工程を含む。
【0067】
工程S302において、解凍が必要な生体材料および凍結保護剤が収容されている、第1のキャリアを提供する。
【0068】
工程S304において、上記の油相解凍液が上記の第1のキャリアを被覆するように、上記の第1のキャリアに油相解凍液を含浸させ、上記の生体材料に対して解凍・復温を行う。
【0069】
工程S306において、先端近傍に、第1の希釈液が収容されている溝が設けられている第2のキャリアを提供する。
【0070】
第2のキャリアは、チップと連動して動作および使用することが可能である。
【0071】
工程S308において、上記の生体材料を上記の第2のキャリアの溝に移送する。
工程S310において、上記の第2のキャリアを被覆する、化学薬品が封入されたチップを提供し、ここで、上記の化学薬品は、凍結保護剤および/または基礎培養液を含む。
【0072】
ここで、化学薬品は、凍結保護剤および/または基礎培養液を含み得るか、または非透過性凍結保護剤および/または基礎培養液を含み得る。好ましくは、成分に非透過性凍結保護剤および/または基礎培養液が含まれる化学薬品が使用されることがある。そして、上記の化学薬品は、上記のキャリアの溝を被覆せず、上記のキャリアの一部エリアを被覆し、上記のキャリアの溝との間にクリアランス距離を有する。
【0073】
工程S312において、上記のチップを上記のキャリアに対して移動させ、上記の化学薬品を上記の第2のキャリアの溝に全体を被覆するように接触させることによって、上記の溝から凍結保護剤を除去する。
【0074】
本実施例における用語の説明については、先の実施例と同一または同様の部分を参照してもよく、ここでは繰り返さない。
【0075】
図4を参照すると、本出願の実施形態によれば、生体材料を解凍および蘇生するための方法をさらに提供し、以下の工程を含む。
【0076】
工程S402において、(第1の)凍結保護剤および/または基礎培養液を含む化学薬品をヒドロゲルの構造形態に調製する。
【0077】
ここで、化学薬品は、透過性凍結保護剤および/または基礎培養液を含み得るか、または非透過性凍結保護剤および/または基礎培養液を含み得る。好ましくは、成分に非透過性凍結保護剤および/または基礎培養液が含まれる化学薬品が使用されることがある。
【0078】
工程S404において、(第2の)凍結保護剤を含む生体材料を上記のヒドロゲルに接触させ、(第2の)凍結保護剤のヒドロゲルへの拡散によって、(第2の)凍結保護剤の拡散を除去する。
【0079】
ここで、上記の化学薬品は、解凍液、希釈液または洗浄液のいずれか1つ以上を含む。
【0080】
ここで、ヒドロゲルの調製は、アルギン酸ナトリウムヒドロゲル、ゼラチンヒドロゲルまたはアガロースゲルの調製方法などの物理的ヒドロゲルの調製方法で行われてよく、PEGDAヒドロゲルやGelMAヒドロゲルの調製方法などの化学的ヒドロゲルの調製方法で行われてよい。さらに、本実施例では、解凍液を1部のヒドロゲルとして直接調製することにより、胚から凍結保護剤を一度に除去することが可能である(例えば、ガラス化凍結液)。しかし、使用時には、例えば、使用する解凍液の濃度などの特定の状況に応じて、解凍液を異なる濃度を持つ複数部の解凍液のヒドロゲルにし、次いで、濃度の異なる複数部のヒドロゲルにより、凍結保護剤をそれぞれ規則正しく制御可能に除去することによって、凍結保護剤を除去する全操作を完了する。様々な形態のヒドロゲルの調製方法について、以下に詳細に説明する。
【0081】
さらに、アガロースゲルを調製するための方法は、
アガロースを80~90℃の化学薬品溶液に溶解し、0.1~6%のアガロース溶液を調製し、撹拌、混合、冷却、硬化を行うことによって、化学薬品を含むアガロースゲルを得ることを含む。
【0082】
さらに、アルギン酸ナトリウムヒドロゲルを調製するための方法は、
アルギン酸ナトリウムを解凍液溶液に溶解し、0.3~10%のアルギン酸ナトリウム溶液として作製し、塩化カルシウムを解凍液溶液に溶解し、0.01M~0.2Mの塩化カルシウム溶液として作製し、塩化カルシウム溶液をチップ内のアルギン酸ナトリウム溶液の上にゆっくりと加えて、塩化カルシウムがチップの底に拡散するまでに、アルギン酸ナトリウム溶液全体をアルギン酸カルシウムヒドロゲルに硬化させることを含む。
