(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-02-02
(54)【発明の名称】ピリジン-ピロール-ルテニウム錯体とその生成方法、及びアンモニア酸化に対し電極触媒作用を発揮してヒドラジンを生成する触媒としての応用
(51)【国際特許分類】
C07F 15/00 20060101AFI20240126BHJP
B01J 31/22 20060101ALI20240126BHJP
C25B 1/01 20210101ALI20240126BHJP
C25B 1/02 20060101ALI20240126BHJP
【FI】
C07F15/00 A CSP
B01J31/22 M
C25B1/01 Z
C25B1/02
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023524432
(86)(22)【出願日】2022-12-15
(85)【翻訳文提出日】2023-04-20
(86)【国際出願番号】 CN2022139184
(87)【国際公開番号】W WO2023116540
(87)【国際公開日】2023-06-29
(31)【優先権主張番号】202111584527.X
(32)【優先日】2021-12-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】518309666
【氏名又は名称】中南大学
(74)【代理人】
【識別番号】100091683
【氏名又は名称】▲吉▼川 俊雄
(74)【代理人】
【識別番号】100179316
【氏名又は名称】市川 寛奈
(72)【発明者】
【氏名】易小藝
(72)【発明者】
【氏名】陳果
【テーマコード(参考)】
4G169
4H050
4K021
【Fターム(参考)】
4G169AA06
4G169BA27A
4G169BA27B
4G169BC70A
4G169BC70B
4G169BE16A
4G169BE16B
4G169BE21A
4G169BE21B
4G169BE44A
4G169BE44B
4G169BE46A
4G169BE46B
4G169CB81
4H050AA01
4H050AA02
4H050AB40
4H050BC10
4H050BC19
4K021AA01
4K021AA09
4K021DA13
(57)【要約】
本発明は、ピリジン-ピロール-ルテニウム錯体とその生成方法、及びアンモニア酸化に対し電極触媒作用を発揮してヒドラジンを生成する触媒としての応用を開示する。ピリジン-ピロール-ルテニウム錯体は、高活性の金属ルテニウムを中心金属イオンとし、電子吸引性/供与性を有するピリジン-ピロール含有化合物を配位子とする。これにより、アンモニア酸化に対する高い触媒活性がピリジン-ピロール-ルテニウム錯体全体に付与される。これを有機溶媒中におけるアンモニアの電極触媒酸化に応用することで、アンモニアの高転化率及び高選択的な転化を実現し、H
2、N
2及びN
2H
4等を主な生成物として取得することが可能となる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
式1~式5の構造のいずれか1つを有することを特徴とするピリジン-ピロール-ルテニウム錯体。
【化1】
【化2】
【化3】
【化4】
【化5】
【請求項2】
1)2,5-ジピリジルピロール、2,5-ジピリジル-3-メチル-4-アセチルピロール、又は2,5-ジピリジル-3-カルボキシメチル-4-メチルピロールと、シス-ジクロロテトラ(ジメチルスルホキシド)ルテニウム及びビピリジン並びにアルカリ化合物を溶媒に溶解させて、加熱還流反応により、式1、式4又は式5の構造のピリジン-ピロール-ルテニウム錯体を取得し、
2)式1の構造のピリジン-ピロール-ルテニウム錯体を溶媒に溶解させ、加熱還流反応させてから、飽和ヘキサフルオロリン酸アンモニウム溶液を加えてイオン交換反応を行わせることで、式2の構造のピリジン-ピロール-ルテニウム錯体を取得し、
3)式2の構造のピリジン-ピロール-ルテニウム錯体を溶媒に溶解させ、アンモニア含有ガスを導入して反応させることで、式3の構造のピリジン-ピロール-ルテニウム錯体を取得する、
とのステップを含むことを特徴とする請求項1に記載のピリジン-ピロール-ルテニウム錯体の合成方法。
【請求項3】
