(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-02-02
(54)【発明の名称】気管切開チューブ並びに当該チューブ及びそのコンポーネントの製造
(51)【国際特許分類】
A61M 16/04 20060101AFI20240126BHJP
【FI】
A61M16/04 Z
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023542815
(86)(22)【出願日】2021-12-19
(85)【翻訳文提出日】2023-08-29
(86)【国際出願番号】 GB2021000145
(87)【国際公開番号】W WO2022153019
(87)【国際公開日】2022-07-21
(32)【優先日】2021-01-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
(71)【出願人】
【識別番号】509342843
【氏名又は名称】スミスズ メディカル インターナショナル リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100177426
【氏名又は名称】粟野 晴夫
(72)【発明者】
【氏名】ネイル スティーブン ビーシー
(72)【発明者】
【氏名】クリストファー ジョン ウーズナム
(72)【発明者】
【氏名】ローラ ベス モートン
(72)【発明者】
【氏名】アイーシャ ビンテシディク
(72)【発明者】
【氏名】アンドリュー トーマス ジェフリー
(57)【要約】
液状シリコーン材料の気管切開チューブフランジ(13)が、ネックストラップの端を収容するための開口(14)を両端付近に有する。開口(14)は、フランジ材料と同様の硬度を有する熱加硫シリコーン材料のインサート(137、138)へのオーバーモールドにより補強される。インサート(137、138)は、両端間に外方に突出するレッジ(144)を有する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
シャフト(10)及び該シャフトの機械側端(12)付近の取付フランジ(13)を含む気管切開チューブであって、前記取付フランジ(13)は、チューブの径方向外方に延び、チューブを患者の首に対して保持する手段を固定することができる開口(14)を各端付近に設けられる、気管切開チューブにおいて、前記フランジ(13)は、前記開口(14)のそれぞれで2つの補強インサート(137、138)にオーバーモールドされた第1シリコーン材料からなり、前記補強インサート(137、138)は、前記第1シリコーン材料とは異なる熱加硫シリコーンゴム材料からなることを特徴とする気管切開チューブ。
【請求項2】
請求項1に記載の気管切開チューブにおいて、前記フランジ(13)及び前記インサート(137、138)の前記シリコーン材料は、同様の硬度を有することを特徴とする気管切開チューブ。
【請求項3】
請求項2に記載の気管切開チューブにおいて、両方のシリコーン材料の硬度が、約70ショアAであることを特徴とする気管切開チューブ。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載の気管切開チューブにおいて、前記第1シリコーン材料は、液状シリコーンゴムであることを特徴とする気管切開チューブ。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項に記載の気管切開チューブにおいて、前記インサート(137、138)は、通路(150)が貫通した中空の管状本体(141、142)と、両端間で前記本体(141、142)の外側に延びる突起(144)とを含むことを特徴とする気管切開チューブ。
【請求項6】
請求項5に記載の気管切開チューブにおいて、前記突起は、前記本体(141、142)の周りに延びる環状のレッジ(144)であることを特徴とする気管切開チューブ。
【請求項7】
請求項5又は6に記載の気管切開チューブにおいて、前記フランジ(13)の両側が、前記インサート(137、138)の前記本体(141、142)の両端(147)と面一であり、各本体を通る前記通路(150)は前記フランジ(13)の厚さを貫通し、前記突起(144)の両側が前記フランジ(13)の材料により覆われることを特徴とする気管切開チューブ。
【請求項8】
気管切開チューブの取付フランジ(13)を製造する方法であって、熱加硫シリコーンゴム材料の2つのインサート(137、138)を成形するステップであり、該インサートはいずれも貫通する通路(150)及び外側突起(144)を有するステップと、前記2つのインサート(137、138)の前記外側突起(144)の周りに前記インサートの材料とは異なるシリコーン材料をオーバーモールドして、前記チューブの取付フランジ(13)を形成するステップであり、該取付フランジ(13)において、各インサートを通る前記通路(150)は、前記フランジ(13)の両端付近に固定手段を固定することができる開口(14)を提供するステップとを含む方法。
