(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-02-02
(54)【発明の名称】落雷保護材料及び構造
(51)【国際特許分類】
B32B 15/01 20060101AFI20240126BHJP
B32B 15/04 20060101ALI20240126BHJP
B64C 1/00 20060101ALI20240126BHJP
B64D 45/02 20060101ALI20240126BHJP
【FI】
B32B15/01 J
B32B15/04 Z
B64C1/00 B
B64D45/02
【審査請求】未請求
【予備審査請求】有
(21)【出願番号】P 2023540176
(86)(22)【出願日】2021-12-24
(85)【翻訳文提出日】2023-08-24
(86)【国際出願番号】 EP2021087642
(87)【国際公開番号】W WO2022144325
(87)【国際公開日】2022-07-07
(32)【優先日】2020-12-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】LU
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】516296566
【氏名又は名称】ルクセンブルク・インスティテュート・オブ・サイエンス・アンド・テクノロジー・(エルアイエスティ)
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】アントワーヌ・デュハイン
(72)【発明者】
【氏名】ギヨーム・ランブラン
(72)【発明者】
【氏名】ダミアン・ルノーブル
(72)【発明者】
【氏名】マルク・ミシェル
【テーマコード(参考)】
4F100
【Fターム(参考)】
4F100AA37B
4F100AB01A
4F100AB10A
4F100AB16C
4F100AB17A
4F100AB17B
4F100AD11B
4F100AT00A
4F100BA02
4F100BA03
4F100BA07
4F100BA10A
4F100BA10B
4F100DA02B
4F100DC11A
4F100DC11B
4F100GB31
4F100GB32
4F100JG01B
4F100YY00A
4F100YY00B
(57)【要約】
落雷保護材料であって、基板(12)を備え、基板が、金属層(14)、及び金属層上に銅ナノカーボン複合層(16)を担持し、銅ナノカーボン複合層が、カーボンナノチューブ及び/又はグラフェンシートから構成されるナノカーボンタングル(18)を含み、ナノカーボンタングルが、銅相(20)内に埋め込まれ、且つ銅ナノカーボン複合層全体に分散される、落雷保護材料が提案される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
落雷保護材料であって、基板を備え、前記基板が、金属層、及び前記金属層上に銅ナノカーボン複合層を担持し、前記銅ナノカーボン複合層が、カーボンナノチューブ及び/又はグラフェンシートから構成されるナノカーボンタングルを含み、前記ナノカーボンタングルが、銅相内に埋め込まれ、且つ前記銅ナノカーボン複合層全体に分散される、落雷保護材料。
【請求項2】
前記銅ナノカーボン複合層が、落雷に打たれると局所的に破壊されやすい犠牲保護層としての役割をする、請求項1に記載の落雷保護材料。
【請求項3】
前記金属層が、0.5μm~50μmの範囲の厚さを有する、請求項1又は2に記載の落雷保護材料。
【請求項4】
前記銅ナノカーボン複合層が、0.5μm~50μmの範囲の厚さを有する、請求項1~3のいずれか一項に記載の落雷保護材料。
【請求項5】
前記金属層が、プレーン層を含む、請求項1~4のいずれか一項に記載の落雷保護材料。
【請求項6】
前記金属層が、メッシュ層を含む、請求項1~5のいずれか一項に記載の落雷保護材料。
【請求項7】