2,5-ジピリジルピロール、2,5-ジピリジル-3-メチル-4-アセチルピロール、又は2,5-ジピリジル-3-カルボキシメチル-4-メチルピロールと、シス-ジクロロテトラ(ジメチルスルホキシド)ルテニウムのモル比は1:2~2:1であることを特徴とする請求項2に記載のピリジン-ピロール-ルテニウム錯体の合成方法。
【請求項4】
シス-ジクロロテトラ(ジメチルスルホキシド)ルテニウムとビピリジンのモル比は1:3~3:1であることを特徴とする請求項2に記載のピリジン-ピロール-ルテニウム錯体の合成方法。
【請求項5】
前記アルカリ化合物は、水素化カルシウム、水素化ナトリウム、トリエチルアミンのうちの少なくとも1つであることを特徴とする請求項2に記載のピリジン-ピロール-ルテニウム錯体の合成方法。
【請求項6】
ステップ1)において、反応の温度は50~115℃であり、時間は8~12hであることを特徴とする請求項2に記載のピリジン-ピロール-ルテニウム錯体の合成方法。
【請求項7】
ステップ2)において、還流反応の温度は50~115℃であり、時間は2~6dであることを特徴とする請求項2に記載のピリジン-ピロール-ルテニウム錯体の合成方法。
【請求項8】
前記アンモニア含有ガス中のアンモニアガス濃度は1%よりも大きいことを特徴とする請求項2に記載のピリジン-ピロール-ルテニウム錯体の合成方法。
【請求項9】
アンモニア酸化に対し電極触媒作用を発揮してN
2H
4を生成しつつH
2を同時生成する触媒としての応用であることを特徴とする請求項1に記載のピリジン-ピロール-ルテニウム錯体の応用。
【請求項10】
アンモニア酸化に対し電極触媒作用を発揮してN
2H
4を生成しつつH
2を同時生成する触媒としての応用であり、選択する有機溶媒は、無水テトラヒドロフラン、無水アセトニトリルであることを特徴とする請求項1に記載のピリジン-ピロール-ルテニウム錯体の応用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、触媒材料に関し、具体的には、ピリジン-ピロール-ルテニウム錯体触媒材料に関し、更に、その合成方法と、アンモニア酸化に対し電極触媒作用を発揮してヒドラジンを生成する触媒としての応用に関し、触媒作用の技術分野に属する。
【背景技術】
【0002】
水素ガス(H2)は、誰もが認める化石燃料の最も理想的な代替品の一つである。しかし、水素ガスにおける体積エネルギー密度の極端な低さ、極端な易燃性及び爆発しやすさ、貯蔵・輸送コストの高さ、安全性の低さ等の不利な要因から、水素エネルギーは大規模な直接使用が制限されているため、水素貯蔵技術及び水素貯蔵材料の発展が不可欠である。多くの水素貯蔵材料の中では、液状低分子が水素エネルギーキャリアとして注目されている。アンモニア分子(NH3)の水素含有量は17.6wt%にも達するため、水素エネルギーキャリアとしての優位性は明らかである。しかし、その開発・利用が一貫して遅々として進まないのは、主にアンモニアの酸化半反応の制約を受けるからである。そこで、低分子金属錯体が、均一系触媒として、温和な条件におけるアンモニア分子の酸化触媒作用について解決策を提供している。
【0003】
ジアザン(N2H4,ヒドラジンとも称する)は、強還元性且つ高エネルギーの化学試薬として、化学工業、航空宇宙、エネルギーの分野で幅広く応用されている。1907年に初めてN2H4の工業化生産が実現されてから、100年余りの発展を経て、現在行われているN2H4の工業生産は依然として従来の、或いは改良されたラシヒ(Raschig)法に基づいている。即ち、強酸化剤によりNH3を化学的に酸化させてN2H4を生成しているが、未だ多くのボトルネック問題に直面している。
【0004】
【0005】
1)転化率が低く、反応系における生成物濃度が低い。NH
3を脱水素によりN
2H
4に転化させることは熱力学的に非常に不利なため
((A)に示す通り)、従来のプロセスではNH
3からN
2H
4への転化効率が低い(<10%)。そこで、NH
3/N
2H
4のモル比を増大させて(>40/1)転化率を向上させることが一般的であり、結果として、反応系におけるN
2H
4の生成物濃度が低くなってしまう(<8%)。また、これにより、後続のヒドラジン一水和物(N
2H
4・H
2O)の抽出及び濃縮の工業プロセスが長くなり、エネルギー消費が高くなる。
【0006】
2)環境汚染、副生成物が多い。従来のラシヒ法では、塩素を含有する強酸化剤を大量に使用する必要があるため、環境汚染の問題が生じる。また、改良されたラシヒ法では、大量の有機副生成物も発生する。