【請求項9】
請求項8に記載の方法において、前記インサート(137、138)の前記シリコーン材料は、前記インサートにオーバーモールドされた前記シリコーン材料と実質的に同じ硬度を有することを特徴とする方法。
【請求項10】
気管切開チューブを製造する方法であって、請求項8又は9に記載の方法により取付フランジ(13)を製造するステップと、患者側端(11)及び機械側端(12)を有する前記チューブのシャフト(10)を用意するステップと、前記シャフト(10)の前記機械側端(12)付近で前記シャフトに前記取付フランジ(13)を取り付けるステップとを含む方法。
【請求項11】
請求項10に記載の方法により製造された気管切開チューブ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シャフト及びシャフトの機械側端付近の取付フランジを含む種類の気管切開チューブであって、取付フランジは、チューブの径方向外方に延び、チューブを患者の首に対して保持する手段を固定することができる開口を各端付近に設けられる、気管切開チューブに関する。
【背景技術】
【0002】
気管切開チューブは、患者の換気、呼吸、又は自発呼吸を可能にするために用いられる。気管内チューブは、一端が気管内に位置し他端が患者外部に位置するように口又は鼻を介して挿入される。気管切開チューブは、首に外科的に形成された開口を介して気管に挿入される。気管切開チューブは、手術室で実行される外科的カットダウン法又は緊急時に実行され得る輪状甲状靱帯切開法等の異なる技術により挿入することができる。
【0003】
気管切開チューブは、長期的な換気に、又は口若しくは鼻への人工気道の挿入が不可能な場合に概して用いられる。患者は、気管切開チューブを通した呼吸中は意識がある場合が多く、気管切開チューブは、大気開放され得るか又は何らかの形態の人工呼吸器に配管により接続され得る。チューブは、チューブのシャフトの機械側端と固定されてチューブの両側で外方に延びるよう位置決めされた取付フランジにより、患者の首の所定位置に固定される。ネクタイ等が患者の首に巻かれ、その端がフランジの両端に固定される。代替として、縫合糸を用いてフランジを適所に固定することができる。
【0004】
気管切開チューブは、様々な材料からなることができ、通常はPVC、ポリウレタン、又はシリコーン等の屈曲可能なプラスチック材料からなることができる。シリコーンは、柔らかさ、快適さ、及び適合性を与えるので特に適している。患者は、挿管されて呼吸器を長時間、通常は1週間以上用いる場合があるので、これは気管切開チューブにおいて特に有利である。シリコーンは、オートクレーブの高温により損傷を受けないことにより、シリコーンチューブを再使用のために洗浄してオートクレーブ処理できるので有利でもある。
【0005】
気管切開チューブの取付フランジを、容易に撓んで患者の首の表面に一致するようにシリコーン等の軟質で適合性のあるプラスチックから成形することが特に望ましい。しかしながら、軟質プラスチック材料から成形されたフランジは、ネックストラップ又は縫合糸が患者の首へのチューブの固定に用いられる開口に挿通される場所でフランジを裂かないようにするほど十分な強度がない場合があるという問題を引き起こし得る。液状シリコーンゴム等のシリコーン材料からなる取付フランジによっては、特に面ファスナ(ベルクロ)タイプのファスナを用いたもの等の比較的剛性の材料のタイによる摩耗に対して耐摩耗性が低い。数日間をかけて摩耗は非常に激しくなるので、フランジの開口の縁を貫通してしまう。介護者が気付かなければ、これによりカニューレ抜管が起こり得る。縫合糸をフランジと共に用いる場合にも同様の問題があり得る。このリスクを低減するために、特許文献1に記載のようにネクタイ開口の周りに硬質プラスチックの補強部材を加えることが提案されている。こうした補強部材は、フランジ及びインサートの組成が異なるためインサートがフランジの残りの部分から分離しないようにするという課題をもたらす。概して、インサートとフランジとの間の接触領域に下塗りして、インサートがフランジから剥がれる、外れる、又は分離するリスクを低減する必要がある。インサートに対してフランジ材料が撓むと、微小割れ及び隙間がフランジ材料に発生し、瘻孔の感染につながる細菌の住処となり得る。このような緩い部材は、吸い込まれる可能性があるか又は吸い込まれたという懸念を与える可能性があるので、いかなる補強部材もフランジから分離しないようにすることが重要である。