前記銅ナノカーボン複合層が、プレーン層を含む、請求項1~6のいずれか一項に記載の落雷保護材料。
【請求項8】
前記銅ナノカーボン複合層が、メッシュ層を含む、請求項1~7のいずれか一項に記載の落雷保護材料。
【請求項9】
前記金属層及び前記銅ナノカーボン複合層の一方が、プレーン層であり、前記金属層及び前記銅ナノカーボン複合層の他方が、メッシュ層である、請求項1~8のいずれか一項に記載の落雷保護材料。
【請求項10】
前記金属層及び前記銅ナノカーボン複合層のそれぞれが、メッシュ層である、請求項1~8のいずれか一項に記載の落雷保護材料。
【請求項11】
前記金属層が、銅層であるか、又は銅層を含む、請求項1~10のいずれか一項に記載の落雷保護材料。
【請求項12】
前記金属層が、アルミニウム層であるか、又はアルミニウム層を含む、請求項1~10のいずれか一項に記載の落雷保護材料。
【請求項13】
前記金属層及び前記銅ナノカーボン複合層の間にニッケル境界部を含む、請求項1~12のいずれか一項に記載の落雷保護材料。
【請求項14】
前記銅ナノカーボン複合層が、少なくとも10体積%のカーボンナノチューブ及び/又はグラフェンシートを含む、請求項1~13のいずれか一項に記載の落雷保護材料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、概して、落雷保護材料に関し、特に金属ナノカーボン複合材料を含む落雷保護材料に関する。
【背景技術】
【0002】
複合材料、例えば炭素繊維強化ポリマー(CFRP)は、例えば航空宇宙産業、風力タービン、ガス貯蔵タンク、自動車、又はその他の乗り物などの製造業者などの様々な産業によって、ある用途においてアルミニウム及び他の金属を置き換えてますます使用されている。複合材料は、航空機重量を減少させつつ、同等の又は改善された構造的性能、材料強度及び剛性を提供する。CFRPは、強化材を一緒に結束してマトリクスに埋め込まれた炭素繊維強化材、通常はポリマ樹脂(例えば、エポキシ、ポリエステル、ナイロンなど)を含む。
【0003】
この開発の欠点の1つは、航空機の機体(胴体、翼、尾部)又は大量の複合材料を含む他の技術分野の構造的材料が、落雷に対する追加の保護を必要とすることである。実際に、複合材料は、金属よりも導電性が低く、したがって落雷に対して本来備わる保護力が低い。
【0004】
したがって、例えば、航空機外装及び/又は構造などの複合構造のための落雷保護を提供するためのシステム及び材料が開発されている。(非特許文献1)によって報告されているように、ボーイング787及びエアバスA350は、(重量によって)50%より多くの複合材料を特徴とする。両方の製造業者が、それらの航空機に対するLSP(落雷保護)の解決策(ボーイング787上の複合要素にラミネートされたワイヤメッシュ、エアバスA350上の複合構造部品に埋め込まれた金属ホイル)を採用している。
【0005】
(特許文献1)は、様々な構成の金属導体又は金属ホイルシステムが、航空機の複合外表面に組み込まれて、改善された導電性をもたらし、飛行に重要な領域及び航空機の基礎的な構成要素から電流を分散させ、逸らし得ることを報告している。複合構造面上に付加され、且つ接着剤で表面に固定された誘電性材料と導電性材料の交互の層を用いるアップリケベースシステムが、航空機の基礎的な構成要素を落雷から隔離し、雷の電流及び熱の急速な分散及び消散のための導電経路を提供する。しかしながら、(特許文献1)は、そのようなシステムが、落雷保護システムの効果的な統合に必要な複数の材料構成要素の、手動による退屈で時間のかかる設置をしばしば伴うことを批判しており、有機ポリマ樹脂から構成された表面層、エキスパンドメタルホイルの導電層、絶縁層/タック層、及びキャリアペーパー層を有する複合構造上の自動設置に適合される、統合型落雷保護システムを提案している。(特許文献1)の発明の別の実施形態では、キャリアペーパー上に取り付けられた有機ポリマ樹脂にカプセル化されたエキスパンドメタルホイルから構成される統合型落雷保護材料を有する統合型落雷保護システムと、落雷から複合部分を保護するための材料を航空機の複合部分上に設置することに適した自動設置マシンと、が提供される。