【0007】
3)無水N2H4を生成する際のコストが高い。無水N2H4の付加価値はヒドラジン一水和物(N2H4・H2O)よりも遥かに高く、無水N2H4が45万人民元/トンであるのに対し、80%のN2H4・H2Oは2.5万人民元/トンである。ラシヒ法は水溶液中で行われ、通常は最高濃度80%のヒドラジン一水和物(N2H4・H2O)しか得られないため、無水N2H4を取得するには、高コストの脱水プロセスを経なければならない。
【0008】
要するに、NH3を脱水素によりN2H4に転化させることは熱力学的に非常に不利な科学的挑戦であり、克服は遅々として進んでいない。そのため、従来のN2H4の生成プロセスにおける操作の煩雑さ、収率の低さ、エネルギー消費の高さ等の一連の課題を解決できておらず、N2H4の価格は高止まりしたままである。従って、無水N2H4を高効率に生成する新たな方法を開発することは、大変な科学的挑戦であるだけでなく、重要な応用価値も有する。
【0009】
有機溶媒中でNH3の酸化に対し電極触媒作用を発揮させれば、2つの高付加価値製品である無水N2H4及びH2のワンステップ同時生成を実現可能となる。このプロセスは、アトムエコノミーが100%に達し、コストが低く、工業プロセスが短いため、無水N2H4生成の革命的イノベーションにおける技術的道筋となることが期待される。よって、アンモニア酸化に対し電極触媒作用を発揮してヒドラジンを生成する触媒を開発することには重要な理論的意義と応用価値がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
従来技術に存在する課題を解決するために、本発明の第1の目的は、アンモニア酸化に対する電極触媒作用について高い触媒活性を有するピリジン-ピロール-金属ルテニウム錯体を提供することである。
【0011】
本発明の第2の目的は、操作及びステップがシンプルで、低コストであるピリジン-ピロール-金属ルテニウム錯体を生成する方法を提供することである。
【0012】
本発明の第3の目的は、アンモニア酸化に対し電極触媒作用を発揮する触媒としてのピリジン-ピロール-ルテニウム錯体の応用を提供することである。ピリジン-ピロール-ルテニウム錯体は、アンモニアの電極触媒酸化に対し高い触媒活性を有し、高効率且つ高選択的にアンモニアをH2、N2及びN2H4に転化可能とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記の技術的目的を実現するために、本発明は、式1~式5の構造のいずれか1つを有するピリジン-ピロール-ルテニウム錯体を提供する。
【0014】
【0015】
【0016】
【0017】
【0018】
【0019】
本発明におけるピリジン-ピロール-ルテニウム錯体は、金属ルテニウムを中心金属イオンとし、ピリジン-ピロール化合物を配位子とする。金属ルテニウムは高周期遷移金属に属する。金属ルテニウムは、複数の酸化数(原子価の範囲が-2から+8)を有し、高い反応活性を示す。一方、ピリジン-ピロール配位子は、電子供与性/吸引性を有し、アンモニア酸化の電位を有効に低下可能とする。また、ピリジン-ピロール配位子のピリジン基とアンモニア分子で形成される分子内水素結合作用によって、アンモニア酸化における脱プロトン化過程を加速させられる。これにより、アンモニア酸化を触媒する際の高活性及び高選択性がピリジン-ピロール-ルテニウム錯体全体に付与される。
【0020】
本発明は、更に、ピリジン-ピロール-ルテニウム錯体の合成方法を提供する。当該方法は、以下のステップを含む。
【0021】
1)2,5-ジピリジルピロール、2,5-ジピリジル-3-メチル-4-アセチルピロール、又は2,5-ジピリジル-3-カルボキシメチル-4-メチルピロールと、シス-ジクロロテトラ(ジメチルスルホキシド)ルテニウム及びビピリジン並びにアルカリ化合物を有機溶媒に溶解させて、加熱還流反応により、式1、式4又は式5の構造のピリジン-ピロール-ルテニウム錯体を取得する。
【0022】
2)式1の構造のピリジン-ピロール-ルテニウム錯体を溶媒に溶解させる。そして、加熱還流反応させてから、飽和ヘキサフルオロリン酸アンモニウムを加えてイオン交換反応を行わせることで、式2の構造のピリジン-ピロール-ルテニウム錯体を取得する。
【0023】
