(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-02-01
(54)【発明の名称】S配置含有アミノベンズアミドピリダジノン系化合物、その製造方法、医薬組成物および応用
(51)【国際特許分類】
C07D 237/14 20060101AFI20240125BHJP
C07D 403/04 20060101ALI20240125BHJP
C07D 401/04 20060101ALI20240125BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20240125BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20240125BHJP
A61P 29/00 20060101ALI20240125BHJP
A61P 25/00 20060101ALI20240125BHJP
A61P 33/06 20060101ALI20240125BHJP
A61P 3/10 20060101ALI20240125BHJP
A61P 35/02 20060101ALI20240125BHJP
A61P 11/00 20060101ALI20240125BHJP
A61P 13/12 20060101ALI20240125BHJP
A61P 1/00 20060101ALI20240125BHJP
A61P 15/00 20060101ALI20240125BHJP
A61P 17/00 20060101ALI20240125BHJP
A61P 1/16 20060101ALI20240125BHJP
A61P 1/18 20060101ALI20240125BHJP
A61K 31/50 20060101ALI20240125BHJP
A61K 31/501 20060101ALI20240125BHJP
【FI】
C07D237/14 CSP
C07D403/04
C07D401/04
A61P43/00 111
A61P35/00
A61P29/00
A61P25/00
A61P33/06
A61P3/10
A61P35/02
A61P11/00
A61P13/12
A61P1/00
A61P15/00
A61P17/00
A61P1/16
A61P1/18
A61K31/50
A61K31/501
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023550056
(86)(22)【出願日】2022-02-18
(85)【翻訳文提出日】2023-10-16
(86)【国際出願番号】 CN2022076727
(87)【国際公開番号】W WO2022174803
(87)【国際公開日】2022-08-25
(31)【優先権主張番号】202110193453.0
(32)【優先日】2021-02-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】512148861
【氏名又は名称】シャンハイ インスティチュート オブ マテリア メディカ,チャイニーズ アカデミー オブ サイエンシーズ
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100141977
【氏名又は名称】中島 勝
(74)【代理人】
【識別番号】100138210
【氏名又は名称】池田 達則
(74)【代理人】
【識別番号】100182730
【氏名又は名称】大島 浩明
(72)【発明者】
【氏名】フー ヨウホン
(72)【発明者】
【氏名】コン メイユイ
(72)【発明者】
【氏名】リー ターチアン
(72)【発明者】
【氏名】シェン アイチュン
(72)【発明者】
【氏名】チャン チュオ
(72)【発明者】
【氏名】リー ヤーレイ
(72)【発明者】
【氏名】ヤン ホアチエ
(72)【発明者】
【氏名】リウ ホンチュン
(72)【発明者】
【氏名】チョン ハンユエ
(72)【発明者】
【氏名】ティン チエン
【テーマコード(参考)】
4C063
4C086
【Fターム(参考)】
4C063AA01
4C063BB01
4C063CC28
4C063DD12
4C063DD22
4C063EE01
4C086AA01
4C086AA02
4C086AA03
4C086AA04
4C086BC41
4C086GA07
4C086GA16
4C086MA01
4C086MA04
4C086MA52
4C086NA14
4C086ZA01
4C086ZA59
4C086ZA66
4C086ZA75
4C086ZA81
4C086ZA89
4C086ZB11
4C086ZB26
4C086ZB27
4C086ZB38
4C086ZC02
4C086ZC35
(57)【要約】
本発明は、S配置含有アミノベンズアミドピリダジノン系化合物、その製造方法、医薬組成物および使用に関する。具体的に、本発明は、以下の一般式Iで示される化合物またはその薬理学的に許容される塩、その製造方法、医薬組成物および使用に関する。本願のS配置化合物は、クラスIヒストンデアセチラーゼ(HDAC1)に対して強い結合活性を有し、インビトロで種々の腫瘍細胞の増殖に対して阻害活性を示す。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式Iで示される化合物またはその薬理学的に許容される塩であって、
【化1】
その中、環Aが、C
6-C
10アリール基、1~3個のN、OおよびSからなる群より選ばれるヘテロ原子を含む5-10員ヘテロアリール基からなる群より選ばれ;
R
1が、一つまたは複数の置換基を示し、前記置換基が、それぞれ独立して、H、ハロゲン、C
1-C
6直鎖状または分岐状アルキル基、C
1-C
6直鎖状または分岐状アルコキシ基、(R
a)(R
b)N(CH
2)-からなる群より選ばれ;その中、R
aおよびR
bが、それぞれ独立して、C
1-C
3アルキル基またはそれらに連結するNと一緒になって3-7員の複素環基を形成し;
R
2、R
3およびR
4が、互いに同じでも異なってもよく、それぞれ独立して、水素、ハロゲン、C
1-C
3アルキル基、C
1-C
3アルコキシ基からなる群より選ばれる、
化合物またはその薬理学的に許容される塩。
【請求項2】
環Aが、フェニル基、ピリジル基またはピラゾリル基からなる群より選ばれ;R
1が、
【化2】
、ハロゲン、C
1-C
3アルコキシ基、C
1-C
3アルキル基からなる群より選ばれる、
請求項1記載の化合物またはその薬理学的に許容される塩。
【請求項3】
前記化合物は、以下式II、式IIIおよび式IVの化合物からなる群より選ばれ、
【化3】
その中:
R
1、R
2、R
3およびR
4の定義が、それぞれ相応する請求項の定義とおりである、
請求項1または2前記の化合物またはその薬理学的に許容される塩。
【請求項4】
前記化合物は、以下の化合物からなる群より選ばれる:
【化4】
請求項1前記の化合物またはその薬理学的に許容される塩。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか記載の化合物を製造する方法であって、前記方法は、以下のスキームの一つであり、
