(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-02-01
(54)【発明の名称】弱毒化アフリカ豚熱ウイルス及びワクチンとしてのその使用
(51)【国際特許分類】
C12N 15/11 20060101AFI20240125BHJP
C12N 7/04 20060101ALI20240125BHJP
C12Q 1/686 20180101ALI20240125BHJP
A61K 39/12 20060101ALI20240125BHJP
A61P 31/20 20060101ALI20240125BHJP
A61P 37/04 20060101ALI20240125BHJP
A61K 35/76 20150101ALI20240125BHJP
【FI】
C12N15/11 Z
C12N7/04 ZNA
C12Q1/686 Z
A61K39/12
A61P31/20
A61P37/04
A61K35/76
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023570333
(86)(22)【出願日】2022-01-31
(85)【翻訳文提出日】2023-09-22
(86)【国際出願番号】 EP2022052183
(87)【国際公開番号】W WO2022167360
(87)【国際公開日】2022-08-11
(32)【優先日】2021-02-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】512034999
【氏名又は名称】アジャンス ナシオナル ド セキュリテ サニテア ド ラリマンタシオン,ド レンヴィロンヌマン エ デュ トラヴァイユ
【氏名又は名称原語表記】AGENCE NATIONALE DE SECURITE SANITAIRE DE L’ALIMENTATION, DE L’ENVIRONNEMENT ET DU TRAVAIL
【住所又は居所原語表記】14 rue Pierre et Marie Curie,94701 Maisons-Alfort Cedex,France
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ブロ ル ポティエ,マリーーフレデリック
(72)【発明者】
【氏名】ブーリー,オリヴィエ
(72)【発明者】
【氏名】ヒュテット,エヴリーヌ
(72)【発明者】
【氏名】ル ディムナ,ミレイユ
(72)【発明者】
【氏名】シャスタニエ,アメリ
(72)【発明者】
【氏名】パブーフ,フレデリック
(72)【発明者】
【氏名】ブランシャール,ヤニック
(72)【発明者】
【氏名】ルーカス,ピエリック
【テーマコード(参考)】
4B063
4B065
4C085
4C087
【Fターム(参考)】
4B063QQ10
4B063QQ42
4B063QQ52
4B063QS25
4B065AA99Y
4B065BA14
4B065CA45
4B065CA46
4C085AA03
4C085BA51
4C085CC08
4C085EE01
4C087AA01
4C087AA02
4C087AA03
4C087BC83
4C087CA09
4C087CA12
4C087ZB09
4C087ZB33
(57)【要約】
本発明は、弱毒化アフリカ豚熱(ASF)ウイルスであって、対応する非弱毒化ウイルスのゲノムと比較して、遺伝子MGF360-12L、360-13L、360-14L、505-2R、505-3Rが、遺伝子が転写及び/又は翻訳されないように、欠失、中断、又は変異しており、ASFV_G_ACD_00520のORFが、転写及び/又は翻訳されないように、欠失、中断、又は変異しており、遺伝子MGF505-1R及び505-4Rが短縮している、ASFウイルスに関する。本発明は、弱毒化ASFウイルスを含むワクチン、及び対象におけるアフリカ豚熱ウイルスの予防におけるその使用にも関する。本発明はまた、弱毒化ASFウイルスを得るためのインビトロ方法であって、Georgia2007/1、Pig/HLJ/2018、遺伝子型IIのASFウイルス株又は遺伝的に近いASFウイルス株の中から選択される毒性ASFVウイルス株の熱弱毒化、及び特定病原体除去ブタの接種による増幅、及び前記弱毒化ASFウイルスの選択の少なくとも1つの工程を含む方法に関する。本発明は、弱毒化ASFウイルス及び対応する非弱毒化ASFウイルスの示差検出のためのインビトロ方法にも関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
弱毒化アフリカ豚熱(ASF)ウイルスであって、
対応する非弱毒化ウイルスのゲノムと比較して、
遺伝子MGF360-12L、360-13L、360-14L、505-2R、505-3Rが、前記遺伝子が転写及び/又は翻訳されないように、欠失、中断、又は変異しており、
ASFV_G_ACD_00520のORFが、転写及び/又は翻訳されないように、欠失、中断、又は変異しており、
遺伝子MGF505-1R及び505-4Rが短縮している、
弱毒化ASFウイルス。
【請求項2】
MGF505-1R遺伝子の始まりの開始コドンATG及びMGF505-4R遺伝子の終わりの終止コドンが、短縮型遺伝子MGF505-1R及び505-4Rにおいて維持されている、請求項1に記載の弱毒化ASFウイルス。
【請求項3】
遺伝子MGF360-12L、360-13L、360-14L、505-2R、505-3Rが欠失しており、
ASFV_G_ACD_00520のORFが欠失している、請求項1又は2に記載の弱毒化ASFウイルス。
【請求項4】
遺伝子MGF360-12L、360-13L、360-14L、505-2R、505-3Rが、前記遺伝子が転写及び/又は翻訳されないように中断しており、
ASFV_G_ACD_00520のORFが、転写及び/又は翻訳されないように中断している、先行請求項のいずれか一項に記載の弱毒化ASFウイルス。
【請求項5】
前記中断が、前記遺伝子のATG開始コドンの欠失若しくは改変、
又は翻訳開始部位の改変、
又はフレームシフト、
又は前記遺伝子のオープンリーディングフレームにおける1つ以上の終止コドンの導入を含む、先行請求項のいずれか一項に記載の弱毒化ASFウイルス。
【請求項6】
前記ゲノムの残りが、Georgia2007/1の系統、例えば、Pig/HLJ/2018、ASFV-SY18、China/2018/AnhuiXCGQ、ASFV/POL/2015/Podlaskie、Odintsovo2/2014、Kashino04/13、ASFV-Belgium2018/1、ASFV/China/2016/131、遺伝子型IIのASFウイルス株、又は遺伝的に近いASFウイルス株の中から選択される毒性ASFVウイルス株由来のゲノムに対応する、先行請求項のいずれか一項に記載の弱毒化ASFウイルス。
【請求項7】
前記ゲノムの残りが、前記毒性ASFVウイルス株Georgia2007/1由来のゲノムに対応する、先行請求項のいずれか一項に記載の弱毒化ASFウイルス。
【請求項8】
いかなるレポーター遺伝子も含まない、先行請求項のいずれか一項に記載の弱毒化ASFウイルス。
【請求項9】
先行請求項のいずれか一項に記載の弱毒化ASFウイルスを含む、ワクチン。
【請求項10】
前記弱毒化ASFウイルスの異なる株を含む、請求項9に記載のワクチン。
【請求項11】
前記対象におけるアフリカ豚熱ウイルスの予防に使用するための、請求項1~8のいずれか一項に記載の弱毒化ASFウイルス、又は請求項9~10のいずれか一項に記載のワクチン。
【請求項12】
前記対象において、前記毒性ASFVウイルス株Georgia2007/1又は前記Georgia2007/1系統の中の他の遺伝的に近いASFウイルス株に対する防御免疫応答を誘導することによる、請求項11に記載の使用のための弱毒化ASFウイルス又はワクチン。