3)式2の構造のピリジン-ピロール-ルテニウム錯体を溶媒に溶解させ、アンモニア含有ガスを導入して反応させることで、式3の構造のピリジン-ピロール-ルテニウム錯体を取得する。
【0024】
好ましい方案として、2,5-ジピリジルピロール、2,5-ジピリジル-3-メチル-4-アセチルピロール、又は2,5-ジピリジル-3-カルボキシメチル-4-メチルピロールと、シス-ジクロロテトラ(ジメチルスルホキシド)ルテニウムのモル比は1:2~2:1である。
【0025】
好ましい方案として、シス-ジクロロテトラ(ジメチルスルホキシド)ルテニウムとビピリジンのモル比は1:3~3:1である。
【0026】
好ましい方案として、前記アルカリ化合物は、水素化カルシウム、水素化ナトリウム、トリエチルアミンのうちの少なくとも1つである。これらのアルカリ化合物は、主に、2,5-ジピリジルピロール、2,5-ジピリジル-3-メチル-4-アセチルピロール、又は2,5-ジピリジル-3-カルボキシメチル-4-メチルピロールの脱プロトン化反応を促進するために用いられる。ピリジン-ピロール配位子に対するアルカリ化合物の使用量は1~8:1である。
【0027】
好ましい方案として、例えば、ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム、ナトリウムメトキシド、水酸化ナトリウムといった脱プロトン化反応を促進可能なアルカリ化合物であれば全て使用可能である。
【0028】
好ましい方案として、ステップ1)において、反応の温度は50~115℃であり、時間は8~12hである。
【0029】
好ましい方案として、ステップ1)において、有機溶媒は、ジクロロメタン、トリクロロメタン、アセトニトリル、メタノール、テトラヒドロフラン、ベンゼン、トルエンである。
【0030】
好ましい方案として、ステップ2)において、還流反応の温度は50~115℃であり、時間は2~6dである。
【0031】
好ましい方案として、前記アンモニア含有ガス中のアンモニアガス濃度は1%よりも大きい。前記アンモニア含有ガスは、純アンモニアガスとしてもよいし、アンモニアガスと窒素ガス又は希ガスの組み合わせとしてもよい。
【0032】
本発明は、更に、ピリジン-ピロール-ルテニウム錯体の応用を提供する。この応用は、アンモニア酸化に対し電極触媒作用を発揮してN2H4を生成しつつH2を同時生成する触媒としての応用である。
【0033】
本発明で提供するピリジン-ピロール-ルテニウム錯体の具体的な生成方法は次の通りである。
【0034】
(1)窒素ガス雰囲気下で、2,5-ジピリジルピロール、2,5-ジピリジル-3-メチル-4-アセチルピロール、又は2,5-ジピリジル-3-カルボキシメチル-4-メチルピロール配位子のうちのいずれか1つと、ジクロロテトラ(ジメチルスルホキシド)ルテニウム及びビピリジン並びにアルカリ化合物を、トルエン、メタノール又はテトラヒドロフラン等の溶媒に溶解させ、磁力により攪拌して、加熱還流を8~12h行う。
【0035】
(2)反応の完了後、窒素ガス雰囲気下で、トルエン、エチルエーテル又は水等の溶媒をそれぞれ加えて3回洗浄する。そして、得られた固体をジクロロメタンに溶解させ、無水硫酸ナトリウムを加えて溶液中の水を除去するとともに、濾液中の溶媒を除去して、式1、式4又は式5の構造のルテニウム錯体である赤色の固体を取得する。
【0036】
(3)窒素ガス雰囲気下で、式1の構造のピリジン-ピロール-ルテニウム錯体をトルエン、メタノール又はテトラヒドロフラン等の溶媒に溶解させ、攪拌して、加熱還流反応を2~6日間行う。
【0037】
(4)飽和ヘキサフルオロリン酸アンモニウム水溶液を上記の溶液に滴下し、2h攪拌したあと、反応液を濾過及び遠心脱水して、式2の構造のピリジン-ピロール-ルテニウム錯体である黄色の固体を取得する。
【0038】
(5)式2の構造のピリジン-ピロール-ルテニウム錯体を、トリクロロメタン、ジクロロメタン又はテトラヒドロフラン、アセトニトリル等の溶媒に溶解させる。そして、濃度1~99.9%のアンモニアガスを30分以上導入し、少なくとも2日間静置及び放置して、式3の構造のピリジン-ピロール-ルテニウム錯体である赤色の固体を取得する。
【0039】