スキーム一:
【化5】
以下の工程を含む:
(1)H3で示される(R)-4-(1-ヒドロキシエチル)安息香酸tert-ブチルと6-クロロピリダジノンとのMitsunobu反応により、配置逆転されたH4で示される(S)-4-(1-(3-クロロ-6-オキソピリダジン-1(6H)-イル)エチル)安息香酸tert-ブチルを得る;
(2)H4で示される(S)-4-(1-(3-クロロ-6-オキソピリダジン-1(6H)-イル)エチル)安息香酸tert-ブチルとH5で示される化合物とのSuzukiカップリング反応により、H6で示される化合物を得る;
(3)H6で示される化合物の脱tert-ブチル基保護により、H7で示される化合物を得る;
(4)H7で示される化合物とH8で示される化合物の縮合反応により、式Iで示される化合物を得る;
スキーム二:
【化6】
以下の工程を含む:
(1)H7で示される化合物とH10で示される化合物との縮合反応により、H11で示される化合物を得る;
(2)H11で示される化合物の脱Boc保護基により、式Iで示される化合物を得る;
スキーム三:
【化7】
以下の工程を含む:
(1)H7で示される化合物とH13で示される化合物との縮合反応により、H14で示される化合物を得る;
(2)H14で示される化合物の還元反応により、式Iで示される化合物を得る;
その中、環A、R
1、R
2、R
3およびR
4の定義がそれぞれ相応する請求項の定義とおりである、方法。
【請求項6】
H3が、以下の方法により合成され、
【化8】
(1)H1で示されるパラアセチル安息香酸とBoc酸無水物とのエステル化反応により、H2で示されるパラアセチル安息香酸tert-ブチルを得る;
(2)不斉触媒(S)-2-メチル-CBS-オキサザボロラン((S)-2-Me-CBS)の作用で、H2で示されるパラアセチル安息香酸tert-ブチルとN,N-ジエチルアニリン・ボラン複合体との還元反応により、H3で示される(R)-4-(1-ヒドロキシエチル)安息香酸tert-ブチルを得る、
請求項5記載の方法。
【請求項7】
請求項1~4のいずれか記載の化合物およびその薬理学的に許容される塩からなる群より選ばれる少なくとも一つを含み、任意にさらに薬理学的に許容される担体を含む、医薬組成物。
【請求項8】
請求項1~4のいずれか記載の化合物またはその薬理学的に許容される塩、または請求項7記載の医薬組成物の、クラスIヒストンデアセチラーゼ活性の異常発現に関連する疾患を予防または治療するための医薬の製造における使用。
【請求項9】
クラスIヒストンデアセチラーゼ活性の異常発現に関連する疾患は、癌、炎症、神経変性疾患、マラリアおよび糖尿病を含む、
請求項8記載の使用。
【請求項10】
前記癌は、骨髄異形成症候群、白血病、リンパ腫、多発性骨髄腫、肺癌、腎臓癌、胃癌、乳癌、黒色腫、結腸直腸癌、肝細胞癌、卵巣癌、膵臓癌、直腸癌からなる群より選ばれ、
特に、前記白血病は、単核球性白血病、急性骨髄性白血病、ダウン症候群急性巨核球性白血病、T細胞性急性リンパ芽球性白血病、急性リンパ芽球性白血病、多発性骨髄性白血病、慢性骨髄性白血病、ヒトTリンパ芽球性白血病、急性骨髄性白血病を含み、
前記リンパ腫は、びまん性大細胞型B細胞リンパ腫、マントル細胞リンパ腫、原発性皮膚T細胞非ホジキンリンパ腫、原発性縦隔大細胞型B細胞リンパ腫、ホジキンリンパ腫を含む、
請求項9記載の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アミノベンズアミドピリダジノン系化合物に関し、より具体的に、本発明は、S配置含有アミノベンズアミドピリダジノン系化合物、その製造方法、医薬組成物およびクラスIヒストンデアセチラーゼ(class I HDAC)活性の異常発現に関連する疾患を予防または治療するための医薬の製造における使用に関する。
【背景技術】
【0002】
細胞内のヒストンまたは非ヒストンのアセチル化レベルは、ヒストンアセチルトランスフェラーゼ(HAT)とヒストンデアセチラーゼ(HDAC)によって制御され、その結果、細胞周期、分化、血管新生、アポトーシスなどに影響を及ぼす。HDACの過剰発現は、ヒストンまたは非ヒストンタンパク質の脱アセチル化を促し、クロマチン凝縮をもたらし、その結果、がん遺伝子の転写を阻害する。研究によって、HDAC活性の阻害がエピジェネティック機能のリモデリングを可能にし、悪性腫瘍の有効な治療法であることが示されている(Nat. Rev. Drug. Discov. 2014,13(9),673-691)。
【0003】
これまでに、FDAは、皮膚T細胞リンパ腫(CTCL)、末梢性T細胞リンパ腫(PTCL)、多発性骨髄腫(MM)の治療薬として、2006年に承認された最初のHDAC阻害剤であるボリノスタット(Vorinostat、SAHA)、2009年に承認されたロミデプシン(Romidepsin、FK228)、2014年に承認されたベリノスタット(Belinostat、PXD-101)、2015年に承認されたパノビノスタット(Panobinostat、LBH589)を含む4種類のHDAC阻害剤を承認している。アミノベンズアミド類似体のもう1つのクラスはクラスI(class I)のHDAC阻害剤に属し、その最も代表的な化合物には、HR+乳癌の治療薬としてエキセメスタンとの併用でPTCLの治療薬としてNMPAから承認されているが、単独では十分な効果が得られていないチダミド(Chidamide、CS055)があり、また、臨床第III相段階にあるエンチノスタット(Entinostat、MS-275)などがあるが、この化合物は毒性が高く、安全性ウィンドウが小さいため、さらなる臨床応用には限界がある(Adv. Cancer. Res. 2018,138,183-211)。さらに、医薬品開発の様々な段階にある多数のHDAC阻害剤がある。
【0004】
CN109280032Aは、腫瘍、炎症などのHDAC活性の異常発現に関連する哺乳類の疾患のためのHDAC阻害剤として使用することができるピリダジノン母核の化合物を開示しており、代表的な化合物であるHYH-072およびHYH-073は、良好な酵素阻害活性および腫瘍細胞増殖阻害活性を示すが、このクラスの代表的な化合物はラセミ体である。
【化1】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
発明者らのさらなる検討により、異なる配置のアミノベンズアミドピリダジノン系化合物は酵素阻害活性および細胞増殖阻害活性に大きな差があり、S配置含有アミノベンズアミドピリダジノン系化合物がより高い活性を有することが明らかとなり、本発明を完成するに至った。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第一の目的は、S配置含有アミノベンズアミドピリダジノン系化合物、またはその薬理学的に許容される塩を提供する。
【0007】
本発明の第二の目的は、前記化合物の製造方法を提供する。
【0008】
