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特表2024-504924腫瘍及びがんを予防するための組成物及び方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-02-02
(54)【発明の名称】腫瘍及びがんを予防するための組成物及び方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 38/22 20060101AFI20240126BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20240126BHJP
   A61K 39/395 20060101ALI20240126BHJP
   A61K 47/68 20170101ALI20240126BHJP
   A61K 39/00 20060101ALI20240126BHJP
   A61K 39/08 20060101ALI20240126BHJP
   C07K 14/595 20060101ALN20240126BHJP
【FI】
A61K38/22
A61P35/00 ZNA
A61K39/395 D
A61K39/395 N
A61K47/68
A61K39/00 H
A61K39/08
C07K14/595
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023541717
(86)(22)【出願日】2022-01-13
(85)【翻訳文提出日】2023-09-06
(86)【国際出願番号】 US2022012294
(87)【国際公開番号】W WO2022155320
(87)【国際公開日】2022-07-21
(31)【優先権主張番号】17/148,159
(32)【優先日】2021-01-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.プルロニック
(71)【出願人】
【識別番号】519447916
【氏名又は名称】キャンサー アドヴァンシーズ インク.
【氏名又は名称原語表記】CANCER ADVANCES INC.
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】サットン, リンダ
(72)【発明者】
【氏名】スミス, ジル ピー
(72)【発明者】
【氏名】カトー, アレン
(72)【発明者】
【氏名】フィリップス, テレサ
【テーマコード(参考)】
4C076
4C084
4C085
4H045
【Fターム(参考)】
4C076AA95
4C076CC27
4C076CC41
4C076EE41A
4C076EE59
4C084AA02
4C084AA03
4C084DB41
4C084NA05
4C084NA14
4C084ZB26
4C085AA05
4C085AA13
4C085BA12
4C085BB31
4C085CC22
4C085DD61
4C085EE01
4H045BA15
4H045BA16
4H045BA17
4H045DA30
4H045EA20
(57)【要約】
提供されるのは対象におけるガストリン関連腫瘍及び/又はがんのイニシエーション及び/又は進行を予防するための方法である。幾つかの実施態様では、本方法は、ガストリン免疫原を含む組成物を対象に投与することに関する。また提供されるのは、ガストリン関連前がん病変の発生を阻害するための方法、腫瘍及び/又はがんに関連する線維形成を予防するための方法、ガストリン関連腫瘍又はがんのイニシエーション及び/又は発生を予防するための、並びに/或いはそのための医薬を調製するための、ガストリン免疫原を含む組成物の使用、並びにガストリン関連腫瘍及び/又はがん及び/又はそれらの前がん病変のイニシエーション及び/又は発生の予防における使用のための組成物である。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象におけるガストリン関連腫瘍又はがんのイニシエーション又は進行を予防するための方法であって、
(a)ガストリン関連腫瘍又はがんを発症するリスクのある対象を提供することと;
(b)ガストリン免疫原を含む組成物を対象に投与すること
を含み、ガストリン免疫原が、対象におけるガストリン関連腫瘍又はがんのイニシエーション又は進行を予防するのに十分な抗ガストリン体液性及び/又は細胞性免疫応答を対象において誘導する、方法。
【請求項2】
ガストリン免疫原が、ガストリンペプチド、任意選択的に、EGPWLEEEEE(配列番号:1)、EGPWLEEEE(配列番号:2)、EGPWLEEEEEAY(配列番号:3)、及びEGPWLEEEEEAYGWMDF(配列番号:4)からなる群から選択されるアミノ酸配列を含むか、それから本質的になるか、又はそれからなるガストリンペプチドを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
ガストリンペプチドが、任意選択的にリンカーを介して、免疫原性担体にコンジュゲートされる、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
免疫原性担体が、ジフテリアトキソイド、破傷風トキソイド、キーホールリンペットヘモシアニン、及びウシ血清アルブミンからなる群から選択される、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
リンカーがε-マレイミドカプロン酸N-ヒドロキシスクシンアミドエステルを含む、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
リンカーとガストリンペプチドとがアミノ酸スペーサーによって分離され、任意選択的にアミノ酸スペーサーが1と10の間のアミノ酸長であり、更に任意選択的にアミノ酸スペーサーが7アミノ酸長である、請求項3又は請求項5に記載の方法。
【請求項7】
組成物がアジュバント、任意選択的に油性アジュバントを更に含む、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
ガストリン関連腫瘍及び/又はがんが、膵臓がんである、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
組成物が、膵臓がんに関連する線維化の減少を誘導し、及び/又はその発生を予防する、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
組成物が、約50μgから約1000μg、約50μgから約500μg、約100μgから約1000μg、約200μgから約1000μg、及び約250μgから約500μgからなる群から選択される用量で投与され、任意選択的に、投与が、一回、二回、又は三回繰り返され、任意選択的に、二回目の投与が、初回投与の1週間後になされ、三回目の投与が、投与される場合は、二回目の投与の1週間又は2週間後になされる、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
対象におけるガストリン関連前がん病変の発生を阻害するための方法であって、
(a)ガストリン関連前がん病変の発生のリスクのある対象を提供することと;
(b)ガストリン免疫原を含む組成物を対象に投与すること
を含み、ガストリン免疫原が、対象におけるガストリン関連前がん病変の発生を阻害する、方法。
【請求項12】
ガストリン免疫原がガストリンペプチドを含む、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
ガストリンペプチドが、EGPWLEEEEE(配列番号:1)、EGPWLEEEE(配列番号:2)、EGPWLEEEEEAY(配列番号:3)、及びEGPWLEEEEEAYGWMDF(配列番号:4)からなる群から選択されるアミノ酸配列を含むか、それから本質的になるか、又はそれからなる、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
ガストリンペプチドが、任意選択的にリンカーを介して、免疫原性担体にコンジュゲートされる、請求項12又は請求項13に記載の方法。
【請求項15】
免疫原性担体が、ジフテリアトキソイド、破傷風トキソイド、キーホールリンペットヘモシアニン、及びウシ血清アルブミンからなる群から選択される、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
リンカーがε-マレイミドカプロン酸N-ヒドロキシスクシンアミドエステルを含む、請求項14に記載の方法。
【請求項17】
リンカーとガストリンペプチドとがアミノ酸スペーサーによって分離され、任意選択的にアミノ酸スペーサーが1と10の間のアミノ酸長であり、更に任意選択的にアミノ酸スペーサーが7アミノ酸長である、請求項14又は請求項16に記載の方法。
【請求項18】
組成物がアジュバント、任意選択的に油性アジュバントを更に含む、請求項11に記載の方法。
【請求項19】
ガストリン関連腫瘍及び/又はがんが、膵臓がんである、請求項11に記載の方法。
【請求項20】
組成物が、膵臓がんに関連する線維化の減少を誘導及び/又はその発生を予防し、ガストリン関連前がん病変が膵上皮内腫瘍(PanIN)を含む、請求項11に記載の方法。
【請求項21】
組成物が、約50μgから約1000μg、約50μgから約500μg、約100μgから約1000μg、約200μgから約1000μg、及び約250μgから約500μgからなる群から選択される用量で投与され、任意選択的に、投与が、一回、二回、又は三回繰り返され、任意選択的に、二回目の投与が、初回投与の1週間後になされ、三回目の投与が、投与される場合は、二回目の投与の1週間又は2週間後になされる、請求項11に記載の方法。
【請求項22】
腫瘍及び/又はがんに関連する線維形成を予防するための方法であって、腫瘍及び/又はがんの細胞を、腫瘍及び/又はがんにおけるガストリンの一又は複数の生物学的活性を直接的又は間接的に阻害する薬剤を含むか、それから本質的になるか、又はそれからなる組成物と接触させることを含む、方法。
【請求項23】
薬剤がガストリンペプチドに対する体液性免疫応答を誘導し、任意選択的に薬剤が対象において中和抗ガストリン抗体の産生を誘導するガストリンペプチドを含む、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
中和抗ガストリン抗体が、アミノ酸配列EGPWLEEEEE(配列番号:1)、EGPWLEEEE(配列番号:2)、EGPWLEEEEEAY(配列番号:3)又はEGPWLEEEEEAYGWMDF(配列番号:4)内に存在するエピトープに結合する、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
薬剤が、免疫原性担体にコンジュゲートされた中和抗ガストリン抗体の産生を誘導するガストリンペプチドを含む、請求項22から24の何れか一項に記載の方法。
【請求項26】
ガストリンペプチドが、EGPWLEEEEE(配列番号:1)、EGPWLEEEE(配列番号:2)、EGPWLEEEEEAY(配列番号:3)、及びEGPWLEEEEEAYGWMDF(配列番号:4)からなる群から選択されるアミノ酸配列を含むか、本質的にそれらからなるか、又はそれらからなる、請求項25に記載の方法。
【請求項27】
免疫原性担体が、ジフテリアトキソイド、破傷風トキソイド、キーホールリンペットヘモシアニン、及びウシ血清アルブミンからなる群から選択される、請求項25に記載の方法。
【請求項28】
ガストリンペプチドが、リンカーを介して免疫原性担体にコンジュゲートされる、請求項25に記載の方法。
【請求項29】
リンカーがε-マレイミドカプロン酸N-ヒドロキシスクシンアミドエステルを含む、請求項28に記載の方法。
【請求項30】
リンカーとガストリンペプチドとがアミノ酸スペーサーによって分離され、任意選択的にアミノ酸スペーサーが1と10の間のアミノ酸長であり、更に任意選択的にアミノ酸スペーサーが7アミノ酸長である、請求項28又は請求項29に記載の方法。
【請求項31】
組成物がアジュバント、任意選択的に油性アジュバントを更に含む、請求項22から30の何れか一項に記載の方法。
【請求項32】
腫瘍及び/又はがんが、膵臓がんである、請求項22から31の何れか一項に記載の方法。
【請求項33】
ガストリン関連腫瘍又はがんのイニシエーション及び/又は発生を予防するための、ガストリン免疫原を含む組成物の使用。
【請求項34】
ガストリン関連腫瘍又はがんのイニシエーション及び/又は発生を予防する医薬の調製のための、ガストリン免疫原を含む組成物の使用。
【請求項35】
ガストリン関連腫瘍及び/又はがん及び/又はその前がん病変のイニシエーション及び/又は発生の予防における使用のための組成物であって、ガストリン免疫原を含むか、本質的にそれからなるか、又はそれからなり、任意選択的に、 ガストリン免疫原が、免疫原性担体にコンジュゲートされる中和抗ガストリン抗体の産生を誘導するガストリンペプチドを含む、組成物。
【請求項36】
ガストリンペプチドが、EGPWLEEEEE(配列番号:1)、EGPWLEEEE(配列番号:2)、EGPWLEEEEEAY(配列番号:3)、及びEGPWLEEEEEAYGWMDF(配列番号:4)からなる群から選択されるアミノ酸配列を含むか、本質的にそれらからなるか、又はそれらからなる、請求項35に記載の使用のための組成物。
【請求項37】
免疫原性担体が、ジフテリアトキソイド、破傷風トキソイド、キーホールリンペットヘモシアニン、及びウシ血清アルブミンからなる群から選択される、請求項35に記載の使用のための組成物。
【請求項38】
ガストリンペプチドが、リンカーを介して免疫原性担体にコンジュゲートされる、請求項35に記載の使用のための組成物。
【請求項39】
リンカーがε-マレイミドカプロン酸N-ヒドロキシスクシンアミドエステルを含む、請求項38に記載の使用のための組成物。
【請求項40】
リンカーとガストリンペプチドとがアミノ酸スペーサーによって分離され、任意選択的にアミノ酸スペーサーが1と10の間のアミノ酸長であり、更に任意選択的にアミノ酸スペーサーが7アミノ酸長である、請求項38又は請求項39に記載の使用のための組成物。
【請求項41】
組成物がアジュバント、任意選択的に油性アジュバントを更に含む、請求項35から40の何れか一項に記載の使用のための組成物。
【請求項42】
腫瘍及び/又はがんが、膵臓がんである、請求項35から11の何れか一項に記載の使用のための組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
[関連出願との相互参照]
この出願は、2021年1月13日に出願された米国特許出願第17/148159号の利益を主張し、その開示はその全体が出典明示によりここに援用される。
【0002】
[配列表の参照]
本開示に関連する配列表は、2022年1月13日に作成され、「1734_10_22_3_PCT_ST25.txt」という名称で2キロバイトのASCIIテキストファイルとして米国特許商標庁に電子的に提出している。EFS-Web経由で提出した配列表は、その全体が出典明示によりここに援用される。
【0003】
[技術分野]
本開示の主題は、腫瘍及びがんに対する体液性及び細胞性免疫の両方を誘導するための組成物及び方法に関する。幾つかの実施態様では、本開示の主題は、限定されないが膵臓がんを含むがんのイニシエーション及び/又は進行を予防するために、ガストリンペプチドに対する体液性若しくは細胞性免疫応答の治療誘導剤を、並びに/或いは腫瘍又はがんに対する細胞性免疫応答の誘導剤と組み合わせて、それを必要とする対象に投与することに関する。
【背景技術】
【0004】
一般に膵管腺癌(PDAC)と呼ばれる膵臓がんは、幾つかの細胞増殖調節経路における遺伝子変異の連続的蓄積を伴う複雑な疾患である。膵上皮内腫瘍の比較的良性の病変として始まるもの(PanIN;Hruban等,2008)が、異常な遺伝子発現パターンの多様性、ゲノムの不安定性、そして最終的には治療に抵抗性の浸潤がんへと進行する。
【0005】
組織学的に、PDACは一般に高分化型であり、主に腺房導管化生、免疫抑制性炎症細胞の存在、細胞傷害性T細胞の欠如、及び高密度の線維化間質の存在によって規定される。これらの徴候は、程度が大きく異なり得、明白な臨床症状を伴わずに発生する場合があり、これがPDACの早期診断を稀なことにしている。PDAC腫瘍間質は、線維芽細胞及び膵星細胞(PSC)などの間葉細胞、細胞外マトリックスタンパク質、腫瘍周囲神経線維、内皮細胞、及び免疫細胞で構成されている。間質細胞に影響を与えて豊富な線維形成効果を生み出す特定の機構は、(ガストリンを含む)増殖因子活性化、コラーゲン及び細胞外マトリックス合成及び分泌(Zhang等,2007)、並びに血管及びサイトカイン媒介プロセスの多数の調節因子の発現(Hidalgo等,2012)を含む。
【0006】
浸潤性PDACは、管系癌腫の大部分(>85%)を構成する。PDACは、制御されない浸潤と早期転移を特徴とする。管腺癌の推定前駆型は、管内増殖変化を経て、最終的にPanIN-1AからPanIN-3への一連の腫瘍性転化(上皮内癌)及び末期の悪性癌腫となるPanINの顕微鏡的病変である。
【0007】
PDACの重要な特徴は、腫瘍細胞の表面でのガストリン/コレシストキニン受容体(CCK-B)の異常発現(Smith等,1994)並びに腫瘍による高レベルのガストリンの発現(Prasad等,2005)である。ガストリン(Smith,1995)及びコレシストキニン(Smith等,1990;Smith等,1991)タンパク質は両方とも膵臓腫瘍の増殖を刺激する。しかし、ガストリンのみが、自己分泌機構を通じて増殖をまた刺激することができ(Smith等,1996a;Smith等,1998b)、ガストリン発現の阻害(Matters等,2009)、又はCCK-B受容体機能の遮断(Fino等,2012;Smith及びSolomon,2014)ががん増殖を阻害する。
【0008】
長年にわたる多くのがんの治療での印象的な成功にもかかわらず、悲劇的には、全ての胃腸悪性腫瘍のなかで最も不良な予後を示す(Siegel等,2016)、PDACに対しては画期的な治療薬の販売承認は殆ど乃至は全く成功していない(Hidalgo,2010;Ryan等,2014を参照)。PDACに対する現在の5年生存率は約9~10%であり、がんの中で最も低い(Siegel等,2016)。
【0009】
PDACの転帰不良は過去30年間大きく変わっていない。集学的診断とその後の手術並びに化学及び放射線療法が第一選択治療アプローチである。しかし、小分子化学療法剤ゲムシタビン及び5-フルオロウラシルに基づく治療は満足のいく転帰をもたらさず、これらのレジメンによる平均生存期間は依然として1年未満にとどまっている(Hoff等,2011、Conroy等,2011)。
【0010】
低い生存率の要因には、この疾患を初期段階で診断できないこと、細胞性及び解剖学的腫瘍細胞の不均一性、高い転移率、薬物の浸透と曝露を阻害する高密度の線維化微小環境の存在が含まれる(Neesse等,2013)。腫瘍に到達しにくいことにより、標準的な化学療法剤及び免疫療法剤に対するPDACの相対的な耐性が生じ(Templeton及びBrentnall,2013)、この不治の病の予後不良の一因となっている。
【0011】
宿主免疫応答は、PDACの不応性で攻撃的な性質に寄与するもう一つの重要な要因である。PDACの微小環境では非常に卓越している免疫細胞は、抗腫瘍免疫をサポートしない(Zheng等,2013)。むしろ、これらの細胞(M2分極化マクロファージ、制御性T(Treg)細胞、及び好中球を含む)は、実際に腫瘍増殖及び浸潤を促進する。実際、PDACの特徴の一つは、免疫破壊を逃れる能力である(Hanahan及びWeinberg,2011)。
【0012】
PDACを含むがんは、多くのツールを用いて、患者の免疫系からの攻撃を逃れ及び/又は打ち破る(Pardoll,2012;Weiner及びLotze,2012)。腫瘍の代謝環境の構成要素がこれらの応答を調節することが示されている(Feig等,2012;Quante等,2013)。がん治療薬における大きな進歩は、免疫耐性の機構として腫瘍細胞によってしばしば調節される免疫チェックポイント経路の発見によってもたらされた(Leach等,1996)。細胞傷害性Tリンパ球関連抗原4(CTLA-4)、プログラム細胞死タンパク質1(PD-1)、及びプログラム細胞死リガンド1(PD-L1)などのチェックポイント経路のタンパク質を標的とする抗体が開発され、メラノーマ、非小細胞肺癌(NSCLC)、及び腎臓がんなどの一部のがんの免疫耐性を逆転させるのに臨床的に有効であることが示されている(Pardoll,2012)。しかし、PDACは、免疫抑制性制御性T(Treg)細胞が優勢であり、CD8腫瘍浸潤エフェクターT細胞を欠く微小環境を有する免疫学的に「コールド」な腫瘍として特徴付けられ(Feig等,2012;Vonderheide及びBayne,2013;Zheng等,2013)、血管新生化に乏しい。密な間質環境の線維化の性質、並びに血流を介した到達性の欠如は、PDACが抗PD-1及び抗PD-L1抗体に対してせいぜい中程度にしか応答しないという知見を部分的に説明する(Brahmer等,2012、Zhang,2018)。
【0013】
PDAC細胞表面上のチェックポイントリガンドPD-L1の発現レベルは、免疫チェックポイント阻害剤免疫療法に対する応答のもう一つの決定要因であると考えられる(Zheng,2017)。ある研究では、PD-L1発現レベルの低下が免疫チェックポイント阻害剤に対する応答の欠如と相関していること(Soares等,2015)、PD-1又はPD-L1発現の刺激が抗チェックポイントタンパク質抗体の効果の促進に役立つ可能性があること(Lutz等,2014)が示唆されている。PDACの他の研究では、PD-L1が大部分の腫瘍細胞並びに多くの腫瘍サンプルで高度に発現していることが見出された(Lu等,2017)。従って、免疫チェックポイント阻害剤療法の有効性は、腫瘍内のPD-L1の状態を考慮し、PDAC標的療法に伴うPD-L1発現の調節方法を探索することによって増強される可能性がある。
【0014】
現在、PDACの治療のための臨床試験には、抗体免疫チェックポイント阻害剤を化学療法、放射線、ケモカイン不活化(オラプテセド(olaptesed))、サイクリン依存性キナーゼ阻害(アベマシクリブ)、TGF-β受容体Iキナーゼ阻害剤(ガルニセルチブ)、接着斑キナーゼ阻害剤(デファクチニブ)、CSF1R阻害剤(ペキシダルチニブ)、ビタミンD、及びポリADPリボースポリメラーゼ阻害剤(ニラパリブ)と併用することが含まれる。これらの試験は、PDAC腫瘍微小環境中への免疫細胞の物理的透過及び/又は免疫細胞の存在を改善し、並びに免疫チェックポイント阻害剤治療の有効性を改善する可能性のある併用剤を目的としている。最近の報告(Smith等,2018)では、CCK-B受容体機能の阻害によりPDAC線維化が低減され、抗PD-1抗体(Ab)又は抗CTLA-4 Abを使用する抗体療法の有効性が改善された。
【0015】
PDAC腫瘍の複雑さを考慮すると、患者の多様性にわたってPDAC微小環境の免疫表現型を改変し、化学療法と免疫療法の両方に対して腫瘍をより応答性にするために、新しい戦略をどのように使用できるかについて、より深い理解が必要である。
【0016】
胃がんは別の深刻ながんであり、特に胃腺癌は全てのがんの中で最も予後が不良ながんの一つであり、5年生存率は最大30%である(Ferlay等,2013)。この悪性腫瘍の早期発見は困難であり、意図的なスクリーニングの実施を必要とするが、これは一般的には利用されていない。殆どの診断は既に進行期にあり、生存期間中央値は9~10か月である(Wagner等,2010;Ajani等,2017)。胃がんの現在の標準治療では、適切な場合は手術が行われ、その後、放射線療法及び/又は5-フルオロウラシルなどのDNA合成阻害剤及び/又はシスプラチンなどのDNA傷害剤を用いた化学療法が続く。
