(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-02-02
(54)【発明の名称】テキスタイルのための高分子沈着および付着プロセス
(51)【国際特許分類】
A47G 27/02 20060101AFI20240126BHJP
D06M 15/263 20060101ALI20240126BHJP
【FI】
A47G27/02 Z
D06M15/263
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023542936
(86)(22)【出願日】2022-01-14
(85)【翻訳文提出日】2023-09-14
(86)【国際出願番号】 JP2022001169
(87)【国際公開番号】W WO2022154091
(87)【国際公開日】2022-07-21
(32)【優先日】2021-01-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】510222590
【氏名又は名称】ダイキン アメリカ インコーポレイティッド
【氏名又は名称原語表記】DAIKIN AMERICA,INC.
【住所又は居所原語表記】20 Olympic Drive,Orangeburg,New York 10962,U.S.A
(71)【出願人】
【識別番号】000002853
【氏名又は名称】ダイキン工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100129791
【氏名又は名称】川本 真由美
(74)【代理人】
【識別番号】100221501
【氏名又は名称】式見 真行
(74)【代理人】
【識別番号】100224605
【氏名又は名称】畠中 省伍
(72)【発明者】
【氏名】ブリッジズ,ジェイムズ ケイシー
(72)【発明者】
【氏名】アイランド,ヘイリー
(72)【発明者】
【氏名】福森 正樹
【テーマコード(参考)】
3B120
4L033
【Fターム(参考)】
3B120AA14
3B120AA20
3B120DB02
3B120EB01
3B120EB04
4L033AA07
4L033AA08
4L033AB01
4L033AB04
4L033AC03
4L033CA18
(57)【要約】
高分子表面処理剤をカーペットおよびその他のテキスタイルに適用するためのシステムおよび方法が提供される。本システムおよび方法は、表面処理高分子の界面活性剤フリーエマルションの使用を含む。表面処理高分子の界面活性剤フリーエマルションの使用により、表面処理高分子をカーペットまたはその他のテキスタイルに適用する際にpH調整剤および/またはイオン性塩溶液を使用する必要性が低下する、または排除される。界面活性剤、乳化剤、pH調整剤、および/または塩を除去する必要性が低下することによって、カーペットまたはその他のテキスタイルの処理で使用される水の総容積が減少する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
カーペットを処理する方法であって、
表面処理高分子の界面活性剤フリーエマルションをカーペットに適用する工程であり、前記表面処理高分子が溶液重合によって形成されている、工程と、
前記表面処理高分子の界面活性剤フリーエマルションを前記カーペットに適用した後に前記カーペットを乾燥させる工程と
を含む、方法。
【請求項2】
前記カーペットを乾燥させる工程が、前記カーペットを加熱することによって実施される、請求項1に記載のカーペットを処理する方法。
【請求項3】
前記カーペットが、1秒間~500分間、少なくとも60℃または93℃(200°F)超の温度に加熱される、請求項2に記載のカーペットを処理する方法。
【請求項4】
前記カーペットを乾燥させる工程が、前記界面活性剤フリーエマルションを前記カーペットに適用した後に前記カーペットをすすぐことなく実施される、請求項1に記載のカーペットを処理する方法。
【請求項5】
前記界面活性剤フリーエマルションを、塩溶液を使用しないで前記カーペットに適用する、請求項1に記載のカーペットを処理する方法。
【請求項6】
前記界面活性剤フリーエマルションを、マグネシウム塩溶液を使用しないで前記カーペットに適用する、請求項1に記載のカーペットを処理する方法。
【請求項7】
0.1mS/cm超の導電率を有する溶液を前記カーペットに適用する前に、前記カーペットを乾燥させる、請求項1に記載のカーペットを処理する方法。
【請求項8】
前記界面活性剤フリーエマルションを、別個の酸性溶液を使用しないで前記カーペットに適用する、請求項1に記載のカーペットを処理する方法。
【請求項9】
前記界面活性剤フリーエマルションが、前記カーペットに適用される際に4.0超のpHを有する、請求項1に記載のカーペットを処理する方法。
【請求項10】
前記界面活性剤フリーエマルションが、前記カーペットに適用される際に4.5~10.0の間のpHを有する、請求項1に記載のカーペットを処理する方法。
【請求項11】
別個のpH調整剤を前記カーペットに適用する前に、前記カーペットを乾燥させる、請求項1に記載のカーペットを処理する方法。
【請求項12】
前記界面活性剤フリーエマルションが乳化剤を実質的に含まない、請求項1に記載のカーペットを処理する方法。
【請求項13】
前記表面処理高分子がフッ素を含まない、請求項1に記載のカーペットを処理する方法。
【請求項14】
前記表面処理高分子が、(a)7~40個の炭素原子を含有する炭化水素基を有するアクリル単量体から形成された繰り返し単位と、(b)親水性基を有するアクリル単量体から形成された繰り返し単位と、(c)イオン供与基を有する単量体から形成された繰り返し単位とを含む、請求項1に記載のカーペットを処理する方法。
【請求項15】
前記イオン供与基がカチオン供与基である、請求項14に記載のカーペットを処理する方法。
【請求項16】
前記カチオン供与基がアミノ基である、請求項15に記載のカーペットを処理する方法。
【請求項17】
テキスタイルを処理する方法であって、
前記テキスタイルを処理浴に浸す工程であり、前記処理浴が、表面処理高分子の界面活性剤フリーエマルションを含み、前記表面処理高分子が、(a)炭化水素基を有するアクリル単量体から形成された繰り返し単位と、(b)親水性基を有するアクリル単量体から形成された繰り返し単位と、(c)カチオン供与基を有する単量体から形成された繰り返し単位とを含む、工程と;
前記テキスタイルを前記処理浴に浸した後に、前記テキスタイルをすすぐことなく、前記テキスタイルを加熱して含水量を減少させる工程と
を含む、方法。
【請求項18】
前記処理浴が乳化剤を実質的に含まない、請求項17に記載のテキスタイルを処理する方法。
【請求項19】
前記テキスタイルがカーペットの連続または半連続ウェブである、請求項17に記載のテキスタイルを処理する方法。
【請求項20】
前記テキスタイルが、ポリエチレンテレフタレート(PET)またはポリトリメチレンテレフタレート(PTT)繊維を含むカーペットである、請求項17に記載のテキスタイルを処理する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、全体が参照により本明細書に組み込まれる、2021年1月17日に出願された米国仮特許出願第63/138,497号に基づく米国特許法第119条(e)の下での利益を主張する。
【0002】
本開示は、高分子表面処理剤(treatment)をカーペットおよびその他のテキスタイルに適用すること、より詳細には界面活性剤フリーエマルション高分子製品を利用してテキスタイルの汚れ耐性および/または撥液性を改善することに関する。
【背景技術】
【0003】
カーペットおよびテキスタイル業界では、汚れ耐性および撥液性が、カーペットおよびその他のテキスタイルの極めて望ましい特性である。業界がフッ素化学製品の使用から離れるにつれ、低コストで改善された性能特性を提供することが課題である。
カーペットおよびその他のテキスタイルの表面処理の典型的な方法は、製造中の界面活性剤安定化高分子エマルション製品のカーペットまたはその他のテキスタイルへの適用を伴う。界面活性剤安定化乳化粒子は様々な界面活性剤によって連続相に懸濁されたままであるが、開示される高分子表面処理剤は、これを連続相に懸濁されたままにする高分子に固有のイオン性部分によって安定化される。
【0004】
カーペット用途のための撥剤化学物質のほとんどが界面活性剤安定化エマルションである。界面活性剤系エマルション化学物質は、エマルションを安定に保つために界面活性剤および乳化剤を要する。界面活性剤安定化エマルションを不安定化し、高分子をカーペット繊維上に放出するために、酸性pHおよび塩溶液が使用される。
【0005】
標準的なエキゾースト法(exhaust method)を介して適用される従来の界面活性剤安定化エマルション表面処理剤は、典型的には低pH(約pH2~3)および硫酸マグネシウムなどの塩溶液の使用を要する。乾燥前に残っている界面活性剤、乳化剤、塩、および/または酸を除去するためにすすぎ工程も必要とされ得る。これらの追加のプロセス要件は、環境および安全性の観点から問題を引き起こし得る。開示される表面処理剤の一部の実施態様は、pH調整の使用も、塩溶液の使用も、すすぎ工程の使用も要さないエキゾースト法を介して適用することができる。一部の実施態様では、開示される発明が、他の非フルオロケミカル選択肢よりも優れた撥性能(repellency performance)を達成する。
【発明の概要】
【0006】
本開示は一般に、カーペットおよびその他のテキスタイルへの高分子表面処理剤の界面活性剤フリーエマルションの適用に関する。
【0007】
一部の開示される実施態様は、カーペットを処理する方法であって、表面処理高分子の界面活性剤フリーエマルションをカーペットに適用する工程であり、表面処理高分子が溶液重合によって形成される、工程と、表面処理高分子の界面活性剤フリーエマルションをカーペットに適用した後にカーペットを乾燥させる工程とを含む、方法に関する。一部の実施態様では、表面処理高分子が、(a)7~40個の炭素原子を含有する炭化水素基を有するアクリル単量体から形成された繰り返し単位と、(b)親水性基を有するアクリル単量体から形成された繰り返し単位と、(c)イオン供与基を有する単量体から形成された繰り返し単位とを含む。一部の実施態様では、カーペットを乾燥させる工程が、界面活性剤フリーエマルションをカーペットに適用した後にカーペットをすすぐことなく実施される。
【0008】
一部の開示される実施態様は、連続または半連続製造プロセスの一部としてインラインで使用され得る、カーペットを処理するための方法およびプロセス工程に関する。
【0009】
上記は、請求される主題の一部の態様の基本的な理解を提供するために、簡易化された要約を提示する。この要約は広範な概要ではない。上記は、重要もしくは決定的な要素を特定することも、請求される主題の範囲を描写することも意図していない。その唯一の目的は、後に提示されるより詳細な説明の前置きとして簡易化された形態で一部の概念を提示することである。
本開示の好ましい実施態様は以下の通りである:
実施態様1.カーペットを処理する方法であって、
表面処理高分子の界面活性剤フリーエマルションをカーペットに適用する工程であり、表面処理高分子が溶液重合によって形成される、工程と、
表面処理高分子の界面活性剤フリーエマルションをカーペットに適用した後にカーペットを乾燥させる工程と
を含む方法。
実施態様2.カーペットを乾燥させる工程がカーペットを加熱することによって実施される、実施態様1に記載のカーペットを処理する方法。
実施態様3.カーペットが、1秒間~500分間、少なくとも60℃または93℃(200°F)超の温度に加熱される、実施態様2に記載のカーペットを処理する方法。