本発明の第三の目的は、治療有効量の上記化合物およびその薬理学的に許容される塩からなる群より選ばれる一つまたは複数を含む、医薬組成物を提供する。
【0009】
本発明の第四の目的は、上記化合物またはその薬理学的に許容される塩の、クラスIヒストンデアセチラーゼ(class I HDAC)活性の異常発現に関連する疾患を予防または治療するための医薬の製造における使用、または、上記医薬組成物のクラスIヒストンデアセチラーゼ(class I HDAC)活性の異常発現に関連する疾患を予防または治療するための使用を提供する。
【0010】
一態様では、本発明は、一般式Iで示される化合物またはその薬理学的に許容される塩を提供する。
【化2】
その中:
環Aが、C
6-C
10アリール基、1~3個のN、OおよびSからなる群より選ばれるヘテロ原子を含む5-10員ヘテロアリール基からなる群より選ばれ;
R
1が、一つまたは複数の置換基を示し、前記置換基が、それぞれ独立して、H、ハロゲン、C
1-C
6直鎖状または分岐状アルキル基、C
1-C
6直鎖状または分岐状アルコキシ基、(R
a)(R
b)N(CH
2)-からなる群より選ばれ;その中、R
aおよびR
bが、それぞれ独立して、C
1-C
3アルキル基であり、またはそれらに連結するNと一緒になって3-7員の複素環基を形成し;
R
2、R
3およびR
4が、互いに同じても異なってもよく、それぞれ独立して、水素、ハロゲン、C
1-C
3アルキル基、C
1-C
3アルコキシ基からなる群より選ばれる。
【0011】
いくつかの実施形態では、環Aが、フェニル基、ピリジル基またはピラゾリル基からなる群より選ばれる。
【0012】
いくつかの実施形態では、R
1が、
【化3】
、ハロゲン、C
1-C
3アルコキシ基、C
1-C
3アルキル基からなる群より選ばれる。
【0013】
いくつかの実施形態では、前記化合物が、
【化4】
からなる群より選ばれる。
その中:
R
1、R
2、R
3およびR
4の定義が、それぞれ上記と同じである。
【0014】
いくつかの実施形態では、前記化合物が、以下の化合物からなる群より選ばれる。
【化5】
【0015】
本発明の化合物は、さらに、溶媒和物(水和物を含む)、結晶多形、同位体標識体(例えば、重水素化体)、互変異性体またはプロドラッグとして存在し、これらの存在形態も本発明の保護範囲に含まれる。
【0016】
第二の態様では、本発明は、以下のスキームの一つである、上記記載の化合物の製造方法を提供する。
スキーム一:
【化6】
以下の工程を含む:
(1)H3で示される(R)-4-(1-ヒドロキシエチル)安息香酸tert-ブチルと6-クロロピリダジノンのMitsunobuとの反応により、配置逆転されたH4で示される(S)-4-(1-(3-クロロ-6-オキソピリダジン-1(6H)-イル)エチル)安息香酸tert-ブチルを得る工程;
(2)H4で示される(S)-4-(1-(3-クロロ-6-オキソピリダジン-1(6H)-イル)エチル)安息香酸tert-ブチルとH5で示される化合物とのSuzukiカップリング反応により、H6で示される化合物を得る工程;
(3)H6で示される化合物の脱tert-ブチル基保護により、H7で示される化合物を得る工程;
(4)H7で示される化合物とH8で示される化合物の縮合反応により、式Iで示される化合物を得る工程;
スキーム二:
【化7】
以下の工程を含む:
(1)H7で示される化合物とH10で示される化合物の縮合反応により、H11で示される化合物を得る工程;
(2)H11で示される化合物の脱Boc保護基により、式Iで示される化合物を得る工程;
スキーム三:
【化8】
以下の工程を含む:
(1)H7で示される化合物とH13で示される化合物の縮合反応により、H14で示される化合物を得る工程;
(2)H14で示される化合物の還元反応により、式Iで示される化合物を得る工程;
その中、環A、R
1、R
2、R
3およびR
4の定義が、それぞれ、前記のとおりである。
【0017】
前記方法において、キラル中間体H3が、市販のものであってもよく、自己合成のものであってもよい。
【0018】
一つの実施形態では、H3が、以下のように合成されることができる。
【化9】
(1)H1で示されるパラアセチル安息香酸とBoc酸無水物のエステル化反応により、H2で示されるパラアセチル安息香酸tert-ブチルを得て;
(2)不斉触媒(S)-2-メチル-CBS-オキサザボロラン((S)-2-Me-CBS)の作用で、H2で示されるパラアセチル安息香酸tert-ブチルとN,N-ジエチルアニリン・ボラン複合体との還元反応により、H3で示される(R)-4-(1-ヒドロキシエチル)安息香酸tert-ブチルを得る。
【0019】
上記キラル中間体H3の合成操作が簡単であり、キラルee値が高く(97.2%、
図5参照)、工業生産に適している。
【0020】
第三の態様では、本発明は、以下の式H7で示される中間体を提供する。
【化10】
【0021】
その中、環AおよびR1の定義が、それぞれ、前記のとおりである。
第四の態様では、本発明は、上記記載の化合物およびその薬理学的に許容される塩からなる群より選ばれる少なくとも一つを含む、医薬組成物を提供する。前記医薬組成物は、さらに、薬理学的に許容される担体を含むことができる。
【0022】
第五の態様では、本発明は、上記記載の化合物またはその薬理学的に許容される塩または上記記載の医薬組成物の、クラスIヒストンデアセチラーゼ(class I HDAC)活性の異常発現に関連する疾患を予防または治療するための医薬の製造における使用を提供する。
【0023】
いくつかの実施形態では、前記クラスIヒストンデアセチラーゼ(class I HDAC)活性の異常発現に関連する疾患は、癌、炎症、神経変性疾患、マラリアまたは糖尿病を含む。
【0024】
いくつかの実施形態では、前記癌が、骨髄異形成症候群、白血病(単核球性白血病、急性骨髄性白血病、ダウン症候群急性巨核球性白血病、T細胞性急性リンパ芽球性白血病、急性リンパ芽球性白血病、多発性骨髄性白血病、慢性骨髄性白血病、ヒトTリンパ芽球性白血病、急性骨髄性白血病を含む)、リンパ腫(びまん性大細胞型B細胞リンパ腫、マントル細胞リンパ腫、原発性皮膚T細胞非ホジキンリンパ腫、原発性縦隔大細胞型B細胞リンパ腫、ホジキンリンパ腫を含む)、多発性骨髄腫、肺癌、腎臓癌、胃癌、乳癌、黒色腫、結腸直腸癌、肝細胞癌、卵巣癌、膵臓癌、直腸癌からなる群より選ばれる。
【0025】
本発明の範囲内において、本発明の上記した各技術的特徴および以下に(例えば、実施例において)具体的に説明する各技術的特徴は、互いに組み合わせることができ、それにより新規なまたは好ましい技術的解決策を構成することができることが理解されるべきである。紙面の都合上、本明細書では繰り返さない。
【0026】
有益な効果
本発明者らは、このようなS配置含有アミノベンズアミドピリダジノン系クラスI HDAC阻害剤の活性構造関係を検討した結果、ピリダジノンの2位Nに連結するベンジル基をS配置とする場合、HDAC1、HDAC2およびHDAC3の各アイソフォームに対する阻害活性、ならびにヒト骨髄異形成症候群細胞SKM-1およびヒト結腸癌細胞HCT-116の増殖阻害活性が、R配置化合物よりも有意に優れており、チダミドおよびMS-275よりも高くなることを見出し、これにより、S配置化合物が分子活性および細胞活性において主要な役割を果たしていることが示された。