【0017】
一部の胃がんの治療には標的療法もまた登場し始めている。ヒト上皮増殖因子受容体2(EGFR2)を発現する腫瘍は、化学療法との併用で、トラスツズマブ(Genentech社(South San Francisco,California,United States of America)により商品名HERCEPTIN(登録商標)で販売)で治療されうる。一部の胃がんは、ラムシルマブ(イーライリリーアンドカンパニー(Indianapolis,Indiana,United States of America)により商品名CYRAMZA(登録商標)で販売)などの抗血管新生薬にまた応答性である。この蔓延している悪性腫瘍の憂鬱な予後を改善するには、更なる標的療法が緊急に必要とされている。
【0018】
胃腺癌は、典型的には、ガストリンと、CCK-B受容体と呼ばれるガストリンの受容体とを過剰発現し(Smith等,1998a;McWilliams等,1998)、CCK-Bへの結合時のガストリン媒介増殖効果により、これらの腫瘍における増殖と発現の制御されない自己分泌サイクルに至る。このがんの治療手段としてガストリンの機能を遮断することは、長年の研究の焦点となってきている(Rai等,2012で概説)。標的療法の候補の中で、ガストリンワクチンポリクローナル抗体刺激剤(PAS)が、第2相臨床試験で胃がんの、第2相及び第3相臨床試験で膵臓がんの生存期間の改善において顕著な見込みを示した。PASワクチン接種は、ガストリンに対する中和抗体の産生によって実証されるように、体液性免疫応答を誘発することが示されている。ガストリンを除去することにより、ワクチンは腫瘍増殖を遅らせ、長期にわたる腫瘍殺傷活性をもたらす可能性がある。
【0019】
特定の腫瘍抗原に対する免疫応答を高めるがんワクチンは、標的抗原の免疫介在性固定化又は不活化が体内の他の部位に有害作用を及ぼさない場合、魅力的な治療戦略となる。ペプチドワクチンには、免疫応答の特異性を狭めるという潜在的な利点があるが、弱い免疫原性を誘発するという欠点が時々ありうる。強い応答を確保し、所望の免疫経路の誘導を開始させるには、ペプチド組成物の慎重な選択、並びにアジュバント分子及び送達系の取り込みが必要な場合がある。エピトープ内のアミノ酸が一つでも変化すると反応が妨げられる可能性があるが、9~11アミノ酸という短いペプチドでも特異的CD8+T細胞媒介反応を引き起こす可能性がある(Gershoni等,2007)。
【0020】
ペプチドに含められるエピトープの選択には、CD4+ヘルパーT細胞を誘導するMHCクラスIIエピトープ及びヘルパーT細胞とCD8+細胞傷害性Tリンパ球を誘導するMHCクラスI CD8エピトープを含む、所望される免疫応答のタイプを考慮する必要がある(Li等,2014)。
【0021】
免疫チェックポイント阻害剤と組み合わせたPASなどのガストリンペプチドワクチンの組み合わせは、ガストリンペプチドホルモンによる増殖刺激を受けるがんの転帰を改善するための新しいアプローチとなる。
【発明の概要】
【0022】
この概要は、本開示の主題の幾つかの実施態様を列挙し、多くの場合、これらの実施態様の変形及び置換を列挙する。この概要は、多くの多様な実施態様の単なる例示に過ぎない。所与の実施態様の一又は複数の代表的な特徴の言及も同様に例示的なものである。そのような実施態様は、典型的には、言及された特徴の有無にかかわらず存在しうる;同様に、その特徴は、この概要に列挙されているかどうかにかかわらず、本開示の主題の他の実施態様に適用することができる。過度の繰り返しを避けるため、この概要では、そのような特徴の全ての可能な組み合わせを列挙したり、示唆したりするものではない。
【0023】
幾つかの実施態様では、本開示の主題は、対象におけるガストリン関連腫瘍又はがんのイニシエーション及び/又は進行を予防するための方法に関する。幾つかの実施態様では、該方法は、ガストリン関連腫瘍及び/又はがんを発症するリスクのある対象を提供することと;ガストリン免疫原を含む組成物を対象に投与することを含み、ガストリン免疫原が、対象におけるガストリン関連腫瘍又はがんのイニシエーション又は進行を予防するのに十分な抗ガストリン体液性及び/又は細胞性免疫応答を対象において誘導する。幾つかの実施態様では、ガストリン免疫原は、ガストリンペプチド、任意選択的に、EGPWLEEEEE(配列番号:1)、EGPWLEEEE(配列番号:2)、EGPWLEEEEEAY(配列番号:3)、及びEGPWLEEEEEAYGWMDF(配列番号:4)からなる群から選択されるアミノ酸配列を含むか、それから本質的になるか、又はそれからなるガストリンペプチドを含む。幾つかの実施態様では、ガストリンペプチドは、任意選択的にリンカーを介して、免疫原性担体にコンジュゲートされる。幾つかの実施態様では、免疫原性担体は、ジフテリアトキソイド、破傷風トキソイド、キーホールリンペットヘモシアニン、及びウシ血清アルブミンからなる群から選択される。幾つかの実施態様では、リンカーはε-マレイミドカプロン酸N-ヒドロキシスクシンアミドエステルを含む。幾つかの実施態様では、リンカーとガストリンペプチドとがアミノ酸スペーサーによって分離され、任意選択的にアミノ酸スペーサーが1と10の間のアミノ酸長であり、更に任意選択的にアミノ酸スペーサーが7アミノ酸長である。幾つかの実施態様では、組成物はアジュバント、任意選択的に油性アジュバントを更に含む。幾つかの実施態様では、ガストリン関連腫瘍及び/又はがんは、膵臓がんである。幾つかの実施態様では、組成物は、膵臓がんに関連する線維化の減少を誘導し、及び/又はその発生を予防する。幾つかの実施態様では、組成物は、約50μgから約1000μg、約50μgから約500μg、約100μgから約1000μg、約200μgから約1000μg、及び約250μgから約500μgからなる群から選択される用量で投与され、任意選択的に、投与が、一回、二回、又は三回繰り返され、任意選択的に、二回目の投与が、初回投与の1週間後になされ、三回目の投与が、投与される場合は、二回目の投与の1週間又は2週間後になされる。
【0024】
本開示の主題はまた幾つかの実施態様において対象におけるガストリン関連前がん病変の発生を阻害するための方法に関する。幾つかの実施態様では、該方法はガストリン関連前がん病変の発生のリスクのある対象を提供することと;ガストリン免疫原を含む組成物を対象に投与することを含み、ガストリン免疫原が、対象におけるガストリン関連前がん病変の発生を阻害する。幾つかの実施態様では、ガストリン免疫原は、ガストリンペプチドを含む。幾つかの実施態様では、ガストリンペプチドは、EGPWLEEEEE(配列番号:1)、EGPWLEEEE(配列番号:2)、EGPWLEEEEEAY(配列番号:3)、及びEGPWLEEEEEAYGWMDF(配列番号:4)からなる群から選択されるアミノ酸配列を含むか、それから本質的になるか、又はそれからなる。幾つかの実施態様では、ガストリンペプチドは、任意選択的にリンカーを介して、免疫原性担体にコンジュゲートされる。幾つかの実施態様では、免疫原性担体は、ジフテリアトキソイド、破傷風トキソイド、キーホールリンペットヘモシアニン、及びウシ血清アルブミンからなる群から選択される。幾つかの実施態様では、リンカーはε-マレイミドカプロン酸N-ヒドロキシスクシンアミドエステルを含む。幾つかの実施態様では、リンカーとガストリンペプチドとはアミノ酸スペーサーによって分離され、任意選択的にアミノ酸スペーサーが1と10の間のアミノ酸長であり、更に任意選択的にアミノ酸スペーサーが7アミノ酸長である。幾つかの実施態様では、組成物はアジュバント、任意選択的に油性アジュバントを更に含む。幾つかの実施態様では、ガストリン関連腫瘍及び/又はがんは、膵臓がんである。幾つかの実施態様では、組成物は、膵臓がんに関連する線維化の減少を誘導し、及び/又はその発生を予防する。幾つかの実施態様では、ガストリン関連前がん病変は膵上皮内腫瘍(PanIN)を含む。幾つかの実施態様では、組成物は、約50μgから約1000μg、約50μgから約500μg、約100μgから約1000μg、約200μgから約1000μg、及び約250μgから約500μgからなる群から選択される用量で投与され、任意選択的に、投与が、一回、二回、又は三回繰り返され、任意選択的に、二回目の投与が、初回投与の1週間後になされ、三回目の投与が、投与される場合は、二回目の投与の1週間又は2週間後になされる。
【0025】
本開示の主題はまた幾つかの実施態様において腫瘍及び/又はがんに関連する線維形成を予防するための方法に関する。幾つかの実施態様では、該方法は、腫瘍及び/又はがんの細胞を、腫瘍及び/又はがんにおけるガストリンの一又は複数の生物学的活性を直接的又は間接的に阻害する薬剤を含むか、それから本質的になるか、又はそれからなる組成物と接触させることを含む。幾つかの実施態様では、薬剤はガストリンペプチドに対する体液性免疫応答を誘導し、任意選択的に薬剤は対象において中和抗ガストリン抗体の産生を誘導するガストリンペプチドを含む。幾つかの実施態様では、中和抗ガストリン抗体は、アミノ酸配列EGPWLEEEEE(配列番号:1)、EGPWLEEEE(配列番号:2)、EGPWLEEEEEAY(配列番号:3)又はEGPWLEEEEEAYGWMDF(配列番号:4)内に存在するエピトープに結合する。幾つかの実施態様では、薬剤は、免疫原性担体にコンジュゲートされた中和抗ガストリン抗体の産生を誘導するガストリンペプチドを含む。幾つかの実施態様では、ガストリンペプチドは、EGPWLEEEEE(配列番号:1)、EGPWLEEEE(配列番号:2)、EGPWLEEEEEAY(配列番号:3)、及びEGPWLEEEEEAYGWMDF(配列番号:4)からなる群から選択されるアミノ酸配列を含むか、本質的にそれらからなるか、又はそれらからなる。幾つかの実施態様では、免疫原性担体は、ジフテリアトキソイド、破傷風トキソイド、キーホールリンペットヘモシアニン、及びウシ血清アルブミンからなる群から選択される。幾つかの実施態様では、ガストリンペプチドは、リンカーを介して免疫原性担体にコンジュゲートされる。幾つかの実施態様では、リンカーはε-マレイミドカプロン酸N-ヒドロキシスクシンアミドエステルを含む。幾つかの実施態様では、リンカーとガストリンペプチドとはアミノ酸スペーサーによって分離され、任意選択的にアミノ酸スペーサーが1と10の間のアミノ酸長であり、更に任意選択的にアミノ酸スペーサーが7アミノ酸長である。幾つかの実施態様では、組成物はアジュバント、任意選択的に油性アジュバントを更に含む。幾つかの実施態様では、腫瘍及び/又はがんが、膵臓がんである。
【0026】
本開示の主題はまた幾つかの実施態様においてガストリン関連腫瘍又はがんのイニシエーション及び/又は発生を予防するための、一又は複数のガストリン免疫原を含む組成物の使用に関する。
【0027】
本開示の主題はまた幾つかの実施態様においてガストリン関連腫瘍又はがんのイニシエーション及び/又は発生を予防する医薬の調製のための、一又は複数のガストリン免疫原を含む組成物の使用に関する。
【0028】
本開示の主題はまた幾つかの実施態様においてガストリン関連腫瘍及び/又はがん及び/又はその前がん病変のイニシエーション及び/又は発生の予防における使用のための組成物に関する。幾つかの実施態様では、該組成物は、一又は複数のガストリン免疫原を含むか、本質的にそれからなるか、又はそれからなり、任意選択的に、一又は複数のガストリン免疫原の少なくとも一つが、免疫原性担体にコンジュゲートされる中和抗ガストリン抗体の産生を誘導するガストリンペプチドを含む。幾つかの実施態様では、一又は複数のガストリンペプチドの少なくとも一つは、EGPWLEEEEE(配列番号:1)、EGPWLEEEE(配列番号:2)、EGPWLEEEEEAY(配列番号:3)、及びEGPWLEEEEEAYGWMDF(配列番号:4)からなる群から選択されるアミノ酸配列を含むか、本質的にそれらからなるか、又はそれらからなる。幾つかの実施態様では、免疫原性担体は、ジフテリアトキソイド、破傷風トキソイド、キーホールリンペットヘモシアニン、及びウシ血清アルブミンからなる群から選択される。幾つかの実施態様では、一又は複数のガストリンペプチドの少なくとも一つは、リンカーを介して免疫原性担体にコンジュゲートされる。幾つかの実施態様では、リンカーはε-マレイミドカプロン酸N-ヒドロキシスクシンアミドエステルを含む。幾つかの実施態様では、リンカーとガストリンペプチドとはアミノ酸スペーサーによって分離され、任意選択的にアミノ酸スペーサーは1と10の間のアミノ酸長であり、更に任意選択的にアミノ酸スペーサーは7アミノ酸長である。幾つかの実施態様では、組成物はアジュバント、任意選択的に油性アジュバントを更に含む。幾つかの実施態様では、腫瘍及び/又はがんが、膵臓がんである。
【0029】
従って、ガストリン関連腫瘍及び/又はがん及び/又はその前がん病変のイニシエーション及び/又は進行を予防するための方法を提供することが本開示の主題の目的である。
【0030】
本開示の主題の目的は上に述べた通りで、ここに開示される組成物及び方法によって全部が又は部分的に達成されるが、他の目的は、以下に最もよく記載されている添付図面と関連して説明が進むにつれて明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0031】
図1図1は、免疫チェックポイント阻害剤を伴うか伴わないでPASがマウスにおける膵臓細胞腫瘍の増殖に影響を与える能力を試験するための例示的な実験戦略の概略図である。特定の実施態様では、治療の1週間前にC57BL/6マウス(C57BL/6はmT3細胞と同系である)に5×10個のマウスmT3膵臓がん細胞を注射することによって、皮下腫瘍を生成した。10匹のマウスの群(合計40匹)を、t=0、1、及び3週目にPASで、及び/又はt=0、4、8、15、及び21日目に抗PD-1抗体(PD1-1Ab;Bio X cell,West Lebanon,New Hampshire,United States of America)で治療した。治療間で腫瘍体積を測定した。試験が終了し、脾臓からPBMCを採取し、マウスから腫瘍を切除し、分析した。
図2図2は、対照(リン酸緩衝生理食塩水のみ;PBS)、PAS単独(投与当たり100μg;PAS100)、PD-1 Ab単独(投与当たり150μg;PD-1)、又はPAS(投与当たり100μg)とPD-1 Ab(投与当たり150μg)の組み合わせ(PAS100+PD-1)による治療後のmT3担持マウスにおける平均腫瘍重量をグラムで示す棒グラフである。NS:p≧0.05(つまり、有意ではない);PBS及びPAS100と比較してp<0.05;PD-1と比較してp=0.0017。エラーバーは±SEMである。
図3図3A及び3Bは、PBS、PD-1 Ab単独(投与当たり150μg;PD1)、PAS単独(投与当たり100μg;PAS100)、又はPAS(投与当たり100μg)とPD-1 Ab(投与当たり150μg)の組み合わせ(PAS100/PD-1)による治療後の、CD3最終分化T細胞に存在するCD4/CD8及びCD4/CD8EMRA細胞の一連のプロットである。図3Aは、様々な治療を受けたマウスにおけるCD3/CD4/CD8及びCD3/CD4/CD8/CD44/CD62L(すなわち、TEMRA)細胞のパーセンテージを示す。図3Bは、CD3/CD4/CD8/CD44/CD62LEMRA細胞であったCD3/CD4/CD8細胞の部分を示す。細胞の部分は、CD3/CD4/CD8リンパ球のパーセンテージに、CD4/CD8リンパ球/10000中のCD3/CD4/CD8/CD44/CD62LEMRA細胞のパーセンテージを乗じて計算し、CD3T細胞画分中のCD4/CD8/CD44/CD62LEMRA細胞の部分を計算した(図3Bを参照)。p<0.05;**p<0.01。エラーバーは±1標準偏差である。
図4図4A及び4Bは、PAS100での治療後で、ガストリンにより再刺激しない場合(図4A)及び再刺激した場合(図4B)の様々なT細胞亜集団におけるTNFα、グランザイムB、パーフォリン、及びINFγに関するサイトカイン活性化アッセイを要約する一連の棒グラフである。図4Aは、PAS100で治療したマウスの脾臓から単離されたT細胞が実際に活性化されたことを示している。これらの同じ細胞を6時間培養した状態でガストリンで再刺激すると(図4B)、それらは再刺激され、各サイトカインの更に多くが放出された。黒色バー:INFγ。薄い灰色バー:グランザイムB。濃い灰色バー:パーフォリン。斜線の灰色バー:TNFα。
図5図5A及び5Bは、PAS100単独療法(図5A)又はPAS100+PD-1併用療法(図5B)で治療されたCD4/CD8(各図の左の群)、CD8(各図の中央の群)、及びCD4(各図の右の群)T細胞亜集団におけるTNFα、グランザイムB、パーフォリン、及びINFγに関するサイトカイン放出を比較する一連の棒グラフである。活性化されたTリンパ球は、PBS処置マウスのリンパ球と比較して、増加したサイトカインを放出した。併用治療マウスからのリンパ球は、顕著に高いレベルのサイトカインを放出し、併用療法が活性化T細胞の刺激において優れていることを示唆している。特にTNFαは、PAS+PD-1 Ab併用療法により2倍を超えて増加した。黒色バー:INFγ。薄い灰色バー:グランザイムB。濃い灰色バー:パーフォリン。斜線の灰色バー:TNFα。
図6A図6A及び6Bは、マウスにおけるmT3膵臓がん細胞腫瘍における線維化の発生に対するPBS対照、PD-1単独療法、PAS100単独療法、及びPAS100+PD-1併用療法の結果を示す。図6Aは、コラーゲンを青に染色し、線維化の指標となるマッソントリクローム染色で染色したmT3腫瘍を示す。
図6B図6Bは、図6Aに示した染色の結果を要約する棒グラフである。注目すべき点は、PD-1単独療法とPAS100単独療法で治療した腫瘍の統合密度は、陰性対照PBS処置とほとんど差がなかったのに対し、PAS+PD-1 Ab併用治療では、PBS単独(p<0.005)及びPAS100単独(p<0.001)と比較して統計的に有意であった密度(従って線維化)の低下が生じたことである。***PBSと比較してp<0.005、PAS100と比較してp<0.001。黒色バー:PBS。薄い灰色バー:PD-1単独。白色バー:PAS100単独。斜線の灰色バー:PAS100+PD-1。
図7A図7A及び7Bは、マウスにおけるmT3膵臓がん細胞腫瘍へのCD8細胞の浸潤に対するPBS対照、PD-1単独療法、PAS100単独療法、及びPAS100+PD-1併用療法の結果を示す。図7Aは、マウスにおけるmT3膵臓がん細胞腫瘍へのCD8細胞の浸潤に対するPBS、PD-1 Ab(PD-1)単独療法、PAS100単独療法(PAS)、及びPAS100+PD-1併用療法での治療後の、CD8に結合する抗体で染色された例示的なmT3腫瘍を示す。
図7B図7Bは、図7Aによって例証されたデータを要約した棒グラフである。PD-1(PD-1 Ab)単独療法又はPAS100単独による治療では、陰性対照PBS処置と比較して、腫瘍内のCD8細胞のレベルが有意に高くなった(それぞれp=0.0019及びp=0.0026)。PAS+PD-1 Ab併用療法は、PBS単独と比較した場合(p=4.7×10-5)並びにPD-1単独と比較した場合(p=0.042)、及びPAS100単独と比較した場合(p=0.039)、腫瘍内のCD8細胞のレベルが更に高くなった。PD-1単独は、PAS100単独と比較して有意差はなかった(p>0.05)。**PBSと比較してp=0.0026;***PBSと比較してp=0.0019;****PBSと比較してp=4.7×10-5。エラーバーは±SEMである。
図8A図8A及び8Bは、mT3腫瘍におけるFoxp3細胞の分析を示す。図8Aは、TregのマーカーであるFoxp3タンパク質に結合する抗体で染色された例示的なmT3腫瘍を示す。視野の比較では、PBS(左上のパネル)、PD-1単独療法(右上のパネル)、又はPAS100単独療法(左下のパネル)と比較して、PAS100+PD-1併用療法では、腫瘍内Tregの存在が減少したことが示され、これは、PAS100+PD-1併用療法が、何れかの単独療法のみと比較して、腫瘍内環境を、腫瘍内微小環境がTregベースの免疫抑制の程度が低いことを特徴とする程度まで改変する可能性を示唆している。
図8B図8Bは、図8Aによって例証されたデータを要約した棒グラフである。PBSと比較して、PD-1単独療法又はPAS100単独療法で治療した腫瘍内のFoxp3細胞の数には有意な差はなかった。PAS100+PD-1 Ab併用療法で治療した腫瘍では、陰性対照よりもFoxp3細胞の数が有意に少なかった。p=0.038。黒色バー:PBS。薄い灰色バー:PD-1 Ab単独。白色バー:PAS100単独。斜線の灰色バー:PAS100+PD-1 Ab。エラーバーは±SEMである。
図9図9A-9Hは、PanINステージを示すヘマトキシリン・エオシン染色したマウス膵臓の一連の顕微鏡写真である。図9A:進行性PanIN及びがんを有する代表的な未治療トランスジェニックLSL-KrasG12D/+;P48-Cre(KRAS)マウスからの膵臓(倍率10倍)。図9B:PanIN-3病変及び正常な膵臓腺房細胞の喪失を示す未治療KRASマウスからの膵臓(倍率10倍)。図9C:未治療対照KRASマウスからの浸潤性膵臓がんを有する膵臓(倍率10倍)。図9D:年齢を一致させたKRAS PAS治療マウスの膵臓は、正常な膵腺房細胞(矢印)を有する低ステージのPanINを示す(倍率10倍)。図9E:PAS治療KRASマウスの膵臓(倍率20倍)は、PanIN病変が主にステージ1であり、正常な腺房細胞(矢印)が豊富に存在することを示している。図9F:PAS治療KRASマウスの代表的な膵臓(倍率10倍)。図9G:低倍率(4X)での未治療KRASマウスの膵臓は、膵臓組織が広範なPanIN病変及び線維化で置き換えられていることを示している。図9H:低倍率(4X)でのPAS治療KRASマウスの膵臓は、PanINが少なく、正常な膵臓腺房細胞が保存されていることを示している。
図10図10A-10Cは、マッソントリクローム染色による膵線維化の分析結果を示す。図10A:倍率10X(左)及び20X(右)での広範な線維化(青色染色)を示す、8か月齢の対照KRASマウスの膵臓の代表的な画像。図10B:PASをワクチン接種した年齢を一致させた8か月齢のKRASマウスの膵臓の代表的な画像は、膵臓内線維化が有意に少ないことを示している(倍率10X(左)及び20X(右))。図10C:線維化密度の形態計測コンピュータ解析は、PAS治療膵臓における線維化が有意に少ないことを示している(p=0.0001)。
図11図11A-11E。M2マクロファージのアルギナーゼ免疫反応性の解析結果を示す。図11A:代表的な未治療KRASマウス膵臓の切片は、多数のM2陽性マクロファージを示す(10倍)。図11B:未治療KRASマウス膵臓の倍率20Xの写真は、PanIN病変の周囲のアルギナーゼ陽性マクロファージを示している。図11C:PAS治療KRASマウスの膵臓の写真は、アルギナーゼ陽性マクロファージをほとんど示していない(10X)。図11D:PAS治療KRASマウスからの膵臓の高倍率(20X)は、M2アルギナーゼ陽性マクロファージの減少を示している。図11E:アルギナーゼ陽性M2マクロファージのコンピュータ計数及び解析は、PAS治療KRASマウスの膵臓における4倍の減少を示している。***p=0.0006で有意。
【発明を実施するための形態】
【0032】
見出しは、参照のために、また所定のセクションを見つけやすくするためにここに含められる。これらの見出しは、その中で説明される概念の範囲を限定することを意図したものではなく、これらの概念は、明細書全体を通じて他のセクションにも適用可能でありうる。
