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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-02-02
(54)【発明の名称】生物学的材料の保存方法および装置
(51)【国際特許分類】
   C12M 1/38 20060101AFI20240126BHJP
   C12M 3/00 20060101ALI20240126BHJP
   C12N 1/04 20060101ALI20240126BHJP
   C12N 5/078 20100101ALI20240126BHJP
【FI】
C12M1/38 Z
C12M3/00 Z
C12N1/04
C12N5/078
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023542813
(86)(22)【出願日】2021-01-14
(85)【翻訳文提出日】2023-09-12
(86)【国際出願番号】 AU2021050024
(87)【国際公開番号】W WO2022150870
(87)【国際公開日】2022-07-21
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】521225247
【氏名又は名称】ヴィトラフィー ライフ サイエンシズ リミテッド
【氏名又は名称原語表記】VITRAFY LIFE SCIENCES LIMITED
【住所又は居所原語表記】Level 1,47 Sandy Bay Road,Hobart,Tasmania 7000,AUSTRALIA
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】キャメロン,ショーン
(72)【発明者】
【氏名】オーウェンズ,ブレント
(72)【発明者】
【氏名】テイラー,ブライアン
【テーマコード(参考)】
4B029
4B065
【Fターム(参考)】
4B029BB11
4B029CC01
4B029DD04
4B029DF01
4B065AA94X
4B065BD12
4B065CA44
(57)【要約】
生物学的材料を保存するための装置(10)。当該装置(10)は、外側断熱タンク(2)内に配置されるように構成されたインサート(4)を有し、該インサート(4)は、生物学的材料を受容するためのコンパートメント(6)を画定する。外側断熱タンク(2)からコンパートメント(6)への熱交換流体の流入は、インサート(4)の一方の面またはそれに隣接して行われ、コンパートメント6から外側断熱タンク(2)への熱交換流体の流出は、インサート(4)の前記面またはそれに隣接して行われる。コンパートメント(6)は、装置を通じる連続的な熱交換流体の流れを収容するための一連の開口部を有する壁を含み、作動時に、コンパートメント(6)内の生物学的材料が熱交換流体中に浸漬され、生物学的材料の凍結のために熱交換流体と熱交換する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
生物学的材料を保存するための装置であって、外側断熱タンク内に配置されるように構成されたインサートを備え、前記インサートは、生物学的材料を受容するためのコンパートメントを画定し、前記外側断熱タンクから前記コンパートメントへの熱交換流体の流入は、前記インサートの一方の面において、またはそれに隣接して行われ、前記熱交換流体の前記コンパートメントから前記外側断熱タンクへの流出は、前記インサートの前記面において、またはそれに隣接して行われ、前記コンパートメントは、前記装置を通じる連続的な熱交換流体の流れを収容するための一連の開口部を有する壁を含み、作動中、前記コンパートメント内の生物学的材料は、熱交換流体中に浸漬され、前記生物学的材料の凍結のために前記熱交換流体と熱交換する、装置。
【請求項2】
前記インサートが、1つ以上の特定の経路に沿って前記コンパートメントを通る前記熱交換流体の流れを誘導するように構成されたバッフルを有する、ことを特徴とする請求項1に記載の装置。
【請求項3】
生物学的材料を保持するために前記コンパートメント内に受容可能な構造体を含み、前記構造体がトレイ、ラックおよびバスケットのうちの1つ以上である、ことを特徴とする請求項1または2に記載の装置。
【請求項4】
前記コンパートメントが、複数のサブコンパートメントを画定する複数の内部仕切りを有し、各サブコンパートメントが、前記構造体の1つを受容するように構成されている、ことを特徴とする請求項3に記載の装置。
【請求項5】
前記外側断熱タンクは、前記インサートが前記外側断熱タンク内に配置されたときに、前記インサートの前記面に隣接する1つの側面を有し、前記側面は、少なくとも1つの入口および少なくとも1つの出口を含み、前記入口は、使用時に、前記外側断熱タンクの外側から前記コンパートメント内に連通し、前記出口は、使用時に、前記コンパートメントから前記外側断熱タンクの外側に連通し、作動中、前記熱交換流体は、前記少なくとも1つの入口を介して前記タンクに導入され、前記少なくとも1つの出口を介して前記タンクから除去される、ことを特徴とする請求項1から4のいずれか一項に記載の装置。
【請求項6】
前記コンパートメント内の前記生物学的材料の凍結後に、前記生物学的材料を保持する1つ以上の容器を受容するように構成された乾燥タンクをさらに備え、前記乾燥タンクは、前記容器上に存在する残留流体を乾燥するように構成される、請求項1から5のいずれか一項に記載の装置。
【請求項7】
熱交換流体が、前記乾燥タンクを冷却するために前記乾燥タンク内に導かれる、ことを特徴とする請求項6に記載の装置。
【請求項8】
装置が、熱交換流体を前記外側断熱タンクおよび前記乾燥タンクの一方または両方に選択的に導くための電磁制御弁を備える、請求項7に記載の装置。
【請求項9】
前記乾燥タンクは、前記生物学的材料を保持する前記1つ以上の容器を所定の温度で貯蔵するように構成されている、ことを特徴とする請求項6から8のいずれか一項に記載の装置。
【請求項10】
生物学的材料を保存する方法であって、
a.前記生物学的材料の試料の近似形状の総表面積を決定する工程であって、前記生物学的材料および任意の包装は、試料を画定する、工程と、
b.前記試料の熱特性を推定する工程と、
c.試料の近似形状、前記試料の熱的性質、前記装置の形状、前記装置内の試料の所定の配置、熱交換流体の所定の入口温度、および入口から出口への前記熱交換流体の所定の温度上昇のいずれか1つ以上を含む流れ制約に基づいて、請求項1から9のいずれか一項に記載の装置の前記コンパートメント内の前記試料に対して計算流体力学解析を実行する工程と、
d.前記試料の液-固相転移の開始を概算する工程と、
e.相転移の前記開始付近までの所定の試料表面温度における前記試料の前記コアの平均温度低下率、および所定の徐冷速度を得るために必要な対応する熱交換流体流量を決定する工程と、
f.相転移の前記開始付近から所定の試料表面温度における前記試料の前記コアの平均温度低下率、および所定の急速冷却速度を得るために必要な対応する熱交換流体流量を決定する工程と、
g.請求項1から9のいずれか一項に記載の装置の前記コンパートメント内の試料を、相転移の前記開始付近まで前記徐冷速度で冷却する工程と、
h.前記コンパートメント内の前記試料を、相転移の前記開始付近から前記急速冷却速度で冷却する工程と
を備える方法。
【請求項11】
前記試料が凍結保護剤を含まない、ことを特徴とする請求項10に記載の方法。
【請求項12】
生物学的材料が貯蔵されるコンパートメント、および熱交換流体を前記コンパートメントに流入および/またはそこから流出させるポンプ機械を有する装置内で前記生物学的材料を保存する方法であって、前記生物学的材料の熱特性、ならびに前記ポンプ機械のポンプ能力、熱交換流体、および前記生物学的材料の温度の少なくとも1つに基づいて、前記コンパートメントへの熱交換流体の流入および/または前記コンパートメントからの熱交換流体の流出を調整する工程を備える、方法。
【請求項13】
保存前に生物学的材料に添加されるべき凍結保護剤の量を決定する方法であって、
a.初期量の凍結保護剤を含む、保存されるべき前記生物学的材料の近似形状の総表面積を決定する工程であって、前記生物学的産物、凍結保護剤および任意の包装が試料を画定する、工程と、
b.前記試料の熱特性を推定する工程と、