【請求項13】
前記弱毒化ASFウイルス又は前記ワクチンが、口鼻経路及び非経口経路の中から選択される経路、特に筋肉内経路によって投与される、請求項11又は12に記載の使用のための弱毒化ASFウイルス又はワクチン。
【請求項14】
前記対象がブタ若しくはイノシシであり、及び/又は前記ワクチンがプライムレジメンに従って投与される、請求項11~13に記載の使用のための弱毒化ASFウイルス又はワクチン。
【請求項15】
請求項1~8のいずれか一項に記載の弱毒化ASFウイルスを得るためのインビトロ方法であって、
対応する非弱毒化ウイルスのゲノムと比較して、
遺伝子MGF360-12L、360-13L、360-14L、505-2R、505-3Rを、前記遺伝子が転写及び/又は翻訳されないように、欠失又は中断させる工程と、
ASFV_G_ACD_00520のORFを、転写及び/又は翻訳されないように、欠失又は中断させる工程と、
遺伝子MGF505-1R及び505-4Rを短縮させる工程とを含む、
方法。
【請求項16】
遺伝子MGF360-12L、360-13L、360-14L、505-2R、505-3Rが欠失しており、
ASFV_G_ACD_00520のORFが欠失している、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
遺伝子MGF360-12L、360-13L、360-14L、505-2R、505-3Rが、前記遺伝子が転写及び/又は翻訳されないように中断しており、
ASFV_G_ACD_00520のORFが、転写及び/又は翻訳されないように中断している、請求項15に記載の方法。
【請求項18】
前記中断が、前記遺伝子のATG開始コドンの欠失若しくは改変、又は翻訳開始部位の改変、又はフレームシフト、又は前記遺伝子のオープンリーディングフレームにおける1つ以上の終止コドンの導入を含む、請求項15~17のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
Georgia2007/1、Pig/H LJ/2018、遺伝子型IIのASFウイルス株、又は遺伝的に近いASFウイルス株の中から選択される毒性ASFVウイルス株の熱弱毒化、及び特定病原体除去ブタの接種による増幅、及び前記弱毒化ASFウイルスの選択の少なくとも1つの工程を含む、請求項1~8のいずれか一項に記載の弱毒化ASFウイルスを得るためのインビトロ方法。
【請求項20】
請求項1~8のいずれか一項に記載の弱毒化ASFウイルスと、対応する非弱毒化ASFウイルスとの試料中での差次検出のためのインビトロでの方法であって、各株に特異的
なプライマー/プローブのセットを用いたPCRによる核酸鎖の差次的増幅を実行することを含み、配列:
Del_Fow TGCTTTCAAGCCTACAACTCC(配列番号4)
Del_Rev ATTCTCAGGGCCTCATTGGT(配列番号5)、及び
Del_Probe AGCGATCCTTTGGCTGCCACC(配列番号6)のプライマー/プローブは、前記弱毒化ASFウイルスの特異的増幅を可能にする一方、配列:
505_3R_L1 TGGCAAGATCATGGTTCCCT(配列番号7)
505_3R_R1 ATCTGCCTCCCATGACAACA(配列番号8)、及び
505_3R_P1 CCCTTCCGATGCTGCTACTTTGAGTGC(配列番号9)のプライマー/プローブは、対応する非弱毒化ASFウイルスの特異的増幅を可能にする、
方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、弱毒化アフリカ豚熱ウイルス(ASF)ウイルス、及びASFを予防するための、それを含有するワクチンとしてのその使用、並びに弱毒化ASFウイルス及び対応する非弱毒化ASFウイルスの示差検出のためのインビトロ方法に関する。
【0002】
したがって、本発明は、医薬、特に獣医学の分野において有用性を有する。
【0003】
以下の説明では、角括弧([])内の参照は、本文書の最後の参照文献のリストを指す。
【背景技術】
【0004】
アフリカ豚熱(ASF)は、家畜及び野生のイノシシ科動物においてその急性形態でしばしば致死的な出血性症候群を引き起こすウイルス疾患である。欧州のブタでは伝染性であり、野生のアフリカのイノシシ科(カワイノシシ及びイボイノシシ)では不顕性であり、ヒトに伝染しない。
【0005】
この疾患は、サハラ以南のアフリカからの野生のイノシシ科(カワイノシシ、イボイノシシ、及び他のブタ)において少なくとも1世紀にわたって存在しているが、それらはいかなる症状も発症しない。ASFは、1921年にケニヤで初めて記載されたが、アフリカにおいて個体から個体へ、及びマダニの軟咬傷を介して拡散しており、サハラ以南のアフリカにおいて風土病となっている。
【0006】
この疾患のアフリカ以外での最初の進出は、国際貿易の発展に関連して1960年代にさかのぼる。米国での大流行は、1995年までに根絶されなかったイベリア半島及び1978年にASFが導入されて以来ASFが風土病になったサルジニアを除いて、ヨーロッパの大流行と同様にかなり迅速に根絶された。2007年には、欧州大陸が再び影響を受け、ジョージアでの養豚における大発生が最初に検出された。2008年に、この疾患は、ユーラシア大陸(アルメニア、アゼルバイジャン、南ロシア)に徐々に定着し、野生のブタ及び家畜ブタの両方に影響を及ぼした。そして、小規模で制御が不十分な農場で局所的に拡散することによって、西側に拡散し続けている。2014年に、ASFは欧州連合、最初はポーランド及びバルト諸国へと戻り、その後、モルドバ(2016年)、ルーマニア及びチェコ共和国(2017年)、ハンガリー及びベルギー(2018年)、並びにドイツ(2020年)で野生のイノシシの風土病となった。最後に、2018年8月以来、アジア大陸が大きく影響を受けている:中国、次いでモンゴル、台湾及びべトナム、フィリピン(2019年)、並びにインド(2020年)。拡散の危険性は世界的になってきている。
【0007】
ウイルス株の毒性及びブタ宿主の感受性に依存して、ASFは、疾患の様々な毒性レベル:急性型、亜急性型、及び慢性型で提示され得る。
【0008】
症状及び病変は、古典的なブタ熱について記載されたものと同様であり、すなわち、高体温、血液学的障害、皮膚発赤、食欲不振、嗜眠、協調運動障害、嘔吐、及び下痢である。
【0009】
急性型では100%の割合で4~13日で死亡し、亜急性型では30~40日でより少ない死亡率で死亡する。この疾患は、慢性型では数ヶ月間進行し得る。
【0010】
アスファウイルス科の唯一のメンバーである、ASFに関与するウイルスは、非常に複雑で大きなエンベロープを有する二本鎖DNAウイルスである。これは、単球-マクロファージ系統の細胞に感染し、免疫応答をその利点に転用する。そのゲノムは近年完全に配列決定されただけであり、毒性又は防御に関与する全ての遺伝子がまだ同定されているわけではなく、信頼できる有効なワクチンの開発が遅れている。
【0011】
ASFは、現在有効な動物の健康に関連する健康上の危険の階層に関して、フランスにおいて第1カテゴリーの健康上の危険として分類されている。動物の健康において、危険の第1のカテゴリーは、深刻な公衆衛生問題又は環境若しくはフランスの生産能力に対する深刻なリスクに関する。そうしたリスクは、一般的な関心において、強制的防止、監視、又は制御手段を必要とする。この疾患は、高い死亡率及び罹患国に課せられた取引制限のために、大きな経済的損失を引き起こす。
【0012】
この疾患の診断は複雑であり、今日まで、実験室試験(ウイルス学的及び/又は血清学的)のみが診断を提供し、ASFを古典的ブタ熱と区別することができる。一次診断は、迅速な検出(24時間以内)のために、完全に検証された方法を使用して、血清学的にはELISA及びウイルス学的にはPCRによって行うことができ、それらの方法のいくつかは市販のキットとして入手可能である。