【0033】
I.一般的な考慮事項
他のがんの診断と治療では長年にわたって成功を収めてきたにもかかわらず、全ての胃腸悪性腫瘍の中で最も予後が不良である(Falconi等,2003)膵臓がんの生存期間には僅かな改善しか見られない(Hidalgo,2010;Ryan等,2014)。膵臓がんは現在、結腸がんと乳がんを上回り、米国におけるがん関連死の上位二つの原因の一つとなっている(Rahib等,2014)。現在、膵臓がんの5年生存率は約9%であり、がんの中で最も低い(Siegel等,2014)。膵臓がんについて報告されている低い生存率の理由には、早期段階でこの疾患を診断し、介入することができないこと、腫瘍微小環境(TME)で腫瘍を取り囲む高密度の線維化組織、及びこの悪性腫瘍の攻撃的な性質が含まれる(Templeton及びBrentnall,2013)。長年にわたり、膵臓がんは化学療法及び非選択的である他の薬剤で治療されてきた。がん治療の進歩は、腫瘍特異的受容体及び/又は特定のがん及びその前駆型病変の遺伝子構造の同定を含む、腫瘍生物学のより深い理解によってもたらされてきた(Schally及びNagy,2004)。
【0034】
胃腸(GI)ペプチドであるガストリン、特に生物学的に活性な形態であるガストリン-17(G17)は、膵臓がんの増殖の調節に関与する重要な因子である。ガストリンは発生学的には発達中の膵臓で発現されるが(Brand及びFuller,1988)、成人の膵臓では発現が停止されており、出生後の成人の胃洞でのみ見出される。しかし、ガストリンペプチドはヒト膵臓がんで発現され(Smith等,1995)、自己分泌様式で増殖を刺激する(Smith等,1996a)。膵臓の発癌中、膵臓には膵上皮内腫瘍(PanIN)と呼ばれる組織学的前がん病変が発生する。ガストリンとその受容体であるコレシストキニンB受容体(CCK-BR)は、これらのPanINで再発現されるようになる(Prasad等,2005)。
【0035】
本開示の主題は、幾つかの実施態様では、体液性免疫抗腫瘍効果と細胞性免疫抗腫瘍効果の両方を一緒に生み出す治療の組み合わせを使用して、ヒト及び動物のがんを治療するための方法及び系に関する。より具体的には、本開示の主題は、幾つかの実施態様では、(1)腫瘍及び/又は循環腫瘍増殖因子に対する抗体を産生する免疫学的体液性B細胞応答を誘導し;且つ(2)腫瘍に対する免疫学的細胞性T細胞応答を誘導若しくは増強等して、細胞傷害性Tリンパ球応答を誘発する薬物の特定の組み合わせを使用することに関する。より具体的には、本開示の主題は、幾つかの実施態様では、免疫チェックポイント遮断を引き起こす第二の薬物と組み合わせて抗ガストリンがんワクチンを使用してヒトがんを治療するための方法及び系に関する。更により特定的には、本開示の主題は、幾つかの実施態様では、増殖因子ガストリンの活性型に対してB細胞抗体応答を誘発するように設計された一又は複数種のがんワクチンを用いて特定のヒトがんを治療することに関する。ここで初めて開示されるように、幾つかの実施態様では、抗ガストリンワクチンにより、ヒト腫瘍が免疫チェックポイント阻害剤での治療に応答性になる可能性があり、従って、全体的な抗腫瘍効果を増強する予期せぬ相加的又は相乗的でさえある併用療法効果を生み出す。
【0036】
本開示の主題は、幾つかの実施態様では、体液性抗体免疫応答(ガストリンがんワクチン)と細胞性T細胞免疫応答(免疫チェックポイント遮断)の両方を生じる方法の組み合わせを使用する、腫瘍及び/又はがんの治療方法にも関する。幾つかの実施態様では、本開示の主題は、体液性免疫抗腫瘍効果と細胞性免疫抗腫瘍効果の両方を生じる薬物クラスの新規で独特の組み合わせを使用して、ヒト及び動物胃腸腫瘍を治療する際に、新規で予想外の、相加的及び/又は相乗的効果を生み出す組成物及び方法に関する。幾つかの実施態様では、本開示の主題は、(1)腫瘍増殖因子及び/又は循環腫瘍増殖因子に対する免疫学的体液性B細胞応答を誘導し;且つ(2)腫瘍に対する免疫学的細胞性T細胞応答を引き起こし及び/又は増強して、細胞傷害性Tリンパ球応答を誘発する、薬物の特定の組み合わせを使用することに関する。幾つかの実施態様では、本開示の主題は、ガストリンがんワクチンと、免疫チェックポイント遮断を引き起こす一又は複数種の第二の薬物との本開示の組み合わせを使用して、ヒト及び動物がんを治療するための方法及び系に関する。幾つかの実施態様では、本開示の主題は、増殖因子ガストリンの活性型に対してB細胞抗体応答を誘発するように設計された一又は複数種のがんワクチンを用いて特定のヒトがんを治療することに関し、これは、ここに開示されるように、予想外にもヒト腫瘍が免疫チェックポイント阻害剤による治療に対してより応答性になる結果となり、抗腫瘍効果を増強する予期せぬ相加的、若しくは相乗的でありさえする併用療法効果を生み出す。従って、幾つかの実施態様では、本開示の主題は、免疫チェックポイント阻害剤と共にPASを使用することに関する。幾つかの実施態様では、本開示の主題は、体液性免疫応答と細胞性免疫応答の両方を誘導するがんワクチンとしてPASを使用することに関する。
【0037】
本開示の主題はまた幾つかの実施態様において体液性抗体免疫応答を誘導する組成物(例えば、ガストリンがんワクチン)を使用してガストリン関連腫瘍及び/又はがん及び/又はその前がん性病変のイニシエーション及び/又は進行の予防のための方法に関する。幾つかの実施態様では、本開示の主題は、ヒト及び動物胃腸腫瘍及び/又はがん及び/又はその前がん性病変に対して体液性免疫を誘導する免疫原を使用して、ヒト及び動物の胃腸腫瘍及びその前がん性病変のイニシエーション及び/又は進行の予防に新規で予想外の、相加的及び/又は相乗的効果を生み出す組成物及び方法に関する。幾つかの実施態様では、本開示の主題は、(1)腫瘍及び/又はがん増殖因子及び/又は循環腫瘍及び/又は増殖因子に対する体液性B細胞応答を誘導し;並びに/或いは(2)腫瘍に対する免疫学的細胞性T細胞応答を引き起こし及び/又は増強して、細胞傷害性Tリンパ球応答を誘発する、ガストリン免疫原に関する。幾つかの実施態様では、本開示の主題は、ここに開示されるように、予期せぬことに、ヒト腫瘍のイニシエーション及び/又は進行を予防する、増殖因子ガストリンの活性型に対してB細胞抗体応答を誘発するように設計された一又は複数種のがんワクチンを用いて、特定のヒト腫瘍及び/又はがん及び/又はその前がん性病変を予防することに関する。幾つかの実施態様では、本開示の主題は、腫瘍及び/又はがんの予防のためのガストリンワクチンポリクローナル抗体刺激剤(PAS)の使用に関する。幾つかの実施態様では、本開示の主題は、腫瘍、がん、及び/又は前がん病変のイニシエーション及び/又は進行を予防し又は遅らせるのに十分な両方の体液性免疫応答を誘導するがんワクチンとしてPASを使用することに関する。
【0038】
II.定義
ここで使用される用語法は、特定の実施態様を説明することのみを目的としており、本開示の主題を限定することを意図したものではない。
【0039】
次の用語は当業者にはよく理解されていると考えられるが、次の定義を、本開示の主題の説明を容易にするために記載する。
【0040】
以下に別段の定義がない限り、ここで使用される全ての技術及び科学用語は、当業者によって一般に理解されるものと同じ意味を有することが意図される。ここで用いられる技術への言及は、当業者には明らかであろうそれらの技術の変形又は同等の技術の代替を含み、当該技術分野で一般に理解されている技術を指すことが意図される。次の用語は当業者にはよく理解されていると考えられるが、次の定義を、本開示の主題の説明を容易にするために記載する。
【0041】
本開示の主題を説明する際に、多くの技術及びステップが開示されることが理解される。これらのそれぞれには個別の利点があり、それぞれを他の開示された技術の一又は複数、又は場合によっては全てと組み合わせて使用することもできる。
【0042】
従って、明確にするために、この説明では、個々のステップのあらゆる可能な組み合わせを不必要な形で繰り返すことは控える。それにも関わらず、明細書及び特許請求の範囲は、そのような組み合わせが完全に本開示の請求項記載の主題の範囲内にあることを理解して読まれるべきである。
【0043】
長年の特許法の慣例に従って、「a」、「an」、及び「the」という用語は、特許請求の範囲を含み、この出願で使用される場合、「一又は複数」を指す。例えば、「一つの阻害剤(an inhibitor)」という語句は、複数の同じ阻害剤を含む、一又は複数の阻害剤を指す。同様に、「少なくとも一つ」という語句は、エンティティを指すためにここで用いられる場合、限定されないが、1と100の間及び100を超える整数値を含み、例えば、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、15、20、25、30、35、40、45、50、75、100、又はそれ以上の該エンティティを指す。
【0044】
特に明記しない限り、明細書及び特許請求の範囲で使用される成分、反応条件などの量を表す全ての数字は、全ての場合において「約」という用語によって修飾されているものとして理解されるべきである。質量、重量、時間、体積、濃度、又はパーセンテージの量などの測定可能な値を指す場合にここで使用される「約」という用語は、特定された量からの、幾つかの実施態様では±20%、幾つかの実施態様では±10%、幾つかの実施態様では±0.5%、幾つかの実施態様では±1%、幾つかの実施態様では±0.5%、及び幾つかの実施態様では±0.1%の変動を、そのような変動が開示された方法を実施し及び/又は開示された組成物を用いるのに適切であるため、包含することを意味する。従って、特に明記しない限り、この明細書及び添付の特許請求の範囲に記載された数値パラメータは、本開示の主題によって得られることが求められる所望の特性に応じて変化しうる近似値である。
【0045】
ここで使用される場合、「及び/又は」という用語は、エンティティのリストの文脈で使用される場合、単独で又は組み合わせて存在しているエンティティを指す。従って、例えば、「A、B、C、及び/又はD」という語句には、A、B、C、及びDが個別に含まれるが、A、B、C、及びDの任意かつ全ての組み合わせ及びサブコンビネーションも含まれる。
【0046】
ここで使用される場合、「抗体(antibody,antibodies)」という用語は、免疫グロブリン遺伝子又は免疫グロブリン遺伝子の断片によって実質的にコードされる一又は複数のポリペプチドを含むタンパク質を指す。免疫グロブリン遺伝子には、典型的には、カッパ(κ)、ラムダ(λ)、アルファ(α)、ガンマ(γ)、デルタ(δ)、イプシロン(ε)、及びミュー(μ)定常領域遺伝子、並びに種々の免疫グロブリン可変領域遺伝子が含まれる。軽鎖はκ又はλの何れかに分類される。哺乳動物では、重鎖はγ、μ、α、δ、又はεとして分類され、これが免疫グロブリンのクラス、IgG、IgM、IgA、IgD、及びIgEをそれぞれ定める。他の種は、他の軽鎖及び重鎖遺伝子を有し(例えば、所定の鳥類は、鶏が卵の黄身に沈着させる免疫グロブリンタイプである、IgYと呼ばれるものを産生する)、それらは同様に、本開示の主題に包含される。幾つかの実施態様では、「抗体」という用語は、限定されないが、配列番号:1又は配列番号:2又は配列番号:3又は配列番号:4に示されるアミノ酸配列内に存在するエピトープを含む、ガストリン遺伝子産物上に存在するエピトープに特異的に結合する抗体を指す。
【0047】
典型的な免疫グロブリン(抗体)構造単位は四量体を含むことが知られている。各四量体は、各対が一つの「軽」鎖(約25キロダルトン(kDa)の平均分子量)と一つの「重」鎖(約50~70kDaの平均分子量)を有する、二つの同一対のポリペプチド鎖から構成される。ポリペプチド鎖の二つの同一対は、重鎖領域内に存在するジスルフィド結合によって二量体形態で一緒に保持される。各鎖のN末端は、主に抗原認識に関与する約100から110以上のアミノ酸の可変領域を定める。可変軽鎖(V)及び可変重鎖(V)という用語は、それぞれこれらの軽鎖及び重鎖を指す。
【0048】
抗体は、典型的には、インタクトな免疫グロブリンとして、又は様々なペプチダーゼによる消化によって産生されうる、多くの特徴が明確な断片として存在する。例えば、抗体分子をパパインで消化させると、ジスルフィド結合のN末端側の位置で抗体が切断される。これにより、三つの断片が生成される:軽鎖と重鎖のN末端を持つ二つの同一「Fab」断片と、ジスルフィド結合によって一緒に保持された重鎖のC末端を含む「Fc」断片である。一方、ペプシンは、ヒンジ領域のジスルフィド結合のC末端で抗体を消化して、「F(ab)’」断片として知られる断片を産生し、これは、ジスルフィドによって結合されたFab断片の二量体である。F(ab)’断片は穏やかな条件下で還元され得、ヒンジ領域のジスルフィド結合を切断し、それによってF(ab’)二量体を二つのFab’単量体に変換する。Fab’単量体は本質的にヒンジ領域の一部を有するFab断片である(例えば、他の抗体断片のより詳細な説明については、Paul,1993を参照)。これらの様々な断片に関して、Fab、F(ab’)、及びFab’断片には、少なくとも一つのインタクトな抗原結合ドメインが含まれ、よって抗原に結合することができる。
【0049】
様々な抗体断片がインタクトな抗体の消化という観点から定義されるが、当業者であれば、(限定されないが、Fab’断片を含む)これらの断片の様々なものが化学的に又は組換えDNA法を利用することによって新たに合成できることを理解するであろう。従って、ここで使用される「抗体」という用語には、全抗体の修飾によって産生されるか、又は組換えDNA法を使用して新たに合成される抗体断片がまた含まれる。幾つかの実施態様では、「抗体」という用語は、少なくとも一つの抗原結合ドメインを有する断片を含む。
【0050】
抗体はポリクローナル又はモノクローナルでありうる。ここで使用される場合、「ポリクローナル」という用語は、抗体の所与の集合内に一緒に存在する、異なる抗体産生細胞(例えば、B細胞)に由来する抗体を指す。例示的なポリクローナル抗体には、限定されないが、特定の抗原に結合し、動物が抗原に対して免疫応答を生じた後にその動物の血液中に見出される抗体が含まれる。しかしながら、抗体のポリクローナル調製物は、少なくとも非同一の二つの抗体を混合することによって人工的に調製することもできることが理解される。従って、ポリクローナル抗体には、典型的には、任意の所与の抗原の異なるエピトープ(時折「抗原決定基」又は単に「決定基」と呼ばれる)に対する(すなわち、結合する)異なる抗体が含まれる。
【0051】
ここで使用される場合、「モノクローナル」という用語は、単一の抗体種及び/又は単一の抗体種の実質的に均一な集団を指す。別の言い方をすると、「モノクローナル」とは、天然に存在する可能な変異、又は少量で存在しうる翻訳後修飾を除いて、抗体が特異性及び親和性において同一である、個々の抗体又は個々の抗体の集団を指す。典型的には、モノクローナル抗体(mAb)は、単一B細胞又はその子孫細胞によって産生される(但し、本開示の主題は、ここに記載の分子生物学的技術によって産生される「モノクローナル」抗体をまた包含する)。モノクローナル抗体(mAb)は高度に特異的であり、典型的には単一抗原部位に対して作られる。更に、ポリクローナル抗体調製物とは対照的に、所与のmAbは典型的には、抗原上の単一エピトープに対して作られる。
【0052】
mAbは、その特異性に加えて、他の抗体に汚染されないで合成できるという点で、幾つかの目的に対して有利な場合がある。しかしながら、「モノクローナル」という修飾語は、何らかの特定の方法による抗体の産生を必要とするものとして解釈されるべきではない。例えば、幾つかの実施態様では、本開示の主題のmAbは、Kohler等,1975によって最初に記載されたハイブリドーマ法を使用して調製され、幾つかの実施態様では、細菌又は真核動物細胞又は植物細胞において組換えDNA法を使用して作製される(例えば、その全内容が出典明示によりここに援用される米国特許第4816567号を参照)。mAbはまた、例えば、Clackson等,1991及びMarks等,1991に記載されている技術を使用して、ファージ抗体ライブラリーから単離することもできる。
【0053】
本開示の主題の抗体、断片、及び誘導体には、キメラ抗体もまた含まれうる。抗体との関連でここで使用される場合、「キメラ」という用語とその文法的変形語は、ある種由来の抗体定常領域に実質的又は排他的に由来する定常領域と、別の種の可変領域の配列に実質的又は排他的に由来する可変領域とを有する抗体誘導体を指す。特定の種類のキメラ抗体は「ヒト化」抗体であり、この抗体は、例えばマウス抗体の相補性決定領域(CDR)をヒト抗体のCDRと置換することによって産生される(例えば、PCT国際特許出願公開第1992/22653号を参照)。従って、幾つかの実施態様では、ヒト化抗体は、対応するヒト抗体領域に実質的又は排他的に由来するCDR以外の定常領域及び可変領域と、ヒト以外の哺乳動物に実質的又は排他的に由来するCDRを有する。
【0054】
本開示の主題の抗体、断片、及び誘導体はまた単鎖抗体及び単鎖抗体断片でありうる。単鎖抗体断片は、ここに記載される全抗体の可変領域及び/又はCDRの少なくとも一つを有するが、それら抗体の定常ドメインの一部又は全てを欠いているアミノ酸配列を含む。これらの定常ドメインは抗原結合には必要ではないが、全抗体の構造の主要部分を構成する。
【0055】
単鎖抗体断片は、定常ドメインの一部又は全てを含む抗体の使用に関連する問題の幾つかを克服できる。例えば、単鎖抗体断片は、生体分子と重鎖定常領域との間の望ましくない相互作用、又は他の望まれない生物学的活性を含まない傾向がある。加えて、単鎖抗体断片は全抗体よりもかなり小さいため、全抗体よりも高い毛細血管透過性を有しており、単鎖抗体断片が局在化して標的の抗原結合部位により効率的に結合できるようになる。また、抗体断片は原核細胞内で比較的大規模に産生できるため、その生産が容易になる。更に、単鎖抗体断片のサイズは比較的小さいため、全抗体よりもレシピエントに免疫応答を誘発する可能性が低くなる。本開示の主題の単鎖抗体断片には、限定されないが、単鎖断片可変(scFv)抗体及びそれらの誘導体、例えば、限定されないが、タンデムジ-scFv、タンデムトリ-scFv、ダイアボディ、及びトリアボディ、テトラボディ、ミニ抗体、及びミニボディが含まれる。
【0056】
Fv断片は、免疫グロブリン重鎖及び軽鎖のN末端の可変断片に対応する。Fv断片は、Fab断片よりもその二つの鎖の相互作用エネルギーが低いようである。VドメインとVドメインの結合を安定させるために、それらはペプチド(Bird等,1988;Huston等,1988を参照)、ジスルフィド架橋(Glockshuber等,1990)、及び「ノブ・イン・ホール」変異(Zhu等,1997)で連結されている。ScFv断片は、当業者によく知られた方法により産生することができる(例えば、Whitlow等,1991及びHuston等,1993を参照)。
【0057】
scFvは、大腸菌などの細菌細胞又は真核細胞内で産生されうる。scFvの一つの潜在的な欠点は、多価結合による結合力の増加を妨げうる生成物の一価性とその短い半減期である。これらの問題を克服する試みには、追加のC末端システインを含むscFvから化学的結合によって(Adams等,1993;McCartney等,1995)、又は不対C末端システイン残基を含むscFvの自発的な部位特異的二量体化によって(Kipriyanov等,1995を参照)、二価(scFv’)を産生するものがある。
【0058】
或いは、ペプチドリンカーを3から12残基に短縮して「ダイアボディ」を形成することにより、scFvに多量体を強制的に形成させることができる(Holliger等,1993を参照)。リンカーの低減はまた更にscFv三量体(「トリアボディ」;Kortt等,1997を参照)及び四量体(「テトラボディ」;Le Gall等,1999を参照)を生じうる。二価scFv分子の構築は、「ミニ抗体」(Pack等,1992を参照)及び「ミニボディ」(Hu等,1996を参照)を形成するタンパク質二量体化モチーフとの遺伝子融合によっても達成できる。scFv-scFvタンデム((scFv))は、二つのscFv単位を第三のペプチドリンカーによって連結することによって産生されうる(Kurucz等,1995を参照)。
【0059】
二重特異性ダイアボディは、ある抗体由来のVドメインを短いリンカーによって別の抗体のVドメインに連結してなる二つの単鎖融合産物の非共有的結合を通じて産生されうる(Kipriyanov等,1998を参照)。そのような二重特異性ダイアボディの安定性は、上に記載したジスルフィド架橋又は「ノブ・イン・ホール」変異の導入によって、又は二つのハイブリッドscFv断片がペプチドリンカーを介して連結される単鎖ダイアボディ(scDb)の形成によって(Kontermann等,1999を参照)、増強されうる。
【0060】
四価の二重特異性分子は、例えば、scFv断片をIgG分子のCHドメインに、又はヒンジ領域を介してFab断片に融合させることによって、産生することができる(Coloma等,1997を参照)。或いは、四価の二重特異性分子は、二重特異性単鎖ダイアボディの融合によって作製されている(Alt等,1999を参照)。より小さい四価の二重特異性分子は、ヘリックス-ループ-ヘリックスモチーフを含むリンカーを用いたscFv-scFvタンデム(DiBiミニ抗体;Muller等,1998を参照)、又は分子内ペアリングを防止する配向で4つの抗体可変ドメイン(V及びV)を含む単鎖分子(タンデムダイアボディ;Kipriyanov等,1999を参照)の何れかの二量体化によって形成することもできる。
【0061】
二重特異性F(ab’)断片は、Fab’断片の化学結合又はロイシンジッパーを介したヘテロ二量体化によって作製されうる(Shalaby等,1992;Kostelny等,1992を参照)。また利用可能であるものは単離されたV及びVドメインである(米国特許第6172197号;第6248516号;及び第6291158号を参照)。
【0062】
本開示の主題には、抗ガストリン抗体の機能的等価物もまた含まれる。ここで使用される場合、抗体を指す「機能的等価物」という語句は、所与の抗体の結合特性に匹敵する結合特性を有する分子を指す。幾つかの実施態様では、キメラ化抗体、ヒト化抗体、及び単鎖抗体、並びにそれらの断片は、それらが基づく対応する抗体の機能的等価物と考えられる。
【0063】
機能的等価物にはまた本開示の主題の抗体の可変又は超可変領域のアミノ酸配列と実質的に同じアミノ酸配列を有するポリペプチドも含まれる。アミノ酸配列に関してここで使用される場合、「実質的に同じ」という語句は、Pearson及びLipman,1988に従うFASTA検索法によって決定して、別のアミノ酸配列に対して、幾つかの実施態様では少なくとも80%、幾つかの実施態様では少なくとも85%、幾つかの実施態様では少なくとも約90%、幾つかの実施態様では少なくとも約91%、幾つかの実施態様では少なくとも92%、幾つかの実施態様では少なくとも93%、幾つかの実施態様では少なくとも94%、幾つかの実施態様では少なくとも95%、幾つかの実施態様では少なくとも96%、幾つかの実施態様では少なくとも97%、幾つかの実施態様では少なくとも98%、及び幾つかの実施態様では少なくとも約99%の配列同一性を持つ配列を指す。幾つかの実施態様では、同一性パーセントの計算は、本開示の主題の抗体のアミノ酸配列の全長にわたって実施される。
【0064】