実施態様4.カーペットを乾燥させる工程が、界面活性剤フリーエマルションをカーペットに適用した後にカーペットをすすぐことなく実施される、実施態様1に記載のカーペットを処理する方法。
実施態様5.界面活性剤フリーエマルションを、塩溶液を使用しないでカーペットに適用する、実施態様1に記載のカーペットを処理する方法。
実施態様6.界面活性剤フリーエマルションを、マグネシウム塩溶液を使用しないでカーペットに適用する、実施態様1に記載のカーペットを処理する方法。
実施態様7.0.1mS/cm超の導電率を有する溶液をカーペットに適用する前にカーペットを乾燥させる、実施態様1に記載のカーペットを処理する方法。
実施態様8.界面活性剤フリーエマルションを、別個の酸性溶液を使用しないでカーペットに適用する、実施態様1に記載のカーペットを処理する方法。
実施態様9.界面活性剤フリーエマルションが、カーペットに適用される際に4.0超のpHを有する、実施態様1に記載のカーペットを処理する方法。
実施態様10.界面活性剤フリーエマルションが、カーペットに適用される際に4.5~10.0の間のpHを有する、実施態様1に記載のカーペットを処理する方法。
実施態様11.別個のpH調整剤をカーペットに適用する前にカーペットを乾燥させる、実施態様1に記載のカーペットを処理する方法。
実施態様12.界面活性剤フリーエマルションが乳化剤を実質的に含まない、実施態様1に記載のカーペットを処理する方法。
実施態様13.表面処理高分子がフッ素を含まない、実施態様1に記載のカーペットを処理する方法。
実施態様14.表面処理高分子が、(a)7~40個の炭素原子を含有する炭化水素基を有するアクリル単量体から形成された繰り返し単位と、(b)親水性基を有するアクリル単量体から形成された繰り返し単位と、(c)イオン供与基を有する単量体から形成された繰り返し単位とを含む、実施態様1に記載のカーペットを処理する方法。
実施態様15.イオン供与基がカチオン供与基である、実施態様14に記載のカーペットを処理する方法。
実施態様16.カチオン供与基がアミノ基である、実施態様15に記載のカーペットを処理する方法。
実施態様17.テキスタイルを処理する方法(またはシステム)であって、
テキスタイルを処理浴に浸す工程であり、処理浴が、表面処理高分子の界面活性剤フリーエマルションを含み、表面処理高分子が、(a)炭化水素基を有するアクリル単量体から形成された繰り返し単位と、(b)親水性基を有するアクリル単量体から形成された繰り返し単位と、(c)カチオン供与基を有する単量体から形成された繰り返し単位とを含む、工程と;
テキスタイルを処理浴に浸した後に、テキスタイルをすすぐことなく、テキスタイルを加熱して含水量(moisture content)を減少させる工程と
を含む、方法。
実施態様18.処理浴が乳化剤を実質的に含まない、実施態様17に記載のテキスタイルを処理する方法。
実施態様19.テキスタイルがカーペットの連続または半連続ウェブである、実施態様17に記載のテキスタイルを処理する方法。
実施態様20.テキスタイルが、ポリエチレンテレフタレート(PET)またはポリトリメチレンテレフタレート(PTT)繊維を含むカーペットである、実施態様17に記載のテキスタイルを処理する方法。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本明細書に論じられる修正AATCC撥液性試験法193-2017で使用した溶液グレードの概要を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に示される実施態様は、当業者が本開示を実施することを可能にするのに必要な情報を表し、本開示の実施の最良の態様を示す。添付図面に照らして以下の説明を読めば、当業者は本開示の概念を理解し、本明細書で特に取り上げられていないこれらの概念の用途を認識するだろう。これらの概念および用途が本開示および添付の特許請求の範囲の範囲に入ることが理解されるべきである。
【0012】
特に定義しない限り、本明細書で使用される全ての用語(技術用語および科学用語を含む)は、本開示の分野の当業者によって一般的に理解されるのと同じ意味を有する。用語、例えば一般的に使用される辞書に定義される用語は、本明細書の文脈中の意味と一致する意味を有すると解釈されるべきであり、本明細書で明示的に定義されない限り、理想化された意味でも過度に形式的な意味でも解釈されるべきでないことがさらに理解されよう。周知の機能または構成は、簡潔さまたは明確さのために詳細に記載されない場合がある。
【0013】
「約」および「およそ」という用語は、一般的に、測定の性質または精度を考慮した、測定された量についての許容される誤差または変動の程度を意味するものとする。典型的で、例示的な誤差または変動の程度は、所与の値または値の範囲の20%以内、好ましくは10%以内、より好ましくは5%以内である。本明細書で与えられる数量は特に明記しない限り近似であり、これは明示的に明記されていない場合、「約」または「およそ」という用語が推定され得ることを意味する。特許請求の範囲の数量は、特に明記しない限り正確である。
【0014】
ある特徴または要素が別の特徴または要素「の上に」あると言及される場合、これが他の特徴もしくは要素の直ぐ上にあってもよい、または介在する特徴および/もしくは要素が存在してもよいと理解される。対照的に、ある特徴または要素が別の特徴または要素「の直ぐ上に」あると言及される場合、介在する特徴も要素も存在しない。ある特徴または要素が別の特徴または要素に「接続」、「付着」または「結合」されていると言及される場合、これが他の特徴もしくは要素に直接接続、付着もしくは結合されていてもよい、または介在する特徴または要素が存在してもよいと理解される。対照的に、ある特徴または要素が別の特徴または要素に「直接接続」、「直接付着」または「直接結合」されていると言及される場合、介在する特徴も要素も存在しない。ある実施態様に関して記載または示されていても、そのように記載または示されている特徴および要素を他の実施態様に適用することができる。
【0015】
本明細書で使用される用語法は、単に特定の実施態様を記載するためのものにすぎず、限定的であることを意図するものではない。本明細書で使用される場合、単数形「a」、「an」および「the」は、文脈上明確に別段の指示がない限り、複数形態も含むことを意図している。
【0016】
「第1の」、「第2の」などの用語は、本明細書において、様々な特徴または要素を記載するために使用されるが、これらの特徴または要素はこれらの用語によって限定されるべきでない。これらの用語は、ある特徴または要素を別の特徴または要素と区別するために使用されるにすぎない。よって、本開示の教示から逸脱することなく、以下で論じられる第1の特徴または要素が第2の特徴または要素と呼ばれることがあり、同様に、以下で論じられる第2の特徴または要素が第1の特徴または要素と呼ばれることがある。
【0017】
「AおよびBの少なくとも1つ」などの用語は、「Aのみ、Bのみ、またはAとBの両方」を意味すると理解されるべきである。同じ構成がより長いリスト(例えば、「A、B、およびCの少なくとも1つ」)にも適用されるべきである。
【0018】
本明細書で使用される場合、括弧を含む化学配合物は、括弧内に含まれる用語を含んでもよいし、含まなくてもよい。例えば、「(メタ)アクリル」という用語は、アクリルまたはメタクリルを意味する。第2の例として、「(メタ)アクリレート」は、アクリレートまたはメタクリレートを意味する。
【0019】
「から本質的になる」という用語は、列挙される要素に加えて、請求されるものが、本開示に明記される意図する目的にとって請求されるものの操作性に悪影響を及ぼさないその他の要素(工程、構造、成分、構成成分等)も含有し得ることを意味する。この用語は、本開示に明記される意図する目的にとって請求されるものの操作性に悪影響を及ぼすその他の要素を、このような要素が一部の他の目的にとって請求されるものの操作性を増強し得る場合であっても除外する。
【0020】
所によっては、それだけに限らないが、測定方法などの標準的な方法に言及される。このような標準は随時改訂され、特に明示的に明記しない限り、本開示におけるこのような標準への言及は、出願日の時点で直近の公開された標準を指すと解釈しなければならないことを理解すべきである。
【0021】
本開示は、カーペットおよびその他のテキスタイルを処理して撥液性を改善するための方法およびシステムの実施態様を記載する。開示される実施態様はカーペット表面処理の文脈で記載されるが、開示される実施態様を、天然および/または合成繊維テキスタイルを含むその他のテキスタイルに適用され得ることが認識されよう。
【0022】
従来のカーペット表面処理高分子は、乳化重合を使用して形成される。乳化重合は、典型的には水性連続相、1つまたは複数の乳化剤、水溶性開始剤、単量体、および/または連鎖移動剤を伴う。乳化重合中、単量体は水性連続相を通して乳化剤またはミセルの形態の乳化剤の群と接触するまで拡散する。疎水性単量体は、開始剤が単量体を重合させるまで、エマルション内に含有される。乳化重合の生成物は、一般的に、界面活性剤安定化高分子粒子の水性連続相中エマルションである。
【0023】
開示される表面処理高分子の実施態様は、溶液重合法を使用して調製される。溶液重合は、溶媒中の1種または複数種の単量体を開始剤と組み合わせることを伴う。単量体は、溶液中で互いに反応して、溶媒中に残ったままであり得る、または沈殿もしくは溶媒の除去によって凝固され得る高分子生成物を形成する。高分子生成物はまた、連続相溶媒が有機相から水相に転移する溶媒交換プロセスを通過することができる。
【0024】
開示される溶液重合の生成物は、冷却すると界面活性剤フリーエマルションに変換する、コロイド溶液である。一部の実施態様では、開示される生成物が、約45℃の周囲でコロイド溶液から界面活性剤フリーエマルションに変換する。界面活性剤および/または乳化剤によって水性連続相中で安定化されるエマルション重合生成物とは異なり、開示される界面活性剤フリーエマルションは、溶媒から水性系連続相に変換されると、高分子に固有のイオン性部分によって水性連続相中で安定化される。
【0025】
一部の実施態様では、開示される表面処理高分子がフッ素を含まないまたは実質的に含まない。
【0026】
一部の実施態様では、開示される界面活性剤フリーエマルションが乳化剤を含まないまたは実質的に含まない。乳化剤の量は、1重量部の表面処理高分子に基づいて、好ましくは0~0.01重量部、より好ましくは0~0.001(または0~0.0001)重量部、特に0重量部である。
【0027】
(1)表面処理高分子
開示される表面処理高分子(1)の実施態様は、(a)7~40個の炭素原子を含有する炭化水素基を有するアクリル単量体から形成された繰り返し単位と、(b)親水性基を有するアクリル単量体から形成された繰り返し単位と、単量体(a)および(b)に加えて、(c)イオン供与基を有する単量体から形成された繰り返し単位とを含む。
【0028】
一部の実施態様では、表面処理高分子が、(a)、(b)、および(c)の単量体に加えて、(d)別の単量体から形成された繰り返し単位も含み得る。
【0029】
(a)長鎖炭化水素基を有するアクリル単量体
長鎖炭化水素基含有単量体は、7~40個の炭素原子を有する炭化水素基を有する。長鎖炭化水素基は、好ましくは7~40個の炭素原子を有する直鎖または分枝鎖炭化水素基である。直鎖または分枝鎖炭化水素基中の炭素原子の数は、10~40個、12~30個または14~22個であり得る。直鎖または分枝鎖炭化水素基は、好ましくは12~40個、より好ましくは12~30個、特に好ましくは14~22個、とりわけ好ましくは16~20個(または16~22個)の炭素原子を有し、好ましくは飽和脂肪族炭化水素基、特にアルキル基である。長鎖炭化水素基は、特に好ましくはステアリル基、イコシル基またはベヘニル基である。