フランジ開口の補強に用いられる材料には、高温により損傷を受けることにより、チューブ全体をオートクレーブ洗浄に不適切にし得るものがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】米国特許第9,457,164号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、代替的な気管切開チューブと、当該チューブ及びそのフランジを製造する方法とを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様によれば、上記種類の気管切開チューブであって、フランジが開口のそれぞれで2つの補強インサートにオーバーモールドされた第1シリコーン材料からなり、補強インサートは、第1シリコーン材料とは異なる熱加硫シリコーンゴム材料からなることを特徴とする気管切開チューブが提供される。
【0009】
フランジ及びインサートのシリコーン材料は、同様の硬度を有することが好ましい。両方のシリコーン材料の硬度は約70ショアAである。第1シリコーン材料は、液状シリコーンゴムであることが好ましい。インサートは、通路が貫通した中空の管状本体と、両端間で本体の外方に延びる突起とを含み得る。突起は、本体の周りに延びる環状のレッジであり得る。フランジの両側は、インサートの本体の両端と面一であることが好ましく、各本体を通る通路はフランジの厚さを貫通し、突起の両側はフランジの材料により覆われる。
【0010】
本発明の別の態様によれば、気管切開チューブの取付フランジを製造する方法であって、熱加硫シリコーンゴム材料の2つのインサートを成形するステップであり、インサートはいずれも貫通する通路及び外側突起を有するステップと、2つのインサートの外側突起の周りにインサートの材料とは異なるシリコーン材料をオーバーモールドして、チューブの取付フランジを形成するステップであり、取付フランジにおいて、各インサートを通る通路は、フランジの両端付近に固定手段を固定することができる開口を提供するステップとを含む方法が提供される。
【0011】
インサートのシリコーン材料は、インサートにオーバーモールドされたシリコーン材料と実質的に同じ硬度を有することが好ましい。
【0012】
本発明のさらに別の態様によれば、気管切開チューブを製造する方法であって、本発明の上記別の態様による方法により取付フランジを製造するステップと、患者側端及び機械側端を有するチューブのシャフトを用意するステップと、シャフトの機械側端付近でシャフトに取付フランジを取り付けるステップとを含む方法が提供される。
【0013】
本発明の第4態様によれば、本発明の上記さらに別の態様の方法により製造された気管切開チューブが提供される。
【0014】
次に、本発による取付フランジを備えた気管切開チューブと取付フランジ及びチューブを製造する方法とを、添付図面を参照して例として説明する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】チューブの患者側からのチューブの機械側端の斜視図である。
【
図2】フランジ開口の一方を横断し且つシャフトがないチューブの取付フランジの一部の拡大斜視図である。
【
図3】取付フランジインサートの拡大斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
最初に
図1を参照すると、気管切開チューブ1は、シリコーン等の可撓性プラスチックから成形された円形断面の湾曲したシャフト10を有する。チューブ1の患者側端、遠位端、又は前端11は、気管内に位置するようになされている。チューブ1の機械側端、近位端、又は後端12は、気管切開部を通って延び、患者外部に通じる。チューブの機械側端12は、側方に延びる取付フランジ13を支持し、これは、首の皮膚に当たるようになされており、且つ首の周りに延びるネクタイ(図示せず)の端等の固定手段を収容する開口14を両端に有する。代替として、固定手段は、フランジ13に隣接する皮膚に通される縫合糸の形態をとることができる。チューブ1の機械側端12は、換気チューブの一端にある相手方の雌コネクタ(図示せず)を収容するよう配置された外側テーパの15mm雄コネクタ15も含む。図示のコネクタ15は、シャフト10とは別個のコンポーネントであり、シャフトよりも硬質のプラスチックから成形される。代替として、コネクタは、シャフトと一体的な一体コンポーネントとすることができる。患者が自発呼吸している場合、コネクタは不要であり得るので、シャフトは薄型のエンドフィッティングで終わることもできる。チューブ1は、シーリングカフを伴わずに図示されているが、このような従来のシーリングカフ及び発声用の窓又は吸引ルーメン等の他の従来の特徴を設けることもできる。
【0017】
次に
図2も参照すると、シャフト10の後端は、拡大外側円形ボス16で終わり、取付フランジ13の中央開口30を通って延びる。フランジ13は、開口30の周りに形成されてフランジの後面から突出する円形のカラー31を有する。カラー31は、円形のキャビティ32を形成し、これにシャフト10のボス16が収容されて結合される。