c.前記試料の近似形状、前記試料の熱特性、前記装置の形状、前記装置内の試料の所定の配置、熱交換流体の所定の入口温度、および入口から出口への前記熱交換流体の所定の温度上昇のいずれか1つ以上を含む流れ制約に基づいて、請求項1から9のいずれか一項に記載の装置の前記コンパートメント内の前記試料について計算流体力学解析を実行する工程と、
d.前記試料の液-固相転移の開始を近似する工程と、
e.相転移の開始付近までの所定の試料表面温度における前記試料の前記コアの平均温度低下率、および所定の徐冷速度を得るために必要な対応する熱交換流体流量を決定する工程と、
f.相転移の開始付近から所定の試料表面温度における前記試料の前記コアの平均温度低下率、および所定の急冷速度を得るために必要な対応する熱交換流体流量を決定する工程と、
g.工程(f)で計算された前記熱交換流体流量が、所定のポンプデューティまたは所定のエバポレータデューティを超える前記装置のポンプデューティまたはエバポレータデューティにそれぞれ対応する場合、前記初期量よりも所定量多い凍結保護剤の量を選択して、新たな初期量を定義するか、または工程(f)で計算された前記熱交換流体流量が、所定のポンプデューティまたは所定のエバポレータデューティ以下であるポンプデューティまたはエバポレータデューティにそれぞれ対応する場合、凍結保護剤の前記初期量を、保存前に生物学的材料に添加されるべき凍結保護剤の前記量として選択する工程と、
h.工程(f)で計算された前記熱交換流体流量が、前記所定のポンプデューティまたは前記所定のエバポレータデューティを超えるポンプデューティまたはエバポレータデューティにそれぞれ対応する場合、工程(f)で計算された前記熱交換流体流量が、前記所定のポンプデューティまたは前記所定のエバポレータデューティ以下であるポンプデューティまたはエバポレータデューティにそれぞれ対応するまで、工程(a)から(g)を繰り返す工程と
を備える方法。
【請求項14】
工程(a)から(g)のいずれかを繰り返す前の凍結保護剤の前記初期量がゼロである、ことを特徴とする請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記徐冷速度が約毎分約10℃までである、ことを特徴とする請求項10から14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
前記徐冷速度が毎分約0.1℃と約10℃との間である、ことを特徴とする請求項10から15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
前記急冷速度が毎分約100℃より大きい、ことを特徴とする請求項10から16のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
前記急冷速度が毎分約200℃より大きい、ことを特徴とする請求項10から17のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
液-固相転移の前記開始が、一定の冷却速度で凍結中の前記試料の冷却曲線から近似される、ことを特徴とする請求項10から18のいずれか一項に記載の方法。
【請求項20】
凍結中の前記試料の前記冷却曲線が、前記試料に対する前記計算流体力学解析から得られる、ことを特徴とする請求項19に記載の方法。
【請求項21】
凍結保存された生物学的材料を解凍するための装置であって、生物学的材料を受容するための解凍タンクであって、前記生物学的材料は、トレイ、ラックおよびバスケットのうちの1つ以上を含む構造において前記タンク内に保持される、解凍タンクと、解凍液がタンク内に導入されるタンク入口と、解凍液が前記タンクから除去されるタンク出口とを備え、前記タンクは、前記装置を通じる連続的な解凍流体流を収容するように構成され、作動中、前記タンク内の生物学的材料は、前記解凍流体中に浸漬され、前記生物学的材料を解凍するために前記解凍流体と熱交換する、ことを特徴とする装置。
【請求項22】
前記解凍流体が前記タンク入口を介して前記タンク内に導入される速度が、前記生物学的材料の損傷を防止するように前記生物学的材料が加熱される速度を制御するよう制御可能である、ことを特徴とする請求項21に記載の装置。
【請求項23】
前記タンクは、1つ以上の特定の経路に沿って前記タンクを通じる前記解凍流体の流れを誘導するように構成されたバッフルを有する、ことを特徴とする請求項22に記載の装置。
【請求項24】
凍結保存された生物学的材料を解凍する方法であって、
a.前記生物学的材料の近似形状の総表面積を決定する工程であって、前記生物学的材料および任意の包装が試料を画定する、工程と、
b.前記試料の熱特性を推定する工程と、
c.前記試料の近似形状、前記試料の熱特性、前記装置の形状、前記装置内の試料の所定の配置、解凍流体の所定の入口温度、および入口から出口への前記解凍流体の所定の温度低下のいずれか1つ以上を含む流れ制約に基づいて、請求項19または20に記載の解凍装置の前記タンク内の前記試料に対して計算流体力学解析を実行する工程と、
d.前記試料の固-液相転移の開始を概算する工程と、
e.工程(d)で決定された固-液相転移の前記開始までの期間、前記凍結保存された生物学的産物を解凍する工程と
を備える方法。
【請求項25】
前記解凍流体の前記入口温度が約37℃である、ことを特徴とする請求項24に記載の方法。
【請求項26】
固-液相転移の前記開始が、一定の冷却速度で凍結中の前記試料の冷却曲線から近似される、請求項24または25に記載の方法。
【請求項27】
凍結中の前記試料の前記解凍曲線が、前記試料に対する前記計算流体力学解析から得られる、ことを特徴とする請求項26に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生物学的材料を保存する方法および生物学的材料を保存するための装置に関する。
【背景技術】
【0002】
赤血球(RBC)を体外で保存する能力は、長年、救命のための実践とみなされてきた。より最近では、輸血医療における冷蔵保存赤血球の使用が広く評価されている。冷蔵保存中の赤血球は徐々に劣化し、長期保存赤血球の点滴は、術後感染症、入院期間、死亡率などの点で不利な臨床結果と関連している。
【0003】
保存された赤血球の輸血に関する懸念は依然として残っており、現在では輸血制限戦略が支持されている。このため、凍結保存への関心が再び高まっている。赤血球を超低温で保存すると、細胞代謝が停止し、その結果、不利な臨床結果に関係してきた細胞の劣化が進行するのを防ぐことができる。
【0004】
当初、凍結保存は、赤血球を長期間生存可能に維持するための有望な方法と考えられていた。しかしながら、凍結保存された赤血球(一般に「凍結赤血球」として知られている)の臨床応用は、この保存方法が高価で、時間がかかり、非効率的な性質によって妨げられていた。
【0005】
冷蔵保存赤血球の要件
現在、赤血球は、生存赤血球の保存状態にもよるが、2~6℃で最大5~6週間保存されるのが普通である。一方、凍結保存は赤血球を数年間保存することを可能にする。凍結保存は現在、希少血液型のドナーからの赤血球の長期保存や軍事配備のための貴重なアプローチである。しかし、凍結保存赤血球の備蓄は、需要が赤血球の供給を上回るような緊急時や臨床状況においても有益である。現在の方法による凍結保存赤血球の保存期間は最長10年である。
【0006】
国際的なガイドラインでは、冷蔵赤血球保存装置での溶血が許容レベル(すなわち、ヨーロッパでは0.8%、米国では1%)以下でなければならず、点滴後24時間経過しても点滴赤血球の少なくとも75%が循環していなければならない。
【0007】
しかし、このガイドラインは、点滴後の赤血球の機能を具体的に反映していない。
【0008】
保存赤血球の品質
4℃での保存は、赤血球の生化学的プロセスを遅らせるが、細胞代謝はこの温度で完全に抑制されるわけではない。冷蔵保存中に、点滴後の赤血球の機能を損なう可能性のある様々な変化が観察されている。これらの変化には、2,3-ジホスホグリセリン酸(DPG)、アデノシン三リン酸(ATP)および膜シアル酸含量の濃度減少が含まれる。その他の変化としては、ホスファチジルセリン(PS)の細胞表面への移行、膜脂質やタンパク質の酸化傷害、球状赤血球への形状変化、膜の滲出、赤血球貯蔵ユニットにおけるカリウム、遊離ヘモグロビン(Hb)、サイトカイン、生理活性脂質、(凝固促進)マイクロベシクルの蓄積などがある。
【0009】