【0027】
さらに重要なことは、本発明により提供される化合物は、同じ用量で、ヒト骨髄異形成症候群細胞SKM-1(
図1参照)、急性骨髄性白血病細胞OCI-AML-3(
図2参照)マウス異種移植腫瘍モデルを、市販薬チダミドよりもはるかに良好に阻害し、同等の効力を有するMS-275よりも優れた安全性プロファイルを有することである。化合物I-1 60mg/kgを18日間連続して経口投与すると、ヒト骨髄異形成症候群細胞SKM-1 NOD/SCIDマウス移植腫瘍に対して治療効果があり、マウス移植腫瘍の増殖を効果的に阻害することができ、相対腫瘍増殖率T/Cは11.78%で、チダミド60mg/kgを1日1回で経口投与した実験群の効果(T/C 73.45%)よりも明らかに良好であり、MS-275を1日1回で経口投与した実験群の効果(T/C 18.23%)よりも良好であった。化合物 I-1 60mg/kgを14日間連続して経口投与すると、ヒト急性骨髄性白血病細胞OCI-AML-3 NOD/SCIDマウス移植腫瘍に対して治療効果を示し、マウス移植腫瘍の増殖を効果的に阻害することができ、相対腫瘍増殖率は7.75%で、チダミド 80mg/kgを1日1回で経口投与した実験群の効果(T/C 69.91%)よりも明らかに良好であり、MS-275 20mg/kgを1日1回で経口投与した実験群の効果(T/C:14.16%)よりも良好であった。また、実験期間中、マウスの体重はほぼ変化がなく、化合物I-1の安全性は良好であることが示された。
【0028】
以上をまとめると、本発明により提供される化合物は、大幅に改善された活性、良好な経口吸収効果、および有意な有効性を有し、したがって、より良好な開発の見込みがある。
【0029】
また、本発明の化合物は、種々の固形癌(例えば、肺癌、腎臓癌、胃癌、乳癌、黒色腫、結腸癌、肝臓癌、リンパ腫など)に対しても非常に優れた阻害活性を有する。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【
図1】本願の化合物I-1のヒト骨髄異形成症候群SKM-1マウス移植腫瘍モデルにおける薬理学的効果の結果を示す。
【0031】
【
図2】本願の化合物I-1のヒト急性骨髄性白血病OCI-AML-3マウス移植腫瘍モデルにおける薬理学的効果の結果を示す。
【0032】
【
図3】本願の化合物I-1、I-2のヒト悪性黒色腫A375マウス移植腫瘍モデルにおける薬理学的効果の結果を示す。
【0033】
【
図4】本願の化合物I-1の不斉合成前(B)および不斉合成後(A)のee値を示す。
【0034】
【
図5】本願実施例1中の中間体化合物Hの不斉合成前(B)および不斉合成後(A)のee値を示す。
【発明を実施するための形態】
【0035】
用語
本発明において、特に断らない限り、置換基の意味は以下のように定義される:
【0036】
前記C6-C10アリール基とは、環に6~10個の炭素原子を有する芳香性炭素環基を意味し、その具体的な例がフェニル基、ナフチル基等を含む。
【0037】
前記ハロゲン原子とは、F、Cl、Br、Iを意味する。
【0038】
前記C1-C6直鎖状または分岐状アルキル基とは、1~6個の炭素原子を有する直鎖状または分岐状アルキル基を意味し、その具体的な例が、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、tert-ブチル基、sec-ブチル基、n-ペンチル基、1-メチルブチル基、2-メチルブチル基、3-メチルブチル基、イソペンチル基、1-エチルプロピル基、ネオペンチル基、n-ヘキシル基、1-メチルペンチル基、2-メチルペンチル基、3-メチルペンチル基、イソヘキシル基、1,1-ジメチルブチル基、2,2-ジメチルブチル基、3,3-ジメチルブチル基、1,2-ジメチルブチル基、1,3-ジメチルブチル基、2,3-ジメチルブチル基、2-エチルブチル基等を含む。
【0039】
前記C1-C6直鎖状または分岐状アルコキシ基とは、1~6個の炭素原子を有する直鎖状または分岐状アルコキシ基を意味し、その具体的な例が、メトキシ基、エトキシ基、n-プロポキシ基、イソプロポキシ基、n-ブチルオキシ基、イソブチルオキシ基、tert-ブチルオキシ基、sec-ブチルオキシ基、n-ペンチルオキシ基、イソペンチルオキシ基、ネオペンチルオキシ基、n-ヘキシルオキシ基、イソヘキシルオキシ基、3-メチルペンチルオキシ基等を含む。
【0040】
前記1~3個のN、OおよびSからなる群より選ばれるヘテロ原子を含む5-10員ヘテロアリール基とは、環上に5~10個の原子を有し、かつ1~3個のN、O、Sからなる群より選ばれるヘテロ原子を含む芳香性環を意味し、単環式であっても二環式であってもよく、例えば、ピリジン環、ピロール環、ピリミジン環、ピラジン環、ピリダジン環、チオフェン環、フラン環、ピラゾール環、イミダゾール環、オキサゾール環、チアゾール環、インドール環、アザインドール環、ナフチリジン環、ベンゾイミダゾール環、ピリドイミダゾール環、ピリミドイミダゾール環またはキノリン環等である。
【0041】
前記薬理学的に許容される塩は、例えば、塩酸塩、臭化水素酸塩、ヨウ化水素酸塩、硫酸塩、硝酸塩、リン酸塩、炭酸塩等のような無機酸塩であってもよく;ギ酸塩、酢酸塩、プロピオン酸塩、シュウ酸塩、マロン酸塩、コハク酸塩、フマル酸塩、マレイン酸塩、アジピン酸塩、乳酸塩、リンゴ酸塩、クエン酸塩、クエン酸塩、酒石酸塩、炭酸塩、ピクリン酸塩、メタンスルホン酸塩、エタンスルホン酸塩、p-トシル酸塩、グルタミン酸塩、パモ酸塩等のような有機酸塩であってもよい。
【0042】
本発明で提供される一般式Iで示されるS配置含有アミノベンズアミドピリダジノン系化合物の薬理学的に許容される塩は、一般式Iで示されるS配置含有アミノベンズアミドピリダジノン系化合物を対応する酸で飽和したアルコール溶液またはジオキサン溶液中に溶解して反応することにより製造され、例えば、本発明で提供されるS配置含有アミノベンズアミドピリダジノン系化合物をHCl飽和のジオキサン溶液に溶解し、室温で30分間撹拌し、溶媒を蒸発させ、対応する塩酸塩を製造することができる。
【0043】
本発明の化合物は、プロドラッグとしても存在することができるため、これらのプロドラッグも本発明の化合物の保護範囲に含まれる。前記プロドラッグとは、薬物の化学構造を改変した後に得られる、インビトロでは不活性または低活性の化合物であり、酵素的または非酵素的変換により活性薬物を放出することにより、インビボで薬効を発揮するものを意味する。本発明におけるプロドラッグの形態は、生体内で酵素的または化学的作用により活性プロドラッグを放出し、期待される薬理効果を発揮するものであれば、特に限定されず、担体前駆体薬物であってもよく、生物学的前駆体であってもよい。
【0044】