【0030】
長鎖炭化水素基含有単量体は、好ましくは式:
CH2=C(-X1)-C(=O)-Y1(R1)k
(式中、R1はそれぞれ独立して、7~40個の炭素原子を有する炭化水素基であり、
X1は、水素原子、一価有機基またはフッ素原子を除くハロゲン原子であり、
Y1は、1個の炭素原子を有する二価~四価炭化水素基、-C6H4-、-O-、-C(=O)-、-S(=O)2-および-NH-から選択される少なくとも1つの部分からなる基であり、
kは1~3の整数である)
の単量体である。
【0031】
X1は、水素原子、メチル基、フッ素原子を除くハロゲン、シアノ基、置換もしくは非置換ベンジル基、または置換もしくは非置換フェニル基であり得る。X1の例としては、水素原子、メチル基、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子およびシアノ基が挙げられる。X1は、好ましくは水素原子、メチル基または塩素原子である。X1は、特に好ましくは高い撥水性および高い汚れ耐性のために水素原子である。
【0032】
Y1は二価~四価基である。Y1は、好ましくは二価基である。Y1は、好ましくは1個の炭素原子を有する炭化水素基、-C6H4-、-O-、-C(=O)-、-S(=O)2および-NH-から選択される少なくとも1つの部分を含有する基である。1個の炭素原子を有する炭化水素基の例としては、-CH2-、-CH=および-C≡が挙げられる。
【0033】
Y1の例としては、-Y’-、-Y’-C(=O)-、-C(=O)-Y’-、-Y’-C(=O)-Y’-、-Y’-C(=O)-Y’-、-Y’-R’-、-Y’-R’-Y’-、-Y’-R’-Y’-C(=O)-、-Y’-R’-C(=O)-Y’-、-Y’-R’-Y’-C(=O)-Y’-およびY’-R’-Y’-R’-
(式中、Y’は直接結合、-O-または-NH-であり、
R’は-(CH2)m-(式中、mは1~5の整数である)または-C6H4-(フェニレン基)である)
が挙げられる。
【0034】
Y1の具体例としては、-O-、-NH-、-O-C(=O)-、-C(=O)-NH-、-NH-C(=O)-、-O-C(=O)-NH-、-NH-C(=O)-O-、-NH-C(=O)-NH-、-O-C6H4-、-O-(CH2)m-O-、-NH-(CH2)m-NH-、-O-(CH2)m-NH-、-NH-(CH2)m-O-、-O-(CH2)m-O-C(=O)-、-O-(CH2)m-C(=O)-O-、-NH-(CH2)m-O-C(=O)-、-NH-(CH2)m-C(=O)-O-、-O-(CH2)m-O-C(=O)-NH-、-O-(CH2)m-NH-C(=O)-O-、-O-(CH2)m-C(=O)-NH-、-O-(CH2)m-NH-C(=O)-、-O-(CH2)m-NH-C(=O)-NH-、-O-(CH2)m-S(=O)2-NH-、-O-(CH2)m-N H-S(=O)2-、-O-(CH2)m-O-C6H4-、-NH-(CH2)m-O-C(=O)-NH-、-NH-(CH2)m-NH-C(=O)-O-、-NH-(CH2)m-C(=O)-NH-、-NH-(CH2)m-NH-C(=O)-、-NH-(CH2)m-NH-C(=O)-NH-、-NH-(CH2)m-O-C6H4-、および-NH-(CH2)m-NH-C6H4-
(式中、mは1~5、特に2または4の整数である)
が挙げられる。
【0035】
Y1は、より好ましくは-O-、-NH-、-O-(CH2)m-O-C(=O)-、-O-(CH2)m-NH-C(=O)-、-O-(CH2)m-O-C(=O)-NH-、-O-(CH2)m-NH-C(=O)-O-、-O-(CH2)m-NH-C(=O)-NH-、-O-(CH2)m-NH-S(=O)2-または-O-(CH2)m-S(=O)2-NH-
(式中、mは1~5、特に2または4の整数である)
である。
【0036】
Y1は、特に好ましくは-O-、-NH-、-O-(CH2)m-NH-C(=O)-、-O-(CH2)m-O-C(=O)-NH-、-O-(CH2)m-NH-C(=O)-O-、-O-(CH2)m-NH-C(=O)-NH-、とりわけ-O-(CH2)m-NH-C(=O)-
(式中、mは1~5、特に2または4の整数である)
である。
【0037】
R1は、好ましくは直鎖または分枝鎖炭化水素基である。炭化水素基は特に直鎖炭化水素基であり得る。炭化水素基は、好ましくは脂肪族炭化水素基、特に飽和脂肪族炭化水素基、とりわけアルキル基である。炭化水素基中の炭素原子の数は、好ましくは12~30個、例えば15~26個、特に17~22個である。
【0038】
kは1~3、好ましくは1の整数である。
【0039】
長鎖炭化水素基含有単量体の例としては、以下が挙げられる:
(a1)式:
CH2=C(-X4)-C(=O)-Y2-R2
(式中、R2は7~40個の炭素原子を有する炭化水素基であり、
X4は、水素原子、一価有機基またはフッ素原子を除くハロゲン原子であり、
Y2は-O-または-NH-である)
によって表されるアクリル単量体;
(a2)式:
CH2=C(-X5)-C(=O)-Y3-Z(-Y4-R3)n
(式中、R3はそれぞれ独立して、7~40個の炭素原子を有する炭化水素基であり、
X5は、水素原子、一価有機基またはフッ素原子を除くハロゲン原子であり、
Y3は-O-または-NH-であり、
Y4はそれぞれ独立して、直接結合、または-O-、-C(=O)-、-S(=O)2-および-NH-から選択される少なくとも1つの部分からなる基であり、
Zは、直接結合、または1~5個の炭素原子を有する二価もしくは三価基であり、
nは1または2である)
によって表されるアクリル単量体。
【0040】
(a1)アクリル単量体
アクリル単量体(a1)は、式:
CH2=C(-X4)-C(=O)-Y2-R2
(式中、R2は7~40個の炭素原子を有する炭化水素基であり、
X4は、水素原子、一価有機基またはフッ素原子を除くハロゲン原子であり、
Y2は-O-または-NH-である)
の化合物である。
【0041】
アクリル単量体(a1)は、Y2が-O-である長鎖アクリル酸エステル単量体;またはY2が-NH-である長鎖アクリルアミド単量体である。
【0042】
R2は、好ましくは直鎖または分枝鎖炭化水素基である。炭化水素基は特に直鎖炭化水素基であり得る。炭化水素基は、好ましくは脂肪族炭化水素基、特に飽和脂肪族炭化水素基、とりわけアルキル基である。炭化水素基中の炭素原子の数は、好ましくは12~30個、例えば16~26個、特に18~22個である。
【0043】
X4は、水素原子、メチル基、フッ素原子を除くハロゲン、シアノ基、置換もしくは非置換ベンジル基または置換もしくは非置換フェニル基であり得る。X4の例としては、水素原子、メチル基、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子およびシアノ基が挙げられる。X4は、好ましくは水素原子、メチル基または塩素原子である。
【0044】
長鎖アクリル酸エステル単量体の具体例としては、ラウリルメタ(アクリレート)、ステアリル(メタ)アクリレート、イコシル(メタ)アクリレート、ベヘニル(メタ)アクリレート、ステアリルa-クロロアクリレート、イコシルa-クロロアクリレートおよびベヘニルa-クロロアクリレートが挙げられる。
【0045】
長鎖アクリルアミド単量体の具体例としては、ラウリル(メタ)アクリルアミド、ステアリル(メタ)アクリルアミド、イコシル(メタ)アクリルアミドおよびベヘニル(メタ)アクリルアミドが挙げられる。
【0046】
一部の実施態様では、長鎖アクリル酸エステル単量体および/または長鎖アクリルアミド単量体が、表面処理高分子によって付与される撥水性を増強する。
【0047】
(a2)アクリル単量体
アクリル単量体(a2)は、アクリル単量体(a1)とは異なる化合物である。アクリル単量体(a2)は、-O-、-C(=O)-、-S(=O)2-、または-NH-から選択される少なくとも1つの部分からなる基を有する(メタ)アクリレートまたは(メタ)アクリルアミドである。
【0048】
アクリル単量体(a2)は、式:
CH2=C(-X5)-C(=O)-Y3-Z(-Y4-R3)n
(式中、R3はそれぞれ独立して、7~40個の炭素原子を有する炭化水素基であり、
X5は、水素原子、一価有機基またはフッ素原子を除くハロゲン原子であり、
Y3は-O-または-NH-であり、
Y4はそれぞれ独立して、直接結合、または-O-、-C(=O)-、-S(=O)2-および-NH-から選択される少なくとも1つの部分からなる基であり、
Zは、直接結合、または1~5個の炭素原子を有する二価もしくは三価基であり、nは1または2である)
の化合物である。
【0049】
アクリル単量体(a2)は、Y3が-O-である長鎖アクリル酸エステル単量体;またはY3が-NH-である長鎖アクリルアミド単量体である。
【0050】
R3は、好ましくは直鎖または分枝鎖炭化水素基である。炭化水素基は特に直鎖炭化水素基であり得る。炭化水素基は、好ましくは脂肪族炭化水素基、特に飽和脂肪族炭化水素基、とりわけアルキル基である。炭化水素基中の炭素原子の数は、好ましくは12~30個、例えば、15~26個、または16~26個、特に17~22個(または18~24個)である。
【0051】
X5は、水素原子、メチル基、フッ素原子を除くハロゲン、シアノ基、置換もしくは非置換ベンジル基または置換もしくは非置換フェニル基であり得る。X5の例としては、水素原子、メチル基、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子およびシアノ基が挙げられる。X5は、好ましくは水素原子、メチル基または塩素原子、より好ましくは水素原子またはメチル基、特に好ましくは高い撥水性および高い防汚特性のために、水素原子である。
【0052】
Y4の例としては、-Y’-、-Y’-Y’-、-Y’-C(=O)-、-C(=O)-Y’-、-Y’-C(=O)-Y’-、-Y’-R’-、-Y’-R’-Y’-、-Y’-R’-Y’-C(=O)-、-Y’-R’-C(=O)-Y’-、-Y’-R’-Y’-C(=O)-Y’-、または-Y’-R’-Y’-R’-
(式中、
各Y’は独立して、直接結合、-O-、-NH-または-S(=O)2-であり、
各R’は独立して、-(CH2)m-(式中、mは1~5の整数である)、不飽和結合を有する1~5個の炭素原子の直鎖炭化水素基、枝分かれ構造を有する1~5個の炭素原子の炭化水素基、または-(CH2)l-C6H4-(CH2)l(式中、各lは独立して、0~5の整数であり、-C6H4-はフェニレン基である)である)
が挙げられる。
【0053】
Y4の具体例としては、直接結合、-O-、-NH-、-O-C(=O)-、-C(=O)-O-、-C(=O)-NH-、-NH-C(=O)-、-S(=O)2-NH-、-NH-S(=O)2-、-O-C(=O)-NH-、-NH-C(=O)-O-、-NH-C(=O)-NH-、-O-C6H4-、-NH-C6H4-、-O-(CH2)m-O-、-NH-(CH2)m-NH-、-O-(CH2)m-NH-、-NH-(CH2)m-O-、-O-(CH2)m-O-C(=O)-、-O-(CH2)m-C(=O)-O-、-NH-(CH2)m-O-C(=O)-、-NH-(CH2)m-C(=O)-O-、-O-(CH2)m-O-C(=O)-NH-、-O-(CH2)m-NH-C(=O)-O-、-O-(CH2)m-C(=O)-NH-、-O-(CH2)m-NH-C(=O)-、-O-(CH2)m-NH-C(=O)-NH-、-O-(CH2)m-O-C6H4-、-NH-(CH2)m-O-C(=O)-NH-、-NH-(CH2)m-NH-C(=O)-O-、-NH-(CH2)m-C(=O)-NH-、-NH-(CH2)m-NH-C(=O)-、-NH-(CH2)m-NH-C(=O)-NH-、-NH-(CH2)m-O-C6H4-、および-NH-(CH2)m-NH-C6H4-