赤血球のレオロジー特性も冷蔵保存中に損なわれる。冷蔵保存された赤血球は、凝集傾向の増大と内皮細胞(EC)への接着を示し、また保存の2週間目からは変形性が低下する。このような変化は、赤血球が微小循環において適切に機能することを妨げる可能性がある。
【0010】
超低温での赤血球の保存は、赤血球の生物学的活性を停止させ、長期間の保存を可能にする。一般に、細胞の損傷を防ぐには、高濃度の凍結保護添加剤か急速な凍結速度が必要である。冷却速度が遅いと、細胞外に氷が形成される。氷が形成されると、未凍結画分の溶質含量が濃縮される。その結果、浸透圧の不均衡が生じ、赤血球から体液が流出し、細胞内脱水が起こる。一方、急速な冷却速度では、赤血球の細胞質が過冷却状態になり、細胞内に氷が形成される。
【0011】
凍結損傷を最小限に抑えるためには、凍結保護添加剤が重要であると考えられてきた。長年にわたり、赤血球の凍結保存のためのさまざまな非透過性添加剤および透過性添加剤が研究されてきた。ヒドロキシエチルデンプンやポリビニルピロリドンなどの非透過性添加剤や、さまざまなグリコールや糖類は、輸血前に解凍赤血球から除去する必要がないと提唱されたため、有望視された。
【0012】
逆に、浸透性添加剤のグリセロールは、超低温で赤血球を保護する能力で知られている。赤血球を保護するのに必要なグリセロールの濃度は、冷却速度と保存温度に依存する。グリセロールは、凍結中の細胞脱水と溶質の影響を最小限に抑えながら、氷の形成速度と程度を遅くすることで赤血球を保護する。
【0013】
解凍保存赤血球の要件
超低温の氷点下で赤血球を保存することにより、赤血球を何年も保存することが可能になるが、いったん解凍された赤血球の保存可能期間は限られている。脱グリセロールした赤血球は、主に生理食塩水-アデニン-グルコース-マンニトール(SAGM)保存液で48時間まで、またはAS-3保存液で14日間まで保存される。凍結保存された赤血球は、残存グリセロール含量を1%以下にするために脱グリセロールする必要がある。さらに、赤血球は、赤血球単位の溶血が許容レベル(欧州では0.8%、米国では1%)以下であること、および脱グリセロール後の赤血球の解凍後回復率(凍結解凍洗浄回復率)が80%以上であることを要求する上記の国際的ガイドラインの対象となる。また、凍結保存された赤血球の少なくとも75%は、点滴後24時間経っても循環していなければならない。
【0014】
グリセロールを用いた凍結法
現在、グリセロールによる赤血球の保存には2つの凍結法が認められている。
1.赤血球は、-140℃以下の温度で、最終濃度約20%グリセロール(wt/vol)の低グリセロール法(LGM)を用いて液体窒素中で急速凍結することができる。
2.赤血球は、高グリセロール法(HGM)を用いてゆっくりと凍結することができ、-65℃~-80℃で最終濃度約40%(wt/vol)のグリセロールで保存することができる。
3.赤血球は、10%ジメチルスルホキシド(DMSO)の標準製剤を用いて急速凍結することができる。
【0015】
凍結保存赤血球は、処理手順中に生じる細胞損失のために効率が悪い。この細胞損失は、HGM凍結保存赤血球ではより顕著である(約10-20%)。しかし、LGMの方が赤血球の収量が多いにもかかわらず、一般にHGM凍結保存赤血球は凍結中の温度変動に耐え、解凍後の保存中により安定であると考えられている。さらに、HGM凍結保存赤血球は液体窒素を必要としないため、保存や輸送の条件が緩和される。その結果、HGMは現在欧米で最も適用されている赤血球凍結法である。
【0016】
凍結保存のHGMに関連する保存方法は、高いグリセロール含量と保存温度範囲に起因する細胞内脱水をもたらす。さらに、HGM法は、多くの用途において、保存細胞およびその周囲の物質が液体状態から固体状態へ、またはその逆へゆっくりと移行するため、浸透圧ショック損傷につながり、細胞死の増加に関連する。
【0017】
対照的に、LGMは溶質濃度効果を最小化し、それによって浸透圧ショック効果を最小化するが、急速冷却速度が細胞外に水が移動するのに十分な時間を与えなければ、細胞内氷形成が問題になる可能性がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
本発明の好ましい実施形態は、より低いグリセロール含量を利用することで、凍結保存赤血球の保存期間を延長しながら、細胞の脱水および溶質の影響を最小限に抑えることを追求する。
【0019】
他の好ましい実施形態は、細胞の生存率を維持しながら、凍結保護剤の使用を減らすか、または排除しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0020】
上記の背景は赤血球に関するものであるが、本発明の実施形態は、幹細胞(例えば、骨髄、臍帯血、羊水などからのもの)、他の血液製剤(例えば、白血球、血漿、血小板、血清など)、細菌および真菌などの微生物、生殖細胞および精液などの関連物質、腫瘍細胞、初乳、ワクチン、植物細胞などの他の生物学的材料に適用できることが理解されよう。
【0021】
本明細書で使用される場合、「生物学的材料」には、以下の材料の非網羅的リストが含まれる:血液、血漿、血小板、細菌、臓器、精液、卵、初乳、皮膚、血清、ワクチン、幹細胞、臍帯、骨髄、および上記の他の材料。
【0022】
本発明の第1の態様によれば、生物学的材料を保存するための装置が提供され、当該装置は、外側断熱タンク内に配置されるように構成されたインサートを備え、該インサートは、生物学的材料を受容するためのコンパートメントを画定し、外側断熱タンクからコンパートメントへの熱交換流体の流入は、インサートの一方の面において、または該面に隣接して行われ、コンパートメントから外側断熱タンクへの熱交換流体の流出は、インサートの前記面であるか、または前記面に隣接して行われ、コンパートメントは、装置を通じて連続的な熱交換流体の流れを収容するための一連の開口部を有する壁を含み、作動中、コンパートメント内の生物学的材料は、熱交換流体中に浸漬され、生物学的材料の凍結のために熱交換流体と熱交換する。
【0023】
本発明の第2の態様によれば、生物学的材料を保存する方法が提供され、当該方法は、
a.生物学的材料の試料の近似された形状の総表面積を決定する工程であって、生物学的材料および任意の包装は、試料を画定する、工程と、
b.試料の熱特性を推定する工程と、
c.近似された試料の形状、試料の熱的性質、装置の形状、装置内の試料の所定の配置、熱交換流体の所定の入口温度、および入口から出口への熱交換流体の所定の温度上昇のいずれか1つ以上を含む流れ制約に基づいて、上記の態様の装置の前記コンパートメント内の試料に対して計算流体力学解析を実施する工程と、
d.試料の液-固相転移の開始を概算する工程と、
e.相転移が始まるまでの所定の試料表面温度における試料のコアの平均温度低下率、および所定の徐冷速度を得るために必要な対応する熱交換流体の流量を決定する工程と、
f.相転移の開始から所定の試料表面温度における試料のコアの平均温度低下率、および所定の急速冷却速度を得るために必要な対応する熱交換流体の流量を決定すると、
g.相転移の開始付近まで、前記徐冷速度で、上記態様の装置のコンパートメント内の試料を冷却する工程と、
コンパートメント内の試料を、相転移の開始付近から急速冷却速度で冷却する工程とを含む。
【0024】
本発明の第3の態様によれば、生物学的材料が貯蔵されるコンパートメント、および熱交換流体をコンパートメントに流入および/またはコンパートメントから流出させるポンプ機械を有する装置内で生物学的材料を保存する方法が提供され、当該方法は、生物学的材料の熱特性、ならびにポンプ機械のポンプ能力、熱交換流体、および生物学的材料の温度のうちの少なくとも1つに基づいて、コンパートメントへの熱交換流体の流入および/またはコンパートメントからの熱交換流体の流出を調節する工程を含む。
【0025】
本発明の第4の態様によれば、保存前に生物学的材料に添加されるべき凍結保護剤の量を決定する方法が提供され、当該方法は、
a.初期量の凍結保護剤を含む、保存されるべき生物学的材料の近似形状の総表面積を決定する工程であって、生物学的産物、凍結保護剤および任意の包装が試料を画定する、工程と、
b.試料の熱特性を推定する工程と、
c.試料の近似された形状、試料の熱特性、装置の形状、装置内の試料の所定の配置、熱交換流体の所定の入口温度、および入口から出口への熱交換流体の所定の温度上昇のいずれか1つ以上を含む流れ制約に基づいて、上記の態様の装置のコンパートメント内の試料に対して計算流体力学解析を実行する工程と、