【0013】
最後に、今日まで、この疾患を制御するための処置又はワクチンはなく、この疾患を制御する唯一の手段は未だに、検疫及び屠殺である。欧州連合内の課題は、古典的豚熱に対して既に行われているように、例えば餌によってイノシシに経口的に送達され得るワクチンを有すること、又は小さな家族農場の豚に送達され得るワクチンを有することである。世界的なレベルでの挑戦は、ブタを繁殖させるための、特に世界の主要な生産者であるアジアのためのワクチンを有することである。
【0014】
感染細胞抽出物、感染ブタ末梢血白血球の上清、精製及び不活化ビリオン、感染グルタルアルデヒド固定マクロファージ、又は界面活性剤処理感染肺胞マクロファージを用いて動物にワクチン接種する試みは、防御免疫を誘導することができなかった。ウイルス感染を生き延びたブタでは、同種防御免疫が発生する。ASFVの中程度に毒性の又は弱毒化変異体による急性感染を生き延びたブタは、同種ウイルスチャレンジに対する長期耐性を示すが、異種ウイルスチャレンジに対する長期耐性を示すことは稀である。特定のASFV毒性関連遺伝子の操作された欠失を含む生弱毒化ASFウイルスで免疫されたブタは、同種親ウイルスでチャレンジされた場合に防御された。詳細には、病原性ASFウイルス(Malawi Lil-20/1、Pretoriuskop/96/4、及びE70)のゲノムからのUK(DP69R)、23-NL(DP71 L)、TK(A240L)、又は9GL(B119L)遺伝子の個々の欠失は、ブタにおいてウイルスを顕著に弱毒化し、そしてこれらの弱毒化ウイルスで免疫された動物は、同種ウイルスでのチャレンジに対して防御された。
【0015】
ゲノムサイズ及び制限フラグメントパターンにおける変動が、異なるASFV単離物の間で観察され、そしてこの多様性は、末端ゲノム領域に存在する。これらの可変領域は、ASFVゲノムの左35kb末端及び右15kb末端を含み、少なくとも5つの多重遺伝子ファミリー(MGF):MGF100、MGF110、MGF300、MGF360、及びMGF505を含有する。これらの遺伝子は、配列及び構造的同一性の両方を共有するため、これらのMGFに分類される。これらの遺伝子の機能は完全には理解されていないが、それらは、マクロファージ宿主範囲、先天性宿主免疫応答の調節及び毒性と相関している。
【0016】
最近、組換えASFV-G(アフリカ豚熱ウイルス-Georgia2007分離株)
変異体である「ASFV-G-ΔMGF」が作製されており、これは7,559ヌクレオチド(ヌクレオチド位置27,928~35,487の間)の欠失を含み、MGF360遺伝子12L、13L、及び14L、並びにMGF505 1R、2R及び3Rの欠失をもたらす(非特許文献1([1]);特許文献1([2]))。しかしながら、この変異体ウイルスがASF Georgia株での致死性チャレンジに対してブタを臨床的に防御した場合、免疫されたブタのかなりの頭数(10匹中4匹)がチャレンジ後にウイルス血症を示したため、ウイルス学的に防御されなかった。
【0017】
したがって、代替の弱毒化ワクチンが必要とされている。本発明は、この必要性及び他の必要性を満たす。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0018】
【特許文献1】米国特許出願公開第2016/0130562号明細書
【非特許文献】
【0019】
【非特許文献1】O’Donnellら、「MGF360及びMGF505遺伝子の欠失を保有するアフリカ豚熱ウイルスGeorgia分離株はブタにおいて弱毒化され、病原性親ウイルスによるチャレンジに対する防御を付与する」、J Virol.2015年6月;89(11):6048-56
【非特許文献2】Xuexia Wenら(2019年)、「ブタ及び乾燥ブタ飼料試料に由来するゲノム配列は、2018年の中国におけるアフリカ豚熱ウイルスの伝染に対する重要な洞察を提供する」、Emerging Microbes & Infections、8:1、303-306
【非特許文献3】Bao,Jら、「アフリカ豚熱ウイルスChina/2018/AnhuiXCGQ株及び関連する欧州p72遺伝子型II株のゲノム比較」、Transbound Emerg Dis.2019年;66:1167-1176.
【非特許文献4】Mazur-Panasiuk N.ら、「ポーランドで単離されたアフリカ豚熱ウイルスの最初の完全ゲノム配列」、Sci Rep 9、4556(2019年)
【非特許文献5】Forth JHら、「アフリカ豚熱ウイルスの完全ゲノム配列の比較分析」、ベルギー、2018/1、Emerg Infect Dis.2019年6月;25(6):1249-1252.
【非特許文献6】Kovalenko,G.ら、「ウクライナの家畜ブタからの毒性アフリカ豚熱ウイルスの完全ゲノム配列」、Microbiology resource announcements 2019,8,e00883-00819
【非特許文献7】Rathakrishnan Aら、「組換えアフリカ豚熱ウイルスの産生:プロセスのスピードアップ」、Viruses.2020年6月5日;12(6):615
【非特許文献8】Carrascosa,A.L.ら、「アフリカ豚熱ウイルスを成長及び滴定するための方法:野外及び実験室試料」、Curr Protoc Cell Biol、2011年、第26章:p.Unit 26 14
【非特許文献9】Bolger、A.M.、M.Lohse、及びB.Usadel、「Trimmomatic:イルミナ配列データ用の柔軟なトリマー」、Bioinformatics、2014年、30(15):p.2114-20
【非特許文献10】Li,H.及びR.Durbin、「バローズ-ホイーラー変換による高速かつ正確なショートリードアライメント」、Bioinformatics、2009年、25(14):p.1754-60
【非特許文献11】Li,H.ら、「配列アライメント/マップフォーマット及びSAMtools」、Bioinformatics、2009年、25(16):p.2078-9
【非特許文献12】Lacastaら:「発現ライブラリ免疫化は、アフリカ豚熱ウイルスでの致死性チャレンジに対する防御を付与することができる」、J Virol、2014年11月、88(22):13322-32
【非特許文献13】Tignon,M.ら、「アフリカ豚熱ウイルスの検出及び実験室診断のための内部対照を用いた改良された新しいリアルタイムPCRアッセイの開発及び実験室間検証研究」、J Virol Methods、2011年、178(1-2):p.161-70
【非特許文献14】King,K.ら、「実験的免疫化によるアフリカ豚熱ウイルスの毒性アフリカ単離物からの欧州国内ブタの保護」、Vaccine、2011年、29(28):p.4593-600
【発明の概要】
【0020】
重要な研究の結果として、本出願人は、新たな弱毒化アフリカ豚熱ウイルス、内部参照PPA/dp/FR-22/2018/180172-2、更にASFV-989と名付けられたものを開発し、これは驚くべきことに、攻撃された個体においてウイルス血症を完全に予防することによって、既存の弱毒化ウイルス、特にASFV-G-AMGFと比較して優れたワクチン効力を示す。
【0021】
驚くべきことに、本発明者らは、ブタ肺胞マクロファージ上で培養した場合、本発明の弱毒化ASFV-989が、非弱毒化Georgia2007/1と同様の複製速度を示すことを見出した。
【0022】
本発明者らは、本発明の弱毒化ウイルス(筋肉内経路又は口鼻経路のいずれかによって)を接種した動物におけるASFウイルスに特異的な細胞応答、本発明の弱毒化ウイルスASFV-989を接種した動物における血清変換及びウイルス血症が、Georgia2007/1株を接種した動物におけるよりも100~1000倍低いことを示した。興味深いことに、ASFV-989の接種の2週間後すぐにGeorgia株でチャレンジした後、動物はASF関連症状を示さず、本発明の弱毒化ウイルスで予め免疫化した動物においてこの株についてウイルス血症は検出されなかった。更に、Georgia株のゲノムは、筋肉内経路を介して本発明の弱毒化ウイルスで予め免疫化された動物の組織において検出されなかった。