(式中、mは1~5、特に2または4の整数である)
が挙げられる。
【0054】
Y4は、より好ましくは-O-、-NH-、-O-C(=O)-、-C(=O)-O-、-C(=O)-NH-、-NH-C(=O)-、-NH-S(=O)2-、-S(=O)2-NH-、-O-C(=O)-NH-、-NH-C(=O)-O-、-NH-C(=O)-NH-、または-O-C6H4-(式中、mは1~5、特に2または4の整数である)である。
【0055】
特に好ましくは、Y4は、-NH-C(=O)-、-C(=O)-NH-、-O-C(=O)-NH-、-NH-C(=O)-O-または-NH-C(=O)-NH-である。
【0056】
Zは、直接結合または、直鎖構造もしくは枝分かれ構造を有し得る、1~5個の炭素原子を含有する二価もしくは三価炭化水素基である。好ましくは、Zは2~4個の炭素原子、特に2個の炭素原子を有する。Zの具体例としては、直接結合、-CH2-、-CH2CH2-、-CH2CH2CH2-、-CH2CH2CH2CH2-、-CH2CH2CH2CH2CH2-、枝分かれ構造を有する-CH2CH=、枝分かれ構造を有する-CH2(CH-)CH2-、枝分かれ構造を有する-CH2CH2CH=、枝分かれ構造を有するCH2CH2CH2CH2CH=、枝分かれ構造を有する-CH2CH2(CH-)CH2-、および枝分かれ構造を有する-CH2CH2CH2CH=が挙げられる。Zは、好ましくは直接結合ではなく、Y4およびZは同時に直接結合ではない。
【0057】
アクリル単量体(a2)は、好ましくはCH2=C(-X5)-C(=O)-O-(CH2)m-NH-C(=O)-R3、
CH2=C(-X5)-C(=O)-O-(CH2)m-O-C(=O)-NH-R3、
CH2=C(-X5)-C(=O)-O-(CH2)m-NH-C(=O)-O-R3、または
CH2=C(-X5)-C(=O)-O-(CH2)m-NH-C(=O)-NH-R3
(式中、R3、X5およびmは上に定義される通りである)
である。アクリル単量体(a2)は、特に好ましくはCH2=C(-X5)-C(=O)-O-(CH2)m-NH-C(=O)-R3(式中、R3、X5およびmは上に定義される通りである)である。
【0058】
アクリル単量体(a2)は、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートまたはヒドロキシアルキル(メタ)アクリルアミドを長鎖アルキルイソシアネートと反応させることによって生成することができる。長鎖アルキルイソシアネートの例としては、ラウリルイソシアネート、ミリスチルイソシアネート、セチルイソシアネート、ステアリルイソシアネート、オレイルイソシアネートおよびベヘニルイソシアネートが挙げられる。
【0059】
あるいは、アクリル単量体(a2)は、長鎖アルキルアミンまたは長鎖アルキルアルコールを、側鎖上にイソシアネート基を有する(メタ)アクリレート、例えば2-メタクリロイルオキシエチルイソシアネートと反応させることによって生成され得る。長鎖アルキルアミンの例としては、ラウリルアミン、ミリスチルアミン、セチルアミン、ステアリルアミン、オレイルアミンおよびベヘニルアミンが挙げられる。長鎖アルキルアルコールの例としては、ラウリルアルコール、ミリスチルアルコール、セチルアルコール、ステアリルアルコール、オレイルアルコールおよびベヘニルアルコールが挙げられる。
【0060】
アクリル単量体(a2)の具体例は以下の通りである:
ステアリル(メタ)アクリレート、ベヘニル(メタ)アクリレート、ステアリルa-クロロアクリレート、ベヘニルa-クロロアクリレート;ステアリル(メタ)アクリルアミド、ベヘニル(メタ)アクリルアミド;
【0061】
(式中、mは1~5の整数であり、nは7~40の整数である)。
【0062】
上記化学式を有する化合物は、a位が水素原子であるアクリル化合物であり、具体例は、a位がメチル基であるメタクリル化合物およびa位が塩素原子であるa-クロロアクリル化合物であり得る。
【0063】
アクリル単量体(a2)の典型的な具体例としては、パルミチン酸アミドエチル(メタ)アクリレート、ステアリン酸アミドエチル(メタ)アクリレート(すなわち、アミドエチルステアレート(メタ)アクリレート)、ベヘン酸アミドエチル(メタ)アクリレートおよびミリスチン酸アミドエチル(メタ)アクリレートが挙げられる。
【0064】
長鎖炭化水素基含有アクリル単量体(a)の融点は、好ましくは少なくとも10℃、より好ましくは少なくとも25℃または少なくとも40℃である。
【0065】
長鎖炭化水素基含有アクリル単量体(a)は、好ましくはX1、X4およびX5の各々が水素原子であるアクリレートである。
【0066】
アクリル単量体(a2)は、特に好ましくは、式:
R12-C(=O)-NH-R13-O-R11
(式中、
R11はエチレン性不飽和重合性基を有する有機残基であり、
R12は7~40個の炭素原子を有する炭化水素基であり、
R13は1~5個の炭素原子を有する炭化水素基である)
のアミド基含有単量体である。
【0067】
R11は、エチレン性不飽和重合性基を有する有機残基であり、基が炭素-炭素二重結合を有する限り、限定されない。その具体例としては、-C(=O)CR14=CH2、-CHR14=CH2および-CH2CHR14=CH2(式中、R14は水素原子または1~4個の炭素原子を有するアルキル基である)などのエチレン性不飽和重合性基を有する有機残基が挙げられる。R11は、エチレン性不飽和重合性基に加えて、様々な有機基のいずれかを有してもよく、その例としては、鎖状炭化水素、環状炭化水素、ポリオキシアルキレン基およびポリシロキサン基などの有機基が挙げられる。例えば、これらの有機基は様々な置換基で置換されていてもよい。R11は、好ましくは-C(=O)CR14=CH2である。
【0068】
R12は、7~40個の炭素原子を有する炭化水素基、好ましくは7~40個の炭素原子を有するアルキル基であり、その例としては、鎖状炭化水素および環状炭化水素が挙げられる。その中でも、鎖状炭化水素が好ましく、直鎖飽和炭化水素基が特に好ましい。R12の炭素原子の数は、7~40個、好ましくは11~27個、特に15~23個である。
【0069】
R13は、1~5個の炭素原子を有する炭化水素基、好ましくは1~5個の炭素原子を有するアルキル基である。例えば、1~5個の炭素原子を有する炭化水素基は直鎖または分枝鎖であり得、不飽和結合を有していてもよい。炭化水素基は、好ましくは直鎖である。R13の炭素原子の数は、好ましくは2~4個、特に2個である。R13は、好ましくはアルキレン基である。
【0070】
アミド基含有単量体は、R11として単一基を有するもの(例えば、R11が17個の炭素原子を有する化合物のみ)、またはR11として複数の基の組合せを有するもの(例えば、R11が17個の炭素原子を有する化合物とR12が15個の炭素原子を有する化合物の混合物)であり得る。
【0071】
アミド基含有単量体の例としては、カルボン酸アミドアルキル(メタ)アクリレートが挙げられる。アミド基含有単量体の具体例としては、パルミチン酸アミドエチル(メタ)アクリレート、ステアリン酸アミドエチル(メタ)アクリレート、ベヘン酸アミドエチル(メタ)アクリレート、ミリスチン酸アミドエチル(メタ)アクリレート、ラウリル酸アミドエチル(メタ)アクリレート、イソステアリン酸エチルアミド(メタ)アクリレート、オレイン酸エチルアミド(メタ)アクリレート、tert-ブチルシクロヘキシルカプロン酸アミドエチル(メタ)アクリレート、アダマンタンカルボン酸エチルアミド(メタ)アクリレート、ナフタレンカルボン酸アミドエチル(メタ)アクリレート、アントラセンカルボン酸アミドエチル(メタ)アクリレート、パルミチン酸アミドプロピル(メタ)アクリレート、ステアリン酸アミドプロピル(メタ)アクリレート、パルミチン酸アミドエチルビニルエーテル、ステアリン酸アミドエチルビニルエーテル、パルミチン酸アミドエチルアリルエーテル、ステアリン酸アミドエチルアリルエーテルおよびこれらの混合物が挙げられる。
【0072】
アミド基含有単量体は、好ましくはステアリン酸アミドエチル(メタ)アクリレートである。アミド基含有単量体は、ステアリン酸アミドエチル(メタ)アクリレートを含有する混合物であり得る。ステアリン酸アミドエチル(メタ)アクリレートを含有する混合物中、ステアリン酸アミドエチル(メタ)アクリレートの量は、全てのアミド基含有単量体の重量に基づいて、例えば、55~99重量%、好ましくは60~85重量%、より好ましくは65~80重量%であり得、その他の単量体は、例えば、パルミチン酸アミドエチル(メタ)アクリレートであり得る。
【0073】
(b)親水基を有するアクリル単量体
親水基含有アクリル単量体(b)は、単量体(a)を除く単量体であり、親水性単量体である。親水基は、好ましくはオキシアルキレン基である(アルキレン基の炭素数は2~6個である)。特に、親水基含有アクリル単量体(b)は、好ましくはポリアルキレングリコールモノ(メタ)アクリレートおよび/またはポリアルキレングリコールジ(メタ)アクリレートである。ポリアルキレングリコールモノ(メタ)アクリレートおよびポリアルキレングリコールジ(メタ)アクリレートは、それぞれ一般式:
CH2=CX2C(=O)-O-(RO)n-X3 (b1)
および
CH2=CX2C(=O)-O-(RO)n-C(=O)CX2=CH2 (b2)
(式中、
X2はそれぞれ独立して、水素原子またはメチル基であり、
X3は、水素原子または1~22個の炭素原子を有する不飽和もしくは飽和炭化水素基であり、
Rはそれぞれ独立して、2~6個の炭素原子を有するアルキレン基であり、
nは1~90の整数である)
によって表される化合物であり得る。nは、例えば、1~50、とりわけ1~30、具体的には1~15または2~15であり得る。あるいは、nは、例えば、1であり得る。
【0074】
Rは、直鎖または分枝鎖アルキレン基、例えば、-(CH2)x-(式中、xは2~6である)または-(CH2)x1-(CH(CH3))x2-(式中、x1およびx2はそれぞれ、0~6、例えば、2~5であり、x1およびx2の合計は1~4である)であり得る。-(CH2)x1-および-(CH(CH3))x2-の順序は記載される式に限定されず、ランダムであり得る。-(RO)n-中、Rは少なくとも2種類であり得る(例えば、2~4種類、特に2種類)。-(RO)n-基は、例えば、-(R1O)n1-と-(R2O)n2-の組合せ(式中、R1およびR2は互いに異なり、2~6個の炭素原子を有するアルキレン基であり、n1およびn2は独立して、少なくとも1の整数であり、n1およびn2の合計は2~90である)であり得る。
【0075】
式(b1)および(b2)中のRは、特に好ましくはエチレン基、プロピレン基、またはブチレン基である。式(b1)および(b2)中のRは、少なくとも2種類のアルキレン基の組合せであり得る。その場合、少なくとも1種類のRは、好ましくはエチレン基、プロピレン基、またはブチレン基である。Rの組合せの例としては、エチレン基/プロピレン基の組合せ、プロピレン基/ブチレン基の組合せ、およびエチレン基/ブチレン基の組合せが挙げられる。単量体(b)は少なくとも2種類の混合物であり得る。その場合、少なくとも1つの単量体(b)は、好ましくは式(b1)または(b2)中のRについてエチレン基、プロピレン基、またはブチレン基を有する。式(b2)によって表されるポリアルキレングリコールジ(メタ)アクリレートが使用される場合、単量体(b)として単量体(b2)のみを使用することは好ましくなく、単量体(b2)と単量体(b1)の組合せを使用することが好ましい。この場合でさえ、式(b2)によって表される化合物は、単量体(b)に基づいて、好ましくは30重量%未満(例えば、1重量%~20重量%)の量に保たれる。