d.試料の液-固相転移の開始を概算する工程と、
e.相転移の開始付近までの所定の試料表面温度における試料のコアの平均温度低下率と、所定の徐冷速度を得るために必要な対応する熱交換流体の流量を決定する工程と、
f.相転移の開始付近から所定の試料表面温度における試料のコアの平均温度低下率、および所定の急冷速度を得るために必要な対応する熱交換流体の流量を決定する工程と、
g.工程(f)で計算された熱交換流体流量が、それぞれ所定のポンプデューティまたは所定のエバポレータデューティを超える装置のポンプデューティまたはエバポレータデューティに対応する場合、初期量よりも所定量多い凍結保護剤の量を選択して、新たな初期量を定義するか、または、工程(f)で計算された熱交換流体流量が、それぞれ所定のポンプデューティまたは所定のエバポレータデューティ以下であるポンプデューティまたはエバポレータデューティに対応する場合、凍結保護剤の初期量を、保存前に生物学的材料に添加すべき凍結保護剤の量として選択する工程と、
h.工程(f)で計算された熱交換流体流量が、それぞれ所定のポンプデューティまたは所定のエバポレータデューティを超えるポンプデューティまたはエバポレータデューティに対応する場合、工程(f)で計算された熱交換流体流量が、それぞれ所定のポンプデューティまたは所定のエバポレータデューティ以下であるポンプデューティまたはエバポレータデューティに対応するまで、工程(a)~(g)を繰り返す工程とを含む。
【0026】
本発明の第5の態様によれば、凍結保存された生物学的材料を解凍するための装置が提供され、当該装置は、生物学的材料を受容するための解凍タンクを有し、生物学的材料は、トレイ、ラックおよびバスケットのうちの1つ以上を含む構造においてタンク内に保持され、解凍流体がタンク内に導入されるタンク入口を有し、該タンクは、該装置を通じる連続的な解凍流体流を収容するように構成され、動作中、該タンク内の生物学的材料は、該解凍流体中に浸漬され、生物学的材料の解凍のために該解凍流体と熱交換する。
【0027】
本発明の第6の態様によれば、凍結保存された生物学的材料を解凍する方法が提供され、当該方法は、
a.生物学的材料の近似形状の総表面積を決定する工程であって、生物学的材料および任意の包装が試料を規定する、工程と、
b.試料の熱特性を推定する工程と、
c.試料の近似形状、試料の熱特性、装置の形状;装置内の試料の所定の配置、解凍流体の所定の入口温度、および入口から出口への解凍流体の所定の温度低下のいずれか1つ以上を含む流れ制約に基づいて、上記の態様の解凍装置の前記タンク内の試料に対して計算流体力学解析を実行する工程と、
d.試料の固-液相転移の開始を概算する工程;
工程(d)で決定された固-液相転移の開始までの期間、凍結保存生物学的産物を解凍する工程とを含む。
【0028】
以下、本発明の実施形態を、非限定的な例として、添付図面を参照して説明する。
【図面の簡単な説明】
【0029】
図1図1は、一実施形態にかかる生物学的材料を保存するための装置の上方斜視図である。
図2A図2Aは、一実施形態にかかる図1の装置のタンクの上方斜視図である。
図2B図2Bは、一実施形態にかかる図1の装置のタンクの上方斜視図である。
図3A図3Aは、一実施形態にかかる図1の装置のタンクのインサートを示す図である。
図3B図3Bは、一実施形態にかかる図1の装置のタンクのインサートを示す図である。
図3C図3Cは、一実施形態にかかる図1の装置のタンクのインサートを示す図である。
図4図4は、装置のコンパートメント内での凍結をシミュレートするための0.5mlクライオバイアルのアレイのモデルを示す。
図5図5は、装置のコンパートメント内の凍結をシミュレートするための2mlクライオバイアルのアレイのモデルを示す。
図6図6は、クライオバイアルを通る面の中央で撮影された、図4のモデルのシミュレーションによる熱交換流体の流れを示す平面図である。
図7A図7Aは、図4のモデルのシミュレーションによる熱交換流体の流れの前方斜視図である。
図7B図7Bは、図4のモデルのシミュレーションによる熱交換流体の流れの後方斜視図である。
図8図8は、約65秒以内に約-80℃まで凍結した、図4のモデルの中央クライオバイアルの温度-時間プロットである。
図9図9は、約80秒以内に約-51℃まで凍結した、図4のモデルの中央クライオバイアルの温度-時間プロットである。
図10図10は、図8のシミュレーションと同じ速度で凍結させた、図4のモデルの中央クライオバイアルの温度-時間プロットであるが、バッフルはインサートから取り除かれている。
図11図11は、約185秒以内に約-80℃まで凍結した、図5のモデルの中心クライオバイアルの温度-時間プロットである。
図12図12は、約220秒以内に約-51℃まで凍結した、図5のモデルの中央クライオバイアルの温度-時間プロットである。
図13A図13Aは、伝熱流体の流入がバッグの狭い側面に実質的に垂直である状態で、装置のコンパートメント内に吊り下げられた血液バッグのシミュレーションモデルを示す。
図13B図13Bは、伝熱流体の流入がバッグの広い前面に対して実質的に垂直である状態で、装置のコンパートメント内に吊り下げられた血液バッグのシミュレーションモデルを示す。
図14図14は、約180秒以内に約-80℃まで凍結した、図13Aのモデルの血液バッグの温度-時間プロットである。
図15図15は、約270秒以内に約-80℃まで凍結した、図13Bのモデルの血液バッグの温度-時間プロットである。
図16図16は、約180秒以内に約-51℃まで凍結した、図13Aのモデルの血液バッグの温度-時間プロットである。
図17図17は、一実施形態にかかる解凍装置の上方斜視図である。
図18図18は、解凍装置のコンパートメント内での解凍をシミュレートするための0.5mlクライオバイアルのアレイのモデルを示す。
図19図19は、解凍装置のコンパートメント内での解凍をシミュレートするための2mlクライオバイアルのアレイのモデルを示す。
図20図20は、約-80℃から解凍した、図18のモデルの中央クライオバイアルの温度-時間プロットである。
図21図21は、約-80℃から解凍した図19のモデルの中心低温胞の温度-時間プロットである。
図22図22は、約-51℃から解凍した、凍結保護剤を含まない赤血球を含む図19のモデルの中央クライオバイアルの温度-時間プロットである。
図23図23は、約-51℃から解凍した、凍結保護剤として4%ジメチルスルホキシド(DMSO)を添加した赤血球を含む図19のモデルの中央クライオバイアルの温度-時間プロットである。
図24図24は、約-51℃から解凍した、凍結保護剤として10%ジメチルスルホキシド(DMSO)を添加した赤血球を含む図19のモデルの中央クライオバイアルの温度-時間プロットである。
図25図25は、バッグの狭い側面に対して実質的に垂直に解凍液が流入している状態で、解凍装置のコンパートメント内に吊り下げられた血液バッグのシミュレーションモデルである。
図26図26は、約-80℃から解凍した図25のモデルの血液バッグの温度-時間プロットである。
図27図27は、DMSO濃度を変化させた混合血液の見かけ比熱の参照プロットである。
図28図28は、DMSO濃度を変化させた混合血液の熱伝導率の参照プロットである。
図29図29は、装置のコンパートメント内に複数のクライオバイアルを保持するためのラックを示す。
図30図30は、液-固相転移を示す一般的な凍結曲線である。
図31図31は、一実施形態にかかる二相冷却法を用いて凍結させた赤血球試料の凍結曲線である。
図32図32は、一実施形態にかかる装置の配管および計装図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
図1図3は、一実施形態による生物学的材料を保存するための装置10を示し、外側断熱タンク/浸漬タンク2内に配置されるように構成されたインサート4を備え、インサート4は、生物学的材料を受容するためのコンパートメント6を画定し、外側断熱タンク2からコンパートメントへの熱交換流体の(流入口8を通る)流入は、インサートの1つの面14であるか、またはそれに隣接して行われ、コンパートメントから外側断熱タンクへの熱交換流体の(流出口12を通る)流出は、インサートの該面14であるか、またはそれに隣接して行われる。
【0031】