【0023】
更に、本出願人は、本発明の弱毒化ASFV aSFVと対応する非弱毒化ASFVとの示差検出のための分子的方法を開発した。
【0024】
したがって、第1の態様において、本発明は、弱毒化アフリカ豚熱(ASF-989)ウイルスであって、対応する非弱毒化ウイルスのゲノムと比較して、
遺伝子MGF360-12L、360-13L、360-14L、505-2R、505-3Rが、遺伝子が転写及び/又は翻訳されないように、欠失、中断、又は変異しており、
ASFV_G_ACD_00520のORFが、転写及び/又は翻訳されないように、欠失、中断、又は変異しており、
遺伝子MGF505-1R及び505-4Rが、短縮している。
【0025】
「対応する非弱毒化ウイルスのゲノム」は、本明細書において、上記に列挙された改変を含まない対応するウイルス由来のゲノムを指す。それは、Georgia2007/1の系統、例えば、Pig/HLJ/2018(非特許文献2([3]))、ASFV-SY18(非特許文献2([3]))、China/2018/AnhuiXCGQ(非特許文献3([4]))、ASFV/POL/2015/Podlaskie(非特許文献
4([5]))、Odintsovo 2/2014、Kashino 04/13、ASFV-Belgium2018/1(非特許文献5([6]))又はASFV/Kyiv/2016/131(非特許文献6([7]))、遺伝子型IIのASFウイルス株、又は遺伝的に近いASFウイルス株、から選択される毒性ASFウイルス株であり得る。
【0026】
本発明によれば、欠失は、当業者に公知の任意の手段によって行われ得る。欠失は、各遺伝子又はORFの少なくとも一部が除去された変異であってもよい。遺伝子又はORFが転写及び/又は翻訳されない限り、単一塩基から遺伝子又はORF全体まで、任意の数のヌクレオチドを欠失させることができる。好ましくは、全遺伝子及びORFが欠失している、すなわち、
遺伝子MGF360-12L、360-13L、360-14L、505-2R、505-3Rが完全に欠失しており、
ASFV_G_ACD_00520のORFが完全に欠失している。
【0027】
本発明によれば、中断は、当業者に知られている任意の手段によって行われ得る。それは、例えば、遺伝子のATG開始コドンを欠失させるか、若しくは他の方法での改変、又は翻訳開始部位の改変、又はフレームシフト、又は遺伝子のオープンリーディングフレームにおける1つ以上の終止コドンの導入によるものであり得る。
【0028】
本発明によれば、変異は、当業者に公知の任意の手段によって、例えば、1~数個のヌクレオチドに影響を及ぼす遺伝子の構造の変化によって行われ得る。それは、置換変異、すなわち少なくとも1つのヌクレオチドの別のヌクレオチドによる置換、又は挿入変異、すなわち1つ以上のヌクレオチドの付加、又は欠失変異、すなわち1つ以上のヌクレオチドの喪失、又は逆位変異、すなわち2つの隣接するデオキシリボヌクレオチドの置換であってもよい。いずれの場合も、変異は、発現されるために、最初のヌクレオチドによって与えられるものとは異なるアミノ酸をコードするコドンを与える1つ以上のヌクレオチドによる置換であり、さもなければ変異はサイレントであると言われる。いずれの場合においても、変異は、遺伝子が転写及び/又は翻訳されないようにし得る。
【0029】
本発明によれば、「転写及び/又は翻訳されない」という句は、対応する遺伝子又はORFの全てにおいて転写及び/又は翻訳がないことを意味する。
【0030】
本発明によれば、切断は、遺伝子の任意の部分の欠失であってもよく、当業者に公知の任意の手段によって、例えば、少なくとも1つの遺伝子に点ナンセンス変異、すなわち、未成熟終止コドンをもたらし、短縮された不完全な、任意選択で非機能的なタンパク質産物をもたらすDNA配列における点変異を挿入することによって行われてもよい。好ましくは、MGF505-1R遺伝子の始まりの開始コドンATG及びMGF505-4R遺伝子の終わりの停止コドンは維持され、したがって短縮部分の一部ではない。この場合、MGF505-1R及び505-4R遺伝子の2つの部分は、2つのより短いタンパク質1R及び4Rを形成する。
【0031】
実施形態では、
遺伝子MGF360-12L、360-13L、360-14L、505-2R、505-3Rが欠失しており、
ASFV_G_ACD_00520のORFが欠失しており、
遺伝子MGF505-1R及び505-4Rが短縮しており、MGF505-1R遺伝子の始めの開始コドンATG及び
MGF505-4R遺伝子の終わりの終止コドンが維持され、
Georgia2007/1株(FR682468.2)のゲノムと比較して、7458ヌクレオチドが欠失している。本の実施形態では、MGF遺伝子のヌクレオチド配列は配列番号1である。欠失領域の7458ヌクレオチド配列は配列番号2として示され、Georgia株2007/1のMGF遺伝子ヌクレオチド配列は配列番号3である。
【0032】
本発明の弱毒化ASFウイルスは、定方向変異誘発によって、例えば相同組換え又はCRISPR-Cas9によって得ることができる。あるいは、本発明の弱毒化ASFウイルスは、以下に記載されるような毒性ASFVウイルス株の熱弱毒化によって得ることができる。したがって、本発明の別の目的は、本発明の弱毒化ASFウイルスを得るためのインビトロ方法であって、対応する非弱毒化ウイルスのゲノムと比較して、
遺伝子MGF360-12L、360-13L、360-14L、505-2R、505-3Rを、遺伝子が転写及び/又は翻訳されないように、欠失、又は中断、又は変異させる工程と、
ASFV_G_ACD_00520のORFを、転写及び/又は翻訳されないように、欠失、中断、又は変異させる工程と、
MGF505-1R及び505-4Rを短縮させる工程とを含む方法である。
【0033】
明らかに、定方向変異誘発プロセスにおいて実施される任意の古典的な工程、例えば、PCR、クローニング、配列分析、及び増幅を、本発明のプロセスの一部として実施することができる。この目的のために、それは、非特許文献1又はRathakrishnan Aらによって記載されるようなプロセスであり得る(非特許文献7([8]))。
【0034】
好ましくは、既に上述したように、
遺伝子MGF360-12L、360-13L、360-14L、505-2R、505-3Rが欠失しており、
ASFV_G_ACD_00520のORFが欠失している。
【0035】
あるいは、
遺伝子MGF360-12L、360-13L、360-14L、505-2R、505-3Rが、遺伝子が転写及び/又は翻訳されないように中断しており、
ASFV_G_ACD_00520のORFが、転写及び/又は翻訳されないように中断している。
【0036】
本発明の更に別の目的は、本発明の弱毒化ASFウイルスを得るためのインビトロ方法であって、Georgia2007/1、Pig/HLJ/2018、遺伝子型IIのASFウイルス株、又は遺伝的に近いASFウイルス株の中から選択される毒性ASFVウイルス株の熱弱毒化、当該弱毒化ASFウイルスの増幅及び選択のうち少なくとも1つの工程を含む方法を提供することである。
【0037】
有利には、熱弱毒化は、1つ以上の工程で実現することができ、したがって、連続プロセス又は不連続プロセスである。毒性ASFVウイルス株は、熱弱毒化の各工程の持続時間に応じて、55~65℃の範囲の温度に供され得る。当業者は、その一般的な知識を考慮して、及び配列分析によって本発明のウイルスの取得を検証することによって、熱不活性化の持続時間に従って温度を変化させることができる。
【0038】