本発明の式1~式5の構造のピリジン-ピロール-ルテニウム錯体は、いずれもアンモニア酸化に対し電極触媒作用を発揮して、H2、N2及びN2H4を生成する触媒としての性質を有する。例えば、アルゴンガス雰囲気下で、0.5V vs.Cp2Fe+/0以上の電位で0~72時間の電気分解を行った場合、0~2500μmolのH2、0~25μmolのN2及び0~2500μmolのN2H4が生成される。NH3からN2H4への転化率は45%にも達し得るとともに、電解液中のN2H4の溶解度は0.032mol/Lとなる。また、50~92%という高いファラデー効率FEが得られる。
【発明の効果】
【0040】
従来技術と比較して、本発明の技術方案がもたらす有益な技術的効果は以下の通りである。
【0041】
1)本発明におけるピリジン-ピロール-ルテニウム錯体は、高活性の金属ルテニウムを中心金属イオンとし、電子吸引性/供与性を有するピリジン-ピロール化合物を配位子とする。これにより、アンモニア酸化に対する高い触媒活性がピリジン-ピロール-ルテニウム錯体全体に付与される。本発明におけるピリジン-ピロール-ルテニウム錯体の生成方法の操作及びステップはシンプルであり、低コストのため、大規模生産に有利である。
【0042】
2)本発明におけるピリジン-ピロール-ルテニウム錯体は、高選択性(nN2H4/nN2max 200)、高触媒効率(TOFN2H4max 400 h-1)、高ファラデー効率(FEmax 92%)でNH3の酸化に対し電極触媒作用を実現することで、無水N2H4をワンステップ生成しつつ、H2を同時生成することが可能である。
【0043】
3)本発明におけるピリジン-ピロール-ルテニウム錯体は、純有機溶媒中でN2H4のワンステップ生成を実現可能なため、分離・精製に都合がよい。
【0044】
4)これまで、N2H4の合成は、従来のラシヒ法及び非触媒酸化経路によるものであったが、当該経路には、プロセス経路が煩雑であり、収率が低く、エネルギー消費が大きく、汚染が深刻であるとの課題が存在していた。これに対し、本発明のピリジン-ピロール-ルテニウム錯体は、常温・常圧の電極触媒酸化のみを反応場面として、極めて価値のある2つの製品をワンステップ合成するものである。且つ、分離ステップも極めてシンプルなため、その後の無水N2H4の工業化生産に対し革命的イノベーション技術を完全に提供可能である。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【
図1】
図1は、錯体1[Ru(K
2-N,N’-dpp)(bpy)(S-dmso)(Cl)]の単結晶回折パターンである。
【
図2】
図2は、錯体2[Ru(K
3-N,N’N’’-dpp)(bpy)(S-dmso)]・PF
6の単結晶回折パターンである。
【
図3】
図3は、錯体3[Ru(K
2-N,N’-dpp)(bpy)(S-dmso)(NH
3)]・PF
6の単結晶回折パターンである。
【
図4】
図4は、錯体4[Ru(K
2-N,N’-mdpc)(bpy)(S-dmso)(Cl)]の単結晶回折パターンである。
【
図5】
図5は、錯体5[Ru(K
3-N,N’N’’-mdpe)(bpy)(Cl)]の単結晶回折パターンである。
【
図6】
図6は、水素ガス及び窒素ガスのガスクロマトグラフィー標準曲線である。
【
図7】
図7は、0.01mMの錯体1、2及び3によるアンモニア酸化に対する電極触媒作用の反応過程におけるガス組成図である。
【
図8】
図8は、反応時間別の0.01mM錯体3によるアンモニア酸化に対する電極触媒作用の反応過程におけるガス組成図である。
【
図9】
図9は、反応時間別の0.01mM錯体5によるアンモニア酸化に対する電極触媒作用の反応過程におけるガス組成図である。
【
図10】
図10は、紫外可視スペクトル吸収強度とヒドラジン濃度の標準曲線である。
【
図11】
図11は、錯体1、2、3電解液とp-C
9H
11NOを1h反応させたあとの紫外可視吸収スペクトルである。
【発明を実施するための形態】
【0046】
本発明を理解しやすいよう、以下では、好ましい実施例を組み合わせて、本発明につきより全面的且つ詳細に述べるが、本発明の保護の範囲は以下の具体的実施例に限らない。
【0047】
以下の実施例で言及する基質原料及び溶媒等は、いずれも市販の商用製品(ARグレード試薬)である。使用する試薬は、いずれも、精製、乾燥及び脱酸素前処理が施されており、関連する合成及び処理過程では、標準的な無水・無酸素処理技術を使用する。また、1H NMR、31P NMR、19F NMRは、CDCl3を溶媒とし、TMSを内部標準とする。
【0048】
多重度は、s(一重線)、d(二重線)、t(三重線)、q(四重線)及びm(多重線)と定義する。また、吸収強度は、s(強吸収)、m(中程度の吸収)、w(弱吸収)と定義する。