本発明の化合物は、非溶媒和形態および薬理学的に許容される溶媒(例えば、水、エタノール等)を含有する溶媒和形態(溶媒和物ともいう)として存在することができ、本発明の化合物が、溶媒和および非溶媒和の形態を含む。前記溶媒和物は、一般式Iの化合物と薬理学的に許容される溶媒とから形成される複合物であり、任意に、前記薬理学的に許容される溶媒が、水、エタノール、酢酸、N,N-ジメチルホルムアミドまたはジメチルスルホキシド等を含む。
【0045】
本発明の化合物は、異なる互変異性形態として存在することができ、これらのすべての形態が、いずれも本発明の範囲に含まれる。「互変異性体」または「互変異性形態」という用語とは、低エネルギー障壁によって相互変換されるエネルギーの異なる構造異性体を意味する。
【0046】
本発明は、また、同位体標識された本発明の化合物も含み、これらの化合物は、一つまたは複数の原子が、自然界で一般的に見出されるものとは異なる原子質量または質量数を有する原子で置換されていること以外、本明細書に記載される化合物と同一である。本発明の化合物に組み込むことができる同位体の例は、水素、炭素、窒素、酸素、リン、硫黄、フッ素、ヨウ素および塩素の同位体を含み、例えば、それぞれ、2水素、3水素、11炭素、13炭素、14炭素、13窒素、15窒素、15酸素、17酸素、18酸素、31リン、32リン、35硫黄、18フッ素、123ヨウ素、125ヨウ素および36塩素が挙げられる。本発明の同位体標識化合物は、一般に、非同位体標識試薬を同位体標識試薬に置き換えることにより、以下のスキームおよび/または実施例に開示されている方法と同様の方法に従って製造することができる。
【0047】
前記薬理学的に許容される担体は、薬学の分野で慣用されている薬物担体であり、例えば:水などの希釈剤;デンプン、スクロースなどの充填剤;セルロース誘導体、アルギン酸塩、ゼラチン、ポリビニルピロリドンなどの結合剤;グリセロールなどの湿潤剤;寒天、炭酸カルシウム、炭酸水素ナトリウムなどの崩壊剤;第4級アンモニウム化合物などの吸収促進剤;ヘキサデカノールなどの界面活性剤;カオリン、石鹸クレーなどの吸着担体;タルク、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム、ポリエチレングリコールなどの滑沢剤である。また、香料や甘味料などの他の賦形剤を上記の医薬組成物に添加することもできる。
【0048】
本発明は、特定の実施例に関連して以下にさらに説明される。これらの実施例は、本発明を説明するためにのみ使用され、本発明の範囲を限定することを意図するものではないことが理解されるべきである。
【実施例】
【0049】
以下の実施例は、本発明に提供されるS配置含有アミノベンズアミドピリダジノン系化合物の製造過程、およびクラスI HDAC阻害剤としての生物学的活性を具体的に例示するために使用されるが、本発明はこれらの実施例に限定されない。
【0050】
以下の実施例において、NMR水素スペクトルはBruker AMX-400、Bruker AMX-500、またはAMX-600 NMR装置を用いて記録し、化学シフトδの単位はppmである。特に断りのない限り、すべての反応溶媒は常法に従って精製された。カラムクロマトグラフィー用のシリカゲル(200-300メッシュ)は青島海洋化学分公司で製造されたものである。特に断りのない限り、溶媒はすべて分析的に純粋な試薬を使用し、使用した試薬は、すべてSinopharm Chemical Reagent Co.から購入されたものである。発色にはUV蛍光法が用いられた。有機溶媒の減圧蒸発はロータリーエバポレーターで行われた。
【0051】
実施例1:化合物I-1の合成
【化11】
パラアセチル安息香酸(1、100.0g,609mmol)を2L三口フラスコ中に置いて、300mlテトラヒドロフランを加入し、氷バスで冷却した後、4-ジメチルアミノピリジン(DMAP、14.88g,121mmol)を加入し、内部温度を10℃に維持し、700mlテトラヒドロフラン(THF)に溶解した(Boc)
2O(279.1g,1278.9mmol)溶液を滴下し、滴下が完了した後、室温で24時間反応した。TLCにより反応完了と検出した後、減圧で溶媒を除去し、750ml酢酸エチルを加入し、順次に0.1N塩酸(2×750ml)、飽和炭酸水素ナトリウム溶液(2×750ml)、飽和食塩水(2×500ml)で洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥した後、減圧で溶媒を除去し、n-ヘプタン750mlを加入し、シリカゲル濾過で浅黄色固体130g(化合物2)が得られ、収率が97%であった。
1H NMR(400mHz,CDCl
3) δ 8.06(d,J=8.7Hz,2H),7.98(d,J=8.7Hz,2H),2.64(s,3H),1.61(s,9H);ESI-MS:m/z=221[M+H]
+。
【0052】
窒素保護下で2L三口フラスコ中に(S)-2-メチル-CBS-オキサザボロラン((S)-2-Me-CBS、8.2g,29mmol)、N,N-ジエチルアニリン・ボラン複合体(96.2g,590mmol)および300ml無水メチルtert-ブチルエーテルを加入し、氷バスで10℃まで冷却し、300ml無水メチルtert-ブチルエーテルに溶解した4-アセチル安息香酸tert-ブチル(2、130g,590mmol)溶液を滴下し、温度を15~25℃に制御した。滴下が完了した後、室温まで昇温し、引き続き原料反応が完了するまで5時間撹拌した。氷バスで10℃まで冷却し、ゆっくり60mlメタノールを滴下し、引き続き30分間撹拌した。順次に0.5N塩酸(2×600ml)、飽和食塩水(2×500ml)で洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥した後、減圧で溶媒を除去し、浅黄色油状液体112g(化合物3)が得られ、収率が85%で、キラルee値が97.2%であった。1H NMR(400mHz,CDCl3) δ 7.97(d,J=8.3Hz,2H),7.42(d,J=8.3Hz,2H),5.02-4.91(m,1H),1.88(d,J=3.4Hz,1H),1.59(s,9H),1.49(d,J=6.5Hz,3H);ESI-MS:m/z=223[M+H]+。
【0053】
反応物(R)-4-(1-ヒドロキシエチル)安息香酸tert-ブチル(3、111.5g、501mmol)、6-クロロピリダジノン(62.3g、477mmol)およびトリフェニルホスフィン(PPh3、150.2g、572mmol)を3L三口フラスコ中に置いて、N2保護下で600ml無水THFを加入して溶解し、その後、0℃まで冷却、ゆっくりアゾジカルボン酸ジイソプロピル(DIAD、115.8g、572mmol)を滴下し、室温で一晩反応した。反応液中の固体を濾過し、濾液に200ml酢酸エチルおよび1000mln-ヘプタンを加入し、室温で1時間撹拌した。減圧濾過し、濾液に改めて200ml酢酸エチルおよび1000mln-ヘプタンを加入してスラリー化し、減圧濾過し、濾過ケーキを酢酸エチル:n-ヘプタン=5:1(600ml)で洗浄し、減圧で溶媒を除去し、黄色油状液体178.9g(化合物4)が得られ、精製せずにそのまま次の工程の反応に用いた。ESI-MS:m/z=335[M+H]+。