増幅及び選択の工程は、当業者によって一般的に使用される方法によって、例えば、弱毒化ウイルスを増幅するための特定病原体除去ブタ(感染に対して非常に弱いことが知られる)の接種、及びそれを選択するための配列分析によって実現され得る。
【0039】
本発明のウイルスは、上記のように、特異的変異誘発又は熱不活性化によって得られるかどうかにかかわらず、いかなるレポーター遺伝子も含まない。これは、ワクチン又は医薬組成物にGMO状態を付与するそのようなレポーター遺伝子、特にGUS又はp72-
cherryを含有する先行技術の弱毒化ウイルスを超える利点である。
【0040】
別の態様では、本発明は、本発明の弱毒化ASFウイルスを含むワクチンを提供する。
【0041】
本明細書で使用される「ワクチン」という用語は、対象に投与された場合、ワクチンが送達された動物において防御免疫応答を誘導又は刺激する調製物を指す。ワクチンは、生物を特定の疾患(この場合はASF)に対して免疫化することができる。従って、本発明のワクチンは、対象において免疫応答を誘導し、これは、その後のASFウイルスチャレンジに対して防御的である。したがって、ワクチンは、ワクチン接種された動物においてアフリカ豚熱ウイルスを予防するのに有用であり得る。用語「予防」という用語は、ASFの感染を回避、遅延、妨害、又は遅延することを指すことを意図する。ワクチンは、例えば、感染性ASFVが細胞に侵入する可能性、疾患の臨床症状の発生及び死亡を予防又は低減し得る。一実施形態において、ワクチンは、上記弱毒化ASFウイルスの異なる株を含んでもよい。このようなワクチンは、複数のASFウイルス株に対して交差防御免疫応答を誘導することができる。
【0042】
本発明のワクチンは、医薬組成物の形態であってもよい。
【0043】
本発明のワクチン又は医薬組成物は、本発明の弱毒化ASFウイルスと、任意選択で、本発明の分野で一般的に使用される1つ以上のアジュバント、賦形剤、担体、及び希釈剤とを含んでもよい。
【0044】
担体は、安定剤、保存剤、及び緩衝剤を含んでもよい。適切な安定剤は、例えば、SPGA(スクロース、ホスフェート、グルタメート、及びヒトアルブミン)、炭水化物(ソルビトール、マンニトール、デンプン、スクロース、デキストラン、グルタメート、又はグルコースなど)、タンパク質(乾燥乳清、アルブミン、又はカゼインなど)又はそれらの分解産物である。好適な緩衝剤は、例えばアルカリ金属リン酸塩である。適切な保存剤は、チメロサール、メルチオレート、及びゲンタマイシンである。希釈剤としては、水、水性緩衝液(例えば、緩衝化生理食塩水)、アルコール、及びポリオール(例えば、グリセロール)が挙げられる。
【0045】
好ましくは、医薬品としての本発明の組成物は、免疫アジュバントを更に含むことができる。これらのアジュバントは、有効量の本発明による生弱毒化ASFVと混合した場合に、組成物の抗原力を増大させ、より大きな免疫反応を促進することができる限り、当業者にとって公知の任意のタイプのものであってよい。
【0046】
本発明によるワクチン又は医薬組成物は、市販の弱毒化ウイルスワクチンに一般的に使用される方法などの従来の方法によって調製することができる。簡単に説明すると、感受性基質に本発明のASFウイルスを接種し、ウイルスが所望の力価に複製するまで増殖させ、その後、ウイルス含有材料を採取する。続いて、採取された物質は、免疫特性を有する薬学的調製物に製剤化される。
【0047】
別の態様では、本発明は、対象におけるアフリカ豚熱ウイルスの予防に使用するための、本発明による弱毒化ASFウイルス又は本発明によるワクチンを提供する。
【0048】
有利には、本発明の弱毒化ASFウイルス又はワクチンは、対象において、毒性ASFVウイルス株Georgia2007/1又は他の遺伝的に近いASFウイルス株に対する防御免疫応答を誘導することができる。
【0049】
好ましくは、ワクチン又は弱毒化ASFウイルスは、プライムレジメンに対応する単回
用量として投与されてもよい。あるいは、本発明のワクチンは、数回の用量で投与され得る。
【0050】
本発明のワクチンは、任意の好都合な経路によって、特に口鼻経路及び非経口経路の中から選択される経路、特に筋肉内経路によって投与され得る。一実施形態において、経口投与は、ワクチンを動物飼料又は飲料水に添加することを含む。別の実施形態では、ワクチンは、野生動物用の餌、例えば、野生のイノシシ、野生のブタ、カワイノシシ、又はイボイノシシに適した餌に添加されてもよい。好ましくは、投与は口鼻経路によるプライム投与である。
【0051】
本発明は更に、有効量の弱毒化ASFウイルスを、それを必要とする対象に投与する工程を含む、対象のアフリカ豚熱ウイルスを予防する方法を提供する。
【0052】
別の態様において、本発明は、本発明の弱毒化ASFウイルス及び対応する非弱毒化ASFウイルスの、試料中での示差検出のインビトロ方法であって、各株に特異的なプライマー/プローブのセットを用いたPCRなどの分子的方法によって核酸鎖の示差増幅を行うことを含み、配列:
Del_Fow TGCTTTCAAGCCTACAACTCC(配列番号4)、
Del_Rev ATTCTCAGGGCCTCATTGGT(配列番号5)、及び
Del_Probe AGCGATCCTTTGGCTGCCACC(配列番号6)のプライマー/プローブは、弱毒化ASFウイルスの特異的増幅を可能にする一方、配列:
505_3R_L1 TGGCAAGATCATGGTTCCCT(配列番号7)
505_3R_R1 ATCTGCCTCCCATGACAACA(配列番号8)、及び
505_3R_P1 CCCTTCCGATGCTGCTACTTTGAGTGC(配列番号9)のプライマー/プローブが、前記対応する非弱毒化ASFウイルスの特異的増幅を可能にする、方法を提供する。
【0053】
示差増幅は、この技術分野で通常使用される実験条件下で実現することができる。
【0054】
有利には、本発明の方法は、非弱毒化ASFウイルスに感染した動物を、本発明の弱毒化ASFウイルスでワクチン接種された動物と区別することを可能にする。
【0055】
本方法において使用される動物の試料は、ウイルスが検出され得る任意の試料(例えば、血液試料、又は脾臓、扁桃腺、若しくはリンパ節のような組織試料)であり得る。
【0056】
本発明の更なる目的は、ワクチン接種された動物と非弱毒化ASFウイルスに感染した動物とを区別することができ、配列番号4、配列番号5、及び配列番号6のうちの少なくとも1つの配列からなる遺伝子マーカーを提供することである。
【0057】
本発明は、限定として解釈されるべきではない添付図面を参照して、以下の実施例によって更に説明される。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【
図1】欠失部位におけるGeorgia2007/1ゲノムとASFV-989ゲノムとの比較を表す。
【
図2】ブタ肺胞マクロファージにおけるGeorgia2007/1株及びASFV-989株のウイルス複製を表す(力価(Log10 HAD50/ml)、時間(接種後日数))。
【
図3】Georgia2007/1株を検出するPCR505(L1、P1、及びR1)及びASFV-989を検出するPCR989(Del_Fow、Del_Probe、及びDel_Rev)のプライマー及びプローブの位置を示す。
【
図4】Georgia株又はASFV-989株でのIM免疫化後の直腸温度(℃)の進展を表す(免疫化後の日数での時間)。対照:A1群からのデータ;989 IM:C及びD群からのデータ;Geo IM:E群からのデータ
【
図5】Georgia株又はASFV-989株でのIM接種後(接種後日数での時間)のブタ生存率(%)を表す。対照:A1群からのデータ;989 IM:C及びD群からのデータ;Geo IM:E群からのデータ
【