【0076】
親水基含有アクリル単量体(b)の具体例としては、それだけに限らないが、以下が挙げられる。
CH2=CHCOO-CH2CH2O-H
CH2=CHCOO-CH2CH2CH2O-H
CH2=CHCOO-CH2CH(CH3)O-H
CH2=CHCOO-CH(CH3)CH2O-H
CH2=CHCOO-CH2CH2CH2CH2O-H
CH2=CHCOO-CH2CH2CH(CH3)O-H
CH2=CHCOO-CH2CH(CH3)CH2O-H
CH2=CHCOO-CH(CH3)CH2CH2O-H
CH2=CHCOO-CH2CH(CH2CH3)O-H
CH2=CHCOO-CH2C(CH3)2O-H
CH2=CHCOO-CH(CH2CH3)CH2O-H
CH2=CHCOO-C(CH3)2CH2O-H
CH2=CHCOO-CH(CH3)CH(CH3)O-H
CH2=CHCOO-C(CH3)(CH2CH3)O-H
CH2=CHCOO-(CH2CH2O)2-H
CH2=CHCOO-(CH2CH2O)4-H
CH2=CHCOO-(CH2CH2O)5-H
CH2=CHCOO-(CH2CH2O)6-H
CH2=CHCOO-(CH2CH2O)23-CH3
CH2=CHCOO-(CH2CH2O)90-CH3
CH2=CHCOO-(CH2CH(CH3)O)9-H
CH2=CHCOO-(CH2CH(CH3)O)9-CH3
CH2=CHCOO-(CH2CH(CH3)O)12-CH3
CH2=CHCOO-(CH2CH2O)5-(CH2CH(CH3)O)2-H CH2=CHCOO-(CH2CH2O)5-(CH2CH(CH3)O)3-CH3
CH2=CHCOO-(CH2CH2O)8-(CH2CH(CH3)O)5-CH2CH(C2H5)C4H9 CH2=CHCOO-(CH2CH2O)23-OOC(CH3)C=CH2
CH2=CHCOO-(CH2CH2O)20-(CH2CH(CH3)O)5-CH2-CH=CH2 CH2=CHCOO-(CH2CH2O)9-H
CH2=C(CH3)COO-CH2CH2O-H
CH2=C(CH3)COO-CH2CH2CH2O-H
CH2=C(CH3)COO-CH2CH(CH3)O-H
CH2=C(CH3)COO-CH(CH3)CH2O-H
CH2=C(CH3)COO-CH2CH2CH2CH2O-H
CH2=C(CH3)COO-CH2CH2CH(CH3)O-H
CH2=C(CH3)COO-CH2CH(CH3)CH2O-H
CH2=C(CH3)COO-CH(CH3)CH2CH2O-H
CH2=C(CH3)COO-CH2CH(CH2CH3)O-H
CH2=C(CH3)COO-CH2C(CH3)2O-H
CH2=C(CH3)COO-CH(CH2CH3)CH2O-H
CH2=C(CH3)COO-C(CH3)2CH2O-H
CH2=C(CH3)COO-CH(CH3)CH(CH3)O-H CH2=C(CH3)COO-C(CH3)(CH2CH3)O-H
CH2=C(CH3)COO-(CH2CH2O)9-H
CH2=C(CH3)COO-(CH2CH2O)5-CH3
CH2=C(CH3)COO-(CH2CH2O)9-CH3
CH2=C(CH3)COO-(CH2CH2O)23-CH3
CH2=C(CH3)COO-(CH2CH2O)90-CH3
CH2=C(CH3)COO-(CH2CH(CH3)O)9-H
CH2=CHCOO-(CH2CH(CH3)O)9-H
CH2=C(CH3)COO-(CH2CH(CH3)O)9-CH3 CH2=C(CH3)COO-(CH2CH(CH3)O)12-CH3 CH2=C(CH3)COO-(CH2CH2O)5-(CH2CH(CH3)O)2-H
CH2=C(CH3)COO-(CH2CH2O)5-(CH2CH(CH3)O)3-CH3CH2=C(CH3)COO-(CH2CH2O)8-(CH2CH(CH3)O)5-CH2CH(C2H5)C4H9 CH2=C(CH3)COO-(CH2CH2O)23-OOC(CH3)C=CH2 CH2=C(CH3)COO-(CH2CH2O)20-(CH2CH(CH3)O)5-CH2-CH=CH2
【0077】
単量体(b)は、好ましくはX2が水素原子であるアクリレートであり、特に好ましくはヒドロキシエチルアクリレート、ヒドロキシプロピルアクリレート、およびヒドロキシブチルアクリレートである。
【0078】
(c)イオン供与基を有する単量体
イオン供与基含有単量体(c)は、単量体(a)および(b)以外の単量体である。一般的に、単量体(c)は、エチレン性不飽和二重結合およびイオン供与基を有する単量体である。イオン供与基はアニオン供与基および/またはカチオン供与基である。
【0079】
アニオン供与基含有単量体には、カルボキシル基、スルホン酸基またはリン酸基を有する単量体が含まれる。アニオン供与基含有単量体の具体例は、(メタ)アクリル酸、クロトン酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、シトラコン酸、ビニルスルホン酸、(メタ)アリルスルホン酸、スチレンスルホン酸、ホスフェートアクリレート、ビニルベンゼンスルホン酸、アクリルアミドtert-ブチルスルホン酸、およびこれらの塩である。
【0080】
アニオン供与基の塩の例としては、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、ならびにメチルアンモニウム塩、エタノールアンモニウム塩およびトリエタノールアンモニウム塩などのアンモニウム塩が挙げられる。
【0081】
カチオン供与基を有する単量体では、カチオン供与基の例としては、アミノ基、好ましくは第三級アミノ基および第四級アミノ基が挙げられる。好ましくは、第三級アミノ基において、窒素原子に付着している2つの基は同じまたは異なり、1~5個の炭素原子を有する脂肪族基(特にアルキル基)、6~20個の炭素原子を有する芳香族基(アリール基)、または7~25個の炭素原子を有する芳香族脂肪族基(特にアラルキル基、例えばベンジル基(C6H5-CH2-))である。好ましくは、第四級アミノ基では、窒素原子に結合している3つの基が、同じまたは異なり、1~5個の炭素原子を有する脂肪族基(特にアルキル基)、6~20個の炭素原子を有する芳香族基(アリール基)、または7~25個の炭素原子を有する芳香族脂肪族基(特にアラルキル基、例えば、ベンジル基(C6H5-CH2-))である。第三級アミノ基および第四級アミノ基では、窒素原子に結合している1つの残りの基が炭素-炭素二重結合を有し得る。カチオン供与基は塩の形態であり得る。
【0082】
カチオン供与基は、酸(有機酸または無機酸)との塩である。1~20個の炭素原子を有するカルボン酸などの有機酸(特に酢酸、プロピオン酸、酪酸およびステアリン酸などのモノカルボン酸)が好ましい。ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレートおよびジエチルアミノエチル(メタ)アクリレートならびにこれらの塩が好ましい。
【0083】
カチオン供与基を有する単量体の具体例は以下の通りである。
CH2=CHCOO-CH2CH2-N(CH3)2およびその塩(酢酸塩など)CH2=CHCOO-CH2CH2-N(CH2CH3)2およびその塩(酢酸塩)CH2=C(CH3)COO-CH2CH2-N(CH3)2およびその塩(酢酸塩など)CH2=C(CH3)COO-CH2CH2-N(CH2CH3)2およびその塩(酢酸塩など)
CH2=CHC(O)N(H)-CH2CH2CH2-N(CH3)2およびその塩(酢酸塩など)
CH2=CHCOO-CH2CH2-N(-CH3)(-CH2-C6H5)およびその塩(酢酸塩など)
CH2=C(CH3)COO-CH2CH2-N(-CH2CH3)(-CH2-C6H5)およびその塩(酢酸塩など)
CH2=CHCOO-CH2CH2-N+(CH3)3Cl- CH2=CHCOO-CH2CH2-N+(-CH3)2(-CH2-C6H5)Cl- CH2=C(CH3)COO-CH2CH2-N+(CH3)3Cl-
CH2=CHCOO-CH2CH(OH)CH2-N+(CH3)3Cl-
CH2=C(CH3)COO-CH2CH(OH)CH2-N+(CH3)3Cl-
CH2=C(CH3)COO-CH2CH(OH)CH2-N+(-CH2CH3)2(-CH2-C5Hs)Cl- CH2=C(CH3)COO-CH2CH2-N+(CH3)3Br-
CH2=C(CH3)COO-CH2CH2-N+(CH3)3I- CH2=C(CH3)COO-CH2CH2-N+(CH3)3O-SO3CH3 CH2=C(CH3)COO-CH2CH2-N+(CH3)(-CH2-C6H5)2Br-
【0084】
イオン供与基含有単量体は、好ましくはメタクリル酸、アクリル酸およびジメチルアミノエチルメタアクリレート、より好ましくはメタクリル酸およびジメチルアミノエチルメタクリレートである。
【0085】
(d)別の単量体
別の単量体(d)は、単量体(a)、(b)および(c)以外の単量体である。その他の単量体(d)の例としては、エチレン、酢酸ビニル、塩化ビニル、ハロゲン化ビニル、スチレン、a-メチルスチレン、p-メチルスチレン、(メタ)アクリルアミド、ジアセトン(メタ)アクリルアミド、メチロール化(methylolated)(メタ)アクリルアミド、N-メチロール(メタ)アクリルアミド、アルキルビニルエーテル、アルキルハライドビニルエーテル、アルキルビニルケトン、ブタジエン、イソプレン、クロロプレン、グリシジル(メタ)アクリレート、アジリジニル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、イソシアナトエチル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、短鎖アルキル(メタ)アクリレート、無水マレイン酸、ポリジメチルシロキサン基を有する(メタ)アクリレート、およびN-ビニルカルバゾールが挙げられる。
【0086】
一部の実施形態では、開示される表面処理高分子が、それだけに限らないが、以下、
単量体(a)+単量体(b)+単量体(c)
単量体(a)+単量体(b)+単量体(c)+単量体(d)
を構成する単量体の組合せを含む。
【0087】
単量体(a)から形成された繰り返し単位の量は、表面処理高分子に基づいて、30~95重量%、好ましくは40~88重量%、より好ましくは50~85重量%である。あるいは、単量体(a)から形成された繰り返し単位の量は、単量体(a)、単量体(b)、および単量体(c)の合計に基づいて、少なくとも20重量%、少なくとも30重量%、少なくとも40重量%、少なくとも50重量%、少なくとも60重量%、または少なくとも70重量%であり得、97重量%以下、95重量%以下、90重量%以下、85重量%以下、80重量%以下、70重量%以下、または60重量%以下であり得る。
【0088】
単量体(b)から形成された繰り返し単位の量は、表面処理高分子に基づいて、5~70重量%、好ましくは6~50重量%、より好ましくは8~25重量%であり得る。あるいは、単量体(b)から形成された繰り返し単位の量は、単量体(a)、単量体(b)、および単量体(c)の合計に基づいて、少なくとも3重量%、少なくとも5重量%、少なくとも10重量%、または少なくとも15重量%であり得、70重量%以下、60重量%以下、50重量%以下、40重量%以下、30重量%以下、25重量%以下、または20重量%以下であり得る。
【0089】
単量体(c)から形成された繰り返し単位の量は、単量体(a)、単量体(b)、および単量体(c)の合計に基づいて、0.1~30重量%、好ましくは0.5~15重量%、より好ましくは1~10重量%であり得る。