【0018】
取付フランジ13は、比較的軟質で適合性のあるシリコーン材料、好ましくは約70ショアAの硬度を有する液状シリコーンゴムから成形される。これは、シャフト10を形成するのと同じ材料であることが好ましい。フランジ13は、シャフト10の曲率面に対して垂直な軸に沿って中央カラー31の外方に突出する2つの径方向アーム131及び132を有する。各アーム131及び132の内側部分は、カラー31の直径の約半分の幅を有する。外端では、各アーム131及び132は、テーパ領域133及び134から拡大領域135及び136にかけて外方に広がり、その幅はアームの内側部分の幅の約2倍である。ネクタイ等の端を収容するための開口14は、これらの拡大領域135及び136に設けられ、
図3により明確に示す各インサート137及び138により補強される。インサート137及び138は、インサートの外側にフランジ材料をオーバーモールドすることによりフランジ13に対して保持される。
【0019】
インサート137及び138も、シリコーン材料から、但しフランジ13の主要部分を形成するものよりも高い耐熱性グレードのシリコーン材料、すなわちフランジの材料と同様の硬度を有するAvantor, Inc.からのMED-4070等の熱加硫シリコーンゴムから成形される。インサート及びフランジの両方をシリコーン材料から作ることにより、長期の使用及び撓み後でも割れ及び分離のない非常に良好な結合を達成することが可能であることが分かった。2つの材料の硬度が同様であることには、インサートによりフランジの局所領域の剛性が高くならないという利点もある。インサート137及び138は、径方向に延びる平坦な板140を有する略矩形の形状を有し、板140は角にRを付けた矩形であり、フランジのアームの厚さの約1/4の厚さを有する。板140の両側の中央から、端143にRを付けた楕円のレーストラック形の同一の壁141及び142により形成された中空の管状本体が突出する。壁141及び142の横方向外径寸法は、中央の板140が前方を向いた上面145及び後方を向いた下面146を有する環状の外側突起、レッジ、又はリング144を形成するように板の外径寸法よりも小さい。壁141及び142の上下面147は、Rを付けた内側領域149として続く平坦な外側領域148を有する。これにより、開口14を形成するインサート137及び138を通して中央の細長い通路150への滑らかな入口が得られる。インサート137及び138は、取付フランジ13のアーム131及び132に、各インサートの通路150がアームの長さに対して直角に延びるようにして埋め込まれる。インサート137及び138の高さは、アーム131及び132の両面がインサートの平坦な端部外側領域148と面一であるようにアームの厚さに等しい。各インサート137及び138のレッジ144は、アーム131及び132の厚さの中間で外方に突出してフランジ材料に入る。フランジ13の主要部分とインサート137及び138とで用いられるシリコーン材料の相容性は、フランジ材料が、インサートの外側と、上壁及び下壁141及び142の外面の周囲で、レッジ144の上面及び下面に沿って、且つその外縁の周囲で強固な結合を形成することを意味する。フランジ材料とインサートとの結合には、いかなる下塗りも他の前処理も必要ない。インサート137及び138と形成された結合は、フランジ13の曲げ及び撓みに対して耐性があり、分離も剥離も引き起こさず、細菌が集まる可能性がある割れも隙間も形成することがない。インサート137及び138は、フランジ13の残部の材料と同様の硬度を有するので、フランジにわたる剛性の差を回避する。使用の際、ネクタイの両端又は縫合糸がインサート137及び138の通路150に挿通又は他の方法で固定される。インサート137及び138の材料の耐摩耗性により、使用中にネクタイ又は縫合糸が加える力及び移動により生じる摩擦がフランジ13に損傷を与えないようになりつつ、フランジの軟度及び適合性も損なわれない。
【0020】
取付フランジ13は、最初に熱加硫シリコーンゴム材料からインサート137及び138を成形し、続いて液状シリコーンゴム材料をインサートにオーバーモールドしてフランジの残りの部分を形成することにより製造される。完全な気管切開チューブ1を製造するために、シャフト10は、別個に、好ましくはフランジと同じシリコーン材料から、又は結合のためにフランジ材料と適合性のある同様のシリコーン材料から成形される。シャフトの主要部分は、硬質プラスチック材料からなる予め形成されたコネクタ15の患者側端にオーバーモールドされるか又は他の方法で取り付けられる。シャフト10は、フランジ13の中央開口30に挿通され、シャフトの機械側端付近の拡大ボス16の外側及びフランジの中央カラー31の内側32に適切な結合溶液が塗布される。
【国際調査報告】