【0006】
(特許文献2)は、低導電性複合材料から作られた航空機の燃料タンクのための落雷保護システムを開示する。システムは、複合物で作られたタンク外装の外表面全体を覆う導電性の細線メッシュと、複合材料又は金属材料のいずれかの1つの内部部分に上記外装を結合する留め具の列の両側まで50mmの最小距離にメッシュを重ねる太線金属メッシュと、を含む。両方の金属メッシュは、接合点に接続され、且つ留め具と外装との間に存在する間隙にセットされた金属の皿頭ワッシャーを用いて、それらの導入/組み立てにより電気的接触を維持する。
【0007】
(特許文献3)は、多層落雷保護材料に関する。多層落雷保護材料は、保護対象に少なくとも部分的に隣接可能に構成され、誘電層及び導電層を含み、材料は、第2の誘電層を含み、導電層は、誘電層間に挟まれ、少なくとも1つの誘電層の厚さdは、0.1mm以上である。
【0008】
(特許文献4)は、落雷保護複合体を開示する。複合構造に放電(例えば、落雷を含む)に対する保護を与えるための複合体は、その中に材料構造を分散させること及び基板の表面に付着させることが可能なバインダー材と、バインダー材に分散された複数の顔料構造と、を含む。顔料構造は、導電性材料を含む中央層と、中央層の上に形成された外側層と、を含み、外側層は光吸収材料又は誘電性材料を含む。複合体は、基板に付着されると、複数キロアンプの放電から電流を移送するための導電性経路を提供する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】米国特許出願公開第2012/145319A1号明細書
【特許文献2】米国特許出願公開第2004/246651A1号明細書
【特許文献3】米国特許出願公開第2013/105190A1号明細書
【特許文献4】米国特許出願公開第2016/340518A1号明細書
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】Kumar, Yadav Khagendra. (2018), “Aircraft and Lightning strike”, 10.13140/RG.2.2.17145.52326
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、金属ナノカーボン複合材料に基づく落雷保護材料を提案する。
【0012】
本発明の第1の態様によれば、落雷保護材料は、基板(例えば、カーボン繊維強化ポリマー)を備え、基板は、金属層(好ましくは、銅又はアルミニウム層)、及び金属層上に銅ナノカーボン複合層を担持し、銅ナノカーボン複合層は、カーボンナノチューブ(CNT)及び/又はグラフェンシートから構成されるナノカーボンタングルを含み、ナノカーボンタングルは、銅相内に埋め込まれ、且つ銅ナノカーボン複合層全体に分散される。
【0013】
本明細書における「ナノカーボンタングル」という表現は、概して不規則配列のCNT及び/又はグラフェンシート(薄片も)の3次元クラスタを指す。好ましくは、タングルのCNT及び/又はグラフェンシートは、ナノカーボンタングルが藪のようになるようにランダムに配向されるが、CNT及び/又はグラフェンシートの配向の完全なランダム性(等方性を意味する)は要件ではないことに留意されたい。CNTは、単層及び/又は多層CNTであってもよい。本明細書で用いられる「グラフェンシート」という用語は、例えば、フラット、ツイスト、ロール、ストライプ、リボンなどの様々な構成でグラフェン単一層、二重層、又は多層を対象とすることが意図される。
【0014】
本発明の文脈において、「金属層」という表現は、本質的に金属性の層を指すように意図される。金属層は、それがナノカーボンタングル又は他の相当量のナノカーボン(不純物の可能性がある)を含まず、したがって銅ナノカーボン複合層に該当しないという条件付きで、銅で作られていてもよい。銅ナノカーボン複合層の銅相の銅、及び金属層が銅層であるか又は銅層を含む場合の金属層の銅は、好ましくは、電解タフピッチ(ETP)銅(CW004A又はASTM指定C11040)である。