機能的等価物には、本開示の主題の全抗体の結合特性と同じ又は同等の結合特性を有する抗体の断片が更に含まれる。そのような断片は、一方又は両方のFab断片、F(ab’)断片、F(ab’)断片、Fv断片、又は少なくとも一つの抗原結合ドメインを含む任意の他の断片を含みうる。幾つかの実施態様では、抗体断片は、本開示の主題の全抗体の6つのCDR全てを含むが、そのような領域の全てよりも少ない、例えば3つ、4つ、又は5つのCDRを含む断片もまたここで定義される機能的同等物でありうる。更に、機能的等価物は、次の免疫グロブリンクラス:IgG、IgM、IgA、IgD、及びIgE、及びそれらのサブクラス、並びに非哺乳動物対象に適切であるかも知れない他のサブクラス(例えば、ニワトリ及び他の鳥類種のIgY)の何れか一つのメンバーでありうるか、又はそれらを組み合わせうる。
【0065】
機能的等価物には、本開示の主題の全タンパク質の特徴と同じ又は同等の特徴を有するペプチドが更に含まれる。そのようなペプチドは、治療された対象において免疫応答を誘発しうる、全タンパク質の一つ又は複数の抗原を含みうる。
【0066】
機能的等価物には、アプタマー及び他の非抗体分子もまた含まれるが、但し、そのような分子が、本開示の主題の全抗体の結合特性と同じ又は同等の結合特性を有することを条件とする。
【0067】
「含む(comprising)」という用語は、「含む(including)」、「含む(containing)」、又は「を特徴とする(characterized by)」と同義であり、包括的又はオープンエンドであり、追加の未記載の要素及び/又は方法ステップを排除するものではない。「含む(comprising)」とは、指定された要素及び/又はステップが存在するが、他の要素及び/又はステップを追加することができ、依然として関連する主題の範囲内に含まれることを意味する専門用語である。
【0068】
ここで使用される場合、「からなる(consisting of)」という語句は、特に記載されていない任意の要素、ステップ、又は成分を除外する。「からなる(consists of)」という語句が、前段部の直後ではなく、特許請求の範囲の特徴部の文節に出現する場合、その文節に記載されている要素のみを限定するものであり;他の要素は全体として請求項から除外されるものではないことに留意のこと。
【0069】
ここで使用される場合、「から本質的になる」という語句は、関連する開示又は請求項の範囲を、特定された材料及び/又はステップに加えて、開示され及び/又は請求項に記載された主題の基本的及び新規な特徴に実質的に影響を与えないものに限定する。例えば、薬学的組成物は、一つの薬学的活性薬剤又は複数の薬学的活性薬剤「から本質的になり」得、これは、記載された薬学的活性薬剤が、薬学的組成物中に存在する唯一の薬学的活性薬剤であることを意味する。しかしながら、担体、添加物、及び/又は他の不活性薬剤がそのような薬学的組成物中に存在し得、また存在する可能性が高く、「から本質的になる」という語句の性質内に包含されることに留意のこと。
【0070】
「含む(comprising)」、「からなる(consisting of)」、及び「から本質的になる(consisting essentially of)」という用語に関して、これら三つの用語のうちの一つがここで使用される場合、本開示の請求項記載の主題は、他の二つの用語の何れかの使用を含みうる。例えば、幾つかの実施態様では、本開示の主題は、抗体を含む組成物に関する。従って、本開示を検討した後に当業者であれば、本開示の主題が、本開示の主題の抗体から本質的になる組成物、並びに本開示の主題の抗体からなる組成物を包含することを理解するであろう。
【0071】
ここで使用される場合、「免疫細胞」という語句は、限定されないが、抗原提示細胞、B細胞、好塩基球、細胞傷害性T細胞、樹状細胞、好酸球、顆粒球、ヘルパーT細胞、白血球、リンパ球、マクロファージ、マスト細胞、メモリー細胞、単球、ナチュラルキラー細胞、好中球、食細胞、形質細胞及びT細胞を含む、哺乳動物免疫系の細胞を指す。
【0072】
ここで使用される場合、「免疫応答」という語句は、限定されないが、自然免疫、体液性免疫、細胞性免疫、免疫、炎症反応、獲得(適応)免疫、自己免疫、及び/又は過剰免疫を含む免疫を指す。
【0073】
ここで使用される場合、「ガストリン関連がん」という語句は、ガストリン遺伝子産物が、腫瘍及び/又はがん細胞に外因的に適用されたときと、自己分泌及びパラ分泌機構を介するインビボの両方で、腫瘍及び/又はがん細胞増殖を刺激する栄養ホルモンとして作用する、腫瘍又はがん又はそれら由来の細胞である。例示的なガストリン関連がんには、膵臓がん、胃がん、胃食道がん、及び結腸直腸がんが含まれる。
【0074】
ここで使用される「ポリヌクレオチド」という用語には、限定されないが、DNA、RNA、相補的DNA(cDNA)、メッセンジャーRNA(mRNA)、リボソームRNA(rRNA)、低分子ヘアピンRNA(shRNA)、低分子核RNA(snRNA)、核小体低分子RNA(snoRNA)、マイクロRNA(miRNA)、ゲノムDNA、合成DNA、合成RNA、及び/又はtRNAが含まれる。
【0075】
ここで使用される場合、「単鎖可変断片」、「単鎖抗体可変断片」、及び「scFv」抗体という語句は、リンカーペプチドによって連結された、重鎖及び軽鎖のみの可変領域を含む抗体の形態を指す。
【0076】
ここで使用される「対象」という用語は、任意の無脊椎動物又は脊椎動物種のメンバーを指す。従って、「対象」という用語は、幾つかの実施態様では、限定されないが、脊索動物門(例えば、硬骨魚綱(硬骨魚)、両生綱(両生類)、爬虫綱(爬虫類)、鳥綱(鳥類)、及び哺乳綱(哺乳類)のメンバー)及びそこに包含される全ての目及び科を含む、動物界の任意のメンバーを包含することが意図される。
【0077】
従って、本開示の主題の組成物及び方法は、温血脊椎動物に特に有用である。従って、幾つかの実施態様では、本開示の主題は、哺乳動物及び鳥類に関する。より特定的に提供されるのは、ヒト及び他の霊長類などの哺乳動物、並びに絶滅の危機に瀕しているため重要な哺乳動物(シベリアトラなど)、経済的に重要な哺乳動物(ヒトによる消費のために農場で飼育されている動物)及び/又はヒトにとって社会的に重要な哺乳動物(ペットとして又は動物園で飼われている動物)、例えば、ヒト以外の肉食動物(ネコ及びイヌなど)、ブタ(swine)(ブタ(pigs)、雄ブタ、及びイノシシ)、反芻動物(ウシ、雄ウシ、ヒツジ、キリン、シカ、ヤギ、バイソン、及びラクダなど)、齧歯類(マウス、ラット、及びウサギなど)、有袋類、及びウマに由来し、並びに/或いはそれらにおいて使用するための組成物及び方法である。また提供されるのは、動物園で飼育されている絶滅危惧種の鳥類、並びに家禽(fowl)、より具体的には、ヒトにとって経済的にも重要であるため、家畜化された家禽、例えば、家禽(poultry)、例えば七面鳥、ニワトリ、アヒル、ガチョウ、ホロホロチョウなどを含む鳥類への開示された方法及び組成物の使用である。従って、また提供されるのは、限定されないが、家畜化されたブタ(swine)(ブタ(pigs)及び雄ブタ)、反芻動物、ウマ、家禽などを含む家畜に対する開示された方法及び組成物の使用である。
【0078】
ここで使用される場合、「T細胞」及び「Tリンパ球」という用語は互換性があり、同義的に使用される。例には、限定されないが、ナイーブT細胞、セントラルメモリーT細胞、エフェクターメモリーT細胞、細胞傷害性T細胞、制御性T細胞、ヘルパーT細胞及びそれらの組み合わせが含まれる。
【0079】
ここで使用される場合、「治療薬」という語句は、疾患又は障害、例えば限定されないが、ガストリン関連腫瘍及び/又はがんを、例えば、治療し、阻害し、予防し、その影響を軽減し、その重症度を低減させ、発症の可能性の低減させ、その進行を遅らせ、及び/又は治癒するために使用される薬剤を指す。
【0080】
ここで使用される「治療」及び「治療する」という用語は、治療的処置と予防的又は防止的方策の両方を指し、その目的は、標的とされる病的状態を予防し又は遅らせ(軽減させ)、病的状態を予防し、有益な結果を追求し又は獲得し、並びに/或いはたとえ治療が最終的に成功しなかったとしても、個体が状態、疾患、又は障害を発症する見込みを低下させることである。幾つかの実施態様では、「治療」は、限定されないが、外科的除去後の腫瘍及び/又はがんの再発の予防又は遅延化など、以前の治療後の状態の再発の予防又は遅延化に関する。治療を必要とする者には、既にその状態にある者並びに状態、疾患、又は障害に罹りやすいか、又はその素因がある者、或いはその状態を予防すべき者が含まれる。
【0081】
ここで使用される場合、「腫瘍」という用語は、悪性か良性かを問わず、あらゆる新生物細胞の成長及び/又は増殖、並びにその転移のイニシエーション、進行、増殖、維持がガストリンの自己分泌及び/又はパラ分泌作用によって直接的又は間接的に影響を受ける全ての前がん性及びがん性の細胞及び組織を指す。「がん」及び「腫瘍」という用語は、ここでは互換的に使用され、限定されないが、膵臓がん、胃がん、胃食道がん、及び結腸直腸がん(ここでは集合的に「ガストリン関連」腫瘍及び/又はがんと呼ばれる)を含む、対象における任意の組織の原発性と転移性の両方の固形腫瘍及び癌腫を指しうる。ここで使用される場合、「がん」及び「腫瘍」という用語は、多細胞腫瘍、並びに個々の新生物又は前新生物細胞を指すことも意図される。幾つかの実施態様では、がん又は腫瘍は、限定されないが癌腫などの上皮組織のがん又は腫瘍を含む。幾つかの実施態様では、腫瘍は腺癌であり、これは、幾つかの実施態様では、膵臓、肝臓、胃、食道、結腸、又は直腸の腺癌、並びに/或いはそれらに由来する転移性細胞である。幾つかの実施態様では、腫瘍及び/又はがんは線維化(線維症)と関連しており、これは、腫瘍及び/又はがんの発生の直接的又は間接的な結果として、線維化の一又は複数の領域が典型的には腫瘍及び/又はがんの領域に発生することを意味する。
【0082】
ここに開示される全ての遺伝子、遺伝子名、及び遺伝子産物は、ここに開示される組成物及び方法が適用可能である任意の種に由来するホモログ及び/又はオルソログに対応することが意図される。従って、該用語には、限定されないが、ヒト及びマウス由来の遺伝子及び遺伝子産物が含まれる。特定の種に由来する遺伝子又は遺伝子産物が開示される場合、この開示は例示のみを意図しており、それが現れる文脈が明確に示していない限り、限定として解釈されるべきではないことが理解される。従って、例えば、GENBANK(登録商標)生物配列データベース受入番号:NP_000796.1に提示されるガストリン遺伝子産物については、開示されるヒトアミノ酸配列は、限定されないが、他の哺乳類、魚類、両生類、爬虫類、及び鳥類を含む他の動物由来のホモロガス及びオルソロガスガストリン遺伝子及び遺伝子産物を包含することが意図される。また包含されるのは、限定されないが、対応するGENBANK(登録商標)エントリーに開示されたもの(すなわち、それぞれ、NP_000796.1及びNM_000805.5)を含む、開示されたアミノ酸配列をコードする任意且つ全てのヌクレオチド配列である。
【0083】
III.抗ガストリンワクチンの開発
腫瘍関連抗原ベースのワクチンに対する独特のアプローチが、PC及び他の胃腸がんに対する重要な自己分泌及びパラ分泌増殖因子としてのガストリンの関与を利用することによって、取られている。このアプローチには、「ポリクローナル抗体刺激剤」又はPASと呼ばれる化合物を用いて、ガストリン-17(G17)に対する能動体液性免疫を通じてガストリンの栄養効果を中和することが含まれる。PASは、マウスとヒトにおいて同一であり、リンカー分子を介してジフテリアトキソイド(DT)にコンジュゲートされる、G17のN末端配列に由来する9アミノ酸のガストリンエピトープを含む。この化合物は、PASを作るために油性アジュバントに配合されている。PASは特異的で高親和性のポリクローナル抗G17抗体の産生を刺激するが、DT単独では効果がなかった(Watson等,1996)。前臨床試験が、結腸がん(Singh等,1986;Smith及びSolomon,1988;Upp等,1989;Smith等,1996b)、胃がん(Smith等,1998a;Watson等,1989)、肺がん(Rehfeld等,1989)、及び膵臓がん(Smith等,1990;Smith等,1991;Smith等,1995;Segal等,2014)を含むガストリン応答性の胃腸(GI)がんを有する幾つかの動物モデルで実施された。
【0084】
動物では、PASで産生された抗G17抗体が胃腸腫瘍の増殖と転移を軽減することが示されている(Watson等,1995;Watson等,1996;Watson等,1999)。PASによる能動免疫とPASで産生された抗G17抗体による受動免疫の両方(Watson等,1999)が、GIがんの動物モデルにおいて腫瘍増殖を阻害することが示されている(Watson等,1998;Watson等,1999)。
【0085】
進行性膵臓がんの治療のためのPASの前向き無作為化二重盲検プラセボ対照群逐次試験が、進行性膵臓がんを有するヒト患者において行われた。この試験の主目的は、患者の生存期間について単独療法PASの効果をプラセボと比較することであった。全体として、患者の65%がPASに対して抗体応答を示した。PAS治療群の対象はプラセボ群よりも長く生存した(それぞれ平均150日対84日;p=0.016)。しかし、患者を、PASに対して免疫応答を生じたか(すなわち、PASレスポンダー)、又は免疫応答を生じなかったか(すなわち、PASノンレスポンダー)に基づいて層別化した場合、レスポンダーで生存期間が有意に増加した(p=0.003)。
【0086】
現在までに、469人のPDAC患者が臨床試験においてPASで治療されている。これらの対象の約90%が防御的抗体力価を誘発した。4つの試験からのプールされたデータ(PC1、PC2、PC3、及びPC6;Brett等,2002;Gilliam等,2012)では、レスポンダー患者は、ノンレスポンダー患者(106日;p=0.0003)と比較して、生存日数中央値(191日)が有意に増加したことが示された。重要なことには、これらの患者は何れも、ガストリンの正常なレベル及び機能に悪影響を与える自己免疫型反応の証拠を示さなかった。
【0087】
PASは、ガストリンに対する中和抗体の産生と共にB細胞応答を誘発することが知られている。しかし、臨床試験では長期生存者もまた存在することが実証されており、これは、抗腫瘍免疫の更なる機構がまた関与している可能性があることが示唆している。しかし、PASが、幾つかの実施態様では、膵臓がん又は未治療のまま放置すると膵臓がんに進行しうる前がん病変でありうる、ガストリン関連腫瘍、がん、及びそれらの前がん病変のイニシエーション及び/又は進行をまた予防することは初めて示された。
【0088】
IV.PAS+チェックポイント阻害剤併用療法
IV.A.全般
PAS投与は、PDACにおいて不適切に発現(すなわち、過剰発現)されるがん胎児性タンパク質ガストリンに対する体液性抗体応答及び細胞性免疫応答を生み出す。PDACにおけるこの不適切なガストリン発現は、自己分泌及びパラ分泌増殖促進効果を引き起こす。ガストリンに対する体液性抗体の引き続いての産生を伴うPAS投与は、この病理学的増殖促進効果を排除するのに役立つ。加えて、ガストリンに対するPAS媒介の体液性免疫応答は、不適切なガストリン発現に関連する血管新生の促進、アポトーシスの回避、細胞遊走の増加、及び侵襲性酵素発現の増加を逆転させるのにも役立つ(Watson等,2006)。
【0089】
PASは3つのサブユニットを含む。第一サブユニットはガストリンエピトープであり、これは、システイン残基で終わるカルボキシ末端の7アミノ酸スペーサー配列を有するヒトG17のアミノ末端アミノ酸残基1~9を含むペプチドである。この第一サブユニットの例示的な配列は、EGPWLEEEE(配列番号:2)である。
【0090】
PASの第二サブユニットは、第一サブユニットを第三サブユニットに共有結合させるリンカーである。幾つかの実施態様では、リンカーはε-マレイミドカプロン酸N-ヒドロキシスクシンアミドエステル(eMCS)であるが、限定されないが、ポリエチレングリコールリンカーなどの非ペプチドリンカーを含む任意のリンカーをこの目的に使用することもできる。
【0091】
PASの第三サブユニットはジフテリアトキソイドであり、これは、第一サブユニットに対する体液性応答(特に、胃エピトープに対する体液性応答)を増強する担体タンパク質として使用される。しかしながら、幾つかの実施態様では、限定されないが、破傷風トキソイド又はウシ血清アルブミンなど、ジフテリアトキソイド以外の担体タンパク質を用いることができることに留意のこと。
【0092】
幾つかの実施態様では、その三サブユニットが筋肉内(i.m.)注射用に製剤化され、その製剤は優れた物理的、化学的、及び薬学的特性を有する。PASはまた、ガストリンに対する中和抗体の生成と共にB細胞応答を誘発する。ガストリンは細胞増殖を増加させ、血管新生を促進し、アポトーシスの回避を促進し、細胞遊走を増加させ、侵襲性酵素の発現を増加させ、PDAC微小環境での線維化に関連しているため、これはPDACに関連している。本開示の主題の幾つかの態様によれば、ガストリンの作用が遮断されると、CD8リンパ球がPDACに流入し、それらが免疫チェックポイント療法に応答しやすくなる(例えば、T細胞媒介応答)。ここに開示されている通り、PASはまた、T細胞応答と、ガストリン刺激に応答してサイトカインを産生するCD8+細胞を誘発する。
【0093】
PASは、治療用ワクチン又は免疫療法として設計できる。PAS誘導性体液性抗体は高度に特異的で、典型的にはG17及びGly-G17に対する高い親和性を特徴とする。
【0094】
PASは、ホルモンG17とその前駆体Gly-G17に対する抗体の治療上有効なレベルを一貫して誘導した。合計1542人の患者を対象とした22件の臨床試験が完了している。重要なのは、PASによる治療は、優れた安全性と忍容性プロファイルを示し、更に結腸直腸がん、胃がん、及び膵臓がんの患者において延命効果をもたらしたことである。単独療法として使用される場合、例示的な用量及びスケジュールは、0、1、及び3週目に250μg/0.2mlの用量であることが特定された。
【0095】
まとめると、22件の試験とPASで治療を受けた1500人を超える患者から得られうる結論は次の通りである:
(a)非臨床データは、抗G17抗体のインビトロ及びインビボ両方の抗腫瘍効果を示しており、ヒト膵臓がんモデルを含む様々ながんモデルにおいて幅広い治療指数を示した。
(b)PASは非常に安全で忍容性の高い用量で投与でき、有害反応や負の自己免疫効果の誘発もなく、ガストリンに対するB細胞抗体応答を効果的に生じる;及び
(c)多数の臨床試験により、膵臓がんを含む胃腸腫瘍に対して延命効果と、抗G17抗体応答の生成と生存期間の改善との相関関係が実証された。
【0096】
しかし、臨床試験では長期生存者がいることもまた実証されており、PAS投与によって更なる治療効果が得られたことが示唆されている。如何なる特定の作用理論にも束縛されることは望まないが、PAS治療がこれらの対象において細胞傷害性T細胞及びメモリー細胞の活性化を特徴とするT細胞性免疫応答をまた誘導したかもしれないこともありうる。
【0097】
PDACにおけるチェックポイント阻害剤の使用は限られており、控えめの結果しか実証されていない。CTLA-4、PD-1、及びPD-L1阻害剤は、局所進行性又は転移性PDAC患者を対象とした多くの臨床試験において研究されている(Royal等,2010;Brahmer等,2012;Segal等,2014)。デュルバルマブ(MEDI 4736)は、2014年にアメリカ臨床腫瘍学会で発表された予備分析で8%の部分奏効率をもたらした(Segal等,2014)。
【0098】
膵臓腫瘍が、チェックポイント阻害剤を標的とするモノクローナル抗体(mAb)ベースの免疫療法に対して比較的耐性があることがなぜ証明されたかは不明である。抗免疫チェックポイント阻害剤による免疫療法の失敗は、免疫抑制性白血球の大量浸潤に関連しているかもしれず、これにより実際に抗腫瘍免疫反応が抑制される可能性がある。これは、膵臓腫瘍微小環境における免疫特権の確立に役立つ炎症プログラムを駆動するRAS癌遺伝子の発現に関連しているかもしれない(Zheng等,2013)。
【0099】
IV.B.チェックポイント阻害剤は細胞傷害性T細胞応答を生じさせる
免疫系は、自己(つまり「正常な」細胞)と、感染で見出される細菌であろうと、典型的には腫瘍及びがんで見出される改変及び/又は形質転換された細胞であろうと、「非自己」又は「外来」細胞とを区別する上で重要な中心的役割を果たす。このプロセスに関して、免疫系は正常な体細胞に対して自己免疫反応を起こさないように「自己」と認識すれば「オフ」にする一方、外来性及び/又は形質転換細胞を認識すれば「オン」にする必要がある絶妙な制御を必要とする。実際、細胞の形質転換は比較的一般的な現象であるが、免疫系はこれを効率的かつ効果的に監視し続け、外来性及び/又は形質転換細胞を効果的かつ効率的に排除する。形質転換細胞が、それらが正常な免疫系チェックポイントを破壊でき、免疫系がそれらを形質転換したと認識せず、例えば形質転換腫瘍細胞への細胞傷害性Tリンパ球の接着による免疫攻撃を無効にする機構を生じさせることは稀にしかないため、腫瘍形成及びがんは比較的稀な事象である。
【0100】
プログラム細胞死タンパク質1(PD-1;CD279としても知られる)は、T細胞の表面に見出されるチェックポイントとして機能する細胞表面受容体である。PD-1は、「オフスイッチ」として機能し、T細胞が体内の正常細胞に対して細胞傷害性Tリンパ球攻撃を開始しないようにすると思われる。ヒトPD-1は、288アミノ酸の前駆体タンパク質として産生され、その例示的なアミノ酸配列は、GENBANK(登録商標)生物配列データベース受入番号NP_005009.2(GENBANK(登録商標)受入番号NM_005018.2によってコードされる)として提供される。288アミノ酸前駆体には、GENBANK(登録商標)受入番号NP_005009.2のアミノ酸1~20としてシグナルペプチドが含まれており、これが除去されて成熟ペプチド(すなわち、GENBANK(登録商標)受入番号NP_005009.2のアミノ酸21~288)が産生される。GENBANK(登録商標)生物配列データベース中に存在する他種由来のヒトPD-1のオルソログのアミノ酸配列には、限定されないが、受入番号NP_032824.1(ハツカネズミ)、NP_001100397.1(ドブネズミ)、NP_001301026.1(イヌ)、NP_001138982.1(ネコ)、NP_001076975.1(ウシ)、XP_004033550.1(ゴリラ(Gorilla gorilla gorilla))、NP_001107830.1(アカゲザル)、NP_001271065.1(カニクイザル)、及びXP_003776178.1(スマトラオランウータン)が含まれる。
【0101】
PD-1受容体のリガンドは、プログラム死リガンド1(PD-L1)と呼ばれる。それはCD274又はB7ホモログ1(B7-H1)としてもまた知られている。ヒトには、PD-L1タンパク質の幾つかのアイソフォームがあり、その中で最も大きなもの(アイソフォームa)は290アミノ酸の前駆体として産生される。ヒトPD-L1前駆体タンパク質の例示的なアミノ酸配列は、GENBANK(登録商標)生物配列データベース受入番号NP_054862.1(GENBANK(登録商標)受入番号NM_014143.3によってコードされる)として提供される。290アミノ酸の前駆体には、GENBANK(登録商標)受入番号NP_054862.1のアミノ酸1~18としてシグナルペプチドが含まれており、これが除去されて成熟ペプチド(すなわち、GENBANK(登録商標)受入番号NP_054862.1のアミノ酸19~290)が産生される。GENBANK(登録商標)生物配列データベース中に存在する他種由来のヒトPD-L1のオルソログのアミノ酸配列には、限定されないが、受入番号NP_068693.1(ハツカネズミ)、NP_001178883.1(ドブネズミ)、NP_001278901.1(イヌ)、XP_006939101.1(ネコ)、NP_001156884.1(ウシ)、XP_018889139.1(ゴリラ(Gorilla gorilla gorilla))、NP_001077358.1(アカゲザル)、XP_015292694.1(カニクイザル)、及びXP_009454557.1(ポンゴ・トログロダイト)が含まれる。