【0090】
単量体(b)から形成された繰り返し単位の単量体(c)から形成された繰り返し単位に対する重量比は、5:1~0.5:1、例えば4:1~1:1、とりわけ3.5:1~2.5:1であり得る。
【0091】
単量体(d)から形成された繰り返し単位の量は、表面処理高分子に基づいて、0~20重量%、例えば1~15重量%、特に2~10重量%であり得る。
【0092】
表面処理高分子の重量平均分子量は、1,000~10,000,000、好ましくは5,000~8,000,000、より好ましくは10,000~4,000,000であり得る。重量平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィーによってポリスチレンに関して得られる値である。
【0093】
(2)水性媒体
水性媒体は、水単独、または水と(水溶性)有機溶媒(アルコール、エステルおよびケトンなど)の混合物であり得る。有機溶媒の量は、水性媒体に基づいて、最大で30重量%、例えば、最大で10重量%であり得る。水性媒体は、好ましくは水単独である。水性媒体の量は、1重量部の表面処理高分子に基づいて、0.2~100重量部、例えば0.5~50重量部、特に1~20重量部であり得る。
【0094】
表面処理高分子重合の重合は、塊状重合、溶液重合、または放射線重合などの様々な重合方法であり得る。例えば、一般的に、有機溶媒を使用した溶液重合である。好ましくは、重合後に、水を添加し、次いで、有機溶媒を除去して高分子を水に分散させる。自己分散性生成物は、乳化剤を添加する必要なく製造され得る。
【0095】
さらに、分子量を調整するために、メルカプト基含有化合物などの連鎖移動剤が使用され得る。連鎖移動剤の具体例としては、2-メルカプトエタノール、チオプロピオン酸、およびアルキルメルカプタンが挙げられる。メルカプト基含有化合物などの連鎖移動剤は、100重量部の単量体に基づいて、10重量部以下、例えば、0.01~5重量部の量で使用され得る。
【0096】
具体的には、表面処理高分子の一部の実施形態を以下の通り製造することができる。溶液重合を使用する場合、単量体を有機溶媒に溶解し、周囲雰囲気を窒素で置換し、重合開始剤を添加し、混合物を例えば、40~120℃の温度で1~10時間加熱および攪拌する方法が採用される。一般的に、重合開始剤は油溶性重合開始剤であり得る。
【0097】
有機溶媒は、単量体に対して不活性であり、単量体を溶解する。有機溶媒の例としては、アセトンおよびメチルエチルケトンなどのケトン;酢酸エチルおよび酢酸メチルなどのエステル;プロピレングリコール、ジプロピレングリコールモノメチルエーテルおよびN-メチル-2-ピロリドン(NMP)、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、低分子量ポリエチレングリコールなどのグリコール;エチルアルコールおよびイソプロパノールなどのアルコール;ならびにn-ヘプタン、n-ヘキサン、n-オクタン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、シクロペンタン、メチルシクロペンタン、メチルペンタン、2-エチルペンタン、イソパラフィン系炭化水素、流動パラフィン、デカン、ウンデカン、ドデカン、ミネラルスピリット、ミネラルテルペンおよびナフサなどの炭化水素溶媒が挙げられる。有機溶媒の好ましい例としては、例えば、アセトン、クロロホルム、HCHC225、イソプロピルアルコール、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、シクロヘキサン、ベンゼン、トルエン、キシレン、石油エーテル、テトラヒドロフラン、1,4-ジオキサン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、酢酸エチル、酢酸ブチル、1,1,2,2-テトラクロロエタン、1,1,1-トリクロロエタン、トリクロロエチレン、ペルクロロエチレン、テトラクロロジフルオロエタン、トリクロロトリフルオロエタン、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)、およびジプロピレングリコールモノメチルエーテル(DPM)が挙げられる。有機溶媒は、100重量部の単量体の合計に基づいて、50~2000重量部、例えば、50~1000重量部の量で使用される。
【0098】
界面活性剤安定化エマルション高分子表面処理剤は典型的には、酸性、イオン性条件および/または加熱してエマルションを不安定化し、高分子を材料繊維上に放出させるための熱を要する多段階プロセスで、カーペットもしくはその他のテキスタイルに適用する。典型的には金属塩溶液を使用して界面活性剤安定化エマルションを不安定化するためのイオン性条件を作り出す。典型的には、酸性pHも使用して界面活性剤安定化エマルションを不安定化する。界面活性剤安定化エマルションを不安定化したら、高分子をカーペットまたはその他のテキスタイル繊維上に沈着させる。界面活性剤安定化エマルションを不安定化するために使用される物理的条件および化学的条件は、操作者にとって潜在的に有害な環境を作り出し、負の環境影響を有し得る。
【0099】
一部の実施態様では、イオン性溶液および/または塩溶液が、約0.1mS/cm超、約0.2mS/cm超、約0.3mS/cm超、または約0.5mS/cm超の導電率を有し得る。一部の実施態様では、0.1mS/cm超の溶液をカーペットに適用して、界面活性剤安定化エマルションを不安定化することができる。一部の実施態様では、表面処理高分子の界面活性剤フリーエマルションを含む処理浴が、約0.1mS/cm未満、約0.08mS/cm未満、約0.06mS/cm未満、約0.05mS/cm未満、または約0.04mS/cm未満の導電率を有する。
【0100】
不安定化された界面活性剤安定化エマルションをカーペットに適用した時点で、高分子表面処理剤に加えて、界面活性剤、乳化剤、酸性剤および/または塩が繊維上に残っている。そのため、これらの界面活性剤、乳化剤、酸、および/または塩化合物を除去するために追加のすすぎ工程が必要となる。その場合、このプロセスの環境への損傷を軽減するために、リンセート(rinsate)が水処理プロセスを経なければならない。
【0101】
開示される水性の界面活性剤フリーエマルション表面処理法の実施態様は、高分子表面処理剤をカーペット、テキスタイル、またはその他の基材に適用するために強力な酸性条件もイオン性条件も要さないので、時間とエネルギーの両方を節約することができる。一部の実施態様では、界面活性剤フリーエマルション(処理浴に希釈される前)のpHが約3.0~約6.0の間である。一部の実施態様では、界面活性剤フリーエマルションのpHが約4~約5の間である。表面処理界面活性剤フリーエマルションを、カーペットまたはその他のテキスタイルに適用される処理浴に希釈したら、処理浴は、局所的水質に応じて約5.0~約7.5の間のpHを有し得る。一部の実施態様では、処理浴が約6.0~約7.0の間のpHを有する。一部の実施態様では、界面活性剤フリーエマルションが、カーペットに適用される際に、4.0超のpHを有する。一部の実施態様では、界面活性剤フリーエマルションが、カーペットに適用される際に、4.5~10.0の間のpHを有する。
【0102】
上記のように、開示される表面処理高分子は、界面活性剤又は乳化剤を使用することなく、水性連続相中の表面処理高分子を安定化するイオン性部分を含む。
【0103】
一実施態様では、表面処理高分子を、カーペットが連続または半連続ウェブ形態である製造中にカーペットに適用する。開示される界面活性剤フリーエマルション高分子表面処理剤をカーペットウェブに適用し、それによって、界面活性剤フリーエマルションをカーペットに浸すことを可能にする。飽和後、カーペットウェブは蒸気室またはその他の加熱装置に入り、ここで界面活性剤フリーエマルション表面処理剤に浸したカーペットが、例えば、1秒間~500分間、または2秒間~100分間、例えば、10秒間~50分間、または1分間~10分間、60℃~200℃または80℃~150℃の温度に加熱される。表面処理高分子は、界面活性剤安定化エマルションではなくて界面活性剤フリーエマルション中にあり、熱に曝露されると、高分子がカーペット繊維に容易に付着する。表面処理高分子は、化学的にと物理的にの両方でカーペット繊維に付着する。
【0104】
表面処理高分子のカーペット繊維への付着は、表面処理高分子と高分子カーペット繊維との間のファンデルワールス力と双極子-双極子相互作用の両方によって引き起こされる。繊維の表面上で膜形成も起こり得る。
【0105】
一部の実施態様では、カーペットウェブが蒸気室を出たら、カーペットを0℃~80℃または10℃~50℃(例えば、20℃などの室温)で真空引き(例えば、0.0001atm~0.5atm)して、全水分をおよそ0%~70%または30%~50%に減少させ、次いで、10秒間~24時間または10分間~2時間乾燥させる。一部の実施態様では、カーペットを約100℃または212°F超に加熱してカーペットを乾燥させる。一部の実施態様では、カーペットを約93℃(200°F)超に加熱してカーペットを乾燥させる。カーペットの加熱温度は少なくとも60℃、例えば60℃~200℃または80℃~150℃、例えば、90℃~120℃であり得る。加熱は、1秒間~500分間、または2秒間~100分間、例えば、10秒間~50分間、または1分間~10分間実施され得る。
【0106】
開示される表面処理高分子が界面活性剤も、乳化剤も、酸も、塩も使用することなく界面活性剤フリーエマルション中に維持されるので、表面処理高分子をカーペットに適用した後に、すすぎ工程も乾燥以外のその他の後処理も必要とされない。
界面活性剤(または乳化剤)の量は、1重量部の表面処理高分子に基づいて、好ましくは0~0.01重量部、より好ましくは0~0.001(または0~0.0001)重量部、特に0重量部であるが、界面活性剤(および/または乳化剤)の量が、1重量部の表面処理高分子に基づいて、0~0.1重量部であってもよい。
【0107】
一部の実施態様では、カーペットを乾燥させる工程が、界面活性剤フリーエマルションをカーペットに適用した後に、カーペットをすすぐことなく実施される。
【0108】
界面活性剤フリーエマルション表面処理剤を適用し、処理されたカーペットを乾燥した後、完成した一次裏地付きカーペットロールがコーターに送られ得る。コーターは、典型的には二次裏地をラテックス組成物と共にカーペットの裏に付着させる別個のラインである。ラテックス組成物は、層を接着して糸房に閉じ込め、より構造的に堅固な基材を形成する。
【0109】
一部の実施態様では、処理浴にカーペットまたはテキスタイルを浸すのではなく、表面処理高分子がスプレーまたは泡の形態で適用され得る。このような実施態様では、カーペットまたはテキスタイルが、完全に飽和していなくてもよいが、表面処理高分子が同様のプロセスを通してカーペットまたはテキスタイル繊維と接触すると認識される。
【0110】
一部の実施態様では、発泡剤が水性の界面活性剤フリーエマルション表面処理剤と混合される。表面処理高分子泡は、静的または動的発泡装置によって生成され、カーペット表面に適用され得る。次いで、カーペットを加熱および乾燥する前に、プレスロールを使用して、表面処理高分子泡がカーペットに圧入され得る。
【0111】
一部の実施態様では、界面活性剤フリーエマルション表面処理剤が、スプレーノズルを使用してカーペットに適用される。スプレーノズルの使用により、表面処理高分子をカーペットまたはテキスタイルの繊維に適用するのに必要な液体の総容積が減少する。
【0112】
