(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-02-02
(54)【発明の名称】細胞死が観察される組織において特異的に作用する分子
(51)【国際特許分類】
C07K 16/28 20060101AFI20240126BHJP
A61K 39/395 20060101ALI20240126BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20240126BHJP
A61P 37/02 20060101ALI20240126BHJP
C12N 15/09 20060101ALN20240126BHJP
【FI】
C07K16/28 ZNA
A61K39/395 Z
A61P35/00
A61P37/02
A61K39/395 T
A61K39/395 E
C12N15/09 Z
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023533392
(86)(22)【出願日】2022-01-28
(85)【翻訳文提出日】2023-05-31
(86)【国際出願番号】 JP2022003299
(87)【国際公開番号】W WO2022163809
(87)【国際公開日】2022-08-04
(32)【優先日】2021-11-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(32)【優先日】2022-01-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(31)【優先権主張番号】P 2021013586
(32)【優先日】2021-01-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
(71)【出願人】
【識別番号】000003311
【氏名又は名称】中外製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100102978
【氏名又は名称】清水 初志
(74)【代理人】
【識別番号】100205707
【氏名又は名称】小寺 秀紀
(74)【代理人】
【識別番号】100160923
【氏名又は名称】山口 裕孝
(74)【代理人】
【識別番号】100119507
【氏名又は名称】刑部 俊
(74)【代理人】
【識別番号】100142929
【氏名又は名称】井上 隆一
(74)【代理人】
【識別番号】100148699
【氏名又は名称】佐藤 利光
(74)【代理人】
【識別番号】100188433
【氏名又は名称】梅村 幸輔
(74)【代理人】
【識別番号】100128048
【氏名又は名称】新見 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100129506
【氏名又は名称】小林 智彦
(74)【代理人】
【識別番号】100114340
【氏名又は名称】大関 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100214396
【氏名又は名称】塩田 真紀
(74)【代理人】
【識別番号】100121072
【氏名又は名称】川本 和弥
(74)【代理人】
【識別番号】100221741
【氏名又は名称】酒井 直子
(74)【代理人】
【識別番号】100114926
【氏名又は名称】枝松 義恵
(72)【発明者】
【氏名】井川 智之
(72)【発明者】
【氏名】東 正大
【テーマコード(参考)】
4C085
4H045
【Fターム(参考)】
4C085AA13
4C085AA14
4C085BB31
4C085BB36
4C085BB42
4C085CC22
4C085DD61
4C085EE01
4C085GG01
4H045AA11
4H045AA20
4H045AA30
4H045BA41
4H045DA50
4H045DA75
4H045EA20
4H045FA74
4H045GA21
(57)【要約】
本発明の目的は、罹患組織、異常組織などのような、処置されるかまたは標的とされることが求められる組織において特異的に作用するが、健常または正常な組織においては作用しないかまたはあまり作用しない分子を提供することであり、これにより、有意な治療効果または予防効果を与えながら、副作用が低減した薬剤に有用な分子を提供することが可能になる。細胞死により細胞外環境に曝される細胞の構成要素またはその一部分(例えば、細胞骨格または核骨格を形成するフィラメントまたはヒストン)に結合し、かつ罹患組織、異常組織などのような細胞死が観察される組織において特異的に作用する分子が、提供される。より具体的には、分子のうちの1つまたは複数の、細胞における膜タンパク質のうちの1つまたは複数に対する直接的または間接的な結合によって、構成要素またはその一部分と複合体を形成して、組織において細胞中にシグナル伝達または遮断を与える分子が、提供される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(1)第1の抗原に結合する少なくとも1つの第1の部分、および
(2)第2の抗原に結合する少なくとも1つの第2の部分
を含む抗原結合分子であって、
該第1の抗原が、ダメージ関連分子パターン(DAMP)であり、かつ
該第2の抗原が、第1の抗原とは異なり、好ましくは、該第2の抗原が、免疫細胞の膜タンパク質である、
抗原結合分子。
【請求項2】
第1の抗原が、
(i)細胞骨格構成要素もしくはその一部分、細胞膜構成要素もしくはその一部分、オルガネラ構成要素もしくはその一部分、細胞質タンパク質もしくはその一部分、および代謝産物からなる群より選択される、かつ/または
(ii)フィラメント(特に中間径フィラメント)、ヌクレオソーム、細胞骨格、および/もしくは核骨格からなる群より選択されるいずれか1つ上に位置する、
請求項1記載の抗原結合分子。
【請求項3】
第1の抗原が、
(A)アクチン、特にF-アクチン、
(B)特にHSP90およびGRP78から選択される、熱ショックタンパク質、中でもHSP90、
(C)ホスファチジルセリン(PS)、特に細胞膜の一部であるホスファチジルセリン、
(D)ヒストンまたはその構成要素、
(E)ヒストンデアセチラーゼ複合体サブユニット、特にSAP130、
(F)特にHMGB1およびHMGN1から選択される、HMGNタンパク質、
(G)肝癌由来増殖因子、
(H)BCL-2、
(I)カルレティキュリン、ならびに
(J)シクロフィリンA
からなる群より選択され、
特に、第1の抗原が、F-アクチン、GRP78、ホスファチジルセリン、HSP90、およびSAP130からなる群より選択され、
中でも、第1の抗原が、F-アクチン、ホスファチジルセリン、およびHSP90からなる群より選択され、
とりわけ、第1の抗原が、F-アクチンおよびHSP90からなる群より選択され、
好ましくは、第1の抗原が、F-アクチンである、
請求項1~2のいずれか一項記載の抗原結合分子。
【請求項4】
第1の部分が、
(A)Ig型結合部分、または
(B)特に非Ig型結合部分である、結合ポリペプチド
からなる群より選択される、請求項1~3のいずれか一項記載の抗原結合分子。
【請求項5】
(A)第1の抗原がアクチン、好ましくはF-アクチンである場合には、第1の部分がClec9Aポリペプチドである、または
(B)第1の抗原がGRP78、ホスファチジルセリン、もしくはHSP90である場合には、第1の部分がIg型結合部分である、または
(C)第1の抗原がSAP130である場合には、第1の部分がmClec4eポリペプチドである、
請求項4記載の抗原結合分子。
【請求項6】
第1の抗原がアクチンまたはSAP130である場合には、第1の結合部分がIg型結合部分である、請求項4または5記載の抗原結合分子。
【請求項7】
第2の抗原が、免疫細胞の膜タンパク質、とりわけ、T細胞受容体、CD3、CD137、CD40、CTLA4、共刺激分子、または共抑制分子からなる群より選択されるT細胞の細胞膜中の膜タンパク質であり、
中でも、第2の抗原が、細胞においてシグナル伝達に関与する膜タンパク質、好ましくはシグナル伝達受容体である、
請求項1~6のいずれか一項記載の抗原結合分子。
【請求項8】
第2の部分が、Ig型結合部分である、請求項1~7のいずれか一項記載の抗原結合分子。
【請求項9】
前記分子が、抗体、とりわけIgG型抗体である、請求項1~8のいずれか一項記載の抗原結合分子。
【請求項10】
前記抗体が、免疫細胞の膜タンパク質に結合することができ、かつ、好ましくはFc領域に連結された、少なくとも1つの結合ポリペプチドをさらに含み、
特に、該結合ポリペプチドが、Clec9AポリペプチドおよびmClec4eポリペプチドから選択され、
中でも、前記抗体が、
Clec9Aポリペプチドを含む抗CD3抗体、
Clec9Aポリペプチドを含む抗CD137抗体、
mClec4eポリペプチドを含む抗CD3抗体、および
mClec4eポリペプチドを含む抗CD137抗体
からなる群より選択される、
請求項9記載の抗原結合分子。
【請求項11】
前記抗体が、二重特異性抗体であり、
特に、前記抗原結合分子が、免疫細胞の膜タンパク質に対するおよびDAMPに対する二重特異性抗体であり、
中でも、前記抗体が、
二重特異性抗HSP90抗CD3抗体、
二重特異性抗HSP90抗CD3抗体、
二重特異性抗GRP78抗CD3抗体、
二重特異性抗GRP78抗CD137抗体、
二重特異性抗ホスファチジルセリン抗CD3抗体、および
二重特異性抗ホスファチジルセリン抗CD137抗体
からなる群より選択される、
請求項9記載の抗原結合分子。
【請求項12】
請求項1~11のいずれか一項記載の抗原結合分子を含む、薬学的組成物。
【請求項13】
医薬における使用のための、請求項1~12のいずれか一項記載の抗原結合分子または薬学的組成物。
【請求項14】
医学的状態を処置するかまたは予防する方法における使用のための、請求項1~13のいずれか一項記載の抗原結合分子または薬学的組成物。
【請求項15】
前記医学的状態が、がんおよび免疫疾患、好ましくは自己免疫疾患からなる群より選択される、請求項14記載の使用のための抗原結合分子または薬学的組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞死により細胞外環境に曝される、細胞を構成する構成要素またはその一部分に対する結合を介して、細胞死が観察される組織において特異的に作用し、かつ免疫細胞または罹患細胞などの組織において細胞中にシグナル伝達または遮断を与える分子;薬剤としての使用のための該分子;薬剤の調製における該分子の使用;該分子を含む薬学的組成物;組織において細胞中にシグナル伝達または遮断を与えるための方法;該分子をコードするポリヌクレオチド;該ポリヌクレオチドを含むベクター;該ベクターを保持する細胞などに関する。
【0002】
より具体的には、本発明は、ダメージ関連分子パターン(DAMP)である第1の抗原に結合する第1の部分、および第1の抗原とは異なる抗原に結合する第2の部分を含む、抗原結合分子およびその医学的使用に関する。
【背景技術】
【0003】
がん細胞自体および腫瘍微小環境(TME)の特徴を活用することによって、主にがん組織において局所(部位特異的)活性を有するがん治療法が、開発されている。Herceptin、セツキシマブなどのようないくつかの抗体治療薬は、がん細胞において主として発現しているがん抗原を標的とし、ADCC、シグナル阻害などを通して主に腫瘍細胞に対して細胞傷害活性を発揮する。がん細胞上に高発現しているがん抗原に結合する抗体分子と融合したリガンドを含むイムノサイトカインによって、サイトカインなどの生理学的活性を有するリガンドを固形がんに送達するための方法もまた、知られている。
【0004】
TMEは、特に固形がんにおいて細胞死をもたらす、通常低酸素かつ低栄養の状態であることが知られており、そのため、死細胞が豊富な環境であることが見出されている。細胞が死んだ時に遊離されるか、または細胞表面に曝され、がんにおいて濃縮されるが正常組織においては濃縮されない、多くの分子がある。死細胞上の分子のうちのいくつかは、樹状細胞またはマクロファージなどの貪食細胞において発現している受容体によって認識され、次いで、死細胞は貪食細胞によって排除(除去)される。例えば、Clec9Aは、樹状細胞のサブセットにおいて発現し、死細胞に、およびまた死細胞の細胞表面に異所的に曝されたF-アクチンに結合することが知られている(特許文献1および2)。
【0005】
T細胞活性化、B細胞活性化、細胞死誘導、シグナル阻害など、細胞機能を調節する多くの治療法がある。報告されているように、共刺激分子を標的とする多くの抗体が、がんにおいて臨床開発中である(非特許文献1)。例えば、抗CD137アゴニスト抗体であるウトミルマブ、および抗CD40アゴニスト抗体であるCDX-1140は、現在臨床で開発されている。これらの分子は、樹状細胞を通して直接的または間接的にT細胞活性化を増強すること、マクロファージの殺腫瘍活性を増強することなどによって、抗腫瘍効力を示すことが期待される。初期の臨床試験において、これらの抗体は、いくつかの臨床応答を示した。
【0006】
しかし、細胞機能を調節する現在の分子の懸念のうちの1つは、全身活性である。これらの抗体は、正常組織を含む体中のあらゆる場所の標的分子に結合することができ、毒性を引き起こす可能性がある。例えば、抗CD137抗体(BMS)は、肝毒性を引き起こす。
【0007】
全身毒性を克服するための可能な戦略のうちの1つとして、腫瘍抗原と免疫細胞機能を調節する抗原とを標的とする二重特異性抗体が、評価されている。抗CD137および腫瘍抗原結合二重特異性抗体は、抗CD137単一特異性抗体と比較して低い毒性を示した(非特許文献2)。しかし、場合によっては、がん組織における腫瘍抗原の喪失が報告されており、それが、腫瘍抗原特異的抗体の抗腫瘍効果の喪失を引き起こす可能性がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】WO 2013/053008 A2
【特許文献2】JP 2011-519959 A
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Patrick et al., Nature Reviews Drug Discovery, Vol.17, p.509-527, 2018
【非特許文献2】Miguel Gaspar et al, Cancer Immunol Res. 2020 Jun;8(6):781-793
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、がんなどの罹患組織において発現している1つまたは複数の抗原を標的とする治療薬によって引き起こされる全身毒性を克服し、かつTMEなどの罹患組織中の固有の環境において細胞機能を条件的に調節するための戦略を提供することである。さらに、本発明の目的は、罹患組織、異常組織などのような処置されるかまたは標的とされることが求められる組織において特異的に作用するが、健常または正常な組織においては作用しないかまたはあまり作用しない分子を提供することであり、これにより、有意な治療効果または予防効果を与えながら、副作用が低減した薬剤に有用な分子を提供することが可能になる。
【0011】
特に、疾患組織において免疫応答を誘発することができるが、健常または正常な組織においては免疫応答を誘発しないかまたはあまり誘発しない抗原結合分子を提供することが、本発明の目的である。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、罹患組織(例えば、TME)において特異的に観察される、細胞死により細胞外環境に曝される細胞の構成要素またはその一部分(例えば、細胞骨格または核骨格を形成するフィラメントまたはヒストン)に結合し、かつ同時に細胞(例えば、免疫細胞、罹患細胞、例えば腫瘍細胞、自己反応性細胞、およびウイルス感染細胞)の上または中の標的分子(例えば、膜タンパク質)に結合する、罹患組織、異常組織などのような細胞死が観察される組織において特異的に作用する分子を提供する。より具体的には、細胞死により細胞外環境に曝される細胞の構成要素またはその一部分と、免疫細胞または罹患細胞(例えば、がん細胞、自己反応性細胞、およびウイルス感染細胞)などの細胞の上または中の標的分子との間を架橋すること、ならびに組織において細胞中にシグナル伝達または遮断を与えることを可能にする分子が、提供される。さらに具体的には、細胞死により細胞外環境に曝される細胞の構成要素またはその一部分と、免疫細胞または罹患細胞などの細胞の上または中の標的分子との間の、複数の分子による架橋の増加をもたらすことによって、細胞中への標的分子を介したシグナル伝達の増加またはシグナル遮断の増加が達成される。
【0013】
特に、説明および下記および実施例においてより詳細に概説するように、本発明は、細胞外に、特に、がん組織および自己免疫疾患に侵された組織などの疾患組織の細胞外空間において見出される抗原に結合する抗原結合分子を提供する。いかなる理論にも拘束されないが、これらの抗原は、これらの疾患組織において起こる細胞ダメージおよび破壊のために細胞外に存在すると考えられる。そのような抗原に結合できることによって、本発明の抗原結合分子は、疾患組織に特異的である免疫応答を誘発する。
【0014】
特に、以下の態様は本発明の一部であり、以下に含まれる特定の態様は、下記に示される各々のおよびあらゆる一般的な態様のための特定の態様として独立して意図されることを、熟練した読者は理解するであろう。
【0015】
さらに、本開示は、以下の態様を提供する。
[A1]第1の抗原に結合する第1の部分および第2の抗原に結合する第2の部分を含む分子であって、
該第1の抗原が、細胞死により細胞外環境に曝される、細胞骨格、細胞膜、もしくはオルガネラを構成する構成要素もしくはその一部分であるか、または細胞質タンパク質、もしくは代謝産物であり、かつ
該第2の抗原が、第1の抗原とは異なる抗原である、
分子。
[A2]前記細胞死が、罹患組織における細胞死である、[A1]の分子。
[A3]第1の抗原が、細胞骨格または核骨格を形成する、フィラメント、ヒストン、またはヒストンを含むヌクレオソームである、[A1]または[A2]の分子。
[A4]第1の抗原が、中間径フィラメントである、[A3]の分子。
[A5]第1の抗原が、F-アクチンである、[A4]の分子。
[A6]第1の抗原が、複数の分子の多量体化によって形成される抗原である、[A1]~[A5]のいずれか1つの分子。
[A7]第1の抗原が、細胞膜を構成するホスファチジルセリンである、[A1]または[A2]の分子。
[A8]前記細胞死が、壊死、アポトーシス、オートファジー細胞死、または偶発細胞死である、[A1]~[A7]のいずれか1つの分子。
[A9]第2の抗原が、細胞においてシグナル伝達に関与する膜タンパク質である、[A1]~[A8]のいずれか1つの分子。
[A10]前記細胞が、免疫細胞である、[A9]の分子。
[A11]前記免疫細胞が、T細胞、キラー細胞、ヘルパーT細胞、制御性T細胞、B細胞、メモリーB細胞、NK細胞、NKT細胞、樹状細胞、マクロファージ、好酸球、好中球細胞、または好塩基球である、[A10]の分子。
[A12]前記細胞が、腫瘍細胞または自己反応性細胞である、[A9]の分子。
[A13]前記分子のうちの1つまたは複数と第1の抗原との結合によって形成される複合体が、第2の部分を介して膜タンパク質のうちの1つまたは複数に結合して、細胞において膜タンパク質を介してシグナル伝達または遮断を与えることを特徴とする、[A9]~[A12]のいずれか1つの分子。
[A14]前記分子が、細胞において膜タンパク質を介してシグナル伝達を与えることを特徴とする、[A13]の分子。
[A15]前記分子が、細胞において膜タンパク質を介してシグナル遮断を与えることを特徴とする、[A13]の分子。
[A16]前記膜タンパク質が、細胞膜中の膜タンパク質またはエンドソームの膜タンパク質である、[A9]~[A15]のいずれか1つの分子。
[A17]前記膜タンパク質が、T細胞受容体、CD3、共刺激分子、および共抑制分子からなる群より選択されるT細胞の細胞膜中の膜タンパク質;またはT細胞の細胞膜中の共刺激分子もしくは共抑制分子に結合する、T細胞以外の細胞の細胞膜中の膜タンパク質である、[A11]~[A16]のいずれか1つの分子。
[A18]前記共刺激分子が、CD28(TP44)、CD278(ICOS)、CD27(TNFRSF-7)、CD30、CD134(OX40)、CD357(GITR). Tim-2、CD28H(TMIGD2)、CD137(4-1BB、TNFRSF-9)、CD226(DNAM-1)、またはCD244(2B4)である、[A17]の分子。
[A19]前記共抑制分子が、CD279(PD-1)、CD152(CTLA-4)、TIGIT、BTLA、CD366(Tim-3)、CD96、CD112R、またはCD200Rである、[A17]の分子。
[A20]共刺激分子または共抑制分子に結合する前記膜タンパク質が、CD274(PD-L1)、CD273(PD-L2)、CD80、CD86、CD276(ICOSL)、CD276(VICN1)、VISTA、HHLA2、ブチロフィリンファミリーメンバーのメンバー、CD270(HVEM)、CD137L(TNFSF-9)、CD252(OX40L)、CD70(TNFSF-7)、CD40(TNFRSF-7)、GIRL(TNFSF-18)、CD155(PVR、NECL5)、CD112(NECTIN-2)、CD200(MOX1)、CD48(BCM-1)、またはGal-9である、[A17]の分子。
[A21]第1の部分が、抗体可変領域またはシングルドメイン抗体(VHH)である、[A1]~[A20]のいずれか1つの分子。
[A22]第1の抗原が、F-アクチンであり、かつ第1の部分が、F-アクチンまたはその一部分に結合する分子である、[A1]~[A20]のいずれか1つの分子。
[A23]F-アクチンまたはその一部分に結合する前記分子が、Clec9Aの細胞外領域またはその一部分である、[A22]の分子。
[A24]第2の部分が、抗体可変領域もしくはシングルドメイン抗体(VHH)、またはリガンドである、[A9]~[A23]のいずれか1つの分子。
[A25]第1の抗原が、F-アクチンであり;
第2の抗原が、細胞においてシグナル伝達に関与する膜タンパク質であり;
第2の部分が、第2の抗原に結合する、2つのFab領域を含む抗体可変領域のFab領域のいずれか一方または両方であり;かつ
第1の部分が、抗体可変領域に接続されたFc領域のC末端にリンカーを介してまたは直接的に連結されている、F-アクチンまたはその一部分に結合する分子である、
[A1]~[A9]のいずれか1つの分子。
[A26]前記細胞が、免疫細胞である、[A25]の分子。
[A27]前記免疫細胞が、T細胞、キラー細胞、ヘルパーT細胞、制御性T細胞、B細胞、メモリーB細胞、NK細胞、NKT細胞、樹状細胞、マクロファージ、好酸球、好中球細胞、または好塩基球である、[A26]の分子。
[A28]前記細胞が、腫瘍細胞または自己反応性細胞である、[A25]の分子。
[A29]前記分子のうちの1つまたは複数とF-アクチンとの結合によって形成される複合体が、第2の部分を介して膜タンパク質のうちの1つまたは複数に結合して、細胞において膜タンパク質を介してシグナル伝達または遮断を与えることを特徴とする、[A25]~[A28]のいずれか1つの分子。
[A30]前記分子が、細胞において膜タンパク質を介してシグナル伝達を与えることを特徴とする、[A29]の分子。
[A31]前記分子が、細胞において膜タンパク質を介してシグナル遮断を与えることを特徴とする、[A29]の分子。
[A32]前記膜タンパク質が、細胞膜中の膜タンパク質またはエンドソームの膜タンパク質である、[A25]~[A31]のいずれか1つの分子。
[A33]前記膜タンパク質が、T細胞受容体、CD3、共刺激分子、および共抑制分子からなる群より選択されるT細胞の細胞膜中の膜タンパク質;またはT細胞の細胞膜中の共刺激分子もしくは共抑制分子に結合する、T細胞以外の細胞の細胞膜中の膜タンパク質である、[A27]~[A32]のいずれか1つの分子。
[A34]前記共刺激分子が、CD28(TP44)、CD278(ICOS)、CD27(TNFRSF-7)、CD30、CD134(OX40)、CD357(GITR). Tim-2、CD28H(TMIGD2)、CD137(4-1BB、TNFRSF-9)、CD226(DNAM-1)、またはCD244(2B4)である、[A33]の分子。
[A35]前記共抑制分子が、CD279(PD-1)、CD152(CTLA-4)、TIGIT、BTLA、CD366(Tim-3)、CD96、CD112R、またはCD200Rである、[A33]の分子。
[A36]共刺激分子または共抑制分子に結合する前記膜タンパク質が、CD274(PD-L1)、CD273(PD-L2)、CD80、CD86、CD276(ICOSL)、CD276(VICN1)、VISTA、HHLA2、ブチロフィリンファミリーメンバーのメンバー、CD270(HVEM)、CD137L(TNFSF-9)、CD252(OX40L)、CD70(TNFSF-7)、CD40(TNFRSF-7)、GIRL(TNFSF-18)、CD155(PVR、NECL5)、CD112(NECTIN-2)、CD200(MOX1)、CD48(BCM-1)、またはGal-9である、[A33]の分子。
[A37]第1の部分が、抗体可変領域またはシングルドメイン抗体(VHH)である、[A25]~[A36]のいずれか1つの分子。
[A38]F-アクチンまたはその一部分に結合する前記分子が、Clec9Aの細胞外領域またはその一部分である、[A25]~[A37]のいずれか1つの分子。
[A39]第2の部分が、抗体可変領域もしくはシングルドメイン抗体(VHH)、またはリガンドである、[A25]~[A38]のいずれか1つの分子。
[A40]第1の部分および第2の部分を含む化合物である、[A1]~[A20]のいずれか1つの分子。
[A41]前記化合物が、光放射の受領時に、第1の抗原および第2の抗原に結合する化合物である、[A40]の分子。
【0016】
[B1][A1]~[A41]のいずれか1つの分子を含む、薬学的組成物。
[B2]細胞においてシグナル伝達または遮断を与えるための、[B1]の薬学的組成物。
[B3]免疫細胞においてシグナル伝達または遮断を与えるための、[B1]または[B2]の薬学的組成物。
[B4]免疫を活性化するかまたは阻止するための、[B1]~[B3]のいずれか1つの薬学的組成物。
[B5]がんまたは自己免疫疾患を処置するかまたは予防するための、[B1]~[B4]のいずれか1つの薬学的組成物。
[B6]薬剤としての使用のための、[A1]~[A41]のいずれか1つの分子。
[B7]細胞においてシグナル伝達または遮断を与えるための、[B6]の分子。
[B8]免疫細胞においてシグナル伝達または遮断を与えるための、[B6]または[B7]の分子。
[B9]免疫を活性化するかまたは阻止するための、[B6]~[B8]のいずれか1つの分子。
[B10]がんまたは自己免疫疾患を処置するかまたは予防するための、[B5]~[B9]のいずれか1つの分子。
[B11]薬剤の調製における、[A1]~[A41]のいずれか1つの分子の使用。
[B12]前記薬剤が、細胞においてシグナル伝達または遮断を与えるための薬剤である、[B11]の使用。
[B13]前記薬剤が、免疫細胞においてシグナル伝達または遮断を与えるための薬剤である、[B11]または[B12]の使用。
[B14]前記薬剤が、免疫を活性化するかまたは阻止するための薬剤である、[B11]~[B13]のいずれか1つの使用。
[B15]前記薬剤が、がんまたは自己免疫疾患を処置するかまたは予防するための薬剤である、[B11]~[B14]のいずれか1つの使用。
[B16][A1]~[A41]のいずれか1つの分子を対象に投与する工程を含む、細胞においてシグナル伝達または遮断を与えるための方法。
[B17][A1]~[A41]のいずれか1つの分子を対象に投与する工程を含む、免疫を活性化するかまたは阻止するための方法。
[B18]前記細胞が、免疫細胞、がん細胞、または自己反応性細胞である、[B15]~[B17]のいずれか1つの方法。
[B19][A1]~[A41]のいずれか1つの分子を対象に投与する工程を含む、がんまたは自己免疫疾患を処置するかまたは予防するための方法。
[B20][A1]~[A39]のいずれか1つの分子を製造するための方法。
[B21][A1]~[A39]のいずれか1つの分子をコードする、ポリヌクレオチド。
[B22][A1]~[A39]のいずれか1つの分子をコードする、ポリヌクレオチド、とりわけDNA。
[B23][B22]のポリヌクレオチドを含む、ベクター。
[B24][A1]~[A39]のいずれか1つに定義されるような抗原結合分子をコードするDNA配列を含むベクターであって、とりわけ、組換えタンパク質発現のためのものである、ベクター。
[B25][B23]または[B24]のベクターを保持する、宿主細胞。
【0017】
加えて、本開示は特にまた、以下の態様[C1]~[C15]も提供する。
[C1]第1の抗原に結合する第1の部分および第2の抗原に結合する第2の部分を含む分子であって、
該第1の抗原が、細胞死により細胞外環境に曝される、細胞骨格、細胞膜、もしくはオルガネラを構成する構成要素もしくはその一部分であるか、または細胞質タンパク質、もしくは代謝産物であり、かつ
該第2の抗原が、第1の抗原とは異なる抗原である、
分子。
[C2]前記細胞死が、罹患組織における細胞死である、[C1]の分子。
[C3]第1の抗原が、細胞骨格または核骨格を形成する、フィラメント、ヒストン、またはヒストンを含むヌクレオソームである、[C1]または[C2]の分子。
[C4]第1の抗原が、中間径フィラメントである、[C3]の分子。
[C5]第1の抗原が、F-アクチンである、[C4]の分子。
[C6]第1の抗原が、複数の分子の多量体化によって形成される抗原である、[C1]~[C5]のいずれか1つの分子。
[C7]前記細胞死が、壊死、アポトーシス、オートファジー細胞死、または偶発細胞死である、[C1]~[C6]のいずれか1つの分子。
[C8]第2の抗原が、細胞においてシグナル伝達に関与する膜タンパク質である、[C1]~[C7]のいずれか1つの分子。
[C9]前記細胞が、免疫細胞である、[C8]の分子。
[C10]第1の部分が、抗体可変領域またはシングルドメイン抗体(VHH)である、[C1]~[C9]のいずれか1つの分子。
[C11]第1の抗原が、F-アクチンであり、かつ第1の部分が、F-アクチンまたはその一部分に結合する分子である、[C1]~[C9]のいずれか1つの分子。
[C12]第1の抗原が、F-アクチンであり;
第2の抗原が、細胞においてシグナル伝達に関与する膜タンパク質であり;
第2の部分が、第2の抗原に結合する、2つのFab領域を含む抗体可変領域のFab領域のいずれか一方または両方であり;かつ
第1の部分が、抗体可変領域に接続されたFc領域のC末端にリンカーを介してまたは直接的に連結されている、F-アクチンまたはその一部分に結合する分子である、
[C1]~[C9]のいずれか1つの分子。
[C13][C1]~[C12]のいずれか1つの分子を含む、薬学的組成物。
[C14]薬剤の調製における、[C1]~[C12]のいずれか1つの分子の使用。
[C15][C1]~[C12]のいずれか1つの分子を製造するための方法。
【0018】
とりわけ、本開示はさらにまた、以下の態様[D1]~[D44]も提供する。
[D1](1)第1の抗原に結合する少なくとも1つの第1の部分、および
(2)第2の抗原に結合する少なくとも1つの第2の部分
を含む抗原結合分子であって、
該第1の抗原が、ダメージ関連分子パターン(DAMP)であり、かつ
該第2の抗原が、第1の抗原とは異なる抗原である、
抗原結合分子。
[D1.1](1)第1の抗原に結合する少なくとも1つの第1の部分、および
(2)第2の抗原に結合する少なくとも1つの第2の部分
を含む抗原結合分子であって、
該第1の抗原が、組織状態に特徴的な組織由来抗原であり、とりわけ、該抗原が、細胞外環境に曝され、例えばダメージ関連分子パターン(DAMP)であり、かつ
該第2の抗原が、第1の抗原とは異なる、
抗原結合分子。
[D2]前記第2の抗原が、免疫細胞の膜タンパク質である、[D1]または[D1.1]の抗原結合分子。
[D3]前記分子パターン(DAMP)が、細胞ダメージにより、特に細胞死により細胞外環境に曝される、[D1]および[D2]のいずれか1つの抗原結合分子。
[D4]前記分子が、
(A)前記細胞ダメージにより細胞接触および/もしくはシグナルを提供することができ、該接触および/もしくはシグナルが、前記第2の抗原を伴う;かつ/または
(B)前記抗原結合分子のFc末端に前記第1の部分を含む;かつ/または
(C)前記抗原結合分子の抗原結合領域、好ましくはF(ab')2領域中に前記第2の部分を含む;かつ/または
(D)少なくとも1つの第1の部分および少なくとも1つの第2の部分を含み、特に、前記抗原結合分子が、1つの第1の部分および1つの第2の部分を含み、より詳しくは、前記抗原結合分子が、少なくとも2つの、好ましくは2つの第1の部分、および少なくとも2つの、好ましくは2つの第2の部分を含む;かつ/または
(E)化合物が、光照射時に第1の抗原および第2の抗原に結合することができる化合物である、
[D1]~[D3]のいずれか1つの抗原結合分子。
[D5]前記細胞ダメージが、
(i)細胞死を含み、特に細胞死である、かつ/または
(ii)特に、状態もしくは疾患により、特にがんもしくは自己免疫疾患により侵された組織から選択される罹患組織において、中でも腫瘍微小環境(TME)において起こる、かつ/または
(iii)壊死、アポトーシス、オートファジー細胞死、および偶発細胞死からなる群より選択されるいずれか1つに起因する、かつ/または
(iv)壊死、アポトーシス、オートファジー細胞死、および偶発細胞死からなる群より選択される細胞死である、
[D1]~[D4]のいずれか1つの抗原結合分子。
[D6]第1の抗原が、
(i)細胞骨格構成要素もしくはその一部分、細胞膜構成要素もしくはその一部分、オルガネラ構成要素もしくはその一部分、細胞質タンパク質もしくはその一部分、および代謝産物からなる群より選択される;かつ/または
(ii)フィラメント(特に中間径フィラメント)、ヌクレオソーム、細胞骨格、および/もしくは核骨格からなる群より選択されるいずれか1つ上に位置する;かつ/または
(iii)複数の分子の多量体化が可能である;かつ/または
(iv)多量体分子中に存在する、
特に、第1の抗原が、
(i*)細胞骨格構成要素もしくはその一部分、細胞膜構成要素もしくはその一部分、オルガネラ構成要素もしくはその一部分、細胞質タンパク質もしくはその一部分、および代謝産物からなる群より選択される;かつ/または
(ii*)フィラメント(特に中間径フィラメント)、ヌクレオソーム、細胞骨格、および/もしくは核骨格からなる群より選択されるいずれか1つ上に位置する、
[D1]~[D5]のいずれか1つの抗原結合分子。
[D7]第1の抗原が、
(A)アクチン、特にF-アクチン、または
(B)特にHSP90およびGRP78から選択される、熱ショックタンパク質、中でもHSP90、
(C)ホスファチジルセリン(PS)、特に細胞膜の一部であるホスファチジルセリン、
(D)ヒストンまたはその構成要素、
(E)ヒストンデアセチラーゼ複合体サブユニット、特にSAP130、
(F)特にHMGB1およびHMGN1から選択される、HMGNタンパク質、
(G)肝癌由来増殖因子、
(H)BCL-2、
(I)カルレティキュリン、ならびに
(J)シクロフィリンA
からなる群より選択され、
特に、第1の抗原が、F-アクチン、GRP78、ホスファチジルセリン、HSP90、およびSAP130からなる群より選択され、
中でも、第1の抗原が、F-アクチン、ホスファチジルセリン、およびHSP90からなる群より選択され、
とりわけ、第1の抗原が、F-アクチンおよびHSP90からなる群より選択され、
好ましくは、第1の抗原が、F-アクチンである、
[D1]~[D6]のいずれか1つの抗原結合分子。
[D8]第1の部分が、
(A)Ig型結合部分;または
(B)特に非Ig型結合部分である、結合ポリペプチド
からなる群より選択される、[D1]~[D7]のいずれか1つの抗原結合分子。
[D9]第1の部分が、
(A)アクチン、特にF-アクチンに結合することができる部分、
(B)特にHSP90およびGRP78から選択される、熱ショックタンパク質に結合することができる部分、
(C)ホスファチジルセリン(PS)、特に細胞膜の一部であるホスファチジルセリンに結合することができる部分、
(D)ヒストンまたはその構成要素に結合することができる部分、
(E)ヒストンデアセチラーゼ複合体サブユニット、特にSAP130に結合することができる部分、
(F)特にHMGB1およびHMGN1から選択される、HMGNタンパク質に結合することができる部分、
(G)肝癌由来増殖因子に結合することができる部分、
(H)BCL-2に結合することができる部分、
(I)カルレティキュリンに結合することができる部分、ならびに
(J)シクロフィリンAに結合することができる部分
からなる群より選択され、
特に、第1の部分が、F-アクチンに結合することができる部分、GRP78に結合することができる部分、ホスファチジルセリンに結合することができる部分、HSP90に結合することができる部分、およびSAP130に結合することができる部分からなる群より選択され、
中でも、第1の部分が、F-アクチンに結合することができる部分、ホスファチジルセリンに結合することができる部分、およびHSP90に結合することができる部分からなる群より選択され、