【0102】
PD-L1は主に正常細胞に見出され、PD-1を発現するT細胞がPD-L1を伴う正常細胞に結合すると、T細胞にこれが正常細胞(つまり「自己」)であるシグナル伝達し、(正常)細胞に対する細胞傷害性T細胞応答が抑制される。殆どの形質転換細胞は典型的にはPD-L1を発現しないため、常套的に排除され、これは、PD-1発現T細胞がそのような細胞に遭遇すると「停止」されるのではなく、むしろ「活性化」され、それによってその形質転換細胞が排除されることを意味する。しかし、稀に、形質転換細胞がPD-L1リガンドを発現し、その結果、形質転換細胞に対するT細胞応答が停止することがある。よって、PD-L1を発現する形質転換細胞は、細胞傷害性T細胞応答を回避できる。これが起こると、認識されない形質転換細胞が増殖し、更なる変異を獲得し、悪性の転移性腫瘍へと成長する場合がある。
【0103】
PD-1/PD-L1チェックポイントの阻害(「免疫チェックポイント阻害剤」と呼ばれる)は、PD-1/PD-L1結合を妨害し、それによってTリンパ球が腫瘍及び/又はがん細胞を非自己として認識できるようにし、その結果、腫瘍及び/又はがん細胞に対する細胞傷害性Tリンパ球反応を引き起こす。これは、T細胞上のPD-1又は腫瘍及び/又はがん細胞上のPD-L1を標的とし、PD-1/PD-L1相互作用を効果的にブロックする薬物によって達成できる。このプロセスには少なくとも二つの要件が重要である。第一に、免疫チェックポイント阻害剤は、PD-1とPD-L1の間の如何なる相互作用も遮断するためには腫瘍及び/又はがんの部位に到達しなければならない。第二に、腫瘍及び/又はがん自体が細胞傷害性T細胞に到達可能でなければならない。
【0104】
別のチェックポイントタンパク質は細胞傷害性Tリンパ球抗原4(CTLA-4;CD152としても知られる)タンパク質である。PD-1と同様に、CTLA-4は免疫応答をダウンレギュレートできる細胞表面受容体である。活性化T細胞と同様にTregはCTLA-4を発現する。CTLA-4受容体が抗原提示細胞(APC)の表面上に存在するCD80又はCD86に結合すると、PD-1と同様に、免疫応答に関して「オフスイッチ」として機能する。
【0105】
ヒトCTLA4-TMアイソフォームは、GENBANK(登録商標)受入番号NP_005205.2(GENBANK(登録商標)受入番号NM_005214.4によってコードされる)に示されたアミノ酸を有する223アミノ酸の前駆体タンパク質である。このタンパク質には35アミノ酸のシグナルペプチドが含まれ、これが除去されると188アミノ酸の成熟タンパク質を生じる。GENBANK生物配列データベース中に存在する他種由来のヒトCTLA-4のオルソログのアミノ酸配列には、限定されないが、受入番号NP_033973.2(ハツカネズミ)、NP_113862.1(ドブネズミ)、NP_001003106.1(イヌ)、NP_001009236.1(ネコ)、NP_776722.1(ウシ)、XP_004033133.1(ゴリラ(Gorilla gorilla gorilla))、XP_009181095.2(アカゲザル)、XP_005574073.1(カニクイザル)、及びXP_526000.1(チンパンジー)が含まれる。
【0106】
而して、幾つかの実施態様では、本開示の主題は、一又は複数種の免疫チェックポイント阻害剤と共にPASを投与することに関する。より具体的には、幾つかの実施態様において、本開示の主題は、CTLA-4、PD-1、及び/又はPD-L1を標的とする免疫チェックポイント阻害剤の使用に関する。これらの免疫チェックポイント阻害剤を阻害する例示的な化合物には、次のものが含まれる。CTLA-4の場合:イピリムマブ(YERVOY(登録商標)ブランド;Bristol-Myers Squibb,New York,New York)及びトレメリムマブ(以前のチシリムマブ;Medimmune,LLC,Gaithersburg,Maryland)。PD-1の場合:ニボルマブ(OPDIVO(登録商標)ブランド;Bristol-Myers Squibb,New York,New York)、ピジリズマブ((Medivation,San Francisco,California)、ペムブロリズマブ(KEYTRUDA(登録商標)ブランド;Merck & Co.,Inc.,Kenilworth,New Jersey)、MEDI0680(AMP514;Medimmune,LLC,Gaithersburg,Maryland)、及びAUNP-12(Aurigene Discovery Technologies Limited/Laboratoires Pierre Fabre SA)。PD-L1の場合:BMS-936559/MDX-1105(Bristol Myers Squibb,New York,New York)、アテゾリズマブ(TECENTRIQ(登録商標)ブランド、Genentech/Roche,South San Francisco,California)、デュルバルマブ(MEDI4736;Medimmune,LLC,Gaithersburg,Maryland)、及びアベルマブ(BAVENCIO(登録商標)ブランド;EMD Serono,Inc.,Rockland,Maryland,及びPfizer Inc.,New York,New York)。
【0107】
PD-1阻害剤とPD-L1阻害剤を比較すると、有効性と毒性に関しては相違よりも共通性があることが証拠により強く示唆される。実際、クロストライアルメタタイプ分析では、ニボルマブ、ペムブロリズマブ、アベルマブ、アテゾリズマブ、デュルバルマブ及びMDX1105が、毒性と有効性に関して非常に類似した(しかし同一ではない)プロファイルを有することが示されている。親和性と現在の投与レジメンは、様々なPD-1及びPD-L1阻害剤に対して異なるかもしれないが、一般的には全てに対して非常に幅広い治療域がある。この幅広い治療域に関連して、これらのチェックポイント阻害剤の殆どが第一相で失敗せず、多くの臨床開発計画が計量投与ではなく均一投与レジメンに移行している。
【0108】
PD-1とPD-L1を標的とする薬物には、類似した作用機序、有効性プロファイル及び毒性プロファイルがあるが、一般にそれらの間には幾らかの微妙な違いがある。アベルマブは、PAS由来B細胞応答を抗体依存性細胞介在性細胞傷害(ADDC)応答で補完する能力のため、他のPD-L1標的薬よりも幾らか利点があるかもしれない。また、アベルマブは天然Fc受容体を持っているため、「正常な」ADCC応答を誘発することができる一方、アテゾリズマブは(少なくともヒトにおいて)ADCC応答を減少させることが予想されるかもしれない改変をFc領域に有している。
【0109】
様々なPD-1及びPD-L1を標的とする薬物を比較する際に注意すべき別の差異は、あるものはヒト化mAbであり他のものは完全なヒトmAbであるという事実である。ヒト化mAbは、ヒトに投与した場合、完全なヒトmAbと比較して「アレルギー」タイプの反応を誘導する可能性が高まる特性があると想定されるかもしれない。
【0110】
V.組成物
V.A.薬学的組成物
幾つかの実施態様では、本開示の主題は、幾つかの実施態様では本開示の主題の方法において用いることができる薬学的組成物を提供する。
【0111】
ここで使用される場合、「薬学的組成物」とは、薬学的組成物がそれを必要とする対象に投与される治療又は他の方法の一部として用いられることになる組成物を指す。幾つかの実施態様では、それを必要とする対象は、その少なくとも一つの症状、特徴、又は結果が、腫瘍及び/又はがん及び/又はそれに関連する細胞に直接的及び/又は間接的に作用する薬学的組成物の生物学的活性のため少なくとも部分的に寛解されることが期待される腫瘍及び/又はがんを有する対象である。
【0112】
薬学的組成物を調製するための技術は当該技術分野で知られており、幾つかの実施態様では、薬学的組成物は、薬学的組成物が投与されることになる対象に基づいて製剤化される。例えば、幾つかの実施態様では、薬学的組成物はヒト対象に使用するために製剤化される。従って、幾つかの実施態様では、薬学的組成物はヒトでの使用のために薬学的に許容される。
【0113】
幾つかの実施態様における本開示の主題の薬学的組成物は、ガストリンペプチド及び/又はCCK-B受容体に対する能動及び/又は受動体液性免疫応答を誘導及び/又は提供する第一の薬剤;並びに任意選択的に免疫チェックポイント阻害剤である第二の薬剤を含むか、それらから本質的になるか、又はそれらからなる。幾つかの実施態様では、第一の薬剤は、ガストリンペプチド、抗ガストリン抗体、及び抗CCK-R抗体からなる群から選択される。幾つかの実施態様では、第一の薬剤は、ガストリンペプチド、任意選択的に、EGPWLEEEEE(配列番号:1)、EGPWLEEEE(配列番号:2)、EGPWLEEEEEAY(配列番号:3)、及びEGPWLEEEEEAYGWMDF(配列番号:4)からなる群から選択されるアミノ酸配列を含むか、それから本質的になるか、又はそれからなるガストリンペプチドを含む。幾つかの実施態様では、配列番号:1~4の何れかのアミノ酸位置1のグルタミン酸残基は、ピログルタミン酸残基である。幾つかの実施態様では、ガストリンペプチドは免疫原性担体にコンジュゲートされ、任意選択的に、免疫原性担体は、ジフテリアトキソイド、破傷風トキソイド、キーホールリンペットヘモシアニン、及びウシ血清アルブミンからなる群から選択される。幾つかの実施態様では、ガストリンペプチドはリンカーを介して免疫原性担体にコンジュゲートされ、任意選択的にリンカーはε-マレイミドカプロン酸N-ヒドロキシスクシンアミドエステルを含む。
【0114】
幾つかの実施態様では、リンカーとガストリンペプチドとは、アミノ酸スペーサーによって分離されており、任意選択的に、アミノ酸スペーサーは、1と10の間のアミノ酸長であり、更に任意選択的に、アミノ酸スペーサーは、7アミノ酸長である。
【0115】
体液性免疫応答を誘発するように設計された本開示の主題の薬学的組成物は、幾つかの実施態様では、アジュバント、任意選択的に油性アジュバントを更に含みうる。例示的なアジュバントには、限定されないが、モンタニドISA-51(Seppic,Inc.);QS-21(Aquila Pharmaceuticals,Inc.);アルラセルA;オレイン酸;破傷風ヘルパーペプチド;GM-CSF;シクロホスアミド;カルメットゲラン桿菌(BCG);コリンバクテリウム・パルバム(corynbacterium parvum);レバミゾール、アジメゾン(azimezone);イソプリニゾン(isoprinisone);ジニトロクロロベンゼン(DNCB);フロイントアジュバント(完全及び不完全)を含むキーホールリンペットヘモシアニン(KLH);ミネラルゲル;水酸化アルミニウム(ミョウバン);リゾレシチン;プルロニックポリオール;ポリアニオン;ペプチド;油エマルジョン;核酸(例えば、dsRNA)ジニトロフェノール;ジフテリア毒素(DT);トール様受容体(TLR、例えば、TLR3、TLR4、TLR7、TLR8又はTLR9)アゴニスト(例えば、エンドトキシン、例えばリポ多糖類(LPS);モノホスホリルリピドA(MPL);ポリイノシン・ポリシチジン酸(ポリ-ICLC/HILTONOL(登録商標);Oncovir,Inc.,Washington,DC,United States of America);IMO-2055、グルコピラノシルリピドA(GLA)、QS-21-キラヤサ科シャボンノキ樹皮から抽出されたサポニン(ソープバーク木又はソープバークとしても知られる);レシキモド(TLR7/8アゴニスト)、CDX-1401-NY-ESO-1腫瘍抗原に結合した樹状細胞受容体DEC-205に対して特異性を有する完全ヒトモノクローナル抗体からなる融合タンパク質;Juvarisのカチオン性脂質DNA複合体;Vaxfectin;並びにそれらの組み合わせが含まれる。
【0116】
本開示の主題の薬学的組成物は、幾つかの実施態様において、免疫チェックポイント阻害剤を含みうる。免疫チェックポイント阻害剤は、細胞傷害性Tリンパ球抗原4(CTLA4)、プログラム細胞死1受容体(PD-1)、及びプログラム細胞死1受容体リガンド(PD-L1)からなる群から選択される標的ポリペプチドの生物学的活性を阻害する化合物クラスである。幾つかの実施態様では、免疫チェックポイント阻害剤は、イピリムマブ、トレメリムマブ、ニボルマブ、ピジリズマブ、ペムブロリズマブ、AMP514、AUNP12、BMS-936559/MDX-1105、アテゾリズマブ、MPDL3280A、RG7446、RO5541267、MEDI4736、アベルマブ及びデュルバルマブからなる群から選択される。
【0117】
本開示の薬学的組成物の幾つかの実施態様では、第一の薬剤は、EGPWLEEEEE(配列番号:1)、EGPWLEEEE(配列番号:2)、EGPWLEEEEEAY(配列番号:3)、及びEGPWLEEEEEAYGWMDF(配列番号:4)からなる群から選択されるアミノ酸配列を含むか、それから本質的になるか、又はそれからなる、抗ガストリン体液性応答を誘導するのに有効な量のガストリンペプチドを含み、第二の薬剤は、ガストリン関連腫瘍又はがんを有する対象に投与されると、ガストリン関連腫瘍又はがんに対する細胞性免疫応答を誘導又は促進するのに有効な量のチェックポイント阻害剤を含む。
【0118】
本開示の薬学的組成物の幾つかの実施態様では、第一の薬剤は、一又は複数種の抗CCK-B受容体抗体を含み、ガストリン関連腫瘍又はがんを有する対象に投与されると、ガストリン関連腫瘍又はがん上に存在するCCK-B受容体を介してガストリンシグナル伝達を低減し又は阻害するのに十分な量で薬学的組成物中に存在する。
【0119】
本開示の主題の薬学的組成物は、幾つかの実施態様では、ガストリン関連腫瘍及び/又はがんを治療するために用いられる。幾つかの実施態様では、本開示の主題の薬学的組成物は、膵臓がんを治療することが意図される。
【0120】
V.B.核酸
「RNA」という用語は、少なくとも一つのリボヌクレオチド残基を含む分子を指す。「リボヌクレオチド」とは、β-D-リボフラノース部分の2’位にヒドロキシル基を有するヌクレオチドを意味する。この用語は、二本鎖RNA、一本鎖RNA、二本鎖及び一本鎖領域の両方を含むRNA、部分精製RNAなどの単離RNA、本質的に純粋なRNA、合成RNA、組換えにより産生されたRNA、並びに、一又は複数のヌクレオチドの付加、欠失、置換、及び/又は改変により天然に存在するRNAとは異なる改変RNA又はアナログRNAを包含する。そのような改変は、例えばRNAの一又は複数のヌクレオチドににおける、例えばsiRNAの末端又は内部への、非ヌクレオチド物質の付加を含みうる。本開示の主題のRNA分子中のヌクレオチドは、非天然ヌクレオチド、又は化学合成ヌクレオチド若しくはデオキシヌクレオチドなどの非標準ヌクレオチドをまた含みうる。これらの改変RNAはアナログ又は天然に存在するRNAのアナログと称されうる。
【0121】
「低分子(small)干渉RNA」、「低分子(short)干渉RNA」、「低分子ヘアピンRNA」、「siRNA」、及びshRNAという用語は互換的に使用され、RNA干渉(RNAi)又は遺伝子サイレンシングを媒介できる任意の核酸分子を指す。例えば、Bass,Nature 411:428-429,2001;Elbashir等,Nature 411:494-498,2001a;及びPCT国際公開第00/44895号、国際公開第01/36646号、国際公開第99/32619号、国際公開第00/01846号、国際公開第01/29058号、国際公開第99/07409号、及び国際公開第00/44914号を参照のこと。一実施態様では、siRNAは、相補的センス及びアンチセンス領域を含む二本鎖ポリヌクレオチド分子を含み、アンチセンス領域は、標的核酸分子(例えば、ガストリン遺伝子産物をコードする核酸分子)の領域に相補的な配列を含む。別の実施態様では、siRNAは自己相補的センス及びアンチセンス領域を有する一本鎖ポリヌクレオチドを含み、アンチセンス領域は、標的核酸分子の領域に相補的な配列を含む。別の実施態様では、siRNAは一又は複数のループ構造を有する一本鎖ポリヌクレオチドと、自己相補的センス及びアンチセンス領域を含むステムを含み、アンチセンス領域は、標的核酸分子の領域に相補的な配列を含み、ポリヌクレオチドはインビボ又はインビトロでプロセシングされて、RNAiを媒介可能な活性siRNAを産生できる。ここで使用される場合、siRNA分子は、RNAのみを含む分子に限定される必要はなく、化学的に改変されたヌクレオチド及び非ヌクレオチドを更に包含する。
【0122】
本開示の主題は、RNA干渉と呼ばれるプロセスである細胞遺伝子のダウンレギュレーションを引き起こす短い二本鎖RNA分子の能力を利用することにある。ここで使用される場合、「RNA干渉」は、低分子干渉RNA(siRNA)によって媒介される配列特異的な転写後遺伝子サイレンシングのプロセスを指す。全般についてはFire等,Nature 391:806-811,1998を参照のこと。転写後遺伝子サイレンシングのプロセスは、外来遺伝子の発現を防ぐために進化してきた進化的に保存された細胞防御機構であると考えられる(Fire,Trends Genet 15:358-363,1999)。
【0123】
RNAiは、所定のウイルス(特に二本鎖RNAウイルス又はライフサイクルに二本鎖RNA中間体が含まれるウイルス)の感染に起因する二本鎖RNA(dsRNA)分子の産生、又は一本鎖RNA又は二本鎖RNA種に相同なウイルスゲノムRNAを特異的に分解する機構を介したトランスポゾンエレメントの宿主ゲノムへのランダムインテグレーションから細胞及び生物を保護するように進化してきた可能性がある。
【0124】
細胞内に長鎖dsRNAが存在するとリボヌクレアーゼIIIである酵素ダイサーの活性が刺激される。ダイサーは、低分子干渉RNA(siRNA;Bernstein等,Nature 409:363-366,2001)と呼ばれるdsRNAの短鎖へのdsRNAの分解を触媒する。ダイサー媒介分解から生じる低分子干渉RNAは、典型的には約21~23ヌクレオチド長であり、約19塩基対の二重鎖を含む。分解後、siRNAはRNA誘導サイレンシング複合体(RISC)と呼ばれるエンドヌクレアーゼ複合体に取り込まれる。RISCはsiRNA二重鎖のアンチセンス鎖に相補的な細胞内に存在する一本鎖RNAの切断を媒介できる。Elbashir等によると、標的RNAの切断は、siRNA二重鎖のアンチセンス鎖に相補的な一本鎖RNA領域の中央付近で起こる(Elbashir等,Genes Dev 15:188-200,2001b)。
【0125】
RNAiは幾つかの細胞型及び生物において記述されている。Fire等,1998では、線虫のRNAiが記載された。Wianny及びZernicka-Goetz,Nature Cell Biol 2:70-75,1999では、マウス胚においてdsRNAによって媒介されたRNAiが開示される。Hammond等,Nature 404:293-296,2000では、dsRNAをショウジョウバエ細胞にトランスフェクトすることによりショウジョウバエ細胞にRNAiを誘導できた。Elbashir等,Nature 411:494-498,2001aでは、合成21ヌクレオチドRNAの二重鎖の導入によりヒト胎児腎臓及びHeLa細胞を含む培養哺乳動物細胞でRNAiの存在が実証された。
【0126】
他の研究で、siRNA二重鎖の標的相補鎖上の5’-リン酸がsiRNA活性を促進し、ATPがsiRNA上の5’-リン酸部分を維持するために利用されることが示されている(Nykanen等、Cell 107:309-321,2001)。siRNA分子に導入された場合に許容されるかもしれない他の修飾には、糖-リン酸骨格の修飾又は窒素若しくは硫黄ヘテロ原子の少なくとも一つでのヌクレオシドの置換(PCT国際公開第00/44914号及び国際公開第01/68836号)と、二本鎖RNA依存性プロテインキナーゼ(PKR)、特に2’-アミノ若しくは2’-O-メチルヌクレオチド、及び2’-O若しくは4’-Cメチレン架橋を含むヌクレオチドの活性化を阻害するかもしれない所定のヌクレオチド修飾(カナダ特許出願第2359180号)が含まれる。
【0127】
dsRNA及びRNAiの使用を開示している他の参考文献には、PCT国際公開第01/75164号(ショウジョウバエ由来の細胞を使用するインビトロRNAi系、及び所定の機能ゲノム及び所定の治療用途のための特異的siRNA分子の使用);国際公開第01/36646号(dsRNA分子を使用して哺乳動物細胞の特定遺伝子の発現を阻害する方法;国際公開第99/32619号(遺伝子発現の阻害において使用するためにdsRNA分子を細胞内に導入する方法);国際公開第01/92513号(RNAiを増強する因子を使用して遺伝子抑制を媒介する方法);国際公開第02/44321号(合成siRNAコンストラクト);国際公開第00/63364号及び国際公開第01/04313号(ポリヌクレオチド配列の機能を阻害するための方法及び組成物);並びに国際公開第02/055692号及び国際公開第02/055693号(RNAiを使用する遺伝子発現の阻害方法)が含まれる。
【0128】
幾つかの実施態様では、本開示の主題は、少なくとも一つのガストリン遺伝子産物の発現を少なくとも部分的に阻害するためにRNAiを利用する。阻害は、好ましくは、正常の発現量の少なくとも約10%である。幾つかの実施態様では、本方法は、ガストリン遺伝子産物の発現を阻害するのに十分な量のRNAを標的細胞に導入することを含み、ここで、RNAは目的の遺伝子のコード鎖に対応するリボヌクレオチド配列を含む。幾つかの実施態様では、標的細胞は対象中に存在し、RNAは対象中に導入される。
【0129】
RNAは、標的タンパク質(例えば、ガストリン遺伝子産物)をコードする遺伝子のコード鎖に対応するリボヌクレオチド配列を含む第一鎖と、第一鎖に相補的なリボヌクレオチド配列を含む第二鎖を含む二本鎖領域を有しうる。第一鎖と第二鎖は互いにハイブリダイズして二本鎖分子を形成する。二本鎖領域は、少なくとも15塩基対長であり得、幾つかの実施態様では、15から50塩基対長であり得、幾つかの実施態様では、二本鎖領域は15から30塩基対長でありうる。
【0130】
幾つかの実施態様では、RNAは、少なくとも19塩基にわたって好ましくは相補的である、分子内自己ハイブリダイゼーションにより二本鎖領域を形成する一本の鎖を含む。幾つかの実施態様では、RNAは、少なくとも19塩基にわたって相補的である、分子間ハイブリダイゼーションにより二本鎖領域を形成する二本の別々の鎖を含む。
【0131】
当業者は、幾つもの適切な一般的技術を使用してRNAの標的細胞内へ導入することができることを認識する。幾つかの実施態様では、RNAをコードしているベクターが標的細胞に導入される。例えば、RNAをコードするベクターを標的細胞にトランスフェクトすることができ、RNAはついで細胞ポリメラーゼによって転写される。
【0132】