【0049】
別途定義しない限り、以下で使用する全ての専門用語は当業者が一般的に理解する意味と同義である。また、本文中で使用する専門用語は、具体的実施例の記載を目的としているにすぎず、全てが本発明の保護の範囲というわけではない。
【実施例1】
【0050】
1.錯体1[Ru(K2-N,N’-dpp)(bpy)(S-dmso)(Cl)]の生成
【0051】
【0052】
(1)窒素ガス雰囲気下で、シス-ジクロロテトラ(ジメチルスルホキシド)ルテニウム(1.088g,2.248mmol)、2,5-ジピリジルピロール(0.566g,2.248mmol)、ビピリジン(0.351g,2.247mmol)及びトリエチルアミンを有機溶媒(50mL)に溶解させ、磁力により攪拌するとともに、105℃まで加熱して10h反応させた。
【0053】
(2)反応の完了後、窒素ガス雰囲気下で、トルエン、エチルエーテル及び水をそれぞれ加えて3回洗浄した。そして、得られた固体をジクロロメタンに溶解させ、無水硫酸ナトリウムを加えて溶液中の水を除去するとともに、濾液中の溶媒を除去して、赤色の固体を取得した。
【0054】
(3)取得した赤色の固体を液相拡散法によりジクロロメタンに溶解させた。そして、エチルエーテル及びn-ヘキサンを順に加え、2週間静置したあと、赤色の針状結晶錯体1を取得した。
【0055】
収率:32%。
【0056】
1H NMR(400MHz,CDCl3):δ10.171-10.186(d,1H),δ9.399-9.413(d,1H),δ8.125-8.137(d,1H),δ7.914-7.934(d,1H),δ7.644-7.731(m,3H),δ7.573-7.607(t,2H),δ7.472-7.510(m,1H),δ7.099-7.169(m,4H),δ6.963-6.995(m,1H),δ6.829-6.838(d,1H),δ6.676-6.710(m,1H),δ6.299-6.309(d,1H),δ3.165(s,3H),δ2.401(s,3H)ppm.
【0057】
IR(KBr,cm-1):1589(s),1522(s),1433(s),1323(s),1279(w),1152(w),1074(s),1014(s),961(w),919(w),789(m),766(s),724(m),686(m),435(m).
【0058】
2.錯体2[Ru(K3-N,N’N’’-dpp)(bpy)(S-dmso)]・PF6の生成
【0059】
目標生成物
【0060】
【0061】
(4)窒素ガス雰囲気下で、錯体1を有機溶媒に溶解させ、溶液を攪拌するとともに、60℃まで加熱し、4日間反応させたあと、溶液を回転させつつ3mLまで蒸発させた。
【0062】
(5)飽和ヘキサフルオロリン酸アンモニウム水溶液を上記の溶液に滴下し、2h攪拌したあと、反応液を濾過及び遠心脱水して黄色の固体を取得した。
【0063】
(6)取得した赤色の固体を液相拡散法によりジクロロメタンに溶解させた。そして、エチルエーテル及びn-ヘキサンを順に加え、2週間静置したあと、赤色の針状結晶錯体2を取得した。
【0064】
収率:93%。
【0065】
1H NMR(400MHz,CDCl3):δ10.315-10.301(d,1H),δ8.583-8.563(d,1H),δ8.442-8.422(d,1H),δ8.177-8.138(t,1H),δ7.924-7.884(t,1H),δ7.763-7.730(t,1H),δ7.550-7.511(m,2H),δ7.418-7.399(d,2H),δ7.328-7.315(d,2H),δ7.231-7.197(t,1H),δ6.909(s,2H),δ6.823-6.809(d,1H),δ6.748-6.715(m,2H),δ2.582(s,6H)ppm.
【0066】
31P NMR(162MHz,CDCl3):δ-135.60,δ-140.01,δ-144.40,δ-148.80,δ-153.20ppm.
【0067】
19F NMR(380MHz,CDCl3):δ-72.36,δ-74.25ppm.
【0068】
IR(KBr,cm-1):1598(s),1486(s),1396(m),1298(s),1263(w),1156(w),1087(m),1042(w),1008(m),840(s),760(s),557(s),431(m).