【0083】
さらに、ゼラチンヒドロゲルを調製するための方法は、
ゼラチンを36~45℃の解凍液溶液に溶解し、1~15%のゼラチン溶液として作製し、36~50℃のゼラチン溶液をチップに加えて冷却することによって、解凍液の入ったヒドロゲルに硬化させることを含む。
【0084】
さらに、GelMAヒドロゲルを調製するための方法は、
GelMAを36~50℃の解凍液溶液に溶解し、1~15%のGelMA溶液として作製し、光開始剤を36~50℃のGelMA溶液に0.001~2%の濃度で溶解し、36~50℃のGelMA溶液をチップに加えて、36~50℃のGelMA溶液に光を2~30分間照射し、GelMA溶液をヒドロゲルに硬化させることを含む。
【0085】
本発明の実施形態によれば、生体材料を解凍および蘇生するためのシステムを提供し、
図5~
図11を参照すると、上記のシステムは、キャリア1、ベセル5およびチップ2を含む。
【0086】
図6を参照すると、キャリア1は、先端近傍に、解凍が必要な生体材料および該解凍が必要な生体材料を保護する凍結保護剤(VS)が収容されている溝13が設けられており、ここで、上記の生体材料は、細胞、生体組織、卵または胚であり得、上記の凍結保護剤は、ガラス化凍結液であり得る。キャリア1は、ハンドル11、シート12および溝13で構成される帯状の構造である。ここで、溝13は、シート12の先端近傍に位置し、解凍が必要な生体材料および該解凍が必要な生体材料を保護する凍結保護剤(VS)が収容されており、ここで、上記の生体材料は、細胞、生体組織、卵または胚であり得、上記の凍結保護剤は、ガラス化凍結液であり得る。また、溝13の大きさは、処理される胚の数やサイズ、保持する溶液量に応じて調整して設定することができる。
【0087】
本出願の実施例において、キャリア1は、胚に対してシステムと連動して解凍・復温の処理操作を容易に行い、該キャリアの適合性を向上させるために、帯状の構造とすることができる。これと同時に、キャリアのハンドル部分は、処理される胚に関する関連情報を標識するラベルの設置を容易にするのに十分な幅を有する構造を優先的に設計し、シートは、厚さが均一で、素材が透明で、生体適合性があり、良好な熱伝達特性を有するプラスチック材料で作られ、これにより、収容される胚の適用性と、その後の解凍中の熱伝達速度が確保される。同様に、他の実施例では、キャリアは、異なる使用条件や要件に応じて、平板型の構造などの溝を有する他の構造形態に設計することもできる。
【0088】
ベセル5は、内部に油相解凍液を収容する容器であり、その形態や構造が特に限定されず、油相解凍液を収容する機能を有するいかなる容器であり得るが、好ましくは、皿型容器であり得る。該油相解凍液は非透過性凍結保護剤が含まれていない。キャリアの溝が液面以下まで含浸するように、キャリアに油相解凍液を含浸させ、胚を室温または37℃に復温するように油相解凍液により解凍・復温することができる。凍結保護剤は油相解凍液と融合せず、油相解凍液は、密度が凍結保護剤よりも低いため、溝内の凍結保護剤は、胚とともに溝内に留まり、つまり、上記の溝内の凍結保護剤は、解凍・復温のプロセスで、解凍が必要な胚とともに溝内に留まり、キャリアから浮き出ることはない。
【0089】
図7を参照すると、チップ2はバイオチップとも呼ばれることがあり、板状の枠構造を採用しており、化学薬品をそれぞれ固定または封入するための順次配列された区画22が複数設けられている。本実施例では、チップ2は、2つの支持板20と2つの仕切り板21からなる枠構造を採用している。ここで、2つの支持板20は平行な関係に保たれ、2つの仕切り板21は平行な関係に保たれ、2つの仕切り板21は2つの支持板20の間に位置し、2つの支持板20の間の領域を異なる投与化学薬品をそれぞれ配置するための互いに独立した3つの区画22に分割する。
【0090】