コンパートメント6は、一連の開口部18を有する壁16からなり、作動中、コンパートメント内の生物学的材料が、生物学的材料の凍結のために熱交換流体と熱交換するために熱交換流体中に浸漬されるように、装置を通る連続的な熱交換流体の流れを収容する。各開口部の直径または幅は約5mm~20mm、好ましくは約10mmである。
【0032】
インサート4は、1つ以上の特定の経路に沿ってコンパートメントを通る熱交換流体の流れを導くように構成されたバッフル20を含んでいる。図示された実施形態(特に図3Aを参照)では、熱交換流体の流れは、インサートの前側に隣接する流入口8から、コンパートメント6を通って中間流出口22から流出し、その後、インサートの前側に戻って流出口12から流出する。バッフル20によって導かれる特定の流路は、コンパートメントを通る熱交換流体の循環を改善し、ホットスポットを減少させる。さらに、熱交換流体の流入と流出がインサート4の共通の面またはそれに隣接する特定の構成により、流体がコンパートメント6全体を循環し、流体がインサート4の反対側の面から跳ね返ることで循環が改善される(インサートの反対側の面から跳ね返る流体のシミュレーションについては、例えば図4図5の流れモデルを参照)。
【0033】
コンパートメント6は、生物学的材料を保持するための構造を受容するように構成され、その構造は、トレイ、ラック、およびバスケットのうちの1つ以上である。複数のバイアルを保持するように構成されたラック42の例が図29に示されている。コンパートメントは、複数のサブコンパートメント46A~46Dを画定する複数の内部仕切り44からなり、各サブコンパートメントは、構造物の1つを受容するように構成される。
【0034】
インサート4がタンク2内に配置される場合、インサートの面14に隣接するタンクの一方の面30は、少なくとも1つの入口と少なくとも1つの出口を構成する。図3A図8および図12を参照すると、本発明の好ましい実施形態によるタンクは、2つの入口と1つの出口を有する。入口は、使用時に外側断熱タンク2の外側からコンパートメント6に連通し、出口は、使用時にコンパートメントから外側断熱タンクの外側に連通し(ドレン管40を介して)、作動時に、熱交換流体が少なくとも1つの入口を介してタンク2内(ひいてはコンパートメント6内)に導入され、少なくとも1つの出口を介してコンパートメント6およびタンク2から除去されるようになっている。
【0035】
タンク2の側壁30は、インサート4の面14から間隔をあけて配置され、その結果、空隙(図示せず)が画定される。タンク2は、ASTM A240に準拠した鋼鉄製であることが好ましい。
【0036】
使用時、タンク2は-80℃以上では凍結しない熱交換流体で満たされる。熱交換流体はタンク2の熱交換流体入口から空隙に予め決められた体積流量で送り込まれる。熱交換流体が開口部18の制限された領域を強制的に通過するため、空隙内に圧力が発生し、体積流量は減少するが、コンパートメント6に流入する流体の速度は増加する。開口部18とバッフル20は、コンパートメント6のすべての部分への冷たい流体の分配を改善し、そうでなければ入口領域から離れて発生しそうなホットスポットの発生を最小限に抑える。熱交換流体がタンク2およびコンパートメント6内を連続的に流れるにつれて、コンパートメント6内に位置する生物学的材料から熱が除去され、コンパートメント6およびタンク2を出る加熱された熱交換流体は、熱交換流体を連続的に冷却する装置の冷凍システムと熱交換される。熱交換流体自体は、冷凍システム内で冷媒と熱交換する。図32は、熱交換流体を連続的に冷却する一実施形態による装置10の冷凍システムの配管および計装図である。冷凍システムは、熱交換流体と冷媒との間で熱交換するための熱交換器を含む。
【0037】
装置10は、浸漬タンク2内での生物試料の凍結後、生物試料を保持する1つ以上の容器を受け入れるように構成された乾燥タンク50、具体的にはブローダウン乾燥タンクをさらに含むことができる。乾燥タンク50は、容器に残留する熱交換液を乾燥させ、試料の汚染を防止するように構成される。
【0038】
好ましい実施形態では、装置10は、浸漬タンク2と乾燥タンク50の両方に熱交換流体を投入する。すなわち、乾燥タンクを冷却するために、熱交換流体を乾燥タンク50に選択的に導くことができる。装置10は、熱交換流体を外側断熱タンク2と乾燥タンク50の一方または両方に選択的に導くための電磁制御弁のような制御装置を含んでいてもよい。例えば、装置は、装置内の同じ熱交換流体源に接続された3つの電磁制御弁から構成されることができる。バルブのうち2つは熱交換流体をタンク2に導き、3つ目は熱交換流体を乾燥タンク50に導く。バルブは、各構成要素に要求される流量に応じて制御することができ、例えば、浸漬タンク2に投入される流量がより多く要求される場合(以下により詳細に説明される一実施形態による冷却方法の急速冷却工程中など)、バルブは、全ての流体がタンク2に導かれるように、乾燥タンク50への流量を最小化または遮断するように制御することができる。他の時には、流体を浸漬タンク2と乾燥タンク50の両方に投入して、乾燥タンクが浸漬タンクとほぼ同じ温度に維持され、乾燥および/または貯蔵のために生物学的材料を乾燥タンクに移す準備ができるようにすることもできる。したがって、いくつかの実施形態では、乾燥タンク50は、生物学的材料の容器を貯蔵するための貯蔵容器としても使用されるように構成される。本発明の好ましい実施形態によれば、乾燥タンクは、内容物を冷却するために電磁制御弁が開いているときに伝熱流体で満たされる、乾燥タンクを画定する壁配置の空隙またはキャビティを有する。壁配置の空隙またはキャビティは、約1mmから5mm、好ましくは約2mmの厚さまたは幅を有することができる。
【0039】
二相冷却保存法
本発明の発明者らは、凍結の特定の段階において冷却速度を上げることにより、凍結保護剤の使用量を減らし、場合によっては凍結保護剤を使用しなくても生物学的産物を保存できることを見出した。具体的には、液-固相転移が始まるまでは徐冷し、液-固相転移が始まる頃から急冷するという二相冷却を行う。図30は、一般的な凍結曲線であり、液-固相転移が、材料の過冷却に続く氷点下からの温度上昇をどのように伴うかを示している。核生成は相転移の開始時に始まり、固体凍結相へと続く。本発明者らは、核生成の持続時間を短縮することにより、試料中の氷結晶形成を低減し、液体窒素凍結に類似した急速凍結効果が得られるが、従来の液体窒素法と比較して浸透圧ダメージが低減されることを見出した。具体的には、本方法では、液-固相転移の開始時点から冷却速度を上げて(すなわち、試料の急速凍結を開始して)、生物学的材料の核形成期間を短縮する。場合によっては、凍結ダメージの減少が非常に大きく、凍結保護剤が不要になることもある。図31は、0%凍結保護剤中の赤血球試料を本発明の二相冷却法で凍結したときの凍結曲線を示している。相転移の開始時に急速冷却が開始されるため、相転移中の温度上昇は見られない。
【0040】
一実施形態において、生物学的材料を保存する方法は、まず、生物学的材料の近似形状の総表面積を決定する工程であって、生物学的材料および任意の包装が試料を画定する、工程と、試料の熱特性を推定する工程と、保存システムの入力パラメータを変化させた場合の影響を調査するために、装置2内(より具体的には、コンパートメント6内)で凍結されている試料のシミュレーションを介して試料に対して計算流体力学解析を実行する工程とを有する。調査され得るシミュレーションの入力/制約には、包装の特性および利用されるラッキングシステムの特性、試料の近似形状、試料の熱特性、装置の形状、装置内の試料の所定の配置、熱交換流体の所定の入口温度、および入口から出口への熱交換流体の所定の温度上昇が含まれる。
【0041】
図4は、コンパートメント6に配置された13個のクライオバイアルのアレイの凍結をシミュレートするための例示的なパラメータを示し、各クライオバイアルは0.5mlの血液を含む。各クライオバイアルはポリプロピレン製で、直径6mm、高さ27.5mm、壁厚0.5mmとしてモデル化されている。熱交換流体の流入量は39リットル/分として選択される。コンパートメント6の高さは35.5mmとしてモデル化した。凍結中の血液の動きは無視され、すなわち血液は「固体」であると仮定される。血液の熱特性は、85%の水と15%のタンパク質から構成されているという仮定に基づいている。生物学的材料の熱的性質は、当業者に周知の方法で求めることができ、また当業者に周知の熱的性質表で調べることもできる。
【0042】