図6】Georgia株又はASFV-989株でのIM接種後の成長成績の進展を表す。接種後の平均1日体重増加(Kg/D)対照:群A1及びA2からのデータ;989 IM:C及びD群からのデータ;Geo IM:E群からのデータ。
【
図7】Georgia株又はASFV-989株でのON免疫化後の直腸温度(℃)の進展を日数で表す。対照:A1群からのデータ;989 ON:B、H、及びI群からのデータ;Geo ON:F群からのデータ。
【
図8】Georgia株又はASFV-989株をON接種した後のブタ生存率(%)を日数で表す。対照:A1群からのデータ;989 ON:B、H、及びI群からのデータ;Geo ON:F群からのデータ。
【
図9】Georgia株又はASFV-989株でのON接種後の成長成績(平均1日体重増加(Kg/D))の進展を表す。対照:A1及びA2群からのデータ;989 ON:B、H、及びI群からのデータ;Geo ON:F群からのデータ。
【
図10】Georgia株又はASFV-989株での接種後のASFVウイルス血症(Log10 eq HAD50/ml)の進展(接種後日数)を表す。Geo IM:E及びF群からのデータ;Geo ON:F及びJ群からのデータ;989 IM:C及びD群からのデータ;989 ON:B、H、及びI群からのデータ。
【
図11】ASFV-989株での接種後のASFVウイルス血症(PCR989、Log10 eq HAD50/ml)の進展(日数)を表す。989 IM:C及びD群からのデータ;989 ON:B、H、及びI群からのデータ。
【
図12】Georgia株又はASFV-989株での接種後の抗体応答(ELISAによって検出、競合%)(接種後日数)を表す。989 IM:C群からのデータ;989オン:B群からのデータ;Geo IM:E群からのデータ;Geo ON:F群からのデータ。
【
図13】ASFV-989株での接種後の特異的細胞媒介性応答(IFNg分泌細胞の数/10
6PBMC)を表す。989 IM:C及びD群からのデータ;989 ON:B、H、及びI群からのデータ。
【
図14】Georgia ASFV株でのIMチャレンジ後の直腸温度(℃)の進展を表す(チャレンジ後の日数)。対照:A2群からのデータ;989 IM/Geo IM:D群からのデータ;989 ON/Geo IM:I群からのデータ;Geo IM:G群からのデータ。
【
図15】Georgia ASFV株でのONチャレンジ後の直腸温度(℃)の進展を表す(チャレンジ後の日数)。対照:A2群からのデータ;989 ON/Geo ON:H群からのデータ;Geo ON:J群からのデータ。
【
図16】Georgia ASFV株でのチャレンジ後(チャレンジ後の日数)の成長成績(平均1日体重増加(Kg/D))の進展を表す。対照:A1及びA2群からのデータ;989 IM/Geo IM:D群からのデータ;989 ON/Geo ON:H群からのデータ;989 ON/Geo IM:I群からのデータ;Geo IM:G群からのデータ;Geo ON:グループJ群からのデータ。
【
図17】ASFV-989株でのIM又はON接種後、及び2週間後に同じ経路でGeorgia ASFV株でのチャレンジ後の直腸温度(℃)の進展を日数で表す。対照:A3群からのデータ;989 ON/Geo ON-14:L群からのデータ;989 IM/Geo IM-14:K群からのデータ。
【
図18】ASFV-989株でのIM又はON接種後、及び2週間後に同じ経路でGeorgia ASFV株でのチャレンジ後の成長成績(平均1日体重増加(Kg/D))の進展を表す。対照:A3群からのデータ;989 ON/Geo ON-14:L群からのデータ;989 IM/Geo IM-14:K群からのデータ。
【
図19】ASFV-989株でのIM又はON接種後、及び2週間後に同じ経路でGeorgia ASFV株でのチャレンジ後のASFVウイルス血症(PCR989、Log10 eq HAD50/ml)の進展を日数で表す。989 ON/Geo ON-14:L群からのデータ;989 IM/Geo IM-14:K群からのデータ。
【実施例】
【0059】
実施例1:ASFV-989株の調製及びインビボでの特徴付け
1.材料及び方法
1.1ウイルス及び細胞
Georgia起源の家畜ブタから2007年に最初に単離されたGeorgia2007/1 ASFV株は、Dr.Linda Dixon(OIE reference laboratory,Pirbright Institute、英国)によって快く提供された。PPA/dp/FR-22/2018/180172-2 ASFV株(以後、ASFV-989(又は「989」)と称する)は、熱弱毒化ASFV Georgia2007/1株を接種した特定病原体除去(SPF)ブタから採取した血液試料から単離した。Georgia2007/1株及びASFV-989株をブタ肺胞マクロファージ(PAM)上でそれぞれ3継代及び1継代培養した後、ブタに接種した。ウイルスをRPMI培地中で希釈して、接種用量を筋肉内(IM)接種についてはブタ当たり103の血液吸着用量50%(HAD50)に、口鼻(ON)接種についてはブタ当たり104のHAD50に調整した。ウイルス力価測定は、赤血球吸着アッセイによって実施した(非特許文献8([9]))。
【0060】
1.2全ゲノム配列決定
高純度PCRテンプレート調整キット(Roche Diagnostics、フランス、メラン)を用いてASFV-989株からDNAを抽出した。実験室調製のために、Ion Xpress Plus Fragment Library Kit(Thermo Fischer Scientific、米国メリーランド州フレデリック)を使用し、250bp~290bpのDNA断片をIon Xpress Barcode
Adapters 1-96キット(Thermo Fischer Scientific、米国メリーランド州フレデリック)でサイズ選択した。DNA精製工程のために、Agencourt AMPure XP Kit(Beckman Coulter、フランス、ヴィルパント)からの磁気ビーズを使用した。全ての試料を、Proton Ion Torrent技術(Thermofischer Scientific、米国メリーランド州フレデリック)を用いて配列決定した。リードを、Trimmomaticを使用してクリーニングした(非特許文献9([10]))0.36ソフトウェア(ILLUMINACLIP:oligos.fasta:2:30:5:1:true;LEADING:3;TRAILING:3;MAXINFO:40:0.2;MINLEN:36)。次いで、bwa(非特許文献10([11]))(バージョン2.2.5)アライメントを、クリーンリード対NCBI参照FR682468.2を用いて行った。コンセンサス配列を、samtoolsを用いて作製した(非特許文献11([12]))(バージョン1.8)及びseqtk(バージョン1.2)(https://qithub.com/lh3/seqtk)
【0061】
1.2インビボ試験
65匹の特定病原体除去(SPF)大ヨークシャー種ブタ(6週齢)を、表1に記載される3つの試験において使用した。Lacastaらによって報告されたように(非特許
文献12)、本発明者らのSPFブタは、ASFV感染に特に感受性が高く、家畜ブタにおいて弱毒化されることが示されているASFV株についての臨床徴候を発現し得る。この感受性は、それらのPRRの低い多型及びそれらの先天性免疫系の低い刺激/成熟に関連し得る。試験#1及び試験#2において、ブタの群にASFV-989又はGeorgia株を0日目に筋肉内(IM)又は口鼻(ON)経路のいずれかによって接種した。ASFV-989株を接種した群のうち、2群は未チャレンジのままであった(989 ON及び989 IM長期:LT)が、他の群はASFV-989接種の28日後にGeorgia株でチャレンジした。対照ブタ(非免疫、未チャレンジ)も各試験に含めた。試験#3では、ASFV-989接種によって誘導される防御の開始を評価するために、免疫化の14日後に、最初の接種(IM又はON)と同じ経路で行われたチャレンジを用いて、Georgia株でブタをチャレンジした。