オプションとして、チップ2における仕切り板21と支持板20の間は、区画22の大きさを自由に調整できるように、可動的な接続とすることが可能である。例えば、2つの支持板20の対向面にスライド溝を設け、仕切り板21の端部をスライド溝に挿入することにより、仕切り板21の位置をスライド溝内で自由に調整し、投与される化学薬品の量の違いによる区画の大きさの調整を実現することができる。
【0091】
チップにある化学薬品の種類は、解凍液、希釈液および洗浄液がある。ここで、チップに封入される化学薬品は、固体の形態または液体の形態であってもよく、固体の形態の場合、ヒドロゲル、すなわち解凍ヒドロゲル、希釈ヒドロゲルおよび洗浄ヒドロゲルとして作製され、チップに埋め込まれる。化学薬品は、溶液の形態の場合、解凍液、希釈液および洗浄液が透過性フィルムにより溶液の形態としてチップに封入される。実際的応用において、厚さと孔径の適切な有孔フィルム、グリッドまたは透析膜を選択してチップの下面に設置し、溶液を、溶液に対する有孔フィルム、グリッド、透析膜、または水溶性フィルムによる支持によって、チップに固定するにように、区画に直接加えてもよい。
【0092】
図8を参照すると、化学薬品が封入されたチップ2を上記のキャリア1に覆い、このとき、化学薬品は、キャリアの溝を被覆せず、キャリアの一部エリアのみを被覆し、キャリアの溝との間にクリアランス距離を有する。チップをキャリアに対して移動させることで、固体または液体形態の解凍液、希釈液および洗浄液がキャリアの溝の上に順次移動し、溝内の解凍が必要な生体材料に全体を被覆するように順次接触し、溝から凍結保護剤を除去することが可能である。除去プロセスにおいて、胚は、溝内でブロックされながら溝内で化学薬品との拡散交換を完了し、また、チップから流出することはない。全体の除去プロセスが完了すると、既に凍結保護剤を一切含まず、正常な透過圧環境に整然と回復しており、このとき、胚はキャリアの溝内に留まるため、素早く位置決めされて捕獲され、キャリアから培養皿に移され、インキュベーターで培養して蘇生されることができる。
【0093】
本実施例では、異なる濃度の凍結保護剤を含む溶液をそれぞれ配置するために、チップ上に3つの区画が設けられているため、胚に対して順次投与される異なる溶液の濃度関係を正確に制御し、溶液の投与精度を確保することができる。他のいくつかの実施例では、投与される化学薬品の種類、数および濃度制御要件に応じて、チップ上の区画の数を適宜調整し、隣接する区画における化学薬品間の濃度勾配を正確に制御し、化学薬品の投与精度を確保することが可能である。
【0094】
本実施例では、提供されたキャリアには、1つの溝のみが設けられているが、他の実施例では、処理される胚の数に応じて、キャリア上に複数の溝を同時に設けることが完全に可能であるため、複数の胚を同じキャリア上で同時に処理することができ、処理効率を向上させることに留意されたい。
【0095】
図9および
図10を参照すると、上記の生体材料を解凍および蘇生するためのシステムは、溝形鋼構造であるベース3をさらに含み得、ここで、ベース3の中央領域は、キャリア1の支持および固定に用いられ、その長さ方向に沿った2つの側壁を、チップ2の支持板20を支持および吸着固定するためのトラック31として使用し、また、トラック31の高さを変えることにより、チップ2とキャリア1の上面との位置関係を調整することができ、これにより、ヒドロゲルと溝内の溶液との間の効果的な接触が保証される。
【0096】
他の実施例では、ベース3の2つのトラックに1つのガイド段差をそれぞれ設けることもできる。このように、チップを2つのガイド段差の間に配置する場合、ガイド段差を利用して移動中のチップへのガイド効果を形成することも可能であり、ベースにおけるチップの移動方向精度を向上させることができる。
【0097】