とりわけ、第1の部分が、F-アクチンに結合することができる部分およびHSP90に結合することができる部分からなる群より選択され、
好ましくは、第1の部分が、F-アクチンに結合することができる部分である、
[D1]~[D8]のいずれか1つの抗原結合分子。
[D10](A)F-アクチンに結合することができる部分が、結合ポリペプチド、好ましくはClec9Aポリペプチドであり、かつ/または
(B)GRP78に結合することができる部分が、Ig型結合部分、好ましくは、抗体GA20もしくはMab159由来のIg型結合部分であり、かつ/または
(C)ホスファチジルセリンに結合することができる部分が、Ig型結合部分、好ましくは、抗体3G4由来のIg型結合部分であり、かつ/または
(D)HSP90に結合することができる部分が、Ig型結合部分、好ましくは、抗体1.5.1もしくは6H8由来のIg型結合部分であり、かつ/または
(E)SAP130に結合することができる部分が、結合ポリペプチド、好ましくはmClec4eポリペプチドであり;
特に、該Ig型結合部分が、シングルドメイン抗体(VHH)、抗体重鎖可変(VH)領域と抗体軽鎖可変(VL)領域との組み合わせ、シングルドメイン抗体(sdAb)、一本鎖Fv(scFv)、一本鎖抗体、Fv、一本鎖Fv2(scFv2)、Fab、およびF(ab')2からなる群より選択され、
中でも、該Ig型結合部分が、VHH、scFv、scFv2、Fab、およびF(ab')2からなる群より選択される、
[D9]の抗原結合分子。
[D11](A)第1の抗原がアクチン、好ましくはF-アクチンである場合には、第1の部分がClec9Aポリペプチドである、または
(B)第1の抗原がGRP78、ホスファチジルセリン、もしくはHSP90である場合には、第1の部分がIg型結合部分である、または
(C)第1の抗原がSAP130である場合には、第1の部分がmClec4eポリペプチドである、
[D1]~[D9]のいずれか1つの抗原結合分子。
[D12]第1の抗原がアクチンまたはSAP130である場合には、第1の結合部分がIg型結合部分である、[D1]~[D11]のいずれか1つの抗原結合分子。
[D13]第2の抗原が、免疫細胞の膜タンパク質、とりわけ、T細胞受容体、CD3、CD137、CD40、CTLA4、共刺激分子、または共抑制分子からなる群より選択されるT細胞の細胞膜中の膜タンパク質であり;
中でも、第2の抗原が、細胞においてシグナル伝達に関与する膜タンパク質、好ましくはシグナル伝達受容体である、
[D1]~[D12]のいずれか1つの抗原結合分子。
[D14]第2の部分が、Ig型結合部分である、[D1]~[D13]のいずれか1つの抗原結合分子。
[D15]第2の抗原が、
(A)細胞においてシグナル伝達に関与し;
特に、
(A-1)該第2の抗原が、膜タンパク質であり、かつ/もしくは
(A-2)該第2の抗原が、シグナル伝達受容体であり、かつ/もしくは
(A-3)該細胞が、(i)免疫細胞(中でも、該免疫細胞は、T細胞、キラー細胞、ヘルパーT細胞、制御性T細胞、B細胞、メモリーB細胞、NK細胞、NKT細胞、樹状細胞、マクロファージ、好酸球、好中球細胞、および好塩基球からなる群より選択される)、(ii)腫瘍細胞、もしくは(iii)自己反応性細胞であり;かつ/または
(B)免疫細胞受容体抗原である、
[D1]~[D14]のいずれか1つの抗原結合分子。
[D16]第2の抗原が、
(A)エンドソームの膜タンパク質、
(B)T細胞の細胞膜中の膜タンパク質、
とりわけ、T細胞受容体、CD3、CD137、CD40、CTLA4、共刺激分子、もしくは共抑制分子からなる群より選択されるT細胞の細胞膜中の膜タンパク質、
(中でも、共刺激分子もしくは共抑制分子に結合することができる膜タンパク質は、CD274(PD-L1)、CD273(PD-L2)、CD80、CD86、CD276(ICOSL)、CD276(VICN1)、VISTA、HHLA2、ブチロフィリンファミリーメンバーのメンバー、CD270(HVEM)、CD137L(TNFSF-9)、CD252(OX40L)、CD70(TNFSF-7)、CD40(TNFRSF-7)、GIRL(TNFSF-18)、CD155(PVR、NECL5)、CD112(NECTIN-2)、CD200(MOX1)、CD48(BCM-1)、およびGal-9から選択される)、
(C)特に、T細胞の細胞膜中の共刺激分子もしくは共抑制分子に結合することができる、T細胞以外の細胞の細胞膜中の膜タンパク質、
(とりわけ、該共刺激分子は、CD28(TP44)、CD278(ICOS)、CD27(TNFRSF-7)、CD30、CD134(OX40)、CD357(GITR). Tim-2、CD28H(TMIGD2)、CD137(4-1BB、TNFRSF-9)、CD226(DNAM-1)、およびCD244(2B4)からなる群より選択され、かつ/もしくは該共抑制分子は、CD279(PD-1)、CD152(CTLA-4)、TIGIT、BTLA、CD366(Tim-3)、CD96、CD112R、もしくはCD200Rからなる群より選択されるからなる群より選択され、かつ/または
中でも、第2の抗原が、CD3、CD137、CD40、およびCTLA4からなる群より選択され、
とりわけ、第2の抗原が、CD3およびCD137からなる群より選択され、
好ましくは、第2の抗原が、CD3である、
[D1]~[D15]のいずれか1つの抗原結合分子。
[D17]第2の部分が、
(A)エンドソームの膜タンパク質に結合することができる部分、
(B)T細胞の細胞膜中の膜タンパク質、とりわけ、T細胞受容体、CD3、CD137、CD40、CTLA4、共刺激分子、または共抑制分子からなる群より選択されるT細胞の細胞膜中の膜タンパク質に結合することができる部分、
(中でも、共刺激分子または共抑制分子に結合することができる膜タンパク質は、CD274(PD-L1)、CD273(PD-L2)、CD80、CD86、CD276(ICOSL)、CD276(VICN1)、VISTA、HHLA2、ブチロフィリンファミリーメンバーのメンバー、CD270(HVEM)、CD137L(TNFSF-9)、CD252(OX40L)、CD70(TNFSF-7)、CD40(TNFRSF-7)、GIRL(TNFSF-18)、CD155(PVR、NECL5)、CD112(NECTIN-2)、CD200(MOX1)、CD48(BCM-1)、およびGal-9から選択される)、
ならびに
(C)特に、T細胞の細胞膜中の共刺激分子または共抑制分子に結合することができる、T細胞以外の細胞の細胞膜中の膜タンパク質に結合することができる部分、
(とりわけ、該共刺激分子は、CD28(TP44)、CD278(ICOS)、CD27(TNFRSF-7)、CD30、CD134(OX40)、CD357(GITR). Tim-2、CD28H(TMIGD2)、CD137(4-1BB、TNFRSF-9)、CD226(DNAM-1)、およびCD244(2B4)からなる群より選択され、かつ/または該共抑制分子は、CD279(PD-1)、CD152(CTLA-4)、TIGIT、BTLA、CD366(Tim-3)、CD96、CD112R、もしくはCD200Rからなる群より選択される)
からなる群より選択され、
中でも、第2の部分が、CD3に結合することができる部分、CD137に結合することができる部分、CD40に結合することができる部分、およびCTLA4に結合することができる部分からなる群より選択され、
とりわけ、第2の部分が、CD3に結合することができる部分およびCD137に結合することができる部分からなる群より選択され、
好ましくは、第2の部分が、CD3に結合することができる部分である、
[D1]~[D16]のいずれか1つの抗原結合分子。
[D18](A)CD3に結合することができる部分が、Ig型結合部分であり、かつ/または
(B)CD137に結合することができる部分が、Ig型結合部分であり、かつ/または
(C)CD40に結合することができる部分が、Ig型結合部分であり、かつ/または
(D)CTLA4に結合することができる部分が、Ig型結合部分であり;
特に、該Ig型結合部分が、シングルドメイン抗体(VHH)、抗体重鎖可変(VH)領域と抗体軽鎖可変(VL)領域との組み合わせ、シングルドメイン抗体(sdAb)、一本鎖Fv(scFv)、一本鎖抗体、Fv、一本鎖Fv2(scFv2)、Fab、およびF(ab')2からなる群より選択され、
中でも、該Ig型結合部分が、VHH、scFv、scFv2、Fab、およびF(ab')2からなる群より選択される、
[D17]の抗原結合分子。
[D19]前記分子が、第1の抗原に対する前記分子のうちの1つまたは複数の結合によって形成される複合体が、第2の部分を介して1つよりも多い膜タンパク質に結合することができることを特徴とし、
特に、
(i)第1の抗原に対する前記分子のうちの1つまたは複数の結合によって形成される複合体が、細胞において該1つまたは複数の膜タンパク質を介してシグナル伝達を与えるように、第2の部分を介して膜タンパク質のうちの1つまたは複数に結合することができる、または
(ii)第1の抗原に対する前記分子のうちの1つまたは複数の結合によって形成される複合体が、細胞において該1つまたは複数の膜タンパク質を介してシグナル遮断を与えるように、第2の部分を介して膜タンパク質のうちの1つまたは複数に結合することができる、
[D1]~[D18]のいずれか1つの抗原結合分子。
[D20]前記分子が、
(A)任意で融合タンパク質である、ポリペプチド複合体、
(B)(好ましくは2つの実体で構成され、好ましくはリンカーで接続された)ポリヌクレオチド、および
(C)(好ましくは2つの実体で構成され、好ましくはリンカーで接続された)中サイズの化学化合物、
(D)(好ましくは2つの実体で構成され、好ましくはリンカーで接続された)小サイズの化学化合物
からなる群より選択され、
特に、
(A-1)該分子が、ポリペプチド複合体であり、
中でも、該分子が、抗体またはその抗体断片であり、
とりわけ、該分子が、抗体であり、
好ましくは、該抗体が、IgG型抗体および/もしくは二重特異性抗体であり;
または、
(A-2)該分子が、融合タンパク質であるポリペプチド複合体であり、
中でも、該分子が、融合タンパク質である抗体、またはその抗体断片であり、
とりわけ、該分子が、融合タンパク質である抗体であり、
好ましくは、該抗体が、(a)そのFcドメインに融合した、少なくとも1つの結合ポリペプチド、好ましくは2つの結合ポリペプチドを有するIgG型抗体、および/もしくは(b)そのFcドメインに融合した、少なくとも1つの結合ポリペプチド、好ましくは2つの結合ポリペプチドを有する二重特異性抗体である、
[D1]~[D19]のいずれか1つの抗原結合分子。
[D21]前記分子が、抗体である、[D1]~[D20]のいずれか1つの抗原結合分子。
[D22]前記分子が、IgG型抗体である、[D20]または[D21]の抗原結合分子。
[D23]前記抗体が、免疫細胞の膜タンパク質に結合することができ、かつさらに、好ましくはFc領域に連結された、少なくとも1つの結合ポリペプチドを含み、
特に、該結合ポリペプチドが、Clec9AポリペプチドおよびmClec4eポリペプチドから選択され;
中でも、前記抗体が、
Clec9Aポリペプチドを含む抗CD3抗体、
Clec9Aポリペプチドを含む抗CD137抗体、
mClec4eポリペプチドを含む抗CD3抗体、および
mClec4eポリペプチドを含む抗CD137抗体
からなる群より選択される、
[D20]~[D22]のいずれか1つの抗原結合分子。
[D24]前記抗体が、二重特異性抗体であり、
特に、前記抗原結合分子が、免疫細胞の膜タンパク質に対する、かつDAMPに対する二重特異性抗体であり、
中でも、前記抗体が、
二重特異性抗HSP90抗CD3抗体、
二重特異性抗HSP90抗CD3抗体、
二重特異性抗GRP78抗CD3抗体、
二重特異性抗GRP78抗CD137抗体、
二重特異性抗ホスファチジルセリン抗CD3抗体、および
二重特異性抗ホスファチジルセリン抗CD137抗体
からなる群より選択される、
[D20]~[D23]のいずれか1つの抗原結合分子。
[D25](i-1)第1の部分が、Ig型結合部分であり、もしくは
(i-2)第1の部分が、結合ポリペプチドであり、
かつ/または
(ii)第2の部分が、Ig型結合部分であり;
特に、
(a)第1の部分が、シングルドメイン抗体(VHH)、抗体重鎖可変(VH)領域と抗体軽鎖可変(VL)領域との組み合わせ、シングルドメイン抗体(sdAb)、一本鎖Fv(scFv)、一本鎖抗体、Fv、一本鎖Fv2(scFv2)、Fab、およびF(ab')2からなる群より選択されるIg型結合部分であり;かつ/または
(b)第2の部分が、シングルドメイン抗体(VHH)、抗体重鎖可変(VH)領域と抗体軽鎖可変(VL)領域との組み合わせ、シングルドメイン抗体(sdAb)、一本鎖Fv(scFv)、一本鎖抗体、Fv、一本鎖Fv2(scFv2)、Fab、およびF(ab')2からなる群より選択されるIg型結合部分であり;かつ/または
(c)該結合ポリペプチドが、非Ig型結合部分であり;
好ましくは、
(a*)第1の部分が、VHH、scFv、scFv2、Fab、およびF(ab')2からなる群より選択される結合ドメインであり、かつ/または
(b*)第2の部分が、VHH、scFv、scFv2、Fab、およびF(ab')2からなる群より選択される結合ドメインであり、かつ/または
(c*)該結合ポリペプチドが、非Ig型結合部分、中でも、前記抗原結合分子のFcドメインに付加した非Ig型結合部分である、
[D1]~[D24]のいずれか1つの抗原結合分子。
[D26]前記分子が、
(A)F-アクチンおよび細胞においてシグナル伝達に関与する抗原に結合することができる抗体;
(B)F-アクチンおよび免疫細胞受容体に結合することができる抗体;または
(C)HSP90および細胞においてシグナル伝達に関与する抗原に結合することができる抗体;
(D)HSP90および免疫細胞受容体に結合することができる抗体;または
(E)GRP78および細胞においてシグナル伝達に関与する抗原に結合することができる抗体;
(F)GRP78および免疫細胞受容体に結合することができる抗体;または
(G)ホスファチジルセリンおよび細胞においてシグナル伝達に関与する抗原に結合することができる抗体;
(H)ホスファチジルセリンおよび免疫細胞受容体に結合することができる抗体;
(I)SAP130および細胞においてシグナル伝達に関与する抗原に結合することができる抗体;ならびに
(J)SAP130および免疫細胞受容体に結合することができる抗体
からなる群より選択され、
好ましくは、前記分子が、
(A-1)F-アクチンおよびCD3に結合することができる抗体;
(A-2)F-アクチンおよびCD137に結合することができる抗体;
(C-1)HSP90およびCD3に結合することができる抗体;
(C-2)HSP90およびCD137に結合することができる抗体;
(E-1)GRP78およびCD3に結合することができる抗体;
(E-2)GRP78およびCD137に結合することができる抗体;
(G-1)ホスファチジルセリンおよびCD3に結合することができる抗体;
(G-2)ホスファチジルセリンおよびCD137に結合することができる抗体;
(I-1)SAP130およびCD3に結合することができる抗体;ならびに
(I-2)SAP130およびCD137に結合することができる抗体
からなる群より選択される、
[D20]~[D25]のいずれか1つの抗原結合分子。
[D27]前記分子が、
(A)中でも、好ましくは抗体のFcドメインに付加した結合ポリペプチド、好ましくはClec9Aポリペプチドである、F-アクチンに結合することができる2つの第1の部分、および、中でもIg型結合部分である、細胞においてシグナル伝達に関与する2つの第2の部分を含む、抗体;
(B)中でも、好ましくは抗体のFcドメインに付加した結合ポリペプチド、好ましくはClec9Aポリペプチドである、F-アクチンに結合することができる2つの第1の部分、および、中でもIg型結合部分である、免疫細胞受容体抗原である2つの第2の部分を含む、抗体;
(C)中でもIg型結合部分である、HSP90に結合することができる2つの第1の部分、および、中でもIg型結合部分である、細胞においてシグナル伝達に関与する2つの第2の部分を含む、抗体;
(D)中でもIg型結合部分である、HSP90に結合することができる2つの第1の部分、および、中でもIg型結合部分である、免疫細胞受容体抗原である2つの第2の部分を含む、抗体;
(E)中でもIg型結合部分である、GRP78に結合することができる2つの第1の部分、および、中でもIg型結合部分である、細胞においてシグナル伝達に関与する2つの第2の部分を含む、抗体;
(F)中でもIg型結合部分である、GRP78に結合することができる2つの第1の部分、および、中でもIg型結合部分である、免疫細胞受容体抗原である2つの第2の部分を含む、抗体;
(G)中でもIg型結合部分である、ホスファチジルセリンに結合することができる2つの第1の部分、および、中でもIg型結合部分である、細胞においてシグナル伝達に関与する2つの第2の部分を含む、抗体;
(H)中でもIg型結合部分である、ホスファチジルセリンに結合することができる2つの第1の部分、および、中でもIg型結合部分である、免疫細胞受容体抗原である2つの第2の部分を含む、抗体;
(I)中でも、好ましくは抗体のFcドメインに付加した結合ポリペプチド、好ましくはmClec4eポリペプチドである、SAP130に結合することができる2つの第1の部分、および、中でもIg型結合部分である、細胞においてシグナル伝達に関与する2つの第2の部分を含む、抗体;
(J)中でも、好ましくは抗体のFcドメインに付加した結合ポリペプチド、好ましくはmClec4eポリペプチドである、SAP130に結合することができる2つの第1の部分、および、中でもIg型結合部分である、免疫細胞受容体抗原である2つの第2の部分を含む、抗体
からなる群より選択され、
好ましくは、前記分子が、
(A1)中でも、好ましくは抗体のFcドメインに付加した結合ポリペプチド、好ましくはClec9Aポリペプチドである、F-アクチンに結合することができる2つの第1の部分、および、中でもIg型結合部分である、CD3に結合することができる2つの第2の部分を含む、抗体;
(A2)中でも、好ましくは抗体のFcドメインに付加した結合ポリペプチド、好ましくはClec9Aポリペプチドである、F-アクチンに結合することができる2つの第1の部分、および、中でもIg型結合部分である、CD137に結合することができる2つの第2の部分を含む、抗体;
(C1)中でもIg型結合部分である、HSP90に結合することができる2つの第1の部分、および、中でもIg型結合部分である、CD3に結合することができる2つの第2の部分を含む、抗体;
(C2)中でもIg型結合部分である、HSP90に結合することができる2つの第1の部分、および、中でもIg型結合部分である、CD137に結合することができる2つの第2の部分を含む、抗体;
(E1)中でもIg型結合部分である、GRP78に結合することができる2つの第1の部分、および、中でもIg型結合部分である、CD3に結合することができる2つの第2の部分を含む、抗体;
(E2)中でもIg型結合部分である、GRP78に結合することができる2つの第1の部分、および、中でもIg型結合部分である、CD137に結合することができる2つの第2の部分を含む、抗体;
(G1)中でもIg型結合部分である、ホスファチジルセリンに結合することができる2つの第1の部分、および、中でもIg型結合部分である、CD3に結合することができる2つの第2の部分を含む、抗体;
(G2)特別にIg型結合部分である、ホスファチジルセリンに結合することができる2つの第1の部分、および、中でもIg型結合部分である、CD137に結合することができる2つの第2の部分を含む、抗体;
(I1)中でも、好ましくは抗体のFcドメインに付加した結合ポリペプチド、好ましくはmClec4eポリペプチドである、SAP130に結合することができる2つの第1の部分、および、中でもIg型結合部分である、CD3に結合することができる2つの第2の部分を含む、抗体;
(I2)中でも、好ましくは抗体のFcドメインに付加した結合ポリペプチド、好ましくはmClec4eポリペプチドである、SAP130に結合することができる2つの第1の部分、および、中でもIg型結合部分である、CD137に結合することができる2つの第2の部分を含む、抗体
からなる群より選択される、
[D20]~[D26]のいずれか1つの抗原結合分子。
[D28][D1]~[D27]のいずれか1つの抗原結合分子を含む、薬学的組成物。
[D29](i)医薬、および/または
(ii)医学的状態、特に細胞死を伴う医学的状態を処置する方法、および/または
(iii)対象において医学的状態を処置する方法であって、前記抗原結合分子とダメージを受けた細胞とを接触させる工程を含む、方法、
(iv)対象において医学的状態を処置する方法であって、前記抗原結合分子と患者におけるダメージ関連分子パターン(DAMP)とを接触させる工程を含み、特に前記抗原結合分子と前記第2の抗原とを接触させる工程をさらに含む、方法、
(v)対象において医学的状態を処置する方法であって、細胞ダメージ、特に細胞死を伴う状態に罹患している患者に前記抗原結合分子を投与する工程を含む、方法;
(中でも、該方法は、近接した複数の抗原結合分子と、第1および第2の抗原とを接触させる工程を含む)
における使用のための、[D1]~[D28]のいずれか1つに記載の抗原結合分子または薬学的組成物。
[D30]医薬における使用のための、[D1]~[D29]のいずれか1つに記載の抗原結合分子または薬学的組成物。
[D31]医学的状態を処置するかまたは予防する方法における使用のための、[D1]~[D27]のいずれかの抗原結合分子または薬学的組成物。
[D32]前記医学的状態が、がんおよび免疫、好ましくは自己免疫、疾患からなる群より選択される、[D31]の使用のための抗原結合分子または薬学的組成物。
[D33](i)前記方法が、[D1]~[D27]のいずれか1つに記載の抗原結合分子を患者に投与する工程を含み、かつ/または
(ii)前記方法が、免疫応答を活性化するかもしくは阻止するための方法であり、かつ/または
(iii)前記方法が、細胞においてシグナル伝達もしくは遮断を与えるためのものであり;
特に、
(a)前記方法が、前記抗原結合分子と、細胞ダメージにより細胞外環境に曝されるダメージ関連分子パターン(DAMP)とを接触させる工程を含み、中でも、該DAMPが、F-アクチン、GRP78、ホスファチジルセリン、HSP90、およびSAP130からなる群より選択され、
かつ/または
(b)前記方法が、前記抗原結合分子と、(a-i)免疫細胞(中でも、該免疫細胞は、T細胞、キラー細胞、ヘルパーT細胞、制御性T細胞、B細胞、メモリーB細胞、NK細胞、NKT細胞、樹状細胞、マクロファージ、好酸球、好中球細胞、および好塩基球からなる群より選択される)、(a-ii)腫瘍細胞、ならびに(a-iii)自己反応性細胞、から中でも選択される細胞とを接触させる工程を含み、
かつ/または
(c)前記抗原結合分子が、少なくとも1つの、好ましくは2つのClec9Aポリペプチドを含み、中でも、前記抗原結合分子が、(c-1)細胞においてシグナル伝達に関与する、少なくとも2つの、好ましくは2つの部分、もしくは(c-2)免疫細胞受容体抗原である、少なくとも2つの、好ましくは2つの部分をさらに含む、
[D29]~[D32]のいずれか1つに記載の使用のための抗原結合分子または薬学的組成物。
[D34]前記方法が、がんまたは免疫(好ましくは自己免疫)疾患を処置するかまたは予防するための方法であり、
中でも、前記方法が、がんを処置するかまたは予防するための方法であり、
とりわけ、前記方法が、がんを処置するための方法である、
[D18]および[D19]のいずれか1つに記載の使用のための抗原結合分子または薬学的組成物。
[D35][D1]~[D27]のいずれか1つに記載の抗原結合分子をコードする、ポリヌクレオチド。
[D36][D1]~[D27]のいずれか1つの分子をコードする、ポリヌクレオチド、とりわけDNA。
[D37][D35]または[D36]のポリヌクレオチドを含む、ベクター。
[D38]とりわけ、組換えタンパク質発現用である、[D1]~[D27]のいずれか1つにおいて定義されるような抗原結合分子をコードするDNA配列を含む、ベクター。
[D39][D37]または[D38]の前記ベクターを含む、宿主細胞。
[D40]とりわけ、前記ベクターにコードされている抗原結合分子の組換えタンパク質発現用である、[D37]または[D38]のベクターを含む、宿主細胞。
[D41]少なくとも1つの第1の部分および少なくとも1つの第2の部分を含む抗原結合分子の製造のための、少なくとも1つの第1の部分および少なくとも1つの第2の部分の使用であって、
(1)少なくとも1つの第1の部分が、第1の抗原に結合し、かつ
(2)少なくとも1つの第2の部分が、第2の抗原に結合し;
該第1の抗原が、ダメージ関連分子パターン(DAMP)であり、かつ
該第2の抗原が、第1の抗原とは異なり、好ましくは、該第2の抗原が、免疫細胞の膜タンパク質である、
使用。
[D42]細胞死が観察されるかまたは検出されることになる組織中の細胞をターゲティングするための、抗原結合分子の使用であって、
(1)少なくとも1つの第1の部分が、第1の抗原に結合し、かつ
(2)少なくとも1つの第2の部分が、第2の抗原に結合し;
該第1の抗原が、ダメージ関連分子パターン(DAMP)であり、かつ
該第2の抗原が、第1の抗原とは異なり、好ましくは、該第2の抗原が、免疫細胞の膜タンパク質である、
使用。
[D43]細胞死が観察される組織中の細胞におけるシグナル伝達の誘導または遮断のための、抗原結合分子の使用であって、
(1)少なくとも1つの第1の部分が、第1の抗原に結合し、かつ
(2)少なくとも1つの第2の部分が、第2の抗原に結合し;
該第1の抗原が、ダメージ関連分子パターン(DAMP)であり、かつ
該第2の抗原が、第1の抗原とは異なり、好ましくは、該第2の抗原が、免疫細胞の膜タンパク質である、
使用。
[D44]細胞死が観察されている組織において特異的に作用する分子を製造するためのキットであって、該分子が、
(1)第1の抗原に結合する少なくとも1つの第1の部分、および
(2)第2の抗原に結合する少なくとも1つの第2の部分
を含み;
該第1の抗原が、ダメージ関連分子パターン(DAMP)であり、かつ
該第2の抗原が、第1の抗原とは異なり、好ましくは、該第2の抗原が、免疫細胞の膜タンパク質であり、
該キットが、
少なくとも第1の部分を含む、少なくとも1つの第1の容器、および
少なくとも第2の部分を含む、少なくとも1つの第2の容器
を含む、キット。
【0019】
加えて、本開示は特にまた、以下の態様[E1]~[E32]も提供する。
[E1](1)アクチン、熱ショックタンパク質、ホスファチジルセリン、ヒストン、ヒストンデアセチラーゼ複合体サブユニット、HMGNタンパク質、肝癌由来増殖因子、BCL-2、カルレティキュリン、およびシクロフィリンAからなる群より選択される第1の抗原に結合する、第1の部分、ならびに
(2)第1の抗原とは異なり、かつT細胞または抗原提示細胞(APC)上の膜タンパク質から選択される第2の抗原に結合する、第2の部分
を含む、抗原結合分子。
[E2]前記アクチンが、F-アクチンである、[E1]の抗原結合分子。
[E3]前記熱ショックタンパク質が、HSP90、GRP78、HSP70、HSP60、HSP72、またはGP96である、[E1]の抗原結合分子。
[E4]前記熱ショックタンパク質が、HSP90またはGRP78である、[E3]の抗原結合分子。
[E5]前記ホスファチジルセリンが、細胞膜の一部である、[E1]の抗原結合分子。
[E6]前記ヒストンデアセチラーゼ複合体サブユニットが、SAP130である、[E1]の抗原結合分子。
[E7]前記HMGNタンパク質が、HMGB1またはHMGN1である、[E1]の抗原結合分子。
[E8]第1の抗原が、Fアクチン、GRP78、ホスファチジルセリン、HSP90、およびSAP130からなる群より選択される、[E1]の抗原結合分子。
[E9]第1の部分が、IgG型抗体、VHH、VH、VL、sdAb、scFv、一本鎖抗体、Fab、およびF(ab')2からなる群より選択されるIg型結合部分である、[E1]~[E8]のいずれか1つの抗原結合分子。
[E10]第1の部分が、非Ig型結合部分である、[E1]~[E8]のいずれか1つの抗原結合分子。
[E11]第1の抗原がF-アクチンであり、かつ第1の部分がClec9Aポリペプチドである、[E1]の抗原結合分子。
[E12]第1の抗原が、GRP78、ホスファチジルセリン、およびHSP90からなる群より選択され、かつ第1の部分が、Ig型結合部分である、[E1]の抗原結合分子。
[E13]第1の抗原がSAP130であり、かつ第1の部分がmClec4eポリペプチドである、[E1]の抗原結合分子。
[E14]第2の抗原が、T細胞受容体、CD3、CD137、CD40、およびCTLA4からなる群より選択される、[E1]~[E13]のいずれか1つの抗原結合分子。
[E15]第2の部分が、Ig型結合部分である、[E1]~[E14]のいずれか1つの抗原結合分子。
[E16]前記分子が、第1の部分および第2の部分の両方を含有するIgG型抗体である、[E1]~[E15]のいずれか1つの抗原結合分子。
[E17]前記IgG型抗体が、免疫細胞の膜タンパク質に結合することができ、かつ少なくとも1つの結合ポリペプチドを含む、[E16]の抗原結合分子。
[E18]前記結合ポリペプチドが、IgG型抗体のFc領域に連結されている、[E17]の抗原結合分子。
[E19]前記結合ポリペプチドが、Clec9AポリペプチドまたはmClec4eポリペプチドを含む、[E17]または[E18]の抗原結合分子。
[E20]前記IgG型抗体が、
Clec9Aポリペプチドを含む抗CD3抗体、
Clec9Aポリペプチドを含む抗CD137抗体、
mClec4eポリペプチドを含む抗CD3抗体、および
mClec4eポリペプチドを含む抗CD137抗体
から選択される、[E17]の抗原結合分子。
[E21]前記IgG型抗体が、二重特異性抗体である、[E16]の抗原結合分子。
[E22]前記二重特異性抗体が、免疫細胞の膜タンパク質に対する、かつDAMPに対するものである、[E21]の抗原結合分子。
[E23]前記二重特異性抗体が、
二重特異性抗HSP90抗CD3抗体、
二重特異性抗HSP90抗CD3抗体、
二重特異性抗GRP78抗CD3抗体、
二重特異性抗GRP78抗CD137抗体、
二重特異性抗ホスファチジルセリン抗CD3抗体、および
二重特異性抗ホスファチジルセリン抗CD137抗体
から選択される、[E21]の抗原結合分子。
[E24][E1]~[E23]のいずれか1つの抗原結合分子を含む、薬学的組成物。
[E25][E1]~[E23]のいずれか1つの抗原結合分子をコードする、単離されたポリヌクレオチド。
[E26][E25]のポリヌクレオチドを含む、ベクター。
[E27][E25]のポリヌクレオチドを含む、宿主細胞。
[E28]細胞ダメージまたは細胞死を伴う医学的状態を、それらに罹患している対象において処置する方法であって、[E1]~[E23]のいずれか1つの抗原結合分子を該対象に投与する工程を含む、方法。
[E29]その必要がある対象においてがんを処置する方法であって、[E1]~[E23]のいずれか1つの抗原結合分子を該対象に投与する工程を含む、方法。
[E30]その必要がある対象において免疫疾患を処置する方法であって、[E1]~[E23]のいずれか1つの抗原結合分子を該対象に投与する工程を含む、方法。
[E31]前記免疫疾患が、自己免疫疾患である、[E30]の方法。
[E32]抗原結合分子の発現に好適な条件下で、[E27]の宿主細胞を培養する工程、および任意で抗原結合分子を回収する工程を含む、方法。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本発明の分子が、細胞死により細胞外環境に曝されるF-アクチンに結合する部分を含む抗体様分子である場合の、本発明によって包含され、かつ達成される技術的概念を模式的に図示する、かつまた、分子がF-アクチンと複合体を形成し、複合体が、該分子を介して細胞における膜タンパク質のうちの1つまたは複数に結合して、細胞中にシグナル伝達または遮断を与えることを模式的に図示する、図面。
【
図2】細胞死により細胞外環境に曝される細胞の構成要素またはその一部分に結合する部分を含む抗体様分子である、本発明の分子の一態様の技術的特徴を模式的に図示する、図面。
【
図3】細胞死により細胞外環境に曝される細胞の構成要素またはその一部分に結合する部分を含む抗体様分子である、本発明の分子の種々の態様の技術的特徴を模式的に図解する、図面。例えば、丸(白)は、「第1の抗原」に結合する「第1の部分」を意味する。さらなる例において、2つの第1の部分(白丸)がコンジュゲートされている場合に、少なくとも1つの部分は、「第1の抗原」に結合し、かつもう1つは、「第1の抗原」および「第2の抗原」とは異なる任意の抗原に結合することができる。別の例において、少なくとも1つのFabアームは、「第2の抗原」に結合し、かつもう1つのFabアームは、「第1の抗原」および「第2の抗原」とは異なる任意の抗原に結合することができる。さらなる例において、少なくとも1つのFabアームは、「第2の抗原」に結合し、かつもう1つのFabアームは、「第1の抗原」に結合することができ、かつコンジュゲートされた第1の部分(白丸)は、「第1の抗原」および「第2の抗原」とは異なる任意の抗原に結合することができる。
【
図4】それぞれ生細胞、および壊死細胞またはその構成要素に対するClec9Aコンジュゲート抗体の結合の測定の結果を示す、図面。
【
図5】死細胞の存在下での、T細胞上のClec9Aコンジュゲート抗CD3抗体のクラスタリングを通したT細胞活性化の測定の結果を示す、図面。
【
図6】生細胞または死細胞に対する抗ホスファチジルセリンまたは抗HSP90の結合の測定の結果を示す、図面。
【
図7】生細胞または死細胞の存在下での、T細胞上の抗ホスファチジルセリン//CD3二重特異性抗体または抗HSP90//CD3二重特異性抗体のクラスタリングを通したCD3+ T細胞活性化の測定の結果を示す、図面。
【
図8】生細胞または死細胞の存在下での、T細胞上のClec9Aコンジュゲート抗CD137抗体のクラスタリングを通したCD137+ T細胞活性化の測定の結果を示す、図面。
【
図9】生細胞または死細胞の存在下での、T細胞上の抗ホスファチジルセリン//CD137抗体のクラスタリングを通したCD137+ T細胞活性化の測定の結果を示す、図面。
【
図10】F-アクチンの存在下または非存在下での、Clec9Aコンジュゲート抗体によるCD3活性化の結果を示す、図面。
【発明を実施するための形態】
【0021】
態様の説明
以下の定義および詳細な説明は、本明細書において例証される本発明の理解を容易にするために提供される。特に、これらの定義および詳細な説明は、上記のグループA、B、C、およびDの態様を解釈するのに役立つ。
【0022】
細胞死
報告されているいくつかのタイプの細胞死があり、プログラム細胞死(PCD)および非PCDの2つのタイプに分類される(Cell Research volume 29, pages 347-364, 2019;Cell Biol. Int., 2019 Jun; 43(6): 582-592;Nature Reviews Cancer, Vol.12, p.860-875, 2012)。PCDは、シグナル伝達カスケードおよび分子的に定義されたメカニズムによって厳密に制御されている。アポトーシスは、最もよく知られたPCDであり、最近では、多くの非アポトーシスタイプのPCD、パイロトーシス(pyroptosis)、NETosis、ネクロトーシス(Necroptosis)などが報告されている。他方、非PCDは、生物学的に制御不能なプロセスであり、壊死は、非PCDとして分類される。
【0023】
本発明において、「細胞死」とは、体細胞(例えば、上皮細胞、線維芽細胞、間質細胞、骨細胞、筋肉細胞、神経細胞、血液細胞など)、生殖細胞、または罹患したもしくは異常な細胞(例えば、腫瘍細胞、自己反応性細胞)を含むがそれらに限定されない、任意の種類のまたは任意のタイプの細胞の、プログラム細胞死(PCD)の態様のうちの1つであるアポトーシス;壊死;偶発細胞死;または制御された細胞死(例えば、アポトーシス、制御された壊死、オートファジー細胞死、ネクロトーシス、フェロトーシス、またはパイロトーシス)を含むがそれらに限定されないように、指す。そのような細胞は、上皮組織、筋肉組織、神経組織、結合組織を含むがそれらに限定されない、任意の組織に位置し得る。ここで、損傷または炎症に起因する非プログラム細胞死の形態である壊死もまた、細胞死の増加を結果としてもたらす。具体的には、本発明において、「細胞死」とは、例えば、がんまたは自己免疫疾患により罹患組織において観察される細胞死であることができる。
【0024】
細胞ダメージ
同様に、本発明において、「細胞ダメージ」は、特に限定されず、DAMPの露出を結果としてもたらされる任意の細胞ダメージを含む。これは、特に、細胞死の上記の形態をすべて含む。
【0025】
第1の抗原/ダメージ関連分子パターン(DAMP)