図5は、コンパートメント6に配置された13個のクライオバイアルの配列の凍結をシミュレートするためのパラメータの例を示しており、各クライオバイアルは2mlの血液を含む。各クライオバイアルはポリプロピレン製で、直径13.5mm、高さ48.8mm、壁厚0.5mmとしてモデル化されている。熱交換流体の流入量は39リットル/分として選択されている。コンパートメント6は高さ57mmとしてモデル化されている。
【0043】
一実施形態による計算流体力学解析では、生物学的材料を幾何学的な増分(例えば、ボトルや試験管の円筒形のシェル)に分割する。すなわち、所与の時間工程において、ある量のエネルギーがシェルから除去され、その結果、そのシェルの温度が低下する。除去されるエネルギー量は、隣接するシェルの温度とシェル間の熱流に対する抵抗の関数である。これには、温度の関数として生物学的材料の熱特性を考慮する必要がある。
【0044】
解析は、試料が2℃の開始温度を有する固体塊として扱われ、当業者に周知の方法を用いて同定、推定または計算できる熱特性を有すると仮定して実行される。
【0045】
産物の総表面積、タンク内の産物の負荷量、熱交換流体の予め選択された入口温度、熱交換流体の予め選択された許容可能な出口温度(例えば、入口温度より3℃大きい)、産物(凍結保護剤を含む)及び包装の熱特性、並びにタンクを通る流体の予め選択された速度等に基づいて、産物の温度低下速度を、上記で詳述したようにシミュレートすることができる。
【0046】
図6は、図5のモデルの流体力学的解析から得られた、クライオバイアルを通してコンパートメント中間面を通る熱交換流体の流れの平面図である。このモデリングは、コンパートメント内のクライオバイアルに関して均一な熱除去率を示している。図7Aおよび図7Bは、それぞれタンクの正面図および背面図から見た熱交換流体の流れを示している。
【0047】
図8および図9の温度-時間プロットはそれぞれ、約65秒以内に約-80℃、約80秒以内に約-51℃に凍結された、図4のモデルの中央の0.5mlクライオバイアルの解析に対応する。これらの2つの図から、本発明の好ましい実施形態によれば、約-51℃に凍結したクライオバイアルは、約-80℃に凍結したクライオバイアルと比較して、より良好な保存結果を達成している。グラフは、クライオバイアルの外側(「PG温度2.99mm PPoutside」)から中心部(「PG温度0mm」)に至るまで、クライオバイアルを貫通する様々なシェルにおける温度をプロットしたものである。図10は、図8のシミュレーションと同じ速度で凍結させた中央クライオバイアルの温度-時間プロットであるが、バッフル20をインサート4から取り外したものであり、コンパートメント6を通る伝熱流体の循環を改善するバッフルの有効性を示している。
【0048】
図11および図12の温度-時間プロットは、図5のモデルの中央の2mlクライオバイアルの解析に対応し、それぞれ約185秒以内に約-80℃、約220秒以内に約-51℃に凍結された。
【0049】
図13Aは、コンパートメント6内に吊り下げられた血液バッグの凍結をシミュレートするためのパラメータの例を示している。バッグの寸法は、幅14.5cm、高さ7.6cm、厚さ4mmであり、バッグには10~30mlの血液が入っている。バッグの壁は、厚さ0.13mmのエチレンビニルアセテート製としてモデル化されている。熱交換流体の流入量は約39リットル/分とし、バッグの狭い側面に実質的に垂直な方向とする。コンパートメント6の高さは80mmとしてモデル化されている。図13Bは、図13Aのモデルと同様のパラメータを有するが、熱交換流体がバッグの広い前面に対して実質的に垂直な方向にコンパートメントに流入するモデルを示している。
【0050】
図14は、約180秒以内に約-80℃に凍結された図13Aのモデルの血液バッグの温度-時間プロットである。図15は、約270秒以内に約-80℃に凍結された図13Bのモデルの血液バッグの温度-時間プロットである。図16は、約180秒以内に約-51℃に凍結された図13Aのモデルの血液バッグの温度-時間プロットである。
【0051】
試料の液-固相転移の開始が近似される。一実施形態では、液-固相転移の開始は、一貫した冷却速度で凍結中の材料の試料の1つ以上の試験結果から得られた冷却曲線から概算される。液-固相転移の開始は、追加的または代替的に、上述の計算流体力学解析によって得られた試料の冷却曲線から決定/確認することができる。
【0052】
所定の徐冷速度の場合、相転移の開始付近までの所定の試料表面温度における試料の中心部の平均温度低下速度が(計算流体力学モデルから)決定される。次に、徐冷速度を達成するために必要な浸漬タンク2への熱交換流体流量を決定することができる。
【0053】
所定の急速冷却速度を達成するために必要な熱交換流体の流量は、同様に、相転移の開始付近から所定の試料表面温度における試料のコアの平均温度低下速度の解析によって決定される。
【0054】
解析が完了すると、試料は、次に、上述のように、装置のコンパートメント6内で、まず、相転移の開始まで徐冷速度で冷却され、次に、相転移の開始頃から急速冷却速度で冷却されうる。試料は、所定の終了温度に達するまで、少なくとも毎分約100℃で冷却される。
【0055】
急速冷却に必要な熱交換流体流量を達成するために、熱交換流体をタンク2に投入する装置10のポンプ機械のポンプデューティを増加させる。追加的または代替的に、ポンプ機械が上述のように選択的に制御可能な弁を使用してタンク2だけでなく乾燥タンク50にも供給する場合には、乾燥タンク50への供給を一時的に停止して、浸漬タンク2への流量を増加させることができる。
【0056】
いくつかの実施形態において、上述の方法は、凍結保護剤を使用せずに生物学的材料を効果的に保存するために使用され得ることが想定される。
【0057】
表1は、上述の方法を用いて得られた、0%凍結保護剤中の赤血球についての試験結果を含む。回収率は約98%であった。試験方法の具体的なパラメータは以下の通りである。徐冷速度は、5~10℃で5リットル/分の熱交換液流量で達成した。急速冷却速度は200℃以上で50リットル/分の熱交換流体流量で達成した。表2に冷却速度の経時変化を示す。液-固相転移の開始は-0.5℃で決定した。試料は-51℃まで凍結され、処理の総時間は平均3分であった。試料を入れたバイアルはポリプロピレン製で、2mlの自立バイアルである。他の熱可塑性材料、他のプラスチック材料、または他の材料から作られたバイアルも、本発明の実施形態で使用することができる。細胞計数の前に、以下に述べる解凍方法を用いて、37.5℃で55秒間、解凍培地を用いて試料を解凍した。
【0058】
0%、4%、8%の凍結保護剤中の赤血球
【表1】
【0059】
2段階の冷却速度 0.5mlクライオバイアル
【表2】
【0060】
保存処理に必要な凍結保護剤の量を決定する方法
場合によっては、保存工程中の細胞損傷を最小化するために凍結保護剤が必要とされることがある。従って、別の態様において、保存前に生物学的材料に添加すべき凍結保護剤の量を決定する方法が提供される。当該方法は、まず、凍結保護剤の初期量を含む、保存すべき生物学的材料の近似形状の総表面積を決定する工程であって、生物学的材料、凍結保護剤および任意の包装が試料を画定する、工程と、試料の熱特性を推定する工程と、保存システムの入力パラメータを変化させた場合の影響を調べるために、装置2内(より具体的には、コンパートメント6内)で試料に対して計算流体力学解析を実行する工程とを含む。調査されるシミュレーションの入力/制約には、包装の特性および利用されるラッキングシステムの特性、試料の近似形状、試料の熱特性、装置の形状、装置内の試料の所定の配置、熱交換流体の所定の入口温度、および入口から出口への熱交換流体の所定の温度上昇が含まれる。
【0061】
試料の液-固相転移の開始が近似される。一実施形態では、液-固相転移の開始は、一定の冷却速度で凍結している材料の試料の1つ以上の試験結果から得られる冷却曲線から概算される。液-固相転移の開始は、追加的または代替的に、上述の計算流体力学解析によって得られた試料の冷却曲線から決定/確認することができる。
【0062】
所定の徐冷速度の場合、相転移の開始付近までの所定の試料表面温度における試料の中心部の平均温度低下速度が(上述の計算流体力学モデルから)決定される。その後、徐冷速度を達成するために必要な浸漬タンク2への熱交換流体流量を決定することができる。
【0063】