【0054】
上記で得られた(S)-4-(1-(3-クロロ-6-オキソピリダジン-1(6H)-イル)エチル)安息香酸tert-ブチル粗品(4、177g)、(4-((ジメチルアミノ)メチル)フェニル)ボロン酸塩酸塩(5、88.9g,412mmol)、Pd(dppf)Cl2(12.0g、17mmol)および炭酸カリウム(104g、755mmol)を1,4-ジオキサン(1000ml)および水(100ml)中に加入し、N2置換後、85℃まで加熱して6時間反応した。反応液を室温まで冷却し、固体不純物を濾過除去し、濾液を乾燥まで減圧濃縮し、酢酸エチル(EtOAc、1200ml)および水(800ml)を加入し、有機層を分取りした。酢酸(59ml)を加入し、室温で30分間撹拌した後、水(800ml)を加入し、水相を氷バスで4℃まで冷却し、2N水酸化ナトリウム溶液を滴下し、pHを10~11まで調節し、さらに、酢酸エチル(1200ml)で抽出し、シリカゲルで濾過した後、減圧で溶媒を除去し、粗品100g(化合物6)が得られ、二工程の収率が48%であった。1H NMR(400mHz,CDCl3) δ 7.94(d,J=8.4Hz,2H),7.72(d,J=8.3Hz,2H),7.65(d,J=9.7Hz,1H),7.52(d,J=8.4Hz,2H),7.40(d,J=8.2Hz,2H),6.98(d,J=9.7Hz,1H),6.44(q,J=14.1,6.9Hz,1H),3.46(s,2H),2.26(s,6H),1.86(d,J=7.0Hz,3H),1.57(s,9H);ESI-MS:m/z=434[M+H]+.
【0055】
(S)-4-(1-(3-(4-(((ジメチルアミノ)メチル)フェニル)-6-オキソピリダジン-1(6H)-イル)エチル)安息香酸tert-ブチル(6、100g、230mmol)を175ml CH2Cl2に溶解し、氷バスで0℃まで冷却し、トリフルオロ酢酸(230ml)を加入し、室温で3時間反応した。反応液を減圧で溶媒を蒸発させ、メチルtert-ブチルエーテル500mlを加入してスラリー化し、上澄み液を傾倒し、3回繰り返して、最後的に減圧で溶媒を除去し、白色固体(化合物7)80gが得られ、収率が71%であった。1H NMR(400mHz,CDCl3) δ 12.74(s,1H),8.03(d,J=8.4Hz,2H),7.83(d,J=8.3Hz,2H),7.65(d,J=9.7Hz,1H),7.54(d,J=8.3Hz,4H),7.07(d,J=9.7Hz,1H),6.47(q,J=7.0Hz,1H),4.26(d,J=8.5Hz,2H),2.83(s,6H),1.87(d,J=7.1Hz,3H);ESI-MS:m/z=378[M+H]+.
【0056】
(S)-4-(1-(3-(4-(((ジメチルアミノ)メチル)フェニル)-6-オキソピリダジン-1(6H)-イル)エチル)安息香酸トリフルオロ酢酸塩(7、0.79g、1.60mmol)を25ml三口フラスコ中に置いて、2mlジメチルホルムアミド(DMF)を加入して溶解し、すぐに1-ヒドロキシベンゾトリアゾール(HOBT、0.26g、1.93mmol)、N-(3-ジメチルアミノプロピル)-N’-エチルカルボジイミド塩酸塩(EDCI、0.46g、2.41mmol)を加入し、室温で30分間撹拌した。N2保護下で1.2ml DMFに溶解した4-フルオロ-1,2-フェニレンジアミン(0.24g、1.93mmol)溶液およびジイソプロピルエチルアミン(0.79ml、4.82mmol)を滴下した。室温で一晩撹拌し、反応液中に10%炭酸カリウム溶液(6.6ml)およびジクロロメタン(15.0ml)を加入し、有機相を分離した。3N 塩酸(6.4ml)を加入し、室温で2時間撹拌し、水相を分離し、水相を氷バスで4℃まで冷却し、2N水酸化ナトリウム溶液を滴下し、pHを10~11まで調節し、さらにジクロロメタン(25ml)で抽出し、減圧で溶媒を除去し、粗品を逆相カラムクロマトグラフィーで分離し(C18カラム、メタノール-水系)、白色固体(化合物I-1)0.32gが得られ、キラルee値が97%で、収率が41%であった。1H NMR(400mHz,CDCl3) δ 7.97(s,1H),7.85(d,J=8.1Hz,2H),7.73(d,J=8.2Hz,2H),7.65(d,J=9.7Hz,1H),7.56(d,J=8.0Hz,2H),7.41(d,J=8.2Hz,2H),7.13(dd,J=8.2,6.1Hz,1H),6.94(d,J=9.7Hz,1H),6.49(dt,J=12.2,5.5Hz,2H),6.42(dd,J=14.1,7.1Hz,1H),4.00(s,2H),3.46(s,2H),2.26(s,6H),1.87(d,J=7.0Hz,3H);ESI-MS:m/z=486[M+H]+.
【0057】
実施例2-10:化合物I-2~I-10の合成
以下、実施例1と同じような方法により、化合物I-2~I-10を製造した。
【表1-1】
【表1-2】
【表1-3】
【0058】
実施例11:化合物I-11の合成
【化12】
(S)-4-(1-(3-(4-(((ジメチルアミノ)メチル)フェニル)-6-オキソピリダジン-1(6H)-イル)エチル)安息香酸トリフルオロ酢酸塩(7、0.79g、1.60mmol)を25ml三口フラスコ中に置いて、2ml DMFを加入して溶解し、すぐに1-ヒドロキシベンゾトリアゾール(HOBT、0.26g、1.93mmol)、N-(3-ジメチルアミノプロピル)-N’-エチルカルボジイミド塩酸塩(EDCI、0.46g、2.41mmol)を加入し、室温で30分間撹拌した。N
2保護下で1.2ml DMFに溶解した(2-アミノ-4-メトキシフェニル)カルバミン酸tert-ブチル(0.46g、1.93mmol)溶液およびジイソプロピルエチルアミン(0.79ml、4.82mmol)を滴下した。室温で一晩撹拌し、反応液中に10%炭酸カリウム溶液(6.6ml)およびジクロロメタン(15.0ml)を加入し、有機相を分離した。3N塩酸(6.4ml)を加入し、室温で2時間撹拌し、水相を分離し、水相を氷バスで4℃まで冷却し、2N水酸化ナトリウム溶液を滴下し、pHを10~11まで調節し、さらにジクロロメタン(25ml)で抽出し、減圧で溶媒を除去し、粗品をカラムクロマトグラフィーで分離し、白色固体(中間体10)0.68gが得られ、収率が73%であった。
1H NMR(400mHz,CDCl
3) δ 8.05-7.96(m,1H),7.91(d,J=8.3Hz,2H),7.72(d,J=8.3Hz,2H),7.64(d,J=9.7Hz,1H),7.55(d,J=8.3Hz,2H),7.45(s,1H),7.42(d,J=8.3Hz,2H),7.08(d,J=8.8Hz,1H),7.04-7.01(m,1H),6.98(d,J=9.7Hz,1H),6.86(s,1H),6.44(q,J=7.0Hz,1H),3.75(s,3H),3.55(s,2H),2.30(s,6H),1.86(d,J=7.0Hz,3H),1.48(s,9H);ESI-MS:m/z=598[M+H]
+.