【0015】
提案される方法の文脈において使用されるCNT及び/又はグラフェンシートは、好ましくは、親水性コーティングを含む。ナノカーボンタングルは、最初に(乾燥形態又は液体媒体でパッケージ化された)ナノカーボン組織の形態で提供され得る。代替として、CNT及び/又はグラフェンシートの親水化は、工程の一部であってもよい。親水性コーティングは、好ましくは、ポリフェノール又はポリ(カテコールアミン)を含む。より好ましくは、親水性コーティングは、ポリフェノール若しくはポリ(カテコールアミン)を架橋結合する、及び/又はポリフェノール若しくはポリ(カテコールアミン)によってキレート化される、金属イオンを含む。ポリフェノール及びポリ(カテコールアミン)の例はそれぞれ、タンニン酸及びポリドーパミンである。ポリフェノール及びポリ(カテコールアミン)は、親水性であり、酸化還元活性を有する(即ち、金属イオンを還元可能である)。具体的には、それらは、金属イオンを用いてキレート化及び/又は架橋結合が可能である。本文脈におけるこれらの物質の興味深い別の特性は、π-π相互作用によりCNT又はグラフェンをコーティングする能力である。
【0016】
CNT及び/又はグラフェンの親水化が工程の一部である場合、CNT及び/又はグラフェンのコーティングは、好ましくは、最初はコーティングされていないCNT及び/又はグラフェンシートが分散された、フェノール及び/又はカテコールアミン部分を含む溶液内で行われる。好ましくは、溶液は、また、フェノール及び/若しくはカテコールアミン部分を架橋結合可能な、並びに/又はそれらを用いてキレートを形成可能な、ある量の金属イオンを含む。CNT及び/又はグラフェンのコーティングは、音波処理下、例えば、超音波処理下及び/又は攪拌下で行われてもよい。溶液は、1つ又は複数の触媒、緩衝剤などをさらに含み得る。CNT及び/又はグラフェンシートは、好ましくは、フェノール及び/又はカテコールアミン部分を含む溶液内に分散させる前に酸化される。
【0017】
銅ナノカーボン複合層は、好ましくは、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる、国際公開第2020/043590A1号パンフレットに開示されるように製造される。この文脈では、本開示において使用されるCNTが、その開示の方法を実施するときにグラフェンシートによって部分的又は全体的に置換され得ることは、注目に値する。
【0018】
落雷保護材料は、保護されるべき構造(例えば、航空機の外装、風力タービン翼材料、ガスタンク外装など)の不可欠な部分であってもよく、又はそのような構造に適用され得ることを理解されたい。本発明は、より軽量の落雷保護材料を生産するために使用されてもよく、それが、より良好なレベルの保護ではないとしても同レベルの保護を提供することを理解されたい。
【0019】
銅ナノカーボン複合層は、好ましくは、落雷に打たれると局所的に破壊されやすい犠牲保護層としての役割をする。提案された金属層上の銅ナノカーボン複合層の組立体に雷が当たると、銅ナノカーボン複合層には穴が形成され得るが、金属層は損なわれないままであることが発見されている。落雷の後でさえ、連続した導電層は、存続する可能性、及びしたがって基礎となる構造をある程度保護する可能性がより高いため、これは、提案される材料の興味深い特性である。提案された銅層上の銅ナノカーボン複合層の組立体、及び比較のために2つの銅層の組立体を用いて行われた実験は、完全な貫通は、2つの銅層の組立体で発生する可能性がより高いことを示している。
【0020】
落雷保護材料において、金属層は、好ましくは0.5μm~50μmの範囲の厚さを有する。追加として、又は代替として、銅ナノカーボン複合層は、0.5μm~50μmの範囲内の厚さを有し得る。
【0021】