【0062】
【0063】
ブタを個々に同定し、ブタの各群を、Anses-Ploufgananの空気濾過バイオセーフティレベル3の動物施設の別々の部屋に収容した。全てのブタを直腸温度及びASFV感染の臨床徴候について毎日監視し、週に1回体重を測定した。血液試料を、接種又はチャレンジの前に、次いで、接種/チャレンジ後の最初の2週間の間に週2回、そして最後にフォローアップの残りの間に週1回、収集した。血液を、ELISPOT IFNg及びウイルス単離のためのリチウムヘパリン、ASFVゲノム検出のためのEDTAを含むチューブ、並びに抗体検出のための血清を得るための乾燥チューブに収集した。実験の終わりに、又は動物愛護の理由でより早い段階で、ブタを麻酔薬過剰投与によって屠殺し、次いで放血させた。
【0064】
倫理声明
動物実験は、フランス研究省(プロジェクト番号2019030418445731)によって認可され、国家倫理委員会(認可番号19-018#19585)によって承認された。
【0065】
ウイルス学的及び免疫学的アッセイ
リアルタイムPCR:接種後第1週の間のASFVウイルス血症の評価(
図10)を、
以前に記載されたようにリアルタイムPCRによって(非特許文献13([13]))、NucleoSpin(登録商標)8ウイルス(Macherey-Nagel)を使用して、100pLのEDTA血液試料から抽出したDNAを使用して行った。ブタβ-アクチンをブタ試料からのDNA抽出の内部対照として使用した。ASFV-989ウイルス血症の長期フォローアップ(
図11)、及び免疫化し、次いでチャレンジしたブタにおけるASFV-989又はGeorgiaゲノムの特異的検出(表2、3及び4)を、結果部分に記載した方法に従ってPCR989及びPCR505を用いてそれぞれ行った。
【0066】
ELISA:ASFVのタンパク質P32に対する抗体を、製造業者の説明書に従って競合ELISAキット(ID Screen ASFV competition、IDVET、フランス)を使用して血清中で測定した。
【0067】
ELISPOT:ASFV特異的IFNg分泌細胞(IFNg-SC)を、以前に記載されたように(非特許文献14([14]))、Georgia株について0.2の感染多重度を有するPBMC4×105の16時間ASFV刺激を使用して定量した。ウェル当たりのスポット数を、ImmunoSpot S6 UVアナライザ(CTL、米国オハイオ州シェーカーハイツ)を使用して計数した。
【0068】
2.結果
2.1ゲノム配列及びインビトロ特徴付け
+ASFV-989株の全ゲノム配列
ASFV-989株は、熱弱毒化ASFV Georgia株を接種したSPFブタ(ブタ番号989)から採取した血液試料から単離した。ASFV-989株をPAM上で更に1回増幅し、全ゲノム配列決定に供した。ASFV-989及びGeorgia完全ゲノム配列(FR682468.2)の比較により、ASFV-989株について、MGF505-1R及び505-4Rの部分欠失並びに360-12L、360-13L、360-14L、505-2R、505-3R、及びASFV_G_ACD_00520の完全欠失に対応する7458ヌクレオチド(ヌクレオチド位置29439と36898との間の)の欠失が明らかになった。
図1
【0069】
+ASFV-989及びGeorgia株のインビトロ複製
ASFV-989株のインビトロ複製をその親株Georgiaと比較して特徴付けるために、ブタ肺胞マクロファージ(PAM)を両方の株に感染させ、複製動態を4日間追跡した。
図2に示されるように、複製動態は、ASFV-989株及びGeorgia株について同様であり、接種後0日目から2日目にウイルス力価が増加し、続いて2日目から4日目はプラトーであった。
【0070】
+ASFV-989及びGeorgia株を検出するための特異的PCR系の設計
生物学的試料中のASFV-989又はGeorgia株を特異的に検出することができるPCRツールを有するために、本発明者らは、これらの株の各々についてのPCRシステムを設計した。PCR505は、以下の505_3R_L1 TGGCAAGATCATGGTTCCCT(配列番号7)、505_3R_R1 ATCTGCCTCCCATGACAACA(配列番号8)及び505_3R_P1 CCCTTCCGATGCTGCTACTTTGAGTGC(配列番号9)のようなプライマー及びプローブ配列を用いて、Georgia株のMGF505-3R遺伝子を標的としている。PCR989は、MGF505-1Rの近位部分とMGF505-4Rの遠位部分との融合から生じる989株のキメラ遺伝子を標的としている(
図3)。PCR989のプライマー及びプローブ配列は以下の通りである。Del_Fow TGCTTTCAAGCCTACAACTCC(配列番号4)、Del_Rev ATTCTCAGGGCCTCATTGGT(配列番号5)及びDel_Probe AGCGATCCTTTGGCTGCCACC(配列番号6)。
【0071】
最初に、本発明者らは、PCR505がGeorgia株を検出するがASFV-989株を検出しないこと、及びPCR989がASFV-989株を検出するがGeorgiaを検出しないことを確認した。標準範囲のASFV-989又はGeorgia株を使用して、本発明者らは、各PCRについてPCR効率、直線性、及び定量限界を判定した。両方のPCRは、10E3.8当量HAD50/mlの定量限界を有する、90%より高い有効性、非常に良好な線形性(5つの希釈物について0.99より高いR2)を示した。
【0072】
2.2 Georgia株と比較した、ASFV-989株接種に対する毒性及び免疫応答のインビボ特徴付け
ASFV-989株を接種したブタにおいて誘導された毒性レベル及び免疫反応を特徴付けるために、本発明者らは、ASFV-989株又はGeorgia株のいずれかを筋肉内(IM)経路又は口鼻(ON)経路によってブタに接種した3つのインビボ試験を行った。(表1)
【0073】
第1の工程において、本発明者らは、ON又はIM経路によってASFV-989株を接種されたブタについての臨床的、ウイルス学的、及び免疫学的パラメータを、同じ経路によって毒性Georgia株を投与したブタと比較した。条件当たりのブタの数を増加させるために、異なる実験群からのデータをまとめた。各条件に対応する実験群を各図に記載する。
【0074】
+臨床及び動物実験データ
-筋肉内接種:
Georgia株のIM接種後、感染したブタ(Geo IM:E群)は、接種後(PI)3日目に最初の高熱を示し、次いで、2日後に高熱のピークを示し(接種後5日目に41.0±0.3℃、
図4)、典型的なASF関連症状を発症した。それらのブタは、接種後6日目に安楽死させなければならない(
図5)。
【0075】
ASFV-989株を筋肉内接種したブタ(989 IM:C群及びD群)もまた、接種後3日目に最初の高体温を示したが、より低い高体温(接種後5日目に40.2±0.6℃、
図4)及び限定された症状を発症した。
【0076】
ASFV-989株をIM接種した11匹のブタのうち、2匹の動物のみが、ASFV-989接種後最初の2週間の間にASF関連症状を発症し、安楽死させなければならなかった(
図5)。IM 989接種ブタにおける直腸体温の上昇は、接種後2週間の間の成長成績の低下を伴った(
図6):接種後0日目/7日目間の平均1日体重増加(ADWG):989 IMについて0.36±0.12kg/D対対照について0.64±0.10kg/D、及び接種後7日目/14日目間のADWG:989 IMについて0.41±0.24kg/D対対照について0.69±0.16kg/D。
【0077】
-口鼻接種:
Georgia株のON接種の後、ブタ(Geo ON:F群)は、IM接種と同じ重度の症状を示し、接種後4日目に高体温のピーク(41.0±0.4℃)を示した(