【0059】
中間体10(0.68g、1.16mmol)を2ml CH2Cl2に溶解し、氷バスで0℃まで冷却し、HCl飽和のジオキサン溶液(10ml)を加入し、室温で3時間反応した。反応液を減圧で溶媒を蒸除し、20ml飽和炭酸水素ナトリウム溶液を加入し、酢酸エチルで抽出し(25ml×2)、有機相を合併し、さらに飽和食塩水溶液(15ml×1)で洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥した後、減圧で溶媒を除去し、逆相カラムクロマトグラフィーにより分離し(C18カラム、メタノール-水系)、白色固体(化合物I-11)0.43gが得られ、収率が75%であった。1H NMR(400mHz,CDCl3) δ 8.35(s,1H),7.86(d,J=8.2Hz,2H),7.73(d,J=8.2Hz,2H),7.65(d,J=9.7Hz,1H),7.58(d,J=8.2Hz,2H),7.41(d,J=8.2Hz,2H),7.31(d,J=2.9Hz,1H),6.97(d,J=9.7Hz,1H),6.80(d,J=8.6Hz,1H),6.63(dd,J=8.6,2.9Hz,1H),6.43(q,J=7.0Hz,1H),3.75(s,3H),3.47(s,2H),3.38(s,2H),2.26(s,6H),1.88(d,J=7.1Hz,3H). ESI-MS:m/z=498[M+H]+.
【0060】
実施例12:化合物I-12の合成
【化13】
(2-アミノ-4-メトキシフェニル)カルバミン酸tert-ブチルの代わりに、(2-アミノ-4-フルオロフェニル)カルバミン酸tert-ブチルを使用したこと以外、実施例11と同じような方法により化合物I-12(白色固体、収率72%)を製造した。
1H NMR(400mHz,CDCl
3) δ 8.24(s,1H),7.85(d,J=8.3Hz,2H),7.74(d,J=8.3Hz,2H),7.66(d,J=9.7Hz,1H),7.58(d,J=8.3Hz,2H),7.48-7.37(m,3H),6.98(d,J=9.7Hz,1H),6.85-6.72(m,2H),6.43(q,J=7.1Hz,1H),3.49(s,2H),2.28(s,6H),1.89-1.86(m,5H);ESI-MS:m/z=486[M+H]
+.
【0061】
実施例13:化合物I-13の合成
【化14】
(S)-4-(1-(3-(4-(((ジメチルアミノ)メチル)フェニル)-6-オキソピリダジン-1(6H)-イル)エチル)安息香酸トリフルオロ酢酸塩(7、0.25g、0.51mmol)を25ml三口フラスコ中に置いて、N
2保護下で3ml無水DCMを加入し、氷バスで0℃まで冷却し、一滴の無水DMFを加入し、そして徐々にオキサリルクロリド(52μL、0.61mmol)を滴下し、室温で30分間撹拌した後、減圧で溶媒を蒸除した。8ml無水DCM、5-メチル-2-ニトロアニリン(0.093g、0.61mmol)およびジイソプロピルエチルアミン(252μL、1.53mmol)を加入した。室温で一晩撹拌し、反応液中に飽和炭酸水素ナトリウム溶液(15ml)およびジクロロメタン(15ml)を加入し、有機相を分離し、さらに飽和食塩水(15ml)で洗浄した。無水硫酸ナトリウムで乾燥した後、減圧で溶媒を除去し、粗品をカラムクロマトグラフィーにより分離し、浅黄色固体(中間体12)0.21gが得られ、収率が80%であった。
1H NMR(400mHz,CDCl
3) δ 11.39(s,1H),8.80(s,1H),8.15(d,J=8.6Hz,1H),7.94(d,J=8.3Hz,2H),7.74(d,J=8.2Hz,2H),7.67(d,J=9.7Hz,1H),7.63(d,J=8.3Hz,2H),7.41(d,J=8.2Hz,2H),7.05-6.96(m,2H),6.45(q,J=7.0Hz,1H),3.49(s,2H),2.46(s,3H),2.26(s,6H),1.89(d,J=7.1Hz,3H);ESI-MS:m/z=512[M+H]
+.
【0062】
中間体12(0.20g、0.4mmol)を2mlエタノールおよび0.4ml水中に溶解し、鉄粉(0.11g、2.0mmol)および塩化アンモニウム(0.21g、4.0mmol)を加入し、N2保護下で還流まで5時間加熱した。室温まで降温し、珪藻土で濾過し、濾過ケーキをエタノールで二回洗浄し、減圧で溶媒を蒸除し、飽和炭酸水素ナトリウム溶液(20ml)およびジクロロメタン(30ml)を加入し、有機相を分離し、さらに飽和食塩水(20ml)で洗浄した。無水硫酸ナトリウムで乾燥した後、減圧で溶媒を除去し、逆相カラムクロマトグラフィーにより分離し(C18カラム、メタノール-水系)、白色固体(化合物I-13)0.12gが得られ、収率が62%であった。1H NMR(400mHz,CDCl3) δ 8.47(s,1H),7.82(d,J=8.0Hz,2H),7.72(d,J=8.2Hz,2H),7.61(d,J=9.7Hz,1H),7.49(d,J=7.6Hz,2H),7.40(d,J=8.1Hz,2H),7.08(s,1H),6.89(dd,J=9.6,2.3Hz,1H),6.81(d,J=7.9Hz,1H),6.66(d,J=7.9Hz,1H),6.38(q,J=6.6Hz,1H),3.67(s,2H),3.45(s,2H),2.24(s,6H),2.17(s,3H),1.84(d,J=6.9Hz,3H);ESI-MS:m/z=482[M+H]+.