金属層及び/又は銅ナノカーボン複合層は、プレーン(パターンなし)層又はメッシュ層(例えば、六角形又は四角形のメッシュ)を含み得る(又はそれらから構成され得る)。特に、金属層及び銅ナノカーボン複合層のうちの一方は、プレーン層であり得るが、金属層及び銅ナノカーボン複合層のうちの他方は、メッシュ層である。
【0022】
重量を減らすために、金属層及び銅ナノカーボン複合層のそれぞれが、メッシュ層であってもよい。
【0023】
落雷保護材料は、金属層と銅ナノカーボン複合層との間にニッケル境界部(例えば、数ナノメートル厚)をさらに含んでもよい。
【0024】
好ましくは、銅ナノカーボン複合層は、少なくとも10体積%のカーボンナノチューブ及び/又はグラフェンシートを含む。銅ナノカーボン複合層内のナノカーボンの体積パーセンテージは、以下によって計算され得る。
【数1】
ここで、
V
複合体は、複合体の測定された体積(例えば、cm
3)であり、
式2によって得られるV
金属は、複合体に含まれる金属の体積であり、
m
複合体は、複合体の測定された質量(例えば、g)であり、
m
ナノ cは、電着前の(ドライ)ナノカーボンタングルの測定された質量(例えば、g)であり、
γ
金属は、金属の特定の質量(例えば、g/cm
3)である。
【0025】
本文書において、「含む(to comprise)」という動詞及び「から構成される(comprised of)」という表現は、「少なくとも~から構成される(consist at least of)」又は「含む(include)」を意味する従来のオープンな語句として用いられている。文脈による特段の示唆がない限り、単数形の語形式の使用は、基数「1」が使用されているときを除いて、複数形を包含するように意図される。本明細書において「1」は「厳密に1」を意味する。
【0026】
例として、本発明の好適な非限定的実施形態は、ここで添付図面を参照して詳細に説明される。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図1】落雷の直接効果を評価するための文献において使用される、モデル化された雷電流波形の図である。
【
図2】本発明の好適な実施形態による、落雷保護材料の概略断面図である。
【
図3】落雷後の
図2の落雷保護材料の概略図である。
【
図4】落雷が当たる前(上の写真)及び落雷が当たった後(下の写真)の、発明による落雷保護材料サンプルの写真を示す。
【
図5】落雷が当たる前及び落雷が当たった後の、比較サンプルの写真を示す。
【発明を実施するための形態】
【0028】
SAE Aerospace Recommended Practice(ARP)5414, Aircraft lightning zoning, SAE Int., 1999によれば、落雷ゾーンが最も受ける可能性が高い、雷電流の様々なタイプにしたがって、典型的な大型航空機の外表面上で異なる落雷ゾーンを定義し得る。ゾーンの詳細な説明は、上述したKumarによるレポートにおいて見出され得る。ゾーン1の部位(ゾーン1A、1B、及び1Cにさらに分割される)は、初期の着雷及び最初のリターンストロークを受ける可能性が高い領域に対応する。ゾーン1は、典型的には、航空機の機首及び翼端を含む。ゾーン2の部位(ゾーン2A及び2B)は、機体の大半を含み、後続の掃引ストローク又は再雷撃を受ける可能性が高い部位である。ゾーン3は、ゾーン1及びゾーン2以外の雷撃位置に対応し、電光放電路の着雷の可能性は低い。
【0029】
図1は、落雷の直接効果を評価するための文献において使用される、モデル化された雷電流波形を示す。図は、概略的なものであり、いずれの軸に沿っても縮尺通りではないことに留意されたい。初期のリターンストロークは、「A」の部分に示されており、約200kAのピーク振幅、約2・10
6A
2sの作用積分、及び500μs以下の期間を有する。電流成分「B」は、約2kAの平均振幅、約10Cの電荷移動、5ms以下の期間を有する「中間電流」である。成分「C」は、典型的には200~800A、約200Cの電荷移動、及び典型的には0.25s~1sの期間を有する連続電流である。最後に、電流成分「D」(「D波」ともいう)は、約100kAの典型的ピーク振幅、約0.25・10