【0069】
【0070】
【0071】
3.錯体3[Ru(K2-N,N’-dpp)(bpy)(S-dmso)(NH3)]・PF6の生成
【0072】
目標生成物
【0073】
【0074】
(1)錯体2(35mg,0.050mmol)をトリクロロメタンに溶解させたあと、2%のアンモニアガス(キャリアガスは窒素ガス)を30分間導入し、1h静置した。これを3回繰り返し、2週間放置した。最後に、室温で溶液を濃縮し、エチルエーテル及びn-ヘキサンを順に加えて、液相拡散法により赤色の板状結晶錯体3を取得した。
【0075】
収率:98%。
【0076】
1H NMR(400MHz,CDCl3):δ9.871-9.858(d,1H),δ8.412-8.401(d,1H),δ8.313-8.293(d,1H),δ8.251-8.231(d,1H),δ7.714-7.675(t,1H),δ7.646-7.612(t,1H),δ7.517-7.503(d,1H),δ7.463-7.402(m,2H),δ7.328-7.315(d,2H),δ7.189-7.175(d,1H),δ7.095-7.175(d,1H),δ7.095-7.064(m,1H),δ7.029-7.019(d,1H),δ6.981-6.952(t,1H),δ6.617-6.586(t,1H),δ3.160(s,3H),δ3.110(s,3H),δ2.534(s,3H)ppm.
【0077】
31P NMR(162MHz,CDCl3):δ-135.92,δ-140.28,δ-144.64,δ-149.00,δ-153.36ppm.
【0078】
19F NMR(380MHz,CDCl3):δ-72.02,δ-73.89ppm.
【0079】
IR(KBr,cm-1):3371(w),1604(m),1529(m),1454(w),1421(m),1325(m),1161(w),1080(m),1018(m),843(s),764(m),685(w),557(m),430(m).
【0080】
4.錯体4[Ru(K2-N,N’-mdpc)(bpy)(S-dmso)(Cl)]の生成
【0081】
目標生成物
【0082】
【0083】
(1)窒素ガス雰囲気下で、ジクロロテトラ(ジメチルスルホキシド)ルテニウム(1.088g,2.248mmol)、2,5-ジピリジル-3-カルボキシメチル-4-メチルピロール配位子(0.659g,2.248mmol)、ビピリジン(0.351g,2.247mmol)及びトリエチルアミンを有機溶媒(50mL)に溶解させ、攪拌するとともに、105℃まで加熱して9h反応させた。
【0084】
(2)反応の完了後、窒素ガス雰囲気下で、エチルエーテル及び水をそれぞれ加えて3回洗浄した。そして、得られた固体をジクロロメタンに溶解させ、無水硫酸ナトリウムを加えて溶液中の水を除去するとともに、濾液中の溶媒を除去して、赤色の固体を取得した。
【0085】
(3)クロマトグラフィー用シリカカラムを用い、赤色の固体についてカラムクロマトグラフィー分離を行って、赤色の固体生成物を取得した。
【0086】
(4)取得した赤色の固体を液相拡散法によりジクロロメタンに溶解させた。そして、エチルエーテル及びn-ヘキサンを順に加え、2週間静置したあと、赤色の針状結晶錯体4を取得した。
【0087】
収率:25%。
【0088】
1H NMR(400MHz,CDCl3):δ9.677-9.689(d,1H),δ9.552-9.565(d,1H),δ8.045-8.091(t,2H),δ7.847-7.868(d,2H),δ7.738-7.796(m,2H),δ7.485-7.528(m,1H),δ7.430-7.442(d,1H),δ7.132-7.178(m,2H),δ7.026-7.062(m,1H),δ6.892-6.928(m,1H),δ6.779-6.813(m,1H),δ6.724(s,1H),δ3.290(s,3H),δ3.019(s,3H)ppm,δ2.744(s,3H)ppm,δ2.460(s,3H)ppm.
【0089】
IR(KBr,cm-1):3603(m),2916(s),2497(m),1682(s),1589(m),1521(w),1444(s),1414(w),1323(w),1261(w),1198(w),1153(w),1078(s),1012(w),766(s),729(w),679(w),430(m).