トラック31とチップ2との間には、磁気吸着によって取り外し可能な固定接続を形成することができる。例えば、トラック31は、強磁性金属を用いて作製され、支持板20の対応する位置に磁石24が設けられ、これにより、トラック31とチップ2との間に磁気吸着による固定接続が形成される。さらに好ましくは、トラックは、電磁石構造の形態を採用することが可能であるため、電気的制御によってベースとチップの間の迅速な接続と離脱を実現し、操作の利便性を向上させることができる。
【0098】
ベースを設置することにより、例えば、ベースとキャリアの間の接着または係合接続を介して、キャリアに支持および固定を提供し、操作プロセス全体におけるキャリアの位置の安定性を確保することができるだけでなく、チップに支持および固定を提供し、チップとキャリアの間の効果的な接触を維持し、相対的な移動中でチップとキャリアが意図せずに剥離して通常の動作に影響を与えることを回避し、同時に、ベースは、溝外に流れる溶液を収集して、溶液のオーバーフローによる周辺環境の汚染を回避することもできる。
【0099】
図9を参照すると、ベース3は、中央位置に1つの光透過領域32も設けられており、すなわち、ベース3における溝13に対応する領域は、光透過性材料を選択することによって光透過性領域として形成されている。このとき、光透過領域を介した透過光を利用して、キャリアとチップを一体としてベースを介して顕微鏡に移動させ直接観察することによって、化学薬品の投与プロセスのリアルタイム観察を実現し、化学薬品の投与進捗を正確に制御することができる。
【0100】
さらに、光透過領域は、実際の運用の要件に応じて、従来の光透過性材料から選択して光透過の要件のみを満たすか、同様に加熱ガラス材料などの加熱機能を有する光透過性材料から選択して、光の透過と温度制御の目的を同時に満たすこともできる。
【0101】
さらに、本実施例のベース上には、1つのキャリアおよび1つのチップしか設けられていないが、実際の操作プロセスにおいて、処理される胚の数およびチップの区画の幅サイズ、すなわちヒドロゲルの被覆幅に応じて、同時に複数のキャリアをベースに並べて設けることができるため、チップの1回の移動中に、複数のキャリアにおける胚への化学薬品の投与操作を同時に行い、操作の効率を向上させることができる。
【0102】
図11を参照すると、上記の生体材料を解凍および蘇生するためのシステムは、ステッピングモータ41、スクリュー42および押し棒43からなる駆動ユニットが取り付けられている、ベース3を直接支持固定するための台座4をさらに含み得る。ここで、ベース3は台座4に位置し、スクリュー42と平行に保たれ、押し棒43はスクリュー42に覆設され、ステッピングモータ41の駆動によりスクリュー42に沿って往復移動可能であり、同時にチップ2に固定的に接続されている。
【0103】
このとき、ステッピングモータ41により押し棒43をスクリュー42に沿って水平往復移動するように駆動することによって、チップ2をキャリア1に対して水平方向に往復移動させることができ、チップ2における異なる区画のヒドロゲルを溝13内の溶液に順次接触させるように制御し、自動化制御を実現することができる。さらに、ステッピングモータ41の動作を制御することにより、チップ2内の異なるヒドロゲルと溝13内の溶液との接触時間も精密に制御することができるために、ヒドロゲル内の溶液の投与時間、および胚と異なる溶液との接触時間を正確に制御し、胚への異なる溶液の投与精度をさらに向上させることができる。
【0104】
さらに、他の実施例では、スクリューおよび押し棒に代えて、トラックスライダ構造を選択して駆動ユニットを構成し、トラックに沿ったスライダの往復移動によりチップをキャリアに対して移動するように駆動させる。
【0105】
図11を引き続き参照すると、台座4には、滑らかな円筒状の軸である1つの光軸44も設けられている。光軸44は、スクリュー42と平行に保たれ、押し棒43の自由端に接続され、押し棒43の往復移動に補助的な案内を与え、押し棒43によって駆動されるチップ2の移動の安定性を向上させ、ヒドロゲルと溝内の溶液との接触プロセスの安定性を向上させる。
【0106】