本発明において、本発明の1つの一般的な局面に従って本明細書でそれぞれ「ダメージ関連分子パターン」または「DAMP」とも呼ばれ、かつ「細胞ダメージにより細胞外環境に曝される物質」と互換的に本明細書で用いられる用語「第1の抗原」は、細胞ダメージに関連する生体分子を意味し、本発明において、これはまた、互換的に用いられる「ダメージ細胞由来分子」、または「ダメージ細胞由来物質」、「ダメージ細胞関連分子」、「ダメージ細胞関連物質」、および「危険関連分子パターン」とも称され得る。細胞ダメージに関連するこれらの生体分子および物質は、細胞のダメージ時に、発現が上方制御されるか、細胞表面上に発現されるか、修飾されるか、受動的に拡散されるか、または能動的に細胞外に分泌されることができる。これらの変化は、ダメージを受けた細胞の存在もしくは増加と、またはインタクト細胞の減少と正の相関関係がある。換言すると、細胞ダメージに向かっている細胞において、細胞における細胞骨格、細胞膜、オルガネラ、細胞質タンパク質、または代謝産物を構成する構成要素またはその一部分が、細胞外環境に曝され、これらのうちのいずれかが、細胞ダメージに関連する物質または生体分子により包含される。
【0026】
いずれにしても、「ダメージ関連分子パターン」(「DAMP」)は、「細胞ダメージにより細胞外環境に曝される物質」として当業者によく知られている。
【0027】
本発明において、用語「ダメージ関連分子パターン」、「DAMP」、および「細胞ダメージにより細胞外環境に曝される物質」は、「細胞ダメージにより細胞外環境に曝される、細胞骨格の、細胞膜の、オルガネラの、細胞質タンパク質の、または代謝産物の、それぞれ構成要素または一部分」と、およびまた「第1の抗原」と、互換的に呼ばれ得る。すなわち、本発明において、異なるように意味するよう別段定義されない限り、用語「第1の抗原」は、「細胞ダメージにより細胞外環境に曝される、細胞骨格の、細胞膜の、オルガネラの、細胞質タンパク質の、または代謝産物の、それぞれ構成要素または一部分」を含むがそれらに限定されないように、意味する。
【0028】
特定の態様において、DAMPは、(A)アクチン、特にF-アクチン、(B)特にHSP90およびGRP78から選択される、熱ショックタンパク質、中でもHSP90、(C)ホスファチジルセリン(PS)、特に細胞膜の一部であるホスファチジルセリン、(D)ヒストンまたはその構成要素、(E)ヒストンデアセチラーゼ複合体サブユニット、特にSAP130、(F)特にHMGB1およびHMGN1から選択される、HMGNタンパク質、(G)肝癌由来増殖因子、(H)BCL-2、(I)カルレティキュリン、ならびに(J)シクロフィリンA、からなる群より選択される。
【0029】
本発明において、細胞ダメージは、好ましくは、細胞死を含む。本発明の好ましい態様において、細胞ダメージは細胞死である。したがって、本発明のさらなる一般的な局面において、以下が適用される。
【0030】
第1の抗原、および細胞死により細胞外環境に曝される物質
本発明において、「細胞死により細胞外環境に曝される物質」とも呼ばれる用語「第1の抗原」は、細胞死に関連する生体分子を意味し、本発明において、互換的に用いられる「死細胞由来分子」、または「死細胞由来物質」、「死細胞関連分子」、「死細胞関連物質」、および「危険関連分子パターン」とも称され得る。細胞死に関連するこれらの生体分子および物質は、細胞の死亡時に、発現が上方制御されるか、細胞表面上に発現されるか、修飾されるか、受動的に拡散されるか、または能動的に細胞外に分泌されることができる。これらの変化は、死細胞の存在もしくは増加と、または生細胞の減少と正の相関関係がある。換言すると、細胞死に向かっている細胞において、細胞における細胞骨格、細胞膜、オルガネラ、細胞質タンパク質、または代謝産物を構成する構成要素またはその一部分が、細胞外環境に曝され、これらのうちのいずれかが、細胞死に関連する物質または生体分子により包含される。
【0031】
すなわち、用語「細胞死により細胞外環境に曝される物質」(または「細胞ダメージにより細胞外環境に曝される物質」、「ダメージ関連分子パターン」、もしくは「DAMP」)は、「細胞死により細胞外環境に曝される、細胞骨格、細胞膜、オルガネラ、細胞質タンパク質、または代謝産物を構成する構成要素またはその一部分」と、およびまた、互換的に「第1の抗原」とも(またはそれぞれ、「細胞ダメージにより細胞外環境に曝される、細胞骨格の、細胞膜の、オルガネラの、細胞質タンパク質の、または代謝産物の、それぞれ構成要素または一部分」と)呼ぶことができる。すなわち、本発明において、異なるように意味するよう別段定義されない限り、用語「第1の抗原」は、それぞれ、「細胞死により細胞外環境に曝される、細胞骨格、細胞膜、オルガネラ、細胞質タンパク質、または代謝産物を構成する構成要素またはその一部分」、または「細胞ダメージにより細胞外環境に曝される、細胞骨格の、細胞膜の、オルガネラの、細胞質タンパク質の、または代謝産物の、それぞれ構成要素または一部分」を含むがそれらに限定されないように、意味する。
【0032】
いかなる場合でも、本発明において、それぞれ「死細胞由来分子」などについてのすべての例および態様は、特に、本発明の状況でDAMP内に含まれる。
【0033】
本発明において、用語「細胞骨格」は、細胞の細胞内および細胞外の運動のために、ならびにまた細胞の形態を維持するために必要とされる物理的な力を生成する、細胞質中のフィラメント構造を意味する。本発明において、「フィラメント」には、中間径フィラメント、アクチンフィラメント、ミオシンフィラメント、およびケラチンフィラメントが含まれるが、それらに限定されない。真核細胞は、細胞骨格として、アクチンフィラメント、中間径フィラメント、ミオシンフィラメント、ケラチンフィラメント、および微小管を有する。アクチンフィラメントは、アクチンで構成されており;中間径フィラメントは、ビメンチン、グリア線維性タンパク質、神経フィラメントタンパク質、核ラミンなどで構成されており;ならびに微小管は、α-チューブリンおよびβ-チューブリンで構成されている。本発明において、細胞死により細胞外環境に曝される「細胞骨格」は、上記の細胞骨格を形成するタンパク質構成要素に限定されず、それらは、1つまたは複数の任意の他のタンパク質とコンジュゲートされて得る。
【0034】
細胞膜などの生体膜は、タンパク質が埋め込まれている脂質二重層で構成されている。本発明において、細胞膜などの生体膜の構成要素には、脂質およびタンパク質が含まれるが、それらに限定されない。脂質には、リン脂質、糖脂質、およびステロールが含まれるが、それらに限定されない。タンパク質には、イオンチャンネル、Gタンパク質共役受容体(GPCR)、プロトンポンプなどのような膜貫通タンパク質、Gタンパク質などのような脂質アンカータンパク質、および酵素、ホルモンなどのような表在性膜タンパク質が含まれるが、それらに限定されない。
【0035】
通常、本発明において、「膜タンパク質」は、生物学的膜の一部であるか、または生物学的膜と相互作用する、かつ、その場所に応じたいくつかの広い部類を含む一般的なタンパク質として、当業者に通常よく知られている膜タンパク質のことをいい、これには特に、細胞膜の永久的な部分であり、かつ膜を貫通する(膜貫通)か、または膜の一方もしくはもう一方の側と会合する(内在性モノトピック)かいずれかであることができる内在性膜タンパク質、および(例えば、いわゆるアンカーを介して、または非共有結合的な相互作用のある特定のタイプもしくは組み合わせによって)細胞膜と一過性に会合する周辺膜タンパク質が含まれる。この用語は、特に、本明細書に記載される膜タンパク質のいずれかを含む。
【0036】
本発明において、「細胞死により細胞外環境に曝される細胞膜またはオルガネラ」には、上記のリン脂質またはタンパク質;核小体、核、リボソーム、小胞体、ゴルジ体、ミトコンドリアなどのようなオルガネラを構成する任意の生体膜;ならびにまた生体膜に埋め込まれたタンパク質が含まれるが、それらに限定されない。
【0037】
本発明において、「細胞死により細胞外環境に曝される物質/分子」(「死細胞由来分子」)およびDAMPには、上記の構成要素またはその一部分が含まれるが、それらに限定されず、細胞死により細胞外環境に曝される任意の物質または分子が、本発明において利用されてもよい。さらに、死細胞由来分子は、上記の構成要素またはその一部分のうちの1つまたは複数の複合体であってもよい。死細胞由来分子は、タンパク質の全体または切断型であってもよい。死細胞由来分子には、好ましい態様として、細胞における細胞骨格、オルガネラ、および細胞質タンパク質が含まれるが、それらに限定されない。細胞膜および細胞膜の任意の断片もまた、好ましい態様として死細胞由来分子に含まれる。本発明において、死細胞由来分子のより好ましい態様には、細胞骨格または核骨格を構成するフィラメント、およびヌクレオソームまたはヌクレオソームを形成する分子が含まれるが、それらに限定されない。
【0038】
本発明において、死細胞由来分子には、非限定的な態様として、免疫原性細胞死により細胞から細胞外環境中に放出される分子、すなわち、免疫原性細胞死により放出されるダメージ関連分子パターン(DAMP)が含まれる。DAMPには、Dmitri et al, Nature Reviews Cancer, Vol. 12, p. 860-875, 2012によって報告された分子が含まれる。換言すると、Dmitri et alに記載されているすべてのDAMPは、本発明によるDAMPの態様として特に含まれる。
【0039】
さらにかついくらか繰り返して言うと、本発明において、「細胞死により細胞外環境に曝される物質」または「細胞死により細胞外環境に曝される、細胞骨格、細胞膜、オルガネラ、細胞質タンパク質、または代謝産物を構成する構成要素またはその一部分」および「DAMP」の具体的な態様には、細胞骨格もしくは核骨格を形成するフィラメントもしくはヒストン(例えば、F-アクチンなどの中間径フィラメント)、ホスファチジルセリン、熱ショックタンパク質、およびさらにタンパク質、RNA、DNA、または代謝産物、または修飾分子もしくは複合体を結果としてもたらすそれらの組み合わせが含まれるが、それらに限定されない。ここで、タンパク質は、全長タンパク質またはその断片であることができる。
【0040】
加えて、グリピカンおよびシンデカンなどの分子は、生細胞の表面上に発現しているが、死細胞が豊富な微小環境によって修飾されることができ、これらの分子もまた、死細胞由来分子に含まれる。さらに、バイグリカン(biglycan)、デコリン(decorin)、およびルミカン(lumican)もまた、通常の生理学的条件下では細胞外マトリックスに隔離され得るが、死細胞の増加と共にタンパク質分解的に放出される。これらの分子もまた、本発明における死細胞関連分子として、本発明に含まれる。
【0041】
死細胞由来分子はまた、細胞死が誘導された時に放出されるか、または細胞表面で曝されるかもしくは豊富に発現される分子であることもできる。体細胞および生殖細胞などのすべての細胞は、死細胞由来分子を産生することが可能である。固形腫瘍の一般的な特徴は、血流の低減に由来する低酸素症および低栄養状態の存在である。これらの低酸素条件および低栄養状態は、腫瘍細胞にストレスを与え、固形腫瘍における豊富な細胞死を結果としてもたらす。細胞死は自己免疫疾患の病因に関与しているため、細胞死は通常、腫瘍に加えて、白斑、I型糖尿病などの多くのタイプの自己免疫疾患において見られる。例えば、白斑は、メラノサイトの破壊によって誘導される自己免疫疾患である。白斑において、ラミンA、チロシナーゼ関連タンパク質1、HSP90、HSP70などを認識する多くのタイプの自己抗体が存在することが報告されている(Hamid et al., Pigmentary Disorders 2015, 2:6)。これらの分子は、通常、定常状態の条件においてサイトゾルまたは核に局在している。抗体は、細胞の外側に局在する分子に対して生成されるため、これらの分子は、細胞死の時点で放出されるか、または原形質膜に曝されなければならない。
【0042】
本発明において、死細胞由来分子の供給源は、上記の供給源に限定されない。細胞死が観察される細胞外環境に曝される細胞のまたは細胞中の、任意の分子または物質が、死細胞由来分子の供給源であることができる。ある特定の分子または物質が、死細胞由来分子であるか否かは、その分子または物質が、細胞死が誘導されている細胞外環境に曝される分子または物質であることの検討によって、確認することができる。
【0043】
細胞死が誘導されるかどうかを検討および確認するためを含むがそれに限定されない、以下の方法を採用することができる。
【0044】
死細胞または死細胞由来の分子もしくは物質を検出するための方法は、死細胞に関連した特性、プロセスのうちの1つもしくは複数の割合の増加、または生存細胞の割合の低減を検出することを含み得る。そのような方法には、生細胞不浸透性DNA結合色素、生細胞不浸透性アミン反応性色素について陽性に染色される細胞の検出、死細胞上清中の乳酸デヒドロゲナーゼなどの酵素活性の測定、または代謝的に活性な生細胞に関連する細胞内ATPのレベルの低減が含まれるが、それらに特に限定されるわけではない。さらに、Rissによって報告されたような、死細胞を検出するための方法がまた用いられてもよい(Riss, Cytotoxicity Assays: In Vitro Methods to Measure Dead Cells; May 1, 2019)。
【0045】
本発明において、ある特定の分子が死細胞由来分子であるかどうかは、ミトキサントロンまたはマイトマイシンCなどの細胞傷害性を有する薬剤が添加された細胞培養物の上清と、薬物処理を伴わない細胞培養物の上清とを比較することによって、判定または確認され得る。細胞傷害性薬物の存在下で培養した細胞培養物の上清、および薬物の添加を伴わない細胞培養物の上清の各々に含有されるタンパク質および/または代謝産物のプロテオーム解析および/またはメタボローム解析を実施することによって、細胞傷害性薬物を添加して培養した細胞培養物の上清において相対的に多量に検出される分子は、死細胞由来分子(すなわち、細胞死により細胞外環境に曝される物質)と判定され得る。ここで、細胞培養物に添加される薬物は、ミトキサントロンまたはマイトマイシンCに限定されず、任意の薬物が、細胞傷害性を有する限り用いられてもよい。
【0046】
本発明において、細胞死を誘導する方法は、細胞傷害性薬物を用いる上記の方法に限定されない。例えば、細胞死は、細胞の凍結融解処理によって物理的に誘導することができる。
【0047】
さらに、本発明において、ある特定の分子または物質が死細胞由来分子または死細胞由来物質であるかどうかは、例えば、薬物での処理が細胞死を誘導する上記の薬物で処理した細胞または未処理の細胞を調製すること、ならびに、フローサイトメトリーを用いて、細胞の各群における1つまたは複数の膜タンパク質の発現の程度を測定および比較することによって、判定または確認され得る。増加した発現が、非処理細胞における発現に対して、薬物処理細胞において見出される膜タンパク質が、死細胞由来分子として用いられ得る分子として決定される。
【0048】
本発明において、上記の、RNA、DNA、線維状作用(filamentous action)、ヒストン、ホスファチジルセリン、または熱ショックタンパク質を含むがそれらに限定されないような死細胞由来分子は、当業者によってよく知られた定量のための任意の手段および/または方法、例えば、カラムクロマトグラフ、質量分析(mass spectrography)(この用語は、本明細書で質量分析法(mass spectrometry)と互換的に用いられる)、ELISAなどを用いて定量され得る。本発明における死細胞由来分子が、定量することができる限り、定量のための任意の他の手段および/または方法が用いられてもよい。
【0049】
結合することができる
本発明の文脈において、用語「に結合することができる」および「に結合する」は、互換的に用いられ、とりわけ生理学的条件下、すなわち、動物、とりわけ人体において見出される条件下で、抗原に結合する部分の能力を表す。前記能力を決定するための特定の例示的な方法は、本明細書において以下に記載される。本明細書で用いられる場合、「抗原に結合する能力」などの用語はまた、「抗原に対する結合アフィニティ」などの用語と指定されてもよい。さらに、抗体の場合、前記能力はまた、用語「に対する抗体」を用いることによって、または用語「抗抗原X抗体」を用いることによって記載されてもよい。
【0050】
第1の抗原に結合する第1の部分
本発明において、「第1の抗原に結合する第1の部分および第2の抗原に結合する第2の部分を含む分子」の「第1の部分」は、上記のように、互換的に「細胞死により細胞外環境に曝される物質」および「細胞死により細胞外環境に曝される、細胞骨格、細胞膜、オルガネラ、細胞質タンパク質、または代謝産物を構成する構成要素またはその一部分」とも呼ばれる「第1の抗原」に結合する。
【0051】
本発明における分子の「第1の部分」は、上記のような「第1の抗原」に結合する限り、任意の構造を有してもよい。「第1の部分」の構造には、ポリペプチドもしくはその一部分、または小さなもしくは中程度の化学化合物もしくはその一部分、またはポリヌクレオチドもしくはその一部分が含まれ得るが、それらに限定されない。ポリペプチドまたはその一部分には、細胞(例えば、樹状細胞などの免疫細胞)上に発現している細胞膜タンパク質またはその一部分(例えば、細胞外ドメイン、その任意の固有ドメイン);抗体(ヒト抗体、キメラ抗体、ヒト化抗体、およびVHH抗体を含むがそれらに限定されない)または抗原結合ドメイン(抗体の一部分、一部、もしくは断片とも呼ばれる)が含まれるが、それらに限定されない。抗体の抗原結合ドメインには、抗体重鎖可変(VH)領域、抗体軽鎖可変(VL)領域(好ましくは、抗体重鎖可変(VH)領域と抗体軽鎖可変(VL)領域との組み合わせ)、シングルドメイン抗体(sdAb)、一本鎖Fv(scFv)、一本鎖抗体、Fv、一本鎖Fv2(scFv2)、Fab、およびF(ab')2が含まれるが、それらに限定されない。
【0052】
ポリペプチドまたはその一部分はまた、インビボ細胞膜タンパク質に含有されるおよそ35アミノ酸を有する、AvimerのAドメインと呼ばれるモジュール(WO2004/044011およびWO2005/040229)、細胞膜上に発現している糖タンパク質フィブロネクチンに由来する、タンパク質結合ドメインとして働く10Fn3ドメインを有するアドネクチン(adnectin)(WO2002/032925)、プロテインAの58アミノ酸からなる3ヘリックスバンドルを構成するIgG結合ドメインスキャフォールドを有するAffibody(WO1995/001937)、ターン、2つの逆平行ヘリックス、およびループのサブユニットにフォールディングされた33アミノ酸残基の構造を各々が有する、アンキリンリピート(AR)の分子表面露出領域であるDARPin(設計アンキリンリピートタンパク質(designed ankyrin repeat protein))(WO2002/020565)、好中球ゼラチナーゼ関連リポカリン(NGAL)などのリポカリン分子における高度に保存されたバレル構造の1つの末端において中心軸に向かって曲がった8つの逆平行ストランドを接続する4つのループ領域を有するアンチカリン(WO2003/029462)、ならびに、ヤツメウナギまたはヌタウナギなどの無顎脊椎動物の獲得免疫系において見られるような、免疫グロブリン構造を有しない可変リンパ球受容体(VLR)の繰り返されたロイシンリッチリピート(LRR)モジュールからなる馬蹄形の内部平行シート構造におけるくぼんだ領域(WO2008/016854)などの、抗原結合ポリペプチドであってもよい。
【0053】
本発明における上記のような「第1の抗原に結合する第1の部分」に属するポリペプチドまたはその一部分の一態様には、細胞上に発現している細胞膜タンパク質(例えば、受容体)またはその一部分(例えば、細胞外ドメイン、その任意の固有ドメイン)が含まれるが、それらに限定されない。本発明における「第1の抗原に結合する第1の部分」に属する受容体またはその一部分の1つの代表には、スカベンジャー受容体、toll様受容体(TLR)、樹状細胞上に発現しているClec9AなどのC型レクチン(CLEC)、NOD様受容体(NLR)(J Biol Chem. 2014 Dec 19;289(51):35237-45)など、またはその一部分が含まれるが、それらに限定されない。本発明における「第1の抗原に結合する第1の部分」の好ましい態様のうちの1つは、樹状細胞(DC)上に発現しているC型レクチンであり、細胞骨格形成フィラメントであるF-アクチンの複合体に、細胞死によりF-アクチン複合体が細胞外環境に曝される時に結合する、Clec9Aである。本発明において、本発明における「第1の抗原に結合する第1の部分」には、Clec9A(GenBank:NP_001192292.1)のポリペプチド全体、任意のアミノ酸長を有する細胞外ドメイン(ECD)、C型レクチンドメイン(CTLD)、または任意の一部分が含まれるが、それらに限定されない。
【0054】
第2の抗原に結合する第2の部分
本発明において、「第1の抗原に結合する第1の部分および第2の抗原に結合する第2の部分を含む分子」の「第2の部分」は、上記のような「第1の抗原」とは異なる「第2の抗原」に結合する。「第2の抗原」は、第1の抗原とは異なる限り、任意の抗原であってもよい。本発明において、「第2の抗原」はまた、「第1の抗原に結合する第1の部分および第2の抗原に結合する第2の部分を含む分子」の「第2の部分」によって標的とされる「標的分子」とも呼ばれる。本発明における分子の「第2の部分」による「第2の抗原」のターゲティング時に、標的分子、すなわち「第2の抗原」は、示される疾患についての望ましい転帰、例えば、感染症もしくはがんと闘うための免疫活性化、自己免疫疾患および/もしくはサイトカイン放出症候群(CRS)のための免疫抑制、がんの細胞増殖の直接阻害、または組織ダメージ後の細胞再生の促進をもたらす。
【0055】
本発明において、免疫活性化標的の1つの一般的な態様には、病原体、感染細胞、または形質転換細胞の排除のために細胞傷害性機能またはTヘルパー機能を活性化することを結果としてもたらす、T細胞上に発現しているCD3(「CDε」)、CD4、CD8、CD28、OX40、4-1BB、およびT細胞受容体(TCR)が含まれるが、それらに限定されない。標的分子(すなわち、「第2の抗原」)はまた、抗原提示細胞(APC)上に発現していてもよく、樹状細胞(DC)上のXCR1、Clec9A、DEC-205、DCIR2、TLR3、TLR5、Flt3を含む。DCの活性化は、細胞傷害性T細胞およびヘルパーT細胞を含む適応免疫細胞型のプライミングおよび活性化を通して、病原体およびがん細胞の排除を間接的にもたらし得る。適例は、細胞傷害性T細胞のより効果的な活性化のための抗原交差提示および共刺激能力の増強を通した、抗腫瘍効果のためのCD40アゴニストによるCD40のターゲティング(ESMO Open. 2019; 4(Suppl 3): e000510)であろう。さらに、より強い抗原プロセシング免疫細胞プライミング能をもたらす相乗効果は、DCによってまた発現される、ポリイノシン酸:ポリシチジル酸(ポリIC)感知受容体であるTLR3の並行活性化で達成することができる(J Clin Invest. 2018;128(10): 4387-4396)。他の場合には、例えば、腫瘍細胞に対する免疫応答の抑制を阻止するためにT細胞上のCTLA-4、PD-1、LAG-3、TIM-3、VISTAをアンタゴナイズする、標的分子の阻害が望ましいことがある。標的とされる分子(すなわち、「第2の抗原」)はまた、ナチュラルキラー細胞、マクロファージ、好中球などの他の免疫細胞型の上または中に発現している任意の分子、およびそれらの対応する活性化受容体または抑制受容体であってもよい。がん細胞上の発癌性受容体、または形質転換細胞もしくは感染細胞上の免疫回避分子もまた、標的とされてもよい(すなわち、「第2の抗原」)。
【0056】
本発明において、上記で簡単に説明された「第2の抗原」には、細胞における細胞膜および/またはエンドソーム膜上に発現している膜タンパク質が含まれるが、それらに限定されない。「第2の部分」が結合する膜タンパク質(すなわち、第2の抗原)の一態様には、T細胞、キラー細胞、ヘルパーT細胞、制御性T細胞、B細胞、メモリーB細胞、NK細胞、NKT細胞、樹状細胞、マクロファージ、好酸球、好中球細胞、および好塩基球などの免疫細胞の細胞膜および/またはエンドソーム上に発現している、細胞においてシグナル伝達に関与する膜タンパク質が含まれるが、それらに限定されない。「第2の部分」が結合する膜タンパク質(すなわち、第2の抗原)のさらなる一態様には、腫瘍細胞または自己反応性細胞上に発現している膜タンパク質が含まれるが、それらに限定されない。
【0057】
本発明において、上記のような「第2の抗原」に属する膜タンパク質には、CD28(TP44)、CD278(ICOS)、CD27(TNFRSF-7)、CD30、CD134(OX40)、CD357(GITR). Tim-2、CD28H(TMIGD2)、CD137(4-1BB、TNFRSF-9)、CD226(DNAM-1)、もしくはCD244(2B4)などの共刺激分子;またはCD279(PD-1)、CD152(CTLA-4)、TIGIT、BTLA、CD366(Tim-3)、CD96、CD112R、もしくはCD200Rなどの共抑制分子;またはCD274(PD-L1)、CD273(PD-L2)、CD80、CD86、CD276(ICOSL)、CD276(VICN1)、VISTA、HHLA2、ブチロフィリンファミリーメンバーのメンバー、CD270(HVEM)、CD137L(TNFSF-9)、CD252(OX40L)、CD70(TNFSF-7)、CD40(TNFRSF-7)、GIRL(TNFSF-18)、CD155(PVR、NECL5)、CD112(NECTIN-2)、CD200(MOX1)、CD48(BCM-1)、もしくはGal-9などの共刺激分子もしくは共抑制分子が含まれるが、それらに限定されない。
【0058】
上記のような「第2の抗原」に属する膜タンパク質のさらなる態様には、CCR、CCR1、CCR10、CCR10、CCR2、CCR3、CCR4、CCR5、CCR6、CCR7、CCR8、CCR9、CD1、CD2、CD3(例えば、CD3ε)、CD4、CD5、CD6、CD7、CD8、CD10、CD11a、CD11b、CD11c、CD13、CD14、CD15、CD16、CD18、CD19、CD20、CD21、CD22、CD23、CD25、CD27L、CD29、CD30L、CD32、CD33(p67タンパク質)、CD34、CD38、CD40L、CD44、CD45、CD46、CD49a、CD52、CD54、CD55、CD56、CD61、CD64、CD66e、CD74、CD89、CD95、CD123、CD137、CD138、CD140a、CD146、CD147、CD148、CD152、CD164、CEACAM5、CFTR、CXCR、CXCR1、CXCR2、CXCR3、CXCR4、CXCR5、CXCR6;線維芽細胞活性化タンパク質(FAP)、Fas、サイトカイン受容体、例えばIL-1R、IL-2R、IL-4R、IL-5R、IL-6R、IL-10R、IL-12R、IL-15R、IL-17R、IL-18R、IL-20R、またはIL-31R;インテグリンファミリー、例えばα1β1(VLA-1)、α2β1(VLA-2)、α3β1(VLA-3)、α4β1(VLA-4)、α5β1(VLA-5)、α6β1(VLA-6)、α7β1、α8β1、α9β1、α11bβ3(GPIIb/IIIa)、αVβ1、αVβ3、αVβ5、αVβ6、αVβ8、αLβ2(LFA-1)、αMβ2(Mac-1)、αXβ2、αDβ2、α4β7;TNF-RI、TNF-RII、TNFRSF10A(TRAIL R1 Apo-2、DR4)、TNFRSF10B(TRAIL R2 DR5、KILLER、TRICK-2A、TRICK-B)、TNFRSF10C(TRAIL R3 DcR1、LIT、TRID)、TNFRSF10D(TRAIL R4DcR2、TRUNDD)、TNFRSF11A(RANK ODF R、TRANCE R)、TNFRSF11B(OPG OCIF、TR1)、TNFRSF12(TWEAK R FN14)、TNFRSF13B(TACI)、TNFRSF13C(BAFF R)、TNFRSF14(HVEM ATAR、HveA、LIGHT R、TR2)、TNFRSF16(NGFR p75NTR)、TNFRSF17(BCMA)、TNFRSF18(GITR AITR)、TNFRSF19(TROY TAJ、TRADE)、TNFRSF19L(RELT)、TNFRSF1A(TNF RI CD120a、p55-60)、TNFRSF1B(TNF RII CD120b、p75-80)、TNFRSF26(TNFRH3)、TNFRSF3(LTbR TNF RIII、TNFC R)、TNFRSF4(OX40 ACT35、TXGP1 R)、TNFRSF6(Fas Apo-1、APT1、CD95)、TNFRSF6B(DcR3 M68、TR6)、TNFRSF7(CD27)、TNFRSF8(CD30)、TNFRSF9(4-1BB CD137、ILA)、TNFRSF21(DR6)、TNFRSF22(DcTRAIL R2 TNFRH2)、TNFRST23(DcTRAIL R1 TNFRH1)、TNFRSF25(DR3 Apo-3、LARD、TR-3、TRAMP、WSL-1)、TLR(Toll様受容体)1、TLR2、TLR3、TLR4、TLR5、TLR6、TLR7、TLR8、TLR9、およびTLR10が含まれるが、それらに限定されない。
【0059】
本発明において、「第2の抗原」にはまた、上記のような膜タンパク質に結合し得る可溶性タンパク質が含まれるが、それらに限定されない。本発明において、「第2の抗原」に属する可溶性タンパク質には、IL-1、IL-2、IL-4、Il-5、IL-6、IL-8、IL-9、IL-10、IL-12、IL-13、IL-15、IFNβ、IFNγ、Il-18、IL21、IL-23、およびIL-27などのサイトカインが含まれるが、それらに限定されない。
【0060】
本発明において、「第2の抗原」に属する可溶性タンパク質には、さらに、以下の分子または該分子の任意の可溶型(例えば、膜タンパク質の切断型)が含まれるが、それらに限定されない:17-IA、4-1BB、4Dc、6-keto-PGF1a、8-iso-PGF2a、8-oxo-dG、A1アデノシン受容体、A33、ACE、ACE-2、アクチビン、アクチビンA、アクチビンAB、アクチビンB、アクチビンC、アクチビンRIA、アクチビンRIA ALK-2、アクチビンRIBALK-4、アクチビンRIIA、アクチビンRIIB、ADAM、ADAM10、ADAM12、ADAM15、ADAM17/TACE、ADAM8、ADAM9、ADAMTS、ADAMTS4、ADAMTS5、アドレシン(addressin)、aFGF、ALCAM、ALK、ALK-1、ALK-7、α-1-アンチトリプシン、α-V/β-1アンタゴニスト、ANG、Ang、APAF-1、APE、APJ、APP、APRIL、AR、ARC、ART、アルテミン(artemin)、抗Id、ASPARTIC、心房性ナトリウム利尿因子、av/b3インテグリン、Axl、b2M、B7-1、B7-2、B7-H、Bリンパ球刺激因子(BlyS)、BACE、BACE-1、Bad、BAFF、BAFF-R、Bag-1、BAK、Bax、BCA-1、BCAM、Bcl、BCMA、BDNF、b-ECGF、bFGF、BID、Bik、BIM、BLC、BL-CAM、BLK、BMP、BMP-2 BMP-2a、BMP-3オステオゲニン(osteogenin)、BMP-4 BMP-2b、BMP-5、BMP-6 Vgr-1、BMP-7(OP-1)、BMP-8(BMP-8a、OP-2)、BMPR、BMPR-IA(ALK-3)、BMPR-IB(ALK-6)、BRK-2、RPK-1、BMPR-II(BRK-3)、BMP、b-NGF、BOK、ボンベシン、骨由来神経栄養因子、BPDE、BPDE-DNA、BTC、補体因子3(C3)、C3a、C4、C5、C5a、C10、CA125、CAD-8、カルシトニン、cAMP、癌胎児性抗原(CEA)、がん関連抗原、カテプシンA、カテプシンB、カテプシンC/DPPI、カテプシンD、カテプシンE、カテプシンH、カテプシンL、カテプシンO、カテプシンS、カテプシンV、カテプシンX/Z/P、CBL、CCI、CCK2、CCL、CCL1、CCL11、CCL12、CCL13、CCL14、CCL15、CCL16、CCL17、CCL18、CCL19、CCL2、CCL20、CCL21、CCL22、CCL23、CCL24、CCL25、CCL26、CCL27、CCL28、CCL3、CCL4、CCL5、CCL6、CCL7、CCL8、CCL9/10、CCR、CCR1、CCR10、CCR10、CCR2、CCR3、CCR4、CCR5、CCR6、CCR7、CCR8、CCR9、CD1、CD2、CD3、CD3E、CD4、CD5、CD6、CD7、CD8、CD10、CD11a、CD11b、CD11c、CD13、CD14、CD15、CD16、CD18、CD19、CD20、CD21、CD22、CD23、CD25、CD27L、CD28、CD29、CD30、CD30L、CD32、CD33(p67タンパク質)、CD34、CD38、CD40、CD40L、CD44、CD45、CD46、CD49a、CD52、CD54、CD55、CD56、CD61、CD64、CD66e、CD74、CD80(B7-1)、CD89、CD95、CD123、CD137、CD138、CD140a、CD146、CD147、CD148、CD152、CD164、CEACAM5、CFTR、cGMP、CINC、ボツリヌス毒素、ウェルシュ菌(Clostridium perfringens)毒素、CKb8-1、CLC、CMV、CMV UL、CNTF、CNTN-1、COX、C-Ret、CRG-2、CT-1、CTACK、CTGF、CTLA-4、PD-1、PD-L1、LAG3、TIM3、ガレクチン-9、CX3CL1、CX3CR1、CXCL、CXCL1、CXCL2、CXCL3、CXCL4、CXCL5、CXCL6、CXCL7、CXCL8、CXCL9、CXCL10、CXCL11、CXCL12、CXCL13、CXCL14、CXCL15、CXCL16、CXCR、CXCR1、CXCR2、CXCR3、CXCR4、CXCR5、CXCR6、サイトケラチン腫瘍関連抗原、DAN、DCC、DcR3、DC-SIGN、崩壊促進因子、des(1-3)-IGF-I(脳IGF-1)、Dhh、ジゴキシン、DNAM-1、Dnase、Dpp、DPPIV/CD26、Dtk、ECAD、EDA、EDA-A1、EDA-A2、EDAR、EGF、EGFR (ErbB-1)、EMA、EMMPRIN、ENA、エンドセリン受容体、エンケファリナーゼ、eNOS、Eot、エオタキシン1、EpCAM、エフリンB2/EphB4、ePO、ERCC、E-セレクチン、ET-1、第IIa因子、第VII因子、第VIIIc因子、第IX因子、線維芽細胞活性化タンパク質(FAP)、Fas、FcR1、FEN-1、フェリチン、FGF、FGF-19、FGF-2、FGF3、FGF-8、FGFR、FGFR-3、フィブリン、FL、FLIP、Flt-3、Flt-4、卵胞刺激ホルモン、フラクタルカイン、FZD1、FZD2、FZD3、FZD4、FZD5、FZD6、FZD7、FZD8、FZD9、FZD10、G250、Gas6、GCP-2、GCSF、GD2、GD3、GDF、GDF-1、GDF-3(Vgr-2)、GDF-5(BMP-14、CDMP-1)、GDF-6(BMP-13、CDMP-2)、GDF-7(BMP-12、CDMP-3)、GDF-8(ミオスタチン)、GDF-9、GDF-15(MIC-1)、GDNF、GDNF、GFAP、GFRa-1、GFR-α1、GFR-α2、GFR-α3、gITR、グルカゴン、Glut4、糖タンパク質IIb/IIIa(GPIIb/IIIa)、GM-CSF、gp130、gp72、GRO、成長ホルモン放出因子、ハプテン(NP-capもしくはNIP-cap)、HB-EGF、HCC、HCMV gBエンベロープ糖タンパク質、HCMV gHエンベロープ糖タンパク質、HCMV UL、造血成長因子(HGF)、Hep B gp120、ヘパラナーゼ、Her2、Her2/neu(ErbB-2)、Her3(ErbB-3)、Her4(ErbB-4)、単純ヘルペスウイルス(HSV)gB糖タンパク質、HSV gD糖タンパク質、HGFA、高分子量メラノーマ関連抗原(HMW-MAA)、HIV gp120、HIV IIIB gp 120 V3ループ、HLA、HLA-DR、HM1.24、HMFG PEM、HRG、Hrk、ヒト心臓ミオシン、ヒトサイトメガロウイルス(HCMV)、ヒト成長ホルモン(HGH)、HVEM、I-309、IAP、ICAM、ICAM-1、ICAM-3、ICE、ICOS、IFNg、Ig、IgA受容体、IgE、IGF、IGF結合タンパク質、IGF-1R、IGFBP、IGF-I、IGF-II、IL、IL-1、IL-1R、IL-2、IL-2R、IL-4、IL-4R、IL-5、IL-5R、IL-6、IL-6R、IL-8、IL-9、IL-10、IL-12、IL-13、IL-15、IL-18、IL-18R、IL-21、IL-23、IL-27、インターフェロン(INF)-α、INF-β、INF-γ、インヒビン、iNOS、インシュリンA鎖、インシュリンB鎖、インシュリン様成長因子1、インテグリンα2、インテグリンα3、インテグリンα4、インテグリンα4/β1、インテグリンα4/β7、インテグリンα5(αV)、インテグリンα5/β1、インテグリンα5/β3、インテグリンα6、インテグリンβ1、インテグリンβ2、インターフェロンγ、IP-10、I-TAC、JE、カリクレイン2、カリクレイン5、カリクレイン6、カリクレイン11、カリクレイン12、カリクレイン14、カリクレイン15、カリクレインL1、カリクレインL2、カリクレインL3、カリクレインL4、KC、KDR、ケラチノサイト増殖因子(KGF)、ラミニン5、LAMP、LAP、LAP(TGF-1)、潜在型(latent)TGF-1、潜在型TGF-1 