6A
2sの作用積分、及び500μs以下の期間を有する後続ストロークである。初期ストロークAは、主にゾーン1において発生し、このゾーンにおける落雷保護は、それに応じて構成されなければならない。ゾーン2における落雷保護は、D波に抵抗することが可能でなければならない。ゾーン1及びゾーン2の両方が、さらに、電流B及び電流Cに耐えなければならない。
【0030】
従来の落雷保護材料は、主に銅に基づき、銅メッシュは、複合体繊維基板に対して、又は複合体繊維基板内に熱圧着されて、それらに導電性を与える。銅の重量は、しかしながら高く、低い比導電率及び高い電流容量を有する良い導電体がやはり必要である。銅メッシュの重量が50%減少することによって、例えば、航空機当たり100~200kgの節約が可能となる。また、銅の電流容量は、カーボンベース材料と比較して制限される。
【0031】
図2及び
図3は、本発明の好適な実施形態による、落雷保護(LSP)材料10の概略断面図を示す。LSP材料は、基板12(例えば、CR4型エポキシレジスト)を含み、基板12は、金属層14、及び金属層14上に銅ナノカーボン複合層16を担持する。銅ナノカーボン複合層16は、ナノカーボン組織18及び銅相20(又は銅マトリクス)から構成され、ナノカーボン組織18が埋め込まれている。ナノカーボン組織18は、CNT及び/又はグラフェンシート、好ましくは、ポリドーパミンコーティングされたCNT及び/又はポリドーパミンコーティングされたグラフェンシートから構成される。金属層14は、好ましくは、0.5μm~50μmの範囲内、例えば3μmの厚さを有する。銅ナノカーボン複合層16は、0.5μm~50μmの範囲内、例えば12μm~20μm、例えば15μmの厚さを有してもよい。金属層14及び/又は銅ナノカーボン複合層16は、プレーン層又はメッシュ層であってもよく、一方が他方から独立している。特に、金属層14及び銅ナノカーボン複合層16のうちの一方は、プレーン層であってもよく、金属層14及び銅ナノカーボン複合層16のうちの他方は、メッシュ層である。
【0032】
図2及び
図3にも示されるように、ニッケル境界部22(数ナノメートル厚しか必要ではないが、より厚くてもよい)は、金属層14と銅ナノカーボン複合層16との間に配置される。ニッケル層22は、銅マトリクス20のナノカーボン組織18内への電着を開始することに役立ち得る。
【0033】
提案されるLSP材料は、銅の高い導電率及びナノカーボンベース材料の高い電流容量の相乗効果から恩恵を受ける。
【0034】
実験室試験は、提案されるLSP材料のサンプル、及び比較のために、同種の基板上に(ナノカーボンなしで)銅の二重層を有するサンプルを用いて行われた。サンプルは、FR4型エポキシ支持体に取り付けられ、落雷のD波をシミュレートする100kAの放電に暴露された。落雷のB成分及びC成分(
図1を参照)は、本質的に昇温し、おそらくその表面上でレジストを気化し、D波は、熱的及び機械的効果によって複合体のコアに損傷を引き起こし、したがって、落雷への材料の反応を研究するために選択されている。
【0035】
材料の導電性及び厚さに依存して、D波に打たれたときに、評価された材料の気化が発生することがある。材料の電気抵抗が高い(又は材料が薄い)ほど、材料の気化が大きくなる。その面密度(例えば、kg/m2)の関数としての気化した材料の領域は、したがって、落雷保護の効果の指標としての役割をし得る。
【0036】
図3は、好適な実施形態による、LSP材料に対する落雷の影響を概略的に示す。100kAの落雷の後、銅ナノカーボン複合層16の外側に損傷があるが、内部の金属層14は損なわれないままであった。具体的には、落雷は、銅ナノカーボン複合層16の一部を気化して、その中に穴24を形成し得る。穴の底面は金属層14によって形成され、このことは、全体としてLSP材料の穿孔は無かったことを示唆している。