図に示すように、台座4の中央位置には、1つの中空領域45も設けられており、すなわちチップ3における光透過領域の対応する領域は中空構造となっている。このように、光が台座4を通過してチップ3の光透過領域にスムーズに投影されることを確保し、顕微鏡の正常な使用を保証することができる。同様に、異なる環境下での実際の使用に応じて、中空領域は光透過性ガラスなどの光透過性材料で構成され、光透過の目的を達成することもできるし、加熱ガラスなどの加熱機能を有する光透過性材料から選択して、光の透過と温度制御の目的を同時に満たすこともできる。
【0107】
さらに、上記の実施例では、本発明の技術的解決手段を、胚の解凍プロセスにおける異なる化学薬品溶液の投与操作を例として紹介したが、本発明の概念によれば、該化学薬品送達システムを他の生体材料または基礎溶液への化学薬品の正確な送達に適用することは、当該技術分野における当業者にとって完全に可能であり、例えば、溶液へ粉末状の化学薬品を投与する場合、単回の投入量の化学薬品を水溶性フィルムで一時的に支持し、キャリアに対するチップの移動中に水溶性フィルムが溶液に接触して溶解すると、定量的な化学薬品が溶液中に直接放出され、化学薬品の正確な投与が完了する。
【0108】
本出願の実施形態によれば、第1のキャリア、ベセル、第2のキャリア、毛細管およびチップを含む、生体材料を解凍および蘇生するためのシステムをさらに提供し、具体的には、
上記の第1のキャリアは、解凍が必要な生体材料および凍結保護剤が収容されている。本願は、第1のキャリアの形状や結果を限定するものではなく、すなわち、第1のキャリアは溝を備え、生体材料を該溝で担持するか、または溝を備えなく、生体材料を他の手段で担持することができる。
【0109】
上記のベセルには、含浸させた上記の第1のキャリアを被覆し、上記の生体材料に対して解凍・復温を行うことで上記の生体材料を上記の第1のキャリアから剥離する解凍液が入っており、
上記の第2のキャリアの先端近傍に、第1の希釈液が収容されている溝が設けられており、
上記の毛細管は、上記の生体材料を上記の第2のキャリアの溝に移送するために使用され、
上記のチップは、凍結保護剤および/または基礎培養液を含む化学薬品が封入されおり、上記のチップを上記の第2のキャリアに対して移動させ、上記の化学薬品を上記の第2のキャリアの溝に全体を被覆するように接触させ、溝から凍結保護剤を除去する。
【0110】
本出願の実施例において、上記の化学薬品に含まれている凍結保護剤は、溝内の凍結保護剤よりも低い濃度を有する。実際的応用において、化学薬品に含まれている凍結保護剤は、非透過性凍結保護剤または透過性凍結保護剤を用いることがある。具体的には、化学薬品は、胚内の凍結保護剤を化学薬品で除去する場合に、凍結保護剤および/または基礎培養液を含んでいるか、非透過性凍結保護剤および/または基礎培養液を含んでいることがある。より良い除去効果を得るためには、成分に非透過性凍結保護剤および/または基礎培養液が含まれる化学薬品を使用し得る。
【0111】
ここで、上記の化学薬品の種類には、基礎培養液および第1の希釈液よりも低濃度の非透過性凍結保護剤で構成される第2の希釈液、および基礎培養液のみで構成される洗浄液を含む。化学薬品は、チップに固体状態または溶液状態で封入され得る。化学薬品が固体状態の場合、第2の希釈液および洗浄液は、ヒドロゲル状として固定され、すなわち第2の希釈ヒドロゲルおよび洗浄ヒドロゲルがチップに埋め込まれる。上記のチップが上記のキャリアに対して移動すると、上記の第2の希釈ヒドロゲルおよび上記の洗浄ヒドロゲルが上記の溝の上に順次移動し、該溝に全体を被覆するように順次接触する。化学薬品が溶液状の場合、希釈液および洗浄液は、透過性フィルムによってチップに溶液状で封入される。実際的応用において、厚さと孔径の適切な有孔フィルム、グリッドまたは透析膜を選択してチップの下面に設置し、溶液を、溶液に対する有孔フィルム、グリッド、透析膜、または水溶性フィルムによる支持によって、チップに固定するにように、区画に直接加えてもよい。
【0112】