bp1、LBP、LDGF、LECT2、レフティー(lefty)、Lewis-Y抗原、Lewis-Y関連抗原、LFA-1、LFA-3、Lfo、LIF、LIGHT、リポタンパク質、LIX、LKN、Lptn、L-セレクチン、LT-a、LT-b、LTB4、LTBP-1、肺表面(lung surface)、黄体形成ホルモン、リンホトキシンβ受容体、Mac-1、MAdCAM、MAG、MAP2、MARC、MCAM、MCAM、MCK-2、MCP、M-CSF、MDC、Mer、メタロプロテアーゼ、MGDF受容体、MGMT、MHC(HLA-DR)、MIF、MIG、MIP、MIP-1-α、MK、MMAC1、MMP、MMP-1、MMP-10、MMP-11、MMP-12、MMP-13、MMP-14、MMP-15、MMP-2、MMP-24、MMP-3、MMP-7、MMP-8、MMP-9、MPIF、Mpo、MSK、MSP、ムチン(Muc1)、MUC18、ミュラー管抑制物質、Mug、MuSK、NAIP、NAP、NCAD、N-カドヘリン、NCA 90、NCAM、NCAM、ネプリライシン、ニューロトロフィン-3、-4、もしくは-6、ニュールツリン(neurturin)、神経成長因子(NGF)、NGFR、NGF-β、nNOS、NO、NOS、Npn、NRG-3、NT、NTN、OB、OGG1、OPG、OPN、OSM、OX40L、OX40R、p150、p95、PADPr、副甲状腺ホルモン、PARC、PARP、PBR、PBSF、PCAD、P-カドヘリン、PCNA、PDGF、PDGF、PDK-1、PECAM、PEM、PF4、PGE、PGF、PGI2、PGJ2、PIN、PLA2、胎盤アルカリホスファターゼ(PLAP)、PlGF、PLP、PP14、プロインシュリン、プロリラキシン(prorelaxin)、プロテインC、PS、PSA、PSCA、前立腺特異的膜抗原(PSMA)、PTEN、PTHrp、Ptk、PTN、R51、RANK、RANKL、RANTES、RANTES、リラキシンA鎖、リラキシンB鎖、レニン、呼吸器合胞体ウイルス(RSV)F、RSV Fgp、Ret、リウマチ因子、RLIP76、RPA2、RSK、S100、SCF/KL、SDF-1、SERINE、血清アルブミン、sFRP-3、Shh、SIGIRR、SK-1、SLAM、SLPI、SMAC、SMDF、SMOH、SOD、SPARC、Stat、STEAP、STEAP-II、TACE、TACI、TAG-72(腫瘍関連糖タンパク質-72)、TARC、TCA-3、T細胞受容体(例えば、T細胞受容体α/β)、TdT、TECK、TEM1、TEM5、TEM7、TEM8、TERT、精巣PLAP様アルカリホスファターゼ、TfR、TGF、TGF-α、TGF-β、TGF-βPan Specific、TGF-βRI(ALK-5)、TGF-βRII、TGF-βRIIb、TGF-βRIII、TGF-β1、TGF-β2、TGF-β3、TGF-β4、TGF-β5、トロンビン、胸腺Ck-1、甲状腺刺激ホルモン、Tie、TIMP、TIQ、組織因子、TMEFF2、Tmpo、TMPRSS2、TNF、TNF-α、TNF-α/β、TNF-β2、TNFc、TNF-RI、TNF-RII、TNFRSF10A(TRAIL R1 Apo-2、DR4)、TNFRSF10B(TRAIL R2 DR5、KILLER、TRICK-2A、TRICK-B)、TNFRSF10C(TRAIL R3 DcR1、LIT、TRID)、TNFRSF10D(TRAIL R4 DcR2、TRUNDD)、TNFRSF11A(RANK ODF R、TRANCE R)、TNFRSF11B(OPG OCIF、TR1)、TNFRSF12(TWEAK RFN14)、TNFRSF13B(TACI)、TNFRSF13C(BAFF R)、TNFRSF14(HVEM ATAR、HveA、LIGHT R、TR2)、TNFRSF16(NGFR p75NTR)、TNFRSF17(BCMA)、TNFRSF18(GITRAITR)、TNFRSF19(TROY TAJ、TRADE)、TNFRSF19L(RELT)、TNFRSF1A(TNF RICD120a、p55-60)、TNFRSF1B(TNF RII CD120b、p75-80)、TNFRSF26(TNFRH3)、TNFRSF3(LTbR TNF RIII、TNFC R)、TNFRSF4(OX40 ACT35、TXGP1 R)、TNFRSF5(CD40 p50)、TNFRSF6(Fas Apo-1、APT1、CD95)、TNFRSF6B(DcR3 M68、TR6)、TNFRSF7(CD27)、TNFRSF8(CD30)、TNFRSF9(4-1BB CD137、ILA)、TNFRSF21(DR6)、TNFRSF22(DcTRAIL R2 TNFRH2)、TNFRST23(DcTRAIL R1 TNFRH1)、TNFRSF25(DR3 Apo-3、LARD、TR-3、TRAMP、WSL-1)、TNFSF10(TRAIL Apo-2リガンド、TL2)、TNFSF11(TRANCE/RANKリガンドODF、OPGリガンド)、TNFSF12(TWEAK Apo-3リガンド、DR3リガンド)、TNFSF13(APRIL TALL2)、TNFSF13B(BAFF BLYS、TALL1、THANK、TNFSF20)、TNFSF14(LIGHT HVEMリガンド、LTg)、TNFSF15(TL1A/VEGI)、TNFSF18(GITRリガンド、AITRリガンド、TL6)、TNFSF1A(TNF-aコネクチン(Conectin)、DIF、TNFSF2)、TNFSF1B(TNF-b LTa、TNFSF1)、TNFSF3(LTb TNFC、p33)、TNFSF4(OX40リガンドgp34、TXGP1)、TNFSF5(CD40リガンドCD154、gp39、HIGM1、IMD3、TRAP)、TNFSF6(Fasリガンド、Apo-1リガンド、APT1リガンド)、TNFSF7(CD27リガンドCD70)、TNFSF8(CD30リガンドCD153)、TNFSF9(4-1BBリガンド、CD137リガンド)、TP-1、t-PA、Tpo、TRAIL、TRAIL R、TRAIL-R1、TRAIL-R2、TRANCE、トランスフェリン受容体、TRF、Trk、TROP-2、TLR(toll様受容体)1、TLR2、TLR3、TLR4、TLR5、TLR6、TLR7、TLR8、TLR9、TLR10、TSG、TSLP、腫瘍関連抗原CA125、腫瘍関連抗原発現Lewis-Y関連炭水化物、TWEAK、TXB2、Ung、uPAR、uPAR-1、ウロキナーゼ、VCAM、VCAM-1、VECAD、VE-カドヘリン、VE-カドヘリン-2、VEFGR-1(flt-1)、VEGF、VEGFR、VEGFR-3(flt-4)、VEGI、VIM、ウイルス抗原、VLA、VLA-1、VLA-4、VNRインテグリン、フォン・ウィルブランド因子、WIF-1、WNT1、WNT2、WNT2B/13、WNT3、WNT3A、WNT4、WNT5A、WNT5B、WNT6、WNT7A、WNT7B、WNT8A、WNT8B、WNT9A、WNT9A、WNT9B、WNT10A、WNT10B、WNT11、WNT16、XCL1、XCL2、XCR1、XCR1、XEDAR、XIAP、XPD、HMGB1、IgA、CD81、CD97、CD98、DDR1、DKK1、EREG、Hsp90、IL-17/IL-17R、IL-20/IL-20R、酸化LDL、PCSK9、プレカリクレイン、RON、TMEM16F、SOD1、クロモグラニンA、クロモグラニンB、tau、VAP1、高分子量キニノゲン、IL-31、IL-31R、Nav1.1、Nav1.2、Nav1.3、Nav1.4、Nav1.5、Nav1.6、Nav1.7、Nav1.8、Nav1.9、EPCR、C1、C1q、C1r、C1s、C2、C2a、C2b、C3、C3a、C3b、C4、C4a、C4b、C5、C5a、C5b、C6、C7、C8、C9、B因子、D因子、H因子、プロペルジン(properdin)、スクレロスチン、フィブリノーゲン、フィブリン、プロトロンビン、トロンビン、組織因子、第V因子、第Va因子、第VII因子、第VIIa因子、第VIiI因子、第VIIIa因子、第IX因子、第IXa因子、第X因子、第Xa因子、第XI因子、第XIa因子、第XII因子、第XIIa因子、第XIII因子、第XIIIa因子、TFPI、アンチトロンビンIII、EPCR、トロンボモジュリン、TAPI、tPA、プラスミノーゲン、プラスミン、PAI-1、PAI-2、GPC3、シンデカン-1、シンデカン-2、シンデカン-3、シンデカン-4、LPA、S1P、およびホルモンまたは増殖因子に対する受容体。
【0061】
上記で列記された分子の例にはまた、受容体(膜タンパク質)も含まれるが、これらの受容体(膜タンパク質)は、体液中に可溶型で(例えば、切断型として)存在していても、本発明における「第2の部分」が結合する「第2の抗原」(標的分子)として用いることができる。そのような受容体(膜タンパク質)の可溶型の1つの非限定的な例には、Mullberg et al. (J. Immunol. (1994) 152 (10), 4958-4968)によって記載されているような、可溶性IL-6Rによって表されるタンパク質が含まれ得る。
【0062】
本発明において、「第2の抗原」が可溶性タンパク質、例えば、IL-6である場合、本発明の第1の部分および第2の部分を含む分子は、分子の第1の部分を介して死細胞由来分子(すなわち、第1の抗原)、例えば、F-アクチン複合体に結合し、かつ分子の第2の部分を介してIL-6(すなわち、第2の抗原)に結合して、より具体的には細胞死により死細胞由来分子が非罹患組織におけるよりも発生している場所である、罹患組織においてIL-6を中和する。IL-6の中和時には、免疫細胞によって引き起こされる免疫応答が、間接的に制御される。
【0063】
本発明において、上記のような「第2の抗原」に結合する「第2の部分」は、上記のような「第2の抗原」に結合する限り、任意の構造を有してもよい。「第2の部分」の構造には、ポリペプチドもしくはその一部分、または小さなもしくは中程度の化学化合物もしくはその一部分、またはポリヌクレオチドもしくはその一部分が含まれ得るが、それらに限定されない。ポリペプチドまたはその一部分には、抗体(ヒト抗体、キメラ抗体、ヒト化抗体、およびVHH抗体を含むがそれらに限定されない)または抗原結合ドメイン(抗体の一部分、一部、もしくは断片とも呼ばれる)が含まれるが、それらに限定されない。抗体の抗原結合ドメインには、抗体重鎖可変(VH)領域、抗体軽鎖可変(VL)領域(好ましくは、抗体重鎖可変(VH)領域と抗体軽鎖可変(VL)領域との組み合わせ)、シングルドメイン抗体(sdAb)、一本鎖Fv(scFv)、一本鎖抗体、Fv、一本鎖Fv2(scFv2)、Fab、およびF(ab')2が含まれるが、それらに限定されない。
【0064】
第1の抗原に結合する第1の部分および第2の抗原に結合する第2の部分を含む分子
本発明において、「第1の抗原に結合する第1の部分および第2の抗原に結合する第2の部分を含む分子」の一態様には、流れ特性を有する分子が含まれるが、それらに限定されない。
【0065】
i. 「第1の抗原に結合する第1の分子」がFc領域にコンジュゲートされており、かつ2つのFabのうちの少なくとも1つが「第2の抗原」に結合する、抗体。この態様の模式的な一例は、
図2に示す通りである。あるいは、「第1の抗原に結合する第1の部分」は、Fc領域へのコンジュゲーションの代わりに、またはそれに加えて、Fabアームのうちの1つにコンジュゲートされてもよい。さらに、2つよりも多い「第1の抗原に結合する第1の部分」が、Fc領域にコンジュゲートされてもよい。本発明の分子の態様のさらなる種々の例を、
図3に模式的に図解する。2つのFabアームを、
図3に図解するような種々の形式で、Fc領域にコンジュゲートすることができる。この態様において、「第1の抗原に結合する第1の部分」の一例は、Clec9AまたはVHHの全体または一部分である。
【0066】
ii. 1つのFabアームが「第1の抗原」に結合し、かつもう1つのFabアームが「第2の抗原」に結合する、抗体。この態様の一例は、1つのFabアームが、上記のような死細胞由来分子(例えば、F-アクチン複合体)に結合し、かつもう1つのFabアームが、細胞(例えば、免疫細胞、がん細胞、自己反応性細胞)の細胞膜上に発現している膜タンパク質に結合する、二重特異性抗体または二重特異性抗原結合ドメインであり得る。この例における抗体または抗体様分子は、
図3に図解するような種々の形式を有することができる。
【0067】
iii. 「第1の抗原に結合する第1の部分」および「第2の抗原に結合する第2の部分」を含むポリペプチドであって、第1の部分および第2の部分が、リンカーを伴ってまたは伴わずに融合している、ポリペプチド。この態様の一例は、Clec9Aの細胞外ドメイン、および細胞(例えば、免疫細胞、がん細胞、自己反応性細胞)の細胞膜上に発現している任意の膜タンパク質に対するリガンドを含む、融合タンパク質である。
【0068】
iv. 「第1の抗原に結合する第1の部分」および「第2の抗原に結合する第2の部分」を含む、化学化合物。この態様の一例は、少なくとも2つの部分を含む化学化合物であって、1つの部分が、上記のような死細胞由来分子(例えば、F-アクチン複合体、ヒストンと核酸との複合体であるヌクレオソーム)に結合し、かつ他の部分アームが、細胞(例えば、免疫細胞、がん細胞、自己反応性細胞)の細胞膜上に発現している膜タンパク質に結合する、化合物であり得る。そのような化学化合物は、バイオコンジュゲート技法(Greg T. HermansonによるBioconjugate Techniques, 3rd Edition, 2013)を用いることによって実施され得る。例えば、「第1の抗原」が、ヒストンと核酸との複合体であるヌクレオソームであり、かつ「第2の抗原」が、mTOR(ラパマイシン標的タンパク質(mechanistic Target Of Rapamycin))である場合、化学化合物は、核酸に結合する「第1の部分」としてのジスタマイシン、およびmTORに結合する「第2の部分」としてのラパマイシンを含み、かつさらに光反応性基(例えば、アリールアジド、ジアジリン、ソラレン)を含む、化合物であってもよい。化合物による光(photo)(光(light))エネルギーの受領時に、第1の抗原と第2の抗原とが化合物によって架橋され、細胞膜上の第2の抗原に対する第2の部分の滞在が、細胞中にシグナル伝達またはシグナル遮断を与える。
【0069】
シグナル伝達またはシグナル遮断を与える
本発明において、「第1の抗原に結合する第1の部分および第2の抗原に結合する第2の部分を含む分子」によって細胞中に「シグナル伝達またはシグナル遮断を与える」ことは、細胞中への調節、例えば、アゴニスト活性、アンタゴニスト活性、アロステリック調節、アロステリック調節、コンフォメーション変化、内部移行、安定化、または標的分子(すなわち、第2の抗原)が本発明の分子によって影響を受けるものを何でも提供することによって、達成され得る。
【0070】
罹患組織
本発明において、用語「罹患組織」は、正常組織のものとは異なり、疾患に固有である任意の状態または特徴が見出される組織を意味する。罹患組織の一例には、腫瘍組織、炎症性組織、自己免疫疾患に関連する組織などが含まれるが、それらに限定されない。そのような罹患組織において、上記のような細胞死は、正常組織よりも頻繁に起こって、上記のような死細胞由来分子を生成する。
【0071】
腫瘍組織
本発明において、用語「腫瘍組織」は、少なくとも1つの腫瘍細胞を含む組織を意味する。通常、腫瘍組織は、腫瘍本体を構成する腫瘍細胞の集団(実質)、ならびに腫瘍細胞間に存在し、腫瘍を支持する結合組織および血管(間質)でできている。場合によっては、これらは明らかに区別可能であるが、これらが混同している場合もある。場合によっては、腫瘍組織中に浸潤した免疫細胞などの細胞が存在する。対照的に、「非腫瘍組織」は、腫瘍組織以外の生体における組織を意味する。疾患を有しない健常組織/正常組織が、そのような非腫瘍組織の代表である。
【0072】
炎症性組織
本発明において、「炎症性組織」には、以下が含まれるが、それらに限定されない。
i. 関節リウマチまたは変形性関節炎に関連する関節組織。
ii. 気管支喘息に関連する肺組織。
iii. 炎症性腸疾患、クローン病、または潰瘍性大腸炎に関連する消化器組織。
iv. 肝臓、腎臓、または肺における線維症に関連する線維性組織。
v. 臓器移植による免疫拒絶に関連する組織。
vi. 動脈硬化または心不全に関連する血管組織または心臓組織。
vii. メタボリックシンドロームに関連する内臓脂肪組織。
viii. アトピー性皮膚炎または任意の他の皮膚炎に関連する皮膚組織。
ix. 椎間板ヘルニアまたは慢性背痛に関連する脊髄神経組織。
x. 骨折に関連する骨組織。
xi. 火傷に関連する組織。
xii. 機械的、物理的、または化学的な外力によって損傷を受けた臓器組織の組織。
【0073】
複数の分子の多量体化によって形成される抗原
本発明において、記載されるような「第1の抗原」の一態様には、「複数の分子の多量体化によって形成される抗原」が含まれるが、それらに限定されない。本発明において、「複数の分子の多量体化によって形成される抗原」には、細胞骨格、細胞膜などの生体膜、ヌクレオソーム、シャペロン分子などを構成する、複数のタンパク質もしくはその一部分および/または脂質の多量体化によって形成される抗原が含まれるが、それらに限定されない。
【0074】
タンパク質またはその一部分には、アクチンフィラメント、中間径フィラメント、ミオシンフィラメント、ケラチンフィラメント、微小管などで構成される、細胞骨格を構成するタンパク質またはその一部分が含まれるが、それらに限定されない。細胞膜などの生体膜は、異なるタンパク質、異なる脂質、ならびに/または1つもしくは複数のタンパク質および1つもしくは複数の脂質によって形成される、種々の複合体で構成されている。そのようなタンパク質には、イオンチャネル、Gタンパク質共役受容体(GPCR)、プロトンポンプなどの膜貫通タンパク質、Gタンパク質などのような脂質アンカータンパク質、および酵素、ホルモンなどのような表在性膜タンパク質が含まれるが、それらに限定されない。脂質には、リン脂質、糖脂質、ステロールなどが含まれるが、それらに限定されない。上記のように、がん、炎症、自己免疫疾患などに関連する組織などの罹患組織において、細胞死により、細胞膜などの生体膜におけるタンパク質および/または脂質のそのような複合体、またはその一部分は、細胞外環境に曝される。そのような複合体またはその一部分もまた、上記のような「第1の抗原」(死細胞由来分子とも呼ばれる)として含まれる。
【0075】
ヌクレオソームは、ヒストンと核酸との複合体であり、シャペロン分子は、主に熱ショックタンパク質(HSP)で構成されている。それらもまた、「第1の抗原」(死細胞由来分子とも呼ばれる)として含まれる。
【0076】
「第2の抗原」としての膜タンパク質が発現している細胞
本発明において、上記のように、「第2の抗原」には、細胞においてシグナル伝達に関与する、細胞膜および/またはエンドソーム膜上に発現している膜タンパク質が含まれるが、それらに限定されない。本発明において、「第2の抗原」としての膜タンパク質が発現しているそのような細胞は、免疫細胞(T細胞、キラー細胞、ヘルパーT細胞、制御性T細胞、B細胞、メモリーB細胞、NK細胞、NKT細胞、樹状細胞、マクロファージ、好酸球、好中球細胞、および好塩基球など)、体細胞(例えば、上皮細胞、線維芽細胞、間質細胞、骨細胞、筋肉細胞、神経細胞、血液細胞など)、生殖細胞、または罹患したもしくは異常な細胞(例えば、腫瘍細胞、自己反応性細胞)を含むがそれらに限定されない、任意の種類のまたは任意のタイプの細胞であってもよい。そのような細胞は、上皮組織、筋肉組織、神経組織、結合組織、またはがん、炎症、および自己免疫疾患などに関連する罹患組織を含むがそれらに限定されない、任意の組織に位置し得る。「第2の抗原」(標的分子とも呼ばれる)が発現している細胞の好ましい態様は、T細胞、キラー細胞、ヘルパーT細胞、制御性T細胞、B細胞、メモリーB細胞、NK細胞、NKT細胞、樹状細胞、マクロファージ、好酸球、好中球細胞、および好塩基球などの免疫細胞であり得る。「第2の抗原」(標的分子とも呼ばれる)が発現している細胞の他の好ましい態様は、がん、炎症、および自己免疫疾患などに関連する罹患組織における細胞であり得る。
【0077】
本発明において、上記のような本発明の「第1の抗原に結合する第1の部分および第2の抗原に結合する第2の部分を含む分子」の、また上記のような「細胞死により細胞外環境に曝される物質(分子)」(「死細胞由来分子」)に対する結合は、例えば、ミトキサントロンまたはマイトマイシンなどの細胞傷害性を有する薬剤で処理した細胞または未処理の細胞を調製すること(該薬物での処理は細胞死を誘導する)、ならびに、フローサイトメトリーを用いて、薬物処理細胞または非処理細胞の各々に対する分子の結合の程度を測定および比較することによって、検討することができる。上記のような本発明の分子の薬物処理細胞に対する結合の程度の増加は、本発明の分子が、上記のような死細胞由来分子に特異的に結合することを示す。
【0078】
本発明は、上記のような細胞死により細胞外環境に曝される細胞の構成要素またはその一部分(「第1の抗原」、死細胞由来分子とも呼ばれる)に結合し、かつ同時に、細胞(例えば、免疫細胞、罹患細胞、例えば腫瘍細胞、自己反応性細胞、およびウイルス感染細胞)の上または中の標的分子(「第2の抗原」;例えば、上記のような膜タンパク質)に結合する、分子を提供する。分子は、細胞死により細胞外環境に曝される細胞の構成要素またはその一部分と、免疫細胞または罹患細胞(例えば、がん細胞、自己反応性細胞、およびウイルス感染細胞)などの細胞の上または中の標的分子との間の架橋を可能にし、組織において細胞中にシグナル伝達または遮断を与える。
【0079】
本発明において、本発明の分子による細胞中への上記のシグナル伝達または遮断は、例えば、以下のように検討することができる。
i. 細胞傷害性を有する薬物で処理した細胞または未処理の細胞を提供し、該薬物での処理が細胞死を誘導する。
ii. 例えば、免疫細胞において発現しているCD3または共刺激分子もしくは共抑制分子(「第2の抗原」)に結合する分子(例えば、抗体)[対照分子]、ならびに、同じもの(「第2の抗原」)に結合する部分、および例えば、F-アクチン(「第1の抗原」;死細胞由来分子の態様の1つ)に結合する部分を有する分子[本発明の分子]を提供する。
iii. (ii)の分子の結合によってシグナル伝達が起こった場合に検出可能なシグナルをもたらすように改変された、レポーター細胞を証明する。
iv. (i)の薬物処理細胞もしくは薬物処理細胞培養物の上清、または非処理細胞もしくは非処理細胞の上清の存在下で、レポーター細胞を(ii)の分子の各々と共に培養する。
v. (iv)の各細胞培養物におけるレポーターシグナルを測定し、各細胞培養物のそのように測定されたレポーターシグナルを比較する。
vi. 薬物処理細胞または薬物処理細胞培養物の上清の存在下での(ii)の本発明の分子の細胞培養物において検出される、非処理細胞または非処理細胞培養物の上清中の(ii)の本発明の分子の細胞培養物におけるものよりも高いレポーターシグナルは、(ii)の本発明の分子が、免疫細胞において発現している抗原、例えば、CD3または共刺激分子もしくは共抑制分子(「第2の抗原」)に対する結合によって細胞中にシグナル伝達を与えたことを示す。
vii. 薬物処理細胞または薬物処理細胞培養物の上清の存在下での(ii)の本発明の分子の細胞培養物において検出される、薬物処理細胞または薬物処理細胞培養物の上清中の(ii)の対照の細胞培養物におけるものよりも高いレポーターシグナルは、(ii)の本発明の分子が、死細胞由来分子、例えば、F-アクチン(「第1の抗原」)に結合することができない対照分子よりも強いシグナル伝達を細胞中に与えたことを示す。
【0080】
本発明において、本発明の分子(上記(ii))の「第2の抗原」、例えば、免疫細胞において発現しているCD3または共刺激分子もしくは共抑制分子に対する結合によって誘導される細胞中へのシグナル伝達を検出することができる限り、任意の種類および/または任意のタイプのレポーター、ならびに任意の種類および/または任意のタイプのレポーター細胞が、「第2の抗原」に応じて用いられてもよい。
【0081】
本発明において、上記(vii)における「より強い」シグナルは、少なくとも1.5倍、2倍、3倍、4倍、5倍、10倍、15倍、20倍、50倍、100倍、200倍、または1,000倍の最大活性の差を意味する。上記(vii)における「より強い」シグナルはまた、少なくとも1.5倍、2倍、3倍、4倍、5倍、10倍、15倍、20倍、50倍、100倍、200倍、または1,000倍のEC50値またはIC50値の差であることもできる。
【0082】
以下に記載または参照される用語が本発明において用いられる場合、それらは、以下に記載または参照されるような意味を含むがそれらに限定されない、意味を有する。
【0083】
さらに、本明細書において記載または参照される技法および手順は、通常よく理解されており、例えば、Sambrook et al., Molecular Cloning: A Laboratory Manual 3d edition (2001) Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, N.Y.; Current Protocols in Molecular Biology (F.M. Ausubel, et al. eds., (2003)); the series Methods in Enzymology (Academic Press, Inc.): PCR 2: A Practical Approach (M.J. MacPherson, B.D. Hames and G.R. Taylor eds. (1995)), Harlow and Lane, eds. (1988) Antibodies, A Laboratory Manual, and Animal Cell Culture (R.I. Freshney, ed. (1987)); Oligonucleotide Synthesis (M.J. Gait, ed., 1984); Methods in Molecular Biology, Humana Press; Cell Biology: A Laboratory Notebook (J.E. Cellis, ed., 1998) Academic Press; Animal Cell Culture (R.I. Freshney), ed., 1987); Introduction to Cell and Tissue Culture (J. P. Mather and P.E. Roberts, 1998) Plenum Press; Cell and Tissue Culture: Laboratory Procedures (A. Doyle, J.B. Griffiths, and D.G. Newell, eds., 1993-8) J. Wiley and Sons; Handbook of Experimental Immunology (D.M. Weir and C.C. Blackwell, eds.); Gene Transfer Vectors for Mammalian Cells (J.M. Miller and M.P. Calos, eds., 1987); PCR: The Polymerase Chain Reaction, (Mullis et al., eds., 1994); Current Protocols in Immunology (J.E. Coligan et al., eds., 1991); Short Protocols in Molecular Biology (Wiley and Sons, 1999); Immunobiology (C.A. Janeway and P. Travers, 1997); Antibodies (P. Finch, 1997); Antibodies: A Practical Approach (D. Catty., ed., IRL Press, 1988-1989); Monoclonal Antibodies: A Practical Approach (P. Shepherd and C. Dean, eds., Oxford University Press, 2000); Using Antibodies: A Laboratory Manual (E. Harlow and D. Lane (Cold Spring Harbor Laboratory Press, 1999); The Antibodies (M. Zanetti and J. D. Capra, eds., Harwood Academic Publishers, 1995); およびCancer: Principles and Practice of Oncology (V.T. DeVita et al., eds., J.B. Lippincott Company, 1993)に記載されている広く利用されている方法論などの、当業者による従来の方法論を用いて一般的に使用される。
【0084】
アミノ酸
本明細書において、アミノ酸は、1文字コードもしくは3文字コード、またはその両方によって記載され、例えば、Ala/A、Leu/L、Arg/R、Lys/K、Asn/N、Met/M、Asp/D、Phe/F、Cys/C、Pro/P、Gln/Q、Ser/S、Glu/E、Thr/T、Gly/G、Trp/W、His/H、Tyr/Y、Ile/I、またはVal/Vである。
【0085】
アミノ酸の改変
抗原結合分子のアミノ酸配列におけるアミノ酸改変(この説明内で「アミノ酸置換」または「アミノ酸変異」とも記載される)のためには、部位特異的変異誘発法(Kunkel et al. (Proc. Natl. Acad. Sci. USA (1985) 82, 488-492))およびオーバーラップ伸長PCRなどの公知の方法が、適宜使用されてもよい。さらに、非天然アミノ酸への置換のためのアミノ酸改変法として、いくつかの公知の方法がまた使用されてもよい(Annu Rev. Biophys. Biomol. Struct. (2006) 35, 225-249;およびProc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. (2003) 100 (11), 6353-6357)。例えば、終止コドンの1つであるUAGコドン(アンバーコドン)の相補的アンバーサプレッサーtRNAに非天然アミノ酸が結合したtRNAを含有する無細胞翻訳系(Clover Direct(Protein Express))を用いることが好適である。
【0086】
本明細書において、アミノ酸改変の部位を説明する時の用語「および/または」の意味は、「および」と「または」が好適に組み合わされているあらゆる組み合わせを含む。具体的には、例えば、「33位、55位、および/または96位のアミノ酸が置換されている」には、以下のアミノ酸改変のバリエーションが含まれる:(a)33位、(b)55位、(c)96位、(d)33位および55位、(e)33位および96位、(f)55位および96位、ならびに(g)33位、55位、および96位、のアミノ酸。
【0087】
さらに、本明細書において、アミノ酸の改変を示す表現として、特定の位置を示す数字の前後に、それぞれ改変前および改変後のアミノ酸の1文字コードまたは3文字コードを示す表現が、適宜用いられ得る。例えば、抗体可変領域に含有されるアミノ酸を置換する時に用いられるN100bLまたはAsn100bLeuという改変は、100b位(Kabatナンバリングに従う)のAsnのLeuによる置換を示す。すなわち、数字は、Kabatナンバリングに従うアミノ酸位置を示し、数字の前に書かれた1文字または3文字のアミノ酸コードは、置換前のアミノ酸を示し、かつ数字の後に書かれた1文字または3文字のアミノ酸コードは、置換後のアミノ酸を示す。同様に、抗体定常領域に含有されるFc領域のアミノ酸を置換する時に用いられるP238DまたはPro238Aspという改変は、238位(EUナンバリングに従う)のProのAspによる置換を示す。すなわち、数字は、EUナンバリングに従うアミノ酸位置を示し、数字の前に書かれた1文字または3文字のアミノ酸コードは、置換前のアミノ酸を示し、かつ数字の後に書かれた1文字または3文字のアミノ酸コードは、置換後のアミノ酸を示す。
【0088】
ポリペプチド
本明細書で用いられる場合、用語「ポリペプチド」は、アミド結合(ペプチド結合としても知られる)によって直線的に連結された単量体(アミノ酸)で構成される分子のことをいう。用語「ポリペプチド」は、2個以上のアミノ酸の任意の鎖のことをいい、特定の長さの生成物を指さない。したがって、ペプチド、ジペプチド、トリペプチド、オリゴペプチド、「タンパク質」、「アミノ酸鎖」、または2個以上のアミノ酸の鎖を指すために用いられる任意の他の用語が、「ポリペプチド」の定義内に含まれ、用語「ポリペプチド」は、これらの用語のいずれかの代わりに、またはそれと互換的に用いられ得る。
【0089】
用語「ポリペプチド」はまた、グリコシル化、アセチル化、リン酸化、アミド化、既知の保護基/遮断基による誘導体化、タンパク質分解的切断、または非天然アミノ酸による修飾を非限定的に含む、ポリペプチドの発現後修飾の生成物も指すように意図される。ポリペプチドは、天然の生物学的供給源に由来し得るか、または組換え技術によって産生され得るが、必ずしも指定された核酸配列から翻訳されない。ポリペプチドは、化学合成を含む任意の方法で生成されてもよい。本明細書に記載されるようなポリペプチドは、約3個以上、5個以上、10個以上、20個以上、25個以上、50個以上、75個以上、100個以上、200個以上、500個以上、1,000個以上、または2,000個以上のアミノ酸のサイズのものであってもよい。ポリペプチドは、定義された三次元構造を有し得るが、必ずしもそのような構造を有しない。定義された三次元構造を有するポリペプチドは、フォールディングされていると呼ばれ、定義された三次元構造を持たず、むしろ多数の異なるコンフォメーションを採ることができるポリペプチドは、アンフォールディングされていると呼ばれる。
【0090】
パーセント(%)アミノ酸配列同一性
参照ポリペプチド配列に対する「パーセント(%)アミノ酸配列同一性」は、最大のパーセント配列同一性を達成するように、配列を整列させてかつ必要ならギャップを導入した後の、かつ、いかなる保存的置換も配列同一性の一部と考えないとした、参照ポリペプチド配列中のアミノ酸残基と同一である候補配列中のアミノ酸残基の百分率比として定義される。パーセントアミノ酸配列同一性を決める目的のアラインメントは、当技術分野における技術の範囲内にある種々の方法で、例えば、BLAST、BLAST-2、ALIGN、またはMegalign(DNASTAR)ソフトウェアなどの、公に入手可能なコンピュータソフトウェアを用いて達成することができる。当業者は、比較される配列の全長にわたって最大のアラインメントを達成するために必要な任意のアルゴリズムを含む、配列のアラインメントをとるための適切なパラメータを決定することができる。しかし、本明細書における目的で、%アミノ酸配列同一性値は、配列比較コンピュータプログラムALIGN-2を用いて生成される。ALIGN-2配列比較コンピュータプログラムは、ジェネンテック社の著作であり、そのソースコードは米国著作権庁(U.S. Copyright Office, Washington D.C., 20559)に使用者用書類と共に提出され、米国著作権登録番号TXU510087として登録されている。ALIGN-2プログラムは、ジェネンテック社(Genentech, Inc., South San Francisco, California)から公に入手可能であるし、またはソースコードからコンパイルしてもよい。ALIGN-2プログラムは、digital UNIX V4.0Dを含むUNIXオペレーティングシステム上での使用のためにコンパイルされるべきである。すべての配列比較パラメータは、ALIGN-2プログラムによって設定され、変動しない。アミノ酸配列比較のためにALIGN-2が使用される状況において、所与のアミノ酸配列Aの、所与のアミノ酸配列Bへの、またはそれとの、またはそれに対する%アミノ酸配列同一性(あるいは、所与のアミノ酸配列Bへの、またはそれとの、またはそれに対する、ある%アミノ酸配列同一性を有するかまたは含む所与のアミノ酸配列A、ということもできる)は、以下のように計算される:分率X/Yの100倍。ここで、Xは、配列アラインメントプログラムALIGN-2によって、当該プログラムのAおよびBのアラインメントにおいて同一である一致としてスコアされたアミノ酸残基の数であり、Yは、B中のアミノ酸残基の総数である。アミノ酸配列Aの長さがアミノ酸配列Bの長さと等しくない場合、AのBへの%アミノ酸配列同一性は、BのAへの%アミノ酸配列同一性と等しくないことが、理解されるであろう。別段特に明示しない限り、本明細書で用いられるすべての%アミノ酸配列同一性値は、直前の段落に記載されるようにALIGN-2コンピュータプログラムを用いて得られるものである。
【0091】
組換えの方法および組成物