現代の敷物の大部分は、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ナイロン6、ナイロン6,6、ポリトリメチレンテレフタレート(PTT)、およびポリプロピレン(PP)を含む高分子繊維から作られている。カーペット表面重量は、1平方ヤード当たりの繊維のオンス(osy)として定義される。表面重量は、ラテックス裏地またはその他の構成成分を含まない繊維のみの重量である。カーペット表面重量は、20osy未満~100osyの範囲であるが、典型的には約20osy~約60osyである。
【0113】
カーペット表面処理用の配合物は、多くの構成成分を含むことができる。一般的に、配合物中には開示される表面処理高分子、補助剤、および水などの性能化学物質が存在する。性能化学物質には、それだけに限らないが、撥剤、汚れ防止添加剤、臭気制御添加剤、抗微生物添加剤、およびステインブロッカー(stain-blocker)が含まれ得る。補助剤には、それだけに限らないが、酸、塩溶液、および発泡剤が含まれ得る。水は、一般的に表面処理配合物の連続相である。配合物のその他の構成成分は、水性連続相中に分散している。上記のように、一部の実施態様では、開示される表面処理高分子がカーペットに適用され、次いで、カーペットが乾燥される。カーペットが乾燥した時点で、表面処理高分子は繊維に付着したままである。典型的なエキゾースト用途では、カーペットが乾燥する前に、補助剤、界面活性剤、および/乳化剤がカーペットの繊維からすすぎ出される。
【0114】
カーペットを処理する場合、所望のレベルの性能を達成するために完成したカーペット上に存在することが望まれる表面処理高分子の標的量が存在する。カーペット繊維上に沈着した高分子の量は、繊維の重量に対する高分子のパーセント(「owf%高分子」)として記載される。
【0115】
繊維の重量に対する高分子のパーセント(owf%高分子)は、全ての液体が乾燥プロセスによってカーペットから除去された時点での、カーペット上に沈着した表面処理高分子の量である。
owf%高分子の数値は、0.001~200または0.01~100、例えば、0.05~20または0.1~10であり得る。
【0116】
様々なカーペット試料上の表面処理高分子の性能は、多数の方法で測定され得る。様々な表面張力を有する液体に基づく布の撥液性(非湿潤)の程度を決定するために、AATCC試験法193-21017が使用される。この試験の修正版がカーペットを試験するために使用され得る。
図1に示されるように、修正AATCC試験法193-2017を実施するためにいくつかのグレードの標準化溶液が使用される。最初に、3滴のグレードW溶液(脱イオン水)をカーペット試料のパイルに適用し、30秒間観察する。布基材を試験するための従来のAATCC試験法193-2017は、この液滴を10±2秒間観察することを要する。カーペット試験のためのこの試験の修正版では、30秒間の観察を実施する。3滴のうちの2滴(またはそれ以上)が30秒未満でカーペット試料に吸い込まれる場合、カーペット試料はグレードW溶液について不合格であるとみなされる。2滴(またはそれ以上)が一般的に球状形態でカーペット試料の表面上に残っている場合、カーペット試料はグレードW溶液に合格し、試験をグレード1溶液で繰り返す。カーペット試料が最終的にカーペット試料の表面上に少なくとも2滴の特定の溶液を維持できなくなるまで、このプロセスが繰り返される。カーペット試料が合格する最高グレードの溶液が記録される。カーペットがグレードWに不合格である場合、Fが割り当てられる。これは、カーペット試料が脱イオン水に不合格であり、結果として全ての溶液グレードに不合格であることを示す。
【0117】
表面処理高分子の性能を決定するために浮遊試験も使用される。浮遊試験は、カーペット試料が一定期間水の表面上に浮かぶように、カーペット試料を、パイル側を下にして水の容器に入れることによって実施される。カーペット試料が浮かんだままである時間の量が測定される。カーペット試料のかなりの部分が沈み始めたら、試験が終了され、合計浮遊時間が記録される。
【0118】
以下の例では、カーペット試料を商業的なエキゾースト処理プロセスに近い方法で調製する。複数の表面処理浴を調製し、カーペット試料に適用する。2つの表面処理溶液のうちの1つを使用して表面処理浴を作製する。試料Aは、希釈して表面処理浴を形成する前の開示される水性の界面活性剤フリーエマルション高分子表面処理剤の実施態様を指す。試料Aは、水性連続相中の表面処理高分子でできている。本明細書で言及される例示的な実施態様では、試料Aが、重量で20%の表面処理高分子および80%の水を含有する。試料Aを使用して、低濃度処理浴と標準濃度処理浴の両方を作製する。低濃度処理浴を試料A1と呼び、標準濃度処理浴を試料A2と呼ぶ。
【0119】
試料Bは、希釈して表面処理浴を形成する前の従来の界面活性剤安定化高分子表面処理剤を指す。試料Bは30%の表面処理高分子を含有し、残りの70%は水と界面活性剤または乳化剤の組合せである。試料Bを使用して、低濃度処理浴と標準濃度処理浴の両方を作製した。さらに、試料B配合物を2つの異なる方法でカーペット試料に適用した。最初に、試料B配合物を、補助剤もすすぎ工程も使用しないでカーペット試料に適用した。次いで、試料B配合物を補助剤およびすすぎ工程を使用してカーペット試料に適用した。補助剤もすすぎ工程も使用しないで適用される低濃度処理浴を試料B1と呼ぶ。補助剤もすすぎ工程も使用しないで適用される標準濃度処理浴を試料B2と呼ぶ。補助剤およびすすぎ工程を使用して適用される低濃度処理浴を試料B3と呼ぶ。補助剤およびすすぎ工程を使用して適用される標準濃度処理浴を試料B4と呼ぶ。
【0120】
試料A1は、試料Aの繊維の重量に対して0.1%のエマルション(界面活性剤フリー)(「owf%エマルション」)を含有する低濃度処理浴である。試料A2は、試料Aの0.4owf%エマルション(界面活性剤フリー)を含有する標準濃度処理浴である。試料B1およびB3は、試料Bの0.067owf%エマルション(界面活性剤安定化)を含有する低濃度処理浴である。試料B2およびB4は、試料Bの0.267owf%エマルション(界面活性剤安定化)を含有する標準濃度処理浴である。
【0121】
明確にするために、owf%エマルションは、処理されるカーペット試料繊維の重量のパーセントとして表される高分子エマルション(試料A界面活性剤フリーエマルションまたは試料B界面活性剤安定化エマルション)の量を表す。この数は、処理浴を調製する前に決定される。
【0122】
繊維の重量に対する高分子のパーセント(「owf%高分子」)は、全ての液体が乾燥プロセスから追い出された時点でのカーペット上に沈着した表面処理高分子の量である。この数は、owf%エマルションと密接に関係している。owf%エマルションは、試料Aまたは試料Bなどの所与の高分子処理エマルション中の既知の量の中実ポリマーを使用して、owf%高分子に変換され得る、またはowf%高分子から決定され得る。
【0123】
処理浴を調製する前に、含湿率(percent wet pickup)(wpu%)を最初に決定した。含湿率は、カーペット試料によって吸収された処理浴液体の量を表す。含湿率は、表面処理浴を調製する前に決定され、処理浴の調製に影響を及ぼす。商業的用途では、標的wpu%が、所与の用途の水の使用制限および乾燥装置などの処理能力に応じて変化する。
【0124】
以下に記載される例示的な実施態様に関して、表面処理浴の調製が以下の通り記載される。
【0125】
1)12.25’’×8.25’’カーペット試料を切断する。
【0126】
2)カーペット試料を秤量する。この特定の例では、カーペット試料の重さが51.56グラムである。所望の含湿率と組み合わせたカーペット試料の重量が、カーペット試料に適用される処理浴の構成成分の全ての重量を知らせる。
【0127】
3)予め決定された含湿率を使用して、処理浴の重量(グラム)を計算する。この例では、含湿率を400%で設定した。したがって、処理浴の重さは206.24グラム(51.56×400%)である。処理浴の重量(グラム)は、カーペット試料に適用される浴の総重量を表す。一部の実施態様では、処理浴が水および界面活性剤フリーエマルション表面処理剤のみを含む。一部の実施態様では、処理浴が、水、界面活性剤安定化エマルション表面処理剤、および塩溶液などの補助剤を含む。
【0128】
4)浴の重量に対するパーセント(owb%)を計算する。浴の重量に対するパーセントは、表面処理エマルションからなる浴のパーセントを表す。浴の重量に対するパーセント(owb%)を計算するために、繊維の重量に対するエマルションのパーセントを含湿率で割り;次いで、100を掛けて値をパーセントに変換する。浴の重量に対するパーセントの計算の1つの例示的な実施態様を以下に示す。
【0129】
【0130】
5)処理浴に添加する界面活性剤フリーエマルション表面処理剤(または界面活性剤安定化エマルション)の量(グラム)を計算する。処理浴に添加する界面活性剤フリーエマルション表面処理剤(または界面活性剤安定化エマルション)の量(グラム)を決定し、以下の例示的な計算に示されるように処理浴の重量(グラム)に浴の重量に対するパーセント(owb%)を掛ける。
【0131】
【0132】
6)処理浴中で必要な水の量(グラム)を決定する。処理浴中の水の量は、標的処理浴重量に到達するために必要とされる、その他の処理浴構成成分以外の、追加の水の量を指す。どれほどの追加の水が必要であるかを決定するために、総浴サイズから処理浴中の界面活性剤フリーエマルション表面処理剤(または界面活性剤安定化エマルション)の量を減じる。例示的な計算を以下に示す。
【0133】
【0134】
水の所望の量を計算したら、水、界面活性剤フリーエマルション表面処理剤(または界面活性剤安定化エマルション)および任意の補助剤を合わせる。処理浴の構成成分を、徹底的に取り込まれるまで混合する。
【0135】
処理浴を調製したら、カーペット試料を処理することができる。以下に記載される例では、カーペット試料を以下の例示的なプロセスに従って処理する。
【0136】
1)既知の乾燥重量を有するカーペット試料を水に浸す。
【0137】
2)カーペット試料を90秒間事前蒸気処理する。典型的なカーペット製造所の設定では、カーペットを処理する前に、カーペットが蒸気プロセスを通過して染料を繊維に適用する。この染色プロセスは、典型的にはカーペット試料が表面処理剤を適用するためのエキゾースト適用を通過する前に行われる。以下に記載される例示的な実施態様では、カーペット試料を染色しない。事前蒸気処理を使用して染色プロセスを模倣する。
【0138】
3)事前蒸気処理後、カーペット試料を真空抽出して過剰な水分を除去し、およそ50%~70%の含水量を達成する。およそ50%~70%の水分を達成するために、カーペット試料+残っている液体の重量を決定する。乾燥カーペット試料の重量を、浴調製プロセスの最初に測定した。カーペット試料を約50%~70%の水分まで真空抽出したら、カーペットの重量は、残っている含水量のために乾燥カーペット試料よりも50%~70%重くなる。例示的な計算を以下に示す。
【0139】
【0140】
4)カーペット試料がおよそ50%~70%の水分に達したら、表面処理浴をカーペットに適用する。この例示的な実施態様では、表面処理浴を清潔なトレイに注ぎ入れ、カーペット試料を、パイル側を下にしてトレイに入れることによって、これを行う。従来のカーペット製造所では、カーペットをコンベヤシステムに取り付ける。カーペットは、カーペットのパイル側が液体に面した状態で、処理浴を含有する送達システムを通過する。記載される例では、上記のように処理浴を含有するトレイを使用してこれを模倣する。
【0141】