本実施例における第2のキャリアおよびチップの形状および構造は、上記の実施例で説明したものと同様であり、ここで繰り返さない。本実施例では、胚は、第1のキャリアにより非油相解凍液に浸し、解凍・復温を行い、第1のキャリアは、チップ(およびシステム内の他の構成要素)と組み合わせて使用することができないため、胚を第2のキャリアに移送し、第2のキャリアをチップ(およびシステム内の他の構成要素)と組み合わせて使用し、凍結保護剤を除去できるようにする必要がある。
【0113】
本実施例におけるシステムは、ベースおよび台座などの構成要素も含まれることがあることに留意されたいが、ここでは繰り返さない。
【0114】
本発明の方法の操作工程は、システムの構造的特徴に対応しており、相互参照してもよく、ここでは繰り返さない。
【0115】
本発明の上記の技術的解決手段によれば、以下の有利な効果を有する。
【0116】
(1)本発明は、既存の手作業による解凍に対して、凍結保護剤の除去速度を調整可能なように機械によって駆動される標準化されたプロセスを提案した。解凍および蘇生のプロセスは毎回安定しており、流れが簡単であり、出願人が先に出願した凍結の方法と併用する場合、胚培養士は胚をキャリアに加える必要がなく、機械で解凍プロセスを完了するまでに、胚をキャリアから培養皿に移動させるだけで済み、胚は解凍および蘇生の全プロセスの間、キャリア上で、1つの固定位置にあるため、胚培養士は、大容量の液体から胚を探す必要がなく、スループットが高い。
【0117】
(2)本発明のキャリアでは、既存のマイクロフルイディクスとは対照的に、デッドボリュームがなく、キャリア上の胚の位置により、胚培養士はガラス毛細管を用いて胚を直接回収することができる。
【0118】
(3)本発明のスループットは、既存のロボット(人間の手を模倣したもの)に比べて高く、コア機能は1つのリニアモータープラットフォームのみを必要とするため、コストが低く、胚の識別にマシンビジョンを必要としない。
【0119】
本発明の実施形態は、方法、システムまたはコンピュータプログラム製品として提供され得ることが、当該技術分野における当業者には理解されるべきである。したがって、本発明は、完全なハードウェアの実施形態、完全なソフトウェアの実施形態、またはソフトウェアとハードウェアの組み合わせの実施形態をとることができる。さらに、本発明は、その中にコンピュータ使用可能なプログラムコードを含む1つ以上のコンピュータ使用可能な記憶媒体(ディスクストレージ、CD-ROM、光メモリなどを含むが、これらに限定されない)上で実施されるコンピュータプログラム製品の形態をとることができる。
【0120】
上記の説明は、本発明の一実施形態に過ぎず、本発明を限定することを意図するものではなく、当業者にとっては様々な変更および変形が可能である。本発明の精神および原理の範囲内でなされたあらゆる変更、等価の代替、改良などは、本発明の特許請求の範囲に含まれるものとする。
【図面の簡単な説明】
【0121】
【
図1】
図1は、本発明の一実施形態による生体材料を解凍および蘇生するための方法のフローチャートである。
【
図2】
図2は、本発明の別の実施形態による生体材料を解凍および蘇生するための方法のフローチャートである。
【
図3】
図3は、本発明のさらなる実施形態による生体材料を解凍および蘇生するための方法のフローチャートである。
【
図4】
図4は、本発明のさらに別の実施形態による生体材料を解凍および蘇生するための方法のフローチャートである。
【
図5】
図5は、本発明の実施形態によるキャリアおよびベセルの模式図である。
【
図6】
図6は、本発明の実施形態によるキャリアの模式図である。
【
図7】
図7は、本発明の実施形態によるチップの模式図である。
【
図8】
図8は、本発明の一実施形態による生体材料を解凍および蘇生するシステムの模式図である。
【
図9】
図9は、本発明の実施形態によるベースの構造模式図である。
【
図10】
図10は、本発明の別の実施形態による生体材料を解凍および蘇生するシステムの模式図である。
【
図11】
図11は、本発明のさらなる実施形態による生体材料を解凍および蘇生するシステムの模式図である。
【国際調査報告】