図7)。全てのブタはまた、接種後6日目に安楽死させなければならなかった(
図8)。一方、ASFV-989株(989 ON:B群、H群及びI群)をON接種したブタは、より低い発熱(接種後6日目に40.6±0.5℃)を発症し(
図7)、症状が限定され、全てのブタが感染を生き延びた(
図8)。ASFV-989株をON接種したブタもまた、成長成績の低下を示した(接種後0日目/7日目間のADWG:989 ONについて0.27±0.11kg/D対対照について0.64±0.10kg/D)が、接種後第1週の間のみであった(
図9)。
【0078】
+ウイルス学的データ
ASFV-989株の弱毒化性質を更に特徴付けるために、本発明者らは次に、感染の第1週の間にIM又はON経路によって接種されたブタについて、Georgiaと比較してASFV-989株のウイルス血症レベルを評価した。
図10に示すように、ASFV-989株のウイルス血症レベルは、Georgia株よりも顕著に低く、ASFV-989株のウイルス量は100分の1である。Georgia株をIM接種したブタでは、接種後5日目のASFVウイルス血症は8.5±0.2log10当量HAD
50/mlであったが、ASFV-989株を同じ経路で接種した動物ではわずか5.9±0.3log10当量HAD
50/mlであった。興味深いことに、ASFV-989株をON経路で接種されたブタは、IMで接種されたブタよりも低いウイルス血症を示した(接種後5日目に、ON摂取経路について4.7±1.6log10当量HAD
50/ml対IM接種経路について5.9±0.3log10当量HAD
50/ml)。
【0079】
ASFV-989株(IM又はONのいずれか)を接種したブタにおけるASFVウイルス血症プロファイルをより正確に説明するために、本発明者らは、B群及びC群の動物について、989 PCRを用いて最大100日間、ASFV-989株のウイルス血症を追跡した。
図11に示されるデータは、ON接種経路についてのウイルス血症のより低いレベル(接種後7日目に、IMについて6.2±0.3log10当量HAD
50/ml対ONについて5.5±0.4log10当量HAD
50/ML)、ON接種経路についてのウイルス血症のより早い消滅(接種後76日目:ONについて0/4ブタウイルス血症対IMについて3/4依然ウイルス血症)を確認した。
【0080】
+ASFV特異的免疫応答
-抗体応答
Georgia株の接種後、感染したブタは、安楽死させなければならなくなる前にASF特異的抗体を発現しなかった。ASFV-989株を接種したブタについては、ON又はIM接種したブタの両方が、接種後7日目と接種後11日目の間血清変換が起こった(
図12)。
【0081】
-細胞媒介応答
ASFVに特異的な細胞性免疫(CMI)応答を、ASFV-989株をIM又はON接種したブタの間でELISPOT IFNgによって評価した。ASFVウイルスに特異的なCMI応答は、接種後13日目に早くも検出され、接種後27日目に確認された(
図13)。CMI応答のレベルは、IM群(接種後27日目の35±23IFNg SC/10E6 PBMC)と比較して、ON群(接種後27日目の122±67 IFNg SC/10E6 PBMC)でより強いようであった。
【0082】
2.3 4週間後に生じるGeorgia株でのチャレンジに対するASFV-989株免疫の防御効果
ASFV-989株接種によって誘導された免疫応答を特徴付けたので、本発明者らは次に、免疫化されたブタが、免疫化の1ヶ月後に生じる毒性Georgia株でのASFVチャレンジに対して防御され得るかどうかを評価した(表1)。
【0083】
+臨床及び動物実験データ
先に示したように、ON又はIM経路によるGeorgia株でのチャレンジは、非免疫ブタにおいて急速な高熱を誘導し(
図14及び15)、重篤な症状を伴い、これはブタ(G群及びJ群)の例外的な安楽死を強いる。対照的に、ASFV-989株で免疫し、
Georgiaでチャレンジしたブタはいずれも、高熱又はASF関連症状を発症せず、全てがGeorgiaチャレンジを生き延びた(D群、H群、及びI群)。
【0084】
成長成績に関して、Georgiaチャレンジは、平均1日体重増加の急速な低下を示した非免疫動物とは対照的に、ASFV-989免疫化ブタにおいて影響を有さなかった(
図16)。
【0085】
+ウイルス学的データ
ASFV-989株で免疫したブタが臨床的観点でGeorgiaチャレンジに対して完全に防御されることを決定したので、本発明者らは次に、ウイルス学的レベルでのASFV-989免疫の効果を評価した。PCR505(Georgia株を検出する)及びPCR989(ASFV-989株を検出する)の両方を使用して、本発明者らは、Georgia株でチャレンジしたブタ(ASFV-989で予め免疫化したか又は免疫化していない)におけるGeorgiaウイルス血症及びASFV-989ウイルス血症を評価した。
【0086】
表2及び3に示されるように、非免疫ブタの両方の群は、チャレンジ後にGeorgiaウイルス血症の迅速な上昇を示した(D5 PCで:Georgia IMについて8.9±0.2log10当量HAD50/ml及びGeorgia ONについて9.0±0.4log10当量HAD50/ml)。対照的に、Georgiaゲノムは、免疫化の経路又はチャレンジの経路にかかわらず、ASFV-989免疫化ブタのいずれの血液においても検出されなかった。先に示したように、PCR989の結果は、ASFV-989ウイルス血症が免疫化後少なくとも3週間検出され得ることを確認した。
【0087】
【0088】
【0089】
剖検時に採取した組織試料では、IM経路でチャレンジしたASFV-989 IM免
疫化ブタのいずれにおいても、Georgiaゲノムは検出されなかった(表4)。ASFV-989株をON経路で免疫化したブタのうち、Georgiaゲノムは12頭中4頭(H群2頭、I群2頭)の組織(扁桃腺、脾臓、又は肝臓-胃リンパ節)で検出された。
【0090】
【0091】
2.4 2週間後に生じるGeorgia株でのチャレンジに対するASFV-989株接種の防御効果
ASFV-989接種が、4週間後に生じるGeorgiaチャレンジに対して強い防御を誘導することができることを実証したので、本発明者らは、次いで、同じ防御が免疫化の2週間後にすぐに獲得され得るか否かに疑問を抱いた。2群のブタにASFV-989株をIM又はON経路で接種し、2週間後に同じ経路でGeorgia株をチャレンジした(表1、K群及びL群)。
【0092】
試験#1及び#2に見られるように、ASFV-989株でのブタの接種は、接種後3日目に始まり、約1週間続く高体温の期間を誘導した(
図17)。この高体温は、1~2週間の間に成長成績の低下を伴った(
図18)。ASFV-989株を筋肉内接種したブタのうち、1匹の動物が亜急性型のASF(体重減少、振せん、及び運動失調)を発症し、接種後12日目に死亡した。
【0093】
免疫化後14日目のGeorgiaチャレンジの後、ASFV-989免疫化ブタのいずれについても、症状、高体温、及び成長成績に対する影響は記録されなかった(
図17及び18)。
【0094】
ウイルス学的観点では、ASFV-989接種後、全てのブタが、弱毒化株について検出可能なウイルス血症を示し、これは、ON接種ブタと比較して、IM接種ブタについてより速く検出され、わずかに高いレベルであった(
図19)。Georgiaチャレンジ後、Georgia株(PCR505)のゲノムが免疫化ブタの血液中(表5)又は組織中(表6)に検出されなかったため、全ての免疫化ブタはチャレンジ株に対して完全に防御された。
【0095】
【0096】
【0097】
参照リスト
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【配列表】
【国際調査報告】