所定の急速冷却速度を達成するために必要な熱交換流体流量も同様に、相転移の開始付近から所定の試料表面温度における試料のコアの平均温度低下速度の解析によって決定される。この工程で算出された熱交換流体流量が、装置のポンプデューティまたはエバポレータデューティがそれぞれ所定のポンプデューティまたは所定のエバポレータデューティ以上である場合に、初期量よりも所定量多い量の凍結保護剤が選択され、新たな初期量が定義される。一方、この工程で計算された熱交換流体流量が、それぞれ所定のポンプデューティまたは所定のエバポレータデューティ以下のポンプデューティまたはエバポレータデューティに対応する場合(すなわち、熱交換流体流量が実用的な観点から許容される場合、例えば、ポンプデューティが選択された温度における熱交換流体の粘度に基づいて許容可能である場合、またはエバポレータデューティが必要な熱除去に基づいて許容可能である場合)、その初期量の凍結保護剤が、保存前に生物学的材料に添加されるべき凍結保護剤の量として選択される。
【0064】
計算された熱交換流体流量が、それぞれ所定のポンプデューティまたは所定のエバポレータデューティを上回るポンプデューティまたはエバポレータデューティに対応する場合、計算された熱交換流体流量が、それぞれ所定のポンプデューティまたは所定のエバポレータデューティ以下のポンプデューティまたはエバポレータデューティに対応するまで、方法工程が繰り返される。
【0065】
一実施形態では、凍結保護剤の初期量はゼロである。計算工程が繰り返される場合、初期量より多い凍結保護剤の所定量は、各繰り返しにおいて1%多いなど、規則的な増分で増加させることができる。
【0066】
一旦、適切な量の凍結保護剤が上述の方法を用いて決定されると、次に、生物学的材料の試料は、上述の装置10を用いて保存するために、計算された量の凍結保護剤を用いて調製され得る。
【0067】
所定の徐冷速度および/または急速冷却速度は、従来のプロトコルに基づいて、または生物学的材料の特定の試料に対して実施された試験もしくは解析に基づいて同定することができる。一実施形態では、徐冷速度は毎分約10℃までである。徐冷速度は、毎分約0.1℃~約10℃の間であってもよい。
【0068】
一実施形態において、急速冷却速度は、毎分約100℃より大きい。急冷速度は毎分約200℃より大きくてもよい。
【0069】
解凍装置および方法
図17を参照すると、凍結保存された生物学的材料を解凍するための解凍装置100も提供され、当該装置は、生物学的材料を受容するための解凍タンク102を含む。生物学的材料は、トレイ、ラックおよびバスケットのうちの1つ以上を含む構造でタンク内に保持され得る。この構造は、生物学的材料を凍結装置から解凍装置に簡便に移すことができるように、生物学的材料を浸漬タンク2内に保持するために使用される構造と同一であってもよい。解凍装置100は、解凍流体がタンク102に導入されるタンク入口と、解凍流体がタンクから除去されるタンク出口とを有し、タンクは、作動中、タンク内の生物学的材料が解凍流体中に浸漬され、生物学的材料の解凍のために解凍流体と熱交換するように、装置を通る連続的な解凍流体の流れを収容するように構成される。解凍タンクは、1つ以上の特定の経路に沿ってタンクを通る解凍流体の流れを誘導するように構成されたバッフル(図示せず)を含んでいてもよい。
【0070】
一実施形態では、凍結保存された生物学的材料を解凍する方法は、まず、生物学的材料の近似形状の総表面積を決定する工程であって、生物学的材料および任意の包装が試料を画定する、工程と、試料の熱特性を推定する工程と、解凍タンク102内で解凍されている試料のシミュレーションを介して試料に対して計算流体力学解析を実行し、解凍システムの様々な入力パラメータの影響を調査する工程とを含む。調査されるシミュレーションの入力/制約には、包装の特性および利用されるラッキングシステムの特性、試料の近似形状、試料の熱特性、装置の形状、装置内の試料の所定の配置、解凍流体の所定の入口温度、および入口から出口までの解凍流体の所定の温度低下が含まれる。
【0071】
図18は、解凍タンク内に配置された13個のクライオバイアルのアレイの解凍をシミュレートするためのパラメータの例を示しており、各クライオバイアルは0.5mlの血液を含んでいる。各クライオバイアルはポリプロピレン製で、直径6mm、高さ27.5mm、壁厚0.5mmとしてモデル化されている。解凍液の流入量は39リットル・秒/分とした。解凍タンクの筐体は高さ35.5mmとしてモデル化した。
【0072】
図19は、コンパートメント6に配置された13個のクライオバイアルの配列の解凍をシミュレートするためのパラメータの例を示しており、各クライオバイアルは2mlの血液を含んでいる。各クライオバイアルはポリプロピレン製で、直径13.5mm、高さ48.8mm、壁厚0.5mmとしてモデル化されている。解凍液の流入量は39リットル・秒/分とした。解凍タンクの筐体は高さ57mmでモデル化されている。
【0073】
図20および21の温度-時間プロットは、約-80℃から解凍した、図19および20のモデルの中央0.5mlおよび2mlクライオバイアルのそれぞれの解析に対応する。
【0074】
図22、23および24の温度-時間プロットは、約-51℃から解凍した図19のモデルの中央0.5mlについての解析に対応し、クライオバイアルはそれぞれ、凍結保護剤を含まない赤血球、凍結保護剤として4%ジメチルスルホキシド(DMSO)を含む赤血球、および凍結保護剤として10%ジメチルスルホキシド(DMSO)を含む赤血球を含む。図27および図28は、DMSO濃度を変化させた混合血液の見かけ比熱および熱伝導率の参照プロットである。この参照プロットは、凍結保護剤濃度の影響を調べるための入力パラメータとして使用することができる。
【0075】
図25は、解凍タンク102の筐体内に吊り下げられた血液バッグの凍結をシミュレートするためのパラメータ例を示している。バッグの寸法は幅14.5cm、高さ7.6cm、厚さ4mmであり、バッグには10~30mlの血液が入っている。バッグの壁はエチレンビニルアセテート製で、厚さは0.13mmとモデル化されている。解凍液の流入量は約39リットル/分とし、バッグの狭い側面に実質的に垂直な方向とする。解凍タンクの筐体の高さは約320mmとしてモデル化されている。
【0076】
試料の固-液相転移の開始が近似される。一実施形態では、固-液相転移の開始は、一定の冷却速度で凍結中の材料の試料の1つ以上の試験結果から得られた冷却曲線から概算される。固-液相転移の開始は、追加的または代替的に、上述の計算流体力学解析によって得られた試料の解凍曲線から決定/確認することができる。
【0077】
その後、固-液相転移が始まるまでの期間、試料を解凍する。凍結した試料を転移の開始まで解凍すると、細胞生存率が上昇することが分かっている。解凍後、試料は約2℃に保たれる。
【0078】
いくつかの実施形態では、解凍液は37℃の温度で投入される水である。
【0079】
以上、本発明の様々な実施形態について説明したが、これらは例示として提示したものであって、限定するものではないことを理解されたい。本発明の思想および態様から逸脱することなく、形態および詳細における様々な変更を行うことができることは、関連技術の当業者には明らかであろう。したがって、本発明は、上述した例示的な実施形態のいずれかによって限定されるべきではない。
【0080】
本明細書における先行刊行物(またはそれに由来する情報)または周知の事項への言及は、その先行刊行物(またはそれに由来する情報)または周知の事項が、本明細書が関係する研究分野における一般的な知識の一部を形成していることを認めるものでも、示唆するものでもない。
【0081】
本明細書および特許請求の範囲全体を通して、文脈上別段必要とされない限り、「comprise」という語、および「comprises」および「comprising」などの変形は、記載された整数もしくは工程または整数もしくは工程の群を含むことを意味するが、他の整数もしくは工程または整数もしくは工程の群を排除することを意味しないと理解されべきである。
図1
図2A
図2B
図3A
図3B
図3C
図4
図5
図6
図7A
図7B
図8
図9
図10
図11
図12
図13A
図13B
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23
図24
図25
図26
図27
図28
図29
図30