本発明に属するものを含む抗体、抗原結合分子、抗原結合ドメイン、分子は、例えば、米国特許第4,816,567号に記載されているような、組換えの方法および組成物を用いて製造され得る。本発明の分子が抗体である場合には、一態様において、本明細書に記載されるような抗体をコードする、単離された核酸が提供される。そのような核酸は、抗体のVLを含むアミノ酸配列および/またはVHを含むアミノ酸配列(例えば、抗体の軽鎖および/または重鎖)をコードしてもよい。さらなる態様において、そのような核酸を含む1つまたは複数のベクター(例えば、発現ベクター)が提供される。さらなる態様において、そのような核酸を含む宿主細胞が提供される。1つのそのような態様において、宿主細胞は、(1)抗体のVLを含むアミノ酸配列および抗体のVHを含むアミノ酸配列をコードする核酸を含むベクター、または(2)抗体のVLを含むアミノ酸配列をコードする核酸を含む第1のベクターおよび抗体のVHを含むアミノ酸配列をコードする核酸を含む第2のベクター、を含む(例えば、それで形質転換されている)。一態様において、宿主細胞は、真核性、例えば、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞またはリンパ系細胞(例えば、Y0、NS0、Sp2/0細胞)である。一態様において、本発明の分子を作製する方法が提供され、該方法は、上記のような分子(例えば、抗体)の発現に好適な条件下で、上記のような分子(例えば、抗体)をコードする核酸を含む宿主細胞を培養する工程、および任意で、上記のような分子(例えば、抗体)を宿主細胞(または宿主細胞培養培地)から回収する工程を含む。
【0092】
上記のような分子(例えば、抗体)の組換え製造のために、上記のような分子(例えば、抗体)をコードする核酸を単離し、さらなるクローニングおよび/または宿主細胞中での発現のために、1つまたは複数のベクター中に挿入する。そのような核酸は、従来の手順を用いて(例えば、分子が抗体である場合には、抗体の重鎖および軽鎖をコードする遺伝子に特異的に結合することができるオリゴヌクレオチドプローブを用いることによって)容易に単離され、配列決定され得る。
【0093】
本発明の分子をコードするベクターのクローニングまたは発現に好適な宿主細胞には、本明細書に記載される原核細胞または真核細胞が含まれる。例えば、本発明の分子は、とりわけグリコシル化およびFcエフェクター機能が必要とされない場合は、細菌において製造されてもよい。細菌における本発明の分子の発現については、例えば、米国特許第5,648,237号、第5,789,199号、および第5,840,523号を参照のこと(また、大腸菌(E. coli)における抗体断片の発現を記載したCharlton, Methods in Molecular Biology, Vol. 248 (B.K.C. Lo, ed., Humana Press, Totowa, NJ, 2003), pp.245-254も参照のこと)。発現後、本発明の分子は、細菌細胞ペーストから可溶性画分中に単離されてもよく、さらに精製することができる。
【0094】
原核生物に加えて、部分的なまたは完全なヒトのグリコシル化パターンを伴う本発明の分子の産生を結果としてもたらす、グリコシル化経路が「ヒト化」されている菌類および酵母の株を含む、糸状菌または酵母などの真核性微生物は、本発明の分子をコードするベクターの好適なクローニングまたは発現宿主である。Gerngross, Nat. Biotech. 22:1409-1414 (2004)およびLi et al., Nat. Biotech. 24:210-215 (2006)を参照のこと。
【0095】
グリコシル化された本発明の分子の発現に好適な宿主細胞はまた、多細胞生物(無脊椎生物および脊椎生物)にも由来する。無脊椎生物細胞の例には、植物細胞および昆虫細胞が含まれる。特にツマジロクサヨトウ(Spodoptera frugiperda)細胞のトランスフェクションのために、昆虫細胞と共に用いられ得る数多くのバキュロウイルス株が、特定されている。
【0096】
植物細胞培養物もまた、宿主として利用することができる。例えば、米国特許第5,959,177号、第6,040,498号、第6,420,548号、第7,125,978号、および第6,417,429号(トランスジェニック植物において抗体を製造するための、PLANTIBODIES(商標)技術を記載)を参照のこと。
【0097】
脊椎動物細胞もまた、宿主として用いられ得る。例えば、浮遊状態で増殖するように適応した哺乳動物細胞株は、有用であり得る。有用な哺乳動物宿主細胞株の他の例は、SV40で形質転換されたサル腎CV1株(COS-7);ヒト胎児性腎株(例えば、Graham et al., J. Gen Virol. 36:59 (1977)に記載される293または293細胞);仔ハムスター腎細胞(BHK);マウスセルトリ細胞(例えば、Mather, Biol. Reprod. 23:243-251 (1980)に記載されるTM4細胞);サル腎細胞(CV1);アフリカミドリザル腎細胞(VERO-76);ヒト子宮頸部癌細胞(HELA);イヌ腎細胞(MDCK);Buffalo系ラット肝細胞(BRL 3A);ヒト肺細胞(W138);ヒト肝細胞(Hep G2);マウス乳癌(MMT 060562);TRI細胞(例えば、Mather et al., Annals N.Y. Acad. Sci. 383:44-68 (1982)に記載);MRC5細胞;およびFS4細胞である。他の有用な哺乳動物宿主細胞株には、DHFR- CHO細胞(Urlaub et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 77:4216 (1980))を含むチャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞;ならびにY0、NS0、およびSp2/0などの骨髄腫細胞株が含まれる。抗体産生に好適なある特定の哺乳動物宿主細胞株の総説として、例えば、Yazaki and Wu, Methods in Molecular Biology, Vol. 248 (B.K.C. Lo, ed., Humana Press, Totowa, NJ), pp. 255-268 (2003)を参照のこと。
【0098】
本発明の分子の組換え製造は、全分子またはその一部分を含むアミノ酸配列をコードする核酸を含む1つまたは複数のベクターを含む(例えば、それで形質転換されている)宿主細胞を用いることによって、上記のものと同様の方法で行うことができる。
【0099】
本発明において、上記のように、本発明の分子、すなわち、上記のような「第1の抗原に結合する第1の部分および第2の抗原に結合する第2の部分を含む分子」の一態様は、例えば、Fc領域にコンジュゲートされた追加の部分を含み得る、抗体またはその抗原結合ドメイン/分子である。本発明において、そのような分子は、抗原結合分子と呼ばれ得る。分子が、例えば、2つ以上の異なる抗原に対する多重特異性を有する抗原結合分子である場合には、多重特異性抗原結合分子と称され得る。
【0100】
抗原結合分子および多重特異性抗原結合分子
本明細書で用いられる用語「抗原結合分子」は、抗原結合部位を含む任意の分子、または抗原に対する結合活性を有する任意の分子を指し、さらに、約5アミノ酸以上の長さを有するペプチドまたはタンパク質などの分子を指し得る。ペプチドおよびタンパク質は、生存生物由来のものに限定されず、例えば、人工的に設計された配列から製造されたポリペプチドであってもよい。それらはまた、天然ポリペプチド、合成ポリペプチド、組換えポリペプチドなどのいずれかであってもよい。α/βバレルなどの公知の安定なコンフォメーション構造をスキャフォールドとして含み、分子の一部が抗原結合部位となるスキャフォールド分子もまた、本明細書に記載される抗原結合分子の一態様である。
【0101】
「多重特異性抗原結合分子」は、1つよりも多い抗原に特異的に結合する抗原結合分子のことをいう。用語「二重特異性」は、抗原結合分子が少なくとも2つの別個の抗原決定基に特異的に結合できることを意味する。用語「三重特異性」は、抗原結合分子が少なくとも3つの別個の抗原決定基に特異的に結合できることを意味する。
【0102】
抗原結合ドメイン
上記のように、本発明の分子、すなわち、「第1の抗原に結合する第1の部分および第2の抗原に結合する第2の部分を含む分子」が、例えば、上記のような抗原結合分子とも呼ばれる、抗体などの抗原結合分子である場合には、いくつかの態様において、「第2の抗原に結合する第2の部分」、および適切な場合、さらに「第1の抗原に結合する第1の部分」は、抗体の、または抗体に由来する抗原結合ドメインであってもよい。
【0103】
用語「抗原結合ドメイン」は、抗原の一部またはすべてに特異的に結合し、かつそれに相補的である区域を含む、抗体の一部のことをいう。抗原結合ドメインは、例えば、1つまたは複数の抗体可変ドメイン(抗体可変領域とも呼ばれる)によって提供され得る。好ましくは、抗原結合ドメインは、抗体軽鎖可変領域(VL)および抗体重鎖可変領域(VH)の両方を含有する。そのような好ましい抗原結合ドメインには、例えば、「一本鎖Fv(scFv)」、「一本鎖抗体」、「Fv」、「一本鎖Fv2(scFv2)」、「Fab」、および「F(ab')2」が含まれる。
【0104】
Ig型結合部分
本明細書で用いられる「Ig型結合部分」、「Ig-型結合部分」などの用語は、当業者によってよく理解されており、通常、当業者によく知られているIg型(免疫グロブリン型)の抗原結合部分のことをいう。本明細書におけるある特定の態様において、それは、本明細書に記載されるすべての「抗原結合ドメイン」を含み(それらが少なくとも1つの免疫グロブリン構造を含むという条件で)、特に、本明細書に記載される後者の用語のすべての例を含む。好ましくは、本明細書において、前記Ig-型結合部分は、シングルドメイン抗体(VHH)、抗体重鎖可変(VH)領域、抗体軽鎖可変(VL)領域、シングルドメイン抗体(sdAb)、一本鎖Fv(scFv)、一本鎖抗体、Fv、一本鎖Fv2(scFv2)、Fab、およびF(ab')2からなる群より選択される。より好ましくは、前記Ig-型結合部分は、VHH、scFv、scFv2、Fab、およびF(ab')2からなる群より選択される。それは、特に、「一本鎖Fv(scFv)」、「一本鎖抗体」、「Fv」、「一本鎖Fv2(scFv2)」、「Fab」、および「F(ab')2」からなる群のいずれか、ならびに特に、本明細書の他の箇所に記載されるもののいずれかの特定の態様を含む。
【0105】
可変領域
用語「可変領域」または「可変ドメイン」は、抗体を抗原へと結合させることに関与する、抗体の重鎖または軽鎖のドメインのことをいう。天然型抗体の重鎖および軽鎖の可変ドメイン(それぞれ、VHおよびVL)は、通常、各ドメインが4つの保存されたフレームワーク領域(FR)および3つの超可変領域(HVR)を含む、類似の構造を有する。(例えば、Kindt et al. Kuby Immunology, 6th ed., W.H. Freeman and Co., page 91 (2007)を参照のこと。)単一のVHまたはVLドメインで、抗原結合特異性を与えるに充分であろう。さらに、特定の抗原に結合する抗体は、当該抗原に結合する抗体からのVHまたはVLドメインを用いてそれぞれ相補的なVLまたはVHドメインのライブラリをスクリーニングして、単離されてもよい。例えば、Portolano et al., J. Immunol. 150:880-887 (1993);Clarkson et al., Nature 352:624-628 (1991)を参照のこと。
【0106】
HVRまたはCDR
本明細書で用いられる用語「超可変領域」または「HVR」は、配列において超可変であり(「相補性決定領域」または「CDR」)、および/または構造的に定まったループ(「超可変ループ」)を形成し、および/または抗原接触残基(「抗原接触」)を含む、抗体の可変ドメインの各領域のことをいう。超可変領域(HVR)はまた、「相補性決定領域」(CDR)とも呼ばれ、これらの用語は、抗原結合領域を形成する可変領域の一部分に関して本明細書で互換的に用いられる。通常、抗体は、6つのHVR:VHに3つ(H1、H2、H3)、およびVLに3つ(L1、L2、L3)を含む。
【0107】
本明細書における例示的なHVRは、以下を含む。
(a)アミノ酸残基26-32 (L1)、50-52 (L2)、91-96 (L3)、26-32 (H1)、53-55 (H2)、および96-101 (H3)のところで生じる超可変ループ(Chothia and Lesk, J. Mol. Biol. 196:901-917 (1987));
(b)アミノ酸残基24-34 (L1)、50-56 (L2)、89-97 (L3)、31-35b (H1)、50-65 (H2)、 および95-102 (H3)のところで生じるCDR(Kabat et al., Sequences of Proteins of Immunological Interest, 5th Ed. Public Health Service, National Institutes of Health, Bethesda, MD (1991));
(c)アミノ酸残基27c-36 (L1)、46-55 (L2)、89-96 (L3)、30-35b (H1)、47-58 (H2)、および93-101 (H3)のところで生じる抗原接触(MacCallum et al. J. Mol. Biol. 262: 732-745 (1996));ならびに、
(d)HVRアミノ酸残基46-56 (L2)、47-56 (L2)、48-56 (L2)、49-56 (L2)、26-35 (H1)、26-35b (H1)、49-65 (H2)、93-102 (H3)、および94-102 (H3)を含む、(a)、(b)、および/または(c)の組み合わせ。
別段示さない限り、HVR残基および可変ドメイン中の他の残基(例えば、FR残基)は、本明細書では上記のKabatらに従って番号付けされる。
HVR-H1、HVR-H2、HVR-H3、HVR-L1、HVR-L2、およびHVR-L3はまた、それぞれ、「H-CDR1」、「H-CDR2」、「H-CDR3」、「L-CDR1」、「L-CDR2」、および「L-CDR3」とも述べられる。
【0108】
抗原に結合することができる
抗体可変領域が「抗原に結合することができる」かどうかは、当技術分野で公知の方法によって判定することができる。これは、例えば、電気化学発光法(ECL法)(BMC Research Notes 2011, 4: 281)によって判定することができる。
具体的には、例えば、試験されるビオチン標識抗原結合分子の抗原に結合することができる領域、例えば、Fab領域で構成される低分子抗体、またはその一価抗体(通常の抗体が保有する2つのFab領域のうちの1つが欠如した抗体)を、sulfo-tag(Ru錯体)で標識した抗原と混合し、混合物を、ストレプトアビジン固定化プレート上に添加する。この操作において、試験されるビオチン標識抗原結合分子は、プレート上のストレプトアビジンに結合する。sulfo-tagから光が発生し、その発光シグナルをSector Imager 600または2400(MSD K.K.)などを用いて検出し、それによって試験される抗原結合分子の上述の領域の抗原に対する結合を確認することができる。あるいは、このアッセイは、ELISA、FACS(蛍光活性化細胞選別)、ALPHAScreen(増幅発光近接ホモジニアスアッセイスクリーン(amplified luminescent proximity homogeneous assay screen))、表面プラズモン共鳴(SPR)現象に基づくBIACORE法などによって実施されてもよい(Proc. Natl. Acad. Sci. USA (2006) 103 (11), 4005-4010)。
【0109】
具体的には、アッセイは、例えば、表面プラズモン共鳴(SPR)現象に基づく相互作用アナライザーBiacore(GE Healthcare Japan Corp.)を用いて実施することができる。Biacoreアナライザーには、Biacore T100、T200、X100、A100、4000、3000、2000、1000、またはCなどの任意のモデルが含まれる。CM7、CM5、CM4、CM3、C1、SA、NTA、L1、HPA、またはAuチップなどのBiacore用の任意のセンサーチップを、センサーチップとして用いることができる。プロテインA、プロテインG、プロテインL、抗ヒトIgG抗体、抗ヒトIgG-Fab、抗ヒトL鎖抗体、抗ヒトFc抗体、抗原タンパク質、または抗原ペプチドなどの、本発明の抗原結合分子を捕捉するためのタンパク質を、アミンカップリング、ジスルフィドカップリング、またはアルデヒドカップリングなどのカップリング法によってセンサーチップ上に固定化する。抗原をその上にアナライトとして注入し、相互作用を測定して、センサーグラムを得る。この操作において、抗原の濃度は、アッセイ試料の相互作用の強さ(例えば、KD)に従って、数μM~数pMの範囲内で選択することができる。
【0110】
あるいは、抗原結合分子の代わりに抗原をセンサーチップ上に固定化し、評価される抗体試料を次にそれと相互作用させてもよい。本発明の抗原結合分子の抗体可変領域が抗原に対する結合活性を有するかどうかは、相互作用のセンサーグラムから計算される解離定数(KD)値に基づいて、または抗原結合分子試料の作用前のレベルを上回る作用後のセンサーグラムの増加の程度に基づいて、確認することができる。
【0111】
いくつかの態様において、本発明の抗体可変領域の関心対象の抗原(すなわち、抗原)に対する結合活性またはアフィニティを、例えば、Biacore T200機器(GE Healthcare)またはBiacore 8K機器(GE Healthcare)を用いて37℃または25℃(抗原の場合)で評価する。抗ヒトFc(例えば、GE Healthcare)を、アミン カップリングキット(例えば、GE Healthcare)を用いてCM4センサーチップのすべてのフローセル上に固定化する。抗原結合分子または抗体可変領域を、抗Fcセンサー表面上に捕捉させ、次いで、抗原をフローセルの上に注入する。抗原結合分子または抗体可変領域の捕捉レベルは、200レゾナンスユニット(RU)を目標とすることができる。組換えヒト抗原を、2倍連続希釈によって調製した400~25 nMで注入してもよく、それに続いて解離させる。すべての抗原結合分子または抗体可変領域およびアナライトは、20 mM ACES、150 mM NaCl、0.05% Tween 20、0.005% NaN3を含有するACES pH 7.4において調製する。センサー表面を、3M MgCl2により各サイクルで再生させる。結合アフィニティは、例えば、Biacore T200 Evaluation software, version 2.0(GE Healthcare)またはBiacore 8K Evaluation software(GE Healthcare)を用いて、データを処理し、1:1結合モデルにフィッティングすることによって決定する。KD値は、抗原結合ドメインの特異的な結合活性またはアフィニティを評価するために計算する。
【0112】
ALPHAScreenは、2つのタイプのビーズ(ドナーおよびアクセプター)を用いるALPHA技術によって、以下の原理に基づいて実施する:ドナービーズに結合した分子とアクセプタービーズに結合した分子との間の生物学的相互作用を通して、これらの2つのビーズが近接して位置する時にのみ、発光シグナルが検出される。レーザーによって励起されたドナービーズ中のフォトセンシタイザーは、周辺の酸素を、励起状態を有する一重項酸素に変換する。その一重項酸素が、ドナービーズ周囲に拡散し、近接して位置するアクセプタービーズに到達して、それによって、ビーズにおける化学発光反応を引き起こし、これが最終的に光を放出する。ドナービーズに結合した分子とアクセプタービーズに結合した分子との間の相互作用の非存在下では、ドナービーズによって産生される一重項酸素がアクセプタービーズに到達しない。したがって、化学発光反応は起きない。
【0113】
その間の相互作用を観察することになる物質の一方(リガンド)を、センサーチップの金薄膜上に固定化する。金薄膜とガラスとの境界面で全反射が起こるように、センサーチップの裏側から光を当てる。結果として、反射強度が低下した部位(SPRシグナル)が、反射光の一部分に形成される。その間の相互作用を観察することになる物質の他方(アナライト)を、センサーチップの表面に注入する。アナライトがリガンドに結合すると、固定化されたリガンド分子の質量が増加して、センサーチップ表面上の溶媒の屈折率が変化する。この屈折率の変化により、SPRシグナルの位置がシフトする(逆に、結合した分子の解離により、シグナルは元の位置に戻る)。Biacoreシステムは、シフトの量、すなわち、センサーチップ表面上の質量の変化を縦軸にプロットし、質量の経時変化をアッセイデータとして表示する(センサーグラム)。センサーチップ表面上に捕捉されたリガンドに結合したアナライトの量(アナライトの相互作用の前と後の間のセンサーグラム上の応答の変化の量)を、センサーグラムから決定することができる。しかし、結合した量はまたリガンドの量にも依存するため、実質的に同じ量のリガンドが用いられる条件下で、比較を行わなければならない。カイネティクス、すなわち、結合速度定数(ka)および解離速度定数(kd)は、センサーグラムのカーブから決定することができ、アフィニティ(KD)は、これらの定数間の比から決定することができる。阻害アッセイもまた、好ましくは、BIACORE法において用いられる。阻害アッセイの例は、Proc. Natl. Acad. Sci. USA (2006) 103 (11), 4005-4010に記載されている。
【0114】
例えば、試験されるビオチン標識抗原結合分子を、ドナービーズ上のストレプトアビジンに結合させ、他方、グルタチオンSトランスフェラーゼ(GST)でタグ付けされた抗原を、アクセプタービーズに結合させる。試験される抗原結合分子は、競合する第2の抗原の非存在下で抗原と相互作用して、520~620 nmのシグナルを生成する。タグ付けされていない第2の抗原は、試験される抗原結合分子との相互作用について、抗原と競合する。競合の結果として引き起こされる蛍光の減少を定量し、それによって、相対的結合活性を決定することができる。スルホ-NHS-ビオチンなどを用いたポリペプチドビオチン化は、当技術分野で公知である。例えば、抗原をコードするポリヌクレオチドとGSTをコードするポリヌクレオチドとをインフレームで融合させる工程;および、結果として生じた融合遺伝子を、その発現を可能にするベクターを保有する細胞などによって発現させ、続いてグルタチオンカラムを用いて精製する工程を含む、適宜採用される方法によって、抗原にGSTをタグ付けすることができる。得られたシグナルを、好ましくは、例えば、ソフトウェアGRAPHPAD PRISM(GraphPad Software, Inc., San Diego)を用いて、非線形回帰解析に基づく一部位競合(one-site competition)モデルに適合させて解析する。
【0115】
タグ付けは、GSTタグ付けに限定されず、ヒスチジンタグ、MBP、CBP、Flagタグ、HAタグ、V5タグ、またはc-mycタグなどであるがそれらに限定されない、任意のタグで実施されてもよい。試験される抗原結合分子のドナービーズに対する結合は、ビオチン-ストレプトアビジン反応を用いた結合に限定されない。特に、試験される抗原結合分子がFcを含む場合、可能な方法は、試験される抗原結合分子を、ドナービーズ上にプロテインAまたはプロテインGなどのFc認識タンパク質を介して結合させることを含む。
【0116】
Fab分子/Fab領域/Fabアーム
本発明において、互換的に用いられ得る用語「Fab分子」、「Fab領域」、または「Fabアーム」は、免疫グロブリンの重鎖のVHおよびCH1ドメイン(「Fab重鎖」)、ならびに軽鎖のVLおよびCLドメイン(「Fab軽鎖」)からなるタンパク質を意味する。
【0117】
Fab、F(ab')
2
、およびFab'
「Fab」は、単一の軽鎖、ならびに単一の重鎖由来のCH1ドメインおよび可変領域からなる。Fab分子の重鎖は、別の重鎖分子とジスルフィド結合を形成できない。
【0118】
「F(ab')2」または「Fab」は、免疫グロブリン(モノクローナル抗体)をペプシンおよびパパインなどのプロテアーゼで処理することによって製造され、免疫グロブリン(モノクローナル抗体)を、2本のH鎖の各々においてヒンジ領域の間に存在するジスルフィド結合の近くで消化することによって生成される抗体断片のことをいう。例えば、パパインは、2本のH鎖の各々においてヒンジ領域の間に存在するジスルフィド結合の上流でIgGを切断して、2つの相同な抗体断片を生成し、そこでは、VL(L鎖可変領域)およびCL(L鎖定常領域)を含むL鎖が、VH(H鎖可変領域)およびCHγ1(H鎖定常領域中のγ1領域)を含むH鎖断片に、それらのC末端領域でジスルフィド結合を介して連結されている。これらの2つの相同抗体断片の各々は、Fab'と呼ばれる。
【0119】
「F(ab')2」は、2本の軽鎖、ならびにCH1ドメインおよびCH2ドメインの一部分の定常領域を含む2本の重鎖からなり、そのため、2本の重鎖の間にジスルフィド結合が形成されている。本明細書に開示されるF(ab')2は、好ましくは、以下のように製造することができる。所望の抗原結合部位を含むモノクローナル抗体全体などを、ペプシンなどのプロテアーゼで部分消化し;プロテインAカラム上への吸着によって、Fc断片を除去する。プロテアーゼは、pHなどの適切な設定酵素反応条件下で、全部抗体を選択的様式で切断してF(ab')2を産生することができる限り、特に限定されない。そのようなプロテアーゼには、例えば、ペプシンおよびフィシンが含まれる。
【0120】
融合した/融合
用語「融合した」および「融合」は、2つ以上の異なるポリペプチド(例えば、第1の抗原に結合する第1のポリペプチドおよび第2の抗原に結合する第2のポリペプチド;FabアームおよびFcドメイン)が、直接的にまたは1つもしくは複数のペプチドリンカーを介してのいずれかで、ペプチド結合によって連結されていることを意味する。
【0121】
したがって、本明細書で用いられる場合、用語「融合タンパク質」(本明細書で用語「融合ポリペプチド」と互換的に用いられ得る)は、好ましくは、2つ以上の異なるポリペプチドが、直接的にまたは1つもしくは複数のペプチドリンカーを介して共有結合的に連結されていることを意味する。本明細書における融合タンパク質の特定の例は、抗体(または少なくともIg型結合部分)が、非Ig型結合部分である結合ポリペプチドに連結されている、本発明の抗原結合分子である。
【0122】
クロスオーバー(crossover)Fab
「クロスオーバー」Fab分子(「Crossfab」とも称される)は、Fabの重鎖および軽鎖の可変領域または定常領域のいずれかが交換されているFab分子を意味し、すなわち、クロスオーバーFab分子は、軽鎖可変領域および重鎖定常領域で構成されるペプチド鎖、ならびに重鎖可変領域および軽鎖定常領域で構成されるペプチド鎖を含む。明確にするために、Fab軽鎖およびFab重鎖の可変領域が交換されているクロスオーバーFab分子において、重鎖定常領域を含むペプチド鎖は、本明細書でクロスオーバーFab分子の「重鎖」と呼ばれる。逆に、Fab軽鎖およびFab重鎖の定常領域が交換されているクロスオーバーFab分子において、重鎖可変領域を含むペプチド鎖は、本明細書でクロスオーバーFab分子の「重鎖」と呼ばれる。
【0123】
従来のFab
それとは対照的に、「従来の」Fab分子は、その天然の形式の、すなわち、重鎖可変領域および定常領域(VH-CH1)で構成される重鎖、ならびに軽鎖可変領域および定常領域(VL-CL)で構成される軽鎖を含む、Fab分子を意味する。用語「免疫グロブリン分子」は、天然に存在する抗体の構造を有するタンパク質のことをいう。例えば、IgGクラスの免疫グロブリンは、ジスルフィド結合している2本の軽鎖および2本の重鎖で構成される、約150,000ダルトンのヘテロ四量体糖タンパク質である。N末端からC末端へ、各重鎖は、可変重鎖ドメインまたは重鎖可変ドメインとも呼ばれる可変領域(VH)を有し、その後に、重鎖定常領域とも呼ばれる3つの定常ドメイン(CH1、CH2、およびCH3)が続く。同様に、N末端からC末端へ、各軽鎖は、可変軽鎖ドメインまたは軽鎖可変ドメインとも呼ばれる可変領域(VL)を有し、その後に、軽鎖定常領域とも呼ばれる定常軽鎖(CL)ドメインが続く。免疫グロブリンの重鎖は、α(IgA)、δ(IgD)、ε(IgE)、γ(IgG)、またはμ(IgM)と呼ばれる5つのタイプのうちの1つに割り当てられ得、そのいくつかは、サブタイプ、例えば、γ1(IgG1)、γ2(IgG2)、γ3(IgG3)、γ4(IgG4)、α1(IgA1)、およびα2(IgA2)にさらに分けられ得る。免疫グロブリンの軽鎖は、その定常ドメインのアミノ酸配列に基づいて、κおよびλと呼ばれる2つのタイプのうちの1つに割り当てられ得る。免疫グロブリンは、本質的に、免疫グロブリンヒンジ領域を介して連結された、2つのFab分子および1つのFcドメインからなる。
【0124】
アフィニティ
「アフィニティ」は、分子(例えば、第1の部分または第2の部分;抗体または抗原結合ドメイン)の単一の結合部位と、その結合パートナー(例えば、第1の抗原もしくは第2の抗原;または抗原)との間の、非共有結合的な相互作用の合計の強度のことをいう。別段示さない限り、本明細書で用いられる「結合アフィニティ」は、結合対のメンバー(例えば、第1の部分と第1の抗原;第2の部分と第2の抗原;抗原結合分子と抗原、または抗体と抗原)の間の1:1相互作用を反映する、固有の結合アフィニティのことをいう。分子XのそのパートナーYに対するアフィニティは、通常、解離速度定数と結合速度定数(それぞれ、koffとkon)の比である、解離定数(KD)によって表すことができる。したがって、等価のアフィニティは、速度定数の比が同じままである限り、異なる速度定数を含んでもよい。アフィニティは、本明細書に記載されるものを含む、当技術分野で公知の十分に確立された方法によって測定することができる。アフィニティを測定するための特定の方法は、表面プラズモン共鳴(SPR)である。
【0125】
アフィニティを決定する方法
ある特定の態様において、本発明の「第1の抗原に結合する第1の部分および第2の抗原に結合する第2の部分を含む分子」の第1の部分または第2の部分の各々、および上記のような抗原結合分子または抗体は、1μM以下、120 nM以下、100 nM以下、80 nM以下、70 nM以下、50 nM以下、40 nM以下、30 nM以下、20 nM以下、10 nM以下、2 nM以下、1 nM以下、0.1 nM以下、0.01 nM以下、または0.001 nM以下(例えば、10-8 M以下、10-8 M~10-13 M、10-9 M~10-13 M)の、その抗原(すなわち、第1の抗原、第2の抗原)に対する解離定数(KD)を有する。ある特定の態様において、本発明の分子の、第1の抗原および第2の抗原に対するKD値は、それぞれ、1~40、1~50、1~70、1~80、30~50、30~70、30~80、40~70、40~80、または60~80 nMの範囲内に入る。
【0126】
一態様において、KDは、放射性標識抗原結合アッセイ(RIA)によって測定される。例えば、本発明の分子の抗原(すなわち、第1の抗原、第2の抗原)に対する溶液中結合アフィニティは、非標識抗原の漸増量系列の存在下で最小濃度の(125I)標識抗原により分子を平衡化させ、次いで、結合した抗原を、分子に結合する抗体でコーティングされたプレートで捕捉することによって測定される(例えば、Chen et al., J. Mol. Biol. 293:865-881(1999) を参照のこと)。アッセイの条件を確立するために、MICROTITER(登録商標)マルチウェルプレート(Thermo Scientific)を、50 mM炭酸ナトリウム(pH 9.6)中5μg/mlの、捕捉用の分子に結合する抗体(Cappel Labs)で一晩コーティングし、その後、室温(およそ23℃)で2~5時間、PBS中2%(w/v)ウシ血清アルブミンでブロックする。非吸着プレート(Nunc #269620)において、100 pMまたは26 pMの[125I]-抗原を、(例えば、Presta et al., Cancer Res. 57:4593-4599 (1997)における抗VEGF抗体、Fab-12の評価と同じように)関心対象のFabの段階希釈物と混合する。次いで、関心対象の分子を一晩インキュベートするが、このインキュベーションは、平衡が確実に達成されるように、より長時間(例えば、約65時間)継続されてもよい。その後、混合物を、室温でのインキュベーション(例えば、1時間)のために捕捉プレートに移す。次いで、溶液を除去し、プレートを、PBS中0.1%のポリソルベート20(TWEEN-20(登録商標))で8回洗浄する。プレートが乾燥したら、150μL/ウェルのシンチラント(MICROSCINT-20(商標);Packard)を添加し、TOPCOUNT(商標)ガンマカウンター(Packard)において10分間、プレートをカウントする。最大結合の20%以下を与える各Fabの濃度を、競合結合アッセイにおける使用のために選択する。
【0127】
別の態様によると、Kdは、BIACORE(登録商標)表面プラズモン共鳴アッセイを用いて測定される。例えば、BIACORE(登録商標)-2000またはBIACORE(登録商標)-3000(BIAcore, Inc., Piscataway, NJ)を用いるアッセイを、約10反応単位(response unit)(RU)で抗原が固定化されたCM5チップを用いて25℃で行う。一態様において、カルボキシメチル化デキストランバイオセンサーチップ(CM5, BIACORE, Inc.)を、供給元の指示に従ってN-エチル-N'-(3-ジメチルアミノプロピル)-カルボジイミドヒドロクロリド(EDC)およびN-ヒドロキシスクシンイミド(NHS)を用いて活性化する。抗原は、およそ10反応単位(RU)のタンパク質の結合を達成するように、5μL/分の流速での注入の前に、10 mM酢酸ナトリウム、pH 4.8で5μg/ml(約0.2μM)に希釈する。抗原の注入後に、未反応基をブロックするために1 Mエタノールアミンを注入する。カイネティクスの測定のために、Fabの2倍段階希釈物(0.78 nM~500 nM)を、0.05%ポリソルベート20(TWEEN-20(商標))界面活性剤を含むPBS(PBST)中、25℃で、およそ25μL/分の流速で注入する。結合速度(kon)および解離速度(koff)を、単純な1対1ラングミュア結合モデル(BIACORE(登録商標)Evaluation Software version 3.2)を用いて、結合および解離のセンサーグラムを同時にフィッティングすることによって計算する。平衡解離定数(Kd)は、koff/kon比として計算する。例えば、Chen et al., J. Mol. Biol. 293:865-881 (1999)を参照のこと。上記の表面プラズモン共鳴アッセイによってオン速度が106 M-1s-1を超える場合には、オン速度を、分光計、例えば、ストップフロー式分光光度計(Aviv Instruments)または撹拌キュベットを用いる8000シリーズのSLM-AMINCO(商標)分光光度計(ThermoSpectronic)において測定される、漸増濃度の抗原の存在下でのPBS、pH 7.2中の、20 nMの分子に結合する抗体の25℃での蛍光発光強度(励起=295 nm;発光=340 nm、バンドパス16 nm)の増加または減少を測定する蛍光消光技法を用いることによって、決定することができる。
【0128】
上記の抗原に対する本発明の分子のアフィニティを測定するための方法に従って、当業者は、様々な種類の抗原に対して、本発明の分子の任意の他の種類またはタイプについてアフィニティ測定を実施することができる。
【0129】
抗体
上記のように、本発明の分子、すなわち、「第1の抗原に結合する第1の部分および第2の抗原に結合する第2の部分を含む分子」が、例えば、上記のような抗原結合分子とも呼ばれる、抗体などの抗原結合分子である場合には、いくつかの態様において、「第2の抗原に結合する第2の部分」、および適切な場合、さらに「第1の抗原に結合する第1の部分」は、抗体の、または抗体に由来する抗原結合ドメインであってもよい。
【0130】
本明細書における用語「抗体」は、最も広い意味で用いられ、所望の抗原結合活性を示す限りは、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、多重特異性抗体(例えば、二重特異性抗体)、および抗体断片を含むがそれらに限定されない、種々の抗体構造を包含する。
【0131】
用語「全長抗体」、「完全抗体」、および「全部抗体」は、本明細書で互換的に用いられ、天然型抗体構造に実質的に類似した構造を有するか、または本明細書で定義されるようなFc領域を含む重鎖を有する、抗体のことをいう。
【0132】
抗体断片