幾つかの実施態様では、RNAをコードする核酸を含む組換えウイルスを産生することができる。その場合、標的細胞へのRNAの導入は、標的細胞を組換えウイルスで感染させることを含む。細胞ポリメラーゼがRNAを転写し、標的細胞内でのRNAの発現が生じる。組換えウイルスの改変は、当業者にはよく知られている。当業者であれば、ここで更に詳細に検討する必要なく、本開示の主題で使用するための組換えウイルス産生を最適化するのに必要な適切なウイルス及びベクター成分の選択に関与する複数の要因を直ぐに理解するであろう。非限定的な一例として、siRNAをコードするDNAを含む組換えアデノウイルスを改変することができる。ウイルスは、細胞が組換えアデノウイルスに感染し、siRNAが転写され、感染した標的細胞で一過性に発現できるように、複製できないように改変できる。組換えウイルスの産生及び使用の詳細は、その全体が出典明示によりここに援用される、PCT国際特許出願公開第2003/006477号に見出すことができる。或いは、例えばpSILENCER ADENO 1.0-CMV SYSTEMTMブランドのウイルス産生キット(Ambion,Austin,Texas,United States of America)などの組換えウイルスを産生するための市販キットを使用することができる。
【0133】
V.C.遺伝子編集
遺伝子産物のダウンレギュレーションは、また、全てがそれらの全体において出典明示によってここに援用される、Zhangの米国特許第8945839号と、そこで引用されている文献、Al-Attar等,2011:Makarova等,2011;Le Cong等,2013;Seung Woo Cho等,2013a、b;Carroll,2012;Gasiunas等,2012;Hale等,2012;及びJinek等,2012に記載されているCRISPR-Cas遺伝子編集システムを使用して達成することができる。幾つかの実施態様では、CRISPR-Cas遺伝子編集システムで使用される方法及び組成物は、幾つかの実施態様では腫瘍及び/又はがん内のガストリン遺伝子配列であるガストリン遺伝子配列を標的とする核酸を含む。
【0134】
V.D.製剤
ここに記載の組成物は、幾つかの実施態様では、薬学的に許容される担体を含む組成物を含む。適切な製剤には、抗酸化剤、緩衝剤、静菌剤、殺菌性抗生物質、及び製剤を意図されるレシピエントの体液と等張にする溶質を含みうる水性及び非水性の滅菌注射液;並びに懸濁剤及び増粘剤を含みうる水性及び非水性の滅菌懸濁液が含まれる。幾つかの実施態様では、本開示の主題の製剤は、アジュバント、任意選択的に油性アジュバントを含む。
【0135】
本方法で使用される組成物は、油性又は水性ビヒクル中の懸濁液、溶液、又はエマルジョンなどの形態をとることができ、懸濁剤、安定化剤、及び/又は分散剤などの配合剤を含みうる。本方法で使用される組成物は、限定されないが、口周囲、静脈内、腹腔内、筋肉内、及び腫瘍内製剤を含む形態をとることができる。或いは、又は加えて、活性成分は、使用前に適切なビヒクル(例えば、発熱物質を含まない滅菌水)で構成するための粉末形態でありうる。
【0136】
製剤は、単位用量又は複数回用量の容器、例えば密封されたアンプル及びバイアルで提供することができ、使用直前に滅菌液体担体を添加することだけを必要とする凍結又はフリーズドライ(凍結乾燥)状態で保存することができる。
【0137】
経口投与の場合、組成物は、結合剤(例えば、アルファ化トウモロコシデンプン、ポリビニルピロリドン又はヒドロキシプロピルメチルセルロース);フィラー(例えば、乳糖、微結晶セルロース又はリン酸水素カルシウム);潤滑剤(例えば、ステアリン酸マグネシウム、タルク又はシリカ);崩壊剤(例えば、ジャガイモデンプン又はデンプングリコール酸ナトリウム);又は湿潤剤(例えば、ラウリル硫酸ナトリウム)などの薬学的に許容される添加物を用いて一般的な技術によって調製される、例えば錠剤又はカプセルの形態をとることができる。錠剤は、当該技術分野で知られている方法によってコーティングされうる。例えば、向神経活性ステロイドは、ヒドロクロロチアジドと組み合わせて、結腸に到達するまで向神経活性ステロイドを保護する腸溶性又は遅延放出コーティングを有するpH安定化コアとして製剤化することができる。
【0138】
経口投与用の液体製剤は、例えば、溶液、シロップ又は懸濁液の形態をとることができ、或いは使用前に水又は他の適切なビヒクルで構成するための乾燥品として提供されうる。そのような液体製剤は、懸濁剤(例えば、ソルビトールシロップ、セルロース誘導体又は水素添加食用脂肪);乳化剤(例えば、レシチン又はアカシア);非水性ビヒクル(例えば、アーモンド油、油性エステル、エチルアルコール又は分別植物油);及び保存料(例えば、p-ヒドロキシ安息香酸メチル若しくはプロピル、又はソルビン酸)などの薬学的に許容される添加物を用いて一般的な技術によって調製することができる。製剤は、必要に応じて、緩衝塩、香味料、着色料、及び甘味料をまた含みうる。経口投与用の製剤は、活性化合物の制御放出をもたらすように適切に製剤化することができる。頬側投与の場合、組成物は一般的な方法で製剤化された錠剤又はトローチ剤の形態をとることができる。
【0139】
化合物はまた、移植又は注射用の製剤として製剤化することもできる。従って、例えば、化合物は、適切な高分子材料又は疎水性材料(例えば、許容される油中のエマルジョンとして)又はイオン交換樹脂を用いて、又は難溶性誘導体として(例えば、難溶性塩として)製剤化することができる。
【0140】
化合物はまた、油中水型エマルジョン、水中油型エマルジョン、又は水中油中水型エマルジョンとして投与される油中に製剤化することもできる。
【0141】
化合物はまた、直腸用組成物(例えば、ココアバター又は他のグリセリドなどの一般的な坐剤基剤を含む坐剤又は停留浣腸)、クリーム又はローション、又は経皮パッチに製剤化することもできる。
【0142】
幾つかの実施態様では、本開示の主題は、ヒトでの使用に薬学的に許容される組成物を用いる。当業者ならば、ヒトでの使用に薬学的に許容される組成物中に存在することができる成分の性質と、またヒトでの使用に薬学的に許容される組成物からどの成分を除外すべきかを理解している。
【0143】
V.E.用量
ここで使用される場合、「治療有効量」、「治療的に有効な量」、「治療量」、及び「有効量」という語句は互換的に使用され、測定可能な応答(例えば、治療対象における生物学的又は臨床的に関連する応答)を得るのに十分な治療組成物の量を指す。本開示の主題の薬学的組成物中の活性成分の実際の投薬量レベルは、特定の対象に対して所望の治療応答を達成するのに有効な量の活性化合物を投与するように変えることができる。選択される投薬量レベルは、治療用組成物の活性、投与経路、他の薬物又は治療との組み合わせ、治療される状態の重症度、治療対象の状態及び以前の病歴などに依存しうる。しかしながら、所望の治療効果を達成するのに必要なレベルよりも低いレベルで化合物の用量を開始し、所望の効果が達成されるまで投薬量を徐々に増加させることは、当業者の技量の範囲内である。
【0144】
治療組成物の効力は変動する場合があり、故に「治療的に有効な量」は変わりうる。しかしながら、当業者であれば、本開示の主題の候補修飾薬の効力及び有効性を容易に評価し、それに応じて治療レジメンを調整することができる。
【0145】
本開示の主題のここでの開示を検討した後、当業者であれば、特定の製剤、組成物と共に使用される投与方法、及び他の要因を考慮して、個々の対象に合わせて投薬量を調整することができる。用量の更なる計算では、対象の身長と体重、症状の重症度とステージ、及び追加の有害な健康状態の存在を考慮することができる。そのような調整又は変更、並びにそのような調整又は変更をいつどのように行うかの評価は、医療分野の当業者にはよく知られている。
【0146】
従って、幾つかの実施態様では、「有効量」という用語は、測定可能な抗腫瘍及び/又は抗がん生物活性をもたらすのに十分な、ガストリンペプチドに対して体液性又は細胞性免疫応答を提供し及び/又は誘導する薬剤を含み、並びに或いはガストリン遺伝子産物の発現を阻害する核酸、その薬学的に許容される塩、その誘導体、又はそれらの組み合わせを含む組成物の量を指すためにここで使用される。本開示の主題の組成物中の活性成分の実際の投薬量レベルは、特定の対象及び/又は用途に対して所望の応答を達成するのに有効な量の活性化合物を投与するように変更することができる。選択される投薬量レベルは、組成物の活性、製剤、投与経路、他の薬物又は治療との組み合わせ、治療される状態の重症度、治療される対象の健康状態及び以前の病歴を含む様々な要因に依存しうる。幾つかの実施態様では、最小用量が投与され、用量制限毒性の非存在下で用量が最小有効量まで増量される。有効用量の決定及び調整、並びにそのような調整をいつどのように行うかの評価は、当業者に知られている。
【0147】
ここに開示される組成物の投与では、マウス動物モデルに投与される用量に基づいてヒト投薬量を推定する一般的な方法を、当業者に知られている技術を使用して実施することができる。この方法では、体重ではなく、所定の代謝及び排泄機能と良好な相関関係が得られるため、薬物用量を体表面積1平方メートル当たりのミリグラムで与えることもできる。更に、体表面積は、Freireich等,1966に記載されているように、成人と小児、並びに様々な動物種の薬物投与量の共通の分母として使用できる。簡単に言えば、任意の所与の種におけるmg/kg用量を等価mg/m用量として表すためには、その用量に適切なkm係数を掛ける。ヒト成人の場合、100mg/kgは100mg/kg×37kg/m=3700mg/mに等価である。
【0148】
製剤と用量に関する追加のガイダンスについては、米国特許第5326902号;第5234933号;PCT国際公開第93/25521号;Remington等,1975;Goodman等,1996;Berkow等,1997;Speight等,1997;Ebadi,1998;Duch等,1998;Katzung,2001;Gerbino,2005を参照のこと。
【0149】
V.F.投与の経路
本開示の組成物は、任意の形態及び/又は任意の投与経路によって対象に投与することができる。幾つかの実施態様では、製剤は、徐放性製剤、制御放出製剤、又は徐放及び制御放出の両方のために設計された製剤である。ここで使用される場合、「徐放」という用語は、ほぼ一定量の活性薬剤が時間の経過と共に対象に利用可能になるような活性薬剤の放出を指す。「制御放出」という語句はより広く、一定レベルである場合もそうでない場合もある、経時的な活性薬剤の放出を指す。特に、「制御放出」は、活性成分が必ずしも一定速度で放出されるわけではない状況及び製剤を包含するが、経時的に放出を増加させること、経時的に放出を減少させること、及び/又は増加放出、減少放出、又はそれらの組み合わせの一又は複数の期間を伴う一定の放出を含みうる。従って、「徐放」は「制御放出」の一形態であるが、後者には、異なる時間に送達される活性薬剤の量の変化を利用する送達様式も含まれる。
【0150】
幾つかの実施態様では、徐放性製剤、制御放出製剤、又はそれらの組み合わせは、経口(oral)製剤、経口(peroral)製剤、頬側製剤、経腸製剤、経肺製剤、直腸製剤、膣製剤、経鼻製剤、舌製剤、舌下製剤、静脈内製剤、動脈内製剤、心臓内製剤、筋肉内製剤、腹腔内製剤、経皮製剤、頭蓋内製剤、皮内製剤、皮下製剤、エアロゾル化製剤、眼用製剤、移植可能な製剤、デポ注射製剤、経皮製剤、及びそれらの組み合わせからなる群から選択される。幾つかの実施態様では、投与経路は、経口(oral)、経口(peroral)、頬側、経腸、肺、直腸、膣、鼻、舌、舌下、静脈内、動脈内、心臓内、筋肉内、腹腔内、経皮、頭蓋内、皮内、皮下、眼、インプラント経由、及びデポ注射経由からなる群から選択される。適用可能な場合、連続注入は標的部位での薬物の蓄積を高めることができる(例えば、米国特許第6180082号を参照)。経皮製剤及び組成物の送達方法に関して、米国特許第3598122号;第5016652号;第5935975号;第6106856号;第6162459号;第6495605号;及び第6582724号;並びに米国特許出願公開第2006/0188558号をまた参照のこと。幾つかの実施態様では、投与は、経口、静脈内、腹腔内、吸入、及び腫瘍内からなる群から選択される経路を介してなされる。
【0151】
ここに開示された方法に従って使用される、本開示の主題の組成物の特定の投与様式は、限定されないが、用いられる製剤、治療される状態の重症度、組成物中の活性薬剤(例えば、PAS)が局所的又は全身的に作用することが意図されているかどうか、投与後の活性薬剤の代謝又は除去の機構を含む様々な要因に依存しうる。
【0152】
VI.方法と使用
幾つかの実施態様では、本開示の主題は、ガストリン関連腫瘍及び/又はがんの治療、ガストリン関連腫瘍及び/又はがんを治療するための医薬の製造、ガストリン関連腫瘍及び/又はがんの増殖の阻害、ガストリン関連腫瘍及び/又はがんに対する体液性及び/又は細胞性免疫応答の誘導及び/又は増強、腫瘍及び/又はがんに対する細胞性免疫応答の誘導剤に対する対象におけるガストリン及び/又はCCK-B受容体シグナル伝達に関連する腫瘍及び/又はがんの感作、特に膵臓がんの観点での腫瘍及び/又はがんに関連する線維形成の予防、軽減、及び/又は排除;ガストリン関連腫瘍及び/又はがんの転移の予防、軽減、及び/又は排除;腫瘍及び/又はがんにおける腫瘍浸潤CD8リンパ球の数の増加;腫瘍及び/又はがんに存在するFoxP3抑制性制御性T細胞の数の低減;及びガストリン関連腫瘍及び/又はがんに応答する対象におけるTEMRA細胞の数の増加に関連した様々な方法及び/又は使用の観点で薬学的組成物を用いることに関する。これらの方法及び/又は使用のそれぞれを、ここで以下により詳細に記載する。
【0153】
加えて、幾つかの実施態様では、本開示の主題は、ガストリン関連腫瘍及び/又はがん及び/又はそれらの前がん病変のイニシエーション及び/又は進行の予防、ガストリン関連腫瘍及び/又はがん及び/又はそれらの前がん病変のイニシエーション及び/又は進行を予防するための医薬の製造、特に膵臓がん及びその前がん病変の観点での腫瘍及び/又はがんに関連する線維形成の予防、軽減、及び/又は排除に関連した様々な方法及び/又は使用の観点で薬学的組成物を用いることに関する。これらの方法及び/又は使用のそれぞれを、ここで以下により詳細に記載する。
【0154】
VI.A.ガストリン関連腫瘍及び/又はがんを治療するための方法
幾つかの実施態様では、本開示の主題は、ガストリン関連腫瘍及び/又はがんを治療するための方法に関する。幾つかの実施態様では、本方法は、それを必要とする対象(例えば、ガストリン関連腫瘍及び/又はがんを有する対象)に、ガストリンペプチド及び/又はCCK-B受容体に対して能動及び/又は受動体液性免疫応答を誘導及び/又は提供する第一の薬剤と;ガストリン関連腫瘍又はがんに対する細胞性免疫応答を誘導及び/又は提供する第二の薬剤とを含む有効量の組成物を投与することを含む。従って、幾つかの実施態様における本開示の方法は、ガストリンペプチド及び/又はCCK-B受容体に対する能動及び/又は受動体液性免疫応答の提供及び/又は誘導と、ガストリン関連腫瘍及び/又はがんに対する細胞性免疫応答の誘導及び/又は提供という二つの異なる免疫治療活性を一緒に提供する一又は複数種の活性薬剤を有する薬学的組成物の使用に依存する。
【0155】
ガストリンペプチド及び/又はCCK-B受容体に対する能動及び/又は受動体液性免疫応答の提供及び/又は誘導に関して、本開示の主題の薬学的組成物中に存在する第一の薬剤は、ガストリンに対して能動体液性応答を誘導するように設計されたガストリンペプチド、並びに/或いはガストリン及び/又はCCK-B受容体、幾つかの実施態様では、ガストリン関連腫瘍及び/又はがん上に存在するCCK-B受容体に対して受動体液性応答を提供するように設計された抗ガストリン抗体及び/又は抗CCK-R抗体からなる群から選択される。如何なる特定の作用理論にも束縛されることは望まないが、ガストリンペプチド及び/又はCCK-B受容体に対する能動及び/又は受動体液性免疫応答は、対象に存在する循環ガストリンの量を減少させることによりCCK-B受容体へのガストリン結合を減少させることにより、並びに/或いは中和及び/又は遮断抗体を用いてCCK-B受容体へのガストリンの結合を妨害することにより、CCK-B受容体を介するガストリン関連腫瘍及び/又はがんにおけるガストリンシグナル伝達を部分的又は完全に阻害するように設計されている。
【0156】
従って、幾つかの実施態様では、第一の薬剤は、ガストリンペプチド、任意選択的に、EGPWLEEEEE(配列番号:1)、EGPWLEEEE(配列番号:2)、EGPWLEEEEEAY(配列番号:3)、及びEGPWLEEEEEAYGWMDF(配列番号:4)からなる群から選択されるアミノ酸配列を含むか、それから本質的になるか、又はそれからなるガストリンペプチドを含み、配列番号:1~4の何れかのアミノ酸位置1のグルタミン酸残基はピログルタミン酸残基である。幾つかの実施態様では、ガストリンペプチドは、薬学的組成物中で、免疫原性担体に、任意選択的にリンカー、更に任意選択的にε-マレイミドカプロン酸N-ヒドロキシスクシンアミドエステルを含むリンカーを介して、コンジュゲートされる。免疫原性担体の非限定的な例には、ジフテリアトキソイド、破傷風トキソイド、キーホールリンペットヘモシアニン、及びウシ血清アルブミンが含まれる。第一の薬剤の構造はここで前により詳細に記載しているが、幾つかの実施態様では、リンカーとガストリンペプチドはアミノ酸スペーサーによって分離され、任意選択的にアミノ酸スペーサーは1と10の間のアミノ酸長であり、更に任意選択的にアミノ酸スペーサーは7アミノ酸長である。
【0157】
この開示を考慮すれば当業者には理解されるように、幾つかの実施態様では、薬学的組成物は、能動抗ガストリン体液性免疫応答が望まれる場合にガストリンペプチド及び/又はガストリンペプチドコンジュゲートの免疫原性を増強するために、アジュバント、任意選択的に油性アジュバントを更に含む。
【0158】
ガストリン関連腫瘍又はがんに対する細胞性免疫応答を誘導するために、本開示の主題の方法は、一又は複数種のチェックポイント阻害剤を含む薬学的組成物を用いる。知られているように、チェックポイント阻害剤は、免疫チェックポイント活性を有する標的ポリペプチドの一つ又は複数の生物学的活性を阻害する。例示的なそのようなポリペプチドには、細胞傷害性Tリンパ球抗原4(CTLA4)ポリペプチド、プログラム細胞死1受容体(PD-1)ポリペプチド、及びプログラム細胞死1受容体リガンド(PD-L1)ポリペプチドが含まれる。幾つかの実施態様では、チェックポイント阻害剤は、PD-1ポリペプチドとPD-L1ポリペプチドとの間の相互作用を阻害し又は防止することによって、結合し、及び/又はT細胞と腫瘍細胞との間の相互作用を妨害する抗体又は小分子を含む。例示的なそのような抗体及び小分子の例には、限定されないが、イピリムマブ、トレメリムマブ、ニボルマブ、ピディリズマブ、ペムブロリズマブ、AMP514、AUNP12、BMS-936559/MDX-1105、アテゾリズマブ、MPDL3280A、RG7446、RO5541267、MEDI4736、アベルマブ及びデュルバルマブが含まれる。
【0159】
本開示の主題の薬学的組成物は、体液性応答と細胞性応答の両方が対象において誘導及び/又は提供されることを条件として、様々な量の第一及び第二薬剤を含み得、薬学的組成物中に存在する第一及び第二薬剤の量を、治療の有効性を最大化し、及び/又はその望ましくない副作用を最小限に抑えるため調整することができる。しかしながら、幾つかの実施態様では、本開示の主題の薬学的組成物は、約50μgから約1000μg、約50μgから約500μg、約100μgから約1000μg、約200μgから約1000μg、及び約250μgから約500μgからなる群から選択される用量で投与され、任意選択的に、その投与は、一回、二回、又は三回繰り返され、任意選択的に、二回目の投与は、初回投与の1週間後になされ、三回目の投与は、投与されるならば、二回目の投与から1週間又は2週間後になされる。
【0160】
幾つかの実施態様では、本開示の主題のガストリン関連腫瘍及び/又はがんを治療するための方法は、それを必要とする対象に、腫瘍/又はがんにおけるガストリンの一つ又は複数の生物学的活性を直接的又は間接的に阻害する第一の薬剤と、腫瘍及び/又はがんに対する細胞性免疫応答の刺激剤を含む第二の薬剤とを投与することを含む。而して、幾つかの実施態様では、第一の薬剤は、ガストリンペプチドに対する体液性免疫応答を提供及び/又は誘導することによって、腫瘍及び/又はがんにおけるガストリンの一つ又は複数の生物学的活性を直接的又は間接的に阻害し、任意選択的に、薬剤は、抗ガストリン抗体及び対象において中和抗ガストリン抗体の産生を誘導するガストリンペプチドからなる群から選択され;並びに/或いはガストリン遺伝子産物の発現を阻害する核酸を含む。ガストリン遺伝子産物の発現を阻害する核酸は、この開示を考慮すれば当業者には理解されるであろうし、例はここで上で検討している。
【0161】
抗ガストリン抗体は当該技術分野で知られており、米国特許第5607676号;第5609870号;第5622702号;第5785970号;第5866128号;及び第6861510号に記載されている。PCT国際特許出願国際公開第2003/005955号及び国際公開第2005/095459号をまた参照のこと。これらの米国特許及びPCT国際特許出願公開公報のそれぞれの内容は、その全体がここに援用される。幾つかの実施態様では、抗ガストリン抗体は、ガストリン-17(G17)内に存在するエピトープに対する抗体である。幾つかの実施態様では、エピトープは、アミノ酸配列EGPWLEEEEE(配列番号:1)、EGPWLEEEE(配列番号:2)、EGPWLEEEEEAY(配列番号:3)、及びEGPWLEEEEEAYGWMDF(配列番号:4)のうちの一つ又は複数の中に存在する。
【0162】
幾つかの実施態様では、本開示の主題の薬学的組成物の対象への投与は、膵臓がんに関連する線維化(線維症)の減少を誘導し、及び/又はその発生を予防する。
【0163】
幾つかの実施態様では、本開示の治療方法は、対象におけるガストリン関連腫瘍及び/又はがんの増殖及び/又は生存を阻害するように設計される。従って、幾つかの実施態様では、本開示の方法は、ガストリン免疫原、一又は複数種の抗ガストリン抗体、一又は複数種の抗CCK-B受容体抗体、又はそれらの任意の組み合わせを含む第一の薬剤と;チェックポイント阻害剤を含む第二の薬剤を含む組成物を対象に投与することを含む。
【0164】
従って、幾つかの実施態様では、本開示の主題は、ガストリン関連腫瘍及び/又はがんを治療する医薬の調製のためのここに開示される薬学的組成物の使用、並びにガストリン関連腫瘍及び/又はがんを治療するためのここに開示される薬学的組成物の使用を提供する。
【0165】
幾つかの実施態様では、ここに開示される多剤薬学的組成物は、同様の対象を何れかの薬剤で個別に治療する場合よりも、ガストリン関連腫瘍及び/又はがんの促進された、より効果的な、及び/又はより成功した治療をもたらす。
【0166】
VI.B.ガストリン関連腫瘍及び/又はがん及び/又はその前がん病変のイニシエーション及び/又は進行を予防するための方法
ガストリン関連腫瘍及び/又はがんを治療するための方法に加えて、幾つかの実施態様では、本開示の主題は、前記ガストリン関連腫瘍及び/又はがん及び/又は未治療のまま放置すると、前記ガストリン関連腫瘍及び/又はがんの発生につながる可能性がある前がん病変のイニシエーション及び/又は進行を予防するための方法に関する。従って、幾つかの実施態様では、本開示の主題は、ガストリン関連腫瘍、がん、及び/又はその前がん病変の発生のリスクのある対象を提供することと、ガストリン免疫原を含む組成物を対象に投与することに関し、ここで、ガストリン免疫原が対象におけるガストリン関連前がん病変の発生を阻害する。
【0167】
ここで使用される場合、「前がん病変」という語句は、未治療のまま放置すると腫瘍及び/又はがんに進行する可能性がある、別の正常細胞と比較して何らかの生化学的変化を受けている細胞又は複数の細胞を指す。例示的な前がん性病変には、限定されないが、未治療のまま放置すると膵臓腫瘍及び/又はがんを引き起こす可能性がある膵上皮内腫瘍(PanIN)病変、及び結腸がんを引き起こす可能性がある腺腫性結腸ポリープが含まれる。