【0090】
5.錯体5[Ru(K3-N,N’N’’-mdpe)(bpy)(Cl)]の生成
【0091】
目標生成物
【0092】
【0093】
(1)窒素ガス雰囲気下で、cis-[Ru(dmso)4(Cl)2](1.088g,2.248mmol)、2,5-ジピリジル-3-メチル-4-アセチルピロール(0.623g,2.248mmol)、ビピリジン(0.351g,2.247mmol)及び塩基を有機溶媒(50mL)に溶解させて、攪拌するとともに、100℃まで加熱して12h反応させた。
【0094】
(2)反応の完了後、窒素ガス雰囲気下で、トルエン、エチルエーテル及び水をそれぞれ加えて3回洗浄した。そして、得られた固体をジクロロメタンに溶解させ、無水硫酸ナトリウムを加えて溶液中の水を除去するとともに、濾液中の溶媒を除去して、赤色の固体を取得した。
【0095】
(3)取得した赤色の固体を液相拡散法によりジクロロメタンに溶解させた。そして、エチルエーテル及びn-ヘキサンを順に加え、2週間静置したあと、赤色の針状結晶錯体5を取得した。
【0096】
収率:30%。
【0097】
1H NMR(400MHz,CDCl3):δ10.443-10.457(d,1H),δ8.906-8.927(d,1H),δ8.159-8.179(d,1H),δ7.913-7.932(d,1H),δ7.787-7.826(t,1H),δ7.709-7.722(d,1H),δ7.612-7.645(t,1H),δ7.454-7.505(t,1H),δ7.249-7.351(m,2H),δ7.087-7.110(t,2H),δ6.847-6.886(m,2H),δ6.406-6.475(m,2H),δ2.794(s,3H),δ2.603(s,3H).
【0098】
IR(KBr,cm-1):3095(w),3059(m),1631(m),1589(s),1460(s),1417(m),1354(w),1340(w),1242(w),1136(s),1020(w),982(w),945(w),754(m),619(w).
【0099】
6.ガスクロマトグラフィー実験:
【0100】
(1)ガスクロマトグラフィーで、反応過程におけるガスの組成を測定した。実験条件:電位は0.5V vs Cp2Fe+/0以上とした。また、電解質は、0~0.1mMの錯体1、2、3、4又は5と、0.1Mの[NBu4][PF6]と、0~2.5MのNH3を含む有機溶液とした。
【0101】
(2)電気分解の時間帯別に、気密シリンジを用いて100μLの上層ガスを採取し、ガスクロマトグラフィーに注入することで、電解槽中のガスの組成及び含有量を取得した。
【0102】
測定結果:24hの電気分解後、錯体1は375.4μmolのH2及び7.4μmolのN2を生成し、錯体2は459.5μmolのH2及び6.32μmolのN2を生成し、錯体3は1458.35μmolのH2及び10.55μmolのN2を生成した。また、48hの電気分解後、錯体5は86.08μmolのH2及び5.85μmolのN2を生成した。ガスクロマトグラフィー実験の結果、H2及び系内のN2の比率は10:1~200:1の範囲であることが分かった。これは、アンモニア分子中の水素元素と窒素元素の比率(3:1)よりも遥かに高かった。電気分解の過程では、N2を除く残りの陽極生成物はいずれもNH2NH2であり、NO2
-やNO3
-等の生成物は何ら生成されなかった。
【0103】
7.紫外可視スペクトル実験:
【0104】
(1)10mLのキュベットに、0.4mLの電解液と、0.5mLのHCl(0.6mol/L)溶液及び0.5mLのp-C9H11NOのエタノール溶液を加えた。そして、水を加えて10mLまで希釈し、1h反応させた。
【0105】
(2)0.5mLの反応液を10mLのキュベットに取って10mLまで希釈した。そして、紫外可視分光器により455nmの吸収強度を収集し、NH2NH2濃度と455nmの吸光度の標準曲線と比較して、電解液中のNH2NH2の含有量を取得した。
【0106】
測定結果:24hの電気分解後、錯体1、2及び3は、それぞれ、341.2μmol、423.0μmol及び1380.04μmolのNH2NH2を生成した。
【0107】
以上では、本発明における錯体1、2、3、4、5の主な生成方法と、アンモニア酸化に対する電極触媒作用の特性について提示及び記載した。
【0108】
当業者であれば、本発明は上記実施例に制限されないことを理解すべきである。上記の実施例及び明細書の記載は本発明の原理及び方法を説明する過程にすぎず、本発明の精神及び範囲を逸脱しないことを前提に、本発明は更に各種の変形及び改良を有し得る。また、これらの変形及び改良はいずれも保護を請求する本発明の範囲に含まれる。本発明が保護を請求する範囲は、添付の特許請求の範囲及びその等価物により規定される。
【国際調査報告】