「抗体断片」(抗体の一部分とも呼ばれ得る)は、完全抗体が結合する抗原に結合する当該完全抗体の一部分を含む、当該完全抗体以外の分子のことをいう。抗体断片の例には、Fv、Fab、Fab'、Fab'-SH、F(ab')2、ダイアボディ、線状抗体、一本鎖抗体分子(例えば、scFv)、およびシングルドメイン抗体が含まれるが、それらに限定されない。ある特定の抗体断片の総説として、Hudson et al., Nat Med 9, 129-134 (2003)を参照のこと。scFv断片の総説として、例えば、Pluckthun, in The Pharmacology of Monoclonal Antibodies, vol. 113, Rosenburg and Moore eds., Springer-Verlag, New York, pp. 269-315 (1994)を参照のこと;またWO 93/16185;ならびに米国特許第5,571,894号および第5,587,458号も参照のこと。サルベージ受容体結合エピトープ残基を含み、かつ増大したインビボ半減期を有するFabおよびF(ab')2断片の考察として、米国特許第5,869,046号を参照のこと。ダイアボディは、二価または二重特異性であり得る、2つの抗原結合部位を有する抗体断片である。例えば、EP 404,097;WO 1993/01161;Hudson et al., Nat Med 9, 129-134 (2003);およびHollinger et al., Proc Natl Acad Sci USA 90, 6444-6448 (1993)を参照のこと。トリアボディおよびテトラボディもまた、Hudson et al., Nat Med 9, 129-134 (2003)に記載されている。シングルドメイン抗体は、抗体の重鎖可変ドメインのすべてもしくは一部分、または軽鎖可変ドメインのすべてもしくは一部分を含む、抗体断片である。ある特定の態様において、シングルドメイン抗体は、ヒトシングルドメイン抗体である(Domantis, Inc., Waltham, MA;例えば、米国特許第6,248,516号B1を参照のこと)。抗体断片は、本明細書に記載されるように、完全抗体のタンパク質分解的消化、および組換え宿主細胞(例えば、大腸菌またはファージ)による産生を含むがそれらに限定されない、種々の技法によって作製することができる。
【0133】
本明細書における特定の態様において、抗体断片は、Ig型結合部分である。
【0134】
可変断片(Fv)
本明細書において、用語「可変断片(Fv)」は、抗体軽鎖可変領域(VL)および抗体重鎖可変領域(VH)の対で構成される抗体由来の抗原結合部位の最小単位のことをいう。1988年に、SkerraおよびPluckthunは、抗体遺伝子を細菌シグナル配列の下流に挿入すること、および大腸菌中で遺伝子の発現を誘導することによって、均一なかつ活性を有する抗体を大腸菌ペリプラズム画分から調製できることを見出した(Science (1988) 240(4855), 1038-1041)。ペリプラズム画分から調製されたFvにおいて、VHはVLと、抗原に結合するような様式で会合する。
【0135】
scFv、一本鎖抗体、およびsc(Fv)
2
本明細書において、用語「scFv」、「一本鎖抗体」、および「sc(Fv)2」はすべて、重鎖および軽鎖に由来する可変領域を含有するが、定常領域は含有しない、単一ポリペプチド鎖の抗体断片のことをいう。通常、一本鎖抗体はまた、VHドメインとVLドメインとの間にポリペプチドリンカーも含有し、これにより、抗原結合を可能にすると考えられる所望の構造の形成が可能になる。一本鎖抗体は、「The Pharmacology of Monoclonal Antibodies, Vol. 113, Rosenburg and Moore, eds., Springer-Verlag, New York, 269-315 (1994)」においてPluckthunによって詳細に考察されている。国際特許公開WO 1988/001649;米国特許第4,946,778号および第5,260,203号もまた参照のこと。特定の態様において、一本鎖抗体は、二重特異性および/またはヒト化であることができる。
【0136】
scFvは、Fvを形成するVHとVLとがペプチドリンカーによって互いに連結されている、一本鎖低分子量抗体である(Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. (1988) 85(16), 5879-5883)。VHとVLとは、ペプチドリンカーによって近接して保持されることができる。
【0137】
sc(Fv)2は、2つのVLおよび2つのVHの4つの可変領域が、一本鎖を形成するようにペプチドリンカーなどのリンカーによって連結されている、一本鎖抗体である(J Immunol. Methods (1999) 231(1-2), 177-189)。2つのVHおよび2つのVLは、異なるモノクローナル抗体に由来してもよい。そのようなsc(Fv)2には、好ましくは、例えば、Journal of Immunology (1994) 152(11), 5368-5374に開示されているような、単一の抗原に存在する2つのエピトープを認識する二重特異性sc(Fv)2が含まれる。sc(Fv)2は、当業者に知られている方法によって製造することができる。例えば、sc(Fv)2は、ペプチドリンカーなどのリンカーによってscFvを連結することによって、製造することができる。
【0138】
本明細書において、sc(Fv)2は、一本鎖ポリペプチドのN末端から始まってVH、VL、VH、およびVLの順序で配置されている、2つのVH単位および2つのVL単位を含む([VH]-リンカー-[VL]-リンカー-[VH]-リンカー-[VL])。2つのVH単位および2つのVL単位の順序は、上記の形態に限定されず、任意の順序で配置されてもよい。形態の例を以下に列記する。
[VL]-リンカー-[VH]-リンカー-[VH]-リンカー-[VL]
[VH]-リンカー-[VL]-リンカー-[VL]-リンカー-[VH]
[VH]-リンカー-[VH]-リンカー-[VL]-リンカー-[VL]
[VL]-リンカー-[VL]-リンカー-[VH]-リンカー-[VH]
[VL]-リンカー-[VH]-リンカー-[VL]-リンカー-[VH]
【0139】
sc(Fv)2の分子形態はまた、WO 2006/132352に詳細に記載されている。これらの記載に従って、当業者は、本明細書に開示されるポリペプチド複合体を製造するために、所望のsc(Fv)2を適宜調製することができる。
【0140】
抗体のクラス
抗体の「クラス」は、抗体の重鎖に備わる定常ドメインまたは定常領域のタイプのことをいう。抗体には5つの主要なクラス:IgA、IgD、IgE、IgG、およびIgMがあり、これらのうちいくつかは、サブクラス(アイソタイプ)、例えば、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgA1、およびIgA2にさらに分けられ得る。異なるクラスの免疫グロブリンに対応する重鎖定常ドメインを、それぞれ、α、δ、ε、γ、およびμと呼ぶ。
【0141】
別段示さない限り、軽鎖定常領域中のアミノ残基は、本明細書ではKabatらに従って番号付けされ、重鎖定常領域中のアミノ酸残基の番号付けは、Kabat et al., Sequences of Proteins of Immunological Interest, 5th Ed. Public Health Service, National Institutes of Health, Bethesda, MD, 1991に記載されているような、EUインデックスとも呼ばれるEUナンバリングシステムに従う。
【0142】
フレームワーク
「フレームワーク」または「FR」は、超可変領域(HVR)残基以外の、可変ドメイン残基のことをいう。可変ドメインのFRは、通常4つのFRドメイン:FR1、FR2、FR3、およびFR4からなる。それに応じて、HVRおよびFRの配列は、通常以下の順序でVH(またはVL)に現れる:FR1-H1(L1)-FR2-H2(L2)-FR3-H3(L3)-FR4。
【0143】
ヒトコンセンサスフレームワーク
「ヒトコンセンサスフレームワーク」は、ヒト免疫グロブリンVLまたはVHフレームワーク配列の選択において最も共通して生じるアミノ酸残基を示すフレームワークである。通常、ヒト免疫グロブリンVLまたはVH配列の選択は、可変ドメイン配列のサブグループからである。通常、配列のサブグループは、Kabat et al., Sequences of Proteins of Immunological Interest, Fifth Edition, NIH Publication 91-3242, Bethesda MD (1991), vols. 1-3におけるサブグループである。一態様において、VLについて、サブグループは上記のKabatらによるサブグループκIである。一態様において、VHについて、サブグループは上記のKabatらによるサブグループIIIである。
【0144】
キメラ抗体
用語「キメラ」抗体は、重鎖および/または軽鎖の一部分が特定の供給源または種に由来する一方で、重鎖および/または軽鎖の残りの部分が異なる供給源または種に由来する、抗体のことをいう。同様に、用語「キメラ抗体可変ドメイン」は、重鎖可変領域および/または軽鎖可変領域の一部分が特定の供給源または種に由来する一方で、重鎖可変領域および/または軽鎖可変領域の残りの部分が異なる供給源または種に由来する、抗体可変領域のことをいう。
【0145】
ヒト化抗体
「ヒト化」抗体は、非ヒトHVRからのアミノ酸残基およびヒトFRからのアミノ酸残基を含む、キメラ抗体のことをいう。ある特定の態様において、ヒト化抗体は、少なくとも1つの、および典型的には2つの可変ドメインの実質的にすべてを含み、そこでは、すべてのまたは実質的にすべてのHVR(例えば、CDR)は非ヒト抗体のものに対応し、かつ、すべてのまたは実質的にすべてのFRはヒト抗体のものに対応する。ヒト化抗体は、任意で、ヒト抗体に由来する抗体定常領域の少なくとも一部分を含んでもよい。抗体、例えば、非ヒト抗体の「ヒト化形態」は、ヒト化を経た抗体のことをいう。「ヒト化抗体可変領域」は、ヒト化抗体の可変領域のことをいう。
【0146】
ヒト抗体
「ヒト抗体」は、ヒトもしくはヒト細胞によって産生された抗体またはヒト抗体レパートリーもしくは他のヒト抗体コード配列を利用する非ヒト供給源に由来する抗体のアミノ酸配列に対応する、アミノ酸配列を備える抗体である。このヒト抗体の定義は、非ヒト抗原結合残基を含むヒト化抗体を明確に除外する。「ヒト抗体可変領域」は、ヒト抗体の可変領域のことをいう。
【0147】
ポリヌクレオチド(核酸)
本明細書で互換的に用いられる「ポリヌクレオチド」または「核酸」は、任意の長さのヌクレオチドのポリマーのことをいい、DNAおよびRNAを含む。ヌクレオチドは、デオキシリボヌクレオチド、リボヌクレオチド、修飾ヌクレオチドもしくは塩基、および/またはそれらのアナログ、またはDNAもしくはRNAポリメラーゼによってまたは合成反応によってポリマーに組み込まれ得る任意の物質であることができる。ポリヌクレオチドは、メチル化ヌクレオチドおよびそれらのアナログなどの、修飾ヌクレオチドを含み得る。ヌクレオチドの配列に、非ヌクレオチド成分が割り込んでいてもよい。ポリヌクレオチドは、標識へのコンジュゲーションなどの、合成後になされる修飾を含み得る。他のタイプの修飾には、例えば、「キャップ」、1つまたは複数の天然に存在するヌクレオチドとアナログとの置換、ヌクレオチド間修飾、例えば、非荷電連結(例えば、メチルホスホネート、ホスホトリエステル、ホスホロアミダート、カルバメートなど)および荷電連結(例えば、ホスホロチオエート、ホスホロジチオエートなど)を伴うもの、例えばタンパク質(例えば、ヌクレアーゼ、毒素、抗体、シグナルペプチド、ポリ-L-リジンなど)などのペンダント部分を含有するもの、インターカレート剤(例えば、アクリジン、ソラレンなど)を伴うもの、キレート剤(例えば、金属、放射性金属、ホウ素、酸化金属など)を含有するもの、アルキル化剤を含有するもの、修飾連結(例えば、αアノマー核酸など)を伴うもの、ならびに非修飾形態のポリヌクレオチドが含まれる。さらに、通常糖に存在する任意のヒドロキシル基は、例えば、ホスホネート基、ホスフェート基によって置換され得、標準的な保護基によって保護され得、もしくはさらなるヌクレオチドへのさらなる連結を準備するよう活性化され得、または固体もしくは半固体支持体にコンジュゲートされ得る。5'末端および3'末端のOHは、リン酸化することができ、またはアミンもしくは1~20炭素原子の有機キャップ基部分で置換することができる。他のヒドロキシルもまた、標準的な保護基に誘導体化され得る。ポリヌクレオチドはまた、例えば以下のものを含む、当技術分野で一般に公知であるリボースまたはデオキシリボース糖の類似形態を含有することができる:2'-O-メチル-、2'-O-アリル-、2'-フルオロ-、または2'-アジド-リボース、炭素環式糖アナログ、α-アノマー糖、アラビノースまたはキシロースまたはリキソースなどのエピマー糖、ピラノース糖、フラノース糖、セドヘプツロース、非環式アナログ、およびメチルリボシドなどの塩基性ヌクレオシドアナログ。1つまたは複数のホスホジエステル結合は、代替の連結基によって置き換えられ得る。これらの代替の連結基には、ホスフェートが以下のものによって置き換えられている態様が含まれるが、それらに限定されない:P(O)S(「チオエート」)、P(S)S(「ジチオエート」)、(O)NR2(「アミダート」)、P(O)R、P(O)OR'、CO、またはCH2(「ホルムアセタール」)、ここで、各RまたはR'は独立してH、または、任意でエーテル(-O-)連結、アリール、アルケニル、シクロアルキル、シクロアルケニル、もしくはアラルジルを含有する置換もしくは非置換アルキル(1~20 C)である。ポリヌクレオチド中のすべての連結が同一である必要はない。前記の説明は、RNAおよびDNAを含む、本明細書で言及されるすべてのポリヌクレオチドに適用される。
【0148】
単離された(核酸)
「単離された」核酸分子は、その本来の環境の成分から分離されたものである。単離された核酸分子にはさらに、その核酸分子を通常含有する細胞中に含有されている核酸分子が含まれるが、当該核酸分子は、染色体外に、またはその本来の染色体上の位置とは異なる染色体上の位置に存在する。
【0149】
ベクター
本明細書で用いられる用語「ベクター」は、それが連結されているもう1つの核酸を増やすことができる、核酸分子のことをいう。この用語は、自己複製核酸構造としてのベクター、および、それが導入された宿主細胞のゲノム中に組み入れられるベクターを含む。ある特定のベクターは、それが機能的に連結されている核酸の発現を方向付けることができる。そのようなベクターは、本明細書では「発現ベクター」と呼ばれる。ベクターは、ウイルスまたはエレクトロポレーションを用いて宿主細胞中に導入することができる。しかし、ベクターの導入は、インビトロの方法に限定されない。例えば、ベクターを、インビボの方法を用いて直接的に対象中に導入することもできる。
【0150】
対象
本発明において、対象は特に限定されない。本明細書における好ましい態様によると、対象は、動物、好ましくは哺乳動物、より好ましくはヒトである。
【0151】
本明細書における一般的な好ましい態様において、主題(任意の医学的使用を含むがそれらに限定されない)は、動物対象、好ましくは哺乳動物対象、より好ましくはヒト対象に関する。
【0152】
したがって、本明細書における好ましい態様において、第1の抗原は、動物、好ましくは哺乳動物、より好ましくはヒトに由来する抗原である。したがって、本明細書における好ましい態様において、第2の抗原は、動物、好ましくは哺乳動物、より好ましくはヒトに由来する抗原である。したがって、本明細書における好ましい態様において、本明細書における抗体は、動物、好ましくは哺乳動物、より好ましくはヒトに由来する抗体である。代替の態様において、本明細書における抗体は、ヒト化抗体である。
【0153】
宿主細胞
用語「宿主細胞」、「宿主細胞株」、および「宿主細胞培養物」は、互換的に用いられ、外来核酸が導入された細胞(そのような細胞の子孫を含む)のことをいう。宿主細胞は、「形質転換体」および「形質転換細胞」を含み、これには、初代の形質転換細胞および継代数によらずその細胞に由来する子孫が含まれる。子孫は、親細胞と核酸の内容において完全に同一でなくてもよく、変異を含んでいてもよい。オリジナルの形質転換細胞がスクリーニングまたは選択されたのと同じ機能または生物学的活性を有する変異体子孫が、本明細書では含まれる。
【0154】
特異性
「特異的」とは、1つまたは複数の結合パートナーに特異的に結合する分子が、パートナー以外の分子に対していかなる有意な結合も示さないことを意味する。さらに、「特異的」はまた、抗原結合部位が、抗原に含有される複数のエピトープのうちの特定のエピトープに特異的である場合にも用いられる。抗原結合分子が抗原に特異的に結合する場合、それはまた、「抗原結合分子が抗原に/に対して特異性を有する/示す」とも説明される。抗原結合部位が結合するエピトープが、複数の異なる抗原に含有される場合、抗原結合部位を含有する抗原結合分子は、そのエピトープを有する種々の抗原に結合することができる。
【0155】
さらに、本発明の分子(すなわち、「第1の抗原に結合する第1の部分および第2の抗原に結合する第2の部分を含む分子」)は、PEGなどの担体ポリマーまたは抗がん剤などの有機化合物とコンジュゲートされてもよい。あるいは、糖鎖が所望の効果を生じるように、糖鎖付加配列が、分子中に好ましく挿入される。
【0156】
リンカー
2つ以上の異なる構成要素(例えば、ポリペプチド、ペプチド)を連結するために用いられるリンカーには、遺伝子工学によって導入され得る任意のペプチドリンカー、合成リンカー、および、例えば、Protein Engineering, 9(3), 299-305, 1996に開示されているリンカーが含まれる。しかし、本開示においてはペプチドリンカーが好ましい。ペプチドリンカーの長さは、特に限定されず、目的に応じて当業者が好適に選択することができる。長さは、好ましくは、5アミノ酸以上(特に限定されないが、上限は通常30アミノ酸以下、好ましくは20アミノ酸以下)であり、特に好ましくは15アミノ酸である。例えば、sc(Fv)2が3つのペプチドリンカーを含有する場合、それらの長さは、すべて同じであってもよく、または異なっていてもよい。
【0157】
例えば、そのようなペプチドリンカーには、
Ser、
Gly-Ser、
Gly-Gly-Ser、
Ser-Gly-Gly、
Gly-Gly-Gly-Ser (配列番号:11)、
Ser-Gly-Gly-Gly (配列番号:12)、
Gly-Gly-Gly-Gly-Ser (配列番号:13)、
Ser-Gly-Gly-Gly-Gly (配列番号:14)、
Gly-Gly-Gly-Gly-Gly-Ser (配列番号:15)、
Ser-Gly-Gly-Gly-Gly-Gly (配列番号:16)、
Gly-Gly-Gly-Gly-Gly-Gly-Ser (配列番号:17)、
Ser-Gly-Gly-Gly-Gly-Gly-Gly (配列番号:18)、
(Gly-Gly-Gly-Gly-Ser (配列番号:13))n、および
(Ser-Gly-Gly-Gly-Gly (配列番号:14))n
が含まれ、ここで、nは1以上の整数である。ペプチドリンカーの長さまたは配列は、目的に応じて当業者がそれ相応に選択することができる。
【0158】
合成リンカー(化学架橋剤)が、ペプチドを架橋するために日常的に用いられ、例には、以下が含まれる:
N-ヒドロキシスクシンイミド(NHS)、
ジスクシンイミジルスベラート(DSS)、
ビス(スルホスクシンイミジル)スベラート(BS3)、
ジチオビス(スクシンイミジルプロピオナート)(DSP)、
ジチオビス(スルホスクシンイミジルプロピオナート)(DTSSP)、
エチレングリコールビス(スクシンイミジルスクシナート)(EGS)、
エチレングリコールビス(スルホスクシンイミジルスクシナート)(スルホ-EGS)、
ジスクシンイミジルタルトラート(DST)、ジスルホスクシンイミジルタルトラート(スルホ-DST)、
ビス[2-(スクシンイミドキシカルボニルオキシ)エチル]スルホン(BSOCOES)、および
ビス[2-(スルホスクシンイミドキシカルボニルオキシ)エチル]スルホン(スルホ-BSOCOES)。
これらの架橋剤は、市販されている。
【0159】
例えば、通常、4つの抗体可変領域を互いに連結するために、3つのリンカーが必要とされる。用いられるリンカーは、同じタイプのものであってもよく、または異なるタイプのものであってもよい。
【0160】
Fc領域
用語「Fc領域」または「Fcドメイン」は、抗体分子中のヒンジまたはその一部分ならびにCH2ドメインおよびCH3ドメインからなる断片を含む、領域のことをいう。IgGクラスのFc領域は、例えば、システイン226(EUナンバリング(本明細書ではEUインデックスとも呼ばれる))からC末端まで、またはプロリン230(EUナンバリング)からC末端までの領域を意味するが、それらに限定されない。Fc領域は、好ましくは、例えば、IgG1、IgG2、IgG3、またはIgG4モノクローナル抗体のペプシンなどのタンパク質分解酵素での部分消化、それに続くプロテインAカラムまたはプロテインGカラム上に吸着した画分の再溶出によって得ることができる。そのようなタンパク質分解酵素は、適宜設定された酵素の反応条件(例えば、pH)下で、酵素が全部抗体を消化して、制限的にFabまたはF(ab')2を形成することができる限り、特に限定されない。その例には、ペプシンおよびパパインが含まれ得る。
【0161】
例えば、天然に存在するIgGに由来するFc領域を、本発明の「Fc領域」として用いることができる。この文脈において、天然に存在するIgGとは、天然に見出されるIgGのアミノ酸配列と同一のアミノ酸配列を含有し、免疫グロブリンγ遺伝子によって実質的にコードされる抗体のクラスに属するポリペプチドを意味する。天然に存在するヒトIgGとは、例えば、天然に存在するヒトIgG1、天然に存在するヒトIgG2、天然に存在するヒトIgG3、または天然に存在するヒトIgG4を意味する。天然に存在するIgGにはまた、それから自然発生的に派生したバリアントなども含まれる。遺伝子多型に基づく複数のアロタイプ配列が、Sequences of proteins of immunological interest, NIH Publication No. 91-3242に、ヒトIgG1、ヒトIgG2、ヒトIgG3、およびヒトIgG4抗体の定常領域として記載されており、そのいずれかを本発明において用いることができる。特に、ヒトIgG1の配列は、EUナンバリング356~358位のアミノ酸配列としてDELまたはEEMを有し得る。
【0162】
いくつかの態様において、本発明の分子に属する抗体のFcドメインは、免疫グロブリン分子の重鎖ドメインを含む一対のポリペプチド鎖からなる。例えば、免疫グロブリンG(IgG)分子のFcドメインは二量体であり、その各サブユニットは、CH2およびCH3 IgG重鎖定常ドメインを含む。Fcドメインの2つのサブユニットは、互いに安定した会合が可能である。一態様において、本発明の分子は、1つ以下のFcドメインを含み得る。
【0163】
一態様において、分子が含み得るFcドメインは、IgG Fcドメインである。特定の態様において、FcドメインはIgG1 Fcドメインである。別の態様において、FcドメインはIgG1 Fcドメインである。さらなる特定の態様において、FcドメインはヒトIgG1 Fc領域である。
【0164】
多重特異性抗体の製造および精製
上記のように、本発明の分子、すなわち、「第1の抗原に結合する第1の部分および第2の抗原に結合する第2の部分を含む分子」が、例えば、上記のような抗原結合分子とも呼ばれる、抗体などの抗原結合分子である場合には、いくつかの態様において、「第2の抗原に結合する第2の部分」、および適切な場合、さらに「第1の抗原に結合する第1の部分」は、抗体の、または抗体に由来する抗原結合ドメインであってもよい。一態様において、分子、すなわち、抗体などの抗原結合分子は、二重特異性、三重特異性、および四重特異性の抗体または抗原結合分子などの、多特異性抗原結合分子であってもよい。
【0165】
一例において、本明細書に記載される多重特異性抗原結合分子は、Fcドメインの2つのサブユニットの一方またはもう一方に融合した、2つの異なる抗原結合部分(例えば、「第1の抗原結合部分」(すなわち、第1の部分)および「第2の抗原結合部分」(すなわち、第2の部分))を含み、したがって、Fcドメインの2つのサブユニットは、典型的には、2つの同一ではないポリペプチド鎖に含まれる。これらのポリペプチドの組換え共発現およびその後の二量体化により、2つのポリペプチドのいくつかの可能な組み合わせがもたらされる。組換え製造における多重特異性抗原結合分子の収量および純度を改善するために、多重特異性抗原結合分子のFcドメインに、所望のポリペプチドの会合を促進する改変を導入することが有利であろう。
【0166】
したがって、特定の態様において、本明細書に記載される多重特異性抗原結合分子のFcドメインは、Fcドメインの第1のサブユニットおよび第2のサブユニットの会合を促進する改変を含む。ヒトIgG Fcドメインの2つのサブユニット間の最も広範囲のタンパク質-タンパク質相互作用の部位は、FcドメインのCH3ドメイン中にある。したがって、一態様において、前記改変は、FcドメインのCH3ドメイン中にある。
具体的な態様において、前記改変は、いわゆる「ノブ・イントゥ・ホール(knob-into-hole)」改変であり、Fcドメインの2つのサブユニットのうちの1つにおける「ノブ」改変およびFcドメインの2つのサブユニットのうちのもう1つにおける「ホール」改変を含む。
【0167】
ノブ・イントゥ・ホール技術は、例えば、US 5,731,168;US 7,695,936;Ridgway et al., Prot Eng 9, 617-621 (1996)およびCarter, J Immunol Meth 248, 7-15 (2001)に記載されている。通常、方法は、第1のポリペプチドの界面に突起(「ノブ」)を、および第2のポリペプチドの界面に対応する空洞(「ホール」)を導入することを含み、ヘテロ二量体形成を促進し、かつホモ二量体形成を妨げるために、突起が空洞中に配置され得るようにする。突起は、第1のポリペプチドの界面からの小さなアミノ酸側鎖を、より大きな側鎖(例えば、チロシンまたはトリプトファン)で置き換えることによって構築される。大きなアミノ酸側鎖を、より小さなアミノ酸側鎖(例えば、アラニンまたはスレオニン)で置き換えることによって、突起と同一または同様のサイズの代償性空洞が、第2のポリペプチドの界面に作成される。
【0168】
したがって、特定の態様において、多重特異性抗原結合分子のFcドメインの第1のサブユニットのCH3ドメイン中で、アミノ酸残基は、より大きな側鎖体積を有するアミノ酸残基で置き換えられ、それによって、第2のサブユニットのCH3ドメイン内の空洞に配置可能である、第1のサブユニットのCH3ドメイン内の突起を生成し、Fcドメインの第2のサブユニットのCH3ドメイン中で、アミノ酸残基は、より小さな側鎖体積を有するアミノ酸残基で置き換えられ、それによって、第1のサブユニットのCH3ドメイン内の突起がその中に配置可能である、第2のサブユニットのCH3ドメイン内の空洞を生成する。
【0169】
突起および空洞は、ポリペプチドをコードする核酸を、例えば、部位特異的変異誘発により、またはペプチド合成により変更することによって、作製することができる。
【0170】
具体的な態様において、Fcドメインの第1のサブユニットのCH3ドメイン中で、366位のスレオニン残基はトリプトファン残基で置き換えられ(T366W)、Fcドメインの第2のサブユニットのCH3ドメイン中で、407位のチロシン残基はバリン残基で置き換えられる(Y407V)。一態様において、Fcドメインの第2のサブユニット中で、追加的に、366位のスレオニン残基はセリン残基で置き換えられ(T366S)、368位のロイシン残基はアラニン残基で置き換えられる(L368A)。
【0171】
またさらなる態様において、Fcドメインの第1のサブユニット中で、追加的に、354位のセリン残基はシステイン残基で置き換えられ(S354C)、Fcドメインの第2のサブユニット中で、追加的に、349位のチロシン残基はシステイン残基によって置き換えられる(Y349C)。これらの2つのシステイン残基の導入により、二量体をさらに安定化する、Fcドメインの2つのサブユニット間のジスルフィド架橋の形成が結果としてもたらされる(Carter, J Immunol Methods 248, 7-15 (2001))。
【0172】
他の態様において、所望の組み合わせを有する、H鎖の間およびL鎖とH鎖との間の会合を促進するための他の技法を、本発明の多重特異性抗原結合分子に適用することができる。
【0173】
例えば、抗体H鎖の第2の定常領域または第3の定常領域(CH2またはCH3)の界面に静電反発を導入することによる、望ましくないH鎖会合を抑制するための技法を、多重特異性抗体会合に適用することができる(WO2006/106905)。
【0174】
CH2またはCH3の界面に静電反発を導入することによる、意図されないH鎖会合を抑制する技法において、H鎖の他の定常領域の界面で接触するアミノ酸残基の例には、CH3領域中のEUナンバリング356、439、357、370、399、および409位の残基に対応する領域が含まれる。
【0175】
より具体的には、例には、2つのタイプのH鎖CH3領域を含む抗体が含まれ、ここで、以下の(1)~(3)に示されるアミノ酸残基の対から選択される、第1のH鎖CH3領域中の1~3対のアミノ酸残基は、同じタイプの電荷を保有する:(1)EUナンバリング356位および439位のH鎖CH3領域に含まれるアミノ酸残基;(2)EUナンバリング357位および370位のH鎖CH3領域に含まれるアミノ酸残基;ならびに(3)EUナンバリング399位および409位のH鎖CH3領域に含まれるアミノ酸残基。
【0176】
さらに、抗体は、上述の第1のH鎖CH3領域とは異なる第2のH鎖CH3領域中のアミノ酸残基の対が、(1)~(3)のアミノ酸残基の上述の対から選択される抗体であってもよく、上述の第1のH鎖CH3領域中に同じタイプの電荷を有する(1)~(3)のアミノ酸残基の上述の対に対応する1~3対のアミノ酸残基は、上述の第1のH鎖CH3領域中の対応するアミノ酸残基とは反対の電荷を保有する。
【0177】
上記の(1)~(3)に示されるアミノ酸残基の各々は、会合中に互いに接近する。当業者は、市販のソフトウェアを用いる相同性モデリングなどによって、所望のH鎖CH3領域またはH鎖定常領域中の(1)~(3)の上述のアミノ酸残基に対応する位置を見出すことができ、これらの位置のアミノ酸残基を、適宜改変に供することができる。
【0178】
上述の抗体において、「荷電アミノ酸残基」は、好ましくは、例えば、以下の群のいずれか1つに含まれるアミノ酸残基から選択される:
(a)グルタミン酸(E)およびアスパラギン酸(D);ならびに
(b)リジン(K)、アルギニン(R)、およびヒスチジン(H)。
【0179】
上述の抗体において、句「同じ電荷を保有する」は、例えば、2個以上のアミノ酸残基のすべてが、上述の群(a)および(b)のいずれか1つに含まれるアミノ酸残基から選択されることを意味する。句「反対の電荷を保有する」は、例えば、2個以上のアミノ酸残基の間のアミノ酸残基の少なくとも1つが、上述の群(a)および(b)のいずれか1つに含まれるアミノ酸残基から選択される場合、残りのアミノ酸残基は、もう1つの群に含まれるアミノ酸残基から選択されることを意味する。
【0180】
好ましい態様において、上述の抗体は、ジスルフィド結合によって架橋された、その第1のH鎖CH3領域および第2のH鎖CH3領域を有し得る。
【0181】
本発明において、改変に供されるアミノ酸残基は、抗体可変領域または抗体定常領域の上述のアミノ酸残基に限定されない。当業者は、市販のソフトウェアを用いる相同性モデリングなどによって、変異体ポリペプチドまたはヘテロ多量体において界面を形成するアミノ酸残基を特定することができ;次いで、会合を制御するために、これらの位置のアミノ酸残基を改変に供することができる。
【0182】
加えて、他の公知の技法もまた、多重特異性抗体の形成に用いることができる。異なる配列を有するポリペプチドの会合は、抗体のH鎖CH3のうちの1つの一部を対応するIgA由来配列に変更し、対応するIgA由来配列をもう1つのH鎖CH3の相補的部分中に導入することにより製造される鎖交換操作ドメインCH3を用いたCH3の相補的会合によって、効率的に導入することができる(Protein Engineering Design & Selection, 23; 195-202, 2010)。この公知の技法はまた、関心対象の多重特異性抗体を効率的に形成するために用いることもできる。
【0183】
加えて、WO2011/028952、WO2014/018572、およびNat Biotechnol. 2014 Feb; 32(2):191-8に記載されているような、抗体CH1とCLとの会合およびVHとVLとの会合を用いる抗体製造のための技術;WO2008/119353およびWO2011/131746に記載されているような、別々に調製されたモノクローナル抗体を組み合わせて用いる二重特異性抗体を製造するための技術(Fabアーム交換(Fab Arm Exchange));WO2012/058768およびWO2013/063702に記載されているような、抗体重鎖CH3の間の会合を制御するための技術;WO2012/023053に記載されているような、2つのタイプの軽鎖および1つのタイプの重鎖で構成される多重特異性抗体を製造するための技術;Christoph et al. (Nature Biotechnology Vol. 31, p 753-758 (2013))によって記載されているような、単一のH鎖および単一のL鎖を含む抗体の鎖のうちの1つを個々に発現する2つの細菌細胞株を用いる多重特異性抗体を製造するための技術などが、多重特異性抗体の形成に用いられてもよい。
【0184】
あるいは、関心対象の多重特異性抗体を効率的に形成できない場合でも、産生された抗体から関心対象の多重特異性抗体を分離および精製することによって、多重特異性抗体を得ることができる。例えば、2つのタイプのH鎖の可変領域中へのアミノ酸置換の導入により等電点の差を付与することによって、イオン交換クロマトグラフィーによる2つのタイプのホモマー形態および関心対象のヘテロマー抗体の精製を可能にするための方法が報告されている(WO2007114325)。現在までに、ヘテロマー抗体を精製するための方法として、プロテインAを用いて、プロテインAに結合するマウスIgG2a H鎖およびプロテインAに結合しないラットIgG2b H鎖を含むヘテロ二量体抗体を精製する方法が報告されている(WO98050431およびWO95033844)。さらに、ヘテロ二量体抗体は、IgG-プロテインA結合部位であるEUナンバリング435位および436位のアミノ酸残基の、異なるプロテインAアフィニティを生じるアミノ基であるTyr、Hisなどでの置換を含むH鎖を用いること、または、H鎖の各々とプロテインAとの相互作用を変化させるために、異なるプロテインAアフィニティを有するH鎖を用い、次いでプロテインAカラムを用いることによって、単独で効率的に精製することができる。
【0185】
さらに、そのFc領域C末端不均一性が改善されているFc領域を、本発明のFc領域として適宜用いることができる。より具体的には、本発明は、IgG1、IgG2、IgG3、またはIgG4に由来するFc領域を構成する2つのポリペプチドのアミノ酸配列から、EUナンバリングによって特定される446位のグリシンおよび447位のリジンを欠失させることによって製造される、Fc領域を提供する。
【0186】
本明細書に記載されるように調製された多重特異性抗原結合分子は、高速液体クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、ゲル電気泳動、アフィニティクロマトグラフィー、サイズ排除クロマトグラフィーなどの当技術分野で公知の技法によって精製され得る。特定のタンパク質を精製するために用いられる実際の条件は、正味の電荷、疎水性、親水性などの要因に部分的に依存し、当業者には明らかであろう。アフィニティクロマトグラフィー精製のために、多重特異性抗原結合分子が結合する抗体、リガンド、受容体、または抗原を用いることができる。例えば、多重特異性抗原結合分子のアフィニティクロマトグラフィー精製のために、プロテインAまたはプロテインGを含むマトリックスが用いられ得る。連続したプロテインAまたはGアフィニティクロマトグラフィーおよびサイズ排除クロマトグラフィーを用いて、多重特異性抗原結合分子を単離することができる。多重特異性抗原結合分子の純度は、ゲル電気泳動、高圧液体クロマトグラフィーなどを含む様々な周知の解析方法のいずれかによって、決定することができる。
【0187】
抗体依存性細胞介在性細胞傷害
「抗体依存性細胞介在性細胞傷害」または「ADCC」は、分泌されたIgが特定の細胞傷害性細胞(例えば、NK細胞、好中球、およびマクロファージ)上に存在するFc受容体(FcR)に結合し、それによってこれらの細胞傷害性エフェクター細胞が抗原を有する標的細胞に特異的に結合することができ、そしてその後にその標的細胞を細胞毒によって殺傷することができるようになる、細胞傷害の一形態のことをいう。ADCCを媒介するプライマリ細胞であるNK細胞はFcγRIIIのみを発現し、単球はFcγRI、FcγRII、およびFcγRIIIを発現する。造血細胞上のFcRの発現は、Ravetch and Kinet, Annu. Rev. Immunol 9:457-92 (1991) の第464頁の表3にまとめられている。関心対象の分子のADCC活性を評価するために、インビトロADCCアッセイ、例えば米国特許第5,500,362号もしくは第5,821,337号または米国特許第6,737,056号(Presta)に記載されているものが行われ得る。そのようなアッセイに有用なエフェクター細胞には、PBMCおよびNK細胞が含まれる。代替的にまたは追加的に、関心対象の分子のADCC活性は、例えば、動物モデル、例えばClynes et al. PNAS (USA) 95:652-656 (1998)に開示されているものにおいて、インビボで評価されてもよい。