5)次いで、処理浴をカーペット繊維に揉みこむ。この揉みこみは、カーペット製造所の設定の適用プロセスにおける送達システムを模倣する。記載される例では、カーペット試料を手で揉みこんで処理浴を繊維に徹底的に取り込んだ。
【0142】
6)処理浴を適用したら、カーペット試料を90秒間蒸気処理する。この工程は、カーペット製造所のエキゾーストプロセスを再現する。従来の表面処理界面活性剤安定化エマルションでは、この蒸気処理工程が、界面活性剤または乳化剤から表面処理高分子を放出するためにも必要となり得る。
【0143】
従来の界面活性剤安定化エマルション表面処理剤を含有する処理浴については、カーペット試料をすすいで、繊維の表面から残留界面活性剤または乳化剤を除去することが必要である。記載される界面活性剤フリーエマルション表面処理剤の実施態様を使用する場合、界面活性剤も乳化剤も使用しないので、すすぎ工程が排除される。このすすぎ工程の排除は、カーペット製造所に時間、水、およびエネルギーを節約させる。
【0144】
7)処理されたカーペット試料を蒸気処理した、および/またはすすいだ後、カーペット試料をおよそ30%~50%の含水量まで真空抽出する。従来の製造所の設定では、過剰な水分を除去してオーブン乾燥時間の減少を可能にする。
【0145】
8)最後に、カーペット試料を乾燥させる。記載される例示的な実施態様では、カーペット試料を、パイル側を上にして、コンベヤオーブンにのせる。カーペット試料を約114℃(238°F)で10分間乾燥させる。乾燥工程が完了した後、過剰な水分をカーペット試料から除去して、乾燥した表面処理高分子のみがカーペット繊維上に残るようにする。
【実施例】
【0146】
3種の異なる材料、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリトリメチレンテレフタレート(PTT)、およびポリアミド(ナイロン)からなるカーペット試料で以下に記載される表面処理実施例を実施する。カーペット表面重量は、1平方ヤード当たりの繊維のオンス(osy)として定義される。表面重量は、カーペット試料の繊維部分のみの重量である。カーペット表面重量は、20osy未満~最大100osyの範囲となり得る。典型的な範囲は20osy~60osyである。
【0147】
実施例1~3は、上記の試料A1、A2、B1およびB2で処理したカーペット試料の撥性能に焦点を当てている。実施例1~3では、これらの試料の各々を、pH調整も、塩の添加も、処理されたカーペット試料の蒸気処理後の最終すすぎ工程も使用していないPET、PTT、およびナイロンカーペット試料で試験する。実施例1~3については、処理浴試料A1およびA2が、界面活性剤フリーエマルション表面処理高分子および水のみを含有していた。実施例1~3については、処理浴試料B1およびB2が、界面活性剤安定化エマルションおよび水のみを含有していた。補助剤は使用しなかった。表面処理浴をカーペット試料に適用した後、カーペット試料を90秒間蒸気処理し、真空抽出して、含水量を減少させ、次いで、乾燥させた。表面処理高分子をカーペット試料に適用した後にすすぎ工程は実施しなかった。
【0148】
PET、PTT、およびナイロンカーペットを8.25インチ×12.25インチカーペット試料に切断し、個別に秤量した。関連するカーペット試料の重量に、予め決定した含湿率である400%を掛けることによって、各処理浴の総重量を決定した。低濃度処理浴の試料A1および試料B1を、それぞれ繊維の重量に対して0.02%の高分子を含有するように配合した。明確さのために、これは、各処理浴中の乾燥表面処理高分子の量が関連するカーペット試料の重量の0.02%に等しかったことを意味する。標準濃度処理浴の試料A2およびB2を、それぞれ0.08owf%の高分子を含有するように配合した。
【0149】
表面処理浴を上記のプロセスに従ってカーペットに適用した。
【実施例1】
【0150】
PETカーペット試料
実施例1では、上記の方法に従って、20osy~25osyの切断パイルPETカーペットを処理した。A1、A2、B1、およびB2で処理したカーペット試料の撥水性液性(aqueous liquid repellency)(修正AATCC試験法193-2017)および浮遊性能を決定および比較した。試料A1およびA2で処理したカーペット試料の撥水性液性試験は、試料B1およびB2で処理したカーペット試料よりも低い表面張力液体を良く撥ね返す能力を示した。浮遊試験は、試料A1で処理したカーペット試料が試料B1で処理したカーペット試料よりも長く浮かぶことを示し、典型的よりも低い処理レベルでは、試料Aの界面活性剤フリーエマルションが試料Bの界面活性剤安定化エマルションよりもうまく機能することを示している。試料A2およびB2で処理したカーペット試料についての浮遊性能は一般的に同等であるように見えた。試験結果を以下の表1に示す。
【0151】
【0152】
明確さのために、「浴適用量(dosage)(グラム/リットル)」は、処理浴中の水1リットル当たりの試料Aの界面活性剤フリーエマルションまたは試料Bの界面活性剤安定化エマルションのグラムを指す。
【実施例2】
【0153】
PTTカーペット試料
実施例2では、35osy~40osyの切断パイルPTTカーペットを上記の方法によって処理および乾燥した。A1、A2、B1、およびB2で処理したカーペット試料の撥水性液性(修正AATCC試験法193-2017)および浮遊性能を決定および比較した。
【0154】
カーペット試料の撥水性液性は、修正AATCC試験法193-2017格付によって示されるように、試料Aが試料Bよりも低い表面張力液体を良く撥ね返す能力を示した。浮遊試験は、試料A1およびA2で処理したカーペット試料が試料B1およびB2で処理したカーペット試料よりも長く浮かぶことを示し、低濃度と標準濃度の両方の表面処理剤で、試料Aが試料Bよりもうまく機能することを示している。試験結果を以下の表2に示す。
【0155】
【実施例3】
【0156】
ナイロンカーペット試料
実施例3では、20osy~25osyの切断パイルナイロンカーペットを上記の方法によって処理および乾燥した。試料A1、A2、B1、およびB2で処理したカーペット試料の撥水性液性(修正AATCC試験法193-2017)および浮遊性能を決定および比較した。この実施例では、「W」評点は、100%脱イオン水3滴のうちの少なくとも2滴が少なくとも30秒間カーペット試料の表面上に残っていたことを示し、「F」は、100%脱イオン水を使用した試験の不合格を示す。撥水性液性試験は、試料A1が試料B1よりもナイロン上で脱イオン水を良く撥ね返す能力を示した。さらに、撥水性液性試験は、試料A2が試料B2よりも低い表面張力液体を良く撥ね返す能力を示した。試料A1およびB1で処理したカーペット試料は、測定可能な時間量の間浮かばず、低濃度表面処理浴のいずれもナイロンカーペット試料上で浮遊性能をもたらすができなかったことを示している。試料A2で処理したナイロンカーペット試料のみが測定可能な時間量で浮かんだ。試験結果を以下の表3に示す。
【0157】
【0158】
実施例4~6では、低適用量(試料B3)および高適用量(試料B4)の試料Bで処理したPET、PTT、およびナイロンカーペット試料で撥性能試験を行った。これらの実施例は、カーペットエキゾースト処理のための典型的な方法を表す。実施例4~6では、硫酸溶液を用いて各処理浴のpHをpH2に調整した。30%硫酸マグネシウム溶液を各処理浴に添加して1.4%硫酸マグネシウム浴を作り出した。カーペット試料を高分子表面処理剤で処理し、蒸気処理した後、カーペット試料を水で徹底的にすすいで、残留補助剤、界面活性剤、または乳化剤を除去した。これらの修正以外では、カーペット試料の調製および表面処理高分子の適用は、上に記載され、実施例1~3で使用されたものと同じであった。上記の修正AATCC試験法193-2017および浮遊試験を使用して、撥性能を決定した。
【実施例4】
【0159】
PETカーペット試料
実施例4では、20osy~25osyの切断パイルPETカーペットを上記の方法によって処理および乾燥した。試料B3およびB4で処理したカーペット試料の撥水性液性(修正AATCC試験法193-2017)および浮遊性能を決定および比較した。試験結果を以下の表4に示す。
【0160】
【実施例5】
【0161】
PTTカーペット試料
実施例5では、35osy~40osyの切断パイルPTTカーペットを上記の方法によって処理および乾燥した。試料B3およびB4で処理したカーペット試料の撥水性液性および浮遊性能を決定した。試験結果を以下の表5に示す。
【0162】
【実施例6】
【0163】
ナイロンカーペット試料
実施例6では、20osy~25osyの切断パイルナイロンカーペットを上記の方法によって処理および乾燥した。試料B3およびB4で処理したカーペット試料の撥水性液性および浮遊性能を決定した。試験結果を以下の表6に示す。
【0164】
【0165】
以下の表7~9については、pH調整も、塩溶液も、すすぎも使用しないで試料A1およびA2で処理したカーペット試料を、pH調整、マグネシウム塩、およびすすぎを使用して試料B3およびB4で処理したカーペット試料と比較する。
【0166】
【0167】
【0168】
【0169】
表7~9のデータの比較から分かるように、試料Aの高分子表面処理界面活性剤フリーエマルションは、試料Bと同様の界面活性剤安定化エマルション処理を利用する従来のカーペットエキゾーストプロセスに対する改善である。改善した撥性能に加えて、試料Aの界面活性剤フリーエマルションは、pH調整も、塩溶液も、最終すすぎ工程も要さない。これらの改善は、合格結果を達成するのに必要な表面処理剤の量を減少させ、処理プロセスで使用される水の量を減少させることによって、カーペット製造業者に、そのプロセスにおいて時間、水、およびエネルギーを節約する機会を提供する。その他のコスト節約、安全性、および環境上の利点には、腐食性補助化学物質を排除することによる機器の保護、およびすすぎ工程を排除することによる、使用される水の量の減少が含まれる。
【0170】
当業者であれば、本開示の好ましい実施態様に対する改善および修正を認識するだろう。全てのこのような改善および修正は、本明細書に開示される概念および以下の特許請求の範囲の範囲内にあるとみなされる。本発明の開示される実施態様の所与の要素が単一構造、単一工程、単一物質などで具体化され得ることが理解されるべきである。同様に、開示される実施態様の所与の要素は、複数の構造、工程、物質などで具体化され得る。
【0171】
前記説明は、プロセス、機械、製造物、組成物、および本開示のその他の教示を例示および記載するものである。さらに、本開示は、プロセス、機械、製造物、組成物、および開示されるその他の教示のある特定の実施態様のみを示し、記載するが、上記のように、本開示の教示が、様々な他の組合せ、修正、および環境での使用を可能にし、関連する分野の当業者の技能および/または知識に見合った、本明細書で表される教示の範囲内の変更または修正を可能にすることが理解されるべきである。本明細書の上記の実施態様は、プロセス、機械、製造物、組成物、および本開示のその他の教示の実施について知られているある特定の最良の態様を説明し、当業者が本開示の教示をこのようなまたはその他の実施態様で、特定の用途または使用によって要求される様々な修正をして利用することを可能にすることをさらに意図している。したがって、プロセス、機械、製造物、組成物、および本開示のその他の教示は、本明細書に開示される正確な実施態様および例を限定することを意図していない。本明細書のいずれの節の見出しも米国特許法施行規則第1.77条の提言との一貫性を保つためだけにまたは組織的キュー(organizational queues)を提供するために提供される。これらの見出しは、本明細書に示される本発明を限定も特性評価もしないものとする。
【国際調査報告】