【0037】
図4は、落雷のD波をシミュレートする100kAの放電が当たる前(上の写真)及び当たった後(下の写真)の(実験室の条件下で)、本発明によるLSP材料サンプルの写真を示す。
図4のLSP材料は、銅層、及び銅層上の銅ナノカーボン複合層から構成された。
【0038】
図5は、同一条件下で100kAの放電が当たる前(上の写真)及び当たった後を比較する写真を、比較のために示す。比較サンプルは、
図4のLSP材料サンプルと同一の基板上に堆積された2つの電気メッキされた銅層から構成された。100kAの落雷の適用後、2つの銅層が、大きな直径にわたって気化され、電光放電路の着雷領域内の落雷保護が完全に失われることにつながることが分かる。
【0039】
最初の落雷に打たれた後、LSP材料は、依然としてさらなる落雷事象に対して部分的な保護を与える場合があり、それが損傷を受けたゾーンの補償を容易にし得るため、提案されるLSP材料の残りの導電性が役立ち得る。
【0040】
本明細書において特定の実施形態が詳細に記載されているが、当業者であれば、それらの詳細に対する様々な修正及び代替が、本開示の教示全体に照らして開発され得ると理解するであろう。したがって、開示された特定の配置は、本発明の範囲に対する限定ではなく単なる例示であることを意味し、それは、添付の特許請求の範囲の全幅並びにその任意の及び全ての等価物を与えられるものとする。
【手続補正書】
【提出日】2022-12-19
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
落雷保護材料であって、基板を備え、前記基板が、金属層、及び前記金属層上に銅ナノカーボン複合層を担持し、前記銅ナノカーボン複合層が、カーボンナノチューブ及び/又はグラフェンシートから構成されるナノカーボンタングルを含み、前記ナノカーボンタングルが、銅相内に埋め込まれた
不規則配列のCNT及び/又はグラフェンシートの3次元クラスタであり、且つ前記銅ナノカーボン複合層全体に分散される、落雷保護材料。
【請求項2】
前記銅ナノカーボン複合層が、落雷に打たれると局所的に破壊されやすい犠牲保護層としての役割をする、請求項1に記載の落雷保護材料。
【請求項3】
前記金属層が、0.5μm~50μmの範囲の厚さを有する、請求項1又は2に記載の落雷保護材料。
【請求項4】
前記銅ナノカーボン複合層が、0.5μm~50μmの範囲の厚さを有する、請求項1~3のいずれか一項に記載の落雷保護材料。
【請求項5】
前記金属層が、プレーン層を含む、請求項1~4のいずれか一項に記載の落雷保護材料。
【請求項6】
前記金属層が、メッシュ層を含む、請求項1~5のいずれか一項に記載の落雷保護材料。
【請求項7】
前記銅ナノカーボン複合層が、プレーン層を含む、請求項1~6のいずれか一項に記載の落雷保護材料。
【請求項8】
前記銅ナノカーボン複合層が、メッシュ層を含む、請求項1~7のいずれか一項に記載の落雷保護材料。
【請求項9】
前記金属層及び前記銅ナノカーボン複合層の一方が、プレーン層であり、前記金属層及び前記銅ナノカーボン複合層の他方が、メッシュ層である、請求項1~8のいずれか一項に記載の落雷保護材料。
【請求項10】
前記金属層及び前記銅ナノカーボン複合層のそれぞれが、メッシュ層である、請求項1~8のいずれか一項に記載の落雷保護材料。
【請求項11】
前記金属層が、銅層であるか、又は銅層を含む、請求項1~10のいずれか一項に記載の落雷保護材料。
【請求項12】
前記金属層が、アルミニウム層であるか、又はアルミニウム層を含む、請求項1~10のいずれか一項に記載の落雷保護材料。
【請求項13】
前記金属層及び前記銅ナノカーボン複合層の間にニッケル境界部を含む、請求項1~12のいずれか一項に記載の落雷保護材料。
【請求項14】
前記銅ナノカーボン複合層が、少なくとも10体積%のカーボンナノチューブ及び/又はグラフェンシートを含む、請求項1~13のいずれか一項に記載の落雷保護材料。
【国際調査報告】