【0188】
補体依存性細胞傷害
「補体依存性細胞傷害」または「CDC」は、補体の存在下での標的細胞の溶解のことをいう。古典的補体経路の活性化は、その対応する抗原に結合している、(適切なサブクラスの)抗体に対する補体系の第1要素(C1q)の結合によって開始される。補体活性化を評価するために、例えば、Gazzano-Santoro et al., J. Immunol. Methods 202:163 (1996)に記載されているような、CDCアッセイが行われ得る。改変されたFc領域アミノ酸配列を有するポリペプチドバリアント(バリアントFc領域を有するポリペプチド)および増加または減少したC1q結合能は、例えば、米国特許第6,194,551号B1およびWO 1999/51642に記載されている。例えば、Idusogie et al. J. Immunol. 164: 4178-4184 (2000)もまた参照のこと。
【0189】
薬学的組成物
一局面において、本開示は、上記のような本発明の分子、例えば、「第1の抗原に結合する第1の部分および第2の抗原に結合する第2の部分を含む分子」を含む薬学的組成物を提供する。
【0190】
ある特定の態様において、本発明の薬学的組成物は、細胞(例えば、上記のような、免疫細胞、罹患組織中の細胞)中にシグナル伝達またはシグナル遮断を与える、換言すると、免疫細胞を直接的にもしくは間接的に活性化する、制御する、抑制する、もしくは阻害する、または罹患組織中の細胞(例えば、腫瘍細胞)を抑制するもしくは阻害するためのものである。一態様において、本発明の薬学的組成物は、細胞性の細胞傷害を誘導するための治療剤である。ある特定の態様において、本開示の薬学的組成物は、がん、自己免疫疾患、炎症、ウイルス感染症などの処置および/または予防に使用される薬学的組成物である。
【0191】
本発明において、処置のための薬学的組成物はまた、治療剤(細胞増殖抑制剤、抗がん剤などを含むがそれらに限定されない)とも呼ばれ得る。
【0192】
本発明において、用語「がん」、「癌腫」、および「がん性」は、制御されない細胞成長/増殖によって典型的に特徴付けられる、哺乳動物における生理学的状態のことをいうか、または説明する。本発明において、用語「腫瘍」は、悪性か良性かによらず、すべての新生物性細胞成長および増殖、ならびにすべての前がん性およびがん性の細胞および組織のことをいう。用語「癌腫」、「がん」、「がん性」、「細胞増殖性障害」、「増殖性障害」、および「腫瘍」は、本明細書でいう場合、相互に排他的ではない。用語「細胞増殖性障害」および「増殖性障害」は、一定程度の異常な細胞増殖に関連する障害のことをいう。一態様において、細胞増殖性障害はがんである。
【0193】
本発明において、がんには、例えば、胃がん、頭頸部がん、食道がん、結腸直腸がん、肺がん、中皮腫、肝臓がん、卵巣がん、乳がん、結腸がん、腎臓がん、皮膚がん、筋肉腫瘍、膵臓がん、前立腺がん、精巣がん、子宮がん、胆管癌、メルケル細胞癌、膀胱がん、甲状腺がん、神経鞘腫、副腎がん、肛門がん、中枢神経系腫瘍、神経内分泌組織腫瘍、陰茎がん、胸膜腫瘍、唾液腺腫瘍、外陰がん、胸腺腫、リンパ腫、骨髄性白血病、小児がん(ウィルムス腫瘍、神経芽腫、肉腫、肝芽腫、および生殖細胞腫瘍)が含まれるが、それらに限定されない。より好ましいがんのタイプには、胃がん、結腸直腸がん、肺がん、中皮腫、肝臓がん、乳がん、皮膚がん、リンパ腫、および骨髄性白血病が含まれるが、それらに限定されない(Tumori. (2012) 98, 478-484;Tumor Biol. (2015) 36, 4671-4679;Am J Clin Pathol (2008) 130, 224-230;Adv Anat Pathol (2014) 21, 450-460;Med Oncol (2012) 29, 663-669;Clinical Cancer Research (2004) 10, 6612-6621;Appl Immunohistochem Mol Morphol (2009) 17, 40-46;Eur J Pediatr Surg (2015) 25, 138-144;J Clin Pathol (2011) 64, 587-591;Am J Surg Pathol (2006) 30, 1570-1575;Oncology (2007) 73, 389-394;Diagnostic Pathology (2010) 64, 1-6;Diagnostic Pathology (2015) 34, 1-6;Am J Clin Pathol (2008) 129, 899-906;Virchows Arch (2015) 466, 67-76)。より好ましいがんのタイプには、胃がん、肺がん、中皮腫、肝臓がん、乳がん、皮膚がん、リンパ腫、および骨髄性白血病が含まれる。
【0194】
本発明において、「自己免疫疾患」には、白斑、I型糖尿病などが含まれるが、それらに限定されない。
【0195】
本発明において、「炎症」には、以下の組織における炎症が含まれるが、それらに限定されない。
i. 関節リウマチまたは変形性関節炎に関連する関節組織。
ii. 気管支喘息に関連する肺組織。
iii. 炎症性腸疾患、クローン病、または潰瘍性大腸炎に関連する消化器組織。
iv. 肝臓、腎臓、または肺における線維症に関連する線維性組織。
v. 臓器移植による免疫拒絶に関連する組織。
vi. 動脈硬化または心不全に関連する血管組織または心臓組織。
vii. メタボリックシンドロームに関連する内臓脂肪組織。
viii. アトピー性皮膚炎または任意の他の皮膚炎に関連する皮膚組織。
ix. 椎間板ヘルニアまたは慢性背痛に関連する脊髄神経組織。
x. 骨折に関連する骨組織。
xi. 火傷に関連する組織。
xii. 機械的、物理的、または化学的な外力によって損傷を受けた臓器組織の組織。
【0196】
本発明の薬学的組成物は、必要とされる場合には、本発明の分子のうちの1つまたは複数を伴って製剤化され得る。例えば、免疫細胞の免疫応答の活性化、制御、抑制、もしくは阻害、または抗原を発現する細胞に対する細胞傷害作用は、本発明の分子のうちの2つ以上のカクテルによって増強させることができる。
【0197】
本発明の分子を含む薬学的組成物は、所望の純度を有する上記のような本発明の分子を、1つまたは複数の任意の薬学的に許容される担体(Remington's Pharmaceutical Sciences 16th edition, Osol, A. Ed. (1980))と混合することによって、凍結乾燥製剤または水溶液の形態で、調製される。薬学的に許容される担体は、通常、使用される投与量および濃度ではレシピエントに対して非毒性であり、以下を含むが、それらに限定されない:リン酸塩、クエン酸塩、および他の有機酸などの緩衝液;アスコルビン酸およびメチオニンを含む、抗酸化剤;保存料(オクタデシルジメチルベンジル塩化アンモニウム;塩化ヘキサメトニウム;塩化ベンザルコニウム;塩化ベンゼトニウム;フェノール、ブチルまたはベンジルアルコール;メチルまたはプロピルパラベンなどのアルキルパラベン;カテコール;レソルシノール;シクロヘキサノール;3-ペンタノール;およびm-クレゾールなど);低分子量(約10残基未満)ポリペプチド;血清アルブミン、ゼラチン、または免疫グロブリンなどのタンパク質;ポリビニルピロリドンなどの親水性ポリマー;グリシン、グルタミン、アスパラギン、ヒスチジン、アルギニン、またはリジンなどのアミノ酸;グルコース、マンノース、またはデキストリンを含む、単糖、二糖、および他の炭水化物;EDTAなどのキレート剤;スクロース、マンニトール、トレハロース、またはソルビトールなどの糖類;ナトリウムなどの塩形成対イオン類;金属錯体(例えば、Zn-タンパク質錯体);および/またはポリエチレングリコール(PEG)などの非イオン性界面活性剤。本明細書における例示的な薬学的に許容される担体には、さらに、可溶性中性活性型ヒアルロニダーゼ糖タンパク質(sHASEGP)、例えば、rHuPH20(HYLENEX(登録商標)、Baxter International, Inc.)などのヒト可溶性PH-20ヒアルロニダーゼ糖タンパク質)などの、間質性薬物分散剤が含まれる。rHuPH20を含む、ある特定の例示的なsHASEGPおよび使用方法は、米国特許出願公開第2005/0260186号および第2006/0104968号に記載されている。一局面において、sHASEGPは、コンドロイチナーゼなどの1つまたは複数の追加的なグリコサミノグリカナーゼと組み合わせられる。
【0198】
例示的な凍結乾燥抗体製剤は、米国特許第6,267,958号に記載されている。水性抗体製剤には、米国特許第6,171,586号およびWO2006/044908に記載されているものが含まれ、後者の製剤は、ヒスチジン-酢酸緩衝液を含む。
【0199】
本明細書における製剤はまた、処置される特定の適応症のために必要であれば、1つよりも多い有効成分、好ましくは、互いに悪影響を及ぼさない相補的な活性を有するものを含有してもよい。そのような有効成分は、意図される目的に有効である量で、組み合わせで好適に存在する。
【0200】
必要な場合には、上記のような本発明の分子は、マイクロカプセル(ヒドロキシメチルセルロース、ゼラチン、ポリ[メチルメタクリラート]などからなるマイクロカプセル)にカプセル化されてもよく、コロイド状薬物送達システム(リポソーム、アルブミンマイクロスフェア、マイクロエマルション、ナノ粒子、およびナノカプセル)の構成要素とされてもよい(例えば、「Remington's Pharmaceutical Science 16th edition」、Oslo Ed. (1980)を参照のこと)。さらに、徐放剤として剤を調製するための方法が公知であり、これらを、本開示の抗原結合分子に適用することができる(J. Biomed. Mater. Res. (1981) 15, 267-277;Chemtech. (1982) 12, 98-105;米国特許第3773719号;欧州特許出願(EP)番号EP58481およびEP133988;Biopolymers (1983) 22, 547-556)。
【0201】
上記のような本発明の分子を含む薬学的組成物は、経口または非経口のいずれかで患者に投与されてもよい。非経口投与が好ましい。具体的には、そのような投与方法には、注射、経鼻投与、経肺投与、および経皮投与が含まれる。注射には、例えば、静脈内注射、筋肉内注射、腹腔内注射、および皮下注射が含まれる。例えば、上記のような本発明の分子を含む薬学的組成物は、注射によって局所的にまたは全身的に投与することができる。さらに、適切な投与方法を、患者の年齢および症状に応じて選択することができる。投与する用量は、例えば、各投与について1 kgの体重あたり0.0001 mg~1,000 mgの範囲から選択することができる。あるいは、用量を、例えば、患者あたり0.001 mg/体~100,000 mg/体の範囲から選択することができる。しかし、本発明の薬学的組成物の用量は、これらの用量に限定されない。
【0202】
本発明は、細胞(例えば、上記のような、免疫細胞、罹患組織中の細胞)中にシグナル伝達またはシグナル遮断を与える、換言すると、免疫細胞を直接的にもしくは間接的に活性化する、制御する、抑制する、もしくは阻害する、または罹患組織中の細胞(例えば、腫瘍細胞)を抑制するもしくは阻害するための方法であって、上記のような本発明の分子のその必要がある対象への投与を含む方法を提供する。一態様において、本発明の方法は、上記のような罹患組織において細胞性の細胞傷害を誘導するためのものである。本発明は、さらに、がん、自己免疫疾患、炎症、ウイルス感染症などの処置および/または予防のための方法であって、上記のような本発明の分子のその必要がある対象への投与を含む方法を提供する。
【0203】
本開示はまた、上記のような本発明の分子を含有する、本発明の方法における使用のためのキットも提供する。キットは、追加の薬学的に許容される担体もしくは媒体、またはキットを使用する方法を説明する取扱説明書などと共にパッケージングされてもよい。
【0204】
本発明の別の局面において、上記の障害の処置、予防、および/または診断に有用な材料を含有する製品が提供される。製品は、容器、および当該容器上のラベルまたは当該容器に付属する添付文書を含む。好適な容器には、例えば、ボトル、バイアル、シリンジ、IV溶液バッグなどが含まれる。容器は、ガラスまたはプラスチックなどの、様々な材料から形成されていてもよい。容器は、単体であるか、または状態を処置する、予防する、および/もしくは診断するために有効な別の組成物と組み合わされた組成物を保持し、無菌アクセスポートを有してもよい(例えば、容器は、静脈内溶液バッグまたは皮下注射針によって突き通すことのできるストッパーを有するバイアルであってもよい)。組成物中の少なくとも1つの有効成分は、本発明の抗体である。
【0205】
ラベルまたは添付文書は、組成物が選ばれた状態を処置するために使用されることを示す。さらに、製品は、(a)上記のような本発明の分子を含む組成物がその中に含有されている、第1の容器;および(b)さらなる細胞傷害剤またはそうではない治療剤を含む組成物がその中に含有されている、第2の容器を含んでもよい。
【0206】
本発明のこの態様における製品は、組成物が特定の状態を処置するために使用され得ることを示す添付文書を、さらに含んでもよい。代替的にまたは追加的に、製品は、注射用静菌水(BWFI)、リン酸緩衝生理食塩水、リンガー溶液、およびデキストロース溶液などの、薬学的に許容される緩衝液を含む第2の(または第3の)容器をさらに含んでもよい。それは、他の緩衝液、希釈剤、フィルター、針、およびシリンジを含む、商業的観点およびユーザー立場から望ましい他の材料をさらに含んでもよい。
【0207】
添付文書
用語「添付文書」は、治療用品の商用パッケージに通常含まれ、そのような治療用品の使用に関する適応症、用法、用量、投与、併用療法、禁忌、および/または警告についての情報を含有する、使用説明書のことをいうために用いられる。
【0208】
薬学的製剤
用語「薬学的製剤」または「薬学的組成物」は、その中に含有される有効成分の生物学的活性を有効にさせるような形態にある、かつ製剤が投与される対象に対して許容できない程度に毒性である追加の構成要素を含有していない、調製物を意味するように、互換的に用いられる。
【0209】
薬学的に許容される担体
「薬学的に許容される担体」は、対象に対して非毒性である、薬学的製剤中の有効成分以外の成分のことをいう。薬学的に許容される担体には、緩衝液、賦形剤、安定化剤、または保存料が含まれるが、それらに限定されない。
【0210】
処置
本明細書で用いられる場合、「処置」(および本明細書で互換的に用いられる、「処置する」または「処置すること」などのその文法上の派生語)は、処置される個体の自然経過を変更しようとする臨床的介入のことをいい、予防のため、または臨床的病態の経過中のいずれかに行うことができる。処置の望ましい効果には、疾患の発生または再発の防止、症状の軽減、疾患の任意の直接的または間接的な病理学的結果の減弱、転移の防止、疾患進行の速度の低下、疾患状態の回復または緩和、および寛解または予後の改善が含まれるが、それらに限定されない。いくつかの態様において、本開示の抗原結合分子または抗体は、疾患の発症を遅らせるため、または疾患の進行を遅くするために使用される。
【0211】
他の剤および処置
上記のような本発明の分子は、治療法において1つまたは複数の他の剤と組み合わせて投与されてもよい。例えば、上記のような本発明の分子は、少なくとも1つの追加の治療剤と同時投与されてもよい。用語「治療剤」は、そのような処置の必要がある個体において症状または疾患を処置するために投与される任意の薬を包含する。そのような追加の治療剤は、処置される特定の適応症に好適な任意の有効成分、好ましくは、互いに悪影響を及ぼさない相補的な活性を有するものを含み得る。ある特定の態様において、追加の治療剤は、免疫調節剤、細胞増殖抑制剤、細胞接着の阻害剤、細胞傷害剤、細胞アポトーシスの活性化剤、またはアポトーシス誘導物質に対する細胞の感受性を増加させる剤である。特定の態様において、追加の治療剤は、抗がん剤、例えば、微小管破壊剤、代謝拮抗物質、トポイソメラーゼ阻害剤、DNAインターカレーター、アルキル化剤、ホルモン療法、キナーゼ阻害剤、受容体アンタゴニスト、腫瘍細胞アポトーシスの活性化剤、または抗血管新生剤である。
【0212】
そのような他の剤は、意図される目的で有効である量で、組み合わせで好適に存在する。そのような他の剤の有効量は、使用される上記のような本発明の分子の量、障害または処置のタイプ、および上記で議論された他の要因に依存する。上記のような本発明の分子は、通常、本明細書に記載されるのと同じ投与量でおよび投与経路で、または本明細書に記載される投与量の約1~99%で、または適切であると経験的に/臨床的に判定される任意の投与量でおよび任意の経路によって使用される。
【0213】
そのような上述の併用療法は、併用投与(2つ以上の治療剤が、同じ組成物または別々の組成物に含まれる)、および個別投与を包含し、個別投与の場合、上記のような本発明の抗体の投与は、追加の治療剤および/またはアジュバントの投与の前に、それと同時に、および/またはその後に行うことができる。上記のような本発明の分子はまた、放射線療法と組み合わせて使用することもできる。
【0214】
以下において、本発明の特定の態様をさらに詳細に示し、該態様は部分的に、D1~D37として上記で概説した態様に関するが、それらに限定されない。上記で与えられたすべての定義およびさらなる詳細な説明は、とりわけまた、以下の態様に関する。
【0215】
すなわち、本発明は、特に、(1)第1の抗原に結合する少なくとも1つの第1の部分、および(2)第2の抗原に結合する少なくとも1つの第2の部分、を含む抗原結合分子であって、該第1の抗原が、ダメージ関連分子パターン(DAMP)であり、かつ該第2の抗原が、第1の抗原とは異なる、抗原結合分子に関する。
【0216】
さらに、本発明は、特に、
(1)第1の抗原に結合する少なくとも1つの第1の部分、および
(2)第2の抗原に結合する少なくとも1つの第2の部分
を含む抗原結合分子であって、
該第1の抗原が、組織状態に特徴的な組織由来抗原であり、とりわけ、該抗原が、細胞外環境に曝され、例えばダメージ関連分子パターン(DAMP)であり、かつ
該第2の抗原が、第1の抗原とは異なる、
抗原結合分子に関する。
【0217】
本発明によると、用語「組織状態に特徴的な組織由来抗原」は、微生物感染、細胞ストレス、損傷、および化学療法への曝露の結果として臓器および組織において特徴付けられる、種々の異なる細胞死プログラムにより細胞外環境に曝される抗原に関する。種々の細胞死プログラムとして、アポトーシス、ネクロトーシス、およびパイロトーシスが周知である。瀕死細胞および死細胞は、サイトゾル、核、小胞体、およびミトコンドリアを起源とする種々の自己タンパク質および生理活性化学物質を放出する。これらの内因性因子は、病原体関連分子パターン(PAMP)、ダメージ関連分子パターン(DAMP)、細胞死関連分子パターン(CDAMP)、およびアラーミンと命名されている(Beatriz Sangiuliano et al, Mediators Inflammation (2014) 2014:Article ID 821043, pages 1-14)。
【0218】
通常本明細書において、ダメージ関連分子パターン(DAMP)は、好ましくは、細胞ダメージにより、特に細胞死により細胞外環境に曝される。好ましくは、分子は、前記細胞ダメージにより細胞接触および/またはシグナルを提供することができ、該接触および/またはシグナルは、前記第2の抗原を伴う。
【0219】
通常本明細書において、前記細胞ダメージは、好ましくは、(i)細胞死を含み、特に細胞死であり、かつ/または(ii)特に、状態もしくは疾患により、特にがんもしくは自己免疫疾患により侵された組織から選択される罹患組織において、中でも腫瘍微小環境(TME)において起こり、かつ/または(iii)壊死、アポトーシス、オートファジー細胞死、および偶発細胞死からなる群より選択されるいずれか1つに起因し、かつ/または(iv)壊死、アポトーシス、オートファジー細胞死、および偶発細胞死からなる群より選択される細胞死である。
【0220】
したがって、本明細書におけるある特定の態様において、前記細胞ダメージは、好ましくは細胞死を含み、特に細胞死である。したがって、本明細書におけるある特定の態様において、前記細胞ダメージは、好ましくは、特に、状態または疾患により、特にがんまたは自己免疫疾患により侵された組織から選択される罹患組織において、中でも腫瘍微小環境(TME)において起こる。したがって、本明細書におけるある特定の態様において、前記細胞ダメージは、好ましくは、壊死、アポトーシス、オートファジー細胞死、および偶発細胞死からなる群より選択されるいずれか1つに起因する。したがって、本明細書におけるある特定の態様において、前記細胞ダメージは、好ましくは、壊死、アポトーシス、オートファジー細胞死、および偶発細胞死からなる群より選択される細胞死である。
【0221】
本明細書で定義されるような第1の抗原は、特に限定されず、ある特定の好ましい態様は、本明細書における上記のものに対応する。
【0222】
実際に、第1の抗原は、任意のDAMPであってもよい。DAMPは、一般に周知であり、特に、細胞死により細胞外環境に曝される本明細書の他の箇所に記載される分子を含めて、本明細書の他の箇所に記載されるすべてのDAMPを含む。
【0223】
ある特定の好ましい態様において、前記第1の抗原は、細胞骨格構成要素またはその一部分、細胞膜構成要素またはその一部分、オルガネラ構成要素またはその一部分、細胞質タンパク質またはその一部分、および代謝産物である。
【0224】
ある特定の好ましい態様において、前記第1の抗原は、フィラメント(特に中間径フィラメント)、ヌクレオソーム、細胞骨格、および/または核骨格からなる群より選択されるいずれか1つ上に位置する。
【0225】
ある特定の好ましい態様において、前記第1の抗原は、複数の分子の多量体化が可能である。ある特定の追加の/代替の好ましい態様において、前記第1の抗原は、多量体分子中に存在する。
【0226】
特定の態様において、前記第1の抗原は、細胞骨格構成要素またはその一部分、細胞膜構成要素またはその一部分、オルガネラ構成要素またはその一部分、細胞質タンパク質またはその一部分、および代謝産物からなる群より選択され、かつフィラメント(特に中間径フィラメント)、ヌクレオソーム、細胞骨格、および核骨格からなる群より選択されるいずれか1つ上に位置する。
ある特定の好ましい態様において、前記第1の抗原は、(A)アクチン、特にF-アクチン、(B)特にHSP90およびGRP78から選択される、熱ショックタンパク質、中でもHSP90、(C)ホスファチジルセリン(PS)、特に細胞膜の一部であるホスファチジルセリン、(D)ヒストンまたはその構成要素、(E)ヒストンデアセチラーゼ複合体サブユニット、特にSAP130、(F)特にHMGB1およびHMGN1から選択される、HMGNタンパク質、(G)肝癌由来増殖因子、(H)BCL-2、(I)カルレティキュリン、ならびに(J)シクロフィリンA、からなる群より選択される。
ある特定の好ましい態様において、第1の抗原は、F-アクチン、GRP78、ホスファチジルセリン、HSP90、およびSAP130からなる群より選択され;より好ましくは、F-アクチン、ホスファチジルセリン、およびHSP90からなる群より選択され;さらにより好ましくは、F-アクチンおよびHSP90からなる群より選択され、とりわけ、第1の抗原は、F-アクチンである。
【0227】
本明細書で定義されるような第1の部分は、特に限定されず、ある特定の好ましい態様は、本明細書における上記のものに対応する。
【0228】
第1の抗原に関する本態様は、追加的にまたは代替的に、第1の部分を参照することによってさらに定義され得る。
【0229】
ある特定の好ましい態様において、第1の部分は、Ig型結合部分である。
【0230】
他の好ましい態様において、第1の部分は、結合ポリペプチドである。好ましくは、前記結合ポリペプチドは、非Ig型結合部分である。
【0231】
ある特定の好ましい態様によると、第1の部分は、(A)アクチン、特にF-アクチンに結合することができる部分、(B)特にHSP90およびGRP78から選択される、熱ショックタンパク質に結合することができる部分、(C)ホスファチジルセリン(PS)、特に細胞膜の一部であるホスファチジルセリンに結合することができる部分、(D)ヒストンまたはその構成要素に結合することができる部分、(E)ヒストンデアセチラーゼ複合体サブユニット、特にSAP130に結合することができる部分、(F)特にHMGB1およびHMGN1から選択される、HMGNタンパク質に結合することができる部分、(G)肝癌由来増殖因子に結合することができる部分、(H)BCL-2に結合することができる部分、(I)カルレティキュリンに結合することができる部分、ならびに(J)シクロフィリンAに結合することができる部分、からなる群より選択される。
【0232】
特定の好ましい態様において、第1の部分は、F-アクチンに結合することができる部分、GRP78に結合することができる部分、ホスファチジルセリンに結合することができる部分、HSP90に結合することができる部分、およびSAP130に結合することができる部分からなる群より選択される。より好ましくは、第1の部分は、F-アクチンに結合することができる部分、ホスファチジルセリンに結合することができる部分、およびHSP90に結合することができる部分からなる群より選択される。とりわけ、第1の部分は、F-アクチンに結合することができる部分およびHSP90に結合することができる部分からなる群より選択され、第1の部分は、中でも、アクチン、好ましくはF-アクチンに結合することができる部分である。
【0233】
第1の抗原がアクチン、好ましくはF-アクチンである、ある特定の態様において、第1の部分は、Ig型結合部分である。第1の抗原がアクチン、好ましくはF-アクチンである、他の好ましい態様において、第1の部分は、結合ポリペプチド、好ましくはClec9Aポリペプチドである。
【0234】
第1の抗原がGRP78である、ある特定の態様において、第1の部分は、Ig型結合部分、好ましくは、本明細書に示される任意のそれぞれの抗体由来のIg型結合部分、より好ましくは、抗体GA20またはMab159由来のIg型結合部分である。
【0235】
第1の抗原がホスファチジルセリンである、ある特定の態様において、第1の部分は、Ig型結合部分、好ましくは、本明細書に示される任意のそれぞれの抗体由来のIg型結合部分、より好ましくは、抗体3G4由来のIg型結合部分である。
【0236】
第1の抗原がHSP90である、ある特定の態様において、第1の部分は、Ig型結合部分、好ましくは、本明細書に示される任意のそれぞれの抗体由来の、より好ましくは、抗体1.5.1または6H8由来のIg型結合部分である。
【0237】
第1の抗原がSAP130である、ある特定の態様において、第1の部分は、Ig型結合部分である。第1の抗原がSAP130である、他の好ましい態様において、第1の部分は、結合ポリペプチド、好ましくは、mClec4eポリペプチドである。
【0238】
好ましくは、また上記の態様において、前記Ig型結合部分は、シングルドメイン抗体(VHH)、抗体重鎖可変(VH)領域、抗体軽鎖可変(VL)領域、シングルドメイン抗体(sdAb)、一本鎖Fv(scFv)、一本鎖抗体、Fv、一本鎖Fv2(scFv2)、Fab、およびF(ab')2からなる群より選択される。
より好ましくは、前記Ig型結合部分は、VHH、scFv、scFv2、Fab、およびF(ab')2からなる群より選択される。
【0239】
好ましい一般的な態様において、分子は、抗原結合分子のFc末端に前記第1の部分を含む。
【0240】
本明細書で定義されるような第2の抗原は、特に限定されず、ある特定の好ましい態様は、本明細書における上記のものに対応する。
【0241】
特に好ましい態様において、前記第2の抗原は、免疫細胞の膜タンパク質である。好ましくは、前記第2の抗原は、T細胞受容体、CD3、CD137、CD40、CTLA4、共刺激分子、および共抑制分子からなる群より選択されるT細胞の細胞膜中の膜タンパク質である。
【0242】
好ましい態様において、本明細書における第2の抗原は、細胞においてシグナル伝達に関与する膜タンパク質であり、好ましくは、該細胞は、(i)免疫細胞(中でも、該免疫細胞は、T細胞、キラー細胞、ヘルパーT細胞、制御性T細胞、B細胞、メモリーB細胞、NK細胞、NKT細胞、樹状細胞、マクロファージ、好酸球、好中球細胞、および好塩基球からなる群より選択される)、(ii)腫瘍細胞、または(iii)自己反応性細胞である。
【0243】
ある特定の好ましい態様において、第2の抗原は、シグナル伝達受容体である。ある特定の好ましい態様において、第2の抗原は、免疫細胞受容体抗原である。ある特定の好ましい態様において、第2の抗原は、シグナル伝達受容体および免疫細胞受容体抗原である。
【0244】
特定の態様において、第2の抗原は、エンドソームの膜タンパク質である。特定の態様において、第2の抗原は、T細胞の細胞膜中の膜タンパク質、とりわけ、T細胞受容体、CD3、CD137、CD40、CTLA4、共刺激分子、または共抑制分子からなる群より選択されるT細胞の細胞膜中の膜タンパク質である。特定の態様において、第2の抗原は、特に、T細胞の細胞膜中の共刺激分子または共抑制分子に結合することができる、T細胞以外の細胞の細胞膜中の膜タンパク質である。
ある特定の好ましい態様において、前記共刺激分子は、CD28(TP44)、CD278(ICOS)、CD27(TNFRSF-7)、CD30、CD134(OX40)、CD357(GITR). Tim-2、CD28H(TMIGD2)、CD137(4-1BB、TNFRSF-9)、CD226(DNAM-1)、およびCD244(2B4)からなる群より選択される。
【0245】
ある特定の好ましい態様において、前記共抑制分子は、CD279(PD-1)、CD152(CTLA-4)、TIGIT、BTLA、CD366(Tim-3)、CD96、CD112R、またはCD200Rからなる群より選択される。
【0246】
ある特定の好ましい態様において、共刺激分子または共抑制分子に結合することができる膜タンパク質は、CD274(PD-L1)、CD273(PD-L2)、CD80、CD86、CD276(ICOSL)、CD276(VICN1)、VISTA、HHLA2、ブチロフィリンファミリーメンバーのメンバー、CD270(HVEM)、CD137L(TNFSF-9)、CD252(OX40L)、CD70(TNFSF-7)、CD40(TNFRSF-7)、GIRL(TNFSF-18)、CD155(PVR、NECL5)、CD112(NECTIN-2)、CD200(MOX1)、CD48(BCM-1)、およびGal-9から選択される。
【0247】
特に好ましい態様において、第2の抗原は、CD3、CD137、CD40、およびCTLA4からなる群より選択され、好ましくは、CD3およびCD137からなる群より選択され、より好ましくは、第2の抗原は、CD3である。
【0248】
本明細書で定義されるような第2の部分は、特に限定されず、ある特定の好ましい態様は、本明細書における上記のものに対応する。
【0249】
第2の抗原に関する本態様は、追加的にまたは代替的に、第2の部分を参照することによってさらに定義され得る。
【0250】
好ましい態様において、第2の部分は、Ig型結合部分である。したがって、特定の好ましい態様において、本発明は、
(1)第1の抗原に結合する少なくとも1つの第1の部分、および
(2)第2の抗原に結合する少なくとも1つの第2の部分
を含む抗原結合分子であって、
該第1の抗原が、ダメージ関連分子パターン(DAMP)であり、
該第2の抗原が、第1の抗原とは異なり、かつ
該第2の抗原が、免疫細胞の膜タンパク質であり、かつ
第2の部分が、Ig型結合部分である、
抗原結合分子に関する。
【0251】
中でも好ましい態様において、本発明は、
(1)第1の抗原に結合する少なくとも1つの第1の部分、および
(2)第2の抗原に結合する少なくとも1つの第2の部分
を含む抗原結合分子であって、
該第1の抗原が、ダメージ関連分子パターン(DAMP)であり、
該第1の部分が、Ig型結合部分であり、
該第2の抗原が、第1の抗原とは異なり、
該第2の抗原が、免疫細胞の膜タンパク質であり、かつ
第2の部分が、Ig型結合部分である、
抗原結合分子に関する。
【0252】
さらなる中でも好ましい態様において、本発明は、
(1)第1の抗原に結合する少なくとも1つの第1の部分、および
(2)第2の抗原に結合する少なくとも1つの第2の部分
を含む抗原結合分子であって、
該第1の抗原が、ダメージ関連分子パターン(DAMP)であり、
該第1の部分が、Clec9aまたはmClec4eであり、
該第2の抗原が、第1の抗原とは異なり、
該第2の抗原が、免疫細胞の膜タンパク質であり、かつ
第2の部分が、Ig型結合部分である、
抗原結合分子に関する。
【0253】
特定の態様において、第2の部分は、エンドソームの膜タンパク質に結合することができる部分である。
【0254】
特定の態様において、第2の部分は、T細胞の細胞膜中の膜タンパク質、好ましくは、T細胞受容体、CD3、CD137、CD40、CTLA4、共刺激分子、または共抑制分子からなる群より選択されるT細胞の細胞膜中の膜タンパク質に結合することができる部分である。
【0255】
ある特定の好ましい態様において、共刺激分子または共抑制分子に結合することができる膜タンパク質は、CD274(PD-L1)、CD273(PD-L2)、CD80、CD86、CD276(ICOSL)、CD276(VICN1)、VISTA、HHLA2、ブチロフィリンファミリーメンバーのメンバー、CD270(HVEM)、CD137L(TNFSF-9)、CD252(OX40L)、CD70(TNFSF-7)、CD40(TNFRSF-7)、GIRL(TNFSF-18)、CD155(PVR、NECL5)、CD112(NECTIN-2)、CD200(MOX1)、CD48(BCM-1)、およびGal-9から選択される。
【0256】
特定の態様において、第2の部分は、特にT細胞の細胞膜中の共刺激分子または共抑制分子に結合することができる、T細胞以外の細胞の細胞膜中の膜タンパク質に結合することができる部分である。
【0257】
ある特定の好ましい態様において、前記共刺激分子は、CD28(TP44)、CD278(ICOS)、CD27(TNFRSF-7)、CD30、CD134(OX40)、CD357(GITR). Tim-2、CD28H(TMIGD2)、CD137(4-1BB、TNFRSF-9)、CD226(DNAM-1)、およびCD244(2B4)からなる群より選択される。
【0258】
ある特定の好ましい態様において、前記共抑制分子は、CD279(PD-1)、CD152(CTLA-4)、TIGIT、BTLA、CD366(Tim-3)、CD96、CD112R、またはCD200Rからなる群より選択される。
【0259】
特に好ましい態様において、第2の部分は、CD3に結合することができる部分、CD137に結合することができる部分、CD40に結合することができる部分、およびCTLA4に結合することができる部分からなる群より選択され、より好ましくは、CD3に結合することができる部分およびCD137に結合することができる部分からなる群より選択され、さらにより好ましくは、第2の部分は、CD3に結合することができる部分である。
【0260】
上記の態様において、好ましくは、CD3に結合することができる部分は、Ig型結合部分である。上記の態様において、好ましくは、CD137に結合することができる部分は、Ig型結合部分である。上記の態様において、好ましくは、CD40に結合することができる部分は、Ig型結合部分である。上記の態様において、好ましくは、CTLA4に結合することができる部分は、Ig型結合部分である。
【0261】
好ましくは、前記Ig型結合部分は、シングルドメイン抗体(VHH)、抗体重鎖可変(VH)領域と抗体軽鎖可変(VL)領域との組み合わせ、シングルドメイン抗体(sdAb)、一本鎖Fv(scFv)、一本鎖抗体、Fv、一本鎖Fv2(scFv2)、Fab、およびF(ab')2からなる群より選択される。
より好ましくは、前記Ig型結合部分は、VHH、scFv、scFv2、Fab、およびF(ab')2からなる群より選択される。
【0262】
好ましい一般的な態様において、分子は、抗原結合分子の抗原結合領域、好ましくはF(ab')2領域中に前記第2の部分を含む。
【0263】
好ましい一般的な態様において、分子は、少なくとも1つの第1の部分および少なくとも1つの第2の部分を含み、特に、抗原結合分子は、1つの第1の部分および1つの第2の部分を含み、より詳しくは、抗原結合分子は、少なくとも2つの、好ましくは2つの第1の部分、および少なくとも2つの、好ましくは2つの第2の部分を含む。
本明細書における特定の態様において、抗原結合分子は、光照射時に第1の抗原および第2の抗原に結合することができる。
【0264】
好ましい一般的な態様において、抗原結合分子は、分子のうちの1つまたは複数の第1の抗原に対する結合によって形成される複合体が、第2の部分を介して1つよりも多い膜タンパク質に結合できることを特徴とする。特定の態様において、分子のうちの1つまたは複数の第1の抗原に対する結合によって形成される複合体は、第2の部分を介して膜タンパク質のうちの1つまたは複数に結合して、細胞において該1つまたは複数の膜タンパク質を介してシグナル伝達を与えることができる。他の特定の態様において、分子のうちの1つまたは複数の第1の抗原に対する結合によって形成される複合体は、第2の部分を介して膜タンパク質のうちの1つまたは複数に結合して、細胞において該1つまたは複数の膜タンパク質を介してシグナル遮断を与えることができる。