【0168】
従って、幾つかの実施態様では、本開示の主題は、さもなければ起こるであろう生化学的変化が起こらず、並びに/又は生化学的変化の結果が、細胞若しくは複数の細胞が前がん病変を形成しないように、又は前がん病変が腫瘍及び/若しくはがんに進行しないように、部分的、本質的に完全に、若しくは完全に軽減されるように、細胞若しくは複数の細胞に関して介入するための組成物及び方法に関する。幾つかの実施態様では、生化学的変化は、その受容体であるCCK-Bを介したガストリンシグナル伝達から部分的に、本質的に完全に、若しくは完全に生じる。幾つかの実施態様では、介入は、対象において抗ガストリン体液性免疫応答が誘導されるように、細胞又は複数の細胞が存在する対象にガストリン免疫原を投与することに関する。如何なる特定の作用理論にも束縛されることを望まないが、抗ガストリン体液性免疫応答の誘導は、対象において、幾つかの実施態様では対象内に存在する細胞又は複数の細胞自体において、細胞若しくは複数の細胞が前がん病変を形成しないか、又は前がん病変が腫瘍及び/又はがんに進行しないように、ガストリンシグナル伝達を調節する(幾つかの実施態様では阻害する)ように設計される。幾つかの実施態様では、ガストリン免疫原は、ここに記載のPAS及び/又はその誘導体である。
【0169】
VI.C.ガストリン関連腫瘍及び/又はがんに対する細胞免疫応答を誘導及び/又は増強するための方法
本開示の主題はまた対象におけるガストリン関連腫瘍及び/又はがんに対する細胞性免疫応答を誘導及び/又は増強するための方法を提供する。幾つかの実施態様では、本方法は、ガストリン関連腫瘍又はがんを有する対象に、ガストリン関連腫瘍又はがん上に存在するCCK-B受容体を介したガストリンシグナル伝達を低減又は阻害する薬剤を含む有効量の組成物を投与することを含み、それにより、対象のガストリン関連腫瘍及び/又はがんに対する細胞性免疫応答を誘導及び/又は増強する。ここで使用される場合、「ガストリン関連腫瘍及び/又はがんに対する細胞性免疫応答を誘導及び/又は増強する」という語句とその文法的変形語は、ガストリン関連腫瘍又はがん上に存在するCCK-B受容体を介したガストリンシグナル伝達を低減又は阻害する薬剤を含む有効量の組成物を、ガストリン関連腫瘍及び/又はがんを有する対象に投与した結果、T細胞ベースの免疫応答のレベルが、治療がなかった場合に対象に存在していたであろうよりも投与後の関連時間において対象においてより高い状況を指す。ガストリン関連腫瘍又はがん上に存在するCCK-B受容体を介したガストリンシグナル伝達を減少又は阻害する薬剤には、ガストリンペプチドとCCK-B受容体の相互作用を妨害することができるここに開示される薬剤が含まれ、限定されないが、ガストリンペプチド及び/又は免疫原、抗ガストリン抗体、抗CCK-B受容体抗体、ガストリン/CCK-Bシグナル伝達の小分子阻害剤、及びそれらの組み合わせが含まれる。
【0170】
VI.D.細胞免疫応答の誘導剤に対して腫瘍及び/又はがんを感作させるための方法
幾つかの実施態様では、本開示の主題はまた対象におけるガストリン及び/又はCCK-B受容体シグナル伝達に関連する腫瘍及び/又はがんを、腫瘍及び/又はがんに対する細胞性免疫応答の誘導剤に対して感作させるための方法を提供する。ここで使用される場合、「対象におけるガストリン及び/又はCCK-B受容体シグナル伝達に関連する腫瘍及び/又はがんを、細胞性免疫応答の誘導剤に対して感作させる」という語句は、治療がない状態で細胞性免疫応答の一又は複数種の誘導剤が対象に投与される場合の対象における細胞性免疫応答のレベルと比較して、細胞性免疫応答の一又は複数種の誘導剤が対象に投与される場合の対象における細胞性免疫応答のレベルを生じる治療を指す。
【0171】
幾つかの実施態様では、本方法は、ガストリンペプチドに対する能動及び/又は受動体液性免疫応答を誘導及び/又は提供する第一の薬剤と、腫瘍及び/又はがんに対して細胞性免疫応答を誘導及び/又は提供する第二の薬剤、又はそれらの組み合わせを含む組成物を対象に投与することを含み、任意選択的に、第一の薬剤と第二の薬剤は、対象における細胞性免疫応答又は中和抗ガストリン抗体の産生を誘導するガストリンペプチド及び/又はその断片及び/又は誘導体及び中和抗ガストリン抗体及び/又はその断片及び/又は誘導体;並びに/又はガストリン遺伝子産物の発現を阻害する核酸を含む組成物;並びに/又はCCK-B受容体におけるガストリンの生物学的機能を遮断する薬剤を含む組成物からなる群から個別に選択される。幾つかの実施態様では、抗ガストリン抗体は、ガストリン-17(G17)内に存在するエピトープに対する抗体である。
【0172】
従って、幾つかの実施態様では、対象におけるガストリン及び/又はCCK-B受容体シグナル伝達に関連する腫瘍及び/又はがんを細胞性免疫応答の誘導剤に対して感作させるための本方法は、対象におけるガストリンペプチドに対する能動及び/又は受動体液性免疫応答の両方を対象に誘導及び/又は提供するために、並びに腫瘍及び/又はがんに対する細胞性免疫応答を誘導及び/又は提供するためにここに開示された薬学的組成物を対象に投与することを含む。
【0173】
VI.E.腫瘍及び/又はがん及び/又はそれらの前がん性病変に関連する線維化を予防、減少、及び/又は排除するための方法
PDACは高密度の線維化環境によっても特徴付けられ(Neesse等,2011)、これは血管新生の促進に役立ち、化学療法薬及び免疫療法薬の膵臓腫瘍部位への浸透を阻害する可能性のある物理的障壁を作り出す(Templeton及びBrentnall,2013)。ここに開示されるのは、任意選択的に一又は複数種の免疫チェックポイント阻害剤と組み合わせた、PAS投与により、PDAC線維症の特徴である線維化の性質が軽減されうるという予期せぬ驚くべき所見である。如何なる特定の作用理論にも束縛されることは望まないが、線維化の減少は、限定されないがチェックポイントmAbのような高分子を含む他の薬物のより大きな浸透を容易にしうる。これは、おそらくチェックポイントmAbがPDAC細胞に浸透しないため、これまでチェックポイント阻害剤の効果が非常に控えめであると特徴付けられた理由を説明しうる。従って、本開示の主題の一態様は、PAS+免疫チェックポイント阻害剤が、単独療法として与えられた場合には別々に抗PDAC腫瘍活性を有するが、ここに開示されるように併用療法として与えられた場合には、より大きな活性を有するということである。
【0174】
PDACの本質的に線維化の性質に対処し、且つ限定されないが抗免疫チェックポイント阻害剤mAbなどの大きなモノクローナル抗体(mAb)の腫瘍環境への大なる到達性を得るのに有益となる本開示の主題に従って、新規且つ革新的な薬物(例えば、PAS)及び/又は多様ではあるが相補的又は相乗的作用機序さえ有するそれらの組み合わせが提供される。如何なる特定の作用理論にも束縛されることは望まないが、併用療法の一部としてPASと免疫チェックポイント阻害剤を一緒に投与すると、PDACに関連する線維化を減少させることにより、腫瘍が化学療法剤及び免疫チェックポイント阻害剤薬物に到達しやすくなる相乗効果を得ることができ、ガストリン関連腫瘍に対する細胞性免疫応答を誘導するために、抗腫瘍治療薬がPD-1とPD-L1の相互作用を標的にすることを可能にする。
【0175】
PASによる治療は、自己分泌及びパラ分泌腫瘍/がん増殖因子ガストリンに対する体液性免疫応答(つまり、抗体応答)を引き起こす。その際、PASは、細胞増殖、アポトーシス、血管新生、浸潤、及び転移に影響を与えることにより、腫瘍/がん(例えばPDAC)表現型に影響を与える。ここに開示されるように、PASはまた、PDACに関連する線維化を減少させるのにも有効である。如何なる特定の作用理論にも束縛されることを望まないが、これは、限定されないが免疫チェックポイント阻害mAbなどの大きな分子が膵臓腫瘍部位への大なる到達性を獲得する能力を増強すると考えられ、これがついで更により大きな細胞性免疫効果を促進することが予想される。PASはまたガストリンに対する細胞性免疫応答を生じさせる。従って、ここに開示されるのは、効果を得るために腫瘍に到達する必要がある治療薬に対する耐性において、固有の線維化並びにPDACの不応性の性質に対処するために、抗PD-1、抗PD-L1、及び/又は抗CTLA-4 mAbなどの免疫チェックポイント阻害剤の投与と併用したPAS投与によって腫瘍及び/又はがんを治療するための方法である。
【0176】
従って、幾つかの実施態様では、本開示の主題は、腫瘍及び/又はがんの細胞を、腫瘍及び/又はがんにおけるガストリンの一又は複数の生物学的活性を直接的又は間接的に阻害する薬剤と接触させることによって、腫瘍及び/又はがん、任意選択的に膵臓がんに関連する線維形成を予防、減少、及び/又は排除するための方法を提供する。ガストリンの一又は複数の生物学的活性を直接的又は間接的に阻害する薬剤は、ここにおいて上に開示されており、ガストリンペプチドに対して体液性免疫応答を提供及び/又は誘導する薬剤(例えば、限定されないが、抗ガストリン抗体、及び/又はそれらの断片及び/又は誘導体)、及び対象において中和抗ガストリン抗体の産生を誘導するガストリンペプチド;ガストリン遺伝子産物の発現を阻害する阻害性核酸;ガストリンホルモンの機能を遮断する小分子化合物、及びそれらの任意の組み合わせが含まれる。幾つかの実施態様では、抗ガストリン抗体は、ガストリン-17(G17)内に存在するエピトープに対する抗体を含み、このエピトープは、幾つかの実施態様では、アミノ酸配列EGPWLEEEEE(配列番号:1)、EGPWLEEEE(配列番号:2)、EGPWLEEEEEAY(配列番号:3)、及びEGPWLEEEEEAYGWMDF(配列番号:4)の一又は複数内に存在する。
【0177】
ここに開示されたガストリン及びガストリンペプチドの他の免疫原性形態と同様に、幾つかの実施態様では、ガストリンペプチドは免疫原性担体、任意選択的に、ジフテリアトキソイド、破傷風トキソイド、キーホールリンペットヘモシアニン、及びウシ血清アルブミンからなる群から選択される免疫原性担体にコンジュゲートされる。
【0178】
幾つかの実施態様では、腫瘍及び/又はがん、任意選択的には膵臓がんに関連する線維形成を予防、減少、及び/又は排除するための方法は、腫瘍及び/又はがんを、腫瘍及び/又はがんに対する細胞免疫応答の刺激剤を含む第二の薬剤と接触させることを更に含む。細胞性免疫応答の例示的な刺激剤には、限定されないが、イピリムマブ、トレメリムマブ、ニボルマブ、ピディリズマブ、ペムブロリズマブ、AMP514、AUNP12、BMS-936559/MDX-1105、アテゾリズマブ、MPDL3280A、RG7446、RO5541267、MEDI473、及びアベルマブを含む、細胞傷害性Tリンパ球抗原4(CTLA4)、プログラム細胞死1受容体(PD-1)、及びプログラム細胞死1受容体リガンド(PD-L1)からなる群から選択される標的ポリペプチドの生物学的活性を阻害するものなどの免疫チェックポイント阻害剤が含まれる。
【0179】
幾つかの実施態様では、そこでの線維化の形成を予防、減少、及び/又は排除する腫瘍及び/又はがんは、膵臓がんである。
【0180】
VI.F.対象及び対象に存在する腫瘍中のT細胞亜集団を調節するための方法
ここに開示されるように、ガストリン関連腫瘍及び/又はがんを有する対象への本開示の主題の薬学的組成物の投与は、ガストリン関連腫瘍及び/又はがんで治療された対象に存在する循環T細胞亜集団並びに腫瘍及び/又はがん自体の中に存在するT細胞亜集団の両方を改変することが観察された。
【0181】
幾つかの実施態様では、本開示の主題の薬学的組成物を、ガストリン関連腫瘍及び/又はがんを有する対象に投与すると、ガストリン関連腫瘍及び/又はがんに存在するCD8腫瘍浸潤リンパ球(TIL)の数の増加を生じる。TILは抗腫瘍及び抗がん活性を有し、よって腫瘍及び/又はがんにおけるTILの数を増加させると、本開示の主題の薬学的組成物を単独で、又は他の現場で使用されている治療及び/又は二次治療と併用される様々な治療戦略のより高い抗腫瘍及び/又は抗がん効果を生じうることが当該技術分野において認識されている。
【0182】
幾つかの実施態様では、本開示の主題の薬学的組成物をガストリン関連腫瘍及び/又はがんを有する対象に投与すると、ガストリン関連腫瘍及び/又はがんに存在するFoxP3阻害性制御性T細胞(Treg)の数が減少する。Tregは免疫抑制活性、特に腫瘍及びがんに特異的な免疫抑制活性を有し、よって腫瘍及び/又はがんにおけるFoxP3阻害性Tregの数を減少させると、本開示の主題の薬学的組成物を単独で、又は他の現場で使用されている治療及び/又は二次治療と併用される様々な治療戦略のより高い抗腫瘍及び/又は抗がん効果を生じうることが当該技術分野において認識されている。幾つかの実施態様では、腫瘍及び/又はがんにおけるFoxP3阻害性Tregの数を減少させることにより、現場で使用されている化学療法剤の有効性がより高まる可能性がある。
【0183】
幾つかの実施態様では、ガストリン関連腫瘍及び/又はがんを有する対象への本開示の主題の薬学的組成物の投与は、対象における抗ガストリンTEMRA細胞の増加をもたらす。TEMRA細胞は、末梢循環及び組織に見出されるエフェクターメモリーT細胞である。TEMRA細胞は、転移の認識に関与しているかもしれないという点でセンチネル活性を有しているようである。而して、対象における抗ガストリンTEMRA細胞の増加により、ガストリン関連腫瘍及び/又はがんに関連する転移を予防、減少、及び/又は排除できる可能性がある。従って、幾つかの実施態様では、本開示の主題は、ここに開示される薬学的組成物で対象を治療することによって、ガストリン関連腫瘍抗原及び/又はがん抗原を認識するTEMRA細胞並びにこれを発現する細胞を増加させる方法に関する。
【0184】
要約すると、幾つかの実施態様では、本開示の主題は、現場で使用される治療法として単独で、他の現場で使用されている治療法と組み合わせて、又はガストリン関連腫瘍及び/又はがんを有する対象に適切であろう任意の他の療法と組み合わせて、ガストリン関連腫瘍及び/又はがんを治療するための、免疫チェックポイント阻害剤及びガストリン免疫原を含む本開示の組成物の使用に関する。
【0185】
VII.結論
従って、本開示の主題は、幾つかの実施態様では、体液性抗体免疫応答(例えば、ガストリンがんワクチンPASを使用)及び細胞性免疫応答(例えば、ガストリンがんワクチンPAS又は免疫チェックポイント阻害剤を使用)の両方を個別に又は一緒に生成する方法の組み合わせを使用する、がんの治療のための併用療法に関する。より具体的には、細胞性免疫抗腫瘍効果と組み合わせて体液性及び細胞性免疫抗腫瘍応答を生成する、薬物クラスの本記載の組み合わせを使用した、ヒト及び動物胃腸腫瘍の治療における予期せぬ相加的及び/又は相乗的有効性が記載される。
【0186】
より具体的には、本開示の主題は、幾つかの実施態様では、(i)腫瘍増殖因子又は循環腫瘍増殖因子に対する体液性B細胞性免疫応答を誘導し;且つ(ii)腫瘍及び/又はがんに対する細胞性免疫応答(すなわち、抗腫瘍及び/又はがんT細胞応答)を誘導及び/又は増強して、細胞傷害性Tリンパ球応答を誘発する薬物の特定の組み合わせの使用に関する。
【0187】
而して、幾つかの実施態様において、ここに開示されるのは、免疫チェックポイントの失敗を克服する第二の薬物と組み合わせた、ガストリンがんワクチンの組み合わせを使用して、ヒト及び動物の腫瘍及びがんを治療する方法である。従って、幾つかの実施態様では、本開示の主題は、B細胞及び/又は抗体免疫応答、並びに増殖因子ガストリンの活性型に対する細胞性免疫応答を誘発することに向けられたがんワクチンを用いて特定のヒトがんを治療することに関し、このワクチン治療はまた免疫チェックポイント阻害剤での治療に対して腫瘍をより応答性にし、よって抗腫瘍効果を高めた予想外の相加的な、又は相乗的な併用治療効果さえ生じるという予期せぬ所見を伴う。
【0188】
加えて、本開示の主題の薬学的組成物は、CD8+腫瘍浸潤リンパ球の数を増強するのに十分な量のここに開示された薬学的組成物を、ガストリン関連腫瘍又はがんを有する対象に投与することによって、ガストリン関連腫瘍又はがんの転移を予防、減少、及び/又は排除するために用いることができる。幾つかの実施態様では、投与により、薬学的組成物が投与されなかった場合に起こるであろうものと比較して、対象の生存期間が改善され、腫瘍増殖が減少し、及び/又は対象における化学療法剤及び/又は免疫チェックポイント療法の有効性が増強される。
【実施例
【0189】
次の実施例は、例証的な実施態様を提供する。本開示及び当業者の一般的なレベルを考慮すると、当業者であれば、次の実施例が例示のみを意図しており、本開示の主題の範囲から逸脱することなく数多くの変化、修正、及び変更を採用できることが理解されるであろう。
【0190】
[実施例のための材料と方法]
細胞株:マウスmT3膵臓がん細胞を、David Tuveson博士の研究室から入手した(Cold Spring Harbor Laboratories,Cold Spring Harbor,New York,United States of America;Boj等,2015も参照)。これらの細胞は、CCK-B受容体を発現し、ガストリンを産生することが示されており、腫瘍モデルとして使用した。これらの細胞は、同系C57BL/6マウスに腫瘍を生成する(Smith等,2018)。
【0191】
試験デザイン:全ての動物試験は、ジョージタウン大学(Washington D.C.,United States of America)の施設内動物管理使用委員会(IACUC)によって承認されたプロトコル下で倫理的な方法で実施した。40匹の雄(6週齢)野生型C57BL-6マウスの側腹部に500000個の細胞を皮下注射した。接種後6日目に、マウスの100%に触知可能な腫瘍があり、ベースラインの腫瘍体積が全ての群で等しくなるように、それぞれn=10匹のマウスからなる四(4)群のうちの一つに割り当てた。群は次の通りであった:
1. PBS対照(PBS)
2. PAS 100μg(PAS100)
3. PD-1 Ab 150μg(PD-1)
4. PD-1 Ab(150μg)+PAS 100μg(PD-1+PAS100)
【0192】
mT3細胞を注射してから1週間(7日)後、非対照群のマウスは、次のようにPAS及び/又はPD-1 Abの投与を受けた:マウスがPASを投与される群の場合は、PASを、無作為化時(ベースライン時=0)に腹腔内注射として開始して100μlを、また1週目と3週目に再び、注射した。PD-1抗体(Bio X cell,West Lebanon,New Hampshire,United States of America)は、適切なマウスに試験期間中、5回(t=0、4、8、15、及び21日目)、150μgの用量を腹腔内投与した。対照マウスには、PASを投与したのと同じ日にPBSを投与した。腫瘍体積をキャリパーで毎週測定し、L×(w)×0.5として計算した。
【0193】
組織学的検査:31日間の成育後、マウスをCO窒息と頸椎脱臼によって倫理的に安楽死させた。マウスの体重を量り、膵臓腫瘍を切除し、秤量した。腫瘍を分割し、腫瘍の半分を、組織学的検査のために4%のパラフィンを含むホルムアルデヒドで固定し、残り半分を液体窒素で急速冷凍した。腫瘍関連線維化をマッソントリクローム染色で評価した。マッソントリクロームの解析は、ImageJ画像処理及び解析ソフトウェア(米国国立衛生研究所(NIH)(Bethesda,Maryland,United States of America)のWayne Rasbandによって開発、NIHのウェブサイトから入手可能)を使用して、治療について知らされていない技師によって行われた。
【0194】
免疫組織化学的検査では、腫瘍をパラフィン包埋ブロックから切片化し(10μm)、スライド上に固定した。腫瘍切片を、抗CD8抗体(1:75;EBIOSCIENCETM,San Diego,California,United States of America);又は抗Foxp3抗体(1:30;EBIOSCIENCETM)の何れかで染色した。免疫反応性細胞を手動でカウントした。
【0195】
脾臓T細胞の分離:各動物から脾臓を取り出し、秤量し、5mlのRPMI1640培地を含む60mmのディッシュに入れた。脾臓はかみそりの刃を使用して機械的に刻んだ。脾臓組織を含む培地を、100μMのセルストレーナーを通して50mlのチューブに濾過し、最終容量が40mlになるまで培地で数回すすいだ。ついで、脾臓組織を、40μMのセルストレーナーを使用して50mlのチューブに再度濾過し、1500rpm、4℃において5分間遠心分離して細胞をペレット化した。上清を除去し、細胞ペレットを40mlのPBSに再懸濁した後、4℃において1500rpmで5分間の遠心分離によって細胞を再ペレット化した。上清を捨て、細胞ペレットを3mlの洗浄緩衝液(2mMのEDTA及び0.5%のウシ血清アルブミンを含むPBS)に再懸濁し、ついで15mlのチューブ中の5mlのフィコール培地の上にゆっくりと加えた。減速をゼロに設定し、2100rpmで20分間遠心分離した後、リンパ球を緩衝液とFicollの間の白層から収集した。リンパ球を更に二回洗浄し、培地に再懸濁し、カウントした。
【0196】
フローサイトメトリー。100万個のリンパ球を5mlの透明チューブ(カタログ番号352054;BD Falcon,Bedford,Massachusetts,United States of America)に加え、PBSで体積を等量にし、細胞を1500rpmで5分間ペレット化した。PBSで洗浄した後、50μlの予め希釈したZOMBIE NIRTMブランドの固定可能な生存率溶液(BIOLEGEND(登録商標),San Diego,California,United States of America)を細胞に添加し、ついで暗所で室温において20分間インキュベートした。細胞を洗浄し、ついで5μlの精製ラット抗マウスCD16/CD32(マウスBD Fc BLOCKTMブランド試薬;BD Biosciences,San Jose,California,United States of America)を添加し、20分間インキュベートすることによってブロックした。
【0197】
表1に列挙した抗体をリンパ球と反応させ、375nm、405nm、488nm及び633nmレーザーラインを備えたFACSARIATMIIuブランドのセルソーター(BD Biosciences)を使用してフローサイトメトリーを実施した。
【0198】
【0199】
再刺激用。100万個又は200万個の単離し洗浄したリンパ球を、2枚の複製プレートの6ウェルプレートの各ウェルに加え、それぞれ容量を同じ(2又は3ml)にした。ブレフェルジンA溶液(BIOLEGEND(登録商標)、1000X、カタログ番号420601)を各ウェルに1μl/mlで添加した。1μMのガストリン-14(アミノ酸配列pEGPWLEEEEEAYGW(配列番号:5)を有するSigma Aldrichカタログ番号SCP0152)を、一つのプレートに対して1μl/mlで各ウェルに添加し、最終ガストリン濃度を1nMとした。もう一つの複製プレートはガストリン-14で処理せず、対照とした。6ウェルプレートを37℃において細胞培養インキュベーターに6時間配した。ついで、細胞を取り出し、洗浄し、Intracellular Fixation & Permeabilization Buffer Set(細胞内固定・透過処理緩衝液セット(EBIOSCIENCETMカタログ番号88-8824-00)を使用して透過処理した。表2に列挙した4つの抗体を含むサイトカイン抗体マスターミックス(8サンプルに対して4抗体、従ってマスターミックスを作製するには各抗体10μl)を加え、4℃において一晩インキュベートした。
【0200】
【0201】