図31
図32
【手続補正書】
【提出日】2024-01-11
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
生物学的材料を保存するための装置であって、外側断熱タンク内に配置されるように構成されたインサートを備え、前記インサートは、生物学的材料を受容するためのコンパートメントを画定し、前記外側断熱タンクから前記コンパートメントへの熱交換流体の流入は、前記インサートの一方の面において、またはそれに隣接して行われ、前記熱交換流体の前記コンパートメントから前記外側断熱タンクへの流出は、前記インサートの前記面において、またはそれに隣接して行われ、前記コンパートメントは、前記装置を通じる連続的な熱交換流体の流れを収容するための一連の開口部を有する壁を含み、作動中、前記コンパートメント内の生物学的材料は、熱交換流体中に浸漬され、前記生物学的材料の凍結のために前記熱交換流体と熱交換する、装置。
【請求項2】
前記インサートが、1つ以上の特定の経路に沿って前記コンパートメントを通る前記熱交換流体の流れを誘導するように構成されたバッフルを有する、ことを特徴とする請求項1に記載の装置。
【請求項3】
生物学的材料を保持するために前記コンパートメント内に受容可能な構造体を含み、前記構造体がトレイ、ラックおよびバスケットのうちの1つ以上である、ことを特徴とする請求項1または2に記載の装置。
【請求項4】
前記コンパートメントが、複数のサブコンパートメントを画定する複数の内部仕切りを有し、各サブコンパートメントが、前記構造体の1つを受容するように構成されている、ことを特徴とする請求項3に記載の装置。
【請求項5】
前記外側断熱タンクは、前記インサートが前記外側断熱タンク内に配置されたときに、前記インサートの前記面に隣接する1つの側面を有し、前記側面は、少なくとも1つの入口および少なくとも1つの出口を含み、前記入口は、使用時に、前記外側断熱タンクの外側から前記コンパートメント内に連通し、前記出口は、使用時に、前記コンパートメントから前記外側断熱タンクの外側に連通し、作動中、前記熱交換流体は、前記少なくとも1つの入口を介して前記タンクに導入され、前記少なくとも1つの出口を介して前記タンクから除去される、ことを特徴とする請求項1から4のいずれか一項に記載の装置。
【請求項6】
前記コンパートメント内の前記生物学的材料の凍結後に、前記生物学的材料を保持する1つ以上の容器を受容するように構成された乾燥タンクをさらに備え、前記乾燥タンクは、前記容器上に存在する残留流体を乾燥するように構成される、請求項1から5のいずれか一項に記載の装置。
【請求項7】
a.熱交換流体が、前記乾燥タンクを冷却するために前記乾燥タンク内に導かれること
b.前記装置が、熱交換流体を前記外側断熱タンクおよび前記乾燥タンクの一方または両方に選択的に導くための電磁制御弁を備えること、
c.前記乾燥タンクは、前記生物学的材料を保持する前記1つ以上の容器を所定の温度で貯蔵するように構成されていること
の少なくともひとつであることを特徴とする請求項6に記載の装置。
【請求項8】
生物学的材料を保存する方法であって、
a.前記生物学的材料の試料の近似形状の総表面積を決定する工程であって、前記生物学的材料および任意の包装は、試料を画定する、工程と、
b.前記試料の熱特性を推定する工程と、
c.試料の近似形状、前記試料の熱的性質、前記装置の形状、前記装置内の試料の所定の配置、熱交換流体の所定の入口温度、および入口から出口への前記熱交換流体の所定の温度上昇のいずれか1つ以上を含む流れ制約に基づいて、請求項1からのいずれか一項に記載の装置の前記コンパートメント内の前記試料に対して計算流体力学解析を実行する工程と、
d.前記試料の液-固相転移の開始を概算する工程と、
e.相転移の前記開始付近までの所定の試料表面温度における前記試料の前記コアの平均温度低下率、および所定の徐冷速度を得るために必要な対応する熱交換流体流量を決定する工程と、
f.相転移の前記開始付近から所定の試料表面温度における前記試料の前記コアの平均温度低下率、および所定の急速冷却速度を得るために必要な対応する熱交換流体流量を決定する工程と、
g.請求項1からのいずれか一項に記載の装置の前記コンパートメント内の試料を、相転移の前記開始付近まで前記徐冷速度で冷却する工程と、
h.前記コンパートメント内の前記試料を、相転移の前記開始付近から前記急速冷却速度で冷却する工程と
を備える方法。
【請求項9】
前記試料が凍結保護剤を含まない、ことを特徴とする請求項に記載の方法。
【請求項10】
生物学的材料が貯蔵されるコンパートメント、および熱交換流体を前記コンパートメントに流入および/またはそこから流出させるポンプ機械を有する装置内で前記生物学的材料を保存する方法であって、前記生物学的材料の熱特性、ならびに前記ポンプ機械のポンプ能力、熱交換流体、および前記生物学的材料の温度の少なくとも1つに基づいて、前記コンパートメントへの熱交換流体の流入および/または前記コンパートメントからの熱交換流体の流出を調整する工程を備える、方法。
【請求項11】
保存前に生物学的材料に添加されるべき凍結保護剤の量を決定する方法であって、
a.初期量の凍結保護剤を含む、保存されるべき前記生物学的材料の近似形状の総表面積を決定する工程であって、前記生物学的産物、凍結保護剤および任意の包装が試料を画定する、工程と、
b.前記試料の熱特性を推定する工程と、
c.前記試料の近似形状、前記試料の熱特性、前記装置の形状、前記装置内の試料の所定の配置、熱交換流体の所定の入口温度、および入口から出口への前記熱交換流体の所定の温度上昇のいずれか1つ以上を含む流れ制約に基づいて、請求項1からのいずれか一項に記載の装置の前記コンパートメント内の前記試料について計算流体力学解析を実行する工程と、
d.前記試料の液-固相転移の開始を近似する工程と、
e.相転移の開始付近までの所定の試料表面温度における前記試料の前記コアの平均温度低下率、および所定の徐冷速度を得るために必要な対応する熱交換流体流量を決定する工程と、
f.相転移の開始付近から所定の試料表面温度における前記試料の前記コアの平均温度低下率、および所定の急冷速度を得るために必要な対応する熱交換流体流量を決定する工程と、
g.工程(f)で計算された前記熱交換流体流量が、所定のポンプデューティまたは所定のエバポレータデューティを超える前記装置のポンプデューティまたはエバポレータデューティにそれぞれ対応する場合、前記初期量よりも所定量多い凍結保護剤の量を選択して、新たな初期量を定義するか、または工程(f)で計算された前記熱交換流体流量が、所定のポンプデューティまたは所定のエバポレータデューティ以下であるポンプデューティまたはエバポレータデューティにそれぞれ対応する場合、凍結保護剤の前記初期量を、保存前に生物学的材料に添加されるべき凍結保護剤の前記量として選択する工程と、
h.工程(f)で計算された前記熱交換流体流量が、前記所定のポンプデューティまたは前記所定のエバポレータデューティを超えるポンプデューティまたはエバポレータデューティにそれぞれ対応する場合、工程(f)で計算された前記熱交換流体流量が、前記所定のポンプデューティまたは前記所定のエバポレータデューティ以下であるポンプデューティまたはエバポレータデューティにそれぞれ対応するまで、工程(a)から(g)を繰り返す工程と
を備える方法。
【請求項12】
工程(a)から(g)のいずれかを繰り返す前の凍結保護剤の前記初期量がゼロである、ことを特徴とする請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記徐冷速度が
a.毎分約10℃までであること
b.毎分約0.1℃と約10℃との間であること
のいずれかであることを特徴とする請求項から12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
前記急冷速度が
a.毎分約100℃より大きいこと
b.毎分約200℃より大きいこと
のいずれかであることを特徴とする請求項から13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
a.液-固相転移の前記開始が、一定の冷却速度で凍結中の前記試料の冷却曲線から近似されること
b.凍結中の前記試料の前記冷却曲線が、前記試料に対する前記計算流体力学解析から得られること
の少なくともひとつであることを特徴とする請求項から14のいずれか一項に記載の方法。
【国際調査報告】