【0265】
通常、本明細書における抗原結合分子は、(A)任意で融合タンパク質である、ポリペプチド複合体、(B)(好ましくは2つの実体で構成され、好ましくはリンカーで接続された)ポリヌクレオチド、(C)(好ましくは2つの実体で構成され、好ましくはリンカーで接続された)中サイズの化学化合物、および(D)(好ましくは2つの実体で構成され、好ましくはリンカーで接続された)小サイズの化学化合物、からなる群より選択されてもよい。
【0266】
本明細書における好ましい一般的な態様において、抗原結合分子は、ポリペプチド複合体である。
【0267】
本明細書における特に好ましい態様において、抗原結合分子は、抗体または抗体の断片、とりわけ抗体である。特定の態様において、前記抗体は、さらに、本明細書の他の箇所に記載されるように特徴付けられる。
【0268】
ある特定の好ましい態様において、抗体、抗原結合分子は、IgG型抗体である。ある特定の好ましい態様において、抗体、抗原結合分子は、二重特異性IgG型抗体である。
【0269】
本明細書における他の好ましい一般的な態様において、抗原結合分子は、融合タンパク質であるポリペプチド複合体である。好ましくは、前記分子は、融合タンパク質である抗体、またはその断片、とりわけ、融合タンパク質である抗体である。
【0270】
好ましくは、前記抗体は、そのFcドメインに融合した、少なくとも1つの結合ポリペプチド、好ましくは2つの結合ポリペプチドを有するIgG型抗体、特に、そのFcドメインに融合した、少なくとも1つの結合ポリペプチド、好ましくは2つの結合ポリペプチドを有する抗体である。
【0271】
前記結合ポリペプチドは、1つまたは複数のリンカー、好ましくは、本明細書の他の箇所に記載されるリンカーのいずれかを用いて、抗原結合分子に融合していてもよい。
【0272】
通常、抗原結合分子が抗体である、ある特定の好ましい態様において、(i-1)第1の部分は、Ig型結合部分であり、もしくは(i-2)第1の部分は、結合ポリペプチドであり、かつ/または(ii)第2の部分は、Ig型結合部分である。
抗原結合分子が抗体(とりわけ、融合タンパク質)である、ある特定の好ましい態様において、抗体は、好ましくは、免疫細胞の膜タンパク質に結合することができ、かつさらに、好ましくはFc領域に連結された、少なくとも1つの結合ポリペプチドを含む。
【0273】
好ましくは、前記結合ポリペプチドは、Clec9AポリペプチドおよびmClec4eポリペプチドから選択され、かつ、より好ましくは、前記抗体は、Clec9Aポリペプチドを含む抗CD3抗体、Clec9Aポリペプチドを含む抗CD137抗体、mClec4eポリペプチドを含む抗CD3抗体、およびmClec4eポリペプチドを含む抗CD137抗体からなる群より選択される。
【0274】
特定の態様において、抗原結合分子は、少なくとも1つの、好ましくは2つのClec9Aポリペプチドを含み、中でも、該抗原結合分子は、(i)細胞においてシグナル伝達に関与する、少なくとも2つの、好ましくは2つの部分、または(ii)免疫細胞受容体抗原である、少なくとも2つの、好ましくは2つの部分をさらに含む。
【0275】
同様に、特定の態様において、抗原結合分子は、少なくとも1つの、好ましくは2つのmClec4eポリペプチドを含み、中でも、該抗原結合分子は、(i)細胞においてシグナル伝達に関与する、少なくとも2つの、好ましくは2つの部分、または(ii)免疫細胞受容体抗原である、少なくとも2つの、好ましくは2つの部分をさらに含む。
【0276】
抗原結合分子が抗体である、一般的な好ましい態様において、抗体は、免疫細胞の膜タンパク質に対する、かつDAMPに対する二重特異性抗体であり、かつ、より好ましくは、該抗体は、二重特異性抗HSP90抗CD3抗体、二重特異性抗HSP90抗CD3抗体、二重特異性抗GRP78抗CD3抗体、二重特異性抗GRP78抗CD137抗体、二重特異性抗ホスファチジルセリン抗CD3抗体、および二重特異性抗ホスファチジルセリン抗CD137抗体からなる群より選択される。
【0277】
通常、抗原結合分子が抗体である、ある特定の好ましい態様において、(i-1)第1の部分は、Ig型結合部分であり、または(i-2)第1の部分は、結合ポリペプチドであり、かつ(ii)第2の部分は、Ig型結合部分である。
【0278】
本明細書における特定の態様において、(a)第1の部分は、シングルドメイン抗体(VHH)、抗体重鎖可変(VH)領域と抗体軽鎖可変(VL)領域との組み合わせ、シングルドメイン抗体(sdAb)、一本鎖Fv(scFv)、一本鎖抗体、Fv、一本鎖Fv2(scFv2)、Fab、およびF(ab')2からなる群より選択されるIg型結合部分であり;かつ/または(b)第2の部分は、シングルドメイン抗体(VHH)、抗体重鎖可変(VH)領域と抗体軽鎖可変(VL)領域との組み合わせ、シングルドメイン抗体(sdAb)、一本鎖Fv(scFv)、一本鎖抗体、Fv、一本鎖Fv2(scFv2)、Fab、およびF(ab')2からなる群より選択されるIg型結合部分であり;かつ/または(c)前記結合ポリペプチドは、非Ig型結合部分である。
【0279】
本明細書におけるさらに好ましい特定の態様において、(a*)第1の部分は、VHH、scFv、scFv2、Fab、およびF(ab')2からなる群より選択される結合ドメインであり、かつ/または(b*)第2の部分は、VHH、scFv、scFv2、Fab、およびF(ab')2からなる群より選択される結合ドメインであり、かつ/または(c*)結合ポリペプチドは、非Ig型結合部分、中でも、前記抗原結合分子のFcドメインに付加した非Ig型結合部分である。
【0280】
本明細書における好ましい特定の態様において、抗原結合分子は、(A)F-アクチンおよび細胞においてシグナル伝達に関与する抗原に結合することができる抗体;(B)F-アクチンおよび免疫細胞受容体に結合することができる抗体;(C)HSP90および細胞においてシグナル伝達に関与する抗原に結合することができる抗体;(D)HSP90および免疫細胞受容体に結合することができる抗体;(E)GRP78および細胞においてシグナル伝達に関与する抗原に結合することができる抗体;(F)GRP78および免疫細胞受容体に結合することができる抗体;(G)ホスファチジルセリンおよび細胞においてシグナル伝達に関与する抗原に結合することができる抗体;(H)ホスファチジルセリンおよび免疫細胞受容体に結合することができる抗体;(I)SAP130および細胞においてシグナル伝達に関与する抗原に結合することができる抗体;ならびに(J)SAP130および免疫細胞受容体に結合することができる抗体、からなる群より選択される抗体である。
【0281】
より好ましくは、前記抗体は、(A-1)F-アクチンおよびCD3に結合することができる抗体;(A-2)F-アクチンおよびCD137に結合することができる抗体;(C-1)HSP90およびCD3に結合することができる抗体;(C-2)HSP90およびCD137に結合することができる抗体;(E-1)GRP78およびCD3に結合することができる抗体;(E-2)GRP78およびCD137に結合することができる抗体;(G-1)ホスファチジルセリンおよびCD3に結合することができる抗体;(G-2)ホスファチジルセリンおよびCD137に結合することができる抗体;(I-1)SAP130およびCD3に結合することができる抗体;(I-2)SAP130およびCD137に結合することができる抗体、からなる群より選択される。
【0282】
本明細書における好ましい特定の態様において、抗体は、
(A)中でも、好ましくは抗体のFcドメインに付加した結合ポリペプチド、好ましくはClec9Aポリペプチドである、F-アクチンに結合することができる2つの第1の部分、および、中でもIg型結合部分である、細胞においてシグナル伝達に関与する2つの第2の部分を含む、抗体;
(B)中でも、好ましくは抗体のFcドメインに付加した結合ポリペプチド、好ましくはClec9Aポリペプチドである、F-アクチンに結合することができる2つの第1の部分、および、中でもIg型結合部分である、免疫細胞受容体抗原である2つの第2の部分を含む、抗体;
(C)中でもIg型結合部分である、HSP90に結合することができる2つの第1の部分、および、中でもIg型結合部分である、細胞においてシグナル伝達に関与する2つの第2の部分を含む、抗体;
(D)中でもIg型結合部分である、HSP90に結合することができる2つの第1の部分、および、中でもIg型結合部分である、免疫細胞受容体抗原である2つの第2の部分を含む、抗体;
(E)中でもIg型結合部分である、GRP78に結合することができる2つの第1の部分、および、中でもIg型結合部分である、細胞においてシグナル伝達に関与する2つの第2の部分を含む、抗体;
(F)中でもIg型結合部分である、GRP78に結合することができる2つの第1の部分、および、中でもIg型結合部分である、免疫細胞受容体抗原である2つの第2の部分を含む、抗体;
(G)中でもIg型結合部分である、ホスファチジルセリンに結合することができる2つの第1の部分、および、中でもIg型結合部分である、細胞においてシグナル伝達に関与する2つの第2の部分を含む、抗体;
(H)中でもIg型結合部分である、ホスファチジルセリンに結合することができる2つの第1の部分、および、中でもIg型結合部分である、免疫細胞受容体抗原である2つの第2の部分を含む、抗体;
(I)中でも、好ましくは抗体のFcドメインに付加した結合ポリペプチド、好ましくはmClec4eポリペプチドである、SAP130に結合することができる2つの第1の部分、および、中でもIg型結合部分である、細胞においてシグナル伝達に関与する2つの第2の部分を含む、抗体;
(J)中でも、好ましくは抗体のFcドメインに付加した結合ポリペプチド、好ましくはmClec4eポリペプチドである、SAP130に結合することができる2つの第1の部分、および、中でもIg型結合部分である、免疫細胞受容体抗原である2つの第2の部分を含む、抗体
からなる群より選択される。
【0283】
より好ましくは、前記抗体は、
(A1)中でも、好ましくは抗体のFcドメインに付加した結合ポリペプチド、好ましくはClec9Aポリペプチドである、F-アクチンに結合することができる2つの第1の部分、および、中でもIg型結合部分である、CD3に結合することができる2つの第2の部分を含む、抗体;
(A2)中でも、好ましくは抗体のFcドメインに付加した結合ポリペプチド、好ましくはClec9Aポリペプチドである、F-アクチンに結合することができる2つの第1の部分、および、中でもIg型結合部分である、CD137に結合することができる2つの第2の部分を含む、抗体;
(C1)中でもIg型結合部分である、HSP90に結合することができる2つの第1の部分、および、中でもIg型結合部分である、CD3に結合することができる2つの第2の部分を含む、抗体;
(C2)中でもIg型結合部分である、HSP90に結合することができる2つの第1の部分、および、中でもIg型結合部分である、CD137に結合することができる2つの第2の部分を含む、抗体;
(E1)中でもIg型結合部分である、GRP78に結合することができる2つの第1の部分、および、中でもIg型結合部分である、CD3に結合することができる2つの第2の部分を含む、抗体;
(E2)中でもIg型結合部分である、GRP78に結合することができる2つの第1の部分、および、中でもIg型結合部分である、CD137に結合することができる2つの第2の部分を含む、抗体;
(G1)中でもIg型結合部分である、ホスファチジルセリンに結合することができる2つの第1の部分、および、中でもIg型結合部分である、CD3に結合することができる2つの第2の部分を含む、抗体;
(G2)中でもIg型結合部分である、ホスファチジルセリンに結合することができる2つの第1の部分、および、中でもIg型結合部分である、CD137に結合することができる2つの第2の部分を含む、抗体;
(I1)中でも、好ましくは抗体のFcドメインに付加した結合ポリペプチド、好ましくはmClec4eポリペプチドである、SAP130に結合することができる2つの第1の部分、および、中でもIg型結合部分である、CD3に結合することができる2つの第2の部分を含む、抗体;
(I2)中でも、好ましくは抗体のFcドメインに付加した結合ポリペプチド、好ましくはmClec4eポリペプチドである、SAP130に結合することができる2つの第1の部分、および、中でもIg型結合部分である、CD137に結合することができる2つの第2の部分を含む、抗体
からなる群より選択される。
【0284】
本発明のさらなる一般的な局面は、本明細書に記載されるような抗原結合分子を含む薬学的組成物に関する。
【0285】
本発明のさらなる一般的な局面は、医薬における、および/または(ii)医学的状態、特に細胞死を伴う医学的状態を処置する方法における、および/または(iii)対象において医学的状態を処置する方法であって、前記抗原結合分子とダメージを受けた細胞とを接触させる工程を含む方法における、および/または(iv)対象において医学的状態を処置する方法であって、前記抗原結合分子と患者におけるダメージ関連分子パターン(DAMP)とを接触させる工程を含み、特に前記抗原結合分子と前記第2の抗原とを接触させる工程をさらに含む方法における、および/または(v)対象において医学的状態を処置する方法であって、細胞ダメージ、特に細胞死を伴う状態に苦しむ患者に前記抗原結合分子を投与する工程を含む方法における、使用のための、本発明の抗原結合分子に関する。
【0286】
したがって、ある特定の好ましい態様において、医薬における使用のための、本発明の抗原結合分子が提供される。したがって、ある特定の好ましい態様において、医学的状態、特に、細胞ダメージを伴う、特に細胞死を伴う医学的状態を処置する方法における使用のための、本発明の抗原結合分子が提供される。したがって、ある特定の好ましい態様において、対象において医学的状態を処置する方法であって、前記抗原結合分子とダメージを受けた細胞とを接触させる工程を含む方法における使用のための、本発明の抗原結合分子が提供される。したがって、ある特定の好ましい態様において、対象において医学的状態を処置する方法であって、前記抗原結合分子と患者におけるダメージ関連分子パターン(DAMP)とを接触させる工程を含み、特に前記抗原結合分子と前記第2の抗原とを接触させる工程をさらに含む方法における使用のための、本発明の抗原結合分子が提供される。したがって、ある特定の好ましい態様において、対象において医学的状態を処置する方法であって、細胞ダメージ、特に細胞死を伴う状態に苦しむ患者に前記抗原結合分子を投与する工程を含む方法における使用のための、本発明の抗原結合分子が提供される。
【0287】
関連したさらなる一般的な局面において、本発明は、本発明の分子についての上記の使用のいずれかにおける薬学的組成物に関する。
【0288】
ある特定の好ましい態様において、本発明の状況における処置する方法は、近接した複数の抗原結合分子と、第1および第2の抗原とを接触させる工程を含む。
【0289】
ある特定の好ましい態様において、本発明の状況における処置する方法は、免疫応答を活性化するかまたは阻止するための方法である。好ましくは、本発明の状況における処置する方法は、免疫応答を活性化するための方法である。
【0290】
ある特定の好ましい態様において、本発明の状況における処置する方法は、細胞においてシグナル伝達または遮断を与えるためのもの、好ましくは、細胞においてシグナル伝達を与えるためのものである。
【0291】
本明細書におけるある特定の好ましい態様において、処置する方法は、本発明による抗原結合分子を患者、特にヒト患者に投与する工程を含む。好ましくは、前記患者は、本明細書の他の箇所に記載されるように特徴付けられる。
【0292】
本明細書におけるある特定の好ましい態様において、処置する方法は、がんまたは免疫(好ましくは自己免疫)疾患を処置するかまたは予防するための方法であり、中でも、該方法は、がんを処置するかまたは予防するための方法であり、とりわけ、該方法は、がんを処置するための方法である。
【0293】
したがって、特定の好ましい態様において、本発明は、がんを処置するための方法における使用のための、
(1)第1の抗原に結合する少なくとも1つの第1の部分、および
(2)第2の抗原に結合する少なくとも1つの第2の部分
を含む抗原結合分子であって、
該第1の抗原が、ダメージ関連分子パターン(DAMP)であり、
該第2の抗原が、第1の抗原とは異なり、かつ
該第2の抗原が、免疫細胞の膜タンパク質であり、かつ
第2の部分が、Ig型結合部分である、
抗原結合分子に関する。
【0294】
中でも好ましい態様において、本発明は、がんを処置するための方法における使用のための、
(1)第1の抗原に結合する少なくとも1つの第1の部分、および
(2)第2の抗原に結合する少なくとも1つの第2の部分
を含む抗原結合分子であって、
該第1の抗原が、ダメージ関連分子パターン(DAMP)であり、
該第1の部分が、Ig型結合部分であり、
該第2の抗原が、第1の抗原とは異なり、
該第2の抗原が、免疫細胞の膜タンパク質であり、かつ
第2の部分が、Ig型結合部分である、
抗原結合分子に関する。
【0295】
さらに中でも好ましい態様において、本発明は、がんを処置するための方法における使用のための、
(1)第1の抗原に結合する少なくとも1つの第1の部分、および
(2)第2の抗原に結合する少なくとも1つの第2の部分
を含む抗原結合分子であって、
該第1の抗原が、ダメージ関連分子パターン(DAMP)であり、
該第1の部分が、Clec9aまたはmClec4eであり、
該第2の抗原が、第1の抗原とは異なり、
該第2の抗原が、免疫細胞の膜タンパク質であり、かつ
第2の部分が、Ig型結合部分である、
抗原結合分子に関する。
【0296】
特定の態様において、本発明の状況における処置するための方法は、抗原結合分子と、細胞ダメージにより細胞外環境に曝されるダメージ関連分子パターン(DAMP)とを接触させる工程を含み、中でも、該DAMPは、F-アクチン、GRP78、ホスファチジルセリン、HSP90、およびSAP130からなる群より選択される。
【0297】
特定の態様において、本発明の状況における処置するための方法は、抗原結合分子と、中でも、(a-i)免疫細胞(中でも、該免疫細胞は、T細胞、キラー細胞、ヘルパーT細胞、制御性T細胞、B細胞、メモリーB細胞、NK細胞、NKT細胞、樹状細胞、マクロファージ、好酸球、好中球細胞、および好塩基球からなる群より選択される)、(a-ii)腫瘍細胞、ならびに(a-iii)自己反応性細胞、から選択される細胞とを接触させる工程を含む。
【0298】
特定の好ましい態様において、医薬における使用のための、本発明の抗原結合分子または薬学的組成物が提供される。
特定の好ましい態様において、医学的状態を処置するかまたは予防する方法における使用のための、本発明の抗原結合分子または薬学的組成物が提供される。
【0299】
本明細書における好ましい一般的な態様において、医学的状態は、がんおよび免疫疾患、好ましくは自己免疫疾患からなる群より選択される。したがって、本明細書におけるある特定の好ましい態様において、医学的状態は、がん、特に、本明細書の他の箇所に記載されるようながんである。したがって、本明細書におけるある特定の好ましい態様において、医学的状態は、免疫疾患、特に、本明細書の他の箇所に記載されるような免疫疾患である。好ましくは、前記免疫疾患は、自己免疫疾患、特に、本明細書の他の箇所に記載されるような自己免疫疾患である。
【0300】
本発明のさらなる一般的な局面は、本発明の抗原結合分子をコードするポリヌクレオチドに関する。
【0301】
本発明のさらなる一般的な局面は、本発明のポリヌクレオチドを含むベクターに関する。
【0302】
本発明のさらなる一般的な局面は、本発明のベクターを含む細胞に関する。
【0303】
加えて、本発明はまた、少なくとも第1の部分および少なくとも第2の部分を含む抗原結合分子の製造のための、少なくとも第1の部分および少なくとも第2の部分の使用であって、
(1)少なくとも1つの第1の部分が、第1の抗原に結合し、かつ
(2)少なくとも1つの第2の部分が、第2の抗原に結合し;
該第1の抗原が、ダメージ関連分子パターン(DAMP)であり、かつ
該第2の抗原が、第1の抗原とは異なり、好ましくは、該第2の抗原が、免疫細胞の膜タンパク質である、
使用に関する。
【0304】
本発明は、さらに、細胞死が観察されるかまたは検出されることになる組織中の細胞をターゲティングするための、抗原結合分子の使用であって、
(1)少なくとも1つの第1の部分が、第1の抗原に結合し、かつ
(2)少なくとも1つの第2の部分が、第2の抗原に結合し;
該第1の抗原が、ダメージ関連分子パターン(DAMP)であり、かつ
該第2の抗原が、第1の抗原とは異なり、好ましくは、該第2の抗原が、免疫細胞の膜タンパク質である、
使用に関する。
【0305】
加えて、本発明はまた、細胞死が観察される組織中の細胞におけるシグナル伝達の誘導または遮断のための、抗原結合分子の使用であって、
(1)少なくとも1つの第1の部分が、第1の抗原に結合し、かつ
(2)少なくとも1つの第2の部分が、第2の抗原に結合し;
該第1の抗原が、ダメージ関連分子パターン(DAMP)であり、かつ
該第2の抗原が、第1の抗原とは異なり、好ましくは、該第2の抗原が、免疫細胞の膜タンパク質である、
使用に関する。
【0306】
さらに、本発明は、細胞死が観察されている組織において特異的に作用する分子を製造するためのキットであって、該分子が、
(1)第1の抗原に結合する少なくとも1つの第1の部分、および
(2)第2の抗原に結合する少なくとも1つの第2の部分
を含み;
該第1の抗原が、ダメージ関連分子パターン(DAMP)であり、かつ
該第2の抗原が、第1の抗原とは異なり、好ましくは、該第2の抗原が、免疫細胞の膜タンパク質であり、
該キットが、
少なくとも第1の部分を含む、少なくとも第1の容器、および
少なくとも第2の部分を含む、少なくとも第2の容器
を含む、キットに関する。
【0307】
また、本発明の上記の使用およびキットについて、上記で議論されたすべての態様および定義もまた適用される。
【0308】
本明細書で引用されるすべての文書は、参照により本明細書に組み入れられる。
【0309】
以下は、本開示の方法および組成物の実施例である。上記で提供された一般的な説明を考慮すれば、種々の他の態様が実施されてもよいことが理解される。実施例は、本発明を例証するが、限定しないように提供される。
【実施例】
【0310】
実施例1 組換え抗体の発現および精製
組換え抗体を、Expi293細胞株(Thermo Fisher, Carlsbad, CA, USA)を用いて一過性に発現させた。抗体精製は、プロテインGまたはAアフィニティクロマトグラフィーおよびゲルろ過を用いて実施した。同時トランスフェクションに用いた各抗体の重鎖および軽鎖をコードする遺伝子の組み合わせを、表1にまとめる。抗体配列をコードする各発現ベクターは、哺乳動物発現系用であるように設計されている。Fabアーム交換(FAE)を用いた二重特異性抗体の調製は、記載されている方法に従って実施した(Proc Natl Acad Sci U S A. 2013 Mar 26; 110(13): 5145-5150)。精製抗体の濃度については、その280 nmでの吸光度を、分光光度計を用いて測定した。得られた値から、PACEなどの方法によって計算された吸光係数を用いて、抗体濃度を計算した(Protein Science 1995; 4: 2411-2423)。
【0311】
【0312】
【0313】
実施例2 生細胞および死細胞に対するClec9Aコンジュゲート抗体の結合
生細胞および死細胞のClec9A媒介性結合を、FACS解析によって検討した。Ba/F3細胞の細胞死を、37℃で24時間の20μMマイトマイシンC(MMC)処理で誘導し、その後、2.5×105細胞を、各試料の染色に用いた。簡潔に述べると、細胞を、1000倍希釈したzombie violet(ZV)色素(BioLegend, #423114)とRTで20分間インキュベートし、洗浄し、2μg/mLの最終濃度の抗マウスCD16/32抗体(BioLegend #101320)で、氷上で10分間ブロックした。コンジュゲートされていないか、またはClec9A ECD(配列番号:9)もしくはCelc-9A CTLD(配列番号:10)とコンジュゲートされたAF488標識抗キーホールリンペットヘモシアニン(KLH)抗体(αKLH)での表面染色を、10μg/mLの最終濃度で、氷上で30分間行った。アネキシンV(AnnV)染色を、製造元の指示に従って市販のキット(BioLegend #640930)を用いて行った。データを、BD LSRFortessa(商標) X-20フローサイトメーターで取得し、Flowjo v10.4.2ソフトウェアを用いて解析した。
【0314】
Clec9Aコンジュゲート抗体の結合は、主にZV+AnnV+壊死細胞上で観察されたが、ZV-AnnV+アポトーシス細胞上では、観察された結合は、最小限から全く無い状態であった(
図4)。ZV-AnnV-生細胞集団は、いかなる結合も示さなかった。まとめると、データにより、壊死細胞またはその構成要素は、Clec9Aに特異的に結合し、そのコンジュゲート抗体のクラスタリングを媒介することが示唆される。
【0315】
実施例3 Clec9A媒介性クラスタリングによるCD3活性化
マウスB細胞株Ba/F3において、1×106細胞/mLの濃度で、5μMメトトレキサート(MTX)(Sigma, #M2305000)での37℃、5%CO2で24時間の処理によって、細胞死を誘導した。次いで、未処理のまたはMTX処理したBa/F3細胞を回収し、新鮮な培養培地で洗浄し、1のBa/F3細胞:5のJurkatルシフェラーゼレポーターT細胞(Promega, #J1601)の比で共培養した。Clec9A媒介性T細胞活性化の効果を評価するために、Clec9Aの細胞外(ECD)ドメイン(配列番号:9)またはClec9AのC型レクチンドメイン(CTLD)(配列番号:10)を、抗ヒトCD3抗体(αCD3)上のFc領域のC末端にコンジュゲートした。Clec9Aコンジュゲート抗CD3抗体または非コンジュゲート対照抗CD3抗体を、BaF3およびJurkat T細胞培養の共培養物に24時間添加し、Bio-Glo(商標)ルシフェラーゼアッセイシステム(Promega, #G7941)を用いて、ルシフェラーゼ活性について上清を評価した。データおよびグラフは、GraphPad Prismソフトウェアv8.4.2を用いて解析した。誘導倍率を、各条件の陰性対照に対して計算した。
【0316】
MTXで処理しなかった「生」Ba/F細胞の存在下では、非コンジュゲート抗CD3抗体は、最大で約22倍の相対ルシフェラーゼシグナルを誘導したが、Clec9AにコンジュゲートされたCD3ターゲティング抗体では、約5倍の誘導のみが観察された(
図5)。しかし、MTXで処理した「死」Ba/F3細胞の存在下では、最大約54倍および約46倍の相対ルシフェラーゼ活性が、それぞれClec9A-ECDコンジュゲート抗体およびClec9A-CTLDコンジュゲート抗体によって誘導された。これは、非コンジュゲート抗CD3抗体で観察された約20の相対倍率誘導よりも有意に大きい。これらのデータにより、死細胞の存在が、Clec9Aコンジュゲート抗CD3抗体のクラスタリングを媒介し、免疫T細胞刺激を結果としてもたらすことが示唆される。
【0317】
実施例4 生細胞および死細胞の表面に対する抗ホスファチジルセリンおよび抗HSP90の結合
ホスファチジルセリン(PS)および熱ショックタンパク質90(HSP90)は、正常細胞においては隔離されているが、細胞ストレス中に細胞外環境に曝される。この点を確認するために、抗PS抗体(Immunotargets Ther. 2018 Jan 23;7:1-14)ならびに抗HSP90抗体クローン1.5.1(US9068987B2)および6H8(WO2011/129379)を用いて、フローサイトメトリーによって生細胞および死細胞上のそれぞれの標的を検出した。PSの検出のためには、Ba/F3マウスプロB細胞株を、最初に20μMマイトマイシンC(MMC)で48時間処理して、細胞死を誘導した。HSP90の検出のためには、FreeStyle(商標) 293-F(Thermofisher Scientific #R790-07)ヒト胎児腎細胞株を、100μM MMCで72時間、前処理した。その後の染色において、細胞を、1000倍希釈したzombie violet(ZV)色素(BioLegend, #423114)と室温(RT)で20分間インキュベートし、洗浄し、2μg/mLの最終濃度の抗マウスCD16/32抗体(BioLegend #101320)または20倍希釈のヒトFcRブロッキング試薬(#130-059-901)で、RTで10分間ブロックした。抗PS(抗PS(3G4))または抗HSP90(抗HSP90(1.5.1)および抗HSP90(6H8))での表面染色を、10μg/mLの最終抗体濃度で、RTで30分間行った。データは、BD LSRFortessa(商標) X-20フローサイトメーターで取得し、Flowjo v10.4.2ソフトウェアを用いて解析した。
【0318】
抗PS抗体および抗HSP90抗体の結合は、MMCで処理したZV+ゲート死細胞上で観察されたが、ZV-生細胞上では、いかなる結合も検出されなかった(
図6)。したがって、PSまたはHSP90の表面発現は、死細胞のみに特異的であった。
【0319】
実施例5 抗PS抗体および抗HSP90抗体によるCD3活性化
PSまたはHSP90の死細胞特異的表面発現が、死細胞特異的免疫細胞活性化に変換されるかどうかを調べるために、生細胞または死細胞を、抗PS//CD3(抗PS(3G4)//CD3)または抗HSP90//CD3(抗HSP90(1.5.1)//CD3もしくは抗HSP90(6H8)//CD3)二重特異性抗体の存在下で、CD3発現JurkatレポーターT細胞(Promega, #J1600)と共培養した。抗PS//CD3活性の評価のためには、Ba/F3細胞を、5μMミトキサントロン(MTX)(Sigma, #M2305000)で48時間、前処理して、細胞死を誘導した。次いで、未処理のまたはMTX処理したBa/F3細胞を、5倍の数のJurkatレポーターT細胞と共培養した。抗PS//HSP90活性の評価のためには、未処理のまたはMMC処理したFreeStyle(商標) 293-F細胞を、同数のJurkatレポーターT 細胞と共培養した。抗体刺激の24時間後に、ルシフェラーゼ活性を、Bio-Glo(商標)ルシフェラーゼアッセイシステム(Promega, #G7941)およびGloMax(登録商標)Explorer(#GM3500)を用いて検出した。データおよびグラフは、GraphPad Prismソフトウェアv9.0.2を用いて解析した。誘導倍率を、各共培養条件の抗体処理なし対照と比べて計算した。
【0320】
死細胞の存在下で、抗PS//CD3抗体は、それぞれ5および25 nMの抗体濃度で、16倍および70倍のルシフェラーゼシグナルを誘導した(
図7)。この活性誘導は、同じ抗体濃度での生細胞との共培養と比較して、有意に高かった。同様に、抗HSP90//CD3抗体は、5および25 nMの抗体濃度での死細胞との共培養においてルシフェラーゼ活性の誘導を示したが、生細胞と共培養した場合には、いかなる相対倍率誘導も示さなかった(
図7)。抗HSP90クローンは両方とも、死細胞の存在下でのみ同様のルシフェラーゼレポーター活性を誘導したため、この現象は、抗体のクローン性に依存的ではなかった。まとめると、結果は、死細胞依存的様式でのCD3活性化と一貫しており、様々な死細胞関連分子が免疫細胞調節のために標的とされ得ることを示唆する。
【0321】
実施例6 Clec9A媒介性クラスタリングによるCD137活性化
死細胞免疫調節の概念が、CD3以外のエフェクター標的に広がり得るどうかを検討するために、Clec9Aの細胞外ドメインを、抗ヒトCD137アゴニスト抗体(CAS: 1417318-27-4)のFc領域のC末端にコンジュゲートした(抗CD137-Clec9A)。CD137の死細胞依存的活性化を、1:5のエフェクター:標的比でCD137 JurkatレポーターT細胞(Promega #J2332)と共培養した、生Ba/F3細胞またはMTX処理した死Ba/F3細胞において評価した。細胞を、Clec9Aコンジュゲート抗CD137-Clec9Aまたは対照非コンジュゲート抗ヒトCD137抗体(抗CD137)で24時間、処理し、その後、ルシフェラーゼ活性を検出して解析した。
【0322】
MTX処理した死Ba/F3細胞の存在下では、抗CD137-Clec9A抗体処理条件において、CD137の誘導が観察された(
図8)。非コンジュゲート抗CD137抗体は、ルシフェラーゼ活性の相対倍率誘導を結果としてもたらさなかったため、この誘導はClec9A依存的であった。著しく、倍率誘導はまた、生Ba/F3 の存在下では抗CD137-Clec9A抗体によって観察されなかった。これらの結果により、Clec9Aのような死細胞結合部分のCD137アゴニスト抗体に対するコンジュゲーションは、死細胞結合CD3アゴニスト抗体での観察と同様に、死細胞依存的免疫活性化を結果としてもたらすことが示唆される。したがって、死細胞特異性は、死細胞結合部分と組み合わせることを通して、別個のエフェクター分子に付与され得る。
【0323】
実施例7
抗PSによるCD137活性化
PSまたはHSP90の死細胞特異的表面発現が、CD137を介した死細胞特異的免疫細胞活性化に変換されるかどうかを調べるために、抗PS//CD137二重特異性抗体を、抗CD137-Clec9Aについて説明したのと同様のアッセイ設定において用い、ルシフェラーゼレポーター活性を評価した。抗PS//CD137は、生細胞との共培養と比較した場合に、死細胞の存在下で増強されたレポーター細胞活性を誘導した。対照的に、PSに結合しない抗KLH//CD137抗体は、生細胞共培養物と死細胞共培養物の間でレポーター活性のいかなる差も示さなかった(
図9)。まとめると、データにより、死細胞特異的調節の概念は、別個のエフェクター標的に、様々な死細胞関連分子の結合を通して、適用され得ることが示される。
【0324】
実施例8 Clec9A融合抗体はF-アクチン依存的様式でCD3を活性化する
本発明において、Clec9Aコンジュゲート抗体による死細胞依存的調節を記載した。この現象が、死細胞上の線維状アクチン(F-アクチン)の結合を通して起こることを確認するために(Immunity. 2012 Apr 20;36(4):646-57)、CD3の活性化を、F-アクチンの存在下または非存在下で検討した。簡潔に述べると、0.4 mg/mLに再構成した組換えF-アクチン(Cytoskeleton, #AKF99)を、Nunc Maxisorp(商標)プレート(Thermofisher Scientific #442404)のウェル上に、4℃で一晩コーティングした。コーティングしていないウェルを、50 uLのgerenal actin buffer(Cytoskeleton, #BSA01)で満たした。翌日、ウェルを洗浄し、5%ウシ血清アルブミン(BSA、Sigma-Aldrich #A7888)を添加したダルベッコのリン酸緩衝生理食塩水(DPBS)で、室温(RT)で1時間ブロックした。ブロッキング工程後に、抗CD3抗体の、コンジュゲートされていないもの(抗CD3)またはClec9A C型レクチンドメインにコンジュゲートされたもの(抗CD3-Clec9A)を滴定し、F-アクチンをコーティングしたウェルまたはコーティングしていないウェルに37℃で15分間添加し、その後、ウェルあたり5×104個のJurkatルシフェラーゼレポーターT細胞(Promega, #J1601)を添加した。37℃、5%CO2で24時間のインキュベーション後に、ルシフェラーゼ活性を、Bio-Glo(商標)ルシフェラーゼアッセイシステム(Promega, #G7940)およびGloMax(登録商標) Explorer System(Promega #GM3500)を用いて評価した。結果を、GraphPad Prismソフトウェアv9.0.2を用いて解析した。
【0325】
F-アクチンの存在下で、Clec9AコンジュゲートCD3抗体は、F-アクチンをコーティングしていないウェルにおけるよりも有意に高い、T細胞レポーター活性化を誘導した(
図10)。非コンジュゲートCD3抗体は、F-アクチンでコーティングしたウェルとコーティングしていないウェルとの間で、レポーター活性のいかなる違いも示さないため、この増強された活性化は、Clec9Aに依存的であった。したがって、抗CD3-Clec9A抗体によるCD3活性の調節は、Clec9AとF-アクチンとの間の相互作用に依存的であったと考えられる。この結果により、Clec9Aコンジュゲート抗体による死細胞依存的活性化のメカニズムが確認される。
【産業上の利用可能性】
【0326】
本発明は、罹患組織(例えば、TME)において特異的に観察される、細胞死により細胞外環境に曝される細胞の構成要素またはその一部分(例えば、細胞骨格または核骨格を形成するフィラメントまたはヒストン)に結合し、かつ同時に細胞(例えば、免疫細胞、罹患細胞、例えば腫瘍細胞、自己反応性細胞、およびウイルス感染細胞)の上または中の標的分子(例えば、膜タンパク質)に結合する、罹患組織、異常組織などのような細胞死が観察される組織において特異的に作用する、分子を提供する。
【配列表】
【国際調査報告】