ガストリン又はPBSで再刺激した細胞中のサイトカインを解析するためにフローサイトメトリーを実施した。フローサイトメトリーデータの解析は、FCSExpress-6ソフトウェア(De Novo Software,Glendale,California,United States of America)を使用して行った。
【0202】
動物。マウスにおける全ての試験は、ジョージタウン大学(Washington D.C.,United States of America)の施設内動物管理使用委員会(IACUC)の承認下で倫理的な方法で実施した。予防試験では、トランスジェニックLSL-KrasG12D/+;P48-Creマウスコロニーからの雄雌両方の同腹仔をこの試験において使用した。このモデルは以前に特徴付けされており、3か月までに前がん性PanIN病変を、また時間の経過と共に膵臓がんを発症することが示されている。マウスは21日齢までに離乳させ、遺伝子型を同定し、LSL-KrasG12D/+;P48-Cre(KRAS)遺伝子型を有するマウスを、PanIN進行及び膵臓がんの予防におけるPASワクチン接種の能力を試験するために使用した。
【0203】
治療。19匹の年齢を一致させたKRAS同腹仔(雄と雌)を、対照/未治療(n=9)とPAS治療(n=10)の二群に分けた。マウスが3か月齢、つまりPanIN病変が発生する年齢のとき、PASマウスに、ベースライン、1週目及び3週目に開始用量のPAS250μgを皮下(sc)投与した。この開始後、PAS治療マウスには、マウスが8か月齢に達するまで、合計4回の追加免疫に対して4週間ごとにPAS250μgの追加免疫用量を皮下投与した。PAS治療と対照の全てのマウスは、8か月齢で倫理的に安楽死させた。
【0204】
組織学的検査及びPanINスコアリング。膵臓を解剖し、パラホルムアルデヒドで固定し、パラフィン包埋した。組織切片(5μm)をマウントし、ヘマトキシリン・エオシンで染色した。組織切片は、治療を知らされていない病理医によって、最も高い悪性度のPanIN病変及び膵臓を置き換えるPanINのパーセンテージについてスコア付けされた。膵臓切片は、Smith等,2014に記載されているようにPanINのステージに従って、また前がん性PanIN病変で置き換えられた正常膵臓組織のパーセンテージに従ってスコア付けされた。
【0205】
膵臓の特殊な染色。膵臓組織内の線維化は、マッソントリクローム染色によって評価した。DP73カメラを備えたOlympus BX61顕微鏡を使用して、全てのスライドの画像を撮影した。線維化の定量的濃度測定は、Image Jコンピュータソフトウェアで解析した。
【0206】
免疫組織化学的染色手順。M2分極腫瘍関連マクロファージ(TAM)に対するPASワクチン接種の効果を試験するために、試験した全ての症例のホルマリン固定パラフィン包埋組織ブロックの5μm厚の切片を、標識ストレプトアビジン-ビオチン-ペルオキシダーゼ複合体技術を用いて1:1800希釈でアルギナーゼ-1に対するウサギポリクローナル抗体(カタログ番号PA5-29645、Thermo Fisher Scientific Inc,Waltham,Massachusetts,United States of America)の存在を調べた。簡単に言うと、組織切片を脱パラフィンし、キシレンと下降等級のアルコールで水和させた。PBSですすいだ後、熱誘起エピトープ回復(HIER)を、PT Link(Dako)内の低pHのTarget Retrieval Solution(Dako North America Inc.,Carpinteria,California,United States of America)に組織切片を浸漬することにより、実施した。内因性ペルオキシダーゼ活性を、3%の過酸化水素中でスライドを10分間インキュベートすることによってブロックし、10%の正常ヤギ血清で更に10分間のブロックを実施してバックグラウンドを低減し、ついで緩衝液で洗浄した。これに続いて、一次抗体(アルギナーゼ-1)と共に室温において1時間インキュベートした。スライドを適切なHRP標識ポリマーに30分間曝露した。抗体反応は、色素原としてジアミノベンジジン(DAB)を使用して検出した。切片をヘマトキシリンで対比染色した。正常膵臓組織を陽性対照として使用する一方、陰性対照は、同じ組織(正常膵臓)を使用し一次抗体を省いたものとした。
【0207】
統計解析。対照未治療マウスとPAS治療マウスとの間の差異は、MINITAB(バージョン19)統計解析プログラムを使用して決定した。平均値はStudentのT検定によって比較し、有意性は95%又はp<0.05の信頼レベルに設定した。
【0208】
実施例1
マウスでの腫瘍形成
PAS治療が体液性及び細胞性免疫応答の両方を誘導し、免疫チェックポイント抗体療法に相乗的効果をもたらしたかどうかを決定するために、免疫適格マウス(例えば、マウスmT3膵臓がん細胞と同系のC57BL/6マウス)に、0.1mlのPBS中の5×10のマウスmT3膵臓がん細胞を側腹部に皮下投与することによって、腫瘍を形成させた。腫瘍が定着するまで1週間待った後、図1に示されるように、マウスをPASと一又は複数種の免疫チェックポイント阻害剤で治療した。
【0209】
mT3膵臓がん細胞接種の1週間後に、この時間枠で、試験中の全ての動物が触知可能な皮下腫瘍を有し、治療が腫瘍イニシエーションを妨げないことが担保されたので、動物の治療を開始した。主要エンドポイントは、腫瘍の増殖と生存期間であった。腫瘍の増殖をノギスで毎週測定し、腫瘍の体積をL×W×0.5として計算した。腫瘍を切除し、限定されないが、腫瘍浸潤リンパ球(TIL)及び制御性T細胞(Tregs)を含む免疫細胞について免疫組織化学的検査により組織学的に調べた。腫瘍をPDACに典型的に関連する線維化の発生の有無と程度についても調べた。脾臓を摘出し、T細胞を単離してガストリンで再刺激した。細胞は、サイトカインの関連抗体パネルで標識し、フローサイトメトリーで特徴付けした。
【0210】
各実験では40匹のマウスを用い(n=1群当たり10匹;図1参照)、これに5×10の膵臓マウスがん細胞を移植した。mT3マウス膵臓腫瘍を担持する免疫適格な同系マウス群を、PBS(陰性対照)、PAS単独療法(腫瘍細胞接種から0、1、2、及び3週目に1投与当たり100μg)、免疫チェックポイント阻害剤(初回PASワクチン接種から0、4、8、15、及び21日目に1投与当たり150μg)として抗PD-1抗体(PD1-1抗体;Bio X cell,West Lebanon,New Hampshire,United States of America)、又はPASワクチン接種(腫瘍細胞接種から0、1、2、及び3週目に1投与当たり100μg)と免疫チェックポイント阻害剤(初回PASワクチン接種から0、4、8、15、及び21日目に1投与当たり150μg)の組み合わせで治療した。プログラム細胞死タンパク質1に特異的な免疫チェックポイント遮断抗体(PD1-1 Ab;Bio X cell,West Lebanon,New Hampshire,United States of America)を腹腔内投与した。データを以下の表3と図2にまとめる。
【0211】
【0212】
PBS対照マウスとPD-1及びPAS100治療群の両方のマウスの腫瘍重量の間のグラムでの最終腫瘍重量に統計的差異はなかった。対照的に、PD-1とPAS100の組み合わせで治療したマウスは、PBS対照(p=0.014)及びPD-1対照(p=0.0017)と比較して、腫瘍が有意に小さかった。更に、PD-1とPAS100の併用治療では、PAS100単独療法よりも腫瘍はまた有意に小さかった(p<0.05)。
【0213】
実施例2
CD3高分化型T細胞亜集団におけるTEMRACD4/CD8細胞の分析
実施例1に記載したように、マウスに腫瘍を誘発した。Tリンパ球を、PBS、PD-1 Ab、PAS100、又はPAS100+PD-1 Abで治療したマウスから単離した脾臓末梢血単核細胞(PBCM)から単離した。様々なT細胞亜集団を、表1に列挙された抗体を使用するフローサイトメトリーによって同定した。特に、CD3/CD4/CD8であった第一のT細胞亜集団を単離し、この亜集団からCD3/CD4/CD8/CD44/CD62LであったTEMRA細胞を表す更なる亜集団を単離した。PBS、PD-1 Ab、PAS100、又はPAS100+PD-1 Abで治療したマウスに存在するこれら様々な亜集団のパーセンテージと比率を決定し、その結果を図3A及び3Bに示す。
【0214】
図3Aは、PBS、PD-1 Ab、PAS100、又はPAS100/PD-1で治療したマウスにおけるCD3T細胞中のTEMRA細胞(CD3/CD4/CD8/CD44/CD62L)のパーセンテージを示す。図3Bは、TEMRA細胞であった各治療群中のCD3/CD4/CD8細胞の比率を示す。
【0215】
治療群間での最も顕著な差異は、PAS100ではPBSよりCD4/CD8EMRA細胞が少なかったが、PAS100+PD-1治療ではPBSと比較して同様のCD4/CD8EMRA細胞が生じたことである。PAS100/PD1で治療されたマウスのT細胞中のTEMRA細胞(CD3/CD4/CD8/CD44/CD62L)の部分は、PBS又はPAS100単独で治療されたマウスの部分の2倍以上であったが、これはTEMRA細胞(CD3/CD4/CD8/CD44/CD62L)がガストリン関連腫瘍及びがんを防ぎそれと戦うのに優れていることを示唆している。
【0216】
実施例3
PAS100でのサイトカイン活性化アッセイ
PAS100で治療されたマウスから単離された脾臓末梢血単核細胞(PBMC)からTリンパ球を単離した。これらの細胞は、これらがインターフェロン-γ(INFG)、グランザイム-B(グランザイム)、パーフォリン、及び腫瘍壊死因子-α(TNFα)へのサイトカイン活性化によって確かに活性化されたT細胞であったかどうかを判定するためにフローサイトメトリーによって解析した。結果は図4A及び4Bに提供される。
【0217】
図4Aは、PAS100で治療されたマウスから単離されたT細胞が確かに活性化されたことを示している。これら同じ細胞を培養中にガストリンで6時間再刺激すると(図4Bを参照)、細胞が再刺激され、より多くのサイトカインを放出したが、これは、PAS100ワクチン接種がT細胞を刺激したこと、更にこれらT細胞がガストリンに特異的に反応したことを裏付けている。
【0218】
実施例4
PAS100とPAS+PD-1併用療法との比較
PAS100又はPAS100とPD-1の組み合わせで治療されたマウスから単離された脾臓PBMCからTリンパ球を単離した。細胞を、これらがインターフェロン-γ(INFG)、グランザイム-B(グランザイム)、パーフォリン、及び腫瘍壊死因子-α(TNFα)へのサイトカイン活性化によって確かに活性化されたT細胞であったかどうかを判定するためにフローサイトメトリーによって解析した。結果は図5A及び5Bに提供される。
【0219】
PAS100単独で治療されたマウスの活性化Tリンパ球は、PBS処置マウスのリンパ球と比較して増加したサイトカインを放出した(図5A参照)。しかし、併用治療マウスのリンパ球は顕著に更に多くのサイトカインを放出したが(図5B参照)、これは、併用療法が活性化T細胞の刺激においてより良好であったことを示唆している。特にTNFαは、PAS100単独での治療と比較して、PAS100+PD-1 Ab併用療法で2倍を超えて増加した(図5A及び5Bを比較のこと)。
【0220】
実施例5
線維化に対するPD-1単独療法、PAS100単独療法、及びPD-1+PAS100併用療法の効果の解析
PBS、PD-1単独、PAS100、又はPAS100+PD-1で治療されたマウスの腫瘍を4%のパラホルムアルデヒドで固定し、パラフィン包埋し、8μmの切片を切り出しマウントした。組織切片を、線維化についてマッソントリクロームで染色した。
【0221】
マッソントリクロームで染色された代表的な切片を図6Aに示す。線維化の定量的スコアを、ImageJ画像処理及び解析ソフトウェアを使用したコンピュータプログラムによって解析し、その結果を図6Bに示す。注目すべきは、PD-1単独療法及びPAS100単独療法で治療された腫瘍の統合密度は陰性対照PBS処置とは僅かな差であったが、PAS+PD-1 Ab併用療法は、PBS単独(p<0.005)及びPAS100単独(p<0.001)と比較して統計的に有意であった密度(従って線維化)の低下をもたらした。
【0222】
実施例6
CD8T細胞浸潤に対するPD-1単独療法、PAS100単独療法、及びPD-1+PAS100併用療法の効果の解析
腫瘍を4%のパラホルムアルデヒドで固定し、パラフィン包埋し、8μmの切片を切り出しマウントした。CD8リンパ球は、腫瘍微小環境においてCD8抗体(1:75力価;EBIOSCIENCETM,San Diego,California,U1SA)で染色し、CD8細胞を盲検式に手動でカウントした。結果は図7A及び7Bに提供される。
【0223】
図7A及び7Bに示されるように、CD8腫瘍浸潤リンパ球(TIL)はPAS100単独及びPD-1単独で増加したが、併用療法では顕著に増加した。PAS100+PD-1の組み合せでのCD8細胞は、PD-1単独(p=0.042)よりも有意に多く、PAS100単独(p=0.039)よりも多かった。
【0224】
実施例7
Foxp3reg浸潤に対するPD-1単独療法、PAS100単独療法、及びPD-1+PAS100併用療法の効果の解析
腫瘍を4%のパラホルムアルデヒドで固定し、パラフィン包埋し、8μmの切片を切り出しマウントした。腫瘍を抗Foxp3抗体(1:30力価;EBIOSCIENCETM)と反応させ、免疫反応性細胞を、ImageJソフトウェアを使用して手動でカウントした。結果は図8A及び8Bに提供される。
【0225】
図8Aは、TregのマーカーであるFoxp3タンパク質に結合する抗体で染色された例示的なmT3腫瘍を示す。視野の比較では、PBS(左上のパネル)、PD-1単独療法(右上のパネル)、又はPAS100単独療法(左下のパネル)と比較して、PAS100+PD-1併用療法では、腫瘍内Tregの存在が減少したことが示され、これは、PAS100+PD-1併用療法が、何れかの単独療法のみと比較して、腫瘍内環境を、腫瘍内微小環境がTregベースの免疫抑制の程度が低いことを特徴とする程度まで改変する可能性を示唆している。
【0226】
図8Bは、図8Aによって例証されたデータを要約した棒グラフである。PBSと比較して、PD-1単独療法又はPAS100単独療法で治療した腫瘍内のFoxp3細胞の数には有意な差はなかった。PAS100+PD-1 Ab併用療法で治療した腫瘍では、陰性対照よりもFoxp3細胞が有意に少なかった。
【0227】
実施例8
PanINに対するPASワクチン接種の効果
PASによる治療を、マウスが3か月齢になったときに開始したが、そのとき、膵臓は既にPanINを樹立していた。8か月齢で安楽死させたとき、対照マウスの67%に高悪性度のPanIN-3病変があり、33.3%に浸潤癌があった。対照的に、年齢を合わせたPAS治療マウスの組織学的病期は著しく低く、20%がPanIN-2期であり、浸潤癌はわずか10%であった。H&E染色を施した対照膵臓の代表的な写真を、倍率10Xで図9A~9Cに示す。これらの図は、正常な膵臓構造の完全な破壊と広範な線維化を伴う高悪性度のPanINを示している。浸潤がんは対照マウスの膵臓に見られた(図9C)。対照的に、PAS治療マウスからの膵臓の代表的な写真(図9D~9F)は、初期ステージの低悪性度のPanINと多くの保存された正常な膵臓腺房細胞を示した。対照膵臓の低倍率画像(4X)では、PanIN病変及び線維化を伴う膵臓組織のほぼ完全な置換が示され(図9G)、同じ倍率では、PAS治療膵臓では膵臓構造が保存されたPanINが減少していることが示された(図9H)。PAS治療マウスにおけるPanIN形成を免れた正常膵臓の程度は、対照マウスにおけるよりも60%高かった。
【0228】
実施例9
膵線維化の解析
膵臓がんの特徴の一つは、腫瘍への化学療法剤(Waghray等,2013)及び免疫細胞(Salmon等,2012;Zheng等,2013)の透過性を低下させる、腫瘍を取り囲む高密度の線維組織の形成(Apte等,2004)である。対照マウスの膵臓ではマッソントリクローム染色により広範な線維化が見出されたが(図10A)、PAS治療マウスでは観察された線維化は顕著に少なかった(図10B)。形態計測コンピュータ解析による線維化密度の定量では、対照マウスの膵臓と比較して、PASをワクチン接種したマウスでは膵臓組織の線維化の量が50%少なく、この差は有意である(p=0.0001)ことが示された。
【0229】
実施例10
PASワクチン接種は腫瘍形成促進性M2マクロファージを減少させた
膵臓癌発生中、PanIN病変を取り囲む微小環境では腫瘍形成促進性マクロファージの数が増加する(Vonderheide及びBayne,2013;Zheng等,2013)。発癌促進性マクロファージはアルギナーゼ陽性に染色され、M2マクロファージとして分極する(Pollard,2009)。アルギナーゼ陽性マクロファージは、対照マウスの膵臓に豊富に存在した(図11A及び11B)。対照的に、PAS治療マウスでは、膵臓微小環境中のM2マクロファージが有意に少なかった(図11C及び11D)。M2マクロファージ数のコンピュータ解析により、PAS治療マウスでは対照マウスよりもアルギナーゼ陽性マクロファージが4倍少ないことが明らかになり(図11E)、これは、PASワクチン接種が膵臓の腫瘍形成性を低下させたことを示唆している(p<0.001)。
【0230】
[実施例の考察]
ここに記載されるのは、膵臓がん及び膵臓の前がん病変の進行が、ガストリンを標的とするワクチンによって予防できることを実証した実験である。PASは、変異KRASマウスのPanINステージを低下させるだけでなく、がんの発生率も低下させた。部分的には、この効果は、ワクチン接種に応答して産生される抗ガストリン抗体の中和効果によって媒介される。CCK-B受容体は初期のPanIN病変で発現されるようになり(Smith等,2014)、この受容体のガストリン活性化は上皮細胞増殖を伴う下流のシグナル伝達を誘導するため、受容体界面でのガストリンの作用の妨害がPanIN抑止をもたらした可能性が最も高い。PASをワクチン接種されたマウスは、ガストリンに対する中和抗体の力価が高い(Osborne等,2019b)。
【0231】
本開示の主題の別の重要な発見は、PAS治療マウスにおける膵臓微小環境の変化に関与する。膵臓癌発生中、膵星細胞は活性化された筋線維芽細胞になり、膵臓にコラーゲン性線維形成を起こさせる(Apte等,2004)。星細胞はまたCCK-B受容体を有しており(Berna等,2010)、これら受容体のガストリン活性化を阻害すると、微小環境の線維化が減少した。膵臓微小環境の線維芽細胞は、がん上皮細胞及び免疫細胞とコミュニケートし、サイトカインの活性化を生じる。この免疫活性化により、正常な膵臓組織の破壊と、前がん性PanIN病変での置換に至る。実際、PAS治療マウスでは、正常な膵臓と腺房細胞の大部分が保護された。以前には、PASとPD-1抗体の組み合わせで治療した膵臓腫瘍担持マウスで腫瘍内線維化が減少するが、PAS又はPD-1抗体での単独療法では線維化を減少させることができなかったことが示されていた(Osborne等,20191;Osborne等,2019b)。ここに開示されるPAS単独療法による線維化の顕著な減少についての一つの可能な説明は、ここに記載される実験では、PASが、以前の試験の腫瘍担持マウスと比較して、KRASマウスにおいてより長い期間(すなわち、数か月対数週間)投与され、また数回の追加免疫が施されたことでありうる。また、ここで用いられたより多い用量がより効果的であった可能性もある。
【0232】
膵臓癌発生を促進するもう一つの重要な免疫細胞は、M2マクロファージである。未治療の変異KRASマウスの膵臓微小環境には、癌発生中に豊富なM2アルギナーゼ陽性マクロファージが浸潤するようになる。PASワクチン接種は、これらの腫瘍関連マクロファージの流入と分極を抑制し、膵臓微小環境の発癌性を低下させた。
【0233】
現在、膵臓がんを予防するための予防検査又は治療法はない。我々の研究から直ちに恩恵を受ける集団には、膵臓がんのリスクが高いと考えられる集団、例えば膵臓がん、慢性膵炎、又は新たに発症した糖尿病の家族歴がある集団が含まれる。BRCA2生殖細胞系列の変化又は遺伝性膵炎のある集団もまたワクチン接種の恩恵を受ける場合がある。現在、高リスク又は家族歴のある集団は、MRI画像監視、時には超音波内視鏡検査を受けるが、これらの技術は監視のみを目的としており、予防的ではない。免疫予防薬としてのPASを発生させるための一つの戦略は、膵臓がん発症のリスクが高い集団にワクチン接種をすることであろう。ワクチン接種は、腫瘍の再発を防ぐために、膵臓がんの切除/ウィップル手術が成功した患者にも使用できる可能性がある。膵臓がん集団の最大20%で根治的切除が試みられているが、この集団の5年生存率は顕微鏡的疾患の再発により依然としてせいぜい20~30%に過ぎない。PASワクチン接種は、手術後の再発の減少と高リスク集団におけるがん予防のための新しいアプローチを提供する可能性がある。
【0234】
要約すると、ここに開示されているのは、ポリクローナル抗体刺激剤(PAS)であるガストリン標的ワクチンが膵臓がん又はその前駆体のイニシエーション及び/又は進行を予防する能力を調査するために前がん性膵上皮内腫瘍(PanIN)病変及び膵臓がんを経時的に発症するトランスジェニックLSL-KrasG12D/+;P48-Creマウスを用いた実験である。マウスを、3か月齢で開始してPAS(250μg)で治療し、マウスが8か月齢に達するまで毎月追加免疫を施した。膵臓は、治療を知らされていない病理医による組織学的分析のために切除され、固定され、パラフィン包埋された。PanINステージと正常な膵臓組織を置き換えるPanINの程度は、PAS治療マウスにおいて低下した。8か月齢の時点で、未治療のKRAS対照マウスの33%においてがんが発生したが、PAS治療マウスでは10%のみで発生した。対照マウスと比較して、PASで治療されたマウスの膵臓では、線維化が50%を超えて減少し、アルギナーゼ陽性腫瘍関連マクロファージが74%減少した。
【0235】
従って、本開示の主題は、PAS投与を、膵臓がんと他の関連するガストリン関連障害の治療法として使用できるだけでなく、そのイニシエーション又は進行を予防するためにもまた使用できることを提示する。
【0236】
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限定されないが、全ての特許、特許出願及びそれらの公報、科学雑誌記事、及びデータベースエントリー(限定されないが、GENBANK(登録商標)生物配列データベースエントリー及びその中で利用可能な全ての注釈を含む)を含む本開示に列挙された全ての参考文献は、それらがここで用いられる方法論、技術、及び/又は組成物を補足し、説明し、その背景を提供し、及び/又は教示する範囲で、その全体が出典明示によってここに援用される。参考文献の検討は、単にその著者がなした主張を要約することを意図している。如何なる参考文献(又は如何なる参考文献の一部)も関連する先行技術であるという自認はしない。本出願人は、あらゆる引用参考文献の正確性と妥当性については異議を唱える権利を留保する。
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【0238】
本開示の主題の様々な詳細は、本開示の主題の範囲から逸脱することなく変更されうることが理解されるであろう。更に、前述の説明は例証のみを目的としており、限定を目的とするものではない。
図1
図2
図3
図4
図5
図6A
図6B
図7A
図7B
図8A
図8B
図9
図10
図11
【配列表】
2024504924000001.app
【国際調査報告】