【0063】
薬理学的実験例
HYH-073(I-1ラセミ)、HYH-072(I-2ラセミ)、I-3(ラセミ)、I-4(ラセミ)およびI-10(ラセミ)は、CN109280032Aで開示する方法により製造された。
【0064】
I-1(R配置)、I-2(R配置)、I-10(R配置)は、外注で上記で製造されたI-1(ラセミ)、I-2(ラセミ)およびI-10(ラセミ)を分割して得られたものである。
【0065】
MS-275およびChidamideは、MCEmedChemExpressから購入されたものである。
【0066】
薬理学的実験例1:
ヒストンデアセチラーゼインビトロ活性測定方法
昆虫バキュロウイルス発現系を用いて、HisタグおよびGSTタグを有するヒト組換えHDACファミリータンパク質を発現させ、Niアフィニティーカラムでタンパク質を精製することにより、生物学的に活性なHDACファミリー組換えタンパク質を得た。H3(1-21)K9Ac-biotin(ビオチン)を基質として、HDACタンパク質、勾配希釈化合物、および基質を白色384ウェル平底マイクロタイタープレート(proxiPlate-384 Plus, PerkinElmer)にHTRFアッセイ法で添加し、1時間反応させた。XL665 標識ストレプトアビジン混合物を添加し、室温で0.5時間平衡化した。HTRFの原理を用いて、615nmと665nmでの時間分解蛍光をプレートリーダーで検出し、その比を算出し、対応する酵素活性阻害率をGraphPadを用いた解析により算出した。簡単に説明すると、20μlの活性測定系には、HDAC基質(0.2μM、4μl)、ヒト組み換えタンパク質HDAC(2~5ng/μl、4μl)、および化合物(2μl)、Eu標識H3K9抗体とXL665標識ストレプトアビジンの混合物(10μl)が含まれ、すべての成分をTris緩衝液(50mM Tris-HCl,pH8.0,137mM NaCl,2.7mM KCl,1mM MgCl2)で希釈した。
【0067】
薬理学的データ:本発明の化合物の薬理学的試験の結果を以下の表1に示し、試験に用いた対照はMS-275およびチダミドである(Chidamide)。
【表2】
【0068】
上記の表からわかるように、このクラスのS配置含有化合物の分子レベル測定実験の結果は、本発明の化合物がHDAC1に対して強い結合活性を有し、ほとんどの化合物が陽性対照であるMS-275よりも優れた分子レベルの阻害活性を有し、市販薬であるチダミド(Chidamide)よりも優れているか、またはそれに匹敵する分子レベルの阻害活性を有し、HDAC6アイソフォームに対して高い選択性を有することを示した。また、S配置化合物はR配置化合物よりもHDAC1に対して優れた結合活性を示したことから、S配置化合物がHDAC1の結合活性に大きな役割を果たしていることが示唆された。
【0069】
薬理学的実験例2:化合物の腫瘍細胞インビトロ増殖に対する阻害活性測定
使用した腫瘍細胞は、市販の細胞バンクから(ATCCからHCT116、JCRBからSKM 1)購入されたものである。細胞の増殖阻害アッセイはCCK-8法で行われた。手順は以下の通りである:対数増殖期の細胞を96ウェル培養プレートに1ウェルあたり90μLの適当な密度で接種し、一晩培養した後、異なる濃度の薬剤をプレートに72時間添加した。各濃度について3つの複製ウェルを設定し、対応する濃度について溶媒対照と無細胞のブランクウェルを設定した。作用が完了した後、10μLのCCK-8を各ウェルに添加し、インキュベーター内で2~4時間インキュベートした。450nmの光学密度(OD)をSpectraMax 190プレートリーダーで測定した。腫瘍細胞の増殖に対する薬剤の阻害の程度は、以下の式に従って計算された:阻害率(%)=(OD対照ウェル-OD投与ウェル)/OD対照ウェル×100%、IC50値は4パラメータ法(4-parameters)により適宜フィッティングした。実験は2回繰り返され、平均値とSDが算出された。
【0070】
実験結果を以下の表2に示す(N.T.が未試験であることを示す)。
【0071】
HCT-116細胞増殖阻害アッセイを参考に、化合物をヒト骨髄異形成症候群細胞SKM-1に対する増殖阻害活性について試験し、その結果を表2および
図1に示す。
図1は、ヒト骨髄異形成症候群SKM-1マウス移植腫瘍モデルにおける化合物I-1の異なる投与濃度での有効性結果を示す。
【表3】
【0072】
表2の実験結果から、このような化合物は、さまざまな種類の腫瘍細胞株に対して強い阻害活性と増殖活性を示しており、細胞活性がMS-275およびチダミドよりも優れていることがわかった。また、化合物I-1、I-1(R配置)、I-2、I-2(R配置)およびI-10、I-10(R配置)を比較すると、S配置の化合物の細胞活性がR配置の化合物の細胞活性よりも有意に優れており、S配置が細胞活性に主要な役割を果たしていることを示しており、このような化合物は新規クラスの抗腫瘍薬として開発することができる。
【0073】
薬理学的実験例3:本願の一部の化合物のHDACの複数のアイソフォームに対する選択性の測定
生物学的活性を、薬理学的試験の実施例1に記載した方法と同じ方法で試験し、その結果を以下の表3に示す。
【表4】
【0074】
上記の表3からわかるように、このようなS配置含有化合物の分子レベルの試験実験の結果により、本発明の化合物は、HDAC2およびHDAC3に対して強力な結合活性を有し、陽性対照であるMS-275の結合活性よりも優れていること、およびHDAC10アイソフォームに対する阻害活性は弱く、100倍を超える選択性を有することを示し、このような化合物は、クラスI HDACの高選択的阻害剤のクラスであることを示唆している。さらに、HDAC2およびHDAC3に対する結合活性について、S配置化合物はR配置化合物よりも優れていたことから、HDAC2およびHDAC3の結合活性にはS配置化合物が大きな役割を果たしていることが示唆された。
【0075】
薬理学的実験例4:本願の化合物I-1の複数の腫瘍細胞のインビトロ増殖に対する阻害活性測定
細胞活性を、薬理学的実験例2に記載した方法と同じ方法で試験し、その結果を以下の表4および
図2~3に示す。
図2は、ヒト急性骨髄性白血病OCI-AML-3マウス移植腫瘍モデルに対する化合物I-1の薬理学的結果を示す。
図3は、ヒト悪性黒色腫A375のマウス移植腫瘍モデルにおける化合物I-1の有効性の結果を示す。
【表5】
【0076】
その結果、化合物I-1は、様々な血腫細胞株および様々な固形腫瘍細胞株に対して強力な阻害活性を有し、幅広いスペクトルの腫瘍阻害剤に属することが示された。
【0077】
本発明において参照される全ての文書は、各文書が個別に参照文献として引用される程度のように、本願において参照文献として引用される。さらに、本発明の前述の教示を読んだ後、当業者は、本発明に様々な変更または修正を加えることができ、これらの等価な形態も同様に、本願に添付された特許請求の範囲に属することを理解されるべきである。
【国際調査報告】